【クウガ×デレマス】一条薫「灰被」

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202 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:17:54.48 ID:aNWtHagf0
「人を信じられなくなることもあるかもしれません。
でも、自信を持って、人間を信じても大丈夫です」

強い瞳で、優しい笑顔で……卯月は一条と杉田を、そして二人の話を黙って聞いていた実加と椿を勇気付けた。

「私は……まだ志希ちゃんのことを信じています。
身体は未確認生命体になってしまっているかもしれませんけど、心は優しい志希ちゃんのままだと信じています。
もちろん、今テレビに映っている人たちは、本当は優しい人たちだって信じています」

ザーザーと煩かったノイズが止んだ。
病室の窓が明るくなり、暗かった室内を照らす。

「人間って、悪い部分も多いです。
でも、それ以上に素敵な部分がいっぱいある生き物なんです。
だから悪い面ばかりに目を向けずに、人間の素敵な面を信じてみませんか?」

綺麗事だ。
論理的でも何でもない、論理として成り立ってない論理。
だが、それを言い放つ彼女はその笑顔も声色も瞳もまっすぐで、彼女は心からそう信じていると伝わって来る。
203 : ◆ZfqRKaJB86 [sage]:2017/07/03(月) 22:21:25.64 ID:aNWtHagf0
あ、>>201のとこ、

そこにいたのは……笑顔の島村卯月がいた。

そこにいたのは……笑顔の島村卯月がだった。

の方がいいですね。
なにぶん、長いのでこれ以外にも、今までも誤字や文章の間違いがあったと思いますが、脳内補完してください。
204 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:22:30.46 ID:aNWtHagf0
「……何故そこまで信じられる!?」

今回の事で、一番辛い思いをしたのは卯月のはずなのに、彼女はその明るさを曇らせなかった。
その光は、今の一条には眩しすぎて、一条は声を上げ、卯月に詰め寄った。
そうせずにはいられなかった。

「市民も!警察も!君のことを信じずに殺そうとしている!
日本中から疑われて否定されて!そんな中で何故君は笑っていられる!?人々を信じられる!?一ノ瀬志希を信じられる!?」

それは、およそ大人が少女に……警官が女子高生に使って良い語気ではなかった。
疑問は怒りを孕んで卯月に問いかける。
205 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:23:19.64 ID:aNWtHagf0
その一条に対して……卯月はやはり笑顔だった。


「だって……刑事さんは私を信じてくれました」


包み込むような、それでいて感謝の意を感じさせる穏やかな笑みで、卯月は答えた。
206 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:24:25.33 ID:aNWtHagf0
「杉田さんも、椿さんも、実加さんも……私を信じてくれました。
ライブの時……あの状況では撃たれていてもおかしくはないって杉田さんが言ってました。
それでも、刑事さんは……一条さんは私のことを信じてくれました」
207 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:24:53.94 ID:aNWtHagf0
テレビ画面はいつの間にか切り替わり、黄緑色の服を映す。

『卯月ちゃんはそんなことをする子じゃありません!
卯月ちゃんが未確認生命体だと決めつけないでください!』

個人を特定されないように顔は映さず、声も加工されてあったが、誰が放った言葉かはすぐにわかる。
そしてまた画面が切り替わった。

『卯月ちゃんのこと、あんまり悪く言うと、私がシメちゃうわよ?』

怒りを顕にして、片桐早苗がカメラに向かって言い放った。
208 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:26:02.58 ID:aNWtHagf0
「……私は、私がこんな状態になっても信じてくれたみなさんと同じように、みなさんを、そして、志希ちゃんを信じているんです。
今は勘違いしてるけど、きっとみんなで笑い合えるようになるって」

その言葉は、雰囲気は……やはり、雄介の姿と被った。
209 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:26:44.61 ID:aNWtHagf0
「……卯月くん……君は……君は何故折れずにいられる?……信じている者が多少いるだけで」

一条の憤りはその勢いを無くし、少しずつ緊張と凍えた心が溶かされる中で、純粋な疑問が口をついて出た。
その疑問に、卯月は眉根を寄せた。
210 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:28:36.88 ID:aNWtHagf0
「ん〜?何でと言われましても…………これは……あるおじさんとの出会いが理由かもしれませんね」
「出会い?……おじさん?」

卯月はゆっくりと目を閉じて、過去の記憶を思い起こすようにして語り出す。

「……私、今はアイドルとして活動出来てますけど、実は、養成所に通い始めたのは五年くらい前からなんです。
それで、養成所に通って一年くらい経って……私が中学生になって最初の夏のある日……デビューの話が来ました。
二、三人の娘たちと一緒にデビューするという話だったんですが……私たちが選ばれた理由が……その……他の候補の娘が、飛行機の墜落で亡くなったからだそうで……」
「それは……」
「ごく最近、志希ちゃんによって情報が流されましたけど、あれは第49号が起こした事故だったんですよね?」
「……そうだ」

その年、つまり四年前の夏の日、第49号のゲゲルによって千人近くの人が亡くなった。
第49号の能力により数百人が狂わされ、その中に飛行機の操縦士もいたためにそこまで被害が拡大した。
211 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:29:48.72 ID:aNWtHagf0
「私以外の娘は……喜んでいました。
『ラッキー』って、人の死を笑ってました……でも、私にはそれが理解出来なくて、人の死を笑う彼女たちとデビューすることがどこか恐ろしくて……デビューの話を蹴りました。
そして、デビューを蹴った翌日……飛行機事故から五日くらい経った時ですね……家の近くの公園で、歌の練習をしてたら、笑顔の素敵なおじさんに会ったんです。
不思議な人で……する話もちょっとおかしな人でした。
なんでも、『金属の虫に乗って太平洋を越えて友達のピンチに駆けつけたんだけど、荷物向こうに置いてきちゃってさぁ。
ゴウラム……あ、金属の虫は大学に帰っちゃったから、大道芸をして向こうに帰るためのお金貯めてるところでさ』
……とか何とか」
「「ゴウラム!?」」
「は、はい……確かそんなことを言ってたはずです……?」

一条、並びに卯月以外の全員の声が揃った。
212 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:30:45.04 ID:aNWtHagf0
ゴウラムとは、古代においてクウガを手助けしていた金属で出来た甲虫であり、17年前の未確認生命体の騒動の後、城南大学に安置されている。
その言葉を使う、大道芸をする『おじさん』を、一条たちは一人だけ知っていた。

「その日から数日、その公園にはそのおじさんがいて、お手玉とかあや取りとか……こう……カンカンって……ストンプ?とかいう、身の回りの物を叩いて演奏する芸とかをしてました。
私の歌の練習にも付き合ってくれて……私の笑顔を、『青空みたいな笑顔』って誉めてくれたりしました」

一条の思い描くその『おじさん』は、青空が好きだ。
『おじさん』が『青空みたいな笑顔』と称するのは、その『おじさん』にとって最上級の誉め言葉である。

「それで、仲良くなったある日、相談してみたんです……人の死を笑っていたその娘たちのことが信じられないって。
人の命って、そんな軽い物なのかな?って」

それは、かつてある少女もぶつけた問い。
未確認生命体に殺された恩師の死が軽視されていると感じた少女が吐露した思いと同じ物だった。
213 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:31:29.57 ID:aNWtHagf0
「そしたら……おじさんは、『人間だから、間違っちゃうこともあると思う』って、『大切なのは、その間違ってることを間違ってるって伝えることだよ』って。
それで、『どうやったら伝わるんですか?』って聞いたら、『それは卯月ちゃん次第だよ……でも、暴力は絶対にダメだと思う。
暴力でしかやり取り出来ないなんて、悲しすぎるから』って。
考えてみれば、当たり前の……普通のことを言っているだけなんですけど、なんだか心に刺さって……すぐにその娘たちと話しに言って、どうにかわかってもらって。
それで、その日を境に、そのおじさんに色んなことを相談して、色んなことを聞きました。
おじさんのお話を聞く度に、私は心の中が暖かくなるのを感じて……こんな風に生きたいって思ったんです。
私には、そのおじさんとは違って、色んなことは出来ないから、歌と私の笑顔で、みんなに笑顔を、幸せを届けたいなって。
何日かして、おじさんは外国に旅立っちゃいましたけど、私はおじさんを、おじさんの言葉をお手本にして生きようって決めて……その生き方を意識せずに出来るようになった頃……今から一年と少し前に、プロデューサーさんからスカウトされて、ついにアイドルとしてデビューして……って、ここまでは話さなくてもいいですね。
兎に角、今の私を作っているのは、そのおじさんとの出会いなんです」
「……その『おじさん』の……名前は何ていうんだい?」
「それが……教えてくれませんでした……
『ん〜?今は名刺もないし……それに、今は自分に戻る旅の途中だから、ちょっと名乗れない、ゴメンね。
今の俺は……そうだな、クウガさん、とでも呼んでよ。
名前を取り戻したら、また日本に戻って来るからさ』
って誤魔化されました。
クウガって、ポレポレのおやっさんも言ってましたけど、昔の有名な人か何かですか?」

はにかみながら、卯月は話す。
214 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:36:00.89 ID:aNWtHagf0
その卯月の話の全てが一条にとって衝撃的であり、内容が脳に浸透していくまで少し時間がかかった。

「ふっ……そうか……そうか!」

卯月の話を少しずつ受け入れ、噛みしめて、一条はだんだん表情筋を緩ませ、そして……笑顔になった。

アイツめ、金が無かったなら貸してやったのに、意地を張りやがって。
いや……それよりも

「『おじさん』……か……ふっ、そうだよな、もうそんな年か、お前も、俺もな。
しかし……アイツが『おじさん』とはな」
「一条さん?」
「いや、俺も年を取ったと思ってな……随分と脆くなっていた……
そして、君の言った綺麗事を否定した。
だが……そうだよな……本当は綺麗事が一番良いんだ……
綺麗事を実現させる努力を怠ってはいかんな……」

自分に言い聞かせるように言いながら、一条はゆっくりと病室の窓に歩いていく。
そして、窓から空を見上げれば、空を覆い尽くす黒い雲の隙間から、明るい陽光と、綺麗な青空が覗いていた。
215 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:37:20.18 ID:aNWtHagf0
……思えば、俺はアイツに憧れたことが何度もあった。
だが、アイツのように生きようと思ったことは無かったな……
心の底で、『出来るはずがない』と決めつけていた。
アイツの笑顔は、アイツの生き方は、眩し過ぎて、難し過ぎて……
だが、この娘は……卯月くんは……それでは……憧れでは終わらせなかった。
努力を惜しまず、同じ生き方をし、それを自分の生き方とし……その意志が彼女を生かし、俺の心を生かしてくれた……ならば、それに応えなくてはな。
216 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:37:56.37 ID:aNWtHagf0
『臨時ニュースです。
各テレビ局宛てにFAXが送られて来ました!
『未確認生命体第51号からのお知らせ。
三日後の24日、正午より、○○公園のステージにて特別コンサートを開催します。
興味のある人は是非とも来られたし』
同様のFAXはテレビ局のみならず、警察や新聞社にも届いている模様!
たちの悪いイタズラなのか、本当に第51号からのメッセージなのかの調査が待たれます!』

テレビ画面が新たな情報を伝える。
それがどういうことなのか、この病室の中にいる誰もが理解していた。
217 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:41:51.59 ID:aNWtHagf0
部屋中の視線が卯月に集まり、代表して一条が口を開く。

「……一ノ瀬志希からの最後の招待状だ。
俺たちは君を全力でサポートしよう……いや、君が望む演出を叶えよう……こうだろうか?
……やはり俺には似合わないが、今回、俺は君の魔法使いになろう。
答えてくれ、君はどうしたい?」

真摯に一条は卯月を見つめる。
その瞳は人間に絶望していた先程までの弱々しい瞳ではなく、意志の宿った強い瞳だった。
王子様の殺害現場に落ちていたガラスの靴から、罪の無いシンデレラが探されている。
そのシンデレラにもう一度魔法をかけるために、シンデレラに励まされた魔法使いは一度落としかけた杖を握りしめた。
218 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/03(月) 22:42:30.29 ID:aNWtHagf0


「志希ちゃんに会いに行きます。
この事態を、終わらせるために」

219 : ◆ZfqRKaJB86 [sage]:2017/07/03(月) 22:45:22.79 ID:aNWtHagf0
これで六章は終了です。

もう夜遅いので、また明日の夜九時ころに再開します。
おそらく明日で最後まで投稿出来ると思います。
まだ途中ですが、改善点や文句、感想などがありましたらお気軽にコメントしてください。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 22:50:30.95 ID:Uvx76zxao
クウガしか知らないけどとてもいいと思います
明日が楽しみです
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 23:12:10.62 ID:7DjFqo/T0
五代の思いが卯月に受け継がれていくのいいな
222 : ◆ZfqRKaJB86 [sage]:2017/07/04(火) 21:00:53.15 ID:eRGHfrTr0
再開します
223 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:02:14.14 ID:eRGHfrTr0
第七章「卯月」
224 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:03:33.79 ID:eRGHfrTr0
一条の病室、そこには島村卯月、一条薫、夏目実加、杉田守道、椿秀一、榎田ひかりの六名がいた。

「それじゃ、第51号、一ノ瀬志希ちゃんのスペックと謎について解明して行きましょう」

榎田ひかりが全員をまとめるように、病室に持ち込まれたホワイトボードを差しながら言う。
225 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:05:06.40 ID:eRGHfrTr0
「まず、眠り病だけど、今回はガスマスクは必要ないわ、屋外だからガスで眠らされる心配はない。
でも、ガス以外でも爪等で眠らせることが出来るみたいだから気をつけて……と言っても、一条くんみたいに手加減されなきゃ普通に死ぬわね」
「それより、神経断裂弾を撃ち込んだはずなのだが、効かなかったのは何故なんだ?」
「あ、私の見たことを話しますね。
一条さんが撃った弾は確かに志希ちゃんに当たって、ボボン!って爆発しましたけど、志希ちゃんの身体はその弾丸を通さなかったみたいで、ポトッて弾は落ちました」
「なるほど……どうやら、五代くんの紫の形態みたいに硬くなったみたいね。
弾丸を弾くほどに」
「なるほど……」

そういえば、引き金を引く前に、志希の体表が蠢いていたような気がする。

「神経断裂弾のサンプルを掠め取って研究して、体表で弾くにはどれ程の硬度が必要かを計算して、弾ける形態を手に入れたのでしょうね。
……軽く言うけど、とんでもない硬度よ。
ま、4年前に開発した改良型なら大丈夫だと思うわ、科警研から幾つか無断で持ってきたから、一条くんに渡しとくわね、それ用のライフルもあるから」
「ありがとうございます」
226 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:05:59.18 ID:eRGHfrTr0
「そして、第50号に攻撃したのと実加ちゃんが寝ちゃった件ね。
第50号の件は、第50号と別のタイミングで会っていた時に別途の薬品を仕込んでいたという解釈で良いとして、実加ちゃんを眠らせたのはどうやったのかしら?」
「あ、多分……ブローチだと思います」
「ブローチ?」
「志希ちゃんから貰った物で……事件の時も着けて行ったんですが、18日のライブの時に、警察に連行されて私物を見せられたんですが、その中に無くて……」

ポレポレにて、嬉しそうに赤い石の着いたブローチを見せてきたのを一条は思い出した。

「その中にカメラとかを仕込まれてたのね……」
「多分、そうだと思います」
227 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:07:11.65 ID:eRGHfrTr0
「そういえば、ポレポレ経由で私にライブのチケットが届いたのだが、ポレポレの事は一ノ瀬くんに教えていたのか?」
「あ、はい。
事務所で教えられる機会があったらみんなに教えてました、昼食の時とかに。
機会が無かったこずえちゃんとちひろさん以外は知ってるはずです」
「……それでまんまと心証操作された訳だ……私は」
「あ、あはは……まあしょうがないですよ」
「そのしょうがないで殺されかけたのに、優しいなぁ卯月ちゃんは……それにしても、良い鎖骨だ」
「?……鎖骨、ですか?」
「椿、相手は高校生だぞ?」
「そういう意図はねぇよ!」
228 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:08:44.10 ID:eRGHfrTr0
「んで、現場のカメラが全て壊されていた件はどうなんだ?」

一条と椿のやり取りを無視して杉田が榎田に訊いた。

「全てのカメラの中に猫の体毛らしき物が入っていたわ。
何らかの方法でカメラの隙間からその体毛を潜り込ませて、眠らせるタイミングに合わせて武器化し、カメラを破壊したと考えるのが妥当ね」
「……第42号の針を思い出すな……」

椿が苦々しい顔をして言った。
未確認生命体第42号。
緑川高校2年生男児90人を12日間以内に殺すというゲゲルを行った未確認生命体である。
その殺害方法は極めて悪質であり、未確認生命体の能力により小型化した針を目的人物の脳に刺し、四日後に針を元の大きさに戻し、脳を破壊するというものであった。
任意のタイミングでの武器化、その点において志希の能力と共通している。

「そうね、大体それと同じ」
229 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:09:32.73 ID:eRGHfrTr0
「一ノ瀬志希のスペックについてはこれくらいでしょうか?」
「わかってる範囲ではね。
それじゃ、次はこちらの武装について……なんだけど」
「改良型の神経断裂弾三発、従来の神経断裂弾六発……だけですね」

言葉を濁す榎田の後を実加が続けた。

「こればっかりはね〜。
特に効果を発揮する何かは無いし、卯月ちゃんがいる時点で非公式になっちゃうから神経断裂弾は私がくすねて来たヤツだけだからね〜」
230 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:10:56.88 ID:eRGHfrTr0
「……それよりも、問題は当日に殺到するであろう一般市民への対策ですね」
「……そうだね〜」

そう、今回の一番の障害、それが暴徒化した一般市民だ。
無論、一条や実加や杉田に一般市民を取り押さえる経験が無い訳ではない。
だが、大量の人間を、たった三人で捌くことは限りなく不可能に近い。
まして、一人一人が武装していれば尚更だ。
無闇に傷つけることが許されない分、もしかすれば未確認生命体よりも厄介な相手であるかもしれない。

「悪いけど、一般人用の特殊兵器その他はないから」
「わかっています。
正面突破は望めないとして……卯月くんを変装させてどれだけ持つか……」
「顔を隠すのにも限界があるでしょうね、変装を警戒して顔出しを原則にしているそうです……」

実加がネットから拾った情報に一条はまた顔をしかめた。
231 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:11:58.94 ID:eRGHfrTr0
「変装もダメとすると……陽動作戦でしょうか?」
「……そうね、端から戦力外の私と椿くんで島村卯月がこっちに出ただの何だのと言った情報を拡散して場を引っ掻き回して道を開ける」
「……とはいえ、ステージ前の警戒が一番強いだろう、そこの連中を偽情報でどかすにしても全員は当然無理だが……いけるか?一条」
「いけるかどうかじゃない、やるしかないんだ」
「そうか……一応、まだ腹の傷が治りきってねぇこと、頭に入れとけよ?」
「わかっている。
……さて、それでは当日まで、榎田さんと椿は情報操作の方法の相談と練習。
夏目くんと杉田さんは対一般人用の訓練。
俺は回復に専念して、程々に訓練もしておく」
「あと、椿くんは私と杉田さんの居場所の用意もしてくんない?卯月ちゃんと神経断裂弾の件で警察にも科警研にも居られないんだわもう」
「……これがバレたら俺も榎田さんたちと一緒にクビかもなぁ。
ま、用意しときますよ」
232 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:12:35.75 ID:eRGHfrTr0
「んで、最後に卯月ちゃん」
「はい!」
「……サインくれない?息子がファンでさぁ……今眠っちゃってるんだけど」
「あ、はい!よろこんで!……はい?」

緊迫した状況にそぐわない榎田の発言に、卯月は首を傾げた。
233 : ◆ZfqRKaJB86 [sage]:2017/07/04(火) 21:14:32.39 ID:eRGHfrTr0
展開の都合上どこかに入れることが出来なかったんですが、榎田さんの息子の冴(さゆる)くんはこの四年でドルオタまで発症したという設定です。
234 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:15:58.80 ID:eRGHfrTr0
そして、一条が眠らされたライブより六日後。
その日はやって来る。
それぞれの思惑を胸に、人々は一ヶ所に集まった。
雲一つ無い快晴の空の下、大量の人がひしめいていた。
その人数は、遠目から一条が確認するに、ゆうに五十人……しかも公園端から見える範囲で、である。
235 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:17:27.94 ID:eRGHfrTr0
一条と卯月と実加と杉田は、公園前に車を止め、車内からその人の波を観察していた。

「ネットでガセ情報等を流して別の日時や場所に出来る限り誘導しましたが、それでもなしのつぶてですね……」
「榎田さんと椿が別場所でデマ情報を流し、島村卯月の振りをした人物が逃げることで追わせて更に人を誘導するそうだが……大丈夫なのか?その影武者は」
「えっと……相談して、千川さんにお願いしたそうです」
「千川というと……CGプロの事務員さんか……まあいい、今は時を待つだけだ」
「そうですね……」
「……卯月くん、大丈夫か?
覚悟は……出来ているか?」
「……はい、覚悟は出来てます……けど」
「けど?」
「やっぱり、緊張しますね……デビューライブを思い出します」
「……ふっ、命がかかっているというのに、デビューライブか……」
「はい?何かおかしかったでしょうか?」

困ったような笑顔で卯月が言う。
どこか抜けている卯月に、卯月以上に緊張していた車内の空気が少し弛緩した。
236 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:18:25.86 ID:eRGHfrTr0
「……11時半、正午まで後30分です。
そろそろ榎田さんたちが動き出すはずです。
私もネットにデマ情報を流します」
「頼む」
「上手くやってくれれば良いんだが……」

杉田は不安げに呟いた。
待つことしか出来ない不安の中で、アナログ式腕時計の針の動く小さな音と実加のパソコンのタイプ音だけが響いていた。
人の動きから目を離してはいけない、チャンスを逃す訳にはいかない。
瞬時に行動するため、車内の四人は無言で気を張り詰めていた。
237 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:19:27.90 ID:eRGHfrTr0
「あっ!?……えっ!?」
「どうした!?夏目くん!」

突然に、パソコン画面とにらめっこをしていた実加がすっとんきょうな声を上げた。
それとほぼ時を同じくして、人の群れにも動きがあった。

「一条!市民が動き始めた!」
「よし!陽動が成功したのか!」
「うわぁ、ノリノリだなぁ……榎田さんたち」
「?……夏目くん、何があったんだ?」
「島村卯月が未確認生命体を二体引き連れて現れたと話題になってます……」
「……そういう手に出たのか」
238 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:20:45.64 ID:eRGHfrTr0
「島村卯月が逃げるのを未確認二体が手助けしているそうです。
ガスが〜、急に爆発音が〜、等と話題になってます。
二酸化炭素ガスや爆竹でしょうね……他にも色んな事をしてくる未確認だとされて、迂闊に近づけず、かといって島村卯月を逃す訳にはいかないのでどんどん人がそっちに行ってるみたいですね…………あと、マスク等で顔を隠していて良く見えないので確信とまでは至らないものの、島村卯月は偽物なのでは?と疑う声がちらほら……でも、誘導には十分のインパクトと時間を稼げると思います」
「……警察が来たらどうする気だ?あの二人は」

杉田が素朴な疑問を口にした。

「……えっと……どうするんでしょう?」
「……来たところで、群がる一般市民を押し退けるのに時間を食い、警察の存在による話題性で更に人を集めようという作戦……だと思います。
……大分人も減りました、行きましょう。
卯月くんは俺たちの中央を歩いて、俺たちは市民を発見次第卯月くんと市民の間に入り、遮蔽する、良いですね?」
「「はい!」」
「おう!」
239 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:21:49.60 ID:eRGHfrTr0
さっと素早く車から降り、前面に一条と杉田、後ろに実加の三人で三角形を作り、その中央に卯月という隊列を組む。
そして、急ぐと怪しまれるので歩きで公園のステージがある場所へ向かう。
誘導により、人の大分減った道だが、それでも人が完全に居ない訳ではない。
自然に、四人で話ながら歩いている風を装って、卯月の顔を一条や杉田や実加の身体で市民から隠す。
ごくわずかな動作で行われるそれは、動きの少なさに比べて異常な程の精神力を必要とし、一条たちを疲弊させてゆく。
240 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:22:42.38 ID:eRGHfrTr0
「……この角を曲がれば、ステージが見えるはずです」
「ここまで来ると、大分人も多くなって来やがったなぁ」
「もう一息です。
どうにか正午までにステージの近くへ……」
『島村卯月が出たぞ〜。
こっちだ〜♪』
「「っ!?」」

拡声器でも使ったかのような大声、それが、一条たちのすぐ近くから聞こえた。
音のした方を見れば、緑の葉をしげらせる一本の木の上に、一瞬、志希の姿が見えた気がした。
241 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:23:29.67 ID:eRGHfrTr0
そんな声がすれば確認しに動くのは当たり前のこと。
ステージ前の人数からしたら少しの、しかし、三人で遮蔽出来ない程の量の人が一条たちの下へ向かってきた。

「マズイ!どうすんだ一条!?」
「どうもこうもない!ステージまで走り抜ける!
襲い来る市民は我々が捌く!なるべく傷つけずにな!
やるしかない!」
「はい!」
「おし!」

完璧に卯月を認識され、前方から数人の市民が走ってくる。
それを杉田と一条で強引に押し倒し、一瞬道を開く。
その道を実加が後ろに気をつけながら四人で通る。
242 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:24:39.84 ID:eRGHfrTr0
第一段が終われば第二段のさっきよりも人数が増えた塊がやって来る。
ステージ前に集まっているとはいえ、声を聞いてこちらを確認に来るのは第一段の数人、その様子を見て第二段の数人が、それにより騒ぎが大きくなり一条たちだけでは対応出来なくなるだろう。
疎らに人が襲って来る内に一条たちは距離を稼ごうとした。
それは上手く行き、第一段、第二段、第三段と一条たちが対処出来るだけの人数を相手にして彼らの間を抜け去ることが出来た。
だが、騒ぎは確実に大きくなり、徐々に一条たちは押され始める。
そしてステージまで後50mも無くなった時、一条たちの足が止まった。
243 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:29:20.51 ID:eRGHfrTr0
「邪魔すんなー!」
「退けー!」

鉄パイプやスコップ、バットやゴルフクラブ等を手にした市民が卯月を守る一条たちの間を強引に抜けようとしてくる。
それを押し返そうとするものの、一条一人に対し相手は複数。
いくら一条と言えども押し返すことは不可能だった。
空砲にした拳銃を杉田と実加が放つもひるむのはほんの数秒、一条のコートの背中部分に仕込んだ神経断裂弾用ライフル、改良型神経断裂弾用ライフルを抜くわけにもいかず、一条たちは市民相手に苦戦していた。
244 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:30:10.07 ID:eRGHfrTr0
「一条!もう限界だぞ!」
「踏ん張ってください!
……退く訳にはいかないんです!」
「一条さん、杉田さん!少しずつ回転して場所を換えてください!」
「夏目くん!策があるのか!?」
「はい!一応」

卯月を中心としてその周囲を囲んでいた三人が市民に押され、その円を小さくしながらも、円は回転し、実加を前方に、後方で二ヶ所を一条と杉田がカバーする陣形になった。

「きゃっ!?」

円が小さくなったために、手を伸ばした市民の持っていたゴルフクラブが卯月をかすり、卯月は短く悲鳴を上げた。
それに実加は焦り、その双腕に力を込める。
245 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:31:14.13 ID:eRGHfrTr0
「お、おりゃぁあああ!!」
「うわっ!?」
「なんだこの女!?」

クウガの力、変身しないでその力の何割かを引き出す。
それが実加の策。
白い未熟な姿にしか慣れないとはいえ、その力は人間を遥かに凌ぐ、その力の欠片を得て、人の波はステージの方へと押されて行く。
卯月を中心とする円も若干広くなり、少しだけ余裕が出来た。
246 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:31:51.08 ID:eRGHfrTr0
だが、ここからが問題だった。

「痛っ!」

実加の肩に、金属バットが降り下ろされた。
247 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:32:36.02 ID:eRGHfrTr0
「夏目くん!」
「こいつらは卯月の仲間だ!未確認の仲間だ!遠慮すんじゃねぇ!」

市民の集団において、リーダーという者はいないだろうが、血の気の多い者は多くいるだろう。
そんな攻撃的思考を持つ一人が、実加を躊躇せずバットで殴り、声を張り上げた。
それまでの集団は、卯月は兎も角として、一条ら三人には攻撃して良いか図りかねて攻撃らしい攻撃はしてこなかった。
だが、今の一人が大義名分を与えてしまったのだ。

「「ウォォォオオオ!!」」

先程の若者に呼応するように市民の集団が吼えた。
248 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:33:32.87 ID:eRGHfrTr0
遠慮を無くし、目の色を変えた集団が各々の武器を掲げて一条たちに襲いかかった。

「くっ!」

第一陣の木刀を一条は右腕に当て、受け止める。
一条たちとしても、これを予想していなかった訳ではない。
だが、機動力も必要とするため、装着出来た防具は籠手とすね当て程度。
攻撃を受け止めるには腕を使うしかない。
そして、それは同時に守護の瓦解と成りうる。
249 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:34:04.91 ID:eRGHfrTr0
「うぉおおお!」
「っ!クソッ!」

防御により腕を身体に寄せた一瞬、一条と杉田の間に割り込むようにして一人の市民が卯月へ向かう。

「はっ!」

どうにか足をかけ、投げ、転ばせると少し後退し卯月に近づき、崩れた陣形を前より縮めて戻す。
250 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:35:23.01 ID:eRGHfrTr0
「……やむを得ん、か」

合図は無い、がしかし、警察官三人は理解していた。
もう手加減は出来ない、と。
止めるために振るう拳に込める力が増す。
技が本格的な物へと変わる。
それでも時間稼ぎにしかならないとはいえ、警察が罪無き市民に振るって良い物では無くなって行く。
251 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:35:55.80 ID:eRGHfrTr0


「……やめて」

252 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:36:39.51 ID:eRGHfrTr0
小さく、声が聞こえた。
チラリと後ろを見れば、涙目の卯月がいた。
襲われる恐怖で泣いているのではなく、戦うことしか出来ないことに対する悲しみで涙を流しているということが一条には瞬時に理解出来た。
何故なら……一条も正にその悲しみを感じていたからだった。
暴力でしかやり取りの出来ない、とてつもない悲しみを……
隠してきた心の痛みを、卯月の涙で自覚した一条の気がほんの少しだけ緩んだ。
253 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:37:32.93 ID:eRGHfrTr0
そして、その隙は致命的な隙となった。

「オラァ!」
「あぐっ!?」

腹部へのスコップの一撃。
普段ならば十分耐えられる一撃に、一条は膝をついた。
人間の身体に深く傷が付いた時、それは比較的すぐに閉じるが治った訳ではない。
少しの衝撃で痛みと共に開く。
一ノ瀬志希による刺し傷が、その一撃により開き、一条の肌着の下の包帯に血が滲んだ。
254 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:38:14.55 ID:eRGHfrTr0
「「一条さん!」」
「一条!」
「オラァ!」
「うぐっ!?」

膝をついた一条の頭に、スコップでもう一撃。
255 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:39:15.68 ID:eRGHfrTr0
籠手でどうにか頭に直接当たるのは防げたものの、その衝撃は頭の芯まで届く。
軽い脳震盪により意識が遠退き視界が揺らぐ。
円形の布陣は崩れ、一人の壮年の男性が卯月に向かった。
その手に持つは猟銃。
猟友会か何かに所属し、それを得ているであろうその男性は、卯月にだけその弾を当てられる、絶対に外さないであろう距離まで近づき、構える。
他の市民は猟銃を恐れて離れた、ならば邪魔はなく確実に当たるだろう。
256 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:40:28.03 ID:eRGHfrTr0
そして、その肩に下げるは遺影。
一条に辛うじて見えたその姿は……第50号、熊谷和樹。
今回の未確認生命体の正体は人間、その発表を避けるために、熊谷和樹は第50号に殺されたということになっていた。
その親類であろう男性が、皮肉なことに未確認生命体第50号を憎み、未確認生命体ではない少女を殺そうとしていた。

「死ねぇぇぇええ!!」
「やめろっ!」

一条はその足を掴むものの、まだ脳は揺れており力が入らない。
そして、壮年の男性は引き金に指をかけ、別の男性は一条の頭に目掛けて止めに三回目のスコップを降り下ろそうとしていた。
ここで一条たちの抵抗も虚しく、一ノ瀬志希のシナリオ通りの展開になる。
257 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:41:12.61 ID:eRGHfrTr0



「だめぇ!!」


258 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:41:56.98 ID:eRGHfrTr0
筈だった。
視界の揺らぎが収まった一条が捉えたものは、時が止まったかのように動かずに、目を見開いてこちらを見る人々。
誰かに取り押さえられた壮年の男性。
259 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:42:30.99 ID:eRGHfrTr0
その誰かとは……

「はいはい、銃刀法違反の現行犯でシメちゃうわね」
「片……桐……さん?」

CGプロのアイドル、片桐早苗だった。
260 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:43:34.93 ID:eRGHfrTr0
だが、一条には違和感があった。
先程の制止の声。
それは片桐早苗の声とは違った。
もっと、角の無いというか……幼い声だった。
そして、動きを止めた人々の視線は、片桐早苗でも壮年の男性でも島村卯月でもなく、一条の後ろに注がれていることに気づいた。
261 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:44:12.12 ID:eRGHfrTr0
ゆっくりと、自らの背後を振り向いた一条が見たのは……

「っ!?龍崎くん!?」

スコップを降り下ろそうとして止まった男性の前に、一条を庇うように両手を広げる小さな背中だった。
262 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:45:13.75 ID:eRGHfrTr0
「刑事さん……大丈夫?」

こちらを振り向いた幼い横顔は、暴力への恐怖からか涙が零れていたが、一条を思いやる笑顔をしていた。
263 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:46:36.76 ID:eRGHfrTr0
一条が呆気に取られつつ頷くと、ホッと息を吐いて、凛とした表情に顔を変えると再び一条に背を向けた。

「刑事さんや卯月お姉ちゃんをいじめないで!
刑事さんや卯月お姉ちゃんは悪いことなんてしないもん!
刑事さんはみかくにんせーめーたいからかおるたちを助けてくれたの!
……だけど、刑事さんがみかくにんせーめーたいからかおるたちをまもってくれた時、刑事さんのことをこわいって思っちゃった。
だけど!それは悪いことをしたからじゃなくて、かおるたちをいっしょーけんめーまもろうとしてくれたからだって卯月お姉ちゃんが教えてくれたの!
刑事さんはかおるにけーさつのことをいっぱいお話してくれて……卯月お姉ちゃんはかおるといっぱい遊んでくれて……刑事さんも卯月お姉ちゃんも優しいの!
なのに……なんで……なんでみんないじめるの?」

背を向けているが、震えている声から、一条には薫が泣きながら言葉を絞り出しているのが理解出来た。
264 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:47:26.71 ID:eRGHfrTr0
年端もいかない少女の周りで、様々なことが起こった。
人が未確認生命体により殺され、優しい刑事は鬼神のような表情に変わり、未確認生命体の正体は大好きな優しいお姉さんだと言う。
未だに年齢が二桁にすら達していない少女が受け止めるには重すぎる状況。
それでも彼女は、それを必死に受け止め、その上で否定した。
社会ではなく、自分が見てきた優しい刑事さんとお姉さんを信じたのだ。
265 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:48:02.10 ID:eRGHfrTr0


「うっく……うぁ……うぇぇぇええん!」

266 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:48:46.83 ID:eRGHfrTr0
だが、耐えきれる筈もない。
様々な状況に、感情に圧し潰され、それを全て吐き出すように薫は大声で泣き出した。
裸の王様という童話がある。
それは、無邪気な子供により、嘘で塗り固められた世界が壊される物語。
今ここでも、同じことが起ころうとしていた。
幼い少女の泣き声は、絶叫は、卯月に暴力を奮おうとしていた者たちの心の揺らがせた。
267 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:49:33.49 ID:eRGHfrTr0
「……薫ちゃん」

大きな泣き声が響いている筈なのに不気味な程に静かな中で、卯月が暖かな声色で薫に語りかけた。

「卯月……お姉ちゃん……」

卯月に振り向いた薫の顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
268 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:50:44.55 ID:eRGHfrTr0
そして、感情に任せて薫は卯月の下へ泣きながら駆け寄った。

「頑張ったね……薫ちゃん」

両手を広げて走ってきた薫を、卯月は優しく抱き締めた。

「うぁ……うぁぁぁぁぁ!」

その胸に顔を埋めて、声が漏れないように顔を、口を卯月に押し付けて、薫は絶叫した。
その背中を撫でながら、卯月は何も言わずに抱き締め続けた。
269 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:51:29.76 ID:eRGHfrTr0
先程までうるさかった市民の声は聞こえない。
全員が武器を下ろし、目の前の光景に目を奪われていた。
今の卯月の姿は、人をゲームで殺す未確認生命体の姿とはおよそ正反対の位置にあった。
270 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:52:24.95 ID:eRGHfrTr0
「その……ママにはダメって言われたんだけど、早苗お姉さんにナイショでつれてきてもらったの……そしたら、卯月お姉ちゃんがいじめられてて……じゅうを持ったおじさんが出てきて、みんなおどろいてはなれたから、刑事さんと卯月お姉ちゃんを守らないとって……」
「うん……うん……ちゃんと分かってるよ……偉いね、薫ちゃん」

卯月が薫の頭を優しく撫でる。
その暖かさで、薫は涙で濡れた顔を綻ばせた。
271 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:53:47.74 ID:eRGHfrTr0
>>270
一文抜けてました。

叫びを全て吐き出し、大人しくなった薫が卯月から顔を離した。

「その……ママにはダメって言われたんだけど、早苗お姉さんにナイショでつれてきてもらったの……そしたら、卯月お姉ちゃんがいじめられてて……じゅうを持ったおじさんが出てきて、みんなおどろいてはなれたから、刑事さんと卯月お姉ちゃんを守らないとって……」
「うん……うん……ちゃんと分かってるよ……偉いね、薫ちゃん」

卯月が薫の頭を優しく撫でる。
その暖かさで、薫は涙で濡れた顔を綻ばせた。
272 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:54:32.50 ID:eRGHfrTr0
「薫ちゃんが頑張ったんだから、私も頑張らないとね。
……見てて、薫ちゃん、私も頑張るから!」

卯月がステージを見た。
その瞳にはもう涙も困惑も浮かんでいない。
強い覚悟で満ちていた。
すぅっと、卯月が大きく息を吸う、そして……
273 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:54:59.95 ID:eRGHfrTr0



「憧れてた場所を ただ遠くから見ていた」


274 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:55:33.45 ID:eRGHfrTr0
歌った。
輝くような笑顔で、力強く凛とした声で、ただ歌った。
275 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 21:57:17.00 ID:eRGHfrTr0
S(mile)ING!

https://www.youtube.com/watch?v=hsiSbpOQ0rw
276 : ◆ZfqRKaJB86 [sage]:2017/07/04(火) 21:59:37.02 ID:eRGHfrTr0
>>275

本当はフルなんですが、卯月の声だけのフルバージョンは上がっていませんでした。
フルバージョンは各自、CDなどでご視聴ください。
とても良い曲ですよ。
277 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:00:58.18 ID:eRGHfrTr0
音響機器の一つもない、楽器の音もないたった一つだけの歌声。
みんなに笑顔を、幸せを届けたいと夢を語った卯月の歌声。
それは、確かな光を放っていた。
その光は、人の心を照らす。
自らの心を照らし出され、武器を手にしていた人々は、自分の正義の歪みを自覚せざるを得なかった。
そして、その後の行動はたったの二種類。
武器を下ろし、道を開ける。
もしくは、自らの歪みを認める勇気を持てず、やけくそ気味に卯月に襲いかかるか。
278 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:02:08.94 ID:eRGHfrTr0
だが、襲いかかる彼らは止められる。
一条薫に、夏目実加に、杉田守道に、片桐早苗に、そして……ある者たちに。
彼らはずっと自分の信じる彼女を、卯月を本当に信じていいかどうか葛藤し、それを見極めるためにここに来た。
襲われる卯月を見ても、どうするのが正解なのか、自分の正義が正しいのか、自信が無く、ただ見ていることしか出来なかった。
だが、卯月が放つ光により、自分の正義の正しさを照らされ、彼らは動き出した。
その者たちを、今は『ファン』と呼ぶ。
だが、一昔前はこうとも呼んだ、『親衛隊』と。
歪みを認める勇気の無い者を取り押さえる彼らは、正しく卯月の『親衛隊』だった。
279 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:03:04.55 ID:eRGHfrTr0
もう、卯月の進む道を邪魔する者は居なかった。
ステージまで、綺麗に道が開き、そこを卯月は薫と手を繋いで歩いて行く。
ステージの階段で、薫の手を離すと、卯月はたった一人でその階段を上る。
ステージにまで上がり、武器を構えていた人々はもういない……ステージの上にはたった一人、卯月だけがいた。
280 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:03:47.38 ID:eRGHfrTr0



「愛をこめてずっと歌うよ」


281 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:04:15.32 ID:eRGHfrTr0

ステージに上がり、観客席の方を振り向いた卯月の表情は、歌い始めた時から変わらない眩しい笑顔だった。
282 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:05:22.98 ID:eRGHfrTr0
「わー!」

歌い終えた卯月を、薫の感嘆詞と拍手と笑顔が祝福した。

「「うおおおおお!」」
「……大したもんだな」

杉田が卯月にコールを送り出した『親衛隊』を見て呆れたように声を出した。

「腕、全然衰えてませんね、早苗さん」
「アイドルのレッスンってのもハードなのよ、やってみる?」
「それは一条さんだけで結構です」

実加と早苗はお互いに称えあった。

「……ありがとう、龍崎くん……おかげで助かった」
「えへへ〜♪どういたしまして!
それと、刑事さんにも!この前はありがとうございまー!
それと、お礼言えなくてごめんなさい!」
「気にするな……そうだ、龍崎くん、一日署長には興味は無いかい?」
「しょちょー?」
「一日だけ、警察官としてお仕事が出来るお仕事だ」
「ホント!?かおるやってみたい!」
「私が上に掛け合ってみよう、期待していてくれ」
「わ〜い!」

一条と薫はわだかまりを無くして語り合った。
その誰もが『笑顔』だった。
卯月が歌を通して与えたかった『笑顔』を、彼らはしっかり受け取っていた。
辺りが和やかな空気に包まれ……
283 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:06:10.23 ID:eRGHfrTr0


「……何で?」

284 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:06:40.61 ID:eRGHfrTr0
一瞬で崩壊する。
ステージに、突如として一ノ瀬志希が現れたのだ。
285 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:07:42.09 ID:eRGHfrTr0
「志希ちゃん!?」
「志希お姉ちゃん!?」

真実を知らない早苗と薫が驚きの声を上げ、周囲がざわついた。
286 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:08:47.00 ID:eRGHfrTr0
「うるさいよ」

志希が口に右手を当てる。
その右手を離した時、その手には直径3cm程の玉が握られていた。
それを志希は無造作に空に放り投げる。

「っ!?まさか!毛玉!?」

いち早く事態を把握した一条が薫を庇うように抱き締める。
と、ほぼ同時に毛玉がはじけた。
287 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:09:43.18 ID:eRGHfrTr0
毛というより、針の硬さと鋭さに変化したそれが降り注ぐ。

「「ぐああああ!」」

おそらく、ライブの際にカメラを壊したのと同じように、それは観客席にいた人々に刺さると、刺さった人は次々と倒れて行く。

「眠ってて?」

刺さった者は体内に特殊な薬品を注入され、眠りについた。
残ったのは、毛玉から逃れた……いや、標的から外されたのは、一条薫、夏目実加、杉田守道、龍崎薫、片桐早苗、そして『親衛隊』の面々のみ……会場の約2/3が一瞬にして眠りについた。
288 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:10:37.98 ID:eRGHfrTr0
「これって……まさか……志希ちゃんが……?」
「志希お姉ちゃん……?」

志希の行動は、早苗と薫に即座に真実を教えた。
289 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:11:24.54 ID:eRGHfrTr0
戸惑い、声を絞り出した二人になぞ興味無いかのように、志希は光の消えた目で卯月を見つめ、卯月も志希を見つめ返していた。

「……ねぇ、どうして?
どうして失敗するかなぁ?」
「……志希ちゃん」

一歩ずつ、ゆっくりと志希は卯月に歩を進める。
290 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:12:07.12 ID:eRGHfrTr0
一条は危機感から銃を構えたくなる衝動に刈られたものの、それを抑える。
卯月が、それを許さない。
卯月は一条たちが銃を抜くことを善しとしない。
卯月は、まだ志希と人間として向き合おうとしている。
警察官として失格だが、一条たちは卯月のその意思に賭けていた。
291 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:13:15.82 ID:eRGHfrTr0
「これで三度目……本当はあの刑事に撃ち殺させる筈だった。
護送中の暴動で殺される筈だった。
今ここで死ぬ筈だった……
なのに何故?何が卯月ちゃんを生かすの?」
「………………」
「歌って何が変わったの?
歌なんてただの振動数の組み合わせなのに、貴女の歌は何が違うの!?」
「志希ちゃん……」
「完璧だの天才だの言われたアタシの計画を!何にも無いお前が何でここまで狂わせる!?何が違う!何が違うの!?」
「うぐっ!」

卯月に近づいた志希は、激情を顕にして卯月の首を締めた。
そのまま、未確認の姿に変わりながら、力を強めて行く。
猫を思わせる異形の顔が、卯月を見つめる。
292 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:14:05.22 ID:eRGHfrTr0
だが、一条は銃を抜かない。
かつて、17年前に五代雄介を信じた時のように、島村卯月を信じているから。

「何でお前は全部持ってる!?
何がアタシと違う!?
何なの卯月ちゃんは!?
どうして貴女だけ……」
「志希ちゃん……」

首を締められ、苦しいだろうに、その様子を出さず、卯月は優しい声で呼び掛ける。
293 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:14:46.22 ID:eRGHfrTr0
「ゴメンね……志希ちゃんが何で苦しんでいるのか……私にはわからないの。
だけど……貴女の気持ちには成れないけど、貴女を思いやることなら出来る……だから、ね、お願い」

首を押さえられかすれた声で、優しく、先程の薫にしたように、卯月は志希の背中に手を伸ばして、その化け物の身体を抱き締めた。
294 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:15:19.01 ID:eRGHfrTr0





「………………志希ちゃん」




295 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:15:46.46 ID:eRGHfrTr0
そして、ただ名前を呼んだ。
続く言葉はない。
いや、それに続く数々の言葉を、声色に詰め込んで、名前を呼んだ。
296 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:16:35.86 ID:eRGHfrTr0
「うぁ…………」

志希の動きが止まる。
卯月の首を締めていた手が離れる。

「あぁ……」

その手が、卯月の背中に回り、少しずつ身体から色が抜け、志希の肌が戻って行く。
297 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:17:01.73 ID:eRGHfrTr0
そして、卯月を抱き締め返した。
志希自身の、人間の身体で。
志希の顔に表情が戻る。
その顔は…………
298 : ◆ZfqRKaJB86 [sage]:2017/07/04(火) 22:19:08.27 ID:eRGHfrTr0
ここで七章は終わりです。

まさか七章を投下するだけで一時間以上かかるとは思いませんでした。
では続けて八章を投下していきます。
299 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:19:55.15 ID:eRGHfrTr0
第八章「志希」
300 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:20:47.62 ID:eRGHfrTr0
アタシは、産まれた時から天才だった。
言葉を話すのも早く、一人で歩けるようになるのも早かった。
両親は、そんなアタシに喜んで、誉めた。
『天才だ!』『wonderful!』二、三ヶ国語を用いてアタシを称賛し、撫で、抱きしめた。
その時の両親の良い香りを今でも覚えている。
301 : ◆ZfqRKaJB86 [saga]:2017/07/04(火) 22:21:21.87 ID:eRGHfrTr0
アタシには人の感情が匂いで判る。
各種ホルモンやエンドルフィン、ドーパミン、アドレナリン、etc、それらが分泌された時の僅かな匂いの変化を嗅ぎ分けることが出来るらしい。
成長するにつれて、その鼻がアタシを誉める両親の匂いに混じる嫌な匂いを嗅ぎ分けるようになった。
その嫌な匂いの正体にも、賢いアタシはすぐに気づいた。
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