右京「呪怨?」修正版

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:04:22.99 ID:cw/0nUsY0

呪怨


強い恨みを抱いて死んだモノの呪い。


それは、死んだモノが生前に接していた場所に蓄積され、『業』となる。


その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:04:54.80 ID:cw/0nUsY0



プロローグ



2017年12月31日―――

「よ、暇か。…って何してんの?」



「おや、見てわかりませんか。大掃除ですよ。」



今日は年の終わりにあたる大晦日、特命係の部屋では大掃除が行われていた。


叩きで本棚の埃を落とす杉下右京に床下の汚れを雑巾で拭き続ける冠城亘の二人。


右京が落とした埃に塗れながら冠城は文句ばかり愚痴っていた。



「ゲホ、ゴホ、何でこんなに汚れが溜まっているんですか?」



「それは…ここ数年色々とありましたからねぇ…」



本棚の埃を叩きながら物思いに耽る右京。


この特命係の部屋でこうして大掃除を行うのは実に二年ぶりだ。


その理由は冠城の前にこの特命係に在籍していた甲斐享ことカイトが原因となる。


彼が引き起こしたダークナイト事件。


さらに冠城亘の警視庁採用と特命係はこの二年間とにかくドタバタしていた。


そのせいでいくら普段は暇な特命係といえど大晦日の大掃除を行う余裕はなかった。



「だからこうして二年ぶりに大掃除をしているんですよ。」



「なるほどな、こんな埃まみれじゃコーヒーも飲めん。悪いが失礼するよ。」



せっかく仕事の合間を抜け出してコーヒーを飲みに来たのに


これでは敵わないと思ったのか早々に退散する角田課長。


右京も自分が担当する分の掃除を終わらせたのかいつものように紅茶を嗜んでいる。


特命係の部屋は右京と冠城のデスクの中間で隔たりがある。


二人は大掃除をする際に共有スペース以外は自分たちで分担して掃除を行っていた。


だから早々に終わらせた右京が冠城に構わず紅茶を飲んでも咎められることもない。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:06:08.05 ID:cw/0nUsY0


「分担して掃除しようと言ったのはキミですから手伝いませんよ。」



「ハイハイ、わかりましたよ。ところで右京さんこの三が日は何か予定ありますか?」



「一応ありますよ。

昔の知り合いが集まって花の里で新年会を開く予定です。

よかったらキミも来ませんか?」



「いや、俺はいいです。女性と二人きりならともかくその手の集まりは遠慮します。」



花の里で美人女将の幸子と二人きりの新年会なら実に魅力的な誘いだ。


だがそこに右京の古い知り合いも交じるのなら話は別だ。


そんな知り合いだらけの集まりに初対面の自分が参加したら気まずくなることは確実だ。


その場で右京の昔馴染みが和気藹々と話し合っている中で


自分一人だけ白ワインをちびちびと飲み続けるなど余りにも惨めでならない。


そんな仲間外れみたいな思いをするのは御免だ。


仕方がないから今年は一人寂しく新年を迎えようと思い


最後に自分のデスク下を掃除しようとそのデスクを退けようとした時だ。


5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:06:45.91 ID:cw/0nUsY0


「何だ…これ…?」



そこには埃に塗れながらあるモノが落ちていた。


それは二つのモノ。ひとつはB3ほどの大きさの画用紙。


それも子供が描いた絵が載せられている。


絵には三人の人物が描かれていた。中央に小さな男の子。左右には男と女。


それにペットなのだろうか黒い猫。恐らくこれは家族を描いたものだ。


絵の印象からして恐らくは小学校低学年が描いたものとみて間違いない。


だがその絵の中で冠城は奇妙に思えたものがあった。



「この髪の長い女は…何だ…?」



思わず口に出してしまったがどうしても気になった。


絵の印象のせいだろうかその母親が妙に不気味に見えてしまった。


気になった冠城は裏面を覗いてみた。


もしもこれを子供が描いたのなら裏に名前を書いているはず。


そう思って裏面を覗くと確かに名前が書かれていた。そこにはこんな名前が記されていた。



[佐伯俊雄]



この絵を描いたであろう少年の名前。


冠城は何故かこの名前がどうしても気になってしまった。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:07:23.31 ID:cw/0nUsY0

「それで僕に何の用事ですか?今日くらいは早く帰って紅白でも見たいんですけどね。」



ここは警視庁生活安全部サイバーセキュリティ本部。


その室内で冠城は警察学校の同期生であり


さらにかつての事件で


自分が法務省のキャリアを失うきっかけとなった青木年男を尋ねていた。


事ある毎に頼ってきて、また何か厄介な頼み事だろうと頼ってくる冠城を邪険に扱う青木。


元々青木は特命係の右京と冠城に復讐するため警視庁に採用された。


さらに今日は大晦日。


このサイバーセキュリティ本部は警視庁の部署でも一、ニを争うほどの激務を担っている。


普段は暇な窓際部署の特命係とはちがい激務を熟す青木はようやくまともな休日を取れた。


それなのに仕事納めの直前に冠城の妙な頼みなど聞きたくもないのが本音だ。



「だからちょっと協力してほしいんだよ。

昔特命係が解決した事件で佐伯俊雄って子供が関わった事件を調べてほしいだけなんだ。

なあ、頼む!この通り!」



「昔特命係が関わった事件?
それなら当事者の杉下警部にでも聞けばいいじゃないですか。

どうして僕に頼る必要があるんですか。」



まさに青木の言う通りだ。


以前、特命係が解決した事件なら青木に頼むよりも当事者の右京にでも聞けばいい。


だがそんなことは青木に言われなくても出来ない理由があるからだ。


実はここへ来るまでの間、冠城は佐伯俊雄について右京や伊丹たちにそれとなく尋ねた。


しかし返事はろくなものではなかった。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:08:16.04 ID:cw/0nUsY0

『佐伯俊雄?知りませんねぇ。』



右京はそんな名前の少年には会ったことがないという。


あの右京が事件関係者の名前を忘れるはずがない。


つまり右京には本当に覚えがないということだ。


さらに特命係が過去の事件に関わったとするなら


捜査一課の伊丹たちもこの佐伯俊雄に関わりがあるかもしれない。


そう踏んだ冠城は伊丹と芹沢にも尋ねたのだが…



『佐伯俊雄?いや、そんな名前は知らないよ。』



『けど…何だ…その名前を聞くと妙に背筋がゾッとするな…』



伊丹と芹沢もそんな名前を聞いたことがないという。


それでも佐伯俊雄の名前を聞いてなにやら妙に顔色を悪くしたのだけは印象に残った。



「それで諦めきれなくて僕のところに泣きついたわけですね。」



「まあ大まかに説明するとそういうことだ。

いくら彼らの記憶になくても特命係の部屋に長年埃まみれになっていたモノだ。

これは俺の勘だがこの絵は間違いなく何かの事件の証拠品だったはずだ。」



普段の冠城は決して勘などというあやふやなモノを信じたりはしない。


自分の経験とそれに推測に基づいて考えを巡らせる。


そんな冠城が珍しく自身の直感を頼った。


自分でも何故ここまで自信を持って言えるのかはわからないが恐らくこれは理屈ではない。


それにあの特命係に置かれていた品だ。不用意に置かれていたとは思えない。


これには必ず何か意味が有るはずだと冠城の直感がそう告げていた。


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 22:08:24.62 ID:Xuji6wSX0
久しぶりだ、旧作と比べてどう変わった読ませて貰いますね
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:12:36.23 ID:cw/0nUsY0


「まあ冠城さんが何を信じようが勝手ですがね…

悪いですけど僕はもう退勤させてもらいますよ。

事件ならともかく私用で僕のプライベートを邪魔しないでください。」



そんな冠城の頼みなど聞く耳持たず、青木は鞄を持って帰り支度を始めた。


青木にしてみれば貴重な時間を潰してまで冠城の頼みを聞く理由などない。


ちなみにだがこのサイバーセキュリティ本部でも部署を上げての忘年会がある。


今日がその日なのだが青木も一応誘われてはいたが


本人の警察嫌いなのとおまけに馴れ合いは結構との理由で突っぱねられた。


誘った同期も付き合い程度なので断られてもどうでもよかった。


そんなわけで青木がこうして一人さっさと帰るのも仕方なかった。


「青木巡査部長!どうかお願いします!」


そんな青木に向かって冠城はキレイなまでにペコリと頭を下げた。

ちなみに警察学校では同期だが階級では一応青木の方が一階級上に値する。

まあ普段は生意気なこの男に頭を下げられるのは悪くはない。

それにもしかしたら過去の事件を暴いて杉下右京の粗を探れるいい機会かもしれない。

そう考えた青木は渋々ながらも冠城の願いを聞き入れた。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:13:10.09 ID:cw/0nUsY0

「けど名前だけじゃ調べようがありませんよ。他に何か手掛かりはないんですか?」



「まあ…あるにはあるが…」



実は先ほどの掃除で発見したのは絵が描かれた画用紙以外にもうひとつあった。


それは古びたノート。


こっちはかなり年季の入ったモノで恐らく10年以上は使い古されたものだ。


だがこのノートは調べようにもどういうわけだが中が張り付いて読むことが出来ない。


無理やり剥がせば間違いなく破れてしまい中が読めなくなる。


それでもひとつだけ読める部分があった。


それはノートの最初のページに記されている住所。そこにはこう記されていた。



「東京都練馬区寿町4-8-5。この住所を調べてくれ。必ず何かの事件が起きていたはずだ。」



それから青木は冠城の指示に従い住所とそれに佐伯俊雄の名前を検索してみた。


すると青木が操るPCのモニターにその検索されたワードがヒットされたようだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:14:21.71 ID:cw/0nUsY0

「一応出てはいますけど…変だな…これファイルが二つもあるぞ…?」



「それってどういうことだ?」



「冠城さんの予想通り過去にこの住所で事件が起きています。

けど同じ日付で事件のファイルが二つも存在しているんですよ。

こんなことは普通ならありえない。」



青木からの返答に冠城もまた妙な違和感を抱いた。


つまりこういうことだ。通常事件が起きればその詳細は警察のデータベースに保存される。


だが冠城たちが調べた住所で起きた事件は


どういうわけか同じ日付でこの件に関するファイルが二つ保存されている。


何故こんなことになっているのか?確かに青木の言うように気になることではあった。



「それでこのファイルの作成者は誰だ?」



「待ってください。ひとつは捜査一課ですね。

あれ?でもこれ…角田課長のとこの組対5課も関わってるな。

それで…もうひとつは…特命係…?」



もうひとつのファイルを作成したのは特命係と聞いて冠城はそのファイルに注目した。


やはり冠城の推測通りこの絵とノートはなんらかの事件における証拠品だ。


それが何故か特命係に忘れ去られたかのように放置されていた。


真実を必ず見出す杉下右京がそんなミスを犯すか?答えはNOだ。


それに右京にもこの絵とノートを見せたがまるっきりノーリアクションだった。


つまり右京自身も知らない事実が事件の中に隠されていると冠城は確信した。

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:15:10.72 ID:cw/0nUsY0

「これは少し僕も気になってきましたね。こうなったらとことん付き合ってあげますよ。」



「それならこの特命係が作成したファイルを出してくれ。

きっとこのファイルにこの絵とノートに関わる事件があるはずだ。」



特命係が作成したファイルを調べるように指示する冠城。


青木もこの件で特命係の粗を探り当てたらと愉快な気分でこの事件を調べだした。


これでかつて杉下右京が関わった事件に触れることが出来る。


そんな期待に不謹慎にも期待を寄せる冠城だが…


それでも少し気になることがあった。


それはこの絵とノートを調べようとした時に右京から告げられた忠告だ。



『もう終わった事件を嗅ぎ回るのはやめなさい。触らぬ神に祟りなしですよ。』



杉下右京がそんな忠告を自分に告げた。率直に言って彼らしくない言動だ。


あの発言はまるでこの事件に触れてほしくないようなそんな気がする。


それでも今はどうでもいい。


早くこの絵とノートの謎を解き明かそうという好奇心が躍起になっていた。


だが…それは過ちだった…


杉下右京は常に正しい。彼の言葉を信じるべきだった。


この呪われた事件を紐解くことがどれほど危険であるのか冠城は理解していなかった。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:16:37.32 ID:cw/0nUsY0
とりあえずここまで
このssは当時の内容を四代目相棒の冠城さんとついでに青木くんの視点で描いています
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:17:25.55 ID:cw/0nUsY0


<<第1話 剛雄>>



2008年10月―――



東京都練馬区某所にあるアパートで惨殺死体が発見された。


死体を発見したのは隣室の住人。


それから通報を受けて駆けつけた警視庁の捜査一課により直ちに現場検証が行われた。


米沢たち鑑識が現場検証を行っている中、


捜査一課の伊丹たちもこの光景に思わず吐き気を催すほどだ。



「ウゲェ…酷い状態ですね…思わず吐きたくなりますよ…」



「こんなところで吐くんじゃないぞ。

刑事のゲロで現場荒らされたなんて笑い話にもならないんだからな!」



「たくっ!何年刑事やってんだ!新米じゃねえだろ!」



「だが確かにこいつは酷過ぎるな…なんだってんだ…」



「米沢さん…こんな現場でも黙々と仕事してるんですね…」



「まあプロですから。駅のホームで引かれた死体の方がもっと酷いですからな…」



ベテランの刑事でさえ目を覆いたくなる惨殺死体。現場はこの室内に位置する台所。


そこは被害者の体内から大量に飛び出た血に塗れており


それほどまでにこの殺害現場は凄惨な光景に包まれていた。

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:17:58.39 ID:cw/0nUsY0

「まあ…俺もこんな惨殺死体の殺人現場は仕事でなけりゃ絶対に来たくはないがな。」



「同感ですな。

ですがその惨殺死体の殺人現場に好き好んで来る方もいらっしゃるようですよ。」




こんな現場に好んで足を運ぶ人間がいる?
そんな米沢の言葉を聞いて伊丹がうしろを振り向いてみると…



「失礼しますよ。ここが殺害現場ですね。」



「うへぇ、酷えことになってんな。」



「呼んでもいないのにまた来たか…」


「コラー!亀山係の特命!!
いつもいつも勝手に来るんじゃねえ!お呼びじゃねえんだよ!?」



「誰が亀山係だ!ちゃんとなぁ…特命係の亀山さまと呼べ!」



「何気にさま付してんじゃねえよ!?」



「先輩もう特命係である事に違和感なくなっちゃいましたね。」



やはり呼んでもないのにやってくる警視庁の暇人たち。


それはご存知、特命係の杉下右京に亀山薫の二人だ。


亀山は出会い頭に犬猿の仲である伊丹と張り合い


右京はそんな二人の諍いなど気にもせず現場を見回していた。


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:18:30.14 ID:cw/0nUsY0

「確かお宅ら先日瀬戸内米蔵先生を検挙して

今日はその裏付けの調書を取ってたんじゃないんですか?」



「ええ、その調書の作業も終わって戻る最中にこちらで事件だと聞いたもので伺いました。」



「大至急こっちに来てやったんだよ。感謝しろよこの野郎!」



「うっせえ!早く帰れ!」



どうやら用事を済ませたついでにこの現場へ立ち寄った特命係の二人。


ちなみにその用事とは


先日、衆議院議員の瀬戸内米蔵のパーティーが行われたホテルで起きた殺人事件だ。


その被害者は亀山の同級生である兼高公一。


彼はNGOとしてサルウィンで井戸を掘るボランティア活動を行っていた。


兼高を殺害した犯人はその日ホテル滞在していた大企業の部長小笠原雅之。


だがこの事件には黒幕がいた。


それが元法務大臣にして右京たちにも顔馴染みである瀬戸内米蔵だった。


彼はサルウィン政府が腐敗している現状を嘆いており


そのために不正な手段を用いて人の命を救おうとした。


だがその行いは最悪な結果を招いた。


亀山の旧友でありサルウィンのために尽くそうとした兼高は死に


瀬戸内のために尽力を尽くした小笠原もまた殺人罪により逮捕された。


さらに瀬戸内自身も特命係の手により物資横領の罪で逮捕に至った。


誰もが人の命を救おうと行動に出た行いが招いた悲劇だ。

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:18:57.50 ID:cw/0nUsY0

「それで被害者の身元は?」



「殺されたのはこの家に住む『小林真奈美』さんですね。発見したのは近所の隣人です。

妙な音がしたのでこちらに来たら玄関から血だまりが溢れてたので通報したとの事です。

殺害方法は刃物による刺殺です。ちなみに妊娠中だったそうですよ…だからお腹の子も…」



「まったく胸糞悪い話だぜ!
妊婦殺しただけじゃ飽き足らずお腹にいる赤ん坊まで殺しやがって…」



「お腹の中にいる赤ん坊まで?それは一体どういう意味ですか。」



右京の疑問に米沢が見た方が早いと察したのか被害者の遺体を右京と亀山に見せた。


その遺体は腹を捌かれていた。恐らく犯人は被害者の腹を切り開き何かを取り出した。


犯人は被害者を殺害して遺体から何を取り出しのか?
この答えは遺体の付近に置かれてある真っ赤な血に染まった小さな袋の中にあった。

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:19:42.12 ID:cw/0nUsY0

「うげ…何だこりゃ…」



「オイ!吐くんじゃねえぞ!こんなところで吐いたら現場からしょっ引くぞ!」



「わかってらぁ!けどこいつは…」



その袋の中身を見て思わず亀山は吐き気を催した。


そんな亀山のあとに右京もその袋の中身を見た。


するとそこにあったのは赤く塗れた小さな死骸。


全身が羊水と血でまみれで


さらに糸にも思える赤い紐が引き千切られた痕跡があるまるで人間の臓器らしきモノ。


この袋に入っている得体の知れないモノを見て右京はこれが何なのかすぐに察しがついた。


19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:20:35.55 ID:cw/0nUsY0

「これは…胎児ですね…

それもまだへその緒も付いているとは出産時期には早い状態です…」



「杉下警部のお察しの通り犯人は

被害者のお腹の中にいる赤ん坊を刃物で無理矢理切り開き取り出したのでしょうな…」



右京の答えに補足するように付け足す米沢。


正直に言って二人ともこれが事件でもなければまともに触れたくもないはずだ。


それほどまでにこの現場は凄惨すぎた。



「なんて酷い事を…犯人絶対に許せねえ!」



「お前に言われなくたってなぁ!俺たちが絶対に犯人捕まえてやらぁ!」



この凄惨な殺人を犯した犯人を必ず捕まえてみせる。そういきり立つ亀山と伊丹。


当然だ。これは人の行いを超えているまさに鬼畜な所業だ。


こんな犯人を野放しにすれば必ず第二、第三の犯行が起きる。


それだけは必ず阻止しなければならない。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:21:01.10 ID:cw/0nUsY0

「ところで被害者は妊娠していたというのならこの家には旦那さんがいるはずですね。」



「ご主人は小林俊介、小学校の教師です。

さっきから携帯に連絡してるんですが音沙汰無しなんですよ。

まったく女房と子供が惨殺されたってのにどこで何やってんだか…」



先ほどから三浦が連絡をしているのにどうしても連絡が繋がらない。


女房とお腹の子がこのような目に遭ったというのに旦那は何をしているのか?
何故連絡が繋がらないのか。その疑問に伊丹たちはこんな結論を出した。



「もしかしたら旦那が犯人かもしれねえ。よし、旦那を探すぞ!」



伊丹たち捜査一課は被害者の夫である小林俊介を第一容疑者として捜査を開始。


すぐに夫の身柄を確保へと移った。


伊丹たち捜査一課が犯人を旦那であると決めつけていたが、


そんな伊丹たちは無視して右京と亀山は独自に現場検証を行っていた。


21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:21:56.69 ID:cw/0nUsY0


「おや、受話器が外れていますね。」



「恐らく犯人と揉み合ってる最中に外れたのでは…」



「とりあえず通話記録を割り出してもらえますか。」



「細かい事がなんとやらですな。わかりました。」



部屋の固定電話が外れていることを指摘してそれを調べるように米沢に指示を出す右京。


そんな中、亀山は犯人に対して今だに怒りを募らせていた。



「しかし被害者の女性を殺しただけじゃ飽き足らず、

お腹の子供までこんな惨たらしい目に合わすなんて…これは怨恨の線が濃いですね!」



「確かに僕も動機は怨恨だと思います。

しかし問題は何故ここまで惨たらしく殺したかですが…」



「やはり伊丹たちが言うように旦那が殺したんですかね?」



「もしそうならわざわざ自宅に死体を残すと思いますか?

こんな家の中で殺せば一発で自分が犯人だと疑われてしまいますよ。」



右京の指摘するように自宅で犯行に至れば容疑者が自分であると特定される危険がある。


そのリスクを犯してまで犯行に及ぶとはどうしても考えにくい。


どうやら犯行を裏付けるにはまだ判断材料が足りない。


そう思った右京は小林の職場である小学校を訪ねようとした。


ちなみに小林の職場である小学校はこのアパートから歩いて数分の近場にある。


そんなわけで小林の職場へと向かうことにした。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:22:23.84 ID:cw/0nUsY0


「さっきも刑事さんたちにお話ししましたけど…あの強面の刑事さんに。」



「すいませんねぇ。ヤツらとは部署が違うんで…」



「申し訳ありませんがもう一度お話を聞かせてもらえますか。」



さっそく小林の職場を訪ねた右京たちは


彼の上司でもありこの学校の校長に彼の勤務態度などについて伺っていた。


ちなみにだが右京たちと入れ替わりで既に伊丹たちも聞き込みに来ていたようだ。


これは毎度のことだが警察でも捜査部署が異なれば聞き込みも何回も繰り返しになる。


さらに言えば特命係には捜査権は存在しない。


そのためこうしたニアミスが起こるのは毎度のことだ。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:23:01.40 ID:cw/0nUsY0

「小林先生の勤務態度に問題なんてなかったですよ。

まあ問題があったといえば彼が受け持つクラスの児童の方なんですけど…」



「児童の方とはどういうことでしょうか。」



「これはさっきの刑事さんたちには関係ないと思って話さなかった事なんですけど、

実は小林先生が受け持つクラスには一人だけ不登校児がいましてね。

名前が『佐伯俊雄』という子なんですが…」



「佐伯俊雄くんですか。何故その少年は不登校を?」



「クラス内ではイジメの問題はなかったそうです。

何か問題があったとするなら恐らく…家庭の問題でしょうな。」



「家庭の問題?」



「こんな事大きな声では言えませんがね…

俊雄くん…虐待に合ってる可能性があるんですよ…」



小林の受け持つクラスの児童、佐伯俊雄。


その少年が家庭で虐待を受けている可能性がある。


それがこの校長が知る限りで小林の身辺に起きている問題と思われることだった。


児童虐待。確かにクラスの担任にしてみれば問題ではあるはずだ。

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:23:29.87 ID:cw/0nUsY0

「そんな…大変じゃないですか!児童相談所には連絡したんですか!?」



「あんなところ…

確たる証拠がなきゃろくに動いちゃくれませんよ。

それで先日小林先生が自宅訪問に行ったらしいんですが…」



「それでどうなりましたか?」



「実はそれ以後音沙汰が無いんですよ。まさか佐伯さんと何かトラブルがあったんじゃ…」



それが校長の知るすべてだった。教師である小林に問題点はなかった。


問題があったとするなら彼が受け持つクラスの児童である不登校児の佐伯俊雄。


佐伯俊雄、一見事件とは何の繋がりもなさそうな少年だが


右京はどうしてもその少年のことが気になった。



「これから佐伯さんのお宅を訪ねたいと思います。出来れば住所を教えてもらえませんか。」



「わかりました。あ、そうだ!もしよかったら持って行ってほしいものがあるんですが…」



それから校長はこれから佐伯家に向かおうとする右京たちにあるものを託した。


それは画用紙だ。そこには家族の絵が描かれていた。


恐らく授業で家族をテーマにした絵を描くように言われたのだろう。


だがその絵の印象は…何故か髪の長い母親だけ妙に異様な風に描かれていた…
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:24:10.25 ID:cw/0nUsY0

「佐伯さ〜んいますか!警察ですよ!」



それから学校を出た右京たちはその足で佐伯家を訪ねていた。


東京都練馬区寿町4-8-5。


周りはいくつもの新築物件が立ち並ぶ住宅地が密集している中で


築20年は経過している中古の一軒家がポツンと並んでいた。それが佐伯家だ。



「佐伯さん、いるなら返事してくださ〜い!」



留守なのかそれとも居留守を使っているのか


亀山は力強く玄関をノックしているが応答はない。


住人が出てこなければ聞き込みもできない。これではお手上げだ。


だがそんな亀山を尻目に右京は家のポストを覗いていた。



「右京さん何してんですか!人の家なんすよ!」



「ですが新聞が何日か溜まっていたのが少し気になっていたので…」



確かに右京が指摘するようにこの家のポストにはニ、三日分の新聞が溜まっていた。


この家に住人がいれば当然ポストから新聞を取り出すはずだ。


それを怠っているということはこの家の住人は不在ということになる。


そうなると住人はどこへ行ったのか?
この家の住人の安否を気遣う亀山だが


そんな時、右京はポストの中を開けて何が入っているのか確認していた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:24:58.77 ID:cw/0nUsY0

「いいんですか?住人に知られたら怒られちゃいますよ?」



「細かいことが気になるのが僕の悪い癖ですよ。

それよりも見てください。新聞紙の下に何か置いてありますよ。」



溜まっていた新聞紙の下に置かれていたモノ。


それは一冊のノートだ。外見は特にこれといって普通のノートと変わりはない。


唯一点、そのノートの裏には名前が表記されていた。


『川又伽椰子』


恐らくこのノートの持ち主である女性の名だ。


しかし亀山は疑問に思った。川又とはどういうことだろうか?
この家の住人の苗字は佐伯。それなのにノートの持ち主の苗字は川又。


さらに何故住人の苗字と異なる人物のノートがこんなところに置いてあるのか?
この二つの問題に思わず疑問を抱いた。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:25:27.19 ID:cw/0nUsY0


「おや、この文章は…」



「何が書かれていたんですか?」



「おやおや、キミも気になりますか?」



「やっぱりこういうのはどうしても気になっちゃうじゃないですか。それでなんて…」



取り出したノートの中を右京と一緒に確認する亀山。


いくら咎めても右京はそれを聞き入れてはくれないだろうし


それに亀山自身もノートの中について妙に気になっていた。


そんなわけでノートを読んでみたがそこには驚くべき記述が載っていた。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:27:42.64 ID:cw/0nUsY0


小林俊介 生年月日 昭和49年 2月3日


血液型O型
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:28:12.78 ID:cw/0nUsY0

平成10月3日


今日、小林くんと目があった♡小林くんはまたいつもの本屋に来た。


私は声も掛けることもなく彼の様子を伺った。


彼の本を読む姿は実に凛々しいものだ。

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:28:39.44 ID:cw/0nUsY0

平成10月5日


喫茶店に入る小林くんを見かけた。彼はコーラを飲み干していた。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:29:07.39 ID:cw/0nUsY0


平成7年10月7日


また小林くんが本屋に来ていた。


彼は漫画コーナーで立ち読みしている。棚からチラっと見たら彼と目があった。


小林くんは私に気付かなかったけど私は小林くんのことが好き。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:29:38.66 ID:cw/0nUsY0


平成7年11月8日



小林くんがタバコを吸っていた。タバコの銘柄はマイルドセブン。


どうやら小林くんのお気に入りらしい。


小林くんは箱の方が好きだ。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:30:04.22 ID:cw/0nUsY0

平成8年1月11日



小林くんが道端で吐いた。お酒を飲んだせいた。


付き合いの飲み会で誘われたのが原因だ。


小林くんはお酒が弱いのに無理をするなんて…

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:30:33.11 ID:cw/0nUsY0

平成9年1月13日



小林くんに馴れ馴れしい女が現れた。名前は真奈美。


いいえ、あの女の名前なんかどうでもいい。何だあの女は…?
きっと私と小林くんの仲を引き裂こうとしているんだ。


私はあんな女とはちがう。小林くんのすべてを知っている。


そもそも小林くんは私の王子さまであんな女なんて知らない。


それで小林くんは私のことを好いていて…

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:31:08.31 ID:cw/0nUsY0

平成10年5月5日



今日、親がお見合いの相手を連れてきた。


名前は佐伯剛雄。私の恋する小林くんとは似ても似つかぬ男だ。


親の勧めということもあり無碍に断ることも出来ず付き合うことになった。


けど最悪だ。相手の男が私に一目惚れしてきた。


私はあなたのことなど好いてなどいないのに…
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:31:43.10 ID:cw/0nUsY0

平成10年9月10日



どうしてこんなことになったんだろ…


私はあの男と結婚することになった。


あの男の実家はお金持ちらしい。だからお金を出して私の両親を説得させたようだ。


なんて強欲な人なんだろうか。こんな結婚なんて惨すぎるわ。


夢にまで見た小林くんとの結婚。それがこんな形で打ち砕かれるなんて…


こうして私の初恋は成就することもなく終わりを告げた。


37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:33:37.77 ID:cw/0nUsY0


平成11年4月4日



夫との間に子供が生まれた。


私が産んだ子供をとても愛らしく思っている。


それにしてもよく子供を産めたものだ。


夫は知らないけど病院で検査を受けた時は望み薄だと思っていたのに…


名前は私が付けてもいいということなので『俊雄』と名付けた。


あの男は自分の名前が子供に与えられてこちらが引くほど喜んでいた。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:34:47.62 ID:cw/0nUsY0

平成20年4月7日



今日は嬉しいことがあった。息子の俊雄が小学3年生に進級した。


なんとその担任はあの小林くんだ。


彼とは大学時代で別れたのにまたこうして再会出来るなんて…


やはり運命は私たちを見捨てなかった。


ああ、小林くん。私たちはやはり結ばれる運命だったのね。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:35:15.44 ID:cw/0nUsY0


『小林くんが好き!』『小林くんが好き!』『小林くんが好き!』『小林くんが好き!』


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40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:35:44.94 ID:cw/0nUsY0



「うわぁっ!?」



亀山は驚きのあまり読んでいた日記を投げ出してしまった。


それは読んでいて鳥肌が立つほど奇怪な文章が綴られていた。


この川又伽耶子なる人物の日記は


この家に住む佐伯俊雄の担任、小林俊雄に片想いの恋を抱いている内容だ。


日記を読む限りでは両人が相思相愛だという印象はまったくない。


恐らく川又伽耶子は小林に対してストーカー行為を行っていたのではないかと疑うほどだ。


こうして日記を読み終えた直後のことだ。


41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:36:14.44 ID:cw/0nUsY0

「おいアンタら、ウチの前で何をしている!」



「へ?ウチ?」



「そうだ、ここは俺のウチだ!お前ら何をしているんだ!?」



そこに一人の男が現れた。不精髭を生やした中年の男性。


その強面の人相からしてかなり不機嫌そうな雰囲気を佇んでいる。


さらにこの男の癖なのだろうか初対面の右京たちの前で親指の爪を噛んでいた。


赤の他人の前で爪を噛むなど衛生面においてかなり不躾な行動だ。


それを人前で平然と行う仕草から右京たちのことをかなり不快に思っているのが伺える。


さらに着ている服がかなりの軽装からしてこの男が家の家主だと伺えた。



「この家のご主人、佐伯剛雄さんですね。失礼しました。我々は警察の者です。」



「警察だと?」



「ハイ、警視庁特命係の杉下です。」



「同じく亀山です。」



「警察が何しに来た?」



右京は家主であるこの男に


俊雄のクラスの担任である小林俊介が行方不明で


何か心当たりがないかと尋ねたがその返事はというと…
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:37:12.48 ID:cw/0nUsY0

「フンッ!人さまの女房に手を出したヤツの事なんぞ知らん!」



「手を出したってどういう事ですか?」



「アンタらもその日記を見たんだろ。ならわかるだろ!」



家主の佐伯剛雄は右京たちが持っている日記を指してそう吐き捨てた。


察するにこの日記の主である川又伽耶子はこの剛雄の妻。


さらに言えば伽耶子はこの家に住む佐伯俊雄の母でもあると推測できた。


そしてその不機嫌な理由も察しがつく。


自分の妻がこのような日記をつけていればそれも納得だ。


だがこんなことで引き下がる特命係ではない。



「ところでひとつお願いがあるのですが俊雄くんと会わせてもらえますか。」



そんな剛雄の凄みなど一切気にせず俊雄を出してほしいと頼む右京。


だが剛雄は息子の俊雄は病気で寝込んでいるの一点張り。


こう言われたらさすがにどうにもならない。


俊雄が姿を現してくれたら


身体にあるかもしれない傷跡を確認して俊雄を保護することも出来たかもしれない。


だが肝心の俊雄が姿を見せないことには話にならない。


そもそも虐待というのはかなりデリケートな問題だ。


本人が躾と言い張ればそれまで、さらに言えば特命係には捜査権がない。


そのため強硬手段も取れないので今の段階ではどうにもならない状況だ。



「一目だけでも構いません。俊雄くんと会えませんか。」



「知るか!ヤツの嫁とガキが殺されようと俺の知ったことか!?」



そう吐き捨てるように怒鳴ると


剛雄は玄関のドアを乱暴に閉めてそのまま家に閉じこもった。


すぐに亀山が玄関をノックしたが応答は無し。こうなればもうお手上げだ。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:37:58.73 ID:cw/0nUsY0


「どの道我々は令状を得ているわけではありません。今日のところは帰りましょう。」



「けどあの親父絶対子供を虐待してますよ。このままにしておいていいんですか!」



「だからですよ。

このまま僕たちが彼にストレスを与え続けていればその矛先は誰に向かうと思いますか?」



結局、問題の佐伯俊雄に会うこともできず引き下がる特命係。


納得できないと態度を見せながらも


目の前で子供が虐待を受けてる可能性があるのに何もできないもどかしさに駆られる亀山。


そんな時だった。



「女性…?」



ふと佐伯家の窓に一人の女性が佇んでいた。


白いワンピースを身に纏い長い黒髪をなびかせた幸薄そうな美女。


だが亀山はこの美女にどこか不気味な雰囲気を感じた。


ひょっとして彼女があの日記の主である伽耶子なのでは…?
そう思いつつも右京に促されてこの日は大人しく引き下がるしかなかった。


そんな伽耶子は特命係の二人が立ち去るのを静かに見送っていた。

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:38:32.52 ID:cw/0nUsY0


夕刻時―――
ここは右京の前妻、宮部たまきが経営する小料理屋「花の里」



「じゃあ何かね?
虐待の可能性がありながらノコノコ帰ってきちゃったわけ?情けないわねぇ…」



「俺だってさぁ…踏み込みたいよ…けど無理なんだよしょうがねえだろ…」



「ええ、令状がありませんから今の段階ではどうしようもありません。」



いつものように花の里で夕飯を食べている右京と亀山。


それと亀山の妻の美和子が先ほどの佐伯家での出来事について語っていた。


目の前で子供が虐待されているかもしれないのに


オメオメと引き下がるしかなかった夫の不甲斐なさを情けないと不満を募らせる美和子。


実は今回の事件、警察が周辺住民への配慮のため


マスコミには情報が完全にシャットアウトされていた。


そのためマスコミは今回の事件を探ることが適わず


記者の美和子自身も納得がいかない様子だ。


だがそれは捜査に携わる亀山とそれに右京も同様だった。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:39:09.57 ID:cw/0nUsY0

「ところで話は戻しますけど小林俊介は何処へ行っちゃったんですかね?」



「そうですね。

妻と子供が殺されたという事は彼の身にも何か異変があったとみて間違いないと思います。

もしかしたら彼も既に…」



右京はそれ以上のことを言わなかったが既に小林俊介が死んでいる可能性は否定できない。


捜査本部は小林俊介を第一容疑者として方針を固めている。


だが特命係の二人は彼の犯行だとはどうしても思えなかった。


そんな中、事件の内容について聞き耳を立てていた女将のたまきがあることを呟いた。



「それにしても…

お腹の中の子供まで恨むだなんて…まるで嫉妬のような感じがしますね。」



「嫉妬…ですか?」



「ほら、推理小説とかでもあるじゃないですか。

無理矢理別れさせられた女性が嫉妬に悩んで相手の子供を殺しちゃうとか。

そういう時は憎んでいる相手本人じゃなくて

本人の親しい人を殺した方が余計苦しむんじゃないかって話ですよ。」



「……なぁ…たまきさんってたまに凄く恐い事をさらっと言うよな…」



「そうだよ。だから絶対たまきさんを怒らせちゃダメなんだからね!」



「なるほど、本人ではなくその親しい相手ですか…」



たまきの助言を聞いて何か思うところがある右京。


こうして一夜は開けた。

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:39:45.32 ID:cw/0nUsY0

翌日―――


「おはようございま〜す。遅れてすいません!」



「遅刻とは関心しませんね。どうしたのですか?」



「あ、実は…来週サルウィンに行って兼高の件について報告しようと思うんすよ…」



「なるほど、それでパスポートを申請しに行ったわけですね。」



「あれ?右京さんが読んでるノートってもしかして…」



「ええ、昨日佐伯家で見つけた日記を持ってきたのですが。」



「あのノート持ってきちゃったんですか!警察官がそんな事しちゃダメでしょ!」



「それはともかくこの日記を読んでみてとても興味深い事がわかりました。」



右京が日記を読み漁り知り得たのは小林俊介と佐伯伽耶子の関係についてだ。


実はこの二人、元々は大学の同級生とのこと。


だが日記を読む限りではどう考えても小林の方に面識があるのかは怪しいところだ。


さらにもうひとつ、


日記の内容を知るためにある場所に問合せをしてその回答を待っているところだ。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:42:00.04 ID:cw/0nUsY0

「佐伯伽耶子が小林俊介をストーキングしていたことはこの日記を読む限り明らかです。

それがこの事件にどう繋がるのか?
そこを読み解かない限り答えにたどり着けない気がします。」



「いや、俺としては伽耶子が犯人だと思いますね。

昨日たまきさんが言ってたじゃないですか。本人よりも身近な人間をなんたらって…

つまり伽耶子は望まない結婚をした。それなのに片思いの相手は幸せに暮らしている。

伽耶子にはそれがなによりも許せなかった。だから犯行に及んだ。どうっすか?」



亀山の推理は伽耶子犯人説だ。


確かに伽耶子には小林に対してストーカー行為を働いていた。

そんな伽耶子にしてみれば今の小林は殺意の対象になる可能性がある。

右京自身も今の推理に一理なくはないが…



「50点というところでしょうか。

キミにしては珍しくいいところまで突き詰めていると思いますよ。」



「え〜?何が悪かったんすか?」



「犯行現場をよく思い出してください。

妊婦を殺害してお腹にいた胎児を取り出し惨殺した。

これだけの力技を女性一人で行ったとは僕には信じがたいですね。」



右京の言うようにあの犯行はかなりの力技が要求される。

どう考えても女性の細腕で成立させるのはかなり難しいところだ。


さらに指摘するなら日記を読む限りだと伽椰子が小林を恨んでいる節は見受けられない。


むしろ伽椰子は小林との再会を喜んでいるという描写が見られた。



「右京さんの言う通り男の犯行ならやっぱり犯人は小林なんすかね?
後輩の芹沢を脅して聞いてみたんですけど被害者には他に男関係はなかったみたいだし…」



「さあ、まだなんとも言えません。

しかし僕の考えだと事態は一刻を争うことになります。

ですが問題は僕たちに捜査権限がないことですね…」



いつものことだが特命係は警察部署であるにも関わらず捜査権限はない。

つまり犯人がわかったとしても令状を取ることなど不可能。

しかしこのままでは最悪の事態が起こりかねない。

こうして部屋で手を拱いている場合ではないのだが…
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:42:38.14 ID:cw/0nUsY0

「よっ、暇か?コーヒー貰いにきたよん♪」



「いや…コーヒーなんてどこで飲んでも一緒でしょ…」



「何言ってんの!ここで飲むのが一番じゃないのね♪」



いつもの習慣かのように特命係にある


コーヒーメーカーでインスタントのコーヒーを美味しそうに飲み干す組対5課の角田課長。


そんな能天気な角田だがふとあるものに目を止めた。



「あれ…こいつ…」



「おや、課長はその名をご存知なのですか?」



「ああ、だってこいつは…」



角田の思わぬ発見により事件はこの後急展開を迎える事になる。

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:43:15.43 ID:cw/0nUsY0


数時間後―――

「佐伯さん、業者の者ですけど開けてもらえますか?」



「業者だと?そんなモノは頼んでいないぞ!」



「でもねぇ、ここだと言われてきたものでして…ちょっと玄関開けてもらえますか?」



佐伯家にある宅配業者が荷物を持って現れた。


家主の佐伯剛雄は面倒ながらも玄関のドアを開き荷物を受け取ろうとした時だ。



「ハイ警察!」



「佐伯剛雄!匿名のタレコミがあったので捜査させてもらうぞ!」



現れたのは角田課長率いる組対5課。


その後ろには右京と亀山の二人も同行していた。

何故捜査一課ではなく組対5課が動くことになったのか?

その理由は実はこの佐伯剛雄自身にあった。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/03/13(火) 22:43:31.73 ID:49PSi/WG0
旧作だと息子の俊夫くんの助力と世界の時間の修正によって伽耶子を倒す事ができましたが、今作ではどうなるやら
佐伯伽耶子の能力はチート固まりですからね、瞬間移動出来るは、無限に分身を作れるは、時間を操ったりなど
どう倒せば良いんだよこんな化け物状態ですからね、
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:45:05.17 ID:cw/0nUsY0


「匿名のタレコミがあるって言ったろ!

まあ匿名というよりも特命からのタレコミなんだけどな…

佐伯剛雄!城南金融の幹部で麻薬密売の噂のあるお前さんだ。

簡単に捜査の令状が取れたぞ!」



普段は特命係にやってきてのほほんとしている角田課長だが

これでもヤクザ絡みの案件をいくつも捜査している現場の叩き上げだ。

そんな角田ならば悪名高い城南金融の幹部の名前はすべて把握していた。


そのため令状も簡単に取れたというわけだ。



「騙すような真似をしてすみませんねぇ。

ですがこちらも人命が掛かってます。

亀山くん、急いで家の中を調べてください。俊雄くんの保護を最優先で!」


「おい、大木!小松!お前たちも亀ちゃんの手伝いに行ってやれ!」


右京たちの指示ですぐに家の中に突入する亀山たち。


そんな亀山たちの侵入を剛雄は阻もうとするが


既に右京たちにその身を拘束されて満足に身動きがとれない。


剛雄にとってこれではどうにもならない状況だ


「いい加減にしろ!こんなの不当捜査だ!何故俺がこんな目に合わなきゃ…」


「それでは佐伯剛雄さん、率直に言います。
小林真奈美さんとそして体内にいる赤ん坊を殺害したのは…あなたですね。」



あの惨殺事件の犯人は目の前にいる佐伯剛雄だと告げる右京。

いきなりの事態に困惑した様子を見せる剛雄だが…

何故自分が犯行に及ばなければならないのかと反論してみせた。


「何を下らないことを…何故俺がそんな女を殺さなければならない…」


「最初に僕がここに来た時あなたはこう仰った。
『ヤツの嫁とガキが殺されようと俺の知ったことか』
しかし今回の事件は小林さんの奥さんはともかく子供のことは伏せられていたんですよ。
それを知るのは我々警察関係者かもしくは犯人以外は知りえないはずですよ。」


そのことを指摘されて剛雄はしまったと呟いた。

それと同時に家に突入した大木と小松が二階に上がるとある異変を察知した。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:47:10.30 ID:cw/0nUsY0


「2階の部屋なんですけど一室だけ鍵の掛かっている部屋があります!」


「恐らくその部屋です。
構いません!ドアを壊してもいいからその部屋に入ってください!」



右京の指示を聞いた大木と小松はすぐに部屋のドアを壊しだした。

堪りかねた剛雄はこれ以上やるなら弁護士を呼ぶぞと脅すが

その間にもドアが壊れるのは時間の問題だ。



「なぁ…警部殿…一体2階に何があるんだい?」


「課長、このおウチですが車がありませんね。」


「車だと?」


「殺人が行われた場合、まず処置をしなければならないのは死体の始末です。
人間一人を処分するにしても安易に捨てるわけにもいかない…
まあこの場合一番無難なのは山奥の深くか、それとも海の中に捨てるのが一番でしょうが
それらを行えない場合どうしますか?」


「そりゃ…自分の見える範囲に死体を…そうか!じゃあ2階には!?」


さすがに角田も右京がこの家で何を見つけようとしているのかようやく察したようだ。

その間にも大木と小松が部屋のドアをこじ開けた。

急いで部屋に入った彼らだがそこで二人は思わぬものを発見した。

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:48:00.83 ID:cw/0nUsY0


「ありましたー!死体です!」


「男の死体と…それと女が惨たらしく切り刻まれている死体です!」



部屋にあったのはビニールの袋に入れられた男女の死体。

男の方は所持品で確認できたが捜査一課が指名手配している小林俊介だ。

女は恐らくこの家に住む佐伯伽耶子。その二人の死体が揃って部屋に放置されていた。

それに死因だが大木たちが言うには小林の方は外傷が少ないが

女の方が刃物で複数の箇所が切り刻まれた形跡があった。

特に酷いのは喉だ。声が出せないように喉仏を潰されている痕跡があった。

そのことを聞いた角田はすぐに伊丹たち捜査一課に連絡をするように指示を出す。

既にこの件は組対5課の領分を超えている。

だがこの佐伯剛雄は何故このような惨殺を行ったのか?それが疑問だった。

すべてが明かされた後、剛雄は俯きながら自らの行いを自白した。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:49:18.05 ID:cw/0nUsY0

「そうだ…俺がやった…俺が伽椰子を殺した…」


「何でだ!自分の女房を殺す動機が何処にあるってんだ!?」


いくらヤクザモノとはいえ自分の妻を殺すなど角田にはその意図がまったく見えなかった。

さらに言うなら息子の担任教師である小林俊介も同様だ。

一体どんな動機があれば一連の惨殺事件を行えるのか理解できなかった。


「それは妻の伽椰子さんが愛した人が
ご主人である剛雄さんではなく彼女が昔から愛していた小林俊介さんだからですよ。」


右京は伽耶子の日記を取り出しながらそう告げた。

今回の事件に関する動機。それは昨日たまきが言ったように嫉妬によるものだ。

だがその嫉妬はこの日記の主である伽耶子のモノではない。

伽耶子の夫である剛雄のモノだ。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:50:47.94 ID:cw/0nUsY0


「それじゃあ…動機は…浮気ってことか…?」



「確かに浮気といえばそうかもしれません。
ですが実際に小林さんと伽椰子さんはそんな関係ではなかったはずですよ。
それに浮気と言っても彼女の一方的なモノだったはずなのは明らかでした。」



「それじゃあ…何でこいつは殺したりなんか…」



浮気でなければ動機は何なのか?

そこで右京は日記に書かれていたある一文を読み出した。

それにはこう記されていた。

『それにしてもよく子供を産めたものだと思う。病院であんなことを告げられたのに…』

この文について右京はある疑問を抱いていた。


「この文ですが何かおかしいと思えませんか?
『よく子供を産めたものだと思う。』
この文を解釈すると
本来なら剛雄さんと伽耶子さんの間に子供が産まれることはなかったということです。
それなのに二人の間に俊雄くんという子供が生まれた。さて、どういうことでしょうか?」


「つまり…二人の身体には何か異常があるということか…?」


「まさにその通りです。
気になったのでかつて伽耶子さんが俊雄くんを産んだ産婦人科の病院を調べました。
するとあることが判明したのです。
佐伯剛雄さん、あなたは精子欠乏症と診断されていました。」



それは妻の伽耶子しか知らなかった事実。

精子欠乏症とは男性不妊が原因とされる症状。

男性の精子欠乏があれば当然子供が生まれる可能性は低い。

それなのに俊雄という子供が生まれた。それが今回の事件の動機だった。

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:51:59.50 ID:cw/0nUsY0


「ちょっと待てよ。精子欠乏症なのに子供がいるってことは…まさか…」


「そう、佐伯剛雄が一連の惨殺事件を犯した原因は…

あなたは自分の息子である俊雄くんが自分と血縁関係にないと疑ったからですね。」


自らの身体にある異常と

さらにそれが動機に繋がる原因を告げられて剛雄は観念したのかすべてを自白した。

かつて剛雄は愛する伽耶子との間に子供を熱望していた。そして俊雄が生まれた。


そこまではよかった。万事順調に行っていた。

だがある日のこと、妻に異変が起きた。

普段は物静かな伽耶子が妙に楽しそうにしていたからだ。

それを見て不審に思った剛雄は密かに伽耶子の日記を覗いた。

するとそこにはかつて伽耶子が小林を愛していたこと、自身の精子欠乏症。

さらに伽耶子は今でも小林のことを愛していることがわかった。


「昨日アンタらが見つけた日記。
あの日記を見て…俺は気付いたんだ…
小林って男と伽椰子が浮気をして出来たのが俊雄だってな!」


「つまり自分の子供じゃないのに腹が立って相手の女房とその子供を殺したってわけか…」


これで事件の動機は明らかとなった。

剛雄は妻の浮気が許せなかった。だから小林の妻である真奈美を惨殺した。

その狂気はまだ生まれてもいなかった彼女のお腹の子にまで及んだ。

だが剛雄が許せなかったことはそれだけではなかった。


57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:54:11.86 ID:cw/0nUsY0


「それに伽椰子は子供に『俊雄』なんてふざけた名前を付けやがった…」


「何で『俊雄』って名前がふざけた名前なんだよ?普通の名前だろ!」


息子の俊雄という名前。

日記を読んで確認したが子供の名前は伽耶子が付けたものだ。

俊雄という名は角田が指摘するように普通の名前だ。

だが伽耶子が小林に想いを募らせていることを知れば

俊雄という名前にはある意図が含まれていることがわかった。


「やはりあなたはそのことに気付いたようですね。
そうです。伽椰子さんは愛する人の名前を子供に付けた。
だからこそ小林俊介の『俊』の字を『俊雄』くんの『俊』の字として名付けたのでしょう。」


それが恐らく俊雄が虐待されていたとされる原因。

俊雄が生まれた時、

剛雄は自分の名前である『雄』の字が俊雄の名前に用いられたことを非情に喜んだ。

だがそれは伽椰子が剛雄を欺くために仕組んだことだった。

伽椰子は自分の子供に愛する人の名前を付けたかった。

だから剛雄の『雄』の字を入れた。

すべては小林俊介の『俊』の字を入れるために仕組んだ企みだった。

そのことを知って剛雄の中に激しい殺意が芽生えた。

9年間も愛情を注いだ息子が実は赤の他人だった。

それも愛しの妻にすべて欺かれてのこと。その行いを許せるわけがない。

それがこの事件における本当の動機だった。


58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:55:09.91 ID:cw/0nUsY0


「そういえば亀山は何処に行ったんだ?」


「確か2階の屋根裏を探してるはずですけど…」


事件の動機を聞きながら角田はふとあることに気づいた。

それは先ほどから亀山の気配がないことだ。

同時に右京は

すべてを明かされて打ちのめされている剛雄にまだ聞かなければならないことがあった。


「佐伯さん、まだあなたに聞かなければならない事があります。
俊雄くんはどうしましたか?僕の考えが正しければ恐らく俊雄くんは…」


右京の考えでは被害者たちを尽く惨殺した剛雄のことだ。

既に俊雄も殺されている可能性が高い。

それでも警察としてはなんとしても俊雄を見つけ出さなければならなかった。

たとえそれが既に亡骸だったとしても…

だが剛雄の口から出た答えは右京の予想し得なかったものだった。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:56:19.83 ID:cw/0nUsY0


「俊雄…あいつは…いなくなった…」


「本当なんだ…俺は伽椰子を殺した後に俊雄も殺そうとした。」


「その前に飼い猫のマーが邪魔で殺しちまったが…
あいつは1階の押し入れにいると思って開けてみた…だが…姿は見えなかった…
それから俺は家の中を隈なく探したが俊雄の姿は見つからなかった…
俊雄が何処へ行ったのかなんて俺が訊きたいくらいだ!」


俊雄がこの家からいなくなったと聞くと右京はすぐさま本部に応援を要請した。

俊雄はまだ小学3年生。

さらに言うなら父親である剛雄に殺されかけた身だ。一刻も早く保護しなければならない。

すぐに携帯で連絡を取ろうとするが中々繋がらない。

こうしている間にも俊雄はどうなっているのかわからない。

さらに言うならこの剛雄の証言もどこまで宛になるのか定かではない。

もしかしたらこの証言自体が嘘という可能性すらある。

とにかく一刻も早く俊雄を見つけ出さなければならないと焦りを募らせていた時だ。


玄関先からガタゴトと奇妙な音が発した。

まさか…俊雄ではないのか…?

一瞬、そんな期待が右京に過ぎりそのドアが開けられるのを待った。

そしてドアから出てきたのは…
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:59:01.62 ID:cw/0nUsY0


「右京さん!よかった…まだ無事だったんですね!」


そこにひょっこり姿を見せたのは先ほどから何処かへいなくなっていたはずの亀山だ。

何故いきなり亀山が玄関から現れたのか?

まだ俊雄も発見できてないのにそのことを咎めようとした時だ。


「みんな急いでここから逃げましょう!」


突然、亀山はすぐにこの場を出ようと告げた。

そんな亀山に何を馬鹿な事を言っているのかと角田は異論を唱えた。

当然だ。既に死体が出た以上、これは殺人事件だ。

すぐさま現場を保存して応援に来るはずの捜査一課を待たなくてはならない。

それなのに警察官が現場を放置して立ち去るなど言語道断だ。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:00:34.59 ID:cw/0nUsY0


「右京さん!佐伯伽耶子はもう死んでるんですよね!」


「ええ、既に彼女の死体が発見されていますからねぇ。」


「チクショウ…おい…佐伯剛雄…
お前のせいでとんでもないことになっちまったんだぞ!
わかるか…お前のせいで…俊雄くんは…それにすべてが…」


「おいおい亀ちゃんなんだってんだよ?ちゃんとわかるように説明してくれよ!」


「説明している時間がありません!
とにかく今すぐここから出るんです!
右京さん、俺のことを信じてください!お願いします!!」


まるで何かの脅威に焦っているのか

この亀山の発言に右京はその真意をまったく見い出せずにいた。

誰もが亀山が取り乱した発言だと思うかもしれない。

普通の警察官ならまず正気を疑うような発言だ。

だが右京はちがった。何故かこの時、右京だけは亀山の言葉を信じることができた。

それは長年、亀山と相棒を組んできた右京だからこそ感じ取れるモノだ。


「課長、大木さんと小松さんを呼んでください。
すべての責任は僕が取ります。
ですから大木さんと小松さんを呼び戻して至急この家を出ましょう。」


こうして右京に促されながら角田もまた連れてきた大木たちを呼び戻し

さらに逮捕したばかりの佐伯剛雄を連れてこの家を立ち去った。

それから本庁に戻った特命係は刑事部長の内村に烈火の如く怒鳴られ散々な目に合った。

特命係が内村に怒られることは毎度のことだ。だが今回はそれだけではなかった。

実は右京たちが去った後ですぐに最寄りの所轄が現場に到着した。

だがそこで彼らが見たものは小林俊介の遺体のみだった。

どういうわけか佐伯伽椰子の遺体が無くなっていた。

それに捜索中の佐伯俊雄も…

その後、捜査一課が血眼で近隣を捜索したが

結局、佐伯俊雄とそれに伽椰子の死体は発見することは出来なかった。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:01:26.43 ID:cw/0nUsY0


「それでどういうことか聞かせてもらえますか。」


内村部長から散々叱責を受けた後、部屋へと戻ってきた右京は亀山に家での動向を尋ねた。


「すみません…どうしても言えないんです…」


だが亀山はこの件に関して何故か口を閉ざした。

いつもの亀山らしくない。

これまで共に事件を解決してきたが亀山は一度として右京に秘密を持ったことなどない。

さらに言えば今回の事件は単なる殺人事件ではない。

年端もいかない少年が行方不明となっている。

生死不明で安否も定かではない佐伯俊雄を一刻も見つけ出さなくてはならない。

それなのに個人の秘密などと言っている場合でないことくらい亀山も理解しているはず。

だが亀山は何も話そうとはしなかった。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:03:39.68 ID:cw/0nUsY0

「そうですか、わかりました。どうしても言えない。
つまり言えない事情があるなら僕はこれ以上キミを言及する気はありません。
ですが俊雄くんと伽椰子さんの死体行方以外にもひとつ不可解なモノがあります。
それは電話です。」


それは最初の被害者である小林真奈美が発見された際、彼女の家に置かれていた固定電話。

あれを米沢に調べてもらったところ、通話記録が判明した。

なんとその電話は小林の携帯に繋がっていたそうだ。


「あの電話、掛けていたのは逮捕された佐伯剛雄でした。
取り調べで自白しましたが先日、すべてを知った彼は怒り狂い妻の伽椰子を殺害した。
だが怒りが収まりきらない剛雄はその足で小林真奈美を殺害。
ちょうどその時、
俊雄くんの様子を見に来た小林さんに彼の家から電話を行ったと証言したそうです。
その理由は自分が小林さんに妻と子供を殺したことを報せて
彼が苦しむ様を見たかったとのことらしいですよ。」


「それで…何が言いたいんですか…」


「僕が疑問に思うのは被害者たちが殺害された順番についてです。
剛雄の証言が正しければ一連の事件において最初に死んだのは妻の伽椰子だった。
次に殺されたのが小林真奈美、そして最後に殺されたのが小林俊介。
ですが僕はこの順番は不可解であると思います。
最初に殺されたのは伽椰子であることは間違いありません。
問題は最後に殺された小林俊介です。」



この事件を通じて右京が疑問を抱く点。

小林俊介は剛雄から自分の妻と子供を殺されて言葉にショックを受けた。

ここで問題なのが何故小林は妻と子が死んだというのに警察に通報しなかったのか?

剛雄は小林を苦しませるために自身が真奈美を殺したと言わしめた。

さらにもうひとつ疑問が生じる。何故小林は殺害されたのか?

剛雄が連絡を行ったのだとすれば

小林は警察に通報するなりの方法があったはずだ。

しかしそんな通報はなかった。さらに剛雄は気になる証言を行っていた…


「佐伯剛雄は妻の伽耶子、それに小林真奈美を殺害したことは認めました。
ですが最後の一人、小林俊介を殺害したことに関しては否定しています。
剛雄は小林真奈美への犯行を終えた直後、家に戻ると何故か彼は死んでいたそうです。
小林俊介を殺害した犯人は別にいる。僕はそう思っています。」


右京の推理を聞かされて亀山の表情は険しいものとなっていた。

これだけ言えば亀山も何か言うのではないかと思ったがそれでも亀山は沈黙を続けた。

そんな亀山に対して右京は再度あることを尋ねた。


「それと今の話をまとめると
キミが昨日見た佐伯伽椰子は既に死んでいたことになります。
もう一度尋ねますがキミが昨日見た女性は本当に佐伯伽椰子だったのですか?」


「それは…間違いないはずですよ…
恐らくね…右京さんまた佐伯家に行く気ですよね…
それだけはやめてもらえますか…」


佐伯家に行くのはやめてくれ。

まだ事件は終わっていないというのにこれ以上事件に関わってほしくないと亀山は告げた。

やはり亀山らしくない。何が亀山をそこまでさせるのか。

一体亀山はあの家で何を見たのか?右京にはそれがわからなかった。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:05:11.05 ID:cw/0nUsY0


「あら、なんだか亀山さんにしては随分と消極的な発言ですね。」


そこへ現れたのはかつての右京の上司であり

この特命係を創設した張本人でもある警察庁の小野田官房長。

本来ならこの男が左遷部署の特命係に姿を現すなどまずありえない。

だがそれでも尋ねた理由は今回の事件にあった。


「どうしてこちらへ?」


「お前たちの不始末のために呼び出されたんですよ。
いくら犯人逮捕が出来たとはいえ
遺体の消失、おまけに少年の行方不明、それらを放置して警察官が現場を離れた。
これじゃあ内村さんがクビだと騒いでも仕方ないよね。」


普段、特命係が問題を起こした際はこの男が盾となり彼らを庇ってきた。

しかし今回の事態は頂けなかった。

犯人宅への強行突入とその犯人逮捕は緊急時だったので見逃すことができる。

だがそれらを帳消しするかのような遺体損失という大失態。

これはさすがの小野田でも庇いきれるものではない。

そのため小野田も何故犯人逮捕まで至りながら

無断で現場を離れたのかその理由を知るために特命係を訪れたわけだ。


「迷惑かけてすんません…」


「そう思うなら事情くらい聞かせてくださいよ。亀山さん。」


「本当に言えないんです。
けど右京さん…今あの家に行くのは本当にやめてください。
恐らく何年か後でまたあの家で何か恐ろしい事件が起こるはずです。
それまで絶対にあの家には近付かないでください!」


亀山は何故か佐伯家に近付くなという警告を右京に訴えた。

だがさすがの右京もいくら亀山の言うこととはいえ

その理由もわからず仕舞いでは安易に従うことが出来なかった。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:06:26.66 ID:cw/0nUsY0


「キミの話はどうも肝心な部分が抜けています。それでは従う事は出来ませんね。」


「せめて理由を言ってほしいですね。
まだ佐伯俊雄少年が生存している可能性もありますから
捜索を止めるわけにはいかないんですよ。」


「危険…だからです…
これから先あの家は恐らく近付いただけでやばい事が起こるはずです!
俺も詳しい事は言えないんです!いえ…言っちゃいけないんです。
それに俊雄くんはもうこの世にはいません。あの子はあの世の住人になったんですから…」


右京と小野田には亀山の言っていることがちっとも理解出来なかった。

あの家が危険?既に犯人の佐伯剛雄は逮捕されている。それ以上に何があるというのか?

さらに言えば佐伯俊雄についてもだ。

今の話からして亀山は俊雄について心配している様子は見受けられなかった。

いや、それどころかそんな俊雄をまるで恐怖の対象だと思う節がある。

亀山の話はどうも支離滅裂な話でさすがの右京と小野田も付いていけなかった。

しかしあの亀山がここまで言うのなら何かあると思い右京はそれ以上詮索しなかった。

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:07:44.17 ID:cw/0nUsY0


「わかりました。
キミがそこまで言うのなら僕はもう何も言いません。先に帰ります。」


「本当にすいません!けど右京さん、これだけは絶対に覚えててください。
今は佐伯家に行ってもどうしようもありません…
けど数年後にあの家で事件が起きた時…その時は…必ずなんとかなるはずですから…」


亀山はまるで予言かのようにこの先起きるを語った。

その話を聞いて何故か自分でも奇妙なくらい納得する右京。

それから亀山は胸元からあるものを取り出した。それは伽耶子の日記だ。

どうやら亀山は現場へ駆けつける前にこの日記を誤って持ち出していたらしい。

そのことについてはどうでもいいと思い目を瞑る右京。

だが一方で小野田はまだ納得してなかった。

まだ被害者少年が発見されていないのに

事件が終わらないうちに手を引くのは明らかに警察官としての行動から逸脱している。


「なんとも的を得ない話ですね。お偉方は納得出来ませんよ。」


「それなら官房長、ちょっと二人きりでお話があるんですけど…」


納得できない小野田に対して右京に内密で二人きりで話をする亀山と小野田。

その夜のことだ…

右京はとある回転寿司屋に小野田から呼び出された。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:09:15.85 ID:cw/0nUsY0


「やっぱりここのお寿司も案外いけるわね。」


「だからお皿はレーンに戻さないでください。」


いつものように食べた寿司のお皿をレーンに戻しながらそれを右京に咎められる小野田。

あんな事件があった直後に自分を食事に呼び出す。

そんなわけがない。どうやら食べながらでもないと話せないことがあるようだ。


「亀山くんと何を話していたのですか?」


「………やっぱり気になる?
あとで彼から直接聞かされるかと思うけど
亀山くんは今回の事件の責任を取って近々辞職します。
あ、ちなみに僕は彼を引きとめようとしたのよ。
けど彼ったらサルウィンでボランティア活動したいっていうからその意志が固くてね。
さすがに無理強いは出来なかったのよ。」


今回の事件の責任を取って亀山が辞職する。

そこまでして亀山は事件について語ろうとはしないとは…

以前の亀山ならありえない行動だ。

右京が知る亀山は左遷部署の特命係に送られた後も

捜査一課に戻ろうと手柄を立てることに躍起になっていた。

そんな刑事という職に固執していた亀山が警察をあっさり辞めるとは…

確かにサルウィンでボランティア活動することは立派な行いだ。

だがそれと今回の事件に関しては別問題。

いくら刑事を辞めるにしてもこの事件を解決させるべきではないか?

それなのにどうしてこのような曖昧な形で事件を終わらせるのか?

右京はこの亀山の不可解な行動にまったく理解ができなかった。


「彼は言ってましたよ。
今回の失態はすべて自分のせいにしろと…
それでお前が警察に残れるようにしてほしいと土下座して頼み込みました。
まったく理解できない話ですよ。そう、ちっとも理解できないんですよね…」


なにやら小野田は意味深な発言を繰り返そうとしている。

それから神妙な表情を浮かべながら

隣で無言のまま寿司を食べ続ける右京にあることを告げた。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:10:07.39 ID:cw/0nUsY0


「――――僕死ぬらしいの。」


「はぃぃ?」


「だから死ぬらしいの。これも亀山さんから言われたことなの。
近いうちに何故か僕が死ぬって聞かされてね。
けどそれがどんな事情で死ぬのか一切わからないのよね。」


小野田が死ぬ…?

それが亀山から聞かされたことだった。

最早右京にも何がなんだかさっぱりわからなかった。

一体亀山はあの家で何を見たのか?
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:10:36.22 ID:cw/0nUsY0


深夜―――

警視庁の拘置所にて剛雄は身柄を拘束されてこの拘置所の独房に入っていた。


自分以外は誰もいないこの独房。


何人も惨殺を行った凶悪犯だ。他の犯罪者から隔離されて厳重に管理されていた。


また剛雄自身も一人でいた方が心地よかった。


彼にはまだ殺意があった。それは未だ生き残っていると思われる息子の俊雄だ。


この9年間、自分を欺き続けた伽耶子の半身。


それを殺さない限りは死んでも死にきれない。


そう苛立ちながら自らの爪を噛んでいた時だ。


70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:11:05.95 ID:cw/0nUsY0


………ぁ………あ………あ゛………



ふと、何処からともなく不気味な呻き声が聞こえてきた。


だがおかしい。ここは警視庁の独房だ。こんなところに不用意に訪れる人間はまずいない。


まさか看守が自分の様子を見に来たのでは?
それならこれは絶好のチャンスだ。隙を見て看守を殺してこの場から脱走しよう。


そう期待を寄せながらチャンスを待ち続けた。



『あ゛…あ゛…あ゛…』



それと同時に呻き声の主はどんどん近づいてきた。


だがその呻き声が近くなると同時にもうひとつ奇妙な音が聞こえてきた。


それはガサゴソとまるで何かのビニールが擦れるような音だ。


何でこんな音が聞こえてくる?近づいて来るのは看守か?
この不可解な行動に得体の知れない恐怖を感じる剛雄。そんな時だ。


71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:11:31.40 ID:cw/0nUsY0

((ガシャンッ!))



人知れず独房の扉が開いた。恐る恐る背後を振り向く剛雄。


するとそこにいたのは…



「 「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」 」



警視庁の独房内に剛雄の悲鳴が響き渡った。


急いで係の看守が彼の独房へ駆けつけるとそこには剛雄が恐怖に慄いた顔で死んでいた。


こうして一連の惨殺事件は犯人死亡という形で幕を閉じた。


この事件から暫くして都内で小菅彬によるウイルス騒動の事件が発生し、


その事件を解決した直後、亀山薫は警視庁を辞職。


亡き友人の志を受け継ぐためにサルウィンへと渡った。


2年後、亀山の言う通り小野田公顕は警視庁の幹部職員に逆恨みの形で刺されて死亡。


尚、現在でも佐伯俊雄の捜索は続けられているが………未だに発見されてはいない。



<<第1話 剛雄 完>>

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:12:38.38 ID:cw/0nUsY0


××××××××××××


「何だ…これ…?」


それがこのファイルを読んだ冠城の感想だった。

事件自体は確かに残忍な犯行だった。それはわかる。

だが犯行以外にも不可解な点があった。それはやはり亀山の行動だ。

彼の行動は明らかに不審な点が多い。冠城は亀山と直接対面したことはない。

だがあの偏屈な右京と長年相棒を組んできた男だ。かなり信用されていたはず。

それなのに亀山は警視庁を退職するまであの家で起きたことを最後まで話さずにいた。

その理由が冠城にはまったく理解できなかった。


「まさかこのノートが佐伯伽椰子の日記だったとは…」


先ほどまでは中身が張り付いていたノートが自然に捲れるようになった。


そこにはファイルに記述された通り、

この事件の被害者である小林俊介への想いを綴った文章が記載されていた。

日記の内容を読んだだけで伽椰子の歪んだ愛情とこの事件の異常性が伺えた。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:14:12.02 ID:cw/0nUsY0


「ちなみに小野田官房長ですが
このファイルで亀山さんが予言していたように
二年後の警視庁籠城事件直後に死亡していることが確認されています。
亀山さんが言っていたことは正しかったようですよ。」


青木が亀山の証言を肯定するかのように

2010年に起きた警視庁篭城事件のファイルを取り出した。

冠城も報道で知った程度だが

確かにこの事件で小野田は警視庁の幹部職員に刺されて死亡している。

だが何故それを亀山は知り得たのか?この時、彼は既にサルウィンへと旅立っていた。

それに小野田の死は犯人の逆恨みによるものでかなり突発的な犯行だった。

本来なら小野田の死に関わることすらありえないはずなのにだ。

さらに気になるとすればこの佐伯家で起きた事件自体だ。

これほど凄惨な事件が自分の記憶になかったなどありえない。

それなのにこうしてファイルに目を通すまで知ることもなかったのはあまりにも不可解だ。


「それと亀山薫の退職ですけど懲戒処分にはなってません。
おかしいですね。遺体消失なんて失態を犯したら懲戒免職は確実ですよ。」


さらに青木に頼んで亀山の人事ファイルを調べてもらったが

彼の退職理由はあくまで自主退職でありこの佐伯家で犯した失態が理由ではなかった。

いくら特命係が当時からお偉方に贔屓にされていたとはいえ

それでもこの失態だけは贖えるものではない。


「ところで冠城さん、この事件まだ続きがあるようですよ。」


青木の指摘するようにこの事件のファイルはまだ二つ残されていた。

それは小野田が死亡した直後の2011年、さらに2013年にあの家を巡って起きた事件。

年代から推測してそれは亀山の後任にあたる神戸尊と甲斐享がいた頃に起きたものだ。

まさか杉下右京の歴代の相棒たちがこの家に関わっているとは…

それを知りさらなる興味を抱いた冠城は青木と共に残り二つのファイルを覗くことにした。

その探究心がさらなる深みに足を踏み込むとも知らず…
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:16:06.87 ID:cw/0nUsY0


<<第2話 信之>>


2011年8月―――


「小野田くんの墓参り、代わりにしてくれてすまんね。」


「いえ、僕たちもいずれは伺おうと思っていましたから。」


ここは東京拘置所の面会室。

そこで右京は相棒の神戸尊と共にとある男と面会を行っていた。

その男とは瀬戸内米蔵。

以前は衆議院議員で一時は法務大臣まで上り詰めたが

兼高公一の事件で自身が不正を行った件が発覚したことにより逮捕された。


「やはり仮釈放請求は通りませんでしたか。」


「ああ、こうして自分の過ちを悔やむことになるとは皮肉なもんだ…」


瀬戸内は逮捕後も小野田と度々面会を行っていた。

その理由は小野田の旧友にして国際的テロ組織赤いカナリアの幹部である本多篤人。

実は小野田は生前、

赤いカナリアが本田の釈放と引き換えに都内で炭疽菌を散蒔くと脅迫された。

その事件は右京たちの協力もありなんとか未然に防がれた。

それでも犠牲が大きかった。

この事件に当たっていた公安の人間が

暴走を起こし首謀者である赤いカナリアのメンバーが殺害された。

この事件で小野田は誰の犠牲も出ない事件解決を望んでいた。

そんな小野田の願いも虚しく大きな犠牲が出てしまった。

そのことを悔やんだ瀬戸内は仮釈放を申請。理由は小野田への弔いを行うためだ。

だがその申請は結局通らず代わりに右京たちに小野田の墓参りに行ってもらった。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:17:10.43 ID:cw/0nUsY0

「小野田くんが亡くなって早一年か…俺よりも若いくせに先におっ死んじまうとは…」


「人間の生き死に年齢は関係ないですよ。
こればかりは運命としか言いようがありませんよ。」


「運命…ですか…もしかしたらそうだったのかもしれませんね…」


「どうしたんだい杉下くん?何か知っているような顔をしてるが。」


「実は…亀山くんが警察を辞める前に妙な事を言っていたのを思い出しまして…」


それから右京はこの場にいる神戸と瀬戸内にあることを打ち明けた。

それはかつて佐伯家で起きた殺人事件。

その直後、亀山が言っていた奇妙な発言と小野田の死についても…


「佐伯といえば確か練馬区で起きた惨殺事件の犯人ですよね。
犯人は捕まったけどその日の夜に警視庁の拘留所で死んだと聞いています。」


「それに佐伯俊雄、事件当時9歳の少年も未だ行方不明。
当時警察は少年の行きそうな場所を徹底的に調べたのですがねぇ…」


事件から3年経過した現在でも佐伯俊雄の行方は明らかになっていない。

世間ではやはり父親に殺された死亡説が出回っているが

その死亡説を確かめようにも肝心の遺体すらまだ発見されておらず

まるで神隠しにあったかの如く忽然と消えたままだ。

そういえばと右京はかつて亀山が言っていたあることを瀬戸内に尋ねた。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:18:22.89 ID:cw/0nUsY0


「ほう、亀山くんはその俊雄少年の事についてあの世の住人になったと言ったのかい。」


「ええ、僕には皆目見当も付かないので。
よろしければ仏法に御詳しい瀬戸内先生ならご存知ではないかと思うのですが…」


「そりゃアレだな、『亡者』の事じゃねえのかな。」


「お言葉ですが亡者とはなんですか?」


「生臭坊主の説法になるがね、
亡者ってのは何らかの理由で死んでしまい成仏できずに彷徨う魂のこった。
そんな連中が何を思って彷徨うかわかるかい?」


「さあ、何でしょうかね。」


「恨みだよ。
連中は生前何か強い想いを現世に残しちまった哀れな連中なわけだ。
それが…やがて呪いを生む。」


「呪い…ですか?
この近代科学が発達した21世紀の時代に呪いだなんて…
お言葉ですが前時代的過ぎますよ!」


呪いなど馬鹿げている。

いくら瀬戸内が元々は仏門の家柄だったとはいえ彼は法務大臣だった男だ。

そんな法に正通した彼が呪いなどと思わず神戸は苦笑する。

だが瀬戸内に至ってはかなり真面目だった。

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:19:30.12 ID:cw/0nUsY0


「呪いに時代なんて関係ねえさ。ただ深い業があればそれでいい。
だからこそ殺人事件なんて血生臭い行為が未だに行われているわけじゃねえか。
それは俺なんぞよりもキミたちの方がよく理解してるんじゃないのかい。」


「仰る通りです。そうなると俊雄くんは…」


「仏法では親より早く死んだ子供は
三途の川へ連れて行かれて石を積まなきゃならんと言われている。
だが…もしもだ…俊雄くんが生きて亡者となっていたとしたらだ…
恐らくそいつは現世に留まり…より強力な呪い、つまり『呪怨』を生むんじゃねえのかな。」


呪怨、それは右京と神戸が初めて聞く言葉だ。

文字にするだけでも禍々しいものを感じさせるその言葉。

これにどんな意味があるのか?


「こりゃ俺が作った造語だからな、辞典になんか載ってねえんだがね。
意味は…強い恨みを抱いて死んだモノの呪い。
死んだモノが生前に接していた場所に蓄積され、『業』となる。
その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。
つまりだ、呪いの連鎖ってモンは簡単に断ち切れないって事さ。」


それは普段、殺人事件に関わる右京たちには妙に実感できる話だった。

呪いの連鎖、かつて佐伯家で起きた事件はまさにそれに当てはまるものだ。

この話をした瀬戸内はこんなものは年寄りの戯言だから聞き流せというが

右京にはこの話こそあの事件の核心を突くものに思えてならなかった。

こうして要件を済ませた二人は拘置所を去った。

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:20:42.68 ID:cw/0nUsY0

警視庁に戻るとすぐに内村部長に呼び出された。


その理由というのが以下のものだ。


「引き篭り少年の更生…?」


「そうだ、先日練馬署の少年課が奇妙な行動をする少年を補導してな。
親御さんに聞いたところ少年は引き篭りとのことだ。そこで…お前らも一応大人だ。
いいか!その少年を学校に通わせるようにしておけ!」


ある意味、嫌がらせにも近い仕事を押し付けられた特命係。


頼まれたらどんな仕事でも引き受けるのが特命係の役割だ。

そんなわけで戻って早々に右京たちはその引き籠もりとなっている少年こと

鈴木信之という中学生の少年を訪ねることになった。


79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:22:01.89 ID:cw/0nUsY0


「いやあ、まさか警察の方が息子にここまで親身になってくれるとは思いませんでしたよ。」



ここは鈴木信之の父親が経営する不動産屋。

鈴木信之は母親を亡くしており、

現在は父親の達也と二人暮らしの父子家庭という事情のために職場を訪ねていた。


「すみませんねえ。わざわざ職場の方に来て頂いて…
女房がいればこんな事にはならなかったんですがね。
しかしまさか警視庁の刑事さんが来てくれるとは思いませんでしたよ。」


「いえいえ、警察は市民の味方ですから。」


「単に面倒事を押し付けられたとも言いますが…」


父親の達也に愛想笑いを浮かべる右京と隣で皮肉を呟く神戸。

そんな話はさておいて達也は右京たちに息子の信之の家出の奇行について説明した。

信之はここ最近誰とも喋らず、毎日部屋に閉じ籠って

何も映らないTVをジッと眺めている

その光景はまるで何かこの世のモノではないモノを眺めているかのようだと達也は語った。


「…という訳なんですが…」


「そう言われましても…僕たちはその手の専門家じゃないので…」


思春期の少年というのは奇行に走りがちだと聞く。

世間でいうところの中二病の一種か何かじゃないかという節もあり

神戸はそこまで深刻だとは思わなかった。

もしもそこまで深刻なら精神科のカウンセリングでも受ければいい。

元々の専門外である自分たちにはそのくらいしか助言はできなかった。

そんな神戸を尻目に右京はこの不動産屋の表にある物件を眺めていた。

そこで気になる物件を見つけた。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:24:00.47 ID:cw/0nUsY0


「まあ…まずは信之くんと直に会ってみましょう。話はそれからという事で…
ところでひとつ聞きたい事があります。
これは僕の個人的な興味なのですが、
確かこの近所で三年前に佐伯という一軒家で殺人事件がありましたね。
あの物件…売れたのですか?」


「ええ、おかげさまで。それがどうかしたんですか?」


「表に貼られている中古物件の一覧を見ましたら佐伯家の物件が、
売買済になっていましたのでどなたが購入されたのか気になりましてね。
ちなみにあの事件に僕も関わっていましたのでその後の状況を聞いてみたくて…」


「すみませんね、細かい事が気になる人なんですよ。
けどそれって事故物件ですよね。そんな訳あり物件がよく売れましたね?」


「まあ…そこはどうにかしてといった感じで…」


神戸の少々きつい質問に戸惑いながらも苦笑いで曖昧な返事をする達也。

まあ購入者の事情など様々だ。

旧佐伯家の物件は中古で自己物件とはいえ都内23区に位置する庭付きの住宅。

たとえ曰く付きとはいえ多少の問題に目を瞑れば購入する人間もいるはずだ。

そんな経緯からその自己物件が売れた事情は察することなど容易だ。

だが問題はそんな曰く付きの物件に手を出して購入者には何の異常もないのかという点だ。

どうやら問題がないわけではないようだ。

達也はその物件についてあることを語りだしだ。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 23:25:06.74 ID:cw/0nUsY0


「ここだけの話にしてもらえると助かるんですけど…
実は…あまり大きな声では言えませんが…
あの物件ですが…あの後入った家族が…自殺しましてね…
それで売る前に霊能力のある妹の響子にその物件を見てもらったんですよ。」


「妹さん…霊能力者なんですか…?」


「妹は昔から変なモノが見えるって言ってましたので、
それで見てもらったんですけど…その時に妹が変な事を言ったんですよ。
『購入する人間に清酒を飲ませろ。もし吐いたりしたら絶対に売るな!』と…」


何故そこで清酒が出るのか?

それを疑問に思う神戸に対して右京が補足するようにある説明を行った。

清酒には古来から霊的な作用があると伝えられている。

もしもその家に悪霊がとり憑いていれば清酒に霊を移り、

その清酒が一瞬にして腐る作用がある。

妹の響子は清酒の反応でその家に悪霊がいないか確かめようとしたのかもしれない。


「まあ……そんな心配はありませんでした!
無事に物件も売れましたし♪それじゃちょっとウチの方へ行きましょうか!」


確かに曰く付きの事故物件だが売れてしまえば問題ない。

そう能天気な発言をする達也。

そんな達也とは反対に今の話でどうにも腑に落ちない点がある右京。

とりあえず達也に案内されて彼の自宅へと赴くのだが…

なんとその自宅だが、先ほど話題となった佐伯家の元家主である佐伯剛雄の犯行現場。

つまり被害者の小林真奈美が惨殺されたアパートだった。

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 23:45:37.06 ID:g0l7B1Kf0
右京さんVS.Jホラーの人じゃないか!
期待
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/03/13(火) 23:54:21.38 ID:49PSi/WG0
今日はここまででしょうか?
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:09:11.33 ID:VKN7a1Ov0


「それじゃここって…あの小林一家の元住居なんですか!?」


「ええ、間違いありません。
それにしてもまさか…その部屋に住まわれていたとは…」


右京から当時の事件を聞かされて驚きを隠せない神戸。

よくもまあこんな物件に住み着けるものだと呆れ返った。

これなら息子の信之が引き篭るのも当然ではないかと思うほどだ。

その事について達也に尋ねてみたところ返事はというと…


「いやあ、さすがにここは誰も入りたがりませんからね。
それなら自分で使った方が得でしょう。
私たちは幽霊とか信じてませんから大丈夫ですって!」


「そんなモンなんですかね…」


「気にしない人なんでしょうね。」


かつて佐伯剛雄が妊婦の小林真奈美を殺害後、お腹の子供すら惨殺してみせた凶悪事件。

その犯行現場に住み着くなどさすがに正気の沙汰を疑いたくもなるが…

さて、そんな時だった。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:11:47.93 ID:VKN7a1Ov0


「ちょっと!いるんだろ!開けとくれよ!」


隣室に住んでいると思われる老婆が達也の住む部屋をノックしていた。

それにしても明らかに強く叩いている。

状況から察するに何か急を要する事態なのだろう。

そんな老婆に達也が声をかけた。


「何なんですか!そんなにノックすることないでしょ!」


「鈴木さん!
実はねえ今お宅で若い女の悲鳴と赤ん坊の泣き声がしたのがしたのよ!
まったく喧しいったらありゃしないわ!」


女の悲鳴と赤ん坊…?

それはありえない。鈴木一家は父と息子の父子家庭だ。

当然若い女と赤ん坊など存在しない。

だが老婆は間違いなく女の悲鳴と赤ん坊の鳴き声を聞いたという。

そのことを不審に思った右京と神戸は鈴木宅の玄関ドアを開けてみた。

家の中はどうやら引越ししてきたばかりなのか荷物がろくに荷解きされてない様子だ。

ダンボールやそれにこれは父親の達也の酒乱癖なのかビール缶があちこちに散乱している。

そんな家の様子を伺いながら右京たちは部屋の奥へと入った。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:12:52.30 ID:VKN7a1Ov0


「あ…あぁ…あ…」


するとそこにはとある若い女性が白目を向いて気絶していた。

さらにもう一人中学生ほどの少年が無言のまま体育座りで何も映らないTVを眺めていた。


「響子!信之!?おい!どうしたんだ!しっかりしろ!?」


どうやらこの二人、達也が事務所で話していた息子の信之と妹の響子のようだ。

達也は何度も二人に呼びかけた。

だがどういうわけか二人はその呼びかけに応じない。

この部屋で何が起きたのか?

そんな疑問を抱く中、信之があることを呟きだした…
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:14:26.00 ID:VKN7a1Ov0


「男の人が…隣の部屋で…女の人を…包丁で刺し殺していた…」


信之の言葉を聞いた右京と神戸はすぐに隣の部屋を確認するが…

だがそこには何もない。

ちなみに隣の部屋は台所になっている。

その台所だが右京はかつてこの台所で起きた惨劇を思い出した。


「この台所、かつての被害者小林真奈美さんが殺害されたのは確かここでしたね。」


「ねえ信之くん、他に何を見たんだい?」


「その男の人…女の人のお腹から…赤ちゃんを取り出していた…」


かつて佐伯剛雄が犯行に及んだ惨殺事件。

今の信之の証言は確かにその時の状況と一致する。

だがそれはもう過去の話だ。何故今更そんなことになるというのか?

まさか信之は過去の映像でも見ていたとでもいうのか?

それこそありえない話だ。

きっと父親からこの部屋で起きた事件を聞いたから

勝手に作り話をでっち上げているに決まっている。

思春期の年頃にはよくある話だと神戸は思ったのだが…

とりあえず響子を安静にさせるべく神戸と達也は寝かしつけていた。

その間に右京は家の中をいくつか物色してみると幾つか気になるモノを発見した。

それは玄関に捨てられていたお札、それに台所に置いてあった清酒の入った瓶だ。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:16:02.27 ID:VKN7a1Ov0


「お札に清酒?こんな物がなんだというんですか?」


「このお札…僕は専門家ではないのでわかりませんが…
これは恐らく悪霊退散のお札じゃないのでしょうかね。
考えてみればこの物件は事故物件です。
このようなお札が一枚貼られていてもおかしくはないでしょう。」


「それじゃあ…その清酒は…」


「そう!問題はこの清酒ですよ。神戸くんちょっと飲んでみてください。」


勤務時間内だというのに酒を飲んでもいいのかとつい疑問を抱いたが…

それでも右京のことだ。何か意図があってのことにちがいない。

そう直感した神戸は家主の達也に断りを入れて

コップに一口分の清酒を注いでそれを飲んでみた。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:16:55.87 ID:VKN7a1Ov0


「それでこの腐った清酒がどうしたというんですか?」


「この家にはビール缶が散乱していました。
少し変だと思いませんか?
ビール派の人間が清酒を飲もうとするのは僕としては引っ掛かるんですよ。」


「お言葉ですが…ビール派の人間だって清酒くらいは飲みますから!」


「勿論その可能性はあります。
しかし問題は何故この清酒が数日前から台所に放置されているのかです。
ビール缶が散乱している状況からして達也さんはかなりの酒豪だと伺えます。
それでは何故、数日前に買った清酒を飲みもせずに台所に放置したのか?
もしかしたらこの清酒は達也さんが本来飲むために買った物ではなく
別の使用目的のために購入したのではありませんか。」


右京の推理に神戸は不動産屋で達也が語っていたことを思い出した。

それは霊能力者の響子が達也に旧佐伯家を購入する者に清酒を飲ませろと指示したことだ。

つまりこの清酒の使い用途は旧佐伯家へのお祓いを行うためのものだった。


「でも…それだと…やっぱりおかしいですよ。
何でその清酒が使われないでこの家にあるんですか?
確かその佐伯家はとっくに売買済にされたと鈴木さんは言っていたはずです。
あ、まさか…」


「そう、達也さん。
あなたは響子さんの忠告を無視してあの物件を売ってしまったのですね。」


この指摘を受けて達也もさすがに気まずくなってしまった。

幼い頃より妹の響子と接してきた達也は彼女の霊能力者としての力を信じていた。

だが自分たちにも生活がある。

あの物件が欲しい購入者がいるなら売らなければならない。

そのため達也は響子の忠告を無視してあの物件を売ってしまったそうだ。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:17:38.46 ID:VKN7a1Ov0


「こっちだって商売なんですよ!
いくら事故物件だからって都内にある物件を遊ばせとくなんて出来るわけがないでしょ!
それに…一応先方の方には前もって事故物件だと知らせてありますし…」


「確かにあなたの行いに違法性はありません。
それに響子さんと信之くんの状態が
こんな風になってしまったのも決してあなたのせいだとも言えません。」


「けどこうなった以上はあの物件から手を引いた方がいいですよ。
それにこの部屋からも出るべきですよ。
少なくとも信之くんはなんらかの悪影響を受けているのは間違いないはずですから。」


確かに生活のためとはいえ、息子と妹は最悪な状態に陥った。

それでもいきなり見ず知らずの刑事たちから

家を出て行けと言われてはいそうですかと納得できるわけもない。

二人だって暫く安静にしていれば落ち着くだろうと達也は高を括っていたのだが…
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:18:25.74 ID:VKN7a1Ov0


「 「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!??」 」


突然、寝かしつけていた響子が悲鳴を上げながら起き上がってきた。

それは最早異常としか言いようのない光景だ。

なんとか必死に落ち着かせようとする達也。だが…


「もうダメ!みんな…みんな殺される!?」


みんな殺されると、響子は発狂しながらもこの場にいる右京たちに何度も訴えた。

それがまるでこの部屋に潜む得体の知れない何かに抗っているように思えた。


「刑事さん…俺たちどうしたらいいんですか…」


「とりあえずこの家を出る事をお勧めします。
息子の信之くんと妹の響子さんを連れて暫くご実家へ預けておいた方が良いと思います。
神戸くん、僕らは明日かつての佐伯家に行きましょう。」


「まさか杉下さんは旧佐伯家にも何かあると疑っているんですか?」


「そう考えるべきだと思いますよ。この状態の響子さんを見ればね…」


確かに響子の状態は普通ではない。

右京たちは精神科のカウンセラーなどではないが

それでも彼女が異常であることくらいはわかる。

その原因が環境にあるのならこの場から遠ざけるべきだと助言してみせた。

「わかりました。それで現在佐伯家に入居している方は何というお名前ですか?」


「今は北田さんという夫婦が住んでます。
けど刑事さん…私は今朝お伺いしましたがその時の北田さんは至って普通でしたよ?」


「一応念のためにですよ。まあ何事も無ければ良いのですが…」


こうして右京と神戸に見送られながら達也は急ぎ家から響子と信之を連れ出した。

先ほど発狂した響子は家から連れ出された後もコクリ…コクリ…と頷き続け

まるで何かに憑りつかれたかのように奇怪な行動を取っていた…
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:19:12.84 ID:VKN7a1Ov0

翌日―――


「神戸くん、遅いですねぇ。」


右京は一人、東京都練馬区寿町4-8-5の住所へとやってきていた。

そこはかつて佐伯家のあった場所で現在は北田という一家が暮らしている。

その家の前で右京は相棒の神戸が来るのを待っていた。

遅れること30分、ようやく愛車のGT-Rに乗った神戸が現れた。


「すみません。お待たせしちゃいましたね。」


「大丈夫ですよ。ところで遅れた理由はなんですか?」


「実は免許の更新に行ってきたんですよ。」


これが証拠だとでも言うかのように神戸は更新したばかりの免許を右京に見せた。

なにやら自慢したがっているがその理由は免許の種別がゴールドだからだ。

これは当然のことだが無事故、無違反の場合

運転手の免許区分はゴールドに区分けされている。

ちなみに神戸は2年ほど前に右京たちがERS(顔認証システム)の事件で

違反を犯したと疑われたが神戸があれはシステムの誤作動だと猛抗議してみせた。

その結果、ゴールド免許を保持することができたとのことだ。

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:19:48.31 ID:VKN7a1Ov0


「あれは顔認識システムの誤作動だと蒙抗議しましてね…
その甲斐あってゴールドになった訳ですよ。
ちなみにパンチ穴の開いた前の免許証も記念に貰ったんですけど見ます?」


「ドヤ顔は結構、行きますよ。」


普段は右京に運転の荒っぽさを注意されている神戸だが

自身が無事故無違反を象徴するゴールド免許をこれみよがしに自慢してくる。

そんな神戸を尻目に右京はとある一軒家の前に立った。

そこはかつて旧佐伯家、正確には既に北田という夫妻が購入した物件だ。

昨日の響子を見るにこの家でまたもや何かが起きていることだけは確かだ。


「はーい!あら?どちらさまで?」


「失礼、警視庁特命係の杉下という者です。」


「同じく神戸です。実はちょっとお話があるのですが…」


「わかりました。どうぞ中へ入ってください。」


旧佐伯家から出てきたのはこの家の現住人である北田夫婦の妻である良美。

彼女は訪ねてきた特命係を快く家に招こうとしていた。

こうして二人はさっそく家の中に入ろうとした時だ。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:20:37.77 ID:VKN7a1Ov0


「失礼、僕は後からにします。神戸くんだけ先に家の中に入ってください。」


こうして神戸だけが先に家の中に入っていく。

その間に右京はあるモノに注目した。それはこの家の玄関前のポストだ。

見るとそこには3日ほど新聞や郵便物が放置された状態だ。

これが長期間の留守ならわからなくもない。

だがこの家の住人は先ほどの良美からしてちゃんと在宅している。

それがどうしてこんな放置された状態になっているのかどうにも奇妙だ。

だが右京にとってさらに奇妙なことがあった。


「おや、奥に何か挟まっていますね。」


他の郵便物の他に何かがあることに気づきそれを取り出してみせた。

だがそれは…本来なら…この家に存在するはずのないものだった…
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:21:09.82 ID:VKN7a1Ov0


「これは…日記…?」


そう、右京が取り出したモノはかつてこの佐伯家で起きた惨殺事件で

佐伯一家の遺品となった伽椰子の日記だった。

だが本来、この日記はここに存在するはずがない。

何故ならあの事件後、

この日記は事件の本来なら俊雄の絵と共に

証拠品として警視庁の遺留品置き場に保管されていたはずだ。

それがどうしてこの家のポストに挟まっているのか?

これはまさしくこの家でまた何か奇妙な事件が起きているという明らかな証拠だ。

そのことを察した右京は急いで先ほど家の中に入った神戸の身を案じ

自身もまたすぐに家の中に入ろうとしたその時だった。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:21:41.95 ID:VKN7a1Ov0


「待ってください!」


誰かがいきなり背後から右京の肩を叩いた。

それは明らかに聞き覚えのある声だ。

ふと振り返るとそこには意外な人物がいた。


「ハァ…ハァ…なんとか間に合ったようですね…」


なんとそこにいたのは先ほど家の中に入ったはずの神戸だ。

これはありえない。

神戸が家から出てきたのなら

すぐにわかるはずなのに神戸は明らかに家の外から自分の肩を叩きに来た。

つまり神戸は家の外から現れたということだ。


「神戸くん…先ほど家の中に入ったキミがどうしてここに?」


「杉下さん!ここはもう危険です!早く逃げましょう!」


「はぃ?」


家の中に入って行った神戸が急に背後から現れた。

それだけでも奇妙なのにそれだけでなく家から逃げろという発言。

いつもの右京ならそんな言葉には従えなかったろう。

だがこの時何故かかつて亀山が言った

この家に絶対に入るなという忠告を思い出し、神戸の言う通りすぐさま立ち去った。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:22:20.61 ID:VKN7a1Ov0


「…」


そんな右京と神戸が立ち去る姿を窓越しから良美は不気味な目つきでジッと眺めていた。


「あの…奥さん、どうかなされたんですか?」


「いいえ、それよりもお連れの刑事さん遅いですね。」


なんとそこには奇妙な事に、

先ほど右京と一緒に出て行ったはずの神戸が、

何故か良美と一緒に家のリビングで彼女に勧められるままお茶を飲んでいた。


「あの人のことですから
きっと細かいことが気になってるんですよ。お気になさらないでください。」


ニッコリと営業スマイルで神戸は右京の行動を

いつものことだと気にせずマイペースでお茶を飲み続けていた。

だが言われてみれば確かに遅い。まさか本当にこの家には何かあるのか?

そう考えた神戸はお手洗いに行くと伝えてリビングを出て

怪しまれない程度にこの家の様子を探ってみることにした。

そこでふと目にしたのが台所だ。その台所の前に一枚の絵が置かれていた。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:22:52.87 ID:VKN7a1Ov0


「これは…子供が描いた絵…?」


気になって絵を調べると意外なことがわかった。裏面に書かれていた名前は佐伯俊雄。

かつてこの家で行方不明になった男の子の名前だ。

それがどうして台所の前に置かれていたのか?

嫌な予感がした神戸は台所の扉を開けてみた。するとそこではある男が倒れていた。


「しっかりしてください!…ダメだ…もう死んでる…」


すぐさま倒れている男を介抱しようと駆け寄るがその身体は既に冷たかった。

察するに死後2日近くが経過している。

死体が苦手な神戸はそれを直視することは出来ないが

倒れている男の死因は明らかに頭部を殴打されたことによる撲殺。

幸いにもこの男は身元を証明する持ち物を所持していた。

それで判明したことだがこの男の名は北田洋。現在のこの家の主であり良美の夫だ。

だがこうなると事態は最悪だ。その理由は妻の良美にある。

こんな台所に二日近くも倒れている夫に気づかないはずがない。

さらに言うなら神戸が先ほど飲んでいたお茶もここで汲んでいた。

つまり良美はこんな死体が放置されている場所で招いた客人に平然とお茶を出していた。

そう思うと神戸は不快極まりない吐き気に襲われた。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:23:21.01 ID:VKN7a1Ov0


「鬱陶しかったんです…」


「コーヒーの豆がブルーマウンテンじゃないとダメだとか卵の黄身を半熟にしろとか…」


「私もう…良美じゃないのに…」


そこへ背後から良美が忍び寄ってきた。

その手には何故かフライパンが…しかもそのフライパンには血痕が付着していた…


「あなた…まさか…そのフライパンで…」


「ええ、夫を殺しました。こんな風にして…」


その瞬間、ガンッと大きな衝撃音が響いた。

神戸は良美のよってフライパンで頭を殴られてそのまま床に倒れた。

その良美の背後には白塗りのゾンビのような姿をした少年が現れ、

良美は手を繋いで先ほどまでいたリビングへと戻っていった。

倒れた神戸の手には先ほど見つけた俊雄の絵が固く握りしめられていた…
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:24:02.65 ID:VKN7a1Ov0


その頃、先ほどGT-Rに乗り急いで佐伯家を後にした右京と神戸だが

右京は何故あの家から立ち去らなければいけないのかを神戸に尋ねたが返答は…


「すみません…今は言えません…」


「やはりキミも同じ事を言うのですね。かつての亀山くんもそうでした。
何の説明もなくあの家から避難しろとの一点張り、一体キミたちは何を見た…
いえ、何を知ったのですか?」


「本当にすみません…今は言えないんです!」


「そうですか。
ところでキミ…頭から血が出てますが怪我しているのですね。
どこでそんな怪我を負ったのですか?」


「そうか…さっき思い切り殴られたからな…痛たた…」


神戸は手で血を拭おうとした時だった。

右京の手元に置かれていた絵とそれに日記を見て思わず驚いた。

それを見て右京はまたもや奇妙に思えた。

何故なら神戸にはこの絵と日記のことに関してはまだ伝えていないはずだ。


「……恐らく僕がまた北田さんのところに戻ると言ってもキミは反対するのでしょうね。」


「ええ、お言葉ですが断固として阻止します。」


「…それでは鈴木さんの実家に行ってもらえますか。僕の考えが正しければ恐らく…」


「わかりました。
けど期待はしないでください。誰か一人でも生き残ってれば御の字なんですから…」


こうして神戸は車を反転させて一路、鈴木達也の実家に向かうことにした。

既に事態は最悪な展開を迎えつつある。それでも誰か一人でも助けられたらいい…

そんな思いを募らせながら二人が乗ったGT-Rは鈴木達也の実家へと急行した。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/14(水) 06:25:18.21 ID:VKN7a1Ov0


「夜分にすみません。警視庁の杉下という者ですが…」


それから数時間掛けて鈴木達也の実家に到着した。

既に時刻は真夜中、本来ならこんな時間に尋ねるべきではないのは重々承知している。

だがこの緊急事態のため急いで鈴木親子の所在を確認しなければならない。

だから何度も玄関をノックしたのだがどういうわけだか応答がない。

この家の車も自転車もあるから外出した形跡は見られない。

こうなれば強硬手段も致し方ないと思いベランダから乗り込もうとした時だ。


「あ…刑事さんたち…」


玄関から達也の息子である信之が現れた。

とりあえず伸之の無事を確認することはできた。

だが他の住人はどうなったのか?急いでそのことを尋ねてみるのだが…
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