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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」

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210 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/21(日) 16:41:43.45 ID:knK5K9iqo
とりあえず日常編はここまで。

ツイッターは謎が多すぎる。
211 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:23:08.17 ID:dU/gqv+wo
続きです。
212 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:24:35.79 ID:dU/gqv+wo

 * 北東の砂浜 *

五月雨「本当にすみませんでした!」ペコペコ

提督「もういい、っつってんだろ……」

五月雨「ですが、私のせいでお茶会だって参加できなかったんですし……!」

提督「構やしねえよ。俺はそういう風流な趣味、持ち合わせてねえしな」

五月雨「それはよくありませんよ! コミュニケーションは大事です!」

提督「俺のことは放っておいても構わねえんだがなあ……」

五月雨「そういうさみしいことを言わないでください!」

提督(こいつも吹雪と同じ世話焼き系か? 面倒臭えな……)

提督「わかったわかった。それはそうと、膝とかは大丈夫なのか?」

五月雨「はい! 艦娘ですから、あのくらいなら修復剤で綺麗に治ります!」

提督「……どういうカラクリなのか、いまいちよくわかんねえな」

五月雨「確かに原理はわかりませんけれど、深く考えないほうがいいですよ?」

提督「なんでだよ」

五月雨「私、考え事をしながら歩くと、よく躓いて転んじゃうので……えへへ」ポリポリ

提督「……」
213 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:26:12.98 ID:dU/gqv+wo

五月雨「あ、でも、転んだ時に持ってたお茶をこぼしたり、書類を散らかしたりしたことはないんですよ!」エッヘン!

提督「いや、転ぶなよ普通……」ズツウ

五月雨「ところで、どうして提督がわざわざ巡視なさってるんですか?」

提督「日課だよ。外に出ないと体がなまるし……まあ、気晴らしにぶらぶらしたいってのもあるか」

五月雨「そうなんですか……あれ?」

提督「どうした」

五月雨「なんだか、誰かの声が聞こえませんか?」

提督「……?」

「……さま……そう……ま……!」

提督「女の声……また誰か流れ着いてきたのか?」スタスタ

五月雨「また、って……えええ!?」



山城(大破)「扶桑お姉様……扶桑お姉様はどこなの!? ああ、なんてこと……!」

山城「ここはいったいどこなの……扶桑お姉様は!?」

 ジャリッ

山城「だ、誰!? 扶桑お姉様!?」

提督「いや、誰だよ扶桑って」ヌッ
214 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:28:06.39 ID:dU/gqv+wo

山城「!? あ、あなたこそ誰よ!?」

提督「俺は……」

五月雨「危ないっ!!」バッ

提督「!?」

山城「え」

??「!」ブンッ!

 ガキィン!

五月雨「きゃあっ!?」ドシャッ

提督「五月雨!? てめえ……なにしやがる!」

山城「なに!? なによ!? なにがどうしたの!?」オロオロ

五月雨「あ、あいたたた……」

提督「おい五月雨、大丈夫か」

五月雨「は、はい! で、でも、どうして……どうして提督にいきなり襲いかかってきたんですか!?」


五月雨「那珂さん!!」


??→那珂(大破)「……」

提督「なか?」

那珂「……」
215 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:29:37.64 ID:dU/gqv+wo

山城「……ちょっと、どういうことか説明しなさいよ。あなたは何者なの!? ここはどこよ!?」

提督「俺はこの××島鎮守府の責任者、提督准尉だ。こっちは部下の五月雨」

山城「提督……あなたが!? というか、この島に鎮守府があるの!?」

提督「まあ、まともな鎮守府じゃねえがな。それでだ……那珂、っつったな」

那珂「……!」

提督「お前、さっきから目を丸くしたり冷や汗かいたりしてるみたいだが、どうかしたか?」

那珂「……」ダラダラ

山城「それは無理もないわよ。いくら准尉とはいえ、艦娘を率いてる人間にいきなり襲いかかったんだもの」

山城「普通だったら解体もやむなしの不祥事よ? ご愁傷様、としか言い様がないわ」

提督「ふーん……」チラッ

那珂「!」ビクッ

提督「まあいい。おい、那珂。お前、なんでいきなり襲ってきた」

那珂「え、えっと、それはぁ……」

提督「……」

那珂「……ご、ごめんなさい!!」バッ

提督「あぁ?」
216 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:31:15.97 ID:dU/gqv+wo

那珂「その、敵だと……思っちゃったんです!」

提督「……勘違いした、と?」

那珂「は、はい……!」ビクビク

提督「ふん。だったら頭下げる相手が違うぞ」

那珂「え?」

提督「ちゃんと吹っ飛ばした五月雨に謝っとけ。五月雨、さっきは助かった、庇ってくれてありがとうな」

五月雨「!? は、はい! 護衛はお任せください!」

那珂「……」ポカーン

提督「……おい」

那珂「えっ!? あ、ごめんなさい! さ、五月雨ちゃん、ごめんなさい!」ペコッ

五月雨「い、いえ、間違いは誰にでもありますから!」

那珂「でも、思いっきり殴り掛かっちゃったし……怪我してない?」

五月雨「はい! これくらい、大丈夫です!」

那珂「よ、良かったぁ……」ヘナヘナ

山城「あの……准尉? ここはいったい、なんなのよ」

提督「ん?」

山城「私はともかく、どうして那珂まで大破してるの? それに……」チラッ

提督「……」
217 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:32:36.16 ID:dU/gqv+wo

山城「この砂浜、艦娘の艤装の残骸が其処此処に散らばってるわ。私たち、本当に生きてるんでしょうね……!?」

提督「残念だが夢じゃねえぞ。この砂浜には、しょっちゅう沈んだ艦娘が流れ着いてきてる」

提督「お前らみたいに生きて流れ着く奴もいれば、そうでない奴らもいる。それだけの話だ」

山城「……それじゃ、扶桑お姉様は……」マッサオ

提督「もしかしたらこの浜のどこかに流れ着いてるかもな。どうなったかは知らねえが」

山城「そんな……! 扶桑お姉様……ああ、不幸だわ……!」

五月雨「あの、那珂さんもそうなんですか?」

那珂「……え? あっ、ご、ごめんなさい、聞いてなかった……」

提督「……お前、顔色悪いな。損傷はそれほどじゃねえが、目の下にクマができてんぞ」

那珂「!」

提督「ほほも少しこけてるし、過労か栄養失調ってとこか。比叡や伊8がこんな感じだったしな」

山城「そうね……徹夜明けって感じの顔をしてるわね」

提督「だな。それで? お前は誰だ?」クルリ

山城「! わ、私は、扶桑型戦艦姉妹、妹のほう、山城よ……!」

提督「ふぅん。何しに来た」

山城「何しに!? 別に私はここに来たくて来たわけじゃないわ! 私は……私たちは……!」

提督「……」

山城「……私たちは、沈められたのよ。敵艦隊に……」ウツムキ
218 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:33:29.73 ID:dU/gqv+wo

提督「私たち、ってのは?」

山城「私と、扶桑お姉様よ。ほかの子たちがどうなったかは、知らないわ……」

提督「こっちの那珂は仲間じゃないのか」

山城「私は初対面よ。D提督って知ってる? 私たちの鎮守府の指揮官なんだけれど」

提督「俺は知らねえな。五月雨は」

五月雨「す、すみません、私も知らないです」

提督「そうか。おい、那珂。お前は……」

那珂「……」ウツラウツラ…

提督「……寝てんのか?」

五月雨「めちゃくちゃ眠たそうですね……白目向いて涎まで垂らして、うとうとしてる那珂さんなんて、初めて見ます」

提督「珍しいのか?」

五月雨「はい、珍しいと思います。私の鎮守府にはいませんでしたけど、演習でお会いした那珂さんはみんなキラキラしてて……」

五月雨「艦隊のアイドルを名乗ってましたから、こういうお姿はちょっと想像したことありませんでした」

提督「アイドルねえ……」チラリ

那珂「……はうっ!? ね、寝てません! 那珂ちゃん寝てません! ……はっ!?」キョロキョロ

山城「もう、全然余裕ないじゃない……見てられないわ」タラリ
219 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:34:30.10 ID:dU/gqv+wo

提督「やれやれ。おい、那珂」ズイッ

那珂「は、はひっ!?」ビクッ

提督「お前はどうしてここに来た?」

那珂「そ、それは……」

提督「……」

那珂「那珂ちゃん、真のアイドルを目指してるんです!」

五月雨「……」

山城「……」

提督「何言ってんだお前」

那珂「詳しく言うと、那珂ちゃんは、24時間歌って戦い続けられるアイドルになりたいんです!」

山城「ええ……?」

提督「だから何言ってんだお前。それとお前がここに流れ着いたのと、どう関係があるんだよ」

那珂「その、那珂ちゃんは、みんなと一緒に特訓してたんです」

五月雨「特訓って、アイドルのですか?」

那珂「アイドルの特訓じゃなくて、今回は普通の戦闘だよ? 休息なしで、24時間と言わず一週間くらいオールナイトで!」

五月雨「えええ!?」

山城「どうかしてるわ……」
220 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:35:43.84 ID:dU/gqv+wo

那珂「それで、だいたい5日目くらいから脱落者が出てきて……」

五月雨「!?」

那珂「最後まで残ってたのが那珂ちゃんと……えっと、誰だったっけ」ウーン

提督「じゃあなにか? ほかにももう数人、浜に流れ着いてる可能性があるわけか? ったく、やってられねえよ、くそが」ハァ

提督「……まあいい。それでお前ら、これからどうすんだ?」

那珂「へっ?」

山城「これから?」

提督「早い話が、お前ら生きたいか、それとも死にたいかって話だよ」

山城「はあ!? いくらなんでもそこで死にたいなんて言う人がいるわけないでしょ!? 何考えてんの!?」

提督「そういうやつがいるから、そう聞くときもあるんじゃねえか。じゃあお前はなにがしたいんだよ。何が望みだ?」

山城「……扶桑お姉様よ」

提督「?」

山城「私の望みは、扶桑お姉様の幸せ。その扶桑お姉様を見つけられなければ話にならないわ」

山城「お願い、扶桑お姉様を……扶桑お姉様を探して。お願い、します……!」

提督「そういうもんか……わかった。手は尽くす」

山城「ほ、本当!?」パァ

提督「ああ、ただしどんな姿で見つかるか、そこまでは保証できねえぞ。そこは覚悟しとけよ」

山城「え、ええ……それは……そう、なって欲しくないけど」
221 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:37:18.64 ID:dU/gqv+wo

提督「で、那珂はどうすんだ?」

那珂「……うーん、那珂ちゃんは……元の鎮守府に、戻りたい、かな。ちゃんとアイドルやりたいし!」

提督「そいつはできるかどうかわかんねーな。お前、轟沈したんだろ?」

那珂「え……して、ないと思う、けど……」

提督「何言ってんだ、どうやってこの島に来たのか説明できねえんだったら、その時点で意識はすっとんでたってことだろ?」

提督「まあ、お前がなんて言おうと、お前んとこの司令官が轟沈したって認識したならそれまでだがな」

那珂「そ、それ、どういうこと!?」

提督「とりあえずその話はあとだ。五月雨、明石呼んで来い。念のため、探照灯とバケツも持ってくるよう伝えろ」

提督「あと、ちょうど金剛と比叡が埠頭で偵察機の調整してたよな? その2人にも声をかけてこっちに来るように伝えろ。できるか?」

五月雨「わかりました! 任せてください!」ダッ

提督「……さて、俺はもう少し浜を見て回るかね。お前らは休んでな」

山城「そうはいかないわ……私も扶桑お姉様を探しに……くっ」ヨロッ

那珂「山城ちゃん大丈夫!?」ガシッ

山城「ちゃん付けで……って、あなたこそ大丈夫なの!? 本当に顔色悪いじゃない! 異常よ!? そのやつれ方!」

 バウーン

提督「!」
222 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:38:24.88 ID:dU/gqv+wo

山城「何か飛んできたわ。あれは……」

那珂「零式水上偵察機?」

 ザザァ…

金剛「Yes, I am ! その子は私の偵察機デース!」ビシッ

提督「金剛!? 海を来たからって、いくらなんでも早すぎだろ!?」

金剛「ノンノン! この金剛の愛の力を甘く見ては困りマース!」

提督「何が愛だよ、適当なこと言ってんじゃねえぞくそが! どうせ偶然だろうが、ったく!」

比叡「はい、たまたまですよー! 司令が何をしてるのか見に来たら、たまたまそこで五月雨ちゃんと会いまして!」ザザァ

金剛「Nooo ! 比叡、ネタばらしが早すぎマス!」

山城「なによ、あの二人があんたの部下なの?」

提督「まあな」

山城「……悩みがなさそうね、羨ましいわ」ハァ

那珂「ちょっと、山城ちゃん!?」
223 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:39:15.65 ID:dU/gqv+wo

比叡「ところで司令、向こうのほうに倒れてる艦娘がいる、って偵察機から連絡が入ったんですけど!」

提督「なに?」

比叡「映像がぼやけててよくわかりませんが、戦艦っぽいそうです!」

金剛「Really !?」

提督(あの偵察機、金剛じゃなくて比叡が飛ばしてたのか)

山城「まさか……扶桑お姉様!?」ガタッ

那珂「きゃあ!?」ビクッ

提督「よし、じゃあ行ってみるか」

比叡「はいっ! こちらです!」ザァッ

金剛「ひ、比叡!? どうしてあなたが仕切るんデスカー!?」

提督「山城は歩けるのか?」

山城「扶桑お姉様ああああ!!」ドドドドド

那珂「きゃあああ!?」ダキカカエラレ

提督「……元気そうだな」タラリ
224 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/27(土) 18:40:18.81 ID:dU/gqv+wo
今回はここまで。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 15:43:24.66 ID:A5eLePbX0
更新乙です
毎回楽しみにしています
那珂はなんか事情がありそうにも思えますが、次回もまっています
226 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/10/28(日) 17:05:23.17 ID:LCS1cCKHo
ぎゃああああ! 一箇所、致命的な間違いやっちまったああああ!

>>221

誤)

那珂「……うーん、那珂ちゃんは……元の鎮守府に、戻りたい、かな。ちゃんとアイドルやりたいし!」

正)

那珂「……うーん、那珂ちゃんは……元いた場所に、戻りたい、かな。ちゃんとアイドルやりたいし!」

差し替えお願いいたします、理由は後ほど。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/28(日) 21:15:43.44 ID:A5eLePbX0
那珂、野良艦娘か…
続きゆっくりお待ちしております
228 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:43:29.43 ID:sd/OoPuBo
少しだけ続きです。
229 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:44:34.82 ID:sd/OoPuBo

 *

比叡「もうすぐです、司令! たしかこのあたりに船影が……」

提督「あれか」タタタッ

山城「あれは……」

 ピタッ

那珂「山城ちゃん?」

山城「扶桑お姉様じゃないわ……」ガクーッ

那珂「山城ちゃん!? しっかりして!?」

比叡「え、えらい落ち込み様ですね……」

金剛「……比叡、急ぎまショウ」

比叡「金剛お姉様?」

金剛「あれは、私たちの姉妹……金剛型の艤装デス!」

提督「!」

比叡「えええ!?」

金剛「あの砲の迷彩……おそらく、榛名だと思いマス!」
230 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:45:34.35 ID:sd/OoPuBo

 タタタッ

提督「なるほどな。確かにお前らと同じ衣装だ」シャガミ

金剛「榛名は、私たち金剛型高速戦艦の三番艦デス。まさか、My sister のこんな姿を見るとは思いませんデシタ……」

榛名(大破)「」

比叡「ひどい……こんなにぼろぼろになるなんて」グスッ

那珂「……榛名ちゃん……!」タタタッ

提督「知ってんのか?」

那珂「うん、確か……覚えてる中で、あたしの後を一番最後まで追いかけてきてくれたのが、榛名ちゃんだよ」

提督「……ほかの連中はどうした?」

那珂「だ、だんだん人数が減ってったのは覚えてるんだけど……どうなったのかまでは……」

提督「つくづく馬鹿げた特訓だ」チッ

提督「とにかく、五月雨に明石を呼ぶよう頼んでる。こいつも埠頭のそばに運んでやらなきゃ……」

那珂「!」ビクッ!

提督「? どうした、いきなり海のほうを見て」
231 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:46:20.20 ID:sd/OoPuBo

那珂「みんな伏せて!!」バッ

提督「うお!?」

金剛「What's !?」

比叡「ど、どうしたんですか!?」

那珂「深海……深海棲艦が近づいてきてる……!」

提督「なに?」

金剛「そういうことなら、テートクは早く避難してくだサーイ! ここは私たちの出番ネー!」

提督「近づいてきてる、って、この砂浜にか?」

那珂「うん……!」

山城「……ああ、こんなタイミングで……不幸だわ……!」

提督「比叡。偵察機飛ばせ」

比叡「は、はい!?」ガシュン

 零式水上偵察機<バゥーン

提督「お前らも武器おろせ。警戒しなくていい」

金剛「な、何を言ってるんデスカ!?」

那珂「そうよ! 敵が来てるのよ!?」
232 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:47:18.08 ID:sd/OoPuBo

山城「そうだわ、こんなこと、現実に起こるわけないもの……夢よ、私は海底で夢を見てるのよ……フフフ、不幸だわ」ブツブツ

提督「敵じゃねえよ。比叡、そうだろ?」

比叡「あ。ほんとだー」

金剛&那珂「「え?」」

 ザザァ…

ル級「アラアラ、知ラナイ顔ガ随分増エタワネ?」

比叡「ル級さんでしたか! ひっさしぶりー!」

金剛「!?」

那珂「!?」

提督「よう。なにかあったのか?」

ル級「私ノ塒ニ艦娘ガ流レテキタカラ、アナタノ知リアイカト思ッテ曳航シテキタワ」グイ

 ドサ

比叡「この人は……」

扶桑(大破)「……」

山城「ふ、扶桑お姉様ああああああああ!?」ガバッ!!
233 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:48:47.11 ID:sd/OoPuBo

提督「わざわざ連れてきてくれたのか。ちょうど探してくれって頼まれてたんだ、助かったぜ」

比叡「これはル級さんにちょっといいものを御馳走しないといけませんねー!」

ル級「アラ、イイノ? 楽シミダワァ」ウキウキ

那珂「」ボーゼン

金剛「」アッケ

山城「うわぁぁぁん、良かったああああ扶桑お姉様あああああ!!」ナミダジョバー

金剛「テ、テートク、どういうことデース?」

那珂「し、深海棲艦でしょ?」

提督「ああ。深海棲艦の知り合いだ」

ル級「別ニ問題ナイデショ?」

金剛「……」

那珂「……」

提督「さて、探し人は見つかったことだし、いったん鎮守府に戻るか?」

比叡「そうですねえ、これ以上誰かが見つかっても人手が足りませんし、応援を呼んだほうがいいですね!」
234 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:49:40.35 ID:sd/OoPuBo

提督「ああ、ル級にも礼をしなきゃ……」

榛名「……う……」

提督「!」

比叡「榛名!?」

金剛「はっ! 榛名、大丈夫デスカ!?」

那珂「榛名ちゃん!」

榛名「う、うう……」

提督「……」

榛名「ここは……」パチリ

那珂「榛名ちゃん!」

榛名(……海の底じゃない……?)

比叡「榛名!」

榛名(那珂ちゃんと……比叡お姉様と、金剛お姉様……?)

金剛「目を覚ましてくれたみたいで良かったデース!」

提督「そのようだな……」
235 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:50:33.87 ID:sd/OoPuBo

榛名(……この男の人は……)

金剛「テートク、早く榛名を連れて行きまショウ!」

提督「ああ」

榛名(……提督……?)

提督「おい、榛名。お前、話はできるか?」

榛名(この人は……この方は……ちゃんと、榛名のことを見てくれてる……)

榛名(この方は、ちゃんと榛名を、『人』として見てくれている、そういう瞳……!)

榛名(最期に、こんな素敵な方に出会えるなんて……!)

榛名「……榛名は……」テヲノバシ

提督「!」ダキツカレ

榛名「……榛名は、幸せです……!」カオヲチカヅケ


 ズギュゥゥゥゥン


提督「!?」

金剛「!?」

比叡「!?」

那珂「!?」

山城「!?」

ル級「……」
236 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:52:07.78 ID:sd/OoPuBo

「「……」」


榛名「……」カクン(←幸せそうな顔で失神)

提督「……」

比叡「えっ!? えええ!? ど、どういうことですか司令!?」オロオロ

提督「俺が訊きてえよ……こりゃどういうことだ、金剛?」アタマカカエ

金剛「... Oh ! My !! Goddess !!!」URYYYYYYY!

金剛「いくら可愛い My sister とはいえ、私に無断で唇を奪うなんて! 私は榛名をそんな子に育てた覚えはないデェェェス!!」

提督「やってることはお前そっくりだがな……」

那珂「えっ? ちょっ、准尉さんって、榛名ちゃんとそういう関係なの!?」カオマッカ

提督「いや、初対面だぞ……?」

那珂「本当に!?」

提督「本当だよ……どういうことなんだ? 理解が追いつかねえ」ハァ

ル級「ネェ」

提督「ん?」

ル級「ソイツ、撃ッテイイ?」ジャゴン

比叡「ひええええ!? ストップ! ストップです!!」
237 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:53:25.22 ID:sd/OoPuBo

五月雨「な、なにかあったんで……し、深海棲艦っ!?」ビクーッ

明石「提督……まーたなにかやったんですか?」

提督「やってねえよ。つうか、毎回俺がなにかやらかしてるみたいな言い方すんな」

山城「そんなことはどうでもいいから早く扶桑お姉様を治療してあげてぇぇ!!」

金剛「Nooo ! ソレはそんなことじゃないし、どうでもよくなんかないデェェェェス!!」グワッ

山城「心っ底どうでもいいわよぉぉぉぉお!!」ブワッ

提督「明石、とりあえず扶桑を診てやってくれ」ハァァ

五月雨「っていうか深海棲艦ですよ深海棲艦っ! みなさん戦わなくていいんですかっ!?」オロオロ

比叡「あー、大丈夫大丈夫、ル級さんは怖くないからー」

ル級「ナァニ? マタ新顔ナノ?」ギロリ

五月雨「めちゃくちゃ殺気立ってるじゃないですかあああ!!」
238 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/01(木) 00:54:10.16 ID:sd/OoPuBo
今回はここまでー。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 11:10:13.24 ID:AbG3h4JB0
更新お疲れ様です
いつも楽しく読ませていただいております

提督「あれ?また俺なにかやっちゃいました?」
艦娘「キャー!」

うらやましい
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/05(月) 11:39:25.00 ID:Rp81LBaZ0
これをそれと一緒にしないでほしいなぁ別にそれが悪いとは思わないけど
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 11:57:27.94 ID:llrWnOtCO
アゲるな荒らしが
242 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:00:13.72 ID:0Dog8pqKo
続きです。
243 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:03:42.30 ID:0Dog8pqKo

 * 日没 入渠ドック *

明石「とりあえず、今回流れてきた4人については、命に別状はないことをご報告します」

提督「おう」

明石「ですが、その中でも扶桑さんは損傷も激しく、疲労も相当たまってるようです。4人の中では一番重傷です」

明石「同じくらい損傷が激しいのが榛名さんですが、精神状態がいいのか、穏やかな顔してますね」

提督「……」

明石「で、同じく精神状態がよろしいのは山城さん。損傷の具合も先の二人よりはまあマシ、という感じでしょうか」

明石「那珂さんは損傷はそれほどではないのですが、疲労の累積が一番ひどくて。よく倒れませんでしたね、って言いたいですよ」

提督「んじゃあ、最初に話が聞けそうなのは山城か?」

明石「そうですね。ただ、山城さんは扶桑さんにかなり依存してるみたいですから、素直に話をしてくれるかどうか……」

提督「扶桑が目を覚ますまで付きっきり、って可能性もあるわけか」

明石「はい」

提督「となると、次に目を覚ましやすそうなのは榛名か那珂か」

明石「多分、榛名さんのほうが先だと思いますけど」チラッ

提督「……」チラッ

金剛「ガルルルル……」ウロウロ

提督「……」
244 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:04:57.74 ID:0Dog8pqKo

明石「で、何したんですか今回は」ヒソヒソ

提督「何もしてねえよ、榛名が目を覚まして俺にキスしてまた気を失ったんだからよ」ヒソヒソ

明石「は? キス? なんでそんなことに!?」ヒソヒソ

提督「それがわかんねえから困ってんだよ……」ヒソヒソ

提督「まあ、あの金剛の妹だからな。来て早々初対面の俺にあの挨拶だ、お前も見てたろ」

明石「そうですね、あれは度肝を抜かれました……それを今回は榛名さんが金剛さんの目の前でやったと」

提督「如月と大和がいなくて良かったぜ。あの二人がいたらますます面倒なことに」

 扉<ガチャバーン!

如月「司令官? 流れ着いたばかりの子にキスされたって本当……?」ゴゴゴゴゴゴ

大和「ル級さんから聞きました。どういうことか、ご説明いただけますでしょうか……?」ゴゴゴゴゴゴ

提督「……」アタマカカエ

明石「あー、二人とも? 確かにそういうことらしいですけど、提督は何も身に覚えがないそうですよー」

大和「明石さん……本当ですか」

明石「ええ。提督が、出会った艦娘を手当たり次第誘惑するような人じゃないことくらい、二人ともわかってるでしょう?」

如月「それはそうだけど……」
245 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:07:39.58 ID:0Dog8pqKo

明石「思ったんですけど、榛名さんがキスしちゃったのは、むしろ金剛型としての素養なんじゃないですか?」

金剛「!?」

明石「比叡さんが例外なだけで、榛名さんも金剛さんと同じくらい惚れっぽいんですよねえ……その辺、金剛さんがどう思ってるんでしょう」

如月「っていうことは、そういうことなのかしら……」クルリ

明石「いやあ、金剛さんもこの鎮守府に来て提督へ挨拶したとき、みんなの前で何したか覚えてます?」

金剛「わ、私は無関係デース!」

明石「あ、揉め事は外でお願いしますよ。榛名さんも含めて治療中の人がいるんですから、騒音厳禁でお願いします」

大和「はい、お任せくださいね。さ、行きましょう金剛さん」ガシッ

金剛「ヒィイ!?」グイッ

如月「あっちでゆっくりお話を聞かせてもらいますね?」グイグイ

金剛「Nooooo !! Help ! Please help meee !!」ズルズル

 扉<パタム

提督「……お前、すげえな」

明石「そうですか?」シレッ
246 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:08:57.98 ID:0Dog8pqKo

明石「まあそれよりも、話の出所がル級さんなら、彼女のところにも説明しに行ったほうがいいと思いますよ」

提督「それもそうだな……これ以上変な話になっても困る。悪いがあの4人は任せていいか」

明石「はい、こちらはお任せください。とりあえず急いだほうがいいですよ、ル級さん、見た感じ明らかに不機嫌そうだったし」

提督「……なあ」

明石「はい?」

提督「なんでル級は不機嫌になってるんだ?」

明石「ネボケテンジャネエゾクソガー」ボウヨミー

提督「……」

明石「あ、すいません、つい本音が」ニッコリ

提督「……くそ。やっぱり理解できねえや」

 ガチャ バタン

明石「……あらら。痛いとこ突いちゃったかな?」

工廠妖精「……明石、よくあんなこと言えたな。提督が怒ると思わなかったのか」ヒョコ

明石「提督ってさ、自分に非があると思ってるときは言い返してこないんだよね」

明石「多分、ル級さんが腹を立ててることには気付いたみたいだけど、その理由がわからなくて私に探りを入れたんじゃないかなあ」
247 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:09:59.74 ID:0Dog8pqKo

工廠妖精「……まあ、たぶんな」

明石「ル級さんはさ、結果的にだけど助けてもらったり悩みを聞いてもらったりしてるから、多少なりとも提督に対して好意はあると思うの」

明石「その自分を助けてくれた相手と、余所から遅れて来た誰かとのキスシーン見せられたら、面白くないのは当然でしょ」

明石「あの人のニブさは今に始まったことじゃないけど、普通ならそのくらい、すぐわかることじゃない」

明石「その辺を提督が自覚してないから、こういうゆか……ややこしい事態を招いてるんだから自業自得よ」

工廠妖精「今、『愉快』って言おうとしたな」タラリ

明石「うん」テヘペロー

明石「いやー、だってねえ、ル級さんも嫉妬してるの無自覚っぽいし? どうなっちゃうのか恋バナ的にはわくわくしてくるよねー!」

工廠妖精「明石……いくら話ができても相手は深海棲艦だぞ? バッドエンドに向かって行ったらどうなるか……」

明石「その辺は提督がうまくやるでしょ。そういうところのバランス感覚はいいし、万が一には自分の身を投げて場を収めるだろうし」

工廠妖精「だから、その万が一、提督が身を投げたらどうするんだ!?」

明石「誰かが助けるんじゃない? 危なっかしいから目が離せないんだよね、今回だってみーんな提督のために動いてるし」

工廠妖精「……」

明石「そのおかげで多少は提督も自覚し始めてくれてるんだけど、まだまだ押しが足りないかなー」

工廠妖精「……やめてあげてくれ」タラリ
248 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:12:15.20 ID:0Dog8pqKo

 * その晩 執務室 *

那珂「おはようございまーっす!」キャピーン

提督「よう、お前が最初に目ぇ覚ましたか。元気そうだな」

那珂「那珂ちゃんはアイドルですから! いつだって元気元気! なんです!」クルリーン

提督「そうかい」

那珂「ええと、それはそれとして。今回はお世話になりました、ありがとうございました!」ペコッ

提督「……ああ、まあうちの鎮守府じゃよくある話だ。無事で何よりだ」

提督「とりあえず、お前がすぐ元の鎮守府に戻るのは、やめといたほうがいいとだけ言っておく」

那珂「どうしてなんですか?」

提督「一度轟沈した艦娘は、深海棲艦になる恐れがあるから運用しないってのが海軍じゃ常識なんだとさ。知ってるか?」

那珂「は、初耳です……!」ブンブン

提督「意外と知られてねえんだな。とにかく、お前の所属してた鎮守府はどこだ。そこの鎮守府から……」

那珂「そのぉ……それなんですけど、鎮守府じゃないです」

提督「……ん?」

那珂「那珂ちゃん、鎮守府じゃなくて養成所所属なんです!」

提督「……養成所? 艦娘ってのは、必ず海軍に所属するもんじゃねえのか?」
249 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:13:59.35 ID:0Dog8pqKo

那珂「海軍の附属学校っていえばいいのかな? 海軍の外部組織として艦娘養成所っていう組織があるんです!」

那珂「そこで、那珂ちゃんはメディア向けの艦娘として、日々特訓を重ねてきてました!」ビシッ

提督「……そんなもん初めて聞いたぞ。お前と榛名はその組織の所属だって言うのか?」

那珂「はいっ!」

提督「……那珂、お前は建造艦か?」

那珂「はいっ! 那珂ちゃんは生まれながらにして正真正銘のアイドル艦ですっ!」

提督「で、お前はその養成所の出身だと」

那珂「はい、その通りです! っていうか、那珂ちゃん何か変なこと言ってます?」クビカシゲ

提督「艦娘ってのは、海軍支配下の各鎮守府が所有する建造ドックで作られるか、海上で艦娘が発見することで邂逅できると聞いてる」

提督「海軍が直接支配していない組織が艦娘建造ドックを持ってたら、艦娘を第三者に悪用される危険性がある。危険視されて当然だ」

那珂「そうなんですか!? その情報、本当ですよね……?」

提督「いくら辺境の鎮守府にいるからって、艦娘の指揮を執っている以上はリスクくらい把握して当然だろ」

那珂「そうですか……」ウーン

提督「それにしても、養成所ねえ……そんなもん轟沈のリストにはねえぞ」ブツブツ

那珂「……」
250 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:15:08.66 ID:0Dog8pqKo

提督「うーん……」

那珂「……あのう」

提督「ん、なんだ?」

那珂「提督准尉さんは、どうしてこんな島の鎮守府を管理してるんですか?」

提督「あ? ああ……直属の上司に嫌われてんだよ。だからこんなところに追いやられてんだ」

那珂「……」ジッ

提督「……なんだ? 納得できねえのか?」

那珂「いえ。もうひとつ質問、いいですか?」

提督「なんだ」

那珂「……准尉さんは、何者なんですか?」ガシャッ

提督「……質問の意味が分からねえ。艤装展開しなきゃ訊けないことか」

那珂「はい。あなたは本当に人間ですか、って訊いているんです」ハイライトオフ

提督「……?」

那珂「……」

提督「まあいい、質問に答えるか。人間かって訊かれたら、俺は人間だ、って言うしかねえな」
251 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:16:56.30 ID:0Dog8pqKo

那珂「……本当に?」ジッ

提督「人間を辞めたいと思ったことは何度もあったが、人間を辞めた記憶は残念ながらねえよ」

那珂「……」

提督「……」

那珂「……」

提督「返事なしかよ。おい那珂、お前が砂浜で五月雨吹っ飛ばしたとき、俺を狙ったんだよな?」

提督「何を根拠に俺を狙った? どうして俺を敵だと認識した?」

那珂「……」ジャキッ

提督「聞く耳持たずかよ……くそがっ!」ガタッ

妖精「待って!」バッ

提督「!」

那珂「!? よ、妖精さん!?」

妖精「わたしの話なら聞いてくれるんだね?」

那珂「……」ハイライトオン

妖精「那珂ちゃん、この人は敵じゃない。普通の人間じゃないけど、一応人間だよ」

提督「おい、普通じゃないとか一応とか、ひでえ言い草だなおい」
252 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:18:05.47 ID:0Dog8pqKo

妖精「その人間と一緒くたにされるのが好きじゃないくせに。贅沢言わないの」

提督「へいへい」

那珂「え……!?」

妖精「那珂ちゃん、わたしは提督が小さいころからずっと一緒だったからわかるんだ。彼は……」

那珂「て、提督さんって、妖精さんの言葉がわかるの!?」

妖精「そうだよ」

提督「おかげで海軍に誘われてたのに厄介払いされて、こんなところにいるんだよ。くそむかつくぜ」

那珂「……」

提督「那珂、もう一回訊くぞ。なんで俺を敵だと思った?」

那珂「……ふ、雰囲気、かな?」

提督「雰囲気?」

那珂「え、ええっと……具体的に言うと、深海棲艦っぽかった、って言うか……」

提督「深海棲艦……ル級の影響か? でも、ここ最近はル級は島に来てなかったんだよな。俺が深海棲艦っぽい……?」

妖精「まあ、それはないよね。深海棲艦だったら泳げないはずがないし」

提督「うるせえよ」

妖精「多分、普段から轟沈した艦娘と一緒にいるからかな? 前例がないみたいだしね」
253 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:19:26.58 ID:0Dog8pqKo

提督「そういやお前、浜にル級が来た時も真っ先に気付いたな。あの先制攻撃は、そういう気配を俺から感じたからか?」

那珂「うー……そう、なんだけど……」

妖精「その気配って、今も感じてる?」

那珂「じ、実は今はそういう感じがしなくって……」

提督「だが、その時は身の危険を感じた。信用できなくて鎌をかけたってとこか?」

那珂「ご、ごめんなさい!!」ガバッ

提督「……今度からは誰かしら応援呼んで面接しねえと駄目かな……」ハァ

妖精「ちなみに、その那珂ちゃんが感じた雰囲気って、どんな感じなの?」

那珂「え、ええっと……文字通り、息の詰まるような、濃い、潮のにおいっていうか、海のにおい、かな」

提督「マジで深海って感じだな」

那珂「うん、五月雨ちゃんはそんなことなかったんだけど、山城さんとか、比叡さんからもうっすらそんな雰囲気が伝わってきてて」

那珂「榛名ちゃんからも、そうだったし……」ウツムキ

提督「……」

妖精「提督、どう思う?」

提督「砂浜では那珂は疲弊してて寝落ち寸前の極限状態だった」

提督「人間でも動物でも、追いつめられると変な力を発揮したりするからな。その類なんじゃねえか?」
254 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:20:34.67 ID:0Dog8pqKo

妖精「ある意味で危なかったってことかな?」

提督「だと思うぜ。何にしても、なんでも見えすぎると不幸になる。今くらいがちょうどいいんじゃねえか」

妖精「……提督が言うと説得力すごいね」

提督「お前に言われたくねえよ」

那珂「……」

提督「とりあえず食堂に行くか。そろそろ準備できてんだろ、那珂も来い。飯だ、飯」

那珂「へっ? い、いいの?」

提督「死にたくねえんだろ。だったら食え」

那珂「は、はいっ!!」パァァ

提督「今日は比叡が張り切ってたからな。いいもん食えるんじゃねえか」

那珂「」

提督「なんだその顔は」

那珂「ひ、比叡さんの、ごはん……なの?」

提督「遠慮すんな」エリクビガシッ

那珂「な、那珂ちゃんは遠慮したいな〜って、なにこの力!?」グイグイグイ

提督「行くぞ」ズルズルズル

那珂「い、いやあああ! 来て早々罰ゲームはいやああああ!!」
255 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/05(月) 23:21:17.56 ID:0Dog8pqKo
というわけで今回はここまで。
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/07(水) 16:24:47.30 ID:bvwIA6k1O
更新乙です
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/07(水) 21:26:35.70 ID:QHRSL0Mao
いつも楽しみにしてます。
258 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:44:18.02 ID:RfN4sFNMo
続きです。
259 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:45:01.38 ID:RfN4sFNMo

 * その後、食堂 *

長門「なるほど、今夜の挽肉多めの麻婆茄子はル級のお手柄か」

ル級「初メテ食ベタケド、オイシイワネー」モグモグ

電「な、ナスは嫌いなのです……」

長門「おやおや、残すなんてもったいないな。潮を見てみろ」

潮「おいひいれす……♪」モッキュモッキュ

電「はわわ……幸せそうに食べてるのです……」

ル級「食ベナイノナラ、私ガ貰ッチャオウカシラ」モギュモギュ

電「はう!? う、ううう……ぱく……な、なのですぅぅぅ」ムグムグ

ル級「アラ、食ベチャッタノ? 残念」ションボリ

長門(……本当に食べたかったのか)

ル級「……!」ガタッ

長門「? どうした、どこに行く?」

260 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:47:13.43 ID:RfN4sFNMo

那珂「^q^」チーン

提督「……」

不知火「司令、いったい何があったんですか」

提督「いや、さっきまでめっちゃ幸せそうな顔して麻婆茄子食ってたんだがな……」

朝潮「朝潮も見ていましたが、どうやらおいしさのあまり意識が飛んで即身仏になってしまったみたいなんです」

不知火「どういう食生活を送ってきたんですか、那珂さんは」タラリ

ル級「チョットイイカシラ」

提督「ん? どうした」

ル級「ソノゴハン、食ベナイノナラ一口貰エナイカト思ッテ」トナリニチャクセキ

提督「ああ、那珂の分か。那珂が食べないって言ったわけじゃないからやめとけ」

提督「代わりと言っちゃなんだが、俺のでもいいか? 残り一切れだけだが」

ル級「イイノ? ソレナラ、食ベサセテクレル?」
261 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:48:14.64 ID:RfN4sFNMo

提督「俺の箸でいいんなら……ほら」ヒョイ

ル級「アーン」

 パク

如月「!?」

大和「!?」

金剛「!?」

ル級「フフフ、ゴチソウサマ」モグモグ

提督「おう。食べ終わったんなら食器は戻しておけよ」

ル級「ワカッタワ」ルンルン

如月「」シロメ

大和「」シロメ

金剛「」シロメ

長門「ル級……お前はすごいな」

ル級「ナニガ?」

262 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:49:51.78 ID:RfN4sFNMo

提督「那珂もそろそろ戻ってこい。いつまでトリップしてやがる」デコピン

那珂「あいったあ!?」ズビシ

那珂「あ、あれ!? ここどこ!? 那珂ちゃん、超満員のアリーナで拍手喝采を浴びてたはずなのに!」

提督「飯の最中に夢見てんじゃねえ。冷めるから早く食え」

那珂「えっ、今の夢!? 那珂ちゃん寝てたの!?」

不知火「ええ。まるで天寿を全うしたかのような安らかな寝顔で」ナムナム

那珂「手を合わせないでー!?」

不知火「でなければ喩えるならルーベンスの絵を目の当たりにし、天に召されたネロ少年かと」シャッシャッ

那珂「十字を切らないでー!?」

朝潮「まさしく昇天ですね!! 那珂さんは幸せに包まれイってしまったと!?」

那珂「それ意味違わない!? じゃなかった、意味わかんないー!!」

朝潮「えっ、わかりませんか? 那珂さんは夢の中のステージ上で絶頂を迎えていたわけですよね?」

那珂「あーーあーー聞こえなーーい!!」

提督「うるせえな、飯時に騒ぐな」

那珂「これ、那珂ちゃんのせいなのー!?」ガビーン


霞「……」ミミマデマッカ プルプル

朝雲「ちょっ、霞どうしたの!?」(←意味が分かってない)

敷波(そりゃあ、長姉のあの言動を聞いたらそうなるよ……)カオマッカ
263 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:50:49.29 ID:RfN4sFNMo

明石「ちょっと提督、那珂ちゃんは病み上がりなんですから、興奮させないでくださいよ」

提督「また俺のせいなのか? 注意はしてるんだがな」

伊8(朝潮ちゃんの言い回しがアレなのが駄目なんだけど、黙っていようっと)

提督「まあ丁度いいや、明石ちょっと話を聞いてくれ」チョイチョイ

明石「はぁ、なんでしょう?」

提督「さっき那珂に、俺が深海棲艦みたいな雰囲気がする、って言われたんだがどう思う?」

明石「……」マガオ

不知火「司令が……?」

朝潮「深海棲艦……!?」ワナワナ

伊8「ふーん」

那珂「ちょ、ちょっと准尉さん!?」

提督「ほかの連中の見解も聞きたいからな」

那珂「そういう意味じゃなくって……」

朝潮「それはいったいどういう了見ですかっ!?」ドカーン

那珂「ひいい!」カリスマガード

伊8「どうどう、朝潮ちゃん落ち着いて」

明石「うん、まあ朝潮ちゃんはそういう反応するよね」
264 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:51:58.95 ID:RfN4sFNMo

不知火「司令、もう少し顔ぶれを考えて発言していただきたいのですが」ハァ

提督「? 駄目か?」

朝潮「良いはずがありません! 司令官は、深海棲艦に喩えられるような方ではありません!」

明石「まあ、性格と要領と目つきの悪さは確かにいい勝負ですけどぉ……」

朝潮「あ、明石さん!?」

不知火「性格はともかく、司令が深海棲艦だ、という話は、今までにない切り口ですね」

朝潮「不知火さんも否定しないんですか!?」

伊8「ル級さんと仲良くできてるのはどうなの?」

朝潮「ル級さんは良い深海棲艦だから別です! 悪い深海棲艦は問答無用で襲いかかってきますから!」

那珂「……確かに、深海棲艦とお話しできるなんて、とても考えられなかったなあ」

那珂「私たち、深海棲艦に遭ったら即沈めろ、人類の敵だ、ってしか教えられてこなかったし」

提督「……」

明石「それに、海で溺れるような人が深海棲艦っていうのは考えづらいですよねー」

提督「だよなあ」

朝潮「司令官!? ここまで言われているのに、あっさりと流していいんですか!?」ガーン

提督「お前こそ、どうしてそこまで俺を聖人君子みたいな目で見てるんだよ……」
265 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:52:48.71 ID:RfN4sFNMo

伊8「提督。提督が善人か悪人かは別にしても、丁度いいから調べてみたら?」

提督「何をだ?」

伊8「はっちゃん、提督の体で気にかかることがあります」

伊8「一度人間ドックへ行って、体をぜーんぶ、調べてきたほうがいいと思ってるんです」

明石「……それ、いいかもしれませんね」

不知火「不知火も賛成です。司令の身に何かあってからでは遅いですから」

朝潮「朝潮も賛成です! 司令官にはいつまでも健康でいて欲しいです!」

提督「……」

不知火「そこで面倒くさそうな顔をしないでください、司令」ギンッ

提督「わかったよ……ったく、面倒くせえ」

明石「とりあえず、提督もお医者様に診てもらえば、その変な疑惑も晴れるんじゃない? ね?」

那珂「う、うん……ごめんなさい、大事にしちゃって」

不知火「いえ、どうかお気になさらず」

伊8「他人にかまけてばかりで自分のことを顧みない人だから、たまにはいいと思うけど?」

明石「……」
266 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:53:45.26 ID:RfN4sFNMo

明石(提督の顔の怪我がどうしてあんな短期間で治ったのか……わかんないんだよね)

明石(あの異常な握力も気になるし、一緒に調べてもらったほうが良さそう)

明石(……でも、提督が深海棲艦……)チラッ

明石(さすがに、ない……よね?)ウーン



不知火「伊8さん」

伊8「?」

不知火「先程、司令が深海棲艦ではないかと疑われたとき、全然動じていませんでしたが」

伊8「はっちゃんには、どちらでもいいことだから」

伊8「提督の中身がなんだろうと、優しくしてくれるところは変わんないと思う」

不知火「……そうでしたか。大変無礼な質問でした、申し訳ありません」ペコリ

伊8「……心配なの?」

不知火「はい。あの言動ですので、自重していただければ、とは思うのですが」ハァ

伊8「ふふふ」
267 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/11(日) 11:54:23.76 ID:RfN4sFNMo
今回はここまで。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/16(金) 11:23:56.72 ID:h7DtIKr9O

次も舞ってます
269 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:23:30.95 ID:XxL/IGBoo
それでは続き……の前に。

伊8>大和≧潮=比叡≧
長門=扶桑≧山城≧金剛>
初雪=明石≧ル級>榛名>大淀≧
古鷹=利根≧由良≧那珂=神通≧
初春>如月>朧≧朝雲>
吹雪=敷波≧不知火=朝潮=五月雨≧電=霞=暁

この鎮守府限定、隠しパラメータ改訂版。
話の流れで、とはいえ盛り過ぎなのは初雪。
少し盛ってるのは朝雲と大淀、
少し減らしているのは榛名と川内型、というイメージです。
ちなみに、ずっと後に出てくる艦娘に減らし過ぎの子もいます。
270 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:24:27.47 ID:XxL/IGBoo

 * 翌朝 執務室 *

那珂「おっはようございまーーーす!」

提督「よう。ちゃんと眠れたか」

那珂「はいっ、那珂ちゃんぐっすりです! ちょっと寝すぎちゃったくらいかも!」

大淀「それはなによりです。今日の昼までには、姉妹艦の神通さんも遠征から戻ってきますから、会ってあげてください」

那珂「はーいっ!」

提督「あぁ!? 神通が姉妹艦!?」

大淀「提督、いくらなんでも驚きすぎです」

提督「そうは言ってもな……神通が姉か?」

大淀「はい。川内型軽巡洋艦、神通さんは2番艦で那珂さんは3番艦です」

提督「マジかよ……こいつが神通の妹……確かに同じ衣装だが」

那珂「どういう意味で驚いてるのか、すっごい気になるなあ……」

提督「まあいいや、残りの3人、扶桑以外は目を覚ましたんだってな?」

大淀「はい」

提督「とりあえず朝餉のあとで榛名に会いに行く」
271 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:25:45.80 ID:XxL/IGBoo

提督「那珂と一緒に行動してたんなら、何があったか照らし合わせながら話せるはずだ。それと……」

大淀「それと?」

提督「うーん……仕方ねえ。大和とはっちゃん呼んでくれ」

大淀「大和さんと……はっちゃん、ですか」

提督「榛名は戦艦だろ。万が一暴れた時に対抗できる力を持ってそうな戦艦と、天敵の潜水艦を控えさせたほうがいいかと思ってな」

大淀「はぁ、そうですか……」

提督「神通が戻ってくるのを待ったほうが良さそうだが、時間がもったいねえし」

提督「はー……榛名みたいなやつの相手に大和持ってくると脱線しそうで嫌なんだがな……」

大淀(そこまで理解していて色恋沙汰をわからないと言い張るのはどうかと思いますが)

那珂「ねえねえ大淀ちゃん? この鎮守府に大和さんがいるの?」

大淀「はい。ちょっと問題がありますけれど」トオイメ

那珂「???」

大淀「ところで提督。事情聴取なら執務室で行ったほうがよろしいのでは」

提督「話の最中にいきなり撃たれて、新調したばかりのソファを穴だらけにされたいならそうするが」

大淀「外でお願いします」

提督「よし」

那珂「何がよし、なの!?」
272 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:26:43.57 ID:XxL/IGBoo

 * 入渠ドックわきのテーブル *

提督「明石が言うにはこっちで待ち合わせっつってたが……」

那珂「あ、いた! 榛名ちゃーーん!」ブンブン

榛名「!」

榛名「……」コソッ

提督「……なんで物陰に隠れてこっちを窺ってんだ、あいつは」

榛名「……」チラッ

榛名「……」キャッ

榛名「……」チラチラッ

榛名「……///」キャー

提督「早くこっちに来て座れ!!」

那珂「て、提督准尉さん落ち着いて!!」
273 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:27:46.59 ID:XxL/IGBoo

 * 着席しました *

提督「……」

那珂「……」

榛名「……」モジモジ

提督「那珂。さっきから榛名がくねくねしてて気持ち悪いんだが」

那珂「!?」

提督「挨拶してからまともにこっちを見やしねえ。やっぱ大声出したのがまずかったのか?」

那珂「え、いえ、その……」

那珂(うわー、明石ちゃんの言うとおり、この人、本当に乙女心を理解する気ゼロなんだあ……)

榛名「いえ! 榛名は大丈夫です!」

提督「そうか? じゃあさっそく……」

榛名「ケッコンの手続きですね!」キラキラキラッ

那珂「!?」

提督「!?」
274 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:29:10.50 ID:XxL/IGBoo

榛名「大事な話があると伺いました……私たちのこれからのお話だと!」

那珂「そ、それはそうなんだろうけど、飛躍しすぎだよー!?」

榛名「式はどこで挙げましょうか!?」

提督「話聞けよ……」ズツウ

大和「提督、遅くなりました!」

伊8「? 何かあったんですか? 頭抱えたりなんかして」

提督「おう、来たか……ちょっと付き合え」

大和「提督からのお付き合いのお願い……はっ! これはもしや求婚では!」

那珂「!?」

提督「……」アタマカカエ

伊8「そういう意味じゃないよ」

大和「そ、そうなんですか?」

伊8「一緒に話を聞いて欲しい、って言われてたでしょ」チャクセキ

大和「そ、それって、大和が提督に信頼されている証ですよね!」チャクセキ

伊8「それでいいと思う」
275 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:30:30.46 ID:XxL/IGBoo

提督「まったく、伊8がいてくれて助かったぜ……ん?」

榛名「……」ハイライトオフ

那珂「は、榛名ちゃんどうしたの!?」

榛名「……」ジッ

大和「?」ドーン

伊8「?」ボイーン

榛名「……」モニモニ

那珂「あっ(察し」

榛名「榛名は……慎ましやかでも……大丈夫……です……」パタリ

那珂「は、榛名ちゃーーん!」

大和「……いったい何があったんでしょう」

提督「いい加減、話が進まねえぞくそが……」グッタリ

伊8「ぐだぐだですね」
276 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:31:46.89 ID:XxL/IGBoo

 * ぐだぐだ中略 *

那珂「というわけで、那珂ちゃんたちはその養成所の出身なんです!」

提督「……ここまで辿り着くのに、えらい時間がかかったな……」ハァ

伊8「艦娘の養成所……訓練してくれる鎮守府なら聞いたことあるけど、養成所は聞いたことありませんね」

提督「で、その養成所の訓練の一環で、お前らは三日三晩と言わず、一週間近く不眠不休で戦ってたわけか」

那珂「それをクリアできたら、艦娘として華々しくデビューする予定なんです!」

大和「その話、本当でしょうか……」

提督「いろいろとおかしいな。お前ら建造されて作られたんだろ? だとしたら、最初から艦娘じゃないなんてあるか?」

榛名「……生まれたばかりの艦娘は不完全だ、と、言われていました」

榛名「だから、訓練して、運用可能な個体を選別すると」

提督「適性を見る、って意味では考えられなくもねえな。完全にモノ扱いしてるってところは気に入らねえが」

大和「それで、長時間の訓練に耐えられるかをテストされてたんですか」

提督「けど、その結果が全員轟沈だぞ。やる意味あんのか?」

那珂「ちょっと待って! 那珂ちゃんはまだ沈んだって決まってないですーー!」

提督「という話だが、さて榛名。お前、最後まで那珂を追いかけてきてたんだよな?」
277 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:33:48.59 ID:XxL/IGBoo

提督「お前が最後に見た那珂の姿、どうだったのか教えてくれ」

榛名「……」ウツムキ

榛名「ひとつ、お約束していただけますでしょうか」

提督「なんだ?」

榛名「私たちの……身の安全を、保障していただけませんでしょうか」

提督「解体されたくないってことか?」

榛名「それも、ありますが……」コク

提督「話を聞くだけだ。話の結果がどうあれ、暴れさえしなきゃお前らを処分する気はないから安心しろ」

榛名「……わかりました。お話しします」

榛名「私と、那珂ちゃ……那珂さん、ほか数名が、訓練のため出港したのはおよそ一週間前です」

榛名「訓練は過酷で、那珂さんが次々と深海棲艦を撃沈していく中、脱落者も3日過ぎたあたりから出始めていました」

榛名「そして、残り2人……榛名と、那珂さんだけになって、いよいよ私も限界に近づいていました」

榛名「那珂さんは、大破した私を庇い、そのうえ私を励ましながら進軍していましたから、無理が来たんだと思います」

榛名「……那珂さんは、航行中に意識を失い、倒れてしまったんです」

那珂「え!?」
278 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:35:23.34 ID:XxL/IGBoo

提督「過労死ってやつか?」

伊8「多分そう。死んでないから、過労ね」

榛名「那珂さんが倒れてすぐ、私たちは敵の攻撃にさらされて、そのままなす術なく……」ウツムキ

那珂「……」

大和「それで二人とも大破して島に漂着したんですね」

提督「辻褄は合うな。大破する前に意識を失ったんなら、那珂が自覚してねえのも頷ける」

那珂「うそ……うそだよ」プルプル

那珂「那珂ちゃんは、ここまで頑張ってきたのに……!」

榛名「那珂ちゃん……!」

那珂「最終訓練だったんだよ? これさえクリアできれば、ステージに立てるって養成所の人も言ってくれたのに……」

那珂「那珂ちゃんは……那珂ちゃんはぁぁぁ……!」ガクガク

伊8「なんだか様子が変です」ガタッ

大和「提督、お下がりください!」バッ

那珂「これで、終わりなん……うぐ、うあああああ……!」ガタッ
279 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:37:07.58 ID:XxL/IGBoo

提督「おい、頭抱えて苦しみだしたぞ!?」

榛名「いけません! 那珂ちゃんを落ち着かせないと!」バッ

那珂「あああああ!」バキッ

榛名「きゃあっ!」ドタッ

伊8「榛名さん!」

那珂「あ、ああああ……!」ジャキジャキッ

提督「ここで撃つ気か!?」

那珂「うぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

大和「提督、下がってください!」バッ

 ガッ

大和「!」

那珂「あ……!?」ヨロッ

那珂の背後に現れた神通「……」ガシッ

大和「神通さん!」

神通「すみません、咄嗟のことでしたので……那珂を気絶させて良かったのでしょうか」

提督「ああ……助かった。遠征、ちょうど終わってきたところか」
280 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:38:09.20 ID:XxL/IGBoo

神通「はい。入渠ドックで提督が那珂と話をすると、大淀さんに伺いましたので」

提督「そうか、とにかくありがとな。毎度毎度、神通には世話になってばかりだ、頭が上がんねえよ」

神通「いえ……」ニコ…

大和(神通さん、提督に頼りにされてるんですね。大和も頑張らないと)グッ

伊8(そこまで言われるなんて、ちょっと羨ましい)

提督「おい榛名、大丈夫か」

榛名「提督……!」ポロッ

榛名「お願いです……! 私たちを助けてください……ここに、匿ってください!」ドゲザ

大和「!?」

提督「……どういう意味だ」

榛名「あの人たちは……養成所の人たちは、きっと最初から私たちを沈めるつもりだったんです!」

提督「その根拠は」

榛名「証拠はありません……ですが、榛名は、目を見ればわかります……!」

榛名「あの人たちの目は、私たちをモノとしか見ていない目です! 提督の目とは全然違います!!」

提督「それをほかの誰かに伝えたりしたか?」

榛名「……それは、できませんでした」フルフル
281 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:39:16.24 ID:XxL/IGBoo

榛名「ずっと前から嫌な視線を感じていましたが、それで私たちがこうなるなんて、予見できたわけではなかったので……」

榛名「ですが、きっとそうだと確信を得るに至った出来事が、出撃を告げられた日に起こったんです……!」

榛名「呼び出された私たちは、薄暗い倉庫に案内され、そこで……そこ、でっ……!」ポロポロポロ

大和「……」

伊8「……」

神通「なにか、あったんですね。衝撃的なことが」

提督「榛名、もういいぞ。言えないなら言わなくていい」

榛名「……いえ、言います……言わせてください……!」グスッ

提督「……」

榛名「倉庫にいたのは、那珂さんの同型艦でした……」

提督「ここにいる那珂とは別の個体ってことか?」

榛名「はい……! その彼女を、彼らは、私たちの目の前で……!」

提督「……殺したのか?」

榛名「っ……!」コクッ

大和「……どうしてそんなことをしなければならないんですか……!」
282 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:41:06.24 ID:XxL/IGBoo

榛名「私たちが深海棲艦に捕まればどうなるか……それはその末路だと……こうなりたくなければ、死ぬ気で戦えと……!」

榛名「だからと言って、あんな、惨たらしいこと、を……うう、うううう……!」ボロボロボロ

伊8「出撃前にそんなの……逆効果でしょ?」ヒキッ

提督「ああ、わざとトラウマ植え付けてるとしか思えねえ。何考えてやがる……何が目的だ?」

大和「目的なんて……いったいどんな目的だと言うんですか……!」ギリッ

提督「榛名、それは那珂も見たのか?」

榛名「はい……! でも、何が起こったかわからない顔で、ずっと、固まっていたんです……」

榛名「翌朝そのことを話しても覚えていない、と……」

神通「忘れてしまったんですか……」

伊8「防衛本能からくる記憶障害、かな? そうしないと耐えられなかったんだと思う」

提督「無理もねえな……」

榛名「それから、私たちは一週間、昼も夜もなく戦い続けました……ただただ死にたくなくて、必死に……!」

提督「……那珂が生き残ったのは、目の前で自分を殺されて、悪い意味で覚醒しちまったってとこか?」

神通「さっき暴れだしそうになったのも、そのトラウマが原因だと思われますね……」
283 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 18:41:51.47 ID:XxL/IGBoo
ここはここまで。

ちょっと小休止の後続きを投下します。
284 : ◆EyREdFoqVQ :2018/11/17(土) 19:25:17.57 ID:XxL/IGBoo
続きです。
285 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:27:26.81 ID:XxL/IGBoo

大和「提督。その艦娘養成所、なんとかしてその悪事を暴きましょう! 許しては置けません!」

提督「……いや、無理だな」

大和「提督!?」

提督「まず、相手に関する情報がなさすぎる」

提督「海軍でもないのに艦娘を建造する方法を知っていて、かつ、見せしめに艦娘を殺せるほど余裕のある相手」

提督「どんなもん持ち出してくるか予想ができねえし、向こうが俺たちのこととか、どの程度の情報を持ってるかもわからねえ」

提督「何も知らない俺たちがそいつらを探しに動いたところで、捕捉されて逆に目を付けられたら、こっちが圧倒的に不利だ」

大和「……っ」

提督「俺もここまで胸糞悪い気分になったのは久々だ。関係者全員ぶっ潰してやりたいところだが……」

提督「榛名の望みは、匿え、って話だ。那珂もまた暴れだすかもしれねえし、落ち着くまで療養させたほうがいいだろう」

神通「様子見、ですか」

提督「ああ、ここは知らぬ存ぜぬを通す。できればこのまま関わらずに済ませたいとこだ」

提督「こういうのは本営に丸投げが一番いいんだが、その本営が絡んでないとも言い切れないしな。藪をつついて蛇を出したくもない」

提督「それから……念のためだ、榛名と那珂の体と艤装、持ち物のチェックを頼む。変な発信機ついてたら終わりだからな」

榛名「それは大丈夫だと思います」

提督「ん?」
286 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:29:30.33 ID:XxL/IGBoo

榛名「出撃するときに、腕時計のようなものを着けるよう命じられました。大破した時に壊れて海に落ちてしまったんですが……」

榛名「それ以外に後付けの装備はありません。もしかしたら、それがそうだったのかも……」

提督「だといいがな。ひとまずお前も後遺症がないかを含めて、明石に精密検査受けとけ。変なもん埋め込まれてたら嫌だろ?」

榛名「はい……わかりました」

大和「……ですが、このままでいいのでしょうか」

提督「大和。今回はN中佐のときとは状況が違う」

提督「あの時は首謀者自ら乗り込んできたし、事前にイヤホンを見つけていたから簡単に返り討ちにできたんだ」

大和「……」

提督「今回は情報が少なすぎてなあ……あっちから出向いてくるのを待ってた方がいい気がするぜ」

神通「……」チラッ

提督「……!」

伊8「!」

提督「……それから」スタスタスタ

提督「そこで盗み聞きしてんのはどいつだ!」バッ

由良「!! ……ゆ、由良は、遠征の帰りで、ちょっと気になって……」メソラシ

五月雨「す、すみません、私も……」
287 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:32:11.06 ID:XxL/IGBoo

初春「ふむ、ばれてしまったか」

吹雪「す、すみません司令官!!」ペコッ

提督「お前らなあ……」ハァァ

初春「わらわは今日の秘書艦を任されておるぞ。事態の把握はしておっても良かろう?」

提督「ったく、開き直ってんじゃねえよ。まあいい、聞いちまったもんはしょうがねえ」ハァ

提督「聞いたからには全員執務室に来い。伝言ゲームになって嘘が混ざるのだけは御免だ」

提督「とりあえず、問題がないなら榛名と那珂の身柄はうちで預かる」

提督「二人の轟沈の記録が流れてきていないから、折を見て、洋上で見つけたドロップ艦の扱いで申請しておく」

榛名「……! あ、ありがとうございます……ありがとうございますっ!!」

提督「事情が事情だ、しばらくは追手の警戒のため島の哨戒を優先する。遠征時も電探を積んで速力優先で行くか」

提督「他に轟沈した艦もいるし、そいつらがどうなったか気になるしな。そういう意味でも哨戒任務は増やしておくか」

大和「承知しました、大淀さんにもそう伝えます」

提督「ああ、頼むぜ」

榛名「提督……本当に、ありがとうございます……!」

提督「断っておくが、お前らばかりに構っちゃいられねえぞ。まだ話を聞いてない奴らが2人残ってんだからな」
288 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:32:41.74 ID:XxL/IGBoo
以上、今回はここまで。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 11:01:56.10 ID:PZuSfgPlO
乙!
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 16:21:25.56 ID:tEY17+Ht0
今更ながら意外とこの鎮守府の由良さんて逞しいというか
サバサバしてるなぁ。基本癒しオーラ全開娘なイメージというか。
おのれブラ鎮
291 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:29:56.73 ID:2T7InI+Ho
続きです。
292 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:31:01.98 ID:2T7InI+Ho

 * 鎮守府 執務室 *

由良「確かに、艦娘養成所なんて聞いたことないわ」

提督「五月雨もそうか?」

五月雨「はい。前の鎮守府では、それこそいろんな鎮守府と演習を行いましたが、養成所というのは聞いたことがないです」

提督「榛名や那珂が嘘をついているとも思えねえが、五月雨が知らないとなるとなあ……」

由良「とにかく、その養成所がどこにあるかとか、存在そのものを証明できないと何もできないわね」

吹雪「探しに行くのは駄目なんですか?」

提督「神隠しに遭っても知らねえぞ」

吹雪「……そ、それってどういう……」

提督「ミイラ取りがミイラになっても知らねえぞ、って言ってんだよ。養成所なんて名乗ってやがるが、まるっきり謎の組織じゃねえか」

提督「名前が養成所だから、捕まっても大丈夫なんて浅い考え起こしてんじゃねーだろうな? 見せしめで艦娘殺せる連中だぞ?」

吹雪「……!」ブルッ

由良「こちらから動くのは得策じゃない、ってことね?」

五月雨「なにかあっても、相手の拠点がわからないうちに連れ去られたりしてたら、助けに行けないですからね……」ウーン

提督「そういうこった。普段通り過ごして、気になることがあったら報告してくれ。俺からは以上だ」

五月雨「わかりました!」

 ゾロゾロ
293 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:32:56.78 ID:2T7InI+Ho

大淀「那珂さんは、危ないところだったんですね……」

提督「神通には借りばかり作っちまって、足向けて寝られねえよ。早いとこ神通の仇を討ってやりたいところだ」

提督「しかし未だに信じられねーな。神通と那珂じゃ、性格が違いすぎるだろ……」カリカリ

初春「それで? 此度の那珂と榛名の実情の調査はせぬのか?」

提督「しない。君子危うきに近寄らずだ」

初春「なんじゃ、つまらんのう。てっきり、敵を欺くには味方から、と、おぬしが隠れて調べるものとばかり思っておったんじゃが」

提督「初春、やたらと首を突っ込もうとするな。そんなに外に出たいのか?」カリカリ

初春「うむ。なんというかの、暁の鎮守府の調査が謎解きのようじゃったのでなぁ」

提督「悪趣味だな。好奇心は猫を殺すって言葉知らねーのか」

初春「ふん、建造されてすぐ捨て艦にされたわらわじゃぞ。外の世界に対する知識欲に飢えていることくらい察してほしいものじゃな」

提督「朧からミステリ借りて読んでろ」カリカリ

初春「原文じゃぞ。わらわは英文は読めぬ」

提督「金剛に訳してもらえ」

初春「先日はそれであやつに結末をバラされたのじゃ。あやつには頼みとうない」

提督「いいから朧みたいに英和辞書使えよ、この頭でっかち」

初春「……いけずめが。斯様にわらわをこの件に関わらせたくないか」プイ
294 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:34:16.80 ID:2T7InI+Ho

提督「俺が関わりたくねえんだよ。倒れる寸前の那珂に最後までついていくくらいの根性を見せた榛名が、あれだけ怯えてたんだ」

提督「やばいからこそ榛名が必死になったとも言えるな。どういう風にとらえても、危険な案件だってことは変わんねえぞ」

初春「……まあ良い。貴様がそこまで嫌がるなら、従っておこうかの」

提督「そうしてくれ。面倒は増やしてほしくねえ」カリカリ

大淀「ところで、提督は先程から何を書いているんですか?」

提督「中将への信書」カリカリ

初春「なぬ?」

提督「養成所のことを俺が直接調べる気はねえ。代わりに本営をけしかける」

初春「なにをしておるか、貴様の手柄になるのじゃぞ?」

提督「手柄なんざいらねえよ。この話に決着がついて、那珂や榛名の心配事を潰せればいいだけだ」

提督「下手に目立って注目されればそれなりの戦果も期待される。この前みたく、大和狙いの馬鹿がまた出ないとも限らない」

提督「俺は今のだらだらした暮らしが気に入ってんだ、人間なんぞのためにあくせく働く気はねえよ」フー

初春「……」

大淀「……」

提督「そうでなくても艦娘管理ツールの一件で俺の評価が上がっちまったらしいからな。これ以上目立ちたくねえ」

提督「とはいえ、いつまでも中将の陰に隠れてるわけにもいかねえし……」

提督「何よりもあの中佐をなんとかしねえとな。くそ、やっぱ始末しときゃ良かったか……」
295 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:36:04.45 ID:2T7InI+Ho

初春「安寧を得るためには力も必要じゃぞ。それが武力であれ権力であれ、力の伴わぬ正義なんぞ……」

提督「おい、勘違いすんなよ初春。俺は俺が正しいなんて思っちゃいねえぞ」

初春「ならば貴様は何故、何のために戦うのじゃ」

提督「そんなもん、俺自身の自己満足のためだろうが。この前も言ったろ」

初春「は?」ポカン

大淀「……」

提督「俺は誰かのために、なんて大層な志は持ち合わせちゃいねえよ」

提督「泣いてる艦娘がいて、手を差し伸べたいと思ったからそうしてきたまでだ。ちゃんと本人に同意を確認してるだろ?」

初春「そ、それを自己満足と言うか!?」

提督「どんな物事だって、自分が納得して選択肢を選んでいれば、後悔はしても理不尽とは思わねえだろ?」

提督「誰かのために損をしても、それでいいって思ってやってるならそれも自己満足だ。人生の最重要項目じゃねえの?」

初春「……」

提督「好き勝手やって、それが艦娘に喜ばれて……そう考えりゃあ、俺も昔より今のほうが遥かに幸せだな」フフッ

提督「お前が養成所の調査をしたいのも、気に入らないからだろ? 調べて満足したい、叩き潰して満たされたいってな」

初春「むう……」

提督「でもな、今回は駄目だ。我慢してくれ」
296 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:37:08.89 ID:2T7InI+Ho

初春「二度も言わんで良い。あいわかった、これ以上の口出しはせぬ」

提督「ああ、そうしてくれ」ニコ

初春「……貴様もだいぶ険の取れた顔をするようになったのう」

提督「あ?」

大淀「今、とても穏やかな顔をなさってましたよ」

提督「……」

初春(まさかこやつに毒気を抜かれるとは思わなんだ)

大淀(いい顔してましたよね……もう元に戻っちゃったけど)

提督「……はぁ。なんか前にもあったな、こんなこと。なんだったっけか……」アタマガリガリ

 通信機 < RRRR...

提督「!」

大淀「ドックからですね……もしもし、執務室です」チャッ

大淀「……そうですか、わかりました。提督にもお伝えします」

提督「扶桑か?」

大淀「はい。目を覚ましたそうです」

提督「わかった。大淀、中将宛の文書の校正頼む。あとで清書しとく」バサ

提督「初春は大和と伊8呼んで来い。お前にも話を聞いてもらうぞ」

初春「うむ、わらわに任せておくが良い」ムネポーン

初春「このわらわの灰色の脳細胞が、いかなる難事件も容易く解決してみせようぞ!」ビシィ!

提督(クリスティに毒されてやがんのか)ハァ
297 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:38:29.94 ID:2T7InI+Ho

 * 入渠ドックわきのテーブル *

山城「まさか戦艦大和がいるなんて……生き残っても私たちの出番はないのかしら。不幸だわ……」ズーン

提督「のっけから何を落ち込んでやがるんだこいつは」

伊8「山城さんはもとからこういう感じだから」

提督「ま、いいけどよ。で、こっちが扶桑か、見た目の傷は癒えたようだな」

扶桑「……」ペコリ

大和「なんだか、雰囲気が重苦しいですね」

提督「しょうがねえんじゃねえの? とりあえず座ってくれ、俺は提督准尉。この××国××島の鎮守府の管理者だ」

山城「改めて言うべきかしら。扶桑型超弩級戦艦姉妹、妹の山城です、そしてこちらが……」

扶桑「……」

山城「ふ、扶桑お姉様……?」

扶桑「……扶桑型、超弩級戦艦……姉の、扶桑です」

提督「……」

初春(口調まで重苦しいのう……)

大和(なにかしら、この異様な迫力……)

伊8(負のオーラがすごい……)
298 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:39:31.37 ID:2T7InI+Ho

提督「まずは状況を整理するか」

提督「お前たち二人はD提督配下の艦娘。数日前の戦闘で大破轟沈し、この島の海岸に流れ着いた。間違いないか?」

山城「ええ、それでいいわ。でも、どうせすぐ解体するんでしょう?」

初春「? 別に解体などとは……」

提督「ああ待て初春。その話の前にだ、お前ら、どうして解体されるって思ったんだ?」

山城「確か……轟沈した艦娘は、いずれ深海棲艦になってしまうから、じゃなかったかしら?」

提督「それは誰から聞いた?」

山城「誰ともなく……よ。食堂で駆逐艦たちが話していたのを聞いたりとか、あくまで噂話としてだけど」

山城「それが事実なら、私たちは解体されるって話も、噂のついでで聞いてるわ……」ズーン

大和「……提督、榛名さんたちとは微妙に反応が違いますね」

提督「艦娘が深海棲艦になるっつう話は、艦娘にはあまり浸透してないのか?」

山城「それで、深海棲艦の候補生になった私たちの処分はいつなの?」

提督「早まんな。この島の鎮守府にはある特例があるんだが、それは知ってるか?」

山城「……特例? も、もしかして、扶桑お姉様を助けられるの!?」ガタッ

初春「なんじゃ、話が食い違っておると思ったら。話しておらんかったのか?」

提督「ああ、ちょっと明石に話さないように言っておいたんだ」
299 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:40:17.14 ID:2T7InI+Ho

山城「もったいぶらないで!! 特例って何よ!?」ズイッ

提督「落ち着けよ。端的に言えば、この島に流れ着いて助かった轟沈艦娘を、うちで登用できる特例を作ってもらったんだよ」

山城「そ、それって、この鎮守府の艦娘になれば、助かるってこと!?」

提督「ああ。大和は違うけど、なあ?」チラッ

伊8「はい。はっちゃんも、そうです」

初春「わらわもそうじゃ。今は所属する艦娘の半分くらいがそうじゃったかのう?」

山城「本当!?」パァァ

山城「扶桑お姉様! 私たち、解体されずに済みそうですよ!」

扶桑「……」

大和「提督? なんだか、扶桑さんは嬉しくなさそうですよ?」ヒソヒソ

初春「なにやら思うところがありそうじゃのう?」ヒソヒソ

提督「そうだな……お前たちがどうして沈む羽目になったのか、その辺の説明はできるか?」

山城「え、ええ、それは全く構わないけれど……」
300 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:41:13.53 ID:2T7InI+Ho

 * *

山城「私たちが受けた任務は、敵艦隊の邀撃。敵艦隊旗戦艦タ級の撃滅が目的よ」

山城「駆逐艦4、戦艦2の艦隊を組んで、敵艦隊を挟撃する、というのが私たちの受けた作戦命令だったわ」

提督「挟撃?」

山城「ええ、その時の作戦海域を……ちょっと書くもの貸して。こう……簡単に、九つの区画に分けるわね」カリカリ

 789
 456
 123

山城「電卓と同じ並びと思ってちょうだい」

山城「敵艦隊は東側、6の位置。私たちは北西……1の位置から海域に突入。中央、5の位置には岩礁があるの」

山城「戦艦の私たちは、7−8−9のルートを通って北側から接敵」

山城「駆逐艦隊4隻は、7−4−2−3のルートを通って南側から接敵」

山城「私たちが先制攻撃を仕掛け、敵の注意を引いたところで、背後から駆逐艦隊が敵艦隊を攻撃する手筈だったのよ」

山城「でも……駆逐艦隊が敵を攻撃する前に、私たちは敵の猛攻を受け、轟沈したのよ」

提督「駆逐艦隊が攻撃していないと判断したのはなぜだ?」

山城「私たちの攻撃の後、敵艦への砲撃が見受けられなかったからよ」

山城「敵艦隊を視認しながら攻撃していたけれど、私たちの放った砲撃以外で、敵艦隊から煙が上がったり水柱が立ったりはしていなかった」
301 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:42:16.05 ID:2T7InI+Ho

提督「連携は? お前らと駆逐艦たちで通信はしていなかったのか」

山城「D提督からは、駆逐艦隊と私たちの間の通信は、挟撃すると傍受される可能性があると言われたわ」

山城「それを回避するために、通信用の小型船を4の位置で待機させて……」

山城「私たちと駆逐艦隊の所定の位置への到着を確認してから、D提督の指示で攻撃をすることになっていたの」

山城「実際に、私たちへは指示が来たわ。それを受けて、私たちは砲戦を開始したのよ」

大和「作戦内容だけ聞けば悪くないと思いますが……通信の傍受の可能性は、この小型船を挟んだとしても防げませんよね?」

提督「挟撃じゃなくて十字砲火なら理解できるんだがな。挟撃が効果的だというのもわからなくはないが、この場面で必要か……?」

提督「まあ、戦術の良し悪しはさておいて、とにかく駆逐艦隊から敵艦への攻撃はなかったのはどうしてだ、って話だな」

山城「ええ。なんらかのトラブルがあったと思っているけれど……」

初春「トラブル、のう……」

大和「確かにトラブルではありますね。駆逐艦隊が攻撃できない状態で、山城さんたちに攻撃せよと指示が飛んだということですよね?」

山城「結果的にはそうね……」

初春「駆逐艦隊が何らかの理由で行動できなかった……或いは、駆逐艦隊に指示を飛ばせなかった、というのもあり得るわけじゃな」

山城「そうね……なんにしても不幸でしかないわ。時雨たちは無事なのかしら……」ハァ

大和「時雨……というと、駆逐艦の?」

山城「ええ、そうよ。白露型駆逐艦二番艦、時雨。あの子は、今回の作戦の旗艦を務めていたの」
302 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:44:00.69 ID:2T7InI+Ho

山城「時雨はいい子だったわ。私が建造されてすぐ顔を見せに来てくれて……今回の作戦も、時雨が旗艦だからこそ成功させたかったの」

山城「船だったころも同じ艦隊に所属していたし、その時の無念を晴らす意味でも、任務を成功させたかったんだけど……」ウツムキ

大和「無念……西村艦隊のことですね。あのレイテ沖の」

山城「そう……!」コクリ

山城「私も、扶桑お姉様も、時雨を残してみんな沈んでしまったわ。それなのに、時雨に同じ悲しみを味わわせて……」

山城「そうだわ、時雨はあのときどうしていたのかしら。まさか、時間差で敵艦隊に突撃して、あの子まで沈んだりしてないでしょうね!?」

山城「あああ、不安だわ! 時雨にもしものことがあったら……!」

扶桑「山城、大丈夫よ」

提督「!」

大和「!」

山城「扶桑お姉様……!?」

扶桑「D提督は、時雨を大事にしているわ。絶対に無事よ」

山城「……だ、だと良いのですけれど……」

扶桑「……」
303 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:45:23.20 ID:2T7InI+Ho

提督「……」

伊8「提督? どうかした?」

提督「ん……いや、なんでもねえ」

伊8「……」ジーッ

提督「……そうだな、初春。お前は大和と一緒に、休養室あたりで山城と雑談してきてくれ」

初春「雑談とな?」

提督「ああ。山城にしても扶桑にしても、もう少し聞きたいことがある。扶桑にも話を聞きたいから、先に行っててくれ」

大和「わかりました」

山城「……扶桑お姉様になにかしたら許さないわよ……!」

提督「はっちゃんは丘の上を見てきてくれるか? 神通は那珂に付き添っているから、誰もいないはずなんだが」

伊8「人払い、ですね?」

提督「理解が早くて助かる」

伊8「……それと、提督」

提督「ん?」

伊8「扶桑さん、死にたがってますよね?」ヒソッ

提督「……理解が早くて助かる」

伊8「経験者でしょ? お互いに」

提督「……ふん」アタマガリガリ
304 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:46:05.79 ID:2T7InI+Ho
今回はここまで。
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 16:29:42.69 ID:flolipmro
おつー
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 16:16:18.13 ID:TlRk9Bow0
個人的にレイテや西村艦隊はシリアスに凝ってて嫌いじゃなかったけど
その直後にあてつけの如く白露いじめ始めるから大本営って
本当時雨と夕立以外どうでも良いんだなぁって思わされた瞬間だったな
307 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:39:38.86 ID:x+sj4X5Zo
五月雨と涼風はどうなるんでしょうねえ……高雄とか青葉もですが。

続きです。
308 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:40:27.36 ID:x+sj4X5Zo

 * 島の南東、丘の上 *

 ザザァ…

扶桑「……」

提督「さて。ここなら誰も来ねえ」

扶桑「……ここは、なんですか」

提督「その質問にゃあ後で答えてやる。その前にお前にいろいろ聞いておきたくてな」

扶桑「……」

提督「お前、助かったのにちっとも嬉しくなさそうだな。なんでだ?」

扶桑「……」

提督「……」

扶桑「……なぜ、私を助けたのですか」

提督「山城に頼まれたからだ」

扶桑「……私のことは、見なかったふりをして捨て置けば良かったのです」

提督「生きるのは本意じゃなかった、ってか? それこそ、そう思うのはなぜだ」

扶桑「私は……」

提督「……」
309 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:41:44.90 ID:x+sj4X5Zo

扶桑「私が、望まれて造られた艦娘ではないからです」

提督「……そいつはどういう意味だ」

扶桑「私がD提督のもとに建造され、初めてお目見えした時……彼に、こう言われました」

扶桑「最初の戦艦が不幸型かよ、ついてねえ……と」

提督「不幸型?」

扶桑「私たち扶桑型は、敵艦隊の待ち伏せによって沈められた史実などから、不運な艦であるという認識をされています」

扶桑「だからこそD提督は、私を不幸型と揶揄し、私が建造されたことに露骨に顔をしかめたのでしょう……」

提督「……」

扶桑「D提督は、異常なほど運や願掛けを気にする人でした」

扶桑「かつての武勲艦や幸運艦に執着する彼だからこそ、あのような指示を出した意図を理解しています」

扶桑「彼は最初から、厄落としのつもりで、私たちを沈めるつもりだったのです」

提督「厄落とし……!?」

扶桑「私が来たから作戦に失敗する。近寄れば不幸が伝染る。そんな言いがかりも受けました」

扶桑「私が笑えば不幸が寄ってくるとまで言われ、微笑むことすら禁じられました」

提督「……」
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