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モバP「時々、事務所のアイドルが怖くなる時がありまして……」
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101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/02(月) 02:23:29.77 ID:P+B0IQL90
凛「……」
加蓮「……凛? どうだった?」
凛「ごめん、気のせいだったみたい」
加蓮「そっか、なら良かったね」
P(……まずいな)
P(凛が急にきたもんだから、とっさに近くにあったロッカーの中に隠れてしまったけど……)
P(これじゃあ、普通に話しかけた方がよかったかもしれないな……)
P(……とにかく、ふたりがどこかに行くまでここで黙っているしかないか)
P(ロッカーの隙間から姿が見えてしまわないように気を付けないと……)
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/02(月) 02:44:39.50 ID:P+B0IQL90
加蓮「もしもさっきの話がプロデューサーに聞かれてたらマズいよね」
凛「うん。下手したら集会に呼ばれるかも」
加蓮「前から思ってたけどあっちの派閥の子たちはさ、みんなちょっとやり方が過激だよね……」
加蓮「すこし前に、美波ちゃんが色々と言いにいったらしいんだけどさ」
凛「どうなったの?」
加蓮「ぜんぜん相手にしてもらえなかったって。中立派の意見は聞き入れないの一点張り」
P(……派閥、そういえばそんな話をみくも言ってたな)
P(アイドル達の中には、何かのグループがあるってことなんだろうが……)
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/02(月) 03:01:56.36 ID:P+B0IQL90
加蓮「正直なところ、私たちもどっちつかずだもんねー」
凛「加蓮はどっちに肩入れもしないの?」
加蓮「どっちかと言われたらそりゃ中立派の方にいくと思うけど……」
凛「私は、もしかするとあっちに行くかもしれない」
加蓮「……もしかして、卯月ちゃん?」
凛「うん、やっぱり心配だからさ」
加蓮「あれから結構経つけど、卯月ちゃんもあっちにいたからね……」
凛「今も夜は電話するんだけどさ。電話越しにね、いつもすすり泣く声が聞こえるんだ」
凛「……助けて、って私の名前を呼んでくるんだよ。それも死んでしまいそうな声でさ……」
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/02(月) 03:16:16.20 ID:P+B0IQL90
ガチャ
まゆ「……ふたりとも、こんなところで何してるんですかぁ?」
加蓮「ま、まゆちゃん」
凛「べつに、なにもしてないよ。まゆの方こそどうしたの?」
まゆ「……まゆはプロデューサーさんのために、お茶を淹れにきただけですよ」
まゆ「そういえば、プロデューサーさんを見かけませんでしたか?」
加蓮「プロデューサー? ううん、知らないけど……」
まゆ「……おかしいですねぇ。さっきお部屋に伺ったんですけど、不在だったんですよ」
凛「仕事か会議にでも行ったんじゃない?」
まゆ「だったら、いいんですけどねぇ」
P(……)
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/02(月) 03:25:19.73 ID:P+B0IQL90
えらく亀更新ですが気長に待っていてもらえたらうれしいです…
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/02(月) 05:34:18.34 ID:znXajF4no
続き期待
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/02(月) 05:34:38.83 ID:e29wENK0O
楽しみに待っとるよ
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/03(火) 04:34:51.12 ID:0JNVArd9O
続いてくれるだけで満足だよ。
乙
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/10(火) 22:40:29.78 ID:TKFA1FP40
待ってまーす
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/14(土) 20:46:50.78 ID:gsupRqrb0
凛「それよりさ、今度の集会はまゆは参加するの?」
加蓮「ちょっと、凛。やめときなって……」
凛「別にいいでしょ? まゆだって私たちと同じ仲間なんだしさ」
まゆ「……ええ、まゆも参加しますよ」
凛「だったら……今度の集会はどんなことをするのか、教えてよ」
加蓮「凛っ……」
まゆ「……ふふ。加蓮ちゃんも気になりますか?」
加蓮「そんなの、別に……」
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/14(土) 20:48:21.30 ID:gsupRqrb0
まゆ「でも、まゆも詳しいことは知らないんですよ」
凛「……本当に?」
まゆ「ええ……本当です」
加蓮「そのへんで、もういいでしょ。ほら凛もそろそろ行かないと……」
凛「……うん、そうだね。それじゃ私たち、この後用事があるから」
加蓮「またね、まゆちゃん」
ガチャ バタン
まゆ「……ええ。また会いましょうね」ニコリ
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/14(土) 21:03:26.71 ID:gsupRqrb0
◇
P「……」
ちひろ「気分転換、あんまりできませんでしたか」
P「えっ。今、何かおかしかったですか?」
ちひろ「外から戻って来られてから、余計に元気がなくなってますよ」
P「……ああ。すいません、考えることが多くって」
ちひろ「だから、コーヒー淹れてくるのも忘れてきたんですか?」
P「あっ……」
ちひろ「ふふ、仕方ないですね。私が代わりに行ってきますよ」ガタリ
P「ありがとうございます……」
ちひろ「いえいえ――ああ、そういえばさっき封筒が送られて来てましたよ
P「封筒、ですか」
ちひろ「ええ。そこの机の上に置いてますから、確認しておいてくださいね」
ガチャ バタン
P「……」
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/22(日) 03:55:42.57 ID:cPRfKQ1Z0
気になる…
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/02(木) 22:58:37.75 ID:7r40zvr2O
もう書かないの?
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/07(木) 03:57:44.12 ID:pjMVu73Wo
来ないけど保守
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/21(水) 22:11:38.52 ID:zORgsarkO
保守
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/05/19(日) 22:50:02.75 ID:uDOY19FU0
ほしゅ
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/31(水) 23:25:12.62 ID:GlTmhIcn0
P「封筒か……」チラッ
P(差出人は不明ということから察すると、この前の電話主のものなんだろうか……?)
P(あの話が本当なら、これで死んでしまった前任のことを知れるんだろうが、)
P(……さっきの給湯室でのことを思い出すと、今はあまり見る気にはなれないな)
P(それにしても凛たちの言っていた集会……あれは一体何を意味するんだろうか?)
P(20日の9時にレッスン場、か……)
P「まあいい。これは家に帰ってから見ることにしよう……」スッ
P(たまってる仕事もおわらさないとな、今日も残業になりそうだ……)
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/31(水) 23:27:09.97 ID:GlTmhIcn0
―自宅―
P「……ふう、疲れた。結局こんな時間になっちまったな」グッタリ
P「……そうだ、封筒を見るんだったか」
ガサゴソ
P「……これか」
P(ここに事故に関する手がかりが書かれてあるはずなのは間違いない)
P「……」
P(……だが、俺は本当にこれを見るべきなんだろうか)
P(みくの忠告を無視して、あの電話の主の言いなりになって……)
P(それが本当に正しいことなのか……?)
ピンポーン
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/31(水) 23:41:26.34 ID:GlTmhIcn0
書き始めから二年たっててびっくりしました、ぼちぼち続きをかいていきます…
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/01(木) 01:43:01.72 ID:+tjRWOHvO
約2年放置してたったこれだけとか草も生えんわ
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/24(土) 16:33:12.00 ID:cAfQVI9C0
ピンポーン
P「誰だよ、もうこんな遅いのに……」
ピンポーン ピンポーン ピンポーン
P(くそっ、鳴りやむ気配もないし、帰ってもらうしかないな)
P(……セールスだったら嫌だし、ドアを開ける前にのぞき穴から見てみるか)
P「どれどれ――」チラリ
響子「……」 ピンポーン ピンポーン
P「き、響子……? なんでここに?」
P(アイドルに俺の自宅がばれてるわけもないのに……だが、このまま放置するのもマズいな)
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/24(土) 16:35:11.02 ID:cAfQVI9C0
ガチャ
P「どうしたんだ響子、こんな時間に」
響子「あっ、プロデューサーさんもう帰ってたんですね」
P「……ああ、さっき帰ったところだよ。というか、どうして俺の家に来たんだ?」
響子「プロデューサーさんのために、お料理を作ろうと思いまして!」
P「……料理だって?」
響子「はい! ほら、来るまえに材料も買ってきてますから」
P「……ああ、気持ちはうれしいけど」
P(そのためだけに、こんな遅くに家に来たっていうのか? たった一人で……?)
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/24(土) 16:38:03.43 ID:cAfQVI9C0
響子「それじゃあお邪魔しますね♪」ガチャ
P「なっ、こら、響子!」
響子「わあ〜、これがプロデューサーさんのお部屋ですかあ。意外ときれいにされてるんですね」
P(素直に感動してる場合じゃないだろ……)
P「なあ響子、こんなところを誰かに見つかったらただじゃ済まないんだぞ。分かってるのか?」
響子「はい、わかってますよ。私も、そのつもりで来てますから」
P「そのつもりでって言われてもな……」
P(未成年を家にあげたなんて知られたら、俺も響子もどうなるか……)
P(――それに、今はあの封筒の中身も気になってるっていうのに……)
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/24(土) 16:54:51.07 ID:cAfQVI9C0
響子「プロデューサーさんは、なにが好きですか?」
P「……まあ、好き嫌いは特にしないかな。響子の作るものだったらなんでも食べるよ」
P(とりあえず帰る気になってくれるまで話を合わせるか……)
P「……それにしても響子はエプロン姿で台所に立ってると、すごくしっくりくるな」
響子「えへへ、そんなに褒められると照れちゃいますよ」
P「今度の撮影は、こういう衣装もわるくないな。カメラさんには俺から伝えておくよ」
響子「あ、それなら私、お料理番組にも出演してみたいです!」
P「なるほど、料理番組かー。たしかに、そういう仕事も今後は入れていってもいいなあ」
P(……ってなんで、仕事のはなしをしてるんだ俺は。これが、職業病ってやつか……)
響子「それじゃあ準備もできたので、作り始めますね」トントン
P「なあ響子。ちなみに、なんの料理を作るつもりでいたんだ?」
響子「そうですねー。今日はいいお肉が手に入ったので、ハンバーグを作ろうと思って」
P「おー、ハンバーグかあ」
響子「ふふっ、たくさん食べてくださいね」
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/24(土) 17:46:12.64 ID:yD+rbMtDO
何の肉かな?
やはり猫肉かな?(某国が南と北で戦争やってた頃、南を支援するアメリカ軍に猫肉を売り付けた商人がいた話は有名)
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/25(日) 09:25:51.84 ID:aH2ZlY5Vo
おいやめろ前川さんの安否が不安になるだろ
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/09/03(火) 00:11:25.87 ID:NVPmGyYX0
◇
響子「お待たせしました〜」
P「……」
響子「どうかしましたか、プロデューサーさん?」
P「いや、なんでもないよ。おいしそうだなと思って」
響子「えへへ、本当ですか? たくさん作ったのでたっぷり食べてくださいね」
P「ああ」パクリ
P「ん、いい味だな」
響子「……」
P「どうした?」
響子「……あの、よかったら、私が食べさせてあげましょうか?」
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/09/03(火) 00:11:55.99 ID:NVPmGyYX0
P「え?」
響子「プロデューサーさんが嫌じゃなかったら、ですけど」
P「いや、それはさすがに」
P(こんな状況がそもそもマズいっていうのに……)
響子「ほら、お口あけてください」
P「き、響子……」
響子「あーん」
P「……む」パクリ
響子「どうですか?」
P「……ああ、美味しいよ」
P(すぐ目の前に、スプーンを持った響子がいるのが不思議な気持ちになるな……)
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/08(日) 15:42:53.61 ID:2XPdFNWGO
遅筆にもほどがある
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/05(日) 03:07:25.27 ID:bKtAisYno
つれぇわ
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:39:04.91 ID:uFE6l5m00
P(だけど、響子だって、もしかすると俺になにか隠し事をしてるんじゃ……)
響子「プロデューサーさん?」
P「……ん、ああ。どうしたんだ」
響子「いえ。なんだかお疲れのように見えたので……」
P「疲れてるのは確かだけど。大丈夫、響子が心配することじゃないよ」
P(今はこうやって言うことしかできないよな)
響子「……嘘、ですよね」
P「え?」
響子「プロデューサーさんは、嘘をついてますよね」
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:40:08.36 ID:uFE6l5m00
P「……嘘だって? どうしてそう思うんだ」
響子「……」
P「なあ響子。……黙ったままじゃ、わかんないだろ」
響子「……プロデューサーさんは、何があっても私たちの味方でいてくれますか?」
P「どうしたんだよ、そんな急に改まって」
響子「お願いします。教えてください、じゃないと私……」
P「……」
P(響子の態度から察するに、嘘をついているようには見えないが……)
P「……ああ。俺は何があってもお前たちの味方だよ」
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:43:22.33 ID:uFE6l5m00
響子「……ぐすっ」ポタポタ
P「おい、響子? どうしたんだ」
響子「プロデューサーさん。わたし、もう、どうしていいかわからないんです……」
P「とりあえず、これで涙を吹くんだ」
響子「すみません……急に取り乱しちゃって」
P「いや……何かあったのか?」
P(ここまで感情的になっている響子は初めて見たな……)
響子「……プロデューサーさんは、前任の方の話をどこまで知っていますか」
P「前任?」
響子「はい。……本当は、その話をするためにここにやって来たんです」
響子「……もう、この世にはいない前任のプロデューサーさんのお話を、です」
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:46:24.92 ID:uFE6l5m00
P「……少しは知っているよ、俺もバカじゃないからな」
響子「そうですか。……やっぱり、そうだったんですね」
P「なあ、響子が何が言いたいのか俺にはさっぱり分かんないよ」
響子「……プロデューサーさんは。プロデューサーさんは、私たちのことを許してくれますか?」
P「許す?」
P(許してくれるか、と響子は言ったが……それは一体何を意味しているのだろう)
P(それに、私たち、とも言っていたな)
P(やはり、これは複数の人間が関わっているということなのか?)
P(だとすれば――この事務所の中に蔓延る何かがあるのは間違いないだろう)
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:47:51.57 ID:uFE6l5m00
P「許すも何も、俺はいつだってみんなの味方だって言っただろ」
響子「……味方、ですか?」
P「ああ。だから……響子から本当のことを教えてくれないか。俺に、過去のことを」
響子「……」
P「もちろん、言える範囲で大丈夫だ。だから……な?」
P(ここで二人きりになれたのはある意味ではチャンスだったとも言えるはずだ)
P(響子の口から事実を聞けることができるなら――彼女たちの秘密を知ることにも繋がるはずだ)
P(できることなら、響子を、ひいては彼女たちを救いたいと思っている)
P(その気持ちに噓偽りは一切ないと、今は言い切れるだろう)
響子「…………わかりました。そこまで言って頂けるなら、私の知っていることをプロデューサーさんにお伝えしましょう」
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:52:05.50 ID:uFE6l5m00
響子「前任のプロデューサーさんが配属された時、私はまだ事務所に入って半年ほどしか経っていませんでした」
響子「デビューする前だったこともあって、まずはその方についてもらうことになったんです」
響子「何人かはスカウトされた関係で、既にプロデュースの頭数に入っていました」
P「それは、今も事務所にいるメンバーなのか?」
響子「そうですね、全員を把握できていたわけではありませんが……。
たしか、まゆちゃんや卯月ちゃん、それからみりあちゃんもいた気がします」
P(その名前だけ聞けば、不可解な言動を言っていたことが頭をよぎるが――)
響子「……前任のプロデューサーさんとは、はじめは上手くいっていたんです」
響子「みんな、あの人のことが好きで、いつも周りには色んなアイドルの子たちがいました」
響子「でも、私たちの名前が少しずつ売れ出してきたころでした。あの人は、少しずつ正体を現してきたんです」
P「……正体だって?」
P(前任者とアイドルのみんなとの間で、何かトラブルがあったのか……?)
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:53:25.87 ID:uFE6l5m00
響子「……初めは取引先との打合せでご挨拶に呼ばれるくらいだったんですがね」
響子「段々とそれは“会食”という名前に代わっていきました」
響子「あまり詳しく話すことも憚られますが――先方のお気に入りになるとその度に声をかけられることになったんです」
P「それは、つまり……」
響子「ええ。プロデューサーさんが察しているような有様になっていくことになりました」
P「……」
P(響子の口ぶりからも何かを察することはできた)
P(……関係者含め、前任者諸共、ろくでもない奴らだった、本当にただそれだけだったのだろう)
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:54:50.17 ID:uFE6l5m00
響子「事務所の中でも、被害を受けた子たちはたくさんいました」
響子「……それは私も例外ではありません」
P「……そう、なのか?」
響子「……ええ、あくまで一部だけ関わっていただけですが」
響子「今でも、思い出すだけで吐き気がします」
P(そんなことを言う響子を見るのは初めてだった)
P(未成年を相手に、どんな凄惨な出来事があったのだろうか……それを聞くことも今はできそうもない)
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:56:48.87 ID:uFE6l5m00
P「……今の話が本当なら、前任者は社会的に罰せられるべきだろう」
P(間違いなく、上層部にも報告すべき案件のはずだ――)
響子「もちろん、痺れを切らした子たちの中からそういった声があがりました」
響子「……無論、前任のプロデューサーさんは、罰せられることになりました。でも……」
P「……なにかあったのか?」
響子「事務所としては、解雇するという判断をしただけにすぎませんでした」
P「……どういうことだ?」
P(そこまでの悪事を働いておいて、解雇だけで済むはずもないはずだろう?)
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:58:12.50 ID:uFE6l5m00
響子「そのままの意味ですよ。会社は『そんなことが起きているはずもない』という一点張りだったんです」
P「……つまり、アイドル達には何も危害を与えていないという態度を取ったわけか?」
響子「はい。ある意味では、そのようなスキャンダルが明るみに出ることを恐れたのかもしれません」
P(そのような処置は会社の存続だけを考えれば分からなくもないが――彼女たちにとっては、あまりにも惨たらしい話だろう)
響子「前任のプロデューサーさんは、会社からの通達を受けて、事務所を去ることになるはずでした」
響子「……ですが、それを良しとしない子たちも一定数いました」
P「……みくは“派閥”と言っていたが」
響子「はは、たしかにそういう言い方をする子もいますね。……要するに、その派閥が、大きな反発をしたわけです」
P「反発、か……」
P(会社側の処置が気に食わない、という意味では俺も理解できた)
P(……しかし、果たして一端のアイドルが声を上げるだけで何かを変えることができるのだろうか)
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/02(火) 23:59:37.48 ID:uFE6l5m00
響子「そのまま、事務所を去った子たちもいました。ただ、私を含めて残った子たちがいたのも事実です」
響子「まだアイドルを目指したいと心の中では信じていました」
響子「……ですが、徐々に、その中から報復を望む声がちらほらとあがりはじめてきたのです」
P「……報復だって?」
響子「はい、それほど前任のプロデューサーさんに対して敵意が向けられていたのだと思います」
P(……彼女たちの気持ちは汲むことができる)
P(どんな仕打ちを受けたのかは定かではないが……それでも、信じていた者に裏切られたという気持ちがあまりにも大きかったのだろう)
P(だとしても、彼女たちにどのような報復ができたの言うのだろうか……?)
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/03(水) 00:00:56.02 ID:uLuYGWy/0
P「……率直に聞くが、その報復っていうのは、前任者の死が関わっているのか?」
響子「……実を言うと、私にもわからないんです」
P「わからない、だって?」
響子「ええ。私が知っているのは、あくまでここまでなんですよ」
響子「私は“中立派”に属しているんです、だから詳細な情報はほとんど知らなくって」
P(響子の話すことが本当だとすれば――過去に、事務所の中で何かが起きたことは間違いないだろう)
P(それが前任者の死に関与していたとすれば……)
P(俺には、その真実を知る必要がありそうだ)
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/03(水) 00:01:56.69 ID:uLuYGWy/0
P「貴重な話をありがとう、知らないことが多くて困っていたところだったんだ」
響子「いえ……それともう一つ、集会のことをお伝えに来たんです」
P「集会……」
P(そういえば、凛や加蓮が話をしていたな。たしか20日にあると言っていたが――)
響子「ええ、今度の集会にはプロデューサーさんにも是非参加してもらいたいんです」
P「俺も……?」
響子「はい。今日お話ししたのも、それが理由だったんです」
響子「……もう、ここにいる以上、いつかはプロデューサーさんの耳にも入るとは思っていました」
響子「だからこそ、参加して頂くべきだとみんなとも話して決めたんです」
P(……集会、という場でどんな話をしているのかは正直気になっていた)
P(俺が嗅ぎまわっている、というのも皆にはバレていたってことか)
P(だとすれば、なおさら正面から彼女たちに話を聞くのもいいのかもしれない)
P(事実がどうであれ、俺はみんなのプロデューサーなのだから……)
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/03(水) 00:19:24.26 ID:uLuYGWy/0
P「わかった、俺も次の集会に参加するよ」
響子「……本当ですか? ありがとうございます」ニコリ
P「……いや、こっちこそ色々と気を使わせてしまってごめんな」
P(これじゃあ、どっちが大人かわからないよな)
P「もう夜も遅いだろ、近くまで送っていくよ」
響子「ああ、いえ。寮から自転車で来てしまったので、このまま帰ります」
P「……そっか、わかったよ。気をつけてな」
響子「ありがとうございます、こちらこそ夜分遅くにお邪魔しました♪」
ガチャ
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2025/09/03(水) 00:20:14.12 ID:uLuYGWy/0
響子「……あ。そういえば、集会は20日の9時に、会社のレッスン場でやりますので」
P「わかったよ」
響子「逃げずに、ちゃんと来てくださいね」
P「……ああ」
響子「それじゃあ、おやすみなさい」
ガチャ
P(……心なしか、含みのある言い方にも思えたが)
P(いいや、あんまり疑り深くなるのもよくないよな)
P(だが――響子がどうやって俺の家を突き止めたのかは分からないままだったな……)
P(もしかして、個人情報がどこからか漏れていたりするのか……?)
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2025/09/04(木) 11:25:25.86 ID:Onh/ln/PO
5年以上放置していたものを何の疑問もなく再開できるってのは
つまりこいつが5年以上何の進歩もしていないってことなんだよな
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:31:51.74 ID:Rp3Dkka40
P「……」
P(響子が帰ってから、部屋がやけに静かに感じるな)
P(テーブルの上には、響子が作ってくれた料理の皿がまだ残っている)
P(……それと、例の封筒も)
P「……見るしか、ないよな」
ガサガサ
P(中に入っていたのは、便箋が一枚と……新聞の切り抜きか?)
P(深夜に起きた交通事故の、小さな記事だ。被害者の名前は伏せられているが、日付は昨年度のものになっている)
P(……これが、前任の事故なのか)
P「便箋の方は……手書き、か」
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:33:09.46 ID:Rp3Dkka40
『先日はお電話で失礼いたしました。電話口では申し上げられなかったことを、ここに記しておきます。』
『あの事務所で最初にプロデューサーを務めた方は、事故で亡くなっています。深夜の送り迎えを終えた帰り道、信号を無視して電柱に突っ込んだそうです。』
『真面目で、気さくな方でした。アイドルたちはみんな、彼を慕っていました。』
『その後任として来たのが、あなたの前任にあたる人です。嫌な人でした。アイドルを、まるで玩具のように扱う人でした。』
『でも、その人も死にました。』
『彼女たちの時間は、あの日からずっと止まっているんです。』
『事務所の中には、実行派と中立派がいます。どうか、うまく中立派に取り入ってください。』
『人が二人も死んでいるのに、どうして誰もおかしいと思わないのでしょうね。私には、そのことの方が不思議でなりません。』
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:34:02.23 ID:Rp3Dkka40
P「……二人、だって?」
P(前任の前にも、プロデューサーがいたっていうのか……?)
P(響子はそんな話、一言もしていなかったぞ)
P(……いや、待てよ)
P(名簿は、ちょうど二年分が抜け落ちていた)
P(あれは前任ひとりの記録じゃなくて――二人分の記録を消すためだったのか)
P「……っ」
P(それに、この手紙の書き方も引っかかる)
P(『嫌な人でした』なんて、記者が取材相手に書くような言葉じゃない)
P(まるで、すぐ近くで前任のことを見ていた人間みたいじゃないか……)
P「実行派と、中立派……」
P(響子は自分を中立派だと言っていた。だとすれば、この手紙のとおりに動くなら、響子を頼るのが正解なんだろうが――)
『逃げずに、ちゃんと来てくださいね』
P(……あの言い方が、どうしても頭から離れない)
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:35:08.47 ID:Rp3Dkka40
ブーッ ブーッ
P「……っ、なんだ、スマホか」
P(こんな時間に誰から……)
P「……響子?」
響子『今日は遅くまでありがとうございました。ちゃんと寮に着きましたので、安心してくださいね♪』
P「……なんだ、無事に帰れたのか」ホッ
ブーッ
響子『それと、言い忘れていました』
響子『20日は、みくちゃんも来ますから』
P「……」
P(みくが、来る?)
P(集会の対象になったら――加蓮は、たしかそう言っていたよな)
P(……みくは、俺に話しすぎたんじゃないのか)
P「……くそっ」
P(20日まで、あと三日しかないじゃないか)
P「一体どうすれば……」
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:36:48.10 ID:Rp3Dkka40
◇
P「……」カタカタ
P(結局、昨日は一睡もできなかった)
P(朝一番にみくへ連絡を入れたが、既読すらつかない)
P(電話も、電源が切れているというアナウンスが流れるだけだ)
プルルル プルルル
P「はい、346プロダクションです。――あ、トレーナーさん。お疲れ様です」
P「え? みくが、今朝のレッスンに来ていない?」
P「……いえ、こちらにも連絡は来ていません。……はい、わかりました。確認しておきます」
ガチャ
P(あのみくが、無断でレッスンを休むなんて)
P(『みくはプロ意識が違うからねっ』――そう言って、胸を張っていたばかりじゃないか)
ちひろ「プロデューサーさん、顔色が悪いですよ?」
P「……ちひろさん」
ちひろ「はい、これ。今日のぶんのエナドリです」コトッ
P「……ああ、すみません。ありがとうございます」
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:37:39.19 ID:Rp3Dkka40
P(『無理しないでくださいね』――丸みのある、丁寧な字だ)
P(……丁寧な、字)
P「……」
P(いや、まさかな。手書きの字なんて、似ているものはいくらでもある)
P(あの便箋の字と、比べてみたわけでもないんだから)
ちひろ「……どうかしました?」
P「いえ。……あの、ちひろさん。ひとつ聞いてもいいですか」
ちひろ「はい、なんでしょう?」
P「この事務所って、前任のプロデューサーの前にも、誰か担当がいたんですか?」
ちひろ「……」
P(ほんの一瞬だけ、ちひろさんの笑顔が止まった気がした)
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:40:04.09 ID:Rp3Dkka40
ちひろ「……ずいぶん、昔のことを気にされるんですね」
P「いえ、ちょっと小耳に挟んだもので」
ちひろ「そうですか。……ええ、いましたよ。とっても優しい人でした」
P「その人は、今どこに?」
ちひろ「プロデューサーさん」
P「……はい」
ちひろ「知らないままでいた方が、幸せなこともありますよ」
P(……たしか、みくにも同じことを言われたような)
ちひろ「なんて。ふふ、私、会議の資料を取ってきますね」ガタリ
ガチャ バタン
P「……」
P(はぐらかされた、ということか?)
P(だが、あの人は何も否定しなかった)
P(……それに、あの様子だと全く関与していない、とは言い切れない)
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:40:37.68 ID:Rp3Dkka40
コンコン
幸子「し、失礼しますっ」
P「幸子? どうしたんだ、そんなに慌てて」
幸子「プロデューサーさん、その……みくさんのこと、聞きましたか?」
P「……ああ。今朝のレッスンに来てないらしいな」
幸子「やっぱり……」
P「何か知ってるのか?」
幸子「……ボク、昨日の夕方、見たんです。みくさんがレッスン場の方に歩いていくところを」
P「レッスン場に?」
幸子「はい。……まゆさんと、一緒でした」
P「……まゆと?」
幸子「みくさん、なんだかすごく怯えた顔をしていて……ボク、声をかけようとしたんですけど」
幸子「まゆさんが振り返って、ボクに笑いかけたんです。いつもみたいに、にっこりと」
幸子「……それで、なんだか足が動かなくなっちゃって」
P「……」
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:41:15.84 ID:Rp3Dkka40
幸子「ごめんなさい。ボク、カワイイだけじゃなくて、勇気もあるはずなのに……」
P「……いや、話してくれてありがとう、幸子」ナデ
幸子「プロデューサーさん。みくさん、大丈夫ですよね?」
P「……ああ。大丈夫だ、俺が何とかする」
P(そう言い切れる根拠なんて、どこにもなかった)
P(だが――幸子のこの言葉が本当なら、まゆが嘘をついてまで隠したかった用事も、少しずつ見えてくる)
P(あの日、まゆは幸子と食事に行くと言った。だが、幸子は誘われていなかった)
P(まゆは、あの夜も――レッスン場にいたんじゃないのか)
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:42:16.54 ID:Rp3Dkka40
◇
P(夜の十時を過ぎた事務所は、昼間とはまるで別の建物みたいだ)
P(廊下の非常灯だけが、緑色にぼんやりと光っている)
コツ コツ
P(自分の足音が、やけに大きく響く)
P(……20日の集会も、ここで開かれる。それなら、何か痕跡が残っているかもしれない)
P「……ここか」
キィ
P(鍵は、かかっていなかった)
P(電気をつけるわけにはいかない。スマホのライトで照らすしかないな)
P(壁一面の鏡に、ライトを持った自分の姿が映り込む。……あまり気分のいいものじゃない)
P「……ん?」
P(床に、何か落ちている)
P(白と黒の……これは、猫耳の髪飾りか?)
P「……みくの、だよな」
P(あいつが、これを置いていくはずがない。何よりも大事にしているものなのに)
P(髪飾りの片方が、根元から折れている)
P(……まるで、誰かに強く引っ張られたみたいにも見えるが)
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:44:09.68 ID:Rp3Dkka40
P「……っ」
P(落ち着け。ここで取り乱しても、何にもならない)
P(ほかに何か――)
P(……鏡の隅に、紙が貼ってある)
P(レッスンの予定表かと思ったが、違う。名前が並んでいる)
P(まゆ、みりあ、卯月、響子――そして、何人かの名前の横には、小さな丸印)
P(その一番下に、赤いペンで書き足された名前があった)
P「……みく」
P(そして、そのすぐ下に――)
P「…………俺の、名前?」
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:45:06.98 ID:Rp3Dkka40
ガチャ
P(――っ! 入り口の方で、扉の開く音がした)
P(隠れる場所は……ない。ロッカーも、ここにはない)
コツ コツ コツ
「……誰か、いるんですかぁ?」
P(この、甘ったるい声は)
パチッ
P(照明が一斉についた。目が眩む)
まゆ「あら……プロデューサーさん」
P「……まゆ」
まゆ「こんな時間に、どうしたんですかぁ? お仕事、まだ残ってたんですか?」
P「……ああ。ちょっと、忘れ物をな」
まゆ「レッスン場に、ですか?」
P「……」
まゆ「うふふ。プロデューサーさんは、嘘がへたですねぇ」
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:46:04.28 ID:Rp3Dkka40
P「……まゆ。みくは、どこにいる」
まゆ「みくちゃん、ですか?」
P「昨日の夕方、お前とみくがここに来るのを見た子がいるんだ」
まゆ「……幸子ちゃん、ですね」
P(――しまった)
まゆ「大丈夫ですよぉ。幸子ちゃんには、何もしませんから」
まゆ「みくちゃんも、ちゃんと元気ですよ。……今は、まだ」
P「どういう意味だ?」
まゆ「プロデューサーさん。その手に持っているもの、返してもらえますか?」
P「……」
まゆ「それは、20日にみくちゃんに返してあげるものなので」
P「……断ったら?」
まゆ「……」
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:46:59.33 ID:Rp3Dkka40
まゆ「うふ。まゆ、プロデューサーさんのことは大好きなんですよ?」
まゆ「だからあの人みたいには、なってほしくないんです」
P(まゆの笑顔は、撮影のときと何ひとつ変わらなかった)
P(それが、何よりも恐ろしかった)
まゆ「鏡の名前、見ちゃいましたよね」
P「……ああ」
まゆ「あれは、出席簿みたいなものです。……プロデューサーさんの名前も、書かれていましたよね」
まゆ「20日の9時。ちゃんと来てくださいね」
P(響子と、まったく同じ言葉だ)
まゆ「おやすみなさい、プロデューサーさん」
パチッ
P(照明が、また消えた)
P(暗闇の中で、まゆの足音が遠ざかっていく)
P(俺の手の中には、折れた猫耳の髪飾りだけが残っていた)
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:47:54.24 ID:Rp3Dkka40
◇
P(集会は、明日の夜だ)
P(みくとは、今日も連絡がつかないままだった)
P(……もう、待っているだけじゃダメだ。誰かから、話を聞き出すしかない)
キィ…… バタン
凛「……プロデューサー?」
P「やっぱりここにいたか、凛」
凛「……どうして分かったの」
P「加蓮から聞いたんだ。凛はひとりになりたいとき、いつも屋上に来るって」
凛「加蓮、余計なことを……」
P「怒らないでやってくれ。……俺が、無理を言って聞いたんだ」
凛「……それで、なに?」
P「卯月のことを、教えてほしい」
凛「……」
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:48:47.50 ID:Rp3Dkka40
P「この前、給湯室で加蓮と話していただろ。卯月が、夜になると電話越しに泣いてるって」
凛「……聞いてたんだ、やっぱり」
P「ああ。……ロッカーの中で、な」
凛「ふふ。……なにそれ、ちょっとかっこ悪いね」
P(凛が笑ったのを見るのは、ずいぶん久しぶりな気がした)
P(だが、その笑顔もすぐに消えてしまった)
凛「……卯月ね、もう半年くらい事務所に来てないんだ」
P「……体調不良で休業中だとは、聞いていたが」
凛「表向きは、ね。……会社は、そういうことにするのが得意だから」
P「……」
凛「プロデューサーは、集会が何をする場所か知ってる?」
P「……いや。報復を望む子たちの集まりだ、とは聞いた」
凛「半分は、合ってるかな」
凛「集会ではね、決めるんだよ。ふたつのことを」
P「ふたつ?」
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:50:13.62 ID:Rp3Dkka40
凛「次に、誰が“罰”を受けるのか。……それと、誰がそれを“やる”のか」
P「――っ」
凛「前任のときは、卯月が選ばれた。やる側として、ね」
P「……卯月が、前任に何をしたんだ」
凛「……わからない。卯月は、そこだけは絶対に言わないから」
凛「でも、あの日から卯月は笑わなくなった。電話でずっと、ごめんなさい、ごめんなさいって謝ってるの。……誰に謝ってるのかも、わからないまま」
P(深夜の事故。睡眠導入剤に近い成分。目撃者のいない通り)
P(……電話の主が言っていたことが、頭の中で勝手に繋がっていく)
P「……凛。あの時、あっちに行くかもしれないって言っていたのは」
凛「……次の集会で、また誰かがやる側に選ばれる。それが卯月みたいに、壊れちゃう子だったら嫌なんだ」
凛「だったら、私が手を挙げる」
凛「……明日の撮影も、もう断ったんだ。最初は行かないつもりだったけど、名簿にみくの名前が書き足されたって聞いて、そうもいかなくなった」
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:51:30.83 ID:Rp3Dkka40
P「馬鹿なことを言うな」
凛「……馬鹿なことだって、わかってるよ」
凛「でも、プロデューサーには関係ないでしょ。……って、もう言えないか」
P「鏡の名簿のことか」
凛「……見たんだ。プロデューサーの名前、書いてあったでしょ」
P「……ああ」
凛「プロデューサー。明日、本当に来るつもり?」
P「……みくがいるなら、行くしかないだろ」
凛「そっか。……そう言うと思った」
凛「なら、ひとつだけ覚えておいて」
凛「集会で一番最初に手を挙げる子を、信じちゃダメだよ」
P「……それは、誰なんだ」
凛「……」
凛「いつも、同じ子だから。行けばわかるよ」
キィ バタン
P(凛は、それ以上何も言わずに屋上を出ていった)
P(夕焼けが、やけに赤く見えた)
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:53:56.75 ID:Rp3Dkka40
◇
P(デスクの上に、二枚の紙を並べる)
P(一枚は、封筒に入っていた便箋。もう一枚は、今朝ちひろさんがエナドリに添えてくれたメモだ)
P「……」
P(書き文字の癖、と言ってしまえばいいのか)
P(……ふたつは所々よく似ている。少なくとも、俺の目にはそう見えるが……)
ガチャ
ちひろ「あら、プロデューサーさん。まだ残ってたんですか?」
P「……ちひろさん」
ちひろ「今日はもう帰った方がいいですよ。明日も早いんですから――」
P「この手紙を書いたのは、ちひろさんですよね」
ちひろ「……」
P(ちひろさんの視線が、デスクの上の二枚に落ちた)
ちひろ「……どうして、そう思うんですか?」
P「字が同じです。それに、あの電話の声も、どこかで聞いた覚えがあった」
ちひろ「……」
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:56:03.41 ID:Rp3Dkka40
P「教えてください。前任の前にいたプロデューサーのこと。それから、この事務所で何が起きたのか」
ちひろ「……ふふ。プロデューサーさんは、思っていたより鋭いんですね」
ちひろ「ええ、そうです。その手紙は、私が書きました」
P「……やっぱり」
ちひろ「最初のプロデューサーさんは、私の同期でした。不器用で、まっすぐで……アイドルの子たちのことを、誰よりも大切にしていた人です」
ちひろ「あの人が亡くなってから、この事務所はおかしくなりました」
P「……前任が来て、ですか」
ちひろ「はい。そして前任が亡くなって――あの子たちは、止まれなくなってしまった」
ちひろ「一度うまくいってしまったら、次もうまくいくと思ってしまうでしょう?」
P(……うまくいって、しまった)
P「なら、どうして直接俺に言ってくれなかったんですか。記者のふりなんかして」
ちひろ「……」
ちひろ「……記者のふり、ですか」
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:57:50.65 ID:Rp3Dkka40
ちひろ「……そうですね。手紙を書いたのは、私です」
ちひろ「でも――理由は、今はまだ、お話しできません」
P「……どうしてですか」
ちひろ「それを話したら、私は、全部を話さなきゃいけなくなるから」
ちひろ「……勝手ですよね。知ってほしくて手紙を書いたのに、肝心なことは言えないなんて」
P(否定は、しなかった)
P(それは、ほとんど認めているのと同じだった)
P(それでも、ちひろさんはその先を言おうとしない)
P「……ちひろさんは、何を隠しているんですか」
ちひろ「……プロデューサーさん。明日の集会、本当に行くつもりですか」
P「ええ、もちろんです。こんなことになってるのに、見過ごすわけにはいきませんよ」
ちひろ「……」
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:58:18.86 ID:Rp3Dkka40
ちひろ「行くなら、これを持っていってください」スッ
P(差し出されたのは、小さな鍵だった)
ちひろ「レッスン場の隣の、照明室の鍵です。……あの部屋の明かりは、すべてそこで落とせます」
P「……どうして、こんなものを」
ちひろ「中立派なんて、もうほとんど残っていないんです。私にできるのは、これくらいですから」
ちひろ「それと、もうひとつだけ」
ちひろ「明日、もしあなたが全部を知ってしまったら――そのときは、私の話も聞いてください」
ガチャ バタン
P「……」
P(私の話も、聞いてください――)
P(あの人は、いったい何を抱えているんだ)
P(手のひらの鍵が、やけに重く感じた)
P(集会まで、あと一日もない)
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:59:17.08 ID:Rp3Dkka40
◇
P(約束の時間まで、あと五分)
P(ポケットの中で、照明室の鍵を握りしめる。……ちゃんと、ここにある)
P(レッスン場の扉の隙間から、かすかに光が漏れていた)
P(電灯の白い光じゃない。もっと揺らいだ、橙色の――)
コンコン
響子「どうぞ、開いてますよ」
キィ
P「……っ」
P(床に、いくつもの蝋燭が円を描くように並べられていた)
P(その円の外側に、アイドルたちが静かに腰を下ろしている)
P(まゆ、みりあ、凛、加蓮、奈緒、美波、未央。それから、俺の知らない顔もいくつかある)
P(誰も、俺の方を見ようとしない)
P(そして、円の真ん中に置かれた椅子には――)
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/29(木) 23:59:45.35 ID:Rp3Dkka40
P「……みく!」
みく「……」
P(みくは、うつむいたまま椅子に座らされていた)
P(両手首には、赤いリボンが丁寧に結ばれている。……撮影の日、まゆの胸元にあったのと同じリボンだ)
P「お前ら、何を――」
響子「プロデューサーさん」
P(円の向こう側、ちょうど鏡の前に響子が立っていた)
P(エプロン姿で台所に立っていたときと同じ、穏やかな笑顔で)
響子「来てくださって、ありがとうございます。逃げずに、ちゃんと」
P「……響子。みくを、今すぐ離せ」
響子「大丈夫ですよ。みくちゃんには、まだ何もしていませんから」
響子「ね、みくちゃん?」
みく「……Pチャン、なんで来ちゃったの」
P「……っ」
みく「ちゃんと、言ったのに……」
P(みくの声は、かすれて震えていた)
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:00:15.16 ID:MBz+eAr90
響子「さあ、プロデューサーさんも座ってください。そこが、プロデューサーさんの席です」
P(響子が指さしたのは、円の中――みくの椅子の、すぐ隣に置かれたもう一脚の椅子だった)
P「……断る、と言ったら?」
まゆ「うふ。プロデューサーさん、まゆ言いましたよね?」
まゆ「あの人みたいには、なってほしくないって」
P(……ここで逆らっても、みくを連れ出せるとは思えない)
P(今は、従うふりをするしかない)
ガタ
P(椅子に腰を下ろすと、蝋燭の炎がいっせいに揺れた)
みりあ「プロデューサー、いらっしゃーい!」ガシッ
P「っ、みりあ……」
みりあ「えへへ、来てくれてうれしいなっ」パッ
P(いつもの調子で抱きついてきたみりあは、すぐに自分の場所へ戻っていった)
P(この場には、あまりにも不釣り合いな笑顔だった)
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:01:00.51 ID:MBz+eAr90
響子「それでは、始めましょうか」
響子「今日の集会では、いつものとおり、ふたつのことを決めます」
響子「次に“罰”を受けるのは誰か。そして、それを“やる”のは誰か」
P(凛から聞いたとおりだ)
P(凛の方を見る。凛は膝の上で、ぎゅっと拳を握りしめていた)
響子「でも、その前に。ひとつだけ確認させてください」
響子「プロデューサーさんを、今日からこの集会の仲間として迎え入れることに――賛成の人は、手を挙げてください」
P(……仲間、だと?)
P(凛の言葉が、頭の中で響く)
凛『集会で一番最初に手を挙げる子を、信じちゃダメだよ』
P(誰だ。誰が、最初に――)
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:01:44.45 ID:MBz+eAr90
スッ
P(最初に挙がった手は、響子のものではなかった)
P(まゆでもない)
みりあ「はーい! みりあ、さんせーい!」
P「……みりあ?」
みりあ「えへへ。だってみりあ、プロデューサーのこと大好きだもん」
みりあ「前のプロデューサーよりも、ずーっとね!」
P(車の中で、前任のことを聞いたときのみりあの顔を思い出す)
P(『私、ほんとに何も知らないよ』――あのとき、みりあは確かにそう言った)
P(……あれは、嘘だったのか)
スッ スッ スッ
P(みりあに続くように、次々と手が挙がっていく)
P(まゆ。響子。未央。美波。……加蓮も、うつむいたまま手を挙げた)
P(挙げていないのは――凛と、みくだけだった)
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:02:27.33 ID:MBz+eAr90
響子「賛成多数ですね。プロデューサーさん、ようこそ」
響子「それじゃあ、本題に入りましょう」
響子「今回の対象は、すでに決まっています」
響子「約束を破って、プロデューサーさんに話しすぎてしまった――みくちゃん」
みく「……っ」
P「待て! みくは何も――」
響子「それから、もうひとり」
P「……もうひとり?」
響子「私たちの秘密を、知りすぎてしまった人」
響子「名簿を探して、電話を受けて、封筒を開けて、夜のレッスン場に忍び込んで、屋上で凛ちゃんを問い詰めて――」
響子「昨日の夜は、ちひろさんとお話をしていましたね」
P(――全部、知られている)
響子「プロデューサーさん。あなたです」
P(蝋燭の炎が、また大きく揺れた)
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:03:35.59 ID:MBz+eAr90
響子「では、決めましょう。今回、それを“やる”のは誰か」
響子「立候補する人は、手を挙げてください」
P(凛が、顔を上げた)
P(だめだ、凛。お前が手を挙げたら――)
P(今しかない。照明室の鍵で明かりを――いや、蝋燭がある以上、照明を落としても意味がない)
P(なら、せめて鍵で扉を……)
P(ポケットに手を入れる)
P「…………」
P(ない)
P(さっきまで、確かにここにあったはずの鍵が――ない)
響子「プロデューサーさん、探し物ですか?」
P(響子の指先で、小さな鍵が揺れていた)
響子「ちひろさんも、困った人ですね」
響子「それじゃあ、改めて」
響子「立候補する人は、手を挙げてください」
スッ
P(ひとつの手が、静かに挙がった)
P(それは――)
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:06:04.81 ID:MBz+eAr90
◇
P(ひとつの手が、静かに挙がった)
P(それは――凛の手だった)
凛「……私が、やる」
加蓮「凛っ!」
凛「いいんだよ、加蓮。……最初から、そのつもりで来たんだから」
P「凛、やめろ!」
凛「プロデューサーは黙ってて」
P(凛の声は、ほとんど震えていなかった)
P(だが、膝の上に下ろしたもう片方の手は、白くなるほど強く握りしめられていた)
響子「……凛ちゃん。本当に、いいんですか?」
凛「うん。卯月みたいな子が、もうひとり増えるくらいなら」
響子「そうですか。……それでは、今回は凛ちゃんに――」
「――待って」
P(声は、入り口の方から聞こえた)
P(蝋燭の炎が、扉から吹き込んだ風にいっせいに傾く)
P(そこに立っていたのは――)
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:06:46.61 ID:MBz+eAr90
凛「…………卯月?」
卯月「……えへへ。久しぶりだね、凛ちゃん」
P(島村卯月。半年前から休業していることになっていた、あの卯月だ)
P(俺がプロフィール写真でしか知らない卯月は、もっと明るく笑う子のはずだった)
P(今、扉の前に立っている卯月は、まるで別人のように痩せて、青白かった)
響子「……卯月ちゃん。どうして、ここに」
P(響子の笑顔が、初めて崩れた)
卯月「ちひろさんが、迎えに来てくれたんです」
卯月「凛ちゃんが、手を挙げるかもしれないから、って」
P(……ちひろさんが?どうして?)
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:07:38.42 ID:MBz+eAr90
卯月「凛ちゃん。手、下ろして」
凛「でも……」
卯月「お願い。……凛ちゃんまで、私みたいになっちゃだめ」
P(卯月は、ゆっくりと蝋燭の円の中へ歩いてきた)
P(誰も、卯月を止めようとしなかった。……いや、止められなかったのかもしれない)
卯月「プロデューサーさん、ですよね。はじめまして」
P「……ああ」
卯月「ずっと、謝りたかったんです。新しいプロデューサーさんに」
P「……俺に?」
卯月「はい。……あなたは、何も知らないまま、ここに来てしまったから」
卯月「私が、ちゃんと話していれば。こんなことには、ならなかったかもしれないから」
響子「卯月ちゃん、やめて」
卯月「ううん、響子ちゃん。もう、やめるのは私たちの方だよ」
P(彼女は円の中心――みくの隣で立ち止まった)
P(そして、レッスン場にいる全員に聞こえるように、はっきりと言った)
卯月「前のプロデューサーさんの飲み物に、お薬を入れたのは私です」
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:08:13.02 ID:MBz+eAr90
P「――っ」
P(深夜の事故。睡眠導入剤に近い成分。……電話の主が言っていたことは、本当だったのか)
卯月「あの日の集会で、私が“やる”人に選ばれました」
卯月「お薬で眠らせて、そのあいだに、あの人のパソコンから……私たちのことが書いてあるデータを消す。それだけのはずだったんです」
卯月「怖かったけど、それならできると思った。それで、もう誰も“会食”に呼ばれなくなるなら、って」
卯月「……でも」
卯月「お薬を入れたあと、私、怖くなって……逃げちゃったんです」
卯月「だから、あの人が、どうして夜中にひとりで道路に出ていったのか――私は知らないんです」
P(レッスン場が、しんと静まり返った)
P(蝋燭の芯が燃える、かすかな音だけが聞こえる)
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:08:42.45 ID:MBz+eAr90
卯月「次の日、あの人が死んだって聞いて」
卯月「私が殺したんだって、ずっと思ってた。だから、誰にも会えなくなって……」
卯月「でもね、プロデューサーさん。最近になって、ようやく気づいたんです」
卯月「あの夜、事務所に残っていたのは、私だけじゃなかった」
P「……誰が、いたんだ」
卯月「……」
P(卯月の視線が、ゆっくりと動いた)
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:09:32.15 ID:MBz+eAr90
P(蝋燭の円の向こう。鏡の前に立つ、ひとりの少女の方へ)
卯月「ねえ、響子ちゃん」
卯月「あの夜、私が逃げたあと――前のプロデューサーさんを、外まで連れていったのは誰?」
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:11:20.78 ID:MBz+eAr90
響子「……」
P(全員の視線が、響子に集まっていた)
P(響子は、指先の鍵をぼんやりと見つめたまま動かない)
卯月「響子ちゃん。答えて」
響子「……知りません」
卯月「え……」
響子「私だって、知らないんです。あの夜のことは……」
響子「私が事務所に戻ったときには、もう誰もいなくて。気がついたら、朝になっていて……」
P(響子の声は、俺の部屋で泣いていたときと同じように震えていた)
P(嘘をついているようには、見えなかった)
P(だが――本当のことを、全部話しているようにも見えなかった)
卯月「じゃあ、いったい誰が……?」
P(ざわめきが、蝋燭の円をなぞるように広がっていく)
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:11:47.34 ID:MBz+eAr90
未央「……ちょっと待ってよ。卯月ちゃんでも響子ちゃんでもないなら、誰がやったの?」
加蓮「やめて、未央。こんなところで……」
まゆ「……」
P(いつも笑顔を崩さないまゆでさえ、黙って床の一点を見つめていた)
P(誰もが、隣に座る誰かを疑い始めていた)
P(このままでは――)
美波「……もう、やめましょう」
P(声を上げたのは、美波だった)
美波「誰がやったのかもわからないまま、次の“罰”を決めるなんて、できません」
美波「そう思いませんか」
P(美波の言葉に、何人かが小さくうなずいた)
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:12:14.64 ID:MBz+eAr90
パチッ
P(――照明が、一斉についた)
P(白い光が、レッスン場の隅々まで照らし出す。さっきまであれほど不気味だった蝋燭の炎が、急にちっぽけなものに見えた)
みりあ「わっ、まぶしい!」
響子「……どうして。鍵は、ここに」
『――照明室の鍵は、二本あるんですよ』
P(天井のスピーカーから、聞き慣れた声が響いた)
P「……ちひろさん」
『みなさん、今日はもう遅いですから。ここまでにしませんか?』
『卯月ちゃんも、久しぶりに外に出て疲れているはずです。……ね?』
P(いつもと同じ、柔らかな声だった)
P(明るくなったレッスン場で、アイドルたちは互いの顔を見合わせていた。誰もが、急に夢から覚めたような顔をしていた)
響子「……」
響子「……今日の集会は、中止にします」
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:13:14.40 ID:MBz+eAr90
P(俺は椅子から立ち上がり、みくの手首に結ばれたリボンをほどいた)
みく「……Pチャン」
P「遅くなって、ごめんな」
みく「……ばか。ほんとに、ばかにゃ……」ポロポロ
P(蝋燭が一本、また一本と吹き消されていく)
P(凛は卯月の手を握り、加蓮と奈緒がその両側に寄り添っていた)
P(響子は、誰とも目を合わせないまま、俺の前に鍵を差し出した)
響子「……これ、お返しします」
P「……いつ、盗ったんだ」
響子「盗ってませんよ。……みりあちゃんが、拾ったって渡してくれたんです」
P(――あのときか)
P(席に着いたとき、みりあに抱きつかれた)
P(たまたま拾っただけなのか。それとも――)
響子「おやすみなさい、プロデューサーさん」
P(響子は、それ以上何も言わずにレッスン場を出ていった)
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:13:49.14 ID:MBz+eAr90
P「……」
P(集会は終わった。真犯人は、わからないまま)
P(――いや)
P(本当に、わからないままなんだろうか)
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:14:35.66 ID:MBz+eAr90
◇
ガチャ
ちひろ「お疲れ様でした、プロデューサーさん。みんな、無事に帰れましたか?」
P「……ええ。凛と加蓮が、卯月を家まで送っていきました」
ちひろ「そうですか。よかった」コトッ
P(デスクの上に、湯気の立つコーヒーがふたつ置かれた)
P(いつもと同じ事務室。いつもと同じ、ちひろさんの笑顔)
P(……それが、今は何よりも遠く感じる)
ちひろ「どうぞ、座ってください。今日は本当に、長い一日でしたね」
P「ちひろさん」
ちひろ「はい?」
P「前任のプロデューサーを死なせたのは――あなたですね?」
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:16:05.89 ID:MBz+eAr90
ちひろ「……」
P(ちひろさんは、カップを持ったまま、ほんの少しだけ首をかしげた)
ちひろ「どうして、そう思うんですか?」
P「ひとつずつ、話してもいいですか」
ちひろ「ええ。どうぞ」
P「……最初に引っかかったのは、響子の言葉です」
P「集会で、響子は俺のしてきたことを全部言い当てました。
名簿を探したこと、電話を受けたこと、封筒を開けたこと、レッスン場に忍び込んだこと、凛と話したこと」
P「――そして、昨日の夜は、ちひろさんとお話をしていましたねと」
ちひろ「……」
P「昨日の夜、この部屋にいたのは俺とちひろさんだけです。
あの話を響子が知っているなら、話したのはちひろさんしかいない」
ちひろ「誰かが、廊下で立ち聞きしていたのかもしれませんよ?」
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:17:35.19 ID:MBz+eAr90
P「なら、二つ目です。照明室の鍵」
P「ちひろさんは、俺に鍵を渡した。その鍵がなくなっても、ちひろさんは照明室にいて、ちょうどいいタイミングで明かりをつけた」
P「予備の鍵を持っていたのは、念のためだったのかもしれません。
でも、照明室にいたこと自体が答えです。あそこからは、レッスン場が全部見える」
P「卯月を連れてきたのも、凛が手を挙げた直後でした。……ちひろさんは照明室から、集会をずっと見ていたんだ」
P「何度も開かれてきた集会を、ずっと。一度も止めずに」
ちひろ「……」
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:18:31.14 ID:MBz+eAr90
P「三つ目は、電話です」
P「電話の主は、前任の体から睡眠導入剤に近い成分が出たことを知っていました。現場に防犯カメラがなかったことも」
P「そんなことを知っているのは、警察とやりとりをした人間だけです。この事務所で、警察や会社の窓口になっていたのは誰ですか」
ちひろ「……」
P「ちひろさんは、手紙を書いたことは認めた。でも、電話のことだけは“今はまだ話せない”と言った」
P「否定しなかったのは――本当は、話してしまいたかったからじゃないですか」
P「ノイズで誤魔化していても――いつも聞いている声を、俺が聞き間違えるはずがないですよ」
ちひろ「……ふふ」
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:19:36.61 ID:MBz+eAr90
P「四つ目。卯月が前任の飲み物に入れた薬」
P「あれはどこから来たのか、ずっと考えていました。事務所で薬を手に入れられる場所は、救急箱しかない。
……管理しているのは、ちひろさんですよね」
P「それに、卯月は前任のパソコンからデータを消すはずだったと言っていた。
パスワードを知っていて、名簿を二年分抜き取れる人間が、ほかにいるとは思えない」
P「最後に、あの手紙です」
P「人が二人も死んでいる。あなたは、そう書いた」
P「最初のプロデューサーの死は事故です。それなのにちひろさんは、前任の死と同じように数えている」
P「――ちひろさんにとっては、あれも事故じゃなかったんだ。
前任に殺されたと、そう思っているんじゃないですか」
ちひろ「……」
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:20:59.11 ID:MBz+eAr90
P(長い沈黙だった)
P(ちひろさんは、両手で包んだカップの中を、じっと見下ろしていた)
ちひろ「……プロデューサーさんは、思っていたより鋭いんですね」
ちひろ「あの人も、そうやって私をまっすぐ見る人でした」
P「……最初のプロデューサーですか」
ちひろ「ええ。私の同期で――私の、大切な人でした」
ちひろ「……結婚の約束も、していたんですよ。誰にも言っていませんでしたけど」
ちひろ「あの人が亡くなった夜、響子ちゃんを送ったのは、その日三件目の送迎だったんです」
ちひろ「一件目は、取引先との“会食”の送り。二件目は、その帰りです。
当時、別の部署からあの人に仕事を回す立場だった前任が、汚い仕事を全部あの人に押しつけていました」
ちひろ「眠る時間もないまま響子ちゃんの電話に出て、迎えに行って、その帰りにあの人はガードレールに突っ込んだ」
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:21:59.52 ID:MBz+eAr90
P「……なら、響子のせいじゃない」
ちひろ「ええ。でも私は、それを一度も響子ちゃんに言いませんでした」
ちひろ「……いいえ。違いますね。本当のことを言います」
ちひろ「あの夜、三件目の送迎をあの人の予定に入れたのは――私なんです」
P「……ちひろさんが?」
ちひろ「前任に言われるまま、スケジュールを組みました。あの人が、頼まれたら絶対に断らない人だと知っていたのに」
ちひろ「だから、響子ちゃんに本当のことを言えなかった。
……あの子が、自分のせいだと思っていてくれる間は、私は自分を責めずに済んだから」
P「――っ」
P(……響子が抱えていた罪悪感は、ちひろさんが自分の罪悪感から目を逸らすために、そのまま預けていたものだったのか)
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:23:40.20 ID:MBz+eAr90
ちひろ「自分のせいだと思っている子はね、悪いことをした人には罰が必要だという言葉を、とても素直に受け取ってくれるんです」
ちひろ「あの人の担当を引き継いだのは前任でした」
ちひろ「そのあとのことは、響子ちゃんから聞いたとおりです。……会社は、何もしませんでした」
ちひろ「上層部に、前任のことを訴えたこともあります。何度も」
ちひろ「最後に返ってきたのは、あなたも、あの夜のスケジュールを組んだ当事者ですよねという一言でした」
P「……脅されたんですか」
ちひろ「黙っていれば、私の名前は出さない。……そういう意味でした」
ちひろ「それで、わかったんです。正しい場所に訴えても、この会社では何も起きない。だったら――」
ちひろ「最初に集まり始めたのは、あの子たちです。私は、夜のレッスン場の鍵を開けておいただけ。……それが、いつの間にか集会になっていました」
ちひろ「みりあちゃんが、いつも最初に手を挙げるようになったのも知っていました。あの子が挙げると、みんな続きやすいって。……止めなかったのは、私です」
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:24:20.83 ID:MBz+eAr90
P(『集会で一番最初に手を挙げる子を、信じちゃダメだよ』)
P(信じてはいけなかったのは、みりあじゃない。みりあの手に、みんなが寄りかかっていた――あの場の空気だったんだ)
P「……鏡に貼ってあった名簿も、ちひろさんが?」
ちひろ「ええ。丸印は、これまでに“やる側”に選ばれた子です」
ちひろ「みくちゃんの下にプロデューサーさんの名前を書き足したのも、私です。……そうすれば、あなたは必ず集会に来るでしょう?」
P「あの夜、前任を外に連れ出したのは」
ちひろ「私です。響子ちゃんには、泣きながら飛び出していった卯月ちゃんを探してあげて、とお願いしました」
ちひろ「ふらふらしていたあの人に、大通りにタクシーを呼んでありますよと言って、肩を貸しました」
ちひろ「あの時間、あの通りを長距離のトラックが通ることも。防犯カメラが横断歩道の手前を映していないことも。私は、知っていましたから」
ちひろ「……そこで、手を離しただけです」
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:25:15.15 ID:MBz+eAr90
P(響子が言っていた。戻ったときには、もう誰もいなかったと)
P(響子は――窓辺に立つちひろさんを、見ていたのかもしれない。それでも、何も言わなかった)
P「どうして、俺に電話をかけたんですか。手紙まで書いて」
ちひろ「集会を、終わらせたかったからです」
ちひろ「前任がいなくなっても、あの子たちは止まれなかった。いつか本当に、取り返しのつかないことをしてしまう」
ちひろ「だから、終わらせてくれる人が必要でした。何も知らない、新しいプロデューサーさんが」
P「……だから、記者のふりをして電話をかけたんですね」
ちひろ「ええ。事務所の人間から聞かされた話なら、あなたはきっと会社に相談してしまう。そうなれば、また全部もみ消されて終わりです」
ちひろ「外から来た声で、“あなたも気を付けた方がいい”と言われたら――あなたは、自分で調べずにはいられない人だと思いました」
P「あの夜、ちひろさんは先に帰ったはずでしたよね」
ちひろ「駐車場の車の中から、かけたんですよ。電話を切ったあと、忘れ物を取りに戻るふりをして、廊下にいました」
ちひろ「そうしたら、あなたが言ったんです。“あの声、どこかで聞いた覚えがある”って」
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:26:02.76 ID:MBz+eAr90
P(――ひとりきりの事務所で、思わず口にした言葉だ)
P(あのとき、すぐ扉の向こうに、ちひろさんがいたのか)
ちひろ「だから慌てて、送るつもりだった手紙を書き直しました。……電話のことまで認める勇気は、そのときはまだありませんでした」
ちひろ「卯月ちゃんを連れていけば、集会は止まるかもしれない。……そこから先のことは、考えないようにしていました」
P「……自分のことは、隠したまま」
ちひろ「ええ」
ちひろ「それで、どうされますか? 証拠なんて、どこにもありませんよ」
P「……ありますよ」
スッ
P(胸ポケットからスマホを取り出して、画面をちひろさんに向ける)
P(赤い録音のマークが、点滅していた)
P「この部屋に入る前から、ずっと録っています」
ちひろ「……」
P(初めて、ちひろさんの笑顔から何かが抜け落ちた)
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:27:21.46 ID:MBz+eAr90
P「響子に、本当のことを話してください。最初のプロデューサーが死んだのは、響子のせいじゃないって」
P「それは、ちひろさんにしかできないことだと思います」
ちひろ「……」
ちひろ「……ええ。そうしましょう」
P(ちひろさんは、とうに冷めたコーヒーに、最後まで口をつけなかった)
◇
P(空が白み始めた頃、事務所の前に一台の車が停まった)
P(ちひろさんは、一度も振り返らずにそれに乗り込んでいった)
P(アイドルたちのこれからのことも、会社のことも、まだ何ひとつ片付いてはいない)
P(響子にも、卯月にも、みんなにだって、本当の解決にはこれから長い時間が必要になるだろう)
P(それでも――止まっていた時間は、ようやく動き出したんだと信じるしかない)
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:27:47.44 ID:MBz+eAr90
―それから、一週間後―
P(事務所は、表向きはいつもどおりに動いている)
P(だが、ちひろさんの机は空のままだ。会社の上の方では毎日のように会議が開かれ、俺も何度か呼び出された)
P(録音は、すべて警察に渡した。響子と卯月も、何度か話を聞かれているらしい)
P(……それでも、まだわからないことがいくつか残っていた)
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:29:26.51 ID:MBz+eAr90
◇
みく「Pチャン、おはようにゃ!」
P「おお、みく。……もう、レッスンに出て大丈夫なのか?」
みく「平気平気! みくはプロ意識が違うからねっ」
P(そう言って胸を張るみくの頭には、新しい猫耳がついていた)
まゆ「おはようございます、プロデューサーさん」
P「……まゆ」
P「ちょうどよかった。二人に、聞きたいことがあったんだ」
P「みく。集会の前の三日間、お前はどこにいたんだ?」
みく「……ああ、それは」
みく「まゆチャンの部屋だよ」
P「……まゆの?」
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:31:19.83 ID:MBz+eAr90
まゆ「うふ。まゆが、隠していたんです」
まゆ「あの日、みくちゃんがプロデューサーさんに話しすぎたって、何人かの子がすごく怒っていて」
まゆ「レッスン場に呼び出されたみくちゃんに付き添って行って、そのまま、まゆが連れ出しました。そのときに、髪飾りが引っかかって折れちゃったんです」
みく「まゆチャン、すごかったんだよ。ほかの子たちの前で、この子はまゆが預かりますって、にっこり笑って」
P(幸子が見た怯えた顔のみくと、振り返って笑うまゆは――そういうことだったのか)
P「……じゃあ、みくの手首に結んであったリボンは」
まゆ「あれは、まゆの“しるし”です」
まゆ「集会で、みくちゃんがまゆの側にいるって、みんなにわかるように。……リボンを結んだ子には、誰も手を出せませんから」
P「……撮影の日の、あのリボンも?」
まゆ「ええ。あの衣装のリボンは、まゆがお守りのつもりでつけてもらったものです」
まゆ「だから、いらないって言われたとき……少しだけ、悲しかったんですよ?」
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:32:29.14 ID:MBz+eAr90
P「……悪かったよ、そこまで頭が回ってなかったんだ」
P「最後にもうひとつ。最初の日、幸子とご飯に行くって言ってたのは――」
まゆ「……卯月ちゃんのおうちに、行っていたんです」
まゆ「毎週、あの日だけは。卯月ちゃんが、ひとりで泣いていないか見に行くって、凛ちゃんと約束していたので」
まゆ「幸子ちゃんのお名前を借りてしまったのは……ごめんなさい」
P(まゆが嘘をついてまで隠していたのは、誰かを傷つけることじゃなかった)
P(……大切な誰かを守ることだったんだな)
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:33:21.42 ID:MBz+eAr90
◇
P(屋上の扉を開けると、響子がフェンスにもたれて空を見ていた)
響子「……プロデューサーさん」
P「ここにいるって、凛に聞いたんだ」
響子「凛ちゃん、余計なことを……」
P(響子は少しだけ笑った。……あの夜から、初めて見る笑顔だった)
響子「ちひろさんが一度だけ、私に電話をくれたんです」
響子「あの人が死んだのは、あなたのせいじゃないって。……それだけ言って、切れました」
P「……そうか」
響子「プロデューサーさん。私、集会で嘘をつきました」
響子「知りませんって言ったのは、半分だけ嘘です」
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:35:15.52 ID:MBz+eAr90
響子「あの夜、卯月ちゃんを探しに出て、見つけられないまま事務所に戻ったとき――事務室の窓に、ちひろさんが立っているのが見えました」
響子「大通りの方を、じっと見ていて。……それで、なんとなくわかってしまったんです」
P「どうして、黙っていたんだ」
響子「ちひろさんは、私の話を信じてくれた、たった一人の大人だったから」
響子「事務所がそんなことは起きていないって言ったときも、ちひろさんだけは、“あなたは悪くない”って言ってくれたんです」
響子「……そのことに、わたしも救われていたんです」
P(最初のプロデューサーの死が響子の罪の意識を生んでいた、ということなのか)
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:38:13.01 ID:MBz+eAr90
P「響子が中立派だって言っていたのは」
響子「伝達役は、中立派の子から選ばれる決まりだったんです。
……そうすれば、集会がみんなのものに見えるからって。それも、ちひろさんが決めたことでした」
響子「プロデューサーさんのお部屋に行ったのも、ちひろさんに頼まれたからです。
封筒を読んだら、きっと一人で抱え込んでしまうから、集会に誘ってあげてって」
響子「……でも、泣いたのは、本当です」
響子「プロデューサーさんが、味方だって言ってくれたのも、本当にうれしかった」
P「……ああ。わかってるよ」
響子「あの、プロデューサーさん。最初に私が言ったこと、覚えていますか」
P「私たちのことを許してくれますか、ってそう言ったよな」
響子「はい。……今度は、ちゃんと自分で考えます。自分のしたことを、どうやって償えばいいのか」
響子「だから、もう少しだけ――待っていてもらえますか」
P「ああ。いくらでも待つよ」
響子「……ありがとうございます」
P(響子はそう言ってさみしそうな顔で笑った)
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:41:40.39 ID:MBz+eAr90
◇
P(レッスン場から、久しぶりに賑やかな声が聞こえてきた)
凛「卯月、そこ半拍遅れてる」
卯月「えへへ、ごめんね凛ちゃん。……半年ぶりだから、体が全然動かなくて」
加蓮「無理しないでよ、卯月ちゃん。今日は見学だけでいいって言われてるんだから」
P(卯月は、まだ時々ふっと遠くを見るような顔をする)
P(それでも――凛と加蓮に挟まれて、たしかに笑っていた)
P「なあ、加蓮。ひとつ聞いてもいいか」
加蓮「なに、プロデューサー」
P「……実際、罰ってのはどんなことをしていたんだ?」
加蓮「……あーそれね。ほとんどは、子どもっぽいことだよ。一週間口をきかないとか、仕事を一個譲らせるとか、衣装を隠すとか」
加蓮「それでも、私は気分が悪くなったけどね。……でも、本当に取り返しがつかなかったのは、あの一回だけだと思う」
加蓮「……それがきっかけで、段々とやることもエスカレートしていってさ。
誰が外の人間漏らすかなんてわからないし……みんなこわかったんだよ」
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:43:58.26 ID:MBz+eAr90
P(小さな罰を繰り返すうちに、誰もそれをおかしいと思わなくなっていったのか)
P(ちひろさんは、それを知っていて止めなかった。……そして、あの夜だけは、自分の手で終わらせてしまった)
加蓮「……それとね、集会の前の日に、凛が手を挙げるつもりだってちひろさんに言ったの――実はアタシなんだ」
加蓮「凛には内緒にしてて。……告げ口みたいで、ずっと言えなかったから」
P「……でも加蓮が言わなかったら、卯月はあの場に来なかった。……ありがとな」
加蓮「……ふふ。アタシもちょっとだけでも役に立ったってことなのかな」
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:44:27.63 ID:MBz+eAr90
◇
みりあ「プロデューサー!」ガシッ
P「おっと……みりあ」
みりあ「ねえねえ、ちひろさんいつ戻ってくるの?」
P「……しばらくは、戻ってこないんだ」
みりあ「そっかー……」
P「みりあ。車の中で前任のことを聞いたとき、何も知らないって言ったよな」
みりあ「……うん」
みりあ「ちひろさんとの、お約束だったの。前のプロデューサーのことは、新しいプロデューサーには言っちゃダメって」
みりあ「集会でいちばんに手を挙げると、みんながえらいねって言ってくれたの。だから、いつもいちばんにしてたんだ」
P「……そっか」
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:45:22.22 ID:MBz+eAr90
P「みりあ。ちひろさんとのお約束は、もう守らなくていいんだ」
みりあ「ほんと?」
P「ああ。その代わり――俺と、新しいお約束をしよう」
P「困ったことがあったら、隠さずにちゃんと言う。嘘はつかない。……できるか?」
みりあ「うんっ! みりあ、約束する!」
みりあ「じゃあプロデューサーも、みりあに嘘つかないでね?」
P「……ああ。約束だ」
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:45:57.11 ID:MBz+eAr90
◇
P(夕方の事務所。デスクの引き出しを開けると、飲みかけのまま忘れていたエナドリが一本転がっていた)
P(……もう、毎朝これが置かれることはないんだな)
P(給湯室で、自分のためにコーヒーを淹れる。そういえば、ここで凛たちの話を聞いたのが、全部の始まりだった)
コンコン
幸子「フフーン、プロデューサーさん! 今日もボクのカワイイ顔を見に来てあげましたよ!」
P「……幸子。お前は、本当に変わらないな」
幸子「当然です! ……それに」
幸子「ボク、言いましたよね。力になれることがあったら、なんでも言ってくださいって」
幸子「あれ、今でも有効ですからね!」
P「……ああ。ありがとな、幸子」ナデナデ
幸子「ふ、フフーン! まあ、まずまずの撫で具合ですね!」
P「ほら、仕事があるだろ。レッスンの準備しなくちゃな」
幸子「ななっ!ちょっと、まだお話は終わってないのにーー!」
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2026/10/30(金) 00:48:06.58 ID:MBz+eAr90
バタン
P「ふう……やれやれだ」
P(どっと疲れがわいて出てきたようだ)
P(でも幸子や、みんなのおかげでこうして仕事も続けることができてる)
P(窓の外では、街の明かりがひとつずつ灯り始めていた)
P(……これまでずっと、事務所のアイドルが怖くなる瞬間があった)
P(だけど、今はちがう――)
P「……」
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2026/10/30(金) 00:51:50.81 ID:MBz+eAr90
P(何もかもが間違っていたとは思いたくもない)
P(だけど、たしかに傷ついた人たちがいて。その傷はすぐに癒えるものでないだろう)
P(だが……)
P(失ったものだけじゃない、そう信じるしかないよな)
ちひろ『プロデューサーさんのこと、みんな大好きだって思ってますよ』
P「……」
P(彼女がいつでも戻ってこれるように、机はそのままにしている)
P(だからまた会えた時は……なんて)
P「さあ、仕事でもやるかなあ……」
P(俺は再び机に向かった)
P(今は1人だけの事務所がいつもよりもどこか広く感じた)
おわり
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2026/10/30(金) 00:53:55.56 ID:MBz+eAr90
書き始めてから完結まで途方もなく長い時間がかかってしまいました。。読んでくださった方ありがとございました。依頼かけてきます
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