【艦これ】戌と兎の百年戦争

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90 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:43:07.66 ID:CTEpQFTU0

朝潮「前から言おうと思ってたわ。如月、あなたは人を煽って楽しいかしら?」

如月「あーら、そーいう朝潮ちゃんこそ、他人に主義主張を押し付けようとして、何様のつもり?」

朝潮「猫を被って愛想よく振る舞っても、性格の悪さが滲み出てるわよ」

如月「頭が固いと大変ねえ、古い価値観しか受け入れられないもの」

朝潮「髪が痛むなら、ワックスでぎちぎちに固定すればいいわ!」

如月「そんなに命令されたいなら、奴隷にでもなっていればいいじゃない!そっくりの奴隷ゲームがあるらしいわね!?ほーら、きゅうりなら畑にもあるわよ!」

91 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:43:53.96 ID:CTEpQFTU0

朝潮「ええい、ここまで話が合わないとは思わなかったわ!貴女は私が一番嫌いなタイプです!」

如月「嫌いなのはお互い様よ。優等生で提督に気にかけてもらえてるからって、調子に乗ってないかしら?」

朝潮「そんな適当なことを言わないで!だから三話で訳も分からず沈められるんですよ!」

如月「なぁんですってぇ!?後ろ姿しか出番が無い人に言われたくないわ!」

朝潮「ああ、あぁ、もう、本当にもう………我慢の限界です……!」

如月「あら、その手は何かしら?来るなら来なさいよ。受けて立つわよ!?」

朝潮「……そう出来るものなら……出来るならば……!」


ーー朝潮が、心の感じた通りに動いてご覧なさいな


朝潮「っ、やってやりますよー!」ボカン!

如月「うぐっ…!やったわねー!?」

92 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:45:04.05 ID:CTEpQFTU0

朝潮「耳年増!」

如月「堅物!」

朝潮「ただでさえ薄い装甲で私に勝てるとでも!?」

如月「生身なら大して変わらないわよ!」

朝潮「このすかぽんたんがぁぁぁっ!!」

如月「分からず屋ぁぁぁ!」

川内「遂に始まったーーーー!!神通の言った通りだ!?」

93 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:45:35.27 ID:CTEpQFTU0

川内「二人ともそこまで!喧嘩やめ、殴り合いやめ!」

朝潮「うがああああっ!!」

如月「なんなのよおおぉぉっ!?」

川内「わ、危ない!なんかこれって、私が危険かも?しょーがないなぁ…手刀、えい、えい!」ドスドス

朝潮「グアッ……」ドサ

如月「うぐ…」ドサ

川内「ふぅ……やー落ち着いた落ち着いた。あっははは!私の勝利だ!」

94 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:46:36.25 ID:CTEpQFTU0

ー執務室ー


朝潮「……」正座

如月「……」正座

提督「……ふむ、なるほど。経緯は理解した」

提督「こうなるまでに止められなかった俺にも責任がある。が、二人にも十分に非があることは、分かっているな?」

朝潮「……はい…申し訳ございません……」

如月「…ごめんなさい……」

提督「大事にならなかったのは僥光だ。それを踏まえて二人には追って罰を与える。当然、勝負は中止。以降の蒸し返しも禁ずる。どうしてもと言うなら、まずは俺に言え。以上だ」

提督「戻って良いぞ」

朝潮「…失礼しました…」

如月「失礼します…」

バタン

95 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:47:02.14 ID:CTEpQFTU0

提督「……はぁ」

提督「……」

提督「で、これはお前が仕組んだものか?」

神通「そうであるとも言えるし、そうでないとも。私は好きにやってもらって構わないと、背中を押しただけです」

提督「その結果がこれか。川内を監視に回したからいち早く気が付けたものの、賢いとは言えないな」

神通「やり方は確かに強引でした。けれど、拳を交わしたほうが、お互いに引っ込みがつくのではないかと」

提督「不良ではあるまいし、喧嘩すれば仲良くなると思ってるのか?」

神通「あの子達は駆逐艦です。どれだけ真面目であっても、その血に宿る闘争本能を押さえつけることは出来ません。なら、解放させてあげたほうがすっきりします」

96 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:48:06.44 ID:CTEpQFTU0

神通「必要なのは、あくまでもお互いが納得のいく結論を出すことです。傷も恥も共有した今なら、自身の想いだけでなく、相手の言い分にも耳を傾けるでしょう」

神通「あとはそこで、妥協点を見付けてもらうまでです。そこからは二人で解決できるでしょう」

提督「……はぁ」

提督「やはりお前は、華の二水戦旗艦だな。必要とあらば強行突破も辞さない、か」

神通「はい。私の方針に歪みはありません」

97 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:48:49.13 ID:CTEpQFTU0

ー食堂ー


朝潮「…………………」

如月「…………………」


はーい、お待ちどうさま。A定食大盛です
サンキュー間宮さん!うはぁ旨そう〜
旨そう、じゃなくて旨いのよ。ほら長波、後がつっかえてるから先行ってよ


朝潮「………………」

如月「………………」

98 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:49:24.49 ID:CTEpQFTU0

朝潮「……………」

如月「……………」


いっちばーん。馬刺とマグロの丼くーださーい!
変な組み合わせね。お腹壊すわよ
だって速く走れそうなんだもん


朝潮「………」

如月「………」

99 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:50:07.74 ID:CTEpQFTU0

朝潮「………」

如月「………」


ねえお姉さま!今度はカレー以外も作ってみますから、試食お願いしますね
ワッザ!?不幸な事故に巡り会うのは懲り懲りデース!
故郷のfish&chipsが懐かしいわね…レストランでも不味いところが多かったわ


朝潮「……」

如月「……」

100 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:51:00.10 ID:CTEpQFTU0

朝潮「…」

朝潮「…」

如月「…」

朝如「「あの…」」

朝潮「…あ、先にどうぞ」

如月「ううん。朝潮ちゃんから先に」

朝潮「えーと…あ、じゃあじゃんけんで決めましょう。最初はグー、じゃんけん」

朝潮「ぽん」パー

如月「」チョキ

如月「……で、どっちから?」

朝潮「しまった、決めてなかったわ……」

101 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:51:48.31 ID:CTEpQFTU0

朝潮「あー、わかりました。私から、言わせてもらいます」

朝潮「個人的に、今回で一番許せなかったのは、如月が意図的に嘘をついたりイタズラをしかけたり…卯月に便乗して楽しんでいるみたいで、それがとても頭にきました」

朝潮「それでつい手が出てしまって……申し訳ありません……」

朝潮「でも、今まではそんな素振りはなかった…睦月型のお姉さんというイメージで、変な問題を起こすなんて信じられなくて……どうして今回、こんなことに?」

如月「……」

如月「船の記憶って、なんでそんなものを受け継がないといけないのかしらね」

朝潮「え?」

如月「ほんと、イヤよねぇ。ふとした瞬間に後悔だけが心に溜まるのよ。誰をも守れず、真っ先に沈んだ自分の不甲斐なさが悔しくて……もどかしくて……」

朝潮「前世の記憶…というやつね」

如月「えぇ。忘れたくても、忘れられないの」

102 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:52:42.53 ID:CTEpQFTU0

如月「駆逐艦・如月は、睦月型の中で最初に沈んだわ。それどころかあの戦いの中に於いても、真っ先に沈んで……その記憶がこびりついて、時々吐きそうになるの」

如月「けれど今は艦娘として、睦月型の皆と一緒に出撃ができている。こんなに嬉しいことはないわ。だから何があっても、私はあの子達を守りたいの」

如月「絶対に、守り抜きたい」

朝潮「……分かりました。そういうことだったんですね」ハァ

朝潮「…………むむぅ……」

103 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:53:36.61 ID:CTEpQFTU0

如月「冷静に考えてみれば、確かにうーちゃんが悪いっていうのも、あるわ。けど、どうしても認めたくなくて……ごめんなさい……」

朝潮「いや、いいです。これ以上は言わなくても」

朝潮「………うむむむ…」

朝潮「……ぐぬぬぅ〜」

朝潮「………うーん…」

朝潮「………わかり、ました」

朝潮「私も強く出過ぎたみたいです。もう少しだけ柔軟に考えられるように、努力します…」

如月「……えぇ。ありがとう」

104 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:54:35.10 ID:CTEpQFTU0

朝潮「ただ、やっぱり卯月には如月からも言ってもらいたいです。やっぱり嘘ばかりをつくのは、卯月の名誉にも関わるわ」

如月「そうね。分かったわ」

朝潮「とりあえず今回は、これで手打ち、ですね」

如月「そうね。今後は私も、もう少し身の振り方を丁寧にするわ」

朝潮「はい……」

105 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:55:17.54 ID:CTEpQFTU0

ー鎮守府一階 渡り廊下ー


朝潮「はぁ〜……どっと疲れたわ…」

朝潮「…………ん?」


かご「」ポツネン


朝潮「…………何故廊下にかごが…鳳翔さんが落としたのかしら?届けないと」ヒョイ


パンパラパンパンパーーーン!!


朝潮「っ!!?」

卯月「朝潮、お誕生日おめでとぴょーーーん♪」

朝潮「んなァ!?」

106 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:55:48.32 ID:CTEpQFTU0

卯月「わーー、パチパチパチ〜〜♪」

朝潮「は、はぁ?なんなんですか、いったい」

卯月「だって、今日は朝潮の誕生日ぴょーーん!」

朝潮「私の誕生日はとっくの昔に過ぎてますが?」

卯月「そんなの関係ないぴょーーん!うーちゃんはお祝いしたいときにくす玉を鳴らすんだぴょーん♪」

卯月「あさしおぉ、ぅぅぉお誕生日ぃぃぃ、おぉぉめでぇとぉぉぉぉぉっ!!」

朝潮「………………」

107 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:56:36.58 ID:CTEpQFTU0

朝潮(何かしら……全然嬉しくないわ……)

朝潮(ていうか、紙吹雪を誰が片付けると思っているのですか。今までの慣例上、この子が片付けるとは思えないわ)

朝潮(もしかしてこの子、私に嫌がらせをするためにこんなことを……考えすぎかしら……)

朝潮(………………)

朝潮(…………)

朝潮(……)

108 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:57:28.07 ID:CTEpQFTU0

ー執務室ー


青葉「結局勝負は持ち越しですか〜〜、良い記事が書けると思ったのにな〜」

神通「喧嘩に発展した以上は仕方ありません。看過すべきは心の衝突、制裁すべきは拳の衝突。責任者として、これ以上の揉め事はお預けです」

提督「よく言うな。自分で衝突するように仕向けておいて」

神通「悪役なら幾らでも買って出ますよ」

神通「それに、結果として、朝潮と如月両名のわだかまりは、解けたようです。報告書やその後の経緯を見ても明らかです」

提督「その二人は、確かにな」

提督「だが、根本的なところで解決はしていない。朝潮と卯月は……以前よりも剣呑な雰囲気が感じられる。主に朝潮からだが」

提督「下手にこちらから刺激する必要はないが、艦隊の士気に関わる以上は放置もできん」

109 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:58:46.27 ID:CTEpQFTU0

提督「うーーむ。難しいものだな。上手い解決方法が思い付かん。女の子の気持ちは複雑だ」

青葉「お、提督乙女心分からず、いたいけな少女を泣かす、と」

提督「記事にしたら減俸だ」

青葉「えーー!?メディア弾圧ですかぁ!きょーはくですよ、きょーはく!」

提督「こっちは名誉毀損だ、ばーか」

青葉「バカって言った!提督のばーか!バーガーキング!」

提督「誰の顔がバーガーキング並みに油っぽいってぇ!?」

神通「また始まりましたね…」

神通「それにしても、何か方法を模索しないといけませんね……一番いいのは……」

110 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 22:59:31.94 ID:CTEpQFTU0

コンコン


神通「はーい。どうぞ」

大淀「失礼します」ガチャ

大淀「提督。海の向こうからクリスマスカードです。遭難した後、救難信号ですね」

提督「こんな荒れた天候で船を出さなくても…仕方ない。快速の艦隊を組んで出撃させる」

提督「というか、何故電話で伝えんのだ」

大淀「いえ、それがですね〜。休暇や疲労回復の観点から編成してみたのですが、一つ問題が………」ピラ

提督「?」

提督「…………あ」

大淀「どうします?もう少しだけ待ってもらいますか」

提督「……いや、朝潮も公私混同したりはしない。問題はないだろう」

111 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:02:33.37 ID:CTEpQFTU0
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


川内「というわけで、迷子の子猫ちゃんを助けに行くよ!戌年らしく、警官はウチらだ!」

川内「さぁ、ばっつびょーー!!」

朝潮「……」

卯月「はーーい♪うーちゃん今年はぬーちゃんになりまぁす!ウッソでぇす!」

朝潮「……何故、この子と一緒に……いや気にしてはダメ。司令官のご期待を裏切るわけには…」

荒潮「あら朝潮ちゃん、だいじょうぶぅ?なんだか苦虫を噛んだような顔してるわぁ」

朝潮「えぇ、大丈夫。大丈夫よ」

川内「あーはー。じゃあ行くよー!」
112 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:03:37.59 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


川内「大時化だぁぁぁぁぁっ!!あははははぶぎゃぶるぼふっ!?」バシャァァン

朝潮「こ、こんなに天気が悪くなるなんて…っ!」

荒潮「や〜ねぇ。髪の毛がワカメだわぁ」

卯月「少しくらい任務が楽でもバチはあたらなぶぎゃっ!?」ザッッパーーン!

113 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:04:09.76 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「不味いです…無線の音が全く聞こえないわ。全員がばらばらにはぐれちゃう!」

???「た…たす………!海水が……ぎゃん!」

朝潮「誰か……いるの?ええい、手を繋いだほうが安全だわ!」パシ

???「ふぇ?あ、朝潮……危ない……」

朝潮「いいから!」

朝潮「このまま近くの上陸可能な島まで突っ切ります!転ばないようついてきて!」

???「あ、ありがとう……ぴょん」

114 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:04:46.15 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


神通「状況は?」

大淀「川内さん以下四名は、無事に日本大使館のある国までたどり着きました」

大淀「ですが、朝潮さんと卯月さんが、依然としてまだ……」

提督「急いで人員を呼び戻し、捜索隊を編成する。もちろん嵐が収まってからだが…」

提督「くそ!こんなに天候が荒れるとは…なんたる不覚だ…」

神通「落ち着いてください提督。イライラしても事態は好転しません」

提督「分かってる!分かってるが…何も出来ない自分がもどかしい…」

青葉「にしても。よりにもよってその二人が消息不明とは、見えない力が働いているようですねえ」

115 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:05:33.64 ID:CTEpQFTU0

ー群島 洞窟内部ー


焚き火「」パチパチ

朝潮「どうしてよりによって、貴女と二人きりなんですかあああぁぁぁっ!!?」

卯月「朝潮ありがとぴょーん!おかげで助かったぴょーん!ぷっぷくぷぅ〜♪」

朝潮「抱きつかないでください!もう、余計な体力は使わないように!」

卯月「じゃあ、せっかくだからお話するぴょん♪楽しい気分になれば心持爽快ぴょーん」

朝潮「状況が飲み込めているのですか?私達は今、遭難しているのよ。呑気にしている暇はありません」

116 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:06:02.52 ID:CTEpQFTU0

卯月「でも、だからって他にやることがないぴょん」

朝潮「都合よく洞窟があったとはいえ、座して救助を待っているのでは忍びないわ。出来ることを探しましょう」

卯月「え〜?でも、外はまだ大時化だぴょん」

朝潮「だからこそ、模索するのよ。あらゆることを想定するの。救援が遅れたら、食料はどうするの。水は最低限確保しないと。それに、ここが深海棲艦のねぐらかもわかりません」

朝潮「生きるとはそういうことよ。鎮守府ならまだしも、ここは海のど真ん中。警戒してし過ぎるということはないわ。寝首をかかれぬよう、全てに対応するの」

卯月「えぇ〜…面倒くさ〜い!」

朝潮「わがまま言わないの!」

卯月「ぶーー…」

117 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:06:44.93 ID:CTEpQFTU0

卯月「朝潮って、いつもそんなに眉間にシワをよせてるぴょん?」

朝潮「そんなつもりはないけれど。でも、あなたみたいな問題児を見るとストレスが貯まるのは、間違いないわ」

卯月「うーちゃんは、皆の癒し系だぴょーん。だから何時も笑顔でいるんだぴょん!ぴょんぴょん!」

朝潮「自分で言いますか…」

卯月「うーちゃんとしては、朝潮はもっと気楽に考えるべきだと思うぴょん」

朝潮「皆がみんな、卯月みたいに楽観的だと破滅してしまうわ」

卯月「みんながうさみみ付けてたら可愛いぴょん!朝潮も絶対似合うぴょん!」

朝潮「いりません!」

118 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:07:11.25 ID:CTEpQFTU0

朝潮「はぁ…」

朝潮「分かったわ。じゃあ卯月は、そこの入り口を見張ってて。私は洞窟の奥を探索するから」

卯月「えぇ〜、一緒に行くぴょん!」

朝潮「火種だってあんまりないの。風で消えないように見張りが要るのよ」

卯月「うゆぅ〜…一人でいいぴょん?奥はとっても暗いぴょん」

朝潮「夜目はききます。それに、流木で松明も作ったから問題ないわ」

朝潮「それじゃ。あ、擬装の温度が上がらないようにしてちょうだい」

卯月「ぷっぷくぷ〜……」

119 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:07:44.03 ID:CTEpQFTU0

ー洞窟 奥ー


ピチョン…ピチョン…


朝潮「まったく、勝手にも程があるわ」

朝潮「どうしても、彼女とは分かり合える気がしないわね。まさに水と油の関係、と言ったところかしら。必要以上に言葉を交わすと、かえってこじれるわね」

朝潮「…でも、どうしてあの子は私に関わろうとしてくるのかしら。この前のくす玉といい」

120 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:09:13.70 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「錆びたフォーク…鉄筋…厚手のビニール。意外とガラクタが多いわ。補食道具もなんとか作れそう」


ピチョン…ピチョン…


朝潮「水の確保もなんとかなりそうね。にしても、まるで人が住んでいたような充実具合…偶然かしら」

121 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:10:10.58 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「…舟があるわ。ほとんど朽ちてるけど…一人乗りかしら」

朝潮「燃料も無駄に出来ないし、補修して二人乗り込むのは…無理かしら。さすがにボロいわ」


ピチョン…ピチョン…


朝潮「……それにしても、水滴の音が頭に響くわね…」

122 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:10:49.09 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「魚の骨が散乱してる。きれいな山も出来ているわね。やっぱり誰かいたんだわ」


ピチョン…


朝潮「まさか今も住んでるなんて…ないわよね。さすがに」

123 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:11:55.53 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「布…丁度大人一人が隠れるくらいのテントが張られている…」

朝潮「中に何かあるかしら…」ソー…


ペラ…


朝潮「………」

朝潮「ーーーー」

朝潮「〜〜〜〜っっ」

124 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:12:35.00 ID:CTEpQFTU0






キャーーーーーー……





125 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:13:13.67 ID:CTEpQFTU0

ー洞窟 出発地点ー


卯月「お、帰ってきたぴょーん」

朝潮「……」ズンズンズンズン

卯月「え、ちょ。無言で早歩きでどうしたぴょ…」


ガシィッ!


卯月「ふぇっ?」

朝潮「……」ブルブル…

卯月「朝潮?どうしたぴょん」

朝潮「…ほ……が…」ギュウゥ

卯月「……何か、あったぴょん?」

朝潮「ほ、ねが…人の、ほねが…ありました…」

126 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:14:36.29 ID:CTEpQFTU0

卯月「ほっ!?……じっくり見ちゃったぴょん?」

朝潮「」コクリ

卯月「あー、それは災難だったぴょん」

卯月「きっと、この洞窟はお宝が隠されているぴょん!でもお宝はとんでもない罠で守られていて、その罠に引っ掛かって死んじゃったぴょん!よくある話ぴょん!」

朝潮「…眠るように静かに横たわっていました。おそらく、病気で動けなかったのでしょう…」

卯月「新種のウィルスだぴょん!人の体を養分にして、一瞬で死ぬぴょん。洞窟内の草に寄生しているぴょん!」

朝潮「…一定期間は、元気に生活していた跡がありました」

卯月「あれ」

127 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:15:26.07 ID:CTEpQFTU0

朝潮「…ふふ…」

朝潮「何を意味の分からない嘘をついているのやら…怒る気にもなりません…」

卯月「あ、笑ったぴょーん♪」

朝潮「あなたの言葉がしょーもなさすぎただけです。失笑ですよ」

卯月「それでも、笑ったことに違いないぴょーん」

朝潮「……」

朝潮「…まあいいわ」

128 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:16:08.99 ID:CTEpQFTU0

卯月「それで、他に何かあったぴょん?」

朝潮「ガラクタはそれなりに。刃物もあったし、生き物さえ手に入れば…」


グゥ〜〜〜


朝潮「…お腹が空いたわ…」

卯月「うーちゃんもお腹へったぴょん…レーション、食べてもいーい?」

朝潮「駄目よ。長期保存が出来るんだから、本当にギリギリのタイミングで食べないと」

129 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:16:39.11 ID:CTEpQFTU0

卯月「うゆぅ〜…あ。あそこ…」

朝潮「え?なに…」クルッ

蛇「」ペロペロペロペロ

朝潮「……」

卯月「……」

朝潮「こういう時、映画ではよく蛇を食べているのを見たわ」

卯月「でも、女の子がやることじゃないぴょん」

朝潮「飢え死にするわよ」

卯月「それはイヤぴょん」

朝潮「貴重なたんぱく質だもの。逃す手はないわ」

卯月「毒とか大丈夫ぴょん?」

朝潮「あれは問題ないわ」

蛇「」ペロペロペロペロ

卯月「……」

朝潮「……」

130 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:17:26.50 ID:CTEpQFTU0

バシンバシン!

ソッチイッタピヨン!

ニゲルナァーー!!

シャアアアアアーッッ!

バシン!!

131 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:17:57.32 ID:CTEpQFTU0

〜二十分後〜


焚き火「」パチパチ…

卯月「海水で味付けとか、なかなかやるぴょん」モグモグ

朝潮「ミネラルも摂取できるから、一石二鳥よ」モグモグ

卯月「蛇って初めて食べたけど…鶏肉みたいぴょん。悪くないぴょん♪」

朝潮「初心者は、むやみやたらととっちゃ駄目よ」

卯月「わかってるぴょーん」

132 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:18:24.63 ID:CTEpQFTU0

朝潮「もぐもぐ……卯月」

卯月「?」

朝潮「その…さっきはありがとう。気が楽になったわ」

卯月「そんなのいいんだぴょーん。うーちゃんは皆を笑顔にするのがお仕事なんだから、当然ぴょん!」

朝潮「那珂さんみたいね」

卯月「うーちゃんは個別に笑顔にしていくんだぴょん。そこが違うぴょん」

朝潮「でも、だからって不必要な嘘は許さないわ」

卯月「不必要じゃないぴょん」

朝潮「嘘は、ダメです。さっきのは見逃します」

133 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:19:14.25 ID:CTEpQFTU0

卯月「はぁ〜〜…落ち着いたぴょん」

朝潮「少し休憩して、その後に探索を再開するわ」

卯月「今度はうーちゃんが行くぴょん」

朝潮「いいわよ。けれど、くれぐれもテントの布は捲らないこと。仏様がいるわ」

卯月「夢見る冒険者の成れの果てだぴょん。丁寧におまつりするぴょん」

朝潮「私は責任持たないわ」

134 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:19:48.28 ID:CTEpQFTU0




ピョーーーーーンッッ!!?




135 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:20:23.57 ID:CTEpQFTU0

〜十分後〜


朝潮「……」チラ

卯月「うーちゃんスマーイル♪…いやちょっと違うぴょん。キャピピィッ♪…もっとなんかある筈ぴょん」

朝潮「……」

朝潮(本当に動じた気配が無いわね。いつ救助が来るかも分からない、この状況で)

朝潮(ほかの皆は、大丈夫かしら。いや、きっと大丈夫よ。誰もが航行能力に長けているもの。これくらいの緊急事態、乗り越えられるわ)

朝潮「(むしろ、この子の腕を掴んでてよかったわ。卯月ったら、一人になったら絶対に勝手な行動をとるもの。私がしっかりサポートしないと)」

136 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:21:00.15 ID:CTEpQFTU0

朝潮「……」


ーーうーちゃんはぁ、人を傷つけるような嘘は絶対に言わないんだぴょ〜ん♪


朝潮「……」

朝潮(バカバカしいわ。嘘は嘘よ。いったいどんな差異があると言うの。だいたい、嘘をついてメリットなんてあるのかしら)

卯月「弥生…怒ってないです…ホントです…うっそぴょ〜ん♪弥生にはちゃんと羊羮用意してあるぴょーん!ぷっぷくぷ〜、シミュレーションは完ぺきぴょん」

朝潮「…試してみようかしら」ボソッ

137 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:21:29.15 ID:CTEpQFTU0

朝潮「あ、洞窟の奥からオオカミが」

卯月「ぴょおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!?ぴょっ!うにゃあああぁぁっっ!?」

卯月「ど、どこぴょん?どこにいるぴょん!食べちゃいやぴょ〜ん!!びえぇぇ〜っ!」

朝潮「嘘よ。オオカミなんていないわ」

卯月「……」

卯月「朝潮おおおおおぉぉぉっ!!驚いたぴょん!心臓に悪いぴょん!」

朝潮「嘘をついたのは謝るわ。けど、これはあなたがいつもしていることよ。少しは思い知ったんじゃない?」

卯月「だ、だからぁ!うーちゃんのはそんな嘘じゃないぴょん!」

朝潮「何を言っているの。嘘は嘘よ」

卯月「ぶ〜〜…全然分かってないぴょん…」

138 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:22:20.62 ID:CTEpQFTU0

〜十分後〜


朝潮「……」

卯月「……」

卯月「あ、外でバンドウイルカがうち上がっているぴょん!」

朝潮「…ん?」

朝潮「え、イルカ?うそ、どこ?どこにいるのよ」キョロキョロ

卯月「うっそぴょ〜ん♪せいぜい小魚がいるぴょん!あとで拾うぴょん!」

朝潮「…う、卯月!なによ、さっきの仕返しのつもりかしら?」

卯月「そんな意地悪なこと、うーちゃんはしないぴょん」

朝潮「じゃあなんなの」

卯月「さっきの朝潮の嘘とぉ、うーちゃんの嘘が違うものだって証明してやったぴょん」

朝潮「なっ…全然納得できないわ!」

139 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:23:20.48 ID:CTEpQFTU0

卯月「オオカミがいたなんて言われたら、誰でも驚くぴょん。オオカミは危ない奴だから、誰でも危機感を覚えるぴょん?」

朝潮「…そうね」

卯月「でも、イルカがいたって聞いたら、皆見てみたいって思うぴょん。水族館の人気者だぴょん。ここは陸の上だから、イルカが攻撃出来ないことは誰でも知ってるぴょん」

朝潮「……そうね」

卯月「オオカミはいたらイヤだけど、イルカはいても問題ない」

卯月「だから、うーちゃんと朝潮の嘘は、ぜーんぜん違うんだぴょ〜ん」

朝潮「……」

卯月「現に朝潮も、さっきイルカの姿を探していたぴょん。ちょっと見てみたいとも思ったはずだぴょん?」

140 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:23:56.28 ID:CTEpQFTU0

朝潮「……」

朝潮「(そんな、まさか…)」

朝潮「(嘘はだめなのに…許されるべきではないのに…)」

朝潮「(卯月の言葉に反論できない…すっと胸に落ちる…どうして)」

朝潮「……」

朝潮「私が…間違っていたとでも…?」

朝潮「嘘は…ダメに決まってる…」

卯月「違うぴょん。朝潮は間違ってないぴょん。でも、うーちゃんだって、そんなに間違ったことはしてないぴょん」

141 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:24:30.61 ID:CTEpQFTU0

卯月「真っ赤な嘘って言葉、聞いたことあるはずぴょん。人を傷付けるのが真っ赤なら、人を傷付けない優しい嘘が、真っ白な嘘ぴょん」

卯月「うーちゃんはぁ、真っ白な嘘を心掛けているぴょん♪朝潮もやってみるといいぴょん。楽しいぴょーん!」

朝潮「別に、嘘をつくつもりなんてないけれど…」

朝潮「…真っ赤な嘘…真っ白な嘘…」

142 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:25:02.18 ID:CTEpQFTU0

朝潮「(本当に、そんなものが…?)」

朝潮「(…いや、違う!そんなわけないわ!)」ブンブン

朝潮「(この子の口車に乗っては駄目。でまかせを言っているに決まってるわ)」

朝潮「(でたらめ…嘘八百…ホラよ…)」

朝潮「……」

143 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:25:41.74 ID:CTEpQFTU0

ー島嶼 沿岸部ー


朝潮「すっかり低気圧がどこかにいったわね」

卯月「海風が気持ちいいぴょ〜ん!」

朝潮「ところで卯月。あなたの艤装類は嵐でやられなかった?」

卯月「あうぅ〜…主機の調子がよくないぴょん…ほとんどスピードは出ないぴょん…」

朝潮「私はなんとか大丈夫みたい。けれど、魚雷発射菅が片方ダメになってるわね…四発しか撃てない。あまり下手な行動はとらないほうがいいみたい」

卯月「うわぁぁ〜…しばらく我慢するしかないっぴょん…」

朝潮「そう…ね。……っ!!」

朝潮「あそこ…沖!タンカーだわ」

卯月「えっ!?」

144 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:26:46.84 ID:CTEpQFTU0

卯月「ホントだ!船だぴょん!明かりがついてるぴょん!」

卯月「おおぉぉーーーい!!ここだぴょーーーん!おおぉーーい!」

朝潮「かなり離れているわね…声は届かないわ」

卯月「じゃあ、探照灯を振り回すぴょん!」ピカーー

朝潮「わ、私も…」ピカーー

卯月「こっちだぴょーん!」グルグル…

朝潮「……」グルグル…

卯月「おーい…」グルグル…

朝潮「……無理、かしらね」

145 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:27:13.54 ID:CTEpQFTU0

卯月「あぁぁーー、希望がどんどん離れていくぴょん…」

朝潮「仕方がないわ。当初の予定通り、鎮守府の皆の救助を待ちましょう」

卯月「ううぅ…来てくれるかなぁ…」

朝潮「来るに決まっているわ。信じて待ちましょう」

146 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:27:50.42 ID:CTEpQFTU0

ー三十分後ー


朝潮「……!」

朝潮「また明かりが…」

卯月「やったぴょん!もしかしてここ、輸送航路だぴょん?」

朝潮「可能性はあるわね。生存の確率はぐっと高まるわ」

朝潮「…いや待って。あの船は、船団は、もしかして!?」

朝潮「深海棲艦だわ!」

卯月「えっ?こんな時に!?」

147 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:28:31.45 ID:CTEpQFTU0

朝潮「数は、およそ六。速度を考えると、水雷戦隊編成かしら」

朝潮「おそらく十分後には、この辺りを通るわ」

卯月「ま、まさか…うーちゃん達がここにいること、バレてるぴょん!?」

朝潮「……それはないわ。方向が違うもの」

朝潮「おそらく、通商破壊ね。さっきのタンカーを落とすつもりだわ」

卯月「あのタンカー、あんまり速度出てなかったぴょん!」

朝潮「えぇ。だから、間違いなくやられるわ」

148 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:29:00.66 ID:CTEpQFTU0

卯月「ど、ど、どうするぴょん!?」

朝潮「……」

朝潮「もちろん、戦うのよ」

卯月「えっ!?」

朝潮「私達は艦娘よ。海の脅威から、人々を守るのが仕事。ここでその存在意義を示さなくて、どうするの!」

卯月「ま、マジぴょん?」

朝潮「マジです」

卯月「無理ぴょん!一個隊編成の敵に、二人でなんて敵うはずないぴょん!戦艦や空母ならまだしも!」

朝潮「でも!私達が行かなければ、あのタンカーの船員は全員海の底よ!」

卯月「そんなの分かってるぴょん!」

149 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:29:39.20 ID:CTEpQFTU0

卯月「うーちゃんだって、助けたいぴょん!でも、装備が時化でやられちゃって…格好の的ぴょん…」

朝潮「あっ…そうだったわね…」

卯月「戦って死ぬのは、仕方ないぴょん…でも、手も足も出せずに終わるのは、イヤぴょん!」

朝潮「…」

150 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:30:19.71 ID:CTEpQFTU0

朝潮「分かったわ。ならば、私が一人で食い止める」

卯月「そ、それこそ無理ぴょん!」

朝潮「無理じゃないわ。少なくともフラグシップ級はいない。私達の砲も魚雷も、通るはずよ」

卯月「い…イヤぴょん!朝潮がやられちゃうぴょん!」

朝潮「大丈夫。必ず生きて帰ってみせるわ」

卯月「信じられないぴょん!」

151 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:30:48.10 ID:CTEpQFTU0

卯月「あ、朝潮!お願いだから、行っちゃだめぴょん!朝潮がいなくなるの、うーちゃんはとっても悲しいぴょん!ほかの皆も同じはずぴょん!」

朝潮「私は絶対に、約束を守るわ」

卯月「だめだぴょん…そんなのぉ…イヤだぴょん…」

朝潮「…卯月?泣いてるの?」

卯月「だってぇ…朝潮と二度と会えないなんて、そんなの絶対にイヤなんだぴょん!」

朝潮「……」

卯月「うぅぅ……ぐすっ…」

朝潮「……どうして」

152 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:31:56.85 ID:CTEpQFTU0

朝潮「どうして、そんなに私のことを心配してくれるの?あんなに私に嫌がらせをしてきたのに…」

卯月「そ、そんなつもりないぴょん!うーちゃんは朝潮と仲良くしたいぴょん!」

朝潮「嘘です。信じられません!さんざんに人をバカにしておいて」

卯月「ホントだぴょーん!これだけは絶対に、嘘じゃないぴょん!」

朝潮「あんなに私を挑発していたのに?」

卯月「うーちゃんなりの親愛表現だぴょん…でも、朝潮がイヤだったなら、やめる…」

卯月「うーちゃんは…わ、私は…朝潮と仲良くしたかったの…だから、気を引こうとして、いつか私のこと、分かってくれるって勝手に思ってて…」

卯月「朝潮がイヤだったなら、謝るから!もう迷惑かけないから!だから、死なないで!向こうに行かないで!一緒に帰ろうよ!」

卯月「お願い…お願いだからぁ…」

朝潮「……」

153 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:32:32.28 ID:CTEpQFTU0

朝潮「ぶっ!?くく…あははははっ!」

卯月「なぁ!?どうして笑うの!」

朝潮「だ、だって!仕方ないわ。あなたが…ぷぷ…急に神妙な顔付きで、口調も改まって、仲良くしたかっただなんて言うんだもの。それも、こんな土壇場で!」

朝潮「卯月って、そんな顔も出来るのね。知らなかったわ」

卯月「こ、こっちは真剣に話してるのに!」

朝潮「分かってるわよ。それまでイタズラなんだったら、あなたとは一生仲良くできないところだわ」

154 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:33:09.55 ID:CTEpQFTU0

朝潮「はぁー…あぁ可笑しかった…ギャップってすごいわね」

卯月「うぅ…」

朝潮「はは…まったく、あなたはバカですね。別に私は、死ぬために海上へと赴くわけではないのですよ」

朝潮「勝って、帰ります。あなたの元へ」

卯月「……なら、私も戦う!」

朝潮「ダメです。まともに動かない装備で、何ができるというの」

卯月「でも!」

朝潮「卯月。聞きなさい」

155 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:34:09.10 ID:CTEpQFTU0

朝潮「私は、あなたが嫌いだった。どれだけ言っても、イタズラも嘘もやめない。見ていてイライラしたわ。どうして私の言葉を無視するんだろうって、嘆いたわ」

朝潮「仲良くなんて、到底出来る気がしない。私の価値観とあまりにかけ離れているもの。仕方ないわ」

卯月「あぅ…絶交宣言みたい…」

朝潮「そう。これは絶交宣言よ。今までの私の鬱憤を込めた、特大の本音。あなたが嘘で私を攻撃するならば、私は本音で勝負するわ」

朝潮「私は本音を隠さない。だから、今感じている気持ちをぶつける」

朝潮「私は、卯月。あなたと話をしなければならないと思っているわ」

卯月「…え?」

朝潮「嘘だらけのあなたが、さっき私に本音をぶつけてくれた。嬉しかったわ。まだまだあなたの本音を聞かなければならないと、私は思う」

156 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:34:44.25 ID:CTEpQFTU0

朝潮「生きて帰って、お話をしましょう。なんでもぶちまけるがいいわ。本音をぶつけるのだから、それはそれは盛り上がるでしょう」

朝潮「私は嘘が嫌い。だから、そんなかしこまった口調ではなく、いつも通りの話し方でかかってきなさい。あなたの全てをさらけ出しなさい」

朝潮「そうすれば、私はあなたと仲良くなれる気がする」

朝潮「どうかしら?」

卯月「……」

157 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:35:17.88 ID:CTEpQFTU0

卯月「…っ!」ゴシゴシ

卯月「もちろん受けて立つっぴょん!うーちゃんは本音でもスゴいんだぴょん!絶対に朝潮と、友達になるんだぴょん!」

朝潮「ふふ。決まりね」

朝潮「それじゃあ、約束。必ず生きて帰ってくるわ」

卯月「うん♪」

卯月「それなら朝潮も、うーちゃんと約束してほしいぴょん!」

朝潮「なにを?」

卯月「うーちゃんが立てた作戦に、乗ってほしいぴょん!」

158 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:36:33.19 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


卯月「っていう感じだぴょん!」

朝潮「…でもそれは、あなたにリスクが大きい。気が付かれたら、全てパアよ」

卯月「大丈夫だぴょん!朝潮が戦うのに、うーちゃんが何もしないわけにはいかないぴょん!どーんと任せるぴょん!」

朝潮「大丈夫の根拠になってないです」

朝潮「……分かったわ。のみます。お互いの約束を、きちんと果たすことに努めましょう」

卯月「オーライだぴょん!!」

朝潮「会敵までおよそ十分。その間に戦略を練るわよ」

卯月「りょーかい!」

159 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:37:07.17 ID:CTEpQFTU0

〜十分後〜


朝潮「…来たわ。合図は私がとる」

卯月「ほ、本当に大丈夫ぴょん…?やっぱり不安だぴょん…」

朝潮「任せなさい。私を誰だと思っているの」

朝潮「栄えある駆逐艦娘にして、朝潮型一番艦、その朝潮よ。たとえ大艦隊が相手でも、交わした約束は守って見せる」

朝潮「あなたもよ。卯月。自信を持ちなさいな」

卯月「…っ。わかったぴょん!!」

160 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:37:42.31 ID:CTEpQFTU0




朝潮「…………抜錨、突撃するわ!」




161 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:38:50.34 ID:CTEpQFTU0
ここから地の文ありです。
162 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:39:41.83 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


闇夜の海原。
着飾るは鉄塊と波飛沫。
漆黒のステージを照らし出すのは、真円の望月。

一匹の忠実なる猛犬が、開演中の舞台へと雪崩れ込む。

突発的に現れた敵の姿に、深海棲艦は対応しきれなかった。猛然と突き進む人型のそれは、機関が壊れるほどの速度を叩き出している。真っ直ぐに二体の駆逐艦イ級目掛け、その手に掴む連装砲の照準を合わせる。

「沈めッ!!」

一度目の砲撃。鉄の塊は一体のイ級に致命傷を与え、もう一体を完全に沈黙させた。血路を開いた彼女は、そのまま火を噴き上げるイ級の横をすり抜け、残敵四体に自らの姿を悠然と曝しあげる。

163 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:40:13.56 ID:CTEpQFTU0

朝潮型駆逐艦の一番艦。朝潮。誰よりも忠義を重んじる彼女は、真っ直ぐに、愚直に前を捉え続け、敵に威圧をのし掛からせる。

旗艦と思しき重巡洋艦リ級が叫んだ。奴を食いちぎれと、獣のような雄叫びを空に響かせる。呼応するように他三体も空気を震わせ、朝潮に死の花吹雪をもたらす。

最初に動いたのは駆逐ロ級だった。魚のような体をうねらせ、口から飛び出た砲身で朝潮を狙い撃つ。解き放たれた砲弾は頭を軌道に捉えるが、咄嗟に朝潮は股割りを行い、可能な限り体勢を低くした。
数秒の後、遠くで水柱が上がる。

164 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:41:15.99 ID:CTEpQFTU0

「…っ!」

敵の追随は止まらない。続いて軽巡洋艦ニ級が朝潮の相手をつとめる。未だ体勢を低くし大きな動きがとれない朝潮目掛け、朝潮のよりも一回り大きな砲を撃った。
朝潮は爆雷入りの腰鞄をニ級に投げつけた。砲弾は布を貫き火薬と反応する。朝潮とニ級の間で大きな綾辻模様の爆炎が生まれ、砲撃を防いだ。
代わりに強い衝撃波が朝潮を襲った。

「バランスが……!がほごぼッ!!?」

直近の爆炎の衝撃波にはさすがに耐えられなかった。糸で引かれるように側頭部から海に突っ込み減速する。海面をぐるぐるとローリングし、胃の中身を危うく吐き出しそうになりながらも、なんとか慣性を利用して立ち上がる。

165 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:41:49.40 ID:CTEpQFTU0

「グオオオオオッッ!!」

後ろから怒声が聞こえた。リ級が朝潮のバックを陣取り砲撃を浴びせる。避けきれないと判断した朝潮は、即座に右主機を強制停止させ、わざとバランスを崩す。腹へと風穴を開けるために放たれた砲弾は、しかし今度は近くの水面で巨大な水柱をあげた。

「うわああぁっ!?…くっ!!」

悟る。今ので右主機が完全にイカれた。航行能力が半減した。元々嵐で軋んでいたのが、ここに来て一気に爆発したようだ。
快速こそが取り柄の駆逐艦娘にとって、これは足をもぎ取られたも同義。訓練での実績は、五体満足だからこそ生かせるというのに。

166 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:42:15.63 ID:CTEpQFTU0

朝潮は一瞬だけ周囲を見渡す。
向かって十時の方向に残敵ニ。八時に一。五時に一。

やはり、二人で攻めるべきだったか。後悔先に立たず。一時間前の自分を殴りたい。でも、愚痴っていても始まらない。重巡洋艦の装甲を食い破るには、朝潮の12.7cm連装砲では物足りないから。魚雷も限りがある。

確実に仕留めるため、作戦は必要だった。

167 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:43:08.27 ID:CTEpQFTU0

肩で息をしながら、横を見据える。
駆逐艦ハ級がこちらに不気味な目を向けていた。死んだ魚みたいな目を憤怒で揺らし、速度の低下した獲物目掛けて鉄の雨を浴びせる。

朝潮はその光景を、まるでスローモーションでも見ているかのような気持ちで眺めた。
不思議な感覚だった。動こうと思えば動ける。撃とうと思えば撃てる。けれど朝潮は、ゆっくりと迫る砲弾を見つめ続ける。

168 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:43:42.00 ID:CTEpQFTU0

その時脳裏に浮かんだのは、これまでの鎮守府での想い出の数々。仲間との、様々な場面でのやり取り。そしてその中には、仲睦まじく喋る卯月の顔もあった。
これは走馬灯か。それとも、シナプスだかニューロンだかの脳内物質がオーバーヒートを起こして、余計な情報を引っ張り出してきたのか。

どちらでも構わない。何故なら、自分はここで死んで終わるつもりは毛頭ないから。
彼女と交わした約束を、私は死んでも果たしてみせる。

己の大いなる意志を覆すことなど誰にもできやない。
足の一本や二本をもがれようが、なんのハンデにもならないのだ。
朝潮は笑みを浮かべた。

「遅いのですよ」

左舷一杯、機関への無理強い上等。この海戦に勝ちさえすれば、それでいい。朝潮は悲鳴をあげる主機の声を全て無視し、ハ級の砲撃を避ける。
この程度の窮地で敗けるようでは、朝潮型の沽券に関わる。朝潮は叫び、ハ級に肉薄した。

「そこっ!」

砲撃。外しようのない距離まで近付いた朝潮は、確実に敵を仕留める。
断末魔をあげながらハ級は海に沈んだ。

169 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:44:13.81 ID:CTEpQFTU0

これで二体轟沈。一体は大破。三体が自分に次々と砲を撃ってくる。直撃だけはなんとか免れているが、水しぶきや鉄の破片が、容赦なく朝潮にダメージを与えていく。

素早く回頭を続ける朝潮に対し、攻めあぐねた深海棲艦は更なる怒りの怨念を燃やす。三方向からの挟撃を目論み散開し始めた。
どのような手段を講じたところで無駄だ。私は、お前たちに絶対に勝ってみせる。朝潮は自身の瞳に、頭上の月の如き輝きを見た気がした。
荒れ狂う水面をスケートリンクのように疾走し敵を翻弄する。

横を見た。二級が妖怪のような上半身を唸らせ並走してくる。朝潮はその直線上目掛け、次々と砲を撃つ。三日月状の飛沫がお互いの姿を隠した。

「魚雷発射管、一番二番用意!」

ニ級はどんどん撃ってくる。水柱が至近距離に、遠方に、そして遂に朝潮の連装砲へと直撃する。一本が完全にスクラップとなり、単装砲と化して尚も朝潮は気にしない。

「放てぇっ!!」

がこんと海中へ魚雷が飛び出し、ウェーキを描いていく。ニ級の予想進路へと火薬の怪物が突き進む。一本はニ級の砲撃音の後に破壊され、もう一本が鈍い音を伴いながら炸裂したのがわかった。
小さな悲鳴が聞こえる。朝潮は反転した。

170 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:44:52.01 ID:CTEpQFTU0

残りは三体。だが残弾は数えるほどしかない。どうする。せめてロ級だけでも落としたい。どう戦うのが得策だ。
祈るように顔をあげ、夢も希望もない化け物共と目を合わせる。

答えなど誰もくれやしない。考える時間もくれない。砲撃の雨霰は止まる気配を知らない。
止めどない絶望を彩る、ないない尽くしの状況下。
だから、考えても仕方がない。変な作戦を立てるよりは、探照灯でも照明弾でも使って相手を一体でも多く撃ち落とす。駆逐艦娘である朝潮にとって、もっとも得意な戦法を華々しくお披露目するだけ。
それこそが自分の、艦娘である朝潮にとって最高の舞踏会。

この素晴らしき夜戦こそは、我が闘犬本能を満たすに相応しい。

長い黒髪をばさりと翻し、砲を握る五つの両手指に力を込めた。

「三番用意!」

波を掻き分ける朝潮目掛け、ロ級は魚雷を撃ってきた。死の魚が獲物を食わんと襲いかかる。扇状に広がる白い線を朝潮は辛うじて避け、反撃の弾を撃ち込む。
ロ級は砲頭が潰され苦しそうにもがいた。牙をもがれた深海棲艦など、もはや恐るるに足らず。

「放てぇっ!!」

朝潮の生存意義を反映したような、真っ直ぐな魚雷の軌跡。雷のような爆発は敵を間違いなく粉砕し、深き水底への片道切符をもたらす。

171 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:45:32.44 ID:CTEpQFTU0

残りは二体。続いてリ級の姿をその目に宿し、朝潮は最後の戦いを挑む。
僚艦をことごとく喪った重巡洋艦はかなり慎重になっている。朝潮が近づけば遠ざかり、砲を構えれば防御の姿勢をとる。これでは朝潮の攻撃が届かない。魚雷も当然当たらない。
舞台が長引けば長引くほど、こちらは不利になる。焦燥に駆られ、そうして敵の隙をうかがうことに躍起になっていた朝潮は、伏兵の姿を見落としていた。
突然背後から砲が撃たれた。当たりこそしなかったものの、朝潮とリ級の間に水柱が上がる。

「ッッ!?」

後ろを見る。最初に轟沈し損ねたイ級が、ぼうぼうと火を上げながら一矢を報いていた。あれだけの炎の中で撃つとは、敵ながらあっぱれ。
これを好機とリ級は撃ち込む。速度が制限された朝潮の位置を掴むのは容易だったようで、何発もの至近弾が水柱をあげる。撒き散らされた鉄片で、とうとう朝潮の連装砲は鉄屑と化した。

172 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:46:36.16 ID:CTEpQFTU0

魚雷を撃ち込むための手段が絶たれた。己の運命を全うした鉄の箱は、静かに黒煙を空へと立ち上らせる。
歯噛みする。これを持っていても意味がない。沈み行く勇者への手向けの菊花として、朝潮はイ級目掛けて通過ざまに放り込んだ。弾薬庫に引火して大爆発を起こす。

リ級は口角をあげる。
朝潮も笑ってやった。やけくそなんかではない。

ここまで派手に引き付けておけば、きっと奴はこう思っている。たった一人で忌々しい駆逐艦だ、と。残念ながら、一人ではない。

自分とあの子を繋ぐ、初めて芽生えた信頼のような絆。交わした手のひらの温もりは柔らかく、今でも朝潮を支えているようだった。
自分はずっと、二人で戦っているんだ。それが分からないのなら、お前に勝機はない。
さあ、彼女との約束を果たす時がきた。

タービンの回転をもう一度最大にし、並走を続けて朝潮はその瞬間を待った。

「四番用意!!」

周囲に響き渡るよう大きく声を放つ。身構えるリ級へと、彼女が出来る最後の攻撃を向けた。

「放てぇっ!!」

がこんと、音が響く。
ウェーキは真っ直ぐ、リ級へ。

173 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:50:58.04 ID:CTEpQFTU0

そんな馬鹿正直な魚雷が、相手に届くわけがない。リ級は危なげなく海中へと砲撃し、自身の脅威を打ち破る。

にたぁ、という音が聞こえそうな顔。全てを撃ち尽くした敵を、どう料理してやろうかという、一方的な虐殺を考えている余裕。
お互いの視線が交錯する。
朝潮は微笑んだ。

「四番魚雷は、もう一発あるんです」

気付く筈がない。あれだけの大轟音の最中で、こちらにしか意識を向けていない敵が、背後から迫り来る一羽の首狩りウサギの気配に。

174 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:51:52.85 ID:CTEpQFTU0

この作戦は、自分の好みではない。最終的に騙す行為だから。
己の心に反する。
でも、乗ってやった。
嘘が時に誰かを救うのならば。それもまた、面白いかもしれないと思ったから。
今回だけは、乗ってやる。
全ては生き残る為に。

名前に四の代名詞を冠する駆逐艦が、魚雷を放つ。

「背中ががら空きだっぴょん!」

気付いた時にはもう遅い。戦艦すらも葬る一撃必殺の魚雷が、リ級の真下で炸裂する。
声なき声をあげ、リ級は爆炎と共に海に沈んでいった。

175 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:53:06.19 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


卯月「ぜんっっぜん!大丈夫じゃないぴょん!」

朝潮「だから、大丈夫だって言っているでしょう?」

卯月「嘘だぴょん!」

朝潮「本当です!」

卯月「いいから、肩を貸してあげるぴょん!見てられないぴょーん!」

朝潮「あっ!?…まったくもう、平気なのに…」

176 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:54:20.09 ID:CTEpQFTU0

卯月「どう考えてもだめだぴょん!服はぼろぼろ、切り傷だらけ、右腕からは滝みたいな出血だぴょん!」

朝潮「はぁ…別にもう痛くもなんともないのに…」

卯月「だめだぴょん!」

朝潮「もう。分かったわ」

177 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:55:11.02 ID:CTEpQFTU0

朝潮「さっき受信した無線によると、救援がこの辺りに向かっているらしいです。明朝、もうすぐで太陽が顔を出すわね」

卯月「鎮守府に帰ったら、真っ先に朝潮をドッグに放り込むぴょん」

朝潮「その前に、戦果報告です」

卯月「真面目過ぎるぴょん!」

朝潮「それが私ですから、当然です」

178 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:55:44.97 ID:CTEpQFTU0

卯月「むぅぅぅ〜…」

朝潮「一体何がそんなに不満なのかしら」

卯月「だってぇ…せっかくうーちゃんと意気投合できたと思ったのに〜」

朝潮「意気投合した覚えはないわ。鎮守府に帰ったら、すぐにでも『お話』よ。叩きのめしてあげるから、覚悟することね」

卯月「ちょ、その言い方怖いぴょん!何するつもりぴょん!?」

朝潮「何もしないわよ。言うだけ。これまでの私の怨み辛みは、さっきの比じゃないわ。泣いても知らないわよ」

卯月「げえっ!?そんなの聞いてないぴょん!」

朝潮「だから、覚悟しておきなさいと言ったのよ」

179 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:56:22.98 ID:CTEpQFTU0

卯月「や〜だ〜!!朝潮と一緒に真っ白な嘘をつくんだぴょん!そうすればみんな平和になるぴょん!」

朝潮「白でも青でも変わらないわ。嘘は嘘。だめなものはだめ。卯月の嘘は、悪い嘘。イタズラウサギで許してやるつもりはないわ」

卯月「ぷっぷくぷ〜…」

朝潮「……ふふっ」

180 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:56:58.19 ID:CTEpQFTU0

卯月「?なに笑ってるぴょん」

朝潮「いえ。なんとなく…やっぱりいいです」

卯月「気になるぴょん!言うぴょん!」

朝潮「帰ったら言うわ」

卯月「今言うぴょん!でないと〜…」

朝潮「〜〜〜っいたぁぁいッッ!?」

卯月「傷口に海水かけるぴょーん」

朝潮「うっ……くぅぅぅ…耐えがたい傷みです…」

卯月「これが因幡のウサギの怨念だぴょん!さあはやく、言うぴょん!」

朝潮「わ、わかった!言うから!それ止めて!」

181 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:00:01.46 ID:dxbVI4/40

朝潮「もう…」

卯月「で、なんだぴょん?」

朝潮「…私は、卯月が嫌いだったわ。理由はさっきも言った通り。なのに、こうして二人で連携して敵を撃破できるとは思ってもなかったわ。不思議なものね」

卯月「そんなの当たり前ぴょん。うーちゃんと朝潮は、相性ばっちりなんだぴょん!」

朝潮「とてもそうは思えません」

卯月「だってぇ、弥生だってうーちゃんと正反対の性格なのに、うーちゃんの一番の仲良しだぴょん!だからぁ、朝潮だって絶対に相性が良いに決まってるぴょ〜ん」

朝潮「……」

182 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:00:31.58 ID:dxbVI4/40

朝潮「ま、そう言うことにしておきます」

卯月「あ、否定出来なかったぴょん」

朝潮「傷口に響くから、反論するのをやめただけです」

卯月「ふぅ〜ーん?」

卯月「ま!そういうことにしておくぴょん!」

183 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:01:43.77 ID:dxbVI4/40

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「あ、朝日…」

卯月「おぉ〜、きれいだぴょん!」

オーイ

オオーーイ

朝潮「…どうやら、お迎えも来たみたいね」

卯月「弥生だぴょん!睦月に如月も!」

184 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:02:18.81 ID:dxbVI4/40


うーちゃーーん!朝潮ちゃーーん!
大丈夫〜〜〜!?
よく頑張ったなー!


朝潮「…はは。私達、帰ってこれたんですね」

卯月「第八駆逐艦のみんなもいるぴょん。にゅふふぅ、みーんな泣いてるぴょん!」

朝潮「帰ったら、いくらでも武勇伝を聞かせてやりましょう」

卯月「そうするぴょ〜ん」

185 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:03:06.71 ID:dxbVI4/40

卯月「にしても、洞窟の時の朝潮の嘘。けっこうイケイケな感じだったぴょん。才能あると思うな〜♪」

朝潮「冗談。そんなつもりは毛頭ありません」

卯月「でも、咄嗟に出てくる嘘じゃないぴょん。オオカミなんて」

朝潮「嘘つきと言えばオオカミ。そしてウサギの天敵もオオカミ。効果はあると思ったのですが…覿面でしたね」

卯月「じゃあ今度は、楽しい嘘をつくといいぴょん!うーちゃん直伝のコツを教えてあげるぴょん!」

朝潮「いらないわ」

卯月「ぴょん!」

朝潮「いりません!」

186 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:04:46.85 ID:dxbVI4/40

卯月「それじゃあ朝潮とうーちゃんの今後の活躍を祈ってぇぇ〜、朝潮のお手を拝借!」

朝潮「?…はい」スッ

卯月「お互いの健闘をたたえて、握手だぴょん!」ブンブン

朝潮「今じゃなくてもいいんじゃないかしら?」

卯月「思い立ったら吉日だぴょ〜ん」

卯月「それに、うーちゃんと握手すると、ご利益があるんだぴょーん。これで朝潮も、うーちゃん大明神の仲間だぴょん」

朝潮「…まーたそんな適当な嘘を」

卯月「でも、悪い気はしないぴょん?」

朝潮「だからそういう問題では…」

卯月「えっへっへ〜〜♪」

朝潮「……」

187 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:06:44.13 ID:dxbVI4/40

朝潮「はぁ」

朝潮「まぁ確かに」

朝潮「そんなに悪い気分ではないわね」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


おしまい
188 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:18:56.64 ID:dxbVI4/40
今回はこれで終わりです。

個人的に一番書きたかったのは、朝潮の海戦シーン。
ぽんこつだったり小手川唯言われてたりハイエースされていてもいいんですが、やはり真面目で格好いい姿が個人的な彼女のイメージです。
史実にある通り、どんな状況であっても約束を違えない強さは人間の誉れ。それを書こうと思いました。

次回は、赤城か、もしくは鈴谷を主人公として作成しようかなと。
最後に、御了読いただきありがとうございました。
また次の機会に。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 00:33:26.56 ID:Zir6FnTA0
おつんこ
よく読んだら川内スレだった
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