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【ミリマス】「プロデュース適正検査シミュレーション?」
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33 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/30(火) 23:55:19.23 ID:prOac4A60
「……どういうことなのです? それは」と紬の眉間に深いシワ。
まぁ、怒りたくなる彼女の気持ちは分かるつもりだ。
雪山で遭難しているなんていう一刻も早く安心したい状況下で、
けれども、ナビを手にした相手が「明日には」なんて悠長なことを言ったんじゃ。
「ナビとは地図のことですよね。道が分かるというならこんな山は――」
「サクッと下りたいところだけど、一先ずコイツを見て欲しいな」
彼女に差し出すGPS。
紬はそれを落っことしたりしないよう両手で優しく受け取ると、
暫くの間画面をジッと見つめ続け。
「……プロデューサー。私はいつまでこうしていれば」なんて真剣な顔で言うのである。
――これには思わず笑ってしまった。
途端に彼女が不機嫌さを隠そうともしなくなる。
「あっ、あなたがコレを見て欲しいと!」とかなんとか慌てて言い訳してるけど、取り乱してる彼女はおかしくって。
34 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/30(火) 23:57:03.32 ID:prOac4A60
「いやいやいや、その通りだよ。……俺の説明が足りてなかった」
そう言ってツェルトの中を移動する。
紬の傍までやってくると、俺は睨みつけられながら機械を受け取り、
そこに表示されている情報の見方を教えだした。
……ついでにGPSについてもツェルトの時以上に簡単な説明をしておこうか。
「いいかい紬? カーナビぐらいは知ってるよな」
「当然です。馬鹿にしないでください」
「ならこいつだってそれと同じだ。地図がある、現在地が出る、目的地までのルートを画面に表示してくれる」
「そ、それぐらいのことは言われずとも!」
「で、だ。俺たちが今いる場所がこの矢印。……どうだい? すぐそばにあるココが街だ」
「えっ……こんな、すぐ近くに……」
説明を受けた紬の反応は「そんなまさか!」とでも言いたげなものだった。
実際、地図を見るまで俺だって信じられなかったもの。
35 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/30(火) 23:57:50.28 ID:prOac4A60
「とはいえ、登録されてる最寄りの登山ルートまでは、
順調にいっても半日はかかる距離がある。それで紬、ここも見てくれ」
「……その時計表示がどうかしたのですか?」
「分からないかな。後一時間もすればこの辺一帯真っ暗だ」
紬が小さく頷いた。
「夜の山道は危険であると言いたいのですね」
「こんなところで野宿は嫌かい?」
「……例え嫌だと返事をしたところで」
その顔には不安が残っていた。
けれど、諦めたように首を振る彼女を慰められる都合の良い言葉なんて今は。
36 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/30(火) 23:58:25.40 ID:prOac4A60
「それじゃあ、俺はちょっと外を見て回ってくるよ」
「外に、出る……ど、ドコへ行こうと言うのですかっ!?」
おもむろに腰を上げて立ち上がると、紬が驚いたように顔を上げた。
……置いて行かれると思ったりしたんだろうか?
俺は彼女を安心させるために精一杯の明るい笑顔を浮かべ。
「夜を越さなきゃいけないと決まったなら、もう少し断熱のことも考えなきゃ。
空模様だって気になるし、それに紬の着てるその服だって」
そうして、説明を求める彼女に荷物の中の着替えを渡す。
「どうも、荷物は俺と君の分が一緒みたいだからね。
……一人の間に濡れてるシャツを替えた方がいい。寒さは何より大敵だ」
37 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/30(火) 23:59:40.77 ID:prOac4A60
===
すっかり陽も落ちてしまった。
案の定、明かりの無い山は"真っ暗"なんて表現が生ぬるい程にどこまでもどこまでも闇が深く。
何より俺たちから元気を奪ったのは、雪が止む代わりにその牙を本格的にチラつかせ始めた山の気温。
要は震えるほどに寒かったのだ。
例えツェルトの幕があったって、
冷気はお尻の下の地面からもじわじわ襲ってくるのである。
対策として新聞紙なんかを使ったクッションを作ってみたまでは良いものの、
それだけじゃあ満足な暖なんて取れやしない。……当然と言えば当然だな。
「紬、あまり離れるなよ」
だからこそ、俺たちは古典的な方法で体を温める羽目になるワケで。
何事も命あっての物種ということは隣の紬も心得ていた。
だからこそ大した反論も無くこちらの提案にも頷いてくれたと思うのだ。
38 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:00:33.01 ID:Q33A0XWw0
「嫌でも離れられない状況だというのがあなたには分からないのですか」
不機嫌を隠すこともしないつっけんどん。
彼女は膝を抱えたまま、その肩を俺に預けるようにして座っていた。
密着する二人の体には毛布代わりのバスタオル。
正直防寒具としてはあまりに心許ないのだけど、これでも何も無いよりマシなのである。
そうして、そんな状況の中で紬が半目を閉じる。
「プロデューサー。夜が明けるまでは後どのぐらいの――」
「……聞かない方が良いと思うよ」
「でも」
「もしかして君、眠たいのかい?」
「……眠れるような居心地ではありません」
それは寒さのせいだよな、紬。
なんて訊くまでもない質問はすぐにも飲み込んだ。
眠気と戦ってるんだろう彼女の頭が微かに揺らぐ。
俺も欠伸を一つかみ殺すと彼女の温もりにうつらうつら。
39 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:01:30.79 ID:Q33A0XWw0
「プロデューサー」
「ん、んん?」
「勝手に眠らないでください。……もしもそのまま目覚めなかったりした時には――」
「大丈夫、ちゃんと起きてるとも」
嘘、ちょっと危なかったな。
……だから紬、そんなじとーっとした眼で人を見つめるのは止めなさい。
「……これは、前々から疑問に思っていたことなのですけれど」
「なにかな」
「あなたは、どうしてどんな状況でも楽観的でいられるのですか?」
楽観的、そう言う彼女の瞳が震えている。
寄せられた肩から伝わる重みが静かに増していく。
でも、それには気づいていないフリのままで俺は。
40 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:02:15.05 ID:Q33A0XWw0
「……それは根拠のない自信を持てるようになったからかもしれないな。以前はもっと、石橋を叩いて渡るようだったから」
紬が何かを言いかけた。だが、俺が顔を向けると開きかけていた唇は頑なに結ばれた。
「でも、ある時をきっかけにね。もっと自分を信じてみようと思ったんだ。……それこそ大した根拠も持たないまま」
「……今も、自分を信じているのですね」
「ああ、そうすれば余裕だって同時に持てるだろう? だから――さっきは危うく眠っちゃうところだったけどね」
彼女の頭が傾いた。今の話に同意してくれているのだろうか。
……もしかすると、単に呆れ果てて言葉が出ないのかもしれない。
風の当たるツェルトの幕を見つめたまま、紬が確認するように口を開く。
「……今の話を除いても、やはりどこかしら能天気な人です」
そうして、やっぱり呆れたように顔を緩め。
41 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:03:01.01 ID:Q33A0XWw0
「ですが……だからこそあなたは、私たちのプロデューサーなのかもしれませんね」
どういうことさ、と訊き返させてはくれなかった。
彼女から見た俺は立派にプロデューサーが出来ているんだろうか。
それを認めてくれてるっていう意味なんだろうか。
ただ、一つだけハッキリと俺にも分かったのは、
こちらを向いた少女の瞳から震えが消えているってこと。
「紬も、自分で自分を信じてごらんよ」
だから、なのかもしれなかった。
そんな言葉がするりと口からこぼれ落ちた。
彼女の表情が僅かに強張って、次の俺の言葉を待っているように見える。
……そうとも、俺は彼女たちの為ならいつどんな時でも。
「そのうえで、君が信じ切れないっていう部分を……。プロデューサーの俺で補えたならいいんだけど」
「……私のことを、あなたが」
「ああ。そういう存在になれたなら、冥利に尽きるってもんだよな」
42 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:04:09.57 ID:Q33A0XWw0
言いながら少し照れ臭くなって、俺は誤魔化すように頭を掻いた。
紬の口から小さな溜息。そうして、彼女は心を落ち着かせるように二つの瞼を閉じたなら。
「プロデューサーは、バカなのですか? その程度のことで早々に満足されてしまっては困ります」
強い口調でハッキリと言い切った。少女の目に、確かな決意。
「これからもアイドルとしての高みを目指すために……。
頼りがいのあるあなたの姿勢を、もっと私に見せてください」
口元はたおやかに微笑んでいた。
期待を込めて見つめられて、すぐには何も返せなかった。
ただ、その思いを裏切りたくない一心で
「ああ、何でも頼ってくれ!」
……彼女の決意に負けない程に力強く、俺は応えることができたろうか?
僅かばかりに停滞する時間、ごうごうと風の音だけが聞こえる静寂が過ぎる。
43 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:04:38.43 ID:Q33A0XWw0
「なん、でも……」
そんな中で、少しばかり呆気に取られたような顔の紬がもごもご口ごもった。
そうして、彼女はハッとしたように頬を赤らめ目線を地面に落としたなら。
「でっ、では、その、プロデューサー」
消え入るように小さな声で、ポツリ、恥ずかしそうに答えたのだ。
「……うち、今すぐトイレに行きたい」
44 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:05:39.08 ID:Q33A0XWw0
===
――厳しく長い夜が明けた。空はすこぶる快晴の限りだった。
だからこそだ、俺は頭の上のお天道様に胸を張って告白しようと思う。
――ここが現実(リアル)でなくて助かりましたっ!
両手を合わせて、拝む。近くでは紬がツェルトを畳んでいるところだった。
彼女の手付きは実に鮮やかな物であり、生来の不器用である俺なんかとは比べるまでもない。
「実家で慣れていましたから。褒められる程のことでもありません」
顔の赤い彼女からすっかりコンパクトになったツェルトを受け取ると、
それをリュックに入れて立ち上がった。
GPSで帰りの方向を確認する。
「行こう。登山道に合流してからもだいぶ歩くことになるけれども」
先頭に立って歩きだす前に、彼女へ片手を差し伸べた。
「疲れたら遠慮なく俺を頼ってくれよ」
すると躊躇うこともなく握り返される手。
生真面目に背筋を伸ばして彼女が言う。
「はい。――お願い致します」
そうして二人、歩き出した。一歩一歩、足元を固く確かめながら……。
45 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:06:36.92 ID:Q33A0XWw0
===
「はーい、お疲れさまでした」と、耳馴染みのある女性の声が聞こえたななんて思ったら、
次の瞬間にはいつもの事務所の中で座っていた。
ゆっくりと取り外された被り物がデスクの上に並べられる。
何十時間も眠り続けていたかのような酷い疲労感が肩にかかる。
……そうか、戻って来たんだな、俺は。
「それじゃあ、プロデューサー殿にも早速今の体験の感想を……っと、聞いていきたいところなんですけど」
「……なんだい? 時間をくれるのかな」
「ええ、あなたも顔が寝ぼけてますよ。ちょっとした事後処理なんかもありますから、外の空気でも吸ってから戻ってきてください」
46 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:07:35.86 ID:Q33A0XWw0
言って、律子はパソコンと繋がった二つ目のデバイスを取り外した。
俺は彼女に言われるがまま立ち上がった。
劇場の事務室から廊下、廊下からはすぐに中庭へと、
まるで何かに誘われるように外へ向かって歩いて行く。
……仕事から家に帰って真っ先に風呂に入るみたく、とにかく太陽の光を浴びたかった。
そうして、暖かな陽だまりの下に設置されている
ベンチのところまでやって来ると、俺は思わぬ出会いを果たしたのだ。
「……そのように人のことをじろじろと、私の顔に、何か?」
両手で包むように握っていたスマホから顔を上げて、
少女、白石紬が現れた俺を怪訝そうに軽く睨みつけた。
おいおい随分と厳しいじゃないか、なんて言葉を返しそうになって思いとどまる。
――そう、危ない所だった。ここは律子の作った世界じゃあない。
あの雪山で過ごした彼女はここにいない。
俺は「いや、何でも無いんだ。……人がいるとは思って無かったから」なんて下手くそに質問を誤魔化したなら。
47 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:08:22.92 ID:Q33A0XWw0
「隣、座っても構わないかな」
「中庭のベンチは劇場の物です。一々私に許可を求められても困ります」
少女は不機嫌に言って返した。俺は遠慮がちにベンチへ腰をかけた。
背もたれにもたれ、大きく体を伸ばしたなら、幾つかの関節が生き返ったようにパキパキと鳴った。
思わず大袈裟な溜息なんてものも漏れて、途端にしまったと小さく身を縮める。
……案の定、視線をやれば機嫌の悪そうな紬の横顔がソコにあった。
鬱陶しく思われたかもしれない、なんて、後悔はいつでも先に立たず。
フッと視線を落としたなら彼女のスマホが目に入って。
48 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:09:29.04 ID:Q33A0XWw0
「ところでプロデューサー、約束は」
「え?」
「約束は、今度のお休みでどうでしょうか」
俺は自分の耳を疑った。思わず「約束って?」と訊き返したならば、
紬はたちまち目尻を吊り上げて、顔を真っ赤にしながらこう言うのだ。
「まさかあなたという人は、約束したのに……反故にして、私一人で行かせるおつもりなのですか?」
そうして見せられる彼女のスマホ。
俺の覚えてる記憶ほどじゃないが、それでも画面はバキバキだった。
紬がグッともたれるように身を乗り出す。
陽だまりの中にいるというのに、俺の背筋はまだ寒さに震えたままのようで。
49 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:10:20.96 ID:Q33A0XWw0
「付き添いをしてくれるのですよね」
改めて確認という風に、紬が今度は笑顔で首を傾げる。
その目にはもはや信頼以上の何かが宿っていて、俺はこの先
お天道様から後ろ指を指されながら生きていくことになるんじゃないかと怖い想像だって浮かぶってものさ。
……そうして律子、君の作ったソフトってやつは実に――プロデュース適性検査シミュレーション?
全く、とんだコミュニケーションツールがあったもんだ!!
50 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:18:11.40 ID:Q33A0XWw0
===
以上おしまい。書いてる途中で地獄のイベントが開催されたものの、概ね当初の予定通りの閉幕です。
本当は温泉に二人で入るとか、書きたかったけど上手に入れられませんでした。無念。
それとですね、作中の雪山対策や登山具等は説明を大幅に省略しているものですので
現実世界での参考にはしないでくださいね。まぁ、そんな人はいないと思いますが、一応。
では、最後までお読みいただきありがとうございました。
51 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/10/31(水) 00:20:20.14 ID:Q33A0XWw0
訂正、タイトル等
〇適性検査
×適正検査
あ、シュミレーターの方はネタです。
52 :
◆NdBxVzEDf6
[sage]:2018/10/31(水) 00:59:51.96 ID:PuORdz0Q0
流石律子博士、良いものを作るな
乙です
>>1
秋月律子(19)Vi/Fa
http://i.imgur.com/anoP91T.jpg
http://i.imgur.com/TnoQSIZ.jpg
>>9
白石紬(17)Fa
http://i.imgur.com/yzp34pR.jpg
http://i.imgur.com/hTynsLF.jpg
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/01(木) 07:45:10.31 ID:dAkDporWo
楽しかった、乙
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[ Aramaki★
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