モバP「時々、事務所のアイドルが怖くなる時がありまして……」

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186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:13:14.40 ID:MBz+eAr90

P(俺は椅子から立ち上がり、みくの手首に結ばれたリボンをほどいた)

みく「……Pチャン」

P「遅くなって、ごめんな」

みく「……ばか。ほんとに、ばかにゃ……」ポロポロ

P(蝋燭が一本、また一本と吹き消されていく)

P(凛は卯月の手を握り、加蓮と奈緒がその両側に寄り添っていた)

P(響子は、誰とも目を合わせないまま、俺の前に鍵を差し出した)

響子「……これ、お返しします」

P「……いつ、盗ったんだ」

響子「盗ってませんよ。……みりあちゃんが、拾ったって渡してくれたんです」

P(――あのときか)

P(席に着いたとき、みりあに抱きつかれた)

P(たまたま拾っただけなのか。それとも――)

響子「おやすみなさい、プロデューサーさん」

P(響子は、それ以上何も言わずにレッスン場を出ていった)

187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:13:49.14 ID:MBz+eAr90

P「……」

P(集会は終わった。真犯人は、わからないまま)

P(――いや)

P(本当に、わからないままなんだろうか)

188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:14:35.66 ID:MBz+eAr90

◇

ガチャ

ちひろ「お疲れ様でした、プロデューサーさん。みんな、無事に帰れましたか?」

P「……ええ。凛と加蓮が、卯月を家まで送っていきました」

ちひろ「そうですか。よかった」コトッ

P(デスクの上に、湯気の立つコーヒーがふたつ置かれた)

P(いつもと同じ事務室。いつもと同じ、ちひろさんの笑顔)

P(……それが、今は何よりも遠く感じる)

ちひろ「どうぞ、座ってください。今日は本当に、長い一日でしたね」

P「ちひろさん」

ちひろ「はい?」


P「前任のプロデューサーを死なせたのは――あなたですね?」

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:16:05.89 ID:MBz+eAr90

ちひろ「……」

P(ちひろさんは、カップを持ったまま、ほんの少しだけ首をかしげた)

ちひろ「どうして、そう思うんですか?」

P「ひとつずつ、話してもいいですか」

ちひろ「ええ。どうぞ」

P「……最初に引っかかったのは、響子の言葉です」

P「集会で、響子は俺のしてきたことを全部言い当てました。
名簿を探したこと、電話を受けたこと、封筒を開けたこと、レッスン場に忍び込んだこと、凛と話したこと」

P「――そして、昨日の夜は、ちひろさんとお話をしていましたねと」

ちひろ「……」

P「昨日の夜、この部屋にいたのは俺とちひろさんだけです。
あの話を響子が知っているなら、話したのはちひろさんしかいない」

ちひろ「誰かが、廊下で立ち聞きしていたのかもしれませんよ?」

190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:17:35.19 ID:MBz+eAr90

P「なら、二つ目です。照明室の鍵」

P「ちひろさんは、俺に鍵を渡した。その鍵がなくなっても、ちひろさんは照明室にいて、ちょうどいいタイミングで明かりをつけた」

P「予備の鍵を持っていたのは、念のためだったのかもしれません。
でも、照明室にいたこと自体が答えです。あそこからは、レッスン場が全部見える」

P「卯月を連れてきたのも、凛が手を挙げた直後でした。……ちひろさんは照明室から、集会をずっと見ていたんだ」

P「何度も開かれてきた集会を、ずっと。一度も止めずに」

ちひろ「……」

191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:18:31.14 ID:MBz+eAr90

P「三つ目は、電話です」

P「電話の主は、前任の体から睡眠導入剤に近い成分が出たことを知っていました。現場に防犯カメラがなかったことも」

P「そんなことを知っているのは、警察とやりとりをした人間だけです。この事務所で、警察や会社の窓口になっていたのは誰ですか」

ちひろ「……」

P「ちひろさんは、手紙を書いたことは認めた。でも、電話のことだけは“今はまだ話せない”と言った」

P「否定しなかったのは――本当は、話してしまいたかったからじゃないですか」

P「ノイズで誤魔化していても――いつも聞いている声を、俺が聞き間違えるはずがないですよ」

ちひろ「……ふふ」



192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:19:36.61 ID:MBz+eAr90

P「四つ目。卯月が前任の飲み物に入れた薬」

P「あれはどこから来たのか、ずっと考えていました。事務所で薬を手に入れられる場所は、救急箱しかない。
……管理しているのは、ちひろさんですよね」

P「それに、卯月は前任のパソコンからデータを消すはずだったと言っていた。
パスワードを知っていて、名簿を二年分抜き取れる人間が、ほかにいるとは思えない」

P「最後に、あの手紙です」

P「人が二人も死んでいる。あなたは、そう書いた」

P「最初のプロデューサーの死は事故です。それなのにちひろさんは、前任の死と同じように数えている」

P「――ちひろさんにとっては、あれも事故じゃなかったんだ。
前任に殺されたと、そう思っているんじゃないですか」

ちひろ「……」

193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:20:59.11 ID:MBz+eAr90

P(長い沈黙だった)

P(ちひろさんは、両手で包んだカップの中を、じっと見下ろしていた)

ちひろ「……プロデューサーさんは、思っていたより鋭いんですね」

ちひろ「あの人も、そうやって私をまっすぐ見る人でした」

P「……最初のプロデューサーですか」

ちひろ「ええ。私の同期で――私の、大切な人でした」

ちひろ「……結婚の約束も、していたんですよ。誰にも言っていませんでしたけど」

ちひろ「あの人が亡くなった夜、響子ちゃんを送ったのは、その日三件目の送迎だったんです」

ちひろ「一件目は、取引先との“会食”の送り。二件目は、その帰りです。
当時、別の部署からあの人に仕事を回す立場だった前任が、汚い仕事を全部あの人に押しつけていました」

ちひろ「眠る時間もないまま響子ちゃんの電話に出て、迎えに行って、その帰りにあの人はガードレールに突っ込んだ」

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:21:59.52 ID:MBz+eAr90

P「……なら、響子のせいじゃない」

ちひろ「ええ。でも私は、それを一度も響子ちゃんに言いませんでした」

ちひろ「……いいえ。違いますね。本当のことを言います」

ちひろ「あの夜、三件目の送迎をあの人の予定に入れたのは――私なんです」

P「……ちひろさんが?」

ちひろ「前任に言われるまま、スケジュールを組みました。あの人が、頼まれたら絶対に断らない人だと知っていたのに」

ちひろ「だから、響子ちゃんに本当のことを言えなかった。
……あの子が、自分のせいだと思っていてくれる間は、私は自分を責めずに済んだから」

P「――っ」

P(……響子が抱えていた罪悪感は、ちひろさんが自分の罪悪感から目を逸らすために、そのまま預けていたものだったのか)


195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:23:40.20 ID:MBz+eAr90

ちひろ「自分のせいだと思っている子はね、悪いことをした人には罰が必要だという言葉を、とても素直に受け取ってくれるんです」

ちひろ「あの人の担当を引き継いだのは前任でした」

ちひろ「そのあとのことは、響子ちゃんから聞いたとおりです。……会社は、何もしませんでした」

ちひろ「上層部に、前任のことを訴えたこともあります。何度も」

ちひろ「最後に返ってきたのは、あなたも、あの夜のスケジュールを組んだ当事者ですよねという一言でした」

P「……脅されたんですか」

ちひろ「黙っていれば、私の名前は出さない。……そういう意味でした」

ちひろ「それで、わかったんです。正しい場所に訴えても、この会社では何も起きない。だったら――」

ちひろ「最初に集まり始めたのは、あの子たちです。私は、夜のレッスン場の鍵を開けておいただけ。……それが、いつの間にか集会になっていました」

ちひろ「みりあちゃんが、いつも最初に手を挙げるようになったのも知っていました。あの子が挙げると、みんな続きやすいって。……止めなかったのは、私です」


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:24:20.83 ID:MBz+eAr90

P(『集会で一番最初に手を挙げる子を、信じちゃダメだよ』)

P(信じてはいけなかったのは、みりあじゃない。みりあの手に、みんなが寄りかかっていた――あの場の空気だったんだ)

P「……鏡に貼ってあった名簿も、ちひろさんが?」

ちひろ「ええ。丸印は、これまでに“やる側”に選ばれた子です」

ちひろ「みくちゃんの下にプロデューサーさんの名前を書き足したのも、私です。……そうすれば、あなたは必ず集会に来るでしょう?」

P「あの夜、前任を外に連れ出したのは」

ちひろ「私です。響子ちゃんには、泣きながら飛び出していった卯月ちゃんを探してあげて、とお願いしました」

ちひろ「ふらふらしていたあの人に、大通りにタクシーを呼んでありますよと言って、肩を貸しました」

ちひろ「あの時間、あの通りを長距離のトラックが通ることも。防犯カメラが横断歩道の手前を映していないことも。私は、知っていましたから」

ちひろ「……そこで、手を離しただけです」


197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:25:15.15 ID:MBz+eAr90

P(響子が言っていた。戻ったときには、もう誰もいなかったと)

P(響子は――窓辺に立つちひろさんを、見ていたのかもしれない。それでも、何も言わなかった)

P「どうして、俺に電話をかけたんですか。手紙まで書いて」

ちひろ「集会を、終わらせたかったからです」

ちひろ「前任がいなくなっても、あの子たちは止まれなかった。いつか本当に、取り返しのつかないことをしてしまう」

ちひろ「だから、終わらせてくれる人が必要でした。何も知らない、新しいプロデューサーさんが」

P「……だから、記者のふりをして電話をかけたんですね」

ちひろ「ええ。事務所の人間から聞かされた話なら、あなたはきっと会社に相談してしまう。そうなれば、また全部もみ消されて終わりです」

ちひろ「外から来た声で、“あなたも気を付けた方がいい”と言われたら――あなたは、自分で調べずにはいられない人だと思いました」


P「あの夜、ちひろさんは先に帰ったはずでしたよね」

ちひろ「駐車場の車の中から、かけたんですよ。電話を切ったあと、忘れ物を取りに戻るふりをして、廊下にいました」

ちひろ「そうしたら、あなたが言ったんです。“あの声、どこかで聞いた覚えがある”って」


198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:26:02.76 ID:MBz+eAr90

P(――ひとりきりの事務所で、思わず口にした言葉だ)

P(あのとき、すぐ扉の向こうに、ちひろさんがいたのか)

ちひろ「だから慌てて、送るつもりだった手紙を書き直しました。……電話のことまで認める勇気は、そのときはまだありませんでした」

ちひろ「卯月ちゃんを連れていけば、集会は止まるかもしれない。……そこから先のことは、考えないようにしていました」

P「……自分のことは、隠したまま」

ちひろ「ええ」

ちひろ「それで、どうされますか? 証拠なんて、どこにもありませんよ」

P「……ありますよ」


スッ

P(胸ポケットからスマホを取り出して、画面をちひろさんに向ける)

P(赤い録音のマークが、点滅していた)

P「この部屋に入る前から、ずっと録っています」

ちひろ「……」

P(初めて、ちひろさんの笑顔から何かが抜け落ちた)

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:27:21.46 ID:MBz+eAr90


P「響子に、本当のことを話してください。最初のプロデューサーが死んだのは、響子のせいじゃないって」

P「それは、ちひろさんにしかできないことだと思います」

ちひろ「……」

ちひろ「……ええ。そうしましょう」

P(ちひろさんは、とうに冷めたコーヒーに、最後まで口をつけなかった)



◇

P(空が白み始めた頃、事務所の前に一台の車が停まった)

P(ちひろさんは、一度も振り返らずにそれに乗り込んでいった)

P(アイドルたちのこれからのことも、会社のことも、まだ何ひとつ片付いてはいない)

P(響子にも、卯月にも、みんなにだって、本当の解決にはこれから長い時間が必要になるだろう)

P(それでも――止まっていた時間は、ようやく動き出したんだと信じるしかない)


200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:27:47.44 ID:MBz+eAr90

―それから、一週間後―

P(事務所は、表向きはいつもどおりに動いている)

P(だが、ちひろさんの机は空のままだ。会社の上の方では毎日のように会議が開かれ、俺も何度か呼び出された)

P(録音は、すべて警察に渡した。響子と卯月も、何度か話を聞かれているらしい)

P(……それでも、まだわからないことがいくつか残っていた)


201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:29:26.51 ID:MBz+eAr90

◇

みく「Pチャン、おはようにゃ!」

P「おお、みく。……もう、レッスンに出て大丈夫なのか?」

みく「平気平気! みくはプロ意識が違うからねっ」

P(そう言って胸を張るみくの頭には、新しい猫耳がついていた)

まゆ「おはようございます、プロデューサーさん」

P「……まゆ」

P「ちょうどよかった。二人に、聞きたいことがあったんだ」

P「みく。集会の前の三日間、お前はどこにいたんだ?」

みく「……ああ、それは」

みく「まゆチャンの部屋だよ」

P「……まゆの?」


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:31:19.83 ID:MBz+eAr90

まゆ「うふ。まゆが、隠していたんです」

まゆ「あの日、みくちゃんがプロデューサーさんに話しすぎたって、何人かの子がすごく怒っていて」

まゆ「レッスン場に呼び出されたみくちゃんに付き添って行って、そのまま、まゆが連れ出しました。そのときに、髪飾りが引っかかって折れちゃったんです」

みく「まゆチャン、すごかったんだよ。ほかの子たちの前で、この子はまゆが預かりますって、にっこり笑って」

P(幸子が見た怯えた顔のみくと、振り返って笑うまゆは――そういうことだったのか)

P「……じゃあ、みくの手首に結んであったリボンは」

まゆ「あれは、まゆの“しるし”です」

まゆ「集会で、みくちゃんがまゆの側にいるって、みんなにわかるように。……リボンを結んだ子には、誰も手を出せませんから」

P「……撮影の日の、あのリボンも?」

まゆ「ええ。あの衣装のリボンは、まゆがお守りのつもりでつけてもらったものです」

まゆ「だから、いらないって言われたとき……少しだけ、悲しかったんですよ?」



203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:32:29.14 ID:MBz+eAr90

P「……悪かったよ、そこまで頭が回ってなかったんだ」

P「最後にもうひとつ。最初の日、幸子とご飯に行くって言ってたのは――」

まゆ「……卯月ちゃんのおうちに、行っていたんです」

まゆ「毎週、あの日だけは。卯月ちゃんが、ひとりで泣いていないか見に行くって、凛ちゃんと約束していたので」

まゆ「幸子ちゃんのお名前を借りてしまったのは……ごめんなさい」

P(まゆが嘘をついてまで隠していたのは、誰かを傷つけることじゃなかった)

P(……大切な誰かを守ることだったんだな)


204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:33:21.42 ID:MBz+eAr90

◇

P(屋上の扉を開けると、響子がフェンスにもたれて空を見ていた)

響子「……プロデューサーさん」

P「ここにいるって、凛に聞いたんだ」

響子「凛ちゃん、余計なことを……」

P(響子は少しだけ笑った。……あの夜から、初めて見る笑顔だった)

響子「ちひろさんが一度だけ、私に電話をくれたんです」

響子「あの人が死んだのは、あなたのせいじゃないって。……それだけ言って、切れました」

P「……そうか」

響子「プロデューサーさん。私、集会で嘘をつきました」

響子「知りませんって言ったのは、半分だけ嘘です」


205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:35:15.52 ID:MBz+eAr90

響子「あの夜、卯月ちゃんを探しに出て、見つけられないまま事務所に戻ったとき――事務室の窓に、ちひろさんが立っているのが見えました」

響子「大通りの方を、じっと見ていて。……それで、なんとなくわかってしまったんです」

P「どうして、黙っていたんだ」

響子「ちひろさんは、私の話を信じてくれた、たった一人の大人だったから」

響子「事務所がそんなことは起きていないって言ったときも、ちひろさんだけは、“あなたは悪くない”って言ってくれたんです」

響子「……そのことに、わたしも救われていたんです」

P(最初のプロデューサーの死が響子の罪の意識を生んでいた、ということなのか)



206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:38:13.01 ID:MBz+eAr90

P「響子が中立派だって言っていたのは」

響子「伝達役は、中立派の子から選ばれる決まりだったんです。
   ……そうすれば、集会がみんなのものに見えるからって。それも、ちひろさんが決めたことでした」

響子「プロデューサーさんのお部屋に行ったのも、ちひろさんに頼まれたからです。
   封筒を読んだら、きっと一人で抱え込んでしまうから、集会に誘ってあげてって」

響子「……でも、泣いたのは、本当です」

響子「プロデューサーさんが、味方だって言ってくれたのも、本当にうれしかった」

P「……ああ。わかってるよ」

響子「あの、プロデューサーさん。最初に私が言ったこと、覚えていますか」

P「私たちのことを許してくれますか、ってそう言ったよな」

響子「はい。……今度は、ちゃんと自分で考えます。自分のしたことを、どうやって償えばいいのか」

響子「だから、もう少しだけ――待っていてもらえますか」

P「ああ。いくらでも待つよ」

響子「……ありがとうございます」

P(響子はそう言ってさみしそうな顔で笑った)



207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:41:40.39 ID:MBz+eAr90

◇

P(レッスン場から、久しぶりに賑やかな声が聞こえてきた)

凛「卯月、そこ半拍遅れてる」

卯月「えへへ、ごめんね凛ちゃん。……半年ぶりだから、体が全然動かなくて」

加蓮「無理しないでよ、卯月ちゃん。今日は見学だけでいいって言われてるんだから」

P(卯月は、まだ時々ふっと遠くを見るような顔をする)

P(それでも――凛と加蓮に挟まれて、たしかに笑っていた)


P「なあ、加蓮。ひとつ聞いてもいいか」

加蓮「なに、プロデューサー」

P「……実際、罰ってのはどんなことをしていたんだ?」

加蓮「……あーそれね。ほとんどは、子どもっぽいことだよ。一週間口をきかないとか、仕事を一個譲らせるとか、衣装を隠すとか」

加蓮「それでも、私は気分が悪くなったけどね。……でも、本当に取り返しがつかなかったのは、あの一回だけだと思う」

加蓮「……それがきっかけで、段々とやることもエスカレートしていってさ。
   誰が外の人間漏らすかなんてわからないし……みんなこわかったんだよ」




208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:43:58.26 ID:MBz+eAr90

P(小さな罰を繰り返すうちに、誰もそれをおかしいと思わなくなっていったのか)

P(ちひろさんは、それを知っていて止めなかった。……そして、あの夜だけは、自分の手で終わらせてしまった)

加蓮「……それとね、集会の前の日に、凛が手を挙げるつもりだってちひろさんに言ったの――実はアタシなんだ」

加蓮「凛には内緒にしてて。……告げ口みたいで、ずっと言えなかったから」

P「……でも加蓮が言わなかったら、卯月はあの場に来なかった。……ありがとな」

加蓮「……ふふ。アタシもちょっとだけでも役に立ったってことなのかな」

209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:44:27.63 ID:MBz+eAr90

◇

みりあ「プロデューサー!」ガシッ

P「おっと……みりあ」

みりあ「ねえねえ、ちひろさんいつ戻ってくるの?」

P「……しばらくは、戻ってこないんだ」

みりあ「そっかー……」

P「みりあ。車の中で前任のことを聞いたとき、何も知らないって言ったよな」

みりあ「……うん」

みりあ「ちひろさんとの、お約束だったの。前のプロデューサーのことは、新しいプロデューサーには言っちゃダメって」

みりあ「集会でいちばんに手を挙げると、みんながえらいねって言ってくれたの。だから、いつもいちばんにしてたんだ」

P「……そっか」

210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:45:22.22 ID:MBz+eAr90

P「みりあ。ちひろさんとのお約束は、もう守らなくていいんだ」

みりあ「ほんと?」

P「ああ。その代わり――俺と、新しいお約束をしよう」

P「困ったことがあったら、隠さずにちゃんと言う。嘘はつかない。……できるか?」

みりあ「うんっ! みりあ、約束する!」

みりあ「じゃあプロデューサーも、みりあに嘘つかないでね?」

P「……ああ。約束だ」


211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:45:57.11 ID:MBz+eAr90

◇

P(夕方の事務所。デスクの引き出しを開けると、飲みかけのまま忘れていたエナドリが一本転がっていた)

P(……もう、毎朝これが置かれることはないんだな)

P(給湯室で、自分のためにコーヒーを淹れる。そういえば、ここで凛たちの話を聞いたのが、全部の始まりだった)


コンコン

幸子「フフーン、プロデューサーさん! 今日もボクのカワイイ顔を見に来てあげましたよ!」

P「……幸子。お前は、本当に変わらないな」

幸子「当然です! ……それに」

幸子「ボク、言いましたよね。力になれることがあったら、なんでも言ってくださいって」

幸子「あれ、今でも有効ですからね!」

P「……ああ。ありがとな、幸子」ナデナデ

幸子「ふ、フフーン! まあ、まずまずの撫で具合ですね!」

P「ほら、仕事があるだろ。レッスンの準備しなくちゃな」

幸子「ななっ!ちょっと、まだお話は終わってないのにーー!」


212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:48:06.58 ID:MBz+eAr90

バタン


P「ふう……やれやれだ」

P(どっと疲れがわいて出てきたようだ)

P(でも幸子や、みんなのおかげでこうして仕事も続けることができてる)


P(窓の外では、街の明かりがひとつずつ灯り始めていた)


P(……これまでずっと、事務所のアイドルが怖くなる瞬間があった)

P(だけど、今はちがう――)


P「……」

213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2026/10/30(金) 00:51:50.81 ID:MBz+eAr90

P(何もかもが間違っていたとは思いたくもない)

P(だけど、たしかに傷ついた人たちがいて。その傷はすぐに癒えるものでないだろう)

P(だが……)

P(失ったものだけじゃない、そう信じるしかないよな)


ちひろ『プロデューサーさんのこと、みんな大好きだって思ってますよ』


P「……」


P(彼女がいつでも戻ってこれるように、机はそのままにしている)

P(だからまた会えた時は……なんて)


P「さあ、仕事でもやるかなあ……」

P(俺は再び机に向かった)

P(今は1人だけの事務所がいつもよりもどこか広く感じた)


おわり
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2026/10/30(金) 00:53:55.56 ID:MBz+eAr90
書き始めてから完結まで途方もなく長い時間がかかってしまいました。。読んでくださった方ありがとございました。依頼かけてきます
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