智絵里「ある日の風景」

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1 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:07:37.73 ID:Uy9f9b9R0
ある日の風景1


〜事務所-エントランス〜

(事務所のエントランスでレッスン帰りの智絵里とばったり出くわした)

智絵里「あっ……プロデューサー……お疲れ様です」

P「お疲れ。調子はどう?」

智絵里「今日もダメ出しばかりでした……わたし、また失敗ばかりで……その、体力がないから」

P「そうか」

智絵里「前となにも変わってないですよね、わたし。
    せっかくプロデューサーに拾ってもらったのに……」

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2 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:08:29.98 ID:Uy9f9b9R0
P「そんなことはないと思うぞ」

智絵里「そうでしょうか……」

P「ああ。トレーナーさんからも動きが断然よくなったって報告が来てる」

智絵里「本当ですか……? でも、一曲通して踊る体力がなくてどうするって今日も……」

P「まあ基礎体力はそうだな。でもそれはすぐに改善するようなものじゃないから。大事なのは継続だよ」
3 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:09:40.44 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「継続、ですか……」

P「初めから全部上手くやろうなんて考えなくていいんだよ。
  智絵里のペースで一歩一歩進めばいい」

智絵里「プロデューサーはやさしいです……でも、他の子たちができてることを、
    わたしだけできないままじゃだめですよね。わたし、もっと頑張りますから」

P「そう、その意気だ! ――智絵里はもう帰るとこ?」

智絵里「えっと、そうですけど……」

P「そしたらカフェで少し待っていてくれないか? 俺も支度をするから一緒に帰ろう」

智絵里「は、はい。わかりました」
4 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:10:37.13 ID:Uy9f9b9R0

・・・・・・・・・

P「寮での生活にはもう慣れた?」

智絵里「はい……不安でしたけど、みんなやさしくしてくれて」

P「それはよかった。食事とかも大丈夫?」

智絵里「特には……でも寮でのご飯はにぎやかで……ちょっと……」

P「……ちょっと苦手?」

智絵里「そんなこと……ない、です。その、ちょっと学校みたいだなって」

P「ああ、そういうこと」
5 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:11:32.63 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「みんなで一緒にご飯を食べるの、いいなって。お家ではあんまりなかったから……」

P「まあ自分の家だとまずないよな。同年代と寝食をともにするなんて」

智絵里「……そう、ですね」

P「――少し意外だったな」

智絵里「えっ……あの、何がでしょうか?」

P「いや、変な意味じゃないんだ。
  智絵里はにぎやかなところそんなに得意じゃないと思ってたからさ」

智絵里「にぎやかすぎるのは苦手ですけど……でもずっと静かだと寂しくなっちゃいます……」
6 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:12:18.84 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「寂しいときいつでも誰かがいる、なんてこと、ずっとなかったから……」

P「今なんて……?」

智絵里「な、なんでもないです……気にしないでください……」

P(よく聞き取れなかったがあまり聞き返さないほうがよさそうか)

P「でも安心したよ。ちゃんと馴染めてるようで」

智絵里「……やっぱり……心配かけてましたよね、わたし」

P「智絵里に限ったことじゃなく、年頃の女の子をお預かりしてるわけだからね。誰だって心配だよ」
7 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:13:05.70 ID:Uy9f9b9R0
P「実は地方から出てきた子の、アイドルになるための最初のハードルなんだ。
  合う合わないってどうしてもあるから。でも智絵里は今のところ大丈夫、だろ?」

智絵里「なんとか……慣れないことばかりですけど」

P「そう、だから智絵里にはちゃんとアイドルになれるだけの素養がある。
  すぐに自信は持てないかもしれないけど、俺が保証する」

智絵里「あの、その……見捨てないでくださいね、プロデューサー」

P「もちろんだよ。智絵里は大切な俺の担当アイドルだ」
8 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:13:42.52 ID:Uy9f9b9R0
P「ところで学校のほうはどう?」

智絵里「普通……です」

P「けっこう反応あったんじゃないの。智絵里みたいな可愛い転校生、
  俺がクラスメートだったらすごいテンション上がるけど」

智絵里「そんなことっ、ない、です……わたし、学校でも静かだし……」

P「まあ学校での智絵里の様子は想像つくよ」
9 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:15:30.03 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「でも、学校のほうもやさしい人ばっかりでほっとしました。お友達もできて……」

P「それはなによりだ。アイドルの話もしたり?」

智絵里「い、言えるわけないです……そんなこと。また、笑われるだけです……」

P「笑うって……そんなネガティブに考えなくても」

智絵里「けど……まだアイドルらしいことほとんどしてないですし……」

P「それは……俺の力不足だな」

智絵里「いいんです……精いっぱいがんばって、やっと半人前なわたしが、
    アイドルになれただけでも奇跡だって……わたしが一番わかってます……」

P「おいおい。さっきまでの意気込みはどこいったんだ――」

(再びべそをかき始めた智絵里をなだめ、どうにか落ち着かせた。
 冗談を交えて会話を明るくしようとしたが逆効果だったみたいだ……)
10 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:16:36.29 ID:Uy9f9b9R0
ある日の風景2


〜ファミリーレストラン〜

(レッスン終わりの智絵里に声をかけ事務所の近くにあるファミレスに二人でやってきた)

P「せっかくの打ち上げだ。好きなもの頼んでいいぞ……といってもただのファミレスだけど」

智絵里「そんな、デビュー企画のラジオがオンエアされただけですし」

P「遠慮するなって。それに打ち上げってのは大切なんだぞ」

智絵里「そうなんですか……?」

P「ああ。次もまた気持ちを新たに頑張るぞーっていう区切りとしてな」

智絵里「なるほど……」
11 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:17:14.95 ID:Uy9f9b9R0
P「ジュースで大丈夫だった?」

智絵里「はい、炭酸とかじゃなければ……」

P「ならよかった」

智絵里「飲み物、ありがとうございます。私、ドリンクバーがすこし苦手で……」

P「苦手? ドリンクバーが?」
12 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:17:44.56 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「あの、種類がいっぱいあると選べなくなっちゃって……」

P「あーそういうこと」

智絵里「他の人の迷惑だから、気をつけなきゃっていつも思うんですけど」

P「気にしすぎだよ」

智絵里「でも、よくないなって自分で思うから……」
13 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:18:24.21 ID:Uy9f9b9R0
P「そしたら自分ルールを作るとかどうだ」

智絵里「自分ルール……?」

P「そうだ。二択で迷ったらいつも右を選ぶとか。そういうルールを作るんだ。
 飯や飲み物で迷うときなんて大抵の場合どれを選んでも大差ないもんだ」

智絵里「そうかもしれません……」

P「そういう時ルールがあればすぐ決められる。
 そしてそういう積み重ねは決断力のアップにも繋がるというわけだ」

智絵里「な、なるほど」
14 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:19:03.58 ID:Uy9f9b9R0
P「早速ひとつルールを決めて飲み物を取ってきてみないか?」

智絵里「今からですか……?」

P「ああ。せっかくだから実践してみよう」

智絵里「わかりました……そうしたら、上から4番目の飲み物にしてみます」
15 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:19:38.98 ID:Uy9f9b9R0
P「4番目? どうしてまた」

智絵里「えっと……その……四つ葉のクローバー……」

P「そういうことね。ごめんごめん」

智絵里「あの……飲み物、もらってきますね」

P「いってらっしゃい」
16 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:20:24.87 ID:Uy9f9b9R0
P「それじゃあ智絵里のソロデビューを祝して、乾杯!」

智絵里「か、乾杯……」


P「――そうだ、忘れないうちにこれを渡しておこう」

智絵里「これは……?」

P「ささやかながら俺からのお祝い。開けてみて」
17 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:21:08.04 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「これって……日記帳と、スタンプ……ですか?」

P「それとスタンプカード。手製だから簡素で悪いが」

智絵里「プロデューサーさんが作られたんですか……すごいです……」

P(ちひろさんには子供の工作と一刀両断されたが智絵里は優しくてよかった)
18 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:22:13.96 ID:Uy9f9b9R0
P「クローバーのスタンプもかわいいだろ」

智絵里「素敵です。けど、どうして……?」

P「そうだな、その説明をしよう。まず日記だが、智絵里に毎日の記録を残してほしかったんだ。
  いつか智絵里の力になってくれるときが必ずくるから」

智絵里「その、日記は前からつけてます。だから、今の日記帳がなくなったら使いますね」

P「その調子で続けてくれ。少し余計な気配りだったかもな」

智絵里「そんなことないです……プレゼント、すごく、嬉しいです」
19 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:23:02.72 ID:Uy9f9b9R0
P「スタンプカードだけど、一日一回いいことがあったらスタンプを押してほしいんだ。
  5個枠があるだろ。それが埋まったらご褒美をあげよう」

智絵里「あ、あの、いいことって具体的にはどんな……」

P「なんでもいいよ。トレーナーさんに褒められたとか、苦手なステップが踏めたとか、
 道端に咲く花が綺麗だったとかでもいい」

智絵里「そんなことで……?」

P「大切なことさ」
20 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:23:29.33 ID:Uy9f9b9R0
P「ご褒美はそんな豪華なものは用意できないけど喜んでもらえるものを考えておこう」

智絵里「そんな私がもらってばっかりで、なんだか申し訳ないです……」

P「いいんだ智絵里は頑張ってるんだから。――どうかな?」

智絵里「はいっ。いいこと探し、がんばります……!」
21 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:24:08.00 ID:Uy9f9b9R0
P「……今はファミレスだけど、いつか打ち上げも立派にやりたいもんだ」

智絵里「私は……こうしてプロデューサーさんといられるだけで十分です……」

P「おっと声に出てしまったか。まあ夢はビッグにってやつだよ」

智絵里「すいません……私にはまだ想像できないです。
    今アイドルをしているのが夢みたいなものだから……」

P「……ごめん、変なこと言っちゃったな」

智絵里「そ、そんな、私こそ……また弱気なことを……」
22 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:24:50.27 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「……私、今日のこと忘れません」

P「ああ。俺もだ」


P「さて、少ししんみりしたが打ち上げだ。ぱあっといこう!」

智絵里「えっと、私、何をすれば……」

(はじめての打ち上げはささやかだが強く心に刻まれるものになった)
23 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:25:33.50 ID:Uy9f9b9R0
ある日の風景3


〜夕暮れの公園〜

(灰色の雲が覆う冬空の下行われた撮影は、全てが終わる頃には日が落ちかけていた)

P「撮影お疲れ。今日はこのまま直帰しちゃっていいよ」

智絵里「お疲れ様です。あの、プロデューサーさんはこのあとどうされるんですか?」

P「俺? 事務所に戻って今日の報告書作りだけど」

智絵里「それなら、私も一緒に行ってもいいですか……?」

P「構わないけど。何か用でもあるの?」
24 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:26:12.54 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「えっと、みんなが自主レッスンしてるそうなので、私も参加しようと思って……
    あの、それとプロデューサーさんともう少し一緒に……」

P「いい心がけだが休息も大事だぞ。なにせアイドルは身体が資本だからな」

智絵里「うぅ、そうですよね……」

P「いや違うんだ。智絵里が頑張ってくれるのはすごく嬉しい。
  ただ無理はしちゃだめってだけで、智絵里が大丈夫だと思うなら止めないさ」

智絵里「……今日は、もうちょっとがんばれる気がするんですっ! だからお願いします」
25 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:27:22.02 ID:Uy9f9b9R0

・・・・・・

P「にしても今日は一段と寒いな」

智絵里「そうですね……今晩は雪が降るかもって」

P「マジか。積もらないといいなぁ」

智絵里「雪、お嫌いですか……?」

P「いや、どうも道が混むとか交通ダイヤが乱れるとか考えちゃってな」

智絵里「あっそうですよね。移動とか大変になっちゃう……」

P「昔は早く積もらないかと胸踊らせたもんだが。夢のない大人になっちまった」
26 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:28:06.98 ID:Uy9f9b9R0
P「智絵里はどうなの、雪。好き?」

智絵里「私は……街がお化粧してるみたいで、綺麗で、けっこう好きかも」

P「雪景色の中に佇む智絵里か……絵になるな」

智絵里「そうでしょうか……?」
27 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:28:40.76 ID:Uy9f9b9R0
P「あまりしっくり来ないか?」

智絵里「うーん……ちょっと寂しいなって思っちゃって。
    囲まれるなら雪よりもお花のほうが嬉しい……かなって」

P「たしかにそっちのほうがもっと似合うな」

智絵里「で、でもお仕事なら、どっちも嬉しいです……」
28 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:29:27.99 ID:Uy9f9b9R0
智絵里「あっ……雪……」

P「……本当だ」

智絵里「降りだしちゃいましたね……」

P「どうする? そう遠くはないがタクシー捕まえようか」

智絵里「よければ、このまま歩いていたいです」
29 : ◆WXIE0KHOPc [saga]:2017/06/03(土) 22:30:15.79 ID:Uy9f9b9R0
P「そうか――なら」

P(たしか折りたたみ傘は持ってたはず……)

P「智絵里、中に入れ。それと、気持ち早歩きしよう」

智絵里「はっ、はい」
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