高峯のあ「牛丼とか……言ってる場合じゃない」【番外編A】

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59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/16(水) 14:13:29.29 ID:hB06DeiV0
まだなのん…?
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/05(水) 17:47:50.74 ID:kgjzmYcJ0
令和になったら来ると思っていた時期が私にもあった
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/06(木) 11:35:57.07 ID:JLTaodMiO
声つかなそーwwwwwwwwwwwwww
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/13(火) 19:19:07.88 ID:tEVv8L+A0
最後がまだとか・・・
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/01(日) 00:25:44.55 ID:qWkbtl1Z0
続きが、いと待ち遠し
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/23(月) 23:50:47.59 ID:npNX+E6I0
まだか...
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/11/01(金) 22:31:26.34 ID:zRPRJ6dHO
そして1年が経とうとしている
66 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:18:43.55 ID:JLsu4+2l0
──
────
──────
【事務所 カフェ】


菜々「えっ! 高峯さん!」

のあ「……!」

菜々「あれっ? えーっと」

菜々「もしかしてアルバイトですかぁ?? 制服、すっごく似合ってますよぉ♪」

のあ「………ええ」

菜々「(あれ。リアクションが薄い……)」

菜々「(正直この方とあまり絡んだことは無いし、ファーストコンタクトは………うぅ、思い出したくもない)」

菜々「(未だに菜々がネグレクトを受けている可哀想な子と思っているんでしょうか?)」

菜々「(……ともあれ)」

菜々「ナナもここで働いているんですよ♪ もし分からないことがあったら何でも聞いてくださいねっ☆」

菜々「短期間のアルバイトですか? いつまでここに?」

のあ「恐らく………今日で最後よ」

菜々「えっ??」

店長「あぁ、ナナちゃん。おはよう」

菜々「おはようございます♪」

店長「千川さんから斡旋を受けて、今日からここで働くことになった高峯君だ」

店長「ナナちゃんも先輩として、このカフェについて色々と教えてあげて欲しい」

菜々「はいっ♪」

店長「………と思ったんだが」

菜々「え?」





店長「今日でクビだ」

店長「コーヒーカップ12個、ケーキ皿30枚、サイフォン5本、窓ガラス1枚、机とテーブル一組。これは彼女が仕事を始めて3時間で壊した物品のロス数だよ。怒って帰ってしまったお客様2人、関係者1人。一人はコーヒーを服にぶちまけ、一人はケーキを顔にぶつけ、一人は注文を5度聞き間違え1時間半待たせてしまった。いや、でも最後のはここの所属アイドルだったか、長時間待っていた割にずっと満足げに高峯君を眺めていたな、確か………いかん、名前を忘れてしまった。厨房からテーブルに運ぶまでの挙動が不安だったから今思えばあそこで留めておけば良かったのかもしれない。おまけに火災報知機を誤作動させ、店内は台風が通ったかのように水浸しだ。極め付けには、バランスを崩した彼女を支えようとした私の左脛骨と左上腕骨にひびが入ってしまったようでね、先ほどから激しい痛みが襲っているんだ。まあその際に彼女のふくよかなおっぱ、ンンッ、いや、彼女に怪我が無かったのが幸いだよ。しかし、とにかくだ。生産性的にも私の精神衛生的にも鑑みるに、高峯君の雇用は継続できかねると判断したわけだ」

店長「すまないね……。店舗の浸水、食器の欠損、私の怪我もあるし、2週間はここを封鎖する予定だ。経営管理部にも既に報告はしてある」







━━━━━━━━━━━━
【事務所 休憩室】


菜々「……」

のあ「……」

菜々「その………えっと」

菜々「……元気出してくださいね」

菜々「(どうしてこうなった)」

67 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:19:40.98 ID:JLsu4+2l0

菜々「意外でした。オールマイティに卒なくこなしそうな高峯さんでも、ミスはするんですね」

のあ「私の存在自体がミスみたいなものよ」

菜々「そんなコトないですよ! な、何でそんな卑屈になってるんですか」

のあ「……昔から焦がれていた。純真さと優雅さを併せ持った制服を纏い、健気に従事することを」

菜々「はえ? ああいうメイド服みたいのですか??」

のあ「憧れは常に無情を孕む……、輝く星にどれだけ手を伸ばそうが届かないように」

菜々「(………)」

菜々「(普段は感情を失ったかのように無表情な人ですけど、こんな風に落ち込んだりするんですね。微妙な変化で気付きにくいですが)」

菜々「高峯さんっ、またチャンスはありますよっ。ナナでよければ愚痴でも相談でも聞きますか───」

のあ「はぁ……」

のあ「このままだと家賃が払えず強制退去になるどころか、今月の光熱費すら危うい………というか今日の食費さえ厳しい」ブツブツ

のあ「流石にこの前飲みすぎたかな………日払いの給料全部使っちゃったし。こんなことなら先月課金しなきゃよかった」ブツブツ

のあ「あぁ、周子ちゃんの部屋でお世話して貰えないかなぁ。いや、あるいは志希ちゃんでもいい、この前に楓さんと一緒に無理言ってお邪魔したけどあの子のマンションは3人くらいは余裕で養える規模よ、面積的にも金銭的にも」ブツブツ

のあ「近くのパン屋で無料のパンの耳を貰ってきて、近くの中華料理屋さんの店舗外のダクトの下で漏れてくる匂いをオカズにパンの耳を貪るのも、そろそろ周囲の目も気になってきたしマズイかな。あとの生命線はスーパーの試食の備蓄ね……」ブツブツ

のあ「椎名法子ちゃんと大原みちるちゃんが出勤した時は事務所内で二人が余らせたパン系の食糧が手に入ると噂で聞いたけど、あれはデマだったし。あとは三村かな子ちゃんが作りすぎたお菓子をおすそ分けするという噂を信じて、人がいなくなったのを見計らってこっそり回収するのに今週は賭けるしかないかな……」ブツブツ

のあ「早くいいお婿さん見つけて、こんな貧乏生活とはおさらばしたい。というか入院したい、そうすれば栄養管理が徹底した三食昼寝付きの生活が確約されるわけだし、いっそどこかで転んで骨でも折れてしまえばいいのに。でも私って子供のころから体は頑丈でトラックに跳ねられても傷一つ無かった時は流石に周子ちゃんも引いてたなぁ」ブツブツ

のあ「はぁ……」

菜々「(────っ?!)」

のあ「あぁ、そう言えば菜々」ピラッ

菜々「ッ!? な、何ですかこのお金!?」

のあ「私があの店を通えなくした分、その期間の貴女の賃金よ。お詫びも込めて」

菜々「要りませんよ変な話聞かされて受け取りにくいですし!! ご自身で使ってくださいよ!?」

のあ「ヘ、変な話……、ァ、あぁ」

のあ「先程の独り言は、その……」

のあ「あらゆる未来を仮定した、いわゆる一つの可能性。空想でしかないわ。私は裕福」

菜々「そんな極貧を描いた空想を突然し始める貴女に今恐怖を感じているナナですけど、とりあえず本当に要りませんからお金は」

のあ「けれど、それでは………貴女の家族が激怒しないかしら」

菜々「や、やっぱりまだそう思ってたんですね!? な、ナナはネグレクトも受けてませんし、家族もちゃんとした普通の人ですから!!」

菜々「勘違いですっ! 一人暮らしで、お仕事もお金も自分の好きな風にしてますっ!! あの時、スーパーでナナが持っていたビールだって………!!」




【酒は自分で飲んだとは口が裂けても言えず、ネグレクトの誤解は解けぬままとりあえず購買のパンを奢って渡して猛ダッシュでその場を去った菜々だった】

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68 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:20:56.28 ID:JLsu4+2l0
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【スポーツジム】


のあ「ふっ、ふっ……」

のあ「ふっっ」

のあ「(よぅし、スクワット終了)」

のあ「………」

のあ「(貧乏人の傾向と笑われそうだけど、お金が無いからここ数か月はジムに入り浸っている)」

のあ「(お金の余裕は心の余裕。さしずめお金が無ければ心は荒む)」

のあ「(ならば、『健全なる精神は健全なる身体に宿る』の実践よ。確か長州力が言ってたわ)」

のあ「(月会費払っといて良かった)」

のあ「(………)」

のあ「(それにしても)」

のあ「(最初このジムに来た頃はお年寄りばかりだったけど、最近、若い人が増えたわね)」

のあ「(しかもみんなリア充っぽい。体を鍛えるのが流行ってるのかしらね……)」

のあ「(ホント苦手……。どこか違うジムに行ってくれないかな)」

のあ「………」カチャ

のあ「………」ゴクゴクゴク

のあ「(まあ良いわ。良いのよ、私の方が古参だし多分年上だし)」

のあ「(あまり関わらないようにして───)」





真奈美「ここは半年少し前に新しく出来たらしいんだが、なかなか充実したところだな」

真奈美「フィットネスというよりは、本格的に鍛えたい人向けの場所かもしれない」

美嘉「広ーっい! 良いね良いね★」





のあ「ンフッ」

のあ「げほっ!! げほ、げほッ!!!」

真奈美&美嘉「??」
69 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:22:03.03 ID:JLsu4+2l0

のあ「(なッ……)」

のあ「(何故!? 何故っ………私の安住の地にあの二人が!?)」

のあ「(む、無理! タイマンならまだしも、3人以上の会話とか絶対無理っ!)」

のあ「(き、気付かれないように帰る、帰らないと……!)」

真奈美「あっ」

美嘉「あっ!?」

のあ「ヒッ!」

美嘉「えーっと。初めまして、かな (うわっ、やばっ、初対面。色々と聞いてみよっかな)」

真奈美「やあ奇遇だね、のあ (向こうにあるダンベルブロック、あれは最新式のものか、是非使ってみたいな)」

のあ「………」

のあ「……予期せぬ巡り合いだわ」

真奈美「のあは、結構ここに通っているのかな? 私達は初めてでね」

のあ「ええ」

のあ「良い場所よ。純粋に肉体と向き合い、対話し研ぎ澄ますことが出来る」

のあ「貴女達も楽しめると思うわ」スッ

美嘉「(あれっ。もうどっか行っちゃった)」

美嘉「(ま、いっか。後で話す時間あるでしょ、周子達からも噂は聞いてるし)」

美嘉「てか、あーっ。イヤホン忘れたし、最悪ぅ……」

真奈美「それにしても今日は久しぶりのお誘いだね、美嘉。外のジムに行きたいなんて」

真奈美「最近はもっぱら事務所のジムを使っていただろう、パーソナルトレーナーも付けていたのに」

美嘉「うーん、確かに手軽なんだけどね、アタシってずっと同じ場所で続けられないっていうのかな?」

美嘉「要は刺激、たまーのリフレッシュみたいなカンジ♪ それに教えてくれるならやっぱり真奈美さんの方が上手ですしっ★」

真奈美「フフッ、その気にさせてくれるじゃないか。さっそくウォームアップから始めよう」






━━━━━━10分後━━━━━━


真奈美「最初はどうしようか? レッグプレスかバックエクステンションか」

美嘉「そーですね、最初ちょっと見て回りたい気もあるけど。あっ、真奈美さん?」

美嘉「高峯さん、しばらく帰ってこないけど、どこ行ったのかな?」

真奈美「ん? あぁ、彼女か?」

真奈美「彼女なら……」










真奈美「……帰ったんじゃないか?」

美嘉「ハァ!?」


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70 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:22:53.01 ID:JLsu4+2l0
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──────
【続 スポーツジム】


美嘉「マジで? い、意味不なんだけど……」

真奈美「恐らくな。彼女ならありえるという話だよ」

美嘉「いや、だって、え? フツーに考えてありえなくない?」

美嘉「真奈美さん、結構あの人と話とかしてるんですよね? さっきのカンジだと」

真奈美「うん。ほどほど、かな」

美嘉「でしょ? で、アタシ、初対面」

美嘉「同じ事務所のメンバーとたまたま会って、初対面の人もいたら」

美嘉「そこからトークしてバイブス上がってからのカフェ直行のアスリート飯って流れじゃん?」

美嘉「そう思いません? 真奈美さん?」

真奈美「大手町の?」

美嘉「幡ヶ谷! ヤバイ綺麗なカフェ出来たらしくて、終わったら行きましょうよ♪」

真奈美「ああ、是非とも。君のチョイスはハズレが無いからな」

美嘉「わーい♪」

美嘉「 じ ゃ な く て っ !」

真奈美「人それぞれ、という言葉で片付けてはダメかな。ジム通いもいい例だと思うよ?」

真奈美「誰にでも自分のペース、自分のメニューというものがある。彼女はストイックだから……」

美嘉「ならフツー、離れた場所でやればよくないですか??」

真奈美「(……不器用、とは言えないな)」

美嘉「(……てか、アタシSランクなんだけど。まさかまさか、なんとも思われて無いカンジ? マジありえない……)」

美嘉「(でもそれを言うと真奈美さんに調子乗ってると思われそう。絶対口には出せない)」

美嘉「ちょ、ちょっとロッカー探してきますっ」

真奈美「あ、あぁ」

真奈美「(寡黙なのあと、アグレッシブな美嘉。これは極端な組み合わせだ)」

真奈美「(手助けはナンセンスかな………どうするべきか)」






━━━━━━━━━━━━
【ロッカールーム前】


美嘉「(まだいるかな……、いや、きっといる! フツーは最低でもシャワー浴びて帰るよね?)」

美嘉「(……ていうかアタシ、少しムキになってる?)」

美嘉「(周子や奏が最近よくウワサしてたから、興味? 大型ルーキーと囁かれてるから、嫉妬? アタシのコーデを真似してたから、優越? 変なDMを送られたから、疑問?)」

美嘉「(お、落ち着いてSランク! アタシ!)」

美嘉「(これはそう、単純なコミュニケーション。気を遣う必要なんてない、何故ならアタシはSランクだから)」

美嘉「(アタシが振り回されるんじゃない。振り回すのが、トップアイドルの仕事だから)」
71 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:24:29.63 ID:JLsu4+2l0

━━━━━━━━━━━━
【ロッカールーム】

ガチャッ!!


「おっつー★ たかみ───」

『………っ!』

「───アッ……」

「ゴ、ごめんなさい、着替え中……」

「て、ゆ……、か……、か、から、だ……」

『……………』

「オ、オォ………ッッ」

『……………』

「え、えっとその……」

「あ、アタシ。城ヶ崎美嘉、Sランク……」

「よ、よろしくね……?」

『ええ』

『高峯のあ……、よ』

「あの、それで………」

「ケケ、けっこう……、その、体、き、鍛えていらっしゃるんですか……?」

『……そう。肉体は、魂の発露』

『磨き上げる事こそ、朧気な感情を深淵から呼び醒まし、私をヒトたらしめる』

「そ、その………チ、ちょっと、触っても………私、え、Sランクだし……」

『……エ、ええ……』

「じゃ、じゃあ………お、お邪魔シマス……」

「……………ォ、オオゥ……」

「ナ、ナカナカ、ソノ………ハ、ヘ、ヘェ……」

「……カ、カタチモ………ホ、ホホゥ……?」

「ア………アシ、アシモ………フ、ヒ、ヒエェ……」

『……………』

「あ、ど、どうも………。マ、ま、ままあ、まあ、まあまあね………私のほうが、ソノ、あの、………え、Sランクだし……」

「じゃあ、その、あのっ………、お、お疲れさまっ………!」


───バタン!!






━━━━━━1分後━━━━━━

真奈美「早かったな。彼女には会えたのか?」

美嘉「………………」

真奈美「……美嘉?」

美嘉「………………」

美嘉「……………………………え、Sランクで良かった……っ」

真奈美「美嘉、鼻血でてるぞ」

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72 :☆1/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:25:48.23 ID:JLsu4+2l0
──
────
──────
【イベント会場・駅前広場】


伊吹「あッ!」

伊吹「いたいた! お〜い奏〜」

奏「声が大きい、伊吹ちゃん」

奏「貴女との遊びに、別にスリルは求めていないのだけど………というか」

奏「また何か買ってる、それ」

伊吹「“チーズハットグ”だよ? JKなのにトレンドをご存じないので??」

奏「別に名前を聞いているワケじゃないの。よく食べるわね」

伊吹「ねえねえ! 写真撮って、ホラ、載せるから!」

奏「……貴女の方がよっぽど、今時のJKらしく感じるわ」パシャ

伊吹「あっ! 見て見て!」

伊吹「ぴにゃこら太のファースーツだよっ! ピンクのもいるし!!」

ぴにゃこら太『………』

奏「着ぐるみでしょう? こんな炎天下で大変ね」

伊吹「かなでかなでっ。写真撮って写真♪♪」ギュー

ぴにゃこら太『………』

奏「ちょ、ちょっと………もう、いきなり抱きついて……」

奏「中に入っているのが男の人だったらどうするのよ」パシャ

伊吹「だいじょーぶっ♪ あ、こっちのピンクのとも!」ギュー

奏「物怖じしないというか、色々とオープンというか………はい、撮ったわよ。ちゃんといつも通り3枚ずつ」

伊吹「ありがと♪ 奏も撮る?」

奏「いい。早くステージに行きましょう?」

伊吹「奏はも〜、そういうトコはウブというか乙女というか、ねー??」

奏「逆。貴女のような落ち着かない子と連れ立っていると、かえって平静なのよ」スタスタ

ぴにゃこら太『………』








━━━━━━10分後━━━━━━
【イベント会場・更衣室】


ばすっ

のあ「……ふぅ」

のあ「(着ぐるみのバイト……、あつい、熱い)」

のあ「(けれど)」

のあ「(………楽しい。楽しいっ、これが一番楽しいっ!)」
73 :☆2/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:26:46.35 ID:JLsu4+2l0

*「お疲れ様。高峯、のあさん」

のあ「……!」クルッ

のあ「(───ッ!?)」ビクッ

*「私と貴女に最後、写真をせがんだのは、あれは伊吹くんと奏くんかな? 逢瀬の所を覗き見るようで少し申し訳ない気分だが……」


ガチャッ

みく「おつかれにゃー!」

のあ「!」

*「あぁ、みく。お疲れ様、これで私もお役御免かな」

みく「あいさん! 本当にありがとう!」

みく「今まで代わりにシフト入って貰って。午後からはみくがバッチリ仕事するにゃ♪」

あい「いいや、気にしないで。急な予定だったんだろう?」

あい「こちらもなかなかに貴重な経験が出来たよ。また何かあったらいつでも頼って欲しい」

のあ「………」

みく「逢瀬って、誰が?」

あい「伊吹くんと奏くんだよ。いやなに、今日は奏くん、随分とマニッシュなコーデだったからね」

みく「土曜だし、観にきてる子もやっぱりいるんだね」

みく「あいさんあいさん、このピンクぴにゃの着ぐるみ、どう着るの? 難しそうにゃ」

あい「手間取るのはバッテリーの接続くらいで、至極簡単さ」

みく「あれっ? のあにゃん、ドコいくの?」

のあ「………」スッ
74 :☆3/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:27:56.20 ID:JLsu4+2l0

あい「さて。兼ねてというより、本命は川島さん達のライブを観に来たのだし」

あい「では私は御暇するよ。お疲れ様、みく」

みく「おっつにゃー♪ 本当にありがとう♪♪」






━━━━━━━━━━
【トイレ前】


あい「(さて、メイクも直したし)」

あい「(……ん?)」

のあ「……!!」

あい「あぁ、高峯さん。お疲れ様」

のあ「………」

あい「(……用を足しに来たのか)」

あい「(ずっと外にいたからな、おまけにこの暑さでかなり水分も摂っただろうし)」

あい「(ただ彼女、汗ひとつかいていない。無汗症? まさか。難病じゃあないか)」

あい「(体質か、珍しい。けれども彼女も人間だ、表面上問題無さそうでも、先ほど更衣室で無言で去ろうとしたのは私達に気を遣ってか)」

あい「私はもう出て行くよ。午後からも───」

のあ「……えっ」

あい「───ん?」

あい「ああ、いや………少しメイクを直しただけだから」

のあ「……メ、メイク?」

あい「う、うん……(圧力が凄いな)」

あい「(いや、圧力というよりはどことなく距離を感じる凄みだ。初対面だからか)」

のあ「……あの」

あい「うん?」





のあ「……えっと、ソノ、こ、ここ、女性用」

のあ「紳士用は、ム、向かいに………」

のあ「……っ、思慮が欠けていたわ。貴女の、いえ、貴男の心は………いいえ、ごめんなさい」スッ





───バタン

あい「…」

あい「(で、……出て行ってしまった)」

あい「(な、何だ今の痛恨の眼差しは………何故謝られる)」

あい「(何か強烈な思い違いをされているような……)」


──────
────
──
75 :☆1/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:28:47.82 ID:JLsu4+2l0
──
────
──────
【続 イベント会場・客席スペース】


奏「……」

伊吹「奏? どったの、さっきからスマホ睨んで」モグモグ

奏「!」

奏「う、うん………大丈夫よ」

伊吹「美波のツイート? なに、事務所内のカフェ?」

伊吹「自撮り写真だね。そう言えばあそこ、しばらく休業らしいけど」

伊吹「あれ? 後ろに小さく写ってる後姿の女の人、これって───」

伊吹「って、奏!? 拡大しすぎだから!! スマホちぎれるよ!?」

奏「ここ最近、美波は何なのかしら。勝ち誇っているつもり? 私には理解に苦しむわ」

伊吹「(でもしっかりと“いいね”と“リツイート”はするんだ)」

伊吹「そういえば、さっきあいさんに会ったなぁ」

奏「へぇ……」

伊吹「変装しているのに何ですぐアタシと分かったんですかって聞いたら、バイトでピンクぴにゃに入ってたんだってさー」

奏「はぁ……」

伊吹「あいさんもこういうイベント系のバイトするんだなぁ。かくいうアタシも客席埋めとかやったことあるけどね」

奏「そう……」

伊吹「あと、緑のぴにゃの着ぐるみは高峯さんがやってるんだって」


ガタッ!!

奏「あくして!!!!!!」

伊吹「なにが!?」
76 :☆2/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:29:31.07 ID:JLsu4+2l0

奏「はやくして!! はやくするの!!!」バシバシバシ!

伊吹「痛ェ!! ちょちょっ、ちょっと、たっ、叩かないでよ!!」

奏「私も緑のぴにゃこら太と写真が撮りたくなったの!!」

伊吹「いきなりどうしたの!? もうすぐ川島さん達のライブ始まるよ!?」

奏「まだ20分あるしココ入場料とか無いんだから大丈夫よ!!」

奏「というか伊吹ちゃんも何で抱き着いた時点で高峯さんって気付かないの!? 貴女パッションでしょう!?」

伊吹「はぁ?! ぱ、パッションがみんな握手しただけで相手の力量とかデータが分かる系の人種とかそういうのだと思ってるのなら大間違いだからね!?」

奏「伊吹ちゃん、お願い……っ」

伊吹「(ぐっ……)」

伊吹「(強引かと思ったら一転、子犬のように目を潤ませてせがんできて………なんとあざとい演技をするんだこの子)」

伊吹「わ、分かったから。大声出さないで」







━━━━━━10分後━━━━━━
【イベント会場・駅前広場】



ぴにゃこら太『ぴにゃ〜♪』



奏&伊吹「「 いたッ!! 」」

ぴにゃこら太『ぴにゃ?』

奏「伊吹ちゃん走って! そのチーズハットグとかもう捨てていいから!! どうせインスタ映え用でしょう!!!」

伊吹「これアタシのお金ですけど!?」

ぴにゃこら太『にゃ〜♪ ぴにゃ、ぴにゃ♪♪』

伊吹「と、とりあえずホラホラ! 写真撮りに来たんでしょ!」

奏「一眼レフは!?」

伊吹「ないよ!! スマホで我慢しなさい!!」
77 :☆3/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:30:43.08 ID:JLsu4+2l0

ぴにゃこら太『ぴにゃ?』

奏「ん〜〜……♪」

伊吹「アー、抱き着いちゃって。臆面も無く」

伊吹「欲しかった物をクリスマスに貰った子供みたい。こんな無邪気な奏は久しぶりに見たかも」

伊吹「あ、ごめんなさい。写真撮ってすぐ捌けますので」

伊吹「かなでー、写真撮るよ。もーほら早く、まわりが見てるからっ」

ぴにゃこら太『ぴっ、ピニャッ!?』ビクッ!

伊吹「……………」

ぴにゃこら太『ぴ、ぴにゃ! ピ、ピ……!?』ガタガタッ!

伊吹「……………ん??」

奏「フ、フフ……」スリスリ

奏「ちょ、ちょっとだけ………ね? あ、握手だけでも、ふ、フフフ♪」ゴソゴソ

伊吹「ちょッ!!!」

伊吹「なんで着ぐるみのファスナー開けようとしてるの!? 握手!? 直で!?」

奏「もう、限界なの………謎に私だけ高峯さんと直接的な絡みが少ないし、周囲からは自慢されるし………彼女のぬくもりが欲しいのよ、伊吹ちゃん、分かるでしょう?」

伊吹「ダメダメダメだって! ていうか何の事!?」

伊吹「おねがいだから正気に戻って!! 最近の奏、なんかおかしいよ!?」

奏「離して! 寂しさに押し潰されそうな儚い女の子が貴重な休日に、抑圧されたストレスを発散させようとする行為のどこに責められる謂れがあるの!?」

伊吹「休みにカラオケみたいなノリで言ってるけど、着ぐるみにセクハラしようとしてるただの変質者だからね!?」

ぴにゃこら太『ピ……、ちょっ、ちょっと………!』ガタッ!

奏&伊吹「 !! 」


ジーーッ









みく「か、奏チャン………伊吹チャン???」

奏&伊吹「……………………………………………」

みく「な、何ごとにゃ!? チャック無理矢理開けようとして………い、今お仕事中だからっ!」

伊吹「みく」

みく「ホラッ! あんまり開くと、お客さんに中身見られちゃうから」

奏「みく」

みく「えっ??」

奏「お疲れ様。喉乾いた………喉乾かない?」

奏「差し入れにドリンク持って来たの。はい」スッ

みく「わぁ♪ ありが………って、おしるこ!? この暑さで致命的なミスチョイス!?」

みく「ァアア゙ツツツッッ!! 何で肌に押し付けるにゃッ!?」

奏「あと、お腹も空いてるだろうと思って、コレ。チーズハットグ。トレンドよ」

みく「いやトレンドなのは知ってるけどドコに挿し込もうとしてるにゃ!!! アツッ、熱ッッ!!!!」

伊吹「…」


──────
────
──
78 :☆1/1 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:32:01.67 ID:JLsu4+2l0
──
────
──────
【幕間】


のあ「……みく」

みく「にゃ?」

のあ「ヒトの成長とは、能動的であり、変わろうとする意志によって齎されるもの」

みく「つまり?」

のあ「……前半は緑だったから、次はピンクの方を着てみたい」

のあ「(ピンクの方が可愛いし……、思いのほか人も寄っていた気がする)」

みく「にゃっ♪ りょーかい!」

みく「じゃあみくが緑のぴにゃこら太を着るね。ちょっとベルト付けるの手伝って欲しいにゃ」

のあ「ええ」


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79 :☆1/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:33:23.48 ID:JLsu4+2l0
──
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──────
【夜】


のあ「……」グウゥゥ

楓「今日も疲れました」

楓「長時間にわたって単純作業をしていると、やっぱり肩が凝りますね。ふぅ」

のあ「……(お腹空いた)」

楓「明日もバイトですし、早めに今日は帰りましょうか」

のあ「……そうね」

楓「あっ」

楓「今日はどうします? 寄っていきます?」

楓「ちょうどおなかも空いてますしね」

のあ「?」

のあ「……??」クルッ




【松屋】




のあ「グッ!?」

のあ「(こ、国辱の松屋!!)」

のあ「(心底入りたくない、でも楓さんのお誘いだし)」

のあ「…………」






━━━━━━━━━━━━━━
【松屋】


店員「いらっしゃいませー」

楓「フ、ふふ……。飲食店に堂々と入るなんて」ドキドキ

楓「私達もアイドルとしてけっこう成長しましたね。松屋なら券売機でお手軽ですし」ピッ

のあ「(まあ……、たしか財布に300円くらい残ってたかな)」ガサガサ

のあ「………」

のあ「………(あれっ。130円しかない)」

のあ「(ッッ!! し、しまった………バイト中に500mlペットを買ったんだったわ!!!)」

のあ「(あ、あぐっ……)」
80 :☆2/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:34:06.17 ID:JLsu4+2l0

のあ「(ど、どうしよう!)」オロオロ

のあ「(楓さんと金額を合わせて注文して……、いえ、もう彼女は発券してしまっている)」

のあ「(じゃあ前みたいにはんぶんこに……、ダメ。そんな卑しい乞食みたいな真似、プライドが許さない)」

のあ「(最終手段としては何も頼まず備え付けのドレッシングだけを……、無理だわ。人間として大切な何かが終わる気がする)」

のあ「(ぐ、くっ……!)」

のあ「(……………)」

楓「よっこいしょっ」

店員「食券をお預かりします。牛めし並おひとつと、冷奴ですね」

のあ「………」

店員「そちらのお客様? 食券をお持ちですか?」

楓「のあさん?」

のあ「………っ」





のあ「………ライス、ミニ盛りで」





楓「………」

店員「かしこまりました」スタスタ

のあ「………」

楓「………」

のあ「………」

楓「………」

のあ「ち」

のあ「違うの、楓。これは、誤解しないで欲しい」

のあ「食事制限の一環」

楓「の、のあさん。その滝のような汗は?」

のあ「発汗ダイエット」

楓「ア、あはは……」

のあ「フ、フヘ……」

店員「お待たせしました」

のあ&楓「!!」ビクッ

店員「まずこちら、牛めし並と冷奴のお客様はー……」

楓「っ、アー、んー?……ンー…………」

楓「……………………………………ワ、わたしです」

のあ「(死にたい)」
81 :☆3/3 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:35:01.17 ID:JLsu4+2l0

店員「こちらライス、ミニ盛りです」

楓「い、いやあ! ドレッシングが色々あるので、ライスにかけて味比べしても面白そうですね!」

楓「ドレッシング、どれっすん? なぁんて!」

のあ「(死にたい。今すぐ死にたい)」

のあ「(だから、だから嫌だったのよ松屋は……!)」

のあ「(これだから松屋は、この国辱は……! 何故こんな惨めな思いをしなければならないの!?)」

のあ「(たまたま知っていた裏メニューの知識が日の目を浴びたけれども、牛丼チェーンで白飯ミニ盛りを頼むアイドルなんて未だかつていたかしら?)」

のあ「(楓さんなんて上手い切り返しを必死に探そうとして、奥歯に肉のスジが引っかかって頑張っても舌で取れないような複雑な表情してるし)」

楓「………」

のあ「(あぁ、もう明日から楓さんの顔を見て話せない。いえ、そもそも人の顔や目を見るのは苦手だけれども)」

のあ「(うぐぅ、うぅぅ……)」

店員「大変申し訳ありません」

のあ&楓「ヒッ!?」ビクゥ!

店員「こちら、サービスの味噌汁になります。牛めし並をご注文の方」コトッ

楓「あ、ああ……。松屋って味噌汁付きますものね、忘れてました」






店員「ライスをご注文の方にも」

コトッ




のあ「えっ」

店員「ごゆっくりどうぞ」

のあ「あっ……」

のあ「い、いいんですか?」

店員「?」

のあ「そ、その、私、ライスだけなのに……」

店員「……サービスですから」

のあ「っ!!!」

のあ「………ご、ごめんなさい」

店員「ああ、いいえ。とんでもないです」

のあ「今まで松屋のこと、国辱呼ばわりして……」

店員「えっ?」

のあ「ネットでも色々とこき下ろして……、肉はセロハンみたいに薄いし、米はべちゃべちゃだし、客層はヤンキーが多いし、店員は融通利かないし、もう何か場末の掃き溜めみたいな地獄って思ってたの松屋。でも今日、こんなに思いやりのあるサービスに出会ってほんの少しイメージが変わった。ありがとう……本当に……」グスッ

店員「えっ? えっ?? あ、あの……??」オロオロ

楓「(………)」モグモグ


──────
────
──
82 :☆@ ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:36:02.03 ID:JLsu4+2l0
──
────
──────
【???】


のあ「………」

楓「………」

楓「……のあさん」

楓「この数週間、私達はせっせとお小遣い稼ぎに奔走しましたね」

のあ「………」

楓「デッサンモデルやモニター調査を初め、街頭リサーチ、グッズ袋詰め」

楓「他にも私、色々やりました。講演会のキャンセル分の客席埋め、ブログの校閲、バミったテープをひたすら剥がす作業」

楓「果てには、撮影で海外ロケに行くアイドルの飼っている犬のお世話とかもやりました」

楓「散歩中、フンの処理の仕方が分らなくて小一時間、皇居付近でスマホとにらめっこした時はもう焦りと恥ずかしさで気が狂いそうでした」

のあ「………」

楓「でもまさか、今日はそれ以上に……」

楓「フ、フヘヘッ……」プルプル

のあ「……楓」

のあ「今日のバイトを無事完遂したら、一献交わしましょう」

楓「うううっ、うう〜〜〜っ……!」

楓「今飲みましょうよぉ!! こんなの生殺しですよぉ……」

のあ「それは………出来ないわ」

のあ「確かに、豪奢な飾りのカクテルも、食欲を唆るサンドイッチも目の前にある」

のあ「けれど貴女は、そこに辿り着けない。何故なら……」

楓「だって! だって……!」

楓「ナイトプールがこんなにハイレベルなパリピの巣窟だと思わなかったんですよぉ!」

楓「今だって、のあさんと二人、物陰で縮こまってることしか出来ないですし……っ」

のあ「………」
83 :☆A ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:36:49.55 ID:JLsu4+2l0

楓「ナイトプールって、一昔前はもっとこう御淑やかなセレブが嗜むオトナの社交場みたいな感じでしたけど……、けどっ……」

楓「みんなキャピキャピのギャルで、なんか普通に18歳以下っぽい子供もいるし、みんな自撮り棒を振り回して……」

楓「というか、まさか男性もいるとは本当に予想外で、しかも私が最も苦手とするウェーイ系……。8割方はサングラスしてるし」

楓「その群れに飛び込むなんて、初期値で五丈原に出陣するようなもんですよ……!」

のあ「………」

楓「帰りたい………ちひろさん」グスッ

のあ「(……楓さん)」




〜〜〜〜〜〜回想〜〜〜〜〜〜


ちひろ『今回のお仕事は、ナイトプールの監視係です♪』

のあ&楓『 !! 』

楓『な、ナイトプールって、あれですか? 高級ホテルのプールで開催されている、その………よく分からないですけど』

ちひろ『はい♪ このお仕事はなかなか人気で、毎年すぐ他の事務所からも定員集まっちゃうんですよー♪ 今回は慰労会でもありますし♪』

ちひろ『お仕事内容は簡単です。個人撮影の補助、ごみの回収、飛び込みの注意……、とか色々ですね』

ちひろ『終わった後は、少しならプールで遊んでいいみたいですし♪』

楓『本当ですか!? や、やりましょうのあさん!』

のあ『貴女と二人なら、良いわ』

楓『わーい♪ ああいうラグジュアリーなプール、一度行ってみたかったんですよっ♪♪』

楓『(息抜きできそうですね、それにお金も稼げるなんて♪)』

のあ『(ええ。一石二鳥)』

ちひろ『あっ、一応はスタッフ用のラッシュパーカーは用意されるみたいですけど、水着は自前らしいので、事務所で貸しますよ。このあと見てきます??』


〜〜〜〜〜〜回想終わり〜〜〜〜〜〜




のあ「(………)」

のあ「(楓さん、泣いてる。こんなリア充空間とは、きっと予想していなかったのね)」

のあ「(私も噂には聞いていたけど実際目の前にしたら嘔吐しそうだったし)」
84 :☆B ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:37:39.41 ID:JLsu4+2l0

━━━━━━━━━━━━━━
【ナイトプール 監視台】


のあ「(……結局)」

のあ「(楓さんを落ち着かせて、私だけでもバイトに戻ることにした)」

のあ「(思えば、私もだいぶこういう場所に慣れたなぁ。東京に来た時は、一人で服も買えなかったのに)」

のあ「(………)」キョロキョロ

のあ「(き、気のせいかしら。同じバイトの子達………普通に遊んでる気がするけど)」

のあ「(まあ、私も私でちょっとドリンクを失敬してきたのだけれど。でも監視員はみんな飲んでるし良いよね?)」

のあ「(……?)」

のあ「(あれは………一ノ瀬志希ちゃんと、この前に大学の学食で会った子……、いいえ、人違いかな)」

のあ「(………)」

のあ「(陽キャやパリピ達が半裸でカクテル片手に自撮してる。この監視台の下には、私には一生縁が無いであろう世界が広がっているわ)」

のあ「(しかもなにアレ、DJ? こんな湿気多い場所で音響機器って壊れないのかしら)」

のあ「(ハァ……)」

のあ「(別に騒ぎを起こす人もいないし、このまま黙って過ごそう)」

のあ「(………)」チュー

のあ「(美味しい。よく分からないオレンジのドリンクだけど、後でもう一本貰ってこよ)」

のあ「(………………………)」チュー






美嘉「ちょっ……、ねえヤメてってば」

男「ねー、いいじゃんいいじゃん♪ ちょっと付き合ってよー」

美嘉「酔ってる? ホント有り得ないんだけど」






のあ「ンフッ」

のあ「げほっ!! げほ、げほッ!!!」
85 :☆C ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:38:53.18 ID:JLsu4+2l0

のあ「(ア………あれはナニ!?)」

のあ「(じ、城ヶ崎美嘉ちゃん!? なんでこんな場所に………、いや、こんな場所だからの可能性はあるわね)」

のあ「(人違い、ではなさそうね。というよりも)」





のあ「(ち、チンピラに絡まれてる!?)」





のあ「(じ、時代錯誤過ぎない? 何かの撮影?)」キョロキョロ

のあ「(いや、そんな雰囲気は無い。じゃあ多分あれは……)」

のあ「(きっとエスコート! リア充や陽キャでいうところの、ちょっとガツガツした肉食系の誘い方だわ!)」

のあ「(ハー、納得。青春ね青春)」グビッ






美嘉「ちょっとウザいっ! ねえ人呼ぶよー?」

男「おーこわ! 怒った顔もカワイイねー♪♪」






のあ「(………………………)」

のあ「(かっ………会議ッ! 会議ッ!)」

のあ「(秘技・のあ会議を……!)」


【☆ のあ会議】
【高峯のあの頭の中に住む数人の高峯のあ達が、色々な意見やちょっとした小話などを言い合う状態。フィナーレには高峯のあ達による牛丼早食い大会等が行われる(らしい)】
86 :☆D ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:40:10.16 ID:JLsu4+2l0

〜〜〜〜〜〜脳内〜〜〜〜〜〜


俯瞰的のあ「これより第348回、のあ会議を始めたいと思います」

俯瞰的のあ「今回の議題は“城ヶ崎美嘉ちゃんの救出について”」

俯瞰的のあ「今回も有意義な時間となるよう、皆さんには建設的な意見をお願いします」

楽観的のあ「助けに行きましょうっ!」

楽観的のあ「事務所の一員でもある彼女に、颯爽とデキる大人であるところを見せ付けてポイントアップ!」

感情的のあ「そうね。少し退屈していたし、刺激が欲しいわ」

感情的のあ「あと、俯瞰的のあ。アイス取って」

中立的のあ「楽観的のあと感情的のあは賛成ね? まあ監視員としての大義名分で接触も容易だし」

中立的のあ「更には立場を利用して救出も容易でしょう。もし『本当にチンピラに絡まれている』のだったら、ね」

感情的のあ「どういうこと?」

中立的のあ「状況を整理したいわ。何かが引っかかる」

中立的のあ「まずSランクアイドルである彼女が、プロデューサーや関係者を周りに置かないで、都内近郊とは言えこんな場末のイベントスポットに遊びにくるかしら?」

俯瞰的のあ「些か不用心すぎると?」

楽観的のあ「でも、彼女のようなギャルはもうナイトプールが生息地みたいなものだし……?」

感情的のあ「確かに! ナイトプールと言えばナントカ映え! ナントカ映えと言えばギャル!」

俯瞰的のあ「それに、先ほど一ノ瀬志希ちゃんとあともう一人の女の子も見かけました。似ているだけかもしれないですが」

中立的のあ「なるほど。仲良しで遊びに来ているだけの線は強い、と。ただ、何かを忘れているような……」

批判的のあ「で、でも……」

俯瞰的のあ「批判的のあ。貴女の意見を伺いましょう」

87 :☆E ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:41:13.54 ID:JLsu4+2l0

批判的のあ「し、正直今回は静観しても問題ないのではないかしら」

批判的のあ「美嘉ちゃんはSランク。私達が思いも及ばない修羅場を潜り抜けているだろうし、処世術も身に付けているハズ」

批判的のあ「それに………そんなドタバタを快刀乱麻と一人で解決できるほど、私の技量は高くないわ……」

楽観的のあ「大丈夫よ! 通信空手と通信ムエタイを修了してるし!」

批判的のあ「そ、それは騒ぎを大きくするだけなんじゃ……」

感情的のあ「多少お酒も入っている輩だしね。手荒に場を収めることになるのも致し方ないのではないのかしら」

俯瞰的のあ「ふむふむ………では、創造的のあ。貴女はどう思いますか?」

創造的のあ「ええ」

創造的のあ「まず楽観的私も感情的私も、落ち着いて」

創造的のあ「俯瞰的私。二人に私から一杯」

俯瞰的のあ「承ります」

創造的のあ「まず、チンピラ相手だからこちらも荒事で収めようとする考えが、頂けないわ」

創造的のあ「相手と同じ土俵に上がるのはスマートじゃない。もっと多角的な視点から考えて」

創造的のあ「そもそも、美嘉ちゃんを助けに行くのは私でなくともいい。周りのバイトの人や、責任者を呼んで一緒に行けば良い」

中立的のあ「なるほど。それなら楽観的・感情的のあが意見した監視員と年上としての面目躍如も果たされるし、批判的のあが懸念したアウトローで分不相応の単独行動を起こさなくても済む」

批判的のあ「そ、それなら……、まあ……」

楽観的のあ「とにかく、美嘉ちゃんが助かるならそれでいいわ」

俯瞰的のあ「よし。では結論は出ましたね」

理想的のあ「……あまいわ」

俯瞰的のあ「……理想的のあ。既にこの議題は終着が見えています」

感情的のあ「早く牛丼も食べたいしね?」

俯瞰的のあ「意見があるのならば、端的に。そしてそれが創造的のあより正解に近い意見でなければ棄却します」

理想的のあ「正解? 正解とは私の意見に他ならない」

理想的のあ「私は高峯のあの理想形。私がなりたい私。つまり───」

理想的のあ「───高峯のあ、そのものよ」

中立的のあ「(まあ最終的にたいていは批判的のあか創造的のあの意見で会議は決着するのだけれどもね?)」

俯瞰的のあ「(あくまで理想は理想)」

批判的のあ「(だ、だけど………たまに理想的のあの意見が通る時もあるから油断はできないわ……)」
88 :☆F ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:42:20.16 ID:JLsu4+2l0

理想的のあ「自分を信じるのよ。高峯のあ」

理想的のあ「現状に甘えるのではなく、自分の殻を打ち破るの。城ヶ崎美嘉が助けを求めているのならば、彼女のもとに真っ先に向かう以外選択肢はないわ」

創造的のあ「理想的私? だから、円満に解決する意見を私が述べたわ」

創造的のあ「事を荒立てなくても、スマートなデキる大人の対応をね。第一、彼女のもとに向かったとして何をするの?」

理想的のあ「“デキる大人”……、そう。私は常々、この言葉を口にしていた」

理想的のあ「確かに貴女の意見は正解に近い。けれども、それは本心ではない」

理想的のあ「本心ではなく自分をごまかす……、それは妥協案というのよ」

創造的のあ「くっ!」

理想的のあ「確かに私はアイドル活動の一環として、慣れないスポーツジムに通いつめ体を鍛えていた」

理想的のあ「でも、本当にそれだけが目的だったかしら」

理想的のあ「通信空手と通信ムエタイをマスターしたのも、酔拳をテープが焼切れるまで鑑賞したのも、KOFをやり込んだのも……」

理想的のあ「心のどこかで、こういうシチュエーションを望んでいたのではないかしら」

楽観的のあ「そう、そうだわっ!」

感情的のあ「カッコよく決めてあげましょう! Sランクアイドル城ヶ崎美嘉の目の前で!」

理想的のあ「Gランクアイドル高峯のあ、ここにあり!」

批判的のあ「ひ、ひえぇ……!」

中立的のあ「けれども、そんな騒ぎを起こしたら美嘉ちゃんの顔にも泥を塗ることになるんじゃないかしら。勿論、私も」

中立的のあ「俯瞰的のあ。どう思う?」

俯瞰的のあ「………」

俯瞰的のあ「先ほどのオレンジのドリンクは……」

中立的のあ「……はい?」

俯瞰的のあ「スクリュードライバーというウォッカのカクテルらしいです……」

批判的のあ「よ、よよ、酔ってる………俯瞰的のあがっ……!」

俯瞰的のあ「まあ………ね? 喧嘩とかしなくても、ちょっと腕引き離して啖呵を切るくらい………なら、ね?」

俯瞰的のあ「それほど………オオゴトにはなりませんよね?」

理想的のあ「俯瞰的のあ! さあ、意志決定を!」

俯瞰的のあ「決定!! 理想的のあの意見を採用します!!!」

俯瞰的のあ「ただし、なるべく暴力は控え、城ヶ崎美嘉の救出に務める事!これにて第716回のあ会議を修了します!!」




〜〜〜〜〜〜会議終了〜〜〜〜〜〜
【ここまで0.1秒】


のあ「……っ!」

のあ「(美嘉ちゃん、今助けに行くわっ!)」ドキドキ




ゴッ!!




男H「痛ッ………、ウッ!!」

のあ「ッ!!」
89 :☆G ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:43:11.25 ID:JLsu4+2l0

男H「ゴホッ! ゲホッ!!」

のあ「アッ」

男S「だいじょーぶ?」

男T「オイ」

のあ「ヒッ!?」

男T「あんた、ぶつかっておいて謝罪も無しか?」

男H「ぶつかったというか、モロに肘打ちだったけどね」

のあ「ァ………ゴ、ゴメ…」

男S「いやいやー、まあ貸切と言っても、これだけ人がいたらぶつかるのもしょーがないと思うよ?」

男T「甘えって。だってよ、コイツ悪びれても無さそうな無表情だし」

のあ「」

男H「ヴッ゙、げほっ! うぐっ……!!」

男T「お………、おい。ほ、本当に大丈夫か?」

のあ「」






のあ「(…………………………)」

のあ「(……………………エッ)」

のあ「(こ、これ………………)」

のあ「(わ、私………チンピラに絡まれてる………????)」

男T「オイ、無視かよ」

男S「もう! 突っかかりすぎだって!」

のあ「」













美嘉「あれっ?」

美嘉「えっ、高峯さん? なんで?」

のあ「 !? 」
90 : ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:45:02.33 ID:JLsu4+2l0
※訂正>>89

●誤
男H「ぶつかったというか、モロに肘打ちだったけどね」

○正
男S「ぶつかったというか、モロに肘打ちだったけどね」
91 :☆H ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:46:11.03 ID:JLsu4+2l0

のあ「ァッ、………そ、ソノ……」

男H「ぐっ………」

のあ「ス、すみません……」

男H「い、いいえ、こちらこそ申し訳ない……」

男H「俺も前方不注意でした。むしろ貴女に怪我が無くて良かった」

美嘉「どゆこと? お互い謝って、何かあった?」

男S「美嘉さん聞いてー! 冬馬くんったら、チンピラみたいに絡んじゃってさー?」

男T「だっ! 誰がチンピラだよ!!」

美嘉「あははっ、冬馬くんは眼光鋭いからよく小さい子からも怖がられるしねえ」

のあ「(!? ……!!?)」

男T「だってよ、北斗がすげーリアクションするからヤバイと思ったんだよ」

男S「いーけないんだ冬馬くん、人のせいにしたらー?」

男T「うるせェ翔太! それより、そっちも絡まれてなかったか、美嘉?」

美嘉「え? アー、さっきの?」

美嘉「ぜーんぜん? 酔っ払った芸人さんがフザケてただけだし」

のあ「(ッ!? っ……!???)」

美嘉「相方さんが回収してくれたから、今頃はホテル戻ったんじゃないかなー?」

男H「雰囲気にのまれて女性に茶々を入れるのは感心しないね。慰労会とは言え、羽目を外しすぎるのも如何なものかと……」

男S「あっ、そう言えばさっきお疲れパーティで志希さんとフレデリカさんを見かけたけど?」

男T「出演者じゃねえだろ。なんでいるんだよ」

男H「冬馬、どんなに小さな仕事でも共にした女性を覚えておくのは好かれる男の基本スキルだよ」

美嘉「エキストラでちょい役だったけど、ね? アタシに免じて★」

美嘉「あっ、そうだ!」

美嘉「た、高峯さん? ………ってアレ」

男S「さっきまで後ろにいたのにね? どっかいっちゃった」

男H「いつの間に……」

男T「美嘉、さっきの奴、知り合いか?」

美嘉「え? う、うん………知り合いって言うか、その……」

男H「同じ事務所の『高峯のあ』さん、だよね?」

美嘉「え! し、知ってるの北斗さん?」
92 :☆I ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:47:08.74 ID:JLsu4+2l0

男H「美嘉ちゃんの事務所はこの業界でも最大手の規模だからね。身内でも知らないのも無理はないのかな」

男H「Gランクだけど、ごくごく一部では有名だよ。容姿も歌声も、ライブパフォーマンスも」

男S「あっ! あの首吊りの!」

男T「あぁ……。いたな、そんなの」

美嘉「へ、へえー……(知らない)」

男H「近くで見たときは、息をのむほどに綺麗な方だった」

男T「本当に息が止まりそうだったけどな、北斗」

男H「いやぁ、ハハハ。結構いい肘打ちだったよ、みぞおちに深く沈んで」

男S「けど、なんでここに居たのかなぁ?」

男T「察しろよ。Gランクならバイトだろ?」

男H「そこの監視台から降りて来たしね」

美嘉「ううん、多分……」

男S「なに?」

美嘉「コーデのマネといい、あのDMといい、ジムでもこのプールでも先回りして………きっと……」

美嘉「アタシのファン……」

男T「は?」

美嘉「そうだったんだ……」

男H「み、美嘉ちゃん?」

美嘉「あんな綺麗な人が……」

男S「(うわー………ニヤニヤを隠しきれてない)」




















━━━━━━一方その頃━━━━━━


─────はい♪ このお仕事はなかなか人気で、毎年すぐ他の事務所からも定員集まっちゃうんですよー♪ 今回は慰労会でもありますし♪─────


のあ「…」

楓「のあさん………私達には無理だったんですよ、このバイトは」

のあ「…」

フレデリカ「なんだろなんだろ、高峯さんと楓さんは何でうずくまってるんだろ??」

志希「あれだよ、仁奈ちゃんで言うところの『道端の石ころの気持ちになるですよ』ってやつですな」

志希「まあ無機物だけどね」

フレデリカ「有機物に例えますと??」

志希「『狂犬病予防注射に連れていかれる事を悟って絶望するポメラニアン』かな?」

フレデリカ「大丈夫だよ、二人とも! 今年のインフルエンザは対象年齢割引だから!!」
93 :☆J ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:47:59.37 ID:JLsu4+2l0

━━━━━━後日━━━━━━
【事務所】


奏「………」プルプル

周子「………?」

奏「こ、これは………一体何事なの………」プルプル

奏「何故………あの二人が……っ」プルプル

周子「どしたん?」

奏「し、周子………これ………」

周子「フレちゃんのインスタ? この前、美嘉ちゃんにおよばれしたナイトプールのやつだね」

奏「ふ、フレちゃんと志希が………何故………」

周子「あたしも行きたかったなー。わあ、二人とも盛れてるねー」

周子「……………お、おっ?」

周子「……………………………」

周子「ふ、二人とも、たのしそーだね?」

奏「違うっ! 何故あの二人が、その………ッ!!」

奏「たっ、高峯さんと!!」

奏「一緒に写真を撮っているのよ!?」

周子「(……アカン、これは良くない)」

周子「落ち着いて奏ちゃん。きっと偶然だよ」

周子「のあさんの隣。楓さんもいるし、きっと───」



───ガチャ


フレデリカ「おっすおっすばっちし☆☆」

志希「おっつにゃーん♪」

美嘉「おっつー★」

奏「」ピキッ

周子「(伊吹ちゃん助けて)」
94 :☆K ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:49:02.97 ID:JLsu4+2l0

奏「ふ、二人とも。な………なんなのこの写真」

志希「ウン? 昨日の?」

フレデリカ「んふふ、けっこう盛れてるでしょ〜♪」

周子「ねー」

美嘉「(………!!)」

志希「けれどやっぱり大人の色香には敵いませんなぁ」

フレデリカ「ねー? 楓さん? は、本当にキレイで脚まですらーっとしてるし、高峯さん? は本当にお肌白くてスタイル抜群で」

フレデリカ「あのパーカー脱いでもらうのには苦労したよ?」

志希「ま、志希さんのケミカル話術で即効だけどね♪」

奏「グ、グギ……ッ」ギギギ

周子「(奏ちゃんから奇怪な軋む音が)」

フレデリカ「奏ちゃんもシューコちゃんもこれば良かったのに、用事があるなんでバッドタイミング〜」

志希「たまたま居合わせたバイト中の高峯さんと楓さん、そしてあたしとフレちゃんのナイトプール無料エンジョイ勢とのフォアショット」

美嘉「へ、へえぇ〜。高峯さんと楓さん、来てたんだ?」

志希「わぁお! バズってるバズってる、コメントもスゴイ!」

奏「消して!! 気高い彼女をこんな蠅が群がる衆目に晒さないでっ!!」

志希「にゃ、にゃはは! く、くすぐったいくすぐったい!!」

志希「ひひっ……、いやーでも、その高峯さんって人、なかなか興味深いね♪」

周子「ん? なんかあったの?」

志希「前にあたしの調査に付き合って貰った時、興味本位で抱き着いてハスハスした───」

志希「───んでい痛い痛い!!!! 奏ちゃんそれはダメそこの脇腹は抓ったらちょっと呼吸器官半壊胃袋全摘しちゃうからダメダメ痛痛痛いいだだだだだだっっ!!!!!!!!」

フレデリカ「ブレイク!! ブレイクブレイク!!!」

周子「でも美嘉ちゃんはその時いなかったの?」

美嘉「うん? え、えっと」

美嘉「まあ、アタシは挨拶回りとか忙しかったし?」

周子「もともとはドラマ撮影の打ち上げだしねえ」

美嘉「それに……」

美嘉「前も言ったけど、その高峯さん? って人にあんま興味ないしね」

奏「……」ピクッ

周子「」
95 :☆L ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:49:56.97 ID:JLsu4+2l0

美嘉「あの『寡黙の女王』でしょ?」

周子「ま、まあ、ね? き、興味が無いなら仕方ないよね? ね、奏ちゃん?」

奏「……」

美嘉「銀髪で無表情で不思議なオーラがあって……」

美嘉「24歳、独身。住まいは都内のアパート、隣部屋には高垣楓さん、岡崎泰葉さんが偶然にも入居中」

美嘉「入社したのは約9ヶ月前。街中で事務所のプロデューサーにスカウトされ現在に至る。もともと歌唱・運動能力などの基本的な技能はかなり高水準であり上達も早く、あの『マスタートレーナー』青木麗さんも太鼓判を押すほど」

美嘉「最初の仕事は秋コーデの特集誌。そこで初めて寡黙の女王という呼称が使用される。事務所では美波ちゃんや美優さんや真奈美さんが接触し、彼女らも少しずつ親睦を図ろうとするが打ち解けるまでには至らず、孤高の女王は、いつしか事務所で孤独の存在に」

美嘉「しかし、みくちゃんやアーニャちゃんとの共演を皮切りに、少しずつ仕事も増えCDデビューにまで至り、LIVEバトルでもあのロック・ザ・ビートと肉薄する演技を披露する。類は友を呼ぶ如く、『神秘の女神』高垣楓さんと邂逅し昵懇の間柄かの様子が確認される」

美嘉「感情の読み取りにくい美貌と、鮮やかな銀の髪をなびかせる、類まれなる容姿の持ち主。その端麗な容姿を活かして広告媒体・雑誌モデルでの仕事を中心に、いわゆるモデルアイドル方面での活動を行う人物」

美嘉「悠然として、その刺すように冷たい視線はやはり寡黙の女王の通り名に恥じぬ気品と凄味があって、でも時折覗かせる悲しい表情はどこか慈愛を漂わせ私達の心を擽りつつ優しく包むような印象を思わせる」

周子「(───!?)」

美嘉「……そんな寡黙の女王が、ね? まあSランクであるアタシに心惹かれちゃうのも仕方ないよね〜★」

美嘉「いやさ、アタシは興味ないよ? けっこういい腹筋してたし脚も締まってたし胸も柔らかかったし、めちゃ美人だけどね?」

美嘉「ホント興味ないんだけど、でも、その、ね? 向こうが友達になりたいって言ってるし? コーデもお弁当もパクってるし、きっとツイッターもインスタもガン見に違いないんだと思うし?」

美嘉「この間、りり、莉嘉も確かサイン欲しいって言ってたっぽい気がしないでもないでもないし、確かに美人で後光も差してるカンジでこりゃ女が惚れても仕方ないなって思けど、まあアタシの方がランク高いし?」

美嘉「カリスマギャルからしたら寡黙の女王なんて吹けば飛ぶようなアレだけど、ね、その………、向こうが友達になりたいっていうんだから仕方ないからなってあげても………てかアタシまだ本人と碌に会話してないケド」

美嘉「いや、それは向こうがSランクのアタシにきっと緊張してるからしょうがないよね。断じてアタシが緊張してるわけじゃなくて、そもそも向こうが友達になりたいってDM送ってきたんだし、『まずは』お友達からって………致し方ないよね?」

美嘉「要するに、アタシは全く興味ないんだけどね!」

美嘉「───って!?」

周子「うわっ! 奏ちゃん!?」

フレデリカ「さあ始まりました! 第一回キャットファイトinプロダクション、解説は志希先生をお呼びしております」

志希「速水選手、猫というよりも野獣のように組みつきましたねー。城ヶ崎選手、早くも防戦一方の様相を呈して来ました」

志希「キレている、キレている速水選手。その怒りの矛先は明らかに城ヶ崎選手に向けられていますが、その原因は全く分かりません」

フレデリカ「きっと女の子の日なのでしょう」
96 :☆M ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:53:44.94 ID:JLsu4+2l0

───ガチャ


伊吹「お疲れさまー。奏いるー?」

周子「あっ」

伊吹「………エッ!?」ビクッ!

奏「うわあぁぁぁん!!」

奏「ママ!! ママぁ!!!」ガシッ!

フレデリカ「おおっーと! ここで速水奏、飛び入りの小松選手に十八番ベアハッグーーーー!!」

志希「これは強烈ゥ〜!」

伊吹「痛だだだだだッッ!! なにコレ!!?」ギュウウウゥゥ!!

周子「また例の奇病だよ、伊吹ちゃん」

美嘉「ぜぇっ、ぜえっ……!」

奏「いじめたっ、美嘉ねぇが! かなでのこといじめたの……!」

美嘉「み、美嘉ねぇ? ママ?」

伊吹「ごめんね美嘉? 最近の奏、忙しいのか分からないけど、たまにこうやって幼児退行するんだ」

奏「たすけてママぁ……! ひっぐ……!」

美嘉「た、大変だね………伊吹ちゃん」

志希「ちなみに退行とは、精神が危機的状況に陥った際、そのストレスを軽減しようとする防衛機制の一種であるのだ!」

フレデリカ「かなでちゃん、かなでちゃん! 美嘉ちゃんが美嘉ねぇならあたしはあたしは???」

周子「もうみんな、テキトーに好きな事言えばいいと思ってるよね」

奏「うぅっ……、ふ、フレデリカ屋さん……」

フレデリカ「オッケー☆ じゃあ今日はかなでちゃんにフレデリカ屋さんがお菓子をあげよう♪」ナデナデ

周子「フレちゃん適応早いな」

志希「ねーねーかなでちゃん? あたしは何?? 志希先生かな?」

奏「ぐすっ……、わ……」

志希「わ?」

奏「わんわん……」

志希「これは予想外! 人間ですらないっ!!個人的には猫の方が良かったけど、まあいっかー♪」

周子「ちなみに奏………いや、かなでちゃん? シューコちゃんは??」

奏「………」















奏「………………てき」

周子「なんでやねん」
97 :☆N ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:54:26.80 ID:JLsu4+2l0

━━━━━━夜━━━━━━
【ファミレス】



のあ「………」モグモグ

泰葉「バイトかぁ……」

泰葉「……へえ」

楓「なっ!?」

楓「なんですかその淡白な反応!! 本当に激動の毎日だったんですよ!?」

楓「吐きそうになるまでラーメン食べ続けさせられたり! 椅子に座って8時間延々とカウンターをカチカチしたり! リア充パリピの巣窟に放り込まれたり!!」

時子「………」モグモグ

泰葉「い、いえ、だって私バイト経験無いですし」

楓「ふーんだ。泰葉ちゃんはまだお子ちゃまですからね、これから私達の苦労が分りますよーだ」

泰葉「まあ………私は、そういう家柄でしたし」

楓「(あっ)」

時子「ねえ。ドリンクバー」

楓「はっ?」

時子「取りに行きたいの。案内しなさい、ホラそこの」スッ

楓「あっ、は、ハイハイ。ドリンクバーですね」ガタッ

のあ「………」モグモグ

泰葉「……相当お疲れだったみたいですね?」

のあ「………」ゴクン

のあ「………貴女もね」

泰葉「いえいえ」

泰葉「撮影地の振興組合の肝いりで、ちょっと高い旅館を用意して貰いまして」

泰葉「景色が最高の部屋でした。あとでライン、送りますね」

泰葉「映画撮影も前乗り含めて10日で終わりましたし。学園ものですけど、こういうのって本当にスケジュールが早くて助かりますよ」

のあ「憧れるわ、泰葉。貴女に」

のあ「色々な経験が出来て……」

泰葉「いえいえ、私なんて子役のネームバリューでやってるものですから」

のあ「旅館……」

泰葉「あ、あぁ。ソッチですか」

泰葉「もう少し頑張ったら、色々な土地に行けますよ。高峯さんも、北海道、前に行ったんですよね?」

のあ「ビジネスホテルだったわ」

泰葉「(高いトコに泊まりたいのかな……」
98 :☆O ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:55:48.40 ID:JLsu4+2l0

のあ「ふぅ」

のあ「久々に、人らしい食事をした」

泰葉「本当に大変だったんですね」

泰葉「で」

泰葉「どうなったんですか? アレは」

のあ「アレ?」

泰葉「家賃滞納の件ですよ。資金繰りのバイトだったんでしょう?」

のあ「言うも更なり。この通り、家賃1か月」

のあ「余剰分は荒野行動に課金したわ」

泰葉「も、もっとマトモな使い道しましょうよ。将来に備えたり、美味しい物を食べに行ったり……」

泰葉「あっ、それこそ旅行とか!」

のあ「宵越しの銭は持たないわ」

のあ「渇望する力とは、何かに打ちひしがれ絶望したり、極限の窮地に追いやられた時にひときわ眩く光る物」

のあ「闇が強ければ光もまた。人間の向上力とその衝動は、消える間際に轟々と煌めく炎の如く」

泰葉「……高峯さん、多分、学校の宿題は最終日に慌ててまとめてやるタイプでしょう?」

のあ「チ、違うわ……」

泰葉「(計画的な性格とは思えないなぁ)」

のあ「……さて、私は失礼するわ」

泰葉「あれ? 用事でもあるんですか?」

のあ「家賃の支払い期日、それが今日。会計は私が済ませておくわ、お釣りは取っておきなさい」

泰葉「い、いいですよそういう見栄は。お金の事はキッチリしましょうよ」

のあ「……じゃあ、また」

泰葉「はい。お疲れさまでした」

時子「なに、アレ。食い逃げ?」

泰葉「おかえりなさい。高峯さんは用事があるらしいです」
99 :☆P ◆AL0FHjcNlc [saga]:2019/12/05(木) 00:57:04.26 ID:JLsu4+2l0

楓「あ、あの………泰葉ちゃん。さっきはごめんなさい、無神経な発言をしてしまって」

泰葉「や、やめてくださいよ! 謝られると、なんか私が不憫だと思われるじゃないですか!」

泰葉「それより、今度いつか旅行とか行きたくありませんか?」

時子「何よ藪から棒に。海外かしら」

泰葉「い、いえもちろん国内ですけど。なんか、この4人で骨休めに行くのも悪くは無いなってちょっと思っただけです」

時子「まあ、ないでしょうけど。気が向いたら考えてやらなくもないわ」

楓「良いですね♪ 沖縄と、北海道に行ってみたいです!」

泰葉「あぁ、良いですね! 沖縄なら美ら海水族館、北海道なら小樽とか……!」










━━━━━2時間後━━━━━
【岡崎宅】


泰葉「………旅行かぁ」

泰葉「いつも撮影ばかりだったし、ゆっくり観光とか今までしたことなかったかも」

泰葉「でも時子さんはさておき、あの二人は迷子になりそう………いや、絶対なる。それで前みたいに私の事をアナウンスで……」

泰葉「あはは……」


ppppppp……!!

泰葉「!」

泰葉「高峯さんから電話? なんだろ」

泰葉「もしもし?」

 『モ、もしもし………、ヤやや、泰葉ちゃんっ……』

泰葉「(うわっ。すごい狼狽して声震えてる)」

泰葉「ど、どうしました? 支払は終わったんですか?」

 『ソ、その、あの………お、お金が……』

泰葉「えっ?」

 『いい、1か月分じゃ、じゃなくて、その、チ、違ったの……!』

 『ど、どうしよ……、その、た、足りなくて………っ!』

泰葉「………………」

泰葉「(旅行は………無理だなぁ)」




おわり
──────
────
──
100 : ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2019/12/05(木) 01:01:19.54 ID:JLsu4+2l0
これにて第6作・番外編A、終了です。

本当にお待たせしてました。帰ってきました。
近々、某所では既にあげている、この続きの第7作を追記修正込みで投下予定です。

また目にする機会があればどうぞよろしくお願いします
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/05(木) 01:33:37.86 ID:6nrrOIXa0
生きとったんかワレ!(乙です
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/05(木) 12:16:56.42 ID:SSOh4RGhO
待っていたぞ乙!
カリスマも高峯面に堕ちてしまったか
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/06(金) 18:17:54.90 ID:hV0hjs+a0
来とるやんけ!
今回も面白かった
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/07(土) 12:00:53.46 ID:91PTSwid0
この続きってのはpixivにある貴音会合編かな?
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/11(水) 02:43:56.16 ID:Ua/pJyJYO

美嘉が吉良の同僚みたいになっててワロタ
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