サターニャ「大悪魔になるということ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:39:01.70 ID:GlK7P5xA0
「遂に、遂に大悪魔になったわ!」

「おめでとうございます、サターニャさん!」

全身を跳ね上げ喜びを表現している赤髪の少女と、その姿を嬉しそうに眺める銀髪の少女。
二人がすっかり日も落ちた時刻にも関わらず騒いでいるのには理由がある。

まず大悪魔、という単語について説明しなければならない。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514965141
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:40:34.79 ID:GlK7P5xA0
これは役職として存在するわけではなく、サターニャと呼ばれた赤髪の少女本人が定めた個人的なものに過ぎない。
特に捻りもなく強大な力を有した悪魔が名乗るに値するものらしく、子供の夢のようなものである。

その基準となるラインに届いたと本人が判断したのだからそれはきっと大悪魔なのだろう。

とはいえ子供のようにただただ力を欲していたわけではなく、有事の際に力不足で何もできないのが嫌だからという思いが根幹にあるらしい。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:41:19.89 ID:GlK7P5xA0
自負するだけあり、その力は今や魔界全体で見ても上から数えた方が早いほどの域にある。
元々身体能力など光るものがあり、かつ妙に自らに対しシビアなところがある彼女が強大な力を有するに至ったのはそうおかしいことでは無かったのかもしれない。

また、寝食を共にし、その並々ならぬ努力を側で支え続ける銀髪の少女、ラフィエルの存在も大きなところであった。

「これで堂々と大悪魔を名乗れるわ!」

「ずっと名乗っていた気もしますけど……?」

「う、うるさいわね」

そんな簡単なやり取りも、心の安寧を誘う。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:42:24.68 ID:GlK7P5xA0
……

「では今日は大悪魔サターニャ様生誕祭ということでぱーっと祝いましょう」

「……と思ったのですが材料が尽きかけてますね、買ってきます」

さすがに今回は買いに行かされることは無いらしい。
私が祝ってもらう立場なんだから当然でしょ、と笑みが溢れる。

「神足通でぱぱっと終わらせちゃいますねー」

直後、天使の力が解放される。
彼女の天使としての姿を見る機会はあまりなく、その背中に大きな羽を構えた姿の新鮮さに少し見入ってしまうほどだった。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:43:13.71 ID:GlK7P5xA0
この時彼女の頭上に目を移したことを、どれほど後悔しただろうか。
以前目にした時には、確かにそこに燦然と佇んでいたはずの環。

その環の、昏く、輝きを失った姿を見てしまったのだから。

並べられた、待ち望んでいたたくさんの料理の味もほとんどわからなかった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:44:08.83 ID:GlK7P5xA0
……

次の日すぐに実家を目指し、一人魔界へと降り立った。
残念ながら家族は出払っていたが、気にせず忍び込む。
そして外の明るさと裏腹に、一面に影を落とす小さな書庫へと足を踏み入れる。

「お父様が集めた本……確かこの辺りに……」

幼い頃にもこうして忍び込み、収集された蔵書を読み耽っていたものだ。
そんなことを考えながらすっかり埃を被った一冊の本を手に取った。
前に読んだのはいつだったか? 最低でも一面に分厚い埃が張りなおすだけの時間が開いたのは間違いない。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:45:28.33 ID:GlK7P5xA0
経年劣化で掠れかけた文字の中から目的の情報を見つけ出し、しばし読み耽る。

「……記憶違いだったら良かったのにね」

途端にその本が忌々しいものに感じられ、乱暴に書棚へと突っ込み戻した。
それだけ前のことを正確に覚えているとは限らないだろう、と自らに言い聞かせここまで来たはいいが、呆気なく裏切られることとなったのだから。

強大な悪魔は、近しい天使を堕落させる。
記されたこの一文を前にした今、大悪魔になるという悲願の成就に対しもはや何の喜びも感じない。
これが、大悪魔になるということだった。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:46:47.90 ID:GlK7P5xA0
……

「なによ、肝心な時に役に立たないわね……!」

帰って早々、魔界通販のカタログに端から端、隅から隅まで目を通した。
もしかしたら、悪魔の力を抑える道具なんて都合の良いものがあるかもしれない。そんな淡い希望に心を満たしながら。

しかし結果として適したものが見つかることはなく、またもなまじ希望を抱いていた反動がのしかかるだけであった。

自身の存在が彼女に悪影響を与えるという事実に、焦りと苛立ちだけが募っていく。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:47:37.03 ID:GlK7P5xA0
「……何かお悩みでも?」

「あーいいわ、気にしないで」

心配で堪らず声を掛けてきた彼女にも、苛立ちからぶっきらぼうな返事を返してしまう。

「悩んでいるなんて、サターニャさんらしくないですよ?」

これは彼女なりの激励であり、その言葉に決して馬鹿にする意図はない。過去にもこの言葉を受け、奮い立たされたことは幾度となくある。
普段通りであれば「どういう意味よ!」だなんて返して、「そうそう、その調子です」なんて返されて。二人で笑い合ったりして、全て解決するはずだった。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:48:31.91 ID:GlK7P5xA0
「気にするなって言ってんでしょ!!」

だけど今は、その激励にさえ無性に苛立ちが募って。
差し伸べられた手を、私は勢いよく跳ね除けることとなった。

「っ……!」

部屋を一時的に満たした大音量のせいか、普段通りに事が進まなかったというイレギュラーに対してか、彼女の表情は驚き一色へと染まる。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:49:28.07 ID:GlK7P5xA0
「ご、ごめん……なさい……」

続けてその顔に悲しみが湛えられていく。
違うのに、そんな顔させたかった訳じゃないのに。
謝らなきゃ。こっちこそごめん、と。

「あっ、い、いや……」

強大な悪魔は、近しい天使を堕落させる。
それなら……

謝罪の言葉を発する直前、脳内で悪魔が囁いた。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:51:14.54 ID:GlK7P5xA0
「……」

「さ、サターニャさん……?」

「くだらない」

まるで小動物のように萎縮してしまった彼女に、さらに畳み掛ける。

「何様なの、あんたは」

「天使として優秀だからって、いつも人を見下して」

「優位に立つっていうのはさぞ楽しいでしょうね?」

紡ごう。浮かぶ限りの罵倒を。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:52:04.07 ID:GlK7P5xA0
「ち、違……私そんなつもりでは……反省しますから……」

「あんたがどう思ってるかなんてどうでもいいのよ」

「現に私がこう感じたことに変わりはないんだから」

「反省する? まだ自分がチャンスを貰えると思ってるの?」

「出てって」

選ぼう。より彼女を傷つけるための言葉を。

「二度と顔を見せないで」

彼女を遠ざけるために。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/03(水) 16:53:25.10 ID:GlK7P5xA0
……

足取りさえおぼつかない状態ながら、なお余りある強大な力で小規模の結界を展開する。
今から見せる無様な姿を千里眼に捉えられ、悟られることがないように。

「ぐっ……! う、げぇっ……! っっ……!」

胃の内容物が吐き出される。まるで自らが口にした凄惨極まる罵倒を、罪を。全てを洗い流す懺悔のように。
本心から出た言葉ではないはずなのに。

相手を傷つけるという明確な目的一つの下に選び抜いた言葉達。
それらを大切な相手に叩きつけ、守るべき笑顔を奪ったという現実が、身体の内を侵していく。

恨みを晴らし、虐げたいという本心が存在していなかったと言えるのか、もはや自らを信じることすら出来なかった。
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