アンジャナフ 「古代樹の森で人間と出会ったんだが」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:51:25.85 ID:0Q6uK0L10
――痛い。
――目が霞む。
――足がふらつく。

(あァ……尻尾が痛ェ……)

ドサッ……。

(あれ……? 何で俺ァ、地面に寝てるんだ……?)

ギャァ……! ギャァ……!

(あれは、あいつらの声……! 逃げないと……逃げ……ない、と……)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1517424685
2 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:52:26.93 ID:0Q6uK0L10
=古代樹の森・テトルーの住処・夕方=

テトルー 「旦那、旦那! お? 目が覚めやしたか?」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「良かった。あのまま死んじまうもんかと思ってましたぜ」
アンジャナフ 「俺ァ……」
テトルー 「おっと、まだ動かねェ方がいい。一応傷の手当はしましたがね。だいぶ深手を負ってらっしゃった。今生きてるのが不思議なくらいでさァ」
アンジャナフ 「何で……俺ァ、森であいつらに追われて……」
テトルー 「よっし、まぁ喋る元気があるなら大丈夫かね」

バシン!
3 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:53:25.61 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「……ッ痛ェな!」
テトルー 「怒鳴る元気があるなら更に大丈夫でさ。小坊主! 旦那が峠を越えたぞい!」
アンジャナフ 「…………?」

ビクビク……。

アンジャナフ (そういえば……何だか嗅ぎ慣れねェ臭いがするな……この臭いは、確か……)
?? 「!」
アンジャナフ 「……ッ、人間!」
テトルー 「おぉぉっと! タンマタンマ! 旦那、また傷が開きますぜ」
アンジャナフ 「人間があそこにいるぞ!」
テトルー 「分かってまさァ。あいつはあっしらがワケアリでここで世話してる人間のヒナですわ」
アンジャナフ 「人間のヒナ……?」
4 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:54:28.91 ID:0Q6uK0L10
少年 (ビクッ!)
アンジャナフ 「た……確かに、ハンターにしてはかなり小せェな……」
テトルー 「旦那を助けたのはあいつですわ。全く……カミさんが血相変えて引っ張ってくから何だかと思えば、あいつが倒れた旦那を守って、森の奴らとやりあってるとこでねェ」
アンジャナフ 「……やりあった? あんなチビが……?」
テトルー 「おっと、もうじき日が暮れる。あっしはそろそろ仮眠しますわ。おい小坊主! 何隠れてやがるんでェ」

グイグイ。

少年 「…………」
5 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:55:40.51 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ (人間……だよな。それにしては……)
少年 「…………」
アンジャナフ (やけに傷だらけだな……)
テトルー 「つぅわけで、あとの世話はこいつに責任を持ってやらせるんで。ああ、言い忘れてましたがね、ここはあっしらの住処ですわ。いちおー善意で傷の手当はしましたがね、ある程度動けるようになったら出てってくだせェ」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「あっしらも『森』とは戦いたくねェんでね。全くよぉ……『尾無し』なんか匿ってるってバレたらどんな因縁つけられるか……」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「それと、この小坊主にはちょいと……さっき言った『ワケ』がありましてね」
6 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:56:32.94 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「……ワケ?」
テトルー 「何でか知らねェんですが、あっしらの言葉が分かるようなんですがね。口がきけねェんですわ」
少年 「…………」
テトルー 「声を出してるとこを見たことがねェんでね。癇癪を起こして殺したりせんでくださいよ。ここで殺しはご法度ですからな」
アンジャナフ 「……分かったよ」
7 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:57:28.89 ID:0Q6uK0L10


=古代樹の森・テトルーの住処・夜=

アンジャナフ (尾無し……尾無しか。俺も、尾無しの仲間入りかよ……)
少年 「…………」
アンジャナフ (ずっと隅に座ってこっちを見てやがる。気味が悪ィな……)
少年 「…………」
アンジャナフ (テトルーの野郎は、俺達の言葉が分かるとか妙なことを言ってやがったな。人間にも変なヤツがいるんだな……)
少年 「…………」
アンジャナフ 「おい」
少年 (ビッッッッッッックゥ!)
8 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:58:19.10 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「……驚きすぎじゃねェか?」
少年 「…………!」
アンジャナフ 「俺の傷に薬草を貼ったり、布を巻いたりしたのはてめェか?」
少年 (コクコク)
アンジャナフ 「テトルーどもにこんな手当てができるとは思えねェ。だが分からねェ。お前、人間だよな?」
少年 (コクコク)
アンジャナフ 「人間が何だってテトルーの住処になんていやがる」
少年 「…………」
アンジャナフ (動きが止まったな……口がきけねェっつうのは本当みてェだ)
少年 (おどおど)
アンジャナフ 「……別に取って食おうっつぅワケじゃねェ。それに、見ての通り俺ァ『尾無し』だ。デケェのは図体だけよ」
9 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:58:51.48 ID:0Q6uK0L10
少年 「…………」
アンジャナフ 「……何で助けた? 森の奴らと本当に、てめェみたいなチビが戦ったのか?」
少年 「…………」
アンジャナフ (目を合わせようとしねェなこいつ……)
少年 (スック……とてとて……)
アンジャナフ (やっと近づいてきたが……)
少年 (ペタ、ペタ……)
アンジャナフ (傷の手当てをしてくれてるのか……)
10 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 03:59:38.07 ID:0Q6uK0L10


=古代樹の森・テトルーの住処・朝=

アンジャナフ (……いつの間にか寝ちまったのか……頭が痛ェ……)

グググ……。

アンジャナフ (だがだいぶ回復したぞ。あのチビ人間の手当てのおかげだな……よく分からねェガキだが……まァいいや)

キョロキョロ……。

アンジャナフ (ここにはいねェようだな。外か……?)

ズシン……ズシン……。

アンジャナフ (歩ける。良かった……テトルーどもは気に喰わねェが、あんまり迷惑かけるのもアレだな。さり気なく出ていくとするか)

ズシン……ズシン……。
11 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:00:26.74 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ (出ていくっつってもな……俺、もう家は……)
テトルー 「オラァ人間! ボサッとすんな!」

バシン!

アンジャナフ 「!」
テトルー 「お前みたいな得体の知れねぇヤツを匿ってるあっしらの身にもなれっつぅもんだ! キリキリ働きな! 全く……村長の言葉がなけりゃァ、放り出してやるってもんを……」
アンジャナフ (あのチビ人間……働かされてンのか?)
少年 (ビクビク……)
アンジャナフ (あいつ、俺を助けたんじゃねェのか……? 強いんじゃねェのか?)
少年 (おどおど……)
アンジャナフ (何で猫なんかにへーこらしてるんだよ……)
12 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:01:08.55 ID:0Q6uK0L10
テトルー 「…………? あ、旦那、動けるようになったんですな。さすが回復が早い!」
アンジャナフ 「あァ。助かった。世話になったよ」
テトルー 「そりゃ良かった」
アンジャナフ 「この礼は必ずする」
テトルー 「礼なんて別にいいですわ。それに、『尾無し』の旦那に何かできるとは思えねェんですがね」
アンジャナフ 「…………」
テトルー 「さ、動けるようになったんならとっと出てってくだせェ。森の奴らに見つかったら、いくらなんでもタダじゃすま……」

ギャアアアアアアオオオオオ!
13 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:01:47.81 ID:0Q6uK0L10
テトルー 「!」
少年 「……!」
アンジャナフ (この声は……チッ! 『森』のあいつだ!)
テトルー 「あっしらの住処の近くで吼えるってことは警告……や、やべェ!」
アンジャナフ (遅かったか……!)

グォオオオオ!
ドォォォォン!

テトルー 「ギニャアアアアア!」
アンジャナフ (……リオレウス!)
リオレウス 「…………こんなところにいたか。罪深きアンジャナフ」
テトルー (ガタガタ)
14 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:02:23.34 ID:0Q6uK0L10
リオレウス 「猫、この手負いを匿った件については、後で貴様らの村長に抗議させてもらう。だがそれは後だ」
アンジャナフ 「…………」
リオレウス 「まずは貴様の処刑から執り行うとしよう」
アンジャナフ (じりじり……)
リオレウス 「逃げるか……? いいだろう、また追いかけっこをしようか?」
アンジャナフ (ビクッ!)
リオレウス 「罪を犯した『弱い』貴様は、森にはいらぬ。観念して大地に還れ」
アンジャナフ (ダメだ……こいつと戦う体力も、力も俺にはない……)
リオレウス 「…………」
アンジャナフ (俺ァ……ここで死ぬのか)
15 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:03:18.45 ID:0Q6uK0L10
リオレウス 「…………?」
少年 「…………」
リオレウス 「妙な臭いがすると思ったら、猫、貴様人間の子供までもを連れ込んでいたのか」
テトルー 「(ビックゥ!) ち、違うんでさァ! こ、これは……」
リオレウス 「弁解は後で嫌になるくらいさせてやろう。しかし、この人間……」
少年 「…………」
リオレウス 「私の前に立って、何をするつもりだ? まさか、お前……」
少年 「…………」
リオレウス 「おお、怖い。そんなに睨みつけられると……」

グルルルル……。

リオレウス 「殺したくなってきてしまうではないか……」
16 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:04:02.17 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「何をしてる! チビ人間! 早く離れろ!」
少年 「…………」
アンジャナフ 「こいつは『森』の警備隊長、リオレウスだ! 殺ると言ったら殺る奴だ!」
リオレウス 「いい度胸だ。まさか人間、お前そんなちっぽけな体でその『尾無し』を守ろうとしているんじゃないだろうな?」
少年 (ギリ……)
リオレウス 「ク……クハハハハ! 馬鹿馬鹿しい! 人間に何ができる! 下劣で! 脆弱で! 卑怯な木っ端生物の子供などに! この私が止められるとでも思ったか!」
テトルー 「ひ……ひぃぇええ! あっしは逃げまさァ! 村長! 村長ォォ! (ダダダダダ)」
17 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:04:35.23 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「や、やめろォ!」
リオレウス 「まずはお前から、灰にしてくれよう!」
少年 (ゴソゴソ……)
アンジャナフ (何か布の中から取り出したぞ……何だ、アレは……まさか!)
少年 (…………!)

ビュン!
パァン!
18 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:05:18.49 ID:0Q6uK0L10
リオレウス 「何だ! ひ、光が……目がァ! グアアアアアア!」
アンジャナフ (人間がよく使う目眩ましの道具だ! あんなガキでも使うのか!)
少年 (ダダダダ!)
アンジャナフ 「ガキィ!」
少年 (ビクッ!)
アンジャナフ 「逃げるぞ! こっちに来い! 俺に掴まれ!」
少年 (……コクリ)
19 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:06:00.47 ID:0Q6uK0L10


リオレウス 「…………」
テトルー村長 「ふむ……これは手ひどくやられましたな、レウス殿」
リオレウス 「貴様……どういうつもりだ?」
テトルー村長 「…………」
リオレウス 「人間の子供を匿っていただけに飽き足らず、『森』が処刑命令を出したアンジャナフまで手当てをするとは」
テトルー村長 「はて……何のことでしょうな?」
リオレウス 「とぼけるか、猫!」
テトルー村長 「あの『尾無し』の手当てをしたのは人間の子供ですじゃ。ワシらは何もしておらぬ」
20 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:06:36.58 ID:0Q6uK0L10
リオレウス 「何だと……?」
テトルー村長 「人間の子供は迷い込んだのでしょうな。そして……逃したのはレウス殿。お言葉ですが、あなたの不手際ではないですかな? 慢心による油断ですな」
リオレウス 「…………(ギリギリ)」
テトルー村長 「森の会議にかけるならご自由にですじゃ。しかし、あなたが目の前で逃した件については、公に報告させてもらいますがの」
21 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:07:11.36 ID:0Q6uK0L10
リオレウス 「…………」
テトルー村長 「ほっほっほ……」
リオレウス 「そんな報告はさせん……」
テトルー村長 「ほほう……?」
リオレウス 「あの『二匹』の死体を持って、森の祭壇に祀ってくれる。神聖な森を血で清めるのだ……」
テトルー達 (ガクガクブルブル)
22 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:07:52.31 ID:0Q6uK0L10


=古代樹の森・昼=

アンジャナフ 「はぁ……はぁ……畜生、体中が痛ェ……」
少年 「…………!」
アンジャナフ 「チィ……人間なんて連れてきちまった……」
少年 「…………」
アンジャナフ 「……てめェ、リオレウスに勝てると思ったのか? 何バカやってんだ!」
少年 (ビクッ!)
アンジャナフ 「あいつは、殺しのプロって呼ばれてるモンスターだ。俺なんか助けたのを見られたてめェは、地の果てまで追われてって、八つ裂きにされるぞ!」
23 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:08:22.34 ID:0Q6uK0L10
少年 「…………」
アンジャナフ 「な……何だよ……?」
少年 (ゴソゴソ……ペタリ)
アンジャナフ (傷の手当てを……してくれてるのか……?)
少年 「…………」
アンジャナフ 「…………ッ、はぁ〜〜! 仕方ねェな……ほら、背中に乗れ」
少年 「……!」
アンジャナフ 「置いていくわけにもいかねェだろ。お前を安全な場所まで連れて行く」
少年 「…………ッ」
アンジャナフ (はじめて嬉しそうな顔をしたな……チッ……面倒くせェことになっちまった……)
24 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:10:20.51 ID:0Q6uK0L10


=調査拠点アステラ・昼=

総司令 「ふむ……古代樹の森のモンスターが、最近凶暴化しているという噂は、本当だったのか」
リーダー 「ああ。今日も4期団のハンターが、怒り狂って襲ってきたリオレウスに重症を負わされて救助されるってことがあった。爺ちゃん、これは……」
総司令 「……何か、嫌な胸騒ぎがするな……」
アイルー 「失礼しますニャ。総司令さんにお手紙ですニャ」
総司令 「手紙……?」
アイルー 「テトルー村からですニャ。速達、確かに配達しましたニャ」
25 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:11:35.31 ID:0Q6uK0L10
リーダー 「テトルー村から……?」
総司令 「…………」
リーダー 「爺ちゃん、テトルーの村長からか?」
総司令 「ああ……」
リーダー 「何だっていきなり?」
総司令 「……まずいことになった。ハンターを集めろ! お前は、その中でも粋の良い奴らを集めてすぐに古代樹の森に向かうんだ。確か、少し前に来た5期団に優秀なのがいるって話だったな。そいつも連れて行け。俺も追って出る!」
26 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 04:12:27.94 ID:0Q6uK0L10
>次回更新へ続く。

不定期更新、低速です。
気長にお付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 06:42:33.01 ID:ROnobgQp0
ちょっとリオレウス虐めてくるわ。
落石、閃光、睡眠からのタル爆G。俺のやれる全ての技で
逆鱗が出るまでなぶり殺してくれる。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 08:50:43.75 ID:noSzWE/zO
>>27
チケット使えよ
29 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:19:34.47 ID:0Q6uK0L10
【2】

=古代樹の森・昼=

グルルルルルル……

トビカガチ 「…………」
リオレウス 「……!(バッ)」
トビカガチ 「森に火を放つのはその辺にしておくんだな、レウス」
リオレウス 「カガチ……貴様、私の背後を取っただけではなく、指図までもをするというのか?」
トビカガチ 「……今の所、見つけ次第俺達が火を消しているからいいものの、燃え広がったら沢山の仲間の命が消える」
リオレウス 「…………」
トビカガチ 「お前に、仲間の命を奪う権利はない」
30 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:20:22.27 ID:0Q6uK0L10
リオレウス 「権利……権利とな?」
トビカガチ 「…………」
リオレウス 「クハ……クハハハ! これはおかしな事を言う。どうした? 今日びは随分とお喋りではないか? なぁカガチよ?」
トビカガチ 「…………」
リオレウス 「この『森』に弱き者はいらぬ。弱い者は強い者に淘汰され、入れ替わっていくのが世の常! そう、力に依る支配こそ、我らの掟……でないと、『森』に負けるぞ」
トビカガチ 「…………」
リオレウス 「お前が、あの『弱者』に肩入れしていたのは知っている。その性格もな。だが……」

ギャオオオオオオオ!

リオレウス 「『奴ら』は私の獲物だ! 誰にも邪魔はさせん! そう、お前にもな!」
31 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:20:58.64 ID:0Q6uK0L10


=古代樹の森・夕方=

アンジャナフ 「ぜぇ……ぜぇ……」
少年 (コクリ……コクリ……)
アンジャナフ 「チィ、気楽なもんだぜ。命を狙われてるっつぅのによ」

ズゥン……

アンジャナフ (もうじき日も暮れる。臭いを消せるこの川の近くに隠れるか……)
少年 (スー……スー……)
アンジャナフ (しかし、勢いでこいつを安全な場所に連れて行くって言っちまったが……具体的にはどうすりゃいいんだ……)
32 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:21:28.01 ID:0Q6uK0L10
ズキッ!

アンジャナフ 「……ッ」

ズキ……ズキ……

アンジャナフ (チッ……傷が……痛みやがる……尻尾が痛ェ……もうくっついてねェのに……)
少年 (すやすや……)
アンジャナフ (ダメだ、人間のいるところには……俺ァもう近づけねェ。いや……近づきたくねェ。もう二度と……)
33 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:22:10.81 ID:0Q6uK0L10
ガサゴソ……

アンジャナフ (とりあえずこの茂みに入ろう。朝になったら古代樹の森を抜けた方がいいな。大蟻塚の荒地を目指すんだ。あそこまで行けば……森の掟に縛られることもねェ。それに、おばさんもいる。何とかしてくれるはずだ)

ズシン……ズシン……

アンジャナフ 「……!(誰か来る!)」
ドスジャグラス 「兄貴……! 兄貴、そこにいるんだろ?」
アンジャナフ (ドスジャグラス……! ここは、あいつらの住処だったか……!)
ドスジャグラス 「出てきてくれ兄貴。ここは危険だ。夜警が強化されてる。人間のハンター達もいるって話だ。死にたくねェだろ?」
アンジャナフ 「…………」
34 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:22:47.97 ID:0Q6uK0L10
ズン……ズン……

ドスジャグラス 「兄貴! 無事で良かった」
アンジャナフ 「……今更何の用だ?」
ドスジャグラス 「あ……い、いや……あの時は悪かったよ……へへ……」
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「リオレウスのゲス野郎が、兄貴を追って飛び回ってるって聞いてよ。ちょっと……その、『償い』をしたくて……」
アンジャナフ 「てめェ……」
ドスジャグラス 「お、怒らないでくれよ! 本当だよォ……じゃなきゃ、このタイミングで危険を冒して探しになんて出てこねェって!」
35 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:23:24.30 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「つ、ついてきてくれよ。少しの間なら俺の住処で兄貴を匿える。へへ……」
アンジャナフ 「……どうだかな。てめェの言うことは信用できねェ……」
ドスジャグラス 「へへ……」
アンジャナフ 「……だが、俺ももう体力がカラッケツだ。行くよ」
ドスジャグラス 「よ、良かった。悪かったよ……あの時のことは謝るから、羽根をしまってくれよ……」
36 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:23:52.42 ID:0Q6uK0L10
グルルル……

アンジャナフ 「しかし今は、厄介者が俺だけじゃなくてな……」
ドスジャグラス 「…………?」
少年 (すやすや……)
ドスジャグラス 「……! あれは、もしかして人間……!」
37 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:24:24.29 ID:0Q6uK0L10


=古代樹の森・ドスジャグラスの住処・夜=

ドスジャグラス 「驚きましたぜ……まさか兄貴が、人間のガキを連れてやがるとは……」
アンジャナフ 「どうやら俺たちの言葉が分かるらしい。テトルーに酷い仕打ちを受けていた。それに……リオレウスに顔を覚えられちまってる」
ドスジャグラス 「うへェ……悪いことは言わねェ。そんなお荷物うっちゃって移動した方がいい」
アンジャナフ (ギロリ)
38 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:24:55.54 ID:0Q6uK0L10
ドスジャグラス 「……だ、だってよ。兄貴はその……今……」
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「ま、まぁ……それに、相手はあのリオレウスだ。レイアまで動き出したらもう手に負えねェ。確実に八つ裂きにされちまう」
アンジャナフ 「それは……確かにそうだが……」
39 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:25:27.84 ID:0Q6uK0L10
ドスジャグラス 「動けるうちに、兄貴だけで大蟻塚に向かった方が絶対いいって。俺には口出すことくらいしかできねェけどよ」
アンジャナフ 「…………」
ジャグラス♀ 「あなた、ちょっと」
ドスジャグラス 「あ? ン、分かった。今行く。兄貴、悪ィな。ここでゆっくりしててくれ」
アンジャナフ 「あァ……助かる」

ズシン……ズシン……
40 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:26:04.78 ID:0Q6uK0L10


ドスジャグラス 「何だ? 今大事な話の最中だぞ」
ジャグラス♀ 「『何だ』って……あなた、あの『尾無し』……もしかして指名手配が出されてる『アンジャナフ』じゃ……」
ドスジャグラス 「あァ? だとしたら何だっつぅんだよ」
ジャグラス♀ 「どうしたもこうしたもないわよ! 子供達が怯えきってるわよ。早く追い出して!」
41 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:26:38.02 ID:0Q6uK0L10
ドスジャグラス 「わ……分かってるよ。だけど今夜くらい……」
ジャグラス♀ 「警備団に見つかったら、私ら一族も皆殺しよ! 『尾無し』に森を生きる資格はないんだから! 家族のことをもっと考えて!」
ドスジャグラス 「で、でもよ。俺ァ昔兄貴に世話になったんだ。それに……この前のことで、一度見捨ててる。一晩くらいは匿わなきゃ、男が廃る」
ジャグラス♀ 「あなたのプライドと命、どっちが大切なの!」
42 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:27:12.83 ID:0Q6uK0L10


アンジャナフ (ドスジャグラスの野郎、遅いな……)
少年 「…………」
アンジャナフ 「! うわびっくりした。てめェ、起きてやがったのか!」
少年 (コクリ)
アンジャナフ 「もしかして……俺達の話も聞いてたのか?」
少年 「…………」
アンジャナフ 「……チッ。食えねえ人間だ。安心しろよ。俺ァ、二度も俺の命を助けてくれたてめェを見捨てたりはしねェ」
43 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:27:49.65 ID:0Q6uK0L10
少年 「……!」
アンジャナフ 「残った角に誓って言う。俺ァ、てめェを安全な場所まで送り届ける。絶対にだ」
少年 (ニコリ)
ドスジャグラス 「……ん? ガキィ、目ェ覚めたのか」
少年 (ビックゥ!)
ドスジャグラス 「ンな、兄貴の後ろに隠れなくてもいいだろォ。兄貴の連れにゃぁ何もしねェよ」
アンジャナフ 「話は終わったのか?」
44 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:28:21.17 ID:0Q6uK0L10
ドスジャグラス 「あ……ああ。ン……ちょっと……まぁ……」
アンジャナフ 「…………」
ドスジャグラス 「森で緊急集会が開かれるようで、俺が一族を代表して出なきゃァいけなくなった。悪ィが、少しだけ留守にするよ」
アンジャナフ 「緊急会議……まさか……」
ドスジャグラス 「まァ……兄貴についてだろうな」
45 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:28:48.34 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「……(グググ)」
ドスジャグラス 「ちょ、ちょ! そんな体で、こんな夜更けにどこに行こうっつぅんだよ!」
アンジャナフ 「てめェにこれ以上迷惑はかけられねェ。俺とこいつは、捕まえたが逃げたってことにしておけ」
ドスジャグラス 「いやそういうワケには……」
46 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:29:27.07 ID:0Q6uK0L10
バチ……バチ……

ドスジャグラス 「…………!」
アンジャナフ 「…………!」
トビカガチ 「…………」
ドスジャグラス 「ト、トビカガチ! い……いつからここにいやがった!」
少年 「ッ!」
トビカガチ 「動くな。動けば、この人間を八つ裂きにする」
アンジャナフ 「く……ガキを離せ!」
トビカガチ (ギロリ)
ドスジャグラス 「畜生! この辺りは完全に痕跡を消したはずだ。どうして……」
47 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:29:58.33 ID:0Q6uK0L10
ジャグラス♀ 「あなた、こっちに来て」
ドスジャグラス 「お前! まさか……お前が……」
ジャグラス♀ 「プライドじゃ家族は守れないわ! 早く!」
ドスジャグラス 「くッ…………」
アンジャナフ 「行け!」
ドスジャグラス 「…………!」
アンジャナフ 「行け馬鹿野郎!」
ドスジャグラス 「あ、兄貴……すまねェ……すまねェ!」

ズン……ズン……!
48 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:30:47.45 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ (ちィ……追い詰められちまった。この狭いトコでカガチの野郎と戦うのは厳しい……それに……)
子ジャグラス達 (ガクガクブルブル)
少年 「…………!」
アンジャナフ (だからガキは……嫌いなんだ!)
トビカガチ 「さて……」
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「俺がここに来たのにはワケがある。ひとつだけ、お前に質問をしたい」
49 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:31:20.91 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ (グググ……)
トビカガチ 「戦おうなんて馬鹿なコトは考えない方がいい。ここをお前の炎で爆発でもさせたら、夜警団が押し寄せるぞ」
アンジャナフ 「……チッ」
トビカガチ 「何故『あんなこと』をした?」
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「森の禁忌であることは分かっていた筈だ。誇りである『尾』も無様に失い、傷だらけになって森に逆らってまで、何故お前は……あの時に『ヒトを助けた』?」
少年 「…………!」
50 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:31:59.03 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「お前の馬鹿な叛逆のせいで、飛竜族の子供が多数死んだ。怒り狂うリオレウスの気持ちの方が、俺には理解ができる。そして『コレ』だ」

バチバチ……

トビカガチ 「お前、まさかヒトにでもなりたいとか言うつもりじゃあないだろうな?」
少年 (ガクガク……)
トビカガチ 「ヒトは敵だ。俺達を狩り、殺す。子供も容赦なく手にかけ、住処に踏み込んできて荒らす。力と物量で俺達をしつこく制圧するゴミのような虫ケラ達だ。お前も、それは分かっていた筈なのだがな」
51 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:32:27.52 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「答えろ、ジャナフ。何故『あんなこと』をした?」
アンジャナフ 「何故……? そんなのァ、俺には分からねェ……」
トビカガチ 「…………」
アンジャナフ 「だがな。これだけは言える。今あんたがやっていること……俺達が『あの時』にやったこと。それは、人間共が俺達にやったことと、何が違うんだろうな」
トビカガチ 「…………」
52 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:33:02.05 ID:0Q6uK0L10
アンジャナフ 「カガチ、俺ァ思うんだ。人間共を俺達が憎むように、あいつらが俺達を憎む。その『ワケ』……お前、考えたことあるか?」
トビカガチ 「『ワケ』……? おかしな事を言うようになったな、ジャナフ」
アンジャナフ 「…………」
トビカガチ 「ヒトは敵だ。それは森が定めた掟なのだ。誰にも覆すことはできん」
アンジャナフ 「掟……か」
トビカガチ 「…………」
アンジャナフ 「それに従って俺を殺すのか」
トビカガチ 「必要ならばな」
53 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:33:34.78 ID:0Q6uK0L10
ドスッ……

少年 「……!」
アンジャナフ 「ガキ……!」
トビカガチ 「だがそれは今ではない」
アンジャナフ 「ガキ、俺の後ろに来い」
少年 (ササッ……)
トビカガチ 「いいだろう。それだけ喋ることができれば、走る元気くらいはありそうだ」
アンジャナフ 「…………」
54 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:34:06.54 ID:0Q6uK0L10
トビカガチ 「夜警でリオレイアが巡回している。だが、クルルヤックに話は通しておいた。太陽の沈む方角に向かえ」
アンジャナフ 「……カガチ、お前……!」
トビカガチ 「行け。大蟻塚の荒地を目指すのだ」

クルリ……

トビカガチ 「…………」
アンジャナフ 「……恩に着る」

ズン! ズン!
55 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:34:37.67 ID:0Q6uK0L10
ジャグラス♀ 「あ……ああ……(ブルブル)」
トビカガチ 「…………」
ドスジャグラス 「な、何だ! やンのかァ!」
トビカガチ 「……俺は、今日ここには来ていない。お前達は、俺の姿を見ていない。それでいいな?」
ジャグラス♀ (コクコク)
トビカガチ 「家族を大事にしろ。それが『森の掟』だ」

シュバッ!
56 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:35:10.05 ID:0Q6uK0L10


=古代樹の森・上空・夜=

リオレイア 「…………」

バサァ……! バサァ……!

プケプケ 「姐さん! 姐さんちょっと待って!」
リオレイア 「…………」
プケプケ 「こう暗くっちゃあ、マトモに飛べないわ! 樹にでもぶつかったら大変! アタシのお肌に傷がついちゃう!」
リオレイア 「ったく……うるさいねェ。速度を落としゃあいいんだろ?」
57 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:35:40.53 ID:0Q6uK0L10
プケプケ 「そうそう、手負いの『尾無し』なんだから、そんなに気合いを入れることもないって。かなりの傷だったんでしょう? もうその辺で死んでるかもしれないし」
リオレイア 「いや……ウチのが昼間、テトルーの住処で見つけたらしくてね」
プケプケ 「え……! そうなの?」
リオレイア 「今のとこ、他言無用だよ。どうやら取り逃がしたみたいなのよ」
プケプケ 「あら珍しい。レウスおじさまにしては失態ね」
58 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:36:16.52 ID:0Q6uK0L10
リオレイア (レウスは、アンジャナフが『人間』の子供を連れていたと言っていたわね……ったく、何してんのよあの坊やは!)
プケプケ 「あ! 姐さん早いって! 待ってェ!」
リオレイア (いずれにせよ、早く見つけないと……このままじゃ、森が混乱したままだわ……それに、「嫌な予感」がする……)

バサァ! バサァ!

リオレイア (レウス……気持ちは分かるけど、あんたが今やろうとしていることは、人間達のする「狩り」と同じことよ……!)
59 :三毛猫 ◆58jPV91aG. [saga]:2018/02/01(木) 11:37:05.35 ID:0Q6uK0L10
>次回更新へ続く。

不定期更新、低速です。
ご感想などいただけると励みになります。

Twitter:@Gemmy_Aurora
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 12:25:27.63 ID:Tw61AFA7o
面白いよ
45.96 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)