神通「カリブの、海賊?」【艦これSS】

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256 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:09:23.21 ID:sE/Vv+Mi0




ギブス「そういや、ダッチマンって……、なぁジャック?」


ジョーンズに話しかけるのが怖いのか、思いついたことをジャックにいわせようとするギブス。
彼もそのことは早々に気づいており、いつ聞こうか考えていたところだが、ちょうどいいので質問した。


ジョーンズ「何だ?」


ジャック「ダッチマンは、俺たちの世界ではウィルが乗っている。
     あの船は確かにあの世界にあった。だったら、お前の乗ってる船は何だ?」


ジョーンズ「あぁ、あれはな。この世界のフライング・ダッチマン号だ」


その回答は想定していなかったのか、ジャックは答えに驚いてしまったが、
考えてみればその結論しかないとわかり、歯噛みする。


バルボッサ「俺たちはこの世界の歴史にはいなかった筈だが?」


ジョーンズ「クハハ、そうか! だが私は確かにいる!
      どちらの世界でも、デイヴィ・ジョーンズといえば、古今東西で海を支配する
      伝説の悪霊海賊の名だ!」


別にどうでもいいことではあるのだが、バルボッサは内心で少し悔しがった。



257 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:10:08.51 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「で、その伝説の海賊はどうやってあの化物共を倒したんだ?」


ジョーンズ「海に生きる万物の死神である私に、ただの船のゴースト共がかなうわけないだろう!」


それは堂々たる答え。長く海に死神として君臨したデイヴィ・ジョーンズだからこそ言える言葉だ。
しかし、ジャックとバルボッサは内心で訝しんだ。直前の、ジョーンズの目の動きで、
これが嘘であるのだろうと直感する。彼は何かを隠している気がした。


天龍「……、後続に控えていた敵の空母艦隊を壊滅させたのも、本当にアンタなんだな」


ジョーンズ「まさしく。単純に相性の問題として、亡者は私に勝てん。
      敵も壊滅したというより、消滅したといえる」



これは嘘ではないようだ。
手段は不明だが、とりあえずジョーンズには敵を倒す手段があることは確かだ。



258 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:13:39.87 ID:sE/Vv+Mi0



とりあえず、とバルボッサは話を区切る。
彼が求めていたのは、ジョーンズの話ではなく、カリプソの話だ。
一段落ついたので、まとめに入る。



バルボッサ「とりあえず必要なことは全てわかった。カリプソはジョーンズを呼ぶ際に、
      権能を最大限に活用するため、我々の世界から、奴の権能と適合しやすい
      神隠しの海域へと飛ばした。そして、数年を経て回復した力で、俺たちを呼んだ」



ジャック「なるほど、それだけ分かれば十分だ」




海賊たちの間で一つの結論に達したところで、
ベケットと吹雪の語り合いがようやく終わり、一度解散となった。




259 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:14:12.49 ID:sE/Vv+Mi0






















260 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:14:43.09 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 外国人士官区//




殆どが解散すると、部屋に残ったのは主であるベケットと、
その部下である吹雪、そして海の悪魔デイヴィ・ジョーンズだけとなった。


ベケット「……」


彼は、古ぼけた書物を真剣な顔で読んでいた。
その本は、まともに本として体裁を保っているのが不思議なほどで、
紙類にとっては天敵ともいえる湿気を多分に帯びており、コケやフジツボすらついている。



ジョーンズ「その日誌と、船に備え付けられていた海図。
      そいつのお陰で早々に現在地を特定できたんだよ」


ジョーンズが船から持ってきた本。それは古い航海日誌であった。
船の航続距離、天気、業務、その他船舶に関する様々な記録をまとめた日誌であり、
現代の軍艦にも欠かせず、日本でも備え置くことが法律が定められている。



吹雪「でも、これって航海日誌、っていうより、なんだか日記みたいですね」


その指摘にベケットも同じ感想を抱いた。
記述されている日にちは規則性がなく、気まぐれに書いている。
更に書式もバラバラで、内容も私的な文章が混じっていた。


261 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:15:34.66 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「これもまた、噂に埋もれた真実か」


ベケットは感心して、その日誌を読み終えた。
日誌の最後は、文章の途中で唐突に終わっていた。
まるで書いている途中に突然死んでしまったかのような途切れ方である。
だが、実際は死んでしまったのではない。天に召されたのだ。
それは同じようで、まったく違う。そのことを、ベケットも、吹雪も良く知っていた。



オランダ語で書かれたその文章。最後のページに綴られていたのは、
日誌を書いていた男が、愛する女へむけた最後の謝罪と、そして感謝。
女の名前はゼンタ。男の名前は、ダラント。




吹雪「これって、作り物じゃないですよね?」


ベケット「あんな顔の男が、今我々の目の前にいるのだぞ?
     あれに比べればこちらのほうが幾分かマシだ」


吹雪「あれもきっと映画の特殊メイクか何かですよ。マスクですよゴムマスク!
   中身は渋いおじいちゃんですよきっと。英国紳士みたいな」



262 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:16:01.11 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「動いているぞ、ゴムマスク」


ジョーンズ「クハハハ」


吹雪「うぅー、そうですけど……」



吹雪がちらりと目線を向けると、ジョーンズはここぞとばかりに顎の触手を
やたらめったに動かした。吹雪は、信じたくないのか、見たくないのか、
その光景から目を逸らした。



ベケット「しかし、そうか。この世界にもダッチマンは実在したのだな」



かつて元の世界でダッチマンを見たベケットですら、その事実は驚きだった。
ましてや吹雪の衝撃たるや、もの凄いものである。未だに信じられなかった。



263 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:16:40.20 ID:sE/Vv+Mi0



吹雪「だって……、ダッチマンってオペラの創作話でしたよね?」




フライング・ダッチマン。さまよえるオランダ人。
リヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ作品として知られるそれは、
ワーグナーの全オペラ作品の中で最も短く、そして有名な話の一つだ。

嵐を永遠に彷徨い続ける幽霊船の船長の話で、呪いに翻弄されるも、
その末に真実の愛を見つける男と女の話である。
そしてその主役とヒロインが、先述したダラントであり、ゼンタなのだ。




吹雪「それが実は実在しましたっていわれても……」


ベケット「いや、元をたどれば、ハインリヒ・ハイネという作家の小説が原案だよ。
     著名人を含めて多くの人間と交流があった方だ。どこかで聞いた現実の話を
     ベースに小説に仕立てたのかもしれない」



諸説はあるが、この原案となったのはアフリカの喜望峰辺りで興ったフォークロアである。
世界で見かけられる幽霊船伝説の先駆けであるが、実際はもっと昔から世界各地で
幽霊船の話や、それに類する話は散見される。日本でも、船幽霊という形で伝えられている。
こういった話のどれかがハイネの作品のアイデアになったと思われていたが、
実際は、本当にダッチマンの真実を、どこかから聞いたのかもしれないとベケットは思った。




264 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:17:11.26 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズ「だが、その最後の船長は今から200年近く前に日誌を書き残して死んでいる。それが、」


ベケット「死んだのではない。天に召されたのだ」


ジョーンズ「アァン?」


吹雪「そういう最後なんです。最期は幽霊船から解放されて、恋人と共に天に昇るという」




一瞬、沈痛な表情をとるジョーンズだったが、すぐに元の表情に戻り、つづける。




ジョーンズ「ならば、怨念がここまで蔓延っているのも、一つはコイツのせいだな」


吹雪「え?」


ジョーンズ「決まっている。恨み、憎しみ、怨念。それらを片付けるのがダッチマンの使命だ。
      ダッチマンの船長が天に昇ってしまえば、誰がそれをする?」



265 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:17:54.98 ID:sE/Vv+Mi0



吹雪はその言葉に瞠目する。
深海棲艦が現れた理由は、海戦当初から今に至るまで不明であった。


その理由の一端らしきものを、まさかこんな場所で、数百年前の海賊から聞くとは思わなかった。
それも相手はあのデイヴィ・ジョーンズである。昨日の自分にこのことを伝えても、一笑に付しただろう。




ジョーンズ「悲劇性の高い魂は共鳴する。それが悪霊や、神や、精霊のいる世界なら猶更だ。
      聞くところによれば、この世界にも妖精が存在するらしいな。そんな場所で、
      怨念が蔓延れば、そうなるだろうさ。引きあいやすいんだ、そういう奴らは」




海賊というには余りに博識である。吹雪はそれに感心するばかりだ。
それもそのはず。彼は海賊であるが、海の死神でもある。魂の取り扱いのエキスパートであり、
そのキャリアは気の遠くなるほど長いものだ。


266 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:18:39.77 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズ「では、次は貴様らが私に説明をする番だ!」



元々イスに深く座り込んでいたジョーンズだが、更に、どっかりと大きく座りなおす。



ジョーンズ「オイディプスの話だ。カリプソの昔の男。
      あとついでにその日誌の男の話もだ。全て聞かせろ」




吹雪とベケットは顔を見合わせた。そして内心で思う。
あれほど口では恨んでいる素振りを見せながら、気になっているのだ、カリプソを、この男は。
驚かされているばかりだった二人だが、ようやくイニシアチブを握り返したような気がした。





ベケット「では、まず古代ギリシアの叙事詩、『オデュッセイア』から」




海の神として、かつてジョーンズの恋人であったカリプソ。
デイヴィ・ジョーンズはそこで、初めてカリプソの過去を知ることになる。




267 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:19:06.65 ID:sE/Vv+Mi0











268 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:19:36.79 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 通信室//





漣「いやー、これ無理ゲーっすわ」



耳に当てていた通信機を外した漣は、背筋を大きく伸ばす。



天龍「通信設備周りもやられたか……」


漣「どうでしょう。遠目ではパッと見大丈夫そうでしたけど」



漣は手元の通信機全体を色々と弄る。
報告や指示を受ける為、先ほどから本土への通信を試みているのだが、不通。
見る限り、機器に問題はなさそうに思える。漣は一応、ドライバーとテスターで軽く
分解、整備してみたが結果は変わらない。一向に改善されない状況に、漣は机に突っ伏した。



漣「わっかんないんだよぉー!」


そろそろ集中力も限界である。外は未だに曇ったままだ。
午前まで綺麗に晴れていたのに、急に曇りだしたとおもったら
ずっと分厚い黒い雲に覆われている。風もきつくなってきた。これでは嵐になるだろう。


269 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:20:13.89 ID:sE/Vv+Mi0



漣「次の台風って何号でしたっけ?」

天龍「確か6号。てか何だ? この台風が原因か?」

漣「台風程度で不通になるほど、脆弱な電波使ってないと思いたいんですがねえ。
  この辺にはあっちゃこっちゃに電波塔も建ってることですし」


外した通信機のイヤホンからは、まったく応答は聞こえてこない。
周波数はこれで間違い筈だ。これ以上はもう漣では判断がつかず、
無線通信用の妖精も装備してくればよかったと歯噛みした。



ギブス「これは使えねえのか?」


部屋の隅の椅子にに座らされていたギブスが、懐から無線機を投げた。
それはベケットがフーチー号に置いていた無線である。



天龍「お前……、これ探したんだぞ」


回収しようと探しても見つからない筈である。
この男が懐に入れていたのだ。


270 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:20:44.19 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「遠くの距離、隔絶した船で連絡を取れるのは素晴らしいが、
      こう簡単に使えなくなるのでは話にならんな」


漣「はー、これだから老害は。普通こんな故障しないんですよ。
  それをみて無線全体の否定とは。使えない者の僻みでしょーに」


バルボッサ「何故だか知らんがな、いつだってその万が一は、一番起こってほしくない時に起こる。
      ケツに火が付いたどうにもならない状況の時に万分の一を引き当てる」


漣「はいはい、不運乙! 運と信心と功徳が足りてないんじゃないですか?
  売店行ったらこんな人形売ってるので買ってきては?」



そういってボージョボー人形を見せる。
艤装のあちこちについた人形は、戦闘が起こる前より、その数は倍ほどに増えていた。


271 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:21:31.92 ID:sE/Vv+Mi0



ギブス「なんだそりゃ。ブードゥー教の人形か? 貸してみろ」


漣「お前に貸す人形ねーから!」


漣はプイ、とソッポを向いて、また仕事にとりかかる。
天龍は、漣はどちらかといえば、もの珍しさで海賊と意気投合すると思っていたが、
関係性はあまりよくないので意外に思っていた。

気になっていた天龍はそのことを漣に質問した。
すると漣は頭に怒りマークを付けんばかりに答えた。



漣「そりゃそうですよ! 大体、海賊って何ですか海賊って!
  ワルに憧れるとか、そういうのは思春期で終わらせとけってんですよ! まったく!」


彼女としては、彼らが来てから悪いことばかり起こっているし、
そもそも、彼女はちゃらんぽらんなように思えるが、実際は真面目で心優しい少女である。
故に民衆にとって悪である海賊と仲良くするようなことはなかったのだ。



272 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:22:03.04 ID:sE/Vv+Mi0




漣「大体、そいつらって裏切り者でしょう? 漣、そういうのメチャゆるせんというか!」



天龍「あー……」


その言葉に、バルボッサの視線が向く。
鋭い視線というよりも、興味深そうに見ている。



バルボッサ「裏切り者だと?」


漣「ええ。だって勝手にほっぽらかして逃げるわ、今も船長救けに行こうともしないし。
  それによく考えたら最初会ったときもあのバンダナを生贄にしようとしてたでしょ!」



ちなみに、ジャックがここにいないのは、彼一人だけ再び牢に入れられたからである。
一緒に入れれば、また三人で協力して何をするかわからないので、二手に分け、
片方に監視をつけたのだ。



バルボッサ「それは違う。裏切りとは、弱者の言い訳だ。そもそも、アレと俺は仲間ではない。
      たまたま同じ船に居合わせた敵同士だ。それを言うなら、その男がまさにそうだが?」



273 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:22:51.68 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサがギブスを指さす。急に話を振られると思っていなかったギブスは慌てた。



ギブス「いや、そりゃ、助けに行こうと画策をだな」

漣「ほぉう。そっちの人は根性ありますね。敵の監視の前でそんなこというなんて」



天龍「まぁ、海賊にそんな正義を期待する方が間違いだな」

バルボッサ「ほおう?」


天龍「絡むなよ。本当のことを言ったまでだ。慣れてるだろ?」



天龍の態度にバルボッサは笑い出す。


274 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:23:39.97 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「よく分かってるじゃないかお嬢さん!」


天龍「悲しいことに、どんな時代でもお前らみたいなやつらがいてな。
   海賊は、いつの時代もそんな奴らばかりかと思ったんだ」



一瞬ヒートアップしそうになった天龍だが、それを抑えて話を終わらせた。
だが、バルボッサはそれを見逃したりはしない。




バルボッサ「随分と海賊がお嫌いなようで。……男か?」



天龍の表情は動かない。




バルボッサ「……違うな。仲間……、いや家族か? それとも、その目か?」




天龍の表情は、やはり無表情だ。
しかし、その後ろにいた漣の顔が分かりやすくゆがむ。



275 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:24:27.64 ID:sE/Vv+Mi0




バルボッサ「あぁ、両方か!」




バルボッサはしめたとばかりに嬉しそう笑みを浮かべた。




漣「あんたねぇ!」

天龍「漣。いい」



漣「っ、ぐ、あぁーもう!」




漣は手で顔をぐしゃぐしゃに擦る。彼女は自分の顔でバレてしまったことに気が付いていた。
その動揺を止められなかったことに、自分自身で腹が立っていた。




276 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:25:05.80 ID:sE/Vv+Mi0



天龍「隠すようなことじゃねえよ。馬鹿な海賊が人質とって、そこに運悪く敵が来て、
   敵味方諸共大勢死んだ。オレも怪我した。それだけだ」




長く続く戦争は多くの貧困を生み出した。


生活に困ったアジア人たちが、海賊として海に出始める。
更にそれを調べていくと、裏には元々その周辺国の有力者であった者たちが、
植民地解放の為に支援をしていたことが分かる。帝国はその一団の壊滅作戦に出た。


そしてその一団とマラッカ海峡でかち合う。敵はそこに住んでいた多くの人々を
人質にとっていたが、海上は天龍達が封鎖し、陸軍の突入も時間の問題だった。




だが、まだ深海棲艦から取り返して日が浅い海での出来事。
前線も目の前だった。人が集まりすぎたその海峡にて、深海棲艦の一団が奇襲をしてきた。


完全に不意を突かれた一撃。天龍はその日、姉妹艦と、右目を失った。





バルボッサ「ハハハ、運がない」


漣「っ!」




277 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:26:50.52 ID:sE/Vv+Mi0



そんな過去を容赦なく笑うバルボッサに漣の怒りがこみ上げるが、
天龍は軽く手をポンと漣の頭に置いて落ち着かせた。



天龍「まぁ、戦争だからな」

バルボッサ「戦争だからこそ、人質など見捨てればよかったものを」



天龍「できねえ相談だ。こちとら清く正しい帝国軍人なもんで」

バルボッサ「やはり軍人などにはなるものではないな。
      海賊暮らしが一番だ。気ままに力を振い、欲しい宝を手に入れる」



天龍「海賊になってまでやりたいことねえんだ、オレは。
   ありきたりだけど、今んとこコイツとか、仲間が宝だなオレは。
   その為なら力だって使うさ。帝国軍人万歳」



余りいつもの会話ではそういう話は出たことがないのだろう。
唐突に命に釣り合う宝物扱いされた漣は、少し顔を赤くした。



278 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:27:37.68 ID:sE/Vv+Mi0



漣「……、そ、そこは、ふーん。別に漣だけが宝ってしてくれてもいいんですよ?」


天龍「宝はいっぱいもってた方がいいだろ?」




マラッカ海峡で多くを失った天龍。怪我をし、絶望していた彼女にあてがわれたのが漣である。

漣は色々と問題児であったため、ていのいい厄介払いというか、塵をまとめて一か所にの精神で
組まされたに過ぎないコンビであったが、漣のマイペースさと日常感に、少しずつ前線で
蝕まれた精神が回復し、立ち直ったのだ。それは、神通と似た境遇であった。
彼女がこの部隊に来たのも、きっとそれを見越してのことだろう。



天龍「なはは、感謝してるよ」


漣「ふーん……」



頭に乗せていた手でグリグリと撫でまわす。
髪がはねるのも気にせず、漣はじっとそれを受け入れた。



279 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:28:11.49 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「…………」



こうなってしまえば、からかっても余り面白みはない。
なぜか勝手に友情を深めだした二人から興味をなくす。

視線をよそに移すと、ギブスが緑茶を渋そうな顔で飲んでいた。
何をしているのだコイツは、とバルボッサは理解できないという表情をした。



天龍「ま、そういう訳で、仲間という宝の為に命をかけるのも悪くねえってことだ」

漣「そうだそうだ! オゥ海賊! 聞いてるか! オオゥ海賊ぅ!」



友情空間から抜け出した二人は、もう一度バルボッサと会話を続ける。
しかし興味を失ったバルボッサはどうにも怠そうに答えた。


280 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:28:42.77 ID:sE/Vv+Mi0



バルボッサ「それはそれは勇敢なことだ。人のために死ぬなど、理解できん」


天龍「そりゃ残念だ」


漣「いやいやいや、映画だとこういうツンデレ野郎こそ、
  意外と最後は誰かの為に死ぬんですよ。仲間とか恋人とか、息子とか娘とか!」



バルボッサ「ありえん。お前らと違って、俺の宝は金銀財宝だけだ!
      誰かが宝など、ありえん……」




今度こそ、完全に、身体ごと顔を逸らしたバルボッサ。
漣は満足そうにすると、再び通信機を弄りだす。
機械はよく分からないので、手持無沙汰となった天龍は海賊二人の監視を続ける。

ギブスは慣れない緑茶に苦戦していた。何してんだコイツ、と天龍は思った。



天龍「?」



視線をもう一方のバルボッサに移すと、なぜか悲しそうな背中が見えた。
天龍はその理由を理解できなかった。







281 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:29:54.85 ID:sE/Vv+Mi0





漣「ん?」



何か気になる音が聞こえた気がして、また周波数を弄る漣。
すると、激しいノイズの奥で、声の様なものが聞こえた。


漣「お? お、お! なんか聞こえそう」


天龍「おぉ、マジか!」


漣「静かに。今カントリーロードしますから」


耳をすませば、聞こえるかもしれないとじっと息を止め、
周波数をその音に合わせる。




『い存し――、れか! 誰――るっ?』




ノイズに晒されながら、途切れ途切れの声が漣の耳に届く。
音の割れたその声は、辛うじて何かを発言しているということを聞き取れるレベルだ。



282 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:30:37.75 ID:sE/Vv+Mi0



天龍「本土に繋がったか?」


天龍が漣の手元を見る。
だが、漣はどこか不思議そうな顔をしている。


漣「でも待ってください。これって基地同士のものじゃないですよ。
  艦娘用の、携行型小型無線の波数です。誰か近くにいるんじゃ……」



そう言って漣と天龍は窓の外を見る。


外は、さっきより真っ黒の雲で覆われ、雨も風も明らかに強くなっていた。
1時間もしないうちの大嵐である。南方は天候が変わりやすいというが、
こうにも急に崩れるものか。



漣「ん?」



漣の視線の先に、何かが小さく動いた。
黄昏時、日も射さぬ土砂降りで、視界はひどく悪いが、
それでも微かに見えるそれを見つけた。




漣「ん? んん? あれってまさか――!」



漣は、急いで階下へ走り、港へ向かった。















283 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:31:05.19 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 営倉//





空爆により、基地の設備や機能は大きく損失していたが、
それでも、幸運にもこの営倉の所だけは綺麗に残っていた。


逃亡を企てた主導者で、基地の備品を盗んだジャックは、
ベケットの指示で、兵士に捕縛されて再び牢屋に入れられた。

一回目と違い、連れてきたのは艦娘ではなかったため、逃亡を企てられるのでは、
と思ったが、小柄ながらも鍛え上げられた兵士たち4人である。
武器もない状態で反抗するのは無理だったし、翻訳妖精を介していない
彼らは言葉すら通じなかったので、早々に諦めて牢に入った。



ジャック「暇だねぇ」



牢に入れられたからと言って、これから罰が待っているわけではない。
彼の手元にはベケットの求めたコンパスがある。カリプソ探しにでも使うのだろう。
今これがジャックにある以上、まず安心していられた。
ようは隔離されただけなのだ。別に今日明日の命という訳でもなし。



ジャック「あぁ、暇だ」



284 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:31:31.81 ID:sE/Vv+Mi0


すると、やることが無くなり、暇になる。
が、そうなると今度は、逃げ出してみたい欲に駆られる。

未来の別世界への冒険といえば、ジャックも心躍ること間違いなしの冒険だ。
今のところこの基地だけでも見たことのないもので満ちている。
それでもここは僻地に近いのだという。この世界の海の冒険は、非常に刺激的なのだろう。

ただ、今のところ、逃げて捕まって逃げて捕まっての繰り返し。大体の相手には手も足も出ず、
海に出たのもほんの僅か。宝のかけらもありはしない。

が、この男は諦めようとはしていない。内心でいつもチャンスを伺っているのだ。



ジャック「本当に、暇だ」


この短時間に何度目かの溜息をつくと、ジャックは壁にもたれかかる。



ジャック「なぁ、あんたもそう思わないか?」


神通「…………」



ジャックは、隣に収監されている神通に、壁越しで話しかける。
どんな表情をしているか知らないが、無表情か、鬱陶しいと思っている表情か、どちらかだ。


285 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:32:19.49 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「なぁ、こっから出してくれないか?」




神通は、無表情で、どこか鬱陶しそうにしながらジャックの言葉を聞き流した。



ジャック「なるほどなるほど。それもそうだ。そりゃ対価が必要だよな」


何も返していないのに、ジャックは一人で会話を続けた。
その口調はどこか芝居がかっている。




ジャック「よし。ここから出してくれたら、アンタの望むものをくれてやる」


神通「その、壊れたコンパスで、ですか?」




延々と喋りかけられるのも嫌だったのだろう。
小さくため息をついた後、神通は鬱陶しそうに話に応じた。


応じてしまった。




ジャック「その通り! ではまず答え合わせをしよう。
     なんでお前がコンパスを持ったら壊れたか」




286 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:34:09.10 ID:sE/Vv+Mi0



神通がジャックのコンパスを持つと、針はグルグルと動き回り、
まるで磁気が狂ったように、ひとところを指さなかったのだ。



ジャック「答えは簡単。壊れてなんてなかったからさ」


神通「はい?」



言っていることがよく分からない神通。
ジャックは構わず続ける。



ジャック「ここは、安全地帯だそうだな。戦火の及ばない、前線の内側。
     死と戦いが溢れる戦地に、ぐるりと囲われた平和な島」


神通「なるほど」



神通のその声は、どこか呆れと嘲笑も含んでいた。
中南米戦線、オーストラリア戦線、北極戦線、地中海戦線。世界にはまだどの方向にも激戦区がある。
そう、コンパスが周囲を指して回っていたのは、自分の周囲にあるそれらの最前線の戦場を求めていたからというのだ。


どこでもいいから、戦える場所を、と。




神通「私が戦争狂とでも言いたいんですか? 
   ですが、私は戦争や殺しが好きという訳ではありません。残念でしたね、名探偵さん」



神通はこれで話はおしまい、とばかりに打ち切ろうとする。
だが、ジャックは可笑しそうな声で続けた。



287 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:34:36.86 ID:sE/Vv+Mi0




ジャック「誰がそんなこといった。そうじゃない」


神通「はい?」






ジャック「お前が求めているのは、お前の自身の死だ。違うか?」







一瞬、神通は息をのんだ。


ほんの僅かな動揺、静寂。たったそれだけの情報が致命的だった。
壁を挟んだジャックはしてやったりと笑みを浮かべた。




288 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:35:15.97 ID:sE/Vv+Mi0



神通「……なにを」


ジャック「気づいたのは割とさっきだ。敵襲と気づくや否や、仲間をほっぽり出して
     一目散に敵に駆け付ける。かと言って敵を押しとどめるでもなく、
     なんの迷いもなく、鉄火場に身を投じた」


神通「……」


ジャック「極めつけは、この投獄だ。この国の軍隊じゃ、そういう蛮勇は許されないらしい。
     なら、なぜこんなになってまで命を懸けたか。理由はそう、命が惜しくなかったから。
     ……いや違うな。命なんて、無くなってしまえばいいと思ったからだ」



昨日今日会ったばかりの、知性のかけらも感じられないような装いのこんな海賊に、
心の中を暴かれてしまった神通は、喉から声を出せないでいた。


そう、当たりも当たり。ジャックの言うとおりだった。
しかし悟られるわけにはいかない。神通は喉を振り絞った。


289 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:37:14.57 ID:sE/Vv+Mi0




神通「……海賊が、偉そうに」


しかしその声は、何処か上ずっていた。



ジャック「軍人なら、声色で動揺が伝わらないようにしろよ。
     部下に不安が伝染しちまう」


神通「っ!」


ジャック「どうした。こんな海賊に心を覗かれたのが相当ショックだったか?」




神通は、怒りで身体が震えた。
ジャックはその様子を想像しながら、言葉を続ける。





ジャック「そう、結論を言えば、お前はただの死にたがりだったってことだ」



神通を煽るジャックの言葉は止まらない。
いつもより厳しく、鋭く、言葉が口から飛び出していく。



290 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:37:49.83 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「長い間船長として生きてきて、気づいたことがある。
     死にたがりを抱えてる船は沈むってことだ。そいつが、仲間を巻き添えにする」


神通「……」


ジャック「お前の過去は知らんが、あの戦いぶりで、戦線の内側に左遷されたんだ。
     相当戦って、相当勝って、相当仲間を死なせてきた。違うか?」


神通の目が見開かれる。歯を食いしばって耐えていた。
ジャックはトドメの一言を放つ。







ジャック「賭けようか、死にたがりのお嬢さん。
     お前はあと何人仲間を巻き添えにしたら死ねると思う?」








その心無い一言に、神通は、切れた。





291 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:38:17.63 ID:sE/Vv+Mi0



神通「っ、ああああぁぁあぁっぁああ!!!!!」



腕を大きく逸らして、思い切り壁を殴りつける。

急遽入れられたその牢屋は、艦娘の力に対抗できるほど堅牢ではなく、
一度殴るごとにひびが入っていく。その力は、ジャックの想定以上だった。



ジャック「お、おい待て!」



神通「殺す! 海賊め! 殺してやるっ!」




吹雪「神通さん!?」



ジョーンズへの講義が一息ついて、
営倉に入れられた神通の様子を見に来た吹雪が、
ジャックにとって、非常に都合のいいタイミングで入ってくる。



292 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:40:23.22 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「おい! こいつを止めろ!」


騒ぎになれば逃げるチャンスもあるか程度に思っていたジャックだったが、流石にやりすぎた。
ジャックらしくなく、少し熱くなってしまった。



吹雪「あなた何したんですかっ!」


ジャック「俺が知るか!」



吹雪は初めからジャックに非があるような目で見る。
事実そうではあるのだが、初めから神通が悪いものとは全く思っていない様子だ。

吹雪は、怒り狂う神通を宥めようと、牢の鍵を開け、中に入り、
神通に抱き着くようにして止めに入る。



吹雪「じ、神通さん! 押さえて!」


神通「離しなさい吹雪! こいつは! この男は!」



293 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:40:59.76 ID:sE/Vv+Mi0


完全に冷静さを失っている。
こんな神通を見たのは初めてだった吹雪は、ひどく動揺した。

だから、普段の聡明な彼女ならきっと言わなかった一言が口をついて出た。



吹雪「神通さんの気持ちは分かりますが、落ち着いてください!」




その言葉に、神通の目が、怒りの矛先が、吹雪の方に向く。
やってしまった。そう思った時にはもう遅かった。
ギュッとしがみついていた吹雪だが、軽巡と駆逐という艦娘としてのスペックのせいで、
軽々と剥がされ、突き飛ばされてしまう。



神通「冗談を言わないでください」


吹雪「じ、神通さん……?」



怯える心と冷や汗を抑え込み、平静を装って神通に話しかける。
神通は、激しく動いたというだけでは説明できない程、大量の汗をかき、呼吸を乱している。



294 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:42:17.73 ID:sE/Vv+Mi0



刀の様に鋭い視線で見てくるが、その焦点はどこを見ているのか、やや定まっていないように見えた。
先ほどまで壁に打ち付けていた右手から血が出ている。無論、壁ごときでは肌に傷一つつかない。
握りしめた神通の爪が、手のひらに食い込んで出た血だ。



吹雪「血、が、出てますよ……」


神通「私の気持ちが分かるなら、なんで、」



言うな。神通の理性が叫ぶ。
聞くな。吹雪の直感が警告する。

だがその意思に身体が従うより早く、神通の口が動いてしまった。






神通「なんで、わたしを助けたんですか――」





耳をふさごうとする吹雪の手が、止まる。
止まったのは手だけではない。表情も、身体も、思考も。心臓でさえ一瞬止まった気がしたし、
時間や空気もきっと止まっていた。


それほどに、場を静寂が支配した。



295 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:43:08.82 ID:sE/Vv+Mi0




吹雪「ぁ、ぅ……」



何かを言おうとするが、怯えて固まった身体は、言葉を発しようとしても嗚咽になってしまう。
吹雪は何かに突き動かされるように、その場を逃げ出す。



ジャック「ちょっと待て! 置いてく気か」


吹雪「っ!」




元はといえば、全てこの男のせいだ。
それが分かっていた吹雪は、再び隣の牢に入れておくなどという愚行は繰り返さない。
手持ちの鍵で格子を開けると、ジャックのコートを引っ張り急いで連れ出す。




部屋には、神通だけが取り残された。




296 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:43:54.22 ID:sE/Vv+Mi0


吹雪は格子を閉めないまま出ていった。
手足を拘束されていない神通はこのまますぐにでも抜け出せるし、
走って吹雪に弁解することもできた。

しかし、冷静でない今の神通にそんな考えは及ばない。


覆水盆に返らず。一度口に出してしまったことは取り戻せない。
そればかりか、一度零してしまった水が、止まることなくあふれ続けた。




神通「私は、なぜ助かったの?」



それに答えられるものは居ない。



神通「なぜ、私は死ななかったの……?」





川内。那珂。あの二人は、自分をかばって死んでいった。
姉妹だけではない。本来ならばあそこで沈まなくてもいいような仲間たちも、皆死んだ。
自分だけが生き残った。



297 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:44:26.98 ID:sE/Vv+Mi0



それは危惧された、歴史通りの結末ではなかった。


勿論、歴史通りに結果が現れるわけではない。
あそこで死んだのが今生の彼女たちの運命だったのかもしれない。


だが、それでも。あそこで自分が歴史通りに動いて、沈んでいったのなら、
他の誰も死なずに済んだのではないか。


死ぬべきだったのは、自分ではないか。






神通「あああぁぁっ!!」











自分は、死に場所を見失った。








歪んだ罪悪感が、神通の心を苛んでいく。













298 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:45:06.62 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 廊下//





神通の悲鳴から逃げるようにして、廊下を走っていく吹雪。
ジャックはコートを引っ張られて前のめりになっていた。


ジャック「おい! ゆっくり歩くか、それかせめて腕の拘束を解いてくれ!」


そう抗議するジャックを、吹雪はきつく睨みつけ、
胸倉をつかんで壁に押し当てた。


ジャック「っ痛て」


艦娘としては神通のスペックを一回り下回るものの、
その膂力は見た目以上どころではない。大の大人であるジャックは
強かに叩きつけられた。


吹雪「神通さんに何をしたんですか!?」


きつく問い詰める吹雪。その眼尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。


ジャック「さぁ。強いて言えば、死にたがりは仲間を殺すってな具合に言ったかな」


吹雪「っ、このっ!」



吹雪は掴んでいる胸倉を更に強く壁に押し当てる。
ジャックは気道を圧迫され、呼吸が苦しくなる。



299 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:45:33.57 ID:sE/Vv+Mi0



吹雪「あの人が! 神通さんがっ! そのことでどれだけ苦しんだか、わかってますか!
   仲間を失って、絶望して、ずっと今も救われないまま耐えてるんですよ!!」


ジャック「っ、おい! わかったわかった! 放せ、死ぬ!」


熱くなってしまったが、こんな男に何をいっても無駄だと気づいた吹雪は、
手を放し、ジャックを自由にする。ジャックは尻餅をついて、深く深呼吸をした。



吹雪「次、こんなことがあったら、……、どうなるかわかりませんよ」


そこを、殺してやると言えないのが、彼女の押しの弱さである。
そうして立ち去って行こうとする吹雪の背中に向かって、ジャックが言う。


ジャック「お前は、救う気はないのか?」


吹雪は、厳しいながらも、困ったような悲しいような、そんな顔をして振り返った。


吹雪「私に……、私が、救えるものなら、とっくにやってますよ」


300 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:46:05.69 ID:sE/Vv+Mi0



その言葉に、ジャックは笑うでもなく、珍しく真面目な表情をした。
吹雪はその顔に虚を衝かれる。



ジャック「どこまでやった?」


吹雪「え?」


ジャック「救うために、どこまでやったかってことだ」


吹雪「それは……」



それは、もう本当にたくさんのことだ。
彼女を瀕死の危機から救ったのも、その後、療養できそうな隊に入れてもらったのも、
色々なことを彼女と、彼女の上司であるベケットの力で手配した。


301 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:46:54.40 ID:sE/Vv+Mi0



が、ジャックが聞きたかったのはそういうことではない。
彼は一呼吸おいて、吹雪の目を見て話す。



ジャック「男だろうが女だろうが、必要なことは、何ができて何ができないかを知ることだ」


吹雪「? それってどういう――」





真意を問いただす前に、ドタドタと慌てるような足音が聞こえてきた。
廊下の角を曲がって、漣と天龍が二人を見つけた。



漣「っ! いた! 吹雪ちゃん! ちょっとこっち!」

天龍「いたか! ……てか海賊! なんでお前も居んだよ」




二人の会話に、慌ただしい闖入者に入ってくる。
何事かと振り向く吹雪。漣たちの表情は硬い。



何かが起こっているのだ。吹雪は、軍人としての意識に切り替えた。




302 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:47:35.58 ID:sE/Vv+Mi0


















303 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:49:05.15 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 外国人士官区//







吹雪「っ、本土空襲!?」



信じられないとばかりに声を上げる吹雪。
漣と天龍も同じ気持ちだった。
唯一、流石の危機に召集をくらった神通だけが、
泣き腫らした目で、淡々と聞いていた。



ベケット「正確には、本土の太平洋側を、満遍なく。そしてフィリピンの鎮守府など、
     その他南方基地の多くが空襲と艦砲射撃での奇襲を受けた」


ベケットは手元の書類を見ながら、平静を努めて報告する。
が、その表情はどこか固い。

無理もない、第二次世界大戦以来の本土攻撃だ。
それもこれほど多方面に、広範への攻撃は歴史上類を見ない。



天龍「首都は、東京は無事なのか? 鎮守府は!?」



天龍も動揺を抑えられないのか、話すたびに声が大きくなってしまう。



304 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:50:56.23 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「落ち着きたまえ。本土の鎮守府は経戦中だが、とりあえずの防衛線構築に成功したとのこと。
     首都は親衛隊が決死の守備に努めている。どちらも被害は軽微。だが、戦力が配備されていない
     地点では悲惨な状況になっているようだ。どこのその対応に追われている、と」



ベケットは紙媒体の資料を机に置く。
正式な書類だが、書式は雑。急いで書かれたことが見て取れる。




ベケット「これが、少なくとも6時間前の情報だ」


天龍「6時間って……」




それは、ちょうど、このグアム基地に敵襲があった時刻。
その同時刻に、本土含む南方周辺の基地が一斉攻撃に会っていたということだ。



吹雪「今、現在はどのように!? 6時間もあれば状況は変わります!」


そしてそれは恐らく、悪い方に。
これほどの大攻勢。そうそう止められはしまい。



305 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:52:36.79 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「不明だ。現在、通信設備が使用不能状態にある。
     恐らくは、この一帯全域で通信障害が起こっていると思われる」


その言葉に漣が頷いた。


漣「一応、色々検証してみましたが、基地内でしたら近距離の無線くらいはできますが、
  海上に離れるとほとんど通じなくなります。勿論、機器は正常です」


吹雪「じゃあ、この情報はどこから……?」



漣は真面目な表情だ。



漣「さっき、フィリピン基地の部隊に配属されていた、
  ……私の姉である曙ちゃんがボロボロになりながらこの基地に着きました」

吹雪「曙さんが!?」



驚く吹雪。彼女は優秀で頼りになる駆逐艦だと聞いている。
更にフィリピンのスービック鎮守府といえばアジア最大級の鎮守府で、
ベトナムをはじめとする、東南アジア奪還作戦の一大拠点となっている場所だ。


そんな場所で、一体何があったのだろうか。


漣は、唇を軽く噛みしめる。少し零れた涙を拭って話を続ける。




306 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:53:29.24 ID:sE/Vv+Mi0



漣「フィリピンの鎮守府は、6時間前に本土空襲の報を受けるも、
  その直後に数えきれないほどの爆撃機の攻撃に晒されたそうです。
  そして嵐が来て、各所との通信途絶。前線に助けを求めるために
  曙ちゃんが単身で敵中突破して前線に向かうも、前線との間に多数の敵艦を認めて退却。
  満身創痍で、なんとか、ここにたどりついたと……いうことです」


言葉の後半は、涙交じりだったが、なんとか全て伝えきる。


吹雪「曙さんは、無事なんですか?」


漣は何度も頷いた。それだけは不幸中の幸いであった。
が、この場で報告が出来ていないということは、それほどの怪我だったのだろう。
今は工作部の生きている設備で何とか治療しているというところか。



ベケット「この資料は、通信障害が起こり、途絶した中で、
     彼女が繋いでくれた値千金の情報だ。決して無駄にはしない」



ベケットの言葉に、艦娘たちが頷く。


307 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:54:09.84 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「では、引き続き、私が提督代行の権限を以て、敵の討伐を命じる。
     前線が動けず、内地が壊滅しているというのなら、動けるのは我々しかいない」


天龍「だけど、討伐ったって、敵の目星もついてねえし、
   何よりオレ達4人だけでなんとかなる相手なのか?」



ベケットは無言で頷いた。




ベケット「通信途絶前に、フィリピンのスービック鎮守府に送られた映像だ。
     何機も発進した本土の航空機のうち唯一機が、撮影に成功したものが、
     送られてきたわけだ」



308 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:55:12.32 ID:sE/Vv+Mi0




スクリーンに映像を映し出す。



長髪の側頭部から冠状の二本角を生やす、ドレスを纏った白い女がいた。
だが、注目されるのはそこではない。



その下半身とも言える部分には、艤装と一体化し、巨大で恐ろしい口があった。
華奢な女性体の部分とは打って変わって、化物らしい外殻をもったその下半身。
一目で見た目を表現するなら、そう。




ジャック「ドラゴン……」





終始口を挟まず、後方で座っていた海賊たち。
だがその映像をみてジャックが呟く。


そう、遠目で見れば、まるで海から顔だけを出すドラゴンの頭の様な見た目だ。


他の海賊たちも驚いている。
そもそも、「映像」という技術そのものにも驚いたが、そちらも驚きだ。
彼らの世界にも、名だたる神話の怪物が居たが、それでもドラゴンは見たことがなかった。
怪物の中でも頂上争いになるその怪物は、モチーフとして、海賊船の装飾にも用いられ、
彼らにとっても最強の強さの象徴でもあった。



309 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:55:51.47 ID:sE/Vv+Mi0




だがそのあっけにとられる彼らとは違い、
ベケットだけはその正体を知っていた。




ベケット「この怪物の名前は『泊地水鬼』。陸上基地型の特性を持つ、
     深海棲艦上位個体である水鬼級の一種だ。
     その発見は第十一号作戦、……セイロン沖海戦に遡る」





神通「泊地水鬼!?」



神通が珍しく声を荒げたので、天龍たちは驚いた様子で神通を見た。


ベケット「……そうだ、君にも少なからず因縁があったか?」



310 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:56:20.07 ID:sE/Vv+Mi0




神通「……はい。……倒したと聞いていましたが」



そう、泊地水鬼とは、最近、日英の主力をもってしてようやく仕留めた難敵。



圧倒的な制空能力でセイロン島は激戦となり、
またその方面に戦力が集中したことで、コロンバンガラ島の悲劇にもつながった。

局地的にはなるが、文字通り、洋の東西を問わず、夥しい被害をだした。
だがその末に、なんとか討伐を完了したと発表されていた。




だが、実は仕留めていなかったのだ。随伴艦を沈められ、
自身も血を吐き逃げ惑っていた泊地水鬼。

ギリギリまで日英連合艦隊から逃げ切るも、艤装の火薬機構に火が付き、
大爆発を起こした。そこまでは良かった。


しかし、爆発後、日英艦隊はその死骸を発見できなかった。


後に、コロンバンガラ島沖の戦いで、多くの艦隊を失った大本営は、泊地水鬼を討伐したと発表。
戦力をそちらに傾けて、犠牲を出して尚、敵を倒せなかったとは言えなかったのだ。



ベケットの解説に、神通の顔が曇り、唇をかみしめる。



311 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:56:52.72 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「まぁ別にこれは連合艦隊を責める話ではない。
     実際、当時の艦娘たちのレーダーにかからなかったことを考えれば、
     少なくとも沈没に値する致命傷を負っていたのだろう。
     ソイブイを掻い潜りこの海域に来たのも、反応しない程小さな生命力だったのかもしれない」



吹雪「しかし、……それほどの大破、単身で回復などあり得ません。
   時間経過とともに力を失い死ぬだけですし、万一回復しても、その瞬間ソイブイが反応して存在がバレます」



ベケット「その通り。だから、全ては一つの結論にまとまる」




ベケットは、再び赤色のペンを取り出し、地図に点を打った。




312 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:57:53.53 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「スービック鎮守府に映像を送り、撃墜された本土の航空機。
     その最終通信途絶地点は、ここだ」




その点を打った海域は、竜の海域。
ドラゴン・トライアングルの真ん中であった。




ジョーンズ「……その場所には、カリプソが居る」


ベケット「その通り。しかも普通のカリプソではなく、無茶をして霊格を弱めたカリプソだ」


ジャック「そのドラゴンにカリプソが呑み込まれたって? 馬鹿な」


ベケット「そうかな。艦娘も泊地水鬼も、妖精や怨念といったオカルトを用いて動いている。
     奴もカリプソも、同じ女型の精神体だ。カリプソが共鳴していることはないか?」




カリプソの神隠しの力が、泊地水鬼に引っ張られている。
同じくニンフとしての力を持ち、海に沈んだ、悲劇性の高い魂が共鳴している。
理屈は分からないでもないが、カリプソがそんなことをするだろうか。




313 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:58:19.18 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズ「するかも知れん。あれはそういう女だ。
      正確に言えば、共鳴というより、気まぐれな同情や興味、好奇心だろう」



どういう女か、という質問は誰もしなかった。
最終的に意味するところは「気まぐれな女」というところだろう。

気まぐれに人を手助けし、気まぐれに人を苦難に突き落とす。
加護を与えるも与えないも波次第、海に吹く潮風次第。それが海の女神。



ベケット「海の女神の力と泊地水鬼が融合しているとすれば、この現象にも納得がいく。
     現代のレーダーや無線は妖精技術や怨念体のエネルギーを数値にして
     敵の居場所を突き止めている。ここに、海を司る神格等という桁違いの
     力が放出されれば、レーダーや無線の許容量を大幅に上回り、使い物にならなくなる。
     レーダーがホワイトアウトしたのも、無線が落ちたのもそのせいだろう」



バルボッサ「ならば、この大嵐もカリプソのせいだな」


ジャック「あぁ、もう何もかも全部カリプソのせいさ」



ベケット「その諸悪の根源を叩けば、すべて解決。わかりやすいだろう?」



314 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:58:50.23 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズ「待て、カリプソごと殺すというのか!?」


ベケット「問題ない。泊地水鬼の殻を破壊すれば、勝手に融合など解かれる。
     そもそも我々の力では、女神を滅ぼすこと等逆立ちしてもできん」


ギブス「つまり、今からこいつを倒しに行って、
    ハクチスイキとやらを殺し、カリプソを分離させれば、解決ってことだよな?」


ベケット「我々は戦略的脅威である泊地水鬼が討伐できる。
     貴様らはその分離したカリプソに元の世界に返してもらえる。
     デイヴィ・ジョーンズはカリプソに会える。三方一両得だ」


ジョーンズ「俺は、会いに行く為に向かうのではない!」


ベケット「わかった。では、カリプソに直談判しにいく為としよう」


315 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 18:59:30.65 ID:sE/Vv+Mi0



その言葉に、ジョーンズは納得して席に戻る。
いちいち面倒くさいなとベケットは内心で思った。

とは言え、その後ろで実に不満げな顔をしているジャックに比べれば
まだかわいいものだ。

ベケットが溜息をつく。



ベケット「何が不満かね? ジャック・スパロウ」


ジャック「不満? じゃあ聞くが、俺たちは留守番で良いのか?」


ベケット「無論、貴様らもついてこい。お前たちは作戦の要になる」


ジャック「ほら見たことか! 無理だ! 無理に決まってる!」




ジャックは、とんとん拍子でまとまっていく話を、一人青ざめた顔で聞いていた。
彼はベケットに、機が来れば最後の命令として半日のあいだ船を出すよう伝えられていた。

これを予想してのことか、それとも保険だったのかは知る由もない。


だが、今となって考えれば、この命令に従うことは死を意味していた。



316 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:00:41.41 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「この海を? 俺が操舵する、俺の船で行けと?」


ベケット「お前ならばできよう」


ジャック「あぁ、あぁできるさ。だが普通の海じゃない!
     一歩海に出てみろ、頭上にはヒコウキ! 俺たちは海のド真ん中!
     超非現実的だぜ!」



ジャックはベケットが何か言う前に耳を閉じ、ソファにもたれかかった。
もう何も聞かないという意思表示だ。



ジョーンズ「スパロウがイカれた」

バルボッサ「ご愁傷様」


ベケット「ジャック・スパロウ。貴様と、貴様の持ち物はこの状況を打開するだけの力がある。
     素直に私に手を貸せ」


ジャック「嫌だね。勝手に戦って、勝手に死に晒せ」


317 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:01:20.99 ID:sE/Vv+Mi0



ヘラヘラと笑って協力を拒むジャックに、ベケットは軍刀を抜き放つ。



ベケット「貴様も死に晒したくはないだろう?」


ジャック「あ、そう。それで刺せるか? いいや刺せない。何故ならお前の作戦がパーになるからだ」


ジョーンズ「いいや、刺せるとも」


不意に、後ろからデイヴィ・ジョーンズも、ジャックの後頭部にカットラスを突き付ける。
予想外の脅しに、ジャックも固まる。



ジョーンズ「刺して、死んで、海に放り投げれば、めでたく貴様は俺の船の奴隷だ。
      自由意思で聞いてやってる今をありがたいと思え」


ジャックは生唾をゴクリと飲み、冷や汗を垂らす。
そして二人に見えない様にピストルを腰から手に取ろうとするが、今度はその手にバルボッサの剣先が添えられる。



バルボッサ「俺は戻ってラム酒が飲みたいのよ。いつまでもここにいるわけにはいくまい」



これで、ジャックは完全に抵抗力を失われる。
唯一の望みがギブスだが、彼はどっちに着こうか迷った末に、剣を床に置き、両手を上げている。


ジャックへの忠誠と、自分のみの危険を天秤にかけ、これでも敵に回らなかっただけ、
まだ忠誠心があるということだろうか。



318 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:01:48.69 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「それにスパロウの船からはめぼしい積み荷が全て押収されている。
     いいか、全てだ。そして私はそれを使うつもりでいる」


ジャックは驚いた顔でベケットを見て、ギブスを見る。
ギブスは申し訳なさそうな顔でうつむいた。忠誠心も、時と場所を選ぶようだ。



ベケット「何、私も積極的にそれを使う気はない。
     作戦通りいけば使う気はない。そして、作戦のためにはスパロウ、君の力が必要だ。
     ……言っている意味は、分かるな?」



ジャックは色々考えた末、抵抗は無理だと悟ったのだろう。
がっくりと肩を落とし、周囲はようやく剣を下した。





ベケット「では、総員、作戦を説明する」

















319 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:02:40.44 ID:sE/Vv+Mi0







ベケットの伝えた作戦は、手順はそう複雑なものではなかった。
だが、余りに型破りで、余りに博打の要素が強すぎた。



ベケット「我々の、たったこれだけの戦力で、本土・南方を蹂躙する怪物を倒そうと思えば、
     恐らくこれくらいしかない」


それは分かる。しかし、それにしても、余りに、余りに信じがたい作戦だ。
もっといえば、理屈は分かるが、信頼性に欠けた。それだけ突飛な内容だった。


吹雪「いえ、……しかし」


そう言ったきり、吹雪は黙り込む。
作戦立案の分野においては、吹雪はかなり優秀である。
机上の優等生的な回答だけでなく、限られた手札での奇策もできる策略家の面があった。
そんな彼女だからこそ、反論したくてもこれしかないと思えてしまい、黙り込むしかなかった。



ジャック「ちょっと待て!」


真っ先に反論したのは、先ほど説き伏せられたジャックである。



320 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:03:07.70 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「今度何だ?」


煩わしそうな声でジャックを睨みつける。
もう話は済んだはずだ、というオーラが言外ににじみ出ていた。



ジャック「作戦はわかった。俺が重要なのも、そりゃわかった。
     だけど、それだけは無理だ。そもそも作戦として機能しない」


ベケット「何故だ、お前の経歴ならこれくらいはできるのではないか?」


ジャック「だがそりゃパールに乗っていたからだ。フーチー号は悪くない船だが、
     それじゃ、それだけじゃ無理だ。性能が段違いだ」



その言葉に、ベケットは少し考えた。
失念していた、という訳ではないが、彼は色々な船を操っていたことを知っていたため、
パールかそれ以外かで大きく差が出るということまで考えなかった。
ベケットは少し悩む。



321 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:03:33.61 ID:sE/Vv+Mi0



その様子に、しびれを切らしたのはジョーンズだった。




ジョーンズ「では、パールがあれば行けるということか?」



その質問の意図を、ジャックは読めなかった。
しかし特に反論する気もしなかったので、頷く。
それを見てジョーンズがうっすらと笑む。




ジョーンズ「よかろう」










322 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:04:03.96 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 港//





強風と、豪雨。
波は港の防波堤を時折完全に覆いつくし、見ているものは胆を冷やした。

基地を上げて反攻作戦の準備に取り掛かっている中、
ジャックとギブス、バルボッサ、そしてジョーンズの4人は、
そんな大荒れの港に立っていた。

目の前にはフーチー号が、今にもひっくり返りそうな様子でつながれていた。


ジャック「本当なんだろうな?」


ジョーンズ「嘘はつかん」


ジャック「それが嘘だろう」



ジョーンズは、笑いながら懐からビンを取り出す。
それは、ジャックが大事にしまい続けていたブラック・パールのボトルシップだ。



323 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:04:32.76 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズ「この瓶の呪いには、古きアトランティスの力を感じる。
      私の専門外だが、これくらいなんだ。どうということはない」


バルボッサ「お前に信じがたい力があることは、伝説で知っているが……」


ジョーンズ「案ずるな! かつて全盛期のカリプソを封印する方法を
      海賊長たちに教えたのはこの私だ! デイヴィ・ジョーンズ・ロッカーに
      スパロウの肉体と魂を閉じ込めたのも私だ! いわば私は、封印の専門家だ」



そういうと、目を瞑り、ジョーンズはに向かって何事かを呟く。
すると、ビンの中のパールが回転し、渦に沈んでいくではないか!



ジャック「お、おい!」



ジョーン「まぁ見ていろ」



324 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:05:17.61 ID:sE/Vv+Mi0



すると、異変はすぐに起きた。


係留していたフーチー号も、同じようにしてみるみる内に沈んでいく。

大波の仕業か!


そう思ったジャックは見ていられないとばかりに船に走るが、
ジョーンズに触手で首根っこを掴まれる。

そして顔を近づけ、何本かの顎髭で首絞められる。



ジョーンズ「落ち着いたか?」


恐ろしい荒療治であるが、さすがにここまでされてはジャックも黙らざるを得ない。
血がすーっと頭から下がり、冷静になる。



ジャック「落ち着いた。……やめろ、これ以上は落ちる」


ジョーンズ「フン」



325 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:06:07.01 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズは、ジャックを詰まらなさそうに地面に放った。
体勢を起こしながら、ジャックがフーチー号を見ると、船は完全に沈んでしまっていた。



ジャック「嘘だろ、なんてことを!」


ジョーンズ「よく見ろ」








すると、海の底から、嵐にも負けぬ轟音をあげ、巨大な何かが浮き上がってくる。
クジラか? その疑問は、すぐに打ち消された。



何かが、水しぶきを上げて海面に浮きあがり、
ジャックたちの目の前に姿を現す。






ジャック「――!」



日も沈み、嵐で月も隠れ、真っ暗になったなかでも、その船を感じ取ることが出来た。


船に走り、手で触る。


その船の感触は、よく覚えている。


バルボッサとギブスも、同じようにして船を調べた。





本物だ。全員が思った。






本物の、ブラック・パール号だ。






326 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:07:14.12 ID:sE/Vv+Mi0



ジョーンズ「私の力で一時的に、ビンの中の船と立場を入れ替えた」



考えてみれば、黒髭の魔術を、デイヴィ・ジョーンズが破っても不思議ではない。
黒髭は伝説の海賊であるが、デイヴィ・ジョーンズもまた、伝説の海賊。
それも海の神話に加わるであろう伝説だ。もはや格が違う。

しかし、そんな伝説のジョーンズでもこれは難題だったのだろう。
ジャックらに一言付け加えた。



ジョーンズ「だが、それは一時的だ。アトランティスの神々を騙し通せるのは一夜だけ。
      日が昇れば、すぐにバレ、再び今と同じように沈む。次に昇ってくるのはさっきの二流船だ。
      夜のうちにケリをつけろ」




ジョーンズの言葉は、三人の耳から綺麗に抜けていく。
ちゃんと聞いてはいるのだが、気もそぞろだ。



あれほど恋、焦がれた愛しのブラック・パール号。



絶望的な戦力差の今夜の決戦。






しかしこの船があれば、何処へだって行ける。何者にだって勝てる。
この一夜だけでも、彼らにとって、最高の相棒が帰ってきたのだから!









327 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:07:42.27 ID:sE/Vv+Mi0























328 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 19:11:44.88 ID:sE/Vv+Mi0
次回、泊地水鬼討伐戦。

20:00投稿予定でしたが、今の分が想像以上に時間かかったのでもう少し遅らせます。
多分21:00かな。頑張ります。

ついに残り半分。次の投下が最後になるはず。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 19:26:13.93 ID:tghzJL/eO
>>328


>>108以降、悉く"dock"をドッグ表記してるのはちょっと気になる
330 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 20:19:15.92 ID:sE/Vv+Mi0
あ、確かに「ドック」ですね!

これだとワンちゃんですね、恥ずかしい。

幸か不幸かもう出てこない単語ですので、
皆さま脳内変換の程、よろしくお願いいたします。
331 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 20:20:18.88 ID:sE/Vv+Mi0
とりあえず予定通り21:00から始めます。
しばしお待ちを。
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/15(火) 20:56:41.50 ID:cWYkInCNO
>>155
このセリフをバルボッサに言ったら廃人になるwww
333 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:00:55.27 ID:sE/Vv+Mi0
>>332
ヴァージルと違ってバルボッサは割とイケイケですからへーきへーき。
小ネタはちょくちょく入れてるつもりなので、クスっと笑ってくださるとうれしいです。
334 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:01:53.98 ID:sE/Vv+Mi0
では、再開と行きましょう。
多分前半より文字数は少ないはずですけど、
量があるので時間はかかります。


どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。

335 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:02:48.00 ID:sE/Vv+Mi0
太平洋 海上//







暦で言えば、今日は満月のはずだ。空を見上げる神通はそう思った。


しかし、黒く分厚い雲と雨に覆われていては、月の光など一つも差し込んでこなかった。
周りには島も、人工物もない。そこは数々の夜戦を経験した神通さえ戦闘は覚束ないような、
明かり一つ存在しない漆黒の海だった。




そんな海を、一隻の海賊船が行く。




336 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:03:52.71 ID:sE/Vv+Mi0





タ級「ウ゛ゥ……」





漣「ひっ……」


天龍「大丈夫か?」




漣「だ、大丈夫、大丈夫……」




手も足も、喉も震えてまともに声が出せない漣。だがそれは幸運ですらあった。
闇の中、四方から深海棲艦のうめき声が聞こえてくる。

暗闇に多少慣れた目でじっくり辺りを見渡すと、そこには駆逐、軽巡、重巡、戦艦、空母と、
深海棲艦の一大艦隊勢力が控えていることが分かる。敵はこの嵐の海を哨戒し、
どんな侵入者も寄せ付けないようにしている。


もし漣が怯えで大声を上げていたら、瞬く間に滅多撃ちの目にあっただろう。




337 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:04:20.85 ID:sE/Vv+Mi0



ベケット「だが、これだけの軍勢が攻撃に参加せずに控えているのだ。
     本命はこの先にいるという証拠だ」



ベケットが小さな声で伝える。それを聞いて吹雪も頷く。
この兵力でどこかの基地を襲えば簡単に陥落するだろう。
そんな数を遊ばせているのは、そんな理由があるからだ。



338 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:05:01.33 ID:sE/Vv+Mi0



だがそんな数に任せた防御も、海賊たちには通用しない。


恐らくどこかの基地の帝国艦隊が討伐に向かえば、一瞬で藻屑と化しただろう。
それほどの戦力を、海賊船は奇跡的に潜り抜けていく。


この光景には、艦娘たちも仰天した。


ベケットから作戦を聞いたときは半信半疑どころか完全に正気を疑った。
忠実な吹雪ですらそうだった。それはあまりにも荒唐な展望で、無稽な策だった。
理屈ではそうあるかもしれないと思いはしたが、通じるとは思っていなかったのだ。




ジャック「ざっとこんなものかな?」


ベケット「悪くないな」



作戦を立案したベケットは自身のこもった表情でそう言った。しかし、内心は成功にほっと胸を撫でおろしていた。
本当ならば、もっと完璧な作戦を考えたかったが、泊地水鬼の攻撃がその時間をくれなかった。
無理に考え出したこの策は、ジャックたちの腕によるところが大きく、そこが不確定要素であったが、
その期待を、充分以上に超えてくれたのである。







海賊たちを乗せたブラック・パールは、月光さえ射さない暗い海を
静かに静かに、闇夜に紛れて進んでいく。







339 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:05:42.40 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号//






船が進んでいくと、波が徐々に高くなり、雨風も強さを増してくる。
パールは嘘のように船体を上下させ、軋んだ音を上げる。



嵐の中央に近づいている証拠だ!




気づけば、辺り一帯に山の様にいた深海棲艦たちも完全にいなくなっている。

なんと一戦もせず、親衛隊ともいえる敵軍の裏側を突いた。
少し相反する表現だが、「大方の予想に反して」「想定通りに」、
彼らは作戦の第一段階を成功させたのだ。



それを裏付けるように、更に波と嵐の強さが増す。



しばらくは船室で身を潜めていたジャックだが、急に顔を上げると
大粒の雨に打たれながら、滑らない様に船首まで走っていく。
そしてそのまま船から身を乗り出すようにして前を見た。



340 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:07:03.81 ID:sE/Vv+Mi0




バルボッサ「見えるか!?」


ジャックの様子に驚いて、慌てて追いかけてきたバルボッサ。
しかしジャックは首を振る。




ジャック「いいや、まだだ」



遅れて他の海賊たちもジャックの元に駆け付けた。



ギブス「見えたのか!?」


ジャック「いいや、まだ」



ジョーンズ「来たかぁっ!?」


ジャック「まだ、まだ!」



ベケット「奴はどこだ!」


ジャック「待て、待て、待て!」





341 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:08:01.87 ID:sE/Vv+Mi0



興奮していく船首付近。
五人は必至で目を凝らす。真っ暗な中、これだけ船が揺れていれば
見えるものも見えなくなって当然だ。泊地水鬼がいるのか、居ないかもわからない。



バルボッサ「何処だ……!!」


それでも、見つけなければ始まらない。
四人は何とかして見つけようと必死だ。





ジャック「西だっ!」



一人、ジャックを除いて。

全員が声に反応し、ジャックを見る。
そして確信を得たように西の方角を向く。



そこには、言われなければ気づかないような、薄く、大きな敵影が見えた。



342 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:08:38.96 ID:sE/Vv+Mi0




ベケット「戦闘準備だ!!」




ベケットは急いで踵を返し、艦娘たちに大声で叫ぶ。
嵐の勢いは絶えず増し、もはや声で居場所を知られることはないだろう。




バルボッサ「さぁ、パールよ進めぇ! いざ、我らを仇なす脅威の下へ!!」



敵影を見るや否や、バルボッサがマストを操り、完全に風を捕らえる。
その推進力を活かすため、ジャックは舵を目いっぱい回した。

揺れは上下に加えて左右まで加わり、船全体がシェイクされる。




ベケット「ぐっ……!」



ベケットは落とされないように、船の船縁にしがみつく。
艦娘たちも急な旋回に大慌てとなる。




343 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:10:11.21 ID:sE/Vv+Mi0




ギブス「さぁ、行こうぜ! また一つパールの伝説を作ろう!」




ジョーンズ「待っていろカリプソォ! 俺はお前に屈服なぞせん!」





しかし、信じがたいことに、海賊たちはそんな動き回る足元など一切気にせず、
その暴れる甲板の上に、嬉々として立っていた。


足腰が強いとかバランスがとれているとかという問題ではない。
長い間、ほぼ毎日、海の上を船で過ごしていた連中だ。
彼らは最早、艦娘たちとは違う意味で、船と一体化していた。





船は、見失うことなく、敵の下へ一直線に。






そして、






344 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:10:47.68 ID:sE/Vv+Mi0









ジャック「いよう、怪物」





見つけた。






距離は10メートルもない。ここまで近づけば、敵の姿も分かる。
夕暮れ時にも見たその巨体、その姿は、間違いなく、





神通「……泊地水鬼!」






345 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:11:18.96 ID:sE/Vv+Mi0



泊地水鬼『ウゥ、アァ……』




巨大な怪物を目の前にして、ジャックの心が震える。
彼は利に聡く、賢しい人間だが、なにより冒険好きなのだ。




ジャック「叫べ! ヨーホー!!」



その声は甲板に響いた。



ギブス「ヨー、ホー!」

バルボッサ「ハハハッ! ヨー、ホォー!」

ジョーンズ「ヨー! ホー!! 満足かぁスパロウ!!」



346 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:12:17.74 ID:sE/Vv+Mi0



ジャック「ベケットも! ほら!」


ベケット「不要だ!」

ジャック「必要だ! 絶対に!」

バルボッサ「その通り。必要だとも!」




まさかバルボッサまでジャックに賛同してくるとは思わず、
観念してベケットも観念して「ヨーホー」と叫んだ。

それをみてジャックは満足そうにした。
この窮地を、この海賊たちは楽しんですらいた。




ジャック「やればできるじゃないか!
     いくぞぉ野郎ども!」




ジャックは舵をギブスに託し、甲板中央に移る。
戦略的な意味合いなど無い。ただその瞬間を特等席で見たいがためだ。





347 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:13:01.20 ID:sE/Vv+Mi0





天龍「来るぞっ! 装填っ!」



吹雪「はいっ!」
漣「っ!」
神通「……」


旗艦である天龍の一声で全員が装填。戦闘態勢に入る。



天龍「来るぞ、来るぞ……!」



敵は強大だ。本来ならば、自分が全盛期の時に、この10倍の部下をもらって戦っても、
恐らく万に一つも勝ち目のない相手だ。


そんな相手に、これから立ち向かう。



348 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:13:34.51 ID:sE/Vv+Mi0



天龍「フゥー……」


天龍が深く呼吸をして意識を落ち着かせる。
案ずるな。立ち向かうが、真正面からではない。



天龍「あぁ、大丈夫。もう、誰一人死なせはしねえ……」




嵐雨の隙間から、戦艦水鬼の相貌が見えた。
文句なしの有効射程!




349 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:14:01.90 ID:sE/Vv+Mi0




天龍「撃ちーかたー始めえーっ!」




天龍の絶叫をかき消す一斉放火。



泊地水鬼『!』





動揺を突いた不意打ちは成功し、敵胴体に爆炎を上げさせる。




350 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:14:52.69 ID:sE/Vv+Mi0




戦艦水鬼『グウッ……!』



苦悶の声をあげ、嵐の中のパールをにらみつける。
ようやく、戦艦水鬼もこちらを認識できたようだ。





戦闘が始まる。





351 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:15:29.00 ID:sE/Vv+Mi0



ギブス「船長ぉー! 敵は堪えちゃいませんぜぇー!」


バルボッサ「かぁまわん! 敵影が原型を留めぬまで撃ち続けろ!」


ジョーンズ「殺せ殺せぇ! こちらが死ぬか相手を殺すか、選ぶ余地など無いぞぉ!」




戦場で狂喜している海賊たちの声が耳に入ってきた漣は顔を顰める。



漣「何を盛り上がってんですかあの海賊共はっ!」



その一言を耳ざとく聞き逃さなかったジャックは、
にんまりと笑みを浮かべて言った。



ジャック「お利巧ぶるな、お前もこの船に乗る以上海賊だ! 
     叫べ! ヨーホー! ヨー! ホー!」



352 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:16:38.86 ID:sE/Vv+Mi0



漣「あぁくそ! くそっ! 死ぬもんか! 死ぬもんか! ヨーホーっ!」


ジャック「そうだ、上出来だ! その意気だ!」





ジャックが周りを見渡す。





荒れた海、荒れた心、荒れた空、荒れた戦場。

敵も味方も、誰も彼も、何一つ穏やかならぬその夜こそは、彼ら海賊の生きる場所。








ジャック「諸君! 海賊の夜へようこそ!」









353 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:17:06.62 ID:sE/Vv+Mi0



四方八方に荒れる波に乗って、パールは再び泊地水鬼に接近する。
敵の動揺を突くには、余裕を与えてはならない。




ベケット「今だっ!」


天龍「撃てーっ!!」


天龍の号令で、再び至近弾を与える!
敵は目と鼻の先。外す方がおかしい。四人の砲撃は泊地水鬼の外殻に直撃する。
だが、それだけにとどまらない。



天龍「まだだ! やれ! 撃てっ!」



漣「っ、あぁあ!!」


吹雪「当たってー!!」



時間にして数秒。海上戦闘においては一瞬といえるその刹那に、
彼女たちは止まることなく次々と砲撃を食らわせていく!
たった一回の交差。それだけの間に、なんと一人5発。合計20発近い砲弾を放った。
泊地水鬼の胴体が、爆炎に包まれる。


354 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:17:43.92 ID:sE/Vv+Mi0




ジャック「ホッホー! 絶景だ!」



ジャックはその派手な爆発に両手を上げて興奮している。
神通は、自分たちが放った砲撃に驚いていた。
一瞬の一斉連射砲撃は、前線の長かった神通でさえ、見たことのない威力だった。


通常、彼女たちの戦いは、期せずして交互の撃ちあいになり、まるでターン制のような戦闘風景になる。
砲弾を撃ち出すには相当な火薬が要る。たった一発の砲撃でも、一瞬で砲身は超高熱を帯びる。
艦娘の艤装は軍艦の冷却機能よりもずっと優れているが、しかし連射などしては、砲身が瞬く間におしゃかになる。



こんな攻撃は普通はありえない。


当たり前だが、こんな攻撃をしていては、よほど運がよくなければ、一瞬で艤装が使えなくなり、
後は敵の的になるだけだ。

そして大して運のよくない彼女たちは、その全員がこの一回の攻撃で艤装を故障させていた。


ありえない攻撃をした代償だ。あとは死が待つのみ。




天龍「よし! 総員、交換!」



355 : ◆JjxDNGokTU [saga]:2017/08/15(火) 21:18:15.85 ID:sE/Vv+Mi0



だがそれはありえない作戦によって覆される。

天龍の一言で、艦娘たちは故障した艤装を背中から降ろすと、
船の外に投げ捨てた。



天龍「急げよ! 次の交差が来るぞ!」


神通「問題ありません」


漣「ふ、吹雪ちゃん、装着手伝って!」


吹雪「は、はい! 落ち着いて!」



彼女たちは、手近な艤装を持ち上げ装着する。




今、天龍達がいるのはブラック・パール船内の下層、船底部分。



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