吸血娘「死なないハゲってさ、不老不死ってより不毛不死だよね」屍男「…」

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2 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:03:21.89 ID:dtVbVf21o
吸血娘「んだよ、今日は一段と暗いな。頭はいつも明るいくせに」

吸血娘「育毛剤の副作用で髪だけじゃくて感情も失ったのか?元気出せよハゲ、髪はなくてもお前には私がついてるんだから」


屍男「…少し黙っててくれないか。やかましい」


吸血娘「アんっ!?」ピキッ

吸血娘「調子乗んなハゲ!!!!死ねッ!!!!毛根ごと消え去れッ!!!!」バシバシ

屍男「…頭を叩くのはやめろ」
3 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:04:10.65 ID:dtVbVf21o
吸血娘「ちょっと頑丈だからっていい気になるなよハゲ!私だって不死身なんだからな!」ゲシゲシ

吸血娘「それにこのサラサラのパツキン!テメェのツルッパゲと比べたらまさに天と地だ!」

吸血娘「あ、地といってもお前のは作物一つも育たない死んだ土地だけどな。砂漠だ砂漠、ホワイトサンズだ」


屍男「…ホワイトサンズは砂丘じゃなかったか?」

吸血娘「知るか!どっちも似たようなもんだろが!」ゲシッ
4 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:04:57.51 ID:dtVbVf21o
吸血娘「ぜぇ…ぜぇ…ちょ、ちょっと休憩。動き疲れた」

屍男「…相変わらず体力がないな。お前は」

吸血娘「るせーよアホ、私は肉体派じゃないんだよ。脳筋のお前と違って繊細なんだ」

屍男「…モヤシ」ボソッ


吸血娘「誰がモヤシじゃゴラァ!!!!てめぇの腐った汁全部吸うぞゴラァ!!!!!」ガジガジ

屍男「頼むから降りてくれ、動きにくい」
5 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:06:27.60 ID:dtVbVf21o
吸血娘「ペッペッ、相変わらずまずい血だな。腐ってんじゃないの」ゴシゴシ

屍男「...見て分からないのか」

吸血娘「あーあ、こんなハゲの血じゃなくて、十代のピチピチの処女の血が飲みたいわ。もう長いこと飲んでないし」

吸血娘「いつも飲むのは中年のドラッグとアルコールで薄汚れた不味い血…薬中の血ってマジでゲロ吐きそうになるわ」

吸血娘「お前も食いたいだろ?若い女の肉」


屍男「…いや、俺はいい」


吸血娘「嘘つくなよ、このムッツリが。ハゲは全員ムッツリスケベって相場が決まってるんだよ」
6 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:08:02.40 ID:dtVbVf21o
吸血娘「ホント、そこら辺の女学生でもさらっちゃおっかな。力を使えば人に見られることもないし」


屍男「...」


吸血娘「冗談だって、そこまでするほど私も悪人じゃないよ」

吸血娘「仕方ない、今度どっかの献血所からまたパクってくるか。直飲みしたいけど我慢してやる」


ピピッ


吸血娘「ん、時間か。行くぞハゲ」スッ

屍男「…あぁ、分かっている」スッ



吸血娘「お仕事の時間だ」
7 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:09:45.34 ID:dtVbVf21o
……………………………………………………
……………………………………


グチャッ

グチャッ


吸血娘「ふぅ、全部で6人終わりっと」ゲプッ

吸血娘「さすがに飲みすぎたわ…合計50リットル以上はあったからな。お腹パンパン」ポンポン



死体『』



吸血娘「はい、あとはお前の仕事な、片しといて」

屍男「…分かっている」スッ


バキバキッ

グチャッ
8 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:11:33.20 ID:dtVbVf21o
吸血娘「ねぇ、人間って美味いの?私は血しか飲まないから分かんないし」


屍男「…女は基本的に全員、肉が柔らかくて美味い。男は脂肪がついたデブ以外は淡白な味だ」


吸血娘「ふーん、あそっ」

吸血娘「しかし、今回の依頼のやつも相当な悪人だな。集団強姦の常習犯だって、被害者は恐らく合計三桁以上」ペラッ

吸血娘「未成年の時には数人をバラシて埋めてるって…コワッ、最近の若いやつはなにするか分からんな」


吸血娘「ま、悪いことをしたら天罰が下るのは当然のことだよね。それを私たち怪物がやってるってのは皮肉っぽいけど」
9 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:13:02.38 ID:dtVbVf21o
屍男「…処理終わったぞ」


吸血娘「よーし、じゃあさっさと撤収だ。早くお風呂に入りたいし」

吸血娘「ハゲ、お前はあいつんところ行って報酬貰ってきて」

吸血娘「あとピザも買ってこい、肉いっぱい入ってるやつな」


屍男「…自分で」


吸血娘「んじゃよろしく。もし買ってこなかったら、お前が寝てる間に頭に永久脱毛のレーザー当てるからな」スタスタ


屍男「...」
10 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:15:10.85 ID:dtVbVf21o
…………………………………………………………………
………………………………


チリンチリン♪


魔女「いらっしゃーい」


屍男「...」


魔女「おっ、ゾンビくんじゃない、どうしたの?おつかいでも頼まれたのかしら?」


屍男「…金を受け取り来た」



魔女「あーはいはい、いつものやつね。まったく不愛想なんだから」ガサゴソ

魔女「はい、今回の報酬よ」ドサッ
11 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:16:09.11 ID:dtVbVf21o
屍男「…確認した」スッ

魔女「で、どう?そろそろ慣れた?この仕事も」

屍男「…あぁ、特に不自由はしていない」

魔女「あの子のところだと色々苦労してるんじゃないの?例えば頭に針刺されてヘルレイザーごっこされたり」

屍男「…いや、さすがにそこまではされてない」

魔女「なんだ、つまんないの」


屍男「…」
12 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:17:10.68 ID:dtVbVf21o
魔女「じゃあ“記憶“の方は?何か思い出したりした?」

屍男「...相変わらずだ。生前の自分が何者だったのかすら思い出せない」

魔女「そう…ま、これだけは気長に行くしかないわね。唐突に全部思い出すわけでもないし」


屍男「前例があるのか?死者が記憶をなくして蘇るなど」


魔女「前にも言ったけど、別に死体が蘇るのはそう珍しいことじゃないわよ?よく言うじゃない、地獄が満員になると死者が地上を歩き出すって」


屍男「…聞いたことないが」
13 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:18:37.69 ID:dtVbVf21o
魔女「まあ原理は幽霊と変わらないってことよ。違いは肉体が歩かないか、見えるか見えないかの些細な違い」

魔女「でも記憶がないのはちょっと特殊かもね。大抵は未練やら後悔やら、何か思い残したことが起因になって蘇ってるわけだし」


屍男「…未練か」

屍男「一つだけ、この仕事を始めて分かったことがある」

魔女「ほう、なに?」


屍男「…恐らく俺は、生きている時も似たようなことに関わっていた気がする。死というものに関係する何かにな」

魔女「ふーん…それは興味深いわね」
14 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:19:38.45 ID:dtVbVf21o
魔女「確かに、やけに手際がいいと思ってたわ。正直慣れるにはまだ早すぎるし、気を病んでる様子もない」

魔女「この手の仕事は人を殺すことに何も躊躇がない怪物にしか出来ないからねぇ、もしかして生前はどっかのマフィアお抱えのヒットマンとか?」


屍男「…そうかもな、思い出せないが」


魔女「ま、何か思い出したら相談に来なさいな。お金次第では情報を探してもいいわよ?」


屍男「…検討しておこう。では俺はそろそろ失礼する」スッ
15 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:21:16.58 ID:dtVbVf21o
魔女「ちょい待ち」ガシッ


屍男「…まだ何か用か」


魔女「ねぇ…今、時間ある?」


屍男「…あると言えばあるが」


魔女「…少し、遊んでいかない?最近溜まってるのよね…色々と」ヒラッ



屍男「...」



魔女「アナタもこの仕事を続けているなら…溜まってるんじゃないの?そういうのは発散した方がいいわよ」
16 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:22:21.56 ID:dtVbVf21o
屍男「…興味がないな。帰るぞ」グッ


魔女「ちょっとぉ…こんな美女が誘ってるのに、まさか何もしないで帰るつもり?それでも男なのかしら?」


屍男「…俺は死人だ。死体と寝る趣味があるなら、墓場にでも行ってくれ」スタスタ


バタンッ


魔女「…ふっ」

魔女「まったく…お堅いんだから」
17 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:23:58.01 ID:dtVbVf21o
ガチャッ

屍男「…帰ったぞ」



吸血娘「遅いんじゃハゲェェッッッッ!!!!!!」ブンッ




ブンブンブンッ

グサッ



屍男「...包丁を投げるのはやめろと前にも言っただろ」ブスッ



吸血娘「いいだろ別に!お前どうせ痛覚鈍いんだし、すぐ治るだろハゲ!」

吸血娘「ハゲだけに怪我ないってな!アッハハハハハハハハハァ!」



屍男「…自分で言ったジョークでうけるな」
18 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:25:29.30 ID:dtVbVf21o
吸血娘「それよりピザはどうした!まさか買ってこなかったんじゃないだろうな!」


屍男「…よく見ろ、ちゃんと買ってある」スッ


吸血娘「うっひょー!さっさと言えよな!この使えないハゲが!」

吸血娘「ん〜〜〜んっま!やっぱピザは最高だね!このジャンクさがたまんない!」

吸血娘「あ、トマトが入ってるところはハゲにやるわ。野菜食べると髪が生えてくるかもな。感謝しろよ」ポイッ


屍男「...少しは栄養を考えたらどうだ。そんな体に悪いものばっかり食ってると成長しないぞ」
19 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:27:03.05 ID:dtVbVf21o
吸血娘「いいの、ヴァンパイアは血さえ吸ってれば他のエネルギーなんて摂取しなくてもいいんだから」パクパク

吸血娘「あーおいしい…ピザとコーラを作ったやつは天才だな。二十代後半の健康的な女の血くらいうまい」ムシャムシャ


屍男「…さっきまで血を何十リットルも飲んでたくせによく食えるな」


吸血娘「血と食物は別物、吸収機関が違う。あれ、正確には血を飲んでるんじゃなくて身体に取り込んでるんだからね」モグモグ

吸血娘「つーか、お前も似たようなもんだろ。死体6人も食って動けるとか、胃袋どうなってるんだよ」モグモグ

吸血娘「あーっ!ピザうまい!最高!フォウッ!」


屍男「…おめでたいやつだ」
20 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:28:12.53 ID:dtVbVf21o
屍男「ピザもいいが、報酬も受け取ってきたぞ。確認してくれ」スッ


吸血娘「んー…さていくら入ってるかなっと」ペラペラ

吸血娘「…はぁっ!?たったこんだけぇ!?」


屍男「...少ないのか」


吸血娘「いつもの半分以下じゃねえか!確かに雑魚で楽にやれたけど割に合わない!」

吸血娘「こっちは誰かに目撃されるリスクがあるんだぞ!あのクソビッチめ!!!!」


屍男「…不景気というやつだろう。あと、ビッチとかそういう汚い言葉を年頃の娘が使うもんじゃない」
21 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:29:52.79 ID:dtVbVf21o
吸血娘「いやどう見てもあいつビッチじゃん!無駄に露出高いし、おっぱいでかいし!歩くポルノじゃん!」

吸血娘「…はっ!?ハゲ!お前まさかやけに帰りが遅いと思ったらあいつと...!」


屍男「帰りが遅かったのはお前がピザを頼むからだろうが」


吸血娘「あんまりあいつと仲良くするなよ!あいつは人間のくせに私たちの世界に干渉しているちょっとヤバいやつなんだからな!」

吸血娘「それに、あの蛇みたいな目…絶対ろくなやつじゃない!ビッチだビッチ!」


屍男「…人間が俺達と関わっているのは珍しいのか?」
22 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:31:40.63 ID:dtVbVf21o
吸血娘「敵対するなら分かるけど、あいつはこっち側と癒着してるんだぞ」

吸血娘「例えるなら…カマキリの群れの中にいる蝶、すぐ食われてもおかしくないのに、それなりの立場にいる」

吸血娘「それに何かあいつと目を合わせると、観察されているみたいでキモいし…時折口調が別人みたいに変わるし」

吸血娘「なるべく関わらない方がいいやつナンバーワンだわ!私の勘がそう言っている!」


屍男「…まあそれは分かるが」


吸血娘「チッ…次会ったら抗議してやる。あとハゲ、お前そろそろ臭うから風呂入ってこい。くさいぞ」


屍男「…分かった」スタスタ
23 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:33:18.47 ID:dtVbVf21o
シャアアアアアアアワアアアアアアアア…



屍男「…」クンクン

屍男「…やはり、一日に三回は入らないと臭ってくるか。不便だな」

屍男(香水でも買うか?しかし大の男が香水の匂いがするのは…またあいつに何か言われそうだな)


ゴリッ


屍男「…なんだ、今、何か硬い感触が」

屍男これは…弾丸か?あぁ、前に撃ち込まれていたのを取り忘れていたのか」グチュッ


屍男「…」

屍男「…あれから、もう半年か」
24 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:37:03.37 ID:dtVbVf21o
▢▢▢▢  半年前  ▢▢▢▢



屍男「」

屍男「」ビクッ



屍男「」パチッ

屍男「...」


屍男「........?」 キョロキョロ


屍男「…ここはどこだ?ゴミが大量にあるが」


屍男「なぜこんなところに…うっ」ズキッ

屍男「――――俺は、誰だ?」
25 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/13(金) 21:39:35.87 ID:dtVbVf21o
今日はここまで
こんな感じで続いていきます
そこそこ長くなる予定です
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 00:12:10.05 ID:Y0KeDb8do
乙 期待してる
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 10:06:28.22 ID:1Z2P7wUXo
ええな
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 10:58:47.43 ID:j8hgkmStO
おもしろい
29 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:52:18.52 ID:Sq07Y5wLo
ワイワイ ガヤガヤ



屍男(気が付いたら…路地裏のゴミ捨て場で目が覚めた)

屍男(その前のことは何も覚えていない…自分の名前も、出身も)

屍男(…これは“記憶喪失”というやつなんだろうな。自分の過去だけが綺麗に丸ごと抜けている)


屍男(これからどうする。警察にでも行って事情を話せば保護してもらえるか?)

屍男(…いや、警察は駄目だ。なぜかは分からんが、嫌な予感がする)
30 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:53:30.90 ID:Sq07Y5wLo
屍男(…しかし、動かないと埒があかない。いずれにせよ、このままホームレスのような生活を続けるわけにもいかん)

屍男(人が集まるこの駅前なら、俺のことを知っているやつに声をかけられるかと思ったが…もう日が暮れてしまった)


グゥゥ


屍男(腹が減ってきたな。今日はここで一晩過ごし、明日になっても見つからなかったらおとなしく病院にでも行くか)



「うっ、なんだあのハゲの周り、めっちゃくっせえぞ」

「うわ!ハゲだ!ハゲ菌がうつる!」



屍男「…」
31 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:55:01.11 ID:Sq07Y5wLo
チッチッチッチッチッチッチッチッ



屍男(深夜の0時か。さすがにもう人はいないな)

屍男(…そろそろ寝るか。こんなところで横になると死体と間違われて通報される可能性がある…少し場所を変えるか)スッ


「ちょっといい?そこの髪がない人」


屍男「…なんだ、俺のことか?」


「そうよ、こんなところで何をしているの?」


屍男「…いや、何でもない。もうここを離れるところだ」

屍男(長居し過ぎたか、怪しまれると厄介だな)
32 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:56:21.64 ID:Sq07Y5wLo
「ふーん…そう」ジロジロ



屍男(…なんだ、この女は)

屍男(よく見ると…他の人間とは違う雰囲気がある。妖艶…蠱惑的…まるで魔女だな。薄気味悪ささえ感じる)

屍男(格好を見るに、娼婦か何かか?まさか商売の相手を探しているんじゃあるまいな)



魔女「アナタ…もしかして、記憶喪失だったりする?」



屍男「」ピクッ

屍男「…お前は、俺を知っているのか?」
33 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:57:20.16 ID:Sq07Y5wLo
魔女「残念、会ったこともないわね。でも…」

魔女「アナタに何が起きたかは…知っているかも」チラッ


屍男(この女は…なぜ俺のことを)

屍男(…考えても仕方ないか。今はこの女が一番の頼りだ)

屍男(…勘だが、こいつは何か特別な気配がする)


屍男「…あぁ、そうだ。俺には記憶がない」

屍男「お前は医者か、エスパーか?どちらにしても、俺が何者なのか教えてほしい」


魔女「いいわ、ここで話すのもなんだし、ちょっと場所を移しましょうか。着いてきなさいな」スタスタ
34 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:58:13.23 ID:Sq07Y5wLo
カランカラン♪


魔女「そこら辺にでも座っててちょうだい。お茶を出すわ」


屍男(…ここは古本屋か?どんな所に連れ行かれるのかと思ったら…意外とまともな場所だな)

屍男(この女の店…にしては似合わないな)


魔女「はい、レモンティー。口に合うかどうかは知らないけど」


屍男「…さっそく本題に入っていいか。お前はなぜ、俺が記憶を失っていると一目でわかったんだ?」


魔女「うーん…そうねぇ…」

魔女「じゃあ気付いてないみたいだし、正直に言ってあげるわ。あんまり取り乱さないでね」
35 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 20:58:59.03 ID:Sq07Y5wLo




魔女「アナタ、もう死んでいるのよ。人間じゃない、だからすぐ分かったの」



屍男「………は?」



36 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:00:04.96 ID:Sq07Y5wLo
魔女「気付いてなかったでしょ、自分が死んでいることに」

魔女「そりゃ駅の前で、死体が意味深な顔をして辺りの人間をチラチラ見てたら…人を探してるか、今夜のディナーを見極めているかのどっちかしかないわよ」

魔女「普通の怪物は私の目を見たら真っ先に警戒するし、アナタの態度を見ると何も知らない、蘇ってからそう日が経ってないアンデッドってことはすぐ分かったわ」

魔女「蘇生した直後は記憶が混乱して、ボーっとしてるしね」


屍男「…待て、勝手に話を進めるな。俺が死んでいるだと?」

屍男「笑えない冗談だ。死体が動くわけがない…俺を馬鹿にしているのか?それともイカれているのか」


魔女「そう言うと思ったわ。じゃあ論より証拠を見せてあげる」チャキッ
37 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:00:56.84 ID:Sq07Y5wLo
バンッ!!!!!!


屍男「!?」ドンッ

屍男(なっ…拳銃っ…撃たれッ...)



ドサッ



屍男「」

屍男「」


屍男「…??」ピクッ

屍男(…痛みがない?)


魔女「ほら、銃で心臓を撃ち抜かれても生きてるでしょ。これでも普通の人間だっていうの?」

魔女「これが現実、アナタは一度死んで蘇ったゾンビくんってワケ」
38 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:01:59.95 ID:Sq07Y5wLo
屍男(ど、どうなって…撃たれた傷は!?)バッ


ジュゥゥゥゥゥゥッ


屍男「に、肉が集まって再生しているだと…」


魔女「おぉ、再生のスピードはっやーい」



屍男「何がどうなっているんだ…?ぐぅっ」グッ

屍男「俺は……もう本当に……死んで、いるのか......?」



魔女「目の前で手品を初めて見た子供みたいなその顔…髪があったら男前なのにもったいない」
39 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:05:56.27 ID:Sq07Y5wLo
屍男「...」


魔女「まあショックなのは分かるけど、そんなに悲観することじゃないわよ。第二の人生だと思えば気楽なものよ?」

魔女「ほら、ゾンビ映画のゾンビ達も肉食べてる時はすごく楽しそうだし」


屍男「...俺はなぜ死んだんだ」


魔女「さぁ?そんなこと私に言われても
分からないわよ。全知全能の神じゃあるまいし」


屍男「...記憶はいつか戻るのか?」


魔女 「そうね、そのうち戻るんじゃないの。今は蘇った反動で脳が混乱してるだけだと思うし」
40 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:08:21.54 ID:Sq07Y5wLo
屍男「...俺みたいな境遇のやつは他にもいるのか」


魔女「えぇ、死者が蘇ったら主に二つに分類されるわ」

魔女「一つは『幽霊(ゴースト)』こ死の実感がない、つまり事故とか病気とかの突然死をした人がなりやすいわね」

魔女「幽霊の特徴は肉体がないこと、それに視える人にしか見えない。こっり暮らすなら最適の存在よね」

魔女「他にも足が付いてるのとか、自由に移動が可能なタイプもいるけど...ここら辺は話すと長くなるからとりあえず飛ばすわ」


魔女「そしてもう一つは『怪物(モンスター)』アナタはこっちに当てはまる」
41 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:12:45.54 ID:Sq07Y5wLo
魔女「怪物は死を実感しながら死ぬとなりやすいって言われてるわ。殺人とか、自殺とか…個人的な経験だと性格にクセがある人が多いわね」

魔女「怪物の特徴は蘇った肉体そのもの。超人的な怪力になったり、足が速くなったり、ワープしたり…まさにモンスターって感じ」

魔女「まあジェイソンみたいなのを想像すればいいわ。大体はあんな感じだから」



屍男「」グッ



グシャッ


屍男「...なるほどな、少し力を入れただけでカップが砕けた。ハルクにでもなった気分だ」パラパラ
42 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:14:11.69 ID:Sq07Y5wLo
魔女「ちょっと、勝手にカップ壊すのやめてくれる?」


屍男「…フッー、つまりアレか。俺は…誰かに殺されたということか」

屍男「そして蘇ったと…くだらんホラー映画じゃあるまいし…馬鹿みたいな話だ」

屍男「…一つ、気になることがあるんだが」


魔女「なに?」


屍男「この頭…髪が抜けたのも蘇った影響なのか?」

魔女「いや、それは違うと思う」キッパリ


屍男「…」

屍男「…あぁ、そうか」
43 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/14(土) 21:16:38.66 ID:Sq07Y5wLo
今日はここまで
誤字脱字多くて申し訳ないです
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 22:05:27.33 ID:Rj+/vdhSO
ハゲはきにしてるんだ
かわいいな
45 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:02:59.09 ID:AFSOJReDo
魔女「しかしまあ、怪物になったのは運が悪かったかもね。幽霊なら実体がないから好き放題出来たのに」

魔女「いくら死んでるといっても、怪物は元のベースが人間だからどうしても睡眠と食事が必要になるのよね。幽霊はただ浮いてるだけでいいんだけど」


屍男「…どうすればいいんだ。俺はこれから…」

屍男「名も故郷も親も知らずに、化け物になった状態で生きろと?そのまま死んでた方がまだ楽だろう」

屍男「…姿も髪が抜けて、この有様だ」


魔女「だから髪がないのは元からだって」

魔女「まあそうねぇ…このままだと本当に野垂れ死んじゃいそうだし、アナタが良ければ記憶が戻るまでここに住んでもいいわよ?あ、もちろん仕事はしてもらうけど」
46 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:04:05.32 ID:AFSOJReDo
屍男「…いいのか?お前は」

屍男「会ったばかりの死人を家に招き入れるなんて…余程のお人好しか間抜けだぞ。正常な判断とは思えない」


魔女「家を提供してあげるって言ってるのに、普通そんなこと言う?」

魔女「別に理由なんてないわよ。ただ、困った時はお互い様ってだけ」

魔女「貸しは作っておいて損はないからね。いつか倍返し貰えればいいし」


屍男「…お前は本当に何者なんだ?人間なのか、それとも怪物というやつなのか」


魔女「さあ?そんなのどうでもよくない?」

魔女「アナタが直面してる状況と比べたら…私の正体なんて些細なものよ」
47 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:05:35.61 ID:AFSOJReDo
…………………………………………………
……………………………



屍男「…」ポンポン

屍男「…ここの本はこっちの本棚か」

屍男「…虫に食われているな。これはもうダメか」ペラペラ



屍男(あれから二週間か。成り行きであの女の店で働くことになったが…)

屍男(なんだこの本屋は、オカルト系の怪し気でインチキ臭い本しかないぞ)

屍男(…しかも半分くらいは何の言語で書かれているか分からん。状態も悪いし何年前の白物なんだ)

屍男(これだと客も来ないはずだ。今までに来た奴なんて数えるほどしかいない…)


屍男(…いや、問題はその客の方か)
48 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:06:50.39 ID:AFSOJReDo
屍男(時々来る客の中でも、本には目もくれずに店の奥に入っていくやつらがいる)

屍男(その客には触れるなと言われているが…あれは間違いなく、一般人ではない。気配で分かる)

屍男(そして、そいつらの共通点は馬鹿でかい荷物を持っているということだ。俺の勘だとアレは…)


魔女「おーご苦労、ご苦労。だいぶここら辺も片付いてきたわね」

魔女「やっぱり男の人がいると助かるわ。女の子一人だと本の整理もままないからねぇ」


屍男「…女の子という年齢はとうに過ぎてると思うが」


魔女「何か言った?」


屍男「…何も」
49 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:08:17.68 ID:AFSOJReDo
魔女「で、そろそろ記憶が戻ったりした?」


屍男「…いや」


魔女「え〜まだ戻ってないわけ?それはちょっとおかしいわね…」

魔女「普通は数日から一週間で、頭が整理されて生前のことを思い出すはずなんだけど...」


屍男「…どうなっているかはこっちが聞きたい。本当に戻るのか?」


魔女「二度と戻らないってことはないでしょ。記憶自体は頭の中にちゃんと入ってるはずだし、気長に行くしかないってことね」


屍男「…そうか、待つしかないか。ところで一つ、こちらも聞きたいことがある」

屍男「ここはいつから死体安置所になったんだ?」



魔女「…え?」
50 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:09:06.48 ID:AFSOJReDo
屍男「隠しても無駄だ。俺も同じ死体なんだからな。死体の臭いは僅かな死臭で分かる」

屍男「それをお前が関わるなと言った客が運んでいることも知っている。理由を聞かせてもらいたい」



魔女「…」



屍男「こちらも居候の身だ。詮索はしたくないが、これはあまりに常軌を逸している」

屍男「返答次第では…こちらも黙っているわけにはいかない」



魔女「…それってつまりこういうこと?」

魔女「私が、人を殺して、その死体で何かしていると」



屍男「…あぁ、そうだ」
51 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:10:09.02 ID:AFSOJReDo
魔女「...」



魔女「はぁーあ…ばーれちゃった」

魔女「まあ半分正解ってところね。勘違いしないでほしいけど、私は死体を弄り回す趣味なんてないわよ。生きてるなら話は別だけど」

魔女「いいわ、着いてきなさい。真実を教えてあげる」スタスタ



屍男「…」



魔女「なに?警戒してるの?」

魔女「安心しないさいよ。バレたから口止めなんて古典的なことやらないから」
52 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:11:15.07 ID:AFSOJReDo
スタスタ…スタスタ…


屍男(…店の奥にこんな地下へ進む階段があったのか。まるで秘密基地だな)

屍男(しかしこの臭いは…奥に進めば進むほど、死臭がはっきりする。一人や二人の量じゃないぞ)


カチャッ


魔女「はい、この部屋よ」ガチャ



屍男「…なんだ。この部屋は…」



ゾォォォォォォォォォォォォォォォォォ



屍男(見渡すとまず視界に入るのが、台に乗せられた多数の死体…状態は損傷が激しいものから、ほぼ無傷のものまで様々だ)

屍男(そしてその中央にあるのが巨大な水槽、いや鍋なのか?中には液体が入っていて、沸騰している水のように煮え立っている。どう見ても人体に悪影響を及ぼす色と臭いだ)
53 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:13:01.17 ID:AFSOJReDo
屍男(最高に狂ってる光景だ…常人ならこの場を見るだけで卒倒するだろう)

屍男(…まさか、自分が呑気に本の整理をしていた部屋がこんな地獄だったとは)


屍男「…おい、これは一体どういうことだ?お前は…ここで何をしている」

屍男「こんなものが世間にバレたら逮捕どころの話じゃないぞ...歴史上ナンバーワンのクレイジーでイカれてる最高のサイコ犯罪者だ」


魔女「別に私はそこまで狂ってないわよ。異常が日常になってるだけ、すぐ慣れるわ」

魔女「で、ここで何をしているのかって話だけど…この死体の顔に見覚えはある?」



死体『』



屍男「…そいつ鼻から下がないぞ」
54 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:13:55.58 ID:AFSOJReDo
魔女「あら?ごめんなさい。分かりにくかったわね、じゃあこれは?」



死体『』



屍男「…記憶のない俺が人の顔を覚えてると思うか?」



魔女「えぇ、コレは結構有名人だったしね。ニュースでよくやってたから見覚えがあっても不思議じゃない」

魔女「ほら、これが生前の写真。これなら誰か分かるでしょ」ペラッ



屍男「…ん?」ピクッ

屍男「待て、こいつは確か...殺人犯で手配中の男じゃなかったか?老人を二人殺したとかいう...」
55 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:15:58.09 ID:AFSOJReDo
魔女「正解、一週間前に二人のお爺さんを殺して、その犯行の様子をSNSに公開したゲス野郎」

魔女「表では今でも逃走中ってシナリオになってるわね。ま、捕まることは永遠にないでしょうけど」


屍男「…なぜそいつが死体になって転がっているんだ」


魔女「何となくもう察してるんじゃないの?極悪人が殺されるなんて理由は一つしかないじゃない」


屍男「…復讐か」


魔女「だいせいかい〜誰から依頼されたかは企業秘密で言えないけど、こいつは依頼されて殺されたのよ」

魔女「自業自得ってやつよね。人から恨まれることなんてするもんじゃないわ」
56 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:16:42.57 ID:AFSOJReDo
魔女「ここにある死体もみんなそう、殺人鬼から強姦魔に放火魔…麻薬王から頭のネジが外れたやつまで悪人のオールスター」

魔女「まるでクズの博覧会…標本にして飾ったらお金取れるレベルだと思うわ」


屍男「…するとあの死体を運んでたやつらは」


魔女「アナタ…いえ、私達の同類よ。人の姿をしているけど、みんな怪物や人外の化け物」

魔女「私が仕事を紹介して、彼らが実行し、達成したら報酬を払う…まあどこにでもあるビジネスよ」



屍男「...」

屍男「…はぁ、一体何なんだ」
57 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:18:15.65 ID:AFSOJReDo
屍男「いきなり目が覚めたら記憶を失っていて、娼婦のような恰好をした女に自分は死人だと告げられ、そいつの店に住むことになり...」

屍男「あげくの果てにはその女が実は殺し屋の元締めだと?そろそろ頭がパンクしそうだ…この世界はフィクションで出来ているのか」

屍男「…その鍋は何だ?まさか死体を溶かすとでも言うんじゃないだろうな」


魔女「おっ、ご名答」

魔女「ふんっ」グッ


グイッ

ドボンッ…


ジュッ…グツグツッ...グツグツッ…


魔女「この液体は私が作った特別製、人間の細胞を一つも残さずにこの世から消滅させる」

魔女「死体っていう証拠がないと殺人は立証できないって、かの有名な殺人犯も言ってたでしょ?」
58 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:19:14.20 ID:AFSOJReDo
屍男「…」



魔女「で、どうするの?」

魔女「これが死体を運んでたワケ、私の正体は復讐代行兼殺し屋」

魔女「いくら悪人を殺してると言ってもそれが善だとは思っていない。結局は全部お金のため、我ながら小悪党やってると思うわ」

魔女「アナタはこの事実を知って…どう行動をするのかしら?」



屍男「...」チラッ



死体『』



屍男「…」ゴクリ

ズキッ
59 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:20:08.05 ID:AFSOJReDo
屍男「…ッ」グッ

屍男(なんだ?頭が...)



魔女「どうしたの?頭を押さえて」



屍男「…何でもない」

屍男「俺がお前達の所業を知ってどうするかだったな…俺は」



屍男「…特に何もしない。好きにしたらいい」



魔女「えっ」
60 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:20:55.67 ID:AFSOJReDo
屍男「…なんだ、その反応は」



魔女「いや…ちょっとゾンビくんのキャラと違うなと思って」

魔女「私の目だと、こんな汚れ仕事は嫌いなタイプだと思ってたから」



屍男「...勝手に俺を判断するな。俺は…」

屍男「この世界には消えていい存在もいると思っただけだ。殺してるのは市民に危害を加えてるやつらなんだろ?」

屍男「なら…そんな屑は死んだ方がいい。貴様達が見境なく人を襲っているというなら話は違ってくるがな」



魔女「…ふーん」
61 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:21:46.04 ID:AFSOJReDo
魔女「私もそうだけど、どうやらアナタも元から相当ぶっ飛んだ思想を持っているようね。記憶がないのもそこから来ているのかも」

魔女「いや、これはどちらかと言うとアッチ系の…」



屍男「…?どういうことだ?」



魔女「ううん、何でもない。さすがに考え過ぎか…とにかく、アナタが敵に回らなくて良かったわ」

魔女「せっかく仲良くなってきたのにもう殺し合うなんて…勿体ないですもんね」ニコッ



屍男(…食えない女だ)
62 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/15(日) 18:22:51.82 ID:AFSOJReDo
今日はここまで
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 01:13:20.54 ID:jKy2uovYO
ハゲなんだね
おつ
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 12:32:42.33 ID:nxS81n0TO

こんなもの見たらそりゃ髪も抜けますわ
65 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:51:50.74 ID:+2aT8+rko
…………………………………………………………
……………………………………………



屍男「…」キュッキュッ



屍男(ここの店の秘密を知ってから数日が過ぎた。あれから特にこれといった変化はない)

屍男(しかしよく死体の山の真上で商売なんて出来るものだ。案の定売れてないがな)


屍男「…よし、ここは綺麗になったな」キュッ




スゥッ…




屍男「…ん?」

屍男(…客か、珍しいな。しかもまだ子供か)
66 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:52:55.75 ID:+2aT8+rko
「...」ペラペラ



屍男(...背丈を見るにまだ小学生、いや中学生か?読んでる本のタイトルは…『呪い大百科』)

屍男(…まあここに来るやつが全員化け物ってわけでもないからな。呪いだの占いだのに興味を持つ年齢だろうし、そこまで不思議でもないか)



「…これでいっか」スッ



屍男(…ちょっと待て、なぜ本をもって出口に向かう?まだ会計が終わってないぞ)

屍男(これは…まさか万引きというやつか)

屍男(…さすがに止めた方がいいか。店番も頼まれてるしな)
67 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:54:08.78 ID:+2aT8+rko
屍男「おい、待て」



「...」



屍男「売り物を持ってどこに行くつもりだ?金を払うのが先だろう」



「…ハァ?お前、誰に向かって口聞いて…」




吸血娘「...っ!」ピクッ



屍男(…やはり中学生くらいか。平日の昼間からブラブラしているのは学校をサボっているからか)

屍男(少し、他の子供と違うように見えるが…まあ見るからに不良っぽいからな。そのせいか)
68 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:55:31.37 ID:+2aT8+rko
吸血娘「...」



屍男「…どうした、ジッと固まって」

屍男「何も問答無用で警察に突き出そうとは思ってない。金さえ払えばこちらも事を荒立たせるつもりはないからな」



吸血娘「…ハゲ」ボソッ



屍男「…」

屍男(…失礼な子供だな。最近の若いのはみんなこうなのか)


屍男「いいから代金を払え。今の発言も含め、今回は見なかったことにしてやる」
69 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:56:27.99 ID:+2aT8+rko
吸血娘「ハァ?何でただの死体が私に命令してるの?私を誰だと思っているんだ」


屍男「」ピクッ

屍男(こいつ…まさか)


屍男「…俺が死体だとわかるのか?」


吸血娘「んなもん見れば誰だって分かるわ。だって臭いし、目が死んでるし、おまけに毛根も死んでるし」

吸血娘「というかお前誰?あのビッチに雇われたの?」



屍男(…あの女のことも知っている。やはりこの子供も…)
70 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:58:02.52 ID:+2aT8+rko
屍男「…あぁ、そうだ。ワケあってここに住まわせてもらっている」


吸血娘「セフr」


屍男「違う」


吸血娘「反応はっや、まあいいや。そっか…そういうことか」

吸血娘「じゃあ私は急いでるから、またなハゲ」


屍男「おい待て、金を払えと言ってるだろうが」


吸血娘「あいつにツケといて、まあ返す気なんてないけど〜」

吸血娘「んじゃそういうことで〜」フリフリ



屍男「…なんなんだあいつは」
71 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 17:59:10.31 ID:+2aT8+rko
屍男「ということがあったんだが」


魔女「あぁ、ドラキュラちゃんね。あの子なら別にいいわ。うちのお得意様だし」


屍男「…ドラキュラ?」


魔女「正確に言うとヴァンパイア。人の血を啜る半不老不死の世界で最も有名な怪物…あ、怪物と言ってもアナタと違って死んでないわよ?あの子は先天性の方」

魔女「簡単に言うと人外ってやつね。こっちの世界なら、アナタみたいな死人よりこのタイプの方が断然多いわ」


屍男「…ヴァンパイアか。さすがに慣れたのかもうそこまで驚かなくなったな」

屍男「あの子供も人を殺しているのか?」
72 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:01:01.95 ID:+2aT8+rko
魔女「見た目は子供だけど、実年齢はそこまでじゃないわよ。もうお酒は飲める年頃だし」

魔女「仕事に関してはよくやってくれてるわ。暗殺って分野だとあの子の右に出る者はいないってくらいにね」


屍男「…そうか」


魔女「もしかして、あの子のことが気になってるの?ゾンビくんて意外とストライクゾーン広いのね」


屍男「…誤解を招く言い方はやめろ。俺はただ、ああいう子供が手を汚していることが気に入らないだけだ」


魔女「だからあれでも成人だって、まあそこら辺は種族の違いってやつだと思うけどね」
73 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:03:50.66 ID:+2aT8+rko
魔女「ヴァンパイアから見たら、結局は人間は食糧だってこと。人間は同種を殺すことに抵抗があるけど、あの子にはそれがないから割り切れるんでしょうね」

魔女「人間が家畜用の豚や鶏を殺すのと同じでね。目の前から死を極力まで排除している現代人からしたら残酷に思えるでしょうけど」


屍男「…」


魔女「価値観の違いってやつよ。じゃあ私はお風呂入って髪と死体をとかしてくるから食器洗っといてちょうだい」スタスタ




屍男(…価値観の違いか)

屍男(言葉で片付けるのは簡単だが、やはり異常だな…この世界は)

屍男(…ただ、少しだけ理解出来たような気がする)
74 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:04:37.71 ID:+2aT8+rko
▢▢▢▢ 翌日 ▢▢▢▢



吸血娘「でなーその男が私に言ったんだよ」

吸血娘「『け、警察!誰か助けてぇ!!!』ってね!」

吸血娘「自分は4人も殺しておいて警察に女の子みたいな声出して助け求めてやんの!身の程を知れってんの!アッハハハハハハハハハァ!!!!!」バンバン


屍男「…」


吸血娘「まあすぐぶっ殺してやったけどね。まったくああいうクズ共が相手だと何の迷いもなく殺れるから楽だわ」


屍男「…おい」
75 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:05:37.72 ID:+2aT8+rko
吸血娘「ん?なに?」

屍男「…なぜ今日もここにいる。そしてなぜ三時間もそこでくっちゃべっているんだ」


吸血娘「何でって、別に理由なんてないけど?ただの暇潰しだし」

屍男「…はっきり言うぞ。仕事の邪魔だ、帰ってくれ」

吸血娘「仕事って言ってもどうせ本の整理とか、掃除くらいしかやることないじゃん。せっかく退屈そうな顔してたから面白い話してやったのに」

屍男「…誰も頼んでない」

吸血娘「うるせぇ!このハゲ!お堅いのはこのハゲ頭だけにしとけ!」バシーン


屍男「...」ヒリヒリ


吸血娘「あー…気持ちいい!一度このハゲ頭を平手打ちしたかったんだよね!やっぱり殴り心地最高だわ!」バシバシ
76 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:07:02.91 ID:+2aT8+rko
屍男「...」イライラ

屍男(な、なんなんだこいつは…突然来たと思ったら、つまらん話と頭の話を延々と...)

屍男(さすがに腹が立ってきたぞ...グッ、押さえろ。相手はまだ精神的に未熟だ…我慢しなくては)


吸血娘「あっ、おいハゲ、ちょっとそこの本取って」


屍男「…どれだ」


吸血娘「そこの手前のやつ、表紙が黒いの」


屍男「これか?」スッ


ネチャッ
77 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:07:50.10 ID:+2aT8+rko
屍男「…なんだ?何か手に…」


吸血娘「アッハハハハハハハハハァ!!!!引っかかってやんの!その本の表紙の塗料はぐちゃぐちゃに溶けてて触るとくっ付くんだよ!」

吸血娘「しかもそれめっちゃくさいぞ…一度風呂に入っても取れないくらいに…まあ元から臭いし変わんないか!ぷぷっ」プププ


屍男「...」クンクン

屍男「」ブチッ



屍男「…いい加減にしろ。大人をからかうな」



吸血娘「アん?もしかして子ども扱いしてる?これでも二十歳なんですけど
78 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:09:00.79 ID:+2aT8+rko
屍男「ならもっと年齢に相応しい振る舞いをしろ。いつまでガキみたいな真似をしてるんだ」


吸血娘「だってヴァンパイアの歳だと二十歳なんて人生の十分の一にも満たしてないし、人間換算だとまだ8歳くらいだし」


屍男「そういう問題じゃないだろうが、同年代の人間を見てみろ、お前よりはずっと大人だぞ」


吸血娘「…んなこと言われても同じ歳の人間なんて話したことすらないし」


屍男「…?学校に行ったことはないのか」


吸血娘「ヴァンパイアが学校になんて行けると思う?豚小屋にオオカミを放り込むようなもんだろハゲ。少しはその何にもない頭働かせろ」
79 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:09:49.43 ID:+2aT8+rko
屍男「…お前、もしかして」

屍男「寂しい…のか?」



吸血娘「は、はぁ!?ち、ちげーし!全然そんなんじゃねーし!!」

吸血娘「ば、ばーか!あーほ!もう帰るわハゲ!頭洗って出直して来い!」ダッ



屍男「…」







屍男「といううことがあったんだが」

魔女「ほう」
80 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:11:32.57 ID:+2aT8+rko
魔女「あのドラキュラちゃんがねぇ…結構可愛いところあるんじゃないの」

魔女「確かに、あの子は自分と近い歳の人間との繋がりはなかったろうしね。周りは自分と同じモンスターか、獲物しかいなかっただろうし」

屍男「…あいつは今まで一人だったのか?」


魔女「...」

魔女「親は居たけど、あんまり仲は良くなったみたい」

魔女「ヴァンパイアは夜型の生活だから、人との繋がりは今まで仕事ぐらいでしかなかったのかも。後は同族の集会くらいか」

魔女「そもそもそのヴァンパイア自体が、今では少数の血統しか残ってないからねぇ…二、三世紀前はもっと数が多かったらしいけど」

魔女「ま、仕方ないか。彼女と同年代と言ったら、血液に一番脂がのってる時期だもん。仲良くなる前に出会ったら本能で襲っちゃうまであるし」
81 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:13:23.42 ID:+2aT8+rko
魔女「基本的に普通の人間には手を出さないから、自分から距離を取ってるところもあるんだろうね」

屍男「…そんな奴がなぜ俺にちょっかいをかけてくるんだ」

魔女「さあ?ゾンビくんって頭以外は男前だし、もしかしたら惚れられてるのかもね」


屍男「......」


魔女「冗談よ、本気にしないで」

魔女「まあ考えられる可能性としては…どこか同じ雰囲気を感じたのかもね」


屍男「…同じ雰囲気?俺とあいつがか?」


魔女「―――――」

魔女「そうね、二人は結構似てると思うわよ」
82 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:14:32.83 ID:+2aT8+rko
屍男「…」

屍男「…そうか、あいつは今まで孤独に生きてきたんだな」

屍男「記憶を失い、何も寄り添うものがない今の俺と…確かに似ているかもしれん」





魔女「えっ?アナタには私がいるじゃない」

屍男「…お前には貸しがあるし、恩も感じているが、深い仲になろうとは思ってないしなるつもりもない」

屍男「はっきり言うと、なるべく関わりたくない」

魔女「酷くない?」
83 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/16(月) 18:15:38.86 ID:+2aT8+rko
今日はここまで
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 18:27:28.79 ID:Efp08mcc0
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 20:22:40.55 ID:oNFScUkyo
吸血娘ちゃんペロペロ
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 20:29:53.04 ID:9vS7yeNyo
今のところ魔女凄くいいやつだと思うんだが
ここまで嫌われるってことは第六感的に何か嫌なものを感じてるんだろうか
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 20:30:53.05 ID:oNFScUkyo
見た目がトロールみたいなんじゃね
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 20:34:59.49 ID:9vS7yeNyo
娼婦みたい、露出が多いって書いてあるから
若くて美人だと思うぞ。ビッチ呼ばわりされてるし
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 02:34:48.32 ID:/kB7EAocO
ハゲ弄りが凄い
おつ
90 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:02:06.34 ID:YQmGKLBxo
…………………………………………………
…………………………………………


吸血娘「私がぶっ殺したやつの中で一番強かったのは半魚人野郎だったなぁ」

吸血娘「あの時は初めて人間以外を相手にしたし、マジで死ぬかと思ったわ」

吸血娘「ま、最後は喉笛に噛みついて血吸ってやったけどね。味は予想通り生臭かった」

屍男「…そうか」


屍男(あれから毎日、こいつは店に来るようになった)

屍男(話す内容はやれ誰かをぶっ殺しただの、あいつは手強かっただの…低俗な話ばかりだが、聞いててそれなりに退屈はしない)

屍男(一人で過ごすより、二人の方が気が楽になるんだろう。こいつも…俺も)
91 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:03:08.16 ID:YQmGKLBxo
屍男「その半魚人とやらは比喩か何かか?まさか本物じゃあるまいな」


吸血娘「いんや本物だけど、そりゃヴァンパイアがいるなら半魚人がいてもおかしくないだろ。常識的に」

吸血娘「ほかにも狼男とか、翼が生えてるやつとか触手がうねうねしてるやつもいるぞ」


屍男「…それを世間では非常識と言うんだがな」

屍男「殺し屋というのは人だけではなく、そんな輩も相手にするんだな。気苦労が絶えんだろう」


吸血娘「依頼するのは人間だしね。たまに人殺しの中にもそういうやつらが混じってることもあるよ」

吸血娘「でも普通の人間相手にするのとあんま変わらんけどね。私ヴァンパイアだし、最上級の魔族だし」ドヤァ
92 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:04:05.22 ID:YQmGKLBxo
屍男「…同じ人外相手でも平気なのか。仲間みたいなものだと思うんだが」

吸血娘「ハァ?全然違うでしょ。あんな気持ち悪いやつらと一緒にしないでよ」

吸血娘「同じ人間じゃないってだけで、種族も思想も全然違うわ。そんなの気にしてたらゲロ吐くわ」

屍男「…そういうものか」



カランカラン♪






魔女「帰ったわよ…って、ドラキュラちゃん今日もいるの」

吸血娘「ゲッ」
93 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:05:13.02 ID:YQmGKLBxo
魔女「ここ最近毎日じゃない?そんなにこの店が気に入ったのなら、何か買っても罰は当たらないと思うけど」

吸血娘「誰がお前に金なんて落とすか!ファッキュー!」クイッ

魔女「あらお下品」


吸血娘「んじゃ、あのビッチも来たことだしもう帰るわ。また明日なハゲ」


屍男「…あぁ」


魔女「もう帰っちゃうの?夕飯ぐらいはご馳走してあげるのに」


吸血娘「誰がお前の作った飯なんて食えるか!絶対違法な薬品とか入れてるわ!」ダッ

魔女「失礼しちゃうわね。たまにしか使ってないわよ」


屍男(…ん?)
94 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:05:54.46 ID:YQmGKLBxo
魔女「さ、ドラキュラちゃんも帰ったことだし少し遅いけどディナーにしましょうか。今日は私が作るわ」


屍男「…」

屍男「いや、今日は俺が作る」


魔女「え?どうして?交代制って決めたのに」


屍男「当分、飯当番は俺がする。お前は休んでろ」スタスタ


魔女「えー…まあ休めるのはいいけどさ、正直ゾンビくんのご飯ってあんまり美味しくな」


屍男「絶対に俺が作る」
95 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:06:46.51 ID:YQmGKLBxo
…………………………………………………………
………………………………………


吸血娘「ハゲ、お前死んでからどれくらい経った?」

屍男「…急にどうした」

吸血娘「別に、気になっただけ」

屍男「ひと月と少しだな。そろそろこの生活にも慣れてきたところだ」


吸血娘「ふーん...」


吸血娘「なぁ、そろそろ生前の自分の手掛かりとか探さないの?ずっとこの埃くさい店の掃除ばっかしてるけど」

吸血娘「普通だったら最優先に自分の正体を探すと思うんだけど、そんなゆっくりしてて大丈夫なわけ?」


屍男「...」
96 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:08:23.82 ID:YQmGKLBxo
屍男「…最初の一週間は探した…が、何も有益な情報はなかった」

屍男「恐らく、この町は俺との関わりがほぼないのだと判断した。これ以上探すのは時間の無駄だ」

屍男「かと言って、他の地方に行くわけにもいかん…この店を離れたら俺はただの住所不定の無職だからな。そこまでする余裕はない」

屍男「だから今は現状維持だ…ここを離れて生活が安定したら旅でもして見つけるつもりだ」


吸血娘「…なんかお前って変だよな。まるで自分から逃げてるみたいだぞ」


屍男「…そうか?普通だと思うが」


吸血娘「私だったら真っ先に飛び回る。テレビのリモコンをなくしたのならともかく、自分の記憶だもん。そんな悠長な考え方はできない」
97 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:09:22.56 ID:YQmGKLBxo
吸血娘「自分の過去とか気にならないの?親とか、友達とか」

屍男「…さあな、確かに気にはなるが、そこまでの執着はないな」


吸血娘「じゃあ自分を殺したやつのことは?確か路地裏のゴミ捨て場で目が覚めたんでしょ?」

吸血娘「自殺するにしては明らかに変な場所だし、殺されて誰かに捨てられた以外に考えられないじゃん」


屍男「...」

屍男「…それもあまり興味はないな。殺されたということは、それ相応の理由があったんだろう」

屍男「わざわざ犯人探しをするつもりはない」
98 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:10:26.77 ID:YQmGKLBxo
吸血娘「…」

吸血娘「そう、私だったら犯人を見つけ出して絶対殺すと思う。復讐としてね」


屍男「…それが正常だろうな」



吸血娘「はぁ〜〜〜とんだフニャチン野郎だな。どこまで無頓着なんだか」

屍男「…そういう言葉は使うな。下品だぞ」


吸血娘「…あっ、そういえばさ、さっき生活が安定したら離れるって言ってたけど、もしかしてここ以外に住居が見つかったらそっちに移るつもりなの?」


屍男「…あぁ、いつまでも一人暮らしの女と一緒というわけにもいかんからな。いや、その他の死体もいるか」

屍男「あいつから僅かだが、給料も貰っている。まとまった額が貯まったら出て行くつもりだ」
99 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:11:44.17 ID:YQmGKLBxo
吸血娘「へぇ〜…ふ〜ん…」

吸血娘「…よし、決めた。ハゲ、今日はあのビッチ何時に帰ってくる?」


屍男「...?今日は遅くなるとか何とか言ってたが、それがどうした」


吸血娘「そ、じゃあ電話するか」ピッ


プルルルルルル…プルルルルルル…



吸血娘『あ、もしもし?私だけど』

吸血娘『今日からこのハゲ、私の家で引き取るから。ってことでよろしくぅ!』



屍男「!?」

屍男「ちょっと待て、何を言って…」
100 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:12:48.82 ID:YQmGKLBxo
吸血娘『は?急に言われても困る?うるさいなぁ…ほら、買い取り代を口座に入金したから確認して、これじゃ足りない?』

吸血娘「―――ん、変われって」ポイッ



屍男「おい、携帯を投げるな。危ないだろ」グッ


『もしもし?ゾンビくん?話はさっき聞いてたと思うけど、そういうことで今日からドラキュラちゃんと暮らすことになったから』


屍男『はぁっ!?』

屍男『おい、お前達は俺をペットか何かと勘違いしているのか?本人の承諾もなしに勝手に話を進めるな』
101 : ◆gqUZq6saY8cj [saga]:2017/10/17(火) 21:13:48.64 ID:YQmGKLBxo
『でもゾンビくんって居候でしょ?とやかく言える立場じゃないと思うんだけど』

屍男『…確かにそうだが、それとこれとは話が別だ。簡単に人を売買するな、こっちの事情も考えろ』

『え?もしかしてドラキュラちゃんのところに行くのが嫌なわけ?そんなに私と離れたくな...』


プツッ


屍男「…この蛇が」ポイッ



吸血娘「お前も投げてるじゃん」グッ

吸血娘「さっ、ってことで今日から私の家に引っ越しな。荷物さっさとまとめといてよ」
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