アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙 2スレめ!

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/21(水) 20:43:34.39 ID:dWC6aD2Z0
現在、絢瀬亜里沙ルートの第五話を執筆中です。

↓が1スレめになります。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518804924/

11月22日更新分からこのスレッドを利用し、
多少容量を有している1スレめにはなにか書きます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1542800613
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/21(水) 22:01:40.02 ID:pfLD4FKzO
建て乙です
物語も佳境なところで2スレ目かぁ
別ルートにも期待せざるをえない!
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 01:26:53.84 ID:zYNyRolto
つまらない
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:29:13.73 ID:75DWSiyn0
 南條さんと一緒に入った普段に私が近づくことすらできなそうな超高級ホテルは、
 空を突き抜かんばかりに建物が高くそびえ、踏み出す足が緊張を覚えた。
 秋も深まる中で夜になれば肌寒くなる季節に、
 冷えを感じることもなく、または汗ばむような暑さも覚えることもなく、
 徹底された空調管理とサービスの結果、酔いがどんどんと冷めてきて冷静になる。
 ここに来るまでの車内において、翌日からのイベント内容およびキャラ作りの必要性を説明され、
 すっかりお兄様大好きな妹に変貌した南條さんや、この度の機会を楽しみで仕方がない
 と言わんばかりにそわそわとしている金髪を模した私。
 傍から見ると滑稽極まりないんだけれど、周囲への波状効果は絶大なものがあったらしく、
 ホテルのスタッフや監視役として送り込まれている椎名関連のスパイ(南條さんにバレてる)には、
 ちょっと前まで酒を飲み干してたことは気づかれていない。
 部屋に戻ってもなお演技は続き、今日は睡眠を取るとなった時に南條さんの目つきが鋭くなり、
 誰かいるのかと思って振り返ったら、闇堕ちした東條希みたいな――
 確かに似ても似つかないのだけれど、一部分(オーラのこと、おっぱいじゃない)は
 彼女が希に似ているのか、希がこの人を模しているのか、
 私は判断つかなく、近づくたびに感じる得体の知れない空気――というより、嫌気。
 背中をツーっと指で撫でられているみたいな、えづきを覚えるような気持ち悪さに、
 ボロが出そうな気がして思わず顔を伏してしまった。

「ふふ、そんなに緊張せんといていいのよ?
 ウチには全部見えていたから――そのキャラ作りは」
「あなたは?」
「色欲の悪魔……あ、好色? ヒトの願望や欲望を力にしてる
 ――まあ、そんな、とりあえず人間じゃない程度に記憶してもらえればええんよ」
「絵里さん、まどマギのインキュベーターみたいなものです。
 邪悪極まりない――兄とは波長が合うんでしょうね、下劣さ加減で」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:29:53.39 ID:75DWSiyn0
 南條さんのディスにもキュゥべえさん(仮)はどこ吹く風。
 耳に入っただろうけど、悪魔だと言うから年齢も重ねているであろうし、
 能力は多少衰えているかも知れない、どこまで外見通りの女性かは分からないけれど、
 恐らく精神的にはBBAと呼んでも遜色はないかも知れない、こういうヒトって
 初登場時には余裕を噛ましているけど、いつの間にかただの噛ませ犬になって、
 いつの間にか正義のもとに断罪されていなくなってたりするよね。

「エリー、親友に似ているからと言って、ちょっとディスが激しくない?」
「すみません、私嘘がつけない人間なので」
「心を読まれたことを少しは動揺しよう?」
 
 キュゥさん(仮)はやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
 私はそれを眺めながら、悪魔というのに俗世間に染まっていることに多少なりとも違和感を覚える。
 さして自分の障害にはなるまい、なったとしても多分誰かが助けてくれるはず――
 強気なのか弱気なのか判断がつかないけれど、最初感じた恐怖感はすっかり拭いだされた。
 南條さんが私の前に進み出て、私はひとまず部屋の中の椅子に着席。
 彼女が実はDとかの弟子で、目を離した隙に戦闘が終わってたら残念であるので、
 頑なにも目を離さずに動向を見守る、キャラ作りに疲れたわけではないのよ?

「不穏な動きをしているのをイオリが知ったらどうなるだろうねえ?」
「私もあなたに会えてよかった、これで一人残らず討ち果たせる」
「ん?」
「――あのシスコンがキャラを演じた妹が言うことを信用しないわけがないでしょう?
 そして迂闊にも希さんとつながりがある私の前に姿を現すとか。
 迂闊とか言いようがありません」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:30:45.61 ID:75DWSiyn0
 南條さんの中ではもうすでに目の前の相手は死亡フラグが建っているらしく。
 私はポットの側に置いてあった、緑茶のパックを手に取りお湯を入れた。
 100円以下のどこにでもあるようなインスタントと違って、香りも上品で――うーん、マンダム!
 ひとくち口をつけたら火傷しそうなくらい熱くて、ふうふうとコップに息を吹き入れた。
 キさん(仮)はそんな私たちの態度に頭痛を感じたのか、悪魔も頭が痛くなることがあるのね?
 なんていう私の感想を読んで気分でも悪くなったのか。

「あんまり私に舐めた口を叩かない方が良いわよ?」
「その台詞がすでに死亡フラグ――三下は」
「少しは力を見せつけたほうが良さそうね……まず手始めに」

 建物が揺れ始めた、震度で言えば2くらい。
 確かに欧州では驚かれるかも知れないけれど、日本での暮らしが長い私や、
 純血日本人の南條さんにとっては、またかくらいの認識で。
 怒り心頭に発したことによって何かの超常現象でも引き起こすのかと思いきや、
 ちょっと部屋を揺らしてみました程度の力に、やった本人でさえ首をひねってる。

「哀れですね、今のあなたの力の根源である善子さんの不幸属性は
 もう意味をなさない、力を使えば使うほど――」
「嘘でしょう!? だってアレだけの……恨みや呪い、妬み嫉み……
 彼女を形作っていた、黒澤家の!」
「人は成長をする生き物です、過去のしがらみなど今には何の意味もない
 たとえ、過去に不遇で不幸であっても、今の彼女には関係がない
 人間の力を見誤った時点でもう――あなたにはフラグが建っていたんです」

 そろそろ絢瀬絵里が主役じゃなくて、南條さん主役のスピンオフ物になりそうじゃない?
 彼女は否定するかも知れないけれど、明らかにオーラが一般人を遥かに超えてる輝かしさ。
 二杯目の緑茶に口をつけながら、何パックか持って帰って亜里沙とツバサに飲ませてみようか、
 どうやって持ち帰ろう、そういえばお酒を飲む前に持ち込んだカバンは置いてきてしまった。
 まあいいや、お腹に溜めておいて後日自慢でもしてあげよう。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:31:23.09 ID:75DWSiyn0
「く……覚えてらっしゃい!」
「お帰りはドアからどうぞ」
「ばっはろ〜」

 手を振りながらキ(仮)さんを見送る。
 恐らくもう出会うことはないだろうけれど、寝るまでは覚えてることにする。
 あ、ちなみにばっはろ〜はバイバイとハローを組み合わせた絢瀬絵里の造語。
 どっちかに統一しろというツッコミは受け付けません。



「く、原祖の悪魔が人間なんかに――!」
「テクノロジーを過信して、新しいハイテクに駆逐されるオールドタイプみたいやんな?」

 南條さんにお手洗いに行ってくださいとお願いされたのと、
 ユッキの導きによって、希に認知されないように陰ながら二人の戦いを見守る。
 ――絢瀬絵里の夜はまだまだ続きますが正直眠いです。
 希はボロボロの柔道着を身に着けていたとか、修行の末に超サイヤ人に変貌をしていたとか、
 ついにバストサイズが3桁の大台に乗ったとかそんなことはまったくなく。
 私が眠りこけている間には、仕事そっちのけでキ(仮)を探していたらしく、
 自分の手で必ず成敗すると息巻いていたとか。
 そういうことをされてしまうと非戦闘員の絢瀬絵里は戦闘の解説役にしかなれない。
 
「鞠莉ちゃんのツテで貰った、アガートラーム!」
「それはオーバーキルでしょ!」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:32:20.62 ID:75DWSiyn0
 希がどこからか取り出した(明らかに異空間だった)聖剣に、
 隠れて見守ろうという私の魂胆は塗りつぶされて、ユッキが用意した(異空間から)ハリセンで
 おとぼけ紫おさげをスパーンとぶん殴る。
 あまりに予想外であったのかシリアスをやりたかったのかは不明だけど、
 もうすでに場の空気がギャグに傾いているので、アークインパルスの代わりに
 ボルテッカー! とか叫んでマイク壊しても良さそう。

「エリち! ――久しぶり、よく帰ってきてくれたね」
「あの血まみれの寝そべりぬいぐるみってお手製なの?」
「え、慈愛を込めて微笑んだ女神のんたんはお呼びじゃなかった?」

 いまさらシリアスに軌道修正したところで――
 女神と呼称できるほど、美しく思わず見とれてしまいそうな笑みは一瞬で消え失せ
 キョトンとした表情でおとぼけてみせた。
 敵であるキュゥさん(仮)も、目の前で始められたコントに目を見開いてみているだけだ。
 
「ええと、ごめん、考えてた台詞を言っていい? ベルちゃん」
「ベルちゃん!? いやいや、チョット待って、待って
 いい、私は宿敵。あなたが歪む原因を作った原祖の悪魔にして、欲望と好色を司る
 とんでもない邪悪極まりない存在なの、ベルちゃんはちょっと困るっていうか
 何のためにヤンデレたあなたを絢瀬絵里が見ることになったのか」
「津島善子ちゃんを誑かし、私の両親を死に追い込み、ウチをヤンデレにしたその罪!
 とか言えばよかったの?」
「――あ、うん。AKY(あえて空気を読まない)だったわ」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:33:17.33 ID:75DWSiyn0
 なんだかなあという空気がホテルの敷地内に流れる中。
 敵意全開で睨み合っていた両名は無事に矛を収め、ほのぼのしたストーリーに軌道修正した。
 あと、さらっと東條家の両親がお亡くなりになってるって知って、私はどう反応すればいいのか。

「絢瀬絵里!! あなた! あなた!」
「ごめんなさいね――もう、私の前で誰かが不幸になるのは嫌なの
 身勝手でも、チートでも、なんでもいいけど、私は平和が好きなの――だから」
「ああ、もうわかったわよ! しばらくは矛を収めてあげるわ! 
 金輪際人間に手を出さないとは誓わないけど、お休みしててあげる!」
「よかったなぁベルちゃん」
「ベルちゃんはやめて」

 その後、南條さんを含めた4名でお酒を酌み交わした。
 悪魔はお酒が強そうなイメージがあったけれど、勝負した結果
 見事に絢瀬絵里が勝利した――その顔を見た東條希が私のことを、

「神にも悪魔にもなれるのかなあ」
 
 と、称したけれど。
 そんなマジンガーZみたいな扱いはやめて欲しい、
 私に光子力エネルギーは流れてない、ロケットパンチも打てない。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 16:37:38.74 ID:75DWSiyn0
シリアスは死にました。

たぶん、今後シリアスに比重が傾くのは問題解消後の
ちかうみの会話だと思うんです――せめてそれまでには体調が戻っていて欲しい。
ではまた明日です!
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 19:41:16.11 ID:vwzpp45CO
ギャグパートで倒される悪役の悲惨さよ…
俺ガイルとかシンフォギアとかテッカマンブレードとか色々波長が合いそうな回だった
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 21:00:36.84 ID:WopXp37A0
新スレ一発目でいきなり中ボスっぽいやつが見事なかませっぷり晒しててワロタ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:25:04.57 ID:Xf21YDu/0
 お酒を酌み交わし急激に仲良くなった結果。
 問題提起をして、その解消のために努力をするという行為がひどくバカバカしいものに感じ。
 もういっその事海外に逃げよう、アメリカンドリームを追いかけてみよう――
 ノリと希望だけで会議した結果、前日に花嫁衣装に身を包み、
 婚約イベントに参加するという目的は果たされることはなかった。
 私は一体何のために南條さん……ではなくメグに拉致られて、見たくない決闘を目撃し、
 結果グダグダでイベントが終了することになったのか?
 それでもなお今回多くの人間を巻き込んで、自分の意のままに世界を改めようとし、
 一部の人達には深い悔恨の意を持たせたことには報いを与えなければならないのだけれど。
 ベルちゃんのように、話せば結構面白い人という可能性は未だに残されているかも知れないけれど――
 幸せいっぱいの亜里沙(ツバサは最近不幸属性を身につけた)や
 復讐に燃えていたメグ(復讐なんかしても自分が損するだけじゃね? と思い始めた)や、
 その他シリアスに頑張ってた人たちも――人生割と、真剣に生きなくてもどうにかなるや肩の力を抜こう。
 でも、亜里沙にはぜひプロデューサー職に戻って貰わないと困る――キャリアウーマンでなくなり、
 ツバサと結ばれてしまって家庭に入って幸福な人妻と化してしまったら――
 なお、今回の婚約イベントの延期はメグの「あにさまおねがぁい(はぁと)」で許されることとなったので、
 本音を言えば延期ではなく中止としたいところではあるけど、そこらへんの感情の機微は
 読み取ってはくれないようである――とても残念なことに。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:25:57.01 ID:Xf21YDu/0
 いっその事みんなで住もう! 貞操の危機を感じたというツバサにより、
 希望者を募ってシェアハウスのような形で一つの大きな家に同居することになってから数ヶ月。
 なんか大事なことを忘れている気がすると家ではメグが首をひねり、
 ベルちゃんがここあちゃんの乙女ゲーのシナリオにだだハマりし(新感覚だったらしい)
 Re Starsの面々も、そろそろ進学か就職活動始めようかな、アイドルで食べていけないし――
 そして私自身も虹ヶ咲学園の講師とか、少なくともコーチングスタッフとしてどこかで拾ってくれないかな?
 でも、せつ菜ちゃんに就職を斡旋してもらうのも、なんかもうアレだな? なんて。 
 過去には毎日のように会っていたμ'sやAqours――スクールアイドルのみんなも、
 そうそう、穂乃果はハリウッドで本当に映画出演のオファーが来たとかで、以前帰国した時に、 
 英会話の腕前が絢瀬絵里(笑)−あやせえりがかっこわらいになる−レベルになっていてしこたま驚いた。
 ディズ○ーランドで遊んでいたばかりじゃなかったんだよ、とは彼女の談だけど、
 なら、メールで送られてくる写真がテーマパークの風景ばかりじゃなくてさぁ……。
 南ことりは10代後半から20代前半をターゲットにしたブランドから、
 子どもを大事にしよう! という思いからキッズ向けに路線変更してなんと大当たり。
 私がつい、子どももいないのに気持ちがわかるの? と問いかけてしまい、
 人間には想像力というものがあってねとコンコンと説明されてしまったのは自分が迂闊だった。
 そりゃそうだ、異世界転生する物語を書いているなろう作家が本当に転生しているわけじゃない。
 海未はスクールアイドル――虹ヶ咲学園での作詞の活動を中心に、多くの高校に歌詞を提供している。
 当人いわく、身体を動かすよりも歌詞を書いている率が高いと笑いながら話してくれた。
 なお、高校生スクールアイドルの面々には無償で作品提供するけど、
 芸能事務所からの依頼は高利貸しもびっくりの金銭を要求することで有名、レートは1文字5000円。
 それでも元が取れるっていうんだからね、なんとも言えないよね……。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:26:30.69 ID:Xf21YDu/0
 凛は最近バラエティー出演方面に舵を取り始めた。
 扱いに関してはにこを彷彿とさせるので、にこりんぱなでデビューでもしたら?
 と、ネタで言ってみたらほんとうに3人でデビューしてしまい、ラジオのパーソナリティを3人で務めているけど、
 なんで衣装がジャージなの? もっといい衣装なかった? ことりは提供するって言ってくれたよ?(子ども向けです)
 花陽はラジオでのパーソナリティとしての職と一緒に海未と一緒に数々の高校を巡り、
 自身の体験談であったり、アドバイスであったり、スクールアイドルを好きになって貰おう活動を始めた。
 おかげで中高生の女の子からは女神みたいな扱いをされていて、μ'sは小泉花陽を中心としたグループだった
 なんて称されることもあるらしい。
 暇だからスタッフの一員として花陽についていったら、悲しいことに元μ'sと言っても信じて貰えなかった。
 ほら、ここにいるの私! と指をさして説明しても現実を見ろみたいな顔をされて終わった、解せない。
 真姫は18禁ゲームの出演を続けながら、コスプレイヤーとしてもよくスタッフブログとかに顔を出している、
 さらには作曲活動も始めて、海未とタッグを組んでスクールアイドルに曲を提供しているけれど、
 その審査は恐ろしく厳しく、曲を貰えば勝ったようなものと評判。
 なお、それを乗り越えることが出来たのは虹ヶ咲学園のスクールアイドルの面々だけど――
 まだメンバーが揃っていないという理由で来年のラブライブの優勝を目指すとか。
 にこはラジオ出演と同時に、姉妹揃っての大学進学を目指し受験勉強に奔走。
 ここあちゃんは仕事が忙しいと断念してしまったけど、ここあちゃんと一緒に有名大学に合格。
 この春から大学生と言ったけど、つい口が滑って高校生と言われても遜色ないわねって言ったら、
 自分の顔を鏡で見てみなさいと真剣に告げられたけど、なんでだろうか。
 そして希。
 シリアスに傾いて自分のキャラを見失ってた――と、反応に困る台詞と一緒に、
 しばらく食っちゃ寝してストレスを解消する! エリちも手伝って!
 という有無も言わさぬお願い(笑)をされてしまい、悪乗りしたツバサ(亜里沙から逃げたかった)と、
 電車に乗りたいというベルちゃん(基本移動はテレポート)と、仕事ばっかしてて観光する暇がなかったメグ、
 そして、彼女の荷物に紛れ込んでついてきた亜里沙(ツバサ逃亡失敗)と5人で日本一周した。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:27:19.57 ID:Xf21YDu/0
 だいたいどこでも食べて寝て酒を飲み、テンション高く風景を褒め称え、
 有名なスクールアイドルがいる聞けば会いに行き、元A-RISEというと盛り上がる彼女たちなのに、
 元μ'sというと本当かよみたいな顔をするんだけど、そんなに絢瀬絵里って影が薄いの?
 ――気がつけば4月。
 そろそろ働き口を探そうとツバサと笑っていると、
 亜里沙がそろそろ子どもの名前を考えましょうと、楽しかった空気(というかツバサの顔面)が凍り、
 メグがそういえばハニワプロが経営難で――とどうでも良いことのように語り、
 ベルちゃんが希と一緒にダイエットに励む中(悪魔も太るらしい)で、
 けたたましい大きな音と一緒にぶち破られたドアがバタンと床に倒れ――

「無駄な抵抗をするな! 抵抗すれば容赦なく殺す!」

 え、あ? ドッキリ? とキョトンとした表情で顔を見合わせた私たちは――
 自分の問題というのは時間が解決するけれど、
 他人の恨みは積年の恨みとなって解決されることがないと身をもって体験することになる。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/23(金) 18:42:28.53 ID:Xf21YDu/0
ラストエピソード!
――の前に、エリちが触れてくれなかったAqoursやSaintSnowの面々、
虹ヶ咲学園のスクールアイドルのメンバーとかに触れよう!

と、思ったんですが、
Aqours3年生組は悪役の打破に奔走中
2年生組は千歌ちゃんがテレビで出ずっぱりなこと以外は書くことがない
1年生組は善子に髪の毛がシニヨンと一緒に返却されたくらいしかエピソードがない。
SaintSnowの二人は海未ちゃんに顎で使われ(理亞ちゃん歓喜)て、
おかしい、ちかうみの和解エピソードと、ダイかなまりの悪を成敗するシーン、
理亞ちゃんのエリちやツバサを見て自分も本気出すとシリアスに言うシーンは絶対に書こうと思ったのに
機会があればいつかは書ける、多分。

でも、今回更新分のエピソードで一番不遇なのは
昇天フラグが回避されたユッキ(希とベル公の戦闘は相討ちで終わる予定でした)
で、エリちの内面には未だにいるのに触れられなかったことかもしれない。

今日の夜から明日の昼くらいまでゆっくりお休みして、
物語上はグダグダでも、フラグやイベントは回収できるようにがんばります……。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/23(金) 20:34:28.97 ID:8kP7Q84PO
いよいよラストか……今度こそ強敵の予感だ
えりちは相変わらず若々しいままで元μ'sって全然信じてもらえないのね
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:09:50.83 ID:/EnBVSNm0
 私たちを拘束するために用意された部隊は総勢30名。
 相手がどのような想定をして人数を集めたのかは不明だけれど、
 両手を上げて、囚えられた宇宙人みたいな顔(?)をしながら
 ズルズルと歩くのは総勢6名。
 大の男が揃いも揃って襲いかかるには対象がか弱すぎるのではあるまいか?
 なんて感じているのは私だけみたいで。
 古来から様々な災いを招いて来た悪魔(最近太った)や、
 現代に蘇った安倍晴明と評判のスピリチュアルガール(最近太った)とか、
 日常を戦闘モノに変貌させてしまう人外めいた(ひとり人外)人間は両方とも空を見上げながら。
 私(ウチ)って拘束される必要なかったんじゃない? みたいなことを呟いていたけど。
 その点に関しては自分は悪くないし、ワゴン車の乗り心地が思いのほか良くって
 もしかしてこれラブワゴンなんじゃね? って考えてたらユッキに
 絵里姉さん、命の危機です。もう少しシリアスな空気を出しましょう――と忠告された。
 さすがにもうお亡くなりになっている相手に命の心配をされてしまうと、危機感も覚えてしまうよね……。

 連れてこられたのは山奥のコテージのようなところ。
 木製の建物に、リア充がバーベキューでもやっていそうな庭、
 ちょっと日本にはそぐわない――ジェイソンとか、海外映画の殺人鬼が活躍しそうな。
 少なくとも私たちの見た目はか弱い乙女(という年齢でもない)なので、
 殺しあいでも始まってしまったら誰一人生存しそうもない、私は真っ先に死にそうな気がする。
 いかんせん金髪の致死率が高すぎる、カップルとかだとほぼ100%死ぬし。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:11:01.37 ID:/EnBVSNm0
 なお、先ほどからベルちゃんを無線親機、ユッキを無線子機にしてのテレパシーのやり取りをしていて、
 ツバサがビリーズブートキャンプを指導するビリー隊長のマネをするボビー・オロゴンのマネを披露し
 こちらとしては笑いを堪えるのが大変、声は似てないんだけどすごく特徴を捉えている――
 生きて帰ってこれたらぜひともお茶の間の前で披露して欲しい、きっと爆笑の渦が巻き起こる。
 緊張感のない我々に気がついているのかいないのか、テロ組織とかにも通じているという部隊は
 物々しい雰囲気のままに建物の中に入り、銃を突きつけながらこちらを睨みつけながら護送中。
 見た目的には死亡フラグが建っているのに、頭の中はビリー隊長でいっぱい。
 やがて辿り着いたコテージの深奥には、妹にすらその存在を忘れかけられていた(私も忘れてた)
 椎名伊織氏が不機嫌そうな面持ちで座っていた。
 部隊の隊長と思しき筋肉隆々でサングラスを掛けた日本人(おそらく)の男性は、
 ハスキーボイスで(ボビーオロゴンそっくり)作戦の終了を報告した。
 もうすでに拘束されている面々の半数が半分笑っていて、震え始めている――
 ややもすると恐怖で震えて泣き出しているようにも見えるけれど、
 ひとり真似をやり続けているツバサだけはすごくシリアスな表情で椎名伊織を睨みつけていた。
 まさかあいつも頭の中ではビリー隊長やってるとは思うまい、聞いている私だって疑わしい。

「なにか言いたいことはあるか、メグミ」
「どっ、どちらさっ、まっ、でしょうか……」

 せっかくビリー隊長に慣れ始めたのに、今度はもののけ姫の曲を歌う米良美一のマネをする美輪明宏とかいう
 どういう組み合わせだよ! っていうモノマネを披露し始めた東條希によって、ほぼフルメンバーが撃沈。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:11:52.24 ID:/EnBVSNm0
 呼吸困難になるレベルで笑っているメグもつい小ボケを披露してしまったけど、
 かの男性は恐怖で正常な判断ができなくなっていると勘違いした――正直助かった。
 俯瞰的に状況を確認すれば私たちに勝ち目はない、恐らく理亞さん大好きなゲームだったら、
 もう10クリックすると目も当てられないシーンがおっ始まることは確実。
 着ている服はビリビリに破けて、高らかに悲鳴をあげてから殺されるのだろう。
 いや、闇堕ちして他のμ'sの面々の前に現れるとかするのかな? ことりあたりに私は容赦なく殺されそうだけど。
 やめるのです穂乃果! あれはあなたの知っている絵里ではありません! と海未が言った瞬間に
 わかった! って言って、八つ裂き光輪とか発射するね、文字通り八つ裂きになる絢瀬絵里(笑)

「俺に逆らわずにいれば良かったものを――賢く生きなければ家畜のように処理されるだけだと、
 その生命を持って知ることになったのは、ある意味幸福だったかもしれんな」

 冷酷な発言を噛ましているけど、対象のメグは、え、そのマネどうやってやるんですか?
 と、熱心にツバサにモノマネのコツを聞き続けている、どうあがいても生きて帰られると思ってるらしい。
 ――いや、まあ、ここにいる面々の共通認識として命の危険はまったく感じてないんだけど。
 だけども、そんなことを露程にも知らない椎名伊織氏は、
 笑いを堪えていて前を向けない私たちを、恐怖のあまりに涙をこらえている(ツバサも俯いちゃった)とか、
 怯えている表情を見せたくない頑なな態度と認識している模様、そのまま勘違いしていて欲しい。
 
「だが……お前たちが助かる方法がある、聞きたくないか?」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:12:49.07 ID:/EnBVSNm0
 無線親機はもう職場放棄して家に帰りたいと言い始めたし、
 子機のユッキは健気にもテレパシーを広め続けている。
 ここでツバサがとっておきの「エリチカおうちかえる!」を披露し、笑ったユッキが
 私たち以外にもついついテレパシーを送り込んでしまい、廊下の方からグッ! という声が聞こえた。
 「黙れ小僧!」と言った絢瀬絵里のマネをする
 美輪明宏氏のマネをする東條希の破壊力は抜群だった模様、私もちょっと鼻水出そうになった、汚い。

「誰か一人の命を俺に捧げろ! そうすれば寛大な俺はお前らを許してやらんこともないぞ!」

 恐らく椎名氏は困ったように動揺する我々を見たかったものと思われる。
 が、そんな空気を露にも読まない(みんな読んでない)一人の行動によって、
 シーンはやっと動き出すことになる、そろそろものまねショーはやめてほしい、お腹痛い。
 あと、健気なユッキが必死になって手を上げているけど、あなたには捧げる命がない。

「ほう……お前は見ない顔だな――報告にも旅行の際に食べすぎて太ったとあるが
 惨めな女だ! 少しはあの絢瀬絵里を見習え! あいつはお前以上に食べても変化がないぞ!」

 ディスるのか尊敬しているのかどっちかにして欲しい。
 さすがに今の発言は破壊力が大きかったらしく、私たちに銃を突きつけていたシリアスな人たちが
 身体を揺らして笑いを堪えているのが見て取れた、リーダーの人だけ頑張ってるけど、
 恐らくもう人揺らぎしたらぶって行くね、確実にぐはっ、って何もしないのに倒れるね。
 ちなみに私の近くにいる綺羅ツバサも二人以上に食べていたけど
 触れて欲しいみたいな目で羨ましそうに私を見るのはやめて、笑っちゃうから。

「まあ、そんなみすぼらしい外見のまま死にゆくのは哀れだろう――
 そうだな、俺に逆らい続けた絢瀬亜里沙! お前が死ねば他の奴らは解放してやろう」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:13:33.86 ID:/EnBVSNm0
 だったら最初からそう言えよ、というメグの素のディスが各面々に広まり、
 テロ組織に精通(疑わしい)しているという人たちも、たちまち震え始めた、あなた達に罪はない(たぶん)
 しかしながら、空気の読めない(ある意味読んでる)伊織氏は、激情がこみ上げてきたと
 勇猛果敢な兵士を称賛するような目でシリアスな彼らを見ているけど、
 一部の人達は笑って銃口が椎名伊織氏に向いていて、発砲されれば彼に直撃するんだけどだいじょうぶ?
 
「なるほど……私が死ねば許して頂けるんですね?」
「だがその前に、跪け! 命乞いをしろ! 哀れに泣き叫べ! クク……
 当然ながらできるよなあ? 俺に同じことをさせたくらいだからな!」

 黒歴史の白状は絢瀬亜里沙というより、その行為を知らない(私も知らなかった)面々に大きなダメージを与えた。
 ベルちゃんが知らない(伊織氏自身に元から興味がない)のはともかくとして、
 メグ自身も知らなかったことらしく、嘘でしょ? みたいな顔をして私の妹を見てる。
 亜里沙や他のメンツに粛清された時でさえ、必ず帰ってくるとか言ってたくらいだし(迷惑にも本当に帰ってきた)
 プライドの塊みたいな人間を亜里沙が(当時の妹は高校生)跪かせて、命乞いさせて、
 哀れに泣き叫ばせたとか、何、ちょっと親近感抱いちゃうんだけどダメ? 
 私も何度かやったことあるから! あとこの発言をユッキはテレパシーで拡散しなくていいから!
 せっかく空気がシリアスになりかけたのに、ツバサと希がうわぁみたいな顔をして私を見てるから!
 
「分かりました――あの時のあなたのように、哀れに、情けなく、恥ずかしげもなく、
 顔面を泥のついた足で踏まれ、涙を流しながら、雨も降り、気温が低い中で、
 その場で放っておかれ、後日歩夢に助けられたあなたのように!!」
「そうだその通りだ! クク……同じことをさせると思うと、あの時のお前のように
 冷徹極まりない、虫けらを見るような目で見てやろう!」
「彼女にママと言って泣きついて、セクハラかました結果、罪が重くなったところまで再現しましょう――歩夢!」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:14:14.85 ID:/EnBVSNm0
 はーい、という声が、私たちがこの部屋に入るため使用したドアから、
 岐阜に帰って米作りに精を出していたはずの上原……じゃなかった、月島歩夢その人が
 フッツーに家にお邪魔するみたいに入ってきた。
 頭に特大のハテナマークを浮かべながら彼女を見やる面々(伊織氏以外)に、にこやかに手を振りながら
 
「いやいや、熱烈な歓迎ありがとうございます。
 お久しぶりです、椎名伊織さん。あの時に鼻水を胸元につけられた恨みまだ忘れてませんよ」
「何故貴様がここに!」
「安心してください、あなたに恨みを持つ人間は――今ここに勢揃いしていますから」

 ドタドタドタ! と、あらゆる罵声や入れろ入れろ痛い痛い! 様々な声が後ろから聞こえてくる。
 さっきまで私達に銃を構えていた人が揃って、交通整理を始めている。
 変装を解いた面々の中に津島さん(ダイヤちゃん配下)とか、
 スタッフとして紛れ込んでいた鞠莉ちゃん配下のマフィ○のヒトとか、
 よく考えてみればちょっと前に一緒に仕事してた人間が、揃いも揃ってこの場に集結した。

「哀れですね椎名伊織、生憎と私は人徳があるんです。
 こんなにもたくさんの方々が、私たち姉妹!  じゃなかった。
 ええ、ツバサさんと絢瀬亜里沙の結婚を祝福してくれました! ハラショー!」

 おおぉぉぉぉ!!! という声を上げてツバサが頭を抱えている。
 恐らくこのドッキリみたいな仕掛けのことは知っていた様子だけど、
 英玲奈やあんじゅには、復讐譚として物事は解決すると約束されていたらしい。
 裏切り者ォォォ!! と伊織氏よりも悲痛な声を上げた彼女が痛々しい。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:14:58.29 ID:/EnBVSNm0
「ククク……哀れなのは貴様の方だ! 絢瀬亜里沙! 今の俺に付いている人間がどれほどいるか……!
 日本で俺に逆らえる人間なぞ誰もいやしない!」
「なるほど、それなら世界のオハラだったら――ちょっとは逆らってもいいのかしら?」

 窓を突き破って突入した果南ちゃんにお姫様抱っこされて登場するという、
 何だその扱いみたいな感じで世界でも有名な企業の一つにまで成長した(鞠莉ちゃんの手柄)
 オハラグループのご令嬢(会長職みたいなものらしい)小原鞠莉ちゃんが登場。
 なお、窓の近くにいた椎名伊織氏は破片が直撃して痛そう。

「ずいぶん好き勝手に持ち上げられてチヤホヤされていたようですが、
 ベルがすでに自分の手元に無い時点で、暗示は解かれていたって気づかなかったんですか?」
「あいつがいなくなって半年は経つが変化は……」
「無いように見せかけていたんです、もうとっくのとうに私たちに対する悪評は解消されています」

 亜里沙の発言を聞いてもなお疑わしいという顔つきをする彼に対し、
 特大のため息をついた妹はとっておきとばかりに、彼に付き添い、悪事に加担してきた様々な――
 さり気なく私の父親もぐるぐる巻きにされてるんだけど、あの人は何したの? ついでに縛られてない?
 いや。まあ、ちょっと私の気持ちはすっとしたからいいんだけどさ。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:16:16.36 ID:/EnBVSNm0
「お、おお……ゆ、許してくれ……! 悪気はなかったんだ!」
「知っていますよ、そんなことは。悪事をはたらく際に悪いと思って加担する人なんて
 滅多にいやしません、同情すら覚えますよ」
「情をかけてくれ! 頼む! 俺は騙されていたんだ! あの、好色と欲望を司る悪魔に!
 操られていたんだ! 俺は正気に戻った! 二度とお前たちの前には現れないから!」
「お姉ちゃん、どうしますか?」

 妹がこちらを向いて問いかける。
 声を上げて泣いているツバサの肩をポンポンと優しく叩きながら、
 希と一緒に、亜里沙はいい子だから! 幸せになれるから! と励ましていたので、
 正直会話は聞いていなかったけど、ユッキが補足説明してくれた、いい子!

「ふうん、じゃ、許せばいいんじゃない?」

 え? みたいな目をして亜里沙以外の人たちが視線を向けた、
 ぐるぐる巻きにされて縛り付けられている悪人の方々でさえ、嘘だろみたいな顔をしている。
 妹だけはしょうがないなあみたいな顔をして――

「さすがだ! さすが絢瀬絵里は違う! どのような悪人でも見逃す!
 クハハハハ! これで俺は無罪放免ということだな!」
「そうですね――ですが、あいにく――

 姉に発言権はないので――」

 分かってたよド畜生!!!! どうせオチに使われるってことくらい!!!
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 22:28:56.48 ID:/EnBVSNm0
展開的には変わらないのですが、
シリアスをすぐに打ち切りました。

シリアスに偏れなかったのはひとえに作者の力不足です。
申し訳ないです。

明日からエピローグに入り亜里沙ルートは完結となります。
エピローグは書くことだけ決めていて、分量はいかほどになるかは分かりませんが。
ツバありの結婚式は出ません。
一回すでに押し倒していて、お互いに満更でもないという設定がありますが、
披露されることはないと思います。そういうのは海未ちゃんルートでやる(予定)

展開的にやっぱりグダグダになったので、読んでくださいとはとても言えませんが
頑張ります……。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 00:04:30.49 ID:nN5LPJxWO
うーん、悪役にしても哀れすぎな最期
同情は…しなくてもいいな
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 02:02:48.88 ID:hBUeL7pHO
周囲が必死で笑いを堪える中イキり続ける御曹子()とかなかなかギャグセン高い
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 04:20:05.46 ID:x+iuWkdvo
絵里ちゃんはCV北都南系ヒロインだよねとこのss読んでてなんとなく思った(唐突)
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:40:37.11 ID:j5Kms53n0
 ラスボス(笑)の息がかかっていた社長を中心とした経営陣が揃って放逐され、
 かと言って現場上がりの人間で、会社の運営や従業員(主にアイドル)のリーディングに
 向いている人間は他の事務所で仕事をしてしたため――
 業績の傾いたハニワプロはその歴史を終了することにあいなった。
 所属していた芸能人であるとか会社のスタッフは他の事務所に移ったり、
 別の職業に就いたり、手放しで大団円とは言えないけれど一通りの決着はついた。
 一概に旧経営陣の人間が悪いとも言えないし、私たちが善だったともはっきりとは言えないけれど、
 それでも自分たちは前を向いて歩いていかなければいけない、生きている限り。 

 Re Starsの面々も芸能活動を終了したり、他の職業に就くという人間がいた。
 私もそのひとりとして数えられたかったけれど、あいにくそう上手くは行かないらしい。
 アイドルとして活動を終わらせたのは朝日ちゃんで、
 自分であんまり能力は高くないんですけど、かといってやりたいこともできることもないんですよねえ、
 と相談され、今まで頑張ってきたからのんびりしてからしたいことを探せばとアドバイスを送ったら、
 もうちょっと具体的にお願いしますとダメ出しをされひねり出した答えが、
 子どもの頃にやりたかったことをすればいいのでは? だった。
 この答えは彼女にとって目からウロコだったらしく、目を輝かせながらさすがは腐ってもエリーチカですね、
 と、ディスってんのか、褒め称えているのか判断に困る答えを頂いた。
 朝日ちゃんと同様にアイドルとしての自分を終わらせたのは津島善子ちゃんだった。
 もともと、Aqoursを復活させたい、高海さんに戻ってきて欲しいという目的でアイドルを始めた彼女は、
 その目的は達成できたとして芸能活動に終止符を打つことにしたみたい。
 社会人として仕事が出来て、かつ優秀だった過去を活かして花丸ちゃんの芸能事務所に潜り込み、
 今は多くのアイドルたちや花丸ちゃんから仕事を任せられていて、あんたは先輩でしょ! と
 よしまるコンビが漫才する姿が芸能関係者に評判――でも、本当に花丸ちゃんは仕事ができない。
 統堂朱音ちゃんは英玲奈の希望や、真姫のアドバイスに従って高校卒業後には大学に進学し、
 芸能活動は一時休養することになった――ベルちゃんの協力でユッキとも再会を果たし、
 高飛車でワガママな性格も改められ素直でいい子に変貌したけれど、
 落ち着いた彼女は英玲奈の姉にしか見えない。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:41:23.90 ID:j5Kms53n0
 迂闊な判断して困っている姉を朱音ちゃんが嗜めていたりアドバイスを送っているけれど、
 10も年上の姉を嗜める妹というのがどういった構図に見えるのか、
 嬉しそうな顔をして妹がしっかりした、素晴らしいと褒め称える英玲奈に分かって頂きたい。
 エヴァリーナちゃんことリリーちゃんはユッキとの再会を果たしたのち、
 自分にはやることがあるので、と説明していずこかへとふらりと消えてしまった。
 超常現象めいた不思議な力で皆の記憶から存在自体が抹消されたのか、
 彼女のことを覚えているのは私とユッキだけで、Re Starsも最初から4人グループとなっていたし、
 妹やツバサに彼女のことを話すと、不憫な人見る目で妄想は大概にして欲しいと言われてしまう。
 たまに私の枕元に置かれている手紙には、身体を大事に、そして友達と仲良くと言った旨が書かれていて、
 未来を予測するかのような内容が含まれていて――。

 桜内梨子ちゃんが始めたお店にたまに行くと、
 だいたい元μ'sとか、元Aqoursの面々が働いていたりお酒を飲んだりしている。
 出会う確率が高いのは真姫だけど、なんでも私が来ることを事前に察知して真姫を呼んでいるらしく、
 七面倒臭いお嬢様のお世話は私の仕事だと認識している様子、どこが地味なタイプなのか問いかけたい。
 渡辺曜ちゃんはことりのパートナーとして、最初は支えられながら店長職なり仕事をこなしてきたけど、
 いつの間にかブランドのブレーンとして活躍を始めた。
 思いの外に地頭が良かったみたいとは彼女の談だけど、器用で優秀だった彼女が
 いつの間にかことりを蹴り落とさないことを祈りたい、いや、仮に蹴落とされてもことりはたくましく生きるだろうけれど。
 ダイヤちゃんは体面上の理由で結婚式を開き、私やツバサも出席したけれど、
 Aqoursとして一緒に活動していた面々で出席したのは妹のルビィちゃんだけで、
 何故なのか問いかけたら自分なりのけじめだと語ってくれた。
 箝口令が敷かれていて、ルビィちゃんや私も本当に口を滑らせなかったんだけれど、
 果南ちゃんと鞠莉ちゃんには後日に式で渡せなかったからとご祝儀袋を頂いたらしく、
 私はずいぶん疑われてしまった――来るたびに胸を揉んで帰るのはそういった理由らしい、改めていただきたい。
 果南ちゃんと鞠莉ちゃんの二人は休養ののちに世界中を飛び回り、
 オハラグループがいつの間にかにAmaz○nとかGo○gleとかと同列の世界的な企業へと成長したけれど、
 彼女たちの経営が優秀だったからだと思いたい。
 ゲームやってるだけでいいからとベルちゃんを連れているからではないのだ、たぶん。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:41:58.33 ID:j5Kms53n0
 椎名伊織の策略に巻き込まれた高海さんは芸能活動を続けている。
 以前もラブライブで優勝することになった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(長い)のインタビューをしていて、
 理想のスクールアイドルは誰ですか? と優木せつ菜ちゃんに逆質問され、穂乃果の名前を出すかと思いきや、
 海未のことを語っていた。
 二人はひと悶着あったらしく、その現場にいた理亞さんがトラウマになるレベルで恐怖を感じたとかで
 海未が言うには分かって貰えないので言葉で本気出しただけだそうだけど、 
 作詞した曲が売れたCDシングルの数がそろそろギネスに載ることも考慮しなければいけないとネタにされる彼女が、
 言葉で本気出したらどうなるのか想像に難くない、理亞さんの気持ちもよく分かる。
 そうそう、聖良さんはそんな高海さんのサポーターとして、自身の芸能活動と並行して活動中。
 ただ、仕事でつまらないものですが、と渡してくるのが「岐阜の特別品 歩く夢」というお米。
 歩夢ちゃんを未だに操っている亜里沙の意のままに聖良さんも動いているらしく、
 そろそろ独り立ちして貰いたい、無理かな……。

 アメリカで活動している穂乃果は日本ではまったくニュースにならないけど、
 地元ではかなり評判のアイドル(アメリカでは高坂穂乃果を指すらしい)として、映画やテレビに出演を重ねている。
 ディーン・フジオカさんみたいに逆輸入アイドルとしてデビューしちゃおうかなーと冗談めかしてLINEを送ってきて、
 それを目撃した雪穂ちゃんが目を吊り上げて怒り散らしたのを絢瀬姉妹が止める羽目になった。
 実家のために経営の勉強や穂むらのサポートにあたっていた雪穂ちゃんは、
 高坂家のご両親の説得で親友関係にある亜里沙が立ち上げた……いや、まあ、表に立って起業したことになっているのは
 メグなんだけど、実質亜里沙の事務所みたいなものだから、姉は今も発言権がないから。
 それはともかく芸能事務所「ネームレス」のエグゼクティブアドバイザーとして活動中。
 穂むらは店を閉めることとなり、最後の日には姉妹揃って接客をする姿が周囲の涙を誘った。 
 この際のエピソードが矢澤ここあちゃんの一般文芸のデビュー作として披露され、
 私やツバサも映画(発売された時点で決まっていた)に出演することになっているけれど、
 何役なのかは聞いていない、当人として出るんじゃないかと言い合っているけれど詳細は伏せられている。
 なお、主演の高坂姉妹の片割れ雪穂ちゃんを演じるのは、なんだか知らないけれど本気だすと言って
 そのポテンシャルを発揮し始めた鹿角理亞さんが務める。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:42:39.17 ID:j5Kms53n0
 当初ルビィちゃんと一緒に芸能活動を再開した彼女が、どういう経緯で独り立ちし、
 大好きだった聖良姉さまや、亜里沙のアドバイスすら借りずに成長を果たしたのかは知る由もないけれど、
 かなりストイックに活動しているとかで、なんとエロゲーもプレイしていないとか。
 また聞きの情報では、余暇を悠々と過ごしている時間はないと休日の設定すら断ったみたいで
 さすがに身体を壊すのでやめて欲しいと、私以外の人間がフォローに回ったとか。
 私も心配になって顔を見せたかったけれど、丁寧な文字で書かれた直筆の手紙で、
 いつか成長した自分と会って欲しいとやんわりと断られてしまった。
 
「絵里さんはいつだって罪作りです」

 手紙を渡してくれたのは他ならぬルビィちゃんだったけれど。
 その際に、実は私のことが苦手だったことを吐露して、今はって尋ねたら
 尊敬している気持ちと嫌いだっていう気持ちが同居していると説明してくれた。
 複雑な感情を抱かれるいきさつは私には分からないけれど、
 誰も彼もから好意を寄せられることは、私には過ぎたモノであるから文句が言えるはずもない。
 はっきりと言ってしまえば、私の中ではルビィちゃんの好感度はダイヤちゃんよりも圧倒的に高い、
 常々黒澤姉妹の二人には伝わるように言っているんだけど、逆に姉の方からのアプローチが強くなった。
 引けば引くほど追いかけたくなるらしく、選択肢を誤ったのではないかと後悔しつつある。

 そして私――の前に。
 今日は久しぶりのオフなので、ちょっとのんびりしたいなー
 何をしようかなー! ちらっちら! と、誰も遊ぶ相手がいないアピールを事務所でしてたら、
 同じくオフ(コンビで活動しているから当然)のツバサが、仕方ないわねぇみたいな顔をして

「飲みに」
「あ、ツバサさん!」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:43:19.69 ID:j5Kms53n0
 先日まで事務所所属のアイドルの仕事のブッキングに励み、
 社長(仮)のメグと一緒に北海道まで遠征していたはずの妹が、
 何食わぬ顔をして疲れ切った表情をした社長(笑)と一緒に事務所に現れた。
 最近の深夜バスというのは優秀ですね、ほぼ定刻通りに都内に到着しますと
 聞かれてもいない感想を漏らし、ツバサはズルズルと亜里沙に引きずられて行った。
 なにか口にしようとするとユッキがダメです! と止めるので賢明な私はノーコメントを貫いた。
 次の仕事が妹たちの結婚式でないことを祈りたい。

「絵里さん、暇なら仕事しませんか」
「……あれ、オフって聞いたんだけどな、おかしいな」
「奇遇ですね。私は今10何連勤の途中です」

 芸能事務所は労働者じゃないから労働基準法は適応されない――!
 アイドルみたいな活動をしている傍ら、メグにはパシリに使われ、
 プロデューサーの亜里沙にも顎で使われ、雪穂ちゃんにも手下として扱われ、
 ツバサには部下として認識され、事務所の後輩には自分をオフにしたい時の代打要員の私が、
 一番偉い人に逆らえるはずもなく。

 過去に理亞さんとお茶して以来行っていない、エトワールにもほど近いクローシェは
 相も変わらず人で溢れていた。
 ここでネームレスに引っ張り込みたいらしい子たちをスカウティングするとかで、
 失敗したら分かってますね? という脅迫も手伝って微妙に私は緊張をしていた。
 私とは顔見知りの二人だけれど、
 どうせなら同じグループにいた優木せつ菜ちゃんをスカウトすればいいのに
 と言ったら、余計なことを言って話が頓挫しないことを祈ると言われちゃった。

「ええと、確か……一番奥の席に」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:44:01.33 ID:j5Kms53n0
 店内に入り忙しそうに働いている従業員さんを横目で見ながら、
 相席しているのにひとっつも目を合わせない、微妙過ぎる距離感を保っている二人を見つけた。
 虹ヶ咲学園にいた頃から同じ年なのに基本的に相容れない二人は、
 卒業後数年経っても似たような関係だったらしく、私が近づいても自分の世界に没頭し
 スカウトをしに来ているはずの私がスルーされる事態に泣きそうになったけれど。

「ええと、桜坂しずくさん、中須かすみさん。おはようございます、絢瀬絵里です」
「え、今昼ですけど」
「かすかす、知らないんですか? 業界での挨拶は丁寧語のおはようございますを使うのが普通なんですよ?」

 来て早々ディスりあいが始まる。
 お互いに違う方向を見ながら罵り合いが始まり、お店の人から騒がしいのでなんとかしろ
 みたいな目で見られたのでまあまあ、となだめて、とりあえず落ち着いて二人両並びで席についてもらった。
 窓際がいい、廊下側がいいで喧嘩することになったけど、デザートを一品奢るの言葉で静かになってもらう。

「まず、中須かすみさん。ネームレスではあなたのアイドルとしての資質を高く評価しています」
「優木せつ菜よりもですか」
「当然です」

 これは紛れもなく本当。
 完璧で近づきがたい印象すらする優木せつ菜ちゃんと違って、
 親しみを込めた同じ目線で応援できるアイドルとして彼女は高く評価されている。
 もう少しおべっかを使うなら、矢澤にこや栗原朝日ちゃんも行けるんじゃないかみたいなことを言っているので
 いざとなれば沢山の人の評価の声で押すつもりだ。
 
「次に桜坂しずくさん。ネームレスで推す女優枠一号としてあなたには期待をかけています」
「優木せつ菜さんよりもですか」
「はい」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:44:50.29 ID:j5Kms53n0
 スクールアイドルとして過去に前例がないレベルで評価されている優木せつ菜ちゃんは、
 高校卒業後に芸能界へのスカウトを全て断り、今は勉学に励んでいるらしい。
 しかしながら、彼女の押し倒された回数校内最多というのはまだ頷けるんだけど、
 胸ぐらをつかみあげられた回数校内最多、ラッキースケベ率校内最多という評価はなんなんだ。
 ええと、演技力でも類稀なる才能を発揮したせつ菜ちゃんではあるけれど、
 いかんせんお高く止まって見えるので高級感溢れる彼女はお呼びではないらしい、
 事務所で受付とかお茶汲みでもやってくれれば癒やされると主張したら、
 じゃあお前が囲ってろみたいな目でみんなから見られたので渋々意見は取り下げた。

「桜坂さんが校内で披露したロミオとジュリエットはとても素晴らしかったです。
 私がやったときとは雲泥の差でした」
「演技ですか?」
「いいえ、人に与える印象が。共演した優木せつ菜さんも上手でしたが、
 桜坂さんのほうが断然輝いていましたし」

 ツバサと一緒に見に行った際には、ロミオ役が桜坂さん、ジュリエット役がせつ菜ちゃんで。
 舞台を見上げながら、え、逆じゃないの? みたいなことを漏らしたツバサに、
 適役じゃないと言ったら、あなたにはそう見えるのねと特大のため息を吐かれてしまった。

「こうしてお二人を同時にスカウトしに来ましたが、コンビとして組んで頂く必要はありません」
「聞きたいんですが、仮に私がアイドルではなく女優としてもやりたいと言えば、対応してくれるんですか?」
「ネームレスでは一番発言力があるのは事務所に所属する芸能人です」

 私? 口を開くとだいたい静かにしてって言われるけど?

「かすかすが女優として成功するなんてありえないです、私がアイドルをやったほうがまだまし」
「優木せつ菜を背負投げして放り投げた挙げ句、膝蹴りを腹に入れたあなたがアイドル? 寝言は寝て言って」
「一週間に三回回し蹴りを背中に入れていたあなたが女優とかありえません、プロレスラーに転向してください」
「このフラれんぼ!」
「あなただって同じでしょう!」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:46:12.01 ID:j5Kms53n0
 今度ばかりはなかなか静かになってもらうのに時間がかかってしまったので、
 頭痛を感じながら、何か食べたいものとか欲しいものはありますか? と問いかけたら
 二人同時して高級焼肉! といい笑顔で言って
 よもや私はからかわれているのでは無いかと疑問を浮かべ始めてしまったけれど。
 ともあれ、私の財布は軽くなってしまいそうだけれど、スカウトには無事成功したものであるらしい。
 今度事務所に顔を出してくれることを約束してくれた両名とお別れし――

「ん?」

 ぐにゃり。
 目の前の風景がねじ曲がる。
 粘土を手で工作するみたいに視界がぐにゃぐにゃになり、
 最近仕事しすぎだからちょっと疲れてるのかも、エヴァちゃんにも身体に気をつけるように言われていたし。
 どのみち、今度目を覚ます時には病院で点滴でも打って貰ってるかな――?

「絵里お姉さん、安心してください。次は――私もいますから」

〜絢瀬亜里沙ルート Fin(?)〜



 =鹿角理亞ルートが選択されました=
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 08:48:03.36 ID:j5Kms53n0
思わせぶりなラストではありますが、
この作品はまだまだ続きます。

お付き合い頂ければ幸いです。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 09:15:54.72 ID:lb0lx5m90

とりあえずμ’sとAqoursが一応の和解をして良かった
この終わり方、トゥルールートがありそうだ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 11:04:24.84 ID:v1J+1vRZO
亜里沙ルート完結おつおつ
みんな収まるところに収まった感じだね
次は理亞ルートなのか、こっちも期待して待ってる
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 12:39:38.27 ID:x+iuWkdv0
亜里沙ルートなのにツバありエンドという新種のNTR感が斬新だった
他ルートも怖いけど気になるから読んじゃうわ
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:43:47.58 ID:j5Kms53n0
 季節は春。
 ようやく最近は暖かくなったかな? と思いつつ、
 夜になれば薄着でいると肌寒いので、
 風邪など引かないように一枚多く寝具を羽織ったら、
 あまりに寝苦しくて妙な夢を見てしまった。
 暗い暗い道の先に自分を待っている女の子がいる。
 ”小学校高学年”くらいの西園寺雪姫と名乗る少女が、こっちこっちとしきりに呼びかけてくる。
 足が竦みそうなほど暗い道をおっかなおっかな歩き、辿り着いた場所はひとつの光。
 なぜだか私はその先に行くのが怖くて、身体が粟立つような恐怖を感じて思わず前に進むのを躊躇ってしまったら。
 今は一緒にいるからと春の陽射しのような温かい笑みを浮かべながら、 
 私の気持ちをすっと安心させて、怖じ気ついていた足を前へ前へと一歩ずつ進ませた。
 なぜだか雪姫がもっと小さい手をしていたような気がして首を傾げたけれど、
 だんだんと自分の意識は朝の訪れと一緒に覚醒していく――
 どのみち、たかが夢なのだ。
 これからの日々は、亜里沙の頼みでハニワプロの落ちこぼれアイドルの面倒を観る――
 エトワールという場所の管理人を務める自分を想像し、なんだか懐かしい気がして、
 μ'sの面々に世話を焼いていた頃を思い出すからかな? と頭によぎったけれど、
 考え過ぎは良くないよね、と思い直して私はまぶたを開いた。

「ああ、変な夢を見たなあ……」

 独り言を呟いた私は、
 やれやれ誰もいないのに寂しい寂しいと思いながら伸びをした。
 朝陽が昇り始めて少し時間が経った春の日。
 以前までは起床するのにためらってしまうほど暗い時間だったけれど、
 暖かくなるにつれてベッドから抜け出すのが早くなってきた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:44:24.40 ID:j5Kms53n0
 慌てて掛け布団の中で電灯のスイッチを探さなくてもいい季節になり、
 私としてもスッキリ、亜里沙にとっても余計な電気代を食わずにスッキリ。
 そんな時、どこからかおはようございますという声が聞こえてきて、
 妹とは違う声がしたけれど来客でもあったかな? なんて思考して振り返ると、
 全体的に薄い色調をした先ほど出会った女の子が、ふわふわふわふわと浮かびながら、
 にこやかに挨拶をして、ああ、まだ夢の中にいるのかと思った。

 私にしか見えない精霊のようなものと説明してくれた雪姫ちゃんは、
 なんでも迂闊な私をサポートしてくれるらしい。
 確かに油断大敵とか、百戦負け続きという言葉がよく似合う私にとっては、
 これ以上にない強い味方ではあるけれど。
 いざとなれば身体を乗っ取りますのでと説明されたところで、安心していいのか嘆いていいのか。
 彼女は説明もそこそこに本日のタイムスケジュールを披露してくれる。
 起床して朝食を作り、妹と一緒にそれを食べたら私はこのアパートからお別れだ。
 そのために中古屋や清掃業者から、絢瀬絵里の痕跡をこの場所から消すために苦労した。
 どうしても処理したくなかったパソコンだけはツバサに預かって貰ったけれど、
 さっさと引き取りに来ないと承知しないと脅かされてる。
 前日に作ったボルシチをイタリアンに変化させ、
 朝から胃がもたれそうな料理を作ってしまったなと、自己判断していると。
 眠たげな亜里沙がこちらに顔を出した。
 いつもシャッキリしていて、起床から5秒でキャリアウーマン化する妹にしては珍しい。
 眠りでも浅かったのか、それとも仕事が忙しいものであったのか。
 そういえば北海道から帰ってきたとか言ってたような……そうでなかったような?

「おはようお姉ちゃん」
「……ん?」

 昔懐かしい言葉の響きを聞いた気がした。
 甘えたがりだった妹の過去を彷彿とさせるほわほわとした口調と声色に、
 まだ寝ぼけているのと笑いながら問いかけたら、

「え? あ……ん? そういえばなんでわたしはこんな口調で?」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:45:24.40 ID:j5Kms53n0
 前日までの”姉なんて見下すモノ”くらいに考えていそうな冷徹ぶりとは打ってかわり、
 醸し出すオーラさえもプリティーな感じに変貌しキャリアウーマン(笑)状態。 
 さんざっぱら首を捻りながら、必死に冷たい声を出そうと努力した挙げ句、
 お姉ちゃんの朝ごはんが待ち遠しいです! と誤魔化されてしまい、
 朝から疲労感でいっぱいになった私も深く追求することなく姉妹の朝食は続く。

「そういえばお姉ちゃん、ハニワプロの所属のアイドルの管理のことだけど」

 過去に戻ったかのような口調のままで話し出す妹。
 今まで表情を変えることすら珍しかった彼女が、なぜかニッコニコ笑いながら美味しい美味しいと
 連呼しながら食事を重ね、昼食も作ってあるからと説明するとハラショーと言いながら喜んでくれた。
 違和感は多少なりとも感じるんだけれども、昨日までの妹と同時に
 記憶の中にそんな妹をついこの前見たような気がしたから、そこまで変とは思わない。

「でもね、だいじょうぶ。私も手伝うし、気軽にやってくれれば平気です」
「手伝う? あなた昼間は働いているんでしょう?」
「え? あれ? 知らなかったっけ? 私はハニワプロで働いてるって」

 姉妹で顔を見つめ合い、二人の記憶の出来に差異があるのは仕方がないとしても、
 あたかもその事実を知っていたかのように話されてしまうと、
 あれ? そうだったかも? なんて思って深くは考えない。
 ただ亜里沙の方は難しい表情をしながら、自分自身にあるまじき記憶がある気がします、
 と、よく分からない発言と怪訝そうな表情をしながら首を傾げている。
 雪姫ちゃんに心のうちに問いかけてみると、恐らくそれは記憶の混濁があるものと教えてくれた。
 何の記憶? って問いかけてみると、過去に体験した行為が世界を変遷しても
 何となくそうだった程度で残っているのかも知れないと話してくれた。
 世界の変遷とか、過去の記憶とか、まるで中学二年生時の朝日ちゃんの妄想みたい――
 ん? 朝日ちゃん? 朝日ちゃんって誰? 記憶を掘り起こしてみても、
 そんな人物と過去に出会ったかもしれないくらいしか思い出せないのに、
 何故仲の良い友人であったかのように振り返ってしまったんだろう?
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:46:25.30 ID:j5Kms53n0
「うーん?」

 疑問は解消されなかったけれども、時間は過ぎていってしまうので。
 私も亜里沙も深く考えないことに決め、それはそのようなものなんだろう程度で置いておくことにした。
 部屋に戻って身だしなみを整えて、相手に失礼のないようにしないとと気合を入れ、
 雪姫ちゃんのアドバイスのもと、原始人レベルだった私のファッションセンスは
 雑誌をコピーすることしかできなかった高校時代まで改められた。
 妹にも、すごくまともに綺麗な格好してます! と褒められているのか
 ディスられてしまっているのか分からない励ましを受け、アパートから退室した。
 姉妹揃って前日まで住んでいたというのに、なぜか懐かしい気がする建物を観て、
 今生の別れであるような切ない気持ちをお互いに抱えながら、
 なんだかもう帰ってこない気がすると亜里沙が呟き、
 そんなわけがないでしょう、と姉である私が嗜めた。
 しっかりしなさいと妹の背中を押す自分というものを久しく経験してなかった気がして、
 きっとループモノの物語の主人公ってこんな気持ちなんだなと、
 思いの外しっくり来る感想を抱いて最寄り駅へと到着した。

「じゃあ私は仕事に行くね?」
「ええ、気をつけて。なんだかお互い変みたいだから。事故とかに遭わないように」
「そうだね、重々承知しておきます」 

 電車に揺られて十数分ほど。
 都心にほど近いハニワプロから徒歩で30分ほどにあるエトワールに行く前に、
 鹿角理亞さんが迎えに来るというのでコンビニで飲み物でも買おうかな? 
 でもちょっと口に直接つけて飲むのはみっともないかな? なんて逡巡していると、
 周囲が騒がしく、人の声で溢れ始めたのでなんだろうと思って振り返ると、
 とんでもない美少女が私に向かって近づいてくる。
 髪質はストレートで、目つきは少々鋭いけれど気が強そうなのかな? で片付けられるレベル。
 エトワールから私を迎えに来ると伝えられたのは、たしか鹿角理亞さんだったはずで、
 似ても似つかないと言っては彼女にも、近づいてくる方にも失礼かもしれないけれど、
 余計な記憶がこびりついているのに、その中に入っていない美貌の女性に、
 ちょっとした警戒感を抱いてしまうのは致し方ないことかも知れない。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:47:08.81 ID:j5Kms53n0
「絵里先輩」

 にこやかに私に呼びかけて来て、明らかに相手は自分のことを知っていると理解した。
 写真やまた聞きとかで、私をμ'sの絢瀬絵里と知っている人間はいたとしても、
 外に出れば悲しいほどにスルーされてしまうので最近は自己主張をすることもやめたけれど。
 キョトンとして顔をしげしげと覗き込んでしまったことに気がついて、
 咳払いを一つしながら記憶にない人だと素直に認めて謝罪しようとすると。

「――ああ、こうすれば分かります?」

 目の前の女性は頭の左右に髪の毛でふたつくくりを作り出し、
 世の中に対して敵意満載の飢えた狼みたいな釣り上がった目をして見せて、
 ようやくそこで、彼女が鹿角理亞さんであると気がついた。
 つい先日まで顔を合わせていた彼女とは髪質も、目つきも、
 背筋を伸ばして凛としているせいか身長さえも変化したように見える。
 何か悪いものにでも憑かれてしまったか、新作のエロゲーに魅力的なヒロインでもいたのか、
 別人だと呼称しても良いほどに変化してしまった。
 外見をちょっと取り繕って見せたとか、今まで見ていた彼女が実は双子の妹であったとか、
 奇想天外な結論をしなければいけないほどに――

 喫茶店クローシェに赴いた私たちは、
 お互いに正対するようにソファーに座ってメニューを注文した。
 陽射しが眩しいとポツリと呟き、寝不足だからいけないと結論づけた理亞さんMk-IIは
 紅茶とスイーツのセットという女子力の高そうなメニューを頼み、
 予想外の注文に慌てた私は同じものでいいです、と怪訝そうな表情をする店員さんの視線をスルーし、
 私は最初からこれを食べたかったんですが何か? と表情を作ってみせた。
 今まで真姫に指導されたくらいしか演技の経験がなかった自分が、
 しっくりと来るほどに表情を作れたので首を傾げながら、
 困ったように視線を這わせる理亞さんと顔を突き合わせた。

「そうですね……困りました。確かに、先日までの鹿角理亞とは
 別人だと判断されても仕方がないとは思います」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:48:20.54 ID:j5Kms53n0
 徹夜でプレイしていたとある新作ゲーム(18禁)の途中で寝落ちしてしまい、
 ふと気がついて、私を迎えに行かなければと思い至り――
 あまりに破廉恥な場面をパソコンが映していて思わず甲高く悲鳴を上げ、
 驚いてやって来た面々が鹿角理亞さんの変貌ぶりに同じレベルで悲鳴を上げてしまい、
 朝から結構な騒ぎになったみたいで、ただまあ気持ちはよく分かる。
 髪質も気がついてたらサラサラの真っ直ぐになっているとか、
 表情も気が強そうな感じを作らないと柔和な印象を改められないとか、
 先日までの口調を試してみても、おとぼけた感じになって似つかないとか。
 なぜこんなことにと問いかけてみても、誰一人返答することなど出来ず。
 仕方がないのでお風呂に入り、身綺麗にして、部屋に置かれていたものが女子力が低すぎたので
 同居人のエヴァリーナちゃんに化粧水やら美容液やらを借り、
 散々自室の掃除を重ねてからここまでやって来たとのこと。
 以前までならば身の回りの整理整頓すら出来なかった面々が手を貸し、
 あまりにも優秀過ぎる自分たちに頭に特大のハテナマークを浮かべながら、
 ゴミ袋複数と中古品行きの物品を仕分けし、
 あとの処理を津島善子ちゃんと栗原朝日ちゃんの二人に任せて出発。

「なにか変ですが……どうあれ、敬意を払って絵里先輩を迎えるとみんな張り切っています。
 ただ以前までなら、そういう気の使い方が逆効果になっているはずなのに」
 
 深刻そうな悩みでも抱えて疲れ切ってしまったと言わんばかりのため息が耳に届き、
 掛ける言葉も見当たらなかった私は、気分を改めて食べましょうとフォークを持ち上げて微笑む。
 何はともあれ改善策は見当たらないので、時が流れるままに状況に慣れるしかない。
 その行為を世間一般では思考停止と呼称することは知っていても、
 次から次へと不可解な状況が続いたので、そろそろ脳内がパンクしてしまいそう。
 先ほど朝食を採ったばかりだと言うのにカロリーをたくさん摂取してしまい、
 1日に必要なカロリーの3分の2を突破していますという雪姫ちゃんの忠告を、
 どこか遠い場所から聞こえてくる声のように感じながらひたすらスイーツを食べた。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 15:51:08.99 ID:j5Kms53n0
一文目に鹿角理亞ルートを開始します!
みたいな文章を入れ忘れました! 投稿後変な悲鳴を上げそうになりました
申し訳ないです!

というわけで鹿角理亞ルートが始まりました。
長くはならないと思います、来春公開のサンシャインの劇場版までには
完結させたいと思うので、読んで頂ければ幸いです。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 18:57:16.03 ID:o3IDggx2O
始まってたか!
若干強くてニューゲームなシステムな
のね
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 19:36:41.82 ID:DW+sFwUbO
生意気ツインテじゃない理亞ちゃんなんて……
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 19:41:37.31 ID:MZy2dsfl0
申し訳ないです。
今日の更新はお休みさせて頂いて翌日以降に変更なります。
風邪が治ったと思ってもぶり返すこともありますので、気をつけて頂ければ。
油断なりませんね……。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 22:15:57.18 ID:R77M3x5+O
映画までには完結ってことなんでまったり楽しませてもらうよ
体調第一でお大事に
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:22:12.68 ID:dX+UK2dc0
 久方ぶりに職場に行くような気分になり、
 デデンとそびえ立っているハニワプロのビルを、
 建物自体に負けフラグが立っている気分で見上げ、
 体験していない過去の記憶が自分にこびりついている感覚が、
 どう足掻いても拭うことができずに、妙な焦燥感と違和感に気持ちが粟立ってしまいそう。
 建物の中に入り、いつものように各アイドルたちのスケジュールを確認して、
 ”違和感が残っている人と””残ってない人”がいることに気がつきました。
 おそらくハニワプロのスタッフで前者なのは南條さん――いや、もっとフランクに彼女を呼んでいた気がしますが、
 プロデューサー間で私情を持ち込んで仕事をするわけにも行かないので、名字での呼び名で統一します。
 残ってない人というのは彼女以外のスタッフ、そして多くのアイドル。
 社員の方や、私の上司にあたる方々もそうでしょうか? 
 ただ、上に立つ人は何食わぬ顔をして自分の敵に回りそうな気がして、
 その想像を首を振って払いました、問題を想定することは大事ではありますが、
 雁字搦めになって行動に差し支えになればまったく意味がありません。
 そんなことになるならばもとより問題など放り投げたほうが良い、弱気は敵です。

「絢瀬プロデューサー、その、どうしてもお会いしたいという方が」

 困ったような顔をして私に問いかけるのは、スタッフの一人の古田さん。
 得意なことはプレーイングマネージャー、それって違う人じゃないですか?
 ただ、面会とか懇談の予定は入っていなかったはずなので断ってしまっても良かったんですが、
 彼は基本的に優秀で仕事ができる人なので、取るに足らない相手ならスルーしてくれます。
 わざわざ問いかけてきて下さったということは、無視できない相手であるということ。
 どこかのえらい方が娘の面倒を見てくれとお願いでもしに来たのかと思い、
 仕事をしていた手を止めて古田さんと一緒に待って頂いているという方に会いに行くと――
 正直魂が抜けてしまいそうなほどに驚いてしまったのでした。

「古田さん……って、いない!?」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 04:22:53.42 ID:dX+UK2dc0
 先ほどまで一緒だった古田さんは息苦しいような苦しさを覚える状況に耐えきれなくなり、
 何も言わずに私を生贄に捧げて会議室から出て行かれました、薄情者です……。
 部屋の中にいたのは、園田海未さん、高海千歌さん、そして――黒澤ルビィさん。
 午後から仕事の打ち合わせがあり、会社に来るのはそれでいいと言っていたはずなのに。
 
「失礼しました、ご用件は?」
「正直会って頂けるとは思っていませんでした――アポイントすら取っていませんでしたからね」

 おそらく、私の前にいる方々は私と同じ状態のはずです。
 海未さんはともかく、ルビィさんと高海さんは醸し出している空気の中に、
 こちらに対する敵意が見て取れます、裏切り裏切られの芸能界ではありますが、
 面持ちからしてこちらの敵に回りますと言わんばかりであるのは、自分を憂鬱にさせます。
 電話した際に同一人物か怪しい程に透き通るかつ落ち着いた声を出し、
 穏やかで柔和な態度を見せた理亞が関わっているのか、それとも別のなにか――

「”園田さん”ご用件は」
「はい、本日は顔見せと――そうですね、”宣戦布告”をしに」

 来たるべき時が来た――と言うのは、自分の勘を見誤りすぎでしょうか。
 落ち着いた雰囲気の中に3人の中で一番こちらに対して暗い感情を持ち、
 有り体に表現すれば憎悪にも似た感情を抱えていることを読み取れてしまう――
 ただ、それは今後対立するであろう関係を感じて、自分自身がネガティブになってしまっているから。
 正直頭を抱えたいほど気分が落ち込んでしまいそうでしたが――絢瀬姉妹は見栄を張るのが得意なんです。

「私はただの彼女たちが歌う曲の作詞担当というだけではあるんですが」
「要件は単刀直入にお願いします」
「――この二人はECHO所属のアイドルとして天下を取る心持ちです」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:23:30.95 ID:dX+UK2dc0
 ”園田”さんはついに私に対して――いや、姉に対してでしょうか?
 自分を確かに見ているような気もするんですが、誰か違う人間に対して”宣戦布告”をしているように思います。
 その事が読み取れてしまうのは以前まで仲が良好であったからであるのか、
 言外に相手が伝えているのかまでは判断が付きませんが。

「そのことを姉は知っていますか?」
「……いいえ」

 相手の態度が揺れたことが分かります。
 彼女は存外……というより、μ'sの中でおそらく一番姉に対する好感度が高いので。
 度々口にしていた尊敬の念と言うよりも、恋愛感情と表現したほうが私にはしっくり来ます。
 ただ、控えている二人はそんな”海未”さんの心境を知ってか知らずか――いや、恐らく分からないんでしょう。
 彼女を矢面に立たせて居丈高な態度を取っている二人が、急にとても可哀想な子に見えてきました。
 心の中に沸き上がる苛立ちを出さないように――いえ。

「黒澤さん」
「はい」
「他の事務所に行っても頑張ってください」
「はい」
「それから――社交辞令でも今までお世話になりましたくらいのおべっかは
 使えるようになったほうが良いですよ? いくら私に敵意を持ち合わせていても」

 姉であるダイヤなら私の敵に回ると宣言するようなことがあれば、こんなつまらないヘマはしません。
 海未さんも痛い所を突かれたと言わんばかりに苦笑し、ルビィさんのこちらに対する視線は悪意が強くなりました。
 どのみち――彼女はさしたる障害になることはないでしょう。
 事務所から出るのは自身の意志でありましょうが、出ることに心を砕いたのは恐らくダイヤ。
 高校時代から善子さんとかの後ろにひっついていてそのままアイドルになった彼女が、
 模範的な行動を社会で取れるとは思いません、無視しても構わないでしょう。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 04:24:33.27 ID:dX+UK2dc0
「高海千歌さん」
「はい」
「今度は逃げて周囲の人間に迷惑など掛けないよう――
 二度同じ過ちを繰り返したりしないよう――
 もし、私の大事な人たちの心を傷つけるようなことがあれば
 ”今度こそ”私はあなたを許しません」
「……に、逃げませんから」

 高海さんは社会人として数年仕事をして来て、
 酸いも甘いも噛み分けられる人間に成長したかと思いましたが、
 元々が親のコネで入った場所で働いていた以上、立場的には甘かったのでしょうか?
 根拠のない自信を二人して持ち合わせているのは滑稽ですらありますが、
 それよりも姉に対するダメージがいかほどになるかが心配です。
 海未さんが真正面から絢瀬絵里に対して敵に回ると宣言すれば覚悟を決めるかも知れません。
 ただ、おそらくそれを要求するのは無理でしょう。
 わざわざ回りくどい手段を用いて、姉に言って欲しいと言葉の裏に示していますから。
 と、私は思い当たることがあり、問いかけることにしました。

「穂乃果さんは海未さんのことを知っていますか?」
「――何から何まで教えるわけには行きません」
「態度がすでに言っています」

 園田海未さんが姉や穂乃果さんに対して対立関係を取るということは、
 おそらく苦渋の選択――なにか目的があるのは確かでしょうが、それを教えては頂けないはず。
 推測ではありますが、ルビィさんは理亞に対して腹に据えかねる思いを抱えて離反したのでしょうが、
 高海さんが動いているというのはいったい誰の意志なんでしょう?
 自分でこんな事する自信はないでしょうから誰かにせっつかれたか、そのような状況に追い込まれた?
 どのみち自分の力でなんとかしようとする意志がない二人が、
 海未さんを自由に使おうとするのは許せないので、もう少しだけ喧嘩を売っておくことにしましょう。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:25:22.37 ID:dX+UK2dc0
「覚悟を決めました――では、私は徹頭徹尾。
 プロデューサーとして全力を尽くしましょう――理亞と、姉には頑張って貰って
 ”あなたたち”が陽の光を浴びることでさえ恥ずかしいと感じるほど惨めになって頂きます」
「亜里沙……あ、いや――こちらも覚悟の上です」

 海未さんを眼中から外し、後ろの二人だけを見て宣言する。
 ぐいっと前に出て二人をかばうように海未さんが前に立ちますが、
 さも当然と言わんばかりに胸を張っているおふた方には微塵も伝わってはいないでしょう。
 ――もうすでに海未さんは私が自由に動かせていることには。



 他の事務所の方々には退室して貰って、古田さんには塩でもまいておいてとお願いしました。
 お客様の迷惑と嗜められましたが、私を身代わりにしてさっさと逃げた人間の言う台詞とは思えません。
 いや、でも、本気出した海未さんの怖い視線とか、私も震え上がりますけどね……。
 おそらくではありますが、絢瀬亜里沙には遠慮をしてくれたのだと思います。
 それが、姉に対する配慮であるのは心が痛いですが。

「なんでかしらね、プロデューサーに近づくのが怖いわ……」
「ツバサさん!」

 思わず抱きつこうとしてしまい、仕事中であるのが周囲の視線で理解し、
 咳払いを一つしながらクールで格好いいプロデューサーを演じます。
 ええ、それがいかほど出来ているかは私の責任ではありませんが! もう、心がウッキウキですが! 
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:25:52.26 ID:dX+UK2dc0
「絵里は……あの子たちのところ?」
「はいっ! ――あ、いえ、はい」
「じゃあ、私が言ってくるわ。プロデューサーは絵里や理亞さんのプロデュースに集中して」
「……ツバサさんにはアイドルとしての仕事があります、そのようなことをさせるわけには」
「いいのよ。海未ちゃんには、すごくお世話になっているし――
 あんな辛い顔をされたら亜里沙さんも私情が混じってしまうでしょう?
 それに、なんかこういう役回りでもしないと自分が目立てない気がしてね……」
「ツバサさんは……その、対立するようなことは?」
「あら……して欲しいの? いやでも、勝ち目がない戦いに挑む度胸はないわよ」

 くすくすと笑いながら、こちらに笑みを浮かべる。
 ただ、微妙に距離が遠いのは何故でしょう、近ければ何食わぬ顔をして抱きつくのに。
 ああ、でもそういう態度がいけないのかな? 押せば押すほど押し倒せそうではありますが、
 ここは一歩退く態度を示すのも従順な妻の務め――
 ん? しかしなぜ、ツバサさんへの好感度がこんなにえらい高いのでしょう?
 首を捻りながら彼女を見送り、私は南條さんと一緒にスケジュールの調整を始めました。
 あ、いや、まだ姉はハニワプロ所属ではないんですが、もう、扱い的にはそうでいいですよね?
 どのみち拒否権はありませんし、どうせしょうがないなあって顔をしながらお願いは聞いてくれます。

「南條さん……なぜ、私と距離が遠いんですか?」
「なんだか亜里沙さんといると労働基準法という言葉が遠いものに感じて怖いので」
「安心してください、ハニワプロのプロデューサーは会社員みたいなものです」
「アイドルに適応してくれることを願います。絵里さんはともかく、理亞さんは人間です」
「ナチュラルに姉を人外扱いするのはやめてください、多少人間は辞めてますが」 

 周囲がドン引きするような会話をしながら――そういえば、お昼はお姉ちゃんが作ったご飯でしたね。
 今度、様子を見に行くと称して姉の作るご飯でも南條さんとたかりに行きましょう。
 いえ、これもよき妻として妻の好む食事を作るために必要なことなんです――くすくす。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:34:21.72 ID:dX+UK2dc0
−亜里沙視点− 
と、注意書きをするのをまたも忘れました。

今回の話は前回の亜里沙ルートとは違って、
かなり登場キャラクターが絞られてきます。

割りを食っているのは希ちゃんと真姫ちゃんが筆頭ですが。
他のμ'sで出番がありそうなのは穂乃果ちゃんくらいで、
レギュラーはほぼほぼ海未ちゃんオンリー。

エリちに辛辣だった面々が揃って出てこないので苦しい……あれ?
体調が万全なら夜に、もう一度更新をする予定です。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 08:53:09.84 ID:bEW1y9BeO
いきなり波乱の予感だあ…
うみちかルビィって珍しい組み合わせだね
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 13:03:00.90 ID:CjxjW9/Y0
申し訳ありません。
作者です。

家庭の事情でもしかしたらしばらく更新が滞る可能性がありますので、取り急ぎ報告します。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 18:54:45.67 ID:FfF+pQd/O
これツバサルートは修羅場不可避なんじゃ…
>>62
待ってるから早めに頼むぞ!
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 16:11:20.58 ID:v031+L4u0
 エトワールという建物は――なぜか私の聞いていたイメージと、
 実際の外観と雰囲気が異なっていた。
 一般住宅街に紛れていても芸能関係者がいることすら気が付かれない、
 そんなこじんまりとした建物である――などと勝手に思っていて、なぜだか自信もあったんだけど。
 数年前に一度リフォームされたという建物は、新築の雰囲気そのままに綺麗で、輝いていて、
 いや、輝くと言ってもイルミネーションは燦然と輝いているのではなくて。
 おそらく、この建物が自分の家の周囲にあったなら、この家には誰が住んでいるんだろう?
 と疑問に思うほど目立つ、とにかく目には入る、白を基調としたややもすればホテルみたいな、
 少なくともアイドル候補生が――その上パッとしない人間ばかりが集った、
 明日の仕事も心配になるほど売れていない芸能人が住んでいる建物のようには見えない。
 大きな犬でも飼っていそうな、私達お金持ちですみたいなオーラで
 ででんと建っているエトワールに入ることしばらく、一人ひとりの面々と挨拶を交わすことに成功した。
 絢瀬絵里だと名乗ると、若い! 変わってない! すごい! 映像のまんま!
 という反応で尊敬されているのか、化物扱いをされているのか怪訝に思うほど。
 正直、自分のことなんてネットに情報が溢れていて、
 高校時代の所業から光堕ちしたキャラ扱いされている(ピ○シブ百科事典参考)のに
 それが今に至っては元ニートであるのだから、お前なんていらねえ扱いされても、
 不思議じゃないし、罵声の一つや二つ飛んだところで文句など言えようはずもない。
 ――でも、光堕ちしたキャラに理亞さんとか、果南ちゃんとかは入っててもしょうがないな〜って思うんだけど、
 ニコとダイヤちゃんはどうなの? それなら聖良さん入れても良くない?
 一応体面ではエトワールの管理人であり、それに加えて新人アイドル兼トレーニングコーチ、
 学力面のフォローから、日々の生活の模範となるよう立派な人間たるべし――。
 ニートにはハードルが高すぎる気もするんだけれど、雪姫ちゃんからは
 だいじょうぶ! できます! となぜか太鼓判を押され。
 アイドル候補生の住民たちにも、やれます! 模範となってください! と、
 なぜか期待をされているので、単純な私は案外できるのではと思って、
 ひとまずまあ、期待を裏切らない程度には頑張ってみようと思う、フォローはきれいな理亞さんに任せる。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/28(水) 16:12:06.91 ID:v031+L4u0
 この寮に住んでいるのは合計五人。
 アイドルとして仕事があり、でも現在はルビィちゃんと仲違いしているとかで、
 基本的にエトワールにいて一人でレッスンに励んでいる鹿角理亞さん。
 過去には私に対してツンツンしていたと思うし、
 なにか口を滑らせれば蹴りがかっ飛んでくるはずだったし、
 ストイックで他者との交流も拒んじゃうようなガチアイドルだったような気もするんだけど。
 自分でも驚くくらい心に余裕があるらしく、もしかしたら死亡フラグでも建っているのかも知れない
 と、真顔で言ってしまうほどに優秀で有能で何でもできる。
 演技から歌から踊りまでエトワールの中では二番目以内をキープ。
 生活力だけは下の方かも知れないけれど、エトワールに住んでいるみんなは
 おそらく一人暮らしをしたらゴミ屋敷になっちゃうレベルなのでそれでも上位なのかも知れない。
 もともと得意だったと吹聴していたお菓子作りは、他アイドルをゲロインにさせてしまうレベルらしく、
 お菓子作りどころかどんな料理を作っても涙を流させる凛といい勝負。
 ご飯を残すと凶悪な視線を向ける花陽でさえ、え、あ、しょうがないよね! みたいな顔して
 私に残りを押しつけてくる、おかげで凛の料理くらいでは胃も荒れない。
 二人目の住人は英玲奈の妹である統堂朱音ちゃん。
 自分でも歌くらいしか取り柄がなくて、と困った顔をした彼女に演技や踊りを見せて貰ったところ、
 体力面で他のメンバーに比べて劣るけれど、優秀な結果を残してくれた。
 おかしい、英玲奈に比べて私は――という自己判断はともかく。
 10以上年上の姉を呼び捨てで呼ぶ度胸は買ってあげないといけないかも知れない。
 ――私? オトノキの学生からポンコツって呼ばれてるみたいだけど?
 ただ、歌声は別次元レベルで優秀。なにせマイクがいらない。
 声量も大きく、高音も低音も私なんぞが手も足も出ないほどに空間に響き渡る。
 私もっと出来ない人間じゃなかった? と親友同士だというエヴァリーナちゃんに訪ねていて、
 彼女は流暢な日本語と、綺麗でおしとやかな声色で、あなたは雪姫と同じくらいできるわ。
 と説明されていた。私の中にいる雪姫ちゃんのことらしいけど、詳細は不明。
 いや、聞いてみても今は知らなくてもだいじょうぶです! とサムズアップされるばかりで。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 16:12:35.76 ID:v031+L4u0
 三人目の住人はエヴァリーナちゃん。
 銀髪の妖精かっていうくらい浮世離れした外見で、最近妖精から妖精王にランクアップした――
 と、説明されたけど意味はよく分からない、美人さ具合が向上したみたいだけど……。
 その外見と同じようにどこか違う視点から物事を見ていて、
 やたら私にベタベタとしてきては、今度は上手に行く、だいじょうぶ、と励ましていた。
 中にいる雪姫ちゃんとタッグを組んで褒め称えてくるので、まあ、そんなものかと思いつつある。
 ダンスが得意でEXI○Eかってくらい、踊りに関してはアイドルの中で別次元レベル。
 私もそれなりにダンスができるかなあっていう自負があったけれど、彼女のレベルと比べてしまうと
 チキとバヌトゥくらい違う、驚きの性能差――反面、声は透明感があって綺麗だけど声量には欠ける。
 あと、コミュニティスキルは最底辺で、相手が目上だろうがなんだろうが、面倒くさいときはスルーする。
 彼女のフォローにあたるのは栗原朝日ちゃん、自分はなんにもできないからと自嘲気味に笑うけれど、
 アイドルの中で実力が劣っているからではなく、他の面々が恐ろしく優秀だから。
 今までのレッスンのおかげで最低限アイドルとしてのメンツは保っていると言うけど、
 明らかに現在の絢瀬絵里と同格レベルなんですが、なんでこの子達売れないアイドルなの?
 最後の住人は津島善子ちゃん。
 髪の毛が前日と比べて何十センチも伸びたと語り、嘘は吐かなくていいのよ? 
 って言ったら、他の面々が本当なんです! びっくりしたんです! このヒト人間じゃない!
 と、さんざっぱら説明してくれて、信用はしたいけど気分的には複雑。
 エヴァリーナちゃんの妖精王と比べてしまうとまだ人間レベルだけれど、
 理亞さんと比べても同じかそれ以上の美少女っぷり、おかしい、もっと私は――
 と言っていたけど、ここのみんなそんなこと言ってばっかりだね?
 元Aqoursというのは伊達ではないらしく踊りや歌も高ランクなのに
 むやみやたらにできてしまう人間がいるので、結局平均点レベルだと自嘲する。
 夢の中にベルちゃんなる人物が出て、好色と欲望を司る古代の悪魔と名乗ったそうだけど、
 いやあ、気軽にベルちゃんって言ってくれていいから! とやけにフランクに話しかけられたらしい。
 困ったときは希と一緒にそっち行くと宣言され、何故に? と私も疑問に思い、
 彼女にLINEを送ったら、もう今後バトルはしませんという土下座の写真が送られてきて
 頭の上にある疑問符が更に増えた。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:07:05.41 ID:Rq40jsKV0
-園田海未 視点 (前回更新分よりも多少未来のお話です)-

 かねがねから人は行動をする時には何かを失うことを覚悟せねばならない。
 などと自分に言い聞かせているフシがあります。
 このたびの出来事のように、かつての友人たちの意思に背いてさえもやり遂げたい何事かの想いを抱えている。
 まるで言い訳のようではありますが、苦しさを覚えても、卑しさを感じようとも、
 自分が正しいと思った行動を取る――
 どのように反応をされようとも構わない、気をつけていたつもりではあったのですが。
 こと、何故そのようなことをしているのかと怪訝そうな視線を向けられると、
 精神的苦痛を覚えてしまうのは、私の心根もまだまだ幼かったということなのでしょうか?
 私達は現在エニワプロという芸能プロダクションでデビューの準備をしています。
 ハニワプロのバッタ物のようではありますが、実際産まれた経緯はその通りであり、
 一時期無くなる寸前まで追い込まれたかの事務所と同じ道を巡るように、
 現在プロダクションとしての立場は下降の一途を辿っています。
 V字回復したハニワプロと同じように状況を変えるアイドルを心待ちにしていて、
 その期待が私達に寄せられているというのは――
 半分は千歌の、半分はルビィのプロモーションによる弊害と言えば良いのでしょうか。
 私自身が迂闊であった側面はあるのでしょうが、自分は作詞活動に専念できると思ったのです。
 それがよもや作曲担当者とか、自分たちをプロデュースしてくれる相手を探さねばならないとは、
 なんとも辛いところではあります、まるでマネージメントをする経営者のようです。
 一番始めに、芸能界の先輩に挨拶に行くとともに、
 売れっ子タレントである星空凛に協力を仰ぎ――
 自分が彼女から慕われていることを重々承知しているという心根の卑しさは当然あって、
 話題にしてくれるだけでも良いからと根回しをしに行ったら、
 そんなことは絶対にできませんと断られてしまいました。
 エニワプロと敵対関係にある事務所であるから、とか分かりやすいできない理由でもあれば
 断られるのも致し方ない部分はあるんですが。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:07:36.21 ID:Rq40jsKV0
 凛は私一人が頑張るのであれば協力は惜しまないと言ってくれて、
 自分自身の評価はそれなりであったと認識はしたのですが――
 穂乃果が傷つく出来事の原因の一端を担っている千歌を連れて行ったのはやはりまずかったでしょうか?
 ただ、誤魔化して協力を仰いで評価が奈落へと転落すれば困るのはこちらです。
 最終的には、同情を誘うように食い下がって事務所には話してみるとまでは凛も言ってくれましたが、
 どこまで積極的に行動をして頂けるかまでは分かりません。
 私のAqoursを終わらせるために活動をしているという目的を話せば、もしかしたら――
 そこまで考えて私は首を振りました、しがらみにとらわれていて苦しんでいるのは私も、
 穂乃果も――そして何より高海千歌という人間が前に進むためには、一度スクールアイドルとしての
 自分自身を捨てなければならない。
 穂乃果が言っていたように、過去は置いていかなければいけない、終りを迎えなければいけない。
 いつまでも高校時代のようには過ごしてはいられないと、誰かが言わなければならない。
 絵里に敵対するようなマネをした時点で心が折れそうですが、きっと誰かが分かってくれるはず。
 自分が生きている間には悪評ばかりが先行しようとも、きっと、誰か一人くらいは私の気持ちを慮ってくれる。
 それが絵里であるならばすごく嬉しいのですが、
 よもやそのようなことはないでしょう、もしかしたらダイヤやことりや真姫と言った面々から、
 私達の行為が伝えられているかもしれない、そうでなくても亜里沙やツバサと言った人間から、
 園田海未が敵対していることくらいはもうすでに把握しているかも知れません――心が折れそうです。
 凛からの協力は断られてしまいましたが、花陽は微力ながらも力を尽くしてくれると言ってくれました。
 結論的には私達に協力してくれると言ってくれたのは彼女一人であり、
 ルビィがいるからダイヤも協力してくれるだろう、幼なじみだからことりも協力してくれるだろう、
 親友関係にある真姫ももしかしたら作曲くらいはしてくれるかも知れない
 ――などという想像は見事に意気消沈する結果しか産みませんでした。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:08:19.40 ID:Rq40jsKV0
 真姫のところにも行きました。
 千歌やルビィと言った面々を見てもネガティブな反応をしなかったのは彼女くらいで、
 仕事と友人関係は別物とクールに反応してくれる真姫らしい出来事ではあるのですが。
 最初は私が前に立ってアイドル活動をすると言ったら応援してくれました。
 反応も好意的で、これは曲作りも期待できるのではと判断し話題を出してみたら、
 それはできないと断られました。
 真姫はたとえ園田海未が正しいことをしていると分かっても協力できませんとはっきりと宣言されました。
 絵里と敵対するからという理由ではなく、そこまで協力する義理はないと。
 凛と同じように海未だけが頑張るのならば私もやるとは言ってくれましたが、
 千歌やルビィを苦手にしているからやらないなどという単純な理由ではなく、
 話題を向けた時に園田海未だけが矢面に立っているのが許せないと、
 珍しく怒気を含んだ視線で千歌やルビィを睨みつけて、本気で憤慨している様子でした。
 誰かの根回しがあったのかはさすがに彼女に聞くことは出来ませんでしたが、
 そばにいた西木野和姫さんにはこっそりと、あれはお嬢様の意志ですと教えて頂きました。
 ただ、凛も真姫も中立を守って絵里や亜里沙にはつかないとフォローはしてくれました。
 ハニワプロの後ろ盾があり、亜里沙やツバサと言った面々が協力する絵里が困り果てる姿は、
 本当にこれっぽっちも想像できない事象ではあるのですが……。
 この時点でことりやダイヤの所に行くのは控えるべきだったのですが、
 エニワプロに上の二人の支援も受けられそうと千歌やルビィが話題にしてしまった手前、 
 挨拶や顔見せだけでも行かねばなりませんでした。
 ことりは無理でも曜はだいじょうぶという千歌の魂胆も手伝ってのことです。
 先ほどの失敗から学び、千歌やルビィにも前に立って活動することを宣言すると、
 絵里に対する態度みたいにハァ? みたいな顔をしました。
 別に絵里のことをことりが嫌っているとかそういう理由ではなく、私や亜里沙といった人間が
 彼女を甘やかすから! 誰か厳しい顔をしないと! と無理をしているんだと説明してくれた過去がありますが、
 ことりのサンドバッグが絢瀬絵里であることを私は知っています。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:08:51.17 ID:Rq40jsKV0
 ――話はズレましたが、真姫や凛のように頑張ってとも言ってくれることもなく、
 逆になんでそんなことをするのと問いかけられ、亜里沙と同じように穂乃果はこのことを知っているのかと
 真剣な面持ちで疑問を呈されました。
 私自身への言葉ではなく、ルビィでもなく、千歌に対しての態度でした。
 千歌が穂乃果さんには会えませんと言うと、ことりは本気で怒った様子で、
 もし売れっ子になった時にまた穂乃果のおかげだと持ち上げるのかと声を荒げ、
 イエスかノーかとも言えなかった千歌に対して、そんな態度だから! と腕を振り上げようとし、
 ――結局、癇癪を起こした子どものように絵里ちゃんのところに行く! と言って会談は終わりました。
 すみません絵里……顔を見せる機会はおそらくないですが、ほんとうに申し訳ありません……。
 ただ、千歌をフォローするならば、
 ”ラブライブの優勝者である高海千歌が穂乃果を持ち上げた結果、高坂穂乃果がどんな想いをしたのか”
 は、まったく知らないのです、Aqoursの三年生組も伝えるべきではないと判断して箝口令すら敷いているほど。
 知らないことで情状酌量の余地があるとは、私自身さえも思わないのですが……。
 悲しいことにことりがあんなに憤慨した理由は、千歌はわからないのです。
 その後に曜にも会いに行きましたが、協力するのは絶対に嫌と断られました。
 ことりの影響があるのかと思いましたが、Aqoursの活動を彷彿とさせることはもう二度としたくない、 
 絶対に嫌だと繰り返し宣言されてしまい、焼け出されるように気分は盛り下がりました。
 今日はダイヤに会うので最後にしようと言い泣きそうな千歌をなんとか説得し、
 元よりアポイントを取っていたから誰かしら行かなければならなかったのですが、
 用事があると断ってでも私一人で行けばよかったと後悔する結果となりました。

「ようこそいらっしゃいました」

 と、最初こそ和やかなムードで交流は始まりました。
 緊張していた千歌も不安そうだったルビィも微笑むダイヤと同じように笑って見せ、
 ひどい結果は生み出すまいと安心してしまい――結果、それが故意に安堵させる手段であったと、
 したたか過ぎる黒澤家の長としての実力を目の当たりにし、私自身の甘さを知りました。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:09:40.99 ID:Rq40jsKV0
 何をしにここに? と問われたので、アイドル活動をするために協力は仰げないかと
 はっきりということにしました。
 要は私達を宣伝して欲しいというお願いに伺ったわけですが彼女はニッコリと微笑みながら、
 なぜかと理由を問われました。
 その時点で薄ら寒い気配を私は感じたんですが、気が緩んでいたルビィや千歌が、
 誰一人自分たちに協力してくれないと愚痴のように言ってしまい、迂闊にもダイヤを褒めてしまいました。
 他の面々に断られたとしても、ダイヤならばやってくれるんじゃないかという魂胆を白状したのも同じ、
 私は肝を冷やしましたが、それでも「事情は理解しました」とこちらを安心させるように微笑んでみせました。
 
「ルビィ、何故ハニワプロを離れて活動をするんですか?」

 何気ない調子でルビィは問われて、
 彼女もそう聞かれたらこう答えようと思ってたかのようにすらすらと、
 理亞ちゃんが頑張っているから、私も頑張りたいと思って! と説明。
 千歌と一緒に活動する時にルビィが協力すると言ってメンバーに加わった時にも
 そのように言っていたので、私もそうなんだろうとは思っていたんですが。

「嘘をつくのはやめなさい」

 最初は何を言ったのかと思ったんです。
 ダイヤは先ほどまでの和やかだった声色を捨てて、冷淡な反応をして、
 これはなにかおかしい、明らかに何かを把握されていると気がつきました。
 
「私がアイドルとして理亞ちゃんよりも実力はないのはわかってるし、
 いつまでも一緒にいるために」
「言い訳は控えなさい、それでも黒澤家の人間ですか」

 この時点でルビィを止めるか、私自身が矢面に立てば、
 今後黒澤家の敷地に足を踏み入れることは許さないと宣言されずに済み……
 いや、おそらくダイヤは最初からルビィを切り捨てるつもりだったんでしょう。
 それでもなお顔を合わせてくれたのは最後のチャンスだったんです。
 私という人間はいつも気がつくのが遅い。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:10:10.92 ID:Rq40jsKV0
「あなたの活動の理由は嫉妬です」
「誰に?」
「理亞に……いえ、違います。
 絢瀬絵里に嫉妬しているんです、敵愾心すら抱いている」

 ピンときました。
 愚かな感情だとは思いません、私自身も抱えることがある思い。
 それは――

「原因の一端が私にもあるのは理解します
 確かに、ヨハネや理亞や私……あなたと仲が良い人間は
 揃って絵里を評価して尊敬している――ただ、銃爪はマルちゃんですか」
「……」
「人間誰しも暗い感情は抱えています。
 でも、だからといって無意味に相手を恨んでも意味がありません、
 それは逆恨みという感情です。あなたにはちゃんと教えていませんでしたね」
「……」
「ルビィ、あなたは自分自身よりも絢瀬絵里を評価しているのを聞き
 憤慨する思いを抱えた、愚かだとは思いません。
 私も、誰しもがあるような感情です、嫉妬するのは当然――」
「ち、ちが……」
「ですが、わたくしは以前警告しました。
 相手を変えることよりも、自分自身を戒め、努力を重ね、
 成長すればよいではないかと。
 卑しい心根を抱えてしまうのは誰しもある、光があれば闇もある、
 なにより絵里は評価されるような行動をされていないから当然ではあるんです――
 思いもよらない評価をされて、それを羨んでしまうのも」
「そんなこと思ってない!」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:10:41.92 ID:Rq40jsKV0
「――認めなさいとはいいません。
 わたくし自身も言葉足らず、努力が不足している。自分もまた卑しい
 本来なら! 本来なら! ルビィのやることなら認めてあげたいのですわたくしは!
 高校時代に辛く当たってあなたがどれほど苦しんだか知っているから!

 私はよき姉ではありませんでした――後悔しかありません。
 でも、そんな不出来な姉でも妹にできることがある。
 今後この屋敷の敷居をまたぐことを禁じます、もう、姉でも妹でもありません
 千歌、ルビィと一緒に出ていきなさい、話は以上です」

 梃子でも動かないと言ったルビィではありましたが、
 私が退席しようとすると渋々と言った面持ちで立ち上がり、
 酷く怒った様子で部屋から抜け出たんです。
 でも、それよりもダイヤが、
 私達に背中を向けて黙り込んでしまってから――本当に小さく、小さい声ではありましたが
 泣いているようでした。
 後日、真っ赤な目をして私に会いに来てくれた彼女は感動する映画を見て泣きはらしたと言っていました。
 表立って支援はできないけれど、フォローはする。
 協力はできませんが、困った時には相談して欲しい――そう約束してくれました。
 あと、中立を守り絵里たちにも協力しないと言ってくれましたし、果南や鞠莉にも伝えてくれると。

 ――失ったものは多く、傷ついたことは事実です。
 ですがもう私達は前に進むしか無い。
 何もしないと言ってくれた人たちのためにも、頑張るしか無い。
 ただ、ルビィの目的は分かりましたが、千歌は何故アイドル活動を始めようとしたのでしょう?
 たしかに私に同調して、Aqoursを過去にするために活動はしてくれると言ってくれましたが――。
 いえ、疑ってはいけませんね、同じ志を持つ仲間なのですから。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 05:40:26.87 ID:3nBV7lJEO
ここまで逆境だと海未ちゃん応援したくなってしまう人の性
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:45:12.38 ID:wduEW69f0
 ウォーミングアップのつもりで身体を動かし続けていたら、
 朝日ちゃんにちょっと待ってくださいと忠告をされてしまい、
 強制的に休憩時間を入れられて、途方に暮れる絢瀬絵里がここにいます。
 仲良しの面々に喜び、管理の仕事もできそう! と、 
 やたらハイテンションになりながら先頭に立って運動を重ねていたから、
 いつの間にかに視野が狭くなっていたみたい、いけないいけない。
 ただ、この中のメンバーって、私と年齢の近い理亞ちゃんと善子ちゃんでさえ、
 妹である亜里沙の2個下であるから……ええと……うん! 前を向こう!
 私から距離をとって飲み物を飲んでいる朱音ちゃんに、
 おっかなおっかな近づいてみると、彼女は思いのほか嬉しそうな表情で
 どうしたんですか? と問いかけてくれたので、
 質問を質問で返すのは失礼だと思いながら、尋ねたいことを聞いてみる。

「歌もすごい上手だけど、昔から得意だったの?」
「昔から観察するのが得意で、上手な人を見て聞いて――
 歌だけはうまくいきました」
「ダンスもすごく上手じゃなかった?」
「自分の理想通りに体が動いて……不思議なんですけど」

 いかにも不思議と言わんばかりに首を傾げながら、
 朱音ちゃんは過去に人の指摘ばかりして嫌われたということを話す。
 どこ吹く風だったのは親友関係にあったエヴァちゃんくらいで、
 とても嫌味な子だったと苦笑しながら話してくれた。
 過去の自分を思い出すのは苦しいけれど、
 確かに自分にもそういう部分があったから理解できる。
 間違いや失敗を指摘するのは簡単で、
 相手の不備をあげつらえば自分の気持はスッキリとする。
 ただ、改善策も指摘をしないと、言われた相手も困り果ててしまうし、
 何より、口ばかりで行動できなければ信用なんて得られない。
 高校時代の私が仮に、すごくダンスとか運動が苦手な人物であったら、
 おそらくμ'sのみんなは私を放逐かなにかしていると思う。
 優しいからそれとなくではあって、未来の自分がバカなことをしたと気がつくのだ。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:45:57.28 ID:wduEW69f0
「なんで英玲奈みたいに動けないんだろうって思う時もありました」
「そりゃ、朱音ちゃんは英玲奈じゃないし」
「ええ、そうですね。でも、そういうのってできなくて焦燥している
 人間だったりすると気づかないものじゃないですか?」

 なるほど。
 気がついてはいるけれど、改善する余裕がない。
 問題点は把握していても、矯正する時間がない。
 焦燥感はたえず膨らんで行き、イライラになり、ストレスにもなり、
 いずれ周囲に辛く当たっていき、だんだんと孤立していく。
 まるで絢瀬絵里のよう! ハラショー!
 なお、ラブライブ! というμ'sの軌跡を辿った物語があり、
 アニメでも放送されたけれど。
 DVD・BD特典に付いてきたスクールアイドルダイアリーという小説は
 μ's一年生組からエピソードを聞いたライターさんが、
 μ'sの監修と許可もなく発行されていて、
 絢瀬絵里の過剰なる装飾が施されている。
 なにせヒナが書いたし。
 海未には穂乃果穂乃果ばっかり言ってるじゃないですか! と不評で、
 ことりも凛のエピソードばっかり読んでいるとの話。
 なお、まきりんぱなの話のうち、真姫のエピソードだけは装飾がやたら強く、
 彼女いわく高校時代の話は恥ずかしいそうだけれど、
 ならば私の黒歴史を楽しそうに脚本家に言うのはやめて欲しかった、ダメージが大きい。

「今はみんなの問題点も分かりますよ。もちろん絵里先輩のも」
「お手柔らかにお願いね」
「考えておきます。ですが、今はわかってもらえるように行動しようと思うんです
 自分の不出来さが本当によく分かるようになってきたので」

 黒歴史は掘り起こされてしまうけれど、
 そのことに文句を言ってもどうしようもない、身から出たサビであるし。
 ただ、それを戒めにして改めて行くのは誰しもができること。
 自分自身を省みて前進していく、朱音ちゃんはいい笑顔だ。
 穏やかさと精神的な余裕を持ち、気持ちも晴れやかになった様子。
 理亞ちゃんに言わせればもうちょっとツンケンしていたらしいけれど――是非は問わない。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:46:33.19 ID:wduEW69f0
 そういえばと朱音ちゃんが何かを思い至り、
 私に昔のことは覚えていますかと問いかけてくる。
 一部一部にモヤがかかったみたいにどうしても思い出せないエピソードがあるというと、
 すごく残念そうな表情をされてしまい、不出来な記憶回路に文句を言いたくなった。
 ほら、最近流行じゃない? ノコギリヤシとかイチョウなんたらとか。
  
「私には友人がいました、友人だった期間はそれほどでもないですが
 驚くくらい良い子で、性格が悪い私にも気長に付き合ってくれました。
 歌が得意だって気づけたのは彼女のおかげなんです」

 名前を聞いてしこたま驚いてしまった。
 だけども、その子なら今は私の心の中に居て、
 慌てふためいて動揺しきっているとか、やーめーてー! と叫んでいるとか。
 朱音ちゃんが恋心を語るみたいに連々と雪姫ちゃんを褒め称えるのを、
 心の中で叫び声みたいな悲鳴と一緒に聞きながら、
 雪解けをするみたいに何かを思い出しそうになり、首を振った。
 あんまりいい思い出はないような気がしたし、過去にはそれほど意味はない。

「雪姫と比べるまでもないですが、
 私は彼女みたいになりたい。みんなから好かれるような
 そんな素敵な人に」
「私になにかできることはあるかしら?」
「自分に至らない点でがあれば指摘してください、
 できれば改善できるものであると嬉しいですが」

 舌を出しながら微笑む朱音ちゃん。
 明るく前向きな姿になぜだか私は安堵をしてしまって、
 どこかで会ったことがある彼女とは違う気がしてならなくて、
 そんなこともあるかなと気分を一新した。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:47:20.59 ID:wduEW69f0
 朱音ちゃんとの交流を果たして、次の目的はきれいな……いや、
 なぜか性格が変貌してしまった鹿角理亞ちゃん。
 以前までさん付けで呼ばないといけない空気感があったけれど、
 慇懃無礼な感じがする! と涙目で訴えられてしまい現在に至る。
 遠慮せずに仲良くしましょうと言われても、どこまで踏み込んで良いのかは極めて疑問。
 先ほどの自分のパフォーマンスに納得の行かない部分があるのか、
 鏡を見ながら常に自分の動きを確認している。
 元から能力は非常に高いのに、やる気が持続しないと問題視されていたから、
 理由はわからないけれどモチベーションが高いのは歓迎できる。
 ただ、いまさら過去の理亞ちゃんに戻っても戸惑うばかりなので勘弁願いたい。

「ああ、絵里先輩」
 
 先輩に対する敬意と一緒に、おちゃめな感じで周囲を観察をしないとと嗜められてしまう。
 問題があるのは自分ばかりであるので、
 真っ当な指摘を羞恥心と一緒に自分の腑に落とし、噛み砕いて納得する。
 ただ、今後何度も改善のために失敗するケースもあるので、
 できれば見捨てないで頂きたい。

「エトワールのみんなは、以前は本当、吹き溜まりと言うか……
 かなり問題があるアイドルで、私のことも戸惑っていますが、
 成長具合が解せないんです」
「自分の中のイメージと違うということ?」
「私一人ではなく、みんなもアレ? っていう感想があるみたいです
 なんだか怖いですね」

 誰かに都合の良いシナリオのようというので、
 思い当たる人はいないのと聞いてみたら、自分自身を指差して
 まるで物語の主人公になったみたいな気分だという感想を残す。
 あまり嬉しくない様子なので、何があったのか聞いてみると
 今のような自分になってから、アンリアルで行動をともにしていたルビィちゃんと
 連絡が取れなくなってしまったみたい。
 既読すらつかないLINEや電話やメールをしてもなにもないので、
 しばらくしたら事務所に問いかけてみたいよう。
 そんな心配な心持ちでありながら、私を迎えに来るのを優先しれくれたあたり、
 本当に申し訳ない気分になってくる。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:48:05.03 ID:wduEW69f0
「朝日、慌てないで冷静にね。
 パフォーマンスができる下地はあるから――この人別格だから
 気にしないでいいの」
「ええ、わかってるんですけど……今までニートだった人より
 動きが劣ってることを自覚していると少々焦りも」
「だいじょうぶ、朝日ならできる」

 絢瀬絵里というイレギュラーのせいで焦慮が湧き上がるのなら、
 連れてきたプロデューサーに文句を言ってください。
 ――手前勝手な理由ではあるのだけど、ほら、
 やっぱり、調子に乗りがちな人生送っているからね、私。
 そこを改めろというツッコミは改善には至らないのでアドバイスをお願いします。
 二人の距離感は近く、感心するほど指導も適切であり、
 私の出番はないと思われたけど、一応年上の人間を顔を立ててくれたのか、
 とりあえず言わんばかりに何かありますかと聞いてくれた。
 多少緊張を覚えながらも、考えられるうる限りのアドバイスを出しておく。 

「ルビィはどうしたんでしょう? こんなに交流が途絶えたのは
 高校時代から通算してもなくって」

 私のアドバイスは常人にはこなせない任務だったらしく、
 相手を見て指導はしてくださいという、酷く当たり前な指摘を受け、
 朝日ちゃん強化人間化計画は実行されずじまいだった。

「メッセージも残されていないの?」
「はい、仮に何かあれば、ダイヤさんから連絡があります……いや、 
 あると思うんです。あっちから連絡が取るのは嫌かもしれませんが、
 社会人ですからね、仕事上必要であれば」

 見えないかもしれないけれど、
 ダイヤちゃんも真っ当な社会人らしく、
 仕事と私情は切り分けて考えられるみたい、本当かしら?
 多少解せない部分があるとは言え、
 それ以上にルビィちゃんの行動も分からないので、
 想像で判断せず、経緯が分かるまで動かないことを言ってみた。

「分かりました、確かにルビィの目的がわからない以上
 こちらから行っても仕方ないです
 不安ではありますが、時が解決するのを待ちたいと思います」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/01(土) 18:07:36.64 ID:5N6tUWAaO
みんなな強くてニューゲーム状態じゃないか!
改変の影響が良いことばかりなら良いんだが…
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:32:59.79 ID:iAmGxFo+0
 考え込むように腕を組んで静かになってしまった理亞ちゃんが
 一人で考えてみたいふうであったので場を離れた。
 黙々とトレーニングや動きの確認を続けている朝日ちゃんに手を上げて挨拶したら、
 ちらっとこちらを見て。

「足をうまく動かすためにはやっぱり筋力なんでしょうか?」

 さきほど的外れなアドバイスを送ってしまったので、
 評価が転落してしまったかと思いきや、それでもなお指導を受けてくれることが嬉しい。
 テンションが跳ね上がってしまった私だけど、ここでこうすればいいと言うと
 普通の人にはできませんで終了してしまうので、
 相手にあったアドバイスを送るためにちょっと考えてみる。
 自称能力値が低い彼女だけれど、他のメンバーが優れているのと、 
 自分自身の評価自体が低いせいで客観性に欠ける部分があるのだと思う。
 UTXの出身だったせいか、基本的に自分よりもできる相手ばかりが周囲にいたため、
 自ずから出来て当然と判断してしまうのでしょう。
 はじめて見た動きや、振り付けや、トレーニングメニューを難なくこなせるというのは、
 元からの下地があってできることなので、見た通り、考えたとおりにこなせないからと言って、
 何ら落ち込むことはないと思う。

「リズム感や柔軟性、もちろん何回も同じ動きを繰り返して身体に覚えさせるというのも必要ね」
「うう、私に足りないものがいっぱいあるということでしょうか?」
「いいえ、誰しもそうなのよ、最初からスマートにできるなんて、
 私の知る限り綺羅ツバサくらいしかできない所業よ?」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:33:43.60 ID:iAmGxFo+0
 ちびっこい外見のくせにオリンピックアスリート相手にも渡り合う運動能力で、
 あいつは人間じゃないのではないか(英玲奈)
 基本的に比較対象にすらならないわね(あんじゅ)
 なんであんなすごい人が絵里ちゃんの友達なの?(凛)
 最後の凛のコメントは、一緒に居て恥ずかしくない? という台詞が言外に含まれている。
 自分にできないのは恋人くらいと自嘲気味に笑い、
 人生基本的に9割方勝利してる綺羅ツバサにも実はちゃっかり弱点がある。
 優れた観察力と身体能力の高さのおかげで順応性が果てしなく高いので、
 努力する気が失せてしまうこと。
 やがて努力する相手に追い抜かされてさらにやる気が失せるとは彼女の言葉だけど、
 アイドルだけは続けているわねと問いかけてみると、追い抜かせない相手が居て悔しいから
 と教えてくれた、そりゃすごい人間がいるものねと言ったら、バカじゃないの? 
 みたいな顔をされたので、あ、地雷踏んだなって思って賢明な私は黙った。
 
「絵里さんにできないことってあるんですか?」
「たくさんあるけど……え? そんなにデキる人みたいなイメージある?」

 確かに恋人はできないし、赤ちゃんもできないけど! 
 と、小ボケをかまそうとしたけれど真剣な面持ちでこちらを見上げる彼女を見て、
 咳払いを一つして発言を回避する。
 空気を読まずに迂闊に本能のままに発言する癖は、
 長年の経験で披露される機会はずいぶん少なくなった。
 私を知らない人からするとあの橋! 本で見たことがある! がえらい有名。
 なんであんなにテンション高かったの? 海外初めてじゃないでしょ?
 と、よくネタにされるけど、私だってわからない、嬉しかったのかも知れない。

「いえ、もちろん何でもできるわけじゃないっていうのは知っています
 こう、踊りとか、動作とか……身体を動かすことに関しては
 かなりレベルが高いんじゃないかなって、なにせ姉の歌声も成長させましたし」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:34:16.81 ID:iAmGxFo+0
 歌うのは大好きだったけれど、歌唱力が低レベル過ぎて泣けるヒナを
 彼女が泣け叫ぶレベルの指導で実力を向上させたのは――まあ、お互いに黒歴史。
 最近会ってないからわからないけれど、やられたらやり返す! 倍返しだ!
 とか言われたら、もう、どんな酷い目に遭うかわからない、
 魔法少女が敵役にやられたときみたいなことになるかも知れない、
 あ、もう、ダイヤモンドプリンセスワークスではそうなってたけど、あれは絢瀬絵里じゃない。

「うーん……成長する人間はすごいかもしれないけど
 アドバイスする人間はすごくなんかないわよ?」
「世の指導者全否定ですね」
「指導してお給料を貰っている人はまた違う世界があるんだろうけど、
 私みたいな素人が相手にできるアドバイスなんて、
 せいぜい一緒に頑張りましょうくらいなものよ?」
「姉にはなんて説明するんですそれ」

 私は朝日ちゃんの目を真っ直ぐに見られなかった。
 彼女の指摘に恥ずかしいやら、消したい過去を思い出すやら、
 一つも反論もできないし、言われたままの刑を受けるしか無いし。
 私がしどろもどろする様子を見て、多少気分も晴れたのか、
 朝日ちゃんは先ほどよりも和やかな雰囲気の笑みを浮かべて、

「私は、絵里さんみたいになりたいです」
「なれそうだから?」
「それもありますけど」

 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。
 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。
 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、
 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。
 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:34:48.79 ID:iAmGxFo+0
 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。
 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。
 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、
 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。
 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。
 
「ねえ、朝日ちゃん、ちょっと尋ねてみたいんだけど
 なんでアイドルになろうと思ったの?」
「うーん? なんででしたかねえ? 
 気がついたらそうなりたいと思ってたフシもありますけど……」

 天井を見上げながら思案する朝日ちゃんを見て、
 以前ヒナに聞いた話を思い出していた。
 子ども時代はアニメ好きだったという朝日ちゃんが憧れたというのが、
 きらりんな感じの月島さん。
 同じアニメを見て、妹はこうして芸能プロダクションに入り、
 姉はエロゲーを作るという微妙に差異のある結果になったけれど。
 金髪に心を惹かれる結果になったのはアレのおかげと言われても、
 私としてはなんて反応をしていいのか分からない、胸を張ればいいの?

「ああ……もしかしたら、アイドルが姉妹の会話の種になったからかもしれないですね」
「アイドルは好き?」
「現実を見て諦めようと思うことも何度もありましたが
 それでも続けているってことは好きなんじゃないでしょうか?
 嫌いはともかく、好きって長年続けてるとよくわかんなくなるものじゃないですか?」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:35:23.20 ID:iAmGxFo+0
 そう言われてみれば、そのような気もする。
 人に対する感情は別にしても、私の料理好きはしてないと違和感があるとか、
 身体を動かすことも習慣化しているから勝手にやってしまうという感じだし。
 長年好意的な感情を持ち続けていると、それが自然になってしまって、
 いつの間にかにやめてしまうとかいう話も聞いてしまうし。
 
「ヒナのことは好き?」
「ああ、うん、尊敬はしています。好意的であるのは確かですが
 ……ええ、言葉にするのは恥ずかしいですね」
「ふふ、さっきのお返し」
「年甲斐を考えてください」

 暗に子どもみたいなことをすんなよ、と殴り返されてしまい。
 ちょっと拗ねてしまった私は、笑みを浮かべながら彼女に背を向け、
 亜里沙のことを思い出していた、ここにいる面々って妹ばっかりで、
 さっきからついついμ'sの憧れていた彼女のことを考えてばかりだ。

 μ'sに対する憧れと言えば、Aqoursのことも思い出す。
 不運にも両者の交流は上手くは行かなかったけれど、
 こうして一部では一緒に同じ仕事をしていたりとかもして、
 何もかもうまく行ったわけではないけれど、何もかも失敗したわけじゃない。
 以前真姫が信者とアンチの違いは、
 一つの事実をネガティブに見るか、ポジティブに見るかの違いしか無いと言っていた。
 同じものを見ているのに受け取り方が違うというのは、面白さでもあり、
 大変でもあることではあるんだけれど。

「よし……ヨハネちゃんて呼んだほうがいいの?」
「あー……どうなんだろう? 千歌以外のメンバーはヨハネって呼ぶけど……」
「じゃあ、よっちゃんで」
「気がついたら善子ちゃんって呼んでるオチじゃないですか?」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:35:58.94 ID:iAmGxFo+0
 クールに髪の毛をかきあげながら、長い髪が煩わしいと言っているよっちゃん。
 短髪だった過去は高校時代にまで遡り、経緯は忘れてしまったらしいけれど、
 朝起きたら短くなっていて、視力も大変悪くなったそう。
 ただ、その出来事の後から他の面々は必ずヨハネと自分のことを呼び始めたらしく、
 高校時代は喜んだけど、今となっては気恥ずかしいだけみたい。
 なんと統合先の高校で生徒会長も勤め上げ、
 仕事もAqours1年生組だけでこなしたせいか、
 デスクワークには絶対の自信があるらしい、ルビィちゃんと花丸ちゃんは戦力外だった模様。
 
「たぶん、AqoursのメンバーでAqoursであることで得したのって誰も居ないんですよ
 でも、私はAqoursとして活動した過去を後悔なんかしない、Aqoursが大好き。
 できればもう一度Aqoursとして活動したい、曜とか梨子は絶対に嫌だって言うだろうけど」
「そうなんだ、一年生組では?」
「マルは賛成してくれると思います。ルビィはどうだろう? 最近、私達3人で集まってないし……」

 過去のことで振り返ることはないかと問うてみたら、
 敏い彼女はAqoursとして活動していた自分のことを話してくれた。
 私や穂乃果は……まあ、μ'sとして活動していたことを後悔する時代もあったけれど、
 それでもその時の出会いや経験はかけがえのないものになっている。
 おそらくμ'sが揃ってこれから同じことをする機会というのは、 
 ほぼ可能性としては0に近いんだろうけれど。

「ルビィは……さっきちらっと理亞の話が耳に入りましたけど
 私ともマルとも連絡を取ってないみたいで。
 知らないアドレスからメールが入ってて、誰かと思ったらマリーだったんですよ」

 どこでどうアドレスを調べたのか、と苦笑しつつ口にしながら文面を見せてくる。
 内容を見てもいいのかと聞いてみたら、どうしても見てほしくてと。
 一人で抱えられない事実があったみたいで、私なんかで力になれるのかなとは思うけど。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:36:39.43 ID:iAmGxFo+0
「ええと……海を見ています?
 最近和菓子にハマってあんこに飽きたと二人して言ったら怒られました。
 理想の人は居候にも厳しいのです
 姉妹喧嘩は犬も食べないと聞いたので、
 姉に会ったら宜しくお伝え下さい……?」
「理想の人というのは、高坂雪穂さんのことなんですよね
 だから日本にいるみたいで、海って言うには東京湾?
 あんこに飽きたって、果南ちゃんがそんな事言うかなぁ……」

 雪穂ちゃんが理想の人というのは、
 何でもAqoursがラブライブの優勝に貢献したからであるみたい。
 なんとか静岡県予選を突破した彼女たちは、
 ラブライブ本戦の一回戦の前に雪穂ちゃんと亜里沙が顔を見せて、
 Aqoursの欠点や改善点をアドバイスした結果浦の星女学院の優勝に貢献。
 今から考えれば、あの指摘がなければ初戦で姿を消していた弱点だったらしく――

「私達の身の丈に合わない優勝という結果、
 目標を達してもなお廃校を回避できなかったおかげ……いや、せいで
 千歌は努力は実らない、μ'sみたいになれないと絶望し
 姿を消す訳にはなるんですが……あ、ごめんなさい」
「え?」
「すごく怖い顔をしてました、絵里さんも表情を変えることがあるんですね……」

 よっちゃんが恐怖に感じてしまうくらい、
 恐ろしい顔をしてしまっていたみたいで、私は慌てて頬を上げ
 笑顔を作ってみせる。
 多少なりともうまくは行ってないのか、やや距離は広がってしまったけれど。
 
「いえ、ちょっと、ちょっとね、
 知り合いにμ'sに入りたいっていう子がいたものだから
 差異がね?」
「千歌が身勝手なのは知っています
 ただ、私はそんな千歌が好きなんですよ、とても残念なことに」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:37:17.65 ID:iAmGxFo+0
 口を開こうとして辞めてしまった。
 どんなに言葉を重ねたところで議論は平行線になる。
 世の中には優れているから好きという人もいるし、
 面倒極まりないから好きという人もいる。
 好意的な感情を寄せるのは、好意的な人間であるからばかりが理由にはならない。
 蓼食う虫も好き好きというように、評価の基準は人それぞれ……
 ではあるのだけれど。
 個人的な感情で言わせて貰えば、彼女が穂乃果を持ち上げたおかげで、
 穂乃果がどんな目に遭ったか知っている人間としては、
 一概に好意を寄せられることや理想だと崇められることが
 いい結果を招くとは限らないと知ってしまったので……いや、ほんとう、
 なんて言っていいのか分からない。

「私も、μ'sみたいにみんなで仲良くしたいです、
 ありえないですよ? 数年経ってもなお9人揃う機会があるとか」
「こう……スケジュールを調整してくれる有能な人がいて
 たまたま集まっているだけという言い訳はなし?」
「奇跡ですよ、Aqoursが今後9人揃うとしたら。
 もう、千歌という欠けたピースは元に戻らない。
 もしかしたら彼女には会う機会はないのかも……」

 とても寂しそうな表情を浮かべる善子ちゃんに、
 幸運にも私とお付き合いがあるμ'sのみんなの事を考えながら、
 私自身にも身勝手な部分があって、それで彼女たちを嫌っている側面があるとすれば
 なにかできることがあるかもしれないと思い至った。
 
 なんとなく物別れしてしまった感のあるよっちゃんとの交流を終え、
 ひとりボーッとしながらエトワールの住人を遠巻きに見ているエヴァちゃんに話しかけてみる。
 なんとなく楽しげである表情から花咲く表情に変化し、
 やたら私に対する好感度の高い面々の中でも、飛び抜けて評価が高いのが彼女である。
 エヴァちゃんの中では空気! 水! 絢瀬絵里! みたいな感じで、
 必須栄養素か! と言ってしまったけれど。
 見てないと禁断症状が出るというのはもはや金髪中毒と言って良いんじゃないかと。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:37:54.82 ID:iAmGxFo+0
「みんなの輪に入れば良いのに」
「仲良くしたいです
 でも、私って思わず言ってはいけないことまで言ってしまうみたいで」
「そうなの? 例えば?」
「---------」

 ん?
 あれ、おかしいわね? 
 エヴァちゃんが何事か言っているはずなのに耳に入ってこない。

「ええと?」
「物語で言うところのネタバレというものなのでしょう
 禁則事項です――みたいなものですね」
「----------」(残念ながらバストサイズが)

 ん?
 あれ、おかしいわね?
 口にしようとした言葉が耳に入ってこない。
 
「-----------」
「--------」(だいじょうぶ、胸のサイズは成長するものよ!)
「-----------」
「--------」(亜里沙も高校卒業後に大きくなったし! 胸も背も!)
「-----------」
「どうしたの? なにか悲しいことでもあった?」

 あ、声が出た。
 胸の大きさに関するフォローは
 矢澤にこ、星空凛、園田海未に関してはまったく成功しなかったものの、
 後に下がいるから油断していた、思ったよりも大きくなかったと述懐する
 西木野真姫に対しては一定の成果を収めた。
 なお、バストサイズに対する励ましは亜里沙も上手じゃないし、
 希が酔ったニコに白々しい! と怒鳴られたエピソードもあるので、
 胸が大きいと苦労するみたいな話はμ'sでは禁句。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:38:34.49 ID:iAmGxFo+0
「もし……これは仮の話ですが」
「んー?」
「今がもし、今より未来の延長線上にあるとすれば
 私はどうすれば良いのでしょう?」
「創作の話?」
「はい。似たようなものです。
 だって、目にしたもの以外、聞いたもの以外を知る時、
 想像に頼るしか無いのであれば、
 自分が知る事象以外は、ありとあらゆるものが
 想像に委ねられる創作物であると仮定すれば、
 たとえ現実世界に存在するものであろうとも、
 その人自身が空想する創作物であるとは思いませんか?」
「残念ながら、想像と想像を形にした創作物は違うものだわ」

 ソースはなろう系小説を読んだり、
 自身が演じる機会もあり、自分でも書けるんじゃないかと想像(妄想)を重ね
 実行性が高い計画(笑)を持ってしても物語を完結させられなかった西木野真姫。
 その際の悔恨の句は「口にする言葉と手で書く文章は違う」であり、
 聞いたツバサにも目に入るモノと耳に入るモノが同じワケがないでしょと突っ込まれたり、
 海未にも妄想と文章化され世に出た作品が同じものではないと断言されている。
 ただ、海未に関しては頭の中にあることがだいたい歌詞として表現されていて、
 ことりからムッツリとネタにされたり、希から耳年増なんじゃない? と言われたり、
 凛からも頭の中にある妄想をシロップ漬けにして現実に出したらμ'sの曲の歌詞ができると評され、
 穂乃果の歌詞は素直なのにどうして口下手なの? という言葉は海未にクリティカルヒット。

「未来は未来、過去は過去……生き方論としては
 今をきちんと生きるしか無いんじゃない? 問題は時間が解決してくれるわよ」
「生きていくのは私一人では怖いです」
「だったら一緒に行ってあげる、まあ、役に立たないかもしれないけれど」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:39:39.88 ID:iAmGxFo+0
 自嘲気味に笑ってしまったので、苦笑しているようにも見える自分の顔を鏡で見ながら。
 エヴァちゃんはくるりと振り返り天井を見上げて、

「……いえ、一緒にはいけません」
「ええ? 頼りにならないから?」
「それもありますけど」
「あるんだ」
「でも、もし、今よりも未来――そして、今よりも過去にその必要があれば
 一緒に行ってもいいかもしれませんね」

 そして彼女はこちらを見て。

「今日はボルシチにしましょう」
「え? 作ってくれるの?」
「スープの赤い色が血液でよろしければ」
「……作らせてください」

 食べ物トークで盛り上がっていると、
 ハラペーニョ(お腹すいたの意)なみんなが食べたい! 食べたい!
 とやたらボルシチを褒め称えるので嬉しくなった私は
 エトワールのみんなで一緒に買物に行き、ビーツがないことに愕然とし、
 これから来ると電話してきたツバサにビーツ持ってきて! とお願いし、
 ふざけんな! ロシア料理とか飽きたわ! と返答されたものの。
 優秀な彼女の手腕でビーツは用意され無事にボルシチは完成された。
 なお、ボルシチと言う言葉は知っていたものの見たことがない面々は、
 ロシア料理が数多く置かれた食卓を見て、
 コトレータを指さしながらボルシチ美味しそう! と言ったので、
 ツバサが大受けして、ロシア料理の知名度ってそんなものよ、怒らない怒らないとフォローしてくれた。

「やっぱり、帰ってきた時に食べるものといえばこれですね」

 エヴァちゃんの言葉の意味はよく分からないけれど。
 とにかくまあ、みんな嬉しそうなので良かった。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 06:42:24.14 ID:YAt64JBjO
エヴァちゃん黒幕説……流石にないか
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 18:26:01.06 ID:qhHesepK0
みくるちゃん好きだったな〜
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:06:15.93 ID:KGnAEq7N0
 ボルシチを中心としたロシア料理を囲み、
 そういえばなんでツバサはここに来たのと問いかけてみると、
 まあまあ、それは後にすればいいじゃないと
 話をごまかされてしまったので、
 特に何を追求するわけでもなく、ちびちびとお酒を飲む。
 未成年者がいる手前、遠慮しようかなって思ったんだけれど、
 いいから飲め、とりあえず飲め、遠慮せず飲め、
 と異様なほどみんなから勧められてしまったので、
 酔いすぎない程度に日本酒を飲む。
 結構量を出したとは思うけど、胃袋が宇宙らしいツバサや
 私自身の努力によって作りすぎた料理はみんなお腹におさまった。
 摂取したカロリーがやばいのでは? と冷静になった面々は
 一目散に地下のレッスン場に向かい、今はトレーニング中。
 残っているのはカロリー? 知ったことか! なツバサと、
 食べる量をセーブしていたらしい理亞ちゃん。
 カロリーどころか肝臓の出来も心配になるけれど、
 と、私が言ったら、お前が言うなみたいな顔をされてスルーされた。

「すごい変わったわね、理亞さん」
「はい、何故だかこう……しなければならないと言いますか
 こちらのほうが自然で」

 おしとやかさかげんではエトワール随一に変わってしまったのは、
 エロゲーのプレイしのしすぎで3次元と2次元が混同されてしまったのではなく、
 普段からさらさらヘアでおしとやかさんな自分のほうが自然だったからみたい。
 どちらかといえば、そうでない自分のほうが違和感があるらしく、
 異様なほどエロゲーにハマっていた過去は消し去りたいほど恥ずかしいよう。
 人としては真っ当ではあるのかも知れないけれど、
 しかしながら、そんな鹿角理亞ちゃんのほうが違和感があるというと、
 怒られてしまうだろうか?
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:06:46.93 ID:KGnAEq7N0
 ツバサは興味深そうにしげしげと彼女を眺めたのち、
 自分が持ってきた大量の度数の強い酒をストレートで口にし、
 
「なにか隠してるでしょ」
「公式プロフィールが詐称されていたのは知ってますが」
「いや、そうじゃなくて、
 なんでそうなったのか自分では分かってるでしょって話」

 何気ない風ではあったけれど、
 的確に心を貫いてくる指摘に理亞ちゃんは苦笑いしながら、
 私の方をちらりと見て、首を振る。
 なお、ツバサも私をちらりと見て、
 なんで気づかないかなこのポンコツはと言いたげだったけれど、
 あいつの洞察力がチートレベルだって言うのは指摘してはダメかしら?

「心の中では負けたくない相手がいると思っているんです」
「その人ってすごいの? そうならなければならないほどに」
「……正直な話、負けたくないと思ったのは事実ではあるんです
 強い憤りを持って、過去の自分を改めたいと願ったのは記憶しています」

 理亞ちゃんの能力値は私から見てもかなりのレベルにあると推測される。
 才能はあるけどやる気がないとか、
 もうちょっと努力すればいいのにとか、
 明日から本気出すと言っていつの間にか死んでいる人扱いな彼女が、
 躊躇いもなく全力を出して何かに取り組んでいる姿というのは、
 過去の理亞ちゃんを見るに異様過ぎる案件だ。
 本気出すと言ってどうにもならない人間はこの世にたくさんいるけれど、
 全力を出すと、周囲が困るほど成長してしまうのは良いんだか悪いんだか。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:07:19.90 ID:KGnAEq7N0
「そいつには勝てそう?」
「どうでしょう? 今のところは勝っているとは思いますが」
「気をつけなさい、そいつは本気だすどころか、
 ちょっとやる気出すで追い抜いてくるから」
「……経験済みですか」
「ええ、何度も何度も」

 私には関係無さそうな話であるので、
 まったく聞いていない風を装っていたら、
 脛を高らかに蹴り飛ばされた。
 クリティカルヒットしてしまったために悶絶するほど痛く、
 飲んでいた酒をつい勢いよく飲み込んでしまい。
 鼻に逆流してしまってけふけふ言ってるけど、
 二人はまったく意に返さずに分かってないなあこの人って目で見下ろした。
 なんということでしょう、私はいつだってフツーでありたいというのに。
 いつも空気読めないで嫌味な態度見せてるみたいじゃん……。

 特に意味もなく脛を蹴り飛ばされたり、
 みんながお腹を痛めているから来て欲しいとお願いされたから行ってみたら、
 食べた後ですぐに動いたから苦しんでいるだけだったので、
 慌ててくる必要もなかったと安堵していると。
 一人フツーに過ごしているエヴァちゃんが、クニクニと私のわき腹を引っ張る。
 結構そういうことをされてしまうと太ったかなと勘違いしてしまうので勘弁して欲しい。

「動けるからと言って、調子に乗ってはダメよ
 急いで何かをしようとするとね、人間死ぬのが早くなるだけだし」

 私が忠告してもあんまり効果がないのに、
 ツバサの言葉は真剣に聞いているだけに、
 あれ!? 私の信頼度低すぎ……!? みたいに
 手で口を抑えながら驚いた顔をしようと思ったけれど、
 そんなことをするから尊敬の度合いが下がると思ったので自重。
 なお、ツバサの言葉がクリティカルヒットしたのは存命の面々だけではなく、
 私の心の中に居て同調してばかりの雪姫ちゃんにも。
 生き急ぐとろくな事にはなりません! と亡くなった人間に言われてしまうと、
 なんでだろう、色々と自重してしまいたくなるね?
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:07:50.50 ID:KGnAEq7N0
「朱音さん、あなた自分が売れっ子になれると思ってるでしょ」
「はう!?」
「善子さん、もうすでにサイン会で行列が出来て困る想像してるでしょ」
「うあ!?」
「朝日さん、さっきデザートもう一個食べられたかなって思ったでしょ」
「私をオチに使わないで良いんですよ、当たってますが」

 綺羅ツバサさん心を読解している疑惑。
 どういう人生を歩めば、もうすでに人気が出た自分自身を想像している――
 人間の表情からその事実を読み取ることができるのか。
 あ、でも朝日ちゃんがちょっと食べ足りなさそうなのは分かったよ?
 お腹痛いのかなって心配して駆け寄ったら、
 あと3個は食べられたって頭抱えてたし、もうちょっと健全に心配させて?

「この中に、売れている人間はみんな実力があるって思ってる人!」
「はーい!」

 高らかに手を上げたのは私だけだった。
 お前には聞いてないみたいな顔をしてツバサに見られたのと、
 すごく優しい目でエヴァちゃんがこちらを見たので、
 空気読めてなかったなって反省する。
 ちょっとノリでおとぼけてしまったけれど、
 エトワールにいるみんなも、売れているアイドルなり歌手なり、
 声優だったりする人間がみんな優れた歌唱力とかを持っているかどうかは、
 分かっているものであるらしい。
 仮にみんながみんな優れた部分があって、優れているからこそ仕事をしているのなら、
 実力派〇〇なんて言葉はおそらく存在しないものであるだろうし。
 
「はい、みんなもお察しの通り、歌が上手い人が歌手をやってるわけでもなく、
 当てるのが上手い人が声優をやっているわけでもなく、
 演技が上手な人が俳優やっているわけじゃありません。
 ただ、9割は上手な人がやってます」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:08:22.53 ID:KGnAEq7N0
 何故こんな話をツバサがしているかと言うと、
 今までほとんど上手く行ってなかったのに、急にいろんな才能に目覚めて、
 やればやるほどできるようになるんじゃない?
 みたいになってオーバーワークを起こすのを防ぐため。
 私もそのあたり一家言持ってるけど、説得力がないからやめてって言われちゃった。
 反論しようとしたら理亞ちゃんに優しい声で、やめてくださいって念押しされたし、
 中にいる雪姫ちゃんにさえ、やめたほうがいいですって止められたし。

「何より大事なのは、売れてない人たち。
 もちろん、実力がないから人気がないという人たちも数多いけれど、
 事務所に所属している人間の大多数は、
 売れている人と同程度かそれ以上の実力を持っていても
 売れていないという現実です」

 頑張るなというわけではなく、
 頑張りすぎてはだめだ――という忠告。
 上手くいっているとついつい調子に乗りがちではあるけれど……
 そういえば調子に乗りがちな人生であったなあ、と勝手にたそがれる絢瀬絵里(笑)
 なお、みんながみんな、オチはあいつだなって目で私を見てる。

「はい、みんなもお分かりですね、
 μ'sで羽目を外して頑張った挙げ句、
 数年間ニートとして過ごし、妹のスネカジリを続け、
 今はその人のコネで仕事しているあの人みたいになります」

 パラパラと沸き起こる拍手。
 それはツバサの発言が的を射ているから?
 すごく分かりやすい説明だったって納得した拍手?
 ちょっと扱い的に不遇であったので、唇尖らせて拗ねてみると、
 綺羅ツバサさん(笑)がさらに、

「くだらない話を聞いてくれたみんなに
 ああいう人を意のままに操る方法を教えます」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:08:53.53 ID:KGnAEq7N0
 えー!? と深夜の通販番組の商品紹介の時みたいに
 みんながノリよく高らかに驚いてみせる――雪姫ちゃんも言ってる。
 
「これは別に絢瀬絵里オンリーに使える技術ではなく、
 自分では頭が良いと思っていてそれなりに仕事はできるけど、
 言われたことしかできないやつと、褒めれば動いてくれる人にも利用できます
 なお、仕事ができない人間にやってもこっちが損するだけです」

 ツバサが私と正対して、やけに真剣な面持ちでこっちを見る。
 ふざけた態度から一点、謝罪の意でも示すみたいに殊勝な表情をして、
 責めるべきはこちらなのに、なんか悪いコトしたかなと罪悪感が揺さぶられる。

「はい、今の通り、こちらが下手に出て申し訳なさそうな風を示すと
 ああいう人は心が揺さぶられます、
 今あの人、なんか悪いコトしたかな? って考えました」
「か、考えてないし……」

 心を読解されたのでしどろもどろになる。
 観察眼と言うよりニュータイプレベルの所業、
 おそらくファンネルは使えるね? ハイパー化するかもしれない。
 いくらこっちがハンブラビで頑張ってもビーム全部弾かれちゃう。
 
 こちらが反抗的な態度を示したことで、
 相手は第二の作戦を取る。
 死んでも屈するもんかと思って気合を入れていると、

「絵里」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:09:41.21 ID:KGnAEq7N0
 その台詞と一緒にこちらに潜り込んでくるツバサ。
 正拳突きでも決められるかと思って身体をくねらせると、
 なんと私の手を取り、せつなそうな瞳でこちらを見上げ、
 愛おしい人に甘えるみたいにボディータッチを重ねながら
 なんかいい匂いがすると同時に心が揺さぶられた。
 あかん、これは孔明の罠やんなと希の声が聞こえてきた。
 そうよ私、こいつは一度弱みを見せたら最後、
 死ぬまで罵倒をしてくるやつだと思い直し、ぐっと一声漏らして、
 鼻息荒く相手を睨みつけてやると、

「ごめんなさい、許して絵里」
「だ、騙されたりしないわよ! そういってェェェ!?」
 
 寄せられる唇、撫でられる身体、鼻には絶えず甘い香りが届く。
 なんでこの人さっきまで酒にまみれてたのにこんな匂いがするの?
 との冷静な思考回路は一瞬で吹っ飛び、
 熱量高く、ガチで女性の方が好きみたいな態度を取られ、
 まるでイケないことをしているみたいな気分にだんだんと落ちていく。
 的確に身体がハネてしまいそうな部分を刺激されてしまうと、
 抵抗虚しく陥落してしまいそう。
 恋人つなぎで手を重ねられ、潤んだ瞳と湿った唇を寄せられてしまうと、
 あ、こういうのもアリかな? と――

「はい、いざという時はこうしてボディーランゲージで何とかしましょう
 ああいう人は感情に飢えているので、距離が近づくと動揺します」
「うえ……?」
「何してんの絵里、発情してるの? 肉の加工会社に売るわよ?」
「こ、この! またダマ……!」
「ごめんね……」

 騙されていると分かっていても、
 人恋しい気持ちを埋めるような的確なボディータッチに、
 為す術もない絢瀬絵里なのでありました。
 断じて発情しているわけでもなく、相手に性欲を抱いているのでもなく、
 あくまで綺羅ツバサさんが上手なんです、あとエヴァちゃん写メ取らないで
 どこに送ったのそのメール。亜里沙じゃないよね?
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:10:18.48 ID:KGnAEq7N0
 絢瀬絵里を意のままに操る方法を体得したエトワールの住人は、
 扱いやすい金髪の発言は右から左に流すようになり、
 カリスマ性を高めた綺羅ツバサさん(笑)の演説はヒートアップの一途をたどる。
 これがもしジオンだったらハマーン・カーンかシャア・アズナブルレベルの所業、
 おそらく私だったらよくてグレミー、下手するとゴットン。
 でも、ゴットンさんはちょっと感情移入しちゃうよね、上司に恵まれなくて。
 でもガンダムシリーズってだいたい上司に恵まれない人か、
 部下に恵まれない人しかいない気がするけど、現実ってそんなものなの?

「さて、統堂朱音さん、エヴァリーナさん、栗原朝日さん、津島善子さん
 あなた方のデビューが企画検討されています」

 今のがもし、私の発言だったら本当かよみたいな顔をされるだろうけれど
 あいつの信頼度は今や亜里沙レベル。
 ボルシチを作るために呼ばれたやつレベルから、
 神と崇めてもいいレベルにまでジャンプアップを重ねたあの人は、
 そろそろハウツー本でも出せばいいと思う、売れそう。

「今は4人揃ってということになりますが、
 望むなら単独でも、売れてからの話になるとは思いますが」
「質問があります」
「はい、朝日さん」
「絵里さんはともかく、理亞さんは私達とセットになる話でしたよね?」

 うん、そこは理亞さんは一緒じゃないんですか?
 で、良いと思うの。私をオチに使わないで良いんですよ。
 エトワールで一緒に過ごしている以上、
 アンリアルとしてはパッとしない売れ行きだった彼女を
 グループのセンターとしてという意図はあったのか、
 みんながみんな、え、私達だけ? みたいな顔をしている。

「うん、ネタばらししてしまうと、元々、そこの金髪の代替要員が理亞さんでした」
「あ、どうも、私が変な金髪です」

 ボケてみるとみんながスルーした。
 雪姫ちゃんだけが面白いですよ! とフォローしてくれる。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:11:11.48 ID:KGnAEq7N0
「元々、この場の管理人として絢瀬絵里が来なければ、
 理亞さんをまとめ役としてみんなをデビューさせて、いずれ一人くらいは当たれば
 という魂胆でした。
 みんなを軽んじているのではなく、その程度の実力だったと冷静に判断した結果です。
 が、ハニワプロの意図とは異なり、理亞さんはみんなと一緒に堕落する方向に向かい、
 どうしようかねこの人達扱いされていたのは……まあ、分かりますね?」

 顔を見合わせながら苦笑いする面々。
 何故かは分からないけれど実力が向上したみんなは、
 ハニワプロの困りモノから、推すべきアイドルへとレベルアップに成功し、
 グループとしても行けるよね? 扱いになったのは――分かりますね?
 英玲奈の妹として審美眼があって、歌唱力に優れていた朱音ちゃんや、
 外見では誰にも太刀打ちできないレベルの美少女であるエヴァちゃん、
 Aqoursとして活動し、頭脳明晰で仕事もできる善子ちゃんや、
 とりあえずグループにはちっちゃい子を入れとけみたいな扱いの朝日ちゃん。
 プロデュース業でも優れているヒナのおべっか取りだった側面があったのは
 ここだけの秘密、本人も分かってるだろうけど。

「エトワールは使えないアイドルの隔離場所から
 金の卵の育成所に変化しようとしています。
 ただまあ、そういう会社の意図はね、ほんとう、クソくらえなんだけどね?」

 冷静な口調から本音が漏れ始めたツバサ。
 アイドルを管理するような上の立場での話は、
 アイドルであることにプライドを持っている彼女からすれば許せないのだろう。
 
「私達はハニワプロを有名にさせるためだけの商売道具じゃない
 ううん、アイドルは――芸能事務所を潤すための使い捨ての駒じゃない
 みんなに希望を与えて、夢を与えて、理想とされるもの
 ――悔しいことに、私にはまだその実力がない。

 だから言える、あなた達はできる、もっともっと奇跡を起こせる
 隠居みたいな私なんかを越えて、有名なアイドルになってください

 でないと、そこの金髪とか、そこのおしとやかさん使って
 私が下剋上するから」

 だから私をオチに使わないで?
 せっかくちょっといい話だったのに、
 みんなの表情があーあ、みたいな感じで終了するのは、
 なんていうかやるせない気持ちにさせるからさ。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/04(火) 16:22:39.46 ID:KGnAEq7N0
少し更新が不定期になっていますが、
ちょっと忙しくて。
ただ忙しいと言っても。自分の用事ではないというのが悲しく。

こっちの方を最優先して更新しますので、
できれば毎日。できれば一日二回……二回は無理かな……。

なお、ハーメルンの方で更新している作品は、
アラ絵里の共通ルートの分岐から産まれた世界という設定を把握すると
この後に続く、共通ルートからの分岐である海未ルート、ツバサルートが
どんな感じになるか――というお話もしたいんですが、忙しいので自重。

なお、海未ルートの分岐で真姫ちゃんのルートが入り、
ツバサルート分岐で誰かもうひとり攻略ヒロインを入れたい!
と思ってるんですが、考えるだけはタダなので――
やると決まってはいるので、ボルシチ……じゃなかった、ボチボチ。

鹿角理亞ちゃんルートは、このあともう一話絢瀬絵里視点の話が入り、
鹿角理亞ちゃん視点の話が挿入されて一話が終了します。
楽しみにして頂ければ幸いです。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/04(火) 22:15:19.57 ID:ztTimas/O
理亞ちゃんの真意そういうことだったのね
北海道だけにめんこいのう
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 04:09:48.34 ID:XgGnBrAE0
>>100
う〜ん。。。これはレズ!
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:51:05.60 ID:KHC8AQuS0
 ちょっとツラ貸せやと言わんばかりに肩をぐっと掴まれて、
 絢瀬絵里専用とされるべき管理人室に連行された。
 私を連れてきたのはこの場でもっとも権力がある人物、つまりは綺羅ツバサ。
 なんでそんなに女の子の扱いが上手なのって尋ねたら、
 あなたもやろうと思えばできるでしょっていう意味のわからないことを言われた。
 私の人生経験で意のままに操れた女の子って高校卒業するまでの亜里沙くらいじゃない?
 下剋上くらって今では顎で使われてるけど、知り合いは大抵私を顎で使うけど。
 今まで荷物の溜まり場だった場所は、すっかり綺麗に掃除をされて、
 家事くらいしか取り柄のない私から見ても、それなりにピカピカのレベルを保っている。
 ただそれを口に出してしまうと、私の部屋が荷物置き場に逆戻りしてしまうので、
 口が裂けても言えない、まあ、口が裂けたら喋られないけどね? え? そういう問題じゃない?

「さて、作戦会議をします」
「そう、わかったわ、おやすみ」
「永眠してもいいんならさせてあげるけど?」
「絞首刑はやめて」

 ワシワシするみたいに手を動かして、鶏を絞める動作をする。
 なんで暗殺術に長けているのかは聞きたくはないけれど、どうせ何かのゲームの影響でしょう。
 人間が妄想することなら誰でも実行できるらしいからね? タケコプターでも作ってて欲しい。
 さて、この場にいる面々はずっと話題にのぼっているツバサだけでなく、
 おすまし顔で微笑ましそうに私達の交流を眺めている理亞ちゃん。
 家畜かっていうほどに人権がない私を眺めてニコニコと微笑んでいるのは、
 なんともやるせない気持ちに浸らせてしまうのだけれど。
 実は絢瀬絵里を心の底から嫌っていて、私が不遇な目に遭うとうっかり微笑んじゃうとか?
 うん、それは被害妄想だ、ぶっちゃけありえない。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:52:32.50 ID:KHC8AQuS0
「エニワプロっていう芸能事務所は知ってる?」

 私は首を振る。
 なにそのハニワプロのパチもんみたいな名前は? と怪訝そうな顔をすると、
 実際に生まれた経緯もそういうものであるらしい。
 かの事務所が斜陽化した際に独立した一部の面々が作ったのが、
 話題のタネらしく、独立したのに元ネタにあやかってるじゃない! 
 と、言ってみると誰しもがそう思っているらしく、無駄口を叩くなと睨まれた。
 最初こそ華々しい活躍を見せた芸能人たちの頑張りで、
 それなりの地位を保つことが出来たものの、ハニワプロの業績がV字回復するに従い、
 だんだんと経営が厳しくなってきたらしい。
 もっと業績予測をまともにできる人間がいれば、そもそも独立はしなかったろうけれども、
 まさかハニワプロが亜里沙とか南條さんとかその他諸々の人たちの活躍で、
 経営を立て直すなどとは誰も予測してなかったらしい、そりゃそうだ。
 亜里沙自身でさえ月島歩夢という成功例があるものの、
 長続きなんてするはずもないと当人でさえ思っていたし、
 まだトップ走ってる歩夢ちゃんでさえ、持って3年くらいかなと思ってたらしい。
 転機は仕事を抱えに抱えた結果、現役女子高生というポジションを捨てようとした妹を
 とある人がフォローに入ったことだった。
 もっと早く他の誰かがフォローしてよとはその人の談だけど、
 亜里沙よりもよっぽど優秀で仕事ができた南條さんの手が加わり、
 妹もプロデューサーとして成長を見せた……らしいのだけれど、
 なんで成長したの? チート能力でも付与されたの?

「え? 亜里沙さんが成長を見せた理由?」
「ええ、だって亜里沙ってアレよ? 仕事ができる人間じゃないわよ?」
「元ニートにそんな事言われるのは彼女も心外だと思うけど、
 アレよアレ、あなたに付きまとってたストーカー。
 ゴミはゴミ箱に捨てるものだって気づいて、仕事に感情を持ち込まないようになったって」
「……良かったんだか、悪かったんだか」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:53:11.01 ID:KHC8AQuS0
 結論から言えば、悪い男に引っかかった私を妹が地獄に落としたでFAだけども。
 天使みたいに愛おしく可愛らしい妹は、だんだんとクールで冷徹に変貌していき、
 誰かを意のままに操るのが上手になり、現在のポジションに至るらしい。
 ただ、理亞ちゃんがサラッと――
 「絵里先輩を上手く使って、人を上手に操るすべを覚えたんですね」
 などと言うのが耳に入り、血反吐吐きそうなくらいダメージを受ける、かいしんのいちげき!
 ツバサはコロコロとほんとうに楽しそうに笑いながら、
 誰かの役に立てて良かったじゃない、世の中誰の役に立たない人間のほうが多いし。
 使おうと思ったって使えない人間のほうが多いしさ、
 と、何のフォローにもならない発言をした、それで私はどう思えばいいの?
 わーい! 私って顎で使われるのが相応しい人間だった! って喜べばいいの?

「で、エニワプロだけれど、
 いま、渾身の一手を使って業績を戻そうとしているわ」
「亜里沙みたいなのを連れてきたの?」
「確かに芸能経験のない人間を連れてきたというのは、正しい――」

 呼びかけられて、何? みたいな感じで顔を見てみると、
 珍しく何かを躊躇ったかのように眉をひそめて、
 ズケズケと足を踏み入れてくる彼女にしてはほんとうに珍しく、
 こちらの感情を慮るように口を開いた。

「海未さんと喧嘩でもした?」
「ん? いや、彼女との仲は良好よ? 
 この前も一緒にエロゲーやったし」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:53:48.93 ID:KHC8AQuS0
 理亞ちゃんがまだ、ツンケンしていた頃に一緒にダイヤモンドプリンセスワークスをプレイした。
 なんだか遠い昔のような気がするけれど、えらく穂乃果に似たヒロインがお気に召したらしく、
 何とかして攻略できないのか、ファンディスクなら、そこまで行くともう……
 と言っていたのを思い出す。
 一時的に疎遠になったことはあるけれど、
 おそらくは私が悠々自適にニートしていたのが許せない側面があったのだ。
 真面目一途で頑なな彼女が、妹のスネカジリして働く気もなかった私を見て、
 どんな感情を抱いたのか――想像するに気分が暗くなりそう。

「そう、ならなおさら解せないわね
 理亞さん、ルビィさんと喧嘩でもした?」
「え? 最近連絡が取れないのは確かですが
 思い当たるフシはないです」
「そうよね、絵里みたいに考え無しに迂闊な発言する人じゃないし」
「私を心配する表情で、私をディスるのやめない?」

 ツバサの表情は可哀想なものを見るとか、哀れに思って同情するとかではなく、
 心の底から私のことを心配する素振りを見せているのに、
 口ではさっきからズケズケとナイフで精神を切り込んでくるのはどうして?  
 私がおとぼけていると、理亞ちゃんは何事か思い当たったことがあったらしく、
 怯えると言うか、かすかに震えながらツバサに問いかける。

「ルビィは……ハニワプロから引き抜かれたんですか?」

 信じられないと言わんばかりの、
 泣きそうなくらいに辛いと言う風な震える声で理亞ちゃんは問う。
 信頼している相手に裏切られたというよりも、
 自分がその行動を引き起こしてしまったと責任を感じている風だ。
 ただ、ツバサは沈痛な表情で彼女を見て、
 一つ小さくため息を吐き、
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:54:18.48 ID:KHC8AQuS0
「いいえ、彼女は自分の意志で事務所を移籍しました
 ただ解せないのは……そうであるはずなのに、過去がそうではない気がするの」
「うん?」
「最近まで確かに彼女はハニワプロにいたはずなのに、
 なぜか、いつのまにかエニワプロに移籍したことになってる
 そうであるのが都合がいいと言わんばかりに」
「誰かの意志でそうなっているということ? この世界が?」
「事務所を移籍するのってそう簡単じゃないのよ?
 売れてるタレントが独立するのだって大変なのに、
 アイドルがライバル事務所に移籍することで起こるデメリットは
 おそらくあなたが考えている以上よ」

 ツバサは一度引退してからハニワプロに入ったから、
 デメリットというデメリットはあまりなかったらしいけれど。
 それでも芸能界の道理を分からないやつ扱いをされているみたいだから、
 たしかにそれを考慮すればルビィちゃんの件はあっさりと済まされ続けている。
 引き抜き工作が事前にあれば、
 ツバサや理亞ちゃんが引き止める工程もあったかもしれないし、
 事務所の移籍をしても何かを成し遂げたい意欲があるのなら、
 アンリアルとして一緒にいた理亞ちゃんが事実を把握していないのはおかしい。
 誰かに何かを改変でもされているみたいに、
 そうであったのが自然だと済まされている事象が少し多すぎやしない……?

「ツバサさん、絵里先輩。
 もし、誰かの意志でこの状況が生まれたのなら……
 その道理に従いましょう」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:54:50.71 ID:KHC8AQuS0
 考え込んでしまった私達をなだめるみたいに、
 極めて明るい表情を作り、励ますように言葉をかける理亞ちゃん。
 辛くて辛くて仕方がないはずなのに、自分のことよりも私達の感情を優先している。
 年下の子にそんな扱いをされてしまうと、恥ずかしいやら情けないやらで、
 一度思考を打ち切って、ツバサと笑いあった。

「ルビィが私と対立するつもりならば、正面からぶつかります」
「絵里」
「分かってる、理亞ちゃんをサポートして欲しいってことね?
 私はまだハニワプロの人間じゃないし、
 全面戦争になって火の粉が飛んできても私一人を切れば良いもの」
「その献身的な態度は素晴らしいけれど、
 サポートじゃなくて、ともに進む仲間となって前に進んでほしいの」
「……ん?」
「最終的に二人には、私にも、エトワールのみんなにも勝って欲しい
 ……んだけども、私があなたに負けるのは死んでもゴメンだからさ。
 
 アイドルの世界へようこそ絢瀬絵里。
 できるだけ酷ったらしく、この綺羅ツバサがあなたを殺してあげるわ
 それが嫌なら、私を殺すことね?」
「なんで……?」
「言っておくけれど、
 私の生涯のライバルってあなただけだから――
 
 理亞さん、あなたは取るに足らないの」
「残念ながら、私は絢瀬絵里の添え物でおさまるポテンシャルじゃないので……

 と、言いたいのですが、やはり同じ事務所の人間同士ある程度は協力しないと」
「うん、ちょっとシリアスになっちゃったけど、冗談は善子ちゃんよエリー」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:56:13.18 ID:KHC8AQuS0
 脳の回路が軽くショートして、
 複雑怪奇と言わんばかりな様々な事象が浮かび上がってきて、
 泣きそうになって、凹みそうになって、頭抱えて逃げ出したくなって、
 冗談と言いながら全然ひとっつも笑ってない顔向けてきて、
 私を蹴り落として夢を叶えようとする友人を見て、
 なんだか、今まで見てきた彼女と違う側面の彼女を見て、
 当然、私の見てきた綺羅ツバサが彼女のすべてではないことは知っていたけど、
 だからといって、今までずっと味方でいてくれたのに、
 笑いあって仲良くしてきたのに、
 それがまるで嘘だったと言わんばかりに、バカを見たのが私だけだと言わんばかりに――

「……まだダメか」
「え?」
「ごめんなさい、許して絵里。
 でもね、いつか起こる未来で私があなたの敵に回った時
 容赦なく切り捨ててほしいの、いくらでも嫌って欲しい
 それが私の生きる道理だから」
「ツバサ……?」
「絵里先輩、私は――鹿角理亞はあなたの味方でもあり、
 敵でもあります――
 いつか起こる未来で私が敵に回っても、
 どうか切り捨てて前に進んでいってください、お願いします」
「理亞ちゃん……?」

 そして二人は遠くへ、
 私から離れるみたいに、置いて行ってしまうみたいに、
 ううん、ふたりだけじゃない、海未や、真姫や、穂乃果や亜里沙――
 みんながみんな、私を置いてどこか遠くへ行ってしまって――
 やがて独りぼっちになった私のそばにいるのは――誰? 

 ――いや、もしかして。
 私は一人で立っていかなければいけないの?
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:56:48.72 ID:KHC8AQuS0
 いつの間にか眠ってしまったらしく、
 私は身体を起こす、ちょっとだけ頭痛を感じて視線を這わすと、
 先に服をまとってないツバサがいた。
 悲鳴をあげそうになり、え、もしかして私何かやらかしたって思ったけど
 自分が起きたのと同時に彼女も向こう側を向いて体を起こし、

「酒に飲まれるのは良いけど、話があるって言ったのに寝ないで」
「え?」
「覚えてないの? あなたに聞かせたくない話があるから
 先に部屋に行っててって言ったじゃない。
 まさか寝てるとは思わなかったわ」
「……え? 夢オチ!?」
「せっかく全裸で潜り込んで、責任とって! キャハって言おうと思ったら案外冷静ね?
 それとも嫌な夢でも見た?」
「どこから夢うつつだったのか……地下にいたのは覚えてるんだけど」
「その後部屋に戻って眠ってたってわけか……
 あなた緊張感がなさすぎ……る?」
「ん?」

 ツバサがすばしっこい動きで私の背後にまわり、
 怯えきって恐ろしいものを見たと言わんばかりにガクガクと口に出し、
 ガクガクってそんな口に出す台詞じゃないでしょとツッコミを入れようとすると、
 
「「ガクガク……」」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 21:01:52.34 ID:KHC8AQuS0
 狂気に身を委ねた――
 妹らしき生き物が出刃包丁を手に――
 感情を完全に失いきった冷徹な瞳で――
 こちらに微笑んだような表情を見せながら――
 もう、ガクガクって言うしか無いでしょ? ってツバサも私も分かってて。

「さーあーゆーきーをだーしー
 みーじーんーぎーりーだーほーうーちょー

 いーたーめーよーうーみーんーちー」

 あ、これ、
 今日の食卓に私達のミンチが載っかるやつだ。

 デッドオアダイ。
 ああ、選択肢が一つしかないゲームとかクソゲーじゃん……
 まったく、現実って本当にクソゲー。

「いーざーすーすーめーやー きーちーん

 ゆーでーたーら かーわーをーむーいーてー

 ぐーにーぐーにーと つーぶーせー」

 揚げればコロッケ……私達は見事に調理され、
 あの二人はどうしたんですかって誰かが言って――

 赤いナポリタンができあがるんですね――分かります。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 21:05:14.40 ID:KHC8AQuS0
シリアスに傾くと亜里沙がオチをつけてくれます。

次回は鹿角姉妹のお話です。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/06(木) 00:46:06.03 ID:UBckaTlfO
嫉妬の二乗で亜里沙のヤンデレゲージがヤバい
絵里は本当の意味での自立にはまだまだ遠そうなのかなぁ…
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:24:05.07 ID:LffsrmXp0
−視点 鹿角理亞−

 お酒を飲んだわけでもないのに、
 いつの間にかに寝てしまっていて、
 自室に戻った記憶もないのに意識を失うように横になっていたとか。
 それでも姉さまからのメールに一発で気がつき、
 飛び起きて内容を確認してしまうというのは、
 私自身が亜里沙さんの言うところのシスコンである証明なのかも知れない。
 なんでこんな事を思ってしまったのかと言うと、
 身支度を整えて、全身を写す鏡で乱雑になってしまっているところがないか確認して、
 みっともない姿など見せるわけにはいかないと気合を入れているさなか、
 私の尊敬するプロデューサーが唐突にエトワールに来訪されたからです。
 なにか良いことでもあったのか鼻歌を歌いながら台所に向かわれたので、
 どうしましたって問いかけてみたら、
 一瞬だけ怪訝そうな表情で私を見たのち、
 記憶にある鹿角理亞と、現在の鹿角理亞が合致したらしく、
 ずいぶん変わりましたね、と仰られました。
 とりとめない話で盛り上がりたいのは山々ではありましたが、
 急ぎの用事があった手前、詳しい話は後でしますと言い、
 それで何事かを察して下さったのか、
 ではコロッケでも食べながら一緒にお話をしましょうと告げられました。
 何故片手に包丁を持ちながら、絵里先輩が眠る管理人室に向かい、
 コロッケを作ると言ったのかは分かりませんが――

 ええ、わからないということにしておきます。
 仮に先輩が二人ほどこの世から消え去っていたら、
 何も言わずに胸に秘めるくらいのことはやってのける女ですよ私は。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:24:34.11 ID:LffsrmXp0
 エトワールから歩いてしばらく、
 高まる気持ちを胸に秘めながら、朝陽が降り注ぐ道を歩く。
 春になってからだんだんと暖かくなってきて、
 真新しい制服を着た学生なども初々しく歩を進めていて、
 そういえば、朱音とエヴァは進級したはずなのに
 いっこうに学校に行く素振りを見せなかったのはいかなる理由があってのことなのかと
 ふと、思い当たってしまって、英玲奈さんに絞められないのかと不安になりました。
 朱音やその親友であるエヴァには遠慮しいですが、
 ツバサさんや絵里先輩には情け容赦なく蹴りを入れるので――
 ん? 何故そんなことを私が把握しているのでしょう?
 仮にA-RISEや仲の良い先輩が一緒にいるというのはシチュエーションとして
 想定できることではありますが、その場に自分がいるというのは
 もしかすると不自然なのでは? 
 確かに遠慮なく二人を蹴り飛ばしている英玲奈さんをどこかで見た記憶はあるのですが、
 過去を振り返ってみても場面が思い出せません、
 そうであったという記憶しか思い浮かばないので、
 一度疑問は胸に秘めておいて、姉さまとの待ち合わせ場所であるクローシェという喫茶店に
 そういえばこの時間にあのお店は開いているんでしょうか?
 姉さまのことだから、どこの店も24時間営業をしているくらいのことは
 平気で考えそうなものです、公共交通機関は32時間走ってるそうですが、
 一体どこの世界の話なのか私は疑問です――。

 回転からしばらく経っていたのか、
 それとも姉さまの願いが届いてこのお店が24時間営業であったのかは、
 私の知る限りではなく。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:25:02.43 ID:LffsrmXp0
 誰の導きもなしにこの場に何食わぬ顔をして席についてお茶しているという
 自宅でしかありえなかった光景を目の当たりにし、
 この人は私の知る姉さまなのかと疑問に思わざるを得なかったのです。
 なにせ自宅からすぐにあるセイコーマートに行くのでさえ、
 誰かしら一緒に行かないと道に迷ってしまう方向音痴っぷり。
 顔なじみである人たちは姉さまのアレな姿をよく把握していてくれて、
 ついうっかり姉さまが外出しようとするとすぐさまおまわりさんに連絡が行く始末。
 高校に登校するのでさえ、飼っている犬の補助なしでは一人で行けなかったですが、
 そんな素振りを見せず、毎朝の散歩のついでに高校に行くという言い訳を
 みんなが微笑ましいものを見る感じで聞きつつ見つつしていたのは、
 姉さまだけが知らない事実ではあります。
 ――私が入学した時、あなた一人で高校に行けたの!?
 って先輩に問われてびっくりしたのはね、黒歴史というものですね?

「理亞……ずいぶんと大人びましたね
 やはりと言うべきでしょうか。私自身も過去の自分との違いを認知していますが
 比ではないようです、とりあえず座りなさい」
「はい……」

 見せかけだけの落ち着きっぷりではなく、
 ファンの人とか、姉さまが知らない方が想像する鹿角聖良の体現ぶりに。
 もしかして未だに夢の中にいるのではと、自分に問いかける。
 これがもしやハニワプロの誰かしらの変装で、
 私自身にドッキリを仕掛けていると言われたほうがまだ信用できる。
 インターネットって聞くと、蜘蛛の巣を想像する人ですよ?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:25:47.31 ID:LffsrmXp0
「驚かないで聞いて貰いたいんだけれど、
 実は私はここまで一人で来たの」
「それはその……歩夢さんや亜里沙さんの補助無しで
 お一人でここまでいらしたということですよね?」
「ええ、自分でも驚いています。
 一人で家を出て、電車に乗って、歩いてここまで来ました
 カメラもいませんし、歩夢もついてきていません、彼女は岐阜の実家です」

 ということは我が家の賢い犬の補助もつけず、
 本当にお一人でここまでいらしたということ。
 財布も忘れず、Suicaだって使い、身なりをきちん整えて、
 今日日小学校高学年だってできそうなことを聖良姉さまがこなしたということ。
 アイドル以外のことはできないと言われていた姉さまが――
 思わず感極まって泣きそうになりましたが、
 変なことは考えるのはよしなさいと言われたので自重。
 姉さまは洞察力も身につけられたようです。

「SaintSnowとして活動し、高校卒業後――
 すぐにでもデビューさせたいという芸能事務所はいました
 正直、私はできると思ったんです、とても恥ずかしいことに」
「姉さまは私のことを待っていてくださいました」
「ええ、待っていたつもりだったんです
 実際は理亞がいなければ何もできない人間だったと言うに」

 自宅から近い駅から東京に一本で行けると思っていた姉さまは、
 事情を知らない駅員さんに東京行きの電車はどこですかと問いかけ、
 東京というのが道内にないことに気が付かれてしまいました。
 神田明神でAqoursのみんな(3年生組欠席)に出会いましたが、
 あの時に姉さまは寝起きで、半分くらい意識が飛んでいたのはここだけの秘密。
 姉さまが迂闊にもこっそり立ったまま寝てしまったから、
 意識をそらそうとムーンサルトしたのはここだけの話。
 意味もなくドヤ顔で飛んでいたわけじゃないんです――。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:26:15.43 ID:LffsrmXp0
「理亞には辛く当たりました――
 自分の不出来さを棚に上げて、いつまでも大きく成功しないのは
 あなたのせいだと思って」
「いえ、そう思われても仕方ありません。
 亜里沙さんと出会うまで、本当に堕落しきっていましたし」
「……ごめんなさい、あなたが本当にやる気を出した理由
 私は知っていたの。でも……認められなかった……
 まるで自分がすごくないのだと言われてしまったようで……認められなかったんです」

 成人向けゲームにドハマりしている間に同期のアイドルが成功を重ね、
 後輩にすら追い抜かれ、聖良姉さままでが使えないやつ扱いをされていた日々。
 使えないというか、歩夢さんが来るまで姉さまの動きに合わせられる人がいなかった
 というのが正解なんですが。
 Aqoursでラブライブを優勝したという触れ込みでやって来ていたルビィも鳴かず飛ばずで、
 あの世代の人間はみんな失敗だなという扱いを受けていたころ、
 正直な話、私は結構疲労を重ねていました。
 ゲームで徹夜していたからではなく、聖良姉さまに引っついて
 呼ばれてもいないのに現場に行ったり、出番が終わるまでずっと待っていたり。
 私自身も売れてないんですが、姉さまもマネージャーの代わりに妹が引っ付いているという
 つまりは、仕事は持ってくるけどあとは自分でなんとかしろ扱いをされていて、
 面倒――うん、面倒を見ていたというのが正解だったのだと思います。
 いつまで続くんだろうこんな日々って憂鬱になっていて、
 亜里沙さんと会う日だっていうのに、現実から逃げ出したくて大遅刻し、
 眠くて機嫌が悪かったから口が過ぎて、喧嘩を重ね、
 よくもまあ見捨てられなかったものだと私自身のことなのに笑ってしまいそう。
 姉さまは亜里沙さんに私の面倒を見て欲しいと頼み、
 実際、その手腕に載っかることによってルビィともども多少売れ始めた。
 その認識しかしておられないと思っていましたが。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:27:01.79 ID:LffsrmXp0
「正直、μ'sってバカにしてました、
 A-RISEに比べれば寄せ集めでしかなかった、
 なんでラブライブを優勝したのかっていつも疑問でした」
「ええ、私もそう思ってました。
 メンバーの名前も覚えてなかった……あなたをやる気にさせた絢瀬絵里だけは
 死んでも忘れるかって思って死ぬ気で覚えましたが
 ああ、いえ、本当は人の顔って結構簡単に覚えられるみたいなんですけど」

 苦笑しながら言う姉さま。
 交流を果たした結果、いつの間にか覚えていたという高海千歌という人間は
 本当ごくごく限られた例外。
 ルビィから元Aqoursの面々がどれほど彼女の捜索に身を投げ出し、
 巻き込まれ、裏切られ、それでも帰ってこなかったのかは聞き及んでいて、
 正直な話あいつの顔だけは見たくはないのですが――。
 
「彼女、ほんとうにニートしてたんですか?」
「亜里沙さんはそう言っていて、後日ツバサさんにも伺いましたが
 遊び歩いてばっかりだったらしいですよ? だから信じられなかった――」

 ゲームにハマって、かつ姉さまと一緒に数々の現場に行ってもなお
 自分と姉さま以上にできる人間なんていないと思いこんでいた私は、
 家でニートしていた……というか、本当に遊び歩いていた絵里先輩を見て、
 最初は恥ずかしいやつだと思いました。
 おそらく、絵里先輩も自分が恥ずかしい存在だったって言うかも知れませんし、
 客観的に観れば妹のスネカジリしているニートなのだから、
 恥ずかしい存在ではあるのかも知れない。
 さんざん家事くらいしか取り柄がない、今すぐ捨てられても仕方ない、
 と言ったはずなのにどこ吹く風で。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:27:36.55 ID:LffsrmXp0
 いやまあ、再会した時に私のことをまったく忘れていたのは――
 ルビィに話しかけてもらってドヤ顔で登場した意味がなかったのは、
 すごく悲しい思い出ではあるんですけど。
 どうにかして絵里先輩が自身を恥ずかしい人間だと認識して貰うために。
 私が実力を最大限発揮できるあらゆる勝負事で挑みました――
 格闘ゲームでは軽く捻られ、大乱闘するやつでも手も足も出ず、
 パーティーゲームならどうだと思ったら、亜里沙さんをフォローしながら
 ぶっちぎりで勝ち抜けてしまうというチートぶり。
 暇だからゲームはやるヒマがあるしというコメントに怒り狂って、
 つい、歌と身体能力で勝負を挑みました。
 売れない人間とは言えレッスンはきちんと顔を出し、
 日々トレーニングを重ねていた私が負けるわけなんて無いと思ったんです。
 よくよく考えてみれば、当時トップアイドルとして君臨していたツバサさんとカラオケに行き、
 彼女の周囲の太鼓持ちしてた人間がドン引きするほど歌唱力で圧倒した人間に、
 私なんぞが勝てるわけもなく。
 亜里沙さんに絵里先輩がやったことなさそうなスポーツはないかと問い、
 見当がつかないというコメントの末に、だったらアレやってみたいアレ、
 と当人が会話に乱入して指をさしたのがセパタクロー。
 何だアレという感想しか抱かないスポーツでしたが、
 身体能力ではまだ勝てると思った愚かな私は、
 二人して練習に参加し、思いもがけない才能を発揮し、
 代表になれるからアイドルなんてやめて参加して欲しいと抜群の評価をされ、
 実際に絵里先輩にも勝ったと思って――
 後日何やってんだと思った私に、亜里沙さんが絵里先輩が加減していた、
 と思わず立ち直れなくなりそうなコメントを頂き、鹿角理亞は完全に意気消沈し――
 自分自身を認めさせるために努力に励み、ルビィと一緒に人気もでて、
 エトワールにも絵里先輩の代わりとして来訪し――あの子達と一緒に堕落したのは
 もう、黒歴史というか、情けなさ過ぎて本当は認識して欲しくはないんですが。 
 こっそり胸の内で披露するくらいは構わないでしょう。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:28:08.76 ID:LffsrmXp0
「私は情けないんです……負けないと、傷つかないと
 本当に大切なものに気が付かない」
「……いいえ、理亞。私も同じです。
 だから姉として、情けない姉としてできる、大切な妹へ向けての
 アイドルの先輩としての最後のメッセージです」
「え?」
「失敗をしたら失敗を認めて、次に活かせるよう常に改めなさい
 間違った時には間違いを認めて、やり直すように心がけなさい
 自分を正当化したり、言い訳を重ねたり、相手の非を突くなど言語道断――

 いいですね理亞、今までアイドルとして間違いを続けていた姉が言います
 あなたに勝てるアイドルなど誰一人いません。
 綺羅ツバサよりも、絢瀬絵里よりも――あなたは優れている
 引っ込み思案だったあなたを引っ張り出したのは、
 私がアイドルになりたかったんじゃなくて、輝くあなたを見たかった――
 ようやく思い出した、気づくのが遅すぎた、代わりに千歌さんを求めた。
 とても情けない姉です――いくら貶されても仕方のないことです」
「待って姉さま! 私は! 二人で!」
「身の丈に合わない夢を見続け、ようやく現実を生きることが出来ます
 理亞、あなたに夢の続きを託します――
 勝手な姉です。さようなら理亞――」
 
 姉さまは立ち上がり、私は会計を済ませて出ていかれるのを見ていることしかできなかった。
 本当にどこかに行ってしまう姿を見送ることしかできませんでした。
 どこに行くのか問いかけることも出来ずに、何をするのかと聞くことも出来ず、
 心にポッカリと穴が空いてしまい、正直な話、どうやってエトワールに帰ったのかも分からないほど、
 空虚で、涙が出そうで、感情が錆びつき始めて、膝を抱えて。
 自室で一人ぼっちでいると、絵里先輩が顔を出しました。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:28:40.79 ID:LffsrmXp0
「理亞ちゃん」
「……なんですか」
「何があったのかは知らない。
 でも聞いて欲しい、お願いします。
 私と一緒にアイドルをやってください」
「私なんかが、人の気持ちに鈍感な私なんかが
 何ができると言うのでしょう」
「できることはあるわ」
「どうせくだらないことなのではないですか?」
「友人の間違いとエゴを正すために、一緒に来て欲しい」
「……間違えたのなら、放っておけば良いのではないですか?」
「いいえ、友達が間違ったのなら、間違いを認めさせてやり直させるの。
 失敗をしてしまったら、今度は失敗しないように改めさせるの
 これは、私自身を正当化させるためのエゴでもある、身勝手な感情」
「……」
「でも、大切な友だちが間違っていたら、
 どんなに身勝手でも、殴ってでも止めなきゃいけないの」
「ツバサさんがいるじゃないですか」
「理亞ちゃんがいいの、あなたじゃなきゃダメなの。
 お願い、ちょっとだけでも良いから――」
「……私からもお願いしてもいいですか?」
「叶えられることなら」
「私を置いてどこかに行かないでください、間違いを認めのなら――
 認めたら……一緒に……きて……欲しかったのに……なんで……」
「わかった、私はどこにも行かない、ずっとそばにいる」
「約束ですよ? 裏切ったらもう……承知しません……」

 絵里先輩の手を取り、一緒に。
 前へ進むために、自分自身に言い訳しないようにまっすぐ。
 でも、まだ私は知らなかった。
 絵里先輩が間違っているといった相手が誰なのか、
 ほんとうにこれぽっちも。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/06(木) 21:32:21.51 ID:LffsrmXp0
明日以降更新分から絵里視点に戻り、
時間的には多少逆行しますが、
ようやく鹿角理亞シナリオっぽくなるというか、その。
理亞ちゃんばかりが辛い目に遭ってるような気がするんですが。

聖良姉さまの出番は作らない限り終わりです!(精一杯のフォロー)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/06(木) 23:58:54.18 ID:AAZiOcfCO
聖良さんアイドル辞めちゃうのか……
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 07:31:46.39 ID:07vchWx00
えりりあユニット誕生か!?可能性しか感じない
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:42:22.41 ID:hAni2gsL0
 絢瀬亜里沙のお説教というものを経験したことのないツバサにとって
 ――人格を否定されるレベルで罵倒されたことがないという彼女にとって、
 なんとも幸運なことに、そして愚かなことに、
 雑巾を絞るみたいにキリキリと精神的に追い込んでいく妹キャラを見たのは、
 結構新感覚でいい経験だったらしい、ドMと呼称するべき?
 ドヤ顔でこうして問題点を指摘されるのもいいわねとか言うので、
 アレをいつも喰らっている私の身にもなってみたらと真剣に告げたら、
 それはそういう態度をされるあなたに問題があるんじゃないのと、
 ぐうの音も出ない正論をぶちかまされたため、
 頭をグリグリとウメボシをやったところ、
 きゃーきゃー言いながら犯されるーって叫んだため、
 包丁を置きに行き出て行ったはずの亜里沙が戻ってきて、
 まだいちゃつく余裕があったようですね、罵倒では足りませんでしたか?
 と、スチームクリーナーを構えたため、誠心誠意土下座させて頂いた。
 どこのいったい何を掃除しようというのか、疑問ではあったのだけれど、
 返答が絢瀬絵里自体をだ! みたいなのだったら夜も眠れないので、
 殊勝な私は問いを控えさせていただく。

 何事かストレスを抱えていたと思しき妹の精神状態も、
 おふざけによって落ち着きつつあったと思うので、
 なんでそんな土下座に慣れているの? 高校時代のクールさどこに行ったの?
 という綺羅ツバサのコメントもスルーすることにした、傷口はまだ浅い。
 なお、亜里沙の近くにはスチームクリーナーとアイスピックがあり、
 機嫌を損ねるようなことがあれば、誰かの体の一部分に発動されることが予測され、
 自分でないことを祈りたい、できれば隣にいて私の服を着てるヤツにして貰いたい。
 もっとまともな服持ってきてないのとか、少しは高い衣服を買えと
 さんざっぱら注意してくるので、
 だったらあなたが隣りにいて選んでと口を開いて言おうとしたら、
 雪姫ちゃんがやめてください! 死にたいんですか! 
 と、死人にあるまじきセリフを言ったので少々自重をしておく。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:43:04.83 ID:hAni2gsL0
 妹はハニワプロのプロデューサーとして日々忙しく過ごしており、
 なにか目的があって此処に来訪されたことも予想できたため、
 それがきっと、私の苦労に繋がるんだろうなあと少々憂鬱ではあるんだけれども、
 妹のお金でさんざん飲み食いを重ねてきた報いだと言われれば、
 それもまた仕方なしかなとも思わないでもない。
 お仕事モードでクールに正対する亜里沙に対し、
 殊勝な態度で正座をする元トップアイドルと元ニートという組み合わせは、
 なんか不思議な縁を感じられた、空気が冷え込んでいるのは私のせいじゃない。

「作戦会議をしたいと思いまして」
「ええ、でも足を崩して良いかしら? こっちの金髪は慣れてるけど
 私はあいにく反省を促される経験が少なくて」
「仕方ありません。ツバサさんの頼みでは聞かざるを得ませんね、
 では今度なにか私から頼ませてください、反論は受け付けません」

 特大級の地雷を踏みつけて正座からの脱却に成功し、
 むしろ、正座をさせられていたほうが足が痺れるくらいで良かったのではないか、
 悠然とした顔をしているけれど、心の中では何を要求されているのか不安で仕方がないのだと思う、怯えたように私との距離が近くなった。
 私はクールに正座なんて平気ですよと言わんばかりに構えるけれど、
 反省を促されるサルみたいな態度をする必要もないと思って、
 
「私も足を崩していい? ほら、年を取ると膝が痛くなるから」
「ええ、分かりました、耳に入れておきます――
 ああ、そのままの姿勢でいてください? 
 聞くか聞かないかは私の意志次第です、耳に入れましたが聞く耳は持ちません」
 
 などといいつつ、正座する私の太ももに辞書みたいな本を乗っけた。
 まるで古来の拷問のようね……と黄昏れた表情で言ってみると、
 近くのツバサがあなた強いわねと関心した風だった。
 強くなりたくて強くなったわけではありません――。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:43:37.16 ID:hAni2gsL0
 昨日まで、もうちょっと甘えたがりの妹だったはずで、
 結構親しく交流できていたような気がするけれど、
 恋する乙女というのは感情の変動が激しいみたい、お前のせいだろ
 みたいなツッコミは右から左へ受け流すのでよろしくお願いします。

「と、失礼しました。電話ですね……
 二人はきちんと反省してくださいね? 特にお姉ちゃん!
 今度はダンベルだからね!」

 可愛らしい口調でとんでもないことを抜かす妹が、
 バタバタと自室から抜け出て、ふうとため息をついたツバサがこちらを見て、
 ダンベルって何キロか問うので、以前は5キロを乗せられたと言ったら、
 何故乗せられたのか問われたから、
 あなたから預けられた成人向け同人誌を妹に観られたからと告げると、
 何故ちゃんとベッドの下に隠しておかないのかと怒られてしまった。
 別に性的な欲求不満でそういう同人誌を二人して見るわけではないんだけれど、
 自分を題材にしたナマモノ系をみたりすると、あまりのギャップに笑えてくるのよね。
 あくまでも、ラブライブ! っていうアニメを題材にしたやつだから、
 実際問題現実の絢瀬絵里ではないんだけどね? でも、外見自分だから、
 複雑ながらも面白くてついつい読んじゃうのよね? 当人経験ないのに
 ビッチキャラみたいな感じで男性と交流していると、妄想たくましい! って
 関心してしまうし、あの時見つけられたのが、亜里沙のやつだったから
 なおさら破壊力が高かったのかもね? あの子アニメ出てないのにね!
 どこで調べ上げて絢瀬亜里沙の同人誌を書いたのか、
 そして何故それを綺羅ツバサが持っていたのか疑問は尽きないけれどスルー。 

「以前、μ'sの同人誌を観たことがあるの」
「ナマモノ?」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:44:18.60 ID:hAni2gsL0
 コクリと頷くツバサ。
 芸能人関係はご法度というケースも多いけれど、
 スクールアイドルはそのへんが緩いのか当人に知られないように
 という基本的原則はあるみたいだけれど、私達μ'sの場合は
 仮に見つかってもアニメのやつ! と主張できるので人気があるらしい。
 結局エロ同人を売るために都合のいい材料を探してるだけじゃないか!
 と言いたい気持ちも確かにあるけれど、案外好んでそういうのを見てしまう手前、
 話題に出すのはそういうのが平気な面々だけ、真姫とか。
 あの子は自分の出演している同人誌を大人買いする人間だからね?
 まあ、真姫以外は怒るけれど、筆頭は凛とことり、
 作者じゃなくて私にキレるのはどうしてなんだろうと今でも疑問、
 絢瀬絵里って実はμ'sのサンドバッグだったのかしら。

「なかなか9人揃って出演するっていうのは少ないんだけど
 BiBi編っていうのがあったのよ」
「lily whiteとかPrintempsはあったのかしら……」

 しかもシリーズものなんだ。
 なんでもご奉仕系のイチャラブ同人誌だったらしく、
 作者はツバサが所属していた事務所のアイドルだった(現在は引退)よう。
 かなり私を推していた作者だったみたいで、
 過去にはうみえり、絵里オンリーと書いていて、満を持してのBiBiVer。
 
「あなたの出番1ページしかなかった」
「あれ、おかしいわね? それってBiBiじゃなくてにこまき同人誌じゃないの?」
「現実のにこまきはさほど仲が良くないけれど、やっぱアニメで注目されたからなのかしら?」

 不仲というわけではないけれど、やたら百合率と3P率が跳ね上がる二人は
 実際、二人でなにかした経験は3年生組の高校卒業後では片手で数えられるほど。
 特に、真姫がお酒を飲めるようになって以降はBiBiだけで集まった事自体がなく、
 そのことを同人誌描いている人にネタにすると、
 妄想を裏切るな! と怒られるので要注意、イミワカンナイ!
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:44:55.89 ID:hAni2gsL0
「ええと、亜里沙さんは何故此処に来たのかしら?
 別に私達を注意するためでは――もちろん無いのよね?」
「そこまで暇じゃないわ、仕事と私事は分けるし」

 成人向け同人誌でニコがにこにこにーやらされる率について
 真姫と真剣に話し合っていたところ、あろうことか当人にそれを知られてしまい、
 慌てた私達はそういうのシタことあるのと、つい口を滑らせて、
 んなわけあるか! じゃああんたはハラショー! ってイカされた時に言うのか! 
 と反論をされて経験自体がない! と二人して言ったら場の空気がお通夜になった。
 なんて言おうと思ったんだけど、話題は軌道修正される。 

「あなたに言ったような言わなかったような気がするんだけれど、
 エニワプロというのがあってね」
「聞いたような聞かなかったような気がするけれど、
 確か……斜陽化して一大プロジェクトに賭けるんだっけ?」
 
 業績の回復のためにルビィちゃんを引っこ抜いたというのをどこかで耳にしたような。
 夢の中で逢った、ような……気はするんだけど、ひとまず棚に上げる。

「承知の通り――か、どうかは置いておいて、
 元Aqoursの二人がデビューするってことになってる、
 社運を賭けているから結構華々しく出てくると思うわ」
「ルビィちゃんと高海さんだっけ? ルビィちゃんはともかく、
 高海さんってアイドルできるの?」
「聞いた限りでは、一流レベルで仕事はこなせるみたい。
 ただ、問題はそこじゃないの」

 何故芸能関係の仕事を今までアイドルとして活動をしてこなかった彼女が、
 ツバサに評価されるレベルでこなせるのかはスルーしてもいいとして、
 警戒に値するのはアイドルとして出てくる二人ではないみたい。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:45:23.92 ID:hAni2gsL0
「人員がいないせいで海未さんがフォローに当たってる」
「……海未? 冗談でしょ?
 海未のAqoursの苦手の仕方はネタにできないレベルよ?」
「私もそう認識していたのよ、そうであったはずなの。
 でも、ルビィさんと同様に最初からそうだったみたいに、
 海未さんと千歌さんは揃って行動している、優れた動きをしたとは言え、
 コネもなにもない千歌さんが事務所に潜り込めたのは、海未さんの功績だし」

 A-RISEがニコの芸能界引退後に出てくる際に、
 ソルゲ組で曲を提供したことがあり、ミリオンセラーに近いレベルでヒット、
 芸能関係者のメンツを叩き潰した経験がある。
 未だに園田海未作詞なら誰が歌っても行けるという信仰に近い評価もあり、
 そこを交渉の材料にすれば多少の無理は引っ込む。
 真姫やことり、希や凛あたりの協力を得られると考慮すれば、
 優れた人材が喉から手が出るほど欲しい斜陽事務所が動くのも分かる。
 特に凛は海未を花陽と同じレベルで慕っているし(だから私に冷たい)
 アイドル関係者にも顔が広いおかげで、デビューしたてのグループを推すならば、
 こんなにうってつけの人物も居ない、凛なら海未が言えば断らないはずだし。
 
「梨子さんや曜さんも動いているの?」
「水面下では分からないけれど、μ'sもAqoursも――もちろんA-RISEも動いてない」
「……海未が行動しているのに、μ'sが動かないの?」

 曜さんはアスリート兼タレントとして抜群の知名度があるし、凛との交流もある。
 梨子さんは銀座の胡蝶として人員を導入すれば、
 売れないアイドルだろうが多少は行ける。
 高海さんとその二人は仲が良いと認識していたけれど、アテが外れたかしら?
 ルビィちゃんが動いていることにより、ダイヤちゃんあたりも協力に励むかと思ったけれど、
 彼女が動けば自然とマリーや果南ちゃんも動き出すから、いや……
 そういえば、マリーは海を観ていると書いていたけど、もしかして園田海未ってこと?
 ともすればダイヤちゃんも協力に動くはずだから、難敵であるのは確実。
 ただ、亜里沙がその動きを認識していないはずはないから、
 先回りして釘を刺すくらいは無難にこなしそうではある。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:45:55.84 ID:hAni2gsL0
「いくら高海さんが穂乃果から評価が低くて、
 希しかフォローしてないのは知っているけれど……」
「海未さんが困っているなら絵里も彼女に協力するの?」
「ええ、あいにくだけど断言するわ」
「……ふふ、まあ、絵里ならそう言うと思った。
 あなたって本当に甘っちょろいもの、海未さんも困ったらあなたを頼るでしょうね?
 つまりは、そうしないということをμ'sのみんなが把握しているから、
 きっと、彼女たちが動いていないんだわ」

 助けてと言わないでも、穂乃果や凛や花陽と言った、
 仕事をよりも私情を断然優先する面々が動かないのは不自然だけれど、
 よもや頼られても支援しないという選択肢は取らないであろうから、
 海未の意志を尊重して動向を見守っているとするのが正しいのかも。
 
「海未さんが困ってたら、あなたはどちらにつくの?」
「亜里沙やあなたを取るか、海未を取るかってこと?」
「いずれ決めなければいけないかも知れない、だから聞いておきたいの」

 暗に敵に回るなら先に言え、ということ。
 μ'sとして過ごしてきた日々は私にとって本当に幸せな時間だった。
 客観的に観れば幸せなことばかりではないんだけれど、
 それでも、高校時代を振り返ってほほえましい気分になってしまうのは、
 あの時に良い青春を送ることが出来たから。
 でも――過去に幸福だからといって、現実の生活まで損なってもいいのかしら?
 μ'sが大事だから今は不幸であっても仕方ないというのは、
 何かが違う気がしてならない、それは誰一人望んでいないと思うし。

「ごめんなさい、海未が困っていたら、私は彼女を取る」
「覚悟の上なのね」
「ほんとうにごめんなさい」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:46:25.90 ID:hAni2gsL0
「……いいのよ、私も英玲奈やあんじゅが頼ってきたら、
 あなたを捨てるわ、A-RISEで活動できるんならそっちを優先するもの
 えと、こんなこと言ってしまうと嘘だと思われてしまうかもだけれど、 
 私は絵里を親友だと思ってるから」
「恥ずかしいこと言わないでよ。
 仮に対立することになっても、ツバサを親友じゃないとか思えないじゃない」

 おそらく賢い選択とは言えない。
 そもそも亜里沙を裏切るとして海未を助けに入ったところで、
 なんにも役に立たない可能性があるし、明日にも食べられなくなる危険すらある。
 無収入のニートが後ろ盾もなく協力すると言った所で、たぶん意味はない。
 意味はないのだけれど、道理でもないのだ。
 海未だけじゃなく、ニコや凛とかことりの私に辛辣なら面々が困っていたら、
 罵倒されたって協力して助けに入ると思う。
 人を助けたいと思うのは、道理や常識では語れない側面がある。

「もしかしたら、海未さんは無意識下に絵里に……」
「ん?」
「ううん、仮定だから言わないわ、あなたを惑わせるだけだから。
 でも、私はそれでいいと思うんだけれど、
 ハニワプロのプロデューサーとしての妹さんはあなたの意見をどう思うのかしら?」
「……先程からスチームクリーナーの音がするかと思ったら」

 迂闊にも亜里沙が戻ってきたことに気が付かず。
 妹よりも海未を取る! 宣言も聞かれてしまい。
 せっかくコネで就職に至ったとはいえ、それを自ら投げ出す所業に、
 注意散漫にも程があるなと自嘲するため息をついた。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:47:04.05 ID:hAni2gsL0
「どこでも好きに洗浄なさい」
「良い度胸です、おしりが良いですか」
「……それはやはり側面ということよね?」
「有り体に言えば大腸ということになるでしょうか、
 ノズルが付いていますから、入りますよね? 穴があるんだから」
「成人向け同人誌みたいな感じではいけないと思うの」
「安心してください、無理を通せば道理は引っ込みます――ツバサさん、逃亡禁止」
「なんで!? 絵里のうかつな発言でしょう!?」
「乗せたのはツバサさんですよね、だいじょうぶ、安心してください
 おしりじゃなくて前の方に入れます」
「純潔がスチームクリーナーに犯されるのはイヤァ!?」

 うん、スチームクリーナーさんも
 そういうところを洗浄するのがゴメンだと思う。
 あと、先程から下ネタ豊富な会話を聞いている雪姫ちゃんには
 ちょっとだけ申し訳ないと思うんだけど、もう手遅れよね?
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:53:04.19 ID:hAni2gsL0
このあと絢瀬絵里さんが鹿角理亞さんになんて言うのか、
珍しく読者の方もお分かりになっているので、
もしかしたら、先回りしていろいろ書くという選択肢はあっているのかも、
と、思います。

しばらく絵里視点が続き、
ブラック亜里沙が猛威をふるいますが、
彼女自身のルートと同様にいつの間にかその他大勢みたいな扱いになる
ような気がしてならないのです……。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 04:25:38.06 ID:PfbBO5noO
いつの間にか姉妹揃ってシリアスキラーにw
>>132
このシリーズに心当たりがあるのは俺だけじゃないはず…
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:38:22.52 ID:hAni2gsL0
 すったもんだの末、スチームクリーナーは掃除で使うものだと説明し。
 人体のですか? という妹に、ホコリとか汚いもの! って言ってみると、
 なるほど、汚い性根にも効果があるのですか? と返答があり、
 どうしよう試してみる? とツバサに問いかけると、自分で試してとそっけなく言われる。
 埒が明かないので、ツバサがどれほど亜里沙のことを大切に思っているか、
 嘘(99%)を交えて熱々と説明すると、分かりましたツバサさんは許しますと
 自分を追い込む結果にしかならず、売ろうとした彼女の評価も奈落に転落し、
 カップル(笑)の二人が人体はどこまで痛みに耐えられるかを試そうとし、
 あなた達すごくお似合いじゃない! 結婚しなさいよ! と叫んだら、
 思いのほか妹には好感触で拷問は回避された、人体損壊ショーはさすがの私も
 いつの間にか復活しているということはないと思う、ギャグ漫画じゃないんだし。
 
「さて、ではエニワプロのアイドルグループECHO対策を話しましょう」

 なにそれ? と思ったけれど、
 ルビィちゃんや高海さんの二人が所属するグループがあるらしく、
 てっきり二人が表立って出てくるのかと思いきや、保険はかけられているみたい。
 メンバーは声優、アイドル、グラビアの人と多岐にわたり、
 全員が全員売れていないという共通点があるものの、知名度はそこそこ。
 球団創設時の楽天ゴールデンイーグルスみたいに、他の球団から戦力外になった選手とか、
 温情ある無償トレードで来たアイドルに注目する人も多いらしく、
 その中でもルビィちゃんは岩隈さん級の扱いで、
 アンリアルで不遇な扱いを受けていたからやって来たみたいなコメントもある。
 公式サイトがいつまで経ってもCOMING SOONな感じなのはネタにされているけれど、
 少なくともネガティブに観ている人間は少ないみたい。

「正直、アイドルグループとしての実力は高く見積もった所で赤点です
 ルビィさんや千歌さんが別格の動きをしているのは警戒する要素ですが
 あの二人がどうこうした所でどうにかなるレベルの人間は少ないでしょう」
「海未さんの指導で変わりそうな人はいる?」
「打てば響く熱い鉄なら、不遇でも人気は出るでしょう
 そうではないということは察せられる事情があるということですね」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:39:26.98 ID:hAni2gsL0
 一時期隆盛を誇った事務所がえらい推してしまっているということと、
 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法で琴線に触れる人間がいたという理由で、
 アイドルのバーゲンセールみたいな状態だから最初こそは活躍を見せるのではないか?
 というのが亜里沙やツバサの判断だった。

「海未がその程度のグループを指導するかしら?」
「どういうこと?」
「海未が指導に当たるということは、誰かしら私達が警戒するべき人間がいるということ
 ……だと思うの。
 響かない鉄にいつまでもこだわる人間じゃないわ、あの子は意外とドライよ」

 私の海未評が殊更響いたのは亜里沙。
 気が付かなかった自分を恥じるように表情を曇らせる。
 高校時代にあれだけ慕っていた海未の行動原理を把握できなかったと言うのと、
 私が海未の行動を頭に入れていることに、何かしらの感情は抱いたみたい。
 一方、それほど海未を知らないツバサにはピンとこない話らしく、
 体育会系で熱血指導するだけの人ではないのね、と認識を改めるだけで終わった。

「わかりました。海未さんに関する認識ならばお姉ちゃんは信用できます」
「他の信用度は?」
「……μ'sに関する把握度合いならば多少信用に値する可能性はあります」
 
 海未に関すること以外では、
 あまり信用のならない相手だと白状をされてしまうと、
 それだけは自信があると胸を張ってもすぐにしょげてしまいそう。
 ただ二人とも警戒する要素があると思い直してはくれたみたいで、
 私自身も二人にこっそりエニワプロやら、ECHOっていうユニットを見に行こうと決意。
 いかんせん金髪は目立ってしまうから、変装する手段を用いなければならないけど。
 カツラとかきぐるみとかで自分を偽る行動は慣れてる、いざとなればヒナを頼る。

「お姉ちゃん、もしかして自分が調査するとか見に行こうとか考えてますか?」
「失敗前提の行動は無謀と呼ぶのよ」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:40:01.07 ID:hAni2gsL0
「あくまでも推測ではありますが、
 此処にツテを頼り海未さんの日記帳のコピーを入手しています」
「亜里沙、私みたいな扱いをする人間はそこにいるツバサくらいにしたほうが」
「私も控えて、できれば絢瀬絵里オンリーにして」

 プライバシーは尊重をしていると妹は言うけれど、
 当人の許可無く内密にしていることを知るのはマナーどころか、
 人間として何かとアウトである可能性は高いのではあるまいか。
 ただその点の配慮を遠慮なく切り捨てて黒歴史を露出させるのは、
 よほどの悪人であるか、姉である私くらいなので、
 もしかしたら海未も許容しているのかも知れない、どれほどかはわからないけれど。

「いつの話かは分かりません、でも、海未さんは過去に
 高海千歌さんと喧嘩をしたそうですね」
「経緯はともかく、どのような喧嘩だったの?」
「取っ組み合い寸前とは書いてありますが、
 あの雪穂にさえ平手打ちをされてるような人が、
 海未さんになにかされないとは思えないんです」

 比較的好感度が彼女に対して高い希とか、
 信頼度の高いよっちゃんが言うには迂闊に人の神経を逆なですることがあるらしく、
 被害者はAqours、μ's多岐に及ぶ。
 例外はそういう事に気がつかない聖良さんくらいで、
 過去の理亞ちゃんの高海さんの嫌いっぷりは、
 おそらく私が両親を嫌っているレベルの比じゃない。
 今の理亞ちゃんがそこまで嫌悪するとは思えないけれど、
 冷静でおしとやかな彼女が憤慨して怒鳴るようなことがあれば、
 私が止められる出来事であろうか心配でならない。
 妹が教えてくれた内容では、海未は今までの自分自身を悔い改め、
 反省する心持ちで顔を合わせに行ったら、彼女が口を開く前に
 穂乃果がどうしているのか問い、なんでそんなことをまっさきに聞くのかと思ったそうだけど、
 喧嘩腰ではいけないからと懇切丁寧に言葉を尽くして説明をし、
 一通り満足したらしい高海さんは今日はそのために来たのかと言ってしまった。
 妹から過去を披露されるたびに、海未の怒りぶりが如実に想像できて、
 裏切り者として処理されるフラグではないか、
 実は海未はハニワプロのスパイなのではないか疑惑が生じたけれど、
 一応現在では仲は良好であるらしい、とても信じられない。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:40:47.55 ID:hAni2gsL0
「”高海さん”がどういう経緯でAqoursである自分を放棄したのか、
 過去を知ることによって歩み寄る決意をされたようですね」

 よっちゃんから聞いた話では、
 描いていた理想と現実との差異がありすぎて
 精神的に堪えられなくなった故に何も云わずに失踪してしまったみたいだけど。
 高海さんには高海さんなりに重要な理由があるみたい。
 それを胸を張って穂乃果に告げられるのかは疑問ではあるけれど、
 海未が動いている以上、穂乃果と高海さんが歩み寄れると判断はあったんだと思う。
 Aqours結成当初から既に浦の星女学院の廃校は決定されており、
 奇跡を起こした所で覆せないのは、当初高海さん自身もわかっていたみたい。
 統合先の高校との話し合いは既に進められており、
 入学希望者が増えた所で存続は叶わないとは誰しもが分かっていたけれど、 
 そんな彼女を改めてしまったのは、東京来訪時の出来事である様子。
 スクールアイドル公式サイトで人気が出た為、
 東京に呼ばれた6人のAqoursはSaintSnowの二人に出会う。
 聖良さんや理亞ちゃんの二人がまともにポテンシャルを発揮していれば、
 9位っていう微妙な結果には留まらなかったのは推測されるのだけれど、
 30組中30位で、かつ投票された人数が0人だったことで、
 トラウマレベルで傷をつけられたみたい。
 上位100位以内の人間が呼ばれているのに30組しか参加していない、
 審査している人間はいったいどんな人間であったのか(花陽は居たらしい)と
 疑問は尽きないのだけれど、そこを突くと絢瀬絵里が轟沈してしまいそうだから控える。

「0からの始まりを意識した高海さんは
 失敗をしたことにより、小さな成功で喜び、失敗にもくじけないようになりました」

 それ以降やたらポジティブに変貌してしまった高海さんは、
 同時にAqoursの中心メンバーとして活躍を見せ3年生組の加入後も
 まとめ役として常に前に進んでいった。
 学校存続の可能性が限りなく0に近くなった以降も、
 可能性がないわけではないからと諦めず。
 亜里沙や雪穂ちゃんの”一人だけ前に出て一人でなんとかしようとするな”
 というAqoursとしての致命的な欠点も
 周りのフォローでラブライブの優勝という結果として残す。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:41:21.61 ID:hAni2gsL0
 が、自分たちが奇跡を起こしてもなお現実が改められなかったという結果は、
 彼女を精神的に叩き潰すこととなり。
 μ'sは上手に行ったのにAqoursは何も残せなかったのは何故なのかと、
 疑問に感じ始めたらどうしようもなくなってしまい、取り返しのつかない事態に陥る。
 失踪した後にこっそりと廃校祭を見に行き、
 自分が居なくても上手く立ち回っているAqoursの面々を目の当たりにし、
 なおのことダメージは増幅されて、今もおそらく立ち直れていない。

「海未の同情を買うには都合のいい理由ね」
「お、お姉ちゃん……?」
「海未はもしかしたら、そんな彼女を開放するために動いているのかもしれない
 ならば、私は海未を止めないといけない――
 ごめんなさい亜里沙、やっぱり私は彼女に会わないと」
「ダメよ絵里、敵役を買うつもりならスマートになさい」

 決意を翻意するように告げられてしまい、
 思わずムッとしてツバサを眺めてしまって、やらかしたと思ったけれど、
 私のイラつきすら想定内だと言わんばかりのそいつは、おでこをツンとつつき。

「絵里、いまさら”高海さん”が正論やきちんとした指摘を受けて、
 きちんと立ち直れると思っているの? 
 だって彼女は悪いことをしているなんて思っちゃいないのよ? 
 本当に相手を思うのなら手助けをするんじゃなくて
 事実に気づかせてあげなさい、正しいと思うという感情に従って動くのは、
 なさねばならない正しい行動を放棄して、短絡的になってしまっている証拠よ」
「お姉ちゃん、怒る気持ちはごもっともです。
 ですが、お願いします。
 短慮に走らず、私やツバサさんを信用してください」

 感情的になって、先走ってしまったらしく。
 本気で心配そうな亜里沙や、しょうがないわねぇみたいな顔をするツバサを見て、
 自分自身を省み、改められる欠点は改善しようと決意する。
 とはいえ、腹に据えかねる思いはこの場の面々の共通認識であるようで、
 ついつい表情が険しくなってしまうのはなんとも言えない心持ちがした。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:43:34.77 ID:hAni2gsL0
「話題を変えます。
 エニワプロの事も問題ですが、ハニワプロでも
 アイドルの引退が連続してまして――」

 売れたりなんだりしていない人間が新しい道に進むために
 芸能活動の引退を決意したみたいな話を予測していたら、
 セイントムーンの二人が揃って岐阜の月島家の農場とか牧場に舞い戻り、
 牛や野菜や果物の世話にあたるらしい。
 ハニワプロでも実力が指折りの二人が引退するのは寝耳に水だった――
 のは、普通のスタッフだけみたい。
 亜里沙や南條さんと言った一部の面々は聖良さんの方はともかく、
 歩夢ちゃんが実家に戻りたいと願っていたのは把握しており、
 きっかけがあればそのような選択を取ることもあるだろうとは思ってたみたい。
 が、把握はしていてもバリバリと仕事をしていた彼女たちがいなくなるのは、
 ハニワプロにとってはマイナス要素でしかない。
 実力が向上したエトワールの面々が代替要員になれるかは不透明であり、
 かといって、他のアイドルたちが同じことができるのかとは妹も判断できず。
 聖良さんや歩夢ちゃんといった二人が引退することで、
 仕事が来るかも! と期待しているアイドルは多いそうだけれど、 
 そういう人間に限って手も足も出ないほどに実力が離れているのは頭痛の種。
 なお、人の顔は覚えるのに苦労する聖良さんも動物は判別できて、
 いま、牛のカリスマとして牛舎で大人気らしいけれどだいじょうぶ?
 彼(彼女?)らは食用肉になる可能性高いよ? 岐阜でも有数のブランド牛だよ?
 あと、お米の名前が歩く夢っていうのは微妙だと思うよ?

「正直、エニワプロなど相手にしている余裕はありません。
 局からは代替要員を出さないと総スカンをすると宣言されていますし、
 ツバサさん一人を代打に出せば、後に続くアイドルがいません。
 理亞や善子さん辺りを押し出せばある程度は……」
「理亞ちゃんは聖良さんの引退は知っているの?」

 私の言葉にハッとした表情を浮かべる亜里沙。
 そこまで構っていられるほど余裕がないのは察せられて、
 彼女へのダメージを認識せずぽっと口に出してしまったのは、
 重ね重ね反省する事柄ではあるんだけれど。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:44:02.53 ID:hAni2gsL0
 ハニワプロでは聖良さんを慕う理亞ちゃんはかなり有名であり、
 姉妹間の感情を超えているとか、度を超したシスコンという評は浸透中。
 円満に姉妹で話し合いが行われ、理亞ちゃんが納得して見送るのなら 
 問題は生じ得ないと思ったけれど、亜里沙の反応からするにそれはない。
 ルビィちゃんが敵に回ることでさえ精神的ダメージが大きそうだっただけに、
 重ねて聖良さんが芸能活動から身を引き、憧れもあった海未も対立するとあれば
 精神的影響はかなり強いものだと思われた。
 
「……迂闊でした、これではお姉ちゃんを悪く言えません」
「亜里沙さん、気にしないでいいのよ、この人いつも迂闊だから」
「妹をフォローするつもりで私を下げるのはやめて」

 理亞ちゃんのことを考えると心苦しい。
 これがツバサとか真姫が同じ状況下に置かれていたなら、
 無難に乗り越えられるよね? で気にせずにいられたかも知れないけれど。
 亜里沙は本当に自分自身の妹であるから考慮せずに、
 妹みたいな扱いをしている人間が苦しむ状況下に置かれていると、
 自分のことを棚に上げて心配してしまうのは、私自身のエゴだろうか。
 穂乃果や海未とか凛もそうだけど、ほっておくと折れてしまいそうという認識を
 彼女らに持っているとバレたらどんな反応がくるだろう?
 理亞ちゃんもおそらく、自分自身の心配をするのが先だと
 健気にも忠告されてしまうかも知れないし。

「お姉ちゃん、理亞のことは任せます。
 もし彼女が困っていたら、協力してあげてください」
「絵里、私からもお願い――あと、事務所的に
 理亞さんが折れると、綺羅ツバサさん死んじゃうから
 仕事量がキャパを超えちゃう……」

 亜里沙の懇親のお願いや、ツバサの同情を誘う本音もあり、
 そしてなにより、妹扱いとしてかなり好感度が高い理亞ちゃんに対して、
 意も分からない感情の揺れ動きを覚えてしまった私は――

 部屋に慌てて入ってきたよっちゃんの、
 理亞が大変なんですという言葉に居ても立ってもいられなくなり、
 あの、正直彼女と何を話したのかはあんまり覚えていなかったり。
 
 ずっとそばにいるという誓いは心に刻みこんでいるけれど。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 20:13:23.55 ID:8Kop+r/YO
なんだかんだ根っからのお姉ちゃん気質なんだなぁ
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 22:50:11.68 ID:Ev+jkU+CO
久々に少しだけかしこさを取り戻してる気がする
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 23:13:15.84 ID:H5viyWMt0
ヤンデレ亜里沙が強烈すぎてツバサルートがマジで怖いんだが。。。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:51:39.50 ID:qcVrnA6J0
 理亞ちゃんと一緒にゆっくりと階段を降り、
 何を言ったか記憶に無いほどに慌てふためき、動揺を重ねたあげくに
 変なことを口走っていないかと考える余裕を持ってみると。
 それは毎度のことであるなと、頻りに省みた所で一向に成長しない自分に気が付き、
 肉体面の老化は著しく、精神面の成長は高校時代が全盛期。
 人生100年時代とか、平均寿命が延び続けていると言うけれど、
 100年生きるとか憂鬱すぎてならない。
 あと数十年こんなアホなことを考えたり失敗を繰り返したりするかと思えば、
 人間50年くらいで充分、戦国武将か。

「先輩」
「なあに?」

 精神的に追い込まれるのを繰り返した結果、
 それでもなお以前までのツンケンした彼女を見られないことに、
 一抹の寂しさを覚えつつ。
 冷静であるのか、弛緩しきった態度を見せているのか、
 多少、再会を果たした時と同じ風ではあるけれど、
 内心不安でたくさんだと思っている。
 私に呼びかけたは良いけれど、何を言おうか記憶から飛んでしまったみたいで、
 一通り声も出さずに口をパクパクと動かしたあとで、
 恥ずかしそうに俯いて私の服の袖をクイクイと引っ張るだけで終了。
 こう、か弱さ全開で不安を抱えている儚げな女の子が、
 身体を寄せながら自分を頼る素振りを見せられると、
 ついついなんとかしなきゃ! という気分になってくるんだけれど。
 ただ、自分を意のままに操る行動を取った時の綺羅ツバサさんも妙に思い出すから、
 自分は基本的に頼られると何とかしたくなってしまう人なんだと思う。
 誰かしらに上手く使われている人間だという自覚は放り投げる。

「安心して、理亞ちゃんに何かいう人が居たら盾になるわ」
「仮に亜里沙さんとかツバサさん……あ、凛さんからなにか言われても
 喜んで盾になってくれますか」
「骨は拾って」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:52:35.32 ID:qcVrnA6J0
 海未が対立行動を取るとすれば、
 それに準じてこちらを攻撃することが予測される星空凛のことを思い出し、
 凛がそのような選択をすれば小泉花陽も同調することが予測され、
 花陽が反応をすれば真姫もそれなりの態度を取り、
 真姫が動けば年齢不詳の毒舌メイドさんが喜んで罵倒をしてくるから、
 絢瀬絵里というシールドは保たないかも知れない。
 私のメンタル面が脆いのは仕方ないにしても、
 基本的に指摘される方に問題がある以上、言われっぱなしになるのは仕方ない。
 理亞ちゃんも自分と対立するのが関わりのある相手だとか、
 仲良く会話している相手だということを既に察知していて、
 おそらく自分の精神面が強固ではなかったという自覚も手伝い、
 私のことを頼ろうとはしてくれているんだろうけれど……いい姉にも、
 いい盾にもそれほどなれそうにもないと自嘲気味に笑った。
 元からいい姉であったか疑問だという内容については、天高く放り投げる。

「先輩の前で聖良姉さまの話をするのは――ためらいがあります」
「いいのよ――でも、それ楽しいお話?」
「優勝確実と言われて地区予選すら突破できずに終わり、
 二年に進級後、スクールアイドルを続けると宣言したにもかかわらず
 誘う友人も居なくて、結局姉さまとトレーニングを重ねる日々の話です」

 すごく楽しくなさそうという感想を抱いたものの、彼女がお話したいということは、
 心の中に抱えているには苦しいエピソードであるのでしょう。
 ラブライブの優勝は果たせなかったものの、
 能力値とスキルはスクールアイドルの中では抜きん出ていた理亞ちゃんは、
 頼りにしきっていた聖良さんを失ったのと、
 今度こそラブライブでの優勝を目指すとの強い意欲に反して、
 誰からも協力が得られない自分にふさぎ込んでいた日々。
 誘われない自分に理由があると笑う彼女も、
 自宅では聖良さんが居たために虚勢を張って通常通りでいたものの、
 校内ではやるせない気持ちに包まれて投げやりに過ごしており、
 周囲にも腫れ物を触るみたいに扱われていたと振り返る。
 心休まる時間はルビィちゃんとの交流とお風呂に入ってる時で、
 その中にもう一つ、とあるクラスメートとの時間をあげた。
 いつまでも続かなかったと自嘲するけれど。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:53:08.30 ID:qcVrnA6J0
「当時の私と会話をしようなんて命知らずですね」

 そういって理亞ちゃんは微笑む。
 彼女が省みるほど、ツンケンしていた理亞ちゃんが不出来な人間とは思えない。
 多少頑張り過ぎのきらいはあったものの、
 それは自分自身が過去を振り返っても感じることであり、
 一生懸命思う気持ちが単純に空回りしたに過ぎないのだと、
 絢瀬絵里は生じた結果を考慮に入れずに思考する次第。

「名前は楠原雅。彼女もまた優秀すぎる姉を持って苦労していた人です」

 理亞ちゃんが語るほど聖良さんが完璧であるかは――
 私などが判断することではないとして。
 楠原さんというのは函館聖泉女子高等学院で生徒会長を務め、
 ダイヤさんが右腕として引っこ抜きたかった楠原静香さんの妹。
 お嬢様ばかりが揃う高校において、
 アイドル枠でもない一般生徒で生徒会長を務めたのは後にも先にも彼女一人で、
 SaintSnowが仮にラブライブで優勝できていたら、
 偉大な業績に傷がつかずに済んだんですけどと理亞ちゃんは語る。

「親近感というか……似てるなって思うと急に好感度上がりません?」
「過去の理亞ちゃんが漏れてる」
「……はっ!?」

 とにかくお互いに境遇が似ていると感じ、好意的な態度を持って交流を始め、
 趣味嗜好が似ていた(当時の理亞ちゃんの趣味はお菓子作り――出来はお察し)ため、
 スクールアイドルではμ'sを推していたことと、
 SaintSnowとして活動をしていた理亞ちゃんのことには触れないようにしながら、
 腹を割って話す仲であったみたい、北海道でその言葉はどうでしょうか?

「当時の私にとっては、μ'sのラブライブの優勝って解せないんです」
「私もそう思ってるから良いのよ」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:53:45.97 ID:qcVrnA6J0
 気まぐれな神様が起こしたご都合主義ではないかと問いかけたいほど、
 普段の実力以上にとんでもないパフォーマンスを見せたμ'sは、
 おそらく皆が皆、奇跡の中に居たのだと思う。
 当時の実力で同じパフォーマンスを見せろと言われれば、
 あまりの横暴に過去のことりだって助走をつけてぶん殴ってくるレベル。
 いまのことりはよく私を殴りかねる勢いで罵倒するけど。

「Aqoursが優勝した後でμ'sの話題っていうのはミーハーと言いますか、
 スクールアイドルにあまり興味のない人間でも彼女たちのことは知ってるみたいな」
「……そういえば、ルビィちゃんが理亞ちゃんが一年生の時
 お二人は去年すごい成績を残して地区予選を勝ち上が――」
「それ以上はいけません」
「理亞ちゃん留n――」
「気まぐれな神様はお話を作るときも整合性を考慮しないだけです」

 指摘するのも野暮な内容だったみたいで、私自身もなかったことにする。
 なかったコトにしたい黒歴史を抱えているのはみんな一緒。

「雅は単純なファンではなかったんです」
「どういうこと?」
「その……信者と呼ぶのも生ぬるい……心酔する信者……
 カルト教団の教祖みたいな、彼女にとってμ'sっていうのは、
 奇跡の体現者といいますか」

 自分の不出来さを責任転嫁する手段は数多くあるけれど、
 一番簡単なのは自分は悪くないと思うことである。
 いずれにせよ責任転嫁には様々な手段があり、数多くの人が――
 もちろん私自身を含めて責任を放棄することは常同行動であり、
 常に自分を律して生きていこうなどという行為は海未だって無理。
 自分は悪くないと開き直ることが出来ない人は、たいてい誰かにその責を押し付ける。
 自分の抱える問題は他の誰かが解決してくれる事象であり、
 雅さんという子が抱えているコンプレックスなり、問題点というのは
 μ'sが解決してくれるものであったのだと思う。
 いわば、お姫様に憧れる女の子がみんながみんなお姫様になりたいのではなく、
 お姫様になった誰かを見ることによって満足感を得られちゃうアレ。
 現実に問題を抱えていたとしてもμ'sが幸せなら私も幸せ――
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:54:33.34 ID:qcVrnA6J0
「雅が私に感じていた友情は、一般的な友情ではなく
 不出来な自分をごまかすための手段と言いますか――
 それでも私は良かった、居場所がない高校でも、気持ちを偽らなければならない家でも
 でも、あの子はルビィを手に掛けようとしたから」
「ん?」

 μ'sが当時においても仲が良いというのはかなり有名な話だったらしく、
 売れっ子になって全面に出ていたのはニコくらいで、
 凛はブレイク前、A-RISEも知名度がそこそこレベル、
 真姫はコスプレにハマっており、ことりも学業をこなし、
 希も一部でカルト的に人気があったに過ぎなかった。
 だからこそ案外μ'sが揃って集まる機会は数多く(ことりの欠席率は高めだけど)
 仲が良い模様をブログなりなんなりにアップしてコメントがあったのは知っている。
 ただ、その行動をμ'sはとても素晴らしい! 
 現実がうまくいかないけれどμ'sが上手く行っているなら構わない!
 という逃避の手段に用いられてしまうのは、ちょっと反応に困る。
 そしてなにより、穂乃果を中心に手放しで讃えられてしまうほど
 みんながみんな上手く行っていたかと言うと果てしなく疑問、特に穂乃果。

「雅にとって、自分が親近感が湧くような出来損ないが
 自分以上に仲が良い人間がいるという現実が許せなかったのでしょう」

 有り体に言えば、理亞ちゃんに裏切られた心持ちがしたのでしょう。
 それがまるで客観性のない逆恨みであれど、
 被害が及べば困るのは加害者ではなく被害者であり、
 仮に命が狙われてしまうほど危険が及ぶのであれば、
 国家権力を用いてでも行動は回避しなければならない。
 その子にとって不幸だったのは、黒澤家を掌握し始めていたダイヤちゃんが
 顔見知りにおまわりさんやら何やらお偉い方が居たということと。
 ルビィちゃんに被害が及べば多少の不利益はあった所で、
 加害者を消すくらいのことはやってのけるシスコンだったということ。
 なにより、雅さんの姉が行き過ぎた感情を抱いていたことを把握していたのも手伝い、
 ルビィちゃん殺害計画は実行以前に頓挫し、
 なによりルビィちゃんに知られることもなく問題は解決した。
 
「その時に私は思ったんです、自分の幸福はもう考えず
 誰かのために尽くして生きていこうと」
「聖良さんにどっぷりだったのはそういうこと?」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:55:10.00 ID:qcVrnA6J0
「ルビィにも、姉さまにもそうです――そしてこのたび
 その二人から距離を取られるという結果になったのですが

 私自身が……何か間違っていたんでしょうかね……」

 辛そうに俯く理亞ちゃんに、言い得ぬほどに母性を刺激されてしまった私は、
 据え膳美少女に迫られるハーレム主人公を思い出し、
 ああ、この気持ちが伊藤誠なり安芸倫也なり羽瀬川小鷹が抱いていた気持ちか、
 これならしょうがない、相手が同性だけど理亞ちゃんの可愛さなら世界を狙える――
 まったく、鹿角理亞ちゃんは最高だぜ! と思わず抱きしめてしまいそうになった瞬間

「スチームクリーナーの音……ッ!?」

 私がどこへ向かおうとしていたのか。
 リビングで真剣に会議を続けているはずの亜里沙やツバサが
 いつまでも戻ってこない私たちを心配し様子を見に来ることくらいは簡単に予測……!

「理亞。復帰したてのあなたに言うのは心苦しいですが
 リビングで話し合いが行われています」
「いえ、こんなところで挫けてなどいられません。
 これからは絵里先輩もいますから」

 輝く笑顔で亜里沙に言う理亞ちゃん。
 もう、エリちは理亞のもーの! と言わんばかりに所有権を主張(個人の妄想です)し、
 過去の女に喧嘩を売るみたいに(個人の妄想です)幸せ満載の微笑みで
 妹と絢瀬絵里も放り出し、ルンルン気分でリビングへと向かった。
 ――おそらく、絢瀬亜里沙の静かな怒りを直感で把握し、
 あえて現実を見ないようにして私を売ったんだと思う、哀れな被害者は一人で充分。
 はたしてこれからに絢瀬絵里が存在するのか、
 
 スチームクリーナーを片手に姉を掃除する妹言う絵面が、
 R-18Gに該当しないかどうか戦々恐々としながら私は天井を見上げ、
 ハーレム系主人公は得てして報復を食らうことを思い出し、ちょっと泣きそうになった。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 19:06:42.72 ID:rLI3q4hTO
理亞ちゃんのこのメインヒロイン感よ……
たしかにアニメでも応援してくれる子はいたけど姉様卒業後新たにグループ組めるかは微妙だったよね
経験の差もあるし理亞ちゃんの運動能力についてこれるだけのレベルがないといけないもんな
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 22:54:22.74 ID:Sf1BkS1Eo
ルート確定イベント感良いね
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:56:24.28 ID:myA/Y7C00
 スチームクリーナーを片手に私に抱きつくように近づき、
 あ、これは死刑執行だ! と思った亜里沙がいつまで経っても刑を施さないので
 どうしたんだろうと思って顔を覗き込んでみると、
 思いのほか真剣な面持ちで理亞ちゃんの姿を見送り、
 その姿が確認できなくなった時にようやく身体を離す。

「彼女は実力はありますが、メンタルは脆いですからね」
「……そんなに私と二人きりになりたかった?」
「か、勘違いしないでよね! 9割がたスチームクリーナーでアバロンのダニを
 掃除しようとしただけなんだからね!」

 ――そんなツンデレ嫌だ。
 ともあれ刑が執行されないのなら一安心。
 心の中で安堵をしつつ、理亞ちゃんに関しては絢瀬姉妹の琴線に触れる
 か弱さとほっとけなさを持ち合わせているみたいで、
 私と同じように亜里沙も何事かの強い感情は抱いているみたい、恋多き女みたい。
 妹は一息ため息を吐き、
 
「ツバサさんと、エトワールのみんなともう一度ECHOのアイドルを洗い直しましたが
 海未さんがこだわりを見せるような子は見当たりません」
「となると、やっぱり高海さんやルビィちゃん辺りに注目をしているのかしら?」
「正直、理亞へのライバル意識が高まって移籍を決意したルビィさんと、
 そもそも何を考えているのか分からない高海さんに対して
 対策を施そうとするだけ無駄である気がします」

 これが私もよく知っているμ'sの子が対立行動を取るとすれば、
 ある程度、困った時にはどのように動くかは見当を付けられるけれど。
 どのみち、ツバサとかニコとか凛クラスの芸能界で一流クラスの実績を残しているとか、
 花陽みたいにサポーターとして的確な才能を発揮している人間が相手なら、
 対策を講じて警戒に当たるだけの理由が思いつこうものだけれど。
 相手の実力がそもそも未知数なだけに、
 華々しくデビューさせてから機会を設けて会議するのも手かもしれない。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:57:06.56 ID:myA/Y7C00
 ただ、デビューした時には既に大売れするレールになど乗っかられたりすると、
 こちら側が顔を売るには困難になり、ハニワプロよりもエニワプロかな?
 みたいな評価になってしまい、挽回は不可能になってしまいかねない。
 理亞ちゃんを支えると決意した以上、ルビィちゃんとかに彼女が負けるようではダメなのだ。
 
「油断をする理由もないけれど、
 必要以上に警戒をする理由もない――なにより」
「私たちは負けられないのです。
 どんな理由があれど、海未さんがこちらに対立をしてまで
 成し遂げたい何かがあるというのであれば」
「……お姉ちゃんの台詞を取らないで」

 決意は高らかに。
 妹が面白そうなものを見たと言わんばかりにクスクスと笑い、
 私は本当にもうしょうがないわねって顔をしてみていると思う。
 かつての姉妹間の交友のようなほのぼのとした時間が、
 いつまでも続けばいいのにと思いつつ、
 私たちは作戦会議が行われているリビングへと舞い戻った。

 ――というに。

「ど、どうしました……?」

 冷徹なプロデューサーモードから一転。
 素に近い亜里沙としての姿で戻って来、
 姉妹揃ってなにか異常はないかな? あるべくもないかな?
 と、和やかにリビングに入ると。
 緊張しきった表情でツバサがこちらを見、
 エトワールのみんなが何故こんなことと言わんばかりに表情を曇らせ、
 中心にいる理亞ちゃんが頭を抱えている。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:57:38.58 ID:myA/Y7C00
 そのようにしなければならない事実が判明してしまい、
 問題発生と言わんばかりに気落ちした態度を見せられてしまうと、
 私としては現状を改めるために高らかにギャグの一つでも披露しようと決意し、
 中にいる雪姫ちゃんに一度前に出ても良いですかと問われた。
 要は、迂闊に口を滑らせてカーリングの人たちみたいに「そだねー」
 の一つで会話などされないように矢面に立ってくれるということ。
 絢瀬絵里のアイデンティティの一つである、脆いシールドとしての役目は放棄し、
 優秀で強固なまとめ役としての側面を見せましょう! とのことだけれど。
 見せてもらおうか、西園寺雪姫の実力というものを! 
 と、思いつつ、お試しな感じで入れ替わってみる。

「亜里沙、みんなが焦燥にくれているときこそ
 プロデューサーとしてまとめ役にならなければダメよ?」

 常に前面に立って慌てふためいて後ろから蹴り飛ばされる私と違い、
 動揺が走っている面々に対して肩の力を抜いてと言わんばかりにウインクの一つをし、
 この場で一番統率力がある亜里沙を立てて自分は一歩引く。
 確かに外見は自分であって、ちょっと頑張ればこれくらいできそう!
 とは思うのだけれど、今までちょっと頑張ったところで頼れるお姉さんは演じられなかったので、
 なるほど、こうやってみれば良いんだな? と胸の内に沁みるよう
 常に比較対象を観察しながら次に活かせるように心がける。
 ただ、中の人が小学校高学年っていうのは、
 国民的アニメの声優の年齢層は高いのと似てる? 違うかな?

「は、はい! どうしました?」
「二人共ちょっと来て欲しいの。見た目は普通なんだけど
 理亞さんがこの人がルビィさんの近くにいるのかって聞いてきて」

 自分はあくまで控えめな二番目として妹に追随し、
 事情を聞けば必ずしもそういう反応をすると言わんばかりの事実を、
 緊張した感じでツバサが披露する。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:58:14.68 ID:myA/Y7C00
 雪姫ちゃんはその言葉を静かに目を閉じながら聞きながら、
 中にいる絢瀬絵里は驚嘆で慌てふためいているのに、
 理亞ちゃんにそうと決まったわけではないからとフォローをして、
 ツバサにも――もっとしっかりして私をからかうみたいにしてよ、
 と、おちゃらけながら言っている。
 外見上は絢瀬絵里が言っているだけに、
 変なもの食べたんじゃないかみたいなことは、ツバサも考えてはいるだろうけれど、
 雪姫ちゃんが全面に出てきたときの自分の強キャラ感が異常。
 これほどのスペックを自分が持ち合わせていたのか、
 今どきの小学校高学年はこれほど老成しているのかは判断つかないけれど。

「何を目的にして雅がECHOの一員として潜り込んでいるのか。
 純真にアイドルとして頑張りたいからであるならば」
「理亞ちゃん落ち着いて。
 冷静ではない時にいくら考えても出てくる結論は見当違いであることが多いから」

 冷静でないくらいは見て取れるけれど、
 落ち着くようにアドバイスをする姿は私から見ても違和感がある。
 これがもし、数十分後くらいに私がもとに戻った時に
 同じことをして欲しいと願われてしまったらどうしたら良いだろうと思う。
 この場における暗澹とした空気は取り払われ、
 一度様子を見て誰かしらには情報を伝えることを結論づけ、
 でも、誰から情報を流せばいいだろう? とポンコツな私でさえも疑問になり、
 ただ、それはあっけらかんとした雪姫ちゃんの言葉ですぐに解決した。

「花陽に伝えてみましょう」
「絵里、あなた冴えてるけれど、え、亜里沙さん掃除でもした? 
 ハードディスクとか交換した?」
「いいえ、もしかしたらスチームクリーナーで
 根詰まりを起こす要因となっていたゴミが取れたのかも知れません……」
「すごいわね……ジャパネ○トで宣伝するべきよ」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:58:56.57 ID:myA/Y7C00
 感嘆する様子で妹と友人が会話するのを、
 このまま彼女に入れ替わってもらっていれば、問題は解決するのではないか?
 と、ちらりと考えてしまったけれど――。
 改めて自分の能力の低さが思い至り、改善するためにはどうすれば良いのかと
 益体のつかないことを考えてみて。
 少しずつでも協力してもらって成長を重ねていこうと思った。
 もう亡くなってしまった彼女がなぜか私なんぞに憑いて、
 最善の方法を提案してみんなをまとめているから。

「花陽さんなら仮に相手がどのような手段を用いて
 楠原雅という子を事務所に入れたかを把握できるはずよ」
「はい。仮に事務所側が把握していなくても、ツテで情報は入ってくるはずです」

 二人の中で花陽の評価が高いので、
 そんなに真面目で一生懸命な姿が好感を覚えるのかな? 
 と、思っていたら雪姫ちゃんが全てではないですがと言っていろいろと教えてくれた。
 凛をたいそうのおねえさんのオーディションに送り出したのは知っているし、
 スクールアイドルやアイドルに匿名で手紙を送って激励やアドバイスを送っているのは、
 ちらりと聞いたことがあったりするけど。
 そもそも、亜里沙にハニワプロの存在を教えたのは花陽であるみたい。
 お母さんが元々ハニワプロのアイドル候補生で、父親さんと出会ってなければ
 テレビで踊っていたかもなんて話もあったらしく。
 結局ニコが引退するまでA-RISEはトップアイドルとして君臨できなかったけれど、
 デビューしてからしばらく本当に売れなくて、
 私とのカラオケ代すら四苦八苦していた頃からアドバイスと激励の言葉を送り続け。
 当初は認められなかったことを少しずつ実行していた結果A-RISEがどのようになったか、
 もう言わなくても分かるよね? 若者の認識率100%叩き出したスーパーアイドルだよ? 
 Aqoursがラブライブの本戦に出場する前に雪穂ちゃんや亜里沙がアドバイスを送り、
 結果的にオトノキの4連覇を阻むことになるけれど、
 その際の致命的な弱点を最初に看破したのも花陽らしい。
 それだけではなく、
 高坂姉妹が窮地に陥った際に、手助けしたいと申し出たAqours3年生組と
 穂乃果と雪穂ちゃんの間に入って仲を取り持ったのも花陽。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:59:23.92 ID:myA/Y7C00
 真姫がオタク活動にハマるきっかけとなったアニメの原作漫画を彼女に貸したのも花陽。
 ニコがアイドルを引退した際にUTXに情報を流したのも花陽、
 2次元に傾倒した結果コスプレに懐疑的だった真姫に、
 そんなことないよ、とりあえずやってみたら気持ちがわかるかもよ?
 と、教えた結果西木野真姫が現在あやせうさぎ(裏名)になってるのはご存知ですね?
 私にはなにかないの? と冗談半分に聞いてみると。
 高校卒業後、希と交流が途絶えて再会するまでに時間を要したんだけれど、
 その際に彼女は素の自分を見せて受け入れて貰おうと決意し、
 女磨きを重ねに重ね、今の理亞ちゃんみたいな感じで完全美少女となり、
 ここまで頑張ったんだから受け入れて貰えなかったら
 強制的に自分のものにしよう――な、希を止めてくれたのも花陽。
 あれおかしいな、ヤンデレ(デレ0%)みたいな希を
 どこかで見たような記憶があるんだけど、その恐怖が簡単にわかっちゃうんだけど。
 ともあれ、絢瀬絵里は花陽に足を向けて眠れない、今度お米を届けよう、なにがいいかな。

「花陽には……できれば知り合いではない人がいいわ、
 彼女が知らないで、ちょっと気軽に裏情報代わりを提供できそうな」
「私がやります」

 と、言って挙手したのはエヴァちゃん。
 なんにも聞いていない風を装いつつ、常に私の数十センチ横に陣取り、
 空気と水を摂取するみたいに新栄養素エリチカの吸収に励み、
 信頼度が急激に上昇したと言わんばかりな私でも、
 全ては分かってますと言わんばかりに悠々とした態度で。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 16:00:14.40 ID:myA/Y7C00
「見た目何を考えているのか分かりませんし、
 ちょっと事務所が漏らしたくない情報を提供するのならば、
 自分が的確だと思います」

 この中の面々で一番花陽と関わりがないのは、
 朱音ちゃん、朝日ちゃん、理亞ちゃん、よっちゃんとエヴァちゃんの5人。
 スクールアイドルをやっていたよっちゃん以下朝日ちゃん理亞ちゃんは
 花陽がどのような人間かを把握しているみたい、どういう情報網? 
 あの子を引っ張り込んで味方にするほうが先じゃない?

「エヴァさん……そんな、裏切らせるようなマネを」
「構いません」
「亜里沙、彼女がそう言っているのだから、
 プロデューサーとして送り出してから、
 戻ってきた時にちゃんと面倒を見てあげなさい。
 成功は私が保証するから。私の保証じゃ信用出来ないかも知れないけれど」
 
 などと絢瀬絵里が言うさまを
 何より自分が眺めながら、やっぱり最初から入れ替わってもらったほうが、
 案外何もかもうまく行くのではないか疑惑が抜けないエリーチカでした。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 19:18:23.01 ID:M/3llrBvO
本来これぐらい楽々やれそうなのになぁ
ニート期間で熟成されすぎたか…
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 18:06:42.76 ID:qkU4GUwB0
申し訳ないです。
疲弊具合が深刻で更新がいつできるか分かりません。
忙しいのに悲しいことに自分の用事ではないのは置いておきまして。

今後の更新予定です。
時系列で言うならば、

絵里理亞デートイベント −絵里視点−

ことりちゃん来襲 イベント −絵里視点−

エヴァぱな会談−花陽視点−

鹿角理亞ルート番外編 聖良姉さまの憂鬱 −聖良視点−

になるんですが、
エリち視点以外の話は比較的自由に行けるので、
聖良姉さまの話かかよちんの話は先でもと思っています。

聖良姉さまの話は舞台が岐阜とか愛知になるのと、
登場人物の大半が家畜(観客含め)という仕様ですが
姉さま扮する家畜アイドルミルク(うしちち→牛乳→ぎゅうにゅう→ミルク)ちゃん
のライブイベントの話です。
この話を構想しながら、姉さまの海未ちゃんから逃げるために
岐阜に行ってしまった疑惑が出てくるんですが、まあいいや。

かよちんの話は、かよちんの裏ボス疑惑が生じる話です。
海未ちゃんが凛ちゃんに挨拶に行く前にかよちんを懐柔して堕としておけば
ハニワプロは積んでたという話になれば。
では、もう少しお待ちいただければ。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 21:49:12.35 ID:62NXylE5O
農業アイドルより更に過酷そうな家畜アイドルとは一体…
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:55:13.64 ID:JoGf4NMo0
 −鹿角理亞ルート番外編 鹿角聖良姉さまの憂鬱−
 〜もう どうにもとまらない〜

 親友である歩夢の実家である農場は、
 下呂市にある下呂駅から車で一時間ほどにある山の近くの
 超巨大な立地を誇る全国でも有数のモノです。
 最初に彼女から岐阜県出身であると聞いた時に、
 北海道と東京以外の県名というものがまったく分からなかったので、
 岐阜というのは何ですか? と尋ねてしまい。
 近くにいた理亞が顔面蒼白になりながら、姉さまは東京以外の都道府県名は分かりません!
 と言い放ち、ずいぶんと憮然とした態度を取ってしまったものですが。
 今にして思えば歩夢が岐阜県をどれほど愛していているかを知らずに、 
 岐阜とは一体どこの辺境の土地なのかと言ってしまったのは、迂闊だったとしか言いようがありません。
 すっかり岐阜ナイズされた今では、車で走れば到着する場所に何かがあれば
 全て都会のような心持ちです、歩かなくて良いんです、なんと素晴らしいことでしょうか。
 ちなみに私は運転免許は持っていないので、
 月島家の専属ドライバーである羽島さんが農場まで連れて行ってくれています。
 敷地が広大ゆえに何人ものお手伝いさんが管理運営その他諸々、
 その中で先頭を切って放牧し、畑を開梱し、登山を繰り返し、犬と駆け回り、
 動物と戯れてばかりの歩夢をトップアイドルに添えた亜里沙プロデューサーというのは、
 まさに名トレーナーという存在ではないでしょうか、理亞も救って頂きましたし。
 持て囃すのは絢瀬絵里の方ではなく、
 よっぽどあの人に付き合っている周囲の人であるべきなのではないかと。
 妹が世話になっていなければ、もっと気合を入れて叩き潰したと言うに……。
 憧れのA-RISEのツバサ様に何故あのような人と付き合いがあるのか問うたら、
 たまに捨てられた子犬みたいな目で見るから庇護欲が湧くから、であるよう。
 
 ――さっさと捨ててしまえ。 
 その年になってまで妹の世話になり続けているなんて、
 まったく、北海道よりも上にあるロシアというのはよほど未開の地なのですね。
 本当、亜里沙さんの爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいくらいです。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:55:49.33 ID:JoGf4NMo0
 きっとロシアの人にも優秀さが伝わることでしょう、ええ、まったくもって。
 どこかからお前が言うな的な声が聞こえてきましたが、気のせいでしょうか。
 私だって過去とは違いきちんと函館から東京まできちんと来ることは出来ます、
 飛行機だって乗れるのです、妹の付き添いはいらないのです。
 チケットさえ用意していただければ!
 乗るだけの状態にしていただければ私はどこへでも行けるのです、
 あのニートしている人とはまったくもって違うのです、ぷんすか。

「しかし、理亞が望むのであれば少しは彼女も役に立つのでしょう。
 あの子にもちゃんと独り立ちして頂けねばなりませんしね……」
「聖良さん、言われていた東京土産は買ってきました?」
「理亞がいればノルマは簡単にこなせたのです。
 つまり、私一人で何かをさせた歩夢が悪いのです」
「お嬢さん、すごい楽しみにしていましたよ
 今日あたり雷が落ちるんじゃないですか?」 
「……歩夢が悪いんだもん」



 帰宅して早々に仲の良い牛たちに事情を話し匿って貰ったものの、
 いつまで経っても歩夢が来ないので、
 もしかしたら元より怒っていないのでは? お腹も空きましたしね――
 と思って牛舎を脱出するとニッコニコ笑った歩夢が居たので、 
 あまりにも機嫌が良さそうであるから、
 すっかり安心しきってこちらを笑みなど浮かべながら応対すると、

「よく帰ってきたわね聖良、妹さんとはちゃんとお別れできた?」
「ええ、そのために東京に顔を出したんだもの。
 優秀な妹には何のためらいもなく、姉のことなど忘れて――ん?」

 私に対していつもは気が強く、
 ちょっと距離のある感じで交流する彼女にしては珍しく、
 なんだか下手に出たかのような、申し訳なさそうな表情のままに
 こちらの手を握り、しょげたような声で謝ってきました。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:56:22.42 ID:JoGf4NMo0
「東京に行って大好きな妹とお別れするのも辛いのに、
 買い物まで頼んでしまってごめんなさい」

 身体を擦り寄せるようにし、いつになく情熱的なボディータッチに
 きっと寂しくて甘えたくなってしまったのでしょうと思い。
 なんとなく甘い感じのする匂いを鼻腔に感じながら、
 デレデレとした表情など浮かべないように凛々しい態度のままに、

「構いません。
 それにしても商工会がイベントに参加して欲しいと言っていましたね?」
「ええ、でも聖良が乗り気でないなら断ろうと思うの」
「アイドルはもう引退したのです――」

 甘えたがりな妹を持つ姉になったような気分で肩を抱き寄せると、
 思いのほか小さく、華奢な体躯は庇護欲をそそります。
 同じ年で私のことなぞいつまでも妹に甘えているニートみたいな扱いで、
 仕事上でなければ敬意もへったくれもなかった歩夢が――
 まるで親しい恋人にする態度みたいに、愛を求めてばかりの幼子かというくらい、
 このまま唇でも寄せれば何の抵抗もなく――はっ!

「し、失礼。岐阜は暑いですね? 東京とはまるで違います」
「いいのよ聖良。ほら、あの事務所女の子が女の子を好きなパターンが多いじゃない?
 だから私もいいかなって」
「い、いえ、ですが同姓は風当たりが強く、世間の目もあります。
 立派な農場主になるにはスキャンダルは少ないほうが……」
「別に誰でもいいっていうわけじゃないのよ?
 聖良だから良いの、こんなことをするのは聖良だけなのよ?」
「……し、仕方ありませんね。
 あなたがそういうのならば仕方ありません。
 不肖、鹿角聖良、あなたのために何でもすることを――」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
「え?」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:56:57.29 ID:JoGf4NMo0
 私の身体を突き飛ばすように離れた歩夢は、
 ポケットからレコーダーを取り出し、いかように再生したかはわかりませんが、
 先程の――あまりに迂闊な私の台詞を何度も何度も再生するのです。
 ハメられたと思いました! なんてことをするのだと!

「くっ! こんな不埒な行為で私の純情を弄んで……!」
「いやあ、さすがツバサさんだ。本当に落とせるとは思わなかった」
「然るべきところに行きます! 亜里沙さんに訴えれば!」
「ごめんなさい……聖良……冗談よ……
 あなたのことが愛おしいからついつい意地悪をしてしまうの……」

 両手を重ねられ、唇を寄せんばかりに顔を近づけ、
 あと一歩踏み出せば本当にキスなど交わしてしまいそうな――
 いいえ、いけないのです、よっこらせいら!

「は、離しなさい! あなたの魂胆は分かっています!
 自分の意のままに私を操ろうというのでしょう! そうはいきません!」
「ねえ、聖良……いつも独りで戦ってきて、そろそろパートナーが欲しいと思わない?
 寂しい夜も身体を重ねていれば、ほら、暖かい」
「……そ、そうはいかなINNOCENT BIRD!」
「どうしたら信じてもらえるの? このまま服でも脱いで胸を押しつけたら、
 心臓の鼓動がドキドキしているから本気だって分かってもらえる?」
「はしたないことはおやめなさい! そんなことされたら私はCLASH MINDして
 社会からDROPOUTしますよ!?」
「私はじめてなの……優しくしてくれる?」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:57:33.01 ID:JoGf4NMo0
 こ、こういうのが――
 もしや、以前まで理亞がよくプレイしていた成人向けゲームの主人公の心持ち
 据え膳食わぬは女の恥というものなのでしょうか!?
 相手はいかにも好感度100%で、私が押し倒すのを待っている――!
 冷静に考えてみれば私は鹿角聖良なのだから、
 あのニートの人みたいに同姓からやたらモテるも当然かも知れません。
 先程の歩夢の態度はツンデレというものなのでしょう、ええ、そうに決まっています。
 
「わ、分かりました……あなたを信用します……」
「なんでもしてくれる?」
「な、なんでもしますよ! すればいいのでしょう!? 
 どんな恥ずかしいことだってしてみせます! 何でも言ってください!」
「じゃあ、家畜アイドルとして名古屋のステージに立ってウチを宣伝して?」

 ……ん?
 
「家畜アイドル?」
「ええ、ウチの牛や馬の前で歌って踊るの、品評会に参加する子だから
 人前に立っても大丈夫よ、衣装はね白と黒の牛をイメージしたビキニだから」
「は、謀りましたね!? なし! なしです! ――んん〜〜〜〜!?」

 唇と唇がそれなりの時間合わさって、私は思わず昏倒しそうになりました。
 じょ、冗談の範囲にしてはあまりに本気すぎる所業ではありませんか?

「ふふ、今のキスは前払い、帰ってきたらもっと情熱的なことしてみましょう?」
「じょ、情熱的なこと? い、いったいそれは……」
「子どもじゃないんだから分かるでしょう?」
「や、やめなさい! それは結婚前のカップルがする行いです!」
「結婚してもいいよ? 一緒に農場を頑張っていこ?」
「……し、仕方ありませんね、あなたがそこまで言うのであれば
 家畜アイドルを行うのもやぶさかではありません、婚約届を用意して待ってなさい!」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:58:31.24 ID:JoGf4NMo0
 ――この日。
 鹿角聖良は人権を失い、家畜アイドルとして華々しくデビューすることになりました。
 いえ、もう、ミルクちゃんと自身を呼称するべきですね。
 バックダンサーの動物たちも全裸だからだいじょうぶ! 
 という言葉に乗せられ、確かに全部脱いでいるわけではないし――
 なんて考えたミルクちゃんは名古屋のステージに立つことになったのでした。
 笑いたければ笑えと、今も妹と一緒にいるであろうニートの人に言い放ち、
 いかばかりかのリハーサルをこなし、私は完璧な動きで本番を迎える――

「こんな姿を妹に観られれば、本当に立ち直れないかも知れませんね」
「ミルクちゃんはもっとおちゃらけた喋りかたよ」
「もぉー! 理亞ちゃんに観られちゃったら〜☆ 
 嬉しくって泣いちゃいそぉー! ミルクちゃんこまっちゃーう!」
「ふふ、いい調子よミルクちゃん」
 
 片時も離れないと言わんばかりに歩夢は私のマネージメントをしています。
 亜里沙さんのようにすると言っていますが、私から見ても遜色ないのではないでしょうか。
 しかし私の仕事ぶりも完璧ですね、本当にただの家畜のようです。
 歩夢の言うままに動く哀れな家畜、明日には食用肉にでもなっているのかも。
 
「いっけなーい! ついついセンチになって理亞ちゃんの幻覚が見えちゃうぞー☆」

 以前に離別した妹が、いけないものを観たと言わんばかりに表情を曇らせ、
 彼女の隣にいる金髪のニートの人が必死になって肩を揺り動かしているのを見ながら、
 ずいぶんリアルな幻想であると思ったのです、
 理亞の幻想がなまじリアル――これは良いですね、ギャグとして披露しましょう。

「歩夢、斃れても良いですか」
「ダメよ、ここでやめたらハニートラップに引っかかってこんなことをしてるってバラす」
「……きゃは☆ ぅ絵里ちゃーん!」
「穂乃果みたいな声を出さないで!? や、やめて! お願い正気に戻って! 
 理亞ちゃん! ラーのかがみ! ラーのかがみ出して!」
「あぶないみずぎで私は1ターン行動不可能です、絵里先輩」

 願わくば夢オチでこのお話が終わってくれることを、
 ミルクちゃんは思うのです。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 21:03:07.02 ID:JoGf4NMo0
亜里沙ルートの番外編と同じように、
設定だけを流用した訪れない未来である可能性が高いですが。
この話はまだまだ続く予定です。

劇場版まで1ヶ月を切りました(遠い目)
劇場版で廃校をやっぱり回避できました! やった!
ってエンディングになったら次のルートが自分の想定通りに行きます。
廃校回避して笑って終わる話だったら良いのになあ……。

ではまた明日。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/12(水) 21:47:38.31 ID:QwcS3T4EO
まったくこの世界のお姉ちゃんときたら……
ただ牛柄ビキニの姉様がやってると思うと興奮が収まらんぞ
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