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北上「我々は猫である」

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791 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 04:57:28.40 ID:ZdCPTCn50
76匹目:like a cat on a hot tin roof

熱いブリキ屋根の上の猫。

熱い砂浜なんかを裸足で歩いてみたらどうなるか。そんなの猫でなくても慌てて足を動かしながらパタパタと駆けて行くことになるだろう。

故にイライラしている、落ち着かない様子を表す。

でもこの時私は非常に落ち着いていた。

苛立って、内心グチャグチャだったけど、いつも通り、いやいつも以上に落ち着いていた。
792 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 04:58:03.85 ID:ZdCPTCn50
北上「はあ」

あれから三日経った。

考えさせてくれ。それが提督の出した答えだった。

そりゃ驚いてたもんね。あの吹雪ですらフリーズしてたし。

そういや提督が置いてきたくないやつがいるーって言った時も驚いてたな。アレはなんだったんだろ。私と同じで提督は無自覚だと思ってたのかな。

大井「きーたかーみさん」

まあ何にせよ三日経った。何があっても時間というのはあっさり進んでいくものだ。アインシュタインの嘘つき。

あれから提督とも吹雪ともまともに話していない。殆ど日課になっていた提督室にも行っていない。

でも大して変わらなかった。任務はやってるし出撃もしてる。僅かな事務的な会話だけで淡々と日々が過ぎていく。

大井「北上さーん」

提督だけじゃない。結局のところ私も保留にしてしまっている。

現実を、心を。

でもひょっとしたら、このまま何も変わらず、何も進まず始まらず終わらずにずっといた方が
大井「北上さんっ!!」
北上「うわっ!?」ガッ
793 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 04:58:51.36 ID:ZdCPTCn50
北上「ったぁ…」

仰向けになって読んでいた本が驚いた拍子に顔に落ちてきた。

まあ実際のところ読んではいなかったというか、頭に全然入ってこなかったんだけど。

大井「もぉ、どうしたんですか最近。死んだ秋刀魚みたいな目になってますよ」

北上「そりゃまた美味しそうだね」

大井「そうとらえますか…」

大井っちを見る。制服姿だ。髪も少し乱れてる。そういえば今日は出撃だったんだっけ。

北上「お疲れさん」

大井「ありがとうございます」

私の横に座る大井っち。

ふむ。胸はデカい。腰にはクビレがあるが決して痩せてるという程ではない丁度いい肉付き。顔は美女揃いの艦隊の中でも中々に綺麗な方だし、髪もツヤツヤだ。あ、髪は皆そうか。

そりゃ提督も惚れるわけだ。でも何がきっかけなんだろう。最初はケンカばっかりだと聞いたけど。
794 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 04:59:39.32 ID:ZdCPTCn50
大井「北上さん」

北上「何?」

大井「提督と何かありましたね」ジトー

北上「疑問形ですらない」

しかも深海棲艦を見る時より冷たい目をしておる。

北上「まあそうなんだけどね」

流石に大井っちには隠せないな。

大井「三日。三日間ですよ。まさかなんの進展もないとは思いませんでした」

三日というのも分かってるのか。流石大井っち。略して流っち。

大井「どうせ提督が悪いんでしょうけど」

北上「いや、それが違うんだ。今回ばかりは私も悪い」

大井「そうなんですか?」

北上「うん…その、なんていうかな」

大井っちに全部言う訳にはいかないしなあ。

北上「お互い保留にしちゃってるんだ。決めなきゃいけない事を決めずに、言えずに」

大井「お互い、に?」ジトー

北上「えっと、主に提督が…」
795 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:00:28.48 ID:ZdCPTCn50
大井「やっぱりあの人ですか」スッ

流れるように立ち上がる。ってまさかこのまま提督のとこに行くつもりじゃ!?

大井「ちょっと提督に一発入れてきます」

北上「待て待て待て落ち着いて!提督はただ、考えさせてくれって、なんでかそのままで…」

大井「…そうですか」スッ

あっさり座る大井っち。あ、さては私を焦らせるために立ったな。

大井「北上さん。あの人は馬鹿です」

北上「え」

大井「間抜けです。意気地無しです。空気も読めないし私達の心も読めません。そのくせ自分では分かった気になってる無能です」

聞いてるだけでこっちまでダメージを受けそうなくらい容赦も躊躇もなく罵詈雑言を並べていく。提督がこれ聞いたらどう思うか…

大井「でも考えなしじゃありません。的外れで空回りしてばかりですけれどそれでもあの人なりに考えがあるんです。あの人なりに私達の事を考えてはいるんです」

北上「…うん」

凄い、凄い説得力だ。

大井「でもどんな考えであれ北上さんをこんなに待たせるなんて許せないので一発殴ってきます」

北上「結局そこ!?」
796 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:01:32.67 ID:ZdCPTCn50
またしても大井っちが立ち上がる。誘いとわかっていても乗らない訳には行かない。

北上「ストップ!」ガシッ

寝転んでいた状態からなんとか起き上がり大井っちの腰にしがみつく。

大井「まだ何かありますか?」

無反応。真面目モードの大井っちだ。これは手強い。

北上「大井っちに、大井っちに解決されたら嫌だ」

口をついてでたのは子供みたいな言い訳だった。

大井「北上さん。物事の解決に時間が必要な時は多いです。でも時間が全てを解決することはありません」

北上「ご最もです…」
797 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:02:19.94 ID:ZdCPTCn50
大井「本当にわかっていますか?」クルリ

大井っちが体を回して私の方をむく。

北上「分かってるよ。分かってるから、無理なんだ」

大井「ほら、しゃんとしてください!」
北上「うわっ」

無理やり正面に立たされる。大井っちの鋭い眼差しが私の目に泳ぐことを許さない。

大井「こんな風にちょっとあの人のけつを引っぱたいてくるだけです。後はお二人で好きにしてください」

北上「…分かったよ。こーさん。大井っちに任せる」

大井「ええ、任せてください!あの人の事はよぉく分かってますから」

意気揚々と、自信満々に部屋を出ていく。

北上「はあ」

適わないなあ。

でもまあ確かに、大井っちの方が適任だろう。なんせ

北上「いてっ」

痛みが走る。さっき本を顔に落とした時傷でも出来たかな?

気が緩んでまたゴロンと寝転ぶ
798 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:02:51.44 ID:ZdCPTCn50
提督はどうするだろうか。

私はまだまだ練度の足りない新兵だ。危険な相手に、まして三人で挑むなんて自殺行為だ。当然止めたいだろう。

でも迷った。保留にした。

それだけ提督にも復讐心があったからだろう。提督も引く訳にはいかないのだろう。

それは私も同じだ。

心にぽっかりと穴が、なんてありふれた表現がしかしピッタリと当てはまってしまう。

これまで私を支えていた希望はあっさり折られた。私はきっとそれを許せない。

そうする事が、きっと今私にできる唯一の恩返しだ。
799 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:03:29.03 ID:ZdCPTCn50
大井っちが知ったらなんて言うだろう。

多分大井っちは提督から聞き出すだろう。首を突っ込んだからには大井っちは絶対に諦めない。

復讐。もしかしたら私も提督も戻ってこれないかもしれないんだ。大井っちなら止めるだろう。

何よりも提督を。

提督と大井っち。

二人は今きっと話している。

私が知らないような話を。
800 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:04:04.18 ID:ZdCPTCn50
提督室を思い出す。

所々凹んで草臥れたソファ。

年季の入った床。

シミのある机。

ラクガキのあるテーブル。

人の顔に見えるという天井の模様。

部屋に似合わず新品のライト。

よく使われる綺麗な棚。

誰も使っていないのかホコリだらけの棚。

しょっちゅう新しくなる窓ガラス。

古臭い匂いがする椅子。

皆で刺繍をしたというカーペット。
801 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:04:31.91 ID:ZdCPTCn50
よく仰向けになって本を読んだソファ。

提督に本の内容を話したりもした。

新しいライトが明るすぎると文句を言ったりもしたっけ。

机のシミは、誰だっけな。駆逐艦なのは覚えてるけど。

天井の模様は女性に見えたな。提督はぬらりひょんとか言ってた。

提督に似合わない厳かな椅子は、肘掛が妙に座り心地よかったな。

アルバムでもめくるかのように様々なことを思い出す。

でも私がした決断は、それらを燃やすのと同じ事だ。

それにあの場所は、私のものじゃないんだ。
802 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:05:09.96 ID:ZdCPTCn50
もしかしたらここには戻ってこれないかもしれない。

でもいいや。提督には大井っちがいる。大井っちを置いてくのは少し気が引けるけど、私は私のために向かわなきゃ行けない所がある。

北上「…」

痛い。
803 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:05:40.89 ID:ZdCPTCn50
あそこは提督や大井っちがいる所だ。

私は、北上のまがい物の私はあそこにいるべきではない。

あるべき者をあるべき所に。

私は帰るべきだ。

北上「痛い」
804 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:07:18.38 ID:ZdCPTCn50
どうにも痛い。まさか本が当たったところ擦りむけていやしないか。

重苦しい身体を引きずり起こして部屋に置かれた鏡を見る。

北上「お前、なんで泣いてるんだ?」

そう言ったのは私だ。

鏡の中の北上じゃない。

そこには泣いている北上がいた。

でもそれなら、私が泣いてる事になるじゃないか。

何だかすごく気味が悪い。

とても悲しそうで、悲痛に歪んだくしゃくしゃの表情を見ているとこちらまで悲しくなってくる。

でもそれは私なんだ。今私が見ているのは。
805 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:07:45.42 ID:ZdCPTCn50
訳が分からず、でもこれ以上見ていられなくてそのまま後ろにバタりと仰向けに倒れる。

畳は私を怪我をしない程度に受け止めてくれた。

背中が痛い。

でもこんなんで泣いたりはしない。

自分の事なのに自分のじゃないみたいだ。

私は少し考えるのをやめて目を閉じた
806 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:08:30.50 ID:ZdCPTCn50
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「ん?」

目が覚めた。

というかいつの間にか寝ていた。

そして何やら後頭部に違和感がある。柔らかくて暖かい何かの上に頭が乗っている。

大井「起きましたか北上さん」

北上「大井っち」

膝枕だったか。

大井「ビックリしましたよ。戻ってきたら大の字で寝てるんですから」

北上「私もビックリした」

大井「あれからずっと寝てたんですか?」

北上「あれからって、どれくらい経った?」

大井「2時間くらいでしょうか」

北上「多分寝てた。って2時間も話してたの?」

大井「1時間半くらいです。後は北上さんを膝枕してました」

北上「十分長い…多摩姉達は?」

大井「部屋には来てたみたいですよ。北上さんを見て察したのかすぐ出ていったようですけど」

北上「何を察したって言うのさ」

大井「泣いていたから」

北上「!」
807 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:08:57.34 ID:ZdCPTCn50
大井「先程拭いちゃいましたけど、泣き腫らした跡がありましたよ」

北上「そっか」

大井「何か、ありましたか?」

北上「わかんない。でもなんでか泣いてた」

大井「そうですか、そう」

北上「提督は?」

大井「待ってますよ。北上さんを」

北上「私を」

大井「もう待たせないって言わせました。後の事を決めるのは二人です」

北上「大井っち」

大井「はい」

北上「ありがとね」ムクリ

大井「私は。私は此処で待ってます。ずっと」

北上「うん。ありがとうね」
808 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:09:25.18 ID:ZdCPTCn50
大井「安心してください、あの人はちゃんと受け止めてくれますよ」

あぁまただ。

北上「どうかなあ。船って結構重いよ?」

また痛い。

大井「そうですねえ。猫一匹くらいなら?」

北上「はは、提督に猫は似合わないよ」

大井「そうですか?ギャップ萌えってやつですよ」

さっきの鏡と同じだ。大井っちを見ていると、締め付けられるように痛い。

北上「大井っち」

大井「はい」

北上「行ってくるね」

大井「はい」
809 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:09:59.91 ID:ZdCPTCn50
逃げるように部屋を出た。

心臓が荒波のように脈打っている。

平静を装って歩いてみた。深呼吸をしてみた。

でも落ち着かない。

私は少し駆け足でパタパタと提督の元へ向かった。
810 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/02/19(火) 05:14:55.87 ID:ZdCPTCn50
北上を攻略しようとすると大井っちとの距離が近づいて大井っちの好感度をあげようとすると北上と親密になる恋愛ゲームがやりたい。

瑞瑞コンビのポスターが可愛すぎて遅くなりました。
凄く可愛いです。
一緒にショッピング行って着せたり着せられたりしたいです。
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 11:01:17.64 ID:cVsgrheQO

とてもよくわかるぞ
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 11:21:18.03 ID:ql+OWB4Do
おっつおっつ
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 17:44:23.92 ID:B0bHLFg90
「1提督さん、これ着てみて! うん似合ってるから帰りはそれでいてね(ふんどし一丁)」
2/14ふんどしの日の出来事であった
こうですか
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 22:07:47.26 ID:xfLhFLXzO
なおガチムチの褌一丁はソレ単体でセックスアピールだぞ
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 07:57:22.93 ID:/ahpoDKtO
製作はOverfloWでじゃないとね!
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 04:01:42.72 ID:uNzgH5zT0
綺麗に思い込んでるせいで逆にすべての辻褄があってしまう北上さんすこ……
817 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:25:11.64 ID:l/nRBvBm0
78匹目:bell the cat



猫の首輪に鈴をつける。

言うのは簡単だけれど、はたしてその危険な役割を誰がやるか。

幸いにも猫は私だ。

なら進んで鈴をつけようじゃないか。
818 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:25:54.36 ID:l/nRBvBm0
提督「よお」

北上「…痛む?」

提督「肉体的にはさほど」

北上「そっか」

提督「でも痛え」

北上「みたいだね」

提督の右頬が少し赤くなっていた。誰にひっぱたかれたかは考えるまでもない。

大井っち、ケツじゃなくて頬を叩いたのね。
819 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:26:32.38 ID:l/nRBvBm0
提督はいつもみたいに奥の机にはおらず手前のテーブルにいた。

なんとなくその場の雰囲気で私も提督の向かい側に向き合うように座る。

提督「こっぴどくやられたよ。大井のやつ容赦なさすぎてな」

北上「そっか」

提督「頬は別にいいんだけどな。手より口がその何倍も怖い」

北上「だろうね」

提督「昔っから言う時は言うやつでな。もしかしたら言葉で人を殺せるんじゃないかと毎回思うよ」

北上「…」

提督「さっきだってまた大「いいよもう」ん?」

北上「大井っちの話は、もういい」
820 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:27:13.83 ID:l/nRBvBm0
提督「わりい。はは、ダメだな。また逃げだ」

北上「?」

提督「北上」

提督が真っ直ぐ私を見る、

久々に提督と目が合った。

目を見られた。目を見れた。

提督「力を貸してくれ」

真っ直ぐ、そう言った。

北上「いいの?」

提督「巻き込みたくないというのが本音だが、戦力が足りないのも本音だ。でもだからって捨て石にさせるつもりはない。やるからには必ず討つ。討って、全員で帰投させるさ」

目は口ほどに物を言う。上手いことを言うものだ。

確かに提督の眼差しからは言葉よりも確かな決意が伝わってきた。
821 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:27:44.48 ID:l/nRBvBm0
提督は決めたんだ。はっきりと、どうするかを。

その目に私は少し後ろめたさを感じてしまった。

だって私はまだ、迷っている。

復讐。その気持ちは本物だ。提督に協力すると言ったのは間違いなく本心だ。

でも今まで通りここで幸せに暮らしていたいというのも紛れもなく本心なのだ。
822 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:28:50.86 ID:l/nRBvBm0
北上「うん。協力する」

提督「おう。頼むよ。それじゃま手始めに、文字通りな」スッ

提督が手を差し出してきた。大きくて広い手。

北上「提督にしては洒落たこと言うね」

提督「たまにはな」

北上「じゃあ」スッ

私も覚悟を決めなくちゃいけない。

提督「ただし」
北上「え」

握手、の前に提督が遮った。

提督「別にいつでも止めていい。逃げたっていい。こんな事、やらないにこしたことはないよ」

北上「それ、今言う?」

提督「わり。でもそうだろ?」

北上「そりゃあ、まあね」

提督「俺だってそうさ。今だって何かのっぴきならない事情で断念せざるを得なくなりやしないかって、そんな事を何時も考えてる」
823 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:29:21.50 ID:l/nRBvBm0
北上「土壇場になって中止なんて言うつもり?」

提督「そうなるかもな。ギリギリになって勇気が出ないかもしれん。それを踏まえての握手だ」

勇気か。

復讐する勇気か。

それを諦める勇気か。

北上「分かったよ」

協力者同士。いや共犯と言うべきかな。でもとても暖かい握手を交わした。

私は決意した。提督の思いに応えよう。

未だ迷ってる。だからハッキリさせよう。

私がどうしたいのか。
824 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:30:12.56 ID:l/nRBvBm0
北上「へへへ」

提督「なんだよ変な笑いしやがって」

北上「初めて提督と会った時の事思い出しちゃってさ」

提督「あー。あれももう随分前に感じるな」

提督が上を向く。昔を思い出しているのだろうか。

北上「てーとく」

提督「ん?」




北上「名前は軽巡、北上。まーよろしく」

提督「おう、よろしくな」
825 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:30:49.37 ID:l/nRBvBm0
提督「でだ」

北上「はい」

提督「俺達は目標達成のためには余りにも色々なものが足りない」

北上「確かにね」

提督「その中で最も補いやすいのがお前の練度だ」

北上「ぅ、ですよね…」

提督「残念ながら一朝一夕で練度をどうこうするのは無理だ。だがだからと言ってやらない理由はない」

北上「つ、つまり」

提督「と「特訓です!!(バァン」はっ!?」
北上「えっ!?」


大井「特訓です!!!!」


北上「いやなんでいるの」

提督「聞いてたなてめえ!」
826 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:31:53.28 ID:l/nRBvBm0
大井「そりゃあもちろん提督が変なこと言わないか見張りを」

当然のように部屋に入ってきた。

提督「言わねえよ何考えてたんだよ」

北上「あのー特訓って?」

大井「提督の言う通り練度は直ぐには上がりません。私も北上さんよりは高いですけれどそれでも一線で通用するかは微妙なレベルです」

提督「だ「だから基礎的な訓練以外に何か飛躍的に力をつける方法が必要です」

北上「ふむふむ」
提督「…」

大井「ここで大事なのが私達にとって今倒すべきなのは深海棲艦ではなくあのレ級一体という事です。つまり一点集中で対策が練れるんです」

あ、提督が完全に話すのを諦めた。

大井「なんであれアイツを沈めれば勝ちなんです。その点で見ると私達雷巡はチャンスがあります」

北上「あー、魚雷か」
827 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:32:41.74 ID:l/nRBvBm0
大井「元々私達は対空や砲撃は苦手です。ですが魚雷による致命的な一撃であれば他の船と比べても練度の低さを補ってあまりあるものがあります」

北上「確かに」

大井「そして!何よりも大きいのは私と北上さんのコンビネーション!!」ンバッ

北上「うんうん。え?」

大井「コンビネーション!!」シュバッ

北上「2回も言わんでも」

しかもポーズ変えて。

提督「実際ポイントだと思うんだ。普段艦隊は色んな艦種をバランスよく編成するから忘れがちだが同じ艦種同士だからこそ出来る動きってのは確かに強い」

北上「なるほどね。確かに練度が低くても二人合わせてなら補い合えるかも。でも大井っちと二人で出撃した事ってほとんどないんじゃ」

大井「普段の以心伝心っぷりを戦場でも発揮すればいいんですよ。戦闘経験はこれから積んでいくんですから」

北上「そう何上手くいくのかね」

相変わらず大井っちは…

北上「ん?」

あれ?
828 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:33:23.00 ID:l/nRBvBm0
提督「どした」

北上「え、何?大井っちも?大井っちも一緒なの!?」

大井「当たり前じゃないですか」フンス

北上「いやいや全然当たり前じゃないでしょ!」

提督から事情は聞いてると思ったけどまさか参加してくるとは…待てよ、よく考えたら実に大井っちらしい行動だな。

大井「大丈夫ですよ。北上さんを一人で行かせたりなんかしませんから!」

北上「って言ってるけど、いいの?」

提督を見る。

大井っちをこんな危険な事に巻き込む。それは提督が一番嫌がりそうなものだが。

提督「止められると思うかこいつを?」

北上「思わない」

提督「そういう事だ」

提督弱いなー。

大井っちは、あードヤ顔してる。
829 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:34:15.30 ID:l/nRBvBm0
大井「愛にも色々ありますけれど、少なくとも私は愛する者を宝箱にしまうようなことはしません」

提督「お前みたいにスパッと割り切れりゃ楽なんだがな」

大井「提督は肝心なところでいっつもウジウジしてますからねえ」

提督「はっはっはっ今度は耳が痛え」

北上「大井っちは凄いよねぇ。私もそんな風になれたらいいのに」

大井「いいんですよ北上さんは。今の北上さんこそ北上さんなんですから」

提督「北上に甘すぎるだろお前」

大井「提督は甘えすぎなんですよ。誰にとは言いませんけどお?」

提督「てめぇ…」

大井「それに私だって悩んだりはしますよ。でも決めるべき時はそうするだけです」

北上「決めるべき時か」
830 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:34:50.09 ID:l/nRBvBm0
大井「何にせよ、私と北上さんのコンビならどんな壁だって超えていけます!」

北上「いや別に二人だけというわけじゃ」

提督「サラッと俺を無視すんな」

大井「不純物が混ざるとコンビパワーが落ちるんです」シッシッ

提督「あそーいうこと言う、そーいう言っちまうんだ。飛龍と日向が悲しむだろうなぁ」

大井「あの二人は別です」

提督「適当過ぎんだろ!」

北上「それでも五人かあ」

提督「これでもマシになった方だよ」

大井「最初三人でどうするつもりだったんですか…」

提督「自暴自棄な所があったのは否めない」

北上「だろうねぇ」
831 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:35:34.25 ID:l/nRBvBm0
提督「が、今や五人だ。一世一代の大仕事だぜ。ほかの奴らが血眼になって探してる鬼の首、俺らでもぎ取ってやろうぜ!」

大井「今のところ鬼の素顔を知ってるのはウチだけですからね。提督が報告してないせいですけど」

提督「これから首持って謝りに行くから大丈夫だよ。歴史はいつも勝者が作るもんだろ?」

大井「実際勝ち目が無いわけじゃないですからね。敵は自分が狙われているとは思っていない」

提督「対するこっちは徹底的にメタを張れる」

大井「戦争じゃなくて仇討ちですからね。ルールも何も無し」

提督「例えどんな手を使ってでも」

大提「「討つ」」ニヤリ

実に楽しそうに二人が笑う。
832 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:36:07.90 ID:l/nRBvBm0
提督「ま、そういうわけで明日から二人は特訓だ」

北上「具体的にはどういう?」

提督「飛龍に頼むつもりだ。内容はあいつに任せる。二人のコンビと雷撃が一番の伸び代だがだからと言って基礎訓練をしない理由にはならない。やれることは全部やるぞ」

北上「うへ〜気が滅入る話だ」

大井「ならやめますか?」

北上「そうもいかんでしょ」

提督「訓練は明日からだ。今日はとりあえず休んで明日に備えとくといい」

北上「提督は?」

提督「具体的な作戦はこっちでやっとく。お前らはそっちに集中しとけ」

北上「ほ〜い。それじゃ」

提督「おう」
833 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:36:40.64 ID:l/nRBvBm0
いよいよだ。

死にたくないから、怖いから。

ずっと戦いから逃げていた私だけど、初めて自分から戦いに向かう理由ができた。

大井「あぁ提督」

提督「ん?」

部屋を出る直前に大井っちが提督を呼ぶ。

大井「約束、忘れないでくださいね」

提督「おう。信じろ」
834 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:37:24.39 ID:l/nRBvBm0
二人はどんな話をしたんだろうか。

二人は何を知っているんだろうか。

二人はどんな約束を
北上「大井っちは、なんで提督に協力してるのさ」

大井「そうですね。私にとっても、大事なリベンジですから」

リベンジ。

一年前に大井っち達がレ級に遭遇した件か。

海の化け物。

首輪に鈴をつけるどころじゃない。私達でそれを倒すんだ。
835 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/01(金) 04:48:56.23 ID:l/nRBvBm0
カレンダーをめくる時期。今年は児ポじゃない。

週一で書、けてないですね。きっとお出掛け吹雪が可愛すぎるせいですね。
基本的に鎮守府にいない娘は書かない主義ですが実はウチに吹雪はいません。書いてて好きになったタイプなので、これを機に着任してもらうつもりです。
ゲーム内だけでなく、読んで、または見て、あるいは書いて描いて。出会うきっかけが色々あるっていい事です。
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/01(金) 11:35:02.71 ID:zWUsty2K0
お前の吹雪が好きだからもっとかいて(傲慢)
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/01(金) 16:47:31.73 ID:Nrur+DOc0
特化型が陥りやすい視野狭窄おこしてんなー
敵の方が同系列の優位な必殺技持ってる時は少年漫画的に危ないw

これ雷撃さえ雷撃さえって無理して航空戦で北上中破して先制雷撃で飛龍が大破して砲撃戦一巡で日向が大破して二巡目に北上が大破するまである
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/01(金) 22:47:59.00 ID:hPjTfDa1O
つ イオナ
839 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:30:45.21 ID:BrqyKwfY0
80匹目:Cat has nine lives



猫は9つの魂があるという。イギリスのことわざだったかな。

高いところから難なく着地したり、狡猾で、急にいなくなったかと思えばフラっと現れる。

そこから猫は幾つも命を持っているのだろう。だからしぶとい。そういう意味になったそうだ。

確かにそうらしい。1度は死んだ身でありながら、あろう事か船として蘇ったのだから。

でもならばこの身体には、猫以外に一体幾つの魂が宿っているのだろうか。
840 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:31:21.42 ID:BrqyKwfY0
『次!三時方向!』


北上「!」

大井っちと共に無線で指示された方向に砲塔を向ける。

向かってくるのは流星。飛龍さんの操るそれは確かにその名に恥じぬ起動を描いていた。

流れる星に対空射撃を行う。最も私達の対空能力はたかがしれている。だが少しでも回避運動を取らせることが出来ればそれでも十分だ。

北上「来た!魚雷五本!」
大井「二と三!」

私に二本大井っちに三本か。

回避行動を取りながら魚雷に狙いを定める。
841 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:32:07.26 ID:BrqyKwfY0
『七時と十一時!』


北上「早っ!?」

慌てて狙うのをやめて次の方角を見る。魚雷を撃つ練習は後回しだ。

大井「北上さん!」
北上「うん!」

ぐるりと魚雷を避けながら大井っちと出来るだけ近づく。

二方向からそれぞれ魚雷が放たれる。

対空射撃をやめ、同時に私達もバラバラな方向に一斉に動く。これで狙いはつけ辛い、はずだ。


『で次は上ね』


北上「は?」
大井「え?」

上、上から?そんなんどうしろってんですk
842 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:34:23.91 ID:BrqyKwfY0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「あぁぁぁぁぁ…」

机に顔を擦りつけ体に蓄積された疲れを声とともに絞り出す。残念ながら疲れの方は一切取れやしないのだが。

大井「カレー冷めちゃいますよ」

北上「食べる気力も湧かないよぉ」

ハード。ハードだった。飛龍さんの訓練は。

朝っぱらからいきなり訓練やるよ〜と連れ出されたかと思えばお昼までみっちり対空訓練である。

北上「死にそう」

大井「初日からそんなんじゃ持ちませんよ?」

北上「既に持ってない…」
843 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:35:14.76 ID:BrqyKwfY0
私がバテたのでお昼とはいえ少し早めの時間の昼食。食堂にはあまり人気がない。

「午前はこの辺にしとこっか」と飛龍さんは言っていたが、午後はもっと長いのかな…

北上「大井っちはよく平気だね」

大井「平気とは言い難いですけど、北上さんよりは丈夫ですから」

北上「むむ」

負けてはいられんな。少し冷めて食べやすくなったカレーに手をつける。

大井「北上さん、今日は少し力み過ぎてませんでしたか?」

北上「そりゃ今までみたいに逃げ回る訳にはいかないしさ」

大井「それはそうですけれど」

日向「随分と頑張っているようじゃないか」

大井「日向さん」

日向「一緒にいいかい?」

北上「もちろん」

向かい側に座る日向さん。

和風定食か。この人洋物とか食べるのだろうか?少なくとも見た事はないし想像ができない。
844 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:36:02.25 ID:BrqyKwfY0
日向「提督から聞いたよ。まさか君が、君達がね」

大井「私もですか?」

日向「そうだ。少なくとも私から見たらな」

大井「必然ですよ」

日向「何がきっかけかは知らないが以前の君ならそうしなかった。違うか?」

大井「…」

日向「まあ一番わからないのは北上なんだけれどね」

北上「それについては内緒ですよ」

日向「では私のデザートをやろう」

デザート。おしるこか…

北上「カレーにおしるこはちょっと…」

日向「それは残念」

ちっとも残念そうには見えないが。
845 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:36:41.25 ID:BrqyKwfY0
日向「君達二人だけの秘密というわけか。素敵な話じゃないか」

それは違う。私は大井っちには

大井「私も知りませんよ。北上さんだけの秘密です」

先に口を開いたのは大井っちだった。

日向「ほお…」

表情を変えずにサラッと言ってのけた大井っちと、それに驚いた私の表現を見て日向さんがどこか納得したように頷いた。

日向「どうやら中々に込み入った事情があるようだね。まあそこに口は出さないさ」

北上「日向さんこそ、どうして?」

日向「分かりきっているだろう?飛龍のやつと同じ、何処にでもあるような極々単純な復讐心さ」

そう言って味噌汁を啜る。
846 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:37:31.43 ID:BrqyKwfY0
日向「というのは違うか」

北上「え」

大井「違うんですか?」

日向「そういう気持ちが無いわけじゃあないんだ。だが私が協力している理由は、提督に頼まれたからさ」

大井「頼まれたって一体どんな風にです?」

日向「何も土下座されたり脅されてるわけじゃない。普通に、実に紳士的に、とても真摯に頼まれただけだ。私は船だからね。船長が舵を切ったらそちらを向くだけさ」

北上「船、まあそうりゃそうだけど」

大井「それじゃあ自分の意思ではないみたいじゃないですか」

日向「北上には前に話しただろう。艦娘とはそういうものだよ。多かれ少なかれ。だからこそ君達の反応は、私から見ればかなり意外でとても興味深いね」

相変わらずだなこの人は。アナタ以上に変わっている人もそうはいないと思うけれど。
847 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:38:17.76 ID:BrqyKwfY0
日向「だからまあそんな変わった後輩に私からのアドバイスだ。ひとつの事に夢中にならずに周りを見ることだ」

北上「なんだか抽象的過ぎてちょっと」

日向「憎しみは人の無意識のセーブを外すのには有効かもしれないが私達艦娘にとっては逆効果だ。私達の力とは艦の部分であり個々の意思ではない」

大井「復讐そのものを否定するような言い方ですね」

日向「もちろんそうさ。私はそれを肯定した事は一度もないし、これからもしないつもりだ」

キッパリと言い切って箸を置く。

いつもそうだ。日向さんは自分の考えをきっちりと持っている。

それが相手を真っ向から否定する事だとしても。

日向「安心するといい。基本的に君達の見方だよ、私は」

北上「日向さんはその基本的って所が怖いんだよねぇ」

日向「おや、それは心外だな」
848 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:38:52.97 ID:BrqyKwfY0
日向「そうだな、なら具体的なアドバイスをしようか。北上」

北上「私?」

日向「図書室に行くといい。神風のやつが最近寂しそうだぞ」

北上「!」

そういえば最近行ってなかったな。そんな余裕がなくて、

北上「余裕か」

日向「必死になる事はいい事だが余裕がなくなるのはいけない。余力を残せという意味じゃないのは分かるだろ?」

北上「まあ、なんとなく?」

日向「ふむ、そうだな」

何やら考え込む日向さん。何が飛び出すのやら…
849 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:39:33.85 ID:BrqyKwfY0
日向「八八歩」

北上「へ?えー、えっと七五歩?」

将棋だろうと当たりをつけて適当にそれっぽい事を返してみる。

確か最初の数字が将棋盤の座標なんだっけか。そもそもアレって縦横幾つなんだっけ?

日向「将棋、まあチェスでもいいが、これが戦争と言うやつだ」

大井「王を取れば勝ち、という事ですか?」

日向「ルールがあるということさ。守るかどうかは別としてだが。そして」

ギシリと木製の椅子が、いや床そのものが軋む音がする。

無理もない。戦艦の背負う巨大な砲塔はその重さだけで十分な破壊力を持っているのだから。

日向「これが私達がやろうとしている事だよ」

そう言いながら今しがた何食わぬ顔で身につけた艤装を、砲塔をこちらに向ける。
850 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:41:00.68 ID:BrqyKwfY0
とてつもない威圧感だ。本来戦艦の砲塔をこれ程間近で向けられる事などまずない。

日向「ルールなど気にする必要は無い。戦略などない。如何なる手段を使ってでも敵を討つ」

北上「なら将棋なんていらなかったんじゃ」

日向「そうでもない。こうして無防備なまま私の前に座ってくれるだろう?」

大井「ルールを守るのではなく使えと」

日向「そういう事も視野に入れろ、という話さ。さて、王手だ」

北上「こーさん」

無茶苦茶だな。でもその通りだ。

大井「ところでそろそろ椅子が限界のようですけれど」

日向「ふむ、そうだな。提督には内緒にしておいてくれ」

なんでもお見通しなのか、案外考えなしなのか、読めない人だ。
851 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:42:07.68 ID:BrqyKwfY0
北上「余裕、視野か」

大井「ふふ、午後はもう少し上手く出来そうですね」

北上「かもね。うんにゃ、そうだね」

どこか穏やかな空気が流れ出した食堂。だったのだが、そこに突風が吹いた。

飛龍「さぁ午後の!!ってあり?二人ともまだ食べてた?」

大井「飛龍さん?」

食堂に飛龍さんが駆け込んできたのだ。

北上「え、まさかもう食べたの?」

飛龍「別に私ら消化とか気を使う必要も無いし詰めこみゃ大丈夫よ。それよりほら、時間は有限なんだから!」

思わず大井っちと顔を見合わせる。

スパルタだ。もちろんやる気はあるけれど流石にこれは。

日向「飛龍」

飛龍「ん?あ、日向も一緒にやる?」

やる気スイッチMAXの飛龍を横目に日向さんが懐から本を出す。

いや、本ではない。その本に挟んであった栞を出した。あれは確か鏡の着いている栞だったはずだ。

それを無言で飛龍さんの前に突きだした。
852 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:42:46.85 ID:BrqyKwfY0
飛龍「ッ!!」

鏡を見て飛龍さんが妙な反応をする。強ばるというか、怯えたような、そんな感じの。

日向「甘い物は乙女の動力源なのだろう?デザートを食べる余裕はあるか?」

飛龍「…勿論」

日向「奢ってやろう」

飛龍「…ごちになります」

そう言うやいなや来た時と同じように駆けて行った。

大井「えっと、今のは一体?」

日向「余裕が無い、ということさ」

北上「?」

やはりさっぱり分からない。古株同士なにか通じていたようだが。

大井「私達もデザートいっちゃいますか」

北上「私お汁粉で」

日向「私は餡蜜で頼む」

大井「何サラッと押し付けてるんですか」
853 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:47:52.77 ID:BrqyKwfY0
なんやかんやでデザートを取りに行ってくれる大井っち。

飛龍さんと並んでメニューを見ているようだ。

北上「日向s、あれ?」

いない。いや体を屈めているのか?どうやら椅子と床の損傷を確かめているらしい。

やらなきゃ良かったのに…

日向さんに飛龍さん、大井っちと私。この四人で、挑むのか。

まあとりあえずは白玉でも頬張っておきますか。
854 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/07(木) 04:53:23.34 ID:BrqyKwfY0
瑞雲師匠も好きだけど仙人じみた日向も好き

ボスはとりあえず雷巡CIに祈る時代も今は昔。
戦闘に関してはゲームに忠実にすると味気ないしかと言って実際のお船の知識は皆無なので割と無茶苦茶書くと思います。
五月雨ちゃんを見るような暖かい目で見て頂ければ嬉しいですしご指摘があっても嬉しいです。
吹雪ちゃんにはこの後色々やってもらいます。
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 07:40:21.04 ID:Ld4+G0poo
おっつ
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 20:13:08.65 ID:HpueXL3bO

戦闘は他に上手いことやってる人の参考に
アレンジすればエエのでは?
最近はバトルものあったか知らぬが
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/09(土) 16:55:23.66 ID:01m84aVYO
船の戦いまんまだと1ドットくらいから戦闘始まるし……
アーケード参考にしよう
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/09(土) 18:44:32.49 ID:rH40GOM3O
AAでブラウザ版の戦闘を表現しよう
859 : ◆9GJgiqK3MpKd [sagasaga]:2019/03/18(月) 04:34:45.37 ID:NvEJ31sT0
82匹目:香箱






猫の香箱座り。

後ろ足を曲げ腹を地面につけ前足の先を折りたたむように胸元にしまいまるで箱のようにコンパクトに座るその様を指して香箱と呼ぶ。

これを海外だとcat loafと呼ぶ。

loafはパン1斤の意味で、まるで焼きたての四角いパンのように見えるかららしい。

顔を地面につけた姿などはまさに箱だ。今思うと我ながら凄い格好である。

人間で言うならどんな格好だろうか。

二足歩行なので流石に地面に腹をつけてとはいかないが、例えば椅子に座り机に両腕をまるで枕にするかのように組みそこに頭をのせ突っ伏す。

そう、まるで
860 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:35:19.26 ID:NvEJ31sT0
北上「うわっ!」

咄嗟に防御体制をとる。

直撃かと思ったがどうやら至近弾だったらしい。直ぐに体制を立て直しつつ自分へのダメージを確認する。

北上「ちぇ、防御力はないんだよぉ」

右足の魚雷発射管がダメになっている。爆発がないのは有難いが使えないものは使えない。

飛龍「動ける!?」

北上「はいっ!」

消えた選択肢を惜しんでも意味は無い。まだ敵は残っている。

鎮守府から少し離れた海域。敵はそう強くはないが、それでもいつもと違う戦闘に私は苦戦していた。

私と大井っちと飛龍さん。

三人編成による戦闘に。
861 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:36:00.90 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「ふへぇ〜」

大井「中々、思っていたより、キツイですね」

飛龍「本番はこんなもんじゃ済まないわよ。制空にも余裕がなくなるからね」

普段の戦艦などに守られながらの安全な戦いと違い自分の身を自分で守る戦い。

先制雷撃の緊張感も半端じゃない。何せ少しでも数を減らさないと手が足りなくなるのだ。

飛龍「どう?キツそうなら引き返す?訓練なんだから無理する意味は無いからね」

北上「私はまだ大丈夫」

これまでの逃げの技術が役に立っているのかそれでも私は小破で済んでいる。

大井「私も大丈夫です」

大井っちは逆に殺られる前に殺れ精神だ。チャンスを見つけて飛かかる様はネズミを追う猫の様だった。
862 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:36:32.76 ID:NvEJ31sT0
飛龍「おーけーおーけー。次でラストね」

飛龍さんは、汗一つかいてない…分かってはいるけれどレベルが違う。

軽い足取りで進んでいく。

大井「行きましょう北上さん」

北上「うん」

真剣な顔の大井っち。

私はそれが気になっていた。
863 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:37:20.97 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

リベンジ、と大井っちは言った。

かつて大井っち達は件のレ級に遭遇し逃げられている。

その時の詳しい状況は知らないが、少なくとも大井っちにとってそれはトラウマのようなものらしい。

リベンジ。私の事を差し引いてもそれは大井っちにとってとても重大な意味を持つもののようだ。

一体何が?

大井「北上さん!!」
北上「んなっ!?」

ギリギリのところで砲弾を躱す。

ちぇっ、余裕を持てと言われたがこれじゃあただの余所見でしかない。

しかしどうにも気になってしまう。大井っちの事が、無性に。

なんなんだろうか。初めての感覚だ。

また少し痛みが走る。
864 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:38:04.07 ID:NvEJ31sT0
艦載機に気を取られた敵駆逐艦に砲弾をぶち込み改めて周囲の状況を確認する。

北上「!!」

魚雷だ。敵軽巡が魚雷を放った。

あの方向は、大井っちだ!

大井っちは重巡の方に集中している。今当たると確実に大損害になる。

大井っちに知らせなきゃ!

北上「ッ!」

でも、そこで詰まった。

あのまま、あのまま魚雷が当たったらどうなるだろうか。

側面から魚雷がぶち当たる。艤装は壊れ魚雷発射管や砲塔の大半がダメになるだろう。

そうなれば攻撃は疎か回避もままならない。そうなればいい的だ。最悪轟沈しかねない。

そんなことになれば

そうなれば

もしそうなったら

北上「…」

なってくれたら?
865 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:38:43.00 ID:NvEJ31sT0
飛龍「大井!!」

飛龍さんが叫ぶのと艦載機が軽巡を沈めるのは同時だった。

一瞬そちらに気を逸らした大井っちが魚雷に気づく。

間一髪の回避。その隙に私が最後の重巡に魚雷を放つ。

北上「大井っち!大丈夫!?」

大井「はい!なんとか…」

飛龍「ひゃー焦ったぁ。冷や汗かいちゃったよ」

北上「私も…」

私はホッと胸をなでおろした。

飛龍「よしっ。今日は帰りますか」

北上「今日は、ねぇ」

大井「明日もあるんですね…」

飛龍「さぁさぁ帰ってご飯だよ、ご は ん」

北大「「はぁ…」」

空は少し赤みがかってきていた。
866 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:39:24.34 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「…」

夜、食堂。

午前午後のスパルタ訓練による疲れで逆に寝れなくなったので自販機で甘い物でも買おうかとやってきたのだが、

飛龍さんがいた。

窓際の、月明かりが差し込む暗くて明るい机に突っ伏していた。

まさに香箱。周りにあるのはお酒かな?酔って寝てしまったようだ。

でもなんでこんな所で?しかも一人で。
867 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:40:11.68 ID:NvEJ31sT0
北上「…」

触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。

ここはスルー決め込んでさっさとジュース買って

飛龍「ぁ、きらかみだ」ムクリ

北上「わっ、起きてた…の?」

飛龍「今起きた…の…ん〜…ッ」ノビー

大きく伸びをする飛龍さん。意外と細身の彼女だが横から見るとやはり出るとこは出ている。

飛龍「あり、もう月があんなに登ってる」

北上「もう日付変わりますよ。一体いつからここに?」

飛龍「んー10時くらいからかなあ。覚えてないや」

そう言ってゆっくりと酒を片付け、いや違う!まだ入ってるのを探してんだこれ!飲む気だ!!

飛龍「さあ一緒に飲もう!」ドン

北上「あー、私お酒はあんまし」

飛龍「いーよいーよジュースでも。飲みで大事なのはお酒を飲む事じゃなくてアルコールがあるって事だからね」

北上「なんかそれっぽい事言ってるけど飲みたいだけですよね」

飛龍「まあね」
868 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:40:40.52 ID:NvEJ31sT0
まあいいか。この人にも聞きたいことがある。

急ぎ足でジュースを買って飛龍さんの向かい側に座る。

飛龍「さーって、乾杯ってのもなんか変だけど、今日も一日お疲れ様っ」

北上「お疲れ様〜」

缶とおチョコという妙な組み合わせ。月光の下で乾杯をした。
869 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:41:22.95 ID:NvEJ31sT0
北上「それ何杯目なんですか?」

飛龍「ん〜…何杯目だろうね」

北上「さいですか」

空母の皆さんはしょっちゅう飲んでるイメージがあるがどうやらそれは間違いではないようだ。しかし、

飛龍「ンッ…っあー生き返る〜」

一口ずつ味わって飲む姿はなんというか上品というか、普段の豪快な飛龍さんとは打って変わって滑らかさみたいなものを感じる。

まあこんだけ飲み散らかしてりゃそれも薄れるのだが。

北上「どうしてこんな所で?」

飛龍「あーダメダメ。次は私が質問する番だからね」

北上「そーゆー感じですか」

しかし話が進めやすいのも事実だ。ここは乗っていこう。
870 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:42:14.57 ID:NvEJ31sT0
飛龍「なんでこの件に関わったの?」

北上「それは…」

いきなり答えにくいものが来たな。というかみんな聞いてくるよねこれ。当たり前かもしれないけど。

北上「きっかけに関しては半ば強制的に知らされたというか、まあ吹雪に色々言われたもので」

少し本筋から逸らしつつ別の話題で興味を惹いてみる。

飛龍「吹雪が?」

北上「うん。何故か私に色々と」

飛龍「へぇ〜。吹雪が、ねえ。吹雪が。なんだろうね」

北上「なんでだろう」

飛龍「吹雪の事は私もよくわかんないのよ。協力的なようで非協力的というか。この件について賛成なのか反対なのかイマイチ掴みにくいのよね」

飛龍さんもよく分かっていないらしい。
871 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:42:42.35 ID:NvEJ31sT0
北上「じゃあ次はこっちの番で」

飛龍「ばっちこい」

北上「何故一人で飲んでるんですか」

飛龍「ノーコメント」

北上「あズルい!それはズルい!」

飛龍「だぁーってぇ〜」

またしても机に突っ伏した。

ちゃんと容器は避けているのが少し可笑しい。

飛龍「…怖がられちゃったんだもん」ボソッ

北上「怖がられた?誰に?」

飛龍「…蒼龍に」ムクリ

起き上がった飛龍さんの表情はまるで捨てられた子猫のように弱々しいものになっていた。
872 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:43:59.32 ID:NvEJ31sT0
酒の入ったおチョコを、まるで穏やかな海をゆく船のように揺らしながら静かに話し始めた。

飛龍「私、自分じゃそんなつもりないんだけどさ。この件に関することだとついムキになるっていうか、変なスイッチ入っちゃうのよ」

北上「あー」

昼間のあれを思い出す。鏡を見て、自分を見ての反応はそれか。

飛龍「別に気が触れるみたいな事じゃないんだけどね。ただ分かる人には分かるって感じで」

北上「それが日向さんとか蒼龍さん?」

飛龍「そ。日向は事情知ってるからいいんだけど、蒼龍は何も知らないから」

そうか。

話していないんだ。

飛龍「蒼龍も何かは分かってないの。分かってないけど、私を見て怯えるような目をするの」

私にはいつもとそう違いはないように思えたけれど、やはりこの二人だからこそ分かるものがあるのだろう。

飛龍「それでね、向こうもそれを誤魔化そうとして距離をとるのよ。それがまたなんてゆーか、すごくクるのよ」

北上「だから一人で」

飛龍「ヤケ酒よヤケ酒」

そう言って寂しそうに笑う。
873 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:44:32.67 ID:NvEJ31sT0
こうしている今の自分を周りはどう思うか。考えたこともなかった。

飛龍「はい終わり。次は私の番ね」

おぉ切り替えが早い。

北上「どーぞ」

さてお次はなんだろうか。

飛龍「午後になってから急に注意散漫になってた。というか大井ちゃんばっか気にして、何かあった?」

それは、

北上「それは、自分でもよくわからなくて…」

飛龍「わからない?」

北上「えっと、でもその答えは同時に次の質問でもあって」

飛龍「つまりどういうことよ」

北上「大井っちはなんであんなに強くこの件に関わろうとしてるのか」

私は誤魔化した。大井っちが気になる理由はきっとほかにある。

でもこの疑問自体は本物だ。

飛龍「…」

また一口。お酒を流し込む。
874 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:45:04.81 ID:NvEJ31sT0
飛龍「それが気になる、って?」

北上「まあ、そんな感じです」

飛龍「そっかぁ」

また一口。まるで口の滑りを良くするための潤滑油のように。

そうでもなければ話せないというように。

飛龍「ねえ、これから話す事は誰にも言わないでよね」

北上「は、はい」

お酒が入っているとは思えないほどとても真剣な顔で確認とる飛龍さんについ緊張をしてしまう。

飛龍「一年前の、つまり私達が初めてアイツに会った時の話よ。

輸送大型船とその乗客乗員。そしてその護衛艦隊。それら全員が謎の深海棲艦に沈められ、私達がたどり着いた時には跡形もなかった。

記録上はそうなっている、あの時の。
875 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:45:42.93 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

知ってると思うけど私達は間に合ってたの。

いや、間に合ったとは言い難いかな。

着いた時には船は火災でドス黒い煙を吐いていて、護衛の艦娘達はその船より先に全員沈んでた。

深海棲艦は一体もいない。そう思って私達は船に近づいた。

そこで出会ったのよ。アイツに。

艦載機は出してた。でも黒い煙に隠れていたし、何よりあの状況で一体だけで残り船を破壊するでもなく溺れる人々を見て楽しんでるようなのがいるなんて想像もしてなかった。

予想外の邂逅。でもそれは向こうも同じだったみたい。

これほどまでに早く援軍が来るとは全く思ってなかったのよ。
876 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:46:25.51 ID:NvEJ31sT0
至近距離。私達にとってはね。

特に空母の私からすればスナイパー持ってるのに殴った方が早いみたいな距離よ。それほどの距離で私達とアイツは出会った。

お互い同様で一瞬動けなかったのを覚えるわ。

私達にとって幸運だったのはアイツが大きな損傷を抱えていた事ね。護衛艦隊は本当に優秀だったのよ。

レ級のダメージは控えめに見ても中破。だから私は勝てると踏んだ。提督も。

思っちゃったの。

空母1、重巡2、雷巡1、駆逐2。

手負い相手に至近距離。実際勝てる戦いだったわ。ただ状況と、相手が異質すぎた。

こっちが突っ込むなりアイツは下がったのよ。

船と人々の方へ。気持ちの悪い笑みを浮かべながら。

撃てるわけがない。私達は船や人々を救出するために来たんだもの。
877 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:47:04.05 ID:NvEJ31sT0
敵の異質な行動による動揺もあって皆どうしていいか分からなくなってた。後は一方的嬲られるだけよ。

こっちは撃てない。向こうは撃ち放題。良い的よ。

ただ私達にはまだ幸運があった。

船が爆発したの。どこかは分からないけど、突然それまでとは比べ物にならない量の煙を吐き出した。

それらは風に乗って私達全員を包み込んだ。

だから私達は突っ込んだ。砲撃じゃない。肉薄して直接ぶち込むために。

今思えば馬鹿よね。何も見えない中策もなしにただ突進する。感情だけで動いてたわ。

それに空母の私は外から見てるだけ。あれで誰か沈んでたらと思うと今でもゾッとする。
878 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:47:45.41 ID:NvEJ31sT0
飛龍「だから結局そこで何があったかはよく知らないのよ。

確かなのはレ級には逃げられた事と、

あそこで提督が、前の提督が死んだ事よ」

北上「…」

飛龍「って、あー前の提督の事とかって北上知ってるっけ?」

北上「うん、まあ」

飛龍「私もね、後から知ったの。あの船に乗ってたって。というか皆そう。日向も吹雪も、提督も」

北上「なんで船に?」

飛龍「海外に隠居してたんだって。んで、なんでかこっちに向かってる最中に運悪く、ね」

なら、だとしたら、間に合わなかったというのは、飛龍さんにとってそれは…
879 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:48:22.81 ID:NvEJ31sT0
飛龍「でさ、その時大井ちゃんの様子が変だったのよ」

北上「変?」

飛龍「多分、人間の死を見ちゃったからでしょうね。たまにいるのよ、そういうのに敏感な娘」

たまに、か。前にも聞いたっけ、艦娘は人とは違う。違うから人に感情移入しにくい。人の死を、人のように悼むことが出来ない。

飛龍「大井ちゃんにとってトラウマなのよ。きっとね。リベンジってのはそういう事、なんじゃないかな。まあ憶測なんだけどね?」

北上「うん、でもすごく参考になった。流石に本人に聞くのはちょっと気が引けるから…」

飛龍「デリケートなところだもんねえ」

北上「そうなるとやっぱり吹雪がなんであやふやな立場にいるのか分からないなぁ」

飛龍「私的には北上がなんで参加してるのかもかなり謎なんだけど」

北上「それは!そのぉ…。ん?」

飛龍「何何?話してくれちゃう?」

北上「あれ?飛龍さん、前任の提督の事私に話しちゃっていいんですか?」
880 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:48:56.48 ID:NvEJ31sT0
飛龍「え、まあ事実知ってる相手なら別にいっかなって。他の娘になら話さないわよ」

北上「いえ…そうじゃなくて」

飛龍「?何が?」

あれ?おかしくないか?

北上「だって、前任者について話さないって…」

谷風が言ってた。以前からこの鎮守府にいた皆は吹雪が言わない限りはそれについて口を閉ざしていると。

結果的に私は知ってしまっているからいいということなのか。

飛龍「あ〜、あ?まあ迂闊に話すことじゃないけどさ。でも別に、聞かれれば答えるわよ」

北上「え」

飛龍「そもそも普通前の提督がいることなんて気にもとめないもんね。一応隠してはいるけど、知らないと嘘をつく事じゃないと思うし」

なんのことも無いという感じで話す。
881 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:49:31.01 ID:NvEJ31sT0
飛龍「それにさ、私としては少し、その事はむしろ知っていて欲しいなぁって。そう思ったりもするから…」

そう言って最後の一口を飲み干した。

北上「そう、ですか」

じゃあ何故だ。あのウミネコ。

何故隠すだけじゃなく嘘をついた。

協力すると言ったのに、どうして。

北上「はぁぁぁぁ。皆何考えてるのかサッパリだぁ」

飛龍「皆?皆ねぇ。そうね、きっと各々色んなこと考えてるんでしょうねえ」

北上「そりゃそうでしょうけどぉ」

飛龍「北上。明日は訓練お休みね」

北上「なんで!?」

飛龍「一回頭を冷やそ。お互いに、ね?」
882 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:50:01.63 ID:NvEJ31sT0
北上「頭を、冷やす」

視野を広く。

余裕を持って。

北上「お休みかあ」

何をしようか。

久々に球磨型皆で遊ぼうか。図書室も行こう。阿武隈でもいじりに行って、駆逐艦に絡まれるのも悪くない。

後は、後は…
883 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:50:49.76 ID:NvEJ31sT0
飛龍「あとこれ」ドンッ

北上「お酒?」

瓶1本。一升瓶って言うんだっけ。

飛龍「分からないことはね、お酒飲んで話し合えば解決するのよ!」

北上「酔ってますよね」

飛龍「よっれない!」

うわダメだこれ。だいぶまわってきてる。

北上「でも確かに話し合うのは大切だよね…」

飛龍「そうよ!私達がこの体で得た一番のポイントは言葉なんだから!」

北上「!」

言葉。なるほどその通りだ。

猫のままなら私は自分の気持ちを誰かに伝える事は出来なかっただろう。

言葉を理解していなかったらこれ程色々な感情を抱く事もなかった。

みんな私が北上になったからの物だ。
884 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:51:40.72 ID:NvEJ31sT0
飛龍「北上。私はね、日向も言ってたけどさ、復讐は何も得ることの出来ないものだと思ってる」

北上「ならどうして?」

飛龍「復讐したって私から失われた物は何一つ戻らない。でもね、やっぱりすごくスカッとすると思うの」

北上「スカッとって、そんな適当な」

飛龍「うん。すごく幼稚で安易な考え。でもそれが私の気持ち」

真っ直ぐで素直な気持ち。それが飛龍さんの動機か。

日向さんも飛龍さんも自分の信念がある。

私もはっきりさせなくちゃね。

北上「もっと話し合わなきゃ」

飛龍「おっいいねいいねぇ。ほら、一杯いっとく?」

北上「…一杯だけ」
885 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:52:20.48 ID:NvEJ31sT0


この後、疲れた体に覿面だったらしいアルコールによって気を失ったかのように机に突っ伏して寝てしまった私を飛龍さんが部屋まで運んでくれた事を朝起きて大井っちに聞いた。

886 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/03/18(月) 04:59:10.74 ID:NvEJ31sT0
飛龍蒼龍はお互いに引け目を感じてるみたいなのが凄く好きだと伝えたい

わかりやすいのでアーケードの規模を目安にしてみようと思います。
コメントがいつもとても嬉しいのでこれからも私の好きを書き殴っていきたいです。
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/18(月) 10:52:24.35 ID:wOQQWDY9o
おつおっつ
888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/19(火) 08:40:32.67 ID:1MPlXr0tO
アーケード意識しつつ現実的な艦娘の利点を考えていこう
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/19(火) 12:38:08.20 ID:QinpyiJpO

激しい運動の後にアルコールはキクよねー

> 艦娘の利点
「深海棲艦に有効な攻撃が通る唯一の存在」で必要十分では
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/19(火) 17:40:09.61 ID:qEIWk0BG0
そういう意味じゃないと思うぞ
深海の攻撃も艦娘に普通に通る以上有利にも不利にもならんし
人型を取ったことで獲得出来る動作はレ級にもできるしどうしたもんか
あえて言えば艦同士に比べて艦隊連動は早いし密集出来るはずだから囲んで棒で殴るかw
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