僧侶「勇者様は勇者様です」

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328 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:24:21.01 ID:p2+N267H0
《大陸会議》


第五聖騎士団長「甘いっ!」

勇者「くっ……!」


尻餅をついた勇者の喉元に模造剣の先が突きつけられた。


勇者「ま、参りました……」

第五聖騎士団長「……ふう、今日はこの辺りにしておくか」

勇者「今日も一本も取れなかった……」

第五聖騎士団長「闘いの最中に色々と考えすぎるのも良くないが、勇者殿に関しては考えが無さすぎる」

第五聖騎士団長「姪がついていなければ今生きているのかも怪しいのではないだろうか」

勇者「お、仰る通りです……」
329 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:25:05.72 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「まあしかし、この間よりは幾分かマシにはなったがな……」

勇者「僕みたいな未熟者の稽古にわざわざ毎日付き合って頂いて……本当に申し訳ないです」

第五聖騎士団長「なに、いずれは大陸を背負っていく希望の光の手助けが出来るのは光栄なことだ」

第五聖騎士団長「それに久々に勇者と剣を交えられて私もまだ学ぶべきことがあると実感している」

勇者「久々、ですか? もしかして父上と……?」

第五聖騎士団長「ああ、だいぶ昔のことだが何度かな」

第五聖騎士団長「勇者殿の剣筋はやはりお父上とよく似ている」

勇者「幼い頃からずっと稽古をつけられていましたからね」

勇者「やはり特殊な型なんでしょうか?」

第五聖騎士団長「初代勇者が各国を旅しながらその土地での剣術を吸収しつつ練り上げた物が源流で、その後も代々の勇者が改善を加えていったと言われている」
330 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:28:42.16 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「私のような古来から伝わる化石のような剣術使いが相手では良い指導は出来ないかもしれないな」

勇者「そ、そんな事は……」

第五聖騎士団長「……初代勇者が大きく影響を受け、その根幹となったとされている剣術の流派が帝国に存在する」

第五聖騎士団長「今の勇者殿に必要なのはそこでの修練なのかもしれない」

第五聖騎士団長「今の状況でなければ直ぐにでも送り出してやりたいのだがな」

勇者「まあそれは難しいでしょうね……」


二週間前、法国の離島に出現したダンジョンの一つを制圧した勇者らは第五聖騎士団長とともに一番の船で本島に帰還した。

命令違反へのお叱りを十分に受けた後、法王猊下への謁見を済ませてからすぐに状況の整理のための会議へと参加した。


──王国、帝国、共和国にまたがる広大な土地と南部諸島連合国の一部の島々が新生魔王軍の手に落ちた。


第五聖騎士団長の口からそう伝えられた通り、大陸では新生魔王軍がそれらの国々の土地を占領し魔国の建国を宣言した。
331 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:31:12.04 ID:p2+N267H0
既に各国の国境では激しい戦闘が繰り広げられているが、どこも魔国が優勢となっていた。

百年単位で準備された計画であるからというのはもちろんのこと、

各地で同時に出現したダンジョン対応に軍隊や聖騎士団の主力が対応し、その中の実力者の多くがダンジョン内の結界に封じられてしまっている事も大きな原因だ。

結界に封じ込められるだけではなく、更に準備されていた罠によって多くの者が命を落とした。

法国でも第一聖騎士団長が最深の罠によって重症の怪我を負って倒れてしまった。

敵の陽動に見事にしてやられた各国は魔国の建国を安々と許してしまったのだった。

大陸本土はこのように混沌としているため勇者一行の帰還は許可されず、先のことがあるため今回は勇者も従わざるを得ない状況となっている。


第五聖騎士団長「さて、この後は招集がかかっているだろう。水を浴びて汗を流しておいたほうが良い」

勇者「はい、各国の代表の方々お見えになると聞いています」

第五聖騎士団長「私は騎士として立つからこれで良いが、勇者殿達は少し身なりを整えて臨んだほうが良いかもしれんな」
332 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:34:24.58 ID:p2+N267H0
勇者「三人にもそう伝えておきます」

第五聖騎士団長「また後ほど会おう」


勇者は教会に提供されていいる上等な部屋で休憩していた仲間三人に声をかけ、身支度をしてから会議が行われる部屋へと向かった。

席は埋まり始めており、勇者達も指定の場所に急いで着席した。


第三聖騎士団長「例の報告書のことですが、この後よろしいでしょうか?」

第五聖騎士団長「そちらのダンジョンでも同様のものが見られと聞いていたが……分かった、終了後ここに残ってくれ」

第三聖騎士団長「ええ。術的に気になる点もありましたので導師も交えて話しましょう」


──第三聖騎士団長

 全団長の中で唯一の女性で、また最年少でもある。

 法国内に出現した他のダンジョンの調査に当たり、最深での結界の罠は紙一重で回避して帰還した。

333 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:35:42.67 ID:p2+N267H0
王国軍総軍師「久しぶりですな勇者殿。出立の日に顔を出せず申し訳なかった」

勇者「いえいえ、お忙しい身でしょうからお気になさらず」

王国軍総軍師「この期間の間だけで随分とご成長なさった様子……天のお父上もお喜びのことだろう」

勇者「……ありがとうございます」


──王国軍総軍師

 彼の作戦の下で進軍すれば百戦百勝と言われており、大陸中でも名高い軍師。

 接しやすい人柄からか、人脈も広く信頼が厚い。


大柄な熊髭の老人「ふうむ……教会とは無縁の我々まで呼び出されるとは改めてことの大きさを考えさせられる」

自治区五代目区長「千年前と同じく大陸全体を揺るがす事態です……これは教会だけの問題だとすることは出来ないでしょう」

逞しい祈祷師「実際に我々の国土は侵されている。奴らの敵は教会に限られないという事だ」
334 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:37:00.04 ID:p2+N267H0
自治区五代目区長「私達は現在土地を奪われたわけでは有りませんが、先日の同時ダンジョン出現の際はその標的の一つとなっていました」

大柄な熊髭の老人「我々も同じだ。これは現存国家に対しての無差別な宣戦布告であると捉えて間違いないだろう」


──逞しい祈祷師

 南部諸島連合国における祭事で神々と人々を繋ぐ重要な役割を果たす祈祷師(シャーマン)の一人。

 彼はその中でも戦や闘いの神々への祈りを専門としており、南部諸島連合国における軍事においても大役を務めている。


眼鏡の共和国外交官「神聖な教会に異教徒や、ましてや不浄な人外が入り込んでいるとは世も末だな」

自治区五代目区長「…………」
335 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:41:07.63 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「外交官殿、そのような言い方は」

眼鏡の共和国外交官「本当にこのような異教の者共を信用して良いのでしょうかねえ。腹の中はわからないものですよ」


──眼鏡の共和国外交官

 長身で細身の男で攻撃的な発言が目立つ外交官。

 つい先日までは“とある事件の後始末”のために皇国に出向いていた。


第三聖騎士団長「外交官殿いい加減に……」

氷の退魔師「──腹の中が黒々しい奴らは、俺は他にも知っているけどな」

眼鏡の共和国外交官「……ふん……」
336 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:43:58.25 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「おお、氷の退魔師殿も来られましたか」

氷の退魔師「皇国での一件もどうにかカタがついたのでね……ある方の護衛を兼ねてついでに来たわけだ」


──氷の退魔師

 王国を代表する退魔師。

 ランクSまで到達した数少ない退魔師の一人であり、大陸中を駆け回って特務に当たる依頼をこなしている。


氷の退魔師「よお勇者くん、久しぶりだな」

勇者「は、はい……! お久しぶりです……!」

氷の退魔師「無事ダンジョンを攻略したらしいな。成長したものだ」

勇者「いえ、まだまだ皆さんには及びません……皇国でのダンジョンの件も聞いていますが、流石ですね」

氷の退魔師「なに、こっちも仲間に恵まれたに過ぎないさ」
337 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:46:06.21 ID:p2+N267H0
切れ長の目の女皇帝「あら、そちらが例の……?」

氷の退魔師「そう、次期……いや当代の勇者だ」

切れ長の目の女皇帝「まあ随分と可愛らしいこと……しかしその実力は確かなものと聞いている」

氷の退魔師「ああ、そこは俺が保証するぜ」

切れ長の目の女皇帝「はじめまして勇者殿。私は皇国の現皇帝を名乗らさせて頂いている者だ」

切れ長の目の女皇帝「よろしく」

僧侶「こ、皇帝陛下……!?」

勇者「えっ……!? あっ……勿体無いお言葉です……!」

切れ長の目の女皇帝「そんなに畏まらなくていい。氷の退魔師殿みたいにもっと自然にしてくれて構わない」

暗器使い(いやこの男……氷の退魔師は流石に馴れ馴れしすぎるだろう……)
338 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:46:53.66 ID:p2+N267H0
紅眼のエルフ(昔からの仲と言う感じだけれど、どうなんでしょうね……)


──切れ長の目の女皇帝

 皇国の現皇帝で先代の一人娘。

 皇国始まって以来初めての女帝だがその手腕は稀代のものと言われている。


帝国軍将軍「これはこれは、女皇帝陛下自らの出席とは驚きましたな」

切れ長の目の女皇帝「それはこちらの台詞ですわ将軍閣下」

切れ長の目の女皇帝「今はそちらの国は大変でしょうに大丈夫なのですか?」

帝国軍将軍「私のような老いぼれが一人抜けた程度で我が軍はどうにかなったりはしませんよ」
339 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:48:03.89 ID:p2+N267H0
帝国軍将軍「今後のためにもこの会に参加することには大きな意義があると考えての結果です」

切れ長の目の女皇帝「あら、老いぼれと言うにはまだまだ若いように見えますが」


──帝国軍将軍

 帝国の盾と隣国から恐れられる名将。

 彼の即座の対応がなければ魔国領は今の範囲に留まらなかったと言われている。


帝国軍将軍「ダンジョンの同時大量発生……魔国の建国……新生魔王軍の宣戦布告……これらに関して各国の知りうる情報をここで交換する」

帝国軍将軍「それぞれの国の上層部しか知りえない極秘情報も含めて包み隠さず……これが今回の会の趣旨で良いですね?」

色白の法王「ええそうです。皆さん、この緊急時にわざわざここまでご足労頂き感謝しています」

眼鏡の共和国外交官「猊下……!」

第三聖騎士団長「お席へどうぞ、猊下」
340 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:49:49.15 ID:p2+N267H0
色白の法王「うん、ありがとう」


──色白の法王

 各地の大神官が同時に彼を夢に見たという奇蹟から、長らく空席だった法王に異例の若さで選ばれた青年。

 大陸の混乱をおさめるべく、今回の会を自ら招集した。


色白の法王「神の子としてここへ集ってくださった皆さんはもちろんのこと、文化を違いながらも私の招集へ応じてくださったみなさん、感謝いたします」

眼鏡の共和国外交官「お、お顔をお上げになってください……!」

大柄な熊髭の老人「これは大陸に住まう者全ての問題です。そこに文化の垣根はないと考えています」

自治区五代目区長「我々は千年前と同じく巨悪と対峙する同士なのです。どうかお顔をお上げになってください……」

色白の法王「みなさん……本当に感謝いたします」

色白の法王「聖騎士総長を含む数名が事情で欠席しております事を先にお詫びしておきます」

色白の法王「一刻が惜しい事態でしょうから早速本題へと移りましょう」
341 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:51:56.29 ID:p2+N267H0





帝国軍将軍「……つまりあの結界は己の潜在能力を上回る力を以ってすれば破壊することが出来るという事か」

第三聖騎士団長「ええ、第五聖騎士団と氷の退魔師殿との報告で一致していますね」

自治区五代目区長「うちでも同じように結界を破壊できたようです。こちらの場合は森の力を借りてですが……」

第五聖騎士団長「こちらでは勇者の剣の力が発動したようでしたが、皇国のダンジョンではどのように?」

氷の退魔師「俺が式神の力を借りてちょっとね」

逞しい祈祷師「式神、とは確か……」

氷の退魔師「俺達術者に人外の力を貸してもらう術だ。皇国特有の術だが研究する機会があってな」

逞しい祈祷師「ふむ……我々の“贄”とも退魔師が一般に扱う使い魔ともまた違ったもののようだな」

逞しい祈祷師「興味深い話だが詳しくは別の機会としよう」
342 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:54:08.81 ID:p2+N267H0
大柄な熊髭の老人「あの厄介な結界の破壊方法が分かった事は大きいですな。各国とも多くの実力者があれに足止めされていると聞いていますからね」

王国軍総軍師「これでだいぶ立て直しが出来るでしょうな」

眼鏡の共和国外交官「しかし勇者殿のような特殊なケースを除くと、人外共の手を借りざるを得ないということですか……何とも忌々しい」

王国軍総軍師「今の時代人外とも手を取り合わねばならないと、教会の方針でもそうなっていることをお忘れですかな?」

眼鏡の共和国外交官「そうは言いますがこれも忘れてはならない。今回も我々の敵は人外であるということを」

切れ長の目の女皇帝「ふん……彼ら全てを敵と見ると本当にそうなってしまうかもしれぬぞ?」

切れ長の目の女皇帝「現に各国の人外が次々に新生魔王軍の軍門へと下っているという情報が入っているのよね?」

帝国軍将軍「ええ。我が国でも非合法の人身売買組織の拠点制圧をした際に人外の牢だけがもぬけの殻となっていたとの報告が入っている」

帝国軍将軍「目撃者曰く彼らは新生魔王軍の者によって連れて行かれたと……」

帝国軍将軍「如何に優れた軍も圧倒的な数の前には蹂躙されることが多くある」
343 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:54:47.65 ID:p2+N267H0
帝国軍将軍「新生魔王軍の規模はいまや各国それぞれの軍を上回ると考えられる。これ以上敵を増やさないようにすることが大事なのでは?」

眼鏡の共和国外交官「まあ、後ろから刺されたければ勝手にすればよいでしょう」

眼鏡の共和国「さて次の報告へと移っても?」

色白の法王「ええ、お願いいたいします」
344 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:56:34.38 ID:p2+N267H0





その後も各々が持ちうる情報を交換しあい、それに対する議論が幾度となく行われた。

日が昇った頃に会合は始まっていたが気がつけば既に月が空に浮かんでいた。

そして一度休憩を兼ねた夕食へ移ろうとしていたその時、氷の退魔師がある提案をした。


氷の退魔師「──という事を俺は提案したいんだが、どうかな」

第五聖騎士団長「ふむ……」

大柄な熊髭の老人「ほう……面白い」

眼鏡の共和国外交官「……何を馬鹿なことを。認められるわけがないでしょう」

眼鏡の共和国外交官「退魔師協会を教会の庇護から独立させる? それがどういう事なのか分かって言っているのですか、氷の退魔師殿?」

氷の退魔師「もちろん」
345 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:59:17.49 ID:p2+N267H0
眼鏡の共和国外交官「退魔師協会とは大陸中に支部を持つ組織……総力となれば各国の軍隊にも引けを取らないでしょう」

眼鏡の共和国外交官「そんな組織を独立させるなど出来るものか」

第二聖騎士団長「──私も外交官殿と同意見だ。退魔師協会の構成員は教会の信者とは限らない」

第二聖騎士団長「そんな彼らを野放しにするわけにはいかないでしょう」


──第二聖騎士団長


 僧から騎士へと転向したという点では第五聖騎士団長と似ている。

 病弱だった幼少期に死の淵にありながら毎朝の祈りを欠かさなかったと言われるほどの熱心な信者。


氷の退魔師「そんな俺たちを犯罪者集団みたいに言わんでもよお」

第二聖騎士団長「実際に似たような者たちが在籍している事は認知しています」

第二聖騎士団長「我々が統率しているからこそ成り立っているという事が分からないのですか?」
346 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:00:40.94 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「大した言い分だ」

氷の退魔師「……が、本音はこうなんだろ? 教会のシノギが減ると困る、そう言えよ」

第二聖騎士団長「なんだと……?」

第三聖騎士団長「お二人とも、法王猊下の御前です」

氷の退魔師「だとよ」

第二聖騎士団長「…………」

色白の法王「……今の話、もう少し詳しくお聞かせ頂けますか?」

眼鏡の共和国外交官「猊下……?」

氷の退魔師「それでは僭越ながら……」

氷の退魔師「先のダンジョン騒動で早急に攻略されたダンジョンは二箇所あります」
347 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:03:10.02 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「一つ目は勇者殿と第五聖騎士団が赴かれたという法国の離島のもの……」

氷の退魔師「もう一つは“たまたま”私が訪れていた皇国の西人街という場所のダンジョンです」

氷の退魔師「これら二つのダンジョンを数日で攻略することが出来たのは何故でしょうか?」

氷の退魔師「強大な戦力? 相手の意表を突く奥の手? 勿論それもそうでしょうが、それよりも鍵となったものがあります」

王国軍総軍師「ふむ、それは……?」

氷の退魔師「身軽な戦力です」

氷の退魔師「目の前で起こった事に即座に対応できる……ある程度は自分たちの意思で行動できる戦力がいたからこその早期攻略だったのです」

氷の退魔師「西人街では退魔師協会の者やその他の小さな組織……法国の離島では勇者殿の一行がそれに当たります」

氷の退魔師「西人街では本教会の指示を待っていたては被害者の数は大きく増えていた事でしょう」

眼鏡の共和国外交官「だから命令に違反してダンジョンに入ったと?」
348 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:06:52.58 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「結果は出た。謹慎も受けた。何か問題が?」

第二聖騎士団長「身軽な戦力……そのために退魔師協会を本教会から独立させたほうが有用であると?」

氷の退魔師「俺はそう考えている」

第二聖騎士団長「浅はかな……新生魔王軍以外の野放しの猛獣が増えるに過ぎない」

切れ長の目の女皇帝「そう考えるのは勝手だがお前の一存では決められないであろう? 勿論私の一存でもな」

眼鏡の共和国外交官「この件は教会の問題だ。異教の国の長に発言権はない」

切れ長の目の女皇帝「異教の国? 我々は正式に教会を迎え入れたはずだが?」

切れ長の目の女皇帝「そう、貴方がたの国の大使館を兼ねていた教会の代わりにね。お忘れで?」

切れ長の目の女皇帝「“何やら不遜な事を我が領土でやらかそうとしていた事を咎めぬ代わりに譲り受けたと記憶しているが、これ以上何かぬかすのであれば口が滑ってしまうかもしれん”」

眼鏡の共和国外交官「…………フン…………」
349 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:07:20.08 ID:p2+N267H0
切れ長の目の女皇帝「……さて、今の氷の退魔師殿の案についてはこれ以上何かありませんか?」

切れ長の目の女皇帝「無いのであれば……」

色白の法王「……ええ、採決といたしましょう」
350 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:08:36.60 ID:p2+N267H0
遅れましたが《大陸会議》編です。
前作登場人物の氷の退魔師が出てきました。いずれ他にも出てくるかもしれません。
では。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 23:18:53.81 ID:yBi6lTYVo
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 01:51:06.78 ID:NKXPiO+DO
来てたか乙!
353 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:51:26.73 ID:HuOAqhe80





大柄な熊髭の老人「さて、そろそろ今日の本題といきましょうか」

眼鏡の共和国外交官「…………」

大柄な熊髭の老人「……先の報告にもありましたが、先日の新生魔王軍の決起以来多くの人外が彼らに合流いています」

大柄な熊髭の老人「それが手伝ってか、新生魔王軍の勢いは全く衰えることはなく、むしろ増大していっていると言っても過言ではない……」

大柄な熊髭の老人「これは、食い止めなければならない」

帝国軍将軍「……彼らにとっては幾百年と溜まった恨みつらみが晴らせるいい機会だ」

第二聖騎士団長「それで各国での人外に対する法の制定の促進……」

第二聖騎士団長「彼らに市民権を与える、という話になるのですね」

眼鏡の共和国外交官「言いたいことはわかりますがねえ……しかしあまりにも急すぎる」
354 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:52:20.99 ID:HuOAqhe80
眼鏡の共和国外交官「術者にはわからないでしょうが、根底まで根付いた法を改めていくというのは簡単な話ではない」

切れ長の目の女皇帝「ではこのまま新生魔王軍とやらがぶくぶくと膨れ上がっていくのを黙ってみていると言うか?」

王国軍総軍師「共和国外交官殿……この事は近年でも問題となりつつあった」

王国軍総軍師「我が国でも徐々に彼らのための法が敷かれつつある」

王国軍総軍師「帰国も何もせず来たというわけでは無いはずだ。その歩みを少しばかり早めねばならない段階に来たということなのだ」

眼鏡の共和国外交官「…………」

逞しい祈祷師「我が国でも当然、様々な法整備が始まっている……しかし法だけでは守れない者達についてはどうすれば良いと考えられているのか」

逞しい祈祷師「具体的言うならば、人や、自然から得られる力そのものによって生きているような者のことだ」

逞しい祈祷師「我が国ではこの教会で言うものとは別の……自然界に偏在する神々を信仰している」

逞しい祈祷師「我々は神々の恵みを受けて豊かな生活を営み、神々は我々の信仰によって永年に存在し続ける……」
355 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:54:40.46 ID:HuOAqhe80
逞しい祈祷師「そのような文化があれば話は別だが、他の地で彼らは果たして人の世に溶けこむことは出来るのか?」

氷の退魔師「その事だが……どこから説明しようか……」

氷の退魔師「ううむ、まず、そうだな…………」


氷の退魔師「俺の目指す先は“人外をこの大陸から消し去ること”だ」


勇者「えっ!?」

眼鏡の共和国外交官「何だと……?」

自治区五代目区長「ふむ…………」

色白の法王「それは、一体……?」

切れ長の目の女皇帝「言葉足らずだ馬鹿者め……」

氷の退魔師「まあまず聞いてほしい。俺の半生で研究した成果と考えについてだ」
356 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:55:39.64 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「みな一口に人間と人外と呼んでいるが、そう単純な話でもない」

氷の退魔師「まず人間の中には我々術者のような特殊な力を扱える者がいるが、これは人外と何が違うのだろうか」

氷の退魔師「これは力を自ら習得するか、外力によって与えられた力かの違いだ。この外力をこれからは巨大意思と呼ぶことにする」

第三聖騎士団長「しかし例えば、氷の退魔師殿の力も僧侶殿の力も先祖から受け継がれてきたものなのではありませんか?」

氷の退魔師「この力は家系的な適性があって得られたものであって、生まれてそのまま術を使える訳ではない」

氷の退魔師「そこには選択の余地すらもある。実際うちの馬鹿息子は一族の血に逆らったようだしな……」

第五聖騎士団長「それでは人外は巨大意思なるものに力を強制的に与えられた者たちを指すと?」

氷の退魔師「正確には一般的に人外と呼ばれている者たちの多くはそうではない」

氷の退魔師「そもそも人外という括りは大きすぎるし、好きじゃない」

氷の退魔師「エルフやらドワーフやらコボルトやら……そういった奴らは人間と同じように代々血が続いてきた種族だ」
357 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:56:37.72 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「俺が形式上人外と呼んでいる奴らは、種族じゃない」

氷の退魔師「どこからともなく生まれてきた個人のことを指している」

第五聖騎士団長「確かに、人間や犬猫が突然人外になったという報告も珍しくない。彼らを種として分類するのは難しい」

自治区五代目区長「その通りです。我々エルフが何らかの原因でエルフ以外の血から生まれるという事はあり得ません」

眼鏡の共和国外交官「……なるほど……」

眼鏡の共和国外交官「その原因が巨大意思、というものであると……?」

第三聖騎士団長「その巨大意思とは一体……」

切れ長の目の女皇帝「人々が抱く畏れや信仰のことだ」

切れ長の目の女皇帝「多くの者が恐れるものはいずれ真となり、具象化する」

切れ長の目の女皇帝「奴らの多くはその巨大意思によって生まれた代償に、その畏れを糧にせねば消えてしまう」
358 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:58:19.55 ID:HuOAqhe80
切れ長の目の女皇帝「特に近年、奴らの誕生自体が大きく減ってきている」

切れ長の目の女皇帝「これは人々が世の真を知り始めたから……」

切れ長の目の女皇帝「風は風神が、雷は雷神が起こしているわけではない……科学技術の発展が奴らの存在に取って代わった……」

切れ長の目の女皇帝「いや、元に戻ったと言う方が適切か」

第三聖騎士団長「それでは氷の退魔師殿が仰っていた“人外をこの大陸から消し去ること”とは、その者たちの衰退を促すということのですか?」

切れ長の目の女皇帝「ふう……そら見たことか、誤解を生んでいるぞ」

氷の退魔師「おお、これは失礼」

切れ長の目の女皇帝「衰退は促さなくとも起こっている。先程言ったように時代が人外を生み出さなくなっているからだ」

切れ長の目の女皇帝「此奴のが言いたいのは巨大意思に頼らないと存在できない人外を消す……つまりは巨大意思に頼らなくても生きていけるようにするということだ」

第三聖騎士団長「そんな事が可能なのですか?」
359 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:58:51.81 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「可能だ。それが俺の半生の研究成果の一つだ」

切れ長の目の女皇帝「我が国も協力して効果は実証済みだ。今後の改良の余地はまだまだあるが……」

王国軍総軍師「それは興味深い。更に詳しくお聞きしたいものだ」

大柄な熊髭の老人「ですねえ」

氷の退魔師「是非この後にでも…………」

紅目のエルフ「……一つ、いいでしょうか?」

色白の法王「貴女がたも会議の参加者です。どうぞ発言なさってください」

紅目のエルフ「ありがとうございます。それでは…………」


紅目のエルフ「人間と人外の共生を目指すのならば、魔国を国として認めるのも一つの手なのではないのでしょうか?」


勇者「…………!」
360 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:00:16.93 ID:HuOAqhe80
僧侶「エ、エルフ様……」

暗記使い「…………」

切れ長の目の女皇帝「ふふふ、確かに」

眼鏡の共和国外交官「笑い事ではないぞ女帝殿! 奴らは不当に我が国や王国、帝国の領土を蹂躙しているのだ!」

眼鏡の共和国外交官「それを許せるとでも?」

紅目のエルフ「失礼を承知で申し上げますが…………」

紅目のエルフ「今皆さんが国土と主張する土地は、一体誰の土地を蹂躙して手に入れたものなのでしょうね」

第二聖騎士団長「侵略を正当化するつもりですか?」

紅目のエルフ「正当化しないとこの大陸に正義など無いのでは? 何百と繰り返されてきたことでしょう?」

紅目のエルフ「ならば最も簡単な解決策に思える、魔国の建国を阻害する理由としては十分では無いと思えるのですが」
361 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:01:12.94 ID:HuOAqhe80
紅目のエルフ「それに彼らの中には巨大意思無しには生きていけない者がいるのでしょう?」

紅目のエルフ「それならば人間を滅ぼすような事は絶対に無いでしょうし……」

氷の退魔師「奴らが国を建ててお終い…………ってなるならそれで良いんだが」

氷の退魔師「どうやらそうじゃ無いみたいでな」

紅目のエルフ「……一体何が……?」

帝国軍将軍「私が話しましょう」

帝国軍将軍「新生魔王軍の占領下から救出された国民の中に様子のおかしい者たちがいます」

帝国軍将軍「わかりやすく言うならば……感情の暴走、でしょうか」

帝国軍将軍「各々がある感情を常に懐き続けているように見える…………」

勇者「まさか…………」
362 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:01:48.26 ID:HuOAqhe80
帝国軍将軍「ええ……彼らはもしかしたら“巨大意思を生み出すだけの家畜のようなもの”を創り出そうとしているのかもしれません…………」

第五聖騎士団長「ふむ…………」

第二聖騎士団長「野蛮な……!」

氷の退魔師「ああ、その可能性は十分にある」

氷の退魔師「俺にも色々とツテがあってね。俺のやろうとしていることは奴らの耳にも入っているはずだ」

氷の退魔師「だがどうやら、歩み寄るつもりは無いらしい」

氷の退魔師「新生魔王軍の目的はおそらく、必要な分の人間を“管理”できる世界にすることなんだろう」

氷の退魔師「流石にそうさせるわけにはいかないだろう?」

紅目のエルフ「……それはその通りですね……過ぎた発言をお許しください」

氷の退魔師「なに、君の言ったことは当然の疑問のはずだ」
363 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:03:07.22 ID:HuOAqhe80
色白の法王「それでは氷の退魔師殿の詳しい説明はこの後していただくとして、一つ私の口から伝えたいことが有るのですが……よろしいでしょうか」

氷の退魔師「ええ勿論」

色白の法王「……現勇者およびその仲間の皆さん」

勇者「は、はい……!」

色白の法王「私がお伝えしたいのはあなた方の今後の活動についてです」

勇者「それは……」

勇者(まさか情勢が不安定な今は旅を自粛しろって話では……)

色白の法王「結論から申し上げます。思うように、好きになさってください」

勇者「え……」

色白の法王「千年前の戦いから代々現れたという勇者の仲間たち……彼らは一体どのようにして選ばれているのか聞いたことはありますか?」
364 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:03:59.65 ID:HuOAqhe80
僧侶「いえ、推測ばかりで正しいことは……」

色白の法王「ええ、私がこれから話すことも推測の域を出ません」

色白の法王「しかし、私が聞いた中では最も興味深い説でした」

色白の法王「あなた方、勇者の仲間たちには、一人ひとりに役割があるのだというのです」

色白の法王「その役割というのは、人によって、そして時代によって様々でした」

色白の法王「しかし過去に数度、同じ様に魔王軍の残党を名乗る者たちが現れた時は、彼らの役割はそれを止めるために与えられたと言います」

色白の法王「例えば、弓は趣味程度という吟遊詩人が弓使いの紋章持ちとして選ばれた時のことです」

色白の法王「彼が詩に良く用いる星座の知識を以って、星を使った大規模魔法陣の発動を阻止したと聞いています」

色白の法王「私はあなた方にもそのような役割があるのだろうと考えています」

色白の法王「そしてそれは、そのリーダーである勇者様、貴方も同様です」
365 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:04:26.59 ID:HuOAqhe80
色白の法王「その役割とはあなた方があなた方自身であるからこそ、与えられたもの」

色白の法王「だから自分らしく、思ったように行動していってもらいたいのです」

色白の法王「その先に危険が有るとしても、それが信じる道ならば進むことも必要となるでしょう……」

色白の法王「全ては、あなた方自身の判断にお任せいたします」

色白の法王「ですが我々があなた方の助力を必要としている時、可能であればお手を借して頂けると助かります」

勇者「はいっ……!」

暗記使い「お任せ下さい」

僧侶「有事の際は必ず駆けつけます……!」

紅目のエルフ「……ふうん、役割ねえ……」
366 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:05:04.71 ID:HuOAqhe80





──晩餐会場外のバルコニー


氷の退魔師「よう、お疲れさん。こんな所で何してんだ?」

勇者「お疲れ様です。いやあ、ちょっと酔いを覚まそうと……」

氷の退魔師「そうか、お前ももうそんな歳か」

勇者「あはは、まだ慣れないですね」

勇者「しかし凄いことになりましたね。これは前々から計画されていたことなんですか?」

氷の退魔師「ああ。退魔師協会を独立させて退魔師ギルドとする……皇国の皇帝サマの他にもうちの国王サマも協力してもらっている」

勇者「国王様も……!?」

氷の退魔師「ああそうだ。退魔師ギルドとして教会から独立したメリットは大きいぞ」
367 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:09:57.36 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「今まで以上に幅広い活動が出来ることは勿論だが……」

勇者「今までは退魔師の拠点がなかった北方連邦国、南部諸島連合国、自治区にもギルドを設立することが出来るんですよね」

氷の退魔師「人外への法整備の件も含めて本国に帰ってそれぞれ協議はするらしい。まあ恐らくは可能であろうという事だ」

氷の退魔師「それに伴って君達勇者一行も退魔師ギルドに加入してもらう。その方が今後の活動もしやすいはずだ」

氷の退魔師「この件も国王サマから承諾済みだ」

勇者「なるほど……」

氷の退魔師「今は色々と慌ただしいから時間がかかりそうだが、お前達の組合証の発行はなるべく急がせる」

氷の退魔師「発行でき次第帝国の使節と一緒に大陸に戻ると良いだろう」

勇者「色々とありがとうございます」

氷の退魔師「なあに、これぐらいさせろっての」
368 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:10:29.06 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「……あいつの忘れ形見なんだからな」

勇者「あいつとは……父のことでしょうか」

氷の退魔師「ああ……」

氷の退魔師「薄々勘付いていると思うが、俺があいつのパーティーの魔法使いの紋章持ちだった」

勇者「やっぱりそうでしたか……」

勇者「初代魔法使い様の御子孫ですものね」

氷の退魔師「こうなる恐れはあったんだ……もっと強く忠告しておくべきだっただろうか」

勇者「何か知っていたのですか?」

氷の退魔師「まあ独自のルートでな。皇国に出向いていたのは半分はそのためだ」

勇者「半分は……?」
369 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:11:13.93 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「まあ色々あんだよ」

氷の退魔師「……今はな、色んな事が複雑に絡み合っていっている最中だ。常に自分を見失わないようにしておけよ」

勇者「…………」

氷の退魔師「さて、あんまり席を外しすぎていると失礼だろう。そろそろ戻るとしようか」

勇者「そうですね」

勇者(氷の退魔師さんが魔法使いの紋章持ちだったということはもしかしたら息子の彼も……)

勇者(確かまだ皇国に滞在しているっていう話だったけれど)

勇者(まあまた後で聞いてみよう)
370 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:12:06.95 ID:HuOAqhe80





それから各国の代表に限って安全のために転移魔法で帰還をしていった。

転移魔法は消費する魔力も莫大であるためそう多くは使えない。

そのため付き人など他の者達は船に乗っての帰国になる。勿論勇者達もそれに従うことになっている。

新生魔王軍は各ダンジョンからの脱出のために転移魔法を多用していたようだが、そこからも彼らが準備に如何に年月をかけていたのかが窺える。

氷の退魔師が出立する直前に尋ねたところ、彼の息子は今は皇国にいるがこの後自分を含めてとある式を挙げた後にはどこへ行くかは分からないと言った。

氷の退魔師に着いていくことも考えたが、またもや勇者の“直感”が帝国へ向かうべきだと言っているために断念した。

結局諸々の手続きや準備が終わったのは会が終わってから一月も経った頃だった。


帝国使節団員「いやあまさか我々の船の準備が整った矢先に海が大荒れして出るに出られなくなってしまうとは……」

勇者「ようやく晴れて出発となりそうですね」
371 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:13:05.97 ID:HuOAqhe80
帝国使節団員「いやはや、本当にお手数をおかけいたしました」

僧侶「いえいえ、私達はお世話になる側ですので……」

帝国使節団員「道中はよろしくおねがい致しますね。それでは確認が取れ次第出発と……って、法王猊下!?」

勇者「えっ!?」

色白の法王「ふふ、見送りに来ました」

僧侶「そんなわざわざこんな所まで……!」

色白の法王「君達にはもう一度会っておきたくね」

色白の法王「僕とそう歳が違わないのに大陸中を駆け回っているなんて……本当に尊敬しているよ」

勇者「そんな……猊下の責務の重さと比べましたら……」

色白の法王「僕なんて大した事はないよ。法王とは名ばかりのお飾り……」
372 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:14:01.65 ID:HuOAqhe80
色白の法王「何で僕が選ばれたのかも未だに分からないんだ」

僧侶「そんなお飾りなどと……」

勇者「……仮に猊下がご自身をそう思われているとしましょう。しかしお飾りなのは僕たちも同じなのです」

勇者「ですがお飾りだからといってただ黙って座しているわけではありません」

勇者「飾り物は飾り物なりに出来ることをやっていきましょう」

僧侶「ゆ、勇者様……! 流石に出過ぎた言葉かと……!」

色白の法王「……飾り物なりに、か……」

色白の法王「ふふ、そうかもしれないね」

色白の法王「ありがとう、少し迷いが取れたよ」

色白の法王「この先きっとお互いに厳しい日々が待ち受けているとは思うけれども、頑張っていこうね」
373 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:14:46.31 ID:HuOAqhe80
勇者「はい……!」

色白の法王「勇者一行の行く先に天の導きがあらんことを!」

僧侶「それでは行ってまいります……!」


法王に見送られながら二人は乗船した。

船には既に他の使節団員や暗器使いらが乗り込んでおり、出向に向けて慌ただしく走り回っていた様子も落ち着いていた。


紅眼のエルフ「はい、酔い止めの薬。婆様に調合してもらったから効き目も抜群のはずよ」

勇者「ありがとうございます!!」

暗器使い「なるべく甲板で遠くを見ておけよ。食事中も手元を見すぎないようにな」

勇者「うん、気をつけるよ……」

帝国使節団員「それでは皆さん、出港しますよ!」
374 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:15:26.39 ID:HuOAqhe80


いかりを巻き上げる音が止むと次はごうと煙が吹き上がる音が響いた。

最新式の蒸気汽船は嵐の後の静かなら海原を悠々と進み始めた。

375 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:16:10.64 ID:HuOAqhe80
《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
376 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:19:10.64 ID:HuOAqhe80
登場人物が一気に増えました。
希望があればいずれ人物紹介をまとめたいです。
次回は《歓楽街》編です。
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 23:41:37.11 ID:33Rz+WoDO

待ってた
378 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 15:56:45.85 ID:a5Ewyth70
《歓楽街》


法国本島から南下し、帝国と王国の国境にある深い湾へと蒸気船は進んでいった。

湾の最深、帝国と王国の国境が交わる巨大な港町にたどり着いた頃には報告に滞在していたのも遥か昔に感じられるような気がした。


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|    >                     <      > ∨\                  __ ◇   
|    \                __/      |法国Σ 。    ◇       /    /      
|     _/  北方連邦国  /   <        \___/        __  /     \     
|    /                |     \__                  /    W        /     
|   「                /\自治区 V\_  __      /     /        \   
|   >___n__ _/  \__/   | |   \   |      \        |   
|   /       _ /   V                / /      |  /        |        \ 
|  / 亡国 //        /\___ ____V         \|         /  皇国   < 
|  [_   /  \       |      ∨                          |_        / 
|     \/     |    _/                                  /        \_
|            /    \                                  |          _/
|            |       /                  帝国             \_       /。 
|            L  王国 |                                     /      \
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|            |            \___     ____              /   V  |
|            |           _ _く  \_/        \_/\___     |       /     
|            \M       |  V  \          共和国      \_/       |     
|                \    Σ 。  _ \         /\/\_ _        _/     
|                  |_ /   /  \|/\__N      。 V  |      /       
|                    ∨     \_/ V     _◇        /    「             
|                      ◇       _    /  V  \_/\  \  n/           
|                          。   /  \ /              <  /__/               
|───────────────\__南部諸島連合国 __/ ────────
|    。                               。   \_/ \/                       
|                              


勇者「り、陸地だ……! 景色が揺れない……!」

帝国使節団員「はは……長い間お疲れ様です」
379 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:02:25.61 ID:a5Ewyth70
帝国使節団員「さて、入国手続きを済ませた後は我々と宿舎へ向かうということでよろしいですね」

勇者「はい、よろしくお願いします」

暗器使い「それにしても大きな街だな……」

僧侶「二大国家の国境にある港町で、更には法国への玄関口とも言われていますからね」

僧侶「主に交易などで栄えた巨大商業都市です」

勇者「この街は特殊で、二国の国境を跨いでいるのにも関わらず、街の中には関所がないんだよね」

僧侶「両国の軍隊も中には入れません。その代りに両国の民間出身の自警団がいて、街の出入りには厳重な検査があります」

暗器使い「なるほど……」

紅眼のエルフ「商業の街とは即ち歓楽の街……! 世界各国のお酒が手に入ると見たわ……!」

紅眼のエルフ「早く手続きを済ませたいわね」
380 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:03:02.48 ID:a5Ewyth70
僧侶「エルフ様……遊びに来たわけではないと……」

紅眼のエルフ「いつまでも気を張ってたらいざという時力が出ないわよ?」

暗器使い「まあ適度の息抜きは必要だろう……適度ならばな」

帝国使節団員「それではこちらへどうぞ」


使節団員に案内された勇者達は厳重な入国検査を済ませてから門を潜った。

その先には見渡す限りの綺羅びやかな街並みが広がっていた。


勇者「うおお……!」

僧侶「大きい……ですね」

暗器使い「法国の港町が気品のある美しさならば、こちらは情熱的な美しさと言えるだろう」

紅眼のエルフ「これは本当に楽しめそうね」
381 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:07:26.08 ID:a5Ewyth70
僧侶「まずは用意していただいた宿舎へ向かいますよ」

僧侶「よろしくお願いします」

帝国使節団員「はい、お任せください」


繁華街を抜けた先で四人は客人用の宿舎へと通された。


勇者「フカフカのベッドだ! 今日はぐっすり眠れそうだ」

紅眼のエルフ「あら、今晩寝るつもりなの? 私はてっきり朝まで遊ぶものだと」

勇者「それも魅力的だけど……」

僧侶「ほどほどにお願いしますね」

紅眼のエルフ「強くは止めないのね」

僧侶「エルフ様はその……止めても無駄な気がしてきまして」
382 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:11:08.77 ID:a5Ewyth70
暗器使い「ふっ、見限られているぞ」

紅眼のエルフ「いいもん、自由にやるわ」


紅眼のエルフは硬貨を入れた財布代わりの布袋を懐にしまって外套を羽織った。


紅眼のエルフ「それで、男衆はどうするの?」

勇者「僕は船の疲れがまだ大分あるから今日は遠慮しておくかな」

紅眼のエルフ「ま、それが懸命かもね」

暗器使い「……誰も行かないのであれば付き合おう」

紅眼のエルフ「あら、無理にとは言わないわよ」

暗器使い「俺も酒を入れたかったところだ」

暗器使い「法国でも上等なものは提供されていたが、宴席での酒は堅苦しくて好きではない」
383 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:19:38.14 ID:a5Ewyth70
紅眼のエルフ「それは同感。じゃあ行くとしましょうか」

僧侶「あまり遅くならないようにしてくださいね」

暗器使い「ああ」

紅眼のエルフ「大丈夫よ。私もこの男も飲まれるようなタイプじゃないから」
384 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:35:14.96 ID:a5Ewyth70





紅眼のエルフ「それで、何の用かしら?」


繁華街の外れで紅眼のエルフはふと足を止めて振り返った。

暗器使いは特に表情を変えることもなく彼女を追い越した。


暗器使い「お前が用がある所に俺も少しな」

紅眼のエルフ「私が用があるところなんて酒場だけだけど?」

暗器使い「宿舎に向かう途中表情を変えた場所……件の人身売買組織の拠点の一つか何かだろう」

紅眼のエルフ「……鋭い男ねまったく」

暗器使い「あの空気感は、どうにも馴染みがあってな」

暗記使い「あの件はうちの国の売人も一枚噛んでいたらしい。背景を探るように俺も指示を受けた」
385 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:51:04.99 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「ああ、この間法国で議員さんと何か話していたものね」

暗記使い「見ていたのか」

紅目のエルフ「コソコソとなにか企んでいそうだったから、つい」

暗記使い「ふん、どうだろうな」

紅目のエルフ「ま、深くは追求しなわ」

暗記使い「そうしてくれ……」

暗記使い「さて、と……」

紅目のエルフ「着いたわね」
386 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:02:58.22 ID:a5Ewyth70


二人が見上げた先には、半壊した大きな建物がある。

一見すると普通の酒場のようだが、奥へと進むと異様な空間があった。


紅目のエルフ「これは……」

暗記使い「地下への入り口だな。おそらくこの先が……」

紅目のエルフ「……行きましょう」

暗記使い「ああ」


元は隠し扉のようになっていたと考えられるが、勇者らが自治区で入手した情報が発端の強制立ち入りの際に破壊されたようだ。

抵抗もあったようであちこちに戦いの跡が残っている。

石造りの螺旋階段を降りた先には見世物小屋のような広間があった。


暗記使い「……連れ去られた者たちはここで競りにかけられていたのだろうか」
387 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:12:01.05 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「……そうでしょうね。許せないわ……」

暗記使い「ここにもエルフは囚われていたのか?」

紅目のエルフ「ええ、一人いたみたいね。もう自治区の方で保護されているはずだわ」

暗記使い「そうか……」

暗記使い「しかし妙だな」

紅目のエルフ「どうかしたの?」

暗記使い「おかしいと思わないのか? どうしてこの街にこんな所がある」

暗記使い「確かにこの街では手に入らないものは無いと言われている。だが人身売買だけは例外的に禁止されていると聞いている」

暗記使い「しかしあれほど厳重な検問があるのに、ここではそれなりの規模の売買が行われていたようだ」

紅目のエルフ「それは……確かに変ね」
388 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:14:01.03 ID:a5Ewyth70
暗記使い「可能性があるとすれば……」

紅目のエルフ「この街に、グルのやつがいるってことね」

紅目のエルフ「それもお偉いさんか、検問関係の人間に」

暗記使い「そういうことだな」

暗記使い「ま、解決した今となってはどうでもいいか」

暗記使い「……と、言いたいところだが」

紅目のエルフ「少し探ってみるのも面白そうね」

暗記使い「ああ。誰かの影響を受けているみたいだな」

紅目のエルフ「本当よね。あの子、視界に写ったことは解決しないと気がすまないのよね」

紅目のエルフ「自治区から法国への間でも人助けやらで何回脇道に逸れたことか」
389 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:15:42.39 ID:a5Ewyth70
暗記使い「おかげで旅程は滅茶苦茶だったな」

紅目のエルフ「ここに長く滞在はしないみたいだけど、出来る範囲で調べてみますか」

暗記使い「ああ、そうしよう」

紅目のエルフ「……早速面白いものを発見したわ」

暗記使い「どうした?」

紅目のエルフ「この壁の向こうから空気の流れを感じるわ」

暗記使い「隠し通路か……!」

暗記使い「国境を越えた大商業都市の地下に密輸用の地下通路があるとはな……」

紅目のエルフ「おそらく街の外へとつながっている通路もあるのでしょうね」

紅目のエルフ「ただしこれがそうとは限らない」
390 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:22:32.82 ID:a5Ewyth70
暗記使い「ああ。進んでみないとこの先は分からないな」

暗記使い「おそらくここを作動させれば……」


暗記使いが石壁の近くに隠されていた魔法陣を起動させると、壁が左右に割れて通路が現れた。

その通路を進むことしばらく、ふと暗記使いが足を止めた。


暗記使い「……気がついているな?」

紅目のエルフ「ええ、巡回の見張りかしらね」

暗記使い「あの地下室に繋がる隠し通路に見張りがいる……しかも自警団の制服ではないから、誰かが雇ったゴロツキだろう」

紅目のエルフ「……ま、殺さないようにね。面倒事になるかもしれないし」

暗記使い「わかっている」


暗記使いは音もなくゴロツキに忍び寄り、背後から口をふさいで首に針を突き刺した。
391 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:27:25.34 ID:a5Ewyth70
しばらく抵抗しようともがいたゴロツキは、徐々にその動きが鈍り、ついには床に崩れ落ちた。


紅目のエルフ「睡眠薬でも塗ってあるのかしら?」

暗記使い「ああ」

暗記使い「こいつは縛り上げてどこかに隠しておこう」

紅目のエルフ「……待って、まずいわ」

紅目のエルフ「複数の足音……近づいてくるわ……!」

暗記使い「何……!? まさか……」


暗記使いが眠らせたゴロツキの手のひらにはいつの間にか小型の魔道具が握られていた。

おそらくは仲間のもとに緊急の信号を送るためのものだと考えられる。


暗記使い「やられた……ゴロツキにしては良いもの持ってるじゃねえか……!」
392 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:29:44.43 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「貴方やあの奴隷商も色々と持っていたけれど、最近は便利な物が多いのね」

暗記使い「この手の道具を開発している優秀な南部諸島連合出身の男がいるらしい」

暗記使い「とにかく引き返すぞ」

紅目のエルフ「いえ、進みましょう」

暗記使い「何? 全員倒すつもりか?」

紅目のエルフ「それでも何とかなるでしょうけれど、もっと楽な方法があるわ」

紅目のエルフ「何より今は時間をかけたくないわ」


雇われゴロツキA「いたぞ!」

雇われゴロツキB「男は殺せ! 女は生け捕りにすれば上乗せの報酬が貰えるはずだ!」

雇われゴロツキC「へへっ、耳長じゃねえかちょうどいい。もう一匹と一緒に運び出しちまおう」
393 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:30:36.51 ID:a5Ewyth70


紅目のエルフ「あんたらに構ってる時間はないの!」


紅目のエルフが右手を振り上げると同時に、ゴロツキたちの足元から木の根のようなものが飛び出してきた。

それらが絡まり合い檻のようになり、ゴロツキたちを中に閉じ込めてしまった。


雇われゴロツキA「なっ!?」

雇われゴロツキB「くっ、出られねえ!」

紅目のエルフ「先に行かせてもらうわね」

暗記使い「何をそんなに急いでいる?」

紅目のエルフ「わざわざこの通路にこんなに見張りを付けている意味は何だと思う?」

紅目のエルフ「既に街の外に奴隷を運び出していたならこんな事はしないわ」

紅目のエルフ「それにゴロツキが言っていたでしょう、エルフもまだどこかにいるわ」
394 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:33:27.34 ID:a5Ewyth70
暗記使い「なるほど……自警団が救い出した奴ら以外の奴隷がまだこの街に隠されているのか」

紅目のエルフ「ただし私達が侵入したことがばれてしまったから、このままじゃその子達は街の外に連れ出されてしまうかもしれない」

紅目のエルフ「そうなったら足取りを掴むのは難しくなってしまうわ」

暗記使い「それは急がないとまずいな……」

暗記使い「奴らが走ってきた方面からしてこっちの道のはずだ。行くぞ……って」

暗記使い「おい……どこに行った?」


暗記使いが辺りを見回すが紅目のエルフの姿は無い。


暗記使い「ちっ、敵の罠か……!? いや、まさか……」

ゴロツキ首領「待てよ侵入者」

暗記使い「…………!」
395 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:35:13.77 ID:a5Ewyth70
ゴロツキ首領「部下を向かわせたはずだが……あの馬鹿共。使えねえな、まったく」

ゴロツキ首領「ま、感謝するぜ。こう一つぐらいアクシデントが無いと報酬も上がらねえからな」

暗記使い「……残りの奴隷は無事なのか?」

ゴロツキ首領「ん? 俺は雇われだから詳しくは知らねえが、無事だろう」

ゴロツキ首領「商品を自ら傷付けるとは思えないね」

暗記使い「そうか」

ゴロツキ首領「聞きたいことはそれだけか? それじゃあお喋りはここまでだ」

ゴロツキ首領「行く……ぜっ!」

暗記使い「っ!!」

暗記使い(速いっ……!)
396 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:37:34.47 ID:a5Ewyth70


ゴロツキ首領が繰り出した短剣を暗記使いは間一髪で躱した。


ゴロツキ首領「ひゅー、やるねえ!」

暗記使い(こいつ自信の実力は並以上だが俺なら捌けないほどでは無い……)

暗記使い(だが、あのガントレット……)

ゴロツキ首領「もう気がついたか、流石だねえ」

ゴロツキ首領「こいつは良いぜ。俺でもBランク賞金首を殺っちまう事ができた」

暗記使い「便利な物が出回りすぎるのも考えものだな……」

ゴロツキ首領「さあさあ、次行くぜっ!」

暗記使い「ちっ……!」

暗記使い(それにしてもあの女はなぜこうすぐ居なくなるんだ……!)
397 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:38:04.15 ID:a5Ewyth70
今日はここまでです。
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 03:10:48.29 ID:aNNNVEcDO

誤変換を指摘する様な野暮はしたくないんだけどさすがに暗“記”使いは次から直した方が宜しいかと
399 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/01/23(水) 09:40:18.11 ID:q9jNfns+0
>>398
ご指摘ありがとうございます。
上げる前に一回は見直すんですけれど相変わらず減りません……。
400 : ◆8F4j1XSZNk [saga sage]:2019/02/08(金) 17:03:43.47 ID:k1LIl9NS0





勇者「うーん、暇だ!」

僧侶「疲れているから休みたいと言ったのは勇者様でしょう」

勇者「うーん、もうだいぶ元気なんだよね」

僧侶「はあ……ずいぶんと勝手ですね」

勇者「僕たちもちょっと街に出てみようよ」

僧侶「体調の回復が最優先なんですから、お酒は駄目ですよ」

勇者「わかっているよ。通りに大きな書店があってから行ってみたいんだ」

僧侶「書店……? 勇者様が本とは珍しいですね」

勇者「悪かったね活字が苦手で」
401 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:04:32.08 ID:k1LIl9NS0
勇者「いや、ちょっと自分自身……いや勇者一族についてもっと詳しく知りたくなったんだ」

勇者「あの規模の書店なら、勇者一族についての本も沢山あるはずだと思うんだ」

僧侶「なるほど……しかしなんでまた突然?」

勇者「何となく、もっと色々と知っておかなければならないって思ったんだ」

僧侶「……? まあ、もう当主になったのですから当然ではありますけれど」

僧侶「早速向かいますか? そのまま夜は残りのお二方と合流するのも良いかもしれません」

僧侶「ここへ向かう途中で何やら数件の酒場が気になっていたようですので、その内のどれかにいることでしょう」

勇者「うん、そうしようか」


勇者は軽く身支度を整えると、僧侶とともに街で一番の書店へと繰り出した。


書店の坊主店主「やあいらっしゃい。何かお探しで?」
402 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:05:40.76 ID:k1LIl9NS0
勇者「ええ、ちょっと勇者一族についての本を」

書店の坊主店主「勇者一族について、か」

書店の坊主店主「それならこっちの棚にいくつかあるが……もしかするとあんたは勇者様本人かい?」

勇者「そ、そうですがよく分かりましたね」

書店の坊主店主「なに、商人の耳はどんな奴らより研ぎ澄まされているからな」

書店の坊主店主「一行がこの街に入ったことは既に知れ渡っているさ」

勇者「そうでしたか……一応ですが身分証です」

書店の坊主店主「ふむ、これが新しく発足されたっていう退魔師協会のものかい」

書店の坊主店主「あんたらみたいに自由に動ける奴らの存在は大事だって、兄貴も言っていたしな」

僧侶「お兄様が?」
403 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:08:48.91 ID:k1LIl9NS0
書店の坊主店主「おう。うちの兄貴は皇国で書店をやっているんだが、例の迷宮騒ぎにみごとに巻き込まれたらしくてな」

書店の坊主店主「その時にあの氷の退魔師様たちに助けられたんだと。教会の指示を待っていたら間に合ったかどうか……」

僧侶「なるほど、そんなことが……」

書店の坊主店主「本物の勇者様だっていうなら、あっちに通しても良いな」

僧侶「そちらは?」

書店の坊主店主「希少価値が高くて普通の客には売れないような書物を保管しているのさ」

書店の坊主店主「うちは歴史ある司書の一族でね。国から書物の保管を任されたりもしているのさ」

勇者「通りでただの書店にしては封印が強力なわけだ……」

書店の坊主店主「そういうことだ。さ、開けるから退いてな」


店主が懐に大事そうにしまっていた鍵を使って封印された書庫への扉を開いた。

404 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:09:25.83 ID:k1LIl9NS0
僧侶「貴重な書物がこれだけの量……」

書店の坊主店主「持ち出し厳禁、取扱い注意、鍵付きの本棚は触れるの厳禁。これだけ守ってくれればどれを閲覧しても構わないぜ」

勇者「ありがとうございます」

書店の坊主店主「良いってことよ。いつの時代だって勇者一行は俺たち民衆の希望の光だ」

書店の坊主店主「その役に立てるって言うなら出来る限りのことはするさ」

勇者「……本当にありがとうございます」


それから勇者は、自分の祖先に関する記述のある書物を幾つか手に取り読み漁った。

店主曰く“原書に近い”らしく、今まで聞かされていた事とはずいぶんと異なる記述も多くあった。

書庫に窓は無いが蝋燭の減り方からおそらくは数時間が経過し、外もすっかり暗くなったと思われる頃合いになった。


僧侶「勇者様、そろそろ時間も遅いです」
405 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:11:56.42 ID:k1LIl9NS0
僧侶「なにか気になることがあるのでしたら、出発日をずらしてまた明日来てもよいのでは無いでしょうか」

勇者「……いや、大丈夫だよ。読みたいものは大方読み切ったから」

僧侶「確かにすごい速度で読んでいましたが……ちゃんと内容が頭に入っているんですか? 飛ばし読みのように見えましたよ?」

勇者「それが不思議と、ちゃんと読めているんだ」

勇者「まるで書いてある内容を前々から知っていたような……」

僧侶「それはどういう……」

勇者「まあとにかく、出発日は変更しなくて大丈夫」

勇者「そろそろ暗器使い達と合流しよう」

僧侶(勇者様……?)
406 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:12:37.35 ID:k1LIl9NS0





僧侶「ええと、確か酒場はこちらの方で……」


書店を出た二人が細道を抜けてメインストリートに差し掛かったその時、全速力で馬車が目の前を駆けて行った。

間一髪轢かれそうになった僧侶はその場に尻もちをついてしまった。


僧侶「きゃっ!?」

粗暴な御者「危ねえぞ馬鹿野郎!」


御者は転んだ僧侶に謝ることも無く、そのままの速度で通りの奥へと走っていった。。


勇者「僧侶大丈夫!?」

僧侶「え、ええ。怪我はありません」

僧侶「あんなに急いでどうしたのでしょうか……」
407 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:14:28.10 ID:k1LIl9NS0
勇者「分からない……ただ、今の馬車はかなり怪しいよ」

僧侶「怪しい、ですか?」

勇者「うん、よほど焦っていたんだろうね。後ろの扉が片側開いていたんだけれど……」

勇者「馬車の外装に対して中が少し狭い気がしたんだ」

僧侶「それって……」

勇者「密輸用馬車の可能性があるね。例の人身売買組織との関係もあるかもしれない」

僧侶「……! 急いで自警団に通報しないと!」

勇者「僧侶は通報をお願い。僕はあの馬車を追うよ。丁度雨上がりだから轍を探すのは困難では無いと思う」

僧侶「単独行動は危険です……!」

勇者「それはわかっているけれど、あの急ぎ様はもしかしたらこの街を出る準備をしているのかもしれない」
408 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:18:24.68 ID:k1LIl9NS0
勇者「大丈夫、逃げられないように上手くやるだけだから」

僧侶「……分かりました。無理だけはしないで下さい」

勇者「そっちも任せたよ!」

僧侶「ええ、なるべく急ぎます!」
409 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:20:52.02 ID:k1LIl9NS0





──とある商会の館


粗暴な御者「状況は!?」

成金趣味の商会長「地下に侵入者のようだ……! どうやら“あの場所”から入ったらしい」

粗暴な御者「となると人身売買の件との関わりはバレてしまったと見ていいか……」

成金趣味の商会長「だが地下には彼らを向かわせた。既に侵入者は始末されているのでは?」

粗暴な御者「敵が一人は限らない。逃げ延びた連中が自警団に通報していたとしたらここにいるのは得策ではない」

粗暴な御者「馬車を用意した。早く金と商品を積んでずらかるぞ」

成金趣味の商会長「し、しかし……」

粗暴な御者「俺とお前がいればまた別の地でもやり直せる。いいから行くぞ」
410 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:26:03.07 ID:k1LIl9NS0
成金趣味の商会長「ちっ……仕方がない」

成金趣味の商会長「ほら、さっさと歩かないか!」

少女エルフの奴隷「痛っ……!」

成金趣味の商会長「他の奴隷も続け。逃げ出そうと思うなよ……勿体無いが撃ち殺してやる」

粗暴な御者「急げ! 自警団が直に来るかもしれん!」


御者が玄関の扉に手をかけた瞬間、逆側から蹴破られ、後ろへと吹き飛ばされてしまった。


粗暴な御者「ぐぎゃっ!?」

勇者「これはこれは、大当たりかな」

成金趣味の商会長「何者だ貴様!」

勇者「通りすがりの勇者だ!」
411 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:26:39.45 ID:k1LIl9NS0
粗暴な御者「ゆ、勇者だと……!?」

勇者「すでに自警団には通報済みだ! 大人しくその子達を解放しろ!」

成金趣味の商会長「くそっ……!」

粗暴な御者「(おい聞け! お前は奴隷を人質に取りながら地下でゴロツキどもと合流して逃げろ)」

粗暴な御者「(俺は“もう一つの地下通路”から逃げる。落ち合う場所は例の所だ、いいな?)」

成金趣味の商会長「(わ、わかった……!)」

成金趣味の商会長「く、来るんじゃねえ! こいつらの頭をふっとばすぞ!」

少女エルフの奴隷「きゃあああっ!」

勇者「その子を離せ!」

成金趣味の商会長「お前が下手なことをしなければ離してやるさ」
412 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:27:16.77 ID:k1LIl9NS0
成金趣味の商会長「だが逃げ切りが確定するまでは一緒だ。さあ来い!」

少女エルフの奴隷「いやっ! 離して!」

勇者「くっ……!」

成金趣味の商会長(地下でゴロツキと合流したら、惜しいがこいつは処分だ)

成金趣味の商会長(正義の勇者サマは傷ついた奴隷を放っては置けないだろうからな……!)

成金趣味の商会長「さあこっちだ……げほっ!?」


商会長からエルフの少女を引き剥がすように拳をお見舞いしたのは、地下室への隠し階段から現れた男だった。


勇者「あ、暗器使い!?」

暗器使い「よう」

成金趣味の商会長「ば、馬鹿な……あのゴロツキどもはどうしたのだ……!」
413 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:31:38.65 ID:k1LIl9NS0
暗器使い「……あいつら確かにいい道具を持っていた。商会の力で手に入れた物なんだろうな」

暗器使い「だが」


暗器使いの足元に使い終わった無数の武器がガラガラと転がった。


暗器使い「あんなもの俺は色々と持っていてな。まあコレクションがまた増えて良かったぜ」

成金趣味の商会長「ひ、ひいいいっ!」


暗器使いは商会長を拘束し、奴隷たちの手枷を外した。


少女エルフの奴隷「あ、ありがとうございます……」

暗器使い「いや、勇者一行としては当然のことだ。それより……」

暗器使い「勇者、何を探している」

勇者「いや、もう一人仲間が居たんだけれどね。もうどこかに逃げてしまったみたいなんだ」
414 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:34:29.79 ID:k1LIl9NS0
暗器使い「他にも隠し通路があったか……」

勇者「そうみたいだね……」

勇者「そういえばエルフさんは?」

暗器使い「ああ、また途中で消えやがった」

暗器使い「おそらく大丈夫だと思うが……」

暗器使い「そういうお前は僧侶と一緒じゃなかったのか?」

勇者「僧侶には自警団への通報を任せたんだ」

勇者「ほら、来たみたいだよ」

暗器使い「よし、あとの処理は任せるとするか」
415 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:35:00.32 ID:k1LIl9NS0





粗暴な御者「ふっ……ふっ……!」

粗暴な御者(追手は……無さそうだな)

粗暴な御者(馬鹿なやつだ……ゴロツキどもが戻って来ていないということは考えられる事は一つ)

粗暴な御者(悪いがトカゲの尻尾切りに利用させてもらうぜ……)

粗暴な御者(よし出口だ……! 十分な金は金庫から持ち出してある)

粗暴な御者(取りあえずは遠くの街へ逃げて、そこで再出発だ……)

粗暴な御者「くくっ……こんな金になることやめられるかよ……!」

紅目のエルフ「あら、呆れるほどのクズ野郎で助かったわ」

粗暴な御者「何者だ!」
416 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:35:45.79 ID:k1LIl9NS0
紅目のエルフ「少なくとも貴方の味方ではないわ」

粗暴な御者「耳長の雌か……」

粗暴な御者「商品として持って行きたいところだが、今は逃げるのが先決」

粗暴な御者「見られたからには処分しなくてはな。死ね」


御者が懐から拳銃を取り出して引き金を引いた。

しかしその弾丸はあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

それもそのはず。御者の手があらぬ方向へと曲がってしまっているからだ。


粗暴な御者「な、なんだああああああっ!? 痛てええええええええっ!!」

粗暴な御者(ツタだと!? 一体どこから……!?)

紅目のエルフ「貴方を自警団に渡すわけにはいかないわ。だからわざとここまで逃したの」
417 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:36:54.17 ID:k1LIl9NS0
紅目のエルフ「この間捕まえた人攫いの吐いた情報だけでは不十分だったの」

紅目のエルフ「貴方は別の所へ引き渡すわ。死にたくなければ早めに全てを吐くことね」

紅目のエルフ「……全て吐いても生き残れるかは知らないけれど」
418 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:37:34.68 ID:k1LIl9NS0





紅目のエルフ「た・だ・い・ま」

暗器使い「……どこに行っていた」

紅目のエルフ「途中で風の流れから別の場所への抜け道を発見してね」

紅目のエルフ「そこを進んでいたら何やら逃げている男を発見したんだけれども……通路の出口が断崖絶壁の場所でね」

紅目のエルフ「足を滑らせて落ちていってしまったわ。あの高さなら多分……」

暗器使い「……そうか。まあ首謀者の一人はこちらで捕らえることが出来たから問題は無いだろう」

自警団員「ご協力有難うございました、勇者一行の皆さん!」

勇者「いえ、お力になれたようで何よりです」

勇者「ささ、後は自警団の皆さんにお任せして僕たちは退散しよう」
419 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:38:14.41 ID:k1LIl9NS0
僧侶「早く夜の歓楽街に行きたいだけですよね?」

勇者「さ、さて? なんのことやら」

紅目のエルフ「ふふふ、私も待ちきれないのよね。経由地点とはいえ、せっかく来たのだから楽しまないと」

僧侶「……分かっていると思いますが、明日出発ですからね」

暗器使い「まあ息抜きも大切だろう」

僧侶「特に二人は常に息を抜いているように見えるのですが……」

暗器使い「お前も少しは気を休めろということだ」

暗器使い「どうやら五十年に一度の仕上がりの酒が入荷したらしい。今回の報奨金で入手してみたくはないか?」

僧侶「ご、五十年に一度の……!」

勇者「僧侶、よだれ」
420 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:38:57.18 ID:k1LIl9NS0
僧侶「えっ、嘘っ!?」

勇者「嘘」

僧侶「勇者様!!」

勇者「あはは、ごめんってば」


その後あまりの酒の美味さに宴は長引き、翌朝青ざめた僧侶を気遣って出発が遅れたのだった。
421 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:39:53.18 ID:k1LIl9NS0


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人 ゴロツキ首領
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商 雇われゴロツキ 粗暴な御者
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
422 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/02/08(金) 17:41:25.40 ID:k1LIl9NS0
《歓楽街》編はここまでです。
暗器使いの誤字は直したつもりですが修正漏れがあったら教えてください。
次回は《過去の英雄》編です。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/10(日) 01:01:02.72 ID:V9UZLcJDO

いや、そんなに気にしなくても…なんかスマン
424 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/02/13(水) 02:02:07.44 ID:OdchVni40
>>423
いえいえ、少しでもクオリティ向上に努めたいと思っていますのでありがたいです。
425 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:28:42.00 ID:cdGZSoBF0
《過去の英雄》


──はるか昔のお話……


少年が目を覚ますと見慣れた景色は無く、崩れた家屋からは黒い煙が立ち上っていた。

その焦げ臭さと、血生臭さと、そして全身に走る痛みに、少年は指の一本も動かせずにいた。

死体の山の上で。


ふと、優しい声がした。

母を思い出させる声だった。

声の主は少年を抱きかかえ、そっとその場を離れていった。

少年の意識は再び途絶えた。
426 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:30:06.36 ID:cdGZSoBF0


少年が引き取れた先は、町の小さな孤児院だった。

少年を助けた女性が院長として営んでおり、院長の他に“せんせい”が一緒になって身寄りのない子供たちが自立できるまで世話をしていた。

その美しい院長は街の人々からも慕われていた。


少年に親友ができた。

同じ孤児院の男の子だが、院長にとって彼は他の子供達とは少し違う存在のようだった。


少年と男の子は逞しく成長し、やがて彼らは青年になった。

まだ大陸には無数の部族と小国がひしめいており、争いの絶えない時代だった。

その中でも彼らのいる町は大国に囲まれた不安定な地にあった。

青年たちは自分の身を、そして何より大切な孤児院と院長を守るために、剣と魔導書を手に取った。

後に彼らは初代勇者と初代僧侶と呼ばれる。
427 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:32:25.04 ID:cdGZSoBF0


二人は町の自警団の中心となり、その規模を大きくした。

それと同時に町は大きくなり、小さな国のような様相にありつつあった。


自警団もさらに活動の規模を広げ、まるで軍隊のようになった頃。

初代勇者はふと考えた。

なぜこんなにも争いが耐えないのだろうか。

僧侶は言った。

それはきっと自分とは違う他人が怖いのだろうと。


勇者と僧侶は旅に出た。

自分とは違う者たちを理解していく中に、平和への鍵があるのでは無いかと思ったのだ。

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