梨子 「ひぐらしのなく頃に」

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2 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:49:27.49 ID:Gw/LBJoB0
荷物を大量に積んだトラックは、私たちが新居に着いたすぐ後に到着した。

東京からそう遠くはないが、出発したのが昼過ぎだったということもあり、辺りは夕日の赤に染められている。


梨子 「きれいな街。ここならいい曲が弾けそう」


都会の喧騒に疲れ、ピアノを弾くにもメロディが上手く浮かばなくなった私は、静かな環境にしばらく身を置くことにした。

夏休み中に引越しを終え、明けてからは浦の星女学院に転入し、新たな生活が始まる。
3 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:49:54.37 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「お隣、旅館なんだ。後で挨拶しに行かないと」


海風を背中に感じながら、新居の中へと足を踏み入れる。私はこの地で、上手くやっていけるだろうか。

新居の中でも、ひぐらしのなく声は煩く響き続けていた

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ーー
4 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:50:26.05 ID:Gw/LBJoB0
〜夏休み明け 浦の星女学院〜


千歌 「いやぁびっくりしたよ! 話題の転校生が、まさか隣に越してきた人だったなんて」

梨子 「挨拶に行った時、高校の名前言うの忘れてたもんね…ごめんね」

千歌 「いやいや、私てっきり大学生かと思ってたんだもん。高校どこ? とか聞かないよ」

梨子 「そんな、私なんて…」


曜 「でも本当綺麗だよねぇ梨子ちゃん。その綺麗な長い髪、憧れるなぁ」

千歌 「曜ちゃんも伸ばせばいいのに」

曜 「私はほら…くせっ毛だし。それに水泳やるのにも邪魔だしね」

梨子 「水泳?」
5 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:50:54.65 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「そう! 曜ちゃん凄いんだよ!」

曜 「泳ぐっていうよりか、私は飛び込みだけどね」

千歌 「曜ちゃん、今度の大会の優勝候補って言われてて、それにオリンピックも夢じゃないって言われてるんだよ!」

梨子 「お、オリンピック!? すごい…」

曜 「競技人口が少ないだけだってー。…あっ、そろそろ行かなきゃ」

千歌 「また練習ー?」

曜 「うん、ごめん。悪いけど先帰ってて」タタタッ


梨子 「……忙しそうね、曜ちゃん」

千歌 「仕方ないよ。さ、帰ろ?」
6 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:51:30.71 ID:Gw/LBJoB0
〜昇降口〜


梨子 「…なんだろう、なんかやけにざわついてるね」

千歌 「何かあったのかなぁ? ……あっ」

梨子 「千歌ちゃん? どうしたの…?」


鞠莉 「…………。」


千歌 「…なんだ、夏休み中一回も見かけなかったから、てっきり逃げたのかと思ったのに」

梨子 「あの人、知り合い? 3年生だよね?」

千歌 「知らない」
7 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:52:11.95 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「えっ…でも今逃げたとかなんとか」

千歌 「知らない。…行こ」

梨子 「ちょっ…ちょっと待ってよ!」


鞠莉 「……あなた、桜内さん?」

梨子 「えっ…はい」

鞠莉 「その子から離れて! その子は危険よ!」

梨子 「その子って…千歌ちゃんのことですか?」


千歌 「梨子ちゃんッ!!!」
8 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:53:05.35 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「び、びっくりした…いきなり大声出さないでよ…」

千歌 「ごめん…でも早く行こう!」

梨子 「う、うん…」


鞠莉 「…桜内さん、気をつけてね」

梨子 「えっ?」


そこにいるだけで周りをざわつかせていた金髪の少女は、虚ろ気な目で私を見つめていた。
続きの言葉を聞く前に、私は千歌ちゃんに手を引かれ、その場を離れてしまった。
9 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:53:44.02 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「ね、ねぇ千歌ちゃん…」

千歌 「…………。」スタスタ

梨子 「千歌ちゃん…千歌ちゃんッ!!!」

千歌 「…っ!! な、何?」

梨子 「腕…痛い」

千歌 「あっ…ごめん。掴みっぱなしだったね」


梨子 「…ねぇ、あの人誰なの? 知ってるんでしょ?」

千歌 「…知らないよ。私はあんな人知らない」
10 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:54:27.74 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「知らないわけないじゃない。あの人、その場にいただけで周りがあんなにざわついてて…。ただの有名な人…って雰囲気じゃなかった」

千歌 「…梨子ちゃん、これだけ言っておくね」


千歌 「あの人には絶対に近付かないで。…呪われても、知らないよ?」

梨子 「の、呪われる!?」

千歌 「…私が言えるのは、これだけ。さ、この話はおしまいっ!」

梨子 「千歌ちゃん…」
11 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:55:06.23 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「ねぇ梨子ちゃん! 帰りどっか寄ってかない!?」

梨子 「えっ…うん、いいけど」

千歌 「やったぁ! 千歌、甘いものが食べたい気分だったんだよねぇ」ニコッ


千歌ちゃんの笑顔は、教室でお話をしていた時の笑顔と変わらない…何も変わらないはずなのに。その時の笑顔からは、どこか狂気じみたものを感じた。


梨子 (千歌ちゃん…一体何を隠してるの?)

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ーーーー
ーー
12 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:55:53.94 ID:Gw/LBJoB0
〜駅前〜


千歌 「あっ、ルビィちゃんだ! おーい!」

ルビィ 「あっ、千歌さん!」

梨子 「かわいい…お友達?」

千歌 「うん、学年は違うけどね」

ルビィ 「えと…はじめまして、ですよね? 黒澤ルビィです」

梨子 「桜内梨子です、よろしく。黒澤…どこかで聞いたような」

千歌 「生徒会長じゃない? 転入手続きのとき会ったでしょ?」

梨子 「あぁ…たしか黒澤ダイヤさん」

ルビィ 「妹なんです。私」
13 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:56:37.97 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「そうだったんだ。確かに言われてみれば似てるかも」

千歌 「ルビィちゃんはここで何してるの?」

ルビィ 「今日は友達の付き添いで。ルビィは先に終わったので、ここで待ってるんです」

千歌 「そーなんだ。…でもルビィちゃん、こんなとこでアイスの買い食いなんて」

梨子 「何か問題でもあるの?」

千歌 「いやぁ。次女とはいえ、あの黒澤家の娘だよ? 買い食いなんてしてたら当主さんに怒られないかなぁって」

ルビィ 「……。」
14 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:57:35.33 ID:Gw/LBJoB0
ルビィ 「…ルビィは、大丈夫なんです。お姉ちゃんとは違いますから」

千歌 「ふーん…そっか」

ルビィ 「…る、ルビィ、友達のとこ戻ります! さようなら、千歌さん、梨子さん」

千歌 「うん、ばいばーい!」


梨子 「…黒澤家って、有名なの?」

千歌 「えぇっ!? 梨子ちゃん知らないの!? …まぁ無理もないか、越してきたばっかだもんね」
15 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:58:13.77 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「黒澤家…たしか網元って言うんだっけ?」

梨子 「私に聞かないでよ…」

千歌 「まぁとにかく、由緒正しき家系ってやつだよ! ここらで開かれるお祭りなんかも、黒澤家がほぼ取り仕切ってるようなものって話だよ」

梨子 「へぇ…ルビィちゃん、凄いところの娘さんなんだね。確かに買い食いなんてしてたら怒られちゃいそう」

千歌 「ダイヤさんはもっと厳しいらしいよ。次期当主、って話だし」


梨子 「でもさ千歌ちゃん、なんでそんな所の娘さんと知り合いなの?」

千歌 「あっ…あぁー…」
16 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:59:06.44 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「ぶ、部活が一緒でさ!」

梨子 「部活? 千歌ちゃん、部活なんてやってたの?」

千歌 「む、昔ね! 今はもう廃部になって!」

梨子 「そう…」

千歌 「ほ、ほら! 噂のスイーツ店すぐそこだよ! 行こいこ!」

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ーーーー
ーー
17 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 00:59:55.03 ID:Gw/LBJoB0
〜深夜 梨子の部屋〜


梨子 「………。」


鞠莉 『…桜内さん、気をつけてね』

千歌 『あの人には絶対に近付かないで。…呪われても、知らないよ?』


梨子 「呪い…この街には、絶対に何かある」
18 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:01:02.70 ID:Gw/LBJoB0
静岡県沼津市 呪い | 検索 |


梨子 「…これで、何かわかるかも」ゴクリ

「……ゃーん…! 梨子ちゃーん!」

梨子 「? 千歌ちゃん?」


千歌 「…あっ! よかった、梨子ちゃん起きてた」

梨子 「携帯もあるんだから、わざわざベランダ越しで話さなくても…」

千歌 「せっかくこんな近くにいるんだから、直接話したいなぁと思って」
19 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:01:47.18 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「私はいいけど、そっちは旅館でしょ? こんなに声出して大丈夫?」

千歌 「大丈夫、聞こえないって。ところで梨子ちゃん、こんな遅くまで何してたの?」

梨子 「えっ…うん、ピアノの練習を…」

千歌 「ピアノ? 音全然聞こえなかったよ?」

梨子 「うっ…」

千歌 「嘘下手っちょだなぁ、梨子ちゃん」

梨子 (千歌ちゃんも大概だと思うけど…)
20 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:02:27.10 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「で? 本当は何してたの?」

梨子 「……ちょっと調べ物を」

千歌 「まさか、呪いについてとか?」

梨子 「…うん。やっぱり気になっちゃって」


千歌 「やめてよ…」

梨子 「えっ?」

千歌 「嫌だよ…呪いのこと…“内浦の怒り” のことを知ったら、梨子ちゃんもきっと私のこと嫌いになる…!」

梨子 「ち、千歌ちゃん? どうしたの…?」
21 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:03:19.42 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「嫌だ…お願い…嫌いにならないで…私は何もしてないの…! 私は違う…違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!!!!」

梨子 「千歌ちゃん!? しっかりして!」

千歌 「はぁっ…はぁっ…。私…嫌われたくない…嫌われたくないよぅ…!」

梨子 「嫌わないから! 何があっても、私は千歌ちゃんのこと嫌わないから!」


千歌 「……ホントに?」

梨子 「本当よ」

千歌 「あとから嘘だったって…言わない?」

梨子 「言わない。だから…ね? 落ち着いて」

千歌 「……うん、ごめん」
22 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:04:08.15 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「呪いのこと…もう聞かないようにする。ごめんね」

千歌 「ううん、私の方こそ…」


梨子 「…もう遅いね。そろそろ寝よっか」

千歌 「うん、おやすみなさい」

梨子 「おやすみ、千歌ちゃん」


千歌 「……………。」グスッ
23 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:05:05.42 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「嫌だ…私じゃないのに…私は何も悪くないのに…」

千歌 「なんでみんな信じてくれないの? なんでみんな嘘をつくの…?」

千歌 「もう、大切な人に嫌われるのは嫌だ…」


千歌 「…………果南ちゃん」

ーーーーーー
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ーー
24 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:06:08.19 ID:Gw/LBJoB0
〜翌日 放課後 浦の星女学院 屋上〜


鞠莉 「……まさか、話題の転校生から呼び出しを受けるなんてね」

梨子 「ごめんなさい、突然」

鞠莉 「ひょっとしてlove letterと思ったケド…そんな雰囲気じゃなさそうね」


梨子 (…ごめん、千歌ちゃん。私やっぱり気になるんだ)


鞠莉 「2人っきりになれる場所で話をしようとするあたり、私のこの学校での扱われ方を知ってるようね」
25 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:07:03.33 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「…いじめを受けていると聞きました」

鞠莉 「…うん。まぁ、自業自得なんだけどね」

梨子 「それも、学校内だけじゃない。この街の人殆どから、あなたは嫌われている」

鞠莉 「そこまで知ってたのね」

梨子 「ネットで調べたら、たくさん出てきました。あなたがいじめを受けるに至った経緯…そして、この街に伝わる呪い、“内浦の怒り”についても」


鞠莉 「……私はね、この街が大好きだった」
26 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:09:00.06 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「この街の澄んだ空気…豊かな自然、透き通った海。全てが魅力的だった」

梨子 「いい街ですよね。来たばかりの私でも、そう思います」

鞠莉 「そう、いい街よ。だからこそ…父がね、この街にホテルを建てると言い出したの」

梨子 「…ここからでも見える、あの大きな空き地ですね」

鞠莉 「ええ、あそこにホテルが建つ予定だったの。このmarvelousな景観、リゾート開発するには最適よね?」

梨子 「そうかもしれません。けど、街の人たちは…」

鞠莉 「Exactly。ホテル建設に反対した人は少なくなかったわ。…理由は色々。日差しが遮られるとか、街の空気が乱れるとか、etcetc…けど慣れたものよ。そんなのは開発業者の常だもの」


鞠莉さんは手をひらひらと泳がせ、偽悪的に笑を浮かべる。地元の声を聞くふりだけをして強引に開発を推し進める。そんな小原家への自嘲が含まれているように見えて。
そこでふと、鞠莉さんの目が暗さを宿す。


鞠莉 「けれど、ある日ね…」
27 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:09:39.33 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「“内浦の怒り”…。建設現場で次々と、狂人化事件が起きた。そうですよね?」

鞠莉 「That's right。最初に起きたのは、現場のチーフのバラバラ死体が見つかった事件」

梨子 「犯人はすぐに特定…」

鞠莉 「けど、その犯人はもはや人としての理性を保っている状態ではなかった」

梨子 「……。」

鞠莉 「犯人は捕まったけど、獄中で無気力症に陥ったって話よ」
28 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:10:49.02 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「建設員が次々と狂人化して、その後無気力症を発症する…。普通では考えられないような現象が、建設現場で次々と起こって…」

鞠莉 「狂人化した人による事件の被害者の遺族なんかも、建設に反対してきてね…流石の私も参っちゃった」

梨子 「それで結局、建設は中止になったんですよね」

鞠莉 「残念だけど、流石に仕方なかったわね」


鞠莉さんが微笑む。その笑は先程の偽悪的なものとは違い、この街を思いやっているような、そんな優しさを含んだ笑だった。
一呼吸置き、再び真剣な面持ちに戻り、鞠莉さんは話を続けた。


鞠莉 「…建設が中止になった後だった。呪いの存在を知ったのは」


「町ヲ愛サヌ者 民ノ逆鱗ニ触レシ者
神ハ其ノ心ニ 罰ヲ与エン」
29 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:11:23.31 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「最初は反対してた住民による陰謀とか言われてたけど、皆この呪いを信じ、恐れた」

鞠莉 「それでも、まだ完全に信じられている訳では無い。現に反対してた住民を疑う声もある」

梨子 「……千歌ちゃんも、反対してたんですね」

鞠莉 「あの子の家は旅館だから。ホテルが出来たら死活問題だったのよね」


千歌 『嫌だ…お願い…嫌いにならないで…私は何もしてないの…! 私は違う…違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!!!!』
30 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:12:05.97 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「千歌ちゃん、疑われるのがトラウマになってたのね」

鞠莉 「…分からないわよ、それも演技かもしれない」

梨子 「えっ…それってどういう…」


言い終わる前に、扉が勢いよく開かれた。
その音に驚き、私と鞠莉さんは揃って扉の方へと目をやった。

……そこにいたのは、生徒会長だった。


鞠莉 「……ダイヤ」

ダイヤ 「本校の許可なしで、屋上に入ることは禁じられていますよ。鞠莉さん、梨子さん」
31 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:12:59.13 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「…ダイヤさんも、ホテル建設に反対していたんですか?」

ダイヤ 「突然なんですの?」

梨子 「知りたいんです。この街で何が起こっているのか…千歌ちゃんが、どうしてあそこまで追い詰められてしまったのか」


せっかくの呪いについて詳しい話を聞けるチャンス。無駄にはしたくない。
ダイヤさんに話のペースを持ってかれないようにと、必死に詰め寄る。


ダイヤ 「千歌さん…やはり今でも気にしているのですね」

梨子 「やっぱりルビィちゃんだけでなく、ダイヤさんとも面識はあったんですね、千歌ちゃん」

ダイヤ 「……あなたに話す必要はありませんわ」


鞠莉 「…ねぇダイヤ、私も知りたいの」
32 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:13:52.44 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「単刀直入に聞くわ。あの呪いと黒澤家は、なにか関係しているの?」

ダイヤ 「していない…と言ってあなたはそのまま信じますか?」

鞠莉 「あら、ダイヤは私を信じてくれないの?」

ダイヤ 「…口で言うのは簡単ですわ。今の状態で真実と偽りの区別がつくはずがない。なら何を話しても無駄でしょう」

鞠莉 「……ダイヤの分からず屋」ボソッ


ダイヤ 「分からず屋はどっちですかっ!!」

梨子 「…!」ビクッ
33 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:15:13.47 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「単刀直入に聞くわ。あの呪いと黒澤家は、なにか関係しているの?」

ダイヤ 「していない…と言ってあなたはそのまま信じますか?」

鞠莉 「あら、ダイヤは私を信じてくれないの?」

ダイヤ 「…口で言うのは簡単ですわ。今の状態で真実と偽りの区別がつくはずがない。なら何を話しても無駄でしょう」

鞠莉 「……ダイヤの分からず屋」ボソッ


ダイヤ 「分からず屋はどっちですかっ!!」

梨子 「…!」ビクッ
34 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:16:00.61 ID:Gw/LBJoB0
ダイヤ 「何故…なぜあなたはここに居続けるのですか!? 私が…私がどれだけっ!」


『小原さんの教科書、トイレに捨てられてたの見た!?』
『えっ、マジ!? 見に行く見に行く!』

『うわっ…アイツ傘盗られたからって濡れて帰ってんだけど』
『アイツにはそれがお似合いじゃない?』


ダイヤ 「あなたがいじめられているのを見るのが…どれだけの苦痛かっ!」

鞠莉 「ダイヤ…」
35 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:16:52.21 ID:Gw/LBJoB0
ダイヤ 「あなたを想ってのことなのです…早くこの街から出ていってください!」

鞠莉 「ダイヤ…。ごめん、それは無理」

ダイヤ 「どうして…!」

鞠莉 「私には、この呪いを解明する義務があるから。呪いを引き起こした責任があるの」

ダイヤ 「鞠莉さんに責任なんて…」


鞠莉 「ごめん、桜内さん。今日は先に帰らせてもらうね」
36 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:17:45.41 ID:Gw/LBJoB0
ダイヤ 「…………。」

梨子 「…どうしてですか? 生徒会長なら、いじめをやめさせればいいのに!」

ダイヤ 「それが出来れば苦労しませんわ!!」


ダイヤ 「……私には、どうしても崩せない立場というものがあります」

梨子 「黒澤家次期当主…としてですか」

ダイヤ 「街の空気を乱そうとした…そして呪いを引き起こした小原家は、この街の敵です」

ダイヤ 「幼馴染とはいえ、鞠莉さんをかばうような真似をすれば、黒澤家次期当主として顔が立ちません」

梨子 「やっぱり、仲良かったんですね。二人の顔を見れば分かりました」
37 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:18:26.03 ID:Gw/LBJoB0
ダイヤ 「せめて…呪いの原因でもわかれば。鞠莉さんを救えるかもしれません」

梨子 「…私、協力します」

ダイヤ 「……ですが、あなたは疑いたくないのでしょう? “彼女”のことを」

梨子 「彼女…千歌ちゃんのことですよね?」

ダイヤ 「千歌さん…と言うよりかは、高海家全員です。千歌さんの反応が特に怪しい、というだけで」
38 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:19:20.75 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「ダイヤさんは黒澤家という立場上、自由に動けない。なら私が、この呪いを解明して見せます」

ダイヤ 「……屋上の無断立ち入りの件は、見逃して差し上げます」

梨子 「…真面目ですね、ダイヤさん」

ダイヤ 「仕込まれた結果ですわ」


ふふっ、と優しく微笑む。先程まで見せていた生徒会長としての威厳に満ちた顔とはうって変わり、鞠莉さんの包容力に満ちた印象に似た何かを、ダイヤさんからも感じた。

……やっぱり、私がなんとかしないと。

決意を新たに、屋上を後にしようと扉を開けると、目の前に突然人が現れた。


梨子 「うわぁっ!?」

ルビィ 「ぴぎゃぁっ!?」
39 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:19:56.65 ID:Gw/LBJoB0
ダイヤ 「ルビィ!? どうしてここに…」

ルビィ 「お、お姉ちゃんがこっちに行ったのを見て気になって…」

ダイヤ 「それにまた飴なんか舐めて…学校ではやめなさいとあれほど…」

ルビィ 「ご、ごめんなさい…」

ダイヤ 「はぁ…仕方ないですわね」


梨子 「なんか…色々と甘いんですね、本当に」
40 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:20:43.08 ID:Gw/LBJoB0
ルビィ 「あ、梨子さんも飴舐めますか?」

梨子 「あっ…うん、ありがとう」

ダイヤ 「学校内で食べたら取り締まりますからね!」

梨子 「理不尽な…」


ダイヤ 「……宜しくお願いします、梨子さん」

ルビィ 「……。」ペコリ


2人に向かって頭を下げ、屋上をあとにした
……私にしか、出来ないんだ。なら、やれる限りのことをやらないと。

帰りがけに食べた飴は、いちご味だった。

ーーーーーー
ーーーー
ーー
41 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:22:00.07 ID:Gw/LBJoB0
〜帰り道〜


梨子 「……あれって、鞠莉さん?」


鞠莉 「うぅっ…いたぃっ…!」

女子生徒 「あんたのせいでしょ! あんたが“内浦の怒り”に触れたせいで、私のお父さんは!」


梨子 「もしかして…蹴られてる!? ちょっと! 何してるの!?」

女子生徒 「何って、コイツを見れば分かるでしょ?」

梨子 「分からないよ! どんな理由があってもいじめなんて…!」
42 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:22:57.74 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「…とめたら…Noだよ、桜内さん。悪いのは私、なんだから」

梨子 「鞠莉さん…」

女子生徒 「ほら、本人がこう言ってんだもん。あんたが口を挟むことない…よっ!」ガッ!

鞠莉 「ぐふぁっ…!?」

女子生徒 「……あーあ、他人に見られるとしらけるわ。じゃあね」


梨子 「鞠莉さん! 大丈夫ですか!?」

鞠莉 「これくらい No problem。平気よ」
43 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:23:34.30 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「あの子ね、ホテル建設に携わった建設員の娘さんなの」

鞠莉 「内浦の怒りの対象になって、彼女のお父さんも無気力状態に陥った。だから、私は蹴られて当然なの」

梨子 「そんなのおかしいですって!」

鞠莉 「Why? 何故?」

梨子 「どんな理由があっても、いじめられていい理由なんて…それをあなたが受け入れる義理なんて!」
44 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:24:05.71 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「ありがと、梨子は優しいんだね」

梨子 「鞠莉さん…」

鞠莉 「じゃ、私帰るわね。梨子も気をつけて帰りなさい」


……こんなの間違ってる。

この街を、どうすれば救える?

内浦の怒りという呪いの呪縛から、どうすればみんなを救い出せる?

それが出来るのは…

ーーーーーー
ーーーー
ーー
45 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:24:34.38 ID:Gw/LBJoB0
〜深夜 梨子の部屋〜


千歌 「……へぇ、そんなことが」

梨子 「だから、私が呪いの根源…それを突き止めることにしたの」

千歌 「梨子ちゃんは、これを呪いだと思う?」

梨子 「…正直なところ、人為的なものであるとは思う。だってこんな超常現象が起きるなんて、信じられないもん」

千歌 「……そっか。それとさ梨子ちゃん」

梨子 「なに?」


千歌 「なんでその話を私にしたの?」
46 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:25:11.66 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「…千歌ちゃんの考えが変わるかと思って」

千歌 「そっか、やっぱり疑われてたんだね」

梨子 「そうは言ってない。…ただ、知ってることを話してほしいの」

千歌 「私は何も知らない。私はただ反対運動をしていただけで…」


千歌 「…こんなはずじゃなかったのに。みんな私を疑うんだ」

梨子 「千歌ちゃん…」

千歌 「…いいよ。そんなに疑うなら、こんな街もうどうなったって構わない」


そう言って千歌ちゃんは、部屋に戻っていってしまった。
47 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:26:03.14 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「千歌ちゃん…?」


しばらくして、千歌ちゃんはベランダに戻ってきた。そして勢いよく助走をつけーー

私の部屋へと、飛び移った。


梨子 「きゃぁっ!?」

千歌 「……梨子ちゃんはやっぱり嘘つきだ。私のこと疑わないって…嫌わないって言ったのに!」


千歌ちゃんは持っていた包丁を、私に向かって振りかぶった。
48 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:26:30.39 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「ち、千歌ちゃんっ!?」

千歌 「いらない……梨子ちゃんなんていらないっ!! 大っ嫌いっ!!!」ブンッ!!

梨子 「や…やめて千歌ちゃん!」

千歌 「あまり避けないでよ…早く楽にしてあげたいんだからっ!」


だめだ、もう人の話が耳に入る状態じゃない
もしかしてこれが…狂人化? 千歌ちゃんも呪われた? でも、どうして?

千歌ちゃんはこの街が大好きで…裏切るようなことなんてしてないのに。
49 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:26:58.31 ID:Gw/LBJoB0
この街の人間はどこかおかしい

私が正さなきゃ…私しかできないんだから

私が……私が…っ!


こ の 街 を 正 す ん だ


千歌 「うぐぅっ…!」


千歌ちゃんが攻撃を外した勢いで、ピアノにぶつかり、そのまま倒れる。千歌ちゃんの手に鍵盤が押され、不協和音が部屋中に響く。

……私はその瞬間を見逃さなかった。
50 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:27:28.15 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「いっ…痛い痛い! 髪の毛引っ張らないで…っ!!」


千歌ちゃんの髪をつかみ、鍵盤に顔を叩きつける。さっきよりも汚い音が鳴る。


千歌 「がはっ…! 痛いよぅ…梨子ちゃん…やめて…やめてよぅ…」

梨子 「ふーっ…ふーっ…うわぁぁぁッ!!!」


素早く千歌ちゃんの頭から手を離し、そのまま鍵盤の蓋を勢いよく閉める。
千歌ちゃんの絶叫…ゴンッ、グシャッと肉や骨が鳴らす気味の悪い音…。それを早く止めるために、何度も何度も千歌ちゃんの頭を蓋で挟む。
51 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:28:04.91 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「……ぃ たぃ…ょ 梨 ……こ ちゃ……ん」

千歌 「ゎた… し ち…が ぅのに…!」


音がやんだ。肉や骨の音も、千歌ちゃんの声も


梨子 「あはっ…あはははははっ…!!!」


……ふと、意識が途切れた。
私の体は魂が抜けたかのように崩れ落ち、血まみれになった千歌ちゃんにもたれ掛かるように倒れた。

それからの記憶は…いや、それ以前の記憶さえ

“今”はもう残っていない。

ーーーーーー
ーーーー
ーー
52 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:28:43.69 ID:Gw/LBJoB0
ひぐらしのなく頃に

【呪い殺し編 ―完―】
53 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:32:36.22 ID:Gw/LBJoB0
【嘘話し編】
54 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:33:15.11 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「でね! こないだ梨子ちゃんと行ったお店のパフェが本当に美味しくて!」

曜 「へー、いいなぁ。私も行きたかったよ」

梨子 「……。」

千歌 「曜ちゃん今日練習無いんでしょ? 一緒に行こうよ」

曜 「うん、行くいく! 梨子ちゃんも行くでしょ?」

梨子 「……あっ、うん。もちろん」

千歌 「どうしたの梨子ちゃん。さっきからぼーっとしちゃってさ」

梨子 「千歌ちゃんには言われたくない。…いや、ただぼーっとしちゃってただけ。ごめんね」

千歌 「そっかぁ。……あっ、思い出したぁっ!」
55 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:33:47.75 ID:Gw/LBJoB0
千歌 「今日みかんを果南ちゃんに渡してあげてって、お母さんに言われてたんだった!」

曜 「それじゃあしょうがないね。じゃあ先に果南ちゃんのところ行こうか」

千歌 「梨子ちゃん、果南ちゃんのことについては話したっけ?」

梨子 「うん。というか、千歌ちゃんが教えてくれたんじゃない」

千歌 「そうだったっけ。…まぁ、気をつけてね、色々と」

梨子 「うん、分かってる。じゃあ行こっか」


……松浦果南さん。
千歌ちゃんや曜ちゃんとは幼馴染で、同じ学校の3年生。今は、休学中だけど。

実際に会ったことはまだ無いけど、前に千歌ちゃんから“内浦の怒り”について教えてもらった時、彼女の名前が少し出てきた。
56 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:34:54.23 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「果南さんは、ホテル建設に肯定的だったんだよね」

曜 「うん、ホテルができたら、そこにダイビングショップを移転して経営する予定だったんだって」

千歌 「小原家の娘さんと果南ちゃんが幼なじみだったみたいだから、そこの繋がりもあったんだろうね」

曜 「……でも、そのせいで」

梨子 「…………。」


果南さんの現状は、とても辛いものだと聞く。
それはきっと鞠莉さんだって……

…? 鞠莉さん…?

私、鞠莉さんと面識なんてあったっけ?

いや、ないはず…なのに。何故か他人とは思えない。私は何を、忘れているんだろう。

ーーーーーー
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ーー
57 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:35:26.66 ID:Gw/LBJoB0
〜果南宅〜


千歌 「果南ちゃーん! おーい!」

果南 「千歌、曜。それと…」

梨子 「あっ…はじめまして。桜内梨子です」

果南 「あぁ、君が。名前は曜から聞いてるよ」

千歌 「果南ちゃん、お土産持ってきたよ!」

果南 「またみかん?」

千歌 「文句ならお母さんに言ってよ」
58 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:35:56.41 ID:Gw/LBJoB0
果南 「ちょっと待ってて。これが終わったらお茶出すよ」


お店の窓ガラスにスポンジを当てながら、果南さんは私たちに中で待ってるように促す。
2人は制服の襟をパタパタとさせながら中へと入っていく。


梨子 「……いつもなんですか? その“落書き”」

果南 「えっ…あぁ、うん。ちょっとだけ放置してたのもあるけどね。結構落ちにくくて、消すだけでも骨が折れるし」


『裏切り者』『呪われろ』…
心無い言葉の数々が、柵や窓ガラス…果南さんの家のあちこちに書かれている。

果南さんはスポンジでそれを一つ一つ丁寧に消していく。落書きを消すにしては、力を込めすぎているように見えた。
59 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:36:44.76 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「…あの、手伝いますよ」

果南 「いいって。暑いでしょ? 中で待ってて」

梨子 「でも…」

果南 「私がいいって言ってるんだからいいの。大丈夫、これくらいならすぐに終わるから」

梨子 「果南さん…」


千歌 「梨子ちゃーん! はやく来なよー」
60 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:37:13.97 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「千歌ちゃん…」

果南 「ほら、私のことなんか気にしないで、行きな」

梨子 「…すいません、失礼します」


果南 「…千歌、あんたの好きにはさせないからね」

ーーーーーー
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61 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:37:40.97 ID:Gw/LBJoB0
果南 「はい、これみかんのお返し」

千歌 「また干物ー?」

果南 「文句なら母さんに言ってよ」


梨子 「…果南さん、これ使ってください」

果南 「なにこれ、ハンドクリーム?」

梨子 「その、さっきの洗剤とかで相当ダメージ受けてるだろうな…って」

果南 「あはは、ありがとう。でも私、すぐ海に入ったりするからあんまり意味無いかも」
62 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:38:19.08 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「でも一応つけといてください。せっかく綺麗な手してるんですから…」

果南 「…ありがと、梨子ちゃん」


千歌 「……二人とも、そろそろ行こっか」

梨子 「えっ、もう?」

千歌 「用は済んだでしょ。それに曜ちゃん達とパフェ食べなきゃだし」

果南 「…そっか。じゃあ気をつけてね」
63 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:39:01.49 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「…ねぇ曜ちゃん。千歌ちゃんどうしちゃったの?」

曜 「多分、梨子ちゃんが果南ちゃんと仲良さそうにしてたのが気に食わなかったんじゃない?」

梨子 「なにそれ…嫉妬?」


曜ちゃんはキョロキョロと周りを気にする仕草を見せると、私だけにギリギリ聞こえる位の声量で再び話し始めた。


曜 「嫉妬とは違うんじゃないかな。千歌ちゃんね、あの事件以来、果南ちゃんと仲悪いんだ」

梨子 「あの事件って…内浦の怒りのこと?」

曜 「うん。あれ以来果南ちゃん、すっかり人間不信になっちゃって…」

梨子 「あの落書きも、街の人たちが書いたものだよね…」
64 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:39:40.62 ID:Gw/LBJoB0
街の人々は、内浦を裏切った果南さん一家をよく思わなかったらしい。他にもホテル建設に肯定的な者はいたらしいが、その多くは内浦の怒りに触れ、今も尚無気力症に陥っている。

ホテル建設に肯定的でありながらも呪いを免れた果南さんは、ホテル建設が中止に終わった今でも陰湿な嫌がらせを受けているらしい。


梨子 「もしかして果南さん、千歌ちゃんのことまで疑ってるの? 幼なじみなのに?」

曜 「うん…多分ね。元々千歌ちゃんの家が、呪いに関与してるって噂されてるのは知ってるよね?」

梨子 「うん…一応」

曜 「果南ちゃん、すっかりその噂を信じちゃって。千歌ちゃんとのやりとりでも、前に比べてどこか距離を感じるというか…」
65 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:41:01.88 ID:Gw/LBJoB0
梨子 「この呪いが、誰によるものなのか…それか本当に超常現象なのか解明できれば、二人の仲も元に戻せるかな…」

曜 「うん…きっとね」

梨子 「曜ちゃん、私協力するよ」

曜 「ありがと、梨子ちゃん」


曜 「……なんで、こうなっちゃったんだろ」

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66 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:41:43.96 ID:Gw/LBJoB0
〜その頃 果南宅〜


千歌に渡された紙袋の中身を見る。
…みかんだ。どこからどう見てもみかん。

それにしてもこの量、私とお母さんだけじゃ、次千歌が来るまでに食べきれないよ。

千歌は私たちが毎回、みかんをちゃんと全部食べてるとでも思ってるのかな。


果南 「…千歌は、人を信じすぎなんだよ」


紙袋を逆さにすると、何十個ものみかんがボトボトと音を立てて落ちていく。
生ゴミとみかんをひとまとめにし、ごみ捨て場へと運ぶ。


果南 「ごめん、千歌。私はもう、あんたのことさえ信じられない…」

鞠莉 「……果南」
67 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:42:09.50 ID:Gw/LBJoB0
果南 「鞠莉…! どうしてここに」

鞠莉 「果南あるところに、マリーありよ」

果南 「なにそれ…」

鞠莉 「…そのみかん、まだ食べられそうじゃない。勿体ないghost が出ちゃうよ?」


そう言って鞠莉はゴミ袋からみかんを2.3個取り出し、皮をあけ始めた


果南 「ちょっと…! 汚いよ!」

鞠莉 「Dirtyなのは皮だけでしょ?…うーん! ほら、こんなに美味しいじゃない」
68 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:42:47.80 ID:Gw/LBJoB0
果南 「…どうなっても、知らないからね」

鞠莉 「そんなこと言う口は、こうしちゃう」


鞠莉がにやり、と不敵に笑う。みかんを1片手に取り、無理やり私の口の中へ押し込む。


果南 「…むぐぅっ!? げほっ…けほっ…!」

鞠莉 「ほら、美味しいでしょ?」

果南 「何すんのさ…何か変なものが入ってたりしたら!」

鞠莉 「……果南、それが幼なじみに対して言うこと?」
69 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:43:15.90 ID:Gw/LBJoB0
鞠莉 「今ならまだ考え直せる。よく考えなさい、果南」

果南 「鞠莉…」

鞠莉 「じゃ、私帰るね。バーイ!」


果南 「……なんで鞠莉は、そんなに人を信じられるのさ」


ゴミ袋が開きっぱなしになっている。
再び袋の口を縛り、ほかの人に見られないよう、ほかのゴミ袋の影になる部分に押し込む。

みかんは、1つだけ持って帰ることにした。

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70 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/09(土) 01:44:13.57 ID:Gw/LBJoB0
本日はここまでとさせていただきます。
嘘話し編、続きます
71 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:02:36.16 ID:dLHNu4/I0
〜駅前〜


千歌 「あっ、ルビィちゃんだ! おーい!」

ルビィ 「千歌さん! こんにちは! それに曜さんと、あと…」

梨子 「はじめまして、桜内梨子です」

ルビィ 「あっ、転校生の。はじめまして、黒澤ルビィです」

梨子 「黒澤…確かダイヤさんの妹さん?」

曜 「梨子ちゃん、よく知ってたね」

梨子 「…うん。なんか、なんとなく分かったっていうか…」
72 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:03:27.98 ID:dLHNu4/I0
曜 「ルビィちゃん、大丈夫なの? 買い食いなんかして、お姉さんとか当主さんに怒られない?」

ルビィ 「ルビィは大丈夫なんです、お姉ちゃんと違って」


花丸 「ルビィちゃん、おまたせずら…って!」

ルビィ 「あっ、花丸ちゃん。買い物終わ…」

花丸 「るるるルビィちゃんっ! ここはオラに任せて、逃げるずらっ!!」

ルビィ 「……へ?」
73 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:04:02.67 ID:dLHNu4/I0
花丸 「に、2年生相手でも、オラは屈しないずら! 恐喝なんかに負けません!」

千歌 「きょ、きょーかつ!?」

梨子 「ちょっ…ちょっと待ってください! 誤解です!」

曜 「そうそう! 私たち、普通にルビィちゃんとお話してただけで…」


花丸 「……ほえ? そうなんずら?」

ルビィ 「この人たち、ルビィのお友達だよ?」

花丸 「そ、そうだったんずらか…。オラてっきり、ルビィちゃんが “かつあげ” っていうのにあってるのかと…」


梨子 「えっと…ごめんね、勘違いさせちゃって」
74 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:04:55.16 ID:dLHNu4/I0
花丸 「いえ、オラの方こそ失礼しました。国木田花丸、1年生です」


花丸ちゃんに合わせ、私たちも各々軽く自己紹介を済ます。花丸ちゃんもやっと安心したのか、ホッと胸をなで下ろす。


曜 「それにしても、すごい量の本だね」

花丸 「あっ…はい。少し調べ物をしてて」

梨子 「どう見ても少しって感じじゃないけど…何を調べてるの?」


花丸ちゃんが取り出した本を見て、思わず声が漏れる。その可愛らしい見た目からは連想できないような本を見せられ、千歌ちゃん達も私とほぼ同じ反応をとる。


曜 「世界の呪い大全…可愛い顔してなんて本を」
75 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:05:26.15 ID:dLHNu4/I0
梨子 「呪いってことは、もしかして内浦の怒りのことを?」

花丸 「はい。どうしても気になって」


紙袋の中の本を見ると、どれも呪いに関するものばかりだった。花丸ちゃんは少し恥ずかしそうに、紙袋の隙間をきゅっと閉じる。


ルビィ 「花丸ちゃんのお家、お寺なんです」

千歌 「あっ、もしかしてあの大きな!?」

花丸 「はい…最近は特に有名になっちゃって」

曜 「……っ!」
76 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:05:56.69 ID:dLHNu4/I0
梨子 「曜ちゃん? どうしたの?」

曜 「……あっ、ううん…なんでも」


花丸 「内浦の怒り…。それに触れた者に罰を与えているのは、オラのお寺の仏様だって言われてるんです」

梨子 「そうだったんだ…」

花丸 「そもそも、仏様と神様は全くの別物ずら! 仏様は罰なんて下さないし、そもそもオラのとこの仏様はそこまで器小さくないずら!」


地団駄を踏みながら、花丸ちゃんは誰に向けているわけでもない抗議を繰り返す。
寺で育った者として、それを侮辱されるような噂話は、それほど癪に障るものらしい。


花丸 「だからオラは、この呪いの本当の根源を探すために研究してるんです!」

曜 「……。」
77 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:06:31.32 ID:dLHNu4/I0
ルビィ 「は、花丸ちゃん。少し落ち着いて…」

花丸 「はっ…! ご、ごめんなさいずら…」

梨子 「気持ちはわかるよ。でも花丸ちゃんがそう言うってことは、呪いは根も葉もない噂ってこと?」

花丸 「少なくともオラはそう考えてるずら。オラの寺の尊厳のためにも、一刻も早くこの呪いを解き明かすんです!」

梨子 「理由は違くても、目的は同じね。私もこの呪いを解明したいと思ってたの。協力するよ、花丸ちゃん」

花丸 「本当ずら!?」


花丸ちゃんの目が突然キラキラと輝き出す。
この目、この表情は、後輩という立場が使える最大の切り札だと思う。
78 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:07:15.35 ID:dLHNu4/I0
花丸 「じゃあ、なにか分かったら教えて欲しいずら!」

梨子 「えぇ、もちろん」


千歌 「梨子ちゃん、そろそろ行かないと時間が…」

梨子 「本当だ…それじゃあね、2人とも」

ルビィ 「はい! …あっ、そうだ。飴よかったら食べてください」

千歌 「いいの!? ありがとう!」

曜 「……ありがと、ルビィちゃん」
79 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:07:46.20 ID:dLHNu4/I0
ルビィ 「梨子さんもどうぞ」

梨子 「うん、ありがとう」


貰った飴は、りんご味と書かれた包装紙に包まれていた。


梨子 (今日は、いちご味じゃないんだ)


……? “今日は”?
あれ? なんだろう、この違和感。


ルビィ 「……? どうかしましたか? 梨子さん」

梨子 「…ルビィちゃん。私、前にもこうやってルビィちゃんから飴をもらったことってあったっけ?」

ルビィ 「いえ…そもそもルビィが梨子さんと会ったのは、今が初めてですよ?」
80 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:08:11.29 ID:dLHNu4/I0
梨子 「……そう、だよね。ごめんね、変なこと聞いて」

ルビィ 「…? いえ、ルビィは大丈夫ですけど」


千歌 「ほら梨子ひゃん、いふよぉ!」

梨子 「…って、もう飴食べてるし。じゃ、今度こそバイバイ」

花丸 「はい、さようなら」
81 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:08:42.10 ID:dLHNu4/I0
千歌 「梨子ひゃん、食べないの?」コロコロ

梨子 「私は後で。だってこれからパフェ食べるんでしょ?」

千歌 「あっ…そうだったぁーっ!!」

梨子 「まったくもう…」


曜 「………。」

梨子 「……? 曜ちゃん?」


顔を俯かせ、黙り込んでる曜ちゃんを不思議に思った。いつも笑っているような曜ちゃんのこんな表情は初めて見た。

…曜ちゃんの頬を伝って、涙が流れ落ちたのを、私は見逃さなかった。

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ーーーー
ーー
82 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:09:41.25 ID:dLHNu4/I0
〜花丸宅〜


善子 「へぇ、じゃあ協力してくれる人が増えたのね。良かったじゃない」

花丸 「頼りになる先輩で心強いずら」

善子 「なによ! 私じゃ心もとないって言うわけ!?」

花丸 「だって善子ちゃん、役に立った試しがないずら」

善子 「何をーっ…! ありとあらゆる呪いをマスターした私より、呪いに詳しい者なんていないわっ!」

花丸 「今のは自白ともとれるけど?」

善子 「ちがわいっ! 私は何もしてないってば!」
83 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:10:28.51 ID:dLHNu4/I0
善子 「…で? この前買ってきた本にはなんかヒントはあったの?」

花丸 「ううん、全然。…やっぱり、これは呪いなんかじゃないんだと思う」

善子 「人為的なもの…ってこと?」

花丸 「そう考えるのが一番自然…だと思う」

善子 「だとしたら…一体誰があんなことを」

花丸 「……。」


ふと、沈黙が流れる。
花丸は俯き、なにか言いたげに両手の指を絡ませたり、口先をもごもごさせている。


善子 「…なにか言いたいことあるんでしょ」

花丸 「……うん。実はその…」
84 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:11:06.86 ID:dLHNu4/I0
善子 「神具?」

花丸 「うん。淡島神社ってあるでしょ?」

善子 「あぁ、あの山の中にある」

花丸 「あの神社には、幾つか神具が奉納されてるんだけど、実はその中にね…」

善子 「まさか、呪いに関係しそうなものがあったとか?」

花丸 「そうなんずら。…詳しいことは分からないけど、人に使うと、その者のありとあらゆる感情を引き出す神具があるという話を気いたずら」

善子 「ありとあらゆる感情…それがあの狂人化のこと?」

花丸 「そう考えれば、辻褄が合うずら」
85 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:11:54.08 ID:dLHNu4/I0
花丸 「その神具の副作用として、使用者はその後、感情を失うと言われてるずら」

善子 「引き出した分を失うってわけね…それなら、狂人化からの無気力症も説明がつく」

花丸 「ただ問題は、その神具がとっくの昔に失われているということで…」

善子 「失われた?」

花丸 「失くしたって言った方が正しいのかな? もう淡島神社に、その神具含め、他のものもほとんど残ってないんずら」

善子 「失くしたって…そんなおもちゃじゃあるまいし…」

花丸 「とにかく、今後は呪いによるものというよりも、オラはその神具によるものと考えるつもり」

善子 「そうね…私も神社について調べておくわ」
86 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:12:22.06 ID:dLHNu4/I0
善子 「…色々考えたら、なんだか眠くなってきちゃったわ。ずら丸、ちょっとここで寝かせて」

花丸 「いいけど…おばさんに怒られても知らないよ?」

善子 「だぁーいじょー……ぐぅ…」

花丸 「早っ!? ……はぁ、オラも眠くなっちゃったずら」


花丸 「…おやすみ、善子ちゃん」

ーーーーーー
ーーーー
ーー
87 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:15:42.84 ID:dLHNu4/I0
〜鞠莉の家〜


古びたアパートの一室。鞠莉さんは今ここで一人暮らしをしている。
両親の反対を押し切り、ひとりこの街に残ることを決めた鞠莉さんは、社長令嬢という肩書きに相応しくない暮らしをしている。


梨子 「…その空気清浄機、果南さんの家にもありました」

鞠莉 「それはそうよ。ダイヤが私たちに譲ってくれたんだもの」

梨子 「2台もですか? しかも結構最新型に見えますけど…」

鞠莉 「内浦の怒り…狂人化の原因は感染力の強いウイルスによるものって噂が流れた時があってね」


空になったタンクに水を注ぎ、鞠莉さんは優しく微笑みながら話を続けた。
88 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:16:13.10 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「狂人化を引き起こすvirus…その対策方法は空気清浄機とかで出来る限り空気を綺麗な状態に保たせること…」

梨子 「それはお医者さんとかが?」

鞠莉 「さぁ…誰が言ったんだっけ。そもそもウイルスなんて噂に過ぎなかったし」

梨子 「お店とかでもやけに見かけると思ったら、そんな過去があったんですね」

鞠莉 「みんな必死になって空気清浄機を買いに走ってね…。あの時の電気屋さんのニヤケ顔は忘れないよ」


皮肉的にも取れる笑いを浮かべ、つられて思わずこちらも笑いがこぼれた。


鞠莉 「こんなもの買う余裕なんてなかった果南の家とかに、ダイヤは当主さんに上手いこと交渉してpresentしたのよ」

梨子 「あれっ…でも…」
89 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:16:55.77 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「黒澤家と私達は敵対してたはず…でしょ?」

梨子 「はい…。鞠莉さんはもちろん、果南さんもホテル建設肯定派だったって聞いたので」

鞠莉 「ふふっ、それには大人…いえ、こどもの事情があったのよ」

梨子 「こどもの事情…?」


鞠莉 「私と果南、そしてダイヤは幼なじみでね。だから周りに隠れて助け合ってるってわけ」

梨子 「もしかして…夏休み中鞠莉さんの姿が内浦から消えたっていうのは」

鞠莉 「ダイヤに匿ってもらってたの。流石に学校の監視下から長く外れると、何されるか分からないからね」

梨子 「……。」
90 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:17:34.34 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「…それで? 今日ここに来たのは別の要件があったんでしょ?」

梨子 「はい…その…」


ぎゅっと拳に力を入れる。
…本当に聞いていいことなのか、分からない。でも、聞かないといけない。
深呼吸をし、覚悟を決めて鞠莉さんに質問をぶつける。


梨子 「…千歌ちゃんのこと、鞠莉さんはどう考えているんですか?」

鞠莉 「…高海千歌さん?」

梨子 「はい。…呪いのことで、色々疑いをかけられてるみたいで」

鞠莉 「…さては、果南のこと知っちゃったでしょ?」

梨子 「…はい」
91 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:18:29.47 ID:dLHNu4/I0
梨子 「幼馴染みにさえ疑われるなんて、とてもじゃないけど見てられなくて」

鞠莉 「うん、そうだよね」

梨子 「鞠莉さんがもし疑ってないのだったら、果南さんを説得してほしいと…!」

鞠莉 「うーん…説得かぁ」


鞠莉 「残念だけど、私も千歌さんを全く疑ってないわけじゃないよ?」

梨子 「…っ! 鞠莉さん…」
92 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:18:58.38 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「もしかしたらこの呪いは本当に超常現象なのかもしれない。けど人為的なものである疑いがある以上、真っ先に疑われそうなのは黒澤家か高海家。それは分かるでしょ?」

梨子 「でも…っ!」

鞠莉 「でもno problem。果南もきっと、本気で千歌さんを疑ってるわけじゃないから」

梨子 「でもそんな風には…」

鞠莉 「梨子、こんなこと言うのは都合がいいって言われるかもだけど」


鞠莉さんは髪をかきあげ、真剣な表情でこちらを見つめる。反射的に、背筋を伸ばす。


鞠莉 「まずはあなたが、みんなを信じてみたら?」

梨子 「鞠莉さん…」
93 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:20:14.72 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「それに、果南の説得なら、もう大丈夫だと思うよ?」

梨子 「えっ…それって…」


鞠莉 「…ほら、もう遅いよ。今日は帰りなさい」

梨子 「…はい。お邪魔しました、鞠莉さん」

鞠莉 「Bye、梨子」

ーーーーーー
ーーーー
ーー
94 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:21:08.12 ID:dLHNu4/I0
〜帰り道〜


鞠莉 『まずはあなたが、みんなを信じてみたら?』


鞠莉さんに言われたその一言が、ずっと頭の中でぐるぐると回っていた。
…そういえばそうだ。一番人のことを信じようとしてなかったのは、私だったかもしれない。

ひとり夜道を歩いていると、後ろから視線を感じた。恐る恐る振り向くと、そこにいたのは見慣れた顔だった。


梨子 「千歌ちゃん…! 何してるのこんな時間に」

千歌 「それはこっちのセリフだよ、梨子ちゃん」


千歌ちゃんが少しづつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。…相手は千歌ちゃんだと分かっているのに、得体の知れない圧力に、思わず後ずさってしまう。


千歌 「さっき、鞠莉さんの家にいたよね?」
95 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:21:56.32 ID:dLHNu4/I0
梨子 「う、うん…」

千歌 「何話してたの?」

梨子 「な、何でもないよ。ただの世間話だよ」

千歌 「ふーん…そっかぁ」


千歌ちゃんが髪をかきながら、はぁと息を漏らす。そして再びこちらを向いたかと思うと、普段の千歌ちゃんからは想像出来ないような鋭い目線で、私を睨みつけた。


千歌 「さっきからね、くしゃみが止まらないんだ。誰か千歌の噂話でもしてるのかなぁって」

梨子 「そ、そうなんだ…」

千歌 「ねぇ梨子ちゃん、嘘ついてるでしょ」
96 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:22:52.70 ID:dLHNu4/I0
梨子 「わ、私嘘なんか…!」

千歌 「梨子ちゃん、私のこと疑ってるんでしょ? それを鞠莉さんに相談して…」

梨子 「違う! 私は…」


千歌 「嘘だッッッッ!!!!!」


千歌ちゃんの叫びに、体が芯から震える。
今まで溜め込んできた、我慢してきたものを一気に吐き出すかのように、千歌ちゃんは叫び、涙を流した。


千歌 「ねぇなんで…? なんで誰も私を信じてくれないの…?」

梨子 「千歌ちゃん、聞いて! 私は千歌ちゃんのこと信じてる!」

千歌 「だからそれが嘘だって言ってるんだよ!」
97 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:24:31.97 ID:dLHNu4/I0
梨子 「千歌ちゃん…」

千歌 「もう無理なんだよ…分かってる。自分でもわかるんだよ」


千歌ちゃんは背中に手を回し、ジリジリと近寄ってくる。


千歌 「私はもう誰からも信じられないし、私も誰も信じられない」

梨子 「千歌ちゃん、そんなこと…」

千歌 「だから…私はっ!!」ブンッ!

梨子 「ひぃっ…!」


奇跡的に千歌ちゃんの包丁を避けられた。
しかし千歌ちゃんの攻撃は止まらない。私の体を刺そうと、一切手を休める様子はない。
98 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:25:23.75 ID:dLHNu4/I0
千歌 「避けないでよ…早く楽にしてあげたいんだからさぁっ!」


……だめだ、話が通じるとは思えない。
これが…狂人化だろうか?


梨子 (とにかく…逃げないとっ!)

千歌 「あはは…あはははははははっ…!!! 待ってよぉ…梨子ちゃんっ!!!」
99 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:25:59.43 ID:dLHNu4/I0
梨子 「はぁっ…はぁっ…! そうだ、曜ちゃんのところ! 曜ちゃんに会えば千歌ちゃんも落ち着くかも!」


曜ちゃんの家に向かって全速力で走る。
後ろから聞こえる足音はやむ気配すら見せないが、もう後ろを確認する余裕はない。


梨子 「…着いた! 曜ちゃん、曜ちゃぁんっ!!」


曜 「……梨子ちゃん? どうしたの…って、千歌ちゃん?」

梨子 「助けて! とにかく中に入れて!」


千歌 「…曜ちゃんに匿ってもらう気? 無駄だよ、梨子ちゃん」

ーーーーーー
ーーーー
ーー
100 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:26:42.28 ID:dLHNu4/I0
〜曜の部屋〜


曜 「千歌ちゃん…もしかして…」

梨子 「多分、狂人化だと思う」

曜 「そっか…そうなんだね」

梨子 「なんで!? 呪いの対象になるのは、街を裏切った人だけじゃ…!」

曜 「うん…そういうことになってるね」

梨子 「そういうことになってる? ねぇ、どういうこと?」


1階から、窓ガラスの割れる音が聞こえてきた。
千歌ちゃんが階段を1段1段のぼり、徐々に私たちのいる部屋に近付いてくる。


曜 「……ごめん、私行くよ」

梨子 「曜ちゃん!? 何言ってるの、危ないよ!」
101 : ◆bx6hWDVQmQ :2017/09/10(日) 01:27:32.46 ID:dLHNu4/I0
曜 「梨子ちゃん。私、梨子ちゃんに伝えなきゃいけないことがあるんだ」

梨子 「伝えなきゃいけないこと…?」

曜 「今千歌ちゃんがこんな状態になっちゃってるのは、全部私のせいなんだ」

梨子 「えっ……?」

曜 「だってね…」


曜 「内浦の怒りは、私の作り話なんだよ」


梨子 「……嘘」
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