エンド・オブ・オオアライのようです

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306 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/02/21(水) 23:01:28.81 ID:BsS8N4hC0
散弾銃という日本式の名称が示すとおり、ショットガンの弾丸は前方の空間へ拡散発射される。射程距離が概ね50m前後と極端に短い代わりに、近接戦闘での殺傷能力と空間制圧能力はとても高い。故にその性能は、市街地や閉所での接近戦で特に遺憾なく発揮される。

そう、例えば今僕らがいる、人が四、五人も横に並ぶと隙間がなくなるような狭い廊下とか。

『キィイイアアアアアアアアアッ!!!?』

(メメ;゚ω゚)「ヒッ……!?」

僕らを追ってくる“何か”からすれば、弾幕なんて生易しい存在じゃない。突如出現した「銃弾の壁」にまっ正面から突っ込む形となった“何か”の肉が裂ける湿った音と、それを掻き消すおぞましい断末魔が冷え切った廊下の空気を震わせる。

(●▲●)「おうムラカミさん、そのあんちゃん眼ェ覚ましたんか!」

「あぁ、たった今な!」

此方に駆け戻ってきた小太りの男性……根賀さんが、“何か”の声に身体を強張らせる僕を見て微かに眉根を上げた。どうやら、僕を背負う女生徒の名はムラカミというらしい。

「さっきから他人様の背中でうるっさくて仕方ない!怪我人じゃなかったら床に放り出してるっつの!」

「ま〜ま〜、そーいーなさんなってムラカミや。こんだけ苦労して連れてきた挙げ句“屍体でした”ってんじゃ、それこそ骨折り損のくたびれもうけだしねぇ〜」

前方から聞こえてくる、この修羅場に似つかわしいとは言い難い間延びした女の子の声。

ここで初めて、僕はこの一行を先導する四人目の存在に気づいた。
307 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/02/21(水) 23:05:19.22 ID:BsS8N4hC0
ムラカミさんの走りを邪魔しないよう、僅かに首だけ動かして前を覗き込む。

眼に映るのは、3メートルから4メートル先でぴょこぴょこと上下に揺れる赤い毛玉。一瞬面食らったが、よく眼を懲らせばそれはパーマをかけられた頭髪だ。

やはり船舶科の服を身につけていて、邪魔だったのか帽子は右手に握られている。背は160cm前後、此方もこの年代の女性として低いわけではないのだが、僕が“ムラカミさん”の上から見ているせいもあってかどうしても小柄に感じてしまう。

「根賀のおっさんと日屋根の兄貴は武器持ってるしさぁ、あたしじゃ体格的に役者不足だからムラカミぐらいしか運べるのがいないんだってぇ。我慢してよね〜」

「言われなくてもわあってるっつの!!それよりラム、後どれぐらいで着くんだ!?」

「後6ブロックってところだねぇ、ファイトファイト〜」

ラム、とは恐らく先導する生徒の呼び名か。日本人としては聞き慣れない名前なので、或いは鈴木さんたちや某紅茶学園のようなソウルネームなのかも知れない。

そして、その“ラム”さんと荒い呼吸の中から慣れた様子でやりとりするムラカミさん。

(メメ;^ω^)(能島村上家、厳島の戦い、毛利元就………もしかして“ムラカミ”もソウルネームかお?)

村上水軍。公式記録では南北朝時代にその名が登場する瀬戸内海の勢力で、水軍と名が付いているがその実態は今で言うところの“海賊”だ。来島、因幡、能島の三家が存在し、特に能島村上家は毛利元就が陶晴賢を撃ち破った【厳島の戦い】で重要な役割を担ったことも手伝って一般でもそれなりの知名度がある。

そしてラム酒と言えば、“海賊のお酒”の代名詞。

(メメ;^ω^)(この子たちがどういう集団に属してるのかちょっと見えてきたお)

まぁ、自分が何故この子達に運ばれているのか、“根賀さん”や“日屋根さん”は何故この子達と行動を共にしているのか、この二人はどこから武器を調達したのか等まだまだ疑問も多数残りはするが。

今僕たちが何に追われているのか、という点も含めて。
308 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/02/21(水) 23:09:35.68 ID:BsS8N4hC0
無論、深海棲艦がらみだというのは僕でもある程度予想は着く。学園艦の現状を考えれば、人間を好き好んで追い回す存在なんて奴等関連ぐらいしかいない……と思いたい。

問題は、この地形。こんな狭い廊下の中を甲板上にいるあのデカ物が動こうとすれば、それこそ艦を内部から破壊しつつ進むことになる。だが背後から迫る気配は、足音から察するに明らかに人間サイズだ。

(メメ;^ω^)(まさか“ヒト型”種……いや、だとしたらショットガンや拳銃如きで食い止められる相手じゃないお)

ル級やリ級といったヒト型種は大きさこそ僕ら人間と変わらないが、通常兵器は殆ど効果が無く艦娘でなければ有効な対応ができないというのは僕でも知っている。実際携行銃火器で迎撃できるような相手なら、幾ら奇襲を受けたとはいえ出現当初あれだけ甚大な被害が出るはずがない。

( ・∀・)「フィイイイイッ!!!!」

( ・∀・)「ヒッヒィイイイイイ!!!!」

( ・∀・)「イーディーエェエエエエフ!!!!」

(メメ;^ω^)(……あいつうるせえな!?)

……で、それとはまるで関係ないのだが、しんがりでショットガンを撃ち続けている男の声がべらぼうに五月蠅い。モスバーグM500の銃声もそれを食らう“何か”の苦悶の声も、彼が上げる甲高い雄叫びにあっさりと掻き消されてしまう。しかも定期的に振り向いて発砲する度にその声を発するので、なんか……その奇声が脳に刷り込まれていくような感覚に陥って倍付けで不快だ。

( ・∀・)「チョギップルィイイイイイイイッ!!!!!」

いや本当にうるせぇ。あいつ肺活量どうなってんの?

(メメ^ω^)「………え?」
309 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/02/21(水) 23:13:30.00 ID:BsS8N4hC0
約1名が織りなす背後の喧噪に生暖かい視線を送っていた眼を、思わず微かに見開く。

火を噴くモスバーグ。銃口から弾丸が吐き出される刹那、マズルフラッシュによって照らし出された廊下。そこに見えたモノが俄に信じられず、僕は後方に眼を凝らし続けた。

そんな事、あり得るはずがない。後ろから追いかけてくる“何か”が、船舶科の制服を着た人影だなんて。

そしてその人影めがけて、しんがりの男が平然とショットガンをぶっ放していたなんてこと、あり得てなるものか。

(メメ;^ω^)(きっと、見間違i)

『ア゛ア゛ァ゛ッ!!!」

必死に縋ろうとした希望的観測は、脳裏に浮かべた傍から目の前で繰り広げられる“現実”によって容赦なく否定された。

「ウ゛ァアアアアっ!!!』

( ・∀・)「*おおっと*」

男性が弾薬の装填動作を取った一瞬の隙を突き、彼に飛びかかった人影。手負いの肉食獣のような、声量も響きもとても人間のものとは思えない唸り声を発しながら組み付いたそれは、ムラカミさんやラムさんと同じ白を基調としたセーラー服を身につけている。

「ガァアアッ、アアアッ────ガッ!?』

( ・∀・)「男女平等キーーーック!!」

動きに、躊躇も遠慮もありはしなかった。男は組み付いてきた女生徒の顎を銃床で殴りつけ、腹を蹴って強引に距離を空ける。

その手に構えられるのは、蹌踉めき離れたその子の頭部にしっかりと照準を据えるモスバーグM500。

(メメ;゚ω゚)「───待っ」

(#・∀・)「Wassoy!!」

止める間もなく響く、銃声。

「アギッ』

その子の頭が、針で風船を突いた時みたいに乾いた音を立てて破裂した。
310 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/02/21(水) 23:20:44.95 ID:BsS8N4hC0
あまりの出来事に、悲鳴も怒声も上げられない。脳の機能は覚醒直後からすればかなり回復しているはずなのに、背後の光景を現実として受け入れてくれない。

そして、状況の変化は受け入れるだけの時間も与えてくれなかった。

「「ウ゛ァアアアアッ!!!』』

『『ガァッ!!」」

( ・∀・)「やだ……幼稚園以来のモテ期……」

銃火が途切れるや否や、暗がりからドッと此方に向かって押し寄せてくる人の群れ。大半は船舶科中等部や高等部の制服を着た女生徒達だが、中には整備士の作業着に身を包んだ男性や船舶科の教員と思わしきスーツ姿の人影も混じっている。

「『「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』」』

( ・∀・)「Show timeだ………」

ネジが外れた玩具の人形のようなどこかぎこちない動きで───しかしながら凄まじい速度で周囲に群がろうとする彼女達に対し、日屋根………さんは満面の笑みを浮かべてモスバーグM500を構え直してみせた。

( ・∀・)「WRYYYYYYYYYYY!!!!!」

『ギィイッ!?」

「アカ゛ァ……』

後退りながらも、容赦なく引かれる引き金。散弾が銃口から吐き出され、射線上の人影を次々と薙ぎ倒していく。

頭をトマトのように潰された作業着の男が、肩口から腹の辺りにかけてまでを抉られた小柄な女の子が、上半身をぐちゃぐちゃの肉塊にされて性別すら解らなくなった保安官服の誰かが、床に転がって血溜まりと屍体の山を形成する。

そして、背後の惨状に誰も………根賀さんはともかく、ムラカミさんとラムさんも視線すら向けず走り続ける。
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 09:23:47.69 ID:vXs/V1X80

まだサメさんチームになる前の出来事だったのか・・・
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 12:17:31.52 ID:Y5iztrOA0
おつおつ
こんな時でも輝けてるのは凄いなw
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 20:21:27.39 ID:BVbAyXb70
自演してるってマ!?!?!?!?!?!?
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 20:37:43.96 ID:Hr59C89z0
source
315 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/02/22(木) 23:23:24.71 ID:CSRI4Ade0
(メメ;゚ω゚)「なっ……なっ……」

(;●▲●)「面食らうのも無理はねえが説明は後回しにさせてくれやあんちゃん!!」

あまりにも異様な状況に言葉が出ず、僕は酸欠の金魚よろしく口をぱくぱくと開閉させる。根賀さんは有無を言わせぬ口調で僕に向かって釘を刺しながら、再びSIGを抜き放つ。

『ウ゛ア゛ッ……」

反転し、2連射。日屋根さんの横を抜けてこようとしたスーツ姿の男が一人、胸と頭を撃ち抜かれて衝撃で転倒した。

(●▲●;)「俺たち自身もそんな余裕はないし、何よりあんちゃんの安全のためでもあるんだ!今は逃げることに専念を────」

ガシャン。頭上で、そんな金属音が鳴る。

『ギィイイイッ!!!」

(;◎▲◎)そ「ぅおおおおおぁああああっ!!?」

(メメ;゚ω゚)「っ!!!?」

ダクトにはめ込まれていた金網が外れ、中から降ってきたのは新たな“人影”。船舶科中等部の制服を着た、一人の小柄な少女だった。

身長は角谷さんと同じぐらいかそれ以下で、或いは今年入学したばかりの一年生だったのかも知れない。少し下がり気味の眉尻とおっとりした印象を与える顔だちが、その女生徒が本来優しい性格の持ち主だったことを窺わせる。

「アアァッ、アアアアアッ!!!!』

(●▲●;)「このっ……!」

そんな彼女が、今は唾を撒き散らし、獰猛に唸り、自分の倍は体重があるであろう成人男性を組み伏せて、その首元に向かって顔を突き出しながら歯をカチカチと鳴らしている。

まるで、映画に出てくる“ゾンビ”のように。
316 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/02/23(金) 10:40:43.81 ID:JWwMSKGgO
「この……っ、野郎!!」

「ギギッ!?』

根賀さんにのしかかり彼ともみ合う少女(の形をした何か)に向かって、踵を返したムラカミさんがそのまま足を突き出す。刹那の戸惑いこそあったものの、それでも放たれた蹴りは140cm程度の小さな身体を吹っ飛ばすには十分な威力を持っていた。

「シィイイイイッ!!!』

( ・∀・)「BAN!!」

「ア゛ア゛ッ!?』

数メートル後方へ吹き飛ばされて床に四つ足で着地した“少女”に、横合いからモスバーグM500の12ゲージ弾が叩き込まれる。砕けた頭部が壁に叩きつけられ、ズルズルと血の跡を残しながら倒れ込む。

「根賀さん、怪我は!?」

(●▲●;)「お陰様で五体満足だ……日屋根さんもすまん、助かったよ」

( ・∀・)「礼は後ほど受け取るとして、早いとこ立った方がいいですよ」

足下に転がった空薬莢を蹴って退かしながら、日屋根さんは再び背後に向き直る。

お面を被っているみたいな無機質な笑みはそのままだけど、目元からさっきまでの(明らかに場違いだった)おちゃらけた雰囲気が消えていた。

さながら自分を狙う天敵に気づいた草食動物のように全身を緊張させて、彼は背後を───屍の山の向こう側に横たわる闇をにらみ据える。

( ・∀・)「そろそろ、来ますよ」






『『『キャハハ、キャハハ、キャハハハハハハハハ!!!!』』』
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/23(金) 18:07:16.92 ID:BeXlzV2G0
一気読みしたいんで応援しかできないけど応援してます(ボキャ貧)
318 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/02/24(土) 23:44:22.23 ID:8A9iV12l0
笑い声。そう、これは笑い声だ。それも生後数カ月の赤ん坊が上げるような無邪気で明るいやつが何十と重なり、足音と共に僕たちの方へ凄まじい速度で近づいてくる。

学園艦下層で、しかもこんな状況下では聞こえることが絶対に有り得ない“それ”を耳にして、全身の肌が粟立つのを感じた。

(#・∀・)「Go!!!」

(●▲●;)「っ!」

「ああクソッ!」

「やっばいねぇ……っ!」

腰だめでの射撃姿勢とった日屋根さんの叫び声に圧され、3人は弾かれたように走り出す。数秒と経たず、後ろから聞こえてくる断続的な銃声。

『『『キヒヒヒヒッ、キハハッ、キャハハハハハッ!!!』』』

だけど、今度は止まらない。幾ら12ゲージ弾がばらまかれようとも、笑い声は減らないし足音も多少鈍ってはいるものの止まる気配がない。

『───イヒヒヒヒヒッ!!!』

(メメ;゚ω゚)「おおっ!?」

突然、追跡者達が上げる笑い声の内の一つが一気に近づいてくる“気配”がした。何故かは知らないけれどそうした方がいいような気がして、頭を僅かに低くする。

ガチン。そんな、錆び付いたハサミを力一杯占めたような音が頭上数センチで鳴った。

(#●▲●)「化けものめ!!」

『キィッ、キィッ、キハハハハッ!!!』

根賀さんの怒声と共に、SIGの弾丸が放たれる音が隣から聞こえてくる。束の間僕の頭上に止まっていた“何か”が上げる、からかうようなはしゃぐような声が瞬く間に遠ざかっていく。

(●▲●;)「あんちゃん、無事か!?」

(メメ;^ω^)「な、なんとか……あの、今のは」

「やべー奴だよやべー奴!」

疑問の声はムラカミさんの怒声に遮られる。息が荒くなっているが、それは疲労というよりは恐怖から来る乱れのように思えた。

「とりあえず、今後ろを振り返るのはオススメできねえぞ!振り向くのは勝手だけどどんだけトラウマになろうがアタシの知ったこっちゃないからな!!」
319 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/02/26(月) 23:17:39.14 ID:vbxnl7x50
「────ムラカミさん、ラムさん、こっちですこっち!!奴等直ぐ後ろまできてますよ!!」

「根賀のおっさんも早く!!おい、ムラカミさんたち回収したらすぐ閉められるようにしろよ!入られたらこの区画は丸ごと終わりだ!」

銃声とおぞましい笑い声の下で続く、命懸けの鬼ごっこ。それに終止符を打ったのは、前方に姿を現した巨大な隔壁だった。

「クソッ、あいつら思った以上に速ええし多いな!?」

「最悪しんがりの変態野郎は見捨てるぞ!閉鎖速度上げろ!」

「よいっ、ととと!」

「────っぶぁはっ!!」

少しずつ下がってくる、特殊カーボン製の強固で分厚い壁。手前に立つ生徒二人の間を駆け抜けて、ラムさんとムラカミさんがその向こう側へと文字通りの意味で転がり込む。

(メメ; ω )「おおおおおぉ……」

「……っつ、大の男がその程度でピーピー喚くんじゃないっての……!」

当然の帰結としてその身は空中に投げ出され、固く冷たいコンクリート製の床に激突した。悶絶する僕はワイシャツの襟首を子猫のようにふん捕まえられて、腰の辺りをさすり苦悶の表情を浮かべるムラカミさんに引き摺られていく。

(;●▲●)「日屋根、足止めはもう十分だ!隔壁が下がりきる前にこっちに来い!」

( ・∀・)「いえっさー!!」

隔壁の手前では根賀さんが停止してシグの引き金を引き、援護射撃を受けながら日屋根さんはこちらへ駆けてくる。

そして、二人を追う“それら”の姿を僕は見た。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 23:18:37.83 ID:YLukWnYQ0
続きお待ちしております。
最近冷えるので体調にはお気を付け下さい。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 00:14:33.19 ID:Qa32/CGl0
つまんね
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 13:10:44.22 ID:FOPpuxcyo
更新遅かろうがなんだっていいけど未完失踪は辞めてくれよ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/28(水) 20:29:38.09 ID:eOVkzW+A0
>>322
更新頻度からすれば気になるのも分かるけど、失踪扱いはせめて数週間は待ってからでもw
月一更新な作品だってざらにあるんだし
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/03(土) 03:42:27.42 ID:Ly37r+GxO
本当に失踪しちゃったじゃん
325 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/03(土) 22:30:51.07 ID:sUJQuCNI0
日屋根さんが最後っ屁の12ゲージ弾を放って内側に転がり込んだ直後、隔壁の降下が一気に速まる。そこから通路が遮断されるまでにほんの数秒とかからなかったため、「見た」とは言っても僕が“それ”を視界に収められたのはほんの一瞬のことでしかない。

だけど、その一瞬で十分だ。あんなものを長々と見せられていたら、僕のSAN値はきっと1d100のロールを免れなかったに違いない。

あんな、おぞましいモノ。

『『『アアアアアアアアアアッ!!!!!』』』

傷口に湧いた蛆の如く、寄り合い絡み合いながら迫ってくる白く長いナニカ。錆び付いた扉の蝶番が軋む音を何百倍にも増幅させたような叫び声を口々に上げて、それらの群れが眼前で閉じた隔壁に殺到する。

『『アァアアアアアッ!!!』』

『『ギィッ、ギィッ!!!!!』』

「総員構え!億が一破られたらとにかく撃ちまくって食い止めろ!!」

壁を破ろうとしているのだろうか。硬い打撃音が、隔壁の向こう側からそれらの鳴き声と共に聞こえてくる。指揮官と思われる保安官の号令に従い、隔壁の内側に待機していた人員が一斉に武器を構えた。

40人ほどが集まっているようだが、保安官の制服を着ている人間は全体の半分程度。他の服装は様々で、ムラカミさんたちを先程迎え入れた二人も含めて船舶科生徒の姿もちらほら見える。

装備も日屋根さんのモスバーグM500と一部の機動保安隊員が構えているM&K MP5数挺が目立つ程度で、あとは全て小口径の拳銃。それとて所持しているのは全体の1/4に過ぎず、残りの人員が構えているのは────警棒やバット、上等なものでせいぜい不審者取り押さえ用のさすまた。

あの化け物の大群を抑えるには、役者不足どころの話じゃない。かといって、僕の方で力になれることがあるかと言えばそれもNOだ。

ただ、隔壁の強度が奴等の力を上回っていることを全力で祈る他なかった。
326 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/03(土) 22:37:15.90 ID:sUJQuCNI0
時間が、まるで溶かした鉛のように重くゆっくりと流れる。その場にいる誰もが、隔壁を見つめたまま微動だにしない。

時間にして、恐らく数秒。だがその数秒が、僕には何百倍も長く感じられた。

『ギィッ……キィイィッ……』

『アァアアアア………』

隔壁を殴打する音が時が経つにつれて少しずつ弱まり、それに伴い奴等の鳴き声も勢いを失っていく。変わって壁の向こうで響き始めた足音は、明らかにこの場から、隔壁から遠ざかるものだった。

更に十秒ほど息詰まる時間が続いた後、場には耳が痛くなるような静寂が降りた。

「────敵群体の後退を確認!!」

(;●▲●)「ブハッ!!」

( ・∀・)「………フゥ」

隔壁のすぐ傍に据えられた端末機を睨んでいた保安官が叫び、その言葉にようやく空気が弛緩する。根賀さんは激しく息を吐いて座り込み、日屋根さんは肩の力を抜いて額の汗を拭き、他の人々も思い思いの方法で安堵の感情を露わにしている。

「………っはぁ〜」

「ぶへぇ………」

ムラカミさんとラムさんも、盛大に空気を吐き出しながら脱力して同時に尻餅をついた。………再び投げ出された僕は今度は後頭部をしたたか打ち付ける羽目になったけれど。

「ムラカミ、ムラカミ、おにーさんがメッチャ唸ってるよ」

「………あ、スマン」

(メメ; ω )「おおおおお………い、いや、おかまいなくだお………」

新たな痛みで悶絶しながらも、何とか言葉を絞り出す。

実際、多少体格がいいとはいえ一介の女子高生が成人男性を負ぶって走るのは相当な体力を消費するはずだ。疲労困憊は当然のことで、気絶した状態で運んできて貰った僕がこの程度で文句を言う権利はない。寧ろ、心底からの感謝を伝えなければ僕の気が済まない。

まぁ今言うと、間違いなく要らない誤解を招くことになるけれど。
327 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/03(土) 22:45:30.29 ID:sUJQuCNI0
「お構いなくってそういうわけにもいかないだろうよ……ここで死なれたら何のために苦労して助けたのかわかんねーし」

「けっこー強めにぶつけたもんねぇ〜。衛生兵でも呼ぶかい?」

「いないだろんなもん」

(メメ;^ω^)「いやいや、本当に気にしなくて大丈夫ですお。……っと」

壁に縋り付きながら、少しずつ立ち上がる。身体の節々に未だ痛みが走るものの、幸い少なくとも骨折などで完全に動かないパーツはなさそうだ。

(メメ^ω^)「こう見えて僕も戦車道講師の一人ですお。特殊カーボンほどじゃないけど、それなりに頑丈なので」

まぁ、あくまでも座学の講師だけど……と、胸の内で付け足す。別に日頃から身体を鍛えていたわけでもないので、やっぱりヘリの爆発に巻き込まれながらこの程度の怪我で済んだのは運が良かったという他ない。

「戦車………道?」

「………なんだっけそれ」

(メメ;^ω^)「……………えーと」

ムラカミさんとラムさんは、揃って怪訝な顔つきで首を傾げる。最初はやはり男の戦車道関係者は驚かれるよなと思ったが、表情を窺うに疑問ポイントはそこではない。

どうもこの二人、戦車道そのものを本当に知らないらしい。

(メメ;^ω^)(………いやいやいやいやいや)

冗談がキツい。戦車道という競技が近年比較的マイナーな立ち位置だったのは事実だが、それを一躍人気スポーツの地位に押し上げたのが他ならぬ西住さんたち大洗戦車道チームなのである。戦車道連盟の広報部による映画化の影響もあって、大洗町どころか茨城県内でも大洗戦車道チームの存在や西住さんの顔を知らない人間は相当なレアケースに属する筈だ。

況してや、学園艦内の人間が戦車道を知らないなど世事に疎いではすまない。本格的に記憶喪失を疑う案件になってくる。
328 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/03(土) 23:06:50.91 ID:sUJQuCNI0

困惑する僕の前で、ムラカミさんとラムさんは首を傾げたままだ。悩ましげに眉を顰めてブツブツと何事か呟いていたラムさんが、突然「あぁ〜〜」と間延びした声と共に顔を上げた。

「戦車ってアレじゃん。ほら、陸の鈍間な鉄の亀」

「………あったなそんなもん。

なんだい、アレの関係者なのかい?」

(メメ;^ω^)「……まぁ関係者と言えばそうですおね、直接動かしたりってワケじゃないけど」

にしても鉄の亀って。戦国自衛隊辺りで戦車を初めて見た足軽が使いそうな表現をアンタ。

「そういや夏休みの終わり頃に学園艦から退去するようにとか寝言ほざきながら変な奴等が何人か乗り込んできてたな。なんか、もんかしょーのうんたらかんたらとか名乗ってたけど」

「あぁ〜、ぶん殴って追っ払ったアレね。また乗り込んできたら全力でボコボコにする予定だったけど結局もう来なかったねぇ〜」

(メメ;^ω^)「ぶん殴ったの!?一応国の正式な役人を!?」

いやまぁあの横暴さは僕も腹立たしかったけど!ざまぁとかグッジョブとかメッチャ思うけど!!………ただ、冷静な第三者目線で見ればやはり大問題行動だと言わざるを得ない。

あのクソ役人がカール持ち出してまで全力で潰しに来たのってそれも原因だったのかね。今となってはどうでもいい事だが。

「んで、その陸の鈍亀がアンタと何の関係があるんだい?」

(メメ;^ω^)「あー……まぁ、それを……戦車を用いた選択授業があって、その講師を僕はやっているんですお。本職は普通科の現国だけど」

「ってことぁ、“上”の先生ってわけだぁ」

ラムさんが親指で天井を指さし、視線を頭上に向ける。まるで計ったようなタイミングで、ズンッと小さな揺れが走りぱらぱらと埃が墜ちてきた。

「………なぁ、上は今どんな状態なんだ?あたしらは朝から下に閉じ込められててね、全く今の状況が解らなくて困ってんだよ」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/04(日) 08:31:52.48 ID:JRkw071A0
おつおつ
先生も本当に災難だけど、ようやく一段落かw
330 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/04(日) 23:03:12.32 ID:KbjPGJCl0
(メメ^ω^)「………僕も、全容が把握できてるわけではないけど」

険しい顔つきになったムラカミさんの問いにそう前置きして、僕は見てきた光景を───気を失う直前までの記憶を辿りながら語っていく。

幾ら逞しく見えても一介の生徒、頭上の絶望的な状況を伝えるのは多少の抵抗があった。だが、どうやら彼女達に対してその憂慮は不要だったらしい。

ラムさんもムラカミさんも、益々苦い表情になりながらも表立って動揺する素振りは見せない。僕の説明を冷静に、取り乱さず聞いている。

「そんな…………」

「学園が…………畜生!!」

「何やってんだよ日ノ出テレビ………」

寧ろ、僕らの周囲で話に聞き耳を立てていた保安官達の方が意外なことに反応は顕著だ。毒づく人、項垂れる人、顔を覆って座り込んでしまう人、八つ当たり気味に壁を殴りつける人……誰もが思い思いの方法や言葉で絶望に打ちひしがれる様を、僕は意外の感を持って眺めた。

(メメ^ω^)(正直、僕以上に甲板上の現状を把握している人の方が多いと思うけど……)

まぁ、学区内には駐在所が配置されていないため常駐している保安官がいない。そのため、学園の敷地内にも軽空母ヌ級が現れて空襲が行われたという事実まではまだ広まっていなかった可能性はある。

商業区と居住区は言わずもがな、下層もあんな化け物が彷徨く有様。無事なところ、安全なところが学園艦内には全くないと知れば、保安官達の落胆も頷ける話だ。

まぁそうなると今度は、尚のことムラカミさんとラムさんの冷静さに舌を巻きざるを得ないわけだが。
331 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/04(日) 23:32:37.66 ID:KbjPGJCl0
更に言えば二人以外のこの場にいる船舶科生徒達も動揺や恐慌を殆ど露わにしていない。僕の話に多少の緊張は見せつつも、冷静にそれらを受け止めて互いに意見を交換し合っている。

(メメ;^ω^)「………」

感心を通り越して、少し不気味ですらある。

別段冷静なことは悪いことではない。このような閉所でパニックが起これば収拾が付かなくなるため、今の全員が落ち着いている状況は有事下にあって理想的と言っても過言じゃないだろう。

ただ、そんな状況をまだ年若い女子高生の集団が───それも、無礼を承知で言えば見るからにアウトロー寄りの、規律とは無縁そうな集団が保てているというのが異様なのだ。

(メメ;^ω^)(状況が異常かつ絶望的すぎて受け入れられていないのかお?いや、生徒たちの様子を見る限りそんな感じじゃない)

「学区って事はまさしくあたしらの真上だよねぇ〜……そういやでっかく揺れたよね、ついさっき」

「第三層に繋がる階段とかが崩れたアレな。しっかしヒコーキ飛ばせる奴が陣取ったってなると益々助けが遅れそうだな」

「食料とか飲み水ってどうだったっけ」

「さっきカトラスに確認したら相応の備蓄はあるらしい。幸いこの区画の非常食料庫や貯水タンクは破損を免れてたからな。電池とラジオ、懐中電灯も1、2週間なら余裕で保つ。……さっき試したとおりラジオは使い物にならねえけど」

「それに、籠もれるからってのんびり救助を待てる状態でも無いしねぇ〜。映画とかじゃ、こういう時船ごとミサイルとか爆弾で沈めちまうって相場が決まってるわけで」

「銃器の類いは流石にあたしらも貯めてないから保安官の人等の持ってた分しかないしな、あとで三月さんにどれぐらい弾薬があるか聞いとかねえと……」

僕があれこれと考察を重ねる間にも、ラムさんとムラカミさんは話し合いを続ける。しばらくウンウンと額を付き合わせて唸っていた二人だが、やがてラムさんが顔を上げ僕の方に────正確には、僕の背後に視線を向けた。

「親分、どうしますか〜?」
332 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/05(月) 00:06:34.31 ID:Ave6MMQi0
「今はまだ、場の流れに身を任せるしかない。嵐の中で波に逆らっても、船は沈んでしまうから。

………嵐の中を航海した経験なんかないけどね」

(メメ;゚ω゚)そ「どわぁっ!!?」

その人影がいつ頃から背後に立っていたのか定かではない。とにかく急に耳元で聞こえた声に、僕は仰天の叫びと共に跳び上がった。

「アンタ、ちょっと驚きすぎじゃないか?“上”の先生ってのは、随分と肝っ玉が小さいんだね」

僕の醜態に、背後の人物はクスクスと控えめに笑い声を上げる。着地の衝撃で痛む足を押さえながらえっちらおっちら振り向くと、そこに立つのは一人の少女。

「どうしたんだい?悪魔でも見たような顔をして。まっ、悪魔を見たときに人がどんな顔をするのか知らないんだけどさ」

(メメ;^ω^)「…………おっ」

悪魔を見たような、かどうかは知らないが、まぁ、異様な物を見たときの表情になっていたことは否定しない。何せ、実際その女の子の立ち姿は“異様”極まりなかったのだから。

身長の頃はムラカミさんより僅かに低く、170cmにやや届かない程度といったところだろうか。あえてワンサイズ小さいものでも着ているのかセーラー服の裾からは顔や足同様健康的な小麦色に焼き上がった腹部が顔を出し、やはり同年代の女子に比べて高い背も相まって大人びた雰囲気を醸し出す。背後でくくられた黒い髪はやや癖毛のようで波打っており、伸ばされた前髪は右眼の前に垂れ下がってそれを隠している。

何と言っても目を引くのは、羽織った黒のロングコートと阿弥陀被りの帽子に結わえ付けられた赤い羽根。

もしも右手に持たれた警棒がサーベルだったなら………彼女のその姿は、まんまお伽話に出てくるような“女海賊”のそれだ。
333 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/05(月) 00:42:54.77 ID:Ave6MMQi0
ふと、周囲から刺さる視線に気づく。主に船舶科生徒から送られてくるそれは、目の前の少女と僕に集中した。

ほぼ全員が、少女に対しては尊敬と畏怖の念を────序でにそのすぐ近くにいる僕に対しては、あからさまな敵意を込めている。保安官達も、どこかこの海賊少女に対して遠慮というか気を遣っているような様子が感じられる。

僕はそれらを以て明確に理解した。この少女こそ、ムラカミさんたちの精神的支柱なのだと。

「“上”の情報、感謝するよ先生。

それにしても、いよいよこの学園艦は地獄のようになってきたね。まっ、本物の地獄なんて見たこと無いけれどさ」

(メメ;^ω^)「………」

それともう一つ、この短い会話の中で彼女の言動から解ったことがある。

この子、歴女チームやダージリンさんと同じ人種だ。

「より詳しい話は奥でするよ、もう少し掘り下げたい情報もあるしね。それに、ここで共に過ごすからにはアンタにも根賀さんや日屋根さんみたく色々働いて貰わなきゃならない。

あぁ、アンタ、名前はなんだい?」

(メメ^ω^)「……内藤。内藤芳頼、普通科の国語担当教師ですお」

「そう、じゃあ、ブーン先生」

(メメ^ω^)「いやそのりくつはおかしい」

僕の抗議に耳を貸すこと無く、彼女はポケットからパイプを取り出して口に咥えて右手を差し出す。

パイプからは、妙に甘い匂いが漂っていた。








「アタシは【竜巻のお銀】。よろしく、先生。

大洗のヨハネスブルグへ─────そのまた“どん底”へようこそ」
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 11:43:44.89 ID:HrccZLfA0
おつおつ
これまた強烈なw
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 21:44:11.45 ID:9/Vr8Y6S0
乙乙
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 20:20:53.34 ID:hvmTGovd0
時間はかかるくせに面白くならんね全然
337 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/06(火) 23:52:33.31 ID:8QyfBxg70









古来より、私利私欲に駆られた佞臣・奸臣が国家の衰退や滅亡に関与した事例は数多く存在する。ローマのセイヤヌス、趙の郭開、秦の趙高、蜀漢の黄皓、ロシアのラスプーチン、フィンランドのヴィドクン=クヴィスリング………歴史上、“売国奴”と呼ばれ蔑まれる人物は枚挙に暇がない。

宝木蕗也は、間違いなくこれらと同じ類いの人間だ。大義も愛国心もなく、私益のためなら利敵行為も平然とやってのける正真正銘の売国奴。政治家としては、おおよそ最底辺に分類されるだろう。

(;^Д^)「…………そ、それは…………できかね、ます」

故にその否定の言葉についても、別に彼は良心や義憤から口に出したわけでは無い。あるのは一にも二にも自己保身のために過ぎず、利よりも安全の方に天秤が傾いたというだけの話だ。

そして、逆説的に言えば、

《何故そんな冷たい事を言う、同志。私は君の友情を見込んで頼んでいるというのに》

(;^Д^)「お気持ちは、お気持ちは解ります、信頼はありがたいです!しかし、しかしこればかりはどうか!!」

宝木が私益を捨てて保身に走りざるを得ないほど、その“申し出”は常軌を逸していた。
338 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/07(水) 08:10:52.12 ID:qRyBPv2k0
(;^Д^)「わ、私にも立場というものがございます!その依頼は受け入れかねます同志!」

《同志タカラギ、貴方はどウも勘違いヲしているようだ》

受話器の向こうから聞こえてくる、猫なで声という形容詞がぴったり当てはまる優しい口調。だが、声質の低さや不慣れな日本語故の独特のイントネーションも手伝い、そのゆったりとした物言いはかえって息苦しくなるような圧迫感を宝木に感じさせた。

《貴方は、どウも我々が貴方ヲ捨て駒にするつもりだと思っておられる節がアル。非常に心外なことダよ、我々は志ヲ同じくする者ヲ見捨てルヨうな真似はシナい。

日本の軍国化ヲ進める奸賊・ミナミと“これから”戦おうという貴方ノ義挙ヲ、我々は全力デ支援する用意がアル》

宝木の顔から、音を立てて血の気が引いていく。電話の相手の中では、既に彼が“義挙”に立ち上がることが決定事項となりつつあるようだ。

(;^Д^)「ど、同志!私も軍国主義者の南慈英と戦う気構えはあります!しかしながら今はまだその機では無いかとおm」

《………ソレとモう一つ、正さなければイケナい点ガアルな、同志》

一転して、有無を言わせぬ迫力に満ちた声が弁明を遮る。ぱくぱくと口を空回りさせる宝木の耳に、まるで一言一言ねじ込まれるようにして、相手の台詞が入り込んでくる。









( `ハ´)《我々は君にミナミを倒して下さいと“依頼している”のではない。同志タカラギ、ミナミを倒せと貴様に“命じている”のだよ、私は》
339 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/07(水) 09:13:39.84 ID:dsmdGUciO
必死に、脳をフル回転させて宝木は反論の言葉を探す。このままでは、どう転ぼうとも破滅する道を歩かされると直感で理解していた。

(;^Д^)「……し、しかし……しかし同志劉志那………」

( `ハ´)《我知道了。貴様に許されている返事はこれだけアル、同志タカラギ》

相手は怒鳴り声を上げたわけではない。特別強烈な脅し文句を盛り込んだわけでもない。

だが、その平坦で事務的な口調が、かえって宝木に逃げ道が用意されていないことを実感させる。

( `ハ´)《既に同志金と我が国が潜ませた義士達は貴様の“義挙”に応じるべく準備を終えているアル。貴様はただ、流れに身を任せるだけでいい。

せいぜい我々を失望させてくれるなよ、同志タカラギ。【艦娘自己自衛権】の時のようにな》

(  Д )「…………解り、まし………た」

( `ハ´)《良い返事を聞けて安心したアル。

あぁそうだ………貴殿の武運長久を祈る》

(  Д )「…………」

取って付けたような労いの言葉を最後に、単調な電子音だけを吐き出すようになった受話器を元の位置に戻す。虚ろな眼はどこも見てはおらず、血の気が失せて真っ白な両手はアルコール中毒者のようにブルブルと震えている。

(; Д )「……どうして、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ………っ!!」

高価な調度品が並んだ自室に響く、絞り出すような呟き。

その問いに答えてくれる者は、誰もいなかった。
340 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/07(水) 10:39:45.33 ID:POkvHJCj0

【悲報】大洗女子学園、ガチのマジで終わる

1: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:21:16.05 ID:MvHOb0Gf5
もう(救助は)間に合わん模様

2: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:21:28.11 ID:MvHOb0Gf5
ttps://i.imgur.com/xxxxx.jpg

3: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:22:02.14 ID:CfDogg505
>>2
ヒェッ…

4: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:22:16.81 ID:NiCNi5fgc
>>2
なんやこれ……

5: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:22:32.47 ID:MvHOb0Gf5
>>3,>>4
大洗女子学園の現在の外観。ツイで大洗町の避難中の奴が上げた模様

6: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:22:59.81 ID:Bay6Str12
燃えすぎィ!!

7: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:08.80 ID:56marmvps
>>2
この黒い影なんやねん……

8: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:19.14 ID:MvHOb0Gf5
>>7
深海棲艦やて。ミリ板と鎮守府板覗いてきたけど新型っぽい

9: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:41.03 ID:25caRpakHr
>>2
西武の中継ぎやんけ!

10: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:30.40 ID:56marmvps
>>8ほげっ……

11: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:32.66 ID:syUhy03th
>>9

12: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:33.12 ID:deNapog1i
>>9不謹慎すぎるけど草

13: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:33.16 ID:kyzi25kdb
>>9
不謹慎すぎるわ死ね

14: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:34.91 ID:55mtigozi
>>2なんでこんな燃えてんねん……

15: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:36.25 ID:ichhom52
>>9申し訳ないがあからさまな絶許はNG,
341 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/07(水) 11:13:58.91 ID:POkvHJCj0
16: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:41.18 ID:ksuchi22
>>14
そら(学園艦の上に深海棲艦なんて現れたら)そう(大火災なんて起きる)よ

17: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:42.01 ID:hosyntuy49
戦車道板エラい騒ぎになってて草。
「一刻も早く大洗を救援しろ」派と「国民の安全のために大洗を核で吹き飛ばせ」派が壮絶なレズバトルを繰り広げてる模様

18: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:42.26 ID:nanj51stg
写真なんて撮ってないではよ逃げろや

19: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:42.90 ID:fait1hom1
そもそももう2時間近く経ってんのに何でまだ鎮圧できてへんねん

20: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:44.18 ID:orx3i3res
>>17
あら^〜

21: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:50.12 ID:MvHOb0Gf5
>>17
戦車道は乙女のスポーツやししゃーない(すっとぼけ)

22: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:52.16 ID:dDkK64Dkg
>>1
大洗どころか日本が終わるかも知れないんだよなぁ……

23: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:59.22 ID:ksuchi22
>>17
レズはホモ

24: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:23:59.23 ID:thycupA72
>>17
レズはホモ(錯乱)

25: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:24:02.39 ID:NiCNi5fgc
>>22
それどころか世界が終わりかねない模様

26: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:24:06.33 ID:MvHOb0Gf5
>>23>>24
二人はどういう関係なんだっけ?

27: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:24:10.30 ID:wabcc53Df
>>19
深海棲艦の侵攻がガチのマジで世界規模やからしゃーない。あのクソ国連が動くぐらいや

28: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:24:14.00 ID:itsm2wani
自衛隊と艦娘は早く大洗を助けなさい。手が足りないならわt西住流家元も参戦する用意があるわ

29: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:24:26.13 ID:dk0utd44
>>25
やったぜ
ちな陰キャ

>>28
突然しぽりん湧いてて草

30: 雨降れば名無し 2017/11/17(金) 15:24:30.25 ID:MvHOb0Gf5
>>28
しぽりん実は軍神溺愛説はいろVでも適用されるのか(困惑)
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 13:14:29.82 ID:gXwBusdA0
おつおつ
裏切り者の末路の悲惨さを認識出来ない連中が多いよなあ…沖縄とか特にw
それと日本の危機なのにあっちの世界でも相変わらずな空気にワロタ
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 13:25:06.24 ID:6juAGECnO
逸見ェ…
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 20:22:17.64 ID:EcbuYqfb0
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/10(土) 00:41:18.90 ID:7PJLDLDh0
これはひどい駄作ですね
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 05:38:32.81 ID:G5dG67tyo
更新頑張れ頑張れ
347 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/13(火) 23:04:45.06 ID:H80nMxzq0








大洗港に身を横たえる、全長7600mの艦影。改めてその全容を目の当たりにすると、あまりの大きさにため息が漏れそうになる。

ほんの一キロ程しか離れていない距離に空爆や艦砲射撃を受ける危険を冒して停泊するのは、海上保安庁の巡視艇【あきつしま】。哨戒ヘリ二機を搭載できる此方の艦も決して小さくは無いけれど、【大洗女子学園】と比べればまるで箸の横に並べた米粒だ。

軍艦だった頃の“私”が30隻並んでも届かない規格外の巨船。二万人に迫る学生達が過ごす広大な学び舎の艦。

それが今、私の────正確には私に視界を共有してくれている【彩雲】の妖精さんの眼下で黒い煙を幾筋も立ち上らせている。

あの中で、日ノ本の明日を担う若人が何人命を散らしたのか。その事に思いを巡らせると、胸の奥から自然と怒りや悔しさが滲み出てくる。

「…………頭にきました」

思わず漏れた呟き。気づくと、私の手は無意識の内に矢筒に伸びて99式艦爆の矢を取り出そうとしていた。

いけない。

上昇した体温を下げるため、一度大きく息をつく。

私の悪い癖。いつも提督や鈴谷達を窘めているくせに、誰よりも自分が激情に駆られやすい性質をしている。少しでも気を抜けばすぐ頭に血が上って周りが見えなくなってしまう。

私は、誇り高き大日本帝国の一航戦。私情と任務を切り離せ。

あの船には今なお、多くの民間人・生徒が取り残されている可能性が高い。今そこへ爆弾を落とすという行為は、深海棲艦の撃沈に人々も巻き込む危険性と隣り合わせだ。
348 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/13(火) 23:05:39.45 ID:H80nMxzq0
……尤も、眼下で学園艦が蹂躙されているという事実は変わらない。理性ではそうだと解っていても、黒煙の隙間から垣間見える火柱や甲板上を我が物顔で闊歩する新型───市ヶ谷によって【ナ級】と名付けられた敵駆逐艦の姿を見ている内に、せっかく下がった血が再び頭部に集まり始めた。

「落ち着きなさい、私。任務は偵察、攻撃ではない。任務は偵察、攻撃ではない」

《………加賀、大丈夫か?》

冷静さを保とうと小声で何度か自分に言い聞かせていると、耳元のインカムで心配そうな声が上がった。途端、怒りに寄るものとは別種の血の気が頬に差し込む。

「………聞こえていたかしら、提督」

《そりゃお前自衛隊の通信機器だぞ、感度抜群に決まってる。どんなに小声でもこのマイクなら拾えるさ》

「……………それは何よりね」

嗚呼、何という不覚。よりによって提督に聞かれるなんて。穴があったら入りたいとはまさにこんな気持ちに違いない。

《気にするなよ、誰だって緊張もするしこの現状には怒りを覚えている。加賀の反応は自然なことで、俺も全く同じ気持ちだ》

「そう言って貰えて救われるわ。……心の底から」

最後に付け加えた言葉は、半分嘘。気持ちを汲んで貰えたことは嬉しい反面、他人に気を遣われてしまった事への気恥ずかしさも増す。

相手が提督なら、尚更。

「でも、できれば今の私の言動は速やかに忘れて頂戴。やはり、一航戦としてあまりに恥ずべき内容だから」

《あー………いや、俺は構わないんだが………》

どうにも歯切れの悪い返事を訝しく思い眉を顰める。………だが、その理由はすぐに判明した。

《ぉK、安心しろ加賀さん。提督の直ぐ後ろにいた俺たちは何も聞いていないし、七警最強の一航戦殿が珍しく照れている様なんかこれっぽっちも知りはしない》

《この口の堅さ、流石だよな俺ら》
349 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/13(火) 23:07:47.03 ID:H80nMxzq0
もう一つ……否、もう二つ、聞き慣れた声が私の耳朶を打つ。途端、私は自分の迂闊さに痛む眉間を押さえて瞑目した。

「いたのね……流石両一曹」

( ´_ゝ`)《そいつぁご挨拶と言うものだな加賀さん。提督がこの場にいるのにその護衛である俺たちがいないわけがなかろう》

(´<_` )《全くだ。何せ俺たちは職務に忠実なことこの上ない自衛官の鑑だからな》

全面的に否定するつもりはない。実際二人ともふざけた言動が多い一方で、守衛としても自衛官としても優秀だ。

ただ、それを自分で言うか。

「はぁ…………」

深い深いため息が口から漏れる。

本当に不覚。この双子にわざわざ向こう三年は使えそうなからかいのネタを提供するなんて。

「提督、一連の事態が終息したらお二人との模擬戦闘訓練の許可をお願いします」

《解った、殺すなよ》

(´<_`;)《ぉk、時に落ち着け加賀さん》

(;´_ゝ`)《生身の人間が艦娘に勝てるわけないだろいい加減にしろ!提督もあっさり許可を出すんじゃない!!》

《いやいや、お前らなら行けるだろ。なんか爆撃とか食らってもアフロヘアになるだけで助かりそうだし》

(;´_ゝ`)《ギャグ補正が働くのは漫画やアニメの世界だけだぞ》

(´<_`;)《とにかくまず平和的な話し合いをしようじゃないか、俺たちは加賀さんの気持ちを解そうとしただけで悪気は無くてだな………》

「ふふっ」

珍しく取り乱した双子が必死に言い訳を募らせる様子に、今度は口元が緩む。必死に堪えようとした笑い声も、抵抗虚しくあっさりと最終防衛線の唇を突破した。

明らかに詭弁でしか無いはずの「気持ちを解すため」という二人の言葉だが、大変遺憾ながら効果については認めざるを得ない。

( ´_ゝ`)《うむ、狙い通りだな》

(´<_` )《流石だよな俺ら》

………で、彼らはといえば私が含み笑いを零した途端この勝ち誇りよう。先程の狼狽はどこにいったのだろう。

(或いは、本当にあの二人の掌で踊らされたのかしら)

だとしたら、この上なく悔しい。やはり一発模擬戦闘訓練をぶち込んでやろうか。
350 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/13(火) 23:19:57.20 ID:H80nMxzq0
────いや、その事については後で考えよう。

《……加賀》

「ええ、そうね」

そろそろ、時間だ。

提督の呼びかけに頷きながら、ちらりと軍用の腕時計を見やる。

指し示されている時刻は、現在15:29:55。

あと5秒………3、2、1─────0。

長針が、ピタリと「6」の真上に重なる。同時に、提督とは別の、より低い男性の声が私の耳元で響く。

《時刻ヒトゴーマルマルを確認。

CPより各艦に通達。突入開始、繰り返す、突入開始、オクレ》

《大洗第四警備府・翔鶴、了解しました!》

《同警備府那珂ちゃん、水偵さんいっきまーす!!》

《第11警備府、千代田了解!》

《第二警備府羽黒、り、了解です!!》

《大洗鎮守府第3艦隊・“航空母艦”葛城、準備は万全よ!!》

《同第2艦隊由良、水偵に降下指示出します!》

《U.S.?Japan?Force?Navy,?Saratoga-25.?Joint?operation!!》

「大洗第七警備府、空母加賀。これより大洗女子学園への威力偵察を開始します。

────ここは、譲れません」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 10:47:30.75 ID:Zheo8taA0
おつおつ
文字通り反撃の狼煙か…
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 18:06:07.18 ID:gRmCy+uv0
おつです
353 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/14(水) 23:08:31.81 ID:QLq1vrF90
号令一過。

CP───前線指揮所からの指示が届くと同時に、学園艦の上空で旋回を繰り返していた麾下の【彩雲】達に降下突入の指示を出す。六機分の【誉】が唸りを上げ、共有する視界の中で風景が流れていく速度が跳ね上がる。

私の【彩雲】達だけではない。周りでは、60を越える機影が身を翻し、雲を切り裂き、エンジンの回転を最大にして眼下の巨艦めがけて駆けていく。

翔鶴の零戦、千代田の96式、葛城の烈風、そして在日米軍から派遣されたサラトガが指揮するF6F【ヘルキャット】。雷撃機も爆装機も姿は無く、機種も機数もバラバラで一部に至っては国籍すら一致しない。更には、本来こういった編隊行動での作戦には参加しない由良や羽黒、那珂ちゃんの“下駄履き”まで投入しての作戦発動。

いかにも急場凌ぎでかき集めた事が解る、歪な戦力編成。それは、今私達が置かれている苦境を何よりも雄弁に物語る。

まぁ、その事が作戦失敗の言い訳はならない。そもそも、失敗させる気も毛頭無いけれど。

《目標まで距離3800───っ、甲板上より敵の応射!砲火多数を視認!!》

千代田の叫び声。先頭を飛んでいた彼女麾下の96式が何機か立て続けに火を噴き、くるくると回転しながら墜落していく。息継ぐ間もなく今度は私の(正確には妖精さんの)眼前で爆炎が弾け、右翼をもぎ取られた烈風が隊列から外れて錐揉み状態に陥った。

《此方葛城、二番機が高角砲弾の直撃を受けた!》

《千代田隊は六番機、七番機を損失!九番機も舵が利かないみたい!》

《All unit, Break!! Break!!》

《サラちゃん英語で話すのやめてーー!!那珂ちゃん達日本語しか喋れないよー!!》

「これぐらいは仮に解らなくても雰囲気で察しなさいな」

人一倍騒ぎ立てる那珂ちゃんを窘めつつ、その焦りが仕方の無いことだとも思う。

反撃を予想していなかったわけじゃない。軽空母ヌ級が展開しているという情報から、寧ろかなり激しい抵抗になるとは全員が覚悟していた。

ただ、それはあくまでも艦載機によるもの。私達の中でこれほど濃密な対空砲火が来ることを事前に予測できていた者は、サラトガも含めて一人も居なかったに違いない。
354 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/15(木) 23:18:26.20 ID:3Lds9F6v0
《各母艦、サラトガの言うとおり散開運動指示を指揮下艦載機に!》

《あ、あの……散開予定高度よりまだ遙かに手前ですけど………》

《敵の砲火量が予想を遙かに超えてる、このまま密集突入すれば接敵前に全滅しちゃうよ!

任務遂行のために散開を繰り上げる、指示の変更は無し!》

《那珂ちゃん、りょうかーい!!》

「七警加賀、了解しました」

この作戦で事実上の旗艦である葛城からの指示に従って、妖精さんたちに思念を通じて散開運動を命じる。

機体性能の高さに加えて、この娘達は皆優秀な戦闘機乗りだ。六機の彩雲は地上から殺到する何百条という火線の合間を巧みに擦り抜け、速度を殆ど落とすこと無く降下していく。

《加賀さん、ご一緒させていただきます!》

「ええ、どうぞ」

彩雲隊の直ぐ後ろには、由良の艦載機である零式水偵11乙型が続いた。

数合わせの緊急動員とはいえ、流石にフロート付きながら偵察部隊に選抜されるだけのことはある。此方も巧みな操縦で弾雨をくぐり抜け、私の編隊にやや遅れながらもしっかりとついてきている。

《CPより旗艦葛城、被害状況を報告せよ》

《葛城よりCP、敵対空砲火により投入63機中6機を喪失!なお、敵火力は予想より遙かに強大!》

《CPより葛城、損失6なら作戦続行に支障無しと認む。威力偵察を続行せよ、オーバー》

《葛城よりCP、了解!ま、防空砲台やらされるよりはマシってね!!》

「……使命感に燃えているところに水を差すようで悪いけど、指揮に集中した方が良いわよ」

事務的な自衛官の指示にも、どこか華やいだ声で返答する葛城を窘める。彼女の“生前”を考えれば正規空母としての役割を果たせることがいかに嬉しいかは想像に難くないが、敵はそんな事情に忖度してくれるほど甘くない。

「下方より今度は敵機、数は15〜20。各母艦、警戒を厳とせよ」
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 12:06:38.78 ID:lAV0JgyH0
水偵バンザイ
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 17:21:52.43 ID:JnTJ3CE+0
357 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/16(金) 23:01:50.98 ID:Dpgy6EUU0
満天の星空の如く眼下で煌めく無数の砲火。次々と伸びてくるオレンジ色の火線に混じって現れた、黒く小さな点。

妖精さんの並外れた視力が無ければ気づくことさえ不可能なそれらは、見る間に私達の艦載機に肉薄し、すれ違う形で後方へと飛び過ぎていく。

《由良より各艦、敵機種を確認!全て【カブトガニ】!》

由良からの報告に、私は思わず表情を曇らせた。

カブトガニ………欧州や米国では“Helm”と呼ばれる、深海棲艦側の汎用戦闘機。性能は零戦21型に極めて近く、旋回能力が高い反面防弾と急降下時の運動能力に弱点を持つという特徴も共通している。

そう、向こうも急降下運動は決して得意じゃない。そして学園艦上の敵艦が(確認されている限りは)軽空母ヌ級のみという点から、編成が【カブトガニ】に偏っていることもある程度読めていた。

だからこそ私達は、此方も編成に零戦を擁しながらも上空からの突入という戦術を採ったのだ。

(敵に先手で上方を取られないよう私達の方から降下攻撃を仕掛け、【カブトガニ】の迎撃を正面からに限定する………それが前線指揮所と私達の狙い目でしたが)

もしも正面からの格闘戦になれば、実戦経験が豊富で防弾性能と火力に優れるサラトガのグラマン部隊が迎撃・足止め。その間に小回りの利く零戦、烈風を護衛として私達偵察部隊が学園艦直上まで降下する……指揮所の海上自衛隊佐官が立案した一連の作戦は、敵機の性能も鑑みられており十分理に適っていたように思う。

『『『────』』』

《カブトガニ……【Helm】、全機当編隊後方にて反転!

敵編隊、後方に占位!向かってきます!!》

だけど、その思惑はたった今外れた。
358 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/18(日) 23:02:19.67 ID:dGcshbyk0
ヘルム、カブトガニと一口に言っても、零戦が21型だけではないのと同じで派生型が存在する。99式やドイツの“スツーカ”のように急降下運動を寧ろ得意とする型、防盾性能が高い型、火力や旋回性能に強化が加えられている型など種類は多く、極めて広い用途で使われているのは確かだが全てが全くの同一機種というわけではない。

そして、それらは一見同じ形状に見えてその実エンジン音や挙動、機体の細かい構造などに微かにではあるものの差異が見られる。私達艦娘は、その差異を一目で見分けられるよう幾度となく訓練を重ね各型の特徴も徹底的に頭に叩き込んできた。

視認できたのは一瞬だが間違いない、あれは絶対に“零戦系”だ。

(そう……解っていたからこそ、私達は奴等が上方を取りに行くとは思わず反応が遅れた)

敵の動きに躊躇は全くなかった。減速も射撃の予備動作もなく、私達に一瞥すらくれずにその横を駆け抜けていった。つまり敵は、恐らく私達が零戦系の迎撃を予測していたこともその対処法も計算尽くであの編成の部隊を投入してきた可能性が高い。

《……敵の動き、頭が良すぎますね》

由良の呟きに、私も胸の内で同意を示す。

軽空母ヌ級と軽巡ナ級、どちらもelite或いはflagshipであるとは聞いたが所詮は“非ヒト型”の筈だ。奴等だけで、こんなに戦略的な動きが取れるとは思えない。
359 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/18(日) 23:07:12.46 ID:dGcshbyk0
私達の後方に占位した敵機は、動きが戦略的なだけではなく高い練度を誇っていた。迫る飛翔音は規則正しく、本来不向きな急降下運動であるにも関わらず遅れる機体が現れる様子は見られない。

思わぬ動きに私達の編隊が混乱していたこともあり、距離を見る間に詰められる。

『『『──────!!!』』』

《きゃあっ!?》

背後から伸びてくる機銃掃射の火線。ニ警の羽黒が悲鳴を上げ、水偵が下部のフロートと右翼を引き千切られ黒い煙を噴き出しながら落下していく。

《ご、ごめんなさい!やられました!》

《っ!此方千代田、所属の96式が更に一機被弾!損傷大、離脱させます!》

《予定変更!旗艦葛城より翔鶴さん、零戦部隊を全機反転させて敵航空隊の迎撃戦闘に移って!サラトガさん、F6F全機を加速、編隊に先行させて!》

《了解しました!》

《Roger!!》

無論、此方も無抵抗でやられるわけにはいかない。翔鶴が零戦部隊一斉に反転させ、背後の敵編隊を迎え撃つ。

急降下能力に優れるヘルキャットを当初の予定とは逆に更に先行させ、低速域での旋回格闘能力に優れる零戦で足止めを計る───咄嗟の判断としては、きっと最上の部類。

《加賀さん、彩雲隊を加速させてサラトガ隊と離れないように!由良さん、那珂ちゃんも大変かも知れないけど妖精さんに頑張って貰って!》

《了解しました!》

《りょっうかーい!》

「承ったわ」

《此方翔鶴、迎撃戦闘を開始────っ!!》

だが、なにぶん予想外の形で上方を取られた私達の態勢が悪すぎる。翔鶴隊はその悪条件の中でも十二分に機敏な動きは見せたけれど、急造にも程がある防衛線で全機をくい止めろなど無理難題だ。

気配でわかる。数機が此方に抜けてきた。

《翔鶴より先行部隊、四機が突破!!》

『─────!!』

〈ウオッ?!〉

翔鶴からの報告が届くのと、私が意識共有をしている妖精さんが操縦桿を右に倒したのは、ほぼ同時。視界がぐるりと一回転して、僅か1p横を弾丸が風切り音を残して駆け抜ける。
360 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/18(日) 23:11:23.26 ID:dGcshbyk0
僅か四機。幾らかの撃墜機を出しているとはいえ、私達は編隊規模において敵を圧倒的に上回る。積極的な撃墜はとある事情からできないが、正面切っての戦闘なら容易に振り払えるだろう。

『『────!!』』

《敵影、尚も追撃》

《やっぱ簡単には振り切れないか……!》

だが、私達の任務はあくまでも偵察である以上、あまり本格的に乱戦となって燃料や弾薬を使い切るわけにも行かない。加えて、ヌ級がelite以上の個体である以上艦載機がたかが20機前後で撃ち止めである可能性も皆無。さりとてこの僅かな時間で垣間見える敵機の練度から考えて、中途半端に少数部隊を割いての迎撃など愚の骨頂だ。

結論、この最悪に不利な状況を耐え抜いて任務を果たした後逃げきるしかない。

それも、幾らか収まったとはいえなお十分な密度を誇る対空砲火を躱しながら。

《目標高度まで後2500!!》

《まだそんな位置……加賀さん、彩雲で牽制射撃を!当てる必要はありません、敵機の足並みだけでも乱して!》

「了解」

『『────!!』』

3番機、4番機の速度をあえてやや落とさせ、同時に4番機後部座席の妖精さんに視界を移す。刹那の暗転を挟み、次の瞬間私の眼は妖精さんを通して背後から迫り来る四機のカブトガニをまっ正面から見据えていた。

〈キョリ、400!!〉

「射撃開始。撃墜してはダメよ」

〈オマカセダゼィ!!ダンヤクソウテン、カンリョウ!!〉

よく勘違いされがちなことだけど、彩雲は全くの非武装機というわけではない。敵機に捕捉された際の自衛用として胴や後部座席に機銃を備えた物もあるし、大東亜戦争の末期には夜間戦闘用に斜銃を装備した物や大口径機銃を備えた物、爆装を試みられた機体も存在する。……私はそもそも彩雲実装前に沈んだ為それを直接見たわけでは無いけれど。

ともあれ、今私が指揮する彩雲隊の機体もそうした“量産型”の内の一つだ。

〈ウチカタ、ハジメ!!〉

『────ッ!!』

後部座席に備え付けられた一式旋回機銃が震動と共に火を噴く。殺到してきた7.92mm弾(を模した超小型の機銃弾)に行く手を遮られ、敵影の内一つが忌々しげに回避軌道を取った。
361 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/18(日) 23:21:12.70 ID:dGcshbyk0
「撃墜の必要はない……というよりは、してはダメ。狙う場所に気をつけて」

〈リョーカイ!!〉

〈ワカッテイルデアリマス!!〉

学園艦の中には、今なお生徒や民間人が数多く取り残されている。その真上に弾薬を満載した敵機を落とすようなことがあれば、いかに小型とはいえ誘爆によって更に被害を広げる可能性が出てきてしまう。

私達が空に上げた機体も、墜落による被害を最小限に抑えるため燃料と弾薬の積載量はかなり抑えられている。そもそもこの威力偵察自体、上層部からすれば相当な苦渋の決断だ。

故に、“事前準備”を仕込める機会はそう何度もない。………多分、この一度きり。

この後の“本攻め”に繋げるためにも、少しでも多くの「敵情」を持ち帰らなければならない。

「……3番機、4番機、敵機体下部の機銃に照準。破壊して戦闘力を奪って。貴女たちならできるわ」

〈カシコマリィ!!〉

〈リョウカイシマシタ!!〉

『─────!』

功を焦ったかやや突出した1機に狙いを定め、4番機が弾丸を放つ。咄嗟に宙返りで火線を避けた瞬間、機体の腹に備わる機銃が剥き出しになった。

〈イタダキィ!!〉

『────!!?』

一航戦は隙を逃さない。横合いから飛来した3番機の弾丸がその根本を撃ち抜き、機銃を吹き飛ばされた敵機は一瞬失速して20mほど墜落した後何とか態勢を立て直し離脱していく。

〈テッキ、リダツ!!〉

〈マダマダ、モウイッチョウ!!〉

『ッ!!?!?』

息継ぐ間もなく、3番機が更にもう一連射。右後方から突入を図った別の個体が、自ら射線に突っ込む形で直撃を受ける。

『……ッッッ!!』

此方は機銃の脱落こそ避けたようだけど、遠目にも解るほどはっきりとあらぬ方向に曲がってしまった銃身はどう見ても使い物にならない。飛行速度もみるみる低下していったその機体は、やがてゆっくりと追撃戦から外れていった。

「よし………っ!?」

〈グァッ!?〉

立て続けに2機の敵を黙らせることに成功し、“慢心”が或いはあったのかも知れない。左側から大きく回りこむ形で襲いかかってきた三機目の【カブトガニ】の機銃掃射が、4番機を貫いた。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 07:43:52.08 ID:0T0gNrZA0
おつおつ
避難・保護が最優先とは本当に大変だな…
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 21:57:40.88 ID:6ib2LpGB0
364 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/22(木) 12:22:29.03 ID:gNRjXRdj0
鉛弾に撃ち抜かれ、右尾翼が千切れて後方へと吹き飛んでいく。穴だらけになった左翼も、機内に鈍い音を残してへし折れる。

〈クソッ、シセイセイギョフノウ!!〉

〈ダメダ、オチル!!〉

グルングルングルン。妖精さんの眼を通して、私の世界が文字通り激しく回転する。乗組員である三人の妖精さんたちは必死に機体の状況を改善しようとしていたが、それが物にならない努力であることは明白だった。

………墜落地点を学園艦上から反らせる事が出来る程度にはまだ舵が効きそうなことだけは、不幸中の幸いね。

「……ごめんなさい、お願い」

〈〈〈リョーカイ!!〉〉〉

少ない言葉の中から、優秀なこの子達はその意味を汲み取る。機銃手の妖精さんが、私が見えるようにあえて目の前で親指を立ててみせる。きっとこの子の背後では、他の二人も同じ姿勢を取っているのだろう。

〈ボカンドノ、ゴブウンヲ!!〉

「ええ」

操縦手妖精のその言葉を最後に、私の意識は3番機機銃手へと飛んだ。直後に、視界の端を4番機が煤けた飛行機雲を残して通り過ぎていく。

尋常ならざる速度で回転する彩雲を、妖精さんたちが懸命に制御しているのだろう。バラバラと空中に部品を撒き散らしながら墜落していく機体は、それでも確実に学園艦の上から逸れている。あの軌道ならほぼ確実に海に墜ちてくれるはずだ。

……私が艦娘として再び生をこの世に受けてから、二年と少しが経つ。だが、未だに意識を共有している機体が撃墜されるときの感覚になれることはできずにいる。

尤も、今はその気持ちを引き摺るわけにはいかない。残余2機も4番機撃墜後は動きが鈍っている今が好機だ。

「加賀より各機、彩雲4番機喪失も追跡中のカブトガニ2機を武装破壊によって撃退」

《加賀ちゃん、ナーイス!!》

《これだけ乱してくれれば十分!加賀さん、殿機体を隊列に戻して!

目標高度まであと1800!!全編隊、広域索敵陣形展開用意───》

《Saratoga-25ヨリ各位、新手ノ敵航空隊!!総数、目算不能!!》

《あぁ、もう!!》

葛城の悪態が無線越しに響く。それに続いた打撃音と破砕音から察するに、彼女のそばにある何らかの備品が悲惨な最期を迎えたらしい。
365 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/22(木) 12:27:56.53 ID:gNRjXRdj0
《葛城ちゃん、どーすんの!?》

《ここまで来たら突っ込むのみ!全機、陣形展開継続!》

「敵編隊の迎撃は?」

《私がやるよ!こちら千代田、残余の96式全機行かせます!》

《由良より各編隊、船尾商業区方面に事前報告にない“艦影”を視認!恐らくヌ級、eliteです!!》

《Saratoga for All Squad, Enemy Aircraft-Carrier One more!!

N-Class【elite】, 11 o'clock!!》

《だから英語だと解んないって!!》

凄まじい勢いで飛び交う無線を耳にしながら、私は更に意識共有先を一番機の観測手に移す。ちょうど千代田指揮下の96式が、編隊を離れ蚊柱のごとく甲板から湧き出したカブトガニの大群体へと突っ込んでいく姿が目に入った。

それにしても、合計三隻のヌ級とは。どうやってこれほどの戦力を気づかれることなく学園艦の上に……否、考察は上層部に任せよう。

今の私たちは、甲板上の情報を出来うる限り前線指揮所に届けることだけを考えるべきだ。

《目標高度に到達、全機機首上げろ!》

《こちら那珂ちゃん、ごめん!当たっちゃった!!制御困難、離脱させまーす!!》

「……っ、こちら加賀、彩雲二番機がやられたわ。五番機も機関部に被弾、退避させます」

《This is Saratoga、Ribbon-03、Ribbon-14ガDownしマしタ!Ribbon-15も被弾!!》

《千代田より旗艦葛城、何機か其方に抜けたから気をつけて!》

次々と水平飛行に移る艦載機に、敵の対空弾幕が密度を増して殺到する。機体の腹を見せると言うことは被弾面積の拡大に他ならず、加えて急激な制御運動は最も無防備な隙が発生する瞬間。私の彩雲隊も含め、損害が瞬く間に拡大していく。

『『『─────!!!』』』

乱れた陣形を整える間もなく、その横腹に黒い矢が深々と突き刺さる。
366 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/22(木) 12:30:26.57 ID:gNRjXRdj0
生存者の安全性という観点から反撃の手が大きく限られる私達に対し、敵には殆ど“枷”が存在しない。そして深海棲艦共は彼我の物量差に圧倒的な自信があるようで、自軍の損害に関してもまるで頓着しなかった。

《うわぁっ!?》

《Shit!!》

千代田の編隊を突破してきた敵機群は、文字通りの意味で私達に“直撃”する。機銃を高らかに撃ち鳴らしながら微塵も減速することなく隊列に斬り込んできた敵機と衝突した友軍機が、空で次々と爆炎の華を咲かせた。

《由良より旗艦葛城、当方の損耗率3割を突破!》

《作戦は続行、目標地点まで最大戦速で突っ切って!》

《千代田よりSaratoga、彩雲隊と由良っちの水偵護衛をお願い!》

《Roger that!!》

「加賀よりサラトガ、護衛を感謝するわ。空母加賀、対地広域索敵開始」

《軽巡由良、索敵開始します!》

周囲をグラマンの編隊に固められながら、全神経を集中し妖精さんを通して四方八方に視線を巡らせる 。由良も同じような動きを見せているのか、無線越しに微かな吐息が漏れ聴こえてくる。

艦上機妖精さん……分けても、偵察機に乗る子たちの“眼”は、単に遠くの物が見えるだけではなく動体視力も飛び抜けていて、普通の人間は愚か私たち艦娘すら凌駕する。高速で飛翔する戦闘機の機内からでも、観測手の眼ははっきりと、甲板上に広がる惨状を捉える事が出来た。

「………っ」

思わず、言葉を失う。

崩れ落ちた家屋、燃え盛る町並み、横倒しになった警察車両、ひび割れた道路。何より、濛々と吹き出す煙の中に垣間見える、折り重なった屍の山。

“地獄のような”という表現が、これほど当てはまる光景もなかなかないだろう。しかも、この光景が日本の……世界随一の対深海棲艦戦力を誇る国の学園艦で起きているという事実は未だに心の何処かで信じられずにいる。

けれど、私が………私と由良が絶句した理由は、別にあった。
367 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/22(木) 12:43:05.63 ID:gNRjXRdj0
まるでそうあることが当たり前のように、甲板上の至る所で“彼女”達は佇んでいた。

崩落し、瓦礫の山と化した家屋の上に。

原形を留めぬほどに激しく損壊した屍が無数に転がる十字路の真ん中に。

地面から吹き出す火炎の向こう側に。

暴れくるい、此方に向かって弾幕を放つ駆逐ナ級のすぐ傍に。

それらの姿を目に出来たのは一瞬だ。だが見間違い等ではない。見間違えるわけがない。

“奴等”の艦載機である【カブトガニ】に酷似した、深く日の射さない海の底から切り出して形作ったかのような服や艤装。

共通する特徴である、陶磁器のように無機質で蝋のように白い肌。

そして、私達艦娘や人間に対する、隠しようもないほど激しく膨大な憎悪と殺意。

あぁ、それにしても何故。

それこそ何故、貴女たちはそこにいるのか。

どうやって、貴女たちはこの場に来たのか。

「………空母加賀より艦載機隊各位並びに前線指揮所、大洗女子学園甲板上各所にて、新たに敵艦影を多数視認」










「ヒト型の深海棲艦、多数が大洗女子学園に展開を完了している模様。

現時点で把握できた艦種としては、左舷側に戦艦ル級2、タ級1、空母ヲ級1………そして、艦橋施設付近に重巡棲姫と思われる個体も視認しました」
368 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/22(木) 23:03:43.78 ID:gNRjXRdj0
《軽巡由良より旗艦、右舷側にも“ヒト型”を多数確認!リ級、ル級各2隻、軽巡ツ級3隻、空母ヲ級2隻!この内、ル級は片方がflagshipと思われます!》

《うっそでしょ……》

私のすぐ後に続いた、由良の殆ど絶叫に近い報告の声。それを聞いた葛城が小さく呻き、私も全身から血の気が引いていくのを感じた。

左舷側5隻、右舷側9隻、棲姫を含んだ計14隻のヒト型が甲板上にいるという事実。しかもこれはあくまで“視認できた限り”の戦力であり、より多くのヒト型が大洗女子学園に展開している可能性は十分にあり得る。

敵戦力の最終的な総規模次第では、大洗女子学園の奪還と居住者・生徒の救出どころじゃない。それこそ、学園を起点とした“内陸浸透”の危険性が現実味を帯びる。

「なんてこと……」

確かに、何となくイヤな雰囲気を感じていたこと自体は否定しない。だが、こうも寸分違わずあの男の……国連から派遣されてきたとかいう、“あの提督”の言ったとおりになるなんて。

《千代田より旗艦葛城、96式は半数を損失!もう支えきれないよ!》

《此方翔鶴、甲板各所から更なる編隊戦力の増強を確認!》

《SaratogaヨリFlagship-KATHURAGI!! どうシマスか!?Orderヲ!!》

《全編隊、三時方向に旋回!翔鶴隊、千代田隊も敵機を牽制しつつ離脱を!

葛城よりCP、作戦を中断し学園艦上空から艦載機を離脱させます!》

《CPより旗艦葛城、許可する!速やかに撤退させろ!》

学園艦上空を縦断し、特に被害が大きい商業区の敵艦に機銃掃射を敢行して迎撃能力を測る───最早、当初の計画をその通りに実行することは不可能に近い。寧ろ、敵艦隊のより詳細な情報を味方と共有するためには彩雲隊と由良の水偵妖精を生還させることが先決。葛城の判断は、間違いなく正しい。

《────敵機、直上!!》

ただ、それが遅きに失したというだけの話で。
369 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/22(木) 23:39:50.90 ID:gNRjXRdj0
操縦席の中を、戦闘機としては異質な丸い影が一瞬通過する。直後、彩雲隊の左手を飛んでいたグラマンが両翼から炎を吹き出した。

《Oh?my?god!!?Ribbon-06?down!!》

《由良より旗艦、敵機種は全て【オニビ】!数は20弱、なおも追撃してきます!!》

『『『────……』』』

オニビ。世界的には“Ball”と呼称される、深海棲艦の艦載機。その名が示すとおり白色の球形というカブトガニ以上に独特の形状で、主にヲ級や空母棲姫、或いはヌ級のflagshipといった旗艦級の艦隊の直掩に着いている姿が多く見られ。

速力と防弾能力において非常に高い水準にある反面、【カブトガニ】に比べて性能が空対空格闘に特化していて汎用性は非常に低い。だが、逆説的には“本来の用途”における戦闘能力は極めて高い、と言い換えることもできる。

急造部隊である上に既に大きな損害を被っている私達がまともに戦っていい相手ではないし、容易く振り切れるような甘い相手でもない。

「彩雲三番機、被弾……!」

《Ribbon-10, Ribbon-20, Ribbon-07 Lost!!》

《此方由良、水偵が被弾!飛行態勢維持していますが燃料漏れを確認!!》

《頑張って!あと少し───っ、旗艦葛城よりCP、烈風隊投入16機の内10機を損失!損害甚大!!》

端から見れば、その光景はきっと肉食の猛禽に小鳥の群れが嬲られているかの如く映るだろう。【オニビ】達による執拗な反復攻撃で此方の航空隊はいいように撃ち抜かれ、次々と赤い炎と黒い煙を吐き出しながら学園艦の上に叩きつけられていく。
370 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/23(金) 00:38:43.48 ID:VUcUYjAI0
不幸中の幸いは、私達の離脱運動が学園艦に対して“横断”の動きであることだ。

当たり前の話だが、船は“全長”に対して“全幅”は圧倒的に短い。大洗女子学園の全幅なら、対空砲火を回避しながらの飛行であることを踏まえても10秒に満たない時間で横断しきれる。

《5時方向から更に【オニビ】の編隊!此方も数は20前後!》

《対応の必要無し!このまま振り切る!》

無論その間、私達の編隊は殆ど回避運動もままならない。一方的に撃たれ続けた結果、学園艦の端に到達したときには編隊の残余機数は10を切っていた。

だけど、喩え僅かでも“生き残り”がいる時点で私達の任は十分に果たせる。

《葛城より千代田隊並びに翔鶴隊、偵察航空隊は離脱に成功!足留めは十分、残余戦力を速やかに後退させられたし!!》

「加賀より【あきつしま】、当編隊大洗女子学園上空より離脱もなお敵編隊の追撃を受けている。援護を求む」

《【あきつしま】より空母加賀、要請を受諾。これより対空砲火を開始する》

『『────!!!?』』

次の瞬間、編隊とすれ違うようにして弾丸が空を駆ける。【あきつしま】の艦首に備え付けられていた機関砲が火を噴き、私達をしつこく付け狙っていた【オニビ】の先鋒数機が直撃を食らって爆散した。

《敵編隊への着弾を確認、撃墜数機。効果を認む》

《由良より【あきつしま】、貴艦の支援射撃により敵航空隊の鈍化を確認!》

《【あきつしま】より各艦、続けて航空隊による迎撃を開始する。貴隊の護衛にも一個編隊を割くので合流されたし》

その通信が終わるか終わらないかといったところで、彩雲の妖精さんの眼は【あきつしま】の艦尾から飛び立つ“機影”を捉えていた。

《【あきつしま】よりCP、強行偵察隊の支援を開始した。三式戦“飛燕”を全機投入する、オクレ》
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 17:15:14.06 ID:bYqhjimA0
おつおつ
厳しいってレベルじゃねえw
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 19:36:00.71 ID:d8S6/hjB0
おつー
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/25(日) 02:09:51.68 ID:N0lEUyGK0
海保まで投入か…
今の学園艦の状況で南首相はどう判断するのか見ものだな
374 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/25(日) 23:02:49.07 ID:4jDDjcF+0
私達艦娘が使う艦載機は、深海棲艦のものと同程度───基本は80cm未満、大型機でも1m20cm程度と非常に小さい。

日本はこの“小型”という利点に着目し、特に陸軍機を集めて本来なら艦載機の搭載が不可能な通常兵器の水上艦にそれらが整備できる簡易施設を備え付けた。要は、海上移動を可能とする小規模な基地航空隊を設立したようなもの。

たった今【あきつしま】から発艦した、三式戦の編隊もそれにあたる。

《【あきつしま】よりCP、当艦艦載機隊は敵航空隊と交戦開始。戦況は互角も敵に後続戦力の気配アリ》

《CPより【あきつしま】、大洗鎮守府と第9警備府の基地航空隊が出撃準備を終えている。一五四一に現着予定》

《【あきつしま】よりCP、了解した。引き続き迎撃する》

無論、運用できる絶対数は決して多くはない。ただしその分、この【移動航空基地】部隊は基本的に鍛え抜かれた精鋭妖精達を優先的に配備させる事が多い。特に海上保安庁巡視船は、元の装備が貧弱故に自衛隊側の配慮によってかなり強力な部隊を配備する傾向がある。

そして、【あきつしま】に搭載されている部隊もその例に漏れることはなかった。

『『────!?!?!?』』

白を基調とし、翼の付け根部分に黄色いラインを入れた単発機が【オニビ】の編隊を正面から迎え撃つ。ハ40エンジンを唸らせ敵機の背後を次々と取り、銃火を容赦なく浴びせ叩き落としていく。

“飛燕”の名に恥じぬ、美しさすら感じさせる軌道に、今度は【オニビ】達が狩られる側に追いやられる。ツバメの如く空を舞うその姿を捕捉できず、交戦開始から僅か十秒足らずで多数の損失を出した敵編隊は陣形を保てず、総崩れ状態に陥った。
375 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/25(日) 23:16:31.80 ID:4jDDjcF+0
(敵機は60機近くいるはずだけど……それを、不意打ちに近い部分があったとはいえたった20機強でこうまで圧倒するなんてね)

大東亜戦争の折には私や赤城さんや2航戦の子たちが沈んだ後に採用されたというこの陸軍機が、整備性の悪さから南方戦線で散々悪名を轟かせ米軍からは“鈍重な鴨”扱いされていたとは俄に信じがたい。

本来の実力が当時の皇国の物資不足故発揮できていなかったのか、はたまた【あきつしま】の妖精さんたちの腕前が機体の悪条件を克服しているのか。いずれにせよ、当時を知る日米両国の人間がこの光景を見たらどんな感想を抱くかは少し興味がある。

《【あきつしま】よりCP、護衛部隊が葛城指揮下の偵察隊と合流した》

惚れ惚れするほど圧倒的な制空戦闘を眺めていると、私達の前後を挟み込む形で更に機影が現れた。前後衛に各8機ずつ、新たな“飛燕”の編隊が一糸乱れぬ飛行で偵察部隊の周りを固める。

《なお、当方航空隊は敵追撃部隊と交戦中。既に多数を撃墜し戦況は優勢に推移》

《CPより【あきつしま】、確認した。そのまま各母艦の元へ送り届けさせてくれ》

《【あきつしま】艦橋よりCP、了解》

《葛城より【あきつしま】、護衛を感謝します!》

《此方千代田、96式の残余部隊は大洗鎮守府基地航空隊と合流。これより帰還させます》

《翔鶴よりCP並びに旗艦葛城、零戦部隊は半数を損失しましたが退却に成功。収容致します》

無線から聞こえてくる状況報告の声は、修羅場を越えてようやく落ち着いたものに変わっていた。とはいえ、安堵をしている者は私を含めて誰一人としてこの場にはいない。

寧ろ全員が、声色にどこか暗鬱な感情を込めて言葉を交わしている。
376 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/25(日) 23:48:00.00 ID:4jDDjcF+0
無理もない。少なくとも威力偵察に参加した艦娘達は、大洗女子学園の甲板上で今現在引き起こされている惨状を実際に目にした。そしてその原因たる深海棲艦は、何をどうやったのか私達の予想を遙かに上回る巨大な戦力の展開を終えている。

しかも、敵が迫っているのはここだけではない。太平洋側のあらゆる方角で、次々と新手の艦隊が現れて日本領海に向かってきている。フィリピンの方から接近する敵艦に至っては、ベルリンを含めて過去に一度も確認されていない“新型”個体だという。

今のところどの戦線も持ち堪えてはいるようだが、いつまで持つかという保証や目処は一切ない。何せ敵の物量は桁外れ、青ヶ島や南鳥島、八丈島の精鋭達でも数的劣勢下での波状攻撃を受け続ければいつかは突破される。喉元にあれほど凶悪な刃が突きつけられている現状では、国内から出せる増援戦力も大幅に制限せざるを得ない。

それに、よしんば日本が何とか全ての攻勢を押し返せたとして………日本“だけ”が耐え抜くのでは意味がない。この世界規模の大攻勢によって制空権・制海権を失陥して海上輸送路が封鎖されれば、兵力に劣る私達は相互の連携も補給も技術提供もままならず各個にすり潰されて終わりだ。

「………」

勝てるのだろうか、私達は。

また負けるのだろうか、私達は。

〈ボカンドノ?〉

「……ええ、大丈夫。少し考え事をしていたの」

視界を同期していた妖精さんが、小さく首を傾げ脳内で問いかけてくる。どうやら、全く指示を出さなくなってしまった私を心配して声をかけたらしい。

(いけないわ。一航戦ともあろうものが、こんな情けない思考をするなんて)

「勝てるのだろうか」ではない。「勝つ」のだから。

「負けるのだろうか」ではない。「負けるわけにはいかない」のだから。

私は、大日本帝国海軍の誇り高き第一航空戦隊、空母加賀だ。

国の名は変われど、住まう人は変われど、ここが私が守るべき祖国。

ならば、今度こそ全てを賭してでも守り抜かなければならない。

「心配をかけてごめんなさい。【あきつしま】の艦載機隊と離れないようにして巡航速度で帰還を────」
377 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/03/26(月) 00:58:29.30 ID:NX1T+Hip0
─────爆発音が空気を震わせ、海面が隆起し、水柱が天に向かって伸びる。恐らく数百トンはあろうかという膨大な量の海水が辺りに撒き散らされ、傾きつつある太陽の橙色の光を反射して輝きを放つ。

その幻想的な光景のすぐ下で、1隻の船が────海上保安庁巡視船、【あきつしま】が炎に包まれていた。

《CPより【あきつしま】、今の音は何だ!?状況を報告しろ、おい!!》

《千代田よりCP、【あきつしま】の船体が激しく傾斜!右舷側で大規模な火災発生………か、艦橋にも延焼している模様!》

《軽巡由良よりCP、甲板上に生存者数名を確認!当方に救援を要請しています!》

《CPより各警備府並びに沿岸防衛線各所に通達!救護ヘリか艦娘を港湾に回せるところはあるか!?【あきつしま】被弾、繰り返す、【あきつしま】被弾!!》

「【あきつしま】右舷より、雷跡が接近!!!」

無線通信で飛び交う声が恐慌と混乱に塗り潰される中、その一際大きな叫び声は私の口から飛び出したもの。

波を蹴立てて突き進む、白い軌跡。数は二本。寸分違わぬ狙いで、今なお炎を吹き出している被弾箇所へ向かっている。

《ふざけないでよ……!!》

「くっ……!!」

葛城の烈風と、私の彩雲、そして“飛燕”の内何機かが機首を翻し急降下する。

幾ら戦闘機が速いとはいっても、この高度から突っ込んだとて体当たりも機銃掃射も間に合わない。それでも、眼下で助けを求める海保の隊員達の姿を見て、何もしないという選択肢は選べない。

……だけど現実には、時を止める魔法が使える美少女も、時を止める時計を持ってる機械仕掛けの青猫も存在しない。

必死に後を追う私達の目の前で、2発の魚雷は吸い込まれるようにして被弾箇所に突き刺さる。

「うぁっ……」

〈ウォオオッ!?〉

凄まじい閃光で視界を覆われ、思わず眼をつぶる。爆風に煽られた機体を、妖精さんが辛うじて建て直す。

中央から完全に船体をへし折られた【あきつしま】の艦首が持ち上がり、甲板上にいた人影をぱらぱらと海に放り出す。そしてそれらも、三度目の大爆発と船体が横倒しになった影響で逆巻く海に一瞬で呑み込まれる。

後に残ったのは、一握りの残骸と黒い油……そして、その油から激しく立ち上る火柱だけ。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/26(月) 19:37:36.47 ID:uN5Y42vx0
otu
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/26(月) 20:29:10.24 ID:0BcMcnIA0
おつおつ
出血を強いるような消耗戦って言っても、失った物を取り返すためには人類側が破綻しかねないという…
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/27(火) 16:14:47.81 ID:RR7LFzqE0

海上保安庁最大の巡視船があっという間に退場してしまうとは…
381 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/27(火) 23:01:25.60 ID:lWu08we60
《じ、巡視艇【あきつしま】、敵の雷撃により轟沈しました……生存者、確認できません……》

誰もが言葉を失い沈黙する中、由良の絞り出すような報告の声が無線機越しに耳朶を打つ。……まるで初陣したばかりの駆逐艦のように語尾が震えていたけれど、現状を受け止め声を発せられただけでも彼女は十分賞賛に値する。

少なくとも、眼下の光景を受け入れられずにただ立ち尽くすことしか出来なかった私とは比べるべくもない。

《魚雷だなんて……雷撃機の機影は近くになかったのに………一体、どこから……》

か細く虚ろな葛城の問いかけは、誰かに答えを求めていない。乱れる自身の精神を何とか落ち着けようという、独り言にちかいもの。

だけど、それに対する“回答”は、思いの外あっさりとそこに姿を現した。

『────……』

「…………そんな」

喉奥から、呻き声が漏れる。

マッコウクジラに駆逐イ級を掛け合わせたような、黒く角張った形状の随伴個体。青白い眼から冷たい光を放ち、大顎に生える獰猛な犬歯を剥き出しにして、獲物を待ち望んでいるかのようにガチガチと撃ち鳴らしているその化け物の背に、“彼女”は悠然と腰掛けていた。
382 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/27(火) 23:27:19.24 ID:lWu08we60
膝下まで届くほど長く、太陽に当て続ければ溶け出してしまいそうな白い髪。更に輪をかけて白く、“奴等”の大半と同様に水死体のように生気が感じられず蝋のように滑らかな肌。

そして、“彼女”を一際特徴付ける、フリルスカートを思わせる端がひらひらとした艤装服。

《空母葛城よりCP、大洗港にて【潜水棲姫】の浮上を視認!!繰り返す、大洗港に【潜水棲姫】浮上!!》

《【あきつしま】撃沈は潜水棲姫の攻撃によるものと思われます!千代田よりCP、対潜装備機で速やかに総攻撃を!》

《駆逐艦、軽巡で出せる子はいないのか!?放置すれば港湾が封鎖されかねんぞ!!》

『─────……』

狼狽する私達を嘲笑うが如く、棲姫の口元が微かに歪む。その細い右手の指先が、すうっと伸びて陸を指し示す。

その瞬間─────まるで耳元で囁かれたかのように、私には“彼女”の声がはっきりと聞こえたような気がした。









『沈メテ、アゲル………』

次の瞬間、学園艦の甲板上から、先程までとは比べものにならない量の【カブトガニ】と【オニビ】が空に舞い上がった。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 19:36:21.67 ID:yLIcNY/w0
384 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/30(金) 23:16:21.45 ID:YcUNbNs80
今から80年ほど前、第二次世界大戦の折の話。ソヴィエト赤軍の戦車乗り達に深刻なトラウマを刻みつけ、世界の戦車道史にもその名を残した“音”がある。

Su-87【スツーカ】。ナチス・ドイツが開発したこの傑作爆撃機は、極端かつ特徴的な逆ガル翼構造によって急降下時にサイレンのような独特の高音を出す。ドイツ軍の精鋭パイロット達が───特に、不屈の闘志で世界一多くの戦車をスクラップに変えた空の魔王が奏でるサイレンは、ソヴィエト赤軍の陸軍兵士達にとって死刑宣告に等しいものだったという。

この風切り音───俗に言う“ジェリコのラッパ”が欧州の大地で再び鳴り響くようになったのは、つい6年前の事だ。

ハワイ諸島でのアメリカ合衆国に対する攻撃から僅か一週間後、東南アジア海域とほぼ同時に始まった大西洋方面における深海棲艦の大規模浮上。圧倒的な物量差と相性の問題からEU連合艦隊は徐々に防衛線を押し込まれていき、ポルトガルやフランス、オランダ、ドイツなど主要国への小規模な上陸・空襲が繰り返されるようになる。

そんな中、水際に防衛線を展開し必死に深海棲艦の浸透を防ぐEU各国陸軍に襲いかかったのが、急降下爆撃に特化した性能を持つ型のHelm……日本で言うところの【カブトガニ】だった。
385 :修正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/30(金) 23:17:43.56 ID:YcUNbNs80
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今から80年ほど前、第二次世界大戦の折の話。ソヴィエト赤軍の戦車乗り達に深刻なトラウマを刻みつけ、世界の戦車道史にもその名を残した“音”がある。

Su-87【スツーカ】。ナチス・ドイツが開発したこの傑作爆撃機は、極端かつ特徴的な逆ガル翼構造によって急降下時にサイレンのような独特の高音を出す。ドイツ軍の精鋭パイロット達が───特に、不屈の闘志で世界一多くの戦車をスクラップに変えた空の魔王が奏でるサイレンは、ソヴィエト赤軍の陸軍兵士達にとって死刑宣告に等しいものだったという。

この風切り音───俗に言う“ジェリコのラッパ”が欧州の大地で再び鳴り響くようになったのは、つい6年前の事だ。

ハワイ諸島でのアメリカ合衆国に対する攻撃から僅か一週間後、東南アジア海域とほぼ同時に始まった大西洋方面における深海棲艦の大規模浮上。圧倒的な物量差と相性の問題からEU連合艦隊は徐々に防衛線を押し込まれていき、ポルトガルやフランス、オランダ、ドイツなど主要国への小規模な上陸・空襲が繰り返されるようになる。

そんな中、水際に防衛線を展開し必死に深海棲艦の浸透を防ぐEU各国陸軍に襲いかかったのが、急降下爆撃に特化した性能を持つ型のHelm……日本で言うところの【カブトガニ】だった。
386 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/31(土) 07:26:25.24 ID:XM6QXyzC0
奴等の爆弾は小さく軽いけれど、威力は250kg爆弾とほぼ同等。当然直撃を受ければ第四世代戦車の強力な装甲でも耐えられない。

フランスのルクレール、イギリスのチャレンジャー2、ドイツやポルトガルのレオパルド2、ポーランドのPT-91【トファルディ】………艦娘が欧州方面でも配備され対空迎撃網が確立するまでの半年ほどの間に、各国の戦車は次々と破壊されていった。伝わってくる話によるとEU連合陸軍はその半年間で欧州全土に配備されていた内の1/3にあたる戦車を損失し、生き残った戦車乗り達もその2割近い人数が度重なる爆撃とそのたびに鳴り響く“ジェリコのラッパ”によって精神に失調を来して退役したという。

PTSDによる退役云々の話については正直半信半疑な面がある。あの時は世界中が──今現在と同じぐらい──大混乱に陥っていたので、信憑性の高いものからお笑いぐさなものまで様々な種類の噂話が流れていたから。

……ただ、ドイツを筆頭にEU諸国が“制空権の失陥による空路・海路の安全性の喪失”を理由に国内の外国人達の出国を妨げ、分けても戦車道の関係者・経験者は騒動が沈静化してからしばらくも半ば拉致監禁に近い形で国内に留めさせていたことは事実だが。もしもあの噂が本当で、EUで戦車に乗れる人材が枯渇していたとすれば、アレほど強引で国際的な非難を免れない手に各国が打って出た理由も頷ける。

まぁどのみち、今の欧州───特に多大な犠牲を出して国土を大幅に失陥したフランスとドイツは、外国人どころか“義勇兵”の名目で学徒動員に手を染めなきゃ戦線が維持できないほどの窮状だけど。

この間のテレビで画面に映った、赤毛の日系人と思わしき女の子の姿を思い出す。彼女のような、西住さんたちと同じぐらいの年代の子供もまた“ジェリコのラッパ”が鳴り響く欧州の戦場で戦っているのだと思うと胸が痛む。
387 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/31(土) 08:39:47.75 ID:XM6QXyzC0
尤も、私はその音をあくまでも“知識として”しか知らない。

急降下爆撃型のカブトガニがどのような特徴を持つのかは自衛隊のミーティングで散々に叩き込まれてきたし、実際に欧州戦線で録音された風切り音も繰り返し聞かされた。確かにこんな音を戦車という閉所の中で、しかも爆弾を抱えて自分たちにそれをぶつけに来ている敵機が奏でていると知った上で聞けばかなりの恐怖だろうなとは、同じ戦車乗りとして朧気ながらイメージできる。

だが、あくまでもそれは想像だ。実際に戦場で聞かない限り、その恐怖を真に理解することはできない。

そして私は、戦争が始まった当初はまだある戦車道流派の門下生で、自衛隊に入隊したときには艦娘の量産方法によって近隣の制海権・制空権は掌握されていた。東南アジアでの反攻作戦に伴う海外派兵はあったけれど、それだって入隊直後の未熟な小娘が選ばれるほど日本の戦力は逼迫していない。

幸か不幸か、私が最前線というものを知る前に対深海棲艦戦争は安定期に入った。今後私が“ジェリコのラッパ”を聞く機会はないんだなと、ホッとしたような気持ちと(誠に不謹慎ながら)少し残念な気持ちとがない交ぜになった複雑な心境を抱きつつ、私は今まで自衛官としての日々を過ごしてきた。




《四警那珂よりCP、当警備府に激しい空爆!同警備府由良が敵投弾により中破、護衛部隊にも損害大!》

《11警千代田応答せよ!CPより11警千代田、応答しろ、おい!!》

《敵航空隊の一部は那珂川河川敷を突破、春日香取神社の防御陣地が爆撃を受けた!》

《学園艦甲板より深海棲艦による艦砲射撃を確認!大洗マリンタワーが直撃を受け倒壊した!》

《東光台の防御陣地複数からの通信が途絶!敵の空襲範囲、尚も拡大!》

《大洗駅にも敵の艦砲射撃着弾!待機中だった小隊と艦娘【初霜】からの通信が途絶えました!》

今後もずっと、そうで有り続けると思っていた。
388 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/03/31(土) 09:40:07.35 ID:f3m0p1nyO
《敵機の数は一体どれだけなんだ!?空が真っ黒だ!!》

《此方磯道防衛線、負傷者多数!キューマルも爆撃により破壊された!畜生、畜生!!》

《CPより大洗鎮守府、其方の空母艦載機か基地航空隊を出せないのか!?》

《無理だ、当鎮守府上空にも敵機多数飛来!戦力を割くと我々も一方的な爆撃に晒される!》

《此方七警加賀、数的不利により迎撃困難!沿岸部より後退します!》

百聞は一見にしかずとは、よく言ったものだ。電子の不健康な光だけが照らす仄暗いヒトマルの車内で、私はつくづく先人の残した言葉に感心した。




《────蝶野一尉、来ます!》

制空権を失陥した前線において、まともな対空兵装がない戦車に乗りながら耳にする“ラッパ”の音は……この世に類がないほど、恐ろしい。

《敵機直上、急降下!!!!》

「各車全速後退!!」

……正直一生しなくてもよかった、ベリーバッドな体験ではあるけれど。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/31(土) 13:31:59.89 ID:5WXXUbHA0
おつおつ
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 03:38:38.77 ID:k3kNWpKTo
391 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/04/01(日) 23:01:13.65 ID:1XLt3tx50
カツン、カツン。【カブトガニ】が投擲した爆弾が2発、アスファルトの上で弾み炸裂する。轟音を伴って押し寄せてきた爆発の衝撃に、ヒトマルの車体がビリビリと震えた。

「車体の損傷を確認!」

「履帯、左右とも異常なし!火器管制システム、オールグリーン!駆動系統、機器動作問題なし!」

「O.K、ならまだやれるわね!

1号車蝶野よりヒトマル各車、無事!?」

《此方2号車、オールグリーン!》

《3号車より1号車、幸いな事に生きてます────ヒッ!?》

操縦士の子が上げた報告の声、そして寮車からの無線越しの返答にホッと胸を撫で下ろす間すらない。上空で高らかに吹き鳴らされる新たな“ラッパ”の音に、3号車の車長が小さく悲鳴を上げた。

《観測班が敵機第二波の接近・急降下を確認!!町内各所の防衛拠点、指揮系統の混乱により対空砲火網が機能せず次々と突破されています!!》

《回避運動今からでは間に合いません!!》

「機銃、最大仰角にて掃射!!弾幕で敵機を振り払って!!」

言うが早いか、私自身もキューポラから身を乗り出して12.7m重機関銃に取り付く。度重なる爆撃で舞い上がった砂埃に軽く咳き込みつつ、銃口をギリギリまで上に────あの耳障りな風切り音が聞こえてくる方向に向ける。
392 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/04/01(日) 23:42:41.40 ID:1XLt3tx50
時刻は三時半を過ぎ、少しずつ夕闇が迫りつつある大洗。爆弾や砲弾に焼かれた家々から、オレンジ色の夕陽を遮る用にして濛々と黒煙が立ち上っている。

『『『────……』』』

そして、その中に紛れるようにして迫る幾つもの小さな影があった。

「敵影視認!」

まだ遙か上空なので、形は朧気にしか解らない。それでも、黒い煙の中を飛んでいてなお解る程色濃く無機質な光沢を放つ漆黒の塊の存在はしっかりと認識できた。

『『『───────!!!!』』』

近づいてくる。あの甲高い飛翔音が、私達を死路へと誘うラッパの音色が、ぐんぐんと空から地上へと迫ってくる。

「ヒトマル1号車、対空射撃を開始する!」

《2号車、撃ち方始め!!》

《3号車、仰角調整ヨシ!射撃開始、射撃開始!!》

カブトガニ共を迎え撃つべく、空へと駆け上がる火線。三挺の重機関銃が唸りを上げ、12.7×99mm NATO弾が黒煙を切り裂いて敵機の降下進路上にばらまかれる。

『『『─────』』』

《敵機、散開回避!》

《撃墜機無し、なおも降下中!!》

「くっ……!」

………だけど、当たらない。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 18:50:20.13 ID:QU6Bbm2E0
乙津
394 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/04/05(木) 23:01:47.84 ID:+56SXZBW0
迎撃の火線を放っているのは、私達だけではない。

対空改装が施された96式やLAVの車載機関銃、随伴歩兵部隊の89式小銃にMINIMI、M240……ありとあらゆる銃火器が唸りを上げ、百を遙かに超える火線を空に張り巡らす。

そして何より───“本職”であるM42ダスター自走高射砲2両による猛烈な対空射撃。深海棲艦との戦争開始に伴って陸自の戦力不足を補うために35mm2連装高射機関砲【L-90】と共に現役復帰した“骨董品”は、そのブランクを感じさせぬ勢いで弾丸を上空で炸裂させる。

港湾部の目と鼻の先に据え置かれながら、編成の遅れからこの拠点にはまだ艦娘が到着していない。それでも、私達の弾幕の密度は、敵編隊の迎撃に十分な密度を保っていると断言しよう。

《【カブトガニ】、高度2000ラインを突破!撃墜未だ無し!!》

《高層観測班より各位、先鋒数機が投弾態勢に入ったぞ!!》

《畜生!撃て、撃て、撃て!!もっと撃ち続けろ、ばらまけるものは全てばらまけ!!》

なのに、高らかに吹き鳴らされる“ラッパ”の音色は止まらない。黒煙に紛れ、爆炎を突っ切り、弾雨の合間を縫い、砲撃を躱し、漆黒の群れは速度を緩めることなく殆ど垂直に近い角度で地上に……私達の真上に迫る。
395 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/04/05(木) 23:49:55.86 ID:+56SXZBW0
つい十数秒前までは、形状の判別どころかただの黒点に過ぎなかった機影。それが今や、某SF大作映画の宇宙戦闘機として出てきても違和感がない先鋭的な機体のフォルムが微かながら判別できるほどの距離まで踏み込まれている。

それも、ほぼ…というより、全くの無傷で。

『『『────……』』』

周囲を満たす銃声と──強ち比喩表現ではなく──空を覆い尽くす【カブトガニ】の飛翔音に紛れ、小さく、だが間違いなく聞こえてきた何かが外れるような金属音。私は、全身の血が大波が来る直前の潮の如く引いていくのを感じた。

「敵機投弾!!」

ほんの数百メートルまで肉薄していた敵の先鋒部隊が、次々と空に向かって機首を返す。同時に、響くのは“ジェリコのラッパ”とはまた質が異なる甲高い風切り音。

「衝撃に備えて!!」

咄嗟に叫ぶが、意味のない注意喚起であることは私自身がよく知っている。直撃弾を受ければどうしようが木っ端微塵になるしかないのに、何に備えろというのか。

カツンッ。さっきと同様に乾いた音を残して、落下してきた何十発もの小さな爆弾が路上に跳ねる。次の瞬間そこかしこで光が脹れあがり、轟音と共に炸裂した。

乗っていたヒトマルの車体が一瞬宙に浮き、頭上からぱらぱらとコンクリートの破片が降り注ぐ。吹き付けてきた爆風の熱が、ちりちりと顔や手の甲の皮膚を炙る。

「……っ、損害を────」

爆光が収まり、ようやく顔を上げる。無線への叫びは、左手に視界が移ったところで途切れる。

そこには、業火に焼かれ酷く拉げたヒトマルの3号車が横倒しになっていた。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 10:32:28.53 ID:JUzIg4pA0
おつおつ
本当に絶望的だけど、状況は違ってももっと酷い戦場で耐え凌いだ欧州組みの例もあるからなあ…
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 21:37:00.87 ID:IcWYEvjM0
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 23:15:22.14 ID:tF8bL6P/O
余計な描写が細過ぎるし長いのに更新頻度遅くてまとめて読めない
完結したら教えてくれ
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/07(土) 02:15:26.86 ID:keFXzTYNo
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/08(日) 18:27:13.22 ID:K+e3fNCDo
黒鳥が強すぎて投入された戦線から順次崩壊する未来しか見えない
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 12:51:00.25 ID:7GlfV4eT0
辛い展開だとまとめて読みたくなる気持ちはわかる
とにかく更新乙
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 12:02:56.55 ID:zDmaQH/C0

追いついた
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/15(日) 22:33:29.72 ID:lh5jxpo90
乙、続き期待
404 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/04/17(火) 23:39:29.76 ID:VBYc6z7/0
《ヒトマル三号車、乗組員からの応答なし!完全に沈黙!》

応答の有無なんて確認するまでもない。ゴジラに踏みつぶされたと言われても信じられるぐらい完全に破壊されたあの有様で、乗組員が生存できるはずないのだから。

だけど、その解りきった事実が言葉として耳に入ることで、目の前で自衛隊の仲間が死んだ───“戦死”したという事実を、否応なしに突きつけられる。

《敵編隊、第二波来ます!》

私達の今いる場所が戦場だと、改めて認識させられる。

《直上より急降下、機影は30程です!》

《射撃の手を止めるな!》

やられたのは、三号車だけじゃない。さっきの爆撃でLAVが二両火達磨になり、96式も足回りをやられて動きが大きく制限され、随伴歩兵の損害も甚大だ。

何より、虎の子の対空火器であるM42の内片方が直撃弾を受けて完全に破壊された。

敵はさっきと同程度の戦力で押し寄せてくるのに対し、私達の火力は半減に近い打撃を受けた状態。こんなもの、止められるはずがない。

《敵機投弾!!》

「全車両全速後退!歩兵部隊も散開急げ!!」

キャタピラーが軋み、周囲の光景が前へと流れていく。程なくして、またあの甲高い落下音が周囲から聞こえてきた。

《きゃあああっ!!?》

ラムネ瓶と同程度の大きさの物体が放っているとは俄に信じられないような熱エネルギーを伴った轟音と衝撃の嵐に、私の車の操縦士が悲鳴を上げる。地を跳ねた爆弾に真下に潜り込まれた不幸なLAVが、爆風に撃ち上げられ一流ゴルファーのショットのような勢いでバラバラに砕け散りながら私の頭上を飛びすぎていく。

「うぁ────」

必死に爆心地からの離脱を計った若い陸士のほんの一メートル後方で、また一つ巨大な火柱が吹き上がる。彼と彼の周囲にいた同僚十数人が業火に呑み込まれて人間松明と化し、走り出した姿勢そのままに数歩進んだ後地面に倒れ込んだ。

「……んぶっ」

鼻孔を擽る、形容しがたい悪臭に胸の奥から酸っぱい何かがこみ上げる。嘔吐の隙はそのまま死に直結しかねないため飲み下して無理やり押し返すが、指揮官という立場がなければ間違いなく醜態をさらしていたに違いない。

何事も体験だと人は言う。だが、世の中にはそもそも体験する必要自体ない事象も少なからず存在する。

“焼ける人体の臭いを嗅ぐ”という行為も、間違いなくそれに分類されるだろう。

少なくとも私は、一生体験したくなかった。
405 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/04/17(火) 23:42:58.28 ID:VBYc6z7/0
【カブトガニ】や【オニビ】の爆弾搭載量は、大抵は一発から多くても二発程度。特に急降下型はその攻撃手段の特性上弾数の搭載制限が厳しいようで、基本的には一度の爆撃で直ぐに離脱する傾向が強い………というのが、奴等に対する私の“知識”。そして実際、波状攻撃によって間断なく爆撃を受けているもののさっきまで敵編隊の動きはその事前知識通りのものだった。

『『『─────!!!』』』

《敵編隊、反転!再度急降下!!》

だが、今度の奴等はさっきまでのニ波と比較して大分仕事熱心な部隊らしい。

《編隊は三時方向と四時方向に分散、同時に来ます!》

「【ダスター】は三時方向の編隊に全火力集中!随伴歩兵隊、速やかに戦車の影か屋内に退避!

LAV並びにヒトマル、対空射撃開始!てぇっ!!」

『『────!!?』』

『『『!!?!?!?』』』

《Bingo! Bingo!!》

【カブトガニ】共は爆弾を捨てて身軽になったが、数度の交戦でこっちもいい加減奴等の軌道に目が慣れてくる。

私の放った火線が立て続けに3機を刺し貫き、2号車の射線にも1機が動きを捉えられて黒煙を噴く。M42【ダスター】が放った40x311mmR弾に至っては、編隊のど真ん中で炸裂し7、8機ほどを一撃で粉砕した。

それでも、20機近い機影が火線を縫って肉薄し、怒れるスズメバチの大群の如く羽音を響かせて私達に襲いかかる。

「車内退避!!」

2号車車長に向かって叫びながら、私自身も機銃から手を離し上部ハッチを勢いよく閉める。……強かに指を挟んで涙目になったけれど、幸い操縦士の子も砲手の子も外の気配に全神経を集中して気づかれなかったのは幸いね。

「ぴぃっ!?」

間を置かず外で鳴り響く、機銃の射撃音。現代戦闘機のそれに比べて音量が大きく発射スパンが間延びした、第二次大戦期のメイン兵装である20mm機銃にとてもよく似た銃声に操縦士の子が生まれたての雛鳥のような悲鳴を上げて首を竦める。降り注いだ無数の弾丸が、ヒトマルの装甲で弾けて車体を震わせる。

でも、それだけだ。

「落ち着きなさい、爆弾じゃなきゃ大丈夫よ!」

ヒトマルに限らず、最新鋭戦車は複合装甲が主流。想定される攻撃はAPFSDS弾やHEAT弾といった戦車砲或いはそれに準ずる威力を持つ攻撃であり、それらに耐えて搭乗員が生存できるように設計されている。

幾ら旧式とはいえ対艦戦闘にも用いられた爆弾の直撃ならいざ知らず、たかが機銃に貫かれるような柔な代物ではない。

《敵編隊、上空を通過!》

《追撃しろ!対空射用意!》

無線の報告を耳にして私がキューポラから顔を出したのと、物影やヒトマルの後ろに隠れていた随伴歩兵が一斉に立ち上がったのはほぼ同時。

何十という銃口で光が瞬き、弾丸が空へと駆け上がる。
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