永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 22:00:21.90 ID:scudlLjvo


(カッ……カッ……カッ……)



(カッ―――― カ ッ ! )



 日に日に衰弱していくレイセンは、もはや自力で立ち上がる事すら困難な状態になっていました。
 あれほど瞬足だった足はただ震えるだけの棒になり、あれほど饒舌だった口は、もはや声すらもまともに発する事ができません。
 体の至る所が自分から逃げていく……四肢の一つ一つが自分に背を向ける。
 まるで、「自分の中の誰かが勝手に動いている」。そんな感覚に苛まれるようになりました。



(…………える)



 しかし言う事を聞かない体の中で、一つだけ、まだレイセンに忠実な部位がありました。
 ――――耳です。
 兎特有のピンと張った耳だけが、唯一、忠実に役目を果たし続けていました。


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 日に日に弱っていく体と反比例するように、レイセンの耳は、日々研ぎ澄まされていきました。
 元々鋭かったレイセンの耳でしたが、何故でしょう。
 弱る度により遠く、より鮮明に磨かれていきます。

 原因はわかりません。
 ただその時のレイセンは、「死せる間際のなんとやら」。
 火事場の馬鹿力のような物だろうと、一人でそう、勝手に思い込んでいました。



(聞…………こえる)



 分厚い壁の向こう。
 建物の外。
 道行く人々。
 数十里離れた場所。
 そこからさらに遠くの屋内――――

 レイセンの集音感覚はドンドンと研ぎ澄まされていき、直に、常に何かの音が聞こえるようになりました。
 溢れる程に飛び込んでくる音の群れ。
 静かな密室のはずが、まるでかつてのような、どんちゃん騒ぎの真っ只中のようです。



(聞こえる…………声が…………聞こえる…………!)



 原因はやはりわかりません。
 しかしレイセンは、その五月蠅すぎる音に、一つの救いを見出しました。
 そうやって五月蠅く騒ぎ立てる音だけが、レイセンの気を紛らわさせてくれたからです。


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