俺ガイルSS 『思いのほか壁ドンは難しい』 その他 Part2

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1 :1 [sage]:2017/02/12(日) 13:32:36.66 ID:yhf5+NBv0

前スレ 俺ガイルSS 『思いのほか壁ドンは難しい』

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457710424/

俺ガイルSS 『思いのほか壁ドンは難しい』 1〜106

俺ガイルSS 『そして彼と彼女は別々に歩み始める』  119〜244

俺ガイルSS 『かくして文化祭に房総の赤き狂犬は暴走す』 253〜742

俺ガイルSS 『(やはり)俺(に)は友達がい(ら)ない』 752〜




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486873956
2 :1 [sage]:2017/02/12(日) 13:33:28.66 ID:yhf5+NBv0

取り敢えず、前スレで続いてます。ノシ
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/12(日) 22:23:46.98 ID:fXe4Y/q9o
>>1
リクエストに応えてくれてうれしい
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/13(月) 00:56:19.70 ID:G7m5KkOuo
乙です
5 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:29:40.47 ID:arWTHg3M0

興が乗ったのでちょっとだけ更新。
6 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:32:21.44 ID:arWTHg3M0


小町「 ―――――― お兄ちゃん、どうかしたの?」


差し向かいで晩飯を食べていると、妹の小町が突然俺を見てそんなことを言い出した。
どうやら考え事をしていたのがバレたらしい。


八幡「 ……… 何がだよ?」


ご飯茶碗を置いた手でみそ汁の椀を取り、ズズズとわざとらしく音を立てて啜りながら、それとなく妹の様子を窺う。


小町「何が、じゃなくって、今日のお兄ちゃん何か変だよ。まぁ、お兄ちゃんは大抵変だし、いつもどうかしてるんだけど」

酷い言われようではあるのだが、それも兄妹ゆえの気安さと言えないこともない。
それに俺の様子を気遣ってくれているのだと思えば決して悪い気はしない。人はそれを“ポジティブ・シンキング”或いは“物は考えよう”と呼ぶ。


小町「どうせお兄ちゃんのことだから、また何かやらかしたんでしょ?」

八幡「おい、またってなんだよ、またって。お前お兄ちゃんのこと何か誤解してない?」

小町「いつも誤解されるような事ばっかしてるお兄ちゃんがいけないんでしょ?」

俺の反論に、ふんす、とばかりに鼻息を荒くして答える。


八幡「 ……… 返す言葉もないのが、お兄ちゃんは悲しいよ」


7 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:34:18.07 ID:arWTHg3M0

小町「まったく。で、今度は何したの? 相手は雪乃さん? 結衣さん? それとも両方? 小町からもよく謝っておいてあげるから」

八幡「おいちょっと待て、なんでそのふたり限定なんだよ?」

小町「だって、“合格したらどっか遊びに行きませんか”ってお誘いのメールしたのに、ふたりとも返事こないし」

今時の中学生にしては珍しく小町はLINEとかはやっていない。本人曰く、いちいち相手をするのがメンドクサイからイヤなんだそうだ。俺の。


小町「誘い方がまずかったのかなぁ …… 」

ボヤきながら、小さく首を捻る。

彼女達が返信できない理由を知る俺としては、そのことを話してやってもよいのだが、なにぶん小町は受験生だ。
合格が決まるまであまり余計な心配はかけたくはないので、取り敢えず今は黙っていることにした。


小町「 ……“お兄ちゃんも一緒に”って書いちゃったし」

八幡「 ………… お願いだからお兄ちゃんに内緒で勝手にそういうことするのやめてくれる?」


8 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:39:47.54 ID:arWTHg3M0

小町「どうでもいいけど、小町も入学するかもわかんないんだから、ふたりとギクシャクするようなことだけはやめてよね」

んー、とか、あーとか生返事でのらりくらりと交わしつつ、再び箸をすすめる。


八幡「まぁ、そうなったら、お兄ちゃん的には小町に変な虫がつかないように常に目を光らせる必要があるな」

俺がわざとその話題から逸れるように誘導すると、

小町「 …… それってもう無駄じゃない?」

小町がいかにもさりげなく、それでいて聞き捨てならないセリフを口にする。


八幡「なにっ? いつの間にっ?! 相手は誰だ相手はっ!? もしかして大志かっ? お父さんは絶対に認めんぞっ!」


小町「 ……… お父さんじゃなくってお兄ちゃんでしょ。でも、ちょっと似てるかも」

腰を半分浮かせかけた俺に苦笑いを浮かべながらとんでもないことを言い出した。

八幡「 ……… 頼むから冗談でもやめてくれ」

そうでなくとも最近は、朝、鏡見るとたまに自分の顔がオヤジに似てきたことを自覚することがままある。
このまま順当に成長したら、今は腐っている俺の目も、将来的にはオヤジのような死んだ社畜のような目になるのかと思うと、それだけでもうゲンナリとしてしまう。


小町「 …… そうじゃなくって、もう既に変なお兄ちゃんが四六時中つきまとってるし、目だっていつもこれ以上はないくらい腐ってるってことだよ」

そして、やれやれ合格しても先が思いやられるよ、とわざとらしく溜息を吐く。


八幡「何を言う? 合格すれば毎日嬉し恥ずかし兄妹二人乗りで自転車通学だってできるんだぞ?」 

小町「 …… それって、多分、嬉しいのはお兄ちゃんだけで小町は恥ずかしいだけだと思う」

9 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:42:14.51 ID:arWTHg3M0


小町「はいこれ」

小町がテーブルの脇から滑らせるようにして小さな紙片を差し出す。

見慣れたクセのある丸文字で書かれているのは、それぞれ11桁の数字と@マークを挿んだ、二組の文字の羅列。

ひとつは見覚えがあるが、もうひとつは初見だった。

それが何であるかに気が付いて、暫し葛藤の末、黙って手を伸ばす。もしかしたら今後何かの時に必要になるかも知れない。

ひょいと目を向けると、そんな俺を小町がニヤニヤと見ている。しかも、

小町「謝るなら早いに越したことはないよ」 

訳知り顔でそんなことまで言う。


八幡「こほん、あー…、ひょっとして、お兄ちゃんのこと心配してくれてるの? そんなに好きなの?」

空咳をひとつ、敢えて茶化すようにまぜっかえすと、


小町「そうじゃなくって、なんていうか、こう、うまく言えないけど ……………… 溜息が鬱陶しい?」

八幡「 ……… もしかしてお前、気遣うふりしてお兄ちゃんの心、ガチで折りに来てない?」

10 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:44:36.28 ID:arWTHg3M0

食事が終わった頃合いを見計らってか、余り物にありつこうと飼い猫のカマクラが小町の膝の上に飛び乗った。
そんなカマクラの頭を優しく撫でながら、


小町「 ……… ホント、お願いだからね?」


先ほどまでと違うトーンで小町が口にする。


八幡「 ――― ああ、わかってるよ。可愛い妹のためだからな」

小町「それから、そういうのキモいから学校では絶対に言わないでね」

そう言って少しだけ怒ったような顔でそっぽを向く。長年の付き合いだ。それが照れ隠しであることくらいはすぐにわかる。
それに、それはつまり家でなら構わない、ということでもあるのだろう。

11 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:49:04.78 ID:arWTHg3M0

今日の晩御飯の用意したのは小町なので、片付けは本来俺の仕事なのだが、なぜか小町は黙って俺の隣に立ち皿洗いを手伝い始める。

カチャカチャと食器同士のぶつかる音の合間に聞こえる小町の鼻歌と、時折触れる肩の感触が心地よい。


妹の為とあらば何でもしてあげたいし、実際、何でもできるような気がした。

――― だが、古人曰く、世の中、一寸先は闇である。

既に窓の外には夜の静寂(しじま)が降り立ち、曇りガラスを黒く塗り潰す。

未来は夜の闇のようにあまりにも昏く不透明で、これからいったいどうすべきなのかは俺自身にも皆目見当がつかなかった。

12 :1 [sage]:2017/02/15(水) 00:49:30.91 ID:arWTHg3M0

ではでは。ノシ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/15(水) 01:45:06.49 ID:xNvhaTJ9o
乙です
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/15(水) 10:35:31.36 ID:kcP3zc9Xo
おっつ
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/16(木) 08:46:21.27 ID:DaROCIXb0
乙です
16 :1 [sage]:2017/02/18(土) 19:39:21.65 ID:kAqrZqos0

4月18日に原作12巻が出るそうなので、このSSのリミットもそこいらですかね。
17 :1 [sage]:2017/02/18(土) 19:49:31.05 ID:kAqrZqos0

キラキラと無暗に輝く朝の陽の光が射し込み、目がやたらと眩しい。

昨夜はなかなか寝付くことができず、気分転換にと引っ張り出した昔のゲームにものの見事にハマってしまい、結局のところ寝たのは明け方近くになってしまった。
おかげで今朝は超眠い。何度も生欠伸(あくび)をしつつ、既に通い慣れた道を学校へと向けて自転車のペダル漕ぐ。


学校まであと少しというところで、よく見知った顔がひとり佇んでいる姿を見つけ、反射的にブレーキをかけて急停止してしまう。

俺に気が付いて振り向くそのピンクがかった茶髪が朝の陽射しに縁どられ、黄金色に光輝く。


「 ――― おはよ」



そして、その少女 ―――――― 由比ヶ浜結衣はこちらに向け、手袋をした手を小さく振って見せた。

18 :1 [sage]:2017/02/18(土) 19:52:46.37 ID:kAqrZqos0

八幡「 ……… お前、いったいいつからここで待ってたんだよ」

俺の問いを彼女は曖昧な笑みを浮かべてはぐらかす。

結局どうあがいても向かう方向は同じだし、ここで押し問答になっても朝から疲れるだけなので、迷った挙句、俺は仕方なく自転車を降りて由比ヶ浜と肩を並べて歩き始めた。


結衣「 ――― 昨日、あの後、ゆきのんと少し話をしたんだけど」

道すがら、由比ヶ浜が訥々と昨日のことを話し始める。

八幡「 ……… おう」

結衣「これから暫く留学の準備で忙しくなるから、部活これないかもって」

八幡「 ……… そうか」

恐らくは他にもふたりで色んな会話を交わしたことであろうことは想像がつく。
心持ち、由比ヶ浜の瞼が腫れて見えるのも、決して朝だからという理由だけではあるまい。

そんな彼女に対して、俺は他に何と答えたらいいものか、どんな言葉をかけたらいいのかすらわからなかった。
こんな時に気の利いたことひとつ言えないとは、現国学年三位が聞いて呆れる。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/18(土) 19:55:35.24 ID:C9YvgA79O
ガハマ死ね
20 :1 [sage]:2017/02/18(土) 19:56:02.26 ID:kAqrZqos0

結衣「ゆきのんがいなくなっちゃったら、部活、どうなるんだろうね」

八幡「 ……… さぁ、な」

もともと奉仕部は平塚先生が俺や雪ノ下などの問題のある生徒 ――― 端的に言えば将来的な社会不適合者を手元に集め置き、その活動を通じて矯正することを目的として創られた部活だ。

部長である雪ノ下がいなくなれば、部としての体裁を保つために他の者を部長に据えるか、そうでなければ活動を休止せざるを得ないだろう。

俺や由比ヶ浜に雪ノ下の代わりが務まるとは思えないし、かといって彼女以外の者に部長を名乗らせることは甚だ抵抗がある。

それ以前に、雪ノ下のいないあの部活を、もう奉仕部と呼ぶことなどできはしまい。

それに、雪ノ下と由比ヶ浜と俺 ――― 今となっては、三人のうち誰かが欠けても、うまく回らないような気がした。

そして、由比ヶ浜の言う“部活”には、当然、“俺たち”という意味も含まれているはずだった。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 19:58:43.26 ID:C9YvgA79O
寧ろ由比ヶ浜がいない方が厄介事を持ち込んでくるバカがいないから物事がスムーズに進むんでないかな(鼻ホジ)
八雪の進展が遅れたのも2人の間に空気読まない頭ピンクのビッチのせいじゃねえの
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 19:59:16.99 ID:C9YvgA79O
寧ろ由比ヶ浜がいない方が厄介事を持ち込んでくるバカがいないから物事がスムーズに進むんでないかな(鼻ホジ)
八雪の進展が遅れたのも2人の間に割り込む空気読まない頭ピンクのビッチのせいじゃねえの
23 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:00:35.35 ID:kAqrZqos0

学校に近づくに従って次第に生徒の数も増え、友達や知り合いに向けたものらしい男子生徒の低い挨拶の声や、女子生徒の高い嬌声が飛び交う。

そんな中、ふと周りを見回すと、どうやら俺たちが注目を浴びているらしいことに気が付いた。

同じクラスとはいえ、かたや学年でも屈指の美少女、かたや名も知れぬぼっちという組み合わせだ。確かに周りの目から見たら奇異に映っていることだろう。 
由比ヶ浜は普段と変わりなく、声をかけてくる友達相手に男女の分け隔てなく、にこやかに応じている。

俺との仲を冷やかされたりしないかと、変におどおどする様子はうかがえないが、少しだけ恥ずかしがっている態ではあった。もしかして、 

――― そんなに俺といるのは恥ずかしいことなのだろうか。


一年の時のクラスメートなのか、俺の知らない顔も多いので、俺の方はいたたまれない感がマジパない。

しかし、朝から女子と登校って、どんだけ青春ラブコメのテンプレなんだよ。
ただでさえ低い俺のリア充度のリミッターが既に限界値を突破しており、今にも自爆しそうなくらいだった。



24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 20:02:25.29 ID:C9YvgA79O
こういう八幡の考えを察せず追い詰めてる時点でガハマは八幡を苦しめてるだけだわ
これ、奉仕部から消えた方が寧ろ八幡のためなんじゃねえの?
25 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:04:44.83 ID:kAqrZqos0

慣れない行為に朝から精神的に満身創痍になりながらも、そのままなんとか学校まで辿り着くと、校門の前に平塚先生が立っているのが見えた。

いつものように、メリハリの利いたボディをパンツスーツと白衣で押し包み、腕を組んでふんぞり返っている様は、さながら山門の仁王像が如し。

そういや、今週は確か風紀強化週間とかだっけか?

総武高は県内有数の進学校で偏差値も高いせいもあってか、特別風紀が乱れるようなことはないのだが、時折、生活指導の教師と風紀委員の生徒達がこうして校門の前で服装の抜き打ちチェックをすることがある。

校則に照らし合わせて、スカートの丈が短いだの、アクセサリーは禁止だのと細かなチェックを入れるわけだ。
俺としてはスカートの丈は短いに越したことはないと思うのだが、やはりその下にジャージを履くのは厳重に取り締まるべき。

そんな中、ひとり、トレンチコートに指ぬきグローブ姿のデ〇が何やら汗だくになって言い訳している姿が視界の隅に映ったが、関わりたくないのでスルー。
何か問題があるか知らんが、そもそもあいつは存在自体が校則違反だろ。

26 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:09:52.14 ID:kAqrZqos0

結衣「あ、ヒッキー、ちょっと待つし」

八幡「ん?」

今時の女子高生らしくスカートの丈はやや短いものの、由比ヶ浜の服装は特に乱れてないし、俺の方も服装に気をつかうようなオシャレさんでもないので問題はないはずだ。

夏場はついうっかりカッターシャツの下に母ちゃんの買ってきた派手な柄のTシャツを着て登校してしまい、失笑を買うこともあるが冬場はブレザーなのでそれもない。

結衣「シャツの襟、曲がってるし」

そういいながら由比ヶ浜がまるで新妻のように甲斐甲斐しく俺の服装の乱れをなおしてくれる。
逃げようにも両手で自転車のハンドルを握っているので、されるがままだ。

そのあいだにもビシバシと視線が固形物のように降り注ぐ。そうとわかっていれば、腹に週刊少年サ〇デーとか巻いて来たのに。

中にはこれ見よがしに道に唾を吐き捨てるヤツもいる。顔覚えたからな。後で覚えてろよ。今時珍しい不幸の手紙を郵送で送りつけてやる。切手貼らずに。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/18(土) 20:12:50.54 ID:C9YvgA79O
糞ガハマは性根が腐り切ってやがるな
雪乃がいなくなった途端にこれとは最低すぎて反吐がでるな
普段は馬鹿なくせにこういう自分の都合のいい時だけ打算的なのがムカつく
28 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:12:56.62 ID:kAqrZqos0

結衣「はい、オッケー」

八幡「お、おお。スマン」///

文字とおり襟を正して(もらって)何気なく校門を通り抜けようとすると、どうやら平塚先生が俺たちの姿に気がついたらしい。マジマジとこちらを見つめ、次いでゴシゴシと目を擦る。あれ、角膜を傷つけるからよくないらしいんだけどね。


結衣「平塚先生、おはよーござます」

八幡「 …… ども」


平塚「うむ、おはよう。キミたちふたりが連れだって登校とは珍しいな。それもよりによって比企谷が女子と一緒とは。一瞬目を疑ったぞ」

八幡「それは単に老眼が始まっただけじゃ ……… ゲフッ!」

皆まで言い終わる前にボディに拳がめり込む。


平塚「うら若き独身女性に向かって朝から失礼なヤツだ。次は殴るぞ?」

八幡「す ……… 既に十分過ぎるくらい殴ってますよね、それ?」

朝からキツい一発で目が覚めるどころか永眠してしまうところだった。つか、独身強調しすぎだろ。ここでそんな無駄なアッピールしてどうすんだよ。

29 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:14:32.37 ID:kAqrZqos0

結衣「あ、たまたま偶然です。そこでばったり会っちゃって?」

平塚「ほう?」

そうやってあからさまに訝しげな目を俺に向けないでくれますかね。

しっかし、女子ってばホントまるで息を吸うかのようにさらっと嘘つくのな。しかも顔色ひとつ変えない。それが嘘だと知っているはずの俺ですら危うく騙されちゃうレベル。


平塚「そうなのかね?」

八幡「 ……… ええ、そうっす。間違いありません。俺がやりました」

結衣「って、なんで自白みたいになってるし?!」

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 20:14:42.55 ID:C9YvgA79O
すぐ暴力に走る平塚は教師としてだけでなく大人としても失格だよな
31 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:16:39.41 ID:kAqrZqos0

ふむ、と、少しばかり何事か考えるかのような間を置いた後、平塚先生が由比ヶ浜に向けて声を掛ける。

平塚「由比ヶ浜、悪いが比企谷と少し話がある。いいか?」

八幡「ま、まさか続きは拳で語るとか言い出すんじゃないでしょうね? 暴力は反対です。特に俺に対する暴力は」

平塚「それはキミの対応次第だな」

八幡「服装とか髪型には問題ないはずですよ?」

平塚「キミの場合、服装以前に、その腐った目と更に腐り切った性根の方が問題なのだよ」

ひでぇな。まるでいいがかりである。


俺と平塚先生の顔を交互に見ていた由比ヶ浜だが、

結衣「えっと ……… 。あ、じゃ、ヒッキー、また教室でね」

そういって胸の前で小さく手を振り、ぴょこんとひとつお団子髪を揺らすようにして平塚先生に頭を下げると、そそくさとその場を後にした。



……………… あいつ、日和やがったな。

32 :1 [sage]:2017/02/18(土) 20:17:47.25 ID:kAqrZqos0

それでは今日はこの辺で。続きはできればまた近日中に。ノシ
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 20:18:57.02 ID:C9YvgA79O
普段は馬鹿のくせに自分に都合のいい嘘を平然と吐いて八幡が殴られても何の反応も示さない、所詮は自分が我が身が可愛いだけだよな
こういう欺瞞に満ち溢れた人間性を八幡は心の底で見透かしてくれるから由比ヶ浜を心から信用できないんだよ
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 20:55:21.30 ID:L9FkCTf10

この抜け駆けを見てると由比ヶ浜にとってゆきのんとの友情なんて上っ面でしかない事がよくわかりますね
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 22:42:17.18 ID:yOvr/5+fo
乙カレー
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/19(日) 02:06:17.30 ID:+Rb/pRc2o
乙です
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/19(日) 18:20:50.18 ID:NrfzOndA0
乙っす
38 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:33:22.85 ID:3th41DbN0

生徒の服装のチェックを風紀委員に任せ、平塚先生は俺を少し奥まった場所へと連行する。この場合、拉致ると言った方がより的確な表現かもしれない。

…… もしかして俺、本当にボコられるんじゃないでしょうね?

俺の心配をよそに、平塚先生は慣れた手つきで白衣のポケットからタバコを取り出すとそれを口に咥え、淀みなく流れるような動作で火を点けた。


八幡「 …… いいんすか?」

近年はどこの学校でも校内全面禁煙が常識だ。生徒の前で堂々タバコを吸う教師ってのは倫理的に問題ないのだろうか。


平塚「なに、この学校の生徒たちは至極真面目だからな。形の上だけでやってるだけのことだ。外部への体面というものもあるしな」

…… いや、そっちじゃないし。つか、教師がそれ言っていいのかよ。

もしかしてこの先生、俺を口実にして実はタバコ吸いたかっただけなんじゃねぇの?


平塚「ま、キミという問題児の指導も、ある意味、生活指導の一環と言えなくもない」

そう言ってニヤリと笑った。

39 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:35:51.26 ID:3th41DbN0


平塚「 ――― ときに比企谷。雪ノ下の件は既に私の耳にも入っている」


いかにもさり気ない調子で切り出したが、多分、そちらが本題なのだろう。


八幡「 ……… そうですか」

確か一色も職員室で小耳に挟んだと言っていた。ならば当然、先生方の間で話題になっていたとしてもおかしくはあるまい。


平塚「彼女が急に留学を希望するとはな。最初聞いた時は思わず自分の耳を疑ったものだが …… 」

八幡「だからそれは単に耳が遠くなってきただけ ……… はい、嘘です。冗談です。反省してます」


平塚先生がポキポキと指の関節を鳴らしながら威嚇するので、発言を中断せざるを得なくなった。

こういうのってパワハラって言わないのかよ。メンタルとフィジカル両面に渡るパワハラ。

っていうか、いつの間に日本は言論の自由が認められない国になっちゃったんだよ。図書館で戦争が起こっちゃうだろ。

40 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:38:31.96 ID:3th41DbN0

平塚「雪ノ下と直接話はしたのかね?」

八幡「 …… しましたけど、俺には関係ない話だと一蹴されました」


平塚「ふむ。それで?」

八幡「それでって ……… いや、それだけですよ。あいつが自分から言い出した事に俺がとやかく言えるような立場でもありませんから」



平塚「 ――― どうもキミは物事を理屈で考え過ぎる嫌いがあるようだな」

ほんの僅か不可思議な間を置き、平塚先生がいかにも気持ちよさそうに紫煙を吐き出しながら口にする。


平塚「よく言うだろう、“考えるのではない、感じるんだ”と、な」

八幡「 ……… それって、確か映画のセリフでしたよね?」

平塚「ほう、若いのによく知っているな」

八幡「まぁ、それくらいなら。えっと …… スターウォーズのヨーダ …… でしたっけ?」

平塚「 ……… いや、私が知っているのは“燃えよドラゴン”のブルース・リーの方なのだが」

八幡「 ………… は?」


ゲフン、ゲフンとわざとらしい咳払いでお茶を濁そうとしているようだが、例えこの場は誤魔化せたにしてもさすがに年齢(とし)は誤魔化せない。

うん、八幡知ってる! これっていわゆるジェネレーションギャップっていうヤツだよねっ!

41 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:41:12.72 ID:3th41DbN0

平塚「ま、まあ、それはどうでもいい。それよりも今後の奉仕部の体制について、キミとよく話し合っておいた方がいいと思ってな」

八幡「 …… 体制、ですか?」

奉仕部の方針を決めるということであれば俺だけではなく由比ヶ浜も交えて話をすべきだろう。


平塚「雪ノ下は自分の後任として、キミを部長にと強く推薦している。意味は言わずとも …… わかるな?」

恐らく、雪ノ下は自分が去った後も奉仕部の存続を願っている、ということなのだろう。

いかにも責任感の強い彼女らしいが、もしかしたらそこには自分の過ごした場所に対する愛着というか、感傷のようなものが含まれているのかも知れない。

もしそうだとすれば、俺がそれを受け入れることによって雪ノ下の残す憂慮がひとつ消えることとなる。そしてそれは彼女の新たな門出に対する手向けとなることだろう。


―――――― だが、


冗談ではない。そんなのは真っ平ゴメンである。


今まで俺たちがしてきた奉仕部の活動を、雪ノ下と共に過ごしてきた時間を、どのような理由であれこのまま過去の出来事として記憶の片隅に追いやることなどできる訳がない。

誰しもが当然のように雪ノ下のいない未来を仮定する。そのこと自体が無性に腹立たしかった。

しかし、それ以上に赦せないのは、何もせずに指を咥えて見ていることしかできない自分自身だ。

42 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:46:03.20 ID:3th41DbN0


平塚「まぁ、そう恐い顔をするな。私はあくまでも雪ノ下の意向をキミに伝えたまでだ」


そんな思いがつい顔に出てしまったものか、平塚先生がとりなすように言い添える。


八幡「 …… もう行っていいすか? 朝のホームルーム、始まっちゃうんで」

平塚「うむ、いいぞ。引き止めて悪かったな」

八幡「 ……… いえ」


ささくれだった言葉と不躾な態度を諫(いさ)めることなく、先生は苦笑のみを浮かべそれに応える。

43 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:49:35.12 ID:3th41DbN0

平塚「 ――― ま、この件に関しては当面は保留にしておく。キミもよく考えておきたまえ」


背に向けて投げかけられた言葉に、足を止めることも、振り返ることもせず、ただ黙って自転車を押しながら駐輪場へと足を向ける。


けれども、その言葉を口にしている平塚先生もよく分かっているはずだ。

俺が雪ノ下の代わりに奉仕部の部長を引き受ける気などこれっぽっちもないことも、そして、彼女のいない奉仕部にどのような形であれ“今後”等あろうはずもないことも。


先程まであれほど晴れていたというのに知らぬ間に空は雲で覆われ、いつ降り出しても不思議のないその空模様が俺の気持ちを酷く滅入らせていた。

44 :1 [sage]:2017/02/21(火) 00:50:27.43 ID:3th41DbN0

短いですが、キリのいいところで。ノシ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/21(火) 02:15:42.27 ID:my3rkN2Eo
乙です
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/21(火) 12:22:55.36 ID:gwlBNaXyo
乙ー
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/21(火) 13:49:12.83 ID:aZT6/BAco
おつでっしゃ
48 :1 [sage]:2017/02/24(金) 01:36:03.83 ID:LmPfWidG0

教室から見える窓の外の景色はひたすら殺風景で、昨年の秋頃までは色づいていた木々も季節の移り変わりと共にその葉を散らし、今となっては見るからに寒々しい姿を晒すばかりだ。

人間だって所詮、地位だの名誉だのその身を飾るものを全て剥ぎとれば、案外こんな風に侘しいものなのかも知れない。ふとそんな事を思う。

ちなみに俺の場合、懐具合も相当寒々しいが、それはオールシーズンだからあまり関係ない。

昼休み、さすがに北風の容赦なく吹きつける屋外でのひとり飯は身も心もキツいので、自席でもそもそと購買のパンを食べていると、


「 ―――――― 八幡?」


びっくう!

背後からいきなり名前を呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん、って俺、ナニ大魔王なわけ?

クラスメートにさえ名字さえも碌に覚えられていない俺のことを名前で呼ぶ人間なんぞ、この世界広しと雖も家族をおいては他に数えるほどしか存在しない。

しかも、ここF組の教室内で俺をその名で呼ぶことが許されているともなれば ――― 、

そう、それはもう言うまでもなく、ラブリー・マイ・エンジェル、戸塚彩加ただひとりのみである。

49 :1 [sage]:2017/02/24(金) 01:39:10.23 ID:LmPfWidG0

八幡「お、おう。戸塚か」 

少女と見紛う可憐な笑顔、小柄の体躯に細い線、さらっさらの髪に浮く天使の輪。背中にはもしかしたら羽根だって生えているのかも知れない。

八幡「昼飯もう済んだのか?」

つい上擦った声で、しかも喰い気味に訊いてしまう。まだなら一緒にどう? 席なら空いてるぜ? なんなら俺の膝の上に座っちゃう?

戸塚「うん、僕は今終わったとこ。これからちょっとだけ昼練に行こうかと思ってるんだけど …… 」

そう言って後ろ手に持っていたテニスラケットをそっと示す。

八幡「お、おう、そうか、そりゃ残念。で、どうしたんだ? 俺になんか用でもあんのか?」

戸塚「ううんん … 特に用があるって訳じゃないんだけど …… 」

もじもじとしながら、遠慮がちに小さく手を振る。そんな仕草も可愛いぜ。もう千葉市は早急に戸塚保護条例とか制定すべき。

50 :1 [sage]:2017/02/24(金) 01:41:21.05 ID:LmPfWidG0

戸塚「八幡は今日もパンなの? 育ち盛りなのに栄養偏っちゃわない?」

そう言って心配そうに俺の手元を覗き込む。

俺の場合、今日に限らず昼飯は早く済ませるために簡単なパンで済ませることが多い。
だがその分、朝と夜は栄養と愛情の詰まった妹メシを食べているのでそれだけでもうお腹いっぱい胸いっぱいである。

だが、つましい俺の昼食を見られたうえに食生活の心配までされてしまったからには、これはもう責任とって戸塚に結婚してもらうしかない。


51 :1 [sage]:2017/02/24(金) 01:46:41.36 ID:LmPfWidG0

戸塚「はい。良かったら、これ」

八幡「ん?」

小さな掌に載せて差し出されたものはと見れば、バータイプの栄養補助食。しかもチョコレート味。


戸塚「遅くなったけど、友チョコ、かな?」 照れたように頬を赤らめながら笑顔で付け加える。

八幡「 ……… ホモチョコ?」

戸塚「 ……… え?」

思わず呟いてしまった俺の言葉に、戸塚がキョトンと目を丸くする。


八幡「い、いや、なんでもない。忘れてくれ」

条件反射的に由比ヶ浜と一緒にお弁当を囲んでいる海老名さんの方をチラリと見てしまう。

そこにはいつも一緒にいるはずの葉山や三浦、戸部の姿が見えないが、三人一緒とは考えにくい。何かしら別の理由で席を外しているのだろう。

52 :1 [sage]:2017/02/24(金) 01:49:58.82 ID:LmPfWidG0

それはともかく意外なことに、自然界のそれと同じく数キロ先からでも腐臭を嗅ぎ付ける生粋の腐肉漁り(スカベンジャー)であるはずの海老名さんが、どうした訳かまるで反応を示さない。

基準はよくわからないしそれ以上にわかりたくもないのだが、どうやら彼女の中に“さいはち”というタグはないらしい。

恐らく、海老名さんにとっての物事の基準とは、何事によらず至ってシンプルで、萌えるか、萌えないかの二択しかないのだろう。

どうでもいいけど腐女子って不燃ゴミの日に出したら回収してくれないのかなぁ。ある意味産廃だろアレ。BL産業は最後まで責任を持ち、引き取って処分すべきだと思う。


53 :1 [sage]:2017/02/24(金) 01:56:25.56 ID:LmPfWidG0

戸塚「最近、なんかちょっと元気ないみたいだから」

戸塚の優しい言葉とその心遣いに、感動するあまりホロリと涙さえ出そうになる。

八幡「 ……… ありがてぇ、ありがてぇ、尊い、尊い」

思わず手を合わせ声に出して伏し拝んでしまう。食べるなんてもったいない。比企谷家の家宝として床の間に飾り、子々孫々に至るまで伝えるしかあるまい。

戸塚「あはは、大袈裟だなぁ。でも割と元気そうでよかったよ。少しだけ心配してたんだ」

まるで死んだ魚のようだと腐った目には定評のあるこの俺が活き活きしているのもどうかとは思うのだが、もし今の俺が元気そうに見えているのだとすれば、それは間違いなく戸塚と会話してるからだと思うぜ。

俺に向けた照れたような、はにかんだ笑顔が、お気に入りに登録しちゃうくらいに超可愛い。

戸塚かわいい略してとつかわいい。この笑顔を守るためにも国は戸塚保護法を策定すべき。


54 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:03:25.57 ID:LmPfWidG0

戸塚「ねぇ八幡、ボクからひとつお願いがあるんだけど」

うって変わってやや真剣な面持ちで戸塚がおずおずと切り出す。

俺にとって戸塚の存在自体が既に最優先事項だ。それが戸塚の願いとあらば、もし仮に俺に彼女がいたとしても即座に別れる。しかもそのあと戸塚と付き合っちゃうまである。


はっ? ちょっと待て。ってことはそれはつまり ……………………… 結婚?

よし、あいわかった。皆まで言うな。

今すぐ戸塚を連れて最寄りの稲毛区役所の総合窓口まで婚姻届を出しに行こうと腰を浮かせかけたが、そこではたと我に返り、冷静になって思い止まる。


………… っべー、っぶねー。トチ狂って危うく大惨事を引き起こすところだったぜ。


よく考えたら俺ってまだ十七じゃん。とりあえず十八歳になるまで戸塚には待ってもらおう。

55 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:14:21.83 ID:LmPfWidG0

戸塚「 ……… もし、なにか悩み事があるんだったら、ボクにも話してくれると嬉しい …… かな」

言いながら、戸塚が上目遣いでそっと俺を見る。もしかして、ちょっと責められてる?

八幡「当然だろ?なにかなくても戸塚には真っ先に話すに決まってる。というか、俺に悩みなんてないし悩みがないこと自体が俺の悩みと言えるまであるからな」

我ながらテキトーぶっこいて誤魔化すと、

戸塚「ホントに? でも、何かあったらきっとボクにも話してね? 約束だよ? 」

余程俺のことを心配してくれていたのだろう、珍しく念押しするように言ってから、じゃあ、と小さく手を振り、そのまま教室から出て行った。

56 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:28:08.96 ID:LmPfWidG0

そんな戸塚の小さな背中をじっと見送りながら、ちくちくと罪の意識が俺の心を苛む。

―――――― 相談、か。

今まで俺の生きてきた人生の中で、彼女達に逢うまではすることもされることもなかっただけに、今更他の人間に対していったい何をどのように相談すればいいのかすらよくわからない。

だが、話すだけでも気が紛れる、というのは多分嘘だ。少なくとも今の俺には当て嵌まらない。

それは自分の悩みを他人に打ち明けることで、その重みのいくばくかを相手に負わせる行為に他ならないし、結局のところ最後は自分でなんとか解決しなくてはならないことにも変わりはないからだ。

特に、それが自分の蒔いた種である以上、やはりそれは責任をもって己が手で刈り取る他ないのだろう。

例えそれが、どのような結末を迎えることになったとしても。

57 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:30:14.92 ID:LmPfWidG0


三浦「 ――― 結衣! 姫菜! いるっ?!」


戸塚と入れ替わるようにして、慌ただしく三浦が教室に駆け込んできた。

三浦「ヤバイヤバイヤバイヤバイ、あーし、ちょっとマジで超ヤバイかもっ!?」

息を切らしながらふたりに向けて興奮気味に話しかける彼女のテンションが既に超ヤバイ。

昨日から葉山の件でずっと落ち込んでいたはずだけに、妙に弾んだ声と浮かれたような姿が、ある意味違和感すら感じさせる。何か余程いいことでもあったのだろうか。


結衣「どうかしたの?」

そんな三浦に、由比ヶ浜がやはり戸惑いがちに応じる。

58 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:32:36.78 ID:LmPfWidG0

三浦「さっきー、なんか学校の中で迷ってる女の人がいてー、あーし、職員室まで案内したげたんだけどー」

普段の傍若無人傲岸不遜を絵に描いて額縁に入れたような振る舞いからして、一見わがまま言いたい放題したい放題の女王様キャラと思われがちだし、実際のところそうなのだが、三浦はあれでいて姉御肌、というよりか、むしろ面倒見のいいおかん気質みたいな一面も持っている。

恐らくは困っている人を見ると見過ごせない質(たち)なのだろう。しかし、

海老名「 ……… 迷うって、校内で?」

海老名さんが首を傾げるのも無理からぬことで、そもそもさして広い学校というわけでなし、それに職員室は正面玄関から目と鼻の先だ。
よほどの方向音痴でもない限り、校内で迷うことなどまず考えられない。


――― 方向音痴? 自分で思いついたそのフレーズに、俺は何かしら引っかかるものを覚える。


だが、そんな些細なことなどまるでお構いなしとばかりに三浦が捲し立てる。


三浦「 ―――――― もしかしたら、あれ、隼人のお母さんだったかも?!」

59 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:35:24.39 ID:LmPfWidG0

三浦「あーしがF組だって話したら、“もしかして隼人くんのお友達?”“隼人くんのことよろしくね”みたいなこと言われちゃって?」

頬を両手で抑え、まるで乙女のように身を捩る。いえ、肉食系の彼女のことですから乙女なのかどうかは知りませんけどね。

三浦「やだもうどーしよう。あーし、もしかして隼人のお母さんに気に入られちゃったりなんかして?」

つい先ほどまでの声をかけるのすら躊躇われるような沈んだ空気はどこへやら、急にはしゃぎまくる三浦に由比ヶ浜と海老名さんが顔を見合わせる。

しかし、その傍らで、

戸部「 ……… や、でもなんつーか、その、何? あれ、どっか見たことある系っつーか?」

どうやらその場に一緒にいたらしい戸部が、長く伸びた襟足を掻き上げ掻き上げ、しきりに首を捻る姿があった。

三浦「はぁ?! ちょっとあんた何言ってるわけ? 絶対そうに決まって …… 」

60 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:41:01.09 ID:LmPfWidG0


葉山「 ――― どうかしたのかい?」


その時、それまでどこぞへ席を外していたらしい葉山が教室に姿を現し、ごく自然にその話の輪に加わった。

結衣「ね、もしかして隼人くんのお母さん、今日、学校に来てたりしてなかった?」

昨日の今日とはいえ、しばらく距離を置いていただけに急に何事もなかったかのように接するのも何かと気恥ずかしいものがあるのだろう。
そんな三浦の意を汲んでか、代わりに由比ヶ浜が葉山に尋ねる。さすがは空気読みガハマさん。

当の三浦はといえば白々しく葉山から顔を背けてはいるものの、くりんくりんとゆるふわ縦ロールに指を絡めながら、そわそわと耳を欹(そばだ)てている。

61 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:43:04.72 ID:LmPfWidG0

葉山「俺の? いや、そんな話は聞いてないけど …… 」

葉山の返事に、三浦の表情がみるみる曇る。


三浦「で、でもー、その人、なんか隼人のことよく知ってるっぽかったし? うちらの担任ともなんか超親し気に話してたし?」

三浦にしてみればやはりどうあっても葉山の母親説は捨て切れないらしく、それまでの素知らぬふりをかなぐり捨てて食い下がる。

葉山「 ……… その人?」

途中から話に加わったため、いきさつのわからない葉山が当惑気味に問うと、皆の視線が自然と三浦へと集まった。

しばらくもじもじしていた三浦だが、やがて観念したのか、やっと葉山に向き直り、それでもやや目を伏せがちにしたまま付け加える。


三浦「 ―――――― うん、和服姿の、超キレイ系の女性(ひと)」

62 :1 [sage]:2017/02/24(金) 02:44:22.07 ID:LmPfWidG0

本日はここまで。ノシ
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/24(金) 12:55:08.51 ID:1ZqSz4xZo
乙です
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/24(金) 13:19:32.24 ID:oR9LTUceo
乙カレー
65 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:00:02.07 ID:0NbR3e6/0


葉山「 ……… 和服姿? 」


三浦の言葉を受けた葉山は顎に手を当て、束の間、何事か考え込むかのような素振りを見せる。

その内に何かの拍子に先程から向けていた俺の視線に気が付いたらしく、ついとこちらに目を向けたかと思うと、そのまま暫し互いの目線が交錯した。

俺の顔に浮かんだ表情から何を察したものか、葉山のその目が僅かに見開かれる。恐らく、お互いの出した結論については敢えて口にするまでもないだろう。

三浦の出会ったというその和服姿の女性の正体に、もし、心当たりがあるとするならば、それは当然 ――――――

だが、それと同時に、その人物がわざわざ学校まで何をしに来たのか、という疑問が湧き起こる。

次第に俺の胸の奥から呼吸器を押しのけるようにして、吐き気にも似た嫌な予感がせり上がってくるを感じとっていた。

66 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:10:58.95 ID:0NbR3e6/0

それよりも、まずもって当面の問題は三浦の事だ。

今は多少なりとも浮かれている様子の彼女ではあるが、もし俺と葉山の予想が正しければ、三浦のかけられた言葉の意味合いも180度変わってしまう。
そうなれば、真実を知らされることで彼女が更に手酷く打ちのめされてしまう可能性は十分にある。

本来であれば俺にとって全くの他人事であり、ある意味対岸の火事ともいえる出来事なのだが、なぜかいつものように上手く無関心を装う事ができない。

仕方なく俺が素早く葉山に目配せして見せると、葉山も俺の意図を察してか、すぐにそれとわかる程度に小さく頷き返して来た。

取り敢えずこれで大丈夫だろう。あと、もし問題があるとすれば ―――


戸部「あ ――! 思い出したわ ―― ! あれあれあれっしょ、あれって、ほら、あの、じぇ ――― 」


次の瞬間、それまでしきりに首を捻っていた戸部が急に何事か閃いたかのような声を上げたことで、俺の危惧していた事が起きてしまったこと知る。

恐らくは“J組の ――― ”と言いかけたのだろう、その言葉にいち早く反応した葉山の注意が俺から戸部へと移った、まさにその瞬間、




海老名「 ―――― とべっち、いい加減にしたらどうなの?」




思いもよらず、海老名さんの鋭い声が教室内に響き渡っていた。

67 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:14:38.23 ID:0NbR3e6/0


戸部「じぇ、じぇ……、じぇじぇじぇ?!」


驚きのあまり、戸部が思わず最近芸名を変えたばかりの懐かしの朝の連ドラヒロインみたいなセリフを口にしてしまう。


海老名「 ……… 私、そういうのって関心しないな。デリカシーに欠けるっていうか …… 正直、どうかと思う」

一転、静かな声で淡々と告げる海老名さんの顔にはいかなる表情も浮かんでいない。しかしながらその声からは、それとわかるほど怒りが滲み出ているのが感じ取れた。


戸部「えっ? やっ? ちょっ? お、俺? 俺、何かしたっけか?」

知らず機嫌を損る想い人に、戸部の方は理由もわからず叱られた子供のようにただオロオロと狼狽えるばかりだ。

68 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:22:05.50 ID:0NbR3e6/0

海老名「なんかしたっけか、じゃないわよ。少しは気を遣うくらいしたらどうなの? 知らなかったじゃ済まされないことだってあるんだよ?」

“腐”の感情ならまだしも“負”の感情など滅多に見せることのない海老名さんだけに、その姿は意外であり、事実、虚を衝かれたのか三浦もまるで呆けたような表情を浮かべて彼女を見ている。

気が付くと、それまで好き勝手にさざめいていた教室も俄かに水を打ったように静まり返り、滅多にないトップカーストグループ内の諍いに注目が集まっていた。

ゴシップ好きの口さがない女子等は既に憶測を交えて何やらひそひそと囁き合っているらしく、その中には当然のように文化祭と体育祭で一世を風靡した、あの相模南の姿も見えている。

69 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:27:59.33 ID:0NbR3e6/0

海老名さんのその様子からして、彼女も三浦の案内した人物がいったい誰であるのか、その正体に気が付いたに違いない。

だが、友達を気遣う彼女の気持ちはわからんでもないが、だからといって全く事情を知らない戸部をそうまでして責めるのは、さすがにいくらなんでも門も筋も違うというものだろう。

咄嗟のこととはいえ、人あしらいの上手な彼女のことだ、もっと他に上手い遣り方はいくらでもあったはずだ。

そのいつになく感情的とさえ見える海老名さんの姿は、それまでグループ内で常に中立的かつ第三者的立場を堅持してきた彼女らしくもなく、まるで三浦に対して何かしらの共感や同情すら抱いているかのようであった。

今や静寂に包まれてしまった教室では、窓の外を吹く風の音や、誰かの身じろぎする衣擦れの音でさえもがやたらと大きく響いて聞こえてくる。

そして、彼女の一挙一同、一言一句に皆の耳目が集中する中、海老名さんが再び口を開く ――――――

70 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:29:16.36 ID:0NbR3e6/0



海老名「せっかく、―――――― せっかくハヤハチが捗ってたのにっ!!!」








…………………… って、そっちかよ。


71 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:37:01.91 ID:0NbR3e6/0

戸部「は、はやはち? 捗る? ……………… って、何が?」


海老名「私 が 捗 っ て た の っ !!!!!!!!」


戸部「うひぃ?!」


海老名さんの剣幕に驚くあまり、戸部が咄嗟に葉山に縋りつこうとすると、


海老名「そこはあなたの場所(ポジション)じゃないでしょ!!!」


更なる追い討ちに半ば涙目になって葉山に助けを求めるのだが、当然のことながら葉山の方は困ったような笑みを浮かべ、ゆっくりと頭(かぶり)を振るばかりだ。

その間も海老名さんは「ハヤハチが穢れる」だの「でもネトラレもアリかも」だのとブツブツ言いながら、何やらひとりで葛藤している。

だがしかし、彼女のことだ。それもこれも全てはこの緊迫した局面から脱するための芝居なのかも知れない。

……… などと勘繰ってはみたものの、恐ろしいことに彼女の目を見る限りかなりのところマジだった。しかも"本気"と書いて"ガチ"と読む例のアレ。

72 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:39:19.29 ID:0NbR3e6/0

葉山「 ――― 優美子が会ったのは、もしかしたら、うちの母の知り合いだったのかもしれないな」

機転を利かせた葉山が、当たり障りのない言葉を選んでそう告げると、


三浦「 ……… ふ、ふーん、そうなんだ」

少しばかり残念そうではあるものの、三浦の方も満更でもなさそうだった。彼女としても将の乗る馬を射たような心境なのだろう。

73 :1 [sage]:2017/02/26(日) 23:41:39.68 ID:0NbR3e6/0

そんな三浦に対し、海老名さんが今度は泣きつかんばかりの勢いで言い募る。


海老名「あ ――― ん! 優美子ぉ―――。こんなことなら、私やっぱり全寮制の男子校に通えばよかった」

三浦「 ……… いやそれ、むりっしょ」


海老名「っていうか、そもそもなんでここ男子校じゃないんだろ」

三浦「 ……… そりゃ、あんたがいるからっしょ」


海老名「もうこうなったらいっそのこと、今からでもここ、男子校にすべきだと思わない? あ、それいいっ! 私、今すぐ校長先生にかけあってくるっ!」

三浦「 ……… いや、したらあんたもここにはいられなくなるっしょ。…って言うか、いいから所かまわず妄想垂れ流すなし、擬態しろし!」」


呆れ顔で、それでも律儀にも再三のツッコミを入れる三浦は、海老名さんに毒気を抜かれたのか既にいつもの調子を取り戻している。

そうこうしているうちにやがて予鈴のベルが鳴り始め、結局その話題は有耶無耶のうちに立ち消えとなった。




しかし、俺が先程感じた嫌な予感をまるで裏付けるかのように、


――― その日、雪ノ下は何の連絡も寄越さないまま、遂に最後まで部室に姿を現すことはなかった。


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