カグノコノミが咲く頃(相棒×名探偵コナン)

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1 :暗黒史作者 ◆FPyFXa6O.Q [saga]:2018/08/25(土) 16:31:36.81 ID:pVxxeIvg0
はじめに


「相棒」と「名探偵コナン」を「一通り知ってる人」を対象としたつもりですが、
もしかしたら私の知識が負けているかも知れません。その時はすいません。


二次創作的アレンジと言う名の
改変、御都合主義、進行の変更等々が入る事がありそうです。


プロットに誰得の予感が漂っています。投石は控えめでお願いします。


Respect 竹内明


それでは今回の投下、入ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1535182296
2 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 16:42:20.02 ID:pVxxeIvg0
==============================

 ×     ×

4月21日 警視庁刑事部捜査第一課課長室

「何? 杯戸町内のマンションで
銃撃された女性の御遺体が? 男性が重傷。
分かった、すぐ臨場する」
3 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 16:44:03.68 ID:pVxxeIvg0

ーーーーーーーー

東京都内杯戸町。
現場となったマンションの1LDKリビングでは鑑識作業があらかた終わり、
事件性の有無に於いて疑問の余地は皆無。
と言うよりも、日本基準では見紛う事無き重大事件と言う事で、
日本基準では見紛う事無き重大事件と言う事で、
日本基準では見紛う事無き重大事件と言う事で、
日本基準では見紛う事無き重大事件と言う事で、
本部の各中枢部署にも早々の連絡が放たれていた。

早速に、初動に当たる所轄、機動捜査隊に続いて、
警視庁本部刑事部捜査第一課第七係
伊丹憲一、芹沢慶二巡査部長も現場に足を踏み入れる。

「よう」
「おお」

伊丹部長刑事が、顔見知りの鑑識員益子桑栄巡査部長に声を掛ける。

「仏さんか」
「ああ」

シートを被った膨らみを目で示し、伊丹と益子が言葉を交わす。
伊丹と芹沢が床に片膝をつき、片手で拝んでシートをめくり上げる。
そこに横たわるのは、豊かな黒髪を下敷きにした若い女性だった。

慣れた面々から見たら、
この有様でも生前はスタイルのいいなかなかの美人だったとも推察されるが、
今は見開いた両目との三角点となる位置に余計な穴を穿ち、
大の字の体勢で背中から床に倒れ込んでいる。
4 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 16:46:39.32 ID:pVxxeIvg0

「こりゃあ即死か」
「まず間違いないだろうなぁ」

伊丹の呟きに、口を挟んだのは無駄に渋さダダ漏れな刑事調査官だった。

「見た目だけなら22口径、良くても脳死コースだ。
生きた状態、恐らく死亡直前に髪の毛から背中と倒れ込んで、
そっから動かされた形跡も無しだ」

「マル害(被害者)の着ていたものは?」

「二人分、ベッド脇にひとまとめで見つかっています。
損傷らしい損傷はありません。今の所、自分で置いたと推定されます」

近くできびきびと働いていた女性鑑識員が伊丹の問いに答える。

「で、これがもう一人の?」
「ああ」

立ち上がった伊丹とベッドの間に残る血痕を目で示し、
伊丹と益子が言葉を交わす。

「生きてたのか?」
「生かされてた、ってのが正確な所か」

伊丹の言葉に刑事調査官が言った。

「両方の脛、右腕、下腹部、大腸、右の肺」
「うわ」

刑事調査官の語る羅列に、芹沢が思わず声を漏らす。

「報せじゃあ、どうも砕けるタイプの弾じゃないかってよ。
辛うじて救急車に乗せられたが手の施しようが無かったって事だ」
「うわぁ」

芹沢が、本格的にドン引きする。
5 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 16:50:23.59 ID:pVxxeIvg0

「それに、左腕と右の腿にもう少し古い傷があった。
腕は弾丸が掠めた可能性もあるが、脚の方はもっと荒っぽい刺し傷。
どっちも荒っぽく治療した痕跡があったって事だ。
状況から見て、這いずって子機から119番をプッシュしてそのままダウン、
あの傷じゃあ、それだけでも並外れた執念だな」

「それがなけりゃあ、もっと発見が遅れてたって事か」
「銃声の情報もありませんしね、性能のいい音消しを使ったんでしょうか」

刑事調査官の言葉に、伊丹と芹沢が言った。

「施錠されてたからな。マル被(被疑者)はピッキングで開錠して、
犯行後に恐らく持ち去った鍵で施錠してる。鍵穴から痕跡が見つかった」

伊丹の言葉に益子が補足した。
その時、伊丹がスマホを取り出し通話を始めた。

「もしもし? 何?」

ーーーーーーーー

「特命係の冠城亘うぅーっ」

怨念に満ちた自分の名前を聞き、
廃ビルの2階フロアに立つ長身の男がそちらへと振り返り小さく目礼を返す。

「随分とお早いお付きで」
「組対5課にも要請が来ましたからね。お手伝いですよ」

引き続き口の中を苦虫で満たした伊丹の問いに、
警視庁特命係所属冠城亘巡査が実質的な関連部署の名前を出して答える。

「僕としては、美人全裸銃殺事件の現場に直行したかったんですけどねぇ」
「あー、そういう躾けは後にしてくんねぇか」

後輩の胸倉を掴み上げた冠城に伊丹が口を挟んだ。

「で、見つけたのって?」
「ええ」

芹沢に促され、既に鑑識作業の始まっているがらんどうのフロアで、
冠城がハンドライトを照らし始める。
6 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 16:51:47.55 ID:pVxxeIvg0

「まずここ、血痕でしょうね」
「ああ」

冠城の案内で、伊丹と芹沢が床の汚れを確認する。

「で、あっちの壁に弾痕らしき痕跡。
状況から言って、あの入口から発砲して体を掠めた、
その可能性は十分あると」
「で、冠城巡査はどうしてこんな所に?」

簡単に説明する冠城に芹沢が問う。

「あー、地理的な条件から言って、
もしかしたらここになんかあるんじゃないかと………」
「あるんじゃないかと、
察しを付けた人は何処にいるんですかねぇ」

絡み付く伊丹に答える様に、冠城はハンドライトを動かす。
点在する血痕を追い、一同は素通しになった窓際に来ていた。
呑み屋街からの香ばしい煙が微かに漂う。

額を抑える伊丹の横で芹沢が窓から下を覗くと、
そこでは、シートを被った物体の横で、
眼鏡を掛けて仕立てのいいスーツを着た中年すぎの男性が
両腕を振って呼びかけている所だった。

「で、どうだ?」

気を取り直して窓から下を見た伊丹が、
こちらに到着していた益子に呼び掛ける。

「ああー、この破れたシートの下でぶっ壊れた木箱から血痕が見つかった。
そこの窓から飛び降りた、って言っても辻褄が合う」
7 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 16:59:46.87 ID:pVxxeIvg0

 ×     ×

4月25日 東都スタジアム

「よぉーっ」
「どうも」
「また真田の追っかけかい?」

スタジアムの廊下で、いかにも業界人なテレビマン山森慎三が、
まだうら若い女性記者香田薫に軽口を叩く。

「ちょっと付き合わねぇか?」
「いえ、今日は………」
「追っかけてるんだろ、杯戸町の件」

山森が指鉄砲を上に向け、僅かに声を潜める。

「いいネタあるぜぇー」

ーーーーーーーー

「な、いいネタだろ」
「そうですね」

米花町の寿司屋小上がりで、
青柳の喉越しを堪能した香田が山森に答える。

「最近ここに入ったんだけど、
握ってるの俺の親戚なんだ」
「そうですか」
「で、どうよ? 仲良くやってる?」
「お陰様で」

山森が香田のグラスにビールを注ぎ、
それぞれ日売テレビ、日売新聞と言う
資本の繋がった会社に属する二人の間で適当な世間話が交わされる。
8 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 17:01:06.61 ID:pVxxeIvg0

「で? どうよ?
少しはいいネタ掴めた? 随分ガード固いって言うけどさぁ」
「随分と言うか、異常です」

気軽な口調で言う山森に、
白身の握りを続けて飲み込んでいた香田がカチッと言った。

「ハムの仕切りだろ?」

低く言う山森に、香田が頷く。

「もちろん、表立った帳場(捜査本部)は一課が当たっています。
でも、彼らの捜査は極めて限定的。
仕切りはハム、公安でまず間違いない」
「ってーと、どっかに裏帳場でも立ってやがるか」

山森の言葉に香田が頷いた。

「そもそも、煽情的な殺され方に対する人権上の配慮、
を名目に被害者の身元自体が公表されていません。
もちろん、一部はこちらで独自に掴んではいますが、
周到な根回しによって報道各社も非公表を了承しています」

「確かになぁ、こっちでもそこん所はがっちり釘刺されてるよ」

ビールを冷酒に切り替えた山森が言った。

「三人も殺害された、それも拳銃を使用して。
にも関わらず、この情報の無さはやはり異常です。
少しは場数を踏んで来たつもりですが、こんな事は初めてです」

「マンションの部屋で二人、真っ裸で撃ち殺されてたんだよなぁ」

「ええ、男性は致命傷を逃れて救急搬送されましたが間もなく死亡、
女性は正面から頭を打ち抜かれて即死だったそうです。
部屋で撃ち殺された女性は、部屋の借主だった女性看護師の友人で、
事件の三日前に男性共々転がり込んでいた様ですね」

「で、その女性看護師もバラされたと」
9 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 17:03:12.08 ID:pVxxeIvg0

「22日に失踪、23日には殺害されて翌日堤無津川に浮上した。
これが大まかな流れです。
遺体発見時に公安機捜が早々に現場と御遺体を押さえて、
必要な資料だけ刑事部に下げ渡された。
だから、この時系列を把握する事も簡単じゃなかった」

「じゃあ、その仏さんが痛め付けられてたってのも」

「ええ、右手の指を折られて耳朶を焼かれてから恐らく拳銃で眉間を一発。
沈めるでもなく丸裸で無造作に川に投げ込まれたのだろうと。
その辺りの事もギリギリの所で聞き出しました」

「そんなこんなも表に出ず、か」
「ええ。やはり状況等から身元を含めて詳しい報道を行うのは好ましくないと」
「建前だな」

「更にその裏で公安的配慮、
元々が拳銃を使った凄腕のプロ、それも組織的犯行を伺わせる手口で、
公安方面の組織的犯行、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が高いとかで。
捜査上、治安上の理由による報道自粛の協力要請。
この非公式な要請が、ハムと繋がったデスクやその上を通じて根回しされて、
実質的に現場を抑え込んでいます。かつてない強さで」

「その方面のネタ取りから上に上がったのも結構いるからなぁ」

山森の言葉を聞きながら、香田が切子の冷酒を飲み干す。

「こんな時、あの人がいれば………」
「ん?」

「会った事も無い女性記者の大先輩ですけどね。
帝都新聞に、この手の危ないネタに滅法強い人がいた。
なんでも、面白いネタ元を身近に掴んでいた、って、
特にこの件に関わってからよく耳にするんです」

「面白いネタ元ねぇ」

とととっと冷酒を手酌しながら山森が呟く。
10 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 17:04:30.93 ID:pVxxeIvg0

「そこまではまだまだですから、
今は地道に追いかけるしかないですねぇ。
でも、これだけの大きな事件、しかも何か凄い裏が隠されてる。
そこを掴めば………」

「やめとけ」

あははっと笑ってから真顔になった香田の前で、
山森はことっと冷酒の瓶を置いて一言告げた。

「この商売、長生きしたきゃあ絶対踏んじゃならねぇ虎の尾がある。
お前みたいな若造なら尚の事よ」

ガタリと立ち上がりかける香田の前で、
グラサンの山森は不敵に笑った。

「現に、俺んトコも他んトコもそこん所は察してる。
そこん所押さえとかねぇとなぁ」

山森は、切子の冷酒を飲み干した。

「死ぬぞ」
11 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 17:06:43.44 ID:pVxxeIvg0

 ×     ×

「暇か?」

4月28日
警視庁特命係係長杉下右京警部、同係所属冠城亘巡査は、
何時もの一言と共に特命係所在地である小部屋に顔を出した
角田六郎警視に視線を向ける。

「そうですねぇ」

スーツ姿に英国風紳士の片鱗を見せる
穏やかな杉下警部の曖昧返答をするりと聞き流しながら、
角田は勝手に部屋の道具でコーヒーブレイクを開始する。

縦に長目の顔立ちで、
坊主頭に太目の黒縁眼鏡はその口調と共に剽軽な印象も与えるが、
生活安全部所管時代から
銃器、薬物対策のプロとしてマルBと渡り合って来た猛者。
そうしながら、ノンキャリア刑事として警視階級、
組織犯罪対策第五課課長に迄上り詰めた叩き上げのやり手であり曲者だ。

「まあなぁ」

傾けていたパンダ柄のカップを一度置き、
角田は左手に持っていた図面を部屋の真ん中のテーブルに広げる。

「サミットですか」
「流石だねぇ」

右京の言葉に角田が合いの手を入れる。
12 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 17:08:39.04 ID:pVxxeIvg0

「臨海統合リゾート施設<エッジ・オブ・オーシャン>。
こいつは略図だが、来月開業の手始めに
1日からのサミット会場に使われる事になってる。
刑事警備公安各部が交代で警備点検に入ってるからな、
うちもそろそろ仕度しないとな」

「カジノタワーにショッピングモール、
サミットが行われる国際会議場の一階にはレストラン街。
臨海エリアの中で果たす役割は計り知れない程の規模になりますね」

「施設への交通網は海を渡る二本の橋、
何かあったら封鎖せよって出来るのが諸刃の剣って言うか。
テレビなんかでも見ましたけど、あの中に日本庭園とか、
見た目はなんちゃって日本テイストみたいな」

図面を見ながら、右京、冠城がそれぞれに思いを口に出す。

「まあー、サミットってなるとメインは警備公安、
うちは精々お手伝い、マンパワーだからね」
「我々は更にお手伝いの何でも屋」
「必要でしたらなんなりと」

角田の言葉に冠城、右京が続く。

警視庁特命係。実際の所、特命係に関わる「関連部署」は幾つかあるのだが、
単に警視庁特命係と書くのも又実態を反映している。
大雑把な説明をすると、警視庁内の特定の部、課に直属せず、
警視庁の中にぽんと存在しているのが特命係だと言う事になる。

その中で、特命係と比較的関係が深いのが
角田六郎課長が率いる組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課。

鶏が先か卵が先かの説明は割愛するが、
とにもかくにも特命係と組織犯罪対策五課は警視庁の庁舎内で
地理的物理的隣人部署の関係にあり、
歴代の特命係の係員は、組織犯罪対策五課が臨時の人手を求めれば快く応じ、
角田の側も特命係の関わった案件に
出来る限りの便宜を図る良好な関係が続いている。
13 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/25(土) 17:10:18.58 ID:pVxxeIvg0

かくして右京が紅茶、冠城と角田が珈琲のカップを傾けた辺りで、
三人はもう一人小部屋に滑り込んで来た男に視線を走らせる。

「大木さん」

右京の声に目礼をした大木長十郎は、上司である角田に耳打ちをする。
少なくとも尋常な内容ではない。
その事は、眉根を寄せた角田と大木の表情からも容易に察する事が出来る。

角田は、リモコンを掴み部屋のテレビを付けると、
実際の画面起動を待つのももどかしいとばかりに
大木と共に特命係を後にしていた。

「何か、あったみたいですね………はくちょう、ですか」

冠城が呟く。テレビの中のワイドショーが紹介していたのは、
無人火星探査機「はくちょう」の事だった。

「確か、こちらも1日でしたね。
火星での採取物が入ったカプセルだけが日本近海に切り離されて………」

番組中に割り込んだピーとも半ばポーとも聞こえる電子音声が
右京の言葉を中断させる。
画面上部に走ったテロップに、右京と冠城は瞬きする。

「番組の途中ですが、たった今入ったニュースです。
お伝えします。来週、東京サミットが行われる国際会議場で、
先ほど大規模な爆発がありました。そのときの防犯カメラの映像です」

画面の中に、もうもうと立ち込める。煙が充満する。
冠城は、画面と、動き出す上司の姿を見比べる。

「繰り返します。先ほど、統合型リゾート<エッジ・オブ・オーシャン>で
大規模な爆発がありました……」

==============================

今回はここまでです>>1-1000
続きは折を見て。
14 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:37:30.50 ID:mmMrLCLn0
それでは今回の投下、入ります。

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>>13

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「これはこれは警部殿」

<エッジ・オブ・オーシャン>敷地内、ここまで爆発の余燼が燻る
ショッピングモール予定エリアに足を踏み入れた杉下右京と冠城亘の前に、
如何にも執念深い刑事を具現化した様な面相の執念深い刑事が
すいっと現れて声を掛けて来た。

「<エッジ・オブ・オーシャン>はまだ開業前の筈ですが、
特命係がどういうご用件でしょうか?」
「見ての通り、開業はずっと後になりそうですけどね」

そうやって声を掛けて来た、
警視庁本部刑事部捜査第一課殺人犯捜査第七係に属する伊丹憲一巡査部長が、
階級上は上官、しかもキャリアとノンキャリアの関係に当たる
キャリア組の杉下右京警部に慇懃に質問を発する。

そして、伊丹の後ろに従っている芹沢慶二巡査部長が、
先輩の伊丹の言葉に余計な補足を入れる。
こちらはどちらかと言うと、何処にでもいるお調子者の若造が
年を食ったタイプの芹沢が、伊丹から一撃を入れられる。

「ええ、我々も組対五課のお手伝いで
何れサミット警備に関わる事もあろうかと内示されていましたからねぇ。
それで、実際に爆発が起きたと言う現場を下見に」

肝が小さければそれだけで震えが来る伊丹の質問に、
右京は至って平静に返答する。

「すいませんがねぇ、警部殿」

嘆息と粘り気を半ばにブレンドした口調で伊丹が続ける。
15 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:40:59.38 ID:mmMrLCLn0

「警備以前に事件ですからこれ。
後はこちらの仕事ですからどうぞお引き取りを」

伊丹が慇懃に促す。

捜査一課の刑事である伊丹達に対し、
特命係の二人は通常は刑事とは言い難い位置にいる。
特命係を捜査部門と定める法律、規則は存在しておらず、
警視庁直属である為、捜査部門に属している組織でも無い。

言わば、一人の警察官、警視庁警部、警視庁巡査として
ポンと警視庁に属していると言うべき状態なのが特命係であり、
後は、階級社会の警察の中で、物理的に身近な組織近在対策五課を中心とした
警視庁各部局からの応援要請に警察官として応じているのが実際である。

「亡くなった方もおられる」
「今分かっているだけで死者二名、四人以上が搬送されています」
「確か、今日は公安が警備点検?」
「ええ、死傷者は全員公安の担当者だそうです」

右京に続く冠城の質問に芹沢が答え、
右京にするりと交わされた形の伊丹が芹沢に一撃を入れた。

「ですから、事件であれ事故であれ、
後はこちらの仕事になりますんで」
「確かに、サミット狙いのテロ事件って言うのは無理がありますからね」

冠城が、伊丹の言葉の一部だけに反応する。

「サミットが始まるのは1日、その前にこんな事件を起こすのは、
狙いがサミットなら場所変更、警備は厳重になる上に
殉職者を出した警察全部を敵に回す。メリットが丸で無い」
「確かに、サミットを狙ったテロ、
と想定するとそういう事になりますねぇ」

冠城の推測に右京が言葉を続けた。
16 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:43:42.52 ID:mmMrLCLn0

「爆発したのはガスですか?」

右京の言葉に、伊丹と芹沢が目を見張った。

「何処でそれを?」
「この場所でこれだけの規模の爆発です。
時間的に考えて、火薬、合成火薬の類による爆発であれば、
既に機捜隊と捜査一課には地取りの総動員がかかっている筈です
例えテロ事件の捜査が公安主導になったとしてもです」

「ハムはその辺上手くないですからね、
餅は餅屋、刑事部に足回りの捜査をやらせて
その成果をかっ攫うのがハムのやり口、ですよね」

伊丹の問いに答え、右京の言葉に冠城が続いた。

「そうでなくて、なおかつこれだけの爆発を引き起こすとするならば、
供給されたガスのガス漏れ、或いは腐敗ガスの蓄積、或いは天然ガスの噴出、
これがおおよそあり得る想定です。
伊丹さんがこの段階で事件事故を不確定であると言う事は、
現時点ではどちらとも特定できない。
そして、捜査一課がただちに動く程の材料にはならない、
むしろ事故と見た方が自然である、その様な爆発物であったと言う事です」

「ここまで最新鋭の建造物が出来上がって使用は始まっていない。
だとすると、腐敗ガスや天然ガスってのはちょっと考え難いんですけど」

右京の説明に言葉を探す伊丹を他所に、
冠城がその先を促す。

「ええ、国際会議場の地下にある料亭の厨房が爆発源で、
そこから大量のガスが検知されています」
「確か、会議場一階がレストラン街。その地下厨房ですから。
この最新鋭の、新築の建物でガス漏れがあったと?」

芹沢の言葉に右京が質問した。
17 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:45:17.33 ID:mmMrLCLn0

「ハードじゃなくてソフト、制御の不具合の可能性が指摘されています。
ここのガスはネット回線を使ったコントロールが可能ですから」
「じゃあ事故、って事か」
「でしょうねぇ」

冠城の言葉に芹沢が同意を示す。

「扱いは一課でも特殊班になるか火災班になるか、
どっちにしても大変ですよ」
「大変、と言いますと?」

右京が尋ねた。

「公安機捜の鑑識が運べる物証一切合切さらって行ったんですよ。
事故だとしたら扱いは刑事部、それで帳場が立ったら、
まずハムが持って行った物証を出させる所から始める事になります」

「せぇぇぇぇぇるぅいぃぃぃぃぃざぁぁぁぁぁぁわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………
警部殿、捜査に差し支えますので、
そろそろお願い出来ますかねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「それでは、失礼しましょう」
「しましょう」

伊丹の呪詛に一礼し、特命係はくるりと回れ右をする。

「流石に、二階級特進となるとハムも必死なんですかね」

歩きながら冠城が言う。

「これだけの死傷者と損害が出てますからね」

「ええ、幾ら秘密主義の公安でも、少なくとも労災ですからね。
扱いを間違えたら思わぬ所から公安の秘密主義が綻びる事にもなりかねない。
流石に、こんな表立った警備に
ゼロ直属の名無しが入ってる、なんて事はないでしょうけど」

そこまで言って、冠城は言葉を止める。
彼の上司杉下右京が、前だけを向いて黙々と歩みを進めている。
それを見て、冠城は脳内で見落としの有無の点検を開始する。
18 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:46:57.00 ID:mmMrLCLn0

ーーーーーーーー

右京と冠城が戻った特命係のテーブルに、資料の束がどさりと置かれた。

「<エッジ・オブ・オーシャン>の資料、持ってきましたよ」

それぞれの席に着席していた右京と冠城が、
資料と共に現れた一人の男、青木年男に視線を向ける。

「サミット警備のために警備部が作成したくわしぃー奴。
僕だから、手に入れられたんですからね」
「それはどうも」

ところどころ強調を入れる青木の言葉に、右京がすんなりと応じる。

「どうしてこちらで必要だと?」
「そりゃあ、調べるんですよねぇー。
でも、亡くなった方には気の毒ですけど
大変な事になっちゃいましたねー、
これって責任問題ですよねぇ。
いやー、凄い事が始まってますよぉー」

どう見ても上機嫌に立ち去る青木を見送り、
右京と冠城が顔を見合わせる。
19 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:48:48.45 ID:mmMrLCLn0

警視庁の新設部署であるサイバーセキュリティ対策本部に配属されている
青木年男巡査部長は「警察嫌い」であり、
行き掛り上、特命係のこの二人はその事をよくよく知っている。

特命係が青木と出会ったのは青木が警察に入る前の区役所勤務の時代だったが、
その後に青木は警視庁に入庁し、
やはり転職組の範疇に入る冠城とは警察学校の同期と言う事になる。

青木はサイバースキルによる専門職の特別捜査官枠で入庁しているため
入庁早々巡査部長であり、巡査であり年上である冠城の上官ではある。
とにかく、青木は一言で言い表せない面倒臭い曲者ではあるのだが、
この二人から見て底は深くない。

従来のサイバー犯罪担当部署とは別に、
言わば警視庁の内部管理を含めた電子社会の治安機関として発足した
サイバーセキュリティ対策本部の特別捜査官と言う事で、
青木が何を企んでいようが齎す心算で齎す情報自体は確かなもの。

実際に特命係に情報を齎した以上、
ここで情報自体に小細工をする方が命取りになりかねないと、
それが理解出来る程度には小ずるいのが青木であると、
特命係の二人も理解はしている。

だが、それよりも、この青木の態度、対応は
「警察嫌い」であろうと見当のつくところだった。
20 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:50:05.92 ID:mmMrLCLn0

ーーーーーーーー

「何かあったんですね」

警視庁庁舎内の廊下で、冠城を伴った右京が伊丹と芹沢に声を掛けた。

「毛利小五郎にガサが入った」
「毛利………<眠りの小五郎>?」
「ああ」

冠城の問いを、伊丹が肯定した。
そして、四人はさり気なく人通りの少ない場所へと移動する。
この状況からも、異常事態を察知出来る。

本来「只の警察官」でありながら、警視庁警部と言う警察官の身分一つと
何よりも尖った知略と正義感で事件捜査に介入する
警視庁の非捜査部門特命係係長杉下右京警部とその部下である冠城亘巡査。
「刑事の花形」捜査一課の本職の刑事である伊丹、芹沢。
両者の関係は極めて複雑怪奇で素直じゃないものであるが、
それがこうして素直に話に応じると言う時点で異常事態。

本人達が認めるかどうかはとにかく、
正規の刑事として組織に縛られた立場にいる伊丹達が、
その縛りに目を塞がれ足を取られそうなとき、
事件を追う刑事として、特命係との協力の中に
縛りの抜け穴、突破口を求める。
そういう局面であろう事が今迄の経験からも想定できる。
そして、今の伊丹の話からして、その予感は十分に的中している。

「あの爆発で毛利小五郎に?」
「そうだよ」
「なんだって又………」
「モンが出たんですよ」

伊丹の返答を聞いた冠城の呟きに、芹沢が応じた。
21 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:51:25.83 ID:mmMrLCLn0

「現場から毛利小五郎の指紋が出たと?」
「ええ」

右京の問いに芹沢が答える。
元警察官、警視庁捜査一課出身の私立探偵毛利小五郎。
退職後もいくつもの難事件を解決した通称「眠りの小五郎」として
マスコミにも知られた「名探偵」であり、
警察内部での知名度も相当な人物だった。

「揚水ポンプ用の高圧ケーブルの格納庫の扉から、
毛利小五郎の指紋が焼き付いて検出されたんです」
「揚水ポンプ?」
「施設全体の水道に水を届かせるためのポンプですね。
ポンプを動かす電気の高圧ケーブルの格納庫ですか」

冠城の呟きに右京が続いた。

「つまり、毛利小五郎が漏電させてガス爆発を引き起こしたと?」
「高圧ケーブルには冷却用の油の油通路があるため、
ケーブルからの火花が引火する様に細工する事が可能だと。
それに合わせてガス漏れを起こした可能性があると、
それがハムの説明でしたよ」

冠城の問いに芹沢が答える。

「では、着手したのは公安ですか?」
「ハムと一課の三係だ」

右京の問いに、伊丹が言った。
22 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:52:36.78 ID:mmMrLCLn0

「目暮係長の班ですね」
「ああー、元々今日の一課の在庁は三係。
俺らは大体終わった
杯戸PS(ポリス・ステーション=警察署)の帳場から応援に回された。
それに、毛利の窓口は三係、目暮班長だ」
「確か元上司部下で、かなり親しい間柄だとか」
「ああー………」

伊丹が、右京との会話を打ち切りスマホを取り出す。

「もしもし………なんですって?
分かりました」
「先輩?」

受信したスマホを切った伊丹に芹沢が声を掛けた。

「毛利小五郎が挙げられた」
「今回の事件ですか?」
「容疑は公妨。毛利小五郎は仮にも元サツ官だ、
挙げたのがハムって来たら、転びやがった」

冠城の質問に、伊丹が吐き捨てる様に言った。

「今の所、証拠は指紋だけですか?」
「いや、ガサで押収した毛利小五郎のパソコンから色々出て来たって話だ。
警部殿、一課もこっから練り直しなんでこれで失礼しますよ」
23 :カノコミ ◆EO2CFwwgUE [saga]:2018/08/26(日) 02:54:23.56 ID:mmMrLCLn0

ーーーーーーーー

伊丹達と分かれた後、サイバーセキュリティ対策本部を覗いた右京と冠城は、
口元をひん曲げて廊下をずんずんずんと突き進む青木年男に遭遇した。

「おや」
「暇か?」
「ええ、暇ですともっ!!」

右京に続く冠城の言葉に、
青木がオーバーアクションで叩き付ける様に叫んだ。

「でしょうねぇ」

右京が青木の言葉をのんびりと肯定する。

「この状況でも、君が席を外して、
こちらの本部全体も平常と変わる所が見えませんでしたから」
「ええ、そうですともっ!
杉下さん、冠城さんっ!!
こんな大事件で仕事が回って来ないなんてっ、
何のためのサイバーセキュリティ対策本部なんですかねっ!?!?!?」

ばっと両腕を広げて喚く青木の前で、
右京と冠城は顔を見合わせた。

ーーーーーーーー

同僚で後輩に当たる芹沢慶二巡査部長と共に
警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課を訪れた
警視庁刑事部捜査一課伊丹憲一巡査部長は、
その視線の先に見慣れた二人組を把握して
アウチ! 或いは Oh my God!
の姿勢で額を押さえて半回転していた。

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今回はここまでです>>14-1000
続きは折を見て。
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