【ミリマス】コトハジメ

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/02/08(木) 07:47:10.01 ID:9Wp9vh8Yo
※独自設定とコミュバレを含みます。

===

765プロ、39プロジェクトオーディション会場。
俺は机に向かって腕を組み、ぐぬぬうむむと悩んでいた。

隣では同僚でもある律子が手元の資料を眺めながら。

「それで、どっちにするんです? その子」

問いかけられてまたもムムムッ。

俺たちは今、事務所に迎える新人アイドルの合否を決めているところだった。

もう少し詳しく言うと有望人材かそうでないかの目星をつけてる真っ最中。
既に応募者たちの歌やダンスの実技テストは終了して、後は面接を残すのみなのだが。

「現段階の実力的には不十分。……でもなー、彼女ったらホント楽しそうに歌うんだよ」

「知ってます。一緒にその場で見てましたから」

「落としたくないなー。泣いてるトコとか見たく無いなぁ〜」

あてつけがましい俺の態度に、律子が呆れたように嘆息する。

「プロデューサー?」

「……んっふ、ダメぇ?」

「あのですね。社長にだって言いましたけど、ウチも慈善事業じゃないですから。
そう手当たり次第に受け入れてちゃ、オーディションする意味が無いでしょう」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1518043629
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 07:49:27.92 ID:9Wp9vh8Yo

そうして彼女は、歌の審査の為に同席していた千早の方に視線をやると。

「千早は? どう思う?」

「えっ!? わ、私にふるの?」

「当然でしょ。歌に関しちゃ、一応ウチで一番の御意見番だから」

突然意見を求められて、千早は心底驚いたようだった。
思わず俺を見るものだから「頼む!」と両手を合わせてみる。

「私は……歌を楽しく歌う人に、悪い人はいないとそう思うわ」

「だ、そうだぞ律子?」

「誰が善悪の話をしてますか。モノになるかどーかの意見が聞きたいのよ!」

バシッと机を軽く叩き、「全く二人ともこれだから!」と言わんばかりに露骨に眉根を寄せる律子。


「この矢吹って子に将来性が有るか無いか。大切なのはソコよ、ソコ」

「だからさ、その辺も含めて次の面接を見ようじゃないか」

すると千早も俺の言葉に頷いて。

「そうですね。技術が拙いということは、その分の伸びしろがあるとも言えるワケだし……」

「おっ、ほれみろ律子。千早先生の太鼓判だぞ」

「……プロデューサー。私はただ、一般論を述べただけです」

千早が茶化さないでくださいと首を振る。

律子はまだ納得できていないようで、件の応募者とは違うもう一人のプロフィール資料を手に取った。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 07:51:59.20 ID:9Wp9vh8Yo

「それでも枠は限られてるんですから。私的には、こういう即戦力になりそうな子をもっとですね」

「そりゃ、優先的に採用するべきってのは俺も分かってるんだけどさ……」

渡された資料を眺めてみる。
それはさっきの矢吹って子とは比べ物にならないほどの好成績。

……と、いうか本日のオーディション組では殆ど一番に近い点数を取っていた子の物だった。

「ゆくゆくは――なんて、悠長には言ってられませんからね。
なるべく早く39プロジェクトのメンバーだけでシアターを黒字にできなくちゃ」

「くっ、なら採用枠を増やしてくれ……!」

「だったら外回りのたびにスカウトして帰るのを止めてください」

俺は律子から見事なカウンターを貰って机の上へと突っ伏した。

と、そのタイミングで部屋の扉がノックされる。


「どうぞー」

呼びかけると、入って来たのはモデルのように目を引く美人な女の子。

噂をすればというヤツで、彼女は律子が言うところの最近スカウトした事務所の新メンバーだった。

……所恵美。まだデビューをしてない彼女には、
今日のオーディションの裏方を手伝ってもらっている。

「あのさ。そろそろ休憩あける時間だけど、面接ってすぐに始めるワケ? ……さっき廊下で訊かれてさ〜」

「おっと、もうそんな時間か。……控え室の空気はどんな感じだい?」

「控え室? うーんとね……」

訊くと、彼女は思い出すように腕を組んで。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 07:53:55.33 ID:9Wp9vh8Yo

「やっぱ、それなりにみんな緊張してるって感じだった」

「そうか……。まぁ、そうだろうなぁ」

俺だって進学や就職の面接前はガッチガチに緊張してたもんな。
「分かるなぁ」としみじみ呟く律子に続き、恵美も小さく頷いて。

「うん。あーいうの見てると、アタシもなーんか緊張して来ちゃうんだよね〜。
……だからさ、プロデューサー」

「ん?」

「アタシにできることってナンかない?
裏方仕事もいーんだけど、もうちょっと人の役にもたてるような」

そう言った恵美に千早が訊く。

「人の役にもたてること……。所さんは何をしようと?」

「何って言うか単純に、緊張をほぐせるようなコト? ほら、これから面接やるんだし、
あんまり緊張し過ぎててマトモに話せなかったりしたら可哀想じゃん」

けれどもだ。恵美には悪いがその緊張にどう対処するかもアイドルをやっていくには大切で。

案の定、隣の律子が「でも恵美。オーディションにしろ舞台にしろ、
アイドルの仕事はある意味こんな緊張の連続なの」と俺の意見を代弁する。
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 07:55:34.06 ID:9Wp9vh8Yo

「……ん、けどさ。そういうのをどうにかしようとする時に、仲間の力って役立つでしょ?」

言って、恵美は俺たちのことを順番に見た。

その顔は少々臆していながらも、伝えたいことはしっかり決めているといった決意も秘めた顔をしていて。

「アタシが765に誘われて、アイドルやってもいっかなって思ったのはさ。地元の友達に後を押されたのもあるんだけど、
765(ココ)がそういう"仲間意識"ってのを大切にしてる事務所だってコト、事前に知ってたからなんだよ」

照れ臭そうに話す恵美。……まぁ確かに、彼女が言う通り765プロって事務所は
業界じゃ異端と言えるほどアットホームな事務所ではある。

決して慣れ合ってるってワケじゃないが、入社して間もない恵美がこんな風に、
上司や先輩である俺たちに忌憚なく意見が言えるのは分かりやすい証拠の一つだろうな。

「だからさ、これに受かったら晴れて仲間になるワケだし。今から応援エールの一つ二つ」

すると千早もしばし考えるような素振りを見せ。

「あの、プロデューサー」

「なんだ?」

「確かに所さんが言う通り、仲間の力は大きい物。
……事務所に入ったばかりの頃ならいざ知らず、今の私には理解できます」

そうして彼女は強い決意を表すように拳を握ってこう続けた。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 07:58:00.62 ID:9Wp9vh8Yo

「ですから私に、これから歌を歌いに行く許可を。
確か、機材はココにありましたよね? 音楽の力で緊張をほぐしてみせますから」

「それって千早とアタシが協力して、全員参加の即興カラオケ大会開くってこと? ……いいじゃんっ♪」

「待て待て待て。確かにカラオケセットもあるにはあるが、千早は面接官の一人だろ?」

「っていうか三人とも、どうしてカラオケをすることが決定のように振る舞って――じゃっなーいっ!!
その面接を始めなきゃって話が先! 予定時間に開始できなきゃできないほど、待ってる方は辛いんだから」

結局、律子が締めて話が終わる。

「全く途中まではまともな話だったのに……」とぼやく彼女に頼まれて、
最初の面接者を呼びに行く恵美を俺は「あ、待った」と呼び止めた。


「恵美、さっきの提案なんだけど」

「提案?」

「緊張をほぐしたいってアレさ。嫌じゃなけりゃ、しばらく控え室で雑談しててくれないかな」

すると振り返った彼女は怪訝そうに首を傾げ。

「別に雑談するのはいいけどさ。何の話するの? 今日の天気なんて言わないでね」

「それこそ765プロの話でいいよ。質問なんかに答えたり……現時点での恵美の持ってる印象とか」

「……そんなんでいいの?」

「そんなんだからいいのさ。日は浅くたって恵美は立派な先輩だろ?
それに恵美の気さくな人柄は、いるだけで緊張をほぐす優れものだ」

少し大げさ過ぎるかもしれないが、言った言葉に嘘は無い。
彼女の方もこちらの言いたいことをなんとなく察してくれたようで。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 07:59:31.25 ID:9Wp9vh8Yo

「……ん、分かった! 任せといて」

にゃははっ、と明るい笑顔を残して去っていく。
しばらくすると、再び部屋の扉はノックされた。

「どうぞー」

面接の開始。呼びかけて入って来た少女の顔は心なしかリラックスしてるように見えた。

……一人目の面接を終えて律子が言う。

「あの子、いい感じに緊張が抜けてたみたいですね。……これも恵美のお陰かしら」

「フフン、俺が見つけて来たんだぞ。人を見る目は確かなのさ」

そうして得意になった俺の前で、二番目にやって来た面接者が自己紹介。

「や、やぶきっ……か、かにゃっ! 矢吹かにゃです! じぅ……よっ、4歳です!」

……4歳? カミカミな少女の言葉で疑問符が頭の中に浮かぶ。隣で律子がフッと笑う。

「でもまぁ、過信するにはまだ早いようですけど」

「そ、そこがまたカワイイじゃないか」

「二人とも私語は謹んで。それじゃあ矢吹さん、私から質問なのだけれどさっき口ずさんでいた歌は――」
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 08:01:03.00 ID:9Wp9vh8Yo
===2

「だから私は、ココでアイドルになりたいんです」と締めくくった少女の瞳は燃えていた。

それも轟々と赤く音を立てるような炎ではなく、静かに青く燃え続ける確かな強さを持った火だ。

……面接はあれから驚くほど順調に進んでいた。

今で全体の三分の二が終わったところだが、二番手だった緊張しいの矢吹さんを始め、
やはりこうして面と向かって話をすることで分かる魅力というものが確かにある。

だからと言い訳するつもりはないのだけど……。

「もう一度改めて言いますけど、ちょっと人数が多すぎます」

「うっ」

「あの矢吹可奈って子を始めにここまで採用候補が十人以上。
39プロジェクト全体の採用枠は一体何人でしたっけ?」

「……それは、39人です」

「で? さっきの北沢って子も採用するつもりなんですよね」

片手に持ったプロフィールの紙をパシッと叩き、律子が俺のことを睨む。
9 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 08:02:48.81 ID:9Wp9vh8Yo

「いや、でも、あの子はだいぶ逸材だよ? 声に強い力もあるし、ルックスだって申し分ない」

「それでもダンスの成績がすこぶる悪い。これなら、同じ条件でももう少し踊れる別の子の方が――」

「うぅ、だけど律子ぉ……」

「情けない声上げたってダメなものはダメですってば。大体プロデューサーがこの子を推す理由も、
彼女が言ってた母子家庭だっていうのが引っかかった部分が大きいでしょ」

図星だ。それが全てというワケじゃないが、14歳で家庭を助けるために仕事をしたいと言った
彼女の動機が俺の心を強く揺さぶったのは事実だった。

思わず視線を逸らせると、今度は千早と目と目があう。

「……なにか?」

「違う、違うんだ! 俺は決して哀れむだとかそんなつもりは――」

言い訳する俺に千早がやれやれといったため息をつく。

「分かってます。それだけの理由でアナタが簡単に合格を出したりしないことは」

すると、律子が問いかけた。

「でも千早。プロデューサーの採用基準は甘々よ」

「だったら、私が少し付け加えるわ。彼女――北沢志保には強いハングリー精神があると思うの」

「まぁそれは……。目力は半端じゃなかったし、やる気も人一倍感じられたわね」

「そうだろうそうだろう? 千早、もっと言ってやってくれ!」

「律子を説得したいのなら、プロデューサーは黙っててください」

ピシャリと千早に言い切られ、俺はお喋りなお口のチャックをしめた。

……と、同時に部屋の扉がノックされる。
10 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 08:04:50.77 ID:9Wp9vh8Yo

そうだ。まだ面接する必要のある子は残ってる。

「千早、この話は一先ずお預けね。……どうぞ!」

律子が扉に声をかけ、現れた面接者は実に平凡な少女だった。
いや、平凡と言うのは少し違うか。彼女の場合はもっとこう――標準?

「改めまして、田中琴葉と言います」

聞き取りやすい通る声に、多少の緊張はあるものの随分しっかりとした受け応え。

このオーディションを受けることになった経緯から、
これまでの生活を通しての自己PRまでそつなくこなす彼女はまるで……。

まるでそう、『絶対受かる面接術!』なんて教習ビデオに登場して、
"良い例"を披露する役者のような優秀さだ。


実際、演劇部に所属しているという彼女は人前で発言すること自体慣れていたんだろう。

その堂々とした立ち振る舞いに隣の律子はご満悦。
千早も特に悪くは思って無いようで。

「安定感がありますよね。彼女の歌もそうでしたけど」

……その一言で思い出した。俺が矢吹さんを推した時、
律子から渡された成績優秀者のプロフィールは他ならぬ彼女の物だったじゃないか!

「これは自慢じゃないですけど。私も人を見る目にはすこーし自信がありますから」

ぬぐぐ、おまけに律子には小声で自慢される。

だが目の前の田中って子が逸材なのは間違いない。
初めに彼女が地味というか、一見平凡に見えたワケも今は分かる。

なんてことはない、彼女は高水準だっただけなのだ。
全体が高いレベルでまとまってるせいで突出した部分が見えにくいというアレだ。
11 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/02/08(木) 08:06:29.14 ID:9Wp9vh8Yo

「特長がないのが特徴」だと、誰かの言葉を思いだす。ああ、全くその通り。

「小さな頃から演劇や舞台は好きだった。芝居やミュージカルに惹かれ、
自分でも感動を生み出す側になりたかった……ですか」

「でもそれなら、どうしてアナタは劇団じゃなく765プロに?」

俺と律子の質問に、田中さんはステージ上で輝くアイドルへの憧れを語ってくれた。
……確かに彼女が言う通り、今のご時勢アイドルが役者として舞台に立つことは珍しくない。

今日だって、彼女と同じような理由で面接を受けた子は沢山いる。

「それで、オーディションは友達と?」

「はい。街で39プロジェクトのポスターを見て盛り上がって」

「応募してみれば――って流れね」

「そうなんです。『琴葉なら絶対大丈夫だから』って……」

これもよくある「友達と一緒に」とか「友達が勝手に」ってパターンだ。

まぁ、彼女の場合は一人になって改めて考えなおした後、
自分の意志でオーディションに応募したそうだけれど。
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