【ミリマス】その想いに気付く時【杏奈×百合子】

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5 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:09:49.21 ID:7eNavJSg0
「百合子さん…何かあった、の…?」

ーーその結果がこれだ。

必要以上に感情移入した結果、中途半端に帰ってこれなかったのか杏奈ちゃんの顔を直視出来なくなってしまった。
直視しようとすると顔がカッと熱くなって、どうしようもなく恥ずかしくて逸らしてしまう。
それと同時に鼓動が早くなってーーまるであの恋愛小説の主人公と同じような状況に陥ってしまっている。
それこそ前から杏奈ちゃんのことが気になってたみたいにーー

「な、なな、何でもないよっ!!」
「そ、そう…?なんだか、様子がおかしいけど…」

ただ否定しようとしただけでこの様。話しかけるにも声が上ずってしまって、うまくお話出来ない。
恐らく「恋」であろうその感情は、鼓動を加速させていくばかり。
経験のない気持ちが痛くて、ずっと一緒に居たいのに早く離れたくてーー

「ちょ、ちょっとお手洗い行って来ますっ!!」

もう少しまともな理由はあったはずなのに。自分でもよく分からない言葉を残して逃げることしか、今の私には出来なかった。
6 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:10:15.00 ID:7eNavJSg0

「ちょ、ちょっとお手洗い行ってきますっ!!」
「えっ……」

百合子さんは杏奈と少し話すと、思い詰めた様子のまま逃げるように出て行ってしまった。
トイレに行くとは言ってたけど、多分違う。だって、百合子さんは普段お手洗いとか言わないし……
だから多分、これは杏奈から逃げる言い訳。

今まで不可解な行動を取ることはあったけど、杏奈を見て逃げ出すなんてことは無かった。
そう考えると……杏奈が何か悪いことしちゃったのかな、ってどんどん不安になって……

ーー杏奈を見てすぐ逃げちゃうくらいだもん……きっと杏奈が何かしちゃったんだよね……

「……はぁ……」

気分が晴れると思って来たのに、余計暗い気持ちになっちゃった。
大好きな百合子さんに避けられたことがとても辛くて、気分も最悪……


ーーチラリと窓から外を見ると、あんなに晴れていた空に雲が掛かってて。
まるで杏奈の気持ちが反映されてるみたい、なんて自嘲気味に呟いた。
7 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:10:40.33 ID:7eNavJSg0
「うぅ…」

杏奈ちゃんから逃げるように劇場を出た私は、近くの公園のベンチに座っていた。

「お手洗いに行く」なんて言っておきながらこんなところに居れば心配して探しに来る可能性もあるけど、今の私にそんなことを考える余裕は無い。
私の心は沸騰するような恥ずかしさと、杏奈ちゃんに対する罪悪感で埋め尽くされていた。

「なんで逃げちゃったんだろ……」

自分の行動を思い返してため息が出て来るが、このままここにいる訳にもいかない。
誰かに相談しようかと思ったけど、的確なアドバイスをくれそうなのは翼くらいで……客観的に見れば翼の会話を盗み聞きして自爆しただけ。相談するというのは気が引ける。
なら自分でどうにかするしかなくて、ただ思案する。

「わからないよ……っ」

でも知らない感情の解消法なんて分かるわけがない。

そして何よりも……あんな逃げ方して、杏奈ちゃんを悲しませたかなって思うと辛くなって。
あの程度の言い訳じゃ、きっと杏奈ちゃんは私が逃げただけだと分かってる。
今すぐにでも会って謝りたいけど、今のままじゃそれも叶わない。

悩んで、落ち込んで、奮起して……また悩んで。
そんなことを繰り返しているとーーふと、水滴が背中に当たるのを感じた。

「空、真っ暗……」

それが雨の前兆だと理解した瞬間、事務所に戻るべく立ち上がる。
でも、今は杏奈ちゃんと会うべきじゃないんじゃないかーーそう思うと竦んでしまう。
少し考えたのち、ゆっくりとした足取りで滑り台の下に潜り込む。

「……はぁ……どうしよ……」

二本の柱を支える支柱に腰掛けて、また深いため息を零す。
滑り台は上から降り注ぐ雨を受け止めてくれるけど、私の心の中の雨は止みそうになかった。
8 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:11:08.39 ID:7eNavJSg0
「……雨……降ってきた……」

事務所の窓の外を見つめてポツリと漏らす。
雲しか無かった空からは、今や大量の雨が降り注いでいる。

「百合子さん、どこ行ったんだろ……」

時間を置いたことでほんの少しだけ余裕を取り戻して、百合子さんを探そうと立ち上がる。

場所は……多分、劇場の外だろうね……劇場は、どこでも人がいるし……
百合子さんが悩んでいる時は……きっと人目につかないところで、一人で悩んでいると思うから……

「…………ッ!百合子さん……!」

そこまで考えて、現状の異常性に気付く。
この大雨の中、百合子さんが外にいる。出ていく時に傘を取り出す余裕なんか無かったはずだ。
きっとびしょ濡れだと思う。杏奈のせいで百合子さんが風邪を引いたりなんて考えたくなくて、とにかく急いで連れ戻さなければ拙いと思った。

「……急がないと……!」

鞄を漁って折畳み傘を取り出すと、周囲が困惑の視線を向けてくるのにも厭わずに劇場を飛び出した。
9 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:12:24.60 ID:7eNavJSg0
「はぁッ、はぁッ……」

それから杏奈は劇場の周囲を走り回り、百合子さんを探した。
傘を差していながらも走っていたからか杏奈の体は所々濡れてしまって、このまま探していると杏奈の方が体調を崩すかもしれない。
でも百合子さんが劇場に居ないことは分かってたし、今の杏奈にとって自分自身の体調なんか二の次だった。
中庭から街、道路を走り抜けーー行き着いた先は寂れた公園。
木のベンチなんかも古くなっているのが一目で分かるし、遊具も所々塗装が剥がれている。
そんな公園の中、滑り台の下。普段なら見逃してしまうような小さな空間に、百合子さんは居た。

「……百合子さん……」

滑り台が雨を防いでいるお陰で濡れてこそいないものの、チラリと覗かせるその表情はとても暗くて……百合子さんの放つ雰囲気に気圧され、足が竦む。
行かなきゃいけないのに。急いで連れ帰らなきゃ、ダメなのにーー

「動いてよ……っ」

あぁ……やっぱり杏奈、ダメダメだ……。
拒絶されるのが怖くて……足は動かないどころか、後ろに下がろうとしてる。
ここで進まなきゃ……後悔する、のに……。

「杏奈のせいで……百合子さんが辛い思いをするのは、嫌なの……!」

それでも全身を奮い立たせて、少しずつ前に進む。
一歩進むごとに足は重たくなるし、意識も朦朧としてきてる……。
でも、それでも……もう百合子さんを、傷付けたく無いの……!

「……杏奈、ちゃん……?」
「ーーぁ」

ーーその覚悟は、杏奈に気付いた百合子さんのたった一言で……決壊した。
10 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:12:53.91 ID:7eNavJSg0
滑り台の下で雨宿りを始めて数分。少しすれば止むだろうと思っていた雨は一向に弱まる気配を見せない。
「神様もお怒りなのかな」なんて考えて乾いた笑い声が漏れるが、杏奈ちゃんの悲しそうな表情が思い浮かぶと同時に笑みが消えた。
そしてまたどうしようかと悩んで、いっそのこと走って戻ろうかと思い始めたーーその時だった。

「はぁッ、はぁッ……」
「……杏奈、ちゃん……?」

振り返るとそこにいたのは、傘を片手に荒い呼吸を整えている杏奈ちゃん。
よく見ると服が所々濡れており、身体を傘に収める余裕が無い程に急いでいたのが分かる。
そんな私の視線に気付いたのか、杏奈ちゃんの表情が凍り付いた。

「っ!」

声にならない悲鳴を上げ、一歩後ずさる杏奈ちゃん。
それを見て、私は思わず滑り台の下から飛び出した。

これはきっと、神様がくれた最後のチャンスなのだろう。
許してもらえるかは分からないけど、それでも杏奈ちゃんに謝ってーー私のこの想いを、伝えるための。

「杏奈ちゃんっ!!」

遠かった距離を数秒で縮め、その身体を抱き寄せる。
抱き寄せた杏奈ちゃんからふわりといい匂いがして、少し気分を落ち着かせてくれる。
11 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:13:20.87 ID:7eNavJSg0
「ふぇ……?」
「ごめんね、ごめんね……!」
「ゆ、ゆりこさ……苦し……」

苦しそうな声を聞いてハッと我に帰る。
また傷付けてしまうところだったと後悔しつつ、距離を置いて再度謝罪を繰り返す。

「百合子さん……顔、上げてよ……」

そう言われ顔を起こすと、目に涙を浮かべた杏奈ちゃんが見える。
視線を合わせると同時に私の胸へ飛び込んで来た。

「杏奈、嫌われたのかなって思って……辛かった……」
「ごめんね……」
「なんで、杏奈のこと……避けてたの?」

そう問われ、思い浮かぶ答えは一つ。
この想いを杏奈ちゃんに伝えよう。

拒絶されてもいい。ありのままを伝えるんだーー
12 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:13:54.54 ID:7eNavJSg0
「私ね……杏奈ちゃんのことを見ると、ドキドキが収まらないの」

頭を撫でながら、腕の中の杏奈ちゃんに語り掛ける。

「一緒に居て欲しいって思ってるくせに、恥ずかしいからって拒絶して。やっと、気付いたの」

抱き締める腕を少し緩めて、杏奈ちゃんと視線を合わせる。
杏奈ちゃんは少し戸惑っているようだったけど、覚悟が出来たのかこちらを見つめ返してくる。

「私ーー杏奈ちゃんに恋してるんだ、って」
「ーーっ」
「杏奈ちゃんと一緒に歌ってる時間が好き。杏奈ちゃんと一緒にゲームしてる時間が好き。杏奈ちゃんと一緒に居る時間が好き」

鍵を開けたことで、想いは止まることなくどんどん溢れてくる。

「ーー杏奈ちゃんのことが、好きなの」

それは友達や家族に言うものとは違う、特別な意味を持った言葉。
こうしている今も杏奈ちゃんの匂いや感触、息遣いを感じてーードキドキが止まらない。

「杏奈ちゃんがこれから私のことをどう思っても受け入れるよ。でも……私は杏奈ちゃんのこと大好きだよって、伝えたかったの」

ちょっと声が上ずりながらだけど、なんとか言いたいことは言えた。
伝えたからと言って何が変わるわけでもない。だからきっと、これは一時の戯れとして片付けられ終わりを迎える。

「ーーっ」

瞼を閉じ、顔を伏せる杏奈ちゃん。きっと私に対する返答を探しているんだろう。
終わりを迎えることに寂しさを感じるけど、これは仕方の無いこと。
同性同士で生まれた一時的な感情。杏奈ちゃんのためにも終わらせるべきだし、覚悟も出来ている。
13 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:14:24.16 ID:7eNavJSg0
とくん、とくんと心臓が高鳴る中ーー杏奈ちゃんが瞼を開いた。

「ーーきっと、杏奈も同じ気持ち」
「へ……?」

覚悟が出来ていたからこそ、杏奈ちゃんの言葉に変な声が漏れてしまった。
驚く私を見ながら、杏奈ちゃんは口を開く。

「杏奈も……百合子さんに恋、しちゃってる」
「それってーー」
「……両想いだったんだね。えへへ」

はにかむ杏奈ちゃんが愛おしくて、思わず腕に力が入る。
今度は準備が出来ていたのか、杏奈ちゃんは抵抗せず受け入れてくれた。
14 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:14:53.18 ID:7eNavJSg0
「雨……上がった、ね……?」
「ホントだ……」

辺りを見回してみると、降り注いでいた雨はいつの間にか止んでいた。
でも相変わらず身体はびしょ濡れ。自覚すると同時に寒気が襲ってくる。

「う、寒っ……」
「そう言えばさっきまで、濡れてたんだよね……くしゅんっ」
「杏奈ちゃんまで……早く戻ろ?」

杏奈ちゃんの手を取って、事務所へと歩き出す。
お互いの気持ちが通じ合った今は、心の雨も止んでいた。

「百合子さん、あのね……」
「ん、どうしたの?」

不意に話しかけて来た杏奈ちゃん。
こちらを見つめるその表情は、どことなく期待に満ち溢れているように見える。

「……いっぱい恋……しよう、ね?」
「……うんっ!」

このドキドキは嘘じゃないんだな、って分かって。
手と心から温もりを感じて、自然と足早になった。
15 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:15:34.76 ID:7eNavJSg0



「そろそろ時間だしこの辺にしとこっか?」

ライブに向けて久々にユニットでのレッスン。
始めて1時間ほど経ち、疲れているメンバーを尻目に翼が終了の合図を送る。

「つっかれたぁ〜……翼は平気そうだね……」
「そう?結構疲れてるんだけどな〜」
「私はもうヘトヘトです……頑張らないと」

翼を羨む未来に、無表情ながら何か決意を固める瑞希さん。
いつもなら私も同じように疲れ果てているんだけど、最近はそれほどでもなかったり。
それは杏奈ちゃんも同じようで、レッスンを終えた今も余裕そうな表情で立っている。

「百合子ちゃんも杏奈も、最近調子良いよね」

翼は私たちの変化に気付いたのか、そんな風に声を掛けてくる。
16 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:16:04.67 ID:7eNavJSg0
「確かに、ここ数日は調子良いかも」
「なになに、最近二人とも何かあった?」

詰め寄ってくる翼に困惑しながら杏奈ちゃんへと目配せする。
私の視線に気付いた杏奈ちゃんは静かに頷くと、その口を開いた。

「何かあったのは、事実……だけど、内緒」
「え〜?どうしても教えてくれないの?」
「二人だけの、秘密……だから」
「ちぇー……良いなー、仲良しで」
「ふふっ」

不貞腐れる翼と反対に、私と杏奈ちゃんはお互いに見つめ合う。
一方通行だったあの時とは違って、今はお互いに恋してる。
それを認識できたのが嬉しくて、自然と笑みが溢れた。
17 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/17(火) 00:20:13.90 ID:7eNavJSg0
終わりです
ちょっと最後急いだ感じはありますが、元々あんゆりは心から繋がってたってことに……なりませんかね?


過去作も載せておきます。同じくあんゆりですが、この話と直接の関連性はありません。
平和なあんゆりが欲しい方はどうぞ。
百合子「音責め」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519860581/

杏奈「百合子さんに嘘をついてみる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522594412/
18 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2018/04/17(火) 05:31:57.22 ID:fKP0A9+F0
>元々あんゆりは心から繋がってたってことに……なりませんかね?
作者は百合子かな?乙です

>>3
望月杏奈(14) Vo/An
http://i.imgur.com/yfmgm0L.png
http://i.imgur.com/uU3MMiF.jpg

音無小鳥(2X) Ex
http://i.imgur.com/04h1Z0h.jpg
http://i.imgur.com/ElSKgHB.jpg

七尾百合子(15) Vi/Pr
http://i.imgur.com/oNaYKxk.jpg
http://i.imgur.com/MaIDoUK.jpg

>>4
伊吹翼(14) Vi/An
http://i.imgur.com/f3sq6Bl.jpg
http://i.imgur.com/me7g7oE.jpg

箱崎星梨花(13) Vo/An
http://i.imgur.com/1brONPx.png
http://i.imgur.com/pqyoGkJ.jpg

>>15
春日未来(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/LBASYmq.jpg
http://i.imgur.com/bLcgMYZ.jpg

真壁瑞希(17) Da/Fa
http://i.imgur.com/T5y34Mg.png
http://i.imgur.com/njpEbdB.png
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 18:13:49.87 ID:9AKf/mOP0
あんゆり尊い…
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