横山奈緒「夕焼けのシャッターチャンス」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:00:38.37 ID:ZNhdxt+t0
「……ありさのこと、怒ってます?」

カフェのテーブルの、その対面。
目の前に座る彼女はそんなことを言う。緊張と気まずさが顔に薄くにじみ出ていて、それを少しでも逃がすためにか、さっきからずっとアイスコーヒーをストローでかき混ぜていた。
まさか、私が亜利沙のことを嫌うわけないやん。
と、そうやって本心を言ってみれば亜利沙もすぐにいつものようにころころと笑ってくれるんやろうけど……。
今の私はそれを簡単にできるほど冷静じゃないんや。
じと目だけ亜利沙に返して、アイスココアでのどを潤す。甘ったるさは今の私たちとは対照的やな、なんて思った。
すると亜利沙が少しだけど悲しむような表情をして、それを見ている私の胸も痛む。
自分勝手やな、私。
でも、亜利沙だって悪いんやで――――。
数時間前のことを思い返しながら、そんな幼稚な理屈を転がしていた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1505052038
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:01:35.76 ID:ZNhdxt+t0
思い返すは昼頃。お天道様も絶好調な頃やな。
今日はレッスンも仕事もない、完全オフの日だったから私も家の中に引きこもっていられず、私は街へ特に目的もなく出かけていた。
最初の方は順調で、チェーン店で昼飯を済ませるのもつまらないと思って個人経営の定食屋に入ってみたりした。
安くて美味くて、当たりやったな。まあ、そんなことを美奈子に言うとむっとされるから言えへんけどな。一番は美奈子やっちゅうに。
そんな休日の外出。
さてそのあとは気軽に観れるB級映画でも借りて帰ろうかと、そんな風に人通りの多い街路を歩いていた時のこと。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:02:30.48 ID:ZNhdxt+t0
『……紬?』

遠くの方からこちらへ向かって歩いてきているのは白石紬。私たちの愛すべき同僚。
彼女は相変わらずの透き通るような、艶のある長髪をしていて人ごみの中でも目立っていた。と言ってもそれ以上に目立つ要因はあったけれど。
紬の行動を一言で描写するんだったら……そうやな。

『迷子やな』

そう、紬は周りの人ごみに置いて行かれるような速度で歩いていて、何より視線が忙しかった。
きょろきょろ、ぐるぐる。
色々な所へ目線を向けていて、けれども収穫は無いようでいつまで経ってもその動作は終わらない。
何を探してるんやろ…………そう思って、視線の先を追ってみる。
スポーツ用品店、甘味処、食料品店、定食屋、甘味処、喫茶店、甘味処、電信柱。…………電信柱?
いや、電信柱はただの電信柱だったんやけど。
おまけが付いてたんや。
気づくと私はその柱のもとへ駆け出していた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:03:07.95 ID:ZNhdxt+t0
風にそよいで揺れるのは、えぐいカーブのツインテール。アンテナのようにふらふらしとる……紬の視線みたいやな。
背中しか見えないから断言はできないけれど、両手に構えているのはカメラ。
相変わらずやなぁ、と思いつつ私は声をかけた――――私の恋人に。
ついでに、ついさっき買ったばかりのペットボトルを取り出して、

『ひゃああん!? つつ、冷たいですぅ!』
『あーりーさー?』

私の恋人――松田亜利沙は急な刺激に肩を震わせて驚いてだけどカメラを持つ両手はがっちりと固定されていた。流石やな。
私から避けるように千鳥足で距離を取った亜利沙。野良猫みたいや、なんて思ってみたり。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:03:51.52 ID:ZNhdxt+t0

『な、奈緒ちゃんでしたか。誰かと思いましたよ……』

振り返った彼女の姿は一言でいうと、地味。多分人ごみに紛れるためだったりするんやろな。
まあ、漫画の世界みたいに電信柱に身をひそめる奴なんて目立ってしょうがないやろうし、あんまり意味もない気がするけどな。
亜利沙は自分の胸に手をやって息を吐く。分かりやすいほどに安心しているリアクションだった。
だけど、私は安心して欲しくなかった。
だって、あれやろ? 亜利沙がこんなことをしていた理由は。

『ずばり、紬やろ?』
『えっ? な、なんのことやらですね。ではありさはこの辺で……』
『待てぃ』

脇を抜けて逃げようとする犯人……いやいや、私の恋人の肩を優しくつかんで逃がさないようにする。
ひぃぃぃと情けない顔をして嫌々振り向く亜利沙。気のせいかいつもよりも潤んだ瞳が、私をぞくぞくさせ――――ちゃうねん。今はそういう話をしたいんやなくて。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:04:18.34 ID:ZNhdxt+t0
『彼女とのデートを断っておいて、ほかの女のケツを追うなんて悪いやっちゃのぅ〜、亜利沙』
『そ、それは悪いと思ってますけど。でも紬ちゃんが外出するって情報を掴んじゃったから、つい……』

やっぱり、という感じ。
亜利沙がこういう目立たないコーディネートをして(といってもそのツインテールの時点で無駄やと思うんやけど)ベタベタな尾行をして、両手にはカメラ。近くには紬。
そんなん答えは決まってるやん。
亜利沙は紬の写真を撮りに街へ来たんやなって。紬に無断で。もう一度言う、無断で。

『とは言え、ええんか!? 亜利沙にデートのお誘い断られたせいで、今日の私一人やで? 可哀そうやんか!』
『自分で言うんですかっ? じゃ、じゃあこの後一緒にカフェ行きましょうよ! ありさのお勧めなんですよ』
『んん、それは行くっ、行くんやけど! そんなんオマケ扱いやん! 雑かっ』
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