【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン

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465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga ]:2018/08/31(金) 17:22:24.62 ID:hhbAPIgm0
仮面の騎士の右手には、杖が握られていた。その杖を握る指には、先の雀蜂の装飾のある指輪ではなく、青い竜の装飾を持つ指輪がはめられている。
剣による闘いも、ジークマイヤーを逃してビアトリスと合流させたのも、魔法による不意打ちを成功させるための布石だったのだ。


コブラ「………」


コブラの脇腹を突いた刃には、毒が染み込んでいた。
腐れた松脂はコブラから四肢の自由を奪い、体力を著しく消耗させている。
そんな力を奪われた男の両脚は…


コブラ「………」スーッ…

母の仮面「!」


たちまち力を取り戻し、コブラを静かに、しかし力強く奮い立たせた。
戻った力はコブラの両の眼にも宿り、炎となってコブラの心を駆ける。
まるで、僅かに残った命の、その全てを燃やさんとするかのように。


コブラ「確か…あんた、俺の事を知りたいとか抜かしていたな」


立ち上がったコブラは、久しく触れていなかった自身の左手に、遂に手を掛けた。
そして、ゆっくりと…己の決意を自分自身に見せつけるかのように、大仰に開放した。


母の仮面「…なんと…」


義手という縛から、サイコガンを。




コブラ「いいだろう。望み通り教えてやる。俺という男をな!」



コブラの恐るべき変貌を、仮面の騎士は敏感に感じ取っていた。
手傷を負い、瀕死になりつつある者。そのような者が闘志を燃やす時、最も危険な敵が生まれる事を騎士は知っていた。
だが捨て身の特攻というものは、必ず敵を討ち取るという決意を秘めているからこそ、相殺に対し無力でもある。
ましてや、不死である仮面の騎士にとって、相殺を狙うことは容易であり、それにより生じる不死ゆえの不利益すらも彼女は無視できた。
無視できるだけの理由が彼女にはあった。


母の仮面「素晴らしい……嬉しいぞ…!」

母の仮面「その力を私にくれると言うのだな!」


勝ち取り、奪い取る事を前提に、仮面の騎士は喜びに震えた。
その喜びにコブラも応える。


コブラ「ああ、やるよ。出血大サービスさ」


ダダッ!


コブラからの返答に、騎士はたまらず駆け出した。
そして、博愛に抱きとめるかのように、クレイモアをコブラへ向け振り下ろす。


バグオォーーッ!!!


母の仮面「なっ…!」


そのクレイモアは、コブラの左腕に備えられた呪物が放つ力に粉々に砕かれ、火炎に巻かれた水のように蒸発した。
残るは剣の鍔と、長い握り手のみ。
仮面の騎士は未知の力が持つ圧倒的な破壊力に眼を奪われ、陶酔した。
しかし、数瞬後に我に帰ると、口元に手を置いて震え始めた。
声には悲哀が含まれて、くぐもった鼻声は小さくコブラに届く。


母の仮面「な…なんてことするんだ……こんな壊し方したら治せないじゃないか…」

母の仮面「神の原盤さえ注いだんだぞ……それを…それをお前は…!」グスッ

コブラ「知らないね。ただの剣だろ?また拾うんだな」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 17:46:26.59 ID:u3gpcjUiO
ヒュー‼
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 23:00:21.55 ID:/5rbAZPDO
これが情も義理もなく無味乾燥にコレクションのみを追求するプレイヤーか……
端から見ると何とも利己的なもんだなぁ
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 00:17:25.22 ID:7R3L1xJS0
あーあ 怒らせてしまったか
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 01:50:06.60 ID:LXrgJ64CO
原盤を損傷超えてロストとかそりゃ泣くが、コブラにしてみりゃ知ったこっちゃない
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga ]:2018/09/01(土) 05:35:18.35 ID:wFMbrVco0
母の仮面「いや、拾わないね」カラーン…

コブラ「なに?」


ダッ!


再び、仮面の騎士は駆けた。
愛刀の残骸を躊躇なく捨てた騎士の右手には、何処から取り出したのか、蛇人の使っていた大剣が握られている。

ドウドウーッ!!

その騎士を追うように、コブラのサイコガンは唸りを上げて二発のサイコエネルギーを撃ち放つ。
だが、そのエネルギーを仮面の騎士はすり抜けるが如くに回避した。

ドウーッ!!

続けて3発、いや4発目のサイコエネルギーをコブラは放つが…

シュババッ!!

それすらも、仮面の騎士は前転跳びによって回避した。
前転による回避はやはりコブラへの接近も兼ねており…

シューッ!

回転する勢いそのままに、仮面の騎士は蛇人の大剣を袈裟懸けに振り下ろす。



バシーッ!

母の仮面「なにっ!?」



だが蛇人の大剣は、指相撲をするかのような形に整えられた、コブラの右掌に捕獲された。
コブラの親指と丸めた人差し指は、大剣を捻らんばかりに締め付ける。


母の仮面「白刃取りだと…そんなバカな…」

コブラ「為せば成るのさ。コトワザを知らんのか?」


ザザッ!


コブラに大剣を封じられた仮面の騎士は、奪われた大剣をそのままに後退し、両手で盾を持ち、構える。


母の仮面「何故だ…お前は何故剣を持たぬ方が強い…」

コブラ「性に合わないからだ。剣に振り回されるタイプでね」

母の仮面「ふん…このタヌキめが…」


仮面の騎士の盾の裏には、二本の短剣が隠されている。
盗賊の短刀と呼ばれるそれらには、一方には魔力が、一方には炎が込められていた。
それら二つを隠した盾でコブラに体当たりを浴びせ、怯んだところに二刀を差し込むという戦略には、決定的な隙がコブラに生まれなければならない。
だが、その隙というのも、わざわざ見定める必要は無かった。

コブラ「さぁどうしたい!さっさと来ないとこっちから行くぞ!」

蛇人の大剣を右手に正しく持ち直し、強がりを言ってはいるが、コブラの顔は青ざめつつある。
内臓の損傷によるものか、出血によるものか、はたまた単なる疲労なのか、原因などは騎士にとってはどうでもよかった。
そこに駄目押しのひと刺しさえ出来れば、それで良かったのである。

母の仮面「………」ササッ

コブラ「!」

ほんの一瞬、仮面の騎士は盾から右手を出し、杖を構えた。
ソウルの槍を警戒し、コブラはサイコガンを構えようと、右手に握った大剣を落とした。
その大剣が空中を落下し始めると同時に、仮面の騎士も駆け…


母の仮面「!」


気づいた。
コブラが左手の呪物を使うために、大剣を放棄したわけではないという事に。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga ]:2018/09/01(土) 07:23:04.55 ID:wFMbrVco0
突進時、仮面の騎士が構えていた盾は、草紋の盾と呼ばれていた。
草紋の盾には魔力が込められており、魔力は使用者に対し、疲労の急速なる回復をもたらす。
だが長い年月を経て盾の力は弱まり、守りも薄弱なものとなっていった。

しかしそれでも草紋の盾は盾であり、炎や魔法からさえも不完全ながら使用者を守り、壊れることなど無かった。
そういう用途で何者かに作られ、何百年も力を保ち、原盤によって半ば蘇ってさえもいたのだ。



バゴオォーーッ!!!

母の仮面「グッ!!」



その神の金床に祝福されし盾は、しかしコブラの右ストレートの前に呆気なく粉砕した。

砕け散ったのは盾だけではない。騎士の着る巨人用の大鎧も、その胴体を深く抉られていた。
騎士の全身を駆け巡った衝撃は、更に全身鎧の各部にも損傷を与えていた。
肩当ては両肩部とも弾け飛び、腰の草摺は千切れて落ちた。
騎士の被る仮面さえも割れ、辛うじて騎士の顔に張り付いている。

背面に至ってはまさに惨憺たる破壊がもたらされており、背中に垂れた聖布は跡形も無く吹き飛んで、花弁型にめくり開かれた背中のプレートからは、血に塗れた逞しい右腕が肘まで突き出ていた。




コブラ「いや、俺はコブラだ」


母の仮面「………」



カキーン…



コブラの拳に吹き飛ばされた二本のダガーが落ちる音が、大広間の遥か遠くから響く。
その微かな音を聞き、仮面の騎士は己が敗北したことを悟り、コブラに語りかけた。
彼女の声には、呆然とした笑みさえも含まれていた。


母の仮面「……フフ…フ……馬鹿な………なぜ…?」


コブラ「俺のパンチは特殊サイボーグを貫き、耐熱合金をブチ抜く。これぐらいワケ無いさ」


母の仮面「馬鹿げてる……何をしたら……こんなことが出来る…?」


コブラ「さあな。毎朝のフレークかほうれん草が効いてると思ってたが、ここの所食えてない」フフッ

コブラ「まぁ、早寝早起きが秘訣ってことにしておくぜ」


母の仮面「………フッ……嘘つきめ…」

母の仮面「お前を、教えてくれると……言ってた…じゃないか…」パキッ…


カラーン…



騎士の顔を隠していた仮面は二つに割れ、石床に落ちた。
仮面に固定されていた黒い覆いもへたり、騎士の顔を外へと露わにする。


コブラ「!」


露わになった顔にコブラは心を揺さぶられた。白金色に輝くセミロングの髪をなびかせた色白の顔が、あまりにも美しかったからである。
だが、それは同時に酷く歪な美しさでもあった。部位の歪みも無ければシミの一つも無い、完全に対称と言える顔立ちなど、金星の美女たちでさえ持たない。
それはアーマロイドであるレディにさえ備わるはずのない無欠とも言える顔立ちであり、それはかえって心の存在を希薄にさせ、人としての温もりある美を、仮面の騎士から大きく損なわせていた。



母の仮面「……次は…殺す…」



微笑みを浮かべてそれだけを言い遺し、仮面の騎士は白い灰となって薄まり、コブラの身体を舐めるようにして空間に溶けた。
彼女の身につけていた蛇人の大剣やダガーも、捨てられた指輪と同じく水に垂れた血のように渦巻き、消えた。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 08:26:31.54 ID:ib3ERvpSo
さすがコブラだ何を食ったらこんなことが出来るのかと思ったがここのところロクに食ってなかったなそういや
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 22:41:47.27 ID:7R3L1xJS0
クリスタルボウイ並みの脅威枠かと思えばそこまでではなかった
しかしいい加減封印解除してあげないといくらコブラでも死んじゃいますぞ太陽神様
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 16:49:27.96 ID:YC1QxFcDO
まだ分からんぞ
ダクソ全体で見れば折り返しに近付いてはいるが、十分再戦を仕掛けられる期間がある
プレイヤーだというのなら、多少ソウルを失ったところで一点モノの装備を前にして退くわけもなし
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 16:52:25.93 ID:+SXZDGFwo
むしろ仲間でも連れてきたらアウトだろう
こっちの手札は全部見られてるし

苦労して試練突破したのに更にチート級の強敵とか不死人からしたら泣くわ
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga ]:2018/09/03(月) 07:05:15.39 ID:jUfKgvru0
コブラ「!!」


仮面の騎士が完全に消えた時、コブラの肉体にまたも異変が起きた。
赤き竜やガーゴイルを倒した時とは比較にならない程の気力の充実に、コブラ自身も大いに戸惑った。
サイコガンを撃てるだけ撃ち、深傷を負って絶え絶えとなっていた息も整い、頭への血流が改善された感覚。
コブラは思わず自身の左脇腹を見る。傷は未だ残り痛みもあるが、出血は止まっていた。

コブラ「ハッ!」

更にもう一つ、コブラに気付きがあった。
死んだ亡者は死体となってその場に残り、灰になるのも酷く緩慢だ。
しかし理性と人間性を残す不死が命を落とした場合、その肉体は瞬時に掻き消え、その場にはソウルを残すだけとなる。
だとしたら、肉体を残して倒れ臥す不死達には、まだ幾許かの猶予がある。
コブラは周囲を見渡した


コブラ「クソッ!遅かったか…」


ビアトリスとジークマイヤーは伏し、ロートレクは消えていたが、ローガンの姿もまた大広間から消えていた。
すぐさま駆けたコブラは、ジークマイヤーとビアトリスにそれぞれエストを飲ませる。
どれほど飲ませれば傷が完治するのか分からず、分析するほどの余裕も無いコブラの手によって、二人のエスト瓶は全くの空にされた。


ビアトリス「げほっ!はぁ、はぁ……」

コブラ「ふぅー…危なかったぜ。このエストってのは相当効くんだな。服は破けたままだが、セクシーなおへそは元どおりだ」

ビアトリス「やれやれ…命の恩人の台詞がそれとは、感謝のしがいも無いな…」


ビアトリス「!! 待て!先生はどうなった!?仮面の悪霊は!?」

コブラ「ああ、ローガンはダメだったらしい。賢者で不死ときてもそれなりに歳だ。大剣で刺されりゃあな…」

ビアトリス「そうか……では、仮面の方は?」

コブラ「そいつは倒した。名前は聞きそびれたがかなりの別嬪だったぜ。もう会いたくないがね」

ビアトリス「倒した!?あの悪霊を!?」

コブラ「ああ、ちょいと手こずったけどな。いけなかったか?」


ジークマイヤー「ああ、ローガン公にとってはな。よいしょっと」ガシャ


コブラ「よおジーク。気が付いたか。で、ローガンがどうしたって?」

ジークマイヤー「今死ぬのはまずいのだ。死にすぎていなければ、見た目は亡者になるだろうが前に休んだ篝火の近くで目覚める事ができる。不死人とはそういうものだ」

ジークマイヤー「だが、それは我らを襲った二人の騎士にも言える。悪ければ今頃、鎧を着た火防女の篝火の元、ローガンと刺客が長い戦いを始めているかもしれん」

ビアトリス「で、では助けに行かなくては!」

ジークマイヤー「それは危険だ。我らには今エストが無い」

ビアトリス「えっ……あっ」


コブラ「悪いね。全部飲ませちまった」


ビアトリス「そ…そうか……」

ジークマイヤー「それに対し、あの篝火に仮面の者が蘇っているとして、その者には決して絶えぬエストが与えられている。火防女とは全ての不死に恵みを与える者だ。恐らく我らだけが贔屓にされることも無いだろう」

ビアトリス「向こうは満杯のエストを飲めて、こちらは汲んでいる途中でひと刺し、か……」

ジークマイヤー「コブラと言えど連戦は辛いだろう。篝火で出会っていない事を祈るしかない」

ビアトリス「………」





レディ「お待たせ。あら?ローガンは?」


コブラ「それなんだが、ちょいと面倒が起きちまってな」

レディ「…?…」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 08:05:08.41 ID:n/xdjA6EO
リスポン地点が同じとか悪夢過ぎる……
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 15:20:56.19 ID:3gZbEiwDO
ゲーム中だと死んだNPCはそれまでだが、不死には違いないんだし物語にしてしまえばそうなるよなぁ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 15:27:05.31 ID:3fM4oIx8O
そう言えば今はコブラがいるせいか世界は全部重なってる感じで、敵も見方も全員霊体じゃなく実体なんだっけ
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 15:42:46.01 ID:hTB+JaAH0
死んでなくてその辺でまた神話級の物に見とれてるだけだといいが
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 16:06:22.19 ID:VVrURqKqo
下手したら人質にされてるよな
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 16:06:40.60 ID:VVrURqKqo
下手したら人質にされてるよな
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/03(月) 16:07:41.64 ID:VVrURqKqo
二重投稿失礼
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 08:13:44.18 ID:4T+CKQ9sO
復活おめ
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 18:45:58.77 ID:4299RXkL0
>>1です。
SS速報VIP落ちてる間にこのスレは期間が過ぎて終わったはず…
なんで生きてるのだろうか。管理人の粋なはからい?
なんにしても続けます。読んでる人はこのレスは無視してください。
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 13:39:46.03 ID:PDjQeAQu0
おかえり
荒らしの連続投稿によるクラッシュに鯖設置先の被災が重なるアクシデントだったらしいから日付カウント止めてたと思われる
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 15:39:17.89 ID:M4daChAc0


レディ「仮面の騎士、ね……一体何者なの?目的は?」

ビアトリス「いずれも不明だ。そもそも、それらを我らが知ったところで彼奴の行いは変わらん。あれは彷徨い、殺し、奪う者。火の粉を払うものではなく、火の粉を噴く炎を飲み込まんとする者」

ビアトリス「他の不死と大きな違いがあるとすれば、常軌を逸した強さと執念深さ。あとはその特異な不死性くらいか」

レディ「特異な?」


ビアトリス「亡者にならないらしいんだ。ソウルを失い、人間性を失い、肉体が朽ちても理性を決して失わず、力も失わないらしい。今よりロードランに不死が多かった頃に聞いた噂話だがな」


レディ「それは…敵としては最悪の相手ね」

コブラ「とんだ毒蛇だな。俺がコブラなら、やっこさんはマムシってところか」

コブラ「……で、レディ。キミの怪我はもう大丈夫なのか?」

レディ「ええ、見事に一軍復帰よ?彼は一流のメカニックになれるわね」

コブラ「さすがに神の国の鍛冶屋ともなれば違うな。次寄った時はマグナム弾を注文しとくか」

レディ「出直す必要は無いわよ。彼ったら仕事も早いんだから。きっとマグナム弾くらいすぐにでも作ってくれるわよ」

コブラ「そいつは願ったりだ。早速行こう」



レディの話を聞き、コブラは不死たちと共に巨人の鍛冶屋の仕事場へ向かった。
仮面の騎士との戦いで一行の装備は著しく消耗しており、本来の力を発揮しないのだ。
それどころか重鎧もローブも、胴に大穴を穿たれたままでは防具どころか衣服としての機能の保持すら怪しい。
それらを身につける者としても、レディの負傷を数分で修復した腕前を買わない訳にはいかなかった。


巨人の鍛冶屋「それなら すぐできる」


ソウルを受け取った巨人の鍛冶屋はそう言うと、ソウルを布地やプレートへと変え、手際よく防具の損壊を埋めていく。
そして十数分が経つ頃には、ジークマイヤーの鎧とビアトリスのローブは、おろしたてと見紛うばかりの艶を纏っていた。


コブラ(まったく驚きだぜ。人形使いのマリオも似たような事をやっていたが、こいつはマリオ以上に精密だ!)

ジークマイヤー「おお!これだこれだ!この腹の丸みが無ければカタリナ鎧とは呼べん!礼を言うぞ!」


太い眉と口髭をたくわえ、少年のような瞳をした男は、重鎧を受け取るとその場で装着を始める。
スカートを残し、大きな帽子で胸元を隠したビアトリスは、そんな豪放な行いに冷ややかな視線を送った。
野にいたとはいえ、ヴィンハイムで身につけた礼儀作法を捨てきることなど、彼女にはできない。


ビアトリス「上で着替えてくる。コブラ、覗くんじゃないぞ」

コブラ「そりゃ残念」

レディ「こらっ!」ギュウ

コブラ「アウチチチ!」


コブラ「な、なぁ〜んて冗談はここまでにして、そろそろ本題といくかな」ゴソゴソ

コブラ「アンタの腕を見込んで、ここはひとつ頼みがある」コンッ


レディにつねられた頬をさすりながら、コブラはズボンのポケットをまさぐると、金床にマグナムの弾を置いた。
巨人はマグナムの弾をつまみ上げ、下顎を撫でた。


コブラ「コイツを何発か工面してもらいたいんだ。できるかい?」

巨人の鍛冶屋「うーん、無理」

コブラ「へ?」


帰ってきたのは、拍子の抜ける言葉だった。


巨人の鍛冶屋「俺 ソウルで出来た物 作れる。ソウル宿ってる物 治せる」

巨人の鍛冶屋「でも コレ ソウルで出来てない。宿ってない。だから無理」
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 17:36:43.83 ID:M4daChAc0
コブラ「うーん…そこをなんとか頼むぜ。あんた以外に頼れそうなヤツがいないんだ」

巨人の鍛冶屋「うー…」ゴソッ…


無理難題を押し付けられた形になった巨人は、不本意そうに完成済みの武具の山を漁ると、矢と火炎壺を取り出した。
そして矢から矢尻を引っこ抜き、火炎壺と合わせて金床に置いた。


巨人の鍛冶屋「コレ 使う。似たものにはなる」

コブラ「へへへ、そうこなくっちゃな!頼んだぜ」


巨人の鍛冶屋は作業に取り掛かった。
本来なら報酬として巨人はソウルを貰うはずだったが、巨人はソウルを要求しなかった。
巨人は商いのために家事仕事をしているわけではなく、ただ受け取ったソウルを使って、ソウルから成る武具を加工するだけである。
ゆえに、巨人はタダ働きだろうが文句は無かった。そもそも報酬などという物に価値を見出していないのだった。


ジークマイヤー「ふぅー、慣れた着心地だ。 やはりこうでなくては」

ビアトリス「コブラ、着替えが終わったぞ。貴公の用はどうなった?」

コブラ「とりあえず目処はついたぜ。弾の代わりが完成したら作戦会議といこう」

ビアトリス「そうだな。エストも無いことだし、真鍮鎧の騎士が守る篝火には仮面の騎士がいるかもしれない。慎重に動かなければな」

ジークマイヤー「うむ」



ビアトリス(ローガン先生……無事だといいが……)




489 :書き直し版 [saga]:2018/10/16(火) 23:32:23.56 ID:M4daChAc0
コブラ「うーん…そこをなんとか頼むぜ。あんた以外に頼れそうなヤツがいないんだ」

巨人の鍛冶屋「うー…」ゴソッ…


無理難題を押し付けられた形になった巨人は、不本意そうに完成済みの武具の山を漁ると、矢と火炎壺を取り出した。
そして矢から矢尻を引っこ抜き、火炎壺と合わせて金床に置いた。


巨人の鍛冶屋「コレ 使う。似たものにはなる」

コブラ「へへへ、そうこなくっちゃな!頼んだぜ」


巨人の鍛冶屋は作業に取り掛かった。
本来なら報酬として、鍛治職人はソウルを貰うはずだが、巨人はソウルを要求しない。
彼は商いのために鍛治仕事をしているわけではなく、ただ受け取ったソウルを用い、ソウルから成る武具を加工するだけである。
ゆえに、タダ働きだろうが巨人に不満は無い。そもそも彼は、報酬などという物に価値を見出していないのだった。


ジークマイヤー「ふぅー、慣れた着心地だ。 やはりこうでなくては」

ビアトリス「コブラ、着替えが終わったぞ。貴公の用はどうなった?」

コブラ「とりあえず目処はついたぜ。弾の代わりが完成したら作戦会議といこう」

ビアトリス「そうだな。エストも無いことだし、真鍮鎧の騎士が守る篝火には仮面の騎士がいるかもしれない。慎重に動かなければな」

ジークマイヤー「うむ」



ビアトリス(ローガン先生……無事だといいが……)



490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/20(土) 05:44:45.98 ID:q3PX0KLY0

真鍮鎧の騎士(宇宙……神の力の及ばぬ処…)

真鍮鎧の騎士(…まったく想像がつかんな。理の外の者が何故我らと同じ形をしている?我らが神々は何故あの者をここに?)


シュオオオオ…


真鍮鎧の火防女が壁に寄りかかり、思索に耽っているなか、篝火の灯は揺らぎ、灰を舞わせた。
舞い散る灰は急速に纏まり人の形をとった。そして強張りつつも垂れ下がり、色づき、一人の亡者を生み出す。
ヴィンハイムの制服を崩したローブを着こなし、大皿の如き帽子を被るその亡者は、篝火に跪き、手に黒い精霊を握った。


ボオゥーーン…


黒い精霊が篝火に落とされると、篝火から太陽色の輝きが溢れて亡者を包み、彼の朽ちた表皮に染み入った。
すると、亡者の身体は再び潤いに満ち、枯れた眼球には光が入った。


ローガン「歯がゆい…神秘を前にして、ここまで戻されるとは……」

真鍮鎧の騎士「死んだのか。他の者はどうした?」

ローガン「ここに蘇らんという事は、打開したのだろう。あれを相手にというのなら、大金星だろうなぁ」

ローガン「しかし、不死者ではないコブラなどは、今頃どうしていることやら」

真鍮鎧の騎士「………」

ローガン「…まぁ、ひとまずは仮面の者がここに蘇らんことを祈りつつ、旅支度をするよ」

ローガン「貴公は手伝ってくれるかな?」

真鍮鎧の騎士「断る」

ローガン「ほっほ、だろうな」







神々の地でコブラ達が創意工夫を迫られている頃、魔女と炎の地に休む不死の一行は、しかしその人数を一人欠いていた。
旅から脱落したわけでは無い。ただ篝火周りには寝転がる名無しの戦士と、種火を調べる蜘蛛の魔女と、読み書きをする二人の術師がいるだけだ。
太陽の戦士はそんな旅の仲間からは離れた処に立ち、見上げているだけである。
太陽の光の王が施したとされる、黄金色の門を。




ソラール(火は空にあり、地中にもある……しかし太陽は人の世を見捨てて長い夜をもたらし、混沌は魔女の都を焼いてしまった。世は陰り、人の内に不死が生まれた)


ソラール(俺は何をしている?…不死の使命はいまだ見えず、空の火も地の火も、今は滅びを撒くだけだ。そんな物に、何故俺は近づいている?)

ソラール(太陽の光の王はこの都の炎を封じた。それはかの王が、炎の乱れを恐れたからではないのか?魔女は遥か昔に神々と共に竜と戦い、ゆえに太陽を知っていたはずだが、混沌を生み出した。魔女の主は、かの王と同じように、太陽を恐れていたのではないのか?輝きが乱れることを恐れたのではないのか?)

ソラール(…クラーグに聞くべきだろうが、俺の思う通りの答えが返ってきたらどうする…?)

ソラール(空にも地にもすでに偉大な力は無く、それらを築いた偉大な古き者達も、誰一人としてすでに、かつての力を持ち得ないとしたら?魔女に恐れがあるように、神々にも恐れがあったとしたら?)

ソラール(そもそも、この世に俺の求める“太陽”など、元から存在しなかったとしたら…?)


ソラール(全てはまやかしだと……永遠の栄光や愛、お伽話にもさえ終わりがあり、意味ある物は世に無いなどと…)


ソラール(……そう答えられ…俺は立てるのか?……)


ソラール(……立ち上がり、何処へ……)



ラレンティウス「よぉ、どうしたんだ?俺たちの力じゃそこは通れないだろ?」

ソラール「!」

ラレンティウス「あんたの信じる太陽の神様がこさえた封印だ。人間にはどうにもならないさ」

ソラール「………」
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/20(土) 12:59:14.23 ID:q3PX0KLY0
ソラール「…ラレンティウス」

ラレンティウス「うん?」

ソラール「クラーグは恐らく、お前に呪術を授けないぞ。資格が無いと言われただろう?」

ラレンティウス「ま、まぁな……いきなり厳しいな。どうしたんだ?そんなこと聞いて」

ソラール「いや、少し気になっただけだ。求める物が目の前にあるのに、手に入らない……そんな苦境を、お前は楽しんでいるようにすら見える」


ソラール「未練は無いのか?」


ラレンティウス「………」


ラレンティウス「うーん…実は俺、別に魔女の呪術が欲しくて旅をしてるわけじゃ無いんだ」

ソラール「?」

ラレンティウス「師事を乞いたのも駄目元さ。というよりは、探求者としての習い性だよ。乞いた時から薄々は気づいていたさ。脈無しだってね」

ラレンティウス「彼女が今種火に何をしているのか、それすら分からないんだぜ?火を授かっても、それでこんがり焼き上がるだけさ」

ラレンティウス「まぁ、そんな能無しがこんな所にまで来ちまったってことは……多分俺は、見て体験さえ出来ればそれでいいんだろうな」

ソラール「………」

ラレンティウス「……なぁ、あんた大丈夫か?欲しいものに近付いているからって、焦ってるんじゃないか?」

ソラール「………焦ってはいない。迷ってるんだ」

ラレンティウス「迷うって、何に?」

ソラール「分からない……分からなくなってしまった…」


ソラール「俺がこの旅に何を求めていたのか……覚えてはいるが、もう見えない。見たいという気が萎えつつあるんだ。それだけを夢見ていたのに」


ラレンティウス「………」


ラレンティウス「…あんたが何を求めているのかは、探求する道が違う俺には分からない。だが分からないなりに忠告するぞ」


ラレンティウス「呪術師は火を求め、敬い、恐れる。育てはするが、身は投じない」


ラレンティウス「かねて火を恐れたまえ。これは望みし物の素晴らしさ、その輝きに自分を焼かせるなという呪術王ザラマンの警句だ」


ラレンティウス「あんたの役に立つかは分からないが、覚えておいて損は無い言葉だと思うぞ」


ソラール「………」


ラレンティウス「じゃあ、俺は戻ってるからな。ここで見たものを書き記しておきたいんだ」

ラレンティウス「またな」

ソラール「ああ」


ラレンティウスは去ったが、ソラールは封印の前に残った。
しかしソラールの視線は門から離れ、伏せられている。
太陽の戦士は地面を見ず、足先も見てはいない。
何も視界に入っていない。その胸に描かれた、太陽すらも。





ソラール「かねて火を恐れたまえ、か」








492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 16:34:04.81 ID:QEznwFA10
ここんところ探求者達の懊悩が本当に良い
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 21:35:22.43 ID:bCBNN0p+0
ソラールさんは原作であれなあれだからちょっと怖いな…
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/20(土) 23:48:55.86 ID:q3PX0KLY0

コブラ「おはようさーん!」チャキッ

銀騎士「!」


ドウドウドウーーッ!!


曲がり角から飛び出したコブラは、右手に持つマグナムを連射した。
額と胸と腹を続けざまに撃たれ、銀鎧に身を包む騎士は大きく体勢を崩す。


ジークマイヤー「ふんおー!」ガヅーーン!!


勝機に応じて、空かさず駆けたジークマイヤーが振り下ろしたツヴァイヘンダーは、銀騎士の胴鎧を袈裟懸けに凹ませた。
凹みには亀裂が入り、亀裂からはソウルが吹き上がって、銀騎士を空の鎧へと変えて消えた。


ジークマイヤー「はっはっは!やはり他愛も無い!神の兵と思い勇んで臨んだが、どれも手応えが無いな!」

ビアトリス「調子の良いことを言うな。コブラの“まぐなむ”が強力だからこそ通じる戦法だぞ。私の魔法は限りがあるうえに、連射がきかないからな」

レディ「強力ですって。やっぱり私の言ったとおり、中々使えるでしょ?」

コブラ「そうは言ってもなぁ。これくらいの相手、本来のコイツなら一発で三人は倒せるぜ」

コブラ「海賊コブラともあろう男が、弾の温存に精を出すとは…貧乏はツライね」トホホ



ローガンの無事を信じつつ、コブラ達一行はアノール・ロンド城内を篝火求めてさまよっていた。
真鍮鎧の騎士が守る篝火に戻る事もコブラは一度考えた。しかしその帰路は落下死の危険を伴う石橋一本に限定されており、しかも途中には奇襲に適したリフトが二箇所もある。
そこを通るくらいなら、狭い通路と個室が複雑に絡み合う城内を歩く方が、安全であると考えたのだ。
迷路のような構造は仮面の騎士と遭遇する可能性を減らし、狭い通路は敵対者への集中攻撃を促す。
一行の前に敵対者が立とうものなら、其の者はビアトリスとコブラの集中砲火と、レディとジークマイヤーの怪力による剣勢を受け、瞬時に鏖殺された。

大弓を持つ騎士も、槍と盾を構える騎士も…


コブラ「おっ、宝箱か。さてさて神のお宝はどんなものか…」フフフ…


ミミック「………」ガパッ


コブラ「おわーっ!?」ガシッ

ビアトリス「ミミックだ!神々に追われたとされる者がなぜここに!?」

ジークマイヤー「コブラ!そのまま押さえつけていろ!叩きのめしてやる!」

レディ「箱を斬ってはダメよ!コブラに当たるわ!手脚を斬らないと!」


バコッ!グシャッ!バキッ!ズバーッ!


ミミックも、この戦法の前には容易く屈した。
無論ミミックに限り、挟まれる者に常人を超える反射神経と膂力が要求されたが、その唯一の弱点も克服されている。
少なくとも、ミミックの咬合力は区画閉鎖用のシャッターに比べ、貧弱であった。
一行はそのまま、現れる敵対者を蹴散らし、城内を歩き回り…


ジークマイヤー「やったぞ!篝火だ!」


遂に目的の灯りを見つけた。


コブラ「床に薪を置いて燃やしてるのか…こいつを置いた奴は暖炉が見えなかったのか?」

ビアトリス「廃墟の暖炉に、煙など出るはずもない火をくべる者もいないだろう。篝火が燃えるのに、空気も空間も要らん」

ビアトリス「それほどまでに、この城は打ち捨てられて時が経っているという事だ。貴公の読み通りだな」

レディ「どうジーク?篝火は使えるかしら」

ジークマイヤー「うむ、火は弱いが、エスト瓶五口分くらいなら何とかなるだろう」

レディ「だそうよ?」

コブラ「そいつは結構。俺としちゃ探索もしてみたいが、回復手段が弱いんなら話は別だ。道草はやめて本道に戻るとするか」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 14:56:13.22 ID:04qZ/XGDO
やっと追い付いた
闇霊がいるなら白や青もいるんだろうか
そういえばサインは出てるらしいし
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 18:10:41.00 ID:okyFMchY0
必要最低限の回復手段を手に入れた一行は、元来た道を戻り、仮面の騎士が倒れた大広間に再び入場した。
大広間には音は無く、敵意を滾らせる者もいない。
長方形の両短辺にはただ、静謐を守る城門と、冷たい霧のカーテンが揺らぐだけである。


コブラ「鬼が出るか蛇が出るか……おっと、前も同じこと考えた気がするぜ」

ジークマイヤー「鬼とは、東国の悪魔か?貴公らの世界にもいるのか?」

レディ「概念としては存在するわ。本物は……まぁ、いるかどうかは人それぞれね」

ビアトリス「話の分かる方々であればいいが……」

コブラ「そいつは高望みってもんだ」

ビアトリス「? なぜだ?」

コブラ「こっちじゃ、鬼や蛇も神と呼ばれるからさ」チャッ


コブラはマグナムを開けて急造弾を抜くと、代わりに本来そこに入るべきマグナム弾を装填した。
装填された弾丸は五発。これらを撃ち切れば、後は急造弾を使わなければならない。
三発撃ち込んでようやく銀騎士を怯ませる、いささか頼りない弾を。


ビアトリス「…それはまた、酷な話だな」

コブラ「俺もこのことわざが嫌いさ。今からその鬼や蛇に会いに行こうってんだからな。覚悟はいいか?」

ビアトリス「ああ、できてる」

ジークマイヤー「万端だ。このジークマイヤー、常に戦場に備えている」

レディ「ですって」

コブラ「よし、じゃあ参拝と行こう」スッ


コブラが霧に手を掛けると、淡く硬く閉ざされていた霧はコブラの腕を通した。
霧はコブラを通し、レディを通し、不死達を通し、大柱が立ち並ぶ大広間へ彼らを招き入れると、再び硬く閉じた。
大広間には薄暗い静寂が漂い、その静寂を、入って右手側の大窓から入る陽光が照らし、冷たい空間にわずかな暖かさをもたらしている。
広間最奥には、頭に冠をいただき大剣を地に立てた老王の像と、姿に豊満さをたたえる女神像が見える。
その二つの像の前に、小山の如くそびえて殺気満ち満ちる者が立っていた。




処刑者スモウ「………」




身の丈十七尺にも及ぶ巨体に、身体そのものと見紛う程に重厚な、黄金の重鎧に身を包む者。
コブラの胴より太い腕で支えるのは、鎧と同じく黄金色に輝く、象脚にも似た大鎚。
大鎚と言ってもその大きさは更に凄まじく、不死の身にあっては破城槌に、コブラの世界にあっては小型宇宙船にさえ匹敵する巨大さであった。
そのあまりの威圧感に不死達は圧倒され、背後に閉じた霧から離れることができない。
しかし、コブラは一歩踏み出した。


コブラ「英雄へのお出迎えにしては人数が少ないな。そいつは花束かい?」

ビアトリス「コブラ、そんな軽口を聞いては…」ヒソヒソ…

コブラ「構いやしないさ。あんなものを持ち出して来る時点で歓迎する気は更々ない。それともキミには本当に花束に見えるのか?」

ビアトリス「…そんな訳ないだろう……」ヒソヒソ…


金色の小山を刺激しないようにビアトリスは気を揉んだ。
だが、そんなこと知ったことではないと言わんばかりに、コブラは更に歩を進めつつ、小山に語りかけた。


コブラ「なぁ、あんたはどう思ってるんだ?あんたは俺たちの敵なのかい?」




ドガァン!!




敵意を含んだコブラの声に、応える衝撃が響く。
広間の二階から降ってきた騎士は金獅子の鎧に身を包み、右手に白金色の槍先を持つ長い十字槍を握っていた。
獅子の顔持つ兜からは真紅の長房が伸び、房は着地の衝撃で跳ねあげられ、陽の光を乱し、獅子騎士の金鎧に炎のような煌めきを映した。
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 22:28:42.17 ID:04qZ/XGDO
マヌスまでやるんだろか
あれもある意味哀れな存在だけど
書庫に行った時にペンダントが出るかどうかで決まるかな
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 23:06:28.47 ID:okyFMchY0
コブラは立ち止まり、二体の黄金鎧を見つめる。
地に降りた獅子面の騎士は、大鎚を持つ者と比べ小さいが、それでもコブラと比べ頭五つ分は身長が高い。




竜狩りオーンスタイン「………」




それほどの巨体でありながら、獅子面騎士の手脚の長さや頭部の大きさに、歪みは見えない。
まるで絵に描いた理想的人体に鎧を着せ、スケールをそのまま大きくしたかのようなその体躯を、コブラは警戒した。
大鎚を持つ金山よりも。


ジークマイヤー「に、二体とは……」

コブラ「こっちは四人で来てるんだ。向こうだって数は揃えるだろ」


ジークマイヤーの戦慄した独り言に答えたコブラもまた、背中に冷たい風を感じている。
不死達はもはや引き返せぬという状況を受け入れ、霧から離れた。
レディはフランベルジュを両手に握り、正面に構えると、コブラに続き歩を進める。

ザッ…

コブラ「!」

不意に、金獅子の騎士が伏せた。
石床に片膝をつく祈りのようなその姿勢に、コブラは一瞬戸惑い、不死達は数瞬呆けた。
だが、殺気に脳を突かれたコブラには、既に金獅子の騎士の構えが完了している事が伝わっていた。


シュン!!!


レディ「っ!?」


金獅子の騎士が消えると同時に、特大剣に手を掛けていたコブラの姿も消え…


コブラ「ぶっ!」バフォン!


次の瞬間、再び姿を現したコブラは石床から離れて飛翔し、硬化した霧に叩きつけられていた。
霧から離れていた二人の不死は巻き添えを食わなかったが、何が起きたかを全く把握していない。


シュザッ!!


コブラが石床に落下すると同時に、空中から姿を現した金獅子の騎士は、右手の槍を背面に掲げた短距離走者の走り出しのような姿勢で着地。
再出現時の勢いを殺しながら、石床の上を長く滑った。


ジークマイヤー「な…なんだ今のは!?今の見たか!?」

ビアトリス「いや…何も…」

レディ「コブラ!?今、あなた、何をされたの…!?」

コブラ「や…ヤツから目を離すな…」ゴホッ



スッ…



金獅子の騎士が姿勢を直し、コブラ達一行に十字槍の槍先を向けると…


ドズーーン!!!


大鎚を握る者が、大広間を揺するほどの力で石床を蹴った。


ドズン!! ドズン!! ドズン!! ドズン!!


広間の石床を軋ませて突進するそれは、頭上高く大鎚を振り上げている。
コブラは特大剣を支えに立ち上がるが、その脳天に向けて、既に破城槌は振り下ろされていた。
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/22(月) 02:27:54.67 ID:CBLTsuLG0
ガシャッ!

コブラは全身に衝撃を受け、石床に転がり…

ガゴオーーン!!!


破城槌はコブラの頭を砕くことなく、石床を粉砕して大広間をまたも揺さぶった。
一瞬コブラは自分が死んだ光景を垣間見たが、その未来をジークマイヤーの体当たりが制したのだ。


ジークマイヤー「立てコブラ!貴公らしくもない!」グッ

コブラ「イテテ…傷口が開いちまった…」


ジークマイヤーに肩を借り、コブラはフラつきつつも立ち上がり、頭を振るう。
思考の靄はいくらか取り去れたが、戦える状態に戻るにはしばしの時間が必要なようだった。


ジークマイヤー「ビアトリス!貴公はレディと共に獅子を抑えてくれ!遅い方なら私も戦える!」

ビアトリス「あ、ああ!分かった!」

レディ「早く行きましょう!彼がまた槍を構えたわ!」


ジークマイヤーからの激励に、完全に浮き足立っていたビアトリスは辛うじて、心身を戦える態勢に整える事ができた。
だが、彼女に指示を出したジークマイヤーも内心、恐怖で竦む心を自身の大声で隠すのが精一杯だった。
相手はおとぎ話の如く忘れられた太陽信仰の偶像にして、この世にいるはずもなかった戦神。
自分が古い世に生まれていたら、間違いなく信仰したであろう勝利と殺戮の化身なのだ。


チャキッ!

レディ「!」


その戦神は、不死達の会話が聞こえているにも関わらず、あえてコブラではなくレディへ槍を向けた。
レディは金獅子の騎士が放つであろう、正体が分からぬ攻撃を警戒して、フランベルジュを横に構え、瞬時に防御の姿勢をとった。

ビアトリス「やめろっ!」ビシューッ!

レディへの攻撃を防ぐため、ビアトリスはソウルの矢を放つ。
ソウルの矢は一直線に金獅子の胴体に向かうが…

ビアトリス「あっ!?」

ソウルの矢を振り切るほどの速度で駆け出す金獅子を、ソウルの矢が捉えることができるはずもなかった。


レディ「!?」バキィン!!


正体不明の攻撃を防ぐ瞬間、レディの銀色の瞳には確かに映った。
叩き割られたフランベルジュの破片と、フランベルジュを貫いた白金色の槍先が…


レディ「うぐぅ!」ドシャーッ!


吹き飛ばされ、石床の上を滑り、壁に背中を打ち付けたレディは、胸元に生じた痛みに声を漏らした。
破壊された大剣が衝撃をいくらか逃しはしたものの、それでもなお彼女を襲った衝撃は大きく、彼女の思考にはハンマーボルト・ジョーの拳が思い起こされた。

ビアトリス「くそっ!」ヒュイイン…

攻勢にも救助にも移れないと見るや、ビアトリスは浮遊するソウルの光球群を展開し、金獅子を迎え撃つ態勢に入った。
回避するという選択肢も取れない以上、それ以外に成すすべが無いのだ。
金獅子は今度はそんなビアトリスを完全に無視し、行動不能に陥っているレディへ向け歩き出す。

ビアトリス「っ!? こっちを見ろ!何故私を襲わない!」

ビアトリスは金獅子の騎士を挑発するが、金獅子の歩みは止まらない。
しかし、ビアトリスは攻撃に移る事ができない。レディが殺される前に金獅子を撃ち抜くような攻撃手段など、彼女は持っていないのだ。

コブラ「ジーク…離してくれ…レディがやられるぞ…」

ジークマイヤー「し、しかし…!」

ジークマイヤーは手傷を、それも深手を負ったコブラを置いていく事も出来ず、鈍足ゆえにレディへ加勢することもできない。
コブラへの体当たりが間に合ったことが、そもそも奇跡だったのだ。

ボゴゴン…

石床に深くめり込んだ大鎚が、砂煙を上げながら再び持ち上げられた。
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/23(火) 04:52:05.19 ID:ZQEyk81G0
ビアトリス(やはり射つしかないか…!)


シュイィーン!


追い詰められたビアトリスは、ついに金獅子の騎士へ向けソウルの矢を放った。
だが金獅子を傷つける事が目的では無い。秘術や技術を要する品々に対し、ジークマイヤーよりは造詣が深いビアトリスは気付いたのだ。
金獅子の動きを一瞬でも止めることが出来れば、窮地脱出の可能性も見えてくることに。

バチィン!!

ソウルの矢は案の定、金獅子の槍に振り払われて大柱の一つに小さな穴を開けた。
金獅子は振り返らず、依然レディを標的としているが、歩みを一瞬止める。
ビアトリスは誰にも合図らしい仕草すら見せなかったが、コブラのブーツからはパイソン77マグナムが抜かれた。


ドウドウーーッ!!!


マグナムからは二発の弾丸が放たれ…


ジークマイヤー「うおおおっ!?」ズダダーン!


足元の覚束ないコブラを支えていたジークマイヤーは、発砲時の反動でコブラと共に吹き飛び…


ブワオオォーーン!!!


吹き飛んだ二人を追うように振り抜かれた大鎚は、ジークマイヤーの鎧を震わせるほどの風切り音を鳴らして空を切った。


バシャアアーン!


発射されたマグナム弾のうち、一発は金獅子の頭上を高く飛び、大窓に派手な穴を開けたが…


ズビシィーーッ!!!




もう一発は金獅子の肩当てを貫き、上体を大きくよろめかせた。




ビアトリス「や、やった!」

ジークマイヤー「なんと!?この手があったか!」

コブラ「へへ、どうだい」ニヤッ


オーンスタイン「………」


金獅子は、肩当ての穴から漏れるソウルを一瞥すると、レディをそのままにコブラへ向き直った。
大鎚を持つ金山も、コブラへの追撃の姿勢を解き、重々しくジークマイヤーとコブラから歩き去っていく。


ジークマイヤー「なんだ?……我らは…まさか試練に打ち勝ったのか!?」

コブラ「いや……こりゃだめだな」


金獅子は槍先を上にしたまま、得物を高く掲げると…

ドゴオォン!

槍を石床に強く突き立てた。


コブラ「…怒らせちまったか…」



突き立てられた十字槍の槍先は、白金色から黄金色へと変わり、猛々しい輝きを放つ雷を纏った。


501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/23(火) 20:27:52.85 ID:ZQEyk81G0
ビアトリス「そんな…」

ジークマイヤー「雷……や、やはり相手は名を禁じられし太陽の長子か…」

コブラ「名乗り禁止にしちゃ目立ちすぎだ。少しはネオンを…ゴホッ」


金獅子の騎士が雷を纏った十字槍を中段、右前半身に構える。
金山は大鎚を持ち直すが、その敵意はレディとビアトリスへと向けられている。


コブラ「ジーク、どうやら奴は俺との一騎打ちをご所望らしいぜ。乗ってやるしかなさそうだ」

ジークマイヤー「一騎打ち!?そんな身体で受けるというのか!?」

コブラ「やるしかないだろ。白旗降ってみるか?」


ジークマイヤーの手を払い、コブラは脇腹を抑えつつ、片手で黒騎士の大剣を構えた。
コブラに戦意を見た金獅子は、一瞬槍先の輝きを一層強めると…

ガガガーッ!!!

コブラ「!」


槍先から雷の大槍を放った。


バジィン!!

コブラは特大剣で大槍を受けたが、砕けた大槍は特大剣を伝ってコブラを焼いた。
命こそ失いはしなかったが、コブラの全身各所には火ぶくれが浮かんだ。しかしコブラは怯まない。

ビュン!!

間髪入れずに金獅子は駆け、コブラが盾としている特大剣に突きを一閃した。

コブラ「オオオーッ!!」ガギギィーン!!


かつて敵であり友でもあった男、シバの大王の一撃が霞むほどの衝撃を、特大剣を通して受けたコブラは…


ズガガガーッ!!!


大柱を断ち割って吹き飛び、またも背中をしたたかに壁へ打ち付けた。


ジークマイヤー「む、無茶だ!死んでしまうぞコブラ!」ダッ


コブラに助力すべく駆け出すジークマイヤーだが…


ドガアアーーッ!!!

ジークマイヤー「ぬおっ!?」


その行く手を、石床を打った大鎚が阻んだ。
コブラとジークマイヤーへ援護に向かうべく、ビアトリスはレディへ駆け寄る。


ビアトリス「大丈夫か!?さぁ掴まって!」スッ

レディ「ごめんなさい…衝撃で一瞬、ボディーの機能が麻痺していたわ」


レディを引き起こしたビアトリスは即座に浮遊するソウルを再び展開し、レディは半ばから折れたフランベルジュを拾う。
次に二人は金山へ向け同時に駆け出し、先行したレディが金山へ向け初撃を振るった。


ガキン!

ジークマイヤー「おっ!」


折れているとはいえ大剣。
アーマロイドの膂力で振るわれたフランベルジュは、金山のふくらはぎを覆う装甲に深い傷をつけた。
金山は目に見えてぐらつき、大きく踏み出して転倒に耐えたようだった。


ジークマイヤー「好機!」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/24(水) 20:38:02.62 ID:eoMjfmAm0
ダクソはサッパリだが相手がとんでもないのは分かる
激戦感がすごい
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/24(水) 21:48:47.11 ID:jSESRtxVO
ダクソは3しかやってないけどボスは強い弱い関係なくド迫力だよ
初見ボスのこれヤベー感ほんとこんな感じ
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/25(木) 05:29:20.43 ID:movsWp0q0
ガキイィーッ!ガシィーン!


金属同士を激しくぶつけ合う音を聞きながら、しかしコブラの意識は混濁していた。
ジークマイヤーの特大剣は金山の大鎚に防がれていたが、カタリナの騎士は一歩も引かずに剣勢を張っている。
レディとビアトリスは正面戦闘を展開するジークマイヤーを援護する形で、金山を囲みつつ一撃離脱を徹底している。
現状、神を相手に勝ちは難しいが、少なくとも負けることは無い戦いを、不死達とコブラの相棒は演じていた。

バヒュン!!

コブラ「!」サッ

首元を狙った鋭い一振りを、コブラは腰を落とすことによって紙一重で回避した。
金色の髪の毛が数本、コブラの頭上を舞う。

バオッ!!

コブラ「うおおっ!」ガギィーーッ!!

その落とした腰を上げる暇もなく襲い来た縦振りを、コブラは今度は特大剣で受けた。
しかし衝撃によって脇腹の傷が更に開き、出血までも始まった。

コブラ「た、タンマ…!」ギリギリギリ…

相手が仮面の騎士のような、人の延長にある者ならば、あるいは受け流しや押し返しによる脱出も叶う。
しかし相手は人ならぬ者であり、負傷は容赦なくコブラから体力を奪っていく。
脱出は不可能だった。


ドドン!! バリバリバリバリ!!


右手の槍でコブラを制しつつ、金獅子は左手に雷を起こした。
雷は轟音を鳴り響かせながら、徐々に纏まり、一振りの槍、もしくは杭の形を成していく。


コブラ「!」


その雷を金獅子が振り上げた瞬間、コブラの頭に閃きが走った。
金獅子の騎士の十字槍を防いでいるのは、黒騎士の大剣。
その黒騎士の大剣をささえているのは、コブラ自身の両手である。


シュドーーッ!!


オーンスタイン「!」


コブラは義手をつけたまま、サイコガンを発射した。
黒騎士の大剣をしっかりと握りこんだ義手は、サイコエネルギーの奔流に乗って打ち上がり、金獅子を打ち上げる。

ドガッ!

予期しようのない急加速によって、金獅子は天井に叩きつけられ、弾きあげられた十字槍はあらぬ方向を切った。
しかし金獅子の左手には雷の槍が握られており、輝きも失せてはいない。


コブラ「コイツは駄目押しだーっ!!」グワオーーッ!!!


落下を始めた金獅子に、コブラはサイコガンを撃ち…


バヒュウウン!!!


金獅子も、コブラ目掛けて大雷を投げ込んだ。


ドドドオオオォン!!!


ジークマイヤー「うおっ!?なんだ!?」

スモウ「!」


敵を砕くべく放たれたサイコエネルギーと雷は、空中で激突し、巨大な爆発を巻き起こした。
爆発によって生じた閃光は一瞬、太陽の如く輝き、大広間からあらゆる影を取り去った。
凄まじい爆風によって金獅子は再び舞い上がり、天井に脚をつき、コブラは怯んで、うつ伏せに石床へと倒れる。
コブラに生じたその隙を、逃さない金獅子では無かった。
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/25(木) 15:08:26.25 ID:movsWp0q0
ダン!

起き上がろうと背中を丸めるコブラに向け、金獅子は天井を蹴って飛翔した。
そして敵を串刺しに貫くべく、槍を持つ手に力を入れる。


コブラ「そりゃないよ」サッ

オーンスタイン「!」


しかし、コブラは苦痛に喘いではおらず、体を起こした彼の手にはマグナムが握られていた。
体を丸めて閃光に耐える演技で、再びマグナムを抜き、懐に隠していたのだ。
神といえど、空中で推力も無しに軌道を変えることはできないと、コブラは踏んだのである。


ズギュウウーーン!!!


一発と聞き紛う銃声と共に…


オーンスタイン「!」ビシィッ!!


金獅子の胴鎧を二発、兜を一発、マグナム弾が貫通した。
金獅子は脱力し、落下攻撃ではなく墜落を始める。


コブラ「やれやれ、もう全部撃っちまったか…」


ドガーーッ!!!


コブラ「!?」




しかし、勝利を確信したコブラの腹を、金獅子の十字槍が貫いた。
仰向けの姿勢で石床に縫い付けられたコブラは大量に吐血し、彼の腹部を雷が焼く。
金獅子の兜と胴鎧からは白いソウルが漏れているが、槍を握る金獅子の右手には渾身の力が込められている。
確かに、マグナム弾は金獅子の騎士に傷を負わせた。しかしそれらは致命傷ではなかったのである。




レディ「コブラーっ!!」


レディの叫びを聞いて、二人の不死の視線が一瞬金山から離れる。
そして不死達は信じがたい光景を目にし…


ビアトリス「コブラ…そんな…」

ジークマイヤー「き、貴様!何をするかっ!!」ダッ


一瞬、正常な思考力を失った。
ビアトリスが見るべきは金獅子とコブラではなく、ジークマイヤーは大鎚に背を向けて走り出すべきではなかった。
見るべきは大鎚であり、剣を振るうべきは金山である。レディの動揺が二人に隙を生んでしまったのだ。


ドグシャーーッ!!!


金山の繰り出した横振りは、広大な間合いを以ってビアトリスとジークマイヤーを一掃し、大広間の端まで叩き込んだ。
二人の不死は全身から血を流し、己が致命傷を負ったことにすら気付く事も無く昏倒した。
ビアトリスの懐からは、手付かずのエスト瓶が転がる。


ズーン!!


レディの前には、処刑者スモウが立ち塞がり…


バチッ!! バリバリバリバリ!!


石床に刺した十字槍でコブラを制した竜狩りオーンスタインは、またも左手に雷を纏いつつ、右手で鎧に付着した返り血を拭った。
オーンスタインの右手はコブラの血で赤く染まり、ぬらぬらとギラついた。
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/25(木) 15:40:30.33 ID:VEwDUXeMo
おおう、どうなるんだこれ…
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/25(木) 16:14:20.14 ID:YKGSkWwDO
さすがはカンスト周回
サインを拾っておけば…
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/25(木) 17:00:42.56 ID:movsWp0q0
窮地に追いやられたコブラはついに、捨て身の奥の手を使うことを決心した。
自身の精神力が続く限りにサイコガンを撃ち続け、金獅子と金山の両方を討ち滅ぼすという作戦は、恐らくは成功するだろう。
サイコエネルギーは敵を追尾し、金獅子の左手には一本の雷が握られるのみである。
一発が相殺される事を踏まえつつ、念押しも含めて最低限七発は撃つ必要があるが、コブラの決心は揺るがない。
致命傷を負い、出血を続ける肉体が、精神力の疲弊に恐らくは耐えられないとしても…


オーンスタイン「………」スッ


金獅子が自身の右手を眺めた瞬間…


ジャキン!


コブラはサイコガンを構えた。
サイコガンのエネルギーメーターが眩く輝く。


フッ…


その輝きの強まりに比例するかのように、金獅子の左手の雷は弱まり、失せた。






オーンスタイン「貴公、やはり只の人では無いな」



コブラ「!?」




不意に語りかけられたコブラは驚愕した。
神が人の言葉を話したからではない。言葉に敵意が全く無いことに衝撃を覚えたのだ。


オーンスタイン「スモウ、鎚を収めよ」

スモウ「………」ズッ…

レディ「えっ…?」


それはレディも同様であった。
眼前の金山が鎚を収めたことに、現実感を覚えることができなかった。


オーンスタイン「貴公は我らの知る人にあらぬ者。不死立つこともなく、呪いも受けず、それらの兆しすらも無い」

ズボッ

コブラ「ぎっ!?」


不意に槍を抜かれたコブラは、声を裏返して悶絶した。
転げる体力こそは無かったが。


ヒュオオオォォ…

コブラ「?」


そのコブラの腹に空いた刺し傷に、金獅子の騎士は手をかざし、太陽色の暖かな輝きを染み込ませた。
太陽色の輝きはコブラを中心に光の波動を放ち、コブラの負傷を瞬く間に癒していく。


オーンスタイン「我らが大王、太陽の光の王の封印……我らが壊すことまかりならぬ」

オーンスタイン「その上に、貴公に見える闇は深淵を孕まず、かえって眩くすら見える。我らが討つべき者ではない」

オーンスタイン「スモウ、お前は不死どもを介抱し、決して通すな」

スモウ「………」コクッ


オーンスタイン「我はこれより常ならぬ者らを連れ、我らが女神の元へ謁見に向かう」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/25(木) 20:01:33.94 ID:G40IhGJN0
急展開 楽しみだ
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 03:59:36.58 ID:wKd5bV410


ビアトリス「ジーク…おいジーク、起きなよ」

ジークマイヤー「う……おお?」

ビアトリス「はぁ…意識があるなら早く返事をしなよ。手遅れかと思ったぞ」

ジークマイヤー「それは面目ない。昔から寝すぎだとよく…のおっ!?」



スモウ「………」



ジークマイヤー「既に敵の手中であったか!覚悟っ!」ジャキッ

ビアトリス「おいよせ!!やめるんだ!戦いはもう終わった!剣を収めろ!」

ジークマイヤー「な、なにぃ!?」

ビアトリス「それに見ろ、私たちのエストを。空の瓶でどうしようっていうんだ」

ジークマイヤー「から?……あっ!いつの間に!貴様図ったな!」ジャキッ

ビアトリス「だからやめろと言っているだろ!もう決着はついているんだ!」

ジークマイヤー「しかしそれでは、腹の中が収まら……まて!コブラとレディが見当たらないぞ!どこへ連れていかれたのだ!?」

ビアトリス「知らん。この巨神に……」


ビアトリス「ゴホッ、いやこのお方にエストを貰い、私が目覚めた時は長子様と共に二人とも消えていた。教えを乞おうにも、我々にその資格は無いようだ」

ジークマイヤー「それでは……それでは、探しに行けば良いではないか!」

ビアトリス「だから言っているだろう。エストはもう無いと」

ジークマイヤー「………」



スモウ「………」



ジークマイヤー「うぬぬ…座して帰りを待つしかないか…」

ビアトリス「そういうことになるな」


ジークマイヤー「……しかし、巨人へのその言葉遣いはなんだ?先程まで剣を交えていた相手だろう?」

ビアトリス「貴公に神への畏敬は無いのか……奇跡と魔法を世にもたらした、偉大なる太古の君主達だぞ。出逢いが不運に終わっただけだろうに」

ジークマイヤー「太陽戦神の物語や竜狩り譚、偉大な太陽の伝説や白教の教えなどは、確かに我が祖国カタリナにも伝わっている。歌やおとぎ話でな」

ジークマイヤー「だが大鎚を携えた巨人の話など伝わっていない。知らん」キッパリ

ビアトリス「やれやれ、騎士習わしで聖書も読むカタリナ騎士の言葉とは思えないな。神学を怠っていたのか?」

ジークマイヤー「知らんものは知らん!知らぬ神を信仰しろと言われても困る!奇跡に仇なすヴィンハイムの徒には分からんかもしれんが、白教以外のものは人の世ではほとんど信じられておらんのだ!」

ビアトリス「そ、そう怒るな。白教が人の世を席巻しているのは知っている。ただ……言い方は悪いが、やや厚顔に過ぎるのではと思っただけだ」

ジークマイヤー「だから知らんものは知らんと…!」

ビアトリス「だから悪かったと…」



スモウ「………」



511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 19:09:28.90 ID:wKd5bV410

コブラ「なんだかまた妙な事になってきちまったなぁ〜」

レディ「殺されるよりはいいじゃない。本当に心配したのよ?」


二人の海賊は、竜狩りオーンスタインと名乗る神に導かれ、大広間の二階へと移り、豪奢に整然とした木製の大扉の前まで案内された。
扉は両開きであり、左右どちらにもドアノッカーが設けられている。
二階は大広間の全辺を囲うように造られており、よって大広間の隅にいるビアトリスとジークマイヤーの騒ぐ声も小さいながら丸聞こえであるが、コブラとレディは大声を出すことも、不死達に声をかける事も、オーンスタインによって禁じられていた。不死達には資格が与えられなかったが、二人の海賊には審判さえ困難であったが故に、むしろ謁見が許されたのだ。
王の封印が無ければ、今頃生きてはいまい。そうコブラは察していた。


コブラ「なぁ竜狩りさんよ。この扉の先には誰がいるんだ?」

オーンスタイン「貴公の会うべきお方だ」

コブラ「あーあ、なんてつまらないお答えなんでしょ!お情けで1点!」

レディ「何点満点で?」

コブラ「5点さ。満点とったら福引きをプレゼント」

オーンスタイン「仲間の首を刎ねるぞ」

コブラ「わかったわかった、わかったよ…」


オーンスタインの悪巫山戯を許さぬ言葉に負け、コブラはドアノッカーを掴み、鳴らした。


コン コン コン コン


四度のノックは二人の海賊の気を一気に引き締め、いわゆる“仕事用”へと切り替えさせた。
不死の使命とやらのためにこの地に連れてこられた身にとっては、門の奥にいる者はいわゆる依頼人であり、報酬を支払う者である。
仕事を始める前から、既に死ぬ思いを何度もしたとあっては、報酬にもそれなりの色が欲しいところなのだ。


ギッ…



「入れ」の一言も無く扉は開き、室内の明るさが二人を照らす。
二人は部屋へと進み入り、後光に照らされるその者を見た。



「よく参りました。試練を超えた英雄よ」



太陽の光に照らされた女神は巨きく、薄く白いシルクのような天衣を纏い、謁見者に対面する形で寝台に横たわっていた。
枕の上に組まれた両の手はコブラにモナリザを想起させ、女神の豊満な肢体と胸、温もりある美しい顔は、かつてコブラの愛した女達の姿を、コブラの瞳に映した。
だが面に出さず放心しているコブラに、レディは正直カチンときた。怒りはしないが。



「さぁ、私の側に」

コブラ「へへ……こういう展開、久々だとグッとくるね」


巨大な女神は手を差し伸べ、コブラを誘う。
久しくなかった正々堂々の誘惑にコブラは容易く乗り、女神の枕元に跪くと、差し伸べられた手を取り、一度口づけをした。



「私の名はグウィネヴィア。大王グウィンの娘、太陽の光の王女です」


コブラ「俺はコブラだ。相棒のレディと一緒に、宇宙で海賊をやってる」


グウィネヴィア「コブラ、私は父が隠れてよりのち、貴方を待っておりました」




グウィネヴィア「貴方に、使命を授けましょう」




512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 23:25:25.82 ID:wKd5bV410

シュパァッ


王女グウィネヴィアが右手を掲げ、掌を開くと、金色の輝きが掌の中で揺らぎ、収束する。
その光は徐々に失われ、実体を表し始め、ついには大器と成した。


グウィネヴィア「これは王の器です。受け取ってください」


王女がコブラへ向け右手を差し出すと、一抱えもある器は小さくなり、コブラの胸元へと浮かぶ。


コブラ「俺の器も大したことないとは思っていたが、まさかプレゼントされるとはね」

グウィネヴィア「王の器は大いなる四つのソウルを求めます。大いなるソウルが器を満たす時、器は貴方を火の炉へと導くでしょう」

グウィネヴィア「貴方には大王グウィンの後継として、そこで世界の火を灯していただきたいのです」

コブラ「世界の火ねぇ……それを灯したとして、俺たちは元の世界に帰れるのか?」

グウィネヴィア「火が灯れば、貴方の役目は終わります。人の世の夜も終わり、不死の現れも無くなるでしょう」



コブラ「じゃあやめだ。悪いがコイツは受け取れない」



レディ「コブラ?どうして…」

コブラ「俺は帰れるかどうかを聞いたんだ。そこをはっきり言われないと信用できないぜ」

グウィネヴィア「お願いです。私たちはすでに火の明るさを知り、熱を知り、生命の営みを知っています」

グウィネヴィア「今、世界の火を失えば、残るのは冷たい暗闇と、恐ればかりなのです」

グウィネヴィア「旅路に不安があると言うのなら、祭祀場に潜む世界の蛇、王の探索者フラムトを訪ねてください。きっと貴方を導くでしょう」

コブラ「導きならもう足りてる。行こうぜレディ」

レディ「コブラ、ほんとうにいいの?」

コブラ「俺が話を濁す依頼人とは仕事しない主義なのは、キミも知ってるだろ?相手が神でも関係ないさ」


「いらんと言うのなら、器は俺がもらおう」


コブラ「なに?」


突如として王女の間の隅、その暗がりから男の声が響いたかと思うと、器が声の主の元へ、まるで吸い込まれようにして消失した。
声の主は影から身を曝け出すが、黒い外套を身に纏ったその姿は影よりもむしろ暗く、見えるのは口元のみ。
口周りの肌色は人のものと変わらず、唇の色もコブラのそれと変わらないが、動く口元に表情を読み取ることはできない。


バダーン!!

コブラ「!」


両開きの扉を蹴破り、オーンスタインが槍を構えて押し入ってきた。
十字槍には雷が蓄えられ、槍先は今にも放雷せんばかりに輝いている。


オーンスタイン「貴様何をするか!我らが王の創りし器と知っての狼藉ならば、その首切り落とす!」

コブラ「な、なんだなんだ?」

レディ「仲間割れ?…でも、何か様子が変よ…」


黒い外套の男「どこに隠したかと思っていたが、まさかグウィン王の秘術によって実体を失っていたとはな。どおりで王族にしか器が見えんわけだ」


オーンスタイン「…やはり、貴様は我らが主神の誓いを破ってでも、斬り殺しておくべきだったか」

オーンスタイン「覚悟!」ブオォン!!


竜狩りの十字槍が、黒い外套の男の首筋向け振り回された時、またも声が響いた。
ただし、声の主は王の器の簒奪者ではない。
その声は若々しく、妙齢の美女の物のようでもあり、少年の物のようでもあった。
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 02:25:50.07 ID:LCG/OwM30

「やめよ、オーンスタイン」

オーンスタイン「!」ビタッ


黒い外套の男が被るフードに斬り込みを入れ、十字槍は止まった。
しかし、外套の男は汗ひとつかかず、むしろ口元に笑みを作った。


ズオオォォォ…


コブラ「今度はなんだ!?」

レディ「光が…太陽が沈むわ!」


王女の間を照らしていた太陽はみるみる陰り、後光を受けていたグウィネヴィアは姿を消す。
温もりを失った部屋の中は冷え、窓からの光は月光へと変わった。
月光は王女の間を霊廟の如く冷たく照らし、闇に囲まれた一室は、青白く浮かび上がる。
その暗く青白い一室の中心に、白き光を纏う者が現れた。



「其の者は、陰の太陽にこそ用向きがあろう」



白い光を纏う者は、金の細工が施された純白のドレスに身を整え、目元まで隠す黄金色の棘冠を被っていた。
右手には金の長杖を、左手には金の短弓をそれぞれ持つその者のスカートからは、爪先の代わりに幾匹もの蛇が顔を出している。


黒い外套の男「フン、不具の暗月のお出ましか」

レディ「な、何が起きているの…!?」

コブラ「おいおいおい!ここらでティータイムにしないか!」

オーンスタイン「横槍はならん。黙っていろ」


オーンスタイン「グウィンドリン様、僭越ながら申し上げますが、この者はやはり謀反者。貴方様が手を下す必要もございません」

グウィンドリン「無礼者。王の器の簒奪を裁くならば、この者の処遇は我ら王族が定める」

グウィンドリン「すでに我の眼を通し、コブラを見たのだろう。我らが王の封印を前にした苦心は汲むが、これ以上の介入は許されぬ」

オーンスタイン「………」


グウィンドリンに諌められ、竜狩りは槍を引いた。
不具の暗月と呼ばれた者は、黒い外套の男に長杖を向ける。


グウィンドリン「貴官においては、少なからず信頼を置いていたが……残念だ」

黒い外套の男「………」

グウィンドリン「せめて貴官を裁く前に、貴官の言い分を聞こう」


グウィンドリン「何故、我を裏切った」


黒い外套の男「………」






黒い外套の男「……ククッ…クックックックッ…」


グウィンドリン「………」


黒い外套の男「最後まで気付かんとは、どうやら王の教育は失敗だったようだな」


黒い外套の男「俺は裏切ってなどいない。初めから貴様らを利用していたのだ!」


黒い外套の男が勝ち誇るように語り終えると、グウィンドリンの長杖は蒼い爆発を放った。
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 03:08:07.63 ID:LCG/OwM30


ドワアァァーーッ!!!



蒼光の爆発は黒い外套の男を包み込み、爆風はコブラとレディを部屋の隅まで追いやり、オーンスタインを怯ませた。
黒い外套は焼き飛ばされ、破壊された繊維は部屋中を舞い、部屋を強烈に照らした輝きの残滓は光の糸を引いて辺りを漂う。


ベチャッ

コブラ「うっ!」


吹き飛んだ男の皮膚片が一つ、コブラの足元に転がった。
ソウルの大塊を受け、王の器の簒奪者は弾け飛んだのだ。


レディ「バラバラね…」

コブラ「らしいな。神の怒りってのはどこでもエゲツないぜ…」


グウィンドリン「………」



破壊の嵐に包まれた地点に残ったものは、人の肉片と擦り切れた外套が混ざった盛り上がりのみだった。



ジークマイヤー「えいやぁーっ!!!」

コブラ「っ!?」


怒声を張り上げて部屋に突っ込んできたのは、ジークマイヤー。
その後ろで杖を構えるのはビアトリスであり、更にその後ろには大鎚を構えし巨人、スモウの姿。
スモウは音と輝き、更に景色の移りを見て、たまらず駆けつけたのだ。


コブラ「お、脅かすない!心臓に悪いぜ…」

ジークマイヤー「ん?コブラ?…こ、これはなにごと…!?」

オーンスタイン「何をしているスモウ!試練に敗れし者をここに入れるなど…!」

ビアトリス「……レディ、説明してくれないか。ここで何が起きたんだ?」

レディ「わ、私にも何がなんだか分からないわ…」


515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 03:36:22.00 ID:LCG/OwM30
レディはビアトリスに説明を求められたが、答えようも無かった。
コブラが神からの使命に難色を示したことは分かるが、そこから先の物事に理解が追いつかない。

黒い外套の男の出現と、その男と竜狩りオーンスタインの確執。不具の暗月と呼ばれる神の降臨と、その神、グウィンドリンが行った処刑。
それらを順序立てて説明するには、十数秒程の時間が必要だった。
しかし急かされるレディは、止むを得ずと語った。



レディ「いいわ、落ち着いて聞いて…」

ビュン!!

レディ「!?」

ビアトリス「えっ?」


しかし、レディの言葉は風切り音に遮られ…



ジークマイヤー「?…今のはなん…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!?」




ジークマイヤーの疑問の声も、腹を斬り裂かれたグウィンドリンを抱き支えた、オーンスタインの叫びに掻き消された。





ザッ…






煌めく一閃によってグウィンドリンを斬った者は、肉片と外套の山から立ち上がり…








コブラ「!!」







皮膚無き口で、声を発した。







516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 03:40:54.63 ID:LCG/OwM30
















































クリスタル・ボーイ「久しぶりだな、コブラ」



































517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 08:42:03.53 ID:gmDrMjq3o
やっぱり来ていたかクリスタルボーイ
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 12:50:21.81 ID:xiFPCJ/P0
やっぱコブラの旅にはボウイが居ないとな
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 12:58:29.28 ID:oHGnolAYO
コメディだろうとハードシリアスだろうと、そこにコブラがいる限りラスボスを努めてくれるクリスタルボゥイさん!
そこにコブラがいる限りラスボスを努めてくれるクリスタルボゥイさんじゃないか!
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 13:41:34.29 ID:wNz+s/9DO
コラ画像くらいでしか知らないけど実際どういうキャラなんだろう
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 14:13:02.08 ID:A8Cj+Nm9o
予想外過ぎてビックリ
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 19:44:54.89 ID:iX2J0W1d0
>>520
あの外見だが結構ハードボイルドなライバルキャラ
サイボーグなのに酒の味がわかるのかときかれて「これは人間だった頃の習慣そう癖ってやつだ」
と答える粋なセンスももっている
コブラも因縁の相手だが敬意はもっていてボウイが悪神アーリマンに獲りつかれたときは
「殺し屋だが殺人鬼ではなかった冷酷だが残忍ではなかった」と言っている
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 20:04:38.73 ID:6C4j//B5O
コブラの左腕がサイコガンなのはクリスタルボーイが左腕を切り落としたから
クリスタルボーイがデュラルみたいな姿なのはコブラが生身のクリスタルボーイに致命傷を与えたから
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 20:33:19.20 ID:wNz+s/9DO
>>522>>523
ありがとう
ダークヒーローみたいなイメージでいいのかな
最初はエルドリッチなのかと思ってたらライバルが来るとは
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/27(土) 20:51:18.19 ID:xiFPCJ/P0
つべのジャンプ公式チャンネルにスペースコブラがきた
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/28(日) 23:21:46.74 ID:UMai37RN0
不死達は一様に絶句し、黒い外套の男と長く時を過ごしたであろう神々すら、己の眼を疑った。

人の世にも不死の世にも、神の世にさえも、伝承の怪物という語り尽くせぬ者、触れ得ざる者の存在がある。
人の国アストラを襲ったと言われる、邪悪な眼を持つ怪物。
並行世界を渡り歩いたと伝えられる、白い殻に蟹挟みを覗かせ、光弾を放つ精霊。
小人が見出した、決して暴かれてはならぬ力。
いずれの世においても、それらの真実を知る者は限られ、彼ら知る者の言葉も沈黙と雑言に阻まれ、易々とは広まらない。

故に伝承とは忘れられやすく、曲げられやすく、明確な形をしばしば失う。
故に伝承とは心無い者に広められ、限りも無く弄ばれる。



クリスタルボーイ「まったく、お前はつくづく人を楽しませる奴だよ。まさか宇宙が始まる前の世界にまで出張ってくるとはな」



肉と外套の山から姿を現した者は、その限り無く姿を変えるあらゆる伝承にさえも、全く記録されぬ異物だった。
磨かれた結晶の如き人体に、黄金色の人骨と思しき物を内包するその者の頭は、人頭を模した黄金色に輝く“かぶりもの”であり、感情を伺うことができない。
グウィンドリンを斬りつけた右腕には、その骨格と頭部と同じ輝きを放つ鉤爪がはめられている。



コブラ「そんなバカな……お前は確かに死んだはず…!」


クリスタルボーイ「死ぬのは慣れてる。お前のお陰だよ」


コブラ「クリスタルボーイ!!」シュサッ


ドオオォーーッ!!!



左手に特大剣を握りこみ、コブラはクリスタルボーイへ向けサイコガンを放った。



ガギィーーッ!!

コブラ「!!」



だが、亜音速で飛翔した100キロ超の鉄塊は、クリスタルボーイの胸部に弾き返されて反り返り…


ガシィーン!


コブラの手元へと戻り、サイコガンに収まった。



クリスタル「前の手よりもグレードアップしたな」

コブラ「………」

クリスタルボーイ「だが、こっちも相応に対策はとってある。爪が甘いぞ」



ガゴオォン!! バババババ!!



自己陶酔的に語るクリスタルボーイの背中に、雷纏う十字槍が突き立てられた。
オーンスタインの槍を覆う雷は倒すべき敵を包み、熱と衝撃を迸らせる。


クリスタルボーイ「言っただろう。対策はとってあると」

オーンスタイン「!」


そんな極限環境においても、その敵は竜狩りに顔を向け、話しかけてみせた。


ガキーッ!!


クリスタルボーイの鉤爪は槍を払いのけ、竜狩りの巨体を軽々と舞わせ、壁に叩きつけた。
部屋の隅に座らされたグウィンドリンの手が、力無く長杖に触れる。
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 06:40:42.58 ID:esH2C6LI0
ババッ!


すぐさま体勢を立て直したオーンスタインは、しかし動けなかった。
討つべき敵の立ち姿には数多くの死角を見出したが、どれも活かしようが無い。
神の世の始まりから武によって立身してきたからこそ、竜狩りは先の渾身の一撃すらも無意味だったことを看破してしまっていた。


コブラ「アップグレード、か。その割にはお前の対策とやらも手垢が付いてるぜ」ザッ…



だが、無敵とも思える敵へと、無造作にコブラは特大剣を構えた。



レディ「!? そんな剣、今のクリスタルボーイには通じないわ!」

シュサッ

グウィンドリン「!」


視線さえも分からぬクリスタルボーイの意識が一瞬コブラに向けられたことを、オーンスタインは敏感に察知。
竜狩りは再びグウィンドリンを抱えると…


グシッ


出口近くで立ち尽くす不死の一人に押し付けた。


ジークマイヤー「!? 」

ビュウン!


敵対していた者から敵対者の君主を受け取り、困惑するジークマイヤーの元へ、黄金の鉤爪が伸びるが…


オーンスタイン「ハッ!!」ガイィン!!


その鉤爪は竜狩りの振り上げた槍に弾かれ、クリスタルボーイの手元に戻った。
数瞬のうちに起きた多くの事に、未だついていけていないジークマイヤーは、交互にビアトリスとオーンスタインを見る。
しかしビアトリスも同様に、事態の急変に対応できていない。例え行けと言われたとしても、何処へ行くべきかも分からないのだ。


オーンスタイン「此処より逃れよ!!スモウが貴公らを守る!!そのお方を死なせてはならん!!」


だがジークマイヤーの眼に、クリスタルボーイの前に立ちはだかって十字槍を中段に構える戦神の後ろ姿が映った時、ジークマイヤーはあるべき騎士道を神の背中に見出し、心身の麻痺から覚醒した。


ジークマイヤー「お、お任せを!行くぞビアトリス!」ダッ

ビアトリス「ぁ、ああ!」ダッ


重傷を負ったグウィンドリンを抱えたジークマイヤーは、部屋の外にいるスモウへ負傷者を預けるべく駆けたが…


ダァン!!

ジークマイヤー「うっ!?」

スモウ「!?」


両開きの扉はそれを許さなかった。
閉鎖された出入り口は一山の岩の如く硬くなり、紙細工のように人鎧を丸める事ができるスモウの膂力を以ってしても、隙間さえ空かなくなった。




クリスタルボーイ「手垢が付いてると言ったな、コブラ」



クリスタルボーイ「ならば貴様に教えてやろう。手垢にまみれた奥の手の、本当の恐ろしさというやつをな!」


528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/29(月) 06:48:53.55 ID:esH2C6LI0
>>526訂正。
×クリスタル「前の手よりもグレードアップしたな」
◯クリスタルボーイ「前の手よりもグレードアップしたな」

スマホにアプデが入って、以前よりもキー入力がバグりやすくなりました。まだまだ誤字脱字が続くかも。
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 18:18:02.96 ID:3/P4kXs60
コブラの一歩先を常に行きあと一歩まで追い詰めるがコブラが首の皮一枚で勝利を掴む
ボゥイとの戦いはいつも同じなのにいつも熱い
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 04:47:56.95 ID:DRMKFrEu0


カッ!!



コブラ「うっ!」

オーンスタイン「!」


クリスタルボーイの金に覆われた瞳が白光を発した。
白光は部屋全体を眩く照らしながら、光源をクリスタルボーイの全身に広げていく。


ズオオオォ…


その光の氾濫に、絵の具を溶かし込むように灰色が流れ始めたかと思うと、みるみる内に光は灰色に染まり、灰色は暗い紫へと移り変わった。
そうして成った禍々しい輝きはクリスタルボーイの全身を包み、不死達に、神々に、レディに、コブラに、真に邪悪なる者の姿を見せる。
だが、邪悪なる者は神々の世において魔ではなく、人の世において怪異ではない。

語られる理は、語られぬ其の者を知らず。
しかしコブラは知る。
大いなる神々をも呑み込む、一対の暗黒の翼を。

命無き宇宙を漂う、血と破壊の支配者を。






クリスタルボーイ「見ろ!! コレが神々を喰らい、貴様らを殺す者…」










クリスタルボーイ「暗黒神アーリマンの姿だーッ!!」









531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 05:58:54.46 ID:DRMKFrEu0
ドゴオオォーーッ!!!


ジークマイヤー「オッ、オオオーッ!!」

ビアトリス「うわあああっ!!」

レディ「くっ…!」


クリスタルボーイが高らかに暗黒の支配者の名を叫ぶと、クリスタルボーイを中心として黒い嵐が吹き荒れた。
黒い嵐は暗紫の輝きを掻き消して部屋中を掻き回し、壁の装飾や石床などを尽く腐らせて塵へと変える。
不死達とレディは、発生した暴風に飛ばされないよう身を屈めて耐えた。

そんな中、嵐に耐えるコブラとオーンスタインは見た。
邪悪なる者はクリスタルボーイが纏った暗紫の輝きではない。
黒い嵐に映る、嵐よりもなお暗い影だったのだ。



オーンスタイン「暗黒神……アーリマンだと…」



嵐に映るクリスタルボーイの影は、天井にまで聳える冒涜的なまでに邪悪な二枚の竜翼を背中に備え、生きる者全てを突き殺さんと欲するような一対の角を頭に生やしていた。
影の顔部分には、クリスタルボーイの物と同じく表情は無い。だが暗黒の支配者は確かに笑っていた。
これから消え逝く命たちが己の血肉となるという、素晴らしき未来を見ているのだ。


ガッ!

コブラ「! オーンスタイン…!」


竜狩りオーンスタインは片膝をつき、槍の柄と左手で身体を支える体勢をとった。
絶望に屈したのではない。闇に蝕まれ、力を失いつつあるのだ。


ドサドサッ

レディ「!! ダメよ!耐えるのよ!」


コブラの背後で、何者かが二人倒れた。
レディの声と不死達のうめき声を聞く限り、倒れたのはジークマイヤーとビアトリスだ。



グウィンドリン「…オーンスタイン…貴公だけでも…」

グウィンドリン「のが……れ……」



意識を失ったジークマイヤーの腕の中で、グウィンドリンの声が嵐に消え入る。
竜狩りは槍を支えに重々しくも立ち上がり、槍先を嵐の発生源であるクリスタルボーイへと向けたが、槍を握る右腕からは力が消え…


ドシャアアッ


槍を構えたオーンスタインからもまた、活力が消えた。


コブラ「くっ……うおおーッ!!」シャッ

ガオオオーーン!!


せめて嵐を撃ち消そうと、コブラはあらん限りのサイコエネルギーを放った。
だがサイコガンは銃口に小石を詰められた水鉄砲のように、か細いエネルギーを四方に拡散させただけだった。
貪欲なる闇の嵐が、あらゆる力を欲するのである。サイコエネルギーさえも例外では無い。


ドウッ


背後にいる何者かが石床に伏せった時…


コブラ(…レディ…)


コブラは失われゆく意識の最期、石床の冷たさを頬に感じながら、背後で伏した者を想った。
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 18:17:53.77 ID:DRMKFrEu0
暗闇に落とされ、音も無く、触るものも無い。

呼吸はできないが苦しさは無く、四肢は動かないが寒さも暑さも無い。


コブラ「………」




コブラは無を漂っていた。

進む事も戻る事も、止まる事も無い処。

それも、前に彼が経験した無とも異なる。

肺はホルンとならず、心臓はドラムを打ち鳴らさず、血潮は踊らない。

エイトビートは沈黙している。ロックは聞こえないのだ。




コブラ「………」





























コブラ「……?」






その終わりさえ無い無の世界に、コブラは一つの小さな輝きを見出した。
視力さえ与えられない世界においては矛盾する現象だが、彼は確かに見ているのである。

青白い輝きは徐々に大きさを増し、輝きが増すごとにコブラの五識は一つ、また一つと回復していく。
回復した五識は思考に作用し、輝きがコブラの眼前に止まる頃には、遂にコブラは温度感覚を除いた心身の機能を完全に取り戻していた。



コブラ「キミは……」



無重力の世界で、巨大な青白い輝きは宇宙を内包し、少女の空気を纏っている。
その空気に右手を伸ばし、コブラが光に触れようとした瞬間…


コブラ「!!」


空気は一変し、輝きは消え、コブラの前には少女ではなく、緑の眼を持つ白き柘榴が現れた。
柘榴は触手を伸ばし、差し出されていたコブラの右手を絡め取ると、無を飛翔し始める。
その無の世界も、コブラが冷たさ無き風を感じる毎に薄れていく。

そして突如、世界は閃光と共に無を失い、真白い光に満たされたのだった。
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 18:34:15.56 ID:/Q3jI/AM0
感覚剥奪拷問の時か、懐かしいな
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/01(木) 01:21:01.67 ID:Ze6aFrT80
白い光の世界を突き進む柘榴に牽引されながら、コブラは思考の中で状況を整理する。
アーリマンの闇に取り込まれ、無に放り込まれてどれほどの時が経ったのかは分からない。
四肢の感覚はあり、思考も鮮明だ。
だが踏むべき足場も、見渡す地表も、見上げる空や太陽も無い。


柘榴の触手については、触れているという感覚はあるが、温度を全く感じない。
さらに不可解なのは、柘榴の形状である。
柘榴の体は竜のようであり、天使のようでもあるが、しかし翼も、二股の尾も奇妙な青白い触手で構成されている。



コブラ(不思議だ……こいつはどう見ても、正体の分からない怪物だ)


コブラ(なのに俺は、光に包まれていたとはいえ、コイツを年端も無い女の子だと思い込んだ)


コブラ(何故だ?…何が俺にそうさせたんだ?)



疑問に答える者とも出会うことなく、コブラは光の中を飛び続けた。
時間の感覚は確かにあるが、その感覚はコブラに時が進んでいないと告げている。
しかし、確かに何かへと近づいているという感覚もまた、コブラの中では強まっていた。
そして…



コブラ「!」



柘榴がコブラの手を離し、緩やかに上昇を始めた時…

コブラは、白光の中に更なる光を見た。

光はコブラの顔を、輝く両手でそっと包むと…
















535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/01(木) 04:26:06.63 ID:Ze6aFrT80
ビュゴオオオオオオオォォォ!!!


ジークマイヤー「む……なん…なんの音だ?」ガチャッ…


洞穴の中を強い風が吹いているような音に、ジークマイヤーは眼を覚まし、身体を起こそうと両肘を石床に着く。
すると一文字に設けられた兜の視界の端に、ビアトリスの掌が見え、ジークマイヤーは顔を上げた。
ビアトリスは石床に手をつき、へたり込んではいるが、意識は明瞭なようだった。


ジークマイヤー「人が悪いではないか。起こしてくれても……」


と、そこまで言いかけたところで、ジークマイヤーは異変に気付いた。
白い光に照らされたビアトリスが、何かを凝視している。
いや、そもそも光がある事自体がおかしいのだ。
ジークマイヤーは、自身が闇の嵐に飲まれたことを思い出すと同時に、ビアトリスが見つめる光の光源を目で追った。


ジークマイヤー「なっ!?…こ、これはっ!?」


眩い白光に眼を奪われているのは、ビアトリスとジークマイヤーだけではない。


オーンスタイン「グウィンドリン様、この光は……この男に何が…」

グウィンドリン「分からぬ……だが、これは我ら神々の力では無い。このような力は、何者も持ち得ないだろう…」

グウィンドリン「王のソウルを与えられし者でも、このような輝きは……」

レディ「………」


意識を取り戻し、両手に槍持つオーンスタインも。
傷を癒され、ジークマイヤーの手から離れてオーンスタインの横に立つグウィンドリンも。
常に一定の冷静さを保ってきたレディも、皆一様に光の前に立ち竦んでいた。



クリスタルボーイ「バカな…貴様は今…」



コブラ「………」


クリスタルボーイ「今、確かに……俺の前で死んだはず…!!」




クリスタルボーイに見上げられているコブラは仁王の如く立ち、風を巻く轟音を辺りに響かせながら、全身に白金色の輝きを纏っていた。
光は爆発のように揺らめき続け、闇の嵐と対決し、嵐を部屋の四隅に押し詰めている。
更にはクリスタルボーイからアーリマンの影を千切らんばかりに遠ざけ、クリスタルボーイに片膝をつかせていた。
瞳なきコブラの両眼からも刺すような白光が漏れており、その双眸にコブラの意思は介在していない。
意識無いままの剥き出しの闘志と、執念を超えた力そのものとさえ思えるような“何か”が、コブラから噴火しているのだ。


ヒュイイイイイィィィ…


光の奔流の中で、コブラがサイコガンを天井へ向け構えると、サイコガンの銃口から、神秘の音と共に宇宙の輝きが立ち昇る。
深淵の闇に星々の光を湛えたその輝きは、サイコガンを包み、まとまり、サイコガンそのものを一振りの大剣へと昇華させ…


キイイィン!


大剣を流れる星々は終に一つとなり、蒼い月光と化した。
コブラは月光の大剣に右手を添えて、光を一瞬、より強く輝かせると、クリスタルボーイへ向け袈裟懸けに振り下ろした。



ヴァオオォォーーン!!!


クリスタルボーイ「オッオオオーーッ!!」



宇宙の輝きは暗い光波となってクリスタルボーイを呑み、結晶の肉体に無数の亀裂と穴を穿ち、その鉤爪を割った。
光に呑まれた二枚の竜翼は、その流れに千々と引き裂かれて砕け散る。角は熱泥に溶けゆく金のように崩れ、霧散した。
闇の嵐も輝きに打ち消され、女王の間を包む暗黒は晴らされたのだった。
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 07:14:54.71 ID:xv/mnH0Oo
エーブリエタースたんか!?
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 07:29:09.02 ID:QTcSjXXDO
え、まさかのブラボ?
コブラサイドは知らないしダクソにそんなの居たかなあと悩んでたら
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 16:36:39.29 ID:L1JDyARp0
そういやビルゲンワースの教えっぽい言葉が出てたな
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/16(金) 04:17:49.51 ID:KNjYn5HK0
一際強烈な閃光に、部屋にいた者はコブラを除いて一様に怯み、不死などは背を丸めていた。
そして輝きが収まり、部屋に再び暖かな太陽の光が射し始めた時、早くに怯みから回復したオーンスタインが部屋を見渡した。


オーンスタイン「下郎め、逃げたか!」


部屋の中央には、幾らかの煌びやかな小片が散らばっている。
しかしそれらはクリスタルボーイの全身を構成するには少なく、かの者の黄金色の骨片も含んでいない。


バギッ!! ダダァーーン!


固く閉ざされていたはずの両開きの扉も、スモウの怪力によって引きちぎられ、倒れた。


グウィンドリン「器は持ち去られたか…あの者の気配も無い…」

オーンスタイン「しては、奴はすでにアノール・ロンドの外に?」

グウィンドリン「左様…うっ…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!?」

グウィンドリン「いや…大事ない…先の光に傷は癒されている。力を吸われ、ややふらついているのだ」


レディ「コブラッ!」


グウィンドリン「!」


コブラは不死達に囲まれ、レディに抱き上げられているが、呼ぶ声には反応を示さない。
意識を失っているのだ。


ビアトリス「コブラ…今度はどんな無茶を…」

ジークマイヤー「し…死んではおらんのだろう?」

レディ「ええ、生きてはいるわ。でも…今彼に何が起きているのかは…」


グウィンドリン「………」


その昏倒しているコブラを見つめ、グウィンドリンは逡巡し、だが決心した。
護るべきものを奪われ敵を逃したとあれば、今この場で優先されるべき選択はひとつ。
敵を唯一退けた者を護ること。それはいかなる痛みと引き換えにしても余りある行いだった。
黒い外套の男の正体は知らず、しかしその灯火に纏わりつく影が如き執拗さと周到さを知るグウィンドリンは、予見したのだ。
負けるはずのない戦いにおいても、敗北を喫した場合の含み針は決して軽んじはしない。あれはそういう者なのだと。


グウィンドリン「四騎士の長とその従者、処刑者に命ずる」


オーンスタイン「!」

スモウ「!」


グウィンドリン「使命に挑みし者達と我が命を追手より護り、この死地を切り抜けよ」


ジークマイヤー「試練に挑みし…えっ?」

ビアトリス「かっ…神たる皆様方が、我々を護ってくださるのですか!?」

グウィンドリン「そうなるだろう。だが多くを望むな。これは決して我らからの恵みではないということを心せよ」

レディ「………」


グウィンドリン「これよりアノール・ロンドを放棄し、暗月の火防の元へ逐電する。その火の元にコブラを休め、暗黒神へと抗する術を探るのだ」


グウィンドリン「我が月と我が太陽に、そして我らに炎の導きがあらんことを」



540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/16(金) 07:41:25.78 ID:KNjYn5HK0
グウィンドリンの号令の下、二体の黄金騎士は行動を開始した。
オーンスタインはグウィンドリンを抱え、スモウは右脇に2人の不死を、左脇に2人の異邦人を抱えて…


ズドドォーーン!!!

ビアトリス「うっ」

ジークマイヤー「うぷ!」


それぞれ二階から一階へと飛び降りた。


レディ「その兜の中で吐いたら地獄よ?」

ジークマイヤー「分かってる…うっぷ」


オーンスタインは主君を背負い直し、右手に槍を持つ。スモウは両脇に抱えた者共を離して、両手に大鎚を持った。
意識の無いコブラはレディに抱えられている。そのレディを皆で守るのだ。


オーンスタイン「スモウ、お前が先頭を行き、道を開け」

ドズン!


オーンスタインの声を聞いたスモウは返事もせずに一団の先頭に立ち、歩を進め始めた。
そのスモウ背中から少し離れた地点に、オーンスタインは槍を構え、彼の背にいるグウィンドリンは杖に魔力を輝かせる。
オーンスタインの背後にはレディが歩き、彼女の周囲を二人の不死が警戒した。
一団はつい先程死闘を演じた大広間を行き、広間の出口まで歩いたが、スモウは突如として脚を止めた。
ローガンの倒れた大広間の中央に立ち、一団に声を投げかけた者がいたからである。



母の仮面「何かと思えば……スモウ、貴様のような愚鈍が先頭では、危機の察知に遅れが出るじゃないか」



レディ「この声…!」

ジークマイヤー「仮面の騎士…やはり戻ってきたか…」

ビアトリス「先生…」



聞き覚えのある声にコブラの仲間達は戦慄したが、オーンスタインは臆せず声を発する。



オーンスタイン「貴様らの主人はすでに逃げたぞ、雇われ。もはや褒美も得られぬ戦いに、褒美のみを求める貴様らが何をこだわる」

母の仮面「ふふふ……褒美など、手渡しで有らずとも得られるではないか。私が仕えている法官が誰で何処にいようが、そんなもの私の知ったことでは無い」

母の仮面「私が主従に想うのは誓約の内容だけだ」

オーンスタイン「!」



母の仮面「倒した者の遺骸を漁り、好きなだけ武具を剥ぎ取れる誓約……まったく素晴らしい。かつて無いほど素晴らしい話ではないか」



オーンスタイン「世迷いごとを言うな。そのような外法な約定を成す神など、アノール・ロンドが建てられて後、今日に至るまで一柱たりとも生じてはおらんわ」

グウィンドリン「………」


仮面の騎士の言葉を否定しつつも、神々は皆確信していた。
だが、法官の正体を知らぬ敵対者を前にして、暗黒神アーリマンなどという名を口に出すわけにはいかなかった。
恐らくは不死人の騎士であろう者に闇の神の存在など、お伽話の一片でさえ匂わせてはならないのだ。


母の仮面「そうか…まぁいい。神だろうが悪魔だろうが、誓約が良ければ仕える者の本性なんぞどうでもいい」

母の仮面「私の目的はコブラから全てを奪うこと…珍妙な赤い服も、小洒落たベルトも、手の中に収めた触媒も全て私の物だ」


オーンスタイン「………」


母の仮面「しかし、流石は四騎士の長。敵対者が一人では無いことを見抜くとは」
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/20(火) 20:14:12.53 ID:ainhJUb20
ササッ…


仮面の悪霊の声に笑みが含まれると、両の足先を青く光らせた者達が、大広間に舞い降りた。

苔むした石の大剣を握り、盗賊装衣に身を包んだ者。
左手にガーゴイルの斧槍を持ち、右手に短刀を持つ重装騎士。
黒い重鎧から生足と細腕を覗かせ、両手にレッサーデーモンの槍を握る者。
身の丈ほどもある大弓を担ぎ、右手に杖を持つ革鎧の軽装騎士。

いずれの者も、密やかながら異様な陽気を放っており、彼らの眼には少年の如き純粋な黒い輝きが灯っている。
恐れるものなど何も無く、広い世界に快楽を求めるその八つの瞳の焦点は、定かではない。


グウィンドリン「我を降ろせ、竜狩り。スモウのみでは手に余る」

オーンスタイン「!…しかしそれでは…」

グウィンドリン「案ずるな。ソウルを吸われたとて、我には暗月の光がある。貴公は力を振るわれよ」

オーンスタイン「………」


命を受けたオーンスタインは音もなくグウィンドリンを降ろすと、スモウの背後から抜け出て…

ジャキィン!

十字槍を中段に、敵対者たちへ向け構えた。



母の仮面「残念だよ。私の友を見抜いたというのに……なんだその諦めの悪い構えは。まるで負ける事など眼中にないようじゃないか」

オーンスタイン「たかが不死などに遅れは取らん」

母の仮面「分かってないな。取ったからこそ私達はここにいるんだ」

オーンスタイン「なに?」


シュゴォーーッ!!


革鎧の軽装騎士の杖から迸り出たソウルの槍は…


シュバァン!!


オーンスタインの槍に斬り弾かれ、二つに別れて空中に消えた。



ジークマイヤー「今の音……」

ビアトリス「ソウルの槍!先生が戻ってきたんだ!」

レディ(でも、彼だとしても一体何に向かって魔法を撃ったの…?)

グウィンドリン「違うな、あれは貴公らの同胞ではない」

ビアトリス「!?」

グウィンドリン「既に我らを知る者に、姿を隠す事も無かろうな」

グウィンドリン「退けよスモウ。皆で戦うべき敵のようだ」


主君に促されたスモウは一歩身を引き、グウィンドリンと不死達、二人の異邦人を敵対者たちの眼に晒す。


ビアトリス「そんな…まさか、さっきのソウルの槍は…」

ジークマイヤー「仮面の悪霊!?やはりまたしても……」

レディ「あれが仮面の騎士……」



母の仮面「なんと…嬉しいぞ…なんて淫麗な全身鎧だ…!」

母の仮面「やはりあの法官の誓約を受けて正解だった……私はこの出会いに感謝する!」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 01:50:22.77 ID:1PDF737dO
なんて良スレを見つけてしまったんだ……ぐあああ仮面巨人の狙いが気になるウワァァァァ
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/03(月) 12:36:07.19 ID:IXTofyRq0
カッ!

ジークマイヤー「むっ!」

キリキリキリ…


軽装騎士は杖を懐にしまうと、大弓を石床に突き立てて矢をつがい、引き絞る。
不死達は身構え、神々の眼は敵対者たちの気配が一層膨張する瞬間を見た。


バヒュ!!


大矢が放たれると同時に…


ババッ!


仮面の騎士とその仲間たちは駆け出した。
飛翔した矢はやはり十字槍に弾かれたが、矢の主はまるで臆さず、仮面の騎士を先頭に疾走を続ける。
その疾走に向け、ビアトリスとグウィンドリンの杖が光った。


グウィンドリン「五月雨矢だ、魔女よ」サッ

ビアトリス「っ!」サッ

ドヒュヒュヒュゥーッ!!


敵対者たちに対してグウィンドリンが放ったソウルの矢は、ビアトリスの知る魔法の常を大きく外れていた。
花のように開いた蒼色の光は、打ち水の如く空中で弾けて数十もの光弾となり、光の尾を引きながら敵対者に殺到する。
その神の力に一瞬ひるんだビアトリスだったが、すぐさまグウィンドリンの意図を汲み、自らは狙いを澄ましたソウルの太矢を、輝く雨に忍ばせた。


ビュオオオッ!!


風を切って舞い込むソウルの矢を、敵対者たちは人並み外れた身のこなしによりかわす。
ある者は鞠の如く転がり、ある者は己を透過させるが如き最小の挙動で脅威から逃れていた。
だが、そのような者達にも回避のしようがない脅威はある。

重装騎士「!」バスン!

盗賊「ぬっ」バシィン!

動作の終わり際を狙われては、いかに身軽といえど回避のしようもない。
無秩序に殺到する輝きの雨に凶弾が紛れているとあっては、回避どころか見極めすらも困難だった。
だが敵対者達の疾走は止まらない。死すらも彼らの情熱を止めることができないのだ。


オーンスタイン「構えい!」


竜狩りの号と共にスモウは大鎚を構え、ジークマイヤーは盾を背に掛け、特大剣を両手に握る。
しかしレディはフランベルジュは抜くことができない。彼女の胸の内にあるコブラはまだ、深い眠りに落ちている。
そして仮面の騎士の脚が、竜狩りの制空圏へと触れる瞬間…

盗賊「………」ザザッ

盗賊は脚に力を入れて急停止。
両手に持った石の大剣を掲げた。


ヴォン…!


ジークマイヤー「むっ!?」

レディ「えっ!?」

ビアトリス「!」


苔むした石の大剣から発せられた黄緑色の空気の波は、神の身にあらぬ者達の両脚にしがみつき、見えぬ重りを吊るす。
闘いをやめるように懇願し、祈るようなその力はしかし、二人の不死と一人の異邦人から闘いを回避するためにある脚の自由を奪った。


ガキィーーッ!!


オーンスタインの繰り突きを仮面の騎士は結晶に覆われた盾で防いだ。
盾の結晶は槍を覆う雷のほとんどを宙へと散らし、ごく低い電圧を仮面の騎士の鎧に漏らすだけだった。
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 15:26:22.59 ID:Ma1tF/S20
ダクソわからんが察するに敵の使ってる武器はどれもこれも強力なボスから毟り取ったチートじみた逸品なのかな
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 23:36:53.17 ID:5Y3w7RH10
竜狩りと鍔迫る仮面の騎士の鎧には、コブラに刻まれた損壊が無い。
割られた仮面も元に戻っており、それらの防御効果は揺るぎない。


オーンスタイン「結晶とはな……如何にして王の封印も解かずに白竜公の書庫に忍び入った」

母の仮面「あの封印なら何度も解いた。貴様に言っても分からんだろうがな」


ガキィッ!!


オーンスタイン「!」

ジークマイヤー「ぬおおお!!」

ガァン!キィン!


竜狩りと仮面の騎士が短い問答を交わしている間に、仮面の騎士の同業者達は二人の不死と二柱の神々に斬りかかっていた。
ビアトリスとグウィンドリンの展開する弾幕にジークマイヤーとスモウは守られているが、仮面騎士の同業達は野犬の如く二柱と二人に纏わりつき、矛や刃を執拗に振るっている。
その矛も刃も、ジークマイヤーとスモウに切り払われていたが、特大剣と大鎚での剣勢には剣速に限りがある。

ダッ!

オーンスタインは同胞と主君に助太刀すべく踵を返し…

ガヅッ!!

背中にクレイモアの突きを貰った。
クレイモアは剣身に混沌を秘めており、混沌の炎はオーンスタインの背面鎧を赤熱させた。


母の仮面「なに余所見している。まだ私は死んでいないぞ」

オーンスタイン「貴様…」



ジークマイヤー「ええい鬱陶しい!!」ブーン!!

デーモン槍の騎士「クスクスクス…」ササッ

ビアトリス「無闇に振ってもダメだ!こちらは脚を抑えられている!剣筋を読まれて隙を突かれるぞ!」

ジークマイヤー「しかし我慢ならん!堂々と闘わず一太刀振っては逃げ回るの繰り返しなど、騎士の闘いではない!」


軽装騎士「騎士の闘いときたぜ」シュタタタ…

盗賊「くだらんなぁ。勝てばよかろうに」シュタタタ…


グウィンドリン「………」


敵対者達の煮え切らぬ戦運びに不死達が苛立ち始める中、グウィンドリンはソウルの雨を放ちつつ、密かに熟考していた。
一見単調な敵対者達の動きにも理由があるのだ。
苛立ちなどは戦において必ず沸き起こる感情であり、苛立ちが過分な敵意へと変わるのも必然である。
過分な敵意は過分な攻撃性へと繋がり、過分な攻撃性は無謀の起点となる。敵対者達は一人孤立する者が生じる時をひたすら待っているのだ。


グウィンドリン「賢しいな。あくまで誘うというならば見せてやろう」

ビアトリス「えっ?」

シュオオオオォォ…

ビアトリス「え…うそ…」


杖を高く掲げ、蒼い嵐を杖先に巻き起こし始めたグウィンドリンを見て、ビアトリスは驚愕した。
神の大魔法に驚いたというのもあるが、それ以上に驚くべき事態に、彼女は唖然としたのだ。
ジークマイヤーのように戦に様式を求める訳ではないビアトリスは、思慮を重んじ、戦況というものを読むよう努めている。
故に彼女は敵の動きに挑発の意思が含まれれば察知し、決して乗るまいと努めるのだ。
その最大限かつ微々たる努力による戦略構成を、事もあろうに神が御破算にしたのである。


ブオオオォーーッ!!


杖を中心に渦巻くソウルは解放され、ソウルの雲となって大広間の天井を埋め、敵対者達に降りかかった。
文字通り雨の如く降るソウルの矢を避け切る事は不可能であり、敵対者達は皆、一・二発の被弾を許した。
だが、このソウルの雨は決定的な威力に欠けていた。手や足を撃ち、血を流させる事は出来ても、脳や心臓、心を打ち砕くには足りないのだった。
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 20:16:29.45 ID:S9m+e/He0
周回勢強いな……SL無視でマッチングするようになったロードランだと考えたら地獄すぎた
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 18:41:34.86 ID:cTCnWpQ+0
ジークマイヤー「ふおお…なんと…」

ビアトリス「っ…!」シュイィーッ!


吹き荒れるソウルの雨に敵対者たちの動きが鈍り、ジークマイヤーの注意が散漫になる中、ビアトリスは突如変わった自陣の戦法に対応すべく、ソウルの太矢による狙撃を再度行う。
狙撃はやはり一定の効果があり、敵対者たちは竜狩りと一騎打ちに興じている仮面の騎士を除いて、次々と撃ち抜かれた。
だが敵対者たちはビアトリス同様に不死立っている。エストが彼らの傷を癒す限り、必殺足り得ない加撃をするだけビアトリスの魔法が損耗されるのみ。


ダン!

ビアトリス「やはり…!」


それを知ってか、ソウルの雨から逃げ回りつつ隙を伺うなどというまどろっこしさを捨て、一直線にコブラへ向かって走り出した者がいた。
斧槍を持った重鎧の騎士。彼の眼はフルフェイスの兜に隠され、情熱に燃えていた。
グウィンドリンが広げた雲は徐々に薄くなり、ソウルの雫も数を減らしていく。

シュバン!!

そのフルフェイスの兜をソウルの太矢が撃ち抜く。
兜には踵程の大きさの穴が空き、穴の闇からは脳漿が吹いた。

ガッ!

ビアトリス「なにっ!?」

しかし重装の騎士は倒れず、駆ける脚には淀みすら無い。


ボグシャアアーーッ!!!


スモウの大鎚を上半身に貰い、おびただしい量の血を鎧の隙間から噴き出しても…


ガッ!

ビアトリス「ば、馬鹿な!」

ギャリギャリギャリィ!!


重装騎士は力強く踏み止まり、大鎚側面に身体を擦り付けるようにしてスモウの得物から脱出し、再度コブラの元へ走り始めた。
重装騎士の胆力に敵対者たちは歓喜して、動きを一つに一斉に地を蹴った。
狙いは面倒な砲台。弾幕を展開するだけの能力を持つグウィンドリンである。


ブオオオォーーッ!!


天井の雲から振り続けるソウルの雨に加え、グウィンドリンは右手の杖から新たにソウルの雲を放ち、更なる雨を降らせた。
重装の騎士を除く敵対者たちの脚は再び回避を強制されたが、彼らに焦りはない。
彼らの目的は砲台の無力化にある。左手の盾で矢を受けたならば、右手の剣で敵を突けば良いのだ。


ドガーッ!!

ビアトリス「グッ!」


重装騎士はビアトリスを跳ね飛ばし…


ジークマイヤー「止まれいっ!!」ガコォーン!!


ジークマイヤーの横振り左手で受け…


ジークマイヤー「おおお!?」バギーッ!


左手を振ってジークマイヤーごとツヴァイハンダーを払いのけた。
左手の手甲からは折れた骨が突き出たが、重装騎士の走りは揺るぎない。


レディ「クッ…!」サッ


レディはコブラを片手で支え、余った手でフランベルジュを握った。
しかしフランベルジュは半ばから折れている。とても全身全霊を賭けて振り抜かれるであろう斧槍を受けきれる状態では無い。
だがそれを承知でレディは剣を構えた。その命を捨てることになろうとも、レディはコブラと共に死ねるならばそれも本望に思っていた。
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/11(火) 01:19:07.96 ID:YaGE1yn00
ドスドスドスドスッ!!


重装騎士「!」

レディ「!」

ビアトリス「ああっ!?」



コブラ目掛け振り上げられた斧槍は、振り上げられた頂点で静止した。
月色に輝く4本の矢に正中線を貫かれ、重装の騎士は動きを止めていたのだ。


グウィンドリン「………」


軽装騎士「おお?」

盗賊「その手があったか…」


グウィンドリンのソウルの雨は多くの魔法と同じく、発現してしまえば杖による制御を必要としない。
挑発に掛かる演技でソウルの雨を展開したグウィンドリンは、後は雨を残しつつ一人なり二人なりを誘い寄せ、コブラの元へ招くだけでよかったのだ。
王手を刺さんとする者は舌なめずりをするか、視野を狭めてひたすら剣を振るうだろう。その背中は赤子の背のようにかわいらしいというのに。


重装騎士「!…!…!…」


重装騎士は腸を抜かれ、横隔膜を抜かれ、心臓を抜かれ、中脳を抜かれて尚も倒れず、斧槍を力強く握っている。その手を、レディが指で軽く押すと…


グガシャーッ!

ビアトリス「お…おおおぉ〜…」


重装騎士は倒れ、鎧と共に空中に姿を消した。竜狩りと鍔迫り合う仮面の騎士は溜息を吐く。


母の仮面「呆れた…己の戦略に己を掛ける馬鹿がいるか」

オーンスタイン「友に恵まれなかったようだな」

母の仮面「友?やめてくれないか」


ガギッ!ズザザザッ…


竜狩りの腹を蹴り、飛翔した仮面の騎士は転がるように着地。しかし竜狩りは仮面の後を追わない。
深追いの愚を見た後では行く気など起きるはずもなく、そもそもオーンスタインは深追いに用心を加えるを良しとしていた。
仮面の騎士は腹の底で竜狩りの甘さを嘲笑し、結晶の盾を捨てて新たな草紋盾を背負い、クレイモアを両手に持ち直す。



グウィンドリン「闇の子らよ、臆したか。それとも騎士たるを重んじるか」

デーモン槍の騎士「ほほっ…仕返しかい」

盗賊「フン」

軽装騎士「………」


竜狩りの一騎打ちを他所に、グウィンドリンは敵対者たちへ意趣を返す。
かつて神の軍を率いた神国の騎士が、馬の骨如きに引けを取ることはあり得ないという、確固たる信頼がグウィンドリンの心胆を滾らせるのだ。
その堂々たる立ち振る舞いを見て、ビアトリスは一瞬でも彼の神を疑ってしまった己を恥じるとともに、瞳に崇敬の光を灯す。
そしてその崇敬の光を見たのはジークマイヤーも同じだった。彼はグウィンドリンを疑いはしなかったが。


グウィンドリン「貴様らが矛を収めるのならば、我らも槍を退かせ、ここより去ろう」

軽装騎士「去るだと?まだ貴様の僕と仮面の騎士が闘っているだろう」

グウィンドリン「竜狩りは殿を務める。あれも我が騎士だ。我らが去る頃には任を終え、我らの元に帰るだろう。スモウ、鎚を納めよ」

スモウ「………」ズズズ…

軽装騎士「……てめえ」


大弓を背負う騎士は、かつて己が味わった事も無い程の侮辱に、己らが晒されている事を自覚はしていたが、飛び掛かるを望む衝動を抑えた。配下の者に得物を下げさせるのも、歩き去るという意思表示も、全てはハッタリの臭いを漂わせる見え透いた罠である可能性もあるのだ。
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 02:00:57.19 ID:KjA/PzlYo
殺しても復活しちゃうからなぁ
なんとか半殺しにして拘束出来たらいいが人数多いとそれも厳しい…
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/17(月) 22:12:24.66 ID:6KBiMhVu0
母の仮面「だらしのない…やはり信用できんな」


ガキキッ!!


追撃に躊躇する同業者達を横目で見つつ、仮面の騎士は己に向かって振り下ろされた十字槍をかわした。
槍は石床を叩き、細かい石片を散らせる。

ダン!

突如グウィンドリンへ向けて踵を返し、駆け出した仮面の騎士だが、竜狩りの対応に遅れは無かった。
オーンスタインは右手の槍を持ち直しつつ、左手に小さな雷を纏わせると、それを槍状に束ねて放った。
コブラに投げつけた大槍とは違い、その槍は小さく細く、軽い。だが突かれた者はただでは済まない。


バシュン!

オーンスタイン「!」


しかし、仮面の騎士は背後から飛来する槍を一瞥すらせず回避した。
槍は空中を進んで柱に当たって消え、オーンスタインは突進の構えを取る。


ガッ!


仮面の騎士が駆け出した事を好機と捉えた軽装の騎士は、大弓の固定具を石床に突き立てた。
デーモン槍の騎士は緑花草という体力増強効果を持つ野草を口に放り、盗賊服の者は再び大剣に力を込める。
だがグウィンドリンとビアトリスもまた、杖に魔力を光らせていた。


ドヒュン!!


軽装騎士の放った大矢を…


ジークマイヤー「ふん!!」ガキィン!!


カタリナの騎士は特大剣で打ち落とした。
だが特大剣は二の太刀を生みにくく、使い手の隙も潰してはくれない。


デーモン槍の騎士「馬鹿が!」ババッ!

ドカッ!!

ジークマイヤー「ぐはっ!」


デーモン槍による渾身のランスチャージを横っ腹にもらい、ジークマイヤーは大きく体勢を崩した。
だが、その槍が回転してジークマイヤーの腑を裂く前に、ビアトリスの魔法はデーモン槍の騎士に届いていた。


デーモン槍の騎士「グッ!」ドパッ!


ソウルの太矢に吹き飛ばされ、デーモン槍の騎士は槍をそのままにジークマイヤーから離れた。
得物を失った騎士の手には短刀のみが残される。しかしこれで、ビアトリスは数秒ほど無防備になった。


ヴッ!


その隙を活かすべく盗賊は石の大剣を掲げ、刃から平和たるを祈る魔力を放たんと力を込めた。


グオワアアァーーッ!!!


が、その魔力はクリスタルボーイの表皮を焼いた蒼色の爆発に掻き消された。
グウィンドリンが放った圧倒的な破壊力に、粗末な盗賊服が耐えられるはずもなく、盗賊服の男は身体を千々に引き裂かれて塵になってしまった。
貴重な戦力をまたも失った仮面の騎士は、仮面の内でほくそ笑んだ。


ドン!!!


竜狩りの突貫が、仮面の騎士の背中を貫き、帯電した刃先は仮面の騎士の片肺をしぼませる。
仮面からは血が溢れ、槍先を覗かせる右胸から噴き出た血は、グウィンドリンの顔を汚す前に雷に焼かれ、消えた。
仮面の騎士の右手中指には、暗蒼の輝きを放つ指輪がはめられている。だが手甲に隠れたそれを見抜ける者は少数に限られる。
幸いグウィンドリンはその一柱だったが、死にゆく者の手甲の中などには、別段興味があるわけでも無かった。
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 05:36:00.45 ID:LAqz379u0
暗蒼に輝く一つの指輪。
それはかつて、グウィンドリンがよく知る一柱が身につけ、多くの逸話と名誉をアノール・ロンドにもたらした。
指輪には本来、力は無い。指輪の持ち主である神国の騎士の戦いが、強靭高潔なその魂が、いつしか指輪に力を染み込ませていたのだ。
グウィンドリンには見抜けるはずもない。指輪の主人たる狼の騎士はすでに亡く、指輪は永遠に神代から失われているのだから。


ズルッ

ビアトリス「!?」

グウィンドリン「!」

オーンスタイン「なっ…」


竜狩りが驚愕を声に出した時、十字槍に血と臓腑の一部を残して、仮面の騎士は既に跳躍していた。
指輪が与える強靭なる精神力は、仮面の騎士の脳から春の淡雪の如く痛みを消し去っている。


ガッ!!


仮面の騎士のクレイモアがグウィンドリンの杖に打ち込まれた時…


バキャッ!


グウィンドリンの長杖は砕け折れた。
神代の宝具は暗黒の力をその身に受け、既に限界を迎えていたのだ。
杖を砕いたクレイモアは、グウィンドリンの首筋向け刃を滑らせ…


ズカーッ!!

オーンスタイン「!」



スモウの右掌を貫き、グウィンドリンの細首を斬ることなく、その動きを止めた。



グウィンドリン「スモウ!」

スモウ「………」


スモウは、かつて敵の前でただの一度も大鎚を手放さなかったが、今その両の手の指は、大鎚の握りに置かれていない。
巨大な盾ともなり得る大鎚を投げ捨て、咄嗟に動いたからこそ間に合った右掌からは、ソウルの白光が漏れている。



ドカッ!!


クレイモアの持ち主、仮面の騎士の首がオーンスタインの槍先に跳ね飛ばされた直後…


ドスッ!!

ビアトリス「あっ!」


スモウの脚の腱に軽装騎士の大矢が深々と突き刺さった。
後悔しながらもビアトリスは杖に魔力を込めるが、彼女の悔いは彼女の身に余る。
神がまさに殺されんとした瞬間に、その神から眼を離せるほど、ビアトリスは神秘を否定できる人格を持ち合わせていなかった。


ボォン!!

軽装騎士「ぬぅ!」


ソウルの太矢に肩を撃ち抜かれ、よろける軽装騎士。


バシューーッ!!

軽装騎士「がっ!」


その腹を、竜狩りの十字槍は貫いた。
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 06:42:06.30 ID:zhk6enN+0
オーンスタイン「散華せよ!」

バヂイィィーーン!!!


激しい電撃に内臓から頭髪までを焼かれ、軽装の騎士は火にくべられた油の如く弾け飛び、沸騰した血肉と共に装備を辺りにばら撒いた。
撒かれた血肉は焼け焦げた臭いを放ちつつも、霞のように空気に溶け込み、装備も形を崩していく。


オーンスタイン「お怪我は!?」

グウィンドリン「大事ない。ただ、錫杖が折られてしまった」


竜狩りに応えたグウィンドリンの視線はしかし、折れた長杖に注がれていた。
純白の長杖の断面はひび割れ、所々に雨錆のような黒い染みを浮かび上がらせている。



デーモン槍の騎士「………」



一人残された敵対者は動けずにいた。
槍を失い、短刀を構えてからわずか数秒で、仮面の騎士を含めた全ての同業者達を失ったという事実に心を折られたのだ。
今や騎士の頭の中を巡るのは、コブラの装備の質ではなく、死地からの数多ある脱出法だった。


ジークマイヤー「ふん!ここに来てまさか降参とはなるまい」グビッ

スモウ「………」ズボッ…


その数多の脱出法も、急速に成功の確率を落としていく。
槍を腹から引き抜いたジークマイヤーの負傷は、その手に持ったエストに癒され、スモウの脚からは大矢が抜かれた。
だが、彼らを率いる暗月の君主は、彼らに攻撃命令を下さなかった。


グウィンドリン「やめよ」

スモウ「………」

ジークマイヤー「?…何故でございますか?」

グウィンドリン「短剣のみでは動けぬ者は、殺してはならぬ。殺せば槍もこの者の手に戻り、再び我らに挑むだろう」

ジークマイヤー「では、この槍は…」

グウィンドリン「貴公の物だ。さて敵対者よ」

デーモン槍の騎士「!」


グウィンドリン「この槍を砕かれたく無くば、我らにどう処するべきかも分かっていような」


デーモン槍の騎士「……俺を脅すのか…神が…」

グウィンドリン「ならば試練と取るがいい。神々を見送るだけの、容易い栄誉に浴せよ」



グウィンドリンの言葉に神なりの慈悲があるなどとは、デーモン槍の騎士はもちろん考えていない。
敵対者に残された選択肢は三つ。
帰還の骨片という不死の小骨片の神秘を使い、武器を失い城内の篝火の元へ戻るか。
対多数などには全く使えぬ短刀を頼みに、三柱の神や二人の不死と斬り結ぶか。
槍を諦めて神々を逃し、その場に留まり同業者達の復活と再集結を待つか。
どれを選ぶにせよ槍は諦めなければならない。神の原盤を注いだ槍を失う事に耐えられない敵対者にとって、二つ目ではないのならどちらでもいい。
そして敵対者は、所持品をより消耗しない方を選んだ。


デーモン槍の騎士「………」

グウィンドリン「賢明だ。オーンスタイン、先導を」

オーンスタイン「御意」


槍を立て、オーンスタインは再び一団を率いて歩を進め始める。
スモウは大鎚を拾い上げ、ジークマイヤーとビアトリスは敵対者に警戒の目を向けつつも、敵対者の前を通り過ぎる。
その敵対者の目線はというと、歩き去り行くレディとコブラに向けられていた。

二人を見ながらも、デーモン槍の騎士は考えていた。
敵を殺さずして無力化するというのなら、何故自分は今、武具を剥がれず所持品も奪われないまま、捨て置かれているのだと。
騎士は見抜いていたのだ。暗月の君主には略奪の時間さえも惜しく、それ程までに戦力の疲弊が著しいことを。
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/06(日) 00:02:36.71 ID:JcSsiuvKO
まだやってたか追いかけるは
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/10(木) 05:39:47.68 ID:6CS5iLrL0
そして、その事実を見抜いていたのは、デーモン槍の騎士だけではなかった。


ゴリゴリゴリ…ガキン!

レディ「?…今の音は…」

オーンスタイン「大扉の仕掛けが動いた!スモウ!」バッ!

スモウ「!」ドドッ!!


大広間の隅に設けられた回転式のレバーが、ひとりでに動くと、開かれたままの大扉が閉じ始める。
スモウは大扉へ駆け、オーンスタインは回転式レバーの元へ跳んだ。
レバーには透明な手が掛けられていたが、その手はオーンスタインの接近を感じとり、透明な特大剣を抜き…


ガゴオォーーッ!!

オーンスタイン「しまった!」


オーンスタインの槍が振られる前に、レバーの可動部を叩き斬り、仕掛けを破壊した。
制御機構を失った大扉は動作を止める事なく、ゆっくりと正面入り口を閉ざし始めたが…


ガキッ!!

ジークマイヤー「おおっ!」


張りつめられたスモウの両手が、その動きを阻害した。


スモウ「………」ミシミシ…

グウィンドリン「何事か」

オーンスタイン「失われた濃霧の指輪でございます!構えよ!不死達よ!」バヒュッ!!」


レバーの防衛に失敗したオーンスタインは、グウィンドリンの元へ跳びのき、槍を構えると共に不死達に警戒態勢をとらせた。
グウィンドリンと、コブラを抱えたレディを守るように、二人の不死とオーンスタインは円周防御の陣を組む。


デーモン槍の騎士(濃霧の指輪だって?……じゃあまさか、こいつは…)

オーンスタイン「姿を全く消した敵が、大扉の仕掛けを打ち壊したのです!ご注意をッ!」

ジークマイヤー「敵!? 敵などどこにいるのです!?」

ビアトリス「だから姿を消していると申されているだろっ!浮遊するソウルで探ります!」ヒュイィッ…

グウィンドリン「濃霧の指輪…白猫アルヴィナの封印せし失敗が何故…」

オーンスタイン「掘り出した者がいるのでしょう。不死達よ、この陣のままスモウの元へ」


姿の見えない新たな敵対者を警戒しつつ、二柱と四人はスモウがこじ開けている扉を目指す。
遅々としたその歩みは、欠如なく警戒意識を維持するためのものだが、歩みは事実、謎の敵対者の動きをある程度は封じた。
下手に歩みを速めれば、重装のジークマイヤーか、素早く動けぬビアトリスか、得物を折られたグウィンドリンか、コブラを抱えるレディか、いずれかの脚は必ず乱れる。
敵対者はその乱れを期待し、オーンスタインはその乱れを抑えた。そして観念したのは敵対者の方だった。


シュイイィーッ!!

ビアトリス「!」

ジークマイヤー「えいやぁぁーーっ!!」ブン!


浮遊するソウルは姿なき敵対者を明確に捉え、その者が立つであろう地点へ向け飛んで行った。だがソウルの光球は全て空を抜け、空中で消えた。
ジークマイヤーは特大剣を上段に構えたが、振るべき相手が見えないのでは、構えはむしろ隙となった。


ギンッ!!


しかし、その隙を活かしたのはオーンスタインだった。
味方の隙は敵の隙になり得る。ジークマイヤーの眼前を通り過ぎた十字槍の横一閃は、確かに金属を削り…

ジークマイヤー「お、おお…」


何者も立たぬ空中からは一筋の赤色が流れ、僅かに石床に滴った。
555 :修正版 [saga]:2019/01/16(水) 07:07:10.18 ID:cUl7YnTu0
そして、その事実を見抜いていたのは、デーモン槍の騎士だけではなかった。


ゴリゴリゴリ…ガキン!

レディ「?…今の音は…」

オーンスタイン「大扉の仕掛けが動いた!スモウ!」バッ!

スモウ「!」ドドッ!!


大広間の隅に設けられた回転式のレバーが、ひとりでに動くと、開かれたままの大扉が閉じ始める。
スモウは大扉へ駆け、オーンスタインは回転式レバーの元へ跳んだ。
レバーには透明な手が掛けられていたが、その手はオーンスタインの接近を感じとり、透明な特大剣を抜き…


ガゴオォーーッ!!

オーンスタイン「しまった!」


オーンスタインの槍が振られる前に、レバーの可動部を叩き斬り、仕掛けを破壊した。
制御機構を失った大扉は動作を止める事なく、ゆっくりと正面入り口を閉ざし始めたが…


ガキッ!!

ジークマイヤー「おおっ!」


張りつめられたスモウの両手が、その動きを阻害した。


スモウ「………」ミシミシ…

グウィンドリン「何事か」

オーンスタイン「失われた濃霧の指輪でございます!構えよ!不死達よ!」バヒュッ!!


レバーの防衛に失敗したオーンスタインは、グウィンドリンの元へ跳びのき、槍を構えると共に不死達に警戒態勢をとらせた。
グウィンドリンと、コブラを抱えたレディを守るように、二人の不死とオーンスタインは円周防御の陣を組む。


デーモン槍の騎士(濃霧の指輪だって?……じゃあまさか、こいつは…)

オーンスタイン「姿を全く消した敵が、大扉の仕掛けを打ち壊したのです!ご注意をッ!」

ジークマイヤー「敵!? 敵などどこにいるのです!?」

ビアトリス「だから姿を消していると申されているだろっ!浮遊するソウルで探ります!」ヒュイィッ…

グウィンドリン「濃霧の指輪…白猫アルヴィナの封印せし失敗が何故…」

オーンスタイン「掘り出した者がいるのでしょう。不死達よ、この陣のままスモウの元へ」


姿の見えない新たな敵対者を警戒しつつ、二柱と四人はスモウがこじ開けている扉を目指す。
遅々としたその歩みは、欠如なく警戒意識を維持するためのものだが、歩みは事実、謎の敵対者の動きをある程度は封じた。
下手に歩みを速めれば、重装のジークマイヤーか、素早く動けぬビアトリスか、得物を折られたグウィンドリンか、コブラを抱えるレディか、いずれかの脚は必ず乱れる。
敵対者はその乱れを期待し、オーンスタインはその乱れを抑えた。そして観念したのは敵対者の方だった。


シュイイィーッ!!

ビアトリス「!」

ジークマイヤー「えいやぁぁーーっ!!」ブン!


浮遊するソウルは姿なき敵対者を明確に感知し、敵対者が立つであろう地点へ向け飛んで行った。だがソウルの光球は全て空を抜け、宙空で消えた。
ジークマイヤーは特大剣を上段に構えたが、振るべき相手が見えないのでは、構えはむしろ隙となった。


ギンッ!!


しかし、その隙を活かしたのはオーンスタインだった。
味方の隙は敵の隙になり得る。ジークマイヤーの眼前を通り過ぎた十字槍の横一閃は、確かに金属を削り…

ジークマイヤー「お、おお…」


恐らくは跳び退いたのだろう。何者も立たぬ空中からは一筋の赤色が流れ、僅かに石床に滴った。
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/16(水) 07:29:11.35 ID:cUl7YnTu0
「勘がいいな…冴えている」


宙に浮かぶ赤い筋が言葉を発した。
だが、その赤い筋も徐々に薄れ、透き通っていく。


「今までの者とは違う。霧は外そう。このままでは事故が起きそうだ」

オーンスタイン「今までの者とは誰だ。先の仮面の騎士の口ぶりといい、我らの同胞といくらか剣を交えたようだが」


透明な者は、オーンスタインの問いかけに答えなかった。
問いによって敵の隙と心を探り、戦意をそらし、友や主を逃すという策など、透明な者は飽きるほど見てきたのだ。


スッ…


透明な者はただ、透き通る右掌に左掌を掛け、指輪を外した。









父の仮面「では、改めて」








完全な透明を解いた新たなる敵対者は、先の仮面騎士と同じく、巨人の黄銅鎧を身に纏っていた。
だが手に持つ剣はクレイモアより重く、大きく、被る真鍮仮面は巻きひげと巻き髪をたくわえている。


ジークマイヤー「仮面の悪霊!?しかし、仮面が…」

ビアトリス「声も男の声だ…まさか組で動いているのか…?」

ズッ…


新たなる仮面騎士が、黒鉄色の特大剣、グレートソードを腰溜めに構える。
しかしジークマイヤーは円盾を構えず、ビアトリスもソウルの矢を発さなかった。
仮面の騎士と一団の間には無意味とも言える『間』が空いている。

その間は槍斧に手応えを与えず、槍に血をつけない程の広さだった。
よほど遠くに跳び退いたのか、ランスチャージさえも可能なほどに彼我の距離を空けて剣を構える敵対者には、オーンスタインにさえも一部の隙を生んだ。
刃先を十倍にでも伸ばさぬ限りは、弾かれる権利さえ持てない剣など、槍を持つ神が受けようはずもないのである。


ブン!!

オーンスタイン「!?」

ガギイイィーーッ!!!

ジークマイヤー「!?」

ビアトリス「えっ!?」


だが仮面の騎士は剣を伸ばしてみせた。
人ならざる一撃を胸に受け、オーンスタインは両脚を浮かせる。
ただし、仮面の騎士とオーンスタインの間を通った鋼鉄の特大剣など、誰の眼にも映ってはいない。


ガシャッ!


オーンスタインが着地すると同時に…


ダダッ!


仮面の騎士は駆けた。
しかしその両足裏は、石床の上をまるで絹のように滑り、一歩たりとも竜狩りとの間を詰めてはいなかった。
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/16(水) 08:34:30.87 ID:cUl7YnTu0
スッ スッ スッ スッ…


ジークマイヤー「な、なん…?…なんだ?何をしている!?」

ビアトリス「幻影?……虚像なのか…?」

オーンスタイン「…これは…」


石床の上を空振りし続ける両脚など気にも留めていないように、仮面の騎士は、石床を組む一枚の石版の上で駆け続けた。
だが、仮面の騎士の足音は大広間中を駆け回り、一団の周りを取り囲んでいる。


デーモン槍の騎士「はは…はははは!お前らはもうおしまいだ!他の英雄様と同じく、お前らはロードランを彷徨う仮面の悪霊の餌食になるのさ!」

ジークマイヤー「ぬ、ぬかせ!このような幻術、今すぐにでも…」


ドカーーッ!!


ジークマイヤー「!!」

デーモン槍の騎士「ぐはっ…お…お前…」


無力となった敵対者の重鎧の胸から、赤黒く濡れた大刃が突き出た。
オーンスタインが見ると、進まず駆けていたはずの仮面騎士は消え、代わりに敵対者の背後に、かの騎士は仮面を覗かせている。


父の仮面「すまないが、私の狩りに野良犬はいらないんだ」グチュルルルッ

デーモン槍の騎士「………」ゴポ…


片肺を貫通した特大剣を心臓にねじ込まれ、デーモン槍の騎士は瞬時に絶命した。
その骸に向かい、ビアトリスのソウルの矢が飛んだが…


ドシャッ


ソウルの矢は、石床に崩れ折れたデーモン槍の騎士の頭上を通過した。
仮面の騎士の姿は無い。


ビアトリス「なんだ…これ…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!私を置いてお逃げください!この者の手、この竜狩りの命捨てずしては阻めません!」

グウィンドリン「何を言う。我は…」


ブワオォン!!


竜狩りを引き止めようとグウィンドリンが伸ばした手を、オーンスタインは振り返りもせず跳躍。
石床に槍を払い、神々にのみ許された力、白霧を放った。
霧は一団と竜狩りの間に壁の如く立ち込め、大広間を二つに区切り、竜狩りと仮面の騎士を正門から切り離した。


グウィンドリン「貴公…!」

レディ「本当に死ぬ気…!?」

ジークマイヤー「いかん!このジークマイヤー、助太刀に馳せ参じまするぞ!」


竜狩りの捨て身の策に、ジークマイヤーは僅かながら助力にならんと霧に突進した。
だが霧は硬く閉ざされており、ジークマイヤーのカタリナ鎧は音もなく霧に受け止められるだけだった。
仮面の騎士はその霧の大広間にあって、グレートソードの切っ先を石床に置き、杖持つ老紳士のように落ち着いていた。


グウィンドリン「何故だ…何故こんな勝手を……我には命じた覚えも、つもりも無いのだぞ!」

ビアトリス「グウィンドリン様!お気を確かに!」



父の仮面「なるほど、神はこうして霧を作り出していたのか。珍しい光景だ」

オーンスタイン「………」

父の仮面「しかし、私は誤った選択肢を選んでしまったようだ。あの騎士は生かしておくべきだった」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 02:39:11.90 ID:Ujr5meaP0
ガイィーーン!!

オーンスタイン「!」

ガイィーーン!! ガキィーッ!!


仮面の騎士は再び、だが今回は幾度も特大剣を素振りする。振り回されたグレートソードはその度に石床を打ち、けたたましい金属音を響かせた。
その一挙一動を、槍を中段に構えたオーンスタインは注意深く見定めようとしたが、やはり石床を打つのは鍛え抜かれただけの特大剣であり、素早く力強い振りは、魔力の類いを一切帯びてはいなかった。


ドガガガガーッ!!

オーンスタイン「ぐっ…!」


仮面の騎士の素振りが終わった時、オーンスタインの全身を実体無き剣勢が打ちのめした。
竜狩りは膝をつき、仮面の騎士は竜狩りへ向け歩み出すが、その両脚はやはり一歩たりとも進んではいない。


オーンスタイン(ありえぬ……影や風はおろか、刃の煌めきすらも見えぬなど…)

オーンスタイン(虚空だ……虚空が我が鎧を叩いている……)

フッ…

オーンスタイン「!」


不意に、竜狩りの眼前から仮面の騎士の姿が消えた。オーンスタインは咄嗟に振り返り…


ドガガーーッ!!


十字槍の白刃で、グレートソードの一撃を受け止めた。


父の仮面「やはり誤りだったな。貴公に手の内を知られてしまったようだ」

オーンスタイン「然り!」

ガシッ ガアン!!

父の仮面「!」


密着に近い形で鍔迫合った仮面の騎士の首に、オーンスタインは左手を掛け、頭突きを見舞った。
仮面の騎士が両手で握るグレートソードは、竜狩りが右手に持つ十字槍に受け止められているうえに、密着状態が生む閉塞性によって膂力をも失っている。
頭突きを貰った騎士の仮面はひび割れ、欠片を竜狩りの兜に飛ばす。


バジイイィーーン!!!


次にオーンスタインは左掌から雷の槍を放ち、激しい雷光を大広間に轟かせた。
オーンスタインの左手からは掴まれたはずの首が消え、十字槍を押すグレートソードも重みを無くし、竜狩りの視界から消失した。


オーンスタイン「………」


だが、仮面騎士の消失はむしろオーンスタインの心胆を凍えさせ、焦燥を強めさせた。
敵対者の姿は消えたが、ソウルの気配は感じず、吸収の感覚もオーンスタインには無いのだ。
それらが意味するところは敵対者の存命であり…


ガキュッ!!

オーンスタイン「オオオッ!」


己が主君に向く凶刃の存命であり、不意を突かれるという可能性の増大である。
仮面騎士のグレートソードはついにオーンスタインの鎧を破り、オーンスタインは背後から太腿を貫かれた。
傷口から噴出するソウルの輝きは陽光のようであり、輝きの強さは仮面の騎士に確かな充足感を与えた。


ガッ

オーンスタイン「ぐっ……貴様……何を用いた…」

父の仮面「術だよ。神々を追い落とし、闇と火を貪るため、人が生んだ業の威光だ。聞いたところで神には使えんさ」


再び膝をついた竜狩りに、仮面の騎士は両手を広げ、己の技を誇らしく語った。
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/17(木) 04:50:16.54 ID:w6Aa3xfDO
まさかとは思うけどこれは…チーターと同じくらい嫌われるアレなのか
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 08:13:53.39 ID:Ujr5meaP0
竜狩りが窮地に追いやられている頃、グウィンドリンは暗月の君主という名とそれが背負うであろう重責の元、苦渋の選択を迫られていた。
霧の向こうからは、明らかに苦戦を強いられていると推察できるオーンスタインのうめきと、勝ち誇るかのように饒舌を振るう敵の声が漏れる。


グウィンドリン「………」


グウィンドリンは振り返り、これからの長い旅路を共に行くであろう者達を見る。
二人の不死の顔には不安と焦燥が入り混じり、意識を失ったままのコブラを支えるレディは、食い入るように霧を、その向こうに展開される戦いを見つめている。


グウィンドリン「………」


大扉に挟まれ、両門を支え、波打ち際の巌の如く立つスモウの足首には、大きな矢傷が穿たれている。
しかし暗月の力に癒しの力は無い。魔法ではなく、奇跡こそがその傷には必要だった。


グウィンドリン「………スモウ…」


スモウ「………」


グウィンドリン「……我が無力を…許してくれ」


グウィンドリンの沈んだ言葉は、純粋に己の不甲斐無さを謝罪するものだった。
傷を癒せぬことと、敵を打倒できぬこと。忠義の士に犠牲を強いてしまうこと。迷い悩み、策を決めかねていること。
それらをまとめて口に出し、いよいよ選択肢を挙げねばという状況に、己を追い詰めるための言葉でもあった。

だが、鈍ではあるが愚かではないスモウは、主であるグウィンドリン以上に、この闘いに思いを巡らせていたのだ。
過分な重責を負い、しかし戦場に赴いては決してならぬ者には確実に備わらない、戦場の教養。
それがスモウの義心と混ざり、火花を起こしたのだ。


バアン!!

グウィンドリン「!」


正門の大扉をスモウは渾身の力で跳ね上げ、全開させた。
そして鈍い脚を奮い立たせ、大鎚さえも拾わずに…


ドドオォン!!

グウィンドリン「!? 待て!スモウ!」

ジークマイヤー「ふおおお!?」

レディ「みんな伏せて!」サッ

ビアトリス「くっ…!」ササッ


霧に向かって跳躍し、抵抗無く霧に飲まれた。



父の仮面「では、別れの時だオーンスタイン」

オーンスタイン「………」


万事休す。あらゆる打つ手を失い、いよいよ斬り刻まれるのを待つのみと悟ったが、槍は手放さないオーンスタイン。
その竜狩りから四間ほど離れた所に立つ、仮面の騎士の眼に…


ボオォン!

父の仮面「あ」


霧を巻いて打ち破り、竜狩りの遥か頭上を飛び越えて飛来するスモウが映った。


ドグワアアアァーーッ!!!


馬小屋程の大きさもある金属塊の飛び蹴りを喰らい、騎士の仮面は粉砕し、全身を包む巨人鎧は、矢に射抜かれた鳥の羽毛のようにスモウの周りを舞った。
蹴り散らかされた仮面騎士は、鎧を剥がれたボロを着たまま、大広間を飛翔したあと、蹴鞠のように石床を四度跳ね、スモウから十七間は離れた地点に墜落した。
しかし、オーンスタインは勝どきを上げず、スモウを讃えもしなかった。
むしろ竜狩りの背には哀しみさえのしかかっていた。
まるで、避けられぬであろう悲劇を避けるよう努め、しかし敗れたと嘆くかのように。
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/18(金) 06:18:40.59 ID:HyP25ayL0
オーンスタイン「スモウ…お前はなんということを…」


スモウ「………」


オーンスタインの嘆きを知ってか知らずか、スモウは竜狩りへは振り返らず、大広間の隅まで飛んだ仮面の騎士を一点に見つめている。
竜狩りがスモウに成せる事と言えば、神の奇跡をスモウの足首へ注ぎ、矢傷を癒すことだけだった。


オーンスタイン「貴公に王の導きあれ」

ダガッ!


石床を蹴ったオーンスタインの向かう先は、手負いの仮面騎士ではない。


ブワッ!

レディ「!」

ジークマイヤー「あっ!」

グウィンドリン「まさか…」


霧から飛び出たオーンスタインは十字槍を背負うと…


ガッ

ジークマイヤー「!?」

ビアトリス「わっ!?」


右手にビアトリス掴み、右脇にジークマイヤーを抱え…


ガッ

グウィンドリン「な…なにを…」


左脇にグウィンドリンを抱えた。
そしてオーンスタインは跪き、無言の促しをレディに漂わせた。
レディは一瞬ためらった。誰の眼にも明らかに、一団にとって大きな存在であるはずの者が欠けている。
その事実をどう受け止め、この促しにどう答えるべきかを迷った。


レディ「………分かったわ。行きましょう」


だが、レディはその一瞬で決断した。
レディはオーンスタインの、そしてスモウの意志を汲むことを選んだのだ。
剣を納め、コブラを右手で胸に抱き寄せ、レディは左手でオーンスタインの背中にしがみついた。
彼女の両脚は竜狩りの腰に回された。


グウィンドリン「…やめよオーンスタイン…これでは誓いを違えるではないか…」

オーンスタイン「グウィンドリン様」

グウィンドリン「気迷うな!あのような騎士ごときに、我らが遅れをとるなどあり得ぬ!我を降ろし槍を持…」

オーンスタイン「グウィンドリン様!!」

グウィンドリン「っ…!」

オーンスタイン「今より駆けます。あなた様はどうか、スモウが王の導きに浴せる事をお祈りください」

オーンスタイン「そしてこの亡都より生き延び、暗月の君主を守りし輝ける大鎚の名を、新たな神代にお伝えください」


グウィンドリン「…………」


ドガッ!!



オーンスタインは正門に向かって駆けた。
かつての友を棄て、多くの神話に彩られた大いなる家を飛び出し、黄金の矢のように。
霧からは金属がぶつかる音が響く。それはスモウの鎧が切り裂かれる音だった。
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/18(金) 20:59:49.89 ID:VVBXT4do0
ついにスモウが
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/18(金) 22:43:17.21 ID:Z+27kE5do
本当に神様なのかってくらいこの人たち弱いな
だから都が滅んじゃったんだろうけど
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/18(金) 22:50:25.63 ID:WQbxucxSO
まぁダクソの神って人間とは違う種族みたいなもんだから
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