永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/16(火) 22:58:56.65 ID:fw8gKZ+Qo


(ふんふんふ〜ん……)


 昔々、ある所に、一匹の兎がいました。
 兎は兎らしく、跳んだり跳ねたり、たまに耳をツンと立てて何かを聞いたりしていました。
 傍から見るとただの兎です。といっても、兎はそこに住まう兎ではありませんでした。
 兎はその実、遥か遠い土地からやって来た、所謂迷い兎だったのです。


(…………ぬおっ!? なんだこりゃ!?)


 見知らぬ地にアテなどあるはずもなく、兎はただただ迷い続けました。
 兎は兎らしく跳んだり跳ねたりしているかと思いきや、実は右往左往しているだけだったのです。 
 しかもその間、まともに食事もとっていませんでした。
 当然です。他所から来た兎には、何が食べれる物かすら、わからなかったのですから。


(え、ええ〜……こんな所で土座衛門とか……)


 そんな日々を送っていた兎には当然、すぐに限界が訪れました。
 パタリ――――糸が切れた人形のように倒れ、そのままピクリとも動かなくなりました。
 しかしながら、兎は動けないながらも、ハッキリと感じました。


(もしも〜し、人間や〜い)


(人間…………人間?)


 「死ぬ」――――何をどう考えても、それしかありませんでした。
 しかし兎は、死を拒むどころか、無抵抗なままに受け入れようとすらしていました。
 それは自分の不摂生のせいでもあり、自分が健康を顧みなかったせいでもあり、自分がしでかした罪のせいでもある。
 「自分が死ぬのは当然の事」。兎の心には、そういった考えが根付いていたのです。



(いや、違うわね……ていうか、これ……)


(…………兎?)



 しかし運命は、兎に死を与えませんでした。
 死に限りなき近い状態でありながら、それでも寸での所で回避できたのです。


――――偶然そこに居合わせた、もう一人の兎の手によって。


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