【艦これ】ex.彼女

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412 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:18:03.91 ID:c/bLVADwO

「……秋雲ぉ…。」

「………っ!!」

「さーて…あの漫画見た限りじゃ、人に見せる気満々だったっぽいな?」

「ご、ごめん!!アレはやり過ぎたよぉ!!
でも、まだ磯波しか見てない!!今なら取り返し付くって!」

「このUSBのを渡すつもりだったのか?」

「いや、それは違うよ?バックアップをUSBに入れて持ち歩いてるんだ。落とす前に視聴覚室にいたから、それであの時探してたの。
磯波には最初に見せるって約束して、アップローダーのURLを…。」

「……秋雲ちゃん、来てないよ。」

「「……へ?」」

「………秋雲、お前それ何で送った?」

「LINEだね…確か出来てすぐの徹夜…ああっ!?」

「誰だ!?誰んとこ誤爆した!?」

「待って!!今確認するから!!」


『HN:お淀』


「………もう一回見ていい?」

「………うん。」



『HN:お淀』



413 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:19:35.88 ID:c/bLVADwO

「……どうすんだおめえええええ!!!!???」

「ごめんよおおおおおおおお!!!」

「ふふふ……もうこうなっては止められまい…。
大淀君は、楽しそうな事なら私や提督にすら容赦しないからな…。

……秋雲。貴様、男を描けるようになりたいと言ったな?」

「う、うん…言ったねぇ。」

「……ならば『漢』しか描けなくしてやろう!!」

「ひっ!?待って!!お助けえええぇ!!」

あー…あいつ終わったな…。

秋雲をずるずると引きずり、眼鏡は何処かへ消えてしまった。
はぁ……なんか疲れた。取り敢えずこいつら外出すか、詰所ん中ゲロくせえし。

「はーい解散ー…もう帰るか…。」

「ええ…色々とすいませんでした。」

『ゲロは自分が片付けておくのであります。
全く、中身は自分だったのにひどいでありますなぁ。』

「ごめん、頼むわ…詰所は俺が鍵掛けとく。」

ドタバタ騒いでる内に、今日の終業時刻はとっくに過ぎていた。
磯波も帰したし、俺ももう帰っかな…。

414 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:21:38.34 ID:c/bLVADwO

「……少し、そこに座って行かない?」

「どうした?」

気分でも悪くなったのかと、俺は誘われるままにあいつとベンチに座った。
メシ時の今は、どうやら俺らしかいないらしい。

上を見ると、月がぽっかりと。
風が吹いてるが、前より少しじっとりした気もする。

そんな風を浴びた時、そこに乗ってこいつの匂いがした。

「……ったく、ひでえ目に遭ったぜ…まだ解決してねえけどよ。」

「妄想の捗るお年頃って言っちゃえば、それまでかもしれないけどね…でも漫画はやりすぎよ。ましてやあなたがモデルで…。」

「……そう言えば昔、お前の部屋にレディコミがあったな。」

「えっ!?知ってたの!?」

「背表紙がモロだったんだよ。」

「うう…ばか。」

……へへ、久々に一本取ってやったぜ。
こいつの真っ赤な顔なんて、再会してから初めて見たな。

415 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:22:46.10 ID:c/bLVADwO

後は気分が落ち着くまで、本当に他愛もない話をしてた。
同級生や先生が今どうしてるかとか、俺の軍学校の頃の話とか。
それでひとしきり話をして、そろそろ帰るかと立ち上がろうとした時だ。

きゅっと、手を掴まれたのは。

「うん、暖かいわね。生きてる。」

「…当たり前だっての。」

「…無茶はしないでね?」

「艦娘に心配される程、危険と生活してねえよ。大丈夫だって。」

「……うん。」

……あきつ丸の話が、効いちまったかな。

別れてる以上、そんな義理はねぇ。
だから自分でもバカだとは思うんだが……目の前で不安に駆られてる奴を放っとく事は、出来なかった。
416 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:23:31.34 ID:c/bLVADwO

「………!!」

「俺もお前も、それに皆も。そう簡単に死ぬタマじゃねえよ。大丈夫さ。」

「……うん!!」

手を握り返して、笑うだけ。
自分で振った女相手に出来る事なんて、それぐらいのもんだった。

「じゃあな。」

「うん…また明日。」

寮に入って廊下を歩くと、珍しく誰もいない。

梅雨時とは言え、夜は廊下も少し肌寒い。
2時間寝て、風呂でも入るか…部屋に入って着替えると、俺はすぐにベッドに入った。

何か忘れてる気がすんなぁ…まあ、今はまず仮眠だ。
被りたての布団はまだ冷たくて、体温が馴染むには少し掛かる。


そんな中、手だけは妙に暖かかった。


417 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:28:11.58 ID:c/bLVADwO

「おはようございます。」

「ああ、おはよう。」

「なんか眠そうですね?」

「ん?昨日は空き部屋を借りたからな。慣れないベッドのせいだろう。」

「……あ!!そう言えば秋雲どうなりました?」

「…私の部屋に監禁したよ、『漢』を学ばせる為にな。
今夜の夕方までは出さん。提督も許可済みだ。」

「……漢?」

「これでも漫画集めが趣味でな…私の蔵書を24時間読むのを罰にした。
『刃○』シリーズ、『原○夫』や『山口○由』作品全巻…全部読むまで帰れま10と言う奴だ。」

「………ああ、確かに漢ですね…。」

迸る血と汗の方でな。

その後部屋から出てきた秋雲は、眉毛が気持ち太くなっていた。
あと、何か輪郭が変わった気もする。

この年の夏、秋雲は有明には行けなかったと言う。
しばらく何を描いても筋骨隆々な漢しか描けず、再び所謂萌え絵を描けるようになったのは、9月になってからだったそうだ。

尚、あの漫画はお淀のせいでしっかり広まっていた事も付け加えておく。

お陰で磯波が目覚めました。

418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 06:32:53.70 ID:LNEdjPAA0
吹雪型のエロ担当自重しろw
419 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:35:47.89 ID:c/bLVADwO
登場人物その1

・憲兵

2年目の若手、翔鶴の元カレ。
正義感溢れる青年だが、それが災いし唯一のツッコミ枠と化しつつある。お人好しゆえ甘さも強いが、たまに腹黒い。
異動先で元カノの翔鶴と再会し、そこから彼の憲兵生活は波乱を迎えた。

空手の段と霊感持ち。
細マッチョだが本来は女顔の為、メイクをすると化ける。結果皆のオモチャと化した。
様々な苦難の末痔を患い、現在治療中。
別鎮守府の長門は実姉。彼のツッコミのルーツである。

好きなタイプは、落ち着きのある美人。

・翔鶴

憲兵の元カノ。
憲兵と別れてからも想い続けた末、再会後はストーカーと化す。ただし憲兵が絡まなければ大人しく優しい性格。
天然かつどこか常識がズレている所があり、その結果天然のヤンデレと化している。別れた原因はそこにあるようだが…。

艦娘としては優秀。
憲兵の異動を知った際、弓道場に籠り続けた為更に腕を上げたらしい。

憲兵に執着する一方、妹属性を持つ女の子には(間違った方向の)姉力を発揮する場面がある。
その結果、憲兵からは『シスコンかつロリコン 』と言われてしまう。
お酒は朝まで飲めるそうだが、誰も本当に酔っている場面を見た事が無いらしい。

・瑞鳳

元は憲兵が最初に赴任した鎮守府の艦娘。後に同じ鎮守府へ異動。
憲兵とは非常に仲が良く、無二の親友と言える関係。
憲兵に好意を抱いているが、あまりに打ち解け過ぎている為、逆に異性と認識してもらえずにいる。

お酒好きだが、少々酒癖が悪い。特に悪酔いした時は通称ヅホラとなり、おっぱい大好き下ネタ全開のおっさん怪獣になる。
尚、決して酔った彼女に料理をさせてはいけない。ケツが死ぬ。

小柄な容姿にコンプレックスがある為、彼女をロリ扱いした者には死が訪れる。

420 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:37:57.95 ID:c/bLVADwO
今回はこれにて。
登場人物が増えてきたので、そちらも少しずつまとめて行きます。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 08:43:01.02 ID:6UzMbpHcO
おつおつ。オータムクラウド先生、新刊落としたんですか……
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 09:45:26.79 ID:otYcjvt5O
風花「副作用には気をつけて下さいね!…シモッチって何かしら?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530920009/
茜「不屈の魂、夢ではありません!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531525117/
摩美々「まみみのホーム・アローン、始まるよー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1533339190/
のり子「青コーナー、キィィングティィレッスルゥゥゥ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1533946743/
里美「お、お兄様…?里美はここにいますよ〜?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1535154609/
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 11:00:48.29 ID:uIPJcF9vO
おつ
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 22:30:14.83 ID:DY0IpkFp0
425 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 06:54:03.96 ID:32CvxAXoO

「199…200……っと。」

仕事後余裕がある日は、いつも飯の前に部屋で筋トレだ。体が資本だから、こいつはなるべく欠かせない。
そこからシャワー浴びて食堂に行くのがお決まりなんだが、ここである事を思い出す。

“そう言や明日休みか、ゆっくり出来るな…”

それが頭をよぎった時、俺の中にある衝動が湧いてきた。

「せっかくだし飲みてえな…。」

汗もかいたし、腹も減った。ビールが俺を呼んでる気がする。
そう思っていたら、ちょうど携帯が鳴った。


『暇だったらでいいんだけど、飲み行かない?明日休みなんだ。』


……外泊申請、まだ間に合うかな。



426 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 06:56:05.39 ID:32CvxAXoO






第18話・変わらないもの





427 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 06:57:54.94 ID:32CvxAXoO

「うーす、お疲れー。」

「お疲れ様ー。」

正門前に出れば、さっきの連絡の主がいた。
まぁ言わずもがな、づほなんだけど。

お互いこっちに来てそんなに経ってないが、俺の方が先な分、多少は街の知識も増えた。
そんな事を見越してか、新規開拓したい!とづほに呼び出された訳。

「あっちのマンションの方?」

「そう。そこからバス出てるから。」

ここから街に出るのに手っ取り早いのは、路線バスだ。
最寄りのマンション群のとこから出てて、そいつに乗れば市街地。
提督の家も確かこの辺だよな…あ、時雨だ。

「今通ったの、時雨ちゃんよね?」

「たまに飯作りに行ってるらしいぜ?
練習とか言ってるが、提督の手綱握りに行ってるのが正解だろうな。家入れてもらえるようになったみたいだし。」

「あー、また他の女においたしないようにだ?ふふ、可愛いじゃん。
でも良いなぁ…私もご飯作る相手とかいればなー。」

「相手作っても、激辛はやめてやれよ?」

「やりませんよーだ。__もご飯作ってくれる子見付けなよ。」

「余計なお世話だっての。」

場所が変わっても、こいつとサシの時は何も変わんねえな。
いつも通りの他愛も無いやり取りで、バスへと乗り込んだ。

428 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 06:59:30.33 ID:32CvxAXoO


「「かんぱーい。」」


前から気になってた店に来たが、こりゃ当たりだ。
づほも気に入ったらしく、随分と機嫌が良い。飲み過ぎたら止めるけど。

「少しは慣れたか?」

「こっち?うん、思ってたよりは馴染めたかなーって感じ。」

「そりゃ良かった。」

焼き鳥食いつつ、グダグダと会話は進む。
気を遣わないでいい関係だし、正直異性と飲んでるって感覚は無かったり。
でもそれが、俺とこいつが親友たる所以でもある。

あ、卵焼きもうめえ。

「ふむふむ、このダシは…。」

「お、研究家モード?」

「卵焼きは一番好きだもん、拘っちゃうよね。」

「づほの確かに美味えもんな。磯風もお前の爪の垢飲んで欲しいぐらいだぜ…。」

「えへへ…でもあの子、そんなにヤバいの?」

「俺がケツ悪くしたの、あいつのマカロンがきっかけ。『いそかぜ』の名は伊達じゃねえな…ありゃGUSOHだわ。」

「あ!トイレの件だ!」

「そ。思えば俺の健康運、あそこから下降の一途だぜ…。」

……トドメはづほのロシアン卵焼きだったのは、敢えて黙っておく。
あ、そろそろ次頼むか。づほも空いてるし。

「づほも酒頼む?」

「あ!ちょっと待って。今日はねー…。」

いつもは3杯目までビールなのに、珍しい事もあるもんだ。
メニューとしばらくにらめっこして、ようやく次を決めたらしい。

429 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:00:43.79 ID:32CvxAXoO

「じゃあ私マッコリで!」

「珍しいな、どうしたよ?」

「たまには他のお酒試そうかなってね。」

「おいおい、後で暴れんなよ?」

「大丈夫よ、酔わない酔わない。せっかくだし一緒に飲も?ボトル入れて。」

「まぁいいけどよ。じゃ、店員さん呼ぶか。」

それから追加も飲み始めて、お互い良い感じに酔って来た時だった。

「そう言えば、もう知り合って一年経ったんだねぇ。」

「言われてみりゃそうだな。早えもんだ。」

「で、君は先に異動したわけだけど。こっちで狙ってる子とかできた?」

「いや…さすがに地雷原でバタフライするような真似はしねえ。
それに、未だにちゃんとは知らねえ奴もいるぐらいだぜ?」

「…ふーん、翔鶴さんで頭いっぱいだもんね。」

「おいおい…あいつで頭パンクしたのは違う意味でだよ。
だから相変わらずだな、特に何が起こるでも無しって所さ。春とか来る気しねえ。
それ訊いて来るづほはどうなんだよ?最近。」

「私?相変わらずよ。あーあ、どこかにいい人落ちてないかなあ。」

「お前だったら大体の奴落ちるだろ、卵焼き出せば一発じゃねえか?」

「だから焼く相手がいないんだってばー。」

俺はともかく、こいつは引く手数多な気もするんだけどなぁ。酒癖はちょっとアレだけど…。
俺も元カノ以降誰とも出会わなかったって訳じゃねえが、結局何もなかったしな。そのまま今に至るだ。

430 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:02:02.40 ID:32CvxAXoO

「……モテ期、人生で3度あるって言うよな。」

「1度目は翔鶴さんでしょ?じゃああと2回だ。」

「あー…まぁ、高校の時は確かにあったかも。1回あいつ以外の子に、告白されたな。」

「翔鶴さんの前?」

「いや、後。だからすぐ断った。」

「軍学校は何も無かったんだっけ?」

「俺らの世代は確かに女の子増えてたけど、無かったな。
“ちょっと見た目のバランス悪いかなー”って囁かれてたの聞いたし…。」

「ま、まぁ気にしない気にしない。」

背もでかい方にはなれたし、体も頑張って細マッチョって自負できるぐらいまで持ってったけど…女顔は『多少』厳つくなれたってぐらい。ガタイとツラが合ってねえのは自覚ある。
ああ、こないだの女装の辛さを思い出してきた…。

「……そう言えばよ、こないだのマジ恥ずかしかったぞ、こんにゃろう。」

「ん?ゴスロリメイド?
えー?すっごい可愛かったじゃん!ほら!」

「ぶっ!?待ち受けにしてんじゃねえよ!」

「あはは、盛れてるでしょ?これから夏祭りやクリスマスとイベント毎に…どう?」

「ぜってーやんねぇ。」

「ちぇー、いけずぅ。」

断固拒否。スカートなんぞ二度と履きたくねえ。
しかしどうなるもんかと思ったが、マッコリはづほと相性良いらしい。
良い感じにほろ酔い、今の所はヅホラ覚醒とは至らずだ。

「でさー。」

「何?」

「……どうして翔鶴さんと別れたんだっけ?」

「昔言ったろ?行動が過激で持たなくなったって。」

「それはね。聞きたいのはそこに至るプロセス。」

「………笑わない?」

「大丈夫。」

ああ…確かに何考えてたかまでは、づほにも話してなかったな。
今思うと、自過剰だなーって思うんだけど…まぁ、過ぎた事か。

431 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:07:06.25 ID:32CvxAXoO
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432 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:08:23.28 ID:32CvxAXoO
「…お互い様ね、__も相当悪いけど。」

「返す言葉もねえよ…再会してからはビビりっぱなしだし。
冷めたらこうも苦手になるかって、最近自分でも思ったな。

振り切るのに結構掛かったけど、今となっちゃあれで良かったのかな?ってな。
あいつはもっとこう…気を遣える奴の方が合うんだよ、きっと。ちゃんとあいつの事考えて人間関係こなせる奴って言うかさ。」

「例えば妻帯者の意識を持って人と接し、なるべくまっすぐ帰ってくる旦那さん。」

「そう、そんな感じの。」

「でもそれは誰でもそうだよー。
まぁいいんじゃない?分け隔てないのが君の良いとこでもあるんだし。
君に浮気心無かったんだし、そこは価値観の違いって事でさ。気にし過ぎない方が良いって。」

「……ありがとよ。ちょっとは報われるぜ。」

「自意識はもうちょっと持つべきだけどね。」

「んっ!!返す言葉もございません…。」

「はいはい、じゃあ呑んで昔の女は忘れちゃおうねー。」

「おい、表面張力まで注ぐなよ…。」
433 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:09:20.65 ID:32CvxAXoO

…で、明け方の現在。づほは俺の背中に絶賛フェイスハガー中。
後から酒が効いてきたらしく、「おぶれ…おぶるんだ……」と死にそうな声でしがみ付いて来た。

鎮守府までの近道を調べると、住宅地を突っ切る形。
ちっこい子泣き空母を背に歩いてると、目の前に橋が見えてきた。

へぇ…良い所あるんだな…でっけえ川だ。

「……懐かしいね。」

「初めて来たけど?」

「ほら、前のとこにも川あったじゃない?漫喫の時。」

「あー、あったなそんな事。ピアスの時だ。」

「そう、元カレにもらったやつ。あの時もこんな感じだったよね。」

漫喫事件の後、こんな感じの川で一息入れててな。
そしたらづほがピアス外して、「ありがとう!!ばっきゃろー!!」って叫んでぶん投げたんだよ。

……で、その勢いで俺の肩にゲロったっけ。

「……アレは大分助かったわ。優しいのを気に病む事なんて無いって。」

「そう言ってもらえりゃ助かるぜ…しかし、まさか未だにお前とつるんでるとはなぁ。」

「人の縁なんてそんなものよ。」

「だな、親友。でもそろそろ酒減らせよ?太るぜ?」

「善処しまーす…でもカロリーは確かに…うぷ。」

「だからって今入れた分出すなよ!?」
434 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:10:19.76 ID:32CvxAXoO

その後寮に帰って、そのままづほと別れた。
たまに朝陽浴びながら寝ると、気持ちいいんだよなぁ…良い酒だった。

さて、愛しの我が部屋へ、っと……ん?


「すぅ……すぅ……。」


…………何でこのタイミングかなぁ。

合鍵持たれちゃいるが、侵入された事は片手で足りる程度だ。特に最近はすっかり油断してた。
よりにもよって今かよ…さっさと寝たいんだけど…。

「もしもーし…こら、俺寝るから。起きろー。」

「……ん…おかえりなさい…。」

「……うわっ!?」

不意打ち喰らった。
ガバッと俺に飛び付くと、あいつはそのままベッドに倒れちまった。
痛えなこんにゃろ…無理な体勢取らせやがって、床に転がすぞ…!
435 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:11:12.43 ID:32CvxAXoO

「……すぅ……__……。」

「…………。」


……はぁ。

床に転がすのはやめて、ちょっとだけあいつの体を端に寄せた。
スペースも確保したし、やっと寝れる…後は寝るまで一瞬だった。 目を閉じてからは覚えてない。

昼に起きるとやっぱりあいつはいなくて、でもTシャツの裾がちょっとだけ伸びてた。
ヘッドボードの携帯を手に取ると、ペットボトルとメモが置いてあるのに気付く。


『あまり飲み過ぎないでね。お疲れ様。』


飲み明けは声もカサカサ、喉も渇いてた。
ペットボトルの水をぐいっと煽って、ボーッとしてた頭を叩き起こす。

そこでふと気付いたのは、着てた服から感じた匂い。
濃く残ってたあいつの匂いに混じって、づほの使ってる洗剤の匂いがした。

窓を開けると、今度はアスファルトの匂いがする。
一雨来るか…まぁ、今日はもう予定も無いしな。
そのままシャワー室でひとっ風呂浴びる頃には、匂いの事は何処かに行っていた。

ただ、その後横になったベッドには、まだあいつの匂いだけは残っていて。
そいつを感じたまま、俺はまた眠りこけてしまっていた。

酒と雨のせいかな。
その日は妙にぐっすり眠れたもんだった。
436 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:11:54.10 ID:32CvxAXoO








side 瑞鳳








437 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:12:29.73 ID:32CvxAXoO

『暇だったらでいいんだけど、飲み行かない?明日休みなんだ。』

『いいよ。店どうする?』

『越して来たばっかりだし、新規開拓したいのよね。何か良いお店知らない?』

『気になる所ならある。』

『じゃあそこ行ってみよっか。後で正門でいい?』

『大丈夫。ただ筋トレした後だから、ちょっとシャワーだけ浴びるわ。出たらまた連絡する。』

『うん、りょーかい。』

場所は変わっても、こんなやり取りは変わらない。
二人で飲む機会を伺ってた私は、前の所みたいにしれっと誘いをかけた。

……実は数日前から、色んな事を考えてね。

438 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:13:48.20 ID:32CvxAXoO

「うーす、お疲れー。」

「お疲れ様ー。あっちのマンションの方?」

「そう。そこからバス出てるから。」

バスに乗ろうとマンション群に向かうと、見た事のあるお下げ髪。
スーパーの袋……ははーん、そういう事かぁ。

「今通ったの、時雨ちゃんよね?」

「たまに飯作りに行ってるらしいぜ?
練習とか言ってるが、提督の手綱握りに行ってるのが正解だろうな。家入れてもらえるようになったみたいだし。」

「あー、また他の女においたしないようにだ?ふふ、可愛いじゃん。
でも良いなぁ…私もご飯作る相手とかいればなー。」

「相手作っても、激辛はやめてやれよ?」

「やりませんよーだ。__もご飯作ってくれる子見付けなよ。」

「余計なお世話だっての。」

時雨ちゃん、いいなぁ…。

…作る相手、本当はずっといるけどね。
でもいつも__に卵焼き食べてもらう時は、皆に振る舞う場面だけだったから。


「「かんぱーい。」」

気になる店があるって連れて来られたのは、私が好きな感じの居酒屋。
こういう趣味は本当合うのよね、これは期待出来そう。

「少しは慣れたか?」

「こっち?うん、思ってたよりは馴染めたかなーって感じ。」

「そりゃ良かった。」

皆癖あるけど良い子だもん。
ま、まぁ、憲兵な__の立場からすると大変なのはよーく分かったけどね…。

あ、これ美味しい。

「ふむふむ、このダシは…。」

「お、研究家モード?」

「卵焼きは一番好きだもん、拘っちゃうよね。」

だって、美味しいの食べて欲しいし。
お店で食べても、ついつい研究しちゃうのはいつもの事。

「づほの確かに美味えもんな。磯風もお前の爪の垢飲んで欲しいぐらいだぜ…。」

「えへへ…でもあの子、そんなにヤバいの?」

「俺がケツ悪くしたの、あいつのマカロンがきっかけ。『いそかぜ』の名は伊達じゃねえな…ありゃGUSOHだわ。」

「あ!トイレの件だ!」

「そ。思えば俺の健康運、あそこから下降の一途だぜ…。」

…はは、きっとあの卵焼きがトドメだったかな…。
酔っ払ってたけど、アレは本当に悪い事しちゃった。

439 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:14:30.83 ID:32CvxAXoO

「づほも酒頼む?」

「あ!ちょっと待って。今日はねー…。」

最近は晩酌の時、いつもと違うお酒を飲むようにしてたの。
それはね…体質的に酔いにくいのって何だったかなーって思って。ほろ酔いで済むか、もう一度検証したかったから。

「じゃあ私マッコリで!」

「珍しいな、どうしたよ?」

「たまには他のお酒試そうかなってね。」

「おいおい、後で暴れんなよ?」

「大丈夫よ、酔わない酔わない。せっかくだし一緒に飲も?ボトル入れてさ。」

「まぁいいけどよ。じゃ、店員さん呼ぶか。」

部屋で飲んでても思ったけど…マッコリ、確かに私は『上がる』酔い方はしないなぁ。
代わりにね、何だか寂しくなって来ちゃう。人によって違うんだろうけど、やっぱりダウナーになるお酒ってあるなぁ。

一昨日、飲んでてこっそり泣いたっけ。

440 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:15:25.97 ID:32CvxAXoO

「そう言えば、もう知り合って一年経ったんだねぇ。」

「言われてみりゃそうだな。早えもんだ。」

「で、君は先に異動したわけだけど。こっちで狙ってる子とかできた?」

「いや…さすがに地雷原でバタフライするような真似はしねえ。
それに、未だにちゃんとは知らねえ奴もいるぐらいだぜ?」

……私ももう、こっちのメンバーだけどね。むう。

「…ふーん、翔鶴さんで頭いっぱいだもんね。」

「おいおい…あいつで頭パンクしたのは違う意味でだよ。
だから相変わらずだな、特に何が起こるでも無しって所さ。春とか来る気しねえ。
それ訊いて来るづほはどうなんだよ?最近。」

「私?相変わらずよ。あーあ、どこかにいい人落ちてないかなあ。」

「お前だったら大体の奴落ちるだろ、卵焼き出せば一発じゃねえか?」

「だから焼く相手がいないんだってばー。」

相変わらず。本当に相変わらず。
こんな距離感も、フィルターの無い会話も何も変わらない。

焼く相手いないのも、誰も拾ってないのも全部事実だよ。
だって…今の二人はフリー同士の飲み仲間だもん。

拾うどころか、本当は目の前のものに飛び付いて攫っちゃいたい。
例えばそんな事をあざとく言ってみたって、近過ぎるこの距離感じゃネタで終わっちゃう。

普段は何だって言えちゃうのに、可愛くないなぁ…私。

441 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:16:36.17 ID:32CvxAXoO
「……モテ期、人生で3度あるって言うよな。」

「1度目は翔鶴さんでしょ?じゃああと2回だ。」

2度目は今だよ?ばーか。
目の前にいるよー?君限定でいつでも取って食える女が。

「あー…まぁ、高校の時は確かにあったかも。1回あいつ以外の子に、告白されたな。」

「翔鶴さんの前?」

「いや、後。だからすぐ断った。」

「軍学校は何も無かったんだっけ?」

「俺らの世代は確かに女の子増えてたけど、無かったな。
“ちょっと見た目のバランス悪いかなー”って囁かれてたの聞いたし…。」

「ま、まぁ気にしない気にしない。」

体の割に女顔だもんね…ダメな人はダメかも。
私は好きだけどね、そんなとこも。だって可愛いじゃない?

「……そう言えばよ、こないだのマジ恥ずかしかったぞ、こんにゃろう。」

「ん?ゴスロリメイド?
えー?すっごい可愛かったじゃん!ほら!」

「ぶっ!?待ち受けにしてんじゃねえよ!」

「あはは、盛れてるでしょ?これから夏祭りやクリスマスとイベント毎に…どう?」

「ぜってーやんねぇ。」

「ちぇー、いけずぅ。」

突っ込む所は、そこじゃないわよ。
3人で撮ってもらった写真、ツーショットになるよう上手く切り抜いたんだ。気付いてはくれないけど。

……だからスマホの画面には、『あの人』はいない。

普段なんて飲みの途中で、撮ってもお互い変顔ばっかりなの。
本当は……こういう罰ゲームの女装より、普通のツーショットが欲しいな。普通に二人で笑ってるようなの。

「でさー。」

「何?」

「……どうして翔鶴さんと別れたんだっけ?」

意地悪な女だって、自分が嫌になる。
触れない方が幸せだなんて分かってるけど…手を突っ込んじゃったんだ。
442 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:18:10.58 ID:32CvxAXoO
「昔言ったろ?行動が過激で持たなくなったって。」

「それはね。聞きたいのはそこに至るプロセス。」

「………笑わない?」

「大丈夫。」

「白状すると、別れるまではめちゃくちゃ好きだったよ。色々あってもな。
だから別れてからも、しばらくは悩んだ。」

「へー…。」

……気付いてたよ、全部。
ああ、でも段々ムカついてきちゃったなぁ。

「…でも、俺じゃダメだなって思ったんだよな。安心させてやれる器じゃねえって。
確かにぶっ飛んでる所に疲れてたのはあるけど、まずそうさせる俺が悪いだろ、ってな…。」

「……何かきっかけあったの?」

「…さっき話した、告白された件だな。
その後友達に説教されたんだよ、『お前は誰に対しても親身すぎる』って。」

「その子は何がきっかけ?」

「告白してきた子?んー…元々おとなしい子でさ、学祭のイベントも馴染めてなかったから、ちょっと心配になって引っ張り出したんだ。」

「翔鶴さんは一緒じゃなかったんだ?」

「学祭中は公開演武で忙しかった。で、俺学校じゃ帰宅部扱いだから暇しててな。
その日はその子イベントに混ぜて終わったんだけど、友達出来て良かったなー、なんて安心してた。」

あぁ、男慣れしてない子だ…端折ってるけど、どうせ無自覚にタラシたんでしょ。

今より若い時だもんね、相当タチ悪かったんじゃないかな。
彼女持ちでそりゃダメだよ…翔鶴さんがやきもきするの、ちょっと分かるかも。

「で、しばらくして告白されて、友達からお説教を喰らったと。」

「……だな。『__ちゃんの事もうちょい考えろよ!』って、マジ説教だった。
そこでちょっと、考える事は増えたっけな…。」

「お人好しの自意識無しだった訳ね。」

この時ばかりは、わざとらしく毒吐いてやったわ。大して変わってないじゃん。
ばーかばーか。しばらく小突いてやる。
443 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:19:24.04 ID:32CvxAXoO
「う…ぐうの音も出ねえ。
でも、この性分は直んなかったんだよなぁ…結局憲兵になったのも、だったら人を守れる仕事をしようって思ってな。
消防や警察も考えたけど、姉貴はもう艦娘やってたから、こんな仕事もあるぞって勧められて。」

長門さん、ありがとうございます。おかげでこの馬鹿野郎に出会えました。
でも、そっちももうちょっと教育して欲しかったです。

「そして加減の出来ない人助けの末、2回警察のお世話になった。」

「はは…バレてないの入れたら、もうちょいあるな…。
で、話戻るけど、その頃友達に言われたんだ。『お前が逆だったらどう思うよ?』って。

あいつとは付き合い出して1年経ってたからな…感情表現下手なのは、俺もよく分かってた。
……矢とか飛んでくる割に、裏で泣いてた場面もあったのかもなとか考えたよ。」

「……それで鉄の味チョコに繋がると。」

「…空手で血の味はよく知ってたからな、すぐ分かったよ。
ここまでさせちまう程追い込んだのかって思ったし…同時に、あいつの行動に疲れ切ってたのも事実だ。

そこでバキッと心が折れて、これ以上はお互いに良くねえってなっちまった。それで俺から振ったって訳。」

「…お互い様ね、__も相当悪いけど。」

まぁ翔鶴さん、それ抜きでもぶっ飛んでるしね。

でも高校生ぐらいの時なんて、誰かが振られたなんて話はすぐ知られる。きっとその件も、翔鶴さんの耳に入ってたと思うわ。
悩んだんだろうけど…言い換えれば__が逃げたとも捉えられるわね。翔鶴さんの独占欲も大概だけど。

責任感強いものね…自責の念は、多分今でも…。

444 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:20:20.19 ID:cp/6IjpQ0

「返す言葉もねえよ…再会してからはビビりっぱなしだし。
冷めたらこうも苦手になるかって、最近自分でも思ったな。

振り切るのに結構掛かったけど、今となっちゃあれで良かったのかな?ってな。
あいつはもっとこう…気を遣える奴の方が合うんだよ、きっと。ちゃんとあいつの事考えて人間関係こなせる奴って言うかさ。」

「例えば、常に妻帯者の意識を持って人と接し、なるべくまっすぐ帰ってくる旦那さん。」

「そう、そんな感じの。」

私は女友達や付き合いのキャバクラまでなら許す。いちいち目くじら立てきれないもん。

…ただしそれ以上は殺す。魂子焼にしてやる。
具体的には、よその女とキスしたらアウト。

「でもそれは誰でもそうだよー。
まぁいいんじゃない?分け隔てないのが君の良いとこでもあるんだし。
君に浮気心無かったんだし、そこは価値観の違いって事でさ。気にし過ぎない方が良いって。」

「……ありがとよ。ちょっとは報われるぜ。」

「自意識はもうちょっと持つべきだけどね。」

「んっ!!返す言葉もございません…。」

「はいはい、じゃあ呑んで昔の女は忘れちゃおうねー。」

「おい、表面張力まで注ぐなよ…。」

翔鶴さんの髪と同じで、真っ白いマッコリ。
それで出された器の方は、私の髪と似た色をしてた。

飲め飲めこのやろー。思い出なんて飲み干しちまえー。
飲み切っちゃえば、私の色な器だけだもん。白いあの人の記憶なんて、そのまま消化しちゃえばいい。

………飲んだら飲んだで、白いのに酔っ払っちゃう事になるけどね。

445 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:23:25.04 ID:32CvxAXoO

うう…酔ったぁ…。

子泣き爺かフェイスハガーか、私はいつものように__の背中にべったり。
無い胸と143cmのこの体も、こんな時だけは得だと思える。その分ギュってくっつけるから。

……わざとじゃないよ?

あ、ここにも川あるんだ。
思い出すなぁ…そう言えばあの時も…。

「……懐かしいね。」

「初めて来たけど?」

「ほら、前のとこにも川あったじゃない?漫喫の時。」

「あー、あったなそんな事。ピアスの時だ。」

「そう、元カレにもらったやつ。あの時もこんな感じだったよね。」

振られてからも、しばらく律儀に付けてたんだ。
でも勢いで外して投げたら、本当せいせいした。

ヤケクソで迫った時、めちゃくちゃ怒られたなぁ。
すごい怖かったけど、その時本当に親身に考えてくれる人なんだって思ったっけ。

……今も無い胸押し当てた所で反応無いのは、あの頃と変わんないわね。
むう…もっとしがみついてやる。

446 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:24:03.26 ID:32CvxAXoO

「……アレは大分助かったわ。優しいのを気に病む事なんて無いって。」

「そう言ってもらえりゃ助かるぜ…しかし、まさか未だにお前とつるんでるとはなぁ。」

「人の縁なんてそんなものよ。」

「だな、親友。でもそろそろ酒減らせよ?太るぜ?」

親友かぁ…親友だよね。
チビだから、近いとたまに気付いてもらえない。それと一緒なんだ。

あーあ、なんでこんな奴好きになっちゃんだろ。節穴めぇ。
大体太ってないし。鶏ガラみたいな幼児体形ですよーだ。

「善処しまーす…でもカロリーは確かに…うぷ。」

「だからって今入れた分出すなよ!?」

あの時は、投げた勢いで大リバースだったわね。
アレでキレないんだから、本当お人好し。離れられないぐらい甘えちゃうよ。

447 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:25:27.43 ID:32CvxAXoO
「着いたぜ、降りれるか?」

「うん、大丈夫。」

寮に着いたらもうお別れ。
でも今日の服は、しっかり匂い付くように洗ったんだ。香水も使ってるし。

…眠そう…このまま寝落ちする感じかな?
だから部屋に着いても、私の匂いのまま寝ちゃえばいい。
あの人の事なんて、どっか行っちゃうぐらいね。

階段の所で別れて自分の部屋に行こうとすると、隣の部屋が目に入る。
合鍵持ってるって聞いたなぁ……大丈夫、今ならきっと寝てる。
そう思って、私は部屋の扉を開けた。

カーテンさえ開けちゃえば、誰もいない部屋も明るくなる。
窓も開ければ、雨の匂い。今日はもう寝て終わりかな。

窓から顔を出して、斜め下の部屋を見てみる。
この角度じゃ見えないけど、きっと今頃ぐっすり寝てるはず。

そうだ、また二人で映画でも見よう。
ここに呼んで、ゆっくり部屋飲みでもしながら。
そうすれば、慣れないこの部屋にもあいつの跡が出来るから。

うーん…なんか眠くないなぁ。もう一杯飲んでみよっかな。

448 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:26:51.14 ID:32CvxAXoO

冷蔵庫を開けてみると、一人で飲んでた分のマッコリがまだあった。
ペットボトルに2〜3割残ってる白い奴。それを見たら、何か段々ムカついてきた。

あいつの中の2〜3割の白いのが、段々増えてくような気がしたから。
いつかまた、白いのに悪酔いされそうな気がしたから。

もうラッパで行ってやる。お前なんか飲み切ってやる。
ぐいっと飲み干して、空いたボトルを乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。
はっはっはっ、これで私の勝ちよ。そこで回収日を待つがいい。

そのままベッドにうつ伏せになると、頭がぐるぐるして来る。
うえー…回ってきたわね…ちょっときついかな。

酔っ払った耳に、ざあざあと雨音が絡み付く。
その音を聞いてるうちに、何だか泣けてきてる自分がいた。

……匂い、付いたかな。
いつでもそばにいるよ、近くて見えなかったとしても。

枕に腕を回すと、何となくあの背中を思い出した。
でもベッドの中はまだ冷たくて、あのぬくもりとは似ても似付かない。

夢の中ぐらい、いいよね。
キスでもするみたいに枕に顔を埋めて、私はそのまま寝ようとしたんだ。
メイクも取らずに顔を埋めてると、目元が濡れてきた気もする。
でもいっか…カバー黒いからわかんないよ。

大丈夫、泣いてない。
……大丈夫、もう同じ場所だから。離れ離れじゃないから。

なのに、何でこんなに遠いんだろ?

結局そのまま寝落ちして、見事に寝ゲロした。
枕だけで済んだけど、しょうがないからその日は座布団を代わりにした。

その間部屋にぶら下がるのは、雨で乾かない枕とカバー。
楽しい時間を過ごした次の日は、文字通り枕を濡らしたサイテーな休日。


その日は一日、雨は止まなかった。

449 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 07:27:38.78 ID:32CvxAXoO
一時的に別サイトに落としておりましたが、こちらにもまた投下して行きます。
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 08:05:41.85 ID:oFRrNNarO
乙!
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 11:49:34.74 ID:kFBSXcPlO
あっちも見てたぞ乙乙
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 12:00:54.69 ID:4iOu3+So0
再開乙なのねん
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 12:26:48.97 ID:Ov32k23aO
おつおつ。相変わらずいい心理描写ですねー。楽しみにしてます。
454 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:32:41.74 ID:32CvxAXoO

これでも服は好きで、それなりに気は遣ってる方だ。
休日に一人でモールや古着屋を回るのが、ちょっとした楽しみだったりする。

だが自分の身に付ける物は気にする割に、俺は他人の方にそこまで執着は無い。
分かりやすく言うと、「好きな子にはこういうの着て欲しい!」とか、そう言うのが無い訳。

俺としては、好きなもん着てる時の女の子が一番可愛いってのが持論。
づほには「分かってない」って突っ込まれたけどな。

そんな感じで男女問わず、身なりへの拘りは何かしらあると思う。
ただ、男と女で決定的に違う『ある要素』もあるんだ。

ささやかな疑問が、派手な火の粉を撒き散らす。
今日はそんな日常の話。

455 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:34:00.26 ID:32CvxAXoO






第19話・誰も見てはならぬ





456 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:37:16.55 ID:32CvxAXoO

「お疲れ様ですー。」

「ああ、憲兵君。お疲れー。」


飲んでる時やムカついてる時、それと頭使い過ぎた時は、たまにタバコを吸いたくなる。
この日事務作業で数字とにらめっこしてた俺は、久々に喫煙所に足を踏み入れていた。
この時中にいたのは提督だけ。この人と二人になるのはなかなか珍しい事だ。

ガラス張りの喫煙所からは、外がよく見える。
艦娘達が目の前を通るんだが…この時俺は、ある事に気付いた。

「……皆化粧ポーチ持ってますね。」

「あー、出撃前のあるあるだよー。軽く化粧直す子多いの。」

「へー…。」

ウォータープルーフも出回ってるご時世だが、この時俺の脳裏にはある疑問が浮かんだ。
……これから海でドンパチやんのに化粧?落ちねえか?

457 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:38:50.44 ID:32CvxAXoO

「マナー的な奴ですかね。落ちちまうと思うんだけど…。」

「いや、艦娘の化粧は特に義務でも禁止でも無いよー?まあそこは女の子って事。
艤装って一応紫外線保護も出来るんだけど、念の為もあるだろうし。」

「なるほど…。」

男にゃ分かんねえ世界もあるよなぁ…なんて考えてる間に、さっきの艦娘達が出て来た。
早えなぁ……あ、でも結構印象違う。
そんな事を考えてると、ガラスをコンコンと叩く音が聞こえた。

「憲兵さーん、お化粧に興味津々?前ので目覚めちゃったぁ?」

「蒼龍か…勘弁してくれよ、こないだので懲りたっての。」

「楽しかったなぁ、憲兵さんにお化粧するの。次はどうしよっかなぁ。」

「二度とやんねえ。」

蒼龍はメイクが得意だ。
こいつは女装事件のヘアメイク担当であり、一回プライベートのこいつに騙されてもいる。
同僚からしても腕は確かなようで、何でもここの駆逐や軽巡にメイクを教えてすらいるんだとか。

「なーんだ。てっきり目覚めてくれたかと思ったのに。」

「いや、何となく戦闘前にメイクすんのって不思議だなーって思ってな。落ちねえの?」

「そりゃ多少はね。でも私達にとっては、制服や艤装と一緒なんだ。
やっぱりちゃんとやると、心も戦闘モードになるんだよ。」

「空手家が道着着るようなもんか。」

「うん!戦国武将もメイクして合戦に臨んでたんだよ?戦化粧って奴。」

「なるほどなぁ。」

そう言えばそんな話聞いた事あるな…と感心してるのを、提督はいつものアルカイックスマイルで聞いていた。
まぁこの人はなまじ遊んでた分、俺よりずっとその辺の知識はあるだろうしなぁ。
458 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:41:09.07 ID:32CvxAXoO

「女の子の努力っていいよねー。
…憲兵君、化粧覚えるくらいの年齢になると、男的に楽しみな面もあるんだよー。すっぴんの方に。」

「すっぴんに?」

「そ。その辺になると女の子がメイクしてるの前提でしょー?
出掛けるにしても仕事にしても、いつも戦闘モードなわけ。

……だからそのぐらいのすっぴんって言うのはね、限られた奴しか見れないのさ。心を開いてもらった男の特権ってやつ。」

「……すいません。今の言葉、めっちゃグッと来ました。」

ああ、祥鳳さんのすっぴんとか憧れじゃん…づほの奴、連絡先教えてくんねえかなあ…。

……とか考えてると、またコンコンとガラスを叩く音が…。



<●><●> ←翔鶴

<●><●> ←瑞鳳



何か張り付いてるぅ!?白いのと茶色いの!!

459 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:42:58.90 ID:32CvxAXoO

「なにー?楽しそうな話してるじゃない。」

「お前らいつからいたよ?」

「空母組で訓練してたの。蒼龍ちゃん、入り口開けっ放しよ?」

「あ、いっけなーい。」

うわぁ…何か厄介の予感がするわ…。
で、さすがに吸わねえ奴ら3人もここにゃ入れとけねえって事で、とりあえず外に出た訳だ。

「男のスケベ心って深いわね…見えざるものを見たがる心理って奴?そう言うのパンツぐらいだと思ってたよ。」

「いや、見えざるものってお前…顔面の話だろ。」

「いーや、__は何にも分かってない。
君とは『散々朝まで飲んだ仲』だけど、私のすっぴん見た事無いでしょ?」チラッ 

「まぁねえけどよ…。」

「そうね…お化粧を覚えて思ったけど、家族か『余程深い仲』でない限りは少し恥ずかしいわ。」チラッ 

「あ、あはは…ココデケンカシナイデ……まぁそれぐらい女の子にとってお化粧って大事なんだよ。」

「そうよ!いい?__に分かりやすく言うなら、女の子にとってすっぴんは…

……股を開くより恥ずかしい!!」

「ドヤって何言ってんだ。」

「チョップしないでよちぢむぅ!」

「あのな、ここ廊下な。」

クワッて目えして何言ってんだお前は。シラフで。
提督はそんな俺らのやり取りを笑顔で見てたんだが、ふと後ろを見た瞬間、顔色が変わった。
460 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:45:03.64 ID:32CvxAXoO


「あー……皆、助けてあげた方がいいかも。」


その一言に一同が振り向いた瞬間、元カノと蒼龍は一目散に走り出した。
そこにはバケツとモップを持った駆逐の子……あの青い髪は確か……。

「五月雨ちゃん!大丈夫!?」

「あ、翔鶴さん!これからお掃除なんです。」

「重そうだね、どっちか持とっか?」

「蒼龍さん、大丈夫ですよ!お気遣いなく。」

まだあんまり話した事ねえけど、礼儀正しいまともな子だよな。
何焦ってんだあいつら?いくらなんでも大丈夫だろ……。

押し問答を繰り広げつつ、3人はこっちへ近付いてくる。
そうこうしてる内に、もっと近付いて来て…


「きゃっ!?」


バナナの皮……なんてここには存在しない。
しかし五月雨はそこで皮を踏んだかの如くバランスを崩し、俺と提督も咄嗟に五月雨の元へ飛び込んだ。

結果4人がかりで五月雨の体は支えてやれたが…手をすり抜けたバケツは、わずかなしぶきを上げつつグルグルと空中へ飛ぶ。

遠心力の恩恵により、バケツの水はこぼれない。
その回転は俺の横を素通りし、その先にいたのは位置的に一番出遅れる…。


「ぶっ!?」


づほの頭へナイスシュート。
水ごと綺麗にバケツを被り、ばしゃんと中身がこぼれた音が響いたのは、数コンマ後の事だった。

461 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:46:51.69 ID:32CvxAXoO

「づほ!?」

「あ、あ…ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」

「う、うん…五月雨ちゃんもケガしてない?」

「大丈夫ですぅ!えーと!あ!手拭い使ってください!!」

渡された手拭いを手に、づほはひとまず顔を拭き始めた。
ちょうど俺に背を向ける位置だったんだが…手拭いを外した瞬間、ピタリと動きが止まる。


「…あ…今日、普通の化粧品だ…。」


ん?化粧品?
確かに白い手拭いには、わずかに黒や肌色が移っていた。
上半身はまだびっしょり。他も拭けよーと声を掛けようとしたら…

「……__、そこ動かないで。」

明らかに殺気立ったトーンの声で、づほはこう呟いた。

づほは手拭いを顔面に巻き付け、鉢巻を目深な位置まで下げる。
こちらを向かずとも、その背中はどんどん大きくなって行くように俺には見えた。
な、何だこの殺気…?

「おい、づほ…大丈夫か?」

心配になってそうポンと肩に手を置いた瞬間…

「…ケンペイ殺すべし!!すっぴん見たら!」

「誰だおめえは!?」

隙間から見えたぎょん!とした目に、思わずツッコミを入れてしまった。

462 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:48:32.47 ID:32CvxAXoO

「フシュ-……フシュ-…ダメ…化粧取れて化生になってるから…特に今は。」

手拭い越しの息は荒く、さながらキレた猫の如く。
おいおい…そんなに嫌か?皆ちょっと引いてるし…。

「ず、瑞鳳ちゃん、とりあえず着替えましょ?他もびしょ濡れだし…。」

「う、うん、ちゃんとタオル使わないとね…。」

元カノと蒼龍に手を掴まれ、づほはロズウェル事件っぽくよろよろと歩き出した。
アレ前見えてなくねえか…なんて思ってると、五月雨がづほに近付く。

「瑞鳳さんごめんなさい!!五月雨がタオル用意しますから…きゃっ!?」

床はびしょ濡れ。

もう一度言う、床はびしょ濡れだ。
そして五月雨は追っかける形でづほに近付いていた。

当然のようにコケる。反射的に五月雨の手が伸びる。
見事な放物線を描く腕は、その指先をとある場所に引っ掛けた。
そう、づほの後頭部、二つの結び目にしっかりと。

水分を吸い、舞う事も無く落ちる鉢巻と手拭い。
とさり、と言う音と共に俺たちの前に現れたのは……静寂だった。
463 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:49:55.36 ID:32CvxAXoO


「提督、__……二人とも、見たね?」


視線が交わる。
づほは言う程濃いメイクしてる訳じゃなかった。『顔立ちそのもの』は極端に変わった訳じゃない。
ただ…人体に本来存在する、ある物が無かった。全部。


<●><●>


↑この顔文字を想像して欲しい。
このようにカッと見開かれた目から、溶けたアイメイクが黒い涙として頬を伝い…

その顔に、眉毛は一本も存在しない人間を。



つまり……これだ↓


464 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:51:15.12 ID:32CvxAXoO

465 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:53:21.47 ID:32CvxAXoO

「……見いたぁわぁねぇえええええっ!!??」

「落ち着けづほ!!そんなん誰でも怖えから!すっげえ怖えから!!」

「あぁん!?誰が怖いってぇ!?」

「凄むからだっての!!」

俺ら相手だと上目遣いになっから余計怖え!!
づほは下からそのツラのまま、ぐいぐいと俺に詰め寄ってくる。

「はい、ストーップ。」

……と、その時突然お化生モードなづほが視界から消えた。
代わりに眼前にいたのは…ティアドロップのサングラス。

「瑞鳳、いくら恥ずかしいからってキレちゃダメだよー?それ貸してあげるから。」

「提督…!」

「洋上用に持ち歩いてるからさー。瑞鳳には大きいけど、今は丁度良いんじゃないかな?」

「うう…ありがとうございます…。」

サングラスを掛けられた瞬間、づほはすごすごと大人しくなった。
あー…びっくりした……あんな剣幕でキレなくてもいいじゃんよ…。

466 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:55:31.23 ID:32CvxAXoO

「ふふ……眉毛整えてたら、うっかり片っぽ全部ね…。それで両方剃ったのよ…。」

「そのまま片っぽ残して描きゃ良かったのに…。」

「……うぅ。」

「ま、まぁ眉毛無いと恥ずかしいわよね…。」

「うん……鏡にマンボウや○ろいた…。」

今度はづほが段々暗くなってきた。
そ、そんなにか……不可抗力とは言え、何か悪い事した気になってくるな…。

「そ、そんな落ち込むなよ…黒いの以外は言う程変わってなかったし。」

「……ほんと?」

「本当。まだまだ気にする歳じゃねえだろ俺ら。」

「………ありがと。」

「でも瑞鳳ちゃんの気持ち分かるねー、私もすっぴんじゃ死にたくないし。」

「そうね、20歳越えると抵抗感じるもの…一度お化粧覚えちゃうとね。」

「憲兵さんもこの前ので私達の気持ち分かったでしょ?やっぱり顔も気持ちも変わるから、すっぴんに戻りたくないなーってさ。
あ、憲兵さんはまず男に戻りたくなかったかぁ。」

「あん時ゃ1秒でも早く戻りたかったっての。
大体デートとかならともかく、俺ら相手に気にすんなって。別に笑いやしねえしよ。」

……さっきのづほは怖かったけどな。
っとか思ってたら…あれ?何か皆顔色悪い?

「そ、そうだよねぇ…うん。」

「そうね…ソウイウトコロハナオッテナイノネ…。」

「すっぴんで萎えましたーとか言う関係でもねえだろ?憲兵と艦娘なんだからよ。
うちは姉貴いるし、それに翔鶴のすっぴんなら昔から何度も見てたし。」

「もう、言わないで……あ。」

「あ…?」

467 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 22:57:19.20 ID:32CvxAXoO

元カノが何かに気付いた瞬間、腰……と言うかケツに凄まじい殺気を感じた。

振り返ると、まさにヒットマンを連想させるティアドロップの黒光り。
しゃがみ込むそいつの手は、クリスチャンのお祈りの如く重ねられていたが…。


「…憲兵死すべし、慈悲は無い。」


その瞬間、ジャキンと言う幻聴と共にそいつの人指し指が立った。



『ずむっ……!!』



痛みとか、もはや覚えてねえよ。
その次の記憶は、もう医務室でしたとさ……。

468 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 23:00:08.81 ID:32CvxAXoO

「……づほ、あいつらは?」

「他の任務に行ったわよ。暇してたの私だけ。」

「…いってぇ〜……おめえなぁ、殺す気かよ…。
ビビったのは悪かったけどよ、痔主にカンチョーはねえだろ…。」

「人のすっぴんにあんなリアクションするからよ。ふーんだ。」

憲兵に暴行働いた張本人様であるこいつと言えば、まだ提督のサングラス掛けたまま。
腕組んでつーんとしたポーズ取ってるが…んのやろ、段々腹立ってきたぜ…!

「なーにカッコ付けてんだこんにゃろ。」

「あー!やだ!取らないで!」

けけけ、ヒットマン様の顔面ご開帳ってな。
あ、メイクちゃんと落としたのね…ってやっぱ眉毛ねえし。ネタにしっかり焼き付けてやる。

「うぅ…すっぴんなのに……。」

「やっぱな…別に言う程変わってねえじゃん。眉毛ねえけど。」

「うそつきー、絶対妖怪だよぉ。」

「眉毛無けりゃ誰でもなるわ。じゃあこうすりゃ良くね?」

こいつはちょっと前髪長えけど、それっぽく流してやれば上手く隠せる。
ほれ出来た、我ながら良い感じ。

469 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 23:01:11.47 ID:32CvxAXoO

「はーい、いつも通り可愛くなりましたよー、っと。
これで男捕まえ放題だな、眉毛無くても。」

「………ばーか。でもありがと。」

多少は機嫌直ったようで何よりだ。
?っ…!ケツに来てんなぁ……まぁ女のすっぴん見た罰かこりゃ…ん?

「…何触ってんのお前?」

「寝癖すごいよ?」

「誰のせいだよ…。」

「近くで見ると、やっぱり男の子の方がまつ毛長いよね…特に君のは。羨ましい。」

「まつ毛より迫力よこせって話だよ…職業柄、やっぱ厳つくねえとさ。」

「そっかー…なら眉毛全部剃りゅ?」

「どっからシェーバー出した!?」

「仲間だ…仲間になるんだ……!」

そこからはやいのやいのな攻防戦だったけど、づほの機嫌は大分良くなってくれたから一安心だ。
あーあ…事故でも安易にすっぴん見るもんじゃねえな…ひでえ目に遭ったぜ。

「隙あり!」

「なぁあああっ!?」

前言撤回。ひでえ眉毛になりましたとさ…麻呂。

470 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/15(月) 23:03:27.92 ID:32CvxAXoO
本日はここまで。少しずつ、こちらへの未投下分を落として行きます。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 23:08:07.54 ID:TbNE59KIO
おつおつ。やっぱ正ヒロインづほだよなあ。
472 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 06:59:04.30 ID:InWhPO+7O


鎮守府の中だと、俺ら憲兵隊の詰所は特異な空間らしい。

いや、別に悪い方の意味じゃねえんだ。
ただ、手っ取り早く日常から離れられる場所としてって意味。
不思議なもんで、ここへ茶をたかるついでに遊びに来る奴らもちらほらいる。

一応仕事の一環で悩み相談も受け付けてるし、基本来る者拒まずが詰所のスタンスなんだけど……。


「…この鎮守府には、渋みが足りない!」


今現在、そうバンッ!と机を叩くオレンジの着物に対しては、素直にこう思った。

何言ってんのこの子と。


473 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:00:09.53 ID:InWhPO+7O





第22話・有情破顔



474 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:05:30.64 ID:InWhPO+7O

「……飛龍。渋みも何も、お前それリプトンじゃねえの。」

「だーかーらー、お茶じゃないの!渋いおじさまがいないって話!」

「実艦の記憶は多少移ってんだろ?イマジナリー多聞丸で我慢しとけよ。」

「そりゃ多聞丸は憧れだけどさ、そうじゃないんだって…ちゃんと直接接せられる人!」

「俺らに言うなよなぁ…。」

「えー?でも聞くだけでもしてくれるんでしょ?」

「まぁそうだけどよ…お前の好みって、やっぱ『飛龍』になった影響?」

「え?」

艦娘発足当初、艦娘と連携する過程で様々な悪影響が懸念されていた。
艤装非装着時の精神や人格の汚染、体への悪影響など。その手のもんなら当然考えられる危険性だ。
結果、シリアスなそう言う側面はパス出来たらしいが…思いもよらぬ所で、艦娘化による変化があったらしい。

例えば食や異性の好みの変化だったり、夜が苦手になったり。
元カノの妹なんかは、七面鳥は名を聞くだけで発狂するぐらい嫌いになったそうな。

そう、危険要素はパス出来たものの、細かい嗜好の面で艦娘化の影響が出るとは各国も思いもよらなかった。
『飛龍』の適性が出た奴は、男の趣味が渋好みになる傾向が強いって聞いた事がある。こいつも御多分にもれずって所か。

「うーん…どうかなぁ。渋い人は昔から好きだよ!
こう、必死で出撃した後に渋いおじさまに迎えてもらえたら…もう入渠いらないぐらい癒される気がするぅ…うぇへへ。」

帰ってこい、現実へ。
妄想拗らせて春日部の5歳児みてえに笑う飛龍を見て、俺は何だか虚しい気持ちになっていた。

475 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:06:55.60 ID:InWhPO+7O

「飛龍の場合は、元の好みが適性が出た事で増幅されたと言う所だな。」

「憲兵長…。」

「しかし、なかなか現実は見えんものだ…飛龍、ここでは貴様の願望は叶わんぞ?
ここが若手運営のサンプルケースなのを忘れたか?」

「………だよねー。」

「ここは提督やその他職員、工廠…そして我々憲兵隊に至るまで若手で構成されている。
つまり、貴様の欲求を満たす存在はここにはいない。こればかりはどうにもならんな。」

「そう考えるとずるいよねー、男ども。
だってうちの提督はともかく、よその提督なら内心女の子たくさんで癒されるーとか思ってそうでしょ?疲れた時とか。
私だって出撃明けは辛いんだよぉ…大破した日なら尚更……。
癒されたい…こう、母港に帰った瞬間素敵なおじさまに癒されたい…多聞丸か大沢た○お的な…あ、中○貴一でもいい…。」

「提督に老け顔メイクさせます?蒼龍プロデュースで。」

「顔の系統が根本的に違うな。それに、飛龍を甘えさせたら時雨が発狂する。」

「……容易に想像付きますね。」

ふざけた話なようで、こいつのおっさん不足は切実な問題な気もしてきた。
やっぱこう、終わって帰ったら癒しって欲しいよなぁ…特にこいつら、戦場にいる訳だし。
476 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:08:05.62 ID:InWhPO+7O

「……はぁ、そう考えると翔鶴ちゃんほんと羨ましい。」

「あいつぅ?何でだよ?」

「憲兵さんいるもん。知ってる?あなたが来てから翔鶴ちゃんの戦果上がりっ放しなの。」

「それは提督から聞いたけどよ…。」

「健気だよぉ…この前だって、傷だらけなのに“あの人の所には絶対に行かせない!!”って敵に啖呵切ってさぁ…。」

「……………。」

「ふむ…要約すると、飛龍はおっさん成分と言うよりも、日頃の癒しが欲しいと言う事でいいな?」

「そうだね、それが素敵なおじさまだったら最高…。
最近ちょっと忙しかったからねー…。」

「体は寝るだけでも休める事はできるが、心は難しいからな。気だけ休まらん事はある。
だが病は気からは、気は病から。どちらもある程度はイコールではある。
おっさんは用意出来ないが、私なりに出来る事はあるぞ?」

「……ほんと?」

477 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:09:10.89 ID:InWhPO+7O


「おお〜う……。」

「ふむ、やはり背中周りだな。負荷が掛かっている。」

「そうそう…戦闘のは入渠で抜けるけど、訓練の疲れがねぇ…。」

ここのソファは、厳密にはソファベッドだ。
開いたソファに飛龍を寝かせ、眼鏡はマッサージを始めた。

「整体出来るんですか?」

「柔術を通った一環でな。人体の壊し方を知っていると言う事は、治し方も分かると言う事さ。
よし、ほぐれてきたな…。」

「憲兵長、最高だよぉ〜極楽極楽…。」

なるほど、ひとまず体を癒して、心の疲労も抜こうって魂胆か。
健全なる精神は健全なる肉体からなんて言うもんな。

そんな事を思っていると、頭の中で声がした。

“始まるでありますなぁ。”

“あきつ丸?”

“自分も受けた事があるのでありますが、ここからが地獄なのでありますよ。”

それまでは普通にマッサージをしていた眼鏡だが、おもむろに自分のストレッチを始めた。
一通り柔軟が済むと、再び手を飛龍の背中へ…。
478 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:10:16.33 ID:InWhPO+7O

「ほぁたぁ!!」ボキィッ!

「ちにゃっ!?」

「何やってんのあんた!?」

そこからは耳に残る嫌ーな骨の音と、あべし!とかうわらば!とかシュールな悲鳴のオンパレード。
最終的にソファに出来上がったのは、死んだ魚の如く白目を剥く飛龍だった。


「お、おお…う…。」

「ふっ…貴様はもう癒えている…。飛龍、体を起こしてみろ。」

「へ……?おー!すごい!体軽いよー!!」

「骨格の歪みから直したからな、少しは軽くなったんじゃないか?」

「うん、何か気も軽くなった気がするよ!ありがとう!!」

「おっさんはこの鎮守府にはいないが、他にも癒しようはあるものさ。
飛龍はおっさん鑑賞以外のストレス解消を上手く見つける事だな。」

「はーい。」

はー…すげえな。

提督や僚艦には出来ない艦娘のケアを。
それも憲兵隊の役目とは言われてるが、実際は出来る事なんて悩み相談ぐらいがいいとこだって思ってた。
でも眼鏡は、ボヤキの奥にある疲労感を見抜いてたって事か…実際に施術出来るスキルあってこそだけど。

……ムカつく奴けど、こう言うところは尊敬するぜ。

479 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:10:59.57 ID:InWhPO+7O

「癒されたねー…憲兵さん、この後ヒマ?」

「ああ、細かい仕事片付けるぐらいだけど。」

「ふふ…今日、翔鶴ちゃん出撃だったんだ。今帰ってきてる途中だって。
良かったら、母港に行ってあげて欲しいな。」

「母港に?」

「うん。それだけでいいんだよ。
憲兵長、ありがとね!じゃあまた!」

「あ…おい!」

母港…か。そう考えた時、飛龍のさっきの言葉が思い浮かぶ。


『“あの人の所には絶対に行かせない!!”って敵に啖呵切ってさぁ…。』


陸なら俺らがあいつら守ってるけど、海からのもんに対しては……。

…いや、でもそれは皆同じじゃねえか。
守ってくれてるのは、あいつだけじゃ…。


「……ひとまず行ってこい。今はそれだけで良いだろう?」

「憲兵長…。」

「翔鶴君に限らず、出迎えは誰でも嬉しいものさ。ましてや戦地から帰ってきた直後はな。
彼女達が安心して戻れるよう、この陸と日常を守る。それが我々の使命だ。

……貴様自身の結論を急ぐ事はないさ。
ただ、一人の仲間として迎えてやればいい。」

「………。」

“一度、行ってあげればいいのであります。”

“あきつ丸……。”

「……では、出迎えに行って参ります!!」

「了解した。残務は任せておけ。」

「はい!!」
480 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:11:43.86 ID:InWhPO+7O

母港に立つと、丁度遠くの方に影が見えていた。
ゆっくり近づいてくるのは、6人の人影…その中には、白い影もいる。

「あ!憲兵さんだ!珍しいね。」

「お疲れー。たまには出迎えでもってな。」

「ありがとう!」

まだちょっとずつだけど、こいつらともこんな挨拶するようになったんだな。
一人一人とそんなやり取りをしていて…最後に上がってきたのは、皆と同じく擦り傷だらけなあいつで。

「……怪我、大丈夫か?」

「ええ…しっかり勝ってきたわ。」

こいつが俺を『憲兵さん』って呼んだのは、最初だけだったな。
後はずっとあの頃のまま、俺の名前を呼んでた。

それでも今は憲兵と艦娘で、ただの仲間で。
何より俺は愛想尽かして、自分でこいつを振った男だ。

吐き出せる言葉は、せいぜい…。
481 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:12:29.25 ID:InWhPO+7O






「………『ショウノ』、お疲れさん。」

「ふふ…『リョウ』、ありがとう。」






482 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:13:26.97 ID:InWhPO+7O

たった一言の、労いの言葉。
それは皆と同じような、でも俺達ならではの会話だ。

役職や艦名じゃなく、本当の名前を呼ぶ瞬間。
変わり果てた関係でも、これだけは今も変わってなかった。

あいつは微笑んだまま、部隊と一緒に母屋の方へ。
ただそれだけの、何でもない挨拶だ。


「リョウちゃんお疲れー!!」

「いって!?何だよづほかよ…。」

「第二艦隊も無事帰還よ!珍しいねー、ここにいるって。」

「たまにはな。無事で何より、お疲れさん。怪我大丈夫か?」

「えへへ…大した事無いよ。」

づほもちょいちょい服破けてんじゃねえの…本当、お疲れ様だ。

迎えるって大事だなぁ…。
俺の感情はともかく、せめてこいつらがゲラゲラ笑える日常は、あちこちから支えてやろう。
改めてそんな事を思った初夏の夕暮れだった。
483 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:14:56.86 ID:InWhPO+7O

『随分リョウに目を掛けているのでありますな?』

「何の事だ?とんだ跳ね返り小僧だよ。」

『素直じゃないでありますなぁ。育て上げたいと顔に書いてあるでありますよ。』

「……小僧だからな。矯正してやる必要があるだけさ。」

『全く。おや、来客のようでありますな。』

「ひゃっはー!失礼するよー。
憲兵長ー!飛龍から聞いたよ、あたしも整体やってくんない?」

「…ふむ、貴様は全身を診るまでも無さそうだな。背中を向けてみろ。」

「こうかい?」

「ここが肝臓のツボだ。」

「ひでぶぅっ!?」


キョウと隼鷹殿が戯れているのを、浮き輪から出て見ております。
ふふ、あれでなかなかウブでありますなぁ…しかし自分は手を貸しませぬ。それが隼鷹殿の想いと意地を守る事でもありますから。

複雑なものはありますが、所詮自分は死んだ身。今はモラトリアムのようなものであります。
むしろ…いつかその日が来るのを願うばかり。
確かに未練もありますが、それ以上にキョウの未来を見届けたい。自分が安心して隼鷹殿に託せるまでは、恐らく成仏出来そうもありませんなぁ。

あれでふとした時に見せる顔は、同じ女である自分からしても可愛らしい。キョウもそこにムラっと来ればいいものを…。
はぁ…もう脱げばいいのに。ヘタレ女め。

これも三角関係のようなものでありましょうが、自分は故人と言う時点でもう負けなのであります。
でも、リョウは心配でありますなぁ…過去と今の板挟みは、いずれ答えを迫る日が来ましょう。
君は『片割れ』の方には、気付いていないようでありますが。

自分と違い、未来ある生者…故にこの先は、希望だけでは無い。
生きる限り、避けては通れぬもの。

…どうか君は、ゆめゆめ忘れる事無きよう頼むのでありますよ。
君を想う者たちは、どちらもまだ生きていると言う事を。

それは素晴らしく…時に残酷な事でもあるのであります。

484 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:16:12.69 ID:InWhPO+7O







“また『づほ』だったなぁ…私の本名、覚えてるのかな?
『ミズキ』って、一度も呼んでもらった事ないや…。

……ずるいよ、翔鶴さん。”







485 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:17:48.33 ID:InWhPO+7O

その日の夜、部屋に帰って一休みしてたら携帯が鳴った。
誰だ……あ、珍しいな。

『先輩、お久しぶりです。__さんから今__鎮守府にいらっしゃるとお聞きしまして。』

『また珍しいな、どうした?』

『今度演習でそちらにお伺いさせていただくので、ご挨拶に。
当日はよろしくお願い致します。』

『あー、そう言えば__に去年艦娘に転向したって聞いたな。
俺らで案内やると思うから、よろしくな。』

久々に連絡して来たのは、軍学校の時の後輩だ。
6対6のチームで面倒見てたんだけど、その中の一人。筋トレ好きで、ライフルの扱いも上手かったんだよな。
ちっこい割に腕っ節強くて、組手は燃えたっけなぁ…えーと、確か艦娘としての名前は…。

『登録名は“__”で良かったっけ?』

『違います!“__”です!そっちじゃ女優さんの名前ですよ。』

『そうだった、すまん。』

因みに俺と後輩の間には、ちょっと恥ずかしいエピソードもある。
伏せておきたいって言うか、お互い忘れたいエピソードだったんだが……

まさかの再現、後日ありました。

486 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/16(火) 07:18:31.88 ID:InWhPO+7O
今回はこれにて。ひとまず溜め込んでた分は投下完了。
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 07:24:03.67 ID:irNzMH2lO
乙!
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 08:33:06.16 ID:/wwzYkXrO
おつ。次回は装甲空母のターンですか。
489 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:02:46.78 ID:c5dbWNtMO
※前回のナンバリング間違えておりました、正しくは第20話です。
490 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:03:20.41 ID:c5dbWNtMO




第21話・女三人寄れば心姦しく-1-



491 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:04:15.41 ID:c5dbWNtMO

「憲兵長。今日の駐車場、俺行ってもいいですか?」

「ああ、確か貴様の後輩がいると言っていたな。」

演習組の案内は、憲兵隊の間じゃ駐車場で通じる。

大体バスで来るから、レーンに車誘導したらそのまま母屋へご案内。
面倒見てた後輩の一人だし、せっかくだから顔でも見に行こうかって訳。

「遠路遥々ご苦労様です!演習の皆様はあちらへお願い致します。」

一人一人降りてきて、あいつは何人か誘導したぐらいで出てきた。
艦娘の公的な移動は、スーツの方の制服着てる事が多いんだけど…あぁ、立派になった感あるわ。タンクか作業着のイメージばっかだったもんな。

「先輩、お久しぶりです!またお後でお話出来れば。」

「おう、久々。また後でな。」

話せるのは演習明けかな…確かあいつらはっと…ああ、当たんねえのかぁ。
せっかくだし、後で紹介してやるか。あいつらの後輩でもあるしな。

492 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:05:07.41 ID:c5dbWNtMO



“…どんな子かちゃんと見えないなぁ…翔鶴さん、どう思う?”ガサガサ

“まだ分からないわね…リョウの事だから、きっと紹介してくれると思うわ。”ガサガサ

“クロじゃないといいね…後輩だもん、大分怪しい。いたた…イヌマキってちくちくするわね…。
あ…翔鶴さん、髪にコガネムシ。”

「へ?きゃあ!?」

“やば!リョウちゃん気付いたよ!”

“ごめんなさい!逃げましょう!”

「……何やってんのお前ら?」

「あー…そ、そう!四葉のクローバー探してたの!」

「うん!きょ、今日待機でやる事なくてさ…。」

「小学生か。暇なら丁度いいや、後で詰所来ねえ?こないだ言った後輩来てるから。」

「行くー。また連絡もらっていい?」

「了解。あ、ショウノ。」

「何かしら?」

「髪にイモムシ付いてる。」

「きゃあああっ!?取って!取って!!」


493 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:06:06.90 ID:c5dbWNtMO

それからつつがなく時間も進み、仕事が粗方落ち着いた頃だった。

『お疲れ様です。今演習終わりまして、これから自由時間になります。』

『お疲れ。こっちも落ち着いたから迎え行こうか?』

『いえいえ!見取り図は貰ってるのでこちらから行きますね。』

『そう?じゃあ詰所にいるから、いつでも来な。』


後輩にそう連絡すると、俺はすぐにあの二人も呼んでおいた。
先に入って来たのはあいつら、それから5分としないうちにまたノックが響く。

「失礼致します。」

「はーい…お、来たか。それが艦娘の制服?」

「ええ、お陰様で。艦娘になったの、__教官の勧めだったんですけどね。
ほら、これが今の武器なんです。あ、カートリッジは外してあるので大丈夫ですよ。」

「お、カッコいい。ライフル系上手かったもんな。」

「あの、そちらの方達は…?」

「ああ、こっちが今の俺の上官で…そこの二人は、今日演習じゃなかったうちの空母。二つの意味でお前の先輩だな。」

「それはそれは…ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。
改めまして、航空母艦・大鳳と申します。皆様何卒よろしくお願い致します。」

そう、空母って聞いてたからな。
だったらこいつらにも会わせておこうって思った訳。

『大鳳』か…軍学校の頃の『アレ』から考えると、随分まともな名前になったよな…。


494 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:07:15.22 ID:c5dbWNtMO

「軽空母・瑞鳳です。よろしくね。」

「航空母艦・翔鶴です。よろしくお願いします。」

「ここの憲兵長を務めている__キョウだ、よろしく。」

「ええ、よろしくお願い致します。『ボブ先輩』には以前お世話になっていて…。」

「ぶっ!?」

「ボブ?……ぷっ…。」

「そ、そのツラでボブって貴様…ぶふっ!」

「おい『ガ○パン』、その名前出すなよなぁ…。」

「あ、ごめんなさい。ふふ、でも先輩も今ガル○ンって言いましたよね?」

「まぁそっちの方が慣れてるしな。
懐かしいなぁ、『ブッコミ』や『電球』とか元気してる?」

「ええ、皆相変わらずですよ!」

「リョウ…そ、その名前って何かしら?」

「ああ、コードネームみたいなもん。
年長と年少それぞれ6人でチーム組んで面倒見てたんだけど、そこの教官が映画好きでな。」

「ハートマンごっこしたがってたんですよね。でもすごい優しい人なんですよ。」

「そう。それで変なあだ名付けて呼び合うって謎ルールがあったんだよ。
で、こいつはガ○パンのキャラに似てるからガ○パン。」

「ひどいんですよ。戦車の講習で私が乗ったら、皆笑い堪え切れなくなっちゃって…。」

「あはは、お前らも観ろ!って教官に布教された後だったもんよ。お前もまた妙にキリッとしたツラするしよー。
あの人、部屋に全員集めて鑑賞会始めたもんな。」

「ふふ、ありましたね。」

「へー、楽しそうだなぁ。ねえねえ、ところで何でリョウちゃんは『ボブ』なの?」

「「……!!」」

その時、俺とガ○パン…もとい大鳳に電流走る。

そうだ…俺のコードネームがボブになった経緯は、こいつの名誉も深く関わる…!
う、うーん…ここは上手くごまかすしかねえかな…。

495 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:08:12.14 ID:c5dbWNtMO

「ま、まぁ話すとちょっと長くなるから、また飲みの席ででも…。」

「え、ええ…あの話は確かに…。」

大鳳も上手くごまかしてくれたか…。
『アレ』はなー…さすがにちょっと…。

「ふーん…まぁいいや。ところで大鳳ちゃん、こっち来てくれる?」

「どうしましたか……!?」


づほ…何故熱いハグを交わす。
で、何故自分の胸に手を当てさせる。大鳳の胸揉みながら。


「……今日からあなたも、『私の』仲間よ。」

「この感触…あなたも……!実はさっき初めて会った時からもしかしてって…!」

「うん…私達は、同じ業を背負いし者だよ…!」キラキラ

「瑞鳳先輩…いえ、瑞鳳お姉様!」キラ-ン

「……な、何かしら?」

「ほっとけ…熱い友情を交わしてるんだよ。」

『まな板にしようぜ』に関しては、『素人(巨乳)は黙っとれ』しといた方がいい。
多分奴らの苦しみは、お前にゃ分からん…。

「まあ立ち話もなんだ、折角だし君達も座らないか?」

「え、ええ!そうですね、失礼致します…ダイジョウブカナ…。」

眼鏡は全員をひとまずソファへ促す。
俺らも座り慣れた事務椅子に腰掛け、ちょうどテーブルを囲む形になった。
それで最後に、大鳳がソファの真ん中に腰掛けて。

496 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:08:50.15 ID:c5dbWNtMO





『ボブゥ……!!』



497 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:10:07.86 ID:c5dbWNtMO

後輩が大鳳になったと思ったら、大砲ぶっ放した。

その音色はまさに、俺のコードネームの由来と同じ音。あぁ…思い出すあの頃。
あれは最初の挨拶か…あの時大鳳は俺の横に立っていて、まさにHEY!BOB!的な音が響いたんだ。
一気に重くなる空気、横目で見ると耳まで真っ赤な大鳳…。
あまりの空気に耐え切れなくなった俺は…。

“あーすいません!俺ちょっと今日腹の調子悪くて!!”

“くくく…快音だな!今日からお前の名前はボブだ!!”

“ぶはははは!!ボブ!くっせーよ!!”

“嗅ぐかこの野郎!”

その場は俺が泥被って笑い話に収めたが、ありゃ可哀想だった…。
後で聞いたけど、元々大鳳は腸が弱い方らしくてな。たまにやらかしちまうんだと。

そんな記憶に浸り幾星霜…いや、そろそろ現実に戻ろうか。
ソファは俺らの対面…で、大鳳はそのど真ん中。何ならテーブルと言う名の障害物すらある。

つまり、今回俺は身代わり不可能。

大鳳は俯いたまま、プルプルと震えてる。
ああ…もう耳まで真っ赤…視線を元カノへ…うん、ちょっと腰引けてる。気付いてるねこれ。

ん?腰引いてる……?

498 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:10:48.57 ID:c5dbWNtMO




『プッ』



499 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:14:42.24 ID:c5dbWNtMO

……無理すんなよお〜……!!

痛えよ、気遣いが激痛だよ。お前が真っ赤になってどうすんだよ…半端な事すっからもっと空気重くなってんじゃねえか…!
何だよその無理矢理ひり出した気遣い満載のしょっぺえ音…大鳳の恥が余計に浮き彫りだぁ…。

大鳳は…あ、ダメだこれ、もう笑顔が涙目だ。先輩に気い遣わせて余計死にたい顔だ。
やべえ…どうすんだこの空気。




『………プス-。』



………ん?プスー?

「…くっさ!?づほ、お前スカしたろ!?」

「すまない、これは本当にダメだ。窓を開けよう。」

「…ず、瑞鳳ちゃん、昨日何食べた?」

「ごめんなさーい。昨日ネギ食べ過ぎちゃって。」

「…………!」

づほの落とした爆弾で、その時は気まずい空気も一瞬でどっかに行っちまった。
二人ん時に何度かこかれた事あるけどよ、ここまでのは初めてだぜ…。

500 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:16:07.43 ID:c5dbWNtMO

“ごめんなさい、私じゃちょっと誤魔化しきれなかったわ…。

“ふふふ…ちょっとやらかしたけど、何とか出来たね。大鳳ちゃん、これで大丈夫よ。”

“お姉様方…!”

「さて、やっと抜けたかぁ…てか、づほ大丈夫?腹壊してねえ?」

「どう言う意味よー。」

「そのまんまだよ。」

えほっ…強烈過ぎんだろ…。
3人の方を見ると、何やらアイコンタクトしてる。
はは…づほもわざとやりゃあがったなこんにゃろう…。

以降は女三人寄れば姦しくってな具合で、皆仲良さげに談笑していた。
まぁ、仲良くなってくれたから一安心か…。


「大鳳ちゃん、あとで私の部屋来ない?翔鶴さんも。」

「はい!瑞鳳さん!是非行かせてください!」

「おいおい、飲み過ぎんなよ?」

「大丈夫!今日はお酒は無し!」

へー、珍しい事もあるもんだ。
まぁ大鳳も演習で来てる側だし、づほもさすがに自重か。

……うん、づほ『は』自重してたよ。


501 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/10/18(木) 06:18:03.30 ID:c5dbWNtMO
今回はこれにて。次回はまたいずれ。
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 06:48:49.56 ID:lijCELmYO
乙!
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 21:40:38.45 ID:LtysOdKmo
一気に読んだ
おつかーレ
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 23:40:14.18 ID:1vj188fpO
緊張しておならするコンプレックス持ってる娘って
そういえば桂正和の作品にいたなあ
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 00:55:36.88 ID:k3fB/vKA0
やっと復活したんかここ。
ずっとpixivでも追っかけてましたよ
506 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/11/07(水) 00:23:31.23 ID:OX4AzTD0O


「ここだよー。さあさあ上がって。」

「お邪魔します。」

二人を部屋に上げて、それとなくお菓子を取りに向かう。
でも忘れちゃいけない、私…いや、『私達』にはある目的があった。

“翔鶴さん、目的はわかってるよね?”

“もちろんよ。まずはシロかクロか探らなくちゃいけないわね。”

大鳳ちゃんから見えない角度で、アイコンタクトを交わす。
何てったって直属の後輩、何も無いとは言い切れない。
これ以上敵を増やしたくないって意図は共通してたから、私達はこの時初めてがっぷり手を組んだ。

さぁ…今から始まるのは尋問タイム。
覚悟しててね、大鳳ちゃん…!


507 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/11/07(水) 00:24:43.29 ID:OX4AzTD0O






第22話・女三人寄れば心姦しく-2-





508 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/11/07(水) 00:26:07.20 ID:OX4AzTD0O

「リョウちゃんも人が悪いなぁ、こんな可愛い後輩がいたなんてね。」

「いえいえ、皆さんお綺麗じゃないですか。」

「ありがとー。」

テンプレ通りな導入から始めて、まずはじわじわと攻めてく事にした。
軍学校の頃は、むしろ女子の評判良くなかったって言ってたわね…さて、実際に交流のあったこの子の目には、どう映ってたかな?

「皆さん先輩とはどんな経緯で?」

「私は最近異動してきたんだけど、リョウちゃんと前の所で一緒だったの。そこで仲良くなったかな。」

「ああ、じゃあ先輩が憲兵なりたての頃ですね!」

「そうそう。あいつひどいのよー、最初私の事、素で駆逐艦だと思っててさ。」

「ふふ、先輩らしいですね。じゃあ翔鶴さんは今年知り合った感じですか?」

「あー、翔鶴さんはね…。」

「私はリョウの元カノよ。高校生の頃の。」

「え!?ちょっと飲みの席で聞いた事あります!あなたが…すごい偶然ですね。」

「ええ、まさか本当に再会できるなんてね。」

「昔酔っ払った先輩が話してくれたんですよ。振った身だけど、なかなか忘れられない女だって…その、今は先輩とは?」

「そうね、今は憲兵と艦娘かしら。でもいつかは…なんて思わなくもないわ。」

「ロマンチックですね…叶うと良いですね!
じゃあ先輩、今でも彼女いないのね…良い人なんですけど。」

「ふふ、大鳳ちゃんはどうなのかしら?」

「私ですか?そう言う意味では先輩には頭上がりませんね…橋渡しをしてもらったので。」

「橋渡し?」

「ええ、もう付き合ってそこそこな人がいるんです。
最初は私の片思いだったんですけど、先輩が力になってくれて…。」

「ふふ、そうなのね…。」

509 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/11/07(水) 00:28:09.05 ID:OX4AzTD0O

この時翔鶴さんがニヤリと笑ったのを、私は横目でしかと見ていた。

上手く踏み込んだわね…確かに今は、翔鶴さんも過去の自分に思う所がある。
でも過去は過去、事実は変わらない。どこまで話してたかで、この子の翔鶴さんへの警戒心も変わっちゃう…土壇場で賭ける胆力、さすがだわ。

大鳳ちゃんは彼氏アリ…つまりシロ!
翔鶴さん…いの一番に最大の目的を狩る、先手必勝の女ね…!

「ねえねえ、その時ってどんな感じだったの?」

「付き合うまでですか?思い切って相談したら、先輩が色々根回ししてくれたんです。
先輩も細かい係決めに関わっていたので、炊事班を彼氏と同じにしてくれたり、訓練でコンビを組ませてくれたり…。
あ、一つ面白い話があるんですよ。」

「なにー?」

「今日告白しますって報告して、頑張れって返信もらったんです。
夜に寮の裏に呼び出したんですけど、いざ告白ってなると、なかなか上手く持っていけなくて…。

それでちらっと藪の中見たら、迷彩ペイントに暗視ゴーグルの先輩と教官がいて…ふっ…だめ、今思い出しても…。」

「ぷっ!ひひ…その絵面ジワジワくるね。」

「先輩、ハンドサインで何度も突破!って出してて。
で、教官は女性だったんですけど…あの、えっちな意味のサインありますよね?あの指で腕上げて、ライフル!ライフル!って…ぶっ!」

「「んふっ……!!」」

「女傑ですよね。先輩、慌てて止まれのサイン教官に出してましたし。
笑い堪えるのに必死でしたけど…それで力抜けて、やっと告白出来たんです。
OKはもらえたんですが、バレて二人とも彼にお仕置きされちゃいましたね。吊るされて。」

510 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/11/07(水) 00:29:16.55 ID:OX4AzTD0O

「ふふ、青春ね。リョウの軍学校の頃はちゃんとは知らないから、楽しい話が聞けたわ。」

「ええ、その…私のおならのせいでボブってアダ名になっちゃったのは申し訳ない所ですけど。
でも本当に良い人ですよ。私以外の人にも親身になってくれて…。」

「おならぐらい誰でも出るよー。私も何度かリョウちゃんの前でやらかした事あるし。
ねえねえ、他にリョウちゃんの話ってある?女の子の話とかさ。」

ふふ、この際根掘り葉掘り聞き出してやろ。
あいつは油断ならないからねー…男前好きには合わないだろうけど、マニアックな需要はあったと思うもん。
翔鶴さんも興味津々な様子。さて、本人のあずかり知らぬ所で何があったかな…?

「他ですか?そうですね…あ、教官にたまにからかわれてましたね。
巨乳な人だったんですけど、酔った教官に乳ビンタだ!って胸でぶっ飛ばされたり、飲み会で潰れてたらお化粧されたり…。
一時期巨乳がトラウマになりかけたって言ってましたよ。質量と胸元のバッジで相当痛かったみたいで…。」

「「……へぇ?」」

あぁん?乳ビンタぁ?
何と羨まし…じゃなかった、こちとらに出来ない芸当を。
待って、巨乳がトラウマになりかけたって…翔鶴さんもそれなりのものをお持ちよね…。



「……ヨケイナコトヲ。」ギリィ



あ、結構キテる。



511 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/11/07(水) 00:33:30.42 ID:OX4AzTD0O

「今思うと、教官は先輩の事気に入ってたんじゃないですかね。卒業してからちょっと寂しそうでしたから。
からかう奴がいなくなったなぁってボヤいてましたね。」

「あはは…そ、そうなんだ…。」

「皆にスキンシップするの大好きだったんでけど…あのチームの男の人、本当に巨乳ダメになった人何人かいましたから。
本人はじゃれてるつもりなんですけど、実際は胸と剛腕で潰されるヘッドロックになってて…でも先輩には、少しだけわざとやってた気もします。
こう、気持ち胸寄りになるようにと言うか…。」

「あはは…。」

何だろう、今なら少しリョウちゃんの気持ちが分かる気がする…。

いや、その…教官さんに対する云々じゃないの。
その件はあいつに突っ込みたい事満載だけど、今はそれどころじゃないって言うか…何か隣が冷蔵庫って言うか…。

やばいよぉ…しょ、翔鶴さんは…。

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