永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 00:53:08.90 ID:PrSgG1Elo


――――兎が再び目を開いた時、その瞳には視界いっぱいに天井が映っていました。
 空を覆う黒塗りの壁。月を隠す天の蓋。
 なのに何故か天井は、あの星々の煌めく夜空に負けず劣らずの、実に優雅なる天井でした。


(お、起きたかぁ)


(いやぁびっくりしたわ。まさか幻想郷に、あたし以外の妖怪兎がいたとはね)


 わけもわからぬまま、ぼーっと美しい天井に見とれていると、横からひょっこりもう一羽の兎が顔を覗かせました。
 今でもその時の顏はハッキリ覚えています。
 その時のもう一人の兎の顏は、こちらを見て、何故かニヤニヤと笑っていたのです。


(どこの誰だか知んないけど、ラッキーな奴ね。よりにもよって、医者の近くで倒れるなんてさ)

(もしかして……”急患”狙ってた?)


 どこか嘲りを感じる、気持ちの悪い不気味な笑顔でした。
 おかげで美しい天井を眺めるのに、とても邪魔だった事を、今でも鮮明に思い出せます。


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(ちょくちょくいるのよね〜。永遠亭の噂を聞きつけたまではよかったけど、竹林で迷ってぶっ倒れるおバカさんが)

(まぁそういうのを見かけたら見つけ次第拾ってこいって言われてるわけなんだけど……)

(近頃はそれを逆手にとって、わざと迷い人のフリする奴なんかでてきちゃってるのよね)

(あんたも……そのクチなわけ?)


 それでも、嫌悪感はありませんでした。
 兎は直観で理解したのです。
 この体を包むぬくもりに、額に乗った冷たい布綿。
 「この兎が、自分をここまで運んでくれたのだ」と理解するのに、時間はさして必要ありませんでした。



(て〜わけで、目を覚ましたら呼べって言われてるから、呼んでくるわね)


(ちゃんとお礼言うのよ……”お上りさん”)



 しかしながら、代わりに兎の正体に気づくまでには、随分と時間がかかりました。
 と言うのも――――兎の正体は、運び手だったのです。
 それは荷を運ぶのではありません。
 兎が運ぶのは、運命そのものだったのです。





(――――鈴仙……)





 知らなかったのかわざとだったのか、それは今でもわかりません。
 しかし兎は、本当にそっくりそのままの意味で運んできました。
 息も絶え絶えだった兎の前に――――永遠を生み出す「師」を。


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