永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/18(月) 00:29:01.46 ID:5atcrKdS0


薬売り「だからこそ、守ろうと思った?」

兎「八意永琳は医術と言う手段を用いて、他者に”回復”を与える人物だった」


薬売り「既視感めいた物を感じた?」

兎「八意永琳は知を振りまく事で、他者の”成長”を促す人物だった」


薬売り「内心……嫉妬していた?」

兎「そんな八意永琳が目指した物は――――”誰かを幸せにする事”だった」


 互いにない物を持っていた――――お互いが”最も欲する物を持っていた”。
 パズルみたいなもんだよ。こう、ちょうどいい具合に凸凹がハマったもんだから……
 だから、上手い具合に混ざり合った……のかもしれないね。


薬売り「しかし……」


兎「そう――――永遠なんて、やっぱりどこにもなかった」


https://i.imgur.com/FI5gMUR.jpg


兎「嗚呼、まるで砂上の城のよう……長年かけて積み重ね続けた永遠は、須臾も待たずに崩れ去った」


https://i.imgur.com/n9GZFTV.jpg


兎「永琳もてゐも同じ気持ちだっただろう。共に手を取り合い、永遠を目指し続けた二人の心情は、察するに余りある」

兎「でも、両者の間には――――たった一つだけの決定的な違いがあった」


https://i.imgur.com/SiwQR01.jpg


兎「それこそが……てゐにとっては、すでに”観測し終えた結果”だった事」


https://i.imgur.com/yDW6e3j.jpg

541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/18(月) 00:40:06.37 ID:5atcrKdS0


薬売り「此処もまた、すでに幻……でしたな」

兎「そう、そしてその幻すらも、また失おうとしているこの事実」

薬売り「どうしてこうも……奇怪な稀ばかりが起こるのでしょうか」

兎「そんなのこっちが聞きたいよ……でも仮に、稀に意味を見出すならば」


 永遠に失い続ける性を持った悲しき兎。
 いつしかそれを受け入れる事で、自我を保ち続けた哀れな兎。
 そんな惨めで矮小なる兎が、何の因果か、たった一度だけ――――”永遠に反旗を翻す機会”を得た。
 


兎「どうせ崩れる永遠ならば、自らに罹った永遠をも、共に崩してしまえ」

兎「それが誰かの幸せに繋がるならば……降りかかる痛みが、福音となりて振りまかれるのなら」



【求】



薬売り「結果……兎が兎でなくなろうとも」


兎「卯が全てを失っても」


薬売り「傷など、最初からなかった事になっても」


兎「卯が――――月の手を離れようとも」



【及】



兎「月に愛されし卯が、一介の畜生に成り果てたとて――――」



【給】



兎「そうなって初めて……卯はやっと、ただの兎になれるのかもね」



【泣】

542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/18(月) 00:50:36.74 ID:5atcrKdS0


薬売り「なるほど……貴方様のおっしゃる通りだ」

薬売り「確かに、”誰とも同じではない”」



【――兎神之理――】



兎「つってもほら、誰しも一度くらい思った事あるだろ?――――”もしも過去をやり直せたなら”」

兎「もしも仮に、そんな機会が訪れたなら……あんたは一体、何を変える?」



(あのちょ〜うさんくさいちんどん屋……未だかつてないくらい信用ならないけど……)


(でも、あいつの言ってた話が……仮に本当なら……)


(それができるのが……あたしだけならば……!)



兎「てゐの理を紐解く鍵は、きっとそこにある……んだと思う」

兎「本人すら知らない……箱を開ける鍵が」



【――白兎之理――】



薬売り「全ての…………可能性は…………」

薬売り「観測する事で…………初めて…………」




(みんな……もうちょっとだけ、我慢しててね……)



(全部済んだら……”すぐに出してあげるから”)



https://i.imgur.com/c3fXd59.jpg


543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/18(月) 01:07:38.99 ID:5atcrKdS0



兎「してその観測者は、この場合誰になるのか……それはもう、言わなくてもわかるよね?」

薬売り「ええ、誰が見るのかなど……”すでにわかりきっていますとも”」




【――兎之理――】




兎「話が速くて助かるねぇ――――おぉい、聞いたかい? みんな」




((嗚呼、楽しみだ楽しみだ……))


https://i.imgur.com/JJbjDi4.jpg




兎「ほんと、楽しみだねぇ……訪れるのは既視か未視か……」




((楽しみだ…………楽しみだ…………))


https://i.imgur.com/0mxvpuK.jpg


544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/18(月) 01:19:46.35 ID:5atcrKdS0



【因幡てゐ――――之・理】



兎「あー楽しみだ。今度の箱は、どちらの可能性に集約されるのやら……」


https://i.imgur.com/X1cQgOW.jpg




兎「さぁ、果たして――――」


兎「”今度はどちらの結果に転ぶのやら”」




【――ひさかたの

     天照る月は 神代にか

      出で反るらむ 年は経につつ――】



https://i.imgur.com/UH9pMHl.jpg








545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/18(月) 01:20:12.61 ID:5atcrKdS0
本日は此処迄
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 00:31:46.59 ID:quhZaAAU0


てゐ「――――ハッ!」


薬売り「…………」



【起床】



薬売り「おはようございます……」


てゐ「あ、え……あれ?」


 両者をまたぐ沈黙は、ようやっと終焉を迎えた。
 理を話すと言いながら、突如黙し始めた妖兎の様相は記憶に新しい。
 その所以は、まぁ、わからんでもないよの。
 話す内になにやら「込み上げる物」でもあったのかと、十二分に察する事ができようぞ。


てゐ「あ、ごめ……なんかちょっと……うとうとしてたかも」

薬売り「いえいえ……どうか、お気になさらずに」


 そんな妖兎を諫めるわけでもなく、薬売りはただ、静かに見守るのみであった。
 実に薬売りらしからぬ所作である。
 それは、ひょっとするとひょっとして、薬売りなりの「気遣い」のつもりだったのかもしれんが……
 しかしながら、それもどうも、やはりズレていると言うかなんと言うか。


てゐ「えと……どこまで話したっけ?」


薬売り「ああ、その事については、もうご心配に及びませぬ」


 やはり慣れぬ事はするものではないな。
 勝手掴めぬ振る舞いは、往々にして物事を悪化させると言うものぞ。
 それは、今この時についてもそう。
 手前勝手な沈黙の補助は、貴重な刻を、無駄に費やさせる結果しか生まなかったのだ。



薬売り「もう――――”貴方様の理は知れました”ので」



 そう、ついに終わってしまったのだ――――人々が【夜】と呼ぶ、暗黒の刻限が。



【暁光】
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 00:41:20.83 ID:quhZaAAU0


てゐ「え、もういいの?」

薬売り「ええ、もう、十分ですとも」


 薬売りの唐突な言葉に、案の定妖兎は困惑の表情を見せた。
 妖兎本人からも感じる程に、足らぬ言葉の皮算用。
 加えてふと目線をやれば、明らかに「退魔の剣が変化していない」この事実。
 

てゐ「そ、そうなの……? まだなんも、言ってない気もするんだけど」


 それらが故に、妖兎は暫しの間混迷に苛まれた。
 が――――しかしそれも、直に収まり申した。
 その旨趣を知る術こそないが、次に出る妖兎の言葉から察するに、おそらくはこういう風に考えていたのかもしれぬ。


てゐ「えと、じゃあ……あんたはどうする?」

てゐ「もし帰りたいってんなら……”今の内に”出しといてあげるけど」

薬売り「…………フフ」


 「目を向けるべきは、今ではなく先にある――――」。
 つまりはこの、胡散臭い部外者を追い出した後に起こる事態。
 すなわち、この永遠亭の存在そのものを賭けた【大一番】への布石に過ぎぬのだ、と。
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 00:50:49.41 ID:quhZaAAU0


てゐ「これからこの竹林は戦場になる……いつぞやの痴話喧嘩とはわけが違うわよ」

薬売り「戦場……ねぇ」

てゐ「そいやあんた――――【博麗の巫女】って知ってる? こいつがその戦場の火種なんだけど」

薬売り「その名は……」


 して妖兎は、この幻想郷における現状を赤裸々に語り始めた。
 これから降りかかるであろう「月が振りまく火の粉」は、ごっこを冠した弾幕遊びとは異なる、正真正銘の戦(いくさ)であると。


【火蓋】


 妖兎はさらに続け様に語る。
 曰く、降りかかる火の粉が「月」による物ならば、まず間違いなくスキマが動く。
 そしてスキマが動けば、同じくして、必ずや件の【巫女】とやらが動くであろうとも。
 

てゐ「こいつがこの幻想郷で最も厄介な人間でね……異変の解決屋なんて言えば、聞こえはいいけど」

てゐ「実際にやる事つったら、殴り込みからのごり押しからの超絶フルボッコ」

てゐ「こいつの手に罹れば、和平交渉も途端に全面戦争に早変わりするわ……幻想郷全体を巻き込んだ一大戦争よ」

薬売り「それはそれは、なんとも……」


 件の巫女……巫女にあるまじき評判の悪さである。
 しかしその悪評は「此れ即ち誇りの証ぞ」と、是非その巫女に申してやりたい。

 と言うのも、身共には巫女の気持ちがよぉ〜くわかるのだ。
 この柳幻殃斉の成し遂げし、数多の悪鬼悪霊共を払い清めたる奇譚は、皆も知る所であると思うが……。
 天性の資質と弛まぬ努力の賜物でもって、世の為人の為に奮闘し続ける日々。
 ううむ、我ながらなんと徳高き存在。


薬売り「そんな粗暴な巫女の中には、もちろん」

てゐ「うちらの事情なんて、含まてるはずがない」


 かのように、身共のような人々の寵愛と感謝を一手に受ける存在はだな。
 しかし逆に言えば、妖共から相応の”恨み”を買っておると言う表れでもあるのだよ。


https://i.imgur.com/SoA7WJx.jpg


 そう、巫女もまた、すべからく解決してしまうのだ。
 真も理も、幻想郷を取り巻く異変とやらも。
 全ての一切合切を――――”力”と言う剣を、突き刺す事によって。 

549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 00:59:49.74 ID:quhZaAAU0


薬売り「その巫女と……”共闘する”と言う道は、なかったのですかな?」

てゐ「……無理ね。確かに、そうなれたら理想的だったけど」

てゐ「けどやっぱり無理。何度考えても……やっぱり、”敵対する未来しか見えない”」


 それが何故かと問われれば、やはり話は元に戻る――――”スキマの存在である”。
 スキマの月に対する異様な執着心が、必ずや和平の境を隔てるであらんと言う確信。
 そんなスキマと巫女が、懇意な関係であると言う現実。
 さらに言わば、巫女は巫女で、この幻想郷のあらゆる所に顔が利くと言う有様――――この永遠亭を除く全てである。


【囲】


 そんな様を、妖兎はこう言い現した。
 「――――スキマある限り、永遠亭に同志なし」。
 如何に幻想郷広しと言えど、永遠亭は徹頭徹尾”孤立無援”であると、妖兎はすでに結論を出し終えていたのだ。


薬売り「お得意の……「確率論」ですか?」

てゐ「と言うより、「暗黙の了解」。幻想郷の存在そのものが一番の異変だなんて、口が裂けても言えないんだから」


 スキマからすれば、此度の騒動は”月への意趣返し”のまたとない機会とならん事は明白である。
 ならば「現存する全てを用いて此れに当たる」は至極道理。
 であるならば、スキマが巫女に協力を仰ぎ、むろん巫女に断る理由もなく、巫女がまた誰かに協力を仰ぎ……
 結果、永遠亭が増々孤立していく様は想像に難くない。


薬売り「つまり……”月人が来ない限りは誰も干渉してこない”?」

てゐ「願わくは……ずっとそうであって欲しかったけどね」


 そして、月と言う「共通の異変」を与えられた二人の隙間に――――果たして”そこへ住まう者への趣など存在するのか”。
 こちらもまた、語るまでもない事よの。


550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 01:14:28.47 ID:quhZaAAU0


てゐ「ま、そゆわけで……こっちはこっちでカツカツな事情なわけよ」

薬売り「心中……お察し申し上げ候」

てゐ「だからまぁ、ぶっちゃけ今、あんたに構ってる暇はないって言うか……」

てゐ「正直――――出てってくれた方が助かる? みたいな?」


 この永遠亭に絡まる、複雑極まれり因果を解きほぐす事は至極困難である。
 それをこの妖兎は、ただの一羽で引き受けようと言うのだ。

 その全ては――――永遠亭を守る為。
 強いては、”永遠に続く幸福”を、守る為に。


てゐ「心配しないで……全部終わったら、この剣は返してあげるから」

薬売り「おや……折角勝ち取ったのに?」

てゐ「そりゃ、手元に残しておきたいのは山々だけどさ」

てゐ「”直に持ち主がいなくなる”ってんなら……この子も可哀想だしね」


 まさに決死隊ならぬ決死兎。
 泰平の世になりて久しい昨今にて。如何様な心構えを持つ者が、一体どれほどに存在すると言うのか。
 この妖兎の確固たる信念は、我らの生き様も深く考えさせてくれようものぞ。

 すなわち――――『生命とは何か』。
 生に何を見出し、命を何と見極めるのか。
 これはもはや、泰平の世が産んだ、新たなる学問と言えよう。



【哲学】


551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 01:25:49.97 ID:quhZaAAU0


てゐ「あ……」

薬売り「おや……」


https://i.imgur.com/nLIBNt4.jpg


てゐ「もう、朝、か……」

薬売り「もう、朝です」


 妖兎は、窓から漏れる光を、何やら神妙な面持ちで見つめ始めた。
 妖兎本人が口走るように、夜行性の兎にとっては、朝の木漏れ日は夢現への入り口と同義なのだ。
 しかしながらまぁ……だからと言って、必ずや朝に眠るとは限らん。
 そこはほれ、我ら人でもそうであろう?


てゐ「なんか……不思議な感じ……うちらにとっては眠りの合図なのに」


 我らとて、享楽にかまけ気が付けばついつい明け方まで……なんて、往々にして起こる事。
 特にこの場合は、空に輝く月明かりが――――自身の”最後の光景”になるやもしれぬとあらば。
 眠る間も惜しんで、いつまでも見つめていたいものよ。


薬売り「まぁ、如何に夜行性とて……時には例外くらい、ありましょう」

てゐ「そう、ね……つかよく考えたら、夜行性とかあんまり気にしたことないかも」
 

 そう言うと、妖兎は不意に語り始めた。
 その内容は、他愛もない世間話であった。
 「思えば、随分と奔放に生きた物だ――――」
 そう切り出した妖兎の真意は、過去への夢心地と共に、ほんの少しの”後悔”も含まれていた……のかもしれぬ。
 

てゐ「夜更かしならぬ朝更かし……つか、徹朝もしょっちゅうだったっけ」

薬売り「人の生活に、合わせていたのですか?」

てゐ「はは、違う違う……あたしったら、一日の予定とかなんも決めてなくってさ」

てゐ「腹が減ったらメシ食って、出掛けたくなったらどっかに消えて、飽きるまで遊び続けて、眠くなるまでずっと起きてて……」

てゐ「時間なんて関係なかった。したい時にしたい事だけをしてた」

てゐ「――――逆に言えば、”それしかしてこなかった”」


 そんな妖兎だからこそ、律義に予定を守り続ける玉兎が、不思議でならなかったそうな。
 自分程とは言わずまでも、一日くらい・一刻くらい・一瞬くらい……玉兎は、それすらも破らなかったそうな。

 言うなれば、【時間に縛られた飼い兎】と【時間から解き放たれた野良兎】。
 この全く異なる二つの生き方は、「果たしてどちらが正しいのか」。
 そう、問われた時、誰にも答える事などできやしまい。


552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 01:41:13.00 ID:quhZaAAU0


薬売り「よくそんな生活が……続きましたね」

てゐ「だってあたし、別にうどんげみたく薬師とか目指してないし」

薬売り「いえ、そうではなくてですね」


――――ただし、その問に「薬師の見地」が加われば、話は変わる。
 生きとし生ける物には全て、絡繰りの如き「仕組み」が存在するのだ。
 絡繰りとて、定期的に「手入れ」をせねばやがて動かなくなる道理。
 それがさらに複雑な「生物」とあらば、望む望まぬ関わりなく、時には「したくない」事もせねばならぬのだ。



薬売り「すぐさまに体を壊しそうな、生活っぷりですが」


てゐ「そーいえば……ここへ来てからは、病気とかなった事ないかも」



 如何に腹が満ちていようとも。

 眠気など寸でも沸かずとも。

 体を動かし野山を駆けまわりたくとも。




てゐ「でもまぁなった所で、ここ薬屋だし、そこは――――」




 良薬が、如何に苦かろうと。







てゐ「…………あ”?」







 生命の仕組みを、維持する為には。





https://i.imgur.com/ZJBKMhF.jpg





――――妖兎の眉が、少しヒクつくのが見えた。

553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/21(木) 01:41:53.79 ID:quhZaAAU0
本日は此処迄
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/21(木) 04:57:16.47 ID:jIo5U3N0o
不審な気配が漂ってきた…
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 22:05:21.60 ID:ILnw9GSu0


てゐ「……今、なんか言った?」

薬売り「いえ? 何も……」


 それは、瞬きする間もないほんの一瞬の所作であった。
 しかし薬売りは確かに見た。
 明らかに気分を害した妖兎の心情。
 その心情を表すかのような「しかめ面」。
 その中に――――兎を含む獣の本能が見えたのである。


https://i.imgur.com/AqgAzqR.jpg



薬売り「どうか……いたしましたかな?」

てゐ「…………」


 さらにはこの一瞬の変化は、何も妖兎のみに限らずであった。
 薬売りが妖兎の表情を目撃したのと同じく、妖兎もまた、刹那に薬売りの本能が見えたのだ。

 その顔は――――確かに”笑って”おった。
 それも歓喜の笑みではない。
 かつて自身幾度も向けられた、なじみ深くもいと憎し表情。
 矮小なる者を笑うかの如き――――”嘲り”の笑みである。


てゐ「何よ……言いたいことがあるなら、ハッキリいいなさいよ」

薬売り「そうですか……なら、遠慮なく」


 妖兎は、この薬売りの変化を明らかに察知していた。
 そして「やはり見間違いではなかった」と確信するに至る。
 ならば、この唐突に訪れた態度の変わり目は、一体何を意味するのであろう――――
 その答えは、やはりただの一つしかなかった。



薬売り「フフ…………フフフ」



【失笑】



薬売り「フフフフ………………ハッハッハ」



【冷笑】




(フフフフフ――――ハハハハハ――――)




【嘲笑】



てゐ「――――何笑ってんだよ!」



 真の敵は、月でも巫女でもスキマでもない――――
 この目の前のうさんくさい男こそが、最大の”敵”であったのだ、と。



【不倶戴天】

556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 22:14:00.84 ID:ILnw9GSu0


てゐ「何……ついに頭おかしくなった?」

薬売り「いえいえめっそうもありません……あっしは至って正常ですよ」

薬売り「と言うより、可笑しいのは……むしろ」



【御前】



薬売り「の、方かと」


てゐ「――――はぁ!?」


 ついには体裁を繕う事すらしなくなった薬売り。
「言いたい事を言えと言われたから言っただけだ」。
 そう言わんばかりに吐き連ねる言葉の節々は、見事なまでに他者への敬意を感じさせない。


てゐ「なんだお前……何いきなりグレ出してんのよ……」


 思えば……身共と対面した時もこんな感じだったの。
 第一印象としてはこう、敬意とは反対の……そうだ。
 あれは言うなれば、”軽蔑”の眼差しと言った所か。


薬売り「だって……そうじゃないですか……」

薬売り「笑わない方がどうかしてる……こんな……」


 皆の衆努々忘れることなかれ。
 そう、このすごぶる意地の悪〜い様相こそが、薬売りの持つ本来の姿なのだ。
 いや、絶対そーに決まっておる。嗚呼〜間違いない!
 この根拠なく他人を苛立たせる性は、まさに天性・天資・天賦の資質。
 もはやそれ以外に、考えられぬのだよ。
 


【笑】



薬売り「壮大で……雄大で……永遠に近き時を跨るまでの……」


 さすれば退魔の剣の持ち主は、やはりこの薬売りこそが望ましきかな……
 えぇい! この際だからキッパリ断言してしまおう!
 よいか? 他者に纏わる情念・因果・思いの丈、その他諸々諸行無常の数々――――。
 この薬売りにとっては、それらの一切などな。
 あくまで、”退魔の剣を抜く為の道具”に過ぎぬのだよ。



薬売り「……………………”茶番”など」




【(笑)】




てゐ「 ん だ と コ ラ ッ !」

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 22:21:37.04 ID:ILnw9GSu0


てゐ「言うに事欠いて……茶番だぁ……!?」


薬売り「違う……とでも、言いたいのですかな」


 この薬売りのとてつもなく無礼な一言が、案の定妖兎に、一つの情念を露わにさせた。
 その情念とは、とどのつまり「怒り」。
 秘めたる理を、よりにもよって”茶番”などとバッサリ言い捨てられては、無論妖兎の気分を余す事無く「害する」事請け合いである。


てゐ「さすがのあたしも読めなかったわ……まさか、このタイミングで”喧嘩”売られるたぁね」


薬売り「売ってるのはむしろ油じゃないですかね……それも、貴方の方が」


 あれほど表情豊かだった妖兎の顔が、怒気一辺倒へと偏っていく。
 この怒気が深める皺の一本一本が、まるで兎の持つ毛皮のようにも見えなくもない。
 結果、妖兎が時を追うごとに、ますます眉を顰める最中にて。
 しかしそれでも、まだまだ薬売りはへらず口を辞めなかったのだ。


薬売り「一分一秒も……惜しいのではなかったのですかな」


薬売り「――――”無駄な”足掻きをする為に」



てゐ「このッ――――」



 そしてついには――――妖兎は、言い返す事すらもしなくなった。
 怒りの行き着く果ては舌戦にあらず。
 それは妖兎に限らず、生きとし生けるもの全ての理と言えよう。
 しかしいみじくも妖兎にとって、薬売りのこの唐突な挑発は、脳裏に描かれし「戦」への、丁度よい前哨となったのだ。
  

https://i.imgur.com/r0kldUy.jpg


てゐ「それ以上舐めた口を効いたら――――”今度こそ撃つ”!」


薬売り「おや……おや……」


 にしても、薬売りも薬売りだ。
 一体全体、何を思ってこんな真似を――――と、皆は思うであろう?
 
 よいのだそれで。今はそのままでいい。
 この時は、”まだ”誰にもわからなかった。それこそが、唯一の正解なのだから。



【決闘・再び】


558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 22:27:06.28 ID:ILnw9GSu0


てゐ「そろそろ笑って済ませらんないわよ……ちんどん屋ァ……!」

薬売り「ご無体な。よもや、丸腰の相手に弾幕を放つおつもりですかな?」

薬売り「弾幕とは……優雅さと可憐さを優先した、”誇り高き決闘”と聞き及んでおりましたが?」

てゐ「――――黙れッ! 煽って来たのはお前だろ!」


 妖兎が放つ怒りの訴え、まさに一言一句がその通りである。
 此度の薬売りが放ったは暴言は、もはや失言などと言う段階ではない。
 露骨に、誰が見ても、あからさまかつ明らかに、「わざと」である事は明白であった。


てゐ「自分の立場……わかってんのかお前……」

薬売り「立場? はて……”たかが兎”に立場などあるのでしょうか」

てゐ「そのたかが兎の手を借りないと――――”帰る事すらできない”のは、どこのどいつだ!」


 さらに言わば、この突如反逆し始めた時機もすこぶる不自然である。
 妖兎も感じていたはずだ――――ここは【迷いの竹林】。
 この妖兎に代表する永遠亭の者が、”たまたま”その場所におったからこそ、迷い人が帰路につけると言うのに……
 案内人なくしては、”永遠にさ迷い続ける”場所なのに。


てゐ「今すぐボッコボコにしてやりたいけど、今はそんな暇はない……」

てゐ「だから……”今の内に”謝れば、ギリ水に流してあげる」


 なればこそ、薬売りの真意が見えぬままであった。
 この身を焦がす怒りに値する理由が、薬売りには存在しなかった。
 妖兎は憤怒に身を任せつつも、虎視眈々と思案に明け暮れた。
 慎重と大胆さを混在させつつ、なんとか薬売りの【真】を得んと、人知れず奮闘していたのだ。


薬売り「ならば……”後になっても”謝らなかったら、一体どうなってしまうんですかね」


てゐ「そうなった暁には――――”今後の一切は保証されない”」



 そして妖兎は、ついに最後の手段に出た――――弾幕の出現である。



【――光――】

559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 22:35:38.43 ID:ILnw9GSu0


てゐ「もう一度言うわ……”今度こそ撃つ”」

てゐ「この無数に湧いて出る弾幕を……避けきれるもんなら避けてみればいい……」



【熱】



てゐ「たかが兎とほざくなら――――やってみるがいい!」



【冷】



 妖兎の中の怒りと冷静の割合が、徐々に傾きつつあった。
 その方向は――――「冷静」に向く。 
 唐突さが故に少々面食らった物の、よくよく考えれば、俄然有利なこの状況。
 加えて薬売り最大の武器である『退魔の剣』すらも、自身の手元にあるとあらば。
 「狂うに値しない――――」妖兎はすぐさま、その結論に辿り着いたのだ。



【明白】



薬売り「そう、その光だ――――」


てゐ「…………あ”?」



【白明】



薬売り「その弾幕が放つ光……貴方にとっては、あの空を照らす日月よりも身近な光」


薬売り「否。この幻想郷に住まう者全てが持つ光……四肢を動かすようにして放つ、色彩々の光」



【薄命】



薬売り「かの如く、光があまりに身近過ぎたが故に――――」


薬売り「貴方の視野は、”朧に霞む運びとなった”」



 しかし此処へ来て、また新たな感情が沸いて出た――――”意味不明”。
 まるで説法の如き薬売りの語りが、文字通り「意味不明」としか言い現わせられなかったのだ。



てゐ(は――――?)



 なれども薬売りの供述は、紛れもなき【真】であった。 
 何に言い換えるでもない。
 言葉の通り、”光が妖兎の眼を覆った”のである。


560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 22:48:12.43 ID:ILnw9GSu0


薬売り「一説によると……兎は”光を感じる器官”が、強く発達しているそうです」

薬売り「それは、兎が夜行性な為……元来、”光の薄い環境下”で生息する生き物が為」


てゐ「だからなんだってんだ……」


薬売り「ただし……それ故に【色彩感覚】に、やや難があるそうです」

薬売り「理屈は簡単だ――――”光が色を薄くしてしまうから”」


てゐ「それが……なんなんだよ……」



『――過剰なる光への追及が彩を欠き、彩欠けし眼は霞を生む。
   霞は目視を鈍らせ、滲ませ、ついには現すらをも遠ざける――』



薬売り「ただしその分、幻とはよく馴染む……闇夜と言う名の、幻には」



てゐ「だ〜〜〜〜もう! 一体何が言いたいんだよッ!」



 時に――――話を遮って申し訳ないが、ふと思い出した事がある。
 いやな、身共の知り合いに、とある絵描きの男がいるのだが……
 その者がいつだったか、熱心に語っておった話を、ふと思い出したのだよ。



薬売り「貴方が真に見るべきは、一寸先の闇ではなかった――――”今ここにある光”だったのだ」



 その者は、若い頃に”色の使い方”に悩んでおったらしくてな。
 と言うのも、絵の「線」ばかりを描き連ね、「色」を学ぶ事をおざなりにしていたそうな。
 おかげで線形こそ卓越なれど、無色無彩が故に、心無き者から「洛書」と評される事がしばしばあったとか。

 そこでその絵描きは編み出した――――”色彩を無彩で表す方法”である。
 曰く、『明暗の差異を強調する事で、あたかもそこに色があるかのように見せる』画法とかなんとか。
 よくわからんが、南蛮にも似たような画法が存在するらしい。
 そこにちなんで、絵描きはその画法を、こう言う風に呼んでおった。



【コントラスト】


561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:02:20.59 ID:ILnw9GSu0


薬売り「もう見えるはずだ……陽の光満ちつつある、この白々明の刻ならば」

薬売り「その赤き瞳ならば――――その”光感ずる眼があるならば”」


 まぁ、何故にそんな話を思い出したのかと言うとだな。
 あの時あの絵描きが語った画法が、まんま「今のこの二人」を指す言葉にピッタリだと思うたわけよ。



てゐ(な…………にを…………?)



 光と言う”白”を感じる眼を持った兎に、因果と言う”黒”を見透かす薬売り。
 まさに明暗と言い現わすにふさわしきこの両者が、「ぶつかり」「争い」「煽り合い」激しく「自己主張」し続けた結果――――
 そこには、確かに”色が現れた”のだ。


https://i.imgur.com/vkOud01.jpg




562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:14:02.60 ID:ILnw9GSu0



てゐ(……………………)



https://i.imgur.com/Ln3HLjQ.jpg



てゐ(……………………)



https://i.imgur.com/NXwsyX4.jpg



てゐ(……………………)



https://i.imgur.com/a1qBtQk.jpg



てゐ(……………………)



https://i.imgur.com/RL4Cb72.jpg


https://i.imgur.com/rMoJLQ4.jpg





 あるのにないと認識されていた――――【内在する二つの可能性】として。





てゐ(……………………月?)



https://i.imgur.com/M4OZBjD.jpg















薬売り「そう……”こちらだったんですよ”。貴方が捜し求めていた物は」




てゐ(な――――――――ッ!?)



https://i.imgur.com/MxsHD07.jpg

563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:16:57.79 ID:ILnw9GSu0
ナイスク見てくる
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 00:41:06.59 ID:HSad9Dqq0



てゐ「え――――え? え?? え???」



 この瞬間、またしても別の色が現れた。
 まさに「青冷める」とはよく言った物で、物の例えであるが、その言い回しは実に言い得て妙である。
 その証拠に、まるで顔料を塗りたくられたが如く……
 本当に妖兎の顔が、みるみる内に蒼く染まっていくではないか。



てゐ(なんで――――似てたから? 流したせい? こんな単純な字を?)



 漆黒の如き闇夜の中を、人々が認知する事は叶わず。
 しかしそこには、確かに何かがいる。
 人々はいつしか、その闇夜に蠢く何かを、妖と名付けた――――
 夜に生きる生き物とを、分ける意味合いで。



てゐ「な…………んでぇ…………? どぉしてぇ…………?」



【答】


薬売り「だから、最初に申し上げたんですよ――――”何故明かりをつけないのか”と」

薬売り「如何に夜分深き最中とて、ほんの少しの明かりさえあれば…………」

薬売り「貴方なら…………”見えたはずだったのに”」



 草木も眠る丑三つ時
 家々から明かりが消え、人々は寝静まり、安らかな吐息に包まれる時間。
 それらを生むが、すなわち、闇――――
 夜と名付けられた闇は、一時の休息を齎すと同時に、とある目覚めを呼び覚ますのだ。



てゐ「暗…………かった…………から…………?」



 しかし仮に闇夜に目覚めたとて、真なる闇の前には何も見えぬ道理。
 「見」は光無くしては叶わぬ。
 それは、如何に光感ずる眼を持とうとも――――輝きなくしては、そこはただの暗黒にすぎぬのだ。



薬売り「だって…………ねえ? ほら、言うじゃないですか…………」


薬売り「兎は――――”耳がいい代わりに目が悪い”んだから」



 すなわち――――”光届かぬ場所こそ真なる闇”。
 そんな場所など……いつだって、人々の心の内にしか、なかったのだから。



【無明】

565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 00:55:30.90 ID:HSad9Dqq0



てゐ「そんな…………じゃあ…………これって…………」



【不穏】



てゐ「あたしが……口に入れた物は…………」



【不吉】



てゐ「あたしが…………”そうだと思って”食べた物は…………!」



 妖兎は、恐る恐るその手を壺へと伸ばした。
 その手は細切れのように震え、滲み、肌色は顔面動揺、実に青く染まり切っておった。

 妖兎は、抗っておったのだ――――恐怖と。
 恐怖とはすなわち、この場における最悪の結末。
 して妖兎にとっての最悪とは、”思い描いていた最善の真逆”。



【呉牛喘月】

566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 01:12:13.83 ID:HSad9Dqq0



薬売り「さにあらず。あるはずもない、絵空事同然の産物……だが」


薬売り「なればこそ、仮に……無を有と認識し直せば」



https://i.imgur.com/Kzi0Bmm.jpg



薬売り「内在する二つの矛盾が…………観測することで初めて現れると言うならば」



https://i.imgur.com/kzMR7jS.jpg




薬売り「”永遠は終わらず”と――――その言葉を信するならば」
 


https://i.imgur.com/DcCWGmH.jpg



 途切れる息を耐えながら。
 溢れる汗を拭いながら。
 気が狂いそうな程の恐怖に抗いながら……妖兎の手はついに、真を掴んだ。


https://i.imgur.com/Rkhdaq9.jpg



 そして、映した。
 今昔の刻を跨ぎし、確かに存在する真を――――その光感ずる眼にて。



薬売り「傷を治す、どころか…………」










薬売り「――――”永遠にそのまま”と、言う事に」



https://i.imgur.com/ya7I1Qc.jpg



567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 01:22:36.11 ID:HSad9Dqq0



(…………あっ)



【折】



(あ…………あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ)



【諦】



(あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ――――!)



【悟】



https://i.imgur.com/3YrZtRh.jpg




【覚醒】






【――原始の痛み――】





 「あ”あ”あ”あ”あ”――――」
 今度は、実に鮮やかな【赤】が降り注いだ。


https://i.imgur.com/HzfKklX.jpg

568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 01:23:19.18 ID:HSad9Dqq0

本日は此処迄
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 18:28:03.04 ID:B/cCW2fBo
キナくさくなってきたな
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 20:29:47.47 ID:nrMdkQ4a0



【あ】



https://i.imgur.com/vgcGFCu.jpg



【 あ あ あ あ あ あ あ あ あ
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ 
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ 
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ 
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ 
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ 
  あ あ あ あ あ あ あ あ あ 】




てゐ「あ”あ”あ”あ”あ”あ”――――痛”い”い”い”い”い”い”!!」



てゐ「傷口が開ぐう”う”う”う”う”痛”い”い”い”い”い”い”!!」




薬売り「これは、これは…………」



 恐らく、永遠亭創設史上類を見ない喧噪が今、巻き起こっておるであろう。
 その思たる要因。まるで太鼓の用に鳴り響くその音は、おおよそ生物の範疇を超えた”鳴き声”による物である。
 朝の雄鶏を遥かに凌ぐこの凄まじき鳴き声。
 その全てが「たった一羽の兎」によるものだとは、努々誰も思うまい。



【激痛】


【狂騒】


【阿鼻叫喚】





てゐ「あ” あ” あ” あ” ぁ” ぁ” ア” ア” ぁ” ぁ” あ” ア” ! ! ! ! 」




 その様はまるで――――「理性を無くした獣」。
 かのように形容したのは、他でもないこの声の主である。

 そう、全ては本当に、妖兎の語る通りであったのだ。
 絶叫の起因たる「生きたまま生皮を剥がされる」痛み。
 その痛みが形作るは、南蛮人すら裸足で逃げ出す「血染めの化け物」。
 そして、血染めの化け物は荒れ狂う――――自分を見失う程の痛みに、為されるがままに。 



【外道祭文】

571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 20:42:14.82 ID:nrMdkQ4a0



てゐ「(形容不能)――――!!!!!」



 荒れ狂う猛獣と化した妖兎が、部屋の隅々をありとあらゆる手段で破壊していく。
 ひっかき、殴り、蹴り、頭を叩きつけ、代わりに全てを【赤】く印づけていく。
 部屋が部屋たる所以の物を、片っ端から破壊していく”さっきまで兎だった”生き物。
 こうなれば、もはや一種の「災害」と呼ぶのが相応しかろう。



薬売り「…………」



 かのように、悪夢の如き光景を目の当たりにしている薬売りであるが――――ほとほと呆れる。
 そんな実に繽紛たる光景を、あろうことかこやつは……”見てすらいなかった”のだ。




(あ”あ”あ”あ”あ”――――……)




薬売り「……いやはや、実に興味深い物です」

薬売り「記憶を巻き戻すはずの幻肢痛が、永遠に続くと言うこの矛盾……」

薬売り「となれば……少なくとも、今度は戻る事すらできなくなる」

薬売り「前にも後ろにも進めなくなる……”今しか生きられなくなる”」




(ア”ア”ア”ア”ア”――――……)




薬売り「いいじゃないですか……別に……例え、本人にとってはどれほど不幸な出来事であろうとも」

薬売り「”心折れる事で”新たな道が、拓ける事も……あるのですから」




(A”A”A”A”A”――――……)



https://i.imgur.com/8vJxXPm.jpg

572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 20:53:14.98 ID:nrMdkQ4a0



薬売り「…………おや?」


 まぁそんな、見るも悍ましき修羅の最中であるがな。
 とにもかくにも、一言だけ申したい――――「阿呆」。

 ったく、本当にこやつだけは……
 大体な、猛り狂う獣が、目の前で荒ぶっておると言うのにだな。
 何を呑気に、ぶつくさと「独り言」を呟いておると言うのか。




(貴――――様ァ――――!)


 

 速い話が、とっとと逃げればよかったのだ。
 少なくとも、この暴れ狂う獣の「視界から外れる」猶予くらいはあったはずだ。

 まぁ……今更こんな事を言うても、もう手遅れである。
 それに見方を変えれば、せっかく訪れたまたとない機会とも言えよう。
 これを機に、この薬売りも一篇、己が身で味わってみればよいのだ。
 


薬売り「どうか……しましたかな?」



【捕】



【掴】





(許サナイ…………絶対ニ…………許サナイ…………!)





――――モノノ怪を成す程に深き、情念の痛みを。



https://i.imgur.com/hgTVeA0.jpg



573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:03:25.97 ID:nrMdkQ4a0



「お前だけハ…………許サナイ…………!」



薬売り「……これは、これは」


 かくして、化け物と形容されるほどに変貌せしめた妖兎の姿は、激しき痛みの果てに、もう一段階の変貌を遂げた。
 その姿は――――薬売りにとっては、よく見知った姿であった。
 その証拠にまるで、「古い顔なじみに再会したかのように」表情を緩ませる薬売りの姿が、そこにはあったのだ。
 目前の相手が、”怨みに塗れた”朱き兎にも関わらず、である。



https://i.imgur.com/PJavFJb.jpg



 未だ得体の知れぬ薬売りが、知人と称して懐かしむ存在。
 その相手もまた、同じく得体の知れぬ存在である。
 そんな、懐かしくも忌むべき面影が、何故か兎から現れた……
 とどのつまり、兎はついに成したのだ。




【”怪”眼】




 因果と縁に憑りつきし魔羅の鬼――――すなわち、”モノノ怪”である。


574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:14:19.77 ID:nrMdkQ4a0



「騙ジダな”…………お前ハ”また”あたしヲ、騙ジダんだ”!!」


薬売り「はて……また?」

薬売り「貴方様とお会いするのは……昨日が御初だったと記憶しておるのですが」



【沸】



「 黙 レ え ェ ェ え え ぇ ッ ! お前も”アイツラ”と同じダッ!!」


「あたしガもがき苦しむ様ヲ、見世物のように見ていた”アイツラ”…………」


「あたしガ壊れるのヲ、嬉々とした目デ見てイた”アイツラ”…………ッ!!」



【溢】



「何もカもガ、同じジャないカッ!! まタ同じ事ヲ! コノあたしニ……!」



【連呼】



「オ前が壊しタ…………何もかもヲ…………お前が……まタしてモ、お前ガ……ッ!」



 妖兎――――もとい「元兎」は、誰が見ても錯乱に陥っておった。
 薬売りが上手く言い返せぬのも無理はない。
 悲痛ながらいまいち要領を得ぬこの訴えからして、おそらくは過去。
 それも後々までに語り継がれる「痛ましい一幕」が、今昔の区別なく混同しておるのだと思われる。



【積年の恨み】


575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:29:29.76 ID:nrMdkQ4a0



「許サナイ”――――あたし達ヲ壊したお前ハ――――絶対ニ許サナイ”ィ”ィ”ィ”――――!」



薬売り「と、言われましてもねえ……」


 支離滅裂を訴える兎の化け物は、ついにはその口を、大きく開き始めた。
 ベリベリと裂けそうな程に開いたその口腔からは、兎特有の、実に先鋭なる牙が現れた。
 そんな実に禍々しき牙が、ゆっくりと薬売りの頭上へ昇っていく……
 ここまでくればもう、何をしようか一目瞭然である――――”齧る”つもりだ。
 


https://i.imgur.com/JpLzMmh.jpg



薬売り「堪忍してくださいな……如何に藪と評されたとて、やってもいない事を責められては、あっしも面目が立ちませぬ」

薬売り「それに今回は……”貴方が勝手に”間違えただけじゃないですか」

薬売り「貴方が自ら……己が無知を”棚に上げて”」


 そしてそんな危機的状況にも拘らず、俄然態度を崩さぬ薬売り。
 怯え慄き、命乞いでもすればまだ人間味もあると言う物だが……
 どころかさらに「開き直り」始めたとあらば、やはりこやつも人知から遠いよの。



「許サナイ”――――許サナイ”――――許サナイ”ィ”ィ”ィ”――――!」



 はて……そういえばいたな。
 ほれ、いただろう。かの書の冒頭にて、主役の血縁者と思えぬくらい、どうしようもなく畜生な連中が。
 やたらと利己的で、無駄に性悪で、異様に執念深く、かつ意味もなく悪趣味で――――とりわけ”嬉々として誰かを陥れる”。
 そんな、まるで今の薬売りに瓜二つな人物が。



【八十】



 かのように、かつて自分を陥れた人物と、薬売りとが重なって見えた……のか?
 うむ、ならば仕方がないな。
 此度の妖兎に訪れたこの不幸な出来事は、明々白々”薬売りの仕業”なのだから。
 


薬売り「致し方……ありませんな……」






【――――待った】



576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:39:25.48 ID:nrMdkQ4a0



薬売り「よいのですかな――――このままあっしの頭を齧れば、永遠に”永遠から回帰する術”は無くなりますが」



「何…………だとォォォォオ”…………?」



【提言】



薬売り「侮るなかれ。如何に藪とて薬師の端くれ」

薬売り「罹りし病如何なる大病とて――――少なくとも、”診る”事はできる」


 これはこれはまた酔狂な事を。
 この期に及んで何を宣うかと思いきや、言うに事欠いて「診てやる」だと?
 風邪や頭痛とはわけが違うのだぞ……
 仮に全ての薬師をこの場に集めたとて、誰が「永遠」なんぞを治せると言うのか。 
 


「言”え”ッ! あだじは一体ドゥ”すレ”バ…………言” え” ッ !」



 そりゃあ、当人は藁にも縋りたい面持ちであろうがな。
 しかし努々忘れてはならぬ――――”相手はあの薬売り”。
 薬師として見た場合の薬売りは、もはや藪どころの話ではない。
 関わる者皆すべからく不幸に見舞わす、まさに厄災が服を着て歩いているような存在なのに。


薬売り「服用者に永遠を齎すなどと言う、実に摩訶不思議極まる薬……」


薬売り「なれども――――永遠が薬の形を成す限り、永遠もまた”薬の理”から逃れられぬが道理」


 そして薬売りは解く。
 薬の成り立ちから服用の仕方、種類、成分、その他薬に纏わる諸々、等々、色々……。

 ……ぇえいこの藪め! やはり教える気などないではないか!
 学術語だらけで全くわけがわからぬ……と、素面の身共ですらこの様だ。
 とあらば無論――――”壊れ行く兎”に、伝わる事などあるはずがない道理なわけで。


577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:49:10.07 ID:nrMdkQ4a0


薬売り「つまりですね――――」



【焦】




「は”や”ぐ”言”え”ぇ”ぇ”ぇ”え”え”ぇ”ぇ”え”え”え”ぇ”ぇ”え”!!」



 しかしそんな、難解極まる薬売りの教授も、かろうじて理解できる事が一つだけあった。
 否、わかると言うより「知ってた」と言うべきか。
 ほれ、よく言うではないか。
 薬と言えど、用法用量を守らねば”転じて毒となる”と。




薬売り「――――”下す”んですよ。貴方の身を侵す、永遠と言う名の”毒”を」





(毒――――?)




【応急】

578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:58:39.65 ID:nrMdkQ4a0


薬売り「永遠とは……求める者にとっては薬となり、そうでない者にとっては毒となる」

薬売り「まさに、今の貴方そのもの……貴方にとっての永遠とは、何物にも受け入れがたき毒でしかなかった」


【毒】


薬売り「毒の解毒は時間との勝負です。一度体に入り込んだ毒は、時を増すごとに体の隅々を駆け巡る」

薬売り「毒が強くあればあるほど、さらにその時は短くなる……そして、直に手遅れとなる」


【切迫】


薬売り「しかしご心配なく。薬毒の誤飲など、往々にして起こる事態」

薬売り「さらには此度の場合ですと、まだ含んでからの時が浅い……よって、”正しき処方”を施せば、回復は十分見込まれます故」


【希望】




「言エ”……その正しキ処方とハ……一体なンダ……!」




【的確】


【処置】


【解】




薬売り「――――”吐く”んですよ。文字通り」


薬売り「毒を含んだその口から、全てを吐き出すように……いままで食らった全てを、ね」



【自己誘発性嘔吐】


579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 22:06:23.54 ID:nrMdkQ4a0



「う”――――か”ぁ”ぁ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”!!」


 「吐く」――――その言葉を聞いた妖兎は、すぐさまその指を喉奥へと突っ込んだ。
 ただでさえ血塗れの指が口に入る事で、唾液と交ざったか、ぐちゅぐちゅと不快な音が掻き立てられていく。
 しかしそれでもかまうことなく、指は一心不乱に動き続けた。
 まさに泣きじゃくる赤子の如く……溢るる嗚咽を、大量に漏らしながら。



(――――え?)



 しかしそんな決死の行為も、”ある時”を境にピタリと止まってしまう。
 それはやはり、兎の持つ性が故なのであろう。

 そう、兎は――――聞こえてしまったのだ。
 空耳と思しき小言。なれども聞き捨てならない、希望の言葉を。




薬売り「そう言えば…………確か…………」




【呟き】


【疎覚え】


【聞き齧り】






薬売り「”四つ葉のシロツメクサ”に…………そのような効能が…………」





【想起】





(四つ葉のシロツメクサ――――!)



https://i.imgur.com/s0VIFPB.jpg


580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 22:14:17.80 ID:nrMdkQ4a0


 「――――四つ葉のシロツメクサ」。
 その単語を聞くや否や、兎は一目散に飛び出して行った。
 勢いついでに「ドンッ」と薬売りの身を突き飛ばしたのだが、しかし当人は気づいてすらいなかったであろう。
 言わば他の一切が知覚できぬ、矢庭の走。
 だがその決断と行動の速さたるや、これもまた、兎の性が故であった。



【跳】



 すなわち――――【脱兎の如く】。
 そうして兎はたった今、確かに、”自らの意思”で、外へと飛び出していったのだ。




薬売り「あったような……」




【飛】



 あれほど守ると宣った永遠亭から――――
 あれほど憎んだ、薬売りの元から。




薬売り「なかった……ような…………」




【兎卯・亡】



581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 22:24:57.84 ID:nrMdkQ4a0



【孤立】


【無縁】



薬売り「やれ、やれ…………」


 そして、亭は――――ようやっと、本来の静けさを取り戻した。
 さながら狼藉者に押し入られたかのような、乱雑に散らかされた一室ではある。
 だがしかし、これらの乱れを片そうとする者など、どこにも存在しない。
 この乱れに文句を垂れる者など……もはや誰一人として、いないのだ。



【森閑】



薬売り「全く…………最後まで懐かない、うさぎさんでしたよ」

薬売り「如何に臆病な気質とて……もう少しくらい、愛想を振りまいてくれても良さそうな物ですが」



【無常】



薬売り「まぁ、確かに……少々強引な手段を使ったのは、認めますがね」

薬売り「よいのですよ。こうして無事、果たす事ができたのですから……」



 竹林に佇む一軒の御屋敷の最中にて――――
 本来そこに居るべき住人が、誰もいないとはこれ如何に。
 いるのはただ、空に語り掛ける、どうにもうさんくさい男が一人。




薬売り「――――”貴方との約束”を、ね」




 と、最後まで誰にも認知される事のなかった――――【六人目の住人】の、二人と。



【盟約】

582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 22:36:08.32 ID:nrMdkQ4a0



薬売り「さて……では……」


【凜】


薬売り「後の方は…………”よろしく御頼み申し上げ候”」


【臨】


 そう言うと薬売りはそっと着物を整え、静かに座した。
 そして、待つ。
 「もはや為すべき事はなし」「もはや自分には、座して待つ以外に為せる事はなし」
 そんな事でも考えてそうな、何とも言えぬ呆けた表情を浮かべながら。



薬売り「…………」



 そしてそんな「静」を貫く薬売りとは対照的に、「もはや待ちきれんと」ばかりに蠢く、一つの物があった。
 そう、皆もご存じ――――『退魔の剣』である。



薬売り「…………そう急くな」


退魔の剣「〜〜〜〜ッ!」



 「奪われたはずの剣が何故薬売りの元へ戻っているのか」。
 その答えは至極簡素な理屈である。
 速い話が、”忘れ去られた”のだ。
 折角奪い取ったにも関わらず、焦る余りに置き去りにしてしまった、あの荒ぶる兎によって。



薬売り「直に…………戻って来る」


退魔の剣「〜〜〜〜ッ!」


薬売り「直に自ら…………”全てを返しにやって来る”」


退魔の剣「〜〜〜〜ッ!」



 「だからただ、待っていればいい」。
 これまたそんな事でも考えてそうな、澄ました顔で――――
 薬売りはただひたすらに、待ち続けているのであった。



【――――いってらっしゃい】


https://i.imgur.com/zV0A8yA.jpg





583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 23:03:51.86 ID:nrMdkQ4a0


【動】


https://i.imgur.com/n44XbP9.jpg


【道】


https://i.imgur.com/ikxTlU3.jpg


【豪】


https://i.imgur.com/vBIfbn8.jpg


【仰】


https://i.imgur.com/60CQKsB.jpg




【――止――】



https://i.imgur.com/zZTdtsU.jpg







584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 23:17:57.89 ID:nrMdkQ4a0



(……………………)



【再】



https://i.imgur.com/2VHoXFj.jpg



【進】



https://i.imgur.com/g8yWRFR.jpg



【進】
【進】
【進】
【進】



(――――だ)



【進】
【進】
【進】



(ど――――こだ――――)



【進】
【進】
【進】



(どこに――――いゃる――――)



【進】
【進】



https://i.imgur.com/9poGSSu.jpg


585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 23:20:25.50 ID:nrMdkQ4a0


【進】


【至】




(――――!)




【発見】


https://i.imgur.com/BdbtvlT.jpg












(四つ葉のシロツメクサはどこにある――――!)




【――最後ノ獲物――】

586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 23:20:59.96 ID:nrMdkQ4a0
本日は此処迄
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 01:45:45.57 ID:9QvYt9c00



「どこだどこだどこだ――――四つ葉のシロツメクサは、一体どこにある!!」



――――兎は、一心不乱に探し続けた。
 傷だらけの御身を引っ提げ、ただでさえ薄暗き竹林の中を、あるかどうかもわからぬ「四つ葉のシロツメクサ」だけを求めて。
 


(どこだどこだどこだ――――どこだどこだどこだ――――!)



 兎にとっては、まさに死活問題であった。
 文字通りまんまと盛られた一服。
 してその効能は”望まぬ永遠”。

 「――――永遠は望む者には薬となり、望まぬ者には毒でしかない」
 薬売りの言葉を借りるなら、妖兎にとっての永遠は、まさに毒でしかなかったのだ。



「速く――――見つけないと――――」



 何故ならば、永遠とはすなわち不滅と同義。
 そして不滅が齎すは、兎の存在そのもの。
 なればこそ、言葉の通りに兎を「永遠の存在」にしてしまうのだ――――”全身を痛めつける古傷と共に”。



「速く見つけないと――――あたしは――――あたし”達”が――――!」



 しかしながら、兎が真に危惧する事は、傷の不治ではなかった。
 兎が真に願いし事――――すなわち永遠亭の守護である。
 傷の治療を目指し、暗躍し続けたるは未だ記憶に新しい。
 しかしそれらは、あくまで目的遂行に至る、過程の一部でしかなかったのだ。

 だが――――それもこうして、夢半ばに潰えようとしている。
 兎の計り事が、”どこぞの薬売りのせいで”大幅に狂った事は、もはや言うまでもない事であろう。

588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 01:50:03.81 ID:9QvYt9c00



(速く――――速く――――…………)



 よって兎は、持てる全てを”今”に使った。
 未来も過去も全てを忘れ、ただひたすらに「目前の希望」だけにしか目を向けなかった。
 そうする事でしか、先が見えなかった――――未来を駆ける自分が、浮かび上がらなかった。



(は…………やく…………)



 そう言えば……身共も久しく見ておらんな。
 四つ葉のシロツメクサ、か。はて、最後に見たのはいつの頃だったか。
 確か……ええと、修行時代に見た事があったような、なかったような……
 ええいどうでもよいわ。
 要は、かのように徳高き身共ですら、おいそれと御目通り叶わぬ草なのだ。
 



(……………………)




 そんな稀有極まるシロモノがだな。
 こんな昼間も薄ッ暗い竹林で、しかも全身手負いの状態で、早々都合よく見つかるはずが――――





「――――――――”あった”!」





【奇跡】

589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 02:24:08.45 ID:9QvYt9c00


「あった――――あった! これだ! 間違いない!」


「やっぱりそうだ…………ちゃんと”全部”四つ葉になってる!」


 ま、真かこやつ……
 身共ですら数える程しか見た事がない四つ葉のシロツメクサを、いとも容易く見つけ出しよった。

 しかも……んん? これは……



【会同】



――――なにィ!?
 四つ葉のシロツメクサの”群生”だとォ!?


https://i.imgur.com/oUyIxev.jpg
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 02:33:08.99 ID:9QvYt9c00



「これで……やっと…………」



(――――あれ?)



 俄かに信じられん……四つ葉のシロツメクサは孤立無援の亜種草と聞き及んでおったのだが……
 お、落ち着け皆の衆! これは断じて偶然などではない!
 この現象は……あと……そう……”因”だ! 
 天網恢恢疎にして漏らさず。これは所謂、「因中有果」の範疇なのだ!



【因果論】



 よいか? 修験に代表される世の教えには、得てして等価の原則が付きまとう。
 してその等価こそが、すなわち因果。
 善因善果悪因悪果。善い行いが幸福を齎し、悪しき行いが不幸を齎す教えの意だ。

 ほれ、おぬしらとて聞いた事くらいあるであろう。
 平たく言えば――――「因果応報」と呼ばれるモノよ。



【四印】



「え――――ちょっと待って……」


 よって此度の現象は、この兎の善因が、このように「シロツメクサ」と言う印で現れたに過ぎん……。
 ふん、種が分かれば粗末な物よ。
 よくよく考えれば、頭脳明晰にして修験の道極めしこの身共が、この程度の事で狼狽えるものか……と言う話よの。



【幡】



――――で、だな、話の続きなのだが。
 善因あらば無論悪因もあり、両者は互いに引き合う定めなのだ。
 善ある所に悪あり、その逆もまた叱り……
 よって悪因の印また、同じく何らかの形で現れるわけで――――ほれみよ、やっぱり現れよった。




(服用(たべ)方がわからない――――!)




 このようにして、兎の悪因が”急場の忘失”を招いたのだ。



【因幡】

591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 02:45:12.25 ID:9QvYt9c00


「く………………そ…………」


 この土壇場でまたしても新たな課題にぶつかるとは、つくづくなんと言おうか……
 まぁ確かに、四つ葉のシロツメクサを「取る」者はいても、「食す」者など早々いまい。
 そうだ、この際だからついでに教えといてやろう。
 四つ葉云々関わらずな、シロツメクサを食すには、それ相応の手間を必要とするのだ。



【困惑】



 皆の衆も覚えておけ。
 シロツメクサにはな、実は――――”毒”が混じっているのだ。
 そこらに生えているからと言って無闇に食えば、たちまち体調を崩し、最悪の場合は命を落とす事すらある。
 これを”青毒”と言ってな……
 よってシロツメクサを食すには、事前の「毒抜き」の手間が必要不可欠なのである。



【思案】



 惣菜として食すか、薬草として飲むか。
 いずれの場合にせよ、この「毒抜き」の過程なくば口に含む事は叶わん。
 ……え? 薬師でもないのに何故そんな事を知っているかだと?
 それは……ええと……阿呆! 学書から学んだに決まっておろう!



【経験】



 ったく、身共を誰と心得るのかと……ま、まぁ、そういうわけでだな。
 皆の衆がどこぞの山にでも遭難した暁には、きっと今の知識が役に立つと思われようぞ。



「う”…………う”ぅ…………」



 の、だが――――そんな、折角の修験者の知恵が全く役に立たぬと言う、哀れなる存在がこの兎。
 この様子からして、十中八九毒抜きの方法など知らぬであろう。
 そして仮に知ってたとしても、やはり出来なかったはずだ。

 知ろうが知るまいが関係ない。
 単純な話だ……今の兎に”そんな暇などありはしなかった”のだ。




【勝負】



【博奕】





「う…………オ ォ ォ ォ オ ォ オ オ ォ オ ! !」




 
 よって兎は、運否天賦に賭けるしかなかった―――
 四つ葉のシロツメクサを”そのまま食らう”と言う賭けに。






592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 02:54:54.92 ID:9QvYt9c00



「オ”オ”オ”オ”オ”オ”――――!!」



 貴重な四つ葉のシロツメクサを乱雑に鷲掴みにしたあげく、力任せに引っこ抜き、齧り、引き裂き、その赤き喉奥へと無理矢理押し込んでいく――――
 その勢いたるやまさに猪突猛進が如し。
 草に付着した土毎食らうその様は、誰が言ったか「毒を食わらば皿まで」の体現と言えよう。



「…………う”ッ!」



「う”っ…………ん”っ…………ぐぅ…………ッ!」



 しかし兎はその覚悟が故に、三度壁へとぶち当たる事となる。
 その反応、その顔色……はは、かつての身共とまんま同じである。
 どうだ、生で食すシロツメクサの感想は……
 その味はもはや、たった一文字で十分表す事が出来ようて。




(――――”苦”…………っガ…………!)




 わかるぞ兎……そうなのだ。シロツメクサは、とてつもなく”苦い”のだ。
 あの苦味が口いっぱいを侵すとあらば、毒なぞ無くとも誰も食おうと思わん。

 言っておくが、決して大袈裟な揶揄ではないぞ? 
 本当に、この世の物とは思えぬあの不快な味と来たらもぉそれは……
 嗚呼〜恐ろしい! 思い出すだけでサブイボが立ち寄るわ!



【我慢】



593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 03:06:27.98 ID:9QvYt9c00



(やば…………吐きそう…………)



 おおよそ食うに値せぬ不味の草を、あろうことか束で、しかも生で貪った兎。
 必然、想像を絶する「苦」が今、兎の口内を駆け巡っている事であろう。

……オエップ。すまぬ皆の衆。
 此処だけの話、食についてはあまり語りたくなくてな……。
 ま、まぁちょっとした、とある理由でな。



(う”……………………)




【限界】




(ウ”……………………)




 と言うわけで、少しはこちらの都合も考えて欲しい今日この頃……
 もう十分であろう。不要な忍耐はそこまでにして、とっとと「吐いて」しまえ。 




(……………………)







【――――気合】







「ウ”…………ォ”ラ”ァァァァ――――ッ!」





【再燃】

594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 03:17:22.69 ID:9QvYt9c00



「ア”ア”ア”ア”ア”ア”――――!」


 な、なんと凄まじき執念……
 あの猛烈な苦味を口にしてなお、さらに「お変り」までしようと言うのか。
 それに、それだけの量を一片に食わらば、そろそろ本当に毒が……
 わからん、わからんぞ兎。一体全体、何故にそこまでするのだ。



【暴飲】




「ま”だ”だァ”ァ”ァ”ァ――――!!」



 この勢い……ひょっとするとひょっとして、本当に全てを平らげてしまうのか?
 かつての身共ですら匙を投げた、あの超・極不味草を?



「あ” あ” あ” あ” ぁ” ぁ” ア” ア” ぁ” ぁ” あ” ア” ! ! ! ! 」



【暴食】



……なんであろうか、この内から湧き出る多情なる思い。
 なんだか……なんだかよくわからんが、段々と高揚してきたぞ!



【不屈】


――――ほれ! ゆけ! 兎! 
 そこまで言うならもう止めん!
 その溢れんばかりの情念で持って、見事――――全てを食らいつくしてみよ!






【本音】






(……………………いやだ)





【哀哭】


595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 03:49:46.51 ID:9QvYt9c00
ロダが落ちてるっぽいので一時中断します
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 11:08:16.79 ID:9QvYt9c00



(苦い…………苦いよ…………まずいよ…………なにこれ…………)


(いやだよ…………もう…………こんなのもう、食べたくなんかないよ…………)



【苦痛】



(辛いよ…………苦しいよ…………体中が痛いよ…………血が止まらないよ…………)


(こんなに辛いのに…………こんなに苦しいのに…………)


(あたしはどうして…………”まだ生きている”の?)



【苦行】



(どうしてあたしだけが…………こんな…………)


(どうして…………こんな目に…………)



【荒行】



(教えてよ…………誰か…………)


(わからない…………何も、わからないよ…………)


(あたしは最初から…………何も…………)



【難行】





(”自分が誰なのか”さえ…………)





【至】


【境地】



https://i.imgur.com/rFr2yyE.jpg




(え――――?)

597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 11:27:51.88 ID:9QvYt9c00


https://i.imgur.com/EjXZR4f.jpg



「は…………?」



https://i.imgur.com/POnrBev.jpg

https://i.imgur.com/qpLrlWn.jpg

https://i.imgur.com/3a2wzFk.jpg



「でも…………だって…………」



https://i.imgur.com/sfatAZz.jpg

https://i.imgur.com/0T8gxuw.jpg

598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 11:48:15.40 ID:9QvYt9c00



「兎が…………兎が…………”ただの兎が”こんな目に合うものかッ!」


https://i.imgur.com/061UDKK.jpg

https://i.imgur.com/9mrdfoR.jpg




「今…………?」



https://i.imgur.com/XXlT5Mi.jpg

https://i.imgur.com/aFCoAGq.jpg




「今…………は…………」




https://i.imgur.com/JRsCf8z.jpg


599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 12:14:21.11 ID:9QvYt9c00





 かごめ かごめ





「今は…………」





 籠の 中の 鳥は





「今の…………あたしは…………」





 いついつ出やる





「今は…………ただ…………」





 夜明けの 晩に


 鶴と亀が 滑った





https://i.imgur.com/TKUctwi.jpg






 後ろの正面 だあれ?


600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 14:01:20.21 ID:9QvYt9c00



――――身共は一体、何を見せられているのだろうか。
 薬売りにまんまと一杯食わされ、その食わされた毒を下すべく、四つ葉のシロツメクサを求めたと……そう認識していたのだが。
 兎の思いがけぬ豪快な食いっぷりに、少しばかり我を忘れていたのは認めよう。
 だがな……いや、確かに気が高揚していたとは言えだな……



【効用】



 それでも……仮に草が、毒であろうとなかろうと……
 やはり、かのような形で御身満たさんとは、どうもこう……夢見心地な気分と言うか、何と言うか。



【落】


【陽】



 ひょっとして、知らずの間に眠りにでも落ちてしまったのだろうか。
 いかんいかん。だとすれば、身共ともあろう者がなんたる失態か。
 今一度気を引き締めねば……おおい誰か、身共の頬を軽くつねってはくれぬか。



【赤】



【橙】



【黄】



【水】



【青】



【藍】





 そして、でき得るならば説いてくれ。
 何故にこうして――――兎の身から”傷だけが剥がれ落ちて行く”のだ?





【――色・彩々――】




https://i.imgur.com/IdvSN2W.jpg



601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/30(土) 14:02:14.08 ID:9QvYt9c00
夜また来る
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 00:02:18.31 ID:YYQSdYq10



【項垂】



(……………………)



【膝行】



(……………………)



【吐】



(……………………)



【白】







てゐ「……………………ゲップ」




 ただ――――一つわかるのはだな。
 妖兎はこうして、幾多に連なる苦難を、見事乗り越えてみせたと言う事である。
 その様はまさに役優婆塞が如しであった。
 妖兎が仮に人であったなら、きっと今や、鬼すら使役できる霊力が備わっておる事であろうて。



【無事】



 いやぁ〜にしても、実に良き物を見た。皆もそう思わんか? 
 薬売りと言う巨悪の術策を、御身一つで跳ね返したこの事実は、拍手喝采に値する事請け合いである。



【完食】



 天晴だ。まことに天晴であった。
 屋号があれば叫んでやりたい気分よの。
 そうだな、合いの手はさしずめ……
 よッ――――【永遠亭】!


https://i.imgur.com/ScQmaH4.jpg

603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 00:17:07.01 ID:YYQSdYq10



てゐ「…………」



 はは、まるで千両役者みたいだな……と、時に私見であるのだが。
 此度の一部始終、身共からすれば、薬売りの動きが少し意外であったのだ。



てゐ「…………」



 考えてもみよ……あの不遜・悪鬼・腹黒極まるあの薬売りがだぞ?
 事シロツメクサに関しては”真を述べておった”と言う、この気味の悪さよ。



てゐ「…………」



 先ほど申した通り、シロツメクサは本来”毒”である。
 薬師からすれば薬草になるやもしれぬが、凡に考えれば、やはり本来は含んではならぬ草よ。
 故にシロツメクサと言う言葉が出た際、身共はてっきり「口から出まかせを吹かし、兎をさらなる窮地へ追いやらん」と言う風に思うておったのだが……
 意外や意外。妖兎がこうして無事「永遠から脱する」事ができたのは、紛れもなく「薬売りの教授」があったが故でもあるのだ。



てゐ「…………」



 まぁ、最後の方は少しわけがわからなかったがな……
 とにもかくにも、終わりよければなんとやらだ。
 あれほど血に塗れていた体はすっかり元の白を取り戻し、その血の出所たる”古傷”も、すでに塞り終えておる。



てゐ「…………」



 そう、全ては元に戻ったのだ。
 血も・傷も・痛みも・苦味も――――御身に纏わる、何もかもが。




てゐ「……………………す」





――――砕かれた心でさえも。












てゐ「―――― ” 殺  ス ” !  」




https://i.imgur.com/RYJOqao.jpg
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 00:34:57.10 ID:YYQSdYq10



てゐ「殺ス――――殺ス! 絶対殺ス! 意地でも殺ス! 是が非でも殺ス!」



てゐ「殺ス…………殺ス殺ス殺ス殺ォァ”――――ッッスッ!!」



 こうして妖兎は、折角体が癒えたにも関わらず、四つん這いのままピタリと動かなくなってしまった。
 傍から見れば、背以外が食い散らかした草の痕へと向く格好となる。
 その姿勢は意図せず、せっかく癒えた顔を覆い隠す形となった……のだが。
 しかし案ずるなかれ。妖兎が「今どのような表情をしておるか」など、顔が見えずとも、いとも容易く思い浮かべる事ができるのだ。



【激憤】



てゐ「肉と言う肉を齧り殺してやる! 四肢の全てを削ぎ殺してやる! 臓物の全てを貪り殺してやる! 生きたまま食い殺してやる!」
 


【激怒】



てゐ「ありとあらゆる手段で殺してやる…………ありとあらゆる手段で苦しめてやる…………」



【激昂】



てゐ「殺した後でもさらに傷つけてやる…………死骸を延々、玩具のように弄んでやる…………!」



 その怒りの全ては、薬売りただ一人に向けられる物であった。
 所以はもはや、語るまでもないであろう。
 如何に薬売りの助言が一役買ったとて――――そもそもな話、兎を傷つけたのは薬売りの方なのだ。
 


てゐ「あいつは…………絶対にここから出さない…………」



てゐ「誰が帰してやるものか…………もう、降参したって…………許してやるものか…………!」



 そう言えばあの折り……あの男は恐れ多くも、蓬莱の薬を「貴方にとっての毒」などとほざいておったの。
 身共からすれば、「お前が言うな」である。
 そりゃそうだ。この場で最も有毒なのは、他でもない”あやつ自身”であろうに……皆もそう思わぬか?



【怨毒】

605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 01:01:08.78 ID:YYQSdYq10




てゐ「殺ス…………あいつだけは…………」




てゐ「絶対に…………絶ェェェェッッッ――――対に”ィィィ――――ッ!!!」




 ま、と言うわけで……今一度薬売りへの恨みを募らせた所でだな。
 妖兎はようやっと、重い腰を上げ、その怒れる顔を面へと出したのだ。





てゐ「殺”ォォォォ――――――――」





 そうなって、初めて……
 妖兎は、ようやく「目を合わせる」事が出来たのだ。





(ォォォォ――――…………)






 ずっと、傍で――――”自分を見守ってくれていた者”と。






てゐ「……………………すぇ?」





【末】















https://i.imgur.com/3CyxAQM.jpg





 得てして、この夜通しかけた、永き攻防の末に――――
 これにて、名実共に”誰もいなくなった”のであった。




【因幡てゐ】×

606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 01:18:29.30 ID:YYQSdYq10



【経過】




【蓬莱山輝夜】×

https://i.imgur.com/xwOeGqB.jpg

 神隠し最初の犠牲者。
 永遠亭の真の主であり、その正体はかの有名な「竹取物語」のかぐや姫その人。
 竹取物語の結末とは違い、実は月へと帰らず幻想郷に移り住んでいた。
 薬売りが現れた当初は、永遠亭の新弟子となった薬売りと謁見の予定であったが、しかし直前にモノノ怪の襲撃に合い、謁見は中止。
 そのまま薬売りと会うことなく姿を消してしまった。

 しかし姿を消す直前、『自身のスペルカード』にモノノ怪の正体の示唆を残していた事が判明。
 これは後に永琳経由で薬売りの手に渡る事となる。

・姿 不明
・真 不明
・理 不明




【藤原妹紅】×

https://i.imgur.com/JZQxkkt.jpg

 神隠し二番目の犠牲者
 過去にとある経緯で蓬莱の薬を服用し、輝夜同様不死の身となった炎の術師。
 玉兎曰く、元々はどこにでもいそうな普通の娘だったとの事。
 蓬莱山輝夜とは何らかの因縁(?)があり、その事実から、玉兎に「モノノ怪の正体」として名を挙げられていた。
 しかし妹紅の元へ向かう際、すでにモノノ怪に攫われた後であった為、自動的に容疑者から除外される。

 襲われた際多少の抵抗でもしたか、現場には焦げた竹と、辺りを覆う焦げ臭さが蔓延していた。
 だが薬売りはその匂いの中に、焦げ臭さとは別の『何やら香ばしい香り』を嗅ぎ取った。


・姿 不明
・真 蓬莱の薬を服用し不老不死となった炎術師
・理 不明




【八意永琳】×

https://i.imgur.com/mgfUCVl.jpg

 神隠し三番目の犠牲者
 何かに怯え部屋に閉じこもった玉兎を見かね、強引に錠をこじ開けた所、直後モノノ怪に憑りつかれた。
 実は過去、月の迎えから輝夜を奪い取った張本人である。
 さらにこの時、周りの月人を「皆殺し」にした為、その経緯から人知れず「モノノ怪の正体は自分」と思っていたらしい。
 薬売りも同様、当初は八意永琳こそがモノノ怪の真と睨んでいたが、当の永琳本人がモノノ怪に憑りつかれた為、両者の目論見はあえなく外れる事となる。
 これにより一時は一切の手がかりがなくなったと思われたが、しかしこの時薬売りに「輝夜のスペルカード」を託した事が、薬売りが「モノノ怪の真」を得るキッカケとなった。

 そして薬売りに後を託した直後、皆の目の前で消滅。
 永遠亭の存続を揺るがす一大事にも拘らず、何故だか最後の最後まで『安心しきった』ような表情を浮かべていた。


・姿 赤と青に分かれた服を着た白髪の女
・真 元・月の賢者 現・月の大罪人
・理 不明

607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 01:27:21.36 ID:YYQSdYq10



【鈴仙・優曇華院・イナバ】×

https://i.imgur.com/T3Sa8fr.jpg

 神隠し四番目の犠牲者。
 モノノ怪による神隠しの最中、一人だけ逃亡を図った所を薬売りに妨害され、追及の果てに観念して全てを白状するに至った。
 実は過去に輝夜を地上へ突き落とした張本人であり、八意永琳が「姫強奪事件」を起こすキッカケを作った人物でもある。
 この際、とある理由で「心狂わせる程の恐怖」を植え付けられた為、その恐怖がいつしか、本人すらあずかり知らぬ所で「別人格」として独立していた。

 当初はこの別人格こそがモノノ怪の正体と思われたが、薬売りは輝夜姫のスペルカードから「玉兎はモノノ怪でない」と知っていた為、退魔の剣を抜かれる事のないまま再度封じられた。 
 そして自らの別人格の存在を認知した後、薬売りによって「モノノ怪ではないから」と見逃され、そのまま竹林を出ようとする。
 しかし、脱する直前で不意に足を止めてしまったが為に「本物のモノノ怪」に追いつかれしてしまい、寸前の所で惜しくも消えた。

 薬売りが現れる直前、『何らかの一報』が届いたらしいが、詳細は不明。


・姿 兎耳を生やした長身の女
・真 永遠亭から脱走しようとしていた
・理 月の追手の目を永遠亭から逸らす為




【因幡てゐ】×

https://i.imgur.com/dWuqAgV.jpg

 神隠し最後の犠牲者。
 当初から不審な行動が多くみられた人物。
 此度の神隠し騒動を徹底的に「見知らぬ素振り」し続けた揚げ句、どころか所々モノノ怪を擁護するかのような言動すらあった。
 薬売りは勿論、身内すら咎める程の我関せず振りであったが、実はその全てが「退魔の剣を奪う為」であったと最後に判明する。

 見知らぬ素振りは策略を張り巡らせていた為であり、その甲斐あって、一時は見事退魔の剣を奪い獲る事に成功。
 しかし直後に「一服盛られた」事を知り、発狂。折角手に入れた退魔の剣を自ら投げ捨て、外に飛び出してしまう。
 そして、意図せぬままに自分からモノノ怪の元へ飛び込んでしまった結果、心半ばにして消えてしまった。

 実は輝夜よりも先にモノノ怪の襲撃を受けた当人。モノノ怪に襲われるのは計二回目となる
 しかし最初の強襲に限り、何故か『掠り傷を負わされただけ』と言う、なんとも半端な被害に終わった。
 

・姿 兎耳を生やした小さい女
・真 退魔の剣を強奪すべく、裏で策略を練っていた
・理 単身で月の追手を退けた後、自らの手でモノノ怪を斬り払い、攫われた仲間を解放する為


608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 01:48:33.37 ID:YYQSdYq10


【八雲紫】×(例外)

https://i.imgur.com/X7032Qe.jpg

 無数の目・神隠し・月との因縁と言う経緯から、真っ先にモノノ怪の候補へ名を挙げられていた人物。
 しかし後に「自ら弁明に現れた」事により、晴れて潔白を証明した。
 この時の口ぶりから、薬売りよりも先にモノノ怪の真に辿り着いていたと思われる。
 しかし「自分ならモノノ怪を難なく排除できる」と断言しつつ、「後学」を理由に今後一切手を出さない事を宣言。
 今もどこかの隙間から、一部始終を覗いていると思われる。

 余談ながら、別れ際に土産と称して『朱色のシロツメクサ』を薬売りに送る。
 永遠亭の近くの穴で拾ったと説明したが、実は、永遠亭の誰もが見た事のない品種だったりする。


・姿 紫色の服に身を包んだ女
・真 幻想郷の創設者
・理 薬売りの解決力を今後の異変解決に役立てたい


609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 01:54:13.51 ID:YYQSdYq10

【御知らせ】
またまたまたまた(ry
とりあえず本年度はここまで。再開は年明けからにします。
例によって詳細は未定。目途が立ったら言いに来ます。
なんか予想外に時間かかってますが(99割画像のせい)今度こそほんとうに完結までこぎ着けたいと思います(マジで
では、よいお年を。
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 01:57:48.62 ID:Uubqhm3Io
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 17:03:01.47 ID:WphVAt9H0
まだかな
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/02(金) 23:08:02.69 ID:KocClk6p0

【定時報告】


■■■■■■■■■■■■□□□□
                 ↑
               今この辺
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 01:11:17.82 ID:h39vv37+0
保守
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/10(土) 18:48:48.83 ID:KxqT+heF0

【定時報告】


■■■■■■■■■■■■■□□□
                  ↑
                今この辺
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 19:06:03.49 ID:z1dsKJ2WO
待ってるゾ
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 01:27:58.08 ID:ZaPO5a320

【定時報告】

https://i.imgur.com/1xbzMSh.jpg
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 01:28:24.18 ID:ZaPO5a320


■■■■■■■■■■■■■■□□
                  ↑
                今この辺
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 01:29:44.22 ID:QmE1wwAso
乙です。絶対絵に時間かかってるw
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/20(日) 11:29:59.22 ID:F8aTFj1xo
まだか
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/16(土) 23:29:05.30 ID:/LAOqaWg0
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 13:57:52.67 ID:pv6AAgwY0
最初は目目連とか話してたけど、結局どんなモノノ怪なんだ…
これからも続き期待してやす っ饅頭
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 23:42:51.91 ID:ES789BLm0

【定時報告】

遅れてる理由=3Dツールに手を出したから

https://i.imgur.com/GmNCLjA.jpg
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 23:43:34.34 ID:ES789BLm0

■■■■■■■■■■■■■■■□
                  ↑
                今この辺(たぶん
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 00:29:16.26 ID:75vweqlQ0
どんだけ気合入れとんねんwwww
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 18:58:00.87 ID:bsK1FHB0O
何もんだよお前
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 08:25:07.73 ID:s2MIcqCZO
待ってるから安心して制作に励んでくれ
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 14:28:58.17 ID:28uCSUe60
  (  ) ツルギヲ
  (  )
  | |

 ヽ('A`)ノ トキハナツ!
  (  )
  ノω|

 __[警]
  (  ) ('A`)
  (  )Vノ )
   | |  | |
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 01:15:13.88 ID:iRneVenA0
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 21:32:28.85 ID:uansV9yI0
てす
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 21:38:50.59 ID:uansV9yI0

【定時報告】

遅れてる理由=なんか板事落ちてたから

https://i.imgur.com/5OVcdmA.jpg
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 21:40:37.23 ID:rR2/jikso
待ってる
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 21:41:30.37 ID:uansV9yI0


■■■■■■■■■■■■(〜遊びに行きたい気持ち〜)□□
                                 ↑
                                 今この辺(だったらいいなって
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 07:03:51.97 ID:aLk45WUrO
いいなってwww
とりあえず待ってるぞ!
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 18:09:02.70 ID:4ozNtZTE0
続きが来なくて何度読み返していたことか
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 23:54:47.14 ID:eTf47pneo
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 01:32:42.01 ID:9khhDRJa0

てす


https://i.imgur.com/U4HKdRE.gif


https://i.imgur.com/r8agHYO.gif


https://i.imgur.com/2g4lyY6.gif
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 02:12:03.67 ID:M9dMti5Uo
とうとう動画まで来たか…

全部見れたけど、うちはWiFiあるから通常の通信だとどうだろう
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 23:31:21.76 ID:9khhDRJa0
【お知らせ】


https://i.imgur.com/pZqe964.jpg
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 23:33:44.78 ID:9khhDRJa0

あと



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                 l::::::::::::::::::::| ≧===ミ          -‐  `ヽ:::::::::::::::::::::|         待ってる間に予習しろ
                   l:::::::::::::::::::::|                x===≦ミ !\:::::::::::ノ
               l:::::::::::::::::::::::i  xxxx               `/:::::::ヽ/::!
                 l:::::::::::::::::::::::::',       /" ̄ ̄ i    xxxx  !::::::::::::::::::::i     https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%B2%E7%A2%81%E7%94%A8%E8%AA%9E%E4%B8%80%E8%A6%A7
              l::::::::::::::::::::::::::∧     !    ノ         /::::::::::::::::::::::',
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