僧侶「勇者様は勇者様です」

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445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/04(月) 07:45:58.80 ID:Oe6kDEZaO

書き込みしてないけど見てる
446 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/03/31(日) 13:51:57.58 ID:4+gFEq4K0
>>444 >>445
いつもありがとうございます。
447 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 13:56:20.26 ID:4+gFEq4K0





そして、その住処らしき場所は呆気なく見つかった。

呆気なく、とは言うが険しい山道であったことは確かだ。

しかしその途中で何者かの妨害があったり、罠が張り巡らされていたりという事は無かった。

山頂付近の台地にあるその建物は、かなり古いがきちんと手入れされている様子で、ここに何者かがいることは確定だった。

勇者は警戒しつつ、その扉を叩いた。


勇者「すいません、どなたかいらっしゃいますか」


勇者の声に帰ってきたのは沈黙で、間をおいてから再び扉を叩こうとしたとき、向こう側で鍵を開ける音が聞こえた。

中から顔を覗かせたのは、勇者よりも幾つか下に見える短髪の少女だった。

あまり大柄では無いが、その引き締まった筋肉と身なりから何らかの武術家ではないかと予想された。
448 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 13:57:03.65 ID:4+gFEq4K0


勇者(お、女の子……!? この娘が仙人ってこと……?)

褐色肌の武闘家「……どうぞ、お師匠様が中で待ってるよ」

僧侶「(……彼女の師が仙人と呼ばれている方なのでしょうか)」

勇者「(うん、流石にこの娘が仙人っていうことは無さそうだね……)」


四人は案内されるがままに奥の間へと進むと、そこは甘ったるい白煙が立ち込める異様な空間だった。


暗器使い(この煙は……まさか……)

暗器使い「お前たち下がれ。この煙を吸うな」

僧侶「なっ、まさか毒……!?」

暗器使い「毒ではないが……似たようなものだ」

紅目のエルフ「これは……麻薬よ。かなり流行りのものね」
449 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 13:58:49.03 ID:4+gFEq4K0
僧侶「ま、麻薬……!?」

勇者「一体なんでこんな所に……」

褐色肌の武闘家「……お師匠様! それは控えてって何度も言っているじゃないか!」


短髪の少女がそう怒鳴ると、部屋の奥で横たわっていた人物は面倒臭そうに白煙を吐き出した。

少女は喫煙具を取り上げてから、窓を全て開けて部屋の換気を行った。

それから十分に換気ができた頃に、もう一度勇者たちを招き入れた。


褐色肌の武闘家「先程は師が失礼を……ほら、しゃんとして!」


師と呼ばれた人物は少女に叩き起こされて、ようやく勇者たちと顔を合わせた。

その虚ろな目をした人物は女性だった。

武闘家の少女ほど幼くは無いが、やはり仙人と呼ぶには若いように見えた。
450 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:00:23.71 ID:4+gFEq4K0


武闘家の師「……やあ、来たね」


女性は仕方がなく普通の煙草を咥えて、しかしやはりひどい隈の虚ろな目で勇者たちを見て言った。


武闘家の師「君たちは当代の勇者一行だろう?」

勇者「……何故それを?」

武闘家の師「そりゃ分かるさ。全員紋章を宿しているじゃないか」

武闘家の師「それが分からなくなるほど頭はやられちゃいないよ」

武闘家の師「しかし君が当代の勇者か……ふむ、なるほど」


武闘家の師は勇者の顔を覗き込むように身を乗り出した。

露出の多い服の間からは彼女の入れ墨まみれの肢体が覗いていた。


勇者「あ、あの……?」
451 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:02:05.68 ID:4+gFEq4K0
武闘家の師「……他は何も似ていないが、瞳だけはそっくりだ……」

勇者「え……?」

武闘家の師「……いや、なんでもない……」

勇者「…………」

勇者「……あの、貴女は……」

武闘家の師「ん? なんだ?」


勇者「……貴女は、初代格闘家様ではありませんか?」


紅目のエルフ「なっ……」

暗器使い「何だと……?」

僧侶「何を言っているんですか勇者様!? 初代格闘家様は千年も前の人物なんですよ!?」
452 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:05:43.40 ID:4+gFEq4K0
武闘家の師「……何故そう思う?」

勇者「……夢に出てくる姿にそっくりなので」

武闘家の師「夢?」

勇者「ええ。この剣の影響だと思うのですが、最近良く夢の中で見るんです」

勇者「初代……いえ、歴代の勇者の断片的な記憶を」

武闘家の師「この剣が……?」

勇者「貴女はこの剣について何かご存知ではありませんか?」

武闘家の師「いや、残念ながら私は何も知らない……だが」

武闘家の師「その剣が見せたという夢の信憑性については保証しよう」

僧侶「え……それではまさか本当に……」
453 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:06:32.81 ID:4+gFEq4K0


武闘家の師→初代格闘家「そういうことだな。私が初代勇者一行の格闘家だ。よろしくな」


暗器使い「馬鹿な……千年前の話だぞ! 人間はおろか、亜人でさえ生きるのは難しい年月だ」

紅目のエルフ「そうね。強力な力を持った人外以外は千を超える歳を生きる事は不可能だわ」

初代格闘家「勿論私自身の力じゃない。一種の呪いみたいなもの」

初代格闘家「千年前のあの日以来、ずっと死ねない身体で彷徨って来た」

初代格闘家「この辺りに腰を据えたのは五百ぐらい前のことだったかな」

初代格闘家「この辺は、ほら……薬が手に入りやすいから」

褐色肌の武闘家「お師匠様……」

僧侶「かつては世界を救った英雄が、何故そんな薬に手を出して堕落しきっているのですか……?」

初代格闘家「疲れたのさ」
454 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:11:27.88 ID:4+gFEq4K0
初代格闘家「目的も目標もない。愛する家族もいない」

初代格闘家「そんな中で死ねないまま永遠に生きるなんて気が狂う」

初代格闘家「何度も死のうと試したけど、“あいつ”の力はそんな全てを無視して私を生かした」

初代格闘家「毒を飲もうが、火に炙られようが、身体を真っ二つにしようが、数千の高さから身を投げ出そうが……私だった肉の塊は必ず私に戻る」

初代格闘家「薬だって駄目さ。すぐに脳みそは正常に戻ってしまう」

初代格闘家「だけど逆に言えば、いつまでたってもこいつが効きにくくなるって事はない。何時だって少量でも飛べる」

初代格闘家「こいつを吸っている間だけはどこまでも沈んでいける」

僧侶「そんな……」

初代格闘家「後ろのお二人はこいつを知っていたようだけど……ふふっ、やったことあるのかい?」

暗器暗器使い「俺は仕事柄、あんたみたいな連中を相手にすることもあったってだけだ」
455 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:14:22.06 ID:4+gFEq4K0
紅目のエルフ「私も似たようなものね」

初代格闘家「なーんだ、仲間が増えるかと思ったのに」

初代格闘家「それで、こんな薬漬けの女に何のようだい? この山奥に偶然来たってことは無いだろう?」

勇者「それも、おそらくはこの剣の力で……」

勇者「僕たちが行くべき場所が、何となく分かるんです」

初代格闘家「それがここだと」

勇者「はい」

初代格闘家「しかしここには何もないよ?」

初代格闘家「今起こっていることも大体は知っているが、私は関わるつもりはないし」

暗器使い「関わるつもりがない、とは……」
456 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:15:10.53 ID:4+gFEq4K0
初代格闘家「そのままの意味だよ。私はその新生魔王軍とやらが何をしようと、興味は無いから」

僧侶「そんな……! 大陸を揺るがす大事態なのですよ!? かつて世界を救った貴女が一体何故……!」

初代格闘家「世界を救った……ね。別に私はそんなつもりじゃ無かったんだけどね」

初代格闘家「結局は自分の周りの小さな世界を守るのに精一杯だったのさ」

初代格闘家「そして私は、それすらも手に入らなかった……」

初代格闘家「もうどうだって良いのさ。勝手にやっていてくれ」

僧侶「しかし……!」

勇者「初代勇者……僕のご先祖様が残してくれたこの世界を、一緒に守ってくれはしませんか……」

初代格闘家「……あいつはこんな世界は望んでは居なかったさ」

初代格闘家「結局昔と変わらない……いや昔よりも酷い種族間の差別が大陸中に蔓延している」
457 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:20:23.53 ID:4+gFEq4K0
初代格闘家「その極めつけが今回の件なんじゃないのかね」

初代格闘家「本当に救うに値するのかい、この世界は」

褐色肌の武闘家「…………」

暗器使い「……時間の無駄だ、さっさと下山するぞ」

勇者「暗器使い……」

暗器使い「あれは死人の目だ。肉体は生きているが、精神は死んでいる」

暗器使い「死人に生者の声は届かない」

初代格闘家「彼の言う通りだ。もし君たちがこの世界を救いたいと言うのなら、ここで油を売っている暇なんて無いんじゃないかね?」

勇者「……最後に一つ良いですか?」

初代格闘家「何だい?」
458 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:21:01.74 ID:4+gFEq4K0


勇者「後の二人は、どこへ?」


初代格闘家「…………」

勇者「最後の戦いで行方不明になったのは貴女と、初代剣士様と、初代アサシン様だ」

勇者「彼らがもし、貴女と同様に何らかの手段で生き永らえているとしたら……その行方をご存知なのではないですか?」

初代格闘家「……それは……」


初代格闘家「ん……?」

褐色肌の武闘家「お師匠様……!」

勇者「これは……!」

僧侶「何か、来る……!」

暗器使い「やばいな、かなりの力を感じる……」
459 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:22:20.92 ID:4+gFEq4K0
紅目のエルフ「……ふん」


勇者たちが外へ飛び出すと、そこには赤色と銀色の甲冑に身を包んだ二体の人外が待ち構えていた。

彼らか感じる力はやはり、勇者ら誰よりも強大なものであった。


ゼパール「彼奴が当代の勇者であるか」

サロス「なるほど最初の報告のように、貧弱そうな男よ」

サロス「それが今や驚異となりつつあるとは本当か。にわかには信じられん」

暗器使い「ちっ、この間の騎士と言いデタラメな力を持ったな奴らが出てきたな……」

勇者「ゼパールとサロスだ……皇国に出たっていうレライエと同じレベルの人外だと思っておいていいよ」

サロス「ほう、我らを知るか。やはり勇者の系譜であることは確かなようだ」

ゼパール「レライエか……あの女は魔王軍幹部の面汚しである。あんな辺境の教会一つ落とせぬとは、我より序列が上であったことに疑問が残る」
460 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:27:23.72 ID:4+gFEq4K0
サロス「さあ勇者よ、長旅ご苦労であった。ここでその命、散らして貰おうか」

ゼパール「まあまてサロスよ。この程度の者ら、我一人で十分だ」

サロス「……そう言うのであれば譲ろう」

ゼパール「ふふ……そちらは一人と言わず、全員でかかってくると良い」

ゼパール「参るッ!!」

勇者「来るっ……!!」


赤い甲冑のゼパールが勇者の方へ一直線に迫った。

彼の剣による刺突を弾いた勇者は身をかがめてゼパールの足を薙ぎ払おうとする。

しかしそれは跳躍によって避けられ、ゼパールの剣は勇者へ向けて振り下ろされた。


暗器使い「させるか……!」

461 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:28:25.90 ID:4+gFEq4K0
その一撃は暗器使いの投擲した鎖に絡め取られて阻害された。

得物の動きを封じられたゼパールの顔面に対して勇者が刺突を繰り出す。

しかし、剣が鎖で絡め取られているにも関わらずゼパールはそれを構え、振り抜いた。

鎖を握っていた暗器使いは地面に叩きつけられ、勇者は剣を弾かれてしまい肩に一撃をもらってしまう。

傷は浅いとはいえ不利な状況であるため、一旦後ろへ跳んで距離を取らざるを得なかった。


暗器使い「くっ……!」

勇者「やはり、強い……!」

ゼパール「良い……良いぞ貴様ら。報告よりも遥かに強くなっている」

ゼパール「特に勇者。剣術が様になってきたようだな」

ゼパール「これは潰し甲斐がある……」
462 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:29:13.69 ID:4+gFEq4K0
勇者「相手さんは余裕って感じだ……」

僧侶「勇者様、傷を……」


僧侶が手をかざすと勇者の傷はみるみる内に塞がった。

ゼパール「ふむ……それが噂に聞く僧侶の力か……」

ゼパール「徐々に削っていたぶってやるのが楽しみだったのだが、その女は少々邪魔である」

ゼパール「サロス、その女は譲ろう」

サロス「……勝手なことを。だが、承知した」

勇者「……! 僧侶! 下がって!」

サロス「遅い……!」


勇者が叫んだ時には既にサロスは背後に回り込んでおり、彼の剣が僧侶の首筋を捉えていた。

463 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:31:38.84 ID:4+gFEq4K0
僧侶「やっ……!」

紅目のエルフ「させない……!」


間一髪の所で、その剣は紅目のエルフが生み出した太いツタによって阻まれた。


ゼパール「……ふむ」

ゼパール「耳長よ、なぜ貴様は戦闘に参加しない」

紅目のエルフ「……私にも色々事情があるの……!」


紅目のエルフは僧侶を抱きかかえて大きく後ろに距離を取った。


紅目のエルフ「この娘は私に任せて。二人はゼパールに集中しなさい」

勇者「わかった……!」

暗器使い「ああ……!」
464 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:32:46.86 ID:4+gFEq4K0
ゼパール「くくく……気合を入れいるのは良いが、我に一撃でも入れてからにするのだな……がっ!?」


ニヤリと笑っていたゼパールの横顔に、強烈なストレートが叩き込まれた。


褐色肌の武闘家「はい一発目」

ゼパール「……この小娘があ……!」


ゼパールが薙ぎ払った剣を跳躍して避けた彼女は、更に膝を顔面にお見舞いした。


褐色肌の武闘家「勇者さん、今だよ!」

勇者「う、うん!」


呆気にとられていた勇者だったが武闘家の声でハッとし、ゼパールの元へ跳躍して縦に一閃、剣を振るった。


暗器使い「おまけだ!!」


どこからか取り出した槍を構えた暗器使いが、それをゼパールの胴体めがけて投擲した。
465 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:34:55.20 ID:4+gFEq4K0
それは先が少し刺さった所で、ゼパールの手によって止められてしまった。

しかしその隙きにもう一撃、勇者の剣がゼパールの首筋を斬りつけた。

だがゼパールはそれすらも浅く喰らうだけで回避してしまった。


ゼパール「ぬううううっ小癪な……!」


致命傷は与えていないが、しかし確実に勇者たちのペースだった。

素早く、小回りの効く武闘家の立ち回りのおかげで少しずつゼパールは押されていった。


サロス「ゼパール殿。これは全力を出したほうが良いのでは?」

ゼパール「分かっておる……! やるぞ……!」

サロス「仕方があるまい、手伝おう」

暗器使い「何かは分からんが術を発動する気だ! 止めるぞ!」
466 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:35:59.37 ID:4+gFEq4K0
サロス「遅い!」


暗器使いが叫んだ頃には既に遅く、ゼパールとサロスによって何らかの術は発動されてしまった。


暗器使い「……何も、起きない……?」

僧侶「ゼパールやサロスの持つ特別な力……それは確か……愛……?」


ゼパール「参る……!」

サロス「覚悟……!」


ゼパールと先程までエルフと僧侶を牽制するだけだったサロスが同時に攻撃を仕掛けて来た。

ゼパールの重い剣撃を、勇者は受け止めるので精一杯だった。

その背後からサロスの剣が迫る。


僧侶「勇者様!」
467 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:42:35.05 ID:4+gFEq4K0
勇者「くっ……!」

勇者(ギリギリ……躱せる……!)


勇者がそう思った、その時であった。


褐色肌の武闘家「……ごっ……ふ……!」


勇者とサロスの間に割り込んだ武闘家の腹部に、剣が深々と突き刺さっていたのだ。


勇者「なっ……!?」

暗器使い「そいつを抱えてこっちに引けっ……!」

紅目のエルフ「援護するわ……!」


暗器使いの援護を受けながら勇者は武闘家を抱えてゼパールらの挟撃からどうにか逃げる事ができた。

腕の中の武闘家は衰弱しており、息も絶え絶えであった。
468 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:47:35.76 ID:4+gFEq4K0


僧侶「治癒します……!」

勇者「何で僕を庇ったんだ……! まだあって間もない相手をどうして……!」

褐色肌の武闘家「ゆ、勇者……様……」

ゼパール「不思議か、勇者よ」

勇者「ゼパール! 一体何をした!」

ゼパール「これこそが我らの力……愛情を操る力である」

ゼパール「その小娘の愛情の矛先が、全て貴様に向けられるようにした」

サロス「我々二人での重ねがけだ。その愛情は深く深く、燃え上がったのだ」

サロス「命を投げ出してでも助けたいと思えるほどにな……」

サロス「非常に……美しく燃え上がり、散った。甘美なものだ」
469 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:48:33.73 ID:4+gFEq4K0
勇者「お前達……!」


勇者の眉間に皺が寄り、剣を握る力が増した。

何かが内側から溢れ出すような感覚がした。


初代格闘家「人の家の前でうるさいんだよお前たち」


勇者が立ち上がろうとしたその時、初代格闘家が屋敷の中から姿を表した。

口には煙草、手には酒壺と相変わらずの格好ではあったが、その瞳は先程までとは少し違っていた。


サロス「女、何者だ。邪魔立てをするのであれば貴様も……」

ゼパール「……待て、まさか……その顔は……!」

ゼパール「初代格闘家……であるか……!? しかし、馬鹿な……!」

サロス「何……!?」
470 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:52:09.79 ID:4+gFEq4K0
初代格闘家「やあやあ久しぶりだねえ。最近はずいぶんと馬鹿なことをやっているみたいだけど……」

ゼパール「ふん、我々を止めるか……」

初代格闘家「いやあ興味が無いと言った手前、手を出さないでおいたんだけどね」

初代格闘家「でも弟子に手を出されたんじゃ、今回限りはこちらも黙ってはいられない」

初代格闘家「馬鹿な子だよ。放っておけと言ったのに」

サロス「ゼパール殿、此奴は危険だ。いま消さねばならない」

ゼパール「待て、此奴は……!」


ゼパールが静止した次の瞬間、サロスの上半身が消滅していた。

初代格闘家の拳によって。


初代格闘家「身内に関わんなきゃ、私も何もするつもりは無いさ。後は好きにやりな」

471 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:52:49.00 ID:4+gFEq4K0
勇者の腕の中で傷を完全に治癒された武闘家を抱えて初代格闘家は後ろへと引いた。

武闘家を自分の膝で寝かせて、彼女自身は胡座をかいて酒を煽り始めた。

手を出すつもりは本当に無いらしい。


紅目のエルフ(これが初代勇者パーティーの一員の力……)

ゼパール(ぬううう、まさかこんなイレギュラーが存在するとは……! 失態だ。せめて勇者の命を取らねば引くことは出来ん……!)

勇者「ねえゼパール、聞かせてよ」

ゼパール「……何だ……」

勇者「どうして急に“僕を殺すことにしたの”?」

暗器使い「…………」

僧侶「それって、どういう……?」
472 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:58:36.81 ID:4+gFEq4K0
ゼパール「気が付いていたか、勇者よ」

勇者「そりゃね。僕を殺すタイミングなんていくらでもあったはずだ」

勇者「まずは僕と僧侶の両親が殺されたあの日。父さんを殺すついでに僕も殺すことが出来たはずだ」

勇者「そして何より法国でのダンジョン攻略の時……」

勇者「他のダンジョンでは最深に辿り着いた攻略者を結界で閉じ込めて、その後に結界内の自爆の魔法陣でそれらを全滅させる仕組みになっていた」

勇者「実際、結界やその自爆の魔法陣を解除できなかった攻略者らは死亡、良くても重症の者がほとんどで、実力者を失った各地は大打撃を受けた……」

勇者「それなのに僕たちの攻略したダンジョンには、その自爆の魔法陣が無かった」

勇者「僕を殺すつもりなんて初めから無かったんだ」

僧侶「で、でも北方連邦国では影使いに殺されかけたじゃないですか……!」

暗器使い「後で遺体を確認したが、あれは人間だった」
473 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 14:59:19.45 ID:4+gFEq4K0
暗器使い「恐らくは貴族院が別に雇った者だったんだろう」

紅目のエルフ「で、何で新生魔王軍の皆さんは勇者を殺さずに見逃し続けたのかしら?」

勇者「それは……」

勇者「それは僕が稀に見る弱い勇者だからさ」

僧侶「え……」

勇者「勇者の力の継承システムはこうだ」

勇者「基本的には男女を問わず、勇者の子が勇者の力を受け継ぐ」

勇者「その引き継ぎのタイミングは先代が亡くなった瞬間、あるいはその子供の齢が二十に到達した時」

勇者「しかし勇者が子を授からずしてなくなった場合、最も近縁の者に継承権が移る」

勇者「例えば兄弟や、従兄弟など」
474 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:00:58.28 ID:4+gFEq4K0
勇者「つまり勇者を殺しても次の勇者がすぐに誕生する」

勇者「勇者の候補を全て見つけ出して殺すというのは現実的ではない」

勇者「だから奴らは方針を変えたんだ。最も弱い勇者に、長くその力を所持して居てもらおうって」

ゼパール「その通りである……しかしやはり初代勇者の呪いは恐ろしいものだ」

ゼパール「貴様のような小僧を、みるみる内に強き者へと成長させていった」

ゼパール「その芽を、刈り取らざるを得なくなったのだ」

勇者「……じゃあもう、怯えている暇なんて無いんだね」

ゼパール「安心しろ。その暇もなく殺してくれる!」


ゼパールの目にも留まらぬ素早い攻撃が、勇者の首を切り落とした。

ように見えた。
475 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:01:52.41 ID:4+gFEq4K0


ゼパール「がっ……! 馬鹿なっ……!!」


実際には勇者の剣がゼパールの片腕を切り落としていたのだ。


勇者「──“俺”も、もう前に進まなくてはいけない時が来た」


僧侶「勇者……様……?」

紅目のエルフ(いや……“誰だ”……?)

暗器使い「…………」

ゼパール「何だ……この力は……まさか……!」

ゼパール「くっ……!」


ゼパールは身を翻してこの場からの撤退を試みた。

しかし、突如目の前に現れた植物の壁にそれを阻まれる。

476 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:02:23.08 ID:4+gFEq4K0
紅目のエルフ「貴方に逃げられるの困るのよねえ」

ゼパール「耳長っ……! 貴様ァ……!!」

勇者「トドメだ……!」

ゼパール「ぐ……あああああああああっ!!」


勇者の剣が、ゼパールの身体を縦に両断した。


初代格闘家(今一瞬……)

初代格闘家「……いや、まさかね」
477 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:08:13.88 ID:4+gFEq4K0





僧侶の早急な治療の甲斐もあって、武闘家は一命をとりとめたどころかすぐに元気になった。

だが初代格闘家が無理にでも休めと命令をしたため、今は奥の寝室で寝息を立てている。


初代格闘家「……あの子は孤児でね。私が気まぐれで里に降りた時にたまたま出会ったんだ」

初代格闘家「ただの気まぐれだったんだけどね……もしかしたら意識はしていたのかもしれない」

初代格闘家「勇者も孤児で、拾われた身だった。そしてその勇者がまた私を拾ってくれた。そういう繋がりをね」

初代格闘家「随分と自分らしくないことをしたという自覚はあるよ」

僧侶「そんなことは……」

初代格闘家「そんな事より、だ。さっきの件で向こうさんも本腰を入れてきたって事が分かったんじゃないか?」

初代格闘家「ここで道草を食っている時間はあまりなさそうだね?」
478 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:08:47.90 ID:4+gFEq4K0
勇者「……そうですね」

初代格闘家「……とにかく紋章持ちを全員探し出すことを優先したほうが良い」

初代格闘家「それが次に繋がる鍵になるから」

勇者「……! 分かりました……!」

初代格闘家「まあ今日はもう遅い。ゆっくり休んで明日発つと良いよ」

紅目のエルフ「そうね、お言葉に甘えさせてもらおうかしらね」

初代格闘家「人数分は無いけど奥の寝室を適当に使っていいから」

初代格闘家「勇者君、私の可愛い武闘家ちゃんを襲ったら駄目だからね」

勇者「襲いませんよ!!」
479 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:09:35.03 ID:4+gFEq4K0





???「やあ、寝たばっかりなのに悪いね」

勇者「いえ……大丈夫です」

勇者「……やはり今日のは……」

???「うん。かなり“進行”したね」

???「君が俺の力を使えば使うほど進んでいって、更に力が発現しやすくなる」

???「負の連鎖さ」

勇者「そんな風には思っていませんよ」

勇者「僕自身の力だけでは、救えるものも救えない」

勇者「貴方の力があってこそだ」
480 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:10:09.55 ID:4+gFEq4K0
???「そう言ってもらえると、俺も少しは気が楽になるよ」

勇者「そんな顔しないでください。これは代々受け継がれてきた使命なんでしょう?」

勇者「なら僕も、目一杯利用させて貰いますよ」

勇者「“初代勇者様”……貴方の力を」

???→初代勇者「……ああ……そうしてくれ」
481 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:14:06.88 ID:4+gFEq4K0





翌日、勇者らは初代格闘家の家を出発し、次の目的地へと向かった。

同時期に、大陸会議で取りまとめられた帝国、王国、共和国による共同攻撃が魔国に向けて行われたが、それは完全に失敗に終わってしまった。

まるで、作戦の全てが筒抜けであったように。

現在各国は内通者の存在を疑っている。

特に、あの会議の場に居た者が疑わしいとされている。
482 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 15:14:41.74 ID:4+gFEq4K0


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師 初代格闘家

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ  ゼパール 
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い サロス

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長 褐色肌の武闘家
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人 ゴロツキ首領
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商 雇われゴロツキ 粗暴な御者
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
483 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/03/31(日) 15:15:38.26 ID:4+gFEq4K0
《過去の英雄》編はここまでです。
次回は《出会いと》編です。
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/01(月) 06:10:44.66 ID:b+z5XT7DO

エタったかと心配してたが杞憂だったな良かった
485 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:36:32.85 ID:r8B/g0op0
《出会いと》


初代格闘家の隠れ家で新生魔王軍の幹部を打ち破ってから二ヶ月が経過した。

道中で新生魔王軍に感化された人外らとの小競り合いなどには何度か巻き込まれたが、魔王軍そのものの幹部級の襲撃は一度しか無かった。

おそらくは戦線の激化に伴って遠方に割ける戦力も多くは無くなってしまったのだろう。


暗器使い「こっちには第五聖騎士団長が言っていたっていう、初代勇者の剣術に大きく影響を与えた流派の里が有るんだってな?」

勇者「うん、今はそこを目指そうと思って」

紅目のエルフ「そこで勇者が修行を始めるなんて言い出したら、私達は何をしていれば良いのかしら」

僧侶「仮にそうなったとしたら、退魔師ギルド員としての仕事をしましょう」

僧侶「実力者が多く戦線に招集されている今、今までのような安全確保がままならない地域も有ると聞いてます」

僧侶「それならば自由に動ける我々は出来る限りのことをするべきでしょう」
486 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:37:14.83 ID:r8B/g0op0
紅目のエルフ「真面目ねえ……」

紅目のエルフ「はあ、それにしても……」

暗器使い「言いたいことは分かるが、改めて実感するな」

紅目のエルフ「広すぎるのよ帝国は……! 汽車であと一体何日移動すれば着くのかしら……!?」

僧侶「途中で車両のトラブルも有りましたからね……まだしばらくはかかるでしょうね」

紅目のエルフ「あーもう。次に停泊する街では酒をたらふく飲んでやるわ」

僧侶「それはいつも通りでは……」

紅目のエルフ「暗器使い、付き合ってよね」

暗器使い「仕方があるまい」

勇者「暗器使いもしょうがなくじゃなくて、行きたくて行ってるでしょ」
487 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:41:36.15 ID:r8B/g0op0
暗器使い「どうだろうな」

勇者「まあ二人がお酒で問題を起こしたことは無いし良いんだけどさ」

勇者「とにかく今は僕の感じるままに大陸を旅することしか出来ない」

勇者「法王様の仰っていた通りなら、紋章持ちの仲間を探すっていう当初の目的通りになるし」

勇者「それに初代格闘家様も紋章持ちを全員探すことを優先しろって言っていたし」

僧侶「紋章持ち……勇者の仲間には一人一人に役割がある、という事でしたね」

勇者「もしそれが本当なのだとすれば、この大陸を取り巻く状況を良い方向に持っていくきっかけになれるかもしれない」

暗器使い「こうして大陸の端から端まで周っている内に事は解決していそうな気もするがな」

勇者「と、とにかく急げる様に頑張ろう」

暗器使い「ま、徒歩と馬だけの時代よりはよっぽど早いはずだ」
488 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:48:29.12 ID:r8B/g0op0


暗器使いはパンをひとかじりして新聞を広げた。


暗器使い「戦線は完全に停滞、か……」

暗器使い「戦線に面していない国……北方連邦国や、皇国などの力も必要になるはずだ」

暗器使い「この間の会議を経て、各国の連携が上手くいくようになれば少しは状況打開への道が見えるのかもな」

紅目のエルフ「いがみ合っていた者同士に共通の敵が出来たから一致団結……なあんて単純にはいかないとは思うけどね」

僧侶「ですが会議において各国の法が一斉に変わることになりました」

僧侶「真の信頼とか、そんな子どもじみたことを言うつもりはありませんが、確かに大陸は一つの方向を向こうとしています」

紅目のエルフ「……まるで新生魔王軍は大陸の平和への礎みたいね」


それから数日、蒸気機関車は目的の駅に到着した。
489 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:57:09.93 ID:r8B/g0op0





蒸気機関車の駅から定期便だという馬車に二日揺られた頃、勇者たちは目的の集落にたどり着いた。

昔は隠れ里のようなものだったと聞いているが、今では山中の重要な中継地点として多くの人が行き交っていた。

その集落の大通りに、建物は少し古ぼけているが、それとは対照的に新しい看板が掲げられた施設があった。


勇者「失礼します」

山中集落支部の受付係「ようこそ退魔師ギルドの支部へ! ご依頼ですか?」

勇者「いえ自分たちは……」


勇者がギルドの会員証を見せると、受付係の男はかけている眼鏡のように目を丸くして驚いた。


山中集落支部の受付係「あ、あなた方が当代の……!」

勇者「ええ、旅の途中ですがしばらく滞在することになりそうでして」
490 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:57:57.77 ID:r8B/g0op0
勇者「何かお手伝いできることがあればと、一応登録と挨拶に」

山中集落支部の受付係「そ、そんな、勇者様御一行のお手を煩わせるなんて……」

僧侶「いえいえ、ぜひ手伝わせて下さい。勇者様が用事が済むまでは我々三人は時間が余っていますので……」

紅目のエルフ「私はお酒を飲むのに忙しいのだけれど……」

僧侶「三人共暇ですので……! ぜひ!」

山中集落支部の受付係「そ、そうおっしゃって頂けると……ありがたいお申し出です」

山中集落支部の受付係「それでは早速簡単なお手続きの方を……いえ、署名を頂くだけで結構ですので」


勇者を含めた四人は支部への登録を済ませると、掲示板に貼り付けられた現在引き受けられる仕事の依頼書に目を通した。


紅目のエルフ「危険魔獣の駆除から幽霊騒ぎまで様々ね」

僧侶「あれ……これは物盗りの捕獲依頼ですか? こんなのも依頼として舞い込んでくるんですね」
491 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:01:19.56 ID:r8B/g0op0
山中集落支部の受付係「ああそれは、犯人が人為らざるものだって噂で……」

僧侶「ああ、なるほど……えっと、依頼主は……剣術道場……?」

僧侶「これって……」

山中集落支部の受付係「ああそれは……」

山中集落支部の受付係「どうにも物盗りっていうのが、力の宿った特殊な剣や、曰く付きの得物ばかりの狙っているらしいんですけれど……」

山中集落支部の受付係「最近近くの街の富豪の蔵からも盗まれたとかで、あの道場も警戒しているんじゃないでしょうか」

山中集落支部の受付係「“あの”道場に限って、剣が盗られるなんて無いとは思いますが」

勇者「……その道場の場所、教えて頂いても良いですか?」

山中集落支部の受付係「ええ、今地図を書きますね」
492 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:02:28.27 ID:r8B/g0op0





勇者「やっぱりこの二ヶ月大きく変わったよね」

僧侶「ええ。亜人や他の人外の皆さんもこうして街角で多く見かけるようになりました」

暗器使い「もう平気なのか?」

僧侶「はい。エルフの里で頂いたこのペンダントが効いているみたいです」

紅目のエルフ「婆様曰く、効果は完全ではないらしいから気をつけなさいよ」

僧侶「はい、分かっています」


それからしばらく歩くと、ギルドで教えてもらった場所に到着した。


勇者「さて、ここがその道場か……」

僧侶「大きな門ですね。まるでお城みたいです」
493 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:03:44.00 ID:r8B/g0op0
勇者「すいませーん! 誰かいらっしゃいませんか!」


勇者が戸を叩いてからしばらくして長く白い髭の老人が姿を表した。


白髭の老人「ここに何か用かね?」

僧侶「退魔師ギルドの依頼で来たのですが」

白髭の老人「ギルドの依頼……? 全く馬鹿共が、平気だと言っておろうに……」

白髭の老人「悪いがお前さん達、盗人ごときにどうにかされるような場所では無いのでね」

白髭の老人「後で依頼の取り消しをしておくから、帰ってもらって構わんよ」

僧侶「えっ、あの……」

勇者「……申し遅れました、僕は当代の勇者です。依頼の事を抜きにしても、ぜひ貴方とお話をしたくてここに来ました」

白髭の老人「……私と話を、か」
494 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:05:06.52 ID:r8B/g0op0
白髭の老人「よく私がここの師範だと分かったな」

勇者「あはは、流石に分かりますよ」

紅目のエルフ(……ただの掃除の爺さんだと思っていた)

僧侶(……同じくです)

白髭の老人→古流剣術師範「よし、付いて来なさい」

暗器使い「……随分と大きな道場だ」

古流剣術師範「初代剣士様が修めたという剣術で、初代勇者様にも大きく影響を与えた……と聞けば自然と人も集まるものだ」

古流剣術師範「その名にばかり惹かれてきた者など、すぐに厳しさに耐えかねて辞めていくがね」

古流剣術師範「さ、立ち話も何だ。お前さん達も座ると良い」

僧侶「失礼します」
495 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:06:01.49 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「それで、話とは何だね」

勇者「率直に言いますと、僕の剣を見てほしいんです」

古流剣術師範「……確かに勇者一族の振るう剣術に、我々の流派は大きな影響を与えた」

古流剣術師範「しかし、やはり同じ物ではない。大きく得られるものが有るとは限らないが良いのかね?」

勇者「僕は一族に伝わってきた剣術を習うだけで、十を学べるほどの才能はない」

勇者「だからその成り立ちについて、初代勇者様と同じように辿って行く必要があると思うんです」

勇者「急ごしらえではあるけれども、昔ながらの剣術の基礎は第五世騎士団長さんに叩き込んで貰いました」

勇者「だから次はここに来たんです」

古流剣術師範「……なるほど、それなら丁度いい」

古流剣術師範「ここに訪れてまだ日が浅い奴が居るのだが、中々に筋がいい」
496 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:09:28.72 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「師の元で指導を受けるような段階では無いはずなのだが……奴も剣術そのものを習いに来ている訳ではないからな」

勇者「……その方と、一試合するという事ですか?」

古流剣術師範「察しが良いな。その通りだ」

古流剣術師範「おい、少し時間をもらえるか」

疲れた様子の黒髪の男「……何でしょうか」

古流剣術師範「此奴は当代の勇者でな、一戦だけ交えてやって欲しいのだが」

疲れた様子の黒髪の男「……分かりました」


黒髪の男は少し気怠げに腰を上げて勇者の方を見た。


勇者「お疲れの所すいません」

疲れた様子の黒髪の男「俺なら大丈夫だよ」
497 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:10:17.11 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「勇者よ、お前さんの得物はこれだ」


古流剣術師範は勇者に一振りの刀を手渡した。


勇者「これは……刀?」

古流剣術師範「うちの流派ははるか昔、皇国より伝わった剣術を取り入れたものだ」

古流剣術師範「流派そのものでは両刃剣を使うが、その芯を理解するにはそいつを使うのが手っ取り早い」

勇者「で、でも刀なんて使ったことが……」

古流剣術師範「ならば尚更頑張るのだな。両者構えい」


黒髪の男が腰に下げていた刀を抜いたため、勇者も慌てて構えた。


古流剣術師範「始めっ!」


開始の合図と共に黒髪の男が踏み込んできた──かのようの見えたが、それは気迫の見せた幻影で、実際には男は一歩一歩すり足で近づいて来ているに過ぎなかった。
498 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:13:10.89 ID:r8B/g0op0
しかしにじり寄ってくる彼の構えに、勇者は隙きを見出すことが出来なかった。


勇者(何だこの威圧感は……!?)

疲れた様子の黒髪の男「……なあ」

勇者「えっ……」

疲れた様子の黒髪の男「やる気、有るの?」


勇者が気づいた時には、その手から剣が叩き落とされていた。


疲れた様子の黒髪の男「戦う気の無い奴に割く時間は無いよ」

勇者「いや、これは……その……」

紅目のエルフ「あらあら、飲まれちゃってるわね」

僧侶「勇者様……」
499 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:13:46.88 ID:r8B/g0op0
暗器使い「……ったく……おい勇者」

暗器使い「せっかく時間を取ってもらっているんだ。中途半端は失礼だろ」

暗器使い「殺す気でいけ」

勇者「……わ、わかっている……!」

勇者「もう一回お願いします」

疲れた様子の黒髪の男「よし、来い……!」


それから数十分、二人は何度も剣を交えた。

しかしその内で一度でも勇者の剣が黒髪の男に届くことは無かった。


疲れた様子の黒髪の男(まだまだ荒削りで俺には遠く及ばない……)

疲れた様子の黒髪の男(だが、何故だ……この短時間で着実に上達している……)
500 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:14:36.84 ID:r8B/g0op0
疲れた様子の黒髪の男(そういう事か……師範の狙いはこれだったのか)

疲れた様子の黒髪の男(勇者の末裔と言うからには幼い頃から剣術には打ち込んでいたはずだ)

疲れた様子の黒髪の男(この男には剣術の才能はない……勇者の子孫と言えど凡人のそれだ)

疲れた様子の黒髪の男(だけれど、二十年の人生で積み上げてきた努力は本物だ)

疲れた様子の黒髪の男(才能が無いから、勇者一族の剣術に眠る基礎に自分で到達が出来ていなかった)

疲れた様子の黒髪の男(だからあえて、その根幹にあたる片刃の実戦を行うことで、身体に気が付かせるってことか……!)


勇者の刺突を、黒髪の男が弾く。


勇者(せめて一本は……!)

勇者(全力で……! 倒す気でいかなくちゃ駄目なんだ……!!)

疲れた様子の黒髪の男「……!?」
501 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:19:48.71 ID:r8B/g0op0
疲れた様子の黒髪の男(何だ!? 急に雰囲気が……!)

疲れた様子の黒髪の男(この感覚……後ろの剣か……!?)

疲れた様子の黒髪の男(覚えがあるぞ……これは“アレ”と同じような……!!)

勇者「っ!!」

疲れた様子の黒髪の男「チィッ!!」


砂埃が舞ったその先で、勇者の刀が黒髪の男の喉元を捉えていた。


僧侶「やったぁ!」

暗器使い「ふう……惜しいな」

僧侶「えっ……?」

古流剣術師範「実戦ならば、その刀が喉を貫くよりも先に、お前さんの胴が真っ二つだったな」
502 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:21:03.16 ID:r8B/g0op0
紅目のエルフ「黒髪の彼……本当に強いわね」


よく見ると黒髪の男の刀は、ピッタリと勇者の胴に当てられていた。


勇者「……はあ、参りました……」

疲れた様子の黒髪の男「いや、最後のは惜しかった。この短時間でよくここまで出来たものだね」

疲れた様子の黒髪の男「しかし……一つ良いかい」

勇者「……?」

疲れた様子の黒髪の男「後ろに置いてある剣……普通のものではないと見た。例えばそうだな……“中に何かいるのかい”?」

勇者「…………さ、さあ、何の事やら」

勇者「我が家に代々伝わるという点では普通では無いのかもしれませんが……」

疲れた様子の黒髪の男「……そうか。いや、少し気になっただけなんだ」
503 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:22:32.56 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「よし、二人共お疲れだったな。時間もそろそろ遅い。皆さんもこちらで夕食に参加してはどうかな?」

暗器使い「し、しかし……」

古流剣術師範「なに遠慮することはない。もともと大所帯だ。数人増えた所で変わりはしない」

僧侶「そういうことでしたら是非……」

紅目のエルフ「おじさま、美味しいお酒はあるかしら?」

古流剣術師範「せっかくの歓迎の席だ。とっておきのを持ってこよう」

紅目のエルフ「やったぁ!」

僧侶「まったく貴女は……」

古流剣術師範「お前は修練場の連中に声を掛けてくると良い」

疲れた様子の黒髪の男「……分かりました」
504 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/04/26(金) 16:23:08.10 ID:r8B/g0op0
GW中にもう一度更新予定です。では。
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/26(金) 23:23:37.58 ID:fIk3moFDO
乙乙
楽しみ
506 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:12:26.40 ID:mEfttAV60





紅目のエルフ「美味しい! 何これ!? 何のお酒!?」

古流剣術師範「米から作られたもので、これも皇国から伝わったものだな」

紅目のエルフ「これは一度皇国にも行かないと駄目ね」

勇者「僕にはまだ少し香りがキツイかも……」

紅目のエルフ「お子ちゃまねえ」

僧侶「そうですよお、こんなに美味しいのに」

勇者「今日は飲みすぎないようにね……」

僧侶「言われなくても分かっていますう」

暗器使い「勇者がしばらくお世話になる事になったようで……急なことですみません……」
507 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:13:25.53 ID:mEfttAV60
古流剣術師範「なあに、こちらとて勇者に剣の指南をするとは光栄なことだ」

古流剣術師範「お前は飲まないのか?」

疲れた様子の黒髪の男「……いえ、自分は」

古流剣術師範「欲を切り離すことが精神の成長に繋がるとは限らないぞ。ほれ」

疲れた様子の黒髪の男「しかし……」

柄の悪い門下生「師範が飲めって言ってるんだから飲めよ」

柄の悪い門下生「正確には門下生ですら無いくせにでかい面しやがって……」

疲れた様子の黒髪の男「……そういうつもりは無いんだけど、不快にさせてしまったのであれば謝るよ」

古流剣術師範「折角の歓迎の席だ、止めないか」

柄の悪い門下生「……師範も師範ですよ」
508 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:30:25.61 ID:mEfttAV60
古流剣術師範「お前さんたちの稽古の時間を削ったり、手を抜いたりはしていないだろう」

古流剣術師範「こいつには少し、特別な事情があるだけだ」

柄の悪い門下生「へっ、結局は特別扱いじゃねえか」

柄の悪い門下生「邪魔したな客人ども」


柄の悪い門下生は酒瓶を一つ奪って自分の席へと戻っていった。


紅目のエルフ「なあにあれ、感じ悪いわね」

疲れた様子の黒髪の男「師範に特別な稽古をつけてもらっている自分が気に食わないらしい」

疲れた様子の黒髪の男「こちらは諍いを起こすつもりなど無いんだけどね……」

暗器使い「ああいう手合は無視するに限ると思うが」

古流剣術師範「腕は確かなのだが、精神面ではまだまだ未熟だ」
509 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:37:44.90 ID:mEfttAV60
古流剣術師範「そういう意味では奴もお前さんと同じような修行が必要かもしれないな」

疲れた様子の黒髪の男「……」

勇者(うーん、ちょっと人間関係が難しいのかな……)

勇者「あの、貴方は皇国出身なんですか?」

疲れた様子の黒髪の男「うん、そうだよ。皇国の奥の、何もない田舎で生まれた」

疲れた様子の黒髪の男「何もないけれど、良いところだった」

疲れた様子の黒髪の男「平凡な農家の息子だったあの頃の俺は、こうやって刀を握ることになるなんて思いもしなかった」

疲れた様子の黒髪の男「……勇者は何故剣を取った?」

勇者「何故と言われると、それが一族の使命だったから、としか言えないです」

勇者「初代勇者様のように、素晴らしい理由はないです」
510 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:38:31.91 ID:mEfttAV60
疲れた様子の黒髪の男「確かに前向きな理由では無いが、後ろめたい理由でもない」

疲れた様子の黒髪の男「それに比べて俺は……本当にどうしようもない理由さ」

疲れた様子の黒髪の男「取り返しのつかないことをしてしまった」

勇者「……僕は、剣をはじめた理由はその程度だったけど」

勇者「今も握っている理由は、別にあります」

疲れた様子の黒髪の男「今の……理由……」

勇者「僕は、僕の守りたいものを守る。そのために剣を握っています」

勇者「エゴに満ちた理由だけど、それでも僕はやるって決めたんです」

勇者「またこんな事が繰り返されないようにするために。僕たちの代で終わらせるために」

僧侶「勇者様……」
511 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:39:45.77 ID:mEfttAV60
勇者「……偉そうに言いましたが、そんなふうに考え出したのはつい最近のなんですけれどね」

疲れた様子の黒髪の男「……そうか」

疲れた様子の黒髪の男「ああ、そうだ。もっと普通に話してもらって構わないよ。俺は敬われる立場ではないからさ」

勇者「分かった。そうするね」

疲れた様子の黒髪の男「……勇者が良ければ、明日も一本、稽古に付き合って貰えないかな」

勇者「勿論いいよ、任せて。むしろよろしくおねがいしますって感じ」

暗器使い「ふう。やはりしばらくは俺たちだけで依頼をこなすことになりそうだな」

紅目のエルフ「みたいねえ」

僧侶「眠いです……」

紅目のエルフ「はいはい、貴女はもう寝ましょうね〜」
512 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:40:59.44 ID:mEfttAV60
僧侶「はあい」

紅目のエルフ「んじゃ、この娘寝かせてくるわね」

暗器使い「ああ。済んだら戻ってこい。この酒瓶は空けてしまって良いらしいのでな」

紅目のエルフ「そうするわね」

紅目のエルフ「今晩は勇者にも付き合ってもらうわよ」

勇者「えっ」

暗器使い「諦めろ。あいつが寝るまでは終わらないからな」

勇者「暗器使いって、毎回相手してあげてるよね」

暗器使い「誰かが相手をしてやらんと不機嫌になるだろう」

暗器使い「まあ、あいつの飲み方に付き合える人間は多くは無いだろうからな」
513 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:41:46.19 ID:mEfttAV60
勇者「そりゃそうだよ……」

暗器使い「今のうちに水を飲んでおけ」

勇者「うん、そうするよ……」
514 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:42:34.65 ID:mEfttAV60





それからしばらく、勇者は師範の元で剣術修行に励み、他の三人は退魔師ギルドにある依頼をこなしながら過ごした。

そしてある日、ギルドに気になる依頼が舞い込んだ。


僧侶「またこの依頼……盗人から刀を守ってほしい、ですか」

紅目のエルフ「今回の依頼人はこの道場ではないみたいだけれどね」

古流剣術師範「この依頼人は……ふむ」

僧侶「ご存知なんですか?」

古流剣術師範「まあ、な。趣味の悪い金持ち、とだけ言っておこうか」

古流剣術師範「おそらくはコレクションの一つが例の盗人に狙われているとか、そういう話なんだろう」

古流剣術師範「しかし、刀ばかり狙う人外の盗人か……修行の一環として相手してみるのも面白いかもしれんぞ?」
515 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:43:18.31 ID:mEfttAV60
勇者「えっ、それって」

古流剣術師範「もちろん勇者と……お前も行ってくると良い」

疲れた様子の黒髪の男「自分も……ですか?」

古流剣術師範「誰かと共に闘う。これが今のお前にとって良い刺激になるかもしれん」

疲れた様子の黒髪の男「……そういうことであれば……」

勇者「それじゃあ早速依頼人のところに行ってみようか」

僧侶「あれ、暗器使いさんは?」

勇者「少し用事があるって言っていたけれど」

紅目のエルフ「ふうん?」

門下生A 「こちらに暗器使い様がいらっしゃいましたら、行き先をお伝えしておきますよ」
516 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:10:13.08 ID:mEfttAV60
僧侶「ありがとうございます」

勇者「ええっと、場所は町外れの豪邸だったかな」

柄の悪い門下生「──ちょっと待てよ」

柄の悪い門下生「その依頼、俺も参加させろよ。俺のほうがそいつよりも使えるってことを教えてやるぜ」

古流剣術師範「参加させろと言われても、自分の一存ではなんとも言えないぞ」

勇者「僕は別に構わないよ。人手は大いに越したことは無いしね」

柄の悪い門下生「へっ、勇者様は話が分かるじゃねえか」

勇者「とにかく直接話を聞いてみないと何もわからないから、行くとしようか」
517 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:42:41.87 ID:mEfttAV60





集落の成金男「おお勇者殿、よく来てくださいましたな。貴方が居てくだされば百人……いえ、千人力ですな」

勇者「早速ですが見せてもらってもいいですか?」

集落の成金男「ええ勿論ですとも。ささ、こちらです」


成金男の先導に付いていくと、大きな倉庫のようなところにたどり着いた。

そこには様々な国から取り寄せたと思われる品が溢れかえっていた。

その奥の方に、目的のものは飾られていた。


集落の成金男「皇国のとある有名な鍛冶師が打ったと言われる妖刀でございます」

疲れた様子の黒髪の男「…………」

紅目のエルフ「ふうん? これが……」
518 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:44:12.13 ID:mEfttAV60
勇者「……」

勇者(何だこの刀……異様だ……)

勇者「……どこか少し、似ている……?」

僧侶「勇者様?」

勇者「……ん、いや。何でも無いよ」

勇者「それで、何故この刀が賊に狙われていると気がついたんですか?」

集落の成金男「最近この辺りの地域で刀剣を狙った賊が出ているのは知っているでしょう」

集落の成金男「そしてつい先日、見張りの者が見つけてしまったのです。屋敷の外を何度も調査しに来たであろう足跡を」

集落の成金男「足跡は北の丘側と、南の大森林側に見られました。そのどちらかから賊が来るものだと私は踏んでいます」

勇者「なるほど……じゃあ三手に別れよう」
519 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:46:19.45 ID:mEfttAV60
疲れた様子の黒髪の男「いや、四手だ。個人的に気になることがあるから単身行動をさせてもらうよ」

柄の悪い門下生「ちっ、勝手なこと言いやがって」

勇者「わかった。じゃあ北側には僕が、南の森側はエルフさんが担当しよう」

紅目のエルフ「ま、適任ね」

勇者「現地は僧侶と門下生さんでお願いします」

僧侶「お、お願いします」

柄の悪い門下生「へいへい」

勇者「ほぼ全員が個人行動になるから、もし相手が単身じゃないとわかったら無理をせずに撤退をして」

勇者「これだけは約束してほしい」

疲れた様子の黒髪の男「……分かった」
520 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:46:52.59 ID:mEfttAV60
紅目のエルフ「知ってるでしょ? 逃げるのは得意なんだから」

勇者「それじゃあ各々情報を集めに行こう」
521 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:47:59.02 ID:mEfttAV60
もう一回GW中に上げたいですね……
どうなるかは分からないですが
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 00:26:29.90 ID:6qKfvimDO
乙乙
待ってるぜ
523 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 12:55:34.80 ID:hdVxsX6L0





──集落北側の丘


勇者(これが見回りで見つけたっていう足跡かな)

勇者(あそこの木の枝、よく見ると切り取られている……偵察の邪魔になるから、かな)

勇者(……ん、この足跡……まだ新しいぞ)

勇者(そしてこの木の周りだけ不自然に葉が落ちている……という事は……!)

勇者「上か!!」

フードの侍『チィッ!!』


上からの襲撃者の刀と、勇者の剣がぶつかった甲高い男が辺りに響き渡った。


フードの侍『今ので倒れてくれれば良いものを……』

524 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:00:38.36 ID:hdVxsX6L0
その声は小柄な体躯には似合わず、低く淀んでいた。


勇者「……人では無いね」

フードの侍『分かるか』

勇者「まあね」

フードの侍『お前はあの屋敷の主に雇われたのか?』

勇者「うん、退魔師協会に依頼が出ていたから」

フードの侍『となると、お前は退魔師か』

勇者「そう言うことも出来るね。専門ではないんだけど」

フードの侍『なるほど、面白い……』

フードの侍『同業者とやり合えるとはな……!』
525 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:01:14.01 ID:hdVxsX6L0
勇者「なっ……! それは協会の会員証……!!」

フードの侍『隙きありだ……!!』

勇者「しまっ……!?」


以前の勇者ならば、その一撃で斬り伏せられていただろう。

しかし、その刀は勇者に届くことはなく、ギリギリの所で受け流されてた。


フードの侍『……今のに反応するか……』

勇者「あ……危なあ……」

フードの侍『並の腕ではないな。何者だ?』

勇者「い、いや僕自身は大した者じゃないんだけどね? 一応当代の勇者って事になっているよ」

フードの侍『勇者……! お前がか……!』
526 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:03:02.78 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『……お前が勇者であるとして、それならば何故、あんな屋敷の主に雇われているのか』

勇者「どういうこと……?」

フードの侍『ふん、知らないのか。あそこの屋敷にある物は多くが盗品だ』

フードの侍『あの成金と部下共は、盗賊団上がりの犯罪者共なんだよ』

勇者「なっ……!」

フードの侍『勇者サマが犯罪者の手助けをするのか?』

勇者「……か、仮にその話が本当だとしても、犯罪者相手だから盗み返しても良いって理屈にはならないよ」

勇者「きちんとした手続きを踏むべきだ」

フードの侍『……これが人外相手だったら、そんな面倒なことをしないで殺したって罪には問われないのにな』

勇者「えっ……」
527 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:16:45.59 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『……とにかく、あそこに恩人の大切な形見があるんだ。退かないと言うのであれば、斬ってでも進む』

勇者「……君の話を信用するには、まだ証拠がない……」

フードの侍『……そうか、では……』

勇者「……だから、証拠を見せてよ。もし君が言うことが本当なら、僕も手伝うよ」

フードの侍『参る……って、ええ?』

勇者「だって君の言うことが本当なら、野放しには出来ないよね」

フードの侍『し、しかし……良いのか?』

勇者「僕は自分が正しいって思うことをしたい」

フードの侍『…………』

フードの侍(似ている……彼に……)
528 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:17:30.77 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『しかし証拠か……。持っているのは鍛冶師の売却証書だけだ。これは自分にとっての目安にはなるが、第三者にとっての証拠とはなり得ない……』


疲れた様子の黒髪の男「……証拠は無いけれど、証人ならいるよ」


フードの侍『っ……!』

勇者「あれ、何でここに?」

疲れた様子の黒髪の男「誰よりも早くそいつを見つけ出すつもりだったんだけどね……先を越されたか」

フードの侍『な、何故……何故お前がここにいる!!』


フードの侍は何か恐ろしいものを見るような目で、刀を構えて黒髪の男と向き合った。


勇者「知り合いなの?」

フードの侍『勇者よ……お前は何故こんな男と一緒にいる……!』

勇者「何故って、お世話になっている道場での稽古の相手で……今回は一緒に依頼を受けてくれることになって……」
529 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:25:05.81 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『こいつは……妖刀に取り憑かれて罪なのない人外を斬って回っていた、辻斬りという男だ……!!』

勇者「え……」

疲れた様子の黒髪の男→辻斬り「……久しぶり」

辻斬り「お前は相変わらず自分を隠しているんだな」


フードの侍「……勇者を騙して“善い人”を演じていたあなたには言われたくないかな」

勇者「えっ……その声、女の子!?」

勇者(猫の耳が生えてる……化け猫か何かなのかな……?)

辻斬り「隠していたわけではないよ」

辻斬り「……俺はあの男に敗れ、お前に刀を折られてから、逃げるように皇国を去った」

辻斬り「自分を支配していた妖刀が消えてしまって、自分自身を見失ってしまったから」
530 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:25:59.72 ID:hdVxsX6L0
辻斬り「だけれど結局この手には刀が握られていた。生きていく術を、他に知らないんだ。だからせめてこれ以上見失わないように、俺は道場の門を叩いた」

辻斬り「結局未だに、自分のことを理解する事は出来ていないけれどね……」

フードの侍→猫又「……じゃあ何? 今はもう悪いことはしていなくて、更生目指して頑張っています、とでも言いたいの?」

猫又「信じられるわけないじゃない!」

猫又「あなたは、私を、彼を、あの神サマを……殺そうとしたんだから……!」

辻斬り「……許してもらえるとは思っていない。だけれど、今は信じてほしい」

辻斬り「俺は、お前の言っていることが正しいと勇者に証明しに来たんだ」

猫又「なっ……」

勇者「じゃあ証人っていうのは……」

辻斬り「ああ、俺だ」
531 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:33:35.07 ID:hdVxsX6L0
辻斬り「あの刀を打ったのはその猫女の……家族だ」

辻斬り「詳しい事情は知らないけれど、その猫女は大陸中に散らばった盗品を回収してまわっているらしい」

辻斬り「盗品でなくとも、危険な刀は大金を積んで買い取っているとも聞いている」

辻斬り「それなのにわざわざ今回は盗み出すという手段を取っている。これはつまり、あれが盗品であるということなんだろう」

勇者「そんな事情が……」

猫又「なんであなたがそこまで知っているの」

辻斬り「……自分も関わったことだから。多少は情報を仕入れるさ」

猫又「…………」

辻斬り「それよりも早く戻ろう。アレは俺もよく知る種類のやつだ……早めに回収して処分してしまったほうが良い」

猫又「……うん、そうだね。あなたのことを信用した訳ではないけど、あれは長いこと放置しておきたくない」
532 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:36:11.87 ID:hdVxsX6L0
勇者「あの刀はそんなヤバイものなの?」

辻斬り「……ああ。あれは……」

辻斬り「持った者の殺戮衝動を増長させる、そんな効果がある」

辻斬り「……そう。俺を人外殺しに変えた刀と、同じ気配がするんだ」
533 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/06/01(土) 13:37:39.96 ID:hdVxsX6L0
GW中に三回更新すると言って出来なかった分です。
辻斬りや猫又(フードの侍)を思い出せない方は >>1 から過去スレを読み直して頂けると幸いです。
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 10:14:33.36 ID:QpCimaKDO
>>533
正直忘れてたけどすぐに思い出した…けどまた読み直して来た

…のにまだ更新されて無いのは一体どういう訳じゃ?
535 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:16:44.15 ID:WDKhBHLy0
>>534 書き直し部分ができてしまったため遅れてしまいました。申し訳ございません。
現状書き直せたところまで今晩投下します。
536 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:17:44.05 ID:WDKhBHLy0





暗器使い「遅れて来てみれば……何だこの状況は」

僧侶「あ、暗器使いさん……! 実は彼があの刀に触れた瞬間、急に暴れだして……!」

柄の悪い門下生「ウ……ウオオオオオオオオオッ!!」

暗器使い「妖刀は聞いていたが、本物だったのか……」

柄の悪い門下生「コロス…………!!」

暗器使い「ちっ……! 僧侶は下がってろ」

柄の悪い門下生「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

暗器使い(速いな……!)


門下生が刀を振り下ろすと、石畳が大きく抉れた。

537 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:18:26.62 ID:WDKhBHLy0
暗器使い「お前みたいなパワー馬鹿とは正面でからやり合いたく無いな……!」


暗器使いはどこからともなく鎖を取り出してそれを門下生の持つ刀に巻き付けた。


暗器使い「そいつを奪えば勝ちなんだろ! 楽勝だ……!」

柄の悪い門下生「グギギギ……」

暗器使い「って、この馬鹿力……!」

僧侶「暗器使いさんっ……!」


暗器使いは鎖で刀を奪うどころか、逆に鎖で手繰り寄せられそうになってしまった。

しかし暗器使いは更に鎖を取り出し、門下生の体中に巻きつけて動きを完全に封じた。


暗器使い「流石にこれなら動けないだろう。刀を奪うことも出来なくなったがな……」


そこに勇者たちが遅れて駆けつけた。

538 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:19:07.47 ID:WDKhBHLy0
勇者「この状況は……!? 僧侶は平気?」

僧侶「ええ、暗器使いさんが来てくれたので……」

僧侶「それよりもそちらの方は……」

猫又「その刀に縁がある者とだけ。しかし、予想通り刀の力に飲み込まれてしまっているね」

辻斬り「…………」

猫又「昔の自分に重ねるのは勝手だけど、今はあの刀を奪い取ることに集中して」

勇者「刀を奪うって言っても、一旦暗器使いの鎖を解かないと……」

柄の悪い門下生「……新参者ノクセニ、生意気ナ……」

暗器使い「その必要は無さそうだ……構えろ!」


門下生は鎖を引き千切り、辻斬りに向かって飛びかかった。

539 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:19:57.69 ID:WDKhBHLy0
柄の悪い門下生「オ前ヲ殺シテ、俺ノ方ガ優レテイルト証明シテヤル!!」

辻斬り「チッ……!」


門下生と辻斬りの刀がぶつかり合って火花を散らした。

二人の戦いはほぼ互角のように見えて、徐々に辻斬り側が押され始めていた。


勇者「僕たちも加勢しよう……!」

古流剣術師範「それは駄目だ」

勇者「師範さん……いつの間に?」

古流剣術師範「野暮用でついさっきな。しかし予感は的中か」

古流剣術師範「この方は以前目にしたことがあってな。その時から嫌な雰囲気は感じ取っていた」

古流剣術師範「様子を見るに、おそらくあの刀はあいつの過去に大きく関係したものだ」
540 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:20:41.33 ID:WDKhBHLy0
古流剣術師範「ここで立ち向かうことが今のあいつには必要だ」

勇者「でも……」


辻斬りは明らかに劣勢に転じていた。

このままでは勝敗は明確だ。


古流剣術師範「あいつは過去の自分に負い目がある。それでもなお刀を握ったならば、何をするべきなのかを理解する必要がある」

古流剣術師範「ところでお前さん」

暗器使い「自分ですか」

古流剣術師範「少し頼みがある」

暗器使い「……?」


師範が暗器使いに何やら耳打ちをしている間、勇者は辻斬りらの戦いから目を離せないでいた。
541 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:21:18.16 ID:WDKhBHLy0
明らかに辻斬りの方が実力は上なのだが、その体はすでに限界を迎えようとしていた。

それはおそらく、その過去の自分への負い目のせいなのだろう。


辻斬り「ハァ……ハァ……」

勇者「……僕も、後悔はいっぱいある」

勇者「今も矛盾を抱えながら生きている。沢山の犠牲の先に僕たちは立っている」

辻斬り「…………」

勇者「でも、この剣を握っている限りは止まれないんだ。一度踏み込んでしまった僕や君には、やり遂げることに責任があるんだ……!」

辻斬り「やり遂げる……責任……?」

勇者「だからそんな所で立ち止まってないで、自分自身の責任を果たしに行こう」

辻斬り「…………」
542 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:22:06.36 ID:WDKhBHLy0
柄の悪い門下生「ヨソ見ヲスルナァァァァァッ!」

辻斬り「……ああ、そうかもしれない……」


辻斬りの刀から迷いが消えた。


柄の悪い門下生「グアッ!?」


辻斬りは門下生の刀を弾き飛ばした。

すかさずその刀を猫又が『妖刀折りの妖刀』で破壊すると、門下生は糸の切れた人形のように倒れ込んだ。


猫又「……これで、最後の一本だ」


猫又は刀のリストを小さく畳んでポケットへとしまった。

ちょうどそこに、成金男が駆け込んできた。


集落の成金男「こ、この状況は何ですかね!?」

古流剣術師範「ああ、これはこれは丁度いいところに」

集落の成金男「……?」
543 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:22:58.52 ID:WDKhBHLy0





成金男の資産の多くが盗品によるものだった。

暗器使いが途中で師範から指示を受けていたのは、その証拠となる書類の回収だった。

帝国軍と昔から縁の深い道場の主として、前々から大盗賊団の頭領の疑いがあった成金男の調査が指示されていたのだという。

多少の抵抗はあったが、屋敷の外で控えていた帝国軍兵と門下生らの協力もあって全員がお縄についたのであった。


猫又「……過去の罪は、いずれ消えると思っているの?」

勇者「いや、僕はそうは思わないよ」

勇者「罪を一度背負ったら……それが相手に許されないのだとすれば、背負ったまま歩き続けなきゃいけないって思うんだ」

暗器使い「…………」

辻斬り「……俺はかつて、本当に取り返しの付かないことをしてしまった」
544 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:26:44.93 ID:WDKhBHLy0
辻斬り「妖刀の力によるものとは言え、この手で多くの人外を殺してしまった」

僧侶「……でもそれって、妖刀のせいであって、辻斬りさんが全て悪いというわけでは無いんじゃ……」

辻斬り「罪というのは、望まなくても背負ってしまうことがある。そういうことなんだろうな」

猫又「……望まなくても背負う、か……」

猫又「それを言うなら、私もこんな刀を生み出したご主人様を止められなかった」

猫又「あの時はただの猫だったから、どうしようもないと言えばそれまでだけど」

猫又「私はご主人様の罪を代わりに背負って、今ここに立っているってことなんだね」

猫又「……君を、君の故郷を巻き込んでしまって、ごめんね」

辻斬り「……そんな、俺は……!」

猫又「私は君に斬りかかられた事は許すよ。他のことに比べたら些末な事かもしれないけど、少しでもその方の重荷を下ろしてあげたいんだ」
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