ロールシャッハ「嵐を呼ぶ、救いのヒーローたち」

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96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/16(金) 19:44:09.69 ID:Hc5+hFg+0


ロールシャッハ「……前は俺が行く。グロリア、お前はルルと後ろを固めておけ」


塀と塀の隙間を抜け、暴徒から逃れるロールシャッハ、よね、
ルルとスンノケシ、そしてしんのすけのいない野原家とカスカベ防衛隊。


ロールシャッハ(混沌だ)

        (街が飲み込まれていく)

        (来たばかりのころは……あんなにも穏やかだったこのカスカベが)

        (いや……)

        (もたらしたのは俺だ)


ロールシャッハ(“必ず無事に連れ戻す”)



ロールシャッハ(今度こそは)

        (今度こそは)
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/16(金) 19:46:23.65 ID:Hc5+hFg+0
ここから新たに書いた分になります
(ここまでも推敲など細部を変えてはおります)。

すみませんが、かなり長いです。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/16(金) 20:05:51.58 ID:Hc5+hFg+0
今知ったんですがDCコレクティブルからロールシャッハのフィギュアが出るんですね……
良く動きそうな奴……死にたい……
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:43:11.47 ID:RLpWKJmJ0


しんのすけ「……お?」

しんのすけ「ここどこー?」

しんのすけ、両手足をしばられたまま床の上に転がっている。
周囲の暗がりが徐々に開けていく。

石造りの壁。
パステル調の毒々しい色使い。
平衡感覚の狂った天井と家具。


しんのすけ「……ヘンダー城? なんでこんなとこに」

部屋の隅に、天井から吊るされた何者かの姿が見える。

しんのすけ「アクション仮面!……トッペマ?」

二人ともひどく傷ついている。
特にアクション仮面のダメージは激しく、息も絶え絶えだ。


トッペマが目を覚ます。

トッペマ「……しんちゃんっ……?」

しんのすけ「トッペマ!」
     「んしょ、んしょ、んしょ」

身をよじり、体育座りの姿勢になる。
そのままケツだけ歩きを始めるしんのすけ。


しんのすけ「トッペマ、どうなってるの? トッペマもアクション仮面も大丈夫!?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんはどこに行ったの!?」

しんのすけ「ここグンマ?」


トッペマ「私は大丈夫。アクション仮面も……きっと、すぐに良くなるから」

トッペマ「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、わかってることだけ話すね」

しんちゃん「また紙芝居で?」

トッペマ「……両手が使えないから口で言うわね」

しんのすけ「ほい」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:45:40.87 ID:RLpWKJmJ0


トッペマ「しんちゃん、マカオとジョマをやっつけたでしょう?」

しんのすけ「……復活したの? メケメケZみたいに?」

トッペマ「そのとおりよ。私たちの力で喰い止められればよかったんだけど」

しんのすけ「そんでまたつかまっちゃったの? ス・ノーマンの中の人も?」

トッペマ「……ごめんね、しんちゃん」


トッペマ「オカマ魔女はもう一度、君たちの世界を奪うつもりよ」

しんのすけ「こりないヒトたちだね」

しんのすけ「で、ここはヘンダーランドなの?」


トッペマ「ええ、でも遊園地じゃないわ。奴らは復活したとはいえ、その力は弱まっていて、 
     しんちゃんの世界にヘンダーランドを移すほどの力は残ってなかったみたい。
     ここは私たちの、本当のヘンダーランドよ。
     今は奴らにのっとられてしまったけど、しんちゃんはここに連れてこられてしまったの」

しんのすけ「弱くなったならやっつけられないの?」

トッペマ「それがそうもいかないのよ。
      マカオとジョマは君たちの世界の強力な悪者を仲間につけていたの」


しんのすけ「ヘクソンとか爆発頭とか?」

トッペマ「知ってるの?」

しんのすけ「もっちろん! オラ、あいつらもやっつけたんだゾ」

トッペマ「あなた、何度も世界を救ってるのね」


トッペマ「……ぶりぶりざえもん、と言ってたわね」

しんのすけ「おお、そうだった!」

しんのすけ「オラたち、ぶりぶりざえもんを捜してたんだよ。
       そしたらあいつらが先に見つけちゃったんだ」

しんのすけ「あいつら、ぶりぶりざえもんを悪いことに使うつもりなんだゾ!」


アクション仮面「……」

アクション仮面「……しんのすけ君」

しんのすけ「アクション仮面!」


アクション仮面「ははは……また、情けないところを見せてしまったね」

アクション仮面「っつ、うう……」

トッペマ「大丈夫!?」

アクション仮面「なんの、これしき……」

アクション仮面「パラダイスキングが言っていた。ぶりぶりざえもんは電子生命体だと」

アクション仮面「奴らはそれを使って、我々の世界を破壊することなく手中に収める気だ」


トッペマ「自分たちは安全なところから、一方的に侵略するつもりなのね……許せない」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:47:29.83 ID:RLpWKJmJ0

ヘンダー城 広間

玉座に座るマカオとジョマ。

その前に並ぶパラダイスキングたち。
木の人形の手のひらの上にぶりぶりざえもん。

ぶりぶりざえもん「……ヤダ」

ぶりぶりざえもん「気が向いたら世界を征服してやる。それまで待ってろ……」プー

パラダイスキング「何回言わせんだテメーこの野郎!」

ぶりぶりざえもん「さっきの偽ニュースを流してやっただろうあれは破格のサービスだそれで我慢しろ!」

パラダイスキング「握りつぶすぞテメー!」

ぶりぶりざえもん「そのあとでこのオカマたちはお前をどう処分するかな?」

パラダイスキング「ちっ……つえー者の味方ってか」


パラダイスキング「……ブタ。首を縦にふりゃこのねーちゃんがひと肌脱ぐってよ」

ぶりぶりざえもん「なに本当か!」

マホ「冗談じゃねえ! なんでブタなんかのために!」

パラダイスキング「今はつべこべ言うな!」


ぶりぶりざえもん「なんてな。ジョークだ。
          この私がたかがヒステリー女ひとりで買収されると思うなよブタ野郎!」

マホ「たかがとはなんだコラ!」

ハブ「……愚かな」

マホ「カンケーねーよーな顔してんじゃねーよ!」



アナコンダ「……どうするのかね? コントロールできんのならまるで使えないぞ」

マカオ「そうね、困ったわ……アタシたちでよければいくらでもひと肌脱ぐんだけど、ねえジョマ?」

ジョマ「んねえマカオ?」

マカオ・ジョマ「ンフフフフフフフ」

「「「………………」」」

ぶりぶりざえもん「…………」ポワーン

102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:51:26.79 ID:RLpWKJmJ0

マカオ「ところで」

ぶりぶりざえもん「」ビクッ

ジョマ「いったいなにが不満だというのかしら?
     アタシたちが人間を支配すればこの世はもっと良くなるのよ? 多分ね」

ぶりぶりざえもん「証拠を出せ証拠を!」

マカオ「やってみれば、そのときわかるわ」


ぶりぶりざえもん「不満ならまだある!」

ぶりぶりざえもん「この私がお前たちより立場が低いのは我慢ならん!」


ジョマ「ん〜、どうすればいいの〜?」

ズボンを下ろし、尻を突き出すぶりぶりざえもん。


ぶりぶりざえもん「……私の尻にキスをしろ。ひとり左右一回ずつ全員な」

マホ「はあ!? できるかそんなもん!」

ハブ「よく考えろ。あれは実体じゃない」

パラダイスキング「……そーいう問題か?」


マカオ・ジョマ「しょうがないわねえん」

迫るオカマ魔女の唇!


ぶりぶりざえもん「……いややっぱりいい」

マカオ「遠慮しないでえーん」

ジョマ「んー、そうよ。オシリが腫れるくらいしてあげる」

アナコンダ「わしの代わりにアレクサンダー(ヘビ)の口でもいいかね?」

ぶりぶりざえもん「やめろと言ったぞ貴様ら!」


パラダイスキング「……こんな奴らが世界を左右するなんざ泣けてくるぜ」



広間の隅、座ったまま無言のヘクソン。
不意に立ち上がる。

ハブ「……どこへ行く?」

ヘクソン「……お前には関係ない」

ハブ「あの、ロールシャッハのマスクの男か?」

ヘクソン「だとしたらどうする」

ハブ「……死体を取りに行かせるなよ」


ヘクソン「…………」

ヘクソン「……オカマども。人形を借りるぞ」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:54:06.71 ID:RLpWKJmJ0




ロールシャッハ(取り戻すべきものが二つ)

         (しんのすけと、“ぶりぶりざえもん”)

         (道中、子供たちからその品の詳細を聞いた)

         (電子生命体とも呼ぶべきそれは、自らの意志によって行動する、
          制御不能の代物だという)

         (だがそれは悪い報せではなかった)

         (子供たちによれば、初代の“ぶりぶりざえもん”は
          しんのすけの導きにより倫理を得、そののちに消失)

         (だが新たな“ぶりぶりざえもん”にも、その信念は受け継がれている……
          かすかな接触でしかないが、そう思われるという)


         (易々と敵に従うことはまずない、とのことだ)


         (問題が去ったわけではない)


         (奴が自由にならなければ、いずれにしろ世界に終末は訪れるのだ)



104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:56:28.64 ID:RLpWKJmJ0

カスカベ座


日は沈み、夜。市内には赤色灯が瞬いている。
周囲の建物に跳ね返った光が、わずかにカスカベ座に差し込んでいる。



ロールシャッハ「……全員いるか?」

風間「番号!」
   「1!」
ネネ 「2!」
マサオ「3!」
ボー 「4!」
ひまわり「た」
シロ  「アン!」


むさえ「はいはい、いるいる全員いるー」


ひろし「ここは……カスカベ座?」
みさえ「なんでここなのよ?」


ロールシャッハ「カスカベの“穴”ともいえる場所だ。暴徒どもはまいた」

ロールシャッハ「全員中に入れ。ルル。中を頼む」


ルル「はい。さあ皆さん、こっちへ……」


ひろし「また映画の中入ったりしねーだろうな……」

みさえ「これ以上変なこと起きたらたまったもんじゃないわよ」



よね「何度も聞くようだけど、これからどうする?」

ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「俺はロビーで待機し、奴らに備える」

ロールシャッハ「今一度襲いに来るだろう」


よね「……ブツは向こうに渡ったんじゃないの?」


ロールシャッハ「偽のニュースがいい証拠だ。ありがたいことに、
        連中は俺を脅威と見なしているらしい」

ロールシャッハ「死体を確認しない限りは、追跡を止めないだろう」

ロールシャッハ「……たとえ世界を手にしても、それを覆す者があると思っている……」


105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:58:52.24 ID:RLpWKJmJ0

カスカベ座 シアター内


暗がりの中、ルルが懐中電灯で即席の証明を作る。

むさえ「こんなホコリくさいとこでカンヅメになるの?」

むさえ「大体なんでこんなとこまだ残ってんのよー?」


みさえ「うるっさいわね静かにして! あんただって部屋にいればよかったじゃない!」

みさえ「そうじゃなくても、今しんのすけが危ないのよ!?」

むさえ「うう……ゴメン」


風間「でも……大丈夫だと思います、きっと」

ひろし「風間くん……」

風間「ぶりぶりざえもんがいっしょですから! ほら、大袋博士の」


ひろし・みさえ「! 大袋博士のぶりぶりざえもん……」


ひろし・みさえ「……すっげー不安……」



スンノケシ「ルル、他のみんなは大丈夫?」

ルル「それが……外と連絡が取れない状態です」

ひろし「え!?」

ルル「おそらくは電波ジャックの影響でしょう」

ひろし「うわ、携帯が圏外だ……一応市内なのに」


ルル「念のため、ここからの逃走経路も確保しておきましょう」

スンノケシ「皆さんだけでも、なんとか安全に家に帰れればいいのですが――」


風間「……僕たちは大丈夫です! しんのすけが心配だもん」

ネネ「ネネも同じよ!」

マサオ「怖いけど、あのおじさんがいればなんとかなるよね、きっと!」

ボー「ボー! 僕たち、カスカベ防衛隊!」

ひろし「……みんな!」

むさえ「えー私はもう帰りたいけど、別にできることないしー」

一同「「「アアン!!??」」」

むさえ「う、うそうそ、冗談!」


ひまわり「……たや?」

ひまわり「!」

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:51:01.15 ID:RLpWKJmJ0




カスカベ座 ロビー


ロールシャッハ「ガリ、ガリ、ガリ……」


ロールシャッハ(……体力の消耗が激しい)

ロールシャッハ(……抑えていた痛みがよみがえってきた)

ロールシャッハ(……限界が近づいている)



よね「ねえ」

ロールシャッハ「……なんだ」

よね「あんたさっき、坊主の子にヒーローだって言われてたよね?」

ロールシャッハ「それがどうした」

よね「私もそうなりたかったんだよなー、って思って」


よね「一時はねっ? 私もうまくやれた、近づけたって思ったの」

よね「でも、いつまでも同じ速度で走れなくて」

よね「そうなることより、そうあり続けることが本当に難しいんだと思った」



ロールシャッハ「……もう終わったか?」

よね「なんだよ、人がせっかくマジな話をしてるってのに!」


ロールシャッハ「……ヒーローは誰でもなれる」

よね「……?」

ロールシャッハ「誰もがなることができ、」
        「そしてまた、誰もがなることができない」

よね「……ヒーローってなんだと思う? あんたなら知ってるんでしょ?」

ロールシャッハ「……あのニュースは、本当は間違いではない」


ロールシャッハ「俺はこのカスカベに混乱をもたらしたし、
        警察に追われることはこれが初めてじゃない」

ロールシャッハ「たとえ世界のすべてが敵に回ろうと、
        なにひとつ報われなくとも屈するな」


ロールシャッハ「……ヒーローとは……」


立ち上がり、窓の外を見る。


ロールシャッハ「最後まで、真実の側に立つ者だ」


107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:52:46.96 ID:RLpWKJmJ0

よねもまた外を見る。

よね「!」

カスカベ座の周りを、無数の等身大の人形が取り囲んでいる。
無感情の兵たちだ。

よね「……なにあれ。全然動かないけど」

ロールシャッハ「HURM.妙だな……」

ロールシャッハ「奥に向かうぞ。連中を裏から逃がす」

と、後方から銃声。シアター内だ。

ロールシャッハ「!」

扉を開けると、中にヘクソンがいる。
ルルの首を絞め、持ち上げている。

ロールシャッハ「貴様……!」

        (……ヘクソン)

        (なんという早さだ)

        (他の者たちが硬直している……声も出さずに……)

ロールシャッハ(俺たちに気づかれぬためか。おそらくこれもこいつの能力のひとつ……)


ヘクソン「……場所を探るのに少々手こずった」


よね「表の人形は!? あんたのオモチャ!?」


ヘクソン「奴らとともに急襲するつもりだったが、どうしたわけかあの人形たちはここへ入れぬようだ」

ヘクソン「……感じるぞ。この建物自体に、なにか大きな力が働いているな」


ロールシャッハ「……その女を放せ」

ヘクソン「ならばそうしよう」

ルルの体を放り投げるヘクソン。
ロールシャッハが受け止め、荒っぽくよねにあずける。
その間に床に落ちた銃を拾い上げ、引き金を引くヘクソン。
ロールシャッハは走り、そのあとを追うように壁に弾痕が残る。

ロールシャッハ(威嚇か。当てようと思えばできるものを)

ライトに銃弾が当たり吹き飛ぶ。シアター内が暗転。

同時に、他の者の金縛りが解ける。

ひろし「う、動ける! みんな早く外へ!」

おびえた子供たちを抱えて走り出すひろし

よね「野原さん! 待って今外は――」

と、ヘクソンが弾切れの拳銃をよねの額に投げる。
よねが倒れるとともに、ひろしたちは入り口へ。


ロールシャッハ(……クソ!)

ロールシャッハ(銃声と暗闇で彼らをおびえさせ、外へ出すとは)

ロールシャッハ(……やられた……!)

ヘクソン「襲撃には慣れていると思ったが、期待外れのようだな」

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:53:57.91 ID:RLpWKJmJ0


ロールシャッハ(せめて、せめてこの男だけは)

ロールシャッハ「RRAAAALLL!!」

攻め立てるロールシャッハ。
当然、拳はかすりもせずに空を切る。

ヘクソン「勝算もなくただ闇雲に突っ込むとは……」

ヘクソン「失望したぞ」

ロールシャッハは追撃するがやはり平然といなされ、
重い蹴りを腹に入れられて崩れ落ちる。
ヘクソンは彼を後にし、外へ出る。

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:54:51.16 ID:RLpWKJmJ0

ひろしたちを人形が取り囲み、拘束する。

ひろし「わ、なんだなんだおい!」

ルル「放せ! その人たちは関係ない!」

ヘクソン「そこの子供たち」

風間・ネネ・マサオ・ボー「「「「!」」」」

ヘクソン「先ほどは逃がしてやったが……まだ首を突っ込むならただでは済まさん」

風間「……し、」

風間「しんのすけを返せ!」

ひろし「またお前かよ! くすぐりに弱いくせしてカッコつけてんじゃねえ!」

ひろし「もっかいやったるぞ! 口が裂けるほど笑わしたる!」

ヘクソン「ほう。野原ひろし。お前の頭の中には今でも」
みさえ「ああん?」

ひろし「うるせー言わせねえよ!!」


110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:57:06.67 ID:RLpWKJmJ0

ロールシャッハ、よろめきながら彼らの前へ這い出す。
マスクの下では吐血している。
身体が、限界に近いようだ。


ロールシャッハ「UUK……」


ヘクソン「……なぜまだ立ち上がる?」

    「この街を見ろ。なにもわからぬ者たちが愚かにうめいている」

    「そして世界はさらに広く、かつ、この街よりよほど醜い」

    「お前もわかっているはずだ。この世界には終末が必要なのだと」


ヘクソン「その出来の悪い世界のために、なぜまだ闘える?」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……二度と失わないためだ」


ヘクソン、ロールシャッハに手をかざす。

ロールシャッハ「なんの真似だ……俺にも金縛りを……」

ロールシャッハ(!)

        (違う。そんな生易しいものではない)

        (心を読むその力で……俺の方へ侵蝕している!)



        (……俺は……)

        (……俺……)

        (…………)

ロールシャッハ、その場に力尽きる。

111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:57:58.23 ID:RLpWKJmJ0

ヘクソン「……」

ヘクソン「……おい。そこの家族とガキどもを連れていけ」

ルル「待て!」

言葉ののちに、野原家とカスカベ防衛隊を連れた人形が姿を消す。


ロールシャッハ「――――」

ヘクソン「……この男もだ」

ロールシャッハの身体に人形がまとわりつく。

ロールシャッハはぐったりとしたまま、もう動かない。

よね、銃を構えて飛び出す。額から血を流している。

よね「ロールシャッハ!」

走りながら手を伸ばす。
だがその指先は届かずに、ロールシャッハの姿がこの世から消えていく。

よね「……そんな……!」



ヘクソン「……お前たちは残しておいてやる」

ヘクソン「……終末を楽しむがいい」

ヘクソンの姿も消え失せる。

よね「……」
ルル「……」
スンノケシ「……」



むさえ「え、なに? どうなったの?」

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:05:32.72 ID:Lz8qDcvo0


ヘンダー城 どこかの部屋


しんのすけ、後ろ手に縛られた縄を解こうと身をよじる。

しんのすけ「ふんっ! ふんっ! はー……ムリだゾ……」

アクション仮面「がんばれ、しんのすけ君! あと少しだ!」

トッペマ(しんちゃんの縄が解ければ……)

トッペマ(奪ったスゲーナスゴイデスのトランプを渡せる……!)



――扉が開く。


パラダイスキング「……おーい?」

アクション仮面「!」

しんのすけ「爆発頭!」

パラダイスキング「よかったなあボウズ? ほらまたアクション仮面に逢えただろ?」

しんのすけ「ヒキョー者! おまえなんかすぐにぐっちゃぐちゃの
       ぎったんぎったんのけっちょんちょんの……」


パラダイスキング「ったく、口の減らねえガキだな!」

アクション仮面「おい、その子にはなにもするな!」

パラダイスキング「……ハハハ! 俺はなにもしねーよ?」

        「ほかの奴はどうだか知らねえがな」

パラダイスキング「オカマどもが呼んでるぜ。お前ら全員こっちに来い」

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:06:52.98 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダー城 広間


マカオとジョマの座る、玉座の前に並べられるしんのすけたち。

広間の左右に、彼らの部下となった者たちと、人形たち。


アナコンダ「んんん? また逢ったねえボク?」

しんのすけ「おじさん誰だっけ……?」

アナコンダ「んんんんんんん〜? フフフ」

しんのすけ「……白うんこ!」

アナコンダ「返す返す思うのは」

アナコンダ「キミがあのときコミヤエツコのサインを欲しがったことだ」


アナコンダ「そのせいで、ワシはまたキミを痛めつけなくてはならなくなったよ……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:07:46.57 ID:Lz8qDcvo0

と、それをまったく無視し、いつのまにかケツだけ歩きで
マホの元へ向かっているしんのすけ。


しんのすけ「はーいおねいさんこんなところで逢うなんて奇遇だね〜」

しんのすけ「これからオラとアクション仮面の逆転劇見ながらお茶しな〜い?」


アクション仮面(……しんのすけくん……)
トッペマ(……しんちゃん……)

アナコンダ「……」

ハブ「おい、黙らせろ」

マホ「〜〜〜〜〜ッ」

ポカァン!

げんこつ。再度並べられるしんのすけ。

しんのすけ「……軽いジョークだゾ」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:09:07.63 ID:Lz8qDcvo0

と、そこへ、ロールシャッハたちを連れたヘクソンと人形の群れが現れる。
ロールシャッハは意識を失ったままだ。
しんのすけたちとともに一ヵ所に固められる。


マカオ「あらお帰りなさい」
ジョマ「早かったのねえ?」


ヘクソン「…………」

ハブ「……ほう。なかなかやるな」

ヘクソン「……お前が使えんだけだ」

ハブ「……お前とも、いずれ決着をつけねばな」


ひろし「しんのすけ!」
みさえ「しんちゃん!」


しんのすけ「おおー! 父ちゃん母ちゃんひまわりシロ!」


ひろし「くっそまたお前らか! あとお前とかお前とか!
     あ、あとそちらのお姉さんとか」


みさえ・ひまわり「……けっ!」


風間「しんのすけ!」

しんのすけ「あれ風間くんたちも……」


しんのすけ「なんだみんなつかまっちゃったのか……」
      「はーやれやれ、困ったもんですな」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:10:21.28 ID:Lz8qDcvo0

ひろし「おいオカマども! さっさとうちの子を返してどっか行け!」

ひろし「そしたら今日のところは許してやる!」

ジョマ「返せと言われて返すわけないでしょーん」

マカオ「それにあなた方親子、各方面からずいぶんと恨みを買ってるみたいね」

みさえ「それはあんたたちが悪いことしてるからでしょ! 巻き込まれる方の身にもなりなさい!」


ジョマ「……ンフフ」
マカオ「……ンフフ」
アナコンダ「……グフフ……」
ハブ「……ククク……」

含み笑いが悪の中に伝染し、やがて大きな高笑いへと変わっていく。

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:11:22.77 ID:Lz8qDcvo0

マカオ「……ぶりぶりざえもーん? いつまで隠れてるの、出てらっしゃーい?」

人形たちの中から一人が前に出る。
手の上にぶりぶりざえもんを乗せている。

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

しんのすけ「このうらぎりものー! オラのこと覚えてたんじゃなかったのかー!」


ぶりぶりざえもん「あきらめろと言っただけだこの私も妥協するくらいのことはある!」

ぶりぶりざえもん「大体山奥のあんなチンケな機材しかないところで
          コンピュータ・ウィルスになにができるというのだこの野郎!」


マカオ「ちょっと黙りなさいぶりぶりざえもん」

ジョマ「なんでこのコたちを連れてきたと思うー?」

ぶりぶりざえもん「……人質か」

ジョマ「理解が早くていいわー、賢い子は好きよ、あ・た・し」

ぶりぶりざえもん「……」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:15:11.11 ID:Lz8qDcvo0

ぶりぶりざえもん「……」

ぶりぶりざえもん「……」

ぶりぶりざえもん「……笑わせるなこのオカマども!」

ぶりぶりざえもん「仮にもこの世界最高峰のプログラムである私が人質程度で心が揺らぐと思ったか!」

         「大体にしてお前らそんな手を使わねば
           世界征服できないような連中に手を貸すほど私は安くないぞ!」


ジョマ「じゃあこのコたち、消しちゃっていいのね」


ぶりぶりざえもん「それも待て!」

ぶりぶりざえもん「私からひとつ提案がある!」

マカオ「なーによー?」


ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ」

ぶりぶりざえもん「ところがここにいる者たちはそろいもそろって
          たかが五歳児のしんのすけとそのファミリーに敗北しているというではないか」

ぶりぶりざえもん「ならばお前たち、もう一度しんのすけたちとフェアに勝負して勝ってみろ!
          お前たちが強い者だと私に証明してみせろ!」



ぶりぶりざえもん「勝負方法は!?」

         「ダンス!?」
         「ババ抜き!?」
         「追いかけっこ!?」
         「いや!」
         「バトルロイヤル!!」


ジョマ「……いいわね」
マカオ「ステキ……」


ぶりぶりざえもん「……決まりだな。勝者に対して従おう」

ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ!」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:16:41.06 ID:Lz8qDcvo0

すると、しんのすけたちの縄や鎖が砕け散る。
さらに広間の床が変形して壁になり、しんのすけたちを取り囲み、歪な箱になる。


マカオ・ジョマ「!?」

ジョマ「……ちょっとなんの真似?」


ぶりぶりざえもん「このヘンダー城は勝手がいい」

         「私はMk-2だぞ。大袋博士はこうした超常現象にも対応できるようアップグレードしている」

ぶりぶりざえもん「この城も私にとってはデータのようなものだ」
         「そんで大体なんとなく仕組みは理解した!」
         「私を乗せているこの人形も今は私の操作下にある!」


ジョマ「……人間ってタフねえ」
マカオ「そうね。これが終わったらしっかり滅ぼさなきゃいけないわ」


ぶりぶりざえもん「時間を決めるぞ。午前〇時になったら始めてよし!」


城の外、上空に巨大な砂時計が現れる。


ぶりぶりざえもん「その間しんのすけたちには準備の時間を与える!」


ジョマ「大盤振る舞いねえ」

マカオ「今その箱ごと消しちゃってもいいんだけど?」


ぶりぶりざえもん「下がれオカマども! お前たちにもこの時間にひとつサービスを与えてやる」

マカオ「あらそう」
ジョマ「どのみちずっとサービスしてもらうことになるけどね」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」


しんのすけたちを閉じ込めた箱は子供の落書きのようなロケットに変形し、
展開した天井から飛び出して、夜空に消えていく。

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:17:33.20 ID:Lz8qDcvo0



ぶりぶりざえもん「……あ、出口をつけるのを忘れた」


ぶりぶりざえもん「……この作戦は失敗だ」


121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 20:48:30.78 ID:Lz8qDcvo0

カスカベ市内 カスカベ座


よね「……」
ルル「……」
スンノケシ「……」


むさえ「え、どーすんの? そんで?」

よね「……あんたはもう帰っていいわ」


ルル「……彼らを信じて待つしかないでしょうか?」

ルル「もはや、手出しができません」

よね「信じていいのかな。あいつ、もうまともに生きてるかもわからないし……」


スンノケシ「僕らはとりあえず、本隊と合流しましょう」

スンノケシ「今後も敵がなにかを仕掛けてくることは間違いありませんから」

むさえ「しんのすけの顔でそんな真面目なこと言われると笑えてきちゃうなー」

ルル「無礼な!」

むさえ「ウソウソ、ゴメン!」

むさえ「てゆーかねえ、さっきのあれはなに? 魔法? ねーちゃんたちどこいっちゃったの?」


よね「……そうだ!」

ルル「どうしました? なにか……」

よね「知り合いに元・魔人がいる!」


ルル「しかし、携帯が使えません」

よね「なら公衆電話ってもんがある!」

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:10:38.56 ID:Lz8qDcvo0

都内 スウィングボール


プルルル
サタケ「はい、お電話ありがとうございま―-」

よね「もしもし聞こえる!? 私よ私!」

サタケ「……ねーちゃん、詐欺ならよそでやんな」

よね「私よ! 東松山よね! ナリタ東西署の刑事!」

サタケ「お前か! いったいなんの……」

よね「そこにジャークいるでしょ! ジャーク! 緊急事態!」

サタケ「待ってろ。おいジャーク、電話だ!」

サタケ「なんかわからんが、ヘッポコ刑事がきんきゅーじたいだとよ!」


ジャーク「ほらみなさいあんたたち! 魔人の勘が当たったじゃないの!」

ローズ「えー、でもあのコが言ってるんでしょ〜?」

ラベンダー「ただの勘違いかもしれないわね」

レモン「大体あんたに用って、なにを頼ることがあんのよ?」

ジャーク「うるさいわねっ!」

サタケ「いーからはよ代われ!」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:11:59.09 ID:Lz8qDcvo0

ジャーク「ハァーイもしもし、ジャークですぅー」

よね「あんた腐っても魔人よね? あんたの力あとちょっとでいいから使えない?」

ジャーク「えー……なに、そんなこと? できたらもうなんかしらやってるわよ」

よね「そこをどうにかしてしぼり出せない?」

よね「ヘクソンがまた悪いことしてんの! そこの三兄弟も無関係じゃないって伝え」ブツッ

ツーツーツー


ローズ「なんだったのよ?」

ジャーク「途中で切れちゃったけど、」

ジャーク「ヘクソンが股を悪くしたとかなんとか……」

ジャーク「こないだカスカベの方で逃亡中ってニュースで見たけどねえ」


一同「「「「なにィッ!」」」」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:13:17.18 ID:Lz8qDcvo0

ローズ「あんたなんでそれを早く言わないのよ!」

ジャーク「だってあいつ怖いから関わりたくないんだもん」

レモン「急いで準備しておにいたまっ」

ラベンダー「途中で切れたなら、マジにヤバイ状況みたいね」


サタケ「……お客様。申し訳ありませんが本日はただいまをもって閉店とさせていただきます」

客「はあ? なんだ急に!」


サタケ「おそらく世界の危機ですので」ゴキゴキ

客「あ、はい……」

客「しょ、しょーがねーな、世界の危機じゃな……」

サタケ「またのご利用お待ちしております!」ニッコリ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:14:58.23 ID:Lz8qDcvo0

カスカベ市内

暴動はやや落ち着いたものの、まだ警官が多く警備にあたっている。

よね、公衆電話に向かって叫ぶ。

よね「もしもし、もしもーしッ!」


よね「……切れちゃった」

と同時に、カスカベ全域が停電状態に。

よね「……停電!?」


ルル「……おそらくただの停電ではなさそうです」

ルル「…………来ました」


路地裏から這い出して来る人形たち。

人形「「「」」」カタカタカタカタ


人形の群れが、カスカベ市内を襲い始める。
どこで銃声がし、おさまったかに見えたパニックは、再度広がっていく。

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:17:08.69 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 湖の上


ぶりぶりざえもんのつくった即席のロケットが、徐々に高度を落としていく。


一同「うわあああああああああああ!!!」

速度が落ち、やがて着水する。

しんのすけ、ロケットの窓越しに外を見る。
窓の向こうでは水面が徐々に上がっていく。


しんのすけ「ふう」

しんのすけ「これで安心ですな」


ひろし・みさえ「ふう……」

ひろし・みさえ「なわけねーだろ!」


ひろし「おいおいおいこれ沈んでねーか!?」

トッペマ「……今から天井に穴をあけるわ。みんな準備して」

    「トッペマ・マペット!」

天井が砕け散り、水が流れこんでくる。


アクション仮面「みんな! つかまれ!」

子供たちを外へ出すアクション仮面。

しんのすけ「おじさんがまだ中にいるゾ!」

アクション仮面「なんだと!?」

沈んでいくロケット。
アクション仮面はひとり潜り、意識のないままのロールシャッハに手を伸ばす。


アクション仮面(反応がない……生きているのか?)

アクション仮面、ロールシャッハの身体を抱え、引っ張り出す。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:22:05.39 ID:Lz8qDcvo0


波打ち際にたどり着く一行。


トッペマ「その人、大丈夫?」

アクション仮面「大丈夫だ、呼吸はしている……」


ひろし・みさえ「しんのすけええええ!!」

しんのすけ「大げさだゾ二人とも」


ネネ「ここどこ? ヘンダーランドみたいだけど」

風間「……遊園地とはずいぶん違うね」

マサオ「なんか空に砂時計が浮いてるし」

ボー「とにかく、異次元」



トッペマ「そうね、説明すれば長くなるけど……」


トッペマ「トッペマ・マペット!」

トッペマの手元に紙芝居が出現する。


トッペマ「状況の説明とここまでのお話、はじまりはじまり〜」

カスカベ防衛隊「わー!」パチパチ


ひろし・みさえ「」ポカーン

トッペマ「ごめんなさいね。ふざけてるわけじゃなくて、この方が緊張もほぐれるでしょ?」

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:28:07.72 ID:Lz8qDcvo0

……紙芝居の絵が動く。


トッペマ「オカマ魔女の二人が復活して、またヘンダーランドを攻め落としてしまったの」

     「ここがそのヘンダーランド。
      遊園地じゃなくて、あなたたちの住むところとは別の世界。
      でも、今はオカマ魔女たちに征服されてしまってるわ」


トッペマ「それどころか今度はほかの悪者もたくさん仲間にしてるからさあ大変!」

     「おまけにあなたたちの世界を征服するために“ぶりぶりざえもん”も手に入れてしまった」

     「けど、このぶりぶりざえもんはどうやら私たちの味方をしてくれているみたい」

     「オカマ魔女たちもうまく扱えなくて困ってるところ」

     「そしてオカマ魔女たちは彼の提案を飲んで、私たちにチャンスをくれた」

     「時刻は今夜の〇時。あそこに見える砂時計の砂が落ちきるまで」

     「それまでになんとか勝つ方法を見つけないと、
      ヘンダーランドもあなたたちの世界も、完全に征服されてしまうの!」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:29:55.98 ID:Lz8qDcvo0

ひろし「……んーなにがなんだかよくわかんねえが、」

みさえ「もういちどあいつらをやっつけないとならないのね」

しんのすけ「そーゆーこと! わかった!?」

ひろし・みさえ「おめーはわかってんのかよ!!」


アクション仮面「なにか作戦はあるのか? オカマ魔女の弱点とか……」


しんのすけ「スゲーナスゴイデスのトランプは?」

ひろし「そうだよ! あれがあるじゃねえか!」


トッペマ「そう。スゲーナスゴイデスのトランプ」

トッペマ、カードを取り出す。


トッペマ「私が使っても大した力はないけれど、あなたたち生きた人間ならすごい力になる」

トッペマ「だけど、ここにあるのはたったの四枚」

トッペマ「私が封印していたんだけど、残りはオカマ魔女に奪われてしまったの。
      オカマ魔女の弱点はこのトランプのジョーカーだけど、
      これもあいつらが持ってるわ」

みさえ「じゃあ勝ち目なんてないじゃない……」


トッペマ「カードはゼロではないわ。このわずかなトランプでも、
      本当に強いハートの持ち主ならば、
      なんとか奴らに近づければ大きなダメージを与えられるはず……」

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:31:22.89 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「……よおおおしっ!」


しんのすけ「マサオくん! 君しかいない!」

マサオ「待ってよなんでそうなるのー!」

ボー「マサオくん!」

ネネ「世界の運命がかかってるのよ、なんとかしなさいよ!」

風間「少なくともマサオくんではないだろう……」


アクション仮面「とにかく、場所を移動しよう。
         敵が時間を守るような律儀な奴かどうかわからない」

トッペマ「そうね。あそこの、見張り塔まで行きましょう」
     「あそこなら、もし敵が来てもすぐにわかるわ」

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:35:03.68 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 見張り塔



ひろし「郷さん、そいつ、平気ですか?」

ロールシャッハをひろしが顎で指す。

アクション仮面「……わかりません。
        私は医者ではないのでくわしくはなんとも言えないが、
        多分、非常に危険な状態かと」


ひろし「でも……そいつのせいで、しんのすけも俺たちもここにいるんですよ?」

みさえ「そんな心配しなくたって。大体にして何者なんだか」


アクション仮面「……彼は悪者ではないと思っています」

アクション仮面「ステージの上で、奴らと闘っていましたから」


ひろし「けどそれだけじゃなんともなあ……」

アクション仮面「無理もないでしょう」

        「ただ私には、どうも彼が悪人とは思えないのです。
         長く、この仕事をしてるからですかね……」

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:36:45.99 ID:Lz8qDcvo0

ひまわり「たや、たやい」

トッペマ「あら、あなたとは初めましてね」

しんのすけ「妹のひまわりだゾ。こっちはシロ!」

シロ「アン!」

トッペマ「ふーん、しんちゃん、お兄ちゃんになったんだ」

しんのすけ「そうだゾ。もう手がかかって大変だゾ」

みさえ「手がかかるのはあんたもでしょーが!」


トッペマ「守ってあげなきゃね?」

しんのすけ「もっちろん!」


風間「あ、あのう」

トッペマ「風間くんだったかしら? しんちゃんのお友達ね?」

風間「あの、個人的な興味なんですがね、魔法というのはどういう仕組みなんでしょうか?
    いやその後学のためにというかなんというか」


しんのすけ「かーざーまーくん」

風間「な、なんだよ!」

しんのすけ「……惚れたね?」

風間「なにを言うんだよ急に!」


しんのすけ「もう隠さなくたっていいのに。
      風間くんがマリーちゃんももえPも好きなの、みんな知ってるゾ」

ボー「魔法を使う、女の子の人形、そんなの、好きになって当たり前」

風間「だとしても僕は大っぴらにそういうスタンスは取りたくないの!」

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:38:11.16 ID:Lz8qDcvo0

ネネ「でも魔法なんて憧れちゃうわね」

マサオ「一度くらい使ってみたいよね」

しんのすけ「マサオくん、やっぱり君しかいない!」

マサオ「蒸し返さないでよ!」

トッペマ「あはは!」

     「でもね、魔法なんてそんなにいいものじゃないの」

     「魔法も行き過ぎると、オカマ魔女みたいに悪い心の持ち主を生んでしまうわ」

トッペマ「本当はそんなもの、存在しない方がいいのよ」


トッペマ「……作戦を考えないとね」


アクション仮面「カードが四枚、子供は危険な目に合わせられない」
        「ここにいる大人は、彼を含めて四人……」

アクション仮面「効果を試す余裕はないな……」


トッペマ「……そうね」

アクション仮面「……さあ、子供たちは眠っていなさい」

しんのすけ「えーっ!!」

アクション仮面「よく眠らない子は強くなれないぞ」

ひろし「そうだぞみんな。あとは俺たちに任せとけって」

しんのすけ「不安〜……」

ネネ「しんちゃんのパパじゃねえ……」

ひろし「うう……」

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:42:19.13 ID:Lz8qDcvo0

――――大停電のカスカベ市内


四方で悲鳴が飛び交っている。
人形たちは人間をとらえるとそのまま包み込み、まるで吸収するようにその身に閉じ込めていく。


路地裏から通りをうかがうよねたち。

よね「ちっくしょー……数が多すぎる……」

よね「あいつらもうやられちゃったのかな……」


スンノケシ「……それは、まだだと思います」

スンノケシ「それほど強力なコンピュータ・ウィルスを使うなら、
       こんなやり方ではなく、ミサイルでも撃ちあげてしまうでしょう。
       そのための脅迫もしてくるはずです」

ルル「そうです、まだウィルスは完全に敵の手に渡ったわけではないでしょう」


よね「とは言っても……」

よね「!」


路上で、ひとりの人間が襲われている。
よね、飛び出す。

ルル「待って!」


よね「あんた大丈夫―-」

人形「「」」カタカタカタカタ

人形「「」」クル

二体の人形が同時にこちらを向く。
襲われていた方も人形だ。

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:43:47.83 ID:Lz8qDcvo0

よね「! しまっ――――」

そのとき、大柄な身体が人形に体当たりを浴びせて吹き飛ばす。

サタケ「うおらァッ!」

ローズ「ひょー、やるう!」

ラベンダー「あら、刑事さん」

レモン「あんたたち大丈夫?」

ジャーク「来たわよーっ! ちょっとどうなってんのこれ?」



よね「ははっ……おっせーよ!」

むさえ「なんかオカマがいっぱい出てきた……」

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:46:52.23 ID:Lz8qDcvo0

よね、状況を説明する。

よね「……というわけで、」

よね「ジャーク! あんたの力でそいつらの世界に行けない!?」


ジャーク「ムリ」

ジャーク「ムリムリムリムリ、ム・リ。ムーリー」


ジャーク「賞味期限切れてるって言ったでしょ? あ・た・し」


一同(……このオカマ……)イラッ


スンノケシ「……でも、本当に不可能ならここへ来ませんよね」

スンノケシ「危険だけど、できないことはないのではありませんか?」


ローズ「なにこのコしんちゃんにソックリだけどかしこーい!」

ラベンダー「知的な魅力があるわね」

レモン「将来マジでいい男になるわあ」

ルル「お前たち王子に近づくな!」


サタケ「で、どうなんだお前」

ジャーク「んー……ま、NOと言ったらウソになるわね」


一同「「「……テメエエエ!」」」

一同がジャークに襲いかかり、フクロにしかける。

137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:51:27.20 ID:Lz8qDcvo0

ジャーク「待って待って今から教えるからちょっと待ってってばねえ!」


ジャーク「人形がその異次元から出てくるんでしょう?
     簡単よ出口の反対は入口だもの。
     そっから向こうに入っちゃえばいいのよっ」

ルル「しかし、奴らはほとんど一瞬で出てきます」

ルル「そのような隙があるとは思えません」

ジャーク「そこであたしので・ば・ん。
      そのゲートをしばらく出したままにしとけばいいの」

ジャーク「でもそうなると、」
     「あたしはほぼ間違いなくあの人形に取り込まれちゃうわねえ……」

ルル「あれに取り込まれると?」

ジャーク「だいじょーぶよ死にゃーしないわ、ただ奴隷になるってだけ」

ジャーク「そのあとどうなるかはわかんないけど、一生コキ使われるんじゃない?」


ジャーク「あれ操ってるやつ、相当性格悪いわよ」

よね「やっつけるには?」


ジャーク「それも簡単、操ってるやつをやっつければいいの」

ジャーク「あんたたちがなんとか勝ってくんないと、
      あたしも未来永劫人形のまま」

ジャーク「けれど多分、あの人形二十万相手にするよりヤバイけどね」

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:53:13.74 ID:Lz8qDcvo0

ジャーク「どうする? それでも行く? 勝算あんの?
     あ、ちなみに行けるのは時間的にひとりだけよ」

サタケ「俺が行こう!」

ジャーク「あんたの図体で通れるわけないでしょこのゴリラ!」

サタケ「ううう……」

よね「私が行くわ!」

ローズ「あんたが行ってどうすんのよー」

よね「なんだとコラ!」

ルル「……私が行きます」

スンノケシ「ルル!」

ラベンダー「あなた、軍人さんよね?
      私たちより腕は立つみたいだけど」

レモン「じゃ、このコは私たちがあずかっておくわ」

ルル「王子に変なことをしたらただじゃおきませんよ……」


サタケ、スンノケシを持ち上げてむさえに渡す。

サタケ「ねーちゃん、しばらくこのコを頼む」

むさえ「え、あのちょっと」

むさえ(すげー筋肉……)



サタケ「ッしゃ行くぞおらあああッ!!!」

一同「おらあああッ!!!」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:55:42.90 ID:Lz8qDcvo0

路上へ飛び出す面々。その間も人形は続々と湧き出している。

襲い来る無数の人形を殴り飛ばす三兄弟とサタケ。

よね「来たわ! こっち!」

空間が歪み、人形が一体新たに姿を見せる。

つかみかかる人形を警棒で押さえるよね。
人形はまだ半身をのぞかせているだけだ。

ジャーク「いいわよ引き抜いて!」

手をかざすジャーク。歪みが、徐々に大きくなる。
ルルが飛び込もうと構える。
が次の瞬間、よねを襲っていた人形が急旋回しルルに飛び掛かる。

ルル「ちィッ……!」

ジャークもまた別の人形に捕まり、身動きが取れなくなる。


ジャーク「やばいやばいやばい!」

ジャーク「あーんもうあんたでいいわ! さっさと行きなさい!」


よね「え、ちょ、ぅわあッ!!」

よね、ヤケクソのジャークに突き飛ばされる。
異次元の扉が閉じる。


ルル「くっ……」

ローズ「ちょっとねえどうなったの!」

ラベンダー「あの刑事さんが行っちゃったわけ?」

ルル「ええ……私としたことが……」

レモン「なんでもいいけどこっちもやばいわよ!」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:57:40.06 ID:Lz8qDcvo0

――押し寄せる人形の群れ。


むさえ「やばいよこっちからも来た!」

サタケ「クソ……これまでか……」


と、そこへ軽トラックが突っ込んでくる。


竜子「あんたたち、こっちだ!」

車体には“21世紀博”の文字。
荷台に、紅さそり隊の面々。

お銀「うわ、どういうメンツだ? なんかオカマばっかじゃねーか」
マリー「ジャガイモ小僧もいるし……」


ルル「! あなた、喫茶店の……」

竜子「フフフ。ふかづめ」
お銀「やってる場合じゃないよリーダー!」

竜子「ああそうだッ、ほら早く乗って!」

マリー「向こうの、21世紀博ってとこが避難所になってるんスよ。
    あそこなら何人でも入れますんで」

お銀「あたいらはまあ、ボランティアっス」

竜子「そ、そういうことだ!」

サタケ「助かったぜ美少女ども!」

ローズ「あらあんたやっぱりロリコンなの?」

サタケ「違う!」

竜子・お銀・マリー(このおっさんすげー筋肉……)


ラベンダー「でも大丈夫かしら、あの刑事さん」

レモン「ジャークはつかまっちゃったし……」

スンノケシ「……今度こそ、信じて待つしかありません」

ルル「王子……」


むさえ「こんな形でまた21世紀博に行くとは思わなかったなー……」

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:11:03.33 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 上空


よね(っ……ここは……)

よね「って、うわあああああああああ!!!!!」


よね、空中に放り出され、落下していく。

そのとき、トッペマが飛来して手をかざす。

トッペマ「トッペマ・マペット!」

よね「あれ、浮いてる……?」

よね「……あー、死ぬかと思った……」

トッペマ「あなたは? 見たところ人間のようだけど」

よね「ってあんたは……人形がしゃべってる?」


トッペマ「私のことはいいわ。オカマ魔女の手下?」

よね「確かにオカマの手は借りたけど……仲間が捕まってるから助けに来たんだよ!」

トッペマ「その仲間たちが誰か、言いなさい」


よね「ええと、野原しんのすけと、その家族と、友達と、あとロールシャッハ!」

よね「連れてってくれればわかる!」

トッペマ「……みんなはあそこの見張り塔にいるわ」

よね「あのショーの、アクション仮面も?」

トッペマ「ええ。彼も知ってるなら、ずっと追いかけてくれてたみたいね」

トッペマ「ごめんなさいね、疑ったりして」


よね「いーんだよ、そんなの」

よね「それより、ここは……」


トッペマ(……そりゃそーいう反応するわよねー)

トッペマ「……もう色んな人に説明したから、大分かいつまんで話すわね」

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:13:10.84 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド  午前〇時、五分前の見張り塔


子供たちは眠ってしまっている。
床に並べたスゲーナスゴイデスのトランプ。
外を見つめるアクション仮面。



アクション仮面「……戻ってきた!」

ひろし「敵もですか!?」

アクション仮面「いや……あれは、敵ではなさそうです」


宙を浮かんでくるトッペマとよね。

よね「おおーい、野原さーん!!」

ひろし・みさえ「…………」


アクション仮面「野原さん、お知り合いですか?」

ひろし「いやなんていうか……」

みさえ「戦力には数えなくてもいいわ、あのコ……」

よね「どういう意味だよ!」


トッペマ「とにかく、もう約束の時間が近づいています」

よね、ロールシャッハに近づく。

よね「ロールシャッハ!」

トッペマ「彼はいったい……?」

よね「肩書はあるにはあるけど……うーん」

よね「具体的にはやたらタフな、口の悪いおっさん?」


トッペマ「死んではいないみたいだけど、もうずっと目を覚まさないわ」

よね「でも奴らと闘うなら、この人は絶対必要になるよ」

よね「あんたの魔法でなんとかならないの?」

トッペマ「今の私では、してあげられることはないわ」



ひろし「おい、そんなことより時間がやべえぞ!――」

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:14:52.03 ID:Lz8qDcvo0

午前〇時。

すべての砂が落ちる。

城の鐘が、ヘンダーランドに響き渡る。




ヘンダー城 広間

ぶりぶりざえもん「……時間だ!!」

寝ぼけ顔でやってくるパラダイスキング
他の者は広間に集まっている。

パラダイスキング「よーおっしゃあ、待ちくたびれたぜえ!」

マホ「あー。あんた先行ってな」

パラダイスキング「……なんだテンション低いなオメー」

マホ「睡眠不足は肌に悪いんだよ! けっ!」

パラダイスキング「そーかよ、んじゃ俺は勝手にいくぜ」

マカオ「待ちなさい!」

パラダイスキング「ああん?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:17:23.78 ID:Lz8qDcvo0

ジョマ「あんたバカね。順番に行って順番にやられるのはヒーローもののお約束じゃない」

マカオ「アクション仮面好きなのにそんなこともわかんないのー?」

ジョマ「どうせここに来るしかないんだから、それまで待っていればいいわ」


マホ「だとよ。私は引き続き仮眠させてもらうぜ」


アナコンダ「しかし、退屈で死にそうだな」

ハブ「はははアナコンダ様。魔人の身体でどう死ぬと言うのですか」

アナコンダ「不死身ジョークだよぬはははははは」

アナコンダ「だが、退屈しのぎのショーくらい用意してくれているのだろう?」

ジョマ「あたり」

マカオ「ぶーりぶりざえもーん?」


ぶりぶりざえもん「……これが最後のサービスだぞ」

と、ヘンダー城のいたるところにモニターが出現する。

モニターには、人形に襲われるカスカベ各地の映像。

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:19:03.54 ID:Lz8qDcvo0

ハブ「市内の監視カメラの映像か……」

パラダイスキング「ほー、なんかやべえことになってんな?」


アナコンダ「ふははははは、ほら逃げろ逃げろ……ああ、惜しいなあ」

パラダイスキング「なあ賭けようぜ。次に映る奴が逃げ切れるかどうか」

アナコンダ「なかなかの名案だな」

ハブ「では私は、あのペアルックのカップルが逃げ切れる方に20万」

パラダイスキング「あー? そりゃ大穴じゃねえか?」

ヘクソン「…………」

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:20:04.21 ID:Lz8qDcvo0

映像が切り替わる。
21世紀博のホールに籠城した市民たち。


ジョマ「市民の大部分はここにいるわ」

マカオ「奴らが来る直前に、こちらの光景をお届けしちゃうわよ」

ジョマ「ぶりぶりざえもん?」

マカオ「あんたも一緒に、救いのヒーローが一度に全滅するのを見て―-」

マカオ・ジョマ「絶望するといいわ」


147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:21:35.92 ID:Lz8qDcvo0

椅子に座り込んで、瞑想したままのヘクソン。


立ち上がり、玉座の前に歩み出る。


ヘクソン「……オカマども。俺はこんな余興に興味はない」

ヘクソン「俺は先に行くぞ」

ヘクソン「……あのコートの男と、野原しんのすけと勝負がしたい」


マカオ「しょーがないわねえん」

ジョマ「いいわ。捕まえてきたご褒美ね」

パラダイスキング「なんだよ、ずりーなあ」


ヘクソン、他の者をにらむ。

ヘクソン「手を出せば俺が相手になる」

ヘクソン「もうひとつ。スゲーナスゴイデスのカードを一枚よこせ」

ジョマ「贅沢ね」

マカオ「ンでもあんたいい男だからあげちゃーう」

ジョマ「どうせあなたじゃ使えないだろうけどね」


宙に浮くカードの束。一枚がヘクソンの元へ飛ぶ。

マカオ・ジョマ「行ってらっしゃい」

広間から姿を消すヘクソン。



ジョマ「四枚、カードが足りないわね」

マカオ「あら気づいたー? またあの人形がくすねたみたいよ」

ジョマ「けれどこの方が面白いわね。牙のない獣を狩っても仕方がないもの」

マカオ・ジョマ「ククククククククク」

148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:24:32.44 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 見張り塔


ひろし「……誰もこねーな……」

みさえ「こっちから行くわけにはいかないの?」

トッペマ「そうですね。この、ロールシャッハさんが
      目を覚ましてくれればその際に動くべきなのですが……」


よね「……みんな、来るよッ!」

ひろし「な、なにィッ!」

子供たちが目を覚ます。

ヘクソン、ヘンダーランドの建物の間を飛び越えてやってくる。


アクション仮面、タイミングを合わせ、窓に飛び込む瞬間に拳を放つも
あっさりとかわされ、逆に顎を打ち抜かれる。

アクション仮面「うぐっ!」

しんのすけ「……お?」

しんのすけ「アクション仮面!」

飛び起きるしんのすけ。

しんのすけ「おいお前! アクション仮面になにすんだ!」

ヘクソン「…………」

トッペマ「トッペマ・マペット!」

ヘクソンが手をかざす。
トッペマの手からはなにも出ない。

トッペマ「魔法が……効かないっ!?」

ヘクソン、距離を詰めて蹴り飛ばす。

トッペマ「くっ……!」

ヘクソン「落ち着け。お前たちにはなにもしない」

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:25:11.70 ID:Lz8qDcvo0

よね「……?」

ヘクソン、ロールシャッハに歩み寄る。

ヘクソン「用があるのはこの男だけだ」

トッペマ「そ……その人はまだ意識が戻らないわ、なにをしようというの?」

ヘクソン「……この男の精神を見る」

ヘクソン「野原しんのすけ」

しんのすけ「」ビクッ

ヘクソン「俺と勝負だ」

しんのすけ「……う、受けて立つゾ!」

みさえ「ダメよしんちゃん!」

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:26:47.47 ID:Lz8qDcvo0
ヘクソン「この男は今、記憶に紡がれた夢を見ている」

     「俺はこれから、この男の精神を破壊しにかかる」

     「それが勝負だ。お前とこの男の記憶とを繋ぐ。夢を共有するのだ」

ヘクソン「その中でこの男を捜し、救い出せ」


しんのすけ「う〜ん???」


ヘクソン「問題ない。行けばおのずとわかる」

しんのすけ「……わかったゾ!」


トッペマ「精神の中だなんて、いったいどうやって……」

ヘクソン、胸元からカードを取り出す。

トッペマ「……スゲーナスゴイデスのトランプ!」

トッペマ「私利私欲のためでは、その力は使えないわ!」


ヘクソン「そんな下らぬことではない」

ヘクソン「……スゲーナ・スゴイデス」


次の瞬間、カードから黒い触手が次々と伸び、ヘクソンとしんのすけを包み込む。

その塊はロールシャッハの身体に吸い込まれるように消えていく。

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:28:42.05 ID:Lz8qDcvo0



ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――ここは、)


ロールシャッハ(俺は、どうなったのだ)


ロールシャッハ(魂が、身体を離れていく感触があった)



目を開く。


ロールシャッハ(!)
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:29:17.32 ID:Lz8qDcvo0

――――ニューヨークの街。



ロールシャッハ(……ここがあの世か?)

ロールシャッハ(それとも再度、新たな地に飛んだのか?)

ロールシャッハ(…………日誌はある)


153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:33:16.23 ID:Lz8qDcvo0

「ロールシャッハ!」


誰かが呼ぶ声がする。


振り向くロールシャッハ。
そこにいるのは、二人の不良だ。


「ロールシャッハ!」



「おめえに言ってんだよこのチビ!」

「なんとか言えよこの馬鹿!」


ロールシャッハ「……」

        「…………」
        「…………」
        「…………」
        「…………」
        「…………」

        「…………で、でも俺……」
        「……買い物に行かないと……」



――ウォルター「母ちゃんのお使いで……」


いつのまにか彼の姿は、赤毛でそばかすの、十歳の少年となっている。


154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:34:19.68 ID:Lz8qDcvo0

タバコの不良(リッチー)「おめえの母ちゃんの欲しがるモノなら知ってるぜ!」

帽子の不良「マジでおめえの母ちゃん淫売なのか?」

ウォルター「どいてよ、行かないと……」

帽子「どこにも行かせねえぜ、これでもくらいな」

ウォルターの顔面へ押しつけられる、かじりかけの果実。
少年の顔が、怒りに染まっていく。

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:37:11.99 ID:Lz8qDcvo0

――ニューヨークの街路で、目を覚ますしんのすけ。


しんのすけ「お?」

しんのすけ「ここどこ? カスカベ?」

しんのすけ「うーん、なんか大事なことがあったような……??」

しんのすけ「うーん、うーん」

しんのすけ「……おお?」


156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:39:10.74 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「ねえねえなにしてんの? カツアゲ?」



帽子「あーん?」
タバコ「んだァこのガキ……」


しんのすけ「オラ知ってるゾ、こうやるんだよね」グイッ
      「『いーもんもんじゃんじょん』」

しんのすけ「ねえねえ、されてる方はどんな気持ち? ねえ今どんな気持ち?」


ウォルター「えっ……どうって……」

しんのすけ「髪の毛赤いけど、キミも不良?」

ウォルター「いや……違……」

しんのすけ「んもーう、率直な意見を述べられないと将来苦労するゾ。とーちゃんいつも言ってるゾ」


帽子「おいおい、急に割り込んできてなんのつもりだよ?」

しんのすけ「世知辛いおじさんたちの社会の観察をしようと思いまして」

タバコ「おじっ……俺はまだ15だ! クソガキ!」

しんのすけ「うっそー、その顔で15歳!? やだーサバ読むにも無理がありますわよねー奥さん」

ウォルター「奥さん……俺?」


タバコ「うるっせーな、どうでも俺はまだ15だ!」

しんのすけ「でもタバコ吸ってるゾ」

タバコ「タバコがなんだよ、ガキじゃねーンだ俺たちゃ」


しんのすけ「じゃあやっぱりおじさんじゃん」

タバコ「……このガキィ!」

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:40:36.86 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「おおっといけない! 時間に遅れる」

帽子「んだあ、時計持ってるなんざ金持ちのガキか?」

しんのすけ「いいでしょー。ロレックスって言うんだぞ」

帽子「……サインペンで描いただけじゃねえか」


しんのすけ「じゃ、そういうことで」

タバコ「待てよ、さんざんおちょくりやがって……」

しんのすけ「えー、でもオラ、大事な人を捜してるからおじさんたちにかまっていられませんので」

タバコ「どこも行かせねえよ、二人まとめて……」


警官「お前ら、そこでなにしてる?」

帽子「やべえポリだ、逃げろ!」

警官「待て、おい!」

タバコ「置いてくなよ!」「走れ!」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:42:08.12 ID:Lz8qDcvo0
しんのすけ「ほうほう……大人はオマワリさんに追いかけられると」

しんのすけ「……将来不安だなあ」


しんのすけ「さてと、長居は無用ですな」

ウォルター「ま、待ってよ」

しんのすけ「え、なに? もしかしてオラのサイン欲しいの?」

ウォルター「いや、そうじゃなくて……あ、ありがとう、助かったよ……」

しんのすけ「礼ならいらない、アメなら欲しい」


ウォルター、ポケットを探る。

ウォルター「……ごめん、なんにもあげられないや」

ウォルター「……人を捜してるの? さっき言ってた、お父さん?」


しんのすけ「おお、そうだった」

      「んーとねー、シャッちゃんっていう人。
        茶色のコート着て、しましまのマスク被ってるの」


ウォルター「……変わった人を捜してるんだね」

しんのすけ「ほんとほんと、もう信じられないくらい変な人」


ウォルター「キミが言うってことは、すごく変なんだろうね」

ウォルター「……ごめん、でも俺、そんな人知らないんだ」

しんのすけ「ほおほお、じゃ、そういうことで」

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:44:19.97 ID:Lz8qDcvo0


しんのすけ「……」


しんのすけ「なんでついてくるの?」

ウォルター「……いや、キミってすごいなあと思って」

しんのすけ「どこらへんが?」キリッ

ウォルター「うーん……なんだかわかんないけど、なんとなくすごい」

しんのすけ「いやァ、それほどでもォ」

ウォルター「……」


しんのすけ「オラ野原しんのすけ。あんただれ」

ウォルター「俺?」

      「俺は……」


ウォルター「ウォルター……ジョセフ・コバック……ス」


しんのすけ「ずいぶん長いお名前ですなあ」

ウォルター「……そうかな?」


しんのすけ「んー……ウォーちゃんとジョーちゃんとコバちゃん、どれがいい?」

ウォルター「え? ああ、ニックネームか……」

ウォルター(考えたことも……なかった)


しんのすけ「どれがいい?」

ウォルター「……なんでもいいよ」

しんのすけ「じゃあ決まり、フーちゃん」

ウォルター「全然違うじゃんか!」

しんのすけ「なんでもいいって言ったゾ」

ウォルター「言ったけども……」

しんのすけ「ジョセ、フゥ〜、から取ったんだゾ」

しんのすけ「なんだかステディな感じがしない? ジョセ、フゥ〜、ちゃん」


しんのすけ「オラのことは特別にしんちゃん、って呼んでもいいよ」

ウォルター「あ、ありがとう、しんちゃん……」

しんのすけ「フーちゃん!」

ウォルター「……しんちゃん」

160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:45:32.46 ID:Lz8qDcvo0

陽が沈んでいく。


ウォルター(あれ?)


土手を歩く二人のシルエット。


河川が真っ赤に染まっている。


川は二つの街を分断している。

一方にはニューヨーク。一方にはカスカベ。


ウォルター(俺、今どこにいるんだろう?)


しんのすけ「うーん、なんか大事なことを忘れてるような……」


      「よーしこーなったら!」


      「わすれよお〜っと」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:52:19.02 ID:Lz8qDcvo0
しんのすけ「……かーえろっと」


ウォルター「帰るの?」

ウォルター「どこへ?」


しんのすけ「どこってキミィ、自分んちに決まってるでしょ」


ウォルター「そうか……そうだよね」


ウォルター「じゃあね、しんちゃん」

しんのすけ「バイバーイ」


しばらく歩き、ふと振り向くしんのすけ。

しんのすけ「……お?」


引き返す。その先で、ウォルターが立ったまま動かずにいる。


しんのすけ「……どしたの?」


ウォルター「なんだか……帰りたくないんだ、家に……」

しんのすけ「おお!?」

しんのすけ「いけないよ、オラたち、まだ知り合ったばかりじゃないか……!」

ウォルター「え?」


しんのすけ「でもキミがどうしてもって言うなら……オラ……オラ……」

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:55:15.30 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 見張り塔


全員が、静止したロールシャッハの身体を見守る。


よね「……どうなったの……?」

トッペマ「わからない……」

みさえ「しんのすけ、どこに行ったのよ!?」


トッペマ「この方の精神の中にいることは間違いありません。
      でも、こんなカードの使い方は私も見たことがない」

トッペマ「それができたのは、あの男が超能力者であることと
      関係あるのかもしれません」

トッペマ「……あの男も、悪い意味で非常に強いハートの持ち主でした」


ひろし「そんなことよりどーなるんだよお!」

ひろし「しんのすけが夢の中で人探しだと?
     絶対無理に決まってんだろそんなもん!」


アクション仮面「精神を壊すと言っていたな。
         もしかすると、しんのすけくん自身も危ないかもしれん」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:00:29.57 ID:Lz8qDcvo0

トッペマ「……同じように、彼の精神に入ることができれば……
      手助けができるかもしれません」


よね「……私が行く。カードの使い方を教えて」

トッペマ「ダメよ。本当にできるかどうか確証がない」

風間「そのトランプも、四枚しかないんですよね?」

よね「それでも彼がいなければ、絶対に勝てないわ!」


トッペマ「……使い方は簡単よ。カードを手にして、スゲーナ・スゴイデスと唱えればいいだけ」

トッペマ「でも、本当にカードの力を信じる心がなければ効果は全くないわ」


トッペマ「上辺だけで信じると願っても意味はないのよ」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:04:17.66 ID:Lz8qDcvo0

アクション仮面「……そうとも。私もいまだ、完全に信じる気にはなれていない」

アクション仮面「テレビの中とは違うのだという気持ちが先走っている……」



よね「アクション仮面……さん?」

   「彼はね、こう言ってたわ」

   「ヒーローとは、最後まで真実の側に立つ者だ、って」

よね「私は信じるよ。ほかに道がないならね」


よね、カードを手に取る。深く息を吸う。


よね「…………スゲーナ・スゴイデスッ……!!!」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:06:39.98 ID:Lz8qDcvo0


――――野原家

しんのすけ「おっかえりー!」

しんのすけ「なんだか、ずいぶん久しぶりな気がしますな」


みさえ「……ただいま、でしょ! あれ? その子は?」

しんのすけ「フーちゃん! カツアゲにあってたところをオラが助けたの」

みさえ「コラ、あんたって子は、またそんな危ないことして!」

しんのすけ「終わりよければすべてよし、情けは人のダメテラス」

みさえ「ためならずよ」

しんのすけ「そうともいうー」



しんのすけ(んー……まだなんか大事なこと忘れてるような……)

しんのすけ「はっ、アクション仮面!」

しんのすけ「そーそー! アクション仮面はじまっちゃう!」


ウォルター「あ、あの、えと……」

みさえ「えーと、ずいぶんお兄さんのお友達ができたのね」

みさえ(こう言っちゃなんだけど……なんだか汚い格好だし……
    あんまり健康そうに見えないわ)

みさえ(家出……とかなのかしら)

ウォルター「ええと、その……」

みさえ「よそのうちに入るときは、『おじゃまします!』よ」

ウォルター「お、おじゃ、おじゃまします」

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:08:02.41 ID:Lz8qDcvo0

ひまわり「た」

ウォルター「赤ちゃん……」

ひまわり「むー……んっ!」プィッ

ウォルター「……」

しんのすけ「あー、こら、ひまわり!」

      「お客さんに失礼な真似しちゃダメッ」ボソッ



みさえ「しんのすけー、シロに餌あげたの?」

しんのすけ「あとでー、アクション仮面がはじまるの!」

みさえ「ほんと、アクション仮面となるとああなんだから……」


シロ「……クゥン」

ウォルター「……」ジィー

シロ「ン! アンン……」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:09:00.44 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「アクション仮面、観るでしょ?」

ウォルター「……アクション仮面?」

しんのすけ「もしかして、アクション仮面知らないの?」

ウォルター「え……う、うん」

しんのすけ「よし、じゃあ今日からキミもファンになりたまえ」ピッ


アークショーンかーめーん
せいぎのかーめーんー
ゴッゴッゴー レッツゴー!


ウォルター(アクション仮面……)

ウォルター(スーパーマンとか、ナイトオウルみたいなものかな)

アクション仮面「正義は勝つ! ワーッハッハッハ!」
ミミ子「ワーッハッハッハ!」

しんのすけ「ワーッハッハッハ!」

しんのすけ「ほら、君も一緒にやりたまえ」

しんのすけ「ワーッハッハッハ!」


ウォルター「…………ワーッハッハ」

ウォルター「ワァーッハッハッハ!」

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:10:57.42 ID:Lz8qDcvo0

みさえ「あなた、お夕飯食べてく?」

ウォルター「いや、でも」

みさえ「いいのよ、遠慮しないで。なんなら泊まってってもいいけど」

    「そのときはお家にお電話だけ入れときなさい」




電話の前に立つウォルター。

「…………」カチャ

「………………」ガチャリ

みさえ「あら、終わった? お家の人、いいって?」

ウォルター「…………はい」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:13:10.02 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「ハンバーグの中にタマネギとピーマン入れるなんて卑怯だゾ!」

みさえ「好き嫌い言う子がいけないの! フーちゃんを見なさい!」

しんのすけ「フーちゃんはオラよりお兄さんだからいいんだもーん」

ウォルター(ハンバーグ……おいしいな……)

みさえ「そんなこと言うんだったら、フーちゃんにうちの子になってもらおうかしらー」

しんのすけ「ええーっ!」

みさえ「言うことの聞けない子はママの子じゃありませんー!」


――ダァン!

しんのすけ「」ビクッ
みさえ「え?」


テーブルを叩いたウォルター。

しんのすけ「ふ、フーちゃん……?」

ウォルター「……」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:14:06.65 ID:Lz8qDcvo0

ひまわり「……えっ、えっ……」

ひまわり「うええええええん!」


みさえ「ちょっと、いきなりどうしたの?」

ウォルター「え……や……」
      「なんでも、ないです…………」


みさえ「あーよしよし泣かないで、いい子だから」

ひまわり「ええええん、ええええん!」


みさえ「おどかさないで、ひまわりはまだ小さいんだから……」

ウォルター(赤ちゃん……)

しんのすけ「もう、母ちゃんはひまわりが泣くとすぐこうなんだから」

みさえ「あんたもあたしもこうだったの! あんたのアクション仮面とはわけが違うのよ」


ウォルター(しんちゃんも……しんちゃんの母ちゃんも……)

ウォルター(……俺も……)


ひまわり「ひっ、ひっ、ひっ……」

ひまわり「……たあい」

ウォルター(あの子……笑った)

171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:15:58.34 ID:Lz8qDcvo0


みさえ「――えー、遅くなるって? はい、はいはい、わかったわよ。
     ああ、ええと、今しんのすけの友達が遊びに来てるんだけど……」

みさえ「どうも複雑な家庭の子みたい……ううん、なにもおおごとにしたいわけじゃないの。
     でも、年頃の子みたいだから……」

みさえ「あなたに、話を聞いてもらいたかったんだけど……」




――ウォルターとしんのすけ、チラシの裏に絵を描いている。


しんのすけ「それなんの絵?」

白紙の一面に、黒の対称形。


ウォルター「……ん? なんだろう。描いてるときは覚えてたような……」

ウォルター「……なんだと思う? なんに見える?」

しんのすけ「ただの染みにしか見えないゾ」


ウォルター「そう……なんだけど……なにか、別なものを描いていたような」

ウォルター「なんでもいいんだ。なにか、似ている形はない?」

しんのすけ「うーん……」

しんのすけ「うーん……うーんうーん!」


ウォルター「ごめん……無理して考えなくてもいいよ」

しんのすけ「はー、頭使わせないでよまったくもう」


ウォルター「しんちゃんのそれは……? ブタ?」

しんのすけ「ブタじゃないよ。ぶりぶりざえもん」

ウォルター「なに、ぶりぶりざえもんって?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんは、救いのヒーローなんだよ」

172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:17:22.80 ID:Lz8qDcvo0
ウォルター「ヒーロー?」

ウォルター「それって……アクション仮面みたいな?」


しんのすけ「うーん……多分ね」

ウォルター「アクション仮面と、どっちが強いの? カンタムより強いの?」


しんのすけ「うーんうーん……うーん……」

しんのすけ「一番弱いゾ」

ウォルター「弱いのにヒーローなの?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんはよわっちいけど、
      アクション仮面もカンタムロボもどうにもならないとき、
      みんなをお助けしてくれるんだゾ」

しんのすけ「だから弱くても、救いのヒーローなの」

ウォルター「……変なの」


しんのすけ「むかーしむかし」

ウォルター「え?」

しんのすけ「オラが考えた、ぶりぶりざえもんの物語」

しんのすけ「むかーしむかーし、
       おじいさんとおばあさんがあちこちにいましたが、
       ぶりぶりざえもんというブタは、一匹しかおりませんでした――」

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:18:40.20 ID:Lz8qDcvo0


みさえ「……ちゃんとよく洗いなさいよー」


風呂場


ウォルター(お風呂は……なんだか好きじゃないな)

しんのすけ「さっき、なんで怒ったの?」

ウォルター「だって……しんちゃんの母ちゃんが……
       しんちゃんをいらないって……」

しんのすけ「はあーやれやれ。子供だなあキミは」

しんのすけ「本気で言ってるわけないでしょー。あれはただのし・つ・け」

しんのすけ「つきあってあげるのも大変なんだゾ」


ウォルター「……」

ウォルター「……俺の母ちゃんは、本気で言うよ」


しんのすけ「またまたー」

ウォルター「……」
しんのすけ「……」


しんのすけ「……マジ?」

ウォルター「うん。だからお父さんは、母ちゃんに追い出されちゃったんだ」

しんのすけ「……ほお、ほお……」

ウォルター「でもお父さんはすごい人なんだ。国のために闘った、立派なお父さんさ」


しんのすけ「うちの父ちゃんは全然立派じゃないよ。すぐ酔っぱらうし足は臭いし」

しんのすけ「母ちゃんだってげんこつ! も、ぐりぐり! もするし」

しんのすけ「でもオラは父ちゃんも母ちゃんも、ひまわりもシロもみんな大好きだゾ」


ウォルター「……うらやましいな、しんちゃん」

しんのすけ「フーちゃんは、フーちゃんの母ちゃんのこと嫌い?」

ウォルター「…………」

      「わからない」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:19:30.39 ID:Lz8qDcvo0

みさえ「あら、上がったの? ごめんね、うちあなたくらいの子がいないから、
     パジャマ、パパのでいいかしら?」


ウォルター「あ……ありがとう……ございます……」


ウォルター、パジャマを顔に当てる。

ウォルター(……お父さん……)

しんのすけ「……くさくない?」

ウォルター「ううん」

      「とても、いい匂いだよ」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:21:19.75 ID:Lz8qDcvo0

寝室


ウォルター「しんちゃん」

しんのすけ「なあに、フーちゃん」


ウォルター「また、しんちゃんのうちに来てもいいかな……?」

しんのすけ「いつでもOKだゾ」


しんのすけ「今度、アクション仮面の映画観ようね。
       オラがアクション仮面をお助けした話、してあげる」

ウォルター「アクション仮面を助けたの? ホントに?」

しんのすけ「……もしかして疑ってる?」

ウォルター「んー……ちょっとね!」

しんのすけ「それだけじゃないゾ、オラだって、カスカベ防衛隊の一員だもん、
       救いのヒーローだもん、何度も、何度も、世界を、お助けしたんだゾ」

ウォルター「……すごいや」


しんのすけ「フーちゃんも、カスカベ防衛隊に入りたい?」

ウォルター「カスカベ防衛隊は、なにをするの?」

しんのすけ「カスカベの安全をお守り……ふわァ……するんだゾ」

ウォルター「俺はできないよ、そういうの」

しんのすけ「できるゾ。オラたち、ほんとに、何度も……世界の危機を救ったんだゾ」

しんのすけ「ほんとにほんと、ほんと……だゾ……Zz」

ウォルター「しんちゃん……」

しんのすけ「……Zzzzzzz」


ウォルター「ほんとに……キミはすごいな」

176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:23:12.49 ID:Lz8qDcvo0


ひろし「――たーだいまー」

みさえ「あら、ホントに遅かったのね」

ひろし「いやー、ほんと今日は疲れた。ん、この靴……例の、しんのすけの友達のか?」

ひろし「ぼろぼろのズックだなー。そういや、俺も昔こんなの履いてたっけ……」

ひろし「んでー、その子は?」

みさえ「それが……」


しんのすけ「Zzzzzz……」
ウォルター「Zzzzzz……」


ひろし「ははは。もうすっかり寝ちゃってるか。でもしんのすけの友達にしちゃ、確かに大きいな」

    「どっちかっつうと、兄弟だな」

    「俺が俺の親父になって……ガキの俺を見てるみたいだ」


みさえ「でもホントにこの子、虐待を受けてるとかなら」

ひろし「そりゃいくらなんでも、考えすぎじゃないのか?」

みさえ「万が一ってこともあるじゃない」

ひろし「……俺は未だに、望まれずに生まれる子供ってのが信じられねえよ」


シロ「アン! アン!」

みさえ「あれ、シロ……ゴハンはちゃんとあげたのに」

そのとき居間のガラス戸が割れる。
侵入してくる、ネグリジェの大女。


「……ウォオオオルタアアアアアアア」


ウォルター「……」ピク
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:31:21.11 ID:Lz8qDcvo0

ひろし「え、おお、おいなんだあんた急に!」

みさえ「なんなのよ人んちのガラス壊したりして!」

シルビア・コバックス「ウォルタアアアア! どこ!」

しんのすけ「……お」ムニャ

起き上がるウォルター。よろよろと居間へ歩く。


ウォルター「……」

ウォルター「か、母ちゃん……」


ひろし「母ちゃん?」

シルビア「ウォルター! この、この、クソガキがあああ」

しんのすけ「……なになにー?」


みさえ「しんちゃん出てきちゃダメ!」

ひろし「おー、おいあんた! 人んちに上がり込むのみならず自分の子だなあ!」

ひろし「お? なんだ、やるのか? 俺はこう見えて卓球やってたんだぞ卓球!」         
    「みんなからは人間凶器のひろちゃんとをろあッ!」


しんのすけ「おお、父ちゃん弱い……」

178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:33:47.11 ID:Lz8qDcvo0


ウォルターは立ち尽くしたまま動けずにいる。
“母ちゃん、ごめんよ”
そう言おうとしたが、顎は震えて言葉にならない。


シルビア「ウォルター! ウォルター! ウォルター? クソガキ?
      クソガキクソガキクソガキいいいいいいいいい、
      生むんじゃなかった? 生むんじゃなかった!
     “さっさと殺しておくんだったよ”!」


ウォルターに迫るシルビア。
そこへ割り込むひろし。

ひろし「キミ、危なーっひでぶ!」
殴られるひろし。

ひろし「ちっくしょー、これでどうだ!」
靴下を手にはめるひろし。
殴られるひろし。

ひろし「うわわわわわ! き、効かねー!」

しんのすけ「父ちゃん!」

ひろし「父ちゃんは平気だ! 引っ込んでろあわびゅっ!」
殴られるひろし。

しんのすけ「かっこ悪いゾ」

ひろし「ど、どうせ俺はカッコ悪い親父さ……」


ウォルター「とう……ちゃん」


みさえ「しんちゃん! 警察呼んで! 110番よ、わかるでしょ!」

しんのすけ「ぶ、ぶっ、ラジャー!」


そのとき、窓から二人目の女が突っ込み――


よね「警察ならここだあ! おらおらおらおらあああ!」


シルビア・コバックスへ当て身を喰らわせる。
倒れ込むシルビア。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:35:56.55 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「おお、なにしてんのこんなとこで!」

よね「あんたこそなにやってんのよ! 夢の中でさらに寝てどうすんの!」


しんのすけ「お?……お……おおおお! そうだった!」

しんのすけ「くうー! オラとしたことが!」


シルビア「クソガキ、クソガキ、クソガキイイイイイイイ」

シルビアの体中の関節が、ぐしゃぐしゃとメチャクチャな方向へ暴れている。

ひろし「うえ、なんだこいつ! 人形か!?」


よね「バケモノめ!」

よね、銃を撃つが、やはり誰にも当たらない。

よね「ちっ、ほらさっさと行くよ! あんたまで戻れなくなる!」


しんのすけ「でも父ちゃんと母ちゃんが!」

よね「夢の中だけよ! みんなあんたの心の幻!
    帰ったら、すぐにまた逢えるから!」

180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:37:49.11 ID:Lz8qDcvo0

シルビア「クソガ、クソ、クソガキキキキキキキキキキ」グルングルングルン

シルビアの振り回す腕がウォルターに、向かっていく。


ウォルター(母ちゃん、母ちゃん、俺……本当は)

ウォルター「かあ……」


しんのすけ「フーちゃん!」

しんのすけ、ウォルターの手を引く。


よね「その子は!?」

しんのすけ「この子も一緒に行くの! ちゃんと本物のオラのうちにご招待するんだゾ!」


よね「とにかくあんたは肩につかまんな!」

しんのすけ「ほっほーい!」


よねにおぶさるしんのすけ。よねはウォルターの手を握る。

よね「キミ、走れる?」

ウォルター「うん」
      「お姉……さんは?」


よね「ふふーん」

よね「ナリタ東西署の正義の味方! グロリアこと東松山よね!」

よね(決まった……)

ウォルター(正義の、味方……)
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:38:41.11 ID:Lz8qDcvo0


よね「って、やべ、こうしちゃいられない、走って!」


シルビア「のおおおおおうナナナしいしいしい」グルグルグルグル

シルビア「自分がなにしたたたゴゲベガガキキキキキキたたたた」


ウォルター(母ちゃん)


走り出す三人。


ひろし「しんのすけ!」

みさえ「しんちゃん!」


しんのすけ「父ちゃん母ちゃん、オラ大事な用事思い出したから行ってくるね!」

しんのすけ「ちゃんと帰るから、ひまわりとシロにもよろしく!」



しんのすけ「じゃ、そういうことで!」

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:41:34.13 ID:Lz8qDcvo0

カスカベの街、その向こうにニューヨークの摩天楼。
そのあいだに樹々のように生え始める、ヘンダーランドの建造物。


よね「まずい……どんどんメチャクチャに……」


しんのすけ「で、おじさんは?」

よね「あんたが捜してたんじゃないの!?」


しんのすけ「……」

      「あちゃー」

よね「あちゃーって、おい!」

よね「きっとまだ……どこかに……」


しんのすけ「そういえばさー、フーちゃんちってどこ?」

しんのすけ「最初にいた、あそこのビルのどれか?」


ウォルター「……わかんない……」


よね「最初にいた……?」

よね「それってどこよ!?」

しんのすけ「うーんとねー」

しんのすけ「あのへん」


摩天楼を差すしんのすけ。


よね「クソ、あんな遠くかよ、クッソ!」

シルビア「クソガキイイイイイイイ」

よね「くっ……」

   「しつこいぞコラ!」

よね、シルビアの人形の顔面へ鉄拳を見舞う。
壊れた顔面へ、続けて警棒を突き刺す。


よね「いってえー! 固いっての」


シルビア「壊れちゃう壊れちゃう壊れれれれ」カタタタタ


ウォルター(母ちゃん?)


しんのすけ「また来るゾ!」

後方から、人形の行進が来る。
ヘンダー君の着ぐるみが先頭に立ち、指揮を執っている。


ヘンダー「ヘンだヘンだよ、ヘエエンダアアアラアンドオオオオ」
人形「」「」「」カタタタタタタタタタ
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:43:04.44 ID:Lz8qDcvo0

よね「ちっくしょー! もう、なんでもいいからどうにかしてよ!」

しんのすけ「前前前!」

前方から車が突っ込んでくる。運転席には人形。

よね「しめた!」

銃を構える。

よね「リラックス!」

しんのすけ「ほい!」フゥ

よね「あ、ああん」ダァン!

銃弾は、人形の額の中心を正確につらぬく。

よね「よしッ!」
しんのすけとウォルターを抱えて、よねは横転。

車は追っ手の人形の隊列を跳ね飛ばし、そして止まる。


よね「乗るわよ!」

車に乗り込む三人。飛びかかる人形。
よねはUターンさせて人形を振り払い、摩天楼へ向けて走らせる。

184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:44:19.76 ID:Lz8qDcvo0

よね「ひとまずは安心、と……夢の中だとうまくいくのねー……
    これマジにやったら強盗に殺人にひき逃げか……」


しんのすけ「でもさー、なんでカスカベにヘンダーランドも
       あんな高いビルもあるの? 夢の中だから?」

よね「かもね。あのトッペマって子が言ってたわ。夢の中というか、記憶の中みたいな。
    で、あんたたち二人の記憶が絡み合ってるとかなんとか」

しんのすけ「なんでおねいさんの街は出てこないの?
       あんまりいい思い出がないとか?
       学生時代に初恋の人に手ひどく振られて――」

よね「私のことはどーでもいいわッ!」

185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:45:45.08 ID:Lz8qDcvo0

ウォルターは窓を見つめている。

窓の外と、窓に映る自分の顔を交互に見ている。


(母ちゃん)

(あの母ちゃんは?)

(人形?)

(俺の、本当の母ちゃんは……)


(…………………………)


(……そうだ。母ちゃん、あのね)

(母ちゃんじゃない、母ちゃんに逢ったよ)

(ハンバーグ、おいしかった)


(母ちゃんに抱えられて、赤ちゃんが泣きやんで)

(笑ったんだ。魔法みたいだった)

(赤ちゃんは、すごくきらきらしてたよ)


(俺に吼えてこない犬もいたんだ)

(俺、怖くて触れなかったけど、今度は絶対触れるようになるよ)


(父ちゃんの匂いもかいだよ)

(いい匂いだった)

(俺の家にはない匂いだったよ)


(父ちゃんって、すごくかっこいいんだ)

(何度も俺を守ってくれたんだよ)

(でも俺のお父さんはきっと、もっともっとかっこいいよね)


(なんでって、友達ができたんだ)

(すっごく変な子なんだ)

(でも、すっごい子なんだよ)



(それでね、母ちゃん)

(一番すごいのはここからなんだ)

(俺、ヒーローを見たんだ)

(ひとりじゃないんだよ)

186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:46:25.86 ID:Lz8qDcvo0

書き割りのような夜空に、月とヘンダー城の尖塔のシルエットが映っている。
城はみるみる規模を増し、摩天楼がその下で、地下茎のように埋もれている。


(母ちゃん)

(母ちゃん)

(母ちゃん……帰らなくちゃ)


(でも俺、今、どこへ……)

(…………どこ?)


(どこ……どこ、じゃない)

(ここは……あの光景は)



ウォルター「止めて。止めてくれ」

よね「は? あんた一体――」

ウォルター、車から飛び降りて走り出す。

187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:48:07.88 ID:Lz8qDcvo0

裸足のまま、混沌のニューヨークを駆け抜けるウォルター。


廃墟になりゆく街の中で、人々が言葉を交わしている。


人形かどうか定かではない。

顔は見えない。

声だけが聴こえる。



「俺ァ、しがない新聞売りだがよ……」
「だからこそ情報にゃコト欠かねえのさ。その上で言ってんだぞ」
「やるなら今しかねえ!」

「ちっ、雨かよ。おっさん、その帽子貸してくれよ。濡れちまう」
「馬鹿を言うな。人にものを貸さないのが、俺の哲学なんだ」


(母ちゃん)


「では、ウォルター、言ってくれ。そのカードの絵が……」
「なんに見えるか」

「わからねえ……教えてくれよ」
「誰か教えてくれよ!」

「好きにしやがれ、くそったれ」
「全部お前に任すからな」

「俺は俺だ。仕事じゃねえ。いいから止めろ」

「ああ、私ひとりで……」
「世界を相手にするのさ」



188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:49:04.47 ID:Lz8qDcvo0

(世界は)


「かよわくて……傷つきやすいの……」

「そこに、そのスノーボールがあったのよ」
「まるでガラスに閉じ込められた……別世界みたいに思えた」
「あの中はきっと、時間の流れが違うんだと思った」


(偶然の塊だ)


「これから、未だかつてない輝かしい時代が幕を開けるんだ」
「アホくせえんだよ、なにもかも!」


(虚無から生まれ)


「どうせ30年もしねえうちに、水爆がなにもかも燃やしちまうんだ」
「それまでは俺たちの手で社会を守るしかねえ」

「守るって……なにから守ると言うんだ?」


(人生という拷問に歯を喰い縛って耐えてから)


「誰かがなんとかしなきゃならないのに……」
「誰かが世界を救わなきゃ、大変なことに……」


(また虚無に戻る)


「こんな世の中だからこそ、互いに助け合わなければ……生きる意味がなくなってしまう」
「お願いだ、わかってくれ」

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:50:29.89 ID:Lz8qDcvo0

(ここは、そうだ)


(帰らなくちゃ)


「この世に正義はねえのかよ?」
「あのスーパー野郎たちは、少なくとも俺たちを守ろうとしてたよな」

「誰かが魔法でパっと片付けてくれたらって……」
「でも、そんな人はいないのよね」

「最近じゃ、スーパー・ヒーローものはさっぱりだ」

「あのテの腐れ超人どもァムカついてたまんねえ……」

「そこに、そのスノーボールがあったのよ」
「……中身はただの水だったわ」


(ごめんよ、母ちゃん、俺……)


「あなたも昔の衣装、着たりする?」
「いや、男がそんな真似をすればお笑い草だ」
「近所の子供たちはみんな、来週のハロウィンに向けて仮装の準備をしているから、
 私も浮かれて古着を掘り出すかも知れんがね」

「そうね、人生を正しく導く人の存在はとても重要だわ」
「でも、私にはそんな人がいなかったから……」

「うっかり親切もできやしねえ」


(母ちゃん)




「帽子……ありがとよ」

「なあおっさん、あんたも気ィつけてな」

190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:51:23.01 ID:Lz8qDcvo0

(帰らなくちゃ)


「生きてることって凄いことなのね」
「本当に素敵なのね」
「……生きてるうちに、私を愛して」


(俺の街へ)


「船を出そうとでも思っていたのかな。まったく僕って奴は……」
「……本物のヒーローと直接逢って」
「彼の仲間に……後継者になるんだと思うと……身震いがした」


(さよなら)

(俺の街へ)

(俺の街へ)


(俺の)






「で、おめえ、名前は?」


「なんでここに来る?」

191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:53:47.15 ID:Lz8qDcvo0

――アパートの中庭。


部屋にはいくつも灯りがともっており、窓を、ベランダを、非常階段を、
無数の人形たちが埋め尽くしている。
人形たちは互いに話すかのように、虚無の顔を向け合っている。


人形
「」カタタタタ「」カタカタカタ「」カタ「」「」カタタタタタタタタカカカカ
「」カタカタタタタ「」カタカタカタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタ
「」カタカタカタ「」タ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカカカカ
「」カタタタタタタタ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタカタカタ
「」カタタ「」カタカタカタ「」カタ「」カタカタタタタ「」タ「」カカカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカタ「」カタタ「」カタカタカタカタタ
「」タタタタタ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタ「」カタカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタタタタ「」カカカカ
「」タ「」カカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタタタタタタタカカ
「」カタカタカタカタカタ「」カタ「」「」カタタタタタタタ「」カタカタカタ
「」カタカタカタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタタタタ「」カタカタ
「」カタ「」「」カタタタタタタタ「」カタ「」カタカタタタタ「」カタカ
「」カタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタタタタ「」カタカタカタカカ
「」タ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタタタタカタカタ
「」カタタ「」カタカタカタ「」カタ「」カタカタタタタ「」カタタタタカカカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタ



立ち止まるウォルター・ジョセフ・コバックス。
素顔のまま、彼らすべてをにらみつける。

192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:55:29.80 ID:Lz8qDcvo0


“――――”

“――――ダニエル”


“この街のどこかで、お前ともう一度逢えるだろうか”

“お前がヒーローとなったわけを、俺も少しだけ実感できたようだ”


“俺の父と母”

“ブラウン管とコミック・ブック”

“そして俺のそばに、誰か、ヒーローがいてくれたなら、俺は俺でなかっただろうか”


“いや――”

“それでもお前と、肩を並べただろう”


“叶うならば伝えたい”

“たとえそれが幻でも”


中庭の中心、ヘンダー君が立っている。
手に、犬の鎖を持っている。四つんばいの人形が繋がれている。

ヘンダー「ヘンだ、ヘンだよ、ヘンダーランド」

人形がこちらを向く。

その人形は、顔の砕けたシルビアだ。

ヘンダー「ウソだと、思うなら」「ちょいと」「おいで」「おいで」


人形は――少女の靴を引っかけた骨をくわえている。

それを見つめる無数の人形たちが、今なおささやき合っている。



“だが、もう俺はウォルターじゃない”

“足跡を消すことはできない”

“新たに歩くこともできない”

“そのどちらも、今の俺は望まない”


“俺は――――”



“俺は、ロールシャッハだからだ”
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:57:28.81 ID:Lz8qDcvo0


しんのすけ「フーちゃああああん!」

よね「返事して!」


よね「ったく、本当はそれどころじゃ……」

よね「…………」


よね「……!……」

ふと向けた、よねの視線の先――


――――ロールシャッハが歩いてくる。


その奥に、無数の人形の残骸が散らばっている。


しんのすけ「……おじさん!」

よね「待って、人形かも……」



ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「ここを抜けるぞ。もたもたするな」


しんのすけ「うわー、やっと逢えたのにあの感じ」

よね「……まさにあいつね」

よね「…………やった!」


よね、ロールシャッハにしがみつく。

よね「やったやったあ!」

ロールシャッハ「……」

よね「あ……」

よね「……ごめん……なさい」

しんのすけ「なんで謝るの?」

よね「い、いいんだよ!」


ロールシャッハ「……グロリア」

よね「え、えーと……」

よね「説明すると長くなるけど、ここは」

ロールシャッハ「わかっている」
        「すべては幻だろう」


よね「ええと、まあ、そんなところかな……はは」


よね「しっくりくるけど、なーんか納得いかないなー……」

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:59:31.54 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「フーちゃああああん! フーちゃああああん」


ロールシャッハ「……なにをしている」

ロールシャッハ「時はもう無駄にできない」

よね「わかった、わかったってば!」

しんのすけ「フーちゃんは?」

よね「……でも、今はそんなことより――」

しんのすけ「そんなことじゃないゾ!」

ロールシャッハ「…………」


しんのすけ「オラ約束したんだもん! アクション仮面の映画、一緒に観るんだもん!」

しんのすけ「オラがアクション仮面をかっこよくお助けしたこともお話しするんだもん!」


しんのすけ「スンちゃんとルルのことだって、
       吹雪丸のことだって、
       トッペマのことだって、
       オカマのお坊さんたちのことだって、
       おっきなロボットのことだって、
       父ちゃんと母ちゃんを取り返したことだって、
       おまたのおじさんのことだって、
       つばきちゃんのことだって、
       ぶりぶりざえもんのことだって、
       幼稚園のみんなのことだって、
       もっともっといっぱい、
       まだいっぱいお話しすることがあるんだもん!」

よね「……でも……」

しんのすけ「でもじゃないゾ!」

しんのすけ「フーちゃんは母ちゃんが嫌いで、父ちゃんにも逢えないんだゾ!
       アクション仮面も知らなかったんだゾ!
       オラより年上のクセにうじうじしていて、
       カツアゲもされちゃうんだゾ!
       だからオラが、いっぱい楽しいお話聞かせてあげるんだもん!」

195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 00:00:59.40 ID:e8929ruk0
ロールシャッハ「……シンノスケ」

しんのすけ「なに!」

ロールシャッハ「……そいつは……赤い毛のガキのことか」

しんのすけ「そうだゾ!」

ロールシャッハ「ウォルターは、もう家に帰った」

よね「…………」

しんのすけ「なんでわかるの!」


ロールシャッハ「………………」


ロールシャッハ「 “しんちゃん”に伝えてくれと、そう言われたからだ」


しんのすけ「……」

しんのすけ「おじさんは、フーちゃんの家知ってるの?」


ロールシャッハ「ああ」

ロールシャッハ「知っているとも」


ロールシャッハ「遊ぶのはまた今度だ。今は、お前がお前の家に――」

        「帰らなくちゃ……」


ロールシャッハの染みが、少年の絵になる。

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