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北上「我輩は猫である」

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868 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:04:50.38 ID:bfDD7pNk0
叢雲「まあ溜まり場、サボり場なのよここ。私たちしか知らないけど」

吹雪「あ、でもでもサボってるわけじゃないんですよ。ちゃんと休憩時間なんです」

北上「そこは疑ってないけど」

というか普段の働きからしてもっとガンガンサボっても文句は言われないだろう。

北上「でそれは?」

吹雪「マイソウルドリンク」

叢雲「飲む?普通のビールだから」

北上「遠慮しとくよ」

吹雪「えー罪を共有しましょうよ」

罪の自覚はあるのか。

北上「私アルコール好きくないからさ」

吹雪「む、ならしょうがないですね」

飲めない部下に理解があるいい上司。
869 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:05:23.94 ID:bfDD7pNk0
叢雲「意外ね。球磨型はアルコールには強いと思ってたけど」

北上「別に飲めなくはないよ。好みの問題。というか皆そんなに強いの?」

吹雪「球磨さんは強いですねえ、飲んでも飲んでも顔に出ないタイプです」

叢雲「木曾は、強いのだけどそれ以上に飲みすぎるから潰れやすいわ」

北上「大井っちは普通に酔うけど潰れはしないタイプだったなあ」

吹雪「多摩さんは、多摩さんはなんといいましょうか」

叢雲「謎よね」

北上「謎?」

すごい表現だ。
870 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:06:02.24 ID:bfDD7pNk0
叢雲「飲んだらすぐ寝るのよ」

吹雪「でもちょっと寝たと思ったらいつの間にか起きててまたぐいっと飲むんですよ」

叢雲「そしてまた寝る」

北上「なんだそりゃ」

吹雪「最初の落ち着いてる時も中盤のどんちゃん騒ぎの時も終盤のお通夜モードの時も一切変わらず寝て起きて飲むを繰り返すんです」

叢雲「それで翌朝みんなが吐き気と頭痛に呻いてる中ケロッとした顔で朝ご飯食べるのよね」

吹雪「あれはホント謎だよね」

北上「なんだろう。なんか多摩姉らしい」

叢雲「マイペースの極みよある意味」
871 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:06:43.86 ID:bfDD7pNk0
北上「今度みんなで飲んでみようかな」

叢雲「いいんじゃない。でもみんなでってなると途端に難しくなるわよ」

吹雪「暇な時は多いですけど予定が会う日となると意外と揃わないんですよね〜」

北上「確かに。次の日出撃とかでも辛いしねぇ」

叢雲「ま、そこは最悪艤装を使えばアルコールは抜けるわよ」

吹雪「気持ち悪さは自己負担ですけどね」

北上「遠慮しておきたいところだね」

ちなみに猫にアルコールはダメ絶対。

我々はアルコールを分解する構造を持ち合わせていない。
872 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:07:19.50 ID:bfDD7pNk0
北上「二人はどうなのさ」

叢雲「私は普通ってとこかしらね。はっちゃけたりはしないわ」

吹雪「この子酔うと色っぽくなるタイプでしてね」
叢雲「ちょっと」
吹雪「特型駆逐艦は全員この子に唇奪われているなんて言われるくらいで。あ、半分くらい事実です」
叢雲「違っ」
吹雪「さらには提督を誘惑した事までありまして」ゴソゴソ
叢雲「なっ!?」
吹雪「こちらが証拠のビデオ映像になグヘェッ!!」

ビールの缶が凄く楽しそうな表情をした吹雪の頬に直撃した。

中身開けてないやつが。

ドッヂボールより痛そうだ…
873 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:07:53.72 ID:bfDD7pNk0
叢雲「はい!」ポイ

吹雪「あぁ…メモリーが…妹の貴重な映像がぁ…」

スマホにあった映像はしっかり消されたようだ。

バックアップあるんだろうなあ。

叢雲「吹雪はそもそもあまり飲まないわね」

吹雪「私はみんなの介抱する立場ですからねえ。強いとは思いますよ?こうしてビール飲んでますし」

北上「ビールって言っちゃってるし」

吹雪「生いきビールです」

叢雲「駄菓子でしょそれは」グビ
874 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:08:34.41 ID:bfDD7pNk0
しかし偶然ではあるがいい機会だ。

北上「ねえ吹雪」

吹雪「ん?」グビ

北上「ここの前任者って、どんな人?」

サラッと事も無げに聞いてみる。

吹雪「ブフッ」

北上「ありゃ」

吹き出した。吹雪だけに。

叢雲「吹雪」

吹雪「な、なに?」

叢雲「ヒゲヒゲ」

吹雪「おっと」フキフキ

泡の白いヒゲを手の甲で拭く。

オヤジか。
875 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/22(月) 03:11:38.92 ID:bfDD7pNk0
嫁がローソンの店員になったと聞いて。

もっと時間が欲しいものです。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 11:14:17.89 ID:9lgrDVvi0
更新乙でございます
瑞鳳が嫁艦ですか、次イベで活躍しそうなので楽しみですね
物語はいよいよ核心へですかね
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 10:46:52.70 ID:08MLsIw80
誘惑した提督は前任者なのか今提督なのか
878 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:08:51.07 ID:7kJBhy8y0
吹雪「前任者って言っても普通の人ですよ。退役したのは、歳でしたからね」

北上「提督ってのは記録を回収してまで引退するものなの?」

酔って口を滑らす、なんて期待しているわけじゃないがこんな機会は滅多にないだろう。

畳み掛けてみる。

吹雪「…」

叢雲「吹雪?」

吹雪「叢雲。ビールお代わり」

叢雲「まだ飲む気?もうないわよ」

吹雪「取ってきて」

叢雲「はあ?」

吹雪「お願い」

叢雲「…また一つ貸しよ」
879 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:21:43.11 ID:7kJBhy8y0
叢雲「…」

空き缶を持って扉を開ける。

中へ入る時、少し立ち止まったけれどそのまま静かに扉を閉めて室内へ消えていった。

北上「ん?」

叢雲の足音がしない。

扉を隔てた向こう側にいる?

覗いてみようと取手に手をかけたところ

吹雪「静かに」ボソッ

視線を戻すといつの間にか息がかかるくらい近くに吹雪の顔があった。

北上「ふ、吹雪?」ヒソヒソ

吹雪「いいから、このままで」ヒソヒソ

私はそう身長が高いわけではないけれど流石に駆逐艦とは身長差がある。

少し背伸びをしてまるでキスでもするような体制で吹雪が私の耳元で囁く。

吹雪「こうでもしないと話せませんからね」

どっちに対する言葉だろう。

いや、どちらにも当てはまる言葉か。
880 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:23:57.47 ID:7kJBhy8y0
2.3歩離れて手すりに寄りかかると元の調子で話始める。

吹雪「何処で知ったんですか?前の提督を知る人なんて殆どいないですし。多摩さん、は口は硬いですからねえ。日向さんも」

口は固そうだったけどガードは緩かったよ多摩姉。

吹雪「意外と谷風あたり?それとも、飛龍さんか」

飛龍。あの人も前からここにいるのか。

吹雪「おや、飛龍さんのことは知りませんでしたか」

北上「げっ、引っ掛けか」

顔に出てたか。私も隠し事は得意ではないようだ。

吹雪「まだまだですねえ北上さん」

北上「ぐぬぬ」
881 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:26:25.11 ID:7kJBhy8y0
吹雪「なんで、知りたいんですか?前任者のことなんて」

じっと見つめてくる彼女の目は、酷く冷たく感じる。

北上「普通気になるもんなんじゃない?」

少しおどけて答える。

お互いに探り合いだ。先手は取られたが次はこちらが攻める番だ。

吹雪「まあそうですね。でもそれならさっきの私の答えで満足でしょう?仮にも軍ですから、開示できる情報に限りはあるものです」

北上「同じ鎮守府にいたんだ。身内みたいなものでしょ」
吹雪「身内なんかじゃありませんよ」

食らいつくように答えを返してきた。何か気に触ったのか?
882 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:27:15.08 ID:7kJBhy8y0
北上「…理由は言えない。でも興味本位じゃないよ。知らなくちゃいけないんだ」

吹雪「何か提督に縁でもあるんですか?」

「提督」の言い方がいつもと違った。

優しいような、懐かしむような、慈しむような。

多分前の提督を指しての「提督」なんだろう。

北上「分からないよ。でもそうかもしれない」

そうだ。興味本位だった。でも今は違う。

何か縁がある。

そう思ってる。
883 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:38:02.72 ID:7kJBhy8y0
吹雪「日本生まれ日本育ちのごく普通の男性ですよ。まあ提督なんてものになってる辺りは普通ではないかもですが」

北上「国を守る為の、一国一城の主だものね」

吹雪「優秀な人でした。この戦争の始まりが何時からかというのは中々定義が難しいですけど初期から最前線で戦い続けた人ですからね」

北上「随分長いね」

吹雪「今の提督は三年と少しくらいですかね。昔より環境は格段に整っているとはいえ彼も中々優秀ですよ。前任者に似たんですかねぇ」

北上「前任と、後任か」

吹雪「優秀かは実際あまり関係はないんですよね多分。提督の必要性に関して言えば」

北上「必要性?」
884 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:38:38.80 ID:7kJBhy8y0
吹雪「艦娘ってのは提督がいて初めて艦娘なんですよ。この場合の「提督がいる」の意味は色々ありますけど、提督ってのは私達船にとって灯台のような目印であり港のような帰る場所なんです。

ならその提督がいなくなったらどうなるか」

北上「…」

提督のいなくなったら鎮守府。最近よく聞く話だな。

吹雪「あらゆる鎮守府のこれからの課題ですよ。戦争は長期化してきています。今後何らかの理由で鎮守府や艦娘より先に提督が消える事例はどんどん出てくるでしょう。

その場合どうするか。どうなるか。

この鎮守府はその実験というか、試験的な意味合いがあるんですよ。偶然にもね」

提督がいなくなったら、どうなる。

手から離れた風船。飼い主から解き放たれた犬。蒲公英の綿毛。雛の巣立ち。

そのどれかか、そのどれもなのか。
885 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:40:13.01 ID:7kJBhy8y0
北上「前任者の記録がない。というか末梢されてるのはその問題に気づかせないためってこと?」

吹雪「まあそういう感じでしょうね。結局のところ問題の先延ばしでしかないんですけど」

北上「そうだね」

吹雪「私達艦娘が実戦投入された時も世間はお祭り騒ぎでしたからねー。非人道的だーとかなんとか。

まあ安全地帯で騒いでるだけの暇人共ですから、深海棲艦に砲弾一発ぶち込まれれば泣いてすがりついてきますけど」

北上「危険だ、とかもね」

吹雪「扱い辛いのはその通りですよ。人形なのに戦力としては軍艦相当なんですから。そのくせ人のように振る舞う。縛り付け押さえつけて反乱でもされたら事ですよ。

なのに私達以外に現状を打破できる手段はない。仕方ない」

北上「提督がいなくなれば楔がなくなる、と」

吹雪「その可能性を知られるだけでも反乱の危険がありますから。情報が消されてるのはそのためです。

と言ってもここが初めての例ですし何がきっかけで艦娘が暴れるか分かったもんじゃないですからね。上もおっかなびっくり処理した感じで、こうして気づかれる程度のお粗末なものですよ」

北上「確かに。お粗末なものだったよ」
886 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:41:21.51 ID:7kJBhy8y0
吹雪「この鎮守府、昔も結構な人数がいたんですよ?戦力としても上から数えた方が早いくらいには優秀でした。

その結構な人数、どうなったと思いますか?」

変わらない調子で淡々と話す。

でも私は目の前の彼女がまるで宇宙人のように思えてきた。

同じ存在のはずなのに、自分とはあまりにも何かが違う。

吹雪「結果としてこの鎮守府で、新しい提督の元でも機能すると判断され、実際にそうだったのが僅かに数人だったという話なんですよ」

私の背中で、扉越しに僅かだが音がした。

これが聞かせたかった話しか。

自分から伝えるわけにはいかないが、知って欲しかった事実。

扉の向こうの彼女は何を思って聞いているのだろう。

目の前の少女は、他のみんなと同じように見える。

でも誰も経験した事がない何かをきっと知っている。
887 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:42:38.50 ID:7kJBhy8y0
北上「その結構な人数は、どうなったの」

努めて冷酷に、あえて淡々と聞き返す。

吹雪「当たり障りなく書類上の報告で返せば処分、ですかね」

北上「なんでさ」

吹雪「飼い主が消えたペットはどうなると思います?逃げ出すでしょうか。暴れたり、仲間同士で喧嘩したり、誰彼構わず襲うような猛獣だったり?

まあどれにしたって処分ですよね」

北上「そう」

吹雪「ええ」

聞きたいことを押し殺してただ相槌を打つに留める。

もしそうしなかったらと思うと、ゾッとする。
888 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:43:28.18 ID:7kJBhy8y0
北上「じゃあさ、吹雪は、なんで残ったの?」

言葉を慎重に探りながら聞く。

吹雪「頼まれたんですよ」

北上「頼まれた?」

吹雪「提督に、鎮守府を頼むって」

それは、あまりにも重い言葉だ。

北上「鎮守府の維持にこだわるのはそれが理由か」

吹雪「そーゆー事です」
889 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:44:03.47 ID:7kJBhy8y0
北上「おや?」

吹雪「行っちゃいましたか?あの子」

北上「みたいだね。そろそろ終わると踏んだか」

吹雪「引き際はホントに上手いんですけどねぇ」ヤレヤレ

北上「聞かせたことには気づいてるのかな」

吹雪「どうでしょう。そこら辺鈍いですから」

北上「信用ないんだね」

吹雪「信頼してますよ。だからこんな危ないやり方したんです」
890 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:44:49.99 ID:7kJBhy8y0
北上「正直意外だった」

吹雪「何がですか」

北上「一応とは言え話してくれた事が」

吹雪「それはこっちもですよ。まさかそっちから聞いてくるなんて」

北上「そっちからって、自分から言うつもりはあったの?」

吹雪「そうすべきかも、とは思ってたり」

微妙な笑顔で意味深な事を言われた。

北上「提督は、なんでいなくなったの?」

最後にもう一度聞く。

吹雪「…原因は色々あるのかもしれません。でも元凶は1人です。戦争ですからね、奴ら以外にいないでしょ?」

深海棲艦(奴ら)。それも、『1人』、か。
891 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:45:19.89 ID:7kJBhy8y0
吹雪「さてさて、話はおしまいです」

北上「ありがとね。色々話してくれて」

吹雪「叢雲の事があったから、いい機会はいい機会だったんですよ。でもそれ以上に」

喋りならがらゆっくりと扉まで歩いていきノブに手をかける。

北上「それ以上に?」

吹雪「期待してるんですよ」

北上「?」

吹雪「アナタにね」ガチャ

期待とはなんの事だ?

しかし私が何か言うよりも早く吹雪は扉の向こうへ消えていった。
892 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:45:48.60 ID:7kJBhy8y0
と思ったら顔だけが戻ってきた。

吹雪「おっと忘れてた!提督がさっき呼んでましたよ。東棟1階に来いって。それじゃ」シュン

北上「お、おう。りょーかい」

東棟?あそこ何かあったっけ?

やれやれどうやら丸くなってる暇はなさそうだ。

北上「んッ…ー」ノビー

大きく身体を伸ばす。

さて行きますか。
893 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 02:48:23.91 ID:7kJBhy8y0
第五次タペストリー争奪戦

何としてでも26日前には終わらせる所存。
北上にはひたすらイチャイチャしてもらいます
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 10:11:40.11 ID:FQcksltM0
タペって30日からだった希ガス
いつも更新楽しみにしております
無理の無い感じの更新でいいと思いますですよ
895 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:07:34.79 ID:7kJBhy8y0
52匹目:猫は三年の恩を三日で忘れる







文字通り、猫は三年の恩を三日で忘れるという意味。

いやふざけるなよと。

そりゃ放し飼いというかエサだけやってる近所の猫なんていつの間にかさっと消えててこの恩知らずなんて思われるかもしれない。

しかしそんな人間の尺度で勝手に猫は恩知らずだとことわざまで残されちゃたまったもんじゃない。

犬と比べるからぱっとしないだけで忠犬ハチ公ならぬ忠猫タマ公みたいな話は昔からある。

家猫が増えている昨今、飼い主と強い絆で結ばれている猫は増えているだろう。

結局のところ恩に報いるかどうかは人それぞれ、猫それぞれだ。

少なくとも私は

報いたい。
896 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:08:13.01 ID:7kJBhy8y0
私は飼い主を探している。

谷風曰く、こうして生まれ変わっているのには意味がある。

ならばここには何かしら縁があるのだろう。

事実白猫、もとい多摩姉がいた。絶賛記憶喪失中だけど。

しかしこうなるとどん詰まりだ。手がかりがない。

飼い主の情報はゼロ。頼りの相方の記憶は戻りそうもない。

故に私は今ここの鎮守府の前任者を探っている。

何か縁があると信じて。
897 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:10:13.26 ID:7kJBhy8y0
北上「ここか」

鎮守府東棟。

通称物置小屋。

つまりそういうことである。

古いものから最近のものまで要らなくなった物をとりあえず詰め込んだここは半ばパンドラボックス化しているとかなんとか。

外見はそこそこ普通なのだが中はかつて夏に肝試し会場として使われ多数の艦娘が上はモチロン下からも涙を流す羽目になり使用禁止となるくらいには不気味らしい。

北上「おじゃましまーす」ギィ

腐った木製のドアがいかにもな音を立てる。

うん、確かにこれは怖い。
898 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:11:09.98 ID:7kJBhy8y0
提督「よっ」

北上「…よかった。足はついてるみたいだね」

提督「幽霊なんかいねえよ。少なくとも俺には見えない」

北上「いるいないじゃなくて、いそうってのが幽霊なんだよ」

提督「おおなんかそれっぽい」

北上「でしょ」

提督「さてこっちだこっち」

提督の後について奥へ進む。

まだ明るい時間だというのに中はいやに暗い。

窓の掃除は、まあする人もする必要もないか。
899 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:11:49.52 ID:7kJBhy8y0
提督「ここだ」

北上「どこだここ」

一階の隅っこ。

古ぼけた建物の中でも一際古臭く見える部屋。

北上「なんの部屋?」

提督「それは見てのお楽しみだ」

そう言うとポッケから鍵を取り出し扉に差し込む。

北上「ふむ」

見たところ古臭い以外は他の部屋と変わらない。

提督「ん?」ガチャガチャ

だとしたらなんで私はなんで呼ばれたんだろ?

提督「ほ!」ガチャン

荷物運びとかなら私である必要は無いし、というかそれなら今すぐ帰る。

提督「ほ?」ガッガッ
900 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:12:27.73 ID:7kJBhy8y0
他に私が呼ばれるような理由は…

提督「…」カチカチ

北上「いやいつまでやってるの」

提督「せいっ!」ガチャ

北上「お」

提督「開いた…」

北上「長く苦しい戦いだったね」

提督「見ての通りボロッボロだからな。鍵もサビとかでひでぇんだこれ」

北上「鍵変えたらいいじゃんか」

提督「そうもいかなくてな。さ、入れ入れ」ガッ

北上「あれ?」

提督「…」ガッガッ

北上「…扉事変えたら?」

提督「…検討しよう」

この後もう少し手間がかかった。
901 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:13:18.66 ID:7kJBhy8y0
北上「おー不気味なほの暗さ」

中はぼんやりと棚やら物が見える程度には光が入っているようだ。

提督「オラァ!」バタン

北上「閉める時も大変なのね」

提督「最初から全力でやるのがコツだな」

扉を変えるのと壊れるのどっちが先だろうか。

提督「えーと、確かこの辺にランプが」

北上「ライトはないの?」

提督「電気通ってるように見えるか?」

北上「んー見えない」

提督「どっちの意味で」

北上「どっちも」

提督「なる」カチッ

北上「おわ眩しっ」

提督「おっと悪い悪い」

形はキャンドルランプのようだ。もっとも中身は電池式の豆電球のようだが。
902 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:14:04.21 ID:7kJBhy8y0
北上「ん?それって」

ランプが置いてあった台。見たことはないが知っている形だ。

提督「これか?昔使ってたプリンターだよ。業務用のでっかいやつだけどな」

北上「でもこれ結構新しいよね?なんで物置小屋に」

提督「2.3年前はフル稼働だったよ。北上は知らないだろうけど、週の予定やその日の出撃、遠征、演習の編成。大規模な作戦がある時なんか資料をしおりみたいにして配ったりしてたんだぜ」

北上「人数分?」

提督「流石に全員ってわけじゃないけどな。掲示板に貼ったり各部屋に一部配るとか艦隊の旗艦に渡したりとか。それでもえらい量だったよ」

北上「なのに今はお払い箱か」

提督「スマホあるからな」

北上「あーなるほどね〜」
903 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:14:38.18 ID:7kJBhy8y0
提督「便利なもんさ。ファイルでポンと送ればそれで終わりなんだ。修正も楽だし紙もインクもいらない。掲示板が廃れたのを青葉あたりが残念がってたけどな」

北上「時代の流れだねぇ。侘び寂びだよ」

提督「それって意味あってるのか?」

北上「さあ」

提督「おい」

北上「今はプリンターないの?」

提督「家庭用のちっこいのが代わりを務めてるよ」
904 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:15:21.83 ID:7kJBhy8y0
提督「まあこんなのはどうでもいいんだ。そろそろ目は慣れたろ?」

北上「うん。たいぶ」

提督「なら、ほら」

提督がランプを掲げ部屋に明かりを放つ。

北上「おー!」

思わず感嘆の声を上げてしまった。

部屋に広がっていたのは、いくつもの棚に収められた無数の本たちだった。

北上「凄い数!奥も全部そうなの?」

提督「おうよ。お前らの図書室ほどじゃないが結構な量のはずだ」

北上「でもなんでこんなところに」
905 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:15:59.94 ID:7kJBhy8y0
提督「あーっと、前の、ここの前の提督の忘れ物ってところかな。一応所有権は俺にあるから心配すんな」

北上「…前の提督の」

提督「この部屋もそもそもその人の図書室みたいなもんだったらしい。読書家だったんだろうよ。そんなだから、捨てるに捨てられなくてな。こうして部屋ごと残してあんだ」

北上「これが、全部」

前任者。

これまで一切経歴やその人となりが見えなかった誰かさん。

北上「…読んでもいい?」

提督「モチロン。そのために呼んだんだ」

本棚の適当な1冊に指をかけ手前に抜く。

初めて誰かさんに触れられた気がした。
906 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:16:37.55 ID:7kJBhy8y0
北上「ホコリとかはあんまりないんだね」

提督「それくらいの掃除はしてるさ。本のほうはよく分からないから保存状態は保証できないが」

北上「重畳だよ」

日光が入らないのは見た通りだけど、換気の方もそこそこされているようだ。

よれていたりはするけれど古本ならではという程度で素人の保存としては及第点だろう。

手に取ったのは『The Door into Summer』。

北上「英語?」

本棚に並ぶタイトルをざっと眺める。

提督「そ。これ全部海外の本なんだよ」

北上「なるほど。それで私ってわけか」

提督「別に無理に読む事はないぞ。もう北上くらいしか読むやつもいないだろうし、気に入ったのだけでも使ってくれれば御の字だ」

北上「気に入ったのかあ。これ全部をチェックするにはそれだけで長い時間楽しめそうだよ」
907 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:18:24.81 ID:7kJBhy8y0
提督「そりゃよかった。ほい」

北上「これって、ここの鍵?」

提督「俺はもう戻るから自由に使ってくれれ。あー暗かったら本はバンバン持ち出して構わないぞ。目ぇ悪くなるだろここ」

北上「人間じゃあるまいし、そんなんで悪くならないよ。ここで読む」

提督「そっか、ならいいけど。んじゃ」

北上「はいはーい」

日本人でこれだけ海外の本を集めるって中々だなあ。もしかして読書好きとかが私の飼い主との共通点とか?

さてどこから読んでいこうか。

ガタッ

いやその前にこの本たちがどう並んでいるかをチェックしよう。

提督「あれ?」ガタガタ
908 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:19:00.95 ID:7kJBhy8y0
とりあえずアルファベット順ではあるようだけどもっと大まかにジャンルや年代作者別の可能性もある。

提督「フンッ!」ガッ

いやらパッと見作者別はなさそうだ。

提督「ソッ!ハッ!」ガッガッ



北上「てーとく〜。いつまでやってんの」

提督「いや…」

北上「てーとく?」

提督「なんて言うかその…」

北上「提督?」

提督「微動だにしない」

北上「うそん」

驚きの密室体験。
909 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:19:53.78 ID:7kJBhy8y0
北上「艦娘パワーならいけると思うけど」

提督「それだと扉壊れちまうし」

北上「緊急事態じゃない?」

提督「まあそうとも言えるが…」

北上「なんか引っかかってるのかね」

提督「多分さっき閉めた衝撃で鍵が変に閉まっちまってんだと思う」

北上「鍵?あーホントだ。隙間から錠が見える」

提督「鍵でいけるかな」

北上「んー…ダメだ。中途半端に鍵かかってるせいで入らない」

提督「ダメかあ」

北上「ダメだあ」
910 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:20:35.46 ID:7kJBhy8y0
北上「やっぱ壊すしかないんじゃ」

提督「最終手段でお願いします」

北上「最終って…」

提督「そう悲観することもないだろ。鎮守府の誰かに連絡とりゃいいんだし」

北上「あっそうか」

普段スマホなんて持ち歩かないから完全に失念していた。

提督「…」

北上「…」


北上「あれ、連絡は?」

提督「え、いやスマホ部屋に置いてきちった」

北上「私スマホなんて持ち歩かないよ」



提督「マジで」

北上「マジか」
911 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:21:14.71 ID:7kJBhy8y0
提督「つんだ」

北上「最終と言ってもいいのでは」

提督「ん〜。ここに行くことは吹雪も知ってるしあんまり遅けりゃ探しに来るだろ」

北上「そんなにこの部屋が大切なの」

提督「まあな」

北上「…仲良かったりしたの?前の提督と」

提督「いや…仲はあんまし良くなかったかな」

凄く難しい顔をする。
912 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:21:46.85 ID:7kJBhy8y0
北上「よく考えたら私は別に急いで外に出る必要ないよね」

提督「俺も別に急いで外に出る必要はないな」

北上「いや提督は仕事しよう」

提督「不可抗力不可抗力」

北上「やはり扉を壊して出よう」

提督「まて落ち着け」

北上「日頃の行いが悪かったと諦めよう」

提督「それとこれとは別問だいたたたた折れる折れる本気出すなおい!」
913 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:22:20.10 ID:7kJBhy8y0
提督「どうせ俺がいなくても鎮守府回るし」

北上「これは酷い」

提督「書類とかだってぶっちゃけアレいらないだろ?古臭いしきたりみたいなもんだよ。今時んなもんデータで送れってんだ」

北上「まあまあ。私達のためだと思ってさ」

提督「お前らのためになるかは微妙だぞ?」

北上「なんでよ」

提督「戦争だからな」

北上「そっかー」

提督「俺が仕事をサボれば平和になる」のでは」

北上「それは見て見ぬふりって言うんだよ」

提督「う…」
914 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:22:56.28 ID:7kJBhy8y0
北上「後で吹雪に謝っときなよ」

提督「そーするよ」

北上「さてと。じゃ方針も決まったし救援がくるまでゆっくりくつろぎますか〜」

提督「くつろぐっても椅子もなんもないんだけどな」

北上「ホコリがないならそれで十分だよ」

一番手前の棚の左上から5冊ほどを抜き取る。とりあえずは片っ端から見ていこう。

本棚を背に床に座る。

北上「うわ」

提督「どした」

北上「妙な湿り気というか感触というか」

年季の入った板の出す独特の柔らかさがお尻に直に伝わってくる。

夏も終わり残った暑さと湿気がなんとも言えない生暖かさを演出していた。

スカートをしっかり下に引いた方が良さそうだ。
915 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:23:32.88 ID:7kJBhy8y0
北上「こういう時男が羨ましいよ」

提督「ズボンだしな」

北上「提督も来なよ」

提督「俺英語は読めねえぞ」

北上「そこは北上さまに任せなさい。それにずっと立ってるわけにもいかないでしょ?」

提督「まあそりゃそうだが」

北上「いつもの提督室みたいな感じでさ」

提督「…」

何やらしばし躊躇した後、

提督「おーけー、お邪魔するよ」

そうっと私の隣に座ってくれた。
916 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:24:09.02 ID:7kJBhy8y0
やっぱり大井っちの事を考えたりしているのだろうか。

まあ今は緊急事態だししょうがない。

しょうがないよ。

提督「で、それはなんて本だ?」

北上「『The Door into Summer』これくらいは分かるでしょ」

提督「…夏に、夏の、中の扉?」

北上「そんな固く考えなくてもいいって。夏への扉ってやつ。これは和訳のやつを読んだことあるんだ」

提督「青春ものって感じのタイトルだけど」

北上「内容はもっと大人っぽいよ。仲間に裏切られた主人公がね、唯一信頼してた猫ともはぐれて未来に行っちゃうって感じかな」

提督「裏切りかぁ。そりゃ辛いな」

北上「提督も明日は我が身だよ〜」

提督「よせやいこんなアットホームな職場で」

北上「うわぁこりゃいつ刺されるかもわからんね」

提督「俺が主人公なら猫は北上かな」

北上「またまたそんなこと言って〜。素直になりなよ〜」ツンツン

提督「素直な意見だよ素直なぁ」
917 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:24:42.23 ID:7kJBhy8y0
北上『The Lord of the Rings』」

提督「これは映画を見た気がするな」

北上「見に行ったの?」

提督「いや。鎮守府で上映会みたいなのやって色んな映画を見たりするんだ。正直これは途中から見たからあまり記憶が正確じゃないなあ」

北上「長いからね〜これ。よく映画にまとめたよ。ハリーポッターなんかもそうだけど」

提督「海外の映画なら俺はパイレーツ・オブ・カリビアンが好きかな」

北上「いつも安全地帯で指示出すだけなのに前線に出て船長とかに興味あるの?」

提督「グサッとくる。箱に心臓入れたくなるくらいグサッとくる」

北上「あ、結構気にしてた?」

提督「いいもん。これが俺に出来る最善だもん」

北上「でも海賊には憧れる」

提督「というよりは自由ってやつだな。もちろん無責任なほうじゃなくてな」
918 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:25:34.25 ID:7kJBhy8y0


……

北上「これもなんかなあ」

提督「二冊連続だぞ」

北上「やっぱ出だしでこう、なんか合わないって本あるんだよねぇ」

提督「俺にはよく分からんな」

北上「アニメとかで出だしでいきなりなっがい独白から始まってえっ…てなる感じ、かなあ」

提督「なんとなく分かった」

北上「こっちは、『Stray』?迷うとかはぐれる」

提督「びっきーアラン。聞いたことはないな」

北上「…これはちょっと読みたくなる感じ」

提督「そりゃよかった」

北上「ちょっと肩かりまーす」

提督「ちょ、おい。北上ー」

北上「やっぱ椅子無しは辛い」

提督「へいへい」
919 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:26:10.89 ID:7kJBhy8y0
北上「…あー、迷い猫はぐれ猫って意味か」パラパラ

なんだか親近感が。

あれ?

北上「なにやってんの」

提督「こうして座るとあんまり身長差感じねーなーって」

北上「そうじゃなくてなんで私のおさげをいじってるのさ」

提督「なんかフサフサしてて気持ちいい」

北上「猫の尻尾じゃないんだからさ」

提督「というかさっきからいじってたけど全然気が付かないのな」

北上「読み込んでたからね」

提督「ところで猫の尻尾って気持ちいいのか?」

北上「んー、どうだろう」
920 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:26:50.36 ID:7kJBhy8y0
提督「やっぱ長い髪だと筆みたいで気持ちいいな」

北上「そんなに気に入ったの?」

提督「俺なんかつんつん頭だしさ」

北上「提督のは染めてるのもあるでしょ」

提督「確かに」

北上「髪長いってのも色々大変なんだよ?寝転がったら体制変える度に髪に引っ張られたり巻きついたり。こうして座ってるとこから立とうとすると髪を足や手で挟んでピーンってなったり。艤装降ろそうとしたら髪の毛挟まってて頭を引っ張られたり「待て待て、落ち着け。ゴメン俺が悪かった」分かればよろしい」

提督「髪切りたいのか?」

北上「出来ればね〜」

提督「ふ〜ん。それはそれでもったいねえな」

北上「そう?」

提督「男は髪短いからさ、長髪ってなんか大切な感じがするのかな」

北上「隣の芝生は青いってやつかな」
921 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:28:08.97 ID:7kJBhy8y0
北上「あとこそばゆいねこれ」

提督「あ、やっぱ自分でもそうなんだ」

北上「風呂上がりとか特にさ。私の長さだと鎖骨あたりにちょーど刺さって。もうちょい長いと胸とかいくんじゃないかな」

提督「あのさ、その生々しぃ体験談を俺に対して女子トークのノリでするのはどうかと思うんですよ」

北上「あ、ごめん」

提督「俺って男だって事意識されてないのかな」

北上「どうだろね。人によるとは思うけど、私としては性別じゃなくて異性って感覚があまり無い気がする」

提督「どゆこと」

北上「提督が異性だと思えない」

提督「同じことだろ?」

北上「いやいや。例えば私が男で提督が女でも、提督がイケメンでも不細工でも、なんであれ差異を感じないって感じ」

提督「友達感覚しかない、ってことか」

北上「ここには仲間しかいないから」
922 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:28:46.67 ID:7kJBhy8y0
提督「仲間、ねえ」

北上「家族の方が合ってるかも。ファミリーだよ」

提督「姉妹にとどまらずか」

北上「みんな個性的だからね、私達には海より濃い血が流れてるんだね」

提督「なんだそりゃ」

北上「さあてね。提督、長い髪が好きなんだっけ」

提督「誰から聞いたよそれ」

北上「大井っち」

提督「あんにゃろ」

北上「てことはそうなんだ」

提督「自分にないものって憧れるじゃん」

北上「髪伸ばせば?五年もあれば結構な長さになるんじゃない」

提督「よせやい変人だよそんなん」

北上「今更でしょ」

提督「おい」
923 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:29:37.80 ID:7kJBhy8y0
北上「よっと」

読み終えた本を戻して新たに本を取り出す。

ずっと座っているのでこうして体を定期的に動かさないとあとが怖い。

提督「北上ーパンツ見えてんぞー」

北上「やーんえっちー」

提督「反応が薄い」

北上「見せ慣れてるからねぇ。それを言ったら提督こそ」

提督「見慣れてるからなぁ」

北上「世間的には結構とんでもないこと言ってるよねお互い」

提督「女ばっかの兄弟の中で1人だけ男みたいなもんなんじゃね。一々興奮なんかしねえだろ」

北上「んーイマイチわかんないや」

そこら辺は人間の感覚だろう。
924 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:30:16.84 ID:7kJBhy8y0
北上「提督も立ったら?腰痛めるよ」

提督「いやいいよ。今は」

北上「そお?流石に体育座りのままはキツそうだけど」

提督「フフ、提督を舐めるなよ」

天龍より怖くない。いっそかわいい。

北上「ならいっそ提督を椅子にしよう」

提督「へ?」

北上「ほら足広げて伸ばして」

提督「わっバカやめろ!ストップ!待て!」

北上「猫に待ては効かないよ〜」

提督「だあやめやめ!」
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 22:21:26.70 ID:FQcksltM0
更新乙です
口ではそんなことをいいつつ
息子スティックはおっきしてるのか……
提督も男という事なんですね
926 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:32:49.63 ID:7kJBhy8y0
北上「そんなに嫌だった?」

しばし取っ組みあったが流石に少女と大人、力の差は歴然だ。

ここで艦娘としての力を使うようなことは流石にしない。

提督「嫌ではないんだが…まあ色々とね、男としてと言いますか」

男?

大井っちの事かな。

別にこれくらいはいいじゃないか。

独り占めはよくないぞ。

提督「北上?」

北上「なら膝枕を要求しますよ〜」

提督「だ〜もわかったわかったやりゃいいんだろ。それならかまわないよ」
927 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:33:24.14 ID:7kJBhy8y0
北上「えー」

提督「んだよ」

提督、胡座。

北上「正座じゃないのそこは」

提督「木の板の上で長時間正座かつ膝枕とか拷問かよ」

北上「それもそうか。ちぇーひ弱だなあ人間」

提督「繊細だと言ってくれ」

北上「いやその言い方もどうなのさ」

提督「…割れ物注意とか?」

北上「ガラス細工だったとは」

提督「デリケートなんだぜ」
928 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:33:51.67 ID:7kJBhy8y0
北上「よいしょっと」

提督の少し固めの膝枕に頭を預け上を向き本を開く。

提督「お前はホント膝枕好きだな」

北上「知ってたの?あー大井っちか」

提督「私の膝は全然使ってくれないーって言ってたよ」

北上「大井っち余計なことばっかするからゆっくり寝れないんだよね…」

提督「本人に言ったらどうだ」

北上「なまじ悪気がないだけにこちらからは言い難い」

提督「善意って怖いな」

北上「てーとくから言っといてよ」

提督「なんで俺が。んな事言ったら嘘つけーって酸素魚雷が2発ほど飛んでくる」

2発という具体的な数字が出てくるあたり提督も慣れているというかなんというか。
929 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:34:19.65 ID:7kJBhy8y0
ふと上を見ると提督の顔が見える。

北上「提督ってなんで髪染めてるのさ」

提督「カッコいいだろ?」

北上「…」

提督「北上?」

北上「…」

提督「…」

北上「…」

提督「きたかみさーん」

北上「鏡って知ってる?」

提督「お前ほんっと容赦ないよな」
930 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:34:47.80 ID:7kJBhy8y0
提督「そんなに変か?それこそ海外じゃ金髪なんて珍しくないだろ」

北上「国によるけどね。でも天然の髪色を金髪というなら提督のそれはパツキンだよ。塗ってるどころか塗られてるレベルだよ」

提督「マジかよ…そんなに似合ってない?」

北上「見慣れたから特に変とは思はないけど、絶望的に似合ってない」

提督「マジかぁ…似合っててもおかしくないはずなんだがなぁ…」

妙な言い回しをする。なんでそんなに自分に自信を持てていたのか。
931 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:35:23.00 ID:7kJBhy8y0
ハラリとページをめくる。

北上「本のページをめくるのはパンツをめくるのと似ているのかもしれない」

提督「何言ってんの。いやほんとマジで何言ってんの」

北上「普段は目に見えない所を自分の手で顕にしていくというのがたまらないと言いますか」

提督「それ一緒にするのは他の読書家に失礼なんじゃないのか」

北上「中身はこうじゃないかと予想しながらそれが当たっても外れても楽しめる感じがさ」

提督「凄い、俺女子にパンツめくりについて熱く語られてる」

北上「提督はどう思う?」

提督「んー、パンツは見慣れてるしなあ」

北上「…もしかして提督って既に枯れてたりする?」

提督「そんな!ことは、ない…はず」
932 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:35:55.38 ID:7kJBhy8y0
北上「よし、こいつはまた今度読もう」

提督「当たりだったか」

北上「うん」

さて次の本はと。

提督「…」サラッ
北上「うわっ、なにさ提督〜」

前髪をサラリとかき分けられた。

提督「改めて見るとまつげ長いなって」

北上「そりゃあ私だってオンナノコですから」

提督「どうせ大井だろ」

北上「マアネー」

提督「大井は結構化粧とかファッションこだわる方だからなあ。鎮守府じゃそういうの気にするやつ少ないし」

北上「戦場だしね。でも大井っちが私にこういうの気にするようにって言い出したのは最近だよ」

提督「そうなのか?」

北上「そだよ」
933 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:36:31.86 ID:7kJBhy8y0
北上「最低限これくらいはしてください、ってさ。めんどくさいけど大井っちがやってくれるならいーかなーって」

提督「めんどくさがりだな」

北上「必要な事はやるよ。でもこれは別に必要じゃないでしょ?」

提督「そうか?オンナノコなんだろ?」

北上「猫が磨くのは爪だけだよ」

提督「毛繕いもしろってことだろ」

北上「えーやだーめんどくさいー」

提督「やっぱめんどくさがりじゃねえか」

北上「提督やってよ」

提督「俺?無茶言うな。三つ編みだってできねぇぞ」

北上「やってみると案外簡単なもんだよ」

提督「なら自分でやるんだな」

北上「ちぇー」
934 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:37:04.04 ID:7kJBhy8y0
提督「この髪も、海に出たら焼けてしまうんだよな」

北上「バケツかぶりゃ元通りだけどね」

提督「バケツじゃ治らないものもあるよ」

北上「ん?艶とか?」

提督「艶は、どうだろ」

北上「キューティクル」

提督「たまに聞くけどキューティクルって結局なに」

北上「私達で言う艤装みたいなものらしいよ」

提督「武器なのか」

北上「シールドってこと」

提督「そっちか」

北上「どお?私の髪は。キューティクルあるかな」

提督「サラサラだよ。サラサラだとキューティクルあるってことなのか?」

北上「…さあ?」

提督「えぇ…」
935 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:37:38.42 ID:7kJBhy8y0
北上「さっきの話だけど、こうやってさ」

提督「ん?」

北上「膝枕が好きっての。こうやって人に、ひっつくというかー擦り寄る?寄り添う感じが凄く安心するんだ」

提督「ほー。いよいよ猫みたいだな」

北上「アレはマーキングとかの意味もあるんだけどね」

提督「んじゃ今俺はマーキングされてんのか」

北上「…」

広げていた本を少し下にずらし提督の顔を見る。

提督「北上?」

今度は目が合った。
936 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:38:15.47 ID:7kJBhy8y0
北上「マーキングかぁ」

提督「んだよ」



北上「じゃあさてーとくは、私のモノだね」




北上「ぐえ」

一瞬の間の後驚くほど速い仕草で開いていた本を顔に押し付けられた。

提督「バカ言うな。そんなことしたら大井にありったけの魚雷を撃たれちまう」

北上「あはは、そりゃ怖いや」ガバッ

提督「もういいのか?」

北上「上向きで本読むと手が疲れる」

提督「最初に気づけよそれ」
937 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:38:42.64 ID:7kJBhy8y0
さて次の本次の本。

提督「今の本はどうだった?」

北上「これ?あー、えっとねえ」

なんだっけ、どんな内容だった?出だしは?登場人物は?

いやそんなことはいい。次の本だ次の本。

ガタンッ

提督「ん?」

北上「扉。救援かな」

そういえば救援が来たとしてあの扉をどうするか考えてなかったな。
938 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:39:15.42 ID:7kJBhy8y0
吹雪「チェストー!!」バキィッ!
提督「えぇーー!?」
北上「うわぁ…」


吹雪「イチャコラしてるバカップルはここかぁ!」

提督「てめ何してんだよ派手にぶっ壊しやがって!お前だってこの部屋はこのまま残しとこうって言ってたじゃねえか!」

吹雪「まともに機能しなくなったらそんなもの思い出せない思い出と一緒ですよ!朽ちた過去に想い入れなんか持たずに思い出くらい自分の中でしっかり保存しといてください!」

提督「いやでももうちっとなんかこう、あるだろお!」

吹雪「あるのは仕事だけですよ!鍵がぶっ壊れてるあたり状況は察しますがそんなんじゃ仕事は減りません」

提督「んな殺生な!あーまてまて引っ張るないててて北上ー……」


北上「おぉ…」

嵐はあっという間に扉の向こうへ消えていった。
939 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:39:41.04 ID:7kJBhy8y0
北上「せっかく貰った鍵だけど意味なくなっちゃったね」

静かになった事だし読書を再開しよう。

北上「なんだろこれ」

手に取った本に何かが挟まっている。

北上「写真か」

随分古い。

そこには

一面の麦畑と

その中で笑う一人の女性が写っていた。

その金髪の女性を、私は知らない。

知らないけれど、どこかで見た覚えがあった。

あの神社で。
940 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:40:33.63 ID:7kJBhy8y0
麦畑と比較して見るに身長はそこそこ高い。

それこそ大男と並んでいても不思議じゃないくらいには。

私ならきっと麦に胸くらいまで覆われてしまうだろう。

写真は、ここか。

本の見開き。ここに挟まっていた。

そこには写真と同じ大きさの跡と

M.Hという文字があった。

イニシャルか?

なんだか見覚えが…
941 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:41:03.95 ID:7kJBhy8y0
北上「あっ」

本の背表紙を見る。

下の方に、かすれて見えにくくなっているが同じM.Hの文字がある。

やっぱりこれは持ち主の、前の提督のイニシャルだ。

他の本にも書いてある。

M…提督も、今の提督も苗字はMだな。

あーいや、イニシャルだから苗字はHか。

イニシャルだけじゃどうしようもないか。

しかし何故この本に、この…

北上「『The Catcher in the Rye』。またこの本か」

あれ、そういえばあの時。図書室での時。
942 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:41:31.47 ID:7kJBhy8y0
多摩姉が言っていた。

まるで一枚の写真のように、

小麦色に、金色で、

一人の女性が。

じゃあ多摩姉が見たのはこれの事か?

でも何故?ここにあったのなら多摩姉が見る機会はなさそうなものだ。

だとしたらここにない時、まだ前任者がここにいた時に見た?

わからない。

わからないから、調べるしかない。

本を片っ端から見て、何か他にもないかを。
943 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:42:09.80 ID:7kJBhy8y0
北上「まだ何か挟まってるな」

こっちは栞か。

この本が好きだったのだろうか。

妙なマークが描かれているが特に情報になるものはなかった。

そんな事はいい、次の本だ。

早く、のんびりしてはいられない。

ここにある本全部だ。

機械的にページをめくっていく。

さっきまで広がっていた本の世界は、ただの文字の羅列になってしまった。

かまわないさ。私には目的があるんだ。

何かの本の前編を閉じ、私は棚に戻した。






っと、ここらでちょっと休憩にしようか。
944 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:45:31.14 ID:7kJBhy8y0
終わ、らない!

というわけでまだまだ書きたいのです。
随分と長話になってしまいましたがお付き合いいただければ幸いです。
でもとりあえず今日はこれから狩人生k
945 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 18:20:12.82 ID:goCMYBGlO

このスレの吹雪好き
946 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 17:46:58.05 ID:+9Ci3t3L0
吹雪も北上もしゅき
はたして提督の矢印はどこを向いているのか
947 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 09:26:55.29 ID:sRTRDis9O
その心荒ぶる羅針盤のごとき……
948 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:38:46.82 ID:9A3FF+BK0
谷風「いやあびっくりしたよ。丁度寝るとこだったからよかったものを、こんな時間に部屋に押しかけてくるなんてさ。一応私らの仲はあまり知られないようにしてるんじゃないのかい?」

北上「…」

時間は23時を過ぎたところ。

あれから無我夢中に本を漁った結果寝食を忘れてしまい、夕飯になっても現れない私を大井っちが血眼になって見つけ出してーまあ一悶着あった。

本に夢中になっていたと誤魔化し夕飯をさっさと済ませまた本を漁っていたらこんな時間。

でも明日を待つ余裕はなかった。

お馴染みの屋上。

北上「この写真の女性、誰か知ってる?」

谷風「ん〜?血相変えてこの谷風さんを呼び出したと思えば最初の質問がそれかい」

北上「知ってる?」

谷風「知らないね。生憎だけど艦娘以外で女性に会ったことは無いね」
949 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:39:42.76 ID:9A3FF+BK0
北上「これがね、物置小屋の本棚にあった本に挟まってたんだ」

谷風「あぁ、あの部屋か」

私が何を見て聞いてきたか察しがついたようだ。

北上「谷風」

谷風「なんだい」

北上「前任者について、話してほしい」

谷風「それはできないね」

即答だった。

常に囀りのやまないその口から飛び出た言葉とは思えないほど完全な否定。
950 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:40:10.32 ID:9A3FF+BK0
北上「何故」

谷風「あんまし覚えてないからね。なにせ鳥頭だからさ」

北上「…」

そうヘラヘラと笑う。

私が猫なら今頃食ってかかっているだろう。

谷風「そう今にも食いかかるような顔をしないでおくれよ。冗談さジョーダン」

北上「…」

トリはトリでも妖怪サトリの方みたいだ。
951 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:40:37.50 ID:9A3FF+BK0
谷風「覚えてないってのは嘘じゃないんだ。何せ私は自分の事で頭がいっぱいたったからね。自分の同族を見つけるために艦娘のことしか見てなかったんだ。

こう言っちゃなんだか悪い気もするけれど提督とは決して仲は良くなかったんだ。悪くもないだけで。まあそれは今の提督も同じなんだけどね」

北上「覚えてないから話せないって?そんな理由で」

谷風「それは違う」

北上「?」

谷風「私はね、同じ境遇の仲間を見つけるために止まり木としての鎮守府が必要だった。だからこの鎮守府に残った」
952 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:41:08.80 ID:9A3FF+BK0
谷風「吹雪から聞いたろ?彼女は、そうだねえ。ある種の呪いみたいなものだね。前任者から受けた言葉でこの鎮守府に残った」

北上「な、なんであの時の話の内容知ってるのさ」

谷風「壁に耳あり障子に目ありってね。最もあの時は扉に耳があったようだけど」

北上「そこまで…」

谷風「内緒話をするには少々場所が開けすぎだよあそこは」

北上「次回から参考にさせてもらうよ」

谷風「そいつぁこまるね。盗み聞きしにくくなっちまう」

北上「悪びれもしないんだね」

それにしても呪いだなんて。

言い得て妙なのかもしれないけれど。
953 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:41:52.25 ID:9A3FF+BK0
谷風「日向さんは読書という提督以外の拠り所があったからこの鎮守府に残った。もっともそれも提督の影響みたいだけどね」

あぁ、そう言えば以前そう言っていたっけ。

谷風「他にも何人か自分なりの理由があってここに残った。でもそれは決して提督の事を大切に思っていなかったわけじゃないんだ。それとは別問題なのさ。

私だってそうさ。大して関わりもなかったけれど、こんな変わり者をここに置いてくれた事に感謝してる」

言葉一つ一つから前任者への思いが伝わってくるようだ。

いつものように軽い口調だが、その一つ一つはとても重い。
954 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:42:30.09 ID:9A3FF+BK0
谷風「提督がいなくなっても提督がいたからこそここに残った。そして、だから私達は提督に最も近かった吹雪に付いていくつもりだ」

北上「吹雪に?」

前任者の秘書艦でもあったという吹雪。

谷風「もしかしたら私達も気づかないうちに吹雪を提督の代わりの拠り所としちまってるのかもねえ。ま、そんなんだからさ、吹雪が君に話さなかった以上私達もこれ以上君には話せない。そういうことさ」

北上「義理堅いんだね」

私達とはつまりここに残った艦娘の事か。

吹雪や谷風、飛龍さんに日向さんに、他の人も。

谷風「お堅いだけだよ。ついでに口も硬い。残ったのはみんなそんなやつばかりさ」

北上「どうだかね」
955 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:42:58.80 ID:9A3FF+BK0
谷風「ともあれ君の飼い主と前任の提督が何かしら繋がりがあるのは確かだろうね。随分と読書家だったけど海外の物まであったなら外人と繋がりがあってもおかしくない」

北上「無いと困るよ。この糸も繋がってないんじゃ本当に八方塞がりだ」

谷風「そうだねぇ。ならやっぱり提督、今の提督を調べるべきなのかな」

北上「今の?なんで?」

谷風「ここが少々特殊なのは知ってるだろう?ならその後釜になった彼にも何かしらの繋がりがあって然るべきじゃあないかな」

北上「繋がりねえ」

確かに提督は前任者に対して思わせぶりなところがある。

北上「君達が普通に話してくれりゃそれでいいんだけどね」

谷風「そいつは言わないでおくれよ。協力したいのは確かなんだからさ」
956 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:43:32.80 ID:9A3FF+BK0
北上「よし、とりあえずは」

谷風「とりあえずは?」

北上「お風呂に入ろう」

谷風「まだ入ってなかったのかい」

北上「ずっと本読んでた」

谷風「よっしゃ!なら私も付き合おうしゃないか」

北上「え、なんでさ」

谷風「裸の付き合いって言うだろ?」

北上「まあいいけどさ」

谷風「親子水入らずなんて言うけど、裸の付き合いは友人お湯いりようって感じだね」

北上「水を差すとかもそうだけど言葉における水って悪いイメージだよね」
957 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:44:27.24 ID:9A3FF+BK0
廊下を歩く。

私の横にはウミネコがいる。

裸の付き合いねぇ、猫は水は苦手なものだというのに奇妙な話だ。

北上「あ」

谷風「ん、どーしたんだい?」

北上「てーとくに鍵返さなきゃ」

谷風「鍵?鍵ってなんの」

北上「物置小屋の部屋の。まあ扉は吹雪がぶっ飛ばしちゃったから無用の長物なんだけどね」

谷風「ぶっ飛ばしちゃったかー。そこら辺は後で詳しく聞かせてくれるんだろうねえ」

北上「ありゃ、そこは覗き見してなかったんだ」

谷風「あはは、そんな覗き魔じゃあるまいに」

北上「あはは」

いや覗き魔だよお前は。
958 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:45:06.92 ID:9A3FF+BK0
「だからなんで急に見せたんですか!!」
「そりゃお前には関係ないだろ!色々と大変だったんだぞ!」


谷風「うわー」

北上「うわー」

提督室、の前、よりももちっと遠く。

廊下にもそこそこ声が漏れていた。

谷風「あのバカップルはいつも元気なもんだねぇ」

北上「これ周りへの騒音はどうなのよ」

谷風「あまり想像したくないね」

北上「鳥さん鳥さん、あの家はいつもあんなに騒がしいのかい?」

谷風「そうさねえ、週に一、二回はああしてピーチクパーチクやってるよ」
959 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:45:37.06 ID:9A3FF+BK0
「そう簡単に言うけどなあこっちも我慢したんだからな!」
「そんなの私だってそうですよ!」


北上「…いてっ」

谷風「ん?」

北上「あーいや、ちょっと鍵を強く握っちゃって」

谷風「なにやってんのさ…」

北上「ははは…さてお風呂行っちゃいましょーかねー」

谷風「鍵はいいのかい」

北上「今入ったら確実に巻き込まれるもん」

谷風「それもそうだね」
960 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:46:13.35 ID:9A3FF+BK0
谷風「お風呂上がりのドライヤーは任せておきなっ」

北上「何故自信満々に」

谷風「浦風や磯風にやったげてんのさ。君の専属スタイリスト程じゃないだろうけど得意ではあるんだ」

専属スタイリストて…いや大井っちはそれくらいやっているか。

北上「ならお言葉に甘えちゃおっかな」

谷風「おうよ」

北上「谷風ってお風呂好きなの?」

谷風「そりゃもう。暇さえありゃ朝風呂に入ってるよ」

北上「そんなにか」

江戸っ子?おっさんっぽいとも言える。
961 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:46:45.29 ID:9A3FF+BK0
谷風「最近は風呂が気持ちよくなってきたしね」

北上「それもそうだね」

谷風「湯冷めには気をつけなよ」

北上「大井っちにもう言われたよ」

谷風「流石だね」

北上「私は別にお風呂は好きでも嫌いでもないしね」

谷風「ほーん。嫌いでもないのかい、猫なのに」

北上「そっちこそ、鳥なのに」

お互いにニヤリと笑う。

秘密の友達との秘密の会話。

特別感というか背徳感というか、妙にこそばゆくて心地よい。

季節は、秋に差し掛かっていた。
962 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:49:14.40 ID:9A3FF+BK0
瑞 鳳 改 二

キリがいいので次スレへ、でいいのでしょうかね。
何分初めてなもので
963 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 14:54:29.03 ID:tP7R3ooT0
乙様です
次スレで問題ないと思います
次スレもお待ちしております
後、もしよろしければ次スレへ誘導も張っておいたほうがいいかと……
964 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 02:20:37.79 ID:6vYarKaho
おっつ追いついた
965 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 00:26:37.74 ID:SzOswvCR0
舞ってる
966 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/03/17(土) 04:14:12.16 ID:4BxzDs7d0
北上「我々は猫である」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521225718/

お待たせです。本当に。

大体ル級×6のせい
967 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/17(土) 15:01:03.72 ID:tZNGqewq0
あー徹子の部屋かー
支援が渋いと辛いなあそこ
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