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ピエロのピエトロ・ピルエット・エルル -
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1 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:06:25.51 ID:pdC/HIHz0
くるくる。
くるくる。
くるくるり。
ぼくが夢の中で見る、華麗なバレエのピルエットは。
赤と黄色の水玉模様の、だぼついた道化服を着たぼくには、到底踊れないものだった。
名前も知らないその少女は、いつまでもいつまでも、ずっと、ずっと。
美しいバレエを踊り続ける。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1483794385
1.5 :
荒巻@管理人★
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ポリュビオスの暗号 @ 2024/12/14(土) 13:36:52.72 ID:8WO0g1C+o
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寒いにゃ……… @ 2024/12/13(金) 18:25:03.89 ID:15po7JsmO
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寝こさんの避難所 @ 2024/12/13(金) 00:00:08.47 ID:fm6d0feho
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寒いにゃ…… @ 2024/12/12(木) 14:18:56.10 ID:825NBLIQo
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■ 萌竜会 ■ @ 2024/12/12(木) 07:19:41.70 ID:z/COP3F2o
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AA雑談をやるでごわす!! @ 2024/12/11(水) 21:21:34.78 ID:ls3Cf2Xro
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淡々と許せてしまうの? @ 2024/12/11(水) 19:08:42.23 ID:ydAYPGAsO
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胸の奥の方に隠したの? @ 2024/12/11(水) 19:04:03.21 ID:nEkxEFkeO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1733911443/
2 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:06:55.11 ID:pdC/HIHz0
夢の中のぼく達は、古い大きな劇場の、ステージの上に立っていて。
観客は皆、天使だった。
6歳から15歳までの年若い女児が、ふわふわの白い服を着て。
ほわほわの白い翼をはためかせる。
3 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:07:36.58 ID:pdC/HIHz0
なんだか居心地が悪い気がして。
どうせならジャグリングの一つでも、天使に見せてあげようかと思ったけれど。
ぼくの手にはボールやピンじゃあなく、白い大きな羽根が握られていた。
これじゃあ芸の一つも出来やしない。
4 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:08:25.22 ID:pdC/HIHz0
どうしようかと物思いに耽っていると。
「ピエトロ」
と、名前を呼ばれた気がした。
そこにいるのは踊り続ける少女だけ。
5 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:09:05.90 ID:pdC/HIHz0
「ねえ、ピエトロ。あなたってもしかして、ピエロなの?」
今度ははっきりと聞こえた。
バレエのピルエットを回り続ける少女が、ぼくの名前を呼んでいる。
自己紹介をした覚えは無いのに、少女は回りながら言う。
6 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:10:08.80 ID:pdC/HIHz0
「ねえ。ピエトロは、ピエロなの?」
「ああ、ぼくは、ピエロだよ。そして、ピエトロって名前だ」
「そう。わたしの事は、知ってる?」
「知らないよ……誰なんだい、君は」
「……本当に知らないの?」
「本当に知らないよ」
「ふうん……そう」
「なんだい、それは」
7 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:11:12.38 ID:pdC/HIHz0
「ううん……あのね、わたしの名前は、エルルっていうの」
「エルル?」
「そう、エルル。バレエのピルエットを踊る、エルル」
「ピエロのピエトロに、ピルエットのエルルか」
「ピルエット以外も踊るけど、ね」
「そりゃあ、ぼくだって、ピエロの格好以外もするよ」
「あはははは」
「あはははは」
くるくるくるり。
くるくるり。
8 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:12:33.90 ID:pdC/HIHz0
「けれど、ピエトロは、ピエロじゃあないわね」
「どういう意味だい?ぼくはピエロさ。ほら、ピエロの格好をしている」
「けれど、ピエトロは、笑っちゃいないもの」
言われて思わず、顔に手を当てる。
ぼくはピエロの化粧をしていなかった。
白い粉も、涙の模様も。
口角を上げる赤い口紅すらつけていない。
道化師の服を着ているくせに、これじゃあチグハグのバラバラだ。
9 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:13:35.95 ID:pdC/HIHz0
「わたし、知ってるもの。ピエロはね、どんなに辛くても、どんなに悲しくても、涙は一筋しか流さないの」
「一筋?一筋は泣くのかい?」
「その一筋は、涙の形をした化粧なの。だから、ピエロは泣いちゃあダメなの」
「……よく知ってるね。ぼくが、涙の形の化粧をするの」
「ピエロはみぃんな、そうなのよ。だから、ピエロは笑わないと」
くるくるくるり。
くるくるり。
10 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:14:41.59 ID:pdC/HIHz0
「いつもは化粧をしているよ。ニッコリ笑った、赤い口紅を」
「そういう事じゃあなくってね。心から笑ってもらいたいなら、あなたも笑わなくっちゃあ、ね」
「…………」
11 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:15:41.42 ID:pdC/HIHz0
押し黙ってしまったぼくは、ひどく小さな存在に思えた。
しかし、観客の天使達は、ステージの上に立つぼくを見失わず、いつまでもいつまでも、ずっと、ずっと。
見つめ続ける。見つめ続ける。
12 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:16:16.53 ID:pdC/HIHz0
このまま小さくなっちゃって、消える事が出来たら楽なのに、な。
と、心の片隅で思う。
13 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:16:58.30 ID:pdC/HIHz0
少女は喋る事をやめない。
回りながら、くるくるぺらぺら。
「ピエトロは、ピエロなんでしょう?」
「ああ……ぼくは、ピエロだよ」
「笑わせたいの?」
「笑わせたいさ」
「それじゃあ、ピエトロ。あなたは、笑いたい?」
「……」
14 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:17:50.62 ID:pdC/HIHz0
「ピエロのあなたは、笑いたいの?」
「……笑いたいとは、思わないかな。ぼくは、笑うことが出来ないんだ」
「嘘よ。だってさっき、笑ったもの。あははははって」
「笑ったかな?」
「笑ったわよ」
「見間違いだよ」
「見間違いじゃあないわ」
「だって、君は回ってる。ずっとずうっと、回ってる」
くるくるくるり。
くるくるり。
15 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:18:41.87 ID:pdC/HIHz0
「回っちゃダメかしら?」
「ダメじゃあないけれど」
「練習、しないといけないの。ピルエットの練習よ。もうすぐ、発表会だから」
「発表会?」
「そう。わたし、踊るのよ。おとうさんとおかあさんと、大勢の人たちが見る前で、バレエを踊るの。だから、上手くならなくっちゃ。ね」
「十分上手いと思うけれど……」
16 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:19:28.36 ID:pdC/HIHz0
「もう、ピエトロは何が言いたいの?」
「ぼくかい?」
「あなたよ」
「そうだなあ。ぼくとお話する時くらい、ピルエットの練習はやめてもらいたいかな」
「……」
くるくるくるり。
くる、くる、くる……。
17 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:20:48.03 ID:pdC/HIHz0
「ほら!止まってあげたわよ」
「ああ、止まったね」
「これで、いいの?」
「ああ。これなら、見間違いなんてしないだろうね」
「だから、見間違いじゃあないったら」
「じゃあ、聞き間違いだよ」
「聞き間違いでもないわ」
「だって、ぼくは、笑わないもの」
「どうして?」
「どうして、って?」
「どうして、ピエトロは笑わないの?」
「どうして……」
18 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:22:00.73 ID:pdC/HIHz0
理由を話そうとしたら、ノドの奥がじぃんと熱くなった。
けれど、涙は出なかったから、ぼくは熱いノドを冷やすように、息を吐き出す。
「妹が、天使になったんだ。それから、ぼくは笑わない」
「天使に?まあ!それって、名誉な事だわ!」
「本気で言っているのかい?」
「本気で言っているわよ。どうして?」
「……」
「ピエトロは、天使が嫌いなの?」
「……」
19 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:23:22.04 ID:pdC/HIHz0
言うべき言葉が見つからなくって、ぼくは観客席を眺めた。
年若い天使達は、身体を揺らしながら。
ヘンテコな歌を朗々と歌い始める。
20 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:24:22.71 ID:pdC/HIHz0
♪可愛い天使の作り方
まず必要なのは女の子
素直で可愛い6歳から
しっかりものの15歳
良い事たっぷりし続けて
パパとママに愛された子だけが
可愛い天使になれるのよ♪
21 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:25:32.83 ID:pdC/HIHz0
♪必要なのは羽根の模様
それが身体に浮き出たら
天使になるのはすぐの事
パパとママにお別れのキスをして
嫌いなピーマン食べられるようになったら
模様が本物の翼になって
自由に空を飛び回れるの♪
22 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:26:51.97 ID:pdC/HIHz0
♪いらないものは命と身体
天使にそんなの必要ないの
パパとママには会えなくなるけど
お空の上から二人の事を
見つめる事は出来るから
悲しくなんかないからね
らるは・はれるや・はられや・はれや♪
23 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:27:54.68 ID:pdC/HIHz0
観客席の一番前に、天使になった妹の顔を見つけた気がして。
ぼくは手を伸ばしたけれど、まばたきをする間に、妹の顔は消えてしまった。
24 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:29:34.91 ID:pdC/HIHz0
ふと、妹の顔を思い出せない事に気付く。
ついさっき見えた気がした顔も、それがどんな表情をしていたのかがわからない。
「……ピエトロは、妹さんの事が、大好きだったのね」
エルルの声が、遥か遠くから聞こえる。
頬が濡れたような感じがして、ぼくはごしごしと拭ったけれど。
ちっとも濡れてなんかいなくて、ぼくは途方に暮れた。
25 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:30:34.10 ID:pdC/HIHz0
「ピエトロ、あなた、泣いているの?」
「まさか。泣いてなんか、いないさ」
「泣いてもいいのよ」
「……泣いても、いいのかい?」
「わたし、知ってるもの。ピエロはね、どんなに辛くても、どんなに悲しくても、涙は一筋しか流さないの」
「一筋……」
「ピエトロ、あなたは今、ピエロの化粧をしていないわ。だから、泣いたっていいのよ」
26 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:31:42.27 ID:pdC/HIHz0
少女が、またバレエを踊り始める。
細い手足を大きく広げて、美しく舞う。
「また、踊るのかい」
「踊るわよ。だって、わたしがあんまりにも口やかましく、めんどりみたいにぴぃぴぃ騒いでいたら、ピエトロ。あなたは、泣けないものね」
「……」
27 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:32:37.92 ID:pdC/HIHz0
「泣いても、いいのよ」
「……泣かないよ」
「あら、泣かないの?」
「ああ。泣かない。……けれど、君は、回っているから……見間違うかも、しれないね」
「ええ、ええ。わたしはきっと、見間違ってしまうわね」
熱い涙が、からからに乾いた頬を、伝う。
少女の踊るバレエを見ながら、ぼくは、長い間、何年かぶりの涙を流した。
28 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:33:36.64 ID:pdC/HIHz0
どのくらい時間が経っただろう。
ぼくの涙がすっかり乾いてしまった頃。
くるくると回っていたエルルが、またぴたりと止まり、ぼくに手を差し出した。
29 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:34:28.01 ID:pdC/HIHz0
「ねえ、ピエトロ。良かったら、わたしといっしょに、踊らない?」
「……エルル。バレエは、ワルツやタンゴとは違うよ。二人で踊るもんじゃあない」
「あら、そんな決まりなんか、ないわよ」
「……それに、ぼくは道化服を着ている」
「ええ。着ているわね。それが?」
30 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:35:18.11 ID:pdC/HIHz0
「こんなだぼだぼの服を着たぼくに、ダンスなんか、できっこないさ」
「そんなもの、ポンポコピーよっ!」
頬を膨らませて怒る少女を見て。
ぼくはぷっと、ふき出した。
31 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:36:14.33 ID:pdC/HIHz0
「なんだい、それ?」
「ポンポコピーのポンポコナよ。なにも問題なんかなくって、へえっちゃらって事よ。ぴーいっ」
「へえっちゃら、か。それで、ぴーいっ」
「そうよ。だって、ピエトロは、ピエロなんでしょう?」
「うん。……それが?」
32 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:36:56.76 ID:pdC/HIHz0
「ピエトロがピエロなんだったら、こんなヘンテコリンな服なんか着なくっても、ピエロのまんまのはずよ」
「……そうか。そうだよな」
「それに、きっとピエトロなら、ヘンテコリンな服を着たまんまでも、わたしとダンスを踊れるわ」
「……それは……どうしてだい?」
33 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:38:02.38 ID:pdC/HIHz0
「だって、これは、夢だもの」
34 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:39:16.64 ID:pdC/HIHz0
世界が、冬の朝の日のように。
恐ろしいくらい、冷えわたる。
35 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:39:51.34 ID:pdC/HIHz0
「……そう。これは、ぼくの夢」
「そして、わたしの夢でもあるわ」
「……君の?」
「わたしも、よ」
「……夢、なんだねぇ」
「夢、なのよ。ね」
36 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:41:02.54 ID:pdC/HIHz0
ぼくは、少女の手をとった。
小さくて、暖かい、手の平だった。
「左手はそえるだけよ、ピエトロ。腰の辺りで……そうそう、上手」
「エルル、ぼくは踊りなんて、一つたりとも知らないよ」
「大丈夫。わたしがリード、してあげるわ」
37 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:42:28.50 ID:pdC/HIHz0
少女に手を引かれて、不格好なダンスが始まる。
いつの間にか、観客の天使達は、手に手に楽器を持っていて。
ぼく達の踊りに合わせて、美しいメロディを奏でる。
「アン・ドゥ・トロワ……アン・ドゥ・トロワ……なぁんだ。上手じゃあない。ピエトロ」
「話しかけないでほしいな。君の足を踏まないように、必死なんだよ」
「ふふっ……大丈夫よ。ピエトロ」
38 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:43:07.73 ID:pdC/HIHz0
「最後は、またねって言うのよ。くるりと回って、また会いましょう」
そう言って、エルルはくるりとぼくの手を離れ。
「またね」
と言って、空を飛んだ。
39 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:44:09.88 ID:pdC/HIHz0
彼女の背中には、大きな白い翼があって……。
どんどん、どんどん、ぐんぐんと。
天井のない劇場の、青い空へと吸い込まれていく。
ぼくは、ようやく彼女の事を思い出した。
40 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:45:09.03 ID:pdC/HIHz0
「エルル」
と、やっとの思いで叫んだ時。
ぼくは目を覚ましていた。
もう、彼女に会えないとは、知っていた。
41 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:45:43.59 ID:pdC/HIHz0
夢から帰ってきたぼくを待つのは、小さなアパートの一室に。
無造作に置かれた、汚れたボール。
ジャグリングのピン、壊れた輪っかがいくつかと。
だぼついた道化服、化粧道具。
……笑えないピエロのぼくにはぴったりだ。
だけど……ぼくは、今日は笑おうと心に決めた。
42 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:46:39.40 ID:pdC/HIHz0
妹に、会えたからだ。
43 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:47:45.07 ID:pdC/HIHz0
「エルル……エルル。どうして忘れていたんだろう。夢の中だからといって、お前の事をすっかり忘れるなんて……」
バレエの発表会を楽しみにしていた、エルル。
ピエロのぼくの芸が大好きだった、エルル。
病気で天使になってしまい、帰って来なくなった、エルル……。
44 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:48:51.24 ID:pdC/HIHz0
あれからぼくは笑えなくなった。
笑えなくなったピエロを皆は、笑ってくれなくなってしまった。
ぼくはずっと、涙を流していたのだ……。
45 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:49:38.21 ID:pdC/HIHz0
「エルル……お前は、まだバレエの練習を、しているんだなぁ……」
いつかきっと、彼女に再び会えた時。
彼女の華麗なピルエットを、見せてもらおう。
一生懸命練習した、鳥よりも、蝶よりも、華麗な踊りだ。
そして、ぼくはジャグリングをするんだ。
ずっとずうっと磨き続けた、彼女に負けないくらいに凄い、素晴らしい技を見せてあげよう。
観客たちは大喝采さ。
二人で素敵なショーを作ろう。
ヘンテコな歌を口ずさむよ。
らるは・はれるや・はられや・はるや。
46 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:50:16.61 ID:pdC/HIHz0
「お前に笑われないような……笑ってくれるような、立派なピエロにならないと、な」
いつもの公園で、ビスケットの缶を置いて。
ぼくは今日も、ジャグリングをする。
けれど、今日は、とびっきりの笑顔で。
47 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:50:55.06 ID:pdC/HIHz0
バレエの動きを取り入れた、軽やかな動きでピエロを演じる。
笑ってくれる、子供たちの中に……。
48 :
◆eUwxvhsdPM
[saga]:2017/01/07(土) 22:51:25.65 ID:pdC/HIHz0
……妹の。
エルルの笑顔が、見えた気がした。
おしまい。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/07(土) 22:55:29.42 ID:vqYbyOFA0
ブラヴォー!!
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/08(日) 01:21:31.56 ID:ltiQYVLR0
ええ話じゃった
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