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隊長「魔王討伐?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/18(日) 21:27:03.47 ID:/7dOb1Om0
一次創作です、よろしくおねがいします。

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=^・ω・^= ぬこ神社 Part125《ぬこみくじ・猫育成ゲーム》 @ 2024/03/29(金) 17:12:24.43 ID:jZB3xFnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711699942/

VIPでTW ★5 @ 2024/03/29(金) 09:54:48.69 ID:aP+hFwQR0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711673687/

小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

2 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/18(日) 21:29:19.73 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


「──ったく、クリスマスが近いってのに...」


「聖なる夜の前に、ドラッグに溺れた若者をひっ捕らえなければならないのか...」


「CAPTAIN、もうすぐ着きますよ」


「...あれ?」


「CAPTAIN?」


隊長「──ッ! すまない...返事を忘れていた...」


CAPTAIN、その言葉の意味は隊長というモノ。

そのような男が部下の声かけに応じずにいた。

数秒のラグがあったものの、ようやく返事を行うと部下が心配そうに投げかけた。


「考え事ですか?」


隊長「あぁ、少しな...」


「...また、あの事件のことを考えていたんですか?」


隊長「...着いたようだ、外にでるぞ」


ここは冬のアメリカ合衆国某所。

隊長と呼ばれている者の指示で、車両からぞろぞろと人が降りていく。

黒色のミリタリー、特殊部隊であろう彼らは合計で10人ほどいた。
3 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:32:09.26 ID:/7dOb1Om0

隊長(...寒いな)


隊長「状況説明を簡潔に頼む」


そういうと、ある隊員の肩をポンッと叩いた。

その隊員は口を開く、いまどのような状況に置かれているかを。


隊員「Yes sir」


隊員「薬物を所持している学生5人が、この建物に立てこもっています」


隊員「学生らは薬物の禁断症状か、軽く錯乱」


隊員「それぞれ、銃を武装しており大変危険な状態」


隊員「さらに、不幸なことに1人の人質がいる模様」


隊員「現状ケガ人はいますが、死者はいないみたいです」


隊員「とてもじゃないが地元警察では手に負えないので我々が出動」


隊長「状況説明は以上です」


隊長「...」


隊員A「どうしますか」


説明を行った者とは別の隊員が隊長の指示を仰ぐ。

期待を背に、顎に手を添えながらも素早く判断をする。


隊長「...建物には俺を含め少数3人で潜入」


隊長「残りは潜入が悟られないようにここで陽動だ」


隊長「銃の発砲は許可されているが、極力控えろ」


隊長「準備が整い次第、作戦開始をする」


隊長「以上だ」


〜〜〜〜
4 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:35:39.75 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


──カシュッ!

その音と同時に車両の中は濃い香りで満たされる。

彼はコーヒーを飲みながら、銃器の最終セッティングをする。


隊長「...ふぅ」ガチャガチャ


隊長「...」チラッ


隊員「...」


隊長が視線を送っているのはこの部隊で密かに一目を置いている隊員という男。

先ほどの急なプレゼンを求めても毅然として行う姿はどう見てもエリートだ。

顔つきも髪型もいかにも優等生、しかしその実態はとんでもないものだった。


隊員「はぁ...この子萌えるわ...」


隊長「...」


隊長(...これさえなければなぁ)


隊員「Wooooooooo...Wonderful...」


先ほどの仕事用の顔つきとは一転して、とても緩んだ表情をしていた。

そのギャップに頭を悩ませながら、少し躊躇ったが一声をかけた。
5 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:37:29.42 ID:/7dOb1Om0

隊長「...おい」


隊員「なんでしょう」


隊長「仕事場にそんなものを持ち込むな」


隊員「この仕事で死ぬかもしれないんです、最後まで肌身離さずいたいんです!」


隊長「はぁ...Jokeにならんぞ...」


隊員「ほら、Captainも日本語わかるんでしょ、オススメですよ」


隊長「...確かに大学時代に履修したけどな」


隊員「見てください、この犬っ子ちゃん、可愛くないですか!?」


隊長「"アーソウダナ"」


この時、隊長が放った言葉は日本のモノであった。

大学時代に履修したとはいえ、それは数十年前の話。

英語になれた舌も影響してか、とても訛っている風な日本語であった。


隊員「日本語で答えてくれるなんて、まんざらでもないですね」


隊長「...」


隊員「ほらほら、萌えますでしょ」


隊長(萌えとか言う感情、40手前の俺にはわからん...)


適当な返事を、わざわざ日本語にしたのが間違いだった。

そんな中、隊員の苦手なところに苦悩する隊長に他の隊員が近寄る。


隊員A「CAPTAIN、警察をお連れしましたました」
6 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:39:34.47 ID:/7dOb1Om0

隊長「あぁ...通してくれ」


警官「すまない...特殊部隊がわざわざ駆けつけてくれて」


隊長「しかたないことだ、軽い錯乱状態で銃を持たれてはな」


警官「このハンドガンだけじゃ、少々な」


警官「幸い、時間が限られてるわけではない」


警官「頼んだぞ」ポン


隊長「...あぁ」


肩を叩かれ、コーヒーをアサルトライフルに溢しかける。

悪意があるわけではない、そのことを咎めることもなく彼は会話を続ける。

するとこの警官は世間話を投げかけてきた。


警官「君の評判は聞いてるよ...人を吹っ飛ばすパンチを使える、ヒーローだってな」


隊長(...誰が流したんだその情報)


隊員「それだけ筋肉が付いてれば、そうなりますね」


隊員「子どもにも優しいですし、コミックブックのヒーローですね」


隊長「あのなぁ...」


警官「まぁ話はここまでにしよう...一応、こちらも拡声器を使っての交渉を続けてみる」


隊長「あぁ...なるべく、刺激を与えないようにな──」ピクッ


≪──CAPTAIN!≫

そんな矢先、耳元に走る切羽の詰まった声。

別の隊員から通信が入った、それと同時に各々がヘルメットとゴーグルを装着した。


隊長「──行くぞ!」


隊員「はいッ!」


〜〜〜〜
7 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:41:13.44 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


??1「てめーらぁ!!! 殺されてーかッッ!!!!」


??2「助けてぇぇっっ!!」


──バババババババババッッッッ!!!!

怒声とともに銃の乱射音が聞こえる。

そしてその激しい音に続くのは、恐らく人質であろう女性の叫び声。


隊長「──何があった?」


隊員A「特にコチラから何もッ! おそらく錯乱状態からの行動ですッ!」


隊長「...」ピッ


隊長≪全員そのまま陽動、俺達に注意を向けさせるな≫


耳のインカムを起動させ、指示を促す。

隊長が隊員全員に無線を使って通信を行った。

隊長、隊員、そして隊員A、この場にいる3人の顔つきが変わる。


〜〜〜〜
8 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:42:29.58 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


隊長「...」


隊員「裏口は死角のようですが...」


隊員A「ドアを蹴破るにしろ、ガラスを割るにしろ音がでてしまいます...」


隊長≪...陽動をしてくれ、なるべく大きな声で≫


隊員「...なるほど」


隊員Z「──犯人に告ぐッッ!! 今すぐ抵抗をやめろッッ!」


すぐさまに聞こえてきたのは、拡声器のノイズと別隊員の警告。

これにより得ることができるのは注意を一定の箇所へ向けさせること。

それだけではない、その大きな音自体が隊長らを有利に事を運ばせる。


隊長「...Now」


隊員「Ok」


──ガシャンッ...

拡声器による陽動、それに反応する犯人の怒声により、ガラスが割れた音など簡単にかき消される。

割れたガラスから扉の鍵を開け潜入、すぐさまにクリアリングを行う。


隊長「Go go go go go...」
9 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:43:54.29 ID:/7dOb1Om0

隊員「...Clear」


隊員A「1階には誰もいないようですね...」


隊員「...2階にいきましょう」


隊長「...そうだな──」


──ギシ...ギシ...

その時だった、わずかに聞こえたこの床の鳴る音。

それを聞き逃すはずがない、隊長がジェスチャーを送り隠れるように指示する。


隊員A「CAPTAIN、これを...」サッ


隊長「...」ギュッ


ギシ...ギシ...ギシ...

ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...

ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...


犯人A「──なッ!?」ビクッ


隊長「──ッ!」バッ


───バチィンッ!!

隊長は受け取ったのはスタンガン、即座に犯人との間合いを詰めて使用した。

階段から降りてきて直ぐ、しかも死角からソレを当てられてしまえば一溜まりもない。

犯人の1人である彼はそのまま静かに倒れ込んだ。


隊員「お見事です」


隊長「...あと4人だな、返すぞ」


隊員A「は、はい!」


隊長「お前はこいつを拘束、ここからは隊員と二人で行く」


新たな指示を仰ぐ、これから先には犯人の本拠地があるというのに。

だがこのような狭い屋内での状況、かえって少人数のほうがヤりやすいの確か。

隊長と隊員は、彼1人をここに残し階段を登っていった。
10 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:45:44.53 ID:/7dOb1Om0

隊長「...ここか」


隊員「どうしますか」


隊長「...合図をしたらだ」


隊員「Ok」


難なくたどり着いた扉の前。

おそらくここに、奴らが潜んでいる。

タイミングを見計らい突入する、彼らは極限まで耳を澄ます。


隊長「...」


隊員「...」


隊長「...」


よく注意をすると、奴らの声が聞こえる。

どうやら、仲間の1人がいつまでたっても戻って来ないことに苛立ちを覚えている。

そして誰かが向こうの扉の前にたった、その確信を得たときに隊長は声を上げる。


隊長「──Nowッ!」


隊員「うおおおおおおおおおッッ!」


──バキィッッ!

二人でドアを蹴破る、これは木造の扉だ。

大の男、それも特殊部隊で鍛え上げられた者たちだ。

それを蹴破ることなど容易いもの、そしてその衝撃に巻き込まれドアの下敷きになる者が1人。


犯人B「──ぐへぇッッ!?」


隊長(──残りは二人かッ!)
11 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:47:22.99 ID:/7dOb1Om0


犯人C「う、うごk──」スチャ


隊長「──遅いッ...!」ドガッ


隊長が一気に近寄り、構えようとしたショットガンを蹴飛ばす。

犯人BとC、早くもその2人を無力化させる。

そしてその隙を隊員は見逃さなかった。


隊員「──CAPTAINッ! 人質確保ォッッ!!!!」


犯人D「──な...」ポカーン


隊長「──動くな」スチャ


そして犯人Dが銃を構える前に隊長はアサルトライフルを構えていた。

瞬時の出来事であった、扉を蹴破られたと思えばすぐに2人は潰される。

そして気づけば人質が開放されている、口をあんぐりとさせるしかなかった。


隊員「おら、手を出せ」


犯人C「ちくしょう...」


犯人D「くそッ...」


ジャランッ、そう音を立てて手錠を付けられる。

犯人Bは完全に伸びている、手錠をかける必要すらない。

立てこもり事件はこれにて終了、だが1つの違和感が彼を襲った。


隊長「...一人足りないな」


隊員「...警察側の報告に間違いなければ、この事件の犯人は5人いるはずです」


隊長「...?」


そんな矢先、隊長に違和感を感じる。

人の気配のような、何者かの視線を感じた。


犯人E「──あああああああああああッッッ!!!!」ガバッ
12 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:48:46.61 ID:/7dOb1Om0

隊長「────ッ! クソッ!!」ガバッ


そんな矢先であった、犯人Eがナイフをもって襲い掛かってくる。

隊長はなんとかそれを持ちこたえ、取っ組み合いの状態になる。

だが少しばかり反応の遅れたせいか、隊長側が不利な状態であった。


隊員「──CAPTAINッッ!?」


隊長「グッ...ッ!!」グググ


隊員「──ッ、クソッッ!!!」スチャ


隊員がアサルトライフルを構える。

だが、犯人は隊長と共に動きを止める気配は一切なかった。

それに彼らは取っ組み合いをしている、身体の密着率がとてつもない。


隊員(だめだ、下手に撃ったらCAPTAINに当たるッ!)ダッ


───カランカランカランッ...

隊員が射撃を諦めて隊長たちに近寄ろうとする。

その矢先、どこかしらからそんな音が聞こえた。

隊長の足元だ。


隊長「──グ、グレネード...」
13 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:49:50.23 ID:/7dOb1Om0

犯人5「道連れにしてやる...」


犯人は意地でも隊長に取っ組み合い、剥がれようとしない。

完全にリミッターが外れてる上に、薬物に依存している人間の力は恐ろしい。


隊長「クソッッ!!!」ゲシッ


隊長がなんとかグレネードを蹴飛ばす。

しかし、結果はよろしくないものであった。

あれではまだ爆発の範囲内、とてもじゃないが重症は避けられない


隊員「──CAPTAINッッ!!!!」ダッ


隊長「────ダメだ来るなッッッ!!!!!!!」


──バコンッ!

その時、手榴弾の音が炸裂する。

その音はとても大きく、残酷なまでに激しいモノであった。

とてもじゃないが助からない、隊員は急いで隊長の無事を確認する。


隊員「──CAPTAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAINッッッ!!」


隊員「...チッ、呆けてる場合じゃないッ!」ピッ


隊員≪クソッ! CAPTAINがグレネードに吹き飛ばされたッッ!≫


隊員≪爆風で建物の外に吹き飛ばされてる! 急いで救護しろッッ!!!!≫


隊員X≪なんだって!? おい、急げッッ!!!≫


建物に大きな穴が出来上がってしまう。

隊員が急いで隊長が吹き飛ばされたであろう外を覗いてみる。

隊長の具合を確かめるべくはずの行動が、予想外の展開へと繋がる。


隊員「──いない...ッ!?」


〜〜〜〜
14 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:51:20.53 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


(くそ...やられた...)


(急いで...急いで状況を確認だ...)


(くっ...視界が開かない...)


(ここは...)


(なにか...なにかがおかしい...)


(どうなっているんだ...何が起きたんだ...)


(...視界が晴れてきた)


隊長(ここはどこだ...夢か...?)


目を開けると、そこには綺麗な紅葉が見える。

グレネードで出来た鈍い痛みは未だに走っている。

痛みに耐えながらゆっくりと見渡してみると、そこには建物は愚か装甲車や隊員達もいない。


隊長(ぐっ...どうなっているんだ...?)


隊長(...)


隊長「Damn it!!」ドン


――ズキンッ

なにが起きてるか全く理解できず、苛つく。

つい、木に八つ当たりをしてしまう。

だがそれが行けなかった、まだ傷は癒えていない。


隊長(──ぐっ...くそ...)フラッ


隊長(グレネードの傷が...このままでは倒れてしまう...)


隊長(立てない...木に寄りかかって...いや、それすらできない...)ドサッ


隊長(...眠い)


隊長(...)


隊長(......)


〜〜〜〜
15 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:52:20.29 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


隊長(...)


隊長(なんだ...?)


隊長(口が冷たい...これは...水か...?)


隊長「...」パチリ


口元に感じる違和感、冷たい何かが口の中に入れられている。

隊長がゆっくり目を開ける、ゴーグル越しに見えたそこには。

見覚えないない女の子がそこにいた。


???「ひっ...」


隊長(お、女の子...?)


隊長「Who...are...you...?」


???「な、なんですか...?」


隊長(Japanese...?)


隊長「ダ、ダレダ...?」


少女「え、えぇっと...私は少女です...」


隊長「少女...ノマセテクレタノカ? ミズヲ」


少女「は、はい...大丈夫ですか?」


隊長「アァ、タスカル」ゴソゴソ


とても不慣れな日本語ではあるが、それが幸いしている。

なんとか目を合わせようとするために、ゴーグルをヘルメットに移動させる。

すると少女の顔つきが変わる、不安そうな顔から一変して少しばかり笑顔を見せてくれた。


少女「──よかった...人間ですね」
16 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:54:13.98 ID:/7dOb1Om0

隊長(...人間?)


少女「家からお薬持ってきますね、待っててください」


隊長(まだ今すぐ聞きたいことは山の様にある...)


隊長「ツイテク、オレモ」


少女「えっ...立てますか?」


隊長「コウスルトタテル」


隊長は手元にあったアサルトライフルを杖代わりにする。

立て銃、それに近い使い方で彼は歩行を可能にした。


少女「大丈夫ですか?」ギュ


隊長「──ッ! カタヲ...タスカル」


少女「それじゃ行きましょう」


隊長「...」スタスタ


少女「......」スタスタ


隊長「.........」スタスタ


少女「............」スタスタ


隊長(緑色の髪、肌はどうみても白人、それなのに言語はジャパニーズ...)チラッ


隊長(それに格好はどこかしらの民族衣装っぽいな...)


隊長(アメリカにそんな地域あったか...?)


隊長(それに、この紅葉の木...)


隊長(今は冬のはずだ...どうなっているんだ...?)


少女「あ、あの」
17 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:55:50.96 ID:/7dOb1Om0

隊長「...ナンダ?」


少女「お、お名前は...?」


隊長(...すまない、疑ってる訳じゃないが...今は名前は伏せさせてもらうか)


とっさに嘘をつこうとしたら、隊員たちが思い浮かんだ。

むしろこちらのほうが呼ばれなれている、己の名前などしばらく使っていない。

隊長という意味の言葉、それを少女に告げる。


隊長「...CAPTAINッテヨバレテル」


少女「きゃぷてん...???」


隊長(...どうやら英語は通じなさそうだな)


少女「どうして倒れてたんですか?」


隊長(...それは仕事の内容だ、話せないな...誤魔化すか)


隊長「アァ...ワルイヤツ、ヤッツケタ」


隊長「ケド、シッパイシタ...スコシ」


少女「──!」パァッ


隊長「ン...?」


少女「そ、それなら...」


気のせいか、少女の表情がかなり和らいだ。

何かを言おうとしたが、隊長たちは建物へ到着した。


隊長「...ツイタカ?」


少女「あっ、ちょっとここでまっててください」タタタ


隊長(これは村か...? この時代に?)


隊長(建物だって、中世のヨーロッパみたいだぞ...)


少女「きゃぷてんさん、どうぞ」


隊長(世話になるか...)


〜〜〜〜
18 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:57:55.96 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


隊長「ド、ドウモ」


隊長(...少女の母だろうか、それとも姉か...?)


少女母「あらあら、こんにちわ〜」


少女「お母さん、怪我してるんだって」


少女母「じゃあこれをすり潰しておいで」


少女「うん」


隊長「タスカル」


少女母「こういう時は、お互い様ですよ〜」


少女母「よかったら、夕ご飯もどうですか〜?」


隊長(あぁ...俺も結婚してたら今頃、この少女のような娘がいるんだろうな...)


隊長(っていかんいかん、人の妻に手を出したら犯罪者の屑共と一緒だ...)


隊長「アリガトウ、イタダク」


少女「きゃぷてんさん、痛いところどこですか?」


少女が塗り薬を完成させたようだ。

ヘルメットを外し、首を露出させる。

湿布のようなものだろうか、そう認識隊長はあまり効果を期待視していなかった。


隊長「アァ、クビダ」スッ


少女「よいしょ...」ヌリヌリ


隊長「──ッ!?」


すると突然、首から痛みが消え失せる。

まるで鎮静剤を打ったかのような、急激な変化に隊長は驚く。

しかしそれよりも先にやらなければならないことがある、それは礼節を重んじること。


隊長「アリガトウ、ラクニナッタ」


少女「えへへっ」
19 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 21:59:35.91 ID:/7dOb1Om0

少女母「それじゃ、ご飯の準備してくるのでゆっくりしててくださいね〜」


隊長「トテモタスカル...」


隊長(...今はこの傷を治して貰おう、質問は後回しにしよう)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


少女母「それでは、どうぞ〜」


少女「いただきます!」


隊長「...イタダキマス」


隊長(ポトフのようなものか...懐かしいな)


隊長(しかし休息をした結果、いろいろ聞きたいことを聞きそびれてしまったな...)ムムム


少女母「...おいしくないですか?」


隊長「──ッ! チガウゾ、マンゾクダ、コレデ、トテモ」


少女母「あらあら、嬉しいですわ〜」ニッコリ


少女「私も手伝ったんですよ」


隊長「ソウカ、ジョウズダ」


少女「えへへっ」


隊長(...独身には辛いな)


隊長(......)ピクッ


隊長(父親はいないのか?)


隊長「アノ」
20 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:00:54.11 ID:/7dOb1Om0

少女「なんですか?」


隊長「チチオヤハ?」


少女「あっ...」シュン


隊長(...しまった)


隊長「ス、スマナイ、マズカッタ...?」


少女母「いえ...別れたとか、死んでしまったわけではないんです...」


少女「......」


隊長「ドウイウコトダ...?」


少女母「少女...おいで?」


少女「...うん」トテテ


少女母が少女のあたまを撫でる、状況が状況なら和やかな景色だったはずだ。

少女のこの表情を見たことがある、これはとても悲しい出来事の顔つきだ。

無念にも犯罪者に抵抗され、射殺されていまった部下の家族がする面持ちであった。


少女母「実は...」


少女「おとうさんは、山にいってから帰ってこないんです...」


隊長(...登山家かなにかだろうか)


少女「そこの大きな山があるですが...」


窓から外を眺めるだけで見える、確かに大きな山がみえる。

しかし、隊長は次のワードで思考が固まってしまう。

日常的に使うことのない固有名詞が、そうさせてしまった。


少女「そこに、悪い魔女が現れたんです...」
21 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:02:38.46 ID:/7dOb1Om0

隊長(魔女...? 魔性の女ってことか...?)


少女「そしたら山が凍っちゃたんです...」


隊長(凍った...?)


隊長(...確かに、雪山のようだがそれにしては標高が低いぞ...?)


少女「そして、山を元通りにするために村人の男の人たちが集まって...」


少女「山に向かったんですが...それから帰ってこないんです...」


少女「一度だけ魔女が村に降りてきて...抗議したんですが、すぐにいなくなっちゃって...」


隊長(──あぁ、だから、あの言葉に反応したのか)


いろいろと疑問が残る中、あることを隊長はいち早く察した。

とっさに誤魔化した、悪いやつをやっつけてるという言葉を思い返す。

その言葉に揺さぶられたのか、少女が隊長に縋る。


少女「...きゃぷてんさん、お願いです」


少女「どうか...どうか、お父さんを助けて下さい...っ!」


少女母「だめよ...あの山は危険なのよ」


少女「でも...でも...」


隊長(...正直意味がわからない、だが)


隊長(子どもの泣き顔...俺がもっとも見たくないものだ)


隊長(...これじゃ、ヒーローって情報が流れるわけだな)
22 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:03:33.13 ID:/7dOb1Om0

隊長「少女」


少女「...?」


隊長「ソノハナシ、ノッタ」


隊長「タスケテクレタ、オンガエシダ」


少女「────っ!」パァ


少女の表情が明るくなる。

だが少女の母は比例せず、険しい表情をみせた。


少女母「──だ、ダメ!! あの山は本当に危険なんですよ!!」


少女「──っ!」ビクッ


隊長(少女母...怒らすと怖いタイプだな...)


隊長「ダイジョウブ、オレハガンジョウダ」


隊長「ソレニ、ナミダハミタクナイ」


少女母「ですがっ...」


隊長「──スマナイ、キョウハトマラセテクレ」


話を強引に切る、とても失礼であるがこうするしかない。

少女母はまだ納得していない、しかしそれでその瞳の奥底には渇望が宿る。

それを見抜いた隊長は強行的に話を進める、正義感の強い彼は己の質問よりも少女の涙を選んだ。


〜〜〜〜
23 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:05:12.95 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


隊長(今のうちに装備を点検しよう)


隊長(...)


隊長の装備には以下の物があった。

装弾数30発のアサルトライフル、装弾数15発のハンドガン、3つのグレネードにミリタリーナイフ

備品としてアサルトライフルのマガジンが7つ、ハンドガンのマガジンが6つ、軍用サイリウムにライト。

そして腕時計に通信機、チョコレートのレーションが2つに水筒を備えていた。


隊長(...防弾チョッキの収納にレーションと水筒を入れっぱなしだったか...あとで水を入れ替えておこう...)


隊長(アサルトライフルは総計240...ハンドガンは105発か)


隊長(腕時計...問題なく動いてる...時差がなければな)


隊長(通信機...だめだ、電源は入るが電波が届いてない)


隊長(...寝るか、いま深くモノを考えても無意味だ)


隊長(今は前に進むしかない...俺を助けてくれた少女の気を晴らせたら、改めてここについて質問しよう...)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


少女母「本当に、いってしまうのですね...」


隊長「アァ、シンパイスルナ」


少女「気をつけてくださいね...」


隊長「ダイジョウブ、ウマクイク」ナデナデ


少女「わっ...えへへっ」


少女母「これを、持ってってください」スッ
24 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:06:07.56 ID:/7dOb1Om0

隊長(...これは酒か? ずいぶんキツそうだな)


少女母「これである程度の寒さは大丈夫なはずです...ですが飲み過ぎ注意ですよ」


隊長「タスカル」


少女「...お父さんをおねがいします」


隊長「ソンナカオスルナ、ワラッテオケ」


少女「...はい」ニコ


隊長「...ジャアイッテクル」


少女「気をつけてください!」


隊長「...」スッ


静かに親指を立てる。

心配そうに見つめる少女、どこかまだ納得をしていない少女母。

そんな負の感情をもつ彼女らを背に、彼は進み始める。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長(...麓の時点で雪が積もってるな)


隊長(支給品のミリタリー服だが...それがブーツでよかったな...)


隊長(このアルコール...大分度がきつそうだな...)


隊長(凍死寸前まで飲むのは控えとこう...)


隊長(雪山での仕事は...いままでなかったな)


隊長(いい経験になればいいが)


隊長(...登ろう)


〜〜〜〜
25 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:07:36.99 ID:/7dOb1Om0

〜〜〜〜


隊長「ハァハァ...」


隊長(大分登ってきたな...麓の村がすごく小さく見える...)


隊長(...ん? あれはなんだ...?)


ゴーグル越しに、目を細めるとかすかに建物が見える。

建物に向かって歩き出すと、異変を感じる。


隊長(な、なんだあれは...ッ!?)


トカゲ「...」


隊長(かなりでかいトカゲだな...凍りついているみたいだが、生きているのか...?)


トカゲ「暇だな...」


隊長(喋ったッ!?)ガサッ


その時だった、思わず足音を強くしてしまう。

野生動物にそれは禁忌、人間よりも遥かに優れる聴覚がそれを捉える。


トカゲ「あん...? てめぇ人間じゃねぇかっ!」


隊長(チッ、厄介なことになりそうだ)


隊長「ナンダオマエハ」スチャッ


この世の出来事とは思えないことに遭遇する。

思わず、トカゲ相手にアサルトライフルを構えてしまう。


トカゲ「てめぇはあの建物に向かってんのかぁ?」


隊長「ソウダ」


トカゲ「だめだなぁ、通すわけにはいかねぇ」


隊長(...面倒だ、迂回するか)


トカゲ「おっとぉ、逃すわけにもイカねぇなぁ...」ニタニタ


隊長「...ダッタラトメテミロ」


トカゲ「へっへっへ...久々の獲物だ...仲間には黙っておくか...独り占めだ...」


トカゲ「ブツブツ...」


隊長「...!」


なにか、雰囲気が変わる、空気から嫌な予感がする。

まるで空気が凍ったような、雪山特有の自然由来の凍てつきではない。


トカゲ「──喰らえっ! "氷魔法"」
26 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:09:07.13 ID:/7dOb1Om0

隊長「──Whatッ!?」


トカゲがブツブツものを言った後、魔法陣が出現した。

しかもそこから、恐らく殺傷能力のある速度で氷が飛び出してきた。


隊長「──クッ!」ダッ


────どさっ...!

非現実的な光景をみて行動が少し遅れるが、横にダイブをすることで直撃を回避する。

雪まみれになった装備、それを払いつつ彼は考察を開始する。


隊長(なんだあれは!? いやそれよりも...)


冷静に状況を確認する。

トカゲに向けていたアサルトライフルの銃身が凍ってしまっていた。

その氷は局部的だが、かなりぶ厚くできていた。


隊長(...これでは発砲はできんな)


トカゲ「オラオラァ! もう一発!」ブツブツ


トカゲ「"氷魔法"!!」


隊長「──ッ!」チラッ


隊長(どうやら、何かつぶやかないとあの攻撃はできないようだな)


考察しながらも動きづらい雪の上で走ることで、攻撃を回避する。

こんな状況でも冷静に判断を行い、弱点を見極めていた。

これが隊長という男、部下の命を預かり任務を遂行する役職持ち。


トカゲ「チィ! もう一発──」ボソボソ
27 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:11:05.30 ID:/7dOb1Om0

隊長「――――NOWッ!!」ダダダ


トカゲ「──なっ!?」


慣れない雪の上で、無理やり猛ダッシュをしてトカゲに接近する。

その速度は人間にしては早いが、野生動物相手に通用するとは思えない。

しかしこのトカゲは違っていた、幸いにも反応が鈍いようだ。


隊長「──ウオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」ドガッ


トカゲ「げはっっっ!?」


トカゲの腹に思い切り蹴りを入れる。

その衝撃でトカゲは少しばかり吹き飛ばされ、距離を置かれてしまった。


トカゲ「て、てめぇゆるさn──」


──ダンッ...!

トカゲには聞いたことのない音が頭を貫く。

隊長はトカゲの頭にハンドガンを発砲していた。

右足に装備していたサイドアームをすばやく引き抜き、凍ったオオトカゲを射殺する。


隊長「...」


隊長(1発ですんだか...節約になったな)


隊長(戦闘中におしゃべりか...)


隊長「...You're second」


トカゲ「―――」ガクッ


トカゲが力尽きると、大きさが縮こまった。

まるでなにかの効力がなくなり、元の姿に戻ったような。
28 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/18(日) 22:12:42.25 ID:/7dOb1Om0

隊長(...縮こまった、なぜだ?)


隊長(これがもとの大きさだとしても、でかすぎる、コモドドラゴンよりでかいぞ...)


隊長(動物を傷つける趣味はないんだがな...先に殺意を向けたのはお前だ、許せ)


隊長(しかし...ここは俺が住んでいる世界と違うのかもしれない...)


隊長(少なくとも、喋るトカゲなんか聞いたこともないな)


隊長(中世ヨーロッパのような世界、Japanese、さらにはいまのMagic...)


隊長(...深く考えるのは後だ)


しかしその説しかありえない、彼はなにかの拍子で別世界へと移った。

非現実的ではあるがこれが一番の説、しかしそれを証明できるモノなどない。

考えても無駄、ならば前に進むことに専念するしかない。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長(ついたな...)


隊長(扉は凍ってて開かない、窓から突入するか)


隊長(...まだ凍っているな)


隊長(ハンドガンだけで乗り切れるだろうか...)


アサルトライフルを鈍器のように扱い、窓を破る。

そのような使い方しかできない、銃口が氷に包まれている現状発砲すると己に危険が及ぶ。

少し不安がよぎるが、頼りにならないアサルトライフルを背負いハンドガンを握り潜入を開始する。


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29 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/18(日) 22:15:47.10 ID:/7dOb1Om0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/11/19(月) 18:13:38.30 ID:IR8QaDDQ0
31 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/19(月) 19:03:33.45 ID:wphTWll60

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隊長(魔女とやら...俺の勘が正しければこの屋敷にいる...少なくとも野外で活動しているとは思えない)


隊長(それにしても...ここは書斎か?)


隊長(手にとってみるか...)パラパラ


隊長(ご丁寧にひらがなで読みが書かれている)


隊長(これならたぶん読める、何か参考になる本はないか...)


隊長(これは...?)


適当に手にとった本には、錬金術と表紙に描いてあった。

そのキャッチーなフレーズに響かない人間などいるわけがない。

彼は魔女という存在を探しているのにもかかわらず、少しばかり熟読する。


隊長(...)ペラッ


隊長(......)ペラッ


隊長(...これは...これが本当だったら)


隊長(俺の世界だったら大変なことだな...)


隊長(価値がありそうだ、一応借りていくか)


隊長(この本は...?)スッ
32 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:07:52.31 ID:wphTWll60


隊長(基礎魔法学?)ペラ


隊長(............ほう、こういうことだったのか)ペラ


本にはこう書かれていた。

魔力を込めた言語を唱えると魔法陣が現れる。このことを詠唱と呼ぶ。

魔法を使うに当たって詠唱は必要不可欠である。

詠唱には様々な種類があり、さらには個人で開発した自分だけの魔法も存在する。


隊長(あのトカゲがつぶやいてたのは詠唱とやらだったのか?)ペラ


魔法には相性がある。

例えば、炎魔法には水魔法が有効である。

強力な炎魔法でも、弱い水魔法、もしくはただの水をぶつけることで相殺できる。


隊長(...マジックにも相性があるのか)ペラッ


隊長(石・紙・はさみみたいなものか...)ペラッ


魔法には大雑把に2つの種類が存在する。

魔力を何らかしらの形状にして、実体化させる”攻撃魔法”

魔力を何らかしらの物質に放ち、その物質内で変化が起きる”補助魔法”

炎を実体化させ攻撃する”炎魔法”は”攻撃魔法”に属する。

物質の瞬間移動が可能になる”転移魔法”は”補助魔法”に属する。

なお、”補助魔法”は自分の他、様々な物にも作用する。


隊長(...覚えておいて損はなさそうだな)ペラッ


隊長(持ち主...誰だかわからん、悪いが借りるぞ)スッ


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33 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:09:27.69 ID:wphTWll60

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隊長(寒い...)


隊長(でかい暖炉だな)


隊長(ん、これは...)


隊長(ベーコン...いや、ただの干し肉か)


隊長(それとマッチがあるな...これで暖でもとるか)


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〜〜〜〜


隊長(一通り探索はしてみたものの...なにもなかったな)


隊長(...本でも読むか)


隊長(この本は...?)スッ


隊長(盗賊が来たときの対処策・防衛策?)


隊長(あまり必要がなさそうだな)ペラ


隊長(...暖炉に隠し部屋への入り口を作るべき?)


隊長(そういえば大きな暖炉がある部屋があったな...)スッ


隊長(...まぁ、ありえないだろう)


隊長(こんな山奥に隠し部屋つくる技術を持ってくるのは難しいしな)


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34 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:12:53.64 ID:wphTWll60

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隊長(まさかな)


隊長(...中、のぞいてみるか)


暖炉に顔を入れてみると、床にあたる部分が大きな穴となっていた。

隠し通路、まるで映画の中のような出来事に隊長は軽く困惑する。


隊長(...はぁ、この本は侮れんな)


隊長(さぁて、飛び降りるか...ん?)ピクッ


隊長が暖炉にある通路に飛び降りる覚悟を決めた瞬間に気づく。

凍っていた銃身が治っている、氷が溶けたのだろうか。

どちらにしろ都合がいい、彼はハンドガンからアサルトライフルへと装備を持ち直す。


隊長(なんだがよくわからんが、運が向いてきたな)


隊長「...よし!」ピョン


隊長「──ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」ビュー


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35 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:14:36.25 ID:wphTWll60

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隊長「オオオオオオオオオオオオ...」ドサッ


隊長(着いた...下手なジェットコースターよりきついな...)


隊長(ここまでのGを感じたのはヘリコプターから緊急脱出したとき以来だな)


隊長(それにしても...なんだこれは...)


隊長が己の武勇伝を思い返していると、ある光景に目を奪われた。

床・天上・壁が氷でできている。そこまでは理解できた。

しかし、その氷の中に沢山の人が埋まっていた。


隊長(...男だらけだな、この格好といい少女がいってた村人たちのようだな)


隊長(...進むしかないか)


隊長(...)サッ


隊長(......)ササッ


クリアリングを淡々と熟していく。

だが、全くといって良いほど手応えはなかった。


隊長(...びっくりするほどなにもないな)


隊長(魔女とかいうやつ...なにか罠でも仕掛けてあると思ったが...)


隊長(...また、下に飛び降りなければいけないみたいだな)


隊長(音は極力ださないようにするか...)ピョン


──ズサアアアァァァァ...

飛び降りた先、そこにはあったのは1つの感覚。

人間誰しもが備わっている、人の気配を微かに感じ取れるソレ。

答えは1つしかない、奴がここにいる。


隊長「──!」ドサッ


???「も〜、どこにあるのよ〜...」
36 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:19:36.57 ID:wphTWll60

隊長(...誰かいる)


隊長(...)


後ろ姿しか見えないが、体つきは女。

彼女はローブを羽織っていた、もう如何にも魔女。


隊長(あいつが魔女か...?)


隊長(...思ったより、雰囲気は若いな)


隊長(女相手に乱暴にしたくはないが...仕方ない)


隊長(...)


???「はぁ...寒いし戻ろうかしら...」


隊長(...今だッ!)スッ


隊長「──Freez...」スチャ


隊長は魔女の背中にアサルトライフルを押し付ける。

しかしこれは明らかに失敗であった、果たしてこの言語が伝わるかどうか。

背中に何かを押し付けられた魔女らしき女は慌てふためく。


魔女「──へ? な、なに!?」


隊長「ウゴクナ!」


魔女「な、なんなのよっ!」バッ


もちろん、魔女はアサルトライフルなど知らない。

なのであっけなく動いてしまう、これが非常に危険な行為だと知らずに。

だが隊長は引き金を引けずにいた、その原因は彼女の見た目の若さ故に。


隊長(...まだ成人もしてなさそうな女だな)


隊長(...くっ、躊躇してしまった)
37 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:22:49.76 ID:wphTWll60

魔女「なによあんたっ!」


隊長「コレイジョウウゴクナッ!」


魔女「──っ...!」ビクッ


隊長の気迫に押される、その表情はかなりのモノであった。

それは当然である、彼は特殊部隊の隊長を担っている。

日々犯罪者を相手にしている、このような脅しが苦手なわけがなかった。


隊長「...オマエガ魔女カ?」


魔女「...そうよ、悪い?」


隊長(...おかしい)


隊長(どうみても、犯罪者の面ではない...)


隊長(それにさっき、寒いとかいってたな...)


長年犯罪者を捕まえてきた経験からか、この魔女に違和感を覚える。

凍らせた本人が寒いといってるなら、ちゃんちゃらおかしい話だ。

疑問が彼の中で巡る、ならもう彼女に答え合わせをしてもらうしかない。


隊長(...聞いてみるか)


隊長「コノヤマコオラセタノカ?」


魔女「...は?」


隊長(...やはりか...面倒なことになりそうだ)
38 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:25:45.21 ID:wphTWll60

魔女「私はそんな魔力もってないわよ...」


隊長「...ジャア、ダレガコオラセタ」


魔女「...知ってるけど、教えてあげない」


隊長「ナラ、クチヲワッテモラウ」


魔女「教えてほしければねぇ...謝りなさいよっ!」


隊長(...ぐうの音も出ない)


隊長「...スミマセン」


魔女「はぁ...あんたなんなのよ...名前は?」


隊長「...CAPTAINダ」


魔女「きゃぷてん? 変な名前ね」


魔女「変なのは格好、武器、言葉遣いだけじゃないのね」


隊長(...顔は可憐だが...性格は難ありだな)


魔女「私の名前は...魔女よ」


隊長「ハァ...」


隊長(少女にどう説明するか...いやその前に真犯人を見つけなければ)


隊長「タノム、ダレガコオラセタカオシエテクレ」


魔女「う〜ん、じゃあ探しもの手伝ってよ」


隊長「...ワカッタ、ナニヲサガセバイイ」


魔女「錬金術って本なんだけど」


隊長(...どうやら、本当に運が向いているみたいだな)ゴソゴソ


隊長「コレカ?」
39 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:27:39.76 ID:wphTWll60

魔女「なんでもってるのっ!?」


隊長「カリタ」


隊長(勝手にな)


魔女「それを渡せば、教えてあげるわ」


隊長「ハァ...ショウガナイナ」


──グラグラグラグラグラグラグラグラッッ!!!!

本を渡そうとした瞬間、山が揺れた。

それは自然的に発生したものではなく、何者かが起こしたような妙な揺れ方であった。


隊長「──ジシンッ!?」


魔女「きゃあっ!?」


???「──地震ではない、猿共」


奥の方から、なにか巨大な影が近づく。

その見た目は隊長も見たことがある姿であった。

過去に存在していた恐竜、それに翼を生やしたこの姿は間違いない。


隊長(あれは...いよいよファンタジー地味てきてるな...)


魔女「あ、あいつよっ! あの竜が凍らせたのっ! 犯人よっ!」


隊長「──ナニッ!?」
40 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:31:02.35 ID:wphTWll60

魔女「あいつは氷竜っ!! 危険よっ!」


氷竜「我の巣に近づくなど愚かしい」


隊長(あいつを倒せばいいわけだな...)


隊長「オイッ、サガッテロッ!」


魔女「言われなくても逃げるわよっ!」


氷竜「逃がさん...」ドンッ


──グラグラグラグラッッッ!!!!

足を思い切り踏みつける、それだけでこの揺れが発生する。

その揺れに反応して様々な場所が震え、落盤を起こす。


隊長「クッ、ヤッカイダナ...」ヨロ


魔女「あぁー...最悪、今ので出口が塞がれたわ...」


隊長「...クソッ」


隊長(氷のドラゴンか...この現代兵器が通じればいいが...)


氷竜「貴様か、我の下僕を殺したのは」


隊長(あのトカゲのことか...?)


隊長「...ダッタラドウシタ?」


氷竜「都側に下僕を集中させたのが間違いだったか...まぁいい」


氷竜「死ね」


氷竜「この氷竜の息吹、受けてみろッッ!!!」


――ヒョオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!

氷竜の口から特大の吹雪のようなものがゆっくりと襲い掛かる。

それがどれほどの威力を誇るのか、急速に凍てつき始める空気感がそれを醸し出す。


隊長「SHITッ!!」ダダッ


氷竜「ふん、見極めたか...」


氷竜「だが、休ませはしないぞ」


――ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!

安置になり得るであろう場所を判断し、そこに向けて走る。

一度目はそれでなんとかなった、しかし二度目は許されなかった。


隊長「クソッッ!!!」
41 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:34:25.78 ID:wphTWll60

隊長(次はあたってしまうッッッ!!!)


次は避けられない、氷漬けにされてしまう。

そんな悪いことを考えてると彼女が箒にまたがり、飛んできた。

その姿はまさしく魔女、微笑ましい光景だが極めて重要な役割を担ってくれた。


魔女「──ほら、捕まってっ!!」


隊長「──タスカル!!」ギュッ


魔女「────おっっっもいっ!!!!!!」フラフラ


隊長(箒で飛行する魔女...ハロウィンだな...)


氷竜「ちょこまかと...」


魔女「...」ブツブツ


隊長(──これが詠唱か、魔女も魔法を使えるようだな)


魔女「"雷魔法"」バチバチ


―――バチバチバチバチッッッ!!!

魔女の魔法が氷竜に襲いかかる。

その威力は明らかに高い、1つの稲妻が竜に向かう。


隊長(軍用のスタンロッドより威力がありそうだ...)


氷竜「ぐぅ...効かんわッッッ!」


魔女「う、うっそー...」


隊長「──オリルゾ!」パッ


魔女「あ、ちょっと! どうするつもりよっ!!」


隊長「ヨウドウシテクレッッ!!」


魔女「はぁっ!? まったく...」ブツブツ
42 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:37:12.67 ID:wphTWll60

魔女「"雷魔法"! "雷魔法"!! "雷魔法"!!!」


―――バチバチバチバチバチバチバチバチバチィッッッッ!!!!!

連続した雷が次々と氷竜に襲いかかる。

しかしそれはあまり効果的ではなかった。

あの竜の様子からするとまだ余裕のある、すこし油断をしている風にも見える。


氷竜「ハッハッハッハッ!!!! 無駄だァ!!!!!!」


隊長「──EAT THISッッッ!!」スチャ


氷竜「──いつのまに近くにッ!?」


──ババババババババババババババババババババババババババババババッッッッッ!!

油断が招いた、魔女による魔法に気を取られすぎた。

気づけば肉薄を許していた氷竜、大きな口を開き傲慢な言葉を吐いていたツケがこれだ。

アサルトライフルのマガジン1本分をお見舞いされる、その威力は魔法と同等。


氷竜「────ッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」


氷竜「──グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!?!?!?」


魔女「うわぁー、そんな威力のある武器なのねそれ...」


隊長(意外と効いてるな...)


魔女「──危ないわよっ!!!」
43 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:39:20.09 ID:wphTWll60

氷竜「猿ゥ...! コロスッッッ!!!!!」ガシッ


隊長(──しまったッッ!?)


痛みに耐え、氷竜は前足を使って隊長を掴む。

その様子には理性などない、激痛がこの竜の逆鱗に触れている。

やはりドラゴンなだけはある、その圧倒的な体格差に敵う人間などいない。


隊長「──グッ!」


氷竜「そのまま潰れろ!!」グググ


隊長「──グゥッッ...ガァァァァァ...ッ!?!?」


魔女「"雷魔法"!!」バチバチ


氷竜「効くかァァァァッッッ!!!!!! そんなものォッッッ!!!!」ブンッ


魔女「──きゃっっ!?」


──ドガァァッッ...!!

氷竜の尻尾が魔女にたたきつけられ、吹き飛ばされる。

それに耐えられる乙女などいない、凄まじい苦痛が彼女を襲った。

吹き飛ばされた先に壁、そこに魔女の身体がめり込む、威力が伺える。


魔女「────っ...」ガクン


隊長「──魔女ッ...!」


隊長(まずい...このままじゃ死ぬ...わけにはいかないんだッ!)


なんとか氷竜の前足から自分の右腕を解放する。

そして取り出すことのできたのは、原始的なこの武器。

比較的刃渡りのあるナイフ、近接攻撃に限るなら銃よりも優秀。


氷竜「ハハハハハハハハハ!! 潰れろ!! 潰れろ!!」グググ


隊長「アアアアアアアアアアアァァァァァ...ッ!」
44 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:43:36.43 ID:wphTWll60

隊長「...フッッッ!!」スッ


隊長「──オラァ!!」グサッ


氷竜「ガアアアアアアアアアッ...!?」


その刃はかなり深く刺すことができた。

どのような強靭な身体の持ち主でも、ここまで深い切り傷を浴びたらどうなるか。

その鋭い激痛のあまり怯むことは確実、だからこそ隊長を離してしまう。


隊長「グッ...」ドサッ


隊長(どうやら...魔法より物理的な攻撃に弱いみたいだな...)


隊長(しかし、どうする...立てない...このままじゃ死ぬぞ...)


氷竜「貴様ぁ...! 調子にのるなよ...!!!!」


氷竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


隊長(──ッ、なんて叫び声だ、耳がおかしくなる)


氷竜「フハハハ、我を殺すなら火ぐらいもってくるんだったな」ズシン


隊長(...ここにきてから随分と運が向いてるな)


氷竜「さぁ...潰れろ!!」スッ


隊長「──ッ!」スチャ


──ダンッ!

氷竜が後ろ脚をおもいきり持ち上げ振り下ろそうとする。

同時に隊長がなにかを投げ、そして再び同時にそれを狙う。

ハンドガンで見事撃ちぬいたソレの中身が氷竜の傷口あたりに撒き散る。


氷竜「悪あがきだな、まぁいい潰れろ」ズシン


隊長「──フッ...!」クルリ


氷竜「かわすんじゃない! 猿が!!」スッ


隊長が横に転がることで攻撃を回避する。

氷竜はイライラしながらも、もう一度脚を振り下ろそうとする。


隊長「Hey...eat it...」スッ


隊長(拾っておいて正解だったな...)ボッ
45 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:46:35.13 ID:wphTWll60

氷竜「──なッ!?」


隊長「A single match can start fire...」ポイッ


氷竜「貴様なにをいって────」


英語でつぶやきながらも、箱のやすりを使い着火を行う。

火のついたマッチが撒き散らされた極めて度数の高い酒に引火する。


氷竜「──あっちいいいいいいいいいいいいい!!」バタバタ


氷竜「クソオオオオオオ!! だがこれくらいじゃ死なん────」


──ダンッ!

火達磨になりながら威嚇をする氷竜の眉間をハンドガンで撃ちぬく。

先程まで意外にも動き回っていたこの竜、ようやく狙いをすまし射撃することができた。

眉間、それは生物共通の弱点である、その先には大事な機関が備わっているからだ。


氷竜「くそ...たれ...猿が────」


──ズシィィィィィンッッッ!!

竜の倒れる音は凄まじく、先程の地震とは比べ物にならないモノだった。

ターゲットの沈黙を確認すると、彼はアサルトライフルのマガジンを代え、またも立て銃で杖代わりにする。


隊長(空のマガジン...一応持っておくか)
46 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:48:37.23 ID:wphTWll60

隊長(合計でアサルトライフル30発、ハンドガンは3発使ったか...)


隊長(...まぁよく節約したほうだろう)ウンウン


隊長(っと...魔女は大丈夫か)


隊長「オイ、ダイジョウブカ?」ユサユサ


魔女「うっ...だ、大丈夫...」


隊長(意識を取り戻したか)


魔女「ブツブツ」


隊長「...?」


魔女「"治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

すると、魔女から優しい光が現れる。

その明かりは隊長と彼女を包み込み、心地の良い感覚を与える。

これは傷を癒やす魔法、骨を折ったとしても簡単に治せてしまう驚愕の性能であった。


隊長(身体が、少し楽になった...これも魔法か)


魔女「うぅ...あ、あんた氷竜倒しちゃったの?」


隊長「アァ、ヒニヨワカッタナ」


魔女「凄いわね...私じゃ無理だったよ...」


隊長「...アイツガハンニンナラオマエハ?」


魔女「うーん...あんたはどうしてここにきたのかを説明してくれる?」


隊長は少女に言われたことを説明した。

どのような経緯でこの山を上り、魔女という存在をどうするつもりだったかを。

彼女と出会ってから薄々感じていたことが確証となる。


魔女「それ...勘違いね」
47 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:50:27.85 ID:wphTWll60

隊長「...ヤハリカ」


魔女「そういえば村に降りた時にすごい剣幕で迫られたわ...そのせいかしら?」


隊長「タブンナ」


魔女「私は錬金術の本だけが目当てだったんだけど」


魔女「ちょうどここら辺に探しに来た時、不幸なことに氷竜が住み着いたのよ」


隊長(...どっちにしろ誤解は解けにくそうだな)


隊長「オマエハムラニチカヨラナイホウガイイ」


魔女「...そうね、そもそも目当ては手に入れたしね」


隊長「...ホラ、ヤル」スッ


魔女「ふふっ、ありがとっ」ニコ


隊長「──ッ!」ピクッ


魔女が妖艶に微笑む、多分本人はただの笑顔のつもりだ。

それが以外にも彼に響いてしまう、男という者は意外と単純であるからこそ。


魔女「ん、出口が開いてるわ」


魔女「それじゃ、帰るわね」


魔女「ばいば〜いっ」
48 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 19:52:09.45 ID:wphTWll60

隊長「...ハァ、戻るか」スタスタ


??1「な、なんだこれ!」


??2「どうなってるんだ!」


隊長(どうやら、みんなの氷がとけたようだな...)


隊長「オマエラ、オレハ少女ニタノマレテタスケニキタ」


村人1「た、たすかりました!!」


村人2「気づいたら凍らされてたんだ...」


隊長「コオリガトケハジメテキケンダ、イソイデゲザンシヨウ」


村人2「は、はいっ!」


隊長「デグチはコッチだ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


村人3「ひぇ〜氷がとけてもう本来の山になってる」


村人4「ほら、さっさと帰るぞ」


隊長「...サキニカエッテロ」


村人1「は、はぁ...」


隊長(......この建物、何のためにあったんだ?)


隊長(...少女母にでも聞いてみるか)


隊長(朝日がまぶしい...と、いうより朝帰りか...)


氷漬けにされていた村人は多数、それらと共に下山をする。

この出来事で勝ち得たモノは以外にも多い。

まずは第一目標を達成できたことがなりよりであった。


〜〜〜〜
49 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 20:54:37.08 ID:wphTWll60

〜〜〜〜


少女「おがえりなざああああああああい」グスグス


隊長「アァ、タダイマ」


少女母「ほんとうに...おかえりなさい、きゃぷてんさん」


???「──本当に助かりました!!」


少女の家に、新たな人物がそこにいた。

緑髪の少女母とは対象的に、見事なまでに金髪の男。

地毛なのだろうか、とにかく男ということは間違いなくあの関係性である。


隊長「ン...?」


少女父「私は少女父といいます、本当にありがとうございました」ペコリ


隊長(あぁ...無事でよかった...)


隊長「キニスルナ」


隊長「コレガオレノシゴトダ」


少女「おとーさん! きゃぷてんさんがね! 悪い魔女をやっつけてくれてね!」


少女父「はは! そうだな!」


娘と父親の談話が続く。

少女のその表情はとても柔らかく、出会ったばかりの頃とは比べ物にならない。

その笑顔を見ることができた隊長、とても微笑ましくその光景を眺めていた。
50 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 20:55:51.65 ID:wphTWll60

少女母「ほんと、いい笑顔ですわね」


隊長「...ソウダ」


少女母「なんですか?」


隊長「サケノオカゲデタスカッタ」


少女母「あらあら〜うれしいですわ〜」


隊長「...サテ、オレハイクヨ」


少女母「どちらにですか?」


隊長「ソウダナ、タビニデルッテコトダ」


少女「──え...っ!?」


少女母「...本当はもっとおもてなしをしたいのですけど、そういうわけにはいかないみたいですね」


隊長「アァ、スグニデヨウトオモッテイル」


少女「や、やだ...きゃぷてんさん! もっと一緒にいましょうよ!」


隊長「ソウシタイケド、オレハヤルコトガアルンダ」


隊長(色々情報がほしいからな...)


隊長(旅をしながらの情報収集が一番手っ取りはやそうだ)


隊長(本当は少女たちに聞きたいことは山のようにあるが)


隊長(小難しい質問より...今は家族団欒してもらう)
51 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 20:58:26.81 ID:wphTWll60

少女「そ、そんな...」ポロポロ


少女母「少女、きゃぷてんさんは救世主なのよ?」


少女母「いろんな人がきゃぷてんさんを待っているのよ」


隊長(少女母...それは大げさすぎる...)


少女「う、うん...」グシグシ


少女母「きゃぷてんさん、気をつけてください」


少女母「あなたのおかげで村と山は蘇り、少女も元の明るい性格になりました」


少女母「感謝しきれないほど、助けてもらいました」


少女母「あなたのたびに不幸がないことを神にお祈りします」スッ


その祈り方はとても神々しいものであった。

まるで教会にいるシスター、このような華麗な人に迫られては入信せざる得ない。

彼の居たアメリが合衆国はキリスト教国である、その光景に抵抗感はなかった。


隊長「...アリガトウ」


少女「...そうだ、これどうそ!」スッ


隊長「...コレハ」


隊長(マフラーか...よくできているな)


少女「はい! わたしの髪の毛と同じ色なんですよ?」


少女「きゃぷてんさんが山にいってる間に編みました!」


隊長「...アリガトウ! トテモウレシイ!」ダキッ


少女「わわっ、えへへ...これをわたしだと思って、大切にしてくださいねっ!」


隊長「...Thank you」


少女「ふぇ?」


隊長「オレノフルサトノコトバダ」


少女「せんきゅー?」


隊長「ソウダ」


少女「せんきゅー!」


少女父「ははは、こんな明るくなったのか」


少女母「あらあら、ヤキモチ焼かないでね?」


〜〜〜〜
52 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 21:04:13.69 ID:wphTWll60

〜〜〜〜


隊長「それジャ、またドコカでな」


村人5「ありがとうございましたー!」


村人6「こまったらいつでもきな!!」


少女母「旅をするならまず都に向かうといいですわ〜」


少女「凍ってた山の方角にいけば都につきますよっ!」


少女母「それでは、お元気で〜♪」


隊長「アァ、ありがとう」


少女「がんばってください!」


少女父「ご武運をー!」


隊長「...」スッ


隊長は静かに腕を上げ、親指を立てた。

そして振り返ることもなく前に進み始めた。

黒のミリタリー、そして首元には深緑のマフラーが風に煽られる。


少女母「いっちゃったわね」


少女「またあえるといいな...」


少女母「そうねぇ」ニコ


村人1「さぁて戻るか!」


村人2「ひさびさに宴でもすっか!」


村人たち全員が久々の平和に盛り上がる。

こうして集まることに感謝をしながら、彼らは喜びを表現する。

突如として現れた大柄な男、彼の旅の無事を祈って。


???「......ふふ」


〜〜〜〜
53 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 21:14:21.12 ID:wphTWll60

〜〜〜〜


隊長(すこしJapaneseが流暢になったな)


隊長(つい英語を喋ってしまう時があるが...日本語にも慣れてきたな)


隊長「...」モフ


だがまだ思考中の言語は英語である、しかしそれでいて徐々に日本語に適応し始めている。

そんなことを考えながらも、彼は少女にもらったマフラーを撫でていた。

その質感はとても柔らかく、首元の寒さを防いでくれていた。


隊長(緑色のマフラー...肌触りがいいな)


隊長(...あの建物、そういえば少しばかり保存食があったな)


隊長(何か役立つものがあるかもしれない、もう一度探索してみるか)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長(あのときは雪や氷で見れなかったが...)


破れた窓から景色を眺める。

そこには麓の村と、その近辺を彩る紅が。

紅葉がとても美しく、思わず視線を奪われてしまっていた。


隊長「...Beautiful」


隊長(...そうだ、借りていた本を返すか)スッ
54 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 21:15:44.28 ID:wphTWll60

隊長(返す前に読んでなかったページを読むか)


隊長(...)ペラ


隊長(...なるほど)ペラ


本にはこう書かれていた。

魔法の詠唱を唱える時、術者の体に存在する魔力が消費される。

詠唱に使う魔力は任意で消費量を操作することができる。

魔力の消費量が多ければ多いほど、魔法の威力が上がる。

さらに、詠唱の時に感情をこめることで威力が上がる場合がある。

例えば殺意をもって詠唱すれば、魔法の威力があがったりする。

逆にその人を心から敬愛していたら、瀕死から蘇らせることもできる。
55 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 21:17:13.33 ID:wphTWll60

隊長(...俺にも魔力は存在するのだろうか)ペラ


魔力には潜在的に属性が存在する。

基本的な属性は4つ、炎・水・風・地が存在する属性である。

炎←→水 風←→地 が相性である。その優劣は後出しのほうが有利である。

魔力の所有者にも潜在的に属性が存在する。

炎の魔力の所有者が唱える炎魔法は、通常より威力が高く相性も良い。

なお、炎属性の魔力の所有者が水魔法が使えないということは起きない。

しかし、炎属性の魔力の所有者が水魔法には弱いということは起きる。

1つの属性の中に、さらに2つの属性がある。

炎は炎と爆の属性、水は水と氷の属性、風は風と雷の属性、地は地と衝の属性。

同じ水属性でも、水魔法や氷魔法といった性能差がでる。

基本的に、炎属性の魔力を持っていれば、炎性と爆性の魔法が両方使える。

上位属性として、光・闇が存在する。

相性は互いに強くもあり、弱くもある。その優劣は質の差で変わる。

そして、光や闇属性内には1つの属性しか存在しない。

未だ光と闇属性の研究は進んでおらず謎が多い。

なお、属性が適応されるのは”攻撃魔法”だけである。

”補助魔法”には属性が存在しないが一応、無属性という扱いになる。


隊長(...よくわからんな)
56 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 21:18:34.96 ID:wphTWll60

隊長(ん...魔法の効果時間?)ペラ


魔法の効果時間は詠唱の時にきまる。

膨大な魔力を詠唱に消費すれば、死してなおも魔法を発動し続けることができる。

また、感情をこめたりしても同じことができる。

なお、使い魔召還魔法は魔力関係なく術者が死亡すると解除され、元の形へと戻る。


隊長(アサルトライフルの先端がしばらく凍ったままだったのはこれか...)


隊長(トカゲに殺意があったのか魔力が多かったのかわからんが...)


隊長(これでは有利な状況でも魔法の差で圧倒的に不利になってしまうな)


隊長(...だが)


(氷竜「都側に下僕を集中させたのは間違いだったな...」)


隊長(使い魔も解除されるようだし、下山は楽になるな)


隊長(...こんなものか、役に立ったぞ)パタン


本を読み終えて、本棚に返却しようとする。

すると、気になる本を見つける。


隊長(これは...動物・植物・魔物図鑑?)ペラ
57 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/19(月) 21:22:58.36 ID:wphTWll60

隊長(...)ペラ


隊長(これは...前に戦ったドラゴンが載っている)


隊長(つまりこの世界の図鑑か...役に立ちそうだ、もっていくか)


隊長(危険度も記載されているのか...あのドラゴンは高いほうだったようだな)


隊長「ワルイが、コレはモラウぞ」


隊長(...深く考えるのはよしていたが、やはり俺は別世界に来てしまったのかもしれない)


隊長(一体どうすればいいのだろうか...ひとまず前に進むことでしか現実に直面することができない...)


隊長(...考えていても仕方がない、それに腹が減ったな)


隊長(たしか干し肉があったな、貰っていこう──)ピクッ


誰もいない本棚に一方的に話しかける。

ようやく腰をあげて建物から出発しようとすると。


??1「ここを越えるとふもとの村につきますね」


??2「うん! もうちょっとがんばろう!」


??3「特に魔物はいないようだな」


隊長(...)


気づかれないように窓からちらりと確認する。

そこにいたのは、動物ではなく人。

仕事柄か不意な接触に過敏、思わず身を潜めてしまっている。


隊長(3人組みの男女か...)


隊長(女が2人...剣と盾を持っている奴と、もう1人は槍か?)


隊長(ともかく凄い装備だ、それに男のほうは禍々しい格好だな...)


隊長(...戦闘になったら面倒だ、時間をここで潰して接触を避けよう)


隊長(今のうちに干し肉でも食うか)


どこで食べても肉は美味であった。

その味を堪能した後に彼はこの建物から去っていた。

隊長の思惑は当たり、下山中に誰にも遭遇することはなかった。


〜〜〜〜
58 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/19(月) 21:24:25.40 ID:wphTWll60
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
59 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/20(火) 19:32:47.15 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


隊長「Wow...」


雪山を越えるとそこには緑が一面。

目の前に広がった雄大な草原地帯を見て思わずつぶやく。

そんな矢先、何者かの声が聞こえた。


???「──いたたた...誰か助けてぇ〜」


隊長「...!」


隊長(女の声...? 助けを求めているな、向かうか)ダッ


苦しげなその声、たとえ見ず知らずの者だとしても気になるのは当然。

ましてはこの男、正義感が強めの方である、動かないわけがなかった。

声のする方向へと向かう、しかしそこにいたのは想像していた人物とはかけ離れたモノだった。


隊長(...水のかたまり?)


???「いたいよぉ...」


隊長(さっきの図鑑にのっているか?)スッ


隊長(...あった、人型スライムのメスか? 危険度は低そうだ)ペラッ


隊長「...おい、オマエ」


スライム「に、人間!? にげないと...いたたた」
60 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 19:35:00.30 ID:s2j1zj4E0

隊長「マテ、オレはキガイをクワエン」


スライム「そ、そんなうそに...っ、いてて...」


隊長「ダイジョウぶか? ナニがあった」


スライム「怪我をしちゃって...って、ちかよるなぁ!」


隊長(...結構まぬけだな、図鑑によると水が生命線らしい...たしか水筒があったな)


隊長「おい、ミズいるか?」


スライム「に、人間の世話になんか...」


その言葉を最後に、彼女は固まった。

このまま自然に治るまで苦痛を味わうか。

それとも彼の好意を受け取るのか、そして選ばれるのは。


スライム「...ちょうだい」


隊長「ホラ」スッ


水筒を手渡すと、スライムは背中に水をかけた。

見た目ではわからないが怪我をしたのは背中らしい。

なんとも奇妙なその光景に隊長は視線を奪われる。


スライム「ふぃ〜...た、たすかったよ...」


隊長「あぁ、コマッタときはオタガイさまだろ?」


スライム「へんな人間...」ジー


スライム「まったく、こっちは平和に寝ていたのに...」


隊長(もう大丈夫そうだが...この様子だと誰かにやられたようだな、さっきの3人組か?)


隊長「ジャアな、キをつけろよな」


スライム「...あ、まって!」


隊長「ン?」


スライム「こ、これ...一応お礼」スッ


隊長(なんだこれは...ボールか?)


スライム「じゃあね、ありがとうねっ!」


隊長(...一応取っておくか)


手のひらサイズのボールみたいなものをしまいながら先を進みはじめる。

そんなことをしているうちに、レンガでできた巨大な塀のようなものがみえる。


〜〜〜〜
61 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 19:48:25.76 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


???「とまれ」


隊長「...」ゴソゴソ


レンガでできた巨大な塀、どうやら都全体のすべてを覆っている様子だった。

当然入り口は限られる、槍と甲冑を装備した門番らしき人物がそれを物語る。

とまれと言われ、大方察しがついた隊長は、ヘルメットとゴーグルをはずすともう一人の門番が近寄ってきた。


門番2「...その人に魔力はないようだ」


門番1「人間のようだな、入っていいぞ」


隊長(...セキュリティーが甘いな)ゴソゴソ


門番を攻略し都に入ることができた。

自分の世界との差を感じながら、ヘルメットとゴーグルを装備しなおす。

しかしそこまで甘いわけではなかった、彼の仕事着にツッコミを入れられてしまう。


門番1「まて、その頭の装備ははずしておけ、不審者のようだ」


隊長「...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長(...すごい数の人だ)


隊長のその表情は、まるで初めて訪れた外国に心を奪われる少年のようだった。

アサルトライフルを背にヘルメットを抱えながらも街中を歩いていく。

雑踏を掻い潜っていると、紙のたばが道端に落ちていた。


隊長(...コレは新聞か、これもJapaneseだ)
62 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 19:55:27.16 ID:s2j1zj4E0

隊長(...)バサッ


隊長(女勇者御一行、この塀の都に滞在?)


隊長(塀の都の王子、病気のため長期的に休暇?)


隊長(...流し読みじゃよくわからんな、後でじっくり読もう)


1面にはそう書いてあったがよくわからない、新聞紙を束ね再び雑踏を歩き始めた。

隣には町民だろうか、同じ歩幅で歩く人物が2人、なにやら世間話をしているようだった。

盗み聞きをしなくとも耳に入る、ましては会話の内容が彼の好奇心を煽る。


町民1「そういえばあの凍っていた山の氷、とけたみたいだね」


町民2「凍っていた山の魔女が死んだんじゃねぇか?」


町民1「勇者の出発と共にとけたみたいだし、よかったじゃないか」


町民2「あの山、魔物が居なくてもヘタな装備でいくと簡単に逝っちまうしな」


隊長(...仕事着の優秀さに感謝しないとな)


己の仕事着、冬用のミリタリーによる防寒性能に助けられていた。

そうこうしているうちに彼はベンチに遭遇する。

少しばかり歩き疲れた隊長は素直に座り込んだ、するとある心配事が浮かび上がった。


隊長(ここの通貨、ドルでもいいのか...?)


隊長(いや、そもそもドルすら持ってないぞ...)


隊長(まずい...このままじゃ絶対にまずいな...といっても何も持っていないしなぁ)ゴソゴソ


途方にくれて、なんとなくスライムからもらったボールを取り出していた。

緑のマフラーに顔をうずめながらボールを見つめる。

その幻想的な色合いをした貰い物に惹かれていた。


隊長(よくみたら綺麗だな...光の当たり加減で水晶にも見える。)
63 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 20:03:29.71 ID:s2j1zj4E0

???「おや、それは...」


このボールのような物、なかなか魅力的であることが伺える。

妙に身なりのいい男が1人、新たに惹かれてしまった。

思わずその持ち主に話しかけてしまう程に。


???「それ、綺麗ですね」


隊長「ン? あぁ...ソウだな」


???「どこで手に入れたんですか?」


隊長(...一応伏せておくか)


隊長「さぁな...シリアイからモラッタ」


???「...それにしても素敵だ」


隊長(なんだこいつ...)


???「私はそういう不思議な物が好きでね」


隊長「そ、ソウカ...」


???「よかったら買い取らせてくれないか?」


隊長「...」


思ってもいないことだった、一応もらい物なので悩むが背に腹は変えられない。

ボールを失っても、あのスライムの顔を忘れることはない。

そのような綺麗事を思いながらも彼はしてしまう。


隊長「...わかっタ、イイぞ?」


???「金貨5枚でどうだい?」


隊長(価値がわからんが、まぁないよりは...)


隊長「ホラ、ドウゾ」スッ


???「ありがとう...ふふ、綺麗だな、ではまたどこかで」スタスタ


隊長「オウ」


隊長(よくわからないが運が良かった...)


隊長(とりあえず...図鑑と新聞でも読み直すか)スッ


〜〜〜〜
64 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 20:11:25.22 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


隊長(...図鑑の詳細はともかく、ある程度の定義がわかった)


隊長(動物・植物は俺の認識と大体同じだったが...)


隊長(この新たな項目...魔物)


図鑑によると、先天性に魔力をもっている動物・植物を魔物と総称している。

後天性に魔力を得た動物・植物は魔物には分類されないと。

なお、神により選ばれた勇者は魔物には分類されないと書かれている。


隊長(俺が出合ったトカゲ、ドラゴン、スライムは魔物ってことだな...)


隊長(で、問題はこの新聞だ...)


隊長(塀の都の騎士団、草原の魔物を駆逐する準備...か)


隊長(つまり...この都では魔物は害悪って考えなのか?)


新聞によると草原にいる魔物を駆逐するなど、恐ろしいものが書かれていた。

彼はふと出合った魔物を思い返してみる、その行為がどれほど理にかなうモノなのを。

確かに危険な目にはあった、だが一概にはそうとも言えない存在がいた。


隊長(スライムは危険じゃなかったな)


隊長(あいつは加害者というより被害者のようだったが...)


隊長(魔物にも好戦的なものと、そうでないものがいるのか?)


隊長(...今は深く考えないで置こう、これは俺ではどうすることもできん)グー


隊長(...通貨もあるし飯でも食うか)スクッ


考え事をして頭を働かせたせいか、おなかも働かせてしまっていた。

ベンチから立ち上がり、彼は飯屋を探すことにした。

たとえ自分の知らない場所だとしても、嗅覚は裏切らない。
65 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 20:17:52.82 ID:s2j1zj4E0

隊長(飲食店はこっちだな...って、あいつは...?)


???「おや?」


隊長(さっきの奴か...)


???「お食事ですか? よかったらどうです?」


隊長(この都の都合は分らん...誰かと居たほうが良さそうだ)


隊長「...あぁ、タノむ」


???「それでは入りましょうか...すみません、2名で」


店員「はいよー! こっちの席にどうぞ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


???「私はオススメの料理とオススメお酒を」


隊長(...いるよなこういう奴、俺も少し真似してみるか)


隊長「...オレもベツのオススメを...それとミズをタノム」


???「おや? お酒は嫌いかい?」


隊長「...サケはハンダンリョクがニブる」


???「なるほど...フフ」


クスリ、と帽子を被った男は笑う。

なんというか掴めない、底の見えないようなこの男。

彼は質問を投げかけてきた、それは核心を突かれそうになるモノだった。


???「君はどこから来たんだい?」


隊長「ン...」


隊長(あの山は噂になっていたな...伏せるか)


隊長「ワルイが、コタエルキはない」


???「フフ、君は面白いね」


???「身なりは変だし、言葉は訛っているし、体格もやたらといいし」


隊長(いきなり買取を持ち出す奴にいわれたくないな...)


???「そういえば名前は?」
66 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 20:20:23.51 ID:s2j1zj4E0

隊長「...CAPTAINとヨバレテる」


???「きゃぷてん?」


隊長「あぁ」


???「フフ、面白いな...私も真似てみるか」


帽子「私の名前はそうだな...帽子だ」


隊長「...ギメイをオシエテくれてありがとう」


帽子「フフ、うらむなよ?」


店員「お水と葡萄酒です」スッ


帽子「あぁ、ありがとう」


隊長「...」


隊長(よく見ると目元が隠れるまで深く帽子をかぶるっているな)


隊長(...カマをかけてみるか)


隊長「...ダレかにオワレテるのか?」


帽子「...君の冗談は面白いね」


隊長(一瞬、沈黙をした...怪しいな)


隊長(まぁ...触れないでやろう)


隊長「オレのジョウダンはオモシロカッタようだな」


帽子「...君のこと気に入ったよ」ゴクゴク


そんなことをいいながら豪快に酒を飲みはじめた。

身なりの良さ、そして華奢と言えるほどにスタイルのいい男がする飲み方ではなかった。

早くも酔ったのか、帽子という男は突拍子もない事を言い始めた。


帽子「君にお願いがあるんだ」


隊長「...ン?」

67 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 20:24:58.05 ID:s2j1zj4E0

帽子「私は塀の外の草原に行きたいんだ、一緒についてきてくれないか?」


隊長「ナゼオレにタノム」ゴク


帽子「君、外からきた人間だろう?」


隊長(訛りにこの格好ときたらバレるよな...)


店員「料理をお持ちしましたー」カチャ カチャ


隊長「オマエがカリにオワレテるタチバなら...モンからデルのはムリジャナイか?」


隊長(少なくとも、門番はいたしな)


帽子「...フフ、お見通しのようだね」


帽子「私はある理由で追われていてね...でも大丈夫」


隊長「...」モグモグ


帽子「実は塀の一部に穴が開いててね」


帽子「早くしないと埋められちゃうから急いでいるんだ...どうだい?」


隊長「...ニゲルためか?」


帽子「違うよ、ただ外に興味があるだけさ...また都に戻ってくるよ」


帽子「もちろん、都に戻るまで一緒にいてもらうよ」モグモグ


隊長「...」モグモグ


帽子「報酬もあるさ、ここの食事代も持ってあげよう」


隊長「はぁ...ワカッタ、ヤル」


帽子「...よし!」ニコ


隊長「アシタ、イッショにいく」


帽子「じゃあ、この店の近くにある宿に泊まっていてくれ」


隊長「あぁ...」モグモグ


帽子「いろいろ準備があるから明日また会おう」ゴクゴク


料理と果実酒を急いで消化して帽子は先に店をでた。

まるで遊びの予定が入った子どものように忙しなかった。

見間違えじゃなければ支払いを済ませていない。


隊長(あの野郎...俺に飯代持たせたな)


隊長(...店員に水筒に水をいれさせてもらえるか聞いてみるか)


〜〜〜〜
68 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 22:12:10.74 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


隊長「...この金貨、かなり価値があったな」


意外なことに、帽子から受け取ったこの貨幣はなかなかの代物。

金貨一枚だけで2人分の飯代と宿代が支払えてしまった。

さらにお釣りとして銀貨3枚と銅貨6枚をもらっていた。


隊長(金貨1枚で100ドルくらいか?)


隊長(あいつ...金持ちだな)


隊長(ふぅ...このベット、柔らかいな)


隊長(まだ夕方だが...いまのうちに眠るか)


3日、恐らく異世界へ訪れてしまっての日数。

初めて誰の気もかけずに寝ることができる、自分勝手な睡眠をとることができる。

それは日が沈み切る前の就寝すら許されてしまう。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


??3「ほう...そのような者がこの山の魔女を倒したのか」


口を開いたの女性、その見た目は甲冑に大きな槍を所持している。

ここは麓、少女たちの住む村であった。

そして彼女らは隊長と接触し損ねた人物。


少女母「そうなんですのよ〜」


??2「すごいね! その人が山を治していなかったら大変だったかもね!」


??3「あの山の噂は聞いていた、攻略は厳しいとな」


??3「それを1人で制圧したのか...凄いな」


少女「入れ違いになっちゃいましたね...」


女勇者「うーん、会ってみたかったな」


??1「...気になりますね」


??2「どんな人なんだろうね!」
69 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 22:29:24.61 ID:s2j1zj4E0

??1「いえ...そうではなく」


??1「魔力の気配がします...それも膨大な」


??2「え...どうして」


魔力の気配、それはどのようなモノなのか。

常人には理解のできない、だからこそ気づけずにいた。

この人物らを見つめる彼の眼差しの異様感に。


少女父「...」


少女「おとうさん?」


少女母「...あなた?」


少女父「.........」ボソボソ


勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...

勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...

勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...


??2「...え?」


少女父「──"自爆魔法"」


??1「──女勇者様! あぶない!!」


父の唱えた魔法、それはあまりにも残酷なモノだった。

それを喰らえば一溜まりもない、だが彼女たちは違った。

彼自身が爆破する直前、女勇者という者は盾を構えていた。


女勇者「──下がってっ!」スッ


少女母「────少女っ!」


少女「──お母さんっ!?」


────カッッッッ!!!

音として捉えることのできない轟音、とても鋭い炸裂音があたりに響き渡った。

瞬時の出来事だった、村を消し去るほどの威力の魔法が襲い掛かる。

おびただしい砂ホコリや、家だったものが散乱している。


??1「...ゲホッ」


??3「こ、これは...一体...」


女勇者「...村がないよ」


女勇者は盾で人を守った。

しかしそれが出来たのはわずか2人。

彼女にできたのは仲間を危機から護ることだけであった。
70 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 22:31:39.30 ID:s2j1zj4E0

女勇者「...どうしよう、女騎士、魔法使いくん...」


魔法使い「...」


女騎士「...」


勇者一行、それはこの3人。

剣と盾を持つ女勇者、甲冑に槍を持つ女騎士、魔法に長けている魔法使い。

仲間2人に投げかけるそのか細いつぶやき、ようやく口を開けたのは彼であった。


魔法使い「...進みましょう、ここにいては追っ手が来るかもしれません」


女勇者「...うん」


女勇者「...でもそのまえに、せめて謝りたい」


魔法使い「...そうですね」


女勇者「ごめんなさい...僕がここに寄らなければ...こんなことには...」


魔法使い「女勇者様...」


女勇者「...いこう」


女騎士「......あぁ」


女勇者が謝罪を終え、村だった場所を足早に去っていた。

罪悪感で彼女の精神が壊されないように。

しかし気づくことができなかった、彼女はもう1人を救っていたことに。


少女「うぅ...」


少女「おかーさん...? おとーさん...?」


???「あの爆風で村人が生き残っているとはな」


少女「誰...?」


???「ふむ...こいつは側近様が洗脳させた人間の娘だな」


???「この前は面白い奴が捕まえられたし、ここはいい実験台が多くて素晴らしい」


少女「誰なの...?」


???「可哀想に...目が見えないのか」


少女「助けて...きゃぷてんさん」


その悲痛な叫びは誰にも届かない。

彼女のその身は、突如として現れた顔もわからない者に預けられる。

家族を取り戻した昨日から一変、彼女は地獄に叩き落とされる。


〜〜〜〜
71 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 22:49:22.28 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


隊長「帽子...ハヤすぎるぞ...」


早く寝た代償か、外はまだ薄暗い程の時間に起きてしまっていた。

そしてたまたま外の様子を窓から見たとき、彼に見つかってしまった。

隊長は帽子に向かってジェスチャーを送る、すると帽子は親指を立てる。


隊長(...意味は通じたか?)


隊長(...着替えるか)


隊長(...)


隊長(......)


──コンコンッ

仕事柄慣れない早起き、絶妙に身体がだるい。

そして伝わらなかったジェスチャーに少しばかり苛立ちを覚える。

半ば迷いながらも、隊長は扉を開けた。


帽子「やぁ、おはよう」


帽子「って、なんだいその顔は...ちゃんと宿主に許可をもらってから入ったよ?」


隊長(俺はそこでまってろって伝えたつもりなんだがな...)


隊長「...シタクするからマッテロ」


帽子「すごい装備だね、みたことないよ」


帽子「特にこの武器、どうやってつかうんだ」ジーッ


隊長(最先端の技術で出来てるからな)
72 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 22:52:58.78 ID:s2j1zj4E0


帽子「この服? とてもおもたいんだね」グググ


隊長「カエセ」


着替えながらも、窓の様子を伺う。

先程は帽子に邪魔をされてしまったが、今度こそはその景色を楽しむ。

するといささか違和感のある光景が目にはいる。


隊長(...朝早くなのにさっきから人が走りまわってるな)


隊長(こいつの追手だろうか)チラッ


帽子「うん?」


隊長(...よくて万引きくらいの悪さしかしそうにないな)


隊長(たかが泥棒相手にこんな大勢で追うわけないか)


そんなしょうもないことを思いながら、着こなしを終える。

着慣れてしまったこのミリタリー、そして緑のマフラーを忘れずに。

少しばかり早いが、彼らは宿を出発した。


隊長(...よく見たらコイツ、腰に剣をつけてるな...この形状はレイピアか)


帽子「その武器、どう使うんだい」


隊長「...ネラッテ」


帽子「狙って?」


隊長「ヒキガネひく」


帽子「引き金引いて?」


隊長「...オワリ」


帽子「...そんなにつよそうな武器じゃないみたいだね」


隊長(撃ってやろうか...)


帽子「着いたよ」


隊長「オウ...」


そこにあるのは壁、そしてやや大きい箱があった。

帽子がそれをどかすと見事なまでの出入り口が現れる。

この穴はどのようにして作られたのか、もしかして彼が開けたのだろうか。


隊長「...」


帽子「ほら、行くよ?」


〜〜〜〜
73 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 23:00:49.76 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


帽子「おお、ここが草原地帯か」


隊長「...キをツケロ」


帽子「うん?」


隊長「...チジンがここでケガをシタ」


帽子「...そうか、気をつけるよ」


帽子「それにしても、塀の外はこんなにも綺麗だったのか...」


隊長「...あぁ、キレイだな」ゴソゴソ


思わずゴーグルをはずし肉眼で景色を楽しむ。

そして鼻に香る草原の香り、とてもさやわかな気持ちになれる。

その時、帽子があるモノを発見する。


帽子「おや、向こうに森があるね」


隊長「...ホントウだな」


隊長(この森、俺が初めてここにきたときはこの塀が邪魔で見えていなかったのか)


帽子「いってみないかい?」スタスタ


隊長(すでに足が動いてるぞ...)


隊長「あぁ...イクか」


〜〜〜〜
74 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 23:01:57.94 ID:s2j1zj4E0

〜〜〜〜


隊長(そういえば、あいつは元気だろうか...)


???「あぁ〜! あのときの人間!!」


隊長(...はぁ)


噂をすればなんとやら。

出会ったときよりも声の調子がいい。

どうやら怪我は完治したようだ、その水の身体がそれを証明する。


スライム「なんでわたしの住処の近くにいるの!」


帽子「おや、きゃぷてんの知り合いかい?」


隊長「...あぁ、ケガをしてたチジンだ」


帽子「...へぇ、この子か」


スライム「ちょっと無視しないでよ」


隊長「ヨウ、ゲンキか?」


スライム「あーはいはい、あなたのおかげで元気ですよ〜」


帽子「この子、君が売ってくれたこの玉みたいに綺麗な体してるね」サッ


彼が取り出したのは、買い取った例のアレ。

よほど気に入ったのか常備していた模様。


隊長「ン?」


隊長(よく見てなかったが...確かに似ているな)


スライム「あぁー!? それ売ったの!?」


隊長「あぁ、コイツがウッテくれって...」


スライム「それはスライム族の盟友の証よ!!」


スライム「なんで売っちゃうの!?」


隊長「カネにこまってな」


スライム「し、しんじられない...」
75 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/11/20(火) 23:03:25.47 ID:s2j1zj4E0

帽子「しかし、ボールも君も綺麗だな」


スライム「え...あ、ありがとう...」


帽子「──やはり間違っている」ボソッ


その言葉はあまりにもか細く、そしてあまりにも早かった。

この場にいた者たちには聞き取ることができなかった。


スライム「はぁ...まぁ売った奴も悪そうな奴じゃないしいいか」


隊長「ナンカ、すまんな」


スライム「もういいわよ...それ、持ってればスライム族に襲われないわよ」


帽子「へぇ...素敵なモノをありがとう、きゃぷてん」


隊長「うるせェ」


スライム「...もしかして森に入るの?」


帽子「まずいのかい?」


スライム「そこ、野良魔物の中であんまり評判よくないわよ」


隊長(野良魔物...新聞に載ってたな)


帽子「ふぅむ...どうする?」


隊長(帽子の野郎、俺に決定権をぶん投げやがったな...仕返ししてやるか)


隊長「オレはヤトワレだ、オマエにツイテくだけだ」


帽子「...結局私が決めるのか」


隊長「あぁ」


隊長(...少しだけスカッとした)


帽子「じゃあ...行こうか」


隊長「オウ」


スライム「...付いていっていい?」


帽子「別にかまわないよ?」


〜〜〜〜
76 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/20(火) 23:04:01.59 ID:s2j1zj4E0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
77 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:00:13.04 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


帽子「森の中は暗いね」


スライム「魔物の目にかかれば暗闇もへっちゃらよ」


隊長「...シズカニしろ、オソワレルかもしれん」


帽子「実は私には剣術の嗜みがあってね」


スライム「まもってね?」


隊長(襲われる前提で話をするな)


隊長(...歩いた道にナイフで印を付けておこう)


木々が生い茂り、お日様の光を遮る。

早朝特有の強い日差しがこの森には届かない。

この暗い雰囲気の中数時間歩く、帽子とスライムはひたすらに喋り続けた。


隊長(...)ピクッ


隊長「...イルな」


スライム「えっ?」


帽子「...よく気がついたね」


魔物の分際で未だに気づくことができずにいた。

そんな彼女を放置して、男2人は身構える。

隊長はアサルトライフルを構え、帽子は鞘からレイピアを抜く。


隊長(...8人くらいか?)
78 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:02:04.60 ID:pE3Q1RjV0

スライム「え? え? どういうこと?」


隊長「...クルぞ!」


帽子「──来たね」


??1「──なんだてめぇら!」


??2「なんでこんなところに人が...いや魔物もいるな」


ズボラな格好、しかしそれでいて首元や指には豪華な装飾が。

その姿を見ればわかる、彼らの職業についてだ。

確信を得た帽子は思わずつぶやいた。


帽子「...盗賊か」


スライム「び、びっくりした!」


盗賊1「くく、悪いが盗賊様と出会っちまったら最後」


盗賊2「身包みはがさせてもらうぜ!!」


隊長(...全員で7人か)


盗賊1「ホラ! くらい────ゲフゥ!!」


──バキィッ...!

先陣をきった盗賊が彼に向かって飛びかかった。

短いながらも刃物を持っている、とても危険な場面であった。

しかし、隊長という男が飛びかかりをしてくる犯罪者を想定した訓練を怠るわけがなかった。


帽子「うわ...いい拳が入ったね」


隊長「...オイ、ウシロはまかせたぞ」


帽子「わかったよ...見た目に違わず、すごい怪力だね」


隊長と帽子が背中合わせになる。

もう1人いたはずだが、彼女はいつの間にか姿を隠していた。

逃げたかどうかなど些細な問題、今は続々と押し寄せてくる盗賊共の相手をしなくてはならない。
79 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:03:08.23 ID:pE3Q1RjV0

盗賊2「おらおら!!」シュッ


帽子「──よっと」


──キィンッ...!

鳴り響く、金属が金属に接触する不快な音。

盗賊2が突き出してきた刃物、しかしそれは無謀であった。

圧倒的なリーチの差に敵うはずがない、帽子の剣が盗賊の武装を解除する。


盗賊2「げっ!」


帽子「これでどうだいッ?」ブンッ


盗賊2「──ぎゃッ!」


──ガンッッ!

剣の柄には豪華な装飾は付けられている。

それで殴られれば、たとえ大の男だとしても素っ頓狂な声を上げてしまう。


帽子「...殺すなよッ!」


隊長「ワカッテる...」ダッ


盗賊3「う、うわあああ」


隊長「────ッ!!」ガシッ


まさか返り討ちに合うとは思ってもいなかったようだ。

次々とやられていく仲間たちの姿を見て、棒立ちする盗賊の1人。

そんな彼を持ち上げる、そしてなにをするかと思えば。


隊長「──フッ!!」ブンッ


盗賊3「──ひえええええええええええ」ピューン


盗賊4「こ、こっちにくるぞッ!」


盗賊5「うわああああああ────」


──ズドンッ...!

大きな音とともに、2人の盗賊が下敷きとなる。

当然、投擲武器として使われた盗賊3もそのまま気絶をしてしまう。


帽子「わぁ...もう半分以上片付けてる」


盗賊6「余所見してると死ぬぜ? 坊や」


盗賊7「オラオラッ! くたばりやがれェッ!」
80 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:04:14.96 ID:pE3Q1RjV0

帽子「おっと...よそ見をしてしまったかな?」


わざとらしいセリフであった。

彼の目線は2人の盗賊、よりも先であった。

迫ってくる彼らの背後には彼女が、それも大きな水の流れもおまけとして。


スライム「──"水魔法"っ!!」


──ばしゃばしゃっ...!

水の流れが彼ら盗賊たちを洗い流した。

声も上げる暇もなく、人間は水という絶対的な存在に敵うはずがない。

襲ってきた8人の盗賊をすべて処理し終えていた。


帽子「やるね、魔法だなんて」


スライム「へへん」


隊長「...さテ、どうするか」


帽子「うーん、特にここには何もなさそうだね」


隊長「こイツら、メをサましたらメンドウだ」


帽子「じゃあ、もう戻ろうか...ってだいぶ時間が過ぎたんじゃないか?」


スライム「歩いてるときはずっとおしゃべりしてたもんね」


帽子「って、出口はどっちだ?」


隊長「...コッチだ」


彼は案内する、まるで自分の庭のように。

木々につけてきた傷を頼りに、帰り道を進んでいく。

帰り道も彼と彼女の口が塞がることはなかった、よほど喋ることが好きらしい。


帽子「印をつけてくれたおかげで楽にでれたよ」


隊長「コレはキホンだ」


帽子「さて...もう日が傾いているな」


帽子「私は都に戻るとしようかな、君はどうする?」


隊長「...オレはオマエをオクッタあと、タビをススメル」
81 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:05:35.75 ID:pE3Q1RjV0

帽子「...そうか」


スライム「...」フヨフヨ


沈黙がしばらく続く妙な空気の中、スライムが揺れる。

短い時間ではあったが、彼と彼女といた時間がとても有意義に感じていた。

よほど窮屈な生活をしていたのだろう、帽子は口を開いた。


帽子「...よかったら君の旅に着いていってもいいかい?」


帽子「君のこと、気に入りすぎたみたいだ」


唐突に告げてきた、しかも顔つきは真剣そのもの。

初めて帽子と目が合った、その目を見せられれば言葉などいらない。

この先孤独を楽しむか、それとも適切な距離で接してくれる人物を得るか。


隊長「...オレにはコトワルりゆうはない」


隊長(あんな目をされては、断れないな...入隊したての隊員を思い出した...)


帽子「...フフ、何回か断られると思ったよ」


スライム「よ、よくわからないけどがんばってね」


帽子「...君はついてこないのかい?」


スライム「え、でも...魔物の私じゃ迷惑だよ」


隊長「メイワクなヤツならすでにいる」


帽子「ちょ...」


スライム「...ぷっ!」


スライム「あはは! あなたたちみてると楽しいよ♪」


スライム「これからよろしくね♪」


隊長「あぁ...ヨロシク」


帽子「そういえば、どこにいくんだい?」


隊長(元の世界に戻りたいだけなんだがな...)
82 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:06:15.32 ID:pE3Q1RjV0

隊長「ワカラン、キメテない」


スライム「なにもきめてないの?」


帽子「それなら西南の荒野に賢者の塔がというのがあってね」


帽子「そこにいる大賢者って人はこの世のすべてを知ってるらしいよ」


隊長("すべて"を知ってるか...試してみる価値はありそうだな)


隊長「じゃあ、ソコにいくか」


帽子「やった! 実は前からいってみたかったんだよね」


スライム「草原以外の場所なんて、わたしはじめてだな」


いざ旅へ出発しようと足を進めると、目にあるものが差さる。

その光は紅く、とても心が落ち着く色合いをしている。

夕焼けが彼ら3人を照らしていた。


隊長(ここ、丁度丘になっていて...絶景だな)


スライム「夕日...きれいだね」


帽子「綺麗だな...墓はここに立てたいね」


隊長(...縁起でもないな、こいつ)


〜〜〜〜
83 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:24:41.47 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


帽子「今日はここに野宿だね、よっと」ギシッ


スライム「ふぃー、つかれた...」モニョモニョ


日は完全に沈み、あたりは暗闇に包まれる。

帽子は近くにあった木に寄りかかり、楽な姿勢をとった。

スライムは少しだけ人の身体の形状を崩していた。


帽子「私は野宿が始めてだ、貴重な体験になるな」


隊長(...犯人確保のために下水道で一晩過ごした時よりマシだな)


帽子「野宿は嫌いかい?」ゴロン


隊長(いつ襲われるかわからないからな)


隊長「さぁな...」


スライム「ぐぅ...」


隊長(もう寝ているのか...)


帽子「ふむ、今日は疲れてるみたいだしもう寝るよ」


そういうと彼は、首元だけ木によりかからせる。

そして被っていた帽子を視線避けにさせる。

はじめての野宿だというのに、妙にこなれていた。


隊長(...野宿か)


隊長(この場合見張りは必須だろうな)


隊長(起きてるしかないな...まぁ1日くらいの徹夜なら仕事柄慣れている)


〜〜〜〜
84 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:25:32.57 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


帽子「...」スピー


スライム「すぅ...すぅ...」ムニャムニャ


隊長「...」ペラ


隊長(この世界の月夜は明るいな、満月なのも影響してか余裕で図鑑が読める明るさだ)


???「おなかすいたぁ...」ガサガサ


その時だった、聞き間違いではない。

声色からして女、スライムはすでに就寝中。

ならば考えられるのは部外者、隊長は警戒をする。


隊長(...草むらになにかいるな)


目標の位置を捉えた、あとはただ待機するのみ。

向こうがこちらに仕掛けてくるのなら、応戦するしかない。

彼はアサルトライフルのグリップを握りしめた。


???「くんくん...人間のにおいだぁ」ガサガサ


隊長「...おい、おきろ」


帽子「...ん?」


スライム「ふぁぁ...なぁに?」


隊長「敵襲だ」


帽子「──おっと、それはいけないね」カチャ


スライム「ふぇ?」

85 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:26:42.64 ID:pE3Q1RjV0

隊長「...」スッ


帽子の目が瞬時に覚めた、即座に彼は剣を握った。

そして隊長は静かに指を向けた。

そこは草むら、奴はここにいる。


帽子(ここにいるようだね)


帽子「...」コクリ


隊長(どうやら、今回はジェスチャーが伝わったな)


???「ふっふっふ...ばぁ!!」バッ


草むらから魔物が飛び出した、が。

その飛び出し方はとても安直でみえみえ。

隊長は愚か帽子ですら目で追えた、つまりは簡単に組み伏せることができた。


隊長「──フッ!」ガバッ


???「──いたたたたたたっ! ごめんなさぁいぃぃっ!」バタバタ


隊長(女...それも子どもか?)パッ


あっけなく組み伏せた。

しかし、そこから発せられるのは幼い声。

罪悪感が彼の手を話した、いくらなんでも非情になれない。


スライム「...魔物?」


???「うぅ〜そうだよぉ」


帽子「名前をおしえてくれるかい?」
86 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:27:51.30 ID:pE3Q1RjV0

ウルフ「あたしはウルフだよぉ」


帽子「...随分と可愛らしい見た目だね」


隊長(白い毛並みのハスキーみたいだな...)


スライム「お手」スッ


ウルフ「わん」ポス


スライム「うひゃぁ...かわいい」


隊長「で、ナンのようだ」


ウルフ「おなかすいちゃって...」


ウルフ「人間は食べないしゅぎなんだけど、いいかなぁって思って...」


立てていた耳を垂らすその仕草。

それは無意識で行われていた、しかしそれに心を奪われない者などいない。

すこしばかり砕けた声色で帽子は問いかける。


帽子「できれば勘弁してほしいな...」


隊長「はぁ...」


隊長(腹が減ったというわけか...)ゴソゴソ


隊長(そういえば確かいくつかレーションが...ってチョコレートだなこれ)ゴソゴソ


隊長(いや、犬にチョコレートはダメだろ)


ウルフ「──っ!」ピクッ


取り出したのがまずかった。

その甘い匂いを嗅いで、待てをできる野良犬などいない。

先程とは大違いの速度で隊長の手に持った食べ物が盗まれる。
87 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:28:56.93 ID:pE3Q1RjV0

隊長「──ちょ...はけッ! どくだぞッ!」


ウルフ「──あまぁ〜いっ!」


しかしその表情に危険性はなかった。

犬とは言っても、彼女も人の形をなしている。

その影響か、時間が経ってもウルフの顔つきが悪くなることはなかった。


隊長(...そういえば少年時代、犬を飼っていたな...それを思い出した)


帽子「スライムは綺麗だったが、ウルフは愛らしいな...」


スライム「な、なにいってるの...照れちゃうよ...」


隊長(寝起きでおかしくなっているのか、この帽子は)


ウルフ「ふぅ〜...ごちそうさまでしたっ!」


帽子「ふむ、私もおなかがすいたな」チラッ


隊長「クサでもくってろ」


スライム「ふぁぁ...もうひとねむりしよう」


ウルフ「ねぇ、あそんでぇ」


隊長(...昔を思い出すな、少し遊んでやるか)


帽子「私も寝るよ...」


〜〜〜〜
88 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:36:43.79 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


ウルフ「おはようございますご主人!」ハッハッハッ


帽子「なにをしたんだい?」


隊長「アソビすぎた」


隊長(まさか、木の棒でフリスビーみたいなことをしてたら...夜が明けていただなんて...)


ウルフ「どこまでもついていきますっ!」ハッハッハッ


スライム「あたらしい仲間だね」


ウルフ「おんなのこどうし、なかよくしてね!」


スライム「よろしくね」


帽子「ふむ、食事はどうするか」


スライム「わたしは水があればだいじょうぶ」


ウルフ「おなかへったぁ...」


隊長(俺も流石に腹が減ったな...)


ウルフ「...みずがながれるおとがするよ?」ピコピコ


隊長「...!」


耳をかなり集中をさせて、ようやく確認できた。

人間にはそれが限界、だが犬や狼なら朝飯前の行動。

近くに水の流れる川がある、そこには当然魚もいるだろう。


隊長(流石、犬なだけあるな...)


〜〜〜〜
89 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:37:39.29 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


スライム「うひぃ〜きもちぃ〜」プカプカ


帽子「魚がいるみたいだね」


ウルフ「うぅ...すばしっこくてとれない」


しばらく歩くとやはり川が存在していた。

そしてそこには魚影、今朝の食事はこれしかない。

だが問題点が1つ、それは魚を取る道具がなかった。

そんなこともつゆ知らずか、スライムは川に入り浮かんで遊んでいる。


隊長(...魚か、いいエナジーになるな)


隊長(どうやって取るかが問題だな)


スライム「──うひゃぁ!!」バチャ


帽子「ど、どうしたんだい? って...」


スライム「く、くすぐったい」プルプル


スライムの身体、それは水である。

川に入れば自身はそれと同化する、そう言っても過言ではない。

スライムの身体を川の一部と勘違いした魚が彼女に入り込んでいた。


帽子「だいじょうぶかい?」スッ


スライム「ちょ、わたしの中に手を入れないで...///」


帽子「す、すまない...そんな価値観だとは思わなくて...」


隊長(...案外、こいつらは足手まといではないようだな)


隊長(...はぁ、これから先どうなることか)


ウルフ「わぁい、ごはんだぁー!」


隊長(まぁ...今は飯にしよう)


〜〜〜〜
90 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 21:40:10.23 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


帽子「ふむ、焼いただけの魚もいけるものだね」


ウルフ「やっぱりおさかなは生のままだぁ!」


隊長「やかないとオレはくえん」


隊長(マッチを拾ってなかったら生で食うハメになったな)


スライム「わたしなんて水以外必要ないよ」


隊長(食生活はこの世界も様々だな)


帽子「よし、食べたことだし進もうか」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「川から大分歩いたね...」ゼェゼェ


隊長「ソウだな」


スライム「すずしい顔してるねぇ...」ハァハァ


ウルフ「ご主人すごい!」


帽子「そろそろ休みたいものだね...」ゼェゼェ


隊長「...どうやら、ヤスめるみたいだぞ」


スライム「あれは...村...?」ハァハァ


ウルフ「わぁい! いこういこう!」ハッハッハッ


隊長「まて、オレがようすをみてくる」


隊長(魔物に良い印象をもっていないかもしれんしな)


帽子「わ、私も行くよ」ゼェゼェ


隊長「オマエもまってろ」


〜〜〜〜
91 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 22:57:34.12 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


???「はぁ...よっこらしょ」


村に入ると、女性が1人。

なにやら大きな荷物を運んでいる。

当然、人の気配などに気づいているわけがない。


隊長「すまない...キキタイことが──」サッ


???「えっ!? あ、うわっとっとっとっと!」


──ガッシャンッ!

死角から現れた大柄の男、村の者でもないのが相まってか。

女性はビックリして荷物を落としてしまう。

それどこか尻もちをつかせてしまう、隊長は申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。


隊長(...確かに、物陰から急に現れれば驚くだろうな)


隊長「すまん...テをとれ」スッ


???「いや...大丈夫だよ...いてて」ガシッ


隊長「...カワりにニモツをもとう」


???「なんかすまん...あぁ、それおもたいからな」


隊長「なれている、ドコまではこべばいい?」


???「そこの私んちまでだ、よろしく」


隊長「オウ」


重い荷物の運搬など、彼にとって些細なことだった。

迷惑をかけてしまった分を取り戻そうと、隊長は女性の家に招かれた。

そして無事に荷物を運び終えることができた。
92 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 22:58:29.95 ID:pE3Q1RjV0

???「いやーたすかったよ」


隊長「レイにはおよばん」


???「ちょっとあがっていきなよ、聞きたいことあるんだろ?」


隊長「すまない、タスかる」


???「座って待ってなー」


隊長(...外にあいつら置いてきたが大丈夫だろうか)


隊長(とりあえず座ろう)スッ


??1「お姉ちゃん、お風呂あがったよー」


その時、先程の人物とは違う声が聞こえた。

正確に言えば違う、違う声とはいってもどこか似たようなモノだった。

他人の空似だったのなら、どれだけよかったことか。


魔女「ふぅーいい湯だった...ってあれ...」


???「あっ、いま客きてるから裸でうろつくなよー?」


隊長「...」


魔女「...」


???「きいてるかー? っておそかったか...」


隊長(女が戻ってきたか...時間も戻ればよかったのにな)
93 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 22:59:41.11 ID:pE3Q1RjV0

魔女「...し」


隊長「...シ?」


???「し?」


魔女「しねええええええええええええええええええっっ!」


──バチバチバチバチッッッ!!

人を軽く殺せる威力の雷が隊長の顔を掠めた。

どうして、彼女との再開がこのような茶番になってしまったのか。


隊長「──ま、まて!」


???「ちょ、まてまてまて!!」


魔女「なんでいるのよおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!」バチバチ


隊長「トリあえずかくせ!!」


???「いい加減にしろ! 落ち着けっ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


ウルフ「ご主人おそいなぁ...ふぁ〜あ」


スライム「あくびをすると眠くなっちゃうよ」


帽子「...」スピー


スライム「って、この人寝てるし...」


ウルフ「くぅ...」スヤスヤ


スライム「2人ともねちゃった...」


スライム「...そういえばこの人の顔ってどんなんだろ」


スライム「...みちゃお」


帽子「zzz」スピー


スライム「...そぉ〜っと」ドキドキ


その時だった、あと少しで彼の帽子を剥ぐことができたというのに。

後ろから声をかけられてしまった、その声は間違いなく隊長。

しかしなぜだろうか、少しばかり疲れているような。


隊長「...オイ、オマエら」


スライム「──ぴゃっ!! ごめんなさいごめんなさい! ってあれ...?」
94 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:01:03.61 ID:pE3Q1RjV0

帽子「...ん、眠ってしまってたか...おや?」


ウルフ「くぅ...くぅ...」スヤスヤ


魔女「...」ムッスー


隊長「...ムラにはいるぞ」


露骨に不機嫌な魔女と、目が若干虚ろな隊長がそこにはいた。

一体どのような関係性なのだろうか、とても気になった帽子。

しかし声をかけることはできなかった、そのあまりの剣幕に。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「なるほど、ここは魔物の村なのか」


テーブルには食事がならんでいる、無事招待された模様。

帽子はそんな話を聞きながら、オークが馬小屋の馬を世話している光景を凝視する。

この女性の話、その真偽をその眼で確かめた。


???「そうさ、おっと自己紹介がまだだったな」


魔女姉「私は魔女姉、こいつの姉貴さ」


魔女「...」ムス


魔女姉「そんな機嫌悪くするなよ」


魔女「お姉ちゃんのせいじゃん!」


魔女姉「そもそも裸でうろつく癖がな...」


魔女「ぐぬぬ...」


帽子「...裸?」


魔女「な、なんでもないっ!」


隊長(...はぁ)
95 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:02:49.36 ID:pE3Q1RjV0

魔女姉「ここは普通、見つからない秘境みたいな感じなんだけどな」


帽子「そうなんですか?」


魔女姉「まぁ魔物自体の存在を許してない奴も多いからな」


魔女姉「襲われたらイヤだろ?」


帽子「そうですね...」チラッ


再び、帽子は外の光景を眺めた。

庭だろうか、そこには村の魔物の子と戯れるスライムとウルフ。

早くも打ち解けている、同じ魔物だからだろうか、そんな光景が彼の心を奪う。


帽子「──こんなに綺麗で美しい光景なのに」ボソッ


魔女姉「...ん? なんかいったか?」


帽子「...いえ」


魔女姉「まぁ、私が魔法をつかって見つからないようにしてるんだがな」


帽子「その魔法とは?」


魔女姉「...悪いがよそ者には教えられんな」


帽子「フフ、それもそうですよね」


魔女姉「あんたら悪そうな奴じゃなさそうなんだけどな、村の掟みたいなもんさ」


帽子「ですが...なぜ私たちはこの村に気づいたんだろう」


魔女姉「うーん...魔物と一緒にいたからじゃないか?」


魔女姉「この魔法、魔物には目視ができるからな」


魔女姉「認識されちまったら、一緒にいる奴らも見えちまうだろうね」


帽子「ふむ...」


隊長(...話が盛り上がってるな、俺も参加したいところだが)


魔女「じー」ギロリ


隊長(視線が鋭い、俺の部隊にもこんな奴はいないぞ)
96 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:04:20.33 ID:pE3Q1RjV0

ウルフ「こっちだよぉー!」バタバタ


村の子1「ま、まっていぬのおねえちゃん」


スライム「ほら、お花のかんむりができたよ」パサッ


村の子2「わぁ〜ありがと!」ニコニコ


隊長(みんな楽しそうだが俺だけ地獄のようだ)


魔女「じー」ギロ


隊長「...ナンだ」


魔女「ふんだ」


帽子「この村の人間はあなたたちだけみたいですね」


帽子があたりを確認しながらつぶやく。

周りの村民、姿形はほぼ人に近いがやはり違う。

だが彼女ら姉妹は人間と遜色ない、むしろそのモノである。


魔女姉「あー...いや、この村に人間はいないぞ」


帽子「おや、あなたたちは...どうみても人間のようだが?」


魔女姉「私たちの魔力は後天性じゃなくて、先天性なんだ」


帽子「...人間と魔物の子ってわけですか」


隊長(...ハーフか)
97 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:05:26.60 ID:pE3Q1RjV0


魔女姉「母が人間で父が魔物の魔術師で...」


ある疑問が彼には浮かんでいた。

持って生まれたのか、そうでないのかの差。

この世界の住民でないからこそ、その僅かな差に引っかかる。


隊長「...そこまでさべつされるノか?」


帽子「...後天性の魔力は神からの贈り物と言われ、浄化されていると認識されてるんだ」


帽子「逆に先天性の魔力は神を通してないから穢れていると認識されてるんだよ...」


魔女姉「そうだな...」


隊長「...なるホド」


魔女姉「そういえば...あんたら旅してるんだってね、目的地とかあるのか?」


帽子「一応目的地は、賢者の塔ですね」


魔女姉「──け、賢者の塔だって!?」


それは魔物だからこそのツッコミであった。

あそこがどれほど危険な地域であるか。

人間の彼ら、ましては野良の魔物にはわからない。


帽子「どうしました?」


魔女「...あそこは危険だからあんたたち人間が近寄ると死んじゃうよ」


魔女姉「こら、言い方がひどいぞ...まぁ実際そうなんだが」


帽子「ふむ、そこまで言われると逆にいってみたいな」


隊長「どちらにしろ、オレにはしりたいことがアルんでな」


魔女姉「まぁ止めはしないよ...だが気をつけろよ?」
98 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:06:30.04 ID:pE3Q1RjV0

魔女「ふんだ、死んじゃえ」


魔女姉「おい、流石に口が悪いぞ」


隊長「イヤ、オレはきにしていない」


魔女「...私は部屋に戻るわよ」


そう言うと、彼女は足早に去っていた。

露骨に嫌悪感を醸し出されている、流石に応えるものがある。

しかし、偶然とはいえ乙女の身体を見てしまったこの中年男性が悪い。


隊長「...だいぶキラわれてるな」


魔女姉「なんか、すまん」


魔女姉「...ってもう暗いな、今日はうちに泊まりな」


隊長「タスかる...」


魔女姉「いいってことよ、魔物を連れて旅する奴に悪いやつはいないさ」


〜〜〜〜
99 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:07:26.47 ID:pE3Q1RjV0

〜〜〜〜


魔女姉「さて、寝床どうするか...」


村のもてなしを受けた、その密度は濃い。

ここに訪れたのは朝だというのに、すでに日は沈みかけていた。

窓から夕焼けの紅が差し込む中、魔女姉は2人に問いかけた。


隊長「オレはイスでいい」


帽子「私もイスで大丈夫」


魔女姉「じゃあ、スライムとウルフは私の部屋においで」


スライム「はーい」


ウルフ「がうっ!」


魔物の仲間2人が、魔女の姉に連れられた。

昨夜は野宿だったが、今夜は屋根のある場所で就寝できる。

地味に徹夜をしていた隊長、今日こそはぐっすりとできるだろう。


帽子「...」スピー


隊長(早いな...)


〜〜〜〜
100 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/21(水) 23:08:00.52 ID:pE3Q1RjV0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/21(水) 23:55:54.98 ID:hRsuvK2IO
おつ
続き待ってます
102 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 21:36:12.26 ID:HupzCDNi0

〜〜〜〜


魔女姉「──だから無理だっ! かえってくれ!!」


???「そうはいかん、魔王様の命令だ」


隊長(...ん?)


帽子「...起きたかい? なにやらもめているね」


早朝、外から聞こえてき大声。

なにやら魔女の姉が誰かともめている様子だった。

ただの喧嘩だろうか、そう思った矢先にとても不穏な言葉が発せられる。



魔女姉「──この村に人間と戦争するような奴はいない!!」


帽子「──...ッ!?」


隊長「...」


寝ぼけているわけではない、確実に耳にしたのは戦争というワード。

それがどれだけ重みのある言葉なのか、魔女姉の意見に賛同する村民たちの声が沸き立つ。

困惑気味の彼らの背後に、彼女が訪れる。


魔女「あいつの刺青を見て...あれ魔王軍の証だよ」


隊長「...まおう?」


魔女「魔王もしらないのね...人間の敵の王様よ」ハァ


???「ふん、手を貸さないなら...こんな村、この暗躍者が消してやろう」


魔女姉「──や、やめろ!!」


魔女「────っ」ダッ


隊長「──まてッ!」


彼女は走り出してしまった。

隊長の静止は虚しく、止まることはなかった。

首根っこを掴んででも止めるべきであった。


帽子「これ...まずいんじゃない?」


〜〜〜〜
103 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 21:38:05.42 ID:HupzCDNi0

〜〜〜〜


魔女姉「たのむ、もう帰ってくれ...」


暗躍者「...死んでもらおうか」


魔女姉「──おまえら、離れろ!」


魔女姉の一声で、集まっていた村民は離れていった。

この男の腕には大きな入れ墨、魔女が言うには魔王軍の証らしい。

彼の名は暗躍者、一体なぜこのような者がこんな辺鄙な村に。


暗躍者「...あんまり時間を掛けさせないでくれ」


魔女「──お姉ちゃん!!」


魔女姉「──魔女! くるな!!」


暗躍者「...妹殿、我らの魔王様に仕える気はないのか?」


魔女「あるわけないじゃん!! お姉ちゃんから離れろ!」


暗躍者「...チッ、魔物モドキの分際で調子に乗るなよ」


魔女姉「────なんだって?」ピクッ


その時、空気が変わる。

なにか言ってはいけない単語を放ってしまったかのような。

彼女の周りに焔が纏う、これは彼女の得意な魔法。


暗躍者「...人間などの下等生物の血を半分も受け継ぐなど考えられん」


魔女姉「母を侮辱することはゆるさんぞ...」


暗躍者「チッ、クズが」ブツブツ


──バチバチバチバチィッ!

しかし、怒りに誘われたのは彼女だけではない。

感情の込められた雷が、暗躍者に襲いかかる。


暗躍者「...チッ、雷魔法か」


魔女「お母さんを...馬鹿にするなぁっっっ!!!!」


魔女姉「...魔女、下がってろ」


暗躍者「どちらにも死んでもらう...下がらなくてよいぞ」ブツブツ


しかし、雷魔法で怯む彼ではなかった。

彼は魔王の名を口にした、そのようなことは下等な者には許されない。

この男、かなりの実力を誇っている、それを証明する威力の魔法が飛び出した。


暗躍者「──"風魔法"」
104 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 21:39:40.16 ID:HupzCDNi0

魔女姉「────あぶない!」ガバッ


──ヒュンッ!

その単純な音が、彼女の身を痛めつける。

風の魔法、それは目で捉えることのできない強烈な魔法。


魔女姉「──ぐあぁっっ...」


魔女「──お姉ちゃん!? お姉ちゃん!?」


魔法が魔女姉の頭部に直撃し、そのまま気絶をしてしまう。

あまりの出来事に魔女は動転してしまい、姉の名前を呼ぶことしかできずにいた。


暗躍者「...安心しろ、まだ死んでない」


暗躍者「魔王様の命令を断った罰だ、この剣で逝かせてやろう」スッ


魔女「くっ..."雷魔法"!!」


──バチッ...!

先程のモノと比べると、弱々しい。

気が動転している、考えられる要因は1つしかなかった。

それは隊長が読んでいた本にも記載されている項目。


暗躍者「詠唱がめちゃくちゃだぞ、そのような魔法など食らわん」


暗躍者「...クズよ、逝け」スッ


魔女「ひっ」


彼女の得意な魔法は通用しなかった。

そして暗躍者は見せしめのように、剣を見せつけてきた。

わざわざ剣で惨たらしく殺す気だ、魔女は無意識に姉を庇おうとした。


魔女「────っ!」


──ダンッ!

そして聞こえたのは、未知の音。

まるで何かが弾けたような、そして香るのは独特な匂い。


隊長「──Scum...」


帽子「...なにをいってるんだい?」


隊長「オレのフルサトのことばだ」
105 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 21:48:07.98 ID:HupzCDNi0

暗躍者「ぐっ...なんだこの威力はッ...!?」


手のひらに感じるのは激痛。

何かが貫通した後が残る、その手で剣を握ることなどできない。

暗躍者は思わず剣を弾き落としてしまった。


暗躍者「俺に傷をつけるのは困難なはず...!」


隊長「帽子、魔女姉をタノム」


帽子「よしきたね」


魔女「ま、まって!」


隊長「ココはオレにまかせろ、オマエは魔女姉についてやれ」


暗躍者「ま、まてぇ! "風ま──」


──ターンッ!

詠唱によって魔法陣が現れ、そこから風が生まれようとする。

だがそのような目に見えた行動、彼が許すわけがなかった。


隊長「...いけ」


暗躍者「グッ...ガハァッ...!?」


魔女「で、でも...」


帽子「魔女さん、行きましょう」


帽子は気絶した魔女姉を背負い、動揺する魔女の腕を強引に引っ張った。

ここに残ったのは、隊長と暗躍者の2人。

場は整った、しかし彼は忘れ物をしていた。


隊長(慌てずに、アサルトライフルをもってくればよかったな...)


暗躍者「貴様...人間か、その武器さえどうにかすれば余裕だな」


隊長「ドウにかしてみろ、クズ」


暗躍者「──貴様ぁ!! 今に見ていろ!!」スッ


彼は懐から何かを取り出した。

微かに見えたのは小瓶、そしてその中身を飲み込んだ。

すると、暗躍者の身体は消え始める。


隊長(ステルスか...なんでもありだな...)
106 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 21:48:53.84 ID:HupzCDNi0

暗躍者「──"風魔法"」


──ヒュンッ!

そして早くも仕掛けてきた、見えないところから見えない魔法が襲いかかる。

防弾チョッキで守られているとはいえ、腹部に直撃した。

その威力は絶大、思わず嗚咽してしまうほど。


隊長「──ッ!? ガハァッ...」


隊長(なんて威力だ...車にぶつかったような痛みだ...)


隊長(...厄介だ)


暗躍者「"風魔法"」


──ヒュンッ

再び襲いかかる突風。

隊長が比喩した、車にぶつかったような痛み。

それが連続すれば、確実に死に至ってしまう。


隊長「──グフゥッ...!」


隊長(落ち着け...耳を澄ませ...)


暗躍者「"風魔法"」


隊長(──いまだッ!)スッ


──ヒュンッ!

隊長が突然屈み込んだ、それどころかほぼ寝そべりの状態に移行した。

彼には耳がある、たとえ見えない相手でも確実に捉えることのできるモノがある。

魔法には詠唱が必要、ならば必ず声を発するはず。
107 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 21:57:23.95 ID:HupzCDNi0

暗躍者(な、なにぃ...かわしただと...)


暗躍者(チィ...偶然だろう、もう一度頃合いを測って...


隊長「...」


隊長「......」


隊長「.........」


暗躍者「..."風ま──]


隊長「──ッ!」スチャッ


──ダンッ!

彼は寝そべりながらも射撃した。

ハンドガンのエイム、それはなにもない場所を捉えていた。

だがそれは虚空ではなかった、その足元に紅が飛び散る。


暗躍者「──ゲホッ...な、なぜだ...ッ!?」


隊長(口ほどにもないな...)


手応えあり、彼の射撃精度が悪くなければ確実に胸元を貫いているはず。

そうしたのであれば、あの暗躍者という男はもう動くことができない。

勝敗が白黒つけられる、そんな中心配してきた彼女が戻ってきてしまう。


魔女「...た、たおしちゃったの?」


隊長「...あぁ」


隊長(現代兵器は頼れる...頼れすぎるのが原因で社会問題にもなるがな)


魔女「...氷竜も倒しちゃうし...あんた何者?」


しかし、不可視の恐ろしさはまだ終わらない。

なにも見えないからこそ、その行動を許してしまった。

目視することができない、それが隊長の油断を招いてしまった。
108 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 22:04:06.65 ID:HupzCDNi0

暗躍者「──まだだ...」ゴク


隊長(──しまったッ!? まだ息があったかッ!?)


暗躍者「くく...これは側近様が作られた魔力薬...」ボコッ


暗躍者「──側近様の魔力が俺の中にぃいいいいいいいいいいいいい」ボコッ


彼の油断、それは見えないことだけではない。

頼れすぎてしまう銃の威力を盲信してしまっていたからであった。

胸を打たれ心を貫かれても、魔物という生き物はすぐには死なないのであった。


魔女「な、なにあれ...変異してる...」


隊長「...なんだアレはッ!?」


暗躍者の体が膨らんでゆく、それは次第にある形をなし始めていた。

その見た目はまるで巨大な花のような。

この出来事を許してしまったことが悔やまれる。


暗躍者「──ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」


魔女「──うぅ...耳がぁ...っ!」


隊長(クソッ...)


花の分際で、耳を破るような大声を出していた。

一体どこからその音がなっているのか。

それは明白であった、花弁の中央に。


魔女「なにあれ...花の中におっきな口が」


隊長「...Fuck」


魔女「...え?」


隊長「さがってろ!」


暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


──ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ!

その時だった、花弁から魔法が放たれる。

それはまだあの男が人の形をなしていた時に使っていた魔法。

突風、疾風、烈風、多数の風が無軌道に放たれる。
109 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 22:26:47.85 ID:HupzCDNi0

魔女「風魔法っ!? それも同時にたくさんっ!?」


隊長「──こっちだ! こい!!」


隊長が見つけたのは大きな木。

少なくとも身を隠せることができる、ある程度は風避けになってくれるはずだ。

そう考えた彼は走り出す、そして偶然にも風にあたることはなかった。


魔女「ぐ...きゃあぁっ!」バタッ


しかし、彼女は違っていた。

不幸にも魔女は転んでしまう、それは一体何故か。

風は無差別に放たれている、風が地面に当たればそこには穴ができてしまう。


魔女(...転んだ...もうだめだ)


足が穴に引っかかり、体勢を大きく崩す。

そして感じるのは風の音、確実に被弾することは間違いない。

恐怖からか、彼女は瞳を閉じる、瞼の暗闇が彼女の最後の光景。


魔女「...?」


しかし彼女の身体に異変はなかった。

一体なぜ、あの軌道は確実に魔女の身体を捉えていたのに。

恐る恐る視界を開いてゆくと、目の前には彼が。


魔女「な...なんで...?」


隊長「...ツギはあきらめるな」


隊長が魔女に覆いかぶさることで護っていた。

しかしそれもつかの間、花から触手が生み出されていた。

そしてそれが隊長の足を掴む。
110 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 22:36:25.41 ID:HupzCDNi0

隊長「しまっ────」


──ふわっ...

そして、無理やり上に持ち上げ


隊長「──うおおおおおおおッッ!?」


──ドスンッ!!

そこから地面へと叩き落とされる。


隊長「──ガハぁぁ...ッ!?」


背中には鈍い痛み、それ故に脱力してしまう。

抵抗する間もなく隊長は大きく上に持ち上げられる。

触手は彼を逆さまに吊るしている、そして花は大きな口をあける。


隊長「クッ...」スチャッ


──ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン

抵抗虚しく、この小さな銃では太刀打ちできない。

花という化物が口を開いている、この後に続くのは間違いなく捕食行動。


隊長(だめだ...ハンドガンではまったく怯まない)


隊長(...ここまでか、食われておわる人生か)


魔女「──"雷魔法"っ!!」


暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


立場が逆転してしまった。

先程は彼女に諦めるなと伝えたはずなのに。

今度は彼女が、隊長に向かってそう伝えてきたような。


隊長(...まだ死ねないみたいだな)スッ


隊長「──フッッ!!」ズバッ


最後の力を振り絞る、隊長はナイフを取り出した。

みなぎるのは気力、腹筋を利用することで逆さまに吊るしている触手をめがける。

そして彼は憎たらしい植物の一部を切り裂いた、すると当然真っ逆さまに落ちる。


隊長「──うおおおおおおおおッ!!」


隊長(これはヘリからの緊急脱出よりも怖いぞッ...!)
111 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 23:00:39.67 ID:HupzCDNi0

隊長「──って、スライム!?」


スライム「ほいきた! "水魔法"っ!」


その時だった、真っ逆さまの先にいたのは彼女。

そして何を思ったのか、スライムは自分に水魔法をぶつけた。

すると、スライムの体に変化が見られた。


隊長(──大きくなったッ!?)


隊長「うおおおおおおッッ!!」


──バシャーンッッ!!

隊長が直撃したのは、水の塊。

地味に鈍い痛みが走るが、地面に直撃するかよりはマシ。

どうやらスライムは自らの体積を水で増やしたようだった。


隊長「...」ゴボボ


隊長(マット代わりになったのか...助かった)スイスイ


あとは簡単、泳いでスライムの中から脱出した。

驚くほどに水はさらさらしている、理由はわからないが身体や銃は水浸しにならなかった。


隊長「──ぶはッ! スライム、たすか...」


スライム「...うっぷ、吸収しすぎた」オロロ


隊長「...やすんでてくれ」


スライム「は、はぁい...うっぷ」オロロ


魔女「大丈夫だったっ!?」


隊長「あぁ...オカゲさまでな」


暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


隊長「...じゃくてんとかナイか?」


魔女「...あんた、マッチとかもってなかったっけっ!?」


隊長「そうか...もやシテミルか...ホラ」


暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


隊長「...きくのか?」


魔女「試してみなきゃわからないってば! えいっ」ボッ


適当になげたマッチが、茎部分に火が移る。

それは以外にも軽く燃え広がった。

この暗躍者という男、乾燥肌のようだ。
112 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 23:12:42.08 ID:HupzCDNi0

暗躍者「──ガアアアアアアアアアッッ!?!?!?!?」


魔女「効いてる! やっぱ弱点は火!」


隊長「──うしろだッ!」スチャ


──カチッ! カチッ!

弱点を見つけ喜ぶ魔女の背後に触手がせまる。

それを銃撃により撃墜しようとしたが、トリガーの音がそれを拒否する。


隊長(た、弾切れ...くそッ!)バッ


魔女「え!?」ドン


彼は魔女を強く押した、その影響で彼女は倒れ込む。

そして隊長は身代わりとなる、その身を犠牲にして。


魔女「あ、あんたっ!?」


隊長「──オぉうッッッ!」


──ザッシュッ...!

隊長の右肩に細い触手が貫通する、非情にもソレは激しく貫通したまま動く。

そのあまりの激痛に悶えるしかない、手が震えるなか彼はナイフを取り出した。


隊長「ガァ...ぐぅ...」スッ


隊長(よりにもよって利き腕のほうか...)


帽子「──ほら!」ズバッ


帽子「...大丈夫だったかい?」


隊長「あぁ...タスかった」


魔女「..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...

明かりが隊長を癒やす、そして帽子が触手を払ってくれた。

しかし彼の限界は遠くない、これ以上長引くと危険だ。


隊長「たすかる...」
113 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 23:14:29.00 ID:HupzCDNi0

魔女「無茶しないで...なんであんたは...」


隊長「はなしはコイツをたおしてからだ...」


帽子「フフ、そうだね」


帽子「ところでこれ、君の武器だろ?」スッ


隊長「あぁ、たすかる」スチャッ


──ババババババババババッッッ!!

帽子が持ってきてくれたのは、彼の忘れ物。

これさえあれば、短期決戦に持ち込めるかもしれない。

今の乱射で多数に出来上がった銃痕がそう思わせた。


帽子「うわっ、すっごい威力」


暗躍者「──ガアアアアアアアアアアアアアッッ!?!?!?」


隊長「魔女!」


魔女「わかってるって!、えいっ!」ボッ


──ババババババババババッッッ!!

──ズバッ!! ザシュッ!!

大量の弾痕がある茎にマッチをぶつける。

それを阻止しようと大量の触手が襲い掛かる。

だがそれも阻止しようと、2人の男が抵抗する。


帽子「触手は私たちにまかせて、君は火をぶつけまくれ!」


隊長「はやくシテクレッ!」


──ババババババババババッッッ!!

──ザシュッ!! グサッ!!

触手を薙ぎ払う音、だがそこにもう1つが加わる。


???「"炎魔法"」ゴォ


──ゴオオオオォォォォウッ...!

その炎はマッチなどと比べ物にならない。

魔法により生まれたその大きな炎は植物を果てさせる。


暗躍者「ガアアアァァァァァァ────」


隊長「──Target destroyed」


戦いはこれ以上長引くことはなかった。

アサルトライフルが、帽子の剣が、魔女の火が。

そして魔女姉の炎が暗躍者だったモノを滅する。
114 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/22(木) 23:16:03.37 ID:HupzCDNi0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
115 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:25:32.60 ID:yoc9Ddbc0

隊長「おわったな...」


魔女姉「ふぅ...いいとこどりしちゃったな」


ウルフ「わふっ」


魔女姉「おぶってもらってわるいね、ウルフ」


帽子「いやー、つかれたね」


魔女「お姉ちゃん、もう大丈夫なの?」


魔女姉「あぁ、まだ頭が痛いがな」


スライム「うぅ...やっと体型もどった...」


帽子「よくがんばったね」


魔女姉「とりあえず私んちにきな、腹減っただろ」


隊長「...あぁ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女姉「ごちそーさん」


ウルフ「ふぁーおなかいっぱい」


スライム「ここの水はおいしいね」


帽子「そういえば、水を含むと体が大きくなるんだね」


スライム「うん、スライム族の特技だよ」


魔女姉「そうなのか、しらなかったなぁ」


食卓の料理を平らげる、6人もいればぺろりといけてしまう。

その後に始まるのは雑談、先程の出来事のことで話題は持ちきり。

しかし彼だけは会話に参加ぜず俯く、それはなぜか。


隊長(...アサルトライフルが残り180発、ハンドガンが残り90発か)


隊長(まだ残ってはいるが...次第に底をついてしまうな...どうしたものか)
116 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:26:32.94 ID:yoc9Ddbc0

魔女「...ねぇ、あんた」


隊長「ん...?」


魔女「きゃ、きゃぷてん...」


隊長「なんだ?」


魔女「...た、助けてくれてありがとね」


隊長「...めのまえでしなれてはこまる」


魔女「私のことじゃなくて!」


隊長「...?」


魔女「あんたがいなかったら...この村はたぶんなくなっていたよ」


隊長「...」


あの暗躍者とかいう男、銃を前に手も足もでなかった。

しかしそれはあの武器がどのような代物なのか全く知らなかった為。

奴は十分に実力を保持していた、このような村を滅ぼすなんて些細なことだったのかもしれない。


隊長「...おれはただしいとおもったことをしただけだ、れいはいらん」


魔女「...そっか」


隊長「...帽子、そろそろいくぞ」


帽子「おや、それでは行きますか」


スライム「もうちょっとやすみたかったな」


ウルフ「ご主人のいうことをきけぇ!」ワン


スライム「ひゃわっ! 急にほえないでよっ!!」


魔女姉「もういくのかい? 積もる話はまたの機会にしておくか!」


〜〜〜〜
117 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:28:40.58 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


帽子「フフ、またあいましょう」


スライム「またね〜」


ウルフ「わふっ」


隊長「じゃあな、魔女」


魔女「...ばいばい」


魔女姉「気をつけろよー!」


帽子とスライムが手を振る、その相手はここの村の住民たち。

村の危機を救ってくれた者たちを出迎えるために、集まっていた。

旅の出発を見送る、やがて彼らの姿が見えなくなるまで村民たちは見守っていた。


魔女姉「...よかったのかい?」


魔女「...なにが」


魔女姉「賢者の塔、いってみたいんじゃなかったのか?」


魔女「...今度ひとりでいくもん」


魔女姉「...村のことは心配するな、魔王の奴らが村に報復にくるとかおもってんだろ?」


魔女「う...」


魔女姉「大丈夫だ、結界は強くするし...この村には力自慢の奴らとかいるだろ?」


魔女「い、いかないってば...」


その言葉のあと、彼女は数秒沈黙をする。

魔女の葛藤、そこには興味のあった場所に行けるという理由。

しかしそれだけではなかった、妙な感情が魔女を揺らぐ。


魔女「...ごめん、やっぱり行ってくるよ」


魔女姉「あぁ、楽しんでおいで...あいつらならあんたを任せられる」


魔女姉「餞別だ、姉ちゃんの帽子をやるよ」スッ


魔女「うん! ありがとねお姉ちゃん!」


魔女姉「気をつけろよ...魔女」


彼女は駆け足で彼らの方向へと向かう。

その様子を最後まで見届ける、魔女の姉。

少しばかり寂しい感情が残るが、それでよかったのである。


〜〜〜〜
118 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:29:50.42 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


隊長「...なにかうしろからちかよってくるぞ」


いち早く気がついたのは彼であった。

後方から草原をかき分けていく音が注意力を刺激する。

少しばかりか日本語が上達している、訛りが少なくなった隊長が帽子たちにそう伝えた。


魔女「──まって!」


隊長「...どうした?」


スライム「あれ、なんできたの?」


魔女「はぁ...はぁ...ごめん、私も付いていっていい?」


帽子「えっと...私は構わないけど...」


ウルフ「...?」


皆に不思議そうな顔つきをされる。

なので彼女は説明をした、前々から賢者の塔に興味を持っていたことを。

上辺だけを述べる、だがそれだけで彼らの信用を得ることができていた。

旅の仲間に新たな1人が加わる、隊長が異世界にきて6日。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


スライム「やっと草原地帯を抜けた...」

ウルフ「きれいなうみだなぁー」


草原地帯を抜けると、そこには大海原が見えた。

ここは海岸地帯、海に隣接した崖が有名な観光地でもある。


帽子「この海岸地帯を抜けると、賢者の塔のある荒野地帯につくみたいだね」


魔女「よくお姉ちゃんに連れてってもらったなぁ、ここ」


隊長「...」


各々が海原の雄大さに心を奪われている。

そんな中、彼だけは違っていた、その表情はかなり強張っている。

無意識なのか、首元に巻いた深緑のマフラーを触りこんでいる。


隊長(なんだ...この胸騒ぎ...)


〜〜〜〜
119 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:32:06.69 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


??1「──ちゃん、あなた、ご飯よ〜」


??2「お、今日もおいしそうだ」


??1「あらあら、あなたってばいつもおいしそうって言ってくれるじゃない」ニコ


??2「──ちゃん、早くきなさぁ〜い」


??3「はーい、いまいくよお母さん」


??3「わぁ! おいしそうな料理!」


??4「ソウだな、オイシそうだ」


??3「──さん! きてたんですね!」


??1「あらあら、ずっと一緒にくらしてたじゃない」


??2「──さんとお父さんどっちが好き?」


??3「うーん...──さん?」


??2「ば...ばかな...娘をよろしくおねがいします」


??4「オイオイ、キヲオトスな」


??2「お父さんは──さんに勝てる所がないようだ...」


??3「そんなことはないよね? お母さん」


??1「ふふふ、そうねぇ〜、お父さんは素敵ねぇ〜」


??2「おまえっ!」ガバッ


??1「あらあら、子供の前よ」


??3「ふふ、変なの」


??4「ソウダな」


??3「──さんが魔女を倒して平和ですね」


??4「アア」


??3「こんな平和な時間、ずっと続きますように!」


〜〜〜〜
120 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:34:25.52 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


少女「あっ...あっ...あっ...あっ...」


???「側近様、入ります...」


今まで見せられたのは、彼女の夢。

ここはどこかの部屋、そこに入り込むのは少女を連れてきた者。

そしてその者が畏まる、その相手の名前は側近と呼ばれる者。


側近「おぉ偵察者か、入れ」


偵察者「ハッ...早速、実験台を使っているようですね」


側近「お前の連れてきたこの少女、なかなかいい物になりそうだ」


少女「あっ...あっ...あっ...あっ...」


──ちゅぷっ ちゅぷっ くちゅっ ぴちゃっ

白い花から大量の触手が伸び、少女の耳から体内への侵入を繰り返す。

その音はあまりにもエグく、まるで脳がかき混ぜられていると勘違いできるほどに激しかった。


偵察者「...草原の村に向かった暗躍者が倒されたようです」


側近「...あの村にあいつを倒せるような奴はいないはずだが」


偵察者「それに、氷竜も女勇者ではない誰かが倒していたようです...」


側近「なに...では氷竜を倒した者が暗躍者を倒した可能性があるな」


側近「...たしかこの少女、氷竜がいた山の麓の村人だよな」


偵察者「はっ、そのとおりでございます」


側近「なにか知ってるかもしれん、頭の記憶を覗いてみよう」


側近「なにか見つかったらまた呼ぶ、もどっていいぞ」


偵察者「はっ、失礼します」


〜〜〜〜
121 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:35:11.55 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


帽子「...この看板って?」


帽子が訪ねた看板、そこには角の生えた人が描かれていた。

これは海岸地帯の港町の入り口、そこに表示されている。

これが何を意味するのか、魔女が答えをくれた。


魔女「これは魔物が入っても大丈夫って意味の看板よ」


魔女「ここは商業主義の町だから、お金さえ払ってくれれば人間も魔物も関係ないってことよ」


帽子「...そうだったのか、知らなかった...このような町があるだなんて」


隊長「あぁ、これでらくにやすめるな」


ウルフ「おいしいものがたべたい...」


帽子「私はお酒が飲みたいね」


魔女「私は別に...」


スライム「水がほしいな」


隊長「おまえら...」


ウルフ「くんくん...このにおいっ!」バッ


スライム「あっ! まってウルフちゃん!」ダッ


帽子「まて! 流石に1人は危険だ!」ダッ


なにかの匂いを嗅ぎつけ、ウルフは1人飛び出してしまった。

それを止めるべく、スライムと帽子も後を追う。

だが犬相手にかけっこで勝てる者などそうそういない、ウルフは早くも匂いの根源にたどり着く。


ウルフ「おかしだぁ!」ハッハッハッ
122 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:36:10.44 ID:yoc9Ddbc0

商人「1つ銅貨2枚だよ」


ウルフ「はっ...おかねもってないぃ...」


商人「わるいね、魔物の嬢ちゃん」


スライム「ま、まって...はぁっ...はぁっ...」


帽子「1人で行動は危険だ...ウルフさん」


ウルフ「う...ごめん...」


スライム「なんで走り出したの...ってこれか」


帽子「お金がないみたいだね、買ってあげよう」


ウルフ「いいの!?」ヘッヘッヘッ


帽子「フフ、スライムさんもどうだい?」


スライム「わ、わたしは固形物たべれないから...」


帽子「ふむ...1ついくらですか?」


店員「1つ銅貨2枚だぜ、金髪の兄ちゃん」


帽子「では、2枚で1つ貰おうか」スッ


店員「まいどありぃ!」スッ


帽子「はいどうぞ、ウルフさん」


ウルフ「わぁ! ありがとぉ!!」モグモグ


帽子「さて、きゃぷてんたちと合流しないと」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「...ごめん」


隊長「...まよったな」


隊長「こうなってはしかたない、どこかみはらしのいいところにいくぞ」


魔女「それならあれはどう?」スッ


ウルフたちに追いつこうと、彼たちも町を進んだのは良かったが。

どうやら道に迷ってしまったらしい、見知らぬ土地でこれは仕方ない。

すると、魔女が遠くにある高台を指差す。


隊長「...よさそうだな、あそこにいこう」


〜〜〜〜
123 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:36:51.58 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


帽子「ふむ、いないようだね」


スライム「こ、こまったね」


ウルフ「おいしい♪」モグモグ


帽子「きゃぷてんのことです、きっとどこか見晴らしのいいところに行ったはず」


スライム「おぉーそうかもね」


ウルフ「♪」モグモグ


帽子「あの高台、いそうだね」


スライム「いってみようよ」


帽子「フフ、そうだね」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「日が傾いてきちゃった」


隊長「あぁ、そうだな」


魔女「...ねぇ、あんた」


隊長「ん?」


魔女「あんた、変な防具してるから顔みたことないよ」


魔女「...よかったらみせてよ」


隊長「あぁ、べつにかまわんが...」ゴソゴソ


日常的に装備していたせいか、もはや身体の一部といっても過言ではない。

そんな彼の素顔、いつもは部隊で支給されたヘルメットとゴーグルをつけていた。

まじまじと隊長の顔を見たことない彼女は、その素顔を見つめた。


隊長「...ふぅ、あたまがかるいな」


魔女「...」


隊長「...どうした?」


魔女「な、なんでもないわ...」


隊長「そ、そうか...」


〜〜〜〜
124 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:37:48.29 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


ウルフ「くんくん...ご主人はどこだぁ!」


帽子「フフ、ウルフさんの鼻はたよれるみたいだね」


スライム「はやく合流できるといいね」


ウルフ「──いたぁー!」ダッ


スライム「ちょ、またどっかいっちゃった...」


帽子「高台も近くだし、大丈夫だよ」


スライム「そ、そっかぁ」


帽子「...おや、これは?」


帽子が気になったのは、地べたに座り込んでいる人物。

そしてそこには商品だろうか、いろいろと妙な代物を並べている。

かなり怪しい見た目、だが帽子という男には偏見など備わっていない。


行商人「この商品に目をつけるなんて、お兄さんやるねぇ」


スライム「どれどれ、わぁ! きれい」


帽子「綺麗な指輪だね」


行商人「この指輪、今なら金貨1枚で2つ買わせてやるよ」


スライム「たかっ!」


帽子「ふむ、それはお得だね」スッ


行商人「まいどあり、いい事あるぜ?」


スライム「お、お金もちだね」


帽子「ほら、あげるよ」スッ


スライム「えっ、な、なんで...」


帽子「さっき、ウルフさんにチョコ買った時に物欲しそうな顔をしていたからね」


帽子「食べ物はダメなようだし、この指輪が似合うとおもってね」


スライム「あ、ありがとう...大事にするね♪」
125 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:38:37.59 ID:yoc9Ddbc0

帽子「もう1つおまけに貰ってしまったな...私がつけようかな」


スライム「そ、それって...」


帽子「フフ、まるで恋人同士みたいだね」


スライム「...///」


夕日に染まるより、顔が紅くなる。

くさいセリフを下心で言ったつもりではない、彼なりの冗談であった。

だがスライムという魔物はそのような言葉に慣れていない、のでまともに受け取ってしまう。


帽子「じょ、冗談だったんだけど...そこで照れられるとこっちも照れてしまうよ」タハハ


スイラム「...いこっ♪ 帽子さん」


帽子「あ、あぁうん...」


スライム(...はじめて誰かから贈り物もらっちゃった♪)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


ウルフ「ご主人〜!!」


隊長「ウルフか...やっと見つかったな」


魔女「帽子とスライムは?」


ウルフ「すぐそこにいるかなぁ?」


帽子「おーい!」


隊長「...合流できたな」


帽子「すまないね、いろいろ時間をかけて」


隊長「1りになるのはきけんだ、きをつけろ」


ウルフ「う...ごめんなさい...」


隊長「なに、つぎしないならいい」


帽子「暗くなってきたね、宿を探そう」


スライム「〜♪」


ウルフ「...? スライムがなんかよろこんでる!」


スライム「なんでもないよ〜♪」


〜〜〜〜
126 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:39:24.96 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


帽子「ではまた明日」


スライム「おやすみなさい♪」


ウルフ「うぅ...ご主人...」ウル


隊長「...」


魔女「ほら、女の子はこっちの部屋よ」グイ


ここは港町のどこかの宿。

どうやら男女で2部屋を借りたようだ。

その資金はどこからでたのか、言うまでもない。


帽子「とくになにも障害はなくてよかったよ」ゴクゴク


隊長「...そうだな」


隊長(...こいつ、もう酒を飲んでやがる)


帽子「君も一杯どうだい?」


隊長「さけはのまん...ねる」


帽子「おやすみ...ぷはっ、おいしいな」


隊長「...」


まるで倒れ込むように、彼は眠りに入った。

そんな隊長の様子を見ながら、帽子は1人つぶやく。


帽子「...フフ、疲れが溜まってるみたいだね」


帽子「君は常に周囲を警戒してるからしかたないね」


帽子「...独り言はこれくらいにしておこう」


帽子「ん、大浴場があるのか...はいってみるか」


〜〜〜〜
127 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:40:39.69 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


ウルフ「わふぅ、ふかふかぁ...すぅ...」ゴロゴロ


スライム「寝るのはやっ!」


魔女「あ、いいものじゃん」


スライム「なにそれ?」


魔女「お酒よ、お、さ、けっ!」


スライム「へ、へぇ〜」


魔女「あんたは飲まないの?」


スライム「私は水いがい口にできないから...スライムだし」


魔女「難儀な性質ね...」


スライム「色物の水を飲んだら、からだが染まっちゃうしね...」


魔女「そうなんだ...それにしても...」


スライム「...なに?」


魔女「綺麗な身体ね、スライムなのにすべすべしてる」


スライム「ぬめぬめにもねばねばにもできるけど、さらさらだと周りの物をぬらさないし楽なんだよね」


魔女「へぇ〜、まぁぬめぬめだと布が大変なことになるしね...」


スライム「ふふっそうね♪」


〜〜〜〜


〜〜〜〜

隊長「...ん」パチッ


帽子「...」スピー


隊長「...まだ暗いな」


隊長「...」


隊長「大浴場...?」


部屋に張ってあったのは、案内図。

どうやらこの宿泊施設には大浴場があるらしい。

現代社会を生きてきた彼にこの殺し文句はあまりにも卑怯であった。


隊長(温泉か...あんまり経験はないが入ってみるか)


〜〜〜〜
128 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:42:14.86 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


隊長「あぁぁ...ふぅ...」


隊長(温泉...いいものだ...)


隊長(...今度Japanに旅行でもしてみるか)


見上げると吹き抜けになっていて、月がよく見える。

しかし、その月は自分が見てきたものとは大きさが違う。

温泉の影響で安らいでいるせいか、その事実をようやく受け止めることができた。


隊長(月...綺麗だな...)


隊長(改めて認識した...この世界はやはり異世界のようだ)


隊長(いったいなぜ、俺はこの世界にきてしまったのか...)


隊長(あの時、犯人のグレネードに巻き込まれて、気づけばこの世界に...)


隊長(...大賢者とやらは、このことも知っているのだろうか)


隊長(...わからないことに悩んでも仕方ないな)


隊長(今はこの湯を堪能しよう)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「...ん」パチッ


魔女「はれ...私...毛布?」モゾッ


魔女(...そうか、お酒飲みながらおしゃべりしてたんだっけ)


魔女(きっとスライムが毛布をかけてくれたのね...)


スライム「くぅ...くぅ...」スピー


ウルフ「むにゃ...」スピピ
129 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:43:43.68 ID:yoc9Ddbc0

魔女「...あったまいたい」


魔女「...お風呂はいろ、たしか大浴場があったんだっけ」


魔女「えーっと...代えの下着っと...」ガサゴソ


ウルフ「──わひゃっ!?」ビクッ


魔女「ご、ごめん...起こしちゃった?」


ウルフ「うぅ...おはようごじゃます...」


魔女「ごめんね? 起こしてあれだけど一緒にお風呂入る?」


ウルフ「...うん」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「よいしょっと...」


ウルフ「...おっぱいおおきい」ジー


魔女「ちょ、なにみてんのっ!」サッ


ウルフ「あたしのはちいさい...」


魔女「そのうち大きくなるって...」


ウルフ「うぅ...あたし魅力ないかも...」


魔女「あんたのその犬耳とか尻尾とか可愛いわよ」


ウルフ「ほんとぉ?」うるうる


魔女「うっ...」


魔女(か、可愛いわね...)


涙目で上目遣いで犬耳をたれさせて、尻尾がゆっくり振っている。

その様子を見て心を奪われないモノなどいない、たとえ同性であっても。


魔女「ほ、本当よ、ほら行くわよ」


ウルフ「わぁい!」


──ガララッ

それが地獄の始まりであった。
130 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:44:40.54 ID:yoc9Ddbc0

魔女「わぁ、吹き抜けなんだ」


ウルフ「うっ...なんか臭い...」


魔女「温泉の匂いよ、身体に悪いわけじゃないから安心して」


ウルフ「そうなんだ...って、温泉のなかに岩がある!」


魔女「結構広いわね...」


ウルフ「うひぃ〜いいおゆぅ〜」ホワーン


魔女「んっ...あぁ〜そうねぇ」


ウルフ「わふっ」バチャバチャ


魔女「あははっ、きれいな犬かき」ケラケラ


魔女「よいしょっと...」サッ


魔女が湯の中にあるオブジェのような岩に寄りかかる。

置物にしては少々大きい、誰かが身を隠していても気づくことができない程。

はたして、その裏側には誰がいるのか。


隊長「...」


隊長(な、なぜ魔女たちが...いや、この状況...)


隊長(入り口のドアは開いたままだ...)


隊長(しかし、入り口までにこの岩以外に遮蔽物はない...)


隊長(チャンスは魔女たちがこの岩より奥に行ったときしかない...)


隊長(早く奥にいけっ!)
131 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:45:49.86 ID:yoc9Ddbc0

ウルフ「わふっわふっ」ジャバジャバ


魔女「ふぅ...私ももうちょっと深いところにいこっと」ジャバジャバ


隊長(...この波の動き、誰かが移動している)


隊長(魔女であってくれ...いまだ!)スッ


──バシャバシャッ!

お湯をかき分けていく音が響く。

その音に気づかないわけがない、魔女が反応する。


魔女「...え? なにいまの音?」


ウルフ「わぁい♪」バシャバシャ


魔女「...なんだ、ウルフか」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...ふぅ」ホカホカ


隊長(どうやらまだ衰えてないな、久方ぶりの隠密行動だった...)


類まれに見る脱出劇であった。

もし失敗すれば信用を失うことになる、2度も乙女の身体を見ては弁解もできない。

成功してよかった、そのような余韻に浸りながら彼は置いてあった椅子に座る。


ウルフ「──あ、ご主人!」ホカホカ


魔女「あれ、どうしたの?」ホカホカ


すると現れたのは、先程見かけた彼女たちであった。

ウルフの白い髪と魔女の淡い栗色の髪が濡れている。

いつもと違う風にみえる彼女たちに、少しばかり吃ってしまう。


隊長「...いや、べつに」


魔女「あぁ、風呂に入りにきたのね」


魔女「いまなら誰もいないわよ、よかったわね」


隊長「い、いやそういう...」


魔女「ほら、いったいった」


〜〜〜〜
132 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:46:35.28 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


隊長「...二度目だな」


隊長(...)


(魔女「あれ、どうしたの?」ホカホカ)


隊長(...)


隊長(......ハッ!俺は何を考えてるんだ)


隊長(これじゃそこらへんの性犯罪者共と変わらん...)


隊長(...水を浴びてあがろう)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


スライム「くぅ...くぅ...」スピピ


魔女「それじゃ、おやすみ」


ウルフ「むむ...あたしもねよ」


ウルフ「あれ? なにこの本」ヒョイ


備え付けてあった雑誌を手に取る。

しかしそこには文字、文字、文字のオンパレード。

あまり賢いとは言えないウルフには難しい内容であった。


ウルフ「う...よくわかんない...」ペラ


ウルフ「あ、占いだーこれだけはわかる!」


スライム「ん...zzz」


魔女「シーッ、うるさいよ」


ウルフ「ご、ごめん...」


ウルフ「この月の1位はくろかぁー、ビリはきんいろ...」


ウルフ「...これおとこのひとへんだった」


ウルフ「おんなのこは...1位はしろ? ビリはみどりかぁ」


ウルフ「やったぁ、わたしのかみのいろはしろいや♪」


魔女「へぇ〜茶髪は...なんで茶色は載ってないのよ...」


〜〜〜〜
133 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 16:47:13.47 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


ウルフ「おはようございます! ご主人!」ハッハッハッ


帽子「おはよう、きゃぷてんさん」


スライム「ふぁぁ〜...おはよ」


魔女「おはよ...ってどうしたの?」


隊長「...いや、べつに...?」


帽子「目の下にクマができているよ」


隊長「だいじょうぶだ、なれている」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「ふむ、この料理は絶品だな」


スライム「ごくごく...」


ウルフ「わふっ」ガツガツ


魔女「朝は軽めがお腹に優しいわって、あんたは凄い量ね...」


隊長「あさはえいようがひつようだからな」モグモグ


帽子「ふむ、一理あるね、おかわり」


隊長「たべたらいくぞ」


〜〜〜〜
134 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:23:11.49 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


隊長「さて...」


宿を出発し港町を出た、彼らは再び野外を歩み始めた。

崖から見える大海原の迫力に目を奪われているとウルフが尋ねてきた。


ウルフ「ご主人、ご主人」


隊長「ん?」


ウルフ「ご主人のその武器って、つよいよね!」


魔女「...確かに」


帽子「あの巨大な花の攻撃を蹴散らしたよね」


隊長「そうだな...」


ウルフ「その小さい方も強いの?」


隊長(ハンドガンのことか?)


隊長「あぁ、そうだな」


隊長「これなら、ウルフでもつかえるかもな」


ウルフ「かしてっ!」


隊長(...マガジンを抜けば安全か)スッ


隊長「ほら、おとすなよ」


ウルフ「やった! みてみてスライムちゃんっ!」


魔女「えっ、大丈夫なの? 危なくない?」


隊長「これをぬいておけば、だいじょうぶだ」


スライム「へぇ〜...なんかすごいね」


帽子「その抜いたやつ、見してくれないか?」


隊長「...? いいぞ」スッ
135 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:24:11.94 ID:yoc9Ddbc0

帽子「ふぅん...あぁ、これが飛び出してたんだね」


魔女「こんなの見たことない...どこで手に入れたの?」


隊長「ひみつだ」


魔女「けちっ!」


ウルフ「これ、どうやってつかうの?」


隊長「こうやって、ねらいをつけるんだ」


ウルフ「こう?」


隊長「そうだ、で、そのひきがねをひけばおわりだ」


ウルフ「かんたんだねっ!」


帽子「その大きい方も、そんな感じなのかい?」


隊長「まぁそんなところだ」


ウルフ「はいっ、ありがとね!」スッ


隊長「あぁ」スチャ


帽子「...なんか、それを入れる動作かっこいいな...」


隊長「...わからんでもない」


スライム「それじゃいこうよ」


隊長「おう」


帽子「ここ、崖になっているね」


ウルフ「わぁ、したにすなはまがある!」


スライム「砂は肌につくからいやだなぁ...」


魔女「降りる? 魔法でなんとかするわよ」


隊長(特に周りにはなにもないな)


隊長(...なんだ?)ピクッ


突如として襲った違和感、それは空、

隊長の付近には影、しかし今は快晴、雲ひとつない。

ならば考えられるのは1つしかない。


隊長(──上か...ッ!?)
136 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:25:25.33 ID:yoc9Ddbc0

隊長「みんな! きをつけろ!!」


――ドスゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!

なにか、巨大なものが落ちてきた。

その衝撃で大地にはクレーターが、そしてその轟音は計り知れない。

塵芥が舞い散る中、そこには大きな男が1人。


???「──てめぇらか、暗躍者を倒したのは」


魔女「──魔王軍の刺青っ!」


帽子「...どちらさまだい?」


追跡者「俺の名前は追跡者だ、暗躍者の仇をとらせてもらう」


隊長「スライム! ウルフとかくれていろ!」


追跡者「悪いが、戦力を分けさせてもらうぜ..."分身魔法"!」スゥッ


分身「...」スゥッ


スライム「きゃっ!」


帽子「危ない! スライム!!」


突如現れた男、その名は追跡者。

そしてさらに突如に現れたのはその分身。

偽物の彼がスライムめがけ地面を殴る、すると大地に異変が起こる。


魔女「──崖が崩れるっ!?」


帽子「うわッ!?」


分身「...」グラグラ


ここは海岸地帯の崖、このようなことをすればそこは崩落する。

スライム、帽子、魔女、そして追跡者の分身が巻き込まれた。

彼らの無事を確認するために、隊長はそこへ向かおうとする。


隊長「──おまえら!!」ダッ


ウルフ「──みんなぁ!」ダッ


追跡者「──いかせねぇよ!! "転移魔法"!」


その時だった、追跡者が突然として彼らの前に立ちふさがる。

唱えられた魔法、それは瞬間移動を可能にする。
137 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:27:51.49 ID:yoc9Ddbc0

ウルフ「──!?」ビクッ


隊長(...今度はテレポートかッ!?)


追跡者「俺の体術は、ちと人間にはきついぜぇ?」


追跡者「たおせるかなぁ!?」ブンッ


隊長「──フッッ!!」


──ドサッ!

大男による基本的な殴りかかり。

それを回避するべく、隊長は背中向きで思い切り後ろへと飛び込んだ。


追跡者「かわしてんじゃねぇぞ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「まずい! このままじゃ地面にぶつかる!」


スライム「ふぁあああああああ!」


魔女「..."風魔法"っ!!」


──ふわっ...

崖から転落した彼らの様子。

魔女が唱えたのは風魔法、その威力は圧倒的に暗躍者より弱い。

だがそれでも十分であった、地面から向かい風吹く、彼らを少しばかり持ち上げた。


帽子「──これで着地ができる!」トサッ


スライム「あ、あわわわわ」ヒュー


帽子「──スライム!」ダキッ


スライム「あ、ありがとう」


魔女「お姫様だっこなんて、まるで王子様ね」トサッ


帽子「...フフ、素敵な冗談だね」


分身「...」


魔女「そんな中あいつは...普通に着地してるし...」


帽子「肉体派みたいだね」


分身「...」ダッ


魔女「きたわよ!!」


〜〜〜〜
138 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:28:54.78 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


追跡者「──オラァ!!」ブン


隊長「────ッ!!」


──サッ...!

素早い身のこなし、あのような大ぶりの殴りかかりなど容易に避けることができる。

だがそれが狙いであった、追跡者は構えを変更する。

先程まで腕力でねじ伏せようとしていた彼だが、次に扱うのは脚力。


ウルフ「──ご主人っ! あぶないっ!」


追跡者「隙ありぃ!!」


隊長「──まずい!」


追跡者が繰り出してきたのは、脚。

そこから放たれるのは無形の足技。

チンピラのような蹴りが放たれる、だがその威力は計り知れない。


ウルフ「──わっ!」サッ


隊長「ウルフ────!?」


隊長(まずい、ウルフが俺を庇ってしま────)


刹那であった、ウルフが隊長と追跡者の合間に割り込んできた。

主人を護ろうとする健気な忠犬、このままでは彼女が身代わりになってしまう。

そのはずであった、そのウルフの構えを見るまでは。
139 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:29:43.44 ID:yoc9Ddbc0

ウルフ「──がうっっっ!」シュッ


──バギィィッッッッ!!!!!

人間がこれを喰らえば、確実に骨がやられている。

ウルフが放ったそのカウンターハイキック、それが追跡者の顔面に命中し怯ませる。

軽やかな身のこなし、背丈が倍以上あるというのに持ち前の跳躍力がそれを可能にした。


追跡者「──ぐぅ...いてぇな...!」


隊長「...やるなウルフ」


ウルフ「おなかは空いてないから、いっぱいうごけるよっ!」


隊長(...どうやら、ウルフは戦力になりそうだ)


追跡者「...野良魔物のわりにはなかなかいい蹴りだったぜ」


追跡者「だが...なめんなよッッッ!!」ダッ


隊長「ウルフ、ひきながらたたかえッ!!」ダッ


ウルフ「はい! ご主人!」ダッ


追跡者「にげてんじゃねぇぞ! 鬼ごっこなんてしたくねぇんだよ!!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


分身「...」ブン


スライム「──あっ」


──バシャッ...!

追跡者の分身、それから放たれる殴りかかりに被弾した。

まともに喰らえばひとたまりもない、足の遅いスライムでは避けることができなかった。


帽子「──スライムっ!?」


魔女「バカっ! もろに喰らって────」


もろに喰らったはずなのに、スライムは悲鳴をあげなかった。

それも当然であった、彼女は水である。

水を殴ったところで、一体何が起こるというのか。
140 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:30:40.44 ID:yoc9Ddbc0

分身「...!」


スライム「ふふふ...わたしに拳はくらわないよ!」ドヤァ


帽子「...そうか! そもそも水みたいなものだからね」


魔女「スライムは大丈夫そうね...」


分身「...」


魔女「...最悪、スライムを盾にしてればなんとかなりそうね」


スライム「...えっ!?」


帽子「でも、倒さないと先に進めないね...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


──ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ

崖の上、そこに響くのはハンドガンの発砲音。

しかしそれは効果的ではなかった、一体なぜか。


隊長(くそっ...かれこれ30分は経つか?)


隊長(ジリ貧だ...奴の弱点はないんだろうか...)


ウルフ「──えいっ!!!」バシッ


追跡者「くらわねぇよ、ワン公!」ブンッ


ウルフ「おっとっと!」スッ


隊長「──ッ!」スチャ


──バババババッッッ

狙いを済ませたその照準。

それは間違いなく追跡者を捉えていた。

これで勝負は決まるはず、だがすでに30分も経過している理由が明らかとなる。


追跡者「──"転移魔法"ッ!」スッ


隊長(...ダメだ、当たらん...それに大分弾を消費している...)


隊長が狙いをつけ、発砲する間に彼は逃走経路を確保できる。

よく噛まずにいられるモノであった、とてつもない早口が可能にするのは瞬間移動。

そして目の前に現れるのは当然彼であった。


追跡者「よう、死ね!!」ブンッ
141 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:31:21.75 ID:yoc9Ddbc0

隊長「──ハッッ!」ドサッ


追跡者「また避けられたか、ちょこまかと...もういい、飽きた」


追跡者「最初から、てめぇらなんか簡単に殺せるんだよ...!」


隊長(何がくる...?)


追跡者「..."爆魔法"ッ!」


──バコンッ!

1つの爆発音、それがどれだけ広範囲を削るモノか。

あたりに強烈な圧力が襲いかかった、その威力はとてつもない。

まるでナパーム爆撃を食らったかのような衝撃が彼らを襲った。


ウルフ「────っっ!」


隊長「──ガハ...ッ!?」


それを喰らって立てる者などいない。

気づけば2人は倒れ込み、血反吐を吐いていた。

30分にも渡る戦闘、疲労も相まってしまったか。


追跡者「...死んだか?」


追跡者「あっけねぇな...分身のほうを手伝うか」


隊長(だめだぁ...いかせはしない...)スチャ


〜〜〜〜
142 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:32:17.61 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


帽子「はぁ...はぁ...まずいね」


魔女「はぁ...はぁ...くどすぎる...」


分身「...」


スライム「..."水魔法"!」


分身「...」スッ


──ぴちゃぴちゃ...

へろへろな水流は呆気無くかわされてしまった。

帽子たちは果敢にも攻撃を仕掛けるが、すべてあしらわれていた。

スライムという防御策があっても、奴を負傷させる攻撃策がないのがまずかった。


スライム「だ、だめ...もう...動けない...」


魔女「あいつ...戦闘能力はそれほどないけど...」


帽子「...体力がありすぎる」


魔女「じわりじわりと体力と魔力を奪ってるわね...」


帽子「そういうことですか...」


魔女「あいつは私たちを疲れさせて、本体がくるのを待ってるのね」


帽子「フフ...まるで弱った獲物を見つけた烏だ...きゃぷてんさんには是非止めて貰いたい」


魔女「...いまのところきてないってことは止めてくれてるみたいね」


分身「──!」ダッ


その時、ついに動いた。

弱った獲物、それを確実に仕留められると思ったのか。

魔女を目掛けて奴が走り出してきた。


帽子「──魔女さん! あぶない!」フラッ


帽子(──しまった...走れるほど私には体力が...)


帽子「魔女さんっっ!!!」


魔女「──きゃっ!」


〜〜〜〜
143 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:32:54.43 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


──バババババッッッ!!

背後から不意打ち。

流石にこれを予期することは不可能。

ようやくまともに当たった、その威力に仰天する。


追跡者「──グアアアアアアアアアッッ!?!?」


追跡者「いてぇなぁ!! てめぇッ!!」ダッ


隊長(...うごけないな、立つのが精一杯だ)


追跡者「────しねぇ!!」ブン


ギリギリの状態で立ち尽くす隊長。

追跡者の殴りかかりが目で追える、あたりの時間の流れが遅くなる。

それが意味するのは、己の最後。


隊長(時間の流れが遅いな...これがよくいわれていたヤツか)


隊長(死の直前はスローに感じる...本当だったな)


隊長(俺が死んだら...隊員たちが困るな)


隊長(...俺がここでこいつを倒さんと)


隊長(魔女たちは殺されてしまうのか)


隊長(魔女が殺される...どうしてだ)


隊長(そのフレーズを考えるとすごく腹が立つ...)


隊長(...)


隊長「――ッハアアアアアアアアアアアアッッッ!!」ダッ


最後の力を振り絞る、彼は突然走り出す。

そして殴りかかってきた追跡者の腕を避け、懐に入った。

いったいどこにそんな力が、思わず追跡者は困惑する。
144 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:33:49.66 ID:yoc9Ddbc0

追跡者「──な」


隊長「──デヤッッッ!!」


──グサッッ!

聞こえたのは、己の肉体に傷が付く音。

その音はあまりにも深く、思わず悶絶せざる得ない痛み。


追跡者「──ぐああああああああああああ!?」


隊長「テヤッッッ!! ハァッッ!!」ガシッ


そして彼は殴り続ける、腹に刺さったナイフを。

絶対に殴られることを想定していないナイフの柄、拳に血が滲み始める。


隊長(痛みなんて、しるかッッッ!!!!!)


隊長「──フッッッ!! デヤッッッ!!」


──ドゴォッ...!

トドメの一撃、それは文字通り蹴りのつく一撃。

ブーツのそこでナイフの柄を蹴る、それがどれほどの威力か。

あまりに痛みに追跡者はついに倒れ込む。


追跡者「──いでえええええええええええ!!」ドサッ


ウルフ「──うわああああああああぁぁぁぁっっっ!」


──ぐちゃああああっっ!!!

半ば発狂しながらも、彼女も起き上がる。

そして放ったのは、全体重を込めた強烈なネリチャギ。

彼女もナイフの柄を蹴り上げ、そしてその痛みに悶絶する。


追跡者「──ああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!」


隊長「──OPEN FIREッッッッッ!!」スチャッ


──ババババババババババババババババババババッッッッッ!!

完全なるトドメ、マガジンに込められたすべてを放つ。

それは追跡者の身体にすべて被弾する。

氷竜や暗躍者を抹殺したその威力、追跡者も同様である。


追跡者「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ.....」


追跡者「────」


隊長「...Target down」


〜〜〜〜
145 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:34:54.55 ID:yoc9Ddbc0

〜〜〜〜


魔女「...あれ」


手応えはない、殴りかかられたというのに。

その答えは明白であった、奴の姿を見てみれば。


分身「────」スゥ


スライム「消えてる...?」


帽子「ど、どうやら、本体を倒したみだいだね...」


魔女「た、たすかったぁ...」


帽子「この崖...どうしましょう...」


魔女「..."風魔法"」フワッ


スライム「わぁ」フヨフヨ


帽子「...フフ、魔法は使いようだね」


魔女「小細工ならたくさん勉強したわ...みっちりとね」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「よっと...」


スライム「よいしょ」


魔女「──えっ!?」


ウルフ「ご主人...」


隊長「だ、だいじょうぶだ...」
146 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:35:57.11 ID:yoc9Ddbc0

帽子「...すごい戦いだったみたいだね」


スライム「う、うん...」


帽子「私たちは体力を消耗させられただけか...」


無数のクレーターや爆発跡、そして血まみれの隊長とウルフさらに追跡者の死体を見た。

それを見れば自分たちの戦いなどぬるすぎる、そう実感できた。


魔女「あちこちの骨が折れてるじゃない...」


隊長「あぁ...」


魔女「..."治癒魔法"」ポワッ


隊長「はぁ...らくになった」


魔女「まったく...」


隊長(...こいつは銃弾を避ける分、時間がかかったな)


隊長(ただ、攻撃が決まれば案外脆かったな)


隊長(現代兵器はこの世界でも強い武器ではあるが...)


隊長(...こいつが倒せたからといって、これから先の障害に勝てるだろうか)


隊長(アサルトライフルが60発、ハンドガンも消費して残り60発...)


隊長(大分使ってしまったな...追手がこないことを祈ろう)


帽子「...少し休もうか?」


隊長「...いや、すすもう」


〜〜〜〜
147 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/23(金) 21:36:27.71 ID:yoc9Ddbc0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
148 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:32:26.92 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


帽子「ついに、荒野地帯になったね」


海岸地帯を抜けた先、そこは少しばかり見栄えの悪い場所であった。

ここは荒野地帯、生物が暮らす環境としては少しオススメできない。

それはスライムの様子をみればわかることだった。


スライム「うぅ...水気がたりない...」


魔女「...頑張りなさい」


ウルフ「ご主人...だいじょうぶ?」


隊長「すこしいたむくらいだ、だいじょうぶだ」


魔女「...あんたの戦い方って危なっかしいわね」


隊長「なれてるからな...」


魔女「心配する身にもなりなさい」


隊長「...すまんな」


帽子「...遠くに賢者の塔らしきものがみえるね」ジー


スライム「ほんとだ」


魔女「塔の周りに...建物?」


帽子「...あれは遺跡っぽいね」


隊長「...なんにせよ進むぞ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長(...まるでギリシャのパルテノン神殿みたいだな)


魔女「いい感じに魔力に満ちてるわね、ここらへん」


スライム「なんか元気になってきた」


ウルフ「わふっ!!」


帽子「...私にはわからないね、魔力」


隊長「あぁ...そうだな」
149 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:33:50.92 ID:vwcOn1nA0

帽子「ここ、よく見ると崖みたいになってるね」


──ガササッ

荒野の遺跡、これが隊長の世界なら間違いなく世界遺産に登録されている。

その神秘的な景色に気を取られていると、どこからか物音が聞こえた。

風や自然現象が起こしたモノではない、これは明らかに何者かが歩いた音。


隊長「──ッ!」スチャ


帽子「うん? どうしたんだい?」


ウルフ「おとがした!」ピコピコ


隊長(...確認できんな)


隊長「はなれるな、きをつけてすすむぞ」


スライム「う、うん」


帽子「...わかったよ」


魔女「後ろは私が見ておくよ」


ウルフ「くんくん...あまいにおいがする...もも? みたいな...」


隊長「もも?」


ウルフ「うん...ももっぽいにおい...」


隊長(...香水かなにかか? だとしたら女か────)ピクッ


ウルフが核心を突きそうな発言をした。

その時に仕掛けられてしまった、そして遅れてしまった。

先程の戦闘での疲労が抜けきっていない、隊長の反応速度はいつもの半分以下に。


???「──"封魔魔法"」


隊長「──魔女!」


魔女「きゃっ──」


だが気がついた隊長ですら遅かった。

魔女が魔法にあたり一瞬黒い光に包まれる。

彼女を庇おうとしたが、それは失敗に終わる。
150 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:35:22.82 ID:vwcOn1nA0

???「..."衝魔法"」


──ズシッ...!

これは地属性による衝撃の魔法。

その威力に大地は悲鳴をあげる、すると起こるのは。

またも彼らは、崩落を味わってしまう。


帽子「──また地面が崩れるぞ!」


隊長「────うおおおおおおおおおおおおおッ!?」


魔女「──きゃああああああああッ!?」


崩落の面子、今度は彼ら2人が選ばれてしまった。

魔法の影響で地面が崩れ、隊長と魔女が落ちていってしまった。

そんな彼らを追おうと3人が動こうとすると、奴が姿を現す。


???「...行かせません」


スライム「魔女ちゃん! きゃぷてんさん!」


ウルフ「がうがう! においはこいつからだぁ!」クンクン


帽子「くそっ...もう戦闘かっ!」


???「魔物が2匹、そして1匹は人間と落ちて死にましたね」


帽子「...何者だ?」


???「魔物...魔王軍ですね?」ギロッ


スライム「...!」ビクッ


ウルフ「うぅ〜〜...」


帽子「違う! 私たちは──」


???「...消えてもらいますね」


弁明の余地もない、彼女の視線から感じるのは殺意。

どこか切羽詰ったような様子も伺えるがそれどころではない。

先程の魔法の威力、見た目は人間でかつ女性だが、油断はしてはならない。


帽子「──来るぞッ!」


ウルフ「わふっ!」


スライム「むむむ...」


〜〜〜〜
151 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:36:12.86 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


隊長「──うおおおおおおおお!?」


魔女「────"風魔法"っ!!」


──ヒュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ...ッ!

聞こえるのは風の音だが、そうではない。

魔女の魔法はなぜか不発に終わる、我が身に感じるのは地面が迫る焦燥感。

落下する際に発生する風がソレを煽る。


魔女「あれっ!? なんで!?」


隊長「どうしたッ!?」


魔女「ま、魔法が使えないのっ!」


隊長(くっ...このままじゃ地面と...)


隊長「──魔女」ガバッ


魔女「──な、きゃっ!?」


身に受ける風を利用して宙を移動する、スカイダイビングでよく見る光景。

そしてそのまま魔女に接近し、彼女を抱き寄せた。

それはまるで包み込むような、魔女の頭を優しく手で包み込む。


隊長「...ッ!」


ぐるり、隊長は身体をひねらせ仰向けの状態に。

背中を地面に向けさせた、彼はこのまま着陸姿勢に入り込んだ。


魔女「──ちょっとっ!?」


────ドガァッ!!!!!

その音は、奇跡的にもあまり大きくなかった。

だとしても、身体に掛かる負担は決して侮れない。

隊長自身がクッションになることで、魔女への負荷を大幅に減らした。


隊長「──ゲハッ...!?」


魔女「ぐっ...うっ...」


魔女「あ、あんたまた..."治癒魔法"」


しかし、魔法は発動しなかった。

あの優しい明かりが、血反吐を吐いている彼を癒やすはずだったのに。

死ぬかどうかギリギリの高さから落ちた、こうして会話ができるだけ幸いである。
152 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:39:49.36 ID:vwcOn1nA0

隊長「だ、だいじょうぶだ...ゲホッ...」スッ


立て銃、アサルトライフルを杖代わりにすることで立ち上がる。

背中には嫌な違和感、痛みをそこまで感じることはなかった、それが逆に恐ろしい。


隊長(...10mくらいの高さから落ちたようだ)


魔女「口から血が...私は魔法を使えないし役立たずじゃん...」


隊長「...うえにはあがれないな、みちなりにすすむぞ」


魔女「う、うん...肩持ってあげるね」ソッ


隊長「...たすかる」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「──よっとッ!」


──キィーンッッ!

帽子の剣は、彼女に命中したというのに。

なぜこのような音がなるのか、それは事前に彼女が魔法を唱えていたからであった。


???「...無駄です、この防御魔法には通用しませんよ」


帽子「...まいったなぁ」


スライム「"水魔法"!!」


──バシャンッ!

巨大な水鉄砲、消防隊が消火活動に使う水の勢いと同じ。

人間が受ければひとたまりもない、だが彼女は平気な顔をして立ち尽くす。


ウルフ「うぅ...どうすれば...」


???「...魔物め」


帽子「...いい加減、名前ぐらいおしえてほしいな」


それは戯言のつもりであった。

少しでも彼女の素性を知ることがこの戦いに必要なのか。

現状としては全く必要ない、しかし以外にも彼女は答えてしまう。


女賢者「...女賢者です、言いたいことはわかりますよね?」


帽子「...?」


賢者という名前から察するに、間違いなく賢者の塔に関係する人物である。

しかし名乗りの意味は全く理解できない、一体何のために。


〜〜〜〜
153 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:41:03.70 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


魔女「はぁっ...はぁっ...」


負傷した隊長に肩をかして、歩行を続けている。

しかしそれはあまりにも無謀であった、彼女は魔物であるが乙女でもある。

隊長という男、人をふっとばすパンチを行えるということはかなりの筋力量を保持している。

そのような者を長時間支えることなど難しい。


隊長「ぐっ...」


隊長(早く帽子たちと合流しないとまずいな...)


魔女「はぁっ...はぁっ...」


隊長「...すこしやすむぞ」


魔女「はぁっ...だ、だめ...」


隊長「つかれてるだろ?」


魔女「すこしでも...はぁっ...はぁっ...役に立たないと...」


隊長「...いいか、いけ」


魔女「...」


隊長「やくにたつとかはもんだいではない」


隊長「どういきのこるかがだいじだ」


隊長「ここでたいりょくをしょうひしてはしぬぞ」


隊長「それに...」


魔女「うん...?」


隊長「魔女のおかげで、らくになったさ」


空元気であった、精一杯のごまかしの微笑み。

それを素直に受け取るしかない、ここまで言われてしまったのであれば。

万が一に備え、隊長は魔女の体力を温存する方向へと持っていった。


魔女「...分かったわよ」


隊長「...おう」
154 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:41:51.24 ID:vwcOn1nA0

魔女「──っ!」ハッ


しかしこの女、気づくのが遅すぎた。

罪悪感によって少しの間、隊長に肩を貸していたがようやく気づいた。

お互いの身体が密接していることを、それは彼の匂いを嗅げてしまう程に近い。


隊長「...どうした?」


魔女「...なんでもない」


隊長「...」


妙な沈黙、流石に疲れたのだろうか。

そう納得した隊長は深く追求しなかった、すると訪れる沈黙。

その沈黙が鍵だった、周囲になにもないはずなのに、答えは下。


隊長「...したからこえがしないか?」


魔女「え?」


隊長「...」ガバッ


隊長と魔女が地面に耳をあてる。

ものすごく滑稽な光景ではあるが、こうすることでしか確認できない。

すると聞こえてくるのは、老いた男と女々しい口調の男の声。


??1「ゲホッ...老体を傷つけるなんて、ひどいじゃないか」


??2「ふふふ、いいからつかまれよ..."拘束魔法"」


??1「──"解除魔法"」


聞こえてしまったその会話。何者かが何者かに襲われている。

襲われているのは初老の男性の声、それを聞いて彼の正義感が煽られないわけがなかった。


魔女「ほ、本当だ!」


隊長「──魔女、さがってろ」ピン


身体の不調、それにムチ打ってした行動彼が投げたのはピンの抜けたグレネード。

現代で作られた爆弾が地面に大穴を開ける、あとは簡単だ。

その大穴に向かって飛び込めばいい。
155 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:43:43.64 ID:vwcOn1nA0

隊長「...!」スタッ


魔女「──きゃっ」ドテッ


??1「なんじゃ!?」


??2「──な、なにがおこったッ!?」


隊長「...ぜんいんそのばからうごくな」スチャ


捕縛者「...ふふふ、人間か...この魔王軍の捕縛者に勝てるとでも?」


彼の腕には魔王軍の入れ墨、その名は捕縛者。

暗躍者が剣を、追跡者が拳を、そしてこの男は何を使うのか。

彼の持っているモノは原始的かつ、それでいて確実性のある武器。


??1「い、いかん逃げるんじゃ!」


捕縛者「ふふふ..."水魔法"ッ!」


──ゴシャァァァッッッ!!

激流、まるで滝が落ちてきたかのような威力。

スライムのモノとは比較にならない、とてつもない水魔法。


魔女「──すごい威力よっ!?」


隊長「...ッ!」ダッ


捕縛者「ふふふ、さぁ...大賢者ッ! つかま────」


──ババババババババババッッッ!!

油断をしすぎていた、彼をただの人間だと認識したのがまずかった。

水の流れほど読みやすいものはない、挙動が読めるなら簡単に安置を見つけることができる。

身体に軋む痛みを我慢しながらも、隊長は安全地帯に急行し発砲した。


捕縛者「──ぐああああああッッ!?!? ぐッ..."防御魔法"ッ!」


──ガキンッ! ガキンッ!

その音が意味するのは、銃弾がなにか硬いモノに当たり弾かれた。

捕縛者の身体を見てみると、透明ななにかが存在していた。

最もそれも、すぐさまに銃で破壊されてしまったが。
156 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:44:54.70 ID:vwcOn1nA0

隊長(...半分ははじかれたな)


??1「...な、なんという威力じゃ...防御魔法を簡単に崩すとは」


魔女「お爺さん、大丈夫っ!?」


??1「──お主呪われておるな..."解除魔法"」


老人が唱えた魔法は、単純でいて強力な魔法。

それを扱える人間はそうそう居ない、なのになぜ。

身体の違和感が消えた魔女は思わず訪ねた。


魔女「──お爺さん何者っ!?」


大賢者「...ワシは大賢者じゃ」


魔女「...えぇっ!?」


捕縛者「...おしゃべりなら僕もまぜてくれないか?」


隊長「おまえのあいてはおれだ」


捕縛者「ふぅん、人間の癖に...武器と口だけは一丁前だね」


捕縛者「...喰らいなよ」スッ


──ヒュンッ!

何かが風を切り裂く音、これは風魔法ではない。

彼の持つ武器、それは矢という代物を射出するモノ。

かつて銃が普及するまで第一線を担ってきた、遠距離武器。
157 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:46:04.44 ID:vwcOn1nA0

大賢者「──いかん! 奴の弓は魔力でできていて危険じゃ!」


──バッ!!

その警告は虚しく砕け散った、単発の射撃、それが撃ち落としたのは彼の矢。

捕縛者の弓はまっすぐ前に向けられている、ならばこちらも真っ向から放てば狙いをつけることなど容易。

銃撃戦に目が慣れている彼には、矢の速度など見えてしまっている。


隊長(アーチェリーか...原始的だな)


捕縛者「...打ち落としたか、やるねぇ」


大賢者「な、なんじゃあの人間...魔力で強化されてるわけではないみたいじゃな...」


魔女「今のうちに..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

彼女の明かりが、隊長を包み込む。

大賢者により呪いは解かれた、いつもどおりの治癒魔法が彼を癒やす。

折れた骨はまだ完治していない、だがこれなら十分動ける。


隊長「たすかったぞ、魔女!」


捕縛者「参ったなぁ、治癒魔法持ちか...これは長引きそうだねぇ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜

帽子「...」


女賢者「...」


お互いが睨み合う、恐らく次で決着がついてしまう。

帽子が彼女の防御を崩すか、彼女が彼らに強力な魔法を放つか。

だが、その緊迫した空気感をさらに強張らせる出来事が起こる。


ウルフ「うぅ...このにおい...」


ウルフの鼻、それは犬並みであるのは当然。

彼女が捉えてしまったのは、あの嫌な匂い。

血の匂いに混じるのは、何かが焦げたような匂い。
158 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:47:02.65 ID:vwcOn1nA0

???「みつけたぜ...」


その男はくどかった、驚異の生命力であった。

魔王軍の一員なだけはある、この匂いは爆破の際に付着した焦げの匂い。

血まみれの男が彼たちに追いついてしまった。


帽子「──お前はッ!?」


スライム「つ、追跡者っ!?」


ウルフ「がるるる...」


追跡者「...俺としたことが、痛みで気絶しちまったぜ」


追跡者「あの人間はいねぇな...まぁいい、お前らを殺してあいつも殺す」


女賢者「くっ...また魔物が...」


帽子「...なぁ君」


女賢者「...共闘ですか?」


帽子「状況判断が早くて助かるよ」


女賢者「...いいでしょう、それに何となく察してました...謝罪は後ほどに」


彼女が先程まで帽子を睨んでいた理由。

本当なら即座に魔法でトドメをさせれていたというのに。

思いとどまってよかった、どうやら彼女が目の敵にしているのは魔物ではなく魔王軍だった。


追跡者「ごちゃごちゃうるせぞ! オラァッ!!」ダッ


帽子「くるぞっ!」


女賢者「..."衝魔法"」


──ズシィッ...!

その音を聞けばわかる、当たってはいけないということに。

女賢者が放つ魔法はかなり洗練されている。

それを察知した追跡者は十八番の魔法を唱え、彼女の背後へ移る。
159 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:48:48.80 ID:vwcOn1nA0

追跡者「"転移魔法"」ヒュン


女賢者「...転移魔法持ちですか、それにずいぶんと早口ですね」


追跡者「──なんたって、魔王軍だからなぁッ!」


追跡者「"爆魔法"だッ!! 吹き飛びなッ!!」


女賢者「..."地魔法"」


隙のない詠唱により現れた魔法陣から、土石流が襲いかかる。

それは爆発が起こる前に無理やり、そして物量で飲み込こんだ。


追跡者「──"転移魔法"」シュン


──ドッッッッゴォォォォォンッッ!!

そして土石流がそのまま追跡者の方向へと進む。

彼が転移魔法を唱えていなければそのまま飲み込まれていただろう。

彼女の地魔法はそのまま進み遺跡の一部を削り取った。


帽子「──うわッ!?」


帽子(あれだけで、遺跡の一部が簡単に砕けた...)


追跡者「へっ、威力は認めるが...当たるわけにはいかねぇぜ」


女賢者(どうにかして当てさえすれば...)


スライム「..."水魔法"」バシャー


追跡者「あたんねぇよ!」サッ


帽子「そこだっ!」


──グサッ...!

水魔法は囮、絶妙なコンビネーションで帽子が追跡者に接近する。

まさか人間と野良魔物の戦術がここまで熟されているとは思わなかった。

肉薄を許した追跡者の腹部に、帽子の剣が刺さりこんだ。


追跡者「ぐッ...てめぇ!」


帽子「ウルフさん!」


ウルフ「────がうっ!」


──バキィィッッッ!

当然ウルフも接近していた、そして海岸地帯でのトドメを再現する。

腹部に刺さった剣の柄を思い切り蹴り込んだ。

その影響でその傷は更に深まる。
160 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:50:50.53 ID:vwcOn1nA0

追跡者「ぐっ...二度目もこれで倒れるわけにはいかねぇんだよ!」ガシッ


ウルフ「──わっ!?」


女賢者「"衝魔法"」


──ズシィッッ...!

追跡者という大男、その腕は愚か手のひらも常人のソレではない。

ウルフという小さめの子を掴むなど簡単、そのまま潰すことだって可能。

しかしそれは防がれた、犬に気を取られすぎたこの男はまともに魔法を受けてしまう。


追跡者「──グハゥッ...」グラッ


ウルフ「──うおおおおおおっ!!」パッ


追跡者「チッ...逃げられた..."爆──」


スライム「──"水魔法"」バシャー


彼女は察知する、次にくる魔法がどのようなモノか。

あの時、隊長やウルフの身に何が起きたのかを聞いてたお陰か。

スライムは自らに水魔法を当て、自身の体積を大幅に増やし彼らの前に出た。


追跡者「──魔法"ッッ!」


──ドッッッガァァァァァァンッッ!!!!!

追跡者が魔法を唱え終わる前に、水が仲間を護り抜いた。

魔法の相性、それは後出しのほうが有利のはずなのに、なぜ護れたのか。


女賢者「...スライムの固有能力は侮れませんね」


帽子「どういうことです?」


女賢者「あとで説明します、それより助かりました」


帽子「おしゃべりは戦闘の後だ...って彼なら言うでしょうね」


スライム「そ、そうだね...」オロロ


ウルフ「わふっ!」


帽子「あいつも傷を負ってる、こっちが優勢だ!」


追跡者「くそっ...」


追跡者「..."炎魔法"ッッッ!!!!!」ゴゥ


スライム「へ、へへーん! 炎なんか怖くないよっ!」


帽子「──違う、まずいぞッッ!」
161 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:52:16.74 ID:vwcOn1nA0

追跡者「俺ぐらいになるとォ! 魔法はこうやって、自在に操作できんだよォッ!!!!」


繰り出された炎はスライムだけ綺麗に避けて、帽子たちに襲い掛かる。

女賢者は急いで対処をする、まるで気を取られたかのように。


女賢者「..."防御魔法"」


帽子(──そうかッ! これも陽動...ッ!)


気づけば、追跡者はすぐそこにまで迫っていた。

判断が遅れた、もう少し早く気づいていれば。

炎魔法は揺動、そして女賢者に魔法を唱えさえ判断を遅れさせるのが目的。


追跡者「..."転移魔法"ッッ!」シュン


帽子「──し、しまった!」


案の定だった、魔法が頼りにならないのなら。

絶対に持ち前の体術で仕掛けてくる、なぜ気づけなかったのか。

そして反則じみたその転移魔法が追跡者の接近を許してしまった。


追跡者「──オラァッ!!」ブンッ


帽子「――ッッ!?!?」


──メキメキィッ...!

ただの殴りかかりで、骨が悲鳴を上げる。

モロに受けてしまった帽子はその衝撃で吹き飛ばされる。


スライム「帽子さん!?」


追跡者「...まずは1人」


ウルフ「──がうっっ!!!」


──バキィッ!

追跡者の顔面に跳び蹴りが入る。

しかしそれだけであった、この男相手にまともな体術は得策ではなかった。


追跡者「...いてぇじゃねぇか!」ガシッ


ウルフ「わふっ!?」フワッ


追跡者「くらいなぁ!!」ブンッ


──ガッッッッシャアァァァァァンッッ!!

大きな手で足を掴まれたと思えば、そのまま地面に叩きつけられた。

そのような痛みに耐えられるはずもなく、ウルフはそのまま気を失う。


ウルフ「────っ...」ガクッ
162 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:53:22.19 ID:vwcOn1nA0

スライム「うぅ...どうしよう」


女賢者「...あなた、合図をしたら──」ゴニョゴニョ


スライム「──え...うん..."水魔法"!」バシャー


追跡者「きかねぇぞッ!」ダッ


スライム「ひゃっ、こっちきた!」


女賢者「..."地魔法"」


追跡者「だからよ...あたんねぇよぉッ!!!!!」


追跡者「──"転移魔法"ッ!」シュン


女賢者「────今ですっっ!!」


スライム「──"水魔法"っ!」


合図をしたら、女賢者の出した指示はこれだった。

スライムは追跡者を狙わず、はたまた自らも狙わず。

空に向かって水を放つ、それは雨のように広範囲に水をばらまいた。


追跡者(...何が狙いだ?)


追跡者「なにがしてぇか、わからねェが...こんなんじゃ...!」


──ぴちゃっ...!

雨のせいか、身体に水が付着する。

しかしの水は、雨粒の大きさとは違う。

その違和感はすぐに解消する。


スライム「──つかまえたっっっ!!!!」
163 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:54:09.03 ID:vwcOn1nA0

追跡者「なッッ...!?」


気づけばスライムが追跡者を拘束していた。

始めこそは上半身のみだったが、雨が次第に集まり元の身体を形成し始めていた。


追跡者(これはスライム族の固有能力の水化...水魔法は陽動ッッ!?)


女賢者「雨という水に身体を同化させ、彼女自身が雨となり...あなたに近寄ったってわけです...」


追跡者「ぐッ...はなせェッッッ!!!」


スライム「──死んでもはなさいっっっ!!」


追跡者(くそッッ! 足が粘ついて動かねェッ!!!)


女賢者「...どうやら、足が不安定で力が入らないみたいですね」


追跡者「くっ..."転移──」


スライム「──させないっっ!!!」


追跡者「ごぼぼぼぼっぼッッ...!」


女賢者「...詠唱できなければ、魔法は使えませんよ」


追跡者(まじィッッッ!!! このままじゃッッ!!!!)


女賢者「..................」ブツブツ


追跡者(わざとらしくッッ!! 詠唱の質を上げてやがるッッッ!!!!)


女賢者「..."地魔法"」


長ったらしく唱えられたその魔法。

そこから生まれるのは、まるで大地そのもの。

とてつもない規模の地魔法が追跡者を飲み込む。


追跡者「──があああああああああああああッ!?!?」


〜〜〜〜
164 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:55:14.52 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


捕縛者「喰らいなッッ!」


──ヒュンッ!

それはわずか一瞬であった、少しばかり視線を逃したが為に放たれた。

先程とはまるで違う、隊長という男を警戒したからこその一撃。


隊長「──ぐはぁッ!?」


隊長(は、はやすぎる...)ガシッ ポイッ


自分に刺さった矢を抜きながら、先ほどの矢の速度の違いに驚く。

これまでは人間という種族だからこそ、魔物相手に油断を誘えていた。

しかしこの捕縛者という男、なかなかにキレ者であった。


捕縛者「悪いけどさっきみたいにふざけないで、本気でいかせてもらうね」ヒュン


捕縛者「..."分身魔法"」スゥッ


再び彼が弓を射ると、そのまま射出した矢に魔法をかけた。

それは何重にも重なる、矢が分身を行えばどのようなことになるのか。

初めは1本だったモノが、瞬く間に数10本に。


隊長(これじゃまるで弓の雨だな)


隊長「...」スチャ


──ババババッッッ!!

銃で一箇所だけを集中して狙う。

狙われた箇所は、やや下方向の軌道を持つ矢数本。


隊長「──ハッッ!!」スッ


あとは屈めば簡単に避けることができる。

瞬時の状況判断が可能にしたのは、最低限の動きでの回避術。

だがそれは読まれていた、捕縛者は魔法を続ける。
165 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:56:09.12 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「..."転移魔法"」シュンッ


隊長「──ッ!?」


捕縛者「──ほらっ! もらったね!」


──ゲシッ...!

捕縛者が接近してきたと思えば、なにかを蹴飛ばした。

それは彼の主力武器、今まで見たことのない何かを飛ばしてくる武器を解除する。

アサルトライフルを失った隊長、そんな彼に矢の刃を向ける。


隊長「──そこだ!」スッ


捕縛者「────なッ!?」


──ザシュッ...!

矢を刃物代わりに使ってきた捕縛者、ならばこちらも刃物で対抗する。

素早い判断で彼はナイフを取り出し、矢を握っている彼の腕に斬りかかる。


捕縛者「ぐっ...人間の分際で!」


隊長「──おまけだ!」スチャッ


──ダンッ!

未曾有の武器はもう1つあった。

サイドアーム、彼はハンドガンをすばやく取り出し、そのまま射撃する。


捕縛者「──ぐはぁッ!?」スッ


隊長(速いッ...!)


だが彼は抵抗した、軽やかな身のこなしですぐさまに離脱を試みる。

結果的には足を撃たれてしまったが、もともとの照準は眉間を狙われていた。

離脱は比較的成功、隊長はトドメのチャンスを逃されてしまった。


隊長(くそっ! 女々しい口調だがあいつ、やるな...)


捕縛者「ふふふ、君も軍人みたいな者のようだね」


隊長「...」


お互いに武器を構え、睨みあう。

軍人ではないものには何が起きているのか目が追いつかない。

ハンドガンと弓、どちらが先に動きを見せるのか。


魔女「す、すごい...」


大賢者「ふむ...ワシの老いた目にはちと速すぎる戦いじゃ」 
166 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:57:02.61 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「...武器、拾いに行かないのかい?」


隊長(誘導のつもりか...ここは動かしやすいハンドガンの方が有利だ)


隊長「...」


捕縛者「...へぇ、いかないのか」


捕縛者(...あの人間、武器だけじゃなくて判断力も凄いね)


捕縛者(歴然の軍人なのかな? しかし人間界にいる実力者一覧表には載ってなかったな)


捕縛者(...大賢者拉致の仕事が大変なことになっちゃったな)


隊長「...」


隊長(...魔法があるからといって)


隊長(詠唱を唱えるとき、一瞬隙があるみたいだな)


隊長(...ほんの、一瞬だがな)


隊長(それを恐れて、派手に動けないみたいだな)


隊長(...俺も動けないんだけどな)


お互いにお互いを解析する、大賢者と魔女はただ眺めることしかできない。

流れ弾を食らわないような場所から戦いを見ていることでしか隊長を援護できない。

下手に魔法で援護をすれば、逆に隊長の戦略が崩れるかもしれないからだ。


大賢者「次に動いたら決着が決まるようじゃな」


魔女「...そうなの?」


大賢者「...あの人間は負けるぞ」


魔女「そ、そんな...」


大賢者「...落胆するな、ここままの話じゃ」チラッ


魔女「えっ...?」


〜〜〜〜
167 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:57:57.38 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女賢者(スライム...本来は強力な種族なのを改めて思わされる...)


スライム「よ、よくわからないけど...やったの?」


女賢者「..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

優しい明かり、それは魔女のモノよりも遥かに。

彼女の唱えた魔法が2人を癒やす。


ウルフ「う...うん?」ピクッ


帽子「──げほッ...死んだかと思ったよ」ピクッ


追跡者「...」ピクッ


ちょうどその時だった、まだ意識を保つ者がもう1人。

大地をひっくり返したかのような魔法を受けても、まだ息がある。

しかし身体は地面に埋まっている、まともに動けることはできない。


追跡者「残念だったな...俺は頑丈なんでな...」ボソッ


追跡者(だが...このままじゃ不利だ)


追跡者(...もう、側近様から頂いた魔力薬を飲むしかない)


追跡者「...」ゴクッ


追跡者「──ぐぁあッッ!?」


追跡者「──ぐおおおおおおおおオオオオオオオオッッ!?!?」


うめき声から、大きな声へと変貌する。

それだけではない、身体中が熱く、そして何かが蠢く。

それは地上の者にも伝わる轟音であった。


女賢者「──瓦礫の下からっ!?」


帽子「そんな...まだ生きていたのかっ!?」
168 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 01:59:21.80 ID:vwcOn1nA0

追跡者「──グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


──ガッッッッッシャアアアアァァァァァァンッ!!!!

自分の身体を埋めていた大地を掘り起こした。

身体中から植物が生え、触手が筋肉の繊維のように体にまとわりつく。

この光景、暗躍者とほぼ同じであった。


スライム「な、なにこれっ!?」


ウルフ「がるるるる...」


女賢者「...厄介です、物凄い魔力」


帽子「...人間の私でも、殺気というものを身に感じるよ」


ウルフ「さっきよりおおきいし...こわい...」


追跡者「──グオオオオオオオオオオオオオ!!」ダッ


帽子「──きたよッ!」


女賢者「..."防御魔法"」


先に狙われたのは、人間2人。

それに備え、彼女は防御魔法とやらで自分と帽子を包み込んだ。


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


──ドゴンッ! バキィ!! ドガァッッ!!

しかし追跡者はそれにかまわず殴りはじめる。

防御魔法、それは見えない鎧を着込むようなモノ。


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


──バゴッッ!! ガッッ!! ベキィッッ!!

女賢者の防御魔法はかなりのモノだ、これが通常時の追跡者であるならば。

殴ったときの衝撃が自らに跳ね返り負傷させることができる、だが今は違う。

見た目でわかるその光景、確実に理性を失っているものに痛みなど伝わるだろうか。


女賢者「ま、まずい...もの凄い攻撃力...」


帽子「...ひび割れているね」


──バゴッ!! ピシッッ...

────パリィィィィィィン!!

彼女の得意魔法、防御魔法があっけなく砕かれる。

それは魔法だけではない、彼女の心を砕くのと同じであった。
169 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 02:00:50.69 ID:vwcOn1nA0

追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」


女賢者「うそ...」


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


帽子「ぐっ! 逃げろっっ!!!!」


女賢者「...あっ?」


そう声をかけても、彼女は反応できなかった。

以外にもこの女賢者という者、見た目は若い。

たとえ強力な魔法を唱えることができても、まだ精神は未熟であったのかもしれない。


帽子(まずい...彼女は動けないみたいだ...)


帽子「くそッ!」


ここで見捨てればどうなることか。

彼は思わず前に出る、その圧倒的な実力差を感じつつも。

恐怖で足が震える、だが男である以上護らねばならぬ、彼は紳士的すぎたのであった。


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」ガシッ


帽子「ぐぁああああああああああああああッッ!?!?」グググ


ウルフ「──帽子をはなせ!!」


──バシッ! ドカッ! 

ウルフが果敢にも蹴りを入れるが全く怯まない。

巨大化した追跡者に握りしめられた帽子、このままでは非常にまずい。


スライム「"水魔法"っ!!」バシャー


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」ブン


────ドッッッッン!!!!!!!!!!

渾身の水魔法ですら怯むことはなかった、そして追跡者は帽子を地面にたたきつけた。

子どもが人形を乱雑に扱うが如く、帽子は横たわり動けなくなってしまう。


帽子「────ぁ...」


女賢者「だ、だめ...もう勝てない────っ」フラッ


女賢者は追跡者の恐怖に負けて、座り込んでしまう。

するとウルフがへたれてしまった女賢者を背負い、隊長たちが落ちたところを指差す。

まだ魔物の2人は理性が残っていた。
170 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 02:01:54.34 ID:vwcOn1nA0

ウルフ「...下におりよう!」


スライム「で、でも!」


ウルフ「ご主人ならなんとかしてくれるよっっ!!」


スライム「...わかった、けどその前に帽子さんを助けなきゃ」


追跡者「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


ウルフ「グスッ...あたしがおびきよせるから帽子をおねがい!!」ダッ


スライム「──ウルフちゃん!!」


ウルフ「──おにさんこちらっ!」ヒラヒラ


追跡者の前で尻尾をうざったらしく振る。

足元にたたきつけた帽子を無視してウルフと背負ってる女賢者のほうに向かう。

ウルフが一番危険性を察しているというのに、とてつもない勇気であった。


追跡者「グオオオオオオオオオオオオ!!」ダッ


スライム「──帽子さん!」ダキッ


帽子「...」ピクッ


ウルフ「スライムちゃん! とびこむよっ!」ダッ


スライム「うんっ!!」ダッ


ウルフとスライムは人間2人を背負って崩れていた場所に飛び込む。

そして当然ながら、彼も追跡することは間違いない。

恐怖で振り返ることはできないが、巨大な足音がついてきていた。


〜〜〜〜
171 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 02:02:57.78 ID:vwcOn1nA0
一旦ここまでにします、おやすみなさい。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
172 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:10:14.42 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


隊長「...」


隊長(...このままじゃ埒が空かん、どうするか)


捕縛者「...」


捕縛者(先に動いたほうが死ぬね、これ)


隊長が動けば、彼は引いている矢を放つだろう。

捕縛者が動けば、彼は引き金を引くだろう。

お互いにソレを理解している、だからこそ動けなかった。

しかしそれは当人らの話、第三者が介入するなら話は別。


魔女「..."雷魔法"」


大賢者「"炎魔法"」


──バチバチバチッ...!

────ゴォォォォオォオオオオオオオウッッ!

2つの魔法が重なり合う、特に炎魔法が顕著であった。

これは捕縛者に向けられたモノではない、では一体なにか。

魔法の規模がやたら大きい、それが彼を包み隠すことなど簡単であった。


魔女「──こっちだよ!!」


隊長「──すまん、たすかるッ!」ダッ


捕縛者「────そこだぁっっ!!」


──ヒュンッ...!

軍人としての勘が捕縛者を駆り立てる。

決して適当に放ったわけではない、なにか感覚を掴んだからこそ彼は試みたのであった。

炎と雷を貫き、そしてその矢は獲物を捉える。
173 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:11:57.59 ID:vwcOn1nA0

隊長「──ッッ...!?」


──グサァッ...!

防弾チョッキを着ているのにも関わらず。

彼の放った矢は凄まじいモノであった、見事にソレを貫通し隊長の腹部を射抜いていた。

その光景に思わず援護をした彼らは硬直してしまう、そして捕縛者は追撃を行う。


捕縛者「..."拘束魔法"」


大賢者「──な...んじゃと...」


魔女「きゃぁっっ...なにっ!?」


魔法陣が大賢者と魔女を縛り上げる。

拘束魔法、それは戦況を整理するのにもってこいな魔法。

だが大賢者には対抗策があった、それを行おうとすると。


大賢者「"解除魔──」


捕縛者「──いい加減邪魔だよ、それ」ヒュンッ


大賢者「ぐぁ...」グサッ


捕縛者「...なるべく無傷で連れてこいとはいわれたけど、これはもう無理だね」


魔女「お爺さんっ!! きゃぷてんっ!!」ジタバタ


捕縛者「...君も下手に動くなよ、治癒魔法は戦いが長引いて面倒なんだ」


隊長「はぁ...ぐゥ...」


やがて炎が弱まり、隠れ蓑はなくなってしまった。

そこにいたのは腹を射抜かれた痛みで立っているのがやっとな状態の隊長であった。

勝負あった、最後の一撃が決め手であった。
174 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:13:13.06 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「僕の勝ちだね...君、名前は?」


隊長「おまえになのるなまえはない...」ギロッ


捕縛者「そうかい...じゃあ、痛めつけてあげるよ」ヒュン


隊長「──ぐぁああああ...ッ!?」グサッ


矢が肩に刺さる、刺さった矢を抜き投げ捨てる。

それがやっとの行動、魔力で強化された矢の威力を侮っていた。


魔女「──やめてぇ!!」


魔女(ここままじゃ...あいつが死んじゃう!!)


捕縛者「...人間にしてはよくやったよ」ヒュン


隊長「ぐぅ...ッ!?」グサッ


矢が掌に刺さる。

矢を抜いて放り投げる。

それが限界、そのまま蹲るしかなかった。


捕縛者「ふふふ、その声もっときかせてよ」ヒュン


隊長「...あぁ...あああああッッ!?」グサッ


矢が腿に刺さる。

絶叫しながら、矢を抜いて握りしめる。

隊長という男が悲鳴をあげる、その光景を楽しむために捕縛者は近寄る。


捕縛者「...ふふふ、トドメをさしてやる」スッ


捕縛者がトドメを決めるため弓を大きく構える。

この一撃は彼の頭部を捉えている、死に直結する最後の攻撃。

だがそれが命取りであった、不屈の隊長は最後の余力を全てぶつける。


隊長「────はぁああああああああああッッ!!」ダッ


捕縛者「──な、まだこんな力がッ!?」


──グサッッッ!!!!!!

残念なことに、矢が肉体を貫く音が響いた。

先程述べたように、この矢は魔力で強化されている。

人間の骨を砕くだなんて容易なことであった。


魔女「──だめえええええええ!!」
175 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:14:28.92 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「────ッ...!?」ドカッ


隊長「ぐっ...はぁ...」ドサッ


捕縛者は急接近してきた隊長を蹴っ飛ばす。

彼はそのまま力が入らずに横たわってしまう。

勝負あったかと思われた、だが絶叫した魔女の声は無駄であった。


捕縛者「────ッ...ッ...!?」


魔女「え...あいつの喉が...っ!?」


人を骨を砕くのは用意、それが彼の矢。

ならば彼自身を貫くのはどうなのだろうか。

答えは出ている、彼の喉を貫くのは、他でもない彼の矢。


捕縛者(喉を刺された...クソッ! 詠唱ができない...ッ!?)


隊長「──This is over...」スチャ


──ダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!

寝そべりながら彼は射撃をする。
 
マガジンにある残りの銃弾を捕縛者の頭をお見舞いする。

容赦のない射撃、たとえ魔物であっても耐えられるわけがない。


捕縛者「──────っ...」ドサッ


魔女「──"治癒魔法"っ!!」


──ぽわぁっ...!

捕縛者が倒れると同時に、魔女が動く。

拘束されてはいても口は動かせることはできる。

先程は警告されできなかったが、彼女は魔法で大賢者を癒やした。


大賢者「た、たすかるぞい..."解除魔法"...これであの男を癒やしてやるのじゃ...」


そして大賢者が拘束魔法を解除した。

魔力も取り戻し身体の自由も取り戻した。

そして彼女は急いで彼の方へと向かい、魔法を連発させる。


魔女「..."治癒魔法"っ! "治癒魔法"っ!」
176 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:15:44.84 ID:vwcOn1nA0

隊長「──ゲホッ..,はぁ...はぁ...さすがにしぬかとおもったぞ...」


魔女「"治癒魔法"! "治癒魔法"っ!」


大賢者「..."治癒魔法"」


必死に治しても、治しても彼の傷はなかなか塞がらなかった。

少し理性を失いかけた魔女、その様子を見かねた大賢者がつい手を差し伸べた。

彼の治癒は魔女の比ではない、隊長の身体を完全に癒した。


大賢者「...よくやった、見知らぬ者たちよ」


隊長「あぁ...ありがとう...」


魔女「...ぐすっ」


隊長「...魔女?」


魔女「...ひっく、もぉう目の前で死に掛けないでぇぇ」ポロポロ


隊長「...」


彼女は泣いてしまっていた。

その涙を前に、ただ黙ることしかできなかった。

そんな微妙な空気、それを少し晴らそうと大賢者が口を開く。


大賢者「...あの魔力でできた強力な矢は捕縛者すら死においやる威力だったのぅ」


隊長「...そうだな」


魔女「ひっく...うぇぇぇぇぇぇぇぇん」ポロポロ


大賢者「...おなごを泣かすでないぞ、若者」


隊長「......そうだな」


彼は魔女の背中を、優しすくさすった。

そんなことしかできない、とても不器用な男であった。

彼女が少し落ち着くと、彼は蹴飛ばされたアサルトライフルを回収した。
177 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:17:26.05 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「────ッッ!!!!」ゴクッ


その時だった、あそこまで頭を撃ち抜かれてもまだ息があった。

驚異の生命力、ほぼ意識が消えかけた状態でも彼は動く。

彼の手に握られいてたのは小さな瓶。


大賢者「──いかんあれは魔力薬じゃ!」


捕縛者「────っっっ...ぎゅろろろろロロロロロロロロロロロ!!」


隊長「まだ息があったのか...ッ!?」


魔物相手に常識は通用しない、初めの氷竜が一撃で仕留められてしまったのが災いした。

染み付いたヘッドショットという概念、本来は即死が可能だというのに。

そのような固定観念に足を引っ張られる中、ある声が響いた。


??1「──はぁ...はぁ...この穴って...!」


??2「この穴からにおいがする! ご主人! たすけてぇ!!」


??3「────グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


上だった、先程グレネードでこじ開けた大穴。

そこにいたのは我らが仲間、その後ろからは叫び声が。

大きな足音と登場したのは魔物の2人だった。


隊長「スライム! ウルフ! だいじょうぶかッ!?」


魔女「なんか、凄いのに追いかけられてない...っ!?」


ウルフ「あ、あいつがどうしてもたおせなくて...」


スライム「...って! そっちにも怖いのがいるよっ!?」


大賢者「おぉ...女賢者...大丈夫かの?」


隊長「話は後にしてくれ...逃げるぞッ!!」


捕縛者「ロロロロロロロロロロロロロッッ!!」


捕縛者の身体、そのいたる所から植物の触手がまとわりつく。

だがそれはまだ変異の段階、今すぐに動く気配はなかった。

ならば今一番気をつけなければならないのは、ウルフたちを追跡している者。
178 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:18:57.05 ID:vwcOn1nA0

隊長(まだ、捕縛者は変化し終わっていない...)


追跡者「──グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


隊長(...追ってきてる奴は知らんが危険そうだな...こっちしかない)


隊長「こっちだ! 走れッッッ!!」ダッ


魔女「うんっ!」


大賢者「...久々に走るとするかいのう」


ウルフ「わふっっっ!!」ダッ


彼の指示で皆がまとまって走り出した。

だがそれは無計画であった、今はあの怪物共から距離を離さなければならない。

しかしそれは意外にも功を奏する、それはなぜか。


大賢者「...この通路の方角は、賢者の塔につなっているぞい」


魔女「それって本当!?」


隊長(...こっちで正解だったな)


老人が全力疾走するなか、答えを教えてくれた。

すごく不可思議な光景、それでいて大賢者は息も切らせていない。

こちらの答えも彼が教えてくれる、それは魔力を利用したモノであった。


スライム「はぁっ...はぁっ...」


ウルフ「スライム! 大丈夫!?」


大賢者「お主、コレを飲め」ポイッ


スライム「うわっ! っとと...はぁっ...なにこれ...はぁっ...」


大賢者「それは魔力が補充できる、魔法薬じゃ」


大賢者「魔力が力の源である魔物につかえば、元気溌剌になるじゃろう」


大賢者「老体であるワシが全力で走れているのも、魔力のおかげじゃ」


スライム「はぁっ...なんだかしらないけどっ、ありがとっ!」ゴク


スライム「...だいぶ楽になったっ!」


薬を飲んだスライムに、効果が現れる。

青い顔をしていた彼女が、より一層健康的な青色の顔つきへと変わる。


ウルフ「──あれって、でぐち!?」
179 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:20:26.18 ID:vwcOn1nA0

隊長「────ッ!」スチャ


──バババババババババババババババッッッ!!

すると見えてきたのは、大きな木製の扉。

彼は走りながらも、背負っていたアサルトライフルを構え射撃する。

扉を手で開けている暇などない、このマスターキーでこじ開けるしかない。


隊長「──デヤッッッ!!」ダッ


──ベキベキッ...!

弾幕により脆くなった扉にタックルをすることで、扉を開ける作業を短縮する。

そのまま前のめりになった身体を前転させることで受身を取る。

今ので大幅に時間を短縮できた、扉を越えるとそこにあったのは。


隊長(地下広間か...)


魔女「...ここは!?」


大賢者「賢者の塔の地下広間じゃ」


ウルフ「へっへっへっへっ...わふん」


スライム「つ、ついたの...?」


隊長「──立ち止まるなッ!」


──グオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

──ロロロロロロロロロロロロロロロッッ!!

背後から聞こえてくるのは、怪物の鳴き声。

それは決して近くもないが遠くもない、どちらにしろ立ち止まるべきではない。


大賢者「あそこの階段を目指すのじゃ」


魔女「わかった!!」


──ガッッッッッッシャアアアアアアアアアアアン!!

扉が化物サイズにこじ開けられた、それは周りの壁も破壊された。

ついに追いつかれてしまった、塵芥とともに現れたのは。

元の姿を彷彿とできない、変わり果ててしまった魔物共。
180 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:21:42.63 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「...ロロロロロロロロロロロロロロッ!!」


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


捕縛者の姿、それはまるで大蛇のようなモノに。

そして追跡者は巨大な猩々、植物の触手で出来た筋繊維が恐怖感を醸し出す。


隊長(...クソッ!)


大賢者「...あの階段までいけばワシに策がある!!」


魔女「えっ...!?」


スライム「ほんとう!?」


隊長「──ッ!」クル


──スチャ...!

隊長が振り向いた、そして同時に行ったのはリロード作業。

大賢者の言葉を信じる、自分にはこの状況を打破できないからだ。

望みを彼に託し、己のやるべきことを瞬時に担う。


隊長「──すすめぇッ!!」


──ダンッ ダン ダダンッ

弾がきれたアサルトライフルを背負い、素早く準備ができるハンドガンで足止めにはいる。

射撃音が始まるの合図、隊長は時間を稼ぐことにした。

そのおかげか、彼以外の者は早くも階段へと到着する。
181 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:23:09.09 ID:vwcOn1nA0

ウルフ「わふっ!!」ドサッ


スライム「はぁっ...やっとやすめる...」


魔女「策ってなによっ!?」


大賢者「...この地下ごと結界魔法をかけるのじゃ」


魔女「...封印みたいなことをするの?」


魔女「でも...それって物凄い魔力の量が必要なんじゃ...」


大賢者「大丈夫じゃ、ワシは大賢者じゃ」


大賢者「若いの、もう少しだけ時間稼ぎを頼むぞ...」ブツブツ


大賢者が詠唱をはじめる、少し困惑気味の魔女はその光景を眺めることしかできない。

ウルフは女賢者を、スライムは帽子の身体をゆっくりと地面に置いた。

彼女らもまた、彼の姿を見つめることしかできない。


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


捕縛者「ロロロロロロロロロロロロロロ!!!!」


隊長「...ッ!」


──ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ 

やはりハンドガンで正解であった、追跡者と捕縛者は理性を失っている。

その影響で魔王軍同士が対峙している、彼という小さな者に牙は向かれることはなかった。

しかし怪物同士が争っている余波は激しかった。


大賢者「...」ブツブツ


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


──スチャッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ

奴らの攻撃の余波を回避しつつ攻撃するのは、片手で持てるこの銃ではないと無理であった。

素早くリロードを行い、そしてまた攻撃に移行する。


大賢者「...」ブツブツ


捕縛者「ロロロロロロロロロロロロロロ!!!!」


──ダンッ ダダンッ ターン ダンッ ダダンッ ダンッ ダンッ ダンッ

ハンドガンの小さな射撃が、奴らを地味に負傷させ始めていた。

この化物共に理性などない、ハンドガンという未曾有の武器を解析することはできない。

どこから飛んできているかも理解できない者が、その要因である隊長に気づけるわけがなかった。
182 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:24:01.15 ID:vwcOn1nA0

大賢者「──"結界魔法"」


そして時は訪れた、隊長が時間を稼がなければなし得なかった。

ブチ破れた扉のほうから魔法陣が広がり始める。

その色は透明、そしてソレが徐々に辺りを無色に染め上げる。


大賢者「若いの、早くこっちにくるのじゃ」


隊長「あぁ...わかっ──」


捕縛者「──ロロロロロロロロロロ!!!」


──ブンッ...!

蛇の一撃、その大きな尻尾がムチのように襲いかかった。

先程までこれを回避することができたのに、最後の最後で油断をしてしまう。

そこまでの激痛は走ることはなかった、しかし隊長は大きく吹き飛ばされた。


隊長「──うおおおおおおおおおおッッッ!?」ズサァ


魔女「──あんたっ!!」


ウルフ「ご主人!!」


スライム「"水魔──」


大賢者「──やめろ!!」


大賢者「下手に手を出すでない!! 奴らがこっちにきたら終わりだッ!!」


大賢者「急げ! 一緒に封印されたら二度と帰ってこれないぞ!!」


隊長「ぐッ...!」ダッ


再び階段に向かって走り出す。

走っている足元ギリギリに魔法陣が迫ってくる。

しかし奴らも抵抗をする、その余波が再び彼に襲いかかる。
183 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:25:15.66 ID:vwcOn1nA0

捕縛者「ロロロロロロロ!!」ブン


魔女「危ないっっ!! なぎ払いがくるわよっ!」


隊長「──フッッ!!」


──ズサァァァッ...!

走っている最中に姿勢を下げる。

スライディングが可能にしたのは移動中の回避であった。


追跡者「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」ドゴン


スライム「きゃっ」グラ


大賢者「な、なんということじゃ...」グラッ


ウルフ「ご主人っ!!」グラッ


追跡者が結界魔法に飲み込まれかけていた。

その際に奴は地面を殴ることで奴は大地を揺らしたのであった。

それが何になるのか、抵抗虚しく追跡者という魔物は完全に姿を失った。

だがそれが隊長を煩わせる。


隊長「Damn it...」グラッ


揺れる大地、そしてその背後には結界魔法。

彼は体勢を崩し倒れ込んでしまった。

すぐに起き上がりはするが、もうどう見ても厳しいモノであった。


大賢者「もうだめじゃ...間に合わん...」


魔女「...あきらめないでっっ!!」


隊長「────ッ!!」ダッ


隊長「──うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


ウルフ「ご主人!!」


隊長(あと少し!)


スライム「がんばってっっ!!」


隊長(あと少しだ!!)


隊長(飛び込めば間に合うかもしれん!!)バッ


魔女「──っっっ!!」スッ


階段に向けて、隊長は思い切り飛び込んだ。

すると魔女は無意識だろうか、手を差し伸べた。

そして隊長も同じく手を伸ばした。
184 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 11:26:23.21 ID:vwcOn1nA0

──ガシィッ...!

強く握りしめられたその音。

これがなければ、彼は僅かに間に合わなかった。


隊長「はぁッ...はぁッ...はぁッ...はぁッ...」ギュ


魔女「よかった...」ギュ


ウルフ「ご主人っっ!!」ダキッ


スライム「本当に...だめかとおもった...」


隊長「はぁッ...はッ...はッ...」ギュ


スライム「...あいつら、どうなったの?」


大賢者「あの化物共は結界空間でお互いが果てるまで戦い続けるじゃろう」


大賢者「それより..."治癒魔法"」ポワッ


帽子「──うっ...ん...ここは...?」ムクッ


スライム「帽子さん!!」


女賢者「──うぅ...だ、大賢者様...」パチリ


大賢者「話は後じゃ、ワシはこの結界魔法にさらに結界魔法をかけるぞい」


大賢者「女賢者、お前はみなを広間に連れて休ませておれ」


女賢者「は、はい...」


〜〜〜〜
185 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:14:10.78 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女賢者「皆さん、ここで休んでいてください」


隊長「...」


スライム「帽子さん、だいじょうぶ?」


帽子「もう大丈夫だ、心配かけてすまない」


帽子「きゃぷてんさんも、君の活躍に感謝だよ...ってあれ?」


隊長「...」


ウルフ「ご主人、よくわからないけどかたまっちゃってるの...」


魔女「...だいじょうぶかな」


女賢者に連れられて彼たちは広間に案内させられた。

そこに並べられた椅子に座ることでようやく休息を得ることができた。

しかしこの男の様子は変わらず、あの時魔女の手を握って以来、沈黙を続けていた。


隊長「...」


隊長(...あの時、魔女の声が聞こえたら...力がみなぎった)


隊長(魔女と手を握った時は、どこか満足感があった)


隊長(この歳の俺がこんなにも若い魔女のことを...いや、そんなはずはない...)


女賢者「...一種の放心状態ですかね」


帽子「...しばらく1人で考えさせておいたほうがいいね」


ウルフ「わふっ」


スライム「あれだけの戦いだったからしかたないね...」


心配そうに見つめるが、今はそっとさせておいた方がいい。

そう考えた皆は、適切な距離で彼を見守った。

しばらくして階段から大賢者が上がってきた。


大賢者「──ほっほっ、皆よく戦ったのう」


女賢者「大賢者様っ!!」


大賢者「うむ、まずはなにが起こっていたかを整理じゃ」


〜〜〜〜
186 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:15:06.16 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女賢者「───と、言うわけです」


帽子「なるほど、魔王軍の捕縛者とやらに奇襲を掛けられたんだね」


女賢者「私は魔法を受け、拘束されてしまいました...」


女賢者「なんとか魔法を脱出して、大賢者様を探していたら...」


帽子「...たまたま訪れた私たちに出会ったわけだね」


大賢者「ワシは地下の隠し通路で逃走をはかったのじゃが...」


大賢者「追いつかれてしまったわけじゃ、その時に若物に助けてもらったのじゃ」


女賢者「...その、魔物を連れていたのでつい誤った解釈をしてしまいました...」


女賢者「申し訳ございません」


ぺこりっ、と聞こえるようなきれいなお辞儀をする。

あの時のあれは牽制であった、自ら名乗りあげることで大賢者の存在を匂わせる。

捕縛者がわざわざ拉致をする程だ、並大抵の魔物は彼の名前を聞いただけで萎縮する。


帽子「...状況が状況さ、仕方ないさ」


スライム「それでね、私たちと女賢者さんがたたかってる時に追跡者が乱入してきて...」


魔女「それで帽子とあんたが戦闘不能になって、ウルフたちに運ばれたのね」


大賢者「...それで今に至るわけじゃな」


帽子「そうみたいですね」


大賢者「...恐らくじゃが」


大賢者「奴らが巨大化した原因は"魔力薬"じゃな」
187 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:16:12.29 ID:vwcOn1nA0

帽子「...魔力薬?」


スライム「それってさっきお爺さんがわたしにくれた...」


(大賢者「お主、コレを飲め」ポイッ)


大賢者「それは魔法薬じゃ」


大賢者「魔法薬は飲んだ者の魔力を回復するものじゃが」


大賢者「魔力薬は誰かから抽出した魔力を飲んだ者に与えるのじゃ」


帽子「...なるほど」


スライム「...どういうこと?」


女賢者「...つまりですね?」


女賢者「スライムさんの魔力が100だとしますね?」


女賢者「で、私の魔力が200だとします」


女賢者「スライムさんが疲れて魔力が50になります」


女賢者「その時に魔法薬を飲めば魔力は回復するだけで、100以上にはなりません」


女賢者「ですが、私から抽出した魔力薬を飲めば...」


女賢者「一時的にスライムさんの魔力は200になります」


スライム「な、なるほどぉ...?」


大賢者「そんな感じじゃ...じゃが、あの魔力の量は凄かったのう」


女賢者「そうでしたね...」


帽子「そうだったのか」


スライム「怖かったよね...」


魔女「...そうね」


大賢者「恐らくじゃが...」


大賢者「あの凶悪な魔力薬は魔王軍の最上位の者からできたものじゃな」


帽子「ってことは...魔王から?」


大賢者「それはわからぬ...」
188 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:17:31.95 ID:vwcOn1nA0

大賢者「...ワシを拉致しようとしたってことはじゃな」


その時、場の雰囲気が変わる。

大賢者が次に発する言葉に、どれだけの意味が込められているか。

それをまともに受け取れる者など、はたしているのだろうか。


大賢者「魔王は人間界に本格的な侵略を吹っかけてくるじゃろう」


女賢者「...」


スライム「な...」


魔女「...」


ウルフ「くぅ〜ん...ご主人...」


隊長「...」


帽子「そ、そんな...」


大賢者「ワシはこれでも強いからな、早めに潰そうとしたんじゃろ」


女賢者「...大賢者様」


大賢者「...お主らに頼みがあるのじゃ」


大賢者「魔王を倒せるのは勇者の強力な存在だけじゃ」


大賢者「現在、勇者一向は魔界に向かっておるようなのじゃが...」


大賢者「...捕縛者を怯ませるほどの強力なその武器」


大賢者「もしかしたら、その武器は勇者の存在に匹敵するかもしれん」


帽子「──なっ、そんなにかいっ!?」


魔女「...そんなに強い武器なのね」


隊長「...」


大賢者「そのような武器、この大賢者のワシでさえ存在を知らぬ...」


大賢者「お主は...何者じゃ?」


隊長「...」


沈黙を続けていた彼だがついに口を開いた、それはいままで内に秘めたある事実。

自分がどこから来て、そしてどのような人間なのか。

これ以降の彼の言葉は真っ直ぐに、とてもしっかりとした日本語へと変わる。
189 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:19:02.48 ID:vwcOn1nA0

隊長「...俺は」


魔女「...」


隊長「────俺は...異世界の人間だ」


沈黙、困惑、驚愕、そして理解の拒絶。

この場にいた者たちの反応は各々違っていた。

当然であった、あまりにも唐突で突拍子のない発言であるからこそ。


スライム「ふぇ...?」


ウルフ「...よくわかんない」


女賢者「ば、馬鹿げている...そんな...」


帽子「ど、どういうことだい?」


大賢者「説明してもらおうかの...」


魔女「...」


だが彼自身もわからないことだらけであった。

おそらく納得はできない説明しかできない、だがありのままを話すしかない。


隊長「...俺は気づけばこの世界にいた」


隊長「なにもわからず...旅をしていたらこの仲間たちと出合った」


隊長「そして、大賢者にこの世界のことを聞きにここに来た」


隊長「ただ...それだけだ、とにかく情報がないんだ」


隊長「逆に聞きたい...なにか、わかることはあるか?」


大賢者「異世界...か...」


大賢者「...確か、古代の魔法で世界を跨ぐといわれる魔法があったのう」


隊長「...それは本当かッ!?」


思ってもいない事実であった、そのような魔法が存在していたなんて。

やはりここに来たのは大正解であった。

しかし大賢者は申し訳なさそうに返答する。
190 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:20:05.55 ID:vwcOn1nA0

大賢者「じゃがその魔法は本当に実在しているかわからんのじゃ...それに詠唱の仕方も知らん...」


大賢者「使えるとしたら魔王と...いや、魔王くらいかのう」


隊長「そうか...魔王か...」


隊長(...今すぐに元の世界に戻れないのは致し方ないが...情報を得られただけでも御の字だ)


帽子「...それで、頼みとは?」


大賢者「そうじゃ、話は逸れたが...実は勇者と共に魔王討伐をしてほしいのじゃ」


隊長「魔王討伐?」


帽子「──ッ!」ピクッ


先程は世界をまたぐ魔法とやらに過剰反応をした隊長。

だが次は、討伐という言葉に彼は反応した。

それと同時に帽子はスライムたちの方を少しだけ見た。


スライム「...?」


帽子「...ま、まってくれ...もっと他の案はないのか?」


女賢者「...ないですね」


帽子「このまま単純に魔王を倒せば、魔物たちは残党狩りされるだろう...他の案を考えないか?」


女賢者「...平和にするなら、そうするしかないです」


帽子「残党狩りを受け入れろと...罪もない魔物を殺すのか...人間はッ!!」


女賢者「...魔物だって人間を散々殺してきたじゃないっ!!」


帽子「──それは人間も同じだろっ!! 魔物にだって平和を求める者もいるっ!!」


思わぬところで口論が始まってしまう。

帽子がここまで声を荒げるところを始めてみた。

その豹変にも近い彼の様子を見て、スライムとウルフは怯えてしまう。


スライム「ど、どうしたの...?」


ウルフ「わふぅ...」
191 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:23:28.05 ID:vwcOn1nA0

大賢者「落ち着いてくれ...ワシの耳にはちとキツイ...」


女賢者「...しかし、大賢者様っ!!」


大賢者「...女賢者の両親は魔物に殺されているのじゃ...汲んでやっておくれ」


帽子「────ッ...!」


大賢者「お主の言い分も十分にわかる」


大賢者「人間界には魔物を毛嫌いしている者もおる...女賢者には偏見を持たさずに育てたが...それが世の事実じゃ」


大賢者「...みなは言わん」


大賢者はスライムたちの方を見る。

これ以上は酷であった、この場には魔物が3人もいる。

大賢者はそのまま口をつぐんだ。


帽子「......」


納得行くはずがない思考が帽子を悩ませていた。

しかし、帽子にはもう一つ口を塞いでいる事情があった。

今は魔王云々のことで悩んでいるわけではなかった、しばらくの沈黙の後、ついに彼は口を開いた。


帽子「...私の母親は魔物と仲良くしていた」


帽子「その魔物はいつも笑顔だった、それはとても...今の世じゃ絶対に見れないような」


帽子「私は当時、人見知りだったのであまり関わりはなかった...」


帽子「そんな私からみても、母親と魔物はとても友好的だったのを覚えている」


帽子「だが...たまたま魔物と一緒にいるときに暗殺されてしまった」


帽子「その魔物は"女王"暗殺の罪を着せられ、処刑された...」


帽子「本当に魔物が犯人だと、絶対的な証拠がなかったというのにだ」


帽子「だが、何も事情を知らない当時の私は魔物を憎んだ...しかし...」


帽子「ある日、母はいつも私にこう言っておられたのを思い出した」


帽子「"この世を魔物と人間が一緒に暮らせる平和な世界にしたい"」


帽子「この言葉とあの笑顔がなければ、私は今も魔物が犯人だと疑っていただろう」


大賢者「..."女王"とな?」


大賢者が引っかかったのは女王という単語。

なぜそれが今出てくるのか、帽子の母の話をしていたというのに。

その答えは簡単であった、彼が帽子を取るとそこには。
192 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:25:06.95 ID:vwcOn1nA0

帽子「────私は」スッ


帽子「...私は塀の都の"王子"だ」


帽子「母のやり残した平和な世界を作るべく、色々な魔物と出会うために旅を決意した」


女賢者「...病気で休養していると報道されていましたが...まさかあなたが」


スライム「ほ、ほへぇ...」


大賢者「塀の都か...魔物への偏見がとても強い所じゃのう...」


帽子「...父は元々魔物が嫌いなわけじゃありませんでした」


帽子「しかし、母が死んでからは...」


帽子「...そのため、魔物は悪だと広められました」


隊長「...なるほどな」


隊長(...あの都の新聞が魔物に対して攻撃的だったのはそのためか)


帽子「...今まで黙っていてすまない」


帽子「キャプテンに連れられ、塀の外にでて...」


帽子「...とても美しい魔物をみて、私は母の言葉を再認識をしたんだ」


大賢者「...魔物と人間が平和に暮らすのは難しい」


大賢者「魔物が悪く見られることの発端は、歴代の魔王による攻撃的な政策じゃな」


女賢者「歴史書によるとなにかあるたびに侵略行動をしてきますからね」
193 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:26:26.00 ID:vwcOn1nA0

大賢者「今世代の魔王はおとなしいと思っていたが、どうやら動き出しているようじゃし...」


そんな時であった、異世界の男が口を開く。

討伐でだめなら何をすればいいのか、そんなことは彼の国では茶飯事だ。


隊長「──なら話は早い、Recallをさせればいい」


大賢者「...り、りこーる? なんじゃそれは」


隊長「魔王を無理やり解雇せざる状況にして、新たな魔王に平和的交渉をすればいい」


隊長「その時は帽子が魔王にでもなればいい」


帽子「──なるほどッ!! それはいい考えだッ!」キラキラ


隊長(今のはほんの一例で言ったんだがな...)


帽子「そういうことなら、魔王に会いにいこうじゃないかっ!」


隊長(...魔王か)


隊長(世界を跨ぐ魔法...魔王なら使える可能性が...なら、答えは1つだな)


隊長「────俺は帽子についていく」


魔女「──っ...」


その言葉がどれほど魔女を揺さぶるか。

一体なぜ魔女は傷ついてしまったのか、その答えは後にスライムが述べてくれる。

彼女の口からはとても言い出せなかった、その事実を認めたくなかったからだ。


ウルフ「あたしはご主人がいくならいくぅ」


スライム「...わたしは...きゃぷてんさんみたいに強くないから...」


スライム「わたしはいけないよ...」


魔女「...」


これだった、魔女も同じことを考えていた。

今の実力では魔界につけばすぐに死んでしまうことを実感していた。

それに死んでしまっては二度と、姉には会えない。
194 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:28:31.95 ID:vwcOn1nA0

魔女(でも、ここで行かなかったら...)


魔女(もうあいつに会えないかもしれない...)


魔女「...」


大賢者「ほむ...なら、ここで修行すればいいじゃろう」


そんな魔女の葛藤だが、この老人の言葉によって救われる。

その発言はとても軽々しい、だがソレが魔女の心を晴れさせる。


大賢者「勇者一行はすでに魔界へ向かっているはずじゃ、ある程度は時間があるじゃろう」


大賢者「ワシも今すぐいけっ! という訳じゃないのじゃ」


女賢者「──大賢者様っ! それは...っ!?」


大賢者「うむ...ワシの修行は本来、選ばれた賢者にしかやらなんじゃが」


大賢者「命を救ってくれたお礼じゃ...どうじゃ? 女賢者のように強くしてやるぞい」


スライム(女賢者さん...そのくらい強くなれれば...)


スライム「お、おねがいしますぅ...」


ウルフ「あたしもいいのぉ?」


大賢者「うむ、いいぞい...」


魔女「...私もお願いします」


女賢者「...はぁ、そんな軽々しく言って...大賢者様の修行はきついですよ?」


大賢者「ほっほっほっ、久々にしごいてやるんじゃい」


願ってもいない、先程の女賢者は精神を割られてしまった為に動けなくなっていた。

だがその前は、帽子たちは愚か暴走する前の追跡者すらと対峙できる程の実力。

もし修行で彼女並みの力を得ることができたのなら、期待値はかなりのモノ。


隊長「そのまえに、待ってくれ」


大賢者「なんじゃ若者」


隊長「...俺は37だ...それで、この武器なんだがな?」


魔女(さ、37なんだ...17歳年上なのね...)


女賢者「武器ですか?」


隊長「...弾がもう残り少ない」


アサルトライフルは残り30発、ハンドガンも15発程度である。

正直、これだけではテロリストの鎮圧すら不可能。

これでは魔王は愚か道中の魔物相手にすら敵わない。
195 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:30:49.56 ID:vwcOn1nA0

大賢者「...弾?」


隊長「魔法でいうなら魔力がない」


大賢者「ふむ...」


隊長「これが、必要なんだが...」カランカラン


そういいながら、マガジンからそれぞれ1つずつ弾丸を取り出す。

そしてそれをナイフで器用に分解することで、中の造りを見せた。

どうにかしてこれを、この世界の技術で作ることはできないだろうか。


女賢者「...これは金属?」


隊長「まぁ、そんなもんだ...これを作れる魔法とかはないか?」


大賢者「ふむぅ...」


大賢者「構造が分かれば、ワシの複製魔法でなんとかなるんじゃろうな」


隊長「本当か?」


大賢者「じゃが、その魔法は同じ質量の金を変化させて複製するのじゃ...」


大賢者「...ここには金はない」


隊長(Goldか...えらく高い弾薬になりそうだ)


大賢者「錬金術で金を生産できるのじゃが」


大賢者「...錬金術の本をなくしてしまってな」


隊長(錬金術...? どこかで聞いたな)


魔女「もしかして...これ?」スッ


凍った建物で泥棒りた、本を取り出す。

奇跡であった、もともとこれは魔女が資金を得るために所持した代物。

隊長もその価値に魅了されて、一時的に持ち出した業の深い本。
196 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:38:59.61 ID:vwcOn1nA0

大賢者「お...それはなくしていた錬金術の本じゃ! どこでこれをっ!?」


魔女「へ、塀の都近くの山の建物で...」


女賢者「あぁー...そこは大賢者様の避暑地ですね...」


大賢者「あぁ...あそこにあったか...数十年放置してた罰が当たったか...」


魔女「あそこお爺さんの家なんだ...」


隊長「...解決しそうか?」


大賢者「解決じゃな」


帽子「解決したね、ところで私も修行できるのかい?」


大賢者「...すまんが、賢者の修行は魔力を持たないお主と若者はできぬぞ...」


隊長(...帽子のほうが若者じゃないか)


帽子「そうですか...仕方ありませんね」


大賢者「3人が修行している間は暇になってしまうな...どこかで息抜きをしているといいぞい」


大賢者「ともかく今日はもう遅い、風呂にでも入って泊まっていくといい」


隊長「あぁ...そうさせてもらう」


〜〜〜〜
197 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:43:51.57 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


帽子「はぁ〜、身体が生き返るなぁ」


隊長「それにしても...まさか、王子だったとはな」


帽子「...すまないね、隠していて」


隊長「いいや、気にしていない」


帽子「...そういえば、君の言葉に訛りがなくなったね」


隊長「流石に周りの言語になれたからな...俺以外全員がスラスラと喋っていれば自然と身につく...」


お湯に浸かりながらも雑談を交わしていく。

それが一度区切られると、2人は沈黙を満喫する。

しかし帽子にはどうしても口にしたことがあった、例え声色を変えてまでも。


帽子「...この世界は醜い」


隊長「...」


帽子「人間が罪のない魔物を憎み、魔物も罪のない人間を憎み返している」


帽子「...どうしていいかもどかしいくらいだ」


帽子「...自分でもなにをいってるか分からないときもある」


隊長「...」


風呂場の湯気が濃い、帽子の表情は見えなかった。

隊長はただ彼の発言を受け止める、それが一番適切であった。

帽子が毒を抜くと、次は隊長が言葉を投げかけた。


隊長「世界とはそんなものだ...」


隊長「身体の色でもめたり、くだらないことで憎みあう」


隊長「...だが、それを1人で解決するのはむりだ」


帽子「...」


隊長「...まぁ、俺が相談にはのってやる」


帽子「...フフ、相変わらず面白いね」


隊長「...ふっ」


帽子「そうだ...君の世界のこと、教えてくれないか?」


隊長「...俺の世界はくだらんぞ、娯楽は多いがな」


〜〜〜〜
198 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 14:45:00.96 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女賢者「...」ジー


ウルフ「ふぃーあったかい...」


女賢者(同じくらい...だが、幼い体つき...)


魔女「んぅーっ、気持ちいい♪」


女賢者(大きい...しかも私と同じくらいの身長...)


スライム「お風呂はじめてだけど...だいじょうぶそう...」


女賢者「でかい...」


スライム「へ...?」


女賢者「...なんでもありません」


女賢者(はぁ...世の中は不公平ですね...)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「お2人はここで、本来は男の人用の修行者部屋なんですが...」


女賢者「生憎、今は誰も使っていませんので」


隊長「おう...助かる」


帽子「フフ、それではおやすみなさい」


女賢者「...おやすみなさい」


ウルフ「くぅ〜ん...ご主人...いっしょにねようよぉ...」


魔女「はいはい、ウルフはこっち...おやすみ、また明日ね」


スライム「からだがお湯になってる...」ホワホワ


女賢者「女性の皆さんはあっちの部屋で、私と一緒に寝ますよ」


そういいながら女3人を連れて行った。

野郎2人は疲れていたので特に会話もなく就寝した。

風呂場で話し尽くしたのだろうか、お互いの声はやや掠れていた。


〜〜〜〜
199 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:05:55.37 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


大賢者「それでは修行をはじめるぞい」


ウルフ「わふっ、いってきますご主人」


スライム「どんな感じなんだろ...」


魔女「...」


大賢者が3人を連れて修行部屋に連れて行く。

大量の荷物がそこにあった、その中身は食料や何かしらの薬品。


大賢者「数日は部屋に篭る、女賢者は2人についておれ」


女賢者「はいっ」


魔女「...」チラッ


隊長「...」


──ガタンッ...!

とても重厚そうな扉が閉まるまで、彼らは見つめ合っていた。

お互いになにも言わず、無言のままであった。


女賢者「さて、お2人はどうしますか?」


帽子「そうだね、私たちも修行するかい?」


隊長「...なにをするつもりだ?」


女賢者「...では私も混じりましょうか」


〜〜〜〜
200 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:07:36.94 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


隊長「...」


帽子「まずは、基礎的な体術だけで戦おうか」


女賢者「体術...ですか」


帽子「女賢者さんは見ててくださいね」


女賢者「そうさせてもらいます」


隊長「...」


帽子「いくよっ!」


なにも策もないまま、帽子が飛びかかる。

しかし、その修行は数分もしないうちに終わってしまった。


帽子「──つ、つよすぎる...はぁ...はぁ...」


隊長「動きに無駄が多いぞ、5分も経ってない」


帽子「はぁ...はぁ...流石異世界人...」


女賢者「それは関係ないような...」


隊長「...暑いな、すまんが服をぬぐぞ」


女賢者「ど、どうぞ」


──ゴソゴソ...

緑マフラーと防弾チョッキ、それらは脱ぐのに一苦労を要する。

徐々にその肉体が顕となる、日々犯罪者を相手に戦う男の身体は凄まじかった。


女賢者「す、すごい筋肉ですね...」


帽子「...昨日風呂場では湯気でよく見えなかったが...すごいね」


隊長「あぁ...そうだな...我ながらそう思う」


女賢者「凄い二の腕ですね...私の腕周りの4倍はありそうですね」ジー


帽子「取っ組み合っても、簡単に組み伏せられるわけだ...」


隊長「ほら、もう一度やるぞ」


帽子「くっ...いくぞ!」


〜〜〜〜
201 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:09:07.93 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女賢者「そういえば、それはどんな武器なんですか?」


隊長「ん...これか...」


帽子「...音速で鉄を飛ばす武器だよね?」


傷だらけの帽子が代わりに説明をしてくれた。

その様子を見たのか、それとも武器としての性能になのか。

思わず女賢者は引いてしまう。


女賢者「え...」ヒキッ


隊長「...まぁまちがってはないな」


帽子「はぁ...少し打たれ強くなったきがするよ」


女賢者「本当に王子様なんですかね...?」


帽子「身体中が痛い...」


隊長「...そろそろやめよう、女賢者が手持ち無沙汰だ」


女賢者「次はどうしますか?」


帽子「...剣なんてどうだい?」


女賢者「剣ですか...それなら私にも嗜みはあります」


帽子「それなら、早速始めようか」スッ


女賢者「刺突用の細剣...先日は苦戦を強いられましたね」


帽子「女賢者さんは普通の片手剣だね」


〜〜〜〜
202 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:10:27.97 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


──カキーンッ!!

帽子の攻撃によって片手剣が弾かれ、手から離れてしまった。

勝負あり、体術ではコテンパンにされたがやはり剣術には光る物がある。


女賢者「ぐっ...! 参りました...」


帽子「フフ、剣では負けないよ」


隊長(女賢者は攻める剣の使い方だったな)


隊長(帽子は相手の力を利用した受け流しの剣の使い方...相性の問題だったな)


隊長「...やるな、帽子」


帽子「君もどうだい?」


隊長「...俺は刃物をあまり使わんしなぁ」


女賢者「よければ、私の剣をお使いください」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「か、かんべんしてくれ!!」


隊長「──はっ! テヤッッ!!」


隊長(こいつが受けきれなくなるのが先か、俺がバテるのが先か)


──キィンッ! カキンッ!

このような金属音が何度も、何度も響き渡る。

隊長のそのゴリ押しにも近い剣術、受け流しをする際の負担が尋常ではない。

さすがの帽子も苦戦をしている模様であった。


女賢者「...すごい体力ですね」


女賢者「めちゃくちゃな剣捌きだけど、体力で補助してる」


隊長「──うわッ!?」


帽子「うわっっ!! 君の剣が折れたよ!!」


そんな矢先であった、限界を迎えたのは彼女の剣であった。

経年劣化も一因ではあるが、やはり無理やり扱ったのがいけなかった。
203 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:12:06.07 ID:vwcOn1nA0

女賢者「わ、私の剣が...」ショボン


隊長「...すまん」


帽子「どんだけ力をいれたんだ...」


女賢者「いえ、もともと古い剣でしたから...もう夜ですね、そろそろやめましょうか」


帽子「そうだね...少し眠くなってきたな」


隊長「...そうだな、というより大分身体を動かしたな」


異世界にきて7日目が終わる。

まさかこのような人物らと友好関係を結ぶとは当初は思いもしなかっただろう。

妙な居心地の良さを隊長は感じていた、これも縁なのだろうか。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「ん...あさか...」


隊長「...」ボリボリ


下着一枚で背中をかく姿は37歳相応の雰囲気である。

思えばヒゲの処理を怠っている、完全に中年の朝の様子である。

そんな隣ベッドには美青年である帽子が眠っている。


帽子「...」


隊長「...起きろ、朝だぞ」


帽子「...」


隊長「...」


なかなか目を覚まさない、どうやら朝は弱い様子であった。

今は間借りをしている身分である、それに女賢者が朝食を作ってくれているはず。

寝坊することはとても失礼、それを危惧した隊長は帽子の布団を引っ剥がした。
204 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:13:40.72 ID:vwcOn1nA0

隊長「...起きろ」


──ばさぁっ...!

しかしそこにいたのは意外な人物であった。

なぜ彼女がここに、修行をしている最中ではないのか。


魔女「...うぅん」


隊長「──なッ...!?」


魔女「...きゃぷてん?」


隊長「な、なんでここにいる...んだ?」


魔女「...ふふっ」


隊長「...お、おいどうした」


魔女「────好き」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...夢か」


帽子「ぐぅ...ぐぅ...」スピー


隊長「...最悪だ」


遥か年下を相手に、なんというモノを見てしまったのか。

なぜこのような夢を、欲求不満だというのだろうか。

そんな隣で爆睡をしている帽子に腹を立てるしかなかった。


隊長「...起きろッッ!!」


帽子「────うわっ! びっくりした...」


〜〜〜〜
205 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:14:40.49 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女賢者「おはようございま...どうかしましたか?」


帽子「なんか、朝から機嫌が悪いんだよ...」


隊長「...」


(「────好き」)


隊長(クソッ、なにを思い出しているんだ...俺は...)


隊長「はぁ...」


女賢者「だ、大丈夫ですかね」


帽子「さぁね、彼にも色々あるんだろう」


女賢者「それより、料理ができたので運んでください」


帽子「ん、わかったよ」


帽子「ほら、君も運んだ運んだ」


隊長「あぁ...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「ふぅ...ごちそうさまでした」


隊長「うまかったぞ」


女賢者「お粗末様です」


帽子「さぁて、2日目はなにをするんだい?」


女賢者「そうですね...いや、まってください今日は確か────」


???「──ごめんくださ〜い」


その声が聞こえてきたのは、窓からであった。

おおよそ玄関、考えられるのは来客である。
206 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:15:41.02 ID:vwcOn1nA0

女賢者「...客人が来るんでした」


帽子「ふむ、どうするか」


女賢者「とりあえず迎えにいってきます」


隊長「あぁ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


???「──うわっ、おっきな人っ!?」


女賢者「申し訳ありません、男性は苦手でしたっけ...?」


???「い、いえ...あまりにもおっきな人だったんで...」


隊長「...」


帽子「それはすまなかったね、私たちは退散するよ」


???「あ、いえ大丈夫です...こちらこそすみません」


隊長「...」


女賢者「ご紹介します、この方は女僧侶さんです」


女僧侶「は、はじめまして」


そう紹介されたのは、女僧侶という名前。

背はかなり低く、ウルフよりも幼子に見えてしまう。

そんな彼女だが帽子はいつもどおり紳士的に対応を行った。


帽子「私は帽子と呼んでくださいね」


女僧侶「はい、素敵なお帽子ですね」


隊長「...Captainだ」


女僧侶「先ほどは失礼しました...よろしくおねがいします!」
207 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:17:06.61 ID:vwcOn1nA0

女賢者「ところで、今日はどのような用事で?」


女僧侶「あぁ、そうでした実は...」


女僧侶「最近、教会の畑が何者かに荒らされていて困っているんです」


女賢者「なるほど、それでここに原因解決を頼みにきたんですね」


女僧侶「そうなんですよ...お願いできますか?」


女賢者「いいですよ、案内してください」


女賢者「帽子さんたちも、よかったら付いて来ますか?」


隊長「...そうだな、このままだと1日退屈だしな」


女僧侶「心強い仲間が増えましたね!」


帽子「ところで、貴女はどういった...?」


女僧侶「あぁ、私はここから遠くはない村の教会の者なんです」


女賢者「私はそこの村の生まれなんですよ」


帽子「そうなんですか」


女僧侶「時々、私たちじゃ解決できない事が起きてしまうんです」


女賢者「そんな時は、魔法が使える私に頼みに来るんです」


女僧侶「いつもお世話になっていますっ!」


女賢者「いえ、村の作物を頂いておりますからこちらもお世話になってますよ」


隊長「...で、その畑に問題がおきたのか」


女僧侶「そうなんですよ」


女賢者「...そろそろ行きましょうか」


帽子「よろしく頼むよ」


女僧侶「終わったら村を案内しますね!」


隊長「...あぁ」


隊長(...残り弾数が少ないが...まぁ、なんとかなるだろう)


〜〜〜〜
208 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:19:15.06 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


女僧侶「つきましたぁ」


そこは荒野地帯にある、少しばかり寂れた村。

だが決して暗い雰囲気ではない、それなりに豊かな生活を送ってそうな村人が多数いた。

賢者の塔から歩くこと2時間、彼の息は切れていた。


帽子「はぁ...み、水をくれ...」


女賢者「体力がないですね、きゃぷてんさんを見習ったらどうですか」


隊長「...ほら、水筒だ」スッ


帽子「あ、ありがとう...少し体力をわけてくれよ」


隊長「ぬかせ」


女賢者「...ところで、畑はどこですか?」


女僧侶「こっちですよ」


そう言われ、案内されたのは教会近くの畑。

その光景は見るも無残であった、土は掘り返され作物は荒らされている。

これでは農作物を作ることはできない。


帽子「...うわぁ、凄い荒らされてるね」


女僧侶「そうなんですよ...それも毎日酷くなっていって困っているんです...」


隊長(...獣の仕業か?)


その荒らされ具合は間違いなく、人為的なモノではない。

畑に成った作物が食い荒らされている、これは間違いなく獣。

だが女賢者はもう1つの可能性を導きだした。


女賢者「...幽かにですか、魔力の気配がします」


女賢者「恐らくですが、魔物の仕業かと」


女僧侶「そうですかぁ...」


帽子「魔物...か...」


女賢者「...」


隊長(...帽子)


女僧侶(え...? な、なんですかこの重たい空気は...)


先日に口論をしたばかりである。

魔物と共に平和と掴み取りたい、それが彼の目的。

だがこのような場合はどうすればいいのか、その答えはまだ帽子の中で見つかってはいなかった。
209 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:20:36.52 ID:vwcOn1nA0

女賢者「...あなたの言うとおり、良い魔物もいます」


帽子「...」


女賢者「ですが...悪い魔物もいるのも確かです」


女僧侶「あ、あの...?」


女賢者「...ここは我慢してください」


帽子「仕方ないさ...人間にも悪事を働く奴はいる...」


帽子「...本来、私が助けたいのは平和を望んでる魔物だ」


女僧侶「...」


なにが起きているのは分からないが。

だが女僧侶は、帽子がなにかに悩んでいることは確認できた。

そんな重苦しい雰囲気をはらうために、隊長が彼女に質問をする。


隊長「...畑が荒らされるのはいつだ?」


女僧侶「え、えぇっと...夜、みんなが寝ている時ですね」


女賢者「ということは...今日は朝まで張り込む必要がありますね」


女僧侶「ご、ごめんなさいっ!」


女賢者「いいんです、いつもお世話になってますから...それに」チラッ


女賢者「今日は話相手がいますから、退屈はしませんよ」


帽子「...フフ、悪いけど私は一度喋り出したら止まらないよ?」


女僧侶「...ふふ、今のうちにゆっくり休んでいてくださいね?」


隊長「あぁ、そうさせてもらう」


〜〜〜〜
210 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:22:12.62 ID:vwcOn1nA0

〜〜〜〜


──スパァーンッ!!

見事な縦割り、隊長が持っているのは斧。

そしてそこには大量の巻が、どうやら彼は薪割りを担っているようだ。


隊長「ふぅ...」


女僧侶「きゃぷてんさまー、夕食ができましたよ〜」


隊長「あぁ、すぐに行く」


隊長(薪割り...意外とトレーニングになるかもな)


隊長(...隊員と帽子に勧めてみるか)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「おぉ...多いな」


帽子「フフ、私も手伝ったんだ」


女賢者「見事な包丁捌きでしたね」


女僧侶「私はお祈りをするので、どうぞお先に」


彼女は神に仕える者、胸元の十字架を握りしめ天に祈りを捧げる。

その宗教的な光景、これは隊長の世界でもよく見るモノであった。

彼女の祈りは数分にも及んだ。


隊長「...」


帽子「...」


女賢者「...」


女僧侶「...」


女僧侶「......あれっ? 皆さん召し上がらないんですか?」


帽子「いや、先に食べるほどお腹は減ってないよ」


女賢者「そうですね」


隊長「終わったようだな」


女僧侶「えぇ! それでは頂きましょうか」パクッ


女賢者「食べ終わったら畑に行きましょうね」


帽子「そうだね」
211 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:23:32.57 ID:vwcOn1nA0

女僧侶「あ、私もいきますね」モグモグ


隊長「大丈夫か?」


女賢者「いえ、女僧侶さんは教会で待機しててください」


女僧侶「で、でも...」


女賢者「相手は魔物です、見習い修道女にはキツイですよ」


女僧侶「うぐぐ...わかりました」シュン


隊長(...この野菜は絶品だな、食べる手が止まらん)モグモグ


女僧侶「あ、それは荒らされてた畑で作られてるんですよ」


隊長「...もう荒らさせるわけにはいかないな」


女僧侶「ふふっ、そうですよねっ♪」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...すこし冷えるな」


女賢者「そうですね...飲み物がなければちょっと厳しいかもですね」


荒野の今宵は冷える、首元のマフラーがなければ厳しい温度。

暖を取るために、女僧侶が温かい飲み物を提供してくれた模様であった。

3人は草むらの影から畑を監視する。


女賢者「...さて、あとは犯人がくるまで待機ですかね」


帽子「暇になってしまうね」


隊長「...」


帽子「...」


女賢者「...」


帽子という男、たしかにお喋りであることは間違いない。

だがこの2人、あまりにも口下手であった。

話題がなければ流石の彼も話すことはできない。
212 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:25:16.69 ID:vwcOn1nA0

帽子「...暇を潰せるものはないのかい?」


女賢者「生憎、娯楽には疎いもので」


隊長「...」


帽子「...」チラッ


女賢者「...」ジー


隊長「......」


夜の静寂に時は過ぎていく中、37歳の男に視線が集まる。

だが彼が場を和ませる面白話を持っているとは思えない。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「もうすぐ、日が昇りますね」


帽子「ボッーっとしてるだけであっという間だったね」


隊長「...」


女賢者「彼はボッーっとしてるのではなくて、集中してるんだと思います」


帽子「...えぇっ!? そうなのかい?」


隊長(うるさい...)


──ガサガサガサッ!

怒りを顕にしとうとした瞬間、物音が鳴り響く。

その音は対面側の草むらから、まるで獣が草木を通ったような音であった。


隊長「──ッ...」


女賢者「...きましたね」


帽子「...そのようだね」


???「...」


隊長(...姿は確認できないが何かがいるな)


隊長「...合図したら一斉に行くぞ」ボソッ


帽子「...」コクリ


女賢者「...わかりました」


頃合いを待つしかない、奴の動きが確認でき次第。

奴がこちらに背を向けるその瞬間を、待望のその時を。

それは数分後に訪れた、隊長は指を向ける、これが合図であった。
213 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:27:05.05 ID:vwcOn1nA0

???「──...!」


隊長「──動く...な?」スチャッ


帽子「こ、これは...?」


彼らは草むらから飛び出した、そこにいたのは角の生えた馬のような獣。

奴の足が畑の土を荒らしている、そして餌を求めているのか。

わずかに成った農作物を食い荒らしている、やはり犯人であることは間違いない。


女賢者「...ユニコーンですか、やはり魔物ですね...」


隊長(ユニコーン...神聖なイメージがあったが、この世界では魔物扱いか)


女賢者「...近づかないほうがいいです、非常に危険です」


隊長「今の所は...向こうに戦意はないみたいだぞ」


帽子「...それにしても、随分傷だらけだね」


ユニコーン「...」


ユニコーンはこちらをじっくり見ている。

普通の馬でさえ不用意に近づくのは危険だというのに。

だが彼はつい言葉にしてしまう、これも帽子という男の優しさである。


帽子「...傷を治してやらないか?」


女賢者「...ユニコーンは自尊心が高い魔物です」


女賢者「向こうから襲うことは少ないですが...近づくと八つ裂きにされます」


隊長「...まて」


やや否定的な女賢者の論。

だがそれとは関係なく、隊長は新たな発見をする。

ユニコーンの後ろ足、そこに刺さっていたのはあるモノであった。
214 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:28:13.96 ID:vwcOn1nA0

女賢者「矢が刺さっていますね、それもかなり深く...」


帽子「...せめて矢は抜いてあげよう」


隊長「...同感だな」


女賢者「でも、近寄ると暴れだしますよ?」


帽子「...どうしようか」


近寄るのは危険、だがどうしても傷を見てやりたい。

矛盾を生み出す2つの要素が帽子を悩ます。

それを見かねた男がついに動く。


隊長「...俺が抑える」


女賢者「抑えるって...!? いくら怪力の貴方でも無理ですよっ!?」


帽子「...頼めるかい?」


隊長「こうするしかないからな...」スッ


女賢者「...どうなっても知らないですからね」


帽子「...大丈夫、彼ならきっと大丈夫だよ」


これまで様々の困難を乗り越えてきた。

その信頼が帽子の中で渦巻く、どう考えても危険な策だというのに。

万が一に備え女賢者は魔法の準備を行う、そして隊長は徐々に距離を詰めた。


隊長「...」


ユニコーン「...」


隊長(大分警戒されているな...こんなプレッシャーは初めてだな)


隊長「......」


ユニコーン「......」


隊長(...なんだ? やけに静かだぞ)


不気味なほどに、静かであった。

まるで嵐の前の静けさとでも言うのか、そんな様な雰囲気を感じ取る。

だが次の瞬間、この馬は鳴く、その鳴き声はとても不気味なモノであった。


ユニコーン「──■■■■■■■■■■■■ッッッ!!」
215 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:29:41.44 ID:vwcOn1nA0

隊長「────なにッ!?」


女賢者「──あぶないっ!」


ユニコーン「■■■■■■■ッッ!!」ダッ


隊長「────ッ!」スチャッ


遠くから女賢者の忠告が聞こえる。

このままではヤラれると察した彼は思わずアサルトライフルを身構える。

だがそんな時、彼は思わず帽子の言葉を思い返してしまった。


隊長(──駄目だ撃てないッ!?)スッ


撃つことはできなかった。

身を屈ませることで、最低限の防御策にでる。

だがこの馬の脅威はその程度では避けることはできない。


ユニコーン「■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!」


──バギィィィィッッッ!!!!!!!

ユニコーンの強烈な蹴りが隊長の頭に入る。

そのあまりの威力に吹き飛んでしまう、それを追いかけるように女賢者が動く。


女賢者「だ、大丈夫ですかっ!? "治癒魔法"っ!」ポワァ


隊長「──だ、大丈夫だ...怪我自体はしていない...」


隊長(ヘルメットが無ければ即死だった...おかげでヘルメットとゴーグルが完全に壊れたが...)


隊長(インカムは無事だな...とりあえず直に耳にかけておこう...)


ユニコーン「■■■■■■■■■■■■ッ!」


ユニコーンは不気味な音を出しながら、鼻息を荒くする。

とてもじゃないが危険、打開策は現状見つからない。

時間があの馬を落ち着かせることを祈って、彼は撤退を命じる。
216 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:31:16.80 ID:vwcOn1nA0

隊長「危険だ、下がるぞ」


女賢者「...そうですね、一旦距離をとりましょう」


帽子「...」


女賢者「...?」


隊長「帽子、どうし────」ピクッ


隊長には、次に帽子がとる行動がなんとなくわかった。

彼の部隊にもいた、打破することのできない状況に直面したときの新人に見られる光景。

彼は飛び出すつもりだ、無理とわかっていながらも。


帽子「────ッ!」ダッ


隊長「────まてッッ!!」


女賢者「──帽子さん戻ってっっ!」


ユニコーン「...■■■ッ!」ピクッ


ユニコーンの鋭い角が帽子を狙う。

いままで一緒に旅をしてきた仲間の悲惨な姿を見たくない

つい、ぶつかるだろうという瞬間に目を塞いでしまう。


女賢者「──っっ!!」


隊長「──ッッ...」


隊長「......」


だが訪れたのは静寂であった。

あの角で八つ裂きにされたのであれば、悲鳴の1つはあがるはず。

おかしいと思えた彼はようやく瞳を開くことができた、そこには。


隊長「...」パチリ
217 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:32:15.66 ID:vwcOn1nA0

女賢者「な...」


ユニコーン「...」


帽子「あ、あはは...なんとかなった...」


王子様は馬を従えている、そのような画になる光景であった。

先程まで警戒心を高めていたユニコーンは非常に落ち着いていた。

一体なぜ、だが原因究明よりも浮かび上がったのは安堵。


隊長「...ふっ」


女賢者「し、死んでしまうかと思った...」


帽子「フフ...私もそう思ったよ」


隊長「...早く矢を抜いてやれ」


帽子「あ、あぁ...」


ユニコーン「...」


帽子「...痛いけど我慢してくれ」ギュッ


──ぐにっ

深く刺さった矢は、肉を抉る。

それは決して簡単に抜くことができない、だからこそこの馬は暴れていた。

人の手によりゆっくりと優しく、彼の処置がユニコーンを安らがせる。


帽子「...抜けた」


帽子「...女賢者さん、頼みます」


女賢者「はい...と、いうよりも...私は近寄っても大丈夫ですかね?」


ユニコーン「...」


帽子「...大丈夫...かな?」


女賢者「..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

若干怖がりながら近寄り、魔法をかけてあげる。

その魔法がユニコーンの傷を完全に癒やす。
218 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:34:50.52 ID:vwcOn1nA0

女賢者「...傷は塞がりました、もう大丈夫でしょう」


帽子「よかったな、ユニコーン」


隊長「...日が出始めたな」


荒野地帯の地平線から日が昇り、隊長が手で日差しを妨げる。

そして、ユニコーンからは先ほどとは違う嘶きが聴こえた。

不気味で黒い印象のあった鳴き声は、とても綺羅びやかで白い印象のあるモノへと。


ユニコーン「...□□□□□□」


女賢者「綺麗な声...」


隊長「...身体が消えてくぞ」


ユニコーン「...」スゥー


ユニコーンはお日様に紛れながら姿を消した。

そして残ったのは光であった、まるで今までが幻想のように。


帽子「...いっちゃったね」


隊長「...そうだな」


女賢者「まぁ、解決ということで...」


帽子「万事解決だね」


隊長「いいや、まだ終わっていない」


女賢者「...なにか問題でもありました?」


隊長が問題に指を向ける。

それを見た女賢者も納得の表情。

問題大アリ、この男がどれほど危険な行動にでたのか。


帽子「うん?」


隊長「そうだな、差し詰め反省会...といったところだな」


女賢者「あぁ〜...そうですね」


帽子「な、なんでだい? 全員無事じゃ...いや君は装備が壊れたけどさ...」


すると、近くの教会から可憐な声が聞こえた。

この声を目覚ましとして活用している村民は多数いるだろう。

朝を告げる女僧侶の挨拶が、朝の村に響き渡る。


女僧侶「──おはようございまぁすっ〜!」


〜〜〜〜
219 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/25(日) 22:36:10.25 ID:vwcOn1nA0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
220 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:40:46.82 ID:HaEGZX9A0

〜〜〜〜


女僧侶「──えぇっ!? 犯人はユニコーンだったんですかっ!?」


女賢者「えぇ、無事に退治? というより帰っていただきました」


隊長「...あの様子じゃ、ここには二度と現れんな」


朝食を囲みながら、彼たちは会話を進めていた。

女僧侶が作ってくれた料理がすごい勢いで消化されていく。

3人とも朝の食が太いタイプであった、ただ1人を除いて。


帽子「あ、あの...反省会やるのかい...?」


女僧侶「...反省会ですか?」


女賢者「あ、その料理取ってもらってもいいですか?」


帽子「あ、はい...どうぞ...」スッ


食が細いのは、体質ではない。

これから始まる説教に緊張をしているからであった。

思わず敬語を使ってしまう程、彼の心情が伺える。


隊長「じゃあ、反省会を始める」


帽子「うぅ...」


隊長「...俺が言いたいのは2つだ」


女賢者「...」


女僧侶「...」


隊長「1つ目、あの行動は危険すぎだ」


帽子「う、ぐ...」


女賢者「...まぁ、そうですよね」


女賢者「もし、ユニコーンに敵意があったままなら...わかりますよね?」


言葉を濁した、どうやら女僧侶に気を使ったらしい。

だがあの場面、彼女の言う通り敵意が残ったままならどうなっていたか。

どうして彼は突撃したのか、その理由はあまりにも理にかなわないモノであった。
221 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:41:53.67 ID:HaEGZX9A0

隊長「...なんで突っ込んだ」


帽子「...ユニコーンの声が聞こえたような気がしたんだ」


女賢者「それって...鳴き声ってことですか?」


帽子「いや、人の言葉だったんだ...」


隊長「...」


帽子「辛そうな声だった...なんとかしてやりたい、と思ったら」


帽子「足が先に動いてしまってね...」


お花畑、そう言われても仕方ない。

隊長と女賢者はつい黙り込んでしまう、どのようにして彼を諭させるかを。

だが彼女は違う、神に仕える女は帽子の発言に対して言葉を交わした。


女僧侶「...ユニコーンは、純潔な人には心が通じ合うって聞いた事があります」


女僧侶「きっと、心の底からユニコーンのことを助けてあげたかったんですね...」


女僧侶「その心にユニコーンは理解してくれたんですね」


女僧侶「それって...とっても素敵なことだと思いますっ!」


彼女の笑顔は輝かしかった。

僧侶のその屈託のない言葉、それを聞いて隊長と女賢者は顔を合わせる。

ここは彼女に免じてやる、そのような意図を伝心する。


帽子「...いやぁ、照れるな」


女賢者「はぁ...」


隊長「まぁ...死なずにいれたからこの事は不問にしてやる」


帽子「次から、無茶な行動は慎むy──」


隊長「────2つ目」
222 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:43:48.60 ID:HaEGZX9A0

帽子「まだあるのか...」


隊長「...お前にはやるべき事がある、そしてそれを望む者たちがいる」


帽子「...っ!」


隊長「最後に...お前のことを大事に思ってる者がいることを忘れるな」


やや不貞腐れていた帽子の表情、それは彼の言葉をきっかけに消え失せた。

なぜこのようなことを頭に入れておかないのか。

隊長の言葉を聞いて初めてそれを認識した自分を恥ず、そのような顔つきに変わる。


隊長「慎むじゃない、無茶な行動は"しない"...だな」


帽子「そうだね...」


隊長「...どうしても、って時には」


帽子「...?」


隊長「俺や仲間を頼るんだな、そうすれば何でもうまく行くさ」


帽子「...フフ、相変わらず面白いね」


女僧侶「ふふっ、素敵ですねっ!」


女賢者「...そうですね」


隊長「早く食え、料理が冷めるぞ」


帽子「フフ、そうだね...そうだよね」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「世話になったな」


女僧侶「いえ、こちらこそ!」


女賢者「もし、また何か起きたら遠慮なく」


女僧侶「よろしくお願いしますねっ!」


帽子「それじゃ、行きましょうか」


女僧侶「また会いましょうねぇ〜っ!」


ふりふり、と彼女は手を振った。

荒野の畑はもう荒らされることはないだろう、それに帽子が精神的に成長することができた。

とても有意義な経験であった、そう彼は帽子を深く被りながら道を歩んでいく。


〜〜〜〜
223 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:45:16.65 ID:HaEGZX9A0

〜〜〜〜


女賢者「もう少しでつきますね」


帽子「そうだね...はぁ...はぁ...」


隊長「相変わらず体力がないな...」


既に息を切らしていて、限界が近い帽子。

先程は精神的に成長できたが、次は身体的な成長が必要のようだった。

そんな彼に思わず笑みを浮かべていると、彼女はある気配に気がついた。


女賢者「──これは...」


帽子「うん?」


それは彼女にしか気づくことができない。

気配、それは人の気というよりかは、魔力に関する気配。

遠くからこちらに向かってくる、ナニかを察知する。


女賢者「...膨大な魔力がこっちに迫ってきてます」


帽子「そ、それって...」


隊長「────ッ! もうそこにいるぞッ!?」


ここまで来れば魔力云々の話ではない。

とてつもない覇気のようなモノを感じる、それは左方から。

彼らはゆっくりとそちらを向いた、するとそこにいたのはあの入れ墨をした男。


???「貴様ら...だな?」


やや大柄の男が、鬼のような形相で此方を睨んでいた。

その睨みだけで足がすくんでしまう程に、臆することを我慢しながら女賢者が返答する。


女賢者「...なにがですか?」


???「貴様らが我が同胞を...殺したのか?」


帽子「...魔王軍か?」


復讐者「そうだ...我は魔王軍の...復讐者だ」


隊長「────ッ!」スチャッ


男の名は復讐者、彼が背負う気配とてつもないモノ。

今まで遭遇してきた相手の中で一番かもしれない。

隊長の中で警鐘が鳴り響く、この男は非常に危険だと、有無を言わさずに彼は武器を構えた。


復讐者「...貴様らが暗躍者、追跡者、捕縛者を殺した者に違いないな」
224 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:46:20.91 ID:HaEGZX9A0










「死んで詫びろ...」









225 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:47:30.82 ID:HaEGZX9A0

隊長(こいつ...いままでの奴らよりかなり強いな...)


隊長「...離れろ、絶対に油断をするな」


帽子「──わかったよ...私にも感じるよ...嫌というほどの殺気を...」


女賢者「..."防御魔法"」


見えない鎧が纏われる。

彼女の唱えた魔法が彼らの生命線を確保する。

これである程度の負傷は肩代わりしてくれるはず、準備は万端だ。


復讐者「────"雷魔法"」


────ドッッッッゴオオォォォォォォォォォンッッッ!!!!

荒野の地に強烈な雷が落ちる。

その威力は凄まじく、地割れが各所に起きていた。

そして聞こえたのは落雷の音だけではない、身近なモノが割れる音も。


女賢者「けほっ...大丈夫ですかっ!?」


帽子「あぁ、なんとか...君の魔法でね」


女賢者「くっ...もう防御魔法が破られた...凄まじすぎる...っ!」


隊長「ぐっ...」


帽子「大丈夫かいっ!?」


隊長「...今は自分の身を第一に優先しろッ!」


復讐者「──ここだ」


女賢者「あ、あぶないっっ!!」


帽子「っ...!」スッ


復讐者「ほう、剣を抜いたか...それで断罪の斧を受けてみろ...」


魔法を使わずに、復讐者という男はいつの間にか肉薄してきた。

ただならぬ緊張感が、彼らの平常心を煽り注意力を散漫にさせる。

巨大な斧を手に取り帽子に向かって振り下ろす、気が動転して細い剣で受け流そうとする。
226 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:48:40.70 ID:HaEGZX9A0

隊長「──受けるなッッ! 避けろッッ!」


帽子「────っ...!!」ダッ


──ガッッッッッシャアアアアアァァァアンッッッ!!

隊長の一声で我を戻し、横に飛び込むことで攻撃を回避する。

空振りした斧をみていると、大地が尋常じゃないほどえぐれている。

これを受けていたらどうなっていたか。


女賢者「な...なんて威力ですか...」


復讐者「──貰った...」


女賢者「────なっ!?」


──ガッッシャン...!

先程よりは威力が抑えられた斧の一振り。

帽子の一幕に気を取られていると、背後まで取られていた。

しかし相手は斧、その攻撃発生速度はお世辞にも速いとは言えない。

彼女はなんとか回避に成功した、回避は成功したのであった。


復讐者「..."属性付与"、"雷"」


──バチバチバチバチバチバチッッ!!

回避は成功した、しかし復讐者の狙いはコレだった。

新たに唱えられたこの魔法、それを聞いた彼女は思わず度肝を抜かれる。


女賢者「属性付与っ!? しまっ────」


その魔法は、斧に纏わりつく。

すると起こるのは、神の鳴り音と呼ばれる稲妻の唸り声。

属性付与、その文字通り斧に雷の属性が付与される。


女賢者「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?!?」
227 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:50:01.12 ID:HaEGZX9A0

隊長(──感電しただとッ!? なんだ今の魔法はッ!?)


隊長「...まずいッ!」スチャッ


──バババババババババッッッ!!

魔法が当たったわけでもない、斧が当たったわけでもない。

だというのに、女賢者は感電して身体の身動きができずにいる。

これ以上の負担は危険だ、そう察知した隊長は復讐者に向けて弾幕を放つ。


復讐者「ぐうぅ...そう何度も喰らうべきじゃないなこれは...」


隊長(そう言っている割には顔色一つ変えていない...先に女賢者をどうにかしたほうがいいな)


隊長「...チッ、悪いが蹴飛ばすぞッッ!!」ダッ


──ドガァッ...! ドサァッ...!

隊長が女賢者のもとに走り出す、そして鈍い音を彼女にぶつけた。

これは感電している者に対しての一般的な対処法、それを行った隊長は地面に叩きつけられる。

ドロップキックなんてモノは女性に向けて行うものではない、彼女は吹き飛ばれた。


女賢者「──あ...げほっ...ぅ...」


帽子「大丈夫かッ!?」


復讐者「...まずは1人...あと2人だ」


彼女は潰された、とてつもなく強い電気が気絶に追い込んだ。

ドロップキックを早急に行っていなかったら、感電死をしていたかもしれない。

起き上がった隊長は帽子に耳打ちをする。


隊長「...帽子」


帽子「...なんだい?」


隊長「女賢者を守っててくれ...今の俺には守りながら戦うことはできん」


帽子「...わかった、すまない...役に立てなくて」


隊長「...ッ! とにかく下がっててくれ」


言葉を濁したというのに、彼には伝わってしまった。

接近戦は控えたほうがいい、そう予感した隊長は剣術しか扱えない帽子を退避させる。

勝負の鍵は、やはりこの現代兵器でしかない。
228 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:51:10.00 ID:HaEGZX9A0

隊長(あの地割れは...)チラッ


復讐者「...」


──ブンッ、バチバチバチバチッッ!!

斧を振り回すと同時に、雷の轟音が鳴り響く。

やはりあの斧に近づくだけで、あの稲妻の餌食になることは間違いないようだった。


隊長「二度も同じ手にはやられん...」スチャッ


──バババババッッッ!!

銃撃、まともに喰らえば負傷することは間違いない。

復讐者は弾幕を巨大な斧を盾代わりにして身を守った。

しかし斧を盾代わりにすることによって、それは遮蔽物にも変貌する。


復讐者「...なに?」


復讐者「...見失っただと?」


辺りを見渡しても遠くに女賢者と帽子が見えるだけ。

ここは荒野地帯、木々など存在せず、隠れる場所などないはずなのに。


隊長「...」


しかし彼は隠れていた、ここは先程の地割れの箇所。

大地の僅かな溝にに身を潜めて、様子を伺っている。

衣服が泥だらけになろうと構うものか。


復讐者「...そこだな?」


隊長「──ッ...!?」


──グイッ、ガシィッ...!

しかし、その策は刹那で破られた。

僅かな溝には逃げ場などない、見破られれば袋のネズミであった。

完全に息を潜めていたはずなのに、この男の洞察力は凄まじかった。

ネズミは首を掴まれ、そのまま外に引きずり出された。
229 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:52:19.82 ID:HaEGZX9A0

隊長「────がァッ...グッ...は、離せェ...ッ!!」


復讐者「...我が同胞の復讐...晴らさせてもらうぞ」


隊長「ゲハッ...ゴホッ...」


隊長(アサルトライフルは...地面...に落ちている...)


隊長(ハンドガン...駄目だ、両手で抵抗しないと首の骨が持ってかれる...)


復讐者「審判の雷...贖罪してもらおうか...」


復讐者「..."雷魔法"」


──バシュンッッ

1つの閃光が隊長の身体を貫いた。

人は雷に打たれると、どのようなことになるのか。

鍛え抜かれた隊長の身体、それを支える力が徐々に失われていく。


隊長「────ッ」


復讐者「...2人目だ」


〜〜〜〜
230 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:54:42.19 ID:HaEGZX9A0

〜〜〜〜


帽子「はぁっ...はぁっ...はぁっ...」


女賢者「ぁ...ぅ...」


帽子(女賢者さん...無事でいてくれ...)


女賢者を背負い、この王子は退避を行う。

きっと彼が解決してくれる、今は彼女の安全を確保するのが先決だ。

そう自分に言い聞かせる、しかし背後から迫る者がをソレを許してくれなかった。


???「──残りは貴様だ...覚悟しろ」


帽子「────彼はどうしたんだ...ッ!?」


復讐者「...贖罪してもらった...次は貴様だ」


帽子「くそっ...ここで終わるのかっ...」


強い絶望が彼の中で生まれる。

この鬼のような男と対峙してしまった、余所見をすれば死に繋がる。

彼に目線を合わせ、どのような行動をしてくるかを予期する、それが最後の抵抗策であった。


復讐者「...貴様の心は綺麗だな」


しかし、彼が第一に発した言葉は唐突だった。

一体なぜこのタイミングなのか、確かに初めて目線を合わせたのは事実だが。


帽子「...どういうことだ?」


復讐者「楽に逝かせてやる...」


帽子「...」


帽子(...すまない...みんな...スライム)


最後に思い浮かべた顔は、あの魔物。

それにどのような意味が込められているのか。
231 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:55:59.43 ID:HaEGZX9A0

復讐者「これで...最後だ────」


──ブンッッ、バチバチバチィッ...!

雷を伴う斧が振りかざされた。

もう終わり、このまま首をはねられて彼は果てるしかない。

そんな時だった、眼の前から白き音が鳴り響く。


復讐者「────なッ!?」


──□□□□□□□□□□□□□□□ッッ!

どこかで聞いたことのある、懐かしささえ覚えるこの未知の音。

だが何色と尋ねられれば、白と答えることができる。


帽子「...」


帽子「...へ?」


帽子「...あれ...生きている...?」


復讐者「...貴様の出る幕か?」


???「...□□□」


その見た目、不気味なほどに神々しい姿。

頭には角が生え、その毛並みは絶するほどに美しい。

そこにいたのは先程助けた、あの馬がいた。


帽子「──ユニコーン...?」


復讐者「なぜ、庇う...魔物の仇だぞ...」


ユニコーン「...」


復讐者「...邪魔をするなら、どうなるか分かっているな?」


ユニコーン「...」


復讐者「貴様がいかに魔力のある種族であるが、我は倒せんぞ...」


ユニコーン「...」スッ


復讐者の脅し、そのような雑言には耳を貸さず。

ユニコーンはそのまま、後ろにいる帽子と目線を合わせた。

すると彼には声が聞こえてしまった、これからなにをしてくれるかを知らせてくれる声が。


帽子「...」


帽子「......わかったよ」


ユニコーン「...□□□」
232 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:57:13.27 ID:HaEGZX9A0

復讐者「──これはッ!? させんぞッッ!」


──ブンッ......!

何かを察知した復讐者は雷の斧で帽子とユニコーンに襲いかかる。

しかしなぜだろうか、稲妻が走ることはなかった、まるで魔法が封じられたかのように。

しばらくして、彼は馬から生まれる輝きに包まれる。


復讐者「────光か...厄介な...ッ!」


復讐者がこれ以降、斧を振り回してくることはなかった。

まるでその行為が無駄だとわかりきっているような。

やがて光は消え失せた、すると帽子にはある感覚が芽生えていた。


帽子「──これは...魔力って奴か?」


復讐者「...魔剣か」


帽子「魔剣?」


復讐者「──答えてはやらん...死ねッ!」


──ブンッッ!

────キィィィンッッ!

一体何が起きたのか、まるで細い彼の剣が復讐者の大きな斧を受け止めたような。

しかしそれは現実の出来事であった、その通りのことが起きていた。


復讐者「な...」


帽子「す、すごいなこれ...よっとッ!」


──グググッ...!

か弱そうな剣で斧を押し返す。

その剣をよく見てみると、先ほどとは若干変化していた。

豪華な装飾がついた柄、その周りにはとても奇妙な紋章のようなモノが。


復讐者「────この力...ッ!」


帽子「──今だッッ!!」


──キィンッ! カンッッ!! カッ!!

帽子の最も得意とする、受け流しの型。

そしてそこから派生させられる連続の刺突と切りかかり。

この猛攻に、復讐者は思わず臆してしまう。


復讐者「──クッ...」


復讐者(この攻撃、隙間がない...かと言って反撃しても弾き返される...)
233 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 22:59:08.67 ID:HaEGZX9A0

帽子「────そこだぁッッ!!」


──ズバッッ!!

一撃が決まる、斧を持つ腕に一筋の切り傷が生まれる。

血が止まらない、銃撃すらある程度は耐えられていたはずなのに。


復讐者「ぐはぁ...ッ!?」


復讐者(ユニコーンの魔力か...あの細い一撃が重い...)


復讐者「く...ッ!」


──バチバチバチッッ!!

なけなしの反撃、それは意外にも成功する。

淡い雷が帽子の顔面に当たりかける、それを反射的に避けようとすると当然生まれるのは。


帽子「──うわッッ!?」


復讐者(どうやら光は扱えていないようだな...隙は逃す訳にはいかない...)


復讐者「..."雷魔法"」


──バシュンッッ...

隊長を葬りさった一撃、その稲妻が帽子に襲いかかる。

これが当たれば、当たりさえすれば形成は逆転するはず。


???「"地魔法"」


──ぐちゃっ...

しかし、あたったのは泥。

どこからか声が聞こえると同時に、魔法陣から弱々しく泥が飛んできた。

それは復讐者の魔法に当たり、稲妻を消し去っていった。


復讐者「...貴様ぁ」


帽子「──女賢者さんッ!?」


女賢者「風属性にはっ...地属性ですよ...っ...」


風属性に含まれる雷、それに反するのは地属性。

魔法の相性、それは反する属性を後出しでぶつければ勝ることができる。

例えそれが圧倒的な稲妻でも、後出しの泥には勝てない。
234 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 23:00:27.66 ID:HaEGZX9A0

復讐者「────ッ!」ピクッ


帽子「──はぁッッ!!」


──グサァッッ!!

魔法に気をとたれた瞬間、懐に剣が刺さる。

このままでは勝負がつくのは時間の問題であった。


復讐者「ぐうううううううううぅぅぅぅ...」


復讐者「な...舐めるなっ...」


──ガシィッ!!

最後の抵抗、彼は帽子の首を掴んだ。

たとえ絶対的な力を持つ剣を持っていても、所有者はただの人間。


帽子「──ぐぅ...ッ...けほッ...!?」


女賢者「まずい...首を絞められてる...」


復讐者「死ねっ...!」


???「────NOT A CHANCEッ!」


──バババババババババババババババッッッ!!

すると遠方から聞こえた、謎の言語と激しい音。

それをまともに受けれる者など存在しない、想像を絶する激痛が襲いかかる。


復讐者「ぐううううううぅぅぅぅ...貴様ぁ...」


帽子「キャプテンッ!!」


隊長「──NOWッ!」


帽子「────うおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


言語は分からないが、チャンスを与えてくれたことはわかった。

グググググッ、徐々に剣がが深く沈んでいく。

力を振り絞る、ここで勝てなければ後はない。
235 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 23:01:55.44 ID:HaEGZX9A0

復讐者「ぐっ...くそっ...」グッ


復讐者が最後の力をこめて殴りかかろうとする。

しかし、彼はそれを許してはくれなかった。


隊長「────ッ」スチャ


──ダンッ!

それが決め手であった、彼の放った1つの銃撃が復讐者の手のひらを貫く。

力はもう湧かない、彼を支えていた身体は崩れるしかなかった。


復讐者「あああああっ...」


復讐者「あああぁぁぁぁ...っ...」フラッ


帽子「はぁ...はぁ...やったのか...ッ!?」


隊長「...まだ注意しろ」


帽子「...わかった」


隊長「一先ず...女賢者のところに運んでくれ」


帽子「うん」


帽子に肩を貸してもらい、立ち上がる。

ハンドガンの照準を合わせたまま、女賢者のもとへ運ばれる。


帽子「大丈夫かい?」


女賢者「ちょっと...休めば大丈夫です...すみません、まだ魔法を使える程落ち着いていなくて...」


隊長「...水筒だ、飲め」スッ


女賢者「ありがとうございます...」ゴクッ


隊長「...あの電流は、女の身体にはきつかったな...俺も死にかけたぞ」
236 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 23:03:14.17 ID:HaEGZX9A0

帽子「...」


帽子が2人の元を離れ、復讐者の所へ向かう。

倒れ込んだ彼はもう立つ気配がなかった。

微かに息があるだけの存在へと成り果てていた。


隊長「気をつけろ...」


帽子「...」


復讐者「...ッ...ッ」


復讐者「────ッ...!」スッ


女賢者「──っ!」


そして取り出したのは小瓶。

女賢者はそれがなにかがわかっていた。

暗躍者、追跡者、捕縛者を正真正銘の化け物に変えた代物。


女賢者「──それは魔力薬ですっっ!!」


隊長「──なにッ!?」


隊長(飲まれるとまずい!!)スチャ


──バキィンッ

瓶が割れる音がした。

ただそれだけであった、発砲音はしなかった。

それが意味するのは、彼の強さであった。


帽子「...どうしてだい?」


復讐者「...我は誰にも縋らんッ!」


復讐者の手が、割れた瓶の破片によって真っ赤になる。

そして帽子は、心の底から思っている事を口にする。

紅の液体、それには見覚えしかなかった。


帽子「...同じ血の色なのに...どうして魔物と人間は争うんだろうね...」


復讐者「...」


復讐者「...貴様がユニコーンに好かれる理由がわかった」


帽子「...」


復讐者「...別の出会い...なら気があったかもしれんな...」


帽子「...ありがとう」
237 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 23:04:39.89 ID:HaEGZX9A0

復讐者「...殺せ、俺を良く思ってしまったならな」


帽子「あぁ...わかったよ」


奇妙な模様の剣を掲げ、首を狙う。

帽子のその目、どこか据わっていた。

そんな彼に、復讐者は言葉を残した。


復讐者「...気をつけろ」


帽子「...?」


復讐者「魔王はここ数年の内に戦争に近い侵略を起こす気だ...」


復讐者「今はまだ、計画段階だ...我らを殺したからといってすぐに戦いをふっかけることはない...」


復讐者「だが...魔界の体制は着々と強化されていっているだろう...」


復讐者「魔界にいくのなら...精々足掻いてみせろ...」


帽子「そうか...忠告ありがとう...」


復讐者「...最後に...だ...」


復讐者が隊長を見つめる。

その目、復讐者という男は見覚えがった。

過去の自分と同じ目をしている、そんな彼に忠告を促した。


隊長「...」


復讐者「貴様の瞳...復讐に襲われるだろう...」


隊長「...そうか」


復讐者「...先に逝っております」ボソッ


復讐者「────殺せッッッ!!!!!!!!!」


──ズバッッッ! ゴロンッ...

形容することができない。

とても残酷で、それでいて彼の為の行動。
238 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 23:06:06.39 ID:HaEGZX9A0

隊長「...」


帽子「...」


女賢者「...」


隊長「...行くぞ」


帽子「...キャプテン」


隊長「...どうした?」


帽子「...今までの敵は全て君が殺してきた」


帽子「私はそれに目を向けず、私のやったことではないからと目を背けていた...」


帽子「だけど...この前、魔王の件で決心して...今は殺し殺さずに敏感になっている」


帽子「そして今日...初めてこの手で魔物を殺した」


帽子「私がやっていることは...間違ってるかい?」


女賢者「...」


隊長「...戦争とはこんなものだ」


隊長「どちらかが勝つまで、争いは終わらん...」


帽子「...」


隊長「...平和にするには、戦争相手をいち早く倒さないといけない」


隊長「それが...戦争だ...」


帽子「...そう...だよね」


〜〜〜〜
239 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/26(月) 23:07:05.25 ID:HaEGZX9A0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/11/27(火) 17:44:46.51 ID:o6xkDbfR0
241 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 21:55:16.38 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


??1「はぁ...はぁ...うぅ...」


誰かが、暗いどこかを逃げ惑う。

その者たちは深手を負っている、そして魔法を唱えている余裕もない。

いったいなにが起こったのか、彼女たちは優れた人物であるのに。


??2「...大丈夫か? 女勇者...?」


女勇者「う、うん...はぁ...はぁ...女騎士は...?」


女騎士「私は大丈夫だ...それより魔法使いが見当たらん...」


彼女たちは、勇者一行の選りすぐり。

魔王を討つべく、平和を掴み取るために冒険に旅立つ者たち。

そんな彼女らが追い詰められている、風は正面に、向かい風が彼女らに直面する。


女勇者「魔法使いくん...一体どこに...?」


女勇者「まだ...人間界にいるのに魔物によく襲われるね...」


女騎士「...そうだな、まさか魔界に突入する直前であのような規模の魔法を扱う奴に遭遇するとは」


女勇者「...あっ! あれって、魔法使いくんじゃないっ!?」


魔法使い「...」


どうやら彼女らは、思わぬ強敵に遭遇したようだった。

そして逸れてしまった味方と、奇跡的にも遭遇することができた。

だが彼の面持ちは、とても妙なモノであった。


女騎士「──まてっ! なにか様子がおかしいぞっ!?」


女勇者「えっ...?」


魔法使い「────"拘束魔法"」


彼が唱えたのは、彼がその魔法を向けた先は。

そして彼の背後には、一体どれほどの業を背負うのか。

最後に響いたのは、彼女らの叫び声であった。


〜〜〜〜
242 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 21:57:00.11 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


女賢者「はぁ...疲れましたね」


帽子「...」


隊長「...あぁ、そうだな」


復讐者との戦いが終わり、彼らは賢者の塔に到着した。

旅の疲れを癒やしたい、だがこの空気感がソレを許してはくれなかった。

重荷に耐えきれない女賢者は、都合のいい言葉を残す。


女賢者「...少し、大賢者様の様子を見てきます」


隊長「あぁ...」


帽子「...」


やはり、彼の中ではまだ納得をしていない。

初めて殺めた魔物、それはよき理解者になりえる存在だったかもしれない。

とてつもない罪悪感が帽子に襲いかかっていた、その様子を見かねたのは彼であった。


隊長「...なぁ、帽子」


帽子「...なんだい?」


隊長「...俺の仕事はな、犯罪者...罪を犯したものを捕まえることだ」


帽子「...」


隊長「聞こえはいいかもしれないが...どうしようもなく犯罪者を殺したりする場面もある...野蛮な仕事だ」


帽子「...!」


隊長「...俺は犯罪者には一切の容赦はしない、そう決めてある」


帽子「それは...どうしてだい?」


隊長「...それは、その容赦が時として俺の仲間に襲いかかるからだ」


帽子「...」


隊長「...例えばだ、俺が犯罪者に情けをかけて見逃したりするとしよう」


隊長「だがそいつは恩を仇で返すかもしれない...それで俺の仲間が死んでしまったらどうなるか...」


帽子「それは...」


隊長「もちろん、情けをかけた全ての奴がそうじゃないってことはわかっている」


隊長「だけど仇で返すような奴に殺されて、俺はいったいどの面をしてその仲間の墓に行けると思うか?」
243 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 21:58:07.01 ID:SoEFle0w0

帽子「...」


隊長「俺にも殺すという選択には抵抗がある...だが仲間が俺のせいで殺されるのはもっと嫌だ」


隊長「俺が罪悪感に襲われるだけで仲間が助かるなら、俺は情けを捨てる...」


隊長「復讐者...俺は奴に殺されかけた...意識を取り戻した後も、女賢者の治癒魔法がなければ歩行は困難のままだった」


隊長「...あの時、俺が意識を取り戻せなかったら...もし自力での歩行が全くもって不可能だったら...みなは言わない」


帽子「...」


隊長「...Captainという名前は...隊長って意味だ」


隊長「お前は人間と魔物の平和を護る隊長になるわけだろ?」


帽子「────あ...」


隊長「...俺はお前は間違えていないと思っている」


あの時に復讐者を殺したのは間違えではない、もし奴が、あの時に魔力薬を飲んでいたのなら。

敵と対峙する以上は情けをかけてはならない、修羅の道を通らずに人間と魔物の平和など勝ち取ることはできない。

仲間の為なら、人殺しと言われようとも彼は任務を遂行するだろう。


帽子「キャプ...テン...」


隊長「覚悟を決めろ...泣くのは、平和を勝ち取ってからにしろ」


帽子「────あぁ...あぁッ...!!」


隊長(調子が戻ったか...)


目元は帽子で隠れている、そこを覗くような野暮なことはしない。

彼の中の罪悪感は完全に消え去った、隊長の強すぎる正義の観念により。

そんな様子を後ろから見届ける彼女が話しかけてきた。


女賢者「...あなたは、強い人ですね」


隊長「...これは受け売りだ、それよりも大賢者の様子はどうだった?」


女賢者「伝言をあずかりました...1週間以内には終わる、だそうです」


隊長「一週間か...早いのか?」


女賢者「早すぎです、普通は1年程度かかります」


隊長「...なるほどな」


女賢者「恐らく...基礎的な部分を全て飛ばしてますね」


女賢者「ここまで早いと、体力が心配ですね...習得は疲れますし」
244 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:00:37.63 ID:SoEFle0w0

帽子「...大丈夫さ...彼女らなら」


呼吸を整え、彼が会話に参加した。

なんの根拠もない信頼、だがそれは女賢者も同意見であった。


女賢者「...私も、なぜか大丈夫な気がします」


女賢者「それと...これをきゃぷてんさんに」ガシ


女賢者「ふっ...お、重い...」ヨロヨロ


帽子(...こういうところは普通の女の子だな)


隊長「...これは」ガサガサ


隊長「凄い...もう出来たのか...」


隊長(今まで消費したのを補充できる...いや、もっとあるな)スッ


その荷物に詰められていたのは、弾丸であった。

隊長はナイフで弾丸を解体する、それが本物と遜色ないモノであるかを確認する。

黄金で作られたこの代物、果たして彼の御眼鏡に適うか。


帽子「へぇ...中身はそうなってるんだ」


女賢者「これは...粉ですか?」


隊長「それは火薬だ、これを発火させて先端の部分を発射させる」


女賢者「異世界の武器...興味深いですね」


隊長(...というか、これ全部Goldからできてるのか)


隊長「完璧な仕上がりだ...早速、補充させてもらうぞ」


帽子「...さて、これからどうしようか」


女賢者「よろしければ、買い出しを手伝ってもらってもいいですか?」


隊長「かまわんが...足りないのか?」


女賢者「ええ...大賢者様が数日分の食料もって篭もられたので...」


帽子「なるほどね...どこにいくんだい?」


女賢者「港町ですね」


隊長「あそこか」


女賢者「きゃぷてんさん、期待してますよ」


隊長(...荷物持ちか)


〜〜〜〜
245 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:01:51.11 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


隊長「着いたか」


風が潮の香りを運ぶ、この町は海岸地方の港。

時刻は昼過ぎ、早朝はユニコーン、朝は復讐者戦となかなかの密度な一日。

治癒魔法で身体は健康そのものだが、その気分はすでに疲弊の極みであった。


帽子「買いものが終わったら、しばらく寝て過ごそうよ...」


女賢者「正直、今日はそうしてたかったですけど...さすがに食べ物がないとなると...」


帽子「さっさと済ませようか」


女賢者「まずは、紙を調達しましょう、あれがないといろいろ困ります」


隊長(どの世界も、紙は必需品のようだな)


帽子「あとは何を買うんだい?」


女賢者「そうですね...水は賢者の塔に井戸があるので」


女賢者「紙と物持ちのいい食べ物を大量にってところですかね」


隊長「...了解」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「紙、なかなか見つからないね」


女賢者「どこも品切れですね...もう少し粘りましょう」


隊長「もうすぐ夕暮れだな」


──ぐぅ〜...

時間の経過を告げる音が響き渡る。

思えば朝食である女僧侶の手料理以来、なにも食べていない。

鳴ってしまうのは当然であった。


女賢者「...す、すみません///」


帽子「仕方ないさ...それより、どこかで遅めの昼食でもどうだい?」


隊長「...賛成だ」


女賢者「は、はい...///」


帽子「...ん、あの人に聞いてみようか」


隊長(時々、帽子の行動力には驚かされる...)
246 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:02:49.78 ID:SoEFle0w0

帽子「そこの方」


???「...ん? なんだ?」


帽子「ここらでオススメの料理店はあるかい?」


???「お、それなら俺がやってる店にきな!」


帽子「おぉ! それはいいねっ!」


店主「そんじゃ、ついてきな!」


隊長「...強運だな」


女賢者「もしかしたら、固有能力かもしれませんね...」


帽子「うん? 早くいこう」


隊長「あぁ...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「お、葡萄酒...」チラ


隊長「...好きにしろ」


女賢者「え、いいんですか?」


帽子「すみません、私はとりあえず葡萄酒で」


女賢者「私は桃酒で」


隊長(...女賢者も向こう側だったか)


店主「あいよ、で、ガタイのいい旦那は?」


隊長「...俺は水────」


偶然にも出会うことのできたこの隠れ家的な料理店。

当然彼はいつもどおり、効率的に水分を得ることができる水を選ぼうとした。

しかしそれは少数意見であった、民主主義が彼を追い込む。
247 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:03:35.45 ID:SoEFle0w0

帽子「──キャプテン、飲まないのかい?」


女賢者「おいしいですよ?」


隊長(アルハラか...腹をくくるか)


隊長「...林檎酒で」


店主「あいよ! ちょっとまってな!」


帽子「いまのうちに、食べ物を選ぼう」


女賢者「あっ、これおいしそうですね」


隊長(...えぇい、もうやけくそだ)


店主「はいよ、飲み物お待ちどう!」


帽子「きたきた、楽しみだね」


女賢者「ふふっ...これだけは堪りませんね」


隊長「あぁ...どうにでもなれ」


──かんぱ〜いっ!

3人の声が重なる、1人はここまで元気ではないが。

隊長は大学生活振りに酒を摂取するハメとなってしまった。

それがどれ程の地獄を生み出すか、帽子はまだ知らない。


〜〜〜〜
248 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:04:18.40 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


帽子「...」


女賢者「わたしなんてっっっ!!! どうせよわいですよっっ!!!!」


隊長「そんなことはないッッッ!!!! おまえはつよいッッ!!!」


女賢者「うそですっっっ!!!! あのときだってあんまりやくにたてなかったですもんっっ!!!!」


隊長「おまえのまほうがなければしんでいたッッッ!!!!」


帽子「ほら、店の方に迷惑になるよ...」


店主「...なんだかしらねぇが、面白いから別にかまわねぇぜ、今は他の客もいないし」


帽子「そんな...」


帽子(しまった...2人ともかなり弱いみたいだな...)


女賢者「きゃぷてんさぁん...」キラキラ


隊長「...つよくなりたいなら、おれについてこいッッ!!」


女賢者「はいっ!!」


帽子「...どーしよっか」


帽子(でもまぁ、キャプテンの面白い姿みれて良しとするか)


〜〜〜〜
249 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:05:12.89 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


女賢者「...うぅん」


女賢者「...へっ?」


女賢者「どこ...ここ...」


???「...起きたかい?」


目がうまく開かない、町の街灯が眩しく感じる。

酒というものは恐ろしい、先程まで一緒にいた人物を把握することができない。

帽子を被ったこの金髪の男、彼以外の何者でもないというのに。


女賢者「...だ、誰ですかっっ!?」


帽子「誰って...帽子だよ」


女賢者「ぼ、帽子さん...? 何が起きたんですか?」


帽子「...ふたりとも酔いつぶれたんだよ」


帽子「もう夜になっちゃったから、今日は宿に連れてきたってとこさ...」


隊長「グォオオオオ...」スピー


女賢者「な、なんかすみません...」


帽子「いや、構わないさ」


帽子(キャプテンの面白いの見れたし)


女賢者「...」


女賢者(まさか...私のだらしない寝顔見られた...?)


女賢者「...///」


帽子「うん? まだお酒抜けてないならお風呂入ってきたら?」


女賢者「だ、大丈夫ですっ、おやすみなさいっ!///」


帽子「...うん? さぁて、私も寝るか」


〜〜〜〜
250 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:06:19.20 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


隊長「頭が痛い...」


女賢者「...奇遇ですね、私もです」


帽子「...ふたりとも弱いね」


隊長「俺は滅多に飲まないからな...」


女賢者「私は、強くありませんからね...お酒は好きですけど」


帽子「まぁまぁ、ところで朝一番なら紙が簡単に手に入るんじゃないかい?」


女賢者「そ、そうですね...いきましょうか」


隊長「あぁ...あとなるべく大きな声をださないでくれ...」


帽子(弱々しいキャプテン、面白いな)


女賢者「さぁ、いきましょうか」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「紙は買えましたね」


帽子「あとは食料だね」


隊長「Oh...jesus...」フラフラ


帽子「...キャプテン、ほらいくよ」


隊長「Okay...」


帽子「...異世界語はわかんないよ」


女賢者「...なにか人だかりができてますね」


帽子「本当だ、なんだろうね...いってみるかい?」


女賢者「まぁ...時間はありますしね、いきましょう」


思わず異世界語を漏らしてしまう隊長、そんな彼と共に帽子は前に進む。

そこにはなにやら人だかりが、まるでなにかを心配しているような声が聞こえる。

いったいそこに何があるのか、帽子は手前側にいた漁師に話しかけた。
251 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:08:27.16 ID:SoEFle0w0

帽子「やぁ、何かあったのかい?」


漁師「いやそれがよ、空から女の子が降ってきたんだよ」


帽子「...空から? ちょっと通してくれ」グイッ


女賢者「ほら、きゃぷてんさんも」


隊長「Understand...」フラフラ


帽子「──こ、これは...」


雑踏を掻い潜る、そこには確かに女の子が寝転がっていた。

よく見ると傷だらけ、なにか暴行された後なのかもしれない。

だがそこではなかった、帽子が思わず息を呑んだのは彼女の足であった。


帽子「...足がない、まるで魚のような下半身だ」


女賢者「...人魚ですかね」


女賢者「とりあえず..."治癒魔法"」ポワァッ


漁師1「なんだ、ねぇちゃん魔法使えるんか」


漁師2「じゃああとは任せたぞ〜、仕事が始められねぇからな」ゾロゾロ


帽子「あ、ちょっと! ...もうみんな行ってしまったか」


帽子(まぁでも魔物の心配をしていたみたいだし...ここの人たちは温厚だな)


さすが商業主義、魔物に対しての偏見などない。

そんな理想にも近い光景を彼は目に焼き付ける。

彼女の魔法がこの子を癒やす、すると彼女は目を覚ました。


人魚「────うん...? ここは...?」


女賢者「こんにちは」


人魚「──に、にんげんっっ!?!?」


帽子「まってくれ、別に悪さをするわけじゃないんだ」


人魚「そ、そんなこといわれてもしんじられないっっ!!!」


女賢者「...わかりました、せめて海まで連れて行ってもいいですか?」


人魚「へっ...? ってここ陸っ!?」


帽子「...よければ、何があったか教えてくれるかい?」


帽子「私たちは君がここで倒れてたのを発見して、そこで彼女が魔法を使って治癒させただけなんだ」


帽子「...ただ、それだけさ...信じてくれるかい?」
252 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:10:02.49 ID:SoEFle0w0

人魚「...ありがとうございます...でも、何があったかは喋れません」


女賢者(...ユニコーンといいこの方、魔物との協調性が高いですね)


帽子「そうか...ねぇ、やっぱり海に戻したほうがいいのかい?」


女賢者「そうですね、基本的にお魚と一緒なので、長時間の陸活動は身体に悪いみたいですよ」


帽子「だ、そうだ...せめて海まで連れてってもいいかい?」


人魚「...おねがいします」


帽子「よしキャプテン、出番だ...って...」


隊長「────」


女賢者「...死んでますね、よっぽどお酒に弱いみたいですね」


帽子「...女賢者さんは人魚さんを、私はキャプテンを運ぶよ...」


女賢者「わかりました、さぁ安心してくださいね」


人魚「は、はいっ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...なるほどな、そんなことがあったのか」


浴びるほどに水を飲む、乾ききった喉が癒えていく。

これで二日酔いがマシになるだろう、久々に襲いかかった頭痛は隊長をボコボコにしていた。


帽子「...そういえば自己紹介をしてなかったね、私は帽子」


女賢者「女賢者です」


隊長「...Captainだ」


人魚「わ、わたしは人魚です...」


帽子「そんなことをいっているうちに、綺麗な砂浜についたね」


女賢者「港町ですからね、海は近いです」


女賢者「...それじゃ、放しますね」


人魚「あ、ありがとうございましたっ!」


人魚「このご恩は一生忘れませんっ!」


淡々とした会話、この程度の距離感が丁度いい。

深く介入することはこの子にとって不都合である、そう察知した帽子。

せっかくの奇縁だがここは手放すしかない、女賢者が海に彼女を戻そうとしたその時。
253 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:10:57.34 ID:SoEFle0w0

隊長「──待てッッ!!!! 放すなッッッ!!!」


女賢者「──えっ?」


???「ミツケタミツケタ...ニンギョヒメミツケタ...」


――――バシャッッッン!!!!!

聞こえたのは、辿々しい言葉。

そして巨大な魚影とともに現れたのは、赤き悪魔。


帽子「で、でかいぞ!?」


人魚「ひっ...いやぁッ!!!」


女賢者「──ク、クラーケン...っ!?」


隊長(今度はクラーケンか...本当になんでもいるな...)


クラーケン「ソイツヲヨコセ、ニンゲン」


人魚「ひっ...」ブルブル


帽子「...どうやら、迎えに来たってわけじゃないみたいだね」


女賢者「同感です、これでは渡すことはできません」


クラーケン「ソレジャ...ッ!!!」


―――シュウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ...

吹き付けられたのは黒い何か。

タコだろうがイカだろうか、この手の軟体生物はこれを仕掛けてくる。

墨が地上の空気に馴染む、それが目くらましになることは必然であった。


女賢者「──きゃあっ!?」


帽子「煙幕ッ!? 女賢者さんと人魚さんがッ!!!」


隊長「女賢者ッ! 海から離れろッッ!」


女賢者「しまったっ────」


煙幕に包まれたのは、女賢者と背負っている人魚。

そして感じたのは背中が軽くなる感覚、それが何を意味しているのか。

あの海洋生物の触手が、彼女だけを拉致する。


隊長「──クソッ!」ダッ


帽子「キャプテンッ!?」


隊長が煙幕の中に突っ込む。

未だ二日酔いが冷めていないというのに。

頭痛に苦しめられた怒りを込めて、彼は奇策に身を委ねる。
254 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:13:18.62 ID:SoEFle0w0

隊長(――――見えたッッ!!!)スッ


──グサァッッ!

何かが刺さる音、そして続くのは痛みに悶える大声。

一体何が起きたのか、その様子は直に明るみになる。


クラーケン「────アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」


隊長「帽子ィッッ!! 手伝えッッ!!!!」グググ


帽子「わかったッ!」ダッ


女賢者「...めちゃくちゃですね、あの小さな刃物であのデカブツを止めてるのですか」


人魚はクラーケンに捕まってた、そこまでは理解ができた。

しかし隊長はうつ伏せの状態、ナイフでクラーケンの足を地面ごと串刺しにしていた。

文字通りの足止め、とても人間技には思えないが、意外にもこの魔物は非力であった。


クラーケン「ハ、ハナセェ...!」


隊長(まずい、ここは砂地だ...もうもたない...!)グググ


帽子「──はぁッッ!!!」グサッ


帽子も続いて、奇妙な柄の剣で足を串刺す。

その剣はナイフよりも深い地盤に刺さり、支えの強い泥の部分まで到達していた。

そして更に拘束を補助する、それは彼女の魔法。


女賢者「ブツブツ..."拘束魔法"」


女賢者(拘束魔法は苦手なんですけど...詠唱が長く出来た分なんとかなりましたね...)


クラーケン「クッソッオ...」


隊長「──!」スチャッ


──ダンッ ダンッ ダダンッ

足をハンドガンで狙い撃ち、足を千切る。

その足が掴んでいたのは人魚、彼女の身体は開放されそのまま落下し始めた。

落下地点にいるのは彼女、先程拉致を許してしまったせめてもの償い、落下する人魚を受け止めようとする。


クラーケン「ギャアアアアアアァァァ...」


人魚「──きゃっ!?」


女賢者「おっと、大丈夫でしたか?」グイッ


人魚「は、はいぃ...」
255 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:14:46.46 ID:SoEFle0w0

隊長「帽子、もう離していいぞ」


帽子「ふぅ...意外と貧弱だったね...見掛け倒しか」


クラーケン「クソォ...オボエテロォ!!!!」ザブン


クラーケンは拘束魔法をうけつつ、器用に足を駆使して海へ逃げていった。

命を奪うまでもない、そう判断した彼らはその様子を眺めるだけであった。


隊長「なんだったんだ...?」


帽子「さぁね...よかったら教えてくれるかい?」


人魚「...じ、実は」


女賢者(どうやら、話す気になってくれたみたいですね...)


人魚「わ、わたしは人魚姫なんです!」


帽子「そ、そうなのか」


女賢者「詳しくは知らないですけど、たしか海底に人魚の王国があるらしいですね」


隊長(大層な話だな...)


人魚「それで...今は王国と反乱軍とで戦争状態なんです...」


帽子「──!」ピクッ


人魚姫と称する彼女の話。

そこには反応せざる得ない言葉が存在していた。

帽子の雰囲気が変わる、それは当然であった。


人魚「だから、外出も制限されていて...とてもさみしかったんです...」


人魚「出来心だったんです...今日、無断でお城の外に...」


人魚「そしたらわたしは、さっきのくら、くらー...クラーケンに...ひっく...」


帽子「...落ち着いて、ゆっくりでいいからね」


人魚「は、はい...野生のクラーケンに追われて...攻撃されて...その衝撃でふきとばされて...」


隊長「...なるほどな」
256 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:16:01.70 ID:SoEFle0w0

女賢者「状況はつかめましたね...どうしますか?」


帽子「ど、どうしようか...」


帽子「うーん...」オロオロ


人魚「ぐすっ...」


隊長(...悩んでいるな、一押ししてやるか)


隊長「...帽子、俺は雇われだ」


帽子「...キャプテン?」


隊長「だから、なにがあろうとお前に着いて行く」


帽子「...ありがとう!」


多くの言葉はいらない、それが彼を支えてくれる。

一見ドライに見えて、その中には熱きナニかが秘められている。

そんな関係性、とても魅力的と思えてしまった彼女も動く。


女賢者「...私も、ここで去るのはひどいですからね」


帽子「決まりだね! よし、人魚さん?」


人魚「な、なんですかぁ...? ひっく...」グスグス


帽子「私達をその王国に連れてってくれないかい?」


人魚「──で、でもいま戦争中であぶないんですよ...っ?」


帽子「大丈夫、彼らならきっと、"慣れてる"」


隊長「...そうだな」


女賢者「ですね」


人魚「でも、でも...」


???「良いのではないですか?」


会話に突然参入する、第三者。

その声の主は、聞き間違えではければ海の方から聞こえる。

声色は女のもの、そこにいたのは間違いなく、この子と同じ種族の者。
257 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:17:34.37 ID:SoEFle0w0

隊長「...誰だ」


???「申し訳ありません、立ち聞きしてしまいました」


人魚「人魚衛兵っ!? どうしてここにっ!?」


帽子「...味方か」


衛兵「先ほどの闘い、助かりました...あなた方がいなければ今頃、姫は...」


衛兵「...そこで、こちらから頼みがあります」


帽子「...なんだい?」


衛兵「恐らく、戦争はここ数日で終わるでしょう」


衛兵「ですが、その数日はどうしても人員が足りなくなる...ので、あなた方に姫を護衛してもらいたいのです」


願ってもいない、姫を護る王国側からそうお願いされるのなら話は早い。

だが彼には1つ気がかり、疑問に思うことが芽生えていた。

なぜ戦争という複雑な代物を、数日で終わらせることができると豪語するのか。


隊長「なぜ、終わると確信できる?」


衛兵「...王国側の最終兵器の発動許可が下りたからです...これで、反乱軍は壊滅でしょう」


隊長「...」


帽子「...わかった、その要求は飲もう」


女賢者「思ったより、大事なことになりそうですね」ヒソッ


隊長「なにがあれ、俺は帽子に着いて行く」ヒソヒソ


女賢者「...私も、大賢者様にあなた達に着いて行けと言われてるので」


隊長(最終兵器とやら、気になるな...まさか核みたいなモノじゃないだろうな...)


大事になる、そう女賢者は隊長にだけ囁いた。

そんな中、彼はその最終兵器の危険性を妄想し始める。

だが危険なのは隣りに居た、彼女は海に散らばったモノを見てしまった。


女賢者「──って...ああああアァァァァ!!!!!!」


隊長「ど、どうしたッ!?」


女賢者「か、紙が...海に...」ガーンッ


帽子「あ、あちゃー...」


女賢者「...クラーケン...許されません...!」メラメラ
258 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:18:42.44 ID:SoEFle0w0

衛兵「...ではいきましょう、さぁ姫こちらに」


人魚「まって! 人間は海じゃ息ができないよ!」


帽子「あ」


隊長(...異世界ならなんとかなると思っていたが...だめなようだ)


衛兵「しまった...すっかり忘れてました、どうしますか?」


女賢者「...ちょっとまっててください」


隊長「なにか策があるのか?」


女賢者「単純な調合でなんとかなりますよ」


帽子「さ、さすが賢い者...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「この魔法薬...そしてこの欠片を調合して、瓶にいれれば...」


女賢者「...完成です」


彼女が作り出したのは、液体の入った瓶に何かしらの欠片を入れた物であった。

これで一体、どうすれば海に突入できるのか。

心底疑問に思った帽子は尋ねた。


帽子「なんだいコレは?」


女賢者「この欠片は、魔法を一定時間維持できる代物なんです」


女賢者「厳密に言うと特殊な鉱石なんですが...魔法の欠片と呼ばれています」


隊長「...ほう」


女賢者「それに..."防御魔法"」


瓶の欠片に防御魔法をかけた。

これがどのようにして、効能を見せるのか。

彼女は説明を続ける、不思議そうにこちらを見ている人魚たちを尻目にして。


女賢者「防御魔法は、いうなれば身体の周りの環境が固定されるものなんです」


隊長「...なるほどな」


帽子「えっ、わかったのかい?」


女賢者「まぁ、実際海にはいればわかります」


〜〜〜〜
259 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:21:01.45 ID:SoEFle0w0

〜〜〜〜


女賢者「全員もちましたか?」


帽子「...本当に大丈夫かい?」


隊長「さっさといくぞ」スッ


女賢者「そうですね」


帽子「ちょ、ちょっと! ってあれ...?」


隊長「...つまりは防御魔法で、周りの空気を固定したってことだ」


隊長(身体全体が1つの大きな気泡に包まれている...子ども向けの映画で見たことあるな)


女賢者「砕けた言い方をするなら、海水を防御しているってところですかね」


女賢者「まぁ、陸地にいるようなものなので、水の影響を受けないので泳いだりはできませんが」


帽子「な、なるほどね...でもこれ、時間制限あるんだろ?」


女賢者「まぁ、防御魔法なら半日もちますかね」


帽子「は、半日すぎたらどうするんだい?」


女賢者「そのときは、瓶に魔法薬をいれれば引き続いて欠片が維持してくれます」


女賢者「ほら、こんなにたくさん買ってきましたよ」


隊長「重そうだな、持とう」


女賢者「ありがとうございます、優しいですね」


帽子「いやぁー...なんか新鮮な気分だよ」


見えない鎧が、海水を防御する。

太陽に照らされる海面、魚はいつもこの神秘的な光景を見ているのだろうか。

人間たちが海底を歩く様をみて、人魚たちも新鮮な気分に陥る。
260 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:21:54.84 ID:SoEFle0w0

衛兵「...すごいな」


人魚「人間が海の中を歩いてる...」


女賢者「おや、これは...」


隊長「海藻?」


海藻からは気泡が多くでている。

隊長の世界でも見ることができるその光景。

光合成をする海の植物、こちらの世界のソレは排出量が多いようだった。


女賢者「これは、新鮮な空気を作ってくれる海藻ですね、すこし採取しておきましょう」


隊長(...酸素の問題も大丈夫そうだな)


衛兵「さっ、こちらについてきてください」


隊長(...しかし、弾丸はどうしても水中に放つことになるな)


隊長(...威力は期待できないな)


水中に向かって銃弾を放てばどうなるか。

それは過去にも軍事訓練で行われていた、どうやっても無残な結果になる。

彼が強敵と対峙してしまったら、どうすればいいのか。


〜〜〜〜
261 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/27(火) 22:23:06.10 ID:SoEFle0w0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
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262 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:31:01.47 ID:UeIGh+A90

〜〜〜〜


女賢者「...綺麗ですね」


帽子「そうだね...とても美しい」


隊長(俺の世界じゃ見ることはできないな...この光景は)


そこにあったのは、太陽光が微かに届く海底世界。

綺羅びやかな海底都市の繁華街を歩いてく中で、その幻想的な光景に思わず視線を奪われる。

そして彼らは都市中心の城門へとたどり着く、すると近寄ってくるのは。


???「──姫様ッ!? お戻りですかッ!?」


人魚「はいっ!」


???「おぉ...なんということでしょう...」


???「む...なぜ人間がここにッ!?」ジャキッ


塀の都でも見たことのある役職。

彼はこの都市の警備を担っている。

人魚の門番、そのエモノはとても鋭い槍であった。


衛兵「...彼らは姫をお救いくださりました...なので客人です」


人魚門番「そ、そうでございますか...失礼」


衛兵「さぁ、いきましょう...いつ戦闘になるかわかりませんのでお早く」


帽子「あ、あぁ...」


隊長(しかし、海底を歩くのはなれないな...)


女賢者「いきましょう」


そして彼らは門を通ることを許された。

そこはとても荘厳な造りをしている、海中でこのような建築技術をどのようにして得たのか。

そのような事を不思議に思いながらも城内廊下を歩いていく、すると到着したのは。
263 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:33:41.03 ID:UeIGh+A90

衛兵「こちらに」


帽子「...本当に入って大丈夫なのかい?」


女賢者「ここは...王室じゃないですか」


衛兵「姫を助けていただいたので王が直々に話をしたいと...」


隊長「...帽子、頼んだぞ」


帽子「...え!?」


女賢者「すみません、私はこういった場になれていないので...」


隊長「まかせたぞ、王子」


帽子「...仕方ないなぁ」


衛兵「では、あなた方はあちらから傍聴席へと...帽子殿はこの扉から...」


──ガチャッ...

重々しい扉が開く、そしてそこに鎮座するのは当然。

この海底世界を統べる最高責任者、人魚の王がそこに。


衛兵「王よ、彼の者達を連れてまいりましたっ...!」


人魚王「...ほう、貴殿らが我が娘を...」


帽子「お目にかかれて光栄です...」


彼は跪く、それが王に対する最大の礼儀。

その佇まいは正しく王子、徹底的に叩き込まれた所作に育ちの良さが伺える。

そんな様子を彼ら2人は傍聴席で眺めていた、眺めることしかできなかった。


人魚王「...よい、貴殿らの活躍は聞いておる」


人魚王「是非、我が軍に力を貸してくれ」


帽子「...わたくし共でよければ、喜んで」


帽子「ですが...失礼ながら、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」


その瞬間、海中だというのに空気が張り詰める。

ややピリついたその雰囲気、王室の周りで警護する者がたちがざわめいた。

衛兵たちから無礼であるぞ、とそのようなヤジが聞こえたが王がそれを受理する。
264 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:35:11.50 ID:UeIGh+A90

人魚王「...よい、質問を許可する」


帽子「...ありがたき幸せ...では早速」


帽子「1つめ...なぜ、戦争が起きているのですか?」


人魚王「ふむ、それはだな...少し前にこの城を襲ったものがいる」


人魚王「其奴は今の反乱軍の"統率者"と言う者だ」


人魚王「そして統率者を英雄視してる奴らが集まり、戦いを吹っかけてきておる」


帽子「...なぜ襲われたのですか?」


人魚王「知らぬ、だが許しがたいことが起きたのだ」


人魚王「それは城が襲われた時に、我が妻にケガを追わせたことだ」


帽子「...話し合いはしたのですか?」


人魚王「...奴らの話は聞きとうない」


帽子「...」


これ以上は深く追求することは許されない。

周りの衛兵どもがざわついている、自分の好奇心でソレを煽れば問題だ。

気持ちを切り替える、そのために彼は質問を飲み込んだ。
265 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:36:49.12 ID:UeIGh+A90

帽子「...わかりました、次の質問で最後です...最終兵器とは?」


人魚王「それを聞いてくるか...それは秘密だ」


人魚王「しかし、これで反乱軍を根絶やしにできるのは確かだ」


帽子「...一方的な虐殺は、遠慮したいですね」


まずい、自分でそう思ったときには遅かった。

思わず口に出てしまった、その不敬極まりないその発言。

衛兵たちの顔を伺うことができない、そんな俯いたままの彼に王は問いた。


人魚王「では、問おう...なにが正解なのかを」


帽子「...」


人魚王「...どちらかが勝つまで、争いは終わることはないだろう」


人魚王「平和にするには、戦争相手をいち早く倒さねば...国民がそう望んでいる」


隊長(...)


帽子「...失礼致しました」


人魚王「よい、若い者はいろいろ考えるだろう」


人魚王「皆の者、そう目くじらを立てるな...丁重に饗せ、我が娘の恩人だぞ」


謁見はこれにてお開き、王は彼らに猜疑心を抱く衛兵を宥めた。

帽子はここまで連れてきてくれた衛兵に導かれ、王室から退室した。

そんな彼の様子をみて、女賢者は吐露する。


女賢者「...大丈夫ですかね」


隊長「...今、あいつは同じ壁にぶつかっているな」


女賢者「...そうですね」


〜〜〜〜
266 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:38:26.86 ID:UeIGh+A90

〜〜〜〜


衛兵「では、こちらの部屋をお使いください」


女賢者「はい、ありがとうございます」


隊長「...」


衛兵「それでは、呼ばれるまで待機をお願いします」


彼女に連れられたのは、客間だろうか。

そこで待機を命じられる、おそらく戦いが始まるまで待たされるだろう。

だが時間の経過などどうでもいい、今は帽子で目線を伏せている帽子が気がかりであった。


帽子「...はぁ」


隊長「...言いたいことをここでぶちまけろ」


女賢者「貯めこむのは身体に毒です、私たちがしっかりと聞きますよ」


帽子「...そうだね」


帽子「私たちの今の目標は、魔王を倒して新たな魔王に云々...ってことなんだけど」


帽子「それが、この王国とかぶちゃってね...」


帽子「この王国側からすれば、統率者とかいう人たちは魔王軍みたいなモノさ」


帽子「だけど王は...その人たちを根絶やしにすると言った、先日まで私が悩んでいたことをしようとしている」


悩んでいたこと、それは魔王をただ討てばどうなるか。

統率する人物を失えば魔王軍は壊滅するどころか、敵意のない魔物まで残党刈りされるだろう。

それがこの海底世界でも起こり得ようとしている、それが帽子の懸念であった。
267 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:42:16.42 ID:UeIGh+A90

帽子「同族同士ですら戦争をするだなんて...本当に、魔王を倒して魔物と平和に共存できるんだろうか」


隊長「...どうだかな」


帽子「...うん?」


隊長「たぶん、逆だ」


帽子「逆?」


隊長「...妻を傷つけられたことに激昂しているんだろうな」


隊長「恐らく何度かは話し合いに応じる場面はあっただろう...だがここの王はそれに応じなかった」


隊長「確かに向こうから仕掛けられた戦いだ、非はあちらにある」


隊長「...だがそれを考慮しなければ人魚王のやっていることは魔王と同じだ」


帽子は統率者が魔王と同じことをしていると思っていた。

だがその事実は逆であった、この王国側が魔王と同じことをしているに違いない。

そう睨んだ彼はここがその本拠地であることを憚らずに言い放ってしまった。


女賢者「先程の謁見で私も思いましたが...侵略こそはしていませんが、攻撃的な部分は魔王に似たものを感じましたね」


帽子「...なおさらこの戦争を放置はできない」


帽子「でも、どうするか...」


隊長「そうだな、反乱軍の"帽子"みたいな奴の話を聞いてみたらどうだ?」


帽子「────ッ!」ピクッ
268 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:44:18.57 ID:UeIGh+A90

隊長「...いいか、気をつけろ」


隊長「お前の目標は殺しではない、聞く耳を持たない魔王を倒し無理やり説得させることだ」


隊長「だが反乱軍のお前は人魚王を殺そうとしているに違いない」


扉の外から、何やらドタバタと音が鳴り響く。

だがそれを厭わずに彼は話を進めていく。

そして彼らも、ただ、隊長の話を聞くのみであった。


隊長「...言いたいことは1つだ」


隊長「お前の力でこの戦争を平和にできれば、魔物との共存を勝ち取る為の経験値になるはずだ」


帽子「...やってやろうじゃないか!」


──ガチャッ!

客間の扉が突然開かれた、そこにいたのは顔なじみのあの衛兵。

一体何が起きたのか、そんなことは言わずともわかる。

もう準備は完了だ、彼ら人間3人はすでに立ち上がっていた。


衛兵「──失礼します! って...あれ?」


女賢者「...お呼ばれのようですね」


隊長「...行くぞ」


帽子「...あぁ!」


〜〜〜〜
269 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/28(水) 22:45:34.94 ID:UeIGh+A90
今日はここまでにします、近日また投稿します。
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@fqorsbym
270 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 21:54:11.43 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


衛兵「──では、私と共に姫をお守りください」


城の中が慌ただしい、状況は切迫した模様であった。

様々な兵たちが槍を構え外に飛び出しているなか、彼女だけは違っていた。

この衛兵の職務は姫を護衛すること、そのためにこの人間たちを誘致したのであった。


隊長「今はどういう状況だ?」


衛兵「反乱軍が攻めてきました...が、どうやらこの戦いで最終兵器を使うみたいですね」


帽子「──ッ!」ピクッ


女賢者「...姫はどこに?」


衛兵「こちらです! 急いで!」


隊長「...反乱軍はどこから攻めてきている」


衛兵「西の方向です! さぁ早くっ!」


急いでいるというのに、彼女は質問攻め合っていた。

少しばかり口調が乱暴に、それに伴うのは集中力の欠如。

隊長は彼女に聞こえない程度の小さな声で指示を仰ぐ。


隊長「...お前と女賢者は反乱軍に迎え」


帽子「...キャプテンは大丈夫なのかい?」


隊長「まかせろ、絶対になんとかしてみせる」


女賢者「...任せましたよ」


隊長「衛兵が扉を開けたら行け...」


女賢者「...」


帽子「...」


衛兵「ここの部屋に姫がいる! 今扉を開けますね!」


──ガチャッ

いち早く姫を安全な場所へと誘導しなければならない。

そんな焦燥感が許してしまったのは、逃走者であった。

何が起きたのかわからない、突然この場から去っていった2人に目を丸くする人魚が1人。


人魚「────へ?」
271 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 21:55:45.57 ID:A+drxOym0

衛兵「──どこに行くつもりだっ!?」


隊長「...まて、姫のほうを優先しろ...どうやら重荷に耐えきれなくなって逃げたようだな...腰抜け共め」


衛兵「...くそっ! この忙しいときにっ!」


隊長のその言葉、味方を蔑むことで妙な信頼感を産ませていた。

腰抜け共め、そのような言葉に共感してしまった彼女は納得してしまう。

いやこの場合は納得せざる得ない、真偽を確かめている暇などないからであった。


人魚「な、なにがあったんですか?」


衛兵「反乱軍が来ました! 私たちと逃げましょう!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「──はぁッ...はぁッッ...!」


帽子「...くッ、水中だとうまく走れないな!」


女賢者「我慢しましょうっ! 急いで反乱軍と話をしなければっ!」


帽子「──いたぞッッ!!」


そこにいたのは、衛兵たちに食って掛かる野蛮な者共。

身なりはお世辞にも、良いとは言えない。

それはなぜか、衣服に意識を向かせる余裕がないからであった。


反乱軍1「王国軍めェ! 人魚王を解雇させろォッ!!!」


反乱軍2「貧民の現状を無視しやがって!!」


女賢者「...原因は貧富の不満ってところですね」


帽子「原因がしっかりしてて助かるよ...それより統率者を探そう!!」


反乱軍3「人間がいるぞッ!?」


反乱軍4「王国側のようだ!! 構わずに殺せ!!!!」


帽子「...海中でどこまでいけるか...頼むぞユニコーン...ッ!」スッ


女賢者「ブツブツ..."地魔法"」


帽子は剣を抜き、女賢者は魔法を唱えた。

海底の砂底から大地がめくり上がり、襲いかかる。

その威力は怪我をしない程度に、絶妙に調整されていた。
272 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 21:56:51.36 ID:A+drxOym0

女賢者「...足止めはまかせてください」


帽子「ありがとう! さぁ統率者と話がしたい!!」


衛兵1「な、なにをいってるんだッ!? 貴様ら王国側だろ!!」


衛兵2「反乱軍に耳を貸すな! 人間!!!」


女賢者「混沌としてきましたね...」


帽子「これでいいッ! 戦況を掻き乱して時間を稼げればッ!!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...どこに向かっているんだ?」


衛兵「王国から少し離れた...! あの塔です!」スッ


人魚「──あ、あれ!」


彼女が指さしたのは隔離された塔、その見た目はとても堅牢な造りをしている、

これなら戦火がこちらに向いても一安心と言えるだろう。

だがこの人魚が反応したのはそこではない、目に前に現れた奴に反応したのであった。


クラーケン「──コンドハニガサンゾ...!」


隊長「...またか」


衛兵「く、クラーケン...お前を相手にしている暇はないんだぞっ!?」


クラーケン「オマエニヤラレタアシ、イタカッタゾ」


クラーケン「...コロシテヤル、ゼンインコロス」


人魚「ひっ...」


隊長(見事に治ってやがる...治癒能力持ちか?)


隊長「恨むなよ...先に仕掛けてきたのはお前だからな」


顔つきが変わる、彼の正義とは敵に一切の容赦をしないということ。

殺すまでもないと先程はリリースした、だが向けられた殺意がこの軟体動物を敵として判断させる。

この場にいる護衛対象を狙っていなければ、動物みたいな相手にこのような睨みを効かせることはないだろうに。


〜〜〜〜
273 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 21:57:31.83 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


帽子「はぁッ...はぁッ...」


反乱軍1「この人間...つえーぞッ!!!!」


衛兵1「貴様らァ...人間の分際で王国に歯向かうつもりかッッ!」


女賢者「まずいですね...キリがありません...」


女賢者(私たちは地面から足を離して動くことはできない...)


女賢者(一方で人魚たちは海中を自由自在に...対等に戦えてるだけで凄いというのに...)


帽子「頼む...もう少しだけ頑張ってくれ...私の身体...ッ!」


女賢者「ぐっ..."衝魔法"」


──ガッシャアアアアアアァァァンッ!!!!!

絶妙に調整された魔法、というわけではなかった。

疲労感が隠せない、鎧のみを丁寧に破壊してのではない。

鎧しか破壊できなかった、もうそれほどの力しか残っていない。


衛兵2「──鎧が砕けたッ!!!」


衛兵3「クソォ! 邪魔するなァ!!」


反乱軍2「統率者はまだか!? あいつがいればここを打開できるッ!」


帽子「──女賢者ぁ! 耐えるぞ!!」


女賢者「わかってますっっ!!」


〜〜〜〜
274 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 21:58:33.68 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


隊長「──ッ!」スチャ


──バババババッ

発砲音とは裏腹に、その弾速は申し訳程度のものであった。

水中での弾速は鈍みの極み、その一方でクラーケンの動きは機敏であった。

ここは奴の環境、海洋生物相手に人間が勝る要素などない。


クラーケン「アタラナイ...アタラナイヨ...」


隊長(クソ...水中じゃ速度も威力も期待できない)


クラーケン「──クラエ!!!」


──ヒュンッ!

その音は風を切る音、ではなく海を切る音であった。

鞭のようにしなるクラーケンの足が、なぎ払い攻撃をしてきた。

被弾はしなかったが、その動きで発生した水圧に隊長が吹き飛ばされてしまう。


隊長「──うおおおおおおおおおおッッ!?!?」フワッ


隊長(足が地面から離れ...踏ん張りが効かない...ッ!)


衛兵「大丈夫ですか!?」ガシッ


まるで無重力空間、宇宙で身を投げるとどうなるか。

それ最も近い表現であった、妙な浮遊感で彼は動けずにそのまま吹き飛ばされかける。

その様子を察知した衛兵が素早く泳いで隊長を受け止めてくれた。


隊長「あぁ...助かる」


隊長(はやり、人間ってだけで圧倒的に不利だ...どうする...)


衛兵「まずいですね...」


〜〜〜〜
275 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 21:59:36.77 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


帽子「──ほらほら、そんなんじゃ、止められないよッッ!!!」


──キィンッ カンッ ガギィンッ!!

帽子の華麗な剣撃に、対抗していた者は為す術なし。

一体その細身の身体のどこに、その体力が眠っているのか。

長時間に渡る戦況は、未だに人間にかき乱されたままであった。


衛兵3「こ、降参だ...」


帽子(...統率者はまだかッ!?)


女賢者「──帽子さん後ろっっ!!!」


反乱軍4「──オラァッ!」


──ガギィーンッ!

その音は直撃した音ではなく、弾かれた音。

一瞬意識をそらしたが為に許してしまったその攻撃。

それは魔法によって守られる、だがそれが女賢者の顔色を青くする。


帽子「──ッ!?」


反乱軍4「なッ!? どうなってやがる!?」


帽子(欠片の防御魔法か...助かるが...)


女賢者「──喰らわないで!! 防御魔法が壊れたらあなたはっ!!」


帽子「...やっぱりね、じゃあ気をつけないとねっ!」


彼たちは防御魔法によって、海中での行動を得ている。

それが破れてしまえばどうなるか、ここは海底、すぐさまに浮上など不可能。

呼吸ができなければ待っているのは暗い海、もう二度と攻撃を受けることは許されない。

そんな時であった、ついに目的の人物が現れる。


???「...お前が場を乱している人間か」


帽子「あれはッ!」


衛兵5「──統率者が現れたぞ!!! "アレ"をもってこいッッ!!!」
276 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:02:58.39 ID:A+drxOym0

女賢者「統率者...っ!」


統率者「...お前ら、何がしたいんだ?」


帽子「...聞けッ! 王国側と話し合って、この戦争を終わらせてくれ!」


統率者「...それができんから、実力行使をしているわけだ」


帽子「私がッ! 私が仲介役になるさッ!! だから戦いをやめてくれッ!!!」


衛兵4「貴様、王国を裏切るのかッッ!?」


帽子「黙れッ! 貴様らがやろうとしてることは魔王と同じだ!!!」


帽子「とにかく話を聞いてやってくれ...ッ! 貧富の差の現実をッ!」


全くの部外者である帽子という男、それはまるで当事者のような口ぶりであった。

魚は熱に弱い、この水温以上の熱を見せる偽善者に告げる、それは反乱軍たちの覚悟。


統率者「...お前の熱意は伝わった、だがもう引くことは出来ん!!」


統率者「────お前らッッ!!!! 一斉にかかれェェェッッッ!!!!!!」


女賢者「くっ..."地魔法"」


統率者の号令により、反乱軍は一斉に突撃し始める。

それを阻止しようと女賢者は海底の大地を荒らし、目くらましをする。

だが泳ぎだした反乱軍はもう止まることはない、そんな彼らに用意されたモノとは。


衛兵7「──最終兵器をもってきたぞッッッ!!!!」


帽子「...なんだあの巨大な大砲みたいなのはッ!?」


女賢者「...あれはっ!?」


帽子「知っているのかッ!?」


女賢者「いいえっ! でも、あれからとてつもない魔力を感じますっ!」


女賢者「あれを使われては、どんな魔法でもとんでもないことにっ!?」


帽子「くそッ! なんとしても止めないとッ!」


統率者「恐れるなッッッ!!!! 押し通れええええェェェェェェッッ!!!!」


帽子「────とまれえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」


──□□□□□□□□□□□ッッッッ!!!!!

戦場の轟音は、白に包まれる。

そして海底世界に響き渡るのは、存在しないはずの生物の声。

聞き間違えでなければ、馬の嘶きのような音が聞こえた。


〜〜〜〜
277 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:04:22.91 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


クラーケン「ヒヒヒ...ニンゲンヨワイナァ...」


隊長「クソッ...銃弾が当たらん...」


衛兵「...クラーケンには前々から手を焼かされていましたが...今日は特にですね」


クラーケン「クッチマウゾ...」


隊長(銃器も役に立たん...かと言ってあの巨体相手にナイフや体術は...)ピクッ


隊長(...そうだ、まだこれがあるッ!)


アサルトライフルやハンドガンでは遅すぎる。

そもそもあたったところで致命傷すら与えることはできない。

ナイフも当然だめ、だが彼にはもう1つ選択肢がある。


隊長「...あいつの動きを数秒でもいいから止められるか?」


衛兵「なにか、策があるんですか?」


隊長「一か八かだ...このままジリ貧のままよりはいいだろう?」


衛兵「私が命に変えても止めてみせます...っ!」


長くに渡る戦闘で、彼たちにあらたな信頼が芽生えていた。

どちらにしろここでクラーケンに殺されてしまえば、後ろで隠れている人魚もヤラれてしまう。

自分には策など思い浮かばない、ならばこの赤の他人であるこの男に賭けるしかない。


衛兵「...クラーケン、私が相手だ!」


クラーケン「ニンギョガカテルカナァ...?」


衛兵「──やぁっっっっ!!!!!!」ダッ


──ブンッ! ブンッ! シャッ!

彼女が得意とするのは、突撃型の槍術。

海水の中だというのに、その槍捌きは見事なものであった。

短距離水泳と伴うその攻撃が、クラーケンを思わず怯ませる。


クラーケン「グッ...」


―――シュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ...

そんな危機を感じ取れば、行ってくるのは生物としての習性。

海の水が墨と馴染む、とてつもない精度の目くらましが彼たちを襲う。
278 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:05:52.11 ID:A+drxOym0

隊長(また蛸墨かッ!)


──ババババババッッ

闇雲に墨の中を射撃する。

だがお粗末な速度の銃撃など当たるわけがなかった。


クラーケン「アタランヨ...アタラン!!」


衛兵「...軟弱者のお前が窮地になるとそれを行う、ずる賢い者ということは知っている」


衛兵「私が唯一できる魔法...受けてみろっっ!!!」


衛兵「全ての魔力を...」


衛兵「"属性付与"..."水"っっ!!!」グッ


隊長「──今だッッ!!!」


──ババババババッ

だがこの射撃の真意は別物であった。

闇雲に発射していた訳ではない、クラーケンの行動を誘発させるために行っていた。

あの軟体は銃撃を一度我が身に受け威力を知っている、必ず回避しようとする臆病さを逆手に取った策。

アサルトライフルからの攻撃を避けようと動き回る、それが墨の範囲外へと誘導しているとも知らずに。


クラーケン「────!?」


衛兵「──そこだああああああああああああッッッ!!!!!」ブンッ


隊長(──速いッッ!?)


──グサァッッッ!!!!!!!

彼女の投げた槍は、とてつもない速度。

まるで水と同化したようにも見えた、槍はクラーケンの足の付け根を捕らえ深く地面に突き刺さっている。

砂浜で見せたあの足止めを、この海底でも行なったのであった。


衛兵「──今ですっっ!!!」


隊長「──ッ!」ダッ


クラーケン「クッ...ナメルナァ!!!!」グググ


衛兵「まずい...槍が抜けそうだっ! 急いでっ!!」


隊長(間に合わんッッ!!!)


──□□□□□□□□□□□ッッッッ!!!!!

その時だった、クラーケンに何かを施そうと走り出す。

だが逃げられるかもしれない局面、隊長の背後からとてつもない光が差した。
279 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:07:12.32 ID:A+drxOym0

クラーケン「──グッ!? ナンダッ!?」


隊長「────今だッ! これでも喰いなッッ!!」ピンッ


衛兵(何かを口の中にいれたっっ!! あれが策なのかっ!?)


隊長「...離れろッ!!」


衛兵「──っ!」


―――――――――ッッッッ!!!!

音にならない何かが起きた、彼が蛸の口の中に入れたのは手榴弾であった。

爆発はせずとも、とてつもない衝撃がクラーケンの身体の内部から生まれる。

その魔物の最期は物凄く惨たらしいモノであった。


クラーケン「────」グチャァッ


隊長「...Yuck」


衛兵(破裂...食べさせたのは爆弾だったのか...)


衛兵「...姫様、もうでてきて大丈夫ですよ」


人魚「もう平気...?」


衛兵「えぇ...大丈夫です、クラーケンは仕留めました」


衛兵(あの死に様は、見てないようですね...よかった)


隊長「...悪いが俺は仲間と合流する...状況を乱して済まなかった」


衛兵「...お好きにどうぞ、私はあの塔の中で姫を護衛します」


衛兵「ありがとうございました...乱されたとはいえあなたが居なければクラーケンに殺されていましたから」


隊長「...あぁ」


不貞腐れてはいても、隊長という男に助けられた。

なんとも言えない絶妙な空気感、それを背中に彼は城の方へと向かっていった。


衛兵「...」


〜〜〜〜
280 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:08:23.51 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


統率者「...なにが起きたんだ」


帽子「はぁッ...はぁッ...」


女賢者「はぁっ...はぁっ...あ、あなたの剣...」


帽子「凄い輝いているね...はぁッ...よくわからないけど...」


帽子「も、もう立っていられない...」バタン


女賢者(今のは...もしかして魔法...?)


女賢者(でも帽子さんは魔力をもっていない...もしかして、この剣が...)


女賢者(魔剣の資料は少ない...謎が多いですね...それもユニコーンのだなんて...)


女賢者(深く追求したいですけど...私も体力が限界みたいですね...)


光りに包まれたとと思えば、殆どの者が倒れている。

意識を失っているわけではないが、立つことが困難なようだった。

なんとか立ち上がっているのは統率者という実力者のみであった。


帽子「はぁッ...はぁッ...軍が戦闘不能になっても...まだ闘いを続けるのかい?」


統率者「...それでも、闘う、弱き者たちのためにっ...!」


???「...本当にそれでいいのか?」


立ち上がっているのは彼だけではなかった。

この海の世界を統べる、その王が君臨しておられた。

その面持ちはどこか震えている、先程の光による影響なのだろうか。


統率者「...人魚王」


人魚王「...最終兵器が出たのでな、ついてきてみれば...周りの者は全員倒れてしまっていた」


統率者「...今更、話し合いなど許されないぞ」


人魚王「...許す許されないを一旦置いてくれ」


人魚王「あの光を見て、不思議とこう思った...一度、話を聞かせてくれないか?」


帽子が創り出したあの光、その眩しさが一度己を冷静にさせたのだろうか。

話し合いなどしないと言っていた王が、自らの発言を撤回した。

応じる機会は今しかない、こんな単純なことをなぜ今まで意気地になっていたのか。
281 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:11:37.56 ID:A+drxOym0

統率者「...いいだろう」


統率者「話は簡単だ...貧民街は実在している、しっかり見てくれ...」


人魚王「...」


統率者「知っているか?貧しい者たちは、1日の食い物すらとれない日がある」


統率者「頼む、彼らの...生きる姿を見てくれないか?」


人魚王「...前々から、どうするか悩んでいた」


人魚王「この国民たちが、貧民街の者たちに暴力的な事件に巻き込まれることが多発していた...」


人魚王「私は制裁として、そこを見ないことにした...まるで、餓鬼の仕返しのようだ」


統率者「...こちら側に非があることを、俺は目をつむっていた...更には最愛の妻にケガが起きれば、激怒するのも...」


統率者「...王よ、お互いに見直さないか? この国を」


人魚王「...そうだな、より良い国を作ろう」


──わあああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!

海底に歓喜の雄叫びが轟く、どこにその様な力が残っているのか。

例え立つことができなくとも、彼らは喜ぶことができる。

人も魔物も関係ない、喜べば自然と腹から声を出すことができるだろう。


人魚王「なんだ、お前たち、起きてたのか」


統率者「...ハッハッハッ!」


女賢者「凄い...まるで物語の結末みたい...」


帽子「はは...身体を張った甲斐があったよ...」


人魚王「帽子殿...貴殿の行動に我は心を撃たれたのだ」


統率者「...そうだな、お前があんなに叫ぶからつい喋っちまったよ」


人魚王「貴殿のその優しさ、そしてあの温かい光がなければ統率者を理解できなかっただろう」


人魚王「単純な原因でも、意地になって耳にしなかっただろう」


統率者「...人間に借りができたな」


帽子「はははは! やったね!」
282 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:12:38.68 ID:A+drxOym0

???「Happy end?」


喜びでこの戦場が満ち溢れている。

様々な声がかき乱されているなか、異世界の言葉が聞こえた。

そこにいたのは当然彼であった。


帽子「──キャプテン戻ってたのか!」


隊長「あぁ」


女賢者「今の言葉は?」


隊長「いい結末になったか? って意味だ」


帽子「それはもちろん! そのはっぴーえんどってやつさ!」


衛兵「...ついてきてみれば、凄いことになってますね」


人魚「お父さん!」


人魚王「おぉ、我が娘よ...もう争うことは永遠にない」


人魚王「もう厳重な鍵のかかった部屋にいる必要もないのだ」


人魚「うん!」


隊長「...帽子、やったな!」


帽子「あぁ! やったよ!」


女賢者(...人魚...魔物の国を人間が平和にするだなんて)


女賢者(...これなら...本当にこの世界を平和にできるんじゃ)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「はぁ...疲れたな、ひっく」


当然行われたのは宴である、時はあっという間に過ぎ去っていた。

王や統率者の仲間たちに囲まれ、さらにはお礼を受け取れと要求された。

したがって彼は隊長や女賢者と一緒に飲めずにいた、英雄というものは忙しい。


帽子(お礼なんか、いらないんだけどなぁ...)


帽子(っと...この部屋だっけ)ガチャ


隊長「おう、帰ってきたか」


女賢者「おかえりなさい」
283 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:13:39.88 ID:A+drxOym0

帽子「おや、ふたりとも飲んでないのかい?」


隊長「弱いからな」


女賢者「ですね」


帽子「そうか...しょうがないね」


隊長「だからいまから飲むぞ」


帽子「...へっ?」


女賢者「今日は帽子さんも悪酔いしてもらいますからね」


帽子「げぇ...」


隊長「お前が人魚たちに大量に飲まされるのは予測できた」


隊長「さぁ覚悟しろ」


帽子「まってくれ...もう私は既に飲み過ぎてるんだ」


女賢者「問答無用です」


──ガチャっ

それだけではない、彼を落とすために追加されたのは。

偶然が帽子を追い込む、まさかこの堅物衛兵も酒の魔力には抗えないようだった。


衛兵「失礼します、今日はこの部屋で泊まってくださ...なんだ二次会ですか? 私もまぜてくださいっ!」


人魚「わっ! 楽しそう!」


帽子「はは...どうにでもなれ」


〜〜〜〜
284 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:14:27.12 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


隊長「やりやがったなッッ!!! これで魔王もなんとかなるなッッ!!!!」


帽子「あっはっはっはっはっ!!!! まかせろっっ!!!」


衛兵「ぐすっ...もっと魔法が使えるようになりたいんですっ...」


女賢者「うふふふふ...私が教えてあげますよ...」サワサワ


衛兵「あっ...どこさわっているんですか...」


隊長「...PORNOは許さんッッ!!!!」クワッ


女賢者「うわっ!! ごめんなさいごめんなさいっ!!」


衛兵「きゃぷてんさぁん...」キラキラ


帽子「あっはっはっは!!」


人魚「...地獄だ」


お酒を飲むことが許されなかった人魚の姫。

その言葉通り、この光景は地獄であった。


〜〜〜〜
285 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:15:39.01 ID:A+drxOym0

〜〜〜〜


人魚王「...もういってしまうのだな」


帽子「...そうですね」


帽子(頭痛いし)


隊長「だな」


隊長(二日酔いが厳しいし)


衛兵「本当はもっと一緒に痛かったんですが...」


衛兵(頭痛がひどいし)


女賢者「申し訳ありませんが、時間が迫ってるんで」


女賢者(帰って寝たい)


人魚王「ふむ...せめて、我が妻を一目見てくれ」


人魚「ふわぁ〜あ」


人魚王「コラ、客人の前であくびなどするな」


人魚「ごめんなさい...」


???「ふふ、楽しそうですね」


昨夜の1件の影響で、この場にいる者たちの大体が二日酔いを患っている。

正直言って、帰りたい、だが王様を無碍にすることはできない。

そんな絶妙な感情を抱いていると、透き通るようなキレイな声が聞こえた。
286 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:17:41.78 ID:A+drxOym0

人魚王「調度良かった、あれが我が妻だ」


人魚妃「初めまして、人魚妃です」


帽子「...どうも、お初にかかります」


人魚妃「このたびは多大な恩を...」


帽子「いえいえ、私は正しいとおもった行動をしたまでです」


人魚妃「...あなたのような人が、たくさんいれば良いですね」


帽子「...どうもありがとうございます」


人魚王「ふむ、時間が限られているみたいだな」


人魚王「また、時間があるときに訪ねてくれ、そのときは大歓迎をする」


帽子「ええ! ではまたっ!」


衛兵「帽子さん、きゃぷてんさん、女賢者さん...本当にありがとうございました!」


隊長「...あぁ、またな」


人魚「また会いましょうねっ!」


王室を出るとそこには、大量の衛兵や元反乱軍、そして民間人が並んでいた。

それは海底都市の出口まで続く、未来永劫において忘れることのできない光景であった。

彼らは語り継がれるだろう、人間3人が険悪だったこの都市を和合したことを。


隊長「ん...? あれは」


統率者「...待っていたぞ」
287 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:19:38.35 ID:A+drxOym0

帽子「どうしたんだい?」


統率者「急いでいるようだが...せめて、これだけでも貰ってくれ」


女賢者「これは...?」


統率者「それだけだ、じゃあな! お前らのことは忘れないぞ」


統率者は気を使ってくれたのか、早く去っていった。

彼から渡されたのはボール状のなにか。

これはどこかで見たことのある代物であった。


帽子「なんだいこれは?」


女賢者「...微かに、魔力を感じますね...水属性の」


隊長「貰っておいて損はないだろう」


帽子「...これ、スライムの奴とちょっとだけ似てるな」


女賢者「コレは?」


隊長「あぁ、たしか盟友の証だったか?」


女賢者「これも、魔力を感じますね、水属性の」


帽子「綺麗だな、大事にとっておこう」


隊長「しかし...ここから港町までどのくらいだったか?」


女賢者「......いまのうちに魔法薬と海藻を補充しておきましょうね」


隊長(長距離に備えろってことか...)


帽子「...賢者の塔に戻ったら、大賢者さんたちが出て来るまで寝てようか」


女賢者「賛成ですが、そのまえに買い物が残っています...」


隊長「...はぁ、荷物持ちか」


〜〜〜〜
288 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/11/29(木) 22:20:24.81 ID:A+drxOym0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
289 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:12:20.09 ID:651egkh80

〜〜〜〜


大の大人達が、砂浜で大の字で倒れている。

旅の疲れ、なれない海中、そして陽気なお天道さま。

勝てるわけがなかった、彼らは睡魔という敵に呪われる。


隊長「はぁ...いい日差しだ」


女賢者「正直...動きたくないですね」


帽子「...夕方までこうしてないかい?」


女賢者「...さっさと済ませて賢者の塔のやわらかぁ〜い布団で寝るか、今のままか...」


隊長「...前者だな」


帽子「同感だ」


女賢者「...立てません」


帽子「同感だ」


隊長「ほら、立て」


帽子「やめろ! 無理やり立たせるな!」


女賢者「きゃぷてんさんの鬼...」


隊長「俺は一刻も早く布団で寝たいんだ...」


〜〜〜〜
290 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:13:45.09 ID:651egkh80

〜〜〜〜


女賢者「買いものは済みましたね...帰りますか」


帽子「お、重い...」


隊長「お前、俺をみてもそれを言えるか?」


帽子「...」


女賢者「さぁ、さっさと帰りましょう」


先日の買い物袋はどこかに置いてけぼりにしてしまったようだ。

つまりは全てを買い直した、そんな大荷物を持たされるのは彼らであった。

ようやく賢者の塔に帰ることが許される、その帰路で帽子がつぶやいた。


帽子「そういえば今日で5日目だよね」


女賢者「そうですね...予定通りならあと2日以内で修行が終わると思います」


隊長「...早いもんだな」


帽子「そうだね...それにしても、ここから荒野地帯を抜けるのは大変そうだね」


女賢者「...弱音を吐かないでください、実感しちゃうじゃないですか」


帽子「と、いうか海中だとろくに食べた気しないからもうペコペコだよ...」


隊長「昼食を済ませてから出発すればよかったな」


帽子「いや...それは一昨日と同じハメになるよ」


女賢者「失礼ですね」
291 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:14:36.56 ID:651egkh80

帽子「...この距離、魔法で何とかならないかい?」


女賢者「大賢者様なら、転地魔法を使えるんですが...あいにくですね」


帽子「その魔法はどんなものなんだい?」


女賢者「そうですね、転移魔法の長距離版ですね...転移魔法自体がとても高等な魔法なのですが...」


女賢者「転地魔法は、例えるなら...賢者の塔から塀の都まで一瞬で到着させることのできる魔法です」


帽子「...すごいな」


女賢者「ただし、とても長い詠唱が必要ですけどね」


帽子「ふぅん...私も使ってみたいね、魔法」


帰路の雑談は魔法の話題で会話が弾んでいた。

そんな中、女賢者はそれに関連するある思いを告げる。

それは先程の帽子に関する出来事、海底都市の激戦を沈めた白きあの光。


女賢者「それなんですが...」


帽子「ん?」


女賢者「海底王国でその剣が光輝きましたよね?」


隊長「...やはりソレの仕業だったか」


女賢者「あの光...どことなく魔法に似ていましたね」


帽子「...そうなのかいッ!?」


女賢者「魔剣の研究は進んでいないので確証はできないですけどね」


女賢者「思えば、その剣からは微妙に魔力を感じることが...」


帽子「そうか...ついに魔法剣士にでもなってしまったか!」


女賢者「いえ、だから魔法かどうかは────」


帽子「──なんだか気分が高揚してきたよ!」キラキラ


隊長「...はしゃいでるな、あの荷物をもって」


女賢者「...案外、子どもっぽいですよね」


隊長「...だな」


〜〜〜〜
292 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:15:09.00 ID:651egkh80

〜〜〜〜


帽子「やっと賢者の塔がみえたね」


隊長「...流石に疲れたな」


女賢者「...」


女賢者「...急ぎましょう」


帽子「どうしたんだい?」


荒野地帯、その地平線の先には目的地の塔が見える。

到着は間もなくだが、この遺跡の入り組んだ道のりが彼らの足を阻む。

やっと休息を取ることができると表情を緩めたそんな時だった、ただ1人だけは違っていた。

なぜ急ぐ必要があるのか、それはすぐに分かる。


???「お前が、噂の奴か...」


隊長「──!」スチャッ


その只ならぬ雰囲気に思わず、彼は荷物を捨ててまで武器を構えた。

そこにいたのは至って普通の見た目をした人物が1人。

人間か魔物かはわからないが、その姿だけを見ればやや逞しい男と表現できるだろう。


女賢者「...どちら様で? 魔王軍ではなさそうですが...」


帽子「...」


魔闘士「...俺の名前は魔闘士」


魔闘士「そこの人間...」
293 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:15:34.91 ID:651egkh80










「手合わせ願おうか...」









294 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:16:46.65 ID:651egkh80

隊長「──ッ!?」


──ピリピリピリッ...

空気が張り裂けそうな程の威圧感が発せられる。

その男の名は魔闘士、すでに臨戦状態であった。

一体彼は何者なのか、そしてなにが目的なのか。


帽子「やれやれ、また戦闘か...」


魔闘士「...俺はそいつにだけ用がある、他は邪魔だ失せろ」


隊長「...どうやら俺が目当てのようだな」


女賢者「1対1をお望みのようですが...そうはいきませんよ?」


魔闘士「...手は打ってある」


帽子「...なんだと?」


魔闘士「俺の連れが1人、この塔にいる」


魔闘士「...早く行かないと、大賢者が死ぬぞ」


女賢者「な...ッ!?」


隊長「──俺に構うなッ! 行けッッ!!!!」


帽子「しかしっ!」


隊長「相手の条件を飲むんだッ!」


魔闘士「早くいけ、邪魔だ...」


女賢者「...すみません、きゃぷてんさんっ!」ダッ


帽子「くッ...死ぬなよッッ!!!」ダッ


魔闘士の要望通り、1on1に持ち込まれてしまった。

彼には例の入れ墨が見当たらない、どうやら本当に魔王軍ではない模様であった。

ならばなぜ、この隊長という男を狙うのか。
295 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:17:44.95 ID:651egkh80

隊長「...」


魔闘士「...こないのか?」


隊長「────ッ!?」ピクッ


相手の様子を見てから、動くつもりであった。

しかしそれは出来なかった、それはなぜか。

気がついたときには、眼前に魔闘士が迫っていたからであった。


魔闘士「...遅い」スッ


隊長「──グアァァッ...!?」


──ドガッァァッッッ!!

強烈な一撃、不意打ちでもないというのに真正面から受けてしまう。

その蹴りは凄まじく、人間にしては大柄な彼を吹き飛ばした。

だがそれだけなら話はわかる、隊長が驚いたのはその跳躍距離であった。


隊長「ゲホッ...ゲホッ...ふざけてる...どんな蹴りならここまで吹き飛ぶんだ...」


隊長(まずい...今のでアサルトライフルがどこかに...)


魔闘士「さぁ立て」


隊長「──ッ!」スチャッ


魔闘士「...!」


──ダンッ ダンッ

隊長は牽制程度にハンドガンを仕方なく放つ。

だが魔闘士は動かずにいた、その必要がないと瞬時に理解したために。

そして彼は何かを掴んだ。


隊長「────ッ!?」


魔闘士「...フッ、確かに大した威力だな」


魔闘士「だが、俺には見えるぞ」パッ


──からんからん...

彼が手を開くとそこには。

地面に落としたのは弾丸であった、金で出来た偽物だが差し支えない威力を誇るというのに。

それをわざとらしく地面に捨て落とす、その光景に思わず隊長は息を呑む。


隊長「...まるでHollywood movieだな」


〜〜〜〜
296 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:18:25.47 ID:651egkh80

〜〜〜〜


帽子「くそッ! 次から次と闘いばかりだなっ!」


女賢者「おしゃべりは後です! それよりも早く...!」


多忙が重なる、だが今回のソレは今までの比ではない。

嫌な予感が彼らの原動力となり、遺跡を駆け抜ける。

そして到着した賢者の塔、その1階には奴がいた。


???「俺様を探してるのかァ?」


帽子「──ッ!」


女賢者「...魔闘士とやらのお連れですか?」


魔剣士「そうだァ...俺様の名前は魔剣士、待ってたぜェ?」


口調に特徴のあるこの男、まるでゴロツキのような喋り方をしている。

名は魔剣士、背中にはその名に相応しい妙な感じのする大剣を背負っている。

この男も、魔闘士と同様にかなりの手練なのかもしれない。


帽子「くっ...!」スッ


魔剣士「おォ...お前も剣士か、しかもその剣...魔剣だなァ?」


魔剣士「奇遇だな、俺様も魔剣だぜェ?」スッ


女賢者「な...なんて魔力の量なんですか...その剣...っ!」


女賢者(帽子さんの魔剣...ユニコーンの比にならないっ!?)


魔剣士「...俺様は、お喋りより闘いのほうが好きなんだ」
297 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:19:40.07 ID:651egkh80










「いくぜェ?」









298 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:20:20.81 ID:651egkh80

帽子「──うっ...!?」


──ピリピリピリッ...

剣を構えただけだというのに、すでに冷や汗が止まらない。

やはりこの男、魔闘士と同等の実力者であることが伺える。


女賢者「────帽子さん前ですっ!」


帽子「──えっ...」


魔剣士「...おせぇよ」


魔剣士「──斬り上げェェッッッ!!!」ブンッ


―――ザシュッッッッッ!!!!!!

あんなに大きなエモノを持っているというのに。

その速度は、何も荷物を持たないでいる帽子の全力疾走よりも遥かに速い。

決して目で負えない速度ではない、だがその予想外な疾走が帽子の意識を鈍くさせていた。



帽子「──なっ...」


──バキィィィッ...

疾走からの剣撃、帽子は腰から肩にかけて斬り上げられた。

そのはずだった、本来なら胴体が離れていてもおかしくない威力。

だが聞こえる音は肉が離れる音ではなく、何かが割れる音であった。


帽子「...グッ!?」


女賢者(あれは防御魔法...そうかあの瓶をまだ持っていたんですね)


帽子(今ので壊れたっぽいなぁ...)


魔剣士「...結構ずるいことするんだなァ」


魔剣士「ブチ殺されても文句いうなよ?」


帽子「...悪かったね、もう油断しないよ」


〜〜〜〜
299 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:21:08.71 ID:651egkh80

〜〜〜〜


隊長「はぁッ...はぁッ...!」


魔闘士「...どこへ隠れた」


隊長(...!)ピクッ


ザッ...ザッ...ザッ...

足音が聞こえる、彼は遺跡の遮蔽物で身を隠している。

乱れる呼吸を一瞬にして整え、来るべき時を待つ。


隊長(...)


隊長(......)


隊長(.........)


魔闘士「...隠れても無駄だぞ」


隊長「────ッ!」スチャッ


隊長への牽制、その発言が決め手であった。

その声の聞こえ方から察するに、すぐ近くに違いない。

隊長が物陰から奇襲を行った。


魔闘士「──そこかッ!?」


隊長「────デヤッッッッ!!!!!」


──バキィィィィィィッッ!!!!!!

魔闘士の顔面に拳が決め込まれた。

普通の人間が喰らえば顔面崩壊もあり得るその威力。

だが彼は人間ではない、魔物であった。


隊長「なッ...!?」


魔闘士「...いい拳だ、人間にしてはな」


隊長「──ッ!」スチャッ


──ダンダンッ!

効果が得られないとわかれば、すぐさまに対応を変化させる。

先程は無力化されてしまったが、この距離ならいけるかもしれない。

隊長は急いでサイドアームのハンドガンを抜き、撃ちこんだ。
300 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:22:08.31 ID:651egkh80

魔闘士「あたらんぞ」スッ


隊長(...避けただとッ!? この距離でかッ!?)


隊長「...クッ!」スッ


魔闘士「刃物か...それも無意味だ」ガッ


隊長「──なッ!?」グググ


今度はナイフを取り出すが、不発に終わってしまう。

彼の腕が魔闘士によって簡単に抑えられてしまった。

その腕力は、筋骨隆々であるこの隊長の力を寄せ付けなかった。


隊長(全く動かせないッッ!!!)グググ


魔闘士「...復讐者を倒したと聞いて期待をしていたが...興ざめだ...」スッ


―――ドガアアアァァァァァァァァァアンンッッッ!!!!!!

おそらく利き腕ではない左腕から繰り出した。

その拳力は凄まじく、先程蹴飛ばされたときよりも身体が吹っ飛ばされてしまう。

吹き飛ばされ着地した、その余波により遺跡の一部が瓦礫へと変貌する。


隊長(だ、だめだ...強すぎる...)


隊長(一旦、隠れなければ...)ズルズル


魔闘士「チィ...また隠れたか...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「...あっけねェな」


帽子「はぁッ...はぁッ...!」


女賢者「っ...っ...!」


魔剣士は別に特別なことはしていない。

ただ、剣を振り回していただけ。

だがそれだけで、帽子と女賢者の息を上がらせていた。


魔剣士「...そんなんで良く、魔王軍に喧嘩を売ったなァ」


帽子「...私にはやることがあるんでね」


魔剣士「...何が目的かしらねェけど、このままじゃここで死ぬぞ?」


帽子「...死ぬわけには...行かないんだッ!」

301 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:23:18.98 ID:651egkh80

女賢者「けほっ..."衝魔法"」


──ゴォォォォォォォ...!

空気中に現れたのは、衝撃を纏う魔法。

だがそんなモノ、魔剣士の前では唯の的に過ぎなかった。


魔剣士「...おらよォッ!」ブンッ


――――スパッ...!

剣から放たれた気のようなモノが、彼女の魔法を真っ二つにする。

その光景が彼らの絶望感を強くする。


女賢者「う...そ...」


帽子「魔法を...斬っただと...?」


魔剣士「"竜"の魔剣を甘く見すぎだァ...お嬢ちゃん」


女賢者「────っ!?」


──ぞくっ...!

魔剣士が彼女に向かって睨みつけた。

魔法を使ったわけではない、ただ本当に睨んだだけ。

それがキッカケであった、彼女を支える精神力が斬られてしまった。


女賢者「うっ────」フラッ


帽子「女賢者さんっ...!?」


魔剣士「気絶したか、まァ仕方ねェよな...しっかし、お前の魔剣」


帽子「...っ!」ビクッ


魔剣士「全然活かせてねェな...死ぬ前に教えてやるよ」


帽子「...なんだと?」


魔剣士「俺の教え方はひどいぜ? 魔剣を活かすまえにやっぱ死んじまうかもなァ!」ダッ


帽子「──速いっ!?」


魔剣士「オラッ! 前方だァ! 剣構えろオォォォ!!!」


帽子「──クソッ!! 舐めやがってッ!!!」スッ


──キィンッ カンッ ギィィィィンッ!!!!

大きな動物ですら斬り伏せれそうな大剣、それに対峙するのは刺突用の細い剣。

とても不安定な鍔迫り合いが発生する、絶対的に後者が不利だというのに耐えれている。

これが魔剣同士の争いというモノであった。
302 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:24:12.22 ID:651egkh80

魔剣士「オラオラオラオラァァ!! 魔剣ってのはなァッ!」


魔剣士「もっと豪快に使うんだよォッ! ちょっとやそっとのことでは折れねェからなァッ!」


帽子「──くそッ! お喋りは嫌いなんじゃないのかッ!」


──キィンッ! ガチャァッ!!! ガギィーンッ!!!

激しい剣撃同士が牙を向き合う。

だがそれを可能にしているのは、彼側の配慮であった。


魔剣士「お喋りできる程に手ェ抜いてんだァ! 退屈なんだよォッ!!!」


帽子(くっ! 私が交えられる程度まで手を抜いてるのかっ!)


魔剣士「──おらよォッッッ!!!!!!」ブンッ


帽子「しまっ────!」


――――ガギイィィィィィィィンッ!!!!

この男、口調とは違いかなり曲者である。

力加減を調節する、その細かな動作が可能にしたのは弾き落とし。

帽子の魔剣は吹き飛ばされてしまった。


魔剣士「...ホラ、拾いに行けよ」


帽子「...どこまでも下でに見やがって」スッ


魔剣士「よォし...行くぞォッ!!!!」


帽子「...その油断、後悔させてやるからなッ!」


〜〜〜〜
303 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:25:26.65 ID:651egkh80

〜〜〜〜


隊長「くっ...くっ...」ズルズル


隊長(くそっ...勝てる策がみつからん...!)


瓦礫の中を匍匐前進で進んでいく。

こうすることで身を隠し、一時的にこの場を凌ぐ。

それしか行えない、今の隊長に魔闘士を倒せる手段などない。


魔闘士「...どこだ」


隊長(まずい...魔闘士がすぐ近くにいる...)


ザッ...ザッ...ザッ...ザッ...

息を潜め、時が流れるのを待つ。

すると聞こえたのは足音、それが徐々に離れていく。

危機はさった、そんな隊長は息苦しい瓦礫の中である物を発見する。


隊長(アサルトライフル...!)


隊長(拾いに行きたいが...それだとここから出なければならない...)


隊長(...身を隠せる場所は見当たらない、奴が完全に離れたら向かうか)


ザッ...ザッ...ザッ...

耳をすませば、まだ魔闘士の気配を感じることができる。

遺跡の残骸を隠れ蓑にするしかないこの現状。

この世界に来て一番のピンチ、一体どうすればいいのかを彼は考え尽くす。


隊長(どうするッ...どうやってあの怪物を倒す...ッ)


隊長(氷竜、暗躍者、追跡者、捕縛者、復讐者、クラーケン...)


隊長(今まで倒した奴らは総じて銃器の威力に驚いていた...)


隊長(だが、今回の魔闘士は格が違う...銃弾が当たる気がしない...)


隊長(...魔闘士の動き、全く目が追いつかん...それに銃弾を素手でつかみやがる...)


隊長(...どうやら遠ざかったようだな、今がチャンスだ...とりあえずアサルトライフルを拾おう)


隊長が瓦礫から身を出し、アサルトライフルを拾おうとした瞬間。

なぜこの男がここに立っている、足音は完全に遠くに向かったはずなのに。


魔闘士「...やはり、ここにいたか」
304 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:26:21.71 ID:651egkh80

隊長「──Jesus...」


魔闘士「残念だったな」


隊長「...遠ざかってると思っていたが」


魔闘士「悪いな...生憎、足は速いのでな」


隊長(ふざけるな...秒速100mとかそんな次元の話になるぞ...ッ!?)


魔闘士「興ざめだ」


隊長「──!」ビクッ


隊長がついに、恐怖心を魔闘士に植え付けられてしまった。

そして隊長は首を捕まれ、身体を持ち上げられてしまう。

その苦しみは、復讐者の時とは比べ物にならない。


魔闘士「フンッ、期待しなければよかったな」


隊長「ガハァッッ...ク、クソォッ...!」グググ


魔闘士「死にぞこないが────」


魔闘士「────」


魔闘士の声が聞こえなくなった。

それは己が死にかけているからであった。

魔闘士の首絞め、彼を仕留められるのはもう時間の問題であった。


隊長(くそ...この世界にはこんな奴らがいるのか...)


隊長「I'm not...ready to die────」


視界が真っ暗になる、どうやら本当に終えてしまっていた。

異世界へと訪れた隊長の冒険はここまで。

彼は魔闘士という男に息の根を止められてしまったのであった。


〜〜〜〜
305 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:27:32.35 ID:651egkh80

〜〜〜〜


???「□□□□、□□□」


???「目を覚ませ」


???「瞳を開けなさい」


──ぱちりっ

謎の声が聞こえる、その指示通りに視界を開くとそこには。

なぜなのか、たった今命を落としたばかりだというのに。

それどころではない、彼は遺跡とは全く別の場所へと佇んでいた。


隊長「...What's」


???「初めまして、異世界の者よ」


隊長「...Who are you?」


???「記憶が混乱しているようだ」


隊長「What are you talking about?」


???「少し、記憶を正してあげよう」ポワン


体長「────ッ!?」ピクッ


(「え、えぇっと...私は少女です...」)


(「私の名前は...魔女よ」)


(「私の名前はそうだな...帽子だ」)


隊長「...あぁ」


(「いたたた...誰か助けてぇ〜」)


(「どこまでもついていきましゅ!」)


隊長「思い出した...」


???「君は、この世界でCAPTAINと名乗っていた」


隊長「...そうだ」
306 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:28:31.34 ID:651egkh80

???「君の行動は、とても素晴らしい」


隊長「...お前は誰だ?」


???「私は神、いえ...神に最も近い存在と言おうか」


隊長「...GOD?」


???「君は今、魔物に殺されかけている...だがまだ死んでいない」


隊長「...」


???「だから、君の奮闘に免じて...1度だけ機会をあげよう」


隊長「...どういうことだ?」


──ぽわぁっ...

優しい明かりが隊長の身体を包み込む。

それだけではない、なにか別の光も入り込んだような。


???「君に1つだけ、魔法を貸してやろう」


???「...神業を受け取るんだ」


隊長「ま、まってくれ...」


隊長「なぜ俺はこの世界にいるんだ...?」


???「...君に幸あれ」


隊長「頼む...教えてくれ...っ!」


???「□□□、□□□□□□」


〜〜〜〜
307 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:30:13.36 ID:651egkh80

〜〜〜〜


隊長「──ガハッ...!」


魔闘士「...驚いたな、まだ息があったか」


死亡したと思われていた、気がついた時には首絞めから開放されていた。

地面にボロ布のように投げ捨てられたこの身体、だがそれは今までのモノとは違う。

なぜだろうか、隊長のここ数日分に渡る戦闘による疲れがとれているような気がする。


魔闘士「トドメを刺してやる...」ダッ


魔闘士が一瞬で間合いに入ってきた。

先程までの隊長ならここでまた蹴り飛ばされていただろう。


隊長「──Eat thisッッ!!」


魔闘士「────グッ!?!?」


──ドスッッ!!

あまりにも鈍い音が鳴り響いた。

隊長は魔闘士にかなり重そうなボディブローを炸裂させた。


魔闘士「...なッ!?」


隊長「──Oneッッ!!」


──ドスッ...!

透かさず隊長は追撃を始める。

再びのボディーブロー、鈍い音が2発目。


隊長「──Twoッッ!」


魔闘士「────ゲハァッ...!?」


──バキィィッ...!

そして軽めのストレート、それは魔闘士の胸元に決まる。

魔物とて身体の構造は人間、そう踏み込んだ隊長は急所であろう左胸を殴る。

そこにあってほしいのは心臓、彼の思惑は的中し、魔闘士は悶た。


隊長「────HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


──バギィィィィッッッッッッッ!!!!

そして最後に放ったのは、渾身の一撃。

フィニッシュブロー、強烈な拳が魔闘士の顔面にぶち当たる。

先程は余裕の表情で受けていたその顔を、思い切り吹き飛ばす。


魔闘士「──グゥゥゥウウウッ...!?」ドサッ


隊長「...ふぅ」
308 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:31:47.88 ID:651egkh80

魔闘士「グッ...人間程度が、調子に乗るなよ」ムクッ


魔闘士「...どうやら先程まで本調子じゃなかったようだな?」


隊長「...」


魔闘士「...面白い」


魔闘士「この魔闘士の業...その眼で確認するがいい────」スッ


──ガシィッッッ!!

気づいたら取っ組み合いをしていた。

お互いの両腕からミシミシと音がなる、とてつもない圧力同士がぶつかりあう。


隊長「────グッ...!」グググ


魔闘士「ほう...これを反応するか...」グググ


隊長「...魔法か?」


魔闘士「残念ながら魔法は得意じゃない...俺はただ、ひたすら早く動いているだけだ」


隊長「...ふざけているな」


魔闘士「悪いが、しゃべる余裕は貴様にないぞ」スッ


隊長「しまっ────」


────ガクンッ!

魔闘士は足をさばいて隊長を転ばせてきた。

取っ組み合いをしている最中だというのに、とても軽やかな足業であった。


隊長「──グッ!?!?」ドサッ


魔闘士「────喰らえッ!」スッ


そして腹部めがけてかかと落としを仕掛けてきた。

これを喰らえば、胴体に深い傷を追うことになるだろう。

なんとか力を振り絞り、横に向けて転がることで回避する。


隊長「──あぶないなッ!」スチャッ


隊長「――――ッ!?」


隊長(な、なんだ...この感覚は...)


──ダンッ ダダンッ!!

回避後はすぐに立膝の状態に、そしてハンドガンを構えた。

その時、妙な感覚が隊長の身体を包み込む、だがそれを気にしている場合ではない。

違和感を覚えながらも彼は発砲する、そして魔闘士はそれを受け止めようとする。

彼の銃弾は再び魔闘士の手のひらに吸い込まれた。
309 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:32:34.56 ID:651egkh80

魔闘士「それは効かぬと────」バッ


──□□□...

弾丸を掴み取ったその手の内から、この音が聞こえた。

それは彼に鳥肌を立たせる、なぜ人間がこの代物を得ているのか。

そしてなぜ自分は、こんなにも激痛を味合うハメになったのか。


魔闘士「────グゥゥゥウウウウウウッッ!? これはッ!?」


隊長(なんだがわからんが、チャンスだ!)ダッ


魔闘士「...しまっ────」


隊長「────ハッッ!!」


──グサ□□□...ッッ!!!

隊長は首をめがけた、そして魔闘士に刺すことができた。

魔闘士は反応が遅れた、が腕を盾にすることで首を守った。

しかしそこにも、あの白い音が付着する。


魔闘士「──ッ!? ...これもかッ!?」


隊長「なんだこれは...?」


魔闘士「グッ、これは...光...なぜ...ッ!?」


先程まで通用しなかった隊長の攻撃、今はなぜだか効果的であった、先程とは何が違うのか。

隊長の頭の中で浮かび上がるのは、先程の神業とかいう代物。

あれは現実だったのか夢だったのかはわからない、だが己の身に何かが授けられたのは確かであった。


魔闘士「────1分だ」


隊長「...?」


魔闘士「悪いが、残された時間は1分だ」
310 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:33:07.49 ID:651egkh80










「その1分で貴様にもう一度地べたで寝てもらう...」









311 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:34:17.72 ID:651egkh80

隊長「――ッ...!?」


その言葉の威圧感、それは脅しではない。

彼はついに本気をみせた、己に危害を産ませるこの男に。


魔闘士「...遅いぞ」シュンッ


隊長「──わかっているッ!」


──バシッ!

気づけば魔闘士は隊長の背後に回っていた。

それに気づいた彼は背面左エルボーを繰り出すが、手のひらで受け止められてしまった。

だがそれだけではない、彼は同時に右手も背面に向けてハンドガンを構えていた。


隊長「──ッ!」スチャ


魔闘士「小細工を...ッ!」スッ


──ダン□□ッ!

ギリギリのところで回避されたが、耳に銃弾のかすり傷を当たることができた。

これは完全に不意打ち、白き音が混じっていなくとも魔闘士に傷つけることができるだろう。


魔闘士「──くッ!?」


隊長「────ハァッッ!!」ドガッ


避ける動作を予測して、隊長は魔闘士に蹴りをいれる。

それは魔闘士の鳩尾に入る、回避行動に気を取られ防御策を取ることができずにいた。


魔闘士「──ゲホッ...!?」


隊長「────ッ!」スチャッ


──ダン□ッ ダン□ッ ダダン□ッ!

軽快な発砲音、それはすべて魔闘士を捉えていた。

鈍い痛みが彼の動きを制限する、銃弾キャッチや回避もすることができない。


魔闘士「──グッ...ッ...!?」


隊長(全弾命中...)


隊長「見えても避けれなければ意味がないぞッ!」


魔闘士「黙れっ...!」ヒュン


──ドゴッォォォッッ!!!!

彼は銃痕の激痛をこらえながらも、隊長の懐に入り込んだ。

そして浴びせるのは信じられない威力の掌打。

防弾チョッキ越しでも感じるその衝撃が、彼の身体を遠くまで吹き飛ばした。


隊長「──ゲハァッ...!?」ドサッ
312 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:35:57.99 ID:651egkh80

隊長「ぐッ...」スチャッ


──ダン□ッ ダン□ッ!

吹き飛ばされたその場所は、衝撃の影響で土煙がこみ上げる。

それが隊長の身を隠してくれた、その中から発砲を行う。


魔闘士「...危ないな」スッ


隊長「...今の感じ、避けられたか」


隊長(...腕ほど足は発達してないってことだな)


距離がなければ避けることが出来ない、距離がなくても弾を掴むことができる。

魔闘士の情報が徐々にあけてゆく、それ故に対処方も徐々にわかってゆく。

完全に隊長のペースが戻ってきている。


隊長(なら...)


隊長(────今だ!)ダッ


魔闘士「──そこかっ!」


魔闘士(──刃物ッ!)


土煙から突如飛び出してきた隊長、その右腕にあるナイフを彼は目視してしまった。

どうやら隊長は魔闘士の胸めがけ、右手でナイフを刺そうとしているようだった。

そう認識してしまった、左手に忍ばせたハンドガンを見逃してしまう程に。


隊長(かかった...!)


──ダン□ッ ダン□ッ!

刃物を蹴りで弾き落とそうと身構えていたら、突如身体に激痛が走る。

如何に武の達人だとしても、初めて見るその武器の性能を完全に把握することができない。

この反則地味た攻撃速度、そして隠密性、それを予測することは極めて難しい。


魔闘士「──貴様ぁ...ッ!?」


隊長の思惑通り、蹴りを入れようとした足に全弾命中させる。

それを耐えきれる者などいない、思わず膝をついてしまった。

その圧倒的な隙を逃す訳にはいかない。


隊長「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!」


──バキィッッッッッ!!!!!!!

強烈なアッパー、それが魔闘士の身体を吹き飛ばすのは簡単だった。

身体が宙に浮いたと思えば、そのまま倒れ込んでしまう。

このまま犯人確保をすることは難しくないだろう。


隊長「──ッ!」ササッ


隊長(よし、マウントポディションを取ったぞ────)
313 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:36:38.66 ID:651egkh80

魔闘士「──どこを見ている...」


倒れ込んだ魔闘士にのしかかり、眉間にハンドガンを構えようとした。

マウントポディション、それが成功していたのなら勝利は目の前であった。

しかしこの男は素早すぎた、気づけば横に手刀の構えをして立ち尽くしていた。


魔闘士「動くな」スッ


隊長「...早すぎるぞ」ピタッ


魔闘士「...詰みだな」


隊長「...」


隊長(この手刀が、本物の刀のように俺の首をはねることは簡単だろうな...)


魔闘士「...死ね」


隊長「──ッ!」


2度目の敗北、今度は完全な調子だと言うのにも関わらず。

殺される、その現実が彼の目を泳よがせる。

その目線の先には腕時計、針がある事実を知らせてくれていた。


魔闘士「...と、いいたいところだが」


魔闘士「時間が過ぎた...また、殺しに来てやろう」


隊長「...」


魔闘士「...名は?」


隊長「...Captainだ」


魔闘士「...そうか、覚えておこう」


魔闘士「──さらばだ...」


魔闘士は影を残すほど素早く移動し、どこかへ消えてしまった。

その時、隊長の身体にも異変が起こる。

常時微かに聞こえていた、白き音が止む。


隊長「...帽子たちと合流せねば」


〜〜〜〜
314 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:37:41.29 ID:651egkh80

〜〜〜〜


魔剣士「...へっ、口ほどにもねェな」


帽子「ぐっ...そぉ...っ!」


魔剣士「これじゃ、その魔剣も可哀想だぜ」


帽子は扱かれていた、魔剣士による剣術の授業に。

だがそれは暴力の限りであった、魔物である彼に追いつけるわけがない。

息が上がる、身体は痛い、もう彼は動けない。


帽子「私は...平和のために...闘わねばならない...っ!」


魔剣士「...頭のなかお花畑かよ」


魔剣士「それができれば、魔王もやってらァ」


帽子「うるさいッ...はぁッ...はぁッ...魔王の政策は平和を求める魔物にも辛いだろうに...!」


魔剣士「...まァ、俺様には関係ねェな、魔王直属の部下でもなんでもねェし」


帽子「ゲホゲホッ...じゃあ君は...なんでここにいるんだい...?」


魔剣士「...さァな、探しものついでに魔闘士に連れられてな」


帽子「はぁッ...くっ...はぁッ...」


魔剣士「...たく、魔王の気が違ってから禄な事になってねェな」


帽子「ッ...?」


魔剣士「...初めて会った時の魔王は、良い奴だったんだがなァ」


帽子「どういう...ことだ...?」


魔剣士「さぁな、クソ爺の痴呆でも始まったんじゃねェの?」


魔剣士「...お喋りはもういい」


帽子「くッ...!」


魔剣士「...その魔剣、寄越せばお前らを見逃してやるよ」


魔剣士「まァ、魔闘士を相手にしてる奴の命は、俺様には保証できねェけどな」


帽子「...ふざけるな」


魔剣士「...あっそ、じゃあ死体漁りでもしてその魔剣を助けてやるか...」
315 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:38:11.87 ID:651egkh80










「じゃあ...死ねッッ!!!!」









316 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:39:09.91 ID:651egkh80

帽子「私はッ...民のために...薄幸の魔物のためにッ...」


────□□□□ッッ...!

光が帽子を包み込む、その発光源は彼の右腕。

ユニコーンの魔剣だ、それは身体だけではなく、言語も白くする。


帽子「□...まだ...□□ッ...死□わけには...」


魔剣士(──この光...まさかッ!?)


魔剣士「へェ...良い線いってるなァ...その魔剣、差詰めユニコーンの代物だろ?」


魔剣士「──みせて...みろやああああアァァァァァァァァッッッッ!!!!!!」


帽子「────いかないんだあああ□□□□□□□□□□□□□□□ッッッッッ!!!!!!」


―――――――ッッッ!!

音にならない鍔迫り合い。

衝撃と衝撃がぶつかり合う音、その余波で賢者の塔の壁が悲鳴を上げている。


帽子「□□□□□□ッッッッ!!!!!!」


魔剣士「へェ...お前キテるぜェッッ!!!!」


帽子「□□□ッッ!!!!」


魔剣士「小細工なしだァ!!! お前を殺してやるよォォォッッッッ!!!!!」


帽子「□□ッッッ!!!!!」


―――ッッ!!!! ッッッッッ!!!! ――ッッ!!!

激しい轟音、それは意識を失っていた者を起こすのには申し分なかった。

この世のものとは思えない光景に、女賢者は戸惑いを隠せなかった。


女賢者「な、なにが起こってるんですか...」


女賢者(目は覚めましたけど...と、とても参加できない...激しすぎる...)
317 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:39:54.51 ID:651egkh80

魔剣士「オラオラオラオラァッッ!!! どうしたァッッ!?」


帽子「□□□□□□□□□□□ッッッッッ!!!!」


女賢者「た、建物がボロボロに...」


女賢者(剣気だけで...魔法のマの字もないのに、この規模の戦いができるのですか...!?)


帽子「□□ッッッ!!!!」


魔剣士「はっはァッ! わりィけど、もう時間がねぇみたいだァッ!」


帽子「...□□ッッ!!!」


魔剣士「これが最後の一撃だァ...てめぇも繰り出してみろォ! できんだろッ!!!」


時間がない、それは本来の意味ではない。

魔剣士は帽子の限界を予期していた、あの戦い方じゃ持たないことを。

だからこそ誘った、本気が出せるうちに全力をぶつけてもらう為に。


女賢者「──まずい! "防御魔法"っっ!!!」


帽子「□□□□□ッッッッッ!!!!!!」


魔剣士「喰らいな..."竜"の一撃をなァッッッ!!!!」


―――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!

お互いの魔剣から発せられるのは、剣の気。

魔法ではない何かが、飛ぶ斬撃が耳を貫く重音を鳴り響かせた。


〜〜〜〜
318 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:40:50.95 ID:651egkh80

〜〜〜〜


隊長「...塔の1階部分が消し飛んでいる...ッ!?」


隊長(帽子達は大丈夫かッッ!?)ダッ


隊長「──帽子ッッ!! 女賢者ッッ!!!」


消し飛ばされた賢者の塔の一部。

激戦が伺える、彼らの安否を確認する為に彼は走り出した。

するとそこにたのは、3人であった。


女賢者「──きゃぷてんさんっ!?」


隊長「──お前はッ...!?」スチャッ


魔剣士「...あァ? 魔闘士はどうした?」


隊長「...撃退してやった」


魔剣士「...へェ...やるじゃねぇか」


隊長「...帽子から離れろ、今すぐにだ」


帽子「ぐっ...あっ...」


魔剣士「へーへー、わかったよ...これ以上なにもしねェッて」


帽子「ま...て...」


魔剣士「...はんッ、"馬"が"竜"に勝てると思うなよ」


魔剣士「じゃあな────」


魔剣士は颯爽と、どこかへ消えてしまった。

それを追うものはいない、今必要なのは応急処置。

倒れ込んだ帽子に治癒魔法を施す彼女が情報を共有してきた。
319 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:41:44.87 ID:651egkh80

女賢者「な、何者だったんでしょうか...魔王軍でもなさそうですし」


隊長「さぁな...それより帽子は大丈夫か」


帽子「あぁ...だが、もう何もやる気はおきないよ...立てやしない」


女賢者「わ、私も...」ヘタッ


隊長「...ほら、おぶされ」


女賢者「へっ、きゃぷてんさんは大丈夫なんですか?」


隊長「お前らよりは大丈夫だ、早くしろ」


女賢者「は、はい...」


隊長「よっと...おい帽子、手をとれ」


帽子「あぁ...ありがとう」


女賢者「私と武器をおぶさり、帽子さんの肩をもつなんて...どんな体力してるんですか?」


隊長「さぁな、俺ももう限界が近い、さっさと布団に入って寝よう」


帽子「と、いうか...ホコリ立ってない2階ならどこでも寝れそうだよ...」


女賢者「私も...恥ずかしながら」


隊長「そうか...じゃあ、そこで我慢してくれ...」バタン


女賢者「──びっくりした...でも...私も...」スヤァ


帽子「正直...どうでもいい...寝たい...おやすみ...」スヤァ


やはり、彼も限界であった。

2階にたどり着くやいなや、倒れるようにゆっくりと意識を失った。

そして彼らもそれに続く、隊長たちの激動の1週間は終わった。


〜〜〜〜
320 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:42:19.46 ID:651egkh80

〜〜〜〜


大賢者「なぁ〜に倒れておるんじゃ...」


隊長「...ん?」パチ


大賢者「おはよう」


隊長「...大賢者か」


大賢者「女賢者も、帽子も死んでるように寝ているのう」


隊長「いろいろあったからな...」


大賢者「ふむ、まぁその話はあとで聞こう」


大賢者「修行はおわったぞ、丁度1週間でな」


隊長(...海底王国をでたときは5日、つまり2日間ここで寝てたわけか)


隊長(...記憶が正しければ、この世界にきてから2週間目か)


隊長「...魔女たちは?」


大賢者「お主らと同じで、どこかで死んだように寝てるわい」


隊長「...とりあえず、一旦集まるか」


大賢者「そうじゃのう...ほれ、女賢者」


女賢者「うぅん...ふぇ...ん?」


女賢者「...だ、大賢者様!」


大賢者「ふむ、大分打ち解けたようじゃのう」


女賢者「す、すみません! 顔洗ってきます!」ピュー


大賢者「...歳相応の女賢者を見るのは初めてじゃ、いいことじゃのう」


隊長「いくつなんだ?」


大賢者「ふむ、引き取って8年...当時は13歳じゃったかから21歳かのう」


隊長「...若いな」


大賢者「...手を出すなよ?」


隊長「...ボケが始まったか?」


大賢者「ほっほっほっ! 帽子を起こしてやるのじゃ」
321 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:43:13.97 ID:651egkh80

隊長「...帽子、起きろ」


帽子「────」


大賢者「...死んでいるんじゃないかのう」


隊長「...帽子、スライムたちに会えるぞ」


帽子「────ッ」ガバッ


帽子「おはよう」


大賢者「うむ、おはよう」


隊長(...現金なやつ)


隊長「...あーそうだ、マガジンに弾を込めないと」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「おはようございます」


帽子「おはよう」


隊長「...まる2日は寝てたぞ」


女賢者「...どおりでお腹の虫が」


帽子「どうしようもない程、お腹減ったね」


女賢者「私は食事の準備をしてきます」


女賢者「...この1週間の事はそこで語りましょう」


隊長「...だな、気になることは山ほどある」


女賢者「...そろそろですかね、ではお二人で水入らずで」スタスタ


帽子「...変に気を使ってくれたね」


隊長「まだ21歳らしいぞ、若いのにしっかりとしている」


帽子「私の1つ下か」


隊長(...こいつもこいつで若いな)


―――ガチャッ!

すると突然、扉は開けられた。

わずか一週間だというのにもかかわらず、懐かしく思えてしまう。

心なしか顔つきが変わった、それでいていつもどおりの彼女たちがそこにいた。
322 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:43:59.88 ID:651egkh80

魔女「はぁ〜...疲れた」


スライム「まだねむいよ...」


ウルフ「ふぁ〜あ...! この匂いは...ご主人っ!」


隊長「おう、久しぶりだな」


ウルフ「♪」スリスリ


スライム「...帽子さんっ!」


帽子「やぁ、見違えたね」


スライム「あなたも? なにか顔つきが変わった?」


帽子「...いや、決心がついただけだよ」


スライム「??」


魔女「...きゃぷてん、久しぶりね」


隊長「...あぁ、どうだったんだ?」


魔女「ふふっ、それは実戦までお楽しみに!」


隊長「...頼りにしてる」


帽子「さて、女賢者さんが食事の準備をしてくれてるし、行こうか」


ウルフ「ご飯っ!」


魔女「...やっとまともなモノを食べれるのね」


隊長「...何を食べてたんだ?」


魔女「...魔法薬を固形化したモノ」


隊長「...ものすごくまずそうだな」


魔女「ものすごくまずいのよ...」


〜〜〜〜
323 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:44:59.62 ID:651egkh80

〜〜〜〜


大賢者「ほっほっほっ、ではまずこちらから話そう」


大賢者「皆は食べながら聞くといい」


食卓を大人数で囲む、皆もの凄い勢いで食らう。

各々空腹の事情があった、食べることに集中せざる得ない。

そんな彼らに大賢者は図らう、彼1人だけが会話を続けてく。


大賢者「まず、ウルフについてじゃ」


隊長「...」モグモグ


大賢者「ウルフには、魔力を体術に活かすモノを教えた」


帽子「と、いうと?」モグモグ


大賢者「魔力で身体を強化したのだ、格闘術はずば抜けているぞ」


隊長「ほう」モグ


ウルフ「わふっ」モグモグ


大賢者「スライムには、補助魔法とスライム固有の能力を強化した」


帽子「ふむ..."水化"とか言うやつかい?」モグ


大賢者「そうじゃ、今のスライムに炎属性や水属性は無意味じゃのう」


大賢者「水化、それは身体を水と同化させることで様々な恩恵を受けれるのじゃ」


スライム「えっへん!」ゴクゴク


大賢者「じゃが、スライム族は自身の属性関係なく風属性に弱いのじゃ、それを気をつけろい」


大賢者「まぁ、恐らく一番成長したのはスライムじゃな、楽しみにしておれ」


スライム「...えっ!? そうなのっ!?」


魔女「う〜ん...私もそう思うなぁ」モグモグ


帽子「すごいな、スライム...」モグ
324 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:45:54.02 ID:651egkh80

大賢者「最後に魔女、彼女は本来の修行に近い強化をした」


大賢者「彼女の属性である、風属性と補助魔法を強化...この3人で一番魔法が使える者は魔女になったのう」


魔女「ふふん!」モグモグ


大賢者「それに、錬金術も習得したから...お主のその武器も思う存分に使えるじゃろう」


隊長「なんだと...それは助かる」モグ


大賢者「特に雷魔法に注目じゃな、期待しておれ」


魔女「だってさ!」モグ


隊長「あぁ、頼りにしている」モグモグ


彼女らの修行の成果、それはかなりのモノであった。

場の雰囲気はかなり明るいもの、だがどうしてもそれを変えなければならない。

食事を一旦やめ、帽子は真剣な声色で話を振った。


帽子「...では、こちらで起きたことを話そう」


女賢者「...そうですね」


大賢者「...何が起きたんじゃ?」


帽子は、この1週間に起きたすべて語った。

それはあまりにも、沢山の出来事であった。


大賢者「...なるほどな」


魔女「そんなことがあったのね...」


スライム「...」


ウルフ「くぅーん...」
325 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:46:48.97 ID:651egkh80

大賢者「...分かる範囲で順に答えよう」


大賢者「まずその剣はその通り、"魔剣"じゃの」


帽子「魔剣かぁ...」


大賢者「残念じゃが、魔剣については強力な剣ということしかわからんのう...」


帽子「...なるほど」


大賢者「...では次に、復讐者が使った"属性付与"という魔法...単純なおかつ、強力な魔法じゃのう」


帽子「どういう魔法なんだい?」


大賢者「簡単にいえば、武器や物に属性をつけることじゃ」


大賢者「剣に炎の属性付与をすれば...その剣に炎が帯びる、そういうことじゃ」


魔女「私も、覚えたわよそれ...とても覚えるのに時間がかかったわ...」


女賢者「え...凄いですね、私には無理だったのに...尊敬します」モグモグモグモグ


魔女「ありがと、きっとあんたもそのうち習得できるわよ」


大賢者「まぁ、魔法を維持させればそれに近いこともできるが、それだと魔力の消費量が凄まじくなる」


大賢者「一方で属性付与なら、一度かけてしまえば数時間はそのままじゃ」


大賢者「魔法で一番魔力を消費させられるのは維持することなんじゃ、だからこそ属性付与の手軽さは強力なのじゃ」


帽子「...なるほど」


大賢者「そして...あくまで仮説じゃが、その魔剣には"光属性"の魔力を感じる」


女賢者「光属性...通りで感じたこともない魔力なわけです」


大賢者「海底王国や、その魔剣士のときに帯びたのは光属性のなにかじゃ」


帽子「...そんな大層な武器なのかこれ」


大賢者「うむ、大事にするがよい...そうすれば自身も強くなる」


スライム「...難しくなってきた」
326 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:48:17.53 ID:651egkh80

大賢者「次で最後じゃ..."魔闘士"と"魔剣士"については宛がある」


帽子「...いったい何者なんだい?」


大賢者「あれは魔王軍ではなく、魔王の息子"魔王子"の付き人達じゃ」


帽子「魔王子...?」


大賢者「じゃが、魔王子は数年前に行方不明になったと噂されておる」


帽子「...もしかして彼らはその魔王子を探しているのか」


大賢者「うむ...そして、もしかしたら魔王子は交友的かもしれんぞ」


帽子「え、なんだって...?」


大賢者「魔王子が失踪した直前に...父の政策が気に入らず、歯向かったと噂もたっている」


大賢者「可能性の話じゃが、魔王子と利害の一致ということで味方にできるかもしれん」


帽子「...魔王の息子となれば、色々と心強いな」


大賢者「...魔王城に向かいつつ、魔王子も探してみればどうじゃ?」


大賢者「そしたら、魔王子に平和的交渉を...とにかく可能性が増えるってことじゃな」


帽子「...そうだね! 探したほうが良さそうだ!」


隊長「それなら、あいつらより先に魔王子を見つけなければな」


帽子「そうだね...魔王子がどんな考えをしているのか置いておいて、彼らがいては交渉する暇もない」


隊長「...どうやら、次の目的が決まったようだな」


ウルフ「がんばるっ!」


スライム「魔王の息子...怖かったらどうしよう...」


魔女「どっちにしろついていくだけよ」


帽子「準備ができ次第、出発だ!」


大賢者「ふむ、では出発時にまた尋ねれおくれ」


女賢者(...ごちそうさまでした)


魔女(どうでもいいけど、この子すごい食べてたわね...)


隊長「魔女、これも複製できるか?」


魔女「できるけど...ってこれは?」


隊長「これは手榴弾だ、爆弾だな」


〜〜〜〜
327 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:49:09.98 ID:651egkh80

〜〜〜〜


大賢者「それにしても、海底の戦争を止めるなんてな」


帽子「あれはさすがに骨が折れたよ」


スライム「なんかすごいことしてたんだね」


隊長「...準備できたぞ」


魔女「おまたせ」


魔女に手榴弾を複製してもらった。

だがその間に帽子は1つ案を持ち出してきた。

それは冒険のしおり、これから先の目的地についてだ。


帽子「キャプテン」


隊長「どうした」


帽子「一度、塀の都に寄ってもいいかい?」


帽子「民になにもいわずに出て行って、心配をかけてると思うんだ」


帽子「...一度、旅を宣言してこないとって思ってね」


隊長「...たしかに、そうとも言えるな」


魔女「それなら、そこで旅の支度をするっていうのはどう?」


帽子「それはいいね、そうしよう」


隊長「それじゃ、きた道を戻るとするか...」


大賢者「まてまて、そこで出番のようじゃな」


女賢者「転地魔法の出番ですね」


隊長(例の魔法か...)


隊長「...では、頼む」


帽子「...大賢者様、本当にありがとうございました」


大賢者「いいんじゃ、いいんじゃ」


大賢者「皆がいなければ、死んでいたし...女賢者も成長しなかったじゃろう」


女賢者「...帽子さん、きゃぷてんさん...どうかご健闘を」
328 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:49:52.95 ID:651egkh80

大賢者「...復讐者の言葉が本当なら、まだ時間があるようじゃな」


大賢者「魔界に突入するための準備をしっかりするんじゃぞ...」


帽子「えぇ、問題は魔界の戦闘がどれほどのものか...」


大賢者「大丈夫じゃ、魔剣士や魔闘士より強い者はそういないはずじゃ...」


大賢者「それに打ち勝ったのなら、きっと魔界でも勝てる...」


大賢者「...話が長くなってしまった、では気をつけるのじゃぞ」


隊長「あぁ...また会おう」


帽子「さらば...」


魔女「...この恩は忘れないわ」


スライム「がんばってくるよ!」


ウルフ「バイバイ!!」


大賢者「..."転地魔法"」


隊長たちが光にまみれる。

光が消えると隊長たちも消えていた。

魔法が彼らを遠くまで運んでくれた。


大賢者「...頼んだぞ」


女賢者「ご達者で...」


大賢者「ところで、1階を修理せねばじゃのう...」


女賢者「げぇ...」


〜〜〜〜
329 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:50:35.01 ID:651egkh80

〜〜〜〜


隊長「ここは...」


気がつくと、彼らは草原に足を踏み入れていた。

見覚えがあるここは、草原地帯。

大賢者の魔法が、確かに彼らを運んでくれた。


帽子「すぐそこに塀の都があるね」


スライム「わたしたちはどうしよう...」


隊長「...お前たちはここで待機しててくれ」


帽子「悪いね...ここは魔物への偏見があるんだ」


ウルフ「わんっ!」


魔女「はいはい、早く戻ってきてよね」


隊長「あぁ...なにか欲しい物はあるか?」


ウルフ「おかしっ!」


スライム「お水っ!」


魔女「うーん...あっ、錬金術に火種と紙がいるの」


隊長「そうなのか」


魔女「一応今もある程度あるけど...予備も買っておいて!」


帽子「うん、わかったよ」


隊長「...ではいってくる」


〜〜〜〜
330 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:51:28.09 ID:651egkh80

〜〜〜〜


門番1「止まれ」


門番2「...この前の奴じゃないか」


相変わらず、門番の2人は隊長を呼び止める。

だがそこにはもう1人いる、その彼は帽子を脱いだのであった。


隊長「...」


帽子「いや、私だ...通してくれないか?」


門番1「──お、王子様!?」


門番2「いままでどちらに...まさか、そいつに連れさらわれていたのですか!?」


帽子「違うよ、彼は私を護衛してくれていたのさ」


門番2「し、失礼いたしました...」


帽子「いや、勝手にいなくなった私に非がある...」


帽子「悪いが、通らせてもらうよ」


門番1「はっ! どうぞお通りください!」


隊長「...本当に王子だな」


帽子「いや、今は帽子だよ」


〜〜〜〜
331 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:52:41.84 ID:651egkh80

〜〜〜〜

帽子「──な、なんだこれは...!?」


人混みは前回きた時と同じだが、明らかに様子がおかしい。

街には、魔物に対しての掲示物が散乱されていた。


隊長「こんなに魔物は恨まれているのか...?」


帽子「...魔物死すべし、騎士団が魔物駆除作戦決行、根絶やしにしろ...なんて物騒なことを書いているんだ」


隊長(何だこの街...なにか違和感...雰囲気を感じる...)


隊長(そうだ...これは神と名乗る者の────)ピクッ


隊長「──帽子をかぶれ!」


帽子「──ッ!」サッ


町民1「貴様ら、よそ者だな...これを読めッッ!!」グイッ


帽子「これは...聖書?」


この世界にも宗教は存在する。

しかしこの宗教の教え、昔から魔物を悪く扱うモノであった。

それがこの都の魔物嫌いを助長させてしまったのか。


隊長「まさか...これを読んでか...?」


帽子「い、いや...聖書自体は昔から読まれていたさ...この都にもある程度は浸透していた」


帽子「確かに、魔物を悪く書かれていたけど...ここまで煽られるようなはずでは...」


帽子「これではまるで...」ピクッ


そこで、ある張り紙が目に入る。

その内容はこの都の王の謁見を伝えるものであった。

なぜ今になって昔から読まれていた聖書に煽られてしまったのか、答えはこの国の者に聞くしかない。


帽子「...」


隊長「いくぞ...」


帽子「あ、あぁ!」


〜〜〜〜
332 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:53:50.96 ID:651egkh80

〜〜〜〜


帽子「間に合った...」


隊長「あぁ...どうなっているんだ...?」


広間にたどり着いた、そこは人だかりでとても進む事はできない。

そして中心の櫓に存在するのは当然彼の父であった。

これを王と呼ばずになんと呼ぶのか、彼はついに発言を行う。


王「妻は...私の優しい妻は...庭にケガをしている魔物を見つけて...癒してあげていた...」


王「当時の私は魔物に嫌悪感をもっていなかった...とても微笑ましいとおもっていた...」


王「なのに...魔物は恩を仇で返した...!」


王「私の妻は...憎きことに、魔物に殺された...」


王「...赦されることではいッ!!」


町民1「そうだそうだ!」


町民2「魔物を根絶やしにしろッッッ!!」


町民3「殺せッッッッ!!! 魔物を殺せッッッ!!!!」


王の言葉に煽られて、町民たちは興奮してゆく。

父の言っていることは事実ではないかもしれない、帽子はそれに怒りを感じ始めていた。

なぜ決めつける、謀殺したのは魔物ではないかもしれないというのに。


帽子「ど、どうなってるんだ...ッ!?」


隊長「落ち着け...」


王「...そして、私の最愛の息子...」


王「それも行方不明に...きっと魔物の仕業であろう...」


町民4「なんだって!?」


町民5「やっぱり、魔物は信じられん...」


帽子「待て、私はここに────」ダッ


隊長「──ッ!」ガバッ


あらぬ発言に、帽子が声を上げようとした。

それを隊長が抑える、ここで動いてはいけない。


帽子「ど、どうして止めるんだッ!?」


隊長「今注目をされたら、何が起こるかわからん...ともかく抑えろ...」
333 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:54:42.13 ID:651egkh80

王「そして私は...神から啓示を頂いた...魔物を根絶やしにしろと...」


王「私は決断した...城の兵士たちで騎士団を作成し、魔物を駆逐することを...」


王「彼らたちなら草原地帯一辺を駆逐してくれているだろう...その神の力を得た装備を持つ彼らなら」


帽子「...ッ!」


隊長「...」


隊長(まるで悪質なCult...読み手の曲解だ)


帽子「く、狂っている...こんなもの...まるで神の狂信者だ...」


隊長「...」


さすがの隊長も、冷静いられなくなりそうだった。

しかし、王の一言でふたりとも青ざめてしまう。

それはなぜなのか、騎士団と呼ばれる者たちが影響していた。


王「──そして今日! 騎士団が帰ってくる!」


町民6「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


町民7「祭だ! 祭りを開け!!!」


町民8「穢れた魔物が少しでもいなくなったのね!」


帽子「キャ、キャプテン...?」


隊長「ッ...!?」


帽子の顔が真っ青になる、隊長も硬直してしまう。

騎士団は草原地帯の魔物を駆逐した、ならば彼らはどこにいるのか。

彼らはどこからこの都へ帰還するのか、それは魔女らがいる草原地帯である。


帽子「──も、戻るぞ!!!」


隊長「──あ、あぁ!」


彼らはきた道を戻ろうとする、だが時はすでに遅かった。

後ろを振り返れば、そこには甲冑を着た者たちが行進をしていた。

そして、先頭のリーダーと思わしき人物が王に向けて発言する。


王「おぉ! 騎士団よ、よくぞ戻ってきた」


騎士団長「はっ、募る話はありますがまずはこちらを御覧ください...」


隊長「──なっ...」


帽子「あああああ...」
334 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:57:13.73 ID:651egkh80

騎士団長「今日、ここに帰還する際に...愚かにも都付近に居座っていた魔物を捕らえました」


指示通りに動いてる騎士団の中から、囚われている者が3名。

その顔は知りたくないほど知っていた、似合わない鎖でつながった首輪をしていた。

一体なぜ、賢者の修行を終えた彼女たちがこうも簡単に囚われているのか。


町民9「お、おい...魔物を連れてきて大丈夫なのか...?」


騎士団長「ご安心を...神のご加護を頂いている...魔物など怖くはない」グイッ


スライム「いたいっ...」


魔女「放しなさいよ!」


ウルフ「がるるるるるる...」


魔女、スライム、ウルフは囚われの身に。

首輪を繋がれそれを引っ張られているその姿など見たくもなかった。

なぜ彼女たちは魔法を使わないのか、なぜか光り輝いている槍を突きつけられているからなのか。


帽子「──キャプテン! はやくなんとかしなければッッッ!!」


騎士団1「黙ってこっちにこい!!」グイッ


魔女「きゃっ────」


──ドサぁっ...

乙女の悲痛な叫び、婦女暴行が彼の逆鱗に触れる。

だがまだ彼は動けない、その現実味のない光景が足を縛る。


隊長「は...?」


帽子「──キャプテンッッッ!!!」


ウルフ「──はなせっっ!! はなせって言ってるだろおおおおぉぉっっ!!」


彼よりも早く動いたのは、同じく囚われている狼。

魔女が虐げられたことをきっかけに、ウルフの感情が爆発する。

だが抵抗虚しい、首輪が彼女を犬にしてしまう。


騎士団2「うるさい犬だ...」グイッ


ウルフ「ひっ────」


帽子「──キャプテンッッッ! おいッッ!」


──バキィッ!

ウルフのお腹はそんな音をたて殴られた、隊長のモノに比べれば生ぬるすぎるそのパンチ。

それが彼女の目元に涙を溢れさせる、その光景が嫌という程視認できてしまった。


ウルフ「ぁ...ぅ...」
335 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:58:14.91 ID:651egkh80










「た...たすけて...ごしゅじん...」









336 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/01(土) 23:59:44.03 ID:651egkh80

その声は誰にも回りにいるギャラリーたちには聞こえなかっただろう。

だが消えゆくような声は、隊長にはしっかりと聞こえていた。

感情が爆発する、ようやく彼も硬直の仮面を剥ぎ取ることができた。


隊長「────ッ」


隊長「...ウルフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ!!!!!」


声を荒げながら野次馬を押しのけて、見世物と化している場所に特攻する。

街人たちがざわめく、そしてその場から離れようとして視界が晴れてゆく。


町民10「な、なんだ!?」


町民11「きゃぁあああっ」


魔女「...キャプテンっ!?」


スライム「帽子さんも...っ」


ウルフ「ご...ごしゅじん...」


騎士団長「...魔物の肩を持つ者か? 捕まえろ」


隊長の目の前に数十人の騎士団が現れた。

だがそれが何だというのか、彼は隊長である。

これまで様々な障害を押しのけてきた、あまつさえは人殺しのプロでもある。


隊長「────帽子ッ!!!」


帽子「わかってるッッ!!!」


隊長「──いけッッ!!」


帽子「あぁッ!!」ダッ


──ガキィィィイッィィンッッッ!!!

隊長は甲冑越しにストレートを決め込む。

拳に鈍い痛みが走るが、今はそれどころではなかった。


騎士団1「うわあああぁっっ!?」


騎士団2「なんで馬鹿力だ...こいつも魔物か!?」


騎士団3「お前ら、剣を抜け!!」


隊長が一人で騎士団を陽動し、帽子を魔女たちを助けにいった。

人間業とは思えないその暴れっぷりに騎士団は慌てふためく。
337 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:00:58.11 ID:t/n958LI0

騎士団長「王よ、こちらに避難を...」


王「あ、あぁ...」


騎士団長は帽子を察知し、王を避難させる。

その間に帽子が彼女たちに接触した。


帽子「──大丈夫かッ!?」


スライム「帽子さんっ...ごめんなさい...」


帽子「話は後だッ!」


魔女「首輪を外して! まともに動けないわっ!」


ウルフ「そ...そいつが...っ!」


騎士団4「...鍵は渡さんぞ!!」


帽子「クソッッッッ!!!!!」スッ


──キィンッ! カチャッ!

騎士団と帽子の剣劇が始まる、だがその優劣は明らかだった。

この程度の騎士なら簡単に勝てるだろう、そのはずだった。


帽子「────逃げるなッッ!!」


騎士団4「時間稼ぎをすれば、お前の仲間などすぐに...」


帽子(このままじゃ時間がッッッ...!!)


時間を稼がれてしまえば、状況は不利になる。

光を放つ槍がコチラに向いている、そして徐々に距離を詰めてきている。

槍兵がこの剣劇に参加されては、どう考えても帽子が負けてしまう。


隊長「──帽子ッッ!!」


帽子「────ッ!?」


隊長「待ってろッ...!」


──ガッッッ!

騎士の剣をアサルトライフルで防御する。

彼のその眼差しは、すでに騎士団に向けていなかった。


騎士団1「──オラァッッ!!!」ドカッ


──ガチャンッ...!

だがよそ見は禁物、いくら帽子の様子が気になるからといえ。

騎士団の1人が彼のアサルトライフルを蹴飛ばした。


騎士団1「死ね!!!!!!」
338 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:02:12.27 ID:t/n958LI0

隊長「──ッ!」スチャ


─ダンッ!

彼にはもう1つ武器がある、むしろこちらのほうが恐ろしい。

手のひらサイズのその武器、その視認性の悪さと威力が相まる。

騎士団の持つ剣がハンドガンの射撃により弾かれる。


騎士団1「ぐっ...剣が吹っ飛んだだと...」


隊長「──どけッッ!」ドカッ


騎士団1「うああっっ!?」


騎士団2「なんて力だッ!?」


隊長は騎士たちに捨て身のタックルを浴びせる。

すると見世物広場と化している方向への視界が開く。

そのまま彼は僅かな隙間へ飛び込んだ、そして構えたのは。


隊長「────ッ!」スチャ


──ダンッ ダンッ ダンッ!

帽子にはその光景がスローモーションで見えていた。

ありえない、あの小さな武器から発射される鉄のようなモノがこちらに。

その軌道にはブレがない、とてつもない精度を誇っていた。


帽子「なッ...!?」


騎士団4「──うわっっ!?!?」


──チャリンっ カラカラカラ...

本当に僅かな隙間からあの音速で鉄を飛ばす武器を構えてた。

1秒も経っていない、その時間で照準を合わせていた。

それは奴の篭手を捉えていた、篭手ごと弾き飛ばされた鍵が帽子の足元に転がる。


帽子「──みんなッ!」ガチャガチャ


ウルフ「げほっげほっ...」


魔女「いたた...」


スライム「うぅ...ありがとう」


帽子は一番ぐったりしているウルフを背負う。

槍兵は愚か、騎士団の多数は状況を悪く思ったのか。

少し距離を置き始めていた、逃げるなら今しかない。
339 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:02:52.83 ID:t/n958LI0

帽子「...逃げるぞッ!」


スライム「う、うん...っ!」


魔女「──わかったわっ!」


2人ともすぐに走りだそうとした。

その時であった、肝心の人物が合流していない。

飛び込みからの射撃を行えば、その身体は無防備になる故に。


騎士団5「いいかげんにしろ!!!! この化け物め!!!!」ガシッ


隊長「くッ...!?」


騎士団6「全員でのしかかれ!」


魔女「──きゃぷてんがっ!!」


帽子「────そんなッ!?」


隊長は完全に拘束された。

帽子たちは立ち止まり、彼を助けようとする。

すると彼は吠える、その自己犠牲が帽子を惑わす。


隊長「俺に構うなッッッッ!!!!!!!!!!!」


騎士団7「そいつらも逃がすな!!!!!」


騎士団8「処刑しろッ...!!」


帽子「──くッ...行くぞッッッ!!」


魔女「待ってよっ!!! あいつが死んでもいいのっ!?」


騎士団長「逃しはせんぞ...」


気づくと進路には騎士団長が立ちふさがっていた。

時間をかけている暇はない、逃げるか、立ち止まるかの2つ。

その2つの選択肢が帽子を悩まさせる。


帽子「くッ...」


魔女「帽子っ! どうすればいいのっ!?」


隊長「──いけえええええええええッッッッ!!」


騎士団長「貴様ら...覚悟しろ」


スライム「帽子さんっっ!!!」


帽子が選択を迫られ軽く混乱する中、耳元で声が聞こえた。

忘れてはいけない、仲間の大切さを思い出させる一言。
340 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:03:20.12 ID:t/n958LI0










「ごしゅじんを...たすけてあげて...」









341 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:04:11.66 ID:t/n958LI0

帽子(──あぁ、彼はいつもすぐに決断してくれていたな...)


帽子(キャプテン...君はすごい...)


帽子「──殺すなッ、いけッ!!」


魔女「──"雷魔法"」


──バチバチバチッ...!

稲妻が彼を拘束している騎士たちにぶちあたる。

その雷は仲間を助けたいだけである、威力は絶大でいても殺傷力はなかった。


騎士団6「うわああああ!?!?」


騎士団7「魔法だ!! 魔物の仕業だ!!」


騎士団8「皆の者! 槍を...槍兵はどこに行ったッ!?」


帽子「スライムッッ! ウルフをッッ!!」ポイッ


スライム「──ウルフちゃんっ!」ダキッ


なかば強引にウルフをスライムに向けて投げる。

彼も助太刀しなければならない、あの大切な異世界の男を。

だから、目の前の障害を斬り伏せなければならない。


騎士団長「どこの馬の骨かしらぬが...王に恥をかかせた罰だ」


帽子「馬の骨にめちゃくちゃにされてるのは誰だろうねッッ!!!」


──ガギィィィィィィインッ...!

大男と華奢な男の鍔迫り合いが始まる。

体格では圧倒的に帽子が不利だが、なぜか帽子が圧倒していた。

それは、ユニコーンの魔剣が彼に力を与えているからであった。


騎士団長「ちぃぃ...貴様ら...」


帽子「悪いけど、とっとと逃げさせてもらうよ!」


騎士団長「...」


騎士団1「反逆者を殺せッッ!!!」


騎士団2「逃すなッッ!!!! 処刑だッッ!!」


隊長「──魔女ッッ!」


魔女「あんた達...ただじゃ置かないんだから...!」


──バチバチバチ...

魔女の周りに電気のオーラが纏う。

感情が彼女の魔法を強くする、電撃が人を殺すことなど容易。
342 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:05:16.40 ID:t/n958LI0

隊長「...殺すなッッ!!!」


魔女「わかってるっっっ!!!!!!!!!!」


──バチィンッッッ!

その言葉と裏腹に、雷魔法が最高の威力に達した音が聞こえる。

それには訳があった、なぜ魔女たちが捕まっていたのかが理由であった。


魔女「こいつら! 魔法を無力化してくるのよっ!!」


隊長「...何ッ!?」


魔女「そうじゃなきゃ、簡単に捕まらないわよっっ!!!」


騎士団9「恐れるな! 我々には神のご加護がある!!」


騎士団10「囲め!!! 逃すなッッ!! 槍兵の到着を待てッ!」


スライム「魔女ちゃん!」


魔女(本当は私がウルフに治癒魔法をしたいけど...そんな余裕ないっ!)


魔女「スライム! 私たちが壁になるからウルフを癒やしてあげてっっ!」


スライム「うん!」


隊長「スライムも治癒魔法を使えるのか!」


魔女「そういうのは後! それより前ッ!!」


騎士団10「貴様の罪は重いぞっっ!!!」


隊長「──デヤッッッッ!!!!」


──ガキィィィィィィンッ!!!!

鉄を殴る音が響き渡る。

彼の手はもう血だらけ、アドレナリンが痛みを緩和させていた。


騎士団10「こ、こいつ...鎧越しにこの威力...!」ガクン


隊長「くっ...拳が痛むな...」


スライム「..."治癒魔法"」ポッ


ウルフ「あ...ありがとっ!」


魔女のものと比べると、少し頼りない光がスライムから現れる。

それでもウルフを癒やすのには十分であった。

気力を取り戻した狼は立ち上がった。
343 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:06:48.47 ID:t/n958LI0

騎士団9「突撃しろっっっ!! 何を恐れているっっ!!!」


騎士団11「あの人間、化け物みてぇだっっ!!!」


隊長(...魔法は無力化してくる奴がいるみたいだな、ならば頼れるのは物理的な攻撃だけだ)


隊長「...俺とウルフで突破するぞ! 魔法はだめだッッッ!!」


隊長「ウルフ! 殺さない程度に力を発揮しろッッッ!!」


ウルフ「わかっった!!」


スライム「帽子さんはっ!?」


隊長「あっちだッッ!!! いくぞッ!」


ウルフ「――──ハッ!」


──ダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!!!!!

その蹴りからは、魔剣士が使った剣気のような質量のある何かが飛び出していた。

それが何十回にも及ぶ連続蹴りから発せられる、威力と殲滅力はこの場にいる者の中で一番。

ウルフは立ちふさがった騎士団のすべてを退けた。


隊長「...あとで褒めてやる!」


ウルフ「やった!!」


魔女「行くわよっ!!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


帽子「──よっと」


──ギィンッ カンッ!! ガギィィンッ!!!

細い一撃が、騎士団長の剣を押しのける。

魔剣士と戦い、圧倒的な経験を積んだ彼に勝てる人間などそうそういない。


騎士団長「貴様...やるな...」


帽子「それはどうも────」


──ガギィィィィイィィィィィイィィィンッッ!!!

完全に冷静さを取り戻した彼。

そんな帽子に騎士団長は剣を弾き落とされてしまう。

勝敗はついた、神のご加護とは何だったのか。


騎士団長「くっ...剣が...」


帽子「剣術に神のご加護は効かなかったみたいだね────」
344 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:07:55.98 ID:t/n958LI0

騎士団12「──一斉にやるぞッッ!!!」スッ


騎士団13「者共! かかれぇぇええええいっっっ!!!」


帽子「──ッ!?」


──ザクッ ザクッ! ザクッ!!

帽子は突如として囲んできた騎士団に刺突される。

油断したわけではない、彼だもなかなかの手練であった。

だがその剣撃は不発に終わる、彼らが斬ったのは帽子ではなく水であった。


帽子「...!」ゴボボ


騎士団12「な、なんだ!?、水!?」


スライム「帽子さんっ! 大丈夫っ!?」


帽子(そうか、これはスライムの中か...!)ゴボボ


少し大きくなったスライムが帽子を体内に取り込む。

水に剣を刺してもなにも起きない。


隊長「出来したッッ! ウルフッ!!」


ウルフ「あたたたたたたたたたたっっ!!」


──ダダダダダダダダダダダダッッッ!!!

今度は拳の百烈拳が繰り出される。

当然、そこからは拳気と比喩できるモノが発射される。

それが騎士団を屠るのは簡単であった。


帽子「...ふっ、そういえば初めて全員で闘うね!」


隊長「あぁ!」


魔女「そういえばそうね」


スライム「ふっふっふ...私に物理攻撃は無意味だよ!」


ウルフ「ガルルるるるるるるるるっっ!!」


隊長「...このまま前方を強行突破だッ!!!」


魔女「それなら時間を稼いで! 私に策があるわよっ!」


スライム「あれをやるのね!」


ウルフ「ご主人! 魔女ちゃんを守ってね!!」


隊長「まかせろッッ!!!」
345 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:09:13.15 ID:t/n958LI0

騎士団14「覚悟ッッ!!!」ブンッ


帽子「おっとっとっ! そうはいかないよ!」


魔女を護るべき、仲間の4人がそれぞれ抵抗する。

隊長はハンドガンや体術で、ウルフは卓越した格闘技で。

帽子は剣術で、そしてスライムは己の身を盾にすることで騎士団の攻撃を無力化させる。


魔女「ブツブツ...」バチバチ


魔女「ブツブツ...」バチバチバチ


魔女「ブツブツ...」バチバチバチバチ


――――――バチィンッッッッッッ!!!!!!

そして、彼女は充電し終えた。

今まで聞いたことのないその雷の音は凄まじかった。


魔女「いくわよっっっ!!!!!」


隊長「―――ッ!」


魔女「これでも無効化できるかしらっ! "雷魔法"ッッ!!!!!!」


――――――――――――――!

聞こえない、何も聞こえなかった。

その尖すぎる雷は、すべてを飲み込む。


騎士団14「よけろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


魔女から超巨大な、とてつもない威力の雷球がとび出す。

雷球が通った場所には何も残らなかった、これが賢者の修行を終えた者に許される魔法。

人が巻き込まれた形跡は無し、絶妙な軌道であった。


魔女「...どうだっ!」


隊長(Comicbooksでこんな技を見たことあるぞ...)


帽子「...このまま城の外へッ!!」


そんな様子を影から見張る者が。

先程剣を弾かれてしまった、この国の兵の長。


騎士団長「...」


騎士団1「団長、死者は今のところ出ていません、どういたしますか!」


騎士団長「...アレをもってこい...1人でも捕まえてみせる」


〜〜〜〜
346 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:10:34.49 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


帽子「もう少しで外だ...ってッ!?」


魔女「──あいつらっ!!」


精鋭1「精鋭部隊の名にかけて、貴様らを捉える!!」


精鋭2「この光り輝く槍を受けてみろッ!」


スライム「あいつら!! 魔法を無効化する奴らだっっ!!!」


精鋭3「この槍の前では魔法は使えんぞ...魔物共め...っ!」


隊長「あいつらか...ッ!」


魔女「...だめ、魔法が使えないっっ!!!」


帽子「クソッ!!」


精鋭4「隙ありっっ!!!!」ブンッ


魔女「きゃっ!!!」


帽子「しまったッ!!!」


隊長「まずいっ! 分断されたッッ!!!」


隊長と帽子、魔女とウルフとスライムに分断されてしまった。

それよりもスライムたちの様子がおかしい、どうやらあの槍が封じているのは魔法だけではなさそうだった。

だがそれを伝えている暇などない、隊長にも襲いかかる者が続く。


隊長「──ッ!」


精鋭1「行かせはしないぞ...っ!」


隊長(...殺すことができるのなら、簡単なのだが)


隊長(流石に鎧相手に銃殺は厳しい...やはり頼れるのは体術か)


隊長「──ウルフッッ!!! 俺たちが行くまでスライムと魔女を守ってくれっっ!!」


ウルフ「うんっっ!!!!」


スライム「ごめんね、ウルフちゃん...」


魔女「あいつら...本当に厄介ね」


精鋭2「魔物め...殺してやる...」
347 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:11:29.73 ID:t/n958LI0

スライム(──そうだ!)


スライム「ウルフちゃん! 魔女ちゃん! おねがい!」


魔女「──えっ!?」


魔女(スライムの身体の一部がどこかに伸びている...?)


スライム(どこだ...どこだ...っ!)


ウルフ「あたたたたたたたたっっっ!!!」


──ダダダダダダダダダダダダッ!!!!

ウルフの拳気が精鋭たちを近寄らせない。

だがそれはいつまで持つのか、獣だとしてもその体力は有限である。


精鋭3「これは魔法ではない! 神のご加護は無意味だっ!!」


精鋭4「チィィ、近寄れん...!」


精鋭5「攻撃の合間を狙えッッ!!!」


精鋭6「獣とはいえいずれは体力が尽きるであろうっ!!」


魔女「くっ...ウルフが止まるまでにスライムの策がきまれば...!」


ウルフ「はぁっはぁっ...」


──ダダダダダダダダダダダダッッッッ!!!!

心なしか速度が落ちた、鍛え上げられたといってもまだその身体には慣れていない。

彼女は力を得てからまだ1週間も経っていない、体力のペース配分など熟知できるはずがなかった。


スライム(──これだ!!)


ウルフ「も、もうダメ...っ!」フラッ


魔女(キャプテン達も足止めされてる...もうだめっ...!)


スライム(えぇっと、確か...!)


(ウルフ「これ、どうやってつかうの?」)


(隊長「こうやって、ねらいをつけるんだ」)


(ウルフ「こう?」)


(隊長「そうだ、で、そのひきがねをひけばおわりだ」)


精鋭3「──かかれぇっっ!!!!」


──バババババババババッッッ!!!!

強烈な発砲音、だがその狙いは甘く本来の威力は発揮されなかった。

しかし、その狙いの甘さが人を殺さずに済むものであった。
348 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:12:55.95 ID:t/n958LI0

精鋭3「うわあああっっっ!?!?」


魔女(この音...きゃぷてんの武器の音?)


スライム「うひゃぁ〜...すごい重たいし反動がきつい...」


魔女「──それを持ってこようとしてたのね!」


スライム「なんとかみつけたよ...身体の一部を伸ばして...」


ウルフ「スライムちゃん、ありがとう!」


精鋭1「くそっ...」


隊長「どうやら分断作戦も失敗のようだな」


──ガギィィィィンンッ!!!

分断していた精鋭たち、その武装が徐々に解除される。

帽子の剣術や、隊長の蹴りなどにより弾き落とされた、この場には大量の剣が落ちてる。


帽子「キミの剣もどこかへ行ってしまったよ」


精鋭1「畜生...っ!」


隊長「...よし! このまま門から出るんだッッ!!!!」


スライム「な、なんとかなりそうだねっっ!」


魔女「早く行くよっっ!!!」


ウルフ「わんっ!」


すると、士気を挙げるためかある人物が大声を挙げる。

それは唯一無二の存在、彼の大切な肉親である。

だが今は、父親を見るその目はとても冷ややかであった。


王「反逆者共を捕まえるんだっっっ!!!」


帽子「――父さんっ...!」ピタッ


隊長「帽子――ッ!? 足を止めるなッ!」
349 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:14:15.85 ID:t/n958LI0










帽子「――――っ!?」









350 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:16:11.46 ID:t/n958LI0

──グサァッッッ...!

その時、彼の胸を貫いたのは。

赤黒く染まるその弓、一体誰から放たれたのか。


騎士団長「...私の弓技からは決して逃れることは出来んぞ」


騎士団1「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」


精鋭3「ついに一人を殺したぞっっ!!!」


王「この勢いに続けぇっっっっ!!!」


帽子「―――っ」


──バタンッ...!

彼はそのまま、力を失い倒れる。

もう起き上がれない、身体が冷たくなる感覚が迫る。


スライム「──いやあああああああああああああああああああああああああああああっっっ」


スライム「いやだああああああぁぁぁぁぁぁっ、帽子さんっっっ」


魔女「う、嘘...でしょ...?」


ウルフ「──っっ!?」


隊長「...帽子? 帽子ぃ...?」


帽子「あ...く...」


隊長「──帽子ッッ! しっかりしろッッ!!!」


隊長(まずいッッ!! 完全に胸を貫いているッッ!!!)


隊長は応急的に手で止血をする。

手が紅に染まる、だがそれは胸から出る一方。

止まらなかった、どうしても止めることはできなかった。


隊長「血が止まらないッ! 止めてくれ...ッ!」


帽子「キャプ...テン...」


隊長「喋るなッ...! 喋らないでくれ...命に関わる...ッ!」


スライム「"治癒魔法"っっ!! "治癒魔法"っっっ!!!!」


覚えたてのその魔法、しかし発動しない。

憎たらしいほどに輝くあの槍がそれを許してくれない。


精鋭2「無駄だ! 魔法はこの槍の前では使えんぞ!」


騎士団5「今だ! かかれっ!!!!」
351 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:20:21.55 ID:t/n958LI0

ウルフ「―――ッッッ!」


──ダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!!!!

その威力は今までのとは桁が違う。

彼女の心理の奥底には、理性があった。

だが今は違う、この拳気は人を殺せてしまうかもしれない。


騎士団5「ぐあああああああああああああッッッ!?」


精鋭2「よ、鎧が砕けた...今までの威力じゃないぞッッ!!!」


ウルフ「フッー...! フッー...! 近寄るな...ッッ!!!」ギロッ


精鋭2「ひっ...」


スライム「"治癒魔法"っっっ!!!」


魔女「スライムっっ! 落ち着いてっっ!!!」


スライム「いやだっ! "治癒魔法"っっ...お願いっっ!」


隊長「帽子ッッ! 死ぬなッッ!!!」


帽子「み...んな...わ...たし...の...夢...まかせ...たよ...」


隊長「任せるなッッ!!! 夢を実現させるのはお前だッッ!!!」


スライム「死なないでっっ!!! 帽子さんっっ!!!」


帽子「くやしい...ま...だ...やりた...いこと...あるの...に...」


魔女「嘘でしょ...お願い...夢なら覚めて...っ!」


隊長「お前はここで死ぬような奴ではないッ...弱音を吐くなッッ!!」


帽子「...魔女...さん...あなたの...ま...ほう...にはお世話に...なった...よ」


魔女「やめて...っ」


帽子「ウルフ...キミ...の...勇敢さ...そして...癒やしは...素晴らしかっ...た」


ウルフ「ひ...ぐっ...」


帽子「スライム...私は...キミに...恋を...してた...」


スライム「わたしもよ......置いて行かないで...」


帽子「キャプテン...君は...最高の仲間だ...よ...」


隊長「...」


帽子が隊長の手を強く握る。

紅きその手が、帽子の美しい手を染め上げる。

その手はあの時の、復讐者のような。
352 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:21:34.57 ID:t/n958LI0

帽子「頼む...どうか...平和を...勝ち取ってくれ...っ!」


帽子「憎しみなどない...世界にしてくれ...」


隊長「...あぁ、任せろ」


帽子「...あり...がとう...友よ」


強く握られていた手は次第に弱々しくなっていく。

命が尽きるその時は、あまりにも呆気なかった。

帽子が息絶える、それと同時に帽子が外れて綺麗だった顔を見せてくれた。


帽子「――――」


隊長「...」


スライム「やだ...やだやだ...もういや...」


魔女「こんなのってないよ...」


ウルフ「...」ポロポロ


町民1「お、おい...あれって...」


騎士団6「王子じゃないかっっっ!?」


騎士団長「なっ────」


王「────なんだとっ...!!!!」


次第に王子の死が都を駆け巡る。

だがそれが何だというのか、失った者は二度と戻ることはない。

彼らは立ち尽くすことしか許されない、王子の遺体を連れ去ろうとする彼らを止めることすらできなかった。


隊長「...いくぞ」グイッ


隊長(軽い...こんな身体で今までの死闘を繰り広げていたのか)


魔女「...うん」


スライム「いや...いやだよ...」


ウルフ「スライムちゃん...いこっ...?」


先程まで死に物狂いで隊長たちを追いかけてきた。

だが、今になってはもう誰も跡を追おうとするものは誰もいなかった。

そこに残ったのは、夕焼けの紅と彼の紅であった。


〜〜〜〜
353 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 00:22:30.48 ID:t/n958LI0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/12/02(日) 10:25:05.51 ID:5N8MhSev0
355 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:43:59.74 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...」


魔女「スライム...」


スライム「ひっぐ...ぐすっ...」


ウルフ「スライムちゃん...」


夕焼けに染まりながら歩き出す。

頭を強く殴られたような感覚が続く、これは本当に現実なのか。

そんな時、隊長とスライムはあることを思い出した。


隊長(ここ、確か...)


(帽子「綺麗だな...墓はここに立てたいね」)


隊長「...ここに墓を建てよう」


スライム「...ここって帽子さんが言ってた場所だよね...ぐすっ」


隊長「...冗談が現実がなるなんてな」


隊長「...ウルフ、手伝ってくれ」


ウルフ「...うんっ」


隊長とウルフは自分の手が泥だらけになるのを厭わずに、穴を掘り始める。

やがてその穴は、人が入れるほどの大きさへと変わる。

土葬、それは彼の世界でも行われる弔いである。


隊長「...このくらいでいい」


ウルフ「...」


隊長「...埋めるまえに、声をかけてやれスライム」


スライム「うん...」


隊長「...俺たちはすこし距離をとるぞ」


魔女「わかった...」


ウルフ「...」


スライムのプライバシーに配慮して、聞こえないように距離をとる。

そんな心配りができる程に彼は冷静であった。

仕事柄、仲間が命を失うことは慣れている、嫌な慣れであった。
356 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:44:59.38 ID:t/n958LI0

隊長「...」


ウルフ「...」


魔女「...そもそも、私たちが捕まらなければ...」


ウルフ「ひっぐ...」


隊長「捕まったのは魔法を封じられて、ウルフは魔女たちを人質にとられた...ってところか」


魔女「...そうよ」


隊長「...」


隊長「...殺したのはお前たちではなく、あの民たちだ」


魔女「...そう、そう言ってくれるだけで助かるわ」


ウルフ「帽子...」


スライム「...もういいよ、ありがと」スッ


隊長「...わかった、埋めてくる」


隊長「...」


帽子「────」


隊長「......帽子」


帽子「────」


隊長「...Rest in peace」


〜〜〜〜
357 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:46:10.68 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...埋めてきたぞ」


魔女「...それは?」


隊長「...あいつの形見だ、この冒険で役に立てよう」


亡き帽子が愛用していた、このレイピアのような剣。

そこには彼の意思、それはユニコーンをも懐かせるモノ。


魔女「...そうね、それなら帽子も喜ぶわね」


隊長「あぁ...さて、進むか」


魔女「...そうね」


スライム「...ごめんなさい、わたしはいけないよ」


スライム「わたしはここで...帽子さんといる...」


隊長「...そうか...そうだな、スライムは帽子に着いてやってくれ」


ウルフ「...あたしも、スライムちゃんといる...ごめんなさいご主人...」


ウルフ「せっかく強くなったのに...やくにたてなくてごめんなさい...」


隊長「いや、いいんだ...お前たちは十分助けになった...だからそんな悲しいことを言わないでくれ」


隊長「...2人とも、気をつけろよ」


ウルフ「うん...」


スライム「これ...忘れてるよ」


隊長「...拾っといてくれたのか、ありがとう」


スライムが拾ってくれた、彼の主要武器。

手渡されたアサルトライフルを握るその腕は、とても力強かった。


隊長「...魔女、行くぞ」


魔女「...またね、ウルフ、スライム」
358 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:47:00.25 ID:t/n958LI0

スライム「...まって!」


隊長「...どうした?」


スライム「...これ、あなたの分」スッ


隊長「...これは?」


スライム「帽子さんに売っちゃったから...持ってないんでしょ?」


スライム「きゃぷてんさんも...とっても大事な友だちだから」


隊長「...あぁ」


隊長は少し力みながら、手渡されたものを握る。

手のひらサイズのボールみたいなものをしまいながら先を進みはじめる。

こうして、隊長はスライム、ウルフ、そして帽子と別れを告げた。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...」


魔女「...」


隊長「...魔王はどこにいるんだ?」


魔女「...魔界の中心にある魔王城ね」


魔女「人間界の端っこにある、魔界に通ずる大橋を渡れば魔界に行けるのよ」


魔女「そこへ行くには...このまま山を登って麓の村から"暗黒街"に向かう直線距離が近いわ」


魔女「山を遠回りすることもできるけど、面倒くさいでしょ?」


隊長「...そうだな」


隊長「麓の村か...久しぶりだな」


隊長(少女は元気にしているだろうか...)


魔女「今日は山にある大賢者の別荘に泊まろうよ」


隊長「...あぁそうだな」


〜〜〜〜
359 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:48:05.92 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


魔女「ふぅ...久々ね...ここ」


隊長「お前と出会ったのはここだったな」


魔女「...そうね、それより早く入りましょう?」


隊長「ここの景色は綺麗だったが...今日は天候が悪いみたいで見えないな」


魔女「そもそも、夜だしね」


隊長「...」


魔女「...私...隣の部屋で寝てるわね」


隊長「...あぁ、おやすみ」


本当なら話したかった、だがそんなことはできない。

隊長は1人、書斎の椅子に腰掛けて休息を取ろうとする。

溶け切っていない氷の影響でやや肌寒い、そして張り詰める静寂が彼を狂わせる。


隊長「...帽子」


隊長「...」


隊長「...」


隊長「...」


隊長「...」


旅で誤魔化していたが、感情がじわじわと押し寄せてくる。

1人というものは、これ程にも残酷な孤独なのか。

耳をすませば、聞きたくない彼女の声が聞こえてしまう。
360 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:48:31.10 ID:t/n958LI0










「ひっぐ...ぐす...えぐっ...」









361 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:49:17.82 ID:t/n958LI0

隊長「────...ッ」


隊長「ッ、Fuckッ...!」


隊長「俺は死と隣合わせの仕事をしている...っだから慣れてるのに...っ!」


隊長「グッ...ウゥッ...!」


隊長「帽子ぃ...ッ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「おはよう!」


隊長「...元気だな」


魔女「いつまでも、悲しい顔してたら、あいつだって喜ばないわ」


隊長「...」


隊長には帽子の存在が大きすぎた。

この異世界での、かけがえのない親友であった。


隊長「...そうだな」


魔女「それじゃ、麓に向かおっか」


魔女「ちゃんと、この山を凍らせてたのは氷竜ですって弁解してよね!」


隊長「...あぁ、いくか」


隊長(...今日も景色はみえないか)


魔女「うわっ...霧に覆われてるわね...」


隊長「あれなら、下山したときには晴れてるだろう」


魔女「そうね...じゃあ行きましょうか」


隊長「あぁ...」


〜〜〜〜
362 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:50:28.25 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「────嘘...だろ...?」


あまりの出来事に隊長は絶句する。

麓の村、その惨劇を目の当たりにしてしまう。

どうして、一体何が起きたのか、彼の情報処理能力は著しく劣り始める。


魔女「なにこれ...村がないじゃない...っ!?」


魔女「こ、これって...ば、爆発跡...?」


隊長「...」


―――ガサガサッ...

その時、物音が鳴り響いた。

あまりの光景に固まることしかできない彼がようやくハッとする。


隊長「──少女かッ!?」ダッ


魔女「まってっ!」


隊長「少女ッッ!? どこだッッッ!!!」


魔女「...落ち着きなさい、もう誰も居ないみたいよ」


隊長「そんなはずはないッ! ここには俺の恩人がいるんだッッッ!!!」


魔女「きゃぷてん...」


隊長「少女ッ! 少女母ッ! いるのなら返事をしてくれッッ!!!」


魔女「...落ち着いてっっ!」


隊長「...FUCKッッ...どうしてこんなことにッ...!?」


魔女「──うっ...!」


冷静になってみると、ひどい臭いが放たれていた。

それは人間だった物が腐り始めた、とても嫌な臭いであった。

隊長は瓦礫に埋まってる人を見つける、それは見慣れていた人であった。


隊長「──少女母ッ!?」


少女母「────」


隊長「大丈夫かッッッ!? いま助けるぞッッッ!!」グイッ


―――ボロンッッ...

瓦礫の下敷き担っている彼女の腕を引っ張った。

するとそのような音を立ててしまった、何かが抜ける。
363 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:51:35.81 ID:t/n958LI0

隊長「―――ッ」


魔女「―――う゛っ...」


あまりの出来事に魔女が催してしまった。

口を抑えることで、なんとか吐き出さずに済んだ。


魔女「げっほっ...げほっ...ひどいっ...」


隊長「...」


???「──いやはや、側近様の命令でまた訪れてみたら...まだ人間がいたか」


魔女「──誰ッッ!?」


偵察者「無礼だぞ小娘、この偵察者に質問など愚かだ」


突如現れたその男の名は、偵察者。

腕には例の入れ墨、どう考えても魔王軍であった。

その口ぶりから察した、魔女は彼に追求を始める。


魔女「...あんたがやったの...これを?」


隊長「...」


偵察者「あぁ、そうさ」


偵察者「私がここの村の人間の1人を洗脳し、勇者が訪れたら自爆魔法を唱えるように仕掛けていたのさ」


魔女「ひどいっ...許せないっ...!」


偵察者「許さなくて結構、貴様らも同じく洗脳して有効活用してやる」


偵察者「まぁ安心しろ、自爆魔法を使っても奇跡的に周りの人間は助かるかもな」


魔女「...どういうことよっ!」


偵察者「クハハ、面白い話をしてやろう」


偵察者「ここで洗脳したものは自爆魔法でこの村を消し去ったが」


偵察者「なんと、そいつの娘は奇跡的に助かったのだ...貴様らも同じ機会が訪れたら奇跡を祈るんだな」


隊長「...」ピクッ


娘という単語、それに反応してしまった。

魔王軍が現れたというのにも関わらず、ずっと硬直していた彼が動く。
364 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:52:40.42 ID:t/n958LI0

隊長「...おい」


偵察者「なんだ?」


隊長「洗脳したのは誰だ」


偵察者「名前など知るか、金髪の村人だ」


隊長「―――─ッ!」


偵察者「...お喋りは終わりだ、貴様らはここで私に捕まってもらう」


偵察者「..."拘束魔法"」


―――――......

先制の魔法、その詠唱速度はかなり早い。

この惨劇を前に軽く平常心を失っている魔女には反応できない代物であった。

だがおかしい、彼の魔法は発動しなかったのだった。


魔女「...あれっ?」


偵察者「なっ!? なぜ魔法が使えぬッ!?」


魔女も偵察者も理解が出来ない、その一方輝かしい光が現れる。

原因はこれしかない、帽子の魔剣が光り輝く。


隊長「...□□」


偵察者「なっ...!」


偵察者「その光...! 光魔法かッ!?」


隊長「...お前」
365 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:53:20.23 ID:t/n958LI0










「楽に死ねると思うなよ...」









366 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:54:29.69 ID:t/n958LI0

魔女「ひっ...」


──ダン□ッ!

殺意と共に放たれた、白き音を伴う銃弾。

偵察者の右足にハンドガンを発砲する、当然偵察者は跪いてしまう。


偵察者「──ぐぅぅぅぅうぅ!?!?」ドサッ


偵察者(なに...!? 私の身体は側近様によって強化されているはずっ!?)


隊長「...どこをみてる」


偵察者「──速いッ!?」


──バギィィィィィィィィィィイイイイイッッ!!!!!

強烈なストレートが決まり、偵察者の身体が吹き飛ばされる。

魔闘士程とはいかないが、人間がこの跳躍距離を出せるのか。

とてもない怒りが彼に力を与える。


偵察者「はぁっ...ぐぅ...なにが起こった...?」


偵察者「はぁっ...はぁっ...た、立てん...それに...」


隊長「...」スッ


隊長が魔剣を抜く、その魔剣は光り輝かくモノだった。

しかし徐々にその光は鈍く、色が濃く変貌する。

その光景が、偵察者を震え上がらせた。


隊長「...■」


偵察者「な、なんだ...!? この魔力、光と闇...両方感じるぞ...!?」


隊長「...■■」


偵察者(まずいっ...にげなければ...)ズルズル


──グサ■■ッッッッッッ!!!!!!

逃げようとする偵察者の足に魔剣が突き刺さる。

クラーケンを足止めしたこの索、同じく偵察者も餌食になる。

剣は黒い音を交えて、彼を苦しめる。


偵察者「があああああああああああああああああああッッ!?!?」


偵察者(くそッ...地面にまで刺さって動けん...ッ!)


隊長「You can't run away...」


偵察者「ま、まて! ...た、助けてくれッ...!」
367 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:55:39.44 ID:t/n958LI0

隊長「...」


偵察者「悪かった...ッ! 望みはなんだッ!? できることなら叶えてやるッ!」


隊長「...」


偵察者「頼むっ...まだ死にたくないんだっ...」


隊長「...DIE」


偵察者「...へっ?」


──ぐしゃああぁぁぁっっっ...!

隊長は思い切り、踏み込んだ。

この憎たらしい男の腕を。


偵察者「ぐああああああああああああああ腕がああああああああああッッ!!!」


隊長「...」


偵察者「やめてくれえええ...踏まないでくれ...ッ」


──ぐしゃあぁっっっ...!

何度も、何度も彼は踏み込む。

やがて奴の腕はひしゃげてしまう。


偵察者「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


隊長「DIE DIE DIE DIE...」


──ぐしゃっ ぐしゃあっっ めきゃっっっ...

腕に踏み心地を感じなくなると、次は足。

偵察者という男を心が晴れるまで踏み潰す。


偵察者「た、たすけてええええええええええええぇぇぇ...」


隊長「DIEッ! DIEッ! DIEッ! DIEッ! DIEッ! DIEッ!」


──ぐしゃっ ぐしゃっ ぐしゃあああっっっ ぐちゃっ

もう、彼に踏める場所などない。

だが隊長は止まらない、憎しみが晴れるまで永遠に。


偵察者「あああぁぁぁぁぁぁ......」


隊長「DIEッ! DIEッ! DIEッ! DIEッ! DIEッ! DIEッ!」


隊長「────MAST DIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIEッッッ!!!」


──ぐちゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっっっ!!!!!!

────ぐちゃっ! ぐちゃっっ!!

この世界にきて最も残酷な殺し方だった、だが踏みつける音は一向に終わらなかった。

気づくともう黄昏時であった、深緑のマフラーが首元の寒さを忘れさせていた。
368 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:56:53.15 ID:t/n958LI0

偵察者「────」


隊長「...■■」


隊長「...」スッ


偵察者だったモノから魔剣を引き抜き、鞘に収める。

すると彼を包んでいた、黒い音は消え失せた。


隊長「...」


魔女「ひっぐ...ひぐっ...」


ぽろぽろっ...そんな音が聞こえるぐらい涙を流していた。

彼の変わりように、泣くしかなかった。


隊長「...どうしてこんなことに」


魔女「しらないよぉ...もうやだよぉ...こわいよぉ」


隊長「...」


(復讐者「貴様の瞳...復讐に襲われるだろう...」)


隊長「...もう、着いて来るな」


隊長「俺は...またこんなことをしてしまうだろう...」


魔女「いやだぁ...1人にしないでよ...」


隊長「...いまからでも、村に帰るんだ」


魔女「ひっぐ...ひっぐ...」


隊長「...ほら、水だ...これを飲んだら行け」スッ


隊長が水筒を取り出し渡そうとする。

それが限界であった、我を忘れ朝から夕方まで踏みつけを行えばそうなる。

隊長の体力は限界であった、足元はふらつく。


隊長「――ッ...」グラッ


魔女「──きゃぷてんっ!」


〜〜〜〜
369 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:58:30.02 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...ここは?」


帽子「...」


隊長「──帽子ッッ!?」


少女「...」


隊長「少女もッッ! 大丈夫だったか!」


隊長「どうした...? ふたりとも無言だぞ?」


少女「...■■■」


少女の口から、聞き取れない言語が発せられる。

その黒い音は、隊長に鳥肌を立たさせる。


隊長「しょ、少女...?」


隊長「背筋が...なにが起きた...?」


帽子「■■■■」


──ゾクゾクゾクッッッ...

背筋が凍りつく、その音はとても不快であった。

大切な彼らであるはずなのに、隊長は距離を取ろうとする。

すると、何者かに足を掴まれた。


隊長「あ、足が...ッ!?」


少女母「──どお゛じで...どお゛じでだずげでぐれ゛な゛い゛ん゛でずがぁああああああああ」


隊長「────は、離せッッッ!!!!」


隊長「やめろッッ!!! 近寄るなッッッ!!!」


────■■■■■■■■■■■■■

黒が隊長の身体に触りこむ。

まるで売女に撫でられたかのような不快感。

吐き気まで催すそれは、隊長を狂わせる。


隊長「触るなッッッ...!」


隊長「誰かッ...誰か助けてくれェッッッ!!!!」


隊長「Help...me...ッ」


???「...大丈夫、大丈夫だから」ギュッ


〜〜〜〜
370 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 21:59:44.73 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「―――ハッ...」


魔女「私が...いるから...」


隊長「はぁッ...夢...ッ!?」


魔女「起きた...? すごいうなされてたわよ...大丈夫?」


隊長「はぁっ...はぁっ...」


魔女「まだ震えてるわ...」


―――ぎゅっ...

暖かい、乙女という者はこれほどに心安らぐものなのか。

悪夢にうなされていた彼を癒やすのには魔法などいらない。


魔女「...寒くない? 恐くない?」


隊長「...魔女」


魔女「1人じゃ...全部抱え込んじゃうでしょ...?」


魔女「私は...ずっと一緒にいるわよ...」


隊長「ま、じょ...」


魔女「大丈夫だからね...?」


隊長「...暖かい」


魔女「...でしょ?」


隊長「...もう、深夜か」


魔女「そうよ...冷えて凍死するのはいやだから、こうしてましょ?」


隊長「...凍死はいやだからな」


魔女「...ふふっ」


〜〜〜〜
371 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:00:47.96 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...!」パチッ


隊長「...朝か」


隊長「...」


魔女「すぅ...くぅ...」スピー


隊長「...魔女、起きろ」


魔女「ん...! ...ふわぁ〜あ...おはようぅ」


隊長「いい日差しだな...」


魔女「そうね...ちょっといろいろ済ましてくるわね」


隊長「あぁ...」


隊長「...」


起きたそこには、魔女が肌を重ねてくれていた。

暖かい、人の温もりが彼の狂気を祓ってくれていた。

彼女がいなければ、隊長はどのような男に変貌していたのだろうか。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「それで、どこに向かうんだ?」


魔女「このまま暗黒街に向かうわ」


隊長「暗黒街?」


魔女「魔界に最も近い都のことよ、治安は最悪よ最悪」


隊長「なるほどな...」


魔女「そういえば、魔王子はどうするのよ」


魔王に歯向かい、それから消息不明になってしまったという噂。

大賢者が言うには利害の一致でともに行動してくれるかもしれない。

そんな彼のことをどうするか、隊長は一先ずの考えを提案した。


隊長「...暗黒街で手がかりがあれば探そう、ひとまずな」


魔女「わかったわ、とりあえず向かいましょうか」


隊長「あぁ、行くか」


〜〜〜〜
372 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:01:55.74 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


魔女「綺麗な紅葉ね、ここ」


隊長「...俺がこの世界にきた時、俺はここで倒れてた」


魔女「えっ! そうなの?」


隊長「あぁ...もしかしたら、なにか手がかりがあるかもしれん...少し探索してみよう」


魔女「えぇ」


隊長「...」


(少女「え、えぇっと...私は少女です...」)


ここは少女が彼を助けてくれた場所、だからこそ思い返した。

そんな彼女の父親は、偵察者の卑劣な策により無惨なことに。

だが偵察者の話が本当なら、消息は不明だが奇跡的に助かっているとのこと。


隊長(...奴の話によると、少女はまだ生きている)


隊長(どうか、無事でいてくれ...ッ!)


隊長「...」


──スタスタッ...ガッッ!

そんな腸煮えくり返りそうなことを冷静に考えていると。

なにかに足が引っかかった、紅葉の落ち葉だらけ故に足元のでっぱりに気が付かなかった。


隊長「──おわっ!?」フラッ


魔女「な、なに? 大丈夫?」


隊長「躓いただけだ...」


隊長(...)ジー


隊長「ん...! これはッ!?」


──ガサガサガサッ...

なんとなく、何に引っかかったのか気になった。

躓いた箇所をよく凝視してみる、落ち葉によって全貌が見えないが、その見覚えのあるシルエット。
373 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:03:32.69 ID:t/n958LI0

魔女「なにかあったの?」


隊長「これは...なぜここに...ッ!?」


魔女「それって、あんたがいつも使ってる武器に似てるわね」


隊長「あぁ...これは俺の世界にある武器だ...なぜここに...?」


隊長(...どこか、見覚えがあるな)


隊長(...)


隊長(...)


隊長(...ッ!)ピクッ


(犯人3「う、うごk」)


(隊長「遅いッッッ!!!!」ドガッ)


隊長(──あの時、犯人から蹴っ飛ばした時の奴かッ!)


そこにあったのは、頼れる新たな武器。

どういう因果かはわからないが、隊長と共にこの世界に訪れていたようだ。

この武器の名はショットガン、アサルトライフルにはできない芸当をしてくれる心強い銃器。


隊長「これは...戦力になるぞ」


魔女「異世界の武器ってことは、すごい威力なんでしょうね」


隊長「俺の世界の中でも、こいつは特に威力が高いぞ」


魔女「へぇ...」


隊長「...7発内蔵、6発付属ってところか」


隊長「これも、弾を複製できるか?」


魔女「むしろ、そっちのほうが単純そうで楽だわ」


隊長「では早速頼む」


魔女「はいはい、ちょっとまっててね」ガサゴソ


ショットガンに付属しているシェルラックから、1発の実包を魔女に手渡した。

すると彼女は衣服にある小さな収納から物を取り出し、錬金術の準備を行う。

理科の実験に使いそうな容器やらマッチ、紙や針など、どれも手軽なものであった。
374 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:05:20.23 ID:t/n958LI0

魔女「うーん...炎魔法を覚えられなかったのが悔しい」ボッ


隊長「これに何を入れるんだ?」


魔女「ここに紙と私の血を入れるのよ」


隊長「血か...痛くないのか?」


魔女「もう修行で慣れちゃったわよ...っ」チクッ


魔女「それで、錬金術用の詠唱をするの...これは大賢者様しかしらないみたいよ」


隊長「ほう...紙が金に変わるのか」


魔女「そうよ、ブツブツブツ...」ポワッ


魔女「...無事、完成ね」


隊長「もう金になったのか」


魔女「慣れってやつね...それじゃ、弾を貸して」


隊長「おう」スッ


魔女「..."複製魔法"っ!」


容器に入ったドロドロの金が、形を変え始める。

その現実味のない光景、やはり魔法というものは凄い。

まるで手品師のトリックを見るような、そんな純粋な気持ちで彼は見ていた。


隊長「おぉ...」


魔女「あとはこれの繰り返しね...何個つくるの?」


隊長「とりあえず6の倍数個で頼む」


魔女「じゃあ18個ね..."複製魔法"」


隊長「助かるぞ...魔女」


魔女「どうってことないわよ」


隊長(この弾は、いままでレーションに入れていた部分に入れておこう...)


隊長(レーションには悪いが...水筒と同じ場所に...ちょっと窮屈だがしかたない)
375 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:08:27.26 ID:t/n958LI0

魔女「それにしても...両手に今までの大きい方の武器を持って、背中に今の武器...重くないの?」


隊長「...慣れってやつだな」


魔女「ひぇーおそろしい、おそろしい」


隊長(...両方の銃器にベルトがついてるとはいえ、両方背負った時は持ち替えが大変だな)


魔女「ついでに、他のやつも作ろうか?」


隊長「ならハンドガンとアサルトライフルのも頼む」


魔女「まかせなさいっ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


??1「ぐっ...どうしてこんなところに...」


暗闇、それも牢屋のようなところで細い声が響く。

そこに下衆が話しかける、この男は隊長も遭遇したことのある者。

最も鎖に繋がれている彼女も見たことがあるだろう。


??2「残念だったねぇ...女騎士?」


女騎士「──魔法使いっ! お前っっ!!!」


魔法使い「なんだい、僕のお陰で君はこうして生きてるんじゃないか」


女騎士「ふざけるなっっ!!! お前は私たちを裏切ったんだぞっっ!!」


魔法使い「うるさいなぁ...また、ひどいことされたいの?」


女騎士「──っっ...!!!」ビクッ


魔法使い「怯えちゃって...馬鹿力なのに女っぽさは残ってるんだな」スッ


女騎士「────近寄るなっ!!」


魔法使い「ふふふ...」


女騎士「ひっ...いやっ...」


魔法使い「綺麗な耳飾りだね、女勇者がくれたんだっけ...でももう二度と会えないよ?」


魔法使い「お前はここで...僕の奴隷になるんだ...楽しみにしててごらん」


いやらしく耳元でささやく彼は魔法使い、勇者一向の裏切り者。

そして彼女は女騎士、不幸にも囚われてしまった逞しき者。

女を捨て武の道に心を貫いたというのに、彼女はすでに折られてしまっていた。


〜〜〜〜
376 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:09:29.70 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「ここが...暗黒街...」


魔女「そうよ、あんまり人と目を合さない方がいいわよ」


隊長「...」


隊長(...スラム街か)


見渡すと、そこいらに浮浪者が寝そべっている。

その者達は醜く、そしてどこかでみたような顔つきをしている。

バツが悪い顔をして、魔女が耳打ちをする。


魔女「ここの街には、快楽作用のある薬が流通してるみたいなのよ」ボソッ


隊長(...ドラッグか)


隊長「...どの世界も一緒だな」


魔女「え...?」


隊長「...進もう、絡まれたら面倒だ」


魔女「そうね、いきましょ」


隊長「ところで、どこで情報収集をするか」


魔女「うーん...こんな街だけど、中心部は富裕層がいて安全だからそこにしましょう」


隊長「...おう」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...やたらと暗いな、この街は」


中心部、そこは先程のスラム街とは打って変わって綺羅びやか。

とは言い切れず、いたる建物が黒く、暗黒に満ちていた。


魔女「あ、あそこに掲示板があるわよ」


隊長「...どれどれ」


魔女「う〜ん...どれもどうでもいい情報ばかりね」


―――ポタッ...

肌に感じる水気、ふと見上げてみるとそこには濃い雨雲が。

これは一雨どころか、局地的豪雨が予想できる降り方であった。


隊長「...ん?」
377 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:10:38.98 ID:t/n958LI0

魔女「最悪...雨ね...」


隊長「しかたない...あの建物の軒先に避難しよう」


指示通り彼らは雨宿りを開始する。

強い振り方の雨、地面に打ち付ける音がやけに心地良い。

その様子を沈黙しながら、ただ見つめているだけであった。


隊長「...」


魔女「...」


隊長「...どうするか」


魔女「さすがに、風邪を引くのはいやね」


隊長「でも...この降り方はすぐ止みそうだな」


魔女「分かるの?」


隊長「あぁ...」


魔女「...そういえば、あんたは元の世界でなにをやってるの?」


隊長「うん? そうだな...」


隊長「犯罪者...罪を犯したものを捕まえている」


魔女「...へぇ、偉いことしてるわね」


隊長「聞こえはいいかもな...だが、仕方なく捕まえきれずに殺してしまう時がある」


魔女「...そう」


隊長「...」


魔女「...子どもとかいるの?」


隊長「...いると思うか?」


魔女「...思うわよ、甲斐性があるしね」


隊長「...子どもも妻もいない、ずっと独身だ」


魔女「へぇ...」


隊長「...」
378 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:12:11.20 ID:t/n958LI0

魔女「...私は、雨は嫌いだけど、雨の音は好きよ」


隊長「...わからんでもない」


魔女「この雨音に紛れて、なにか大胆に行動したくなるのよね」


隊長「...」


魔女「...まぁ、いまは止んでくれるのを待ってるんだけどね」


隊長「そうだな...! クシュッ!」


魔女「ぷっ...可愛いくしゃみね」


隊長「うるせぇ...」


魔女「はぁ〜もうつかれちゃった...地べたに座っちゃお...」ペタッ


隊長「...」


魔女「...魔王をどうにかしたら、どうするのあんたは」


隊長「...大賢者が言うには、魔王が元の世界に戻れる魔法を使えるらしいからな」


隊長「...魔王を倒して、帽子の願いを果たし...そしたら帰るってところだな」


魔女「...なら新しい魔王は、帽子の代わりに魔王子に任せればいいんじゃない?」


隊長「魔王子が信用できる奴ならの話だがな...」


隊長「魔王子が信頼できなければ、このまま二人で進み...魔王を倒すだけだ」


魔女「...新しい魔王はどうするのよ?」


隊長「...」ジー


魔女「...私は嫌だからねっ!」


隊長「はぁ...こうなれば今の魔王に無理やり要求を飲むまで説得だな」


魔女「...拷問?」


隊長「場合によってはあり得る」


魔女「魔王に拷問する人間なんて前代未聞よ...」
379 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:14:11.35 ID:t/n958LI0

隊長「そうなりたくなければ魔王子に祈っとけ、そもそも出会えるかわからんがな」


魔女「はいはい、あー神様、どうかうまくことを進めて下さい」


隊長(神...か)


(「神業を受け取るんだ」)


(「これは魔法ではない! 神のご加護は無意味だっ!!」)


隊長が出会った神を名乗る者、それは彼に神業とやらの力を与えた。

だが別の神なのだろうか、それは塀の都の民たちを狂わせた。

同じ神でもここまで違うのか、だが隊長はある1つの共通点を見出していた。


隊長(俺のあの神業とやらと...あの光る槍の力はどこか似ていたような...)


隊長(魔法の無力化...俺もあの時、魔闘士の魔法を無力化してたのか?)


(魔闘士「残念ながら、魔法は得意じゃない...」)


隊長(いや...そうではないのかもしれない...)


隊長(そしてこのユニコーンの魔剣...これも神業に似ている...)


(大賢者「...あくまで仮説じゃが、その魔剣には光属性の魔力を感じる」)


隊長(ユニコーンの魔剣=神業なら...俺に宿っているのは光属性のなにかなのだろうか)


隊長(...だめだ、魔法に関してはからっきしだ)


隊長「...魔女、光属性ってどんなものなんだ?」


魔女「ふわぁ〜あ、ごめん知らないわよ」


魔女「光属性と闇属性は参考資料が少なすぎて大賢者様ですら詳しくわからないのよ」


隊長「...まぁそのうちわかるか」


魔女「なによ」


隊長「なんでもない...ん?」


──ポタッ...ポタッ...

彼が深く考え事をしている間に、彼女が眠気と抗っている間に。

薄暗い暗黒街に太陽の明かりが刺した、雨は過ぎ去ったようだった。


魔女「止んだわね」


隊長「ひとまず、ここで魔王子を探そう」


魔女「まぁ、暗黒街にすらいない可能性のほうが大きいけどね...」


〜〜〜〜
380 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:15:25.76 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


??1「あァ...だりィな...やっと雨があがったか」


??2「フン...うるさい奴だ...」


??1「あァ? なんだ魔闘士ィ...やんのか?」


そこにいたのは、例の2人組であった。

1人はとてつもなく奇妙な大剣を背負い、ゴロツキのような喋り方。

もう1人は只ならぬ雰囲気を醸し出している、見間違えるはずがない。


魔闘士「...竜の魔剣士と名高いお前も、案外餓鬼だな」


魔剣士「うっせーな...ってか本当にここに魔王子いんのかァ?」


魔闘士「魔王と戦った後、最後に目撃があったのはここ..."暗黒街"だ」


魔剣士「...さっさと魔王子見つけて、魔王ぶっ飛ばしにいこうぜ?」


魔剣士「あのクソ爺、痴呆始まってかしらねェけど...やる事無茶苦茶でやる気でねェぜ」


魔闘士「知るか、俺はただ魔王子に着いていくだけだ」


魔剣士「へいへい、信頼の厚い部下なこったァ...」


──ポタッ...ポタッ...

先程降ったばかりだというのに、太陽も覗き込んでいるというのに。

お天気雨、再び大地に恵みが降り立つ予兆。


魔闘士「また...雨か、面倒だな」


魔剣士「冷えるのは勘弁だ、酒屋にいこうぜ?」


魔闘士「...仕方ないな」


魔剣士「あァ...でも、このまま魔王子がいなければ人間界ともおさらばか...人間の造った酒はうまかったなァ」


魔闘士「フン、どうでもいいな」


魔剣士「お前なァ...魔王子大好きっ子かよ...」


魔闘士「そういうお前は、酒大好きっ子だな」


魔剣士「あァ? やんのかァ?」


魔闘士「...ひとまず、雨を避けるぞ」


魔剣士「あァ」


〜〜〜〜
381 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:16:24.96 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...」


魔女「...まともな人間いないわね」


隊長「魔王子のことを聞いても、薬か酒の話になるな...」


魔女「はぁ...どうしよ」


──ポタッ...ポタッ...

先程降ったばかりだというのに、太陽も覗き込んでいるというのに。

お天気雨、再び大地に恵みが降り立つ予兆。

それは当然彼らにも襲いかかった。


隊長「またか...最悪だな」


魔女「また雨...! そうだっ!」


魔女「酒屋なら雨宿りになるし、話が通じるんじゃないの?」


隊長「...そうだな、話ができない奴だと店として成り立たないからな」


魔女「そうと決まれば、行きましょう?」


隊長「...本題は酒じゃなくて、情報だからな?」


魔女「わ、わかってるわよっ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


──からんからんっ

雰囲気が暗いこの街にしては、軽快な音であった。

人の入りは少ないが、ここは歴としたお店。

やや寡黙な酒屋の主人がそこにいた。


酒屋「...いらっしゃい」


隊長「すまない、聞きたいことが」


酒屋「...聞きたいことは、注文をしてからにしろ」


魔女「じゃあ、私は葡萄酒にしようかしら」


酒屋「...あんたは?」


隊長「...水だ」


酒屋「湿気てんな...」


魔女「湿気てるわね...」
382 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:17:22.14 ID:t/n958LI0

隊長「...」


酒屋「...座って待ってろ」


魔女「ほら、いきましょ?」


隊長「はぁっ...」


──からんからんっ

隊長と魔女が椅子に座ると新たなお客様が。

なぜその顔ぶれがここで見れてしまうのか。

先に店内にいた彼らはその光景に驚いてしまう。


酒屋「...いらっしゃい」


魔剣士「適当に2杯たの────」ピクッ


魔闘士「────ッ!」ギロッ


隊長「──なッ...!?」


魔女「ど、どうしたの?」


魔闘士「なぜ貴様がここに...」


魔剣士「へェ...面白れェ偶然だな」


魔女「...ねぇ、誰なの?」


隊長「魔闘士と魔剣士だ...ッ!」


魔女「──こいつらがっ...!?」


魔剣士「おいおい...戦いに来たわけじゃねェからな?」


魔闘士「...お前に構っている暇などない」


隊長「...ッ!」


魔女「ど、どうするの?」


酒屋「なんだ、お前たち仲間か」


隊長「違う...」


酒屋「仲間なら、奥の4人席に座ってくれ...そこは騒がれると邪魔だ」


〜〜〜〜
383 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:18:13.98 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


魔剣士「で...なんで素直に4人で座ってんだァ?」


魔闘士「知るか」


隊長「...」


魔女「...ここの葡萄酒おいしいわね」


魔剣士「呑気な嬢ちゃんだなァ...こっちは数日前、命かけた戦いをしてた相手なんだぜ...?」


魔女「わ、私は闘ってないし...」


魔剣士「肝座ってるんだが、座ってないんだか...」


魔闘士「...」


隊長「...」


魔剣士「さっさと酒飲んで行こうぜェ? 魔闘士よォ」


隊長「...ちょっとまて」


魔剣士「あァ?」


隊長「お前たちは魔王子を探してるんだよな?」


魔剣士「...そォだ」


隊長「...お前らがここにいるってことは、ここのどこかに魔王子がいるってことだな?」


魔剣士「...」


魔闘士「...貴様」


魔剣士「わりィがよ...返答次第で殺すぞ」
384 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:18:41.40 ID:t/n958LI0










「魔王子に何の用だァ...?」









385 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:20:29.45 ID:t/n958LI0

魔女「ひっ...!」


──ピリピリピリッ...!

初めて目の当たりにする、圧倒的な実力者の怒気。

思わず魔女は声を上げてしまうが、隊長は臆せずに会話を進める。


魔剣士「...早く答えろ」


隊長「...俺たちは魔王子を仲間にし、魔王を倒す」


魔剣士「...はァ?」


隊長「そして最後に魔王に無理やり、平和的交渉をうなずかせこの世界を平和にすることだ」


隊長「魔王が頷かない場合は無理やり辞退させ、新しい魔王を魔王子に就任してもらい平和的交渉をうなずいてもらう」


魔剣士「...本気か?」


隊長「...本気だ」


魔闘士「...もう少し、賢いと思っていたが...とんだ馬鹿だな」


隊長「悪いが、託されたんでな」


魔剣士「託されたァ...?」


魔剣士「...そういえばそのユニコーンの魔剣、なんでお前がもってんだァ?」


魔剣士「アイツはどうした、あの帽子被った奴」


魔女「...」


隊長「...」


答えることはできない、まだその現実を完全に受け入れていないからであった。

だがその様子をみて察することのできない者なのいない。

口を開かない彼らの代わりに、魔剣士が事実をつきつける。


魔闘士「...死んだか」


隊長「────あぁ」


魔剣士「なるほどねェ...ま、ユニコーンが懐く位だ、そんなこと託すわけだなァ」


魔剣士「...だが、それは無理だなァ」


隊長「...」


魔闘士「確かに、恐らくだが魔王子は魔王を討とうするだろう...利害の一致でも狙ったか、だが」


魔剣士「...お前らじゃ足手まといだ、いらねェんだよ」


魔闘士「さらに、魔王子は平和などに興味はないだろう」
386 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:22:01.75 ID:t/n958LI0

隊長「...」


魔剣士「まっ、お前らは指くわえてみてろってなァ」


隊長「...ダメだ、帽子が無念だ」


隊長「せめて、魔王子に会わせろ」


魔剣士「...誰に向かって口聞いてんだ...あァ...?」


魔闘士「人間程度が、調子に乗るなよ...!」


隊長「魔王子が平和を勝ち取るのであれは身を引こう」


隊長「...そうでない場合は」


魔剣士「...ヤるつもりっていうのかァ?」


隊長「...」


魔剣士「ふざけるなよ...人間の甘っちょろい考えが通じてると思うなァ?」


魔剣士「平和ァ? ふざけるな...てめェの言う平和ってのは魔物を迫害することじゃねェか...」


隊長「...帽子の思想はそんなモノではない」


魔剣士「知るかァ...興味ねェな────」ピクッ


興味などない、それは嘘であった。

1つの要素が帽子という男の正体を証明していた。

あのユニコーンが魔剣となり、その男に従えているという事実が魔剣士に興味を沸かせていた。


魔剣士「...」


隊長「帽子の言う平和とは、人間だけの一方的な平和ではない」


隊長「...人間と魔物の共存だ」


魔剣士「...ケッ、あまェ...砂糖よりあめェよ」


隊長「アイツは根っからの甘い奴だ」


隊長「だが、それで海底都市の戦争を止めた」
387 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:23:39.41 ID:t/n958LI0

魔剣士「...海底都市だァ?」


隊長「帽子の思想...ただの脳天気野郎と同じにしてもらっては困る」


魔剣士「...海底都市の真偽はともかく、ユニコーンのことを見るとそうみてェだけどよォ...」


魔剣士「...チィ! うまく反論できねェなァ!!! 畜生がァ!!!」


反論ができない、この馬鹿正直な人間に与える言葉が見つからない。

だがそんな中魔闘士が口を開いた、それは意外な言葉であった。

一度拳を交えた関係性だからだろうか、なぜ彼は隊長に施すのか。


魔闘士「...いいだろう」


隊長「──ッ!」


魔闘士「会うだけなら、許してやる」


魔闘士「だがそれ以上のことは魔王子、本人に祈れ」


魔女「うへぇ...うまくいったわねぇ」


隊長「そうでなくては、帽子が困る」


魔剣士「たくよォ...馬鹿みてェな反論されるとこっちは何も言い返せねェぜ...」


魔闘士「だが...1つ問題がある」


隊長「...なんだ?」


魔闘士「この暗黒街の地下に隠された遺跡がある、その奥に魔王子はいるだろう」


隊長「...どうしてわかる」


魔闘士「...ここが、魔王子が最後に目撃された場所だからだ」


魔闘士「それに、魔王の部下の配置にもある」


隊長「配置...?」


魔闘士「...魔王はそこに"異端者"を配置している」


隊長「...」


魔闘士「俺が無理やり口を割らせた魔王軍の奴によると、そうらしい」


魔闘士「アイツは俺たちでも厄介だ...近づけさせないようにしてるとしか思えない」


魔剣士「異端者なァ...あのアホは半端無くだりィな...」
388 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:24:58.90 ID:t/n958LI0

魔闘士「...そして恐らく、魔王によって魔王子は封印されているだろう」


隊長「...異端者を倒し、その封印を解けば完了か」


魔闘士「...まぁそういうことだ、遺跡も恐らく罠だらけだろう」


隊長「では、早速いくか」


魔闘士「...最初の問題は遺跡を探す所だな」


隊長「...魔王の配置は知っているのに、遺跡の場所はわからんのか」


魔闘士「...」


魔剣士「しょーがねェよ、魔闘士は案外抜けてる所あるからよォ」


魔闘士「黙れ」


魔剣士「おーこわ」


魔女「...ってことは、また情報収集...?」


隊長「...そういうことになるな」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「じゃ、月が真上になったらまたこの酒場に集合だ」


魔闘士「...」


隊長「あぁ...頼んだぞ」


魔剣士「へいへい...なんでこんな事なっちまっただァ?」


魔闘士「...我々がユニコーンについて熟知していたからだな」


魔剣士「あァ...アイツに懐かれたことなんざ、ここ500年生きてるけど一度もねェな」


魔闘士「...それを説得に持って来られたら、こちらは反論できん」


魔剣士「...めんどくせェ」


わりと俗世めいたことを語りながら、夕焼けに消えていった。

一時的に、魔王子と対面するところまでは協力体制することになった。

これほど心強い者たちはいない、そんな彼らを見送ると隊長たちも動き出した。


隊長「さて、こちらも探すか」


魔女「...不審な箇所を町の人に聞けばいいのかしら」


隊長「そうだな」


〜〜〜〜
389 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:25:37.77 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...収穫なしか」


魔女「まともなやつを見つけても、特に答えがなしってのが応えるわね...」


隊長「はぁ...あいつらに小言を言われそうだ」


魔女「こうなったらこの街の地図から怪しいと思った場所にいきましょ」


隊長「...とりあえず、地図が張ってある掲示板のところにいくか」


魔女「そうね...」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「...特に地図をみても解決しなかったわね」


隊長「...手詰まりか」


魔女「はぁ...人訪ねしかないようね」


隊長「途方も無いな」


魔女「うーん...あ、丁度いいところに人が...あの〜っ!」


そこに人が通りかかる、その様子には至って健常。

薬物中毒ではなさそうだ、これなら会話が可能だろう。

だが彼は、1つだけ違和感を覚えていた。


???「...なんですか?」


隊長(...こいつ、どこかで見たような)


魔女「ここらへんで、なにか怪しい場所を探してるんですが...遺跡の入り口とか」


隊長(魔女の質問も...なんか間抜けだな)


???「...知らないね」


隊長(──...?)ピクッ


魔女「そ、そうですか...では」


???「僕は急いでるんだ、じゃあね」
390 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:26:40.48 ID:t/n958LI0

隊長「...まて」


???「...なんだ?」


隊長「散歩でもしてるのか?」


???「...そうだ」


隊長「この冷える夜、それに散歩にしてはすごい汗だな」


???「...」


魔女「ちょ、ちょっと...なに言ってるのよ」


隊長「...」


隊長には確証がなかった、が長年犯罪者の口を割らせている。

質問を答えた時の表情、経験、勘を頼りにし強引に話を進める。

証拠もないのに始めたこの尋問、隊長の世界では許されないだろう。


???「...た、たまたま汗をかいてるだけだ...そういう体質なんでな」


???「何度も言わせるな、僕は急いで家に戻りたい」


隊長「...あぁ、悪かったな」


そういうと、尋ねた者は早足で去っていった。

そんな彼から目線を逸らさずに、去っていった方向を注視する。


魔女「どうしたのよ...」


隊長「...尾行するぞ」


魔女「...へっ?」


隊長「...あいつはお前の質問に対して嘘をついている気がする」


魔女「そうなの...?」


隊長「...正直、なにも進まない人尋ねよりはマシだ」


魔女「まぁね...どうしようもないし尾行しましょ」
391 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:27:17.58 ID:t/n958LI0

魔女「...そういえば、あの人から強い魔力を感じたわね」


隊長「そうなのか?」


魔女「うん、女賢者さんぐらいのね...それがこの街にいるって考えると、ちょっと怪しかったかもね」


魔女「多くの人は、この暗黒街に好感を持ってないから...家なんてここに持ちたくないし」


魔女「あれだけ強い魔力をもってるなら、暗黒街からいつでも引っ越すことも簡単だろうしね」


隊長「そうか...遺跡でないにしろ、なにか手がかりがあることを祈ろう」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔闘士「...」


魔剣士「手がかりねェな」


魔闘士「...1つだけ、遺跡には関係ないが情報を手に入れた」


魔剣士「あァ?」


魔闘士「...勇者一行の"魔法使い"がこの街にいるらしい」


魔剣士「勇者ァ? なんでだ?」


魔闘士「ここは魔界に行くには通らざるえない場所ではあるが...」


魔剣士「盗人、ヤク中、ゴロツキがうようよだ、長いこと滞在したくねェな」


魔闘士「...情報によると、1週間はいる計算になる」


魔剣士「...くせェな」


魔闘士「...魔法使いを探すぞ」


魔剣士「あァ」


〜〜〜〜
392 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:28:13.16 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


隊長「...」


魔女「...」


???「...」


隊長「あそこが家か...」


魔女「えらく、郊外なのね」


隊長「...普通の民家のようだな」


──ガチャッ...バタンッ!

先程の男を尾行する、すると彼は家に到着したようだった。

家の外観には特に不審なところはない、だからといって家の中に踏むこむ訳にはいかない。

己の猜疑心は過敏すぎたようだ、どうやら慧眼は鈍ったのかもしれない。


隊長(...どうやら、見当違いか...疑ってすまなかったな)


隊長「魔女、引き上げ...」


魔女「うぇ〜...」


隊長「...どうした?」


魔女「な、なんかすごい...気分がおかしくなる臭いがする...」


隊長「...? 俺には感じないぞ」


魔女「気持ち悪い...」


隊長「...」


魔女はほんのり、頬を紅潮させている。

まるでアルコールを摂取したかのように表情が軽くとろけている。

そんな女の顔をされ、隊長はたじろぐしかなかった。


隊長「だ、大丈夫か?」


魔女「ちょっと...大丈夫じゃないかも...うぇ────」


――あぐぅっ!!!!

その時だった、先程の男の家からそれは聞こえた。

口をふさがれてるような女の人の叫び声、魔女ではない。
393 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:31:07.36 ID:t/n958LI0

隊長「──今、建物の中からッ!?」


魔女「う...い、いってみよう...」


隊長「...お前はここで待ってろ、すこし離れて休め」


魔女「げぇ...そ、そうする...ごめんね...」


隊長「...」


──ガチャッ...バタンッ!

彼は一般市民に家に突入した、これは許されることではない。

特殊部隊である彼が無許可でソレをするならば、不祥事トップニュースの仲間入りだろう。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長(...暗いな)


――パリンッ!

隊長はアサルトライフルを構えながら、今まで出番のなかったライトを照らす。

建物が少しだけ、灯りに満たされる。すると内装がみえる。


隊長(何かを踏んでしまったか...)


隊長「これは...」


建物の中、注射器が大量に転がっていた。

隊長も見たことが有る光景、麻薬中毒者の家に似ている。


隊長(...女の叫び声...少なくとも被害者がいるのか)


隊長(遺跡の手がかりでないにしろ...進んでみる価値はあったな)


隊長「...」


隊長(血なまぐさいな...)


―――ぐぅぅぅぅっっっ!!!

そして消えたのは、唸り声。

それは下から聞こえる、どうやら地下室があるみたいだ。


隊長(唸り声...下からか...階段を探そう)


??1「ははは! いい声だねぇ女騎士ぃ!!!!」


??2「もっ...もお...やめへぇ...」


隊長(...性犯罪者で、麻薬中毒か...そんな奴は俺の世界にゴミのようにいたな)
394 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:32:15.10 ID:t/n958LI0

隊長(階段か...そろそろライトを消すか)


階段を下っていく、そしてライトを消して暗闇に身を隠す。

目はもう慣れており少しぐらいなら周りが見えていた。

女の悲鳴が響き渡る、どうやらあの男は性犯罪者であることは間違いないようだった。


隊長「...」


隊長(...扉の向こうにいるな)


??2「あっ...あひっ...やだぁっ...」


??1「早く、僕に素直になりなよ」


??2「くっ...わっ、わたしはぁ...屈しないっ...!」


??1「とかいいつつ、すっかり僕のを気に入ってるじゃないか」


??2「それはっ...薬を使ってるからだろっ...!」


??1「...本当にそう?」


??2「こっ...いつぅ...裏切り者...めっ...!」


??2「おまえが裏切ったからっ...女勇者は魔王軍にっ...!」


??1「知らないね、僕は君とこうしてたかったんだよ」


??2「...くずがっ!」


隊長「...Scum■■」スッ


―――ドガァァァァッッッッ!!!!

怒りがこみ上げる、隊長がドアを蹴破った。

そしてユニコーンの魔剣が一瞬だけ黒く光っていた。


??1「──なっ!?」


隊長「────Fuck off...」スチャ


──ババッッッ

容赦のない射撃、それは男の足に被弾する。

当然その痛みに耐えられるわけもなく、彼は跪いた。


??1「──がああああああああああ足があああああああああっっ!!!」
395 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:33:14.33 ID:t/n958LI0

隊長「―――ッッ!!!」スッ


──バキィィッッ...!

先ほどの尋ね人が軽く吹っ飛ぶ、強烈なアッパーであった。

そして隊長は直ぐにマウントポディションを取り、拘束する。


隊長「...動くな」スチャ


??1「ッ...!? お前はさっきの...ッ!?」


??1「くそっ!! 足がっ...!」


隊長「...お前が存在しているだけで、吐き気がする」


??1「な、なんだとっ!!」


隊長「...Die」


―――バッ

そして彼はその軽すぎる引き金を引いた。

脳天に直撃、耐えられるわけがなかった。


??1「――──」ガクン


隊長「...」


??2「...殺したのか?」


隊長にしてはらしくない行動であった。

どうやら拘束魔法を受けていたようだ、それが解けて女が裸で近寄ってきた。


隊長「...不味かったか?」


??2「...いいや、そんな屑、死んで当然だ」


隊長「...お前は?」


女騎士「...女騎士だ、そいつは魔法使い...裏切り者だ」


魔法使い「―――─」


女騎士「...お前は?」


隊長「...Captainだ」


女騎士「きゃぷてんか...助かったぞ」


隊長「礼は後だ、その格好を何とかしてくれ、目も合わせられん」


彼女の名前は女騎士、そしてこの卑劣漢は魔法使いと言うらしい。

薄暗い部屋のなか、女らしく適度に肉々しい桃色の身体がうっすら見えている。
396 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:34:12.01 ID:t/n958LI0

女騎士「あっ...す、すまない...」


隊長「...この落ちている布を使え」


女騎士「あぁ...」


隊長「...一度、外にでるぞ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...!」ガチャッ


扉を開け、外の空気を感じ取る。

するとそこには彼ら2人が魔女の様子を眺めながら待っていた。


魔剣士「あァ、待ってたぜ」


隊長「魔剣士、魔闘士もか」


魔闘士「...どうやら、一足遅かったようだな」


魔剣士「やるねェ」


魔女「あぁ...やっと楽になった」


女騎士「...うん?」


魔闘士「...誰だ?」


魔剣士「誰だよ?」


魔女「ほぼ裸じゃない...」


隊長「...魔法使いとやらに拘束され、暴行を受けていたみたいだ」


魔剣士「なるほどなァ...って、お前勇者一行の女騎士じゃねェか?」


女騎士「──なぜ知っている!」


魔剣士「至る所の都の新聞で写真が記載されてんだ、分かるに決まってんだろ...」


魔闘士「...魔法使いはどうした?」


隊長「...やむなく殺した」


魔女「...!」


魔闘士「...まぁいい、この建物を調べよう」
397 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:35:02.07 ID:t/n958LI0

魔剣士「ところで、女勇者はどこだよォ...なんでお前らだけがここに居るんだァ?」


女騎士「...話せば長くなる」


魔剣士「...要点だけ言ってみろ」


女騎士「...ここの近くで魔法使いに裏切られ、女勇者は魔王軍に連れて行かれた」


女騎士「そして私は...魔法使いに...」


魔剣士「...なるほどなァ、結構面倒くせェ事態だな」


魔女「ね、ねぇ...大丈夫なの?」


女騎士「あぁ...大丈夫だ...女の自分はとうに捨てた...」


女騎士「捨てた...はずだったのに...っ...っ!」


隊長「...魔女、女騎士とここで休んでいてくれ」


魔女「うん...もう大丈夫だからね?」


女騎士「っ...あ、あぁ...っ!」


隊長「俺たちは建物の散策に入る」


魔闘士「...誰に指示をしている?」


魔剣士「いいんじゃね? こいつ、お前より指示がうまいぜェ?」


魔闘士「...」


〜〜〜〜
398 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:35:37.77 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


魔剣士「...くせェ」


隊長「...なにも感じないぞ」


魔闘士「...これは淫魔の雄の血か」


魔剣士「あァ...雌にだけ効果絶大のヤツか」


魔闘士「俺たちにはただ臭いだけだな」


隊長「そうなのか...」


魔闘士「...この死骸が魔法使いか」


隊長「...おい、この服の中にこれが」


魔剣士「手紙ィ?」


隊長「...」


魔闘士「...なるほど」


隊長「どうやら、ここが当たりだったようだな」


魔闘士「魔王の側近からの手紙か...」


魔剣士「なになに...貴様に遺跡の番人を任せるゥ?」


魔闘士「...女勇者を裏切ったわけではなく、最初から魔王側だったようだな」


隊長「...徹底的にここを調べよう」


魔闘士「そんなことはわかっている...」


魔剣士「それより一旦でようぜ? 長いこと居ると臭くてたまんねェわ」


隊長「...これは」


〜〜〜〜
399 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:38:46.79 ID:t/n958LI0

〜〜〜〜


魔女「あなた、何歳?」


女騎士「...20だ」


魔女「本当? 私も20よ!」


女騎士「そうなのか...」


魔女「...」


女騎士「...」


魔女(か、会話が続かない...そりゃ元気ないならそうなるわよね...)


女騎士「...なぁ、あのきゃぷてんとか言う男」


魔女「...なに?」


女騎士「凍った山を1人で制圧したそうだな」


魔女「知ってるの?」


女騎士「...麓の村で聞いた」


魔女「...今、その話をあいつにしないほうがいいわよ」


女騎士「...すまない、私たちが訪れたから」


魔女「...やったのは魔王軍よ、あんたたちのせいじゃない」


女騎士「...ありがとう」


魔女「...」


――ガチャッ...

扉を開けると、充満する嫌な匂いが微かに香る。

よく見ると扉だけではなく窓も全開、どうやら換気をすることにした様だった。


魔剣士「あァ...新鮮な空気だ」


魔闘士「雄淫魔の血は、人間の雄には何も感じないと聞いたが...本当だったな」


隊長「ふぅ...」


魔女「...おかえり」


隊長「あぁ...おい、女騎士」


女騎士「なんだ?」
400 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:41:29.72 ID:t/n958LI0

隊長「これ、お前のだろ」


──ガシャンッ!

隊長が持ってきた鎧と巨大なランスを地面に置く。

鎧は男モノにしては細すぎる、そして胸部は膨らんでいる。

どう考えても女騎士の装備であることは間違いない。


女騎士「私の装備...あったのか!」


隊長「それを着れば、人目を注目させないだろう...裸よりはな」


女騎士「...助かる」


魔女「なにか、手がかりあったの?」


隊長「あぁ...ここに遺跡の入り口があるのは間違いないようだ」


魔女「...運がいいわね」


隊長「自分でもびっくりするぐらいな...」


魔剣士「で、今からもう潜入するのか?」


隊長「...悪いが、人間の俺はそろそろ眠気が限界だ」


魔剣士「大丈夫だ、魔物もそこは同じ...眠ィ」


隊長「なら、今日はここで夜を越そう」


魔剣士「そんじゃ、俺様はさっさと寝るぜェ」


魔闘士「...なぜ、俺の指示には文句をいうくせに、あの人間の指示には従順なんだ?」


魔剣士「あァ...? アイツのほうが上に立つ者としての威厳が似合ってるからだ」


魔剣士「お前の指示は、なんか偉そうなだけなんだよ」


魔闘士「...貴様」


隊長(...こいつら、案外面白いな)
401 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:42:41.59 ID:t/n958LI0

魔剣士「そもそも、別に個人的に憎しみ合ってるわけじゃねェしな...」


魔剣士「アイツらと戦ったのも、お前が興味あるとかいって暗黒街よりも先に向かったからだろ?」


魔闘士「...」


魔剣士「それに俺様も巻き込みやがって...楽しかったからいいものをよォ...」


魔剣士「まっ、コレ以上はお前が可哀想だし、寝るわ」


魔闘士「...」


魔女(...もうすでに可哀想なんだけど)


女騎士「着替えたぞ」


隊長「あぁ、今日はここで野宿をする」


女騎士「そうか...ところできゃぷてん」


隊長「...何だ?」


女騎士「お前の旅、魔女から聞いた」


隊長「...」


女騎士「魔王軍に攫われた、女勇者...まだ生きてるかもしれない」


女騎士「そもそも、私の旅も魔王を討つため...」


女騎士「...私も、お前の旅に付いて行ってもいいか?」


魔女「ちょっ...」


隊長「...好きにしろ」


女騎士「よろしく頼む!」


魔女「...」ゲシッ


隊長「な、なんで蹴るんだ...?」


魔女「し〜らないっ! よろしくね! 女騎士!」


女騎士「女同士、仲良くしてくれ! 魔女!」


〜〜〜〜
402 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/02(日) 22:43:23.43 ID:t/n958LI0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
403 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:04:03.91 ID:lsIBK8rn0

〜〜〜〜


魔剣士「だァァ、ねみィ...」


魔闘士「もう朝だ、さっさと行くぞ」


隊長「...」


魔女「ふわぁ〜あ...」


女騎士「朝だというのに、暗黒街は薄暗いな...」


──ガチャッ...

朝の気だるい雰囲気は、人間も魔物も一緒であった。

そんな中彼らは扉を開け、この民家へと突入する。


魔女「建物の中はもっと暗いわね...」


隊長「...魔女、コレを使え」スッ


魔女「な、なにこれ...すごい灯りね」


魔闘士「...あの武器といい、珍妙なものを持っているな」


隊長「話せば長くなる...」


女騎士「凄いな、照らした先がとても明るい」


彼が魔女に手渡したのは、軍用のライトであった。

だがそれが珍しくて仕方ない、それは当然この世界に存在しないからであった。

太陽光充電式の軍用ライトがこの真っ暗な建物内を照らす。


魔女「これなら、大丈夫ね」


魔剣士「カァ...グゥ...」コックリ


魔闘士「おい、さっさと起きろ」バキッ


魔剣士「──ってェ!! なにしやがるゥッ!?」
404 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:05:35.41 ID:lsIBK8rn0

魔女「...微かに臭い」


魔闘士「淫魔の血は濃いからな...これでも大分薄くなったほうだ」


魔女「うげぇ...」


女騎士「私は身体に注射されていたから、もう臭いなど感じないな...」


魔女「...大変だったのね」


女騎士「過ぎたことを悩んでていても仕方ない」


隊長(...逞しいな)


魔闘士「勇者一向に選ばれただけはあるな」


魔剣士「つーかァ...どこにも入り口はねェな」


魔闘士「フン...」


隊長「...」


魔女「魔法で隠してるとか?」


魔闘士「...その気配はない」


女騎士「隠し部屋もないみたいだぞ」


──ふわふわっ...

そんなときであった、この逞しい女性に異変が起きた。

暗くて見にくかったが女騎士の長い髪が揺れた、室内だというのに。


魔剣士「...風?」


隊長「...どうやら隠し通路が見つかったな」


魔闘士「...なるほどな」


魔剣士「...あァ、そういうことか」


魔女「...」スッ


魔女が自分の手袋を脱がし、指をなめてかざしてみる。

すると感じ取れたのは、空気が移動している様子であった。


魔女「...こっちの方から風が来てるわね」


魔剣士「なるほどなァ...じゃあ、俺様の出番か」スッ
405 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:06:50.95 ID:lsIBK8rn0

隊長「なにをする気だ?」


魔剣士「まァみとけってなァ...」ブンッ


―――ドガァッッッッ!!!!

魔剣士が剣を振りかざすと、何かが飛び出した。

その何かが地下室の壁を崩した、その様子を見て女騎士はつぶやいた。


女騎士「...剣気か」


隊長「剣気...?」


魔女「飛ぶ斬撃みたいなものね...ウルフも、これに似たようなのを使ってたでしょ?」


隊長「...なるほどな」


魔剣士「単純に剣から衝撃を飛ばすだけだァ、慣れれば簡単だぜェ?」


女騎士「...ここまで細かく使えるとは、かなりの腕だな」


そんな魔剣士のおかげで、壁が秘密を打ち明けてくれた。

剣気が崩したそこにはどこかへとつながる暗闇の道が存在していた。


隊長「...道はあったようだな」


魔闘士「手間をかけやがって...」


隊長「...魔女、引き続き灯りを頼む」


魔女「えぇ...それにしても、暗いわね」


女騎士「...私は最後尾にて、殿を守ろう」


隊長「あぁ...助かる」


魔剣士「そんじゃ、俺様が先行するかァ」


暗い道、それは下りの階段になっている。

足元を取られないように皆が進んでいると空気感が変わる。

風の流れが強くなる、なにか大きな空間があるようだった。


魔剣士「...この先は広いみたいだな」


魔闘士「...ここまで暗いと敵わんな」


魔女「真っ暗ね...」


広い空間であろう場所に魔女が適当にライトを灯してみる。

そこには、大量の骸骨が野ざらしにされていた。


魔女「うわ...死体みたいね...」
406 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:08:03.32 ID:lsIBK8rn0

隊長「...財宝目当ての者とかか?」


魔剣士「この遺跡に、そんな噂聞いたことねェな」


女騎士「どうする...このまま暗いと動きにくいぞ」


魔女「ちょっと試したことないけど...私に考えがあるわ」


隊長「...頼むぞ」


魔女「..."雷魔法"」


──バチバチバチッ...

魔女が放つ雷は、形状を保ちながら地下天上の中心あたりにとどまる。

雷というとても強い光源が、この広間の視界を開かせる。


魔女「ふっ...うっ...だ、大丈夫そう?」


魔闘士「...ほう、魔法をそのまま保つか」


魔剣士「器用なことできんなァ、俺様にはできねェ」


隊長(魔女の魔法が、人工太陽代わりになってるのか)


魔闘士「まぶしいな...だが、これでこの広い空間がはっきりわかったな」


女騎士「...これが、遺跡という奴か」


魔剣士「正式名称は、"黒の遺跡"だァ」


魔女「なんでこんなに黒いの?」


魔剣士「...遥か昔に、大量の魔物がここで殺されたらしいなァ」


魔剣士「その血が黒くなって、この遺跡に呪いを残したって魔界では伝えられているぜェ?」


隊長「...とにかく行くぞ」


魔闘士「──いや、まて」


──ガラガラガラッ...!

魔闘士が呼び止めると、奴らは動き出した。

それは遺跡の罠なのか、それとも心霊現象なのか。

魔女が先程照らした亡骸たちが動きだした。


女騎士「骸骨が動いたっ!?」


魔女「..."スケルトン"?」


魔闘士「いや...あれは...」


動く骸骨なら、スケルトンという魔物が妥当だろう。

だがそれは違う、動き出している骸骨の周りに存在する黒い光がそれを否定する。
407 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:09:20.60 ID:lsIBK8rn0

魔剣士「..."死霊"か」


魔女「し、死霊って...そいつが骸骨に取り付いたってわけ...?」


女騎士「...死霊とは何だ?」


魔闘士「...亡骸に寄生する、超上級で希少な魔物だ」


魔闘士「触れられたら魂を持っていかれると言われている、即死攻撃をしてくる厄介者だ」


魔剣士「魔王の野郎...結構本気じゃねェか」


隊長「...どうしたらいい?」


魔闘士「とにかく、近寄らせるな...遠距離攻撃で骸骨を破壊すれば────」


隊長「──なら話は早いな」スチャ


──ババッ!

果たして、人を簡単に貫くことができるこの銃器に敵うだろうか。

死霊が取り憑いた亡骸はあっという間に砕け散る、そして宿主を失えばどうなるか。


死霊1「...ッ」


──ガラガラッ...

ただ、音を立てて崩れ去るだけであった。

寄生生物は宿主がいなければ生命活動などできない。


女騎士「速いな...!」


隊長「...俺が死霊をなんとかする」


魔闘士「...意気込むのはいいが」


死霊2「...」


死霊3「...」


死霊4「...」


魔闘士「...どうやら、順番待ちしているみたいだぞ」


魔剣士「気をつけろ、ここには寄生先になる屍が多いみたいだぜェ?」


隊長「...魔女ッ! 灯りを何としても保っておいてくれ!」


魔女「わかったわ! 私も隙をみて攻撃するわよっ!」
408 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:10:27.94 ID:lsIBK8rn0

魔剣士「俺様も加勢するぜ...あんまり飛距離ねェけど...なァッッ!!」ブンッ


死霊2「────...ッ」


―――ドガァッッ!!!! ガラガラッ...!

射程の長い剣気を飛ばし、死霊を蹴散らす。

剣士が苦手とする近距離以外を、剣気で補う。

それがどれだけ優れたことなのか、残り2人はただ傍観するしかなかった。


魔闘士「...俺は役立ちそうにないな」


女騎士「...私はせめて、周りを注視しておこう」


──バババババッッッ!!!!

──ブンッッッ! ドガァッッッ!!!

──バチバチバチッッッ!!!!

三者三様の遠距離攻撃の音が響き渡る。

近距離を主軸にする2人は、前線の彼らの視野を補助するしかなかった。


女騎士「──前方に扉があるぞ!」


隊長「...このまま進むぞッ!」


魔剣士「たくゥ...きりねェなァ...!」


隊長「もう少しで扉だッッ!!! 保てッッ!!!」


魔剣士「わかってらァ!!!」


触れれば即死、その緊張感が彼らを焦らせる。

だが司令塔が冷静であるならば、焦燥感が足を引っ張ることはない。

隊長の的確な指示が幸いし、接触を許さないまま扉に到着することができた。


魔女「着いたっ!」


隊長「...入れッ!」


魔剣士「なんとかなったなァ...」


──ガチャッ...!

扉には鍵はかかっておらず、容易に進行が可能であった。

前線を歩いていた隊長と魔女と魔剣士が先に、魔闘士と女騎士が続こうとすると。


魔闘士「────ッ!?」


―――ガシャアアァァァァァァァァンッッ!!!

爆音と共に、激しい砂埃が舞い上がる。

まるで上からなにかが降ってきたような、そうとしか思えない騒音であった。
409 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:11:53.22 ID:lsIBK8rn0

隊長「...ゲホッ...ゲホッ...何が起こったッ!?」


魔剣士「おいおい...厄介なことになってるじゃねェか...」


魔闘士「くそッ...これが罠だったか...」


女騎士「...鉄格子か、私たちは広間に閉じ込められたようだな」


魔女「──後ろっっ!!!」


女騎士「...死霊が迫ってきてるっ!」


魔闘士「チィッ...どいてろッッ!!!」


魔闘士が力づくで鉄格子を壊そうとする。

隊長をも吹っ飛ばすことのできる彼の剛力ならこのような鉄格子など朝飯前であろう。

しかしそれは叶わなかった、この障害物にはある属性が込められていた。


魔闘士「──これはッ...!?」


隊長「...どうしたッ!?」


魔闘士「この鉄格子...光属性が宿っているぞ...ッ!?」


魔剣士「...チィッ!!! 糞がッッ!!!!」


隊長「壊せないのかッ!?」


魔闘士「...行けッ!」


魔剣士「畜生...ッ!! 説明は後だ、行くぞッ!」


魔闘士「...魔剣士、頼んだぞ」


魔剣士「あァ、なんとか耐えててくれェ...魔王子連れてすぐ戻るからよォ」


魔闘士「...」


隊長(なにがどうあれ、この鉄格子は壊せないらしいな...)


隊長「...ならせめて、これを受け取れッ!!!」スッ


魔闘士「これは...」


隊長「使い方、その身をもって知ってるだろッ!?」


隊長「15発まで撃てるッ! 撃てなくなったらその棒を入れ替えろッッ!!!」


魔闘士「...」
410 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:13:20.60 ID:lsIBK8rn0

魔剣士「...早く行くぞッッ!!!」


隊長「――わかってるッッ!!!」


魔女「...女騎士! ごめんっ!」


隊長たちは無理やり魔剣士に引っ張られ、奥に進んでいった。

彼は鉄格子の隙間からハンドガンとそのマガジン6本全部を渡した。

遠距離攻撃ができない魔闘士の為に、敵であったこの男にすんなりと手渡す。


魔闘士「...さて、どこまで耐えられるか、この無限にある屍共に」


女騎士「さぁな...だが、私の槍もそう甘くないぞ」


魔闘士「触れるだけで即死だ、気をつけろ」


女騎士「...そうだな」


魔闘士「さぁ、この珍妙な武器...使わせてもらうぞ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「...」


鉄格子の先は、またも下りの階段であった。

早足でそこを駆け抜ける魔剣士、それに追いつくのがやっと。

何を思ってか彼はずっと無言であった、しかし隊長は疑問を魔剣士にぶつけた。


隊長「...なぜ壊せなかった、魔闘士なら蹴飛ばせていたんじゃないのか?」


魔剣士「...光属性は人間界であんま知られてねェのか?」


魔女「...そうよ」


魔剣士「...なら教えてやる」


魔剣士「光属性の前では、どんなものも無力化する」


魔剣士「質が低ければ魔法だけ、高ければどんなものでも無力化する」


魔剣士「さらに質が極めて高ければ、相手の気を保つことを無力化させる...気絶させるってことだァ」


魔剣士「そんでもってェ...あの鉄格子からは、それなりの質の光属性を感じた」


魔女「...どうして、それが鉄格子に」


魔剣士「..."魔法の欠片"か..."属性付与"だな、あとはわかんだろ?」


魔法の欠片、それは女賢者が教えてくれた。

少しの間魔法を維持しててくれる鉱石、そして属性付与とは。

それは大賢者が教えてくれた、物に属性を与える単純でいて強力な魔法。
411 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:14:51.18 ID:lsIBK8rn0

隊長「...なるほどな」


魔剣士「言っておくが...見捨てたわけじゃねェからな」


魔剣士「だが、魔闘士は近接格闘しかできねェ...死霊と相性は最悪だ」


魔剣士「...」


隊長「...どうしたら助けられる」


魔剣士「...魔王子なら、あの光ごとき簡単に打ち砕くだろうなァ」


隊長「...では、急ぐぞ」


魔剣士「もう急いでんだろうがァ...ま、お前の渡した武器で時間稼ぎができれば上等だァ」


魔剣士「もしくはあの無限にある屍共を殲滅できたら話は簡単だがよ」


魔剣士「とにかく、この先に居るであろう魔王子と合流したら、すぐにあそこに戻るぞォ」


魔女「...私は魔法を途切れさせないようにしないとね」


魔剣士「...そうだなァ、暗闇じゃなおさらだ...頼んだぜ?」


魔女「うん...」


魔女はまだ魔法を持続させていた。

これが一番の生命線、真っ暗の中では何もすることができない。

雷魔法の光源が尽きないように魔女は精神を集中させる。


隊長「...先ほどから、蝋燭が灯っているな」


魔剣士「...誰かいるってのは確かだなァ」


魔女「また広間みたい...って、あれはっ!?」


そこには女か男かわからない容姿をしたものがいた。

肌は雪のように白く、黒い服を着て、目が血のように赤い。


???「おやおや? こんにちわ」


魔剣士「あァ、いるよなァ...そりゃ...面倒くせェ奴がよ」


隊長「...こいつが異端者か」


異端者「ボクの名前を知っているんだぁ?」


隊長「動くな...」スチャッ


隊長(背中に...あれはサムライソードか...?)


その者の名は異端者、その名に相応しく掴みどころがない。

奴の背中には鍔のない刀が鞘に収められていた。

なんとも言えないその存在感に、魔女はやや恐れを感じていた。
412 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:16:12.01 ID:lsIBK8rn0

魔女「こいつ...なにか...怖い...」


魔剣士「...嬢ちゃん、お前は下がって魔法をきらさねェように待機してなァ...」


隊長「...こいつはどんな奴なんだ?」


魔剣士「...すぐにわかる」


異端者「──あはっ!!」ダッ


魔剣士「────ッ!!!」スッ


――グサッッッ!!!!

異端者が魔剣士に跳びかかった、だが魔剣士は素早く反応した。

彼は大剣を構えることで、接近してきた異端者を串刺しにしたのであった。


隊長「...!」


魔剣士「おいおい...お前みてェな奴を抱きたくないんだがなァ...」


異端者「やだなぁ、痛いじゃないか」


――シュッッ!!!!

異端者が串刺しになりながら背負っている鞘から刀を刺そうとしてきた。

なぜ生きている、それがこの者が面倒くさいと称される理由であった。


魔剣士「オラ!! 離れなァッッ!!!」ブンッ


異端者「おっとっと...」ヨロ


魔剣士は大剣を振り回し、異端者を吹き飛ばした。

すると、みるみる異端者の身体の傷がふさがっていく。


異端者「ふふふ...」


隊長「...不死身か、なんでもありだな」


魔剣士「それに、あの刀には毒が塗ってあるんだァ」


魔剣士「即死はしないが、しばらく動けねェヤツがなァ...」


異端者「動けない者をいじめるのが好きなんだよね、ボク」


魔剣士「実力ねェくせに、面倒だこいつゥ...!」
413 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:17:36.75 ID:lsIBK8rn0

魔女「──ねぇ、奥に扉があるわよっ!」


魔剣士「...無視してもいいなァ、あいつ」


異端者「...悪いけど、鍵が必要だよあの扉」


隊長「...鍵はどこだ?」


異端者「...食べちゃった!」


魔剣士「...そりゃ、美味しかっただろう...なァッッッ!!!」スッ


──ブンッッッッッ!!!!!!!!

剣気が放たれる、それは鈍くとも鋭くもある。

当たれば確実に致命傷を与えることができる。

問題は上記の通り、当たればの話だが。


異端者「──"転移魔法"」シュン


異端者「その速度の剣気、当たる気がしないね」


魔剣士「だァァァァァ...糞がッ...空振りだァ!」


異端者「このまま、外に逃げてもいいんだけ時間かければ扉ごと壊させちゃうしね」


異端者「まぁ、ボクがいる間は時間なんてかけさせないけど」


魔剣士「...ほんと、面倒くせェなお前」


異端者「さぁ、ボクと遊ぼうか!」


隊長「...付き合ってやるしかないようだな」


魔剣士「あァ...」


魔女(この不死身、どうやって倒せばいいの...っ?)


〜〜〜〜
414 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:18:53.38 ID:lsIBK8rn0

〜〜〜〜


魔闘士「―───ッ!」スチャ


──ダンッ ダンッ!

慣れていない、よって精度はお粗末なモノである。

だがこの銃という武器は、当たりさえすれば大きな損傷を与えることができる。


死霊7「────っ...!」


──ガラガラガラッ...

死霊の一匹、宿りを失いそのまま果てていく。

魔闘士は順調に身に迫る危険を処理している様だった。


女騎士「──はあああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!」ブンッ


―――ガギィンッッッ!!!!

一方彼女は、大きな槍を振り回していた。

その鈍器の様な攻撃に、亡骸は砕け散るしかなかった。


死霊8「────っ...!」ガラガラッ


女騎士「くそっ...キリがないな...」


魔闘士「...これでも良い方だろう、俺に至ってはこの武器でしか攻撃できん」


女騎士「その武器...魔力を感じないのに、女勇者の剣に匹敵しそうな威力だな────」


魔闘士「──後ろだッッ!!!」スチャ


死霊9「...」


気づけば、彼女の後ろには新手の死霊が接近していた。

魔闘士はそれを察知したはいいが、慣れぬ銃器故に引き金を引けずにいた。

このままだと接触してしまう、だがそれは杞憂に終わった。


女騎士「────ふんっ!」


―――だぁんっっっ!!!

ランスを棒高跳びのように利用し、大きく跳ねることで避けることができた。

その大胆な動き、女性ならではの身体の靭やかさだが、魔闘士が驚いたのはそこではなかった。


魔闘士(あの鎧姿でこの身のこなし...ッ!)
415 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:19:47.22 ID:lsIBK8rn0

女騎士「..."衝魔法"っ!」


──ズシィッ...!

空中の女騎士から、少し心もとない魔法が繰り出される。

だが、そんな威力でも骨を砕くには十分であった。


死霊9「────っ...!」ガラガラッ


女騎士「──っ...!」ダン


女騎士(さすがに...着地は膝にくるな...)


魔闘士「...仮にも、勇者の仲間か」


女騎士「残念ながら、魔法はあんまり得意ではないけど────」


──ダンッ!

すると突然、魔闘士は彼女に向かって発砲した。

もう少しで女騎士に被弾していた、ずれていたら彼女の長い髪の毛が巻き込まれていただろう。

だが今巻き込まれたのは、再び背後に現れた新手であった。


女騎士「──っ!」


死霊10「────っ...!」ガラガラッ


女騎士(...また背後を取られていたか)


魔闘士「もう少し、視野を広くするんだな」


女騎士「あぁ...助かるぞ」


魔闘士「...」


魔闘士(奴から受け取ったこの武器...この棒の換えが残り4本か)


魔闘士(...頼む、持ってくれ...この武器も...この灯りも)


〜〜〜〜
416 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:21:11.29 ID:lsIBK8rn0

〜〜〜〜


──ババババババババッッッ!!!

広間に響く、銃火器の激しい音。

だがそれを受ける者の声は、とても緊張味のないモノであった。


異端者「いたいいたいっ!」


隊長「...効果なしかッ!?」


魔剣士「ならこれはどうだァ!!!」スッ


異端者「──ぁはっ!!」


――ギィィィィィィィインッッッ!!!!

耳につんざくその音は、刃物通しの接触音。

魔剣士の大きな剣が、異端者の刀と鍔迫り合う。


魔剣士「...その細せェ刀で俺様の剣をよく受けれんなァッ!」


異端者「凄いでしょ?」


魔剣士(汗一つかいてねェな...これだから不死身は)


隊長「──援護するッ!」スチャ


──バババババババッッッッ!!!!!

その弾幕は、すべて奴の身体に被弾する。

しかしその効果は今ひとつ、異端者は嘲笑を含みながらこう言った。


異端者「意味ないよ?」


魔剣士「──どこ見てんだァッッッ!?!?」


―――─ザシュッッッッッ!!!!!

剣同士の取っ組み合いから、魔剣士は強烈な斬り上げを炸裂させる。

隊長が与えてくれた援護とはこれであった。

彼の銃撃に気を取られた異端者は、胴体を真っ二つにされる。


異端者「──...!」


魔剣士「下半身と上半身が離れちまったぜェ?」


異端者「...へぇ〜」


魔剣士「これでも意味ねェか...ッ!」


隊長「──フッ!!」ダッ


──ドガァァァァァァ...!!

隊長は直ぐ様に突撃し、奴の下半身を思い切り蹴飛ばした。

それでもなお異端者は話しかけてくる。
417 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:22:28.44 ID:lsIBK8rn0

異端者「ボクの下半身を蹴っ飛ばさないでよ!」


魔剣士「...チッ! 気味のわりィ奴だぜ本当に」


異端者「"転移魔法"」シュンッ


──ゴリゴリゴリッ...グチャッ...!

蹴飛ばされ倒れ込んだ下半身のもとへと転移する。

そして異端者は下半身を無理やり上半身と繋ぐ、繋いだだけであった。


隊長「...あれも治るか、どうする?」


魔剣士「さァな...俺様は昔っからアイツにだけは関わらないようにしてんだァ」


隊長「...魔女、大丈夫か?」


魔女「へ、平気よ...はぁっ...はぁっ...」


魔女から汗が滝のように流れる。

魔女の魔法が途切れてしまえばどうなってしまうか。

魔闘士たちのいる場所は真っ暗になり、死霊に屠られるであろう。


魔剣士「...頼む、少しでもいい...魔法を持続させてくれ」


魔女「ごめん...この闘いに参加できなさそう...」


隊長「...心配するな、お前はそっちを集中していてくれ」


魔女「うんっ...少し来た道を戻って待機してるわねっ...」


異端者「...もういいかい?」


隊長「...」カチャッ


魔女が安全圏へと対比した、その間にアサルトライフルのマガジンをリロードした。

それが終わると背負っていた武器と持ち替える、ついに新たな武器の出番であった。

どんな状況でも頼れるのはこのショットガンという武器である。


隊長(...映画の話だと、化け物相手にはコレって相場は決まっているな)


魔剣士「...武器を持ち替えたか」


隊長「あぁ...前方を全体的に攻撃するものだ、俺の前に立つな」


魔剣士「あァ...わかったよ」


魔剣士(...あの時は持ってなかったやつだな...どんな武器か気になるなァ)
418 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:24:05.74 ID:lsIBK8rn0

異端者「..."転移魔法"」シュン


異端者が隊長の目の前に姿を表す。

そのまま斬りかかられてしまえば、おしまいだ。


魔剣士「──あぶねェッッ!!」


隊長「――──ッ!」スチャ


──ダァァァーーンッッッッ!!!!

しかし、異端者は間違えてしまった。

この武器を前にして、立ち尽くすなど愚の骨頂。


異端者「へっ...?」ドサッ


──ジャコンッッッッ!!!

激しい銃声、その後に続く独特なポンプ音。

異端者の胴体がひき肉状になる、それと同時に思い切り吹き飛ばされる。

これがショットガンという武器、決して人に向けてはいけない。


異端者「...ちょっと痛いかも」


魔剣士「へェ...お前の武器、どこで手に入るんだァ?」


隊長「それは後で教えてやる...それより、落とし物だぞ」スッ


異端者「...へぇ、落としちゃったみたいだね」


魔剣士「...なるほどなァ、そのひき肉になった腹から落としたわけか」


異端者「やるねぇ、人間の分際で...本気になろうかなぁ」


──ピリピリピリッッッ...!

腹に受けた散弾、それが胃に穴を開け鍵を落としてしまう。

それがキッカケとなり、異端者はついに本気を見せつける。


魔剣士「気をつけろ、俺様は今までアイツの本気をみたことがねェ」


隊長「...どんなことをしてくるか、楽しみだな」


魔剣士「お前、結構面白れェじゃん...死ぬなよ?」


異端者「...悪いけど、ふたりとも死んでもらうからね?」


隊長「...行くぞっ!」


魔剣士「あァッッ!!!」


―――ドゴォッッッッッ!!!!!

魔剣士と少しばかり、関係性が進んだ。

そんな明るい場面であったが、その鈍い音が現実を知らしめる。

その衝撃は隊長の腹部へと向かわれた。
419 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:25:09.38 ID:lsIBK8rn0

隊長「――ッ...!?」


異端者「...ふぅ、遠くまで吹き飛ばせなかったか」


魔剣士「なァッ...!?」


魔剣士(見えなかった...どうなってやがる...ッ!)


隊長「――ゲホッ...ゲホッ...」


隊長(これはッ...)


気づけば異端者は、隊長の懐に入り込んでいた。

そして繰り出したのは掌打、その光景は見たことがある。

一体なぜこの者が、彼の力を真似できているのか。


異端者「...どうだい? ボクの拳は────」


隊長(──魔闘士の力に似ている...ッ!)


魔剣士(──まるで魔闘士みてェじゃねェか...ッ!)


異端者「────ふふふ、魔闘士みたいだろ?」


魔剣士「てめェ...」


異端者「――ハッッ!!!!」


──ガギィィィィィンッッッ!!!

異端者は蹴りを繰り出した、それを受けるのは魔剣士。

大剣と足が鍔迫り合う、だというのに聞こえるのはこの音であった。


異端者「防御が精一杯みたいだね?」グググ


魔剣士「チィィッ...ッ...ッ...!」グググ


異端者「ほらほらっっ!!!」


魔剣士「...クソッ!」


異端者「刀もどうかなぁ?」スッ


魔剣士(まじィ...このままじゃ防御しきれねェ...)


防御が突破され少しでも斬られたら、毒が身体にまわり動けなくなる。

奴の攻撃だけは受けてはいけない、だが魔闘士のような力がそれを許してくれない。

大剣と対峙するのは異端者の足、よって奴の両手は手持ち無沙汰である、つまりは刀など簡単に扱える。


魔剣士(だからといって、この馬鹿力...そう簡単に逃してくれねェな...)
420 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:26:55.23 ID:lsIBK8rn0

異端者「ほらほらほらほら!」


──ダァァァァァァァァンッッッッ!!!

そんな時、痛みをこらえながらも再び発砲した。

その何かが炸裂するような銃声が、異端者を怯ませた。


異端者「いたっ...!」


隊長「...」ジャコンッ


魔剣士「────でかしたァッ!」ダッ


異端者「あーあ、逃げられちゃった...次は邪魔しないでね」


隊長「...それはできない」


隊長(鍵を手に入れたからといって...ここはスルーできないな)


魔剣士「はァッ...はァッ...!」


魔剣士「この俺様が消耗されるとはなァ...」


隊長「...おい、どうする」


魔剣士「不死身の上、なぜか魔闘士の力を持ってやがる...やべェな」


異端者「...ボクを倒すことは、無理だね」シュン


隊長「──ッ!」ピクッ


魔剣士「────しまったッ!?」


彼の目の前に現れる、せっかく距離を置いたというのに。

その転移魔法の詠唱は、魔剣士ともあろう男ですら気づけなかった。


隊長「――魔剣士ッ!!」


──ドガァッ...!

その音は、優しく足で彼を護る音。

隊長が魔剣士を蹴飛ばし、身を挺してかばう。


魔剣士「なッ────」ドサッ


異端者「なぜなら────」


――――シュッッッッ!!!!

背中の刀を抜刀する、その速度は達人並。

だがこの極限状態が隊長の感覚を高めていた。


隊長「―――ッ!」ガバッ


魔剣士(屈んだッ...!? あの抜刀速度が人間に見えるのかッ!?)
421 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:28:44.85 ID:lsIBK8rn0

異端者「────あと1人だから」


しかし、異端者は瞬時に刀の持ち方を変える。

この早業は同じ剣士である、魔剣士にしか見えなかった。


魔剣士(──抜刀からの斬り下げ...ッッ!?)


魔剣士「──あぶねェッッッ!!!」


――――サクッ...

その刃は、わずかに彼の二の腕を掠めた。

それが致命傷であった、すぐさまに感じる身体の痺れ。


隊長「しまっ────」ガクッ


隊長(力が入らない...ッ!?)


異端者「...腕、少しかすり傷ができちゃったね」


隊長「ッ...!」


異端者「死んで」スッ


―――ガキィィンッッッ...!

刃物がエモノを捉える音、そのはずだった。

その音は余りにも高い、人を切り裂くときには鳴らない音だ。

では一体なにか、それは刃物が刃物をぶった斬る音であった。


異端者「...刀が切れた」


魔剣士「悪いがよォ...いい加減キレちまったぜェ?」


魔剣士「竜の逆鱗にいつまでも────』


魔剣士『────触ってるんじゃねェよ...ッ!』


魔剣士の声が、なにか動物の唸り声のようなモノと重なる。

それだけではない、彼の持つ魔剣が、彼自身と一体化を始めていた。

そこから発せられる殺気は、その対象ではない隊長すらを震え上がらせる。


隊長「──ッ!?」ゾクッ


隊長(な、なんだこの威圧感...まるで激怒している動物みたいだ...)
422 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:29:46.21 ID:lsIBK8rn0

異端者「...へぇ」


魔剣士『おい、きゃぷてん...這いずってでも下がってろォ』


隊長「...ッ!」ピクッ


隊長(匍匐前進ならギリギリできるか...とにかく今は魔剣士に任せよう)ズルズル


異端者「初めて見るよ、魔剣の本当の力を」


魔剣士『...気安く話しかけんなァ、今ブチキレてるんだァ...俺様も...』


魔剣士『...この"竜"もなァァァッッッッ!!!!』


魔剣士『──"属性付与"..."爆"ゥゥゥッッッッ!!!!』


一体化している魔剣が、魔力に満ち溢れる。

その魔力には爆が込められている、微かに聞こえるのは何かが破裂する音。


魔剣士『行くぞォォォッッッ!!!!!』


魔剣士『この剣気の弾幕...避けられるかァァァッッ!?』スッ


―――――――――ッッッ!!!!

音も鳴らない素早さで空を斬る、斬って斬って斬りまくる。

このメチャクチャな剣気に、さらに魔法が加わる。


異端者「──なっっ!?!?」


──バゴンッッ!! 

その繰り出される剣気達は、着弾したと同時に爆発を繰り返す。

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!
423 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:30:45.87 ID:lsIBK8rn0

魔剣士『まだまだ終わらせねェぞッッッッ!!!!』


――――――ッッッッ!!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!


隊長(おいおい...遺跡が崩れるぞ...!)


安置に身をおいた隊長が、その威力に文字通り頭を抱える。

爆発が数百回繰り返されると、魔剣士はようやく剣を振るうのをやめた。


魔剣士『ハッ、どうだ参ったかァ?』


隊長(...あれほどのことをしておいて、まだ余裕そうな表情か)


魔女「な...なにが起きたの...?」


隊長「...!」


隊長(説明してやりたいが、口が動かせん...)


魔女「...毒を受けたのね、"治癒魔法"」ポワッ


隊長「──助かる...というより、毒も治せるのか」


魔女「傷以外を治癒させるには、結構鍛錬が必要なのよ...」


隊長「...そういえば、大丈夫か?」


魔女「大丈夫とは言い切れないけど...なんとか安定してるわ」


隊長「そうか...って、あれはッ!?」


魔女との会話をしている内に、爆破によって生まれた煙が晴れ始めていた。

そこには人の形をした者などいなかった、あるのはただ1つの肉塊。

頭部だけとなった異端者が、無残にも転がっていた。


異端者「はぁっ...はぁっ...!」
424 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:31:46.65 ID:lsIBK8rn0

魔剣士『流石不死身、頭だけでも生きてるかァ』


異端者「ふふふ...死ねないんでね...」


魔剣士『お前が死なねェ理由なんか知らねェが、いい加減勘弁してくれよ...』


異端者「君の魔力が尽きるのが先か、ボクが諦めるのが先か...」


魔剣士『...こうなってる俺様だと、あと3日は続くぞ』


異端者「すごいね...魔剣の本当の力...ボクも魔剣欲しいなぁ」


異端者の身体が頭に集まり始めている。

肉塊になっても、不死身の身体は健在であった。

このままでは肉体は再生するだろう、そんな彼に隊長はプレゼントを送る。


隊長「──そんなに欲しいなら、くれてやる」スッ


―――グサッッッッ!!!!

異端者の頭に何かが刺さった。

それは亡き親友の形見、奇妙な柄の入った細い剣。

光につつまれた魔剣、それはユニコーンの魔剣。


異端者「へっ...?」


魔剣士『...あーあァ、終わったな』


異端者「どういうこと...ッ!?」ピクッ


異端者「これは、光属性...だとッ!?」


隊長「...魔剣士、光属性はどんなものでも無力化させるんだったな?」


魔剣士『あァ、そうだ...ユニコーンとなれば、そりゃ偉い高品質なモノだ」


魔剣士「どんな魔物も普通の"人間"程度にしか活動できないだろうなァ」


魔剣士は勝利を確信し、魔剣と一体化していた姿を元通りにし始める。

そして、異端者に集まろうとしていた肉片の動きが止まる。

勝利はもうすぐそこであった。


異端者「あっ...あっ────」


隊長「..."人間"は首だけでは生きれない」


異端者「―――─」


魔剣士「...ふゥ、やっと終わったなァ」


魔女「...お、終わったの?」


隊長「あぁ...俺たちの勝ちだ、もうこっちに来ていいぞ」
425 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:33:40.26 ID:lsIBK8rn0

魔剣士「しっかし、魔剣の力を発揮させると...さすがに疲れるなァ」


隊長「あの姿は...?」


魔剣士「...魔剣っつーのは、常に魔力に満ち溢れてるモノだァ」


魔剣士「その魔力を、自分の魔力と一体化することであんな感じになるぜェ」


魔剣士「...まァ、自分が魔剣そのものになるってことだァ」


隊長「...このユニコーンの魔剣でもできるのか?」


魔剣士「...今すぐは無理だな」


魔剣士「これができる条件は、時間だけだ」


魔剣士「いきなり知らねぇ雌に告白しても断られるだろォ?」


魔剣士「何回も自分を魅せることで雌とうまくいくのと同じでよォ」


魔剣士「魔剣と自分の魔力を馴染ませなきゃいけねェんだ」


魔剣士「...まぁ、運が悪くても数十年単位は必要だがなァ」


隊長「...意外と、面倒な女だな」


魔剣士「ハッ、そうだなァ...」


魔女「も、もう少しまともな例えはなかったの...?」


魔剣士「知るかァ、てめェで考えろ」


隊長「...進むぞ」


魔剣士「...あァ、ゆっくりしてる暇はねェな」


隊長「...」スッ


──グチャァッ...

隊長が魔剣を異端者から引っこ抜く。

めちゃくちゃ気持ち悪い光景であったが、帽子の形見を置いていくわけにはいかない。
426 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:35:22.42 ID:lsIBK8rn0

魔剣士「おい、行くぞ」


魔女「まって..."治癒魔法"」ポワァッ


隊長「あぁ...助かるぞ、魔女」


魔剣士「へェ...あの雷魔法まだ続いてるんだろ?」


魔女「え? そうよ?」


魔剣士「それなのに普通に、治癒魔法使いやがって...やるなァ」


魔女「これでも、大賢者様に修行してもらったのよ」


魔剣士「あァ、そうなのかァ」


――ガチャッッッ!

腹から出てきた、やけにぬめぬめした鍵で扉を開ける。

手応えあり、どうやら偽物とかではなかった。


隊長(もうこの鍵はいらないな)ポイッ


魔剣士「扉もあいたみたいだし、行くぞォ」


魔女「早く、女騎士たちと合流しないとね...」


扉を開けると、すぐそこに魔力で満ち溢れた何かがあった。

その色はとでも黒く、触れることを思わず躊躇ってしまうほどの迫力があった。


隊長「...これが封印か?」


魔剣士「結界魔法だなァ...魔王によるヤツだから結構面倒だなァ...」


魔女「ど、どうするの...?」


魔剣士「どうするか迷っていたが、いいもん持ってるじゃねェか」


隊長「...ユニコーンの魔剣か」


魔剣士「そうだァ、その質の光なら...一部分を一瞬だけでも結界を崩せるはずだ」


隊長「...やってみよう」


魔剣士「穴があいたら、全員一斉に入るぞ」


隊長「...」


──スッ...!

隊長が魔剣をかざしてみる。

するとすぐに反応を示した、当然こちらもすぐに動かなければならない。


魔剣士「────入るぞォッッ!!!」


〜〜〜〜
427 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/03(月) 22:36:09.11 ID:lsIBK8rn0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
428 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:18:37.93 ID:VawOxBnY0

〜〜〜〜


隊長「...どうやら、うまくいったようだな」


──■■■■...

あたりから聞こえるのは黒い音。

そして異様な感覚が身に迫る、ここは魔王の結界の中。

だがそれだけではない、魔王以外のなにかが魔女に緊張感を与える。


魔女「な、なにこの魔力の量...っ!?」


魔剣士「なるほどなァ...これは魔王子の剣気の影響だなァ」


隊長「...俺にも感じるぞ、殺気みたいなモノが...大丈夫かこれは?」


魔剣士「大丈夫だ、魔王の結界を破ろうとしてるだけだァ...俺様たちに向けられたモノじゃねェ...」


魔女「はぁっ...はぁっ...!」


隊長「...」スゥー


すると突然始まった過呼吸。

なにか、膨大な力を持つものが近寄ってくる。

隊長は深く呼吸をして、来るべき者に備え始めた。


魔女「うぅ...はぁっ...」


魔剣士「大丈夫だァ、落ち着け嬢ちゃん」


隊長「魔女、深呼吸をしろ...」


魔女「そっ...そうねっ...」スゥー


──どくんっ......どくんっ......

何かが近寄ってくる度に、魔女の鼓動が早くなる。


魔剣士「...来たなァ」


──どくんっ...どくん...どくんっ...どくんっ...

それは止まることができない、身体が悲鳴をあげている。

まさかその男の顔を見ただけで、ここまで苦しみを味わうとは思わなかった。

ついに目の前に現れたのは、魔界を統べる王の息子。


魔剣士「...よォ、魔王子ィ...久しぶりだなァ」
429 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:21:43.15 ID:VawOxBnY0

魔王子「────...」


隊長「...」


魔剣士「...この人間は...知り合いだァ...なんでも、話したいことがあるってよォ」


魔王子「...」


魔剣士「...おら、言っちまいな」


隊長「...助かる、魔剣士」


隊長「俺はCaptainと名乗っている...魔王子に頼みがある」


魔王子「...」


隊長「...俺の仲間になって、一緒に魔王を倒そう」


魔王子「...なぜだ?」


隊長「...俺の友は死んだ、魔物と人間が平和に共存できる世界を手に入れるという...夢なかばにだ」


隊長「俺はその世界を託された...魔王に平和を叩きつけるために」


隊長「...魔王に話を飲ませる状況にするには、お前の力が必要だ...ッ!」


魔王子「...力なき者に、貸す力などない」


隊長「...だったら、お前を納得させるまでだ」


魔王子「...ほう」


―――─ブワッッッ...!

いままで殺気をぶつけられて恐怖をしたことはあった。

魔闘士、魔剣士、さらには自分自身が放ったこともあった。

だが、今の殺気はそれらの次元ではなかった。


隊長「────ッッ!?」


――ガリィッッ!!!!

隊長の口から血がでる、彼が思い切り舌を噛んだのであった。

そうでもしてなければ、この男は気絶を余儀なくされていただろう。


魔剣士「お、おい...魔王子ィ...」


魔王子「俺を仲間にしたければ...実力を見せてみろ」


魔王子「魔剣士を魅了したお前が、どこまでできるか?」スッ


魔王子が取り出したのは、鞘に入れられた剣であった。

独特な形などしていない、無駄な装飾などない。

ただの剣であった、だがそれが恐ろしい程の気迫を醸し出す。
430 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:23:15.67 ID:VawOxBnY0

隊長「──魔女ッ...援護を頼むッッ!!」スチャ


魔女「う、うんっ!!」


魔王子「...」


魔剣士「お、おいッッ!! 待てッッ!!!」


魔剣士「相手は人間だぞッ!? 簡単に死ぬに決まってるだろォッッ!?」


魔王子「──貴様はどちらに付く」


魔剣士「──ッッ...!!」


魔剣士は葛藤する、普通なら人間などを味方にしない。

だが己の好奇心には抗えない、未知なる武器を所持し、あの魔闘士を撃退したこの男。

そして信頼する仲間でもない分際で、先程の異端者戦で自分が庇われたことを唐突に思い出してしまう。


魔剣士「...クソッ!!」


隊長「...魔剣士、これは俺の問題だ...離れていてくれ」


魔剣士「...!」ピクッ


魔剣士(ふざけるな...あんな表情しやがって...ッッ!!!)


魔剣士は隊長の指先を見てしまう。

アサルトライフルを構え、トリガーにかけている指を。


魔剣士(...震えてるじゃねェか)


魔剣士(...人間の分際でよォ...魔王子に勝てるわけねェのに...)


隊長の姿は、無謀にも見える。

その無謀さが、自分に重ね合わさる。

無謀にも魔王子に挑み、完膚なきまでに叩きのめされた過去を。


魔剣士(...ハッ、気でも触れたか?)


魔王子「...ほう」


隊長「──魔剣士ッッ!?」


魔剣士「悪ィがよォ...コイツらは俺様の"友"だァ...』
431 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:23:47.85 ID:VawOxBnY0










『死なせはしねェ...』









432 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:26:10.37 ID:VawOxBnY0

魔王子「...面白い」


隊長「おいッッ! お前ッッ!?」


魔剣士『なァに、気にするなァ...気が向いてるだけだァ』


隊長「ッ...!」


魔剣士『魔王子の脳筋に一泡吹かせてやれェ...嬢ちゃん、治癒魔法だけを集中してくれ』


魔女「...わかったわ」


魔剣士『俺様が魔王子を抑える...きゃぷてんはその魔剣で魔王子を斬れッッ!!!』


魔王子「...竜が魔王に楯突くのはよくある話だ」


魔王子「だが、勝つのは魔王と相場が決まっている...」


魔王子「..."属性付与"、"闇"」スッ


──ブン■■■■ッッッ―――――――!!!!!

彼の身体が黒に包まれる、それと同時に剣気を放つ。

魔王子の基本戦術、それは抜刀居合。

その射程は遥か彼方まで届くであろう。


隊長「──なッ...!?」


魔剣士『────ハアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!』ブンッ


――――ドガァァッッッッッ!!!!

彼が魔王子からの攻撃を防いでいた。

魔剣との一体化、それで得れるのは攻撃性能だけではない。

魔剣士の放った分厚い剣気が、黒色の剣気を薙ぎ払った。


隊長「──何が起きたッッ!?」


魔剣士『剣気だァ! 属性を付与して剣を振っただけだァッッ!! あれがすべてを無力化する"光属性"と対なす────』


魔剣士『──すべてを破壊する"闇属性"だァッッ!!!!』


隊長「...次元が違いすぎるぞ」


魔剣士『諦めんのかァッッ!?』


隊長「...諦めてたまるかッ! 魔女ッッ!!!」


魔女「"治癒魔法"」ポワッ


魔剣士『助かるぜェッ...きゃぷてんッ! その魔剣が鍵だァッッッ!!!!』


魔剣士『流石の俺様も、魔王子の攻撃を何度も受け流すことはできねェッ! 短期決戦に持ち込めェッ!』
433 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:27:27.49 ID:VawOxBnY0

隊長「あぁッッ!」スッ


取り出したのは、彼の形見。

そこから溢れるのは光、刀身が輝く。

それは魔王子の闇を萎えさせる、とても心強いモノであった。


魔王子「...光属性か」


隊長(帽子...ユニコーン...力を貸してくれ...ッ!)


魔王子「...」シュン


すると彼は突然目の前に現れた。

魔闘士と同じく、魔法を使わずに死ぬほど早く動いただけ。

まるでわざわざ、その光を確かめに来たかのような動きであった。


隊長「──ッ!?」


魔王子「死ね」


――ギィィィィイィィンッッッッ!!!

闇と光が鍔迫り合う、その優劣は僅差であった。

白が闇を萎えさえ、闇が白を喰らう。


隊長「クッ...!」グググ


魔王子「...この質の光属性は、差し詰めユニコーンの魔剣といったところか」グググ


魔剣士『どこ見てんだよォ...?』スッ


一瞬にして間合いに詰め寄った魔剣士。

一体化したその魔剣が魔王子に牙をむこうとした。

だがそれは命取りであった、やはりこの男は魔剣士よりも格が上。


魔王子「────邪魔だ」


――スパ■■ッッッッ...!

────ボロンッッッッッ...

隊長と魔王子の鍔迫り合いに魔剣士が乱入したかと思えば、何かが落ちた。


魔剣士『────は?』
434 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:30:07.41 ID:VawOxBnY0

隊長「...魔剣士ッ!?」


魔剣士『なっ...」


魔剣士(腕が...ッ!?)


魔剣士「──がああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!」


彼は右腕を切り落とされた、その右腕とは魔剣を一体化させている重点部分。

そんな重要な部位が無くなれば、当然その力も失うことになる。

そして彼から流れ出るのは、竜の紅き体液。


隊長「──クソッッッ!!!!」ゲシッ


隊長「魔女ッッッ!!! 頼んだぞッッッ!!!」


魔女「わ、わかったわよっ!」


魔剣士「ぐ...ッ!!!」ダッ


隊長は足元に転がっている魔剣と一体化している腕を魔女の方に蹴飛ばす。

そしてそれを追うように、魔剣士が魔女の元に向かった。


魔女「"治癒魔法"っっっ!!! "治癒魔法"っっ!!!」ポワッ


魔剣士「ガァッッ...クソッタレェ...ッ!」ピクッ


魔女「動かないでっっ!! 変な風に腕がくっつくわよっ!?」


魔剣士「悪ィ...」


魔王子「...」サッ


隊長「──ッ!?」グッ


隊長が尻目に、魔剣士の様子を伺う。

すると突然手応えを失った、それが意味するのは1つ。

魔王子が鍔迫り合いをやめたのであった。


魔王子「...俺にかかれば、貴様など簡単にああできる」


魔王子「もう少し...俺を楽しませてみろ」


隊長「...あぁ、後悔するなよ」


身体の底から力がみなぎる。

その力とは、以前に魔闘士を苦しめた白き輝き。

魔法かどうかもわからない、神業と称される不思議な力。


魔王子「────ほう」


隊長(...これは、魔闘士の時のか)
435 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:32:11.87 ID:VawOxBnY0

隊長「...生憎だが剣は得意じゃない、こちらで行くぞ」スチャ


魔王子「好きにしろ────」


──ダァァァァァァァン□□ッッッッ!!!!

好きにさせた矢先、炸裂音と白き音が響き渡る。

その聞いたことのない音色、そして攻撃方法に彼は思わず対処できずにいた。


魔王子「──うッッッ...!?」


隊長「――ッ...!」ジャコンッ


隊長「─―――AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!!」スッ


──バキィィ...ッッ!!!

威力のあるショットガンでようやく怯んだ。

その隙を逃す訳にはいかない、彼は全力で振りかぶり拳を彼の顔面にぶち当てた。

魔王子の身体は軽く吹き飛ぶが、そのまま受け身を取られ直ぐ様に立ち上がった。


隊長「はぁッ...はぁッ...」


魔王子「なるほど..."光の属性付与"か...それも武器ではなく、俺と同じで自分の身体にかけているな?」


魔剣士「...アイツ、そんなもん使えるのかァ?」


魔女「し、知らなかったわ...」


そして口に溜まった血を吐き捨てながら彼は分析した。

どうやら隊長の神業は、光の属性付与であることが判明した。

思わぬ人物がなぜ高等魔法を扱えているのか、彼側の者たちも思わず驚いていた。


隊長「...悪いが、よくわかっていない」


魔王子「そうか...では、それを活かしてみろ」


隊長「────ッ!」ピクッ


魔王子「最強と言われた4代目魔王の力が眠るこの魔剣...直に味わえ...ッッ!!!』


隊長「これは...魔剣士の...ッッ!?」


魔剣士「──キャプテンッッッ!!! 前を見ろォッッッッ!!!」


──ミシミシミシミシッッッッッ!!!!!!!

判断が遅れていれば、彼の餌食になっていただろう。

身体に帯びた光、それは手に持っている銃器をも包み込む。

闇属性を帯びた剣と、光属性を帯びたショットガンの銃身がぶつかり合う。


隊長「──グゥゥゥゥゥゥゥッッッ!?」
436 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:33:50.39 ID:VawOxBnY0

魔王子『...』


──ダァァァァァァン□□ッッッッッ!!!

そこにいたのは、魔剣と一体化した驚異的な存在。

彼は無言のままであった、だがそれがどれほど恐ろしいモノか。

先程怯ませる事のできたこの銃撃に、全くの無反応であった。


隊長「なっ...!?」ジャコンッ


魔王子『...』


隊長「ならッ...!!」


──ダァァァァン□ッッッ!!! ジャコンッッッ!! ダァァァァァン□□□ッッッ!!!

今度はポンプアクション動作を派生した、2連撃ちを炸裂させる。

だが数が多ければいいという話ではない、思い出すべきは属性の相性である。

白き銃弾は、すべて闇に飲み込まれている。


隊長「──嘘だろッ...!?」ジャコンッ


魔王子『...効かないな』


隊長(...すべてを無力化する光と、すべてを破壊する闇...確か────)


大賢者の別荘にあった本を思い返す。

その優劣は、質の差で変わる。


魔剣士「きゃぷてんッッ! 今の魔王子はお前の光属性を凌駕しているッ!!」


魔剣士「魔王子の闇属性の質は、お前の光属性より上だァッッ!!!」


隊長(...そうだろうと思ったところだ)


魔王子『──...ッ!』スッ


──ブン■■■ッッッッッ―――――!!! ブン■■■■ッッッ――――!!!

力強い2連続の抜刀、そしてそこから放たれる剣の風と闇の音。

それを防御するべく彼が取り出したのはこの魔剣。

だがこれを持ってしても魔王子の闇には敵うことはなかった。


隊長「──ッ...!」スッ


──ガギィィィィィィィィンッッッッ...!

それは弾かれた音、あまりの衝撃に彼の手は支えることができなかった。

ユニコーンの魔剣が弾かれた、そして神業という名の属性付与も通用しない。


隊長「まずいな...ッ!」


魔女「魔剣が吹き飛ばされた...っ!」


魔剣士「...クソッ!」
437 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:37:51.95 ID:VawOxBnY0

魔王子『...』スッ


隊長「...!」スチャ


──ダァァァァァァァァンッッッ!!! ジャコンッッ!!!

────カチッ...カチッ...

無謀な抵抗、それは彼に追い打ちをかけた。

リロードをする余裕などない、引き金が鳴らした音は弾切れの合図であった。


隊長「...弾切れか」


魔王子「終わりか...ならば死ね」


──ブン■■ッッッッ―――――!!

――――ドガァァァッッッッッッッ!!!!!!!

その剣気はまたたく間に、闇によって破壊される。

だがそのおかげで、隊長はその餌食にならずに済んだ。

そこには完全復活した彼が、人間の男を庇う竜が立ち尽くす。


魔剣士『...よォ...さっきは良くもやってくれたなァ...!』


隊長「ま、魔剣士...ッ! 治ったのかッ!?」


魔女「な、なんとか間に合った...っ!」


魔王子『..."竜"が"魔王"に勝てると思うなよ』


魔剣士『あァ...?』


魔剣士『..."属性付与"ォッッ!!!! "爆"ゥッッ!!!!』


魔剣士『きゃぷてェんッッッ!!! 退避してろォッッ!!!』


隊長「すまないッッッ!!!!」ダッ


魔女「きゃぷてんっ!」


隊長「大丈夫だッッ!!」カチャカチャ


隊長(今のうちにリロードしとかないと...ッ!)
438 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:39:09.49 ID:VawOxBnY0

魔剣士『オラァッッッッッ!!!!!』


魔王子『...』


──バゴンッッ!! バゴンッッッ!!! バゴンッッッ!!!

────ブン■■■ッッッ―――――!! ブン■■ッッッ―――――!!!

魔剣士の爆発と、魔王子の闇が相殺しあっている。

だが明らかに優劣がついている、軍配は黒の白星であった。

そして剣気のぶつけ合いが終わると、2人は接近し鍔迫り合う。


魔王子『...無駄だ』グググ


魔王子『下位属性の炎属性に...上位属性の闇属性を相手に勝ち目などない』


魔剣士『...あァ!? 舐めんなァァッッ!!!』グググ


魔王子『..."翼"をもがれた竜になにができる』


魔剣士『てめェの言う翼ってのはァ...過去の俺様だァ』


魔剣士『いつまでも...過去に縋ってるようじゃァ"餓鬼"のまんまだぜェ?』


魔王子『...殺してやろう■■■』


魔剣士『ケッ...青二才がァ...』


――――ッッッッッ!! ――――ッッッ!!!!

両者ともに、音が捉えきれないほどの剣撃を交わしている。

目で追えるギリギリの速度、超越した剣術同士の戦いがコレであった。


魔女「...とても助太刀できそうにないわね」


隊長「あぁ...だが、あの闇をどうにかしなければ」


魔女「...」


この状況、魔女にはどうすることできない。

申し訳程度にできるのは、隊長や魔剣士の治癒ぐらいであった。

再び闘いに赴こうとする隊長を注視することしかやれることなどなかった。


魔女「...あんたの装備、血だらけね」


隊長「今は血が流れているわけでない、汚れただけだ」


魔女「...っ!」ピクッ


魔女「────まって、いいこと思いついたっ!!」


〜〜〜〜
439 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/04(火) 22:40:14.27 ID:VawOxBnY0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
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@fqorsbym
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 00:11:35.93 ID:odEiZ5LG0
乙。
441 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:31:42.17 ID:R/wC1pHs0

〜〜〜〜


女騎士「はぁっ...はぁっ...な、なんとかなったな...」


魔闘士「...流石に骨が折れたな」


女騎士と魔闘士は死霊を殲滅していた。

骨が折れた、それは文字通りの意味であった。

この遺跡に蔓延った大量の亡骸は、無残にもすべて砕け散っていた。


魔闘士(この換えの棒も1本分余ったな...)


女騎士「ところで、ここで待機するのか?」


魔闘士「...鉄格子が光属性を帯びている、進むのは無理だ」


女騎士「だな...」


魔闘士「...しかし、未だに雷魔法を維持するなんてな」


女騎士「あぁ、魔法は持続が一番魔力を消費するからな...魔女は凄いな」


魔闘士「...どうやら凄いのは、俺たちの運も同様みたいだな」


女騎士「どうした?」


魔闘士「先程の発言は撤回させてもらおう...」スッ


―――ドガァッッッッ!!!!

魔闘士が鉄格子を蹴飛ばす。

なぜなのか、光属性はすべてを無力化させるというのに。

理由は極めて単純、魔女の持続性能を見習って欲しいモノだった。


魔闘士「たった今、光が消え失せたようだな...効力切れか?」


女騎士「...できればもっと早く、効力が切れて欲しかったな」


魔闘士「逆を言えば死霊に追われる心配はない、とでも言っておこうか...さて、魔剣士たちと合流だ」


女騎士「まぁ...このまま待機するのは退屈だしな」


魔闘士「...どうやら奥に行けば蝋燭が立っているらしいな」


魔剣士たちが先に進んだこの道。

そこには僅かな光源が並べられており、歩行が可能であった。

下り階段の道を降りていくと、激戦区跡地に到着する。
442 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:33:39.70 ID:R/wC1pHs0

女騎士「広間のようだな」


魔闘士「そのようだな...とてつもない爆発後だ...魔剣士の仕業か」


女騎士「それよりも...生首が転がっているぞ」


魔闘士「あれは...異端者ッ!?」


魔闘士「...おかしい、奴は不死身のはず」


女騎士「どう見ても死んでいるぞ...どちらにしろ動き気配はなさそうだが」


魔闘士「...まぁ、死んでいるならそれでいい...それよりも向こうの扉だ」


女騎士「...あそこから嫌というほどの魔力を感じるぞ、これが魔王のモノか?」


魔闘士「そうだ、急ぐぞ」


???「────急がなくてよろしいですよ」


魔闘士「...誰だ?」


女騎士「どこから声がした...?」スッ


その時だった、どこからか声が聞こえた。

思わず彼らは足を止めてしまう、新手に備えて女騎士は槍を構えた。

だがその声色など熟知している彼は、この厄介者に頭を抱えていた。


???「...下です」


魔闘士「...やはり生きていたか、異端者ッ!」


女騎士「不死身もここまで生き抜くか...まさか生首に話しかけられるとは思わなかったぞ...」


異端者「...」


魔闘士「...邪魔をする気か? 異端者よ」


異端者「私は...異端者ではありません」


魔闘士「...なんだと? なにを抜かしている」
443 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:35:57.08 ID:R/wC1pHs0

異端者「私は"天使"なのです...行き過ぎた折檻により...堕天を命じられた...」


女騎士「天使...?」


異端者「...私は堕天により記憶をなくし、狂人のような性格になりました」


異端者「身体は人間に弄くられ...あなたのような穢れた馬鹿力を得たのです」


異端者「堕天した私は殺されたようですが、そのかわり天使としての私の記憶を完全に取り戻しました」


魔闘士「...随分とつまらん奴になったな、冗談の質が落ちたのでは?」


異端者「──私がなぜ不死身なのか、教えて差し上げましょう...」


異端者に白い身体が現れる、そして背中には翼。

天使の翼は純白、そして優しそうな柔らかな作りだった。

しかしその優しさが逆に異物感を高める、そして仕上げにはあの白い言語。


異端者「さぁ、この世界に存在する全ての生物に私の恨みを...□□□□□」


女騎士「これは...光属性...っ!?」


魔闘士「...なるほど、あの鉄格子は...異端者、お前の仕業だな?」


異端者「..."結界魔法"」


異端者の周りに結界が張られる。

空間が隔絶される、それはこの異端者の魔法により。

もう逃げ場などない、この魔法から脱出する方法など限られている。


魔闘士「...仮に本当に天使だとしても...随分と攻撃的な奴だな」


女騎士「どうする...っ!?」


魔闘士「無論、天使であろうと神であろうと...邪魔者は消すまでだ」


異端者「私の前では全ての武力は無力なのです...」


魔闘士「...ならば、この魔闘士の剛力、受けてみろ」


女騎士「...光属性と相まみえるのは、初めてだな」


異端者「あなたは、人間だというのに魔物に肩を貸すのですね」


女騎士「...私には、お前が胡散臭く見える」


異端者「...あなたには救済ではなく、裁きが必要のようですね」


──メキメキメキメキメキッッッッ...

その音は結界内部の地面が崩れ去る音。

そんな中、異端者だけは翼を使い宙に舞う。
444 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:38:35.78 ID:R/wC1pHs0

異端者「──□□□□□□□□□□□...」


魔闘士「チィッ..."風魔法"ッ!!!」


──ふわっ...!

風が魔闘士と女賢者を優しく包み、宙に浮く。

機敏に動くことのできる彼の体術とは裏腹に、この魔法はとても穏やかなモノであった。


女騎士「──助かるぞっっ!!!」


魔闘士「魔力は膨大にあるが魔法は得意ではない...あの女の雷魔法のような長時間は無理だ」


女騎士「さっさと、倒すしかないな...っ!」


異端者「...□□□□□□□」


女騎士「くっ..."属性付与"っ! "衝"っっっ!!!」


女騎士「私には剣気は放てないが...これならっっ!!!」


──ブンッッッ!!! ブンッッッ!!!!

ランスを宙に向かって刺すことで、衝撃を生む。

それは例え剣気を扱えなくても、騎士である彼女の苦手分野である遠距離対応力を補ってくれる。


異端者「..."光魔法"」


――──□□□っ...

異端者に向けられた衝撃が光に包まれる。

あの激しい衝撃は、白き音と共に消え去ってしまった。


女騎士「ダメかっっ!!!」


魔闘士「...ある程度、質の高い光属性の持ち主のようだな」シュン


風のように早く異端者に近寄る。

それは浮遊していても同じことであった。

彼の得意な超高速移動、そして繰り出されるのは。


魔闘士「―――ッッ!!!」


――バキィィィッッッ...!!!

その拳は、異端者の腹部に直撃するはずだった。

だが彼に感じた手応えは、存在しなかった。


女騎士「やったかっ!?」
445 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:40:24.32 ID:R/wC1pHs0

魔闘士「...いや」


異端者「無駄です、私に魔法及び暴力は通じません...□□□」


魔闘士「クッ...一度退かせてもらうか...」シュンッ


女騎士「ど、どうするっ!?」


魔闘士「...光魔法を使わせるな...魔法の合間を狙えッ...!」


異端者「さぁ、審判を下しましょう」


異端者「...光の矢を、受けなさい」


──ぽわぁっ...ぽわぁっ...ぽわぁっ...

優しげな音、だがそれとは裏腹に尋常ではない量の矢が創造される。

なにもないところから何かを創り出したのであった、やはりこの者は本当に天使なのだろうか。


魔闘士「...光の属性付与よりはマシか」


女騎士「そんなことできるのは勇者ぐらいだろうっ!?」


魔闘士「...実は身近にいるぞ」


女騎士「今はそれより、どうするか決めろっっ!!!」


魔闘士「────避けろッッッ!!!」


──ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ...

止まることない、その矢が空気を切り裂く音。

地獄のような光景であった、それを作り出しているのは自称天使。

だが2人は抵抗する、卓越した回避術、魔闘士だけではなく女騎士も見事に避けきった。


異端者「審判を受け入れなさい、その罪は重いのです」


女騎士「はぁっ...またあの矢が放たれたら避けきれる自信はないぞっ...!」


魔闘士(...すでにコイツは消耗されたか、いや...今のを避けれるだけ十分か...人間にしてはな)
446 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:41:59.29 ID:R/wC1pHs0

魔闘士「チィィ...」


異端者「なにもすることはないのです、ただ審判を受け入れればいいのです」


魔闘士「調子に乗るな...その苛々させる言葉使いをやめろ」


異端者「...そのような言葉も、重罪なのです」


魔闘士「その苛つく翼、へし折ってやろう...」


魔闘士(...光魔法の恐ろしいところは、自分の攻撃の威力は一切影響しないところだ)


魔闘士(いかに強力な防御魔法を纏っていても、光を帯びた矢で撃たれれば簡単に身体を貫かれる)


魔闘士(...いやまて、今までに"奴"に倒された者は強力な肉体を持っていたはずだ)


魔闘士(恐らく、"この武器"を使ったんだろう...この光属性のような武器を...)


魔闘士(魔王軍の強靭な身体を貫く、この武器を...ッ!)


魔闘士(普通の武器なら光魔法に通じはしない...だが、この未知の武器に賭けるッ!)ギュッ


異端者「さぁ、光に貫かれる準備はできましたか?」


魔闘士「...1分だ」


異端者「...はい?」
447 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:42:25.94 ID:R/wC1pHs0










「1分でお前を片付ける...ッ!」









448 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:43:33.99 ID:R/wC1pHs0

異端者「...魔物に夢を見る権利はありません」


魔闘士「目標は大きくすると叶いやすいのだ...」


女騎士「お、おいっ...」


魔闘士「お前はそこで指を咥えて待っていろ...その身体じゃ持たんだろう」


女騎士「...!」


女騎士(くっ...もう限界だって気づいてたのか...っ!)


魔闘士(...この武器に15発、替えの棒が1本で合計30発)


魔闘士(力を貸りるぞ...!)スチャ


異端者「さぁ、滅しなさ────」


――ダンッ!

彼が握りしめていたのは、あの男から手渡された未曾有の武器。

それは今までの強敵を仕留めてきた、驚異的な一撃。

人間も魔物も関係ない、はたまた天使であっても。


異端者「──うっ...っ!?」


女騎士「...効いた?」


魔闘士「...フッ、速いだろう...この俺ですら避けるのは厳しいモノだ」


異端者「────な、なんですかこれはっ...!?」


魔闘士「ご自慢の光魔法も通じないようだな」


異端者「し、知らない...こんな攻撃...っ...痛いっ!?」


魔闘士「その様子だと、いままで痛みを感じたことが少ないようだな」


魔闘士「...これから1分、どこから放たれるかわからない未曾有の攻撃に襲われるのだ」
449 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:44:14.19 ID:R/wC1pHs0










「覚悟しろよ...羽蟲...ッ!!」









450 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:45:30.60 ID:R/wC1pHs0

〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士『ゲホッ...グッ...ハッ...』


魔王子『...もう、終わりか?』


魔剣士(やべェ...もうもたねェ...)フラッ


魔剣士『...クソッタレ...ッ!」


魔王子『一体化も解けたようだな...』


激戦区、魔王子戦。

その相手をしていたのは魔剣士であった。

だが彼はもう限界、立つことすら不可能な状態に叩き込まれた。


魔王子『...死ね』


魔剣士(畜生...ッ!)


魔王子『──!』ピクッ


――バチィンッッッ!!!!

────スパン■■ッッッ!!!!!!

何かが魔王子を貫こうとした。

だがその稲妻は、瞬時に両断されてしまった。


魔女「...悪いけど、私がいるのを忘れないでね」


魔剣士「──やめろォ! お前じゃ死ぬぞォッッ!!!」


魔王子『...威力は認めるが、雷魔法如きでは止められんぞ』


魔女「...威力は認めたことを後悔するのね」


魔女「―――"雷魔法"っ...!」


――――バチィンッッッッッッ!!!!!!

魔女の周りに纏わっている雷が轟く。

塀の都で見せてくれた、巨大な雷球が魔王子に襲いかかる。


魔王子『──...ッ!』スッ


――スパ■■■ッッ...!

しかし、それは呆気なく対処された。

魔王子の抜刀が、そして付与された闇が魔女の雷を破壊する。


魔剣士(ダメだ...雷魔法如きじゃ、魔王子に斬られて終わりだァ...)

451 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:46:56.28 ID:R/wC1pHs0

魔王子『その短い詠唱でこの威力は褒めてやろう...だが────』ピクッ


魔女「────まだまだっっっ!!! 終わらないわよっっ!!!」


魔剣士「な、なんだァ...?」


魔王子『...2連撃目だと?』


――――バチィィィンッッッッッッ!!

――――スパッッッッッ...!

続くのは同じ音、だが微かに変化が訪れていた。


魔女「────まだよっっ!」


魔王子『3連撃...ッ!?』


――――バチバチィッッッッッッ!!!!

――――――――――スパッッッ!!!!

1つの詠唱から、ここまでの威力を誇る雷魔法が3つも放たれた。

だが驚くのはそこではない、攻撃頻度こそが魔女の猛攻の真骨頂である。


魔剣士(──魔王子の抜刀の感覚が遅くなってきているッッ!?)


魔女「────はああああああああああっっっっ!!!」


魔王子『まだ続くか...』


――――バチバチバチィッッッ!!

――――――――――――――――スパッッッ!!!!

抜刀居合、それが彼の得意戦術、だからこその弱点であった。

抜刀が終わるたびに納刀しなければいけない、このルーティンが崩れればどうなるか。

プロのアスリートですら、己のルーティンが崩れると調子も崩れてしまう、それは魔王子も同じであった。


魔王子『いい加減にしろ...』


魔女「くっ...! 5連撃ぃぃっ...!」


――――バチバチバチバチィィィッッ!!!

―――――――――――スパッッッ...!!

しかし、そのような小賢しい策では倒すことができない。

彼は深呼吸をもせずに、自らの調子を整えたのであった。


魔王子『...所詮、威力だけで単調だな』


魔剣士(クソッ...ここに来て落ち着いて対処しやがってェ...)


魔女「はぁっ...はぁっ...」


魔王子『その威力、1回の詠唱だけであれだけの魔法をよく放ったな』

452 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:48:06.65 ID:R/wC1pHs0

魔女「...ま、まだよ...っ!」


魔王子『...死ね』スッ


魔女「っ...」


魔王子『──ッ!』ピクッ


──ババババババババババ□□ッッッッ!!!!!

光を帯びた弾幕が放たれる。

魔女の首をはねようとした魔王子がソレに襲われる。

だが虚しくも効果は得られず、相も変わらず光は闇に飲まれたままであった。


隊長「...ッ!」


魔王子『遠くから狙っても無駄だ、俺の闇属性の前では...■■■』


闇が、彼の攻撃に備え一部に纏まった。

その見た目は分厚い盾、万が一を起こさないための防御策であった。
453 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:48:50.21 ID:R/wC1pHs0










「────"属性付与"、"雷"っ!」









454 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:50:19.46 ID:R/wC1pHs0

魔王子『なッ...!?』


──バチバチッ...!

その雷は、彼から聞こえた。

魔王子の身体の一部に、雷が付与された。

それがどのような意味を持っているのか。


魔女「はぁっ...やっと有効範囲でよそ見してくれたわね...」


魔女「その魔法の初めては、きゃぷてんにあげる予定だったのに...ありがたく思いなさいよ」


魔王子『...先ほどまでの雷魔法は陽動か』


その顔色には、少しばかり焦りが込められた。

属性付与、それはどちらかといえば強化の意味を含む魔法である。

なのになぜ彼は焦るのか、それは魔王子の闇が問題であった。


魔女「...水と泥が混ざれば、水の質は下がるのと同じ」


隊長「...果たして、下位属性の雷属性という不純物を帯びてもなお」


魔剣士「その圧倒的な質の闇属性を維持できんのかァ...? ってかァ?」


上位属性と言われる光と闇、その優劣は質の差で決まる。

今彼らが持つ手段の中には光というモノが存在する、ならば決め手はこれしかない。

闇の質を下げれば攻撃がまともに通用するはず、血で防具を汚した隊長を見て彼女はそれを思いついたのであった。


魔王子『...』


魔剣士「...どうやら、対処できねェみてェだな」


魔剣士「もう、一体化する元気はねェが...初めて俺様の攻撃がまともに通りそうな状況だァ」


魔剣士「楽しませてもらうぜェ? 魔王子ィ...ッ!」


隊長「反撃開始だ...ッ!」


魔王子『...面白い、久々に痛みと共に闘おう』


魔女「わ、わるいけど...私はもう...無理よ...っ!」


隊長「あぁ、下がって休んでいてくれ...ッ!」


魔剣士「きゃぷてェん...援護頼んだぜェ?」


隊長「...OKッッ!!」スチャ


──バババババババ□□□ッッッ!!!

先程までは、ただ闇に喰われるだけであったこの光。

だが今は違う、明らかにソレは彼を苦しめていた。
455 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:53:47.71 ID:R/wC1pHs0

魔王子『これが...これが本来の威力か、面白い■■■■■■』


魔剣士「──魔王子の奴、ブチ切れたなァッッ!!」


魔剣士「いくら攻撃が通るようになったからってェ! 油断するなァッッ!!!」スッ


──ブン■■ッッッッ――――――!!!

────ガギィィィィィィンッッッッッ!!!!

その余波は計り知れない、再び剣士たちは己の魔剣をぶつけ合う。


魔剣士「──腕が吹っ飛びそうだァッッ!!!」グググ


隊長「耐えてくれッッッ!!!」


──ババババババババ□□□ッッッッ!!!!!

白き弾幕が魔王子を貫く、がこれでもまだ倒れない。

あと一歩、あと一押しがなければ、この魔王の息子を倒せることができない。


魔王子『ッッ...! ■■■■■■■ッッッ!!!』グググ


魔剣士「光属性をォ...撃ちこみまくれェッッッ!!!」グググ


魔剣士が盾となり、隊長がその後方から銃を撃ちまくる。

彼がいなければ隊長は既に死んでいる、様々なめぐり合わせが今の状況を作っている。


魔王子『■■■■■■■■ッッッッッ!!!』


──バババババババババババババババッッッッッ!!!!

―───カチッ カチッ...!

アサルトライフルの弾が切れる、すると即座に彼は武器を入れ替えた。

ショットガンでもない、ハンドガンでもない、ナイフでもない、これがトドメの一撃。


魔王子『■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!』


魔剣士「──向こうも俺様も、限界がちけェぞォォォォッッッッ!!!!」


隊長「────とどめだ!」スッ


魔剣士「――――ッ!」


魔王子『――――■ッ!』


────からんからんっっ...!

隊長が魔王子の足元に手榴弾を投げた。

もちろん、その見た目はとても輝かしい光に包まれていた。


魔王子「────」


―――パキッ...!

そして最後に聞こえたのは、この音であった。


〜〜〜〜
456 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/05(水) 23:55:16.55 ID:R/wC1pHs0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
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@fqorsbym
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/06(木) 16:34:04.00 ID:ehgiKlqKO
魔剣士のしゃべり方が蒼天の拳の飛燕やんか
458 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:05:54.98 ID:EqxmTkEp0

〜〜〜〜


魔闘士「...口ほどにもなかったな」


異端者「痛いっ...痛いっ...」


魔闘士「...もう、光魔法を唱えることもできないか」


異端者「やめて...くださいっ...」


魔闘士「雑魚の分際で時間をかけさせやがって...」


女騎士「...もうそのへんにしてやれ」


羽はもがれた、そして身体中に銃痕が残る。

流れ出る紅き血がこの白き天使を染め上げていた。

そんな様子を見かねて、女騎士はつい同情を施してしまう。


魔闘士「...おい、結界魔法を解除しろ」


異端者「ひっ...」


魔闘士の威圧に押され、簡単に魔法を解除してしまう。

すると崩れた地面は元に戻り、全て無かったことのようになった。

それを見届けると、彼は手刀を異端者の首に構える。


魔闘士「...では失せてろ」スッ


異端者「た、助け──」


――ザシュッ...! ゴロンッ...

不死身の身体は、再び首をはねられる。

もう二度とこの者は立ち上がることはできない。

植え付けられた痛みと恐怖心が、この者の心を完全に殺したからであった。


魔闘士「...不死身と言えど、心が壊れれば動けなくなってしまうようだな」


女騎士「...野蛮だな」


魔闘士「フン、所詮魔物と人間だ...相容れぬ」


女騎士「...」


魔闘士「...行くぞ」


女騎士「あぁ」


―――ガチャッ

扉を開けようとした、開けようとしただけである。

なのにこの扉は独りでに動き始めた、自動で開いてくれる代物ではない。
459 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:07:25.61 ID:EqxmTkEp0

魔女「へっ...?」


女騎士「魔女っ!?」


魔闘士「これは...?」


隊長「──魔闘士ッ! 無事だったのか...!」


魔剣士「よォ...どうしてここにいんだァ...?」


魔闘士「それより、先にそっちを説明してくれ...」


隊長「...見ての通りだ」


魔王子「────」


そこにいたのは、脂汗をかいている魔女。

ぐったりとしている魔剣士、そして最後に。

まさかの人物が、この隊長という男におぶさっている。


魔剣士「へッ...俺様たちで魔王子を倒しちまっただけだァ」


魔闘士「...なんだと」


隊長「話したいのは山々だが...ここは埃っぽいし、激しい戦闘があった...地盤が崩れたら面倒だ」


女騎士「そうだな、出るか」


魔剣士「あァ...きゃぷてん、悪ィがそのまま魔王子を運んでくれェ...今の俺様には無理だァ」


隊長「あぁ」


魔闘士「...おい」


隊長「...どうした?」


魔闘士「借りていた物だ、全て返すぞ」スッ


借りていた物、それは彼の武器であった。

数発残ったハンドガンと空のマガジン全てを渡される。


隊長「あぁ、確かに受け取った」
460 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:08:41.14 ID:EqxmTkEp0

魔闘士「...その武器、思いの外役に立った」


隊長「...そうか、それはよかった」


女騎士「思いの外って...お前の攻撃ほとんどそれだったぞ」


魔闘士「黙れ...」


魔女「ぷっ...」


魔闘士「...おい、雷魔法による灯りの恩はあるが...笑い者にするとならば話は違うぞ」


魔女「...はいは〜い」


魔剣士「おォ、魔闘士が俺様以外からもいじられてらァ...」


隊長「...平和だな」


魔剣士「案外、お前の言う通りになるかもな」


隊長「...帽子に見せてやりたいな」


魔剣士「フッ...」


隊長「...お喋りは後だ、さっさと出るぞ」


魔剣士「あァ、さってと...」スッ


魔剣士がよろけながらも、転がっている何かを拾い上げた。

それは冒涜的な気配を漂わせる、邪悪な魔剣。


魔剣士(...魔王子の剣にヒビが入ってやがる)


魔剣士(歴代最強の魔王をここまで追いやるなんてな...)


魔剣士(いくら、本来の力をあの戦術で弱めたと言っても...)


魔剣士(...こりゃ、しばらく魔王子の奴はコレを使えねェな)


〜〜〜〜
461 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:09:46.08 ID:EqxmTkEp0

〜〜〜〜


──からんからんっ

軽快な音が鳴り響く。

どうやら大勢の客が入った模様。


酒屋「...昨日の客か、何にする」


隊長「...水だ」


魔剣士「あと適当に酒と濡らした布をくれェ」


酒屋「...大人数なら、奥の大きな机に行ってくれ」


魔剣士「悪ィ、個室とかねェか?」


酒屋「...怪我人がいるようだし、特別に貸してやる」


魔剣士「ありがとよォ」


魔闘士「...こっちだな」


──ガチャッ...

快く個室に入ることができた。

そして隊長は背負っていた魔王子をゆっくり降ろす。

語ることは多すぎる、だがまずは休息の一呼吸を味わった。


魔王子「────」


隊長「ふぅ...」


魔剣士「おう、ご苦労ゥ」


女騎士「代わりにきゃぷてんの武器を持っていたが...こんなに重いのか」ガチャガチャ


魔女「ほら、飲み物もらってきたわよ」
462 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:12:32.45 ID:EqxmTkEp0

魔闘士「...さて魔剣士よ、いろいろ説明して貰おうか」


魔剣士「そうだなァ...事の流れはこうだァ」


魔剣士「鉄格子で二手に別れたあと、異端者に遭遇ゥ」


魔剣士「不死身に手を焼いたが、身体がバラバラになった時にこのユニコーンの魔剣をぶっ刺したァ」


魔闘士「...不死身を無力化したのか、光属性というモノは恐ろしいな」


魔剣士「その後、魔王の結界をコレで一瞬こじ開けたァ」


魔剣士「そんで、魔王子ときゃぷてんが交渉...その結果は勝った方の言うことを聞くみたいな感じだったなァ」


魔剣士「俺様は気が向いたから、きゃぷてんの方に着いたァ」


魔剣士「...まァ、なぜかきゃぷてんが光の属性付与を使用してるわ」


魔剣士「嬢ちゃんに陽動させて、魔王子の闇属性の質をさげ...そのままゴリ押しって感じだったァ...」


魔剣士「それで、魔王子が今も気を失ってる状況までになったなァ」


魔闘士「...なるほどな」


女騎士「...ちょっとまってくれ」


納得した者は果たしているのだろうか。

誰1人として状況を飲み込めずにいた、それは当人でさえ。

なぜ光という強力な魔法を手にしているのか、彼に尋ねるしかなかった。


魔女「そうね...1つどうしても気になる点があるわ」


魔女「きゃぷてん、あんたから魔力を一切感じないのに...どうして魔法...それも光の属性付与を使えるの?」


女騎士「属性付与ですら高等の魔法なのに...さらに超希少な光属性だなんてな」


隊長「...俺も良くわからん...使えるようになったのは魔闘士と戦った時が初めてだ」


魔闘士「...あの時が初めてだったのか」


隊長「あぁ...あの時、俺は死にかけた」


隊長「もしかしたら、俺の幻視かもしれんが...その時に神を自称する奴に出会ったんだ」


隊長「...その神に、この属性付与とやらを受け取ったみたいなんだ...」


正直話についていけない、少なくとも魔女と魔剣士はそうだった。

しかし彼ら2人は、ギリギリ話を繋げることができた。

それはあの人物に出会ったから。


魔闘士「神か...本来なら話にならんが、1つだけ信じるに値する出来事があった」
463 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:14:44.76 ID:EqxmTkEp0

女騎士「...次はこっちの話をしよう」


女騎士「鉄格子で閉じ込められた後、私たちはなんとか死霊を殲滅した」


女騎士「丁度殲滅し終わった時に、鉄格子にかかっていた光が解けたんだ」


女騎士「それで、進んでみると首だけの異端者がいてな」


魔剣士「...そうだろうなァ」


魔闘士「だが、奴は生きていた」


魔剣士「...本当かよ」


魔闘士「あぁ...だが、性格は正反対だったな」


魔闘士「奴は、天使を自称していた...それも光魔法を使っていた」


魔剣士「...神も天使も、空想上の存在ではなく...本当に実在していたことになるのかァ?」


魔闘士「神がいれば、その使いである天使がいても可笑しくはない...その逆でも言える」


魔闘士「少なくとも天使が実在した...ならばその主である神がいても不思議ではない」


魔女「ってことは...きゃぷてんは本当に神に出会ったことになるのね」


隊長「...話が大きくなってきたな」


女騎士「おとぎ話などでは良く耳にするが...実在してたなんてな」


魔剣士「...で、その天使はどうなったんだァ?」


魔闘士「比較的高い質の光魔法を放っていた、俺や女騎士の攻撃など通用しなかったが...」


魔闘士「...不思議なことに、あの武器だけは通じた」


魔闘士「後は、簡単だ...あの武器で詠唱できなくなるほど痛めつけ、心を殺して動けなくさせた」


魔闘士「そして、お前たちに合流したって所だな...」


皆の視線が集まる、それは当然であった。

神に出会った、そして未曾有の武器、さらにその武器は光すらを貫く。

この男の正体が一切見えない、だからこそこの場にいる者たちに問い詰められた。


魔剣士「光の属性付与...光魔法すら貫くその武器、きゃぷてん...お前は────」


女騎士「──何者なんだ...?」
464 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:16:38.84 ID:EqxmTkEp0

魔女「えぇっと...言っていいの?」


隊長「...俺は異世界から来た人間だ」


女騎士「...っ!?」


魔剣士「はァ?」


魔闘士「...随分と軽く告白するものだな」


隊長「...詳しく話せば長くなるが、気づいたらこの世界にいたんだ」


隊長「そして、元の世界に戻るために情報集めとして旅をしてきた...」


隊長「その途中、後に親友になる帽子たちに出会い...今に至るわけだ」


魔剣士「...天使、神、異世界人...俺様は夢でもみてんのかァ?」


魔闘士「...光属性はすべてを無力化する...だが、それはこの世界での話」


魔闘士「異世界の武器、全くもって未知だからこそ光魔法を貫通したのか...?」


隊長「...そうかもしれない」


魔剣士「...なんかよォ、もう疲れちまったぜェ」


魔闘士「同感だ、今日はいろいろありすぎる」


魔剣士「人間界は魔界に比べると魔力が薄すぎる...基本的に全力はだせねェし...」


隊長「...あれで全力じゃなかったのか?」


魔剣士「あァ、魔界の空気には大量の魔力が含まれているんだぜェ?」


魔剣士「空気が薄いと派手な運動できねェだろ、それと同じだァ」


魔剣士「逆をいえば、魔界にいる魔物は今まで出会った奴らより強いかもなァ」


魔女「こ、これから魔界に向かうの不安になってきた...」


魔闘士「...もう1ついえば、魔物は戦闘の質が格段に上昇するだろう」


魔女「...ちょっと安心したかも」


隊長「俺は安心できないぞ...」


女騎士「私もだ...」


魔剣士「女騎士はしらねェが、きゃぷてんも一応属性付与の質上がるんじゃねェか?」


隊長「...問題は常には使えないみたいだ」


魔剣士「はァ? そうなのかァ?」
465 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:18:12.76 ID:EqxmTkEp0

隊長「なんだ...こう、昂った時にしか使えないみたいだ」


魔剣士「...そもそもだがよォ、魔力がねェのがおかしいしなァ」


魔女「...思いを込めれば込めるほど、魔法の質はあがるのは知ってるけど」


魔剣士「思いを込めれば込めるほど、魔力が満ちるってのは聞いたことねェな」


隊長「...そもそも、魔力はどうやって回復したりするんだ?」


魔女「肉体的に疲れれば体力が減るのと同じで、精神的に疲れれば魔力も減ってくるわ」


魔剣士「まァ、寝れば治るってなァ」


隊長「...自分のことだが、この身に何が起きているのか不安で仕方なくなってきたぞ」


魔闘士「なに、簡単なことだ」


隊長「...わかるのか?」


魔闘士「神と名乗るだけあって、そのぐらいの融通は聞くんじゃないか?」


魔剣士「...有り得なくはねェがよォ」


魔女「理にかなってないのが、もどかしいわね...」


魔闘士「知るか、神にでも聞け」


女騎士「...ところで、今日も野宿か?」


魔女「...正直、もう眠い」


魔剣士「あァ、適当に宿でも行くかァ?」


魔闘士「...で、誰が宿代とこの飲み代を払うか」


魔女「...手持ちない」


魔剣士「悪ィが、人間の通貨はもってねェ」


魔闘士「俺は先ほどの遺跡で落としてしまったようだ」


女騎士「...身ぐるみなんて剥がされてたから金などない」


沈黙が訪れる、だがみんなが同時に思っていたことはある。

異世界人がこの世界の通貨なんて持っているわけがない。

そのはずだった。


隊長「俺は金貨4枚、銀貨3枚と銅貨6枚しかないぞ」


〜〜〜〜
466 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:20:51.14 ID:EqxmTkEp0

〜〜〜〜


魔剣士「全然起きねェなァ、魔王子」


魔闘士「本来の闇を介さずに光を帯びた攻撃を食らったんだ、仕方ないだろう」


隊長「...ふぅ」


暗黒街の一番まともそうな宿に泊まる、それはこの男のおかげ。

隣の部屋には女騎士と魔女がいる、わざわざ2部屋も借りれたのはこの男のおかげ。

そんな奇跡にも近い芸当を成し遂げた彼は装備を外していく。


魔剣士「...すげェ筋肉だな」


魔闘士「魔力がなくても、あの威力に納得だな」


隊長「...お前たちは威力から考えると細すぎるな」


魔剣士「まァ、魔物だしよ」


隊長「...そういえば、質問が1つある」


魔剣士「あァ?」


隊長「お前や女騎士は武器に帯びさせるようだが...」


隊長「俺と魔王子は属性付与を身体に帯びさせていただろ? なにか差はあるのか?」


魔剣士「いや、ねェな...むしろ身体に帯びさせるほうがいい」


隊長「そうなのか?」


魔剣士「下位属性と上位属性の差ってやつだな...」


魔剣士「上位属性ってのは、基本的に自分に害がでないんだ」


魔剣士「光属性を纏ったら無力化の影響で動けなくなっちまう、それじゃ光属性の存在意義がねェだろ?」


隊長「...そうだな、それだったら俺もなんらかしらが無力化されてるはずだな」


魔剣士「つまり身体に纏わせれば攻撃と防御、両方を備えられるってことだァ」


魔剣士「一方、下位属性はそうはいかねェ」


魔剣士「風魔法ならともかく爆魔法なんてもってのほか、自分でも爆風は食らっちまう」


魔剣士「ましては、爆発を自分の身体に帯びさせたくねェわ..」
467 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:23:48.74 ID:EqxmTkEp0

魔剣士「そんで今回の戦術、闇属性が己に害を与えることができない...って穴と、不意をついたものだったなァ」


魔剣士「闇が雷と混ざっちまっても闇は闇だ、雷だけ破壊するという都合のいい害ができるわけねェ」


魔剣士「まァ、魔王子も予測してればアレをする前に、闇が雷を破壊してたかもなァ...予測できるわけねェけど」


隊長「なるほどな...」


魔闘士「そのような戦術...誰も試したことないだろうな」


魔剣士「闇属性といい光属性といい、希少すぎてそういった実験もできねェし前例もねェ」


隊長「...思いついた魔女に感謝だな」


魔闘士「それで...これから先、どうするつもりだ?」


隊長「...魔王子にはこのまま着いてきてもらうぞ」


魔闘士「...」


魔剣士「仕方ねェだろ、現に魔王子負けたしィ」


魔闘士「フン、この人間の手助けしといてその言い草か」


魔剣士「魔王子も見つかった今、俺様は単純に魔王子に着いてくだけだぜェ?」


隊長「...着いてきてくれるのかッ!?」


魔剣士「...逆に着いていかねェと魔王子がブチ切れるだろ」


魔闘士「魔王子は魔剣士と人間に負けたんだ、負かした張本人たちの1人がいなければおかしい話だ」


魔剣士「つーことで、俺様と魔闘士は魔王子に...つまりきゃぷてんに着いてくぜ?」


隊長「本当かッ!?」


魔闘士「...俺は魔王子に着くだけだ、勘違いするなよ」


隊長「あぁ! とても助かるぞッ!」


魔剣士「異世界人がどこまでやれるか、面白いことになってきたなァ」


魔闘士「...ところで、魔界の地理は知っているのか?」


隊長「正直、全くわからない...そもそも人間界と魔界の違いすらわかっていない」


魔闘士「だろうな...まだ体力があるようなら夜通しで教えてやろう」


魔剣士(魔王子に着くって言ってる割には、乗り気だな)


隊長「あぁ、頼む」
468 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:25:50.70 ID:EqxmTkEp0

魔闘士「いいか? まずこの暗黒街から魔界はすぐだ」


魔闘士「このまま北上すれば、四半日で魔界に通づる巨大橋にたどり着く」


隊長「...なにか障害はあったりするのか?」


魔闘士「いや、特にそういった地形や建造物はないはずだ」


魔闘士「問題は橋だ、そこに番人の"黒騎士"がいるはずだ」


隊長「...黒騎士か」


魔闘士「奴は知性もあるが、魔物以外には容赦はしない」


隊長「橋の下を渡るのはどうだ?」


魔闘士「だめだ、橋の下の海は深く...大量の魔物がいるだろう」


隊長「...強行突破か」


魔闘士「それしかないが、それをしたら魔界の態勢は厳しくなるだろう」


隊長「強行突破後は、時間の勝負か」


魔闘士「あぁ、だが橋から魔王城までは...少なく見積もっても1週間はかかるぞ」


隊長「...1週間ではまずいな」


魔闘士「お前ほどの切れ者には理解できるはずだ」


暗躍者を倒してから、わずか数日にも満たない。

その情報の速さこそが、追跡者や復讐者と対峙した原因であった。


隊長「1週間もあれば、場所の特定から大量の魔物を送ることができるだろうな」


魔闘士「その通りだ、どんな戦闘も数の暴力には不利だ...時間との勝負だ」


隊長「...最短距離ではなく、隠れながら遠回りするしかないな」


魔闘士「俺もそう考えたが、今は違うのだ」


隊長「...?」


魔闘士「今は"列車"というものが作られている」


隊長「列車だと...ッ!?」
469 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:28:29.04 ID:EqxmTkEp0

魔闘士「...知っているのか?」


隊長「あ、あぁ...俺の世界に数多く存在するぞ」


魔闘士「そうなのか...俺は魔王軍の発明家が開発とした思っていた」


隊長「...俺の世界の物が蔓延りだしてるのか?」


魔闘士「いや、今のところ大きく話題になってるのは列車のみだ」


隊長「で...列車を乗っ取るのか」


魔闘士「そうだ、これで大幅の短縮ができ、4日で魔王城に到着できる」


隊長「橋から乗れるのか?」


魔闘士「残念ながら開発途中だ、丁度...橋から魔王城の中間から乗れるはずだ」


隊長「...それでも十分だな」


魔闘士「常に高速で動いてる、特定は出来てもすぐに大量の兵を送ることはできん」


隊長「...地図とか持っていないか?」


魔闘士「悪いが手持ちにないな...だが、記憶から写してやろう」


隊長「助かるぞ、魔闘士」


魔闘士「勘違いするな...魔王子を倒したお前が簡単に死なれては、魔王子の名が廃るからだ」


魔剣士「グゥ...ガァ...」スピー


魔闘士「...このトカゲのように寝たらどうだ?」


隊長「いや...できるだけ早く地理の把握や戦略を考えたい...出来上がるまで起きているぞ」


隊長「だが...少し、風呂に浴びてくる」


魔闘士「さっさと行って来い、そのころには出来上がってるだろう」


隊長「あぁ、頼んだ」


〜〜〜〜
470 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:29:45.96 ID:EqxmTkEp0

〜〜〜〜


隊長(ここにも大浴場があるとはな...)


隊長は大浴場に向かう。

その途中で楽しそうな会話をする者たちが近づいてきた。


魔女「あれ、まだ起きてたの?」


隊長「魔女と女騎士か」


女騎士「あれだけの戦闘があったんだ、休んだらどうだ?」


隊長「いや、魔闘士と戦略を練っているところだ...寝るわけにはいかん」


魔女「へっ、魔闘士?」


隊長「あぁ、どうやら魔闘士と魔剣士はこの旅に着いてきてくれるみたいだ」


魔女「嘘っ! 凄いじゃない!」


女騎士「彼らは強力だ、心強いな」


隊長「あぁ、とりあえず風呂に入って...軽く気分転換しようと思ってな」


女騎士「むっ、奇遇だな...私たちも入るところだ」


隊長「そうなのか...」


隊長(...まさか混浴じゃないだろうな)


過去の苦い思い出が湧き返る。

若干、冷や汗をたらりとかいてしまう程に。


魔女「混浴はあるけど、残念ながらちゃんと女湯に入るわよ」


隊長「...そ、そうか...よかった」


魔女「...うん?」
471 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:30:39.41 ID:EqxmTkEp0

女騎士「...それにしても、逞しい身体だな」


女騎士「いつもは独特の鎧で隠れていたが...凄いな」


魔女「見なさい、腕の太さが私の4倍はあるわよ」


隊長「仕事柄こうなってしまったな...」


女騎士「しかし、それだけ筋肉があると背中に手が届かなそうだな」


隊長「あ、あぁ...確かにそんな時があるな」


女騎士「...よかったら、背中を流してやろうか?」


隊長「は?」


魔女「ちょっ...えっ!?」


女騎士「なにか変なことをいったか?」


隊長「いや...俺は男だぞ...?」


女騎士「大丈夫だ、よく後輩の男騎士共と風呂に入っていた」


隊長(どう考えても大丈夫じゃないだろ...)


魔女「ちょ、ちょっと...何言ってるのよ...」


女騎士「大丈夫だ、女の私はもう居ない」


隊長(俺から見れば、お前は十分女だ...)


女騎士「さぁ、風呂にいくぞ」グイッ


女騎士の怪力が、筋肉集合体である隊長を引っ張る。

その先は希望と絶望、光と闇の混浴の暖簾であった。


隊長「ま、まてまてまてまてまてッッ!!!」


女騎士「その筋肉、参考にさせてもらうぞ」


魔女「か、勘弁してあげて...」


〜〜〜〜
472 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:32:51.43 ID:EqxmTkEp0

〜〜〜〜


隊長「...ふぅ」


魔闘士「フン...随分と早かったな」カキカキ


隊長「あぁ...」


魔闘士「もう少しで完成する、待ってろ」カキカキ


魔剣士「くかァー...」スピー


隊長(...暇だな、弾でも込めるか)


──コンコンッ!

部屋の扉から音がなる、どうやら来客の様子であった。

対応を行ったのは、この無愛想な男であった。


魔闘士「...入れ」


魔女「お邪魔するわ...それで、さっき頼まれたの持ってきたわよ」


隊長「早かったな...丁度訪ねようとしたところだ」


魔闘士「...それは?」


魔女「この武器に必要な物よ」


隊長「いうなれば、この武器に対する魔力みたいなものだ」


彼女が持ってきてくれたこの荷物、そこには大量の弾薬や実包が複製されていた。

やはり好奇心というモノは強い、地図を書く手が止まってしまう程に。


魔闘士「ほう...これが発射されてたわけか」


隊長「あぁそうだ...では、早速使わせてもらうぞ」


魔女「はいはい、私はもう寝るわね...ふわぁ〜あ...」


隊長「あぁ、ゆっくり休め」


魔女「あ、そうそう女騎士がね」


隊長「...なんだ?」ビクッ


魔女「...今度、稽古をつけてくれってさ」


隊長「...おう」


魔女「...そ、そんな怯えないであげて」


隊長「だ、大丈夫だ...大丈夫なはず...」


魔闘士「...?」
473 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:34:30.62 ID:EqxmTkEp0

魔女「魔闘士も休みなね〜、おやすみっ!」


──ガチャンッ

そんな就寝の挨拶も返さずに、彼は地図を書き進める。

そうして書きなぐった渾身のソレは、ついに完成する。


魔闘士「...出来たぞ」


隊長「なるほど...こういった地理になっているのか」


魔闘士「列車に乗れば、湖に密林...そして魔王城下町を通過できる」


隊長「だが...列車までに2つほどの障害があるみたいだな」


魔闘士「あぁ、橋を抜けたらまずに村が存在する...」


魔闘士「あそこは低能魔物共が住み着いている、大規模乱戦は不可避だ」


隊長「地形的にも遠回りはできなさそうだな...」


魔闘士「まぁ、魔王子や俺がいる今では余裕だろう...問題は次だ」


隊長「...山岳地帯か?」


魔闘士「あぁ、一応遠回りはできるが...列車に向かうとしたら大幅な遅れとなる」


隊長「厄介な地理だな...」


魔闘士「山岳地帯には野生の魔物が居る...話し合いなど到底無理だ」


隊長「それぞれ、どんな魔物がいるか一例を出してくれ」スッ


魔闘士「図鑑か...丁度いいな」


魔闘士「まず、村では亜人系...例えるならば、魔女を下劣にしたような感じだ」


魔闘士「魔法や、ずる賢い罠ぐらいに注意することだ」


隊長「...なるほどな」


魔闘士「山岳地帯には、獣系だ...どれも上級の者達だ」


魔闘士「注意すべきは"リザード"だ、奴は強靭な上に賢い...」


隊長(...いよいよ、ファンタジーの有名どころが増えてきたな)


魔闘士「そしてなりより...稀に"ドラゴン"も出現することだ」


隊長「それは...氷竜みたいな奴か?」


魔闘士「...そういえば、氷竜を倒したのだったな」


魔闘士「あいつは確かに強いが、すこし知性に欠ける...」


魔闘士「本場の竜はもっと知的だ...」
474 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:36:06.71 ID:EqxmTkEp0

隊長「どちらにしろ...遭遇しないことを祈るか」


魔闘士「地形的にも、物量的にも不利だが...1つだけ喜ぶ点がある」


隊長「なんだ?」


魔闘士「あそこには魔王軍の傘下はいない...完全に野生動物と同じ扱いだ」


隊長「なるほどな...拉致や人為的な罠はなく、単純に戦闘だけみたいだな」


魔闘士「そうだ、だが戦闘になればキツイものになるだろう」


隊長「...ここまでは、多く見積もれば3日程度か?」


魔闘士「たぶんな...そこから列車にのれば1日で魔王城に着く...はずだ」


隊長「...魔界にも都があるところ、戦争を望まない者も多いみたいだな」


魔闘士「...そうだな、奥地などにある町の民たちは争いを好まない」


隊長「そこは人間界と同じだな」


魔闘士「よく勘違いされるが、魔物が全員好戦的というわけではない」


魔闘士「魔王城への最短距離を直進してもらえば、城下町を除く町や都などに戦火は降りないはずだ」


隊長「...魔王城を配置した場所...考えてあるな」


魔闘士「...そういう解釈もできる」


隊長「しかし...今でこそ列車ができているが、この直進距離だけでも大々的な旅だな」


魔闘士「それだけで、物語にするなら十分な経験になるな」


隊長「...」


魔闘士「...こんなもんだろう、一応この手書き図は渡しておくぞ」ガサゴソ


隊長「あぁ...」


魔闘士「...俺は、もう寝るぞ」


隊長「...ゆっくり休んでてくれ」


魔闘士「フン...お前もな、明日は人間界と魔界の違いを魔剣士にでも教えてもらえ...」


隊長「...そうだな、ありがとう」


隊長(今日で...2週間と4日目が終わる...)


〜〜〜〜
475 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/06(木) 22:37:01.67 ID:EqxmTkEp0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
476 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:42:35.64 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


隊長「ここは...ッ!?」


どこかで見た光景、隊長という男はそこにいた。

それはあの時の悪夢で見たはずだった。


隊長「...」


──ぞわぞわぞわっ...

悪寒が止まらない、それでいて大量の汗が垂れる。

生きた心地がしない、口内が異常に乾燥し始めている。


隊長「また...夢なのか...?」


隊長「たのむ...早く目を覚ましてくれ...」


体感温度は温暖であるのにもかかわらず、鳥肌が止まらない。

意地でも動こうとしない、というより底知れぬ恐怖から動けない。


隊長「...?」


―─――■■■...

すると、どこかしらから黒いなにかが鈍く輝く。

聞いたこともない擬音、それが黒と共に隊長を刺激した。


隊長「────...ッ!?」


隊長「こ、こっちに...迫って...ッ!?」


隊長「逃げなければ...ッッ!!」


冷静に判断をするのは彼の役割でもある。

だが、この時の判断は恐怖心からの判断だった。


隊長「はぁっ...はぁっ!!!」


──ぞくぞくぞくぞくっっ...!!

後ろを振り向かなくてもわかる。

着実に黒いなにかが迫ってきている。


隊長「はぁっ...はぁっ...た、たすけてくれッッ!!!!」
477 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:43:58.14 ID:lisVL3ov0

隊長「...あ、あれはッッ!?」ピクッ


助けてくれ、その命乞いは意外にも届くことになる。

少し離れた場所には、親友からの形見が突き刺さっていた。

もしかしたら、あの光でこの黒を無力化にできるかもしれない。


隊長「────ッ...うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」ダッ


──ぞくぞくぞくっっっ...!!

半ば諦めかけていた走行から、本気の走行に切り替わる。

迫りくる悪寒は、先程よりも強くなる。


隊長「もう少しだッッッ!!」


隊長(あと少しッッ!!!)


隊長(あと少しッッッ!!!)


隊長(あと...少しッッッッ!!!)


―――ガシッッ!!!

あと少し、迷いのない走行が可能にした。

掴んだのはあの輝かしいユニコーンの魔剣。

これがあれば、これさえあればどうにかなる。


隊長「...取った────」


―――─■■■...

おかしい、それは力強く握られた右手から聞こえた擬音であった。

身体のなかに、未曾有の何かが入り込む感覚がする。


隊長「――――ッッ!!!」


???「────大丈夫かァッ!?」


〜〜〜〜
478 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:45:14.57 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


隊長「――ハッ...!?」ガバッ


脂汗が止まらない、その様子を見かねたある男が声を掛ける。

それは先日まで味方ではなかった、魔物の男。

魔剣士は心配そうに隊長を見守っていた。


隊長「はぁッ...な、な...」


魔剣士「...大丈夫かァ?」


隊長「ここは...宿...?」


魔剣士「そうだァ、しっかりしろォ」


魔闘士「...お前ほどの男でも、悪夢に魘されるモノなのだな」


魔剣士「まァ...言ってもコイツも人間だしなァ」


隊長「...夢、だったのか」


隊長(...にしては、やけに頭にハッキリと焼き付いている)


軽く頭痛がする、だがすぐに頭を切り替えなければならない。

なぜなら、そこに立っていた人物がいるからだ。

魔王子、魔王の息子が目を覚ましていた。


魔王子「...」


隊長「魔王子...」


魔剣士「あァ、さっき目を覚ました」


魔闘士「それでお前を起こそうとしたら、さっきの出来事だ」


隊長「...そうだったのか」
479 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:46:21.04 ID:lisVL3ov0

魔剣士「まァ、あとは任せた」


隊長「...は?」


魔闘士「俺様たちは朝飯を確保してくる」


魔剣士「それに、俺様は魔王子と談笑する仲でもねェしな」


魔闘士「ではさらばだ、30分ぐらいで戻る予定だ」


魔剣士「金、借りるぜェ」ヒョイ


隊長「.........あぁ」


──ガチャッ...バタンッ!!

いろいろ突っ込みどころがあったが、隊長はそれを受け入れた。

魔剣士達は暗黒街の商店街へと旅だった。


魔王子「...」


隊長「...」


隊長(人のことは言えんが...無口だな)


魔王子「...おい」


隊長「...なんだ?」


魔王子「幾ら神の名を借りた力を得たとしても、人間に敗れるとは...」


魔王子「...俺もまだ、力が足りぬか」


隊長「...」


魔王子「...実力は見せてもらった、ここで破れば、この名が廃る...」


魔王子「...貴様の旅に、同行しよう」


隊長「...あぁ、お前の力に期待しているぞ」


魔王子「...だが、1つ問題がある」


隊長「...なんだ?」


魔王子「...この剣にヒビが入ってしまった」


魔王子「このままでは到底使い物にならん...」


魔王子「...よって、しばらく実力は発揮できん」


隊長「な、なんだって...」


魔王子「...」
480 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:47:50.63 ID:lisVL3ov0

隊長「...これは使えないか?」スッ


魔王子「...何?」


彼が魔王子に差し出したのは、細すぎる剣。

これは親友の大事な大事な物、決して軽々しく扱ってはならない。

だが、だからこそ隊長は魔王子に渡そうとした。


隊長「...それは、俺の親友の形見だ」


魔王子「...この世を、魔物と人間を共存させると申す者だったか」


隊長「あぁ、そうだ...」


隊長「俺とお前の目的は違うと思うが...間接的にお前がこの世界を救うことにもなるんだ」


隊長「魔物の王子がそれを使って、世界を救ったのなら帽子も喜ぶだろう」


先日の勝負に勝ったことで、この魔王子という男は隊長に力を貸すことを約束した。

つまりは一緒に魔王を倒すことになる、その際にこの魔剣を扱ってくれるというのなら。

彼の目的はどうであれ、結果として魔王子が平和を導く一因なるだろう。


魔王子「...俺が魔王を討つ理由を教えてやろう」


隊長「...あぁ、教えてくれ」


魔王子「少し前の魔王...親父は人格者であり、強大な力を持つ者であった」


魔王子「俺は尊敬をしていた...その強大な力で傲慢にならず威厳のある対応をしていた」


魔王子「...しかし、近年になり親父は変わった...望みもしない人間界への侵略を企てるようになった」


魔王子「その影響で魔界は劣悪の政治環境になり...徴兵された野蛮なクズ共が魔王城の城下町に蔓延り、民が脅かされるように...」


魔王子「侵略されるであろう人間界のことなどは知ったことない...だが肝心なのは俺の中にある崇高な魔王の像が崩れたことだ」


魔王子「今の親父...魔王など尊敬に値しないクズだ」


魔王子「俺は落ちぶれていく魔王をこれ以上見たくはない...そして寂れていく民を眺めたくない...」


魔王子「ならば親父を殺し...俺が新たな魔王になり、魔界を救ってみせる」
481 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:48:33.85 ID:lisVL3ov0










「そのためなら...俺に反逆する同胞を躊躇なく殺してでも、叶えてみせる...」









482 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:50:39.90 ID:lisVL3ov0

魔王子「...笑うか? 人間よ...俺の行動は愚かか?」


隊長「...さぁな、少なくとも俺は笑えんな」


隊長「俺は目的の為なら、簡単に人を殺せてしまう...だから、お前のことを笑うことはできない」


隊長「...だが、これだけは言える」


隊長「...お前の行動は、俺の親友の行動と似てる...ってな」


隊長「先程はこの魔剣を一時的に貸すつもりだったが...お前に託すことにする」


魔王子「...」


隊長「...」


魔王子「...ユニコーンが心を開いている、だからこそその理念は純粋」


魔王子「その帽子とやらの行動を誇りに思う...」


隊長「...そうか」


魔王子「...確かに受け取った」スッ


隊長から渡された、この光の剣。

魔王子はその鞘を抜いて、刀身の輝きを目に焼き付けた


魔王子「...昨日より、光属性の質が上がっているな」


隊長「...そうなのか?」


魔王子「皮肉だな、闇の王子が光を纏う剣を扱うなどとは」


隊長「...フッ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「...」


魔王子「...」


女騎士「...」


隊長「...」


魔闘士「...」


魔剣士「...いやァ、悪かった」


問い詰められるのはこの男。

そして鼻につく、朝からは嗅ぎたくないこの酔いの匂い。

彼の買ってきた買い物袋、そこに入っていたモノとは。
483 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:53:48.01 ID:lisVL3ov0

魔女「...朝ごはんを買いにいったのよね?」


隊長「...俺の金でな」


魔剣士「いやァ...竜ってのは...酒豪なんだァ...」


魔闘士「貴様は竜人だろう...厳密な竜ではない...」


女騎士「...悪いが、かなり空腹なんだ」


魔王子「...」


隊長「...今日の朝食は酒か」


魔闘士「ふた手に別れたのが失策だったが...俺の買った物だけじゃ全員の腹を満たすのは難しいな」


魔剣士「...まッ、パァ〜ッと行こうぜェ?」


女騎士「...はぁぁああ」


魔闘士「人間も魔物も、食べ物の恨みはでかいぞ...?」


魔女「うぅ...足りないかも...」


隊長「...そういえば」ゴソゴソ


隊長は若干潰れたレーションを取り出した。

ウルフに1つ食べられてしまった、緊急用の携帯食料。


女騎士「...それは?」


隊長「俺の世界の携帯食料だ、緊急用だからかなり空腹が満たされるはずだ」


魔闘士「お前という奴は...頼りになるな」


女騎士「...5つあるな」


魔闘士「魔剣士は酒だけでいいみたいだ」


魔剣士「は、反論できねェ...」


隊長「ほら、受け取れ」スッ


魔王子「...頂こう」


女騎士「甘いな...」モグモグ


魔女「...おいしいっ!!」


隊長「ウルフも喜んで食べてたな」


魔闘士「甘いものは、疲れが取れるから嫌いではない...」


〜〜〜〜
484 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:55:32.95 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


隊長「では...出発するぞ」


魔闘士「このまま四半日には、橋に到着予定だ」


女騎士「さて、久々の旅だ、腕がなるな」


魔王子「...」


魔女「...ねぇ、あんた」


旅が始まる、そんな中で魔女は彼に近寄った。

その表情はどこか険しいモノであった、それはなぜか。

太陽の光が反射する、その豪華であり奇妙な装飾のついた剣の鞘が煌めく。


魔王子「...何だ?」


魔女「...その剣、大事に使ってよね」


魔王子「...承知だ」


女騎士「それにしても...まさか、魔物を仲間にして魔王城を目指すとはな」


魔闘士「不満か?」


魔剣士「俺様たちは魔王子についってってるだけだけどなァ」


女騎士「...私はそもそも、魔物を敵としているが...目の敵にしてるわけではない」


魔闘士「所詮、戦争相手というだけだな」


魔剣士「まァ、仮に人間界で内戦が起きていたら...お前だって人間を殺すだろォ」


女騎士「あぁ、騎士や軍人とはそんなものだ」


隊長「...」


魔女「魔王子の連れが、現勇者の仲間と談笑してるだなんて...こんなことってある?」


隊長「...随分、賑やかになったな」


魔女「人間と魔物が仲良く...しているのかしら、これ? まぁ、帽子に見せてやりたいわね」


隊長「あぁ、この旅...なにがなんでもやり遂げてやる」


6人が歩む、人間と魔物が共に肩を並べて。

決して心の底から信頼しあっているわけではない。

だがこのような軽い関係性であるからこそ、彼らは気兼ねなく居れている。


魔剣士「...そういえばよォ、きゃぷてんは異世界の人間なんだよなァ?」


隊長「あぁ、そうだが...」
485 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:56:52.68 ID:lisVL3ov0

魔剣士「...どうやって元の世界に戻るつもりだァ?」


隊長「あぁ...それはだな────」


彼が魔王に挑む理由、それは2つ存在している。

1つはもちろん帽子の為、もう1つは己の為である。

魔王は世界を跨ぐ魔法を扱えるかもしれない、それを彼に伝えた。


魔剣士「...へェ、面白いなァ」


隊長「...そうか?」


魔剣士「いや、面白れェよ...つまりそれって...魔王を殺す前にその魔法を使わせるつもりなんだろォ?」


隊長「そうなるな...そうでないと俺は帰れん...」


魔剣士「...なんだァ? 拷問でもするつもりかァ?」


隊長「...状況に応じてくれない場合は、強硬手段に入るしかない」


魔剣士「...人間が魔王相手にそこまで強気になっている奴なんて、初めて見たわァ...」


魔剣士「つーかよォ、その魔法を使わせる前に魔王を殺しちまったらどうするんだァ?」


隊長「...」


己がどれほどのことを口にしているのか。

わかっているつもりではある、だがこの矛盾に近い発言が魔剣士のツボであった。

決して嘲笑されているわけではない、単純に魔剣士はニヤけていた。


隊長「...やめてくれ、深く考えさせるな」


魔剣士「悪ィな...まァ、帰れなかったら俺様の酒の席に付き合ってくれよなァ?」


隊長「...嫌味か?」


魔剣士「まァ、とりあえず魔王に会ってから考えよォぜ? 案外すんなり家に返してくれるかもなァ...」


隊長「...」


絶対そのようなことはない、魔剣士のニヤけ具合を見ればわかる。

嫌がらせのような突きつけが隊長を沈黙させていた、だが険悪な雰囲気ではない。

そんな中彼は1つ思い出す、昨晩魔闘士に言われたことだ。
486 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:58:14.36 ID:lisVL3ov0

隊長「...そういえば、人間界と魔界の違いってなんだ?」


魔剣士「...そんなことも知らねェで魔王と戦おうとしてんのかァ?」プルプル


隊長「笑いすぎだ、魔剣士」


魔剣士「悪ィ悪ィ...まァ、話は簡単で...この世界は大まかに2つの大陸があってだなァ」


魔剣士「その大陸を統治しているのが、人間か魔物かの違いでしかねェよ」


隊長「...意外と単純だったな」


魔剣士「まァ、その違いも曖昧でよォ...人間界に住んでいる魔物も居るしよォ」


隊長「...なるほどな」


魔剣士「人間界も魔界もかなり広いぜェ? 暗黒街や賢者の塔があるココらへんは人間界の辺境だからなァ」


魔剣士「...帰れなかったら、どっちの大陸に住むつもりなんだァ?」


隊長「...また嫌味か」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...ついたな」


人間界の大地はここで終わり、彼らは橋に足を踏み込んだ。

雄大な海原に建造されたこの端は、あまりにも大きく、長い。

先の方角、そこには別の大陸の大地が微かに見えていた。


女騎士「...ついに魔界に突入か」


魔闘士「そのようだな、魔力が微かに溢れてくる」


魔女「ほ、本当だ...これが魔界の空気ってやつ?」


魔剣士「いんや、厳密に言うと違ェな」


魔女「えっ...魔界の空気って魔力が含まれてるって言ってなかった?」


魔剣士「それは本当だァ...だが、この魔力は空気じゃなくて...アレだなァ」スッ


魔剣士は大橋から身を乗り出し、指をどこかに向けた。

その場所は、魔界の海の波が創りだした崖であった。
487 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 22:59:42.48 ID:lisVL3ov0

女騎士「...なるほど、ここで採取ができるのか」


隊長「あれは...鉱石か?」


魔闘士「そうだ、あれが魔法の欠片だ」


魔女「あぁ...これがその」


魔剣士「あの鉱石が魔法を維持させるのは、鉱石自体に魔力が灯っているからだァ」


魔剣士「嬢ちゃんが感じてる魔力は魔界の空気じゃなくてェ、この魔法の欠片ってことだなァ」


魔女「なるほど...」


隊長(...正直俺にはなにも感じない)


女騎士「...正直私にはなにも感じないぞ」


魔剣士「...そこはあれだなァ、先天的か後天的かの違いだろうなァ」


魔剣士「結局、先天的に魔力を持った魔物には魔力が必須...空気と同じィ」


魔剣士「空気を感じ取れるのと一緒で、俺様ら魔物は魔力を感じ取れるってところかァ?」


隊長「...魔剣士、前々から思っていたが」


魔剣士「あァん?」


魔女「あんたって、意外に博識というか...教鞭に向いているわね」


魔剣士「...どういう意味だそれはよォ」


魔闘士「言葉遣いはゴロツキそのものだが、そこは認めてるところだ」


魔剣士「...相方が脳筋な訳だァ、必然と頭が回るようになるわなァ」


魔闘士「...死にたいようだな?」


女騎士「...ふっ」


魔女「...」ジー


隊長「...魔女、どうした?」


魔女「ちょっと...あの鉱石掘ってくるわね」


そういうと返事も聞かずに道を戻り、崖の上に露出していた鉱石を削岩し始めた。

持ち前の雷魔法を駆使して必要な分だけ採取する、とても乙女の行動ではなかった。


隊長「...行動が早いな」


魔剣士「魔法主体の嬢ちゃんなら、確かに応用できそうだがなァ」
488 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:01:41.50 ID:lisVL3ov0

女騎士「しかし...ここを超えればついに魔界か」


魔闘士「よもや、人間と共にここを渡るとはな」


隊長「...その前に、黒騎士を倒さないとな」


魔王子「...黒騎士か」


魔剣士「魔界の門番を任されるだけあって、アイツの剣技は凄まじいぞ」


隊長「大きな被害がでなければいいが...とにかくここを渡るしかないな」


この先の障害に立ち向かわなければならない。

魔剣士が一目を置いている黒騎士を、超えられるだろうか。

少し頭を悩ませていると、魔女が削岩を終え戻ってきた。


魔女「おまたせ、それじゃ出発かしら」


隊長「あぁ、じゃあ向かうぞ」スチャッ


アサルトライフルの安全装置を外し構える。

ここからは人間界とは違う、様々な困難に対応できるように早くも警戒を始める。


隊長(さて...どうなることか)


魔剣士は背負っている魔剣の柄を握りながら、女騎士も同じく背負っているランスを。

魔闘士は歩きながら軽く準備運動をし身体を暖めていた。

隊長は辺りを見渡しながら、魔女はそれをサポートするような見渡し方であった。

そして魔王子は、ただ前を見ていた、前を見つめていた。


隊長「...遠いな」


魔闘士「いい忘れていたが...数十分はかかるぞ」


隊長「まぁ...それは地図を見たらわかった」


魔女「えぇ...」


警戒をしながら、軽く雑談をする。

そんな中、魔剣士があることに気づいた。
489 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:03:03.24 ID:lisVL3ov0

魔剣士「...妙だなァ」


女騎士「なにがだ?」


魔闘士「俺も思ったが...この辺りでも雑魚の一匹程度は現れると思っていたが...」


魔剣士「あァ、この近辺に雑魚の気配はねェ」


隊長「警備が手薄すぎるってところか...確かに、怪しいな」


魔闘士「もう少し歩けば中間に着く、そこに黒騎士もいるだろう」


魔剣士「とにかく、進むしかねェな」


魔女「罠じゃなければ...いいけれど」


隊長「...あぁ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「...どうなっていやがる」


魔王子「...」


隊長「これは...」


橋の中間に到着する、そこは激しい戦闘の跡が残っていた。

その傷は新しいものではなく、過去の数々の修羅場によって作られたものであった。

傷によって橋が朽ちてもおかしくはない、だが朽ちてはいない。

その様から威厳さが感じ取れた、だがその主はここにはいなかった。


魔闘士「見当たらんな、黒騎士が」


隊長「...策略かなにかか?」


魔闘士「その可能性はある...が、奴がここにいないのは初めてだな」


女騎士「...油断でも狙っているのか?」


魔剣士「それ以前に、既にこっちの情報が魔王に伝わっんのかァ...?」


隊長「...それはありえない、ここ数日つけられてる気配はなかった...はずだ」


隊長(あくまでも、人間の俺がわかる範囲でだが...)


魔闘士「それには同感だ、仮に密偵がいたとしても情報が早過ぎる」
490 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:05:29.89 ID:lisVL3ov0

魔女「もしかして、異端者がヤラれたり...結界魔法が破られたのに気づいたとか?」


魔闘士「魔力の感知することで生死を確認をできるが、人間界は流石に遠すぎるはずだ...恐らく定時連絡が要だ」


魔闘士「だが、異端者はそのような規則正しい行動が取れる者ではない...つまり定時連絡の有無は関係ないはず」


魔闘士「それに結界魔法は完全には破いていない...さすがの魔王も気づかないだろう」


魔女「じゃあ、たまたま...黒騎士がいなかったってこと?」


魔闘士「...そうなるな」


女騎士「そうなるなら...進むしかないな」


魔剣士「...チィッ、裏をかかれてるみてェでムカツクぜ」


隊長「考えても俺たちにはわからない、行くぞ」


魔剣士「あァ...」


隊長(戦闘が減っただけ、ありがたいと思っておくか...)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「────あァ?」


結局、魔界へ通ずる大橋での戦闘はゼロだった。

順調に魔界へ侵攻するが、またもやイレギュラーが発生する。

橋を抜けた先、ここは魔界にある村の1つ。


魔女「誰も...いないの? 村なのに?」


魔闘士「そんなはずは...ここには野蛮な魔物どもが蔓延っているはずだが」


女騎士「現にもぬけの殻だぞ...」


魔王子「チッ...」


魔剣士「やっぱり、情報が漏れんのかァ...?」


魔闘士「策略にしても、ここで村人共との大規模戦闘は定石のはずだ」


魔剣士「...じゃあ、俺様たちを馬鹿にしてるとしか思えねェな」


女騎士「魔王とて、そこまで拍子抜けなことをするとは思えないぞ」


女騎士「戦闘をさせることでこちらの消耗を図る、それをしないとなると愚かの一言だ」


魔闘士「...同感だ、これは策略ではない、偶然の出来事だと思いたい」
491 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:08:01.03 ID:lisVL3ov0

魔女「...ねぇ、あんたはどう思う...ってあれ?」


女騎士「いないな...どこへ行ったんだ?」


魔物の男たちが頭を悩ませていると、彼は消えていた。

それに気づいた女たちは辺りを見渡してみる。

すると民家と思しき建物の中から隊長の声が響く。


隊長「────ちょっと来てくれ」


魔剣士「...あァん?」


魔女「──これってっ!?」


その声にしたがって、皆が建物の中へ移動する。

そこには亜人系の魔物が数人横たわっていた。

そのうなだれかたには、一瞬命を感じさせない様に見えた。


魔剣士「いや...まだ息はあるなァ」


隊長「あぁ...だが、辺りの民家はみんなこうなっていたぞ」


魔闘士「...この村の住人だろうな、どうなっているのやら」


女騎士「意識は...ないみたいだ、これでは尋ねることもできないな」


隊長「...これは病気によるものか?」


魔剣士「いやァ...この症状は聞いたことねェなァ...」


魔闘士「発熱もなし、咳もなし...病気ではなさそうだ」


魔女「気味が悪いわね...」


隊長「...まるで進むことに誘導されているみたいだな」


魔闘士「全くだ...だが、進むしかないだろう」


魔剣士「まァ、消耗もなしに早い段階で列車に乗れるって考えもあるぜェ?」


隊長「...このまま山岳地帯に向かうか、ここで一夜を過ごすか」


魔闘士「そうだな...早朝に出れば早めに山岳地帯を抜けられるかもしれんな」


魔剣士「安全なここでたっぷり休むか、危険な山で休みを入れながら進むか...決まったなァ」


隊長「...今日はここで過ごすぞ」


魔闘士「本来なら黒騎士とここでの戦闘で一日潰れる予定だったが、丁度いいな」


隊長「...一応、警戒は怠らないでくれ」


〜〜〜〜
492 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:09:39.16 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


女騎士「この民家、誰もいないみたいだし鍵もかけれるようだぞ」


隊長「ここを今日の宿にするか...」


魔女「流石にここじゃ、まとまって寝たほうがいいわよね」


隊長「あ、あぁ...そうだな...」


魔女(寝顔とか寝相とか...気をつけないと)


女騎士「さて、この重苦しい鎧を脱ぐか」ゴソゴソ


隊長「...」ビクッ


魔女(...未だに、苦い思い出のようね)


魔剣士「おォーい、酒が大量にあったぜェ?」


魔闘士「...お前の頭は酒しかないのか?」


魔剣士「大丈夫だァ、飯も見つけたぞ」


隊長「...お前はPartyが似合うな」


魔剣士「ぱーてィ? なんだそりゃァ」


隊長「俺の世界で言う...宴のことだな」


魔剣士「あァ宴か、酒も飲めるし好きだぜェ?」


魔闘士「それは宴が好きではなく、酒が好きなだけだろう...」


隊長「...いつもこんな感じなのか、魔王子?」


魔王子「...2人の漫才は昔から記憶にある」


魔闘士「漫才ではない...」


魔女「あ、あはは...」


魔女(今のは魔王子なりの冗談なのかしら...恐くて追求ができないわね...)


隊長「...俺はこの民家の周りに罠を作っておこう」


隊長「魔女、縄になりそうなものを探してくれないか?」


魔女「えぇ、わかったわ」


〜〜〜〜
493 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:10:56.24 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


魔女「この家の人の武器なのか、鎖鎌があったわ...これでも大丈夫?」


隊長「...糸は持っているか?」


魔女「えぇっと...ごめんなさい、服のほつれ糸しか用意できないわ...」


隊長「それでも大丈夫だ」ゴソゴソ


魔女が探している間に地面にいくつか刺していた短い木の棒に鎖鎌をくくる。

そして手榴弾を取り出し、安全ピンとほつれ糸を器用に結び始めた。


魔女「それって...爆弾よね?」


隊長「あぁ、これで罠を作る」


魔女「どんな感じに?」


隊長「そうだな...手榴弾、爆弾はこの線を抜くことで起爆するんだが」


隊長「それをこの鎖鎌に...まぁ見てもらったほうが早いな」


手際よくこなしたものは、すでに完成していた。

そこにはとても原始的な罠が造られていた。


魔女「...あぁ〜、それで足を引っ掛けて起爆させるってわけね」


隊長「まぁ...威力には期待はしてないが、なにせ大きな音が出る」


魔女「奇襲に気づけるってことね...」


隊長「あぁ、これである程度は気兼ねなく休める...といいが」


魔女「まっ、酒飲んでる奴よりかは役に立ちそうね、この罠」


その罠は夕暮れ時の現在でも、すでに見難い。

夜になればその実力は発揮されるだろう。

最も、実力は今発揮されることになってしまうが。


魔剣士「──よォ、お前らも飲...おわァッ!!!!」グラッ


──ガチャッ!!

魔剣士が鎖鎌に引っかかると同時に、何かが抜ける音がした。

その様子を見た魔女は思わず青ざめた。


魔女「────っ!」


隊長「──SHITッッ!!!!」ドカッ


素早い判断で、半ば強引に蹴飛ばす。

民家もこの村人もいない場所へ手榴弾は飛んでいった。

そして遠くから聞こえた爆発音。
494 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:14:55.12 ID:lisVL3ov0

隊長「──ふぅ...」


魔女「結構吹っ飛んだわね...って、それよりも!」


魔剣士「あァん...どういうことだ...?」


状況がいまいちつかめていない魔剣士。

まもなく、空いたドアから魔闘士と女騎士が慌てて飛び出してきた。


女騎士「──敵襲かっ!?」


隊長「いや...魔剣士が俺の作った罠に引っかかっただけだ」


魔闘士「...」ピキピキ


魔剣士「...はァん、なるほどなァ」


女騎士「いや...なるほどなって...」


魔剣士「即席でこんな罠つくれるなんてなァ...やっぱお前はやるなァ」


魔女「...もう出来上がってるの?」


魔闘士「...魔界の酒は強い...あとは任せたぞ」スタスタ


隊長「...魔剣士、お前はしばらく禁酒だ」


魔剣士「...へッ?」


──パリーンッ ガシャンッ! パキパキッ!

その言葉が聞こえたのか、民家から瓶が割れる音が響いた。

これは先に家に入っていった彼の仕業、隊長と魔闘士の意見は合致した。


魔剣士「...えェェッ!?」


魔女「あー、アホらしい...またほつれ糸作んなきゃいけないじゃない」


隊長「...すまんが、手榴弾も作ってくれ」


魔女「...はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


女騎士「魔女...手伝おうか?」


魔女「ありがとう、でも私にしかできないことなの」


魔剣士「俺様の...酒がァ...」ガーン


隊長「こんなんで大丈夫なのか...?」


頭を抱えため息をついてしまう、本日は戦闘をすべて回避して終わる。

魔界にきて1日、異世界にきて2週間と5日。


〜〜〜〜
495 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:15:59.19 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


隊長「...ん」


──カチャカチャ...

耳元で細かい音が響く、まだ日は鋭く差していない。

薄明かりの中で室内を見渡す、するとそこには彼女が。


魔女「あっ、ごめん...起こしちゃった?」


隊長「あぁ...だが、気にするな...本来なら徹夜して奇襲に備えるはずだったが...」


魔女「休めるときは休むべきよ、今日は珍しく熟睡してたみたいだけど...♪」


隊長「...? 朝から上機嫌だな」


魔女「あ、あら...そうかしら...」


隊長「それで...なにをしてたんだ?」


魔女「えぇっと、ちょっとした武器を作ってたのよ」


段々と目が覚めてきた、魔女の周りにはいろいろと物が並べられていた。

この民家にあった小さな空の瓶と、太い針みたいな形状に加工した魔法の欠片。

そして、新たに魔女は小瓶を取り出した。


隊長「それは...魔法薬か?」


魔女「そうよ、大賢者様の餞別よ」


隊長「そうなのか」


魔女「あっ、その欠片に触らないでね、まだ雷魔法を宿らせてるから」


隊長「...あぁ、察しがついたぞ」


魔女「あら...お楽しみにならなかったかしら」


女騎士「...私には察しがつかないな」


魔女「──わっ! 起きてたの!?」ビクッ


女騎士「あぁ、武器を作る云々から目を覚ました」


魔女「そ、そうなの...よかった」ホッ


女騎士「なにがだ? ところで早くその武器を教えてくれ」


隊長「あぁ...火炎瓶みたいな物だろう?」
496 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:17:23.53 ID:lisVL3ov0

魔女「あちゃー...大当たり、それの雷版ってところね」


少し残念そうに、テキパキと作業をこなしていく。

小さな空の瓶に少量の魔法薬を流し込み、コルクの蓋をしめる。

それと同時に、すこしばかり光を帯びていた欠片が無反応になった。

それを見計らって、先ほどの瓶の蓋に欠片を原始的に突き刺した。


魔女「よし、完成ね」


隊長「それを投げつけ、割れた瓶から魔法薬が漏れ...それを欠片に反応させるわけか」


女騎士「その魔法薬...随分と魔力を含んでいるから威力が高そうだ」


魔女「これなら詠唱をしなくても使えるし、不意はつけそうね」


魔女「ちょっと、外で試してくるわね」


隊長「あぁ、気をつけろよ」


そう言って、寝癖も治さずに魔女は外へ飛び出した。

扉の開閉音が響いたが、男の魔物3人はまだ目を覚まさなかった。


隊長「魔法か...」


女騎士「興味でもわいたのか?」


隊長「...女騎士はどうやって魔法を使えるようになったんだ?」


女騎士「私は騎士の鍛錬で学んだぞ」


隊長「すまん、言い方が悪かった...どうやって魔力を得たんだ?」


女騎士「あぁ...そういうことか」


隊長「魔物は先天的に、そうでないものは後天的に魔力を得ると聞いたんだが」


女騎士「そうなんだが...実は、わからないんだ」


隊長「...どういうことだ?」


女騎士「私も周りの者も、気づいたら魔力が使えるようになっていた」


女騎士「後天的に魔力を得る者は、突如という場合が絶対らしい」


隊長「...ますます、魔法というのはわからんな」
497 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:19:05.53 ID:lisVL3ov0

女騎士「まぁ...きゃぷてんも気づいたら使えるようになるかもな」


女騎士「って、すでに属性付与は使えるのか...謎だな」


隊長「朝から難しいことは考えるべきではない────」


────バチバチバチバチバチッッッッ!!!

外から聞こえた、雷の激しい音。

まだ薄暗いとはいえ空には雲1つありはしない。

これは魔女による新たな装備の実験、それはどうやら成功のようだった。


女騎士「...原始的だが、威力は絶大みたいだな」


隊長「あぁ...それより、今のでみんな起きたな」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「ふァ〜あ...ねっみいなァ」


魔闘士「だらしない奴だ、それでも誇り高き魔物か?」


女騎士「いや...魔闘士、寝癖がひどいぞ...」


隊長「...さて、そろそろ出発するか」


魔女「その前に、身体を拭いてからでいいかしら...」


女騎士「...あぁ、同感だ、私はよく汗を流すから今のうちに拭いておきたい」


隊長「俺も便乗するか...先に拭いててくれ、俺たちは外で待っている」


魔剣士「...女ってのは面倒くせェな」


魔闘士「汗など放っておけばいいだろう」


魔女「はいはい、面倒くさくて悪かったわね」


隊長「いや、身体に付着した悪性のBacteriaなどがいる場合がある、こういうのは重要だぞ」


魔闘士「...ばくてりあ?」


隊長「...すまん、細菌だ」


女騎士「...さいきん?」


隊長「...少し違うが...微生物、ならわかるか?」


魔女「びせいぶつ...」


隊長「...本気で言っているのか?」


〜〜〜〜
498 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:21:49.19 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


隊長「...さて、準備は終わったな?」


魔剣士「あァ」


魔闘士「そんなものとっくに済んでいる」


魔王子「...」


魔女「...ここからが本番ってわけね」


女騎士「どんな敵が現れるか...少し楽しみだな」


隊長「...」


まだ日の光は淡く気温も低い。

寝起き特有の頭痛、そして早朝の雰囲気が隊長の気を引き締めた。


隊長「...行くぞ」


魔女「えぇ!」


魔闘士「まずは...このまま直進だな、それで山岳地帯へたどり着くはずだ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「──ここがか...」


目のあたりにする光景に思わず言葉を漏らす。

連峰の頂点には濃い雲がかかり、その全貌を見ることはできなかった。

広大な魔界の自然が産んだ、山岳に少しおののいてしまう。


魔女「でっか...あの凍ってた山より遥かに大きいわね」


魔闘士「フン、人間界の山などと比べてもらっては困る」


隊長「...急勾配が見当たらないだけ、マシか」


魔剣士「まァ、登山には向いてるかもなァ...やる奴はいねェけど」


魔闘士「登山だけならな、問題は野生の魔物がいることだ」


隊長「...本当に1日で越えられるのか?」


魔闘士「安心しろ、この山がでかいだけだ」


魔闘士「残りの連峰は比較的小さいうえに、獣道だがある程度通路が確保されている」


隊長「そうか...なら、早速登るぞ」


〜〜〜〜
499 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:23:53.21 ID:lisVL3ov0

〜〜〜〜


魔女「ふぅ...やっと6合目ってところかしら?」


魔闘士「そのようだな、そろそろ雑魚が出てきてもおかしくはないぞ」


魔剣士「なにも仕掛けられてなければ、だなァ」


魔女「でも、登ること自体は楽ね、不思議と」


魔剣士「...それは、あれを見てから言いなァ」スッ


多少の汗はかくものの、楽な表情で話す魔女。

それに反応した魔剣士は、後続の者たちを指差した。


女騎士「ふぅっ...私も鍛錬不足と言ったところか...」ダラダラ


隊長「俺はまだ大丈夫だが...どうしてそこまでスラスラと登れる...?」


隊長は少しだけ苦しそうな表情をしながら質問した。

女騎士はかなり汗をかいていた、体質にしてもかなり消耗されてると見える。


魔闘士「これは人間と魔物の差というものだ」


女騎士「はぁっ...魔界の空気って奴か...」ダラダラ


魔剣士「こればかりはどうしようもねェなァ...少し休むかァ?」


隊長「...すまないがそろそろ休憩を入れさせて貰う」


女騎士「正直...腹が減ったぞ」グゥ


魔剣士「そうだなァ...ちょっとまってなァ」スタスタ


隊長「どこに行くつもりだ?」


魔剣士「昼飯を確保だァ...ここらへんなら肉が歩いてるに違ェねェ」


そう言うと魔剣士はどこかへ歩き出した。

残されたものは待機するしかない。


隊長「...魔闘士、現在は順調なのか?」


魔闘士「そうだな、少し遅れているといったところか」


魔闘士「もうじき、雲や霧が掛かった部分に差し掛かる...」


魔闘士「そこでの奇襲に気をつけることだな」


隊長「そうか...今のうちに少しでも休んだほうがいいみたいだな」
500 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:25:14.16 ID:lisVL3ov0

魔女「...ここ、ドラゴンが出るんでしょ?」


魔闘士「そうだが...遭遇は稀だ」


隊長「...戦闘は極力避けたいな」


魔闘士「この山は標高が高めで、基本的には魔物は寄り付かん...戦闘は次の連峰からが濃厚だな」


隊長「...休みを入れられるのはここで最後か」


魔闘士「そうなるな、ここは徹夜で乗り切るか、交代で睡眠をとるかをしないと無理だ」


隊長「昨日、十分に睡眠が取れただけでもマシか...」


隊長(まずいな...登山だけで消耗させられている...足を引っ張らなければいいが...)


単純な山登りでさえ、じわじわと体力を奪われている状況に頭を抱えるしかなかった。

そのアクションは極々小さいものであったが、彼女は見逃さなかった。


魔女「らしくないわよ、いつもの調子はどうしたの?」


隊長「...魔女」


魔女「まだ登山しているだけ、大丈夫よ」


魔闘士「...励ますつもりなどないが、人間にとってここが鬼門だ」


魔闘士「この山を越えれば、戦闘はあるが地形で体力を奪われることは少なくなるはずだ」


魔闘士「...簡単にくたばってもらっては困るぞ」


隊長「...あぁ、そうだな...少し、らしくなかった」


魔女「そうよ、いつも通りに冷静にね♪」


隊長(落ち着け...我を少しでも忘れるな...)スゥ


珍しくも、焦燥感に惑わされる。

らしくもない自分を抑えるために深呼吸をして抵抗を試みる。


魔剣士「──おォい、食い物とってきたぞ」


隊長「あぁ、助か──」


丁度いい気晴らしになるだろうと思っていた。

食事をすることで癒やしを得ようとしたが、その前に生まれたものがあった。

それは疑問、魔剣士の持ってきた食料に猜疑心が生まれる。


隊長「...食べれるのか、それ...?」
501 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:26:12.75 ID:lisVL3ov0

魔女「げぇ...なんなの...?」


魔剣士「魔界の大蛇だなァ、毒はねェ」


女騎士「...」グゥ


魔闘士「...腹に物を入れておかなければ、なおさら体力は奪われるぞ」


隊長「あぁ...一理あるが...まぁ、俺が捌こう」スッ


魔女「...いつものあんたね...はぁ」


女騎士「...でかすぎるぞ」


魔剣士「腹は満たされるだろうがァ」


魔女「...はぁ、昨日たべたあのあま〜い奴が恋しいわね」


隊長「魔女、火を起こしてくれ」


魔女「はいはい」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「食った食ったァ」


魔女「...意外とおいしかったわね」


女騎士「空腹は最高の調味料といったところか...」


隊長「...」


食事を終え、早くも脳内で指示を練る。

天候の悪化からか、すでに眼前に見えているものがあった。


隊長「...これから、雲がかかっている地帯に突入する」


隊長「奇襲の可能性もある、陣形を成して備えようと思う」


魔闘士「...妥当だな」


魔剣士「そうだなァ...まとまるより、警戒の範囲を広げたほうがいいなァ」


女騎士「異議なしだ」


魔王子「...」
502 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:27:21.30 ID:lisVL3ov0

隊長「なら、前方と後方である程度の距離を取るぞ」


隊長「前方に魔剣士、魔闘士、女騎士」


隊長「後方に俺、魔女、魔王子でどうだ?」


魔剣士「...攻撃範囲的に考えるとそうなるわなァ」


隊長「俺や魔女が遠距離で支援をする、魔王子は緊急事態に備えて素早く行動できるようにしていてくれ」


魔王子「...承知した」


隊長「...前方は任せたぞ」


魔剣士「あァ、背中は頼んだぜェ?」ケタケタ


軽く笑いながら、隊長に信頼を託す。

本当に信頼しているのかは不明だが、冗談を言う仲にはなっている。

そして前方の部隊が雲へ突入するのを見計らって、隊長も行動を開始する。


隊長「...だいぶ雲が濃いな」


魔女「そうね、これより離れたら女騎士たちが見えなくなるわね」


隊長「あぁ...おい、魔剣士ッ!」


魔剣士「わーってるよォ、これ以上離れねェように努力するゥ」


隊長「...どうやら、耳もいいみたいだな」


魔王子「...」


前方の者たちに靄がかかり見辛くなっている中、着々と進んでゆく。

会話も声を張れば可能、分断される心配はなかった。

しばらく歩いていると、前方部隊がある気配に気がついた。


魔剣士「...」ピタッ


女騎士「どうし...」ピクッ


魔闘士「...ついに現れたか」


魔剣士「...いやがるなァ、おォいきゃぷてんッ!!」


隊長「──敵か?」


魔剣士「あァ...姿はまだ見えねェが気配がするぞ」


魔闘士「...まだ仕掛けてこないようだ、こちらを伺っているかもしれん」
503 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:28:29.26 ID:lisVL3ov0

魔剣士「このまま進むぞ、気をつけ────」


──バババババババババババッッッ!!!

返事をしたのは、アサルトライフルの銃声だ。

警戒の範囲を広げたが、敵の警戒範囲のほうが一枚上手であった。


魔剣士「...分断されたなァ」


女騎士「助けに行くぞっ!」


魔闘士「待て、それよりも攻撃に備えろ」


女騎士「──クソっ」


魔闘士「...リザードか?」


魔剣士「多分なァ...こっちもくるぞ、数も増えてやがる」スッ


各々武器を握りしめたり等、攻撃に備える。

そして、霧の中からついに敵が姿を現す。


魔剣士「ハッ、見え見えなんだよ...ッ!?」ピクッ


──ガギィィィィィィィンッッ!!!

敵は奇襲に失敗して、剣で防御されてしまった。

しかし、魔剣士はその姿に驚きを隠せなかった。


魔剣士「────誰だてめェッッ!?」グググ


??1「アアアアアアアアアアアア......」グググ


魔剣士「──チッ、離れやがれェッ!」ブンッ


すぐさまに魔物を吹き飛ばすことで距離を保った。

冷静さを欠いたが静かに分析をする、魔界に精通している者だからこそ困惑をしてしまう。

彼らはこの魔物を見たことがないのであった。


魔剣士「あれは...リザードなのかァ?」


魔闘士「いや、リザードに近かったが...突然変異か?」


女騎士「分析は後にしてくれ...来るぞっっ!!!」
504 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:30:42.07 ID:lisVL3ov0

??2「アアアアアアアアアアアアアア......」ガバッ


女騎士「──効かんぞっっっ!!!」ブンッ


──ドガァァァァァァッッッ!!!!!

女騎士は両手で、騎兵用の槍であるランスを巧みに扱う。

相手の跳びかかりに反応して、柄の部分を鈍器のように扱い敵を叩き落とした。


??2「アアアアアアアアアアア......」ムクッ


女騎士「怯みはするが、復帰が早いな...」


魔剣士「...邪魔だァッッ!!!」ブンッ


??3「アアアアアアア......」スッ


魔剣士「チィッ...避けられたか、視界の悪いの中でよく素早く動けるなァ」


魔闘士「まずい...どんどん沸いてきているな」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「くっ..."雷魔法"っっ!!」バチバチ


──ビリィッッッ!!!

魔力の消費を抑えながらも、威力のある先鋭された雷が魔物を覆った。

だがその様子はとても静かなモノであった。


??4「アアアアアアアアアア...」ビリビリ


魔女「無反応...効いてるのかがわからないわねっ!」


魔王子「下がっていろ...」スッ


────ブンッッッ!!!

凄まじい威力の抜刀居合が敵を本当に沈黙させた。

その切れ味は魔物を2つに分けていた。


??4「────」ドサッ


隊長「2人とも、大丈夫かッ!?」


魔女「...だめ、どうやら一撃で倒せる威力じゃないと足止めにもならないみたい」


隊長「みたいだな...奴ら、何が何でも特攻を仕掛けてくるぞ」


魔王子「...あのような魔物、見たことはない」


隊長「新種かなにかか...いや、それよりも...」


魔女「話している間にも、どんどん集まってきているわよっ!」
505 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:32:37.08 ID:lisVL3ov0

??5「アアアアアアアアアアア......」ゾロゾロ


??6「アアアアアアアアア...」ゾロゾロ


隊長「...少なくとも数十匹はいるな」


魔王子「...ゆけ、貴様らでは足止めもできん...魔剣士たちと合流をしろ」


隊長「...すまない、必ず追いついてくれ」


魔王子「俺を誰だと思っている...」


隊長「...魔女ッ! 魔剣士たちと合流をして雲を抜けるぞッ!」


魔女「わかったわっ!」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔剣士「やべェかもなァ...」


??7「アアアアアアアアアアアアア......」ゾロゾロ


魔闘士「せめて視界が良ければ、細かな動作が読めるんだがな...」


女騎士「...今は視界の範囲に現れているが、囲まれてしまってはな」


??8「アアアアアアアアアアア......」


魔剣士「反撃はできても、復帰や新手が早いこったァ...」


魔闘士「...どうやら、ある程度本気で挑むしかないな」


魔剣士「あァ...地形が崩れる危険性もあるが...仕方ねェな」


女騎士「...私も、一枚噛もう」


魔剣士「はッ...人間がこの俺様についてこれるかってんだァ」


女騎士「これでも女勇者の一行だ、舐めてもらっては困るぞ」


魔闘士「この山が無くならなければいいが...」


──ピリピリピリピリッッ...

3人がそれぞれの威圧感を醸し出す。

恐らく、今後の戦闘に向けて力をセーブしていた様子であった。

その努力が無駄に終わった苛立ちが、この未知の魔物に向けられた。
506 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:35:58.17 ID:lisVL3ov0

??9「アアアアアアアアア...」ピクッ


魔女「────"風魔法"っ!」


──ヒュンっっっ!!!

殺気を向けられてか、魔物が一瞬見せた隙に強い風が切り裂いた。

その風は雲と数匹の魔物を吹き飛ばし、僅かな間だが道ができた。

そして道の先には、日の光と山の地肌の光景が差し込んでいた。


魔剣士「──デカしたァッッッ!!!!」ダッ


隊長「走れッッッ!!! すぐそこまでいけば視界が晴れているぞッッ!!!」


魔闘士「──ッッ!」シュッ


女騎士「あぁっ!!!」ダッ


隊長と魔女が与えた僅かな時間を、彼らは有効活用する。

こういった機会を逃さないのが彼らの強さであった。

魔王子を除く全員が無駄な力を使わずに、雲からの脱出に成功する。


魔剣士「魔王子はどうしたァッ!?」


隊長「足止めをしてくれている、必ず追いつくはずだ」


??10「アアアアアアアアアア......」ゾロゾロ


魔女「...来たわねっ!」


魔闘士「...身体つきだけはリザードそのものだな」


魔剣士「あァ、あちこちに縫合や手術痕がなければなァ」


女騎士「人工的に創られたというのか...気味が悪いな」


魔闘士「新種かと思ったが、どうやら違うようだな」


魔剣士「さァて、手こずらしてくれた分を返さねェとなァ」スッ


隊長「...くるぞ」スチャッ


奴らがぞろぞろと集まりだした。

雲の中とは違い、相手の全体を目視できる。

攻撃を仕掛けてくると予測して各々が反撃できるように構える。


??10「...」ピタッ


隊長「...?」


魔女「攻撃...してこない?」


魔剣士「────後ろだァッッッ!!!」
507 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:37:12.63 ID:lisVL3ov0

???「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


──バサァッッッ!!

大きな怒声、羽音と共に咆哮が劈く。

その轟音は耳を貫き、人間2人と魔物の娘の行動を封じる。


魔女「──きゃっっ!」ビリビリ


女騎士「──なんて音だっっ...!?」ビリビリ


隊長「────ッ!?」ビリビリ


隊長(この感じ...まさか!?)


魔闘士「この忙しい時にドラゴンと来たか...」


魔剣士「こいつも見たことねェ種類だなァ」


隊長たちが耳を塞ぐので手一杯な中、魔剣士と魔闘士は再び首を傾げた。

対峙しているドラゴンの様な者もまた手術痕だらけであった。


???「フッー...フッー...」


魔剣士「...苦しそうだなァ、言葉も喋れねェか」


魔闘士「大方、身体を弄くられた影響といったところか...?」


魔剣士「まァ...楽にしてやるのがせめてもの助けってヤツだァ」


隊長「クッ...頭が割れそうだ...」


魔剣士「きゃぷてんッ、そっちは任せるぞォッ!」


隊長「...あぁ! 任せろッ!!」


再びふた手に別れる、魔剣士と魔闘士が竜を相手にする。

軽くふらつくが、隊長たちはリザードもどきの相手をしなければならない。

ドラゴン、それは隊長の元の世界ですら有名なモンスター、苦戦は必須だろう。
508 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:40:57.72 ID:lisVL3ov0

隊長「魔女、女騎士...奴らをここに通すなよッッ!!」


隊長「魔王子が合流するまで持ちこたえろッッ!!」


魔女「うっ...当然よっっ!!」


女騎士「...承知したっ!」


今も身体に硬直が残る中、2人の女は奮い立たせる。

そしてついに魔界での闘いが始まる、そのはずであった。

彼女らの身体に強烈な違和感が生まれる、それはすぐに彼にも伝わった。


魔女「────ぁ...ぅ...」フラッ


隊長「────魔女?」


女騎士「うっ...ぐっ...なんだ...っ!?」


────ガクッッ!!!

魔女が倒れこみ、女騎士は槍を杖代わりにしてようやく立っている。

そして背後から轟音が響いた、その音とともに彼が隊長の視界に飛び込んできた。

なぜこの男が、かなりの手練であるはずの彼が意識を失っているのか。


魔剣士「────」


隊長「────魔剣士?」


魔闘士「光魔法だッ!!! このドラゴンは極めて────」


その注意は虚しく、次第に隊長の意識は激しい痛みとともに消え失せていった。

隊長は異世界にきて初めて大敗を喫する、数々の激戦を乗り越えてきたというのに。

彼が最後の見えたのは、こちらに向かってくる竜の尻尾であった。


〜〜〜〜
509 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/08(土) 23:41:40.03 ID:lisVL3ov0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/12/09(日) 09:48:49.76 ID:M2xNzF7mO
511 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:25:39.26 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


???「では、いってきますね」


数日しか経っていないというのに、どこか懐かしい声がした。

その声の主は、かつて冒険を共にした彼女であった。

場面は代わりここは賢者の塔。


大賢者「...やはり、心配じゃのう」


女賢者「大賢者様、私なら大丈夫ですよ」


大賢者「ふむぅ...しかし、女賢者がワシのこと以外で積極的なるのは初めてじゃのう」


女賢者「...そういえばそうですね」


大賢者「彼らとの出会い、いい影響を受けたな」


女賢者「はい...私も力になりたいと思いました」


大賢者「ふむ! ならゆくがよい!」


女賢者「はい!」


──ずびーっ! ずばばばっ!

女賢者でもなく、大賢者でもない第三者が鼻をすする音。

それはかなり豪快なものであった、余程の感情が押し寄せている様子。


女賢者「...そんなに泣かないでください」


女僧侶「だってぇ...すごい献身的で感動しちゃいますぅ...」ズビビッ


大賢者「罪づくりな女じゃのう...」


女賢者「...もう、私までもらい泣きしそうですっ」ホロリ


女僧侶「ずびびっ...これぇ、旅先でお腹が空いたら食べてくださいねっ!」


女賢者「ありがとうございます、帰ってきてからも作ってくださいね?」


女僧侶「わかりましたぁっ! 絶対に帰ってきてくださいねっ!」ズビッ
512 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:27:13.15 ID:cXY40eQY0

大賢者「...ふむ、そろそろじゃな」


女賢者「はい、お願いします」


大賢者「...気をつけるんじゃぞ」


女賢者「...彼らと一緒なら、何があっても大丈夫ですよ」


大賢者「それもそうじゃな...では、ゆけ我が愛弟子よ」


大賢者「────"転地魔法"」


髪をなびかせ、その表情はどこか決意のあるモノであった。

彼女は魔法に包まれた、するとどこかへ消えてしまった。

これが転地魔法というモノである、女賢者が向かった場所とは。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「──とっ、ここが塀の都ですか」


女賢者(門を通らずに、直接入ってしまいましたが大丈夫でしょうか)


女賢者(もう、魔界へ行ってしまったのでしょうか...ともかく、ここで情報収集をしましょうかね)


あたりを見渡してみる、都というだけに店がたくさんならんでいる。

人に声をかければなんらかしらの情報が手に入るだろう。

だが、それ以前に生まれたのは疑問であった。


女賢者(なんというか...活気がありませんね)


女賢者(店も閉まっているのが多く、人の表情もどこか暗い...)


女賢者(これが塀の都というやつなんでしょうか、とにかく話しかけてみましょう)


女賢者「あの、すみません」


町民1「...なんだ?」


女賢者「えぇと...見たことのない防具をした筋骨隆々な男性を見ませんでしたか?」


町民1「...知らないな」


女賢者「では...帽子を被った、剣を持った金髪の男性は?」


町民1「......」


女賢者「...?」


町民1「答えたくないね...」
513 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:28:35.47 ID:cXY40eQY0

女賢者「...知っているんですか?」


すると、答えを聞く前に相手はどこかへ行ってしまった。

この後何度も人を変えて試みるものの、すべて同じ反応で対処されてしまった。


女賢者(どうなっているんですかね...)


女賢者(せめて、向かった方角を知りたかったんですが...仕方ありませんね)


女賢者(確実ではありませんが、あの山を登って暗黒街へ向かいますか...)


女賢者(山を遠回りしている場合もありますけど...すれ違いにならなければいいですが)


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「...都とは思えないほどに暗い雰囲気でしたね」


女賢者「なんだか...不安になってしまいました」


女賢者「...コレを渡さなければいけませんのに」


都を抜け、彼女は草原地帯を歩み始めていた。

思わずひとりごとをぽつりと言ってしまう。

とぼとぼと歩いて行くと、オブジェクトが見える。


女賢者「...お墓?」


不格好な、不揃いの木が地面に刺さっている。

その形は十字架に見えるように細工されてあり、辺りには花が手向けられていた。


女賢者「...毎日お花を手向けているみたいですね」


??1「...あれっ?」


??2「女賢者さん...?」


女賢者「...あなたは────」


女賢者を見つけたのは、知っているはずの2人組であった。

柔らかそうな毛並みをした白い狼、瑞々しい青肌の彼女。


女賢者「────まさかっっ!?」


彼女がお墓を凝視する、まだ確定もしていないのに涙がこみ上げてくる。

女性ゆえの感情表現であり、その脳への伝達速度は尋常ではない対応であった。

彼女は柄にもなく、震えた声で彼女らに質問を投げかけた。


〜〜〜〜
514 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:31:20.07 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


隊長「...うっ」ピクッ


どこか暗い場所、そして冷たい床。

意識が戻ると同時に強烈な痛みが脇腹を襲う。

身体は拘束されていはいないがしばらくは動けない。


隊長「ここ...は...?」


???「...目覚めたか?」


隊長「...魔闘士ッ!? どこだッ!?」


魔闘士「隣の牢屋といったところか...」


隊長「牢屋...?」


魔闘士「...視界が開けてきたらわかるだろう」


隊長「...」ゴシゴシ


隊長「そうか...捕まったのか...」


魔闘士「そのようだな」


隊長「...武器も奪われている」


ハンドガン、ショットガン、アサルトライフル、ナイフ、手榴弾。

それ以外のものは所持していると、彼は冷静に確認を行った。

次に隣の牢屋に魔闘士を確認、それ以外の者はいない様子。


隊長「...何が起きたんだ」


魔闘士「あのドラゴン...どうやら光属性の魔法を使ったらしい」


魔闘士「...それも、かなり質の高いやつだ」


魔闘士「為す術もなく敗れ、何者かによってここに運ばれてきたらしい」


隊長「ここは...どこなんだ?」


魔闘士「...わからん」


隊長「...参ったな」


沈黙が続く。

大敗を喫した後だ、語ることはなかった。

それに耐えきれずに、魔闘士は思わず口を滑らした。
515 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:32:32.00 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...言わせてもらおうか」


隊長「...あぁ」


魔闘士「俺が知る限りで、光魔法を使うドラゴンなど存在しないはずだ」


魔闘士「それでこそ、神と同義だろう...所詮は物語にしか登場しない」


隊長「だが...存在したな」


魔闘士「...」


隊長「...」


魔闘士「...このような惨敗、2度目だ」


隊長「...1度目は?」


魔闘士「...魔王子だ」


隊長「あぁ...なるほどな」


魔闘士「俺も若気のころ、無謀にも魔王子に挑んだものだ」


隊長「昔話を...聞かせてくれるのか?」


魔闘士「あぁ...身体も動かんしな...お前も暇だろう?」


隊長「...身体が動かないのか?」


魔闘士「そうだ、ドラゴンと対峙した時程ではないが...」


魔闘士「光の海に浸かっているような...じわじわと力を抑えられている感覚だ」


隊長「...詰んでいるな」


魔闘士「そうだな」


隊長「...で、魔王子とはどうだったんだ?」


魔闘士「聞くまでもないだろう、惨敗だ」


魔闘士「奴の闇魔法には心底ウンザリさせられる...」


隊長「それは...共感できる」


魔闘士「いつかは復讐を...と思っていたが、いつの間にかあのような関係になっていた」


隊長「...フッ」
516 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:34:02.04 ID:cXY40eQY0

魔闘士「牢獄での笑い話には丁度いいみたいだな」


隊長「そうだな...うん、俺も大敗は2度目といったところか」


魔闘士「ほう...お前のような男でも負けるのか」


隊長「当然だ、小さな負けは数えきれない程あるぞ」


魔闘士「...それで、1度目の大敗とは?」


隊長「...特殊部隊といってな、俺は元の世界では罪を犯した者を捕らえる仕事をしているんだが」


隊長「一度、凶悪犯を取り逃してしまってな...今も追い、憂いている」


魔闘士「ほう...」


隊長「そいつは、違法な実験を繰り返すMadscientist...狂気の研究者だった」


隊長「数々の子どもや女が実験台にされ、理解できないものを造っていた」


隊長「そんな奴を、捕まえられなかった...足取りも掴めないで10年も経っている」


魔闘士「...逃げ足は一流だったようだな」


隊長「あぁ、今も誰かが奴の被害に遭っていると思うと、虫唾が走る...」


隊長「この世界は色々と大変だが、奴がいないだけ十分に綺麗だ」


隊長「...元の世界に戻ったら、必ず牢獄に叩き込んでやる」


魔闘士「...大敗だな」


隊長「そうだ...だから、お前も落ち込むな」


魔闘士「落ち込んでなどない...」


隊長「...そういうことにしてやろう」


魔闘士「...」
517 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:35:21.30 ID:cXY40eQY0

隊長「これから...どうなるんだろうな」


魔闘士「さぁな、助けがなければこのまま死刑か?」


隊長「...魔女たちは、どこにいるんだろうか」


魔闘士「...わからん」


隊長「...もうひと踏ん張り、するしかないな」ムクッ


魔闘士「まだ...力を振り絞れるのか」


隊長「あぁ...あいにく諦めが悪いんでな」


魔闘士「人間とは...魔物よりも劣ると思っていたが...」


隊長「...人間とか魔物とか関係ない、所詮気の持ちようだ」


魔闘士「...そうか、そうだな」


魔闘士「昔話をして、しんみりしている場合ではないな」ムクッ


隊長「あぁそうだ、まずはここから脱出するぞ」


魔闘士「お互い、立つのがやっとだ...鉄格子は破壊できんな」


隊長「武器もない...どうしたものか」


薄暗い牢屋の中、詰んでいる状況に頭を抱えるしかない。

だが2人とも、諦めの悪い性格であった。

その心は決して折れず、希望に溢れていた。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女騎士「...っ」ピクッ


女騎士「ここは...そうか、捕まってしまったのか」


同じく、牢屋に連れ込まれていた女騎士が目覚めた。

鎧は剥がされてはいないが、槍は没収されていた。

拘束はされてはいないが、身体に鈍い痛みと謎の倦怠感が残っていた。
518 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:37:06.04 ID:cXY40eQY0

女騎士「ぐっ...脱出しなければ...!」グググッ


彼女の強みはその性格にあった。

出会いこそ、卑劣漢に責められ涙を流していたが今は違う。

武器を奪われ、身体が言うことを聞かなくても絶対に心は折れない。

彼女が勇者の一行に選ばれた理由は、その極められた騎士道が要因であった。


女騎士「うっ...なんとか、立てるな...」ヨロヨロ


女騎士「...鍵か」


壁伝えに歩き、鉄格子の前に移動する。

辺りには誰かいる様子はなく、心もとない蝋燭が灯っている。


女騎士「...女勇者、すまん」スッ


耳、正確には耳たぶに手を当てる。

謝罪をしながら耳飾りを外し、装飾を崩し始めた。

そして残った骨組みの針金を棒状の形状に再加工をする。


女騎士「鍵開け...子どもの頃にやったきりだが大丈夫だろうか...」カチャカチャ


女騎士「...」カチャカチャ


女騎士「......」カチャカチャ


────カチャッ

牢屋に小さく響いたのは、針金の音ではなく施錠音。

喜びの声も挙げずに、音を立たせないよう静かに脱出を試みる。


女騎士「...殺されてなければいいが」


〜〜〜〜
519 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:39:19.23 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


女騎士(...通路ばかりだな)


壁伝えに歩く、鎧特有の金属音が微かに響く。

見つからないことを祈りながら前に進むしかない。


女騎士(薄暗い...いや、この場合は薄暗い方が見つかりにくいか)


女騎士「...ん?」


終わりが見えないほどに長い通路の先に、輝かしい光が見えた。

その光は人工的で暖かみのあるものではなかった。


女騎士(魔物の気配はしないな...光に群がらせてもらおうか)


動物としての本能だろうか、光へ向かう。

拍子抜けなほどに警備が薄い、もはや早歩きで音が鳴っても問題はなかった。

光が刺す空間へ辿り着いた。


女騎士「...なんだこれは?」


女騎士(この部屋...見たことのない材質の物だらけだな)


未知の物体に驚愕するなか、部屋を探索する。

彼女も騎士の前に人間だ、気になるものが広がればそうなってしまう。

だがそれが功を奏した。あるものを発見する。


女騎士(──あれは、きゃぷてんの武器じゃないかっ!?)


女騎士「...合流するまで使わせてもらうぞ」


アサルトライフルとショットガンを付属していたベルトで背負う。

鎧にある申し訳程度の収納に、手榴弾とナイフを無理やり詰め込む。

そしてハンドガンを握りしめる、ようやく武器を手にした女騎士から不安が消え失せる。


女騎士(重たい...だけど、急いで合流しなければ)


女騎士(武器がここにあるということは...彼は丸腰だろう)


〜〜〜〜
520 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:40:19.19 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


魔剣士「...チィッ」


魔剣士「とっとと出しやがれェッッ!!!」


血みどろの竜が吠える。

魔剣を奪われ、仲間を奪われ、身体の自由を奪われている。

拘束はされていない、だがそれが竜の逆鱗に触れてしまっていた。


魔剣士「クソがァッ...なんで身体が動かねェ...畜生ォ」


魔剣士「見張りはいねェ...脱出の機会っつうのによォ...」


魔剣士「ムカつくぜェ...クソォ...」


魔剣士「...」


────シーン...

不気味なほどに手薄な牢獄。

その孤独感が意外にも魔剣士に響いてしまう。


魔剣士「...情けねェな、俺様」


魔剣士「どんなに練度を上げても...上位属性の前には敵わねェのかよォ...」


弱音を吐いてしまう、力はともかく今は魔力すら振り絞れない。

身体の内から光魔法を浴びているかのような感覚に陥っていた。

いままで簡単にやっていたことが突如できなくなるというのは、どれほどの不安を誘うものか。


魔剣士「────畜生...」


──ガチャッ...!

気づけば鉄格子の鍵が開いていた。

薄暗い牢屋の中、徐々に目が冴えてくる、この見慣れた武器は間違いなく奴だ。


???「──大丈夫か...?」


魔剣士「...きゃぷてんかァ?」


女騎士「いいや、女騎士だ」


魔剣士「...お前、どうやって」


女騎士「なに、少しばかり鍵開けを嗜んでいてな」


魔剣士「...ハッ、心強いことでェ」


少しばかりか、不安が消え失せていた。

相変わらず魔力や力を振り絞れないが、勇気が湧いてきた。
521 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:41:44.86 ID:cXY40eQY0

女騎士「立てるか?」


魔剣士「悪ィ...そいつはちょっとばかり出来ねェなァ...」


女騎士「なら肩を貸してやろう」グイッ


魔剣士「お、おう...」


女騎士「...軽いな」


魔剣士「るせェ...それより剣かなんかねェか?」


女騎士「きゃぷてんの刃物ならあるぞ」


魔剣士「...だめだ、短すぎる」


女騎士「なら、これで我慢してくれ」スッ


そういうと、女騎士はハンドガンを渡してきた。

肩を支えてもらっていて、片腕だけしか動かせない魔剣士でも発砲が可能だろう。

そして女騎士は、背負っているアサルトライフルを同じく片腕で構える。


魔剣士「なるほどなァ...つーか、お前はそれを片手でやるつもりかァ?」


女騎士「所詮私は人間...だが、極限まで鍛えたつもりだ」


女騎士「それに...やるしかないだろう?」


魔剣士「違ェねえな、それじゃ運搬よろしくゥ」ケタケタ


女騎士「言ってくれるなぁ...まぁ、早くきゃぷてんと合流しなければ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...そっちの調子はどうだ?」


魔闘士「だめだ、まだ立つので精一杯だ」


隊長「...この牢獄自体に光魔法がかかっている可能性は?」


魔闘士「...ありえる、だが1つ矛盾点がある」


魔闘士「光魔法がかかっているなら、お前も同じ症状を得るはずだ」


魔闘士「...お前は万全なのか?」
522 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:43:06.45 ID:cXY40eQY0

隊長「...身体に鈍い痛みは残っているだけで、それといった症状はないな」


魔闘士「なら...現時点では原因不明だ」


隊長「参ったな...」ポリポリ


現状では、内側からはなにもすることができない。

そして、魔闘士だけが光魔法を受けたような症状に頭を悩ませる。

今できることは頭のかゆみを解消することだけであった。


魔闘士「...神に祈ってみるか?」


隊長「その神の使いの天使を殺したのは誰だ?」


魔闘士「...くだらん冗句は言うものではないな」


隊長「あぁ...だが、仲間に祈ってはいるぞ」


魔闘士「...」


──ガチャッ...!

気づけば、鉄格子の鍵が開いていた。

薄暗い牢屋の中、目が冴えていなくともわかる、見慣れないこの風貌は間違いなく敵だ。


???「やぁ」


魔闘士「...何者だ?」


隊長「...」


???「この施設の最高責任者だよ」


魔闘士「なぜ、牢屋を開けた...」


???「君たちに教えたいことがあってね」


???「ほら、さっさと歩いてくれ、時間は無限じゃないんだ」


魔闘士「...」


隊長「...断るといったら?」


???「断るわけない、今だって現状を打破できなかったじゃないか」


???「君たちは付いてくるしか、ここから脱出する目処は立たないよね?」


魔闘士「...チッ」


???「さぁ、こっちだ、言っておくけど脅しは聞かないからね」


???「君は歩くことも辛いはずだ...君は違うみたいだけど、どちらにしろ急な運動は無理でしょ?」
523 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:44:27.41 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...癇に障る奴だな」


隊長「だが、事実だ...従うしかない」


大人しく従うしかない、このままだと永遠に牢獄に入れられたまま。

せめて、仲間が助けに来る可能性に縋りたかったが、敵が目の前にいるのなら話は別。

既に仲間がくるまで待機という選択は消されている、彼らは少しふらつきながら奴に付いて行く。


???「...しかし、君も大変だったね」


隊長「...大変にしたのはお前らだろう」


???「いや、そうじゃないさ...まぁ直にわかる」


隊長「...?」


他愛のない会話、まるで囚人と看守のようなものだった。

意味深なことを言い放つこの者に疑問を抱える。

だが、それとは別に隊長には気になる点があった。


隊長(...こいつの服、白衣か?)


夜目が効いて、ようやく確認ができた。

この白い服装は間違いなく、科学者が着るようなアレだ。

この世界には似つかわしくない、非現実的であり、現実的すぎる服。


隊長「────お前、まさか」


一瞬だけ頭に過ぎった、過ぎってしまった。

その後姿は過去に見たことがある、見てしまったことのある者。

追ってきたその背中を見間違えることは絶対にない、だがその言葉は遮られてしまう。


???「さぁ、到着したよ」


魔闘士はその見たことのない光に目を白黒させる。

そして隊長はその見慣れた光に目を白黒させる。

明かりで奴の、この施設の最高責任者の顔を確認できてしまった。


隊長「────なぜここにいる」


〜〜〜〜
524 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:47:24.09 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


女騎士「...まるで迷宮だな」


魔剣士「あァ...地図がねェと、どうしようもねェな」


女騎士の前髪は汗でぺったりとしている。

魔剣士を支えながら、かなりの時間を彷徨っているのが伺える。


魔剣士「...悪ィ」


女騎士「...このくらいどうということはない」


本当は片腕が乳酸でパンパンだというのに。

女騎士は顔色を変えずに、平然と嘘をつく。


魔剣士「クソッ...まるで光魔法が身体の中に宿っているみてェだ...」


女騎士「...やはり、そうか...お前ほど症状はひどくないが、そのような感覚がするんだ」


女騎士「もしかして...この施設全体に光魔法が宿っているのか?」


魔剣士「...光魔法が関与しているのはありえるがよォ」


魔剣士「さっきも言ったが俺様が感じるのはこの施設からじゃなく、身体の内からだァ」


魔剣士「そもそも、光魔法は希少だ...この施設全体に宿らすってなるとォ...」


魔剣士「それができる人物は限られるぜェ? それでこそ女勇者が────」ピクッ


魔剣士が可能性を否定しようとした瞬間、あることを思い出す。

女勇者、彼女は神によって選ばれたと伝えられている、勇気ある者。


魔剣士「...拉致られたんだよなァ?」


女騎士「...あぁ、まさか...そうなのか!?」


魔剣士「この俺様をここまで抑えられるんだァ...可能性は高いぞ」


女騎士「...」


魔剣士「この施設全体に云々はともかく、女勇者が関与してる可能性は高いなァ」


女騎士「...この施設にいるかもしれんな」


魔剣士「敵側に寝返ってなければいいけどなァ...今の状態だと瞬殺されるぞ」


女騎士「良くて洗脳だろ...どちらにしろ戦闘にならなければいいが」


魔剣士「とにかく、急ぐしかねェ...きゃぷてんたちと合流しねェとまずい...」


女騎士「あぁ、それに彼らも丸腰だろう...この武器を渡さなければ」


〜〜〜〜
525 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:48:35.90 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


隊長「────なぜここにいる」


その発言にはあらゆる感情がこもっていた。

ただならぬ雰囲気に、魔闘士は困惑する。


魔闘士「...知り合いか?」


???「はて、知らないな」


魔闘士「黙れ...質問の相手はこっちだ...」


隊長「...」


魔闘士「おい...どうした?」


魔闘士の質問には答えない。

隊長は質問に答えられる精神状態ではなかった。


???「...自己紹介でもするかな」


研究者「ここでは研究者と名乗っているが、君はこっちのほうが知りたいみたいだね」


研究者「過去の名前は────」


聞き取ってしまう、かつて追い求めた犯罪者の名前。

マッドサイエンティスト、狂気の研究者。

間違いない、奴だ。


隊長「────なぜここにいるんだあああああああああああッッッッ!!!!!」


怒声にしか聞こえない、その質問。

怒り、憎しみが含まれるその声にはもう1つ意味があった。


隊長「お前のような奴がァッ! なんでこの世界に居やがるッッ!!!」


研究者がいない、奴の実験によって喪われた人たちがいない世界。

この異世界は、罪もない子どもや女性が奴の意味不明な実験台にされていない世界などと勝手に思っていた。

つみ木の城を壊された子どものように、叫ばないと崩壊してしまいそうだからであった。


研究者「...あぁ、もしかして私を追っていた特殊部隊の誰かか?」


魔闘士「...お前が言っていたのはこいつか!?」


隊長「お前ぇ...なぜこの世界にィ...ッ!?」


研究者「さぁね、気づいたらこの世界にいたんだ...10年前くらいにね」


隊長が追ってきた10年間は無残にもたった一言、あっさりとした一言で無駄に終わってしまった。

当然だった、異世界にいる犯罪者を捕まえることは不可能。

怒りのボルテージがさらに上昇する。
526 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:51:09.45 ID:cXY40eQY0

隊長「ふざけるなァ...お前が殺した子どもたちの親は、どのような気持ちで過ごしているか────」


研究者「────知らないね、私はやりたいことをやるだけだ」


研究者「自由の国で自由にやってなにが悪い、そのためにアメリカの国籍を獲得したんだよ」


隊長の頭の中でなにかが切れる音が通った。

過去の被害者、そして自分自身の無念が隊長の身体に纏わりつく。

復讐に襲われる、彼の感情はすでに爆発していた。


隊長「────ッ!!!」ダッ


魔闘士「──落ち着けッ!! お前らしくないぞ!」


隊長「──止めるなッッ!!」


研究者「いや、止まりなね」スッ


白衣の懐から、あるものを取り出してきた。

それは大男が所持することを許される、大型のリボルバー拳銃。

科学者にありがちな細い腕で、絶大な威力を誇る銃を突きつけてきた。


魔闘士「あれも、あの武器と同じものか...」


隊長「...FUCKッッ!!!」


研究者「それ以上動くと撃つからね...さて、本題に入ろうか」


研究者「実は異世界から来た...という話はもう要らないね」


研究者「それじゃあ、こっちを見てもらおうか」


魔闘士「...これは...硝子の壁か?」


研究者「そう、硝子...本当はミラーガラスといって向こう側からは可視できない壁なんだけど」


隊長「────お前ェ...ッ!!」


そしていち早く隊長は気がついた。

この硝子の向こう側にある物体、またも怒りを誘うものであった。

非現実的で超科学的な代物に魔闘士は質問を投げかけるしかなかった。


魔闘士「...あれはなんだ?」


研究者「あれは生体ユニット...大きな試験官って思ってくれていいよ」


研究者「よく見てご覧、君の身体が抑えられている原因だよ」


魔闘士「...? どういう...ッ!?」ピクッ


研究者「気づいたみたいだね...って、おや?」


〜〜〜〜
527 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:52:19.09 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


女騎士「────嘘だろ」


その光景をみた女騎士の瞳は濁っていた。

それも当然、かつての仲間と再会できたのだから。


女勇者「────」


謎の液体が入った大きな試験管に彼女は存在していた。

身体のあちこちに管が埋め込まれ、とてもじゃないが生命を感じるものではなかった。


魔剣士「女勇者...やっぱりいたかァ、いやそれよりも...」


魔剣士がひやりと汗を垂らす。

彼ほどの者が焦る理由、それは女勇者の番犬に見つめられているからであった。


女騎士「...さっきの光魔法を使うドラゴンか」


魔剣士「そうだなァ...差し詰め、"光竜"とでも名付けるか」


光竜「グルルルルルルルル...ッッ」


魔剣士「これ以上動いたら、襲ってくるだろうなァ...」


女騎士「...おい、あれって」スッ


女騎士が指を指す、別の試験官だ。

女勇者の衝撃に囚われてか、見えていなかったものがようやく目に入る。


魔剣士「──あれは俺様の魔剣ッ!?」


光竜「──ッッ」ピクッ


女騎士「大きな声をたてるな...あいつに刺激を与えないほうがいいぞ」


魔剣士「あァ...すまねェ...だが、あれがあれば...」


女騎士「...なんとかできるのか?」


魔剣士「...」


迂闊にこの状況を打破できると言ってしまえば、嘘になるかもしれない。

身体の自由は奪われ、満足に魔力も使えないこの現状。

彼は深く葛藤する、軽く言える言葉ではなかった。


女騎士「...もう一度言うぞ」


女騎士「なんとかできるのか?」


これは彼女なりの足掻きだった。

先ほど彼らを完膚なきまで叩きのめした光竜と対峙してしまった以上、ほぼ詰み。

もう魔剣士の言葉にすがるしかなかった。
528 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:53:23.36 ID:cXY40eQY0

魔剣士「...」


魔剣士「...あァ、できる」


長い沈黙の末に口を開く、その重すぎる責任を彼は背負う。

いつも背負っている魔剣よりも、遥かに重たいこの代物を。


女騎士「...私が取ってこよう」


魔剣士「あァ...頼んだぞ」


女騎士「ここで...待ってろ」


支えていた魔剣士の肩を、ようやく開放する。

それと同時に魔剣士が静かに腰をついた。

1人身となった女騎士、身体に若干の違和感が残るけれども身軽にはなった。


女騎士「さて...どうするか」


光竜「グルルルルルルルルル...ッ」


魔剣士「あいつの警戒が強いぞ、既に跳びかかってきてもおかしくはない状況だァ」


女騎士「...まず、武器を選択だな」


音を立てずに、持っていた武器をソーっと床に置く。

あるのは、アサルトライフル、ショットガン、手榴弾、ナイフ。

魔剣士が申し訳程度にもっているハンドガンは端から眼中になかった。


女騎士「...これとこれだな」スッ


選ばれたのはナイフとアサルトライフルであった。

最も、女騎士は隊長がショットガンと手榴弾を使用している場面に遭遇していない。

使い方がわからない、消去法による選択だった。


女騎士「...行ってくる」


魔剣士「...頼んだ」


ついに、足を動かしだす。

まずは試験官の近くへ行かなければならない。

光竜の様子を伺いながら移動を開始する。
529 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:55:04.33 ID:cXY40eQY0

光竜「グルルルルルルルルルル...ッッ」


女騎士(...見られている...目で追われている)


女騎士(だが...まだ襲ってこない...なぜだ?)


光竜に睨まれながら、着々と進んでいく。

驚くほどにすんなりと、事が進む。


女騎士(...ついた)


女騎士(さて、どうやってあれを取ろうか)


試験官は少し高い場所に設置されている。

少し不安定だが、試験管を支えている細い管を登れば辿り着けそうな高さだった。


女騎士(武器は背負うしかないな...今は襲わないでくれ...っ!)


アサルトライフルを背負い、管を支えに。

身体の倦怠感、鎧という重り、そして光竜による威圧感。

それらも背負いながら、健気に登っていく。


魔剣士(...順調だなァ、このままうまくいってくれ)


光竜「グルルルルルルルルルルル...ッッ」


魔剣士(にしても...なんであいつは襲わねェんだァ...?)


魔剣士(まるで...調教された犬みてェだな)


???≪あー、マイクテスト≫


魔剣士が推理を進めた矢先、聞いたことのない音声が聞こえる。

頭に軽くキンと響く、とても不快な音だ。


魔剣士「...なんだァ?」


???≪待たなくていい、やれ≫


その指示、まるで調教された犬。

この竜には竜としての威厳は全く無く、知性は失われていた。

待ての指示を忠実に行う畜生、そしてその褒美は目の前に。


光竜「──ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


〜〜〜〜
530 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:57:00.32 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


研究者「...調教したはいいが、どうも要領が悪いのが玉に瑕だね」


隊長「お前ェ...!!!」


魔闘士「──下衆がッ!」


研究者「動くと撃つよ...さぁ、話を戻そうか」


話を戻す、というより話したくてたまらない。

そんな、嬉々とした表情をしていた。


研究者「もう、ほとんど答えはわかっているね?」


研究者「その身体の倦怠感...それは女勇者の光魔法を細工したものだ」


魔闘士「...異世界の人間が、それも光魔法を細工しただと?」


魔闘士「ふざけるな...この世界の賢者ですら、光について熟知していないんだぞ...」


魔闘士はその質問を反する答えを出した、出さざる得なかった。

この世界で何百年と過ごしてきた彼ですら、未知の領域である光魔法。

それを異世界の、たった10年しか住んでいないこの人間に。

まるで光魔法について熟知しているような口ぶりが許せなかった。


研究者「悪いけど...熟知して当然なんだよね」


研究者「はっきり言って、この世界は私のいた世界よりも遥かに遅れている」


研究者「この世界にいる賢者は...私より頭が悪い」


魔闘士「...」


研究者「そうだろ? その身体の倦怠感がそう物語ってるじゃないか」


魔闘士「...ふざけるな」


研究者「...納得いってないみたいだね、なら一旦別の話をしてあげよう」


魔闘士「...?」
531 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:57:54.48 ID:cXY40eQY0

研究者「──さぁ、握手だ」スッ


魔闘士「────ッッ!?」ビクッ


──ギュウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ...!

気づいた時には目の前に研究者が。

そして気づいた時には手は結ばれていた。

その音はあまりにも激しく、激痛が伴うモノであった。


魔闘士「──がああああああああああああああああああああッ!?」


研究者「ほら、痛がってないで...わかったかい?」スッ


魔闘士「────ッ...!?」


掌に鈍い痛みが残る。

しかし、どうしても考えを進めなければならなかった。

なぜ、奴がこの力を持っているかという質問を。


魔闘士「な...なぜだ...?」


研究者「なぜ私が君の力を得ているか...だね?」


あらゆる推理をする、だが答えが見つからない。

おそらく永遠に彼1人では見つからない、着々と研究者が答え合わせを行う。


研究者「悪いけど、君の力は研究させてもらった...それが私がこの世界にきて、初めての研究だった」


魔闘士「ど、どうやって...」


研究者「...Mosquito、蚊だよ」


魔闘士「蚊だと...?」


研究者「あぁ、そうだ...どんな人体実験も始めは血液検査から始めるのが私流なんでね」


研究者「それが大当たりだ、悪いけど君の身体は1年で熟知したよ」


魔闘士「い、1年...」


正確な誕生日は覚えていない。

ただ、数百年は生きていたのは確実、だがそれがたった1年で研究しつくされた。

ただならぬ絶望感が魔闘士を襲う。
532 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 19:59:08.29 ID:cXY40eQY0

研究者「まぁ、研究自体は半年もなかったんだけどね...君の血を得た蚊の取得や研究機材の作成のが大変だったね」


研究者「1から説明しよう...まず、この世界の魔力についてだ」


研究者「まず魔力は不可視とされているが...そんなことはなかったよ」


研究者「魔力と呼ばれている物質は血液の中に存在している...それは自作の顕微鏡で確認できた」


研究者「その発見によりわかったのは、魔力という物質が身体を強化しているということ」


研究者「魔力を含んでいる分だけ、身体は鍛えられる...それが魔物というわけさ」


研究者「鍛えられるのは身体だけではない、脳細胞だって...動物に近い魔物が言葉を発するのはそういうことだね」


研究者「今のは単純な説明でしかない、あとで詳しく教えてあげるよ」


研究者「まぁあとは簡単だ、君の血を注射するだけで超人的な力を得ることができるはずだ」


研究者「初めの人体実験は異端者って人にやってもらった...みごと成功したよ」


研究者「副作用は発熱程度だったから、私も続いて君の血を入れさせてもらったよ、血液型も一致してたようだし」


魔闘士「な...」


口をあんぐりさせるしかなかった。

この男の言っていること、頭の理解が追いついていない。

魔闘士の頭が悪いわけではない、この世界の研究水準がかなり低いのが原因であった。


研究者「次に魔力という物質がどんなものなのか...まずは創生を語ろうか」


研究者「これはまだ推測にすぎないんだけど、答えは空気から発見できた」


研究者「魔界の空気には大昔から姿を変えてない微生物...ある小さな小さな魔物が存在しているんだ」


研究者「それが原始の魔物...すべての魔物の祖というべきか」


研究者「その魔物が、初めて魔力というものを作ったと思われるよ」


研究者「魔物の歴史の最初は、恐らく魔界の空気を吸った人間や動物から始まったんじゃなかな」


研究者「魔力に目覚めた人間が子どもを産めば、産んだ子どもは先天的に魔力を持っているはずだ」


研究者「それが歴史を重ねることで、突然変異として人の形を離れたの魔物が生まれ...今に繋がるんじゃないかな」


研究者「まぁ、歴史はそんなに好きじゃないんでね...これ以上は調べる興味がわかないね」


研究者「それから考えると、人間界にいる人間が魔力を持っていないのは魔界の空気を摂取していないから」


研究者「もしくは、過去に摂取をした祖先等が血縁者にいないという結論に到れるね」
533 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:00:20.97 ID:cXY40eQY0

研究者「じゃあ、後天的に魔力に目覚めた人間はどういうことかというと...これはなかなか骨が折れたよ」


研究者「私の考えが合っているなら、空気を吸った瞬間に魔力を得ることができると思ったんだけど」


研究者「そうはいかなかった...現に、私は君の血を入れるまで魔力に目覚めることはなかったしね」


研究者「じゃあなぜか、それは微生物...いやこの場合はVirus...いや、ウィルスと言ったほうがわかりやすいかな」


研究者「ウィルスと微生物は正確には同じではないんだけど、便宜上今はそう呼ばせてもらうよ」


研究者「そう、このウィルスには潜伏期間というものが存在していたんだ...厄介だね」


研究者「私の世界でも潜伏期間には手を焼かされるよ...まぁ、もう判明したから問題はないけどね」


研究者「魔界の空気に存在するウィルスを摂取する...だが、それだけでは魔力は目覚めない」


研究者「なぜなら...身体にはとてもすごいモノがあるからだ、それは異物への抵抗力」


研究者「風邪を引くと無意識に咳をしたり、花粉を感じると鼻水で防御をする...まぁ後者は過剰反応なんだけど」


研究者「身体にの中に侵入したウィルスは身体の中で殺されるんだ...白血球とかにね」


研究者「なら、人間が魔力に目覚めることはないと思うだろ? だけどそのウィルスには特性があったんだ」


研究者「それは無性生殖だ...あちこちに自身の一部分を残しまた成長を始めるんだ」


研究者「白血球がウィルスを殺し、ウィルスは殺される前に身体をどこかに残す...イタチごっこが始まるわけだ」


研究者「その行動に身体は徐々に慣れて、やがてウィルスを殺さなくなる...時間はかかるが次第に適応していくのさ」


研究者「その適応が魔力に目覚めるということだ...まぁ完全に殺しきって魔力に目覚めない場合もありそうだけど」


研究者「その時間のズレが潜伏期間...骨が折れた箇所だよ、なにせ潜伏期間は自覚ができないからね」


研究者「君の血を入れた時、発熱が起きたのは身体の抵抗が原因だったみたいだね、予防接種みたいなものさ」


研究者「まぁ、生まれた時から適応している魔物にとってこの話は意味なかったか」


研究者「...次は魔法について語るね、これも仮説なんだけどね」


研究者「魔力を源にする魔法...どうやって魔力を使用しているかという話だね」


研究者「もともと、魔力というのはさっきの微生物が活動するに必要なただの動力源に過ぎないみたいなんだよね」


研究者「だけど...それはその微生物での話、人間及び魔物なら話は別」


研究者「何が違うか、それは脳...魔力は脳の電気信号に反応することが発見できたよ」


研究者「例えば、手から風を出したいと思えば脳へ電気信号が走るんだけど...まぁ普通は無理だよね」


研究者「だけど...魔力はそれを実現させるんだ」
534 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:01:32.19 ID:cXY40eQY0

研究者「そう、魔力は思ったことに変化をする夢の物質なんだ」


研究者「その事実を発見したときは、思わず感極まってしまったよ...夢が詰まりすぎた代物だ」


研究者「だが、2つほど弱点があったんだ...1つは思い込みが足りないと全く実現しないということさ」


研究者「例えば、お腹が空いたから目の前に料理を出したいと思っても...そんな一時的な思い込みは受理されない」


研究者「何千年も思い込み続けてたら出せるかもしれないけど、そんなことする奴はいないだろうね」


研究者「...でも、何千年も思い込み続けられたモノがこの世界にあるね?」


研究者「そう...この魔法について書かれている本だ」


研究者「魔法というのははるか昔、書物さえ残されていないときから存在しているらしいね」


研究者「きっと初めは妄想や愚行だったんだろう、じゃんけんのようなお遊びとして語り継がれたんだろうか」


研究者「でもあるとき、魔力に目覚めた者がそれを変えた」


研究者「炎をだしたり、水をだしたり、風をだしたり、土をだしたり、傷を癒やしたり」


研究者「思い込みが電気信号の道を舗装し、長年お遊びとして思い込み続けてきたものが...実現した!」


研究者「そして思い込みが受理された後、汗腺などの細かい穴から魔力が放出され、変化を始める」


研究者「それが魔法だ」


喜々として語る。

この男、わずか十年でここまでの物言いができる。

その語り部に魔闘士は頷くしかなった。


魔闘士「...」


研究者「...まぁ一説に過ぎないけどね、あくまで私の考えさ」


研究者「プラシーボ効果は侮れないね...さぁ、もう1つの弱点を語ろうか」


研究者「といっても、あっけない結論なんだけどね...」


研究者「よくある弱点だ、この微生物は塩分を含んだ水に弱く、海水が蒸発した水蒸気ですら触れたら死ぬ」


研究者「まぁ一度身体に取り込めば微生物自体が体外へ放出されることはない、海に浸かったら魔力を失うことはないさ」


研究者「血管に塩水を注入すれば、もしかしたらだけど...そんなことしたらそれ以前に死んじゃうよね」


研究者「魔法は魔力によって発動するけど、魔力自体にはそんな性質はないから海中でも使えると思うよ」


研究者「とにかく、魔界の空気は海を超えられない...人間界の空気に微生物が存在しないのはそういうことだ」


研究者「まぁ、あの大橋を運良く渡りきり、人間界へ訪れる場合もあるね」


研究者「その結果、普通の人間が魔力に目覚める要因になるわけだ」


研究者「蛇足だけど、人類の進化と同様、人魚族とかが海に生息しているのも突然変異の賜物だろうね」
535 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:02:28.57 ID:cXY40eQY0

研究者「話がズレた...塩水に触れるともう1つ、それは微生物には塩水に触れたら硬度を増す性質がある...紐付けできることがあるね」


研究者「人間界側の崖には魔法の欠片とよばれるものが存在しているよね?」


研究者「あれは微生物の死体の成れの果て...可視できるほどに死体が集まったものだ」


研究者「どうやら、微生物が死んでも魔力は残るみたいだよ...まだ詳しくは調べてないけど」


研究者「まぁこれで、魔法の欠片が魔法を維持する理由、これでわかったかな?」


研究者「...1人でしゃべりすぎたね、要点をまとめよう」


研究者「1つ、魔力は血液に存在する」


研究者「2つ、魔力は元々、魔界の空気に存在する微生物の原動力である」


研究者「3つ、その微生物を摂取することで、潜伏期間を得る」


研究者「4つ、そしてその潜伏期間を超えると、魔力に目覚める」


研究者「5つ、なお魔力に目覚めた者の血液を投与すれば潜伏期間なくして同等の魔力に目覚めることができる」


研究者「6つ、魔力には身体を強靭にする作用がある」


研究者「7つ、魔力は脳の電気信号...そして思い込みに反応する、その結果が魔法だ」


研究者「8つ、魔法などの思い込みに反応をした後、魔力が体外へ放出され魔法へと変化する」


ついに、長い長い演説が終える。

1人でぺらぺらと論を語る様は不快なものだった。

だが、その不快なものにすら遅れを取っているのがこの世界の水準。

真実かそうでなくても、信じざる得なかった。


魔闘士「たった10年で...ここまで語れるのか...?」


研究者「そうでなくては、生かしてもらえないしね」


研究者「なんたって、この施設と私は魔王様のお墨付きなんだからね」


魔闘士「...チッ」


悪態をつくしかない。

身体が鈍い今、彼に言葉で勝るしかない。

だが、そのような試みはもう無意味だった。


研究者「さて...じゃあ、話をもどそうか」


研究者「硝子の向こうを見てご覧...って、あれ?」


魔闘士「──ッ...!?」


話に夢中になりすぎて、気が付かなかった。

ガラスには真っ赤な液体がこべりつき、向こう側への目視が不可能な状態であった。
536 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:05:08.44 ID:cXY40eQY0

研究者「...はぁ、後で掃除しなきゃね」


魔闘士「魔剣士...」


研究者「君のお仲間、やられちゃったみたいだね」


魔闘士「...」


呆然とするしかなかった、もう、否定する気力すらわかなかった。

最後に見た光景は動きが鈍っていた魔剣士と女騎士。

そしてこの施設に送り込まれた原因である光竜。


研究者「じゃあ...本題に移ろうか」


研究者「その、身体のだるみをね」


魔闘士「...まだ語るか、もううんざりだ」


研究者「言いたくてたまらないのさ、私の研究結果をね」


研究者「まぁ、理由はさっきの話があれば簡単さ」


研究者「さっき、硝子の向こうに女の子がいたよね」


先ほどの記憶は曖昧だが、覚えている。

その女は魔闘士にとって、忘れることはない人物であった。

人間界、女騎士と同様にあちこちの新聞に掲載されていた彼女だ。


魔闘士「...女勇者」


研究者「そう、女勇者...彼女の魔力を使ったのさ」


魔闘士「...なるほどな」


段々と理解してきた、おのずと答えが脳内で導かれていく。

いくら研究水準が低いこの世界の住人であれ、学がないわけではない。
537 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:07:48.46 ID:cXY40eQY0

研究者「答えはさっきの微生物、そこに女勇者の魔力を与えたんだよ」


研究者「これも骨が折れたね、彼女のあらゆる要素を使って実験したんだけど」


研究者「まぁ...一番初めに手を加えたリザードたちは完全に出来損ないになっちゃったけどね」


研究者「そういった礎の上に、あのドラゴンや光を含む微生物の創造に成功したよ」


研究者「彼女の魔力、つまり光属性の魔力...君たち魔物にとって天敵だよね」


研究者「光属性についても、研究させてもらったよ...なんでもありとあらゆる物を抑える属性だってね」


研究者「だけど、それは惜しい認識だったよ、本当の性質は"魔力を抑える"属性さ」


研究者「それは顕微鏡で確認できたよ、光属性の魔力がその他の魔力の活動を停止させていたよ」


研究者「この世の生物は魔力にあふれている、潜伏期間中で自覚がなくてもね」


研究者「光で魔法を抑えられるのも当然、武力を抑えられるのも、その当人に魔力が存在するから」


研究者「よって、ありとあらゆる物を抑えると誤認しちゃったんだね...仕方ないと思うよ」


研究者「話は戻して、光は魔力を抑える性質...それが微生物を通して体内へ侵入するんだから...ね」


研究者「まぁ、後天的な魔力の所有者には、魔物より体内の魔力が少ないので効果が完全に発揮されないし」


研究者「潜伏期間中はそもそも身体の抵抗力で魔力が殺生の繰り返しをしているから効果が非常に薄かったりするしね」


魔闘士「...あの村にバラ撒いたというわけか」


研究者「そうさ、まぁ実験中にたまたま通りかかったのが運の尽きだったね」


魔闘士「...お前は...人間なのか...?」


研究者「...あぁ、そうさ」


魔闘士「...人間」


人間には驚かされてばかりだ、この研究者といい、キャプテンといい。

人間は魔物よりはるかに弱い生き物だと思っていた。

そんな、大きな挫折感を味わっているうちにあることを思い出した。


魔闘士(...奴が静かだ)


研究者「...ところで、君はさっきから黙っているけど生きているかい?」


魔闘士が振り向く、そこにはとても人間という枠を超えそうな何かが沈黙をしていた。

復讐者の予言、それは見事に的中することになってしまった。


隊長「────■■■...」


〜〜〜〜
538 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:10:58.92 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


光龍「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


時は少し巻き戻り、不快なノイズとともに発せられた命令が光竜を動かす。

狙いは女騎士、全力の突進が彼女を襲う、管上りの最中だというのに。


魔剣士「──女騎士ィッ!!!!」


女騎士「────クソっ!!!」ダッ


登っていた管から離脱をする。

もう少しで魔剣に手が届いたかもしれないが、仕方がない。

着地と同時に受け身を行い、急いで走り始める。


女騎士「魔剣士ィっ! そんなに持たないっ!」スチャッ


──バババババババババババババッッッッ!!!!

アサルトライフルを走りながら構え、射撃する。

本来なら音を建てずに光竜をやり過ごしたかったが、もう手遅れであった。


魔剣士「────なるほどなァッ!!!」


パキッ、そのような音が連続するのとよくわからない液体が流れる。

するとそこに重量感のある音も続く。


女騎士「ほらっ! こっちだ光竜っ!」


光竜「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


光竜は他のことに目もくれず女騎士を追う、彼女が行ったのは陽動。

アサルトライフルによって乱雑に射撃された大きな試験官、それが砕けたことによって落ちてきた魔剣。


魔剣士「グッ...ハァッ...!」ズルズル


そしてプライドを殴り捨てた這いつくばり。

しかし、まだ距離がある。


女騎士「はぁっ...はぁっ...ほら私はここだぞっ!」


──バババババババッ!!!!

女騎士とて武人、初心者ながらも射撃に成功する

しかし効果がないようだ、光竜は構わずに突進してくる。


光竜「ガアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」


女騎士(──怯みもしないかっ!)


広いとはいえほぼ密室。

きた道を戻ろうとすれば魔剣士が巻き込まれてしまうかもしれない。

身体もだるい、全力で走るのも数秒が限界だろう。
539 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:12:45.79 ID:cXY40eQY0

女騎士(──だが、やり通さなければ)


魔剣士「クソッ...動けッ...俺様の身体ァッ...!」ズルズル


女騎士「はぁっ...はぁっ...はぁっ...」チラッ


小走りしながら目視をする。

魔剣士は遅いながらも、確実に魔剣に迫っている。

このまま行けばうまく行くはずだった、やけに静かでなければ。


光竜「...」


女騎士(────視線が違うっ...!?)


女騎士「──クソっ!!! 魔剣士ィっ!」


魔剣士「──チィッ!」グッ


女騎士「おいっっ!! こっちだっ!」


──バババババッ!!!!

アサルトライフルを発砲するが、無に終わる。

空っぽの力を振り絞り、這いずりの速度を上げる。

言われなくても気づくこの雰囲気、魔剣士は光竜に睨まれていた。


光竜「...ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


継ぎ接ぎだらけの翼を扱い、突進のモーションに移る。

ヘイトは魔剣士、女騎士などもう飽きたらしい。


女騎士「────だめだっ!!!」ダッ


竜に駆け寄るしかなかった。

その圧倒的威圧感を臆さず、仲間のために。

そして彼女は、突撃しながら銃を発砲する。


女騎士「────っっ!」スチャ


──バババババッッッッ!!!

────グチャァッ...!!!

そして聞こえたのは、何か柔らかいモノが潰れる音であった。


光竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!?!?!?」
540 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:14:06.97 ID:cXY40eQY0

女騎士(──怯んだっ!?)


幸運の一撃、それは生物共通の弱点。

彼女のへたっぴな射撃は近寄ることで精度を増し、光竜の片目にヒットした。

潰れた瞳からは赤い液体が、尋常じゃない量を撒き散らし、一部の壁を染め上げる。


光竜「...」


そして沈黙、弱ったわけではない。

生物としてのすべての感情が竜を黙らせていた。


女騎士「...くるっ!」


光竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


女騎士「────こいっっ!!!!」スチャ


再びアサルトライフルを構える。

彼の武器であるこれが、唯一の抵抗手段。

絶望的な状態でも勇気があふれる、だが。


女騎士「...え?」


──カチッ...カチッ...

彼女はしらなかった。

リロードという概念を、弾切れという概念を。


光竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


この世のものとは思えない雄叫びを叫びながら向かってきている。

本来なら、彼女は回避を行うであろう。

だが武器の仕様にあっけにとられて、彼女の反応が大幅に遅れてしまっていた。


女騎士「──死んだか」


すべての出来事がゆっくりと、頭には走馬灯のように過去の思い出が。

死を悟った彼女は不思議と余裕ができていた、しかしその余裕が新たな希望を発見した。


女騎士「...あれは?」


そこには男のようななにかが立っていた。

その表情は醜悪、彼が彼であることを忘れている。

その格好は邪悪、彼の元の形状を連想できない程。


魔剣士『────くたばれェッッッッッ!!!!!!!!』


殺すことだけを目的とした剣気が竜を追う。

竜は気づいておらず完全に不意打ち、そして反撃を許さない威力。
541 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:15:45.04 ID:cXY40eQY0

光竜「────ッ...!」


────────サクッ...

まるで果物を裂くような綺麗な音だった。

首から離れる直前、畜生は知性を取り戻す。


光竜「──あぁ...我が盟友よ、よくぞ我を開放してくれたな...」


魔剣士『当然だ、俺様は竜人...魔剣士だからなァ」


光竜「────」ズドンッ


女騎士「...終わったか」


魔剣士「あァ、助かったぜェ」


女騎士「調子は...戻ったか?」


魔剣士「駄目だァ、絶えず魔剣から魔力をもらってるだけな現状だ」


魔剣士「数分もしたら立っているのが限界だろうなァ」


女騎士「それでも、さっきよりはマシだな」


魔剣士「...とりあえず、あいつを助けてやらねェとな」


女騎士「そうだな...いま助けるからな、女勇者」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


────■■■...

聞き取れない言葉、まるで復讐の言語。

思わず、聞き返してしまう程。


魔闘士「どうした...?」


隊長「...お前、なにをしているかわかっているのか?」


魔闘士(...気のせいか?)


研究者「わかっているさ、研究をしているんだ」


悪びれもしない、彼の中ではこの行為は正義なのだろう。

それが隊長をおかしくさせる、させてしまうのであった。
542 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:16:57.01 ID:cXY40eQY0

隊長「...やはり、あの時殺しておけばよかったな」


魔闘士「...らしくないぞ」


研究者「お国の特殊部隊が物騒なことを言うね...まぁ特殊部隊自体が物騒なんだけど」


隊長「テロリストにも劣るクズが...お前のような人間に生きる価値はない」


研究者「...そうかな?」


魔闘士「おい...落ち着け...相手に飲まれるな」


魔闘士ともあろう男が、人間である隊長をなだめる。

その異様な雰囲気に魔の武人もそうせざるえなかった。


隊長「お前はどれだけ他者の未来を奪う気なんだ?」


隊長「殺された子どもたち、女性...どれも男のお前に襲われたらどうすることもできない者たちだ」


隊長「お前はMadscientistを謳っているが、実際は臆病で卑怯者のNardにすぎない」


研究者「...言ってくれるね、Jockさん」


研究者「それに、他者の未来を奪うどころか...私は研究で技術の未来を進めているじゃないか」


研究者「進展に犠牲はつきものだろ...どの先進国もそうしてきたじゃないか」


隊長「ふざけるな...そんな屁理屈で...奪われる命などあるわけないだろッ!!」


研究者「...だいたい、君だって人を殺しているじゃないか」


隊長「黙れ...ッ!」


隊長「お前だけは絶対に...絶対にッ!!!」
543 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:17:23.34 ID:cXY40eQY0










「地獄に叩き込んでやる...ッ!」









544 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:18:19.70 ID:cXY40eQY0

魔闘士「ッ...!」


────ピリピリッ...

まるで空気に馴染むような、生々しい殺意が場を包み込む。


研究者「...どうやら、相当恨まれているみたいだね私は」


研究者「でも、その殺意も怖くないね...動くと撃つよ?」スッ


再び、大きなリボルバーを構える。

ひょろひょろな腕だが、魔闘士の力を得た彼なら問題なく撃てるだろう。


隊長「お前だけは絶対にッ!」


魔闘士「──ッ、落ち着け!」


研究者「...それに、まだこちらには手はあるんだよ?」


魔闘士「黙れッ! これ以上刺激をするな!」


今にも魔闘士の制止を振り切って暴れだしそうな局面。

だが、研究者には切り札が存在していた。


研究者「────魔法使いの女の子」


隊長「──ッ」ピクッ


研究者「...お仲間だよね?」


隊長「...」


研究者「この施設、電力供給が少し不安定でね」


研究者「今は奴隷みたいな魔物に雷魔法を経て、維持しているんだけど...」


魔闘士「────よせ」


研究者「彼女は素晴らしい...いい電力になりそうだよ」


研究者「...君が暴れるなら、彼女はどうなるかなぁ?」


魔闘士「────やめろッッ!!」


禁断の一言、女騎士と魔剣士の生存は絶望的。

残る仲間は魔女1人、それが人質にとられている。

先にその言葉に怒りをぶつけたのは、魔闘士であった。


魔闘士「今は堪えろッ! あの女がどうなるかわからん────」


怒りを保ちつつ、隊長を落ち着かせようと試みる。

先ほどまでは只ならぬ雰囲気を感じ取り、しっかりと顔を合わせていなかった。

隊長の様子を確かめるべく後ろを振り返る、そこに居たのは。
545 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:18:46.49 ID:cXY40eQY0










「────やはりお前はここで死ぬべきだ■■■■■■」









546 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:20:30.46 ID:cXY40eQY0

──■■■■■■■■■■■■...

謎の擬音が部屋を響かせた、そして、次第に隊長を包み込む。

それだけではない、その闇はあまりにも膨大であった。


魔闘士「な...ッ!?」


研究者「──これは?」


隊長「■■■■■■■■」


魔闘士「────どうして闇をまとっているッ!?」


研究者「...へぇ、これが闇魔法か」


研究者「気になるなぁ...ぜひ、実験台になってもらいたいね」


魔闘士(この状況で...頭がおかしいのか!?)


魔闘士「──チィッ!」ダッ


無理やり、身体を動かして距離を取る。

闇魔法と対峙したことがある者にとっての定石である。


研究者「さて...君のそれは私の作った光に抗えるかな────」


──■■■■■■■■■■■■...

気づけば、身体のほとんどが闇に飲み込まれていた。

そこには感覚はなく、わかることはただ一つ。


研究者「が...え...?」


隊長「...■■■」


──ガチャンッ...

握られていたグリップを離すことで、大型リボルバーが床に落ちて滑る。

その様子を眺めるのは、闇の恐ろしさを熟知した魔闘士。


研究者「身体が...左半身が...?」


魔闘士「...愚かな、おおよそ女勇者の光を利用した策でもあったようだが」


魔闘士「この闇、すでに女勇者のモノを遥かに超えているぞ...」


研究者「あっ────」


■■■■■■■...

再び闇が研究者を包み込む。

今度は全身を、右半身と顔だけのこった彼を跡形もなく屠る。

もうこの世界に、研究者という存在は居なくなった。
547 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:23:28.47 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...この俺の力を得たとしても、所詮人間か」


魔闘士「だが...いい土産ものをくれたな」ヒョイ


魔闘士「これもまた...未知の武器か」


床に転がった、大型リボルバー。

これもまた隊長の世界の武器であり、唯一の抵抗手段。


魔闘士「さて...一度、大幅に距離をとったほうがよさそうだな」


隊長「■■■■■■■■」


どうみても暴走を起こしている。

このままこの部屋にいれば、巻き込まれる可能性は大いにある。

夢中で研究者を葬っている今がチャンス、きた道を歩いて戻ろうとする。


魔闘士「...どうやって、正気に戻させるか」スッ


隊長「──■■■■■■」クルッ


魔闘士(────走れ、俺の身体よッ!)ダッ


──■■■■■■■...

後ろから闇が追いかけてきている。


魔闘士「はぁッ...はぁッ...」ダダダッ


魔闘士(どうやら、無差別な破壊衝動に駆られているようだな...)


魔闘士「はぁッ...闇に追われるなど...魔王子振りだな」ダダダッ


微生物、研究者の仕業により身体は人間程度の力しかでていない現状。

走ってもすぐ息を乱してしまう、だが早くも最初に捕まっていた牢屋を通過する。

土地勘もクソもない、ただひたすら走って逃げるしかない。


魔闘士「クッ...どこか一度身を潜めるか」


魔闘士「──ッ、丁度分かれ道...右が左どちらだ...?」


──......■■

微かに、遠くから闇の気配を感じる。

それが魔闘士の判断を焦らせる、決断している暇などない。


魔闘士(──迷っている暇はない)ダッ


──ガチャッ! バタンッ!

答えは左、するとすぐに扉が見えた。

その扉には偶然にも、一部に硝子が取り付けられていた。

これで向こう側を確認することができる。
548 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:25:08.37 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...」チラッ


魔闘士(来ているな...分かれ道に差し掛かっているな)


魔闘士(頼む...こちらにくるな...)


魔闘士「...」


魔闘士「......」


魔闘士「.........」


魔闘士「............」


魔闘士「...撒いたか」ガクッ


闇は分岐すら選ばず、もとの道を戻っていった。

思わず、安著をして腰を落としてしまう。

だが、すぐに復帰をしなければならなかった。


魔闘士「...さて、なにか策を練らねば」


魔闘士「それよりも...距離を稼がなければ...」スッ


音を立てないように、ゆっくり足を進める。

ひとまず、冷静を取り戻した彼に様々な考察が浮かび上がる。


魔闘士(なぜ、闇を...闇魔法を使えるのか)


魔闘士(奴の魔法は光じゃなかったのか...?)


魔闘士(光と闇を扱う者...聞いたことがない)


魔闘士(...やはり、異世界人...いや、神に祝福されているものは違うな)


魔闘士(この状況...非常にまずいな)


魔闘士(...)


魔闘士(...魔剣士よ、本当にくたばってしまったのか?)


ここ数十分で様々な衝撃的出来事が多発して、すぐには受け入れられなかった。

そしてようやく、腐れ縁だが数百年もつるんでいた彼のことを思い返す。

特に言葉が浮かび上がらない、それに反比例するように足が進む。
549 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:26:09.26 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...」


魔闘士(...もう、どうでもよくなってきた)


???「...あれ?」


魔闘士(魔剣士...そして奴...俺になんの関わりがあるんだ)


???「ちょっと! 魔闘士っ!」


魔闘士(......らしくなかったな、仲間など)


魔闘士(結局は、己を極めるのが一番だ)


???「まちなさいよっ! 聞いてるのっ!?」


魔闘士(...立ち去るか)


???「ちょ..."逃げる"なってばっ!」


魔闘士「────ッ」ピタッ


この瞬間、集中していた影響で耳に入らなかった言葉がようやく伝わる。

しかし、それと同時に彼の過去がフラッシュバックする。


(「────逃げるのか、この魔王子に挑戦しておきながら」)


魔闘士「...」


(「...最後まで立ち向かったことを、誇りに思え」)


魔闘士「......」


(「よォ、お前も負けたクチかァ?」)


魔闘士「.........」


(「へェ...この俺様と互角かァ...やるじゃねェか...」)


魔闘士「............」


(「魔王子がやられたァッ!?」)


魔闘士「...............」


(「探して数年経つがァ...なんも見つからなくてつまらねェな」)


魔闘士「..................」


(「おい、なんでも復讐者が人間界でやられたみてェだぞ」)


魔闘士「.....................」
550 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:28:32.05 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...いい拳だった、人間にしてはな」


魔闘士「...絶望のあまり、忘れていたようだな」


フラッシュバックが終わる。

それには様々な思い出が、彼を強くしていた。

敗北、そして数々の交流が肉体ではなく、精神を成長させていた。


???「やっとしゃべったわね...」


魔闘士「──ッ、誰だ!?」


ようやく会話が成立する。

声のする方向へ視線を送ると、馴染みのある顔が牢屋の中に現れる。


魔女「誰って...魔女よ、魔女」


魔闘士「...そうか」


魔女「そうかって...あのねぇ」


魔闘士「...無事か?」


魔女「...そうね、魔法が使えないのと倦怠感があるの以外は無事ね」


魔闘士「...鍵がかかっているのか」


魔女「うん...」


魔闘士「...下がっていろ」スチャッ


先ほど拾った、大型リボルバーを握りしめる。

そして、隊長の見よう見まねで構える。


魔女「...え?」


──ドンッッ!! ガチャァァンッ!!

あまりにも鈍い射撃音とともに、金属が砕ける音が響いた。


魔闘士「──ッ!?」


魔女「──きゃっ!?」


魔闘士「...なんて反動だ」


魔女「び、びっくりした...ってそれどうしたの...?」


魔闘士「...後々教える、それよりも現状を簡潔に説明してやる」


魔女「え...う、うん...」
551 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:29:24.27 ID:cXY40eQY0

魔女(なんか...雰囲気が丸くなった?)


そして、魔闘士は語る。

長くなりそうな研究者の戯れ言を大幅に添削して。

途中で止めて質問したくなる説明を、魔女は終わるまで聞き入れる。


魔闘士「...以上だ」


魔女「そう...そんなことがあったのね」


魔女「魔剣士...女騎士...そしてきゃぷてん...」


魔闘士「...」


魔女「...これからどうする気なの?」


魔闘士「...俺は」


魔闘士「...」


魔闘士「...もう一度、奴との接触を試みるつもりだ」


魔女「...私もついていくわ」


魔闘士「あぁ...」


魔女「あ、まって!」


魔闘士「...なんだ?」


魔女「あんたのその武器、必要なものがあるでしょ?」


魔闘士「...そうだったな」


魔闘士「だが、それを作るのに魔法を要するのではなかったのか?」


魔女「そうなんだけど...これがあるわ」スッ


魔女「大賢者様からの餞別の魔法薬、これを飲んですぐに魔法を唱えるしかないわ」


魔闘士「...なるほどな」


魔女「正直、飲んでもすぐに魔力が消えちゃうかもしれない...けどこれしか方法はないわね」


魔女「あんたも身体の中の光魔法に抑えられ...頼れるのはその武器だけ」


魔女「なら...やるしかないわね」


魔闘士「...頼んだぞ」


〜〜〜〜
552 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:31:39.85 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


隊長「...」


──■■■■■...

何もない空間、その辺りには闇が渦巻いていた。

そして、中心には人物が1人。

異世界の人間、この世界で健闘を続けてきた彼が目を覚ます。


隊長「...ここは」


隊長「どこだ...俺は一体なにをしているんだ...?」


隊長「...あぁ、思い出した..."また"...やってしまったか」


隊長「どうして...こんなことに...」


隊長「...俺も、所詮人殺しか...目の敵にしている犯罪者共と変わらないということか...」


心の闇が、比例するかのように辺りの闇を強くする。

自分が自分でないような感覚に囚われていた。


隊長「...誰か」


隊長「誰か...俺を...」


隊長「────殺してくれ」


自分自身に追い詰められた結果、そうつぶやいてしまった。

本当に彼が言ったようには感じられないほどに、異質感のある発言だった。


???「...まだお前は殺せない」


隊長「...お前は?」


???「俺はお前だ」


まるで双子のような精巧な造りをした人物がそこに居た。

全体的に黒いが、それを除けばそっくりであった。


???「苦しいのなら、楽にしてやる...少し待ってろ」


隊長「...そうか、なら頼んだぞ」


???「あぁ、まかせろ」


そういうと、謎の人物は目の前から消え去ってしまった。

そして、耳に鋭く刺さる声が届く。


??1「────きゃぷてんっ!」


〜〜〜〜
553 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:33:35.92 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


魔女「────きゃぷてんっ!」


隊長「■■■■■...」


魔闘士「...やはりな」


魔女「...なにか、わかったの?」


魔闘士「..."ドッペルゲンガー"だ」


魔女「...え?」


魔闘士「奴は、ドッペルゲンガーという魔物に憑かれている」


魔女「それって、出会うと死ぬってやつ...?」


魔闘士「少し訂正箇所があるがそんなとこだ」


魔闘士「どこで憑かれたかはわからんが...このままだと奴は死ぬぞ」


魔女「どうすればいいのっ!?」


魔闘士「...一度気絶させるしかないな、それよりも攻撃に備えろ」


魔女「──っ!」


魔闘士「くるぞッ!」


────■■■■■...

じわりじわりと闇が迫ってきている。


魔闘士「──ッ!」スチャッ


──ドンッッ!! ドンッッ!!

リボルバーのダブルアクション。

隊長のハンドガンと勝手は違うが、その性質に早くも勘付いていた。


魔闘士「...効果はなしか」


魔女「生産に成功したからって無駄撃ちは控えてよねっ!」


魔闘士「あぁ...努力はしよう」


隊長「■■■■■■」


魔闘士「さて...どうしたものか」


魔女「魔王子の時みたいなことはどう?」


魔女「さっき飲んだ魔法薬...徐々に抑えられてきてるけど今なら1回分の魔法を使えるわよ」
554 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:35:54.04 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...やれるのか?」


魔女「やるしかないじゃない...そうでしょ?」ニコッ


この状況で、魔女は笑顔を作った。

先ほどこの闇に絶望していた魔闘士とは比べ物にならない精神力。


魔闘士「女という者は...ここぞという時に強いな」


魔女「じゃあ...頼むわよ」


魔闘士「あぁ...陽動はまかせろ」スチャッ


──ドンッ!!! ドンッ!!! ドンッ!

歩行と同時に、リボルバーを構え射撃する。

すると起こるのは弾切れ、不慣れな動きでシリンダーに弾をこめる。


魔闘士「...こっちだッ! しっかりついてこいッ!」


闇は魔闘士を追いかけてきている。

その速度は遅く、小走りならギリギリ距離を保てるものだった。


魔闘士「...ッ!」チラッ


隊長「■■■■...」


魔闘士(どうやら、今のところ奴自体は動かないみたいだな...)


魔闘士「────いまだッ!」


魔女「うんっ! "属性付与"、"雷"っ!!!」


魔女(──う゛っ...身体が一気に重く...使いきっちゃったか...)


魔女(まだあの小瓶はあるけど...あれはまだ大事に取っておかなくちゃ)


──バチッ...

小さな雷音と共に、隊長付近の闇に稲妻が走る。

作戦は成功、魔王子の時のように隊長の闇の質は著しく下がるはず。


魔闘士(──よし、とりあえずは成功だな...)


魔女「ごめん...今ので魔力を使い果たしちゃったわよ...」


魔闘士「想定内だ」スチャッ


──ドンッ!! ドンッ!

大きすぎるその射撃音、先程は闇に飲まれるだけであった。

だが今違う、その銃弾は彼に大きな傷を与えた。
555 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:37:27.64 ID:cXY40eQY0

隊長「──ッッ! ■■■■■ッッ!」


魔闘士(...通った、光魔法がなくともうまく行ってくれたか)


闇の質が低くなる、銃弾という物質を完全に破壊できないまでに。

隊長の腕に2発の銃痕が出来上がる、それに伴い今まで動かなかった隊長は怒りを露わにする。


隊長「■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」


魔闘士「...このまま続けて、痛みを蓄積させ気絶させるぞ」


魔女「わかったわ...ごめんね、後で治してあげるから...」


魔闘士「後は任せて、下がっていろ...」


魔女「えぇ...お願いねっ...」


魔女が戦線を離脱する。

ヨロヨロと、小走りで部屋の入口付近に向かった。


魔闘士「...さて、続けるか」スッ


隊長「■■■■■■■■ッッッ!!!」


魔闘士「待っていろ、目を覚まさせてやる」スチャ


──ドンッ!!! ドンッ! ドンッ!!

リボルバーの反動が凄まじく、腕に痺れが伴い始めていた。

だが彼は動かなければならない、この人間の男を止めるために。

再びなれない手付きでリロードを行った。


隊長「──■■■ッ!!!」


魔闘士「...3発とも的中、この武器にも慣れてきたところか」


魔闘士「ドッペルゲンガーというのも...大したこと──」


魔闘士(────まて、相手はドッペルゲンガーだぞッ!?)


戦闘に余裕ができたからこそ、思い出せた。

ドッペルゲンガーという魔物がどれだけ恐ろしいものかを。

悪い予感が的中する、それは後方で待機している彼女がいち早く気づけた。


魔女「──魔闘士っ! 後ろっ!!」
556 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:38:45.06 ID:cXY40eQY0

魔闘士「しまっ────」


隊長「──■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」ガシッ


──メキメキメキメキメキメキッッッッ!!

突如として背後に現れたのは彼であった。

魔法ではない、ただ死ぬほど素早く動いたように見えた。

これが魔物に取り憑かれた人間の力、血と闇と雷を纏わせた隊長の腕が魔闘士を掴む。


魔闘士「ぐおッッッッッ!?!?」


魔闘士(質を下げてもこの威力かッッ! いや即死しないだけでもマシか!)


魔闘士「は、離れろッ!!!!」グググッ


隊長「■■■■■■■■」グググッ


魔闘士「ち、くしょお...ッ!」


魔闘士(どうするッ!? このままじゃ殺されるぞッ!)


力がだめなら考えるしかない、抵抗を諦め集中する。

すると思い出すことができた、ドッペルゲンガーの生態についてを。

これが逆転の一撃。


魔闘士(──そうだ...)スチャ


魔女「...え?」


魔闘士「動くな、魔女」


──ドンッ!!

鈍い射撃音が、彼女に向かった。

その狙いは魔女の眉間、人は愚か魔物ですら一撃で葬ることができる威力。

このままでは彼女は魔闘士に殺される。


〜〜〜〜
557 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:40:37.11 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


隊長「もう...やめてくれ...」


ここは隊長の精神世界。

本来であるなら訪れることはあり得ない、未知の領域。

だが、彼はここに閉じ込められていた。


隊長「俺はもう...仲間を失いたくない...」


過去の記憶が蘇る。

数々の戦闘によって失った部隊の仲間、そして帽子。

そのことに狼狽える隊長...絶望の一言だった。


???「...それでいい、絶望が俺を強くする」


隊長「あぁぁ...」


その表情は廃人寸前。

とても、人様に見せられないものだった。


???「ほら、お前の仲間の腕を掴んだぞ」


──メキメキメキメキメキメキッッッッ!!

その何かが砕けてしまうような音と共に、魔闘士の叫びが響く。

それはまるで、自分がやったかのような感覚に襲われる。


???「お前がやったんだぞ」


隊長「違う...俺じゃない...お前がやったんだ...」


???「言っただろ、俺はお前だと」


隊長「やめろォ...」


???「もう、こいつはおしまいだな」


???「このまま握りつぶして...おや?」


???「...どうやら、抵抗もあきらめたようだな」


そう、確信する。

だが隊長は弱りながらも、最も大切な人を見ていた。

これからなにが起こるかを察する。


隊長「────魔女」


絶望の淵にいながらも彼女を守るために光を強くする。

それが男という生き物、尽きることのないその原動力。

胸に秘めた彼女への思いが、彼を目覚めさせる。


〜〜〜〜
558 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:41:38.24 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


魔女「ひっ────」ビクッ


──ドンッ...!

射撃をした時を最後に瞳を閉じる、だが一向に痛みは生じない。

おかしい、確かにあの射撃音は聞こえたはずだというのに。


魔女「...?」


不思議に思い、ゆっくりと目をあけてみる。

すると、そこにはいつもの背中が立っていた。


魔女「──きゃぷてん...?」


隊長「■■■■■...」


魔女「かばってくれたの...?」


隊長「...」


魔女「どうして...?」


魔闘士「...やはりな」


左腕が絶対に曲がらない方向に曲がっている。

そんな痛みを無視して隊長たちに語りかける。


魔闘士「ほら...お前の愛する者が狙われているぞ...助けてやらんか」スチャッ


──ドンッ!!

その軌道の先には魔女がいた。

しかし着弾位置はおおよそギリギリ当たるか当たらないかの瀬戸際であった。


隊長「──■■■■ッッ!!!」


──グチャッ!!

リボルバーの着弾と共に、隊長の左肩の肉がミンチになる。

再び隊長は魔女をかばった、なぜなのか。


魔女「...なんで?」


魔闘士「──魔女ッ! 逃げろッッ!!」スチャ


──ドンッ! ドンッ!!!

発砲しながら、矛盾めいたことを言う。

隊長は再び庇う、それに続き魔闘士は語る。
559 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:42:40.84 ID:cXY40eQY0

魔闘士「ドッペルゲンガーの性質ッ! それは精神を犯すことッ!」


魔闘士「取り憑いた宿主の精神を覗き、じわりじわりと性格を歪ませ自己嫌悪感を産ませるッ!」


魔闘士「そうして得た負の感情を力にして、宿主の身体を奪うッ!」


魔闘士「そして奪った身体で宿主の大事な物を壊し深い絶望を与えるッ!」


魔闘士「最後に宿主が殺してくれと懇願するをの待つッ! それがドッペルゲンガーだッ!」


出会ったら死ぬと伝えられているドッペルゲンガー、その本質は上記のもの。

なにを伝えたかったのか、魔女にはわかった。


魔女「────っ!」ダッ


空っぽになった魔力、そして体力を振り絞り走り出す。

その速度は人ではギリギリ追いつけない、それでいて弾速ならば簡単に追いつく速さだ。


魔闘士「時間を稼げッ! ドッペルゲンガーに殺されるなッ!」


魔闘士「────そして俺に殺されるフリをしろッッ!」スチャ


隊長「■■■■■■ッッ!」


──ドンッ...! グチャッッ...!

隊長が魔女を庇い、右足に被弾する。

もう動けるはずがない、だが彼は動き続ける。

魔物としての性なのか、それとも彼自身の性なのか。


魔女「こっちよっ! きゃぷてんっ!」


隊長「■■■■...」ヨロヨロ


魔闘士「...読み通りだ」


なぜドッペルゲンガーが魔女を庇うか、ドッペルゲンガーは感情を餌とする生き物であった。

中でも大切な物を自ら壊し絶望する時に起こる感情は甘美と言われている。

魔女という隊長が最も大切にしている者を、他人に破壊されてはその味を味わうことはできない。

守らざる得なかった、しかしそれだけではなかった。


隊長「...■□■■■■」


〜〜〜〜
560 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:43:34.71 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


???「グゥゥ...やめろォ...」


隊長「やめるのは...□□□...お前だ...」


隊長の精神世界、ここでも争いは起きていた。

絶望する中、弾丸が魔女を襲うヴィジョンが見えていた。

それだけが彼の原動力になる、それだけが彼の光を強くする。


???「俺を邪魔すると...魔女は撃たれるぞ...」


隊長「魔闘士は...そんな...□□...ヘマをしない...ッ!」


???「どうして魔物のあいつを信頼できる...」


???「あの武器だって...さっき拾ったばっかりの物だぞ...」


普通に考えれば、ずぶの素人が細かいエイミングができるわけない。

ましては魔闘士は本調子ではない、客観的にみてもドッペルゲンガーが庇わなければ魔女は撃たれる。

これは揺さぶりであった、だけども隊長には通用しなかった。


隊長「────やるしかないんだッッ!!」


瞳に光が満ち溢れる。

一見、魔女を弾丸から庇うことを妨害している風にも見える。

だが、それが最善の一手であった。


???「クソッ、遊ぶんじゃなかった...ッ!」


???「はじめから魔女を狙っていれば...今からでもッ!」


そう、ここで妨害をしなければ魔女はこのドッペルゲンガーに殺されてしまう。

他の誰でもない、自分自身の身体を使って殺されてしまうだろう。


隊長「────□□□ッ!」


〜〜〜〜
561 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:44:40.54 ID:cXY40eQY0

〜〜〜〜


魔闘士「────これはッ!?」


魔女「──光っ!?」


現実世界、隊長とドッペルゲンガーの問答の末。

それは軽く小走りをしている魔女にもわかった。

振り返る、そこには闇に覆われた彼はいなかった。


隊長「■■■■■□□■□...ッ!」


光と闇が隊長にまとわりついている。

これが意味するもの、真っ先に気づき笑みを浮かべるのは魔闘士だった。


魔闘士「──目は覚めたかッッ!?」


隊長「■□■...撃■■□て...■□...ッ!」


光と闇の言語に挟まる、人間としての言葉。

光が闇の一部部分を払い除け、左肩を露出させる。


魔闘士「戻ってこい..."キャプテン"ッ!」スチャ


────ドンッ! 

最後の一撃、光を貫通する攻撃。

生身の人間が食らったのならば、意識を保つことは不可能。
562 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:45:06.95 ID:cXY40eQY0










「────■■■■■■■■■■ッッッ!!!」









563 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:46:06.41 ID:cXY40eQY0

この世の者とは思えない叫び声が木霊し、闇は消え失せた。

それに伴い、彼がまとっていた光も消失する。

意識を失った彼は、そのまま倒れ込むしかなかった。


隊長「────」


魔女「──きゃぷてんっ!!」


急いで魔女が駆け寄る。

それに伴い、魔闘士も折れた腕を抑えながら近くによる。


魔女「...まだ息はあるみたい」


魔闘士「あぁ...だが、出血がひどい...」


魔闘士「なんとか気絶させたはいいが...このままでは死んでしまう...」


魔女「...どうしよう、魔法も使えないし」


魔闘士「...泣くな、こいつはこんなような所で死ぬような奴ではない」


魔闘士「信じろ...キャプテンという男を」


魔女「うん...そうね...でもせめて、血は止めてあげないと...」シュル


魔女は着ていた服の一部を裂き、包帯代わりに施術する。

少し肌寒いが、隊長のためとなると思えば寒さなど微塵も感じなかった。


魔闘士「...急いでここを脱出するぞ」


魔女「...女騎士たちは?」


魔闘士「...」


その質問に頭を抱えるしかなかった。

どう考えても、あの状況で生きている可能性は限りなく低い。

仮に生きていたとしても、捜索に時間をかけていると隊長が死ぬ。


魔女「...ごめんなさい、行きましょう」


魔闘士が答えを出す前に決心したのは魔女のほうであった。

女騎士を見捨てたわけではない、彼女は極めて理にかなった決断を下しただけであった。


魔闘士「...すまん」


魔女「あんたのせいじゃないわよ...さぁ、いきましょ?」


魔女は帽子を深くかぶり、目元を隠す。

それが精一杯の強がり、虚勢であった。
564 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:46:54.06 ID:cXY40eQY0

魔闘士「...行くぞ────」


魔闘士たちが動こうとする、すると突然視界が奪われる。

すると同時に、館内に嫌な警告が流れ出した。


魔女「──きゃっ!? なにっ!?」


魔闘士「灯りがッ!?」


???「警告、電力供給が不足したため、一時的な停電を起こしました」


???「それに伴い、実験室の折が解錠されました」


???「係の者は即座に実験室を鎮静させよ」


???「繰り返す────」


聞いたことのない電子の音と、警報が鳴り響く。

それと伴い、遥か遠くから悲鳴のようなものが聞こえてくる。


魔闘士「...とことん運がないな」


魔女「ど、どうしよう...この暗さじゃ何もみえないわよっ!」


魔闘士「いや...確かキャプテンが灯りになるような棒をもっていなかったかッ!?」


魔女「そ、そういえば...」ゴソゴソ


魔女「...あったわっ!」カチッ


スイッチを押すと、前方が明るくなった。

十分ではないが、視界を確保することができた。


魔闘士「これで進むしかない...キャプテンは俺が運ぶ」


魔女「それなら私が周囲を警戒するわ...行くわよっ!」


魔闘士「あぁ...なるべく敵に遭遇しないことを祈るしかない...」


──ガキンッ! ガキンッ...!

いたるところから、鉄格子を破る音が木霊する。

この忙しい時に、厄介な奴らが現れてしまった。


リザード1「アアアアアアアアアアアア...」


魔闘士「...こんな時に、リザードもどきかッ!」


魔女「────見てっ! あそこに扉が!」
565 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:48:55.98 ID:cXY40eQY0

魔闘士「────走れッ!」スチャッ


──ドンッ!! ドンッ!

重厚な発砲音とともに、敵を一撃で葬る。

なんとか扉に到着する、だがそれはみたことのない材質でできた扉であった。

開け方がわからない、ドアノブは愚かつかむ場所すらない。


魔女「──この扉どうやって開けるのよっっ!」


魔闘士「魔女ッ! なんとかしてくれッッ!」


──ドン! ドンッッ!

走行しているうちに退路は塞がれ、完全に囲まれてしまった。

もう戻ることはできない、この扉をどうにかして開かなければ待っているのは死である。


魔女「────このっっ!」スッ


苛々が募り、手持ちにあるものを確認する。

唯一没収されていなかった、例の小瓶。

大事に大事に取っていたものを投げてしまうほどに苛ついていた。


魔女「──開きなさいってばぁっ!!」ブンッ


──パリィンッ...! バチバチバチバチッ...!

しかし調節を誤ったか、その雷は申し訳程度のものだった。

扉の破壊は愚か傷1つついていない光景、自分の調整ミスとその現状に半ば絶望しかける。


???「...システムに異常、ドアが開きます、ドアが閉まります」


まるで扉が喋ったかのように聞こえた。

言葉が矛盾している。隊長の世界でいうバグというものだった。


魔闘士「────ッ!」グイッ


魔女「───きゃっ!?」ドサッ


扉が開いたのは理解できた、それを見逃さずに魔闘士が隊長と魔女を突き飛ばしたのも理解できた。

ここは扉の先、いるはずの人物が1人見たらない、肝心の彼がいない。

つまりどういうことか、魔女にはわかってしまった。


魔女「────魔闘士っ!?」ガバッ


魔女「なんでっ!? せっかく仲良くなれたのに!?」


閉まった扉に飛びつき声を荒らげる。

扉に向かって罵声にも近い、そんな声かけを行う。

そして返答はすぐに帰ってきた、扉に耳をつけないと聞こえないぐらいの声だった。
566 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:49:26.81 ID:cXY40eQY0










「...だからこそだ」









567 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:50:06.34 ID:cXY40eQY0

魔女「──っ」


思わず涙が溢れる。

彼らしくない言葉を聞き、魔女は覚悟を決める。

重たい隊長の身体を支え、前にするもうとする。


魔女「────っ」


無言で足をすすめる、力奪われた魔女には進むことしかできない。

悔しさでたまらない、思わず唇を噛んでしまい、血が流れるほどに。

孤高の魔闘士、その最後は仲間を助けるための足止めで終わる。

聞こえるのはリザードもどきの声と鈍いの発砲音。

彼は最後まで闘い続ける、そのはずであった。
568 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:51:04.41 ID:cXY40eQY0










『なァに辛気臭ェ顔してんだ、嬢ちゃん』









569 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:51:52.81 ID:cXY40eQY0

魔女「────魔闘士がっ!」


魔剣士『わかってる、なんたって俺様はァ...あいつの相棒だからよォッ!』


その言葉とともに、彼は扉に疾走してゆく。

魔女は振り返らずに進む、後ろから聞こえるのは扉が破壊された音と。


魔闘士「お前という奴はこうでなくてはなッッ! 魔剣士ッ!」


魔剣士『ぱーてぃとやらの始まりだぜェ! そうだろ、魔闘士ッ!』


初めて聞いた、彼らの心底嬉しそうな大声であった。

そして続くのは、再会することができた彼女の声。


女騎士「──魔女っ! 急げこっちだっ!」


魔女「────女騎士も無事だったのねっ!」


魔女の顔面はもうボロボロ。

涙で顔をめちゃくちゃにしている。

出会えたのは女騎士、そして誰かを背負っている様だった。


女騎士「あぁ! 今は彼らに任せて脱出するぞ!」


魔女「うんっ!」


魔女は隊長を支えながら、女騎士は女勇者を背負いながら。

着々と戦場から距離を離していく、その中で彼女はある成果を教えてくれた。


女騎士「先ほど、魔剣士とともに列車とやらを発見したぞ」


魔女「本当っ!? きゃぷてんが重症なの...急いでここを離れて落ち着いた場所で処置をしないとっ!」


女騎士「あぁ...本当なら彼らを待ちたいが...列車についたら迷わず出発する...いいな?」


魔女「...ふふ、あいつらならきっと足止めどころか全部ぶっ飛ばしてくれるわね」


女騎士「当然だ、私の仲間なんだ、そう簡単にやられてはこまる」


魔女「...あれが列車っ!?」


軽く雑談しているうちに、列車が姿を表す。

列車というよりかは汽車に近い形であり、車両もたった2両しかない。


女騎士「そうだ、急ぐ────」


二人が急いで駆け込み乗車をしようとする。

しかし、それを阻むような出来事がきてしまう。

重低音とともにそれは現れた。
570 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:56:01.64 ID:cXY40eQY0

魔女「────嘘でしょ」


女騎士「...なんだってこんな時にッ!」


言われなくてもわかる。

巨大な剣に黒い鎧を着た大柄の男。

その見た目こそ醜い手術痕だらけだが、黒騎士と形容できる見た目であった。


黒騎士「...」


女騎士「奴もここで実験をうけてた口か...」


魔女「そうみたいね...でもどうするの!?」


女騎士「...私も魔女も負傷者を負ぶさっている、まともに動けんぞ」


女騎士「万事休すか────」


────■■■...

その時、闇の言語が聞こえる、黒騎士からではない。

聞こえた方角を振り向く、そこにいたのは最も頼りになる男。

彼だけは捕まっていなかった、ようやく彼女らを見つけることができた。


女騎士「────魔王子ッ!」


魔女「無事だったのねっ!?」


魔王子「俺を誰だと思っている...」


魔王子「...黒騎士よ、醜くなったものだな」


黒騎士「...」


魔王子「喋れないのか...お前ほどの男の最後がこれだとは...嘆かわしいものだ」


魔王子「ならば一瞬で葬ろう...■■■■■」スッ


────ブン■■■■ッ...!

その言葉とともに、闇が黒騎士を切り裂く。

抜刀とともに現れた闇の剣風が真っ二つにする。


黒騎士「...暗黒の王子よ...我が無念、託しましたよ────」


魔王子「...当然だ」


女騎士「──魔女っ! 急げっ!」


こうして、3人と意識のない2人は列車の乗り込む。

幸いにも動かし方の説明書が備え付けであったためにすぐに出発できた。

研究所に残ったのは不気味な実験物の死骸と2人の男の楽しそうな雄叫びであった。


〜〜〜〜
571 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/09(日) 20:57:44.16 ID:cXY40eQY0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。

@fqorsbym
572 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:14:12.37 ID:tMsrpe0u0

〜〜〜〜


魔女「...」


女騎士「...魔女、大丈夫か?」


魔女「...うん、大丈夫...だけど」


そういいながら、横たわっている2人に視線を送る。

魔女は列車に備え付けてあった魔法薬を飲み、隊長と女勇者に治癒魔法を行っていた。

そして再び魔力がつき、今の状態に至る。


女騎士「...魔力が微量しかない私にだってわかる、なんども魔力を使い果たしては辛いにきまっている」


魔女「...でもふたりとも目を覚まさないから」


女騎士「...だが、傷は完全に塞がっただろう」


魔女「でも...でも...」


魔女が自分を責めている。

もっと魔力があれば2人はもう目をさましているかもしれない。

そんな葛藤に覆われている中、ついに男が口を開く。


魔王子「...息はある、死んではいない」


魔王子「あとは祈るしかないぞ...」


女騎士「魔王子の言うとおりだ、いまは休んでくれ...とても見ていられない」


魔女「...わかったわ」


女騎士「...列車にあった茶を入れたぞ、これで少し落ち着くといい」


魔女「ありがとう...」


女騎士「ほら魔王子、お前の分だ」


魔王子「...礼を言う」


女騎士「...お前はなんともないのか?」


淡い期待を抱いて、そう質問する。

だが、そんなことは彼の表情である程度は察していた。


魔王子「...俺も蝕まれている」


女騎士「そうか...いや、それでも黒騎士を一撃で倒せるほどの力か」


魔王子「この俺をここまで抑えるとはな...この小娘」


ある程度、身体の異変については魔女に聴いたようだった。

皮肉のようなことを言いながら、女勇者に視線を送る。

そして、ユニコーンの魔剣を抱えながら小じんまりを座り込んだ。
573 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:16:44.08 ID:tMsrpe0u0

女騎士「あぁ...なんたって我らが勇者様だからな...」


魔女「......」


女騎士「...今のうちに状況を確認しよう」


女騎士「正直にいって、私と魔女は戦力にならない...」


女騎士「きゃぷてんも女勇者も目覚めない...」


魔王子「...まともに戦える俺も、力をある程度抑えられている」


女騎士「あぁ...ここからどこまで抗えるか、不安でしかたない」


魔女「...もう、どうすればいいのかしら」


魔王子「......」


女騎士「...辛気臭い話はここまでにしよう」


女騎士「魔女、この武器の使い方を知っているか?」


魔女「えぇ...ある程度は...使ったことないけど」


女騎士「そうか...でも、これがあるだけでだいぶ違うぞ」


魔女「...そうね」


研究所に槍を置いてきてしまったため完全に丸腰。

幸いにも隊長の武器はすべて所持しており、マガジンは没収されずに隊長が初めから所持している。

話し合いの結果、魔女がハンドガン、女騎士がショットガン、アサルトライフルは隊長の側に置いておくことになった。


魔女「これなら...きゃぷてんが目覚めたときにすぐに戦える...わよね?」


そういいながら、アサルトライフルを隊長の横に置いた。

無くさないように銃器についていたベルトを隊長に引っ掛ける。

その様子をみながら、女騎士はショットガンに目を輝かせる。


女騎士「前方を全面的に攻撃するものか...すこし使うのが楽しみだ」


魔女「...女騎士は強いわね」


女騎士「あぁ...楽観的な部分は私の自慢でもあるぞ」


魔女「...ふふっ」


女騎士「ははっ」


魔王子「...」
574 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:18:31.42 ID:tMsrpe0u0

女騎士「さて...すこし仮眠を取らせてもらおう」


魔女「そのほうがいいわ、なにかあったら起こしてあげるわよ」


女騎士「あぁ、頼む」


魔王子「...俺が見張っている、貴様も休め」


魔女「え...で、でも...」


魔王子「......」


魔女「...ありがとう」


女騎士「...頼むぞ、魔王子」


魔王子「...あぁ」


その返答を終えると、2人は寝具も必要とせずに眠りに落ちる。

男がいるというのに寝顔も気にせずに寝入る姿から、限界が近いようだった。

しかし彼の視線は、目を開かない女勇者に向けられていた。


魔王子「...これほどに小さな身体で、この光か」


魔王子「侮れん...人間という者は」


魔王子「...さて、呼ばれたようだ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔王子「...」


魔王子の衣服が靡く。

移動した先は列車の屋根、常人では立つことすら不可能な風を受けている。

しかし、この風は列車の速度によるものではなかった。


???「...流石は魔王様の息子、暗黒の王子なだけはあるな」


魔王子「...それで気配を殺したつもりか?」


???「吾輩は完全に殺していたつもりではあったが...」


彼に問いかけるこの男。

腕には魔王軍の入れ墨、間違いなく追手である。


???「...まぁいい、一度相まみえたかったものである」


魔王子「貴様も親父の言いなりか」


???「当然である、吾輩は魔王軍四天王────」
575 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:19:12.54 ID:tMsrpe0u0










「"風帝"であるぞ」









576 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:20:26.17 ID:tMsrpe0u0

名乗りを上げる、それと同時に嫌な風が纏う。

敵は魔王軍最大戦力の1人、すぐさまに魔王子は抜刀をする。


魔王子「...死ね」


風帝「はて、弱りきった貴方になにができるであるか」


魔王子「戯言を...」


風帝「..."風魔法"」


まるでそよ風のような自然な詠唱。

気づいたときには魔法が発動している様に見えた。

それほどに素早く、隙きのない先制攻撃。


魔王子「────ッ!?」


──ギィィィィィィィンッッ!!!

光っていないユニコーンの魔剣が風を切り裂く。

その音はあまりにも鈍く、風の威力を物語っていた。


風帝「いつもの剣も...その魔剣も、本来の力を得ていないようであるな」


魔王子「..."属性付与"..."闇"■■■■■」


風帝「得意の闇魔法であるか...これは厳しいであるな」


魔王子「──■■■■ッッッ!」


一瞬で詰め寄る。

これは魔法ではなく、ただ単純に前に出ただけ。

極められた剣術が織りなす疾走抜刀。


風帝「────速いであるなッ!」


魔王子「──ッ!?」ピクッ


ピタッ、そう音を立てて急ブレーキを行った。

魔王子の攻撃は失敗に終わったが、そんなことを気にせずに魔王子は問いかける。


魔王子「貴様、何をした?」


風帝「...はて?」


魔王子「とぼけるな、貴様のその速さ...」


魔王子「...風の様に見えたぞ」


彼は振り返る、風帝という男を。

確かに風帝は昔から魔王軍四天王の座に君臨しており、その身のこなしは評判であった。

だが今の速度はその過去の速さを遥かに凌駕していた、驚きで魔王子は攻撃を自ら止めてしまっていた。
577 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:21:26.79 ID:tMsrpe0u0

風帝「申し訳ないであるが...敵に情報を与えるほど吾輩は甘くないのである」


魔王子「...チッ」


風帝「...ご覚悟を」


再び風が襲いかかる。

詠唱はない、おそらく1回目の詠唱で生まれた風魔法。

賢者の修行を終えた魔女ですら額に汗をかく芸当を、この男は淡々とこなす。


魔王子「────■ッ!」


────キィィンッ...!

闇魔法を要して、風を壊すのが精一杯な現状。

とても反撃をする機会がない、しまいにはユニコーンの剣が弾かれてしまった。


風帝「...できれば万全の状態で相まみえたかったのである」


風帝「光に侵されつつあるその身体も、背負っている最強だった魔王様も」


風帝「...残念である」


魔王子「...ッ!」


怒りがこみ上げてくる。

かなしげな表情をしている、かつての同胞に。

そして、力を蝕まれているとはいえ反撃すらできない無力さに。


風帝「...その魔剣、使えないのであろう?」


魔王子「ならばその目で確かめてみろ...」スッ


鞘から不自然なほどに綺麗な剣を抜く。

だが、1箇所だけその綺麗さと矛盾したものがあった。


風帝「ヒビ割れであるか...歴代最強と言われた魔王様の魔剣がここまでやられるとは...」


風帝「...誰にやられたあるか?」


その表情は先程とは全く違う。

新たな強者を知った嬉々とした表情。

魔王軍最大戦力の1人風帝はこのような性格であった。
578 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:22:45.53 ID:tMsrpe0u0

魔王子「...フッ」


魔王子「この俺を差し置いてその顔をするか...」


風帝「...これは失敬」


魔王子「...心底虫唾が走る」


────■■■■...

あたりが黒に包まれる。

女勇者によって奪われつつある魔力。

それでいて魔剣士や魔闘士とは比べ物にならない量を未だ保持している。


風帝「────やめるである」


魔王子「...今更遅い」


風帝「そのまま魔剣に力を注ぎ込めば折れてしまうである」


風帝「歴代最強の魔王様を折るわけにはいかないのである」


風帝「...鞘に収めるである」


魔王子「名のある魔王だ、そうやすやすと折れんだろう」


────ピリピリッ...!

風帝も魔王子も、今までと比較にならない殺気をぶつけ合っている。

そして、お互いに禁忌の言葉が発せられる。


魔王子「──最も...ここで折れるのであれば"その程度"のモノだ」


風帝「..."青二才"がァッ! 偉人を侮辱するかァッ!?」


魔王子「────殺してやろうか?』


────バキバキバキバキバキッッ!!

風とは思えない擬音が魔王子に向かう。

風帝の怒りが、感情が魔法に注ぎ込まれる。


魔王子『死ね■■■■■■』


────■■■ッッッ!!!

暗黒の擬音が風を飲み込む。

その黒い剣気は先程の比ではない。
579 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:24:58.23 ID:tMsrpe0u0

風帝「一体化かッ...なんて無茶をッ...!」


魔王子『死ね』


風帝「────ッ! "風魔法"ッ!」


周囲に多量の竜巻が起こる。

そしてその竜巻から、とてつもない数の風が魔王子に襲いかかる。

風帝は自力でハリケーンを生み出す、とてつもない魔力量が伺える。


魔王子『──死ね...』スッ


────ブン■■■ッ...!

語彙力を失いながらも、風を殺す。

それでいて、常軌を逸した射程の剣気を風帝に向ける。

しかしそれは紙一重で避けられてしまう。


風帝「当たらなければ意味がないであるぞッ!」


魔王子『死ね』


風帝「まるで餓鬼のようであるなッ!」


その絶大な威力を誇る剣気に冷や汗をたらす。

だが、魔王子も驚く身のこなしの速さで次々と風魔法を回避する。


風帝(まずい...このままではあの魔剣が折れるのである)


風帝(それだけは阻止しなければ...)


魔王子『死ね』


────■■ッッ!

研ぎ澄まされた黒い剣気が、風魔法を産んでいる竜巻の1つに当たる。

とてつもない大きさを誇る竜巻が、小さな小さな黒に負け消滅していく。


風帝「──ッ! 相変わらずとてつもない威力であるな」


魔王子『ならば死ね』


風帝「...言っていることが滅茶苦茶なのである」
580 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:27:44.77 ID:tMsrpe0u0

風帝(このままではイタチごっこなのである...仕方ない)


風帝「貴方様よ、吾輩のこの速さの秘密...気になるであるか?」


魔王子『...!』


風帝(──かかった...)


風帝「どうやら図星のようであるか...ならばしかと見るである」


魔王子『...まさか、属性付与か?』


発言とともに風が完全に止む、そして魔王子は語彙力を取り戻す。

取り戻したした結果、考え出されたのは属性付与という魔法であった。

風のような身のこなし、自身に風の属性付与をかけていた様にも思える。


風帝「...それなら我が身は疾風で切り裂かれるであろう」


以前魔剣士も言っていた、下位属性と上位属性の差というもの。

身体を浮かせる程度の風なら話は別だが、ここまで速度を出せる風となると話は違う。

風帝の言うとおり、そんな速度の風を纏えば身体はバラバラになってしまう。


風帝「魔王子様よ...貴方様が隔離されていた数年で魔法は進んだのである」


魔王子『馬鹿げたことを────』ピクッ


皮肉を言うつもりだったが、つい止めてしまう。

隔離されていたのはたかだが数年、その間に自分が絶句するような魔法が産まれるなどありえない。

だが魔王子は事前にあの話を聞いていた、はじめは魔闘士から、そこから魔女へ、最後に自分に。


魔王子『────研究者』


風帝「ご存知であるか...」


魔王子『まさか...』


風帝「ではご覧あれ、進化した魔法を────」
581 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:28:24.95 ID:tMsrpe0u0










「"属性同化"..."風"」









582 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:30:27.32 ID:tMsrpe0u0

再び風が吹きあられる。

その風は魔王子の違和感をようやく吹き飛ばす。


魔王子『──同化だと?』


風帝「その通りである」


風帝「吾輩のこの速さの秘密は風」


風帝「我が身を風にすることであるッ!」


強く発言するとともに片腕を前にだす、すると腕が徐々に消えていく。

消えていった箇所から突風が生まれ始まる、まるで風帝自身が風へと変貌していく様。


魔王子『な...』


あまりにも現実離れした光景に絶句する。

このような現象はスライム族の水化でしか見たことがない。

あの強屈な男が徐々に消え失せていく。


風帝「貴方様の闇魔法、たしかに吾輩の風を殺すなど容易いであろう」


風帝「しかし、貴方様...いや、魔王子よ」


風帝「貴様に不可視かつ超速である風を捉えることが可能であろうか?」


風帝の身体が自然へと溶け込んでいく。

そして暴風がどこからともなく吹き荒れていく。


風帝「..."風魔法"」


魔王子『────チィ■■■■ッ!』


──ビュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ...!

再び、竜巻があらわれ風魔法を産み出していく。

魔王子は防御をするために身体の周りを闇で覆った。

それと同時に完全に風と化した風帝が吠える。


風帝「守っていては吾輩に攻撃すらできんであるぞッ!」


魔王子『────後ろか?』


──■ッ!

真後ろに剣気を打ち込む。

手応えはない、それは当然であった。

風を射ることなど、果てしなく難しいはずだ。


風帝「...風向きは急に変わるのであるよ」


魔王子『...黙れ』
583 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:32:36.07 ID:tMsrpe0u0

魔王子『...』


耳を澄ませる。

風を目視することは不可能だが風がくる方向ならある程度音で把握できる。

今度は身の回りの闇魔法を使用して、無防備にはなるが気配を感じた方角へ全面的な攻撃をするつもりであった。


魔王子『...』


魔王子『────そこだ』スッ


────■■■■■■■■ッッ!!

微かなな風音を感知し、すぐさまに行動する。

剣気とともに闇の塊が風を飲み込んだ。

手応えあり、だがそれは果たして本当に風帝なのか、それとも。


風帝「...それはただの風である」


魔王子『──ッ! 上かッ!?』


風帝「闇に守られていない貴様にこの疾風は少し痛むであろう」


気づけば、真上に姿を表していた。

そして次の瞬間、再び風となり魔王子に降り注いだ。

闇はまださっきの風を殺している、完全に無防備な状態。


風帝「────喰らえ」


──ドガアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

その音は余りにも、衝撃的であった。

魔法で生まれたとしても、風がこのような轟音を上げるとは思えない。


魔王子『────ッッッッ!?』


風帝「直撃...もう終わりであるか?」


魔王子『...ゲホッ...黙れッ!』


風帝「姿を現しているというのに、反撃もできないであるか」


気づけば背後に立っていた、それもそのはず。

風帝は己の風で魔王子に攻撃した、つまりは宙から体当たりをしたわけであった。

その威力は列車の屋根を凹ますものであり、魔王子が闇をすぐさまに操作できないほど鈍い痛みであった。
584 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:34:14.79 ID:tMsrpe0u0

魔王子『──ゲホッ...』


風帝「もう一息であるな」


魔王子『失せろ...■■■』


ようやく闇が戻る、それと同時に風帝は姿をくらます。

闇の戻りの遅さから察すると、相当疲労している。

自身の魔法の操作すら難しくなってきている。


魔王子『......』


魔王子(...厄介だ)


魔王子(あの竜巻から無数の風が飛んできている状況...)


魔王子(どれが風帝自身の風なのかを判断するのは無理だろうな...)


長考に入る、その片手間で竜巻から来る風魔法を闇で殺している。

身体に鈍みと倦怠感が残る劣悪な状況でも、出来る限り隙きを作らずにいた。

もう二度と風が直撃することはないだろう。


風帝「考え事はいいであるが...おそらく覆すことはできないのである」


風帝「...諦めるがいい」


魔王子『...』


確かに、今のままではイタチごっこ。

風を殺すことはできても風帝自体は殺すことが極めて困難。

この状況が続けば間違いなく、先に疲弊している魔王子が負ける。


魔王子『......フッ』


風帝「...なにもできずに、笑うしかないのであるか」


魔王子『風帝よ...貴様忘れているな?』


皆目検討が付かない。

忘れ物をした覚えのない風帝は沈黙するしかなかった。
585 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:37:15.98 ID:tMsrpe0u0

魔王子『俺は...闇だぞ』


魔王子『闇はすべてを壊す...』


魔王子『風の居所がわからないのなら...すべて壊せばいい』


──■■■■■■■■■...

ありったけの魔力が闇へと変わる、すべての感情が黒に染まる。

なにをするか察した風帝は思わず姿を現した。


風帝「まさか...ッ!?」


魔王子『────死ね』


──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!


地獄のような光景、魔王子は列車の屋根でひたすら抜刀剣気を放った。

風の居場所がわからなければすべてに向かって攻撃すればいい。

彼の出した結論はそうだった、風の気配を感じる場所全てに攻撃をしている、竜巻などあっという間に破壊した。


魔王子『──ッ! ...ゲホッ』ピタッ


身体の危険信号がでて、ようやく攻撃を止める。

あたりに風の気配がないのを確認し、闇を収めた。

この圧倒的な闇の剣気を前に、生き残れる者など居やしない。


魔王子『...死んだか』
586 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:37:47.90 ID:tMsrpe0u0










「魔王子よ、貴様忘れているな?」









587 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:39:02.28 ID:tMsrpe0u0

魔王子『────ッッッ!?』


──バチバチバチバチッッ!!!

気づけば前方から、なにかが魔王子を貫通した。

聞き慣れた痺れる音、そして再び背後に姿を現す。


風帝「...吾輩は風帝、風魔法の超越者ではなく風属性の超越者」


風帝「したがって雷魔法の超越者でもあるぞ」


魔王子『──いつのまに...」


風帝「同じことである、属性同化の雷...詠唱すら気づかぬほどに夢中だったであるか?」


魔王子「畜生────」ガクッ


風帝「...まぁあの光景には正直命の危険を感じたのである」


風帝「身柄を持ち帰らせてもらうのである...そしてその魔剣も大事に保管するのである」


風帝「...もうじき夜明け、間に合ってよかったのである」


風帝「さて..."転地────」


???「...まちなよ」


背後から誰かが声をかける。

魔王子は気絶している、そもそも柔らかい声であった。


風帝「────貴様は」


???「...コレ、使わせてもらうね」


彼女が拾ったのは弾かれて手元から離れていたユニコーンの魔剣。

そしてまばゆい光が生じ、姿がしっかりと現れる。

ほぼ裸の状態で、なんらかの大きな布で身体を隠している女がそこにいた。


風帝「────女勇者...」


女勇者「久しぶりだね...よくわからないけど、その人を連れて行かせないよ」
588 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:42:31.57 ID:tMsrpe0u0

風帝「貴様...なぜここに...研究者の実験台になっていたはず」


女勇者「僕にもよくわからないんだ...女騎士は深く眠っているし...他の人も起きないし」


女勇者「そこで倒れてる人も...なんだか味方のような気がするんだ」


風帝「愚かな...コヤツは魔王子...貴様の敵である魔王様の息子であるぞ」


女勇者「...それでも連れて行かせないよ」


風帝「ならば我が風の塵となれッ! "風魔法"ッッ!」


女勇者「────"光魔法"」


────□□□...

あたりが光に包まれる、その光は余りにも輝かしくそれでいて優しいもの。

風はその光に包まれ消滅していく、その光景は魔物からするとあまりにも恐ろしかった。

風帝の風魔法によって再び竜巻が創られたかと思えば、あっという間にそれは抑え込まれてしまった。


風帝「──やはり勇者は恐ろしい...ただの光魔法でそれか...」


女勇者「悪いけど、寝起きはいいんだ...絶好調だよ」


風帝「力技は無理であるな...ならば」


──バチバチッ...

痺れるような音とともに姿が消える。

彼の属性同化はまだ続いていた。


女勇者「──消えた?」


風帝「...その光は、雷を捉えることができるであるか?」


────バチバチバチバチッッ!!

風帝の策は極めて単純、魔王子にもやったアレをするだけであった。

攻撃が困難になる属性付与を女勇者が行う前に、致命傷を与えることができれば勝利は確実。

人間には雷よりも早く言葉を発することは不可能、よって属性付与に必要な詠唱ができないはずだ。


女勇者「────っっっ!?!?!?」


風帝「...直撃である」


女勇者「──けほっ...」ガクッ


彼女が倒れる。

雷と化した風帝が身体を貫通、女勇者は焦げだらけに。

とても人の形をしていない荒んだものだった。


風帝「魔王子と違い、長期戦なら負けていたのである...」


風帝「...さて、今度こそ────」
589 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:43:23.96 ID:tMsrpe0u0










「まちなよ」









590 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:45:04.79 ID:tMsrpe0u0

風帝「────な...」


デジャブ。

再び背後から柔らかい声が聞こえる。

そのあり得ない出来事に風帝は驚愕する。


女勇者「...悪いけど、友だちじゃない人には用心深くしているんだ」


女勇者「それに、間接的にだけど君のお陰で僕は捕まったんだ、警戒するよ...初めから分身魔法だよ」


風帝「──貴様...」


──バチバチバチッ...

再度雷へと変貌しようとする、その音がなるはずだった。

次に感じたのは身体が雷になる痺れるような感覚ではなかった。

身体の力が抜ける、あの忌々しい魔法の感覚であった。


風帝「な...ッ!?」ガクッ


風帝「──何時、どこでだッッ!?」


檄を飛ばしながら女勇者に答えを求める。

自分は光魔法を食らった覚えがない、不可解で仕方なかった。


女勇者「...分身魔法に光の属性付与をかけてたのさ」


女勇者「最初の光魔法は嘘、ひっかかったね?」


その周到っぷりに風帝は鳥肌を立てた。

この女、微笑ましい顔つきに似合わずかなりの策士だった。

魔法使いが陥れていなければ、魔王軍はすでに壊滅的被害を受けていたかもしれない。


女勇者「あの攻撃...雷の身体ですごい速さの体当たりってことだよね?」


女勇者「つまりは自分から光に当たりに行ったってとこだよ」


風帝「...魔王様、この女は危険すぎます」


女勇者「...しばらく、おやすみだね」


その優しい声は、風帝からしたら恐怖そのものでしかなかった。

ハッキリとした意識は次の言葉で淡くなってしまう。


女勇者「"属性付与"、"光"」


風帝自らの身体が光に包まれていく。

光のエキスパート、彼女ならではの使い方。

強い光が身体の内から魔物を拘束していった。


〜〜〜〜
591 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/10(月) 21:48:38.86 ID:tMsrpe0u0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
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誤字脱字が多いので気をつけます。

@fqorsbym
592 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:13:54.97 ID:+PdZFHeT0

〜〜〜〜


??1「......」


どこか、暗い部屋の中。

1人の少年が布に包まっている。


??1「......とうさま」


少年は嘆く、その孤独感は文字通りの意味。

呼び名からして心底尊敬している風に思える。

きっと威厳のある父なのだろう。


??2「...坊や、おいで」


いつの間にか柔らかな声が聴こえる。

少年はその声の主に頭を預ける、とても素直であった。

母だ、こんな小さな子が心を許せるのは母親以外ありえない。


??1「かあさま、とうさまはいつもどるの?」


??2「...わからない、でもあの人は私の為にしてくれているの」


??1「...そんなぁ」


??2「嘆かないで、もうしばらくの辛抱だから...」


??1「...うん」


??2「...ほら、きもちいい?」スッ


──ふわりっ...

母と思しき人物が、少年の頭を優しくなでた。

それと同時に香るのは、心地の良い母の香り。

悲しみに近い表情だった彼に笑みが溢れる。


??1「かあさま...もっとして」


??2「...ふふ、甘えん坊ね」


??1「かあさま...」


〜〜〜〜
593 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:15:24.44 ID:+PdZFHeT0

〜〜〜〜


魔王子「────ッ」ピクッ


???「...起きた?」


柔らかい声を投げかけてきた。

しかしそれは過去のものとは違う。

心地の良い夢から覚めた魔王子は、女勇者に問いかける。


魔王子「...どうなっている」


女勇者「あはは...やっぱりそう思うよね」


女勇者「...君が倒れたあと、僕がこの人を倒したんだ」


風帝「────」


女勇者「その後、この人を光で完全に動けなくさせたんだ」


魔王子「...俺が敗北した風帝を、貴様が討っただと?」


女勇者「うん」


魔王子「...ふざけるな」


女勇者「ふざけてないさ」


魔王子「...」


彼女を見つめるが、傷など1つも見当たらない。

自分との差に苛立ちが募るが、寝起きの風が彼を冷静にさせている。

この女は自分と何が違うのか、それは明白であった、白と黒の差であった。


魔王子「...光とは恐ろしいものだ」


女勇者「そんなことないよ、ちゃんと使い方を間違えなければね」


女勇者「っていうか、君も光の魔力を持ってるじゃないか」


魔王子「...どの口が言うか、これは貴様のだ」


女勇者「へ?」


魔王子「説明は省く...下にいる者に聞け」


女勇者「えぇ...よくわかんないなぁ」


女勇者「光の魔力を持ってたから、味方だと思ったんだけどなぁ...」


魔王子「...■」


女勇者「──うわっ、闇だっ!?」
594 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:17:14.33 ID:+PdZFHeT0

女勇者「ってことは魔王の息子ってのも嘘じゃなかったのか...」


魔王子「...こいつが勇者なのか」


女勇者「わ、笑ったな?」


魔王子「──ッ」ピクッ


そんなことはないはず。

彼の顔が一瞬にして強張った。

彼の笑顔を見るのは、ただ1人の存在にしか許されない。


魔王子「...笑うものか」


女勇者「...」


ただならぬ雰囲気に彼女は追求することをやめた。

なんとなく察した、彼には笑顔を嫌う理由があるのだろうと。

そんな時だった、馴染みの顔が語りかけてきた。


???「暗黒の王子ともあろう者が...このような小娘に振り回されているのである」


魔王子「...風帝」


風帝「...身体は依然動かないのである...だが、喋ることは苦しいながらできるのである」


女勇者「ふぅん...風帝って言うんだ」


風帝「...」


風帝は魔王子に対して話を続ける。

この女に恐怖感を植え付けられたからであった。

どんなに可愛らしい見た目であろうが、返事をすることが怖くなっていた。


風帝「...吾輩はもうすぐ死ぬであろう」


女勇者「僕は殺す気なんてないよ」


風帝「......このまま魔王城に帰還しても、魔王様に殺されるのである」


魔王子「...なにが言いたい?」


風帝「...魔王子よ、吾輩は四天王最古参...貴方様の小さい頃を唯一知っているである」


風帝「敵に情報を与えるなど、二流がやること...ですが今は魔王軍としての発言ではないである」


風帝「かつての同胞として聞いてほしいである...」


魔王子「...」
595 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:18:31.51 ID:+PdZFHeT0

風帝「──今日日は"日食"である...」


女勇者「...え?」


魔王子「そのような日だったのか...」


風帝「気をつけるである...もうじき、日が登るである...」


女勇者「ど、どういうこと...日食だとなにが起きるの?」


風帝「...あ、ある種類の魔物の群れが活動的になるである」


風帝「そいつらは強靭かつ迅速...そしてなによりも人海戦術が得意である」


風帝「...この列車にすら簡単に追いつくである」


女勇者「...そんな」


魔王子「数十年に1度の日食だ...奴ら血気盛んだろうな...」


風帝「...言いたいことは以上である」


魔王子「...あぁ」


風帝「では、頼むである」スッ


動けず、横ばいの状態である。

だが首を差し出した風に見えた。

一体何を頼むのか、女勇者には見当がつかなかった。


女勇者「...え?」


魔王子「...さらばだ」


風帝「...我が弟子よ、今逝くである」


魔王子「────逝け」スッ


────ガギィィィィィィンッ!!

魔王子の抜刀、それにしてはあまりにも鈍い音であった。

いつもならあの尖すぎる空気を裂く音が聞こえるというのに。

なぜなのか、それは彼の剣術が彼女の持つ魔剣によって妨害されたからである。
596 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:19:28.97 ID:+PdZFHeT0

風帝「...邪魔をするな、である」


魔王子「...何をする」


女勇者「待って、意味がわからないよ」


女勇者「さっきまでは確かに敵だったよ」


女勇者「でも、今の会話を聞いてたら...僕には家族のように見えていたよ?」


女勇者「...どうしてそんな簡単に殺そうとするの?」


風帝「...やめるである」


女勇者「この人は君のためを思って、日食の情報を教えてくれたんだよっ!?」


女勇者「君が負けても、この人は殺そうとせず連れ去ろうとしてたんだよっ!?」


女勇者「もしかして、日食が来る前に...君だけでも安全な場所に連れて行こうと────」


風帝「────やめるであるッッ!!!」


雷のような叫び声、彼女は口を閉じるしかなかった。

察してしまったのであった、この魔物の覚悟を。

だが察した所で、女勇者は納得できずにいた。


風帝「...頼む、魔王子」


女勇者「──なんで?」


魔王子「────誇りだからだ」


────スパッ...!

果物が切れるような音だった。

転がり落ちるその顔は、非常に穏やかなモノ。

まるで、聞きたかった言葉が聞けたような顔つきであった。


女勇者「────っ!?」


女勇者「......やっぱり闇ってわからないよ」


魔王子「それでいい...光は闇を知る必要はない...」


女勇者「......急いで女騎士を起こさないと」
597 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:20:02.09 ID:+PdZFHeT0










「ツヨイ、マリョク、カンジル」









598 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:23:07.16 ID:+PdZFHeT0

彼らは勘違いをしていた、まだ時間に猶予があると思った。

だが日食が起きるということは、日が登っても暗いままということ。

もう夜明けだというのに明かりが登らない、日食はすでに始まっていた。


魔王子「──"属性付与"、"闇"■■■■」


女勇者「──"属性付与"、"光"□□□□」


???「コトバ、ヒサシイ、コロス」


光と闇が現れた魔物に直撃する。

敵を確認してから1秒も立っていない。

ずば抜けた判断能力が謎の魔物を消し飛ばした。


女勇者「──いまのはっ!?」


魔王子「..."死神"だ、死霊が媒体を必要とせずに進化した者と言われている」


魔王子「死霊同等に触れると即死だ...気をつけろ」


女勇者「──くるよっ!」


死神1「コヤツラ、ツヨイ、マケン、ホシイ」


死神2「マケン、ナル、ヒツヨウ」


今度は2匹の死神が現れた。

そしてそのうち1匹は形状を変え始める。

その光景はとても神秘的であった、過去に見たことがあるあの光景。


魔王子「..."魔剣化"か、いとも簡単にやられると貴重な場面だと到底思えんな」


女勇者「これが魔剣化かぁ...僕も魔剣ほしいなぁ、これは借り物だし...」


死神1「シネ」


────スパッ...!

死神の横切りが空を裂いた。

魔剣化が進み、死神の1匹が鎌のような形状へ変化していた。

彼らはお互い原始的に、しゃがむことで剣気を回避をした。


魔王子「剣気でこの威力か...」


女勇者「まずいなぁ...僕は剣気を使えないからあの距離だと攻撃できないよ」


魔王子「...ならば指を加えて見てろ■■■」スッ


────■■ッ!

限りのある魔力を節約した、少量の闇が死神に直撃する。

少ないと言ってもその質はあまりにも高純度、死をもたらす威力であった。
599 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:24:36.51 ID:+PdZFHeT0

死神1「ヤミ、イタイ、モウスグ、シヌ、オマエモ、シネ」


闇に悶ながらも、死神は特攻を仕掛けてきた。

2人に急接近しながら、鎌を振り回そうとしてきた。


女勇者「──□□ッッ!」グッ


────バキィィ□□□□ッッッ!

光をまとった女勇者のシールドバッシュが炸裂した。

現在は盾を持っていないので、実際は鉄山靠といえる。


死神1「────オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?!?」


魔王子「耳障りだ...■」


闇が魔物を飲み込む。

光がそれを照らすと、死神の姿は確認できなかった。

とても初めてとは思えない連携で、厄介なあの魔物を倒した。


魔王子「...触れたら即死だぞ、何を考えている」


女勇者「うーん、今のは纏っていた光に当たった感じかな」


魔王子「愚かな...それでも人類の希望か?」


女勇者「心配してくれてありがとう、次から気をつけるね」


魔王子「...戯言を」


女勇者「それよりも、早く戻ろう!」


魔王子「そこの梯子から車内に降りろ────」ピクッ


死神3「──ヒトツ、マケタ、フタツ、ホシイ」


死神4「マケン、マケン」


死神5「コロス、マケン、ナッテ、コロス」


魔王子「...先にいけ」


女勇者「うんっ!」


魔王子「────ッ!? 待てッ!」


死神3「..."テンイマホウ"」


詠唱には気づいたが静止の勧告は遅かった。

気づけば、梯子の着地地点に死神がいる。

避けようがない、このまま着地とともに死神に接触してしまうだろう。
600 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:26:07.10 ID:+PdZFHeT0

女勇者「しまっ────」


──ダァァァァァァァァァァンッッ!

死は免れない、それ故に彼女は瞳を閉じていた。

すると聞こえたのは、聞いたことのない炸裂音であった。

そして続いたのは、久々の仲間の声であった。


女騎士「...そのそそっかしさは間違いなく女勇者だな?」ジャコン


女勇者「──女騎士っ!?」


女騎士「話は後だ、まずはこいつを倒すぞ!」


死神3「イタイ、コノブキ、シラナイ」


女勇者「僕も知らないんだけど...」


女騎士「私も知らない...だが、前方を全面的に攻撃するモノらしい」スチャ


──ダァァァァァァァァァンッッッ!

死神の頭部に命中し沈黙を余儀なくされた。

アサルトライフルとは違い、簡単に狙いに当てることができる。。


女騎士「...爽快だ」ジャコン


女勇者「いいなぁ、どこで手に入れたの?」


女騎士「借り物だ、それよりきゃぷてんと魔女を守らねば」


魔王子「...目覚めたか」スッ


女騎士「あぁ、魔王子か...屋根に居たのか、道理で見当たらないわけだ」


魔王子「...気をつけろ、奴らの真骨頂は人海戦術だ」


魔王子「今のは斥候程度と考えたほうがいい」


女騎士「ということは本番はここからか...早く彼らを起こした方がいい」


女勇者「あ、そうだ...あの魔物に触れたら即死らしいよ」


女騎士「...それは、もっとはやく言ってくれっ!」


──ガチャッ!

おそすぎる注意にツッコミを入れる中、到着する。

これを開いたら彼らがいるはずだ、女騎士は力強く扉を開けた。


女騎士「...まだ起きていないか、襲われていなくてよかった」


女勇者「あの人たちは?」


女騎士「あぁ、紹介するさ...長旅で疲れていると思うが起きてもら────」
601 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:26:50.21 ID:+PdZFHeT0










「ソコダ」









602 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:28:56.21 ID:+PdZFHeT0

────ザンッッッ!!!!

女騎士が魔女へと駆け寄ろうとした瞬間に、視界がずれた。

同じ車両にいるのに、魔女たちがどんどん離れていっている風にみえる。


死神6「ハズシタ、ツギ、アテル」


女騎士「──魔女っ!」


死神の鎌による剣気よってこの車両は切断された。

切り離された車両は徐々にバランスを崩し始める。

そして、タイミング悪く彼女が目覚めた。


魔女「────っ!」


前方の部分が傾き、線路と摩擦し合う。

その騒音で魔女の言葉はかき消されている。

ついには車両が跳ね上がり、左方向へ吹き飛ぶ。


女勇者「────"防御魔法"っっ!!」


──ガタンッッ!!

吹き飛ぶ直前、魔女と隊長に魔法がかかる。

そして、彼らは視界から完全に消えてしまった。


女騎士「──魔女おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」


この列車が走っているのは橋の上、そして下には湖。

身を乗り出し、そのまま湖に向かって飛び込もうとする。

しかし、それは仲間によって阻止される。


女勇者「魔法はかけたっ! 祈るしかないよっっ!!」


魔王子「...周りをよく見ろ」


先程の剣気によりこの列車の見晴らしはとても良いモノに

そこから見えたのは、大量に展開している死神共であった。

この列車の速度がなければ簡単に追いつかれている。


魔王子「いま列車を止めるわけにはいかん...助けに行くのも無理だ」


女騎士「...この薄情者っっ!!」


魔王子「なんとでも言え...ここで俺らが死ぬのをあの人間が望むと思うか?」


女騎士「...っ!」


その言葉を聞いて、冷静になる。

軍人としての自分が頭に水をかけたような感覚だった。

戦う者として1番大事なこと、それは犠牲を払ってでも目標を達成すること。
603 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:30:55.44 ID:+PdZFHeT0

魔王子「...正直、防御魔法をかけたからといって生きてるとは思えん」


魔王子「最善手は、ここを退けこのまま最速で魔王城へ突入することだ」


非常に非情な決断だった、だがこれが最大に理にかなったものであった。

少人数精鋭が得意な戦略といえば速攻、逆を言えば時間がかかるほどに消耗させらせやすい。

この場を退けても、助けにいく時間すら惜しい。


女騎士「────っ!」


悔しさのあまり、口から血が滲む。

怒りのヘイトは魔王子でもなく、死神でもなく、理解してしまえる自分だった。


魔王子「だが...」


不思議とある物が視線を捉えた。

それは女勇者が持っているユニコーンの魔剣だ。


魔王子「...俺は祈る、それも強く」


この場合の祈りの意味、女騎士には理解できた。

彼の口から初めて聞いた、あまりにも人間臭い言葉だった。


女騎士「...彼らは強い、私も祈ろう、諦めずに」


背負っているショットガンを構える。

この武器を持っていると不思議と勇気が湧いてくる。

この世界で何度も修羅場を乗り越えた彼の気持ちが篭っている。


女勇者「...2人とも、こんなに強いんだね」


女勇者が魔法をかけたのは、彼ら2人が弱いと思ったから。

きっと、このままだと死んでしまうだろうと思ったからであった。

だが魔王子と女騎士はそうは思っていない、防御魔法がかかっていなくとも同じことを祈っただろう。


女勇者「あの2人のことは知らないけど、君たちがそう言うなら生きてるさ」


魔王子「俺の全力を破った男と女だ...簡単に死なれたら困る」


女勇者「へぇ、君の全力かぁ...それも気になるけど、彼らも気になるなぁ」


女勇者「次はちゃんと紹介してよね!」


女騎士「当然だ、まず彼の出身を聞いたら驚くぞ?」


笑みをこぼしながら、雑談を始める。

大量の死神が展開しているというのに、呑気な光景であった。
604 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:32:34.01 ID:+PdZFHeT0

死神6「シネ」


──■ッ!

言葉を発した死神の1匹が闇の剣気に切り裂かれた。

無粋な魔物に待っているのは、死あるのみ。


魔王子「死ぬのは貴様らだ...」


女勇者「そういえば、女騎士からも僕の魔力を感じるね」


女騎士「あぁ、話せば長いがな」


女勇者「...ちょっと試すね?」


女騎士「うん?」


女勇者「..."属性付与"、"光"」


返答も待たずして行われた実験。

女騎士の身体が光りに包まれる、先程風帝にも行ったモノ。

待っているのは身体の力が抜けるような感覚、のはずだった。


女騎士「...これはっ!?」


魔王子「...なるほどな」


女勇者「やっぱり...うまくいった!」


女騎士「な、なにがおきているんだ...?」


自分の身体が光り輝いている。

本来なら、風帝のように行動不能になるはず。

しかし決定的な箇所が奴とは違う、だからこそ光を受け入れている。


女勇者「僕の魔力を持っているってことは、光を受け入れられるはずだよ!」


光は光を抑えることができない、フグが自分の毒で死なないのと同じ。

自分の魔力が女勇者の魔力に侵されている、つまりは光に抑制させられる魔力が存在していない。

倦怠感や自分の魔力が使えないが、女勇者による光の恩恵を受け入れられる身体を得ている。


女騎士「これは...非常に頼もしいぞ」


女勇者「悪いけど...僕は遠距離攻撃ができないから、魔法で援護させてもらうよ!」
605 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:34:28.43 ID:+PdZFHeT0

女勇者「"治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

別の光が3人を包み込むと、身体にできた傷がみるみる塞がっていく。

賢者の修行を終えた魔女の魔法には劣るが、それでも十分なモノだった。


魔王子「...強い光だ」


女騎士「そうか...女勇者は普通に魔法が使えるのか」


女勇者「えへへ」


女騎士「...完全に魔法が使えないのは私だけか」


魔王子「そう悲観するな、俺も徐々に抑えられている」


魔王子「...あと1日持つかどうかだな」


自分の魔力はすでに枯渇しているというのに。

だが彼女はその差にへこたれない、自分には自分のできることをする。

それが彼女の騎士道、絶対に折れない心の要因であった。


女騎士「せめて足を引っ張らないようにするさ」スチャッ


──ダァァァァァァァァァァン□□□ッッッ!!

光に包まれた散弾が複数の死神の命中する。

肉眼では目視できない弾速、威力、拡散力、そして光。

あらゆる点が優れている攻撃に、奴らは一撃での死亡を余儀なくされた。


魔王子「...どの口がいうのか」
606 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:36:06.82 ID:+PdZFHeT0

女勇者「すっごいねその武器...」


女騎士「予め魔女が弾とやらを大量生産していたようだな...それが吉となったか」ジャコン


弾とやらを作っていたその光景、それは列車に乗り込んですぐであった。

抜け目のない魔女は治癒魔法と伴に、弾丸の精製も行っていたようだ。

鎧の収納に入れた実包を確認する、残り30発程度だが派手にばら撒かなければ十分。


魔王子「...貴様は接近した奴らにソレをぶち込め」


魔王子「遠くの奴らは俺がやる...」


女勇者「僕は魔法であいつらの動きを鈍らせてるかなぁ」


女騎士「...ふふ」


女勇者「どうしたの?」


女騎士「いや...久々に一緒に戦えるな」


女勇者「...そうだね」


女騎士「この絶望的な状況...だというのに、希望が湧いてくる」


女騎士「ここを乗り越え、彼らの生還を祈り...魔王に打ち勝とう」


自暴自棄や楽観的すぎる発言ではない。

彼女自身が心底そう思っている、女勇者の復帰が彼女をみなぎらせている。


魔王子「────くるぞ」スッ


──■■ッッッ!

魔王子の闇の音が、戦いの火蓋を切った。

だが直面しているのは絶望的な兵力差、決して楽な戦いではない。

しかし彼らの心には、少しばかりの余裕を保つ事ができていた。


〜〜〜〜
607 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/11(火) 20:36:42.15 ID:+PdZFHeT0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
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608 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:46:30.35 ID:UVylX/mi0

〜〜〜〜


???「...ここは?」


身体が冷える、まるで水に浸かっているような感覚。

周囲を確認すると、どうやら浜辺で横たわっていた様だ。

彼女の名前は魔女、そしてその横で倒れているのは当然彼であった。


魔女「──きゃぷてん...っ!」


隊長「────」


少し離れたところに彼は横たわっていた。

列車ごと湖に落ち、流されて浜辺に打ち上げられた様子であった。

未だに目を覚まさないが呼吸はしている、どうやら女勇者による防御魔法が一命をとりとめた。


魔女「...どうしよう」


自分の手持ちを確認する。

幸いにも無くし物はなかった。

目覚めない彼の横で、ハンドガンを力強く握る。


魔女「...」


彼ならどのような決断を下すだろうか。

ここぞという修羅場では、いつも彼の判断に身を委ねていた。

塀の都で、判断に困っていた帽子の気持ちが今になってわかる。


魔女「...こんなに難しいことなんだ」


こんなにも絶望的な状況なのに不思議と涙がでなかった。

これは希望があるからではない、諦めの意味が強かった。


魔女「...進まなきゃ」


か細い腕で、隊長の支える。

体重のある彼を肩で支えるのは厳しいもの。

ただでさえ光に侵されているというのに、それでも彼女は前に進もうとする。


魔女「ここは...」


浜辺を離れると、すぐに景色が変わる。

鬱蒼とした密林の入り口が立ちはだかった。
609 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:48:07.31 ID:UVylX/mi0

魔女「...そういえば」


暗黒街の宿で見せてもらった地図を思い出す。

列車に乗れば湖、密林、そして城下町を通過し魔王城に到着する。

無計画に進んだ道は正解だった。


隊長「────」


魔女「...行くわよ」


1人で会話をすることで正気を保つ。

頼れる人が誰もいない、自分自身でどうにかしなければならない。

あまりにも過酷な状況であった、ゆらゆらと彼を支えてゆっくりと歩み始める。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔女「...ひどい臭いね」


密林に入って間もなく、感じたのはその悪臭であった。

生物が腐った匂い、探せば死体が転がっていると思われる。


魔女「...っ」


──ぐちゃっ

次に感じたのは足場の悪さ。

植物の根っこと泥と思しきものが組み合わさって最高に歩き辛い。


魔女「...暗いわ」


そして最後に感じ取ったのはその暗さ。

木々が鬱蒼としすぎて空が見えない、まるでまだ夜が開けてないような感覚だった。


魔女「...借りるわね」


隊長からライトを再び拝借する。

照らす範囲は限られるが、その頼もしさは健在であった。

左手は隊長の肩を支えている、右手はハンドガンを握っている。


魔女「もう1本腕がほしいわね...」


自虐めいたことをいいながらハンドガンを収納した。

自衛できる武器が手元から離れるが、前に進めなくなるよりはマシだった。
610 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:49:57.10 ID:UVylX/mi0

魔女「......」


──かさ...かさ...かさ...

明かりを頼りに前に進む、不気味なほどに静かな密林に響くのは。

それは葉っぱが身体にこすれる音、それらが徐々に魔女の精神を蝕んでいった。


魔女「...うぅ」


──かさ...かさ...かさ...

進めど進めど、同じ音。

足取りの悪さと疲労が相まって、気が狂いそうになる。


魔女「...ぐすっ...ひぐっ」


──かさ...かさ...かさ...

おかしくさせてるのは、それだけではなかった。

暗さ、臭い、そして極めつけは、大事な大事な1つの要因。


魔女「起きて...私を1人にしないで...ひぐっ」


隊長「────」


魔女「もう無理だよぉ...」


魔女「誰か...助けてよぉ...」


魔界の密林の恐ろしさがそこにあった。

理性があるほどに蝕んでいく、とてもじゃないが生きていける環境ではない。

この木々の集まりに魔物など存在しない、あるのは植物と狂気だけであった。


魔女「ひっぐ...ひっぐ...」


──かさ...かさ...かさ...

それでも前に進むことをやめない、なぜだろうか。

足が無意識に動く、精神はもう限界なのに身体が勝手に動くというのだ。


魔女「辛いよぉ...」


(「...ツギはあきらめるな」)


魔女「うぅ...ぐすっ...諦めたくないよぉ...」


その言葉は魔女の村で聞いたモノ。

未来永劫に忘れることのない、心の支えであった。

彼に支えられながらも彼女は彼を支え歩き続ける。


〜〜〜〜
611 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:51:35.42 ID:UVylX/mi0

〜〜〜〜


隊長「...お前がドッペルゲンガーか」


ここは隊長の精神世界、そこには同じ人物が2人も佇んでいる。

1人はいつもの彼、そしてもう1人はとても黒い見た目をしていた。

あの時魔闘士が言っていた言葉は聞こえていた、険しい目つきで質問を投げかける。


ドッペル「...あぁ、そうだ」


隊長「...いつ憑いた?」


ドッペル「...事実を知ったら、後悔するぞ」


隊長「...言え」


ドッペル「...じゃあ教えてやる」


ドッペル「ユニコーンの魔剣だ」


ドッペル「お前が帽子の形見として持った剣に俺は憑いていた」


ドッペル「正確に言うと、ユニコーンの時点だがな」


ドッペル「お前があの時...形見を拾っていなければこんなことにはならなかった」


隊長「...ふざけるな」


ドッペル「事実だ、お前ならわかるだろう?」


ドッペル「...俺はお前だ」


隊長「...」


思わず頭を抱えてしまう、あまりにもひどい言葉であった。

顔も声も隊長そのまま、まるで自分自身がそう言ってるような錯覚に陥る。

爆発しそうな感情を抑え次の尋問に移行する。


隊長「...何が目的だ?」
612 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:53:02.54 ID:UVylX/mi0

ドッペル「魔女を殺し、それで生まれた絶望を餌として得るためだ」


隊長「...なぜ、いままで身体を奪わなかった?」


ドッペル「...お前が人を殺すのに慣れているからだ」


ドッペル「絶望が俺を強くする...前にそう言ったよな?」


隊長「...あぁ」


ドッペル「身体を奪うには、ある程度の絶望という感情が必要だ」


ドッペル「普通の人間なら生き物を惨殺した瞬間に、自己嫌悪で絶望する」


ドッペル「だから俺はお前の身体で...偵察者や魔法使いを惨殺するように感情を弄った」


ドッペル「だが...お前は絶望どころか嫌悪すらしなかった」


ドッペル「...お前の中の"正義"が強すぎる」


ドッペル「あのいけ好かない人間と対峙して、ようやく俺が出てこれたわけだ」


隊長「...そうか」


苦言を呈された、自分でも殺し慣れしていると自覚している。

だが、その正義がなければ何人のも仲間がやられてたかもしれない。

この正義がまともじゃないことを示されても、彼は嫌悪をしなかった。


ドッペル「...1つだけ、忠告してやる」


ドッペル「これからはあの光を使うな...力が欲しければ魔力と闇を貸してやる...」


隊長「...そんな都合のいい提案があってたまるか」


〜〜〜〜
613 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:54:15.89 ID:UVylX/mi0

〜〜〜〜


魔女「...」


──かさ...かさ...かさ...

彼女は進む、葉っぱが肌に触れこそばゆくとも。

泣き言は言わなくなったが、涙は止まらない。

その顔は泣き疲れた子どものようなものであった。


魔女「──っっ!?」グラッ


──ガッッ!

足元が引っ掛かった、それと同時に転んでしまう。

彼女が転べば支えている彼も同じ、ましては彼は受け身など取れない。


隊長「────」ドサッ


魔女「──きゃぷてんっ!?」


魔女「ごめんね...ごめんね...いたかったよね...」


魔女「ごめんなさい...」


魔女「許して...魔法を使えない私を許して...」


明らかに様子がおかしい。

完全に情緒不安定、いつもの気の強い魔女はいなかった。

一通り謝罪が終わると彼女は膝を立てた状態で座り、縮こまってしまった。


魔女「...ぐすっ」


隊長「────」


こんなにも辛そうな、可哀想な表情をしているのに彼は起きない。

きっと起きていたら慰めてくれているだろうに、その時だった。


魔女「────むぷっっ!?」


──どくっどくっどくっ...

何かが口もとに張り付いて、口内に侵入してきた。

急いで剥がそうとするが徒労におわる、液体が注入されていく。
614 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:56:18.47 ID:UVylX/mi0

魔女「──むぐううううううううううううっっ!?」


その異物感に、身体は吐き気を催す。

苦しさのあまりじたばたしたのが幸運だった。

右手に握っているライトが、張り付いているものを照らした。


魔女「むぐうううううっっ!!」スチャ


──ダンッ!

そのような音と共に、魔女は開放された。

口に張り付いていたのは触手、それはウツボカズラのようなものから伸びていた。

ギリギリ残った理性がハンドガンによる射撃を可能にした、急いで口内に侵入した触手を引っ張り出すと。


魔女「────っっ」


──びちゃびちゃびちゃ...っ!

女子が出すような音ではない。

激しい嘔吐感に負け、口から液体を吐き出してしまった。

四つん這いになりすべての液体を排出し終える、ムゴすぎる光景であった。


魔女「げほっ...げほっ...」


魔女「...あれ?」


しかし、吐瀉物を見て彼女はあることに気づく。

左手にライト、右手にハンドガンを握りしめて勇気を振り絞る。


魔女「これって...?」


吐瀉物をじっくり見てみる。

胃液と液体と共に、何かが混じっているのを感じた。

通常なら気づけない量のモノ、賢者の修行を終えているからこそ気がついた。


魔女「...魔力?」


混じっていたのは魔力、肉眼では確認できないがそのような雰囲気を感じた。

だが、今は光によって魔女の魔力はない状態。

自分の魔力ではないのは確かだった。


魔女「...まさかっ!?」


自分の魔力ではない、じゃあ誰の魔力なのか。

先程の失っていた理性が希望に導かれ舞い戻ってくる。


魔女「もしかして、女勇者の魔力...?」


どうやら、この植物の液体は魔力を抽出する作用があるらしい。

恐らく魔物の魔力を奪うことで拘束し、捕食するためのモノと説明できる。
615 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:58:01.12 ID:UVylX/mi0

魔女「じゃ、じゃあ...」


未だにお腹から感じる、液体の異質感に耐える。

先程撃ち落としたウツボカズラに接近してみる。


魔女「...まだ、入ってる」


魔女「これを...飲めば...」


まだ、大量の液体がそこには残っていた。

これを飲んでは吐き出すことで、女勇者の魔力を排出することができる。

彼女はそう仮説を立てた、だがそれはどれほどのリスクがあるのか。


魔女「...」


仮説を否定したくなる要素がいくつもあった。

その液体には動物の死骸のようなものが沈み、虫が浮いてたりする。

さらには明らかな腐敗臭と極めつけはその蛍光的な青い色、生物が口にしていい代物ではない。


魔女「でも、飲まなきゃ...」


魔女「...ひどい臭い」


だが彼女は決行する、毒性の有無も考えずに、頭の回る魔女にしてはありえない。

密林に狂わされた理性が、魔力を取り戻したいという焦燥感が、そして隊長を助けたいという執念が。

カタカタと手を震わせながらも錬金術用の器に液体を掬った、それが彼女の決断であった。


魔女「...」スッ


掬ってみてわかる、かなり粘度が高い。

飲み込んでも、すぐにすべてを吐き出すことは難しい。

お腹に残る異質感の原因はそれであった。


魔女「...行くわよ」


──ごくっ!

すぐさまに身体から拒絶反応が現れた。


魔女「────っっ!!」


飲み込んで、すぐに吐き出した。

魔力とともに、身体中の全てが飛び出しそうな感覚だった。


魔女「ぼえっ...げほっ...」


たった一口でこのありさま。

さっきの分と合わせても、ごくごく僅かな魔力しか排出できていない。

少なく見積もっても、あと数十杯は飲まなくてはいけない。
616 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 21:59:19.78 ID:UVylX/mi0

魔女「はっ...はっ...はっ...」スッ


──ごくっ!

軽く過呼吸になるが、再び液体を飲み込む。


魔女「────っっっ!!」


立ち膝状態の足元に多量の吐瀉物が広がる。

二口目、わずか二口目で彼女の限界が来てしまう。


魔女「む、むりぃ...むりだよぉ...」スッ


──ごくっ!

泣き言をいいながら、新たに掬う。

彼女の顔は涙と液体等でぐちゃぐちゃになっている。


魔女「────っっ!!」


誰かに脅迫されているような、そんな動き方だった。

口では嘆いているが、身体は勝手に動いている。

彼を助けたいという強迫観念が身体を操っている。


魔女「────はっ、はっ、はっ、はっ、はっ...」


今度はひどい過呼吸が彼女を襲う。

そして、身体から様々な拒絶反応が新たに生まれている。

頭がズキズキと、お腹がキリキリと、喉がイガイガと。


魔女「もう嫌あああああぁぁぁぁぁぁ...」


たった3杯で、掬う手を完全に止めてしまった。

このまま止めていれば、辛い目には合わないだろう。

だが、不幸なことに目線にあるものが入ってしまう。


隊長「────」


魔女「──うっ...の、飲まなきゃ」スッ


──ごくっ!

救いたい者が見えてしまったのなら動かない訳にはいかない。

かすかに理性が残っている、それはいかに残酷なものか。

歯をガチガチと震わせながら再度液体を飲んだ。


魔女「────っっ!」


吐き出したものの一部がサラサラし始めてきた。

胃液が残っていない証拠だ、次からは液体が胃液に希釈されずに胃に入ってくるだろう。
617 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 22:00:27.15 ID:UVylX/mi0

魔女「ま...まだよ...」スッ


──ごくっ!

飲んだはずなのに嘔吐感はなかった。

それもそのはず、身体は何度も嘔吐できるように作られていない。


魔女「────っ!?!?」


彼女の腹筋や横隔膜は疲労し、胃の収縮を止めてしまっていた。

お腹にはあの液体が入りっぱなし、地獄の片道切符であった。


魔女「──痛いっっ!?」


身体の中が燃えているような感覚だった。

胃液の希釈もなし、ダイレクトに液体が入り込んでいる。

異質を感じているというのに、吐き出すことができない。


魔女「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!!!」


魔女「────っ!?」


しかし、幸いにも身体の筋肉はすぐに動いてくれた。

ラグがあったものの、5杯目も吐き出した。

だが、そのラグが魔女を非常に苦しめる。


魔女「...っ」


ピタッ、と再び手が止まる。

今度は癇癪を起こしたからではない。

理性があるからこそ、止まってしまった。


魔女「また...吐き出せなかったら...?」


今度ばかりは、本当に吐き出せないかもしれない。

先程味わった恐ろしさがその手を止めていた。

一度感じた恐怖を振り払うことは極めて困難だろう。
618 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 22:01:43.54 ID:UVylX/mi0

魔女「...」


掬うための手は止まり、ガタカタと震えているだけ。

飲むための口は、歯をガチガチと鳴らしているだけ。

もう二度と飲むために動くことはない、そのはずだった。


魔女「...ごめんね、借りるね」


液体を飲むのを諦めてた魔女は、隊長に近寄る。

そして、震えている手を彼の手に合わせる。


魔女「...汚くなっちゃうかもだけど」スッ


──ごくっ!

互いの指の間に指を絡める、すると震えは止まった。

不思議と勇気が湧いてきたような気がした、液体を飲もうとする腕が進む。


魔女「────っっっ!!」


──びちゃびちゃびちゃ...っ!

目覚めぬ隊長に掛からないように位置取りをしている。

筋肉の疲労に臆することなく嘔吐し続ける、彼女が彼の手を結ぶ限り。


魔女「...私、がんばるからね」


このあと、魔女は23杯分もの液体を吐き出すことに成功する。

経過時間は日没までの約8時間、途中に何度も発狂しかけたりする。

だが握っている手が何度も勇気をみなぎらせた。


魔女「────っっっっ! これでぇ...24杯目ぇ...」


魔女「────っ」ガクン


その1杯が終わると意識が消える。

その消えかけの記憶には、ある感覚が通り過ぎていった。

太陽のような光が抜け稲妻のような光が戻ってくる、そんな幻覚のようなものが彼女を見送った。


〜〜〜〜
619 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/12(水) 22:02:35.20 ID:UVylX/mi0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
620 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:17:42.70 ID:NppwIhhA0

〜〜〜〜


女騎士「はぁ...はぁ...」


疲労困憊した様子だった。

遠距離は魔王子に任せたところで、近距離は自分で対処しなければならない。

接触させらたら即死、一瞬の判断が強いられる緊張が数時間も続けば当然疲れる。


女勇者「大丈夫?」


汗1つかいていない、かなり余裕な表情。

それもそのはず、この中で唯一光に侵されていない。

しかし、もう1人の方は深刻な表情だった。


魔王子「...ッ」


同じく、汗1つかいていない。

だが苦虫を噛み締めたような顔をしている。


女騎士「...私はまだ大丈夫だ」


女勇者「魔王子くんは?」


魔王子「...」


女勇者「...駄目みたいだね」


魔王子「黙れ...まだやれる」


女勇者「嘘だよ、2人ともちょっと休んでて」


女騎士「お、おい...なにをするつもりだ?」


魔王子「...周りをよく見てみろ」


前に出る女勇者は周囲を確認する、死神は数百匹はいる。

魔王子が次々と倒していくが、増援のスピードについていけずこのザマ。


魔王子「...奴ら、列車と同等の速度をだしているがそれ以上の速度を気軽に出せんようだ」


魔王子「接近されることは稀...だが、この列車も次第に目的地へと到着するだろう」


女騎士「...今走っている橋の下は城下町だ、もうじき魔王城につく」


女騎士「そして魔王城についたのなら...この列車は止まる」


女騎士「...万事休すだ」


目的地に到着したのなら、列車は止まるために必然的に速度を落とす。

そうなったのなら、死神は接近が容易になりあとは物量に押され敗色は濃厚だろう。
621 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:22:57.46 ID:NppwIhhA0

魔王子「...」


自分の持っている魔剣を握りしめる。

再び一体化をし風帝戦のように全面を攻撃しようと試みる。

そうすれば機転になるかもしれない、しかし不安要素が彼を悩ませる。


魔王子(今度こそは、剣が折れてしまうかもしれん...)


女勇者「...僕にまかせて」


女騎士「...わかった」


この修羅場になにを言い出したか、遠距離攻撃もできない分際で。

なにをするかはわからない、だが彼女は彼女に託した。

女騎士はどうすることもできない無念を悔やんだ顔をしていた。


魔王子「...まだやれると言っている■」


闇を出そうとした瞬間だった。

女勇者が魔王子に目線を合わせてきた。


女勇者「────"属性付与"、"光"」


──□□□□□...

眩い光と音が彼を包み込む。

光の魔力に侵食されていると言っても、魔王子自身の魔力が残ってはいる。

身体に重みが現れた、残りが限られている彼自身の魔力が抑えられてしまった。


女騎士「な...!?」


魔王子「──なにを考えているッ!?」


女騎士「ごめんね、でもこうでもしないと眩しいと思うから──」


死神「────モラッタ、シネ」


裏切りにも近い女勇者の光。

その時だった、その機会を逃す訳がなかった。

1匹の死神が急接近してきた、このままでは接触は免れない。
622 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:24:46.30 ID:NppwIhhA0

魔王子(...だめか)


女勇者「────"光魔法"」


────□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッ...!

遠距離攻撃はできない、それは光魔法でも同じであった。

彼女の魔法では遠くの敵まで無力化することはできない。

だが彼女は攻撃する為に魔法を唱えた訳ではない、皆を護るために唱えたのであった。


魔王子「...これは」


女勇者「このまま...日が沈むまで...僕が太陽の代わりに...」


事前に光に包まれていなければ、力は奪われさらには失明していただろう。

眩しすぎていた、それほどに巨大で強力な光だった、とてもじゃないが近寄れない。

これを作るには相当な魔力が要する、それを証明するように女勇者は汗を垂れ流していた。


女騎士「凄い...しかも持続させているのかっ!?」


女勇者「うんっ...だから、ちょっと集中してるから話しかけないで...!」


女騎士「す、すまん...だがこれは凄まじすぎるぞ」


死神「──グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、ッ!?」


魔王子「...!」


女騎士「...死神共も苦しんでいるぞっ! どうやら近寄れないみたいだっ!」


女勇者「──日没まであとどのぐらいっ!?」


死神がいる理由、それは日食だから。

つまりは日食が終われば、食われている日が沈めば。

彼女が創り出したその太陽が、この世の光の肩代わりをしている。


魔王子「────あと少しだッ!」


〜〜〜〜
623 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:28:08.67 ID:NppwIhhA0

〜〜〜〜


隊長「────ッ」ピクッ


ある1人の人物が目覚める、周りが暗くてよく見えない。

あるものを手に取ろうとするがいつもの場所にない。

仕方なく数本しかないサイリウムを折った、すると淡い緑色の明かりに包まれた。


隊長「...?」


──ずる...ずる...ずる...

足元に何かが巻きついている。

そして、何者かに足を引きずられている、そんな音が聞こえた。

触手のようなものが見えたが、もう1つの光景が彼を目覚めさせる。


魔女「────」


隊長「──魔女...ッ!?」


魔女がウツボカズラのような植物に捕食されかけていた。

彼女は気絶して動けず、自身は足を拘束されている。

絶体絶命のピンチだが、彼には心強い武器があった。


隊長「──ハンドガンがないッ!?」


いつもの収納場所にその武器はない。

しかし誰かが自分の身体にベルトでアサルトライフルを持たせておいてくれたようだ。

この武器は長さがありハンドガンよりかは扱いづらい、だが彼は難なく発砲をする。


隊長「────ッ!」スチャ


──ババババババッッ!

実弾に耐えられるわけもなく、植物は沈黙した。

拘束していた触手も同時に沈黙し、隊長は魔女に駆け寄った。

その顔は植物のせいなのか色々な液体まみれだった。


隊長「魔女ッ!? 無事かッ!?」


隊長「すまん...もっと早く気づけば...」


隊長「...お前が持っていてくれたのか」


魔女の両手に握りしめてある、ライトとハンドガンを見つける。

そっと、ほぐすように手を優しく開いてあげた。
624 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:29:34.00 ID:NppwIhhA0

隊長「魔女...しっかりしろ...」


隊長「俺だ、Captainだ...わかるか?」


魔女「────」


隊長「...鼓動はある、息もしている...死んではいない...よかった」


隊長「...ここは危険のようだな」


ここは危険な場所、ましては仲間が気絶している状態でこの場に留まるわけにはいかない。

彼女の持ってるハンドガンやライトをしまい、彼女を背負う。

そして暗い密林をアサルトライフルとライトを構えながら進もうとする。


隊長「記憶が確かなら俺は...」


思い返しながら、足を進める。

研究者のこと、闇に飲まれた自身のこと、ドッペルゲンガーのこと。

あまりにも規模の大きい出来事が自分に降り注いでいた。


隊長「...」


過去のことを振り返りながら、苦悶する。

魔女がちゃんと生きていることを確認し安心する。

両極端な気持ちがせめぎ合うなか、ある感情が芽生える。


隊長("あの野郎"は結果的に俺ではなくドッペルゲンガーによって殺された)


隊長(...結局、仲間の仇すらとれなかったのか)


そのドス黒い感情は、狂気。

狂気が彼の過去をフラッシュバックさせた。


〜〜〜〜
625 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:31:50.75 ID:NppwIhhA0

〜〜〜〜


???「...CAPTAIN!」


若い男の声が、車内に響いた。

その声は青くもあり、これからの伸びしろに期待できる声でもある。

キャプテンと呼ばれる男、これは彼がフラッシュバックした記憶。


隊長「...あぁ、すまん...寝不足なんだ」


男「しっかりしてください、あなたがこの部隊の責任者なんですから」


隊長「そうだな...軽率だった」


男「...今度は、1人で徹夜せずに私を頼ってください」


寝不足の原因、それは昨夜の書類仕事だった。

この頃の隊長には今のような威厳はなく、少しばかりルーズな印象があった。


隊長「それで、奴は?」


???「現在、動きがない模様です」


その声は同じく若い、それでいてハッキリとした喋り方。

芯の強そうな女性の部隊員が現状を報告した。

運転手を除くと、この車内には3人。


女「...本当にこの人数でいいのでしょうか」


隊長「報告によれば奴の逮捕には過去14回も失敗に終わっているらしい」


隊長「8回目ぐらいまでは本部も躍起になって追っていたらしいが...」


隊長「末端の俺たちにこの仕事がきたんだ...あとは察してくれ」


隊長「通信は逮捕に成功した時のみ送れとさ...参ったな」


女「はぁ...腐ってますね、なんて自由な国なんでしょうか」


男「問題児の我々にまわして来るなんて何を考えているんでしょう」


隊長「...その"我々"には俺も入っているのか?」
626 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:33:33.86 ID:NppwIhhA0

男「...気に入らない上司をぶん殴って、問題児ではないとでも?」


隊長「...お前は気に入らない上司に淡々と暴言を吐いたんだってな」


女「そんなことをして...まともなのは私だけのようですね」


隊長「いやお前が一番...まぁ、もうじき現場につくから最終セッティングをしておけ」


男「わかりました」


女「...了解しました」


隊長はいつもの、男も同じくアサルトライフルとハンドガン、そしてC-4。

女はその華奢な身体つきに似合わず、ショットガンとハンドガンを調整していた。

すると彼らを運んでいた車は動きを止めた、それが意味していることは1つしかない。


女「...どうやら、到着した模様ですね」


隊長「...ここか」


男「これが14回も特殊部隊を追い返した家ですか...」


女「居場所がわかっているのに逮捕できないなんて、一体なにが...?」


隊長「...何人も死傷者がでている、気をつけて行動してくれ」


いつも通りにやればいい。

ただ少しばかり難しい仕事が来た程度にしか思っていなかった。

この出来事が、彼の人生を変えるモノになるとは、この時は思いもよらない。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...これは」


この家の外見は富裕層の1軒屋。

近辺には何も存在せず、孤立した立地ではあるが妙な所などなかった。

だが潜入して間もなくその異常さが測れてしまう、玄関に散らばっていたモノとは。
627 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:36:15.87 ID:NppwIhhA0

女「Marijuana、Coke、Meth...全部ドラッグですね」


隊長「...どうやらこの建物自体は、ギャングたちのたまり場と化しているみたいだな」


男「まずいですね...そんなに手錠もってきてないですよ」


女「こんな奴ら、ぶっ殺してやればいいのでは?」


玄関は愚か、家の全体の床に転がっていた。

注射器、そして何かを燃やしたような跡、不快な香り。

そして極めつけは自力で起き上がることのできないギャングたちが横たわっていた。


隊長「...こいつらは動かなさそうだ、放置しておけ」


隊長「それよりも、ここがたまり場になっているならば..."奴"はここを家として使用していないようだ」


男「...隠し部屋、地下室、それとももぬけの殻」


女「その3つが有力ですね...私としては隠し部屋だと思います」


隊長「もぬけの殻はありえないだろう、奴は何度も実験を繰り返しているらしい」


隊長「実験道具ごとの逃走は時間も費用もかかるだろう...まだ潜伏しているはずだ」


男「私もその意見に賛成です」


女「...探索するために、散開しますか?」


隊長「あぁ...注意を怠るな、この屑共が目覚めて襲ってくるかもしれんからな」


〜〜〜〜
628 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:39:14.75 ID:NppwIhhA0

〜〜〜〜


隊長「...」


いくら広めの家だとしても、野外に比べたら狭い。

その狭さの中、器用にアサルトライフルでクリアリングを行う。

隊長の顔つきは若く、この頃から卓越したセンスの持ち主だということが伺える。


隊長(...それにしても、キマっている奴らが多いな)


彼は今2階部分と探索している。

その途中で通過した階段、廊下、そして2階の部屋にまでギャングたちが横たわっていた。

どれもこれも起きる気配は無く、不気味なものだった。


隊長(こいつら、なぜここに溜まってるんだ?)


珍しく勘が鈍い、いつもならある程度察しがついていたかもしれない。

それもそのはず、これは過去の記憶、キャプテンを務めてはいるがまだ青い。


隊長「────ッ!」ピクッ


そして、彼は見つけてしまった。

犯罪者嫌いを助長させる、無残な姿を。


隊長「...レイプか」


その子は両手両足がベッドに拘束され、身体は穢れていた。

ドラマや映画、現場の後始末、間接的にはその光景を何度も見てきた。

だが、現場での直接的な場面には初めて遭遇した。


隊長「...」スッ


乱れたブロンドヘアーを整えてあげ、顔を露出させる。

可憐な風貌だが、その顔に命は感じなかった。

そっと、目を閉じさせてあげた。


隊長「...Shit」


嫌悪感が沸き立つ。

今現在の隊長が犯罪者を毛嫌いするルーツがここにあった。

そのストレスに耐えきれず、設置されていた録画カメラを蹴飛ばした。
629 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:42:14.16 ID:NppwIhhA0

隊長「...」


──ガタッ!!

その時だった、この音は蹴飛ばしたカメラの音ではない。

物音がした方にアサルトライフルの照準を合わせる、そこに居たのは。


???「AAAAAAAAAAAAAA...」


隊長「...お前か? これをやったクソギャングは...」


ギャング「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!」ダッ


隊長「────ッッ!」スッ


──バキィィィッッッ!!

隊長の拳が顔面にぶち当たる。

飛びかかってきた勢いもあってか、顔面崩壊レベルの骨折になっている。


隊長「Fuck you...」


手をプラプラさせ、自身の拳に走る痛みを拡散させようとする。

手袋のおかげか、幸いにもコチラは骨折せずに済んだようだ。

じたばたと暴れているギャングの腕を手錠で拘束し、胸ぐらをつかむ。


隊長「ギリギリ生きてるな? 悪いが喋ってもらうぞ」


ギャング「aaaaaaaaaaaaaa...」


隊長「...チッ、やりすぎたか」


騒ぎを聞きつけてか、階段を登る音が聞こえる。

2人分の足音、おそらく部隊の仲間だ。


男「Captain? なにかありました...ってすごいことになってますね」


女「...レイプ犯ですか? なら当然の報いですね」


隊長「あぁ...こいつ下半身だけ裸だし、ほぼ確定だろう」


隊長「ただ、やりすぎた...喋れないようだ」


男「うわ...これ治るんですか?」


女「歯が何本も折れてますね」
630 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:43:49.94 ID:NppwIhhA0

ギャング「aaaaaaaaaaaaaaaaaa...」グッグッ


隊長「...おかしいな」


男「なにがです?」


隊長「対峙したときもそうだったが...興奮しすぎではないか?」


ギャングの腕は手錠で拘束されている。

派手に動けば痛みが走るだろう、それなのに手錠を引きちぎろうとしている。

まるで、人間の理性を失っているような光景だった。


女「確かに...言われてみればおかしいですね」


男「キマっているのでは?」


隊長「...情報を吐かないなら、放置だな」


男「念のため私の手錠で足も拘束しておきますか」


女「当然です、レイプ魔に人権などありません」


隊長「...まだ容疑の段階なんだけどなぁ...問題児チームと言われるのがわかる」


男「致命傷を与えたあなたがいいますか」


隊長「...減給で済めばいいさ」


女「それよりも、地下室を発見しました」


女「扉はかなり歪んでいて、開けることはできませんでしたが...」


隊長「Jackpotだ、早速向かうぞ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


──ボンッッ!!

小さな炸裂音とともに、歪なドアは破壊された。

彼の所有していたあの装備は、このように使われた。


男「C-4は便利です、さすがマスターキー」


女「何を言っているんだか...」
631 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:45:45.72 ID:NppwIhhA0

隊長「...どうやら、奴はここにいるな」


3人がクリアリングをしながら辺りを確認する。

その内装はいかにも、ラボといえるようなモノだった。


男「真っ白ですね、形から入るタイプなんでしょうか」


女「Clear...大学のラボですらこんなあからさまじゃないですよ」


隊長「様々な実験装置のようなものがあるな...奴の資金源が気になる」


女「どうせマネーロンダリングですよ、そっちを潰すより直に逮捕したほうが早いと思います」


隊長「あぁ...逮捕したら尋問しなければな」


──ガタンッッ!

奴に資金を与えている奴らも、今後調査しなければならない。

増える仕事の段取りを考えているその時だった。

奥の方の扉から、裸の女性が現れた。


隊長「──Freez...」スチャ


男「...Civilian?」


???「...」


女性が沈黙するが、息がかなり荒い。

裸ではある上に髪の毛は丸刈りにされている。

まるで、映画にでてくるような実験体のような見た目であった。


隊長「そのまま動くな、ここでなにを──」


実験体「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!」ダッ


女性が全速力でこちらに走ってきた。

その顔は人であることを忘れているような顔。

隊長目掛け飛びかかってきた。
632 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:48:22.10 ID:NppwIhhA0

実験体「──ッッッ!?」


──ダァァァァァァァァンッッッ!!

鈍い銃声とともに、女性は吹き飛ばされた。

ジャコンッ、そのようなポンプの音とともに女は叫ぶ。


女「────FUCK OFFッッ! BITCHッッ!!」


男「...なにを考えている、死んで尋問できなくなったらどうする」


女「明らかに向こうに殺意がありました、正当防衛です」


男「殺意があろうと向こうは丸腰だぞ、テーザーを使え」


隊長「...この際、女のトリガーハッピーのことは置いておこう」


隊長「だが...この女性、明らかに様子がおかしい」


撃たれた女性は足を中心に被弾した模様だった。

これでは立つことは不可能だろう、しかし女性はもがいている。

そのもがき方は痛みに耐えきれなくてという風には見えなかった。


実験体「AAAAAAAAAAAAAッッ!」


女「まだ襲いかかろうとしてますね」


男「...Zombieですか?」


隊長「そんな非現実的なことがあってたまるか」


女「...見てください」


女が女性の首元に指をさす。

そこには大量の注射器の跡があった。


隊長「...なにかを投与されたのは間違いないな」


男「ドラッグですかね...」


隊長「なんとも言えん...」


──ガタンッッ!!

再び、奥の扉から裸の女性が現れる。

その数は多く、わらわらとこちらの部屋に入ってきている。


隊長「...あながちZombieなのかもしれんな」


男「どれもこれも女性ばかりですね...」


女「...虫唾が走りますね」
633 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:50:56.56 ID:NppwIhhA0

実験体A「AAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」ダッ


隊長「彼女らも、なにかを投与されているみたいだな」


隊長「...発砲は控えるな、でないとこちらが殺されるぞ」


──ダァァァァァァァァンッ!!

その言葉を聞いてか、それとも彼女のトリガーが軽すぎるのか。

射撃音とともに3人のエネミーが倒れ込んだ。


女「──KILL THE BITCHッッ! HAHAっ♪」ジャコン


男「トリガーが軽すぎる...と言ってられませんね」スッ


──バババッ!! バババッ!!

精密な射撃回数と精度とともに、エネミーを排除していく。

単純な話、激しく動いているとはいえ直線上に走る彼女らなど唯の的に過ぎない。


隊長「...14回も失敗しているのはこいつらが原因なのか?」


男「わかりません...たしかに危険なのはわかりますが...」


女「これなら、銃をもったギャングたちのほうが危険ですね」


すべてのエネミーを倒し、冷静になった彼らたちが疑問に答えた。

異常な興奮状態で襲いかかるとはいっても所詮は丸腰。

銃を持っている特殊部隊の敵ではないのは確かだった。


隊長「...進むぞ」


被弾して横たわってもなお、うごめいている彼女らを素通りする。

扉を越えた先は先程の白の空間とは別の色で彩られていた。

鼻に刺さる腐敗臭、そしてそこには遺体が大量に転がっていた。


女「──ひどい」


男「Captain...これはもしかして」


隊長「...14回目の作戦は1ヶ月前だそうだ」


隊長「この遺体の状態からして...別の部隊と断言できる」


隊長「...今回はお前のトリガーの軽さに助けられたな」


そこには銃器と肉塊が大量に転がっていた、形状が保てない程にめちゃくちゃにされている。

おそらく、この部隊は女性たちをできるだけ射殺せずに対処したと思われる。

それは失敗に終わり、暴虐の限りを尽くされた無残な結果に。


女「...あそこで撃ってなければ私たちもこうなっていたわけですね」
634 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:52:31.94 ID:NppwIhhA0

男「首元は歯型でいっぱいだ...とんだキスマークですね」


隊長「しかし...なぜ襲いかかるのか」


女「...私としては、薬物による影響としか思えません」


男「キマった奴が理性を失い、殺人事件を起こすなんてよくある話ですね」


隊長「...そうだな」


部下の言葉に納得をしてしまう、過去の隊長にはするどい勘など備わっていなかった。

血みどろの部屋を通り抜け奥に進む、隊長が言葉にしなかったある1つの考えが今後彼を苦しめる。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


──ガタンッッ!!

2人の足がドアを蹴破った。

そしてすかさずに彼らは行動を始める。


隊長「...Clear」


女「こっちもClearです」


男「異常なし...どうやらここが実験施設のようですね」


辺りを見渡せば簡単に察することができた。

大量の医療器具のようなものと、ホルマリンが詰まった大きなカプセルが並んでいた。

そしてその中には、肉塊のようなものが浮いていた。


隊長「なんなんだこれは...」


男「まるで、サイコホラーの映画みたいですね...」


女「一体、なにを実験しているのでしょうか」


あまりの光景に、3人は目を奪われてしまった。

3人とも大学は出ており、ある程度の知識は所有している。

だがそれを遥かに凌駕する情報がこの部屋には詰まっていた。


男「...これは」


男が落ちていた注射器を手に取った。

そのラベルには、ある物質名だけが載せられていた。
635 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:56:05.90 ID:NppwIhhA0

男「..."α"アドレナリン?」


女「──もしかして...」


隊長「なにか...わかったのか?」


女「...仮説を立ててもよろしいですか?」


隊長「あぁ、頼む」


女「おそらくですが...彼女たちが打たれたのはドラッグではなくアドレナリンです」


女「アドレナリンには興奮成分が含まれています...おそらくそれが影響して攻撃的になっているのかと」


女「ですが...」


彼女たちが攻撃的な理由が判明したが、1つ疑問点が生まれていた。

それは得意分野でない隊長や男でもわかったことだった。


隊長「医療にもアドレナリンは使われているはずだ...だが」


男「それが原因であのような状態になっている...そんな事例は聞いたことないですね...」


男「...大量摂取でああなったということは?」


女「...それなら副作用で強い疲労感などが起こるでしょう」


女「あんなにアクティブに動けるはずがありません...」


女「...やはり仮説に過ぎませんね」


柄にもなく自虐めいたことを吐き出す。

だがこの仮説にはある1つの考慮が抜けていた、それは奴のことであった。


隊長「...いま追っている奴は優れた科学技術を持っていると聞いた」


隊長「αというのは...手を加えたということか?」


女「...かもしれませんね」


隊長「...見ろ」スッ


隊長が指を指したその先。

病院などでよく見るカーテンに仕切られたベッドだった。

影がカーテンに写り込んでいる、2人はその光景を確認すると行動を始めた。


男「...」


男が先陣を切った、アサルトライフルを構えながら。

カーテンつかみ一気にそれを引っ張った、そこに居たのは。
636 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 22:57:45.21 ID:NppwIhhA0

隊長「...これは?」


女「投与前の状態ですかね...」


実験体B「────」


そこには、裸で坊主頭ではあるが眠っている女性がいた。

身体は拘束されているが、健康状態は良好そうであった。


隊長「...まさか」


その顔を見て、思い出す。

髪型は変わり果てているが見覚えがある。

昨夜の書類に強い心当たりがあった。


隊長「──ッ!」ピッ


インカムに手をかけた、本部に連絡を入れるつもりだ。

本来なら逮捕に成功した時のみに許される行動だった。

しかし、それは失敗におわる。


隊長≪急いで調べてもらいたいことがある、昨日送られてきた失踪届を──≫


≪ザーッ...ザーッ...≫


隊長「──こんな時に故障か?」


男「...どうしましたか?」


隊長「...それがだな」


──ガコンッッ!

核心をついた仮説を行おうとしたその時だった。

その音と同時にあたりが暗闇に包まれた。


女「──なんですかっ!?」


男「ブレーカーが落とされたか?」


隊長「...いや、それだけではなさそうだ」


女「今、ライトを──」ピクッ


女がライトをつけようとしたその瞬間。

隊長に引き続き、状況に気づいた男がそれを制止した。


男「...耳を澄ませ、いるぞ」


その言葉通り冷静に耳を研ぎ澄ます。

微かに聞こえる鼻息、音は小さいがとても荒い、彼女らだ。
637 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 23:00:07.50 ID:NppwIhhA0

隊長「...今の状況、こちらもあちらも目視できないはずだ」


虫の羽音並の小声で、状況を伝えた。

お互いに闇に包まれている、こちらが動けば奴らも動くだろう。

このまま静止状態でいればやり過ごせるかもしれない、そんな時だった。


実験体B「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!」


──ガチャンッ! ガチャンッ!

この唸り声と騒音は隊長の辺りから鳴ってしまっていた。

ベッドに横たわっていた彼女はすでに投与済みだった模様。

その音に釣られ、彼女たちが向かってくる音が暗闇に響いた。


女「──FUCKッッ!」


──ダァァァァァァァンッ!!!

暗闇に向けて射撃した銃弾は、あまり効果的ではなかった。

ぺたぺたぺたぺた、と可愛らしい裸足の音が聞こえるが当人たちにとっては恐怖の音でしかなかった。


男「くっ...ライトを──」カチッ


実験体C「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」ガバッ


男「────HOLY SHIIIIIIIIITッッ!」


──ババババババババババッッ!!

男の冷静な性格には似合わない、フルオート射撃。

射撃音の後には、まるで肉が何かに刺さったような音が響く。


男「──がああああああああああああああああああああッッ!?!?」


隊長「────ッッ!!」スチャ


悲鳴のする方にライトを構えた。

そこには、数人に群がられる男が叫んでいた。

ライトに照らされた場所を確認すると、トリガーハッピーが超精密射撃を行った。


女「...っ」スチャ


──ダンッ ダンッ ダダンッ!!!

その音はサイドアームのモノ、素早く取り出したハンドガンが彼女らを葬った。


女「──MOTHER FUCKING ENEMYSッッッ!!」


いくら青いとはいえ、その隙を隊長が見逃すわけがなかった。

負傷した男の肩を支え、急いで戦線離脱を試みる。
638 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 23:01:35.24 ID:NppwIhhA0

隊長「──I NEED BACKUPッッ!」


女「UNDERSTANDッッ!!」


暗闇の中、無我夢中で距離を作ろうとした瞬間だった。

隊長の持っているライトが、入ってきたドアとは別のドアを見つけた。


隊長「──MOVEッッ!!」


その声に反応して、女が腰にあるモノに手をかけた。

黒くてまんまるでピンが刺さっているものだ。


実験体D「AAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」


女「ROOM SERVICE♪ FUCK...」


──からんからんっ

急いでドアを越え、彼女らが入らないように2人がかりで入り口を抑えている。

すると、けたたましい炸裂音のあとに沈黙が訪れた、彼女らはグレネードによって処理された。


隊長「...やったか」


確証を得るため、少しだけドアを開けた。

そこにあったのは、肉片と絵の具のように赤い液体だった。


女「いません、殲滅しました...」


隊長「...具合はどうだ?」


男「大丈夫です、このまま作戦を続行しましょう」


脂汗をかきながら、そう返答した。

しかし、その小芝居はすぐに見破られてしまう。

隊長がライトで、彼の手を照らした。


隊長「...かなり深く噛まれているな」


女「こ、これは...」


男「...すみません、しくじりました」


隊長「もはや野生動物だな...彼女らは」


女「応急処置をします、動かないでください」


男「...ッ!」ピクッ


女「エグいですね...こんなにも深く...」


収納から、包帯をとりだした。

手早く処置を行う様は、トリガーハッピーとはいえ女性らしさが詰まっていた。

その傍らに、隊長がこの部屋のあたりを散策しているとあるものを発見した。
639 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 23:03:15.40 ID:NppwIhhA0

隊長「...ブレーカーがこんなところに」


──ガコンッッ!

すこし重たいレバーを上げるとあたりが光に包まれた。

どうやらこの部屋は監禁部屋のようで、いくつもの鉄格子付きの個室があった。

そして、男の全貌が明らかになった。


女「...装備越しにも噛まれてますね」


手のひらには1箇所だけだったが、足の方は数カ所も噛まれていた。

布でできているとは言え、特殊部隊の装備である。

かなり頑丈にできているというのに、その噛み跡からは血が少し混じっていた。


男「...ここから先は役に立てなさそうですね」


隊長「今はそんなことを言っている場合ではない」


隊長「...2人はここで待機していろ」


女「それは危険すぎます...ここは撤退しましょう」


隊長「...それはできない」


女「なぜですっ!?」


怪我人が出ている、普通なら撤退は許可されるであろう。

しかしそれは許されなかった、その理由はこのブレーカーに存在していた。


隊長「...このブレーカーは手動で下げられた可能性がある」


隊長「彼女らがこれを下げれるとは思えない」


女「...それはつまり」


隊長「そうだ...誰かが俺たちを監視している」


男「..."奴"ですね」


隊長「あぁ、そいつは過去14回も逮捕を逃れている...ここで撤退すれば相手の思う壺だ」


隊長「だが、怪我人は許容できない...だから、俺1人で行く」


男「...なるほど」


隊長「...わかってくれ」


女「...」


隊長「...お前らは、ここで待機しながら本部への通信を試してくれ」


隊長「ここで得た情報はなんとしても持ち帰らないといけない」
640 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 23:06:10.18 ID:NppwIhhA0

隊長「...おそらく、ここに関する情報は過去14回とも持ち帰れずに全滅したと思われる」


男「でしょうね...彼女らの情報なんて一切知らされていませんでしたし...」


隊長「...頼んだぞ」


2人とも返事を行わなかった、その指示に不満があったからだろう。

しかし、最善案は隊長が提示したものであることは間違いない。

部下の2人は沈黙、その沈黙を肯定と受け止めた彼は1人進んで行く。


女「...」ピッ


≪ザーッ....ザーッ...≫


女「この分だと、ジャミングされていますね」


男「監視を受けているかもしれないんだ、当然ですね」


女「...足の方も処置します」


男「...」


痛いほどに、静かだった。

なによりも心に響いたのは、現状立つことすら厳しい状況の自分だった。

自分のせいで、女はここに留まらなければいけない。


男「...この処置が終わったら、Captainと一緒に行ってくださ────」


女「──それはできません」


男「...この作戦の目的は奴の逮捕です、私の護衛ではありません...行ってください」


女「...それはできません」


女とて、それはわかっている。

いま自分が隊長についていけば逮捕できる確率は上がるだろう。

だがここを離れてしまったら男の安否は保証できない。


男「...わかってください...私を必要としてくれたCaptainの邪魔だけはしたくないんです」


男「こんなひねくれ者の私と仲良くしてくれる上司は彼だけなんです」


女「...私だってそうです」


男「なら...わかりましたね...?」


女「...ごめんなさい」スッ


処置を終え、ショットガンを力いっぱい握りしめる。

そしてそのまま男から離れていった、何度も振り返りそうになるが、女は前を見て去っていった。


〜〜〜〜
641 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/13(木) 23:06:59.86 ID:NppwIhhA0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
642 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:17:28.90 ID:BYaPhkOk0

〜〜〜〜


隊長「...」


いつ敵が現れるかわからない、いつ罠を踏むかわからない。

極度の緊張状態が続く中、行き止まりに扉を見つけた。

一呼吸おいてドアを蹴破ろうとした瞬間だった。


女「──まってくださいっ!」


隊長「──ッッ!」


後ろから声をかけられて軽く身が浮いた。

しかしその聞き慣れた声に鼓動は平常通りに戻っていく。

そして少しばかり圧のある声で返事をする。


隊長「...待機を命じたはずだ、命令無視は許されんぞ」


女「申し訳ございません...ですが、彼と私の意思で来ました」


女「処罰なら逮捕後にお願いします...」


隊長「...とっとと終わらせるぞ」


女「...はいっ!」


隊長「...Three、Two、One」


────ドガァァァッッッ!!

2人の蹴りがドアを吹き飛ばした。

そしてその部屋の中には白衣を着た男がいた。


女「──PUT YOUR HANDS UPッ! MOTHER FUCKERッ! 」


研究者「...やぁ」


女がかなり汚い言葉で叫ぶが、それを無視してのんきに挨拶をした。

異世界では研究者と名乗っていた男が背中を向いてパソコンをいじっている。

手を挙げないどころかこちらすら向こうとしない研究者に、再度命令をだそうとした時だった。
643 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:19:29.50 ID:BYaPhkOk0

隊長「こ、これは...」


研究者「見ての通りさ、失敗作だよ」


ここは隔離所なのだろうか、大量の遺体が転がっていた。

女性たちと共に、子どもの遺体も存在していた。


女「...Jesus」


研究者「子どもの身体はだめだね...変化に弱すぎる」


研究者「男性の被験体がほしいところだけど...私では女性や子どもしか拉致できないよ」


隊長「...狂っているのか?」


研究者「その言葉は学生の時から聞き飽きてたよ」


研究者「...それにしても、ここに来るなんて君たちが初めてだよ」


研究者「大体は撃つのを躊躇ったり、パニックになったりして全滅なのに」


研究者「随分と...人を殺し慣れているんだね?」


女「...ふざけたこと言わないでください」


研究者「だってそうだろ、彼女らは異常興奮しているだけだよ」


研究者「...ただの市民じゃないか、それに発砲するだなんて君たちのほうが狂ってるよ」


隊長「────ッッ!!」ピクッ


この研究者の煽りが、想像以上に隊長を揺さぶった。

たしかに言われてみれば彼女らは薬を投与された市民である。

罪のない彼女らを射殺したという事実に変わりない。


研究者「...ほら、狼狽えているじゃないか」


女「...Captain?」


研究者「所詮君らは、正義を謳った殺人鬼なのさ」


隊長「...黙れ」


女「Captain、冷静になってください...これは挑発です」
644 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:21:14.81 ID:BYaPhkOk0

研究者「...ほら読んであげるよ」


そういうとタイピング作業をやめ、ある冊子を取り出した。

無機質な作りのノート、そしてそこには鉛筆で殴り書きしたような文が見えた。


研究者「これは投与してからどれぐらいまで理性が残っているかの実験に使った日記だよ」


研究者「ここに来るまでに監禁部屋があったろ? そこに備え付けてたんだけど」


研究者「...この子はかなり不安がっていたみたいだね、投与前から書いてるや」


研究者「..."お母さんごめんなさい、わたしがまちがってたよ"」


研究者「"死にたくない、死にたくない、お父さん助けて"」


研究者が朗読したというのに、隊長にはまるでその日記を書いた女性の声に聞こえた。

犯罪者なら状況によっては射殺することはある、だが市民を殺してしまったのはこれが初めてだった。

自分の中の正義がグラつく感覚が、幻聴じみた声を産ませていた。


隊長「...やめろ」


研究者「かわいそうに...私は薬を投与しただけで殺してはいないさ」


女「──CAPTAINッ! 耳を貸してはいけませんっ!」


研究者「だから...殺したのは君たちだよ」


──ダンッ!

ぐらっ、そう音を立てて自分の中の何かが崩れた。

そして、その音がある感情に変わり右腕を動かしてしまった。


研究者「...随分感情的だなぁ、殺されかけたよ」


隊長「フーッ...フーッ...フーッ...」


右腕にはハンドガン、そして思わずトリガーを引いてしまっていた。

しかしそれは別の手によって阻まれた、自分の左腕ではない、両手で止められていた。


女「...落ち着いてください」


この状況で、一番落ち着いていたのはトリガーハッピーであった。

抑えていた両手をそのまま動かし、隊長の手を包んだ。
645 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:23:26.17 ID:BYaPhkOk0

女「初めてここに来て襲われたとき、私は躊躇なく発砲しました」


女「...あの時、私が発砲していなければCaptainたちが殺されていたかもしれません」


隊長「...ッ!」


女「なぜ私はトリガーハッピーなのか...銃を撃つのが好きだからという理由ではありません」


女「...この銃で仲間の無事を得られて嬉しいからですっ!」


女「この事件が明るみになって、市民を躊躇なく殺した殺人鬼と罵られようと」


女「この銃で仲間を助けたことを誇りに、トリガーハッピーを続けていきますっ!」


倫理的には、治安を守るものとしては大きく間違っている。

だが彼女の正義は大きく、そして揺らぐことのないモノだった。

その言葉が隊長の正義を持ち上げ、舗装していく。


隊長「...とてつもない覚悟だな」


女「見直しましたか?」


隊長「...初めから歪んだ目でお前を見てないさ」


ここに、隊長の強すぎる正義のルーツが存在していた。

たとえ人殺しの偏見を受けても、仲間を守れる誇りが彼の心を支える。


研究者「なんとまぁ...都合のいい話だね」


研究者「聞こえはいいけど、人殺しだよ?」


隊長「...そんなことは銃を持ったときにわかっていた」


隊長「おしゃべりはここまでだ...逮捕だ」


研究者「...はいはい、手をあげますよ」


──ガチャッ...!

2人が研究者に近寄って、手錠をかけようとしたその時だった。

ドアに誰かが立ち止まっていた、振り返るとそこには見慣れた顔の人物がいた。


男「...」


隊長「...男か、大丈夫か?」


女「もう、歩けるんですか?」


男「...」ズルズル


研究者「...おや?」


足を引きずりながら、こちらに近寄ってくる。

その息は少しばかり荒かった、その様子をみて研究者はほくそ笑んだ。
646 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:25:44.84 ID:BYaPhkOk0

男「──Cap...tain...」


隊長「...?」


研究者「あらら」


女「...まさかっ!?」


先に声に出したのは女だった。

しかし隊長もうすうすと感づいていた。

だが認めたくなかった、どうしても認めたくはなかった。


男「...私が、私であるうちに...殺してくだ...さい...」


人としての最後の理性、そして最後の言葉がこれであった。

そして研究者は余計な一言を女に添える、運命はこのマッドサイエンティストに追い風を送る。


研究者「仲間がまた襲われそうだよ、撃たないのかい?」


女「こんなの...ひどすぎます...」


男「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」ダッ


隊長「──No...」スチャ


異常興奮した男が女に駆け寄った。

それに気づいた隊長はハンドガンの照準を男に向ける。

撃てるわけがなかった、仲間のために仲間を撃つだなんて、そんな正義など彼らにはなかった。


女「────っっ!!!」


──ブチブチッッ!!

女の首元が噛みつかれた。

その音はあまりにもエグく、深く食い込んでいた。

そして、この隙に研究者は逃げ出した。


研究者「いいものを見せてもらった、これをあげるよ」


──からんからんっ!

隊長の足元に、注射器を投げた。

そんなことなど気にせずに隊長は立ち尽くしていた。


研究者「αアドレナリンは血液感染の性質を持っている、このままだとどんどん蔓延するかもしれないよ」


研究者「だから、このワクチンを使うといい...問題はここで使い切るか、持って帰るかだね」


研究者「これは1人分しか入ってないけど、量産は容易だと思うよ...じゃあまたね」


この外道はこの状況で究極の選択を押し付けてきた。

仲間のためにここでワクチンを使うか、人類のためにワクチンを持って帰るかの選択。

自分の言いたいことを言ったらすたこらと逃げてしまう、だが隊長はそれどころではなかった。
647 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:27:38.05 ID:BYaPhkOk0

隊長「────NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッッ!!」ダッ


──ドカッッ!!

だいぶ判断に遅れたが、ようやく行動に移る。

射撃ができないのなら取り押さえることしかできなかった。

男にタックルを浴びせ、そのままマウントをとり拘束する。


男「AAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!」グググ


隊長「頼む...ッ! 抵抗しないでくれ...ッ!」グググ


馬乗りになっているはずの隊長が押され気味であった。

リミッターが完全に外れている成人男性の力はとてつもない。

あっという間にマウントは解除され、隊長が突き飛ばされた。


隊長「──ッ!」ドサッ


突き飛ばされ、仰向けの状態から起き上がろうとした瞬間だった。

完全に理性を失った男の視線が合う、そして先程の最後の言葉が頭を巡った。


隊長「...やるしかないのか」


ハンドガンを力一杯握り占める。

その手は震えており、照準がかなりぶれる。

正義のために、初めて仲間を殺す覚悟をきめる。


隊長「許してくれ...」スチャ


──ダンッ!

部屋に、小さめの銃声が響いた。

その音は隊長からではなく、女の方から聞こえた。


女「...」


トリガーハッピーはこの日初めて、静かに発砲を行った。

発砲した向きが関係し、2人とも返り血を浴びずに済んだ。


男「────」


いくらモンスターめいた状態でも、彼は人間である。

頭に浴びた銃弾を受け、そのまま倒れ込んでしまった。


隊長「...なんてことだ」


そのあまりの光景に、隊長は頭を抱えてしまった。

理由はどうあれ、仲間が死んでしまった。

仲間が仲間の手によって、死んでしまった事実が彼を襲った。
648 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:29:18.60 ID:BYaPhkOk0

女「Captain...」


首元を深く噛まれた女が近寄ってきた。

そのあまりの痛々しさに隊長は静かにパニックに陥る。


隊長「俺は...どうしたらいいんだ...」


女「...行ってください」


隊長「どこに行けばいいんだ...部下を残して...」


女「もうここに部下はいません...直に私も...」


すでに血液感染が進んでいると思われる。

もうここにまともな状態な人間は、隊長しかいないだろう。

だが1つだけこの最悪な状態を打破できる代物が存在していた。


隊長「...そうだ、ワクチンがッ!」


乱雑に投げしてられたワクチンを入手する。

これを打てば、女だけでも助けることが可能。

早速女に注射器を刺そうとした瞬間だった。


女「──だめですっ!」


しかし、それを大声で否定をした。

軽いパニック状態の隊長はその声を聞いて動きを止めてしまった。


隊長「...なぜだ」


女「これを使えば貴重なワクチンがなくなります...」


女「近い将来...このウィルスめいたものが蔓延し、国中がパニックになるかもしれません」


女「その時までに...これを量産しておくのが最善です...」


隊長「...ふざけるな」


隊長「これ以上...仲間を失ってたまるか...」


隊長「...使うぞ」


女「──動かないでくださいっっ!!」スチャ


そう言うと、女は自分の頭にハンドガンを突きつけた。

その顔は、血と涙でめちゃくちゃであった。


女「このまま使ったのなら、頭を撃ち抜きます」


女「Captainに言いたいことも言わずに...死にます」


隊長「...頼む、わかってくれよ...ッ!」
649 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:31:40.27 ID:BYaPhkOk0

女「そちらこそ...わかってくださいっ!」


女「ソレがどれだけ重要なものかを...っ!」


ワクチンの価値、そんなことは隊長にだってわかっている。

何度も仲間の死に遭遇した、だがこれほどまでに残酷な場面は初めてであった。

あまりにもひどい現状に隊長はついに沈黙するしかなかった。


女「...忘れないでください、人を撃つことを躊躇ってはいけません...」


女「それが犯罪者でも...市民でも...仲間でも...障害になるなら...殺すしかないんです...」


女「そこで殺すという選択肢を取らなかったことで、誰かが殺されるかもしれません...」


女「仲間を守れるのなら...たとえMURDERと罵られても私は満足です...」


女の強すぎる正義、それ隊長の心を完全に支えた。

障害になるなら殺すしかない、そこで殺せば被害は最小限に留めることができる。

特殊部隊という仕事の真骨頂がそこにあったのかもしれない。


隊長「...どうしてそこまで強くなれる」


女「...こんな私に偏見もなく、ありのままを評価してくれる仲間がいるからです」


女「あなたも...彼も...たった2人しかいませんが、私には十分でした...」


女「さっきの言葉は...彼の受け売りです...」


女「いくら犯罪者が相手でも、人を殺しすぎて悩んでいる私に彼はそう言ってくれました」


女「私にはトリガーが軽すぎると怒りますが...彼だって結構軽いんですよ」


エグい傷口には似合わない微笑ましい笑顔だった。

男と女、彼らがこの末端の部隊にとばされた理由はそのトリガーの軽さだったのかもしれない。

少なくとも男はそのトリガーの軽さで上司と口論になった、そのような背景が思い浮かべられた。


隊長「...トリガーの軽さなんて気にしていなかった」


隊長「2人とも...今まで一度も市民や仲間に誤射などしなかったからな」


隊長「...いい腕だ、いい腕だったな」スチャ


女「...はいっ」


隊長「...いいな?」


女「絶対に...あのMOTHER FUCKERをぶちのめしてくださいね...?」


隊長「当然だ...仇は討つ」


──ダンッッ!


〜〜〜〜
650 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:34:22.10 ID:BYaPhkOk0

〜〜〜〜


隊長「...すまない」


どれだけ時間が経過したのだろうか。

フラッシュバックは終わった、今も足は進めている。

最後に聞こえたハンドガンの銃声が今も耳に残っている。


隊長(10年もの間、アイツを追った...)


隊長(身体も、精神も、すべて鍛えたつもりだった)


隊長(なのに俺は...怒りに囚われ...身体を乗っ取られた)


隊長(...この手で仇すら討てずに終わった)


隊長「...すまない」


すべてが無に終わったような感覚だった。

彼の正義はまだ生きている、だがそれを支える彼の精神は完全に崩れた。

2度目の謝罪、そして目から熱いものが流れ、ついには進めていた足すら止まってしまう。


魔女「...泣いているの?」


背後から、弱々しい声が聞こえた。

本当なら嬉しいというのに、今はすべてが無気力になっている。

目を覚ました喜びを捨て、おぶさっている魔女に淡々と返答をする。


隊長「魔女...起きたか」


魔女「うん...おはよ」


隊長「...俺はもう、動きたくない」


魔女「...どうして?」


隊長「もう、だめなんだ...」


隊長「心が折れてしまったような気がするんだ...」


魔女「...一回、座ろうか」


その弱々しくもあり、優しさのつまった小声に彼は従った。

ある程度の太さのある木の根元に、2人が寄りかかった。
651 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:35:28.41 ID:BYaPhkOk0

魔女「もう、辛いの?」


隊長「あぁ...」


魔女「...そっか」


隊長「...」


魔女「喋りたくもない...?」


隊長「...あぁ」


魔女「そっか...」


ただ時間が過ぎていくだけの不毛な会話だった。

一向に話は進展しない、だが魔女がそれを打破してくれた。


魔女「...私はね、辛いことがあったらお姉ちゃんにいつも慰めてもらってたの」


魔女「こうやってね...」スッ


隊長の手に自分の手を重ねてきた。

基礎体温の差なのだろうか、手袋越しでも温かみを感じる。


隊長「...」


魔女「...ゆっくりでいいから、私に教えて?」


魔女「何があっても、この手を離さないから」


魔女「何があっても...あんたの味方でいるから」


口を縫った糸がほつれていく感覚があった。

重く閉ざされた隊長の思考がどんどん開放され始めていった。

魔女の手を強く握りしめた、彼女に全てを明かす覚悟ができた様だった。


隊長「...俺は───」


過去にあった出来事、人を殺せる理由も、研究者がどれほど憎かったかも。

生まれて初めて両親以外の前で弱音を吐いた、情けない光景だったのかもしれない。

全てを話した、それでも魔女はずっと手を握っていてくれていた。
652 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:36:43.65 ID:BYaPhkOk0

隊長「...仇すら討てない男になにができるのだろうか」


隊長「部下の想いを紡ぐことができなかった今...帽子の想いも継げる自信がないんだ...」


魔女「...こっちの世界に来る前も、大変だったんだね」


隊長「あぁ...」


魔女「...がんばったね」


隊長「...頑張っていない」


魔女「がんばったんだよ」


隊長「...頑張っても、達成できなければ意味がないだろ」


魔女「それでも、がんばったんだよ」


隊長「やめてくれ...」


目頭が熱い。

思わず、顔を反らしてしまった。

泣き顔なんてモノは、彼女に見られたくない。


魔女「...私が同じ立場なら、すぐ心が折れちゃうよ」


魔女「さっきも...もうダメかと思ったことがあったんだ」


隊長「...」


魔女「でもね...なんとか乗り越えられたんだよ」


魔女「...なんでだと思う?」


握られている手をさらに強く握られた。

それに反応して反らした顔を元の位置に戻した。

そこには、こちらを見つめている魔女の顔があった。


魔女「...ちゃんと言ってなかったから言うね」
653 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:37:18.05 ID:BYaPhkOk0










「"あなた"のこと...好き...なの...」









654 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:39:00.38 ID:BYaPhkOk0

その言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が早まるのを感じた。

どくどくと、初めてビールを飲んだ時のように。

目頭の次は顔全体が熱くなっていた。


魔女「あなたが居てくれたから...心が折れずに済んだの」


魔女「...護りたいと思える人がいるから、折れなかったの」


魔女「私は...何があってもあなたに着いていくよ」


魔女「辛いことがあったのなら...私が支えてあげるから...」


隊長「...魔女」


その愛の告白は、甘酸っぱいものではなかった。

慈しみに近い、まるで往年の夫婦が使う言葉だった。

その暖かみのある言葉に、ついに隊長も吐露をした。


隊長「...俺だって、お前のことが好きだった」


隊長「いい年こいて、一目惚れだった」


魔女「...」


隊長「...俺は37だ、お前とは歳が離れている」


隊長「俺の世界じゃ変態扱いされるかもしれん...だがもうどうでもいい」


隊長「──お前が居てくれるなら頑張れる...一緒に着いてきてくれるか?」


魔女「...もちろんよ、どこまでも」


強い握手を交わした、新たに護るべき者が増えた。

背負うべき命が新たに増えた、その命の重みがまた1つ彼を支えていった。

強すぎる正義を支えられる精神が、彼女のお陰で培っていく。


隊長「...魔女」スッ


──ぱちーんッ!

映画のラブシーンなら、ここでキスの1つぐらいは定石だろう。

だが次の瞬間、彼が得られたのは唇ではなかった、それはその音が証明してくれる。


隊長「...なぜ叩いた?」


魔女「...ごめんなさい」


魔女「でも、できない理由がこちらにはあるのよ」


それもそのはず、魔女は先程までかなりの量の吐瀉物を出していた。

できるわけがなかった、隊長が痛みで涙を流すのはこれが初めてだろう。

頬が痛いのか、心が痛いのか、両方なのかは本人のみぞ知る。
655 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:40:16.72 ID:BYaPhkOk0

隊長「...」


魔女「...そんなに落ち込まないで、あとでしてあげるから」


隊長「あぁ...あ、あぁ...」


魔女「...そうだ、"アレ"を試してあげるわ」


隊長「...アレ?」


魔女「..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

身体に染み渡る、いつもの感覚。

魔女の手のひらから何かが身体に浸透していった。

それを見て隊長は驚愕をした。


隊長「──魔法が使えるのかッ!?」


魔女「えぇ、言えないけど使えるようにしたの」


魔女「でもそんなことは今はどうでもいいの..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

再び、暖かみのあるなにかが身体に浸透していった。

心なしか、いつもより心地の良い感覚だった。


魔女「...ねぇ、知ってる?」


隊長「...なんだ?」


魔女「治癒魔法ってね、相手を想っていれば想ってるほど、心地よくなるんだよ?」


その言葉がどのような意味を持っているのか。

身体に走る心地よさが身にしみている。

それは愛の言葉やキスよりも情熱的なモノだった。


隊長「...暖かいな」


魔女「悪いけど...もっとしてあげるから」


魔女「止めれないわ...魔力も、この気持も...」


隊長「...お、お手柔らかに頼む」


みなぎる魔力で創られた愛が、隊長を包み込む。

それは、これまでの苦い記憶や激しい闘いを癒やすモノ。

密林の狂気など、もう寄せ付けないだろう。


〜〜〜〜
656 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:41:32.89 ID:BYaPhkOk0

〜〜〜〜


女勇者「はぁ...はぁ...」


女勇者の創り出した太陽は沈んでしまっていた。

あの巨大な魔法を長時間も維持させるのは不可能だった。

眩い光が沈むとあたりには静寂が現れていた、どうやらもう1つの太陽も同様であった。


魔王子「...間に合ったか」


女騎士「敵影なし...日食も沈んだ...やったぞ!」


女勇者「はぁ...よかった...」


魔王子「...これが、勇者という者か」


女勇者「...えへへ、照れるね」


女騎士「身体は大丈夫か? あれほどの魔法を続けたんだ...疲れてないか?」


女勇者「ちょっとね...でも、そこまで疲れてるわけじゃないよ」


魔王子「...見ろ」スッ


会話をする2人を遮って、魔王子が指をさした。

停泊している列車から下車すると、そこには目的地。


女騎士「...これが、魔王城か」


女勇者「おっきな橋だね」


女騎士「橋の下は...街みたいだな」


魔王子「この橋を通ったら、いよいよ本拠地だ...」


女騎士「...きゃぷてん、先に行っているからな」


女勇者「...いよいよ、本番ってことだね」


魔王子「あぁ、気を引き締めろ」


3人がそれぞれ、覚悟を決めた顔つきになる。

これから先かつてない激しい戦闘になることは間違いない。

光に包まれた彼らが橋に向かって歩きだした、すると橋の奥にこちらに向かってくる者たちが現れた。


魔王子「雑魚か...蹴散らしてやろう」


女騎士「...光に包まれている今なら楽勝さ」
657 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:42:54.28 ID:BYaPhkOk0

女勇者「あっ、魔王子くん」


光と言うフレーズで女勇者が思い出した。

その締りのない声、若干苛立ちながらも返答をした。


魔王子「...なんだ?」


女勇者「光の属性付与を解除した方がいいかな?」


魔王子は今現在光に包まれている。

たしかに心強いが、彼の力の源は闇である。

たとえ抑えられているとしても得意な闇を使用したほうがいい。


魔王子「そうしてもらおう...」


女勇者「わかった! じゃあ解除するね──」


──ゴオォォォォォッッ!!!!

女勇者が魔王子に触れようとした瞬間だった。

上空から、けたたましい炎が襲い掛かってきた。

先程の雑魚から放たれたものではないらしく、雑魚たちは呆然としていた。


女勇者「────"光魔法"」


────□□□□□□□ッ!

仕方なく属性付与の解除を中断し、光を創り出した。

その光は巨大な炎を包み込み消滅させていった。

そして、その様子を見て魔王子は冷や汗を垂らす。


魔王子「...炎帝、よりにもよって貴様か」


空を見上げると、炎に包まれた小柄な美少年がこちらを見ていた。

炎帝と呼ばれるもの、そしてその実力を知る魔王子は苦言を申していた。


炎帝「君たちは下がってなよ...巻き添えを食らうよ?」


先程現れた雑魚たちに話しかけていた。

急いで城内に戻る姿を確認すると、今度はこちらに話しかけた。


炎帝「やぁ...久しぶりだね」


魔王子「...お前の出る幕か?」


炎帝「あれほど眩い光を出されたら、興味がでるのは当然さ」


魔王子「...チッ」
658 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:44:14.93 ID:BYaPhkOk0

女騎士「魔王子...あいつは?」


魔王子「炎帝だ、魔王軍最大戦力の1人...」


魔王子「そして、魔王を除けば最強と言われている人物だ」


魔王子が若干臆する理由がわかった。

この炎帝という男、かなりの実力者。

前哨戦でこのような男が来るとは思いもしなかっただろう。


女騎士「...早くも全力で潰しにきたか」


炎帝「...悪いけど、これは私が自主的にここにきたんだ、魔王様の命令じゃないよ」


女騎士「なんだと?」


炎帝「私がここにいる目的、それは女勇者だよ」


女勇者「...僕?」


炎帝「研究所から連絡がきてないけど...君がここに居るということは、そういうことだろう」


炎帝「君は側近様のお気に入りだ...再び拉致させてもらうよ」


女騎士「...そう安々とやらせてたまるか」


魔王子「まさか前哨戦で貴様と戦うとは思わなかったが...」


魔王子「...今ここで貴様を殺してやる」


炎帝「...君たちには用はないよ」


炎帝「"爆魔法"」


──バコンッッ!!

この時3人は、ほんの少しばかり油断をしていた。

なぜなら身体が光に包まれているからであった、普通の魔法なんて無力化できるはず。

魔王子と女騎士の真後ろで爆発が起きた、光がその威力を抑え込んだはずだった。


魔王子「──なッ!?」


女騎士「──ぐあっっ!?」


痛みと共に、なぜか身体は吹き飛ばされていた。

2人は魔王城の橋の下、その奈落へと突き落とされてしまった。


魔王子「──炎帝ィィィィィィイイイイイイイッッッ!!!」


地獄の雄叫びのような、怒声が奈落に響いた。

分断作戦は成功してしまった、ここには炎帝と女勇者しかのこらなかった。
659 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:45:39.83 ID:BYaPhkOk0

女勇者「みんなっっ!?」


炎帝「...光については対策を練らせてもらったよ」


女勇者「...よくもっ!」


炎帝「この橋の下は城下町の中心だ、雑魚の魔物しかいない」


炎帝「女の方はともかく、魔王子様なら無事だろう...」


炎帝「もっとも、ここに戻ってくるのには時間がかかると思うけどね」


女勇者「...時間稼ぎかい?」


炎帝「...あのヤンチャな子と一緒にいられたら困るんだよ」


炎帝「あの子と一緒だと、君を殺さずに拉致することなんて難しいからね」


空に浮いていた炎帝が地上に降りてきた。

お互い睨み合い、いまにも戦いが始まる雰囲気を醸し出す。

女勇者がユニコーンの魔剣を強く握りしめる。


女勇者「...」


炎帝「じゃあ...いくよ」


炎帝「"属性同化"、"炎"」


先制したのは炎帝。

みるみると身体が炎へと変化していく。

身体の原型はなくなり、完全に炎と化した炎帝が話しかける。


炎帝「風帝が羨ましいよ...炎は風と違って目視できるからね」


女勇者「...おいでっ!」


女勇者の戦法は変わらずであった。

接近したところを狙い、一瞬で光を包み込ませる。

風帝戦で行ったものだった、炎帝も拉致が目的なら接近は不可欠だろう。


炎帝「...」


──ゴウッッ!!

燃える炎が身に迫る音だった。

しかし狙いは女勇者ではなく、その周りであった。


女勇者「どこを狙っているんだい? "光魔法"っ!」


────□□□□□□□□□□□□ッ!

比較的に接近してきたので、光を試みた。

だが、炎は素早く身をこなし回避に成功した。
660 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:47:01.36 ID:BYaPhkOk0

炎帝「その光に包まれるわけにはいかないんだよ」


女勇者「...早く私を捕まえないと、魔王子くんたちが追いついちゃうよ?」


炎帝「煽るねぇ...君、結構戦略的だね」


──ゴウッッッ!!

熱風とともに、女勇者の周りを燃やす。

再びの行動に彼女も若干困惑をする。

同じく光魔法を行おうとしたが、今度は距離を取られてしまった。


女勇者(...狙いが読めない)


女勇者(僕の魔力切れが狙いなのかな...)


女勇者(さっきから光魔法を無駄に使わせようとしている風にも思える...)


女勇者「...」


炎帝「どうしたのかな?」


女勇者「...悪いけど、魔力切れ狙いは無理だよ」


女勇者「確かにさっき、ものすごい量の魔力を使ったけど...まだ元気だよ」


炎帝「...へぇ、あれほどの魔法を行ってもか...すごいね」


女勇者「...っ!」


その炎とは裏腹に冷たい口調から察する。

狙いは魔力切れではない、ではなにが目的なのか。

この勝負は早速心理戦へと移行し始める、読めない行動に冷や汗を垂らす。


炎帝「まだまだこれからさ...熱い戦いほど楽しいものはないよ」


女勇者「...その割には冷めてるよね」


炎帝「内心では燃えてるさ...君のような強い子と戦えるのは嬉しいよ」


女勇者「じゃあ、まともに戦ってみようよ」


炎帝「それはできない...私が負けてしまう」


──ゴゥッ...!

軽くお話をしている間に、炎帝が女勇者に仕掛けた。

彼女の周り360度を炎の壁で取り囲む、しかしその光景に女勇者は意外にも冷静であった。
661 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:49:28.07 ID:BYaPhkOk0

女勇者「...えいっ!」ダッ


女勇者はそのまま炎の壁に飛び込んだ、列車で使用した属性付与はまだ続いていた。

身体にまとっている光が一部を消火し焦げた匂いだけを残した。

自ら炎に身を投げることに踏ん切りがついた女勇者は炎の壁から脱出をする。


炎帝「...やはり魔力のこもった炎では簡単に消されてしまうね」


女勇者「君はすぐに距離を取るなぁ...」


その脱出劇を見て、すぐさまに炎帝はそれなりの距離に身をおいてた。

遠距離攻撃が苦手な女勇者にはなにもすることができない。

一向に勝負の展開が進まない、疲労からか汗が流れてきていた。


女勇者「...本当になにが目的なんだい?」


女勇者「魔王子くんが戻ってくる可能性がある...時間をかける戦いなんて無意味じゃないかい?」


炎帝「...たしかに、そうだね」


炎帝「私の炎なんて、光魔法の前では簡単に消火されてしまうしね」


炎帝「...炎はね」


女勇者「...?」


なにか、含みがあった言い草だった。

女勇者はその言葉に引っかかるが、答えは見いだせなかった。

考えている間にも炎帝はしかけてきた、いや、既にしかけていた。


炎帝「...ほら、足元だよ」


女勇者「────え?」


裸もほぼ同然の彼女、当然靴など履いていない。

足裏の神経を注ぐとある点に気がついた、微妙に心地の良い温度だ。


女勇者「...あったかい?」


炎帝「その地面に光魔法を放ったらどうなると思う?」


女勇者「どうって...」


ありとあらゆるものを無力化すると言われている光魔法。

だがそれは俗説であり、本来は魔力を無力化するものである。

光属性の所有者である彼女はしっかりと理解をしていた。
662 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:51:10.09 ID:BYaPhkOk0

女勇者「...なにも起きないさ」


炎帝「...そうだろうね」


女勇者「なにが言いたいんだい?」


炎帝「...ははは」


炎が笑っている。

顔があるなら見てみたい、そのような高笑いが辺りに響いた。

不審に思いながらも、彼女は再度問だたそうとすると彼は答えた。


炎帝「...それが光の弱点さ」


女勇者「...?」


炎帝「わからないのなら、やってあげるようか...今度は暖かいじゃすまないよ?」


──ゴォォォォウッ!!

炎帝の炎の身体が激しく音を立てた。

それに伴い、辺りの温度は急激に上昇し始める。

離れている女勇者でさえも、その気温の変化に反応した。


女勇者「──あっつっ!?」


炎帝「ほら、もっとだよ」


さらに温度は上昇し続ける。

炎帝の足元の地面は融解をし始めている。

その温度に伴い炎帝の身体は紅く、そして眩く光り始める。


女勇者「────"光魔法"っ...!」


────□□□□□□□□ッ...!

あまりの出来事に反応が遅れた。

光を使い、気温の上昇を防ごうとする。


炎帝「"転移魔法"」


その詠唱は女勇者のよりも速い。

光には抗えない彼だが、彼女より遥かに経験を積んでいる。

そんじょそこらの小娘に詠唱速度で負けるはずがなかった。


女勇者「どこっ!?」


炎帝「上だよ...さぁもっとだ」


気づけば炎帝は上空に移動していた、かなりの距離をとられている。

光魔法を遠方に飛ばしたところで簡単に逃げ切れてしまうだろう。

安全な位置にいる炎帝は、なおも身体を激しく燃やし続ける。
663 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:54:24.02 ID:BYaPhkOk0

女勇者「──あついっ!!!」バサッ


肌を布1枚でしか保護できていない今、高温をモロに浴びている。

地面もかなり熱くなっているので裸足での移動も厳しい。

裸になってしまうが、その布を地面に敷くことで足元からの温度を防いだ。


女勇者「これっ...どうすればっ!?」


炎帝「どうもすることはできない、君には私を止められない」


炎帝「光属性の弱点...魔力を抑えられても、魔力によって発生した現象は抑えられない」


炎帝「炎は消火できても、炎によって上がった温度は抑えられない...そうだろう?」


炎帝「だってこの超高温は魔法によって作用されたものであって、魔法ではないのだから」


いままで、そのようなことを気にしたことがなかった。

なぜ今になって光魔法の弱点に気づいてしまったのか。

もっと前から知っていれば、なにか対策が練れたかもしれないというのに。


女勇者「じゃあ、始めの爆魔法も...っ!?」


炎帝「そうさ...わざと位置をずらすことによって、爆風だけを彼らに浴びせたのさ」


光の属性付与を与えていた2人が吹き飛ばされた理由が分かった。

爆魔法によって発生した爆風は魔法ではない、これが直撃であれば抑えられたはずだ。

偏差魔法と言うべきか、このような緻密な魔法と対峙したことがなかったのが運の尽きであった。


女勇者「そんな...」


炎帝「悪いけど、光についてはここ数年で研究が進んだのさ...君はそこで指を加えて見ているといいよ」


炎帝「そして...その意識が途絶えるまでの高温を肌で感じるといい」


深い絶望感が彼女を襲った。

遠距離攻撃ができない女勇者に、光魔法が通用しない戦術をとられている今。

肌で感じる高温がジリジリと身体を燃やしていく、それを味わうことしかできない。


女勇者「...負けた」


???「...その魔剣にどのような思いが募っているか知っているのか?」


女勇者「...え?」


???「俺も聞いただけだが...その剣には平和の念が篭っているらしい」


???「あの男...キャプテンという男に、そして魔女という女にそう聞かされた」


ぽつりとつぶやいた敗北の言葉、それに誰かが答えてくれていた。

握りしめているユニコーンの魔剣、それがどういう意味をもっているのか。


〜〜〜〜
664 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:56:10.54 ID:BYaPhkOk0

〜〜〜〜


魔王子「...ゲホッ」


少し前、爆風によって吹き飛ばされたあと。

着地は失敗に終わり、もろに地面に叩きつけられていた魔王子。

普段なら少し痛む程度であったはず。


魔王子「...」


今は女勇者によって身体が光に包まれている。

よって、魔王子の身体は魔力が抑えられている。

身体の強度は人間より少し硬いぐらいであろう。


魔王子「折れたか...」


両手両足、腰の一部の骨が折れている。

とても立てる状況ではなかった、しかし折れているのは骨だけではなかった。


魔王子「最強と言われた魔王の最後がこれか」


魔王子「...風帝がこれを見たらどうするだろうか」


魔王子が持っていた魔剣は折れてしまった。

風帝は過去の偉人を重んじる性格、中でも歴代最強と言われた魔王を特に敬愛していた。

その魔剣と化した魔王がこうもポッキリといっている、確実に卒倒するだろう。


魔王子「...行かねば」


思い出に耽っている場合ではない。

いまもこうしている間に女勇者が炎帝と戦いを繰り広げているだろう。

魔王軍最強と言われている奴が相手、すぐさまに助太刀をしなければならない。


魔王子「──ッ!」


──ズキッ!

身体に鋭い痛みが走った。

いままでまともに感じたことのない痛みであった。


魔王子「...クソ」


魔王子「立て...助けに行かなければ────」ピクッ


無理矢理にでも身体を起こそうとした瞬間。

自分の発した言葉に強い違和感を覚えた、一体誰を助けるのか。
665 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:57:24.41 ID:BYaPhkOk0

魔王子(...この俺が、人を助けるだと?)


魔王子(なぜだ...?)


魔王子(目的が...わからない)


痛みのあまりに感じたのは疑問。

なぜ、暗黒の王子と恐れられた彼が人を助けることになっているのか。

彼に敗れ、旅に同行するのはわかるが人を助ける理由にはならない。


魔王子「...俺はなぜ人を助けようとしたんだ」


思考がつい口にでてしまう。

先程のような痛みをごまかすための愚痴ではない。

誰もいないこの場に問いかけてしまった。


???「...仲間だからじゃないのか?」


誰もいないはずの場所から、答えが帰ってきた。

ショットガンのストックで地面をささえ、杖のように扱っている。

彼女もまた、女騎士も相当のダメージを負った模様であった。


魔王子「...仲間だと?」


女騎士「私はそう思っていたが...」


魔王子「戯言を...俺は魔物だ」


魔王子「お前らは...人間だ、相反すると思わないか?」


女騎士「...私にはわからん」


女騎士「前も言ったような気がするが...戦争相手がたまたま魔物なだけだ」


女騎士「...別に魔物を忌み嫌っているわけではない...少なくとも私はな」


魔王子「...」


女騎士「...お前はなんで魔王を倒そうとしているんだ?」


女騎士が、腰をおろした。

信頼している仲間に見せる無防備な姿。

あぐらをかいて、猫背で、そのような姿勢。
666 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 14:58:55.87 ID:BYaPhkOk0

魔王子「...親父が気に入らないだけだ」


女騎士「どこが気に入らないんだ?」


魔王子「...」


女騎士「...」


女騎士「...じゃあ、私が...私たちがなぜ魔王を討とうとしているかを言おう」


女騎士「私と女勇者は、人間側の平和のために魔王を討つ」


女騎士「人間界には少ないながらも魔物がいる...中にはいい奴もいる...魔女とかな」


女騎士「だが...悪い奴もいる...強奪や強姦、殺人までをする魔物がいるんだ」


女騎士「そして最近は、その悪い奴らが蔓延りだしてきたんだ」


女騎士「それで、人間界で一番大きい国の王が我慢ならないと魔王討伐命令を出したんだ」


女騎士「魔王を討てば、魔物もいなくなると...今思えば短絡的な命令だったかもな」


女騎士「...どうだ? 簡単だろ?」


魔王子「...簡単だな」


女騎士「はは、そんなもんさ...戦争のきっかけなんてな」


魔王子「...俺も似たようなものだ」


魔王子「今の親父の政策...人間界侵略を企てた政策が気に入らない」


魔王子「人間のことなんかどうでもいいが...問題なのは人員だ」


魔王子「侵略となると、魔界の各地から腕に自身のある者たちを集めるのだが」


魔王子「その徴兵された屑共が非常に気に食わない...」


女騎士「...なるほどな」


魔王子「...俺は徘徊が趣味でもあった」


魔王子「以前この城下町で歩いていると、武装した男たちが誰かを嬲っていた」


魔王子「これでも俺は王子だ、話したりはしないがここの民の顔はある程度覚えている」


魔王子「だがその男たちの顔は全くもって記憶になかった...つまりは徴兵された人員だろう」


魔王子「...虫唾が走った、気づけば剣を抜いていた」


魔王子「だが、奴らは俺が力を見せると急にヘラヘラとゴマすりをしやがった」


魔王子「この俺に敵わないと瞬時に理解したのだろうな」

667 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 15:00:08.69 ID:BYaPhkOk0

魔王子「...それが俺の逆鱗に触れた」


弱き者を虐げていた、よそ者の傭兵たち。

力を見せつけては傲慢し、力を見せつけられたら謙る。

そのコウモリ野郎加減が、手のひらの回転力が彼の怒りを誘った。


魔王子「屑共を殺したあとは、親父に直訴した」


魔王子「あのならず者共をどうにかしろ、と」


魔王子「そしたら親父はこう答えた」


魔王子「"それはできん"...とな」


魔王子「その時...俺の中にある親父の、崇高な父上が崩れた」


魔王子「この魔界の王が、なぜ民を守らない...」


魔王子「...以前の父上なら、そう答えなかっただろうな」


魔王子「それから暫く...政策を変えようとしない親父に、気づけば俺は剣を向けていたわけだ」


女騎士「...それが、魔王子の目的か」


魔王子「そうだ...俺が魔王を殺し、新たな魔王になる」


魔王子「...そして、この魔界で平和を求める魔物に答えていくつもりだ」


そのためなら例え同胞ですら殺す。

絶対的な覚悟が彼を動かしている。

この暗黒の王子と恐れられた者の動力源は、民の平和であった。


女騎士「...だから、さっきから見られているだけなんだな」


女騎士が周囲を見渡した、ここは屋外の城下町路地だ。

魔物が窓や影からこちらを見ている、ただ見ているだけであった。


女騎士「...愛されているんだな」


普通なら襲い掛かってくる、だがこの城下町にいる者たちは平和を願っている者が多い。

話したことはない、だが顔なじみの魔王子が苦しそうな顔をしている。

襲う理由なんてあるわけなかった。
668 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 15:01:09.84 ID:BYaPhkOk0

魔王子「...」


──からんからんっ

魔王子たちのすぐそばに、瓶が転がってきた。

そしてそれと同時に言葉がついてきていた。


???「...魔王子様に使え」


城下町に住む魔物が、薬草を液体状にしたものを投げていた。

人間である女騎士に拒否感がある、そのような口調であった。


魔物「今の魔王様には逆らえない...この街は暗くなってしまった」


魔物「...魔王子様、託します」


おそらく、厳しい箝口令が敷かれているのであろう。

必要最低限の言葉だけで、魔物の男は希望を託した。

魔王子の表情は変わらなかった。


女騎士「...照れているのか?」


魔王子「黙れ...早く飲ませろ」


瓶の蓋を開け、横たわっている魔王子に飲ませる。

ゴクゴクと、カラッカラの喉が水を求めているような飲みっぷりであった。

身体の傷を癒やしてくれるモノとはいっても、薬草であるので苦いはずだ。


女騎士「...なぁ」


魔王子「...?」


女騎士「さっき、仲間かどうかって言ってたよな?」


女騎士「...仲間の絆とか、そういう臭いことを言うつもりはない」


女騎士「お前と私は、いうなれば利害の一致」


女騎士「きゃぷてんはただの同行の旅」


女騎士「女勇者に至っては、王に命令されたから付いていっているだけだ」


女騎士「長年の付き添いなんてもってのほか、女勇者以外は出会って1週間も経ってない」


魔王子「...」


厳しい言い方かもしれないが事実である。

この関係性で仲間がどうのこうのなど言えない。

だが、1つの要素が彼女らの結束を強めていた。
669 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 15:03:04.39 ID:BYaPhkOk0

女騎士「...自分だけじゃだめなんだ」


1人なら、この旅は必ず失敗に終わる。

魔王子がいなければ、風帝に列車を破壊されていたかもしれない。

女騎士がいなければ、魔剣士は今も牢獄の中だったかもしれない。


女騎士「私は女勇者にも、そして..."キャプテン"にも助けられた」


女騎士「なら私は...彼らの背中を護る義理がある」


女騎士「ただ、それだけでいいじゃないか」


女騎士「そういう間柄の仲間だって、きっとあるはずだ」


自分だけじゃだめなら他者の力を借りるしかない。

冷たい関係性、だがこれが大事なことであった。

互いの背中を護れる信頼関係、それだけが重要であった。


女騎士「そこから始めて、後から仲良くなればいいさ...私にとっての女勇者や魔女はそれだ」


女騎士「私はお前になら背中を任せられる...お前も、キャプテンや女勇者に背中を任せられるだろう?」


女騎士「絆とかではない、任せられる頼もしさを信頼しているからだ」


魔王子「...フッ」


嘲笑に近い、鼻を鳴らした音。

楽しいから、愉快だから笑ったわけではない。

この状況でこんなことを言い出す人間に呆れてしまっていた。


女騎士「笑ったな?」


魔王子「まさか、合理的に魔王に挑む者がいるとはな」


魔王子「俺が読んだ物語では、勇者側はいつも絆を抱いていたぞ?」


女騎士「いいだろ? これなら種族とか関係ないだろう」


魔王子「あぁ...余計な気を回さないで楽だ」


魔王子「ならば、俺は..."女勇者"を助けねばな」


女騎士「もう、動けるのか?」


魔王子「...さっさと行くぞ、"女騎士"」


魔王子「"キャプテン"の無事も祈らればならないしな」


絆、そのような軽い言葉の関係になったわけではない。

背中を護るだけの薄い信頼関係が、彼を仲間に馴染ませていた。

その薄さは紙よりも薄く、だがダイヤモンドより硬い。


〜〜〜〜
670 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/15(土) 15:04:32.04 ID:BYaPhkOk0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/12/15(土) 20:15:03.91 ID:I5lEo9+00
672 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:18:48.40 ID:cDaZ0bIE0

〜〜〜〜


隊長「...抜けたか」


魔女「ここが...城下町の郊外ってとこかしらね」


密林を抜け、ようやくたどり着いたのは城下町。

はるか遠くには微かに魔王城らしきものが見える。

列車から離脱はしたが、彼らは着々と前に進んでいた。


魔女「薄暗いわね...日はもう落ちたのかしら」


隊長「みたいだな、完全に暗くなる前に魔王子たちと合流しなければ」


魔女「その前に、この門を通らないといけないわね」


そこには分厚い塀と巨大な門、そして数人の門番がいた。

塀の都の比ではない、手榴弾で穴をあけるようなことは不可能。

大きく開いている門を潜るしかなかった。


隊長「素直に通してもらえそうにはないな」


魔女「...強行突破ね」


隊長「...まずいな」


強行突破をしようものなら、確実に騒ぎになる。

騒ぎになれば、侵入を防ごうと兵士が続々と投入されることは確実。

しかし、ここを潜らなければ魔王城へと向かうことはできない。


隊長「...何分走れる?」


魔女「魔力も戻ったおかげで魔界の空気が身体に馴染んでいる今...数十分は全力で走れそうよ」


魔女「問題はあなたね...」


隊長「ただの人間であることが悩ましいな...」


魔女「...こうしましょう」


策を練る魔女、そしてその策に乗る隊長。

強行突破は避けられない、どのタイミングで始めるか。

お互いに納得できたあと、密林の茂みに隠れて機会を待つ。


魔女「...」


隊長「...」


2人がかりで門番を注視する。

数分はたっただろうか、ついに動きがあった。

門番は一瞬だけ後ろを向いた、誰かに話しかけられたのだろう。
673 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:21:22.13 ID:cDaZ0bIE0

魔女「────"風魔法"」


────ぶわぁっ!

その風は大きな音を立てて門に向けられた。

殺すことが目的ではない、どれほど時間を稼げるか。

風力は膨大ではあるが、あまりにも鈍い風が門番を襲った。


魔女「怯んだっ! 今よっ!」ダッ


隊長「よしッッ!!」ダッ


あまりに出来事に目を白黒させている門番。

その間に2人は門を潜り抜けた。

超強行突破、鈍い風が大幅に時間を稼いでいた。


兵士1「──て、敵襲ッ!」


大声で叫ぶ、すると様々な魔物が現れた。

窓を開き野次馬をする一般市民と分類される魔物

休憩中だったのだろうか、急いで鎧を装着してこちらに向かおうとする魔物。


魔女「案外普通ねっ!」


隊長「魔界といってもなッ!」


魔界の城下町、その外観は意外にも普通であり塀の都と遜色はなかった。

家が連なり一般市民が存在し、その民たちを守ろうと警備する兵士が居る。


魔女「"風魔法"っ!」ヒュン


隊長「──うおッ!?」


走りながら城下町を観察している間に魔女が追加の魔法を唱えた。

今度は怯ませるためではなく、自分たちに向けている。

隊長と魔女の背中を優しく押す風が、彼らの速度を上昇させた。


兵士1「逃がすなッ! 魔王城へ行くつもりだッ!」


魔女「ただ闇雲に大通りを走ってるだけなんだけどっ!」


隊長「好都合だッ! このまま直進が魔王城らしいぞッ!」


兵士2「捕らえろッ! 魔王様に合わせる顔がないぞッ!」


兵士1「──"氷魔法"ッ!」


──パキパキパキィッ...!

追ってきている兵士の1人が仕掛けてきた。

じわりじわりと氷は隊長たちの足を凍らせようと迫ってくる。

氷が通った地面は凍りついている、かなりの精錬された魔法。
674 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:23:11.20 ID:cDaZ0bIE0

魔女「追いつかれるわよっ!」


隊長「──ッ」スッ


────からんからんっ!

走りながら取り出したモノからピンを抜く。

後方確認もせずに後ろに向かってソレを投げた。

すると後方から聞こえたのは、強烈な爆発音であった。


兵士2「爆弾かッ!? 気をつけろッ!」


兵士1「クソッ! 氷が砕かれたぞッ!」


手榴弾による足止めは成功、氷の進行を一時的に止めた。

氷魔法の効力はまだ残っているが、もう隊長たちには追いつけないだろう。


隊長「撒いたかッ!?」


魔女「──前にいるわっ!」


兵士3「連絡にあった侵入者を発見...捕縛する...」


目の前に現れた新たな兵士、その数は1人。

しかしその佇まい、かなりの実力を保有している風に見えた。

足を止めるわけにはいかない、走りながらも応戦することに。


兵士3「..."雷魔法"」


────バチィッ...!

線の細い雷が走った。

そのあまりの速度を視認できなかった隊長はモロに魔法を浴びてしまう。

威力はかなり抑えられている、だが身体に雷を浴びる事自体が失敗だった。


隊長「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!?」


魔女「──ごめんっ! "雷魔法"っ!!」スッ


──バチッッ!

魔女がすぐに対処を行った。

足をとめ、隊長の背中に手を当てて魔法を唱えた。

これもまた、かなり威力を抑えたモノだった。


隊長「──OHッッ!?」


再び体に稲妻が走った。

今度は身体に痺れが周るような感覚ではなく、身体から出ていくような感覚。

魔女は自分の雷で、兵士の雷を誘導し体外へと放り出した。
675 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:24:43.89 ID:cDaZ0bIE0

兵士3「...やるな、これは手厳しそうだ」


隊長「ゲホッ...テーザー役か...すまん、助かった」


魔女「いいの、でも後ろから...」


兵士2「いたぞッ!」


気づけば囲まれていた。

先程氷魔法と共に追ってきていた兵士、そして新たな者も。

四面楚歌であり逃走は不可避でいて闘争が不可欠、彼は背負っていたアサルトライフルを握る。


隊長「...まずいな」


魔女「やるしかないわよ」


隊長「あぁ...」


いくらこの武器が優秀だからといっても、この状況ではあまり期待ができない。

このアサルトライフルという武器は複数相手への射撃はできない。

よって1度に戦える相手の数は限られる、このような囲まれている状況が既に不利であった。


隊長「俺は援護をする、すまないが魔女が主力だ」


魔女「──えぇ、わかったわ」


兵士1「主力はあの女のようだがあの男は爆弾を持っている、気をつけろッ!」


兵士4「尋問が待っている、殺すなよ?」


兵士3「...」


じりじりと兵士たちが迫ってきている。

強行突破は失敗に終わる、だがこれをしなければどうやって城下町へと入れただろうか。

魔女が攻撃行動に移ろうとしたその時だった。


兵士2「な、なんだ...?」


──ズシッ...ズシッ...

なにか巨大なものが迫ってきているような、そのような音が聞こえる。

兵士の1人が後方を確認する、隊長も横目でそれを目視しようとした。

迫ってきていたモノの全貌が明らかとなった。
676 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:27:09.78 ID:cDaZ0bIE0

兵士3「..."巨狼"か? なぜここに」


魔女「...え?」


巨狼「...」


先程、雷魔法を放った兵士が冷静に分析をする。

その一方で魔女と隊長がその光景に呆然とする。

この大きな狼ではなく、その背中に乗っている者たちを見て、呆然とする。


???「──つかまってぇっ!」


白い毛並みの狼がこちらに向かって走ってきている。

それと同時に、どこか懐かしい雰囲気のするゆるい声が響いた。

その声を聞いてようやく2人は行動に移った。


隊長「────突っ込めッッ!!」ダッ


魔女「──えぇっ!!」ダッ


気づけば狼はその巨体を駆使して囲んでいた兵士を蹴散らしていた。

そして隊長たちは突っ込んだ、狼にではなくその上に乗っていた水に。


隊長(この濡れた感触がしない水...懐かしいな)


水が2人を取り込むと、狼は颯爽と大通りを駆けて行った。

その光景に兵士は愚か、野次馬も固まってしまっていた。


兵士3「...魔王城へ連絡をいれろ」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女勇者「...平和の念」


ユニコーンの魔剣を強く握りしめる。

今にも炎帝に焼き殺されそうだというのに余所見をする。

一方で炎帝も身体を燃やし尽くすのを止めていた、彼が戻ってきたからだ。


炎帝「もう戻ってきてしまったか...」


魔王子「俺の趣味は散歩だ、この辺の近道なら知っている」


炎帝「...参ったね、まさか2人とも無事にここにくるとは」


女騎士「...女勇者、大丈夫か?」


女騎士が問う、しかし返事は帰ってこなかった。

2人の仲はいいはずだというのに、無視はあり得なかった。

彼女は夢中になっていた、握りしめている魔剣に。
677 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:29:05.13 ID:cDaZ0bIE0

女勇者「...」


この魔剣の前の所有者、その者の平和の念。

ようやく気づいたその暖かな光、彼女もまたユニコーンについて熟知していた。

同じ光属性の魔力を持つモノ同士、教えられなくても自然とその感覚が伝わった。


女勇者「この魔剣...魔王子くんの前は誰が持ってたの?」


魔王子「...キャプテンという男が、誰かに託されたと聞いた」


魔王子「それ以上は聞いていない...わからない」


女勇者「...そっか」


炎帝「...さて、どうしたものか」


頭を悩ます、このままでは女勇者の拉致など不可能。

杖らしきものをついている女騎士と、その横に涼しい顔で佇んでいる魔王子。

この3人を同時に相手をしながら、女勇者を殺さずに連れ去るなどいくら炎帝でも無理であった。


炎帝(...仕方ない、戻るか)


転地魔法を唱え、魔王城へ戻ろうとしたその時だった。

女勇者の身体から光が消える、その僅かな出来事を見逃す男ではなかった。


炎帝「──貰った」


魔王子「──気を抜きすぎだッ!」


女勇者「────へっ?」


魔剣に夢中になりすぎて気づけなかった。

属性付与の効力が切れ、身体を守っていた光が去っていたことに。

それも当然、この属性付与はかなりの時間の間保っていた、故の自然消滅であった。


炎帝「"炎魔法"」


灼熱の火炎放射が放たれた。

その尋常じゃない発射速度に、新たに魔法を唱えられる者はいない。

魔王子も女騎士も、庇いに行けるほどの距離にいない。


女騎士「──女勇者ぁああああああああああああっっ!!」


炎帝「持ち帰れないのなら、今のうちに殺しておいたほうがいい...側近様には申し訳ないけどね」


魔王子「──クソッッ!!」


────バサァッ...!

誰もが焼かれたと思った、その時だった。

突風が炎よりも早く女勇者を攫い、敷いていた布を女騎士の方角へ吹き飛ばした。

魔法によるものではない、なにか巨大な翼が通ったような風だった。
678 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:31:08.38 ID:cDaZ0bIE0

女勇者「...へ?」


??1「...まさか裸で棒立ちしているとは思わなかったぞ」


??2「言ってやんなァ、俺様が初めて見たときは裸で試験管にブチ込まれてたんだぞ?」


??1「まぁいい...戦力を確保できたのだからな」


女勇者が力強く抱きかかえられている。

その者の手には、よくわからない武器があった。

そしてこの者が乗っているのは竜であった、その光景に魔王子は瞳を輝かせる。


魔王子「...魔闘士、魔剣士」


魔剣士「よォ、"翼"はもがれたままだと思っただろォ?」


魔闘士「...魔剣に翼を貰っておいて、何を言うか」


魔剣士「るせェ...こうしなきゃ間に合わなかっただろうが」


その竜の翼はあまりにも醜かった。

まるで、彼の持っている魔剣がそのまま翼になったかのように。


炎帝「...君たちか、久しぶりだね」


魔闘士「まさか、炎帝が先陣をきっているとは思わなかったな...」


魔剣士「...一旦降りるか」


そう言うと、下降をはじめ地面へと降り立つ。

すぐさまに翼は魔剣へと変化を始め、翼のない竜の姿をしていた魔剣士は元通りになる。


女騎士「2人とも無事だったかっ!」


魔闘士「当然だ、所詮雑魚が群がっていただけだ」


魔剣士「何いってやがる、俺様が駆けつけてなかったらヤラれてただろうが」


魔闘士「...黙れ」


女騎士「...ははっ」
679 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:32:21.78 ID:cDaZ0bIE0

女勇者「えっと...あの...」


魔王子「どうやってあの姿に...?」


魔剣士「簡単だァ、魔剣との一体化に応用をきかせたんだァ」


魔剣士「時間と神経を使うが、一体化させた腕から背中にかけて魔剣を移動させてよォ」


魔剣士「そっから"竜化"しただけだ、簡単だろ?」


魔闘士「...そのようなことが出来るのは後にも先にもお前だけだろうな」


魔闘士「竜へと姿を変えれる"竜人"と言う種族が、一体化できる魔剣を持っていること自体が稀すぎる」


魔闘士「ましては翼をもがれた竜人などそうそうにいないだろう」


魔剣士「うるせェなァ...あの頃の魔王子に負けちまったんだから仕方ねェだろうが」


魔王子「...また2人の漫談が始まったか」


魔王子もまた、いつもの2人の会話に頭の抱える。

ついに見かねた裸の女が話を遮った、会話に参加できずにいた彼女が。


女勇者「えっと...助けてくれてありがとうっ!」


魔剣士「あァ、人間を助けるだなんてこれが3回目だな」


魔闘士「俺たちもまた、変わってしまったな」


魔剣士「...悪い事じゃねェよなァ?」


魔闘士「...当然だ、久々に心躍る好敵手と出会えたのだからな」


魔剣士「...で、その当の本人がいねェみてェだが」


女騎士「キャプテンのことはあとで説明する...それよりも」


5人が上を見上げると、そこにはまだ炎が鎮座していた。

徐々にその炎は人の身体へと変化を始める。

属性同化を一旦解除したのだろう。


炎帝「悪いけど、引かせてもらうよ」


魔剣士「あァ、その方がいい...お前の本気はここで拝みたくねェ」


炎帝「私としては、ここでヤッてもいいんだけど...色々と支障がでるからね」


炎帝「続きは私の部屋でやろうね..."転地魔法"」


そういうと美少年は消え去った。

彼の本気が拝めるのは魔王城の彼の部屋だけだろう。

そうでなければいけない、彼の部屋は魔法によって特別に強化されている。
680 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:33:52.08 ID:cDaZ0bIE0

魔剣士「...どっちにしろ、ブチのめさなければいけねェんだけどな」


魔闘士「ここでやられたらたまったものじゃない」


魔王子「...そうだな」


女騎士「そんなに凄いのか、炎帝は」


魔闘士「奴は1人で戦場並の激戦区を作り出すと言われている」


魔闘士「特に厄介なのは爆魔法だ...ありとあらゆるものが爆発によってはじけ飛ぶ」


魔闘士「それらを対処しながら奴と戦わなければならないわけだ」


女騎士「...なるほどな」


女騎士「だが...なぜ引いたんだ?」


魔闘士「...奴自身、自分の魔法の脅威を知っているからだ」


魔闘士「ここで派手にやれば、我々の戦力を確実に削れるだろう...」


魔闘士「だがここは城下町の中心だ、当然民たちも生活している」


魔闘士「...あんな冷たい顔つきをしているが、奴は敵意のない者には危害を加えようとしない」


女騎士「...そうか」


魔闘士「...それよりも、状況を確認させてくれ」


魔剣士「そォだ、まずキャプテンはどこだ?」


女騎士「...すまない、死神によって列車が襲撃され、その際に分断されてしまったんだ」


女騎士「魔女とキャプテンは湖に向かって落下して...そのまま消息がわかっていない」


魔闘士「...そうか」


魔剣士「チッ...俺様がこっちに向かっているときにも死神共に襲われたが...やっぱりそっちもか」


魔剣士「今からでも探しにいくかァ?」


魔王子「それはできない...時間が限られている」


再び魔剣を翼にしようとしたが、それを遮った。

時間が限られている、それはどういう意味なのか。
681 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:35:17.52 ID:cDaZ0bIE0

魔王子「俺の魔力は残りわずかだ、有るうちにヤらねば親父とまともに戦えん」


魔王子「風帝はすでに殺した...残るは炎帝、水帝、地帝、そして魔王だ」


魔王子「四帝を抑えてもらい、その間に俺が魔王を殺す...それしか手が残っていないはずだ」


無茶苦茶な要求、ここにいるのは5人であり魔王子を除けば4人。

その人数で四帝を押さえ込めという話、とてもじゃないが不可能だ。


魔剣士「らしくないなァ...いつもの寡黙な魔王子はどこいったんだァ?」


魔闘士「だが...魔王を相手にまともに戦える者など、魔王子しかいないのもまた事実だ」


女騎士「やるしかないのか...」


魔王子「...頼む」


その意外な言葉に、一部を除く者たちは仰天する。

魔剣士と魔闘士、魔王子に連れ添ってから初めて聞いたその言葉。

思わず目を大きく見開いてしまった。


魔剣士「...頼まれちった」


魔闘士「変わったのは...魔王子もか...意外だ」


魔剣士「俺様は魔王子の意見には賛成だが...1つ訂正箇所がある」


そういうと、魔剣士はゴソゴソと魔闘士の背中を弄くりだした。

大きなかばんのようなものを背負っている、そして取り出したものは小瓶であった。


魔剣士「時間はある、この小瓶で作れるぞォ」


女騎士「...なんだそれは?」


魔剣士「これはだなァ──」ピクッ


意気揚々と語ろうとしたその時だった。

いままで話についていけず沈黙していた女勇者が遮った。


女勇者「あっ、そうだ魔王子くん」


魔剣士「...話を遮るか普通?」


女勇者「ご、ごめんね...でも先にやっとかなくちゃいけないことがあって」


女勇者「魔王子くんと女騎士にかけた属性付与を解除しなくちゃ」


女勇者「特に、魔王子くんは身体の調子が悪くなるでしょ?」


魔闘士「...俺は身体に入った例の魔力が、遂に魔王子の全身に巡っていたのかと思ったぞ」


魔剣士「お前がかけてたのかよ...そりゃ魔王子が眩しいわけだァ」
682 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:36:50.42 ID:cDaZ0bIE0

女騎士「...そういえば、付与されていたな」


魔王子「俺はこれのお陰で久々に骨を折った」


女勇者「えぇっ!? "治癒魔法"っ!」


──ぽわぁっ...!

優しい光が魔王子を包み込んだ。

それだけではない、その洗練された魔法は5人全員を癒やしていた。


魔剣士「...流石、女勇者ってだけはあるなァ」


魔王子「とっとと解除しろ...」


女騎士「頼むぞ」


女勇者の手が魔王子と女騎士の手に触れる。

解除をするために身体に付与された光を自分の身体に戻そうとする。

属性付与の解除方法、それは時間経過か付与させた魔力を自分の身体に取り込むかのどちらかでしかできない。


女勇者「...」


前者は後始末をしなくて楽だが、効力切れの時間は不規則で連戦時には先程のような危険性がある。

ならば今のうちに、手間がかかるが後者の方法でやったほうが安心である。

賢者の修行を終えた魔女ですら、その行為には数分の時間がかかるだろう。


女勇者「...はいっ! おしまいっ!」


魔王子「────ッ!?」ピクッ


驚愕した、そのあまりの速度に。

魔剣士や魔闘士ですらその解除速度に感心する。

しかし、当の本人はそれどころではなかった。


魔王子「──離れろッッ!!」


──■■■■■ッッッ!!!

人間には捉えられない速度の闇が魔王子の身体から開放されていく。

見えているのは魔物の2人だけ、魔剣士は女騎士を、魔闘士は女勇者を即座にこの場から離れさせた。


魔剣士「──暴発かァッ!?」


魔王子「わからんッ! だが闇が溢れてくるッ!」


魔闘士「どうなっている...?」


闇の開放が止まらない、明らかにその量は先程までの魔力量を超えている。

彼の身体には女勇者の魔力が蝕んでいたというのに。

まるでその魔力がどこかに消え去ったかのような感覚が彼を襲った。
683 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:39:11.00 ID:cDaZ0bIE0

魔王子「──ッッ! いい加減にしろッ!」


自分自身の身体に活を入れる。

咳を我慢するような行為、意識のすべてを頭に集中させる。

これ以上暴発しないように、頭の中で自分を恐喝した。


女勇者「"光魔法"」


──□□□□□...

再び、光が魔王子の身体を包み込む。

正確には放出されている闇だけを器用に包み込んだ。

これにより、ようやく暴発が止まる。


女勇者「大丈夫...? 僕のせいかな...」


魔王子「...ッ!?」


謝罪をしている彼女を尻目に、身体の違和感を確認する。

違和感がないことに強い違和感を感じる。

確信することができた、そしてその言葉を口にする。


魔王子「光が消えた...?」


魔剣士「...は?」


魔闘士「本当かッ!?」


女騎士「──っ! 本当だ!?」


先程の出来事にあっけにとられていた女騎士。

言われてみてようやく気づいた、身体の違和感がないことに。


魔剣士「...まさか」


魔闘士「いや...確かなようだ...2人から光の魔力を一切感じない」


魔剣士「ってことは...さっきの属性付与の解除が原因かァ?」


女勇者「な、なにがどうなっているのさ...」


先程まで自分を除く4人が、女勇者の魔力に悩まされたことすら知らない。

話についてけるわけがなかった、だが4人の会話はどんどんとヒートアップをしていった。


魔剣士「属性付与の解除...属性付与の光とともに蝕んでいた光も一緒に取り込んだってことかァ?」


魔闘士「その可能性は大いにありえる...まさかこんな抜け道があったとは」


女騎士「油汚れは油で落とすとよく耳にするが...それと同じようなことか?」


魔王子「もう少し早く気づくべきだったか...いや、今気づけただけでも幸いか...」
684 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:41:20.18 ID:cDaZ0bIE0

女騎士「...待て」


よく見てみれば魔剣士と魔闘士、2人とも顔に疲労感が見えない。

先程の研究所ではかなり疲労困憊した風に見えていたのに。

魔力への知識が若干乏しい女騎士でも、仲間の魔力の分別ぐらいはできる。


女騎士「...お前らからも女勇者の魔力を感じないぞ?」


魔剣士「それは...説明しようとした時にあの女が遮ったからなァ」


魔闘士「...いまからでも説明するか、もう遅いがな」


先程の小瓶を再度取り出した。

今度こそ説明が起こる、遮らないように女勇者は自分の口を抑えていた。

微笑ましい光景だが、4人はその知識への探究心へと夢中になっていたので無視されていた。


魔闘士「雑魚どもは全滅させた、そのあと研究所をある程度探索させてもらった」


魔闘士「そして見つけたのがこの小瓶と...これだ」


パンパンに膨らんでいたかばんから、金属音とともに取り出した。

小さめの鎧、そして剣と盾、誰のものか明白であった。


女勇者「あ、僕の装備だ」


魔剣士「...槍は見つからなかった、悪いな」


女騎士「いや、大丈夫だ...今はキャプテンの武器がある」


魔闘士「さっさと装備しろ、いい加減裸でいると体調を崩すぞ」


女勇者「はぁい、ありがとうねっ!」


魔剣士「...本当に女なのかァ? コイツ」


女勇者「うん? そうだよ?」


魔剣士「そういうことを聞いてるんじゃねェんだよ」


女騎士「...今後、私が指導しよう」


裸であることに抵抗感のない女勇者。

それを治すべく女騎士が名乗りを上げる、しかし彼女も同族である。

過去に隊長を混浴に誘う女が、裸族の女を指導できるのだろうか。
685 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:43:11.56 ID:cDaZ0bIE0

魔闘士「...話を戻すぞ」


魔闘士「俺は例の魔力を作った男と対峙したんだが...」


魔闘士「どうも、奴は完璧主義者のように思えた」


魔闘士「ならば...有事のときに備えて、特効薬を作成していると考えた」


魔剣士「そしたら、見事に的中したわけだァ」


女騎士「...それを飲んで、お前らは魔力を復活させたってことか」


魔剣士「そォだ」


半ば投げやりな雰囲気で話を進めている。

なぜなら、すでにこの小瓶の役目は終わっていたからであった。

必死こいて探した薬の存在意義はどこにあるのか。


魔剣士「...もういらねェか」


女騎士「いや...キャプテンは大丈夫だとは思うが、魔女が心配だ...とっといてくれないか?」


魔剣士「おォ、そうだったなァ」


魔闘士「...ではどうするか」


魔剣士「魔力を失うことがない今、急いで魔王城へ突入する意味はねェ」


魔剣士「俺様としては、デカい戦力になるキャプテンと、強い治癒魔法を使える嬢ちゃんを探してェ」


魔闘士「...魔力が戻ったが、俺には遠距離攻撃ができない」


魔闘士「だが今は"この武器"がある...この武器に不可欠な弾薬とやらを作れる魔女が必要だ」


魔闘士「もちろん、キャプテンもな...人間にしては頼れる」


女騎士「私も、捜索の案に賛成だ...戦力云々の前に安否が気になる」


魔王子「...急ぐ必要はないな」


満場一致、隊長たちを探しに行く案が可決される空気だった。

だが、また空気の読めない女が水をさしてしまう。
686 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:44:25.47 ID:cDaZ0bIE0

女勇者「そのきゃぷてん? って、人は誰なんだい?」


魔闘士「...」


魔王子「...」


女騎士「...そうだった、まだ説明していなかったな」


魔剣士「...女勇者ってェのは、こんな奴なのかァ?」


女勇者「え...?」


女騎士「これが女勇者の良い所だ、わかってくれ」


魔剣士「...まァ、芯が強いって解釈にしてやる」


女騎士「じゃあ説明するか...まずキャプテンって男はな」


説明しようとすると、4人の口が一斉に動く。

それほどまでに彼は特徴的であった。


女騎士「頼れる男だ」


魔剣士「魔闘士より頼もしいィ」


魔闘士「魔剣士よりかは信用できる」


魔王子「...強い男だ」


女勇者「...」


女騎士を除く3人、魔物である3人がなかなかの高評価を与えている。

はじめは人間だと思っていたが、どうやら違っていたようだった。

女勇者は確信するために思ったことを口に出した。


女勇者「え? 魔物?」


女騎士「いや、人間だ」


魔剣士「異世界から来たっていってたなァ」


魔闘士「神にも会ったとかいっていたな」


魔王子「...そうなのか?」


女勇者「う、うーん?」


余計にこんがらがってしまう。

さり気なく、魔王子も軽くこんがらがっている。

ともかく魔剣士が行動に移る。
687 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:46:04.48 ID:cDaZ0bIE0

魔剣士「じゃあ、ちょっくら探してくるぜェ?」


女勇者「うん、直接あって聞いてみることにするよ」


女騎士「任せたぞ」


魔王子「...」


魔闘士「...待て」


翼になりかけた魔剣を止め、魔闘士の方を振り返った。

その顔つきは非常に険しいものであった、思わず魔剣士は真剣な口調で返答した。


魔剣士「...どうした?」


魔剣士「魔王子の調子が戻った今、比較的安全にここで待機できると思うがよォ...」


魔闘士「そのことではない...キャプテンのことについてだ」


なんのことか、さっぱりわからない。

だが、魔闘士だけが知っている事実があった。

研究所で起きたこと、彼が何者に取り憑かれていることを。


魔闘士「...奴はドッペルゲンガーに憑かれている」


魔剣士「...はァッ!?」


魔王子「...真か?」


魔闘士「あぁ...この目でしっかりと見た...奴が闇を纏っていたのを」


魔剣士「冗談だろ...なんて希少なモノにとり憑かれてるんだよ」


魔闘士「わからん...とにかくそういうことだ」


魔闘士「研究所では俺が気絶をさせた...仮にキャプテンが見つかったとしても油断するな」


魔闘士「奴に敵意はないのは重々承知だが...ドッペルゲンガーは敵意むき出しで襲いかかるだろう」


魔剣士「...参ったなァ、とんでもねェ地雷背負ってるなキャプテン」


魔闘士「暴走したらまた、気絶させなければならない」


魔剣士「...わかった、とにかく探してくるわァ」


魔闘士「気をつけろよ...」


魔剣士「あァ...闇魔法は魔王子だけで勘弁だってのォ」


魔王子「──ッ!」ピクッ


飛び立とうとしたその時、魔王子が剣を鞘から抜いた。

折れた刀身、そのことについて猛烈に疑問を感じたが魔闘士もその気配に気づいた。
688 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:49:34.45 ID:cDaZ0bIE0

魔闘士「...敵か?」


魔王子「複数...そのうち1つは巨大生物だな」


魔闘士「猛獣使いの可能性が高いな」


女騎士「早速敵襲か、久々に本調子で戦えるな」


魔剣士「けッ、ブチのめしてから行くかァ」


女勇者「えっ! まだ着替えてないのにっ!」


ガチャガチャと金属音を鳴らしながら、鎧を着込む。

その間にも、大きな足音は近づいてきている。

音から察するに、四足歩行。


女騎士「──くるっ!」スチャ


それぞれが武器を構える。

そして目の前に現れたのは白い獣。

橋の下、城下町から巨大な狼が飛び跳ねて現れた。


巨狼「────うわっ!?」


そのはずだった、5人が目視した大きな狼はなぜか急に視界から消えた。

動体視力が優れている魔闘士には唯一、縮こまった風に見えていた。

そして、狼に乗っていたと思われる者が聞いたこともない言語を発する。


??1「────WOW WOW WAITッ!」


??2「えっ!? なにが起きたのっ!?」


??3「...恐らく、効力切れかと」


??4「ひやあああああああああああああっ!?」


巨狼「くぅーん...」


魔剣士「...はァ?」


そのトンチンカンな出来事に思わず竜は固まってしまう。

それは彼だけではなく初めからいた5人全員もそうであった。

1秒も経っていない出来事、まるで時が止まったかのような沈黙が訪れていた。


??2「────痛っ!?」


──ドサドサドサッッッ!!

宙に浮いていた5人は乱雑に橋の地面に叩きつけられた。

そして、ようやく動けていたのは女騎士だけであった。
689 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:51:19.44 ID:cDaZ0bIE0

女騎士「──魔女っ!」ダキッ


魔女「...女騎士っ!」ギュッ


尻から着地した魔女、痛みをこらえながらも女騎士の抱擁に応ずる。

まだ出会って日数も立っていないというのに、旧知の友人のように。


魔王子「...生きていたか、キャプテン」


隊長「魔王子...あぁ、この通りな」


腰から着地した隊長、仰向けの状態からすぐに立ち上がる。

この世界での名前を呼ばれたことに少しばかり驚いた。

だが、それについて突っ込むことなく受け入れていた。


魔闘士「...無事か?」


隊長「...すまない、迷惑かけたな」


柄にもなく、心配をされていた。

初めて対峙した時は敵同士であったのに。

記憶を思い返し、出たのは謝罪の言葉であった。


魔闘士「気をつけろ、あれは一時的に止めたに過ぎない」


魔闘士「また、暴走するかもしれない...あまり感情を激しくさせるな」


魔闘士「ドッペルゲンガーとは感情を揺さぶる魔物なのだからな」


隊長「あぁ...わかっている」


魔剣士「...よォ」


隊長「魔剣士...まだ何日かしか経っていないのに久々な感じがするな」


魔剣士「あァ、ここ数日間は濃密すぎるからよォ」


魔剣士「...また、お前に会えて嬉しいぜェ?」


隊長「...魔闘士と違い、魔剣士は思ったことを素直に口にしてくれるから助かる」


魔闘士「どういう意味だ...まるで俺が口に出していないだけと言いたいのか?」


魔剣士「...違ェねェなァ!」


魔闘士「黙れ魔剣士...ここで決着をつけるか?」


魔剣士「やるかァ!? 魔王をブチのめす前に景気良くなァッ!」


魔王子「...」


その光景をみて魔王子は失笑するしかなかった。

同じくその光景を横目で見ながら女騎士があることに気づいた。

690 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:52:47.23 ID:cDaZ0bIE0

女騎士「...もしかして、女賢者か?」


女賢者「え...どうしてわかったんですか?」


魔女「知り合い?」


女騎士「いや、女勇者の仲間候補に名前が上がってたんだ」


女騎士「結局断られたらしいが...似顔絵と似てたんで聞いてみた」


女賢者「...あー、断った覚えがあります」


魔女「そうなのね...やっぱり、強いのねあんた」


女賢者「これでも賢者の修行を終えた身なので...」


少し照れたような口調で、堅苦しく言葉を交わす。

魔女とはあまり会話をしたことがない、女騎士とは初対面。

3人のガールズトークを尻目に、漫談を終えた隊長が2人の魔物娘に近寄った。


隊長「...スライム、ウルフ、大丈夫か?」


スライム「ふわあああ...ちょっとまだ身体が崩れてるけど...だいじょうぶだよ」


ウルフ「...ご主人、もうちょっとねかせて」


隊長「...ここまで運んでくれてありがとう、ウルフ」


ウルフ「...えへへ」


横たわっているウルフの頭を撫でてあげた。

犬を飼っていたことがある、どこを撫でれば喜ぶかは把握していた。

募る話もあるが今は休息を取りたい、そのような微妙な表情をしていたウルフの顔がゆるくなっていた。


女勇者「...」


話についていけない女。

これから魔王を討つ、この者は最重要戦力であるはずだ。

それなのに部外者感が醸し出されていた。


魔王子「...」


そしてその近くで微かに震えている男、剣を鞘に納めて手のひらで顔を抑えていた。

そんな中ガールズトークを抜け出した女賢者が隊長たちの方に寄ってきた。
691 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:53:52.05 ID:cDaZ0bIE0

女賢者「...ようやく落ち着いて話せませすね」


隊長「あぁ...さっきまではしがみつくのに必死で話している余裕がなかったからな」


隊長「...助かった、ウルフたちが来なければ失敗に終わってた」


女賢者「全くです...あそこまで強引に走ってるとは思いませんでした」


女賢者「ウルフちゃんの嗅覚に感謝です、それを頼りに追いつきましたから...」


隊長「...ウルフやスライムは疲れているみたいだからお前に聞く」


隊長「まず...あのウルフの姿はなんだったんだ?」


真っ先に聞きたかったこと、それはウルフの姿。

先程魔闘士が目視できた現象は正しかった。

なぜあの巨大な狼の姿へと変化していたのか。


女賢者「大賢者様の"魔力薬"です」


隊長「...それって」


女騎士「ふむ...聞いたことあるな、確か魔力を大幅増幅させる薬だったか?」


女賢者「まぁ、概ねあってますね」


魔女「大賢者様の膨大な魔力をウルフが得て、狼化ってことね」


魔剣士「なるほどなァ...確かに凄まじい魔力を感じたなァ」


魔闘士「湖で逸れ、密林を抜け城下町を経て合流か...なかなかの速さだな、この犬」


ウルフ「...えっへん」


スライム「すごかったね、ウルフちゃん」


2人で会話していたはずが、わらわらと集まってきていた。

人間も魔物も知識への欲は凄まじい、続いて隊長が2つ目の質問を投げる。


隊長「...なぜ、来たんだ?」


女賢者「...帽子さんの願いを、手伝うためでした」


魔女「...っ!」ピクッ


隊長「...見たんだな?」


女賢者「えぇ、スライムちゃんとウルフちゃんが花を手向けてましたから」


女賢者「...ひと目でわかりました」
692 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:54:54.49 ID:cDaZ0bIE0

魔剣士「...あの時の、剣士か」


女賢者「...はい」


魔剣士(死因は聞くまでもねェな...話の雰囲気からするに他殺か)


女賢者「...彼はもういません、ですが彼の願いを叶えようとしている人がまだいます」


女賢者「だから、その人に追いつこうと私は足を進めました」


女賢者「...その時、スライムちゃんたちが付いてきてくれました」


女賢者「私がここに、私たちがここに来た理由はソレです」


隊長「...そうか」


自然と、再び手のひらをウルフの頭に置く。

そして優しく、とても優しくそれを動かした。


魔王子「...1ついいか?」


遠巻きにいた、魔王子がこちらに近寄り質問を投げかけた。

ついに女勇者は完全に孤立をしてしまった、1人残った女を置いて会話が始まった。


女賢者「魔王子...さん、ですか?」


女賢者(魔闘士に魔剣士、それに魔王子も...ここまでうまくいっているとは...)


魔王子「あぁ、それで質問だが...」


魔王子「なぜ、俺たちの場所がわかった?」


女賢者「それは...なんでですか?」


自分にはわからない、隊長に聞いてみる。

気づけばウルフはここに向かって走っていた。

魔王城を目印にしてもここは手前の橋、見逃していた可能性が高い。


隊長「...俺は指示を出していないぞ」


ウルフ「あっ! それはね──」
693 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:55:23.12 ID:cDaZ0bIE0










「────帽子の匂いがしたからだよ」









694 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:56:47.12 ID:cDaZ0bIE0

匂い、いまこの世に彼はいない。

どこからそれは香るのか、原因は1つ。

孤立していた女勇者、そしてその握っている魔剣が注目された。


女勇者「...そっか、そんなに大事な剣なんだね」


隊長「...」


女勇者「...」


その剣に秘められた運命が、光を通して悟らせてくれていた。

自分には荷が重すぎる、彼女はその剣を返却しに隊長の元へと近寄る。


隊長「...女...勇者、だよな?」


女勇者「...は」


勇気ある者、ようやく言葉を絞り出した。

それはいまから魔王城に向かう者にしてはありえない言葉であった。


女勇者「は、はじめましてぇ...」


自分の背丈を遥かに超える男と話すのは初めて、そして彼の強さを聞かされている。

さらにはこの大事なユニコーンの魔剣を勝手に使っていたという事実。

その3つの要素の緊張が相まって、声のトーンが高くなってしまっていた。


???「...フッ、ハハハハ」


思わず誰かが吹き出してしまっていた。

その声は男、笑い声の方向から察するに隊長ではない。

魔剣士のように訛はない、魔闘士のとも違う、では誰か。


魔王子「...これから魔王を討つというのに、初対面の挨拶か」


魔王子「愚かだ...全くもって愚かな集まりだ」


魔剣士「...魔王子が笑ってらァ」


魔闘士「......これは、なんというか、これは...」


その笑い声、長年一緒にいた彼らですら聞いたことのないモノであった。

意外な人物に笑われ、女勇者の顔は徐々に紅く染まっていった。


女勇者「も、もう...っ! しょうがないじゃないかっ!」


女勇者「こんな大事な剣を勝手に使ってるんだ...緊張するにきまってるじゃないかっ!」


魔女「...ふ、あはは」


女騎士「...かつて、魔王の息子と笑い合ってる勇者がいただろうか」


女賢者「そんな設定の物語を書いたら、現実味がないと批判を食らいそうですね」
695 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:58:16.67 ID:cDaZ0bIE0

魔剣士「つーかよォ、女騎士と魔王子以外初対面じゃねェの?」


魔闘士「そうだな、直接合うのは初めてだ」


魔剣士「俺様も、ある意味初めてだァ」


魔女「私も」


隊長「俺もだ」


女賢者「...私もです」


スライム「わたしも」


ウルフ「はじめましてだねっ!」


女勇者「あ、あはは...はじめまして」


魔王子「まさか要である勇者が、部外者側とはな」


女騎士「...こんな集まりになるとはな」


女勇者「...魔王子くんも女騎士も笑いすぎっ!」


絆でここに集まっているわけではない。

簡潔にいえば、利害の一致で集まっている。

そのような重くない関係だからこそ、決戦前の緊張など呼び寄せなかった。


女勇者「はいっ! お返ししますっっ!」スッ


隊長「あ、あぁ...だが、それは魔王子に渡してくれ」


隊長「...俺はアイツに、その剣を託したからな」


魔王子「...そういえば」スッ


剣を鞘から引き抜く。

何度取り出しても、刀身は折れたまま。

ゆとりができた今、魔物の男2人はついに疑問をぶつけた。


魔剣士「...折れたのかァ」


魔王子「あぁ」


魔闘士「誰にやられたんだ? まさか風帝か?」


先程魔王子は、風帝を殺したと述べていた。

殺したということは、少なくとも戦いがあったということ。

風帝程の男と戦えばヒビの入った魔剣が折れる可能性が見いだせる、魔闘士はそう推理した。
696 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 19:59:23.04 ID:cDaZ0bIE0

魔王子「...聞きたいか?」


魔闘士「あ、あぁ...聞きたいと言われれば聞きたい」


魔王子「...実はだな」


──ゴクリッ!

歴代最強の魔王が魔剣化したモノ、それが折れたとなると相当激しい戦いがあったはずだ。

どのような戦闘を繰り広げたのか純粋に気になっていた、魔物の男2人は思わず生唾を飲み込んだ。


魔王子「...そこの橋から俺ごと落ちた時に、折れた」


魔剣士「...」


魔闘士「...」


女騎士「ん、折れてたのか...気が付かなかったぞ」


彼女の脳天気な反応。

2人がなぜ静かにしているのか理解していない。

歴代最強と言われた魔王の最後が、このザマ。


女勇者「魔王子くんの剣、折れちゃったんだ」


魔王子「...あぁ」


女勇者「...この魔剣、返すね」スッ


魔王子「あぁ」


自身の剣と盾や鎧が手に入った今、ユニコーンの魔剣を持つ意味はない。

それならばこの剣を託された魔王子に返すべきだ。

隊長に託されたときたのなら、なおさらであった。


女騎士「...そうだ」


女勇者「どうかしたの?」


女騎士「ちょっといいことを思いついた...魔王子、折れた刀身をくれないか?」


魔王子「...何をする気だ?」


女騎士「それは見てからのお楽しみだ」


もう使う価値の無い魔王の剣、ならば必要としているものに与える。

これほどまでに軽々しくこの剣が手渡されたのは初めてだろう。

ソレを受け取った女騎士は、先程まで女勇者を包んでいた布を紐状に細工する。

そして出来上がった紐を刀身とともにショットガンに強く巻きつけた。
697 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:00:27.44 ID:cDaZ0bIE0

隊長「...なるほど、ベイオネットか」


女騎士「べいおねっと?」


隊長「そうだ、俺の世界だとその形状の武器をそう呼ぶ」


女騎士「妙案だとおもったが...先人がいたか」


隊長「...だが、刺すように使わないとすぐに折れるぞ」


女騎士「私は槍使いだ、そのように扱えば大丈夫だろうか?」


隊長「なんとも言えんな...もう少しキツく締めておこう」ギュッ


女騎士「あぁ、頼んだ」


最強の魔王が、人間の手によって好き勝手にされる。

その光景をみた2人はどうすることもできない。

ただ、固まってその光景をみているだけであった。


魔剣士「...これは不味いだろ」


魔闘士「4代目魔王を崇拝する者がみたら、暴動が起きるだろうな」


魔剣士「...確か地帝も、風帝寄りだったろ」


魔闘士「あの無口か...そういえばそうだったな」


魔剣士「女騎士が地帝と遭遇しなければいいがァ...」


魔闘士「...四帝の中で最も大人しい奴だ、大事にはならないだろう」


魔剣士「そうだといいけどよォ...ッて、そうだァ」


魔剣士「おォい、魔女の嬢ちゃん」


ちょいちょいと、手招きをする。

それが伝わったのか、彼女がこちらに近寄ってきた。

それを見越して再び例の小瓶を取り出した。


魔女「どうしたの?」


魔剣士「あァ、これを飲め」


魔闘士「...おい」
698 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:01:51.62 ID:cDaZ0bIE0

魔剣士「あァ? どうし──」ピクッ


嫌な予感がよぎった。

彼女から溢れる、雷のような魔力を。

この小瓶の存在意義、それはもうない。


魔剣士「──どうして魔力が漲ってやがるゥッ!」ブン


その大きな声は、疑問によるものではない。

柄にもなく必死こいて、友のために探した特効薬。

それを彼女に向かって投げつける、幸いにも魔女は上手にキャッチした。


魔女「えっ!? ご、ごめん...?」


魔闘士「...困惑しているぞ、少し落ち着け」


魔剣士「なんなんだよォ...どいつもこいつもよォ...」


魔剣士「結構探すの大変だったんだぜェ...?」


魔闘士「...どうやって、魔力を取り戻したんだ?」


魔女「うーん...ちょっと言えないかなぁ」


隊長「...みんな、いいか?」


そんな彼らを横目に、締め終えた隊長が声を張る。

その言葉には少しばかり緊張感のある雰囲気が感じられた。

各々が彼に注目する、深い緑色のマフラーが風にたなびく。


隊長「...これから、魔王城へ突入する」


隊長「目的がどうであれ、種族が違くても、俺たちは共に闘わねばならない」


隊長「俺個人としての目的がある、魔王が使えるという転世魔法とやらだ」


魔王子「...転世魔法」


隊長「あぁ、大賢者が言うには世界を跨ぐことのできる魔法だ」


隊長「...それを利用して、俺は元の世界に戻りたい」


魔剣士「なるほどなァ...ってことはやっぱり、ブチのめす前に一度交渉しねェとなァ」


隊長「...尋問なら慣れている、任せてくれ」


魔闘士「魔王を尋問するつもりなのか...」


魔剣士「そんぐらいの意気込みがねェとこの先やってられねェぜ」
699 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:03:41.60 ID:cDaZ0bIE0

隊長「...そしてもう1つ目的がある」


隊長「先程言った、俺の友であった帽子の願いを叶えるためだ」


隊長「ソイツは魔王を倒し、人間でありながら新たな魔王に就任する」


隊長「そして人間と魔物が平和に過ごせるような政策をする...そう言っていた」


隊長「俺はこの世界に詳しくはない、この世界で過ごしてきたお前らには冗談に聞こえるかもしれない」


隊長「だが帽子は本気だった、アイツの目を見てそう思った」


女勇者(...帽子さん、か)


隊長「しかし...夢半ばに帽子は殺されてしまった...あろうことか、魔物ではなく人間たちによってな」


魔女「...」


スライム「...」


ウルフ「...」


女賢者「...」


女騎士「...辛かっただろうな」


隊長「あぁ、仲間の死には慣れているつもりだったが...」


隊長「...湿っぽい話はここまでにしよう」


隊長「俺は以前、魔王子が魔王を倒す目的を聞いた」


魔王子「...そこからは、俺が喋ろう」


魔王子「俺の目的、それは今の腐りきった政策を正すこと」


魔王子「人間界へと侵略するために、今は魔界中の腕利きのならず者共をここに集めている」


魔王子「...そして元々ここに住んでいる、戦いを好まない者たちが脅かされている」


魔王子「しかし親父...魔王はその民たちのことを気にかけずに侵略を進めようとしている」


魔王子「以前の魔王なら、そんなことは絶対にせずに民を救うだろう」


魔剣士「...確かになァ、最近になって痴呆にでもなったってかァ?」


魔闘士「ここ数年で、急激に攻撃的になったな」


魔王子「...俺の中にある理想であった魔王の像は崩れた」


魔王子「もうそのような父親に用はない...殺してでも魔王の座を奪い取る」


魔王子「そして新たな魔王として君臨し、魔界に平穏を訪れさせる」


魔王子「...それが俺の目的だ」
700 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:07:49.22 ID:cDaZ0bIE0

隊長「...俺はその目的に、便乗させてもらう」


隊長「聞こえが悪いかもしれない...だが新たな魔王の適任者など、俺は帽子や魔王子以外に知らない」


隊長「そしてその目的の理念...微かに帽子と近いモノを感じた」


隊長「...魔王子の剣にヒビを入れたのは俺だ、その申し訳無さも要因の1つだが」


隊長「その目的の理念に故に、俺は帽子の魔剣を託した」


魔王子「...利害の一致か、大いに結構」


隊長「よろしく頼む、魔王子」


魔王子「あぁ」


握手などしない、行動する理由がはっきりしているからだ。

強い眼差しがお互いの目を合わせている。

これほどまでに合理的な関係で信用を得ている者たちなどいないだろう。


女勇者「...僕たちも便乗させてもらうよ」


女勇者「僕たちの目的は魔王を倒して、人間界に蔓延る悪さをする魔物の士気を下げること」


女勇者「そう王様に命令されたからここまできたんだよ」


女勇者「2人の目的のような、重みを背負っていないけど...」


女勇者「...」


言葉が詰まっていた、魔王を討てば人間界は平和になるだろうと楽観視していた。

隊長と魔王子、彼らがどれだけの宿命を背負っていたのか。

自分のものと比べると、とても薄っぺらく思えていた。


女騎士「...女勇者」


女勇者「...なに?」


女騎士「...光魔法の属性を持つ人間は希少だ」


女騎士「神によって与えられると比喩されるほどに希少だ...そう書物で読んだことがある」


女騎士「...そして、お前はソレをたまたま生まれ持っていた」


女騎士「ソレを持っていたがために、勇者として選抜されてしまった」


女騎士「ただの田舎娘として過ごしていたのに...数年前に急に王国へと招集されて勇者になった」


女騎士「そしてお前は文句持たれずに王の命令を聞き、ここに来た...違うか?」


女勇者「...そうだよ」


魔闘士(...ただの田舎娘で、あの魔力量か)
701 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:09:16.72 ID:cDaZ0bIE0

女騎士「お前と旅をして、数年が経った」


女騎士「...一度も弱音を聞いたことが無い」


女騎士「ただの娘だった者が、愚痴ももらさずにここまで来たんだ...私はそれだけで十分誇りに思える」


女勇者「...」


誰かがやらなければいけない、誰かが魔王を討たなければ、誰かが魔物から被害を受ける。

どんなことがあっても作戦を全うしなければならない、そのような重いモノを小さな背中の娘が背負っていた。

女が背負うには重すぎる、しかしなにも背負っていないからこそ背負えていた。


女騎士「...薄っぺらくないさ」


女勇者「...ありがとう」


彼女の強い眼差しが、隊長と魔王子に向けられる。

3つの思想が3人の頭の中へと入り込む。

目的は違う、だが目的は一緒の思想。


隊長「...俺は帽子のために」


魔王子「俺は魔界のために」


女勇者「僕は人間界のために」


魔王子派の魔剣士と魔闘士、女勇者派の女騎士。

隊長派の魔女、スライム、ウルフ、女賢者、3つの思想が彼らの瞳に魂を宿らせている。

決起集会が終わる、これほどまでに静かなモノはないだろう。

冷静で合理的な彼らだからこそ、この程度のモノで士気を高めることが可能だった。

雄叫びなど必要ない、必要なのは信用、感情によるものではなく客観的な信用だ。

10人が歩み出す、ついに魔王城への進攻が始まった。


〜〜〜〜
702 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:10:37.34 ID:cDaZ0bIE0

〜〜〜〜


──カツカツカツ...

大きな広間に足音が響いていた。

その音の主は先程の、燃える男。


炎帝「...」


??1「足早に出ていったと思ったら、もう帰ってきたのね」


??2「...」


その男に、ねっとりとした口調で話しかける女。

そしてその横には言葉を発しない女児が1人。


炎帝「...水帝よ、地帝を見習ったらどうだい?」


水帝「お断りね、それよりも早く行くわよ」


地帝「...魔王様、待ってる」


炎帝「...風帝は?」


水帝「さぁ? もうすでにいるんじゃなぁい?」


──ガチャンッッ!!

大きな音とともに、大きな扉を開く。

雑談を交えながら歩いていた彼らの顔つきは険しいものになっていた。

その部屋の主を確認すると、3人は跪いた。


炎帝「...ただいま参りました、魔王様」


炎帝(本来なら、こういう第一声は風帝がやってくれるんだけどねぇ)


水帝「...」


地帝「...」


???「...よくぞ参った、炎帝たちよ」


その広間にある大きな椅子に君臨する者。

この世の魔物を統べる王、その横にはその妃と思わしき女性。

魔王だ、圧倒的な闇を誇る魔王がそこに存在していた。


魔王「早速だが、残念な知らせがある」


炎帝「...と、言うと?」
703 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:12:09.54 ID:cDaZ0bIE0

魔王「妻によると...風帝の魔力が途絶えた様だ」


その言葉にどのような意味があるのか。

風帝の魔力がなくなったということは、もうこの世にいない。

思わず水帝は魔王に向かって口を開いた。


水帝「流石の感知能力...恐れ入ります」


魔王「世辞はいい、それよりも同胞を弔え」


水帝「...はい」


地底「...」


炎帝「...魔王子様でしょうか」


魔王「そうだ、奴は仲間を連れ魔王城へと向かっている」


魔王「...もうじき進攻してくるだろう」


魔王「今の魔王城には我と妻、そして側近を含めずにいるとお前たちしか残していない」


魔王「...わかるな?」


炎帝「はい...食い止めろと」


魔王「その通りだ...生死は問わず、全力でやれ」


魔王「...今日この日、この世界における重要な日になるというのだからな」


含みのある言い方であった。

なにか大義を果たそうとしている風に聞こえた。

その一方、炎帝は少し疑問を抱いていた。


炎帝「...まだ、私たちにお教えくださりませんかね」


魔王「...それはできない」


魔王「たとえ息子に反逆されても...まだ言うわけにはいかない」


炎帝「...いえ、私たちは忠実に全うするだけです」


炎帝「魔王様の...部下なのですから」


水帝「...」


地帝「...」


──ガチャンッ!

やや不穏な空気が開閉音にかき消された。

誰かが扉を開いた、そこに居たのは例の人物であった。
704 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:13:52.42 ID:cDaZ0bIE0

???「遅くなりました」


魔王「側近か...調子はどうだ?」


側近「えぇ、予定通り本日から実践することが可能でしょう」


側近「それともう1つの実験体も...いえ、こちらは私信なので言い留めておきます」


魔王「そうか...ならば、急ごう」スッ


魔王が椅子から立ち上がった。

そしてその横にいた女性に耳打ちをする。


魔王「...いよいよだな、妻よ」


魔王妃「えぇ...とても待ちました」


〜〜〜〜


〜〜〜〜


隊長「...」


アサルトライフルの先から煙、火薬の香りが微かに漂っていた。

周りには先程炎帝により退避させられていた魔物が横たわっていた。

その者たちは撃たれただけではなく、切り傷や打撃跡が残っている。


魔剣士「...今のが雑兵かァ」


魔闘士「なかなか腕のある奴らだった...もう少し数がいたら負傷者がいただろうな」


魔王子「気をつけろ、この屑共は腕を買われてここにいる」


女騎士「...なるほどな」


隊長たちは既に魔王城に通ずる大橋を渡っていた。

その際に横たわっている者たちを打ち倒していた。

いまここに敵影はない、少なくとも前方には。


女賢者「...後ろからきてますね」


彼女が感知した魔力は、いま渡った橋の後方から。

今になって出撃命令が出されたのであろう。

先程の雑兵たちが迫ってきていた。


女勇者「...どうしようか、炎帝とかと闘っているときに横槍いれられたら嫌だよ?」


女騎士「また、人海戦術か...」
705 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:15:33.54 ID:cDaZ0bIE0

隊長「先を急ごう、追いつかれてはたまったものじゃない」


的確な判断、多くのものが隊長の意見に納得をした。

各々が足を動かし、いよいよをもって魔王城へ突入しようとしていた。

しかし、異議を唱えるものが1人いた。


魔剣士「──待ちなァ」スッ


──ズドンッッ!!!

彼の重すぎる大剣が地面に突き刺さった。

まるでそれは障害物のように、それが揺らぐことなどあり得ない。


魔剣士「俺様たちは今から、魔王軍最大戦力である四帝と闘わねェといけねェ」


魔剣士「だが、その勝負を雑魚の大群に邪魔されてみろォ」


魔剣士「女勇者の言うとおり、必ず此方が不利になる」


魔剣士「今度ばかりは、炎帝たちは本気を出してくる...敵味方関係なく攻撃してくる可能性が高い」


先程炎帝は部外者に被害がでないように1対1の場を設けていた。

しかし今は部外者など存在しない魔王城の中、四帝たちは当然全力を出してくる。

誰が巻き込まれようと、もう関係ないだろう。


魔剣士「...ここは俺に任せろォ」


魔剣士「この竜人...魔剣士様が鼠一匹でも入り込ませねェッ!」


橋に刺さった大剣が完全に障害物となった。

我々ではなく、こちらに迫ろうとしている雑兵たちに向けて。

だが、冷静な言葉が彼の意気込みに水をさした。


女騎士「...無茶だ」


女騎士「魔剣士、お前の実力はわかっている...そしてこの状況だ」


女騎士「その言葉に頼りたい気持ちも十分にある...だが」


女騎士「...数が多すぎる」


魔剣士「...舐めんなよ、女騎士」


魔剣士「たとえ千の数、万の数がいようと雑魚は雑魚だァ」


魔剣士「..."竜"は"雑魚"なんかに負けねェ、そう相場が決まってらァ」


橋の向こう側を向いてこちらを見ずに啖呵を決める、彼はすでに覚悟を完了している。

少なく見ても万の数がいる雑兵に向けて、漲る闘志を高まらせている。
706 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:17:01.79 ID:cDaZ0bIE0

女騎士「...だけど──」


────グイッ!

再び彼女が彼を引こうとしたその時だった。

力強い手が、勇ましい声とともに彼女の腕を引っ張った。


魔闘士「どうやら、魔剣士だけでは不安のようだな」


女騎士「...魔闘士っ!?」


魔闘士「俺もここに残る...さっさといけ、女騎士」


早速戦力が2つも削られた、だがここで食い止められなければ。

それほどに人海戦術というものは恐ろしい。

雑魚を相手にしながら四帝を相手にすることなど魔王子にも困難だろう。


女勇者「任せたよっ! 魔闘士くん! 魔剣士くん!」


女騎士「──っ! 死ぬなよっ!」


隊長「任せたぞッ!」


魔女「魔闘士っ! さっきいっぱい弾薬を作ったんだから、派手にぶっ放しなさいね!」


スライム「あなたたちは強そうだからきっとだいじょうぶだよっ!」


ウルフ「がんばってねっ!」


女賢者「よろしくお願いしますっ...」


魔王子「...お前たちには、俺の魔王のとしての姿を見てもらいたい」


魔王子「必ず...生き残れ」


魔剣士「へーへー、言われなくてもわかってるよォ」


魔闘士「この俺たちが、あんな雑魚共に負けると思っているのか?」


魔王子「...思っていないさ」


どこか、優しげな言葉とともに彼は颯爽とした。

この場に残った魔物の男2人、その目の先には万の武装集団。


魔闘士「さっさと全滅させて、キャプテンたちに合流するぞ」


魔剣士「あァ、わかってらァ』


身体が、魔剣と一体化する。

強烈な爆発音とともに魔王城周辺が戦場と化す。

闘いの火蓋が切って落とされた。


〜〜〜〜
707 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:19:58.99 ID:cDaZ0bIE0

〜〜〜〜


隊長「...始まったか」


耳をすませば、遠くから爆発音が聞こえる。

しかしそれでも彼らの足は止まらなかった。

魔王の城だけあって、やたらと広い城内に走る足音が響く。


魔王子「俺についてこい...このまま5階の大広間に向かう」


魔王子「そこに、魔王がいるはずだ」


女騎士「いよいよだな...」


女勇者「どの場面で、四帝が現れるかだね」


女賢者「そうですね...できれば個別に現れてもらいたいものですが...」


そう言っている間に、階段が現れる。

その第一段に足をかけたその時であった。

違和感に気づいたのは、女賢者と魔女だけであった。


魔女「──まってっ!」


女賢者「──階段の一部が魔法の欠片ですっ!」


魔王子、女勇者、女騎士、ウルフは既に足を階段に乗せていた。

隊長は魔女に引っ張られ足を階段に載せていない、スライムは最後尾なので無関係。

魔王子ともあろう者が気づけない程に、巧妙に細工されていた。


魔王子「──転地魔法かッ!?」シュンッ


最後に聞こえたのは、ハメられた男の怒声であった。

気づけば、4人はどこかへと連れて行かれた。

早くも分断されてしまっていた。


隊長「──GODDAMNッッ!!」


魔女「ウルフっ!? 女騎士っ!?」


女賢者「...抜かりました、まさかこんな初歩的な罠が」


スライム「みんなどこにっ!?」


女賢者「まってください...少し魔力を"感知"してみます」


大賢者の元で長年修行した彼女ならできる行為であった。

少し離れた程度ならその人の魔力を感じ取ることができる。

彼女の言う感知とはソナーのような行為であった、しかし弊害も存在していた。
708 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:21:17.41 ID:cDaZ0bIE0

女賢者「────っっ!?」ビクッ


この魔王城、おそらく魔王や四帝が君臨している。

それらの強大な魔力をモロに感じ取ってしまう。

大きな大きなプレッシャーが襲いかかる中、微かに感じるモノがあった。


女賢者「──いました、この魔王城の中にいます」


隊長「本当かッ!?」


女賢者「えぇ...間違いないです...」


魔女「よかった...どこか遠くに飛ばされたかと思ったわよ」


スライム「...ウルフちゃん」


女賢者「...早く合流しましょう」


やけに催促を促す、この状況なら戦力は1つにまとめたほうがいい。

だがそれだけではなかった、先程感知をしたからこそ彼女は焦っていた。


???「...侵入者ね?」


どこか、ねっとりとした瑞々しい声で問いかけられた。

相手は1人、その佇まいからして雑兵ではない。


隊長「──誰だ?」スチャ


容赦なく、アサルトライフルを彼女に向けた。

それに続き魔女も身体に稲妻が走っていた。

2人とも、すでに臨戦状態であった。


女賢者「遅かった...やっぱりこちらに向かってきてましたね」


女賢者「...この魔王城、極端に魔力の分布が少ないです」


女賢者「恐らく、この城には魔王と四帝を含めた数人しかいません」


魔女「...ってことは、この人は」


???「あらぁ...感知能力持ちだったのね...」


水帝「その予想通り...私は四帝の1人、水帝よ」


水帝「悪いけど...この城に入ったからには死んでもらうわね」


魔女「...そうはいかないわよっ!」
709 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:23:48.15 ID:cDaZ0bIE0

水帝「──"水魔法"」


──バシャッ!!

先に仕掛けてきたのは、水帝と名乗る魔物の女。

その早すぎる詠唱に防御策は愚か、驚嘆の声すら出せなかった。

4人が激流に飲み込まれたかと思われた。


水帝「...あらぁ?」


隊長「...これはッ!?」


辺り一面が形状を保った水に覆われている。

はじめは野良魔物だった彼女が彼らを守っていた。

いつのまにか体積を広げたスライムが、水の身体で激流を飲み込んでいた。


スライム「──ここはまかせてっ!」


隊長「──スライムッ!?」


スライム「はやくっ! ウルフちゃんを探してあげてっ!」


女賢者「──スライムちゃんが時間を稼いでくれますっ!」


女賢者「今のうちにウルフちゃんたちの安否を確認しにいきましょうっ!」


直感的に、スライムが水帝を相手に時間を稼げると悟った。

ならばウルフを見つけ、魔王子たちと合流してからこの場に戻り水帝を倒す。

水帝に追われながら人を探すなど困難、それが最善の答えであった。


隊長「──必ず、生きて待ってろよ?」


魔女「──あんたを死なせたら、帽子に合わせる顔がないんだからね」


スライム「...うんっ!」


3人が階段の一段目を飛ばし2階へ駆け抜けようとした。

しかし、そこまで水帝という者は甘くはなかった。


水帝「...逃さないわよ、"水魔法"」


────バシャバシャッ...!

再び魔法によって、激流が現れた。

それを再度、スライム自らの身体で受け止めようとした。


スライム「──えっ?」


まるで鞭のようなしなりを見せてスライムを避けた。

予想した軌道とは遥かに違う、不覚にも階段へと通してしまった。
710 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:25:32.66 ID:cDaZ0bIE0

女賢者「──っ!」


──どんっ!

階段を登っている2人の背中を強く押した。

それが彼女にできる、唯一の抵抗であり手段でもあった。


隊長「──女賢者ッ!?」


女賢者「4階ですっ! 4階あたりにいるはずですっ!」


鞭のような激流は、女賢者しか捉えることができなかった。

水でありながら彼女の足首を掴み、向こうへと引っ張られる。

その力に抵抗できず、隊長と魔女の視界から女賢者が消え去った。


女賢者「──うわっ!」


スライム「あぶないっ!」


──バシャンッ...!

水に引っ張られ、もとの階層に戻された。

そのまま地面へと叩きつけられそうだったのをスライムが受け止めた。


女賢者「...ありがとうございます、スライムちゃん」


スライム「ごめんなさい...魔法をとおしちゃって...」


女賢者「いいんです、肝心の2人を逃がすことができたのですから」


スライム「...うん」


女賢者「それよりも...」


水帝「...まさか、スライム族がこの激戦区となる場所にいるとはね」


スライム「...ふんだ」


女賢者「スライム族を舐めてもらっては困りますよ」


水帝「舐めているつもりはないわぁ...その恐ろしさは熟知してるつもりよ」


水帝「どこにでも生息しているスライム...単純でいて驚異的な特性を持っている」


水帝「...けど、この私も舐めてもらっては困るのよ?」


女賢者「...それはこちらも承知です」


氷のような、冷たい威圧感が辺りを包み込んだ。

じわりじわりと、その恐怖が足元に迫っていた。


〜〜〜〜
711 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:26:37.60 ID:cDaZ0bIE0

〜〜〜〜


魔王子「...ここは?」


気づけば、4人が見知らぬ部屋にいた。

いとも簡単に原始的な罠に引っかかったのを覚えている。

やけに熱いこの部屋、仕掛けたのが誰なのかすぐにわかった。


炎帝「...やぁ」


女勇者「炎帝...っ!」


女騎士「...先程はよくもやってくれたな」


ウルフ「うぅ...あつい」


魔王子「お前にしては、らしくない事をしたな」


炎帝「...よく知らないが、今日は魔王様にとって大事な日らしいんだ」


炎帝「本当なら10人全員焼き殺す予定だったんだけど...頓挫してしまったよ」


炎帝「まぁ、罠のかかり具合を確認しにいった水帝が残りを殺してくれると思うよ」


魔王子「...小癪な」


炎帝「...じゃあやるとするかな」


女騎士「...っ!」ピクッ


女騎士は直感的に理解する、炎帝が今から繰り出すのは本気の魔法。

先程、本気を出していないというのに女勇者を圧倒させた者に立ち向かえるだろうか。

その思考を見越されてたかのように彼は彼女に囁いた。


魔王子「...俺を置いてキャプテンたちと合流しろ」


女騎士「...ふざけるな、置いていけるか」


魔王子「向こうは本気だ...だが、俺も本気でヤる」


魔王子「...本気でヤれば、俺の闇があたりを容赦なく覆うだろう」


要するに、彼女たちに闇が降りかからないように。

退避を命じていたのであった、彼なりの不器用な優しさ。


女騎士「...倒せるんだな?」


魔王子「俺を誰だと思っている...」


女騎士「...わかった、飲もう」
712 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:27:44.15 ID:cDaZ0bIE0

魔王子「いいか、俺が隙を作ったらこの部屋から脱出し、階段をみつけ1階へと向かえ」


魔王子「そして水帝と闘っているであろうキャプテンと合流し、各個撃破しろ」


魔王子「それが最善だ」


女騎士「あぁ、了解した」


女騎士「わかったか? 女勇者、そしてウルフ...だっけか?」


ウルフ「うん」


女勇者「...わかったよ」


女騎士「じゃあ頼んだぞ、魔王子」


魔王子「あぁ」


炎帝「...内緒話はもういいかな?」


律儀に待ってくれていた。

それと同時に部屋の温度が上がったようなきがした。

彼が、魔法を唱えようとしたその瞬間を早くも見逃さなかった。


魔王子「────そこだ■■■■」


──■■■ッッ!

ユニコーンの魔剣が抜刀された。

光の剣が闇の剣風に包まれ、それが発射された。


炎帝「──"転移魔法"」シュンッ


思わず、詠唱を切り替え素早く別のモノを唱えた。

回避せざる負えない、それほどまでに高威力の闇だと瞬時に理解していた。

その顔は、やや驚いたような顔つきであった。


女騎士「──今だっ!」ダッ


ウルフ「わんっ!」ダッ


──ピタッ...!

その隙を見逃さずに、部屋の出口へと走り出した。

しかし強烈な違和感が女騎士の足を止めてしまった。

足音が2つしかない、3人目がついてきていない。


女騎士「...女勇者?」


女勇者「ごめん、先にいって」


女勇者「ここで行ったら、とても嫌な予感がするんだ」


魔王子「──足を止めるなッ! 行けッ!」
713 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:28:59.49 ID:cDaZ0bIE0

炎帝「逃がす訳にはいかないよ、"炎魔法"」


──ゴオオォォォォォッッッ!!

強烈な炎がこちらに迫ってきている。

人の足ではもう逃れることができない。


女騎士「しまっ────」


──グイッ!

自分の首元を、強く捕まれ引っ張られる感覚がした。

そして気づけば、炎は女騎士から遠ざかってきた。

違う、女騎士が炎から遠ざかっていた。


ウルフ「──だいじょうぶっ!?」


獣特有の身のこなしで、獣特有の迅速さで女騎士を救助した。

そのまま部屋の脱出に成功する、魔王子の視界から女騎士とウルフが消え去った。


魔王子「...何故残った?」


女勇者「ごめんね、でもとても心配だったから」


魔王子「危うく、燃やされるところだったぞ...」


女勇者「...軽率だったね」


魔王子「...留まったからには、光に期待しているぞ」


炎帝「しまったなぁ...まさか見逃してしまうとは...」


炎帝「...ハハハ」


魔王子「...何がおかしい」


炎帝「いや、どうやら本気を出せるみたいだね、さっきと違って...」


炎帝「本気の魔王子と本気の女勇者と闘うのか...私は...」


炎帝「...燃えてきたよ」


ただならぬプレッシャーが部屋を覆う。

魔王軍最強と呼ばれた男が唯一本気を出せる特殊なこの部屋。

魔王子の頬に一筋の冷や汗が垂れる。


〜〜〜〜
714 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:30:27.51 ID:cDaZ0bIE0

〜〜〜〜


女騎士「...さっきは助かった、ありがとう」


ウルフ「ぶじでよかったねっ!」


話しながら、急いで階段を探す。

無駄に広い魔王城、なかなか厳しい探索かと思われた。


ウルフ「...こっちからご主人の匂いがする!」


犬特有の嗅覚に助けられていた。

あっという間に下へと向かう階段を発見する。


女騎士「...凄いな」


ウルフ「えっへん!」


女騎士「キャプテンの仲間なだけはあるな」スッ


ウルフ「...えへへ」


気づけば、頭をなでていた。

彼女もまた犬を飼っていた経験があった。

どこを撫でれば喜ぶか完全に把握している。


女騎士「...急ごう」


ウルフ「うんっ!」


階段を下り、下の階層へと到着する。

この階段は1つ下にしか通じていない。

新たな階段を探すために、ウルフが鼻を聞かせた時だった。


ウルフ「...だれ?」


女騎士「...敵か」スチャ


どう考えても敵であった、背負っていたショットガンを構えた。

その構え方は射撃をするためのモノではない、トリガーを指にかけるまでは同じ。

だが持ち方が違う、彼女はグリップとストックの付け根を握っていた、まるで槍のように。
715 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:33:08.95 ID:cDaZ0bIE0

???「...侵入者」


か細い声、とても静かでいて威圧感のある声が広間に響いた。

ウルフの髪の毛は逆立ち、女騎士は鳥肌を立てていた。


地帝「この地帝が排除します」


女騎士「地帝か...まぁ、そうだろうな」


ウルフ「...がるる」


地帝「..."属性同化"、"地"」


そうつぶやくと、彼女の身体が大地に包まれる。

自身の身体を大地と同化させる、恐らくかなりの防御を誇っているだろう。

彼女の名は地帝、見た目はただの女児しかしそれでいて恐ろしいほどの実力を持っている。


女騎士(...階段を探している余裕はないな)


女騎士「聞いたことのない魔法だ...それに素直に通してくれなさそうだな」


地帝「...」


女騎士「...力を貸してくれ、キャプテン、魔王子」


女騎士「そして...ウルフもな」


ウルフ「...もちろんっ!」


四帝と直に対面してわかるその実力差、ただの人間がどこまでできるのか。

彼女の支えは彼の武器、そして彼の刀身、そして横にいる可愛らしい獣であった。


〜〜〜〜
716 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/16(日) 20:34:04.40 ID:cDaZ0bIE0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
717 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:00:48.13 ID:9HsuNt0O0

〜〜〜〜


隊長「...」


──......

物音を立てずに歩いている。

先程まで、急いで階段を駆け上っていたというのに。


隊長「...敵影なし」


魔女「なら、急ぐわよ」


いかに速く魔王子たちと合流できるかが鍵。

それでいて不意打ちを受けないようにクリアリングを欠かさない。

この焦燥感に駆られる状況でもお互いに冷静でいられる、魔王子や女勇者とは違った強さが目立つ。


隊長「...スライムは大丈夫だろうか」


どんなに頼もしく思えても、彼女の第一印象が不安を煽る。

あののろまでゆるそうなスライムが水帝を抑えている、心配で仕方なかった。


魔女「...大丈夫よ、スライムが一番成長したんだから」


魔女「女賢者もいる...耐えてくれるわよ」


隊長「...あぁ、そうだな」


魔女「それにしても、上に続く階段はどこかしら...」


隊長「...仕方ない、手分けをしよう」


隊長「危険かもしれんが...女賢者が言うには、魔王城内にはあまり敵がいないそうだ」


魔女「...そうね、その方が早く見つけられるわね」


隊長「いいか? 敵や階段を見つけたら音をたてろ」


魔女「わかった、見つけたら雷でも落とすわね」


そう言うと魔女はどこかに行ってしまった。

雑兵がいればこの階層は激しい戦場と化していただろう、それほどに広い。

魔女が別方角へ行ったのを確認して、自らの足を進める。


隊長「...Clear」スチャ


決して油断せずに、前に進む。

いつ敵が現れてもいいように指にトリガーをかける。

緊張状態で探索しながら、数分が経過した時だった。
718 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:05:09.13 ID:9HsuNt0O0

隊長「...部屋か?」


前方に、小部屋と思しき扉を発見する。

今は階段を見つけるのが最優先だ、通り過ぎようとしたはずだった。


隊長「...」


──ピタッ...!

彼に襲いかかったのは好奇心であった。

この部屋の中が気になる、そんな具体的なモノではない。

誰もが感じることがある無意識の好奇心、ただ、この扉を開けようと思ってしまっていた。


隊長「...」


──ガチャ...

気づけば、アサルトライフルを背負いハンドガンに持ち替えていた。

そうでなければ、扉を開けることなど困難だろう。


隊長「...ここは」


小部屋に入ると、あたりは植物で彩られていた。

鼻孔に感じるのは爽やかな匂いや、少しばかり刺激のあるモノ。

まるでフラワーショップに入店したかのように思えた。


隊長(手がかりなしか...)


無意識の好奇心の中には淡い期待が混じっていた。

あわよくばこの小部屋に階段があれば。

あわよくばこの小部屋に地図が記されていれば、しかし結果は残らなかった。


隊長(...階段探しに戻るか)


???「...うぅーん」


隊長「──ッ!」ピクッ


部屋から出ようとした瞬間、何者かの声が聞こえた。

敵か、それともそうではない誰かなのだろうか。

少なくとも味方ではない、ハンドガンを構え再び部屋を探索し始める。


隊長(...どこだ)


この小部屋、花や植物によって視界を確保するのが難しい。

まるでジャングルの中を歩いているような歩行の仕方をしている。

垂れ下がった蔓や花を、暖簾に腕押しの如くどかしている。


隊長「...」


先を急いでいるはずなのに、なぜ声の主を探しているのか。

無意識というものに理を求めてはいけない。
719 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:08:49.14 ID:9HsuNt0O0

隊長(...マフラーが)


──ガサッ! グイッ...

深い緑のマフラーが、隊長の横にある花に引っかかってしまった。

それを外そうとした瞬間、花を動かした際に死角であった部分が露わになる、そこにあったのはベッド。


隊長「──ッ!」サッ


音を立てずに、なおかつ迅速に、そして確実に。

彼の完璧と言える接近、そしてハンドガンの照準がベッドに横たわっている者を捉えていた。


隊長(...女児か?)


髪色は白、女勇者と同じだがツヤがない、老化によって変色した様だ。

見た目は20代にも満たない子どものような体型をしているというのに。

そしてその子の付近には大量の本が乱雑に置かれていた、まるで見舞い人が持ってきたような。


隊長「...」


???「...誰ですか?」


ガラガラの声だった、どうやら気づいていたらしい。

それでいて敵意を感じられない、眉間を狙っていた照準は下げていた。

ベッドに横になりながら、瞳を開かずに女の子は話しかけてきていた。


隊長(...盲目か)


返答を行わず、冷静に考察をしていた。

へたに返事をして刺激を与えるよりかは堅実であった。


???「...誰もいないんですか?」


隊長「...」


このまま去ればやり過ごせそうだ。

不必要な戦闘は避けるべき、階段探しに戻ろうとした。

その時だった、女児が伸びた前髪をうざったらしくかき分けた。


隊長「────ッ!?」ピクッ


一瞬だけ、あらわになったその顔。

髪の色も声も変わり果てて気がつかなかった。

その懐かしくもあり見覚えのある顔。


隊長「────"少女"、なのか?」


もし、他人の空似だったら。

もし、この投げかけでこの子が臨戦状態になったら。

あらゆる危険性があったであろう質問、冷静さが彼の特徴だというのに。
720 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:10:43.93 ID:9HsuNt0O0

???「──きゃぷてんさん?」


そして、向こうも気がついていなかった。

視力は失われている、頼れるのは聴力だけだというのに。

隊長は意地悪にもなにも喋ってくれなかった、気づかなくて当然だった。


隊長「...間違いないんだな?」


???「...きゃぷてんさん、なんですね?」


気づけば勝手に歩み寄っていた。

それと同時に少女の見えない目が開かれていた。

瞳には光が失せているのに、隊長の顔を見ようと精一杯に目を見開く。


少女「────ぎゃぶでんざんっっ!!」ダキッ


隊長「少女...生きててよかった...」ギュッ


熱い抱擁は先程魔女と行った、だがこの意味合いは家族愛に近いモノであった。

少女を抱き寄せて、胸を貸し、頭を撫でている、彼女からボロボロと流れる熱い涙を受け止めていた。


少女「もう...だめかと思いました...ひぐっ」


少女「お父さんも...お母さんも...死んじゃいました...」


隊長「...」


少女「私も...目が見えなくなって...どこかに連れてこられて...ぐすっ」


少女「よくわからないこと...たくさんされて...」


隊長「...辛かったな...一緒にいてやれればよかったな」


少女「う、ひっぐ...」


隊長「...ここは危険だ、安全なところに行こう」


少女「は、はいぃぃ...」


隊長(...拉致されて実験体にされていたのか)


隊長(あのクソ野郎と同じことをされたのか...腸煮えくり返る...)
721 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:12:26.23 ID:9HsuNt0O0

隊長(...それよりも、どう行動するか)


異様に軽い少女を片手で支えながら抱きかかえ、もう片手でハンドガンを握りしめる。

本当なら一度退避をして少女を安全な場所に隔離しておきたい。

だが今は仲間であるスライムと女賢者が水帝と接触している。


隊長「...」


いち早く階段を見つけ、上の階層に居ると思われる魔王子たちと合流。

そしてそのまま階段を下り、魔王子と共に水帝戦の加勢をしなければならない。

難しいと思われる問に彼は早くも決断した、やるべきことは変わらない。


隊長「...少女、ここは魔王城なんだ」


少女「...そ、そうなんですか?」


隊長「あぁ、いま俺の仲間が闘っている」


隊長「だが...分断されてしまった、いち早く合流を行いたいんだ」


少女「...」


隊長「激しい戦闘になる...恐い思いをさせてしまうだろう」


隊長「でも、急がないと仲間が殺されてしまうかもしれん」


隊長「...本当なら安全な場所に少女を預けておきたいんだが」


隊長「もう少しだけ俺と一緒にいてくれ...絶対に守る」


少女「...だいじょうぶです、むしろきゃぷてんさんと一緒にいたいです」


隊長「...そうか、ありがとう」


了承を得た、早速行動に移る。

歩行に邪魔な花や蔓をどかしながら小部屋を脱出した。

少女を抱え込みながら、再び階段探しを行う。


隊長「...階段はどこだろうか」


少女「...訛り、なくなってますね」


隊長「あぁ、そうだな...自分でもびっくりだ」


少女「それにこれ...私が編んだやつですよね」スッ


隊長「そうだ、大切につけているぞ」
722 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:13:53.84 ID:9HsuNt0O0

少女「...えへへ、辛いことだらけでしたけど、今はちょっぴり幸せです」


隊長「...そうか」


──バチバチバチバチッッ!!

どこからか、稲妻の音が響いた。

これは何かを発見した合図、彼女と約束したモノだ。


隊長「──見つけたかッ!」ダッ


少女「うわっ!」


階段かもしれない、敵かもしれない。

どちらにしても音のなった方に全力疾走で向かう。

少し乱暴な動きで少女をビックリさせてしまったが仕方がない。


魔女「──キャプテン! 階段あったわよ!」


少女(────っ!?)ピクッ


隊長「でかしたぞッ!」


魔女「早速登る...って、その子は?」


隊長「あぁ、麓の村の──」


隊長が、少女のことについて語る。

しかしその間にも彼女の精神は歪み始めていた。

今、彼女の耳にはなにも聞こえていない。


少女(この声...知ってる...)


少女("魔女"だ...一度だけ麓に降りてきたときに聞いた声...)


少女(どうして...)


────ぐにゃぁ...

そのような擬音とともに、頭が揺さぶられているような感覚。

耳に残った、父たちを一時的に奪った恨みの相手の声。

人は憎い者の声を忘れることはできない。


少女(なんで...きゃぷてんさんと...)


少女(...きゃぷてんさんも奪うつもりなの?)


徐々に思考がズレていく。

それも当然、あの隊長でさえ恨みの相手の前では冷静になれない。

目を失った彼女が、このような状態の少女が果たしてまともな精神を保てるだろうか。
723 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:14:59.22 ID:9HsuNt0O0

魔女「──大変だったのね、この子...」


隊長「あぁ...」


少女「..."魔女"、ですよね?」


魔女「え...?」


隊長「...少女?」


少女「私のお父さんを連れ去った人ですよね?」


隊長「...少女、聞こえていなかったのか?」


魔女「違うわよ...?」


どうやら、少女が思考に囚われている間に弁解をしていたようだ。

凍らせた張本人は氷竜という奴で、魔女は無実だ。

だがそのようなことは少女の耳には入っていなかった。


少女「あなたさえいなければ...」


少女「あなたさえいなければ...」


少女「あなたさえ...」


魔女「...様子がおかしいわ」


隊長「...実験体にされていたらしい、身体や精神が疲労しているはずだ」


魔女「...魔法をかけるわね」


魔女が治癒魔法をかけようとした時。

抱えている隊長が違和感を覚えた。

少女の身体から、まるでなにかが生えたような感覚。


隊長「...少女?」


少女「あなたさえ...」
724 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:15:37.59 ID:9HsuNt0O0










「あなたさえいなければ、お父さんたちは死ななかった...」









725 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:16:53.78 ID:9HsuNt0O0

────メキメキメキメキメキッッ!!

少女の身体の内から、大量の触手が皮膚を破り現れる。

それはまるで植物の蔓のような形であった、蔓は隊長の身体にまとわりつく。


隊長「──ッッ!?」


魔女「な、なにが起きてるのっ!?」


少女「あなたさえいなければ、お母さんは死ななかったっっ!!!」


完全にズレた思考はすべての責任を魔女にぶつけている。

父は偵察者に洗脳されていた、魔女のせいではない。

母は洗脳された父に巻き添えにされた、魔女のせいではない。


少女「あなたはきゃぷてんさんまで奪おうとしているっっ!!」


少女「...許せない許せない許せない許せない許せない」


魔女「──キャプテンっ!」


隊長「これは...ッッ!?」


身体についた蔓はそれほど強くまとわりついていない。

力づくで剥がそうとすれば簡単にそうできる。

しかし蔓は無限に生え何度もまとわりつく、隊長は拘束から脱出ができない。


魔女「──ごめんっ! "雷魔法"っ!」


──バチバチバチバチッッ!!

的確な雷が、拘束しているすべての蔓を一掃した。

隊長は拘束からようやく脱出ができた、そして魔女の元へと身を寄せた。


隊長「──なにが起きているんだッッ!?」


魔女「...もしかしてこれってっ!?」


植物まみれの少女、この光景どこがで。

あの時、魔女の村でこれに近い現象が起きている。

そしてその仮説を遮る怒号が響く、彼女は彼に近寄りすぎた、その光景を見てしまった。
726 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:17:31.41 ID:9HsuNt0O0










「奪うなぁああああああああああああああああああああああっっ!!」









727 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:19:39.53 ID:9HsuNt0O0

隊長「...」


魔女「キャプテン、しっかりして...」


隊長「...あぁ、わかっている」


彼もまた、なんとなく察してしまった。

もしあの時密林で魔女に支えられていなければ。

今頃きっと、精神的ショックで呆然としていただろう。


魔女「これって、暗躍者とかが魔力薬を飲んだ時に似てるわね...?」


隊長「あぁ...そうだな」


冷静に、呆然としようとする自分を殺しながら考察する。

暗躍者たちが飲んだ、側近とやらの魔力薬を飲んだ時の症状と似ている。

ただ、そんなことよりもはっきりした事実が彼の口から発せられる。


隊長「..."敵"になってしまったのか...少女」


魔女「...そうね」


隊長「俺はまたこの手で、仲間を...命の恩人を殺すのか」


魔女「...そうね、そうしなければ仲間が死ぬわ」


心を鬼にして彼女は返答をしていた。

隊長の黒い過去、それを認識しているからこその返答。

ここで少女を殺し、魔王子と合流しなければスライムたちは死ぬ。


隊長「...」スチャ


彼ができることはただ1つであり、2つの意味が込められている。

少女を殺すしかない、1つ目の意味は仲間を助けるため。

もう1つの意味は、早く楽にしてやることだった。


少女「──きゃぷてんさん?」


隊長「...」


──カチッ!

今までで生きてきた中で、一番重いトリガー。

向けられるのはこの世界で一番最初に出会った者。

あの時誰にも気づかれていなければ、野垂れ死んでいたかもしれない。


隊長「────ッ」


──ババババババババッッ!!

そんな命の恩人に向けて発射された弾幕。

光も込められていない、殺すことしか能のない攻撃が放たれた。
728 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:21:35.45 ID:9HsuNt0O0

少女「────っっっっ!?」


しかしその弾幕は防がれてしまった。

まるで少女とは別の意識を持ったような。

そのような動きで、蔓が身を挺して銃弾から少女を守った。


少女「...どうして攻撃したの?」


隊長「頼む、わかってくれ...」


少女「ひどい...きゃぷてんさん...」


魔女「...この場にひどい人なんて誰もいないわよ」


魔女「こうするしかないの...っ!」


少女「...そっか、きっときゃぷてんさんはこの人に洗脳されたんだ」


少女「だから、私に攻撃したんだ...っ!」


少女「う、うふふふふ...」


少女「今度は私が護ってあげるからね...きゃぷてんさん...」


隊長「...ダメだ、正気じゃない」


魔女「あの子があの子であるうちに...」


隊長「I know what I'm doing...」


いかに強靭な精神を支えられているといっても。

いかに強すぎる正義をかざしているといっても、トリガーは重いままであった。

先程のように、強い踏ん切りがなければ少女に向けての射撃は難しい。


少女「きゃぷてんさん...かわいそう...」


少女「本当は私を攻撃したくないんですよね...?」


隊長「...あぁ、そうだ」


少女「...この人に洗脳されて、辛いですよね?」


少女「今、助けてあげますから...」


隊長「...ッ!?」ピクッ


はらり、はらり、そう音をたてて少女の身体から落ちる。

白い花びらのようなものが、落ちるたびにその量は増していく。

質量保存の法則がこの世界にもあるというなら、それを完全に無視をしている。
729 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:25:51.26 ID:9HsuNt0O0

少女「...まっててくださいね」


間もなく少女の身体は完全に花びらに包まれ、彼女は次のステージへと変化する。

隊長たちは見逃したわけではない、あまりの急速な出来事に対応できていないだけ。


魔女「──まずいわよっ!」


隊長「────ッッ!!」


──ババババババババババッッッ!!

重すぎるトリガーを強引に引いた。

大量の花びらに向かって放たれたその攻撃は、今度こそ直撃した。


???「...」


──ガキィンッ! カキィンッ!

まるで鉄に弾かれたような、そんな音が響いた。

直撃したはずだというのになぜこのような音が聞こえたのか。


隊長「な...ッ!?」


魔女「...弾かれたっ!?」


銃弾は弾かれた、いまのいままでこのような出来事に遭遇してこなかった。

何に弾かれたのか、花びらはその時を待っていたかの如く急激に風化する。

その全貌が明らかになる、そこにあったのは1つの物体。


魔女「これは...蕾...?」


蕾「...」


それ自体よりも、別のことに疑問が浮かび上がっていた。

絶対にあると思っていた、あるものがない。

それは彼女にしか気づくことができない。


魔女「ま...魔力を一切感じないわ...」


隊長「...なに?」


魔女「あの蕾から魔力を感じないのよっ...!?」


ただ単純にあそこまでの硬度を誇っていたというわけだった。

あの蕾は魔力によって強化されていない、つまりはどういうことか。


隊長「銃も..."光"も通用しないのか」


魔女「えぇ...そうなるわ」


ありとあらゆるものを無力化させる、だがそれは魔力に限った話。

光を纏った銃弾は過去に魔闘士等の強靭な身体を貫いた。

だがそれは魔力によって強化された身体だからこそ貫けたのであった。

730 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:28:00.80 ID:9HsuNt0O0

隊長「銃は愚か、光まで使い物にならないのか...ッ!?」


魔女「──まって、動くみたいよっ!」


隊長の攻撃手段はすべて、通用しない。

そんなことに嘆いている間に、ついに少女が動く。

正確には蕾から生えている触手じみた蔓がこちらを見定めていた。


魔女「...どうするの!?」


隊長「待ってくれ...少し、時間をくれ...」


隊長に課せられたタスクは3つ。

魔王子と合流すること、合流後にスライムを援護すること。

そして敵になってしまった少女を殺すこと、しかし最後の3つ目が焦燥感を煽る。


隊長(...俺の武器が通用しない今、この戦闘は確実に時間がかかる)


隊長(1秒でも早く合流をしなければならないというのに...ッ!)


隊長(だが、ここから離脱するわけにもいかない...少女を放っておけるものか...ッ!)


隊長(──せめて俺が...楽にしてやるぞ...)


魔女「────来るわっっ!!」


長考に気を取られていると、少女の蕾は動き始める。

蕾は不動、周りの蔓が不規則な動きでこちらを狙う。

いくつも伸びている蔓があらゆる方向へ攻撃を始める。


隊長「──屈めッッ!!」


魔女「────っっ!」スッ


極限にまで速度を高めた蔓の一突きが地面に突き刺さった。

魔女は魔界の空気によって身体が強化されている。

その際に上昇した動体視力がなければ屈むことなどできなかったであろう。


魔女「キャプテンっ! 後ろっっ!」


隊長「──ッッ!」ダッ


今度は、キャプテンに巻き付こうとした蔓が迫っていた。

横に緊急的な飛び込みを行うことで回避に成功する。

しかし、一向に状況を打破できない。
731 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:29:46.51 ID:9HsuNt0O0

隊長「クソッ! どうすればッ!」


魔女「落ち着いてっ! あなたならできるわっ!」


蕾「...」


徐々に消耗され始めた2人に対して、蕾は無言で仕掛けている。

その対比があまりにも恐ろしい光景を生み出している。

蔓はさらに増殖を始めていた。


魔女「..."雷魔法"っ!」


──バチバチバチッッッ!

サッカーボール程度の大きさの雷球が繰り広げられる。

1回の詠唱でこれほどまでの弾幕を張ることのできる者は少ないだろう。


魔女「...やっぱり、効果なしね」


魔法は蕾に当たりはしたが、今ひとつ。

それも当然、隊長の銃ですら傷をつけることは不可能。

初めからわかりきっていたような落胆の声を漏らしてしまう。


隊長「...ッ!」スチャ


──ババッ! ババッ! バババッ!

蕾に効果がないなら蔓に照準をあわせる。

見事な指切りを活用し、精密射撃を行う。

命中した蔓は地面に横たわった、しかし続々と蔓は増殖を続ける。


隊長「効いたか、だが...」


魔女「だめ、蔓を潰したところでまた生えてくるみたいね...」


隊長「やはり、あの蕾を狙わなければならないか」


魔女「その武器もだめ、私の魔法もだめ...どうすれば...」


隊長「...」


状況を分析しながらも、蔓による攻撃を回避し続ける。

攻撃の動きは単調で避けやすい、だが時間が立てば当然消耗する。

ならばこうするしかない。
732 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:31:34.19 ID:9HsuNt0O0

隊長「...俺が囮になる」


魔女「え...?」


隊長「蕾自体は動けない、攻撃手段は蔓だけのようだ」


隊長「そして蔓は潰すことができる...ならば時間稼ぎはできるはずだ」


隊長「...俺が蔓を相手にしている間に魔女は魔王子たちを連れてきてくれ」


彼の出した決断は他人任せであった、今ここにいる者たちで最も破壊力を保持している者。

それは魔王子であることは間違いない、彼の闇ならこの蕾を破壊することなど容易。

彼の諦めと切り替えの速さ、これがあったからこそ危険な今までを生き残れてきた。


魔女「...いいのね?」


隊長「現状を打破できない今、こうするしかない」


隊長「...悔しいが、俺たちには無理なんだ」


魔女「...わかったわ、合図をお願い」


もし時間に追われていなければもっと粘れたかもしれない。

悔しい、それは2つ意味が込められた言葉。

1つ目は少女が敵になってしまったこと、そしてもう1つは。


隊長(せめて...せめて"女"の時のように、この手で終わらせたかった...)


隊長「────いけッ!」


魔女「──っ!」ダッ


──バババッ! ババッ!

彼女は階段に向けて疾走する。

その一方で彼は蔓を正確に射撃する、このままなら分断が可能だろう。


隊長(──Reload...)


──カチャカチャッ! スチャッ!

──ババッッ! バババッッ!!

超効率的な動きでリロード、そして再び蔓の猛攻を防ぐ。

広く展開しようとしている蔓を次々に撃ち落としていく。

魔女は階段の一段目を踏もうとしたその時だった。
733 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:34:36.31 ID:9HsuNt0O0

隊長(...待て)ピタッ


思考が巡る、まるで時が止まったかのように。

今になってある説が彼を刺激している。

焦燥感に駆られてしまい、重要なことを見落としていた。


隊長(あの時...少女はどうやって攻撃を防いだ...?)


隊長(今は視力を失っている...どうやって無理なはずだ)


隊長(今だって、蕾に包まれてこちらを確認することはできないはずだ)


隊長(まるで別の意識が動かしているような...いや、それにしては攻撃が単調で広範囲すぎる)


隊長「...まさかッ!?」


隊長(ただ、増殖しているだけなのかッ!? だとしたら蔓だけじゃない...ッ!?)


いま少女が行っているのは、蔓でこちらを攻撃していること。

だが、もしこれが攻撃ではないとしたら。

意識無意識それ以前の話、植物としての本能、もしこの蔓がそうだとしたら。


隊長「──魔女ッッ! 戻れッッ!」


魔女「────え?」


──メキメキメキメキメキッッッ!!

魔女が階段を登ろうとした時だった。

気づけるはずがない、なぜなら今になって目視できたのだから。

いままで潜っていた根のようなモノに耐えきれず、石材でできた階段が崩れる。


魔女「しまっ────」


隊長「──蔓だけじゃないッ! 気づかない間に根も成長していたんだッ!」


隊長「...ここは既にもう、少女に侵食されているッ!」


先程銃から少女を守った蔓、それは生物の皆がもっている防衛本能。

攻撃のように見えた蔓の増殖、その本質は体積を増やすための植物としての本能だった。


魔女「──うごけないっっ!?」グググ


隊長「クソッ! 魔女ッ!!」グググ


魔王城の2階、その光景が徐々に変化を始める。

床や壁が侵食に耐えきれず、埋まっていた根をむき出しにするほどに。

そしてその根が2人の足にまとわりつき拘束した。
734 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:37:37.40 ID:9HsuNt0O0

魔女「くっ..."雷魔法"っ!」


──バチバチバチッッ!

魔女の足元に雷が落ちる。

狙いも完璧であり、自らに被害が出ない程度に威力を抑えている。

完璧な対応、だがそれでは不十分だった。


魔女「だめ...びくともしないっ...!」


隊長「待ってろッ! そのまま動く────」


隊長「────ッ!?」


────ミシミシミシミシッ...!

急速成長した根がまとわりつく。

アサルトライフルを支えている両腕までに。

根が与える圧力、それに耐えるための腕力で照準は大いにブレている。


隊長「クッ...撃てない...ッ!?」グググ


魔女「────これはっ!?」ピクッ


今度は2人の目で確認できた、根の一部が変化している。

それでいても、植物にしては遥かに早い速度で成長している。

魔女の目の前に現れたのは食虫植物のようなモノだった。


魔女「...まずいっ!!」グググ


隊長「魔女...ッ!」グググ


──くぱぁ...

明らかに魔女を捕食しようしている動きであった。

2人はなんとか拘束から脱出しようと力を振り絞る。

しかしそれは徒労に終わる、拘束から脱出できない。


魔女「──"属性付与"、"雷"」


抵抗を諦めた彼女が叫んだのは魔法。

何を思ったのか雷を自らにまとわせた。

下位属性の属性付与、身体に付与させれば当然痛みが彼女に走る。


魔女「────"雷魔法"っっ!!」


────バチバチバチバチバチバチバチッッッ!!

先程とは違う、出力を抑えることを考慮されていない音が聞こえる。

そのあまりの威力に食虫植物やあたりの根は愚か、魔王城の床の一部すら破壊する。

しかし故に、狙いは決して鋭くなく、当人である魔女ですらその餌食となっていた。
735 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:39:42.02 ID:9HsuNt0O0

魔女「────ぐぅぅぅぅぅううううう...」フラッ


彼女が行ったのは、以前隊長にやったモノの応用。

身体に付与された雷が自身を貫かないように、雷魔法をある程度誘導していた。

それにより魔女の安全性は確保されていたはずだった。


魔女「だめね、出力を上げすぎたわ...」


痺れ、痛み、倦怠感、朦朧とした意識、そのすべてを堪えて足をすすめる。

身体に付与した雷をゆっくりと解除しながら、階段ではなく隊長の方へ。


隊長「魔...ッ、女...」グググ


ギチギチと音を立て、蔓と根が彼を縛り上げていた。

両腕は愚か首にすら巻き付いている、言葉を発することすら難しい状態であった。


魔女「絶対に...動かないでよね...」


詠唱を始める、今度はある程度時間に余裕がある。

どのくらいの出力なら拘束を緩めてくれるか、先程ので検討がついていた。

ならばやることは1つ、いかに正確に雷を放てるか。


魔女「"雷魔法"...っ」


──バチバチバチバチッッ!

絶縁体もなにも持っていない隊長に当たれば即死だろう。

洗練された魔法の挙動、身体を拘束するモノだけを的確に狙った。


隊長「──ッ...! 助かったッ!」


魔女「お礼はいいわ...それよりも...」


隊長「あぁ...わかっている」


隊長「...俺を含めてここを離脱だ、魔女と共に魔王子と合流する」グッ


魔女「...助かるわ」グイッ


彼女の肩を支え、すぐさまに歩行を始める。

作戦が二転三転するがこれも次善の選択だろう。

軽く意識が朦朧としている魔女、単独行動は許されない。

それにこの階層はすでに少女に有利な環境だ、引かざる得ない。
736 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:41:52.27 ID:9HsuNt0O0

魔女「...ごめん」


隊長「お前がいなければ、今頃俺は絞め殺されていただろう」


隊長「...謝られると言葉に困る」


魔女「...あなたが無事でよかった」


隊長「あぁ...」


魔女の身体が隊長に寄り添い、逞しい彼の腕が彼女の肩を支える。

先程の雷の影響か、蔓や根の成長はかなり鈍くなっていた。

歩行速度は小走り程度だが、これでも余裕をもって退避ができる。


隊長「...少女、もうどうにもならないのか」


魔女「...あれは魔力薬...じゃないわ」


魔女「身体が完全に植物になって...戻れないと思う...」


隊長「...魔女がそう言うのなら、そうなんだろうな」


彼は魔力には精通していない、餅は餅屋に聞くしかない。

素直に彼女の言うことに頷くしかなかった。

とても冷たい様に見えるが、そうするしかない。


隊長「もうじき階段だ、足は上げれるか?」


魔女「まって、余裕ができたから...治癒魔法を唱えるね...」


隊長「あぁ...一応見張ってるぞ」


意識が朦朧としている、詠唱するのに時間がかかると思い後回しにしていた。

だが実際は違う、蕾と化した少女に動きがない。

余裕があるなら今のうちに身体の痺れを取るべきだ。


隊長「...」スチャ


魔女「”治癒魔法”」ポワッ


────ドクンッ...

治癒の明かりとともに、聞き慣れている音。

まるで心臓の鼓動のような音、それが自分ではない方向から聞こえた。

少しの違和感でも、彼は警戒を怠らなかった。


隊長「...聞こえたか?」


魔女「...幻聴であってほしかったわ」


隊長「少女が動くようだ...このまま退避するか応戦するか...」

737 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:43:50.62 ID:9HsuNt0O0

魔女「...蕾の状態なら、動かないから放置して退避できたかもしれないけど」


魔女「今あの蕾は変化しようとしてるわ...もし移動が可能になって下の階へ行かれたら...」


隊長「...応戦だ、拘束されたらすぐに救助できるよう、お互いに近くにいろ」


魔女「...わかったわ」


──ドクンッ...ドクンッ...

応戦、囮、退避、そして再び応戦。

彼がここまで作戦内容を変更したのは、初めてだろう。

急いでいるとき程に、運に弄ばれる。


魔女「...私も、少し離れている程度なら魔力を感知できるわ」


魔女「ウルフたちは遠くてわからない...けど、スライムたちの魔力はまだ感じるわ」


隊長「...まだ生きている、それが確認できただけ十分だ」


魔女「...そうね」


──ドクンッ...ドクンッドクンッ!

蕾が徐々に膨張し始める。

まるで何かが生まれようとしている。

彼らはただその様子を、遠目に眺めることしかできない。


魔女「策はあるの?」


隊長「...ないさ、やるしかない」


魔女「...私にはあるわよ」


隊長「本当か?」


魔女「えぇ、ずる賢さなら大賢者様より上よ、上」


隊長「...フッ」


魔女「なによ」


隊長「いや、なんでもない...それで策は?」


魔女「それはやってみてからのお楽しみよ」


隊長「なんだそれは」


魔女「...すぐに分かるわ」


──かぱぁ...

蕾が開いた、そして中から現れたのは。

顔以外原型をとどめていない、植物人間。

身体と思しき場所のいたるところに草花が咲き乱れている。
738 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:44:44.35 ID:9HsuNt0O0










「あはは...きゃぷてんさぁん...」









739 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/17(月) 22:45:15.95 ID:9HsuNt0O0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/18(火) 17:16:36.07 ID:KB5ZTrH4O
この少女はあの勇者と戦士の息子だったら
興奮しまくってたろうなぁ
741 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 20:57:14.72 ID:I5P21WD00

隊長「...もう、少女じゃないんだな」


魔女「...」


隊長「どんな手段を使ってでも...両親の元に逝かせてやるからな...」


少女「あははははは...あはは...」


魔女「...あの見た目、形は違うけれど蕾と同じ質感ね」


隊長「...相変わらず攻撃が通りそうにもないな」


少女「あははは...あは...」


──ずる、ずる、ずる...

彼女の足と思われる部位は根と繋がっており、歩行は不可能だった。

よってこの擬音と共に、体積を伸ばしながら這いずりを行っている。

しかし少女は盲目であるためか移動方向はメチャクチャであった、そんな鈍行で魔女が確信を掴む。


魔女「...じゃあやるわよ、さがってて」


隊長「あぁ...頼んだぞ」


魔女「──"雷魔法"っっ!」


────バチッ!

少しばかり淡い稲妻が地面を這う。

魔女の狙いはこの2階に蔓延っている根。

しかし出力を誤ったか、根の破壊は失敗におわる。


少女「────あは?」ピクッ


少女の動きが止まる、まるで身体に異変を感じたかのような素振りを見せた。

彼女の皮膚は蕾と同じような質感をしている、攻撃が通るわけないと思われていたのに。


魔女「...反応あり、成功ね」


隊長「...なにをしたんだ?」


魔女「あの子の皮膚、あの蕾と同じ見た目をしてるわよね?」


隊長「あぁ...そうだな」


魔女「だから外からの攻撃はすべて無意味、そうよね?」


隊長「...だから根を利用したのか」


魔女「もう気づいたのね...」


魔女が行ったのは伝導であった、外からの攻撃がだめなら中から攻撃すればいい。

おおよそ体内に繋がっていると思われる根を媒体とし雷を伝導させる。

そうすれば、あのとてつもなく硬い皮膚を無視することができる。
742 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 20:59:12.85 ID:I5P21WD00

魔女「じゃあ、出力を上げるわね」


隊長「あぁ、わかった」


魔女「..."雷魔法"っ!!」


────バチバチバチバチバチッッ!!

根がギリギリ形を保てる程度の威力。

凄まじい稲妻が少女の体内へと駆け巡る。


少女「────あああああッッッッ!?!?」


隊長「──怯んだぞッ!」


魔女「このまま雷を流し続けるわよっ!」


少女は雷に囚われ、動きをかなり鈍くしている。

このまま沈黙へと持っていけるかと思われた。


隊長「...なッ!?」


──かぱぁっ...!

少女の首と思われる箇所が開かれた。

そしてそこからこちらを覗く者がそこにあった。

大きな目玉がこちらを捉えていた。


魔女「──変異したっ!?」


隊長「この短時間に何度変異を繰り返すつもりだ...ッ!」


魔女「まずいわ...あれが本当に目として成り立つのなら...」


先程まで、当てずっぽうで攻撃していた様なもの。

盲目の彼女に視力が戻ってしまったというなら。

これから始まる攻撃は、先程の比ではないだろう。


少女「────あああああああああああああああああっっっ!!!」


──シュババババババッッ!!

植物には動物的な視力などない、だがあの生物を動物や植物にカテゴリできるだろうか。

動物的な変異を遂げた植物が、蔓をこちらに向かわせる。

猛烈な風切り音とともに多数の蔓が彼らを貫こうとした。
743 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:01:01.96 ID:I5P21WD00

魔女「──っ!?」


魔女(ダメ、ここで雷を途切れさせたら...)


魔女(視力を戻したあの子が、なにをしてくるかわからない...)


魔女(それに...もし雷に抵抗を得た変異をされてしまったら...)


走馬灯のように考察を重ねる、回避行動は絶望的。

そもそも、根を破壊しない程度ギリギリの威力を保っている。

その超精密作業中に行動できるわけがなかった。


魔女「ごめんっ! 動けないっっ!!」


──ババッッ バババッ バババババッッ!

いままで、眺めることしかできなかった彼が動く。

長年鍛え上げられた、誤射を防ぐために極められた射撃能力。


隊長「──まかせろ」


硝煙の匂いと共に、撃ち抜かれた蔓は力無く果てていく。

彼にできるのは、ひたすら魔女を防衛すること。


魔女「──ありがとうっ! 助かるわっ!」


隊長「そのまま安定させていてくれッ!!」


──バチバチバチバチバチッッ!!

絶えず、供給をやめずに流し続ける。

そして彼も銃声をけたたましく鳴らし続け、蔓を退けている。

少女も苦しんでいるように見える、このままいけば勝てる。


隊長「──下だッ!」


──メキメキメキメキメキッッ!!

先程まで動きのなかった根が、活動を再開する。

蔓の猛攻は止まらず、対応を追われている隊長にはどうすることもできない。


魔女「うっ..."雷魔法"っっ!!」


──バチバチッ!!

新たな雷が、2人の足元だけを強く保護する。

同時に2つの魔法を維持したためか、身体に負荷がかかる。


魔女「ぐぅぅぅ...絶っっ対にそこから動かないでっっ!!」


隊長「──わかっているッッ!」


下手に動かせば、感電してしまうだろう。

足元の周りに雷を展開したおかげか、根はこれ以上迫ることができずにいた。
744 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:03:11.82 ID:I5P21WD00

少女「あああああああああああああああああああッッッッ!」


魔女「くっ...まだ元気そうね...」


人のモノとは思えない叫び声、銃声、雷音、植物の轟音。

ありとあらゆる要素が彼女の集中を邪魔する。


魔女「はぁっ...はぁっ...!」


少しでも気を緩めば、雷は途絶えるだろう。

途絶えてしまえば、少女は活発に動くかもしれない。

途絶えてしまえば、足元の根はたちまちに拘束してくるかもしれない。

そして気を緩めれば、足元の雷がこちらに牙を向くかもしれない。


魔女(...大丈夫、私ならできる)


魔女(だから...早く倒れてっ...!)


──くぱぁっ...!

魔女の願いを砕く、最悪の擬音とともに現れる。

先程も見た根から伸びるあの植物、それも大量に。


魔女「──こんな時にっ!」


隊長「...クソッ! また食虫植物かッッ!!」


魔女「任せられるっっ!?」


隊長「...やるしかないッッ! そっちは安定を維持してくれッ!」


魔女「お願い...っ!」


蔓、そして食虫植物の相手をまかされた。

彼は右手と肩でアサルトライフルをバイオリンのように安定させる。

そして左手で、新たな武器を握りしめる。


隊長(アキンボか...精度は落ちるがやるしかない...)スチャ


──ダンッ ババッ ダンダンッ バババッ!!

両手に銃、アキンボスタイルで植物を相手にする。

右手の照準は食虫植物、左手の照準は上から襲いかかる蔓。


隊長「──グッ...!」


左はともかく、右の負担が大きすぎる。

先程のような正確な射撃は不可能、かなり大雑把に敵を蹴散らしていた。
745 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:05:23.56 ID:I5P21WD00

隊長「...持っても数分だッ! それ以上は無理だッ!」


魔女「わかったわっ! 限界が来たら離脱するわよっ!」


少女「あああああああああああああああああああっっっ!!」


隊長「──ッ!」


──ダンッ ダダンッ ババッ バババッ ダンッ!!

────カチカチッ!

2つの種類の銃声が植物を撃ち落とす、そして続いたのは弾切れの音。


隊長(Reload...)カチャカチャ


片膝立ちさせ、ふくらはぎと腿でアサルトライフルを挟む。

そして上向きになったマガジンを右手のみで取り外し装填する。

普段なら3秒以内に終わるリロード動作、片手時は5秒以上もかかってしまう。


隊長(まずい...今のだけでも集中力が切れそうで辛かったぞ...)


それも当然、片手リロード中は無防備。

それをカバーするべく、左のハンドガンで蔓と食虫植物を相手にしていた。

利き腕ではないのにエイムを派手に動かせば、集中することなど難しい。

そんなことを思いながらも、ハンドガンの片手リロードを卒なくとこなしていた。


隊長「魔女ぉ...まだかぁ...ッ!?」


魔女「もうちょっとだから...頑張ってっ!」


隊長「クッ...」


魔女「お願い...お願いだから早く倒れて...っ!」


少女「ああああああああああああああああああああ────」


──バチバチバチバチッッッ!

──ダンダンッ ババッ ダダンッ!!

2種類の攻撃音、そして2人の思い、それがようやく通じる瞬間。


少女「────っっっ!!」


隊長「──ッ!?」ピタッ


いち早く気がついたのは、隊長だった。

こちらを喰らおうとばかりの食虫植物。

そして貫こうとしていた蔓の動きが止まっていた。


隊長「──やったかッ!?」
746 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:07:01.92 ID:I5P21WD00

魔女「...っ!」


少女「────」


下を向いてひたすら雷を供給し続けていた魔女も気がついた。

根が静まり、少女の鈍い叫び声が止まっていた。


隊長「...終わったのか」


魔女「あぁぁぁぁ...」ペタリ


お互いに集中力が途切れ、魔女は座り込んでしまう。

足元に展開していた雷は失せ、両手の銃の銃口は下を向いている。


隊長「...少女」


アキンボスタイルの影響か、右手に強い違和感。

ハンドガンを収納しアサルトライフルを背負い、沈黙する少女を見つめる。


魔女「...行きましょ」


隊長「あぁ...わかっている」


魔女「本当に、残念だったわね...」


隊長「...この手で終わらせただけ、十分だ」


隊長「今度は怒りに囚われずに...少女をこんな目に合わせた奴を討つ」


魔女「...そうね」


隊長「...立てるか?」


魔女「ごめん、手を貸してもらえる?」スッ


隊長「あぁ」グイッ


魔女「わっ...ありがと」


隊長「どういたしましてだ」


魔女「じゃあ...急ぎましょ」


隊長「...あぁ」チラッ


少女「────」


ここを出発する前に、もう一度少女を見つめる。

見えないはずの少女の瞳が開いている、それを見かねた魔女が言葉を発する。
747 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:09:07.88 ID:I5P21WD00

魔女「...閉じてきてあげて」


隊長「そうだな...」


朽ち果てた少女に接近する。

そして開かれっぱなしであった瞳をそっと閉じる。

最後に少しばかり頬をなでた、とても人のモノとは思えない硬度に隊長は複雑な思いをする。


隊長「...行くぞ」


魔女「...えぇ」


足早にこの広間から離脱する。

階段を登る前にもう一度振り返りそうになった。

しかしその気持を押し殺し、上へと向かう。


隊長「────ッ!」ピクッ


魔女「どうしたの?」


隊長「...勘弁してくれ」


魔女「...っ!」


────パキッ...!

不審に思った魔女が思わず振り返る。

なにか殻が破けたような音を立てながら、アレが変異を始めている。

地獄はまだ続く、弱音を漏らすほどに隊長の精神が削れていく。


魔女「早くトドメをさすわよっっ!!」


隊長「...クソッタレッッ!!」ダッ


再び根を利用して内部から攻撃をしなければならない。

そうしなければ、少女にまともなダメージを与えることなど不可能。

来た道を急いで戻る、しかしすでに遅かった。
748 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:09:51.85 ID:I5P21WD00










「あはは...あは...あはははは...」









749 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:11:20.26 ID:I5P21WD00

──パキパキパキパキパキッッッ!!

まるで蛹の羽化のような光景だった。

朽ち果てていた身体が崩れ、新たな身体が芽生えていた。

新たな少女がここに生まれる。


少女「あはは...」


隊長「...ッ!」


魔女「...まずいわ」


二足歩行でこちらに向かって歩いてくる。

身体のいたるところに蔓が生えていなければ。

身体の色が緑じゃなければ人と遜色はないだろう。


魔女「...身体と根が分離してるわ、もうさっきの戦法は無理よ」


隊長「わかっている...」


魔女「それにあの蕾のような皮膚、健在ね」


隊長「わかっている...ッ!」


いままでしてきたことの全てが無駄だった。

初めからすぐに魔王子と合流し、対処してもらえばよかった。

お互いにそう思った、だが決して言葉にしなかった。


魔女「...こうなったら、あの子が下に行かないようにしないと」


魔女「こっちに誘導しつつ、上に向かって魔王子と合流するわよ...」


隊長「...あぁ」


魔女「相手は二足歩行よ...それにどんな速度で走るかわからないわ」


隊長「...絶対に油断などするか」


魔女「...行くわよ」


少女「あははは...あは...」


じりじりとこちらに詰め寄ってくる。

幸いにも、今現在は下に向かうつもりはないらしい。

追跡されながら人探し、困難極まりない行動を開始する。
750 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:13:48.46 ID:I5P21WD00

魔女「──え?」


────グサッ...!

少女を注視しつつ、後退りで階段へ向かおうとした時だった。

油断、そのようなモノは一度もしていない。


隊長「────ゴフッ...!?」


魔女「なんで...!?」


隊長の背部から蔓が飛び出していた。

一体なぜ、しっかり少女を見張っていたというのに。

その答えは1つしかなかった。


隊長「はや...すぎる...」


魔女「──っ! "雷魔法"っっ!!」


──バチバチバチッッッ!!

高威力の雷が、器用に隊長だけを避けて蔓に命中する。

これで彼を貫いているモノは朽ちるはずだった。


魔女「──効いていないっっ!?」


隊長「ガァ...ゲホッ...」


魔女「ま、まさか...」


隊長「駄目だぁ...逃げろ...」


魔女「──そんなことできるわけないじゃないっっ!!」


少女「...あは」


蔓を目視する、その質感はなんども見た例の蕾のそれに酷似するモノ。

少女は愚か、そこから生える蔓にすら攻撃が通用しなくなってしまった。

隊長の出した命令は魔女1人での離脱、しかしそれを拒否、そんなことをしているうちに少女は仕掛ける。


魔女「──ぐえっ!?」グイッ


速すぎる蔓が、魔女の首に巻き付いていた。

女性らしからぬうめき声と共に、彼女の身体は宙に持っていかれる。


魔女「がはっ...ぐぅぅぅぅ...」グググ


──ぎゅううううううううっっ!!

とてつもない締め付けが魔女の意識を徐々に奪っていく。

首に強烈な痛みが走る、それだけではなく酸素すらうまく吸引できない。
751 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:18:14.75 ID:I5P21WD00

隊長「ま、魔女ぉ...ッッ!?」スチャ


身体を貫かれた衝撃でアサルトライフルはどこかに吹き飛んでしまっていた。

腹部に残る激痛をこらえ、ハンドガンで蔓への射撃を試みる。


少女「...あは」


──ダンッ! ガギィィィンッッ!

射撃は命中、しかしまるで金属に当たったかのような音を立てて弾かれる。

その様子を見てなのか、少女は不敵な笑みを見せびらかす。


魔女(もうだめ...意識が────)


魔女「────」ピクッ


隊長「──魔女...ッッ!?」


少女「あは」


──ブンッッッ!!!

風切り音に続いたのは、衝撃音だった。

魔女は力強く投げ飛ばされ、少女が眠っていた小部屋に激突した。

ホコリが舞い上がり煙になる、遠いのも相まって様子を確認することは不可能。


隊長「────ッッッッ!!!」


隊長の口から血が流れる。

腹部を貫かれているからか、それとも口の中を切ったのか。

どちらにしろ、強い感情が彼の中で芽生えていた。


隊長「FUCK FUCK FUCKッッ!!!」


少女「...あはははは」


隊長「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」


──ブチブチブチブチッッ!!

身体を貫いている蔓を、無理やり引っこ抜く。

自分の肉が裂ける音など気にしていられない。

深く呼吸をすることで痛みを誤魔化す、蔓は抜いた反撃するなら今。


隊長「フッー...! フッー...!」スチャ


──ダンッ ダンッッ! ガギィィィィィンッッ!!

トリガーは軽かった、しかし効果を得ることはできなかった。

腹には穴が空いている、蔓で拘束されなくとも、もう隊長は満足に動けない。


少女「あはははははははははははははは」


隊長「クソッ! 一体どうすれば────」
752 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:19:24.91 ID:I5P21WD00










「...俺がいるじゃないか」









753 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:21:16.79 ID:I5P21WD00

チリチリチリ、と頭の中でそう音が聞こえた。

誰かが話しかけてきた時、脳みそが焼けるような感覚がした。

まるで、周りの時が止まったような錯覚に陥る。


隊長「────黙ってろ...ドッペルゲンガー...ッ!」


ドッペル「ひどいじゃないか...こうして助けに来てやったというのに」


隊長「失せろ...ッ!」


ドッペル「...じゃあ言うが、これからどうするつもりだ?」


隊長「...ッ!」


ドッペル「もうわかっているんじゃないか?」


隊長「...黙れ」


ドッペル「魔王子に頼ろうとしたのは、どうしてだ?」


隊長「黙れと言ってる...ッ!」


ドッペル「...俺を受け入れろ、そしたら貸してやる」


それはどういう意味なのか。

あの強靭な少女を貫くには、なにかが必要。

魔王子が持っている、あの黒いモノ。


ドッペル「...なにを唱えればいいか、わかっているな?」


隊長「...」


その言葉を飲み込んだら、周りが動きはじめた。

薄々と渇望していた手段を手に入れてしまった、どうしても唱えなければならない。


少女「...あははははははははは」


隊長「...畜生...ッ!」


強制的に刷り込まれたあの言葉。

もう唱えるしかない、少女を倒すには。

鳥肌が立ち寒気が彼を襲う、彼は初めて魔法を唱えてしまう。


隊長「────"属性付与"、"闇"」


──■■■■■■...

凄まじい嫌悪感と吐き気を催す。

身体のあちこちが締め付けられるような痛みを覚える。
754 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:23:16.55 ID:I5P21WD00

隊長「──があああああああああぁぁぁぁぁぁッ!?」


ドッペル「そうだ...そのまま委ねろ」


ドッペル「そして身体を寄越せ...そうすれば痛みが引くだろう」


隊長「だ、黙れ...ッ! このままでいい...ッ!」


ドッペル「...愚かだ、ただの人間に闇を纏えるわけないだろう」


隊長「力だけ寄越せばいい...ッ! そのまま失せろッ!」


ドッペル「...まぁいい、そのうちお前から懇願するだろうからな」


ドッペル「精々足掻いてみせろ」


身体につきまとう、もう1人の自分が黒と同化する。

残ったのは痛みと闇、そして対峙するのは少女だった者。

右手に握るハンドガンに力を注ぎ込む。


少女「...あははははは」


──ダン■ッッ!!

闇の一撃が少女の腹部に的中する。

弾かれた音はない、響いたのは別の音だった。


少女「──ああああああああああああああああああああっっ!?!?」


隊長「苦しいだろうな、俺も今とても苦しい...」


少女「ああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」


隊長「...すぐに楽にしてやる」


お互いの身体が闇に飲み込まれかけている。

長くは持たない、超短期決戦が見込まれる。

先に動いたのは少女だった。


隊長「──...ッ!」ピクッ


──ぎゅうううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ

とてつもない速度、とても目で追えないソレが迫った。

隊長の身体を蔓がキツく締め上げた、しかしそれは無意味だった。


少女「あああああああああああああああっっっ!?」


──■■■...

闇の擬音、属性付与により身体に付着した蔓が無に帰る。

あらゆるものを破壊する性質の闇属性、絶対的硬度など役に立たない。
755 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:25:19.00 ID:I5P21WD00

隊長「がはッ...ぐゥ...ッッ!!」


だがそれは彼も同じであった。

徐々に身体のあちこちに擦り傷のような物が浮かび上がる。

何もしていないのに闇の影響で骨が数本折れている、呼吸も厳しい、内蔵もヤラれている。


隊長「────くるしい」


ドッペル「...苦しいだろう? 俺が闇を調節していなければ既に身体は滅んでいるぞ」


しかしそれだけではなく、内面的な傷も負っていた。

もう1人の彼によって精神が弄ばれている。

まるで脳を素手で掴まれているような感覚が襲っていた。


少女「ああああああああああああああああああああああっっっ!!」


隊長「...ッ!!」スチャッ


──ダンダン■■■ッッ!!

射撃音と共に発せられる闇の音。

徐々に状況を打破していく、それほどに恐ろしい威力を誇っていた。

あの鉄壁を誇っていた少女の肌には、複数の銃痕が残っていた。


少女「あ...あああああ...ああぁ...」


隊長「...少女」


少女「────ああああああああああああっっっ!!」ダッ


──ヒュンッッッ!!

風のように靭やかな、それでいて常軌を逸した速度で飛びかかってきた。

しかしその行動は目で追える速度であった、彼が取り出したのは、ナイフ。


隊長「──さよならだ...」スッ


少女「あ...あ...ああぁぁぁぁ...」


──グサ■ッッッ!!

闇を纏ったナイフが彼女の柔肌を貫いていた、そのまま少女を優しく抱き寄せる。

深緑のマフラーの一部が深紅に染まる、どれほど見た目が変わろうとも血の色は不変であった。
756 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:26:34.12 ID:I5P21WD00

隊長「さよ...ならだ」


少女「きゃぷ...て...さん...」


少女は力をなくし、そのまま隊長にもたれかかった。

最後の言葉、理性を取り戻したかのような口調。

彼はゆっくりと腰をおろした。


隊長「...」


少女「────」


ドッペル「...まさか、事を終えるまで闇を纏っていたとはな」


ドッペル「次はないと思え...次は調節などしないからな」


隊長「...」


ドッペル「...抜け殻か」


そう言うと、ドッペルゲンガーは闇と共にどこかへと消え去った。

ここに残ったのは放心状態の隊長、死亡した少女、そして安否のわからない魔女。

今すぐにでも動かなければならないというのに。


隊長「...」


動かないのではなく、動けなかった。

腹には蔓が貫通した痕、骨折、軽い多臓器不全。

動けるわけがなかった。


隊長「────」


──トサッ...

そう音を立てて彼は倒れ込んだ。

仰向けの身体に、少女の遺体を乗せて。


???「..."治癒魔法"」


〜〜〜〜
757 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/18(火) 21:27:14.72 ID:I5P21WD00
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
758 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:09:12.00 ID:pGMQTGcF0

〜〜〜〜


地帝「..."属性同化"、"地"」


闘いの火蓋が切って落とされる。

大地と同化するのは、地帝。

それと対峙するのは、女騎士とウルフであった。


女騎士「聞いたことのない魔法だ...それに素直に通してくれなさそうだな」


地帝「...」


女騎士「...力を貸してくれ、キャプテン、魔王子」


女騎士「そして...ウルフもな」


ウルフ「...もちろんっ!」


女騎士「それにしても...動きそうもないな」


地帝「...」


動かずの地帝、ならばこちらから動くしかない。

最も速く動いたのはウルフであった、文字通り、最も速く。


ウルフ「────がうっ!」シュンッ


地帝「...!」


気づけば、ウルフは間合いを詰めていた。

全身が岩や砂などに同化している地帝は動けずにいた。


女騎士「──速いっ!?」


女騎士(あの速さで、私を炎から助けてくれたのか...っ!)


ウルフ「────うりゃあああっっ!!」スッ


──ダダダダダダダッッッ!!

片足で重心をとり、もう片足で連続の蹴りをお見舞いする。

剣気のようなその脚気は岩をも砕く威力。


地帝「...」


ウルフ「──っ!?」ビクッ


──ピリピリッ...!

彼女が感じ取ったのは、野生の勘。

自らの本能が身体の動きを強制的に止めていた。

それを感じるとそしてすぐさまに、距離を取った。
759 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:11:05.89 ID:pGMQTGcF0

女騎士「...どうした?」


ウルフ「な、なんかこわかった...!」


地帝「...」


女騎士「...殺気というやつか」


女騎士が解析しているうちに崩れた岩が再度地帝と同化する。

先程ウルフが果敢に行った攻撃は、無意味となってしまった。


女騎士「次は私だ」スチャ


──ダァァァァァァンッッッ!!

槍のように持っていたショットガンをしっかりと持ち直す。

肩でストックを抑え反動に備える、そうして発せられたのは強烈な炸裂音。


地帝「...!」


初めて見る武器に少しばかり動揺する。

しかし力強い発砲音は虚しくも、成果を残せずにいた。

地帝の岩を破壊することはできなかった。


女騎士「...だめか」ジャコンッ


ウルフ「どうする?」


女騎士「...」


この厳しい状況下、仮定も交えながら戦略を練る。

現状効果が見られたのはウルフの蹴りのみ。

答えは1つしか思い浮かばなかった。


女騎士「...もう一度、肉薄してもらえないか?」


ウルフ「わかったっ!」


女騎士(即答か...無茶な要望だというのに...)


先程、なにか怖い気配を感じ取ったから一度身を引いたというのに。

やや絶望的な状況、ウルフの微笑ましさに不安が少し和らいだ。


女騎士(...さて、あの属性同化とやら)


女騎士(私の仮説が当たれば、なんとかなるかもしれない...)
760 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:12:11.68 ID:pGMQTGcF0

女騎士「...いいか?」


ウルフ「うん?」


女騎士「とにかくあの岩をたくさん砕いてくれ」


ウルフ「わかったよっ!」


地帝「...」


耳打ちは終了、早速ウルフが行動に移る。

地帝はただこちらの様子を見ているだけのようだった。


地帝「...!」


ウルフ「──うりゃりゃりゃりゃりゃりゃっっっ!!」スッ


──ダダダダダダダダダダダダダッッッ!!

再び間合いを詰めたウルフが繰り出したのは拳。

片足の足技と違い両手を使っている分、先程より遥かに攻撃回数が多い。

威力のある拳気が、凄まじい勢いで岩を崩す。


女騎士(私の読みが合っているのなら、包まれた岩の中に地帝がいるはずだ)


女騎士(...奴が見えたら私も肉薄して射撃だ)


その時に備えて、いつでも走り出せるように構える。

ウルフの攻撃は順調、岩の破壊とともに砂埃が舞い上がる。


地帝「...」


ウルフ「──これでっ! どうだっ!!」グッ


フィニッシュブローに移行する。

右腕を思い切り引き下げ、力を蓄える。

そしてそれを思い切り前に突き出す。


ウルフ「────ふんっっ!!!」


──バキイイィィィィィィィッッッ!!

その絶大な威力を誇る拳気に、岩は砕かれるしかなかった。

大地に囲まれていた地帝が顕になった。


女騎士「──居ないっ!?」


そのはずだった、しかし岩の中には誰もいない。

急いで攻撃しようと近寄ってきた女騎士の読みが外れる。
761 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:13:37.45 ID:pGMQTGcF0

地帝「...」


属性同化という魔法はその属性自体になるということ。

炎なら炎に、水なら水に、風なら風に、地なら地に。

肉体という概念など存在しない、はなからこの戦略など意味がなかった。

あの時、魔王子が属性同化について軽く説明してくれていればよかったというのに。


女騎士「──ウルフっ! 戻ってこいっ!」


ウルフ「...っ!」


地帝「...もう遅い」


──さぁぁぁぁぁ...

岩と化した地帝から、大量の砂が出現する。

そしてソレはウルフを包み込む、優しさの欠片もなく。


ウルフ「──けほっ! な、なにっ!?」


地帝「...」


──ザリザリザリザリッッッ!!

まるで刃物のような鋭利な音だった。

大量の砂がウルフの肌を赤く染め上げる。


ウルフ「──っっっ!! いたいよっっ!!」


女騎士「──ウルフっっ!!」ダッ


急いで駆け寄る、砂に襲われているウルフの腕を強引に掴む。

鎧をしているお陰か、女騎士は砂の被害を大幅に軽減していた。


女騎士(鎧に助けられたか...いや、隙間から入られたら敵わん...)


自らも砂に突入したあとは、冷静にウルフを連れて離脱する。

顔には少し擦り傷が、そして気づけば鎧が傷だらけであった。


女騎士「...これを生身で受けたのか」


ウルフ「うぅ...いたたたた...」


女騎士「大丈夫か? すまない、私のせいだ...」


ウルフ「うん、大丈夫...気にしないでね...?」


付着した砂を、犬のように身体を震わせて落とす。

ダメージは負ったが、まだ戦闘続行できる様子であった。
762 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:15:04.77 ID:pGMQTGcF0

地帝「...抵抗しなければなにもしない」


女騎士「それはつまり、ここで指を加えてろってことか?」


地帝「...」


女騎士「...まだ、抵抗させてもらうぞ」


ウルフ「...がうっ!」


女騎士(...と、意気込んだモノもどうするか)


今の地帝に実態がないことがわかった。

つまりは物理的な攻撃は無意味。


女騎士(...魔法ならどうだ)


女騎士「風属性が恋しいな..."属性付与"、"衝"」


即実践に移る、彼女が得意とする衝属性の魔法。

ショットガンの銃身からミシミシと音が立つ。


女騎士「...壊れないよな?」


ウルフ「うーん、わかんないけど...ご主人はらんぼうにつかってたよ?」


女騎士「そうか、なら大丈夫だな」スチャ


──ダァァァァァァァンンッッッ!!

再び岩に命中し、散弾の着弾ともに強い衝撃が発動する。

今度は岩の破壊に成功する、しかし地帝は動こうとしない。


地帝「...無駄」


魔法を使ったとしても、結局は物理的な攻撃になっている。

実態の無いものに対して全く効果は得られない。

しかし女騎士は別の効果に気づいた。


女騎士「...なるほどな」ジャコンッ


ウルフ「うん?」


女騎士「いや、なんとかなるかもしれないぞ」


ウルフ「ほんとっ!?」


女騎士「あぁ...また頼み事があるぞ」


地帝「...」


こそこそと密談、お互いがこれからやるべき行動を確認する。

そのささやきあっている様子を地帝は黙ってみている。
763 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:19:30.56 ID:pGMQTGcF0

ウルフ「────がるるっっ!!」シュンッ


地帝「──っ!」


再度不意を疲れてしまった。

さきほどまでささやきあっていたというのに。

地帝ほどの者が気づけない速さであったが、彼女は直様に対応する。


地帝「...また、砂の餌食に──」


──さぁぁぁぁ...

砂がウルフを囲もうとしたその時、地帝はあることに気づけた。

すでにウルフが退避をしていること、そしてもう1つ。


地帝「...もう1人はどこ」


女騎士を見失っていたことだった。

ウルフの迅速な肉薄、そして退避に気を取られていた。

だが見失ったもう1人はすぐさまに発見することができた。


女騎士「悪いが、ここは引かせてもらう」ダッ


地帝「──!」


下の階へと続く進路を妨害している地帝。

その真横を女騎士が全力疾走で通り過ぎていった。

ウルフの行動は陽動、完全に踊らされてしまっていた。


地帝「──させない...」


──さぁぁぁぁぁ...

ウルフへと向かおうとしていた砂は、女騎士を追い始める。

やや距離を離されて入るが、人間の走行程度なら追いつけるだろう。


ウルフ「──がうっ!」グイッ


女騎士「──作戦通りだっ!」


先程まで退避していたウルフが女騎士の背中を押しつつ並走をしていた。

その桁違いの走行速度だからできる芸当であった。

砂など追いつけるわけがなかった。
764 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:20:35.64 ID:pGMQTGcF0

地帝「──くそ」


女騎士(読みどおりだ...やはり鈍足か)


女騎士「ウルフっ! そのまま作戦通りにやるぞっ!」


ウルフ「うんっ!」


ウルフの助力もあってか、かなりの速度を出している。

すべてのバランスを背中を押しているウルフの手に託す。

女騎士の足の回転数はとてつもないことになっていた。


地帝「..."転移魔法"」シュンッ


鈍足という弱点を補うための魔法を使わないわけがなかった。

その詠唱速度は、ウルフたちの走行速度より早かった。

魔王軍最大戦力のうちの1人なだけはある。


ウルフ「──うわっ!?」


地帝「ここは通さない...」


女騎士「...っ!」


──さぁぁぁぁぁぁぁ...

もう少しで、階段に辿り着こうとした時だった。

岩とかした身体を瞬間移動させ、そして砂を展開させた。

再び地底は立ちはだかった。


女騎士「...ふっ」


地帝「...?」


女騎士「読みどおりだ」スチャッ


──ダァァァァァァァンッッ!!

笑みを浮かべた女騎士が、砂に向かって発射する。

なんも効果も得られない行為に思われた。


地帝「...なぜ」


女騎士「属性付与のおかげで、前方のすべてが攻撃範囲と化した」


女騎士「私の衝撃は、たとえ砂ほどに小さい物でも弾き飛ばすぞ」


──ジャコンッッ!!

力強くポンプアクションを行いながらそう宣言する。

そして射撃された方向の砂は全てどこかへ吹き飛ばされていた。

先程女騎士が気づいたのはこのことだった。
765 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:22:04.56 ID:pGMQTGcF0

女騎士(この武器は前方を全面的に攻撃するモノ...だが攻撃範囲に不規則性がある)


女騎士(それを付与した衝撃で範囲を補い、文字通りに前方を全面的に攻撃することが可能になった)


女騎士(適当に使った魔法が、奇しくもこのような効果を生むとはな...)


まるで漁網のような攻撃範囲を得たショットガン。

砂のように小さな物でも、射線にある限り攻撃が当たることになるだろう。


ウルフ「──がおおおおおおっっ!!」


女騎士「ウルフっ! 砂は私ができる限り抑えておく!」


女騎士(あとは話したとおり、地帝の岩をできるだけ砕くんだ)


女騎士(そして一度攻撃をやめ、岩を再生しようとした隙を狙って階段に向かうぞ)


──ダダダダダダダダダダダダダッッッ!!

──ダァァァァァンッッ! ジャコンッ! ダァァァァンッッ!!

複数の攻撃音が大地を砕く。

おそらくこれでも地帝にまともなダメージは与えられていない。

だが時間が稼げればいい、ここで無理して勝利を掴むことはない。


地帝「...」


女騎士「...?」


しかし、ことがうまく行き過ぎているような。

そして地帝が無反応すぎる気がしている。

このような劣勢な状況でも、このような性格を貫いているのだろうか。


ウルフ「──おりゃあああああっっ!!」


──バキッッッ!!!

そんなことをしている間にウルフがほとんどの岩を砕きおわった。

あとは砂だけであった、当然ながらすべての砂を対処することは不可能。

ある程度の被弾は覚悟をしていた、ならば今しかなかった。


女騎士(──今だ)チラッ


ウルフ「──っ!」ピクッ


目配せをする、一度攻撃をやめる時の合図だった。

岩が再生している間に階段に向かおうとしたその時。
766 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:23:14.46 ID:pGMQTGcF0

女騎士(...再生しないだと?)


地帝「...」


女騎士(...想定外だが、このまま行かせてもらおう)


女騎士「ウルフ、行くぞ」


ウルフ「う、うん...」


女騎士「...ウルフ?」


どこか、ビクついているような。

どちらにしろ地帝は動く気のない様子だ。

黙している彼女の横を通ろうとした。


地帝「...気が変わった」


──ピリピリピリッッ...!

真横でとてつもない殺気を感じ取る。

女騎士は鳥肌を立て、ウルフの毛は逆だっている。


ウルフ「ひっ...!?」ビクッ


女騎士「どういう...ことだ?」


地帝「魔法が突破されようが、抵抗されようが激昂するつもりはなかった」


地帝「だが後悔しろ...人間の分際で"その剣"を持っていることを...」


岩のなかから、元の地帝が生まれる。

その形相は無表情の乙女のモノではなかった、そしてその手には1つの剣が。


女騎士「──ウルフっ! 戻るぞっっ!!」


ウルフ「──う、うんっっ!」


地帝「"属性同化"、"衝"────」


剣に魔法がかけられていく。

その見た目はまるで、ビームセイバーのようなモノに。


地帝「──"地魔法"」


──メキメキメキメキメキッッ!!

地帝によって展開した大地は下へと続く階段と上へと続く階段を封鎖した。

完全に退路を塞がれてしまった、もう彼女から逃れられない。
767 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:24:35.99 ID:pGMQTGcF0

女騎士「...本気でみたいだな」


ウルフ「こ、こわい...」


女騎士「よくわからないが...この魔王子の剣が逆鱗か...」


地帝「あの世で朽ち果てろ...」ダッ


女騎士「──来るぞっ!」


地帝「──オラァッッ!!」


──ガギィィィィィィイインッッッ!!

鈍足だった地帝が迫り来る、その速度は決して速くはなかった。

それでいて遅くもなかった、衝撃と衝撃がぶつかり合う。

方や剣、方や銃身が鍔迫り合う。


女騎士「──うわあああああああああっっっ!?」


──ビリビリビリッッッ!

まるで電撃が走ったかのような衝撃が女騎士を襲った。

その衝撃に人間は耐えられるわけもなく、身体ごと弾かれてしまった。


女騎士「くっ...参ったなぁ、武闘派だったのか...」


地帝「...立て」


ウルフ「女騎士ちゃんっ...!」


女騎士「ウルフっ! 逃げてろっ!」


ウルフ「で、でもぉ!」


地帝「...死にたくなければさっさと消えて、殺すのはこの人間だけ」


ウルフ「...っ!」


どうしたらいいのかわからない。

この激戦というなか、思わず立ち尽くしてしまう。

それほどに、動物に近い彼女は地帝の殺気に煽られてしまっていた。


女騎士「くっ...かかってこいっ!」


地帝「...」


それを見かねて、女騎士は自らを誘発する。

とにかく狙いをこちらに、動けないウルフに標的がいかないように。
768 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:25:50.23 ID:pGMQTGcF0

地帝「"属性同化"、"衝"」


そして再び、同じ魔法を唱えた。

今度は身体全体ではなく、左手だけ。

彼女の右腕には衝撃の剣、左手は衝撃の拳が出来上がっていた。


地帝「"転移魔法"」シュン


女騎士「──目の前かっ!?」スチャ


地帝「...はあああああああああああああっっっっ!!!!!」スッ


──バキバキバキバキッッ!

まるで何かが砕けた音が響いた。

目の前に現れた地帝、女騎士は不幸にも剣での攻撃に備えていた。

しかし彼女が突き出したのは左手であった。


女騎士「────がはっ...!?」


女騎士(よ、鎧が...)


地帝「...鎧は砕いた」


地帝の掌底により露わとなった女騎士の腹部。

女性特有の柔らかでいて、引き締められた筋肉、そこに衝撃の剣が向けらた。


女騎士「────っっっ!!」


──サクッ...

掌底のあまりの威力に朦朧としていたせいか、すんなりと刃を許してしまっていた。

しかし身体に妙な違和感を覚える、刺された箇所が熱くならない。


女騎士「...これは?」


地帝「実体のない剣、血はでない」


地帝「地獄をみるのはこれから...」


女騎士「...?」


──ドクンッ!!

身体の中から、なにかが沸騰したような感覚が走る。

腹部から侵入した衝撃が彼女の全身に駆け巡る。


女騎士「──ぐああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」


ウルフ「女騎士ちゃんっ!?」


女騎士「ああああああああああああああああああああっっっ!?!?」


思わず、力強く握っていたショットガンを落としてしまう。

内蔵が全てぶちまけてしまいそうな、今まで感じたことのない痛みが彼女を叫ばしていた。
769 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:26:48.18 ID:pGMQTGcF0

地帝「...このまま本当に破裂させる」


地帝「歴代最強と言われる魔王様の魔剣...人間如きが所持したことを後悔しろ...」


女騎士「あああああああああああああああああっっっ!?!?」


ウルフ「や、やめてよっっ!!」


地帝「...」


──ピリピリピリッ...!

ただの殺気が、再びウルフを襲う。

自分の中に眠る、野生の本能が叫んでいる。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。


ウルフ「────っっ!!」ビクッ


地帝「...そのまま死ね」


女騎士「ああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」


絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に────。


ウルフ「...くぴっ」ゴクッ


地帝「...!」


──ブチッッ...

何かが、切れる音が聞こえた。

そして感じるのは、殺しを求めたケモノのような殺気。


地帝「...それは」


ただの野良魔物だった彼女に、膨大な量の魔力が集まる。

彼女の手には空き瓶が握られていた、その目つきは先程までの柔らかなものではなかった。


地帝「...魔力薬」


ウルフ「...」


女騎士の悲鳴がまだ響いているというのに。

まるで地帝とウルフしかいないような場の雰囲気と化している。

それほどに地帝は警戒をしている、そしてついにウルフは牙を剥く。
770 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:28:38.95 ID:pGMQTGcF0

ウルフ「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」シュンッ


地帝「──っ!」


──グチャッッッッ!!!

まるで、転移魔法のようにみえた。

気づけば地帝の肩の肉は噛みちぎられていた。


地帝「..."治癒魔法"」ポワッ


ウルフ「グルルルルルルルルルルルルル...」


地帝「..."属性同化"、"地"」


大地が地帝の肌を護る。

たとえ狼であろうと、牙で岩を砕くことは不可能。

再び守りの型に移行しようとした。


ウルフ「────ッッッ!!」シュンッ


──ガコンッッッ!!

属性と同化しようとした最中だった。

まだ変化をしていない頭に強烈な裏拳が入った。

予備動作なしでのこの速度、完全に油断した一撃。


地帝「...っっ!!」グラッ


地帝「ここまで...速いか...」


身体がよろけつつも、完全に大地へと同化し終えた。

これによりウルフの物理的な攻撃はすべて無力化できる、再び優位に立つ。


地帝「...」


ウルフ「グルルルルルルルルルル...」


地帝「暴走に近いのか...さぁどうする、獣」


ウルフ「...グルルルルルルルル」


ウルフはまるで檻の前に佇む獅子のような立ち回りを見せている。

簡潔に言うと様子見に近い行動だった、そしてそれは地帝も同じであった。


地帝「...」


地帝が物静かに、考察を練る。

あの魔力薬は誰のものかのか、どのようにして得たのか。

悠々として時間を掛ける、それほどまでに属性同化の防御力を信頼している。
771 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:30:47.01 ID:pGMQTGcF0

地帝「...」


ウルフ「グルルルルルルル...」


当然だった、この防御力の前にして通用する攻撃などない。

近接攻撃はもちろん、下位属性の魔法など相性が悪くなければ簡単に受けることができる。

しかし、彼女は忘れていた。


ウルフ「──ガアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!」ダッ


地帝「...くるか、獣」


今度は見える速度で迫ってきた。

どうやら、連続してあの見えざる速度を出すことができないらしい。

万が一に備え地帝もウルフに注視した、してしまったのであった。


地帝「────っ!?」


────■■■...

まるで岩が、紙のような音を立てて砕かれる。

そして続くのは爆発したような音、最後に響くのは衝撃の音。


女騎士「...私がいることを忘れるな」スチャ


────ダァァァァァァァァァンッッッ!!

彼女は地帝に突き刺した、闇をまとうベイオネットを。

そしてそこから射撃するのは衝撃のショットガン、とてつもない威力であった。

腹部を嬲られていたというのに、彼女は立ち上がりウルフを援護する。


地帝「...その状態になっても、闇を纏えるだなんて」


地帝「歴代最強の魔王様...とてつもないお方です...」


女騎士「──ウルフっっ! 頼んだぞっっ!!」ポイッ


ウルフ「────ッッ!」スチャ


地帝「──理性があるのか」


獣と化していたウルフ、半ば暴走に近いものと勝手に地帝は認識していた。

しかしその水面下ではしっかりとした理性が残っていた。

それがどれだけ恐ろしいことなのか。


地帝「──がぁっ...ぐっ...!?」


──サク■ッ! サクサク■■ッッ!!

銃剣によるでたらめな刺突、そしてでたらめな速度の攻撃。

ウルフに手渡されたショットガン、その先に装着した魔王子の剣が大地を砕く。
772 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:32:28.14 ID:pGMQTGcF0

ウルフ「────ッッ!?」ゾクッ


女騎士「──それ以上持つなっっ!! こっちに投げろっ!」


ウルフ「...ッ!」ポイッ


女騎士「──ぐっ...!」ゾクッ


投げつけられたショットガンを受け止める。

すると身体に様々な反応が起きる、ショットガンの先からでる闇が少しばかり身体に付着すると。


女騎士「...クソ、ものすごく不快だ」


女騎士「魔法使いに嬲られていた時のほうがマシだな...」


女騎士(だが正解だった...魔剣士の使い方を真似たが、やはり魔力を剣に注ぎ込めば属性を放ってくれるみたいだ)


地帝「...闇の魔力を持たない者に、耐えられるわけがない」


地帝「尤も...人のことをいえない...がな...」


女騎士「...!」


地帝「身体が痛む...まさか折れてもなお、威力を保っているとは...」


地帝「いや...折れてようやく、この威力に抑えられたと言うべきか」


地帝「傷口から闇が身体に侵入した...もう治癒魔法など効かないだろう」


女騎士「...無口がよく喋るな?」


地帝「...こうして口を動かしていないと、気が飛んでしまいそう」


地帝「その一方で、その獣は逆みたい...」


そう見透かされて、女騎士は横目でウルフを確認する。

その様子はまるで毒を盛られ、身体が悶ているかのようなモノだった。


女騎士「...ウルフ、大丈夫か?」


ウルフ「話しかけないで...ッッ!」


女騎士(魔力薬の影響か...女賢者が言っていたアレだな)


女騎士(この様子だ、少しでも気を緩めれば巨狼化してしまうのだろうか)


女騎士(...しかしそうなってしまえばこの戦いは不利になる)


巨狼化してしまえば、どうなってしまうのか。

戦闘力が上昇するかもしれない、なのになぜ抑えているのか。
773 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:34:04.64 ID:pGMQTGcF0

女騎士(...人の形でなければ、先程の奇策もできなかった)


女騎士(そして...あの予備動作なしでの俊足も、出せないのだろうな)


女騎士(...さらに、身体が大きくなるということがどれほど不利なことか)


人としての手がなければ、ショットガンを受け取ることはできなかった。

人としての足がなければ、予備動作なしでの俊足で不意をつけることができなかった。

人としての大きさがなければ、地帝の魔法の格好の的になる。

飲まなければよかったかもしれない、だがそうしなければ地帝の殺気で動けなかっただろう。


女騎士(...戦闘と言うものをよくわかっている)


女騎士(キャプテンが影響しているのか、それとも直感でわかっているのか)


女騎士(どちらにしろ、溢れ出る魔力を無理やり抑えているんだ...下手に刺激させるのは絶対に駄目だ)


女騎士「...わかった、返事はしなくていい」


ウルフ「フーッ...フーッ...」


地帝「...フっ」


地帝が笑う、ボロボロの岩の見た目をしているというのに。

しかし次の瞬間、その岩から元の地帝が現れた、属性同化を解除した様子だ。


女騎士「...何がおかしい?」


地帝「...久しぶり」


女騎士「...?」


地帝「燃えてきた...」


────ゾクッッッッ!!!

背筋が凍る、まるで氷魔法を受けたかのような錯覚。

しかし地帝が放ったのはただの言葉、それだけであった。


女騎士「────っっっっ!?!?!?」ビクッ


女騎士(なんだ今の殺気は...いや...違うっ!?)


地帝「地の属性同化を使えば鈍足になる...陳腐な攻撃も避けることができない」


地帝「しかし、避けばければその闇の剣が身体を簡単に砕く...」


地帝「だからと言って使わなければ、その獣による攻撃の格好の的...」


地帝「衝の属性同化を身体に使おうと思ったが...それはもういい」


地帝「火照った身体が、昔の戦い方を思い出させる...」


地帝「...やはり最後に頼れるのは」
774 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:34:33.49 ID:pGMQTGcF0










「我が身のみ」









775 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:36:03.03 ID:pGMQTGcF0

その言葉と共に、静寂が訪れた。

地帝が衣を破り捨てる、その見た目は肌着だけをきている女児。

とてつもない雰囲気を醸し出している、それを見て先程感じ取ったモノを女騎士は理解する。


女騎士「..."闘志"か」


地帝「..."転移魔法"」


自身ではなく、目先にある物に魔法をかけた。

先程まで女騎士を苦しめていた衝撃の剣を両手で握りしめた。

まるで持ち主の感情に煽られたのか、剣が地帝の身体よりも大きくなる。


ウルフ「フッー...フーッ...」


女騎士「...剣術か」


地帝「...」


どのような剣術でくるかわからない。

女勇者のように堅実なものなのか、魔剣士のように派手な動きなのか。

千差万別、どのような型の剣術がきてもいいように身構える、だがそれが仇となる。


地帝「"拘束魔法"」


女騎士「──なっ!?!?」


地帝「先に獣からやらせてもらう...」


女騎士「──クソっ! しまったっ!!」


まさか、この場面でこのような魔法がくるとは思わなかった。

魔法陣が女騎士の身体を強く縛り上げる、彼女はもう自由に動けない。


ウルフ「────ッッッ!!!」


地帝「行くぞ...」シュンッ


先程とは比べ物にならない、鈍足の彼女はもういない。

両手で持った衝撃の剣で、地面を削りながら肉薄してきた。

彼女の通った道はボロボロに。


ウルフ「ガアァァァァァァァァァッッッ!!」ブンッ


地帝「──っっ!」ブンッ


────ッッッッッッッ!!

音にならない衝撃音が響く。

毛で覆われた拳と、衝撃の剣が鍔迫り合う。

互角と思われる力比べ、しかし当然ながら地帝に分があった。
776 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:37:50.90 ID:pGMQTGcF0

ウルフ「──っ!?」


地帝「貰った...」


──ブゥンッ...!

刀身は常に原型を保っておらず、動きに生じて剣の形は変化する。

その不安定な動きにウルフは対応できず、地帝の新たな動きを許してしまった。


女騎士「──斬り上げかっっ!?」


同じ剣術を嗜んだものですらようやく気づけた。

鍔迫り合いをしていた地帝の構えが、いつのまにかゴルフのスイングのような構えに変化していた。


ウルフ「──ウッッ...!?」


────ビリビリビリビリッッ...!

雷とは違った身体の痺れがウルフを襲う。

斬り上げ攻撃の衝撃に、ウルフの身体が宙に持ち上がる。


地帝「まだ続けるぞ...」ダッ


斬り上げから、次の攻撃へと移行する。

フルスイングを終えた地帝はそのまま跳ねる。

そして行なったのは前宙に近い行動だった。


ウルフ「────ッッッ...!」


──ブゥンブゥンブゥンッ...!

剣の動きが前宙により変化する。

まるで風車のような軌道を帯びたソレ。

容赦のない連続攻撃がモロに身体を痛めつける。


地帝「まだだ...」スッ


前宙を終え、再び動きを変化させる。

宙に浮く自らの身体を安定させ、両手を上に構える。

この無重力じみた地帝の行動、超高速の剣術移行速度がソレを可能にしていた。


女騎士「────兜割りだっっ!! 腕で頭を守れ、ウルフっっ!!」


ウルフ「──ッッッ!!!」スッ


地帝「────オラァッッッッ!!!」


────メキメキメキメキメキメキッッッッ!!

2つの要素が重なり、このような音を立てる。

1つは兜割りによってウルフを叩きつけられた地面が砕ける音。

そしてもう1つは、それを受けたウルフの両手の骨が悲鳴を上げる音。
777 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:39:15.25 ID:pGMQTGcF0

ウルフ「──ガ...ハァ...ッ!」ドサッ


地帝「...直撃は防いだとはいえ、まだ息があるか」


女騎士「──ウルフっっ!!」グググ


拘束魔法により、なにもすることができない。

気づくとその悔しさにより口の中が鉄分の香りに包まれていた。

血を飛ばしながらウルフの無事を問いかける。


ウルフ「う...ゲホッ...」フラッ


地帝「立ち上がるか...」


女騎士「──もういいっ! 立ち上がるなっっ!!」


地帝「...獣、生まれは?」


ウルフ「......」


地帝「...答えないか、それとも無意識で立ち上がったのか」


女騎士「おいっ! ウルフはもうなにもできないだろっ!」


女騎士「私が相手だ、かかってこいっっ!!」


地帝「黙れ...数十年も倦怠はしたがこれでも剣士だ...」


地帝「立ち上がる敵は切り伏せる...これが礼儀だ...」


ウルフ「......」


──シュウシュウシュウッ...!

衝撃の剣に、力が蓄えられる音だった。

立ち往生するウルフ、その眼差しは鋭いまま。


女騎士(────受ける気か)


女騎士(ならば...これしかないな...)


女騎士「...ウルフ、いまからひどいことをするぞ」


女騎士「私も過去に試したことがある...身体への負荷は凄まじかった」


女騎士「...許してくれ」


ウルフのみなぎる闘志が、女騎士を非情にさせる。

身体は封じられ、もう手段はこれしかなかった。

彼女が得意なあの魔法、それがウルフの拳に付与される。
778 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:40:17.64 ID:pGMQTGcF0

女騎士「────"属性付与"、"衝"」


ウルフ「────...ッ!」ピクッ


────メキッ...!

ウルフの両手に激しい痺れが伴う。

下位属性の魔法が行ってはいけない禁忌。


地帝「馬鹿な...なにをしているかわかっているのか?」


ウルフ「...ッ」


地帝「下位属性を身体に付与させると、自らの身体も傷つける」


地帝「それを避けるために近年、属性同化という魔法が極秘に研究された」


女騎士「...どおりで聞いたことがなかったのか」


地帝「これでは手を下す前に、獣の身体は滅ぶぞ...」


女騎士「さぁ、どうだかな...」


ウルフ「......」


地帝「──っ!」


女騎士に向かって、地帝は怒声に近い言葉を発していた。

しかしふと、ウルフの方を見てみるとその表情は変わらずにいた。

不滅の闘志が彼女の眼をギラつかせる。


地帝「...その目を止めずに、受けてみろ」


──ブゥンッッッッッ...!

まるでムチをしならせるか如く、衝撃の剣を振るう。

魔剣士が使う剣気、女騎士が真似ることができる衝撃。

それらを遥かに超える衝撃がウルフに向かい襲いかかる。


ウルフ「......ッッ!」シュンッ


地帝「──やはり避けるか」


放たれた衝撃など、お互いに無視をしていた。

肉薄してきたウルフに対抗するべく、すぐさまに剣を構える。
779 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:41:52.95 ID:pGMQTGcF0

ウルフ「──ウラウラウラウラウラウラッッッッ!!」


地帝「──...っ!」


──ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!!

──ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥン...ッ!

ウルフから連続で繰り出される、衝撃の拳。

相殺するように連続で振り回される、衝撃の剣。

常人には見えることのできない、超速度の出来事だった。


地帝(...属性付与自体の威力は大したことはないが)


地帝(拳を剣で受けるときの衝撃が手元を狂わせ始めている...)


──ドゴォッッッ...!!

そんなことを思った矢先、手元が狂う。

ウルフの連続パンチの1つが、地帝の懐に直撃する。


地帝「──ゲホっっ...!?」


ウルフ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラッッッ!!」


地帝「くそっ...」


血を吐きながらも、併行して相殺を続けていた。

パンチを食らった感想すら言わせてくれない。

しかし、それはウルフも同じだった。


地帝(こちらも1回は攻撃を受けた...あまりの威力に腕が止まりそうだった)


地帝(だが...あの獣...もう何度も攻撃を受けているというのに)


実はウルフも地帝がパンチを食らったのと同じく、何度も返し刃を食らっていた。

普通ならなんらかしらの反応があってもいい威力、それも1度だけではなく数回も。

しかしこの獣は無反応で攻撃を続けていた。


地帝(残っているのは、野生か)


地帝(それもそうか、痛みを感じる暇があるなら拳に付与された衝撃でのたうち回るはずだ)


地帝(魔力薬で強化されたといえ、この地帝をここまで追い詰めるとはな...)


地帝「...燃えてくる」


ウルフ「──...ッ!」


────ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンッッッ!!

相殺の速度が上昇した。

種も仕掛けもない、単なる意地にも似た闘志が地帝を強くする。

そして、被弾も覚悟で剣の構えを変える。
780 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:43:49.48 ID:pGMQTGcF0

地帝「...そこだ」


──ドゴォッ...!

身体に軋む音が、1度だけではなく何発も響いた。

そしてその音に続くのは地帝側のモノ。


地帝「────オラァッ!!」


──ブゥンッ...!

横に一線、衝撃の剣がウルフの拳を避け腹部に斬りつける。

下がるのではなく前進しなければ、斬り下がりと言える剣術だった。


ウルフ「──ガハッ...!」


地帝「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ...」


さすがのウルフも、地帝も痛みに悶える。

地帝によって斬り吹き飛ばされたウルフはそのまま倒れ込む、完全に勢いを殺された。


ウルフ「グッ...ゲホッ...」ピクピク


地帝「...痛みを思い出せたか」


ウルフ「う、うぅ...痛いよぉ...」


地帝「...どうやら、魔力薬の効果も限界らしい」


ウルフ「うぅぅぅぅぅぅぅぅ...」


地帝「よくやった...この闘いは忘れない...」


地帝「だから...もうくたばれ──」


────ブゥンッ...!

先程のような剣気じみた衝撃が放たれる音。

それが聞こえるはずだった、しかし実際は違う音だった。


地帝「────な...っ!?」


──■■■■■■■■■■...

闇が忍び寄る音、熱き闘いに夢中になりすぎていた。

その音とともに身体は悲鳴を上げる。


地帝「投槍か...随分と不意をついたな」


女騎士「...ここは戦場だ、死ぬ者が悪い」


地帝「それも...そ、うか...」
781 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:45:49.00 ID:pGMQTGcF0

女騎士「しかし...闇というのは...凄まじ...い、威力だな...」


地帝「...最強の魔王様が宿っているからな」


女騎士「...なる、ほど」


地帝「魔剣にありったけの魔力をつぎ込んだか...」


女騎士「そう...だ...」


魔力を得た魔剣が闇を溢れ出していた。

女騎士の魔力だけあって、かなり純度が低い。

しかしそれでいても、地帝の身体に致命傷を与えるのには十分であった。


地帝「なんて威力だ...折れていても...粗悪な魔力を餌にしても...」ポタポタ


地帝「血が止まらない...身体が闇に破壊されていくのがわかる...」


地帝「だが...朽ち果てる前にお前は滅ぼす...」スッ


女騎士「ここ...までか...」ドサッ


闇のショットガンが地帝の背中に刺さっている。

槍のようなそれを抜いて投げ捨て、彼女は衝撃の剣を構えた。

どうしても、女騎士だけは殺したくてたまらなかった。


ウルフ「────ッ!」


その様子を見て、ウルフは確信した。

ここしかない、ここでアレをやるしかない。

自らが抑え込んでいた野生をここで開放する。


ウルフ「────アォォォォォォォォォォオオオオオンッッッ!!」シュンッ


──グチャッッッ!!

魔力薬の効力も切れかけの影響か、その姿は人でもなく狼でもない。

非常に不安定な見た目をした獣人が、背後から尋常じゃない速度で地帝の首元に齧り付く。


地帝「────っ」


──ボキッ...!

有無を言わさずに、首の骨を砕く。

歴然の狩人である狼が、隙を与えるわけがなかった。

不意打ちに不意打ちを重ねられ、地帝はついに沈黙する。
782 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:51:48.18 ID:pGMQTGcF0

地帝「────」


ウルフ「グルルルルルルルルルルルルル...」


──グチャッ...グチャグチャ...!

まるで死肉を喰らう狼、その口元は紅黒く染め上がる。

その光景にはとても恐ろしい野生が込められていた。


女騎士「...ウルフ、もういいんだ」


ウルフ「...ッ!」ピタッ


女騎士「そいつはもう...死んださ...」


ウルフ「...女騎士ちゃん」


逆だっていた毛、不安定な見た目、そして理性のない言葉。

それらが消え失せた、ウルフの飲んだ魔力薬はついに効果が無くなった。

そこに残ったのはムゴい死体と横たわった騎士、そして腕をぶら下げた獣。


女騎士「私も...だめみたいだ...」


女騎士「魔剣に魔力を注ぎ、大量の闇を溢れさせ...拘束魔法を壊した...」


女騎士「しかし...その際に私に付着した闇が想定外の威力を誇っていた...」


女騎士「身体が...もう動かない...」


ウルフ「そんな...」


女騎士「...ウルフ、すまない」


女騎士「お前にやった、属性付与...痛かっただろ?」


ウルフ「...うん」


女騎士「やっぱりか...私も昔試したことがあったが...」


女騎士「あのときは痛みのあまり、一日中寝込んだな...」
783 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:56:48.49 ID:pGMQTGcF0

女騎士「...今、それを解除してやる...こっちにおいで」


ウルフ「...うん」


──ふわりっ...

その擬音には2つの意味が込められていた。

1つはウルフが女騎士に寄り添った音、そしてもう1つは香り。

血に染まった嫌な匂い、その中にウルフのお日様みたいな匂いが残っていた。


女騎士「...これで、どう...だ?」


ウルフ「だいじょうぶ...もう、いたくないよ...」


女騎士「...よかった」


ウルフ「...えへへ」


いつものウルフがそこにいた。

口元はドス黒い紅に染まっているが、この子は間違いなくウルフだ。

そんな癒やしの笑顔を見れた女騎士は、この忠犬に言葉を告げた。


女騎士「...私のことは置いて、先に行ってくれ」


ウルフ「わか...た...よ」


女騎士「...ウルフ?」


ウルフ「ごめ...だ...め...」


──ばたんっ...!

当然だった、いくら魔力薬を得たとしてもただの野良魔物だったウルフ。

今まで身体の危険信号を無視していたツケがここにきてしまった。

微かに息はある、しかし動くことはできない。


女騎士「...頑張ったな」


女騎士「魔王子...すまない...キャプテンと合流...できなさ...そう...だ」


そして彼女も、ゆっくりと瞳を閉じる。

彼女もまた微かに息がある、まるで寝ているようだった。

激戦を終えた2人がここに休息する。


???「..."治癒魔法"」


〜〜〜〜
784 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/19(水) 20:58:04.07 ID:pGMQTGcF0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
785 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:32:53.00 ID:dyy2pbpW0

〜〜〜〜


水帝「...けど、この私も舐めてもらっては困るのよ?」


妖艶でいて、ただならぬ威圧感を醸し出す。

その声の主は魔王軍最大戦力の1人、水帝である。


女賢者「...それはこちらも承知です」


スライム「...」


水帝「じゃあ...行くわよ?」


女賢者(まずは様子見をするしかありません...)


女賢者「..."防御魔法"っ!」


女賢者とスライムの肌を優しく包む。

どのような魔法がきてもいいようにまずは守りを固めた。

これは戦術の基本である、悪手ではない。


水帝「..."属性付与"、"水"」


──ざぱぁっ...

どこからか、波が立つような音が響く。

この魔法をどこに付与させるのか、そう考えた女賢者は少し侮っていた。


女賢者「...とてつもないですね」


スライム「あわわ...」


水帝「水は私の、得意な場所ですからねぇ」


女賢者「...まさか、床一面に属性付与をするとは」


気づけば皆の足元は水浸しどころか、太もも付近まで水に満ちている。

魔王城の1階が大洪水に、それだけでかなりの魔力量が伺える。

自分の得意な場を作る、それが水帝の戦術であった。


女賢者(ここまでの規模とは...属性付与の範囲を見誤ったのが悔やまれます)


女賢者(しかし...ここからどう動くつもりなんでしょうか)


スライム「うぅ...足元がふらつくよ」


水帝「..."水魔法"」


水帝の足元の水が大きな激流が如くに荒れる。

そしてそれが、そのままこちらに向かってきた。
786 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:34:49.62 ID:dyy2pbpW0

女賢者「...っ!」


スライム「──下がっててっ!」サッ


女賢者「頼みますよ、スライムちゃん!」


スライムが前に出ることによって女賢者の身を守る。

しかし水帝の狙いは別のものだった、彼女が新たに唱える魔法が女賢者には見えた。


女賢者(あの詠唱は...)


女賢者「...」ブツブツ


口の動きだけで、なんの魔法を唱えているのかがわかった。

読心術めいたその賢者としての能力、水帝の魔法に備えこちらも詠唱を行う。


水帝「..."雷魔法"」


────バチバチッッッ...

彼女自身の属性ではないためが、魔女の雷よりはるかに劣る。

しかしそれでいて、風属性が弱点であるスライム族を葬るには十分な威力だった。

水魔法は急激に勢いがなくなる、完全にフェイクであった。


スライム「──う、うわっ!?」


女賢者「...させません、"衝魔法"」


──ゴォォォォォォオオオッ...

女賢者が得意とする地属性の衝魔法。

下位属性の相性、その優劣は後出しが有利である。

かなり威力のある衝に雷は打ち消され、水帝の魔法は無に帰る。


水帝「...ふぅん?」


女賢者「スライムちゃんの弱点である風属性を...そう簡単に通すわけにはいきません」


スライム「あ、ありがとう女賢者ちゃん...!」


水帝「下位属性の相性を持ち出してくるのね...お利口さんねぇ」


水帝「頭を使う闘いは好きよ...炎帝も風帝も地帝も脳筋さんだからつまらないわぁ」


水帝「あの人たち...他の属性も使えるのに、威力や使いやすさを求めて得意な属性しか使わないから...」


女賢者(私も地属性以外はからっきしだとは言えませんね...)


女賢者「...褒め言葉として受け取ります」
787 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:36:19.28 ID:dyy2pbpW0

水帝「でも...炎と水属性に対して無敵を誇るスライム族」


水帝「そしてスライム族の弱点である風属性に抵抗できる貴方」


水帝「...一筋縄じゃいかないわねぇ」


女賢者「...」


スライム「...」


口数が減る、全神経を水帝に向かわせなければいけない。

まだ底をしれない、四帝である彼女に油断だけはしてはならない。

しかしすでに遅かった。


水帝「やっぱり私も、得意な魔法が一番かもねぇ...?」


女賢者「──っ!?」


──こぽこぽっ...

女賢者の足元、太ももまで浸かっている水が反応を見せる。

肝心なことを忘れていた、それは先程水帝が行った魔法。

水魔法を囮としたスライム特攻の雷魔法、もしその雷魔法ですら囮であったのなら。


水帝「──はい、つかまえたぁ」


────ざぱぁっっっっっっ!!

まるで荒波が打ち寄せたかのような激しい音。

それとともに現れたのは、まるで意思を持ったかのような水。

気づけば女賢者の全身はその水に囚われていた。


女賢者(しまった...本命は水魔法でしたか...)ゴポゴポ


スライム「お、女賢者ちゃんっっ!?」


水帝「...防御魔法に助けられたわね」


過去に海の底を防御魔法を駆使して歩いた過去がある。

それと同じ光景がこの魔王城でも起こっていた。

防御魔法が周りの空気を固定しており、女賢者は窒息をせずに済んでいた。


女賢者(ひとまずは無事を確保できていますが...これでは...)


女賢者(当然ながら周りの音が聞こえない...視力だけで状況を確認しなければ...)


女賢者(本当なら...泳いで脱出したいのですが...)


──ミシミシッ...!

なにかが軋む音が女賢者にだけ聞こえている。

防御魔法の膜が、水の圧力に抗っている音だった。


女賢者(とてつもない圧力です...動けません...)
788 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:38:00.65 ID:dyy2pbpW0

水帝「...さて、いくわよ?」


スライム「...っ!」


女賢者(あれは...雷魔法の詠唱...っ!)


水帝「..."雷魔──」


スライム「────っ!」


────ばしゃんっ!

水帝が詠唱を終え、魔法を放とうとした時だった。

そのときのスライムの表情はいつもと違って鋭かった。

まるで何か策があるような顔をして、身体を足元の水に預けた。


水帝「──"水化"かぁ...厄介だわ」


女賢者(...スライムちゃんがついに、動きましたか)


女賢者(大賢者様から詳細はじっくりと聞いています...任せましたよ?)


水と同化し完全に姿を隠したスライム。

水帝はある方法を駆使して対処しようとしたその時。

思わず彼女の思考が止まった、ある魔法によって阻害された。


水帝「...やられたわぁ、あの防御魔法の仕業ね」


水帝「少し...油断したかしらぁ...」チラッ


動きを封じられている女賢者を軽く睨む。

水帝戦の一番始め、防御魔法にある仕組みがあった。

すこしばかり辺りを見渡す水帝を見て、女賢者は察する。


女賢者(...もしかして、水帝は魔力を感知することができないのでは?)


女賢者(感知ができればスライムちゃんが水化した所で、すぐに発見できるはずです)


女賢者(...いや、違う...魔王軍最大戦力である彼女が感知能力を持っていないはずがありません)


女賢者(まさか...防御魔法...?)


始めの悪手ではない魔法が、図らずとも最善手となっていた。

防御魔法に包まれたスライム、その魔法は女賢者によるもの。

魔法は魔力に満ちている物、それが意味するのは1つ。
789 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:39:35.40 ID:dyy2pbpW0

女賢者(...なるほど、そういうことですか)


女賢者(ならば、私ができることはこれしかありません)


女賢者「..."水魔法"」


唱えられた魔法が湧き水のように垂れ流される。

水の中で水を出したところでなにも変わらない、ただ流されるだけであった。

動きを見せた女賢者に水帝は感づいてしまう。


水帝「...気づかれたわね、私が感知ができない理由を」


水帝「鬱陶しいわぁ...この水の中、あの人間の子の魔力が点々としているじゃない」


水帝が魔力の感知をしない理由が明白になる。

スライム自身の魔力が、女賢者の魔力によって包まれていた。

女賢者の魔力によって作られた防御魔法、それが隠れ蓑と化していた。


女賢者(こちらを睨んでますね...どうやら読みが当たりました)


女賢者(おそらく先程雷魔法を衝魔法で打ち消した時にも、私の魔力が辺りに散らばったと思われます)


女賢者(さぁ...水の中で水を探すことはできますでしょうか)


彼女自身、防御魔法、衝魔法、そして水魔法。

様々な要素で散りばめられた魔力が感知を困難にしていた。

足元の水が波のように動く、それに伴い魔力も流れている。

どの魔力がスライムを包んでいるモノか、判断などつくはずがなかった。


水帝「...面倒くさいわぁ、一度解除しましょう」


風呂の栓を抜いたかのように水が消え始める。

水の中で水を探すのは不可能、当然の判断であった。

足元の水が消え失せて辺りは元の光景へと戻る、水に拘束され続ける女賢者を除いて。


水帝「さてと...どこに打ち上げられたかしらぁ」


水がなくなった今、感知なんかせずに目視でスライムを見つけることができる。

しかし辺りを見渡しても彼女はいなかった、困惑するを前に水帝の口は動いていた。


水帝「..."氷魔法"」


────パシュッッ...!

殺人的な威力を誇る速度でつららが発射された。

その先にはあの水があった、女賢者を拘束するあの水。


女賢者「────っ!」


──ぽよんっ

そのような可愛らしい音が響く。

つららは水を貫いていたが、途中で勢いを殺された。
790 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:41:50.06 ID:dyy2pbpW0

水帝「...遅かったわね」


スライム「...へへんだ」


水帝「...もういいわ、一度魔法を解除してあげる」


──バシャンッ!

拘束していた水が消え失せた。

そこには弾力のある水が女賢者を完全に包んでいた。

女賢者が合図をすると、その水は彼女から分離した。


女賢者「...助かりました、すでに防御魔法は破られてて...あのまま水圧で潰されるかと思いましたよ」


スライム「どういたしまして! 女賢者ちゃんもありがとうね!」


女賢者「お互い様ですね、次は不意をつかれないようにします」


水帝「...既に私の水魔法に突入しているだなんて、入れ替わっていることに気づけなかったわ」


女賢者「それは私もです...私が水魔法を唱えた直後にスライムちゃんが気づいて来てくれましたから」


スライム「えへへ...」


水帝「認識を改めなければね...決して馬鹿にしているわけじゃないけれど...」


水帝「スライム族は基本的に知識に乏しい...戦術理解度や状況判断能力なんて皆無だと思っていたわぁ」


女賢者「...スライムちゃんは、一番成長しましたから」


女賢者「強くならなければいけない理由が、この子にはありましたからね...」


スライム「...うん」


女賢者(...戦況は振り出しに戻った、依然として水帝が圧倒的に優位のはず)


女賢者(ですが、これでいいのです...時間さえ稼げれば...!)


女賢者(時間さえ稼げれば...キャプテンさんが魔王子さんを連れて戻ってくるはずです...)


水帝「その子はいい子ね...でも、殺さなければならないの」


水帝「今日は...魔王様によって大事な日みたいらしいから...」


女賢者「...大事な日?」


水帝「だから...大人気なくいくわよぉ?」


水帝「..."属性付与"、"水"」


再び、あたりが水に満ちる。

太ももに冷たい感覚を覚えながらも、攻撃に備える。
791 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:43:51.55 ID:dyy2pbpW0

スライム「うわわっ」


女賢者「...今度は、不意を食らいませんよ」


女賢者(当然ながら、先程の私の魔力は完全に水に流されて無くなってますね)


女賢者(それにしても...あたりに水を展開するのは確かに水帝にも有利ですが...)


女賢者(それ以上にスライムちゃんが有利になるはずです...)


女賢者「...なにが狙いですか?」


水帝「...」


──ゾクッ...!

殺意のこもった威圧感、それに気圧されたわけではなかった。

その水帝の口の動き、まったくもって未知な詠唱に驚愕する。


水帝「────"属性同化"、"水"」


女賢者「──え...?」


──ぱしゃ、ぱしゃ...!

水たまりに足を入れたような小さな音が響いた。

気づけば水帝を見失っていた、しかし彼女はそれどころではなかった。


女賢者「知らない魔法...っ!?」


スライム「女賢者ちゃん...?」


女賢者「...っ! すみません、動揺してしまいました...」


彼女にだって唱えられない魔法は幾つもある。

しかしそれでいて、彼女は大賢者によって育て上げられている。

この世のすべての魔法、詠唱の仕方を熟知しているはずだった。


女賢者(まずい...知らない魔法があるなんて思わなかった...)


女賢者(属性同化...まさか──)


水帝「──水化できるのは、スライム族の特権ではなくなったのよ?」


知らない魔法であっても、その名称で大体察することができる。

見失った水帝の声が聞こえたときにはすでに遅かった。
792 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:46:02.77 ID:dyy2pbpW0

スライム「────っ!?!?」


女賢者「──なっっ!?」


まるで海流が可視化されたような光景が2人を驚愕させた。

渦潮が竜巻のように君臨し、蛇のような水流が足元の水よりも高い位置で存在している。

天変地異の一言としか言い表せない。


水帝「まずは...悪いけどそのスライムを隔離させてもらうわぁ」


──ざぱぁっ...!

大きく波打つ音が聞こえた。

その波はまるで、巨大な手のような形を成していた。


スライム「────へっ?」


女賢者「──スライムちゃんっっ!?」


水帝「...捕まえた、逃さないわよ」


巨大な水の手に握りしめられたスライム。

そのあとに続く魔法もまた、女賢者の知らないモノであった。


水帝「..."属性同化"、"氷"」


────ぱきっ...ぱきぱきぱきっ!

空気が冷える音が身を凍えさせた。

スライムを握る手の温度が急速に下がり始める。

そして出来上がるのは、氷の牢獄。


女賢者「──スライムちゃん! 脱出してっっ!」


スライム「う、うんっ!」


水帝「もう遅いわよぉ...少し早口過ぎて意地悪だったわねぇ」


姿を見せずに声だけを発する。

すでに隔離は終了していた、その早すぎる詠唱が故に。

凄まじく速い出来事であった、これに対応できるものはそう居ないだろう。


スライム「で、出れないよぉ!」


女賢者「しまった...どうすれば...っ!」


水帝「あの子の周りは全て囲んだわぁ...水化しても氷が邪魔して通り抜けないでしょうね」


水帝「さっきみたいなことはさせないわよぉ」


女賢者「...っ!」
793 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:47:43.10 ID:dyy2pbpW0

水帝「じゃあ...まずは人間の子からやさせてもらうわね?」


女賢者(まずい...スライムちゃんが動けない今、先程の変幻自在の水を対処できる気がしない)


女賢者(やはり、水帝が本気になれば私たちなんて一捻りでやられてしまう...)


女賢者(キャプテンさん、早く来てください...なぜなら...っ!)


女賢者「...長くは持ちませんからね」サッ


懐から取り出したのは、小さな瓶。

大賢者から預かった大切なもの、これをウルフやスライムたちに渡すため。

彼女がここまできた理由の1つでもあった。


水帝「──!」ピクッ


女賢者「くぴっ...まずい...」ゴクッ


水帝「──魔力薬っ...!?」


女賢者「げほっ...げほっ...」


水帝「...」


──ざぱぁっっ...!

無言で攻撃を仕掛ける。

今度は右手だろうか、再び水の手が女賢者に襲いかかる。


女賢者「..."防御魔法"」


彼女の最も得意な魔法といっても過言ではない。

何百回、何千回も唱えた賜物、その詠唱速度は水帝のモノに迫る。

その堅牢さはもはや鉄といっても差し支えないものであった。


女賢者「...今のは先程の拘束していた水魔法の水圧なんかと比にならない威力でしたね」


水帝「ちょっと本気を出してみたんだけどねぇ」


女賢者「所詮は他人の力を借りてる身ですが、こちらも本気でいきますよ」


水帝「...少し、ムカつくわねぇ」


女賢者「...」


水帝に苛つかれながらも、静かに感知を行う。

魔力の感知、それはどこに魔力があるのかが感覚的にわかるということ。

そして、相手の魔力量も知ることができる。
794 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:49:04.37 ID:dyy2pbpW0

女賢者(...これでも倒すことは出来ないでしょう、魔力薬を飲んでも水帝の魔力量の方が上です)


女賢者(ならば...時間を稼ぐしかありません、徹底的に粘らせてもらいます)


女賢者(それにしても、水帝がどこにいるかわかりません...)


女賢者(感知しようにも、足元の水は水帝の魔法によって生まれています)


女賢者(当然ながら、全範囲に魔力を感じます...これでは探せません)


女賢者「...姿は見せてくれないんですね」


水帝「あらぁ、もうとっくに見せているわよぉ?」


薄々と感づいていた、水帝は既に姿を見せている。

先程聞こえた、属性同化という言葉が説得力を持っていた。


女賢者「やはり...属性同化とやらは...属性そのものになるというわけですね」


女賢者「つまりあなたはこの足元の水と同化し、水化している...合っていますか?」


水帝「そういうことよぉ」


女賢者(この天変地異じみた光景も、水帝の身体一部というわけですか...)


女賢者(ここのどこかに、水帝の身体の中心があるはずです...)


スライムを拘束しているその手のような氷。

水帝の身体の一部だという具体性がそこにあった。


女賢者「...勉強不足でした、知らない魔法があるだなんて」


水帝「そう落ち込まないで、この魔法が生まれたのはつい数年前なんだから」


水帝「それも極秘...魔王様と四帝ぐらいしか知らないし、使えないわよ」


女賢者「...そういうことですか」


水帝「さて...時間稼ぎもここまでにしてもらおうかしら?」


女賢者「──っ!」


彼女の冷たい目線が女賢者を貫く。

背中に氷の粒を入れられたかのような不快感。

四帝の本気が向かってくる。


女賢者(この防御魔法でどこまで耐えられますかね────)


水帝「────ふっっっ!!」


────ミシミシミシミッッッ!!

掛け声とともに、巨大な水の手が襲いかかる。

それと同時に蛇のような水流が、こちらを貫こうと向かってきた。
795 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:50:26.44 ID:dyy2pbpW0

女賢者「うっ...!?」


女賢者(防御魔法越しでも...ここまで圧が来るとは...)


女賢者(そう長くは持ちませんね...なにか策を練らないと...っ!)


水帝「水だけじゃないわよぉ?」


水帝「..."氷魔法"」


────サァァァァァァァァ...!

おそらく、水帝の本体がいる箇所の頭上に冷気が展開する。

扇状に展開したソレから、つららが生まれ始める。


女賢者「────これは、連続攻撃っ!?」


水帝「正解...っ♪」


──ドガガガガガガガガガガガガガッッッ!!

ここに隊長がいれば、聞き間違えていただろう。

ミニガンのような発射音と共につららが射撃される。


女賢者「くっ...まずい...」


──パキッ...!

見間違えでなければ、ヒビが入った。

防御の壁が脆くなる、つまりは生命線が切れかけている。

水帝の猛攻は、大賢者の魔力を用いた防御魔法でも簡単に砕く。


女賢者(どうする...また防御魔法を展開したところですぐに破壊されてしまうでしょう...)


女賢者(衝魔法であの氷が着弾する前に砕く...いえ、恐らくあのつららの速度に対応できないでしょうね)


女賢者(...だめだ、いくら強化されたからと言って、私の使える魔法じゃどうすることもできない)


女賢者(せめて生身の水帝に、衝魔法を当てることができたのなら...)


女賢者「...」


氷魔法の影響か、身体が冷えていた。

冷えの影響なのか身体が震えていた、本当に冷えのせいなのか。


水帝「...次で終わりにしてあげるわぁ」


女賢者「...っ!」ビクッ


女賢者(...恐い)


残酷なまでに冷たい空気が、彼女を凍えさせる。

身体も、思考も、すべてが萎縮させられている。

実感する実力差が女賢者を飲み込んでいた。
796 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:51:34.12 ID:dyy2pbpW0

女賢者(...大賢者様)


女賢者(大賢者様なら...どうやってここを切り抜けますでしょうか...)


女賢者(...お得意のあの魔法で颯爽と解決しそうで────)ピクッ


自分が使える魔法ではどうすることもできない。

なかば自棄的に思い出を振り返ると、ある魔法を思い出した。


女賢者(私が今まで一度も使えることがなかったあの魔法...)


女賢者(今ならきっと...油断を誘うしかないですね)


女賢者「...もう、だめみたいですね」


水帝「...うん?」


女賢者「私の負けです...」


水帝「あらぁ、諦めがいいのね」


女賢者「...死ぬ前に、属性同化という魔法をもう一度教えてくれませんか?」


水帝「...」


先程まで戦闘を続行しようとしていた者が突如として諦めを告げる。

水帝は警戒をしていた、なにか策があるのではないかと。


女賢者「...」


水帝「...いいわぁ、教えてあげる」


水帝「けど、こうさせてもらうわね?」


──ざぱぁっ...!

巨大な水の手が、無抵抗な女賢者の首から下を握り持ち上げる。

顔だけ出されている、これなら会話が可能。

そして、どのような行動をされてもすぐに圧殺することができる。


女賢者「...!」


水帝「悪いけど、嘘つかれて魔法の情報だけ奪われるのは嫌だからねぇ...」


水帝「聞きたいことを言ったら、すぐに潰してあげるわぁ」


女賢者「...そこまで警戒しなくても」


水帝「私の魔力よりも格下だからと言っても、魔力薬を飲んだ相手に油断なんて禁物よぉ」
797 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:52:42.63 ID:dyy2pbpW0

女賢者「そうですか...それで、属性同化という魔法とは?」


水帝「...簡単に言えば、属性付与の上位互換かしら...完全ではないけれど」


水帝「下位属性による属性付与、身体に付与すれば何らかの支障がでるのは知っているわよね?」


女賢者「...そうですね、炎の属性付与を身体に纏えば、身体中に大やけどでしょうしね」


水帝「その欠点を補うために開発されたのが、属性同化よ」


女賢者「なるほど、身体自体を炎にしてしまえばやけどする心配はない...ってことですか?」


水帝「まぁ、そんなところねぇ」


女賢者「...一体どんな人が創ったんですかね」


水帝「...側近様に教えられて、使えるようになったけれども」


水帝「どうやら、側近様だけが創ったわけではなさそうなのよねぇ...詳しいことは聞かなかったけど」


水帝「風帝はズカズカと側近様に詰め寄り、聞き出したらしいけど」


女賢者「...なるほど」


水帝「...さぁ、おしゃべりはお仕舞いよ」


────ミシッ...!

おそらく、もう数秒も持たない。

ヒビの入った防御魔法が最後の抵抗をする。


水帝「なかなかの、防御力ね...地帝を思い出すわぁ」


女賢者「...」


水帝「...あのスライムの子は殺さずに野に返すことにするわぁ」


水帝「あの子は...同胞ですからねぇ、それに随分と...」


水帝「...終わりよ」


女賢者「...」


────パキッ...!

ガラスが割れたような音。

最後の抵抗も虚しく、圧殺される直前まできた。

しかし、女賢者は声を荒げることもなくボソボソとつぶやくだけだった。
798 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:54:01.72 ID:dyy2pbpW0

水帝「...詠唱?」


水帝(この期に及んで、やっぱりなにか仕掛けてきたわねぇ)


水帝(けど...もうこの手からは脱出できないはずよぉ)


水帝(それが可能な魔法なんて、光か闇魔法ぐらいしかないはずだわぁ)


水帝(...ソレをこの子が使えるとは思えない)


水帝「...悪あがきかしらぁ、けど普通の魔法じゃ無意味よぉ」


水帝の水化はスライムのモノとは似ているようで違う。

スライムが炎、水属性や物理攻撃に強い代わりに風属性に弱い。

その一方で水の属性同化は風属性には弱くない代わりに炎属性に弱い。


水帝(おそらく、唱えているのは炎属性の魔法ね...)


水帝(これだから下位属性は...後出しされたら問答無用で相性が悪いんだから嫌いよ)


水帝(あの子が魔法を出したらこちらも水魔法を...いえ、真似したほうが手っ取り早いわねぇ)


水帝「..."防御魔法"」


今の女賢者の防御魔法と遜色ない硬度を誇る。

水の身体、足元の水の一部が光り魔法が展開された。

これで、炎属性の魔法など寄せ付けない。


水帝「...やらせてもらうわね?」


女賢者「...」


握りしめている女賢者を、圧縮しようとした時だった。

ふと、彼女の目が水帝の目とあったような感覚がした。

今の水帝は水、目などないはずだというのに。


女賢者「...そこですね」


水帝「...使う魔法の選択を間違えたかしら」


水帝「でも...今更位置がわかったところでどうするつもり?」


今の水帝の周りには防御魔法という異物が展開している。

感知ができる女賢者は愚か、その様子は肉眼でも確認できる。

足元の水の一部が強く屈折しているような。


女賢者「...こうするんですよ」


水帝(...くるわね、その前に握りつぶしてあげる)
799 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:55:21.19 ID:dyy2pbpW0

水帝「くたばりなさ────」


──ゴキッ...!

女賢者のどこかの骨が折れる音。

水の影響かその音を聞くことができたのは当人のみであった。

そして彼女は、痛みをこらえながらもあの魔法を放つ。


女賢者「────"解除魔法"」


水帝「──なっ...!?」


──ぱしゃぱしゃぱしゃっ...!

女賢者を握っていた水の手が垂れ流れる。

手だけではなかった、屈折させていた防御魔法、それどころか水の身体が。


水帝「──解除魔法ですって...っ!?」


女賢者「ぐっ...なんて魔力の消費量ですか...」


女賢者(それに詠唱も長いですし、こんな魔法をポンポンと出していたのですか...大賢者様は...)


持ち上げられていた身体は地面へと落ちる。

足元の水が緩衝材となったのか、やや危なかしく着地する。


女賢者(今しかない...今しかまともに通用しないはず...っ!)


水帝「──はっ、しまった...っ!?」


女賢者「もう遅いですっ! "衝魔法"っっ!!」


──ズシッ...!

重い一撃が、水帝の身体に直撃する。

生身の身体に響くその魔法は、過去を思い出す威力であった。


水帝「──地帝の並に重いわね...」


魔法の威力によって身体が吹き飛ばされた。

水帝はそのまま、大きな音をたてて水へと倒れ込んだ。


女賢者「はぁっ...はぁっ...」


女賢者(両腕の骨、折れてますね...)


女賢者(それに...解除魔法で今ある魔力の8割が持ってかれました...)


女賢者(...お手上げです、上げれる手はないんですが)


冷静に考えてはいるが、身体は正直だった。

あまりの痛み、そして身体の冷えに負け身体を震わせ得ている。

歯はガチガチと音を鳴らしている。
800 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:55:54.61 ID:dyy2pbpW0










「..."氷魔法"」









801 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:57:06.55 ID:dyy2pbpW0

──パキッ...!

鋭い一撃が、女賢者の肩を貫いた。

その残酷なまでに冷たい声の音、彼女の仕業であった。


女賢者「がぁっ...うぅ...」


水帝「やってくれたわねぇ...」


女賢者(どうやら魔法は通用したみたいですね...それで怒りを買ったみたいですが...)


女賢者「はぁっ...はぁっ...全力の魔法だったんですが...復帰が早いです、ね...」


水帝「...水帝ですからねぇ」


水帝「そんなことよりも...どうして、光魔法に類似すると言われる解除魔法を...?」


水帝「アレは魔王様は愚か、魔法に長けた魔王妃様ですら使えない超高等でいて化石みたいな魔法よ」


女賢者「はぁっ...それは、知りませ、んでしたね...」


女賢者「私は...大賢者様の...真似をしただけ、です...」


女賢者(まずい...もう意識が飛びそうです...治癒魔法すら唱える余裕がない...)


女賢者(もう少し...もう少しだけ時間を稼げれば...キャプテンさんが...きっと...)


水帝「大賢者...そういうことね...」


女賢者「ぶっつけ本番ですが、うまく...きました...ね」ピクッ


なにか、足元が引っ張られるような感覚がした。

彼女はそれを察し、気付かれないように懐から瓶を取り出した。

そしてソレを、落とした。


水帝「...その魔力薬もおおよそ、大賢者のモノね」


水帝「大賢者の魔力を借りたと言っても、実際に使うことができたなんてね...」


水帝「...やるわね」


女賢者「どう...い、たしまして...」


水帝「じゃあ...さよなら、"水魔法"」


怒りが込められた魔法が出現する。

付与も、同化もする必要のない、ただの水魔法。

局地的な津波、ソレが女賢者に向かった。
802 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 22:59:13.75 ID:dyy2pbpW0

女賢者「...」


────ゴシャアァァァァァァァァッ...!

激流がぶつかる音が響いた。

人間が喰らえば、四肢なんて簡単にバラバラになる威力だった。

しかしソレを喰らったのは、人間ではなかった。


スライム「...」


女賢者「やっぱり...水魔法にはスライムちゃん...で、すね」


水帝「な...っ!?」


まともに受けた衝魔法が思考を鈍らせたのか。

頭に登った血によって判断が緩んだのか。

解除魔法を受けたならば、あらゆる魔法は阻害される。


水帝「...そうね、左手は氷の属性同化でその子を拘束していたんだったわねぇ」


水帝「解除魔法を受けた後は、現れる機会を伺っていたのね...お利口さんね」


スライム「...うるさいよ」


水帝「...え?」


思わず、聞きかえしてしまった。

まさかスライム族という下等な魔物に暴言を吐かれるとは思ってもいなかった。

しかし、聞き返しの言葉はそれだけの意味ではなかった。


水帝(...おかしい、あの子...先程よりも遥かに魔力が──)


水帝「──まさか、その子も魔力薬を...何時っ!?」


女賢者「ふふ...もしかし、たら私は...手品師の才能があるのかも、しれません」


水帝「...この性悪女...っ!!」


女賢者(あとは任せました...おそらく後天的に魔力を得た私よりも...)


女賢者(先天的に魔力を得た魔物...スライムちゃんのほうが効き目があると思われますから...)


スライム「ゆるさないから...わたしの友達を傷つける人は...」


水帝「────"属性同化"、"水"」


スライム「──消えちゃえ」


お互いが水と同化し、お互いが足元の水を利用する。

2人の背丈は原型をとどめていなく、もはや怪獣の粋。

流れるような水持つ者と軽い粘度を持つ者が、津波を、激流をぶつけ合う。
803 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:00:45.00 ID:dyy2pbpW0

女賢者「うっ...す、すごい...光景ですね...」


女賢者(これが...水帝の本気というわけですか...)


女賢者(とてもじゃないが私は参戦できませんね...少し引かせてもらいます)


女賢者「スライムちゃん...頑張って...っ!」


動かせない両腕を慎重に扱い、後退りをする。

闘ってくれる仲間がいるおかげか、少しばかり魔力にも理性にも余裕がでてきた。

もう少しもすれば、治癒魔法で身体を癒やすことができるだろう。


水帝「──なんて力なの...っ!?」


スライム「うるさいっ! 許さないんだからぁぁっっ!!」


スライムが身体から高速の津波を生み出す。

それを対処するために、水帝も身体から津波を生み出し相殺する。

もはや天変地異などという枠に収まらない、この世の終わりのような光景だった。


水帝「くっ...これじゃ埒が明かないわぁ...まさか、ここまで対応してくるだなんてぇ...」


スライム「うるさいうるさいっ! よくも女賢者ちゃんをぉっっ!!」


水帝「魔力薬の影響ね...感情が昂ぶりすぎているわ...」


水帝(こうなるなら...事前に治癒魔法を使えばよかった...)


怒りに身を任せ、治癒よりも先に女賢者を攻撃したのが間違えであった。

未だに身体に鈍い痛みが走る、そしてこの激戦中に身体を癒やす余裕などない。


水帝(くっ...この水帝が、ここまで押されるだなんて...)


水帝(──え? 今...なんて思った?)


水帝(そんなことは...あってはならないのよぉ...?)


思ったとおりのことを、つい考えてしまう。

その実力上に、帝の名を魔王からもらったというのに。

水帝は身体が沸騰するような感覚に襲われた。


水帝「...」


スライム「────っっ! ──っっっ!!」


────ブチッ...!

なにか、頭の中の紐が切れたような音がした。

それ以外はなにも聞こえない、それでいて無意識に近い感覚でスライムの激流を相殺している。

いち早く異変に気づいたのは水帝でもなく、スライムでもなく、彼女だった。
804 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:02:09.59 ID:dyy2pbpW0

女賢者「...?」


女賢者(なにか...物凄く気温が下がったような...)


余裕ができたのか、いつの間にか治癒魔法で身体を癒やしていた。

両腕の調子を確かめながらも、違和感を感じた方向に注目してみる。

また氷魔法でも唱えたか可能性があった、予想は的中、水帝の周りには先程の冷気が展開していた。


女賢者(氷魔法ですか...スライムちゃんにとっては驚異ではないですね...)


女賢者(...狙いは私でしょうか、もう少し距離をとったほうがいいですね)


足元の水に阻まれながらも、撤退を行う。

完全に足手まといな今、スライムの邪魔をするべきではない。

正しい反応であった、しかし水帝の狙いは彼女ではなかった。


水帝「......」


スライム「このっ! よくも────」ピタッ


津波や瀑布、海原での大嵐のような激しい闘いを繰り広げていた。

魔力薬の影響か、感情を熱くしていたスライムが思わず手を止めてしまった。

それほどに冷酷な寒さが理性を呼び覚ましていた、しかし一方で水帝は逆であった。


水帝「...ねぇ」


スライム「...なに?」


水帝「生まれは?」


スライム「...わからない」


水帝「そう...そうよねぇ、野良のスライムですものねぇ」


水帝「..."ただの"、スライムですものねぇ」


──ブチッ...!

今度ばかりは、この場にいた者全員に聞こえた。

水と化しているため表情を読み取ることはできない。

だがその声色で察することができた。


スライム「────女賢者ちゃんこっち来てっ!」


女賢者「──わかってますっっっ!!!」


なにが起こるのか、理解できた。

理解してしまっていた、これから始まる地獄の厳冬が。

水帝の周りに展開していた冷気が冬を呼ぶ。

805 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:03:39.80 ID:dyy2pbpW0

水帝「......」


────ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッッッッッ!

とてつもない暴風雪が周りを凍てつかせていった。

足元の水はいとも簡単に凍り始める、表面だけではなく、水の底まで。


女賢者「──ひどい...先程の戦闘よりも遥かにまずいですよこれ...っ!」


スライム「わたしの真後ろにかくれててっっっ!!」


女賢者「は、はいっ...!」


スライムを盾に、女賢者が冷気から身を護る。

急速に体温が低下していくのが実感できる。

身体のあちこちはパンパンに腫れ上がり、呼吸も難しくなっていた。


女賢者「まずいまずいまずい..."炎魔法"」ガチガチ


スライム「うっ...わたしも凍りはじめてる...っ!?」


女賢者「だ、大丈夫です...凍りはしますが負傷することはないはずです...っ」ガチガチ


スライムの一部が氷へと変化していた。

一見重症そうなのはスライムだが、それは違う。

盾を手にしても、淡い炎で暖をとろうが隙間風が女賢者を襲う、重症なのは彼女だった。


女賢者「だめ...死にそ...う...」ガチガチ


スライム「──しっかりして! 起きてっっ!」


女賢者「うっ...スライ、ム...ちゃん...」


スライム「おねがい...耐えて...っ!」


どうすることもできない、もう気力で耐えるしかなった。

氷点下を大きく下回る気温に意識が奪われていく。

このあと数分、永遠の眠気との闘いに喘ぐ中ついに吹雪は止まった。


水帝「──...っ!?」ピクッ


水帝「あらぁ...? なにが起きてたのかしらぁ...」


数分に及ぶ、大厳冬を呼び起こした本人がようやく怒りから開放された。

無意識下で唱えていた、氷魔法があたりの状況を一変させていた。

眼の前には、ほぼ全身が凍りついたスライム。

そして、ロウソクみたいな虚弱さを誇る炎魔法で暖をとる女賢者がいた。
806 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:05:11.14 ID:dyy2pbpW0

スライム「はぁっ...はぁっ...女、賢者ちゃん...っ!」


女賢者「...」


──ガチガチガチガチ...

目は虚ろ、足元の水が全て凍った影響で下半身は氷漬け。

彼女はただ、歯を鳴らすだけの抜け殻とかしていた。

意識はまだある、だが身体は耐えることができなかった。


水帝「...そう、また癇癪を起こしてしまったのねぇ」


水帝「もう何年前かしらぁ...あの時は炎帝が仲裁してくれたから誰も死ななかったけど」


スライム「女賢者ちゃん...しっかりしてっ...!」


女賢者「...」ガチガチ


水帝「...もう、手をくださなくても大丈夫ね」


スライム「...っ! よくもっ...!」


水帝「ごめんなさいねぇ、でも...負けるわけにはいかなかったの」


水帝「...その子も生きてる、見逃してあげるわぁ」


スライム「ふざけないで...っ!」


スライム「帽子さんの望みを...叶えなきゃいけないんだから...っ!」


身体が凍りついて動けない。

しかし、自らの闘志はまだ燃え上がっていた。

絶対に妥協してはいけない、帽子の野望のために。


水帝「...そう」


水帝「なら...死んでもらうわよ...?」


スライム「っ...!」ビクッ


水帝「..."雷魔法"」


────パチンッ...!

魔法がスライムの身体に命中する。

その威力はあまりにも高く、凍りついた身体は砕ける程。

勝利を確信し、魔法を放つと同時に属性同化を解除する。
807 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:06:54.78 ID:dyy2pbpW0

スライム「────っ!」


──パキンッ

殺意のこもった細い雷。

そして響くのは、割れた音だった。


スライム「──...っ!?」


水帝「────...なっ」


受けた当の本人も驚愕をしていた。

砕けたのは身体の表面の氷だけ、動かせずにいた身体は元通りに、なぜ。


水帝「──ここにきて、始めの防御魔法が活きたですってぇ...っ!?!?」


スライム「────っっっ!」


まるで滝壺へと落ちる水のような速度で水帝に接近する。

なにか策がある、絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。

だがそれは水帝も同じ、その機会を潰さなければならない。


水帝「何をする気かわからないけど、近寄らせないわよぉっ!」


水帝「..."転移────」


──パキッ...ボトンッ...!

魔法を唱えようとした瞬間、右腕に違和感を感じた。

いや、違和感を感じないことに違和感を感じていた。


水帝「...あ、ああぁぁぁぁぁぁ」


愚かにも、気づいていなかった。

気づけなかった、自らが氷と同化する感覚を覚えてしまっていたら、気づけるわけがない。

水帝の身体のあちこちが凍りついていた、同化しているわけではなく。


水帝「──腕が...」


魔力で強化された身体、決して寒さで死亡することはないと豪語できるほど。

それが不幸にも仇となってしまっていた、水帝は自分の放った氷魔法の威力を甘く見てしまった。


水帝「...っ!」


──ズキンッ...!

今になって、激烈な痛みが身を硬直させる。

彼女の放ったあの大厳冬は、自らの身体を壊してしまうほどに。

女賢者のように暖をとっていたら、スライムのように防御魔法を纏っていれば。
808 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:08:02.68 ID:dyy2pbpW0

スライム「────つかまえたぁっ!」


水帝「────...はっ!?」


水の帝ともあろう者が、スライム族に出し抜かれてしまってた。

あまりの出来事に硬直していた隙に、既に身体の大体がスライムに取り込まれていた。

女賢者を拘束したあの水魔法のように、スライムは体内で水帝を拘束しようとしていた。


水帝「ぐっ...治癒...いえ、"転移──」


スライム「──させないよっっ!!」


──ミシッ...ミシミシッ...!

スライムがお腹に力を入れる。

当然ながら、そうすれば圧力が加わるのは確かだった。

スライムの身体に、赤い液体が混じる。


水帝「ぐっ...ごぼぼぼぼぼぼぼっ...!」


水帝(まずい...身体が全部あの子の中に...詠唱するために口を開こうとすると水が塞ぎにくる...)


水帝(ここまで自由に水を操れるのね...スライム族は...っ!?)


水の帝が、水に溺れる。

自らが得意とする氷に身体は破壊され、水に身を悶えさせている。

片手を失っている今、泳ぐこともできず完全に動きを封じられてしまっていた。


スライム「..."治癒魔法"」ポワッ


女賢者「...うぅっ」


スライム「女賢者ちゃん、起きて」


女賢者「あ...う...こ、これは...?」


スライム「ごめん、わたしの治癒魔法じゃ治りが悪いみたいだね...」


女賢者「...あ」


朦朧とする意識を覚醒させる。

次第に頭が冴えてくると、魔法を駆使して体調を整えようとする。

まずは、氷に埋まっている足元を正す。


女賢者「..."炎魔法"」ゴゥ


乏しい炎が再び発火される。

それでいて足元の氷は徐々に溶け始めていく。

これほどまでに、下位属性の相性とは簡単なものであった。
809 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:09:23.57 ID:dyy2pbpW0

女賢者「..."治癒魔法"」ポワッ


そしてまばゆい光が女賢者を包み込む。

凍死寸前の身体、皮膚や臓器がまだ不調を訴えている。

しかし、それを無視してまでもやらなくてはいけないことがあった。


女賢者「...これはどういう状況ですか?」


スライム「うんと、女賢者ちゃんがやられたあの水魔法みたいなことをしてるよ」


女賢者「いえ...それは見ればわかるんですが...」


女賢者「...驚きました、まさか水帝を完全に拘束するとは」


スライム「...えへへ」


水帝「...」


スライムの身体に封じ込められた水帝。

その様子を、まるで水槽の中の熱帯魚を観賞するような。

そのような感覚が女賢者に余裕をもたせていた。


女賢者「...これで、時間を稼ぐことができますね」


スライム「...そういえば、キャプテンさんはまだ...かな?」


女賢者「...少し、感知をしてみますね」


近場にいる者を探すのとはわけが違う。

目に見えない箇所にいる者たちを探すために深く集中をする。

凍えた時の後遺症がまだ残っているのか、鋭い頭痛を我慢して感知を行った。


女賢者「────...え?」


その現実味のなかった結果に、言葉を失っていた。

この感知が確かなら口にしたくない減少が起きている、捉えられた魔力は3つ。


女賢者「な...なんで...?」


1つ、死にかけの風属性の魔力

2つ、死にかけの地属性の魔力

3つ、死にかけの獣の魔力。


女賢者「ど、どういうことですか...っ!?」


スライム「ど、どうしたの...?」


女賢者「...みんな死亡寸前です」


スライム「...え?」
810 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:10:21.12 ID:dyy2pbpW0

女賢者「たぶんこれは...魔王子さんと女勇者さん、キャプテンさん以外の魔力を感知できました」


女賢者「つまりは...女騎士さん、魔女さん、そして...ウルフちゃん」


女賢者「みんな...死にかけてます...本当に微かにしか魔力を感じ取れません...」


スライム「......え?」


冷える。

身体ではなく、背筋が、肝が。

なぜ、このような状況になっているのかまったくもってわからない。


女賢者「どうしたんですか...キャプテンさん...っ!!」


女賢者「あの人は魔力を持ってない...だから安否すらわからない...っ!!」


スライム「...」


明らかに憔悴しきっている表情だった。

それほどに、彼女の感知は鋭いものだった。

友人がこのままだと死ぬという事実を突きつけられて焦らない人はいない。


スライム「...行って」


女賢者「...え?」


スライム「...わたしはここで、水帝を抑えておくから」


スライム「女賢者ちゃんは、先に進んで...っ!」


女賢者「...わ、わかりました...けど、大丈夫なんですか?」


スライム「......大丈夫だよ」


どこか、いつもと違う表情だった。

しかしその投げかけの言葉には一理がある。

今ここで女賢者が上へと向かい、治癒魔法を唱えたとしたら。


女賢者「じゃあ、行ってきますよっ...!」


スライム「...うん」


いざ、階段へと向かおうとしたその時だった。

再びスライムが声をかけてきた、その声色はとても表現できない。


スライム「...女賢者ちゃん」


女賢者「はい?」


スライム「...みんなによろしくね」
811 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:11:52.33 ID:dyy2pbpW0

女賢者「え...? は、はい」


随分と突拍子のない言葉であった。

戸惑いながらもソレを受け止め、階段を駆け上がる。

残されたスライムの視界から彼女は消え去った。


水帝「...」


そして、残ったのはもう1人いた。

拘束され、腕を失くし、水に阻害され口を開き詠唱することさえも封じられた。

しかしまだ彼女は生きていた、彼女は魔王軍の最大戦力であるから故に。


水帝(もう少し、もう少しすれば)


水帝(...この子の魔力薬の効き目が切れるはず)


水帝(そうなったら...簡単に脱出できるわね)


並々ならぬ生命力、人魚のように水中での詠唱は無理、エラ呼吸も無理。

しかしそれでいて彼女も水系の魔物、窒息の気配はしらばくは見えない。

そしてずぶとい彼女はスライムの弱体化を狙っていた、負傷していたとしてもただの魔物に負ける要素などない。


水帝(...これを脱出したらこの子には死んでもらうわ)


水帝(そして階段を登っていった子を追い、抹殺...)


水帝(...片腕を奪った代償は高くつくわよ)


水帝(けど...人間の子とスライム族の子にここまでやられてしまうだなんて...)


水帝(油断...それもあったけれど...未熟だったわぁ)


スライム「...さてと」


スライム「もうすぐ...魔力薬が切れそうだね...」


スライム「怖いけど...やるしかないよね...」


スライム「...」ブツブツ


恐る恐る、ある魔法の詠唱をつぶやいた。

質を上げるために、長く、丁寧に。

そしてありったけの魔力をそこにつぎ込む。


スライム「女賢者ちゃん...嘘ついてごめんなさい...」


スライム「魔女ちゃん...キャプテンさんと仲良くね...」


スライム「ウルフちゃん...ごめんね、そしてありがとうね...」


スライム「キャプテンさん...帽子さんの夢...おねがいね」


スライム「帽子さん...今からいくね...待っててね...」
812 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:12:25.56 ID:dyy2pbpW0










「...また、会えるよね?」









813 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:13:54.97 ID:dyy2pbpW0

身体にが小刻みに震える。

そして空に言葉を託す、仲良しだった彼らに。

そして最後に開かれた言葉が。


スライム「────"自爆魔法"」


覚悟の言葉はあまりにも悲しいモノ、スライムの身体は内部から破裂する。

その階層にあるものはその威力故に、跡形もなく朽ち果てる。

誰も生き残ることはできない、たとえ水の帝であっても。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


女賢者「────っ」


なにかを感知した。

別に感知しなくてもわかる、自分が登ってきた階段。

その後ろから、猛烈な爆風が届いていた。


女賢者「────どうして気づかなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


なぜ、スライムの覚悟に気づけなかったのか。

あの寒さで思考が麻痺していたからか、それとも自分の鈍感さなのか。

原因を追求しても、どちらにしろ過去には戻れない。


女賢者「なんでぇぇ...スライムちゃぁん...」


女賢者「どうしてぇ...ひどいよぉぉ...」


だが、ああしなければきっと水帝は近い内にスライムの拘束から脱出していた。

そしてスライムを殺害した後はこちらに追ってきていた可能性があった。

そうなってしまえば、瀕死の隊長らを庇いながら闘うことになる、そんなことは絶対に無理だった。


女賢者「ぐすっ...ひぐっ...」


覚悟の自爆魔法、先程はその思いを気づくことができなかった。

しかし爆風を肌で感じた今なら、あの魔物の想いを知ることができた。

身を滅ぼしてまでも、やり遂げてもらいたいという意志が。


女賢者「うぅ...い、いかなくては...絶対にやり遂げないといけません...っ」


口の中が熱い、極度の出来事で乾燥している上に、歯を食いしばりすぎていた。

しょっぱい味、鉄の味、奇妙な組み合わぜが味覚を刺激する。

そしてようやく階段を登り切る、その光景は1階の比ではなかった。


〜〜〜〜
814 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:14:49.95 ID:dyy2pbpW0

〜〜〜〜


女賢者「これは...植物...?」


女賢者(...2階部分のほぼ全てが、謎の植物の根や蔓だらけです)


女賢者(やはり...激しい戦闘があったんでしょう...早く彼らを見つけなくては...)


微かに感じる魔力を頼りに、まずは魔女を探そうとする。

幸いにも簡単に見つけることはできた。

しかし問題なのは見つけてからだった。


魔女「────」


女賢者「...ひどい」


女賢者(本当に生きているんでしょうか...そのぐらいの状態です)


女賢者「..."治癒魔法"」ポワッ


優しい光が魔女を包み込む。

その癒やしは、曲がってはいけない方へと向いている関節すら治す。

次第に彼女の呼吸が深くなる、もうすぐであった。


魔女「────っ! げほっ、げほっ...!」ピクッ


女賢者「動かないでください、まだ全て治してないですから」


魔女「こ...ここは...?」


女賢者「わかりません...私はこの小部屋らしき所で魔女さんが倒れてたのを発見したんです」


女賢者「...状況説明は後でいいです、それよりも怪我を治さないといけません」


魔女「...ありがとう」


女賢者「......いえ」


外部の痛み、内部の痛みが晴れていく。

全快とはいかないところで、魔女が遮る。


魔女「...もう大丈夫、あとは自分の魔法で治すわ」


魔女「それよりも、ここにキャプテンがいるはずだから...そっちを優先してあげて」


女賢者「...わかりました、では早速探してきますね?」


魔女「...まって」


まるで、言いたくないことを言わなければいけない。

そんな神妙な面持ちであった、数秒感の沈黙の末に彼女は口を開いた。
815 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:16:17.42 ID:dyy2pbpW0

魔女「...私は途中でここに投げ飛ばされ、意識を失っていたの」


魔女「だから...ここで起きた戦闘の勝敗がわからないの」


女賢者「...なるほど」


魔女「...いまは辺りが静かでしょ、決着はついたみたいだけど」


魔女「......どっちが勝ったか、わからないの」


女賢者「...」


魔女「私が最後に見た光景では...」


一番言いたくない部分がついに来てしまう。

しかし、可能性としてはこれが一番ありえる話であった。


魔女「...キャプテンは劣勢だった」


女賢者「なるほど...けど、先程感知したときはそれらしき魔力は感じませんでした」


女賢者「敵側が勝利したとしても、もうこの場にはいないのでは?」


魔女「...ないの」


女賢者「え...?」


魔女「私たちが戦ってた相手は...魔力がなかったの」


女賢者「...つまり、キャプテンさんのあの武器が単純に通用しなかったということですか?」


魔女「そうなるわ...詳しく話すと長くなるわ」


女賢者「...なるほど」


思わず、会話が止まってしまうほどに重苦しい空気であった。

女賢者は直感した、この2階で起きたであろう闘い。

それは1階の水帝戦並みの激戦であったと。


女賢者「...ともかく、私は辺りを探索し始めます」


女賢者「キャプテンさんが負けたとしても、まだ息があるかもしれまん」


女賢者「...もし、彼よりも先に敵とやらを発見したら、ここに戻ってくるか大きな音を出しますね?」


魔女「...それがいいわ、敵は植物みたいな見た目をしているわ」


魔女「私も...もうすぐしたら歩けるぐらいまで回復しそうだし、跡を追うわ」


女賢者「わかりました、ではまた」


足早に離れていく、すぐに魔女の視界から彼女は消えた。

闘いの勝敗はどうであれ、隊長が負傷していることは間違いない。

1秒でも早く見つけることが、怪我人の為になるからである。
816 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:17:46.44 ID:dyy2pbpW0

魔女「...大丈夫よね、キャプテン」


魔女「そろそろ...立てそうね...よっ」スクッ


魔女「いたた...なにか杖になるものなんてないかしら...」


女賢者が去って数分後、治癒魔法を続けたおかげかようやく立つことができた。

なにか支えになる物がないか、ゆっくりと足を引きずりながら小部屋を探す。


魔女「それにしても...ここはあの子とは別の植物でいっぱいね...」


魔女「...ん、これは...茎かしら」


魔女「硬いわね...木の棒ぐらいの強度はありそう...」


魔女「使わせてもらうわね...って?」


──ぱさぁっ...!

先程、魔女がこの小部屋に激突した衝撃でいろんなものが散乱している。

木の棒じみた茎を拾うために持ち上げたら、なにかが引っかかって落ちた。

それがたまたま、彼女の目にとまった。


魔女「...本?」ピラッ


無意識の興味本位、それが作用していた。

好奇心に負け、痛みを我慢しながらも本をめくる。

そこにはあることが書かれていた。


魔女「これは...ゆっくり読みたいわね、借りるわよ」


魔女「今は...女賢者に追いつかなきゃ...」


先程首を締められたあの場所へと、足を進めていく。

大きな音は未だに鳴っていない、そのことが魔女の精神を安らがせる。

そして見えたのは、座り込んだ女賢者と彼らだった。


少女「────」


隊長「────」


魔女「...これは」


女賢者「...どうやら、勝利したようですね」


女賢者「私が発見したときは、この植物みたいな女の子がキャプテンさんの上で息絶えてました」


女賢者「そしてこの握られた刃物...傷口からみてこれでトドメをさした模様ですね」


魔女「そんな...ありえない...っ!?」
817 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:18:54.01 ID:dyy2pbpW0

女賢者「...魔女さん? どうかしましたか?」


魔女「だって...この子の肌は極めて堅牢だったのよ...っ!?」


魔女「どうして攻撃が通用したのか...わからないわ...」


女賢者「...でも事実としてこの子は死亡していて、キャプテンさんにはわずかに息があります」


女賢者「どのように勝利したかは...目を覚ました本人から聞きましょう」


魔女「...そうね、そうだったわね...私も手伝うわ..."治癒魔法"」ポワッ


隊長の上で眠る少女をどかして、先に治癒魔法を唱えていた女賢者。

それに続き魔女も魔法を唱える、彼の傷が癒えていくのが見てわかる。

薄かった隊長の呼吸は徐々に大きくなっていった。


隊長「────ッ、がぁああ...っ!」


女賢者「まだ動かないでください...お腹の穴は塞がっても、まだ腕や足の骨は折れたままなんですから」


隊長「お、女賢者...ッ!? 魔女も...ッ!?」


魔女「...おはよ、ゆっくりでいいから何があったのか教えて」


隊長「...そうか、なんとか生きてたのか...俺も、魔女も」


魔女「そうよ...この子は...だめだったけどね」


隊長「...あぁ」チラッ


少女「────」


横たわりながら、顔を少女の方向へと向けた。

自分が殺した命の恩人を見るその表情はとても表現できないものだった。

ソレをみた魔女もまた、表現できない表情をしていた。


魔女「...まず、どうやってこの子を?」


隊長「...魔法を使った」


女賢者「...え?」


魔女「それって...どういうこと?」


女賢者「まさか、魔力に目覚めたんですかっ!?」


隊長「...いや、表現が悪かったな」


隊長「魔法を...借りたんだ...」


魔女「────っ! ま、まさか...っ!?」ピクッ


ある1つの説が魔女の頭をよぎった、もう答えは1つしかなった。

あの超硬度を誇る少女の肌、どのような魔法を使ってそれを破ったのか。
818 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:20:19.55 ID:dyy2pbpW0

隊長「...闇の属性付与を、ドッペルゲンガーから借りた」


女賢者「...はいっ?」


魔女「...やっぱり、通りであなたの傷がえげつないのね」


女賢者「すみません、話が全く見えません...順に説明してもらってもいいですか?」


隊長「あぁ...女賢者はあの時のユニコーンを覚えているか?」


女賢者「は、はい...」


隊長「あの時、あのユニコーンはドッペルゲンガーに取り憑かれていたらしいんだ」


隊長「ソレが魔剣となり、帽子の手に渡り...そこからさらに俺の手に渡った」


隊長「そして...ドッペルゲンガーは新たな宿主として俺を選び...俺に取り憑いた」


女賢者「...そんなことが起きてたんですか」


魔女「...私もそれは初耳ね、というか聞く暇がなかったし」


隊長「俺も言う暇がなくてな...詳細を言ったのはこれが初めてだ」


女賢者「...それで、ドッペルゲンガーから魔法を借りたとは?」


隊長「言葉の通りだ、魔女がやられ俺の武器が通用しない状況...」


隊長「あらゆる感情が爆発しそうな時だった...奴はその弱みにつけ込んできた」


隊長「魔法を貸してやる...とな」


女賢者「...なるほど、それで闇の魔法を」


魔女「傷だらけになるはずね...」


隊長「本当なら俺の身体を乗っ取るつもりだったらしい...そうすれば傷つかずに闇を扱えただろう」


隊長「だが俺はそれを拒否し、本当に闇だけを借りた」


隊長「...結果としては少女を...沈黙、させることに成功したが...あと数分でも長引いていたら...」


女賢者「怪我の具合からみて、死亡もしくは重い後遺症が残ってましたでしょうね...」


隊長「だな...今も内蔵に違和感がある...もとの世界に戻ったら人間ドックにいかなければな」


女賢者「え? 人間どっく?」


隊長「あー...聞かなかったことにしてくれ...それよりも────」


なにか、聞きたいことを聞こうとした。

しかしその言葉は遮られるが、2人は同じことを質問しようとしていた。

魔女の言葉が、隊長の質問と一致する。
819 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:21:22.02 ID:dyy2pbpW0

魔女「──スライムは、どうしたの?」


隊長「...その通りだ、スライムはどこだ?」


女賢者「...」


──ピクッ...!

前髪に隠れた女賢者の眉毛が少しだけ上がった。

病み上がりの彼でも、その些細な出来事を見逃していなかった。


隊長「...なにかあったのか?」


女賢者「...今は、水帝を取り込んで、拘束しています」


魔女「え...? そんなことできるの?」


女賢者「...はい、これを使ってですね」


そう言いながら取り出したのは、小さな瓶。

その内に秘められた、とてつもない魔力量を感じ取る。

言われずともわかった、魔力薬だ。


魔女「そういうことね...」


女賢者「...私は魔女さんたちの瀕死を感知することができました」


女賢者「そしたら、スライムちゃんが...先に行ってあなたたちを癒やしてきて、と言いました」


魔女「...ありがとう、助かったわ」


隊長「...」


女賢者「これが、最後の1瓶です...私とスライムちゃんで2つ、ウルフちゃんに2つ持たせました」


女賢者「...これは魔女さんが、いざという時に飲んでください」スッ


魔女「え...私でいいの?」


女賢者「基本的に、身体にいいものではないらしいので...人間が飲める量は1瓶が限界みたいです」


女賢者「私はもう飲んでしまいましたから...どうぞ」


魔女「あ、ありがとう...大切にとっとくわね」


服の収納に瓶を入れたとき、なにかにぶつかった。

小瓶が小瓶に当たる、特徴的な高い音が魔女にだけ聞こえた。


魔女(あれ...この瓶って...)

820 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:23:08.75 ID:dyy2pbpW0

隊長「...女賢者」


女賢者「なんでしょうか」


隊長「...」


なぜか、非常に重苦しい空気を醸し出す。

まるで情報を吐かない犯罪者に尋問しているときのように。

その威圧感に思わず、小さな汗が女賢者の背中をたれていった。


隊長「...いや、なんでもない」


女賢者「...そうですか」


魔女「とりあえず、状況がわかったわ」


女賢者「では...3階に向かいましょうか、感知できたのは魔女さんたちだけではありませんから」


隊長「...つまり、ウルフたちも瀕死ってことか?」


女賢者「おそらく...3階で感じるのはウルフちゃんと女騎士さんの魔力です」


女賢者「どちらも...本当に薄い魔力しか感じません」


魔女「...急ぎましょう、話は歩きながらにしましょう」


隊長「あぁ...だが、先にいってくれ」


女賢者「...どうかしましたか? スライムちゃんの所に行くつもりですか?」


隊長「......いや、少女と別れたいんだ」


魔女「...先に行ってるわね」


隊長「あぁ...すぐに追いかける」


2人の女性が彼の視界から去っていく。

残されたのは大柄な男と無残な姿の少女。

物思いにふけながらも、隊長は少女の顔を撫でる。


隊長「...」


少女「────」


投げかけれる言葉なんてモノはなかった、ただじっと見つめることしかできない。

頭の中は真っ白、なにも考えることのできない無であった。

隊長は開きっぱなしの瞳を、乱れた前髪を、だらりとした身体を整えてあげていた。


少女「────」


その姿はまるで棺桶の中に入れられた安らかな格好をさせていた。

目は閉じさせ、手を組ませてお腹の上に置かせ、足を伸ばさせてあげた。

そして少女が散らせた花びらを、ある程度身体の上に乗せてあげていた。
821 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:24:57.08 ID:dyy2pbpW0

隊長「...」


少女「────」


隊長「...Good bye」


立ち去ろうとしたとき、あるものが目に入る。

それは拳より少し小さい程度のなにかであった。

誰の落とし物なのかはすぐにわかった。


隊長「...種、か」


隊長「......」


どれだけ危険なものなのかは、わかっているはずだった。

しかしそれでいて、彼はその種子を収納にしまいこんでしまっていた。

少女に別れの言葉を伝えると、駆け足で彼女たちの元へと急いだ。


隊長「...」


無言で階段を駆け上がり、上へと辿り着こうとした時だった。

まるで落盤かの如く、3階への入り口が一部を覗いて岩で塞がれていた。

少しばかりバチバチと音がなっている、おそらく中へと入るために魔女が破壊したのだろう。


隊長「...これは」


ウルフ「────」


女騎士「────」


魔女「...っ! キャプテン、おかえり」


隊長「あぁ...やはり、ここも激戦だったようだな」


女賢者「えぇ...女騎士さんはもう少しすれば治癒魔法が効いて目が覚めるとは思いますが...」


魔女「...まずいのはウルフね、本当に瀬戸際だわ、"治癒魔法"」ポワッ


横たわる彼女らを見つめることしかできなかった。

彼はただ、回復を祈ることしかできない。

魔女がウルフを癒やしている間に、女賢者が癒やしていた彼女が目覚める。


女騎士「────っ! うっ...!?」


女賢者「動かないでください、どうやら内蔵がかなりやられてますね...」


女騎士「わ、私のことはいい...ウルフを...」


女賢者「大丈夫です、魔女さんが先に治癒魔法を唱えてますから...」


女騎士「そ、そうか...なら...よかった...」
822 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:26:31.27 ID:dyy2pbpW0

隊長「...ゆっくりでいい、状況説明を頼む」


女騎士「キャプテン...魔女、無事でよかった...」


隊長「あぁ...とはいっても、俺たちも危険な状態だったみたいだ」


隊長「俺と魔女が瀕死なところを、女賢者が癒やしてくれたんだ」


女騎士「なるほどな...それで、状況説明だが...」


女騎士「まず、お前たちと分断されたあとは、炎帝と対峙したんだ...」


女騎士「そしたら...魔王子と女勇者が残り、私たちはキャプテンと合流するように言われたんだ」


隊長「...なるほどな」


女騎士「それで...下の階であるここに降りたら...私とウルフは地帝と対峙した」


女賢者「...地帝、ですか」チラッ


地帝「────」


隊長「...この様子だと、闘いには勝利したみたいだな」


女騎士「あぁ...ウルフが主力で私は補助に過ぎなかったがな...」


女賢者「...」ピクッ


ウルフが主力、この言葉の意味がすぐにわかった。

彼女は2本目のあれを飲んだ、なぜあそこまで死にかけている理由をなんとなく察する。


女騎士「ウルフが魔力薬を飲み...地帝をある程度圧倒させた」


女騎士「そしてその隙を狙って、私は魔王子の折れた刀身を使い...地帝に致命傷を追わせた」


女騎士「幸いにも、この折れた魔剣が闇をまとってくれた...これがなければ負けていた」


女賢者「...そうですか、あなたも闇を使ったんですね」


女騎士「..."も"?」


女賢者「えぇ...話せば長くなります」


女騎士「...悪いが、今は治療に専念させてもらう...あとでたっぷり聞こう」


隊長「あぁ、いまは休め...もう少ししたら移動する」


女騎士「...きっと今頃、女勇者たちは炎帝を泣かせているところだろうな」


隊長「そうだな...そうだといいな」


少しばかりの冗談、身体に余裕ができた証拠であった。

小さなものであったが空気が軽くなる。

それに相まってか、一番重症だった彼女の口が開いた。
823 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:27:54.71 ID:dyy2pbpW0

ウルフ「────げほっ!? げほっ!?」


魔女「ウルフ、大丈夫?」


ウルフ「ま、じょ...ちゃん...?」


魔女「ゆっくりでいいわよ...状況も女騎士から聞いた...よく頑張ったわね」


隊長「大丈夫だ、みんなここにいる...な?」


ウルフ「う、うぅぅぅぅぅぅ...ご主人...」


女騎士「ウルフ...」モゾッ


女賢者「まだ動かないでください、気持ちはわかりますが、あなたも重症なんですから」


しばらく、治癒魔法を受け続けること数十分。

ようやく2人は立つことが可能になるまで回復する。

状況説明も行った、次に必要なのは指示説明であった。


隊長「...いまここにいる5人、いずれもある程度健康な状態だ」


隊長「俺としては先を急ぐよりも、1階へと戻り水帝を抑えているスライムに加勢したい」


魔女「...賛成ね、スライムが心配でしかたないわ」


隊長「...そうだな、魔王子や女勇者がやられるとは思えない...なら優先度は低いはずだ」


ウルフ「...スライムちゃんの方へ、いこうっ!」


女騎士「それがいい、水帝を各個撃破したほうが明確だ」


盛り上がる4人、一同は下へと降りる気で満々であった。

しかし1人だけは違っていた、唯一事実を知っている彼女が沈黙していた。


女賢者「......待ってください」


女賢者「大事な...話があるんです...」


その重すぎる口調、皆が注目する、そしてゆっくりとその唇を動かす。

あの時は嘘をついた、どうしてもウルフも一緒にいる時に言わなければならなかった。
824 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:29:25.93 ID:dyy2pbpW0

女賢者「...スライムちゃんは...もう亡くなりました」


ウルフ「...え?」


隊長「...ッ!」


魔女「...は?」


女騎士「...たちの悪い冗談だな」


女賢者「...事実です、キャプテンさん、魔女さん...嘘をついて申し訳ございませんでした」


隊長「...やはり...か」


魔女「────嘘っ!? 感知しても本当にスライムの魔力を感じないっ...!?」


ウルフ「──...」


女騎士を除く、3人の目が憔悴しきっていた。

なんとなく察してしまっていた隊長、事実を確認してしまった魔女。

そして無言を貫くウルフ、それぞれ表情は違うが完全に目は見開いていた。


女騎士「...ウルフ、大丈夫か?」


ウルフ「...」


隊長「...落ち着け...頼む...落ち着いてくれ」


隊長「まずは...みんな座れ...」


魔女「...うん」


女騎士「...わかった」


女賢者「...すみません」


5人が座る、その面持ちは各々違う。

冷静そうに見えて指を震わせている隊長、動揺を隠せない魔女。

申し訳無さがある女賢者、そして虚空を見つめるウルフ、それを心配する女騎士。


隊長「まず...なにがあったのか...今度は嘘をつかずに教えてくれ...」


女賢者「...スライムちゃんが水帝を取り込み、拘束させた」


女賢者「その後、私がキャプテンさんたちを癒やしに先行したのは事実です」


女賢者「問題は...私が階段で2階へと上がろうとした時でした...」


女賢者「...ごめんなさい、少し時間を...ください...」


やや過呼吸気味になる。

つらいのは彼女も同じであった。

ここにいる5人は、スライムの死を直に見ていないのだから。
825 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:30:49.16 ID:dyy2pbpW0

女賢者「...私がぁ、2階っ...へと上がろうとした時...」


女賢者「ひぐっ...後ろから爆風が...と、とどきましたぁ...っ」


魔女「...っ! それってまさか...っ!?」


女賢者「間違いあり...ません、あれは...自爆魔法です...っ!」


女騎士「────っ!!」


麓の村で、直に味わったことのある魔法。

なぜここに女賢者がいてスライムがいないのか、その理由がはっきりした。


女騎士「...ウルフ」


ウルフ「...」


冷たいかもしれないが女騎士はスライムとの面識があまりない。

この場にいる皆の中で、例外的に精神的ショックを受けずにいた。

だからこそ、彼女にしかできないことがあった。


女騎士「...」


────ぎゅっ...!

虚ろな目をしているウルフの手を優しく。

それでいて力強く握りしめる、言葉を失うウルフ、一番キテいるのはこの獣であった。

地帝戦で芽生えた友情のようなモノが彼女の手を握りしめた。


隊長「......なる、ほど」


そして口を開く、その口調からは余裕など一切感じない。

指を震わせながら、頭を抱えるしかなかった。

最大の友が愛したあの魔物の子。


魔女「そんな...あの子も守れなかったのっ...?」


魔女「これじゃ...帽子に会わせる顔がないわよっ...!」


隊長「...ッ!」


女賢者「ごめんなさいぃぃ...私が気づかずに先行しなければこんなことにはぁ...っ」


ウルフ「...」


先程までの、明るい顔立ちをしていた彼らなどいない。

士気はだだ下がり、とてもじゃないが戦闘などできない。

このままでは身を滅ぼしてしまう者もでてしまうだろう、だが彼女だけは違っていた。
826 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:32:06.86 ID:dyy2pbpW0

女騎士「...落ち着け」


女騎士「いいか? 私は今から都合のいい解釈をさせてもらうぞ」


女騎士「話が気に入らなければぶん殴ってでも止めろ」


唯一、鋭い目元を保てた女騎士が言葉をつなげる。

スライムとの友情を持たずにいた彼女にしかできないことだった。


女騎士「まず...女賢者、お前が先行していなければ...」


女騎士「私やウルフ、キャプテンや魔女は死んでいたかもしれないんだぞ?」


女騎士「瀕死状態とは時間との勝負だ...私は、お前が悪いとは思わなかった、話を聞いている限り」


女賢者「...」


女騎士「...次だ、スライムが自爆魔法を唱えなければどうなっていたか」


女騎士「詳しい話はわからない...だが、その時はスライムは魔力薬を飲んでいたんだろう?」


女賢者「は、い...」


女騎士「なら、なおさらだ...おそらく効力が切れた隙を狙われ、拘束から脱出された可能性があったはずだ」


女騎士「そうしたらどうだ? スライムは水帝を足止めできずに殺されていただろうな」


女騎士「そうなってしまったのなら...無念でしかない」


女騎士「...違うか?」


魔女「...違わない...わ」


女騎士「...だが、今は違うじゃないか...スライムは足止めをすることができた」


女騎士「それどころか...水帝を滅ぼすことに成功した...喜ばしいことじゃないか」


女騎士「...私はスライムという子にあまり面識はない...だが」


女騎士「お前たちは違う...その子の友達...大事な仲間だったんだろ?」


隊長「...あぁ、その通りだ」


女騎士「...お前らは...その大事な子に守られたんだ」


女騎士「立場を変えて考えてみろ...ウルフ、お前がスライムの立場なら...」


女騎士「...たとえ死んでも、水帝を足止めするに違いないだろ?」


ウルフ「......うん」


少しずつ、活気が戻っていくような。

失った者の影響は確かに大きかった。

しかし、受け取った意志を蔑ろにできるわけがない。
827 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:33:26.47 ID:dyy2pbpW0

女騎士「...なら、我々にできることはなんだ?」


女騎士「私なら...スライムの望みを受け取ることだ」


その言葉とともに、4人の記憶がフラッシュバックする。

スライムの望みを知らないわけがない、彼の望む世界こそがあの魔物の望み。

ならば、ここで足止めを食らうわけには行かなかった。


隊長「...行くぞ、上へ」


魔女「そうね...弔うのは、すべてが終わってからね」


女賢者「天国というものがあるのなら...きっとそこで帽子さんと再開できるはずですね」


ウルフ「...うんっ!」


足が重たい、未だに受けたショックは大きい。

だが絶対にヤラねばならないことが残っている。

それをやり遂げるまでは止まってなどいられない。


隊長「...女騎士、助かった」


女騎士「なぁに、昔から士気を高めるため、戦闘前に説くことが多かったんだ」


女騎士「...気持ちの整理はついたとしても、彼女が亡くなったのは事実だ...無茶はするなよ?」


隊長「あぁ...大丈夫だ」


隊長「泣くのは...後だ」


仲間の死には慣れている、特殊部隊の隊長とはそういうモノであるはず。

だがこの世界での出会いはかけがいのないモノであった。

帽子、それに続きスライムまでもが亡くなってしまった。


隊長(鈍ったか...いや、人としては真っ当か)


隊長(...元の世界へと戻ったら、一度亡くなった隊員たちの墓に向かうか)


隊長(仲間が死んでも...作戦に支障が出ると理屈をこねて押し殺していてばかりだった...)


隊長(もう少し...向き合うべきだったな...感情とな)


今まで非情をもって、死と向き合っていた彼だった。

成長したのか、逆に衰退してしまったのかなんてわからない。

答えなど永遠にでてこないであろう問いに、悩みながらも足を進めていた。


〜〜〜〜
828 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/20(木) 23:34:00.95 ID:dyy2pbpW0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/21(金) 12:07:33.68 ID:wLkXZPgT0
おつ
ようやく追いついた面白い
830 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:21:22.44 ID:GhBtLxBr0

〜〜〜〜


炎帝「...燃えてきたよ」


早くも辺りは灼熱の温度に達する。

しかし、実際に温度が上がったわけではない。

炎帝から発せられるその威圧感が、精神的な熱気を誘う。


女勇者「...汗が止まらない、冷や汗かな?」


魔王子「どうだかな、それよりも...備えろ」


魔王子「こちらが本気でやる以上、炎帝も当然本気でくるだろう」


魔王子「...風帝の比ではないぞ、炎帝は四帝の中でも頭一つ抜けている」


炎帝「...だからといって、風帝が雑魚というわけでもないけどね」


炎帝「風帝の魔法理解度、魔法展開規模はとても真似できない」


炎帝「水帝の魔法持続性能、感知能力には追いつくことができない」


炎帝「地帝の防御性能、そして...意外性はとてつもない」


四帝それぞれの、得意な能力を述べ始める。

千差万別、十人十色、実に個性が豊かなモノであった。

そして残るのは、当人の能力。


魔王子「ならば炎帝、貴様の火力はどうだ?」


炎帝「...自慢じゃないが、どの帝よりかは強いと自負しているよ」


炎帝「──"属性同化"、"炎"」


────ゴォォォォォォォォオオオオオオオッッッッ!!!

地獄の炎が燃え上がる。

身体全身が炎に、そしてその内部には人の形のシルエットが。


魔王子「────くるぞ..."属性付与"、"闇"」


女勇者「──わかった..."属性付与"、"光"」


同化とは違い、闇と光が身体に身にまとうだけであった。

しかしそれが圧倒的に脅威なモノである。


炎帝「喰らえ...ッ!!」


両手と思しき部位を前に出す。

魔法を唱えなくても、炎が自在に活動する。

大きな音を立て、巨大な火炎放射が2人に襲いかかる。
831 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:23:18.06 ID:GhBtLxBr0

魔王子「────■■■ッッッ!!」


────■ッ...!

ユニコーンの剣を抜刀する。

その拍子に現れた剣気に黒が追従する。

たとえ光の魔剣から生まれた闇でも、下位属性の炎を斬るのには十分であった。


女勇者「...っ!? いないっ!?」


魔王子「火炎放射の轟音に紛れて転移魔法を行ったはずだッ! 気をつけろッ!」


女勇者「──いや、違う...転移魔法だけじゃない」ピクッ


炎帝「────もう遅いよ、ほら」


──バコンッ...!

背後から彼の声が聞こえたと思ったら、眼の前から爆発音が聞こえた。

そして音だけではなく衝撃も身に受ける、闇はその衝撃を飲み込むが光は違う。


女勇者「────うっ...!?」


女勇者(これは...あの時の偏差魔法...っ!?)


爆発によって生まれる爆風だけが彼女を襲う。

しかし光の所有者は、闇の彼とは違い対策を行おうとしていた。

すでに片手で盾を構え終わっていたのが幸いし、直撃を防いだ。


魔王子「...これは、爆魔法...いや」


炎帝「悪いけど、君ら相手は本気じゃないとすぐ負けちゃうからね」


炎帝「...得意なアレをやるよ」


魔王子(爆の属性同化...まずい、この状態で本領を発揮するつもりか...っ!?)


魔王子「──女勇者ぁッ!! 連鎖爆発が来るぞッ!! 構えろッッ!!!」


女勇者「────っ!」


連鎖爆発、どのようなモノか簡単に想像つく。

しかし、それがどれだけ恐ろしいモノかも瞬時に把握する。

眼の前の空気が張り詰める音が聞こえる。
832 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:25:10.51 ID:GhBtLxBr0

女勇者(まさか、これも偏差させる気なの────)


──バコンッ!

──バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

爆発が爆発を呼び覚ます、その連鎖的なモノはすべて偏差して行う。

盾などでは防ぐことができない、かといって光でも防ぐことはできない。

かといって、闇でも完全には防ぐことはできなかった。


魔王子(まだ続くか...炎帝め...器用に闇の隙間を狙って...ッ!)


女勇者(くっ...このままじゃ...)


この爆発は爆魔法によるものではなく、爆の属性同化によるものである。

つまりは、炎帝を怯ませることができれば一時的に止まるかもしれない。


魔王子「──いい加減耳障りだ、■■■...」


女勇者「──うおおおおおおおおおおおおおお□□□□□っっっ!!」


──■□□■□■■...ッ!

2人が身を震わせ、大量の魔力を活用し増幅させる。

気合で生まれた光、そして闇は決して混ざることはない。

しかしそれでいて伴おうとしている。


炎帝「──危なすぎる、離れさせてもらうよ」


退避、そしてその姿をようやく視認できる。

いつもの炎の身体に、小規模な爆発を常に身にまとっている。

どうみても、同化を重複させている。


魔王子「...炎と爆か、それも同時に」


炎帝「便利なものさ...もう高速詠唱なんてしなくても、炎と爆を同時に扱える」


女勇者「..."治癒魔法"」ポワッ


魔王子「治癒の光か...心強いな」


炎帝「なるほど...これは長引きそうだね」


女勇者「...あの連鎖爆発、厄介すぎるよ」


魔王子「あれが炎帝の十八番だ、奴に隙を与えるな」


炎帝「...参ったな、もう二度とヤラせてもらえなさそうだ」
833 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:29:22.09 ID:GhBtLxBr0

魔王子「いい加減、おしゃべりは終わらせるぞ────」


──■■■ッッッ!!

次の瞬間、魔王子が消えたように見えた。

しかし彼はあまり魔法が得意ではない、転移魔法などできない。

ひたすら早く動くだけの、神速の疾走抜刀が炸裂する。


炎帝「────あぶないな」


──バコンッ!

斬られる寸前、魔王子と炎帝の間に爆発が起こる。

爆発が身代わりとなり、炎帝は闇の餌食にならずにすんでいた。

それどころか、爆風に煽られた炎の身体は魔王子からある程度の距離を取る。


魔王子「...猪口才な」


炎帝「悪いんだけど、君らの攻撃を一撃でも喰らったらおしまいだからね」


炎帝「こちらこそ、さっきみたいな闇や光を強くするアレ...二度とヤラせないよ?」


魔王子「...ならば、俺に隙を作らせるなよ■■■■」


炎帝「隙なんかなくても、属性付与がやってのけるじゃないか..."転移魔法"」シュンッ


再び2人から距離を取る。

未だに無傷を誇る炎帝に対し、治癒を行ったとはいえある程度負傷をした2人。

攻撃さえ当てることができるのならば、炎帝など敵ではないはずだった。


女勇者(まずいなぁ...僕じゃ全く歯が立たない)


魔王子「...女勇者、少し身を守ってろ」


女勇者「...ごめんね、役に立たなくて」


魔王子「治癒魔法がなければ持久戦において、もう既に負けている...炎帝のあの器用な爆発を見ただろう?」


その通りであった、治癒魔法というカードがなければ一方的に攻撃される。

もし女勇者がいなければ、炎帝は遠距離から爆を器用に魔王子に当てるだけの戦術に移るだろう。

逆に魔王子が隙間のない闇の展開をしたとしても、炎帝はひたすら逃げに入ることは確実だ。


魔王子「...治癒魔法という延命措置が、炎帝を慎重にさせている」


魔王子「下手に距離を取り、爆魔法でこちらを追い詰めても治癒されてしまったのなら無の一言」


魔王子「炎帝が無駄に魔力を使うだけに結果になるはずだ」


魔王子「つまりだ...持てる手札は多いに越したことはない」


女勇者「...ありがとう、優しいんだね」
834 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:30:53.00 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...いいからさっさと身体に光を強く纏え■■■■」


────■...ッ!

闇の予感が場を緊張させる。

今から始まるのは、あの地獄のような光景。

風帝に恐怖を抱かせた、闇の剣気の乱舞。


魔王子「連鎖爆発の名を借りるのなら、連鎖剣気といったところか...」


炎帝「これは...とてつもないね────」


──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

この世の全てを破壊する勢いだった。

連続で繰り広げられる黒の剣気は炎帝へと向かう。

光で身を守った彼女は、ただ身体を縮みこませて耐えるしかなかった。


女勇者「...魔王子くんやりすぎっ!」


魔王子「────■■■■ッッッ!!」


部屋の全面を攻撃している、この場所に逃げ場などない。

かといって防御策も、光魔法を除いてはありはしない。

しかし、ある異変を感じ取り魔王子は手を止める。


魔王子「...あの野郎、逃げたか」


女勇者「...え?」


魔王子「この部屋に奴の気配が全くしない、攻撃を恐れて一時退避をされた」


女勇者「げっ...ってことをは今までの攻撃は?」


魔王子「無駄に終わったな...まぁそこまで魔力を使ったつもりはない、身体に支障はないはずだ」


女勇者「どんな魔力量してるの...」


炎帝「──終ったかい?」


半ば煽りのような口調とともにいきなり現れた。

闇に抵抗できるナニかを持っていない以上、退避するしかない。

卑怯にも思えるがこれも立派な戦術の一部、そのことは魔王子も認識している。
835 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:32:10.21 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...大技は無理だな、転移魔法で部屋外へと逃げられる」


女勇者「そうみたいだね、どうにか小さな隙を狙わないと攻撃を喰らわせることができないかも」


炎帝「...悪いね、下位属性の魔力しか持たないもので」


魔王子「黙れ...それよりも、本来ならとっとと逃げてもいい状況だというのに、わざわざ戻ってきたか」


炎帝「まぁね、魔王様から殺してでも足止めしろと言われているからね」


炎帝「逃げだけに徹するのはできないけれどね」


魔王子「...チッ、じゃあこうするしかないな」


──■■...

闇が溢れ出る音、それとは違っていた。

逆だった、闇が消え失せる。


女勇者「...え?」


魔王子「...どうだ、闇の属性付与を解除してやったぞ?」


炎帝「...」


魔王子「もう逃げる必要はない、とっととかかってこい」


女勇者「...なるほどね」


──□□...

光が溢れ出る音、それとは違っていた。

逆だった、光が消え失せる。


魔王子「...お前は別に、しなくてもよかった」


女勇者「うるさいなぁ、僕だって肉薄さえして貰えれば戦えるさ」


女勇者「この剣と盾は飾りではないよ」


魔王子「...フッ」


炎帝「...愚かな、この炎帝相手にソレをするか」


魔王子「仕方ないだろう? 闇があれば貴様は恐れて堂々と向かってこない」


炎帝「...」ピクッ


魔王子「その一方で、風帝はちゃんと闇に向かって闘いにきたというのに...」


見え見えの挑発、それが炎帝に響く。

当然だった、事実を言われてしまったら頭に血がのぼる。

そして魔王子は、禁忌の言葉を口にする。
836 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:34:16.43 ID:GhBtLxBr0

魔王子「────どうした? "怖い"のか?」


炎帝「────もう二度と、属性付与を纏う隙など与えんぞ」


女勇者「──くるっ...!」


いつのまにか炎ではなくいつもの姿の炎帝が姿を表した。

よく見てみると右手には炎、左手には爆を纏わせていた。

同化させる範囲を絞っている。


炎帝「...消し炭となれ」


魔王子「──足元だッ! 退避しろッ!」


右手をゆっくりと下げる。

それと同時に魔王子たちの足元から炎柱が浮かび上がる。

いつのまにか、炎帝の右手から床をたどって炎を迫らせていた。


女勇者「な...ここまで自由に操れるのっ!?」


魔王子「これは昔の炎帝の闘い方だ、両手に短刀を持ちそれぞれの属性付与を纏わせる」


魔王子「それをいま己の両手で行っている、油断するな...あれが奴の最も動きやすい型だぞ」


女勇者「...結構頭にきてるみたいだね」


魔王子「それは結構なことだ...それよりも備えろ、肉薄してくるぞ」


炎帝「──"転移魔法"」シュンッ


魔王子の言葉通りに、早くも接近。

狙いは彼、先にこの生意気な小僧を塵芥に変えるつもりだ。

炎帝の狙い、魔王子は早くも気づけていた。


魔王子(左手、爆で仕掛けてきたか...ッ)


炎帝「喰らいなよ」スッ


──バコンッ!

左手を前に振りかざすと、魔王子の懐で小規模な爆発が起こる。

それを事前に備えて、ユニコーンの魔剣を抜刀する。


魔王子「────ッ!」スッ


──スパッ...!

見事な抜刀音であった、生半可な者では斬られたことすら認識できないだろう。

彼は闇を用いることなく、炎帝という男の魔法を両断した。


炎帝「...闇がなくても、魔法を斬ることができるとは」


魔王子「悪いな...魔剣士にじっくりと教えてもらっていてな」
837 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:36:09.17 ID:GhBtLxBr0

女勇者「──僕もいるよっっ!!」ダッ


──ガコンッ!

彼女の最も得意とする攻撃が初めて通用する。

自身の走る速度と盾の硬度を利用したシールドバッシュ。

捨て身の突撃が炎帝の背中にぶち当たる。


炎帝「──ぐっ...生意気だね...」スッ


女勇者(右手っ! 炎がくるっ...!)


──ゴゥッッッ!!

右手を薙ぎ払うと、炎が扇状に展開した。

女勇者は盾を利用することで顔と胴体への被弾を防いだ。

だが防ぐことのできなかった箇所が燃えている。


女勇者「ぐっ...熱い...っっ!!」


炎帝「そのまま燃え尽きるかい...ッ!?」


女勇者「お断りするよ...」


魔王子「────そこだ」


──スパッ...!

抜刀から放たれる剣気、絶妙に調整されている。

燃えていた女勇者の身体の一部が剣による風で消火された。


女勇者「──っ! うおおおおおおおおおおっっ!!」ダッ


熱による身体の不調が取り払われた。

盾とは反対の手で握りしめられた剣を構える。

腕力と体重が低い彼女、再び走る勢いを利用した。


炎帝「調子に乗らないことだね...」スッ


──ゴオオオオオオオオオオオオオゥゥゥゥッッッ!!

右手から放たれた炎は凄まじい勢いで拡大される。

その余りの火力に、攻撃をしようとした女勇者の動きは止まってしまう。


女勇者「──あぶなっ!」


魔王子「────女勇者ッ! 爆が来るぞッッ!!」


炎帝「もう遅い...」スッ


わずか数秒にも満たない超速度の戦闘が続く。

次に繰り出されたのは左手、まるで何かを握りしめるような動きをみせた。

女勇者の周り全て、そこの空気が張り詰める。
838 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:38:22.73 ID:GhBtLxBr0

女勇者(死角がない...まずいっ!?)


魔王子「──チッ、伏せてろッッ!!」


炎帝「君はこっちだ、焦げてしまいなよ...」


──ゴゥ...ッ!

右手をくるくると動かす、すると魔王子の身体の周りに炎が現れる。

その炎は渦を巻き、身体を燃やすと同時に動きを制限させる。


魔王子「これは...」


炎帝「下手に動くと炎が完全に身体に付着するよ...はい、さようなら」パッ


女勇者「──う...っ!?」


──バコンッ...!

──バコンッ...バコンッ...!

──バコンッ、バコンッバコンッバコンッバコンッ...!!!

握りしめられていた炎帝の左手が開く、するとあたりには連続した爆発音が響いた。


魔王子「──やられたかッ!?」


炎帝「これで残るは────」


────□□□...ッ!

絶対に殺したと油断した、数秒女勇者から目を話した瞬間。

その不意打ちじみた光は炎帝にまともに当たるはずだった。


炎帝「────"転移魔法"」シュンッ


わずか1秒、唱えた魔法により光を回避する。

目標を見失った光は魔王子の身体に付着する、正確には炎の渦だけに。


魔王子「...でかした、これで自由に動ける」


女勇者「けほっ...そりゃどうも」


炎帝「...手加減したつもりはないんだけどね」


女勇者「伊達に勇者を名乗ってないんだよ...」


女勇者「しかし...不意打ちの光魔法を避けるとはね」


炎帝「...こっちも伊達に、炎帝を名乗っていないのでね」


魔王子「女勇者、まだ動けるか?」
839 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:40:28.67 ID:GhBtLxBr0

女勇者「......2秒」


魔王子「どうした...?」


その意味不明な答えに思わず聞き返す。

なにが2秒必要なのか、女勇者は鋭い目つきで炎帝を警戒しつつ、睨みながら答える。


女勇者「2秒間、炎帝の隙があれば光魔法を唱えられるよ」


属性付与を纏えば、炎帝は警戒し近寄ってこない。

ならば一瞬だけ光を放つことのできる、通常の光魔法を唱えることが出来れば決定打になる。

しかしそれには一々詠唱が必要、どうしても詠唱という予備動作が不可欠であった。


女勇者「逆をいえば、いままで2秒の隙もなかったんだね」


魔王子「...魔王軍最強と言われる男だからな」


女勇者「それで、魔王子くんの闇魔法は何秒かかる?」


魔王子「...属性付与に頼りすぎていたツケが回ったか」


魔王子「4秒だ、とてもじゃないがこれ以上早めることができん」


女勇者「...わかった」


魔王子「決め手は光魔法だ、なんとしても2秒を作るぞ」


炎帝「...お話は終わったかな?」


2人の口の動きを逐一見逃さなかった。

いつ光魔法や闇魔法など、とにかく魔法を唱えていないか警戒していた。

おそらく、なんらかしらの詠唱をした時点で攻撃に移っていただろう。


女勇者「さっき外した光魔法で、警戒されている可能性があるね」


魔王子「...どちらにしろ、一筋縄ではいかん」


炎帝「いくよ...」スッ


両腕を空に向ける、上空からかなりの威圧感を醸し出す。

大技がくることは間違いない、それでも2秒の隙を与えない。


魔王子「──くるぞッ!」


女勇者「これは...っ!?」


空を見上げるとそこには大量の炎と爆が展開していた。

そこから繰り出される攻撃方法は1つしかなかった。
840 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:42:38.36 ID:GhBtLxBr0

炎帝「傘を持ってこなかったのかい?」


魔王子「...戯言を」


────ゴォォォォォォォォォォッッ!!

────バコンッ! バコンッ! バコンッ!

熱を帯びた炎の雨粒と、爆を含んだ風。

人を殺すためだけに生まれた嵐が2人に降り注ぐ。


魔王子「くッ...!」


──スパッ...!

抜刀により繰り出された剣気が嵐を斬る。

しかし、それは一部にしか効果がなかった。


魔王子「──焼け石に水か、ある程度の負傷に備えろ」


女勇者「そんなことはわかってるってばっ!」スッ


盾を傘に見立てる、両腕や頭、上半身を守ることはできる。

だがどうあがいても大きさがたりない、故に下半身は無防備に。

せめてもの抵抗、しゃがむことで被弾箇所をさらに減らそうとする。


魔王子「...ッ!!」


──スパッ...スパッ...スパッ...!

身に降り注ぐ雨を斬る、多少なりともマシ。

それでも防ぎきれない炎が徐々に身体に付着する。


魔王子(まずい...このままでは...)


彼が感じたのは、ある1つの直感。

このまま身を焦がし、爆ぜればどうなることか。

死の直感、闇がなければここまで追い詰められるか。


魔王子(せめて...魔法を使う隙さえあれば...)


属性付与をまとえば、確実に魔王子側が有利である。

しかしそうであれば炎帝は必ず逃げに入る、そうなってしまえば時間をただ奪われる。


魔王子(闇雲に抜刀するだけでは...状況は変わらん...)


時間を奪われれば分断された彼らが危機に晒される。

確実に他の四帝が動いている、できれば全員合流して各個撃破をしたい。

そうでなければ必ずあの集まりの誰かは殺される、分断された状態で四帝と対峙して無事にいられる可能性は低い。
841 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:44:11.08 ID:GhBtLxBr0

魔王子(なにか...なにか手はないのか...ッ!?)


だからこうして、わざわざ属性付与を解除して闘っている。

狙い通り炎帝は逃げに入らずにいてくれている、だがそれがどうしても厳しいモノになっている。

炎帝も本気だ、もう二度と魔法を唱える暇を与えてくれない、いまさら属性付与を唱えることはできない。

なにか手段を見つけなければ、このまま焼殺されるだろう。


魔王子「もっと...俺にもっと力があれば...ッ!」


──スパッ...!

抜刀、そして彼が叫ぶ渇望。

どうしても力が欲しいという思い込みが、響いた。


魔王子「────力を寄越せ」


────スパ□□□ッ...!

雨を斬る音とともに聞こえたのは、明るい音。

そして幻聴だろうか、馬の嘶きがこの場に留まる。


炎帝「────な...」


時が止まった、当然の反応だった。

その魔王子の一撃で雨雲は消え去った。

なにが起こったのか全く理解できない、2秒。


女勇者「────"光魔法"っっっ!!」


──□□□□□ッッッ...!!

魔王子が放ったかのように見えた光とは桁違いの眩しさだった。

不意打ち、そして今度ばかりは逃げることができない代物。

それでも対応しようと炎帝、だが無残にも微かに光が身体に触れた。

ほとんど当たっていない、それでいて唱えていた転移魔法を止めてしまうのが光の強さだった。


炎帝「──しまった...ッ!?」


女勇者「──っっっ」ダッ


いくら防御姿勢をとったからと言って、身体の一部は雨に濡れ燃えている。

それでも彼女はそのまま炎帝へと特攻を仕掛ける。

先程とは比べ物にならない速度で放たれる、捨て身のシールドバッシュ。


女勇者「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


炎帝「────うッ...!?」


──ガコンッ...!

盾が炎帝の頭部へと激突する。

脳が揺れる感覚に思わず彼はよろめき、そのまま吹き飛ばされる。
842 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:46:11.50 ID:GhBtLxBr0

女勇者(手応えあり...だけど最初の光魔法はまともに当たってないはず...)


女勇者「──気をつけてっ! 魔力を抑えることはできなかったよっ!」


魔王子「...十分だ、それよりも光の扱いについて教えろ」


女勇者「大丈夫、きっとその子は...なにもしなくても力を貸してくれるはず...」


魔王子「...そうか」


ユニコーンの魔剣、同じ光の属性を持つ者同士。

以心伝心、心が通じたとはまでは言えない。

だがそれでいて、なんとなくという感覚が彼女の思考を巡った。


炎帝「ぐっ...クソ...まだだよ...」


まだ彼の両腕は漲っている、やはり光がまともに当たっていない。

転移魔法を唱えることはできなくても両腕は死守した。

武器を失ってしまえば負けてしまう、魔王子たちと同じく、属性同化を唱える暇など与えてくれないだろう。


炎帝「参ったなぁ...はぁ...まさか、魔王子が光を手にするなんてぇ...」


魔王子「...それは俺も思っている」


女勇者(まずいなぁ...思ったよりも負傷してない...これじゃ...)


次はユニコーンの魔剣に警戒して、逃げに入るだろう。

先程の打撃で致命傷を与えたかったが結果は残念の一言。

もう属性付与を解除していても、炎帝はまともに闘ってくれない。


炎帝「...もういいや」


女勇者「え...?」


炎帝「魔王子の闇、女勇者の光の属性付与を抑えているだけで十分さ」


炎帝「その...光の魔剣ぐらい...どうってことないさ...もう二度と喰らうつもりはない」


炎帝「だから...もう逃げないでおくよ」


まさかの、ここで妥協を行うとは思わなかった。

炎の帝、その名に相応しくない彼の冷静さなら絶対に逃げに入ると思っていた。

だがすぐになぜ逃げなかった理由がわかる。


炎帝「...ユニコーンの魔剣如きで、この炎帝を畏怖させることができると思ったかい?」


魔王子「...思わんな」


炎帝「そうかい...まぁいいや」


炎帝「どちらにしろ...相も変わらずに魔法を唱える隙なんて与えるつもりはないよ...」
843 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:48:13.31 ID:GhBtLxBr0

炎帝「もう...全力で...いくからね...」


脳震盪に耐えながら、言葉を交わしていく。

その熱すぎる言葉とは裏腹に、女勇者の背筋は凍った。

ようやく底が見えた、見えてしまったが為に両手から放たれる炎と爆がいままでの比ではない展開を行っていた。


女勇者「...もう、噴火してるみたいだね」


魔王子「これが炎帝の真髄だ...直に見るのは初めてだ」


炎帝「さぁ...いくよ..."転移魔法"」シュンッ


2人の眼の前に現れた。

魔王子は剣を構え、女勇者は盾を構える。

そして炎帝は、まずは右手を構えた。


炎帝「燃えなよ...」


──ゴォゥッッ...!

超高温の炎が現れる、そのあまりの熱源に2人の動きは鈍る。

以前にも行ったことのある、光への対策の1つ。


魔王子「──チッ、やはり対策をしてくるか」


女勇者「あっつっっ!?!?」


炎帝「当然じゃないか...下位属性がまともに闘って勝てる相手じゃないんだから...」パチンッ


──バコンッ!

光の剣で燃え上がる炎を消化している間にも炎帝は動く。

憎たらしくも指を鳴らす、そうして生まれるのは爆発。

それも超高度な、絶妙に魔王子の攻撃範囲から離れた偏差魔法。


女勇者「──あぶないっっ!!」スッ


──ズズゥゥンッッ...!

両手で盾を構え、魔王子の前へと立つ。

直撃を防いたとしても、あまりの衝撃に女勇者の身体に嫌な音が鳴る。


女勇者(左腕に激痛...まさか今ので骨が...防いでいなかったらどうなってたの...っ!?)


魔王子「でかした、下がってろッッッ!!」


炎帝「──はああああああああああああああぁぁぁぁぁ...ッッ!!」


この時、初めて炎帝は声を荒げた。

炎帝の右腕の炎が床へと伸びる、そしてその炎が広く展開する。
844 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:50:00.21 ID:GhBtLxBr0

魔王子「──跳べッッ!! 足元を焼かれるぞッッ!!」


女勇者「くっ...まるで炎の絨毯だね...っ!」


炎帝「...いい家具だろう、だがそれだけじゃないよ」スッ


右手を上へと持ちあげる。

なにが来るのか魔王子は察する。

炎の絨毯から、炎の棘が生まれる。


魔王子「──チッ!!」


──スパ□□□ッ...!

光の抜刀、その効力ゆえに炎の展開は止まる。

しかし振り終わった剣は、そこで動きを止めるしかない。


炎帝「────貰った」


──ゴォォォォォォォォォウッッ...!

一瞬にして放たれたのは、巨大な火炎放射。

その密度は濃く、たとえ闇をまとってたとしても無傷でいることは厳しいモノだった。


魔王子「くっ...抜刀の誘発だったか...ッ!」


女勇者「────うおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」ダッ


折れた腕を我慢して、有ろう事か魔王子に肉薄する。

このままでは一緒に消し炭にされてしまう瞬間だった。

右手で魔王子の手と重ね、そして魔力を注ぎ込む。


女勇者「────っ!」グイッ


────□□□ッッッッ!!!

教えてもいないというのに、魔剣に魔力を注ぎ込めばどうなるかを直感していた。

まだ光り始めて間もないというのに、光魔法を唱えたわけではないのにすでに炎は消された。

だが眩しすぎる光が次々と生まれようとした瞬間、炎帝は事前に対処の準備をしていた。


炎帝「ぐっ...憎たらしい光だね...っ!」パチンッ


──バコンッ!

魔王子と密着している女勇者、その僅かな隙間に爆発を産ませる。

小規模な爆発だが、女の身体を吹き飛ばすには十分な威力だった。


女勇者「──うっ...げほっ...」


女勇者(やばい...また逝ったかも...さっきまでの威力と全然違う...っ)
845 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:51:54.59 ID:GhBtLxBr0

炎帝「そのまま動かないでいてね」スッ


左の手のひらを握りしめる。

先程見た、周囲全体を爆で囲む予備動作だ。

下手に動けば炎帝の手は開かれるだろう。


魔王子「あの小娘にかまっている場合か?」スッ


──スパ□□□□ッ...!

彼が最も得意とする抜刀剣気、光も備わり凶悪なモノに仕上がっている。

とてつもない速度、どうすることもできずに直撃する。


炎帝「────ぐっ...これが生身で受ける切れ味か...」


魔力で強化された身体など、光の前には無力。

今受けた攻撃は確実に負傷につながる一撃であった。


魔王子(...クソ...両手の同化を無力化させることができなかったか)


この攻撃が女勇者のモノなら、勝敗は決まっていただろう。

光と相反する闇属性の魔力を持つ魔王子、どうしても光の質を向上させることはできずにいた。

炎帝の身体の魔力を一瞬だけ抑えられても、両手の強大な魔力を抑えることができずにいた。


炎帝「...質が低いといっても、光に油断すれば確実に負ける」


炎帝「だから...もうやめようね、"転移魔法"」シュンッ


魔王子「──いい加減その高速詠唱をやめろ」


眼の前に現れる炎帝、この構え方は間違いない。

魔法を織り交ぜた近接攻撃、格闘が繰り出されるだろう。

しかし魔王子はその意外な攻撃に気づけずにいた。


炎帝「──そこだね」


──ドゴォッ...!

燃える拳が魔王子の懐にぶち当たる。

それと同時に感じるのは、灼熱の痛み。


魔王子「ぐっ...ここにきて素手だと...っ!?」


炎帝「やだなぁ、昔は短刀と素手を合わせた体術をよくやってたじゃないか」パチンッ


──バコンッ!

左手で握りこぶしを作りながらも、器用に親指と人差し指で音を鳴らす。

すると足元に小規模な爆発が起こる、その勢いで魔王子の身体は持ち上がってしまう。
846 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:53:14.76 ID:GhBtLxBr0

魔王子「────なっ...!?」


そして次に見えた光景、いつの間にか宙に存在する炎帝。

これが剣術なら兜割りと表現してもいいかもしれない。

両手を組みソレを振り下ろす、まるで鈍器のような一撃。


炎帝「...地帝のを真似てみたけど、どうかな?」スッ


──ドゴォォッッ!!

そして地面に叩きつけられた背中に、嫌な感覚が巡る。

熱い、熱い、熱い、ここにきて初めてモロに炎を浴びる。

先程の炎の絨毯が、いつの間にか再度展開していた。


魔王子「────ぐおおおおおおおおおおおおおッッッッ!?!?」


炎帝「あぁ、闇があればこんな苦しみはしなかったのにね」


女勇者「魔王子くんっっ!!」


炎帝「────しゃべるな、次はないよ」スッ


光の魔法を恐れてか、炎帝はかなり女勇者を警戒している。

そして突きつけたのは握りしめられた左手であった。

次になにかを行動すれば、開かれてしまうだろう。


女勇者(──っ...どうすれば...っ!?)


魔王子「──いい加減にしろ...ッッ!!」スッ


──□ッ...!

熱に悶ながらも、ユニコーンの魔剣を地面に突き刺す。

その光の一撃は簡単に炎を消化する、背中に走る激痛に耐えながらもフラフラと立ち上がった。


魔王子「...チッ、この衣装は気に入っていたんだがな」


炎帝「背中のほうが焦げだらけだね、次は全身も燃やしてあげるから違和感なんてすぐなくなるさ」


魔王子「...戯言を」


魔王子(さて...どうするか...女勇者の動きは封じられた)


魔王子(この魔剣で光を扱うことができても質が低い...両手に直撃させないと無力化はできないだろう)


魔王子(...かといって動き回るであろう炎帝相手に精密な剣気を放つことなど難しい)


詰まる戦況、不利な状況に頭を悩ませる。

素直に闇を使わせてくれれば、ここまで苦戦することはない。

なにか、別の手がなければ勝てない。
847 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:54:40.35 ID:GhBtLxBr0

炎帝「──考え事なんてヤラせないよ」


魔王子「...ッ!」


今度は不意打ちなど喰らわない。

間合いを確認して、右ストレートを避ける。


魔王子「魔闘士の方が早いな」


炎帝「...魔闘士はここから炎を放てるのかな?」


──ゴゥッッ!!

避けた拳から、炎が溢れ出る。

直撃せずにいても、その温度に身体は拒否感を覚える。


魔王子「──そこだ」


──□ッッ...!

徐々に光への扱いに慣れ、精度を増していく剣気。

しかしその攻撃は無残にも避けられてしまう。


炎帝「...両手にソレを当てる気かい?」


魔王子「無論だ、ヤラねば負ける」


炎帝「とてもじゃないが、無理だと思うけど...」


魔王子「当たるのが怖いのか?」


炎帝「...なら当ててごらんよ」


お互いに煽りながらも攻撃を繰り出したり、避けたりを繰り返す。

しかしながら、直撃しなくても熱や爆風が魔王子を襲う。

どうみても炎帝が有利に事を進めていた。


魔王子「──ハァッ...ハァッ...」


魔王子(もう...少しだ...もう少しで...)


炎帝「疲労を隠せてないね、息も、剣の精度も落ちてるよ」


炎帝「...もうおしまいだね、闇も使わずにここまで粘れたものだよ」


気づけば数十分にも渡っていた。

光の剣風、炎帝の炎や爆、そして近距離の体術をずっと避けていた。

たまに直撃することもあったが、それでいても抜刀をやめることはなかった。

しかし、ついに体力は底をつき始めていた。
848 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:55:55.05 ID:GhBtLxBr0

炎帝「さよならだ...闇の王子よ...」


──ゴォゥッ...!

右手の炎が展開する。

体力が少なくなり判断力が鈍ったのか、避ける動作ができずにいた。

気づけば周りは炎に包まれている、もう避けることは不可能であろう。


魔王子「────...ッッ!?」


──□□□ッ...! からんからんっ...!

いつも通りに剣気を放とうとした時。

疲労からか、握りしめていた拳が緩んでしまっていた。

抜刀と共にユニコーンの魔剣はすっぽ抜けてしまう。


炎帝「じゃあね...」


魔王子「...」


炎帝「こっちも...勝ったとは言えないね...君は闇を使わずにいたのだから」


炎帝「本当なら全力の君と全力で対峙したかった...でも魔王様の大事な日らしいから...」


炎帝「絶対に勝たないといけない...悪いね」


魔王子「...」


炎帝「...風帝によろしく」


────ゴォォォォォォォッッッッ!!

灼熱が魔王子を包み込む。

そのあっけない終わりに魔王子は思わず目を閉じる。

耳に残るのは不快な焼ける音、そして。


女勇者「...」


────□□□...

光の擬音に紛れたが、確かにあの言葉があの女から聞こえた。

しかし女勇者は口を動かしていない、それにこの光は彼女のモノではない。


炎帝「────馬鹿な、光魔法...いや違うッ!?」


女勇者「...刃物を渡すときは、投げちゃだめってお母さんに言われなかった?」


魔王子「...言われた記憶はある」


炎帝「────爆ぜろッッ!!」パッ


────バコンッ...!

1つの爆発音が聞こえた。

だがそれは1つではない、いくつもの爆発が同時に爆ぜた音だ。

一瞬で起きた連鎖爆発、生身なら人としての原型を保つことは不可能だろう。
849 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 21:57:26.37 ID:GhBtLxBr0

女勇者「──□□□□□□□っっっっっ!!」スッ


──□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!!

彼女の右手にあるのは、ユニコーンの魔剣。

それを目視できるモノはこの場にはいない、あまりの眩さに見ることはできない。

それがどのような意味を持つのか、彼女は天に魔剣を翳した。


魔王子「...見事だ、あの密度の爆発を一瞬で無力化させるか」


炎帝「グッ...魔王子...図ったね...?」


魔王子「フッ...疲れたのは事実だ、剣がすっぽ抜ける演技に拍車がかかっただろう?」


炎帝「油断した...まさかあの疲労困憊が陽動だったとは...」


炎帝「それに...気づいたときにはもう遅かった...光の魔力を持つ者が光の魔剣を持つとこうなるのか...」


よそ見したつもりはない、横目ながらも常に女勇者を目視していた。

だが今は魔剣が女勇者の光魔法の性能を向上させている、通常の展開速度を上回っている。

魔剣が飛んで、拾って、光を放つこの出来事はわずか1秒の間、炎帝が手を開く速度よりも早い。


炎帝「────うッ...近すぎる...!?」フラッ


炎帝(まずい...これでは高熱で光への対策をすることすらできない...)


魔王子「眩し...すぎる...な...」フラッ


炎帝(まずい...もう逃げに入る以前に...ここまで高質な光を浴びてしまったら...)


身体に感じる倦怠感。

両手の炎たちが消火されている、明らかに光に侵されている。

この光が止まなければ、魔法を唱えることなどできない。


炎帝「────負けたくないよぉ...」


何歳をも歳を重ねたとはいえ、見た目は美少年。

その見た目らしい弱音が垣間見える。

光の眩しさ故に、心の底からの本音が漏れる。


女勇者「────□□□...っ!」


女勇者(凄い...ここまでの光を出したのは初めてかも...魔剣のおかげだ)


女勇者(それよりも...早く炎帝に属性付与を唱えなきゃ...っ!)


所詮は一時的に炎帝の動きを封じているだけであった。

これを中断してしまえば光は失せ、炎帝の身体に魔力が戻るだろう。

だが属性付与なら中断をしてしまう懸念がない、風帝の時のように拘束をするなら拘束魔法よりも遥かに性能がいい。
850 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:00:34.80 ID:GhBtLxBr0

女勇者(もう少し近寄らないと...)


属性付与を纏わせるにあたっての有効範囲。

女勇者の場合は、手を伸ばせば触れれる程度の距離にいないと掛けることができない。

そのために足を歩ませたその時だった。


女勇者「────うっ...!?」


──ズキンッ...!

身体のあちこちから生まれる、危険信号。

折れた骨が悲鳴をあげた痛みだった。

その激痛は、女勇者の集中を中断させるのには十分であった。


炎帝「────ッ!」ピクッ


魔法で一番、難しいと言われるのは魔法の持続。

それは魔剣でも同じことが言えるだろう。

その隙を逃す男ではなかった、懐から取り出したのは瓶。


魔王子「────魔法薬かッ!?」


────ゴクリッ!

この世界では市販されている薬を飲む、すると急速に身体に魔力が満ちる。

自然回復など待ってはいられない、今すぐに膨大な魔力が欲しかった。


女勇者「"属性付────」


そして焦ったのか、彼女は間違えてしまう。

単純な詠唱速度なら、通常の光魔法のほうが早いというのに。

もし属性付与ではなく、上記のモノを唱えていたのなら状況は変わっていたかもしれない。


炎帝「────"炎魔法"」


────ゴォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

この一撃は、この日最も熱いモノであった。

その灼熱の紅は自らの身をも焦がす火力であった。

負けたくない、その感情が魔法を強くする。


女勇者「──与"、"光"っっっ!!」


纏わせようとした炎帝に近寄ることはもう不可能であった。

ならば途中まで唱えたこの魔法を、自らに纏わせる。

魔法の炎からは身を守れる、だがこの地獄のような高温は防ぎようがなかった。
851 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:02:06.34 ID:GhBtLxBr0

女勇者「ま...うじ...く....っ!」


魔王子「────これだから人間は...」ダッ


人間の柔な身体の作りとは違う。

光が消えた影響で徐々に魔力が蘇る、僅かな魔力でも彼は炎の中を駆け抜けていく。

身体が熱い、息苦しい、目が痛い、それでも歩けるのが魔物という生き物。


魔王子「肩に掴まれ...炎帝は今暴走状態に近い、危険な状況だが退避するのには余裕を持って動ける」


女勇者「う...ごめ...光...途絶え...」ポロポロ


煙のせいなのか、自分の過ちのせいなのか。

目から涙が止まらない、危機的な状況を作ってしまった自分が情けなく感じていた。

謝罪の言葉を、途切れ途切れでも言わなくてはならなかった。


魔王子「泣くな...俺も先程、まともに骨折の痛みを味わった...痛みで動きが制限される気持ちがよくわかる」


魔王子「...それよりも息をするな、口や鼻に布を当てろ」


女勇者「げほっ...うぅ...」


魔王子「...えぇい面倒だ、とにかく俺に掴まれッ!」ガバッ


彼女の顔を抱き寄せ、無理やり持ち上げて走り出す

これにより呼吸は魔王子の服越しに、身体を持ち上げられた為に歩行をする必要はなくなる。

身体に感じる人間の女の柔らかさ、それを理由に納得できることがあった。


魔王子(...軽い)


その一言、どれだけの意味が込められていたのだろうか。

属性付与を纏った女勇者を抱きかかえているからか、自分の身体の重さが実感できてしまう。

感慨深い何かを得ながらも、危険区域からの離脱に成功する。


魔王子「...炎帝の奴、どうするつもりだ?」


まるで焚き火を眺めているかの光景であった。

こちらへの敵意を全く感じられないその大豪炎はあっけなく魔王子たちを見逃す。

本当に暴走しているだけなのか、理解のできない現状に頭を悩ましていた。


女勇者「げほっ...げほっ...も、もう...大丈夫だょ...」


魔王子「...あぁ、時間に余裕のある今のうちに治癒魔法でも唱えてろ」


女勇者「う、うん...あ、これ...返すね?」


魔王子「...?」


どうも歯切れが悪いような、どこかに異常があるのか。

するとある1つの変異に気づけた、彼女のことではなく手渡してきた魔剣だった。
852 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:03:37.44 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...その魔剣、今は光っていないのか」


女勇者「"治癒魔法"...うん、なんか...ムラがあるというか」ポワッ


女勇者「今も魔力をこの剣に与えてたはずなんだけど...」


魔王子が炎帝の両手を狙った時、剣気を出せば必ず光ってくれていた。

先程は光魔法を展開する際に、力を助長してくれた。

だが今は、ただの剣のような見た目に成り下がっている。


女勇者「...常時、この魔剣の光を使うのは無理かもしれない」


女勇者「どこか...信用されていないような...そんな雰囲気を感じるよ」


魔王子「...とんだジャジャ馬だな」


女勇者「それよりも...ここからどうすれば」


炎帝が次々と生み出す炎がこの部屋を温めている。

すでに汗が止まらないまでの高温と化している、しばらくすれば人を殺す温度へと変化するだろう。


魔王子「...今なら炎帝はこちらを警戒する余裕はないみたいだな」


魔王子「ならば、もう一度闇を纏う────」


作戦内容を決定した矢先、声が遮られる。

その当人の声はいつもとは違う、どこか熱い声色であった。

炎の中から炎帝が話しかけてきた。


炎帝「──来なよ、闇を纏って」


魔王子「...なに?」


炎帝「たとえ、対策をしたとしても...たとえ距離を伺っても...」


炎帝「光や闇に...炎や爆が勝てるわけがなかったんだよね...」


魔王子「...随分と弱気になったな」


炎帝「仕方ないさ...元々僕は...魔王様の闇に怖れて...傘下に加わったじゃないか」


炎帝「それを...あの光を浴びて思い出したよ...」


上位属性の魔法、属性は違えど彼のトラウマを思い出させるのには十分であった。

しかしこの言葉は諦めの意味ではなかった、むしろその逆、ただただ熱い意味が込められていた。
853 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:04:56.88 ID:GhBtLxBr0

炎帝「あの時、自分の力を過信し...無謀にも魔王軍に歯向かった...」


炎帝「風帝や地帝とあったのはアレが初めてだったね...彼らには勝てた」


炎帝「だが...大将であった...魔王様は違った...」


炎帝「炎じゃ...炎じゃ闇には勝てなかったよ...」


魔王子「...そうか、そういえばそうだったな」


炎帝「...闇に破れ殺される寸前、僕は情けなくも命乞いをした」


炎帝「まだ死にたくない...と、普通の戦場なら有無を言わさずに殺されていただろうね」


炎帝「だけど魔王様は違った...情けをくださった...」


炎帝「そこから僕は...魔王軍として生きることにした...」


炎帝「部下になれば...あの闇の矛先を向けられることはないと...そう考えた...」


炎帝「でも、魔王軍の一員になっても...植え付けられたあの闇の恐怖は払うことができなかった」


炎帝「どうしても...闇が怖い...その感情を隠しながら過ごすしかなかった」


炎帝「だが...時間とは最高の麻酔だったね...数年もすればその恐怖を徐々に消えていった」


炎帝「同期であった水帝と会話をしたり...上司になる風帝や地帝と打ち解ければ...安らいだ」


炎帝「...気づけば、恐怖の根源であった魔王様から...この地位を平然ともらえる程に忘れていた」


炎帝「そして...今、思い出した」


どこからか燃える音が聞こえる。

炎帝の出した炎魔法によるものではなかった。

彼の瞳が、紅くなる。


炎帝「どうしてかな...闇は怖いというはずなのに」


魔王子「...」


炎帝「...思い出したのは、恐怖だけじゃないみたいだね」


魔王子「...望み通りにしてやる」


炎帝「あぁ、頼むよ...遥か昔の...無謀だった僕のことまで思い出したみたいだね」


力に溺れ、自分の力を過信した彼。

光が思い出させたのは、彼の闇への挑戦。

燃えたぎる炎が色濃く染まる。
854 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:06:15.00 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...俺も過去に、無謀にも炎属性で挑んできた馬鹿がいた」


炎帝「へぇ...どんな子だろうね..."ドラゴン"かい?」


魔王子「冗談はよせ、笑ってしまう」


──■■■■■...ッ!

──ゴオオオオオオォォォォォォォォウッッッ!

方や剣に、方や両手に魔法が唱えられた。

属性付与でも、属性同化でもないただの魔法。


女勇者「...どうして、今になって真正面から?」


炎帝「...負けたくないからさ」


女勇者「え...?」


炎帝「今まで、僕と魔王子は全力を出せていなかったからね」


炎帝「魔王子が本気で闇を纏っている時、僕は逃げつつ隙を伺っていた...」


炎帝「だけど...これじゃとてもじゃないが僕の全力とはいえない」


炎帝「その一方で、魔王子が闇を纏っていない時...僕は全力だったけど彼はそうじゃない」


炎帝「...一度も、全力の炎と全力の闇が対峙していないんだ」


女勇者「でも────」


彼女が至極当然のことを言おうとした時、彼が言葉を遮った。

上位属性、下位属性の相性の話など、無粋なことを言わせなかった。

闇をまとった暗黒の王子が言葉を放つ。


魔王子「お前は先に行ってろ、下の階へ向かいキャプテンたちと合流しろ」


女勇者「...わかった」


魔王子「他の四帝も動いているはずだ、頼むぞ」


女勇者「わかったってば...」


闇と炎を尻目に、光を纏ながらも部屋の出口へと向かう。

すると、燃える男が声をかけてきた。


炎帝「...ありがとうね」


女勇者「...よくわかんないけど、僕は邪魔みたいだから」


炎帝「そうじゃないよ」


女勇者「へ...?」
855 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:07:34.14 ID:GhBtLxBr0

炎帝「君がいなければ、魔王子をつまらない殺し方をしてたと思う」


炎帝「ただ遠距離から、闇の合間を狙って爆殺するだけの...本当につまらない勝利しかできなかったよ」


女勇者「...」


そんなことができるのであろうか。

魔王子の闇、確かに隙間があるのは彼女にもわかっていた。

しかしその隙はたとえ隊長の現代兵器を用いても、精密射撃することは不可能。

彼の闇は、本当に小さな小さな弱点しかないのであった。


女勇者「僕も...そう思った...ここに残った理由がソレだったかも」


炎帝「彼の闇は...魔王様のと比べるとかなり劣るよ...気をつけてね」


女勇者「うん...わかった...じゃあ────」


またね。

一番初めによぎった言葉はソレだった。

しかし彼女には、もう二度と炎帝と遭遇しないという強い確信があった。


女勇者「...さようなら」


炎帝「...あぁ、さようなら」


光の勇者と、炎の帝が言葉を交わす。

炎帝は彼女の背中を最後まで追った、視界から消えるまで。

そして感じるのは、闇の気配。


魔王子「...」


炎帝「...じゃあやろうか」


魔王子「当然全力だ、一撃で葬ってやる」


炎帝「僕も...一撃で灰にしてあげるよ」


お互いの気配の色が変化する、黒と真紅に。

魔法によって彩られたその殺気は、ついに放たれる。


炎帝「────いくよおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」


魔王子「──死ね■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!」


一撃の剣気、それは今まで放ってきたモノよりもドス黒い。

一撃の放射、それは今まで放ってきたモノよりも深く紅い。


〜〜〜〜
856 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:09:46.82 ID:GhBtLxBr0

〜〜〜〜


女勇者「...」


部屋から出ると、その温度差に身体が不調を申し出る。

身体中に汗をかいていた影響か、とても冷える。


女勇者「困った...道がわからないや...」


女勇者「女騎士も...ウルフって子も、無事に行けたのかな...」


女勇者「...どうしよう」


道がわからない、ならば無闇矢鱈に進むしかない。

そして歩きながらも先程の闘いを思い返す。


女勇者(あそこで...あそこで炎帝が逃げに入ってたら...)


女勇者(僕たちは負けていたんだろうか...)


女勇者(...確実に負けていたね)


女勇者(たぶん向こうが...理を徹してずっと、逃げながら闘っていたら...)


女勇者(絶対に勝ててなかった...)


女勇者(さっきの闘いは...炎帝が────)ピタッ


己の非力さを嘆く。

そうこうしている間にも、ある地点を発見する。

階段ではなかった、そこにあったのは重厚なる扉。


女勇者「これは...」


説明してもらわなくてもわかる。

その扉越しに感じる、その圧倒的な魔力。

感知ができなくても、誰が放っているのか明白だった。


女勇者「...魔王がこの上に」


それは5階へと続く最後の扉であった。

歴代の勇者はこの階段を登っていた、ならば自分も登らなければならない。


女勇者「でも...勝てるのかな」


先程の闘い、炎帝が真正面からの勝負を受けなければ。

はたまた魔王子の挑発に乗らなければ負けていた。

実力での勝利をもぎ取ることができなかった、そのような者が魔物の頂点と闘って勝てるのだろうか。


女勇者「...今度ばかりは、真正面から来てくれないかもしれない」


女勇者「とてつもない戦略が、僕たちを一切近寄らせてくれなかったら...」
857 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:10:24.79 ID:GhBtLxBr0










「...負けることを考えているのか?」









858 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:11:57.46 ID:GhBtLxBr0

女勇者「...早かったね」


魔王子「あぁ...早くトドメを刺さなければヤラれていた」


魔王子「それほどに、密度の濃い炎だった...闇で破壊する速度が一瞬追いつけなかった」


魔王子「丸焼きになるところだった...」


女勇者「...すごいね、魔王子くんは」


魔王子「...何がだ?」


女勇者「僕は...弱いよ...光を使わなければ誰にも勝てない気がしてきた」


女勇者「剣術は魔王子くんに劣る...女騎士が出してくれる戦術もたまに理解できない時もある」


女勇者「...自分の愚かさが憎いよ」


魔王子「...ほざけ、その光には何度も助けられ、そして何度も喘がされた」


魔王子「光を自在に操れるだけ、誇れるだろう」


女勇者「その光が、現に炎帝に対策されていたじゃないか」


女勇者「きっと...魔王も対策しているに決まっている...僕は絶対に誰かの足を引っ張るよ」


魔王子「なら...今からでも田舎へ帰るのか?」


彼は覚えていた、女勇者がただの田舎娘であったことを。

自身を失った彼女に投げかけれる言葉はこれしかなかった。

数秒間の沈黙後、女勇者は言葉をひねり出す。


女勇者「そんなこと...できないよ」


女勇者「炎帝は"気をつけてね"と...敵であるはずの僕に言ってくれたよ」


女勇者「それだけじゃない...風帝や、いままで道中で倒してきた魔物たち...」


女勇者「いまここで帰ってしまったら...彼らの立場がなくなってしまうよ」


魔王子「...」


これが彼女の本心であった、慈愛にも似たこの優しさこそが女勇者であった。

どうしても人間側の平和を掴み取りたい、そのために邪魔をする魔物たちを退けてきた。

しかしそれでいて、その者たちへの立場を大切にしていた。
859 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:13:40.80 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...なら、前に進むしかない」


魔王子「俺も...殺した風帝や炎帝の死を無駄にはしたくない」


魔王子「彼らは...俺の野望のために散らした...」


魔王子「だからこそ...俺は魔王を絶対に殺さねばならぬ...」


自身の願いを叶えるために、殺さなければならない場面が多々あった。

だからこそ絶対に叶えなければならない、ここで諦めれば、ここで負ければ彼らの死は無駄になるから。

魔王子の道に立ちはだかる者は誰であろうと斬り伏せる、それがたとえ同胞でも、彼の覚悟は並のものではなかった。


魔王子「...」ピクッ


──カツカツカツ...!

そして聞こえてくるのは、歩くときに鳴る靴の音。

その音は鉄を彷彿とさせる硬いモノであった。

誰が鳴らしているのか、誰たちが鳴らしているのかはすぐにわかった。


女勇者「──女騎士...それにみんなも...」


女騎士「あぁ...無事でなりよりだ、女勇者」


魔女「...みんなボロボロね」


女賢者「...」


ウルフ「...」


隊長「...この様子だと、炎帝に勝利したようだな」


魔王子「...驚いたな、ほかの四帝はどうした?」


隊長「地帝はウルフと女騎士が、水帝はスライムと女賢者が倒した」


魔王子「...そうか、"ほぼ"無事だったようだな」


隊長「あぁ..."ほぼ"な」


女勇者「......"あの子"は?」


隊長「...駄目だった」


言葉を選んだ魔王子に比べ、彼女は選ばなかった。

不躾なわけではない、ただ純粋な彼女の心がそう訪ねた。

死者は弔わなければならないからだ。
860 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:16:09.18 ID:GhBtLxBr0

女勇者「...辛くないの?」


隊長「辛いさ...だけど、泣くのは後だ」


隊長「スライムは...平和を勝ち取ってからの世界で弔う」


女勇者「...そっか、そうだよね」


魔王子「...」


どこかしんみりとした空気感、その中で逸脱する沈黙を放つのは魔王子であった。

その表情は知人の弔い、そのようなモノではなかった。

もっと、知人よりも先にある関係。


魔王子「...正直に言うぞ」


隊長「...なんだ?」


魔王子「俺はこの魔王城での闘い、四帝を各個撃破しなければ絶対に死者がでると思っていた」


魔王子「現に1名出てしまったがな...あのスライム族の娘とは面識はないが、どこか悲しいモノだ」


魔王子「...」


──ピリッ...!

怒りとも呼べない、悲しみとも呼べない、喜びとも呼べない。

表現できない感情が彼を襲う、空気はかなり緊張したモノへと変貌する。


魔王子「...たった、1名か」


魔王子「俺や女勇者と分断された者たちが、四帝と闘って...犠牲者は"たった"1名なのか」


女賢者「...なにが言いたいんですか?」


スライムの死を、どこか馬鹿にされている。

そのような思い込みが故に、女賢者は口調を強くした。

その一方で、隊長たちは黙り込むことしかできなかった。


魔王子「...わからない、死者を丁重に扱うことすらもできない」


魔王子「俺の中の感情が...おかしくなりそうだ...いや、もうおかしいのか...」


隊長「俺も...魔女も...ウルフも女賢者も...気持ちを整理して今ここにようやく立っている」


隊長「落ち着け、不用意な発言は控えてくれ...頼む」


魔王子「そうか...そうだな...すまなかった...」


女勇者「...」


魔王子が混乱する理由、それは自身の記憶にあった。

今は敵となってしまったが四帝は同胞でもある、よってその強さを十分に熟知しているはずだった。

それなのに、自分の手を下さずに彼らは負けてしまっていたのである。
861 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:18:04.74 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...今は迷っている場合ではない」


魔王子「進むぞ...この上に」


隊長「あぁ、わかっている」


女勇者「...うん」


神妙な面持ち、各々の派閥の主が先陣を切る、この重厚なる扉をあけるとそこにあったのは暗黒の階段。

まるでこの世のすべての闇を凝縮したかのような感覚が足を襲う。

だがそんなプラシーボなど、彼らには通用しなかった。


女騎士「...いよいよだな」


女勇者「そうだね...」


人間の平和のために、駆り出された田舎娘。

そして王に命令され護衛する騎士。


魔女「帽子、スライム...もう少しだからね...そしてお姉ちゃん、もうすぐ帰るからね...」


女賢者「そうですね、負けられません...スライムちゃんの為にも」


ウルフ「...まだ、がんばらなくちゃね」


隊長「...」


違う世界の男に魅入られここまで付いてきた魔物の女。

そして、その男の親友である男の意志を継ごうとする賢き女。

さらに、親友の男に惚れた亡き魔物の意思を思い返す獣、最後に、無言で階段を登る男。


魔王子「...」


彼もまた、無言であった。

なにを思っているのか、先程の四帝のことだろうか。

それとも、万の兵を相手に足止めをしている竜と武人のことだろうか。


魔王子「...ついたな」


女勇者「うん、扉の向こうからとてつもない気配がするよ」


隊長「...悪いが、すぐに殺すなよ? 尋問が待っているからな」


魔王子「...フッ、いまから魔王を相手にする人間の言葉とは思えんな」


魔女「仕方ないじゃない、魔王が世界を跨ぐ魔法を使えるかもしれないんだから」


魔女「そうでもしないと、キャプテンはもとの世界に────」


──ずきんっ...!

胸が痛む、なぜだろうか、先程の仲間の死で思考が麻痺していたのだろうか。

もう魔王との闘いは迫っている、勝敗はどうであれ隊長はあることをしなくてはならない。
862 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:21:53.31 ID:GhBtLxBr0

魔女「...」


ウルフ「魔女...ちゃん?」


とても悲しい表情を見られてしまった。

一瞬だけみせたその顔を、よりにもよってウルフに見られてしまう。

白い毛並みを魔女に擦り寄せてくるその感覚は、とても優しいモノであった。


魔王子「...準備はいいか?」


女勇者「もちろんさ」


女騎士「...どんな激戦が待っているか」


隊長「あぁ...いつでもいいぞ」


魔女「...うん」


ウルフ「がう...」


女賢者「恐いです...けど、やるしかありませんね」


7人がそれぞれ反応を示す。

誰も扉を開けることを拒否していない。

そのことを確認し、魔王子がついに手を動かす。


???「...たどり着いてしまったか、息子よ」


────ガチャン■■■...ッ!

扉の闇の音と共に聞こえたのは、実の父の声。

とても耳障りな邪悪な声色、そこにいるのは間違いない。


魔王子「...魔王」


────■■■■■...ッッ!!

ただ、そこに存在しているだけだというのに。

気味の悪い闇の音が響いている、そしてその中心にいるのは当然この王であった。


魔王「...随分と愉快な仲間を連れているな」


魔王子「黙れ...不快な声を俺に聴かせるな...」


女勇者「あれが...魔王...」


その見た目は、魔王子と瓜二つの美男がそこにいた。

とても歳を召した者とは思えない若々しさであった。

だがそれがかえって不気味さを生み出していた。
863 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:23:09.75 ID:GhBtLxBr0

魔王「これは驚いた...魔物を2人しか引き連れていないのか...」


魔王「あとの4人は人間か...よく生き残れてきたな」


魔王子「...ほざけ、ずっと感知していたのだろうが」


魔王子「その小芝居をやめろ...見え見えのヤラセは反吐がでる」


魔王「...なら、こうすればいいか?」


────■■■■■■■■■■ッッッ!!!

玉座に君臨する魔王の背後から放たれた闇の風。

そよ風のような心地よさを誇るソレは7人の精神を蝕む。

それほどに凶悪な一撃であった。


女勇者「──"光魔法"」


女賢者「──"防御魔法"」


この者2人の魔法がなければ魔王子を除いて全滅していただろう。

光が闇のほとんどを飲み込み、ほんの僅かに光を通過した闇を防御魔法が申し訳程度に護る。

闇を前にその防御はすぐに破壊されてしまった、だが身代わりとしては十分であった。


魔王「...やるな、勇者もそうだが...魔王子と一緒にいるだけはある」


女賢者「...褒め言葉として受け取ります」


女勇者「危ないなぁ...」


隊長「...2人とも、助かったぞ」


魔女「私も...もう少し早口の練習したほうがよさげね」


女騎士「それよりもどうする、今のが魔王の本気だとは到底思えない」


女賢者「あんな適当な詠唱でこの威力ですか...」


まるで小言のように適当な口の動かし方で、絶大の威力を誇る闇。

すでに戦力差が見え透いていた、だがここで折れる訳にはいかない。

各々がいざ奮起をしようとした瞬間、魔王がそれを遮った。


魔王「...悪いが、少し待ってくれないか?」


魔王子「...寝言か?」


魔王「いや、ほんの数分でいい...待て」


──ピリッ...!

空気が凍る、そのあまりの圧に思わず萎縮してしまう。

しかしそれでも魔王子と女勇者、隊長の目は鋭いままであった。

多大な緊張感を醸し出す大広間、そしてその奥の扉からある2人が現れた。
864 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:25:05.19 ID:GhBtLxBr0

魔王子「側近...そして...母様...ッ!?」


側近「...ご無沙汰しております、魔王子様」


魔王妃「坊や...きてしまったのね...」


女騎士「...あれが、魔王夫妻というわけか」


女勇者「魔王子くんの...お母さん...?」


魔女「...側近ねぇ」


側近、いままで間接的に聞いたことのある人物であった。

あの時、暗躍者が魔力薬を飲む前に叫んだあの言葉。

魔女の耳にはそれが残っていた。


魔女「たぶんあの人よ、追跡者とかが飲んだ魔力薬を作った人は...」


女賢者「...みたいですね、あの時に近い魔力を感じます」


隊長「...なるほどな」


ウルフ「うぅ...怖い...」


帽子派の皆が過去の記憶を振り返っている間にも会話が進む。

話の主は魔王と魔王妃、そしてその息子の魔王子である。

側近はただ沈黙を貫く。


魔王「...さて、始めようとするか」


側近「承知いたしました」


そう言うと、側近は奥の扉へと戻っていってしまった。

なにかを準備するためだろうか、そして演説が始まる、魔王による言葉巧みな演説が。


魔王「...時に、諸君はこの世とは違う世界の存在を信じるか?」


まるでその言葉は、冗談を言っているようなモノだった。

どこか笑いが含まれているような、誰もが真に受けることはないだろう。

だがこの場にいる1人を除く6名はその発言に衝撃を受ける。


女騎士「...なんだと?」


女賢者「やっぱり...」


隊長「......」


言葉を漏らせたのはこの2人、あとの4人は沈黙することしかできなかった。

その一方で、完全に話に置いてかれてしまった女勇者。

彼女のみが魔王に質問をした。
865 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:26:17.38 ID:GhBtLxBr0

女勇者「...どういうこと?」


魔王「よく耳にするだろう? 例えば死者の国...天国」


魔王「そんなモノがあると思うか?」


女勇者「...わかりっこないさ、僕はまだ死んでいないんだから」


魔王「それもそうだな...では実際に見てもらうか」


女勇者「...やる気?」


魔王「いや、この世の者ではない人物を連れてくる」


────ピクッ...!

その言葉を聞いて、眉が思わず動いてしまう。

この世の者ではない彼が、もうここにいる。


隊長「...」


魔女「なに...どういうこと?」


女賢者「キャプテンさんのことでしょうか...いや、話の感じとしては違うみたいですね」


ウルフ「...」


全くもって話が見えない。

ならば見守るしかない、魔王が連れてくるであろう人物を。

別の意味で緊迫した空気の中、先程の側近が大きな荷物をもって現れた。


側近「お連れ致しました」


魔王「ご苦労、では早速頼んだ」


側近「はい...後の事はよろしくお願いします」


魔王「...あぁ、この魔王に任せろ」


魔王妃「...しますよ?」


側近「えぇ、光栄です」


すると、大きな荷物に向かって詠唱を始める魔王妻。

そして側近はソレに手を触れさせている。

なにをしているのか全く理解できない現状。


魔王子「...いつまで待てばいい」


魔王「もう終わる、それよりも先程の話に戻そう」


女勇者「違う世界の人物だっけ...? どこにいるのさ」
866 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:27:19.19 ID:GhBtLxBr0

魔女「後ろに居るわよ...」


女勇者「へ...?」


魔女「ごめんなんでもない、続けて」


魔王「...」


魔女がしびれを切らし、女勇者に思わず突っ込んでしまっていた。

その間に、魔王の視線はある男へと向けていた。

もうすでに気づかれている、彼しかない。


隊長「...なぜ俺を見ている」


魔王「いや...もしかして、貴様もか?」


隊長「そうだと言ったらどうなる」


魔王「どうにもならん、これ以上研究者のような人間の相手をするのは懲り懲りだ」


その偽名を聞いてもなお、腸煮えくり返る感覚が襲う。

もう既に間接的とはいえこの手で殺したというのに。

だがこれで明らかとなった、小声で皆にそれを伝える。


隊長「魔王が言っている、違う世界のことは...どうやら俺が元々いた世界のことみたいだな」


魔女「やっぱり...ってことはあれは転世魔法をやろうとしているってこと?」


女賢者「その可能性は大いにありますね...」


女騎士「...問題なのはその転世魔法とやらを誰が受けるかだな、あの様子だと側近みたいだが」


女騎士「側近がキャプテンの世界に向かったのなら...そっちの世界は大変なことになるぞ」


隊長「あぁ...そうだな」


魔王子「...ならば転世魔法が展開したのなら、そこに向かって走れ」


魔王子「あくまで仮説に過ぎないが...転地魔法と同じならその魔法の範囲内にいれば恩恵を受けれるはずだ」


隊長「...だが、それでは」


だがそれでは誰が帽子の願いを果たすのか。

他の誰でもない、彼がやらなければならない。

この場で自分1人だけ故郷に帰ることなどできるはずがない。
867 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:29:21.20 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...気持ちはわかる、友人の願いか、故郷を選ぶか...究極だな」


魔王子「だが...いま、彼の剣を誰が持っていると思うか?」


彼にしては意外な言葉であった。

魔王子の握る豪華な装飾のある、細い剣。

それを魅せられては、隊長は言いくるめられるしかなかった。


魔王子「この帽子とやらの忘れ形見、そしてその男の野望...」


魔王子「それは魔王を倒し、平和を掴みとること...それも人間と魔物の和平という意味でだ」


魔王子「...お前はこの俺に、この剣を託したのだろう?」


隊長「...あぁ、その通りだ」


隊長「目的はどうであれ、絶対的な力を持つお前になら...」


隊長「どこか、微かに帽子の理念に近いモノを持っていたお前に託した」


魔王子「...ならば、少しは信用して貰おうか」


信頼ではなく、信用という言葉を使う。

この場面において最も重要なのは、感情論ではない。

客観的な意見、魔王子の力なら魔王を討つことができるという第三者の視点であった。


魔王子「...俺がこの手で、必ず魔王を殺す」


魔王子「だから...キャプテン、貴様だけにしか出来ないことをしろ」


魔王子「悪いが、俺は地理には疎くてな...別世界に行ったら数年は散歩を費やすだろうな」


隊長「...お前は意外と、Jokeを言う奴だったな」


魔王子「じょーく?」


隊長「俺の世界の言葉で、冗談という意味だ」


女賢者「大丈夫ですよ、私がしっかりと...キャプテンさんの目の代わりとして...」


女賢者「平和になったこの世界を見据えますから...だからもし、転世魔法が発動したら行ってください」


隊長「女賢者...ありがとう」


女騎士「唐突だな...まさか魔王との戦いを前に別れの挨拶をするとは」


女騎士「...キャプテン、お前がいなければ今も私は囚われていたかもしれない」


女騎士「ありがとう...そして、元気でな?」


隊長「あぁ...」
868 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:30:43.85 ID:GhBtLxBr0

女勇者「よくわかんないけど...お別れなんだね?」


女勇者「あんまり面識はないけれど...女騎士がすごくお世話になったみたいだね」


女勇者「また、どこかでね? 今度はゆっくりと君のことを聴かせてね?」


隊長「もちろんだ、その時は酒でも飲もう」


そして残るは2人、この世界で帽子と同じ位に大事な彼女ら。

唇を噛み締めてこちらを見ようとしない魔女、ソレに寄り添うウルフ。

別れの言葉は、彼から始めないと無理であった。


隊長「魔女...ウルフ...」


魔女「...突然すぎるよ」


ウルフ「...ご主人、いっちゃうの?」


隊長「あぁ...もしこの魔法が転世魔法なら、行く」


隊長「この世界も大事だが...俺の世界も大事だからな」


隊長「帽子の願いは...魔王子たちに頼むしかない...」


魔女「...私も帽子の願いとお姉ちゃんの村を天秤に掛けられたら、迷う」


魔女「でも...前者は魔王子たちが代わりに遂げてくれる...なら私は間違いなく後者を選ぶ」


隊長「あぁ...」


魔女「...また、会えるわよね?」


隊長「会えるさ...一度会えたのだから...な?」


魔女「...なにそれ、あなたらしくないわね」


隊長「だろうな...それほどに、俺も魔女との別れが厳しい」


魔女「...待っててね? 絶対私も、転世魔法を使えるようになるから」


隊長「あぁ、いつまでも...ずっと待っているぞ」


ウルフ「...がう」


その者たちの顔はとても悲しいモノであった。

しかしそれでいて、その目つきはとても希望的な色をしていた。

また会える、そう信じてやまない彼らのプラシーボが別れを麻痺させる。
869 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:31:55.53 ID:GhBtLxBr0

魔王妃「────これで、いつでもいけますよ?」


魔王「ほう...ついに、念願が...」


女勇者「...どうやら準備が整ったみたいだな」


魔王子「...もう待たなくていいのか?」


魔王「あぁそうだ、この話で最後だ」


ついに状況が動く、先程まで唱えていた魔法がなにか判明する。

読み通りの転世魔法なのか、はたまた別の魔法なのか。

だがそれよりも1つ、気になるものがまだ残っている。


魔王「さて...単刀直入に言おう」


魔王「これより魔王軍...その先陣として我妻を選んだ」


魔王「侵攻する場所は...人間界ではなく別だ」


魔王子「...どこだ?」


魔王「..."異世界"だ」


隊長(...やはり、か)


アサルトライフルを握りしめる。

いつでも走ることができるように身体を準備させる。

あとは魔王の妻が唱えていた魔法が、どこに展開するのかを見定めなければならない。


隊長(どこだ...どこにくる...)


魔王子「...なんのために、世界を跨ぐつもりだ?」


魔王「それは言わん、作戦内容を敵に漏らすと思うか?」


魔王子「...チッ」


魔王「ところで...先程、別世界の人物を連れてくると言ったな」


女勇者「...そういえば嘘をつかれてたね、どこに連れてきていないじゃないか」


魔王「本当に、そう思うか?」


────ピクッ!

この擬音は、あらゆる方向から聞こえた。

1つは隊長が何かに気がついた時の音、1つは嘘をつかれていなかったことに反応した音。

そして最後の1つ、それは側近が持ってきた大きな荷物。
870 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:32:43.03 ID:GhBtLxBr0

女騎士「...今、動かなかったか?」


その大きな荷物は、表現するならばとても丸い物体であった。

しかしソレをよく見てみると、薄い橙色をしている。

さらによく見てみると、目が合う。


隊長「────コイツは...ッ!?」


女賢者「うっ...これ...人じゃないですかっ!?」


魔女「えっ...!?」


四肢をもがれて、肥えさせられた。

そのような表現でしか形容できない人物がそこにいた。

だがそれだけれはない、隊長が驚愕したのは別の理由があった。


魔王「...まさかそこの男、顔見知りか?」


隊長「コイツは...俺と一緒に吹き飛ばされた奴じゃないかッ!?」


どんなに風貌が変わろうと、決してその面持ちを忘れることはない。

犯罪者は逃走するために整形すらする、それを逃さないように訓練させられた記憶力。

その記憶力が、彼だった者の身元を判明させる。


魔王子「...どういうことだ?」


隊長「...説明を端折るぞ、俺は向こうの世界で爆発に巻き込まれ、意識が飛んでいる間にこの世界に居た」


隊長「だが...巻き込まれたのは俺の他にもう1人いた...それが奴だ」


隊長「まさか...まさかコイツも一緒にこの世界に来ていたのか...盲点だったぞ...」


魔王「何たる偶然だな、だが話はこれでおしまいだ」


足早と話を遮る、この話題の振りは魔王当人であるというのに。

だが魔王子たち及び、特に隊長は先程の出来事に動揺を隠せずにいた。

つまりは完全に不意をつかれている。
871 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:33:17.42 ID:GhBtLxBr0










「────"転世魔法"」









872 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:36:04.46 ID:GhBtLxBr0

魔王妃が魔法を唱えた時、ある不可思議な現象が起きていた。

魔法の展開場所は側近と異世界の犯罪者、彼ら2人が消えた代わりにそこには何かが展開していた。

認識的には見えているというのに、どう目を凝らしても不可視であった。


女賢者「────キャプテンさんっ! 早く行ってっっ!!」


女騎士「魔王妃もいないぞっ! 急げっっ!!」


隊長「────ッッ!」


偶然の再開を強いられれば、誰もが足を止めるであろう。

いくら特殊部隊での過酷な訓練を終えて来た彼でも、それは変わりなかった。

完全に出遅れてしまった、おそらくもう魔王妃たちは異世界へと旅立った。


隊長「──クソッ!」ダッ


魔王「────行かせると思うか?」


────■■■■...ッッッ!

見間違えではなければ、魔王は翼を生やしてこちらに接近してきていた。

邪悪な黒の魔法を纏いながら、走り出す隊長の眼の前に。

しかしその後ろからは、まばゆい光たちが援護する。


魔王子「──行けッ! 母様を止めろッッ!」


女勇者「────急いでっ! 帰れなくなっちゃうよっっ!?」


────□□ッッ!

────□□□□□ッッッッ!!

闇に臆せずに、見えないなにかに向かって激走をする。

光の抜刀剣気と光の魔法が彼を援護した結果、魔王が少しだけ隊長を捕捉しそこねた。

わずか1秒、だがその時間がこの場面では非常に有効的であった。
873 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:37:18.76 ID:GhBtLxBr0

隊長「I KNOWッッ! TRYINGッッッ!!」


気の所為でなければ魔法が閉じようとしている、なぜわかるというのか。

それは彼の感情が昂ぶっているからであった。

魔力に目覚めているもう1人の彼が、魔力の感知能力を与えていた。


ドッペル「──急げ、閉じるぞ...俺にお前の世界を直に見せろ...」


隊長「────SHUT UP ASSHOLEッッッッ!!」


力が漲る、身体に何かを注入された感覚がする。

痛みはないので闇魔法に類するものではないのはすぐにわかった。

感じる箇所は足、いつもより早く走れるような気がする、ドッペルゲンガーが提供したのは魔力であった。

魔力で一時的に隊長の脚力を強化し、走行速度を上昇させていた。


隊長(駄目だ...間に合わない...ッ!?)


どう見積もっても、わずかに届かない。

もうその魔法は閉まりかけであることがわかっていた。

あと少し、ほんのあと少しで届くというのに、誰かが背中を押してくれるだけでそれは叶う。


隊長「────ッ!」


────ドンッ...!

誰かが背中を押してくれた。

全力以上で走る彼に追いつける者は1人しかいない。

その者は、さらにもう1人を連れて。


ウルフ「──まにあったよっ!」


魔女「────ごめんね、ついてきちゃった」


〜〜〜〜
874 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/22(土) 22:38:00.47 ID:GhBtLxBr0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
875 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:05:51.22 ID:mK23oEQG0

〜〜〜〜


隊長「...」


そして気づけば、周りの景色は一変していた。

この聞き慣れたドライブの音、この見慣れたビルの明かり。

この嗅ぎなれた排気ガスと人混みの匂い。


魔女「うぅ...な、ここは...?」


ウルフ「...なんか変なにおい」


隊長「...America、俺の...世界だ」


隊長「帰ってきた...帰ってこれたんだ...やっと...」


心の底からようやく落ち着けた、長かった、長過ぎる冒険はついに終わる。

だがまだやることはある、安著をしたつかの間、行動に移ろうとする。

まずは2人に問わねばならないことがある。


隊長「...ありがとう、2人がいなければ絶対に間に合わなかった」


ウルフ「...えへへ」


魔女「...どういたしまして」


隊長「そして...すまない...」


助けてもらった、彼女らがいなければ隊長は戻れなかった。

だがその一方でもう二度とあの世界へも戻れない。

あちらの世界の住民を2人も連れてきてしまった、その重すぎる事実に謝罪の言葉しか口にだせなかった。


ウルフ「...だいじょうぶ、スライムちゃんたちぐらいしかともだちいなかったから」


ウルフ「でも...魔女ちゃんは...」


隊長「...すまない」


魔女「...そうね、でも覚悟してあなたの背中を押したんだから...後悔はないわ」


魔女「もう二度と、お姉ちゃんと会えないかもしれないけど...大丈夫」


魔女「...あなたが居てくれれば、大丈夫よ」


隊長「...ありがとう」
876 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:07:44.60 ID:mK23oEQG0

魔女「まぁ、この話は置いておいて...それよりも魔王妃を探さないと」


魔女「魔王の妻なだけあって、相当な実力があるのは間違いないわよね?」


隊長「恐らくそうだが...それは後回しにするぞ」


魔女「大丈夫なの...? 見つけられなかったらどうするの?」


隊長「...この世界はほぼ監視社会だ、なにか問題が起きればすぐわかるようになっている」


魔王妃が魔法を唱え都市を破壊しようとするならば。

まずはマスコミが動くことは間違いない、ならば捕捉は難しくはない。

ならば先にやるべきことは目標の発見ではなく根回しであった。


隊長「まずは格好をなんとかしよう、この世界の街なかでこの武器を持ってたらかなり注目される」


隊長「それとお前らの服装...魔女はともかくウルフ、その耳と尻尾を隠さないとならない」


隊長「この世界には魔物はいない...獣の耳をつけた人間がいれば、それも注目されてしまう」


魔女「...なんか、私たちの世界とは大違いね」


隊長「まずは応援を呼ぶ...そいつに服を持ってきてもらう」ピッ


耳につけたインカムを起動する。

これで部隊への通信が可能、人手を増やすことができる。

だがそう簡単に物事を運べるわけがなかった。


隊長「...」


──ザーッ...

そこから聞こえるのは、ノイズだけであった。

当然だった、いままで魔法による激しい戦闘と遭遇してばかりであった。

何度も闇にも包まれた時もあった、軍用とはいっても闇魔法に対しての耐久など持っているわけがない。


魔女「...どうしたの?」


隊長「いや...俺の耳につけているこの機械は...遠く離れた人物と会話ができるモノなんだが」


隊長「壊れているみたいだ...」ピッ


仕方なく起動したインカムのスイッチを切る。

だがそもそもの話、いまになって生まれた疑問が彼を横切る。

この居心地の良さは間違いなくアメリカ、だがその国のどこに自分がいるのか。
877 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:09:20.67 ID:mK23oEQG0

隊長「...そういえばここは裏路地か」


ウルフ「ご主人っ! 夕方なのにあっちはすごい明るいよ?」


隊長「...少し、俺のこの武器を持っていてくれ、これは目立ちすぎる」スッ


ウルフ「わかったよっ!」


アサルトライフルをウルフに預け、裏路地を抜けていく。

この格好ならギリギリ通報はされないだろう、ハンドガンさえ見つからなければ。

周りを用心しながらも、裏路地から少しだけ身を乗り出した。


隊長「...」


いつもみたあの光景、どの国のテレビでもここの絵面を撮る。

懐かしくも、その一方でこの名所が魔法による戦火が降る可能性があると思うと。

言葉を発したい衝動を飲み込み、魔女たちへの元に戻った。


魔女「...どうだった?」


隊長「あぁ...幸いにも俺の自宅が比較的近くにある...まずはそこにいくぞ」


魔女「へぇ...キャプテンの家かぁ...」


ウルフ「...ちょっと楽しみかも!」


魔女「で、どうやって家に向かうの?」


隊長「...魔女に頼み事がある」


魔女「...へ? 私?」


隊長「あぁ、魔女の格好なら...ギリギリ目立たないだろう」


魔女「な、なにをすればいいの...?」


隊長「...この裏路地を抜けて、黄色い車を呼び止めてくれ」


魔女「く、車ってなに?」


隊長「箱状の乗り物だ、列車が小さくなったモノと捉えてくれ」


魔女「...まさか、1人で行って来いってこと?」


隊長「...すまん、ウルフは意外と露出度が高い...そして俺は見つかれば捕まる可能性がある」


隊長「捕まっても身分を証明すれば釈放されるが...それはヘタしたら数日かかる」


隊長「...頼んだぞ?」


ウルフ「がんばって魔女ちゃんっ!」
878 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:10:52.12 ID:mK23oEQG0

魔女「ちょっとまって...すごい不安なんだけど...絡まれたらどうすればいいの!?」


隊長「いいか? なんか言われたら...Trick or Treatと言え、これでギリギリなんとかなる」


魔女「と、とりっくおあとりーと...?」


隊長「季節外れだがこれを言えば...ギリギリ頭のおかしな子ぐらいに思われるだけで捕まりはしない」


魔女「わ、わかった...やるしかないのよね?」


隊長「あぁ...それで、黄色い車を呼び止めたら、3つ指を立てろ」


魔女「それは...3人いますよってこと?」


隊長「そうだ、そして車を動かす人物...運転手が扉を開けたら俺とウルフは走ってそこに乗り込む」


隊長「多少は目立つが...乗ってしまえばこの武器が周りの人物の目に入ることはない」


隊長「...一番穏便にことを進める方法はこれしかない」


魔女「...やってみるしかないわね」


隊長「裏路地を抜けて、黄色い車...Taxiって言うんだが...それが無かったら道路のすぐ横で手を上げろ」


隊長「それでTaxiが近寄ってくるはずだ」


魔女「...わかったわ、なにかあったらとりっくおあとりーとね?」


隊長「頑張れ...魔女ならできる」


ウルフ「がう」


魔女「とりっくおあとりーと...とりっくおあとりーと...」


まるで詠唱のように、自分の精神を落ち着かせる魔法のようにつぶやく。

お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、そのような意味が込められているとは知らずに。

裏路地を抜けると歩道にたどり着く、目的の道路はもう少しだ。


市民A「Wow」チラッ


市民B「...halloween?」ジー


魔女(うぅ...なんか視線がキツイ...)


魔女(というか寒い...雪積もってるじゃない...)


通行人に怪訝な顔つきをされる。

ハロウィーンみたいなこの格好、とても真冬にするものではない。

しかしその冷たい目線をも忘れさせる光景が広がる。
879 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:12:36.60 ID:mK23oEQG0

魔女(...なんか、キレイ)


魔女(自然が見せてくれるヤツじゃなくて...なんというか...幻想的ね)


それはむしろ魔女の世界の方だというのに。

今まで見たことのないネオンの光、超高層の建物。

車という未曾有の乗り物、そしてこの都を彷彿とさせる人混み。

彼女からしたらこの摩天楼がとても幻想的に見えていた。


魔女(...今度ゆっくり、キャプテンに案内してもらいましょ)


魔女(って...眼の前にある黄色のヤツ...これがたくしーかしら?)


偶然にも、裏路地の出口近くにそれは泊まっていた。

まだ確証はない、近寄って確かめればならない。

魔女がある程度近寄ると、扉が勝手に開き始めた。


魔女「──うわっ!?」ビクッ


運転手「Welcome?」


魔女「あ、う...」


魔女(びっくりした...でも聞かなきゃ...)


魔女「た、たくしー?」


運転手「...Yes」


少しばかり怪訝そうな表情で頷かれた。

そのイエスという意味はわからないが、身体の動きで理解できた。

運転手もたまに英語のできない観光客相手に商売している、完璧な対応であった。


魔女「やたっ...!」スッ


目標を達成できた、ならば次にする動作を行う。

指を3本立てる、これで伝わるはずだ。


運転手「Okay...Three people?」スッ


英語が話せないと察すると、運転手も指を3つ立ててくれた。

その人としての暖かい心遣いに魔女は軽く涙する。

自分の知らない世界、だけど意思疎通は問題なくできることに。


魔女「ま、まっててくださいっ!」


ついには異世界語、この世界で言う日本語を話してしまう。

だがそこにジェスチャーを加えていた、両手の平を運転手に見せる。
880 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:14:33.77 ID:mK23oEQG0

運転手「Okay Okay...I will be waiting for you」


魔女が離れていくのを確認して、運転手はドリンクホルダーに入れていたコーヒーを飲む。

あの様子からしてしばらく時間がかかると踏んだ彼は今のうちに眠気を払っていた。

だがそれは無為に終わる、すぐに目が覚める光景を拝む。


隊長「────ッッ、 I'm begging youッ!」スッ


やや大きな声で叫んだのは、彼の住むマンションの名前。

この男はまるで軍人のような格好をしている、その横には白い髪の女の子。

そして助手席には先程の魔女っぽい子が座る、3人が突如として乗車したのでタクシーは揺れた。


運転手「O...Okay...」


隊長(発車したか...銃は見られてないな、とっさに足元に隠したのがバレずに済んでよかった)


ウルフ「うわぁ〜、すごいっ! 走らなくても動くっ!」


魔女「いいわね、車...これは楽ね」


隊長「...俺の家にもあるから今度乗せてやる」


魔女「本当っ!? やったっ!」


隊長(...つかの間の、平穏だな)


何度も感じたことのある、車に乗るという感覚。

いまはそれを一度も感じたことのない2人がここにいる。

その微笑ましさが彼の心を非常に癒やしていた。


ウルフ「ご主人っ! あれなに?」


隊長「ん? あぁ...あれは博物館だ」


ウルフ「はくぶつかん?」


隊長「そうだ、あそこは確か...この世界の古い生き物の化石などが展示されてるはずだ」


ウルフ「そうなんだ...すごいねっ!」


隊長「...事が終わったら、観光案内してやるからな」


ウルフ「うんっ!」
881 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:16:42.16 ID:mK23oEQG0

魔女「目新しいモノがありすぎて、楽しいわね」


隊長「...俺も、魔女たちの世界に来たときはそうだった」


隊長「美しい自然風景、魔法、そして魔物...どれも初めて見た」


魔女「ふふ...そうだったわね」


他愛のない雑談、久々な緊張しなくていい状況。

3人の肩の力は抜けており、完全にリラックスをしている。

そしてその中数分、車の動きが止まった。


運転手「Just arrived」


隊長「Thanks...Please wait for me...Bring my wallet」


運転手「Sure」


魔女「なんて言ったの?」


隊長「俺の家についたからここでTaxiの出番は終わった」


隊長「ここまで送ってくれた分の通貨を払わなければならないんだが...俺は今手持ちを持っていない」


隊長「だから、家にある財布を持ってくるまでここで待っててくれと言った...魔女たちも少し待っててくれ」


そう言い残すと、彼は武器を隠すようにウルフに持たせた。

そして建物の入り口へと颯爽と向かっていった。


魔女「...この世界で暮らすには、さっきの言語を覚える必要があるわね」


ウルフ「うぅ...むずかしそう...」


魔女「そうね...けど、なにからなにまでキャプテンに頼むのも良くないのよ?」


ウルフ「...そうだね」


魔女「...あら、もう戻ってきた」


大きめなカバンと、手に財布をもってこちらへと走ってきた。

そそくさとそのカバンに武器をしまい、運賃を支払う。

2回に分けて払った通貨を見て、魔女は不思議に思った。
882 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:18:11.26 ID:mK23oEQG0

魔女「なんで1回にまとめなかったの?」


隊長「この世界...いや、この国にはそういう仕組があるんだ」


隊長「1回目に払ったのはここまでの走行距離に見合った金だ」


隊長「2回目は運転手に対しての...まぁオマケみたいなもんだ」


魔女「へぇ〜...文化の違いね」


隊長「まぁとにかく上がってくれ、少しゆっくりしよう」


建物の入り口を潜ると、そこに待ち受けていたのは。

見慣れぬ光景に、いちいち質問をしたくてたまらない。

先陣を切ったのはウルフだった。


ウルフ「これは?」


隊長「Elevatorだ...吊り下がった箱に人が入り、滑車の要領で上下に移動する機械だ」


魔女「すごい技術力ね...私の世界とは大違い」


隊長「そのかわり俺の世界では魔法のマの字もないからな」


3人がエレベーターの中に入る。

そして隊長は先程自分が口にしたある単語について質問をする。


隊長「...そういえば、今は魔法を使えるのか?」


魔女「うん? たぶん使えるわよ」


隊長「...錬金術は?」


魔女「問題ないと思うけど...どうしたの?」


隊長「...間違っても、特に錬金術は人前で使うな」


隊長「この世界じゃ金はかなり貴重だ、それを得るために殺しをする奴もいるぐらいだ」


魔女「げぇ...気をつけるわね...って、えれべーたー止まった?」


隊長「あぁ、目的の階についたからな...行くぞ」


長らくしまっていた家の鍵を、再度取り出す。

先程は大慌てで思い返す暇はなかったが、今度ばかりは違う。

何週間ぶりの我が家、ようやく真の意味で心を落ち着かせることのできる場所。
883 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:20:18.96 ID:mK23oEQG0

隊長「...ふぅ、やっとここに帰ってこれたか」


魔女「...おかえり、ね」


ウルフ「おかえりっ!」


隊長「あぁ...ただいま」


隊長(このマンションに住んで数十年、初めてただいまという意味のある言葉を言った...)


その疲れ果てた足取りで部屋の中へと向かう。

まず最初に行ったのは、リモコンを取り出すことだった。


隊長「...」ピッ


ウルフ「──うわっ! 箱が光ったっ!」


隊長「まず...状況を軽く整理しよう」


隊長「そこのSofa...椅子に座ってくれ」


魔女「うん...って、ふかふかね」


ウルフ「ふかふかっ!」


隊長「ありがとう、その椅子は結構お気に入りなんだ...で、軽く説明しよう」


隊長「まず今つけた箱...これはテレビと言うモノだ」


隊長「これは...情報を随時教えてくれる機械と思ってくれていい」


魔女「...あぁ、さっき言ってた監視社会ってこういうこと?」


隊長「そうだ、なにか事件が起きたら間違いなくこのテレビが反応する」


隊長「もし魔王妃が動いたとしたら、探さないでいてもこのテレビを見てたらすぐに場所がわかる」


隊長「だからしばらくの間、このテレビを代わり番こで見張るぞ」


隊長「この世界は広すぎる、魔王妃が動かない限り探すのは相当骨が折れるからな」


魔女「でも...魔王妃が動いてからじゃ遅いんじゃ...?」


隊長「この国のPolice...警備は優秀だ、危機的状況をすぐに対応してくれる」


隊長「多少の怪我人はでるかもしれないが...死傷者はでないはずだ...そう願う」


魔女「...わかったわ、まぁ私も知らない世界で人探しなんてできるとは思ってなかったしね」


隊長「ひとまずは休みながら待とう...みんなボロボロだからな」


治癒魔法で身体を治したところで、精神的疲労はどうしようもならない。

一度豪快に睡眠を取りたい、誰もがそう思っている。

そんな叶わぬ夢を思いながら、彼は冷蔵庫から缶を3つ取り出す。
884 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:21:52.60 ID:mK23oEQG0

隊長「...久々に飲むな」


──ぷしゅっ...!

その弾ける空気の音に続くのは、爽やかな香り。

缶の蓋から見える黒い液体、間違いなく精神を癒やしてくれるであろう代物。


隊長「ほら、これでも飲め」スッ


ウルフ「うわっ!? なにこれなにこれっ!?」


魔女「うん...炭酸水? お酒?」


隊長「前者だな、酒ではない」


魔女「ふーん...いただきます」ゴクッ


魔女「...これ、病みつきになりそうね」


ウルフ「すごいしゅわしゅわしてる」


隊長「この世界で一番有名な飲み物だ、酒よりも人気かもしれん」


黒い飲み物に魅了されかけている彼女ら。

その間にも彼はコートを取り出し、出かける支度をする。

これならこのミリタリーな格好を誤魔化すことができるだろう。


隊長「俺はこれから仕事場に向かう、無事の報告と魔王妃のことについて話してくる」


隊長「魔女とウルフはここで休んでろ、誰か訪ねてきても出迎えなくていい」


魔女「...いや、待って」


魔女「私がウルフ、どちらかを連れて行くことをオススメするわ」


隊長「...なぜだ?」


魔女「いきなり魔法のことを言っても、信用してもらえないと思う...」


魔女「なら...私が行くならそこで魔法を唱えるし、ウルフが行くなら尻尾を見せれば説得力が生まれるわ」


隊長「確かにそうだが...休まなくて大丈夫か?」


魔女「私は大丈夫よ」


ウルフ「まだまだ元気だよっ!」


隊長「...そうか、ではどちらを連れて行くか」


長らく考える、どちらのほうが魔法に関しての説得力を持っているのか。

そしてもう1つの要素、どちらに留守番を任せられるか。

特に後者が決め手となった。
885 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:23:22.55 ID:mK23oEQG0

隊長「ウルフ、ついてきてくれるか?」


ウルフ「がうっ!」


魔女「私はお留守番ね、本でも読んで待ってるわ」


隊長「あぁ...すまん、俺の家にある本は全部この国の言語...Englishという言語のモノしかないぞ」


魔女「あ、そうか...あっ、でも1つ持ってきた本があったわ」


隊長「そうなのか、悪いがソレで時間を潰していてくれ」


隊長「もし、テレビで魔王妃に関する情報が出たら────」


魔女に電話という仕組みをある程度説明する。

これで自分自身の携帯電話に連絡を入れることができるだろう。

問題はその携帯電話も仕事場のロッカーに入れてある、一刻も早く行かねばならない。


魔女「これお菓子? ちょっと貰うわよ」


隊長「あぁいいぞ...ウルフ、ちょっとこい」


ウルフ「なあに?」


隊長「このニット帽と...ちょっと大きいし似合わないかもしれないが...俺の服を着ろ」


取り出したのはジーンズとジャケット、そしてコート。

どちらも大柄な男物である、当然ウルフにはブカブカであった。

だがこれで、ウルフの耳と尻尾を隠すことができる。


ウルフ「...ご主人のにおいがする」


隊長「...臭くないか?」


ウルフ「ううん、いいにおいだよ?」


隊長「そ、そうか...照れるからあんまり嗅がないでくれよな」


ウルフ「すんすん...」


魔女「...ちょっと羨ましい」ボソッ


隊長「しかし参ったな...その白い髪はどうしようもないな」


魔女「目立つのかしら、あっちの世界じゃ髪の色なんて彩り鮮やかだったけど」


隊長「そういえばそうだったな...まぁこの世界じゃ黒か金か茶色ぐらいが基本だな」


隊長「その他の色は基本的に目立つ」


魔女「ふーん...そうなのね」
886 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:24:55.21 ID:mK23oEQG0

隊長「まぁ...とりあえず行ってくる」


魔女「はーい、行ってらっしゃい、気をつけてね?」


隊長「お、おう」


魔女「どしたの?」


隊長「いや...そう言われるのは本当に久しかったからな...行ってきます」


ウルフ「行ってきます!」


隊長「ウルフ、俺の使ってない靴を履け」


ウルフ「はいっ!」


隊長(...独身時代が長すぎた...こんなにも暖かいモノだったんだな)


物思いにふけながらも玄関を開け、片手間に扉の鍵を閉める。

コートは上半身を隠すだけ、ボトムスは仕事着とミリタリーブーツ。

アサルトライフルもハンドガンも、ナイフ等の武器はすべて背負っているカバンに入れている。

これで見た目は一般的な服装に仕上がっている、通報される可能性は低いだろう。


ウルフ「いままで毛皮しかなかったから、服って変なかんじするよ」


ウルフ「そういえば靴も...初めてはいたらから歩きづらい...」


隊長「悪いな、この世界で暮らすにはソレに慣れてもらうしかない」


ウルフ「わかったっ!」


隊長「さて...とりあえずTaxiを呼ぶか」


エレベーターから降り、マンションの入口から外へ向かう。

すると淡く雪がちらつく、その光景に犬ははしゃぐ。

その様子を眺める彼の目はとても優しいモノであった。


ウルフ「ご主人! 雪っ! 雪っ!」


隊長「あんまり走るなよ、靴に慣れていないんだから転ぶぞ」


ウルフ「へっへっへっ...」


隊長「...完全に犬だな」


隊長「まぁいいか...確か公衆電話が近くにあったはず...」


隊長「ウルフ行くぞ、迷子になるなよ」


ウルフ「はいっ!」
887 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:26:48.63 ID:mK23oEQG0

隊長(...雪か、そういえばあっちの世界で始めてみた光景は紅葉だったな)


隊長(季節感のギャップに驚いたものだ)


過去の記憶を振り返りながらも、近場の公衆電話でTaxiを呼ぶ。

待っている間にもウルフは隊長の視界の範囲内ではしゃぎまくる。

今はまだ昼間、雪が降る天気が相まってやや暗い、それでも彼にはこの光景が眩しかった。


隊長(...俺に娘がいたならこのような感じなのか)


隊長(おとなしい子よりは、ウルフみたいに元気な子のほうが嬉しいな)


隊長「...って何を考えているんだ俺は」


ウルフ「どうしたの?」


隊長「いや、なんでもない...っと、迎えが来たようだ」


そうこうしている間にも黄色い車両は到着した。

2人は後部座席に乗り込み、隊長は仕事場の住所を運転手に伝える。

そして、もう一言を添える。


隊長「Turn on a radio」


運転手A「Sure」


ウルフ「なんだって?」


隊長「情報を教えてくれる...音声を聞かせてくれと言った」


隊長「いつ、なにが起こるかわからない現状だからな」


ウルフ「そっかっ!」


隊長「と言っても、いま聞いている分には特に重要そうな情報が流れてないみたいだ」


流れてくる情報は、エンターテイメント性の強いモノや交通情報。

そしてどこかの州で馬鹿がアホなことをしている、ユーモアたっぷりのラジオでもあった。

久々に聞くそのラジオは、隊長を安らがせていた。


ウルフ「...なんて言ってるかわからない」


隊長「ん...今はCM...宣伝の情報が流れてるな」


隊長「ここから近くにチョコの店ができたらしい」


ウルフ「ちょこ?」
888 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:27:47.22 ID:mK23oEQG0

隊長「...そういえば、ウルフは犬なのにチョコが好きだったな」


隊長「ほら、出会ったばかりの頃に食べた、あの甘い奴だ」


ウルフ「あれかっ! うんっ! だいすきだよっ!」


隊長「今度連れて行ってやる、聴く限りここのは飲むチョコが謳い文句らしい」


ウルフ「飲めるんだっ! すごいねっ!」


隊長「はは、そうだな...?」ピクッ


些細なことだった、なにか違和感を覚える。

気の所為でなければ車が止まっている、赤信号にしては随分と長い。


隊長「...What's up?」


運転手A「I...I don't know...」


ウルフ「どうしたの?」


隊長「いや...どうやら道が混んでいて進めないらしい」


隊長「あそこを見ろ、あの光...青色だろ?」


ウルフ「うん」


隊長「あれは進んで良しという合図なんだが...誰も動こうとしない...というより動けてない」


隊長「道が混みすぎている、事故でもあったのか...?」


隊長(...先程交通情報に関する情報も流れていたが、こんなことは言ってなかったぞ)


隊長「...仕方ない、ここから歩いて30分はかかるが降りるか」


ウルフ「わかったっ!」


隊長「stop here」


財布を取り出し、料金を支払う。

運転手もそのことに納得はしているものの、このような大渋滞に困惑している。

事故でも起きない限り、このようなことは起きないはずなのに。


隊長「...ウルフ、手をつなげ...この先は混みそうだ」


ウルフ「えへへ、はいっ!」ギュッ


隊長「...にしてもおかしい、まさか魔王妃の仕業か?」
889 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:28:30.17 ID:mK23oEQG0










「────EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEKッッッ!」









890 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:30:26.28 ID:mK23oEQG0

それは悲鳴を意味する言葉であった。

嫌な予想を口にした途端聞こえたそのスクリーム。

握りしめた手を引き、途端に足を動かした。


隊長「──行くぞッ!」ダッ


ウルフ「──うんっ!」ダッ


悲鳴を聞いた渋滞の主たちが下車し、様子を確かめようと背伸びをしている。

銃声は響いていない、少なくともテロリストや乱射事件によるモノではない。

いやな予感がする、一度足をとめ近くにいた人物に声を掛ける。


隊長「Can I borrow your phone?」


とても丁寧な言い回し、しかしその声色はかなり迫真。

この声をいつも聞いているのは犯罪者、それも尋問をしている時のモノだ。

それを聞かされた一般人は貸すしかなかった。


市民C「Y...Yep...」スッ


隊長「Much appreciated...」


借りたモノの画面をすぐさまにタッチする。

そして呼び出し先は自宅、扱い方は教えた、出てくれるのを待つだけだった。


魔女≪...キャ、キャプテン?≫


隊長「俺だ、なにかテレビに動きはあったか?」


魔女≪...あったわよ、魔王妃が映ってる≫


隊長「やっぱりか...で、どういう状況だ?」


魔女≪ええと、映ってるだけで動きはないみたい...どうやら空中に浮遊しているのが不思議みたいな映し方してる≫


隊長「...この世界にとってはそれは超常現象すぎる、どこにいるかわかるか?」


魔女≪えーっと...なんか巨大な像が後ろに見えるわね、これでわかる?≫


隊長「十分だ、じゃあまたあとでな」


魔女≪待って、私も行くわ...ウルフの魔力を感知して向かうから絶対に離れないで≫


隊長「...わかった、鍵と戸締まりを頼む、鍵は玄関の靴箱にもう1つあるからな」


魔女≪わかったわ、じゃあね...ってこれどうすればいいんだっけ?≫


隊長「受話器...手に持ってるヤツを元の位置に戻せばいい」


魔女≪こう?≫ブチッ
891 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:31:54.16 ID:mK23oEQG0

隊長「...切れたか、よしウルフ行くぞ」


ウルフ「がうっ!」


隊長「...I owe you one」


市民C「Y...You're welcome...」


隊長「さて...」


携帯電話を持ち主に返すと、行き先を再確認する。

どこの道をどういけば早いか、どうすればあの自由な名所にたどり着けるか。

それとも先に悲鳴の原因を調べるか。


隊長「...まずは先に、このまま進むぞ」


ウルフ「わかったっ!」


悲鳴を聞いたおかげか、人混みはパニック寸前。

停泊している車や人々を丁寧に押しのけ、前に進む。

そして新たな悲鳴が発生する、それも連鎖的に。


隊長「...なにが起きているんだ」


ウルフ「...っ!」ピクッ


先に気がついたのはウルフ。

彼女の持つ嗅覚が何かを捉えた。

香る、ドロドロとした熱い匂い、アレしかなかった。


ウルフ「...血の匂い」


隊長「──ッ」スチャ


その言葉を耳にすると、彼はカバンから武器を取り出す。

向こうの世界でも大いに役立った、現代兵器。

アサルトライフルを握りしめた。


隊長「Get out of my wayッ!」スチャ


どけ、強い口調でありその手に持つ武器が人混みを割る。

そしてついに先頭にたどり着く、そこにあるのはパニックの一言。

彼の武器を見たからではない、その現場を見たからであった。


隊長「──これは」


ウルフ「ぐっ...血なまぐさい...」


紅く染まった道路、そこに横たわるのは冷たい男性。

そしてその近くに鎮座するのは犯人、このような光景は映画でしかみたことがなかった。

そしてこの状況を理解してしまった一般人がこう叫ぶ。
892 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:32:36.62 ID:mK23oEQG0










「ZOMBIE────ッ!?」









893 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:33:31.83 ID:mK23oEQG0

ゾンビという掛け声、そしてその現場を見たものは狂乱するしかなかった。

非現実的なことが起きてしまった、彼らにはその耐性など皆無。

しかし彼らは違う、このような生物を何度も見てきた。


隊長「...数十体はいるな」


ウルフ「がるるるる...」


隊長「ウルフ、近接格闘は控えろ、噛まれるとなにがおこるかわからん」


ウルフ「がう」


隊長「だからこれを使え、使い方は覚えているか?」スッ


そういってカバンから取り出したエモノを手渡す。

すると彼女は返答する、言葉もかわさずに。


ウルフ「────っ!」スチャ


──ダンッ!

その圧倒的な野生のセンスが素人同然の射撃精度を高めていた。

響いた銃声はゾンビの頭にぶち当たる。


ウルフ「覚えてるよ、ご主人っ!」


隊長「そのまま頭を狙え...」


隊長「────EVERYBODY DOWN GROUNDッッ!」


銃声が、ゾンビの衝撃よりも勝る。

この国がどれだけ銃に親しみを持たれているかが伺える。

逃げ惑うよりも伏せたほうがいい、銃声が聞こえたならばここの国民はそうする。
894 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:35:05.03 ID:mK23oEQG0

隊長(...よし、一般市民のほとんどが伏せて動かなくなった、これで誤射する可能性が減った)


隊長「──STAY DOWNッ! KISS THE GROUNDッ!」スチャ


──ババッ バババッ!

そして、長年の撓ものである射撃精度。

誤射などありえない、跳弾も起こりえないその技術力。

動きの鈍いゾンビなど相手ではなかった。


隊長「...Zombies down」


数十体はいたゾンビたちは、跡形もなく駆除された。

いずれも頭部を破壊されている、定番の弱点であるはず。


隊長「動く気配はないな...先に進むぞ」


ウルフ「うんっ!」


隊長「こいつらの厄介なところは数だ、囲まれないように動くように」


ウルフ「わかったっ!」


隊長(...死者が出てしまったか、だがこちらが事前に対処のために動くことはできなかった)


隊長(胸糞が悪い...どうしようもない出来事と割り切るしかない...クソッタレ)


無残にも食い散らかされた男性を目線で弔う。

銃声が鳴り止んだのが影響してか、次第に周りの一般人たちは面を上げる。

こうなってしまったのなら、いまさら目立たないようにしても無駄。


隊長「...急ぐぞ」


ウルフ「うんっ!」


誰かがSNSにアップをする前に、姿を暗ます。

自分だけならともかく、国籍もない不法滞在者に順するウルフを注目させるわけにはいかない。

魔王妃の動向も気になる、急いで自由なあの場所へと徒歩で向かう。


〜〜〜〜
895 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:36:44.75 ID:mK23oEQG0

〜〜〜〜


???「...どうなっていやがる」


場面は切り替わり、同じくアメリカのどこか。

その者たちの格好は異世界を旅した彼と似た姿であった。

なにかが原因だろうか、少し痩せてしまった人物がその英語でのつぶやきに反応する。


隊員「...間違いない、Zombieだ」


隊員、あの隊長が一目を置く人材。

日本のコミックブックスを仕事場に持ち込むほどの傾奇者。

萌えに悶える男、しかしあの時のような余裕は彼にはなかった。


隊員A「えぇ...まさか本当に...イタズラな通報かと思っていたのですが」


隊員B「...」


隊員「...冗談だと思いたいが...実際に今射殺したのはZombieで間違いない」


隊員「これから...どう展開していくか...クソッ」


荒れている、なぜならここの部隊の最高責任者は彼であった。

隊長が行方不明な今、彼が担うしかない、だが荒れているのはそれが理由ではなかった。


隊員「...もう死者が多数出ている、被害を最小限に留めなければならん」


隊員「各自少数で散らばれ、Civilianの保護や救護を最優先で行え」


隊員「...わかったら、散開しろ」


そして聞こえるのは、不揃いの返事。

作戦の内容に不満があるのか、それとも指示者に不満があるのか。

どちらにしろあまりいい空気感ではなかった、この場に居た数十名の特殊部隊の隊員たちは街へと繰り出した。


隊員A「...我々も行きましょう」


隊員「わかってる...クソッ!」


隊員B「...荒れても、Captainは戻ってこないぞ」


隊員「...黙れ」


険悪なムードのなか、3人が街へと繰り出す。

すでに街中は死体だらけであった、動く死体、動かない死体、どちらにしろ地獄絵図。
896 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:38:26.23 ID:mK23oEQG0

隊員B「────ッ!」スチャッ


──ズドンッ!

無口な彼が放つ、スナイプショットがゾンビの頭部へ的中する。

隊員Bの所有している武器は、スナイパーライフル。


隊員A「──OPEN FIREッッ!」


──ババババババッ!

隊員Aの掛け声に反応して、険悪な隊員も射撃を行う。

2人の持っている武器は、アサルトライフル。


隊員「...発生推定時刻はわずか20分前だ、それなのにこの被害進行度か」


隊員A「Emergencyで出動したというのに...これが別の国によるテロならお手上げですよ」


隊員B「...おしゃべりは後にしてくれ、まだいる」スッ


──ズドンッ! ズドンッ!

軽快なボルトアクションが可能にする、連続スナイプ。

腕は確かであった、だがそれがコンプレックスでもあった。


隊員A「相変わらずのAccuracyですね」


隊員B「...これでもCaptainのには劣る、彼は動く相手にすら精度を誇る」


隊員A「...すみません、失言でした」


隊員「──ッ! 3人走ってくるぞッ!」


ゾンビが走ってこちらに向かってくる。

その絵面はどれほど恐ろしいモノなのか、アメリカ国民なら絶対に恐怖する。


隊員B「──ッ!」スチャ


────ズドンッ!

その一撃は惜しくも外れる。

これだから、先程のコンプレックスが助長される。


隊員B(Captainなら今のを当ててたな...)


隊員B「────MISTAKENッ! COVER MEッッ! 」


隊員A「──I KNOW I KNOWッッ!」スチャ


──バババババババババババッッッ!

そして放たれるフルオート射撃。

これなら精度が悪くても、ある程度は当たるはず。
897 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:41:24.43 ID:mK23oEQG0

隊員「────FUCK OFFッッ!」


──バッ!

そして最後に隊員が放ったのは、スナイプ地味たセミオート射撃。

疎らな弾幕と、鋭い一撃が3名のゾンビを抹殺する。


隊員「...なんとかなったか」


隊員B「...申し訳ない、次からは気をつける」


隊員「ミスショットなど当たり前さ、普通は外れる」


隊員A「そんなに気を落とさないで、そのための仲間ですよ」


一連の連帯感が、先程の険悪な空気をある程度取り払っていた。

吊り橋効果と言われればそうかもしれない、だがこれが重要である。

作戦中に最も重要なのは士気の向上、そのことは隊員にもわかっているはず。


隊員「...しかし、これは何が原因でこうなったんだろうか」


隊員A「検討も付きません...こんな映画みたいな出来事なんて初めてですよ...」


隊員B「...バイオテロか?」


この手のゾンビは新種のウィルスによって生まれた、そういった映画はこの国に沢山ある。

だがソレを否定できる要素が1つ存在していた、この世界で最も売れたあのアルバムで証明できる。


隊員「...それにしては見た目がおかしい、身体と衣類を見てみろ」


隊員「ほぼ腐りかけだ...どう考えても墓地から蘇ったとしか思えない」


隊員A「...信じたくはないですけど、そうみたいですね」


隊員「それに...このZombie共に噛まれてしまった人々を見ろ」


隊員B「...どれも食い散らかされているか、出血多量で亡くなっているだけだ」


隊員「ウィルスによる感染でZombieになっていない、つまりこれはバイオテロではない」


連鎖的にゾンビが生まれることはなかった。

パニック映画さながらのアウトブレイクなど発生しないはず。

ネズミ算は起こりえない、だがまだ安心することはできない。


隊員「問題はこのZombieがどうやって生まれているかだ」


隊員A「...もし、墓地からコイツらが生まれているのなら...誰かが生産していることになります」


隊員B「...そんなオカルトを特定しなければならないのか」


隊員「まずいな...ここはキリスト教国だぞ、土葬の墓地など腐るほどある」
898 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:43:05.02 ID:mK23oEQG0

隊員「...虱潰ししかないのか」


ゾンビの発生源はある程度絞ることができた。

だがその現場の候補が多すぎる、3人は軽く絶望するしかなかった。

そんな矢先、耳元のインカムが作動する。


隊員Z≪──Libertyだ、急げ≫


聞こえたのは、自由という単語。

そしてその後に続いたのは激しい銃撃音。

聞き慣れない声、別部隊の特殊隊員だ。


隊員「──WHAT'S HAPPENEDッッ!?」


だがその返答も虚しく、微かに聞こえたのは断末魔だった。

まるで炎で焦げたような音、突風で身を切り裂かれたような音。

様々な音が通信を妨害していた。


隊員「────HARRYッ!」


隊員A「──UNDERSTANDッ!」


隊員B「Wait...Need a car...」


適当にあたりを見渡す、すると扉の開いた車を発見する。

車の様子はボコボコ、ゾンビから逃げるために無茶な走りをしたと思われる。

だが中の様子は綺麗な状態、運転手は走って逃げたようだ。


隊員B「不用心だな...鍵が刺さりっぱなしだ...ローンも残ってるだろうに...」


隊員「運転を頼めるかッ!?」


隊員B「そうでなければ、率先して車を探さないさ...」


隊員A「早く乗ってくださいッ!」


シートベルトも閉めずに、ピックアップトラックを豪快に鳴らす。

その音に焦った2人はすかさずに荷台に跳び乗る。

足は確保できた、問題が起きない限りすぐに現場に到着できるだろう。


隊員A「つかのまの休息ですね」


隊員「そうだな...Captainならそう言いそうだな」


隊員A「...本当に、どこに行ってしまったんでしょうかね」


隊員「わからない...どうしてわからないんだろうか...」


あの時、この2人は隊長と共にヤク中の立てこもり犯をとっ捕まえていた。

現場にいた、特に隊員はすぐそばに居たというのに、なぜ。

どうしても理解することのできない現象に今までずっと苛つかされた。
899 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:44:21.81 ID:mK23oEQG0

隊員B「────ッ!」ピクッ


運転免許を持つものなら、反応することができる行為。

それだけではない、元々の作戦は民間人の救援。

隊員Bは通行人を発見していた、つまりは急ブレーキを行った。


隊員「──どうしたッ!?」


隊員B「今、女の子を見かけた...」


隊員A「...まずいですね、小さい子ですか?」


隊員B「いや...高校生か...? どちらにしても危険すぎる」


隊員「...ッ!」


気づけば、身体が勝手に動いていた。

彼ならこの状況をどうするか、一番近くで見ていた隊員だからこそ率先できた。

ピックアップトラックの荷台から身を降ろし、こう伝える。


隊員「俺はその子と合流する、お前たちは先に行けッ!」


隊員A「That's dangerous...1人は危険すぎ──」


──ズドンッ!

気づけば、運転手の隊員Bがライフルを発砲していた。

女の子のいる方向へと走ろうとしていたゾンビを射殺する。


隊員B「──GO MOVEッッ!」


隊員「────Nice work! BABYッ!」ダッ


そして危険も顧みずに街へと姿を消した。

あっと今に残された隊員たちは、とくにAは呆然とするしかなかった。

隊員の起こした行動にではない、彼のその表情にだった。


隊員B「...少し戻ったな」


隊員A「戻りましたね...最近ド派手な事件などしていませんでしたし」


隊員A「この緊張状態が、Captainのことを一時的に忘れさせたんでしょうか」


隊員B「それだな...今は上司になってしまったが、同期のアイツには元気になってもらいたい」


隊員A「元気すぎてまた、職場にMANGAを持ち込まれても困るんですがね」


隊員B「...おしゃべりは終わりだ、行くぞ」


そして再びベタ踏みされるアクセルペダル。

その恐竜のような唸り声で街を疾走してく。

それの音を聞き、彼はようやく自らの立ち位置に気づけた。
900 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:46:25.61 ID:mK23oEQG0

隊員(...車は行った、もう油断はできない)


隊員(早く女の子を保護しなければ...)スチャッ


──ババババッッ! バババババッッ!

走りながらもアサルトライフルでの射撃を行う。

ゾンビには遠距離攻撃ができない、一方的な殲滅だ。

そして自分自身の目でも、目視することができた。


隊員(──あれかッ!)


隊員「────WAITッ!」


その英語に反応したのか、それとも聞き慣れてしまった銃撃音になのか。

帽子をかぶった女の子は返事を行う、その見た目はまるで。


隊員「...Witch? Halloween?」


魔女「と...とりっくおあとりーと...」


魔女(キャプテンかと思ったら...ぜんぜん違う人だった...)


その、たどたどしい発音。

なんども聞いたことのあるそのイントネーション。

彼はすぐさまに言語を変える、伊達に日本文化にハマっているわけではなかった。


隊員「日本人か...?」


魔女「──っ! 言葉わかるのっ!?」


隊員「あ、あぁ...日本人にしてはずいぶんと派手だな...」


魔女「に、にほんじん...?」


彼の日本語には訛りがなかった。

英訳前の邦アニメを見すぎた影響か。

だがこの場面において、大いにソレが役に立つ。


隊員「ここは危険だ、安全なところへ行こう」


魔女「ま、待って...待ち合わせてる人がいるのっ!」


隊員「何人と待ち合わせている」


魔女「2人よ...1人は筋骨隆々な男の人で、もう1人は白い毛なm...白い髪の色をしてる女の子よ」


隊員「なるほど...俺も行こう」


隊員(まずそのCivilian3人をセーフティーゾーンに誘導した後に、目的地に向かうとするか)

901 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:48:14.63 ID:mK23oEQG0

魔女「え、いいよ...危ないよ?」


隊員「...それは、こっちのセリフだ」


隊員(この女の子...妙だな、ちゃんとVISAは持っているのか?)


隊員「ともかく、不用意に立ち止まるのは危険だ、待ち合わせ場所に向かおう」


魔女「そうね...こっちよ」


そう言うと、彼女はなにかを頼りにゆっくりと歩きだした。

まるで気配を察知しながら向かっているような。

そしてあるフレーズが隊員の耳を反応させた。


魔女「キャプテン...ウルフ...まだ遠いわね」ボソッ


隊員「────ッ!」ピクッ


その小言が意外にも彼に届いてしまう。

特殊部隊の一員である以上、聴力も優れていなければならない。

おそらく待ち合わせをした人物の名前であろう単語に反応せざるえなかった。


隊員(...いや、ないな)


隊員(特殊部隊が血眼で探したのに見つからないんだ...この女の子が知っているわけがない)


隊員(そもそも...Captainは全くもって女っ気がない...ましてはこんな若い子と知り合いなはずがない)


隊員(...別人だな)


心の中での整理を勝手に終えて、様々な要因が彼を納得させてしまった。

すぐさまに頭を切り替え、歩きながらも再び周囲を警戒し始める。

そのおかげか奇襲は防げた。


隊員「────Wait、待て...いるぞ」


魔女「本当だ...厄介ね」


隊員「発砲をする、後ろに下がっていなさい」


魔女「え...? う、うん」


──ババババッッ! バババッ!

魔女が後ろに下がったのを確認すると、すぐさまに射撃を行う。

その反則じみた距離から放つ攻撃にゾンビたちはどうすることもできない、そのはずだった。
902 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:48:52.81 ID:mK23oEQG0










「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」









903 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:50:17.95 ID:mK23oEQG0

その唸り声が聞こえたのは、前方ではなく後方。

きっとどこかに潜んでいたのだろうか。

このままでは女の子がヤラれる。


隊員「──GET DOWNッッ!」スチャ


────バチバチッッ!

アサルトライフルでは急速な方向転換は難しい。

なのでサイドアームであるハンドガンを後方に向け、発砲を行おうとした。

だが響いたのは銃撃よりも激しい、別の音であった。


隊員「...な、なにが起こった!?」


魔女「へ...えっと...雷が降ってきたよ?」


魔女(...良かった、魔法を放ったところはギリギリ見られてなかったようね)


そこにあるのは、雷に耐えることができなかったゾンビの残骸。

全身は真っ黒、身体の組織が全て破壊された様子であった。

自然災害の恐怖、雷というモノの驚異はどの世界でも共通。


隊員「...空に雷雲なんてあるか?」


魔女「えぇっと...もう深い夕方だし、空の様子がわからないわね」


隊員「確かに、そうだが...おかしいな」


隊員「まぁ...自然に助けられたことを感謝するしかない、行くぞ」


魔女「えぇ、そうね」


隊員「...」


だがどうしても、腑に落ちない要素が多々あった。

雷にしては静かすぎる、そしてなぜあの女の子だけが無事なのか。

あのゾンビは、ほぼ肉薄していたと思われるというのに。


隊員(...原因究明は後だ)


隊員「...ん、あれは」


魔女「あれって...たくしー?」


黄色い塗装をされた車が放置されていた。

その座席、特に助手席には大量の紅がばら撒かれていた。

現場は保存された状態であった、エンジン音がまだ続いている。
904 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:51:22.55 ID:mK23oEQG0

隊員「ひどい状態だ...どうしてこんなことに」


魔女「...逃げ切れなかったのね」


隊員「...女の子があまり、こういうのをマジマジと見るものではないぞ」


魔女「気遣ってくれてるの? でも、大丈夫...見慣れているから」


隊員(...看護系の仕事でもしているのだろうか)


あながち間違いではないその考察。

それはさておき、視覚的には酷い状態ではあるが足を確保できた。

見た目さえ気にしなければ、問題なく走行できるであろう。


隊員「君は後ろに座りなさい、汚れていないと思う」


魔女「あ、ありがとう...」


隊員「...Sundaydriverだが運転するしかないな」


自分のペーパードライバー加減にうんざりしている中。

アクセルペダルを踏み込もうとした瞬間、耳元のインカムから通信が入る。

聞き慣れた声、彼らからのモノであった。


隊員「What's happened?」


魔女「へ?」


隊員「すまない、君にじゃない」


隊員A≪現場に到着しました...ものすごくひどい状態です...≫


隊員「...Please continue」


その返答は魔女には通じない。

英語で話される通信、隊員Aの声色はかなり変化していた。

そしてソレを、淡々と聞かざる得ない隊員の顔色も変わり始める。


隊員「...」


魔女「...ど、どうしたの?」


隊員「いや...君は知らなくていい...」


魔女「...教えて」


柔らかな女性特有の可愛らしい声。

その中に、どこか力強いモノが含まれている。

それを聞いてか、思わず先程の報告を漏らしてしまう。
905 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:52:48.90 ID:mK23oEQG0

隊員「...あの女神像の近くで大虐殺が起こっていたらしい」


隊員「別部隊の隊員も、マスコミも...燃やされたり、氷漬けにされていたらしい」


隊員「...一体、何が起きているんだ」


魔女「女神像...っ!?」


隊員「...話はここまでだ、先に君のツレと合流させることを専念する」


隊員「それで、どこに向かえばいい?」


魔女「...このまま、まっすぐよ」


このまま、まっすぐいけばどこにたどり着くだろうか。

魔力の感知を頼りにしているだけの魔女にはソレがわからない、だが彼は違った。

目的地、そこは偶然なのだろうか必然なのだろうか。


隊員「...まさか、"同じ"か?」


魔女「え...?」


隊員「このまま直進は、先程言った場所だぞ...?」


魔女「────っ!」


知らなかったのは当然、彼女は彼から見れば日本人なのだから。

その驚愕した表情を見れば察することができる。

彼女と待ち合わせ人物たちも、そこにいるのだろう。


隊員「──HANG ONッッ!」グイッ


魔女「──きゃっ!?」


彼にできることは、アクセルペダルをべた踏みすること。

この女の子のツレの安否を確認しなければならない。

さらに隊員ABとの合流もできる、急がないわけがなかった。


魔女「こ、こんなにも速度がでるのねっ!?」


隊員「公道でここまでトバしたのは初めてだッ!」


速度に耐えきれず、上に付属している取っ手のようなモノを握る。

幸いにも今現在、対向車線は愚か追い越しすら必要としない独走状態。

あるのは当たり屋じみたゾンビだけ。


〜〜〜〜
906 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:54:03.92 ID:mK23oEQG0

〜〜〜〜


隊員「──ついたッ! 降りるぞッ!」


魔女「ま...まって...ちょっと気分が...」


わずか数分後、あっという間に目的地へと到着する。

クリアリングを怠らずに、周囲を警戒する。

するとすぐに目視することができた、彼らがいる。


隊員A「...隊員っ! 無事でしたか?」


隊員「あぁ...そっちはどうだ?」


隊員B「見ての通りだ、酷すぎる...」


隊員「...説明で聞いていた通りだな、どうなっているんだこれは」


あたりに散乱する死体の山。

焼死から凍死、はたまた身体がバラバラになっているモノもある。

このような現場、今まで見たことがなかった。


隊員A「...わかりません、まるで魔法としか形容できません」


隊員B「...」


隊員「Magical...」


隊員A「...ところで、その子が先程の?」


隊員「あぁ...そうだ、日本語しかしゃべれないらしい」


隊員がそう伝えると、彼らは車酔いに翻弄されている彼女に近寄る。

彼らには日本語がわからない、だが挨拶程度の言葉は知っている。

ならば、彼女の様子を伺うために接近するしかない。


隊員A「コ、コニチワ」


隊員B「...コンバンワ?」


魔女「えっ...こ、こんばんわ」


魔女(...どうして、私の世界の言葉を知っているのかしら)


不思議で仕方がなかった、なぜ異世界の言葉を知っているのか。

彼女からしてみればそれはとても可怪しく、彼らからすればそうでもない疑問。

だが今はそのような考察をしている場合ではない。


魔女(...ウルフの魔力、近いわね)
907 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:55:09.57 ID:mK23oEQG0

魔女「...ウルフ? いる?」


──ガサガサッ...!

後ろの草むらから、野生の気配を感じる。

だがソレがどれだけ彼らを刺激する代物であったか。


隊員「Look out...」スチャ


隊員A「...Okay」スチャ


隊員B「...」スチャ


魔女「ちょ、まってまってっ!」


3人が銃口を向けていた。

それも当然、この状況なら誰もがゾンビだと勘違いする。

身に危機が迫っていることを知らずか、草むらからある人物が飛び出した。


ウルフ「...魔女ちゃん」


魔女「ウルフっ!」


草むらから出てきた、白い髪の毛の少女。

ニット帽を深く被っているが、その顔立ちはしっかりと目視することができる。

ゾンビではない、どうみても可愛らしい女の子であった。


隊員B「Japanese...?」


隊員A「It's like that...」


隊員「...この子が、待ち合わせの子か?」


魔女「そうよ...そうだけど...ウルフ?」


どこか悲しげな顔つきをしている。

なぜなのか、それは魔女にもなんとなくわかっていた。

もう1人、彼が見当たらない。


ウルフ「ご主人と...はぐれちゃったよ...」


魔女「...やっぱり」


ウルフ「匂いで探そうとしたんだけど...血の匂いがひどくて...わからないよ」


隊員「...匂い?」


魔女「え、えーっと...この子、鼻が利くのよ」


隊員「...犬みたいな子だな」


ウルフ「がう」
908 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 22:56:35.93 ID:mK23oEQG0

隊員「────ッ!?」ピクッ


その瞬間、隊員に稲妻が走る。

魔女が魔法を放ったわけではない、彼のセンスが刺激されていた。

その可愛らしい見た目、そして今やった犬みたいな声がそうさせたのだろうか。


隊員「...Very pretty」


魔女「え?」


ウルフ「?」


隊員B「...again」


隊員A「That's a bad habit...」


また始まった、落胆の言葉が上がっていた。

しかしその中の意味には、少しばかり安心したかのようなモノを感じる。

完全に調子が戻ったな、とそのような失笑が生まれていた。


隊員「Take a pictureッ! PLEASEッッ!」


魔女「な、なに...怖いよ?」


ウルフ「がるるる...なんかいやな感じ」


隊員「Woooooooooo...Puppy....」


隊員B「Stop...Everybody fears」ドスッ


隊員A「...LOL」


みんな怖がっている、そう隊員Bがツッコミを入れる。

それ同時に脇腹に突き刺さった彼の手刀が隊員の目を覚ます。

この緊迫した状態でふざけている場合ではない、要は怒られている、それなのに隊員Bの顔つきはどこか優しかった。


隊員「...すまん、調子にのってしまった」


魔女「う、うん...」


ウルフ「もうしないでね、知らないことばはなんかこわいから...」


隊員「...それで、待ち合わせは2人のはずだったが、逸れたみたいだな」


魔女「そうね...状況が状況だし、仕方ないわね」


隊員「心配だ、探しに行こう」


魔女「...大丈夫、あの人...強いから」


魔女「それよりもウルフ、どんな状況だったの?」


ウルフ「えっとね、くさい人たちがたくさんいて...気づいたら囲まれてて...」
909 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:00:54.72 ID:mK23oEQG0










「...まだここに、人が残っていましたか」









910 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:03:35.18 ID:mK23oEQG0

────ゾクッ...!

その声は、はるか上空から突然降りてきた。

この世のものとは思えないプレッシャーが、特殊部隊である彼らに注がれる。

ウルフが説明をしている最中だと言うのに、気づけば全員銃を構えていた。


隊員A「Who are you...ッ?」


???「...こちらの言語はわかりません」


隊員「...誰だ、お前は」


魔女「......魔王妃よ、今の現れ方は転移魔法ね?」


魔王妃「おや...なぜ知っているのですか?」


魔女「あの後、閉じかけの転世魔法に突っ込んだのよ」


ウルフ「ガルルルルルルルル...ッ!」


魔王妃「...なるほど、2人は魔物のようですね」


隊員「...なにを言っているんだ? 君たちは...日本人じゃないのか...?」


魔女「...ごめん、そのにほんじんってのがよくわからないし...説明している余裕はないわ」


魔女「それよりも下がって...本当に危険よ」


話に全くついていけない男が3人。

ただ、照準を彼女に合わせることしかできない。

続々と生まれる不可思議な単語や、浮遊している魔王妃。


隊員A「Be in a dream...」


隊員B「...」


隊員「なにが起きているんだ...?」


魔王妃「────"地魔法"」


──メキメキメキッ!

5人の足元の地面が、魔王妃の放つ魔法によって変異する。

まるで大地が襲いかかってきている、そうとしか比喩できない現象。


隊員B「────WHAT'Sッ!?」


魔女「──"雷魔法"」


────バチンッ!

魔法陣から生まれたその雷は、大地を抉る。

下位属性の相性、優劣は後出しのほうが有利である。

大地の変化に驚いている間に生まれた新たな変化に、彼らの情報処理速度は追いつけない。
911 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:06:56.99 ID:mK23oEQG0

隊員「────止まったッ!?」


ウルフ「──ッッ!」スチャッ


──ダンッ ダンッ!

そしてようやく、彼らの思考は定まる。

その聞き慣れた銃の音、自分たちのやることは1つ。


隊員A「────FOLLOW HERッッ!」


隊員B「...ッ!」スチャ


────ズドンッ!

いち早く発砲できたのは、Bだった。

その強烈な速度の一撃をあのオカルト地味た彼女に被弾させる。


魔王妃「──うっ...!?」


隊員A「──Did that workッ!?」


魔王妃「なかなかの威力ですね...でも、致命傷にはなりませんね」


隊員B「────NOT WORKEDッ!」


今まで弾丸を簡単に貫かせてきた魔物とは違う。

圧倒的な硬度を誇る彼女の肌に、ライフル弾は弾かれてしまっていた。

魔を統べる王の妻、その実力が伺える。


魔王妻「御返しです..."風魔法"」


──ヒュンッ...!

風切り音が響く、ソレはまるでライフルの射撃音のような鋭さであった。

人間にその音を伴う速度のモノを避けることができるであろうか。


隊員「──LOOK OUTッッ!」


────ドカッ...!

まるで鉄にぶつかったかのような鈍い音。

先程の鋭い風から繰り出される代物ではない、隊員Bの腹部に激しい激痛が生まれる。


隊員B「──ッ...Bitchッ!」


魔女「下がっててっ! あいつの魔法は人間には厳しすぎるわよっ!」


隊員「──Get back!」


隊員B「U...Understand...ッ」


隊員A「Stay with me...」


今まで感じたことのない痛みに耐えきれず、彼は言われたとおりに後方へと下がった。

銃で撃たれたほうがマシだったかもしれない、歩行が困難なのを察知して隊員Aが彼に付きそう。
912 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:08:43.66 ID:mK23oEQG0

隊員「さっき...魔法と言ったな?」


魔女「...ええ、そうよ...あの魔王妃が...私が出したのは魔法よ」


隊員「...なるほどな、とんだJokeだな」


魔女(じょーく...)


向こうの世界で、隊長が魔王子に向かって使った言葉。

愛しの彼の言葉を忘れる彼女ではなかった、その皮肉を受け取れてしまう。


魔女「...悪いけど、冗談に思える?」


隊員「...思えないさ、この目で...見てしまったのだから」


隊員「簡単に...簡単にこの状況を説明できないか?」


魔女「...いいわ、魔王妃がいつ動くかわからないから絶対に鵜呑みにして」


魔王妃はまだこちらの様子を伺っている。

口の動きすらない、魔法を唱えることすらしていない。

ならば余裕のある今しかない。


魔女「私とウルフ、そしてあそこにいる魔王妃は別世界から来たの」


魔女「魔王妃は、向こうの世界の悪い王様の奥さんよ」


魔女「彼女の目的は、この世界の侵略...私たちはソレを食い止めるために彼女を追ってここにいるの」


隊員「...なぜそんなことを、君たちがこの世界を守ろうとしてくれるのは助かる」


隊員「だけど...メリットがないぞ...なにを理由にこの世界を?」


魔女「それは...さっき待ち合わせをしている人がもう1人いるって言ったわよね」


魔女「...実はその人は...元々この世界にいた人だったの」


隊員「──なに?」ピクッ


鼓動が少しばかり、早くなっていた。

確証がない、だけどもしかしたらそうかもしれない。

もしそうだとしたら、探しても見つからないわけだ。


魔女「その人はね...キャ────」


彼の名前を言おうとした瞬間、視界に捉えた。

魔王妻の口元が動いている、つまりはなにかを仕掛けてくる、だがそうではなかった。
913 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:09:58.21 ID:mK23oEQG0

魔女(──魔法...いや、これは詠唱じゃないわね...)


魔王妃「...この世界の住民は、なかなかにしぶといですね」


魔王妃「私が墓地から死者を蘇らせ、市街地を襲撃させているというのに」


魔王妃「先程様子を見るために赴きましたが...まだ攻め落とせていませんでした」


隊員「やはり...あのZombieはお前の仕業だったのか」


魔女「...一体どうやって死者を蘇らせたの、そんな魔法なんて聞いたことないわよ」


魔王妃「...言葉を間違えましたね、厳密に言えば蘇らせてはいません」


魔王妃「私は土葬されていた死体を...媒体にしたに過ぎません」


魔女「...媒体ですって?」


隊員「墓の掘り起こしとは趣味が悪いな...」


どのような魔法を使えば、あのような芸当ができるのか。

ある1つの可能性が魔女の頭を冴えさせる。

彼と一番初めに対峙した時、あの知性のない奴が使っていた魔法。


魔女「...使い魔召喚魔法ね?」


魔王妃「正解です、よくお気づきで」


魔女「...氷竜がやってなければ気づけなかったわ」


隊員「それは...どういう魔法なんだ?」


魔女「...なにかを媒体として、文字通り使い魔を生み出す魔法よ」


魔女「私が見たことあるのは、トカゲを利用したモノだけど...」


隊員「...つまり、死体を利用して手駒を増やしたというわけか?」


魔女「その解釈で間違いないわ」


魔王妃「しかし困ったものですね...まさかここまでとは」


死者はすでに多数でている、だが予想を遥かに下回る数。

なぜここまで被害が抑えられているのか。

彼女は知らなかった、この国で所持を許されているあの武器を。
914 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:11:27.79 ID:mK23oEQG0

隊員「...悪いが我が国民はこういった現象に慣れている」


魔女「え...? 何度もこのような出来事が起きてるの?」


隊員「いや、経験による慣れではない...何度も模擬されてきたんだ」


隊員「このようなB級な出来事には、これしかないってな」スチャ


彼が構えたのは、アサルトライフル。

そして耳をすませば聞こえる、銃火器の音。

特殊部隊だけではない、民間人ですらゾンビを処理できている。


魔王妃「...蘇らせたところで、所詮は人ですね...耐久力に難があります」


魔女「そうか、この武器は...この世界じゃかなり流通しているのねっ!?」


隊員「あぁそうだ、まぁそれが問題として挙げられることもあるんだがな...」


ウルフ「...?」ピクッ


────ズンッ...

会話に参加せずに、ずっとハンドガンを構えていたウルフ。

彼女が始めに気づけた、その違和感に。


魔王妃「魔力で強化したところで、身体は腐っています...その武器の前じゃ駄目みたいですね」


魔王妃「遠距離からその武器で攻撃されては...手も足もだせません...」


魔女「...魔法は? 氷竜の使い魔は魔法を使っていたけれど...?」


魔王妃「そうなんです...そこが難点でした」


魔王妃「あの子が媒体としたのは唯のトカゲではありません...一応魔物に属するトカゲです」


魔王妃「だから言葉を理解し話せる...でも死者は違います」


魔女「...そうか、発声できないのね...身体が朽ち果てているから」


魔王妃「...たとえ話せる状態だとしても、詠唱に必要な私たちの世界の言語が喋れません」


魔王妃「だから、この世界で使い魔召喚魔法を展開させるのはあまり得策ではありませんね」


被害が少ないのは、言語の壁。

もし向こうの世界の言葉が英語だとしたら。

まるで仕組まれたようなこの状況に助けられていた。
915 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:12:55.42 ID:mK23oEQG0

隊員「...だが、もうすでに死者は出てしまっている」


隊員「それは許されることではない...覚悟しろよ?」


隊員(...裁判にかける時は、どのような罪状が適用されるんだろうか)


魔王妃「...私がなぜここから離れたかわかりますか?」


ウルフ「...まただ」ピクッ


──ズンッ...

音が近づいてきているような。

それよりも隊員と魔女が気にしているのは、魔王妃の問いであった。


魔女「...また、死者を蘇らせたとか?」


隊員「手駒を増やしたところで、大した驚異ではないぞ」


魔王妃「確かに、動く死体を増やしたところで意味はないですね」


魔王妃「...現に、ほぼすべての使い魔が処理されていました」


魔力で蘇ったとしても、先程彼女が言ったように所詮は人間。

人類最速の男が媒体となったとしても、簡単に射殺ができてしまう。

ならば魔力を注ぐべきなのは違うモノに。


魔女「...なに? やる気?」


魔王妃「えぇ、あなたたちには私と闘ってもらうます」


魔王妃「ですが...市街地には"別の子"に襲わせることにしました」


隊員「...別の子だと?」


ウルフ「...近づいてきてるよッ!」


────ズンッ...!

ウルフが吠えると同時に、ようやく気づけた。

まるで地鳴りのようなその足音に。


隊員「...なにをした、なにをしやがった...?」


魔女「...嫌な音ね、聞き覚えがあるわ」


魔王妃「この世界にも...この種族がいるとは驚きでしたね...もう絶滅してしまったみたいですけど」


隊員「絶滅...? まさか...ッ!?」


──ズンッ...!

視界に現れたのは、偉大なる大きさを誇る巨体。

過去に覇者として君臨していたドラゴン。
916 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:14:20.46 ID:mK23oEQG0

魔王妃「...ありがとうございます、保存状態がよかったので肉体はおまけしておきました」


魔王妃「死体は便利ですね...腐りかけでも...骨だけでも使い魔として利用できますから」


魔女「...この世界にもドラゴンがいたとはね」


隊員「あれはDragonじゃない...」


蘇る最大級の肉食獣、暴君の大トカゲ。

ゾンビなどとはケタが違う、その皮膚の硬度の前には並の銃器じゃ致命傷を与えられない。

今度ばかりは被害が拡大する、厄災の竜がそこにいた。


隊員「────T-REX...ッ!?」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッッ!!」


ウルフ「う、うわ...っ!」


魔女「...見ただけでわかるわ、これが街なかで暴れたら酷いことになるって」


隊員「あぁ...コイツの出現も模擬されてきたが...有効手段などない」


隊員「少なくとも俺のみた映画の中じゃ、眠らせて隔離することしかできなかった」


魔女「...まずいわね、ここで食い止めなきゃ」


魔王妃「別に、食い止めてもいいのですが...もう遅いですね」


魔女「...なにがよ」


魔王妃「分身魔法...と、言えばわかりますかね?」


言葉の真意を知らなくても、わかってしまう。

あの巨体を分身させたというならば、彼女の言う通りもう手遅れだ。


隊員「──Shit mother fuck...」


魔女「...っ! やってくれたわね...」


魔王妃「...どういたしまして、さぁ行きなさい」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


──ズンッ...! ズンッ...!

誰もあの怪物を止めようとすることができなかった。

たった1匹を仕留めたところで、状況がよくなるわけではない。

魔女も隊員も、ウルフも、その後ろで様子を見ていた隊員ABもただ見送ることしかできなかった。


魔王妃「さて...やりますか」


──ゾクッ...!

先程、あの大トカゲを見送った真の要因が露となる。

彼女から醸し出されるその圧倒的な殺気、ソレを他所にT-REXとの戦闘を行えるわけがなかった。
917 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:15:55.51 ID:mK23oEQG0

隊員「...君も魔法を使えるんだよな?」


魔女「それなりに強い魔法を使えるわ...でも...」


魔女「...アイツには敵わないわ」


肌で感じる魔力量の差。

どう考えても、魔王妃のほうが格上。

しかしやらなければならない、この世界を、彼が生まれた世界を守るために。


ウルフ「魔女ちゃん、どうするの?」


魔女「えっとね...試したい魔法があるの、けど詠唱に時間がかかるわ」


隊員「...何分あればいい?」


魔女「ごめんなさい...わからないわ、初めてやろうとするから見当がつかないわ」スッ


彼女が取り出したのは、本であった。

先程隊長の家で暇つぶしのために読んでいた本。

向こうの世界で、少女が眠っていたあの小部屋にあったモノだ。


隊員「わかった...なんとしても時間を稼ぐ」


隊員「様子を見たところ、ライフル弾ですら有効手段ではない...君の魔法に賭けるしかない」


隊員「...君、援護をしてくれ」


ウルフ「わかったっ! あとウルフってよんで!」


魔女「自己紹介がまだだったわね...私は魔女と呼んで」


簡易的な自己紹介が終わると、魔女が下がり隊員とウルフが前にでる。

その手に持つ銃器で時間を稼ぐしかない。


魔王妃「さぁ、行きますよ..."炎魔法"」


──ゴォォォォォォォオオッッ!

早速繰り出されたのは炎の魔法。

炎帝のモノと比べればやや火力が足りない。

しかし、それでも人を焦がすのには十分な威力である。


ウルフ「────...ッ!」スチャ


──ダンッ! ダンッ!

炎の有効範囲を瞬時に見極め、安置へと身を置く。

そしてそこから放たれる隙のない射撃。
918 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:17:31.71 ID:mK23oEQG0

隊員「──しまった...ッ!?」


しかし彼にはできなかった。

特殊部隊の訓練の中に、巨大な火炎放射に関するモノなどない。

経験の無さが故、彼は対処をできずにいた。


魔女「────"風魔法"っ!」


──ヒュンッ...!

大雑把で鈍い風が彼の背中から通り過ぎていく。

その風が彼に迫る炎の一部を押し戻し、わずかな安置を作ってくれていた。


魔女「気をつけて、次は助ける余裕はないわよっ!」


ウルフ「次はついてきてっ! 魔法がこないところをおしえるからっ!」


隊員「申し訳ないッ! そして有難うッ!」


隊員(彼女の為に時間を稼がなければいけないというのに...足を引っ張ってどうするッ!?)


魔王妃「..."水魔法"」


ここは女神像近く、当然その周囲には海が存在している。

彼女の魔力がソレと伴い、巨大なモノに仕上がっている。

大きさだけなら水帝の水魔法と肩を並べられるだろう。


隊員「──冗談だろッ!?」


ウルフ「う...どこにもないっ!?」


彼女の野生が伝える、この水魔法に死角などない。

ならばやれることは1つしかない。

詠唱は終わっている、ならばこの水の塊を操る者の邪魔をするしかない。


隊員「────撃てッッ!!」スチャ


ウルフ「────ッ!」スチャ


──バババババッッ! バババッ!

──ダンッ! ダダンッ!

2種類の銃声が魔王妃を捉えた、捉えただけであった。


魔王妃「──"防御魔法"」


虚しくもその2つの銃声は通用しなかった。

彼女の展開した魔法が銃弾を弾く。

まるでなにもなかったかのように、彼女は水を操作し続ける。
919 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:18:55.78 ID:mK23oEQG0

魔女(──詠唱を中断して助けなきゃ)


────ズドンッ!

魔女が動こうとした瞬間、鋭い音が響いた。

隊員とウルフが持っている銃よりも、かなり威力のある代物。


魔王妃「────うっ...!?」


隊員B「...Get stopped bitch」


──パリンッ...!

なにかが割れた音というよりか、なにかが貫かれた音だった。

魔王妃の周りに展開している魔法が徐々に貫かれた箇所からひび割れていく。

使用した銃弾の大きさが決定打だった。


魔王妃「...致命傷にはなりませんが、もう喰らわないほうがいいですね」


血は出ていない、おそらく何十発被弾させたところで仕留めることができない。

しかしそれでいて怯ませるだけなら十分な威力であった。

巨大な水を操作するという集中力が必要な作業、痛みを受ければその作業は途切れる。


ウルフ「──こっちっ! はしってっ!」


隊員「──UNDERSTANDッ!!」


そして生まれるのは、死角。

彼女の異常なまでの嗅覚が死の概念を捉えていた。

あそこまで逃げれば、殺されずに済むであろう。


隊員「──うわッ!?」


──バッッッッッシャァァァァァァァンッ!

水風船が弾けたような音、その規模はソレの比ではない。

まるで水系のアトラクションみたいなその光景。

冷たい海水が、彼の頭を冷やし現実味を産ませていた。


ウルフ「...しょっぱい」


隊員「あれが直撃していたと思うと...恐いな」


隊員B「...Are you okay?」


隊員「Yup...」


水の出来事に思わず尻もちをついていた。

その様子を見かねて隊員Bは近寄って手を差し伸べてくれた。

よく見ると、彼の手は震えていた。
920 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:20:09.48 ID:mK23oEQG0

隊員(まだ、痛みは完全に引いていないみたいだな)


隊員(それとも...この夢のような出来事に緊張しているのか...)


隊員(...これは言葉にしないほうが良さそうだ...隊員Bのためにも)


魔王妃「..."雷魔法"」


ウルフ「────!!!!」


彼女の野生のみが感じ取れる死の概念。

狙いはこの面識のない男の人、先程の水魔法ような威圧を兼ねたものではない。

即効性の、殺害することを優先とした隠密じみた稲妻。


ウルフ「──どいてッッ!!!」ドンッ


隊員B「────What the」


────バチッ!

風帝よりかは劣り、魔女のモノよりは優位である。

そのような威力の雷が突如襲いかかってきていた。

そのことに気づけたのはウルフだけ、彼女がとった行動は1つ。


ウルフ「──うぐっ...げほっ...」


隊員「──身代わり...ッ!?」


魔女「...っ!」


魔女(...だめ、助けに行けない...あと少しで終わるから...耐えてっ!)


魔王妻「よく気づけましたね...」


隊員B「...BITCH ASSッッ!!」


言葉が通じなくても、彼が彼女にされてしまったことは伝わっていた。

例え異世界の未曾有の生物だとしても、見た目は女の子。

そんなことをされてしまったら特殊部隊の面目がつかない。


隊員B「──EAT THISッッ!」スチャ


魔王妃「それはもう避けさせてもらいます」


──ズドンッ! ズドンッ!

冷静さを欠いた、精度の悪いライフルの連射。

ソレも相まってか、この手の攻撃を受けないことに決めた魔王妻の前では無力であった。

目では捉えられない速度であっても、簡単に避けられてしまっていた。
921 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:21:28.50 ID:mK23oEQG0

隊員「続けッ! ウルフは撃てるかッ!?」


ウルフ「うぅ...がんばる...っ!」


そして続く、アサルトライフルとハンドガンの音。

だがそれも虚しく、防御魔法に守れていない素肌の状態でも怯ませることができない。

火力不足、もう少し口径の大きな銃器が必要。


魔女(お願い...もう少しだから...)


魔女(なにも起こらないで...っ!!)


その願いも虚しく、叶わぬものとなった。

魔界を統べる王の妻、そのような実力者が大きな時間を与えてくれるだろうか。

そんなことはあり得なかった。


魔王妃「..."炎魔法"」


怒りの炎、紅色に染まった魔法が展開する。

先程のモノより遥かに魔力が込められている、一目瞭然であった。

単純な威力だけなら炎帝と同等かもしれない。


隊員「...さっきのとはまるで別物だぞ」


ウルフ「...ッ!」


隊員B「...Oh my GOD」


魔女「...」


4人の顔色は、絶望そのもの。

山火事レベルのその炎の規模に死角などない。

このままなにもできなければ、そのまま焼き殺されるであろう。


隊員「...Where is he?」


隊員B「Connect...」


この場にいない、彼は一体何をしているのだろうか。

無残にも殺害された、この場に居た特殊部隊が残した車両。

そこに搭載されている高精度な通信機器を操作していた。


〜〜〜〜
922 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:22:47.92 ID:mK23oEQG0

〜〜〜〜


隊員A「...」


様子から察するに、既に通信は終えていた。

現状の出来事をすべて本部に伝えた。

ゾンビだけではない、恐竜や魔法使いが現れていると。


隊員A「...Trust me」


あとはどの程度まで信じてもらえているのか。

祈るしかなかった、鵜呑みをしてもらわなくては確実に被害が拡大する。

未だにゾンビですら半信半疑、たとえ動画を送っても迅速な対処をしてくれないだろう。


隊員A「Got to go...」


行かなくては、今は隊員たちが魔王妃と交戦しているに違いない。

自分もそこに加わり戦力として介入しなければ。

通信を終え、車の扉を開こうとした瞬間であった。


隊員A「...Zombies?」ピクッ


──ザッ...ザッ...!

足音が聞こえる、人数は1人。

不意打ちをされない限り、例えゾンビだとしても簡単に処理できる。

目標が徐々に近寄ってくる、隊員Aは息を潜めタイミングを測る。


隊員A「────What...ッ!?」


ドアガラス越しに見えたその人物。

予想外の出来事に思わず声を荒げてしまっていた。

見間違えでなければもう1人。


〜〜〜〜


〜〜〜〜


魔王妃「...おしまいですね」


巨大な炎が迫る、消火器を使っても鎮火させることはもう不可能。

急激な気温の変化からか、隊員たちの顔には汗が流れる。


魔女「...」ブツブツ


それでも彼女は詠唱を続ける、まだ諦めていない。

何を信じて、誰を信じてここまでやれているのか。

その様子を見た隊員はそう疑問した。
923 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:25:50.66 ID:mK23oEQG0

隊員「...おしまいだな」


ウルフ「まだあきらめないで...ッ!」


隊員「いや...これはもう無理だ...たとえHurricaneが消えてもこの炎が収まる気がしない」


ウルフ「魔女ちゃんは...まだあきらめてないよッ!」


隊員「だがなぁ...」


隊員B「That's impossible...」


彼らの職業は特殊部隊、死と隣り合わせの仕事だ。

だから慣れてしまっている、慣れてなければいけない。

人一倍に死への抵抗感が薄れている、だから故の諦めの速さであった。


隊員「...最後に、もう一度会いたかったです」


ぽつりと漏らしたその言葉。

それと同時に聞こえたのは、背後からの足音。

そして今まで聞いたことのない、謎の擬音。


魔王妃「────な...っ!?」


──ババババババ■■■ッッ...!

アサルトライフルの音に、黒いなにかが纏わりついている。

気づけばウルフの顔は満面の笑みに、気づけば魔女の顔は安著の表情に。


ウルフ「────ご主人っ!」


魔女「...っ!」


詠唱を途切れさせない為に、魔女は目線だけを彼に送った。

ようやく登場してくれたこの男は、彼らに言葉を告げる。
924 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:26:33.37 ID:mK23oEQG0









「"I'll be back"...だな」









925 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:27:25.75 ID:mK23oEQG0

その有名すぎる言葉に反応できるのはこの国民だけであった。

振り返ればそこには、今まで見ることのできなかった彼がそこに居た。

よく見れば2人いる、だがそんなことはどうでもよかった。


隊員「────CAPTAINッッ!?」


隊員B「──CAPTAINッ! WHERE HAVE YOU BEENッ!?」


隊長「Not now...」


再開の会話も後ほどに、今は状況の打破が最優先。

だがしかし、もうやれることなどなかった。

先程の弾幕に付着した黒が炎を鎮火させていた。


隊員「な、なんで...ッ!?」


隊長「...そうか、隊員は日本語が喋れるんだったな」


魔王妃「なんで...あなたのような人間が闇を使用しているのですか...っ!?」


なぜ彼が闇を扱えているのか。

疑問しかなかった、そもそも魔力を持っていないというのに。

しかしすぐに解決することができた、彼のすぐ後ろの人物が証拠であった。


ドッペル「...俺が力を与えているからな」スッ


隊長「...そういうことだ」


魔王妃「────ドッペルゲンガー...っ!」


ウルフ「うぅ...もう1人のご主人...なんかいや」


隊長「嫌われているぞ、当然だな」


ドッペル「...まぁいい、ともかくあの女をとっとと仕留めたほうがいい」


ドッペル「なぜだかわからんが、殺意を向けられている」


隊長「...俺からすれば、お前など殺されてもいいんだが」


ドッペル「冷たいな、力を貸していなければどうなっていたことやら」


隊長「あぁ、そこは感謝している」


魔王妃「...目障りですね、その"屑"魔物」


意外な言葉であった。

侵略者ながらも、比較的丁寧な口調をしていた魔王妻。

たった今放った言葉にはとてつもない穢れが含まれていた。
926 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:28:43.04 ID:mK23oEQG0

ドッペル「...嫌われすぎてないか?」


隊長「俺もお前が嫌いだ」


ドッペル「そんなことはわかっている...だが、俺はあの女に悪さなどした覚えはないぞ...」


魔王妃「黙れ...お前たちのせいで...っ!」


ドッペル「どうやら、俺以外のドッペルゲンガーがヤラかしたようだな」


隊長「...今お前に死なれては困る、下がってろ」


ドッペル「あぁ、戻らせてもらうさ...面白い世界を見れた礼だ、今回は丁重に貸してやろう」


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


そう言うと、黒い影が隊長の身体に入り込む。

それと同時に彼に纏わりつくのは闇、それも優しく。

少女戦の時みたいな傷は生まれていない、ドッペルゲンガーは本当に丁重に扱っている。


魔王妃「...あなたもドッペルゲンガーなど好んでいないはずです」


魔王妃「悪いことは言いません、あの屑を差し出せば呪縛から開放してあげますよ」


隊長「...それはできない、悔しいが奴がいなければお前に太刀打ちできない」


魔王妃「愚かな...ならばその身ごと滅ぼして差し上げます...」


魔王妃「..."属性同化"────」


そのとき、ある違和感が生まれた。

属性同化という言葉が、かぶって聞こえたような。

まるで誰かが、同じタイミングで同じ魔法を唱えたかのような。


魔女「──"属性同化"、"雷"...ってね」


────バチッ...!

小規模な雷がある特定箇所で生まれる。

そこは毛に覆われた、ある女性の右手だった。


ウルフ「うわっ!?」


魔女「ごめん、私の魔力じゃ片手が限界だった...でも、ちゃんと使えると思うわ」


魔王妃「...馬鹿な、属性同化はある人間と側近が創り出した魔法のはずです」


魔王妃「なぜあなたのような子が...っ!?」


魔女「悪いわね、幼い頃から手癖がわるいのよね...これよ」スッ


狼狽にも近い状況であった、魔王妃が投げかける問いに魔女は答える。

彼女が取り出したのは本であった、この本はあの時に持ち出した例のモノ。
927 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:29:48.47 ID:mK23oEQG0

魔女「...手書きの教本、ありがたく頂戴したわ」


魔王妃「──この性悪女ぁ...っ」


ウルフ「────ガウッッ!!」スッ


─────バチンッッ...!

ウルフが虚空に向かって、右の拳を突き出す。

その方向の先には魔王妃が、そして空振りの掌打は稲妻を光らせる。

銃弾とは別物の痛みが、内部から染み渡るその痺れが思わず顔を曇らせる。


魔王妃「──ぐっ..."転移魔法"」


モロに受けてしまった雷に堪えながらも、逃げの魔法を唱えた。

専売特許であると思いこんでいた属性同化。

そして想定外の闇魔法を確認、一度引くべきであった。


ウルフ「...逃げられた」


魔女「そうね、どいつもこいつも早口が得意ね」


隊長「...すごいな、そんな魔法もあるのか」


魔女「そうみたいね...初めて見たし...初めて聞いたわ」


魔女「側近とかいう人の、マメさに感謝ね」


隊長「...しかし、ウルフの腕は大丈夫なのか?」


ウルフ「うーん、痛くはないけど...へんな感じがするよ」


魔女「...ぶっつけ本番だけど、大丈夫そうね」


隊長「みたいだな、まぁ体調に変化があったらすぐ言うんだぞ?」


ウルフ「わかったぁっ!」


魔女「まぁ...これでウルフの得意な近接格闘が遠距離格闘に化けたわね、右手だけだけど」


再会の挨拶もなしに雑談が進む。

それほどに魔女は隊長のことを信頼している証であった。

そんな中、ようやく部下である3人が介入する。
928 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:30:59.80 ID:mK23oEQG0

隊長「...Long time no see」


隊員「日本語でいいですよ...その子たちにも伝わりますし」


隊長「だが...2人は日本語を話せないぞ」


隊員ABは携帯端末を取り出し、そしてなんらかのアプリを起動した模様。

彼らはその端末に向けて英語を投げかける、そして聞こえてくるのは機械的な女性の音声。


隊員A「コレデダイジョウブ?」カチッ


隊員B「...マイクノレンシュウ」カチッ


魔女「うわっ、ガタイのいい男が出す声じゃないわね...」


ウルフ「なんかやだ」


隊員「...我慢してくれ」


隊長「技術の進歩に感謝だな、自動翻訳というのはここまで性能が上がったか」


そして、日本語で話す隊長に向かって端末を向ける。

そこから聞こえてくるのは英語であった。

とてつもなくシュールな画がそこにはあった。


隊員「...募る話はありますが、まずは無事を確認できてよかったです」


隊長「あぁ...とてつもなく迷惑をかけただろうな...申し訳ない」


隊員「いえ...それで本題なのですが...」


隊長「...いままでどこにいたか、だろ?」


隊員「はい...ですがその子たちが教えてくれました」


隊長「...話の通りだ、俺は異世界にとばされていた」


隊員「信じられないです...が、現に魔法をこの目で見ましたから信じるしかないです」


隊長「あぁ、信じてもらえて助かる...」


隊員「...」


隊員A「...」


隊員B「...」


ようやくの再開、そして余裕のある時間。

それだというのに投げかけたい言葉がありすぎた。

言葉に詰まる異世界の人間たち、そんな中ある魔物が沈黙を破った。
929 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:32:12.71 ID:mK23oEQG0

ドッペル「一度、付与を解除してもいいか?」


隊長「...あぁ、そうだったな...頼む」


隊長の周りに展開していた闇が消え失せる。

そして現れたのは、全く同じ見た目をした魔物。

身体の色、というよりも全体的に影のような色をした彼がそこにいた。


魔女「あなたが...あんたがドッペルゲンガーね?」


ドッペル「あぁ、そうだとも」


魔女「...ムカつくぐらい似てるわね」


ドッペル「お褒めの言葉をありがとう」


魔女「褒めてないわよ...虫唾が走るからその顔あんまり見せないで...」


魔女「あんたが、私の大切な人の身体を使って傷だらけにしたり...私を殺そうとしたのを覚えているんだから」


魔女「ねぇ、隊員...さん、こっちの世界の言葉で"失せろ"ってどう言うの?」


隊員「..."Fuck you"だな」


魔女「そう...ふぁっくゆ────」


魔女がとてつもなく汚い言葉をドッペルに投げかけている。

その間にも隊長はウルフの右手に再度注目する、視線を感じ取った彼女は拳を突き出した。


ウルフ「なんか、バチバチしてるね!」


隊長「あぁ、すごいな」


隊員A「コレハナンデスカ?」カチッ


隊員B「...キニナリマス」カチッ


隊長「なんだろうな...魔法なのはわかるが、どういうモノなのか」


魔女「...あぁ、それね...この本を見て」サッ


取り出したのは先程魔王妻の動揺を誘った代物。

本の中身は手書きの言葉の羅列が記されていた、よく見るとそこには研究結果が。
930 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:34:58.54 ID:mK23oEQG0

魔女「どうやら、側近と研究者がこの属性同化という魔法を創ったみたいね」


隊員「魔法って創れるんですね...」


隊長「あぁ、そうみたいだな...ちなみに研究者ってのは────」


隊員「...え?」


そこにいた隊員たち3名が度肝を抜かれる、隊長が発したのは研究者という男の本名。

向こうの世界での名前ではなく、こちらの世界での名前であった。


隊長「どうやら向こうの世界に滞在していたらしい...見つからないわけだな」


ドッペル「...あぁ、俺が殺した奴か」


魔女「そうね、それで...この属性同化だけども」


隊員(...戻さずに先程の詳細を聴きたいんですが、無粋ですかね)


魔女「下位属性の属性付与を身体に纏うと、どうなるかはわかるわよね?」


隊長「あぁ...魔剣士が言ってたな、炎を纏えば身体がやけどしてしまうなど被害が生まれる...だっけか?」


魔女「そうね...それでこれは、どうやらそれを改善するために創られたみたい」


隊長「...身体自体を炎にしてしまえば、やけどする心配などないということか」


魔女「そういうこと」


隊長「なるほど...それを魔女は使えるようになったのか」


魔女「...そうだけど、まだ詠唱に慣れないわ...発動させるのに数分はかかるわね」


魔女「それに...魔王妃もこの魔法を使おうとしてた...私よりも詠唱も早くに...あまり期待しないほうがいいわ」


隊長「だがこれでウルフの攻撃射程が伸びた、それだけでも十分だ」


魔女「...そうね、それじゃ人探しをしましょうか」


隊長「あぁ、早く魔王妃を探そう...被害が拡大するのは明白だ」


魔女「ウルフ、匂いで居場所を突き止められない?」


ウルフ「...うーん、いろいろな匂いがまざってむりかも...」


隊長「...参ったな」


隊員「Captain、居場所の特定なら簡単ですよ」スッ


そう言うと彼は端末を取り出し、あるアプリを起動させる。

この発想は隊長には無理、比較的若者だからこそ可能なモノであった。

隊員は画面を確認し、確信する。


〜〜〜〜
931 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/23(日) 23:36:54.94 ID:mK23oEQG0
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
932 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/12/23(日) 23:40:15.94 ID:811SSYKm0
933 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:07:24.97 ID:XUuL3A850

〜〜〜〜


魔王妃「...誤算でした」


ぽつりと呟く、独り言をしてしまうほどに追い詰められていた。

身体に残る痺れ、そして久方ぶりに我が身に向かってきた闇。

完全に想定外の出来事が起きていた。


魔王妃「困りました...街への侵攻はある程度順調なのですが...」


彼女が今いる場所はどこかの街中の宙。

そしてそこには、使い魔として生み出したゾンビやT-REXが跋扈する。

ここには抵抗する者などいない、殺戮の跡地であった。


魔王妃「...早く、炙り出さないと」


魔王妃「どこにいるのですか..."あの子"は...」


魔王妃「いえ...もう...本物の"あの子"などいない...」


魔王妃「...」


そこにあったのは怒りの表情なのか。

それとも悲しみの表情なのか、絶妙な顔つきをしていた。

まるで、なにか理由があってこの世界を襲撃しているような。


魔王妃「...随分と早いですね」


そして地上に投げかけたのはこの言葉であった。

聞いたことのない、機械の鼓動のあとに続くのは扉の開閉音。


隊員「...Jackpotだ、大当たり」


隊長「善良なる市民の、情報提供に感謝しなければな」


魔女「...」ブツブツ


ウルフ「がるるる...もう逃さないよっ!」


魔王妃「...どうやって、私の居場所を?」


ただただ疑問であった。

魔力を頼りに探したとしても早すぎる。

はじめから居場所がわかっていなければこの捜索速度は不可能。


隊長「...この世界は監視社会と化している、お前のような派手な女はすぐに特定できる」


隊員「SNS...といっても伝わりませんね...ともかく、情報を提供してくれた市民がたくさんいる」スチャ


端末をしまいアサルトライフルを構える、彼が直前までみていたのはSNSであった。

このような世紀末のような出来事、そして浮遊する女がいればどうなるか。

画像投稿され、多量に情報が拡散されるのは間違いなかった。
934 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:09:03.24 ID:XUuL3A850

魔王妃「...どうやら、撤退は不可能みたいですね」


魔王妃「ならば...応戦するまでです...」


その言葉を待ってかのように、2人が魔法を唱え終えた。

1人は獣の子に、もう1人は同じ見た目をした男に。

稲光する右手と黒に包まれる身体。


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


魔女「────"属性同化"、"雷"」


そしてそれに続く、高速詠唱。

魔女が数分もかかると謳う魔法をものの数秒で発動させる。

彼女の身体が冷気に包まれる。


魔王妃「────"属性同化"、"氷"...」


────パキパキパキッ...!

魔女のモノとは違い、魔王妃の同化は全身に及ぶものであった。

その余波であたりにある摩天楼の低階層が凍てつき始める。


隊長「俺とウルフが前にでるッ! 魔女と隊員は後方を頼むッ!」


ウルフ「──ガウッ!」


魔女「わかったわっ!」


隊員「わかりましたッ!! お気をつけてッ!」


ドッペル「...俺は一度隠れておくか、真っ向から狙われるのは勘弁だ」


返事も待たずに、黒い隊長は闇へと消える。

そして先制を仕掛けたのはウルフであった。


ウルフ「────くらえッ!」ブンッ


────バチッ...!

ただの正拳突きが、とてつもない射程を持っている。

意外にもその攻撃はまともに命中する。


魔王妃「くっ...!」


彼女から見ればライフルから射撃される銃弾よりも避けやすいはず。

なにもどうして当たってしまうのか、それは本命が残っているからであった。

存在するだけで抑止力を誇るアレが控えているというのに、こんな粗末な雷を避けている余裕はない。
935 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:10:34.13 ID:XUuL3A850

魔王妃「...くる」


──バババババババ■■■ッッッ!!

これだけは当たる訳にはいかない。

彼女はすでに気づいていた、あの武器は直線状に攻撃をしてくる。

ならば射線にいなければ、雷よりも早いあの攻撃を見切る必要などない。


隊長「──避けた...いや、この武器の性質に気づいたか...」


魔王妃「あぶないですね..."風魔法"」


──ヒュンッ!

殺意のこもった、鋭い風が隊長に向かう。

これが当たったのならば簡単に胴体は真っ二つになるだろう。

まともに当たればの話であった。


ドッペル「やらせると思うか?」


────■■...ッ!

隊長の胴体を包む闇が、向かい風を殺した。

その自動防御とも言える圧倒的な性能。


魔王妃「...やはり、先にドッペルゲンガーを引きずり出して潰すべきですね」


ドッペル「物騒だな、宿主に守ってもらうか」


隊長「...よくもまぁ、そんなことをほざけるな」


魔王妃(...あの人間の武器と、ドッペルゲンガーの相性が良すぎる)


魔王妃(あの発射速度といい、射程といい...遠距離戦では確実にこちらが不利)


魔王妃(かといって肉薄すれば、闇が迫ることは確実...)


魔王妃(...そして先程いた人間の数が足りません、後方に徹しているのは人間が1人と魔物の子が1人)


魔王妃(なにか仕掛けるために、離脱したのでしょうか...)


──バチッ...!

そう考察している間にも、ウルフによる雷が何度も被弾する。

おそらく効果的な負傷を追わせることはできていない、だが問題はそこではなかった。

いかに効き目がないとはいえ、蓄積させれば当然痺れが生まれる、それが例え氷の身体をしていたとしても。
936 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:11:55.85 ID:XUuL3A850

魔王妃(...この雷を避けている暇はない、あの武器を目視するので精一杯)


魔王妃(あまり時間をかけれませんね...ならば──)


──ズンッ...!

主人の危機を察知してか、使い魔が現れる。

その重厚すぎる音、旧世界での生態系の覇者。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」


魔王妃「...頼みましたよ、ドラゴンさん」


ウルフ「うっ...」


その暴君を前にして吠えることのできる狼など存在しない。

野生が野生を威圧する、押し殺すことのできない感情がウルフを襲う。

地帝戦の時のように、魔力薬はもうない。


隊長「ウルフッ!」


魔女「あのドラゴンは私たちに任せてっ!」


隊員「Captainは引き続きあの女をッッ!!」


魔王妃「...さぁ、集まりなさい」


────ガサガサッ...!

なにかモノをどかす音が聞こえる。

まるで歩くために無理やり動かしたような音が。


隊員「────ZOMBIESッ!」


魔女「隊員さんはこいつらを、私があのドラゴンを相手にするわっ!」


隊員「UNDERSTANDッ!!」スチャ


──ババババッッ! ババッ!

的確な判断であった、銃を前にして接近ができるゾンビなどいない。

彼の精密な射撃が続々と集まるゾンビらを射殺していく。


魔女「──"雷魔法"っっ!!」


──バチッ...! バチバチバチバチッ!!

そして魔女から放たれる、一閃の稲妻。

それがあのドラゴンに被弾すると、まるで拡散するかのように雷が展開する。


T-REX「──HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOWLッッ!!」


まるで、狼の遠吠えのような轟音であった。

少なくとも苦しんでいる、当然だった。

雷が怖くない動物など存在しない。
937 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:13:26.10 ID:XUuL3A850

隊長「ウルフッ! 魔王妃にだけ集中しろッッ!!」


ウルフ「う、うんっ!」


魔王妃「..."属性同化"、"風"」


氷の身体に風が伴う、そしてそこから生まれるのは吹雪。

冬場の自然現象で最も恐ろしい出来事が起こる。

視界が白く染め上げられる、そして奪われるのはそれだけではなかった。


魔女「嘘っ!? 属性同化を重ねた...っ!?」


隊員「まずい、Whiteout寸前だぞッ!?」


魔女「...視界もそうだけど、風の音が凄まじすぎる...これじゃ意思疎通なんて無理よ」


隊員「だろうな...ここはともかくあの女の周辺にいるCaptainとウルフが危ない」


──バババッ!

──バチバチバチバチッッ!

幸いにも後方に展開していた彼らはそれほど視界と聴覚を奪われずに済んでいた。

ならば戦地の中心へと向かい、助けに行くべきであった。

しかしそのようなことを簡単に許してくれる使い魔などいない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」


ZOMBIE「Ahhhhhhhhhhhhhh...」


魔女「頑丈すぎるわ...怯ませて動きを止めることができても、何度やっても倒れない...っ!」


隊員「こっちは数が多すぎる...処理に追われてそれ以外のことができない...」


攻撃手段の相性は良いはず、どちらとも完封勝利が約束されている。

だがそれは時間をかければの話であった、今はソレを求められていない。

今すぐに必要なのは多少の負傷を覚悟した、速効性の勝利。


隊員「...役割を変えよう、いいか?」


魔女「私もソレ、今思ってたところっ!!」


魔女がゾンビの群れを相手に、隊員が恐竜を相手に。

果たしてどのようなことになるかなど、想像がつかない。

T-REXの硬い皮膚を銃弾で貫けるか、ZOMBIEたちが集まる速度に魔女の魔法や詠唱速度が追いつけるか。


魔女「ねぇ、数秒間私を守ってくれない?」


隊員「いいぞ、そのかわりそれが終わったら数秒間手を貸してくれ」


魔女「話がわかる人ね、じゃあよろしく」
938 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:14:45.76 ID:XUuL3A850

隊員「あぁ...まかせてくれ」スッ


────からんからんっ

彼が取り出したのはピンを抜いた手榴弾。

しかしその見た目は、隊長の持っているモノとは違う。

そしてそこから炸裂するのは爆発ではなかった。


隊員「目を瞑ってろ、眩しいぞ」


魔女「わかったわ」


────カッッッッッ!!

言われたとおり、手で顔を遮る。

するととてつもない輝きが指の隙間から差した。


T-REX「────ッッ!?!?」


ZOMBIE「────ッッ!?!?」


魔女(...眩しいわね、これを直視したら完全に動きがとまるわけね...光魔法みたい)


隊員「ほら、あと3つほどあるぞ」ポイッ


────カッッッ!!

1つで数十秒ほど、相手の視界を奪うことができる。

それが3つもあるというならば、1分近く余裕を貰えることができる。

そんな時間があれば、彼女の魔法の威力がどうなることか。


隊員「...次で最後だ、間に合うか?」ポイッ


────カッッッッッッ!

眩いの閃光はあと1度しか時間を作ることはできない。

できれば大事にとっておきたかったフラッシュバン。

だがこのタイミングで使わなければ、どこで使うのか。


魔女「ありがとう、十分よ...伏せて...」


魔女「────"雷魔法"っっっっ!!」


──バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッ!!

その雷は、360度すべての方向へと放電する。

そのあまりの威力に腐った死体どもは、感電は愚か焦げ付いてしまう。

それどころではない、蒸発寸前の動かぬ死体たちがあたりに転がっていた。
939 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:16:10.48 ID:XUuL3A850

隊員「...君は将来...発電所で働いたほうがいい...いい給料を貰えるぞ」


魔女「そう? こっちで暮らすつもりだからいいかもね」


魔女「それよりも...あのドラゴンはまだ生きているのね」


T-REX「...GRRRRRRRRR」


足元、脛あたりをよく見てみる。

そこにはまるで破裂したかのような赤黒さの中に、黄ばんだ白色が見えていた。

魔女による雷の威力が伺える、だがまだ生きている。


隊員「骨は無事みたいだな、よかった」


魔女「...くるわよっっ!」


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


──ズシンッ...! ズシンッ...!

あの映画で見たシーンを彷彿とさせる。

大怪我を無視してまでこちらに突進をしてくる様は、とても恐ろしかった。


隊員「──注意を逸らせッッッ!!」


先程隊員が言った、数秒間手を借りたいというのはこのことであった。

彼はすでにT-REXの弱点に気がついていた、というよりもわかっていた。

あの硬い皮膚を前に銃弾などまともに効かない可能性がある、ならば確実性を得たかった。


魔女「──"雷魔法"っっ!」


────バチッ...!

その一筋の雷は、暴君には直撃しなかった。

だがその音だけで警戒を誘うことは簡単であった。

たとえ知性がなくても、先程我が身をここまで削った魔法を無視することはあり得なかった。

隊員と魔女に走り向かっていたT-REXは、愚かにも真横に落ちた雷の方角を向いてしまう。


隊員「...Snipe」


──カチッ...

アサルトライフルに備え付けられたセレクティブファイア機能。

隊長がフルオートでのアサルトライフルの扱いに長けている。

隊員Bがスナイパーライフルの扱いに長けている、そして彼はその中間の立ち位置にいた。


隊員「......Fire」


──バッ!

セミオートで発射された、たった1発の銃弾。

過去に女騎士が、光竜に致命傷を与えたあの一撃。

だがこれは偶然ではない、彼の生み出す射撃精度がT-REXの光を奪う。
940 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:17:19.07 ID:XUuL3A850

T-REX「────────ッッッッ!?!?!?」


音にならない悲鳴が発せられる。

身体に見合わぬあの小さな小さな瞳から吹き出すのは赤色。

見るまでもない、射撃は成功の様子だ。


魔女「...目に当てたの? あの小さな目に?」


隊員「当然だ、Captainに教えてもらったからな」


隊員「...ほら、もう片目も貰うからな」


──バッ!

長距離への射撃精度ならば、隊員Bに劣るだろう。

だが彼と隊長は、近距離ならばたとえ激しく動く相手であっても。


T-REX「────ッッッッッ!?!?!?」


隊員「──FOO! Fuck yeah!」


両目から赤き涙が流れてしまう。

とても可哀想な光景でもあり、その一方で致し方のないモノでもある。

一度は絶滅してたというのに、またこの世に戻されてはこの始末。


隊員「...やったかッ!?」


────ズシィィィィィィンッッッ!!

視界を奪われた暴君、その衝撃で遂には倒れ込んでしまう。

そして大きく開かれた口から発せられるのは、もがきのうめき声。


隊員「...あの映画の大ファンだったんだがなぁ」


魔女「これで、このドラゴンはもう動けないわね」


隊員「あぁ、もう立てないだろうな...」


魔女「もう道を塞ぐ使い魔はいないわね...急いで助けに────」


──バコンッ!

遠くから聞こえたというのに、思わず耳を塞ぎたくなる轟音。

その音だけで威力が伺える、そして視界に映ったのは。


隊員「────上を見ろッッ!!」


魔女「──ウルフ...?」


ホワイトアウト現象から飛び出してきたのは、狼の娘。

わずか数秒の出来事、だがそれ故に目で追うことができた。

誰しも異物が空を飛んでいたら、たとえ一瞬であっても視界に捉えることができるだろう。
941 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:18:55.83 ID:XUuL3A850

魔女「...っっ!?」


そして不可視の白の空間から感じる、3つの魔力。

氷、風、そして最後に感知できたのは、爆発の気配。

彼女は同時に3つの同化を行っていた。


魔女「嘘でしょ...いや、それよりも...っ!」


隊員「──私があの子を追うッ! 君はCaptainと急いで合流しろッッ!」


魔女「...わかった、ウルフを頼むわよ」


隊員「あぁ、任せろッッ!!」ダッ


的確な判断であった。

魔女は治癒魔法を唱えることができる、なのでウルフを追うのは彼女の方が良い。

だがそれは地雷であった、例え上記が事実であっても、ある1つの問題点が存在していた。


隊員「ハァッ...ハァッ...!」


特殊部隊の彼が息を切らすほどの全力疾走、歩道に蔓延る雪が足元の調子を悪くする。

闇雲に走っているように見えるこの光景だが、むしろ逆で彼には考えがあって走っている。

彼の持っている土地勘が、ウルフが吹き飛ばされた方角への最短道を割り出していた。

たとえ魔女が魔力を感知したとしても、この迷路じみた合衆国の裏路地を全力疾走できるであろうか。


隊員「...ッ!! GET OUT OF MY WAYッッッ!!」スッ


──バッ! バッ! バッ!

三連のセミオート射撃が、裏路地にはびこるゾンビを射殺する。

これが意味する出来事に彼の足は更に加速する、ここにすらゾンビがいるということは。


隊員(まずい...急がないとZombieに群がられているかもしれない...)


隊員「────FOUNDッッ!!」


全力で走ること数分、ようやくウルフを見つけることができた。

とてつもない距離に吹き飛ばされたというのに身体に目立つ外傷は見当たらない。

その異様感を無理やり納得させ、彼女に近寄った。


隊員(...右手が元通りになっている、効力切れってところか?)


隊員「おい、大丈夫か? 返事ができるか?」


ウルフ「う...げほっ...う、うん...」


隊員「どこが痛む?」


ウルフ「お...おなか...ここにあたった...」


隊員「...服はボロボロになってしまっているが外傷は見当たらない、どうやら内蔵が痛むみたいだな」
942 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:20:13.35 ID:XUuL3A850

ウルフ「こ...ここは?」


隊員「ここはCaptainたちが居るところからかなり離れたところだ」


隊員「...GunShopのようだな、その丈夫すぎる身体で店のガラスを突き破ったみたいだ」


ウルフ「ごめん...な、さい...」


隊員「謝るな、今肩を貸してやる」グイッ


自力で立つことが困難と思われるウルフを、起き上がらせた。

すると彼女のおしりで下敷きにされていたのか、ある武器の弾薬が目に入る。


隊員「これは...」


ウルフ「どうしたの...?」


隊員「いや、少し座って待っててくれ」


そういうと彼はやや歪な形になってしまった弾薬箱を手に取る。

そのパッケージには翼の生えたドラゴンが火を吹いているイラストが描かれていた。

それが何を意味するのか、隊員にはわかっていた。


ウルフ「...」ジー


彼が何かをしに行っている間に、ウルフはあるモノに視線を奪われていた。

視線の先には隊長の家にもあったあの光る箱、テレビが存在していた。

そこに移されていたのは、販促用に流されているとある映画。

男が両手に拳銃を持ち、派手な動きをするあの名作。


隊員「すまん、待たせたな...行こう」


ウルフ「あっ...うん」


座り込んでいたウルフを再び抱き寄せ、肩を貸した状態に。

気づけば彼は新たな武器を手にしていた。

そしてウルフも、新たな試みをする。


ウルフ「ねぇ...これ、もう1個もってない?」


隊員「ん? ハンドガンか? 持っているが...どうした?」


ウルフ「えっとね、借りたいの」


隊員「...あぁいいぞ、こっちも手持ちが増えて多分使わないと思うしな」


彼が新たに手にしたのはソードオフのショットガン。

そしてウルフが手にしたのは、隊員から預かったハンドガン。

この2つがこの先どのようにして活用されるのか。


〜〜〜〜
943 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:23:05.81 ID:XUuL3A850

〜〜〜〜


隊長「──ウルフがやられたッッ!?」


局地的ホワイトアウトに囚われた隊長が吠える。

聞き間違えでなければ、爆発音とともに聞こえたのは悲鳴。

聞き覚えのあるあのウルフの声に違いなかった。


隊長「クソッ...なにも見えんし聞こえんぞッッ!?」


ドッペル「...まずいな、あの女...属性同化とやらの魔法を3つも重ねがけしているのか」


ドッペル「お前の身を闇で守ることはできても...これでは防戦一方だな」


隊長「せめて、魔王妃の居場所がわかれば...お前は魔力を感知できないのかッ!?」


ドッペル「出来てたまるか...あれを簡単に且つ高精度にこなしているあの女に感謝してろ」


隊長「...どうすれば────」


────ドクンッ...!

いくら攻撃から身を守ることができても、状況を打破することができない。

そのような手詰まりに近い現状、焦燥感からか心拍数があがる。


ドッペル「...くるぞ、爆だ...焦らず"俺"に任せろ」


──バコンッ!

その爆発は、あまりにも精密なモノであった。

あと僅かでも反応が遅れていたら直撃していたであろう。

野球ボールほどの大きさしかない爆発が、闇に飲まれた。


ドッペル「...ここまで小さな爆発も操れるのか、もう少しで展開している闇の僅かな隙間に通すところだった」


隊長「足元に手榴弾が転がったかと思ったぞ...」


ドッペル「まずいな...向こうはどうやら俺の闇の魔力を感じ取り、攻撃しているみたいだ」


隊長「...やはり感知をしてくるか、向こうは見えなくても攻撃ができるわけだ」


ドッペル「どうするか? 一度闇を取り払うか?」


隊長は魔力を持たない、よって感知による座標の特定はされないはず。

だがそれは同時に身を護る盾を捨てるような行為であった。


隊長「それはできない...もし当てずっぽうで魔法を大量展開されたら...」


ドッペル「...今現在感知されているということは、闇を取り払えばその変異にすぐに気づかれる」


隊長「そうなれば奴はナパーム爆撃みたいなことをしてくるかもしれん...いくらなんでも当たる」


ドッペル「参ったな...せめて奴の居場所がわかれば、闇の一撃が届くんだが」


隊長「振り出しにもどったな、もう少し考えさせてくれ...」ピクッ
944 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:24:05.53 ID:XUuL3A850










「──きゃぷてんっっっ!!」









945 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:26:07.97 ID:XUuL3A850

ほんの少し、僅かに聞こえたその最愛の声。

たとえ台風の中でさえでも聞き取ることができるだろう。

自身の聴覚を頼りに、彼女のいる方向へと声を投げかける。


隊長「──こっちだッ! わかるかッ!?」


ドッペル「...やかましいぞ」


憎たらしい影の嫌味などに返事はしない。

人として限界の大きな声が吹雪と共に轟く。

彼女には聞こえただろうか、結果はすぐにわかった。


魔女「──っ!」


ドッペル「...顔の周りの闇を除けてやる、今のうちに耳打ちで情報を共有しろ」


全身に纏う闇が、一部取り払われる。

そして彼女の柔らかそうな耳に接近するのは彼の口元。


隊長「──魔王妃はどこだッッッ!?」


魔女「────っ!」スッ


──バババババ■■■ッッッ!

そして彼女は指をさした。

隙かさずに隊長はそこへ銃弾を打ち込む。

そして響くのは、闇の音だけではない。


隊長「──やったかッ!?」


魔女「やってないっ! 逃げてるっっ!!」


猛烈なホワイトアウト、そして吹雪が視界と聴力を奪っていたというのに。

先程まで隊長たちを襲っていた環境は急激に変化を始める。

見る見る間にも、周りの景色が浮かび上がっていた。


ドッペル「...あの女に命中したようだな、闇が当たれば姿をくらますか」


魔女「転移魔法じゃないっ!? まだ魔力を感知できる距離にいるわよっっ!」


隊長「────急いで車に戻れッッ!」ダッ


──ガチャッ! バタンッ!

その言葉とともに、2人の足はすでに動いていた。

迅速な行動、気づけば既に隊長の足はアクセルペダルを踏んでいた。


魔女「──ウルフたちはっ!?」


隊長「隊員を信じろッ! アイツは俺が知っている中で一番優秀だッ!」


ドッペル「...一度闇をすべて取りはらうぞ、車とヤラが壊れかねん」
946 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:29:56.85 ID:XUuL3A850

魔女「隊員さんがウルフの方へ行ったなんてよくわかったわねっ! まだ言ってないわよっ!?」


隊長「アイツならそうするッ! それよりももう大声で喋るなッ! 舌を噛むぞッ!」


魔女「...居たっ! 風の属性同化で、凄い速度で空を飛んでるわっ!」


隊長「──まずいッ! 逃げられるッ!?」


このような轟音を鳴らし追跡されたのならば誰だって気づく。

魔王妃はこちらを確認すると、車で追えないような裏路地へと姿を眩ませた。

その一方で飛行速度は保ったまま、邪魔になり得る障害物は同化させた風が追い払う。


隊長「────どうすれば」


魔女「──こうするのよ」クピッ


────ゴクンッ!

彼女から聞こえたのは、なにかを飲む音であった。

そして皮肉にも、この変化に気づけたのはドッペルゲンガーだけであった。

彼だけが感じ取ることができた、魔力量の変化。


魔女「"属性同化"、"雷"」


彼女が飲んだのは女賢者から渡された魔力薬。

無限のように湧く魔力が可能にするのは、詠唱速度の向上だけではなかった。

先程は右手だけしかできなかった同化が今度は全身へと。


魔女「もう逃さないわよっ──」


──バチンッッ!!

車に雷が落ちたかのような衝撃が生まれる。

ドアも開けずに飛びたった影響で、軍用車の助手席付近が完全に破壊されていた。


隊長「...凄まじいな」


ドッペル「見ろ、あの女が魔王の妻を追いかけているのが見えるぞ」


隊長「...今は魔女に任せるしかないか」


ドッペル「そうだな、それよりも人の姿が見当たらんな...これなら存分に闇を放てる」


隊長「先手は取られたが...我が国の部隊がこれ以上の被害を出させるわけがない」


ここはこの国屈指の大都市であるにもかかわらず、人の姿は見当たらない。

あたりに居るのはすでに銃殺されたような死体しか見当たらなかった。

どうやらすでに一般市民の避難、そして救護は完了している。


隊長「...HQ HQ」


〜〜〜〜
947 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:31:39.23 ID:XUuL3A850

〜〜〜〜


ウルフ「ご主人たちがいない...」


隊員「車がない...状況を察するに、魔王妃は逃走して、Captainたちは車で追いかけたってところか?」


ウルフに肩を貸しながらも、冷静に状況を分析する。

ほぼ正解に近い考察を出しながらも、やや途方に暮れてしまう。


ウルフ「ん...もう大丈夫だよ」


隊員「...」


ウルフの顔、やせ我慢をしているようなモノではない。

本当に身体の不調がある程度緩和されている。

その事実に彼は再度実感してしまう。


隊員(服もほぼボロボロで脱げかけ、そこから見える濃い毛並み...)


隊員(そして被っていたニット帽はいつのまにか脱げている...そこから見える犬の耳...)


隊員「...本当に、人間じゃないみたいだな」


ウルフ「うん?」


隊員「いや...なんでもない...それよりもどうするか」


あたりは暗く、申し訳程度の街頭が道を照らしている。

先程の魔王妃が放った魔法の影響か、摩天楼を彩る明かりはほぼ壊滅していた。

薄暗い日差しが落ちようとしている。


隊員「...もう夜になる、辺りも暗い...奇襲に気をつけろ」


ウルフ「うん」


隊員(夜か...ゾンビものの映画だと夜に被害が拡大するんだがな...)カチャ


だがそのようなことはなかった、なぜなら彼はすでに情報を持っていたから。

片耳から聞こえる状況の最新情報、ラジオの如く自動的に聞くことができる。

本部の報告によると、ここに住む市民の9割をセーフゾーンに誘導できた模様だった。


ウルフ「うわっ! ビックリした...」


隊員「ん...あぁ、すまん...少し明るさが強かったな」


そして彼が手にかけたのは、銃に取り付けられたある装備。

ボタン一つで、射線の先を照らすことのできるタクティカルライト。

これで夜でも視界を確保できるだろう。
948 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:33:22.58 ID:XUuL3A850

隊員「少しばかり歩くぞ、途中で動かせそうな車があったらそれに乗ろう」


ウルフ「わかったっ!」


隊員「...ハハ、元気な返事だな」


ウルフ「えへへっ...」


先程の激戦、最前線にいなくてもその疲労値は凄まじいものであった。

未曾有の攻撃である魔法、そのようなモノと対峙すればそうなる。

だがそんな中、彼女の眩しい笑顔が隊員を癒やしていた。


ウルフ「...あれって、さっきの」


隊員「あぁ...T-REXか」


T-REX「────」


少しばかり歩いていると、先程の場所へと到着していた。

そこにいたのは、両目から紅を流していた暴君の竜。

だがその様子はとても静かなものであった。


隊員「出血多量だな、完全に絶命している」


ウルフ「...すごい大きいね」


隊員「そうだろ? 子どもの時は大好きだった」


隊員「だが実際に対峙してみると...なんとも言えんな」


ウルフ「そうなの?」


隊員「あぁ、かっこいいと思っていたが...やはり怖い」


隊員「それに先程はまだ明るかったから動きがわかりやすく、眼を狙えたが...この暗さだともう無理だな」


隊員「...新たなコイツが現れたら、もう手に負えないかもな」
949 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:34:23.21 ID:XUuL3A850

ウルフ「うーん...今の所、この辺にはいないみたいだよ」


隊員「わかるのか?」


ウルフ「うん、足音がすごいから...すぐわかるよ」


隊員「あぁ、そうだな...あの足音は映画でもすごかった」


ウルフ「えいがってなに?」


隊員「知らないか、今度見せてや────」ピクッ


軽く雑談をしながら、横たわるT-REXを通り過ぎようとした瞬間。

とてつもない違和感が彼を襲った、この死体の背中にできている新しい傷跡。


ウルフ「これって...」


隊員「...これは、噛み傷か?」


ウルフ「...たしかに、噛んだらこんな傷ができるけど」


隊員「Zombieでも群がったか...いやそれにしては...」ピクッ


考察をしている彼にある予感が走る。

もし自分が魔王妃なら、もし自分が兵力として恐竜を蘇らせるとしたら。

はたして強大であるかわりに愚鈍なT-REXだけだろうか。


隊員「...ヤバい、ヤバい...この予想が当たりならかなりヤバいぞ」


ウルフ「ど、どうしたの...?」


隊員「耳を澄ませてくれ...聞こえないか...?」


ウルフ「え...?」ピクッ


彼女の耳が立つ、このやや暗闇の中で頼れるのはコレしかなかった。

だがすでに遅かった、たとえ彼女の聴力を持ってしても厳しい。

居場所と数は特定できたとしてもその迅速な動きに対応できるであろうか。
950 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:35:04.97 ID:XUuL3A850










「────CRRRRRRRRRRRRッッ!!」









951 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:37:16.83 ID:XUuL3A850

ウルフ「────うしろっっ!!」


隊員「──"RAPTOR"だッッッ!!」


ラプトルと呼ばれる、比較的小型の竜。

某映画の影響でデイノニクスという恐竜がそう総称されている。

そして、その映画のお蔭でこの恐竜がどれだけ恐ろしいかもわかっていた。


RAPTOR「CRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


──ドカッ!

気づけば背後にいた暗殺を得意とする竜。

隊員はあっという間に押し倒され、かつ武器を解除されてしまった。


隊員(アサルトライフルが押し倒された際にどこかに...)


隊員「グッ...なんてッ...力だッ...!」グググ


RAPTOR「CRRRRRRッッ! CRRRRRRRRRRッッッ!!」グググ


ウルフ「──ガウッッ!!」スッ


──バキッ!!

ウルフが繰り出す回し蹴りが、ラプトルに命中する。

普通の人間なら全く効果が得られない、だが彼女は魔物だ。

その威力故に、ラプトルの身体は持ち上がる。


ウルフ「だいじょうぶっ!?」


隊員「あ、あぁ...すごい威力だな、Raptorを軽く吹き飛ばしてたぞ...」


RAPTOR「CRRRR...ッ!」スッ


隊員「──ッ!」スチャッ


蹴飛ばされたラプトルはすぐさまに立ち上がる。

そしてそれを察知して、彼はサイドアームのショットガンをすばやく取り出す。

しかし発砲することはなかった。


ウルフ「...にげた」


隊員「逃げたか...あの阿婆擦れ、厄介なモノも蘇らせやがって...」


ウルフ「さっきのよりかなり小さいけど...その分すばやいね」


隊員「あぁ...だが奴の恐ろしさはそこじゃない」


ウルフ「う?」


隊員「奴らは群れで襲いかかる...今のが数匹いたら、多分殺されていた」
952 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:38:49.54 ID:XUuL3A850

隊員「そして最も厄介なのが...賢すぎるところだ」


ウルフ「そうなの?」


隊員「...あぁ、知性のない動物だからといって侮るな、容易に背後を取られるぞ」


隊員「それも集団で、戦術地味た行動もしてくる...映画ではそうだった」


ウルフ「...気を引きしめなきゃね」


隊員「慎重に動くぞ...お互いは必ず、お互いの背中を守ろう」


ウルフ「わかったっ!」


隊員「まずは車を探すぞ...とてもじゃないが車がないと奴らに追いつかれる」


道に転がっている明かりの元へと向かう。

そこにあるのは、先程武器飛ばされたアサルトライフル。

それを拾うとすぐさまに行動に移る。


ウルフ「...」ピクッ


隊員「どうした?」


ウルフ「...いる、それも7匹はいるよ」


隊員「まずい...早すぎる...囲まれたら終わるぞ」


ウルフ「早く行こっ...?」


隊員「あぁ...俺が後ろを向きながら歩く、ウルフは前を見ながら歩き始めてくれ」


ウルフ「わかったよ」


隊員「...ッ!」


──ガサ...ガサ...

ウルフの耳がなくともわかる、後方に奴らがいる。

街路樹の裏、廃棄された車の影からチラリとみえる長い尻尾。

タクティカルライトでソレを照らすたびに、緊張感が生まれる。


隊員「絶対に油断するな...」


ウルフ「う、うん...」


彼女はラプトルについてなにもしらない。

だがそれでいて同じ野生動物でもある。

野生が告げる、あの動物の危険性がウルフにも緊張感を与えていた。
953 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:40:42.26 ID:XUuL3A850

隊員「...クソッ、様子を伺ってるみたいだ」


隊員「来るならすぐ来てくれ...」


ウルフ「...ッ!」ピクッ


────ポタッ...!

今はニット帽を被ってはいない、なのですぐに感じ取ることができた。

ウルフの敏感な耳がある液体を察知した、今は冬だというのに季節外れの天候に。


隊員「嘘だろ、こんなときに雨かよ...ッ!?」


ウルフ「う...この感じ...かなり降りそうだよ...?」


隊員「勘弁してくれ...野戦での雨は本当に厳しいんだぞ...ッ!?」


ラプトルが与えるプレッシャーからか、言葉に余裕を伺うことができない。

やや焦燥に駆られた隊員が思わず強い口調でウルフに投げかけてしまう。

それほどに、今のこの天候がどれほど不幸なのか。


隊員「...すまない、少し冷静を欠いた」


ウルフ「...しかたないよ、あたしも雨きらいだもん」


隊員「そうか...だが不幸中の幸いにも、この道路にはロードヒーティングがある」


ウルフ「なにそれ?」


隊員「要するに地面がある一定の温度を保つから、雪が降っても積もらない」


隊員「だからアイスバーン状態に...凍結しないから足を取られることはないってことだ」


ウルフ「...そうなんだ」


隊員「あぁ、だから歩行に関しては問題なく進められるぞ」


ウルフ「たしかに、そういえばこの道にだけ雪がつもってないねっ!」


隊員「そういうことだ」


他愛のない雑談、この切り替えの速さこそが隊員の良さであった。

つい昨日までは隊長という大事な人物を失い、その強みが失われていた。

だが今は違う、彼の話術が緊張感をほぐしていた。


隊員「...しかし、一向に襲ってこないな」


ウルフ「うーん...とびかかってくる気配はたまに感じるけど...」


隊員「警戒しているのか...却って厄介だな」
954 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:43:25.28 ID:XUuL3A850

ウルフ「気をつけてね、雨が強くなってきているから聞きづらくなってきたよ」


隊員「...あぁ、大丈夫だ、この目でしっかりと注意しておく」


徐々に雨が強くなる、ハリケーンとまではいかない大雨だ。

ゆっくりと道を進むなかラプトルへの牽制も怠らずにいた。

アサルトライフルの射線を何度も変化させるも、常にどれか1匹のラプトルに向けていた。


隊員(銃を持ったテロリストを相手にしている方が気が楽だな...野生動物はいつ襲ってくるか全く検討がつかない)


──ゴロゴロゴロゴロゴロ...ッ!

その時だった、ラプトルに警戒しているとはるか上空から鳴り響く轟音。

まるで意思を持ったかのような雰囲気のある雷が響いた。

その音を奴らが利用しないわけがなかった。


隊員「──くるぞッ! 2匹だッッ!」


ウルフ「────わかったっ!」


RAPTOR1「CRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」


まずは2匹のラプトルが襲いかかる。

なにか狙いがあるのか、その2匹は愚かにも真正面から走り込む。

確かに不意打ちに近いかもしれないが、この武器を前にしてソレは自殺行為であった。


隊員「──Bye bye mother fucker...」スチャッ


──バッ! バッ!

2つのセミオート射撃が2匹のラプトルに命中する。

彼らはかのティラノサウルスではない、よってその皮膚の厚さは薄い。

とてもじゃないが、銃弾を堪えることはできない。


隊員「...こいつらなら一発で仕留められそうだ」


ウルフ「──後ろっっ!!」


RAPTOR3「CRRRRRRRRRッッ!!」スッ


隊員「────しまっ!?」


──ドカッ!!

決して油断していたわけではない、遠くで響く雷が、視線に広がる雨が彼の隙を産ませていた。

人間は大雨の中、果たして従来の集中力を持続させることはできるだろうか。

隊員の後ろを取った新手のラプトル、響いたのは雷の音ではなく鈍い打撃音であった。
955 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:45:02.48 ID:XUuL3A850

隊員「......」


隊員(...身体に痛みはない)


思わず目を瞑っていた、その最後の光景には両手を上げ飛びかかろうとしたラプトルが鮮明に残る。

そして聞こえた鈍い音、間違いなく押し倒されたと思っていた。

恐る恐る視界を開けばそこには彼女がいた。


ウルフ「...」


隊員「...これは」


隊員(RAPTORの頭部が陥没している、まるでハンマーで殴られたかのような傷跡だ)


弱々しく横たわるラプトルを尻目にそう考察した。

ウルフが何をしたか、一目瞭然であった。

だがまだ会話を許してくれる状況ではなかった。


RAPTOR4「CRRRRRRッッッ!」


隊員「──ウルフッ! 新手は上だッッ!!」


新たなラプトルが廃車の屋根から信号機へと飛び移り、そこから奇襲をかけてきた。

その1匹だけではない、いままで機を伺ってきたすべてのラプトルがウルフに目掛けていた。

奴らの動きはすばやく隊員はアサルトライフルの照準を合わせることができなかった。

だがそれは違かった、あえてそうしなかったのであった。


ウルフ「...ガウッッ!!」


──ガコンッ...!

彼女の両手には、ハンドガンが握りしめられていた。

その持ち方は従来のものではなく、銃身を握りしめたものであった。

そこから放たれるのは銃撃ではなく、打撃。


隊員「──Gun kata...ッ!?」


──ドガッ! バキッ...! ダンダンッ! 

銃身を握りしめハンマーのように殴ったかと思えば、直ぐ様に元の持ち方へと戻し発砲する。

それだけではない、まるでトンファーのように持てば奴らの爪での攻撃を弾くことができる。

人間では受け流すことができない、だが魔物の筋力ならたとえ恐竜であっても。


隊員「ウルフの方が力は上なのか...」


ウルフ「────よしっ!」


──バキッ...! ダンッ!

最後の1匹、飛びかかりの攻撃を受け流しそのまま地面へと投げ飛ばす。

そして繰り出される一撃の発砲音。
956 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:46:47.08 ID:XUuL3A850

隊員「今ので7匹目...全滅させたか」


ウルフ「そうみたい...うまくいったね」


隊員「...Gun kataか...実際に見たのは初めてだ」


ウルフ「がんかた?」


隊員「二丁の銃を使った近接格闘術のことをそう呼ぶんだ...映画の中ではな」


ウルフ「そうなんだ!」


隊員「こうもRAPTORをあしらうとは...流石だな」


ウルフ「...ううん、あと1匹多かったらヤラれてたよ」


隊員「...」


初めは7匹に追われ、2匹は隊員が射殺した。

そしてその後ウルフがガン=カタを駆使して5匹を始末した。

5という数字、それが彼女の限界であった。


隊員「...進もう、RAPTORは7匹だけじゃないはずだ」


ウルフ「うん...それにしても、雨が強いね」


隊員「あぁ、おまけに雷も鳴っている...急いで車にのって安全に移動しよう」


────カッ!

その時だった、まばゆい閃光が夜空を煌めかせた。

どこか近い場所で雷が落ちたようだった。

その明るみは、一瞬だけであったが暗闇の摩天楼を照らす。


隊員「...見えたか?」


ウルフ「うん...見えちゃったよ」


隊員「...前方以外囲まれている、10匹はいるぞ」


あたりは夜の帳、そして静寂とは正反対の雨の轟音。

頼れるものはウルフの嗅覚と聴覚、そしてタクティカルライトの視野。

一難去ったところで、緊張感が再度生まれる。


隊員「...5匹以上は相手にするな、わかったな?」


ウルフ「でも...もし全員でおそってきたら...?」


隊員「その時は...まかせてくれ...絶対になんとかする...」


彼の顔は水でずぶ濡れであった。

雨の仕業か、はたまた冷や汗がそうさせているのか。

とにかく進むしかない、再びウルフが先頭になり隊員が後方の帳を照らす。
957 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:48:12.59 ID:XUuL3A850

ウルフ「...ねぇ! あれってっ!?」


隊員「...ッ!」


いつラプトルが襲ってくるかわからないこの緊迫状態。

再度進み始め数十分は経った、そんな中ようやく希望の光が見えた。

そこにあったのは、唸り声をあげながらも主人を待つ鉄の塊。


隊員「でかしたぞ...ッ! そのままゆっくり、派手な動きをせずに乗るぞ...」


ウルフ「うん...っ!」


隊員(助かった...あの様子だと鍵は挿しっぱなしみたいだな...)


────ゴロゴロゴロゴロッ...!

車を見つけたその時、遠くで雷が鳴り響いた。

それが影響してか、わずかに生き残った街灯が反応する。


ウルフ「──うわっ!?」


隊員(こんなときに停電かよ...ッ!!)


隊員「──離れるなッ! これだけが頼りだッ!!」


視覚は完全に奪われた、この暗闇に抵抗できるのはタクティカルライトのみ。

彼は背中でウルフの体温を感じ取ると、そのまま押すように前に進ませる。


隊員「...いいか? 一瞬だ...一瞬だけ前を照らす」


隊員「その一瞬で車の方向を完全に把握してくれ...いいな?」


ウルフ「...っ!」


前方のどこかに車がある。

本当ならずっと前を照らしてやりたい、だがそれを許してくれるラプトルなどいない。

あの狡猾な奴らが暗闇を利用しないわけがなかった。


隊員「...ッ! ...ッ!」


隊員(ヤバい...生まれて初めてだ...ここまで緊張するのは...)


隊員(これならPredatorに追われている方がマシかもしれないぞ...)


隊員(...まだだ、まだ前を向けない)


おおよそ10匹の奴らがこちらを狙いすましている。

彼ができるのは、ラプトルたちに光を当てて警戒心を強めさせることしかできなかった。

素早く手を動かし多くのラプトルに光をあてるだけという警告を送っていないと既に襲われている。
958 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:49:22.65 ID:XUuL3A850

ウルフ「...」ピクッ


隊員「...すまない、まだだ...まだ無理だ...」


ウルフ「ううん...違う...聞こえたよ」


──ブロロロロ...ッ!

彼女にだけ聞こえた鉄が煙を吐く音、雨の轟音に紛れた希望の音が。

獣の耳をもってようやくそのエンジン音が聞こえるところまで詰め寄っていた。

あてずっぽうながらも、じりじりと進んだ甲斐がここにあった。


隊員「...やっぱり犬っ子は最高だ」


ウルフ「...うん、間違いないよ、なんか変なにおいもしてきた」


雨によりあたり周辺の匂いが流されていた。

雨によりあたりの音もかき消されていた。

狼という種族の長所を奪われていたが、ここにきてようやくそれが生きる。


隊員「このまま、進めるか?」


ウルフ「うん、だいじょうぶ...後ろはまかせたよ?」


隊員「...YES SIR」


思わず口角が上がってしまう。

ようやく逃げ足を確保することができた。

ゴールはすぐそこ、その事実が彼に癒やしを与えていた。


ウルフ「あとちょっと...」


隊員「いいぞ...まだ襲ってくる気配はない...このままいけるぞ...!」


──ザアアアアアアアアアアァァァァァァァ...!

車という存在に射幸心が煽られている、この雨の轟音すら気にならない程度に。

だが彼らから生まれたのはソレだけではない、いままで絶対に避けていたある感情がそこにはあった。


ウルフ「──ついたっ!」


隊員「そのまま乗...れ...」ピクッ


言葉が詰まってしまっていた、一体なぜなのか。

ウルフの手によって開けられた助手席側の扉。

そして開けた瞬間、車の窓ガラスになにかが映った。


ウルフ「────嘘」


────カッ!

雷が暗闇を照らした、そしてその閃光が見せてくれたのは。

彼らは実感する、ここにきて初めて油断というものをしたということに。
959 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:50:50.36 ID:XUuL3A850

隊員「喋るな、動くな、目を合わせるな...コイツは動きに反応するらしい...」


ウルフ「...」


──ズンッ...!

その強烈な足音が物語るのは、圧倒的な恐怖。

先程の明るいときですらここまで近寄られたことはない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


隊員「...」


ウルフ「...」


先程とは別のレックスがそこにいた。

助手席に乗り込もうとしたときに開いた扉が唯一の隔てり。

彼らができるのは沈黙、そして不動であった。


隊員(...まさかこの雨音がT-REXの足音すらかき消しただなんて)


隊員(ふざけるな...B級映画ですらこんな展開をしないぞ...)


隊員(......いや、そうさせてしまったのは...油断か)


自責の葛藤、そして手には震え。

先程までラプトルを照らしていたライトは大いにブレている。

頭は冷静でいても、身体はもう抑え込めない。


隊員(...震えているのは自分だけじゃないか)


隊員(すまん...ウルフ...たとえ魔物とかいう種族でも、女の子にこれは酷すぎる)


ウルフ「...」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRR...」スンッ


あと僅かで車内へと入れるというのに、大雨の中で往生させられている。

急激に体温が低くなる、それは身体に付着した水分が影響しているだけではない。

眼の前へと移動してきた奴が匂いを嗅いでいるからだ。


隊員(...汗は雨に流れている...動物的な匂いはしないはずだ)


隊員(頼む...生き物だと気づかないでくれ...)


ウルフ「...」ブルブル


隊員の横で震えるウルフ、本能に刻み込まれた生態系の存在。

大きさがあまり変わらないラプトルなら話は別。

狼がティラノサウルスに立ち向かえるわけがなかった、そして劣悪な状況は更新される。
960 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:51:52.85 ID:XUuL3A850

隊員(...嘘だろ)


────しと...しと...

先程まで聴力を奪っていた豪雨が、弱い音へと変わる。

この状況でなんと雨はあがってしまった。

その一方で身体から湧き出る冷や汗は止まらない。


隊員(まずい...雨が上がったことで匂いが流れなく...)


隊員(それに...T-REXだけじゃない...RAPTORもあたりにいるはずだ...)


隊員(奴らもT-REXの存在に警戒しているはずだ...すぐには襲いかかるとは思えんが...)


隊員(どうする...どうやって────)ピクッ


この状況、あの映画でも似たようなモノがあった。

あの時は発煙筒を使うことでこのデカブツを誘導することができた。


隊員「...」スッ


隊員(...気づくなよ...俺が動いていることに)


T-REX「GRRRRRRR...」


ごく僅かに腕を動かす、そして取り出したのはサイドアーム。

未だに近くに鎮座するT-REX、少しでも不審に思われたらお終いであった。


隊員「...」


隊員(一か八かだ...もしかしたら本命よりも射撃音に反応するかもしれない)


隊員(だがやるしかない...このままT-REXが大人しくこちらの様子を伺うだけとも限らない...)


隊員(タイミングは..."見えた"らだ)


先程まで恐怖によってブレていたタクティカルライトの光。

いかにして不自然な動きをさせずに、T-REXの目に入らないようにズラしていた。

その光をある方向へと固定させる。


隊員「...」


隊員「......」


隊員「.........」


まるで時が止まったかのような感覚でもあり。

まるで時が加速したかのような感覚でもあった。

矛盾するその体内時計、並々ならぬ緊張感がソレを実現させる。
961 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:53:11.85 ID:XUuL3A850

隊員(...まだかッ!? まだ映らないのか...ッ!?)


ウルフ「...ぅぅ」ブルブル


隊員(まずい...ウルフも限界が近い...)


T-REX「...」スッ


そんなときだった、T-REXは動く。

こちらの様子を伺うために頭を下げていたが、その格好をやめた。

まるでどこか別の方へと向かうようなそんな素振りに見えた。


隊員(これは...なんとかなったのか...?)


ウルフ「...ふぅ」


だが、それは違かった。

なぜ頭を元の位置に戻したのか。

それはすぐにわかる、誰しも大声を出すときは予備動作が必要。


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッッッッ!!!」


その音色自体は今までも耳を刺激してきた。

だがその声量はとてつもないものであった。

人間の耳ですら厳しい轟音、それが狼の耳からすると。


ウルフ「────わああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」


隊員「────ッッ!!」ガバッ


ウルフ「わっぷっ!?」グイッ


隊員「──Shhhhhhhhh...Shh...」


人間の何倍もの聴力を持つウルフ。

彼女に襲いかかる多大なストレスが、思わず声を荒らげさせていた。

隊員が彼女の口を抑え、沈黙を促すがもう遅かった。


T-REX「...GRRRRRRR」


隊員(だめだ...目線が完全にこっちを向いているどころか...目があってしまった)


隊員「...ウルフ、覚悟してくれ」ボソッ


ウルフ「...もが」ピクッ


隊員(RAPTORならともかく...T-REXと真正面から撃ち合ったところで...)


その時だった、この一方的なにらみ合いに水を刺すものが。

今まで彼らを追い続けていた狩人の主。

ソレが偶然にもライトに照らされ、現れる。
962 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:54:32.18 ID:XUuL3A850

RAPTOR「CRRRRRRRRRRR...!」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


隊員「...ッ!」


まるで獲物を横取りするな、そのような異議を申し立てているようにも見える。

ライトに照らされているのもあってT-REXの目線がラプトルに向く、それが一筋の勝機を導く。


隊員「────BIG MISTAKEッ! ASSHOLEッッ!!」


──ダァンッッ!

サイドアームにしたソードオフのショットガンから放たれる一撃。

それはただの射撃ではなかった、ある特殊な弾薬が可能にする魔法のような代物。

弾薬に入れられたマグネシウムが着火する。


RAPTOR「──CRRRRRRRRRRRッッ!?!?」


T-REX「──ッ!」ピクッ


ウルフ「──えっ!?」


隊員「────乗れッッッ!!!」グイッ


魔法を使えないはずの人間から放たれた炎魔法のような現象。

燃え盛るラプトル、それに気を取られたT-REXはラプトルの様子を伺うしかなかった。

呆然とするウルフ、そして気づけば助手席に座っていた。


隊員「──とばすぞッ!」


──ブロロロロロロロロッッッ!

彼が足元のペダルを思い切り踏むと、車は唸り声を上げて速度を出す。

緊張を生んでいた現場はすぐに視界から消え失せていった。


ウルフ「な、なにがおきたのっ!?」


隊員「この世界には発火性のある弾薬がある、それを撃ったッ!」


隊員「それよりもヘタに喋るな、道が荒れているから舌を噛むぞッ!」


ウルフ「う、うん...っ!」


──トタタタタタタッッ...!

窓から聞こえるのは、高速の足音。

そして車内のフロアライトによる明るさを利用することで、その全貌が伺える。
963 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:55:52.52 ID:XUuL3A850

ウルフ「ついてきてるよっ!?」


隊員「...これだから普通車はッ!!」


RAPTOR「CRRRRRRRRRRッッ!!」


いかに速度を上げたところで民間の車では限界がある。

これがスポーツカーであるなら、これが緊急車両であるのなら。

残念なことに普通車では俊足のラプトルに追いつかれてしまう。


隊員「──ッ!」


ウルフ「まえっ! まえにっ!」


隊員「このまま轢くぞッ! なにかに掴まれッッ!!」


言われるがままに、ウルフは取手に捕まった。

そして目の前に見えるのは腐った死体、避けている暇はない、ぶつからざる得ない。


ZOMBIE「──...ッ!」


────グシャァァァァッッッ!!

いくら腐敗した身体だとしても、その衝撃はとてつもないものだった。

フロントに乗り上げた死体の一部が、フロントガラスにヒビを入れる。


隊員「死んでから迷惑かけてんじゃねぇぞッッ!!」


ウルフ「わあああああああああああっっ!!」


隊員「ウルフッ! 眼の前のコレを蹴破れッッ!」


ウルフ「わ、わかったよっ!」スッ


──パリンッ...!

衝撃の出来事が連発する、間違いなく自動車事故を体験したのは初めてだろう。

軽く混乱する、しかしそれでいて指示には答える、考えるよりも先に身体が動いていた。


隊員「外の奴を撃てッッ!!」


ウルフ「────ッ!」スチャッ


──ダンッ!

隊員の手元のスイッチにより、ウルフ側の窓ガラスが開かれる。

そしてそこから放たれる鋭い一撃。


RAPTOR「──CRRッ!?」ドサッ


ウルフ「あたったよっ!」
964 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:57:16.15 ID:XUuL3A850

隊員「上出来だッ! 引き続きたの────」ピクッ


────ズンッ...!

遠くから聞こえる、重低音。

それが隊員の言葉を遮った、それだけではなかった。


ウルフ「うそ...もう追いついたの...?」


隊員「いや...これは新手だ...近くにいたのが並走してきたみたいだ...」


──ズンッ...ズンッ...!

そして聞こえる、連続した轟音。

それはすぐ近くに、そしてまた別の音が。


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」ズンッ


隊員「...こいつは足が遅いと聞いていたんだが、そうではないみたいだな」


ウルフ「き、きてるよぉぉおっっ!!」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


開いた窓のすぐそこに、ティラノサウルスの大きな頭が並んでいる。

そして開かれたのは大きな口、それが車に迫る。


ウルフ「──うわぁっ!?」サッ


──メキメキメキッ...!

ウルフは助手席から運転席側へと身を寄せた。

そうしなければ、確実にあの牙の餌食になっていた。


隊員「あの野郎ッ! 扉に噛み付いていやがるのかッ!?」


T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ! GRRRRRRッッ!」


ウルフ「ど、どうすればいいっ!?」


助手席側のドアに、正確には開いた窓とそのピラーに。

まるで肉がちぎれるような音が聞こえる、噛み付いているのは鉄だというのに。


T-REX「GRRRRRッッッ!」グイッ


──メキッ...! バキッ...!

そしてその捕食行為に耐えられるわけもなく、車の身体は欠損してしまう。

思い切り引っ張られた助手席側のドア全体が外れてしまった。
965 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:58:37.15 ID:XUuL3A850

ウルフ「う、うわ...」ギュッ


隊員「随分と風通りをよくしてくれたな...このクソッタレ...」


ウルフ「うぅ...」


隊員「速度は落とせない、だがそれだと危険すぎる...この手を離すなよッ!?」


ウルフ「わ、わかってるよっ!」


藁にもすがる思いで、運転している隊員の腕にしがみ付く。

こじ開けられた助手席からは、外へと導こうとする風がウルフの身体を引く。

それだけではない、その狼の肉を喰らおうとする竜も待ち構えている。


隊員「...いいか? 次に大口を開いたら...その中を撃てッ!」


隊員「奴の皮膚はとてつもなく硬いはずだ、だがその内部はそうじゃない」


隊員「...言いたいことわかるよなッ!?」


ウルフ「...っ!」コクコク


──バサバサバサバサッ!!

風の騒音、返事をすることすら億劫に思える程だった。

だが隊員の指示は伝わった、彼女は片手でハンドガンを構える。


ウルフ「...」


──ズンズンズンッ...!

連続した、巨大な足音。

そして続くのは、古代の唸り声。


T-REX「──GRRRRRRRRRRRRッッ!!」


ウルフ「────ッ!」スチャッ


──ダンッ!

その一撃は見事にも、奴の口内へと命中する。

愚かにも大口を開けていた代償だった、しかしそれではまだ足りない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ!!」スッ


隊員「だめだッ! 一発じゃ怯まないッッ!?」


ウルフ「そんなっ!?」


隊員「──衝撃に備えろッッ!!!」


威嚇していたと思えば今度は頭を大きく振り上げる、繰り出されるのは強烈なあの攻撃。

車の速度は落とせない、落とせば確実に後続しているであろうラプトルの餌食に。

車のハンドルはきれない、きれば確実に速度に煽られ横転する。
966 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 19:59:48.34 ID:XUuL3A850

T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」ブンッ


────ガッシャアァァァァァァァァンッッッ!!

文字通り頭を使った強烈なタックルが、普通車の助手席側をすべてを破壊する。

それどころではなかった、衝撃に負けた彼ら2人が車外へと飛び出してしまう。


隊員「──ッ!」


ウルフ「──うわああああっっ!?」


──ザリザリザリッ! ドサッ!

冬場の冷たいアスファルトが、2人の身体に強烈な擦り傷を負わす。

早くも高速移動が可能な足を失ってしまう、だが絶望に明け暮れている暇などない。


隊員(今ので左腕が折れたな...)


隊員「ウルフッ! 大丈夫かッ!?」


ウルフ「うぅ...だいじょうぶだけど...すぐそこに...」


T-REX「...GRRRRRRRRRRRR」


幸いにもここの街灯はわずかに生きていた、この巨体をライトなしで薄く目視することができる。

そしてその遠巻きに、様子を伺うような素振りをしているラプトルの群れが見える。


隊員(...こちらの装備は、アサルトライフルとドラゴンブレス)


隊員(そしてハンドガンが2丁...厳しいな)


ドラゴンブレス、それは火吹きのショットガンの総称。

対人武器としては非効率的な殺傷道具ではあるが、動物相手には効果は抜群。

だが、いま対峙している動物には相性はよくはない。


隊員(...RAPTORならともかく、T-REX相手に撃っても効果はなさそうだ)


隊員(あの巨体が...あの分厚い皮膚が炎を物ともしないのは確実だ...)


──ズンッ...!

先程の雨の影響か、あたりには水たまりが点在している。

そしてあの巨体が動くたびに、それが波紋を生み起こす。
967 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:02:34.09 ID:XUuL3A850

ウルフ「あのね」


隊員「...なんだ?」


時の流れが遅く感じる。

身体が感じているのは、走馬灯に近いものであった。

お互いが死を覚悟している、だからこそ今落ち着いて会話ができている。


ウルフ「こんなにこわいんだね、死ぬ前って」


隊員「...」


ウルフ「...最後まで...いっしょにいてくれない?」


隊員「...もちろんだ、むしろ...犬っ子と最後まで逝けるだなんて光栄だ」


とんだ軽口、その一方で身体には震えが。

それを見透かしてか、ウルフは折れてない方の腕を組んでくれた。

そして徐々に近寄る捕食者。


ウルフ「...あのね、だいじなお友達がいたんだけどさ」


ウルフ「その子は殺されちゃったんだ...それも独りぼっちのときに」


隊員「...そうなのか、それは辛いな」


ウルフ「うん...」


そこから会話が続くことはなかった。

ただ最後にかの魔物の友人のことを、誰かに話したかっただけであった。

そして、目の前には大口を開けた捕食者が。


隊員「...少し諦めるのが早かったかな?」


ウルフ「...ううん、むりだよ」


隊員「...だな、車から投げ出された時点で死んでてもおかしくはなかった」


隊員「こうして死ぬ前の喋れるんだ...諦めは悪かった方だな」


ウルフ「...スライムちゃん、魔女ちゃん、ご主人...さよなら」


隊員「...Captain、先に逝ってます」


T-REX「────GRRRRRRRR」


────ドシュンッ...!

恐ろしく鋭い歯が最後の光景であった。

そして、肉から骨を貫く鈍い音が、最後に聞こえた音であった。


〜〜〜〜
968 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:03:45.57 ID:XUuL3A850

〜〜〜〜


魔女「──居た」


──ゴロゴロゴロゴロッッ...!

空に響く鋭い音。

だがこれは自然がもたらしたモノではない、人為的な雷であった。


魔王妃「...まさか、空を追ってくるとは思いませんでした」


魔女「悪いんだけど、逃げられたら困るのよ」


人型の雷と人型の風が対峙する。

お互いが属性同化を行使している故の現象であった。

その様子はまるで嵐のような。


魔王妃「いえ、もう逃げません...無事に誘導できましたからね」


魔女「...どういうこと?」


魔王妃「簡単な話です、ここは地上からかなり距離があります」


魔王妃「...いくらなんでも、ここから闇魔法が飛んでくるとは思えません」


魔女「...そういうことね」


要は分断されてしまったということ。

魔王妃が逃げる理由、それは闇魔法というカードを持つ隊長がいるから。

いま彼女らがいる場所は宙、アサルトライフルでは狙うことのできない遥か上空。


魔女「...」


魔王妃「おっと、逃がすわけにはいきません」


魔王妃「強力な戦力は1つずつ、確実に潰す必要がありますからね」


ハメられた、冷静に考えれば魔王妃の後ろを追うのは危険すぎた。

このようにいつ踵を返してくるかもわからないはずだった。

無茶な追跡が窮地に追いやられる。


魔女「...へぇ」


だが追いつめられたのは魔女だけではなかった。

彼女は僅かにも油断している、魔王の妻ともあろう女が。

この油断が1つの勝機につながるかもしれない。


魔女「...これを見ても、その余裕が保てるの?」


──バチッ...!

1つの稲妻が魔女の身体から空の雲へと放たれる。

そして響くのは、神の鳴り音。
969 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:06:56.93 ID:XUuL3A850

魔王妃「えぇ、余裕ですね..."属性同化"、"炎"」


風の身体に炎が新たに纏われる、そこから生まれるのは熱風。

生身でこれを受けたのならば全身大やけどは免れない。

2者の属性同化がぶつかる、それがどういうことなのか。


魔王妃「────喰らいなさい」


──ヒュンッッ...!

風が魔女を目掛けて襲いかかる。

それだけではない、風とともに来るのは。


魔王妃「...燃えてください」


魔女「そうはいかないのよ」


────バチィッ...!

魔女の身体が消える、どの方向に消えたのか。

魔王妃はそれを目視することができていた。

最後に見失ったのは自身よりも高い場所にある、雲。


魔王妃「...天候に味方されては困りますね」スッ


──ブンッ...!

属性の身体、その右腕を振りかざすと突風が巻き起こる。

その威力故に柔らかな雲を裂くことなど容易であった。

割れた雨雲から現れたのは、人の形をした雷であった。


魔女「げ...もう見破られたか...」


魔王妃「やはり...この雲を利用して目くらましをしつつ、高速移動をするつもりでしたね?」


魔女「...自然発生してた雷がいい感じだったんだけどなぁ」


魔女「──じゃあいくわよ」


その自然な会話から一転し、突如として放たれる。

彼女が気張るように両手を広げると、あたり全体に魔法が生まれる。


魔王妃「──チッ、私の雷よりも質が良さそうですね」


────バチバチバチバチバチバチバチバチッッッッ!!!

魔女の周り360度に展開する雷の網、その見た目は珠。

なにも対策をしなければ、確実に命中するだろう。
970 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:08:24.41 ID:XUuL3A850

魔王妃「雷の密度が濃いですね...」


魔王妃「ですが...距離を取れば当たることはありませんね」


確かに魔女の放った雷は驚異的であった。

だがその見た目の派手さの代償にある欠点があった。

魔王妃の言う通り、その射程の短さに難あり。


魔女「...」


だがそのような見え透いた弱点を、魔女が気づかないわけがなかった。

彼女は賢い者への修行を終えた人物である、距離を取られたのなら取り戻せばいい。


魔女「──そこね」


────バチッ...!

細く鋭い雷が一点に伸びる。

侮りの戦術がもたらしたのは、強烈な一撃。


魔王妃「────うっ...!?」


魔女(...動きが止まった)


身体の痺れに悶える、不可視の風。

魔女の身体の周り全体にはまだ雷が展開している。

ならばやることは1つ。


魔女(──接近戦...)バチッ


魔王妃「近寄らせません...」


雷の珠が超越した速度で接近しようとした瞬間。

猿真似じみた行動を許してしまう、彼女はあの魔王の妻、故に許される。


魔王妃「────燃えろ...」


──ゴォォォォォォォォォオオオオオオオオッッッ!!

その太炎は炎帝のソレを超えている。

風に焚き付けられた炎は温度を加速させる。

ここに氷竜がいたとすれば、間違いなく刹那的に殺害できる。
971 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:09:22.97 ID:XUuL3A850

魔女「──うっ...!?」ピタッ


魔王妃「...よく踏みとどまりましたね」


魔女「あっつ...何考えてるの?」


魔王妃「...ふふ、炎帝ほどの才能がなくても、他の属性の魔法を使えばここまで精錬できるのですよ」


魔王妃「あなたのように、得意な属性ばかりに頼っていては...私には勝てませんよ?」


魔女「...」


魔女(...さっきの一撃、まともに当てたつもりなんだけど...一瞬怯ませただけで致命傷になっていない)


魔女(これじゃ本当に...勝てないかも)


魔王妃「ところで、魔力薬の影響とはいえ...随分と懐かしい魔力をお持ちですね」


魔女「...え?」


魔王妃「とても懐かしいです...彼は私のことなど知らないはずでしょうけど」


魔女「...なに? 大賢者様と知り合いなの?」


魔王妃「...知りたければ、無理やり口を割らせてみてくださいね」


魔女「...腹立つわねぇ」


──バチンッ...!

魔女の身を包む雷の珠が痺れる音を鳴らす。

そしてソレが彼女全身に、特に両手へと収縮する。


魔王妃(両手に属性を...炎帝みたいな戦術ですかね)


魔王妃(いや、それとも...あの狼の魔物のように拳圧と共に雷を放つつもりでしょうか)


魔王妃(...どちらにしろ、接近はありえません...属性同化で実態がない身体とはいえ熱は伝わっているはずです)


魔王妃(身体を炎と同化させていない限り...高温の影響で身体に拒絶反応が起こる...)


魔王妃(...ならば、後者...じゃないにしても遠距離攻撃)


彼女が体制を変化させる。

風と炎の身体、そして少しばかり残る人としての型。

女性らしい特有の腰つき、彼女はいわゆる中腰の姿勢に。
972 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:11:09.02 ID:XUuL3A850


魔王妃(来なさい...避けてあげます)


風があるなら、間違いなく高速で後部へと移動できる。

彼女の準備は万端、そして同じく彼女も万端であった。


魔女「──そこっっ!!」


──バチンッ!!

両手を前に突き出すとそこから強烈な雷が生まれる、魔王妃の読みどおり遠距離攻撃。

無駄に地属性の魔法を放たなくとも、これなら魔力を節約しつつ避けることができる。


魔王妃「──まずいですね、少し侮りました」


魔女「悪いけど、今はじめて...全力よ?」


────バチバチバチィィッッッ!!

侮りとは少し違う、魔女の全力はこれが初のお目見えなのだから。

適切な言葉は見誤り、彼女の魔力量を考慮すれば全力がどの程度なのかある程度察せるはずだった。

彼女の全力、それ故に放たれる雷の大きさは凄まじかった。


魔王妃「...」スッ


いまさら新たに地属性の魔法など唱えている時間などない。

ならばできることはただ1つ、そのために魔王妃は両手を前に突き出した。

すでに展開してある、属性同化のありったけをぶつけるしかない。


魔王妃「────っ!」


──ゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッ!

──バチバチバチバチィィィッッッ!!

2つの轟音が交わる、それに伴い生身の人間では耐えられない衝撃波が生まれる。

あたりの雲は怯えるしかなった、その炎に臆して積んでいた雪を雨に。

その雷に誘われて、貯めていた静電気を垂れ流してしまう。


魔女「────っ!」


魔王妃「──やりますね」


魔女「...っ! ...っ!」


残念ながら彼女には話している余裕などない。

その一方で魔王妃は冷や汗こそかいているが喋れている。

実力差がここに浮き出る、だが今はまだ互角。
973 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:12:48.75 ID:XUuL3A850

魔女(くっ...少しでも気を抜くと押しこまれる...っ!)


魔女(だけどこのまま属性をぶつけ合っても...必ず負ける...)


魔女(...どうすればっ!?)


魔王妃「...このまま押し切らせてもらいます」


──ゴオオオオオォォォォォォォッッッ!!

互角だと思われていた、属性の押し付けあいに優劣が生まれ始める。

極太の雷の塊が風を纏う巨炎に負ける、このままでは間違いなく炎が魔女へと向かう。


魔王妃「...いくら実態のない雷の身体とはいっても、耐えられますか?」


魔王妃「それ以前に、その属性同化を保てますか?」


魔女「──こいつ...っ!」


見透かされた、早くも魔力がなくなりつつあることを。

そんなことは感知をすればすぐに気づかれる。

逆をいえば、魔王妃はもうすでに感知をすることができるまでの余裕を持っている。


魔女(...あとちょっとね、数分もすれば完全に雷は負けて私の身体を炎が焦がしてくるわね)


魔女(どうする...短い時間で解決策を考えなきゃ...っ)


魔女(どうにか...油断を誘えれば...)ピクッ


何かを考えついた、そのような雰囲気が醸し出す。

だがそれを拒む理性があった、行おうとするのはあまりにも危険。

油断を誘う方法、それは1つしかなかった。


魔女(...ギリギリ魔力は足りるはず...間に合わせるしかないわね)


このままでは負ける、ならば競う必要はない。

つまりは身体を元に戻すということになる。

それがどれほど危険なことか。


魔王妃「────なっ...!?」


当然、魔王の妻ともあろう者でも驚嘆する。

ある程度の力をだしていたといのに、突然手応えがなくなれば。

眼の前にあった巨大な雷、それどころか人型の雷も見えなくなったとすれば。


魔王妃(なにが狙い...っ!? いや、絶好の機会なのは変わりません...!)


魔王妃「──貰いました」


────ゴオォォォォォォォォォォォォッッッ!

炎が魔女の身体を焦がす、それだけではない。

風が更に焚き付け灼熱の温度を生み出す、極めつけは浮遊していた身体が。
974 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:13:51.69 ID:XUuL3A850

魔女「──うわあああああああああああああああああああああああっっっ!?!?」


叫ぶしかなかった、身を蝕むやけど。

そして雲がもたらす雨、その温度差に身体が拒否反応を起こす。

そして最後に感じるのは地上へと引っ張られる重力。


魔王妃「...っ!」


魔王妃(狙いはなにっ...!? 全く読めない...っ!)


まるで意味不明な行動、予測できない自体に身を硬直させてしまう。

だが今しかない、属性同化という強力な魔法を使う魔物を仕留める絶好の機会。

重力に引っ張られる魔女をそのまま追い始める。


魔女(────あつい)


感想を述べている暇はない、魔女は次の行動へと移る。

身体が悲鳴を挙げているのなら癒やせばいい。

傷が治るまで何度も、何度も。


魔女「──"治癒魔法"」ボソッ


その声量は、とてもじゃないが他者には聞き取れない。

風が、炎が、うめき声が、雨が、雷が、5つの音がその小声をかき消す。

それだけではない、その治癒力はとても低いものだった。


魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ


魔力がないわけじゃない、こうしなければならなかった。

派手に治癒してしまえばその異変に彼女は気づくだろう。

今必要なのは、追いながらも狙いが読めず困惑している魔王妃。


魔王妃「...このまま手をかけなくても、地面に衝突して終わりですね」


魔王妃(しかしなぜ...まだ魔力薬の効力は続いている様だというのに)


幸いなことに彼女の性格が油断を誘えていた。

彼女は1から10までを調べないと気になって寝れない質。

様々な属性を自在に操る、つまりはかなりの探究心を持っているに違いない、魔女はそう仮説を立てていた。


魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ


意識は消えかけ、生命維持のギリギリまで粘る。

熱に耐え、身を裂く風に耐え、失禁しそうになる落下速度に耐える。

そして時はきた。
975 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:16:19.85 ID:XUuL3A850

魔王妃「...っ!」ピクッ


魔王妃(もしかしてこれは...私を地上へと誘い込んでいる...っ!?)


時はきてしまった。

魔王妃は気がついてしまった、これは明らかに地上へと誘導されている。

そして地上には誰がいるのか、忘れてはならないあの黒がいる。


魔王妃「────危なかった、気がついてよかった...っ!」ピタッ


魔女(...どうしてそこで...気がつけるの...っ!!!)


魔女「だめ...失敗したぁ...」


落下する自分を囮にして魔王妃を地上へと誘導する作戦は失敗した。

これしかなかった、せめて隊長の武器の射程範囲内へと誘導できたのならば。

だがそれはできなかった絶望感が彼女を襲った。


魔女(...属性同化をまた発動させて、落下を防ごうと考えていたけど...もう意味はないわね)


魔女(ごめん...スライム...帽子...ウルフ、そしてキャプテン...)


身体を焦がすやけどが多大な倦怠感を生み出していた。

すべてのやる気を燃やされてしまい、復帰は絶望だった。

もう1分もない、それを過ぎれば地面へと正面衝突だ。


魔王妃「...危なかったですが、そもそもあのドッペルゲンガーもいないみたいですね」


魔王妃「彼があそこにいると賭けに出たわけですね...ですが、博打すぎましたね」


魔王妃「...同じ魔物という種族ですから、最後まで見届けますよ」


魔物という種族、その王の妻。

哀れみにも近い表情で魔女の最後を見届けようとする。

その時だった、あらたな光が勝機を生み出す。


魔王妃「...」


────カッッッ!!

その音は稲光の音、だが魔女が創り出したモノではない。

これは自然が作り出した、神の鳴り音。


魔王妃「────うっぐ...っ!?」


身体に走る痺れ、完全なる油断。

知性のある生き物は雷に打たれる予想などしない、当然の不意打ちであった。
976 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:18:35.50 ID:XUuL3A850

魔女「──っ!」ピクッ


魔王妃「な...どうし...て...」フラッ


不幸な一撃を貰いふらついた彼女、それに留まらず。

あまりの出来事に思わず、身体が地上の重力に負けてしまうほどに。

まさに奇跡であった、この異世界の自然は魔女を応援した様に見えた。


魔女(...ふふ)


魔女「────"属性同化"、"雷"っっ!」


──バチバチバチバチバチッッッ!!

倦怠に負けた身から元気を振り絞ったわけではない、何かを見て元気をもらったような雰囲気。

身体を雷にすることで重力に打ち勝ち浮遊する、これで地面との正面衝突を回避できる。


魔王妃「ぐっ...しまっ────」


──□□□...ッ!

身に感じる危険な音、それは黒くなく、白いモノ。

なぜそんなものがここにあるのか、不可解であった。


魔女「────信じてたわよ、あなた」


隊長「──あぁ、俺も信じていた」


闇の気配などない、だからこそ魔王妃は気づけなかった。

彼はもうすでにここに居た、居てくれていたのであった。

そして放たれるのは弾幕。


隊長「──Open fire...」スチャ


────ババババババババババ□□□ッッッ!!

なぜ彼は、闇ではなく光を使っているのか。

その答えはわからない、彼にすら。


魔王妃「──なぜ」


──グチャグチャッ...!

その高品質な光を前に、彼女の身体は実体を創らされていた。

それどころではない、属性同化という魔法を強制的に解除されてしまっていた。

眩しすぎるが故に。
977 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:20:35.02 ID:XUuL3A850

魔王妃「──なぜ、あなたが...」


隊長「...まだ耐えるのか」


魔女「その武器だけじゃだめ...もっと威力が欲しいっ!!」


──バチバチバチッ...!

この雷は、先程よりかはやや威力が低下している。

それでも決して低すぎるわけでもない。

だというのに、魔王妃の身体にはまともなダメージを与えることができずにいた。


魔王妃「──なぜ、あなたが光を...」


魔女「──頑丈すぎるっっ!?」


隊長「...大丈夫だ、来てくれた」


──バラバラバラバラバラバラッッッ!!

なにかが高速回転する音が訪れる。

雷にも引けを取らないその轟音、その音の主が上空から参上する。

そしてそこから覗くのはあまりにも大きすぎる銃身。


魔王妃「──なぜ、あなたが"あの子"の光を...」


隊員A「──I found enemy」


隊員B「Bitch ass...」スチャ


────ドシュンッ...!

鈍すぎるその音、どうやって発しているのか。

対物だからできる芸当、アンチマテリアルライフルの真骨頂がここに。

たとえ属性を持たぬただの武器であってもその一撃は計り知れなかった。


魔王妃「......そうか、"あの子"...そこに...いる...のね...」ポツリ


1人つぶやく彼女、その表情はどこか嬉しげなモノ。

光の弾幕でできた銃痕、雷によってできた身体の炭、そして対物ライフルの重すぎる一撃。

様々の要素が彼女の属性同化を完全に解除させていた、彼女は地面へと落下するしかなかった。


ウルフ「...」


隊員「...やったのか」


隊員Aが操縦するヘリコプター、そこから覗き込む2人。

ただその様子を見守ることしかできなかった。


〜〜〜〜
978 : ◆O.FqorSBYM [saga]:2018/12/24(月) 20:22:16.76 ID:XUuL3A850
今日はここまでにします、近日また投稿します。
もうしばらくしたら次スレを立てて埋めます。
下記はTwitterIDです、投稿をお知らせする手動BOTです。

@fqorsbym
979 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:35:42.14 ID:XUuL3A850

次スレです。
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1545651137/
980 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:39:00.61 ID:XUuL3A850
埋め
981 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:39:35.55 ID:XUuL3A850
埋め
982 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:40:24.89 ID:XUuL3A850
埋め
983 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:40:55.53 ID:XUuL3A850
埋め
984 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:41:46.11 ID:XUuL3A850
埋め
985 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:42:42.28 ID:XUuL3A850
埋め
986 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:43:14.86 ID:XUuL3A850
埋め
987 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:44:29.59 ID:XUuL3A850
埋め
988 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:45:11.78 ID:XUuL3A850
埋め
989 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:45:50.37 ID:XUuL3A850
埋め
990 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:46:24.37 ID:XUuL3A850
埋め
991 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:47:04.23 ID:XUuL3A850
埋め
992 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:47:37.12 ID:XUuL3A850
埋め
993 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:49:20.83 ID:XUuL3A850
埋め
994 : ◆O.FqorSBYM [sage saga]:2018/12/24(月) 20:50:14.38 ID:XUuL3A850
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