京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」

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161 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:18:24.56 ID:YrfCuXWK0
――――

南二局

純「……」

衣(トップになって、ジュンがオリを意識しているな。
ここまでポンでやたらとツモを飛ばされたが、もう邪魔は無い!)チャッ

衣「リーチ!」ダンッ

純「うわっ、早いな……」トッ

咲「……」トン

マホ「……」ストッ

純(鳴けねぇ……)

衣「――ツモ!リーチ・一発・ツモ、平和・三色・ドラ3!4000-8000!」

久(16000点……さっきの役満親被りを帳消しにしたわね)

――――

南三局

咲 (親)15500
マホ(南)16600
衣 (西)31500
純 (北)36400


咲「……」タン

123m123s23444p南南

京太郎(咲、この待ちでリーチかけないのか……?最下位なのに)

マホ「……」つ南

咲「……」

京太郎(しかもスルーか……こりゃ、あの四筒だな)

衣「……?」チャッ

不審そうに首を傾げる衣。しかし、そのままツモ切りし――

咲「カン」バラッ


咲「……ツモ。嶺上開花、三色。3900」

123m123s23p南南 4444p(明カン) 1p

衣「くっ、責任払いか……!」

京太郎(本来なら同巡フリテン、というかそもそも四筒じゃ役が付かないってのに……。
こいつの能力、結構応用利くよな)
162 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:19:30.20 ID:YrfCuXWK0
――――

南三局一本場

咲「……」トン

衣(また役無しのテンパイ気配……!)

マホ「……」タン

衣「……」チャッ

衣(九索……生牌。また掴まされたか?)

流石に今度は切らない。

衣(同じ失敗は、繰り返さない……!)ストッ

純「……」タン

咲「……」つ北

そして咲が、ツモった牌をそのまま表向きに置く。

純「ツモか?」

咲「いいえ。――カン」パラッ

ゴッ

咲「ツモ。2400オール」

678m123999s5p 北北北北(暗カン) 5p


久「70府二飜かー……懐かしいわね」

衣(やはり、掴まされていたか……!)パタン

――――

南三局二本場

咲「ふふっ……リーチ」タンッ

純(勢い、止まらねーな……)

タッ……トン……

咲「――ツモ!6200オール!」

純(捲られた……!)

智紀(カンしなくても、普通に和了れるのか……衣、ちょっと調子崩れてるな)

衣「……」
163 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:20:04.67 ID:YrfCuXWK0
――――

南三局三本場

マホ「宮永先輩、凄い追い上げです……!」

咲(とりあえずトップにはなったけど……衣ちゃんの支配、また強くなってきた?)タン

衣の力にはムラが有る。月齢や時間も関係しているらしいが、本人の精神状態にも大きく左右されるようだ。

咲(昨日、京ちゃんと打ってた時は調子良かったみたいだけど。……そういえば、三日後には満月か)

タン……トン……

一向聴のまま、六回もツモ切り。やはり、これは衣の支配――

純「リーチ」チャラ

咲(え、リーチ……?)チャッ

また無駄ヅモ。しかし――

咲(……ってことは、これは私のツモが悪いだけ?)タン

――――

智紀(基本的に衣の力は、卓全体に及ぶ。誰か一人だけ悪ヅモにしたりは出来ない)

だから、自分の手牌だけ見ていたのでは衣の調子を量り切れない。

タッ……パシッ……

咲「……」チャッ

智紀(……押すか引くか、迷ってるのかな?)

咲の手はしばらく動いていないが、今ようやく有効牌が来た。

智紀(余った牌は二枚切れだけど、純に対しては危険牌……。トップだし、私ならオリるけど……)

咲「……」トン

スジ切り。咲もまた、オリを選んだようだ。
だが、しかし――

マホ「宮永先輩。その牌――カンです」パタッ

智紀(大明カン……!)

ゴッ

マホ「ツモ。嶺上開花、三暗刻、トイトイ!8900です!」

咲「まさか、責任払いを自分がするとは思わなかったよ……」

マホ「はい!こういう使い方もあるんですね〜」
164 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:21:01.40 ID:YrfCuXWK0
――――

オーラス

マホ(親)17900
衣 (南)19000
純 (西)26800
咲 (北)36300


衣「……」

咲(ん、衣ちゃん……もしかして、今本気出した?)

『魔物』特有の威圧感。自分にも有るらしいが、意識して誰かを威圧したことは無い。……つもりだ。

咲(配牌は……三向聴だけど……)

346m67s12345(赤)p東北中

咲(ドラは……八筒か。カン出来そうにないのは、困ったなぁ……)

いつもなら、対子か刻子が最低一つは有って、その内の『カン出来そうな牌』がなんとなく分かるのだが。

咲(参ったよ……カンしなきゃ、衣ちゃんの支配からは逃れられない)

二局前は、普通に打って跳満を和了ったし、一局前も純やマホはテンパイしていた。
――しかし、それは予兆でもある。

咲(初めて闘ったあの試合でも、衣ちゃんが力を見せ始めた後に、加治木さんが普通に七対子を和了った。
でもその後から、また衣ちゃんの独走が始まったんだ)

その時と同じ状態だとしたら、この点差でも安心は出来ない。

咲(安手で流したいけど、多分テンパイもさせてくれない……)

王牌の絡まない限り、衣の力は絶対的だ。

咲(……なら、私はオリて井上さんに期待しよっかな)タンッ

――――

純(鳴けそうに……ないな……)トン

69m247s8p東南西北白發中

九種八牌――字牌が綺麗に揃っている。

純(これだよなぁ。
オレは鳴き有ってのプレイスタイルだってのに、衣と打ったらそもそも鳴かせてくれない局が有る)

これでは、衣のツモを飛ばすことは疎か、流れを変えることも出来ない。

純(根本的な所で、俺は衣と相性悪いんだよなー)

なら、相性の良いやつに任せればいい。

純(衣は徹底的に鳴きを潰してくるだろうし、それならいっそオレは国士狙ってみるか。
……衣の相手は宮永にしてもらおう)タン
165 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:21:36.15 ID:YrfCuXWK0
――――

衣(よし、この感覚……。二人の手は『支配』の中だな)

純に鳴かれて、衣のツモが飛ばされることはもう無い。加えて、それ以上に厄介なのは咲だった。

衣(支配する領域が違う、というだけでも衣にとっては難敵だが……。
衣の咲との相性の悪さはそこだけではない)

――それはずばり、カンそのものだ。
支配の及ばない所から牌をツモられるカン――特に暗カンを、衣は止めることが出来ない。

衣(何故なら、衣の支配をすり抜ける物には王牌だけでなく――
槓材における『四枚目』の存在も含まれるからだ)

例えば周りの牌が無い牌(特に字牌)の刻子が手にある時、その同名牌――すなわち『四枚目』は、
有効牌ではない。衣の力は有効牌を相手に引かせないが、『四枚目』は引かせてしまうのだ。

衣(もちろん元々引ける確率は低く、仮に引いても、嶺上に都合良く有効牌がなければテンパイは叶わない)

だが咲は、その両方を可能にする。
槓材を集め、嶺上を支配する――衣にとって、これほど闘いづらい相手もそうはいない。

衣(しかもこの『四枚目』は感覚的に察する事もできない。
だから須賀の加カンも読めなかった訳だが……)ジッ

対面を注視。――咲の表情は、あまり明るくない。

衣(……咲は、けっこう分かり易いからな。
この点に於ては、あの男のポーカーフェイスは大した物だった)タッ

トッ……タン……

今や、場は完全支配――ポン・チーは誰にもさせない。後は咲をマークし続けるだけだ。

衣(……さて、脅威となる対象はほぼ封じたが)チャッ

トップとの点差、17300。

衣(咲から跳満を出和了る、というのは流石に傲慢が過ぎるか。倍満ツモが最も確実だな)

そして最後に衣は、マホを見遣り――すぐ咲に視線を戻す。

衣(こいつの模倣が成功するのは、多くとも一日の内、一人分を一局が限度。
咲の模倣はつい一局前に見たばかりだ。隙を突かれることは無いだろう)パシッ
166 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:22:08.60 ID:YrfCuXWK0
――――

トン……トン……

ツモっては、切る。鳴きもリーチも無い場には、ただ単調な作業だけが続き、
いつしかそれは更に単調な作業、ツモ切りの連続となっていた。

マホ「……」チャッ

それを嫌だとも思わず、マホは考える。

マホ(須賀先輩……。先輩はあれだけのヒントから一人で考えて、天江さんの弱点に気付きましたよね。
なら、マホも……)トン

考える。京太郎から聞いた事、マホ自身が見てきた物――それらを繋げて更に奥、深くへ。


マホ(誰も副露出来ないほどの、完全な支配……今日の対局で、先輩がオーラスにポンできた理由は……?)

思考を加速させる。今日見た卓の記憶を掘り起こす。……目を眇め、手牌と卓を眺め――

マホ(あ……)

思考が止まる。もう一度頭の中でなぞり、違和感。

マホ(あれ……?途中経過は分からないけど、『こうすれば良い』っていう確信みたいなものが……)

何故、その結論に辿り着いたのかは全く分からない。しかしマホにはこの時、勝利への道が見えた。

マホ(……でも、本当に信じて良いんでしょうか……)

天恵のような閃き、それだけに迷う。それを信じて良いのか――

マホ(……! 信じる……)

『俺はあの時、自分のツモを信じてなかった』

マホ(先輩……)

『自分のツモを信じていればテンパイは取れたんだから、分からないもんだ』

マホ(……マホは、信じます!上手くいくかどうかは分からないけど、自分を信じて……打ちます!)

十六枚目の牌を切り、マホは手牌に手を伸ばした。
167 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:22:44.06 ID:YrfCuXWK0
――――

京太郎(ん……マホちゃん、手牌を並び替えた?)

3m223344m123s778p

京太郎(三萬を一番左に……?次はあれ切るつもりかな)

タン……トン……

京太郎(もう十六巡目、でもやっぱ天江さん以外はノーテンか……)

マホ「……」スッ

京太郎(あ、当たる――)

パタッ

ツモ牌を持ってきたマホの手が、手牌に引っ掛かり――二枚を、自分の側に倒す。

京太郎(良かった、見せ牌にはなってない――)

パラッ

京太郎「……え?」

最初に倒した二枚を直そうと手を入れ――その両サイドの牌が、今度こそ向こう側に倒れた。

  二  四
■■萬■■萬■■■■■■■
   ■■

マホ「……」チャッ

直ぐに戻すが、

京太郎(もう遅い。みんな見たぞ……)

咲「チョンボ癖、治ってないね……。見せ牌のペナルティ、分かる?」

マホ「はい!えっと……見せた牌ではロン出来ない、
見せた牌を含んだ形でポン・チー・大明カン出来ない、ですね」

純「ま、この卓のルールではそんな感じか」

京太郎(この卓の、か……チョンボ一つとっても、ルール次第で大違いなんだよな。麻雀は)
168 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:23:14.70 ID:YrfCuXWK0
――――

マホ「つまり、マホは二萬・四萬を使えなくなりました……」トン

衣「……」チャッ

マホのツモ切りを一瞥し、衣は考え込む。

衣(さて、この手……)

5(赤)5m11223s678p白白白 中

衣(白イーぺーコードラ2、四飜。リーチを掛ければ倍満に届くが……)

どうも、マホのチョンボが引っ掛かる。

衣(態とらしい……とまでは言えないな。こいつはチョンボがやたらと多い、只のうっかりかもしれない)

だが。

衣(今の見せ牌で、情報が増えたのは事実。少なくとも二・四萬が一枚ずつ有ることは確定した……。
更に、推測まで含めれば……内側に倒れた二枚の牌。見えなかったあの牌も、二・三・四萬の可能性が高い)

当然その情報を、咲や純も得た訳である。

衣(となれば……リーチをかけても、衣が海底をツモれないようにズラされるかもしれない。
かといって、リーチをかけなかった場合、もしズラしが無ければ衣は海底を見逃すことになる)

そして、そのどちらのケースでも発生する問題は。

衣(衣が和了れないという事は……必然的に、親が和了かテンパイで連荘にならなければ、衣に勝ち筋は無い)

それは勝ちの可能性を、マホに――他人に委ねるという事。

衣(……なら、迷う事は無い。衣は自分の力で和了ってみせる!)

ダンッ

衣「リーチ!」
169 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:23:47.29 ID:YrfCuXWK0
――――

純(ラスト一巡……やっぱ来たか)チャッ

ツモ牌は、白。今の衣のツモ切りで二枚切れなので、鳴ける牌ではない。

純(……結局、一向聴のままだったか。後は一筒か九索が来ればテンパイだったのになー)つ白

――――

咲(衣ちゃんのツモ切りリーチ……。倍満ツモられたら捲られちゃう、止めなきゃ……)チャッ

3456m678s112345(赤)p 北

咲(手は崩す事になるけど……もう、これしか無いよね)スッ

手に取ったのは三萬。

咲(マホちゃんが見せた牌は二萬と四萬、そしてその間の牌は二枚。
もしそれが三萬なら――これをポンしてくれるはず)

恐らく、マホの狙いは形式テンパイ、そして連荘だろう。マホはマホで逆転を諦めてはいない。
しかしこのまま衣を放っておいたら、倍満ツモで捲られてしまう。それだけは避けたい。

咲(多分、マホちゃんは三萬をポンすればテンパイ出来る形……。
連荘になるから安心は出来ないけど、今は衣ちゃんを止めるしかない)つ三萬


マホ「……」パタッ

   三三
■■■萬萬■■■■■■■

咲「……ポン?」

マホ「いいえ、違います」スッ

咲(え――)


パタン

三  三三
萬■■萬萬■■■■■■■■

マホ「――カン」
170 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:24:27.55 ID:YrfCuXWK0
――――

衣(何っ……!?)

大明カン。鳴きは有るかもしれないと思っていたが、

衣(上家からの大明カンだと!?)

マホ「……」スッ

嶺上牌に手を伸ばすマホ。

衣(ポンで形式テンパイを取るものだと思っていたが……そうか、こいつは衣の弱点を突くつもりか!)

驚くべき事ではない。マホは、京太郎と衣の勝負を見ていたのだから。

マホ「……!来ました……」チャッ

衣(この気配……!まさか、引き当てたか!)

テンパイの気配――ただし、役はついていないようだ。感覚で分かる。

マホ「……」つ七筒

衣(……大した物だ。咲の模倣をしている訳でもなく、自分の運で勝負するとは)

マホ「新ドラは三萬、モロ乗りです!――さ、天江さん。最後のツモをどうぞ」

衣「……あ、ああ」スッ

牌に手を伸ばす。

衣(まさかカンドラまで……だが、関係無い。どうせ役無しだ、それにもうこのツモで――)ピタッ

手が止まる。牌まであと数ミリという所で、動かない。

衣(――このツモで、終わり?)

自分が何か、決定的に間違えたという直感。

衣(なんだ、一体何を?)

頭の中で今の状況を整理する。

衣(親の形式テンパイ、衣の一発の消失。
衣が海底牌をツモる事は変わらないが、カンのせいで海底牌そのものがズレた)

恐らく和了り牌は引けないし、仮に引いても見逃すだろう。

衣(王牌は支配出来ないからな。裏ドラが確実に乗る保証が無い以上、和了り牌も見逃す。
そして流局、親のテンパイで続行だ。次の局にも逆転の機会は有るだろう)

――まだまだ、これからだ。改めてそう結論付ける。

衣(……なのに、どういう事だ?今にも負けそうだという、この悪寒は――)チャッ

不吉な予感を振り切り、ツモ牌を確認。――九筒。

衣(やはり、引けなかったか……)タン

届かなかった本来の海底牌をちらと見る。――少し、未練があるが仕方ない。

衣「……今はこれが海底牌だ。流局だな」

――しかし、その言葉に異を唱える声が響く。

マホ「――海底、ですか?違いますよ」

衣「……?何を言って……」

マホ「河に出たんですから、もうそれは――河底と呼ぶべきです!」

バラッ

22444m123s78p 3333m

マホ「ロン!河底ドラ5、18000!」
171 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:25:07.37 ID:YrfCuXWK0
純「――!!」

咲「捲られた……」

マホ 36900
 咲 36300
 純 26800

マホ「……やったー!勝ちました!」

衣「……衣の、負けか」

疑いようも無い。自分の点数を見れば――。

衣(皮肉なものだな。0点ジャストとは……)

対局を振り返り、衣は反省点を探す。

衣(最後の、振り込み……リーチをかけていなければ、なかったかもしれない)

十七巡目の思考の末に、リーチをかけた方が勝算が高いと思ってしまった。

衣(衣も、まだまだだな……)

マホの意図を読み切れなかった事もそうだが、衣はリーチをかけた瞬間――易きに流されていたのだ。

衣(鳴きが有るかもしれない、しかし無いかもしれない。
その二つの可能性を突き付けられて――衣は、『この局での勝利』に目が眩んだ)

鳴きが無ければリーチで勝てる。
目の前にぶら下がったその可能性に飛び付いた時点で、衣は負けていたのだ。


「「「「ありがとうございました」」」」
172 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:25:37.96 ID:YrfCuXWK0
――――

マホ「先輩!勝ちました!」

京太郎「凄いな、本当にあの卓でトップ取るなんて」ナデナデ

マホ「えへへー」

京太郎「驚いたぞ、河底で和了るとは……」

マホ「はい!マホも驚きました」

京太郎「え?確信が有ったんじゃないのか」

マホ「先輩の嶺上狙いと同じで、確信なんてありませんでした。
最後の局は、先輩の真似でしたから」

京太郎「あー、やっぱそうだったのか。
てことは、本当に運が良かっただけなんだな、嶺上牌の四萬も、河底牌の九筒も」

マホ「はい。先輩と違ったのは、たまたま上手くいったって事だけです。でも……」

京太郎「……ああ、分かってる。だからこそ、俺にも勝ちの可能性が有るってことだろ?
大丈夫だ。諦めずに、何度だって挑んでやるさ」

マホ「はい!」

ポン、と軽く頭を叩いて手を降ろす。同時に、京太郎の顔もマホと同じ高さまで降りていた。

京太郎「……な、一つ良いか?」

マホ「?はい」

低い声に、マホもボリュームを落とす。

京太郎「あの見せ牌、あれもわざとだよな?俺の真似なんだから」

マホ「……はい」

京太郎「なら……もう二度と、俺の真似はしないでくれ」

マホ「え……」

京太郎「外側から見て、ようやく分かった。
チョンボを戦略として利用するってのが、どれだけ歪んでるか」

マホ「……」

京太郎「とにかく勝ちたい、その思いだけで打って……大切なものを見失ってたのかもしれない。
今思えば、チョンボ癖に悩んでるマホちゃんの前で戦略的にチョンボするなんて、俺はどうかしてたよ」

だから、と京太郎は小指を立てる。

京太郎「約束だ。俺ももう、あんな打ち方はしない。
だからマホちゃんも、あの時の俺の事は真似しないでくれ」

マホ「……はい。わかりました」

指切り、げんまん。
173 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:26:08.42 ID:YrfCuXWK0
――――

そして時は過ぎ……。

衣「もう帰るのか?」

咲「うん。また、一緒に打とうね」

純「ははっ、また来いよ」

優希「くっ……次は絶対勝ち越して、その余裕ひっぺがしてくれるじぇ!」

透華「楽しかったですわ。ぜひまた」

久「ええ、もちろんよ」

各々に挨拶を済ませる。そして、いよいよ屋敷を出るという段になり――

久「さ、行きましょ」

衣「おーい、ちょっと待ってくれ!」タタッ

マホ「……?」

京太郎「俺たち……ですか?」

衣「あぁ。その……なんだ。今言うのも変だが、伝えてないと言ったらトーカが怒るのでな……」

京太郎「何ですか?」

歯切れの悪い様子に、何か悪い事でも有ったのかと身構える京太郎。

衣「夢乃マホ。それに……須賀京太郎。お前たちと打って……楽しかったぞ」

京太郎「……え?」

マホ「――はいっ!マホも、楽しかったです!」

衣「そうか、良かった。……それだけだ、じゃあな」

京太郎「……天江、さん」

きびすを返そうとする衣を、京太郎は呼び止めていた。

衣「衣で、良い。なんだ?」

京太郎「俺も……楽しかったです。またやりましょう、衣さん」

衣「……!ああ、またな。京太郎!」ニコッ
174 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:27:53.35 ID:YrfCuXWK0

――――

帰りのバスにて。

和「ぐっすりですね、マホちゃん……」

京太郎「和。……そうだな、疲れてたんだろ」

マホ「……」スヤスヤ

衣との対局のあとは、集中が切れてチョンボを連発していたほどだ。

京太郎(それでも、上手くなりたくって……足掻いてるんだもんなぁ……)

頭を撫でかけ、止める。起こしては悪い。

和「須賀君……ごめんなさい」

京太郎「え?どうした、突然」

和「私は、マホちゃんに麻雀を教えてくれる人として……貴方に、期待してしまいました」

京太郎「俺に?」

和「はい。実は、あの日……マホちゃんと須賀君が初めて会って、卓を囲んだあの時。
須賀君は、マホちゃんに麻雀を教える上で……私に足りない物を持っていると、気付いたんです」

京太郎「和に無い物を、俺が?麻雀でか?」

和「麻雀で、と言うよりは……人に物を教える上で、と言う方が良いでしょう。それは……初心、です。
文字通り、初心者なら誰もが持っている感情、観念……そして、私が忘れてしまった物」

京太郎「……初心」

和「ええ。私は、もう随分長く麻雀を打ち続けて来ました。
初心者だった頃の気持ちが思い出せない程に……」

京太郎「……だから、マホちゃんみたいな初心者に教えるのは、上手くいかないって事か?」

和「……目標には、してくれているようですけど。
残念ながら……私は、マホちゃんがどんな風に打ちたいのかが分からないんです」

京太郎(デジタルを極めて、ブレを失ったから……ブレるマホちゃんの打ち方が理解出来ない、って事か)

和「……須賀君は、確実に成長した。あの日の対局を見て、マホちゃんの先生に相応しいのは……と。
そんな勝手な思い込みをしてしまって。そのせいで、差し込みにもキツく言ってしまいましたし……」

京太郎「いや、まあ……あれは俺が悪かったしな」

和「……そうですね。でも、私は貴方に理不尽な怒りをぶつけていたのかもしれない……と。
だから、謝らせて下さい。……勝手な期待をかけて、すみませんでした」
175 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:28:24.43 ID:YrfCuXWK0
京太郎「……そういう事なら、俺も一つ言わなきゃならない事がある」

和「?何ですか」

京太郎「この合宿で、麻雀を打って……気付いたんだけどな。さっき言った、差し込みの事だ。
和は俺に……あの卓で打ってた人全員を馬鹿にしたって言ったな」

和「はい」

京太郎「……今なら、よく分かる。あの時俺は、同卓してる三人に悪い事をしたと思ったけど。
全員ってのは、俺も含むんだよな。俺は、俺自身の『本気』も馬鹿にしてたんだな……」

和「……そうですね。今回の合宿で……本気で打って、気付きましたか」

京太郎「ああ。本気で何かに取り組む……中学の部活以来かな。凄く、楽しいよ。
そんで、負けるのは悔しい。勝ちたいって気持ちが、前よりもでかくなってきてる」

京太郎「だから……まだ、足りないんだ。俺はもっと、もっともっと打ちたい。
麻雀で勝ちたいし、強くなりたい。お前らの本気に、いつか勝てるように」

和「……はい。頑張って下さい」

ふと、視界が陰る。

久「……ね、須賀君」

見れば、前の座席から久が顔を出していた。

京太郎「部長?」

久「もっと打ちたいのよね。なら――」


久「――鶴賀とか、行ってみたくない?」

To be continued……
176 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/01/26(木) 15:33:04.04 ID:YrfCuXWK0
龍門渕編、終。
はい、というわけで次は鶴賀編です。次回予告はまだだけど。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/26(木) 17:53:30.75 ID:2Oy2Zb4So
乙です
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/26(木) 19:17:52.45 ID:JubFrrv7O
乙〜
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/26(木) 21:36:14.50 ID:tyniHM/7o
180 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/01/27(金) 05:14:31.96 ID:5Q0+Z9NY0
智美「えらいハリキリ☆ガールがやって来たじゃないか」

佳織「よーし、私だってかっこいいところみせてあげるよー」

ゆみ「死人に口有りさ」

睦月「おどろくのは まだ はやい!」

桃子「あなたの目……くすんでるっすよ」


次回、『見えるけど、見えない人』。お楽しみに!
181 : ◆3em28n6/NM [sage]:2017/02/02(木) 18:16:04.73 ID:nvDCqgbP0
京たんイェイ〜
しかし投下はまだ先になる模様。誕生日祝いの小ネタ短編とか、地味に憧れだったんだけどね……
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/02(木) 20:01:40.12 ID:SLluPYdVo
待つ照
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/03(金) 03:07:41.89 ID:nPrbi5Lm0
待つ照(しかしお菓子は待てない模様)
184 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/02/28(火) 19:59:39.93 ID:eir6RCr60
まずい、既に一ヶ月が経とうとしている……
最近少し忙しくて……まだかかります
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 20:18:02.73 ID:4NaAmAvlo
待ってます〜
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 20:43:15.70 ID:yUZyEWX0o
待ってます
187 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 17:59:07.25 ID:z+8iKsTi0
夏休みも終わり、はや一週間。

京太郎「ん……」タン

優希「ふっふっふ……ツモ!2000-4000だじぇ!」

京太郎「だー!和了りのスピードでも、やっぱ勝てねぇー!」

優希「私に挑もうなど、百年早い!タコスぢからを磨いて出直してこい!」

京太郎「戦闘力みたいな誰にでもある概念じゃねーんだよ、それは……。
つーかなんで引けんだよ、俺ちゃんとその牌止めてたんだぞ?」

優希「確かに、防御面は以前から更に増したな!その調子で精進するがいい。
南場の私のダイヤモンド級防御力を見習ってな!」タンッ

和「ロン。8000」パラッ

優希「」

まこ「……ダイヤモンド級防御力(笑)」パタン

京太郎「あー、ドンマイ?」パタン

久「仕方ないわよ、ダイヤモンドは衝撃には弱いんだし」

まこ「またいつもの雑学か……」

久「雑学っていうほどにはマイナーな知識じゃないと思うわよ?……あ、須賀君」

京太郎「はい、なんですか?――ポン」カシャ

久「例の話、次の土日に決まったから」

京太郎「早っ!?」ポロッ

まこ「ローン!12000!」

京太郎「げっ……はい」チャラ

優希「例の話?なんのことだ」

和「先日聞いたでしょう。鶴賀に練習しに行くんですよ」

京太郎「それなんですけど、本当に俺だけで行っていいんですか?」

久「いーのいーの、遠慮しないで。全国前の合同合宿の埋め合わせと思って、ね?」

京太郎「はあ……」トン

和「リーチです」ヒュッ

久「それに、マホちゃんの付き添いって体裁だからね。みんなでぞろぞろ行くわけにはいかないわよ」

京太郎「……それもそうですね。っと……」ピタッ

久(お、よく止めたわねその牌)

京太郎「……これだ」トッ

まこ「残念、こっちじゃ。ロン」バラッ

京太郎「……うあー。因みに和はどんな感じだった」

和「見たいのでしたらお好きに」バラッ

京太郎「ん……やっぱあの牌でも当たってたか」

久「そうだ、咲は?」

優希「今日も部活休みだって」

久「そう……」

京太郎(……最近、休みがちだな咲。何か用事でもあるのか……?)
188 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:01:57.36 ID:z+8iKsTi0
――――

『えー、次は――、次は――』

少し鼻っぽい声が次の行き先を告げる。

京太郎(ん……まだもう少しかかるか)

鶴賀までの道をぼんやりと思い出し、ふわぁと欠伸。どうやら眠っていたようだ。

マホ「起きました?」

京太郎「うん、おはよう。……で、良いよな?」

陽はもう高い。そろそろおはようでは通じない時間だが……。

マホ「はい、おはようございます!」ニコッ

京太郎「楽しそうだな」

マホ「はい!遠足みたいでワクワクします!」

京太郎「……そうか。言っとくけど、遊びで行くんじゃないからな?」

マホ「分かってます。麻雀を打ちに行くんですよね!」

京太郎「ん、まあ実質的にはそうだ」

マホ「楽しみです!鶴賀学園……長野における、今年一番のダークホース!
一体どんな打ち手がいるんでしょうか……」ワクワク

京太郎「……まあ、その気持ちは分かるんだが……」

正直言って、京太郎も昨夜は落ち着かなくてよく眠れなかった。

京太郎「鶴賀も清澄と同じで、団体戦に出てたメンバーしかいないぞ」

マホ「!!そうだったんですか!」

京太郎「ていうか、今年の長野の団体戦ベスト4って、風越以外どっこも選手層薄いよなぁ。
部員80人いる風越も凄ぇけど」

マホ「80人……そんなに多いと、名前を覚えるのも大変そうですね」

京太郎「そう考えると部員が少ないのも悪くない、か?……いや、やっぱり選手層は厚い方が良いよ」

マホ「えー?皆で出れる清澄とかの方が良いと思いますけど」

京太郎「いやいや、IHの団体戦だってメンバーが完全に決まってるわけじゃないだろ?交代とかさ。
交代できない学校は、必然的に同じ選手が打ち続けることになって……他校に対策されやすくなる」

マホ「ふぅん……じゃあ先輩も、鶴賀学園の打ち手の対策はバッチリですか?」

京太郎「もちろん。つっても、清澄の皆に聞いただけだがな」

――(回想)――

京太郎「なぁ優希。お前がIHの団体戦で、長野の決勝で当たった人なんだけど……」

優希「ノッポか?それとも風越のお姉さん?」

京太郎「いや、どっちでもない。鶴賀の人だ。確か名前は……津山さん」

優希「ああ。あの地味な人がどうかしたか?」

京太郎「今度、鶴賀に行って麻雀打ってくるからさ。どんな人なのか聞いとこうと思って」

優希「どんな……って言われても。落ち着いた人で、打ち方は……そんなに特徴は無かったじょ。
強いて言うなら、ノッポとお姉さんに削られて大変そうだったじぇ」

京太郎「ふぅん……分かった、ありがとな」

優希「おうっ。礼はタコスでいいじょ!」
189 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:03:32.29 ID:z+8iKsTi0
――――

まこ「妹尾佳織か……」

京太郎「はい。何か、特徴とかは?」

まこ「特徴と言っていいかは分からんが、初心者であることは確かじゃな。
……いや、今ではもう初心者を卒業しているかもしれんが」

京太郎「ふむふむ……少なくとも、染谷先輩が当たった時は初心者だったと」

まこ「ああ。……それから、これは多分偶然じゃろうが……」

京太郎「?はい」

まこ「やつは役満で和了ることが、やけに多い。……役満和了されても、あまり動揺しないことじゃ」

京太郎(強運、って事なのか……?)

――――

久「ああ、鶴賀の元部長さんね」

京太郎「えっ、あの人が部長だったんですか!?」

久「そうよ、知らなかった?……まあ、気持ちは分かるけど。加治木さんの方が、それっぽいしね」

京太郎「それで、団体戦で闘った相手としてはどうでした?」

久「う〜ん……。あ、私あの人に、遠回しに頭悪いって言っちゃったのよね」

京太郎「へ?……打ち方に、ミスが多いとかですか?」

久「どうかしら。結構、堅実な打ち回しだったと思うけど……。
まあ、一度打ってみれば分かるんじゃない?」

――――

京太郎「和、鶴賀の東横さんってどんな人なんだ?」

和「……なぜ、そんな事を?」ジトッ

京太郎「えっ!?あぁいや、
別に紹介してほしいとかそういう下心が有るわけじゃなくてだな!その――」アタフタ

和「……冗談です。優希から話は聞いてますよ」クスッ

京太郎「なんだ、心臓に悪い……」

和「でも……残念ながら、私ではあまり役に立てません。
他者を気にし過ぎるという弱点を克服した結果、私は相手の打ち筋にほとんど注目しなくなりましたから」

京太郎「……なら、麻雀に関係ないことでもいいから、何か特徴とかは?」

和(……やっぱり下心があるのでは?)ジッ

京太郎「?」

和「……はぁ。そうですね、人としての特徴なら――凄く、影の薄い人でした」
190 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:06:35.92 ID:z+8iKsTi0
――――

咲「加治木さん?鶴賀の?」

京太郎「ああ。お前に搶槓喰らわせた人」

咲「うっ……。ま、まあ、それも含めて凄く上手い人だよね。
衣ちゃんの能力にもすぐ対応してみせたし」

京太郎「へぇ……お前にそこまで言わせるとはな。何か、特別な打ち方を持ってるとかは?」

咲「そういうのは無い、かな。相手に合わせて柔軟に対応する感じ」

京太郎「なるほど。ありがとな、よく分かったよ」

咲「ん……なんか、ヘンな感じ。京ちゃんが普通にお礼とか」

京太郎「……なんだとこのー!」ウリウリ

咲「わっ、ちょ、京ちゃんやめてよー!」

――(回想終了)――

京太郎(思えばあの日から咲の姿を部室で見かけなくなったな。……やりすぎたのだろうか)

マホ「ほぇー。なんていうか、具体的な事はよく分かりませんでしたね」

京太郎「仕方ないだろ。
咲や衣さんみたいに、言葉で説明しただけで分かるような特別性を持ってる人の方が珍しいだろうし」

マホ「衣さんといえばー、マホ色々と聞いてみたんですよ」

京太郎「え、何を?……ていうかあの合宿の後も会ってるのか」

マホ「いえ、メールとか、電話です」

京太郎(仲、良いんだな……)

マホ「衣さんの能力のこととかー、マホの真似のこととか。そんな話です」

京太郎「……麻雀の話か。勉強熱心だな」

マホ「今まであんまり、気にしてなかったんですけど……。
前の合宿で、自分のことも知らなきゃって思ったので」

京太郎「ふーん……」

マホ「あっでも、先輩のことなんかも、お話しますよ?」

京太郎「俺?」

マホ「はい!この前なんて、衣さんが『あいつは大した奴だ』って――あっ、これ秘密でした!」

京太郎「……そっか」

完敗させられた相手に、実は認められていた。嬉しいのは嬉しいが……

京太郎「……いや、やっぱり俺はまだまだ弱いと思うぞ」

マホ「なしなしっ、今のなしです!あうぅ、衣さんに怒られちゃう……」

京太郎「大丈夫だろ、俺も黙ってるし。バレないって」

――――

鶴賀学園、麻雀部部室前

京太郎「……だから、いいか?向こうさんはもう気付いてるかもだけど、だとしても名目上は――」

マホ「志望校候補の見学!ですね!」ウキウキ

京太郎「――そうだ。あくまで最初は見学、一緒に卓を囲むのはその後だからな」

マホ「はいっ!」タッタッタッ

京太郎「あっ、おい!今のちゃんと聞いて――」

マホ「頼もー!!です!」ガラッ


佳織「へ……?」

桃子「……誰っすか?」

京太郎「……」ハァ
191 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:07:58.33 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎「すみません、お騒がせして……清澄の、あぁいや……この子は、高遠原中学の麻雀部員です」

マホ「夢乃マホです!」

京太郎「……で、俺はこの子の保護者みたいなもんです」

睦月「う、うむ。まあ来ることは知ってたけど」

ゆみ「久から話は聞いているよ。うちの部を見学したいんだろう?」

マホ「はい!進学先候補の一つとして!」

まだ清澄に進学すると決まったわけではないので、一応嘘ではない。

智美「あー、確かにそんなこと言ってたな……。
でも、あんな凄い勢いで入ってくるとは、気合い入り過ぎだろー。道場破りかと思ったぞー」ワハハ

京太郎「いや、本当すいません……」

マホ「ごめんなさい……」

智美「ワハハ、許す!さあ、それじゃー津山部長!鶴賀学園麻雀部のPRをどうぞ!」

睦月「う、ぅぇえっ!?いきなりですか!?」

智美「なんだ、考えてなかったかー。
なら、今から私らが自己紹介でもして時間稼ぐから、その間に考えろ!」

佳織「智美ちゃん、無茶振りしすぎだよ……」
192 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:09:13.82 ID:z+8iKsTi0
智美「ということで、私は前部長の蒲原智美だ!」ワハハ

智美「趣味はドライブ、特技もドライヴ!
近所に美味いうどん屋があるから、時間あるなら案内してやるぞ!」

ゆみ(何故こいつはやたらと他人を乗せて運転したがるんだ……?)

桃子(私も加治木先輩となら元部長の運転は大歓迎っす)

マホ「うどん!食べたいです!」

京太郎「丁度良かったな、宿の食事は別料金だし。せっかくなんで連れて行ってもらえます?今日の夕食」

智美「ワハハ、たらふく食うといいぞ!」

佳織「止めなくて、いいんですか……?」

ゆみ「……まあ、本人たちが納得しているならいいだろう」
193 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:10:03.11 ID:z+8iKsTi0
ゆみ「加治木ゆみ、三年生だ。津山……現部長が部長を引き継ぐまでは、
麻雀の指導、合宿の企画や、他校との折衝なんかをやっていた……」

京太郎「……どう聞いても部長ですね」

ゆみ「しかし、部長は蒲原で良かったと思っている。人を纏めるのが上手いんだ、蒲原は」

智美「ワハハ〜、照れるなゆみちん」

マホ「(でも、加治木さんも人を纏めるの上手そうですよね)」

京太郎「(だな。カリスマみたいなものがある)」

桃子「(同意っす)」
194 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:10:47.59 ID:z+8iKsTi0
佳織「二年生、妹尾佳織です。麻雀はまだ初心者で……でも、麻雀部は楽しいです。
初心者も歓迎なので、良ければ見ていって下さい」

智美「佳織、それは来年度、新入生に向けて言うべき言葉だぞ」

佳織「あ、そう……だね」

マホ「初心者さんですか〜、マホもそうです!」

ゆみ「ほう、いつ頃から始めたんだ?」

マホ「えっと……二年前、ぐらいからですね」

ゆみ「……初心、者……?」

桃子「謙遜っすかね」

マホ「妹尾さんは、何年前ですか?」

佳織「何年前なんて、そんな。私は何年もやってないよ、つい最近始めたの」

京太郎「じゃあ、俺と同じくらいですかね。本当に初心者だ……マホちゃんと違って」

マホ「マホは、いつまでたっても細かいミスが無くならないから、永遠の初心者って言われてるんです」

智美「ミスを自覚できる分、佳織よりはマシだなー」ワハハ

ゆみ「蒲原、お前も昨日点数申告間違ってたぞ。牌譜を見ていて気付いた」

智美「……その場で指摘されなければチョンボではない!
それに間違っても『すいません、間違えました』でいいんだ。気にするな!佳織」ポン

佳織「えっなんで私がミスしたみたいに……」
195 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:12:13.69 ID:z+8iKsTi0
智美「さあ、部長むっきー!自己紹介と我が麻雀部のPRを!」

睦月「すぅ……はぁ……」

マホ(どんな人なんでしょうか……)ドキドキ

睦月「麻雀部部長、津山睦月だ。わ、私は……」

マホ「?」


睦月「私は、君が欲しい!」


…………。

マホ「――えっ」

睦月「」カァッ

マホ「えっと、その……」

睦月「つ、つまり!ぜひウチに来てほしいというか……歓迎、するから!」

京マホ「……」

智美「あちゃー、スベったな。やっぱり誰にでも真似できることじゃないな、なあゆみちん?」

ゆみ「な、なぜ私に振る!」

京太郎「……中々、情熱的なアプローチですね。
マホちゃん、これだけ求められてるんだし、鶴賀にすれば?」

マホ「でも、津山さん二年生ですよね?マホ、入れ違いになっちゃいますけど……」

佳織「え?……ってことは、夢乃さんも二年生?」

マホ「はい!高遠原中学二年、夢乃マホです!よろしくお願いします!」ペコ

睦月「……中学二年で、進学先を考えてるのか。意識高いな」

マホ「それほどでも〜」テレテレ

睦月「私も、今から考えといた方が良いかな」

智美「そんな難しいことは、三年のギリギリまで考えなくても、意外となんとかなるぞー?」

睦月「……そうでしょうか。兄も結構悩んだようですし、私は余裕を持って考えたいですけど」

ゆみ「……ゴホン。まあ、いつ考え始めても早すぎるということはない。時間は有限だからな」
196 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:13:09.54 ID:z+8iKsTi0
京太郎「清澄高校一年、須賀京太郎です。マホちゃんの付き添いで来ました」

智美「清澄に男子がいるのは知ってたけど、こうやって直接話すのは初めてだな」

佳織「私は、男子がいることすら知らなかったよ……」

京太郎「ま、合同合宿のときもいませんでしたからね。
大会で成績出したわけでもないですし、記憶に残らなくても仕方ない」

ゆみ「久から、君のことはビシバシ鍛えてやってくれと言われているよ」

京太郎「うげ、マジっすか……。まぁ……」

向こうがその気なら話は早い。建前はともかく、元々そのつもりだったのだ。

京太郎「打たせてもらえるなら、ありがたいです。自己紹介も済みましたし、早速やりますか?」

ゆみ「……いや、悪い。まだ、もう一人いるんだ」

京太郎「――え?」

頭の中で数え直す。

京太郎(蒲原さん、加治木さん、津山さん、妹尾さん。ちゃんと四人全員――四人?)

ゆみ「おいモモ、良い加減隠れてないで出てこい」

ーーその呼び掛けに応えるように。

「……はい」ユラッ

京マホ「!?」バッ

二人の後ろに、その少女は立っていた。


桃子「一年生、東横桃子っす。……よろしく、お願いするっす」
197 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:14:04.86 ID:z+8iKsTi0
――――

佳織「桃子さん!居たんですか」

桃子「……最初から居たっす」

京太郎(え、嘘だろ……?なんで俺、気付かなかったんだ)

その影の薄い少女は、無表情で京太郎の方をちらっと見た。

桃子「宮永さんの言ってた、『京ちゃん』さんっすね。須賀君でいいっすか?」

京太郎「え?あっ、ああ……東横さん。よろしく」

まるで呆けたような受け答えしかできない。慣れているのか、桃子はさほど気にすることもなく、マホとも同じようなやりとりをしていた。

京太郎(……まさかここまで影が薄いとは……)

和の言っていた意味をようやく悟る。

京太郎(まるで、そこに居ないみたいに……あれだけのモノをおもちなのに、俺が全く気付けないなんて)ジー

桃子「……私の服に、なんか付いてるっすか?」

京太郎「おっ……いや、悪い。見てただけだ」フイッ

少し目を閉じて、もう一度桃子を見る――今度は普通に見えた。

京太郎(くっ……これでも、人とコミュニケーション取るのだけは自信あったんだがなぁ)

ゆみ「やはり、見えていなかったか」

桃子「驚かせてしまったっすね」

京太郎「いえ、こっちこそすいません……気付けなくって」

智美「まあ、仕方ないと思うぞー?モモが隠れてたのが悪いんだし」ワハハ

マホ「凄いです!マホ、全然気付きませんでした!手品ですか?」

睦月「手品か……うむ。良い得て妙だな」

桃子「そんな良いモンじゃないっすよー?」

ゆみ「……ま、とにかくだ。仲良くしてやってくれ、須賀」

京太郎「はい、こちらこそ」

ゆみ「――さて、それでは早速打つか。お手並み拝見だな」
198 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:15:36.33 ID:z+8iKsTi0
――――

智美「じゃんけん、ぽん!」

京太郎「決まりましたかー?」

最初は京太郎とマホの二人が確定で入り、残り二人を鶴賀から出すことになった。

ゆみ「ああ。一発だったな」

佳織「あれ、私の一人勝ちじゃ……」

桃子「かおりん先輩、私も勝ってるっすよ」ユラッ

佳織「あっ、ごめんなさい!気付かなくって」

マホ「……同じ部にいる人でも、東横さんに気付けないんですね……」

京太郎「あれだけ影が薄いと……色々、不便そうだな」
199 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:16:45.83 ID:z+8iKsTi0
マホ「マホ、起家です!」ポチッ

コロコロ……

京太郎(さて……上家は東横さんで、下家はマホちゃんか)カシャ

理牌をしながら、京太郎は顔から表情を消し去っていく。
その様を見てゆみがほう、といった顔をするが、京太郎がゆみに気付くことはなかった。

マホ「じゃ、いきま〜す」トッ

親のマホが三萬を切る。……そしてそのまま、少し間が空いた。

京太郎「……?次は、妹尾さんですよ」

佳織「えっ!?あ、ごめんなさい!」

対面に座る佳織は、はっとして牌をツモる。そして、それを横に置いて配牌をいじりだした。

マホ「すいません、もしかして理牌まだでした……?」

佳織「あっ、ううん……その、並び替えるのはもう済んでるんだけど、待ちが何萬になるか分からなくって」

気が動転して、余計な事まで口走っている。

京太郎(萬子が多いのか……)

佳織「えーと……それで、ツモはこれだから……あっ!」

マホ「?」

佳織「ツモです」バラッ

「「!?」」


3444555(赤)m777s222p ツモ2m

佳織「えーと、ツモ・タンヤオ・三暗刻?で……満貫、かな?」
200 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:18:08.64 ID:z+8iKsTi0
マホ「……えぇ!?」

桃子「おぉ、凄いっすね。いきなりっすか」

智美「佳織、それは地和だ。役満だぞ」

佳織「え?……あっ、そっか。最初のツモだもんね、これ」

京太郎(本人に自覚は無し……か)

本当に初心者なんだと分かると同時に、京太郎は内心冷や汗をかいていた。

京太郎(染谷先輩が言ってた、妹尾さんは役満をよく和了るって……。
しかも、鶴賀の人たちもあまり驚いてないように見える)

つまり、本当によくある事なのだ。妹尾佳織にとっては――。

佳織「あ、次私の親か。振るねー」コロコロ

京太郎(和なら、偶然だって言うんだろうけど。俺には、とてもそうは思えない……)

あくまで表情は変えずに、京太郎は対面を注視する。

京太郎(これが、この人の『能力』なのか……?)
201 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:19:02.01 ID:z+8iKsTi0
――――

タン……トン……

マホ(うぅ、親被り……)

東二局。まだ序盤なのに、既にマホと佳織の差は48000点ある。

マホ(つらいです……)

ほとんど戦意は折れていた。点差だけではない。マホは、本来もう負けているのだ。

マホ(さっきの局、マホの三萬を妹尾さんがロンしてたら……その時点で四暗刻、トビ終了でした)

――佳織は初心者だから、気付かなかった。にも拘わらず、地和をツモった。

マホ(同じ初心者でも、こんなに運に恵まれているなんて……マホ、こんな人に勝てる気がしません……)

佳織「あ……つ、ツモ!」バラッ

1123456678999p ツモ1p

佳織「えっと……九連宝燈?」


マホ「」

もはやショックのあまり声も出ない。

京太郎「なっ……」

桃子「ええー!?かおりん先輩、それはズル過ぎるっすよー!?」

ゆみ「まさか……ここまでとは……!」

佳織「えっ?えっ?そ、そんなに凄い?」

睦月「……うむ。積み込みを疑われても仕方ないな」

智美「あー……佳織、もう私からお前に教えてやれることは無いな」

睦月「いや、先輩……東一局の四暗刻見逃しは……」

智美「この対局が終わったら教えてやるつもりだったけど、なんかもう必要ないんじゃないか?」

佳織「??」

面倒くさそうに言う智美。マホも全く同意見だった。

マホ(麻雀はどれだけ頑張っても運が無ければ勝てない、ですか……)

やるせなかった。東一局の佳織の見逃しは、ミス以外の何物でもない。
それも、マホでさえ気付くような初歩的なミスだ。

マホ(それを、圧倒的な『強運』で……無かったことにされた。そんなの、どうしようもないじゃないですか)

麻雀というゲームの、理不尽さがそこには有った。

マホ「マホのトビ、終了ですね……」
202 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:20:13.31 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎「……次、さっき入ってなかった三人が入るみたいだけど。どっちがいく?」

マホ「……先輩に、どうぞ……」

京太郎「……あー、ドンマイ。ほら、さっきのは事故みたいなもんだろ?気を落とすなって」

マホ「……はい。でも今は……」

京太郎「……そうか」

京太郎(まぁ、普通やる気無くすよな。あんな無茶苦茶な麻雀打たれたら……)

二連続役満。鶴賀の面子も、さすがに驚いていたようだ。

京太郎(しかし……マホちゃんがこんなにショックを受けてるのは珍しい気がするな)

まだ知り合って二週間しか経ってないが、なんとなくそう思える。

京太郎(もっとこう……なんていうか、『凄い!』みたいな感想の方がらしい気が……)

ゆみ「……須賀。よろしくな」

京太郎「」ハッ

気付くと、もう場決めも終わっていた。

京太郎「はは、すいません、ぼーっとしちゃって」

席に付き、意識を卓に向ける。対面はゆみだ。

京太郎(加治木ゆみさん。一番警戒すべきはこの人だな……)ゴクリ

身に纏う達人のような雰囲気に圧倒されながら、京太郎は顔の感情を殺す。

京太郎「……お手柔らかに、お願いしますよ」
203 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:21:49.30 ID:z+8iKsTi0
東一局

睦月 (起)25000
京太郎(南)25000
智美 (西)25000
ゆみ (北)25000


マホ(……見学しようと思ってたんですけど……)

佳織「……」ポワポワ

マホ「……須賀先輩のこと、見てるんですか?」

佳織「? うん。見学……かな?」

マホ「そうですか……」

佳織「夢乃さんも一緒に見ますか?」

マホ(……この人はなんとなく苦手です……)


ゆみ「……」トン

睦月「……」タン


佳織「う〜ん、動きが無いね……」

マホ「……まだ、始まったばっかりですよ」

佳織「……」


京太郎「……」パシッ

智美「……」トン

ゆみ「流局……だな。ノーテン」パタン

智美「テンパイー」パラッ

睦月「……ノーテンです」パタン

京太郎「ノーテン」パタン
204 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:44:25.42 ID:z+8iKsTi0
佳織「……なんか、地味な闘いだね」

マホ「そうですか?」

佳織「みんな、ほとんど喋らないからますますそう思うのかも」

マホ「蒲原さんは、結構喋って……というか、笑ってましたけど」

佳織「あはは、智美ちゃんはね。でも、なんて言うのかな……いつもは、もっと喋ってるんだよね。
今は、そう……大会の時みたい。実況が欲しくなる感じ?」

マホ「でも……凄く真剣に打ってるのが伝わってきますよ」

佳織「そうだね。真面目なのは分かるんだけど……やっぱり、私は賑やかな方が見てて楽しいかな」

マホ「そう、ですか……」

正直、分かる気がする。マホも静寂には余り馴染めない質だ。

マホ(でも……この緊張感、これこそ麻雀!って感じもするんです)

マホは音を立てないように、ゆっくりと立った。

佳織「夢乃さん?」

マホ「……マホ、加治木さんの方見てます」

――――

東二局一本場

京太郎(純さんが言うには……場の流れにも緩急みたいなものが有るらしい)トッ

智美「ワハハ……」タン

京太郎(今は多分、緩やかな流れ……無理に動いても、大きな和了りは期待できない)

ゆみ「……」トン

睦月「ポン」パタッ

京太郎(……だから、まあ今回は運が良かったと思うか)チャッ

普通に打って、普通に和了れた。

京太郎「ツモ。平和ドラ1、1400オール」パラッ」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 18:44:30.51 ID:tk+6UAwfO
すごく楽しみにしてた
206 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:46:09.08 ID:z+8iKsTi0
――――

東二局二本場

マホ(やりました!あんまり高い手じゃないけど、須賀先輩、とりあえず一歩リードですね)

ゆみ「……」チャッ

マホ(加治木さんは……タンピンの一向聴か)

356678m44s345(赤)78p 西

ゆみ「……」つ西

マホ(西……ドラの自風牌。最初の方と、一巡前にも切ってるから、持ってれば暗刻ができたけど……)チラ

ゆみ「……」

ゆみの顔に後悔の色は無い。

マホ(泰然自若……って感じです。意味、よく知らないけど)

――――

智美(ん〜。ゆみちん、捨て牌を見る限りは裏目ってるな)トン

ゆみ「……」チャッ

智美(ん、これは……)スンッ

ゆみ「……」つ三萬

智美(――テンパイ、かな)

挙動にそれらしい兆候は無かったが、なんとなく分かる。

睦月「……」トン

智美(龍門渕の天江みたいな、百発百中の超感覚ってわけじゃないが……分かる時は分かる。匂いで)

タッ……トン……

睦月「……」チャッ

智美(おっ、こっちもか?)

睦月「……ん〜……」つ七索

少し逡巡した。リーチを掛けるか迷ったのだろうか。

京太郎「……」チャッ

智美(私は三向聴……二人張ってるみたいだし、オリるか)

京太郎「……」ストッ

智美(安牌少ないけど、いけるかな?)チャッ
207 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 18:47:03.88 ID:z+8iKsTi0
――――

マホ(中々、和了り牌が来ません……)

もう、ゆみが張ってから八巡目だ。

マホ(もしかしたら、もう誰か他の人もテンパイしてるのかも……)

敢えてそれぞれの手牌を直接見ることはせずに、卓に視線を巡らす。

睦月「……」タン

京太郎「……」トッ

マホ(……全然、分かりません。テンパイ気配の分かる人って、みんな能力者なんでしょうか?)

智美「……」トン

ゆみ「……」チャッ

マホ(ツモは四索――あれ?)

ゆみ「……」つ七筒

ゆみの打牌に疑問を覚える。

マホ(待ちが、少なくなっちゃいました……)

566778m444s345(赤)8p

まだ和了り牌が七枚残っていた六・九筒待ちから、二枚しか残っていない八筒の単騎待ちへ。

マホ(どういう、ことでしょうか……?)

――幸い、今回はすぐにその意味が分かった。

睦月「……」タン

京太郎「……」トン

智美「……通るかな?」つ一索

睦月「――ロン」バラ

智美「……ワハハー、駄目だったか」ポリポリ

123567m23s123p中中中 1s

睦月「中、三色……5200の二本場で、5800です」

マホ「……!」

あっ、と声を出す所だった。

マホ(加治木さんがツモった四索は、当たり牌だったんですね。
でも、よく分かりますね……マホなら、そのまま振り込んでました)
208 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:48:24.63 ID:z+8iKsTi0
睦月(よし、上手くいった……)

自分の捨て牌をもう一度見直す。

睦月(序盤に索子を多く切ってるのが、良い感じに迷彩になったな)

対面に座る智美には、オリようとする気配があった。
恐らく、睦月がテンパイしていることに気付いていたのだろう。

睦月(部長……いや、蒲原先輩はテンパイ気配には敏感だ。
でも当たり牌までは分からないらしいからな)

ゆみ「……」パタン

ふぅっと息を吐く睦月をちらっと一瞥して、ゆみは手牌を静かに伏せた。

――――

東三局

ゆみ「リーチ」チャラ

マホ(三面待ち……良形ですね)

タン……トッ……

智美「おっ……ツモ。チートイのみ、1600オール」バラッ

ゆみ「ふむ……負けたか」パタッ
209 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:49:19.21 ID:z+8iKsTi0
――――

東三局一本場

智美 (親)26600
ゆみ (南)20000
睦月 (西)26800
京太郎(北)26600

京太郎「ん……リーチ」タン

智美「ワハハ、四巡目か。早いなー」チャッ


佳織(う〜ん、即リーって言うんだっけ、こういうの)

678m46s677889p北北

佳織「もっと、待ちとか役が良くなりそうだけど……」ボソ

桃子「おっ、良い質問っすね」ユラッ

佳織「あれ、桃子さん。てっきり加治木先輩の方を見てるのかと」

桃子「……ずっと隣で見てたっすよ。あと、別に加治木先輩しか見ないわけじゃないっす」

佳織「へ〜。それで、さっきの良い質問って?」

桃子「ああ!」

佳織「?」

桃子「……ごほん。えっと、待ちや役がもっと良くなりそうなのに、リーチをかける理由っす」

佳織「あ、それね。両面待ちとかにしてからリーチした方が良いって教わったから。
あと、須賀君のあの手牌なら……イーペーコーとか、平和とか?も狙えそうだし」

桃子「両面待ちとイーペーコーはそうっすね。平和はそんなに近くないっすけど」

佳織「あ!じゃあ、タンヤオは?」

桃子「……いや、そっちも三枚いるっすね。もっと近いのは、三色と自風の北っす。
……そして、それらを狙えるのにリーチのみの嵌張待ちにした理由は……」チラッ


智美「……」トッ

ゆみ「……」トン


桃子「――他家をオロすため、っすね」

佳織「なるほど、リーチがかかったらみんな自由に打てなくなるもんね……。
心理戦だね。私には難しそう」

桃子「……最も、今これが最善手かと言われたら微妙な所っす。
状況によるっすけど、私ならもう少し待つっすね」

桃子(――あるいは、反応を見てるんすかね。オリるか、つっぱるか……)


京太郎「……流局ですね。テンパイ」バラッ

智美「ノーテン」パタッ

ゆみ「ノーテンだ」パタン

睦月「テンパイ」パラッ
210 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:50:09.38 ID:z+8iKsTi0
――――

東四局二本場

京太郎(う〜ん……さっきのはやっぱ、もうちょっと待てば良かったかな)トン

タン……パシッ……

京太郎(まだでかい点差はついてないし、手を育ててからリーチ……っていつもなら考えてたけど。
今回はそうしたくはなかった……)

桃子が推測したように、リーチに対する他家のリアクションを観る意味もあったが――

京太郎(なんか俺、ああいう早い巡目でテンパイした時って、どうも手が伸びないんだよな。
……統計取ったわけでもないから、完全に主観だけど)チャッ

和が聞いたら呆れそうな理屈だが、実際前局でも手を伸ばせる牌はほとんど来なかった。

京太郎(ま、過ぎたことをいつまでも引きずらないでおこう。ツキが逃げる)タン

京太郎の直感では、そろそろ場が緩急の『急』……つまり荒れ始める頃だ。

京太郎(ここで流れを掴みたいが……まあ、今は我慢だ。焦らず、落ち着いて機を待とう――っと?)

タンッ

睦月「リーチ」チャラ

京太郎(リーチかぁ……)トッ

迷わずオリ。

智美「……」ストッ

ゆみ「……」トン

京太郎(流れが津山さんにいってるな。鳴いて紛れを起こしたいけど……)

睦月「あっ、ツモ!」バラッ

京太郎(……一発か。これは仕方ないな)

睦月「リーチ一発、タンヤオドラ1……いや、ドラ4ですね。4200-8200」

智美「……一発ツモの上に裏モロ乗りかー。調子良いな」

ゆみ「ふむ……倍満の親被りか。少し痛いな……」
211 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:50:58.01 ID:z+8iKsTi0
――――

南一局

智美「ロン。7700だ」バラッ

睦月「うっ……はい」チャラ

智美「ワハハ、油断したな」

――――

南二局

京太郎(よし、良い配牌だ……親のこの局で大きいの和了っときたいな)タン

トン……タッ……

京太郎(……良い感じだ、流れが来てる……)トン

智美「よぉし……リーチ!」タン

京太郎(リーチか……でも今は、攻める!)

京太郎「リーチ!」タンッ

智美「追っかけか……負けないぞー」トッ

トン……パシッ……

京太郎「――来た、ツモ!リーヅモタンピン赤1……裏、1枚。6000オール!」

智美「中々やるなー」チャラ

睦月「くっ、捲られた……」

ゆみ「……」パタン
212 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:51:48.67 ID:z+8iKsTi0
――――

南二局一本場

京太郎(親)41900
智美 (南)21600
ゆみ (西)4300
睦月 (北)32200


京太郎(配牌は……索子が多いな。染め手狙えそうだけど、トップだしなぁ……)つ一筒

トン……タッ……

京太郎(ん、また索子)タン

手が重くなるのは嫌だが、有効牌が来ているのだからやはり流れは悪くない。

京太郎(中か……一枚切れ。染め手なら取ってたかもしれないけど)つ中

ゆみ「ポン」パタ

京太郎(……対面!)

落ち着いた声に、緊張感を高める。

京太郎(加治木さん、ここまで焼き鳥だが……要警戒だな)チャッ

今一度河を確認する。

京太郎(加治木ゆみさん……清澄のみんなから聞いた話を総合すると、鶴賀で一番強いのはこの人だろう)トン

智美「……」つ發

ゆみ「……ポン」タン

京太郎(うわっ……)

發發發 中中中

ゆみ「……」

見える役満――大三元。

京太郎(あり得る……まだ白は一枚も見えてない)

睦月「……」チャッ

京太郎(振り込みを避けるのは当然として、ツモられても親被りが痛い)

そして今は、ゆみが鳴いたのもあって流れが読めない。

京太郎(むやみに鳴いてもしょうがないな。何か手を打ちたいけど、ここはじっと我慢だ……)

幸い、ゆみの捨て牌はほとんどが萬子と筒子……つまり待ちは索子の可能性が高い。

睦月「……」トン

京太郎(索子は今、俺が結構な枚数を抱えてる……加治木さんがツモる確率は低いはずだ)チャッ
213 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:53:09.30 ID:z+8iKsTi0
――――

智美(ゆみちん……怖いなぁ)チャッ

幸い、智美の手牌には白が二枚有る。それさえ切らなければ大三元は完成しない。

智美(それを除いても二鳴き、しかも染め手っぽい捨て牌……)トン

ゆみ「……」チャッ

智美(私は当然オリるけど……他二人は早和了りで流すことも視野に入れてそうだ。これは荒れそうだな)
214 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:53:53.27 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎(よし、あと一枚……)つ北

運が良い。ここまでほとんど安牌を切っていただけなのに、手が進んでいる。

智美「……」つ一筒

京太郎(蒲原さんは完全にオリてるな……)

ゆみ「……」つ六萬

京太郎(ドラ……ツモ切りか。やっぱり役満か、染め手か)

睦月「……」つ四萬

京太郎(ツモ切り……津山さんはよく分からないな。比較的安全な牌ではあるが……)チャッ

667m222345(赤)6777s ツモ5m

京太郎(テンパイか。六萬はついさっき加治木さんが切った……津山さん以外には完全な安牌か)

その睦月も、四萬や七萬といったそばの牌を早い段階で切っている。

京太郎(なら、ドラ切りで取り敢えずテンパイしとくか)つ6萬

待ちは一索から八索と広い。運が良ければ、先に和了ることでゆみの逆転手を流せるだろう。

京太郎(でも、深追いはしない……危険牌を引いたら、素直にオリることを覚えておこう)

トン……タン……

京太郎(よし、安牌……)つ西

智美「……」つ七筒

ゆみ「……」チャッ

京太郎(ん……?)

ゆみの動きが、ほんの一瞬止まり――しかし、すぐに動く。

ゆみ「……」つ白

――手出しの、白。

京太郎(これは……大三元は消えたと見て良いのか?)

睦月「……」つ南

京太郎(……今さら手替りってことは……)チャッ

河に白が出ていなかった以上、ゆみは自分から大三元を捨てたということである。

京太郎(ホンイツの方でテンパイしたのか……?)つ一萬

智美「……ワハハ」つ白

京太郎(蒲原さん……ずっと抱えてたのか)

ゆみ「……」つ三筒

京太郎(ってことは……加治木さんは四枚目の白を引いてカラ切りしたってわけでもない)

睦月「……」つニ筒

京太郎(もしかしたら……)チャッ

――ゆみは今、オリているのかもしれない。

京太郎(あくまで可能性の一つ……だけど。加治木さんからしたら他に見えてなかった白を切った。
そして、これまで索子を集めていて、俺のテンパイに気付いたとしたら……)つ九萬

智美「……」つ白

京太郎(加治木さんは今、手牌が危険牌ばかりになっているのかもしれない……!)

ゆみ「……」チャッ
215 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:54:51.67 ID:z+8iKsTi0
――――

マホ(絶対絶命ですね……)

ゆみ「……」

ゆみの手牌は、緑に染まっていた。

2335888s ツモ6s (中中中)(發發發)

マホ(ニ巡前、加治木さんは八索を引いて白を切った……マホには分かりませんけど、
多分もう誰か張ってると思って加治木さんは索子を抱えた)

たが、この手では逃げ切れない。親の京太郎に振り込んだ場合、最低三飜でゆみは飛んでしまう。

マホ(安全そうなのは……津山さんが切ってる、八索?それから、蒲原さんが切ってる四・六索……。
それから、二索を切ればテンパイですね)

だが、どれも京太郎には危険牌だ。

ゆみ「……」スッ

マホが考えを巡らせている間に、ゆみは手牌の中から一枚を選び終わっていた。

マホ(え……そ、それですか!?)

タンッ
216 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:55:49.21 ID:z+8iKsTi0
――――

果たして打ち出された牌は――

京太郎(来たっ……!)ガタッ

――五索。

京太郎「ロン!」バラッ

567m222345(赤)6777s 5s

京太郎「タンヤオドラ2、7700!」

勝った。咲も認めるような強者に、とうとう――


『そのロン、成立せず』


京太郎「――は?」

ゆみ「聞こえてなかったか。津山、もう一度言ってくれ」

睦月「はい……ロン」パラッ

22m46s778899p東東東 5s

睦月「一盃口のみ、1600……頭ハネです」

京太郎「頭……ハネ……?」

ゆみ「そういうことだ。さあ、続けようか……まだ南の二局だ」
217 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:56:38.33 ID:z+8iKsTi0
――――

桃子「凄い!先輩、かっこいいっす〜!」

佳織「え?え?どういうこと?」

桃子「かおりん先輩、さっき話したこと覚えてるっすか?」

佳織「え?えっと……加治木先輩が白を切ったのは、手牌が全部ロン牌になっちゃったからかもって話?」

桃子「そう、それっす!加治木先輩はその窮地を乗り切ったんすよ!」

佳織「でも、振り込んでるよ……?」

桃子「だから……その振り込みの中から、一番安い支出になる牌を選んだっす。一枚だけの、飛ばない牌を!」

佳織「うーん……よく、分からないけど。凄いことなんだね」
218 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:57:18.74 ID:z+8iKsTi0
――――

南三局

バラ

ゆみ「ツモ。タンピン三色ドラ1……3000-6000」

智美「む……さすがゆみちん。早いな……」チャラ

京太郎(く……完全に流れを持っていかれた……!)

――――

オーラス

睦月(このままでは打点が足りない……)チャッ

睦月「リーチ!」タンッ

京太郎「……」トン

睦月(……急ぎ過ぎたかな)

智美「……」トッ

ゆみ「……」タン

睦月(嫌な予感が……)タン

ゆみ「ロン。タンヤオチートイドラドラ……12000だ」バラ

睦月「……はい」チャラ
219 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:58:50.49 ID:z+8iKsTi0
――――

オーラス一本場

ゆみ (親)27700
睦月 (南)17800
京太郎 (西)38900
智美 (北)15600

京太郎(まずい……!逃げ切れるか!?)チャッ

流れは依然ゆみに有る。京太郎との点差は11200――射程範囲だ。

京太郎(くそっ、一度は勝ったと思ったのに!)つ九萬

智美「……」つ四索

ゆみ「チー」つ東

(45(赤)6s)

京太郎(鳴いてきた!安牌は無ぇし……!)

睦月「……」つ西

京太郎(駄目だ、一旦これで……通れ!)つ八筒

智美「……」つ八筒

ゆみ「……」つ二萬

睦月「……」つ二索

京太郎(安牌が増えない……)つ八筒

ゆみ「ロン」バラ

333456m4568p 8p (45(赤)6s)

ゆみ「タンヤオ三色ドラ1……6100。終局だ」

京太郎「っ……!」

ゆみ 33800
京太郎32800
睦月 17800
智美 15600

京太郎(直前の二萬切り……!四面待ちを捨てて、俺の対子落としを狙い打ったのか!?)

智美「駄目だったな〜。ありがとうございました」

睦月「ありがとうございました」

京太郎「……ありがとう、ございました」

ゆみ「ああ、ありがとう。……楽しかったよ」
220 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 18:59:34.86 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎「はぁ……」

マホ「先輩……お疲れ様です」

京太郎「やっぱ……最初から勝てないって気持ちで挑むより、勝てるかもって思えるような面子で打って負ける方が……悔しいな」

マホ「そう、ですね。でも、本当にもう少しだったじゃないですか。次はきっと……」

京太郎「ああ、そうだな。次勝てばいいんだ。……マホちゃんも」ポン

マホ「はい!絶対、妹尾さんに一泡吹かせてあげます!」

佳織「(え〜!?聞こえてるんだけどっ)」

桃子「(これは面白くなってきたっすね)」

京太郎「……妹尾さんと、何かあったのか?」

マホ「いいえ……ただ」

京太郎「……?」

マホ「(ちょっと、尊敬できないだけです……)」ボソ

京太郎「?ごめん、なんて?」

マホ「いえいえ、何も!それより……そうだ、これでお互い目標が決まりましたね!」

京太郎「ああ、そうだな。まあ俺も妹尾さんにリベンジもしたいけど……今回一番倒したいのは加治木さんだな」

マホ「お互い、頑張りましょう!」

京太郎「おう!」

京太郎(……そう、鶴賀で一番強いであろう加治木さんに……!)

――この時はまだ、気付いていなかった。鶴賀にはもう一人、真の難敵がいるということに――。
221 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:00:30.23 ID:z+8iKsTi0
――――

マホ「……ツモ!リーチ一発、ドラ3!3000-6000です!」

ゆみ「平和を切って地獄単騎にした上で、一発ツモ……まるで久だな。なるほど、これが久の言っていた模倣か」チャラ

佳織「はえー、凄い……」チャラ

智美「佳織ー、お前それ3000点しかないぞ」チャラ

佳織「あっ、そうか私親……うう、もう飛びそうだよぉ」

マホ(よしっ、僅差だけどトップ!このまま……)

ゆみ「ロン。妹尾、何点か分かるか?」

佳織「えっ、えっと……平和と一通で……3900?」

ゆみ「よく見ろ、ドラも有る。7700だ」

マホ「……捲られちゃいました」

佳織「飛んじゃった……」

マホ(……妹尾さん、強いのか弱いのかよくわかりません。役満も、あれ以来一回も和了ってないし……)

智美「モモもそろそろ入ったらどうだー?」

桃子「そうっすねー、観てるだけでも面白いっすけど」

智美「ワハハ。なら今度は私が観る番だ」

ゆみ「そうだな……私も替わるか。津山、入るか?」

睦月「はい、打たせてもらいます」

マホ「あの、マホ……続けて入ってもいいですか?」

ゆみ「? 何も問題無いが。元々この場には七人しかいないんだ、総入れ替えはできないさ」

マホ「はい!ありがとうございます!マホ、頑張ります!」

京太郎「……俺はまだ見てるかな」

佳織「あ、じゃあ私も続けてだね。よろしくお願いします」

マホ(先輩、譲ってくれたのかな……よぉし、今度こそ妹尾さん相手にトップを取ります!)

マホ「よろしくお願いします!」

睦月「よろしく」

桃子「よろしくっす」
222 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:01:28.21 ID:z+8iKsTi0
――――

東一局

マホ(妹尾さんに津山さん、それに……そうそう、東横さん。影が薄すぎて忘れそうになっちゃいます)トン

桃子「……」ト

睦月「……」トン

佳織「うーん……」トッ

……。

睦月「ツモ。400-700」

――――

東二局

マホ(よし、良い感じ)チャッ

マホ「リーチ」タン

佳織の強運についてはまだまだわからないことだらけだが、逆に言えばこの面子では佳織以外は警戒しなくてもいい。

マホ(もちろん、侮るつもりもありません。けど……津山さんに、何か特別な対策が必要なわけじゃない)

睦月「……牌、曲がってないよ」

マホ「わひゃっ!?すす、すいません!」

まさか心を読まれたわけでもないだろうが、当人に指摘されて動揺して変な声を上げてしまう。

マホ(うぅ、でも比較的マシなチョンボで良かったです……)

トン……タッ……

マホ「それ、ロン!3900!」

佳織「あう、はい……」
223 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:02:15.72 ID:z+8iKsTi0
――――

東三局

マホ(妹尾さん、リーチに対してあんな危険牌……ひょっとしたらマホよりも初心者さんですね)トン

自分のチョンボは棚に上げるマホ。

マホ(でも、逆に考えれば……他家の動きを気にせずに打てば、自分の手を育てることに集中できる)

あるいは、それが佳織のラッキーパンチの正体なのか。

マホ(でも要は、先に和了ってしまえばいいんです!)

高い手、それも役満手を狙おうとしているなら、必然的に手は遅くなるはずだ。

マホ(ん、いい形……このままいけば三面待ちのテンパイです!)タンッ

――だがもちろん、麻雀は一対一の勝負ではない。そんなことは分かっていたつもりだった。

「ロン」バラッ

マホ「……あっ、あれ?」

前からの攻撃に備えていたら後ろから突き飛ばされた、そんな感覚。

桃子「リーチ混一色、ドラ1……8000っすよ」ユラッ
224 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:03:06.11 ID:z+8iKsTi0
マホ「リーチ!?そんな、いつの間に……」

桃子「ちゃんと言ったっすよ。ほら、点棒も出てるし牌も曲がってるっす」

自分が聞き漏らしただけか?と他家に目で問う。

睦月「……うむ。言っていたな」

佳織「わ、私は全然気付きませんでした……」

何故か証言が一致しない。

睦月「夢乃さん、妹尾さんの役満和了にも驚いていたけど……清澄の面子から私たちのことを聞いてなかったの?」

マホ「??」

桃子「正直、他人の打ち方を完全コピーできるひとの方が凄いと思うっす」

睦月「そう……私もそう思う。でも、やっぱり……最初の驚きはこれが一番大きいよ」

例えば、天江衣の『支配』。宮永咲の嶺上開花。元々常識の範囲外にいる存在は、逆に『そういうモノ』として納得できてしまう。

睦月「その力はまさに、うむ――手品だ。タネを知らない人は、自分に死角が有るとすら思えない」

桃子「大げさっす。まあ、ともかく――ここからは、『ステルスモモ』の独擅場っすよ」
225 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:03:57.57 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎(……何が、起こってるんだ……?)

観戦する京太郎もまた、混乱の中にいた。

マホ「リーチ……!」

桃子「通らないっすよ。ロン」バラッ

京太郎(ま、まただ……!なんでこんな見え見えの染め手に……)

その驚愕は、振り込んだマホに対するものではない。

京太郎(俺も、気付いてなかった……あれが危険牌だってことに!)

京太郎も、桃子が見えなくなっていたのだ。

佳織「これ、要らないかな……」トン

桃子「ロン。リーチ一発ドラ1……5200っす」ユラッ

睦月「……!リーチ、していたのか」

京太郎(本当に、どうなってるんだ!東横さんが牌を倒す瞬間まで、あそこにリーチ棒なんか……)

しかし、妙に記憶が判然としない。リーチ棒が出ていて気付かないわけはないのに、絶対に無かったとも言い切れないのだ。
226 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:04:56.29 ID:z+8iKsTi0
桃子「――ツモ。終局っすね」

マホ「……あ、ありがとう……ございました……」

睦月「ああ。やっぱり強いな……」

佳織「私、焼き鳥だよ……」

桃子「お疲れ様っす」

京太郎「……東横さん!」

桃子「」ビクッ

意図せず飛び出た声に、京太郎自身驚いていた。

桃子「な、なんすか。須賀君」

京太郎「……俺と、打ってくれないか」

マホ「先輩……」

桃子「良いっすよ、別に……そんなことなら」

京太郎の申し出にほっとしつつ、戸惑いを見せる桃子。

京太郎「……わ、悪い。大声出して」

桃子「大丈夫っすよ。……ちょっと、嬉しかったし」

京太郎「え?」

桃子「なんでもないっす。手加減はしないっすよ」

薄く微笑む桃子。京太郎としても望む所だ。

京太郎(どんな形でも……それが東横さんに特有の『能力』なら、打ってみればわかるはず!)
227 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:05:44.92 ID:z+8iKsTi0
――――

十数分後。

桃子「ロン……分かったっすか?」

京太郎「……」

理解はできた。元々マホが打っていた時から、予想はしていたのだ。

京太郎「俺が、見失ってただけなのか……」

ただ、その事実を受け止めるのに――半荘一回分の時間がかかった。

京太郎(たったそれだけ……俺のプライドが、認めなかっただけ)

桃子「……仕方ないっすよ。私自身が、影の薄さを利用してるんすから」

そう、見失ってしまうのは当然のことなのだ。京太郎だけでなく、マホや鶴賀の面子も見失うほど影が薄いのだから。

京太郎「でも、そんなことは関係無い……」ボソ

桃子「えっ……?」

京太郎(勝つ。この二日の内に、必ず……!)

桃子に負けた瞬間の悔しさは、ゆみに負けた時よりも遥かに大きかった。

京太郎(どうして、こんなに悔しいのかな)

同学年だから?それとも、桃子の力が理不尽に感じられたから?

京太郎(いや、理由なんかどうでもいい……勝ちたい、とにかくこいつに勝ちたい!)

衣と打った時に自覚した勝利への渇望が、再燃していく。

京太郎「もう一戦、いいかな」

桃子「いいっすよ、何度でも」
228 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:07:03.06 ID:z+8iKsTi0
――――

ゆみ「さて、もういい時間だな……」

紅い西空を見て、ゆみが窓を閉める。

マホ「もう終わりですか?」

ゆみ「そう残念がらなくても、明日もあるだろう。……須賀も」

京太郎「……はい、分かってます」

結局、今日は一度も勝てなかった。ゆみにはどうしても一歩及ばないし、佳織は打つたびに必ず役満を和了ってくるし――
桃子には、手も足も出なかった。明日の半日で勝てるか不安になる。

京太郎(でも、啖呵は切っておくか)

逃げ道は、作りたくない。京太郎は卓を立ち、桃子を真っ直ぐに見据えた。

京太郎「……明日は、必ず勝つ」

マホ「マホも、諦めませんよ!」

二人の宣言に、桃子はくすりと笑う。

桃子「こっちも……負けるつもりは無いっすよ」

智美「よし、じゃあ二人!うどん食いに行くか!奢るぞ!」

京太郎「マジっすか!やったぜ」

ゆみ「(……お金もらっても、蒲原の運転は御免だがな)」

津山「(……ですね)」

智美を除く鶴賀の面子の視線に、京太郎が気付くことはついに無かった。
229 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:07:55.77 ID:z+8iKsTi0
――――

マホ「キャーッ!イヤーッ!」

京太郎「やめろー!死にたくない!死にたくなーい!」

二人が叫ぶのもどこ吹く風で、地獄の道先案内人は哄笑する。

智美「ワハハハハハーッ!これだよ、この感覚だ!田舎の道、荒い地面っ!最高だぁー!」

マホ「先輩、マホ、気持ち悪く……」

京太郎「ちょ、吐くのか!?蒲原さん!袋はっ、ゲロ袋は!?」

智美「エチケット袋と呼べ!はしたない」

京太郎「どっちでもいいですから!てかなんでそんな余裕なんですか!?」

マホ「先輩、マホもう……」

京太郎「待て、なんでこっちを向く!?俺は何もできないぞ!おい、やめ――」

――――

マホ「うう〜、ごめんなさい……」

京太郎「いや、悪いのは絶対にマホちゃんじゃない……」

念のため着替えを余分に持ってきていてよかった、とつくづく思う。

智美「ワハハー。悪いなー、まさかそんなに乗り物に弱いとは」

もはや文句を言う気力も無い。

京太郎(悪い意味で、酔いが醒めた……)

マホ「でも、吐いてから……少しスッキリしたかもしれません。あと、お腹もペコペコです!」

京太郎「……強いな、君は……」
230 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:09:53.23 ID:z+8iKsTi0
――――

智美「さあ、なんでも好きなものを頼むがいいぞ!」ワハハ

マホ「うわぁ……なんでしょう、この凄く長い名前のパフェ。気になります!」

京太郎「……今は、水が欲しい……」

智美「なんだ、無欲だな!奢りだからって遠慮しなくていいんだぞ」

マホ「マホ、この釜玉っていうのにします!」

智美「おう、たらふく食え!私はなんにしようかなー、久しぶりに来たしチャーハンにするか!」

京太郎「……そこは、うどんじゃないのか……」

お冷に口をつけ、ようやくツッコミを入れられるくらいに回復してきた。

智美「ノンノン、チャーハンうどんだ!この店の看板メニューだぞ」

京太郎「……さいですか」

マホ「先輩、メニューどうぞ」

せっかく奢りなのに何も食べないのはもったいない。適当に目に付いたカレーうどんを注文する。

智美「マホー、どうだ鶴賀は。印象」

マホ「そうですね……妹尾さんには勝ちたいです!」

京太郎「多分そういう話じゃないぞ。進学先候補としてだ」

マホ「あ、そっちは……考えてませんでした」

正直過ぎる返答。

智美「いやー、構わないぞ?ウチに来るかとかそんな話されても困るだろ」

マホ「はい、まだ決められません」
231 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:11:18.77 ID:z+8iKsTi0
智美「まだ一年半あるんだ、ゆっくり悩め。それはそれとして……佳織に勝つなんて、目標低くないか?
今日は何度かやってトップ取れなかったみたいだけど、見たところ佳織より打ててるよ」

マホ「そう……ですか?須賀先輩なんて、対局するたびに役満和了られてたんですけど」

京太郎「うん、だから俺は妹尾さんはもう諦めた……というか、あの人より順位上にはなったしな。
……でも、まだ加治木さんには勝ってない。だから……」

智美「きょーたんの目標は打倒ゆみちんか。頑張れー」ワハハ

京太郎「ま、そうです。あと、そのあだ名は別にいいですけど、広めないで下さいね?」

智美「それで、モモはどうすんだ?」

マホ「あっ……忘れてました」

京太郎「……俺も、今完全に忘れてたよ」

二人揃ってため息を吐く。

京太郎「東横さんの対策考えようと思ってたのに……こんなんじゃそれも忘れちまうな」

智美「どうしても忘れたくないことは、手に書くのが一番手っ取り早いぞ」

マホ「手……あ、マホはいつもメモ帳持ってますから、そっちに書いときます」

京太郎「俺も、メモ帳買おうかな……」

普段はケータイのメモで事足りているが、最近は紙の方が便利な気がしてきた。
232 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:12:50.88 ID:z+8iKsTi0
マホ「そうだ、蒲原さんは東横さんに慣れるまで、どうしてたんですか?」

京太郎(ああ、そうか。盲点だった)

智美も桃子を忘れないように、何か特別なことをしたのなら、それを参考にできるかもしれない。

智美「手には書かなかったけど、そうだな……私の場合は、匂いで覚えたぞ」

マホ「匂い……?ですか」

京太郎「香水でもつけてるんですか?」

智美「ううん、モモ自身の匂いだ」

京太郎(参考にならねぇ……)

マホ「へー……部員の匂いまで把握してるなんて、さすが元部長」

智美「あはは、モモのは必要があったから覚えただけだぞ。
それに……モモに関しては、ゆみちんの方が適役だったみたいだ」

京太郎(加治木さん……)

そういえば、桃子は練習中ゆみとよく話しているようだった。

京太郎「もしかして……『見える』んですか?」

智美「いいや、ゆみちんも同じだよ……あ、うどん来た」

それぞれ頼んだものがやってきて、一度会話が途切れる。

京太郎「……うまいっすね」

マホ「美味しいです!」

智美「だろー?……えっと、さっきまでなんの話してたっけ」

京太郎「加治木さんの話……いや、加治木さんと東横さんの話ですね」

この短時間で、また桃子の存在が意識からとびかけていた。

マホ「加治木さんも、東横さんが見えるわけじゃないって……」

智美「そうそう。モモはなー、基本的に誰にも見えないぞ?ゆみちんにもな。
けど、私たちは……モモが欲しかった。まだ名前も知らなかった頃のモモをな」

京太郎「どういうことですか?」

智美「麻雀部の部員を募集する時に、学内でネット麻雀をしたんだ。私たちとモモは、そこで初めて出会った……。
そして、その時の打ち筋を見たゆみちんがモモを気に入ってな。入部しないかって何度もチャットで誘ったんだ」

マホ「それで、説得に応じて入部した……と」

智美「いや?何度誘っても断られたさ」

ラーメンをすすりながら、なんでもないことのように智美は言った。
233 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:13:57.53 ID:z+8iKsTi0
智美「モモはあの体質もあるからな。チャットじゃ普通に話せても、リアルの人付き合いはできないんだ。
いや、今はできてるけど、少なくとも本人はできないと思ってた――あの日までは」

『麻雀部三年 加治木ゆみだ』
『私は 君が欲しい!!』

智美「業を煮やしたゆみちんが、モモのいる教室に乗り込んでいって……見えない相手に直接呼びかけたんだ。
君が必要だ、麻雀部に入ってくれ……と」

京太郎「凄い行動力……というか。冷静沈着ってイメージだったんですけど、意外と……」

マホ「大胆な人なんですね、加治木さん」

智美「本人もらしくないことをしたと言ってたなー。でも、おかげで……」

『面白いひとっすね』
『こんな 私で良ければ!!』

京太郎「なるほど……」

マホ「凄い……良い話です」

智美「ま、ゆみちんとモモの関係はそんな感じだな」

京太郎「大体わかりました。ありがとうございます」

空になった丼を置く。マホはまだ食べ終わっていない。

京太郎「……少し、風に当たってきます」

智美「おー、わかった。じゃあ外で待ってろー」ワハハ
234 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:15:05.13 ID:z+8iKsTi0
――――

京太郎(……そんなに風ないな。淀んでやがる)

梅雨ほどではないが、じめっとした空気が充満している。

京太郎(……ん、ちょうど良いところに)

智美の止めたワーゲンからそう遠くない位置に、ディスカウントショップがあった。

京太郎(メモは……っと。色々あるな)

特にこだわりもない。なんとなく目についたものを取って、手元で眺める。

京太郎(ゆるキャラ……っていうのか?こういうの。どっかで見たような……。
あとシャーペンは……いいか)

宿で宿題をするために、筆記用具は京太郎もマホも持ってきている。

京太郎(これにするか。そんなに時間ないしな)

一つだけ買って、京太郎は店を出た。
235 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:16:15.50 ID:z+8iKsTi0
――――

〜宿〜

京太郎「ったく、帰りは死ぬかと思ったぞ……」

食ってからまた智美の運転で、吐く寸前だった。さすがにマホが行きで吐いたことや、
もう暗くなっていることを考慮して智美も大人しめだったが。

京太郎「次は、あの人の誘いは絶対に断ろう……」

宿の畳に寝っ転がる。当然マホとは別々の部屋なので、一人っきりでくつろげる。

京太郎(一人っきり、か……)

一人でいることも嫌いではない。だが京太郎は、他人と一緒にいる方が好きだった。

京太郎(うん、俺は人の輪の中で生きてく方が性に合ってる……。けど、こうして一人になると……楽だな)

この部屋には今、自分しかいない。誰にも見られてないし、誰に気を使う必要もない。
もしこの状態がずっと続くなら、それはどうしようもなく楽で、そして――寂しいだろう。

京太郎(あの人は……東横さんは、ずっとそんな感じだったのかな)

練習中にポツリと漏らしていた。麻雀部に入らなければ、私はずっと一人だったかもしれない――と。

京太郎(他人とのコミニュケーションは……面倒なこともある。東横さんの体質があればなおさらだろうな)

目を閉じる。昨夜はあまり寝ていないが、睡魔がやってくる気配は無い。

京太郎「……」

瞑目したまま考える。明日どうするか。ゆみにどうやって勝つか。桃子にどうやって勝つか。

京太郎(……よし、メモを使うか……)

どれくらい目を閉じていたか。考えがまとまり、起きて部屋を出る。


京太郎「おーい、マホちゃん。筆箱を貸して欲しいんだけど……」
236 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:17:21.40 ID:z+8iKsTi0
――――

桃子は寝る前に、今日会った二人のことを考えていた。

桃子(真似っこさん……マホちゃんは、打ち方を真似すると真似した人の『力』も再現できるんすよね。
なら……私のステルスも、あるいは……)

明日は警戒した方がいいかもしれない。

桃子(それに、清澄のおっぱいさんも、私のステルスが通用しなかったし……。
嶺上さんも、私が切った牌の中で槓材だけはギリギリ見えたらしいっすから、要注意っす)

それから、京太郎。

桃子(京ちゃんさんは……変な人っす。なんで私なんかにこだわるんすかね)

龍門渕透華のように、桃子をライバル視する人は今までにもいた。だが、それは桃子が強いからだ。
桃子でなくても、麻雀が強い人はいくらでもいる。桃子のそばにも、加治木ゆみというわかりやすい例がある。

桃子(なのに、京ちゃんさんは……加治木先輩よりも、私に勝ちたがっている。
それに、変なこだわりを感じるっす。あの時も……)

――――

今日の練習中のこと――

京太郎「ロン!リーチタンヤオ……」バラッ

桃子「フリテンっすよ。須賀君」ユラッ

京太郎「……そうか。なら仕方ない、罰符でいいな?」チャラ

桃子「えっ……いや、でも……」

桃子(確かに普通ならこのチョンボは罰符か和了り放棄……でも、今の状況は普通じゃない)

桃子「いいっすよ、ロンだけ巻き戻しで。こんなの、私と打ってたらよくあることっす」

京太郎「いいや、ルール通りにするべきだ。どんな理由があれ、俺は誤ロンのチョンボをした。なら満貫払いだろ」

桃子「……まあ、いいっすけど」
237 : ◆3em28n6/NM [saga]:2017/04/08(土) 19:18:21.68 ID:z+8iKsTi0
――――

桃子(フェア精神……っすかね。でも、ちょっと頑な過ぎっす。須賀君がミスしたわけでもないのに……)

基本的に桃子は、対局相手の見逃しをその人のミスとして認識していない。
桃子の捨て牌が見えないのは、桃子がそうさせているからだ。相手は何も悪くない。

桃子(もちろん、公式試合なら相手のチョンボ扱いにして利用するっすけど……
普段の練習でいちいち罰符なんて払ってたら、私はまともに麻雀を打つこともできないっす)

麻雀もある種のコミニュケーションの上に成り立っている。その場では、桃子の力はやはりハンデとも言えるのだ。

桃子(もし私が罰符を求めるようにしたら……きっと誰も私と打たなくなる。
せっかく楽しい空間ができたのに、それを壊したくはない)

ぎゅっと目を瞑る。今日はたくさん打ったから、少し疲れているかもしれない。

桃子(今夜は……ラジオはいい。もう寝よう……)

夜が深くなる前に――桃子の意識は、夢の世界へと旅立っていった。


To be continued……
238 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 19:27:04.51 ID:z+8iKsTi0
ふぅ、ようやく鶴賀編前編終了……。長らくお待たせして申し訳ない

>>205
すごく嬉しいけど、そんなに期待しないでくださいね……(小声)
239 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/04/08(土) 19:51:00.18 ID:z+8iKsTi0
次回予告

睦月「あれは役満手のような一発逆転の手のテンパイ……」

佳織「それの何がいけないのかな?」

マホ「マホはもう……妹尾さんを否定したりしない!」

桃子「今はまだ私が動く時ではない……」

京太郎「壊れろ運命!」

次回、『ピースの輪』。お楽しみに!
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 20:02:03.36 ID:CudtQkge0
乙!
次も楽しみに待ってます
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/12(水) 01:01:58.46 ID:Xo0oyoj60
次回も楽しみにしています
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/23(日) 21:47:23.32 ID:HU1j4VoGO
おつ!
次回も楽しみ!
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/06(土) 16:19:36.12 ID:8s/BHDcb0
おつ
一気読みしたけど面白い、次回も楽しみ
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 20:01:42.07 ID:hfXDXw0PO
乙乙
咲さんどうした
245 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/06/07(水) 08:22:50.56 ID:G97DDSiM0
生存報告。
ただ今闘牌描写中……もうしばらくお待ち下さい
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/07(水) 09:17:00.12 ID:4U+Adw3BO
待ってる
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 10:23:34.42 ID:X43CuTkz0
1ヶ月経ったか、大丈夫かな?
248 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/07/26(水) 20:58:00.44 ID:Rfkr+sD00
リアルが忙しくて遊戯王も見れてない……
今日モモの誕生日だったから更新したかったけど、無理だった
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 21:01:28.16 ID:6ZzcRg2Bo
残念 舞ってる
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 21:21:30.39 ID:hvvGsHQ7o
今作の遊戯王は面白いぞ……
続き待ってます
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 19:41:27.48 ID:aPEd3P/00
1ヶ月過ぎてたか、忙しいなら仕方ないし無事なことだけ祈ろう
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/14(木) 23:36:36.33 ID:vXIg4mlSo
253 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/09/20(水) 07:36:57.42 ID:zLP7ncc40
そろそろ二ヶ月経つので生存報告。もう半年も止まってると思うと待ってくれている人に申し訳なく思います。
少しずつ進んではいるので、まだエタることはないです。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/20(水) 08:05:30.29 ID:YY9Gp0LQO
待ってる
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/20(水) 12:25:49.79 ID:76+ibd3AO
待ってます〜
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 18:07:44.48 ID:N7hEp2mB0
待ってるぞ
257 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/11/18(土) 15:19:26.44 ID:21TfPOVE0
もうそろそろこのスレも記念すべき一周年(白目)
多分今年のうちには投下する……したい。がんばる。
敦賀も三部構成にしておけば良かったと後悔してますが、もうかなり出来上がってるんで後編は一気にやります。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/18(土) 20:33:56.17 ID:luJBKFkko
エタってなかったやったー!
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/16(土) 21:52:04.13 ID:RMI4JoYzO
生きてる?
260 : ◆3em28n6/NM [sage saga]:2017/12/20(水) 22:29:00.31 ID:L/j4VbIY0
マホ誕いぇい〜
生きてるけどインフルかもしれない。
投下できない非力な私を許してくれ……
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