【ガルパン】まほ「アンツィオ高校で幻の戦車道を撃破する」

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2 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:05:51.81 ID:Q7JtTmqY0

<中学2年の6月・名古屋市桜ケ丘中学校>

名古屋人1「千代美! 最後のベニヤ板持ってきたぞ!!」

安斎「よーし! それじゃ一気に仕上げちゃおうか! 翠はそっち持って!」

名古屋人2「はい!」

安斎「この秘密兵器と私の作戦さえあれば私達は絶対に勝てる!」

名古屋人1「そうだ! あの天下の黒森峰ユース相手に私達のフラッグ車で囮して時間稼いでる間に他のみんなでハリボテ陣地を展開して!」

名古屋人1「森の前で立ち往生させて持久戦に持ち込めば! 私達フツーの中学の戦車実習チームでも黒森峰に勝てる!」

名古屋人2「勝てます!」

安斎「その通りだ! さあ作業を進めよう!」

名古屋人1「…いやそんなコントじゃないんだから。ここまで付き合っといてなんだけどさぁ」

名古屋人1「そもそも最初の囮の時点で撃たれて試合終了じゃない?」

安斎「いやそこはこう、渚のドリブル走行でスイスイッとさ?」

名古屋人1「5人抜きなんてバスケの試合でも無理だっての」

安斎「いけるいける! ほら、球技やってる奴は戦車も上手いってよく言うだろ?」

安斎「まあぶっちゃけちゃうと、開始5分で即終了でも構わないっちゃ構わないんだけどな」

名古屋人1「はあ!?」

安斎「それはそれで美味しいだろ? こんな9時過ぎまで教室残って、せこせこ作業しといてさ」

安斎「その成果を試す場すらなく、はい終了ーってなったら」

名古屋人1「帰っていい?」

安斎「ダメ」

名古屋人1「ったく、こっちはバスケ抜けて来てるってのに」

名古屋人2「でも私、少し楽しいです。こうやってみんなで、夜の教室で一緒のことしてるって」

安斎「へへっ、だろう? この後は、ラーメン屋で祝勝会だ!」

名古屋人2「ラーメン!」

名古屋人1「祝勝会って」

安斎「祝勝会だ。何せ私達はもう勝ってるんだからな!」

安斎「だってそうだろう? ただの学校の授業で、ここまで楽しめてるんだ」

安斎「絶対に黒森峰の奴らより、私達の方が楽しんでる!」

安斎「それはもう、私達の勝ちと言ってもいいじゃないか! なあ!?」

名古屋人2「はい!」

名古屋人1「千代美って、ホントに独特だよなぁ」

安斎「よっし! 準備完了!」

安斎「そんじゃラーメン行くぞー!!」
3 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:07:10.81 ID:Q7JtTmqY0
<中学2年の6月・名古屋市桜ケ丘中学校戦車実習場>

<黒森峰ユース・フラッグ車車中>

まほ(おかしい…どうしてこうなった?)

まほ(これが本当に黒森峰の戦場だというのか…?)

まほ(一体どこで歯車が狂った…?)

まほ(…初手。敵フラッグ車の単身突撃。そこで撃破できていれば5分で終わる試合のはずだった)

まほ(疾かった。こちらの5輌の砲撃を掻い潜り、隊列を乱し、あまつさえこちらの1輌の履帯を切っていった)

まほ(一般中学の実習チーム相手に落伍車を出すわけには行かない。履帯の修理に時間を取られた)

まほ(その間に視界の悪い森を要塞化された。20輌近い戦車の防御陣形)

まほ(無論敵も実数は5輌。正体は戦車の写真を張り付けたベニヤ板)

まほ(ならば正面から打ち破るまでと進出した結果)

まほ(ベニヤ板の背後に隠れた本物の戦車の砲撃で、1輌を撃破されてしまった)

まほ(同時に茂みに偽装していた戦車に退路を断たれ、更に1輌失った)

まほ(辛うじて突破し森から脱出したものの…)

まほ(ベニヤ板の戦車。本物の戦車。ベニヤ板の戦車の背後に隠れた戦車。そして埋伏の戦車)

まほ(森に攻め入ることもできず、攻略の糸口も見いだせないまま、対峙を続けてしまっている)

まほ(3対5という、劣勢に立たされたままで…)

まほ(……)

まほ(初手の突撃に対処できなかったのは、疲労のためだろう)

まほ(2軍の練度を高めるために行われる、伝統の列島縦断遠征)

まほ(通過するすべての県で戦車道の試合を行う過酷な遠征…時には1日に2度や3度の試合すらこなす)

まほ(…試合ではないな。動く的を相手に数をこなすことだけを目的とした演習だ)

まほ(リトルのチームではなく戦車実習のある中学を相手に行うのは)

まほ(2軍とはいえ伝統ある黒森峰ユースが万に一つも敗れることがあってはならないからだ)

まほ(……)

まほ(例えここから逆転したとしても、監督からの叱責は免れない。チームの士気は最低だな)

まほ(叱責だけではない。黒森峰ユースの選手としてのプライドだってボロボロだろう)

まほ(……)

まほ(雑念を捨てろ、西住まほ。この状況を打開することだけを考えるんだ)

まほ(このまま対峙を続けていれば、先に倒れるのは間違いなくこちらだ)

まほ(考えろ。敵の思考を読み取れ。敵も強者。戦線を膠着させただけで満足している筈はない)

まほ(勝つための一手を必ず打ってくる筈。考えろ。次の一手を)

まほ(敵は今度は、何をしてくる…!?)
4 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:09:35.26 ID:Q7JtTmqY0
<桜ヶ丘中・フラッグ車車中>

安斎「なっ、なあ渚!? 翠!? こっ、これってかなりいい勝負だよな!? いい勝負してるよな私達!?」

名古屋人2「してます! してますよ千代美さん! あの黒森峰ユース相手に!」

名古屋人1「間違いなくいい勝負だ千代美! というかコレ、全部計算してやってたの!?」

安斎「ばっ、馬鹿言うな! 全部偶然だよ偶然! ただ私はこうなったらいいなぁ、とかこういう偶然が起きたらいけるなぁ、とかそんな感じでふんわりとさぁ!」

安斎「そっ、それが何だよこれ!? もうビッシビッシ決まっちゃって…うあ”あああああ”!? どうしよう!? どうしようこれ!?」

名古屋人1「どうしようってそりゃ、勝つしかないでしょ!! 次はどうする!? どうすれば勝てる!? 私今、かなり本気になってるよッ!!」

安斎「どうすれば勝てるって、そんなんわかるわけないだろ!? 私の予定じゃ開始5分で撃たれて終了ーっ、だったんだから!」

安斎「何なら昨日みんなでラーメン食べに行った時点で、もう満足しちゃってたんだものーぉ! 作戦なんて何もないぞ!?」

名古屋人1「はあ!? ホントに怒るよ千代美!!」

名古屋人2「考えましょう千代美さん! 千代美さんなら出来ます!」

安斎「いや無理だって! こっちはそんな、諸葛孔明じゃないんだぞぉ!?」

名古屋人2「いいえできます! 千代美さんの土壇場の作戦で、こっちは2台も落とせてるんですから!」

名古屋人1「そうだやれるよ千代美! 流れはこっちに来てるんだ!!」

安斎「そっ、そうか!? よしじゃあちょっと考えてみる!! 双眼鏡貸せ!」

安斎「……」

名古屋人1「どうだ? 千代美? 向こうはどうしてる?」

安斎「全員こっち向いてるな…でもってやっぱり」

名古屋人1「やっぱり?」

安斎「向こうの隊長、めっちゃかっこいい」

名古屋人1「……」バシッ

安斎「痛い! 今叩いたな!? 渚今叩いたな!?」

名古屋人1「本気になってるって言ったでしょ千代美!? ちゃんと考えてって!!」

安斎「考えたって出るわけないって! 無理だって!! 見ただろお前達も!? 5人で囲んでたのに突破されたんだぞ!?」
5 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:10:40.49 ID:Q7JtTmqY0
安斎「あんな、王子様みたいなの相手にして勝てるわけないって!!」

名古屋人1「王子様って!」

名古屋人2「千代美さんは恋愛小説の読み過ぎです! 確かに、凛とした美しさのある方だとは思いますが!」

安斎「だろ!? 翠もそう思うだろ!?」

名古屋人1「じゃあもう後で握手でもしてくればいいでしょ!? いい勝負だったなって!!」

安斎「握手!?」

名古屋人1「いい千代美!? 何でもとにかく楽しむって千代美の考え、千代美のそういうとこ、私も大好きだよ!?」

名古屋人1「でもね、試合に勝つってのもすごく楽しいんだ! 私は千代美にそれもわかってほしいッ!」

安斎「渚…」

名古屋人1「あんだけ遅くまでみんなで頑張ったんだ! せっかくここまで来たんだから! 絶対勝とうよ千代美!」

名古屋人1「もし勝ったらサイゼでホントの祝勝会だ! パスタ奢ってあげるよッ!!」

安斎「パスタ!!」

名古屋人2「パスタ!!」

名古屋人1「昼だったらスタミナ太郎でもいいよッ! だから勝とうッ!! 黒森峰ユースに!!」

安斎「よしわかった! じゃあ私達だけ後ろに回ろう! 射程ギリギリからあっちのフラッグ車を撃ち抜くんだ!!」

安斎「向こうはこっちの数も把握できてないと思うから、気づかれさえしなければそれで勝てる!!」

安斎「最後の作戦は立てたぞ! 私の仕事は終わりだ!! もう知らないぞ! 後は二人が頑張れ!!」

名古屋人1「よーしわかったッ! シュートポイントまでは私が引き受けた! そっから先は翠の責任だねッ!!」

安斎「外したら残念会は翠の奢りだな!」

名古屋人2「あ、酷い! 私だって戦車は素人なんですよ!?」

安斎「大丈夫大丈夫! 弓道とか華道とかやってる子は戦車道も上手いってよく言うだろう!?」

名古屋人1「ちゃんと狙える場所まで連れてってあげるから! そっから先は弓道と一緒だよッ!!」

名古屋人2「…わかりました! 覚悟を決めます! 絶対に、射抜いて見せます!!」

安斎「よーし! 最終作戦、発動だァーーーーっ!! デケデンっ! あったらっしっいーい! あさがいつものよーに、って痛い痛い! 叩くな渚!」

名古屋人1「本気だって言ってるでしょ!! 茶化すのはやめてって!!」

安斎「しょうがないだろぉ!? そんな、私、こんな緊張耐えられないんだって!! 素で無理なんだって!!」
6 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:12:34.45 ID:Q7JtTmqY0

<黒森峰ユース戦車隊の後背らへん>

名古屋人1「この辺りでどう? 翠」

名古屋人2「…まだです、あと100mお願いします」

安斎「だ、大丈夫か? 気づかれるんじゃないか?」

名古屋人2「あと100mです。それで間違いなく、100%、射抜けます!!」

名古屋人1「よしわかった! 近づこう!」

安斎「…なあ、渚」

名古屋人1「何? 千代美? アホなこと言ったらホントに叩くよ?」

安斎「いや、その…戦車道って楽しいな?」

名古屋人1「いっ、今更アンタがそれを言うの!?」

安斎「いや! なんというか、私はこう戦車の中でアレコレわいわいやるのが好きだったんだけど…こういう緊迫感も、なんかいいなぁってさ?」

名古屋人1「…あははっ! それは千代美、それが勝負の楽しさだよッ!」

名古屋人2「千代美さん、矢をお願いします」

安斎「おっ、ポイントに着いたんだな…よし、装填完了だ!」

名古屋人2「……」

名古屋人1「決めろよ、翠ッ…!!」

安斎「ちょ、ちょっとキューポラから出るぞ! 勝つんだったら生で見たい! 二の矢は要らないだろ!?」

名古屋人2「当然です…!」

安斎「ん…? ちょっと待て翠、渚…う、うわぁ!!?」ガタッ

名古屋人1「千代美!?」

名古屋人2「千代美さん!?」

まほ「……」

安斎「こっ…こっち見てるってぇえ”えええええええっ!!!」

まほ「撃てっ!!」



審判「フラッグ車走行不能! 黒森峰ユースの勝利!!」
7 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:13:32.92 ID:Q7JtTmqY0

<戦車実習場・黒森峰ベンチ>

カン督「何をやっとるんだ貴様らは!」バンッ

まほ「すみません、監督」

カン督「西住ィ! 貴様ァ、この遠征何のためにやっているかわかってるのか!?」

まほ「私達2軍の練度を高めるため…」

カン督「違うだろう!?」バンッ

カン督「この遠征はなァ! 黒森峰ユース、ひいては西住流の威名を全国に知らしめるためにやってるんだッ!!」

カン督「戦車やるなら西住流! 全国の中学生がそう思うような戦いを貴様らはせにゃならんのだッ!!」

カン督「それを何だあのザマは!? 素人の計略にまんまと乗せられやがって!!」

カン督「これじゃあ何のためにやってるのかわからんだろうがっ!!」バンッバンッ

まほ「すみません」

カン督「本当にわかってるのか!? 貴様の為にやってるようなモンなんだぞこの遠征はッ!!」

カン督「西住流の宣伝の為にこうやって毎日毎日車・試合・車・試合で…もうケツが痛いんだ俺は! もう車内で寝れないんだぁ、俺はァ!!」バンッバンッバンッ

まほ「……」

カン督「…なんだその目は?」

まほ「は…?」

カン督「なんだその目はと言ってるんだ! 貴様本当に反省してるのか!?」

まほ「すみません」

カン督「すまないならもう少しすまなそうな顔をしろッ!!」パンッ!

まほ「っ…!!」

カン督「フン! 少しはすまなそうな顔になったな西住! 俺は何考えてるかわからんような面をしてるヤツが大嫌いなんだ!!」

安斎「オラァッ!!」ドゴォ!

カン督「ぬおおっ!?」

まほ「!?」

名古屋人2「千代美さん!?」

名古屋人1「アンタいきなり何してんのさっ!?」

カン督「な、なんだ貴様は!? 背後からいきなり飛び蹴りだとォ!?」

安斎「うるさいっ! アンタこそ今何をした!? 女の子の顔にビンタだと!? 体罰だぞそれは!」

カン督「なっ!? 俺はただ不甲斐ない戦いをしたコイツの性根を叩きなおしてだなァ!!」

安斎「アンタ人間のクズか!? 何を叩きなおすっていうんだ!? ソイツはちゃんと戦って勝ったじゃないか!!」

まほ「え…?」

名古屋人1「落ち着いて千代美! こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!」

安斎「普通なワケないだろうこんなこと!! ちゃんと勝ったのに! 何で褒めてやらないんだ!?」

まほ「ま、待って」

安斎「謝れよアンタ!! 隊長に謝れッ!! 土下座して謝れッ!!」

カン督「貴様ァ! 言わせておけば!!」ガタッ

まほ「待って、監督、待って」

名古屋人2「先生! 先生ーっ!!」

教師「どうした!? 何をしてる安斎!! やめなさい!!」

安斎「っ、先生だって! アイツが!!」

教師「いいからやめなさい!!」
8 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:14:36.78 ID:Q7JtTmqY0
教師「本当に、申し訳ございませんでした」

カン督「まったく、生徒の躾くらいしっかりして欲しいものですなァ?」

カン督「蹴られた腰がまだ痛みますよ? えぇ? 先生?」

教師「いや本当に、返す言葉もございません。普段はあんな子じゃないのですが」

カン督「まあ、パンツァーハイということにしておいてあげましょう。アンタの顔に免じてだ」

教師「本当に、申し訳ございません…ですが監督さん。どうか子供達の頑張りも認めてやってはくれませんか?」

教師「うちの子達も、夜遅くまで一所懸命に頑張って、今日の試合を迎えたんです」

教師「それは、おたくの子らも一緒の筈でしょう?」

カン督「フン、そんなこたぁわかってる。だがそんな甘ったれは黒森峰ユースじゃ」

カン督「黒森峰じゃあ許されんのだ。特に、西住の奴にはな。奴は徹底的に鍛えてやらにゃならん」

カン督「坊主の説教なら死んでからにして貰おう」
9 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:16:18.00 ID:Q7JtTmqY0
<戦車実習場・出口>

安斎「うぅ…先生にめっちゃ怒られた…」

名古屋人1「とーぜんだよ! 飛び蹴りはないって!」

名古屋人2「矢的先生、まだ謝ってますよ?」

安斎「けど私は間違ってない…だってビンタはやりすぎだろう!?」

名古屋人2「それは、確かに私もそう思いますけど」

名古屋人1「だから二人とも、そんくらい普通なんだって。あの隊長だって心の中じゃうるさいなぁくらいにしか思ってないよ」

安斎「うー、納得いかん…」

名古屋人1「それより、残念会千代美の奢りだかんね?」

安斎「ええ”っ!? な、なんで!?」

名古屋人1「作戦読まれて負けたワケだからね。じゃあ千代美の責任だ」

安斎「うぅ、泣きっ面に蜂だぁー…」

名古屋人2「渚さん」

名古屋人1「冗談だよ千代美! なんか美味しい物食べて、今日の事はさっぱり忘れよっ!」

名古屋人1「いつまでもズルズル引きずってたって、しょうがないでしょっ!」

安斎「…そうだな! よーし、行くぞーっ!!」

まほ「あのっ!」
10 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:16:59.36 ID:Q7JtTmqY0
安斎「ん?」

まほ「安斎、さん?」

安斎「おお! アンタはさっきの! 大丈夫か? ほっぺた、まだ痛むか?」

まほ「あ、ああ。大丈夫。このくらい、なんでもないから」

安斎「ホントか? ダメだぞ、嫌なことは嫌ってちゃんと言わないと! くっそ、あのヒゲめ。思い出したらまたムカムカしてきたぞ!」

まほ「大丈夫。大丈夫だから。その…ごめんなさい」

安斎「ん? 何がだ?」

まほ「私のせいで、怒られて」

安斎「ああ、いいっていいって! 全部あのヒゲが悪いんだから!」

まほ「次は!!」

まほ「次はちゃんと、あっさり勝つから!!」

安斎「…はぁっ!?」

まほ「……」

安斎「…えーと、西住さん、だったか? ひょっとして私にケンカ売ってらっしゃる?」

まほ「えっ? 違うよ。私がちゃんと勝ってれば、安斎さんも怒られずに済んだから」

安斎「ぷっ…」

まほ「…?」

安斎「あっはっはっはっは!!」

まほ「安斎、さん?」

安斎「いや、あのな西住さん? 私はいいんだ。けど、そういうこと他の子に言っちゃダメだからな?」

まほ「えっ?」

安斎「他の子も、曲がりなりにも勝つために頑張ってきてるんだからさ、そんな勝つのが当然みたいなこと言っちゃ失礼だろ」

安斎「うん、渚辺りが聞いたら絶対怒ってたな。二人とも先行っちゃったけど」

まほ「ご、ごめん」

安斎「…ふふっ! 戦車に乗ってた時は、あんなにかっこよかったのにな!」

まほ「えっ?」

安斎「いいよ、わかった! それじゃあ来年、もう一回勝負だ! けど、あっさりなんて勝たせてやらないから覚悟しとけよ!」

まほ「来年…わかった。来年、必ずまたここに来よう。その時、もう一度勝負だな?」

安斎「ああ、約束だぞ、西住!」
11 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/03/30(金) 16:18:50.51 ID:Q7JtTmqY0
とりあえず、今日はここまでです。続きます。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 17:30:35.14 ID:vSA9kIG5O
いいですね
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 18:11:43.19 ID:/0kU4b/Ho
よろしくてよ
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 18:39:59.35 ID:B574sW9sO
作者はウルトラマン80好きか?
15 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/01(日) 21:47:51.69 ID:k5z+sc0a0
遠くの星と地を這う屑に会話をさせておきたかったのです。

続きを投下します。
16 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/01(日) 21:48:48.37 ID:k5z+sc0a0

<中学3年の6月・名古屋市桜ケ丘中学校戦車実習場>

審判「フラッグ車走行不能! 黒森峰ユースの勝利!!」



まほ「安斎さんが、転校?」

名古屋人2「はい。去年の冬、お父様の仕事の都合で豊田の方に」

名古屋人1「ごめんね。わざわざ一軍まで連れてきてもらったのに。前もって伝えられればよかったね」

まほ「そうか…」

名古屋人1「けど千代美、あれから戦車道に嵌っちゃってね。向こうでシニアチームに入ったみたいだよ」

名古屋人1「愛知で一番のチームだって言ってたから、夏の大会には出てくるんじゃないかな?」

名古屋人1「戦車道の大会がどういうシステムなのかはわかんないけどさ、決着ならそこでつけられるんじゃないかなっ!」

まほ「わかった。ありがとう…二人は」

名古屋人1「ん?」

まほ「二人は本格的に戦車道をやるつもりはないのか? 二人とも、かなりの才能があるように思える」

名古屋人1「ありゃ、あの西住流にお墨付きを貰っちゃったな」

名古屋人2「これは光栄ですね」

名古屋人1「けど、私はバスケが本職だからね。高校も強いトコ行くから、こっからはこれ一本だよ」

名古屋人2「私も高校からは弓に専念します」

まほ「そうか。それは残念だ」

名古屋人1「中学まではある程度遊んでも居られたけどさ、高校に上がったらそうは行かない」

名古屋人1「こっからはホントにバスケオンリーだ。でも、それで本望だよ。アンタも似たようなもんでしょ?」

まほ「ん、そうだな。私にも、戦車道しかない」

名古屋人2「同じ一つの『道』を行く者として尊敬します。それにしても…何だか、前にも増して凛々しくなられましたね」

名古屋人1「こりゃ、千代美の奴も喜ぶぞ」

まほ「んん?」

名古屋人1「や、こっちの話! 応援してるよ、西住まほさん! 同じアスリートとしてねっ!」
17 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/01(日) 21:50:44.03 ID:k5z+sc0a0

<中学3年の7月・豊田市民運動公園戦車道演習場>

審判「フラッグ車走行不能! 黒森峰ユースの勝利!!」



3年生1「くそぉ負けた! やっぱバケモンだよ西住まほ!!」

3年生2「何であんなのと同じ世代になっちまったんだ…!!」

3年生3「何ぼやっとしてやがる1年! 薬莢と履帯拾ってこい!! ああ、ちっくしょお!!」ガンッ



安斎「ぜぇ…ぜぇ…どっこいせっ!! …っと」

1年生1「ちよちゃんセンパーイ、倒れないで下さいよー」

1年生2「ったく、履帯も満足に運べないでなんで戦車道やってんだか…もう」

安斎「よーし、もうひと踏ん張り…ふんっ…ぬぬぬっ…! ぬっ!? なんか急に軽く…し、汐華?」

1年生2「ほら、一緒に運びますから。全く、無駄なことばっかり…!」

ブロロロロ…

1年生1「ん? ありゃ黒森峰のジープ…?」

まほ「……」

1年生1「ぃいっ!? に、西住まほっ、サン!?」

まほ「ん、すまない。安斎千代美はいるか?」

安斎「ん? 安斎なら私だが…んん”っ!?」

まほ「安斎さん」

安斎「ちょ、ちょっと待て! 西住、か!?」

まほ「西住だ」

安斎「わざわざ、私に会いに!?」

まほ「約束だったからな」

安斎「…そうかそうか、私に会いに来てくれたのかァ…!」

まほ「お前は試合に出ていなかったがな」

安斎「ははっ、そう睨むなよ西住。そりゃ…」

1年生2「すみません」

まほ「ん?」
18 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/01(日) 21:51:22.19 ID:k5z+sc0a0

1年生2「安斎先輩は今、僕達と一緒に履帯を拾ってるんですよ。話なら後にして貰えませんか?」

1年生1「うおおおおおい汐華ァ!? オマエ一体何言っちゃってんのよ!?」

1年生2「だってそうでしょう? もたもたしてたら僕達まで先輩達に怒られてしまう」

1年生2「そうだ、一緒に履帯を拾って貰うとかどうです? それなら僕達は怒られずに済むし、西住さんも安斎先輩と早く話ができる」

1年生1「汐華ァァァァァァァァッ!!? いやホントすんませんコイツ頭がイカれちまってんですあとファンですサイン下さい鈴井ちゃんへって入れたヤツっ!!」

まほ「サインなら構わん。だが履帯拾いなど1年の仕事だろう? 流石にそれは無礼が過ぎるぞ」

1年生2「ええ、ですからそこで少し待ってて下さいって言ってるんです。すぐ終わらせますので」

まほ「ほう、すぐとはどのくらいの時間だ? うちの1年なら…」

安斎「待て待て待て! そうカリカリするな! スマン西住、すぐ終わらすからちょっと待っててくれ!」

安斎「よーしみんな! さっさと終わらせてしまおうかァ! 試合では負けたが気合と根性じゃ負けてないトコ黒森峰に見せつけてやろう!!」

1年生1「そうだそうだ! あの西住サンが見てるんだぞ気合入れろーッ!! てか西住サンお待たせなんてしたらそれこそ先輩達にブッ殺されるぞッ!!」

まほ「……」

ワイワイガヤガヤ…

まほ「…すまないな。運転手などやらせてしまって。もっと早く帰れる筈だったのに」

黒森峰選手「いいよいいよ。どうせ戻ったってしんどい反省会が待ってるだけだし」

黒森峰選手「だったらこうやって、あくせく働く若い子でも眺めてる方がずっといいよ」

まほ「反省会はちゃんとやるぞ。皆も待たせてある」

黒森峰選手「うげー、そりゃないよ隊長。勝ったのに」

まほ「どんな試合にも反省点はある。そこは徹底的に潰しこまなければならない」

黒森峰選手「そんなんじゃカン督みたいになっちゃうよー? あの子は相変わらず、あんなに楽しそうなのに」


安斎「こひゅー…こひゅー…いつもより速く動こうとしたらもうバテた…」

1年生2「さっさと終わらせるって言った人が一番最初にバテないで下さいよ!」

1年生1「ちよちゃんセンパイなんてほっとけ! さっきから西住サン全く表情変わってねーぞ! 我慢の限界が近そうだぞこりゃァーーーーっ!!」


黒森峰選手「私、あんな履帯もまともに運べない子に、履帯やられちゃったんだねぇ…去年さ」

まほ「履帯運びはお前も苦手だろう? 何だったら一緒にやってきたらどうだ?」

黒森峰選手「うちの履帯は重いんですぅー! あ、でも一緒にやるのは暇つぶしになりそうだ」


黒森峰選手「おーいチビッ子たちー! お姉さんが手伝ってあげるよー!!」
19 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/01(日) 21:51:56.18 ID:k5z+sc0a0

安斎「ふぅ…やっと終わった。待たせてゴメンな西住?」

まほ「いや、この程度なら構わん。思ったよりいい練度をしていた」

まほ「それよりお前は他に謝るべきことがある筈だ」

まほ「私はお前と戦うつもりだったんだぞ? それが1年に混じって履帯拾いなど」

安斎「いやあ、私もそのつもりだったんだがなぁ。こっちに越してきたときには」

安斎「隊長の座を乗っ取って、夏大会でお前と勝負だーって。入隊早々うちの隊長に一騎打ちなんて挑んでさ」

安斎「まあ、あっさり捻られたよ。やっぱ積み重ねってすごいな?」

安斎「汐華やミス…鈴井だってこないだまで小学生だったってのに、私よりよっぽど上手い」

安斎「でもってそんな強かった隊長達が、お前相手じゃ手も足も出ない…流石、西住まほだよな?」

まほ「!!」

まほ「安斎、お前私の名を…」

安斎「西住流の後継者。生まれついての戦車のり。履帯を担いで産まれてきた子…雑誌で読んだぞ」

まほ「……」

安斎「カレー好きなんだってな? お前」

まほ「…んん!?」

安斎「フッ…だがな西住! 西住流だろうが島田流だろうが私は負けん!!」ビシッ

まほ「!!」

安斎「こうやって下働きしながらでも、隊の蔵書なんかは全部読ませて貰ったからな!」

安斎「フフ、私が隊長だったらお前を下す戦術など10や20は軽く思いつく!」

安斎「それに強いチームで一から鍛えなおしたから、体つきだって大分マッチョになった!」ウデマクリッ

まほ(細い…)

安斎「…そもそも黒森峰と戦うのに西住流の劣化コピーじゃ勝てるわけないんだよなァ」

安斎「まあ隊長達も汐華達もリトルで西住流やってた教官に戦車のイロハを教わったんだろうからしょうがないっちゃしょうがないんだけど…」

安斎「でも私は同じ轍は踏まんぞ! だから高校は、西住流から一番遠いトコに行くことにした!」

安斎「私はプラウダ高校に行く! あそこなら戦車も黒森峰に劣らんし、隊員の練度だって高い! そして何より学費が安い!!」

まほ「安斎、高校でも戦車道を?」

安斎「当然だ西住! だから今度は、高校で勝負だな!!」

安斎「…まあ、今回は悪かったよ。約束破っちゃって、ごめんな?」

まほ「フッ…許すよ。先の楽しみが増えた」

まほ「次は高校だな?」

まほ「行くぞ」

黒森峰選手「あいよ! じゃあねー」

まほ「また会おう、安斎」

安斎「ああ、またな西住!!」

ブロロロロ…
20 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/01(日) 21:52:52.19 ID:k5z+sc0a0
<高校1年の8月・静岡県東富士戦車演習場>



審判「フラッグ車走行不能! 優勝は、黒森峰女学園!!」



<静岡県東富士戦車演習場・プラウダ側陣営>

プラウダ隊長「安斎千代美?」ワーワーギャーギャー

まほ「はい。プラウダ高校に進学すると言っていたのですが」ワーワーギャーギャー

プラウダ隊長「少なくとも我がプラウダ戦車隊にそんな名前の1年は入ってきていないな。戦車道を履修したのは間違いないのか?」カチューシャノイウトオリニシテレバカテタノヨ!!

まほ「はい、それは間違いなく」イイカラオトナシクシロイチネン!!

プラウダ隊長「…うちの戦車道も、今年は例年より履修者が少ない」ナニヨアナタサテハハイボクシュギシャネ!!

プラウダ隊長「同世代に、貴様が居るせいだと言うものもいるな? 西住まほ」イイカゲンニシロコノチビ!!

まほ「…買いかぶり過ぎです」チビトハナニヨデクノボー!!

プラウダ隊長「敗者の前で謙遜などするものではないぞ。3年間、隊長として黒森峰と戦ってきたが」ズウタイバッカデカクテアタマカラッポダカラコンナマケカタスルノヨ!!

プラウダ隊長「今までで一番の負けっぷりだった。1年隊長が相手だったというのにな」デクノボウノアツマリダカラクロモリミネニ9レンパナンテサレルノヨー!!

まほ「……」コノチビブットバシテヤル!!

プラウダ隊長「五月蠅いぞ静かにしろッッッ!!!」

ピタッ

プラウダ隊長「…理由は知らんが、うちの戦車道履修者は例年より少ない」

プラウダ隊長「だがその分入ってきた1年共は、揃いも揃って活きがいい」

プラウダ隊長「私は、あの五月蠅いチビに隊長を任せてみようと思っている」

プラウダ隊長「お前と同じ、1年隊長ということになる」

プラウダ隊長「遊んでやってくれ」

まほ「はっ」

まほ「…サンダースとの準決勝戦、観戦させて頂きました」

まほ「お見事でした。もしも十全の戦力で決勝戦に臨んでいれば…」

プラウダ隊長「無礼が過ぎるな。勝ったのは貴様だ、西住まほ」

まほ「失礼しました」

プラウダ隊長「…だが、この最後の夏に、ガイルの奴に一泡吹かせてやれたことは、素晴らしかった」

プラウダ隊長「私の3年間はそれで十分だ。打倒黒森峰は、あのチビに任せることにしよう」

プラウダ隊長「戦車道はいいぞ、西住まほ。良きライバルに恵まれれば、なお一層いい」

プラウダ隊長「貴様にも、そんな相手が出来るといいな?」

まほ「はっ…今日は、勉強させていただきました」

まほ「3年間、お疲れ様でした。ザンギエフ隊長」
21 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/01(日) 21:54:13.30 ID:k5z+sc0a0

<高校1年の9月・黒森峰女学園学園艦>

まほ(夏の全国大会が終わった。これで黒森峰は9連覇…)

まほ(だが、安斎は結局私の前に姿を現さなかった)

まほ(隊長として出てくるとは流石に思わなかったが、まさか一度も姿を現さないとは)

まほ(あれから戦車道のある学校全てに問い合わせたが、どこにも安斎千代美という学生はいないとのことだった)

まほ(安斎…お前は一体、どこにいったんだ?)

まほ(……)グゥ…

まほ(腹が、減ったな)

黒森峰隊員「うまうま」

まほ「んん?」

黒森峰隊員「ん?」

まほ「珍しい物を食べているな。そんなもの、うちの食堂のメニューにあったか?」

黒森峰隊員「ああ、表の屋台で売ってたんだよ。真っ黒な人とえっらいかっこいい人がやってる屋台でさー」

黒森峰隊員「隊長も行ってみたらー? 言っとくけど、これはあげないからね!」

まほ「表の屋台か。わかった、行ってみよう」





安斎「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー! 美味しいパスタだよー!」

まほ「…んん!?」
22 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/01(日) 21:56:31.77 ID:k5z+sc0a0
今日はここまでです。もう少し続きます。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 09:00:53.94 ID:8tVkb6hqO
ガイルでまさかとは思ったけど流石にザンギエフ隊長は笑った
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 19:25:58.06 ID:gIEz8xDmO
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 00:36:04.73 ID:LOfUn5s50
カン督 CV:竹中直人

途端に許せそうな気がするあら不思議
26 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/05(木) 22:56:23.51 ID:T3Fn0DRr0
お待たせしました。投下します。
27 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/05(木) 22:57:40.40 ID:T3Fn0DRr0
<高校1年の9月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

安斎「美味しいパスタだよー! アンツィオ名物鉄板ナポリタン!! お嬢ちゃん達もお一つどうだーーーーい!?」

まほ「…何をやってる安斎?」

安斎「おっ! 久しぶりだな西住! お前も一つどうだ? うちのパスタは美味しいぞ!」

まほ「そうか。なら一つ…いやパスタは後だ。それよりも何故お前がここにいる? ここは黒森峰の学園艦だぞ?」

まほ「プラウダ高校に入るんじゃなかったのか? 探しに行ったんだぞ、私は」

安斎「ああ、プラウダ。プラウダなー…フツーに受験で落ちた」

まほ「落ちた…」

安斎「戦車道に熱中しすぎて成績落ちてたの、気づかなかった。国語以外はボロボロだったよ」

安斎「だがな西住! 私はこうやって、アンツィオ高校でちゃんと戦車道続けてるぞ! シニアの監督が、推薦してくれたんだ!」

まほ「…戦車道?」

安斎「ああー、うちの戦車道は…」

先輩1「行列が溜まっているぞ、アンチョビ。何をやっている?」

安斎「っと、ごめんよリーダー! すぐ戻る!」

先輩1「…友達か?」

安斎「そうだ! 中学ん時の、友達だ」

まほ(友達…友達か?)

先輩1「…もうじきプロシュートも休憩から戻る。お前も昼飯にするといい」

安斎「ありがとうリーダー!」
28 : ◆Bkxeh6JCZU [sage saga]:2018/04/05(木) 22:58:42.89 ID:T3Fn0DRr0

安斎「戦車道に限らず、うちの学校は貧乏だからなぁ。どこの学科も生徒会も、予算を元手に屋台だしてどうにか活動費を捻出してるんだ」

安斎「それにしたって学内だけじゃ限界があるからな。こうやって、航路が重なった学園艦と併走して、料理や服なんかを売りさばいてね」

安斎「もっと人の多いとこだと、短期転校なんかを利用してサンダース辺りにテナント借りて出稼ぎなんてこともやってるみたいだけど」

安斎「うちは私と、先輩が8人だけだからな。こうやって屋台暮らしが精々さ」

まほ「…大丈夫なのか? 法律とか」

安斎「どうなんだろう? 陸はともかく、海の上だと大概の事がうやむやになっちゃうからなぁ」

まほ「んん」

安斎「ああ、もちろん厳密にはちゃんとやってるぞ! アンツィオは美食とファッションの学校だからな! そういうことへのノウハウはいっぱいあるんだ」

安斎「まあ、それ以外は何もないけどなぁ。戦車だってCV33が何台かあるだけで、汗水垂らして働いても、ガソリン代が精一杯…ほろり」

まほ「泣いているのか? 安斎」

安斎「いや! 泣いてなんかないぞ大丈夫だ! これもきっと戦車道だからな!」

安斎「ガソリンも弾薬もタダじゃない! 私達が戦車道をやれてるのは、周りの人達が応援してくれてたからだって、よーくわかった!」

安斎「戦車だって、探せばどっかにセモヴェンテやM13もある筈なんだ! 書類がちゃんと残ってたからな!」

安斎「だから西住! 来年の夏には…」


先輩2「チョビぃぃぃぃぃっ!!!」

まほ「!?」ビクッ

安斎「ヒエッ! 兄貴が帰ってきた!」

先輩2「マンモーニの分際でいつまで呑気に飯なんて食ってやがる!? リゾットもチョビを甘やかすんじゃあない!!」

先輩1「すまん」

安斎「ごめん、それじゃ私はまた仕事だ。来年の夏までには必ずアンツィオの戦車道を立て直す。そしたら今度こそ勝負だ!」

まほ「わかった…ところで安斎」

安斎「ん?」

まほ「何でアンチョビなんだ?」

安斎「安斎千代美だからアンチョビだってさ。酷いよな、女の子を魚呼ばわりだなんて」

まほ「魚?」

安斎「アンチョビは鰯の塩辛だ。食べたことないのか? なら今度ピッツァでも持ってきてやるよ」
29 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/05(木) 22:59:52.80 ID:T3Fn0DRr0
<高校1年の2月・アンツィオ高校学園艦・大通り>

みほ「いいの? お姉ちゃん。勝手に他校の学園艦になんて入って」

まほ「大丈夫よ。向こうも普段は、勝手に入ってきてるんだから」

みほ「お母さんには冬の間に高校の練習を見ておけって言われて来てるのに…」

まほ「これも戦車道よ。本当に美味しいんだ、安斎の鉄板ナポリタン…どうしたみほ? 私、何か変なこと言った?」

みほ「ううん。ただ、よかったなぁって。お姉ちゃんにも、戦車道以外の友達がいたんだって」

まほ「んん」

みほ「お姉ちゃん?」

まほ「安斎もやってるよ? 戦車道」

みほ「ええっ!? だって、いっつも他の学園艦に乗り込んで、屋台やってるんでしょ? 安斎さん」

まほ「そうだよ。昼飯時や放課後を狙って、他校の生徒にパスタを売ってる…んん? どの辺が戦車道なんだろう?」

みほ「私が聞きたいよ、お姉ちゃん…」



安斎「う”あ”あああああ””ああああ!! 止まれぇ”ええええええぇ”!!!」ギャリギャリギャリギャリ



まほ「安斎!?」

みほ「エレファントとセモヴェンテ!? こんな街中に!?」

安斎「っ!? 西住ぃ”ぃぃぃぃっ!?」ギャリギャリギャリギャリ

まほ「安斎! 見てくれ私の妹だ!!」

安斎「わかったまた今度なぁ”ああああああっ!!!」ギャリギャリギャリギャリ

みほ「行っちゃった…アンツィオ高校、エレファントなんて持ってたんだ」

まほ「今日は帰ろう、みほ。安斎が、念願の戦車道をやれてるんだ。邪魔をしちゃ悪い」

みほ「うん、そうだね…でもセモヴェンテでエレファントを倒す方法なんてあるのかな?」

まほ「セモヴェンテが後ろを取ってた。だったら排莢口を狙えばいい…気づけるかな、安斎は」

みほ(そういえばさっきのエレファント、履帯に何か挟まってたような…人? ううん、そんなわけないよね…?)
30 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/05(木) 23:00:40.80 ID:T3Fn0DRr0

――――大丈夫かい、千代美ちゃん…酷いこと、されやしなかったかい…?


――――ったく…しょうがねぇなぁ…


――――行け、チョビ…栄光は…お前にあるぞ…


――――ここから先には…行かせねェ…幽波紋の出力を最大だ…!


――――お前の放った機銃弾を…俺が磁力で引き寄せた…会長(ボス)をやったのは…俺の幽波紋だ…


――――重要なのはキミの好みだ…大事な青春…ちゃんと笑って過ごすんだよ…?
31 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/05(木) 23:01:36.64 ID:T3Fn0DRr0
<高校1年の2月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

まほ「何をしている? 安斎。屋台はどうした?」

安斎「西住…今日は屋台は休み…いや、閉店だ」

安斎「今日はお別れを言いに来たんだ、西住…私、戦車道辞めるよ」

まほ「…どういうことだ?」

安斎「そのまんまだよ西住。アンツィオの、私の戦車道はここでおしまいだ」

まほ「諦めるのか? らしくもない。私との約束はどうした? また反故にするつもりか? 来年の夏までに…」

安斎「ごめん…もう無理なんだよ西住。私はもう、戦車に乗れない」

安斎「先輩達はいなくなって…私は一人ぼっちになってしまったんだ。もうダメなんだ、西住…私は、学校にも居られない」

まほ(一人ぼっち? アンツィオは卒業が早いのか? いやそれよりも)

まほ「学校も辞めるのか? 安斎」

安斎「戦車道推薦で入ったからな。戦車道をやれなきゃお役御免さ」

安斎「それにダメだ。私はあそこにもう居たくないんだ。居たくないんだよ、西住」

まほ(挫折したものが学校を辞める…強豪校では珍しいことではない)

まほ(心折れたものが続けられるほど戦車道は甘くはない。いいこともきっとない。お互いに)

prrrrrrrrrrrrrrrrrr…

安斎「理事長から電話だ…もう行かなくちゃ。ごめんな、西住。約束守れなくて」



――――友達か?


――――そうだ!



まほ「だったら、黒森峰に来い安斎。無理に戦車に乗ることはない。お前だったら…」

安斎「ありがとう西住。でも無理だよ。うちには、弟もいるんだ」
32 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/05(木) 23:03:15.93 ID:T3Fn0DRr0
<高校1年の3月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

アンチョビ「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー! 美味しいパスタだよー!」

まほ「安斎!」

アンチョビ「おお、西住! 久しぶりだな! お一つどうだ?」

まほ「パスタなんて後だ! お前学校は!」

アンチョビ「もちろん通ってるぞ! 戦車道だって見ての通り!」

まほ「安斎…大丈夫なのか?」

アンチョビ「…リーダーがさ、最期に理事長に頼んでくれてたんだ。戦車道特待の枠を残してくれるように」

アンチョビ「学校のみんなも、応援してくれてさ。どこも苦しいのに、カンパなんかしてくれて」

アンチョビ「街の人達も、卵とか野菜とか、安く入れてくれて…こんなことしかしてあげれないけどって」

まほ「安斎…」

アンチョビ「…私はダメだな、西住。私は何一つわかっちゃいなかった」

アンチョビ「先輩達だけじゃない、本当に、みんなが応援してくれてたんだ」

アンチョビ「だったら私は、先に進まなければならないに決まってる!」

アンチョビ「私は絶対に、アンツィオの戦車道を建て直して見せる”!! それが先輩達や…みんなへの…ふっ…ぐっ…ぅう”ううううっ…!!」

まほ「…看板、しまっておくぞ」

アンチョビ「っ…いいや逆だ西住!! 私には泣いてる暇なんてないんだからな!!」ゴシゴシ

アンチョビ「とにかくじゃんじゃんパスタを回すんだ! 今日は3割、いや半額…ええいもういい! 皆食べてってくれ! 今日はお代は結構だァーーーーーっ!!」

まほ「待て安斎、それじゃ前に進めてないぞ」

アンチョビ「いいんだいいんだ! 支えてくれてる皆に感謝を示す! それが我がアンツィオの流儀!!」

アンチョビ「ドゥーチェ・アンチョビの戦車道だぁーーーーっ!!!」
33 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/05(木) 23:04:44.99 ID:T3Fn0DRr0
とりあえず以上です。駆け足ですがこれでアンチョビができました。
次回からはアンツィオの戦車道を作りたいと思います。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 00:11:23.01 ID:5Tjm53MnO
すまん、読んでいてジョジョ第5部を思い出してしまった
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 06:24:17.16 ID:Z5H5OyVNO
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 11:23:17.18 ID:0nvidgmNO
チョビの名付けはペパロニだったね。
ドラマCDだと
37 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:24:42.46 ID:nVqqlT+s0
マジかー。書き溜め分全部吐き出します。
38 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:26:24.87 ID:nVqqlT+s0







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜第二部・ドゥーチェ・アンチョビ戦車道スペシャル!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





39 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:27:33.93 ID:nVqqlT+s0
<高校2年の4月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>


ひな(ついにやって来たわね、アンツィオ高校戦車道科!)

ひな(私に特待枠をくれた唯一つの高校! 正直名前も聞いたことないけどこの際贅沢なんて言ってられない!)

ひな(強豪校の特待なんて夢また夢だしプラウダ高校は普通に受験で落ちた!)

ひな(戦車道は捨ててたかちゃんと一緒の高校に行こうかともかなり迷った!)

ひな(でも私は、やっぱり戦車道を諦めたくなかった! 戦車道をやりたかった!!)

ひな(無名校? 上等よ! だったら私が引っ張っていくまで!)

ひな(つくばシニアで一番の戦車乗りと言われたこの私が!!)

ひな(この私がアンツィオ戦車道の歴史を造るッ!!)

ひな「失礼します!!」

アンチョビ「フッフッフッフ、待っていたぞカルパッチョ! ようこそアンツィオ戦車道科へ!!」

アンチョビ「私がドゥーチェ・アンチョビだッ!!」ビシィッ

ひな(この女がドゥーチェ・アンチョビ…アンツィオ戦車道の現隊長!)

ひな(けどわかる! 体つきを見れば! 小学生からずっと戦車道をやっていた私にはわかる!!)

ひな(この女…大したことない! 少なくとも装填手としては私の方が遥かに上!!)

ひな(乗っ取ってやる! 正当な勝負を挑み、皆の眼前で撃ち破り、堂々と指揮権を奪う! 私が隊長になる!!)

ひな(…ん?)

ひな「…あの、アンチョビ隊長? 一つ質問してよろしいでしょうか?」

アンチョビ「何だ? 遠慮はいらんぞ何でも聞け! あと私のことはドゥーチェと呼べ!」

ひな「他の先輩方は、まだ来ていないのですか?」

アンチョビ「フッ…聞いて驚けアンツィオ戦車道科は私一人だ!!」

アンチョビ「ついでに言うと新入生もカルパッチョ! お前一人だ!!」

ひな「はあ!?」

アンチョビ「フッフッフッフ…特待枠はいっぱい用意して貰ってたのになァ…やっぱりネームバリューがないと人なんて来ないのかなァ…ほろり」
40 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:28:25.80 ID:nVqqlT+s0

アンチョビ「というわけでカルパッチョ! お前には早速副隊長の任に就いてもらう! よかったなァ! 強豪校だったら入学早々こんな抜擢、絶対にないぞぉ!?」

ひな「ちょ、ちょっと待って下さい! 副隊長も何も、私と隊長しかいないって、二人だけってことじゃないですか!!」

ひな「それでどうやって戦車道やるって言うんですか!?」

アンチョビ「なぁに! 2人いればCV33は動かせる! 屋台だって大分マシになる!! 何とかなるさ!」

アンチョビ「…というより何とかしなくちゃ、だな。頑張ろう? カルパッチョ」

ひな「豆戦車1輌でどうやって戦車道やるって言うんですか…というか、よく見たら豆戦車と自走砲だけでまともな戦車なんて1輌もないし!?」

アンチョビ「ああ、こないだまでM13やエレファントやブラックプリンスもあったんだけど…先輩達が盛大にぶっ壊してっちゃってさ」

アンチョビ「でもCV33は7輌あるし、セモヴェンテだって3輌ある。戦車は割と選び放題だぞ?」

ひな「選び放題って、選んだってしょうがないでしょ! 選んだところで装填手砲手兼任の鈍亀自走砲が1輌ぽつんと演習場に佇むだけだもの!!」

アンチョビ「まあその自走砲だって満足に弾も撃てないんだけどな。ほら、出来たぞ」コトッ

ひな「…何ですかコレ? パスタ?」

アンチョビ「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだ。本場イタリアの情熱で日本のイタリアンに本気で取り組んだ、先輩達の遺してくれた戦車道科のかけがえのない財産さ」

ひな「…いただきます」ムグムグ

アンチョビ「どうだ?」

ひな「美味しいです…」

アンチョビ「だろう? こいつを売りさばかないことには、満足に砲撃訓練も出来やしないんだ」

ひな「ブーッ!!」

アンチョビ「うわっ、大丈夫か!? 気管にでも入ったか!?」

ひな「ゲホッ、ゲホッ!! エホッエホッ! っ…ぐ…う、売りさばく!? さっきちょろっと言ってた屋台ってひょっとして…!?」

アンチョビ「そうだ! 軍資は全部自分達で稼ぐ! それがアンツィオの戦車道だ!!」

ひな「いーーーーーやーーーーーーーっ!!! 聞きたくない! もう何も聞きたくなーーーーーーい!!!」

アンチョビ「現実から逃げるなカルパッチョ! というか戦車道に限らずアンツィオじゃこれが普通なんだって!」

アンチョビ「渡された予算を上手く増やして、生活費から学費から全部遣り繰りする。なんたってアンツィオは商人の学校だからな!」

アンチョビ「そして特待生として入った以上、もうお前は戦車道からも逃げられない! 覚悟を決めろカルパッチョ!!」

ひな「そんなこと言ったって私戦車道しか知らないもん…お料理なんて出来ないもん…」

アンチョビ「大丈夫! ここをどこだと思っている!? 美食とファッションの学園、アンツィオ高校だぞ!!」

アンチョビ「出来なければ覚えればいい! 知らなければ学べばいい! 私だって料理なんてしたことなかったが半年で屋台を回せるようになった!!」

ひな「隊長…」

アンチョビ「だから一緒にパスタ茹でよう!!」

ひな「……」

アンチョビ「あ、じゃなかった! 一緒に戦車道やろう!!」ビシィッ

ひな「やっぱりいやーーーーーーーーっ!! 茨城に帰るーーーーっ!! たかちゃんといっしょの学校行くーーーーーっ!!」ダッ

アンチョビ「あっ、待て! 逃げるなカルパッチョ! お願いだから逃げないでくれーーーっ!! って力強っ!? 重戦車か何かか!?」ズルズルズル

ひな「カルパッチョじゃないもんひなだもーーーーーーん!! うわーーーーーーーん!! たかちゃーーーーーーーん!!!」ズルズルズル

アンチョビ「うっ、うわあああああっ!! たっ、頼むカルパッチョ! お前にまで逃げられたら私は本当に一人ぼっちになってしまうんだ!」ズルズルズル

アンチョビ「CV33さえ動かせなくなってしまうんだーーーーーっ!! 一人で屋台回すのだっていい加減しんどいんだーーーーっ!! うわーーーーーーん!!!」ズルズルズル
41 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:30:01.55 ID:nVqqlT+s0

ひな「コホン…少々取り乱しました。申し訳ありません。戦車道女子としてあるまじきことでした」

アンチョビ「いや、こっちこそ先輩なのに泣いたりしてゴメンな? でも、これが今のアンツィオ戦車道の現実なんだ。わかってくれ」

ひな「受け入れる受け入れないは別として、とりあえず理解はしました。そうですよね、特待で募集かけて余るって時点で察するべきでした」

ひな「ですが隊長、隊長ともあろう方が人前で軽々しく泣くのはどうかと思いますよ?」

ひな「鉄の掟、鋼の心って習いませんでしたか?」

アンチョビ「ああ、ゴメンな。ちょっともう何だかいっぱいいっぱいでさ、脆くなっちゃってるんだ。ゴメンな。ドゥーチェなのに」

アンチョビ「というかカルパッチョ、お前も西住流なんだな?」

ひな「大抵のシニアチームは西住流ですよ? 島田流なんて教えられる人も少ないですし」

ひな「それと、カルパッチョと呼ぶのはやめて下さい」

アンチョビ「えっ? ダメか? ドゥーチェ徹夜して考えたんだけど。名前の『ひな』じゃ思いつかなかったから、苗字の方をもじって…」

ひな「ここから逃げ出すことは諦めました。ですが、ここのパスタ道に染まるつもりもありません」

ひな「私は私の戦車道をやらせていただきます。邪魔をするというのなら、隊長と言えども容赦はしませんよ?」ギロッ

アンチョビ「そっかー、カルパッチョは嫌だったか。じゃあ、しょうがないな」

ひな「…あの、隊長?」

アンチョビ「なんだひな?」

ひな「私今、かなり挑発的なことを言ったのですが」

アンチョビ「ああ、気にするな! シニアの時から私は、大体そんな感じの扱いだったからな! 戦車道のキャリアだって、お前の方が長いぞ」

ひな「いえ気にしましょうよ!? 隊長なんでしょう!? そんなんじゃ指揮権、奪われちゃいますよ!?」

アンチョビ「いるか? アンツィオ戦車道の指揮権」

ひな「…いらないです」

アンチョビ「ははっ、だろう? とにかく、私としてはひなが戦車道をやってくれるならそれで充分なんだ」

アンチョビ「はねっかえりなトコも、情熱の裏返しだろうしな。パスタは私が頑張って茹でるよ!」

アンチョビ「ただ、現実問題として私一人じゃお前を養いきれないから、一緒にパスタ茹でようって言っただけでさ」

ひな「…料理も覚えます。ちゃんと教えて下さいよ?」

アンチョビ「おう、任せろ!」
42 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:30:44.22 ID:nVqqlT+s0
アンチョビ「あ、それとな、ひな。お前がお前の戦車道をやるのはいいんだが、西住流は越えてくれよ?」

アンチョビ「うちの戦車で西住流の劣化コピーなんてしても、黒森峰には絶対勝てないからな?」

ひな「黒森、峰?」

アンチョビ「私は黒森峰と戦いたい。ずっと待たせてる奴がいるんだ」

ひな「!!」

ひな「…本気ですか?」

アンチョビ「当然だ。そのために毎日、パスタ茹でながらでも戦術を考えてる」

ひな「こんな、現状まともに動かせるのが豆戦車しかない部隊なのに?」

アンチョビ「それも含めて考えてる。何とかしなくちゃって、言ったろ?」

ひな「何ともなりませんよ?」

アンチョビ「何とかするんだ…まあ、何ともなんなければそれはそれだけどな!」

アンチョビ「でも、出来ることなら何とかしたい。そのために、ずっとやってきたからな」

ひな「……」

アンチョビ「もしもひなが、本気でアンツィオを欲しいと思ったなら」

アンチョビ「私と一回だけ、図上演習で勝負してくれ。それだったらドゥーチェ結構自信ある」

アンチョビ「他の勝負は勘弁してくれよ!? 自慢じゃないが、絶ッ対勝てないからな!?」

ひな「…そうですね。それじゃあ、パスタがいっぱい売れて」

ひな「せめて砲塔のついた戦車が買えるようになったら」

ひな「その時に、改めて勝負を挑ませて貰いますね。ドゥーチェの座を賭けて」

アンチョビ「おう! 楽しみにしてるぞカルパッチョ!」

ひな「だからひなです、ドゥーチェ」
43 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:32:23.94 ID:nVqqlT+s0

<高校2年の5月・アンツィオ高校学園艦・裏通り>

アンチョビ「ひぃふぅみぃ…ふぅ〜、稼いだ稼いだ!」

アンチョビ「やっぱりサンダースはお金持ちだなぁ! 100円値上げしても飛ぶように売れる!」

ひな「……」

アンチョビ「これだけあればしばらくの間、演習費には困らないぞォ! 明日からじゃんじゃん戦車を走らせよう!」

ひな「…ドゥーチェ」

アンチョビ「おお、そうだなひな! 今日は久しぶりに余り物じゃない、なんか美味しい物を食べよう!」

アンチョビ「ピッツァとパスタをお腹一杯食べて、明日からはガンガン戦車道だァーーーっ!!」

ひな「限界ですよ、ドゥーチェ…」

アンチョビ「…ひな?」

ひな「やっぱり二人きりじゃ限界ですよドゥーチェ!!」

アンチョビ「な、なんだいきなり!? どうしたんだ!? 人がいないなんて今更じゃないか!?」

アンチョビ「あ、明日は久しぶりに砲撃演習も出来るぞ!? 二人乗りセモヴェンテにも慣れてきたじゃないか!」

アンチョビ「今更弱音なんて吐かないでくれよひなァ! それに人が少ないのも悪いことばかりじゃあないぞ!?」

アンチョビ「人がいないからこそ私達の屋台の稼ぎで、どうにかやれてるんだ!」

ひな「その屋台も限界だって言ってるんです!」

アンチョビ「や、屋台が限界!? 」

ひな「前から言おうと思ってたんですけど、うちの屋台、あんまし人気ないじゃないですか!!」

アンチョビ「なあっ!? な、何を言ってるんだカルパッチョ!? 今日だってこんなに稼いだじゃないか!!」

ひな「それはケチャップ舌のサンダース校だったからでしょう!?」

ひな「普段のアンツィオ艦じゃいっつも閑古鳥じゃないですか!!」

ひな「それと私はひなです!!」

アンチョビ「うぅ…それは、アンツィオに来る観光客はローマ気分を味わいに来てる訳だから」

アンチョビ「ナポリタンよりかはもっと本格的なイタ飯を食べたいに決まってる」

アンチョビ「でも! だからと言ってお金取れるようなのは鉄板ナポリタン以外作れないぞ!?」

アンチョビ「これだって兄貴にドヤされドヤされやっとこさ覚えたんだ!」

ひな「そこも問題なんです! うちのナポリタンはナポリタンの癖に妙に手間が掛かるんですよ!」

ひな「未だに私はお会計しか出来てないで、忙しいときはドゥーチェが一人でくるくる回ってるだけじゃないですか!」

ひな「今日だって、ホントはもっと稼げたはずなんですよ!?」

ひな「あとドゥーチェは教えるのが下手です!!」

アンチョビ「しょ、しょうがないだろ!? 私だってこの間まで料理素人だったんだから!」

アンチョビ「あとひな! 私も教えるの上手くないが、お前の不器用さも大概酷いぞ!?」

アンチョビ「特待に胡坐かかないで、料理の授業も受けた方がいいんじゃないか!?」

ひな「とっくの昔に受けてますよ! 足手まといなんて嫌ですからね! 受けてこのザマなんです!!」

アンチョビ「どっ、堂々と言うことかソレ!?」

ひな「鉄の掟、鋼の心です!」

ひな「とにかく! もう屋台も限界なんです! 二人きりでやるのもですし、ただの女子高生がやるのもです!」

ひな「これ以上はもう、短いスカートでパンツ穿かないでお店回すとかしかありませんよ!? やりますかドゥーチェ!?」

アンチョビ「な”っ!? だっ、ダメだダメだダメだーーーっ!! そんなこと、アンツィオじゃあ絶対に許さん!!」

アンチョビ「そっち方面に行ったら堕ちるのなんて一瞬なんだぞ!? 大事なお前にそんな真似させられるかーーーーっ!!」ギュウッ

ひな「だっ、抱きつかないで下さい! 私だって嫌ですよそんなこと! ですから!」

ひな「受講者を増やしましょう! この際戦車道経験者なんて贅沢は言いません! せめて料理が得意な人を!」

アンチョビ「…いや、それは無理だ」
44 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:33:05.55 ID:nVqqlT+s0
ひな「どうしてです!? アンツィオは美食とファッションの学校なんでしょう?」

ひな「料理が上手い人なんていくらでも居るんじゃないですか?」

アンチョビ「いるさ。でも、みんな本気なんだよ。私達と同じくらい」

アンチョビ「アンツィオ高校は、戦車道じゃ無名の新参校かもしれない。でも料理と被服なら間違いなく名門だ」

アンチョビ「こんなノリだけどみんな本気なんだ。本物の料理人やデザイナーになるために毎日必死で頑張ってる」

アンチョビ「戦車なんて乗ってる暇はないんだ」

アンチョビ「それこそ、黒森峰の機甲科にパスタ茹でようって言うようなもんだ」

ひな「ですがドゥーチェ、こんなんじゃいつまで経っても砲塔のついた戦車なんて買えませんよ?」

ひな「それに、買えたとしても二人きりじゃ戦えません」

ひな「黒森峰に勝ちたいんでしょう? ドゥーチェ」

アンチョビ「受講者を増やす手は何となく思いついてるんだが、経営の方はなぁ…」

アンチョビ「…み、水着くらいで手を打てないかな? そのくらいならドゥーチェぎりぎり我慢でき…」

ひな「ダメです」ギリギリギリ

アンチョビ「痛い痛い痛い!! 装填手パワーで掴むなァ!!」ジタバタ

ひな「私の目が黒いうちはそんなことさせません…戦車道の沽券に関わりますから」

アンチョビ「さ、最初に言い出したのはカルパッチョじゃないかァ…」

ひな「物の例えですよ。それと私はひなです」

アンチョビ「うう…せめて相手にも何か旨みを用意できれば、料理できる子も呼べそうなんだけどなぁ」

アンチョビ「うちにはホントに何もないからなぁ…」

ひな「何だったら、戦車すらありませんしね…」

アンチョビ「あーあ…どっかに料理人とか落ちてないかなぁ。粗大ゴミで戦車道を作ろう! って」

ひな「何ですかそれ…」



上級生「テメェなんて出ていけッ!! 二度とその面見せるんじゃあないッ!!」


ガシャン

アンチョビ「うわっ!? 何だ今の!?」

ひな「二階から人が捨てられましたよ!? ゴミ捨て場に落ちましたけど…」

ガバッ

新入生「うるせぇ!! こっちこそこんなとこ願い下げだァ!! 精々将来、店を潰して泣きを見りゃあいいッ!!」

ひな「あっ、案外元気そう」

アンチョビ「お、オイ! 大丈夫かお前!? 怪我してないか!?」

新入生「ああ!? 何だよ!? アンタにゃ関係ねぇだろうが!!」

アンチョビ「ああ、オイ噛み付くな! そんな、ほっぺにぺパロニなんてつけて…って、額割れてるじゃないかお前! 血ぃ出てるぞ血!!」

新入生「へっ! こんなもん唾つけときゃあ治る! いちいち構うんじゃねぇ!!」

アンチョビ「ダメだッ!!!!」

新入生「!?」

アンチョビ「生ごみ袋に頭から落ちて! ばい菌なんて入ったらどうする!? それにな! 人間、血が出過ぎたら死んじゃうんだぞ!?」

アンチョビ「来い! うちで手当てしてやる!!」

新入生「お、おう…」
45 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:35:13.09 ID:nVqqlT+s0


<アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ひな「はいっ、終わったわよ?」

新入生「……」

アンチョビ「手当は終わったか!? それじゃあご飯にしよう! 結局いつものナポリタンになってしまったがまあいい!」

アンチョビ「ぺパロニも遠慮せず食ってくれ! さっきからじっとこっちを見て、お腹空いてたんだろう?」

新入生「ぺパ、ロニ?」

アンチョビ「ほっぺにぺパロニつけてたからな! それじゃあ、ぺパロニとの出会いを祝して!」

ひなチョビ「「いただきます!」」

新入生「…いただきます!」パンッ

新入生「……」ガツガツガツガツ

アンチョビ「おお、いい喰いっぷり!」

ひな「どう? 美味しいでしょう?」

新入生「…麺は太麺、ピーマンに玉ねぎ…ハム…いや、魚肉ソーセージか…」

新入生「オーソドックスだが…地力のあるナポリタンだ…当たり前の具材に当たり前じゃないこだわりを持ってやってる…」

新入生「だからこそ…絡めた卵も活きるってわけか…」

アンチョビ「ぺパロニ?」

新入生「…アンタ、名前は?」

アンチョビ「私か? 私はドゥーチェ・アンチョビ!! アンツィオ戦車道の隊長だ!!」

新入生「戦車道…?」

アンチョビ「そうだ! 全国大会出場、いや優勝を目指してる!!」

アンチョビ「だがうちは商人の学校だからな! 軍資は自分で稼がなければならない!!」

アンチョビ「そのためにこうやって、屋台を引いてパスタを売ってるってわけだ!」

新入生「…なるほど。料理の為の料理ってわけじゃないんスね」

新入生「だから、こんなに地に足が着いてる。これは、先輩辺りから受け継いだレシピっスか?」

アンチョビ「うおっ!? な、なんでわかった!?」

新入生「これ一つ作るにしては時間かかり過ぎっスね。姐さん、手際悪過ぎっス」

アンチョビ「うっ…しょ、しょうがないだろう!? 料理なんて覚えたの、高校上がってからだったし」

アンチョビ「パスタがドームにならないだけ褒めてもらいたいところだ! なぁカルパッチョ?」

ひな「最初だけじゃないですか! あとひなです!!」

新入生「あっはっは! でも、アタシ好きっすね、コレ。上っ面じゃない、ちゃんと戦える料理だ」

アンチョビ「…戦える料理って何だよ? まさか、さっきみたいなケンカして窓からぶん投げられるような料理か?」

新入生「ッ…!!」ギリィ

アンチョビ「ん?」

新入生「…アイツらは酔っぱらってんスよ、姐さん。料理人ごっこをしてる自分達に」
46 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:37:18.73 ID:nVqqlT+s0
アンチョビ「酔っぱらって、って」

新入生「だから採算も考えず高い食材ばっかりぶっ込みたがる…手間ばっか掛かる料理を並べたがる!!」バンッ

アンチョビ「!?」ビクッ

新入生「そりゃ見栄えはいいさ! メニューだってリストランテっぽくならぁ!!」

新入生「けどそれ作るのに客にいくら出させて何時間待たせるつもりだよって話だ!!」

新入生「アンツィオ艦でならやれるだろうよ! 客も観光で来てるわけだ! 財布も緩いし時間だって有り余ってる!」

新入生「けどそんなんで、ここを出てからやってけんのかよって! 観光名所の一等地なんかじゃあない!」

新入生「コンビニやサイゼが立ち並ぶ陸に上がってだ!!」

ひな「っ…!!」ビリビリ

新入生「ここはアンツィオ高校だ! 料理で食ってく術を学ぶ場所だ!!」

新入生「女子力ねーちゃん達が集まるお料理教室じゃない! そうだろう姐さん!?」

アンチョビ「お、おう…熱いなぁ、お前」

新入生「あっ、スンマセン! 好き勝手怒鳴り散らしちまって」

新入生「アイツらの言い分もわかるっちゃわかるんスよ。そういう食材の扱いや料理の練習も必要だって」

新入生「でもアイツらはやっぱダメだ。自分に酔って料理人気取りで、農家さんにも横柄な口利いてさ」

新入生「それでしょっぼい野菜を掴まされた挙句、まあいいやーでそれを客に出そうとまでしやがった!」

新入生「それでちょっとプッツン来ちまったんス。スンマセン、姐さん達にはとんだご迷惑をお掛けしました」ペコリ

新入生「あっ、でもケンカには勝ったっスよ? 1対5で4人も伸せば十分っしょ!」

アンチョビ「強っ!? い、いやケンカはダメだぞ! もっと大勢で仕返しに来たりしたらどうする!?」

アンチョビ「海の上じゃあいろんなことがうやむやになっちゃうんだぞ!?」

新入生「そん時はそん時ッスよ。あ、でもそー考えると長居しちゃ不味いっすね」

新入生「姐さん達にまで迷惑かかっちまう。スンマセン、お世話になりました。このご恩はいつか必ず」

アンチョビ「待て待て待て! お前はここに居ろ! 一人でフラフラするんじゃない!」

新入生「えー、でも大丈夫ッスか? 奴らここにカチコミ来るかもしんないっすよ? 怖くないっすか姐さん?」

アンチョビ「こっ、怖いわけないだろう!? 私はドゥーチェ・アンチョビだぞォ!? お前のことを守ってやる!!」

新入生「えー、ホントっすかー?」

ひな「大丈夫よ、向こうもあなたに勝ったって思ってる筈だから。傍から見てたぶんには、ね?」

新入生「あ?」

ひな「?」
47 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:38:00.90 ID:nVqqlT+s0

アンチョビ「それよりぺパロニ! お前、その料理への熱い思い、うちで活かしてみる気は無いか!?」

アンチョビ「お前の見立て通り、うちのメンバーは料理に関しては素人に毛が生えた程度なんだ!」

アンチョビ「今の屋台の経営じゃ、新戦車どころか弾薬費すらままならん!!」

アンチョビ「お前のように料理だけじゃなく経営の事まで考えられる人間が入ってくれると非常に助かる!!」

アンチョビ「どうせ元のクラスに戻るつもりは無いんだろう!? だったらうちに来い!」

アンチョビ「一緒に戦車道やろう!!」ビシィッ

新入生「いいっすよー」

アンチョビ「…軽っ!? いや、ホントにいいのかぺパロニ!? 言っといて何だがうちの屋台はオンボロもいいとこだぞ!?」

新入生「ボロくてもちゃんと綺麗にしてる。だったら十分っす。必要だったら自分で稼いで直しますよ」

新入生「むしろオンボロ屋台に素人二人でよくここまでやれたと思います。こりゃ、よっぽど先輩達の遺したレシピと経営がしっかりしてたんだなって」

新入生「そこがしっかりしてるってなると、こっから更に収益を伸ばすには相当知恵絞んなきゃなんないっすね…いやぁ、楽しみだなぁ!」

アンチョビ「ぺ、ペパロニお前…ホントに、本ッ当にいいのか!?」

新入生「さっき言ったじゃないッスかぁ姐さん、ご恩は必ずって」

新入生「そっちこそいいんスか? 私、戦車なんて乗った事ないっすよ?」

新入生「小学校の実習も、保健室でサボってましたし。それこそ幼稚園の戦車ごっこ以来っすね」

アンチョビ「大丈夫だ! 戦車なら私とひなで教えられる!! それにお前の闘志はきっと戦車道でも役に立つ!!」

アンチョビ「スクールウォーズみたいなもんだ!!」

新入生「すくーるうぉーず?」

アンチョビ「えっ、知らないか!? ほら、アレだ…俺は今からお前達を殴る!!」

新入生「あぁ”?」ギロッ

アンチョビ「ぴぃっ!?」ビクッ

アンチョビ「ちょ、ちょっと待ってドラマの台詞だって! そんな睨むなって、ドゥーチェ殴り合いのケンカとか無理だから!」プルプル

新入生「…弱っ!? 戦車道って格闘技っすよね? こんなんで大丈夫なんスか?」

ひな「まあ、ギリギリ…ほんっとうにギリギリだけど、大丈夫…な筈。うん、多分?」

新入生「…ま、格闘技っても戦車に乗ってやるお嬢様のヤツだもんな。まあ、こんなもんか」ニヘラッ

カチッ
48 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:38:32.45 ID:nVqqlT+s0
ひな「…そうね。戦車道は女子の嗜み」

ひな「少なくともハムを貼り付けてゴミ捨て場に落ちてるような、はしたない方は見かけたことないわね」

新入生「あぁん? 嫌に挑発しやがるじゃねぇか。一発撫でてやろうか?」

ひな「どうぞご自由に。できるものなら、ですけどね」

新入生「はっ…上等ォ!!」アリアリアリアリアリ!!

ひな「……」クルクルクルクルクル!!

新入生「…どうやら、目はいいみてぇだな。私のラッシュを全部躱すだなんて!」

ひな「時として砲の前に生身で立つこともあるのが戦車道。砲弾と比べれば人間の拳なんて止まってるようなものよ」

新入生「へっ、だったら…こういうのはどうだ!?」ギチィッ

ひな「!?」

ひな(こいつ、足を踏んで…!?)

新入生「これで得意の軽業は使えねぇな。これから一方的に殴られる気分はどうだぁ?」

ひな「…やるのなら殺すつもりでやることね。生かして帰せば、いつかあなたの部屋に榴弾が撃ちこまれることになる」

新入生「上等! こいつでさよなら(アリーヴェデルチ)だ!! …って」

アンチョビ「……」プルプル

ひな「あ…」

アンチョビ「コラーーーーーーーーっ!! ケンカはダメだって言ってるだろーーーーーーっ!!!」

新入生「す、スンマセン姐さん!」

アンチョビ「なんだよカルパッチョまでーーーーーーっ!!!」

ひな「ご、ごめんなさいドゥーチェ! 戦車道を馬鹿にされたんでつい…」

アンチョビ「ついじゃない!! 榴弾なんて撃ちこんだら死んじゃうだろう!! そんなこと嘘でも絶対言うんじゃない!!」

アンチョビ「ぺパロニもうちに来るならケンカなんて二度とするな! お前になんかあったら泣くぞ私は!?」

新入生「な、泣くんすか? 怒るんじゃなくて」

アンチョビ「泣く! 怒るし泣く!! だからケンカなんてもうするんじゃないぞ! いいな!?」

新入生「りょ、了解ッス…ごめんなさい、姐さん」

アンチョビ「全く! うちにはホントに何もないんだからな!? この上仲間割れまでしてたらいよいよもってどうにもなんなくなっちゃうだろ!?」

アンチョビ「…けど、これで仲間が三人だ。だったらいくらでもやりようはある!!」

ひな「ドゥーチェ?」

アンチョビ「いいか二人とも! このアンツィオには何もない! だが何もないってことは何でもできるってことだ!!」

新入生「おお! 何でもっすか!?」

アンチョビ「そうだ何でもだ! ここは言わば何もない一面の荒野! 何を建てようが私達の自由!!」

アンチョビ「戦車はカルパッチョ!! 料理はぺパロニ!! 二人ともそれぞれの場所で思う存分好き勝手に暴れろ!!!」

アンチョビ「二人の爆発力で前に進むのがアンツィオの、このドゥーチェ・アンチョビの戦車道!!」

アンチョビ「目指すは全国大会出場、いや優勝だ! 行くぞーーーーっ!!」

アンチョビ「デケデンっ! あったらっしっいーい! あさがいつものよーにはじまーるー!!」
49 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:39:19.42 ID:nVqqlT+s0

新入生「…びびって怒って泣いて笑って、そんでもって歌まで歌いだして…戦車道やってる奴ってあんな感じだったかなぁ?」

ひな「うちのドゥーチェが特殊なだけよ。でも、何と言うか…すごいでしょう?」

新入生「ああ…すげーや。うん、すごい」

ひな「…私はひな。あなた、名前は?」

新入生「名前?」

ひな「ドゥーチェ、勝手に人にあだ名をつけるのよ。それもヘンテコなあだ名を。あなたもぺパロニなんて呼ばれるのは嫌でしょう?」

新入生「んーーーーー…私は」

ぺパロニ「私はぺパロニでいいや。うん、私は今日からぺパロニだ! よろしくなカルパッチョ!!」

ひな「私はひなって言ってるでしょう!?」

ぺパロニ「そっか! やー悪い悪い! でもってひな、ちょっと相談なんだけどさ?」

ひな「なぁに? 何となくで副隊長二人体制になったみたいだから、さっきの続きをする必要はなくなったわよ?」

ぺパロニ「おっ、気づいてたのか」

ひな「どっちが上かなんてこと、シニアチームでもよくあったからね。それで、相談って?」

ぺパロニ「や、一緒にカチコミ行かねぇか? 私がいたクラスの連中と、早めにケリつけておきたいんだ。逆恨みで、ここに乗り込んで来られる前にさ」ニヤッ

ひな「ちょっとぺパロニ…そういうことはドゥーチェのいないところで、ね?」ニコッ

アンチョビ「コラーーーーーーーッ! 聞こえてるぞ二人ともーーーーーーっ!! やめろって言ってるだろーーーーーっ!!!」

ぺパロニ「あっはっはっは! 冗談! 冗談ッスよ姐さん!」ケラケラ

ひな「そうですよ。私達、ドゥーチェを泣かせるようなことなんて絶対しませんから」クスクス

アンチョビ「ホントだろうなぁ!? いや本当にやめろよ!? ドゥーチェホントに泣くからなァ!!?」

アンチョビ「これ以上誰かいなくなるなんて、ドゥーチェ絶対やなんだからなーーーーっ!!?」
50 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/06(金) 13:40:49.89 ID:nVqqlT+s0
とりあえず以上です。割と致命傷を受けましたが、ちまちま書いていきたいと思います。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 19:32:01.36 ID:cPKAjOlG0
乙です。
世界観が濃くてとても面白い。
あとドゥーチェかわええ
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 21:04:27.21 ID:Z5H5OyVNO
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/07(土) 01:42:03.50 ID:ikakcwc/o
乙です
モブも含めてみんな個性があって面白いね
そしてドゥーチェが可愛い
54 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:36:08.91 ID:jZq1WRSv0
お待たせしました。投下します。
55 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:36:40.29 ID:jZq1WRSv0
<高校2年の7月・大阪府立戦車道会館前>

女子アナ「日本各地で繰り広げられる乙女達の熱戦…今年も戦車道の季節がやってきました」

女子アナ「第62回全国戦車道大会。このVが放映される頃には決勝戦間近と言った所でしょうか」

女子アナ「覇者の子西住まほ選手率いる絶対王者・黒森峰女学園が史上初の10連覇を成し遂げるのか」

女子アナ「それともプラウダ高校が昨年の雪辱を果たすのか、はたまた今年もビックリするような大型補強を行ったサンダース校が来るのか」

女子アナ「今日ここ大阪会場で2回戦を行う関東の古豪、聖グロリアーナと知波単にも十分可能性はあります」

*このVTRは8月2日に収録されました。大阪会場2回戦は聖グロリアーナ女学園の勝利でした。

女子アナ「…まあ、そういった乙女達の激闘の行方は熱闘戦車道さん辺りにお任せするとして」

女子アナ「私達TVOではちょっと変わった戦車道をご紹介したいと思います」

女子アナ「といってもこの大会に出場している訳ではありません…見えてきましたね。あの屋台です」

女子アナ「M41型セモヴェンテが引っ張るこの屋台、実はあのアンツィオ高校の屋台なんです!」


女子アナ「アンツィオ高校と言えば美食とファッションの学校として有名ですが」

女子アナ「昨年より戦車道にも力を入れ始めました。では早速隊長のアンチョビさんにお話を…」

アンチョビ「……」ドキドキ

女子アナ「っと、その前にまずはこの戦車屋台のお味の方からご紹介しましょうか」

アンチョビ「ええっ!?」

女子アナ「すみませーん! この鉄板ナポリタンってのを一つ!」

ぺパロニ「あいよー!」

ぺパロニ「オリーブオイルはケチケチしなーい。具は肉から火を通すー。今朝採れた卵はトロトロになるくらいっ」

ぺパロニ「ソースはアンツィオ校秘伝トマトペースト。パスタの茹で上がりとタイミングを合わせてー」

ぺパロニ「はいっ、お待ちどう!」

女子アナ「澱みない手つきで今ナポリタンが出てきましたね。このトマトとオリーブオイルの香り!」

女子アナ「では早速、美味しい!」パクッ

女子アナ「…ってホントに美味しいわね? 食べる前に美味しいって言っとこうと思ったけど本当に美味しいです、コレ!」

ぺパロニ「へへっ、でしょう? 屋台で出すことを前提にいっちばん美味くなるように工夫しましたからね!」

女子アナ「ちょっとV止めて、ちゃんと味わって食べたい」

*止めません。食事シーンをたっぷりお楽しみ下さい。

女子アナ「なんでしょう、懐かしい感じのナポリタンなんですけどちゃんとイタ飯屋さんの味もして、こう…まるで戦車みたいな力強い味ですね」

女子アナ「それとこのお肉、ちょっと変な例えですけど…部活帰りにみんなで行ったラーメン屋さんみたいなガッツリ感がします」

ぺパロニ「おっ、お姉さんわかってるっスねぇ! 最初は自前の魚肉ソーセージを使ってたんですよ。ナポリタンですし」

ぺパロニ「でも戦車道やる娘たちってみんな運動してるわけじゃないッスか」

ぺパロニ「だったらガッツリ肉入れてあげた方が受けるんじゃないかなぁって大会に合わせてレシピ変えたんすよ。今んとこ大成功ッスね!」

女子アナ「あー、わかるわー。ラーメン屋さんのおじさんも、サービスで大盛りにしてくれたのよねー」

女子アナ「イタ飯屋さんのオシャレな感じじゃなくて、空きっ腹に勢いでぶっ込む感じの美味しさ…まさに戦車女子の為のパスタと言った所でしょうか」

ぺパロニ「戦車女子だけじゃないっすよー、日々戦う人の為のパスタっす! というわけでスタッフさん達もどうぞ!」

ゴトッ

*録画のままカメラを置く上島D。

ひな「……」キョロキョロ

オオーウメーナコレー! デショー? アノサツエイッテコンナンデイインデスカ!? イイノイイノウチハイツモコンナカンジダカラ!!

ひな「……」ヒラヒラ
56 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:37:34.73 ID:jZq1WRSv0

――――何故アンツィオ高校で戦車道を?

アンチョビ「募集があったから、ですね」

アンチョビ「私は戦車道始めたのが遅かったんですよ。中3の春」

アンチョビ「強い高校には入れなかった。そんな時にアンツィオに声をかけて貰って」

アンチョビ「アンツィオの戦車道を建て直さないかって。それで今に至ります」

――――何故戦車で屋台を?

アンチョビ「アンツィオは商人の学校ですからね。活動費は自分で稼がなきゃならない」

アンチョビ「それでうちでもパスタを売ってたんですけど、どうにも売上が振るわない」

アンチョビ「アンツィオの屋台はレベル高いですからね。何かしないと、どうしたって埋もれてしまう」

アンチョビ「じゃあうちには何があるかって考えたら、戦車があるじゃないかと」

アンチョビ「それで、店先に飾っとくことにしたんです。アンツィオ戦車道ここにありって」

アンチョビ「お客さんには、サービスで乗せてあげたりもしてます。結構喜んで貰えてますね」

――――この先陸でも商売を?

アンチョビ「大会期間中だけです。流石に学業に差支えが出ますからね」

アンチョビ「でも、期間中はできるだけ多くの会場を回ろうと思います。もちろん東富士にも行きますよ」

アンチョビ「他校の偵察も兼ねてです。今年は屋台でくっついてくだけですけど、うちだって戦車道科ですからね」

アンチョビ「来年の夏には、絶対出場…いや優勝したい」

アンチョビ「けど、それとは別に、こんな戦車道もあるってことをみんなに見せたいって気持ちもあります」

アンチョビ「そっちのが、今は強いですね」

アンチョビ「何を言ってもうちは、まだ3人しかいませんから」

――――勧誘ですか?

アンチョビ「勧誘です」

アンチョビ「って言っても、シニアでバリバリやってたような子達はもう、強豪から声が掛かってるでしょうから」

アンチョビ「うちでは、大会の試合を見て自分もやってみたいって思った子とか、学校の実習が楽しかった子とか」

アンチョビ「そういう子達に戦車道をやらせてあげたいですね。絶対いっぱいいると思うんですよ」

アンチョビ「だって、楽しいですから。戦車道」

――――では、最後に一言

アンチョビ「こほん…諸君! アンツィオ高校戦車隊は諸君らの入隊を待っている!」

アンチョビ「今なら入隊すれば即レギュラーだ! すぐ戦車に乗れるぞ!!」

アンチョビ「戦車だったらいっぱいあるからな!!」

ぺパロニ「ちょっと待って下さいよ姐さん!」ズイッ
57 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:39:26.33 ID:jZq1WRSv0
アンチョビ「な、なんだぺパロニ!? 今撮影中だぞ!?」

ぺパロニ「戦車はいっぱいあるって、うちには自走砲と豆戦車しかないじゃないッスか!」

アンチョビ「ば、バカ! そんなこと今言うことじゃないだろう!?」

ぺパロニ「ダメっすよー誇大広告なんてー。そんなことしたってすぐバレるんスから」

ぺパロニ「スタッフさん! あとでここにうちの戦車のテロップ入れといてください!」

アンチョビ「ぺパロニ―!! お前なんでそんな、まともにお前、もー…このアホーーーーーっ!!」

ぺパロニ「あっはっは! やだなぁ姐さん、私がアホだったら戦車道科潰れちゃうじゃないッスかぁ」

*アンツィオ高校戦車道科保有戦車はセモヴェンテ自走砲3輌・CV33豆戦車7輌です。

ひな「ついでに言うと戦車に乗る前にまずパスタ茹でなきゃなんですけどね」ニュッ

アンチョビ「カルパッチョお前もかーーーっ!?」

ひな「二人だけいっぱい映って羨ましかっただもん」

アンチョビ「なっ、あのクールでかっこいい副官カルパッチョはどこ行っちゃったんだよーーーっ!?」

ひな「そんな人最初から居なかったんじゃないですか? あ、たかちゃん見てるー?」ヒラヒラ

アンチョビ「ああ、もう…すみません今のとこ全部カットでお願いします。流石に恥ずかしすぎる」

*結局全部使っちゃいました。

アンチョビ「こほん…諸君! 何かを始めるのに遅すぎるということはないぞ!!」

アンチョビ「アンツィオ高校戦車隊はいつでも諸君らを待っている!」

アンチョビ「みんな! 一緒に戦車道やろう!!」



女子アナ「何かを始めるのに遅すぎるということはない。いい言葉ですね」

女子アナ「TVO川島瑞樹がお伝えしました」
58 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:40:33.69 ID:jZq1WRSv0
<高校2年の8月・黒森峰女学園学園艦・機甲科学生寮>

まほ「……」

みほ「……」

黒森峰隊員「相っ変わらず変な戦車道やってんなぁ、千代ちゃんは」

みほ「あれ、戦車道なんですか?」

黒森峰隊員「そう! 変なんだー、あの子の戦車道は!」

黒森峰隊員「私と隊長がユースでやった時なんて、単騎で黒森峰の隊列に突っ込んで来たんだぞフラッグ車で!」

黒森峰隊員「で、稼いだ時間で森ん中に戦車の看板並べて伏兵置いて、あっという間に二輌撃破して」

黒森峰隊員「そのあと何かしてくんのかなーって思ってたらそのまま2時間何もしない」

黒森峰隊員「こっちはバス・戦車・バス・戦車でケツが痛ぇってのに2時間もだんまりだぞぉ!?」

黒森峰隊員「こっちのケツが万全だったら、最初の突撃の時にあっさり撃破されて終わってたのにさぁ」

黒森峰隊員「それが絶対上手く行くって自信あったのかねー? 開始5分で終わってたら、あの看板とか完璧無駄骨だったってのに」

みほ「安斎さんって、勝ったんですか? お姉ちゃ…隊長や、先輩に」

黒森峰隊員「バカ言っちゃいけないよ。アタシら黒森峰だぞ?」

黒森峰隊員「2時間たっぷり待たせた挙句、最後は思い出したようにフラッグ車が背後に回ってきて」

黒森峰隊員「後は我らがまほ隊長にあっさりぶち抜かれて試合終了!」

黒森峰隊員「隊長はさ、千代ちゃん大好きだからあれも全部計算だって言い張るけど」

まほ「……」

黒森峰隊員「アレ絶対思いつきだと思うなー。だって作戦で2時間待ちって、アタシが部下なら反乱起こしてるよ」

みほ「思いつきって、試合、だよね?」

黒森峰隊員「多分、負けるのとか失敗するのとか、全然怖くないんだろうねぇ」

黒森峰隊員「だからノリと勢いでどこまでも突っ走っていける。へんちくりんな作戦に全ツッパ出来る」

みほ「ノリと勢い…」

黒森峰隊員「で、転んでも躓いても前に進めちゃうから…気付いたらパスタ屋の店長なんかに収まっちゃったりするワケだ」

みほ「ぶっ…!!」

黒森峰隊員「うん。千代ちゃんが気付いてないだけで、アレやっぱ戦車道じゃないねぇ」

黒森峰隊員「ありゃパスタ道だ」

みほ「っくっくっく…パスタ道っ…パスタ道って…!」

黒森峰隊員「だって考えてもごらんよ? 千代ちゃんアレでどうやってうちと試合するのさ?」

黒森峰隊員「料理対決でもするか? 自慢じゃないがうちの隊員は戦車以外何もできないぞ?」

黒森峰隊員「隊長、みほちゃん、ついでに私で、千代ちゃん一人にあっさり全滅するぞ?」

黒森峰隊員「フラッグ車走行不能! アンツィオ高校の勝利!!」

みほ「あっはっはっは!! いいなぁ、安斎さんのパスタ道…!!」ジワッ

黒森峰隊員「…みほちゃん?」

みほ「あっ…あれ? どうして私…そんな…泣くようなこと、何もないのに…」ポロポロ

まほ「みほ」

みほ「お姉ちゃ…隊長」

まほ「明日も早い。今日はもう休みなさい」

みほ「了解…おやすみなさい、隊長。先輩」

まほ「ああ、おやすみ、みほ」
59 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:41:39.55 ID:jZq1WRSv0
黒森峰隊員「…みほちゃん、限界だね」

まほ「言うな。みほも、西住の娘だ。耐えねばならん」

黒森峰隊員「…みほちゃん、ほとんどボッチ飯だよ。たまに小梅ちゃんが一緒だけど」

黒森峰隊員「後は、ルームメイトの逸見ちゃんがツンデレしてるくらい」

黒森峰隊員「でも今のみほちゃんじゃ無理だ。ツンデレの相手なんてする余裕はない」

黒森峰隊員「…私らだけのときくらいお姉ちゃんって呼ばせてあげなよ? 西住の娘なんでしょ?」

まほ「みほは、歯止めが利かなくなる。先輩連中に隙を見せるわけには行かない」

黒森峰隊員「…撃てば必中守りは堅く、進む姿に乱れ無し。鉄の掟、鋼の心」

まほ「……」

黒森峰隊員「鉄の規律と乱れなき連携。それを支える鋼の練度。常人が超人を打倒する為の流派」

黒森峰隊員「…嫌な使われ方、しちゃったね」

まほ「だが、それも明日で最後だ」

まほ「明日が終われば、先輩連中は引退する。二度とみほに近づくこともない。近寄らせはしない」

黒森峰隊員「そうだね。みほちゃん、よく頑張ったよ…うん、よく耐えた!」

黒森峰隊員「明日は絶対勝つよ! 私達の手で、みほちゃんを守るんだ!」

まほ「当然だ。みほは私が守る。もう二度と、誰にも指一本触れさせはしない」

まほ「先輩連中にも、OG連中にも、お前にもだ」

黒森峰隊員「えっ、ちょっとタンマ、わっ私も!?」

まほ「当然だ。私の妹だぞ」

黒森峰隊員「そりゃないぜ! 私にもちょっとくらい撫でさせておくれよぉ!」

まほ「ダメだ。私の、妹だ」

まほ「明日が終わって、先輩連中を追いだしたら…安斎の店で祝勝会だ」

まほ「なんだかんだで、まだみほに食べさせてやれてないからな。安斎のパスタ」

まほ「ヘリで呼びつけて、私達だけの為にひたすらパスタを茹でさせてやろう」
60 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:42:18.16 ID:jZq1WRSv0

<高校2年の8月・静岡県東富士戦車演習場>

ぺパロニ「…ふぅ、やっぱ雨だと客足鈍るっすねぇ」

アンチョビ「そうだなぁ。ま、おかげでゆっくり観戦できるんだ。何事もプラスに捉えていこうじゃないか」

ぺパロニ「そうっすね。いっそ、店閉めちゃいましょうか?」

アンチョビ「そうだな。どうせならちゃんと客席で見たいもんな。私達だって戦車道科だ」

ぺパロニ「了解! ちょっと待ってて下さい」



ひな「いよいよですね、決勝戦。プラウダが意地を見せるか、それともやっぱり黒森峰か」

アンチョビ「なんだひな、お前西住流のくせして、黒森峰応援しないのか?」

ひな「別に西住流ってわけじゃないですよ。習った教官が西住流ってだけで」

ひな「それにしたってどれだけ真っ当なのか、言うなれば西住風ですかね」

アンチョビ「曖昧だなぁ。パスタか何かか?」

ひな「ふふっ、それにいずれ黒森峰を倒すんでしょう? 私達」

ひな「だったら応援なんてしませんよ。するのは偵察です」

アンチョビ「そっか、そうだよな…よし! 偵察はひなに任せた!!」

ひな「ふふっ、了解です。西住さんの応援は、よろしくお願いしますねドゥーチェ」

アンチョビ「おう任せろ! 史上初の10連覇だもんなぁ。西住の奴、いったいどんな顔するんだろうなぁ」

アンチョビ「フフッ、楽しみだなぁ」

ぺパロニ「片付け完了っと。そんじゃ、客席行きましょう姐さん!」

アンチョビ「おう、行こうか二人とも! 私達のライバルが、栄光をつかむところを見に!!」

ひなぺパ「「了解!」」


アンチョビ(…それにしても、嫌な雨だなぁ。大丈夫か? 路面とか川とか…)
61 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:43:09.31 ID:jZq1WRSv0







審判「ふ、フラッグ車行動不能! 優勝は、プラウダ高校!!」






62 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/08(日) 22:45:58.82 ID:jZq1WRSv0
とりあえずここまでです。アンツィオ戦車道ができましたので
次回からはまほチョビの種を蒔いていこうと思います。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 19:43:06.48 ID:vqX8nANu0

今更だけどチョビんとこの先輩達ってどこぞの暗殺者チームかよw
つーか会長(ボス)とか絵面想像したら吹くんだがw
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/10(火) 08:07:07.39 ID:b/TETwp7O
65 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/10(火) 22:03:55.94 ID:STIjIGMf0
ドゥーチェ・アンチョビはアンツィオの風が育てた。
投下します。
66 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/10(火) 22:04:41.81 ID:STIjIGMf0

<高校2年の8月・静岡県東富士戦車演習場>

アンチョビ(何が…何が起こった!?)

アンチョビ(試合は黒森峰が優勢だった筈だ…川岸にプラウダのフラッグ車を追いつめて)

アンチョビ(あと一撃、あと一撃で黒森峰が優勝するところだった)

アンチョビ(あと一撃で、西住が10連覇を…)

アンチョビ(先行していた黒森峰の戦車が、谷川に落ちた)

アンチョビ(雨で水量が増していた谷川に…)

アンチョビ(そして黒森峰のフラッグ車から、選手が一人、飛び出した)

アンチョビ(雑誌で読んだぞ…今日のスタメンでもアナウンスされた…)

アンチョビ(西住みほ…フラッグ車の車長…西住の、妹だ)

アンチョビ(川に落ちた戦車を助けるために、仲間を助けるために、飛び込んだんだ)

アンチョビ(西住の妹は、無事だった)

アンチョビ(仲間達と一緒に、水面まで上がってきた)

アンチョビ(けどその時にはもう…黒森峰のフラッグ車はやられていた)

アンチョビ(審判の声が、聞こえた気がする…)



アンチョビ(試合、続いてたのか!?)



アンチョビ(待て待て待て! 何でだ!? 何で試合が続いてるんだ!?)

アンチョビ(戦車が川に落ちたんだぞ!? 完全に水没してたんだぞ!?)

アンチョビ(何で誰も止めないんだ!?)

アンチョビ(審判は何やってた!? プラウダ高校もなんで撃った!?)

アンチョビ(人間、水に溺れたら死んじゃうんだぞ!?)

アンチョビ(どうして、誰も…!!)

声「あーあ、何やってんだよ西住妹ー!」

アンチョビ(!?)

声「お前のせいで負けたじゃねぇかー!」

アンチョビ(待て…)

声「戦車が水に落ちた程度で取り乱して…これだから近頃の若い娘は!」

アンチョビ(こいつら…)

声「西住の娘のせいで10連覇ならずか…ハハッ、こりゃえらい騒ぎになるぞ!」

アンチョビ(何、言ってるんだ…!?)

声「死ぬ覚悟もない娘に戦車なんて乗って欲しくないなぁ、あーおもしろくない!」

アンチョビ(覚悟だと…!?)

声「おい西住姉妹の顔撮っとけ! 東京戻ってすぐ記事出すぞ!!」

アンチョビ(やめろ…なんでそんな…!!)

声「こりゃ号外だ! 黒森峰まさかの決勝敗退! 戦犯は西住妹!!」

アンチョビ(やめてくれ…そんなの…!)

声「西住ー!! 戦車辞めちまえーーーーっ!! 」

アンチョビ(そんなの…!!)

声「そのまま川に戻って死ねーーーーーっ!!!」

カチッ
67 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/10(火) 22:05:17.01 ID:STIjIGMf0







ごめん…兄貴…リーダー…





68 : ◆Bkxeh6JCZU [saga !red_res]:2018/04/10(火) 22:06:20.80 ID:STIjIGMf0







ブッ殺すッッッ!!!






69 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/10(火) 22:07:18.89 ID:STIjIGMf0

ぺパロニ「テメェ今なんつったァーーーーっ!!!」ガシィ!!

アンチョビ(!!)

観客「うぐっ!? な、なんだオマエ!?」

ぺパロニ「うるせぇ! 今なんつったって聞いてんだよ!?」

ぺパロニ「西住何やった!? 仲間助けただけだろーがッ!! それの一体何が悪いってんだよッ!!」

ぺパロニ「仲間の命より勝ちが大事だってのかよ!? たかが試合の一勝じゃねーかッ!!」

アンチョビ(ぺパロニ…)

ぺパロニ「それにテメェ西住の何だってンだよ!? 黒森峰の、戦車のなんだってんだよッ!?」

ぺパロニ「客席でビール食らって管巻いてるだけのオッサンじゃねーかッ!!!」

ぺパロニ「そんなに言うならテメーが戦車に突っ込んでって死ねッ!!」

観客「っ、このガキ!!」

ひな「やめなさいぺパロニ」ガシッ

ぺパロニ「ひな! けどコイツ!!」

ひな「ちょっと飲み過ぎちゃっただけよ。本心からの言葉じゃない」

ひな「戦車道を応援してくれる人が、そんなこと言うわけないもの。でしょう? お兄さん」ニコッ

観客「お、おう…そ、それをこのガキ」

ひな「ですが、あまり飲み過ぎない方がいいですよ? 他にも飲み過ぎた方、結構いらっしゃるみたいですし」

チョットゴメンヨ! オレノカメラガ!? ナンナンダヨテメーラ! ジュウドウロクダンカラテゴダンニンゲンイチモンジハヤト! オナジクオレジャーナルノキドシンジ!!

ひな「怖い人に絡んじゃったりしたら、取り返しのつかないことになっちゃうかも、ね?」ニコッ

観客「…!!」ゾクリ

ひな「…帰りましょう、ドゥーチェ」

アンチョビ「あ、ああ…すまない、カルパッチョ。だが私は」

ひな「ひなです。ここにいてもきっと、どうにもなりません。西住さんも多分…ですから」

アンチョビ「…わかった」

ぺパロニ「おいオッサン!! テメェ顔覚えたからな!! 二度と戦車道見に来るんじゃねーぞ!!」
70 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/10(火) 22:09:23.07 ID:STIjIGMf0
短いですが今日はここまでです。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/10(火) 23:03:23.83 ID:aL1HtyHF0
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/11(水) 19:29:11.74 ID:Ofr4HpSgO
73 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/12(木) 22:54:38.10 ID:lMdeZzgr0
投下します。
74 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/12(木) 22:55:30.49 ID:lMdeZzgr0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

新聞『家元断言「犠牲なくして勝利なし!」西住妹勘当か!?』

新聞『チームメイト涙の激白! 西住妹は空気が読めない!』

新聞『聖グロOG会会長も喝! 堕落した現代戦車道!』

新聞『西住姉疑惑のMVP! 西住流と高校戦車道の闇!』

新聞『近づくもの皆傷つける! ボコから探る西住妹の異常行動!』

新聞『カチューシャ・プラウダ 奇跡の逆転V!』

新聞『失踪の戦犯西住みほ、萩原雪歩激似AV転向!              はよ』

アンチョビ「……」

ひな「ドゥーチェ」ヒョイッ

アンチョビ「あ、おいひな。まだ読んでる途中…」

ひな「こんなもの読んでたって、いいこと一つもありませんよ」ビリビリビリッ

ひな「それより発注してた砲弾が届きました。砲撃演習、やりましょう?」

アンチョビ「そうだな…ちょっと待ってろ、今準備する」フラフラ

ひな「……」



ひな「…ドゥーチェ」ギュッ

アンチョビ「おっ、なんだ? 珍しいな、ハグだなんて。お前もようやくアンツィオに…」

ひな「戦車道、嫌いになっちゃいましたか?」

アンチョビ「!!」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/12(木) 22:55:38.12 ID:XfX8IVo70
待ってた
76 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/12(木) 22:56:13.52 ID:lMdeZzgr0
ひな「失望しましたか? 戦車道に」

アンチョビ「……」

アンチョビ「…普通のコトなんだろう? こんなこと」

アンチョビ「部隊が一丸となって勝利を目指す。負けたのなら、原因を徹底的に洗い出す」

アンチョビ「隊の皆の日頃の努力を無駄にしないためにも、勝利を目指すことこそが隊長の義務」

アンチョビ「隊員は勝利の為に己を捨てて隊に忠誠を尽くす」

アンチョビ「そして戦車道の試合は十分な安全確認の下に行われているから危険は一切ない」

アンチョビ「審判の判断は絶対である。誤審は在り得ない」

ひな「…そうですね。私も、戦車を始めた時からずっと、そう教わってきました」

ひな「リトル・シニアとずっとやってきて、先輩にも後輩にもなった」

ひな「隊長役にも隊員役にも、紅白戦ですけど、審判役をやったことだって」

ひな「だから、気持ちがわかっちゃうんですよ。いろんな人の気持ちが」

アンチョビ「ひな…」

ひな「全国大会の決勝戦、それも史上初の10連覇が懸かった試合」

ひな「黒森峰は絶対に勝ちたかった。でもそれ以上にプラウダ高校だって勝ちたかった筈なんです」

ひな「東のプラウダ西の黒森峰と称されながら、もう9年も優勝してない。まして10連覇を眼前で成し遂げられるなんて耐えられない」

ひな「そんな矢先に目の前にあんなチャンスが転がり込んできて、しかも審判は試合を止めてない」

アンチョビ「…撃つか」

ひな「…撃ちます。戦車道をやってきた者なら、誰でも」

ひな「でも審判も、試合を止めることはできなかったと思います」

ひな「西住さん、みほさんが川に飛び込んでから、フラッグ車が撃たれるまで、一瞬でしたから」

ひな「審判からは水没した戦車の状態は確認できないし、みほさんは搭乗員を救助できて『しまった』」

ひな「生身の人間一人で救助できる程度の事態なら、それは事故ではない。ただの行動不能である」

ひな「戦車道の審判なら、そう判断します」

アンチョビ「…結果論じゃないか」

ひな「結果論です。ですが、戦車道にまぐれなし。あるのは実力のみ」

ひな「だから、黒森峰側も黙って結果を受け入れるしかなかった」

アンチョビ「受け入れる、か…」

アンチョビ「なあ、ひな…受け入れてるのか? これ」

ひな「…受け入れられてませんね。それでも、前に進み続けるしかないんです」

ひな「西住流に後退はありませんから…でも」

ひな「ホントは言うほど強くないんですよ、戦車道やってる子って」

ひな「多分、この敗北は今まで誰も経験したことのないくらい、重かったんだと思います」

ひな「だって、史上初だったんですから」

ひな「期待が大きければ大きいほど、失望もまた大きくなる」

ひな「戦車道の試合は隊員達だけのものじゃない。監督やコーチ、整備サポート、OG、後援会…」

ひな「黒森峰ともなれば、西住流の総本山ともなれば、それこそ膨大な数の人間が関わっている筈です」

ひな「だからこそ、誰もが自分の身を守るために…誰かを生贄にしなければならなかった」

アンチョビ「…仲間を生贄に、か」ギリッ

ひな「……」
77 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/12(木) 22:58:26.70 ID:lMdeZzgr0
ひな「…或いは、仲間じゃなかったのかもしれません」

アンチョビ「何? そりゃどういうことだ、ひな?」

ひな「……」

アンチョビ「ひな?」

ひな「…戦車道は、団体競技です。団結の力が個人の才能を凌駕することもままあります」

ひな「特に西住流は、そのための流派と言われていて、だからこそ多くの人が集まった」

ひな「努力と連携で、常人でも天才を倒せるようになるから…」カタッ

アンチョビ「…ひな?」

ひな「…ドゥーチェ、戦車道チームでは、よくあることなんです」カタカタ

ひな「才能があって、戦車道も大好きで、そんな風にして入ってきた子が」カタカタ

ひな「妬みや嫉みで爪弾きにされて、孤立して、やがて戦車道を嫌いになって出ていく」ガタガタ

アンチョビ「ひな」

ひな「光の巨人じゃない。仮面の戦士でもない。人間なんです」ガタガタ

ひな「人間の集まりなんです。私達は」ガタガタ

アンチョビ「ひな」

ひな「お願いです、ドゥーチェ…!!」ガタガタ

ひな「どうか、戦車道を、嫌いにならないで下さい…!!」ガタガタ

アンチョビ「……」ギュッ

ひな「ドゥー、チェ…?」ピタッ

アンチョビ「私の大好きな役者さん…うん、役者さんがこんなことを言ってたんだ」

アンチョビ「『誰かに失望しそうになった時には、その人が今までしてくれたことを思い出して、感謝の気持ちで許そうと思う』」

アンチョビ「『人を嫌いになりたくないから』…だそうだ」

アンチョビ「正直、私だって今もへこんでる。でも、戦車道を嫌いになりたくない」

アンチョビ「だから、大丈夫だ。私も、戦車道を好きでいたい。これだけは間違いなく、胸を張って言える」ポンポン

ひな「っ…!!」

アンチョビ「…ありがとうな、ひな。私の為に、話したくないこと、話してくれて」

アンチョビ「絶対、アンツィオの戦車道は、そうじゃない戦車道にしよう」

ひな「ドゥーチェ…」ジワッ

アンチョビ「私達の手で、そんなことしなくてもいい戦車道を作り上げるんだ! な?」

ひな「ドゥーチェぇ…!」ポロポロ

アンチョビ「あっはっはっは! ほらほら泣くな! そんなんじゃ砲を撃たせてやらないぞ!?」バシンッ

ひな「っ…!!」ゴシゴシ

ひな「はい…!!」

アンチョビ「ぺパロニも屋台から呼び戻せ! 一週間ぶりの、念願の砲撃演習だぞォ!」



アンチョビ(そうだ…嫌なとこいっぱい見せられたけど、やっぱり私はまだ戦車道を辞めたいとは思わない)

アンチョビ(戦車道をやりたい。戦車道を好きでいたい)

アンチョビ(でも、一体どうすればいいんだろう…? 戦車道を好きでいるためには…)
78 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/12(木) 23:00:10.44 ID:lMdeZzgr0
お待たせしました。今回は以上です。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/12(木) 23:06:42.15 ID:XfX8IVo70
お疲れ
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/13(金) 08:49:35.52 ID:KSEODURuO
81 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/13(金) 19:17:35.88 ID:MAglbMei0
投下します。
82 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/13(金) 19:19:19.02 ID:MAglbMei0

<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ぺパロニ「…ふぅ、仕込み完了っと!」

ぺパロニ「スンマセン姐さん、待たせちゃって。そっちは終わりそうっすか?」

アンチョビ「ああ、今終わったとこだよ。9月の売上、いい感じだな」

ぺパロニ「秋は長期滞在のお客が多いっすからね。ここらでちょっと変化球なものも食べたくなってくるんスよ」

ぺパロニ「ちゃんとした箱の本格イタリアンがいつでも最強なわけじゃない。現にサンダース辺りじゃうちが最強でしょう?」

ぺパロニ「屋台の和製イタリアンでも、腕と戦術次第で十分戦える。戦車道と一緒っすよ、姐さん」ニカッ

アンチョビ「ははっ、そうだな…けどペパロニ、お前だってホントは本格的なイタリアン、作ったりしたいんだろ?」

ぺパロニ「そりゃそうですよ。でもご心配なく! 屋台で出せる本格イタリアン、ちゃんと研究始めてますから!」

ぺパロニ「材料の使いまわしと仕入を工夫すりゃ、ピッツァはともかくパスタは行けそうなんスよねぇ」

アンチョビ「ピッツァは無理なのか?」

ぺパロニ「流石に屋台に窯は置けませんからねぇ。材料の使いまわしにも限界ありますから」

ぺパロニ「それこそ、うちの戦車道に、考えなしにポンとティーガー持ってくるようなモンですよ」

ぺパロニ「ちゃんと運用できる下地を作ってからじゃないと、大枚叩いてお荷物を抱えるだけ。そんなことすると、店が潰れるんスよ」

アンチョビ(そういえば、書類上では確か炊事車両が何台かあったな。いずれ、もっと人が増えたら探してみるか)

アンチョビ(…昔っからこんな感じの戦車道だったのな、アンツィオ高校)

ぺパロニ「とにかく、料理の事は私に任せて下さい! 絶対に、姐さんやひなにひもじい思いはさせません!」

アンチョビ「はは、ありがとうなぺパロニ。お前が居てくれて、本当によかったよ」

ぺパロニ「へへっ、もっと褒めていいっすよ姐さん!」

アンチョビ「…なあ、ペパロニ」

ぺパロニ「姐さん?」

アンチョビ「お前戦車道、好きか?」

ぺパロニ「戦車道って、うちでやってる戦車道っすか?」

アンチョビ「そうだ、その戦車道だ」

ぺパロニ「んー…そうっすねぇ」

アンチョビ「……」

ぺパロニ「うーーーーん…」

アンチョビ「……」

ぺパロニ「むむむ…」

アンチョビ「…お、おいぺパロニ?」

ぺパロニ「むむむーーーーん…」

アンチョビ「そっ、そんなに悩むことか!? ぺパロニお前、うちに不満でもあるのか!?」

アンチョビ(いっ、いやよく考えたら不満ないわけないよな!? というか不満しかないよな!?)

アンチョビ(屋台はあんなだしメニューも1品だけだし戦車もお財布もああだから、現状一番働いてるのぺパロニだし!)

アンチョビ(おまけに私の思いつきで戦車道大会にくっついてくなんて無茶もしたからお財布ますます苦しいし!)

アンチョビ(けっ、けど今ぺパロニに愛想尽かされたらうちはもう…!!)

アンチョビ「ぺっ、ペパロニ!」

ぺパロニ「好きですね」

アンチョビ「へっ…!?」

ぺパロニ「うん、私は戦車道好きっすよ! 姐さん!」
83 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/13(金) 19:20:53.71 ID:MAglbMei0
アンチョビ「〜〜〜〜〜〜っ!!」ペタン

ぺパロニ「って、どうしたんスか姐さん? そんなフニャっちゃって」

アンチョビ「お、お前なぁ〜〜〜〜…!!」プルプル

アンチョビ「何でそんなに悩んだんだよ!? 不安になるだろォ!?」

ぺパロニ「やー、何か姐さん真面目な顔していきなり聞いてくるもんだから」

ぺパロニ「だったら私も本気で考えなきゃなって。スンマセン、姐さん」

ぺパロニ「でも大丈夫です! 私、ちゃんと戦車道好きっすよ姐さん!」

アンチョビ「ならいいんだが…でもホント、なんでそんなに悩んだんだ? あんなにウンウン唸ってるお前なんて初めて見たぞ?」

ぺパロニ「んー、一個ずつ考えてたら時間かかっちゃったんすよねー」

アンチョビ「一個ずつ?」

ぺパロニ「戦車道の何が好きって、まずCV33でかっ飛ばすのが一番好きで」

ぺパロニ「次に機銃をブッ放すのが好き。なんかアリアリアリアリッって感じで好きなんすよねー」

ぺパロニ「装填は別にそうでもなくて、砲を撃つのはまあ普通」

ぺパロニ「だから砲を撃つのは姐さんやひなにいっぱいやらせたいなーとは思います。ウッキウキでやってますもんね、二人とも」

ぺパロニ「戦車の整備はけっこーワクワクして、でも整備自体はそんなに好きじゃない」

ぺパロニ「けどこれやったらどんだけいい感じの走りを見せてくれんのかなーとか考えながらやると楽しいからセーフ」

ぺパロニ「戦術とか作戦とかは、ぶっちゃけあんましよくわかんないッスね」

アンチョビ「オイ」

ぺパロニ「でも姐さんが楽しそうにアレコレ話してるの見るのは好きなんで眠くはならないッス」

ぺパロニ「ひなの話は完全にダメっすね。細かすぎて眠くなっちゃう」

アンチョビ「…なんかひなの方が精巧な作戦立ててるみたいじゃないか、それだと」

ぺパロニ「あはは! 姐さんの話は感覚的なんすよ。だから私でもついてけるんです」

ぺパロニ「…てか、その与太話みてーな姐さんの話をひなが細かく詰めていくってのがうちの流れなんじゃなかったんすか?」

アンチョビ「ちーがーう! 私はそんな、要介護隊長じゃあないんだぞ!? なんだよ与太話ってーーーーっ!!」

ぺパロニ「あっはっはっは! なーんだ、そうだったんスかぁ!!」

ぺパロニ「…でもってそうやって姐さんを支えて戦車をガッチリ固めてるひなは大好きで、先頭に立っていっつも何か頑張ってる姐さんのことは超好きっすね!」

ぺパロニ「だから全部ひっくるめて、私は戦車道が好きってなったわけっす!」

アンチョビ「そうか…お前も結構考えてるんだな」

ぺパロニ「へへ、他でもない姐さんの問いかけでしたから。本気で頭回しましたよ。私、姐さんのコト超好きっすから!」

ぺパロニ「…だから姐さん、誰かをぶん殴るなんてことは、私に任せちゃ貰えませんか?」

アンチョビ「!!」
84 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/13(金) 19:21:56.46 ID:MAglbMei0
アンチョビ「ぺパロニ、お前」

ぺパロニ「私、笑ってる姐さんが大好きです。涙目でプルプル震えてる姐さんもムキーッてなって怒ってる姐さんも大好きです」

ぺパロニ「けどあんな真っ黒な目ぇした姐さんは初めて見ました。こりゃヤベーって」

ぺパロニ「こりゃ、あんまし見てたくないなって、それで私が行ったんですけど。多分ひなも気付いてたと思いますよ?」

アンチョビ(そうか…それでひなは)

ぺパロニ「私に言わせりゃあんなゴミクズ野郎ぶん殴られて当然だって思いますけど」

ぺパロニ「姐さんはあんなゴミでもぶん殴った後引きずるんじゃないっすか? 姐さん、誰にでも優しいっすからね」

アンチョビ「いや、そんな…」

ぺパロニ「しかも姐さん、あんとき拳握ってましたけど、何か変でしたよ? いやそれで人殴ったら絶対怪我するだろって握り方で」

ぺパロニ「だから、人を殴るなんてのは私の仕事なんです。姐さんはそんなことしちゃダメっすよ。ね?」

アンチョビ「ぺパロニ…」

ぺパロニ「私はいいんですよ。元々がこうですからね。『やめろこのバカロニ!』とでも叱ってくれれば、それで十分ご褒美っすから!」

アンチョビ「…ありがとう、ペパロニ。でも、やっぱりダメだよ。私も、ぺパロニが人を傷つけるとこなんて見たくない」

アンチョビ「この話はなしだ。ごめんな。せっかく心配してくれたのに」

ぺパロニ「…へへっ、姐さんならそう言うと思ってました」

ぺパロニ「ま、大丈夫っすよ! 姐さんの隣にはいつだって、私が立ってます。姐さんの気持ちなら、隣に居れば大体わかるッスから」

ペパロニ「姐さんが本気でブチ切れたら、私がすぐにビシッと、ね?」

アンチョビ「はは、だからダメだって…ホント、ありがとな? ペパロニ」

ぺパロニ「へへ、鍵掛けて帰りましょう、姐さん。明日も早いんすから!」

ペパロニ「明日も戦車道、頑張りましょう!」
85 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/13(金) 19:25:44.49 ID:MAglbMei0
ここまでです。あの事件は黒森峰だけじゃなくみんなにとって大事件だったと思う
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 04:39:13.86 ID:8Ob6JPAU0
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 07:58:41.17 ID:hJzAcisdO
88 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/16(月) 17:18:37.34 ID:c4gTYo6a0
投下します。今回はほとんどチョビの独白です。
89 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/16(月) 17:19:35.26 ID:c4gTYo6a0

<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>

アンチョビ(一個ずつ考える、か…)

アンチョビ(そもそも私は戦車道の何が好きだったんだっけ…?)

アンチョビ(……)

アンチョビ(まずいなぁ…全部好きだぞ。戦車走らすのも戦車弄るのも戦車砲撃つのも)

アンチョビ(キューポラから身を乗り出して、景色が流れていくのを見てるのも楽しいし)

アンチョビ(煤だらけの戦車をバラして手入れしてやるのも、何か手のかかる弟みたいで大変だけど好きだ)

アンチョビ(まあカルパッチョみたいにうっとりとしながらやれる境地にまでは至れてないけど)

アンチョビ(砲を撃つことなんてもう、最高だ。あんな遠くのものを自分の引き金一つでバシャっとできるなんて)

アンチョビ(ちょっと間抜けだけど、人間ってすごいなぁって思える)

アンチョビ(…うちじゃあめったに砲撃演習できないから、余計に楽しく感じるな。もっと大きい砲だったら、もっと楽しいんだろうなぁ)

アンチョビ(ペパロニはああ言ってたけど、ティーガーとか欲しいよなぁ。せめて重戦車が欲しい)

アンチョビ(うちでも運用できる重戦車とかないかな? 今度探してみよう)

アンチョビ(…作戦を考えるのは…好き、というより得意だな)

アンチョビ(砲を撃つのも戦車を走らせるのも大好きだったけど、大体いつも私より上手いヤツ居たからなぁ)

アンチョビ(渚にせよ翠にせよ、汐華やミスターにせよ…今だって装填はカルパッチョのが早いし走りじゃペパロニのが速い)

アンチョビ(1年の時の、先輩たちと居たときくらいじゃないかなぁ。私が戦車で1番だったのって)

アンチョビ(そもそもメローネ先輩くらいしか、まともに戦車乗ってくれなかったのもあるけど)

アンチョビ(…戦車に触れて、戦車を動かす楽しさは戦車道が私にくれるもの)

アンチョビ(だったら作戦を考えるのは、戦車道で私ができること…?)

アンチョビ(たぶん、そうだ。私だってホントは、ティーガーらへんのThe戦車みたいなのをズラッと並べて)

アンチョビ(並み居る敵を装甲と火力でガンガン押しつぶしていくような戦いをしてみたい。そっちの方が気持ちいいし、かっこいいもの)

アンチョビ(それこそ、西住流みたいな…)

アンチョビ(けど、それをやってもうちの戦車じゃ黒森峰には絶対勝てない)

アンチョビ(というよりどこの戦車でも勝てない。それをやらせたら黒森峰が、西住が最強だ)

アンチョビ(だから絶対に同じことをしちゃいけない。同じことをしたって勝負にならない)

アンチョビ(じゃあどうするかどうすれば勝てるかってあれこれ考えるのは…やっぱり最高に楽しい)

アンチョビ(ダメだ、キリがない。やっぱり私は戦車道が好き。こんなにモヤモヤしてても、どうしようもなく好きなんだ)
90 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/16(月) 17:21:06.08 ID:c4gTYo6a0
アンチョビ(…逆に考えるんだ。戦車道の何が嫌だったか。なんで私はこんなに悩んでるんだ?)

アンチョビ(……)

アンチョビ(一番堪えたのはやっぱりあの野次だ。あの瞬間私は間違いなく心の中で『思った』)

アンチョビ(…兄貴と違って、『思った』ところで私に何ができた訳じゃあないけれど、それでもそのくらい嫌だったんだ)

アンチョビ(その後の、どんどん話が大きくなっていったのも嫌だった)

アンチョビ(西住を、西住の妹をみんなして好き勝手に、遠巻きに囲んで叩く様なんて、最悪だ)

アンチョビ(西住の妹は、みほはただ、仲間を助けたかっただけなのに)

アンチョビ(…そうだ、戦車道で一番嫌いなところは)

アンチョビ(一つ間違ったら人が死んでしまうところだ)

アンチョビ(カーボンのせいで忘れがちだけど人間は死んでしまうんだ)

アンチョビ(履帯に巻き込まれても、機銃で撃たれても、砲弾の破片が刺さっても)

アンチョビ(鉄の箱に閉じ込められたまま、水の中に沈められても)

アンチョビ(他にどんなに楽しいことがあったとしても、人死にを出してまでやることじゃない)

アンチョビ(やっていいことでもない。だから私は、戦車道を嫌いになりそうだったんだ)

アンチョビ(そうだ、戦車道で一番、何よりも私が好きなのは)

アンチョビ(人と親しくなれるところだ。仲間ができるところだ)

アンチョビ(戦車の中の、あのせまっ苦しい空間で)

アンチョビ(戦況次第じゃ何時間も何も起きない、あの退屈な時間の中で)

アンチョビ(私は初めて、友達を作れた)

アンチョビ(中学に上がって、戦車に乗るまで、友達と言ったらりぼんとなかよしと『あの番組』だけだったもんな、私)

アンチョビ(それが初めて、人の輪の中に入れた。中学の、実習チームの二人なんて、今でも連絡取っている)

アンチョビ(カルパッチョもペパロニも、部下じゃない。大事な、仲間だ)

アンチョビ(それに、西住…私はあいつともう一度会いたくて)

アンチョビ(それで…)








アンチョビ「んん!?」






アンチョビ「ちょっと待て! 今日、何日だ!? ひょっとして、まさか…!!」ガバッ

アンチョビ「うあ”あああああっ!! や、やっぱりだ…!!」

アンチョビ「あと10日で、黒森峰と航路が重なる…西住が…!!」
91 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/16(月) 17:21:44.62 ID:c4gTYo6a0





―――西住が、やってくる。




<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ペパロニ「姐さーん! 週刊誌と新聞、バックナンバーあるだけ買ってきたっすよー!!」

アンチョビ「そこに置いといてくれ! 後で全部読む!!」バババババッ

ひな「やめてくださいドゥーチェ! そんなの、そんなの読んでも何にもなりませんよ!!」

アンチョビ「いいやダメだ! 目を逸らしちゃダメなんだ私は!」

アンチョビ「私なら大丈夫だ! 何があろうと戦車道を嫌いになることはない!」

アンチョビ「最悪、そんなに嫌なら辞めてしまえばいい! でもあいつは、あいつは…!!」




アンチョビ「あいつは一生、戦車道するんだ!!」
92 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/16(月) 17:23:38.60 ID:c4gTYo6a0
今回は以上です。俺、このSSを書き上げたら初めてドラマCD買うんだ。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 17:33:13.81 ID:j/zQX94U0
乙乙
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 18:24:01.50 ID:pIiBhKsfO
今回の渚だの翠だの元ネタは何だ?
95 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:02:59.49 ID:hbpUV7Jk0
投下します。まほチョビの可能性を考える上で
チョビが愛知で産まれたことには重要な意味があると思うので
このSSには愛知に縁のあるキャラがちょこちょこ出ています。
96 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:05:58.40 ID:hbpUV7Jk0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・例の公園のベンチ>

アンチョビ(ダメだ…あれから新聞や、いろんな雑誌を読んだけど)

アンチョビ(どの記事も西住を、みほの行動を否定している…)

アンチョビ(特に戦車道の大家や強豪のOGなんかは酷い叩きようだ…)イクヨトーチャン!

アンチョビ(覚悟が足りない…自覚が足りない…)バッチコーイ!

アンチョビ(戦車道って…強豪校って…)ヒュッパシィッ

アンチョビ(というよりスポーツやるって、そういうことなのかな…?)ナイスボール!ヒュッパシィッ

アンチョビ(……)

アンチョビ(ああやって楽しそうにキャッチボールなんてしてる子供も、いつかはああいう風になるのかな…?)モウイッキュウ!

アンチョビ(野球も、色々厳しいって言うもんなぁ…)スッポヌケター!

ビュンッ…ポテッポテッ…

アンチョビ「あ…ボールがこっちに…」

父親「すみませーん!」

アンチョビ「あ、大丈夫ですよー」ボールヒロイ

アンチョビ「必殺ドゥーチェボール!!」ブオンッ

バスン! コロコロ…

アンチョビ「あ…」

父親「地面に直撃…」

子供「あっはっはっは! おねえちゃんへたくそー!」

アンチョビ「う…ちょ、ちょっと待ってろ!」ヒョイッ

アンチョビ(とはいえどうする!? 私、球技は全部ダメで、それで中学の選択でも戦車道を…)




通りすがりの長期滞在者「貸してごらん」




アンチョビ「あ、はい」

シュッ…パシィッ

アンチョビ「!!」

アンチョビ(お父さんの構えたグローブに一発で入った。すごいコントロールだ)アリガトウゴザイマシター!ナゲサセスギニキヲツケテネ

通りすがりの長期滞在者「それじゃあね」

アンチョビ「あのっ、すみません!」

通りすがりの長期滞在者「ん?」

アンチョビ「おじさん、高校で野球部だったりとか、しました? 凄い球、投げてましたけど」

通りすがりの長期滞在者「…そうだねぇ、高校でもやってたね。野球」

通りすがりの長期滞在者「それが、どうかしたかい?」

アンチョビ「その…母校が弱かったりすると、やっぱり嫌、ですか?」

通りすがりの長期滞在者「母校…母校かぁ」

アンチョビ「負けたりしたら…何か言いたくなったり、しますか?」

通りすがりの長期滞在者「うーん…そもそも僕の母校は、強かったからねぇ。それに、勝ち負けはしょうがないよ」

通りすがりの長期滞在者「どんなに強くても、どんなにいい選手を揃えても、いつでも絶対勝てるとは限らないからね」

通りすがりの長期滞在者「…何か、悩んでるのかな? おじさんでよければ話くらい聞くよ?」

アンチョビ「あっ、すみません」
97 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:07:27.20 ID:hbpUV7Jk0
アンチョビ「…私、戦車道やってて、ずっと夏大会のことで悩んでて…」

通りすがりの長期滞在者「戦車道…ああ、黒森峰の、あの」

アンチョビ「はい。うちは戦車道そんなに盛んじゃなかったから、そんなことなかったんですけど…友達が、黒森峰に居るんです」

アンチョビ「中学の時にもアイツ、勝ったのにビンタとかされてました。今回も、OGとか師範みたいな人達がみんなして西住を叩いてる…」

アンチョビ「スポーツって、そういうものなんですか…? 勝つことって、そんなに大事なことなんですか?」

通りすがりの長期滞在者「…戦車道は、伝統ある武道だからね。黒森峰と言ったら、僕でも知ってるような名門だ」

通りすがりの長期滞在者「まして10連覇の懸かった試合で負けたとなったら、それはすごい騒ぎだろうね」

通りすがりの長期滞在者「すごいね、10連覇。巨人でも果たせなかった偉業だ」

通りすがりの長期滞在者「そんなものが目の前にぶら下がってたら、どんな綺麗ごとだって吹っ飛んでしまう」

通りすがりの長期滞在者「絶対勝て、何としても勝て、どんなことをしてでも勝て、ってね」

アンチョビ「…そうです、か」

通りすがりの長期滞在者「でもね、それは精々1チーム、1校程度でしか通用しない考え方なんだ」

通りすがりの長期滞在者「競技全体のことを考えれば、勝つことより大事なことはある」

アンチョビ「!!」

アンチョビ「な、なんですか!? それって!」ズイッ

通りすがりの長期滞在者(おお、近いなぁ)

アンチョビ「……」ジッ

通りすがりの長期滞在者「…その競技を楽しんでもらうことだよ」

アンチョビ「楽しんで、貰う?」

通りすがりの長期滞在者「勝負である以上勝つことは確かに大事だ。でも、勝利を目指すのはあくまで勝つことが楽しいから」

通りすがりの長期滞在者「そのための練習が、自発的な努力を通り越して強いられる苦痛になっては本末転倒だ」

通りすがりの長期滞在者「『何としても勝て』が『どんなことをしてでも勝て』になって『勝つためには何をしてもいい』になる」

通りすがりの長期滞在者「挙句それが『勝ったものは何をしてもいい』『負けたものには何をしてもいい』になってしまったら、スポーツなんて害悪でしかなくなってしまう」

アンチョビ「害悪…」

通りすがりの長期滞在者「そういうやり方しか知らない人間を作ってしまうのなら、社会教育上よろしくないと言われても何も言い返せないよ」

通りすがりの長期滞在者「現に、僕の母校の野球部は、強かったけどなくなってしまった」

アンチョビ「ええっ!?」

通りすがりの長期滞在者「優勝もしたし、プロ選手だっていっぱい出したのにね」

アンチョビ「っ…ごめんなさい! 嫌なこと聞いてしまって!」バッ

通りすがりの長期滞在者「はは、いいんだよ。高校野球だけが、野球じゃないからね」

通りすがりの長期滞在者「…競技を楽しんでもらう。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど、実はスポーツの未来を考えると、本当に大事なことなんだ」

通りすがりの長期滞在者「勝ち負けしかないんじゃ、戦争だ。戦争、したい?」

アンチョビ「…したくありません」

アンチョビ「戦車道は戦車を、兵器を使います。でも、戦争じゃないと思いたい…戦争なんかに、したくない!!」

通りすがりの長期滞在者(戦争なんか『に』、したくない…ね)

通りすがりの長期滞在者(そっか、この子…)

通りすがりの長期滞在者「…大丈夫。野球だって強い兵士を作るためだった頃があった。でも、ちゃんとスポーツになれたからね」

通りすがりの長期滞在者「スポーツだったら勝ち負けだけじゃない。プロならまた違った話になってくるのかもしれないけど」

通りすがりの長期滞在者「それでも、嫌な思い出しかないスポーツを、わざわざ見に来る物好きが何人いるのかと…わかるかな?」

アンチョビ「…競技人口の、問題。そっか! だから楽しんで『貰う』って!」

通りすがりの長期滞在者「そう」ニッコリ
98 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:08:48.45 ID:hbpUV7Jk0

通りすがりの長期滞在者「もっとも、現場に近ければ近いほど勝利至上主義に陥りやすい」

通りすがりの長期滞在者「結果を求められる日々じゃ、そんなこと考えてる余裕はないからね」

通りすがりの長期滞在者「それでもようやく、最近は変わりつつあるんだ」

通りすがりの長期滞在者「現役の一流選手達が言葉を発し始めている。かつての名選手が指導者として、野球をより良いものにしようとしだしてる」

通りすがりの長期滞在者「ずいぶんと、時間が掛かってしまったけれどね」

通りすがりの長期滞在者「…だからこそ、僕は戦車道も、もっと色々聞いてくれればいいのにって思う」

アンチョビ「聞く?」

通りすがりの長期滞在者「そう。この国のスポーツとして、そして娯楽、或いは興業として」

通りすがりの長期滞在者「野球はずっと考え続けてきたんだ。勝利至上主義の問題も、誤審の問題も、或いはもっと嫌な問題もね」

アンチョビ(誤審の問題…そういえば渋谷凛のラジオでも、よくゲストに呼ばれる人が誤審されたって…)

通りすがりの長期滞在者「もちろん、全部に答えを出せてるわけじゃない。どの問題もまだまだ根深い」

通りすがりの長期滞在者「それでも失敗談くらいならいくらでもしてあげられる」

通りすがりの長期滞在者「戦車道は確かに伝統ある武道だけど、それでもまだまだ若いスポーツなんだから」

通りすがりの長期滞在者「まだまだこれから、成長していくスポーツなんだからね」

アンチョビ「成長…だったら!」ズイッ

アンチョビ「どうすればいい!? どうすれば戦車道は変われる!? 聞かせてください!」

通りすがりの長期滞在者「…変えたいのかい? 戦車道を」

アンチョビ「嫌なんだ、私は…! 勝ったのにぶたれて! 好きで戦車道始めたのに、重荷になって、嫌いになって出て行って!」

アンチョビ「出る杭をみんなで囲んで打って、嫌なつながりばかりできて! 挙句大事な仲間を助けただけなのに、吊るし上げを食らう!」

アンチョビ「そんな戦車道、私は嫌だ…!!」

アンチョビ「私はアンツィオのドゥーチェだ…ドゥーチェ・アンチョビだ!!」

アンチョビ「うちの戦車道には何もないけど…それでもせめて、入ってきた子には戦車道を楽しんで貰いたい!!」

アンチョビ「一緒に喜んで一緒に笑って、一所懸命に頑張って、一生の仲間を作りたい! 作ってもらいたい!」

アンチョビ「私は…戦車道をずっと好きでいて欲しいんです!!」

通りすがりの長期滞在者「おお、正解全部言っちゃったね」

アンチョビ「えっ!?」

通りすがりの長期滞在者「それが正解だよ、アンチョビさん」ニッコリ
99 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:09:24.16 ID:hbpUV7Jk0
通りすがりの長期滞在者「勝つことよりも大事なこと。強い選手を育てることよりも大事なこと」

通りすがりの長期滞在者「それはその競技をずっと好きでいてもらうこと」

通りすがりの長期滞在者「小学校、中学校、高校、大学、そしてプロ…レベルが上がるにつれて、選手人口は減っていく」

通りすがりの長期滞在者「でももしも選手として引退した子たちが、それでもその競技を好きでいてくれれば」

通りすがりの長期滞在者「その競技はどんどん盛り上がっていくはずだ」

通りすがりの長期滞在者「スポーツは、選手だけじゃできないんだから」

アンチョビ「!!」

アンチョビ「知っていた…私、知っていたのに…!!」ヒザギュウッ

通りすがりの長期滞在者「僕も、野球をやってるすべての子供たちに、ずっと野球を好きでいてもらいたい」

通りすがりの長期滞在者「たとえ選手を卒業しても、あの頃の僕らを懐かしめるような野球をしてほしい」

通りすがりの長期滞在者「そして次の子供たちにも伝えてほしい。野球はいいぞ、野球は楽しいぞってね」

通りすがりの長期滞在者「それで親子で球場に来てさ、プロのプレイを見て、それでまたその子に野球をやってみたいと思ってもらえたら」

通りすがりの長期滞在者「こんなに素晴らしいことはないじゃないか。ね?」ニッコリ

アンチョビ「はい…! 私も、戦車道を好きでいてもらいたいです! これから入ってくる子たちにも…西住にも!」

アンチョビ「っ…おじさん!!」

通りすがりの長期滞在者「ん?」

アンチョビ「おじさん、しばらくこの艦に居ますか!?」

通りすがりの長期滞在者「ああ、いるよ。少し遅めの、夏休みなんだ。毎年お邪魔しているね」

アンチョビ「でしたら、これ! うちの屋台のチラシです! よかったらいらしてください!!」バッ

アンチョビ「いっぱいサービスしますから!」

通りすがりの長期滞在者「ありがとう。今度寄らせてもらうよ」

通りすがりの長期滞在者「迷いはもう、晴れたかな?」

アンチョビ「はい! 見つかりました! 私の戦車道!!」

通りすがりの長期滞在者「そっか。じゃあよかった。頑張るんだよ」

アンチョビ「はい! 本当に、ありがとうございました!!」バッ

タッタッタッタ…
100 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:10:00.37 ID:hbpUV7Jk0

通りすがりの長期滞在者(姫川さんと、同じ目だったな)

通りすがりの長期滞在者(あの子もきっと、自分の好きを、自分の楽しいを、みんなに伝えていける子だ)

通りすがりの長期滞在者(これからの戦車道界にとって、ああいう子がいることはきっと大きな財産になるだろうな)

通りすがりの長期滞在者(これからのスポーツなんだから、色んな人材を抱えていかなきゃいけない)

通りすがりの長期滞在者(…ホントは今回の件も、勝利至上主義の問題でもなく、誤審の問題でもなく)

通りすがりの長期滞在者(もっと嫌な問題が絡んでるんだろうし)

通りすがりの長期滞在者(…太刀打ちできるのが児玉さん一人きりじゃ、厳しいんだろうなぁ)

通りすがりの長期滞在者(……)





prrrrrrrrrrrrrrrrrr…
101 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/20(金) 20:10:47.59 ID:hbpUV7Jk0






―――もしもし、僕だ





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