【ミリマス】春の訪れ、未来の予感

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/05/28(日) 19:01:44.89 ID:QRCL/BKOo
※ 短いです。

===

 未来の第一印象と言えば、

 まず初めに「元気な子だな」という当たり障りの無いもので、
 次が「アホの子だな」だったと記憶する。

 その日、劇場正面の入り口で俺たち二人は出会ったんだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1495965704
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/05/28(日) 19:04:00.94 ID:QRCL/BKOo

「すみませ〜ん! あの、ここの劇場の人ですよね?」

 ワケあって正面玄関の掃き掃除をしていた俺に、
 突然声をかけて来た少女……それが春日未来だった。

 学校帰りなのか制服で、鞄も背負ったままの彼女に「そうだよ」と俺が答えると。

「やっぱり! ずっとお掃除してたから、もしかしてって思ってたんですよ〜」

「そ、そう……で、何の用だい?」

「あっ! えっと、そうでした。私、用事があるんだった!」

 まるでせわしなく動く子犬のような受けごたえ。

 一々跳ね上がるような喋り方が、ますます元気有り余る子犬の姿を彷彿とさせる。

 あれだ、「散歩に行こう? 早く早く!」とリードを咥えて待っているあの状況。

 そうして次に放たれた一言に、俺は間抜けに聞き返すことになる。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/05/28(日) 19:06:10.63 ID:QRCL/BKOo

「私、アイドルになりたいんです。その為に部活も辞めてきました!」

「えぇっ!?」

「それでですね、えーっと……私をアイドルにしてください!」

 ペコリ、九十度の角度でお辞儀する。
 いや、しかし……驚いたな。

 押しかけ女房ならぬ押しかけアイドルの出現に、俺はすっかり戸惑っていた。

 彼女は箒を持つ俺の、何処を見てそんなお願いをするに至ったのか? 

 後日本人に聞いてみると、返って来たのはこんな答え。

「だって、スーツを着てたじゃないですか。だからきっと偉い人なんだろうなぁ〜って、そう思って声をかけました!」

 む、う……まるで適当のように見えて実のところ、彼女なりの理由がちゃんとあった。
 それになにより彼女には、ある種の才能も感じたからな。

 ……それは人の警戒を解くって才能だ。

 あっという間に相手の懐まで潜り込んで来るこの人懐っこさは、きっと彼女の武器になる。

「……よし。話は中で聞こうじゃないか」

「やったぁ!」

 嬉しさの余り飛び跳ねる彼女の姿を眺めながら、
 早くも俺は印象を、「アホの子」から「子犬みたいな子」に改め始めていたものさ。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/05/28(日) 19:07:34.71 ID:QRCL/BKOo
===

 最上静香と言えば、ウチの劇場でも将来が楽しみな原石の一人。

 まだ十四歳という年齢で、既に高い歌唱力を持つ彼女のような人材を
 受け入れることができたのは嬉しい誤算だったと言える。

 ついでに言うと、そんな彼女が抱えていたある事情は……嬉しくない方の誤算だったなぁ。

「……プロデューサー、どちら様です?」

 劇場内で顔を合わせた静香から怪訝な眼差しを頂戴する俺は、
 彼女たちの担当プロデューサーであると同時に"人さらい"の異名を持つ敏腕スカウトでもあった。

 ……これまでもひょんなことから事務所に連れて来たアイドルたちは数知れず。
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/05/28(日) 19:08:56.45 ID:QRCL/BKOo

「ちょっとそこでな、拾った」

「運よく拾ってもらいました! えへへ〜」

 早くも意気投合し始めた俺たち二人の見事な返しに、静香はイラっとしたようで。

 手にしていた楽譜を机の上にそっと置くと、片方の眉をぴくりと上げて言い直す。

「……どうやら私の言い方が悪かったみたいですね。プロデューサー、その子は一体誰ですか? 
 それから私のレッスンは、何時になったら始めてもらえるんでしょうか?」

「だから拾ったって言ってましょ? アイドルになりたいんだって」

「はい、アイドルになりに来たんですよ!」

 次の瞬間、「真面目に答えてください!」と静香が室内の空気を震わせた。

 ……うーむ、この子はもう少し心にゆとりが必要だな。
 まるでいつかの千早を見ているようだ。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/05/28(日) 19:10:13.27 ID:QRCL/BKOo

「言って、今日のレッスンは一人じゃできない。相方が来るまで待機しててくれないか」

「悠長……っ!」

 吐き捨てられるように言われた言葉は、俺のガラスハートを撃ち抜くのね。
 とはいえ本来の開始時刻までまだ時間はあると言うのに。

「レッスン? レッスンするんですか!?」

 そんな俺のことを他所にして、隣では拾った少女が目を輝かせながら
「歌のレッスン? ダンスかも! それとも演技だったりして」なんてウキウキだ。

「君も興味あるかい? その、レッスンに」

「はいっ! もう……すっごく!」

 向上心が、いや、この場合は好奇心だな。何事にも興味を持てるって言うのは良いことだ。

 特にアイドルとして活動するのなら、この好奇心は魅力に変わることがある。

 そう……静香風に言うならば、ようやく現れた彼女のように。
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