園田海未「私、園田海未は、高坂穂乃果と南ことりを愛しています」

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50 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:48:01.18 ID:y4VgxIfx0
海未母「…その後、高坂さんと情事を重ねていたのが、南さんの知るところになって」

穂乃果母「あれは大変だったねえ」

ことり母「あのときは本気で園田さんとの心中を考えてたわ」

ことり「お母さんが…?」

ことり母「ことりを産んでからはだいぶ落ち着いたから、わからないと思うけど。愛はそこまで人を狂わせるものなのよ?」

ことり(うう…ものすごくよくわかるよぉ。私とお母さん、嫌っていうほど似てる)

海未母「その後、私が二人を説得して……今の海未さんと同じ関係に至りました」

穂乃果「二人とも愛してるってやつだね! 穂乃果とことりちゃんも海未ちゃんに言われたよ」

海未「ほ、穂乃果」カァァ

ことり「…でも、お母さんたちは他の人と結婚してるよね?」

ことり母「…ええ」

ことり「そんなに愛し合ってたのなら、なんで」

海未(…私にはわかります)

海未母「ことりさん。私たちの愛は確かでした。しかし、周囲の環境と、時代がそれを許さなかったのです」

穂乃果「そんな…」

海未母「今でもこの国では同性愛は異端とされています。私たちの頃は尚更でした」

海未母「ましてや、私は戦前から存在する名の通った家の一人娘。…同性愛どころか、自由に恋をすることさえ許されていませんでした」

海未母「私は物心ついたころから、すでに許嫁がいましたから」

海未(…お父様ですね)

海未母「音ノ木に入れられたのは、地元の伝統ある高等学校であったというのもありますが、女子高だったことも大きいのだと思います」

海未母「恋愛にうつつを抜かして家名を辱めることが起こり得ないですから」

穂乃果母(実際は女の子同士の恋愛、結構あったけどね。エスってやつだね)

海未母「私が園田の家に、一人娘として生まれた以上、私の運命はすでに決められていた」

海未(…)

海未の母の言葉が、海未自身が以前発した言葉と重なる。

(海未「親に、教師に、友人に、穂乃果にことりに流され、流された場所でしっかりした様を見せて、真面目だ、頑張り屋だ、優秀だと言われて満足する」)

海未母「辛くはありませんでした。自分で決めなくていいというのは、それはそれで楽でしたから」

海未母「私はずっとこうだろうな、そう思っていました」

(海未「それに苦痛を感じたことはありませんし、これからも変わらないだろうなと思います」)

海未母「…しかし、高坂さんと南さんと共に歳を重ね、恋心が育っていくにつれ、私はこう思うようになりました」

海未母「この気持ちだけは、誰かが用意したものではないし、これからもそうはさせない」

海未母「他の全てが他人に決められたものであっても、ただ一つこの愛だけは私のものだと」

(海未「……でも私は、私が愛する人とどうなるかぐらいは、自分で決めたいのです。たとえそれがわがままでも、身勝手でも、普通ではないとしても」)

海未母「だから、私たちの関係が周知のもととなり、周囲に咎められた際に、私は人生で最初の――おそらく最後の――反抗をしました」

(海未「これは私の意地です。決められた運命への、周りから見ればささやかで、でも私から見れば大きな反抗です」)

海未母「私は二人と駆け落ちをしました」




かつてのとき、静岡県沼津市内浦

園田(私たちは、夏休みまで表面上は大人たちに従うふりをしました)

園田(そうやって警戒を解いた上で、夏休みが始まるとすぐに貯金を全額おろし、最低限の荷物と共に遠方まで逃げました)

園田「ここまで来れば、もう追ってこられないでしょう」

南「でもどうするの? こんなところに知り合いはいないし、いたとしても頼れないし…」
51 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:48:35.97 ID:y4VgxIfx0
園田「手持ちはまだあります。私が出しますので、今日は宿を取りましょう。きぃちゃ…高坂さんもそれでいいですね」

高坂「きぃちゃんでいいよ。いつも通り」

園田「駄目です。あくまで私たちは、旅行中の女子大学生として振る舞わねばなりません」

園田「幼さを出してはいけないし、仲が良すぎると勘ぐられてもいけない」

園田「その為にお互いに名字で呼び合い、自分を呼ぶときも『私』とする。そう決めたでしょう」

南「一緒にいられなくなっちゃうのは嫌だから、ね? 高坂さんも」

高坂「うー、わかったよ園田さん、南さん。慣れないけど」

園田「二人とも疲れたでしょう。少し早いですが、宿への手続きを先に済ませましょう」

園田「…あ、ちょうどあそこに宿が見えますね。あれにしましょう」



『十千万』



高海「いらっしゃいませ! 三名様ですか?」

園田「はい、二泊ほど泊まりたいのですが」

高海「台帳にお名前をどうぞ!」

園田「はい」カキカキ

高海「園田さんですね」

高坂「この子、すごくちっちゃいね」ヒソヒソ

南「小学生かな? こんなに小さくからお手伝いしてて偉い」ヒソヒソ

高海「私は高校生ですけど」ズイッ

南「えっ、あっ、聞こえて」

高坂「ごっ、ごめんなさい! まさか私たちと同じとは」

高海「同じ? でも台帳には二十歳って」

園田「私たちには私たちと背丈が変わらないきょうだいがいまして。それで驚いたのですよ」

南(園田さんナイス!)

高海「そうなんですか! きょうだいっていいですよね」

高海「私が将来結婚したら、子どもを産んで三人きょうだいにしようと思ってて!」

高海「できれば娘がいいかな〜一緒に宿を切り盛りするの楽しそうだし!」

園田「きっと娘さんも高海さんと同じで綺麗な声をしているのでしょうね」

園田「ここの宿名のように、千の歌で人を笑顔にさせる、輝かしい女性に育つと思います」ニッコリ

高海「そ、そんなあ// 私の子どもなんて、きっと普通の子ですよ! そ、それより、どうして私の名前を?」

園田「表に表札がありましたから」

高海「そ、そうでしたね! なんだか名前で呼ばれると緊張しちゃいます//」

園田(ふぅ…なんとかごまかせました)

高坂「そ〜の〜だ〜さーん?」ツネリ

園田「痛っ! なんですか高坂さん、いきなり人の手をつまんだりして」

南「私も」ツネリ

園田「痛っ! 南さんまで」

高坂「おほほ、それにしてもこの宿はいいところですねえ、南さん。夜が楽しみですね」

南「ふふふ、そうですね高坂さん」

園田「ふ、二人とも?」

園田(友人同士のふりをするように言ってはいましたが、なんだか演技がおかしいですよ!?)

南「園田さんはここの良さがまだわかってないようですから、今日の夜じっくり教えて差し上げましょう」
52 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:49:25.68 ID:y4VgxIfx0
高坂「そうですわね、南さん。じぃっくりと教えてあげましょう」

園田「」ゾクッ

園田(なんでしょうか、悪寒がします)

高海「…あ、あの。お部屋に案内してもよろしいでしょうか…」オズオズ

園田「は、はい。お願いします」

高海(園田さんって結構詩人だなあ。千の歌、かあ。なんだか気に入っちゃった♪)



夕方、海辺

ザ-ン
ザザ--ン

赤い夕日に静かなそよ風、潮の匂いがあたり一面を覆う。

園田「海はいいですね…」

高坂「園田さん本当に海好きだよね」

南「あっ、小さいかもめがいる。かわいいな〜」

園田「南さんはかもめが好きなんですね」

南「うーん、それはなんか一世代早いような」

園田「?」

南「こっちの話だよ」

南「かもめ自身というよりは、小動物全般が好きなの。特に鳥類かな」

高坂「じゃあ南さんの子どもの名前は『ことり』ちゃんだ!」

園田「どうしていきなり子どもの話になるのですか」

高坂「私のお母さんは、お母さんの好きなものから私の名前つけたって言ってたよ? 園田さんの子どもは『うみ』ちゃんだね!」

南「あはは。それなら、高坂さんはどうなるの?」

高坂「私かあ…私が好きなもの」

高坂の鼻にすぅ、とかすかな潮の香りが通りかかる。

高坂「私はこういうほのかに漂う潮の香りとか好きだなあ」

南「じゃあ『しお』?」

高坂「なんだか響きが悪いね」

南「それなら『かおり』は?」

高坂「うーん、それだとありふれた感じだよね」

園田「『ほのか』」

南「え?」

園田「『ほのか』はどうですか。…いま思いついただけですが。気に入らないなら忘れてください」

高坂は園田のもとに駆け寄って、園田の手を握る。

高坂「それだよっ!」ギュッ

園田「きぃ…高坂さん、何をいきなり」

高坂「それいい! 決まり! 私の子どもの名前は、『ほのか』! 『高坂ほのか』だよっ!」

高坂「それで、『園田うみ』ちゃんと、『南ことり』ちゃんと、私たちみたいに一緒の高校に通わせるの! それって、すっごく素敵じゃない!?」

南「高坂さん、それは…」

南の困惑した表情を見て、高坂は気づく。

高坂「あっ…そう、だよね…」シュン

南「…ねえ園田さん、高坂さん」

園田「はい?」
53 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:50:00.34 ID:y4VgxIfx0
高坂「なに?」

南「ずっと三人一緒だよ」

高坂「うんっ!」

園田「もちろんです。…二人とも、愛していますよ」

園田「高坂さん、南さん。私のわがままに付き合わせてこんなところまで連れてきてしまい、申し訳ありません」

園田は深々と頭を下げる。

南「園田さんのわがままじゃないよ。私たちがついていきたいと思ったから、ついてきたの」

高坂「そうそう、お金は園田さん全部出してくれてるし! 私の気持ち的には、夫の財産で豪遊する貴婦人な感じだよ!」

園田「なんですかそれは。まったく、高坂さんはこんなところに来ても変わりませんね」クスッ

南「でも、大丈夫なの? ここに来るまででだいぶ使っちゃったよね?」

園田「小さいときからお小遣いやお年玉を全て貯金に回してたので」

園田(特に欲しいものもなかったのでこれまで何も考えずに貯めてきましたが、こんなところで役に立つとは)

南「大事に貯めてきたお金なのに」

園田「それより大事な二人の為に使ったんです」

南「//」キュン

高坂(こういうのをスケコマシって言うんだよね)

園田「…暗くなってきましたね。宿に戻りましょうか」



十千万、三人部屋

高坂「宿の中探検しようよ!」

南「うん、いこっ♪」

園田「私は明日以降の計画を立ててますので、二人で行ってきてください」

高坂「えーそんなの後でいいじゃん!」ブ-

園田「駄目です」

高坂「園田さんと一緒がいいの!」

園田「でしたらここで私と一緒に計画を立てるのを手伝って下さい」

高坂「南さんと行ってまいります」ビシッ

園田「よろしい。後で私の考えた案を見せますので、いつものように二人の意見をください」

南「うん。じゃあ高坂さん、行こっ」

高坂「行くぞーっ!」ドタドタ

園田「高坂さん、走ってはいけません! …もう、落ち着きがないですね。女子大生という設定をすっかり忘れてます」

園田(…さて。勢いで来てしまいましたが、明日以降どうするかを考えなければ)

園田(残金から計算したところ、あと二ヶ月で手持ち資金は尽きる。それまでに家と職を見つける必要がある)

園田(何の経験もない若い女を雇ってくれるところなんて、普通に考えたらどこにもないでしょう)

園田(……あるとしたら、遊郭ぐらい)

園田(私は二人のためなら見ず知らずの男に抱かれる覚悟もある。でもそれは二人が納得しないでしょう)

園田(最悪、二人も一緒にそこで働くと言い出すかも。それだけは絶対に避けなければ)

園田(二人の体が汚れるなど、私の命に代えてもあってはならない)

園田(まっとうな仕事をなんとか探すしかありませんね…)

園田「前途多難です」ハァ

「なんだかよくわからないけど、大変そうですね」

園田「うわっ!」

園田は慌てて広げた計画表を隠す。
54 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:50:46.76 ID:y4VgxIfx0
渡辺「そんなに驚かなくても」

園田「なんですか貴女は、勝手に部屋に入ってきて!」

渡辺「お食事の用意ができたので、呼びに来たのですよ」

渡辺「扉の前で呼んでも反応が無かったので、入らせていただきました。よっぽど集中されてたんですね」

園田「そ、そうですか…」ドキドキ

渡辺「…すいません、私まだあまり接客に慣れてなくて。失礼や非常識がありましたら謝ります」

園田「新人の方なのですか?」

園田(そういえば、かなり若いですね。私とさして歳は変わらないでしょう)

渡辺「アルバイトです。私、高海さんの幼馴染で、それで雇ってもらってて。お小遣いの足しにしようと思いまして」

園田「そうなんですか」

園田(…高校生の身分で、そんなに金銭が必要なのでしょうか。私にはよくわからない感覚ですね)

園田「あの、興味本位でお伺いしますが、貯めたお金は何に使うのですか?」

渡辺「私、被服学に興味があって、自分で服を作ったりしてるんです。布って結構高くて、自分のお小遣いだけじゃ足りなくて」

園田「なるほど」

園田(道具一式を家の資金で用意してもらえた私は、恵まれていたのですね)

園田(私の場合、そうしたいと望んだわけではありませんが)

渡辺「お連れの方は二人とも既に食堂にいますんで、準備ができ次第すぐ来てください」

園田「はい、わかりました」



食後、三人部屋

園田(食事の後、私は二人に事実を話しました。この三人の間では隠し事をしない、と以前約束したから)

園田「…というわけで、このままのペースだと、資金はおよそ二ヶ月で底を尽きます」

園田「それまでに収入源を見つける必要があります」

南「お仕事…ってことだよね」

高坂「私達が節約すればもうちょっと長くもたないかなあ?」

園田「食費を削ることになりますが」

高坂「探そう、仕事。すぐにでも」キリッ

園田「…あてはあるのですか?」

高坂「ないよ?」

南「だよね…」

ウ-ンウ-ン

園田(あっ)

(渡辺「アルバイトです。私、高海さんの幼馴染で、それで雇ってもらって。お小遣いの足しにしようと思いまして」)

園田「アルバイトということなら…なんとかなるのかもしれません」

南「そっか。アルバイトなら、経歴とか身元とかそこまで深く調べられないし」

高坂「住所や年齢聞かれても、嘘言っちゃえばいいんもんね!」

園田「…褒められたことではないですが、そういうことです」

南「三人で働けば、だいぶ稼げるんじゃないかな」

園田「そうですね。頑張れば三人が生活するぶんぐらいはなんとか賄えるでしょう」

園田「その間により安定した職を探せばいいのです」

高坂「それじゃあ、早速明日から探してみよう! …と、それはそれとして」

園田「ん?」

南「そ〜の〜だ〜さんっ♪」トサッ
55 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:51:27.76 ID:y4VgxIfx0
園田「み、南さん? どうして私を押し倒すのですか?」

南「押し倒して何をやるかは、園田さんがよく知ってるよね?」

高坂「浮気性な園田さんには、私達の『良さ』をじっくり教えてあげないとね♡」

園田「なっ、何を言ってるのですか! そんなことしたら外に声が聞こえてしまっ」

高坂は園田が喋り終える前に唇を塞ぐ。

南「ばれないように、声を抑えてね、園田さん♡」

園田「ん…や…」

園田(二人とも…破廉恥です…)



園田(…とまあ、初日は色々ありました)

園田(次の日、私たちは方々を訪ね歩き、なんとかアルバイトの口を見つけました)

園田(ちょうど夏休みの時期だったので、変に勘ぐられることもありませんでした)

園田(高坂さんは昼はダイビングショップの手伝いをしています)



松浦「おーい高坂、このタンク運んどいてくれ」

高坂「はーい、って重っ!」ズシィ

松浦「当たり前だ、そこの台車使え」

高坂「了解です!」ビシッ

高坂は松浦と二人でボンベを台車に載せ、台車を押して運ぶ。

高坂「…そういえば、私以外にアルバイトの人っていないんですか?」ガラガラ

松浦「見ての通り重労働でな。他のところにとられちまうのさ。アルバイトとして来てくれたのは高坂がはじめてだよ」

高坂「へー、いっぱい汗かけて、海にも潜れて楽しいのに」

松浦「…女子大生にしては変わった考えだな。もっと楽して稼いで、遊びに使いたい年頃だろう」

高坂「んー、私はそういうのいいかなって。大切な友達と一緒にいられればそれでいいから!」

高坂(本当は友達以上の関係だけど)

松浦「そうかそうか、感心したぞ。それなら目一杯こきつかってやるからな」

高坂「うっ、ほどほどでお願いします」



園田(夕方は私たちが泊まっていた宿の手伝いをしています)

高海「高坂さんが来てくれてすっごく助かってるよ。渡辺さんだけじゃ人手が足りなかったから」

高坂「空いてる部屋をただで貸してもらってるんだから、それぐらい当然だよ!」

高坂「今年は夏休みの間、ここでお金稼ぎながら観光も楽しむって決めて来たから、助かったよ」

高坂(私たちは、社会見学と観光の為に夏休みを使って内浦を訪ねた女子大生っていう設定)

高坂(園田さんがばっちり説明してくれたおかげで、高海さんの親も信用してくれた)

高坂(…私が説明してたら、しどろもどろで多分バレてただろうな。園田さんってやっぱりすごい!)

高海「あはは、でもアルバイト先も決めずに来るなんて行き当たりばったりだね」

高海「園田さんも結構抜けてるところあるんだね?」

高坂「そ、それは…あっ、高海さん、お客さんだよ!!」

高海高坂「「いらっしゃいませ!」」

桜内「あらあら、可愛らしい受付さんが二人も」

高坂「えへへ、ありがとうございます」

桜内「内浦は初めてなんだけど、とっても素敵なところね。住んでしまいたいぐらい」

高海「ありがとうございます! いつでも歓迎しますよ。なんならお隣の土地が空いてるんで、お隣に住んでもらっても!」
56 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:51:56.17 ID:y4VgxIfx0
桜内「うふふ。私は無理だから、私の子におすすめしておくわ」

桜内「まだ学生だから、十年以上は待ってもらうことになりそうだけど」

高海「はい、そのときは私の子どもと一緒に歓迎しますね」ニッコリ



園田(南さんはデパートの服飾店で働いてます)

南「頭のお団子、可愛らしいですね♪」

津島「そ、そう? 思い切って今日はじめて試してみたんだけど」テレテレ

南「お客様には、ちょっとダークな感じの服が似合うと思いますよ♪」

津島「ダークかあ…悪くないかも」



園田(私は寺で、炊事や洗濯の仕事をしています)

園田「国木田さん、倉の整理終わりました」

国木田「仕事が早いな。園田はいい嫁になるだろう」

園田「ありがとうございます」

国木田「ウチに嫁がんか?」

園田「い、いえ、それはご遠慮いたします」

国木田「気が変わったらいつでも来ていいぞ」



園田(私たち三人は、アルバイトとはいえ仕事を見つけることが出来ました)

園田(そうして、朝から夕方まで働き、夜に十千万に帰ってくる。そんな生活が続きました)

園田(三人一緒に過ごせるのは夜の数時間だけでしたが、私たちはそれでも幸せでした)

園田(十千万が出してくれる夕飯を食べるときが、言ってみれば私たちの一家団欒でした)

園田(夕飯を食べ、身体を清めた後は…三人で愛し合いました)

園田(情事が一通り終わると、私は右側に高坂さんを抱き、左側に南さんを抱き、三人で川の字になって寝ました)

園田(働き詰めで、贅沢とは程遠い生活でしたが、内浦の豊かな自然と大きな海、何より二人と気兼ねなく一緒にいられる時間が、私たちの心を満たしてくれました)

園田(こんな日々が、一生続いてほしい――心の底からそう願いました)



ある日の夕方。国木田寺院

国木田「今日もよくやってくれた。夕飯も食べていかんか?」

園田「いえ、せっかくですが。これから次のアルバイト先のホテルに行きますので」

園田(将来の為に、もっと稼いでおかなければなりませんからね)

国木田「ずいぶん頑張るな。ホテルっていうと、小原のところか」

園田「ご存知なのですか?」

国木田「そりゃあ、あれだけでっかいホテルを立ててればな。なんでも世界中に支社があるらしく、小原家はたいそうな金持ちらしい」

園田(羨ましい限りですね)

国木田「まああそこならここより金払いもいいだろう。頑張って稼いで来いよ」

園田「ありがとうございます。ではまた今度」タッタッタッ

国木田(慌ただしい娘だ。あの歳でそこまで必死に働く必要もないだろうに)

国木田「ん?」

「国木田さんですね」

国木田「そうだが」

「突然のご訪問失礼致します。私、黒澤家の使いのものですが」

国木田「ああ、黒澤さんね。今日はどうしたんです」
57 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:53:15.98 ID:y4VgxIfx0
「昨日、私どもと古くから縁がある家から連絡がありまして。そこの一人娘が失踪したらしいのです」

国木田「それは大事だな」

「どこに行ったか皆目検討もつかないらしく、黒澤家のような縁がある場所に片っ端から尋ねてまわってるようで」

国木田「恥を厭わぬ探し方だな。ずいぶん大切にされてると見える」

「そのようですね。それで、まず見つからないとは思いますが、筋を通すためにある程度は調べた上で報告しようと言う話になりまして」

国木田「それはご苦労。それで、その家はなんていう名なんです」

「ああ、申し上げてませんでしたね。園田と言います」

国木田「なに…?」

「何か心当たりが?」

国木田「……いや、ない」

「まあ、そうですよね。お手数おかけしました。一応、その娘の氏名などの情報を渡しておきますので、何かわかったことがありましたらご連絡ください」

使いの者は国木田にメモを手渡す。

国木田「ああ、きっと連絡しますよ」

「では」

国木田(園田、お前は…)



ホテルオハラ

園田「204号室の清掃終わりました」

「園田は仕事が早いな。覚えもいいし」

園田「ありがとうございます」

「次の仕事なんだが、食事を三番のスイートルームに届けてくれないか」

園田「三番? 確か三番は今、小原オーナーが泊まってるのでは。単なるアルバイトが行っていいものでしょうか」

「オーナー直々のご指名でな。容姿端麗で仕事ができるアルバイトが入った、って言ったら来させるように指示された」

「変わり者なんだ、あの人は」

園田「そういうことなら」

「悪い人ではないから、あまり気負わなくて大丈夫だぞ」

園田「はい、では行ってまいります」カラカラ



園田「お食事をお持ちしました」コンコン

「開いてるよ。Come in」

園田「失礼します」ガチャ

小原「Wow! 聞いてたのよりずっとElegantだな」

園田「あ、ありがとうございます」

園田(私と同い年ぐらいの男性ですね。オーナーの息子さんでしょうか? 顔立ちと髪の色から見るに、外国の方のようです。小原という姓は外国語の当て字なのでしょうか)

小原「食事はTableの上に適当に置いといてくれ」

園田「あの、食事はオーナーの一人分と聞いていたのですが」

小原「それであってるよ。Ownerは私だから」

園田「えっ」

小原「ふふっ。確かに私は園田と同じStudentだが、だからと言ってOwnerをやってはいけないということもないだろう?」

園田「は、はあ」

園田(オーナーがこんなに若いとは思いもしませんでした)

園田(それにしても変な喋り方ですね…日本語をまだ完全に覚えてないのでしょうか?)

園田(まあ、英語で喋られても困りますが)
58 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:54:17.12 ID:y4VgxIfx0
「昨日、私どもと古くから縁がある家から連絡がありまして。そこの一人娘が失踪したらしいのです」

国木田「それは大事だな」

「どこに行ったか皆目検討もつかないらしく、黒澤家のような縁がある場所に片っ端から尋ねてまわってるようで」

国木田「恥を厭わぬ探し方だな。ずいぶん大切にされてると見える」

「そのようですね。それで、まず見つからないとは思いますが、筋を通すためにある程度は調べた上で報告しようと言う話になりまして」

国木田「それはご苦労。それで、その家はなんていう名なんです」

「ああ、申し上げてませんでしたね。園田と言います」

国木田「なに…?」

「何か心当たりが?」

国木田「……いや、ない」

「まあ、そうですよね。お手数おかけしました。一応、その娘の氏名などの情報を渡しておきますので、何かわかったことがありましたらご連絡ください」

使いの者は国木田にメモを手渡す。

国木田「ああ、きっと連絡しますよ」

「では」

国木田(園田、お前は…)



ホテルオハラ

園田「204号室の清掃終わりました」

「園田は仕事が早いな。覚えもいいし」

園田「ありがとうございます」

「次の仕事なんだが、食事を三番のスイートルームに届けてくれないか」

園田「三番? 確か三番は今、小原オーナーが泊まってるのでは。単なるアルバイトが行っていいものでしょうか」

「オーナー直々のご指名でな。容姿端麗で仕事ができるアルバイトが入った、って言ったら来させるように指示された」

「変わり者なんだ、あの人は」

園田「そういうことなら」

「悪い人ではないから、あまり気負わなくて大丈夫だぞ」

園田「はい、では行ってまいります」カラカラ



園田「お食事をお持ちしました」コンコン

「開いてるよ。Come in」

園田「失礼します」ガチャ

小原「Wow! 聞いてたのよりずっとElegantだな」

園田「あ、ありがとうございます」

園田(私と同い年ぐらいの男性ですね。オーナーの息子さんでしょうか? 顔立ちと髪の色から見るに、外国の方のようです。小原という姓は外国語の当て字なのでしょうか)

小原「食事はTableの上に適当に置いといてくれ」

園田「あの、食事はオーナーの一人分と聞いていたのですが」

小原「それであってるよ。Ownerは私だから」

園田「えっ」

小原「ふふっ。確かに私は園田と同じStudentだが、だからと言ってOwnerをやってはいけないということもないだろう?」

園田「は、はあ」

園田(オーナーがこんなに若いとは思いもしませんでした)

園田(それにしても変な喋り方ですね…日本語をまだ完全に覚えてないのでしょうか?)

園田(まあ、英語で喋られても困りますが)
59 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:55:04.09 ID:y4VgxIfx0
園田「ではお食事を失礼します」

園田はテーブルの上に運んできた食事を配膳する。

小原「園田はよいEducationを受けてるね」

園田「! ……勿体無いお言葉です」

小原「失礼だけど、CCTVの映像から園田の立ち振舞いをObserveさせてもらったよ」

小原「HotelのManagementに小さい頃から関わって来た身だからわかるが、あの立ち振舞いはIn a dayでは身につかない」

小原「Statusのある家でEducationを受けてるね」

園田(まずい…!)

園田「買いかぶりです。私は単なる女学生に過ぎません」

小原「Teenagerとは言え、私は経営者だ。人を見る目はそれなりにある」

小原「園田が単なるSummer Vacation中のStudentではないことはわかる」

小原「細かい経緯はわからないが、『逃げてきた』ってところかな」

園田(この男、そこまで気づいて…! 難破な雰囲気だったから、油断していた…!)

小原は両腕を大げさに開いて、園田をなだめるようにジェスチャーをする。

小原「No offense! 何も園田を追い詰めそうとしてるわけじゃないよ」

小原「園田のPastは問わないし、今言ったことを他人に話すつもりもない」

小原「むしろ園田にはずっとここにStayしてほしいからね」

園田「…」

園田「それはなぜでしょうか?」

小原「Beautiful Girlを歓迎しないReasonがある?」

園田「では失礼します」スタスタ

小原「ああ、Jokeだよ! Just Kidding!」

園田「…では本当のところは?」

小原「園田にここにあるHigh SchoolのTeacherになって欲しいんだ。浦の星女学院というSchoolなんだが」

園田「私は教員免許を持っていません」

園田(安定した職は魅力的ではありますが)

小原「まずはClerical Workerとして働いてもらえばいい。単純事務にはLicenseは不要だからね」

園田「…免許は学校に通わなければ取れないのでは」

小原「通信教育でも免許は取れる。学費は私がSupportするよ」

園田(いくらなんでも気前が良すぎます。何か別の意図がありそうですね)

園田「ありがたい申し出ですが、見ず知らずの貴方にそこまでしていただくわけにはいきません」

小原「じゃあLoanということにしよう。Teacherになってから分割で返してもらえばいい」

園田「…あの、なぜ私にそこまで」

小原「…子どもをそこに通わせたいのさ」

園田「もうお子さんがいらっしゃるのですか!?」

小原「いや、流石にそれはまだ。Futureの話だ」

小原「私はVery Youngなころから、成功した経営者の息子として育てられたから、Schoolでも特別扱いで、対等な立場のFriendもできなかった」

小原「だから、私に将来SonかDaughterができたら、その子には普通のSchool Lifeを送ってほしいと思ってね。この近くにあるPrivate Schoolをいくつかテコ入れしてるんだ」

小原「浦の星女学院はその一つさ。Girlが産まれたときにはそこに通わせる」

小原「まあ、私のChildなら、こんな親心を知らずに好き勝手にやりそうだけどね」haha

園田「普通の学生生活を送らせたいのであれば、小原家の影響下にない土地の学校に入れるだけでいいでしょう」

小原「No! それは二つの理由で駄目。一つは私のFianceeのBirthplaceであるここの学校に通わせたいということ」

園田(婚約者はいるのですね)
60 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:55:52.23 ID:y4VgxIfx0
小原「もう一つは私のChildを教えるTeacherは、私が選びたいということ」

園田「それで、私に白羽の矢が立ったと」

小原「園田のような大和撫子は、まさに適任さ」

小原「今から行動をStartすれば、私のChildが高校生になる頃には、きっといいTeacherになってるよ」

園田(…この小原という男、単純に私のことを気に入っているだけなのでしょうか)

園田(冷静に考えたら、世界の様々な場所に影響力のある者が、名家とは言え一地方でしか影響力のない園田家に肩入れするのも変な話ですね)

園田「……小原オーナー」

小原「小原でOKだよ」

園田「小原さん。ずいぶんと私を買ってくれてるようですが、私が途中で内浦を去ってしまったらどうするのですか。貴方の投資は無駄になります」

小原の表情が朗らかなものから、真剣なそれに変わる。

小原「園田は帰らないさ」

園田「…私と今はじめて会ったばかりなのに、なぜそう言い切れるのですか」

小原「私がそう感じたからだよ。人を見る目はそれなりにあると言っただろう?」

園田「根拠が薄弱ですね。私の過去を調べたのですか?」

小原「女の過去を調べるなんて、自信のない男がやることさ。私は『目』で人を見る」

園田「…私の目はそこまで信用に値するものでしたか」

小原「ああ。何としてでもやりとげてみせるという、強い『目』をしていた。美しかったよ」

小原「ここで守りたい大切なものが、園田にはある。確信したよ」

小原「だから、それ以上の理由は私にはいらないんだ」

園田「…」

園田(先輩が言っていた通り、この方は浮世離れしているが悪人ではない。高坂さんと南さんを養うために、当面の間世話になったほうが良さそうです)

園田「わかりました。私でよろしければ、謹んでお受け致します」

小原の表情が先程までの朗らかな様子に戻る。

小原「Good! じゃあ来週のMondayに、浦の星女学院の職員室を訪ねてくれ。そこでContactと、今後の説明がある。理事長にも職員には話は通しておく。MapはFront Deskで受け取ってくれ」

園田「ありがとうございます。あの、ちなみに給金はいかほどで」

小原「ああ、Salaryの話がまだだったね」

小原は近くにあったメモ翌用紙とペンを手にとる。

小原「とりあえずこれぐらいでどうだい」カキカキ

園田(!!! こんなに!? 今の給金の五倍もあるではないですか!)

小原「福利厚生として、School近くのApartmentも無料で提供するよ」

園田(住む場所まで提供してもらえるとは。これで当面の生活の心配は無くなります)

小原「少なかったかな?」

園田「い、いえ! 十分です。あの、一つお伺いしたいのですが、そのアパートは三人で住めますか…?」



夜遅く、十千万への帰り道

園田(なんたる僥倖。職と住処が、同時に決まってしまいました)

園田(高坂さんと南さんに報告するのが楽しみです)

園田(二人とも喜んでくれるでしょう)

園田(金銭的な余裕もできるので、二人には好きなことをやらせてあげたいですね)

園田(何にせよ、これからの生活が楽しみです)

園田は十千万の入り口の扉を開く。

園田「高海さん、ただいま戻りました」ガラッ

園田「…ん?」
61 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:56:22.38 ID:y4VgxIfx0
園田(おかしいですね。受付に誰もいません)

…オイ ゲンカンカラオトガシタゾ
カエッテキタノカ

高坂「園田さんっ!!! 逃げてっ!!!!!」

園田「なっ!?」

ドタン、と大きな音がして、奥の部屋の扉が開く。飛び出してきた男の脚を、高坂が両腕で必死に掴みかかり、行かせまいとしている。

高坂「こいつら、園田さんを東京に連れ戻しに来た!! だから、早くっ!!」

園田「くっ!」

園田は高坂の言うことを無視して、高坂の方に向かう。

高坂「何してるの、こっちに来ないで! 逃げて!!」

園田「貴女を置いて逃げられるわけないでしょう!!」

直後、園田の背後でガラガラと玄関の扉が閉まる音がする。

南「園田さん…」

園田「!」クルッ

玄関から南の声が聞こえたので、園田が振り向くと。

南「ごめんなさい…」

羽交い締めにされて捕まっている南の姿が園田の目に移った。

園田「…っ! どうして! どうして私達をそっとしておいてくれないのですか!」

園田はものすごい剣幕で目の前の者を怒鳴りつける。

園田「人を愛し、愛した人と一緒にいたいと思うことが、そんなにいけないことなのですか!!」

園田「私は…園田家の道具じゃないっ!!!!!」



 ◆



海未母「それが内浦で過ごした最後の日でした」

海未母「連れ戻された後、学校でのクラスは三人共バラバラにされ、教員たちが示し合わせたせいでまともに会話もできなくなりました」

海未母「朝も放課後も常に園田家の者が私の側についていたし、休日も自由な外出は許されませんでした」

海未母「私は園田家という檻の中に閉じ込められたのです」

穂乃果「そんな…ひどすぎる」

海未母「私は自分の運命を呪い、苦悶しました」

海未母「それでもなお、いつかまた三人一緒になれる日が来ると信じて、希望を捨てずに生きていました」

海未母「しかし、それは高校在学中には叶わず…高校を卒業してしまうと、私達の接点は完全になくなり、二人を遠目で見ることもかなわなくなりました」

海未母「一ヶ月もしないうちに、私は精神的に耐えられなくなりました」

海未母「二人が男性と結婚してしまう夢を見て、気が狂いそうになったこともあります」

海未(…)

海未母「私が憔悴しきったを見越したのか、園田家側は一つの提案を出してきました」

ことり「それは、どんな…?」

海未母「『許嫁と結婚し、子をなしたら、今後は自由に二人に会ってもよい』」

海未「…!」ギリッ

海未母「私には、他の選択肢はありませんでした」

海未母「その頃には、ただ再び会いたい気持ちだけが私の心の全てを占めていたから」

海未母「…海未さん、園田家の名誉の為に言っておきますが、彼らは決して私を苦しめようとしたのではありません」

海未母「先程も言ったとおり、当時は同性愛に対する風当たりは今よりずっと強かった」
62 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:57:12.97 ID:y4VgxIfx0
海未母「あのまま東京で関係を続けていたら、奇異の目に晒され続けていたでしょう」

海未母「彼らは家を守りつつ、私のことも守ってくれたのです」

海未母「現に今は、誰も当時のことを言う人はいません。人の噂も七十五日というのは本当ですね」

海未母「…当時の私はそれがわからなかったので、ただ彼らを恨むばかりでしたが」

海未「感情的に納得し難いですが…お母様の仰られることはわかります」

海未母「許嫁…つまり、貴女の父上も、とても誠実で、素敵な男性でした」

海未母「今もそう思っています。全てはめぐり合わせが悪かったのです」

穂乃果母「私達も、園田さんの家ほどじゃないんだけど、男性と付き合うようにしきりに勧められてね」

ことり母「何度お見合いの話があっても断ってたんだけど、園田さんが結婚してしまって、ああもう終わったんだ、って思って」

海未母「…貴女たちを産んだ後、ついに自由に会えるようになった私達三人は、それぞれの想いを語り合いました」

ことり母「そうしたら、三人とも同じ気持ちを持っているとわかったの」

穂乃果母「『もし子どもに将来愛する人ができたら、それがどんな愛の形であろうと、全力で応援する』」

海未母「…示し合わせたわけでもないのに、三人とも同じだった」

穂乃果母「それを知ってね、私たちは大丈夫なんだ。それぞれ違う人と結婚しても、気持ちはずっと繋がったままなんだって信じられた」

海未(そうなんですね。私の望んだことは)

(海未「……でも私は、私が愛する人とどうなるかぐらいは、自分で決めたいのです」)

海未(お母様たちの望みでもあったのですね…)

穂乃果「…ねえ、お母さん。お母さんは、海未ちゃんのお母さんが、今『愛してる、一緒についてきてほしい』って言ったら、どうするの?」

穂乃果母「穂乃果? 私はもう家族がいるのよ? それに結構いい歳だし」

穂乃果「いいから、正直に答えて」

穂乃果母「……」

穂乃果「お母さん」

穂乃果母「ごめんなさいね、穂乃果。たぶん、いえ間違いなく園田さんについていくと思う。全てを捨ててね。園田さんを、今でも愛してるから」

穂乃果「わかるよ。私だって海未ちゃんに言われたら、そうするもん」

ことり「お母さんは…?」

ことり母「私は高坂さんほど情熱的にはなれないわよ…でも、園田さんが最初のときみたいに、私の意思を無視して強引に私を連れ去ってくれないかなあ、とは思ったりするわね」

ことり「…お母さんって、少女漫画の主人公みたい」

ことり母「子どもでしょ、私達って。幻滅した?」クスクス

海未の頭に、母に言われた言葉が浮かぶ。

(海未母「…海未さん。大人はただの大きな子供です。分別があるように見せかけているに過ぎません」)

海未「いえ、とても素敵だと思います」

海未母「私たち三人の時間は、内浦で過ごしたあの時からずっと止まったままです」

海未母「互いに恋い焦がれ、三人で静かに暮らせるその日を待ち続ける、未熟な少女のままなのです」

海未母「貴女たちは、どうか時計の針を止めないでください。それだけが私たちの願いです」

穂乃果「私、目標が出来たよ」

穂乃果母「どんな目標?」

穂乃果は自分のお腹を撫でる。

穂乃果「海未ちゃんと、ことりちゃんと、穂乃果たちの子どもで、世界一幸せな家族を築いて見せる」

穂乃果「そして、同性愛とか、家の跡継ぎとか、そんなもの好きだって気持ちの前には関係ないんだって世の中に示してみせる」

穂乃果「それでね…お父さんたちのこともあるし、簡単じゃないと思うけど…お母さんたちがまた三人で一緒に笑いあって過ごせる方法も、いつか見つけてみせる!!」フンス

あまりに唐突で無茶な内容の宣言に、三人の母親はぽかんとあっけにとられる。

穂乃果母「…ふふっ。私たちがおばあちゃんになる前だと助かるわ」

ことり母「ほんとにね」
63 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:57:47.37 ID:y4VgxIfx0
海未母「ふふっ。穂乃果ちゃんなら、本当にできてしまいそうで怖いですね」

海未母(貴女が穂乃果ちゃんに惹かれた理由、よくわかりましたよ)

ことり「お母さん、海未ちゃんのお母さん、私も赤ちゃん産みたいです」

ことり「海未ちゃんと穂乃果ちゃんと一緒に育てていきたいです」

ことりの目からは、もう迷いは消えていた。

ことり母「ええ。そうしなさい」

海未母「不出来な娘を愛してくれて、ありがとうございます」

海未「ありがとうございます!」

自分を産んでくれたこと、自分をかばってくれたこと、愛を支えてくれること、自分を大切にしてくれたこと――それら全てのことが混ざり合い、海未は大きく頭を下げて母に感謝した。



いつ、どのタイミングでそれぞれの家族に今回の件を伝えるかは、母親たちだけで話し合うことにし、後でそれを子どもたちに伝えることにした。穂乃果、海未、ことりを先に帰し、母親三人がその場に残った。

穂乃果母「…これで、良かったんだよね」

海未母「あの子達なら、私たちができなかったことをやってくれるでしょう。私たちは影で支えるのみです」

ことり母「私たちができなかったこと、か…」

ザ-ン
ザザ--ン

波の音が聞こえる。

広く大きな海。

浜辺に佇む小さな鳥。

ほのかに漂う潮の香り。

三人で過ごした、青春の日々。

園田(…ああ、できることなら)

園田(内浦で三人、ずっと一緒に暮らしたかったなあ…)



 ◆


月曜日、放課後、アイドル研究部前

海未(あの後お母様から聞いたところ、それぞれの家庭で次の日曜日に家族会議をすることになりました)

海未(穂乃果とことりは、産婦人科に行くために今日はお休みです)

海未(今週が正念場ですね)

海未がアイドル研究部の扉を開くと、そこには見慣れた、しかし異常な光景があった。

海未「…にこ。貴女は卒業したはずでは」

そこには私服の矢澤にこが、パソコンの前の椅子に座っていた。

にこ「…海未か。穂乃果とことりは?」

海未「二人は体調不良でお休みです。二人に会いに来たのですか?」

にこ「ええ、大学をサボってすっ飛んできたわ。入校許可の手続きって意外とめんどくさいのね」クルクル

にこは首にかけた入校許可証の紐を指でくるくる回す。

海未(…まさか)

海未「心配していただけるのはありがたいですが、そこまでしなくても」

にこ「後輩が産婦人科に入るところをパパラッチされてたら、そりゃあ会いにも来るわよ」

にこが椅子を引いてパソコンの前から離れると、画面にはニュースブログ記事の見出しが大きくこう映っていた。

『伝説のスクールアイドル高坂穂乃果・南ことり、まさかの妊娠か』

見出しの下には、私服の穂乃果とことりがそれぞれの母親と共に産婦人科に入る写真が大きく表示されている。

海未「…くっ!」
64 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:58:19.94 ID:y4VgxIfx0
海未(自宅からそれなりに離れた産婦人科に行ったはずなのに! 解散したとはいえ、μ'sの知名度を過小評価していました)

にこ「そこまで驚かないのね。知ってたのね、海未は」

海未「…もうごまかすのは無理みたいですね」

にこ「誰の子なの?」

海未「…それは」

海未(にことは言えこれ以上外部に情報を漏らすわけには…!)

にこ「…絶対に言えないって顔してるわね」

海未「…はい。申し訳ありません。いつか必ずお話しますので」

にこ「それで納得すると思う?」

海未「納得しようがしまいが、話す訳にはいきません。にこだけでなく、他のμ'sメンバーに聞かれても、答えは同じです」

にこ「……」ハァ

にこは大きくため息を付くと同時に、緊張していた表情が普段のそれに戻る。

にこ「ねえ海未。私が片親なのは知ってるわよね?」

海未「…? はい。お母様だけですね」

にこ「パ…お父さんがいなくなったとき、にこはもう自分で自分のことはできる年齢だったけど、他の子たちはそうじゃなかった」

にこ「もちろんにこもお手伝いしたけど、最初はほとんどマ…お母さんが三人の面倒を見てた」

にこ「にこが一通り家事を覚えた頃には、お母さんも安定した仕事を見つけることができて、だいぶ生活も楽になったけど…それまでお母さんは、すごく辛かったと思う」

にこ「毎日遅くまで働いて、その後家で一日分の家事をして。次の日には綺麗な顔にクマをつけてまた仕事に出かけていくの」

にこ「その時期にお母さんの笑顔を見ることは、ほとんどなかったわ」

にこの声が次第に震えた調子になる。

にこ「にこはその時誓ったの。アイドルになってTVに出て、ママを笑顔にして、お金もたくさん稼いで、ママを楽にしてあげるって」ウルッ

にこ「ママはね、とっても優くて素敵なママだったから、にこたちは乗り切れたけど」グスッ

にこ「世の中にはそうじゃない家族だってあるのよ」

にこ「親が片方いないと、それで差別されたり、距離をおかれることだってある。心も辛いのよ」

海未「にこ…」

にこ「私はね、ただ穂乃果とことりが心配なの。大切な後輩、ううん、μ'sの仲間を、にこのママみたいな辛い気持ちにさせたくないの」グスッ

にこ「でも今は、産まれてくる子にちゃんとしたパパがいるかもわからない」

にこ「それが不安で堪らないの」

にこ「だからお願い、にこに話して? 二人にできることをしてあげたいの」

にこ「にこはみんなを笑顔にするアイドルだから」ニッコリ

目を赤く晴らしながら、にこは笑う。

海未「……」

海未「私の…子です」

にこ「……いまそんな冗談聞きたくないわ。海未でも本気でキレるわよ…」

海未「本当なんです」

にこ「海未…あんた…!」ギリッ

海未「自分をここまでさらけ出してくれた貴女に嘘がつけますか! 本当なんです!!」

にこ「う、海未…?」

海未「…私には、男性の生殖器がついています」

にこ「そんな…アニメじゃないんだし」

海未「本当のことです」スタスタ

海未はにこの近くに寄る。

海未「恥ずかしいので直接は見せられませんが…」
65 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 18:59:18.63 ID:y4VgxIfx0
海未はスカートの上からにこに股に手を当てさせる。むに、と柔らかいものがにこの手のひらに触れる。

にこ「…嘘でしょ?」

にこ(何か股に挟んでる? いや、海未がこんなシモのいたずらをするはずがない。こんな状況だからなおさら)

海未「半陰陽というものです。俗に言うふたなりですね」

海未「医師の診断書が家にあるので、帰ったらメールで画像を送ります」

にこ(…嘘じゃなさそうね)

にこ「…もういいわよ。信じたから」

にこ「それで、二人はどうするつもりなの」

海未「私も当事者なので、三人ですね」

海未「二人とも産むつもりです。産まれた子は園田家に迎え入れたいと思っています」

海未「私たちの母親は賛成してくれているので、次の日曜日に父や他の親族を説得する予定でした」

にこ「その前にすっぱ抜かれたってわけね…最悪の展開ね」

海未「はい。もうそれぞれの家には伝わってると考えて間違いないでしょう」

にこ(予想通り、私だけでなんとかできる状況じゃないわね)

にこ「海未。私を信じてくれたように、他のμ'sのメンバーも信じてくれる?」

海未(こうなってはもう隠すより、皆の協力を仰いだ方がいいですね)

海未「…はい」

海未(μ'sのみんな、ご迷惑おかけします。私たちに力を貸してください)



にこが他のメンバーに連絡を取ると、彼らはすぐにアイドル研究部に集まってきた。絵里と希はすでに入校許可を得て、図書館で待機していた。

海未(聞いたところ、にこがまず一人で私に話をすると皆に伝え、連絡があり次第すぐに皆も集まるとあらかじめ決めていたそうです)

凛「絵里ちゃんと希ちゃん、すっごく目立ってたにゃ。やっぱり学外で集まったほうが良かったんじゃ?」

絵里「この状況だと、どこで話しても同じよ。それに外だと、他人に話を盗み聞きされる可能性がある」

希「周りの人達がウチたちの意思を酌んでくれる学校の方が都合がいいんよ」

希「エリチが後輩に頼んで、このあたりの人払いをしてもらってるし」

花陽「穂乃果ちゃんとことりちゃんの話をしてるのは、みんなもう知ってるだろうしね…」

真姫「医学的にあり得ないわ、こんなの…海未の身体はどうみても女性そのものなのに、男性の生殖器が機能してるだなんて。海未、月のものは来てるの?」

海未「…はい、毎月」

真姫「子宮と精巣が同時に機能してるだなんて!」

凛「ま、真姫ちゃん声が大きいよ」

希「学術的な興味はわかるけどな、今は別に考えることがあるやろ、真姫ちゃん?」

真姫「…そうね。ちょっと興奮しすぎたわ。ごめんなさい」

絵里「じゃあ海未、始めて」

海未「はい」



海未(私はこれまでの経緯を全て話しました)

絵里「…ハラショー」

希「ちょっとスピリチュアルすぎるね」

花陽「私たちの知らない間に、いろいろあったんですね…」

にこ「…こじれにこじれた末にこうなった、って感じね」

海未「様々な人に迷惑をかけてしまいましたが…後悔はしていません」

海未「あなた方も、巻き込んで本当に申し訳ありません。ですが、私に力を貸していただけないでしょうか」

凛「凛たちにできることならなんでもするよ! μ'sの仲間だもん!」
66 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:00:22.88 ID:y4VgxIfx0
真姫「まずは今後の対策を考えないとね…」

絵里「…さっきグループチャットに来てたけど、穂乃果達は自宅に待機してるみたいね」

絵里は携帯の画面を見る。μ’sのグループチャットの最新投稿に『みんな、心配かけてごめんなさい。私とことりちゃんは、今親に言われて自宅に待機しています。危ないことはしていないので安心してください 穂乃果&ことり』と書かれている。

海未「二人とも一緒に話したいです。グループ通話をしましょう」

絵里「そうね」ポチッ

穂乃果とことりはすぐに通話に参加した。

穂乃果ことり『もしもし』

海未「穂乃果、ことり。いまμ'sの皆とアイドル研究部にいます。にこ、絵里、希も来ています」

穂乃果『にこちゃん絵里ちゃん希ちゃん、久しぶりだねっ!』

希「最近会ったやん」クスクス

穂乃果『あ、そうだった』ハハ

にこ「…なんかあんた、思ったより元気ね」

穂乃果『穂乃果は海未ちゃんを愛してるから、何があってもへこたれないんだよ!』

海未「ほ、穂乃果//」

凛「バカップルにゃ」

花陽「り、凛ちゃん」

にこ「ことりは大丈夫なの?」

ことり『うん、平気だよ。ことりだって穂乃果ちゃんに負けないぐらい海未ちゃんを愛してるからね』

海未「ことりまで、何を//」

真姫(ことりも随分言うようになったわね。色々吹っ切れたのかしら)

絵里「二人とも元気そうで何よりよ。海未から事情はあらかた聞いたわ。今そっちはどういう状況なの?」

穂乃果『穂乃果のところは大丈夫! ちょっと揉めたけど、海未ちゃんとならいいって家族みんなに認めてもらえたよ』

ことり『ことりのところもそうだよ。お母さんがお父さんたちをことりと一緒に説得してくれたの』

ことり『お母さんは理事長を辞めるつもりらしいけど…』

花陽「ことりちゃん…」

ことり『でもね、お母さんにね、「ここまで私がやるんだから、中途半端で投げ出すなんて許さないわよ」って言われたの』

ことり『だから、ことり絶対へこたれないよ』

海未(ことりも本当に強くなりましたね…)

穂乃果『ごめんね海未ちゃん。元はと言えば私が写真撮られちゃったから…』

海未「産婦人科の場所や行く時間は、六人で決めたでしょう。貴女だけの責任ではありません」

希「いつかのときみたいに、自分ひとりのせいだと思い込んだらあかんよ?」

海未「そしたらビンタしますからね」

穂乃果『ひっ』

海未「冗談です」フフッ

穂乃果『冗談に聞こえないよ!』

絵里「穂乃果とことりがOKなら、後は海未の家次第ね」

凛「ラスボスだね」

花陽「それはちょっと違うような」

海未「……実のところ、私の家はそんなに問題ではないと思っています」

真姫「結構古い家なんでしょう? こんなことになって、世間様に顔向けができない、とか言わないのかしら」

海未「だからこそです。世間の目がある手前、園田家は誠意ある対応をしなければならない」

海未「今回園田家は被害を受けたのではなく、むしろ与えた方です」

海未「穂乃果とことり、それにその子どもたちに対してぞんざいな扱いはできないでしょう」
67 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:03:23.26 ID:y4VgxIfx0
海未(私が被害を与えた張本人ですけどね)

にこ(園田家って言ってるけど、やったのは海未じゃない)

絵里(誰も突っ込まないけど、これ原因作ったの海未よね?)

希(海未ちゃんが全部悪いやん)

真姫(だいたい海未のせいね)

凛(ちょっと開き直りすぎじゃないかにゃー?)

花陽(り、凛ちゃんそんな言い方駄目だよ)

凛(こいつ直接脳内に…!)

海未「ですから、園田家は私とお母様で丸め込んで見せます」キリッ

海未(お母様がいれば百人力です)

穂乃果『わかった、まかせるよ』

ことり『海未ちゃんかっこいい♡』

海未「…//」

穂乃果(照れてるんだね)

ことり(電話越しでもわかるよ)

海未「…むしろ問題は、世間への対応です」

海未「μ'sが解散して、それなりの月日が経ちます」

海未「しかし、今回の件で、未だに世間の耳目を集めていることがわかりました」

海未「何らかの釈明をしなくては、噂に尾ひれがついて広まる可能性があります」

にこ「記者会見、ってわけね」

海未「問題は、いつどこでやるかですが…」

花陽「スクールアイドルの記者会見だなんて、前代未聞だしね…」

穂乃果『ミニライブのときでいいんじゃない?』

海未「穂乃果。こんな状況でライブなどできるはずが」

真姫「…いや、案外悪くないかもよ」

海未「真姫まで乗らないでくださいよ」

希「ウチもそう思うよ。ライブなら自然と人が集まるし」

凛「凛知ってるよ。旬が過ぎたアイドルは、普通の女の子に戻る記者会見をライブの後にするんだよね」

にこ「それは引退宣言よ!」

絵里「私は反対よ。穂乃果とことりのお腹の中には子どもがいるのよ? 激しいダンスなんてさせられないわ」

穂乃果『穂乃果たちは歌うだけにして、海未ちゃんが踊ればいいんだよ!』

海未「穂乃果、いい加減にしてください。ライブはこうなった以上辞退すべきです」

ことり『……海未ちゃん、ことりもライブ出たいな』

海未「ことりまで…」

ことり『ライブまであと五日だし、そのときにはまだあんまりお腹も大きくなってない』

ことり『でもこのライブが終わって時間が経つにつれ、ことりたちのお腹はどんどん大きくなっていくし、もう高校にいるうちはライブができないと思うんだ』

ことり『ことりは海未ちゃんと穂乃果ちゃんと、卒業する前にもう一度ライブがしたいの』

海未「ことり…」

穂乃果『始まりが三人だったから、終わりも三人で歌おうよ』

海未「全く、仕方ないですね…」

真姫「海未って、穂乃果とことりにほんとに甘いわよね。ちょろいって言うのかしら」

にこ「真姫ちゃんほどじゃないけどね」

真姫「なによ」
68 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:04:20.19 ID:y4VgxIfx0
希「はいはい、いちゃつくのは後にしてな」

にこ真姫「いちゃついてないわよ!」

凛「もうこの流れは飽きたにゃ。百合茶番にゃ」

花陽「り、凛ちゃん」

絵里「ライブが開かれるまではどうするの? 今日は私が止めてるからいいけど、明日三人が出席したら質問攻めに会うわよ」

海未「休みます。土日も含まれているので、そんなに欠席日数も増えませんし」

花陽「家でじっくり何を話すか考えるといいよ」

海未「そうすることにします」

海未は壁にかかっている時計を見る。

海未「すいません、そろそろ家に呼び出されていた時間に間に合わなくなるので、御暇させてください」

にこ「待って海未。それに穂乃果、ことり。最後に元部長から言っておくことがあるわ」

海未「なんですか?」

にこ「子どものこととかで困ったら、私に聞きなさいよ。おしめかえたりとか、泣き止ませたりとか、私得意だから」

にこ「その他にも困ったことがあったら、適宜他のメンバーを頼ること。絶対に遠慮したり、三人で抱え込んだりしないこと。元部長命令よ」

海未「…にこ。ありがとうございます」ギュウ

にこ「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ!」

海未はにこに抱きつく。

凛「また海未ちゃん浮気してる」

希「これはウチも擁護できへんなあ」

ことり『…』

穂乃果『こ、ことりちゃん? 電話越しに黒いオーラを漂わせるのはやめて?』

絵里(ことりも苦労しそうね)



海未(その後、私は家に帰り、すでに来ていた親族に話をしました)

海未(叱られはしましたが皆随分と寛大な態度で私に接してくれました)

海未(私の意見などまともに聞いてくれるはずがなく、お母様にまた頼ることになるとも思いましたが、結局それは杞憂で、ほとんど私が全てに関して話すことができました)

海未(後になってお母様に話を聞いたところ『また駆け落ちされても困るのでしょう』と冗談めかして言われ、なるほどなと思いました)

海未(お母様がすでに高坂家、南家にも根回しをしてくれていたようで、生まれる子どもを園田家が引き取ることは内定していたそうです)

海未(やっぱりお母様にはかないませんね。一生頭が上がりません)

海未(穂乃果とことりは、大学を卒業した後に園田家に迎え入れることになりました)

海未(法的には結婚できませんが、私の妻として扱ってくれるようです)

海未(妻が二人いることに関しては、側室を持っていたご先祖さまもいるので問題ないだろうとのこと)

海未(子どもが現に作れているから同性愛であることも問わないそうです。…私が言うのもなんですが、かなり無茶な理屈です)

海未(そして、私は正式に園田家次期当主として指名されました)

海未(女性の当主自体は過去にもいたので、そこは問題ありませんでした)

海未(今回のことがあるので、当主の地位にふさわしくないとみなされると思っていましたが、彼らの考えは逆でした)

海未(当主の地位を与えて、自らが落としてしまった名誉を挽回させる任を負わせるとのことです)

海未(もちろん打算もあるでしょう。自画自賛にはなりますが、私は弓道や舞踊などの技量も高く、成績も優秀です)

海未(偶然得たものですが、伝統ある音ノ木坂の理事長との繋がりがあり、大病院を経営する西木野家とのコネクションも持っていて、さらにμ's時代の活躍で世間からもある程度は知られている)

海未(今回起こしたことを差し引いても、長期的には私が当主であるメリットの方が大きいと判断されたのでしょう)

海未(なんにせよ、私は成し遂げました。愛を勝ち取ったのです)

海未(これから先も多くの困難が待ち受けているでしょう)

海未(しかし私は、持ちうるもの全てを使って二人と生まれてくる子達を守ってみせます)
69 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:05:21.46 ID:y4VgxIfx0
海未(さしあたっていま乗り越えなければならないことは――)



文化祭当日、朝、通学路

穂乃果「あ、ヒデコたち、おっはよー!」

ヒデコ「穂乃果! 来てくれたんだ」

穂乃果「今日はちゃんと来るって連絡してたじゃん!」

フミコ「そうだけど、こんな状況だし」

ミカ「大丈夫なの? その、体調は」

穂乃果「あーそれはね「穂乃果?」ガシッ

海未が穂乃果の腕をつかんで、学校の中に連れて行く。

穂乃果「い、いたいよ海未ちゃん引っ張らないで! あ、また後でねー! ライブの準備頼んだよー!」フリフリ

穂乃果は海未に引きづられながら三人に手を振る。

ヒデコ「…なんか、元気そうね」

フミコ「でも心なしかお腹が膨らんでたような」

ミカ「…」チラッ

ミカはことりの方を見る。

ことり「え、あ、私ももう行くね? 今日はよろしく。穂乃果ちゃーん、海未ちゃーん、待ってー!」

ことりはその場を逃げるように立ち去った。三人は周囲に聞こえない程度の声量で会話を始める。

ヒデコ「やっぱり…噂は本当なのかな」

フミコ「穂乃果ちゃんとことりちゃんだけダンスしないって連絡が来てたし…本当だと思う」

ミカ「私たちは自分ができることをするだけだよ。あの三人なら、きっと大丈夫だと思うから」



教室内

海未(先程までとは言いませんが教室でもやはり皆に見られてますね)

海未(直接聞かれることはありませんが、それが逆にもどかしいですね。言ってしまえればどれだけ楽か)

穂乃果「…ねえ、みんな」ガタッ

穂乃果が視線に耐えられなくなり、席から立ち上がる。

海未「穂乃果」ガタッ

ことり「穂乃果ちゃん!」ガタッ

海未とことりが穂乃果の目の前に回り込み、穂乃果を制する。

穂乃果「…海未ちゃん、やっぱり穂乃果辛いよ。穂乃果たちがちゃんと言わないから、皆も落ち着かないんだと思うし」

海未(…やはり穂乃果にこのまま我慢させるのは難しそうですね)

海未「ことり」

海未はことりに目をやる。

ことり「うん、いいよ海未ちゃん」

穂乃果「…? ってちょっと!」

フミコ「えっなにっ!?」

フミコ(なんで二人ともキスしてるの!?)

海未は穂乃果の目の前でことりと口づけを交わす。

穂乃果「海未ちゃん、ここ教室んむっ!」

ことりと口づけを終えると、すかさず今度は穂乃果の唇を奪う。あまりに突然のことに、あたりがざわめき出す。

穂乃果「ん…ふっ」ギュッ

穂乃果は海未を引き離そうとして洋服をつかんだが、次第につかむ力を緩めて、ついには海未の背中に腕を回して海未を受け入れた。
70 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:06:15.29 ID:y4VgxIfx0
フミコ(あ、あわわ…)

海未(…落ち着いたようですね)

海未は穂乃果から唇を離し、そっと穂乃果を引き離す。そしてクラスメートたちの方に向き直す。

海未「私たちの関係、わかっていただけましたか?」ニッコリ

ヒデコ「えぇ…」

ミカ(やりすぎだよぉ)

海未が真剣な表情に戻る。

海未「皆さんが知りたいことは、今日のライブの際に全てお話します。ですから、それまではいつも通り私たちに接してください。この通りです」

海未は深々と頭を下げる。

ヒデコ「う、海未ちゃんもうみんなわかったと思うから、頭をあげて?」

フミコ「私たちも変に意識しちゃって悪かったから」

ミカ「みんな、海未ちゃんがここまで言ってるんだから、ライブまで待とうよ、ね?」

クラスメートたちが首を大きく振って頷く。

海未「ありがとうございます。では、クラスの出し物の最終確認をはじめましょうか」

ことり「ことりたちはこの教室でメイドカフェだったよね」

海未「穂乃果も手伝ってください。…穂乃果?」

穂乃果「海未ちゃん…♡」トロ-ン

海未「穂乃果…? んむっ」

穂乃果が突然海未に抱きつきキスをする。

穂乃果「海未ちゃん、もっとして?」

海未「ほっ穂乃果、やめなさい、ここは教室ですよ!? みんなが見てます!」

ヒデコ(見てなかったらいいんだ)

フミコ(家ではそれ以上のことをしてるんだ)

ミカ(これが不順同性交遊か…)ゴクリ

海未「ことりも穂乃果を止めてください!」

ことり「穂乃果ちゃんっ、めっ!」プンプン

ことり「するときは三人一緒でしょ?」ギュッ

ことりも海未に抱きつく。

海未「あっ、いけませんことり!」

ヒデコ(三人でしてるんだ)

フミコ(海未ちゃんが受けなんだ)

ミカ(これがヘタレハーレムか)

海未「いけません、二人とも! いけません!」

凛「茶番にゃ」ヒョッコリ

花陽「り、凛ちゃん駄目だよ」オズオズ

ヒデコ「ここ三年の教室だよ!? なんで凛ちゃんと花陽ちゃんが」

真姫「そうよ、イミワカンナイ」クルクル

フミコ「あんたもだよ!」

真姫「ライブの打ち合わせで来たんですよ。三人は私たちの後だから」

凛「凛たちが迎えに来たら、三人が教室にある机の前で盛り合ってたというわけ」

海未「私は盛っていません!」キッ

凛「凛知ってるよ。海未ちゃんがキリッとした後は即落ち展開だって」

真姫「いつまでもふざけてないで、早く講堂に行くわよ。最終調整したいし」
71 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:06:57.68 ID:y4VgxIfx0
真姫「亜里沙と雪穂も待ってるんだから」

海未「すいません、こちらを手伝ってから行くので、先に行って待っていてもらえますか」

フミコ「こっちは私たちでやっておくからいいよ」

ヒデコ「私たちも準備終えたらいくから、先に行っといて」

海未「す、すいません。ほら、行きますよ穂乃果、ことり」

穂乃果「ええ〜?」ムスッ

海未「…後でたくさんしてあげますから」ボソリ

穂乃果「//」

ヒデコ(海未ちゃんがいつの間にかパワーアップしてる)

ミカ(あれやられたら大抵の女子はイチコロだろうな)



講堂、緞帳裏

真姫「じゃあ、私たちの曲の後に一回幕引きして、すぐに穂乃果たちが入れ替わる感じで」

ことり「幕が下がってからもう一度上がり始めるまでに何秒ぐらい?」

真姫「十秒あれば、入れ替わるのには十分だと思うわ」

穂乃果「それぐらいだね」

雪穂「私達と二年生組も同じような間隔で入れ替わればいい?」

穂乃果「それでいいよね、真姫ちゃん?」

真姫「そうね。雪穂と亜里沙は幕開け前から待機しておいて、終わったら幕が降りるから同じように十秒で私達と入れ替わってちょうだい」

亜里沙「ライブ、とっても楽しみです! お客さんたくさん来るといいな♪」

凛「凛たちと雪穂ちゃんたちと穂乃果ちゃんたち、誰がお客さんを一番喜ばせられるか競争にゃ!」

海未「ふふ、負けませんよ」

花陽「…あの、海未ちゃん。ライブ後にその…発表するんだよね?」

海未「はい、内容も決まってます」

花陽「えっと、あの…頑張ってね」

海未「ありがとうございます」ニッコリ

花陽「//」

凛「かよちんは渡さないよ!」ギュッ

花陽「り、凛ちゃん! そういうのじゃないから!」

海未「…なんの話でしょう?」

ことり「ふふ…海未ちゃんは、本当に海未ちゃんだね…」ボソッ

穂乃果「ことりちゃん、やんやんは無しだよ」アワアワ

ヒデコとフミコ、ミカが講堂に入ってくる。

ヒデコ「お待たせー」

フミコ「結構時間かかっちゃった」

ミカ「お弁当持ってきたよ!」

穂乃果「おーありがとう! お腹へっちゃってさあ」

海未「まだお昼の時間ではありませんよ。三人と打ち合わせが先です」

穂乃果「えーっ! やだーっ!」

ことり「ことりもちょっとお腹すいたし、先に食べちゃおうよ」

海未「まったく、ことりは穂乃果に甘くて…」ハッ

海未(妊娠中は普段より多くの栄養が必要でしたね)

海未「…まあ、せっかくなので早めにいただきましょうか」
72 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:07:52.86 ID:y4VgxIfx0
穂乃果「わーい♪」



二時間後、舞台裏

海未(真姫たちの曲が、そろそろ終わりますね)

穂乃果「もうすぐだね」

ことり「これが学校生活最後のライブになるんだね」

海未「…穂乃果、ことり」ギュッ

海未は二人の手を握る。

海未「私たちの番が始まる前に、言わせてください」

海未「穂乃果。私をスクールアイドルに誘ってくれてありがとうございます」

海未「引っ込み思案な私をこれまで引っ張ってくれてありがとうございます」

海未「これからは、私とことりと共に、三人で新しい世界に飛び込んで行きましょう」

穂乃果「うん!」

海未「ことり、私のことをいつも裏で支え続けてきてくれてありがとうございます」

海未「辛いこともたくさんありましたが、貴女がいたから私は乗り越えられた」

海未「これからは、私と穂乃果も貴女を支えます。三人で並んで歩いていきましょう」

ことり「うんっ♪」

真姫たちが歌を歌い終わる。曲が閉じていく。

海未「――行きましょうか。私たちの番です」



幕がゆっくりと開いていく。

穂乃果(最初は、この向こうには誰もいなかった)

ことり(それでも、諦めずに歌い続けてきた)

海未(そして、今は―――)



満員の観客。湧き上がる歓声。

海未(私たちの青春は、今ここにある)




――
―――


今この瞬間を、永遠に。


―――
――




穂乃果「みんなーっ! ありがとう!」

わあっと大きな声援で観客が答える。

ことり「今日、この場を借りて発表したいことがあります!」

声援が徐々に消えていく。

海未(やはり皆、例の件は知っているようですね)

海未(知っていて、私たちを迎え入れてくれた。応援してくれた)

静寂が訪れる。観客たちは固唾を呑んで、真ん中に立った海未を見つめる。

海未「…皆さん、今日は私たちの歌を楽しんでいただき、ありがとうございます」
73 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:08:30.97 ID:y4VgxIfx0
海未「今日はいつもより固い話になりますが、どうか少しだけお時間をいただけると幸いです」

海未「まずは、私個人のことについての話から始めさせてください」

海未「私は、自分が皆さんにどう思われているかが気になって、インターネットで自分の評判を検索してみたことがあります」

海未「『実直』『努力家』『才色兼備』『大和撫子』『礼儀正しい』など、皆さんに高く評価して頂いてることがわかりました。嬉しい限りです」

海未「…しかし、実際の私はそれほど素晴らしい人間ではありません」

海未「学業も、弓道部も、皆が期待してくれたからそれに答えただけ」

海未「アイドルも、生徒会も、頼まれたことを引き受けただけ」

海未「やりたいことをやっていたわけでも、自ら道を切り開いたわけでもありません」

海未「自分はただ言われたことをこなす機械のような存在ではないかと、虚しさを感じることもありました」

絵里(貴女はそう言うけど、それがどんなに凄いことかわかっていない)

絵里(同じ鍛錬を、同じように毎日続ける。海未だからこそできることよ)

絵里(皆で決めた目標に対して、計画を立てて実行してくれる貴女がいなければ、μ’sの練習は成り立たなかった)

絵里(…だから、私は貴女を副会長に推したのよ。貴女なら穂乃果を完璧に支えてくれるってわかってたから)

絵里(私のことを、希の次に理解してくれたのも貴女だったわね)

絵里(希と、貴女がいなかったら…私は一人で全てを抱え込んだまま、駄目になっていたかもしれない)

絵里(海未、貴女は自分が思う以上に、様々な人に影響を与えているのよ)

海未「そんな私にとっては、服飾という夢を追えることりや、自ら新しい世界に切り込んでいく穂乃果たちが、とても羨ましく、まぶしく見えました」

海未「…その憧れが、二人と一緒に過ごした時間を重ねるうちに、私の中で特別な気持ちに変化していきました」

海未「私は、それを隠し続けようと努めました。『普通ではない』『二人に迷惑だ』などと理由を付けて」

海未「実際のところ、私は逃げていただけでした。自分で何かを決めるのが怖かったのです」

真姫(…私も自分で何かを決めるのが怖かった)

真姫(だから、パパの言うとおりに医者になるための勉強を続けてきた)

真姫(それが楽だったから。余計なことを考える必要がなかったから)

真姫(だから、成績が落ちてμ’sを辞めさせられそうになったときも、ああパパが言うんなら仕方ないんだな、って心のどこかでそう思ってた)

真姫(でも海未、貴女は私のためにパパを一緒に説得してくれた)

真姫(やりたいことをやってもいいんだって、私に教えてくれた)

真姫(本当に、本当に感謝してる。ありがとう、海未)

海未「…私が優柔不断なせいで、私が何より大切にしていた二人を、逆に傷つけてしまいました」

海未「私はその時誓いました。二人とどうなるかだけは、私自身が決めると」

海未「私は二人に気持ちを打ち明けました」

海未「その結果、二人とも私を受け入れてくれました」

海未「……皆さん。私は、穂乃果とことりを愛しています」

海未「二人を永遠に愛することを、今この場で誓います」

花陽(…海未ちゃん、ちゃんと言えたね。おめでとう)

花陽(花陽はね、海未ちゃんが穂乃果ちゃんとことりちゃんを大好きだってことわかってたよ)

花陽(でも海未ちゃんは、花陽と同じで恥ずかしがり屋だから、言えなかったんだよね)

花陽(それが、こんなに多くの人前で、言うことができたんだ。海未ちゃんは凄いね)

花陽(花陽は三人のこと、ずっと応援してるよ)

海未「…ご存知の通り、μ’sは私と穂乃果、ことりの三人から始まりました」

海未「これは運命だったのではないかと思っています」

海未「…この三人でスクールアイドルを初められて本当に良かった」

海未「お客さんが誰も来なかった最初のライブの後、諦めなくて本当に良かった」

希(海未ちゃん達が頑張ってくれたから、九人の女神が揃うことができた)
74 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:09:20.30 ID:y4VgxIfx0
希(様々な運命が絡み合って、奇跡が生まれた)

希(μ’sのおかげで苦しんでたエリチも救うことができた)

希(九人皆で作った曲でライブもできた)

希(ずっと一人ぼっちだったウチに、仲間とのかけがえのない思い出ができた)

希(ウチだってμ’sに、海未ちゃん達に救われた一人なんよ…)

海未「……ここからは、通常では考えにくい話となります」

海未「しかしこれは、嘘偽りのない事実です。どうか落ち着いて、最後まで聞いてください」

海未「私は、女性と男性の両方の特徴を持った身体をしています」

海未「半陰陽。俗に言うふたなりという存在なのです」

海未「…皆さんがご想像される通りです。穂乃果とことりのお腹の子どもは私の子です」

これまで三人を気遣って静寂を維持していた観客も、流石に驚きを隠せない。どよめきが講堂全体に伝搬する。

海未(…まずい)

凛「みんな! まだ海未ちゃんの話は終わってないよ!」

講堂の入口側から凛が大声で聴衆を制する。凛の方に多数の視線が向けられる。

凛「海未ちゃんを信じて、最後まで聞いてあげて!」

凛「お願い…お願いします!」ペコリ

凛(海未ちゃん、凛にできるのはこれくらいだけど…頑張って!)

そう言って凛は勢い良く深々と頭を下げる。

辺りが徐々に静かになっていく。

海未(凛、ありがとうございます)

海未「私は…軽率な行動で世間を騒がせてしまいました」

海未「その点は本当に申し訳ありませんでした」ペコリ

海未「しかし…過程が間違ってたとは言え、その結果生まれた生命はかけがえのないものに変わりありません」

海未「私は、愛する人との子を、ともに育んで行くつもりです」

にこ(…そうよ。あんたはそれでいい)

にこ(生まれてくる子どもたちを、全力で愛しなさい)

にこ(例え辛いことがあっても、穂乃果とことりと子どもたちがいれば、絶対乗り越えられる。にこたちがそうだったように)

にこ(疲れたときは宇宙No.1アイドルの矢澤にこが笑顔にしてあげるからね)ニッコリ

海未「医師の言うところによると、私のような完全な半陰陽は史上初だそうです」

海未「私はしかるべき研究機関で定期的に検査を受け、医学の発展に寄与していこうと考えています」

海未「微力ながら、自分ができる範囲で社会貢献をしていこうと思っています」

海未「人を幸せにしていこうと思っています」

穂乃果(私たちは、生まれる前から一緒で、生まれたときからずっと同じ道を歩いてきた)

穂乃果(海未ちゃんはずっと穂乃果の側に立って、穂乃果を支えてくれた)

穂乃果(スクールアイドルを始めてからも、練習のスケジュールを立てたり、穂乃果や花陽ちゃんの体調管理をしたり、穂乃果が気が付かない細かいところを見ていてくれた)

穂乃果(…穂乃果が間違ったことをしたときには、叩いてまでして叱ってくれた)

穂乃果(穂乃果はね。海未ちゃんが支えてくれたから、最後までやり遂げられたんだよ)

穂乃果(二回目のラブライブに参加しないって穂乃果が言ったとき、海未ちゃんは穂乃果がなんでそう言ったのかをわかってくれた)

穂乃果(その上で、穂乃果はそんなこと気にしなくていい、もっと自由にやりたいことをやって、皆を引っ張って言ってほしいって言ってくれた)

穂乃果(海未ちゃんがいたから、支えてくれたから、挑戦ができた。新しい世界に飛び込んでいけた)

穂乃果(大好きだよ、海未ちゃん。いつまでも一緒だよ)

ことり(海未ちゃんは、いつも私の一番近くにいて支えてくれたね)

ことり(留学のときも、皆に、穂乃果ちゃんに言い出せない私の様子に気づいて、最初に話を聞いてくれた)
75 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:09:59.78 ID:y4VgxIfx0
ことり(…でも、あのとき海未ちゃんはことりを引き止めてくれなかった。海未ちゃんはいつも、ことりの意思を尊重してくれるから)

ことり(ことりはさみしかった。穂乃果ちゃんと同じように、海未ちゃんにもわがままを言ってほしかった)

ことり(私とずっと一緒にいたいって、強引にでも引き止めてほしかった)

ことり(…だから、海未ちゃんから『私と共に、生きてください』って言われたとき、ことりはとても嬉しかった)

ことり(海未ちゃんがはじめて、ことりに対してわがままを言ってくれたって思えた)

ことり(ことりを求めてくれたって思えた)

ことり(やっと、穂乃果ちゃんと同じ、海未ちゃんにとって特別な存在になれたって思えた)

ことり(海未ちゃん、ことりはどこまでも海未ちゃんと一緒だよ)

海未「…ですから、みなさん」

穂乃果とことりが前に出て海未と並ぶ。

穂乃果ことり海未「私たちを、受け入れてください。愛する人と、ずっと一緒にいさせてください」





静寂はしばらくの間続いた。






そして。



亜里沙(海未さん、おめでとう…)パチ

雪穂(馬鹿な姉だけど、幸せにしてあげてね)パチパチ

穂乃果母(頑張ったね、三人とも)パチパチパチ

ことり母(私たちができなかったことを)パチパチパチパチ

海未母(貴女はやり遂げました)パチパチパチパチパチ

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
オレハミトメルゾ-ッ
ガンバッテ-
ヤッパリコトホノウミナンダヨチュンナア
キマシタワ-ッ
シアワセニナッテネ-

講堂中に広がる拍手。覆い尽くさんばかりの喝采。

海未母「あれ…?」

海未の姿が、海未の母がかつて学生だった頃の姿と重なる。

穂乃果とことりの姿が、海未の母が愛した者たちのかつての姿と重なる。

かつての内浦。三人で過ごした日々。三人には訪れなかったはずの、成就した愛がそこにあった。

園田「あ…」

園田「そうか。そうなんですね」

園田「二十年以上かかってしまいましたね」

園田「…でも」

園田「私たち、ようやく結ばれたんですね」

カチリ。

時計の針が動き出す――

園田「高坂さん、南さん」

海未「穂乃果、ことり」

「「愛しています」」
76 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:10:40.74 ID:y4VgxIfx0
二人の姿が重なる。



園田海未「私、園田海未は、高坂穂乃果と南ことりを愛しています」



穂乃果「海未ちゃん、海未ちゃんっ!」ギュッ

ことり「海未ちゃあぁん」ギュッ

穂乃果「大好きだよ…愛してるよ!」ポロポロ

ことり「ことりだって好き! 愛してる!」ポロポロ

海未は二人を抱き寄せる。辺りにはまだ拍手と歓声が響き渡っている。

海未は講堂の入口付近を見る。

海未の母が、自分たちと同じように穂乃果の母とことりの母と抱き合っている。

海未「お母様…」

海未「やり遂げました、最後まで」



 ◆



海未(それから私は、週に一度大学病院で検査を受けることになりました)

海未(研究への協力の対価として、少なくない報酬が毎月大学から支払われています)

海未(固辞したのですが、『強制的な人体実験ではない』と国民に印象づける為に必要だそうです)

海未(最近は、人権だなんだとうるさいですからね)

海未(…それにだいぶ助けられているので、文句は言えませんが)

海未(私たちの権利擁護の為に、いくつかの団体が署名活動をはじめました)

海未(私たちや、私たちと類似の立場にある人々を差別せず、他の人々と同様に扱うことを求める内容でした)

海未(署名はかなりの数が集まったそうです。署名は嘆願書とともに国会に提出されました)

海未(『女性の権利』『同性愛者の権利』『インターセクシャルの権利』等の問題が複雑に相絡まっていたので、興味を惹きやすかったのでしょう)

海未(μ’s時代の活動で、多くの人に愛されていたというのもあります)

海未(『μ’sの動画、全部見ました。解散前に知りたかったです』などのファンレターも受け取りました。今になってもファンは増え続けているようです)

海未(そうこうしているうちに、今回の件がマスコミに大々的に取り上げられ、さらに国会でも話題になりました)

海未(男性と女性しか結婚できない現制度は、それ以外の人々が他人を愛する権利を侵害しているという議論も起こりました)

海未(国民は私たちに非常に同情的でした)

海未(それを気にしてか、学校は私たちの処分を見送りました)

海未(理事長のはからいで、穂乃果とことりの出席日数が足りるように、彼女たち専用の授業スケジュールも作ってもらえました)

海未(そうそう。理事長もことりの母と言う当事者に近い立ち位置であったので、辞めずに済みました)

海未(逆に辞任しないように国から頼まれたそうです)

海未(来年の入学志望者も、逆に増えたようです。廃校問題がぶり返すこともないでしょう)

海未(退学も覚悟していたのですが…ここまでうまく事が運ぶと、逆に怖いぐらいです)

海未(それにしても、私にあれが生えたことがきっかけで、随分と大事になってしまいました)

海未(そう考えると感慨深いですね…)ジ-ッ

海未(最近はなんだか愛らしくも見えてきましたし)

海未(慣れればなんとでもなるものですね。これで穂乃果とことりも愛せますしね)

海未(同性愛…と言っていいか私の場合はわかりませんが、二人を娶ることもできそうですし)

海未(諸外国と同様、日本に同性婚が認められる日も遠くないのかもしれません)

海未(私の身体の研究が進めば、同性同士で容易に子どもが作れるような未来も遠からずやってくるのかも)
77 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:11:51.16 ID:y4VgxIfx0
海未(そうやって今より多くの人々が幸せになれるといいですね)




――
―――

穂乃果「ことりちゃんのドレス、すっごい綺麗だよ!」

ことり「穂乃果ちゃんのも、すっごく可愛いよ!」

お揃いのドレスをまとった私の幼馴染達が手を握り合って互いを褒めあっている。

穂乃果「ことりちゃんにドレスのデザインしてもらって正解だったよ! 本当にありがとう」

ことり「ううん、いいの♪ 素敵な結婚式にしようね」

楽しそうに語り合う二人に割って入ることができず、私は傍観を続ける。

穂乃果「海未ちゃんも手伝ってくれてありがとうね!」

ことり「μ'sの全員が参加できるように、スケジュール調整してくれたんだよね」

突如二人に感謝の気持ちをぶつけられる。

――ああ、眩しいほどの笑顔。これまで毎日見続けて、私に安心を与えてくれたもの。





二人のその笑顔は――





穂乃果「新婚旅行終わったら、真姫ちゃんの別荘でμ’sの皆でお泊まり会やろうよ!」

穂乃果「合宿のときみたいに、また皆でわいわいやってさ」

ことり「海未ちゃんを他のメンバーに取られないようにねえ」クスクス



これからも、毎日私を照らしてくれることでしょう。



穂乃果「こーとーりちゃん?」キッ

ことり「あはは、ごめんごめん」

穂乃果「シャレにならないよ〜海未ちゃん大学生の頃から男女問わずモテまくりなんだから」

穂乃果「海未ちゃんには穂乃果たちがいるって皆の前で発表したのに!」

ことり「大丈夫だよ。海未ちゃんは穂乃果ちゃんを裏切ったりなんてしないよ。私たちが愛した人だもん」

海未「…し…ます…」

穂乃果「ん? 海未ちゃんなんか言った?」



海未「愛してます」ポロポロ

ことり「うん」

海未「二人とも、愛してます」

穂乃果「知ってるよ」

海未「私を愛してくれてありがとう。私の愛を受け取ってくれてありがとう」

海未「ずっと、ずっと三人一緒です」

園田海未「私、園田海未は、高坂穂乃果と南ことりを愛しています」



End
78 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:13:21.39 ID:y4VgxIfx0






 ◆



Epilogue

いつかの未来、内浦

「おばーちゃんたち、早くー!」
「うみ、すごくきれいだよー!」

小さな子どもたちが、砂浜を駆けていく。

園田「こら、走ると危ないですよ、二人とも」

高坂「二人とも元気ねえ」

南「ことりの子の方は、もっと大人しくなるかなと思ってたんだけど」

高坂「氏より育ちってやつだね」

園田「意味が違いますよ…ん?」

園田は二人の子の走る方向に、女学生の集団を見つける。

園田(このあたりの学校の生徒でしょうか。九人いますね)



「「「Aqours! サンシャイン!!」」」



南「Aqours…?」

高坂「何かの掛け声みたいね。部活動かな」

「わーっ!」
「きゃあーっ!」

子どもたち二人が、掛け声に触発され興奮を声に表しつつ九人のもとに駆けていく。

千歌「あっ、かわいい〜♡」

「お姉ちゃんたち、ここでなにしてるの?」
「あくあってなに?」

ダイヤはしゃがんで二人と目線を合わせる。

ダイヤ「お姉ちゃんたちはね、アイドルなんですわ」

「あいどる? むかしのお母さんたちと一緒だ!」
「すくーるあいどる、って言うんでしょ?」

ダイヤはクスクスと笑う。

ダイヤ「あなたたちのお母さんもスクールアイドルだったのね?」

ダイヤ「二人のお母さんなら、きっととても可愛らしいアイドルだったんでしょうね」

梨子「おお、さすが姉属性…」

「うん! お母さんは、世界一かわいいもん!」
「美人のお母さんもいるよ!」
「元気なお母さんだって!」

ダイヤ(…ん?)

鞠莉「二人ともとってもAdorableね。将来きっと美人になるわ」

鞠莉「大きくなったらうちのグループで働いてもらおうかしら」

果南「どうしてそうなるんだよ」

鞠莉「Beautiful Girlsを歓迎しないReasonがある?」

果南「お嬢ちゃん達、こういう怪しい金髪の言うこと聞いちゃ駄目だからね?」

「わかったよ、つよそうなお姉ちゃん!」
79 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:14:18.35 ID:y4VgxIfx0
果南「なっ」

鞠莉「実際Muscularだしね」

果南「そこまでゴツくないよ!」

「お姉ちゃんはどんなお仕事してるの?」

果南「お仕事? まだ私は学生なんだけど…まあ、家のダイビングショップの手伝いはしてるよ」

果南「ダイビング、わかる? 水の中深くに潜るの」

「なんだかすごい!」

果南「ええ、とっても凄いわよー。もし大きくなったら、私の家で働いてもいいのよ。お手伝いさんは常に募集中だし」

鞠莉「果南だってRecruitしてるじゃない!」

果南「私のところは鞠莉と違って切実なの! もう二十年ぐらい親族だけで運営してるんだから」

果南「昔は大学生のアルバイトがいたらしいんだけど…」

「ねえねえお姉ちゃんたち」
「お姉ちゃんたちのりーだーはだれなの? すくーるあいどるぐるーぷには、りーだーがいるってお母さん言ってた!」

曜「リーダーはね、こっちにいる千歌ちゃんだよ!」

梨子「千歌ちゃんが皆を集めたんだよ」

千歌「えへへ、改めて紹介されると照れるなあ」

「ちか?」

千歌「うんっ! 私、高海千歌! 千の歌って書いて、チカだよ!」

「千のおうた? すごい!」

千歌「ありがとう! お母さんが、千の歌で人を笑顔にさせる、輝かしい女の子に育ってほしいって意味で付けてくれたんだ!」

梨子「輝かしいのは本当ね。私もその光に引き寄せられた一人だから」

梨子「まぶしすぎてたまにこちらが目をあけていられなくなっちゃうけどね」クスクス

梨子(お母さんが内浦に引っ越すの楽しみにしてた理由、来てみてわかったよ)

曜「ほんとそうだよね。千歌ちゃんがグループを作ってくれたお陰で、私が大好きな衣装作りもたくさんできるようになったし」

曜「最近はお母さんにも服を見てもらってるの。お母さんも昔やってたみたいだから」

善子「ん? 向こうから誰か来てるわよ?」

園田たちが早足で千歌たちに近づいてくる。

園田「申し訳ありません、私たちの孫が迷惑をおかけして」

ルビィ(この人達おばあちゃんなの!? そうは見えないよぉ…すっごくお肌がツヤツヤで綺麗だし)

善子「いえいえ、迷惑だなんて。とてもかわいらしくて、いい子たちですよ」ニッコリ

花丸(マル知ってるずら。善子ちゃんは最近、外面を繕うことを覚えたって)

南「…?」ジ-ッ

南が善子の頭のお団子を見つめる。

善子「あ、あの、何か私の頭についてるでしょうか」

南「ん、ああ、ついてるって言えばそうだけど…可愛いお団子だなあ、と思いまして」

善子「あ、ありがとうございます。お母さんに教えてもらって。シニヨンって言うんです」

南「貴女の雰囲気だと、ちょっと黒っぽい、ダークな服装とか似合いそうね」

善子「!」

善子は駆け寄って南の手を握る。

善子「わかりますか!? そうですよね!!」

梨子「よっちゃん、必死すぎよ…」

花丸「ちょっと寒いんじゃないかずら?」

南(よっぽど気に入ってるのかしら)
80 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:15:17.60 ID:y4VgxIfx0
南「え、ええそうだと思うわ。とても素敵に見えるかと」

ダイヤ(…それにしてもこの方、どこかで見たような…)ジ-ッ

高坂「他の皆だって可愛いよ! スクールアイドルなんでしょ?」

高坂は皆を順番に見る。ルビィと目が合う。

ルビィ「ピギィっ!」

ルビィは花丸の後ろに隠れてしまう。

花丸「ごめんなさい、ルビィちゃんは人見知りで」

園田「あらあら。せっかく可愛らしいお顔をしているのだから、もっと自分に自身を持ってもいいのですよ」ニッコリ

ルビィ「うゅ…はい…//」カアッ

ルビィ(こんな美人さんに褒められちゃったよぉ)

ルビィは花丸の袖を強く握って赤面してうつむく。

高坂「…久々のギルティだよ、南さん」ボソボソ

南「しかもこんな小さい子に。今夜はおしおきだね」ボソボソ

園田「」ゾクッ

園田(なんでしょうか、悪寒がします。前にも同じことがあったような…)

園田「…あなたは物怖じしないのですね。見たところ、そちらのルビィさんと同級生なのに」

花丸「マルは家がお寺で、檀家さんたちがよく来るから慣れてるんです」

善子(貴重なずら無しずら丸ね。いや、ずらがないからただの丸かしら)

園田「…寺? 失礼ですが、お名前を教えていただけますか?」

花丸「国木田花丸です」

園田(やはり)

園田「…国木田さん。私は昔、国木田さんのお寺でアルバイトをしていたことがあるんですよ」

花丸「えっ。…あ。そういえばお爺ちゃんが、昔すごく仕事のできる美人さんがいたってたまに話してくれます。ひょっとして」

園田「過大評価ですね。私はそんな」

花丸「嫁入りさせたかったけど断られた、あれは惜しかった、ってそのたびに言ってました」

園田「ふふ…国木田さんは変わりませんね」

花丸「良かったらまたマルの寺に遊びに来てほしいずら! …あっ、すいません。遊びに来てほしいです。お爺ちゃんも喜びます」

善子(やっぱりずら丸はずら丸ね)プクク

園田「ええ、ぜひ。今日宿に着いたら、一度電話いたしますね」

千歌「今回は内浦には旅行で来てるんですか?」

園田「そうです。思い出の地を訪れようと思いまして」

千歌「そうなんですね! また来てくださって嬉しいです」

千歌「宿がお決まりでないのなら、ぜひ私の家に来てください!」

園田「あら、貴女の家は旅館なのですね」

千歌「はい、十千万といいます! 十に千に万で、とちまんです!」

高坂「あーっ! ひょっとして貴女、高海さんの娘!?」

千歌「そうですけど、なんで知ってるんですか…?」

南「私たちが昔泊まっていた宿、その十千万なのよ。貴女のお母さんが受付してたわ」

千歌「そんなすごい! なんだか、えっと…おかえりなさい!」ペコリ

梨子「ぷっ、何よそれ」

曜「確かに帰ってきたとも言えるけどさあ」クスクス

園田「…はい、ただいま」

園田「ただいま帰りました」
81 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:16:32.31 ID:y4VgxIfx0
園田は深々と頭を下げる。それは千歌に対してでもあり、十千万に対してでもあり、国木田に対してでもあり。内浦全てに対しての「ただいま」であった。

曜「あ、あの…?」

園田「…でも、私たちの心は、既にここにはないのです。止まっていた時計の針は、私の子どもたちが動かしてくれたから」

園田「もう心配はいりません。私たちは、私たちの時間を東京で共に過ごしていきます」

梨子「どうしたのですか…?」

園田「……ごめんなさい、こんなよくわからないことをいきなり。でも、ここで言っておかなければならないと思ったから…」

南「…」

高坂「…」

「「おばーちゃーんっ!!」」

叫び声のする方を見ると、二人の子が遠く離れた場所を走っている。

「こっちに、大きな鳥さんがいるよーっ!」
「きれいなかいがらも見つけたよ!」

高坂「あらあら、元気ねえ」

南「放っておくとまた迷子になるわよ。そろそろ宿に連れていきましょう」

千歌「あ、じゃあ私が案内を!」

園田「結構ですよ、道は覚えていますし。それよりお友達との時間を大切にしてあげてください」

千歌「わかりました、じゃあ宿で待ってます! お母さんのこととか、たくさんお話できると嬉しいです!」

園田「喜んで。私も、千歌さんが知ってる内浦のこと、たくさん教えて下さいね」ニッコリ

千歌「はいっ!」

高坂「スクールアイドル、頑張ってね! ファイトだよっ!」

高坂(娘直伝の決め台詞、決まった!)

ダイヤ「え…」

ダイヤ(この人…まさか…いえ、私の思いすごしですわ)

南「ラブライブでいい結果を出せるよう願ってるわ」

園田「それでは、さようなら。千歌さんはまた後で」



園田は去っていく九人を見つめる。

園田(…内浦の時間が止まっていたのは、私たちの中だけだったようですね)

園田(ここでも新しい者たちが、新しい道を切り開いている)

園田(その物達が紡ぎ出した物語が、次の者に受け継がれていく)

園田(そうやって、物語は広がっていく――)

園田の頭に、今までの思い出が流れていく。

二人との出会い。

二人と結ばれたとき。

二人との逃避行。

逃避行の終わり。

結婚、出産。

そして子どもたちが大きくなり、彼女たちが愛し合い、結ばれて――

「「おばーちゃん!」」

園田がふと後ろを振り向くと、二人の孫がすぐ近くにいた。園田は二人を抱きしめる。

園田(そして今、この子達がここにいる)

高坂「園田さんっ!」

南「私もっ!」
82 : ◆N2ciT2iELQ [sage]:2017/03/30(木) 19:17:31.02 ID:y4VgxIfx0
二人が子どもたちを囲むように園田に抱きつく。

――

「お母様、ここにおられたのですね」

「内浦っていいところだね! 食べ物もおいしいし!」

「すっごく癒やされちゃいました♡」

園田(…)

園田(これからは、貴女たちの番。その次は、貴女の子どもたちの番)

園田(私は母として、貴女を見守り続けます)



海未母「海未さん、穂乃果ちゃん、ことりさん。今着いたのですね」

園田海未、高坂穂乃果、南ことりが立っていた。

三人は内浦の夕日に照らされている。

海未母(…そう。貴女たちは三人で一つ。)



――貴女たちはひとつの光。







生えてる海未ちゃんの扱いがあんまりだったので「最高の海未ちゃんふたなりSSを書いてやる」という思いで書きました。
SSは初なので、色々勝手がわからず苦労しました。。駄文乱文申し訳ありません。
読んでいただきありがとうございました。

やっぱりこと→うみ←ほのなんだよちゅんなあ…(・8・)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/30(木) 19:55:52.31 ID:Y1IUsIvro
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/30(木) 20:48:41.75 ID:ogXK/bVm0

最高の海未ちゃんだったと素直に評価したいけど少し前からSS速報ではエロや残酷描写つき作品は専用板が作られたからそっちでやる決まり事になってる
内容は最高だったよ。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/31(金) 09:50:04.98 ID:d4Ixak5h0

良かった
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/01(土) 02:40:59.91 ID:NsUpIeLE0
次からはエロ含んでたら専用板だね。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/16(日) 15:27:51.07 ID:p+7WKupm0
ほのことうみはいいぞ
88 : ◆N2ciT2iELQ :2017/04/17(月) 23:45:54.75 ID:kId3eZ5u0
感想ありがとうございました。
>>84 すいません次から深夜でやります。

最近は 2ch で短めのSS書いてるので、もし見かけたらぜひ呼んでみてください。
トリップは同じです。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 22:04:21.04 ID:BcWRV3eWO
王道をひた走る良いSSだった
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 22:55:45.99 ID:k823h2iA0
なんか穂乃果とカップリングになるまでが雑だな
穂乃果がいきなり海未にレイプとか雑だろ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/04(木) 20:43:10.72 ID:i47scoiQo

これラ板で建てたら酷いことになってただろうな…
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 10:05:42.25 ID:dQBK+zSio
したらば?
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 19:04:56.73 ID:Xix9PQq/0
乙んこ
これでますますレズノ木坂に……
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 01:11:25.21 ID:aGIMoE5SO
>>49
ここのほの最高にかわいい
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 02:59:21.94 ID:pQrz72ol0
────いい
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 00:38:30.48 ID:H51Maah7o
test
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/04(木) 20:45:42.51 ID:BFo2GmYV0
てすてす
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