京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」

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102 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:19:05.17 ID:ZkcsownO0
――――

そして京太郎が一番熱心に観察したのは……

京太郎(天江さん、振り込まないな……)

衣「……」タン

京太郎(『能力』の存在を受け入れて、理解する……。
純さんはヒントしかくれなかったけど、天江さんの力には絶対どこかに限界がある)

たとえ山全てを支配していたとしても、牌の数は限られている。

京太郎(三人がそれぞれ十七枚もツモって、一回も有効牌を引かせないなんて有り得ない。どこかに隙があるはず……)

衣「……智紀、その牌だ。ロン」バラッ

京太郎(事実、昨日の終盤。俺は飛ばされる直前、十八回目のツモで一向聴地獄から脱した!
天江さんの力が、完全じゃない証拠だ)

衣「リーチ!」タン

京太郎(見極める……得体の知れない、『能力』ってやつを!)

――――

京太郎「……」

マホ(先輩、凄く集中してる……)

一「あ、マホちゃん。今日はあんまり打たないんだね?」

マホ「はい。……というか、実はまだ一回しか打ってません」

一「へえ……。須賀君も今日はあんまり入らないし、何か心機一転するような事があったのかな?
――衣と打って、麻雀が嫌いになった、とかじゃなきゃいいけど……」

マホ「……」

マホ(先輩……)
103 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:19:42.31 ID:ZkcsownO0
――――

衣「流局。ノーテンだ」パタン

久「これで終局……」

久(やっぱり強いわね、天江さん……)

衣「……いい加減、見るのをやめて打ったらどうだ?そこの」

京太郎「……」

久(須賀君……)

衣「早く打とう。元よりそのつもりだったのだろう?」

京太郎「……少し、待って下さい。心の準備をしたいので」

衣「……そうか」

その応えに、何を感じたのか。

衣「興醒めだよ。お前は、衣などと打ちたくないのだろう?
――衣が壊してきた雀士たちも、今のお前のような顔をしていた」

京太郎「……後で、」

衣「もういい。後など、あるものか!――咲、打とう」

京太郎「後で、必ず!勝負して下さい!」

衣「――うるさい男だ。そこまで言うなら……」

ギロッ

衣「この対局の後、もう一度誘ってやろう。――逃げるなよ?」
104 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:20:21.21 ID:ZkcsownO0
――――

京太郎(逃げるなよ、か……)

先程あれだけの言葉を浴びせられたにも拘わらず、京太郎は衣と咲の勝負をそばで見ていた。

咲「……」チラッ

衣「……」タン

咲は京太郎が居る事で気が散っているようだが、衣の方は完全無視を決め込んでいる。

京太郎(逃げたと思われても、まあしょうがないな。だけど、びびったわけじゃない)

咲「……」トン

京太郎(ただ、本当に準備が出来ていないと思った。そして、この対局を見届けて、準備を終わらせる)

咲「カン。……ツモ!」

衣「流石だな、咲」

――――

衣「――ロン!」

咲「ああ、負けちゃった……。ありがとうございました」

衣「うん、楽しかったぞ!またやろう!」

京太郎(……よし、準備は整った……)

――――

衣「――では、やろうか」

京太郎「……はい。今、暇そうなのは……優希!それと……龍門渕さん!」

優希「呼んだか?」

透華「……衣と再戦しますの?」

京太郎「はい。入ってくれますか?」

透華「もちろん!」

優希「私も、当然入るじぇ!」

衣「よし、では――」
マホ「先輩!」

席順を決めようとした所に、声がかかる。

優希「? どうした、マホ」

マホ「あ、いえ……優希先輩じゃなくて、須賀先輩……」

京太郎「俺?」

見れば、マホは小さく手招きしていた。

京太郎「……すみません、多分すぐに済むので」

衣に断りを入れ、マホのもとへ。
105 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:20:53.93 ID:ZkcsownO0
――――

京太郎「どうしたんだ?マホちゃん」

小声で尋ねる京太郎に、マホは答えなかった。
代わりに、自分より大きな京太郎の手を両手で包むように取り、胸元に抱き寄せる。

京太郎「マホちゃん……?」

そのまま目を閉じ、一秒、二秒……。

マホ「……先輩、恐くないですよ」

京太郎「え?」

マホ「麻雀は、恐くなんてないです。負けるのは辛いし、上手くいかない日もあるかも知れないけど……
それも含めて、マホは麻雀が好きです。楽しいんです。だから……」

目を開き、マホは真っ直ぐに京太郎を見た。

マホ「先輩も、楽しんで下さい。……マホ、見てますから」

そして、手を離す。

京太郎「マホちゃん……」

自由になった手を、マホの頭に乗せる。

京太郎「ありがとな。でも、大丈夫だよ。別に麻雀が恐くなったんじゃない」

マホ「……そうなんですか?」

京太郎「ああ……」

ゆっくりとマホの頭を撫でる。

京太郎「むしろ、その逆……。俺は今、打ちたくてしょうがないんだ。
麻雀を、俺より強い人たちと打つ事が楽しみでしょうがない。だから……」

そこで言葉を切り、振り返る。――全国レベルの猛者達が、京太郎を待っていた。

京太郎「……だから、見ててほしい。俺は……勝つ!」
106 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:21:37.00 ID:ZkcsownO0
東一局

優希 (親)25000
京太郎(南)25000
 衣 (西)25000
透華 (北)25000

まこ「わしも観戦するかの」

マホ「染谷先輩。打たないんですか?」

まこ「その言葉、そっくり返すぞ……っちゅうか、ちょうど十ニ人なんじゃから、抜ける奴が居れば当然打つ相手も居らんじゃろ」

マホ「あ、そうですね。……マホのせいで……」

まこ「なぁに、おんしだけのせいじゃない。ほら、見とる人は他にも居るじゃろ」

純「……」

マホ「……あの人も、マホのせいじゃ……」

まこ「いやいや、仮にそうだとしても、見学は大事じゃからな。おんしはなんも悪くない。
どうじゃ、一緒に見んか?」

マホ「一緒に?」

まこ「ああ、解説しちゃる」

マホ「じゃあ、早速良いですか?質問」

タン……トン……

マホ「なんで今日は、赤ドラ有りなんですか?」

まこ「……ルールの解説からとは、本当にプロの試合解説みたいじゃな。
まあ、深い理由は無いと思うぞ?最終日くらい、ルール変えてみるかって感じじゃろ」

マホ「なるほど……」

まこ「……ただ」

マホ「?」


優希「よし、リーチだじぇ!」

京太郎「チー」トン


まこ「優希はドラを絡めて手を高くする事が多い。赤ドラ四枚というのは、優希には有利かも知れんな」

優希「――ツモ!リーヅモ平和ドラ2、4000オール!」
107 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:22:14.59 ID:ZkcsownO0
――――

京太郎「……」チャラ

純(さっきのチー……ツモずらしか。だがその次、透華の牌をポンする事も出来た)

無論、それをした所で優希のツモを一度飛ばす事しか出来ないが。

純(オレなら鳴いたな。直接同卓してる訳じゃないから、流れははっきりとは分からないが――)

優希「一本場だじょ」カチャ

純(今のあいつなら、一回鳴いた程度じゃ和了りは潰せない。一発消しにはなったが、詰めが甘かったな)

――――

東一局一本場

衣(不思議な物だ。力が満ちている……昨日もそうだったが、まるで満月の夜のようだ)タン

透華「チー」カシャ

衣(トーカは速攻か?ユーキの親を早く流したいのかもな)

トン……タン……

衣(――お、来たか)チャッ

789m112378s789p北 ツモ北

衣「リーチ!」つ一索

衣(さて、まだユーキの力が強い東場の序盤だが……どちらが早く和了れるかな?)
108 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:22:59.26 ID:ZkcsownO0
――――

優希(リーチか……)

透華「ふむ……」つ三索

優希(ん……通ったか)チャッ

そして優希も、テンパイ。

優希(対面の捨て牌を見る限り……余ったこの牌は通りそうだじょ)

しかし、東場――自分のホームとはいえ、衣のリーチは充分な脅威でもある。

優希(ここはリーチせず、様子見で行くじぇ。この牌は今、暗刻だから、これを通せばオリる時も楽になる)つ七筒

――――

衣(む……この気配、ユーキも張ったか)

京太郎「……」チャッ

衣(リーチをかけていないから、定かではないが……。もし張っていたら、大体、満貫か跳満といった所か)

京太郎「……」トン

透華「それ、ポンですわ!」タン

衣(ん、もしやトーカも張ったか……?)

優希の気配に紛れて分かりにくいが、自分の感覚は今までほとんどハズれた事はない。

衣(まあ、安手だろう。それよりも――)

今の鳴きで、本来は衣がツモる筈だった牌が優希に流れた。

優希「……」チャッ

衣(さあ、どうする?ユーキ……)

優希「……」つ三索

手出しの現物。

衣(これはオリたか。気配も弱くなったし……)

京太郎「……」トン

衣「……」チャッ

衣(三筒か……。やはり、あの透華のずらしが効いたか)トン

優希「ロン!平和ドラドラ、6100だじぇ!」

衣「……!」

345(赤)m456789s45(赤)77p ロン3p

衣(……なるほど、気配が弱まったのは衣の和了り牌を取り込んで打点が下がったからか。
テンパイを崩したのではなかった……)

気配の変化に注目しすぎて、絶対値を見誤ったのだ。

衣(しかし、仮にそうだと気付いていても、既にリーチをかけていたからな……)

そこでふと、違和感を覚える。

衣(待てよ、あのポン……)

優希「よし、ニ本場だじぇ!」
109 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:23:33.55 ID:ZkcsownO0
――――

東一局ニ本場

優希 (親)44100
京太郎(南)21000
 衣 (西)13900
透華 (北)21000

京太郎(展開は早いが……まあここまでは悪くない)トン

トン……トッ……

透華「……」トン

京太郎(龍門渕さん、手が高くなったな……)

昨夜の純との特訓の成果で、今の京太郎にはある程度『流れ』が分かる。

京太郎(しかし、この流れを具体的にどう断ち切ればいいのかは……分からない。
流石にそこは経験不足だ。ただ鳴けば良いってモンでもないしな)

タッ……トン……

透華「――ツモ!3200-6200ですわ」バラッ
110 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:24:09.38 ID:ZkcsownO0
――――

東ニ局

京太郎「……」トン

衣「……」パシッ

透華「……」タン

優希「……」トッ


マホ「……急に静かになりましたね……」

まこ「ふむ……天江は手を少しずつ変えているようじゃが、他三人はツモ切りが多いな……」

マホ「昨日と、同じ……。天江さんの必殺技って、海底ですよね?」

まこ「必殺技?まあ、確かにそんな感じはするな」

マホ「誰も鳴かなかったら、海底牌を引くのは南家……。
そう考えると、天江さんの上家は、海底ツモの親かぶりを受ける可能性が高くないですか?」

まこ「しかし、それは誰も鳴かなかったら、の話……いや、確かに天江の支配はそれを可能にするな」

事実、この局は誰にも鳴く機会が訪れないまま、海の底を迎えようとしていた。

――――

十七巡目

衣(当然、衣だけが張っているわけだが……)

リーチを掛けるか掛けないか、それを迷っていた。

衣(リーチを掛ければ一発・海底で三飜上乗せ出来るが、前々局の振り込み……)

透華のポンで衣のツモが優希に、優希のツモが衣に流れ、リーチを掛けていた衣はその牌で優希に振り込んだ。

衣(トーカがそこまで考えていたかは分からないが、少なくとも東場のユーキは侮れない)

衣はリーチを掛けるべきではない(無言のツモ切り)
111 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:24:41.50 ID:ZkcsownO0
――――

透華(無言……衣の事だから、リーチするかと思いましたが)チャッ

ツモは有効牌。とはいえこれでようやく一向聴である。

透華(形式テンパイは取っておきたいですわね)トン

優希「……」タン

透華「それ、ポンですわ」トッ

形式テンパイ。――同時に、これで衣の海底は消えた。

――――

優希「……」タン

京太郎(ズレたか……)チャッ

25899m2244s66p西西 ツモ5m(赤)

つまり、この赤五萬が海底牌――本来の衣のツモ。

京太郎(要するに最悪の危険牌……。そしてテンパイを取れば打ち出されるのはその五萬のスジ……)

出せる訳もない。抱え込み、安牌切り。

衣「流局……テンパイだ」

透華「テンパイですわ」

優希「ノーテン」

京太郎「……ノーテン」

京太郎(天江さんの手牌は――)

1111235577888m

五・七萬のシャボ待ち。

京太郎(……テンパイ、取っておくべきだったか?――いや、焦るな。結果論だ)

もし衣がリーチをかけ、透華がポンをしなければ――数え役満に届いた手だ。

京太郎(天江さんは基本的に、高火力の打ち手――さっきリスクを取ったのは、間違いじゃない)
112 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:25:13.59 ID:ZkcsownO0
東三局一本場

純(さて……衣の親だが、どう抑える?)

衣「……」ジャッ

衣が牌を立てる。

純(うお、配牌テンパイ……しかもダブリー掛ければ跳満確定かよ)

衣の恐ろしい所は、ここだ。

純(速攻で和了る事もあれば、他家の手を遅らせて悠々と海底で和了る事もある)

その緩急は変化が激しく、純でさえ流れを読めないほどだ。

純(しかも速攻だろうが変わらず高打点だから手に負えない)

衣「……」タン

しかし衣は、意外にもリーチをかけなかった。

純(衣らしくないな……)

トン……タン……

京太郎「チー」カシャ

純(ん……速攻で流す気か?だが……)

京太郎「ポン」タン

純(上家のお前が鳴けば、衣のツモも増える事になるぞ……)

衣「……」トン

それぞれの手牌が見えている側からすれば、いつ衣がツモるかとヒヤヒヤさせられる。

京太郎「――ツモ、400-600です」
113 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:25:46.33 ID:ZkcsownO0
――――

東四局

透華 (親)34700
優希 (南)36000
京太郎(西)17700
 衣 (北)11600

衣(衣の親を流すか……念のため、リーチをかけずにいたのは正解だったようだな)チラ

京太郎「……」

無表情は変わらないが、やはり昨日とは違うようだ。

衣(感覚で分かる……本気で打っているかどうか。
昨日のこいつは、ただ萎縮していただけでなく……本気で打つ事にためらいを感じている気配があった)

だが今は違う。今の京太郎は、本気で衣と勝負をしに来ている。

衣(しかし、それだけに妙だ……。何故こいつは一度、衣からの勝負の誘いを断った?)

そこで一旦思考を切り、配牌を見る。理牌は無意識の内に済んでいた。

衣(一向聴……親は流されたが、ツキは依然こちらにある。この程度の点差、すぐに覆してやる!)

――――

純(親を流した程度じゃ、衣は止まらない。さあ、次はどうする?京太郎)

京太郎「……」チャッ

九種八牌、六向聴。後ろから見ているだけでうんざりするような配牌だ。

純(ほんと、良くポーカーフェイスでいられるよコイツは……)

京太郎「……」トン
114 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:26:20.66 ID:ZkcsownO0
――――

衣(ふむ……三巡目テンパイか。他はまだ追い付いていない……これはもらったな)

衣「リーチ」タンッ

透華「……」チャッ

支配が卓の隅々まで行き渡っているのを感じる。

透華「……」トン

衣(今は誰も鳴けまい……)

優希「……」トッ

京太郎「……」スッ

衣(ん?)

今、上家の手がブレたような――


バラッ

京太郎「……っ、すいません」

見れば、京太郎の伸ばした手が対面の山を崩していた。焦って直そうとし――

ガチャッ

――今度は腕が自分の山にあたり、更に崩れる。

京太郎「……」

そろり、と他家の顔を窺う京太郎。――誰がどう見ても、満貫払い確定のチョンボだった。
115 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:26:50.53 ID:ZkcsownO0
――――

純(まさか……今のはわざとか?)

謝りながら罰府を払う京太郎――チョンボをした割りには、あまり動揺していないように見える。

優希「……」チャラッ

純(誰も突っ込まないか……ならば何も言うまい)

衣がリーチをかけ、その直後にチョンボで仕切り直し。これがわざとなら、イカサマも良い所だ。
しかし、衣たちは満貫払いで納得している……なら外から言う事は何も無い。

純(なんにせよ、ここまで場を荒らされたら衣も堪ったもんじゃないな)チラ

衣「……」
116 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:27:19.45 ID:ZkcsownO0
――――

東四局仕切り直し


マホ「この場合、流局とかではないので、一本場にはならないんですよね」

まこ「ルールにもよるが、大体それが一般的じゃろうな……良く知っとるな?」

マホ「はい!マホ、チョンボには詳しいです!自分でよくするので!」

まこ「自慢にならんな……。さっき天江がリーチをかけとったが、そのリー棒はどうなる?」

マホ「えぇと、どうなるんでしたっけ?」

まこ「……まだまだじゃな。まあこれもルールによるが、仕切り直しじゃから持ち主に返されるぞ」

マホ「なるほど……」メモメモ

――――


透華(罰府の得点差で、結果的にトップにはなりましたが……複雑な気分ですわ)タッ

優希「……」チャッ

二位との点差は僅か700。

透華(片岡さん、集中が持続しないとの事でしたが……
本人の言っていた『東場のあいだ』というのはどのくらい厳密な数字かしら……?)

優希「……」タン
117 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:27:49.85 ID:ZkcsownO0
――――

優希(さて……京太郎が9700点か)

自分の弱点は分かっている……南場の失速だ。当然、短期決着を狙いたい。

優希(この手、和了りも近いけど……跳満まで伸ばせれば、京太郎を直撃でトばす事も出来る)

衣「……」トッ

さっきの仕切り直しから、衣の『支配』の影響もさほど感じなくなった。

優希(よーし、この卓に南場は来ない!)

トン……タンッ……

――――

優希(七巡目にしてテンパイ……けど、まだツモ次第で三色もイーぺーコーもドラ取り込みも狙える)タンッ

リーチかけず。東場の自分なら、もっと手を伸ばせる筈だ。

京太郎「……」チャッ

優希(ん、まさか……?)

少し逡巡した後、京太郎は手出しの牌を起き――曲げる。

京太郎「リーチ」チャラ

衣「……」チャッ

優希(ほう……京太郎が来たか。なら……)

卓に意識を集中。今この瞬間にすべき事は――

衣「……」トン

透華「……」トッ

優希(……悪いな、京太郎。リーチは流す!)スッ


優希「――ツモ!タンピンドラ1、1300-2600!」
118 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:28:18.62 ID:ZkcsownO0
――――

南一局

京太郎(リーチは失敗だったか……)

流れを掴んだかと思ったが、どうやら勇み足だったようだ。

京太郎(もっと、自然体……流れを見切ろうとするんじゃなくて、自然に感じ取るように……)

純の教えを頭の中で繰り返す。

京太郎(配牌が悪い……今は耐えよう。多分もう少しで来る、流れが……)

――――

十七巡目

衣「……チー」

透華(これは……来ますわね)チャッ

タン……トン……

衣「――ツモ。海底タンヤオ三色、ドラ5。4000-8000」

透華(ドラ5……全く、それでこそ、ですわ)ジャラ
119 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:28:57.35 ID:ZkcsownO0
――――

南二局

京太郎(親)3400
 衣 (南)28300
透華 (西)32100
優希 (北)36200

京太郎(かなり削られたが、待った甲斐は有ったな……)

配牌は二向聴。

京太郎(……流れが来てるかどうか、正直自信は無い。……けど、もうこの親で仕掛けるしかない)タン

トン……トッ……

京太郎(大丈夫だ……なんとなく、いける気がする……)タン

なんとなく、の感覚を大事にしろ――純はそう言っていた。

京太郎(悲観し過ぎず、楽観もし過ぎず……なんとなく、和了れる気がしている)

京太郎「ポン!」

タッ……トン……

京太郎(感覚は、間違ってなかったみたいだな……)

今の自分は、流れに乗っている――それも、なんとなく分かる。

京太郎「……ツモ。3200オール
120 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:29:51.70 ID:ZkcsownO0
――――

南二局一本場

衣(……なんだ?先程の倍満といい、いつも通りに打っている筈なのに……)

何か、違和感がある。

京太郎「……」タンッ

衣(こいつのチョンボからか……?リズムを崩されたような……)チャッ

手は三向聴、更にこの局は海底コースだ。

衣(……今は、南場だ。ユーキの気配も、弱くなっている。なのに……)

――今は、海底に辿り着ける気がしない。

衣(……そういえば以前、ジュンが言っていたな)タン

『流れってのはもちろん、良い流れと悪い流れが有るんだが……悪い流れってのも色々有ってな』

『悪い流れの時に、無理やり和了ったりしたら、もっと悪い流れになる事がある』

タンッ……パシッ……

衣「……」チャッ

『そして……そうなったら、オレでもその悪い流れからは中々抜け出せなくなるんだ』

衣(……つまり、前々局の倍満ツモが良くなかったのか?確かにあの時、ユーキを削ろうとして少し無理をした)トン

自分で鳴いてまで海底コースに入ったのも、そうすれば和了れそうだったからだが――逆に言えば、

衣(そうしなければ和了れる気がしなかった。いつもの衣なら、自然に和了れた筈なのに……)

タン……トッ……

衣(……いや、唯我を保て。それはジュンの考え方だ)チャッ

自分は純のように流れを読む事は出来ないが、然りとて純に遅れを取る訳ではない。

衣(衣は衣らしく、いつも通り打たせてもらうぞ!)パシッ
121 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:30:28.51 ID:ZkcsownO0
――――

京太郎(うん……良い感じだ)チャッ

一向聴。

京太郎(多分、今……俺は流れに乗ってる)タン

トッ……タン……

京太郎(それに比べて……天江さんはあんまり良くなさそうだな)タンッ

衣「……」トッ

だが、油断はしない。

京太郎(適度な緊張感……意識すると難しいけど、今は出来てる。このまま……)

――――

衣(……この気配。須賀、手が伸びたな)

京太郎「……」タン

手が進んだのとはまた違う。恐らくドラと入れ換えたのだろう。

衣(しかし、それでも高くない……4000点前後か)タッ

透華「ポン」トッ

衣(……あれ?)

海底コースからずれた。もちろん、それぐらいならよくある事だ。しかし――

衣(戻れそうに、ない……)

下家の牌をポンするか、暗カンで海底コースには戻れる。だが、手には対子が一つだけ……。

衣(いや、関係無い。衣は海底だけじゃない!)

普通に和了りを目指す。それで良い、何も問題は――

衣「」ハッ

京太郎「……」チャッ

上家の、テンパイ気配。

衣(さっきの透華の鳴きといい、衣の支配が弱くなっているのか……!?)

京太郎の手はそう高くはなさそうだ。しかし――

衣(……致し方無い、ここはオリる!)

捨て牌を曲げる姿を見て――弱気に、流される。
122 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:30:57.02 ID:ZkcsownO0
――――

京太郎(今、昨日と同じ感覚だ……)

麻雀を、打っている。

京太郎「リーチ」チャラ

衣「……」チャッ

京太郎(そう、昨日のオーラス……あの時、分かったんだ。自分が無くしていた物が)

蘇る、純の言葉。

『あいつらに追い付きたいんだろ?』

京太郎(違う……)

タン……トン……

京太郎(そうじゃない。俺は……勝ちたいんだ)パシッ

――それだけだった。

京太郎(強くなりたい、追い付きたい、そんなのは全部飾りだ。ただ、勝ちたい……!)

ストッ……タッ……

京太郎(俺は、勝ちたかったんだ!咲や優希、和たちに最初に負けた時……一番に思ったはずなんだ。
追い付きたいとか、並び立ちたいとかじゃなく、こいつらに勝ちたいって!)

――いつから、忘れてしまっていたのか。
昨日、衣に絶望させられた時?マホとの対局で差し込みをした時?ポーカーフェイスを覚えた時?
あるいは、もっと前――清澄で京太郎が負ける事が、当たり前になっていた時。

京太郎(だけどもう逃げない。全力で取りにいく!今、この瞬間の勝利を!)

久しく失っていた、勝利への渇望。それだけを胸に、京太郎は戦う。

透華「……」ストッ


京太郎「ロン!リーチ平和ドラドラ、裏……二枚!18300!」
123 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:31:36.11 ID:ZkcsownO0
――――

南二局二本場

京太郎(親)31300
 衣 (南)25100
透華 (西)10600
優希 (北)33000


優希(京太郎、ノってるな……。さっきまで飛ばす事も考えてたのに、今や二位だじょ)

しかも、点差は1700。南場は守りに徹して逃げ切りたかったが……。

優希(仕方ない、ちょっと無理してみますか!)

――――

衣「ロン。5200の二本場は、5800」

優希「……駄目だったじょ」チャラッ

京太郎(これでトップにはなった……。でも僅差だ、油断は出来ない……)
124 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:32:14.32 ID:ZkcsownO0
――――

南三局

透華「リーチですわ!」タンッ

京太郎(龍門渕さん、攻めるな……当然か。最下位、それも一人沈みだもんな)

トン……タッ……

京太郎(けど、あの表情……)

透華「……」パシッ

堂々とした態度。

京太郎(龍門渕さんは、負けてても堂々としてる事が多いけど……。今は、自信が有りそうな感じだな)

恐らく、ここから巻き返せる具体的な根拠があるのだろう。


透華「――ツモ!リーチ・ツモ・ホンイツ・ドラ1!」

222345(赤)66778s南南 ツモ5s

京太郎(うおっ、何面待ちだこれ……四面か?)

透華「裏は――ひとつですか。点数は変わりませんわね、3000-6000です」
125 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:32:45.01 ID:ZkcsownO0
――――

オーラス

透華 (親)22600
優希 (南)24200
京太郎(西)28300
 衣 (北)24900


京太郎(平らだな……。二位との点数はさっきより広がったけど、最下位の龍門渕さんとの点差は5700……)

ツモなら1500オール、ロンなら2900で捲られてしまう。
飜数にすると、ツモなら三飜、ロンなら二飜程度。もちろん府が高ければそれ以下の飜数でも有り得る。

京太郎(この卓のルールには、西入は無い。安い和了りでもトップに成りさえすればそこで終了だ)

つまり、このオーラスはスピード勝負になる――少なくともこの時は、京太郎はそう思っていた。

京太郎(気を引き締めて、いくぞ!)
126 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:33:20.16 ID:ZkcsownO0
――――

八巡目

透華(無駄ヅモばかりですわ……)チャッ

手が進まない……誰の仕業かは、明らかだ。

衣「……」

透華(衣の支配……ここに来ていっそう強くなりましたわね)タン

スピード勝負。初めは透華もそう思っていた……だが。

透華(衣は元々、高火力の打ち手……。和了率より打点を優先する傾向がある。
早和了りも出来るとはいえ、他三人が全員早和了りを目指している今は、先に和了れる保証がありませんわ)

だから、衣は実に単純な対策を打った。

透華(一向聴、地獄……!自分の早和了りを狙うのではなく、他家の手を強引に遅らせて、先に和了る。衣らしい手ですわ)

衣「……」つ東

少し逡巡してからの、手出し。

透華(重い手を、ゆっくりと進めているんでしょうね……)チャッ
127 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:33:59.19 ID:ZkcsownO0
――――

衣(……これは、まいったな)

透華の予想に反し、衣は既にテンパイしていた。

222m12378s33388p (ドラ:二索)

衣(さっき引いた一索、これでテンパイにはなったが役が無い)

今は安手で十分、しかし安すぎては意味が無い。

衣(リーチをかけても裏が乗らなければ出和了り2600の手、ツモか一位からの出和了り以外に選択肢が無くなる。
リーチはかけない……)

トン……タン……

しかし、そんな判断をした時に限って。

衣(……!九索……っ)チャッ

さっきリーチをかけていれば、と思うも後の祭りだ。当然これで和了ってもツモ・ドラ1で2000点にしかならない。

衣(一位との点差は3400、捲るためにはやや足りない)タン

断腸の思いでツモ切り。まさかツモ和了を見逃すことになるとは思わなかった。

衣(だが、まだ八巡目だ。落ち着いて、手変わりを待てばいい……)

どうせこの局は、誰も和了る事が出来ないのだから。
128 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:34:37.04 ID:ZkcsownO0
――――

十二巡目

衣(くっ、来ない……)タン

中々、手を変えるための牌が来ない。
四索か六索が来ればタンヤオ、七・八索、八筒が入れば三暗刻を狙えるのだが……。

透華「……」チャッ

衣(それでも、まだ五回ツモれる。卓を支配しているのは衣だ、他家が和了る事は無い!)

自分にそう言い聞かせるも、「手変わりをじっくり待つ」という方針に不安を感じ始めた――その時である。

透華「……」つ九筒

京太郎「ポン」パタン

衣(何……?)

――まともに打っていれば、鳴く事も出来ない筈では?

京太郎「……よっと」つ八索

衣(何のつもりだ?)チャッ

表情からは何も掴めないが、自分の(超人的な)感覚で――分かる。今のポンで、京太郎の手は進んでいないと。

衣(ズラすため、という訳でもなさそうだ。つまり、自分の手を無意味に晒しただけ――いや、まて。『晒す』?)

――晒す事、そのものが狙いか。

衣(衣には通用しないが、張っていると思わせれば他家をオロす事が出来るかもしれない)

そうやって相手に誤認させて、逃げ切ろうとしているのか。

衣(ふん、そう都合良くいくものか。この状況でオリる奴などいない!)タンッ

残念ながら、京太郎の狙いは甘いと言わざるを得ない。それどころか――

衣(今のポンで、海底まで衣に回してしまった。お陰で楽が出来る)

今まで手変わりを待っていたが、もうその必要も無い。このまま進めば、海底・ツモ・ドラ1で1000-2000の和了り、リーチも無しで捲り切れる。

衣(あとは意地でも鳴かせないように、支配力を集中させるだけだ!)
129 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:35:11.88 ID:ZkcsownO0
――――

マホ「染谷先輩、あの鳴きには何の意味が……?」

まこ「いや、すまん。わしにもさっぱりじゃ」

困惑。二人の目は、京太郎の手牌に向いていた。

5(赤)67m46s119p南南 999p(ポン)

京太郎「……」

元々持っていた九筒の暗刻、それを崩してのポン。
向聴数は変わっていないが、その後八索を切ったせいで有効牌の数が減ってしまっている。

マホ「なんで、九筒を切らなかったんでしょう……」

まこ「九筒をポンして九筒を切ったら、喰い替えになるじゃろ。
たとえほぼ完全な不要牌だとしても、切れなかったんじゃ」

マホ「ああ、なるほどです!」

まこ「……しかし、そうなるとますますあのポンは不可解じゃ……」

そして、再び京太郎のツモ巡である。

京太郎「……」チャッ

ツモは、八索。


まこ「おお、取り戻したな」

マホ「これで、九筒を切れば元通りですね」

だが――

京太郎「……」つ八索

ツモ切り。


マホ「???」

混乱するマホ。まこもまた、京太郎の真意を読めずにいた。

まこ(どういうことじゃ……?あの九筒ポンはまだ、分からん事もない。
ズラすためにああいう鳴きをする事はあるからの。しかし何故、あの九筒を残す……?)
130 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:35:46.24 ID:ZkcsownO0
――――

純(全く、ここに来てこの『支配』……本気で、他家の和了を潰しにいってるな)

京太郎「……」タン

ツモ切り。今は純の視界からは見えないが、京太郎も含め、衣以外の三人はまず間違い無く一向聴地獄の中にいる。

純(たとえ山の牌全てを操作出来るとしても、『他家の一向聴地獄』と『自分の和了』……両方を成立させるのは難しい。
さっきの京太郎の鳴きなんかは予想外だったみたいだし、その辺は衣も限界が有る)

だから、衣は自分の手を犠牲にして、他家のツモ牌に対する『支配』を優先した。

純(そのせいか、自分の打点が足りなくなったが……京太郎のポンで、その問題はクリアした)

衣「……」タンッ

他三人と同じ、ツモ切りの連続……。しかし、その顔には自信が有る。

純(衣のツモはあと二回……その間、衣の力は誰かがテンパイすることはもちろん、鳴くことも許さないだろう。
――そして最後は必ず衣が和了る)

完全なる支配。――京太郎に、それを防ぐ事は出来ない。

京太郎「……」トン

衣「……」パシッ

純(あと一巡だが、リーチはかけないか……)

透華「……」トッ

優希「……」タン

全員ツモ切り。そして京太郎も最後のツモ牌を取り――
131 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:36:23.09 ID:ZkcsownO0
――――

衣(……どうした?)

京太郎の手が、止まっている。

衣(早く切れ。それは有効牌ではない筈だ!)

その事実は誰よりも――牌を引いた京太郎よりも、場の支配者たる衣が一番良く知っていた。

衣「……おい、どうした?今になって、負けるのが恐くなったか?」

京太郎「……」

京太郎は全く表情を変えないまま――衣と目を合わせた。

衣「……っ!」ゾクッ

衣(なんだ、このプレッシャーは……!)

京太郎「負ける?そんな事、考えてませんよ。俺はここに、あなたに勝ちに来たんですから――カン」

九筒の、加カン。

衣「四枚目の、九筒だと……!?」

そして京太郎は、嶺上牌に手をかける。

衣「……なるほど、あのポンでわざと衣に海底を狙わせ、それを止めるためにその一枚を温存したのか……!」

カンで引く嶺上牌。それによって衣ではなく京太郎が最後の一枚をツモり、流局にする。

京太郎「――それだけじゃ、ありませんよ」

そう、それだけでは足りない。京太郎の勝利条件には――
132 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:37:03.89 ID:ZkcsownO0
京太郎「俺とあなたの点差は3400、ノーテン罰府で引っくり返りかねない。
――だから俺は、この嶺上牌で一向聴地獄を脱する」

衣「なに……っ!」

何を馬鹿な――そう言おうとして凍りつく。
『有り得る』。何故ならその牌は――場の支配者である衣にさえ、分からないのだから。

京太郎「ヒントは、最初から有ったんだ。昨日の対局、その最後に――あなた自身が言っていた」


『和了りますか?』

『いいや……残念ながら、誰もその牌では和了れないよ。どこぞの嶺上使いならば、話は別だがな』


京太郎「咲があなたに勝てたのは、場を支配する力があなたより上だったから。そう思ってましたけど……」

実際には、違う。

京太郎「あの時あなたは、俺の切った牌を大明槓出来た。
そしてもしあなたが咲なら、そこから、嶺上開花で和了る事が出来た……!
それを『和了れない』と断言したという事は――」

つまりそこが、天江衣の弱点。

京太郎「あなたの支配は、嶺上牌までは及ばない。……それが、俺が辿り着いた答えです」

衣「……っ!!」

戦慄。嶺上牌を引く京太郎に、自分を打ち破った咲の姿が重なり合う――敗北の、予感。

京太郎「……」チャッ

しかし――

京太郎「……」タンッ

衣(この、気配……)
133 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:37:43.12 ID:ZkcsownO0
京太郎「……流局ですね。ノーテン」パタン

――京太郎は、引けなかった。

衣「……テンパイだ」バラッ

ほ、っと息をつくのも束の間。

京太郎「……まだ、俺の勝ち筋は消えてませんよ」

勝ちを諦めない声が、衣の臓腑に響く。

京太郎「まだ、龍門渕さんがテンパイなら、親は流れず続行。
そして、龍門渕さんが張っていなくても優希が張っていれば、俺と天江さんの収支の差は3000点。俺の逃げ切りです」

衣(な、に……?)

負け惜しみだ。衣には分かる、直感が教えてくれる。二人の手は、張ってなどいない。
しかし、今この瞬間……衣はその感覚を、信じ切れなくなってきた。

衣(まさか……!?)

果たして、二人は。


透華「……ノーテンですわ」パタ

優希「悪いな、京太郎。ノーテンだじぇ」パタッ

 衣  27900
京太郎 27300
優希  23200
透華  21600

終局。

衣「……っは、はぁ、はぁ……」

一気に弛緩する。気付けば、緊張の余り息も出来ていなかった。

京太郎「……ありがとうございました」

透華「ありがとうございました」

優希「ん、ありがとうございました」

ばらばらと、席を立つ。――しかし、衣だけは座ったまま、ゆっくり息を吐き続けていた。
134 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:38:13.95 ID:ZkcsownO0
――――

マホ「先輩……!」

対局が終わっても無表情のまま、京太郎はマホのもとに戻って来た。

京太郎「ごめんな、マホちゃん。勝てなかった」

そして、そのまま通り過ぎる。

京太郎「……ちょっと、トイレ行ってくる」

マホ「……!先輩!」

呼び止めた時にはもう遅く、京太郎は走って部屋を出ていった。


To be continued……
135 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:41:58.30 ID:ZkcsownO0
投下終了。感想(特に闘牌について)とか有りましたら言ってくれると>>1が喜びます。
次の投下は京マホから入ります。
136 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/08(日) 22:43:48.09 ID:ZkcsownO0
あ、もちろん闘牌以外でも感想はじゃんじゃん言って下さい。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/08(日) 23:15:54.26 ID:wYfpKmjJo
この敗けが後の京太郎を大きく成長させることになるのだが、それはちょっと先の話である
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/08(日) 23:37:04.19 ID:B588Ykg2O
ここで衣に勝てないのが京太郎らしい
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/09(月) 02:16:36.37 ID:52NGnPaFo
京太郎が平らだな……と思ったときどうしても胸が平らだなと思ってしまった
140 : ◆3em28n6/NM [sage]:2017/01/09(月) 06:02:38.32 ID:u2idU3tu0
>>137 >>138
実際凄く惜しい所まで行ってるんだけどね。ここで京太郎が勝てないのは仕方無い
この対局については後々京太郎が思い出してしっかり糧とします。

>>139
優希・透華「屋上」

衣「……?大きい方が良いのか?」

優希「……!!」

透華「そんなことありませんわ!」

衣「そうか、良かった〜」

マホ(そう、マホも胸が無いから>>105のような事が出来たのです。胸なんて……うぅ……)
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/09(月) 22:48:36.04 ID:Trd/d0sZo
たのしみにまってる
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/13(金) 23:29:06.65 ID:XVVFQQrm0

この対局は衣にも糧になるんだろうな
143 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/01/14(土) 21:13:50.01 ID:PP+WlcGR0
いやぁセンター試験は強敵でしたね!(まだ終わってない)
投下はまた一週間ぐらいあとになる……かな?

>>142
そうですね。次の投下の時に京マホで解説シーン入れますけど、京太郎の勝ち筋は実は他に有って、
衣も、京太郎が最後に点差の話(透華がノーテンで優希がテンパイなら〜ってシーン)した時それに気付いてたんで、それでかなり動揺してます。

まあ、次の衣VSマホの戦いの時までに、衣がすぐにそれを糧にして成長してるかと言ったら……分かりませんが。
いずれ京太郎には衣にリベンジしてもらいたいので、その時衣の成長が書けると良いな……とは思ってます。

>>141
ありがとうございます。正直このスレ立てた後になって、闘牌ってあんまり需要ないんじゃないかって不安になりましたけど……。
楽しんで頂けたら何よりです。

このスレは少年マンガのノリを目指してますが、度々変な感じになるかもしれません。
とりあえずエタらないよう頑張ります。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/17(火) 19:10:56.61 ID:H3ZFA3AY0
待ってます〜
145 : ◆3em28n6/NM [sage]:2017/01/22(日) 15:10:29.88 ID:ElAskUxp0
(一週間後に投下出来るとは言っていない)
遅れてすいません、もう少しかかります
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/23(月) 21:25:15.85 ID:b7ZvaPEV0
期限を自分で決めたのに守れないとか
待ってられんわこんなん
しんじらんねぇ
てーれってれー

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/23(月) 22:08:09.21 ID:zgM2LWoKO
>>146
このツンデレさんめ
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/23(月) 22:46:38.21 ID:sdVGH5vWO
もうちょっと頑張れよ
149 : ◆3em28n6/NM [saga sage]:2017/01/26(木) 15:08:42.02 ID:YrfCuXWK0
てーれってれーで不覚にも笑った
投下します。次回予告はまだ書けてないけど
150 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:12:02.03 ID:YrfCuXWK0
京太郎「……」ハァ

人気の無い廊下――壁に背を預けて、そのままズルズルと座り込む。

京太郎「……馬鹿か、俺は」

高い天井を見上げて一人ごちた。

京太郎(負けたからって、逃げ出すとか……ダッセぇ……)

余りの情けなさに涙が出る。

マホ「……先輩」

京太郎「マホちゃん……」

――わざわざ、追いかけて来てほしくはなかった。

マホ「ごめんなさい、でも……」

京太郎「……」

マホ「先輩、カッコ良かったです!……それを、伝えたくて……」

京太郎「……へ」

目を輝かせながら、マホは続ける。

マホ「マホ、全然あんな事わかりませんでした!天江さんの能力に、弱点が有ったなんて!」

京太郎「……あぁ」

その気持ちは良くわかる。――昨日までの京太郎も、そんな事は考えもしなかったから。
151 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:12:57.15 ID:YrfCuXWK0
マホ「凄いです、誰にも聞かずにあんな事に気付けるなんて!」

京太郎「……でも、届かなかった。気付いただけじゃ意味無い、負けは負けだ」

マホ「そんな事ありませんよ!気付いただけでも凄いのに、それを実践までしたんですから!
それに、惜しかったじゃないですか!もう少しで勝ってましたよ!」

京太郎(……あぁ、そうか。俺は今、二つも下の女の子に慰められてんのか)

我ながら、本当に情けない。

京太郎「……ありがとうな、わざわざ追いかけて来てくれて」

意地も張れないで、やってられない。涙を隠し、向き直る。

京太郎「……でも、もう大丈夫だから。ほら、戻ろう。みんな待ってる」

立ち上がろうと床についた手に、マホがそっと手を乗せた。

マホ「先輩、駄目です。無理したら……」

京太郎「無理、なんか……」

静かに首を横に振るマホ。

マホ「辛い時は、思いっきり吐き出さないと……失敗や負けに、囚われちゃいます」

それは、失敗の多いマホだからこその言葉か。

京太郎「……ごめん、意地張るつもりだったけど……」

力を抜く。――自然と、言葉が溢れてきた。
152 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:13:33.60 ID:YrfCuXWK0
京太郎「……悔しい、あれだけやって!勝つために必死に考えて、イカサマじみた手まで使って!
それでも勝てないっていうのかよ、『魔物』には!

お前の力なんか無茶苦茶、理不尽なんだよ!イカサマと良い勝負じゃねーか!咲の嶺上開花も!
優希の東初のツキも、部長の悪待ちも!皆みんなインチキだ、なんであいつらだけそんな特別が許される!?

俺には、何も!なんにも無いってのに、それでも必死に勝とうとしてるのに!
誰かに聞いたらバレるからって、一人でコソコソあの人の弱点探して!

俺が見付けた答えなんて、とっくに皆知ってたんだろ!結局俺は恥かいただけだ、
ここなら可能性が有るってカンして見せて、有効牌の一枚も引き寄せられない!

俺は咲の真似がしたかったんじゃない、ただ勝ちたかった!それだけだったのに、それすら上手くいかない!
勝つために自分の打ち方曲げて、純さんに頭下げて!最後があのザマじゃ、合わせる顔が無いっ……!」

そして、と一度言葉を切る。

京太郎「自分に、一番腹が立つっ……!勝ちたかったはずだろ、お前は!
何を満足してんだよ、楽しんでんだよ!わくわくしてんじゃねーよ、もっと悔しがれよ!」

――そこから先は、もう言葉にも出来なかった。マホに撫でられ、あやされながら、ただただ泣き続けた。
153 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:14:02.73 ID:YrfCuXWK0
――――

京太郎「……」

マホ「スッキリしましたか?」

京太郎「……いや、一周回って自己嫌悪に陥ってる。ほんと何やってんの俺、年下の女の子に泣きつくとか……」

クスッ、と笑いが漏れた。

マホ「大丈夫ですよ。マホは気にしませんし、誰にも言いませんから」

そしてハンカチを取り出そうとポケットに手を突っ込み――

マホ「あれ?……ごめんなさい、部屋にハンカチ起き忘れてたみたいです……」

京太郎「……つくづく、締まらないな。お互い」

誤魔化すように立ち上がり、京太郎に手を貸して立たせる。

マホ「マホ、決心しました!」

京太郎「……何を?」

袖で擦って目の周りを少し赤くしながら、京太郎は尋ねる。

マホ「先輩の、敵討ちです!今度はマホが、天江さんに挑戦します!」

京太郎「……へえ。勝算は、有るのか?」

マホ「ありません!でも、これだけは言えます」

笑いながら。

マホ「挑戦しなきゃ、勝つ事もありません。……だから、先輩。また、天江さんに挑戦してみて下さいね」

京太郎「……うん、そうだな。次、勝てば良いよな……」

マホ「じゃ、約束ですよ?」

京太郎「あぁ、約束」

ゆびきりげんまん。
154 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:14:38.25 ID:YrfCuXWK0
――――

ゆっくり廊下を歩きながら、二人で話を続ける。

マホ「マホ、分かったんです」

京太郎「? 何が?」

マホ「昨日……天江さんに言われた事です。真似だけしてても、身が追い付いてないって。
もし、天江さんの弱点を知らないまま真似してたら、上手く打てなかったと思います」

京太郎「あー、確かに」

マホ「それに、マホはマホ自身の『真似』がどういう物なのかも、良く考えたら分からない事だらけです」

京太郎「……そうだな。自分の事は、知っておかなきゃな」

――自分が、何を求めているのかも。

京太郎(勝利、対等な勝負、コミュニケーション、楽しむこと……。俺は麻雀に、何を求めてるんだろうな)

今はまだ、分からない。――なら、探していこう。
ブレながらでも、麻雀を打ち続けていれば――見えてくる物も有るはずだ。

マホ「……ところで、さっきの対局について聞いてもいいですか?」

京太郎「何?」

マホ「あの槓材、どうして最後までとっておいたんですか?」

京太郎「……どうしてその疑問に至った?」

マホ「一番は、先輩が最後に引いた嶺上牌です」

そう、京太郎は最後ツモ切りせずに手出しの安牌を切ったが――
後ろから見ていたマホは、京太郎が最後に引いた牌を知っている。

マホ「七索、でした。ポンする前の先輩にとっては、有効牌の……」
155 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:15:19.75 ID:YrfCuXWK0
ポンする前、京太郎の手牌には『両嵌(リャンカン)』と呼ばれる形――すなわち四・六・八索が有った。

マホ「先輩が言った通り、嶺上牌なら有効牌がある可能性はあった……。
なら、テンパイする可能性を少しでも上げるために、八索がある時にカンしていれば……」

そのチャンスは二回有った。京太郎がポンをした時と、ポンをした次の巡。

マホ「四索と八索のどっちを切るか、っていう選択肢なら分かります。
あの時先輩の視界からは五索は全山で、七索は二枚切れでしたから。でも……」

そもそも、そのどちらかだけに絞る必要は無い。

マホ「両方を待てる時にカンしておけば、テンパイ出来る確率は上がっていた……。
というか、実際テンパイ出来ました。どうしてそうしなかったんです?」

京太郎「……うん、ほとんど分かってるな。素晴らしい質問のしかただ」

マホ「……先輩が最後に引いた牌が、七索じゃなきゃ気付きませんでした」

京太郎「正直だな、っていうか皮肉か?じゃあ理由を言おう。……俺はあの時、自分のツモを信じてなかった」

マホ「えっ……?」

京太郎「まあ聞け。あの時は自信満々に有効牌を引くなんて宣言したけど、
元々そんな保証はどこにもなかったろ?……咲じゃあるまいし」

マホ「じゃあ、先輩はそもそも、どうやって勝つつもりだったんですか!?」

京太郎「実に良い質問だ。俺が一番期待した物、それは……天江さんのリーチだ」

マホ「リーチ……?」

京太郎「あぁ。天江さんにとって、海底は代名詞みたいなもんだ。咲の嶺上開花と同じだな。
もちろんそれだけじゃない。他家を一向聴からそれ以上進ませない、って能力の方がよっぽど凶悪だ」

マホ「……でも、海底は天江さんにとって『特別』だと?」

京太郎「天江さんがどう思ってるかは知らないけど、少なくとも自信はかなり有るみたいだ。
……その自信の表れが、十七巡目のツモ切りリーチ。リーチ・一発・ツモ・海底で、役無しでも最低四飜は付く」

マホ「……でも、だからってあの点差でリーチは……」

そう、普通はかけない。実際に衣も、リーチをかけずに手変わりを狙い、海底もそのままツモろうとしていた。

京太郎「昨日の対局、俺が天江さんにボッコボコにされた時。
あの時の天江さんは、逆の意味で『普通はリーチをかけない点差』からリーチをかけてきた」

華は衣が飾ってやろう、とかなんとか言って、お得意のリーチ・一発・海底ツモで数え役満を和了った。

京太郎「あれは舐めプだ。どんな安手でも俺を飛ばす事は出来た、にも拘わらず天江さんはリーチをかけた。
……俺は今回、それを期待したんだよ」

マホ「……だから、最後の一巡まで加カンをとっておいたんですね」

京太郎「あぁ。あの瞬間、他二人が張っていない限り、俺はノーテン罰府で逆転される状況だった。
でも天江さんがリーチをかけてくれれば、その時点で点差が4400になる。あとは加カンで和了りを防げば逃げ切れる」

マホ「なるほど……でも、天江さんはリーチをかけませんでした」

京太郎「そこは単純に俺の読み違いだったな。海底を狙うように誘導する所までは上手くいったんだけどなぁ。
しかも、そっちに賭けずに自分のツモを信じていればテンパイは取れたんだから、分からないもんだ」

ただ、と京太郎は続ける。

京太郎「早い段階でカンをしてたら、天江さんに海底を狙わせる事は出来なかった。
……その時点でズレるからな、海底牌が」

マホ「……やっぱり、凄いです。マホ、そんなにいっぱい考えて打てません……」

京太郎「ま、そこはこれから伸ばしていけば良いさ」
156 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:15:50.88 ID:YrfCuXWK0
――――

東一局

衣 (起)25000
純 (南)25000
咲 (西)25000
マホ(北)25000


衣「ふふっ、まさかお前も衣に挑んでくるとはな……」

マホ「あれ、対局までの流れは……?」

??『キンクリじゃ』

マホ「そんな!?」

京太郎「あ、俺はちゃんと見てるからな」

久「私も、見てるわよ〜」

智紀「メタに言えば、解説役……因みに私も」

マホ「先輩方に見られてる……緊張するけど、いつもの通りに……」

咲(いつも通りって、チョンボしちゃうんじゃ……)
157 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:16:20.69 ID:YrfCuXWK0
――――

モグモグ

マホ「よしっ、タコスぢから充填!リーチ!」

純(これはズラしておきたいな)

衣「……」スッ

純「それだ、チー!」トッ

咲「……」トン

マホ「一発ならず、です……」トン

タン……ストッ……

咲「――カン」バラッ

衣(来るか!)

咲「もいっこ、カン」バラッ

マホ「!?」


咲「――ツモ。中・ツモ・嶺上開花、2000-4000です」

56789m33s ツモ4m 8888p(暗槓)中中中中(暗槓)


久(初っ端から飛ばすわね〜)

京太郎(三飜で満貫だと!?インチキ和了もいい加減にしろ!)

智紀(相変わらず、槓ドラ乗らない……)
158 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:16:50.86 ID:YrfCuXWK0
――――

東二局

衣「リーチ!」

純「チー!」カシャッ

咲「……」トン

純「ポン!」タンッ

トッ……タン……

純「よし、ツモ!500オールだ」

京太郎(流石だな、純さん)

智紀(デジタル派の私には、『流れ』っていまいちよく分からない……)

純「一本場!」チャッ

衣(……妙なものだ。支配力が、さっきの対局から格段に落ちている。咲の存在が有るからか……?)

――――

東二局一本場

純「リーチ」タンッ

咲「早いなぁ……うーん、これかな?」トン

マホ「……」チャッ

2333m5(赤)67s245679p ツモ3p

マホ「追っかけリーチです!」つ二萬

久(あら、三面待ちを捨ててドラ単騎?しかも二枚切れだから地獄単騎ね……)

タン……パシッ……

マホ「一発ならず、ですー……」トッ

久(でも、私の真似とは限らないわね。『カン出来る』待ちを選んだ可能性もあるし……)

純「――げっ、ドラかよ……」タッ

マホ「ロン!リーチドラ3……あっ、裏ドラも九筒です!リーチドラ5で、12300!」

純「うわ、マジか……」チャラ

久(……やっぱり『悪待ち』だったみたいね)
159 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:17:17.86 ID:YrfCuXWK0
――――

東三局

咲 (親)33500
マホ(南)34800
衣 (西)19500
純 (北)12200


衣「……」チャッ

23445677m45(赤)6s34p ツモ6p

衣「……」つ三筒

京太郎(待ちを少なくして手役を一飜上げたか……)

トン……パシッ……

衣「……ツモ。3000-6000」バラッ

23445677m45(赤)6s46p 5(赤)p

智紀(ここで赤五筒を引くのが、魔物と呼ばれる所以……)

――――

東四局

マホ「……」タッ

純「ポン!」タン

咲(四巡目だけど、もう二鳴き……オリよっと)トン

マホ「う〜ん。じゃあ、リーチです!」タンッ

純「ロンだ。トイトイのみ、3200」バラッ

マホ「はい……」チャラ

京太郎(今のは突っ張るような手じゃない……まだその辺の判断が甘いな)
160 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:17:48.70 ID:YrfCuXWK0
――――

南一局

衣「……」トン

智紀(衣は黙テン……でも高目なら24000の手、純に当てれば飛び終了か……)

トッ……タン……

咲「……衣ちゃん、張ってそうだね」

衣「さぁ、どうかな」チャンデハナク

咲「じゃあ、これ!」トッ

マホ「……」ヒュン

智紀(ツモって即切り……まるで無駄の無い打ち筋……)

衣「……」トン

純「おっ、それポンだ」タン

智紀(白ポン……純はオリてない……?)

トッ……ヒュッ……

衣(……さっきの白ポンから、やけに静かになったな、ジュン……)トン

タン……ヒュンッ……

純「……あ」

智紀(……? どうしたんだろ)

純「ツモだ、大三元」バラッ

『!?』

マホ「えぇっ!?」

純「8000-16000だな。いやー、流れが来てるとは思ってたが、まさかツモるとは……」
161 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:18:24.56 ID:YrfCuXWK0
――――

南二局

純「……」

衣(トップになって、ジュンがオリを意識しているな。
ここまでポンでやたらとツモを飛ばされたが、もう邪魔は無い!)チャッ

衣「リーチ!」ダンッ

純「うわっ、早いな……」トッ

咲「……」トン

マホ「……」ストッ

純(鳴けねぇ……)

衣「――ツモ!リーチ・一発・ツモ、平和・三色・ドラ3!4000-8000!」

久(16000点……さっきの役満親被りを帳消しにしたわね)

――――

南三局

咲 (親)15500
マホ(南)16600
衣 (西)31500
純 (北)36400


咲「……」タン

123m123s23444p南南

京太郎(咲、この待ちでリーチかけないのか……?最下位なのに)

マホ「……」つ南

咲「……」

京太郎(しかもスルーか……こりゃ、あの四筒だな)

衣「……?」チャッ

不審そうに首を傾げる衣。しかし、そのままツモ切りし――

咲「カン」バラッ


咲「……ツモ。嶺上開花、三色。3900」

123m123s23p南南 4444p(明カン) 1p

衣「くっ、責任払いか……!」

京太郎(本来なら同巡フリテン、というかそもそも四筒じゃ役が付かないってのに……。
こいつの能力、結構応用利くよな)
162 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:19:30.20 ID:YrfCuXWK0
――――

南三局一本場

咲「……」トン

衣(また役無しのテンパイ気配……!)

マホ「……」タン

衣「……」チャッ

衣(九索……生牌。また掴まされたか?)

流石に今度は切らない。

衣(同じ失敗は、繰り返さない……!)ストッ

純「……」タン

咲「……」つ北

そして咲が、ツモった牌をそのまま表向きに置く。

純「ツモか?」

咲「いいえ。――カン」パラッ

ゴッ

咲「ツモ。2400オール」

678m123999s5p 北北北北(暗カン) 5p


久「70府二飜かー……懐かしいわね」

衣(やはり、掴まされていたか……!)パタン

――――

南三局二本場

咲「ふふっ……リーチ」タンッ

純(勢い、止まらねーな……)

タッ……トン……

咲「――ツモ!6200オール!」

純(捲られた……!)

智紀(カンしなくても、普通に和了れるのか……衣、ちょっと調子崩れてるな)

衣「……」
163 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:20:04.67 ID:YrfCuXWK0
――――

南三局三本場

マホ「宮永先輩、凄い追い上げです……!」

咲(とりあえずトップにはなったけど……衣ちゃんの支配、また強くなってきた?)タン

衣の力にはムラが有る。月齢や時間も関係しているらしいが、本人の精神状態にも大きく左右されるようだ。

咲(昨日、京ちゃんと打ってた時は調子良かったみたいだけど。……そういえば、三日後には満月か)

タン……トン……

一向聴のまま、六回もツモ切り。やはり、これは衣の支配――

純「リーチ」チャラ

咲(え、リーチ……?)チャッ

また無駄ヅモ。しかし――

咲(……ってことは、これは私のツモが悪いだけ?)タン

――――

智紀(基本的に衣の力は、卓全体に及ぶ。誰か一人だけ悪ヅモにしたりは出来ない)

だから、自分の手牌だけ見ていたのでは衣の調子を量り切れない。

タッ……パシッ……

咲「……」チャッ

智紀(……押すか引くか、迷ってるのかな?)

咲の手はしばらく動いていないが、今ようやく有効牌が来た。

智紀(余った牌は二枚切れだけど、純に対しては危険牌……。トップだし、私ならオリるけど……)

咲「……」トン

スジ切り。咲もまた、オリを選んだようだ。
だが、しかし――

マホ「宮永先輩。その牌――カンです」パタッ

智紀(大明カン……!)

ゴッ

マホ「ツモ。嶺上開花、三暗刻、トイトイ!8900です!」

咲「まさか、責任払いを自分がするとは思わなかったよ……」

マホ「はい!こういう使い方もあるんですね〜」
164 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:21:01.40 ID:YrfCuXWK0
――――

オーラス

マホ(親)17900
衣 (南)19000
純 (西)26800
咲 (北)36300


衣「……」

咲(ん、衣ちゃん……もしかして、今本気出した?)

『魔物』特有の威圧感。自分にも有るらしいが、意識して誰かを威圧したことは無い。……つもりだ。

咲(配牌は……三向聴だけど……)

346m67s12345(赤)p東北中

咲(ドラは……八筒か。カン出来そうにないのは、困ったなぁ……)

いつもなら、対子か刻子が最低一つは有って、その内の『カン出来そうな牌』がなんとなく分かるのだが。

咲(参ったよ……カンしなきゃ、衣ちゃんの支配からは逃れられない)

二局前は、普通に打って跳満を和了ったし、一局前も純やマホはテンパイしていた。
――しかし、それは予兆でもある。

咲(初めて闘ったあの試合でも、衣ちゃんが力を見せ始めた後に、加治木さんが普通に七対子を和了った。
でもその後から、また衣ちゃんの独走が始まったんだ)

その時と同じ状態だとしたら、この点差でも安心は出来ない。

咲(安手で流したいけど、多分テンパイもさせてくれない……)

王牌の絡まない限り、衣の力は絶対的だ。

咲(……なら、私はオリて井上さんに期待しよっかな)タンッ

――――

純(鳴けそうに……ないな……)トン

69m247s8p東南西北白發中

九種八牌――字牌が綺麗に揃っている。

純(これだよなぁ。
オレは鳴き有ってのプレイスタイルだってのに、衣と打ったらそもそも鳴かせてくれない局が有る)

これでは、衣のツモを飛ばすことは疎か、流れを変えることも出来ない。

純(根本的な所で、俺は衣と相性悪いんだよなー)

なら、相性の良いやつに任せればいい。

純(衣は徹底的に鳴きを潰してくるだろうし、それならいっそオレは国士狙ってみるか。
……衣の相手は宮永にしてもらおう)タン
165 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:21:36.15 ID:YrfCuXWK0
――――

衣(よし、この感覚……。二人の手は『支配』の中だな)

純に鳴かれて、衣のツモが飛ばされることはもう無い。加えて、それ以上に厄介なのは咲だった。

衣(支配する領域が違う、というだけでも衣にとっては難敵だが……。
衣の咲との相性の悪さはそこだけではない)

――それはずばり、カンそのものだ。
支配の及ばない所から牌をツモられるカン――特に暗カンを、衣は止めることが出来ない。

衣(何故なら、衣の支配をすり抜ける物には王牌だけでなく――
槓材における『四枚目』の存在も含まれるからだ)

例えば周りの牌が無い牌(特に字牌)の刻子が手にある時、その同名牌――すなわち『四枚目』は、
有効牌ではない。衣の力は有効牌を相手に引かせないが、『四枚目』は引かせてしまうのだ。

衣(もちろん元々引ける確率は低く、仮に引いても、嶺上に都合良く有効牌がなければテンパイは叶わない)

だが咲は、その両方を可能にする。
槓材を集め、嶺上を支配する――衣にとって、これほど闘いづらい相手もそうはいない。

衣(しかもこの『四枚目』は感覚的に察する事もできない。
だから須賀の加カンも読めなかった訳だが……)ジッ

対面を注視。――咲の表情は、あまり明るくない。

衣(……咲は、けっこう分かり易いからな。
この点に於ては、あの男のポーカーフェイスは大した物だった)タッ

トッ……タン……

今や、場は完全支配――ポン・チーは誰にもさせない。後は咲をマークし続けるだけだ。

衣(……さて、脅威となる対象はほぼ封じたが)チャッ

トップとの点差、17300。

衣(咲から跳満を出和了る、というのは流石に傲慢が過ぎるか。倍満ツモが最も確実だな)

そして最後に衣は、マホを見遣り――すぐ咲に視線を戻す。

衣(こいつの模倣が成功するのは、多くとも一日の内、一人分を一局が限度。
咲の模倣はつい一局前に見たばかりだ。隙を突かれることは無いだろう)パシッ
166 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:22:08.60 ID:YrfCuXWK0
――――

トン……トン……

ツモっては、切る。鳴きもリーチも無い場には、ただ単調な作業だけが続き、
いつしかそれは更に単調な作業、ツモ切りの連続となっていた。

マホ「……」チャッ

それを嫌だとも思わず、マホは考える。

マホ(須賀先輩……。先輩はあれだけのヒントから一人で考えて、天江さんの弱点に気付きましたよね。
なら、マホも……)トン

考える。京太郎から聞いた事、マホ自身が見てきた物――それらを繋げて更に奥、深くへ。


マホ(誰も副露出来ないほどの、完全な支配……今日の対局で、先輩がオーラスにポンできた理由は……?)

思考を加速させる。今日見た卓の記憶を掘り起こす。……目を眇め、手牌と卓を眺め――

マホ(あ……)

思考が止まる。もう一度頭の中でなぞり、違和感。

マホ(あれ……?途中経過は分からないけど、『こうすれば良い』っていう確信みたいなものが……)

何故、その結論に辿り着いたのかは全く分からない。しかしマホにはこの時、勝利への道が見えた。

マホ(……でも、本当に信じて良いんでしょうか……)

天恵のような閃き、それだけに迷う。それを信じて良いのか――

マホ(……! 信じる……)

『俺はあの時、自分のツモを信じてなかった』

マホ(先輩……)

『自分のツモを信じていればテンパイは取れたんだから、分からないもんだ』

マホ(……マホは、信じます!上手くいくかどうかは分からないけど、自分を信じて……打ちます!)

十六枚目の牌を切り、マホは手牌に手を伸ばした。
167 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:22:44.06 ID:YrfCuXWK0
――――

京太郎(ん……マホちゃん、手牌を並び替えた?)

3m223344m123s778p

京太郎(三萬を一番左に……?次はあれ切るつもりかな)

タン……トン……

京太郎(もう十六巡目、でもやっぱ天江さん以外はノーテンか……)

マホ「……」スッ

京太郎(あ、当たる――)

パタッ

ツモ牌を持ってきたマホの手が、手牌に引っ掛かり――二枚を、自分の側に倒す。

京太郎(良かった、見せ牌にはなってない――)

パラッ

京太郎「……え?」

最初に倒した二枚を直そうと手を入れ――その両サイドの牌が、今度こそ向こう側に倒れた。

  二  四
■■萬■■萬■■■■■■■
   ■■

マホ「……」チャッ

直ぐに戻すが、

京太郎(もう遅い。みんな見たぞ……)

咲「チョンボ癖、治ってないね……。見せ牌のペナルティ、分かる?」

マホ「はい!えっと……見せた牌ではロン出来ない、
見せた牌を含んだ形でポン・チー・大明カン出来ない、ですね」

純「ま、この卓のルールではそんな感じか」

京太郎(この卓の、か……チョンボ一つとっても、ルール次第で大違いなんだよな。麻雀は)
168 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:23:14.70 ID:YrfCuXWK0
――――

マホ「つまり、マホは二萬・四萬を使えなくなりました……」トン

衣「……」チャッ

マホのツモ切りを一瞥し、衣は考え込む。

衣(さて、この手……)

5(赤)5m11223s678p白白白 中

衣(白イーぺーコードラ2、四飜。リーチを掛ければ倍満に届くが……)

どうも、マホのチョンボが引っ掛かる。

衣(態とらしい……とまでは言えないな。こいつはチョンボがやたらと多い、只のうっかりかもしれない)

だが。

衣(今の見せ牌で、情報が増えたのは事実。少なくとも二・四萬が一枚ずつ有ることは確定した……。
更に、推測まで含めれば……内側に倒れた二枚の牌。見えなかったあの牌も、二・三・四萬の可能性が高い)

当然その情報を、咲や純も得た訳である。

衣(となれば……リーチをかけても、衣が海底をツモれないようにズラされるかもしれない。
かといって、リーチをかけなかった場合、もしズラしが無ければ衣は海底を見逃すことになる)

そして、そのどちらのケースでも発生する問題は。

衣(衣が和了れないという事は……必然的に、親が和了かテンパイで連荘にならなければ、衣に勝ち筋は無い)

それは勝ちの可能性を、マホに――他人に委ねるという事。

衣(……なら、迷う事は無い。衣は自分の力で和了ってみせる!)

ダンッ

衣「リーチ!」
169 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:23:47.29 ID:YrfCuXWK0
――――

純(ラスト一巡……やっぱ来たか)チャッ

ツモ牌は、白。今の衣のツモ切りで二枚切れなので、鳴ける牌ではない。

純(……結局、一向聴のままだったか。後は一筒か九索が来ればテンパイだったのになー)つ白

――――

咲(衣ちゃんのツモ切りリーチ……。倍満ツモられたら捲られちゃう、止めなきゃ……)チャッ

3456m678s112345(赤)p 北

咲(手は崩す事になるけど……もう、これしか無いよね)スッ

手に取ったのは三萬。

咲(マホちゃんが見せた牌は二萬と四萬、そしてその間の牌は二枚。
もしそれが三萬なら――これをポンしてくれるはず)

恐らく、マホの狙いは形式テンパイ、そして連荘だろう。マホはマホで逆転を諦めてはいない。
しかしこのまま衣を放っておいたら、倍満ツモで捲られてしまう。それだけは避けたい。

咲(多分、マホちゃんは三萬をポンすればテンパイ出来る形……。
連荘になるから安心は出来ないけど、今は衣ちゃんを止めるしかない)つ三萬


マホ「……」パタッ

   三三
■■■萬萬■■■■■■■

咲「……ポン?」

マホ「いいえ、違います」スッ

咲(え――)


パタン

三  三三
萬■■萬萬■■■■■■■■

マホ「――カン」
170 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:24:27.55 ID:YrfCuXWK0
――――

衣(何っ……!?)

大明カン。鳴きは有るかもしれないと思っていたが、

衣(上家からの大明カンだと!?)

マホ「……」スッ

嶺上牌に手を伸ばすマホ。

衣(ポンで形式テンパイを取るものだと思っていたが……そうか、こいつは衣の弱点を突くつもりか!)

驚くべき事ではない。マホは、京太郎と衣の勝負を見ていたのだから。

マホ「……!来ました……」チャッ

衣(この気配……!まさか、引き当てたか!)

テンパイの気配――ただし、役はついていないようだ。感覚で分かる。

マホ「……」つ七筒

衣(……大した物だ。咲の模倣をしている訳でもなく、自分の運で勝負するとは)

マホ「新ドラは三萬、モロ乗りです!――さ、天江さん。最後のツモをどうぞ」

衣「……あ、ああ」スッ

牌に手を伸ばす。

衣(まさかカンドラまで……だが、関係無い。どうせ役無しだ、それにもうこのツモで――)ピタッ

手が止まる。牌まであと数ミリという所で、動かない。

衣(――このツモで、終わり?)

自分が何か、決定的に間違えたという直感。

衣(なんだ、一体何を?)

頭の中で今の状況を整理する。

衣(親の形式テンパイ、衣の一発の消失。
衣が海底牌をツモる事は変わらないが、カンのせいで海底牌そのものがズレた)

恐らく和了り牌は引けないし、仮に引いても見逃すだろう。

衣(王牌は支配出来ないからな。裏ドラが確実に乗る保証が無い以上、和了り牌も見逃す。
そして流局、親のテンパイで続行だ。次の局にも逆転の機会は有るだろう)

――まだまだ、これからだ。改めてそう結論付ける。

衣(……なのに、どういう事だ?今にも負けそうだという、この悪寒は――)チャッ

不吉な予感を振り切り、ツモ牌を確認。――九筒。

衣(やはり、引けなかったか……)タン

届かなかった本来の海底牌をちらと見る。――少し、未練があるが仕方ない。

衣「……今はこれが海底牌だ。流局だな」

――しかし、その言葉に異を唱える声が響く。

マホ「――海底、ですか?違いますよ」

衣「……?何を言って……」

マホ「河に出たんですから、もうそれは――河底と呼ぶべきです!」

バラッ

22444m123s78p 3333m

マホ「ロン!河底ドラ5、18000!」
171 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:25:07.37 ID:YrfCuXWK0
純「――!!」

咲「捲られた……」

マホ 36900
 咲 36300
 純 26800

マホ「……やったー!勝ちました!」

衣「……衣の、負けか」

疑いようも無い。自分の点数を見れば――。

衣(皮肉なものだな。0点ジャストとは……)

対局を振り返り、衣は反省点を探す。

衣(最後の、振り込み……リーチをかけていなければ、なかったかもしれない)

十七巡目の思考の末に、リーチをかけた方が勝算が高いと思ってしまった。

衣(衣も、まだまだだな……)

マホの意図を読み切れなかった事もそうだが、衣はリーチをかけた瞬間――易きに流されていたのだ。

衣(鳴きが有るかもしれない、しかし無いかもしれない。
その二つの可能性を突き付けられて――衣は、『この局での勝利』に目が眩んだ)

鳴きが無ければリーチで勝てる。
目の前にぶら下がったその可能性に飛び付いた時点で、衣は負けていたのだ。


「「「「ありがとうございました」」」」
172 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:25:37.96 ID:YrfCuXWK0
――――

マホ「先輩!勝ちました!」

京太郎「凄いな、本当にあの卓でトップ取るなんて」ナデナデ

マホ「えへへー」

京太郎「驚いたぞ、河底で和了るとは……」

マホ「はい!マホも驚きました」

京太郎「え?確信が有ったんじゃないのか」

マホ「先輩の嶺上狙いと同じで、確信なんてありませんでした。
最後の局は、先輩の真似でしたから」

京太郎「あー、やっぱそうだったのか。
てことは、本当に運が良かっただけなんだな、嶺上牌の四萬も、河底牌の九筒も」

マホ「はい。先輩と違ったのは、たまたま上手くいったって事だけです。でも……」

京太郎「……ああ、分かってる。だからこそ、俺にも勝ちの可能性が有るってことだろ?
大丈夫だ。諦めずに、何度だって挑んでやるさ」

マホ「はい!」

ポン、と軽く頭を叩いて手を降ろす。同時に、京太郎の顔もマホと同じ高さまで降りていた。

京太郎「……な、一つ良いか?」

マホ「?はい」

低い声に、マホもボリュームを落とす。

京太郎「あの見せ牌、あれもわざとだよな?俺の真似なんだから」

マホ「……はい」

京太郎「なら……もう二度と、俺の真似はしないでくれ」

マホ「え……」

京太郎「外側から見て、ようやく分かった。
チョンボを戦略として利用するってのが、どれだけ歪んでるか」

マホ「……」

京太郎「とにかく勝ちたい、その思いだけで打って……大切なものを見失ってたのかもしれない。
今思えば、チョンボ癖に悩んでるマホちゃんの前で戦略的にチョンボするなんて、俺はどうかしてたよ」

だから、と京太郎は小指を立てる。

京太郎「約束だ。俺ももう、あんな打ち方はしない。
だからマホちゃんも、あの時の俺の事は真似しないでくれ」

マホ「……はい。わかりました」

指切り、げんまん。
173 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:26:08.42 ID:YrfCuXWK0
――――

そして時は過ぎ……。

衣「もう帰るのか?」

咲「うん。また、一緒に打とうね」

純「ははっ、また来いよ」

優希「くっ……次は絶対勝ち越して、その余裕ひっぺがしてくれるじぇ!」

透華「楽しかったですわ。ぜひまた」

久「ええ、もちろんよ」

各々に挨拶を済ませる。そして、いよいよ屋敷を出るという段になり――

久「さ、行きましょ」

衣「おーい、ちょっと待ってくれ!」タタッ

マホ「……?」

京太郎「俺たち……ですか?」

衣「あぁ。その……なんだ。今言うのも変だが、伝えてないと言ったらトーカが怒るのでな……」

京太郎「何ですか?」

歯切れの悪い様子に、何か悪い事でも有ったのかと身構える京太郎。

衣「夢乃マホ。それに……須賀京太郎。お前たちと打って……楽しかったぞ」

京太郎「……え?」

マホ「――はいっ!マホも、楽しかったです!」

衣「そうか、良かった。……それだけだ、じゃあな」

京太郎「……天江、さん」

きびすを返そうとする衣を、京太郎は呼び止めていた。

衣「衣で、良い。なんだ?」

京太郎「俺も……楽しかったです。またやりましょう、衣さん」

衣「……!ああ、またな。京太郎!」ニコッ
174 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:27:53.35 ID:YrfCuXWK0

――――

帰りのバスにて。

和「ぐっすりですね、マホちゃん……」

京太郎「和。……そうだな、疲れてたんだろ」

マホ「……」スヤスヤ

衣との対局のあとは、集中が切れてチョンボを連発していたほどだ。

京太郎(それでも、上手くなりたくって……足掻いてるんだもんなぁ……)

頭を撫でかけ、止める。起こしては悪い。

和「須賀君……ごめんなさい」

京太郎「え?どうした、突然」

和「私は、マホちゃんに麻雀を教えてくれる人として……貴方に、期待してしまいました」

京太郎「俺に?」

和「はい。実は、あの日……マホちゃんと須賀君が初めて会って、卓を囲んだあの時。
須賀君は、マホちゃんに麻雀を教える上で……私に足りない物を持っていると、気付いたんです」

京太郎「和に無い物を、俺が?麻雀でか?」

和「麻雀で、と言うよりは……人に物を教える上で、と言う方が良いでしょう。それは……初心、です。
文字通り、初心者なら誰もが持っている感情、観念……そして、私が忘れてしまった物」

京太郎「……初心」

和「ええ。私は、もう随分長く麻雀を打ち続けて来ました。
初心者だった頃の気持ちが思い出せない程に……」

京太郎「……だから、マホちゃんみたいな初心者に教えるのは、上手くいかないって事か?」

和「……目標には、してくれているようですけど。
残念ながら……私は、マホちゃんがどんな風に打ちたいのかが分からないんです」

京太郎(デジタルを極めて、ブレを失ったから……ブレるマホちゃんの打ち方が理解出来ない、って事か)

和「……須賀君は、確実に成長した。あの日の対局を見て、マホちゃんの先生に相応しいのは……と。
そんな勝手な思い込みをしてしまって。そのせいで、差し込みにもキツく言ってしまいましたし……」

京太郎「いや、まあ……あれは俺が悪かったしな」

和「……そうですね。でも、私は貴方に理不尽な怒りをぶつけていたのかもしれない……と。
だから、謝らせて下さい。……勝手な期待をかけて、すみませんでした」
175 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:28:24.43 ID:YrfCuXWK0
京太郎「……そういう事なら、俺も一つ言わなきゃならない事がある」

和「?何ですか」

京太郎「この合宿で、麻雀を打って……気付いたんだけどな。さっき言った、差し込みの事だ。
和は俺に……あの卓で打ってた人全員を馬鹿にしたって言ったな」

和「はい」

京太郎「……今なら、よく分かる。あの時俺は、同卓してる三人に悪い事をしたと思ったけど。
全員ってのは、俺も含むんだよな。俺は、俺自身の『本気』も馬鹿にしてたんだな……」

和「……そうですね。今回の合宿で……本気で打って、気付きましたか」

京太郎「ああ。本気で何かに取り組む……中学の部活以来かな。凄く、楽しいよ。
そんで、負けるのは悔しい。勝ちたいって気持ちが、前よりもでかくなってきてる」

京太郎「だから……まだ、足りないんだ。俺はもっと、もっともっと打ちたい。
麻雀で勝ちたいし、強くなりたい。お前らの本気に、いつか勝てるように」

和「……はい。頑張って下さい」

ふと、視界が陰る。

久「……ね、須賀君」

見れば、前の座席から久が顔を出していた。

京太郎「部長?」

久「もっと打ちたいのよね。なら――」


久「――鶴賀とか、行ってみたくない?」

To be continued……
176 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:33:04.04 ID:YrfCuXWK0
龍門渕編、終。
はい、というわけで次は鶴賀編です。次回予告はまだだけど。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/26(木) 17:53:30.75 ID:2Oy2Zb4So
乙です
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/26(木) 19:17:52.45 ID:JubFrrv7O
乙〜
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/26(木) 21:36:14.50 ID:tyniHM/7o
180 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/01/27(金) 05:14:31.96 ID:5Q0+Z9NY0
智美「えらいハリキリ☆ガールがやって来たじゃないか」

佳織「よーし、私だってかっこいいところみせてあげるよー」

ゆみ「死人に口有りさ」

睦月「おどろくのは まだ はやい!」

桃子「あなたの目……くすんでるっすよ」


次回、『見えるけど、見えない人』。お楽しみに!
181 : ◆3em28n6/NM [sage]:2017/02/02(木) 18:16:04.73 ID:nvDCqgbP0
京たんイェイ〜
しかし投下はまだ先になる模様。誕生日祝いの小ネタ短編とか、地味に憧れだったんだけどね……
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/02(木) 20:01:40.12 ID:SLluPYdVo
待つ照
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/03(金) 03:07:41.89 ID:nPrbi5Lm0
待つ照(しかしお菓子は待てない模様)
184 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/02/28(火) 19:59:39.93 ID:eir6RCr60
まずい、既に一ヶ月が経とうとしている……
最近少し忙しくて……まだかかります
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 20:18:02.73 ID:4NaAmAvlo
待ってます〜
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 20:43:15.70 ID:yUZyEWX0o
待ってます
187 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 17:59:07.25 ID:z+8iKsTi0
夏休みも終わり、はや一週間。

京太郎「ん……」タン

優希「ふっふっふ……ツモ!2000-4000だじぇ!」

京太郎「だー!和了りのスピードでも、やっぱ勝てねぇー!」

優希「私に挑もうなど、百年早い!タコスぢからを磨いて出直してこい!」

京太郎「戦闘力みたいな誰にでもある概念じゃねーんだよ、それは……。
つーかなんで引けんだよ、俺ちゃんとその牌止めてたんだぞ?」

優希「確かに、防御面は以前から更に増したな!その調子で精進するがいい。
南場の私のダイヤモンド級防御力を見習ってな!」タンッ

和「ロン。8000」パラッ

優希「」

まこ「……ダイヤモンド級防御力(笑)」パタン

京太郎「あー、ドンマイ?」パタン

久「仕方ないわよ、ダイヤモンドは衝撃には弱いんだし」

まこ「またいつもの雑学か……」

久「雑学っていうほどにはマイナーな知識じゃないと思うわよ?……あ、須賀君」

京太郎「はい、なんですか?――ポン」カシャ

久「例の話、次の土日に決まったから」

京太郎「早っ!?」ポロッ

まこ「ローン!12000!」

京太郎「げっ……はい」チャラ

優希「例の話?なんのことだ」

和「先日聞いたでしょう。鶴賀に練習しに行くんですよ」

京太郎「それなんですけど、本当に俺だけで行っていいんですか?」

久「いーのいーの、遠慮しないで。全国前の合同合宿の埋め合わせと思って、ね?」

京太郎「はあ……」トン

和「リーチです」ヒュッ

久「それに、マホちゃんの付き添いって体裁だからね。みんなでぞろぞろ行くわけにはいかないわよ」

京太郎「……それもそうですね。っと……」ピタッ

久(お、よく止めたわねその牌)

京太郎「……これだ」トッ

まこ「残念、こっちじゃ。ロン」バラッ

京太郎「……うあー。因みに和はどんな感じだった」

和「見たいのでしたらお好きに」バラッ

京太郎「ん……やっぱあの牌でも当たってたか」

久「そうだ、咲は?」

優希「今日も部活休みだって」

久「そう……」

京太郎(……最近、休みがちだな咲。何か用事でもあるのか……?)
188 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:01:57.36 ID:z+8iKsTi0
――――

『えー、次は――、次は――』

少し鼻っぽい声が次の行き先を告げる。

京太郎(ん……まだもう少しかかるか)

鶴賀までの道をぼんやりと思い出し、ふわぁと欠伸。どうやら眠っていたようだ。

マホ「起きました?」

京太郎「うん、おはよう。……で、良いよな?」

陽はもう高い。そろそろおはようでは通じない時間だが……。

マホ「はい、おはようございます!」ニコッ

京太郎「楽しそうだな」

マホ「はい!遠足みたいでワクワクします!」

京太郎「……そうか。言っとくけど、遊びで行くんじゃないからな?」

マホ「分かってます。麻雀を打ちに行くんですよね!」

京太郎「ん、まあ実質的にはそうだ」

マホ「楽しみです!鶴賀学園……長野における、今年一番のダークホース!
一体どんな打ち手がいるんでしょうか……」ワクワク

京太郎「……まあ、その気持ちは分かるんだが……」

正直言って、京太郎も昨夜は落ち着かなくてよく眠れなかった。

京太郎「鶴賀も清澄と同じで、団体戦に出てたメンバーしかいないぞ」

マホ「!!そうだったんですか!」

京太郎「ていうか、今年の長野の団体戦ベスト4って、風越以外どっこも選手層薄いよなぁ。
部員80人いる風越も凄ぇけど」

マホ「80人……そんなに多いと、名前を覚えるのも大変そうですね」

京太郎「そう考えると部員が少ないのも悪くない、か?……いや、やっぱり選手層は厚い方が良いよ」

マホ「えー?皆で出れる清澄とかの方が良いと思いますけど」

京太郎「いやいや、IHの団体戦だってメンバーが完全に決まってるわけじゃないだろ?交代とかさ。
交代できない学校は、必然的に同じ選手が打ち続けることになって……他校に対策されやすくなる」

マホ「ふぅん……じゃあ先輩も、鶴賀学園の打ち手の対策はバッチリですか?」

京太郎「もちろん。つっても、清澄の皆に聞いただけだがな」

――(回想)――

京太郎「なぁ優希。お前がIHの団体戦で、長野の決勝で当たった人なんだけど……」

優希「ノッポか?それとも風越のお姉さん?」

京太郎「いや、どっちでもない。鶴賀の人だ。確か名前は……津山さん」

優希「ああ。あの地味な人がどうかしたか?」

京太郎「今度、鶴賀に行って麻雀打ってくるからさ。どんな人なのか聞いとこうと思って」

優希「どんな……って言われても。落ち着いた人で、打ち方は……そんなに特徴は無かったじょ。
強いて言うなら、ノッポとお姉さんに削られて大変そうだったじぇ」

京太郎「ふぅん……分かった、ありがとな」

優希「おうっ。礼はタコスでいいじょ!」
189 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:03:32.29 ID:z+8iKsTi0
――――

まこ「妹尾佳織か……」

京太郎「はい。何か、特徴とかは?」

まこ「特徴と言っていいかは分からんが、初心者であることは確かじゃな。
……いや、今ではもう初心者を卒業しているかもしれんが」

京太郎「ふむふむ……少なくとも、染谷先輩が当たった時は初心者だったと」

まこ「ああ。……それから、これは多分偶然じゃろうが……」

京太郎「?はい」

まこ「やつは役満で和了ることが、やけに多い。……役満和了されても、あまり動揺しないことじゃ」

京太郎(強運、って事なのか……?)

――――

久「ああ、鶴賀の元部長さんね」

京太郎「えっ、あの人が部長だったんですか!?」

久「そうよ、知らなかった?……まあ、気持ちは分かるけど。加治木さんの方が、それっぽいしね」

京太郎「それで、団体戦で闘った相手としてはどうでした?」

久「う〜ん……。あ、私あの人に、遠回しに頭悪いって言っちゃったのよね」

京太郎「へ?……打ち方に、ミスが多いとかですか?」

久「どうかしら。結構、堅実な打ち回しだったと思うけど……。
まあ、一度打ってみれば分かるんじゃない?」

――――

京太郎「和、鶴賀の東横さんってどんな人なんだ?」

和「……なぜ、そんな事を?」ジトッ

京太郎「えっ!?あぁいや、
別に紹介してほしいとかそういう下心が有るわけじゃなくてだな!その――」アタフタ

和「……冗談です。優希から話は聞いてますよ」クスッ

京太郎「なんだ、心臓に悪い……」

和「でも……残念ながら、私ではあまり役に立てません。
他者を気にし過ぎるという弱点を克服した結果、私は相手の打ち筋にほとんど注目しなくなりましたから」

京太郎「……なら、麻雀に関係ないことでもいいから、何か特徴とかは?」

和(……やっぱり下心があるのでは?)ジッ

京太郎「?」

和「……はぁ。そうですね、人としての特徴なら――凄く、影の薄い人でした」
190 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:06:35.92 ID:z+8iKsTi0
――――

咲「加治木さん?鶴賀の?」

京太郎「ああ。お前に搶槓喰らわせた人」

咲「うっ……。ま、まあ、それも含めて凄く上手い人だよね。
衣ちゃんの能力にもすぐ対応してみせたし」

京太郎「へぇ……お前にそこまで言わせるとはな。何か、特別な打ち方を持ってるとかは?」

咲「そういうのは無い、かな。相手に合わせて柔軟に対応する感じ」

京太郎「なるほど。ありがとな、よく分かったよ」

咲「ん……なんか、ヘンな感じ。京ちゃんが普通にお礼とか」

京太郎「……なんだとこのー!」ウリウリ

咲「わっ、ちょ、京ちゃんやめてよー!」

――(回想終了)――

京太郎(思えばあの日から咲の姿を部室で見かけなくなったな。……やりすぎたのだろうか)

マホ「ほぇー。なんていうか、具体的な事はよく分かりませんでしたね」

京太郎「仕方ないだろ。
咲や衣さんみたいに、言葉で説明しただけで分かるような特別性を持ってる人の方が珍しいだろうし」

マホ「衣さんといえばー、マホ色々と聞いてみたんですよ」

京太郎「え、何を?……ていうかあの合宿の後も会ってるのか」

マホ「いえ、メールとか、電話です」

京太郎(仲、良いんだな……)

マホ「衣さんの能力のこととかー、マホの真似のこととか。そんな話です」

京太郎「……麻雀の話か。勉強熱心だな」

マホ「今まであんまり、気にしてなかったんですけど……。
前の合宿で、自分のことも知らなきゃって思ったので」

京太郎「ふーん……」

マホ「あっでも、先輩のことなんかも、お話しますよ?」

京太郎「俺?」

マホ「はい!この前なんて、衣さんが『あいつは大した奴だ』って――あっ、これ秘密でした!」

京太郎「……そっか」

完敗させられた相手に、実は認められていた。嬉しいのは嬉しいが……

京太郎「……いや、やっぱり俺はまだまだ弱いと思うぞ」

マホ「なしなしっ、今のなしです!あうぅ、衣さんに怒られちゃう……」

京太郎「大丈夫だろ、俺も黙ってるし。バレないって」

――――

鶴賀学園、麻雀部部室前

京太郎「……だから、いいか?向こうさんはもう気付いてるかもだけど、だとしても名目上は――」

マホ「志望校候補の見学!ですね!」ウキウキ

京太郎「――そうだ。あくまで最初は見学、一緒に卓を囲むのはその後だからな」

マホ「はいっ!」タッタッタッ

京太郎「あっ、おい!今のちゃんと聞いて――」

マホ「頼もー!!です!」ガラッ


佳織「へ……?」

桃子「……誰っすか?」

京太郎「……」ハァ
191 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:07:58.33 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎「すみません、お騒がせして……清澄の、あぁいや……この子は、高遠原中学の麻雀部員です」

マホ「夢乃マホです!」

京太郎「……で、俺はこの子の保護者みたいなもんです」

睦月「う、うむ。まあ来ることは知ってたけど」

ゆみ「久から話は聞いているよ。うちの部を見学したいんだろう?」

マホ「はい!進学先候補の一つとして!」

まだ清澄に進学すると決まったわけではないので、一応嘘ではない。

智美「あー、確かにそんなこと言ってたな……。
でも、あんな凄い勢いで入ってくるとは、気合い入り過ぎだろー。道場破りかと思ったぞー」ワハハ

京太郎「いや、本当すいません……」

マホ「ごめんなさい……」

智美「ワハハ、許す!さあ、それじゃー津山部長!鶴賀学園麻雀部のPRをどうぞ!」

睦月「う、ぅぇえっ!?いきなりですか!?」

智美「なんだ、考えてなかったかー。
なら、今から私らが自己紹介でもして時間稼ぐから、その間に考えろ!」

佳織「智美ちゃん、無茶振りしすぎだよ……」
192 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:09:13.82 ID:z+8iKsTi0
智美「ということで、私は前部長の蒲原智美だ!」ワハハ

智美「趣味はドライブ、特技もドライヴ!
近所に美味いうどん屋があるから、時間あるなら案内してやるぞ!」

ゆみ(何故こいつはやたらと他人を乗せて運転したがるんだ……?)

桃子(私も加治木先輩となら元部長の運転は大歓迎っす)

マホ「うどん!食べたいです!」

京太郎「丁度良かったな、宿の食事は別料金だし。せっかくなんで連れて行ってもらえます?今日の夕食」

智美「ワハハ、たらふく食うといいぞ!」

佳織「止めなくて、いいんですか……?」

ゆみ「……まあ、本人たちが納得しているならいいだろう」
193 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:10:03.11 ID:z+8iKsTi0
ゆみ「加治木ゆみ、三年生だ。津山……現部長が部長を引き継ぐまでは、
麻雀の指導、合宿の企画や、他校との折衝なんかをやっていた……」

京太郎「……どう聞いても部長ですね」

ゆみ「しかし、部長は蒲原で良かったと思っている。人を纏めるのが上手いんだ、蒲原は」

智美「ワハハ〜、照れるなゆみちん」

マホ「(でも、加治木さんも人を纏めるの上手そうですよね)」

京太郎「(だな。カリスマみたいなものがある)」

桃子「(同意っす)」
194 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:10:47.59 ID:z+8iKsTi0
佳織「二年生、妹尾佳織です。麻雀はまだ初心者で……でも、麻雀部は楽しいです。
初心者も歓迎なので、良ければ見ていって下さい」

智美「佳織、それは来年度、新入生に向けて言うべき言葉だぞ」

佳織「あ、そう……だね」

マホ「初心者さんですか〜、マホもそうです!」

ゆみ「ほう、いつ頃から始めたんだ?」

マホ「えっと……二年前、ぐらいからですね」

ゆみ「……初心、者……?」

桃子「謙遜っすかね」

マホ「妹尾さんは、何年前ですか?」

佳織「何年前なんて、そんな。私は何年もやってないよ、つい最近始めたの」

京太郎「じゃあ、俺と同じくらいですかね。本当に初心者だ……マホちゃんと違って」

マホ「マホは、いつまでたっても細かいミスが無くならないから、永遠の初心者って言われてるんです」

智美「ミスを自覚できる分、佳織よりはマシだなー」ワハハ

ゆみ「蒲原、お前も昨日点数申告間違ってたぞ。牌譜を見ていて気付いた」

智美「……その場で指摘されなければチョンボではない!
それに間違っても『すいません、間違えました』でいいんだ。気にするな!佳織」ポン

佳織「えっなんで私がミスしたみたいに……」
195 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:12:13.69 ID:z+8iKsTi0
智美「さあ、部長むっきー!自己紹介と我が麻雀部のPRを!」

睦月「すぅ……はぁ……」

マホ(どんな人なんでしょうか……)ドキドキ

睦月「麻雀部部長、津山睦月だ。わ、私は……」

マホ「?」


睦月「私は、君が欲しい!」


…………。

マホ「――えっ」

睦月「」カァッ

マホ「えっと、その……」

睦月「つ、つまり!ぜひウチに来てほしいというか……歓迎、するから!」

京マホ「……」

智美「あちゃー、スベったな。やっぱり誰にでも真似できることじゃないな、なあゆみちん?」

ゆみ「な、なぜ私に振る!」

京太郎「……中々、情熱的なアプローチですね。
マホちゃん、これだけ求められてるんだし、鶴賀にすれば?」

マホ「でも、津山さん二年生ですよね?マホ、入れ違いになっちゃいますけど……」

佳織「え?……ってことは、夢乃さんも二年生?」

マホ「はい!高遠原中学二年、夢乃マホです!よろしくお願いします!」ペコ

睦月「……中学二年で、進学先を考えてるのか。意識高いな」

マホ「それほどでも〜」テレテレ

睦月「私も、今から考えといた方が良いかな」

智美「そんな難しいことは、三年のギリギリまで考えなくても、意外となんとかなるぞー?」

睦月「……そうでしょうか。兄も結構悩んだようですし、私は余裕を持って考えたいですけど」

ゆみ「……ゴホン。まあ、いつ考え始めても早すぎるということはない。時間は有限だからな」
196 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:13:09.54 ID:z+8iKsTi0
京太郎「清澄高校一年、須賀京太郎です。マホちゃんの付き添いで来ました」

智美「清澄に男子がいるのは知ってたけど、こうやって直接話すのは初めてだな」

佳織「私は、男子がいることすら知らなかったよ……」

京太郎「ま、合同合宿のときもいませんでしたからね。
大会で成績出したわけでもないですし、記憶に残らなくても仕方ない」

ゆみ「久から、君のことはビシバシ鍛えてやってくれと言われているよ」

京太郎「うげ、マジっすか……。まぁ……」

向こうがその気なら話は早い。建前はともかく、元々そのつもりだったのだ。

京太郎「打たせてもらえるなら、ありがたいです。自己紹介も済みましたし、早速やりますか?」

ゆみ「……いや、悪い。まだ、もう一人いるんだ」

京太郎「――え?」

頭の中で数え直す。

京太郎(蒲原さん、加治木さん、津山さん、妹尾さん。ちゃんと四人全員――四人?)

ゆみ「おいモモ、良い加減隠れてないで出てこい」

ーーその呼び掛けに応えるように。

「……はい」ユラッ

京マホ「!?」バッ

二人の後ろに、その少女は立っていた。


桃子「一年生、東横桃子っす。……よろしく、お願いするっす」
197 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:14:04.86 ID:z+8iKsTi0
――――

佳織「桃子さん!居たんですか」

桃子「……最初から居たっす」

京太郎(え、嘘だろ……?なんで俺、気付かなかったんだ)

その影の薄い少女は、無表情で京太郎の方をちらっと見た。

桃子「宮永さんの言ってた、『京ちゃん』さんっすね。須賀君でいいっすか?」

京太郎「え?あっ、ああ……東横さん。よろしく」

まるで呆けたような受け答えしかできない。慣れているのか、桃子はさほど気にすることもなく、マホとも同じようなやりとりをしていた。

京太郎(……まさかここまで影が薄いとは……)

和の言っていた意味をようやく悟る。

京太郎(まるで、そこに居ないみたいに……あれだけのモノをおもちなのに、俺が全く気付けないなんて)ジー

桃子「……私の服に、なんか付いてるっすか?」

京太郎「おっ……いや、悪い。見てただけだ」フイッ

少し目を閉じて、もう一度桃子を見る――今度は普通に見えた。

京太郎(くっ……これでも、人とコミュニケーション取るのだけは自信あったんだがなぁ)

ゆみ「やはり、見えていなかったか」

桃子「驚かせてしまったっすね」

京太郎「いえ、こっちこそすいません……気付けなくって」

智美「まあ、仕方ないと思うぞー?モモが隠れてたのが悪いんだし」ワハハ

マホ「凄いです!マホ、全然気付きませんでした!手品ですか?」

睦月「手品か……うむ。良い得て妙だな」

桃子「そんな良いモンじゃないっすよー?」

ゆみ「……ま、とにかくだ。仲良くしてやってくれ、須賀」

京太郎「はい、こちらこそ」

ゆみ「――さて、それでは早速打つか。お手並み拝見だな」
198 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:15:36.33 ID:z+8iKsTi0
――――

智美「じゃんけん、ぽん!」

京太郎「決まりましたかー?」

最初は京太郎とマホの二人が確定で入り、残り二人を鶴賀から出すことになった。

ゆみ「ああ。一発だったな」

佳織「あれ、私の一人勝ちじゃ……」

桃子「かおりん先輩、私も勝ってるっすよ」ユラッ

佳織「あっ、ごめんなさい!気付かなくって」

マホ「……同じ部にいる人でも、東横さんに気付けないんですね……」

京太郎「あれだけ影が薄いと……色々、不便そうだな」
199 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:16:45.83 ID:z+8iKsTi0
マホ「マホ、起家です!」ポチッ

コロコロ……

京太郎(さて……上家は東横さんで、下家はマホちゃんか)カシャ

理牌をしながら、京太郎は顔から表情を消し去っていく。
その様を見てゆみがほう、といった顔をするが、京太郎がゆみに気付くことはなかった。

マホ「じゃ、いきま〜す」トッ

親のマホが三萬を切る。……そしてそのまま、少し間が空いた。

京太郎「……?次は、妹尾さんですよ」

佳織「えっ!?あ、ごめんなさい!」

対面に座る佳織は、はっとして牌をツモる。そして、それを横に置いて配牌をいじりだした。

マホ「すいません、もしかして理牌まだでした……?」

佳織「あっ、ううん……その、並び替えるのはもう済んでるんだけど、待ちが何萬になるか分からなくって」

気が動転して、余計な事まで口走っている。

京太郎(萬子が多いのか……)

佳織「えーと……それで、ツモはこれだから……あっ!」

マホ「?」

佳織「ツモです」バラッ

「「!?」」


3444555(赤)m777s222p ツモ2m

佳織「えーと、ツモ・タンヤオ・三暗刻?で……満貫、かな?」
200 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:18:08.64 ID:z+8iKsTi0
マホ「……えぇ!?」

桃子「おぉ、凄いっすね。いきなりっすか」

智美「佳織、それは地和だ。役満だぞ」

佳織「え?……あっ、そっか。最初のツモだもんね、これ」

京太郎(本人に自覚は無し……か)

本当に初心者なんだと分かると同時に、京太郎は内心冷や汗をかいていた。

京太郎(染谷先輩が言ってた、妹尾さんは役満をよく和了るって……。
しかも、鶴賀の人たちもあまり驚いてないように見える)

つまり、本当によくある事なのだ。妹尾佳織にとっては――。

佳織「あ、次私の親か。振るねー」コロコロ

京太郎(和なら、偶然だって言うんだろうけど。俺には、とてもそうは思えない……)

あくまで表情は変えずに、京太郎は対面を注視する。

京太郎(これが、この人の『能力』なのか……?)
201 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:19:02.01 ID:z+8iKsTi0
――――

タン……トン……

マホ(うぅ、親被り……)

東二局。まだ序盤なのに、既にマホと佳織の差は48000点ある。

マホ(つらいです……)

ほとんど戦意は折れていた。点差だけではない。マホは、本来もう負けているのだ。

マホ(さっきの局、マホの三萬を妹尾さんがロンしてたら……その時点で四暗刻、トビ終了でした)

――佳織は初心者だから、気付かなかった。にも拘わらず、地和をツモった。

マホ(同じ初心者でも、こんなに運に恵まれているなんて……マホ、こんな人に勝てる気がしません……)

佳織「あ……つ、ツモ!」バラッ

1123456678999p ツモ1p

佳織「えっと……九連宝燈?」


マホ「」

もはやショックのあまり声も出ない。

京太郎「なっ……」

桃子「ええー!?かおりん先輩、それはズル過ぎるっすよー!?」

ゆみ「まさか……ここまでとは……!」

佳織「えっ?えっ?そ、そんなに凄い?」

睦月「……うむ。積み込みを疑われても仕方ないな」

智美「あー……佳織、もう私からお前に教えてやれることは無いな」

睦月「いや、先輩……東一局の四暗刻見逃しは……」

智美「この対局が終わったら教えてやるつもりだったけど、なんかもう必要ないんじゃないか?」

佳織「??」

面倒くさそうに言う智美。マホも全く同意見だった。

マホ(麻雀はどれだけ頑張っても運が無ければ勝てない、ですか……)

やるせなかった。東一局の佳織の見逃しは、ミス以外の何物でもない。
それも、マホでさえ気付くような初歩的なミスだ。

マホ(それを、圧倒的な『強運』で……無かったことにされた。そんなの、どうしようもないじゃないですか)

麻雀というゲームの、理不尽さがそこには有った。

マホ「マホのトビ、終了ですね……」
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