【ヤンデレCD】ヤンデレロンパ〜希望のヤンデレと絶望の兄〜2スレ目

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288 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga sage]:2018/12/02(日) 23:47:14.68 ID:GFmEfCn00



――お待たせして申し訳ございません。



――12月8日の投稿まで今しばらくお待ちくださいませ。



289 :♪Almost Hell Heaven ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/08(土) 22:38:56.10 ID:UuJeGyCa0



オモヒト コウ
「それって、どういう……」


ナナミヤ イオリ
「言葉通りの意味よ。今の私には神の声など聞こえていないの。
 そんな女が“巫女”だなんて、笑い話にもならないでしょう?」


オモヒト コウ
「じゃぁ、どうしてあの時俺のことを見ていたんだ?」


ナナミヤ イオリ
「……私がそうしたかったから」


オモヒト コウ
「え……?」



290 :♪Almost Hell Heaven ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/08(土) 22:49:35.67 ID:UuJeGyCa0



ナナミヤ イオリ
「神託などではなく、ただの私の願望だったの。
 神にこの身を捧げた私が、あなたを愛してしまったときから聞こえなくなって、
 再び聞こえてきたと思ったものは全て」



291 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/08(土) 23:28:28.27 ID:UuJeGyCa0



タカナシ ユメミ
「――アッハッハッハ!」


オモヒト コウ
「ゆ、夢見?!」


タカナシ ユメミ
「前から頭おかしいと思ってたけど、そこまでだったなんて!」



 夢見は、狂ったように笑っていた。あの時のように。
 ――あの時っていつだ?


292 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/08(土) 23:35:05.61 ID:UuJeGyCa0



タカナシ ユメミ
「そうやって純情ぶってお兄ちゃんにすり寄って悲劇のヒロインぶって!
 ムカツクのよ!」



 夢見は大きな裁ち鋏を構えていた。その切っ先は、人に突き刺せそうなほど鋭い。
 どこかで見たような光景だ。どこだ?いつだ?
 頭が痛む。目の前が赤く染まっていく。



293 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/08(土) 23:50:06.96 ID:UuJeGyCa0



タカナシ ユメミ
「あんたがここでどう死のうと勝手だけど、それじゃお兄ちゃんの心の中にあんたの存在がしこりとして残っちゃうじゃない!
 そんなの絶対に許さない! お兄ちゃんの傍にいていいのも、心の中にいていいのも! あたしだけなの!」


ナナミヤ イオリ
「……そうね、そうでしょうね。私は貴方が羨ましかった。堂々とあの人に触れ合える貴方が。
 あの人の傍にいられる貴方が妬ましかった。
 ――あの人と一緒に居られる貴方が疎ましかった」



 ヒートアップしている二人を前に、俺はどこか他人事のようにこの光景をとらえていた。
 目の奥がチリチリと痛む。
 思い出してはいけない記憶が氾濫してくるかのような、思い出さなければならない記憶が抑圧されているような、そんな気がする。
 二人の喧騒が遠くに聞こえてくる。頭が痛い。



294 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/08(土) 23:59:29.44 ID:UuJeGyCa0



ナナミヤ イオリ
「――だからこれからは、自分に正直になろうと思うの。
 貴方に消えてほしいという、この気持ちに」


タカナシ ユメミ
「上等じゃない! あたしとお兄ちゃんの前から消えるのはあんたの方よ!」



 お互いに凶器を構え、今にも殺し合いが始まろうとしているというのに、今の俺には何もできない。
 どうすればいいかわからないだとかそういった次元ではない。
 押し寄せる頭痛と吐き気とめまいで平静を装うのがやっとだ。
 正直立っているのもつらい。
 だから、お互いに切りかかる二人を止めることなんてできるわけがなかった。



 伊織の刀と夢見のハサミが交錯し――




295 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/09(日) 00:00:22.58 ID:p7blMHmP0



 ――それらを真っすぐに飛んできた槍が弾いた。



296 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/09(日) 00:25:18.10 ID:p7blMHmP0



 二人の武器はあらぬ方向へ弾き飛ばされ、床に転がっていく。
 予想外の出来事に、俺も、夢見も、伊織も、呆気にとられていた。



マスタ イサム
「梅園がマジックショーをするそうだ。20時に別館の多目的ホールに集合だとさ」



 開けたままになっているドアから文字通りの横槍を投げ入れてきた増田は、その槍を回収しながら何事もなかったかのように言った。



マスタ イサム
「これが俺に支給された極上の凶器、携帯槍さ。普段は15センチで、最大まで伸ばせば1.5メートルになる」



 携帯電話のアンテナのようになっているようで、最も細くなっている石突から穂先へ向かって柄が収納されていく。
 穂先にキャップをかぶせれば、とても槍には見えないだろう。



マスタ イサム
「俺は誰かを殺すつもりはない。だが誰かに殺されるつもりもない。
 だからこれはいつも携帯するようにしていたんだが……、まさかこんな形で役に立つ日が来るとはな」



 俺の目の前の危機に颯爽と現れて、いつもの調子で話す増田が、逆光もあってか眩しく見える。



297 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/09(日) 00:46:24.00 ID:p7blMHmP0



マスタ イサム
「少しは頭が冷えたみたいだな。要件は伝えたから、あとは自分で何とかするんだぞ」



 そういって、増田は部屋から立ち去って行った。
 その言葉は多分、俺に向けられているのだろう。
 本来ならば、俺が止めなければならなかった場面だったのだから。



ナナミヤ イオリ
「……ごめんなさい。少し、頭に血が上っていたみたい」


タカナシ ユメミ
「ゴメンお兄ちゃん。あたしもちょっとどうかしてた」


オモヒト コウ
「いや、いいんだ。誰だって冷静さを欠くことの一つや二つはあるだろうさ」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん、なんだかすごく顔色が悪いけど、大丈夫?! どこか怪我でもしたの?!」


オモヒト コウ
「――何でもない。大丈夫さ。あぁ、何でもないんだ」



 あの時に感じた不快感は、ここでの生活が始まってから何度も経験しているあの感覚だ。
 すでに慣れ始めてしまっている自分が怖くもあるが、それよりも殺し合いを防ぐことの方が大事だ。



ナナミヤ イオリ
「悩み事があればいつでも相談に乗りますからね?」


タカナシ ユメミ
「こんな頭のおかしな女よりあたしの方が適任だよ! ね? お兄ちゃん♪」


オモヒト コウ
「……いや、問題ない。俺は大丈夫だから、二人とも喧嘩するのはよしてくれ。
 伊織は必要以上に自分を責めなくていいし、夢見は必要以上に煽らなければいい……。
 それで、良いんだ」



 少しふらつきそうになるが気合で持ちこたえる。
 少なくとも、自分の部屋のベッドまでは倒れるわけにはいかない。



オモヒト コウ
「……あぁ、そうだ、夢見。モノクマがうるさいだろうから、それ、ちゃんと直しておけよ」



 本来鍵がかかっているのを無理矢理こじあけたのだから、校則違反ともとらわれかねない。
 ここに至ってもモノクマが出てこないということは、校則違反認定はされていないようだが、念のためだ。



タカナシ ユメミ
「あっ、うん。いや、やっぱり待ってお兄ちゃん! お兄ちゃーん!
 ……行っちゃった」



 夢見の制止を振り切って自分の部屋に戻った。



298 :♪Heartless Journy ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/09(日) 00:50:20.69 ID:p7blMHmP0



 ベッドに倒れこんでそのまま瞼を閉じれば、俺の意識はあっさりと薄れていく。
 やはりというか、精神的に限界だったらしい。
 このまま寝すぎて昼食を抜かしてしまうかもしれないなんて悠長なことを思いながら、俺は意識を手放した。



299 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2018/12/09(日) 01:11:41.59 ID:p7blMHmP0



――本来ならば非日常編前まで行きたかったのですが、本日はここまでとなります。


――自由行動のリクエストは随時受け付けておりますので、どうぞお書込みくださいませ。


――それでは、お休みなさい。



300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 07:05:08.57 ID:Wrb1Tlwk0
乙です
マスターかっけえ
301 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 22:55:47.13 ID:wxy+E2eB0



―――



 公の部屋から増田クンが出てきた。早速声をかけなくっちゃぁいけないよねぇ。
 余計なことはしたくないけど、しょうがないよねぇ。
 ――“あんなこと”耳にしたら、さ。



302 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 22:59:11.95 ID:wxy+E2eB0



ノノハラ レイ
「ひゅ〜♪ くぁっこうぃ〜♪」


マスタ イサム
「茶化すな。で、何の用だ?」


ノノハラ レイ
「特に用ってわけでもなかったんだけどねぇ。どうなるのかやっぱ気になっちゃって。ただの野次馬気分だったんだけど。
 そしたらさ、ちょっと聞き捨てならないセリフが聞こえてきちゃったからさ、聞かなきゃいけなくなっちゃったんだ」


マスタ イサム
「……それで? 俺に何を聞きたいんだ?」



 ……キミのそういう誤魔化さないところ、嫌いじゃないぜ。



303 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 23:01:32.19 ID:wxy+E2eB0



ノノハラ レイ
「じゃぁ単刀直入に聞くけど、なんでキミ凶器二つ持ってんの?」



 綾小路さんの事件の捜査の時、どうして犯人は現場にあった包丁を凶器に使ったのかって話題、増田クンは確かにこう言ったよね?



『支給された凶器が殺人向きじゃなかったから、かもな。現に俺に支給されたのは暗視スコープだ』



 ってさ?


304 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 23:19:09.42 ID:wxy+E2eB0



マスタ イサム
「……暗視スコープの方はユーミアからもらったんだよ。『ユーミアには必要ないのでマスターがお持ちください』ってな。
 槍をいつも持ち歩いてるだなんてあの場で言えるわけないだろ?」


ノノハラ レイ
「まぁ、確かにそうだね。その通りだ。うん、アリガト。おかげでスッキリしたよ。
 ゴメンネ? 変な疑いかけちゃったりしてさ?」


マスタ イサム
「構わないさ。裏でコソコソ嗅ぎまわられるよりかはよっぽどマシだ。
 それよりも、さっきのは俺の声真似か? 全然似てないな」


ノノハラ レイ
「……知ってる? 自分が聞いてる自分の声と他人が聞いてる自分の声って、違って聞こえるんだよ?
 他人の声は空気を伝わって鼓膜に入るけど、自分の声は空気と骨を伝わってくるから、微妙に違うんだってさ。
 録音した自分の声を再生すると『こんな声だったっけ?』ってなるのは、そういう理由」


マスタ イサム
「そういう意味で言ったわけじゃないことくらいわかってるだろ?」


ノノハラ レイ
「キミをからかってるつもりはないんだけどねぇ?」


マスタ イサム
「俺がどう受け取るかだ。用は済んだか?」


ノノハラ レイ
「……うん。聞きたいことは大方聞けた。じゃぁね。マジックショーまで暇をつぶすことにするよ」


マスタ イサム
「妙なこと考えてるんじゃないだろうな?」


ノノハラ レイ
「ヒトの出し物に茶々入れるほど無粋じゃないよ、ボクは」



 失礼しちゃうなぁ。まだ何か隠してるのはキミの方なのに。
 これ以上は聞けそうにないから後回しにしておくけど。
 ……さて、別館に行こうかな。ゲームで時間をつぶそう。



305 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 23:28:41.21 ID:wxy+E2eB0



ノノハラ レイ
「……飽きた」



 うん、自分が飽きっぽい性格だってわかってたはずなのにね。
 攻略法が分かったらあとは作業になっちゃうのがゲームで遊ぶことの辛いことだ。
 一人で無聊を託つのも癪だし、ここはひとつ、誰かと親睦を深めることにしようか。
 どう言うワケか、イマイチボクの印象が悪いみたいだからさ。



――自由行動 開始――



306 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 23:53:33.11 ID:wxy+E2eB0



ユーミア
「――どういう経緯でユーミアのところに来たかはわかりました。
 しかしユーミアは貴方と交流するつもりはありません。マスターにも、二度と近寄らないでくださいませんか?」


ノノハラ レイ
「ツレないなぁ。ボク、キミに何か酷いことしたっけ?」


ユーミア
「よくもいけしゃあしゃあと、そのような軽口が叩けるものですね。
 ユーミアを渚さんのアリバイの証人として利用した。それだけで万死に値するというのに」


ノノハラ レイ
「メイドでしょ? 他人に奉仕するのが仕事なんじゃないの?」


ユーミア
「ユーミアはマスターのメイドです。それ以外の何物でもありません。
 したがって、ユーミアを利用して良いのはマスターだけです」


ノノハラ レイ
「ふぅん? だからそんなに怒ってるんだ。キミ、思ってたよりも感情豊かなんだね」


ユーミア
「……どういう意味ですか?」


ノノハラ レイ
「気づいてないの? キミ、さっきから自分のコト、まるで道具か何かのように言ってるんだぜ?」


ユーミア
「それが何か?」


ノノハラ レイ
「……うわぁ、まさかそこまでだなんて。
 いや、うん。キミがいいなら、それでいいんじゃないかな?」


ユーミア
「なにを一人で納得しているのですか?
 勝手に話しかけて来たくせに、貴方には会話という概念がないのですか?」


ノノハラ レイ
「キミほどじゃないよ、お人形さん。
 精々今の持ち主に飽きられないよう、頑張ればいいんじゃないかな」


ユーミア
「――貴方に言われるまでもない。ユーミアは、ただマスターに尽くすだけです」


307 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/26(土) 23:57:36.74 ID:wxy+E2eB0



 自由行動が終了した。親密度に変化はない。
 なぜだ。



308 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/27(日) 00:45:22.12 ID:yQ0Zbco50



ノノハラ レイ
「――もうお昼か。お腹空いたし、ご飯にしよっと」



 食堂には、梅園クンと慧梨主さんと公以外はみんないるみたいだね。
 梅園クンはわかるとして、慧梨主さんと公がいないのは何でだろ。
 ……、まぁ、大方察しはついてるんだけどね。


309 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/27(日) 00:54:44.64 ID:yQ0Zbco50



サクラノミヤ アリス
「ねぇ、ちょっと。慧梨主見なかった?」


ノノハラ レイ
「いいや? そういえば今朝から見てないね。何かあったの?」


サクラノミヤ アリス
「どこを探してもいないのよ! あたしが傍にいないといけないのに!」


ノノハラ レイ
「そういえば、慧梨主さんはいつも亜梨主さんと一緒に行動してるね。
 でも、たまにはいいんじゃないかな、別々に行動しても。
 慧梨主さんもそういう気分なんだよ、きっと」


サクラノミヤ アリス
「なに悠長なこと言ってるのよ! 慧梨主が事件に巻き込まれたらどうするつもり?!」


ノノハラ レイ
「不穏当なことをいうもんじゃないよ。事件なんて起きてないって」


サクラノミヤ アリス
「どうして断言できるワケ?! あいつが何を企んでるのかも分からないっていうのに?!」


ノノハラ レイ
「まぁまずは落ち着きなって。ほら、深呼吸、深呼吸」


サクラノミヤ アリス
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ! もし慧梨主の身に何かあればあたしは……、あたしはっ!」


ノノハラ レイ
「……もし梅園クンがコトを起こすつもりならああやって大々的に宣伝なんてしないよ。
 それと慧梨主さんの失踪が関係しているならなおさらね。
 だってそうでしょ? そんなの、わざわざ『僕を疑ってくれ』と言わんばかりじゃないか」

サクラノミヤ アリス
「それは……、そうだけど」


ノノハラ レイ
「わかったんなら、落ち着いて待ってなって。
 多分キミが思っているよりかは、慧梨主さんは脆弱じゃないんだからさ」




310 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/27(日) 01:05:41.54 ID:yQ0Zbco50



タカナシ ユメミ
「ちょっとお兄ちゃんの様子見に行ってくる」


ナナミヤ イオリ
「私が行きます」


タカナシ ユメミ
「あたしが、行く。あんたは座ってて。どうせあんたじゃ部屋に入れないんだから、行くだけ無駄でしょ。
 あたしなら、もしお兄ちゃんが起きれなくても部屋に入ることができる。この違いが分かる?」


ナナミヤ イオリ
「……」


マスタ イサム
「おい」


ナナミヤ イオリ
「……わかっています。ここは身を引きますが、あの人に妙なことをしたら――」


タカナシ ユメミ
「するわけないでしょ。あたしが、お兄ちゃんに?
 ありえないから。天地がひっくり返っても、太陽が西から昇っても。
 じゃ、行ってくるから」



 ……行っちゃった。逆効果だと思うんだけどなぁ?



311 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/01/27(日) 01:07:18.69 ID:yQ0Zbco50


――今回はここまでとなります。


――最近忙しくて書く暇が……っ!


――そろそろ非日常編にたどり着きたい!


――……それでは、おやすみなさい。


312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 10:01:54.83 ID:yLVgyyu00

マスターの違和感に全然気付かなかった…
313 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 22:49:20.25 ID:ntYdV5Zc0


――申し訳ありません。>>301について修正いたします。


――以下、訂正したものとなります。




――――


 伊織さん部屋から増田クンが出てきた。早速声をかけなくっちゃぁいけないよねぇ。
 余計なことはしたくないけど、しょうがないよねぇ。
 ――“あんなこと”耳にしたら、さ。


――――



――それでは引き続き、ヤンデレロンパをお楽しみください。
314 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 23:11:42.36 ID:ntYdV5Zc0


――




???
「……一度しか言わないからよく聞きなさい。
 私、■■■■■はあなたのことがす、……す、す……嫌いじゃないわ」



 ……お、おう。そうか。



???
「な……なによ人がせっかく一大告白したのに!
 ……もしかして、今ので通じなかった?」



 あー……、うん。



???
「し、仕方ないわね。庶民にもわかりやすいように言い換えてあげる。
 私はあなたのことがだ……、だ……、大っ嫌いでもないわ!」



 ……えぇー?



???
「ちょ、ちょっと! 私が間違ってるみたいじゃない……!
 嫌いでも、大っ嫌いでもないのよ?! わかるでしょ……!」



 ……つまり、その、俺のことが好きってことでいいんだよな?



???
「……ま、また好きって言った! 好きって……! 好きって……、私に向かって、好きって……!」



 お、おい大丈夫か? 過呼吸になってるぞ?



315 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 23:18:54.86 ID:ntYdV5Zc0



???
「あなた、私を萌え殺す気?」



 いやいや、なんでそうなるんだよ。



???
「そうね、そうに違いないわ!
 ……危なかったわ。気が付かなかったら危うく命を奪われるところだったわね」



 おーい、聞いてますかー?
 おーい?



???
「でも残念ね。この程度で私を倒そうなんて百年早いわ。
 あなたはもう私のもの、歯向かうことは一生できないんだから!」



 ……聞いちゃいないな。帰ろう。



???
「逃げようとしても無駄よ。部屋にはこのオルトロスがいるんだから。私の自慢の軍用犬よ。
 あなたが大人しくこの部屋にいる限り、オルトロスは危害を加えたりしないわ」



 その割にはしきりに吠えてきてないか?



???
「……でも、あなたが少しでも逃げるようなそぶりを見せたら……。わかってるわよね。
 訓練された軍用犬には、人間は勝てないわよ。逃げようとさえしなければ、この子は全然危険じゃないから、可愛がってあげてね」



 今にも思いっきり噛みつかれそうだよ。っていうか学校はどうするんだよ、学校は。



316 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 23:25:38.04 ID:ntYdV5Zc0



???
「学校? そんなもの必要ないわ。
 ――ここからは誰も逃げられないんだから。あなたも、私も」



 ……そうか、これは夢なんだな。
 俺の目の前にいる■■の腹部に包丁が突き刺さっているのも、威嚇してるドーベルマンがあらぬ方向に首を曲げて黒焦げになっているのも。
 夢だからあり得る光景なんだ。
 ……それなら話は早いな。
 早く起きろ俺!



317 :♪Become Friends ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 23:28:14.60 ID:ntYdV5Zc0



オモヒト コウ
「……ハッ!」


タカナシ ユメミ
「あっ♪ おはよー、お兄ちゃん♪」



 ……なんで俺は夢見に膝枕されているんだ?


318 :♪Become Friends ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 23:42:47.46 ID:ntYdV5Zc0


オモヒト コウ
「……夢見、正直に答えてくれ。俺の部屋の鍵、どうした?」


タカナシ ユメミ
「あたしの愛の力でパパ〜っと開けたんだよ♪」


オモヒト コウ
「……そっか」



 間違いなくピッキングしたんだろうなぁ。どうなってるんだよこのホテルのセキュリティ。



オモヒト コウ
「それで、今何時だ? 夢見が俺の部屋にいるってことは、起こしに来たって考えていいんだよな?」


タカナシ ユメミ
「うん。でもあんまりにも無防備な寝顔だったから……、起こすのも忍びないかな〜って!」


オモヒト コウ
「できればもっと早く起こしてほしかったな……。で、そろそろ起きたいんだが、なんで俺は頭を押さえられてるんだ?」


タカナシ ユメミ
「どんな夢見てたの?」


オモヒト コウ
「それは……」


タカナシ ユメミ
「それは?」



 ……下手なことを言えば何をされるか分かったものじゃないな。そんな顔をしている。



オモヒト コウ
「よくわからない夢だったよ。そんなもんだ、寝てる間に見る夢なんて」


タカナシ ユメミ
「ふ〜ん? あたしは毎晩毎晩お兄ちゃんの夢を見るのにな〜♪」


オモヒト コウ
「……夢見、そろそろ昼食を摂りたいんだが?」


タカナシ ユメミ
「うん、一緒に食べよっか♪」



 夢見に連れられるがまま、食堂へ向かった。
 ……夢見が見る夢の内容については聞くまい。


319 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/26(火) 23:51:45.19 ID:ntYdV5Zc0



オモヒト コウ
「……夢見、そうくっつかれると食べづらいんだが」


タカナシ ユメミ
「無理しなくていいんだよお兄ちゃん。具合悪いんでしょ? あたしが食べさせてあげるから」


オモヒト コウ
「今はもう平気だから、心配いらないって」


タカナシ ユメミ
「……辛かったら無理しないでね? あたしはお兄ちゃんが心配で言ってるんだから」


オモヒト コウ
「わかってる。ほら、夢見も食べろよ」


タカナシ ユメミ
「あ! ひょっとして『あーん』してくれるの?!」


オモヒト コウ
「しないからな? 流石に公衆の面前でそんなことはできないからな?」


タカナシ ユメミ
「……じゃぁ二人っきりの時になら!」


オモヒト コウ
「……考えておく」


タカナシ ユメミ
「やったぁ♪」



 ……なんだか取り返しのつかない約束をしてしまった気がするぞ?
 寒気がするのは気のせいか?


320 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/27(水) 00:03:19.24 ID:iMu6pesn0


 さて、とりあえず食事は摂った。
 とりあえずはあいつに聞いておかなきゃならないことがあるな。
 朝はゴタゴタして聞けなかったことを。



オモヒト コウ
「なぁ、澪。話がしたいんだが」


ノノハラ レイ
「いいのかい? あんなにお熱いことしてたのに、ボクを誘ったりして」


オモヒト コウ
「茶化すなよ。……動機について、聞きたいことがあるんだ」


ノノハラ レイ
「……期限まで余計な詮索はしないんじゃなかったっけ?」


オモヒト コウ
「お前の発言の中で、気になる点があるんだ。それを確認するだけだよ」


ノノハラ レイ
「……へぇ? じゃ、二人きりの方が都合がいいね。どこで話そうか?」


オモヒト コウ
「ゴンドラリフトの中ならどうだ? 時間に制限はつくが」


ノノハラ レイ
「個室で二人きりは、あらぬ誤解を招くからね。それでいいと思うよ。手短に頼むぜ?」


オモヒト コウ
「……お前の返答次第だよ」



 リフト乗り場へ向かった。


321 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/27(水) 00:24:48.53 ID:iMu6pesn0



ノノハラ レイ
「ボクら以外に乗客はいないね? ……じゃ、出発だ」



 澪がドアを閉めると、ゴンドラリフトが動き始めた。
 ここから10分間、この移動する密室には俺と澪の二人だけ。誰かに盗聴されることはない。



オモヒト コウ
「早速だが、“阿鎖久羅人形劇団”について、何を知ってる?」


ノノハラ レイ
「……へぇ? キミのところには、朝倉さんの秘密が来たんだ。
 それで、直接本人に聞くでもなく、事情を知ってそうなボクに、と」


オモヒト コウ
「察しが早くて助かる」



 澪は、朝倉に糸で縛られたとき確かに言っていた。



『朝倉……、そう、ははっ、アサクラ、阿鎖玖羅ね。そういう事』



ノノハラ レイ
「それで? 詳しくはどう書いてあったの?」


オモヒト コウ
「『朝倉巴は阿鎖久羅人形劇団の生き残り』だそうだ。……朝倉は一体何者なんだ?」


ノノハラ レイ
「うーん、どう言ったらいいかな。ちょっと説明に時間かかっちゃうかも。
 あるいは、引き返すなら今の内だぜ、とだけは言っておいてあげるよ」


オモヒト コウ
「構わない。話してくれ。知っていることは全部」


ノノハラ レイ
「まぁ、前置きをした割にはボクも大したことは知らないんだけどね。
 阿鎖久羅――あぁ、いや亜桜だったかな? まぁいいや。その人形劇団は要人暗殺や破壊活動を生業とする集団で、アサクラはそれを率いる家系。
 朝倉っていうのは、表の世界での表記なんだ。――ってことぐらいだよ」



322 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/28(木) 20:54:51.24 ID:gGXoX/n30



オモヒト コウ
「……そうか」


ノノハラ レイ
「反応薄いなぁ。結構な爆弾発言のつもりだったんだけど」


オモヒト コウ
「一周回って冷静になった。あるいはそういう感覚がマヒしたのか……。いずれにせよ、大したこと知らないといった割には重要な情報だな。
 あれか? 一言で言えば、朝倉は裏社会の人間だった、と?」


ノノハラ レイ
「キミの言葉を信じるなら、だけど。……それにしても、生き残り、ねぇ」


オモヒト コウ
「俺はそういう事情には詳しくないから何とも言えないが……、裏社会ってことは、あるんだろ? その、抗争、とか」


ノノハラ レイ
「……そうだね、ボクが知っている限りでは一家が襲撃を受けて以来廃業に追い込まれているよ。
 表向きのアンティークドールショップはまだ続けているみたいだけど」


オモヒト コウ
「……何で知ってるんだ、なんて、聞かない方がいいんだろうな」


ノノハラ レイ
「そうだね。この世には知らないことがいいことの方が多い。
 それで? この事実を知ってキミはこれからどうするんだい?」



323 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/29(金) 01:08:26.88 ID:gopjfkWS0



オモヒト コウ
「どうもしない。他人のプライベートに土足で踏み込むほど、俺は無神経じゃないんだ」


ノノハラ レイ
「おや、これは意外だ。キミ、そういう人間は嫌悪するものかと思ってたんだけど」


オモヒト コウ
「朝倉が何者だろうが、今は関係のない話だ。俺は気になったことを確認しただけだからな。
 つまり、朝倉巴は殺人を犯したことがあるか否か、だ」


ノノハラ レイ
「へぇ? 随分と冷たいんだね。前のキミはそうでなかったと記憶しているけれど」


オモヒト コウ
「状況次第で人は変わるものだと俺はお前から学んだよ。
 ……朝倉巴には姉がいて、その姉の方が腕前は上。年齢的に考えても、朝倉が人殺しだとは思えない。
 人を殺したことがあるなら、伊織のように直接そう書いた方がいいしな。
 だから俺は、この秘密は朝倉の殺人の動機足りえないと判断する」


ノノハラ レイ
「だから、朝倉さんが暴走して殺人に走ることはないだろうと、キミはそう考えているわけだ」


オモヒト コウ
「あぁ。人が人を殺す動機になるような秘密なんて、それこそ殺人や強盗――そう言った知られたら社会的に死ぬようなものだろ?
 人を殺したことがあるという自覚があって初めて、その秘密を守るために知った者、知ろうとする者を殺す。
 朝倉が殺人を犯したという事実がない以上、朝倉がその秘密を守るために誰かを犠牲にするとは思えない」


ノノハラ レイ
「確かに理にかなってはいるんだろうけど、……ちょっと甘いんじゃない?」



324 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/03/30(土) 01:47:56.96 ID:/RE34u/e0



オモヒト コウ
「どこか見落としがあるとでも?」


ノノハラ レイ
「ヒトの感情はそんな簡単には推し量れないものだよ。キミはそう思っても、朝倉さんがそう思うかどうかは別の話だ。
 当人にとっては裏社会の人間であると他人に知られる時点で結構なダメージなんだぜ? 親しい間柄ならなおさらね。
 それに、もう一つ。これは個人の感情云々じゃぁ片付けられないことだ」


オモヒト コウ
「もったいぶらずに早く言ったらどうだ?」


ノノハラ レイ
「朝倉さんが襲撃を受けて生き残ったのなら、当然、襲撃を行った人物もいるわけだ。
 仮に、その襲撃者もボクらの中にいるとしたら?」


オモヒト コウ
「生き残りを放っておくわけがない、か。だが矛盾してないか?
 一家に襲撃を行ったのなら家族構成はもちろん顔も名前も把握しているはずだろ。
 襲撃する方は顔を隠すなりで朝倉に知られていないとしても、襲撃された朝倉は間違いなく知られているはずだ。それは秘密ではないだろう」


ノノハラ レイ
「人形劇団の名は伊達じゃない、ってことじゃないかな。
 精巧な死体の人形を造り、自らの死を偽装した。顔も名前も変え、別人として暮らしてきた、とか」


オモヒト コウ
「所詮は人形なんだろ? いくらなんでも人間の死体と人形を間違えるのか?」


ノノハラ レイ
「ドールマスターをなめちゃぁいけないよ。それくらいはしてくるだろうとボクは考えているからね」


オモヒト コウ
「……何でもありになってないか?」


ノノハラ レイ
「――世の中にはね、理不尽なんていくらでもあるんだよ。ボクらの現状がそうであるように、ね」



325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/30(土) 11:51:48.53 ID:zL58qCKFO
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/30(土) 18:27:02.13 ID:MZDTR4FE0
マスターやユーミアも関係者だったりするのかな
327 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 21:50:35.71 ID:aRekUU6S0



オモヒト コウ
「ところで、ドールマスターってなんだよ。朝倉の人形遣いの腕前は姉に劣ってるんじゃなかったのか?」


ノノハラ レイ
「最高の人形遣いに与えられる称号で、ボクが知ってるドールマスターは朝倉弦月(げんげつ)――、年齢的に考えれば、朝倉さんの祖母にあたるのかな?
 あの人の腕前なら、それくらいはやってのけると思うよ。
 朝倉巴がその血を継ぐものだと確信したのは、あの時なんだけど」


オモヒト コウ
「そうかよ。で、なんでお前がそれを知ってるんだってのは、触れちゃいけないんだろうな? どうせ」


ノノハラ レイ
「そういう方面で察しがいいのは嫌いじゃないぜ。
 ……そろそろ到着する時間だし、この話はここまでかな?」


オモヒト コウ
「そう、だな」



 ゴンドラリフトが乗り場に到着し、ドアが開いた。



328 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 22:01:17.31 ID:aRekUU6S0


ノノハラ レイ
「あ、そうだ。ひとつ、良いこと教えてあげるよ」


オモヒト コウ
「なんだよ、藪から棒に」



 一足先に澪が出て、振り返る。
 ……そこに立ち止まられると俺が出られないんだがな。



ノノハラ レイ
「電磁遮蔽って知ってるかな? 金属で完全に囲まれた空間では外からの電磁波が入ってこない。
 だからね、このゴンドラリフトの中は電子生徒手帳も圏外になるんだ」


オモヒト コウ
「……それがどう良いことになるんだ?」


ノノハラ レイ
「このゴンドラリフトの中での会話は盗聴されてないってことだよ。良かったね?
 ――さて、ボクはキミの頼みを聞いた。だから次は、キミがボクの頼みを聞く番だ」


オモヒト コウ
「なにを言ってるのかさっぱりわからないぞ?
 いいからそこをどけって、俺が出れないだろうが」



 俺の言葉を無視して澪は電子生徒手帳を取り出し、耳にあてる。
 誰かと通話しているのか?



ノノハラ レイ
「――もしもし、綾瀬かい? うん、いいよ、始めて。
 あぁ、公。心配しなくていいよ。ちょっとした実験に付き合ってもらうだけだからさ」


オモヒト コウ
「だからどういう――」


ノノハラ レイ
「あぁそれと、ドアから離れていた方がいいぜ」



――ジリリリリリリリリ



 澪の言葉の意味を理解する前にけたたましいアラームが鳴り響き、ドアが閉まっていく。
 俺は巻き込まれないよう、咄嗟に飛び退いた。



オモヒト コウ
「澪! お前!!」



 ゴンドラリフトはゆっくりと動き出し、澪は俺を見送るように手を振っていた。


329 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 22:38:43.96 ID:aRekUU6S0



――



 公を見送ってから10分後、やってきたゴンドラリフトから綾瀬が降りてきた。
 他の乗客はなし、と。指示通りだね。



コウモト アヤセ
「言われた通り一人でゴンドラに乗ってやってきたけど、どういうつもり?
 澪からの電話を受けたらすぐに一人でゴンドラに乗れってメール送るなんて」


ノノハラ レイ
「公からの誘いを受けたとき、ついでに試してみたいことができたんだよ。
 ゴンドラはこちら側とあちら側の二台あるわけだけど、片方のドアが閉まって起動するなら、もう片方はどうなるのか、この目で直接確かめたくなったのさ」


コウモト アヤセ
「それで、どうだったの?」


ノノハラ レイ
「どうやら片方のドアが閉まると自動的にもう片方のドアも閉まるみたいだね。
 その場合はアラームが鳴って注意喚起するみたいだ。
 それと、指示はもう一つあったよね? すれ違ったゴンドラリフトに誰が乗っていたのか、見えたかい?」


コウモト アヤセ
「ゴンドラがすれ違っていくのは見えたんだけど……、窓が真っ黒で何も見えなかったの。
 だから誰が乗ってるかは見えなかったかな。……でも、主人君が乗ってたんだよね?」


ノノハラ レイ
「あれ? なんで――、あ、そっか。電話越しに聞こえてたのか」


コウモト アヤセ
「そうよ。……もう、後でちゃんと謝っておくのよ?」


ノノハラ レイ
「わかったよ――、っと、早速公からだ」



 さてさて、開口一番に怒鳴られてもいいように耳から離して、と。



330 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 22:43:08.99 ID:aRekUU6S0


オモヒト コウ
『……随分といい度胸だな。後で覚えとけよ』



 怒鳴られはしなかったけど、随分とまあドスの利いた声だこと。
 その一言だけで切られちゃったけど。



ノノハラ レイ
「おぉ、こわいこわい。戻らない方がいいかな? こりゃ」


コウモト アヤセ
「澪?」


ノノハラ レイ
「わかってるって。ちゃんと謝るから。ただ、もうしばらく待たないと聞く耳もってくれないから、ね?」


コウモト アヤセ
「もう……。それで、調べたいことはわかったの?」


ノノハラ レイ
「うん、大方ね。ドアに挟まれたときはどうなるのか、とかは気になるけど、試す気にはなれないし」


コウモト アヤセ
「そういうのって、モノクマに聞けばいいんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「人伝に聞くより自分の目で確かめたいんだよ、ボクは。それにそんな話してたら――」


モノクマ
「ドアの部分にセンサーがついてて、物が挟まった場合は自動で開くようになっています!
 でも薄い布とか細い紐とかは感知しきれないから、くれぐれも過信は禁物だからね!
 注意書きにも書いてあるけど、巻き込みにも対処しきれないから!」

331 :♪モノクマ先生の授業 ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 22:59:27.29 ID:aRekUU6S0


ノノハラ レイ
「ほーら出てきた」


コウモト アヤセ
「ホントに神出鬼没なのね……」


モノクマ
「うぷぷ。だってこういうポーズって大事でしょ?
 ちゃんと注意はしたんだから、それでも事故が起きたらオマエラの責任にできるじゃん?」


ノノハラ レイ
「最近は、注意しても耳に入ってないようなのが多いけどね。
 そのクセ事故を起こしたら責任転嫁してきやがる」


モノクマ
「ホント困るよね! そんなバカの頭の悪さまで製作者(こっち)の責任にされてもこまるってのに!
 そんなわけだから! ボクの用意した機器の不具合以外で発生した事故でオマエラが不都合を被っても、それは自己責任だからね!」


ノノハラ レイ
「わかったよ。気を付ける」


モノクマ
「じゃ、バーイクマー!」


コウモト アヤセ
「……毎回思うんだけど、なんでモノクマと仲良さげなの?」



 通り抜けが出来そうな黄色い輪っかで作った穴に入って消えたモノクマを見送った後で、綾瀬から心外な言葉が聞こえてきた。


332 :♪Cool Morning ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 23:27:10.19 ID:aRekUU6S0


ノノハラ レイ
「よせやいあんなのと仲が良いだなんて、鳥肌が立っちゃうよ。確かに波長は合うけど、それはそれ、これはこれだ。
 コロシアイを強要するぬいぐるみと、平和主義者たるこのボクがどうして仲良くできるよ?」


コウモト アヤセ
「平和主義者……?」


ノノハラ レイ
「あれ、知らない?」


コウモト アヤセ
「言葉の意味は知ってるけど、まさか澪の口からでるとは思わなかったから。まして澪自身が、だなんて」


ノノハラ レイ
「えぇ〜? このボクのどこをどう見れば平和主義者からかけ離れた存在に見えるんだい?」


コウモト アヤセ
「綾小路さんが殺人を決意するまで追い詰めた、軍用犬を始末した、綾小路さんを蹴り倒した、平和主義者、ねぇ?」


ノノハラ レイ
「だ〜か〜ら〜、あれは殺人を未然に防ぐために仕方なくやったことなんだってば〜」


コウモト アヤセ
「わたしが知る平和主義者って、他人に暴力を振るわない人の事だから。
 問題を解決する為に暴力もやむ無しって考えてる時点で、平和主義者からは遠くかけ離れてるってことにいい加減気付こう?」


ノノハラ レイ
「ボクらが享受している平和だって、昔の人たちが争って勝ち取った果ての産物なんだ。
 その平和を脅かす不穏分子を排除しないのは、侮辱であり冒涜だよ。そのための法律だ。そのための警察だ。
 でも、ここにはそれがない。だから、ボクがしているのは平和を守るための闘争なんだよ」


コウモト アヤセ
「……あなたがコロシアイを防ごうと頑張ってるのはわたしもよくわかってる。
 けど、あまり気負わないで。無茶はしないで。無理なことはやめて。
 澪は、ただの一般人かもしれないけど、わたしにとってあなたは、たった一人の大切な人なの」


333 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 23:44:59.85 ID:aRekUU6S0



ノノハラ レイ
「……わかった。善処する」


コウモト アヤセ
「善処じゃダメ」


ノノハラ レイ
「じゃぁ努力――」


コウモト アヤセ
「努力も禁止」


ノノハラ レイ
「……どうしろと?」


コウモト アヤセ
「約束して。絶対に破らないで」


ノノハラ レイ
「……わかった、約束するよ。ボクは、嘘はつかないし約束も守るからね」


コウモト アヤセ
「余計なこと言わないでよ……、うさん臭く聞こえるじゃない。
 言っておくけど、嘘“は”つかないけどその言葉が真実であるかどうかは話が別、とか、そういう屁理屈もなし、だからね?」


ノノハラ レイ
「わかってる、わかってるよ。信じてくれ、とは言わないけど、行動で示すさ」



334 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/04/30(火) 23:59:33.62 ID:aRekUU6S0


コウモト アヤセ
「……それで」


ノノハラ レイ
「ん?」


コウモト アヤセ
「わたしはあなたのお願いを聞いたでしょ?
 今度はあたがわたしのお願いを聞く番だと思わない?」


ノノハラ レイ
「……なんなりと」


コウモト アヤセ
「知ってた? リフト乗り場って意外と寒いの。そんな中で十分も待たされるのってどう思う?」


ノノハラ レイ
「わかった、じゃぁココアでも――」


コウモト アヤセ
「私を温めたいと思うなら、抱きしめて」


ノノハラ レイ
「……場所、変えようか。ここも寒いし、人目につくし、さ」


コウモト アヤセ
「……うん」


335 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/05/01(水) 01:05:29.68 ID:wogoyUgI0



 シアタールームに入った。ドアを閉めて部屋の明かりを消せば、目の前も見えないほどに真っ暗だ。



ノノハラ レイ
「……どうかな。体温の高さにはあまり自信がないんだけど」


コウモト アヤセ
「わかってるくせに。こういうのは気分の問題なの」



 ボクは今、綾瀬を抱きしめている。
 まさか自分が言った言葉が速攻でブーメランしてくるなんて夢にも思わなかったけど、思ったほど無茶な注文じゃなくてよかった。
 それは問題じゃない。
 お互いに向き合って抱き合えば胸部に何が起きるか。それが問題なんだ。
 これは至福であり、猛毒だ。
 あるいは、福音でもあり、脅威でもあるかもしれない。
 きょういといえば綾瀬のスリーサイズは上から89,58,86なんだ。
 待て、冷静になれ。それ以上考えるんじゃない。欲に負けるな。
 スリーサイズは目測だけど体感だともっと――じゃないんだってば、流されちゃダメだって。





336 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/05/01(水) 01:20:32.71 ID:wogoyUgI0


コウモト アヤセ
「……ねぇ、澪。わたしの心臓の音、聞こえてる?」


ノノハラ レイ
「……ごめんね。そこまで良い耳はしてないんだ。……でも、伝わっては、いる、よ」


コウモト アヤセ
「わたしは聞こえるよ。あなたの鼓動。わたしの大好きな、あなたの旋律」



 そう言って綾瀬は、ボクを抱きしめる腕にもっと力を入れてきた。
 そうすれば当然、ボクらの距離はもっと近くなるわけで。



コウモト アヤセ
「顔も、体も、声も、仕草も、あなたの全てが大好き。
 だけど、この音だけは、こうしてあなたに近寄らないと聞こえないから」


ノノハラ レイ
「平時で聞こえる方がおかしいからね」


コウモト アヤセ
「知ってる? 焦ってるとそうやって冗談で誤魔化そうとするのよ。澪って」


ノノハラ レイ
「……よくわかったね。こんなに真っ暗じゃ、ボクの目も見えないだろうに」


コウモト アヤセ
「またそうやってはぐらかす。気づいてるでしょ? 音までは誤魔化せないって」


ノノハラ レイ
「……しょうがないじゃん。心臓なんて任意とは一番遠い器官なんだから。敵いっこないよ」


コウモト アヤセ
「今度は拗ねたフリして冷静になろうとしてる。でもなかなか冷静になれない。違う?」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「図星だと黙るのも癖だよね」


ノノハラ レイ
「……そろそろいいでしょ? 綾瀬の体温が上がったことはボクにもわかるんだからね」


コウモト アヤセ
「さっきも言ったでしょ。気分の問題だって。わたしはまだ物足りないの」


337 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/05/01(水) 01:42:58.34 ID:wogoyUgI0


 流石にこれ以上は理性がもたないんだけど。
 これ、ゴールしても、いいかな?



コウモト アヤセ
「あなたの目を見れば、何を考えているのかが分かる。音を聞けば、どう感じてるのかが分かる。
 でもね、わたしはあなたよりあなたの心を調律することはできないみたい。
 わたしの心をわたし以上に調律できるのは、あなただけなのに」


ノノハラ レイ
「綾瀬、ボクは……」


コウモト アヤセ
「どんなことでも、あなたのことを想えばできる気がするの。
 あなたのためなら、死んだって良い」


ノノハラ レイ
「――それはダメだ」


コウモト アヤセ
「……すごいね、澪。一気に冷静になっちゃった」


ノノハラ レイ
「自分でもびっくりだよ。こんなに頭も感情も冷えるなんて。肝を冷やすってこういうことを言うんだね」


コウモト アヤセ
「それはちょっと違うと思う……。でも、嬉しいな。わたしのこと、そこまで大切に思ってくれてるなんて」


ノノハラ レイ
「むしろボクは、綾瀬がなんでそこまでは解ってないのかと若干頭にきてるかな」


コウモト アヤセ
「……でも、そう思ってるからこそ、あなたは我慢してる。平穏を乱したくないから」


ノノハラ レイ
「……そこまで解ってくれてるんだったら、ボクの気持ちも汲んでほしいんだけど」


コウモト アヤセ
「ごめんね? わたし、あなたみたいに我慢強くないから」



 そっかそっか、つまり解っているうえで誘っていると。
 これもういいよね、我慢しなくて。



338 :♪Heartless Journey ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/05/01(水) 01:46:06.81 ID:wogoyUgI0


コウモト アヤセ
「……いいよ」


ノノハラ レイ
「……何が?」


コウモト アヤセ
「あなたが、わたしにしたいと思ってること全部、好きにして、って言ってるの」



 ――たった今、ボクの頭の中の決定的な何かが音を立てて切れました。
 ボクは綾瀬を抱き寄せて――




339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 10:30:10.53 ID:XtkrU8q40
令和最初の乙
340 :♪Scotland The Brave feat.梅園穫 ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:22:28.34 ID:BdGFImAC0



ウメゾノ ミノル
「パ〜パ〜パパパパパパ〜パ〜パパパパパ〜パ〜パ〜パ〜パパパパ〜♪」



 梅園クンが陽気にスコットランドザブレイブを歌いながらシアタールームに入ってきて電気をつけた。
 ボクと綾瀬は抱き合ったまま固まってしまっている。


341 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:23:23.43 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」



梅園クンは一枚のCDを棚から取り出すと、何事もなかったかのように悠々と出て行く。



ウメゾノ ミノル
「HEY野々原くぅん! サカってもイイけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!」



 帰り際、右手を腰に当て、左手を前に突き出すポージングをして冷やかした。




342 :♪Scotland The Brave feat.梅園穫 ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:27:17.18 ID:BdGFImAC0


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」



ウメゾノ ミノル
「パ〜パ〜パパパパパパ〜パ〜パパパパパ〜パ〜パ〜パ〜パパパパ〜♪」



 思考が完全にフリーズしてしまっているボクらを尻目に、梅園クンはスコットランドザブレイブを歌いながら去っていった。




343 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:28:21.53 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……戻ろうか」


コウモト アヤセ
「……うん」



気まずい雰囲気のまま、リフト乗り場へ向かった。
いや、きっとあれでよかったんだよ、うん。
梅園クンの言う通り、TPOはわきまえるべきだ。




344 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:29:15.75 ID:BdGFImAC0



コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」



 ゴンドラリフトの中でも沈黙が続く。
 ……どうすればいいんだろうね?
 思い返せばとてつもなく恥ずかしいことやってたし、言ってたし。
 水を差されたのは良くも悪くもボクらを踏みとどまらせてくれたわけだけど。




345 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:30:01.22 ID:BdGFImAC0



コウモト アヤセ
「……そういえば、なんだけど」


ノノハラ レイ
「なんだい?」


コウモト アヤセ
「澪のメールでもう一つ指示があったじゃない。すれ違ったゴンドラに誰が乗ってたか見てくれって。
 あれはどういう意図だったの?」



 まったく別の話題で気を紛らわそうとしてるのかな。そうだね、それに乗るとしよう。
 いつまでもこのままじゃ居心地悪いし。




346 :♪Become Friends ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 00:38:02.83 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「すれ違ったゴンドラリフトの窓が真っ黒に見えるのは、綾瀬もさっき見たとおりだと思うんだけど。
 それが真っ黒に見えるだけで誰が乗っているかは分かるのか分からないのか、どちらなのか疑問に思ってね」


コウモト アヤセ
「結論は、誰が乗っているのかは見えないから分からない、ってわけね。でもどうして見えなくなるの?」


ノノハラ レイ
「多分、このゴンドラリフトの窓ガラスが偏光ガラスだからだよ」


コウモト アヤセ
「偏光ガラス?」


ノノハラ レイ
「偏光板ともいうね。まず前提として、光は波であり、粒子である。今回は、波の方に着目してほしいんだ。
 物理選択じゃない綾瀬にもわかりやすく言うと、本来バラバラである光の波の向きを、一定の向きにそろえるものなんだ。
 サングラスやスキーのゴーグルなんかに使われているんだよ。ギラギラした反射光をカットすることで、クリアな視界を確保するんだ」


コウモト アヤセ
「その偏光ガラスの仕組みは何となくわかったけど、それがどうしたっていうの?」


ノノハラ レイ
「偏光板には面白い特性があってね。特定の方向にそろえた光以外は遮断してしまうんだ。
 そのそろえる方向が直交していると、完全に光がシャットアウトされて、向こう側が何も見えなくなってしまうんだよ」


コウモト アヤセ
「えーっと、つまり、こっち側の偏光ガラスとあっち側の偏光ガラスで光をそろえる向きが直角になっているから、真っ黒にみえる、ってこと?」


ノノハラ レイ
「うん。そういう解釈でいいよ。
 わざわざ誰が乗っているのか分からないようにするあたり、モノクマの作為を感じざるを得ないね。
 どうせ表向きは、見渡す限り真っ白なこの雪山で反射光が眩しくならないように偏光板を使っていて、たまたま直交する向きになってしまった、とかいうつもりなんだろうけど」




347 :♪Become Friends ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 01:06:29.09 ID:BdGFImAC0


コウモト アヤセ
「誰が乗っているのか分からないことに、何か意味があるの?」


ノノハラ レイ
「誰が乗っていたのか確認できる場合、状況によってはアリバイが立証されるね。
 例えば、本館で事件があった場合、犯行当時に別館にいた人間にはアリバイが成立するわけだし」


コウモト アヤセ
「あ、そっか。誰が別館に向かっていたのかが解ればその人に犯行はできないし、逆に本館に向かった人は容疑者になるかもしれないんだ」


ノノハラ レイ
「そういうこと。それができなくなるってことは、事件解決の手掛かりが減るってこと。
 逆に言えば、犯行がしやすくなるってわけさ」


コウモト アヤセ
「やっぱり、澪はまた誰かが誰かを殺すと思ってるの?」


ノノハラ レイ
「そうであって欲しくないとは思ってるんだけどね。警戒はしておくべきだと思うんだよ。
 起こってしまったことに対しては、誰も、それを『無かったこと』にはできないんだからさ」




348 :一旦休憩入ります。昼頃からまた更新する予定です ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 01:16:08.81 ID:BdGFImAC0


コウモト アヤセ
「さっきも言ったけど、あまり気負わないでね?」


ノノハラ レイ
「解ってるって。ボクはボクの出来ることを、ボクの出来る範疇でやるだけなんだからさ」


コウモト アヤセ
「なら、いいんだけど……。そろそろ到着しそうね。覚悟はできてる?」


ノノハラ レイ
「え、何の?」


コウモト アヤセ
「……主人君に謝らなきゃいけないんじゃなかったの?」


ノノハラ レイ
「あー……、そういえばそうだったね。会ったときに謝るよ」


コウモト アヤセ
「自分から謝りに行きなさいよ、そこは」


ノノハラ レイ
「気が向いたら――、冗談だよ、わかったから黙って拳を構えるのはやめよう?」



 そんなやり取りをしているうちに、ゴンドラが本館側の乗り場に到着した。




349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 08:17:55.40 ID:AH/yvqYS0

梅ちゃんwwww
350 :昼頃から更新するといったな、あれは嘘だ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 16:52:40.02 ID:BdGFImAC0


オモヒト コウ
「よう」



 出待ちされてました。どうしよう?
 いや、平謝りしかない、かな?



ノノハラ レイ
「あー、そのー、ゴメンナサイネ?」


オモヒト コウ
「許すと思うか? 覚えてろよと言った筈だがな?」


ノノハラ レイ
「あ、あはは、はは……」



 綾瀬は……。



コウモト アヤセ
「……」フイッ



 くそっ、助け舟を出してくれないのか!



オモヒト コウ
「……」



 やべぇよ、あの顔マジでやべぇよガチギレじゃん。




351 :嘘ですごめんなさい遅くなって申し訳ないです ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 17:37:16.60 ID:BdGFImAC0


オモヒト コウ
「覚悟はいいか? 俺はできてる」


ノノハラ レイ
「逃ーげるんだよォー!」


オモヒト コウ
「ぶん殴ると心の中で思ったなら! その時すでに行動は終わってるんだ! 待ちやがれ!」


ノノハラ レイ
「断る!」


コウモト アヤセ
「逃げちゃダメでしょ?」



 え、ちょっと待って綾瀬掴まれたら逃げられないじゃんっていうか握力強いよ綾瀬。



ノノハラ レイ
「あ、綾瀬!? ボクを裏切るのか!? 売るというのか?!」


コウモト アヤセ
「ここは素直に殴られておきなさい。それが遺恨を残さない、“平和的な”解決方法だから」


オモヒト コウ
「安心しろ、ちゃんと手加減はしておいてやる。右ストレートでまっすぐ行ってぶっ飛ばすだけだからな」


ノノハラ レイ
「それちゃんと手加減してるって言わな――ホグぅ!」



 お、おま、腹パンはやめろって、腹パンは……。



オモヒト コウ
「――ったく、これに懲りたら、人をからかうのはやめるんだな」


コウモト アヤセ
「……私からもごめんなさいね。澪が迷惑をかけたみたいで」


オモヒト コウ
「気にするな。こいつの手綱は誰にも握れないだろうからな」



 うずくまるボクを尻目に公は本館に入っていった。
 手加減してこの威力とかヤバない?
 しばらくボクは動けなかった。




352 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 18:07:27.81 ID:BdGFImAC0



ノノハラ レイ
「酷い目にあったぜ……。綾瀬も見捨てるなんてあんまりだよぉ……」


コウモト アヤセ
「自業自得でしょ? 流石にやりすぎだと思ったら止めてたけど、あれくらいなら妥当だと思ったし」


ノノハラ レイ
「なんて時代だ。ここにボクの味方はいないのか?」


コウモト アヤセ
「私は何時だってあなたの味方だけど……、何も言動全てを肯定するのが味方じゃないと思うの。
 もしその人が道を踏み外そうとしていたらそれを正そうとする。そういうことができるのも味方なんじゃない?」


ノノハラ レイ
「くそっ、ド正論すぎて何も言い返せない!」



 本館に戻った。




353 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 20:42:48.21 ID:BdGFImAC0



 戻ったら戻ったで特にすることがないんだけどね。
 あの時の続きをするってムードでももうなくなっちゃったし。

ノノハラ レイ
「どうしようかな……」


コウモト アヤセ
「ねぇ、澪。梅園君のショーまでまだ時間があるみたいだし……、ちょっと付き合ってくれる?」


ノノハラ レイ
「いいけど、何をするのかな?」


コウモト アヤセ
「此処に来てから、ご飯はいつも用意してもらってるじゃない?
 だから最近全然料理してなくって、腕が衰えてないかなーって」


ノノハラ レイ
「なるほどね。それでボクは何を手伝えばいいのかな?」


コウモト アヤセ
「一緒に作るのも悪くないけど……、やっぱり私一人で作るよ。澪は待っててほしいな。
 それでね、味の感想を聞かせてほしいの」


ノノハラ レイ
「いいよ。あ、でも食レポとかには期待しないでほしいな」


コウモト アヤセ
「いつも通りの視点でいいの。逆にそこまでよいしょされちゃったらうさん臭いじゃない」


ノノハラ レイ
「ンンンンンン? なんか最近綾瀬が辛辣だぞぅ?」


コウモト アヤセ
「気のせいでしょ。そんなことより、早く食堂行こ?」


ノノハラ レイ
「わかった、わかったよ」



 食堂へ向かった。





354 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 21:21:57.40 ID:BdGFImAC0


ノノハラ レイ
「それで、献立は?」


コウモト アヤセ
「八宝菜にしようと思ってるの。中華、好きでしょ?」


ノノハラ レイ
「うん、大好きSA☆ ――ただし四川テメーはダメだ」


コウモト アヤセ
「あれ、辛いの苦手だったっけ?」


ノノハラ レイ
「麻婆豆腐とかが顕著なんだけどさ、日本のはね、抑えてあるからまだいいんだよ。
 本場のって殺人的に辛いの。あくまで個人的な感想だけど。少なくともボクの舌には合わなかった」


コウモト アヤセ
「そっか。えーっと、八宝菜は……」


ノノハラ レイ
「上海料理だね。あぁ、気にしなくていいよ。綾瀬の料理だったら四川でも美味しくいただくつもりだからさ」


コウモト アヤセ
「もう、そんなこと言って。ニンジン残しちゃダメよ?」


ノノハラ レイ
「うぐっ……、先回りされた……!」


コウモト アヤセ
「もう。そういうところは相変わらずなんだから」




355 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 21:54:03.20 ID:BdGFImAC0



 ――綾瀬料理中……――



356 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/02(日) 22:16:59.06 ID:BdGFImAC0



コウモト アヤセ
「お待たせ〜」


ノノハラ レイ
「結果だ! この世には“綾瀬の料理が完成した”という結果だけが残る!」


コウモト アヤセ
「何の話?」


ノノハラ レイ
「いや? ただ何となくこのセリフを言わなきゃいけない気がしただけさ。
 やるしかGO! って感じで」


コウモト アヤセ
「……大丈夫?」


ノノハラ レイ
「ガチのトーンで心配してくれるのはありがたいんだけど、胸が痛くなるからやめて。
 変な電波受信したわけじゃないし、黄色い救急車が必要になったわけでもないから」


コウモト アヤセ
「なら、いいんだけど。冷めないうちに召し上がれ」


ノノハラ レイ
「いただきます」




357 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 00:22:05.40 ID:Tf1+ubjo0



ノノハラ レイ
「うん、美味しいね。いつも通りの綾瀬の味だ」


コウモト アヤセ
「そう? ありがと」


ノノハラ レイ
「うーん、やっぱりここは“うぅンまぁああああい!”とでもいえばよかったかな?」


コウモト アヤセ
「そこまで過剰なリアクションされると逆に反応に困るから。
 あと、澪の場合わざとらしくみえる」


ノノハラ レイ
「だよね、我ながらそう思う。でもすごい美味しいよ。箸が進む進む」



358 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 00:44:24.57 ID:Tf1+ubjo0


ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


コウモト アヤセ
「お粗末様でした」



 あっという間に完食。お見事。



ノノハラ レイ
「腕によりをかけて料理をふるまってくれる幼馴染がいてくれてボクは幸せ者だよ」


コウモト アヤセ
「よろこんでくれてなによりね。ニンジンもちゃんと食べてくれたみたいだし」


ノノハラ レイ
「気づいたんだ。ニンジンと認識しなければ食べられるって」


コウモト アヤセ
「どういう事?」


ノノハラ レイ
「いやさ、前にね? 渚にニンジンがこっそり入ってるオムライス振る舞われたからね。
 食べた後指摘されてさ、その時は普通に食べれたことにびっくりしちゃって」


コウモト アヤセ
「……ふぅん? それで?」


ノノハラ レイ
「で、ニンジン入りオムライスは食べれたわけだけど、それはボクがニンジンが入っていないと思っていたから食べれたんじゃないかと思ったわけ。
 だからさ、ニンジンに対する認識を上書きすれば、従来のニンジン観――苦手意識をなくせると思って」


コウモト アヤセ
「ちょっとその発想はどうかと思う」




359 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:05:39.95 ID:Tf1+ubjo0


ノノハラ レイ
「それで、巨大な存在がピンクのナイトガウンを羽織っていると想像するように、呪いの絵画に口ひげを描き加えるように、ニンジンに対する認識を上書きしてみたんだ。
 手足と翼の生えたオレンジ色の根野菜キャラクターの肉片なんだって」


コウモト アヤセ
「それはそれでどうなの?」


ノノハラ レイ
「いやいや、それが効果抜群だったみたいでさ。
 あれだけ苦手意識を持っていたニンジンにシュールな笑いと親しみやすさを感じれるようになったんだ」


コウモト アヤセ
「それ、シュールな笑いは必要ある?」


ノノハラ レイ
「あれだよ、ヤンキーが捨て猫に餌をやってるのを見て“実は良いヤツなんじゃないか”とか勘違いするのと同じでさ、親しみやすさと苦手意識って共存できるんだよ。
 でもそのヤンキーの服がオペラ色だったら威厳もへったくれもないでしょ?」


コウモト アヤセ
「……なんというか、例えが遠くて分かりにくいけど、要するにもうニンジンは普通に食べれるのね?」


ノノハラ レイ
「一応はね。たまにニンジン見てあの間の抜けた姿が脳をかすめて笑いがこらえきれなくなる時があるけど、それ以外は問題ないかな」


コウモト アヤセ
「うーん。澪が好き嫌いしなくなったのはいいんだけど……、何かな、この、モヤモヤ」


ノノハラ レイ
「解決方法が特殊過ぎるからね、しょうがないよね」


コウモト アヤセ
「自分で言っちゃうんだ、それ」


ノノハラ レイ
「多分ボクぐらいなんじゃないかな、この方法実践できるの」


コウモト アヤセ
「多分一般人は発想すらできないから」


ノノハラ レイ
「つまりボクは特別な存在なのです」


コウモト アヤセ
「……うん、澪がそれでいいなら、それでいいんじゃないかな?」




360 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:08:29.72 ID:Tf1+ubjo0



 綾瀬との絆が深まった! やったね!



361 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:20:48.65 ID:Tf1+ubjo0


 ……そろそろ梅園クンのマジックショーの時間だ。別館に向かおう。



ノノハラ レイ
「じゃ、そろそろ行こうかな」


コウモト アヤセ
「……結局、梅園君も慧梨主ちゃんも来なかったわね」



 やっぱりというか、夕食の時間になっても二人の姿は見かけなかった。
 痺れを切らした亜梨主さんが碌に食事もとらずに別館に向かったりしたけど、それ以外は特に何もなかったね。



ノノハラ レイ
「ボクの想像が正しければ、あんなに取り乱すような事態にはならないと思うんだけどねぇ」


コウモト アヤセ
「自信満々に言ってるけど、本当に大丈夫なの?」


ノノハラ レイ
「梅園クンはそんなタマじゃないし……、慧梨主さんも解ってるはずだよ。信頼はしてるみたいだしね」


コウモト アヤセ
「だといいんだけど……」


ノノハラ レイ
「うじうじしてたってしょうがないじゃない。今は、梅園クンのお手並み拝見といこうぜ」



 別館の多目的ホールへ向かった。





362 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:36:17.13 ID:Tf1+ubjo0


 多目的ホールの前についたけど……、扉が閉まっている?
 集まったみんなもそのせいで足止めを食らってるみたいだね。



ノノハラ レイ
「えーっと、多分一番乗りしたであろう亜梨主さん、キミが着いた時にはもうこんな状態だった?」


サクラノミヤ アリス
「えぇそうよ! 鍵でもかけてるのかどれだけ叩いても全然開かないし!」


ナナ
「まだかしら?」


ノノ
「そろそろ時間なんだけどなー?」



――ガチャ



 鍵が開く音が聞こえたとみるや、亜梨主さんがすぐに扉に迫り、開けた。



ウメゾノ ミノル
「お待たせ……、って、どうしたのさ亜梨主、すごい剣幕だぜ?」


サクラノミヤ アリス
「慧梨主は?! 慧梨主はどこ?!」


ウメゾノ ミノル
「まぁまぁバラでも持って落ち着きなって。慧梨主なら、シアタールームで見かけたよ。今いるかどうかはわからないけど。
 慧梨主もマジックショーは楽しみにしてたから、ショーが始まるころにはきっと来るさ」


サクラノミヤ アリス
「……ふん! くだらないステージだったら、鼻で笑ってやるんだから!」


ウメゾノ ミノル
「おぉこわいこわい。……さて、みんなにもバラをプレゼントしよう。
 燃え盛る炎よりも真っ赤な情熱のバラを。返品は受け付けません」


ナナ
「きれいね。でも、こんな造り物じゃ物足りないわ」


ノノ
「どうせなら本物がよかったなー」



 みんなはバラを受け取りながら次々と入っていく。



363 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:40:33.91 ID:Tf1+ubjo0



マスタ イサム
「作りが雑だな……」


ユーミア
「これもモノモノマシーンの景品でしょうか?」


アサクラ トモエ
「人数分集めるまで回したのかな……」


オモヒト コウ
「特にこれと言って何の仕掛けもなさそうな造花だな」


タカナシ ユメミ
「あたしはお兄ちゃんからもらいたいなー」


ナナミヤ イオリ
「私は……、いえ、何でも」



364 :♪Beautiful Lie ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:46:03.83 ID:Tf1+ubjo0



ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、今日は一日中、綾瀬さんと楽しそうに過ごしてたね?」


ノノハラ レイ
「……そうなるね。じゃぁ明日は渚と一日中過ごそうか?」


ノノハラ ナギサ
「えっ?! ……うん! 楽しみにしてるね!」


ノノハラ レイ
「じゃぁ、ほら、早く中に入ろう。――期待してるぜ梅園クン。あまり、失望させてくれるなよ?」


ウメゾノ ミノル
「どれだけハードル上げようたって、僕は僕なりのエンタメをするだけだよ」


コウモト アヤセ
「……」





365 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:51:45.16 ID:Tf1+ubjo0



 扉近くの花瓶に生けてあったバラを手渡ししていた梅園クンは、そのまま扉を閉めた。
 それと同時に、ホール全体の照明が消え、何も見えない闇が会場を支配する。



ナナ
「あら真っ暗」


ノノ
「これじゃ何も見えないよ」


アサクラ トモエ
「え、どうなってるの?!」


ユーミア
「マスター、周囲の警戒を」


マスタ イサム
「……演出の一つだと思いたいがな」


タカナシ ユメミ
「やーん、お兄ちゃんこわーい♪」


オモヒト コウ
「声色が全然おびえてる感じじゃないぞ夢見……」




366 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:54:44.73 ID:Tf1+ubjo0



 ステージ中央にスポットライトの光が差す。
 そこに照らされていたのはプレゼントでもらえそうな、リボンで装飾された箱だ。
 箱が、台の上に鎮座していた。



367 :Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:56:40.65 ID:Tf1+ubjo0



 どこからともなく、バグパイプの音が聞こえてきた。



368 :テンノコエ. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/03(月) 01:59:12.63 ID:Tf1+ubjo0


――本日はここまで。


――ようやくマジックショーにこぎつけましたね。


――でもこれまだ二章の序盤なんですよ、予定では。


――要所要所は抑えつつカットも多用することを視野に入れた方がいいかもしれませんね。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/04(火) 13:33:49.33 ID:y3RN29rSO
乙です。

>>手足と翼の生えたオレンジ色の根野菜キャラクター

センター試験ネタww

あとバグパイプと聞いて某チャーチルさんを思い出した。
370 :♪Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:22:17.06 ID:f4ilYHsF0



 箱の蓋がひとりでに外れて、箱の中から出てきた一本のロープが上へ40センチほど伸びて止まった。
 台の高さと合わせて、その高さおよそ人一人分といったところか。



ユーミア
「……あれは、ヒンズーロープ?」


アサクラ トモエ
「それってインドのマジックでしょ? 今流れてるのイギリスの曲じゃない?」


ノノハラ レイ
「インドはイギリスの植民地だったから実質イギリス」


オモヒト コウ
「ブラックすぎるぞ……。あと、スコットランドザブレイブはスコットランドの歌であって、厳密に言えばブリテンの曲じゃないからな?」


マスタ イサム
「まさかそれも含めたブラックジョークか?」


ナナ
「なんか難しい話してるわね」


ノノ
「よくわかんないや。それよりあのロープ、どうなってるんだろうね?」


サクラノミヤ アリス
「どうせ細い糸か何かで吊り上げてるんでしょ」


タカナシ ユメミ
「最初は蓋がしてあった箱の中にあったのに? そのあとロープに持ち上げられるみたいに蓋が開いたのに?」


サクラノミヤ アリス
「……蓋に切れ込みでも入れてるんじゃない?」


コウモト アヤセ
「あ、梅園君だ。いつの間に」


ナナミヤ イオリ
「あれは……、フラフープ?」



 梅園クンはステージの上手側の袖から中央に向かって、フラフープを掲げながら中央の台へ向かっていく。
 そしてフラフープを横に倒し、何度もロープの上で往復させ、バレエのように一回転もして見せた。
 ロープは糸で吊っているわけではないと、亜梨主さんの主張を否定するように。



371 :♪Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:28:21.13 ID:f4ilYHsF0



ノノハラ ナギサ
「……糸で吊ってはないみたい」


サクラノミヤ アリス
「〜〜〜〜〜ッ!」



 亜梨主さんは拳を握って震えている。それが怒りか羞恥によるものかはわからないけれど。
 梅園クンはフラフープを下に置くと、ロープを掴んで縋り付く。
 指を鳴らすのと同時にロープがさらに上へと伸びていき、それに掴まっている梅園君も天井に向かって昇っていく。



ナナ
「すっごーい!」


ノノ
「登ってみたいなー!」


ウメゾノ ミノル
「はーい! ということで! 今宵は不肖ウメゾノミノルのマジックショー! 是非ご覧あれ!
 最初に言っておくけど、色々と危ないから、良い子は中途半端な気持ちで真似しちゃ大ケガしちゃうぞ〜!
 あと! ショーの最中の無粋なツッコミは総スルーさせていただきまーす! ご了承くださーい!」



 ……予防線張られちゃったぜ。




372 :♪Scotland The Brave Bagpipe ver. ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:38:22.86 ID:f4ilYHsF0



ウメゾノ ミノル
「さてさて皆様ー! 先ほどお渡しした真っ赤なバラをお持ちだと思いますがー!
 実はスデにそのバラにはある魔法がかけてあるのでーす!
 僕が合図を出すとー! 一本だけ本当に燃えまーす!」



 ステージのはるか上からボクらを見下ろし、梅園クンは大声を張っていた。
 バラが燃えるという言葉に反応して、みんなそれぞれの反応を見せている。
 バラを放り投げるもの、見つめるもの、持ちながらもできる限り遠ざけようとするもの、他人に向けるもの――と、様々だ。



ウメゾノ ミノル
「ではいきますよー! 1(アイン)! 2(ツヴァイ)! 3(ドライ)!」


サクラノミヤ エリス
「――きゃッ!」



 梅園クンの指が鳴って、慧梨主さんの悲鳴が聞こえる。
 振り向くと、慧梨主さんの持っているバラは花弁がロウソクのように燃えていた。




373 :テンノコエ ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/06/09(日) 23:39:23.13 ID:f4ilYHsF0


――本日は短いですがここまで。マジックショーはもう少しだけ続きます。おやすみなさい。



374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 07:12:02.74 ID:TvtZgjuV0
思ったよりもちゃんとマジックしてるやん
375 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/12(月) 20:41:53.60 ID:PWR61U+n0



ウメゾノ ミノル
「はい! というわけで! 選ばれたのは慧梨主でした!
 慧梨主にはこれからちょっと僕のアシスタントをしてもらいます!」



 火はすぐに燃え尽き、代わりのようにスポットライトが慧梨主さんを照らす。



サクラノミヤ エリス
「え、あ、はい」


サクラノミヤ アリス
「ちょ、ちょっと慧梨主! あんた今までどこ行ってたのよ!」


サクラノミヤ エリス
「その、シアタールームで映画を……。気づいたらこんな時間になってしまって。
 ギリギリで間に合ったよかったです」


ウメゾノ ミノル
「慧梨主―、早く来てくれないかなー?」



 いつの間にかロープから降りていた梅園クンが二人の会話を遮るように催促する。
 ……うん、だよね。やっぱりそういうことなんだろうとは思っていたけど。



サクラノミヤ エリス
「あ、ごめんなさいお姉さま、お兄さまが呼んでいるので」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと!」



 慧梨主さんは亜梨主さんの制止を振り切ってステージに登る。



376 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/12(月) 23:28:22.33 ID:PWR61U+n0


ウメゾノ ミノル
「さて、皆様、皆々様。取り出したるは手錠ならぬ指錠でございます。
 しかし、しかし、玩具とは言え拘束具としては申し分ない代物。両手の親指に嵌めてしまえば鍵がなければ外せませぬ。
 じゃぁ慧梨主、これを僕の両親指に嵌めてくれ」


サクラノミヤ エリス
「わかりました。……こうですか?」


ウメゾノ ミノル
「Bene(よし)! じゃぁ次は胸ポケットのハンカチを被せてくれ。僕の両手が見えなくなるように」


サクラノミヤ エリス
「これでどうでしょう?」


ウメゾノ ミノル
「あー、ちょっと右手側にずれてるね、もうちょっとこっちに寄せてくれないかい?」


サクラノミヤ エリス
「あっ、ごめんなさい」



 梅園クンはハンカチが中央に来るように端を手でつまんで位置を調節する。



オモヒト コウ
「ん?」


マスタ イサム
「おいおい」


377 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/12(月) 23:44:25.54 ID:PWR61U+n0


ウメゾノ ミノル
「うん、良い感じ。それでは皆様ご注目! 今からこの戒めを解いて御覧に入れましょう!
 カウントダウン! スリー! トゥー! ワン!」



 梅園クンは右手を掲げて三つ数える。左手にはハンカチがかかったままだ。



アサクラ トモエ
「あ、あれー?」


ナナミヤ イオリ
「……? ……?!」


ウメゾノ ミノル
「アッ……ッセイ!」



 梅園クンは両手を広げ、指錠を外したことをアピールした。
 右手はハンカチに覆われているが、左手には外された指錠が握られている。



ナナ
「あ、あら?」


ノノ
「あれれー?」


コウモト アヤセ
「えっと、何? 何が起きてるの?」



378 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:20:26.37 ID:7zYZ5Cb90


ウメゾノ ミノル
「ンンンンンン? 万雷の拍手が聞こえないなぁ? 見ての通り指錠から解き放たれたというのに?」



 それはそうだ。みんな驚きよりも困惑の色が強い。
 指錠を嵌められたのは確からしいけど、ハンカチを被せられた時点でもう外れていたんだから。
 予想以上に早い段階でそれが示唆されてしまったものだから、今更アピールをされても、という感が否めない。



ウメゾノ ミノル
「あー、そっかそっか。やっぱりみんな気になってるよね。どうやってこれを外したのかを」



 違うそうじゃない。



ウメゾノ ミノル
「じゃぁ特別にタネを教えてあげよう。とても簡単だから。
 実はね、鍵を隠し持っていたんだ。コレだよ」



 右手を覆っていたハンカチを取り払うと、確かに鍵が握られていた。
 成程確かに鍵を持っていればこのマジックは容易にできるわけだ。
 ――その鍵が遠目で見ても鍵の形をしているとわかるほどにとても大きいことに目を瞑れば、だけど。



379 :♪Colonel Bogey March ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:30:00.44 ID:7zYZ5Cb90



タカナシ ユメミ
「……?」


ノノハラ ナギサ
「あ、あれ?」



 もちろん、そんなものを出されても納得できるわけがない。
 あれだけ大きいものをどうやって鍵穴に入れるんだとか、そもそもそんな大きいものがハンカチの中、もっと言えば袖の中にさえも納まるわけがない。
 ツッコミどころが多すぎで渋滞してしまっている。



ウメゾノ ミノル
「あー……、やっぱりこんな地味な奴じゃダメだったかな。
 じゃ、次の演目――の前に、盆回し」



380 :♪盆回し ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:32:26.66 ID:7zYZ5Cb90



 軽快な音楽とともに部隊のカーテンが閉まっていく。
 次はきっと、大掛かりなマジックなんだろう。



381 :♪The British Grenadiers ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 00:39:59.02 ID:7zYZ5Cb90



 カーテンが開くと、ステージの中央には檻が設置されていた。
 人一人が入れそうなほどの、鳥かごのような形状の檻が一メートルほどの高さで吊るされている。
 檻に入るための階段も設置されていた。
 見るからに本格的な脱出マジックの舞台だった。



382 :♪The British Grenadiers ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:02:45.27 ID:7zYZ5Cb90



ウメゾノ ミノル
「さてさて、ではこれからこのケージに入り、脱出してみたいと思います。
 ちょっと見た目が鉄の処女(アイアンメイデン)っぽくて不穏な気がしますが」



 梅園クンは階段を上って檻の入り口を開けると、その中に入って自ら檻の中に閉じこもった。



ウメゾノ ミノル
「じゃぁ慧梨主、この南京錠でドアをロックしてくれるかな?」


サクラノミヤ エリス
「わかりました。――えっと、これでいいですか?」


ウメゾノ ミノル
「OK. これで僕は閉じ込められたね。じゃぁ次に、この檻のカーテンを閉めて僕の姿を隠してもらおうかな。
 脱出中の姿を、見せるわけにはいかないしね」


サクラノミヤ エリス
「わかりました」



 檻の手前側――ボクらが見ている面にはカーテンが束ねられていて、カーテンレールは檻を一周しているようだ。
 布の長さは檻よりも長く、ステージの地面すれすれまで伸びていた。
 慧梨主さんは手前からカーテンを引いていくと檻の裏手へ回って、カーテンと舞台の隙間から靴がギリギリ見える以外は姿が見えなくなった。


383 : ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:06:14.62 ID:7zYZ5Cb90



サクラノミヤ アリス
「……慧梨主?」



 その靴も階段の陰で見えなくなってからも、慧梨主さんの姿はどこにも見えない。
 ――つまり、慧梨主さんも忽然と姿を消した。



384 :♪Blooming Villan ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:25:19.22 ID:7zYZ5Cb90



 再び檻のカーテンの裏から靴が見えたのは亜梨主さんのつぶやきから十数秒ほど後だったか。
 とにかく、誰かが檻の裏からカーテンを持ちながら手前側に回ってくる。
 それはもちろん慧梨主さん――ではなく。
 どこぞの王子のような純白の衣装に赤いマントの貴公子スタイルに衣替えした、梅園クンだった。
 ご丁寧に目元を隠す赤いペストマスクまで被っている。



ウメゾノ ミノル
「お待たせ。期待以上は約束できただろ?」



 仮面で隠れていない口元は、悪役のようにシニカルな笑みを浮かべていた。



385 :♪Blooming Villan ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:36:27.18 ID:7zYZ5Cb90



サクラノミヤ アリス
「あ、アンタ! 慧梨主をどこへやったのよ!」


ウメゾノ ミノル
「無粋な突っ込みは総スルーって言っただろ?
 ――安心しなよ。ちゃんといるさ。この檻の中に。入れ替わったんだ、さっきね。
 どうしてできたのかは、解るだろ? これがマジックだからだよ」


サクラノミヤ アリス
「この――!」


ウメゾノ ミノル
「おっと、うかつな行動はするなよ。
 せっかくのステージを台無しにされたら、僕だって相応の仕返しをしなくちゃいけないからな。
 まぁ指でも咥えて大人しく待ってなって。
 ――さて、いい加減みんなもじれったく思ってるだろ? 檻の中がどうなっているのか。慧梨主はどうなっているのか。
 それじゃカウントといこうか。1(アン)! 2(ドゥ)! 3(トロワ)!」



 梅園クンが勢いよくカーテンをはぎ取るとそこには――変わり果てた姿の慧梨主さんがいた。



386 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 01:42:33.16 ID:7zYZ5Cb90


サクラノミヤ アリス
「え、慧梨主――!!」


コウモト アヤセ
「えっ、えぇ?!」


ノノハラ ナギサ
「きゃっ!!」


アサクラ トモエ
「うわぁ……」


ユーミア
「これは……」



 バニーガールに衣替えした慧梨主さんが檻に閉じ込められているという、絵面的には衝撃的な演出があった。
 羞恥からか、赤面しているのが遠目からでもわかる。
 梅園クンもイイ趣味してるなぁ。


387 :♪New Classmate of the Dead ◆S7YK1FdmZg [saga]:2019/08/13(火) 02:05:24.68 ID:7zYZ5Cb90


ウメゾノ ミノル
「さて! マジシャンとアシスタントとして相応しい衣装に着替えたところで、次――というか、本日最後の演目だ!
 お楽しみは、これからなのさ!」



 梅園クンは意気揚々と舞台袖から寝台をひいてきた。
 簡易のストレッチャーのような、人一人が寝そべるのにちょうどいい平坦な台だ。



ウメゾノ ミノル
「おっと、その前に囚われのアシスタントを助け出さないとね。
 ――あぁ、いけない。南京錠の鍵をどこかに無くしてしまったのかな?
 まぁでも大丈夫。今の僕はマジシャンだからね。できないことはないんだよ」



 梅園クンは階段を上ると、マントで入り口付近を隠して檻の戸に手をかける。
 その瞬間、また一斉に照明が消えて、闇が視界を支配する。
 今度はすぐに照明が点いたけど、そこには檻の外に連れ出された後の慧梨主さんが寝台に寝かせられている光景があった。



ウメゾノ ミノル
「本日最後の演目は、人体切断ショー! 今からこの鋭利な剣で慧梨主の体を切ってしまおうと思います!」



 梅園クンが持っている直刀には、その鋭さを証明するためかパイナップルが刺さっていた。
 一度抜いて、パイナップルを空中へ放り投げて突き刺す。本物である十分な証拠だった。



ウメゾノ ミノル
「さぁさぁ、肝心なところはカーテンで隠してしまいましょうね」



 先ほど檻からはぎ取ったカーテンを、今度は仰向けに寝ている慧梨主の体を覆うように被せる。



ウメゾノ ミノル
「それでは参ります。1(ウーノ)! 2(ドゥーエ)!」



 大きく振りかぶって、真っすぐ慧梨主さんの胴体めがけて振り下ろされた剣は、寝台と平行になるように突き刺さっていた。



ウメゾノ ミノル
「あっ」



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