モバP「時々、事務所のアイドルが怖くなる時がありまして……」

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201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:29:26.51 ID:MBz+eAr90

◇

みく「Pチャン、おはようにゃ!」

P「おお、みく。……もう、レッスンに出て大丈夫なのか?」

みく「平気平気! みくはプロ意識が違うからねっ」

P(そう言って胸を張るみくの頭には、新しい猫耳がついていた)

まゆ「おはようございます、プロデューサーさん」

P「……まゆ」

P「ちょうどよかった。二人に、聞きたいことがあったんだ」

P「みく。集会の前の三日間、お前はどこにいたんだ?」

みく「……ああ、それは」

みく「まゆチャンの部屋だよ」

P「……まゆの?」


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:31:19.83 ID:MBz+eAr90

まゆ「うふ。まゆが、隠していたんです」

まゆ「あの日、みくちゃんがプロデューサーさんに話しすぎたって、何人かの子がすごく怒っていて」

まゆ「レッスン場に呼び出されたみくちゃんに付き添って行って、そのまま、まゆが連れ出しました。そのときに、髪飾りが引っかかって折れちゃったんです」

みく「まゆチャン、すごかったんだよ。ほかの子たちの前で、この子はまゆが預かりますって、にっこり笑って」

P(幸子が見た怯えた顔のみくと、振り返って笑うまゆは――そういうことだったのか)

P「……じゃあ、みくの手首に結んであったリボンは」

まゆ「あれは、まゆの“しるし”です」

まゆ「集会で、みくちゃんがまゆの側にいるって、みんなにわかるように。……リボンを結んだ子には、誰も手を出せませんから」

P「……撮影の日の、あのリボンも?」

まゆ「ええ。あの衣装のリボンは、まゆがお守りのつもりでつけてもらったものです」

まゆ「だから、いらないって言われたとき……少しだけ、悲しかったんですよ?」



203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:32:29.14 ID:MBz+eAr90

P「……悪かったよ、そこまで頭が回ってなかったんだ」

P「最後にもうひとつ。最初の日、幸子とご飯に行くって言ってたのは――」

まゆ「……卯月ちゃんのおうちに、行っていたんです」

まゆ「毎週、あの日だけは。卯月ちゃんが、ひとりで泣いていないか見に行くって、凛ちゃんと約束していたので」

まゆ「幸子ちゃんのお名前を借りてしまったのは……ごめんなさい」

P(まゆが嘘をついてまで隠していたのは、誰かを傷つけることじゃなかった)

P(……大切な誰かを守ることだったんだな)


204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:33:21.42 ID:MBz+eAr90

◇

P(屋上の扉を開けると、響子がフェンスにもたれて空を見ていた)

響子「……プロデューサーさん」

P「ここにいるって、凛に聞いたんだ」

響子「凛ちゃん、余計なことを……」

P(響子は少しだけ笑った。……あの夜から、初めて見る笑顔だった)

響子「ちひろさんが一度だけ、私に電話をくれたんです」

響子「あの人が死んだのは、あなたのせいじゃないって。……それだけ言って、切れました」

P「……そうか」

響子「プロデューサーさん。私、集会で嘘をつきました」

響子「知りませんって言ったのは、半分だけ嘘です」


205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:35:15.52 ID:MBz+eAr90

響子「あの夜、卯月ちゃんを探しに出て、見つけられないまま事務所に戻ったとき――事務室の窓に、ちひろさんが立っているのが見えました」

響子「大通りの方を、じっと見ていて。……それで、なんとなくわかってしまったんです」

P「どうして、黙っていたんだ」

響子「ちひろさんは、私の話を信じてくれた、たった一人の大人だったから」

響子「事務所がそんなことは起きていないって言ったときも、ちひろさんだけは、“あなたは悪くない”って言ってくれたんです」

響子「……そのことに、わたしも救われていたんです」

P(最初のプロデューサーの死が響子の罪の意識を生んでいた、ということなのか)



206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:38:13.01 ID:MBz+eAr90

P「響子が中立派だって言っていたのは」

響子「伝達役は、中立派の子から選ばれる決まりだったんです。
   ……そうすれば、集会がみんなのものに見えるからって。それも、ちひろさんが決めたことでした」

響子「プロデューサーさんのお部屋に行ったのも、ちひろさんに頼まれたからです。
   封筒を読んだら、きっと一人で抱え込んでしまうから、集会に誘ってあげてって」

響子「……でも、泣いたのは、本当です」

響子「プロデューサーさんが、味方だって言ってくれたのも、本当にうれしかった」

P「……ああ。わかってるよ」

響子「あの、プロデューサーさん。最初に私が言ったこと、覚えていますか」

P「私たちのことを許してくれますか、ってそう言ったよな」

響子「はい。……今度は、ちゃんと自分で考えます。自分のしたことを、どうやって償えばいいのか」

響子「だから、もう少しだけ――待っていてもらえますか」

P「ああ。いくらでも待つよ」

響子「……ありがとうございます」

P(響子はそう言ってさみしそうな顔で笑った)



207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:41:40.39 ID:MBz+eAr90

◇

P(レッスン場から、久しぶりに賑やかな声が聞こえてきた)

凛「卯月、そこ半拍遅れてる」

卯月「えへへ、ごめんね凛ちゃん。……半年ぶりだから、体が全然動かなくて」

加蓮「無理しないでよ、卯月ちゃん。今日は見学だけでいいって言われてるんだから」

P(卯月は、まだ時々ふっと遠くを見るような顔をする)

P(それでも――凛と加蓮に挟まれて、たしかに笑っていた)


P「なあ、加蓮。ひとつ聞いてもいいか」

加蓮「なに、プロデューサー」

P「……実際、罰ってのはどんなことをしていたんだ?」

加蓮「……あーそれね。ほとんどは、子どもっぽいことだよ。一週間口をきかないとか、仕事を一個譲らせるとか、衣装を隠すとか」

加蓮「それでも、私は気分が悪くなったけどね。……でも、本当に取り返しがつかなかったのは、あの一回だけだと思う」

加蓮「……それがきっかけで、段々とやることもエスカレートしていってさ。
   誰が外の人間漏らすかなんてわからないし……みんなこわかったんだよ」




208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:43:58.26 ID:MBz+eAr90

P(小さな罰を繰り返すうちに、誰もそれをおかしいと思わなくなっていったのか)

P(ちひろさんは、それを知っていて止めなかった。……そして、あの夜だけは、自分の手で終わらせてしまった)

加蓮「……それとね、集会の前の日に、凛が手を挙げるつもりだってちひろさんに言ったの――実はアタシなんだ」

加蓮「凛には内緒にしてて。……告げ口みたいで、ずっと言えなかったから」

P「……でも加蓮が言わなかったら、卯月はあの場に来なかった。……ありがとな」

加蓮「……ふふ。アタシもちょっとだけでも役に立ったってことなのかな」

209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:44:27.63 ID:MBz+eAr90

◇

みりあ「プロデューサー!」ガシッ

P「おっと……みりあ」

みりあ「ねえねえ、ちひろさんいつ戻ってくるの?」

P「……しばらくは、戻ってこないんだ」

みりあ「そっかー……」

P「みりあ。車の中で前任のことを聞いたとき、何も知らないって言ったよな」

みりあ「……うん」

みりあ「ちひろさんとの、お約束だったの。前のプロデューサーのことは、新しいプロデューサーには言っちゃダメって」

みりあ「集会でいちばんに手を挙げると、みんながえらいねって言ってくれたの。だから、いつもいちばんにしてたんだ」

P「……そっか」

210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:45:22.22 ID:MBz+eAr90

P「みりあ。ちひろさんとのお約束は、もう守らなくていいんだ」

みりあ「ほんと?」

P「ああ。その代わり――俺と、新しいお約束をしよう」

P「困ったことがあったら、隠さずにちゃんと言う。嘘はつかない。……できるか?」

みりあ「うんっ! みりあ、約束する!」

みりあ「じゃあプロデューサーも、みりあに嘘つかないでね?」

P「……ああ。約束だ」


211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:45:57.11 ID:MBz+eAr90

◇

P(夕方の事務所。デスクの引き出しを開けると、飲みかけのまま忘れていたエナドリが一本転がっていた)

P(……もう、毎朝これが置かれることはないんだな)

P(給湯室で、自分のためにコーヒーを淹れる。そういえば、ここで凛たちの話を聞いたのが、全部の始まりだった)


コンコン

幸子「フフーン、プロデューサーさん! 今日もボクのカワイイ顔を見に来てあげましたよ!」

P「……幸子。お前は、本当に変わらないな」

幸子「当然です! ……それに」

幸子「ボク、言いましたよね。力になれることがあったら、なんでも言ってくださいって」

幸子「あれ、今でも有効ですからね!」

P「……ああ。ありがとな、幸子」ナデナデ

幸子「ふ、フフーン! まあ、まずまずの撫で具合ですね!」

P「ほら、仕事があるだろ。レッスンの準備しなくちゃな」

幸子「ななっ!ちょっと、まだお話は終わってないのにーー!」


212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2026/10/30(金) 00:48:06.58 ID:MBz+eAr90

バタン


P「ふう……やれやれだ」

P(どっと疲れがわいて出てきたようだ)

P(でも幸子や、みんなのおかげでこうして仕事も続けることができてる)


P(窓の外では、街の明かりがひとつずつ灯り始めていた)


P(……これまでずっと、事務所のアイドルが怖くなる瞬間があった)

P(だけど、今はちがう――)


P「……」

213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2026/10/30(金) 00:51:50.81 ID:MBz+eAr90

P(何もかもが間違っていたとは思いたくもない)

P(だけど、たしかに傷ついた人たちがいて。その傷はすぐに癒えるものでないだろう)

P(だが……)

P(失ったものだけじゃない、そう信じるしかないよな)


ちひろ『プロデューサーさんのこと、みんな大好きだって思ってますよ』


P「……」


P(彼女がいつでも戻ってこれるように、机はそのままにしている)

P(だからまた会えた時は……なんて)


P「さあ、仕事でもやるかなあ……」

P(俺は再び机に向かった)

P(今は1人だけの事務所がいつもよりもどこか広く感じた)


おわり
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2026/10/30(金) 00:53:55.56 ID:MBz+eAr90
書き始めてから完結まで途方もなく長い時間がかかってしまいました。。読んでくださった方ありがとございました。依頼かけてきます
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