【ミリマス】「プロデュース適正検査シミュレーション?」

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:14:19.75 ID:m8HzqJt80
===

一体全体そりゃなんだい、と訊き返すより早く律子の説明はこう続いた。

「つまりですね。プロデューサー殿によって私たちがプロデュースされてきた経験を、
この度まるっと全てデータ化して、一本のゲーム仕立てにしちゃったソフト。
それがこのプロデュース適正検査シミュレーション、名付けて"アイドルマスター"っていうワケです」

「アイドルマスター? ……なーんかどっかで聞いたような」

「そりゃ、まぁ、なんちゃらマスターなんて名前はその辺ごろごろしてますから。で、ここからが本題なんですけど」

そうして律子は、次の発言の間を計るかのように眼鏡の位置をクイッとただし。

「ソフトの完成度をより高める為に、プロデューサーにはこのアイドルマスター……アイマスを実際に体験してもらえないかな、と」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1539623659
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:15:58.22 ID:m8HzqJt80

お願いするようにこっちを見て来るワケだけども――正直ちょっと困ってしまう。

さて、読者諸氏はご存知のことかもしれないが、
現在我が765プロダクションには50人を超えるアイドルたちが所属してる。

対して、大勢いる彼女らをプロデュースしているプロデューサーの数はといえば……二人。

そう、たったの二人ぽっちなのだ。

それはつまり、この俺高木P太郎と、目の前に立つ秋月律子のただ二人。

おまけに律子はプロデューサー兼アイドル兼事務手伝い兼
その他諸々取り締まり役も兼ねてお仕事しているマルチファイター。

ハッキリ言って二人ともかなり多忙の身だ。

なもんで、この、突然紹介されたなんちゃらかんちゃらシュミレーターなんかに割けるような時間は正直なくて。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:17:06.11 ID:m8HzqJt80

「……あなたが忙しいのは知ってるんですけど、こんな突飛なお願い、頼める人も他にはいませんから」

無いのだが、伏し目がちで不安げに腕を組んだ律子。

その「断られるのは、確率的に分かってました」的雰囲気を身にまとう
彼女のお願いを無下に断るなんて俺にはできない!

だからそう、律子のデスクに置かれたパソコン画面を覗き込んで大丈夫だって笑って見せる。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:18:04.08 ID:m8HzqJt80

「分かった。それでどうすればいい?」

「プロデューサー! ……いいんですか?」

「ああ。確かに俺は忙しいけど、律子がそんな俺のトコに、
わざわざつまらない話を持って来たりしないってことは、これまでの付き合いで知ってるつもりだからな」

すると彼女は、すぐさま驚き顔を笑顔に変えて。

「え、ええ! 実はそうなんです! そもそもこのソフトは来たる新人プロデューサー育成用に、
プロデュース活動において発生しうるあらゆるアクシデントを体験できるようになってまして。
ゲーム内でのプロデュース対象になっているのはウチのアイドル全員分――」

「全員っ!? そりゃまた数が多いな……」

「はい。だからこそテストプレイによるデータ収集が、品質向上には欠かせなくて……。
だけどこのソフトが完成した暁には、我らのプロデューサー殿とまではいかなくても、
それなりにイロハを覚えた新人が短期間で育成できるようになるっていう寸法なんです!」
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:19:33.14 ID:m8HzqJt80

説明が終わると、律子はパソコンと繋がっている仰々しい機械を俺に見せるため持ち上げた。

それは頭にかぶるヘルメットみたいな形をしてて、
幾つものケーブルがあちこちからピョンピョンしているような代物だった。

……こういうの何て言ったっけ? サイバーパンクとかいうのかな。

「じゃ、このデバイスを頭につけてください」

「えっ!? ……俺にはゲームをさせるんだろう? コントローラーとか、そういうのは?」

疑問に思って尋ねてみるが、律子はやだなぁなんて軽く笑い。

「最新のテクノロジーは凄いんですよ? VRとか、一時期流行ったじゃありませんか」

その辺にあった椅子に俺を座らせたなら、問答無用で"ソイツ"を頭に被せたんだ!

……むぎゅ、真っ暗に包まれる視界。スピーカーを通したような律子の声が耳に届く。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:20:23.61 ID:m8HzqJt80

「それじゃあリラックスしてください? ……今回、プロデューサーに担当してもらうことになるアイドルは――」

そうして、キーンと耳鳴りのような甲高い機械の駆動音と、目頭を圧迫されるような感触を味わいながら、
俺はまるで眠りに誘われるようにその意識を拡散させていった。

そのうち、さながら催眠に掛けられるように目の前が徐々に白み始め――。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:21:30.08 ID:m8HzqJt80
===

初めに息遣いを思い出した。

それから、身震いするような肌寒さと、背中で感じる酷い冷たさ。

まるでシャツの中に氷を流し込まれたみたいに、
それは急速に意識を覚醒させて、そのまま飛び起きる原動力にもなったワケだ。

上体を起こそうとしてその場についた手がどっちも冷やっこい。
瞼を開けば鋭い風が眼球を刺した。

目の前に広がる白い世界――そこへ、
まるで真っ黒な点を打ったように、飛び込んできたのは人の姿だった。

ほんの少しだけ眉をしかめたなら、次の瞬間、
俺はバネが跳ねたみたいに思い切り地面から立ち上がって。
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/10/16(火) 02:22:36.22 ID:m8HzqJt80

「紬っ!!?」

出した声が喉ごと凍りつくみたいだった。ザクザクと足元で雪が鳴った。
一体何センチ積もってやがるか知れないけれど、体重をかける度に俺の足はズッと下に沈んでいった。

そうして、前に進むために、俺は馬鹿みたいに両腕を前後左右に振って。

一歩、進んじゃあふんぬって勢いづけてさらに一歩。

「紬! おいっ、紬!? 紬ぃっ!!」

呼びかけはけれど、届いているか分からなかった。
二人の距離は少しづつ狭まっていった。

雪は続々と降り続けているばかり。

真っ白な絨毯の上で微動だにせず、顔見知りの少女はその体を徐々に隠していった。

待てよ、そんな、見えなくなっちゃ……冗談じゃないぜ!
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