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アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙 2スレめ! - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/21(水) 20:43:34.39 ID:dWC6aD2Z0
現在、絢瀬亜里沙ルートの第五話を執筆中です。

↓が1スレめになります。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518804924/

11月22日更新分からこのスレッドを利用し、
多少容量を有している1スレめにはなにか書きます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1542800613
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/21(水) 22:01:40.02 ID:pfLD4FKzO
建て乙です
物語も佳境なところで2スレ目かぁ
別ルートにも期待せざるをえない!
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 01:26:53.84 ID:zYNyRolto
つまらない
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:29:13.73 ID:75DWSiyn0
 南條さんと一緒に入った普段に私が近づくことすらできなそうな超高級ホテルは、
 空を突き抜かんばかりに建物が高くそびえ、踏み出す足が緊張を覚えた。
 秋も深まる中で夜になれば肌寒くなる季節に、
 冷えを感じることもなく、または汗ばむような暑さも覚えることもなく、
 徹底された空調管理とサービスの結果、酔いがどんどんと冷めてきて冷静になる。
 ここに来るまでの車内において、翌日からのイベント内容およびキャラ作りの必要性を説明され、
 すっかりお兄様大好きな妹に変貌した南條さんや、この度の機会を楽しみで仕方がない
 と言わんばかりにそわそわとしている金髪を模した私。
 傍から見ると滑稽極まりないんだけれど、周囲への波状効果は絶大なものがあったらしく、
 ホテルのスタッフや監視役として送り込まれている椎名関連のスパイ(南條さんにバレてる)には、
 ちょっと前まで酒を飲み干してたことは気づかれていない。
 部屋に戻ってもなお演技は続き、今日は睡眠を取るとなった時に南條さんの目つきが鋭くなり、
 誰かいるのかと思って振り返ったら、闇堕ちした東條希みたいな――
 確かに似ても似つかないのだけれど、一部分(オーラのこと、おっぱいじゃない)は
 彼女が希に似ているのか、希がこの人を模しているのか、
 私は判断つかなく、近づくたびに感じる得体の知れない空気――というより、嫌気。
 背中をツーっと指で撫でられているみたいな、えづきを覚えるような気持ち悪さに、
 ボロが出そうな気がして思わず顔を伏してしまった。

「ふふ、そんなに緊張せんといていいのよ?
 ウチには全部見えていたから――そのキャラ作りは」
「あなたは?」
「色欲の悪魔……あ、好色? ヒトの願望や欲望を力にしてる
 ――まあ、そんな、とりあえず人間じゃない程度に記憶してもらえればええんよ」
「絵里さん、まどマギのインキュベーターみたいなものです。
 邪悪極まりない――兄とは波長が合うんでしょうね、下劣さ加減で」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:29:53.39 ID:75DWSiyn0
 南條さんのディスにもキュゥべえさん(仮)はどこ吹く風。
 耳に入っただろうけど、悪魔だと言うから年齢も重ねているであろうし、
 能力は多少衰えているかも知れない、どこまで外見通りの女性かは分からないけれど、
 恐らく精神的にはBBAと呼んでも遜色はないかも知れない、こういうヒトって
 初登場時には余裕を噛ましているけど、いつの間にかただの噛ませ犬になって、
 いつの間にか正義のもとに断罪されていなくなってたりするよね。

「エリー、親友に似ているからと言って、ちょっとディスが激しくない?」
「すみません、私嘘がつけない人間なので」
「心を読まれたことを少しは動揺しよう?」
 
 キュゥさん(仮)はやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
 私はそれを眺めながら、悪魔というのに俗世間に染まっていることに多少なりとも違和感を覚える。
 さして自分の障害にはなるまい、なったとしても多分誰かが助けてくれるはず――
 強気なのか弱気なのか判断がつかないけれど、最初感じた恐怖感はすっかり拭いだされた。
 南條さんが私の前に進み出て、私はひとまず部屋の中の椅子に着席。
 彼女が実はDとかの弟子で、目を離した隙に戦闘が終わってたら残念であるので、
 頑なにも目を離さずに動向を見守る、キャラ作りに疲れたわけではないのよ?

「不穏な動きをしているのをイオリが知ったらどうなるだろうねえ?」
「私もあなたに会えてよかった、これで一人残らず討ち果たせる」
「ん?」
「――あのシスコンがキャラを演じた妹が言うことを信用しないわけがないでしょう?
 そして迂闊にも希さんとつながりがある私の前に姿を現すとか。
 迂闊とか言いようがありません」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:30:45.61 ID:75DWSiyn0
 南條さんの中ではもうすでに目の前の相手は死亡フラグが建っているらしく。
 私はポットの側に置いてあった、緑茶のパックを手に取りお湯を入れた。
 100円以下のどこにでもあるようなインスタントと違って、香りも上品で――うーん、マンダム!
 ひとくち口をつけたら火傷しそうなくらい熱くて、ふうふうとコップに息を吹き入れた。
 キさん(仮)はそんな私たちの態度に頭痛を感じたのか、悪魔も頭が痛くなることがあるのね?
 なんていう私の感想を読んで気分でも悪くなったのか。

「あんまり私に舐めた口を叩かない方が良いわよ?」
「その台詞がすでに死亡フラグ――三下は」
「少しは力を見せつけたほうが良さそうね……まず手始めに」

 建物が揺れ始めた、震度で言えば2くらい。
 確かに欧州では驚かれるかも知れないけれど、日本での暮らしが長い私や、
 純血日本人の南條さんにとっては、またかくらいの認識で。
 怒り心頭に発したことによって何かの超常現象でも引き起こすのかと思いきや、
 ちょっと部屋を揺らしてみました程度の力に、やった本人でさえ首をひねってる。

「哀れですね、今のあなたの力の根源である善子さんの不幸属性は
 もう意味をなさない、力を使えば使うほど――」
「嘘でしょう!? だってアレだけの……恨みや呪い、妬み嫉み……
 彼女を形作っていた、黒澤家の!」
「人は成長をする生き物です、過去のしがらみなど今には何の意味もない
 たとえ、過去に不遇で不幸であっても、今の彼女には関係がない
 人間の力を見誤った時点でもう――あなたにはフラグが建っていたんです」

 そろそろ絢瀬絵里が主役じゃなくて、南條さん主役のスピンオフ物になりそうじゃない?
 彼女は否定するかも知れないけれど、明らかにオーラが一般人を遥かに超えてる輝かしさ。
 二杯目の緑茶に口をつけながら、何パックか持って帰って亜里沙とツバサに飲ませてみようか、
 どうやって持ち帰ろう、そういえばお酒を飲む前に持ち込んだカバンは置いてきてしまった。
 まあいいや、お腹に溜めておいて後日自慢でもしてあげよう。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:31:23.09 ID:75DWSiyn0
「く……覚えてらっしゃい!」
「お帰りはドアからどうぞ」
「ばっはろ〜」

 手を振りながらキ(仮)さんを見送る。
 恐らくもう出会うことはないだろうけれど、寝るまでは覚えてることにする。
 あ、ちなみにばっはろ〜はバイバイとハローを組み合わせた絢瀬絵里の造語。
 どっちかに統一しろというツッコミは受け付けません。



「く、原祖の悪魔が人間なんかに――!」
「テクノロジーを過信して、新しいハイテクに駆逐されるオールドタイプみたいやんな?」

 南條さんにお手洗いに行ってくださいとお願いされたのと、
 ユッキの導きによって、希に認知されないように陰ながら二人の戦いを見守る。
 ――絢瀬絵里の夜はまだまだ続きますが正直眠いです。
 希はボロボロの柔道着を身に着けていたとか、修行の末に超サイヤ人に変貌をしていたとか、
 ついにバストサイズが3桁の大台に乗ったとかそんなことはまったくなく。
 私が眠りこけている間には、仕事そっちのけでキ(仮)を探していたらしく、
 自分の手で必ず成敗すると息巻いていたとか。
 そういうことをされてしまうと非戦闘員の絢瀬絵里は戦闘の解説役にしかなれない。
 
「鞠莉ちゃんのツテで貰った、アガートラーム!」
「それはオーバーキルでしょ!」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:32:20.62 ID:75DWSiyn0
 希がどこからか取り出した(明らかに異空間だった)聖剣に、
 隠れて見守ろうという私の魂胆は塗りつぶされて、ユッキが用意した(異空間から)ハリセンで
 おとぼけ紫おさげをスパーンとぶん殴る。
 あまりに予想外であったのかシリアスをやりたかったのかは不明だけど、
 もうすでに場の空気がギャグに傾いているので、アークインパルスの代わりに
 ボルテッカー! とか叫んでマイク壊しても良さそう。

「エリち! ――久しぶり、よく帰ってきてくれたね」
「あの血まみれの寝そべりぬいぐるみってお手製なの?」
「え、慈愛を込めて微笑んだ女神のんたんはお呼びじゃなかった?」

 いまさらシリアスに軌道修正したところで――
 女神と呼称できるほど、美しく思わず見とれてしまいそうな笑みは一瞬で消え失せ
 キョトンとした表情でおとぼけてみせた。
 敵であるキュゥさん(仮)も、目の前で始められたコントに目を見開いてみているだけだ。
 
「ええと、ごめん、考えてた台詞を言っていい? ベルちゃん」
「ベルちゃん!? いやいや、チョット待って、待って
 いい、私は宿敵。あなたが歪む原因を作った原祖の悪魔にして、欲望と好色を司る
 とんでもない邪悪極まりない存在なの、ベルちゃんはちょっと困るっていうか
 何のためにヤンデレたあなたを絢瀬絵里が見ることになったのか」
「津島善子ちゃんを誑かし、私の両親を死に追い込み、ウチをヤンデレにしたその罪!
 とか言えばよかったの?」
「――あ、うん。AKY(あえて空気を読まない)だったわ」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/22(木) 16:33:17.33 ID:75DWSiyn0
 なんだかなあという空気がホテルの敷地内に流れる中。
 敵意全開で睨み合っていた両名は無事に矛を収め、ほのぼのしたストーリーに軌道修正した。
 あと、さらっと東條家の両親がお亡くなりになってるって知って、私はどう反応すればいいのか。

「絢瀬絵里!! あなた! あなた!」
「ごめんなさいね――もう、私の前で誰かが不幸になるのは嫌なの
 身勝手でも、チートでも、なんでもいいけど、私は平和が好きなの――だから」
「ああ、もうわかったわよ! しばらくは矛を収めてあげるわ! 
 金輪際人間に手を出さないとは誓わないけど、お休みしててあげる!」
「よかったなぁベルちゃん」
「ベルちゃんはやめて」

 その後、南條さんを含めた4名でお酒を酌み交わした。
 悪魔はお酒が強そうなイメージがあったけれど、勝負した結果
 見事に絢瀬絵里が勝利した――その顔を見た東條希が私のことを、

「神にも悪魔にもなれるのかなあ」
 
 と、称したけれど。
 そんなマジンガーZみたいな扱いはやめて欲しい、
 私に光子力エネルギーは流れてない、ロケットパンチも打てない。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 16:37:38.74 ID:75DWSiyn0
シリアスは死にました。

たぶん、今後シリアスに比重が傾くのは問題解消後の
ちかうみの会話だと思うんです――せめてそれまでには体調が戻っていて欲しい。
ではまた明日です!
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 19:41:16.11 ID:vwzpp45CO
ギャグパートで倒される悪役の悲惨さよ…
俺ガイルとかシンフォギアとかテッカマンブレードとか色々波長が合いそうな回だった
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 21:00:36.84 ID:WopXp37A0
新スレ一発目でいきなり中ボスっぽいやつが見事なかませっぷり晒しててワロタ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:25:04.57 ID:Xf21YDu/0
 お酒を酌み交わし急激に仲良くなった結果。
 問題提起をして、その解消のために努力をするという行為がひどくバカバカしいものに感じ。
 もういっその事海外に逃げよう、アメリカンドリームを追いかけてみよう――
 ノリと希望だけで会議した結果、前日に花嫁衣装に身を包み、
 婚約イベントに参加するという目的は果たされることはなかった。
 私は一体何のために南條さん……ではなくメグに拉致られて、見たくない決闘を目撃し、
 結果グダグダでイベントが終了することになったのか?
 それでもなお今回多くの人間を巻き込んで、自分の意のままに世界を改めようとし、
 一部の人達には深い悔恨の意を持たせたことには報いを与えなければならないのだけれど。
 ベルちゃんのように、話せば結構面白い人という可能性は未だに残されているかも知れないけれど――
 幸せいっぱいの亜里沙(ツバサは最近不幸属性を身につけた)や
 復讐に燃えていたメグ(復讐なんかしても自分が損するだけじゃね? と思い始めた)や、
 その他シリアスに頑張ってた人たちも――人生割と、真剣に生きなくてもどうにかなるや肩の力を抜こう。
 でも、亜里沙にはぜひプロデューサー職に戻って貰わないと困る――キャリアウーマンでなくなり、
 ツバサと結ばれてしまって家庭に入って幸福な人妻と化してしまったら――
 なお、今回の婚約イベントの延期はメグの「あにさまおねがぁい(はぁと)」で許されることとなったので、
 本音を言えば延期ではなく中止としたいところではあるけど、そこらへんの感情の機微は
 読み取ってはくれないようである――とても残念なことに。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:25:57.01 ID:Xf21YDu/0
 いっその事みんなで住もう! 貞操の危機を感じたというツバサにより、
 希望者を募ってシェアハウスのような形で一つの大きな家に同居することになってから数ヶ月。
 なんか大事なことを忘れている気がすると家ではメグが首をひねり、
 ベルちゃんがここあちゃんの乙女ゲーのシナリオにだだハマりし(新感覚だったらしい)
 Re Starsの面々も、そろそろ進学か就職活動始めようかな、アイドルで食べていけないし――
 そして私自身も虹ヶ咲学園の講師とか、少なくともコーチングスタッフとしてどこかで拾ってくれないかな?
 でも、せつ菜ちゃんに就職を斡旋してもらうのも、なんかもうアレだな? なんて。 
 過去には毎日のように会っていたμ'sやAqours――スクールアイドルのみんなも、
 そうそう、穂乃果はハリウッドで本当に映画出演のオファーが来たとかで、以前帰国した時に、 
 英会話の腕前が絢瀬絵里(笑)−あやせえりがかっこわらいになる−レベルになっていてしこたま驚いた。
 ディズ○ーランドで遊んでいたばかりじゃなかったんだよ、とは彼女の談だけど、
 なら、メールで送られてくる写真がテーマパークの風景ばかりじゃなくてさぁ……。
 南ことりは10代後半から20代前半をターゲットにしたブランドから、
 子どもを大事にしよう! という思いからキッズ向けに路線変更してなんと大当たり。
 私がつい、子どももいないのに気持ちがわかるの? と問いかけてしまい、
 人間には想像力というものがあってねとコンコンと説明されてしまったのは自分が迂闊だった。
 そりゃそうだ、異世界転生する物語を書いているなろう作家が本当に転生しているわけじゃない。
 海未はスクールアイドル――虹ヶ咲学園での作詞の活動を中心に、多くの高校に歌詞を提供している。
 当人いわく、身体を動かすよりも歌詞を書いている率が高いと笑いながら話してくれた。
 なお、高校生スクールアイドルの面々には無償で作品提供するけど、
 芸能事務所からの依頼は高利貸しもびっくりの金銭を要求することで有名、レートは1文字5000円。
 それでも元が取れるっていうんだからね、なんとも言えないよね……。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:26:30.69 ID:Xf21YDu/0
 凛は最近バラエティー出演方面に舵を取り始めた。
 扱いに関してはにこを彷彿とさせるので、にこりんぱなでデビューでもしたら?
 と、ネタで言ってみたらほんとうに3人でデビューしてしまい、ラジオのパーソナリティを3人で務めているけど、
 なんで衣装がジャージなの? もっといい衣装なかった? ことりは提供するって言ってくれたよ?(子ども向けです)
 花陽はラジオでのパーソナリティとしての職と一緒に海未と一緒に数々の高校を巡り、
 自身の体験談であったり、アドバイスであったり、スクールアイドルを好きになって貰おう活動を始めた。
 おかげで中高生の女の子からは女神みたいな扱いをされていて、μ'sは小泉花陽を中心としたグループだった
 なんて称されることもあるらしい。
 暇だからスタッフの一員として花陽についていったら、悲しいことに元μ'sと言っても信じて貰えなかった。
 ほら、ここにいるの私! と指をさして説明しても現実を見ろみたいな顔をされて終わった、解せない。
 真姫は18禁ゲームの出演を続けながら、コスプレイヤーとしてもよくスタッフブログとかに顔を出している、
 さらには作曲活動も始めて、海未とタッグを組んでスクールアイドルに曲を提供しているけれど、
 その審査は恐ろしく厳しく、曲を貰えば勝ったようなものと評判。
 なお、それを乗り越えることが出来たのは虹ヶ咲学園のスクールアイドルの面々だけど――
 まだメンバーが揃っていないという理由で来年のラブライブの優勝を目指すとか。
 にこはラジオ出演と同時に、姉妹揃っての大学進学を目指し受験勉強に奔走。
 ここあちゃんは仕事が忙しいと断念してしまったけど、ここあちゃんと一緒に有名大学に合格。
 この春から大学生と言ったけど、つい口が滑って高校生と言われても遜色ないわねって言ったら、
 自分の顔を鏡で見てみなさいと真剣に告げられたけど、なんでだろうか。
 そして希。
 シリアスに傾いて自分のキャラを見失ってた――と、反応に困る台詞と一緒に、
 しばらく食っちゃ寝してストレスを解消する! エリちも手伝って!
 という有無も言わさぬお願い(笑)をされてしまい、悪乗りしたツバサ(亜里沙から逃げたかった)と、
 電車に乗りたいというベルちゃん(基本移動はテレポート)と、仕事ばっかしてて観光する暇がなかったメグ、
 そして、彼女の荷物に紛れ込んでついてきた亜里沙(ツバサ逃亡失敗)と5人で日本一周した。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/23(金) 18:27:19.57 ID:Xf21YDu/0
 だいたいどこでも食べて寝て酒を飲み、テンション高く風景を褒め称え、
 有名なスクールアイドルがいる聞けば会いに行き、元A-RISEというと盛り上がる彼女たちなのに、
 元μ'sというと本当かよみたいな顔をするんだけど、そんなに絢瀬絵里って影が薄いの?
 ――気がつけば4月。
 そろそろ働き口を探そうとツバサと笑っていると、
 亜里沙がそろそろ子どもの名前を考えましょうと、楽しかった空気(というかツバサの顔面)が凍り、
 メグがそういえばハニワプロが経営難で――とどうでも良いことのように語り、
 ベルちゃんが希と一緒にダイエットに励む中(悪魔も太るらしい)で、
 けたたましい大きな音と一緒にぶち破られたドアがバタンと床に倒れ――

「無駄な抵抗をするな! 抵抗すれば容赦なく殺す!」

 え、あ? ドッキリ? とキョトンとした表情で顔を見合わせた私たちは――
 自分の問題というのは時間が解決するけれど、
 他人の恨みは積年の恨みとなって解決されることがないと身をもって体験することになる。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/23(金) 18:42:28.53 ID:Xf21YDu/0
ラストエピソード!
――の前に、エリちが触れてくれなかったAqoursやSaintSnowの面々、
虹ヶ咲学園のスクールアイドルのメンバーとかに触れよう!

と、思ったんですが、
Aqours3年生組は悪役の打破に奔走中
2年生組は千歌ちゃんがテレビで出ずっぱりなこと以外は書くことがない
1年生組は善子に髪の毛がシニヨンと一緒に返却されたくらいしかエピソードがない。
SaintSnowの二人は海未ちゃんに顎で使われ(理亞ちゃん歓喜)て、
おかしい、ちかうみの和解エピソードと、ダイかなまりの悪を成敗するシーン、
理亞ちゃんのエリちやツバサを見て自分も本気出すとシリアスに言うシーンは絶対に書こうと思ったのに
機会があればいつかは書ける、多分。

でも、今回更新分のエピソードで一番不遇なのは
昇天フラグが回避されたユッキ(希とベル公の戦闘は相討ちで終わる予定でした)
で、エリちの内面には未だにいるのに触れられなかったことかもしれない。

今日の夜から明日の昼くらいまでゆっくりお休みして、
物語上はグダグダでも、フラグやイベントは回収できるようにがんばります……。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/23(金) 20:34:28.97 ID:8kP7Q84PO
いよいよラストか……今度こそ強敵の予感だ
えりちは相変わらず若々しいままで元μ'sって全然信じてもらえないのね
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:09:50.83 ID:/EnBVSNm0
 私たちを拘束するために用意された部隊は総勢30名。
 相手がどのような想定をして人数を集めたのかは不明だけれど、
 両手を上げて、囚えられた宇宙人みたいな顔(?)をしながら
 ズルズルと歩くのは総勢6名。
 大の男が揃いも揃って襲いかかるには対象がか弱すぎるのではあるまいか?
 なんて感じているのは私だけみたいで。
 古来から様々な災いを招いて来た悪魔(最近太った)や、
 現代に蘇った安倍晴明と評判のスピリチュアルガール(最近太った)とか、
 日常を戦闘モノに変貌させてしまう人外めいた(ひとり人外)人間は両方とも空を見上げながら。
 私(ウチ)って拘束される必要なかったんじゃない? みたいなことを呟いていたけど。
 その点に関しては自分は悪くないし、ワゴン車の乗り心地が思いのほか良くって
 もしかしてこれラブワゴンなんじゃね? って考えてたらユッキに
 絵里姉さん、命の危機です。もう少しシリアスな空気を出しましょう――と忠告された。
 さすがにもうお亡くなりになっている相手に命の心配をされてしまうと、危機感も覚えてしまうよね……。

 連れてこられたのは山奥のコテージのようなところ。
 木製の建物に、リア充がバーベキューでもやっていそうな庭、
 ちょっと日本にはそぐわない――ジェイソンとか、海外映画の殺人鬼が活躍しそうな。
 少なくとも私たちの見た目はか弱い乙女(という年齢でもない)なので、
 殺しあいでも始まってしまったら誰一人生存しそうもない、私は真っ先に死にそうな気がする。
 いかんせん金髪の致死率が高すぎる、カップルとかだとほぼ100%死ぬし。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:11:01.37 ID:/EnBVSNm0
 なお、先ほどからベルちゃんを無線親機、ユッキを無線子機にしてのテレパシーのやり取りをしていて、
 ツバサがビリーズブートキャンプを指導するビリー隊長のマネをするボビー・オロゴンのマネを披露し
 こちらとしては笑いを堪えるのが大変、声は似てないんだけどすごく特徴を捉えている――
 生きて帰ってこれたらぜひともお茶の間の前で披露して欲しい、きっと爆笑の渦が巻き起こる。
 緊張感のない我々に気がついているのかいないのか、テロ組織とかにも通じているという部隊は
 物々しい雰囲気のままに建物の中に入り、銃を突きつけながらこちらを睨みつけながら護送中。
 見た目的には死亡フラグが建っているのに、頭の中はビリー隊長でいっぱい。
 やがて辿り着いたコテージの深奥には、妹にすらその存在を忘れかけられていた(私も忘れてた)
 椎名伊織氏が不機嫌そうな面持ちで座っていた。
 部隊の隊長と思しき筋肉隆々でサングラスを掛けた日本人(おそらく)の男性は、
 ハスキーボイスで(ボビーオロゴンそっくり)作戦の終了を報告した。
 もうすでに拘束されている面々の半数が半分笑っていて、震え始めている――
 ややもすると恐怖で震えて泣き出しているようにも見えるけれど、
 ひとり真似をやり続けているツバサだけはすごくシリアスな表情で椎名伊織を睨みつけていた。
 まさかあいつも頭の中ではビリー隊長やってるとは思うまい、聞いている私だって疑わしい。

「なにか言いたいことはあるか、メグミ」
「どっ、どちらさっ、まっ、でしょうか……」

 せっかくビリー隊長に慣れ始めたのに、今度はもののけ姫の曲を歌う米良美一のマネをする美輪明宏とかいう
 どういう組み合わせだよ! っていうモノマネを披露し始めた東條希によって、ほぼフルメンバーが撃沈。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:11:52.24 ID:/EnBVSNm0
 呼吸困難になるレベルで笑っているメグもつい小ボケを披露してしまったけど、
 かの男性は恐怖で正常な判断ができなくなっていると勘違いした――正直助かった。
 俯瞰的に状況を確認すれば私たちに勝ち目はない、恐らく理亞さん大好きなゲームだったら、
 もう10クリックすると目も当てられないシーンがおっ始まることは確実。
 着ている服はビリビリに破けて、高らかに悲鳴をあげてから殺されるのだろう。
 いや、闇堕ちして他のμ'sの面々の前に現れるとかするのかな? ことりあたりに私は容赦なく殺されそうだけど。
 やめるのです穂乃果! あれはあなたの知っている絵里ではありません! と海未が言った瞬間に
 わかった! って言って、八つ裂き光輪とか発射するね、文字通り八つ裂きになる絢瀬絵里(笑)

「俺に逆らわずにいれば良かったものを――賢く生きなければ家畜のように処理されるだけだと、
 その生命を持って知ることになったのは、ある意味幸福だったかもしれんな」

 冷酷な発言を噛ましているけど、対象のメグは、え、そのマネどうやってやるんですか?
 と、熱心にツバサにモノマネのコツを聞き続けている、どうあがいても生きて帰られると思ってるらしい。
 ――いや、まあ、ここにいる面々の共通認識として命の危険はまったく感じてないんだけど。
 だけども、そんなことを露程にも知らない椎名伊織氏は、
 笑いを堪えていて前を向けない私たちを、恐怖のあまりに涙をこらえている(ツバサも俯いちゃった)とか、
 怯えている表情を見せたくない頑なな態度と認識している模様、そのまま勘違いしていて欲しい。
 
「だが……お前たちが助かる方法がある、聞きたくないか?」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:12:49.07 ID:/EnBVSNm0
 無線親機はもう職場放棄して家に帰りたいと言い始めたし、
 子機のユッキは健気にもテレパシーを広め続けている。
 ここでツバサがとっておきの「エリチカおうちかえる!」を披露し、笑ったユッキが
 私たち以外にもついついテレパシーを送り込んでしまい、廊下の方からグッ! という声が聞こえた。
 「黙れ小僧!」と言った絢瀬絵里のマネをする
 美輪明宏氏のマネをする東條希の破壊力は抜群だった模様、私もちょっと鼻水出そうになった、汚い。

「誰か一人の命を俺に捧げろ! そうすれば寛大な俺はお前らを許してやらんこともないぞ!」

 恐らく椎名氏は困ったように動揺する我々を見たかったものと思われる。
 が、そんな空気を露にも読まない(みんな読んでない)一人の行動によって、
 シーンはやっと動き出すことになる、そろそろものまねショーはやめてほしい、お腹痛い。
 あと、健気なユッキが必死になって手を上げているけど、あなたには捧げる命がない。

「ほう……お前は見ない顔だな――報告にも旅行の際に食べすぎて太ったとあるが
 惨めな女だ! 少しはあの絢瀬絵里を見習え! あいつはお前以上に食べても変化がないぞ!」

 ディスるのか尊敬しているのかどっちかにして欲しい。
 さすがに今の発言は破壊力が大きかったらしく、私たちに銃を突きつけていたシリアスな人たちが
 身体を揺らして笑いを堪えているのが見て取れた、リーダーの人だけ頑張ってるけど、
 恐らくもう人揺らぎしたらぶって行くね、確実にぐはっ、って何もしないのに倒れるね。
 ちなみに私の近くにいる綺羅ツバサも二人以上に食べていたけど
 触れて欲しいみたいな目で羨ましそうに私を見るのはやめて、笑っちゃうから。

「まあ、そんなみすぼらしい外見のまま死にゆくのは哀れだろう――
 そうだな、俺に逆らい続けた絢瀬亜里沙! お前が死ねば他の奴らは解放してやろう」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:13:33.86 ID:/EnBVSNm0
 だったら最初からそう言えよ、というメグの素のディスが各面々に広まり、
 テロ組織に精通(疑わしい)しているという人たちも、たちまち震え始めた、あなた達に罪はない(たぶん)
 しかしながら、空気の読めない(ある意味読んでる)伊織氏は、激情がこみ上げてきたと
 勇猛果敢な兵士を称賛するような目でシリアスな彼らを見ているけど、
 一部の人達は笑って銃口が椎名伊織氏に向いていて、発砲されれば彼に直撃するんだけどだいじょうぶ?
 
「なるほど……私が死ねば許して頂けるんですね?」
「だがその前に、跪け! 命乞いをしろ! 哀れに泣き叫べ! クク……
 当然ながらできるよなあ? 俺に同じことをさせたくらいだからな!」

 黒歴史の白状は絢瀬亜里沙というより、その行為を知らない(私も知らなかった)面々に大きなダメージを与えた。
 ベルちゃんが知らない(伊織氏自身に元から興味がない)のはともかくとして、
 メグ自身も知らなかったことらしく、嘘でしょ? みたいな顔をして私の妹を見てる。
 亜里沙や他のメンツに粛清された時でさえ、必ず帰ってくるとか言ってたくらいだし(迷惑にも本当に帰ってきた)
 プライドの塊みたいな人間を亜里沙が(当時の妹は高校生)跪かせて、命乞いさせて、
 哀れに泣き叫ばせたとか、何、ちょっと親近感抱いちゃうんだけどダメ? 
 私も何度かやったことあるから! あとこの発言をユッキはテレパシーで拡散しなくていいから!
 せっかく空気がシリアスになりかけたのに、ツバサと希がうわぁみたいな顔をして私を見てるから!
 
「分かりました――あの時のあなたのように、哀れに、情けなく、恥ずかしげもなく、
 顔面を泥のついた足で踏まれ、涙を流しながら、雨も降り、気温が低い中で、
 その場で放っておかれ、後日歩夢に助けられたあなたのように!!」
「そうだその通りだ! クク……同じことをさせると思うと、あの時のお前のように
 冷徹極まりない、虫けらを見るような目で見てやろう!」
「彼女にママと言って泣きついて、セクハラかました結果、罪が重くなったところまで再現しましょう――歩夢!」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:14:14.85 ID:/EnBVSNm0
 はーい、という声が、私たちがこの部屋に入るため使用したドアから、
 岐阜に帰って米作りに精を出していたはずの上原……じゃなかった、月島歩夢その人が
 フッツーに家にお邪魔するみたいに入ってきた。
 頭に特大のハテナマークを浮かべながら彼女を見やる面々(伊織氏以外)に、にこやかに手を振りながら
 
「いやいや、熱烈な歓迎ありがとうございます。
 お久しぶりです、椎名伊織さん。あの時に鼻水を胸元につけられた恨みまだ忘れてませんよ」
「何故貴様がここに!」
「安心してください、あなたに恨みを持つ人間は――今ここに勢揃いしていますから」

 ドタドタドタ! と、あらゆる罵声や入れろ入れろ痛い痛い! 様々な声が後ろから聞こえてくる。
 さっきまで私達に銃を構えていた人が揃って、交通整理を始めている。
 変装を解いた面々の中に津島さん(ダイヤちゃん配下)とか、
 スタッフとして紛れ込んでいた鞠莉ちゃん配下のマフィ○のヒトとか、
 よく考えてみればちょっと前に一緒に仕事してた人間が、揃いも揃ってこの場に集結した。

「哀れですね椎名伊織、生憎と私は人徳があるんです。
 こんなにもたくさんの方々が、私たち姉妹!  じゃなかった。
 ええ、ツバサさんと絢瀬亜里沙の結婚を祝福してくれました! ハラショー!」

 おおぉぉぉぉ!!! という声を上げてツバサが頭を抱えている。
 恐らくこのドッキリみたいな仕掛けのことは知っていた様子だけど、
 英玲奈やあんじゅには、復讐譚として物事は解決すると約束されていたらしい。
 裏切り者ォォォ!! と伊織氏よりも悲痛な声を上げた彼女が痛々しい。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:14:58.29 ID:/EnBVSNm0
「ククク……哀れなのは貴様の方だ! 絢瀬亜里沙! 今の俺に付いている人間がどれほどいるか……!
 日本で俺に逆らえる人間なぞ誰もいやしない!」
「なるほど、それなら世界のオハラだったら――ちょっとは逆らってもいいのかしら?」

 窓を突き破って突入した果南ちゃんにお姫様抱っこされて登場するという、
 何だその扱いみたいな感じで世界でも有名な企業の一つにまで成長した(鞠莉ちゃんの手柄)
 オハラグループのご令嬢(会長職みたいなものらしい)小原鞠莉ちゃんが登場。
 なお、窓の近くにいた椎名伊織氏は破片が直撃して痛そう。

「ずいぶん好き勝手に持ち上げられてチヤホヤされていたようですが、
 ベルがすでに自分の手元に無い時点で、暗示は解かれていたって気づかなかったんですか?」
「あいつがいなくなって半年は経つが変化は……」
「無いように見せかけていたんです、もうとっくのとうに私たちに対する悪評は解消されています」

 亜里沙の発言を聞いてもなお疑わしいという顔つきをする彼に対し、
 特大のため息をついた妹はとっておきとばかりに、彼に付き添い、悪事に加担してきた様々な――
 さり気なく私の父親もぐるぐる巻きにされてるんだけど、あの人は何したの? ついでに縛られてない?
 いや。まあ、ちょっと私の気持ちはすっとしたからいいんだけどさ。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/24(土) 22:16:16.36 ID:/EnBVSNm0
「お、おお……ゆ、許してくれ……! 悪気はなかったんだ!」
「知っていますよ、そんなことは。悪事をはたらく際に悪いと思って加担する人なんて
 滅多にいやしません、同情すら覚えますよ」
「情をかけてくれ! 頼む! 俺は騙されていたんだ! あの、好色と欲望を司る悪魔に!
 操られていたんだ! 俺は正気に戻った! 二度とお前たちの前には現れないから!」
「お姉ちゃん、どうしますか?」

 妹がこちらを向いて問いかける。
 声を上げて泣いているツバサの肩をポンポンと優しく叩きながら、
 希と一緒に、亜里沙はいい子だから! 幸せになれるから! と励ましていたので、
 正直会話は聞いていなかったけど、ユッキが補足説明してくれた、いい子!

「ふうん、じゃ、許せばいいんじゃない?」

 え? みたいな目をして亜里沙以外の人たちが視線を向けた、
 ぐるぐる巻きにされて縛り付けられている悪人の方々でさえ、嘘だろみたいな顔をしている。
 妹だけはしょうがないなあみたいな顔をして――

「さすがだ! さすが絢瀬絵里は違う! どのような悪人でも見逃す!
 クハハハハ! これで俺は無罪放免ということだな!」
「そうですね――ですが、あいにく――

 姉に発言権はないので――」

 分かってたよド畜生!!!! どうせオチに使われるってことくらい!!!
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 22:28:56.48 ID:/EnBVSNm0
展開的には変わらないのですが、
シリアスをすぐに打ち切りました。

シリアスに偏れなかったのはひとえに作者の力不足です。
申し訳ないです。

明日からエピローグに入り亜里沙ルートは完結となります。
エピローグは書くことだけ決めていて、分量はいかほどになるかは分かりませんが。
ツバありの結婚式は出ません。
一回すでに押し倒していて、お互いに満更でもないという設定がありますが、
披露されることはないと思います。そういうのは海未ちゃんルートでやる(予定)

展開的にやっぱりグダグダになったので、読んでくださいとはとても言えませんが
頑張ります……。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 00:04:30.49 ID:nN5LPJxWO
うーん、悪役にしても哀れすぎな最期
同情は…しなくてもいいな
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 02:02:48.88 ID:hBUeL7pHO
周囲が必死で笑いを堪える中イキり続ける御曹子()とかなかなかギャグセン高い
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 04:20:05.46 ID:x+iuWkdvo
絵里ちゃんはCV北都南系ヒロインだよねとこのss読んでてなんとなく思った(唐突)
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:40:37.11 ID:j5Kms53n0
 ラスボス(笑)の息がかかっていた社長を中心とした経営陣が揃って放逐され、
 かと言って現場上がりの人間で、会社の運営や従業員(主にアイドル)のリーディングに
 向いている人間は他の事務所で仕事をしてしたため――
 業績の傾いたハニワプロはその歴史を終了することにあいなった。
 所属していた芸能人であるとか会社のスタッフは他の事務所に移ったり、
 別の職業に就いたり、手放しで大団円とは言えないけれど一通りの決着はついた。
 一概に旧経営陣の人間が悪いとも言えないし、私たちが善だったともはっきりとは言えないけれど、
 それでも自分たちは前を向いて歩いていかなければいけない、生きている限り。 

 Re Starsの面々も芸能活動を終了したり、他の職業に就くという人間がいた。
 私もそのひとりとして数えられたかったけれど、あいにくそう上手くは行かないらしい。
 アイドルとして活動を終わらせたのは朝日ちゃんで、
 自分であんまり能力は高くないんですけど、かといってやりたいこともできることもないんですよねえ、
 と相談され、今まで頑張ってきたからのんびりしてからしたいことを探せばとアドバイスを送ったら、
 もうちょっと具体的にお願いしますとダメ出しをされひねり出した答えが、
 子どもの頃にやりたかったことをすればいいのでは? だった。
 この答えは彼女にとって目からウロコだったらしく、目を輝かせながらさすがは腐ってもエリーチカですね、
 と、ディスってんのか、褒め称えているのか判断に困る答えを頂いた。
 朝日ちゃんと同様にアイドルとしての自分を終わらせたのは津島善子ちゃんだった。
 もともと、Aqoursを復活させたい、高海さんに戻ってきて欲しいという目的でアイドルを始めた彼女は、
 その目的は達成できたとして芸能活動に終止符を打つことにしたみたい。
 社会人として仕事が出来て、かつ優秀だった過去を活かして花丸ちゃんの芸能事務所に潜り込み、
 今は多くのアイドルたちや花丸ちゃんから仕事を任せられていて、あんたは先輩でしょ! と
 よしまるコンビが漫才する姿が芸能関係者に評判――でも、本当に花丸ちゃんは仕事ができない。
 統堂朱音ちゃんは英玲奈の希望や、真姫のアドバイスに従って高校卒業後には大学に進学し、
 芸能活動は一時休養することになった――ベルちゃんの協力でユッキとも再会を果たし、
 高飛車でワガママな性格も改められ素直でいい子に変貌したけれど、
 落ち着いた彼女は英玲奈の姉にしか見えない。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:41:23.90 ID:j5Kms53n0
 迂闊な判断して困っている姉を朱音ちゃんが嗜めていたりアドバイスを送っているけれど、
 10も年上の姉を嗜める妹というのがどういった構図に見えるのか、
 嬉しそうな顔をして妹がしっかりした、素晴らしいと褒め称える英玲奈に分かって頂きたい。
 エヴァリーナちゃんことリリーちゃんはユッキとの再会を果たしたのち、
 自分にはやることがあるので、と説明していずこかへとふらりと消えてしまった。
 超常現象めいた不思議な力で皆の記憶から存在自体が抹消されたのか、
 彼女のことを覚えているのは私とユッキだけで、Re Starsも最初から4人グループとなっていたし、
 妹やツバサに彼女のことを話すと、不憫な人見る目で妄想は大概にして欲しいと言われてしまう。
 たまに私の枕元に置かれている手紙には、身体を大事に、そして友達と仲良くと言った旨が書かれていて、
 未来を予測するかのような内容が含まれていて――。

 桜内梨子ちゃんが始めたお店にたまに行くと、
 だいたい元μ'sとか、元Aqoursの面々が働いていたりお酒を飲んだりしている。
 出会う確率が高いのは真姫だけど、なんでも私が来ることを事前に察知して真姫を呼んでいるらしく、
 七面倒臭いお嬢様のお世話は私の仕事だと認識している様子、どこが地味なタイプなのか問いかけたい。
 渡辺曜ちゃんはことりのパートナーとして、最初は支えられながら店長職なり仕事をこなしてきたけど、
 いつの間にかブランドのブレーンとして活躍を始めた。
 思いの外に地頭が良かったみたいとは彼女の談だけど、器用で優秀だった彼女が
 いつの間にかことりを蹴り落とさないことを祈りたい、いや、仮に蹴落とされてもことりはたくましく生きるだろうけれど。
 ダイヤちゃんは体面上の理由で結婚式を開き、私やツバサも出席したけれど、
 Aqoursとして一緒に活動していた面々で出席したのは妹のルビィちゃんだけで、
 何故なのか問いかけたら自分なりのけじめだと語ってくれた。
 箝口令が敷かれていて、ルビィちゃんや私も本当に口を滑らせなかったんだけれど、
 果南ちゃんと鞠莉ちゃんには後日に式で渡せなかったからとご祝儀袋を頂いたらしく、
 私はずいぶん疑われてしまった――来るたびに胸を揉んで帰るのはそういった理由らしい、改めていただきたい。
 果南ちゃんと鞠莉ちゃんの二人は休養ののちに世界中を飛び回り、
 オハラグループがいつの間にかにAmaz○nとかGo○gleとかと同列の世界的な企業へと成長したけれど、
 彼女たちの経営が優秀だったからだと思いたい。
 ゲームやってるだけでいいからとベルちゃんを連れているからではないのだ、たぶん。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:41:58.33 ID:j5Kms53n0
 椎名伊織の策略に巻き込まれた高海さんは芸能活動を続けている。
 以前もラブライブで優勝することになった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(長い)のインタビューをしていて、
 理想のスクールアイドルは誰ですか? と優木せつ菜ちゃんに逆質問され、穂乃果の名前を出すかと思いきや、
 海未のことを語っていた。
 二人はひと悶着あったらしく、その現場にいた理亞さんがトラウマになるレベルで恐怖を感じたとかで
 海未が言うには分かって貰えないので言葉で本気出しただけだそうだけど、 
 作詞した曲が売れたCDシングルの数がそろそろギネスに載ることも考慮しなければいけないとネタにされる彼女が、
 言葉で本気出したらどうなるのか想像に難くない、理亞さんの気持ちもよく分かる。
 そうそう、聖良さんはそんな高海さんのサポーターとして、自身の芸能活動と並行して活動中。
 ただ、仕事でつまらないものですが、と渡してくるのが「岐阜の特別品 歩く夢」というお米。
 歩夢ちゃんを未だに操っている亜里沙の意のままに聖良さんも動いているらしく、
 そろそろ独り立ちして貰いたい、無理かな……。

 アメリカで活動している穂乃果は日本ではまったくニュースにならないけど、
 地元ではかなり評判のアイドル(アメリカでは高坂穂乃果を指すらしい)として、映画やテレビに出演を重ねている。
 ディーン・フジオカさんみたいに逆輸入アイドルとしてデビューしちゃおうかなーと冗談めかしてLINEを送ってきて、
 それを目撃した雪穂ちゃんが目を吊り上げて怒り散らしたのを絢瀬姉妹が止める羽目になった。
 実家のために経営の勉強や穂むらのサポートにあたっていた雪穂ちゃんは、
 高坂家のご両親の説得で親友関係にある亜里沙が立ち上げた……いや、まあ、表に立って起業したことになっているのは
 メグなんだけど、実質亜里沙の事務所みたいなものだから、姉は今も発言権がないから。
 それはともかく芸能事務所「ネームレス」のエグゼクティブアドバイザーとして活動中。
 穂むらは店を閉めることとなり、最後の日には姉妹揃って接客をする姿が周囲の涙を誘った。 
 この際のエピソードが矢澤ここあちゃんの一般文芸のデビュー作として披露され、
 私やツバサも映画(発売された時点で決まっていた)に出演することになっているけれど、
 何役なのかは聞いていない、当人として出るんじゃないかと言い合っているけれど詳細は伏せられている。
 なお、主演の高坂姉妹の片割れ雪穂ちゃんを演じるのは、なんだか知らないけれど本気だすと言って
 そのポテンシャルを発揮し始めた鹿角理亞さんが務める。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:42:39.17 ID:j5Kms53n0
 当初ルビィちゃんと一緒に芸能活動を再開した彼女が、どういう経緯で独り立ちし、
 大好きだった聖良姉さまや、亜里沙のアドバイスすら借りずに成長を果たしたのかは知る由もないけれど、
 かなりストイックに活動しているとかで、なんとエロゲーもプレイしていないとか。
 また聞きの情報では、余暇を悠々と過ごしている時間はないと休日の設定すら断ったみたいで
 さすがに身体を壊すのでやめて欲しいと、私以外の人間がフォローに回ったとか。
 私も心配になって顔を見せたかったけれど、丁寧な文字で書かれた直筆の手紙で、
 いつか成長した自分と会って欲しいとやんわりと断られてしまった。
 
「絵里さんはいつだって罪作りです」

 手紙を渡してくれたのは他ならぬルビィちゃんだったけれど。
 その際に、実は私のことが苦手だったことを吐露して、今はって尋ねたら
 尊敬している気持ちと嫌いだっていう気持ちが同居していると説明してくれた。
 複雑な感情を抱かれるいきさつは私には分からないけれど、
 誰も彼もから好意を寄せられることは、私には過ぎたモノであるから文句が言えるはずもない。
 はっきりと言ってしまえば、私の中ではルビィちゃんの好感度はダイヤちゃんよりも圧倒的に高い、
 常々黒澤姉妹の二人には伝わるように言っているんだけど、逆に姉の方からのアプローチが強くなった。
 引けば引くほど追いかけたくなるらしく、選択肢を誤ったのではないかと後悔しつつある。

 そして私――の前に。
 今日は久しぶりのオフなので、ちょっとのんびりしたいなー
 何をしようかなー! ちらっちら! と、誰も遊ぶ相手がいないアピールを事務所でしてたら、
 同じくオフ(コンビで活動しているから当然)のツバサが、仕方ないわねぇみたいな顔をして

「飲みに」
「あ、ツバサさん!」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:43:19.69 ID:j5Kms53n0
 先日まで事務所所属のアイドルの仕事のブッキングに励み、
 社長(仮)のメグと一緒に北海道まで遠征していたはずの妹が、
 何食わぬ顔をして疲れ切った表情をした社長(笑)と一緒に事務所に現れた。
 最近の深夜バスというのは優秀ですね、ほぼ定刻通りに都内に到着しますと
 聞かれてもいない感想を漏らし、ツバサはズルズルと亜里沙に引きずられて行った。
 なにか口にしようとするとユッキがダメです! と止めるので賢明な私はノーコメントを貫いた。
 次の仕事が妹たちの結婚式でないことを祈りたい。

「絵里さん、暇なら仕事しませんか」
「……あれ、オフって聞いたんだけどな、おかしいな」
「奇遇ですね。私は今10何連勤の途中です」

 芸能事務所は労働者じゃないから労働基準法は適応されない――!
 アイドルみたいな活動をしている傍ら、メグにはパシリに使われ、
 プロデューサーの亜里沙にも顎で使われ、雪穂ちゃんにも手下として扱われ、
 ツバサには部下として認識され、事務所の後輩には自分をオフにしたい時の代打要員の私が、
 一番偉い人に逆らえるはずもなく。

 過去に理亞さんとお茶して以来行っていない、エトワールにもほど近いクローシェは
 相も変わらず人で溢れていた。
 ここでネームレスに引っ張り込みたいらしい子たちをスカウティングするとかで、
 失敗したら分かってますね? という脅迫も手伝って微妙に私は緊張をしていた。
 私とは顔見知りの二人だけれど、
 どうせなら同じグループにいた優木せつ菜ちゃんをスカウトすればいいのに
 と言ったら、余計なことを言って話が頓挫しないことを祈ると言われちゃった。

「ええと、確か……一番奥の席に」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:44:01.33 ID:j5Kms53n0
 店内に入り忙しそうに働いている従業員さんを横目で見ながら、
 相席しているのにひとっつも目を合わせない、微妙過ぎる距離感を保っている二人を見つけた。
 虹ヶ咲学園にいた頃から同じ年なのに基本的に相容れない二人は、
 卒業後数年経っても似たような関係だったらしく、私が近づいても自分の世界に没頭し
 スカウトをしに来ているはずの私がスルーされる事態に泣きそうになったけれど。

「ええと、桜坂しずくさん、中須かすみさん。おはようございます、絢瀬絵里です」
「え、今昼ですけど」
「かすかす、知らないんですか? 業界での挨拶は丁寧語のおはようございますを使うのが普通なんですよ?」

 来て早々ディスりあいが始まる。
 お互いに違う方向を見ながら罵り合いが始まり、お店の人から騒がしいのでなんとかしろ
 みたいな目で見られたのでまあまあ、となだめて、とりあえず落ち着いて二人両並びで席についてもらった。
 窓際がいい、廊下側がいいで喧嘩することになったけど、デザートを一品奢るの言葉で静かになってもらう。

「まず、中須かすみさん。ネームレスではあなたのアイドルとしての資質を高く評価しています」
「優木せつ菜よりもですか」
「当然です」

 これは紛れもなく本当。
 完璧で近づきがたい印象すらする優木せつ菜ちゃんと違って、
 親しみを込めた同じ目線で応援できるアイドルとして彼女は高く評価されている。
 もう少しおべっかを使うなら、矢澤にこや栗原朝日ちゃんも行けるんじゃないかみたいなことを言っているので
 いざとなれば沢山の人の評価の声で押すつもりだ。
 
「次に桜坂しずくさん。ネームレスで推す女優枠一号としてあなたには期待をかけています」
「優木せつ菜さんよりもですか」
「はい」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:44:50.29 ID:j5Kms53n0
 スクールアイドルとして過去に前例がないレベルで評価されている優木せつ菜ちゃんは、
 高校卒業後に芸能界へのスカウトを全て断り、今は勉学に励んでいるらしい。
 しかしながら、彼女の押し倒された回数校内最多というのはまだ頷けるんだけど、
 胸ぐらをつかみあげられた回数校内最多、ラッキースケベ率校内最多という評価はなんなんだ。
 ええと、演技力でも類稀なる才能を発揮したせつ菜ちゃんではあるけれど、
 いかんせんお高く止まって見えるので高級感溢れる彼女はお呼びではないらしい、
 事務所で受付とかお茶汲みでもやってくれれば癒やされると主張したら、
 じゃあお前が囲ってろみたいな目でみんなから見られたので渋々意見は取り下げた。

「桜坂さんが校内で披露したロミオとジュリエットはとても素晴らしかったです。
 私がやったときとは雲泥の差でした」
「演技ですか?」
「いいえ、人に与える印象が。共演した優木せつ菜さんも上手でしたが、
 桜坂さんのほうが断然輝いていましたし」

 ツバサと一緒に見に行った際には、ロミオ役が桜坂さん、ジュリエット役がせつ菜ちゃんで。
 舞台を見上げながら、え、逆じゃないの? みたいなことを漏らしたツバサに、
 適役じゃないと言ったら、あなたにはそう見えるのねと特大のため息を吐かれてしまった。

「こうしてお二人を同時にスカウトしに来ましたが、コンビとして組んで頂く必要はありません」
「聞きたいんですが、仮に私がアイドルではなく女優としてもやりたいと言えば、対応してくれるんですか?」
「ネームレスでは一番発言力があるのは事務所に所属する芸能人です」

 私? 口を開くとだいたい静かにしてって言われるけど?

「かすかすが女優として成功するなんてありえないです、私がアイドルをやったほうがまだまし」
「優木せつ菜を背負投げして放り投げた挙げ句、膝蹴りを腹に入れたあなたがアイドル? 寝言は寝て言って」
「一週間に三回回し蹴りを背中に入れていたあなたが女優とかありえません、プロレスラーに転向してください」
「このフラれんぼ!」
「あなただって同じでしょう!」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 08:46:12.01 ID:j5Kms53n0
 今度ばかりはなかなか静かになってもらうのに時間がかかってしまったので、
 頭痛を感じながら、何か食べたいものとか欲しいものはありますか? と問いかけたら
 二人同時して高級焼肉! といい笑顔で言って
 よもや私はからかわれているのでは無いかと疑問を浮かべ始めてしまったけれど。
 ともあれ、私の財布は軽くなってしまいそうだけれど、スカウトには無事成功したものであるらしい。
 今度事務所に顔を出してくれることを約束してくれた両名とお別れし――

「ん?」

 ぐにゃり。
 目の前の風景がねじ曲がる。
 粘土を手で工作するみたいに視界がぐにゃぐにゃになり、
 最近仕事しすぎだからちょっと疲れてるのかも、エヴァちゃんにも身体に気をつけるように言われていたし。
 どのみち、今度目を覚ます時には病院で点滴でも打って貰ってるかな――?

「絵里お姉さん、安心してください。次は――私もいますから」

〜絢瀬亜里沙ルート Fin(?)〜



 =鹿角理亞ルートが選択されました=
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 08:48:03.36 ID:j5Kms53n0
思わせぶりなラストではありますが、
この作品はまだまだ続きます。

お付き合い頂ければ幸いです。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 09:15:54.72 ID:lb0lx5m90

とりあえずμ’sとAqoursが一応の和解をして良かった
この終わり方、トゥルールートがありそうだ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 11:04:24.84 ID:v1J+1vRZO
亜里沙ルート完結おつおつ
みんな収まるところに収まった感じだね
次は理亞ルートなのか、こっちも期待して待ってる
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 12:39:38.27 ID:x+iuWkdv0
亜里沙ルートなのにツバありエンドという新種のNTR感が斬新だった
他ルートも怖いけど気になるから読んじゃうわ
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:43:47.58 ID:j5Kms53n0
 季節は春。
 ようやく最近は暖かくなったかな? と思いつつ、
 夜になれば薄着でいると肌寒いので、
 風邪など引かないように一枚多く寝具を羽織ったら、
 あまりに寝苦しくて妙な夢を見てしまった。
 暗い暗い道の先に自分を待っている女の子がいる。
 ”小学校高学年”くらいの西園寺雪姫と名乗る少女が、こっちこっちとしきりに呼びかけてくる。
 足が竦みそうなほど暗い道をおっかなおっかな歩き、辿り着いた場所はひとつの光。
 なぜだか私はその先に行くのが怖くて、身体が粟立つような恐怖を感じて思わず前に進むのを躊躇ってしまったら。
 今は一緒にいるからと春の陽射しのような温かい笑みを浮かべながら、 
 私の気持ちをすっと安心させて、怖じ気ついていた足を前へ前へと一歩ずつ進ませた。
 なぜだか雪姫がもっと小さい手をしていたような気がして首を傾げたけれど、
 だんだんと自分の意識は朝の訪れと一緒に覚醒していく――
 どのみち、たかが夢なのだ。
 これからの日々は、亜里沙の頼みでハニワプロの落ちこぼれアイドルの面倒を観る――
 エトワールという場所の管理人を務める自分を想像し、なんだか懐かしい気がして、
 μ'sの面々に世話を焼いていた頃を思い出すからかな? と頭によぎったけれど、
 考え過ぎは良くないよね、と思い直して私はまぶたを開いた。

「ああ、変な夢を見たなあ……」

 独り言を呟いた私は、
 やれやれ誰もいないのに寂しい寂しいと思いながら伸びをした。
 朝陽が昇り始めて少し時間が経った春の日。
 以前までは起床するのにためらってしまうほど暗い時間だったけれど、
 暖かくなるにつれてベッドから抜け出すのが早くなってきた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:44:24.40 ID:j5Kms53n0
 慌てて掛け布団の中で電灯のスイッチを探さなくてもいい季節になり、
 私としてもスッキリ、亜里沙にとっても余計な電気代を食わずにスッキリ。
 そんな時、どこからかおはようございますという声が聞こえてきて、
 妹とは違う声がしたけれど来客でもあったかな? なんて思考して振り返ると、
 全体的に薄い色調をした先ほど出会った女の子が、ふわふわふわふわと浮かびながら、
 にこやかに挨拶をして、ああ、まだ夢の中にいるのかと思った。

 私にしか見えない精霊のようなものと説明してくれた雪姫ちゃんは、
 なんでも迂闊な私をサポートしてくれるらしい。
 確かに油断大敵とか、百戦負け続きという言葉がよく似合う私にとっては、
 これ以上にない強い味方ではあるけれど。
 いざとなれば身体を乗っ取りますのでと説明されたところで、安心していいのか嘆いていいのか。
 彼女は説明もそこそこに本日のタイムスケジュールを披露してくれる。
 起床して朝食を作り、妹と一緒にそれを食べたら私はこのアパートからお別れだ。
 そのために中古屋や清掃業者から、絢瀬絵里の痕跡をこの場所から消すために苦労した。
 どうしても処理したくなかったパソコンだけはツバサに預かって貰ったけれど、
 さっさと引き取りに来ないと承知しないと脅かされてる。
 前日に作ったボルシチをイタリアンに変化させ、
 朝から胃がもたれそうな料理を作ってしまったなと、自己判断していると。
 眠たげな亜里沙がこちらに顔を出した。
 いつもシャッキリしていて、起床から5秒でキャリアウーマン化する妹にしては珍しい。
 眠りでも浅かったのか、それとも仕事が忙しいものであったのか。
 そういえば北海道から帰ってきたとか言ってたような……そうでなかったような?

「おはようお姉ちゃん」
「……ん?」

 昔懐かしい言葉の響きを聞いた気がした。
 甘えたがりだった妹の過去を彷彿とさせるほわほわとした口調と声色に、
 まだ寝ぼけているのと笑いながら問いかけたら、

「え? あ……ん? そういえばなんでわたしはこんな口調で?」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:45:24.40 ID:j5Kms53n0
 前日までの”姉なんて見下すモノ”くらいに考えていそうな冷徹ぶりとは打ってかわり、
 醸し出すオーラさえもプリティーな感じに変貌しキャリアウーマン(笑)状態。 
 さんざっぱら首を捻りながら、必死に冷たい声を出そうと努力した挙げ句、
 お姉ちゃんの朝ごはんが待ち遠しいです! と誤魔化されてしまい、
 朝から疲労感でいっぱいになった私も深く追求することなく姉妹の朝食は続く。

「そういえばお姉ちゃん、ハニワプロの所属のアイドルの管理のことだけど」

 過去に戻ったかのような口調のままで話し出す妹。
 今まで表情を変えることすら珍しかった彼女が、なぜかニッコニコ笑いながら美味しい美味しいと
 連呼しながら食事を重ね、昼食も作ってあるからと説明するとハラショーと言いながら喜んでくれた。
 違和感は多少なりとも感じるんだけれども、昨日までの妹と同時に
 記憶の中にそんな妹をついこの前見たような気がしたから、そこまで変とは思わない。

「でもね、だいじょうぶ。私も手伝うし、気軽にやってくれれば平気です」
「手伝う? あなた昼間は働いているんでしょう?」
「え? あれ? 知らなかったっけ? 私はハニワプロで働いてるって」

 姉妹で顔を見つめ合い、二人の記憶の出来に差異があるのは仕方がないとしても、
 あたかもその事実を知っていたかのように話されてしまうと、
 あれ? そうだったかも? なんて思って深くは考えない。
 ただ亜里沙の方は難しい表情をしながら、自分自身にあるまじき記憶がある気がします、
 と、よく分からない発言と怪訝そうな表情をしながら首を傾げている。
 雪姫ちゃんに心のうちに問いかけてみると、恐らくそれは記憶の混濁があるものと教えてくれた。
 何の記憶? って問いかけてみると、過去に体験した行為が世界を変遷しても
 何となくそうだった程度で残っているのかも知れないと話してくれた。
 世界の変遷とか、過去の記憶とか、まるで中学二年生時の朝日ちゃんの妄想みたい――
 ん? 朝日ちゃん? 朝日ちゃんって誰? 記憶を掘り起こしてみても、
 そんな人物と過去に出会ったかもしれないくらいしか思い出せないのに、
 何故仲の良い友人であったかのように振り返ってしまったんだろう?
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:46:25.30 ID:j5Kms53n0
「うーん?」

 疑問は解消されなかったけれども、時間は過ぎていってしまうので。
 私も亜里沙も深く考えないことに決め、それはそのようなものなんだろう程度で置いておくことにした。
 部屋に戻って身だしなみを整えて、相手に失礼のないようにしないとと気合を入れ、
 雪姫ちゃんのアドバイスのもと、原始人レベルだった私のファッションセンスは
 雑誌をコピーすることしかできなかった高校時代まで改められた。
 妹にも、すごくまともに綺麗な格好してます! と褒められているのか
 ディスられてしまっているのか分からない励ましを受け、アパートから退室した。
 姉妹揃って前日まで住んでいたというのに、なぜか懐かしい気がする建物を観て、
 今生の別れであるような切ない気持ちをお互いに抱えながら、
 なんだかもう帰ってこない気がすると亜里沙が呟き、
 そんなわけがないでしょう、と姉である私が嗜めた。
 しっかりしなさいと妹の背中を押す自分というものを久しく経験してなかった気がして、
 きっとループモノの物語の主人公ってこんな気持ちなんだなと、
 思いの外しっくり来る感想を抱いて最寄り駅へと到着した。

「じゃあ私は仕事に行くね?」
「ええ、気をつけて。なんだかお互い変みたいだから。事故とかに遭わないように」
「そうだね、重々承知しておきます」 

 電車に揺られて十数分ほど。
 都心にほど近いハニワプロから徒歩で30分ほどにあるエトワールに行く前に、
 鹿角理亞さんが迎えに来るというのでコンビニで飲み物でも買おうかな? 
 でもちょっと口に直接つけて飲むのはみっともないかな? なんて逡巡していると、
 周囲が騒がしく、人の声で溢れ始めたのでなんだろうと思って振り返ると、
 とんでもない美少女が私に向かって近づいてくる。
 髪質はストレートで、目つきは少々鋭いけれど気が強そうなのかな? で片付けられるレベル。
 エトワールから私を迎えに来ると伝えられたのは、たしか鹿角理亞さんだったはずで、
 似ても似つかないと言っては彼女にも、近づいてくる方にも失礼かもしれないけれど、
 余計な記憶がこびりついているのに、その中に入っていない美貌の女性に、
 ちょっとした警戒感を抱いてしまうのは致し方ないことかも知れない。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:47:08.81 ID:j5Kms53n0
「絵里先輩」

 にこやかに私に呼びかけて来て、明らかに相手は自分のことを知っていると理解した。
 写真やまた聞きとかで、私をμ'sの絢瀬絵里と知っている人間はいたとしても、
 外に出れば悲しいほどにスルーされてしまうので最近は自己主張をすることもやめたけれど。
 キョトンとして顔をしげしげと覗き込んでしまったことに気がついて、
 咳払いを一つしながら記憶にない人だと素直に認めて謝罪しようとすると。

「――ああ、こうすれば分かります?」

 目の前の女性は頭の左右に髪の毛でふたつくくりを作り出し、
 世の中に対して敵意満載の飢えた狼みたいな釣り上がった目をして見せて、
 ようやくそこで、彼女が鹿角理亞さんであると気がついた。
 つい先日まで顔を合わせていた彼女とは髪質も、目つきも、
 背筋を伸ばして凛としているせいか身長さえも変化したように見える。
 何か悪いものにでも憑かれてしまったか、新作のエロゲーに魅力的なヒロインでもいたのか、
 別人だと呼称しても良いほどに変化してしまった。
 外見をちょっと取り繕って見せたとか、今まで見ていた彼女が実は双子の妹であったとか、
 奇想天外な結論をしなければいけないほどに――

 喫茶店クローシェに赴いた私たちは、
 お互いに正対するようにソファーに座ってメニューを注文した。
 陽射しが眩しいとポツリと呟き、寝不足だからいけないと結論づけた理亞さんMk-IIは
 紅茶とスイーツのセットという女子力の高そうなメニューを頼み、
 予想外の注文に慌てた私は同じものでいいです、と怪訝そうな表情をする店員さんの視線をスルーし、
 私は最初からこれを食べたかったんですが何か? と表情を作ってみせた。
 今まで真姫に指導されたくらいしか演技の経験がなかった自分が、
 しっくりと来るほどに表情を作れたので首を傾げながら、
 困ったように視線を這わせる理亞さんと顔を突き合わせた。

「そうですね……困りました。確かに、先日までの鹿角理亞とは
 別人だと判断されても仕方がないとは思います」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/25(日) 15:48:20.54 ID:j5Kms53n0
 徹夜でプレイしていたとある新作ゲーム(18禁)の途中で寝落ちしてしまい、
 ふと気がついて、私を迎えに行かなければと思い至り――
 あまりに破廉恥な場面をパソコンが映していて思わず甲高く悲鳴を上げ、
 驚いてやって来た面々が鹿角理亞さんの変貌ぶりに同じレベルで悲鳴を上げてしまい、
 朝から結構な騒ぎになったみたいで、ただまあ気持ちはよく分かる。
 髪質も気がついてたらサラサラの真っ直ぐになっているとか、
 表情も気が強そうな感じを作らないと柔和な印象を改められないとか、
 先日までの口調を試してみても、おとぼけた感じになって似つかないとか。
 なぜこんなことにと問いかけてみても、誰一人返答することなど出来ず。
 仕方がないのでお風呂に入り、身綺麗にして、部屋に置かれていたものが女子力が低すぎたので
 同居人のエヴァリーナちゃんに化粧水やら美容液やらを借り、
 散々自室の掃除を重ねてからここまでやって来たとのこと。
 以前までならば身の回りの整理整頓すら出来なかった面々が手を貸し、
 あまりにも優秀過ぎる自分たちに頭に特大のハテナマークを浮かべながら、
 ゴミ袋複数と中古品行きの物品を仕分けし、
 あとの処理を津島善子ちゃんと栗原朝日ちゃんの二人に任せて出発。

「なにか変ですが……どうあれ、敬意を払って絵里先輩を迎えるとみんな張り切っています。
 ただ以前までなら、そういう気の使い方が逆効果になっているはずなのに」
 
 深刻そうな悩みでも抱えて疲れ切ってしまったと言わんばかりのため息が耳に届き、
 掛ける言葉も見当たらなかった私は、気分を改めて食べましょうとフォークを持ち上げて微笑む。
 何はともあれ改善策は見当たらないので、時が流れるままに状況に慣れるしかない。
 その行為を世間一般では思考停止と呼称することは知っていても、
 次から次へと不可解な状況が続いたので、そろそろ脳内がパンクしてしまいそう。
 先ほど朝食を採ったばかりだと言うのにカロリーをたくさん摂取してしまい、
 1日に必要なカロリーの3分の2を突破していますという雪姫ちゃんの忠告を、
 どこか遠い場所から聞こえてくる声のように感じながらひたすらスイーツを食べた。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 15:51:08.99 ID:j5Kms53n0
一文目に鹿角理亞ルートを開始します!
みたいな文章を入れ忘れました! 投稿後変な悲鳴を上げそうになりました
申し訳ないです!

というわけで鹿角理亞ルートが始まりました。
長くはならないと思います、来春公開のサンシャインの劇場版までには
完結させたいと思うので、読んで頂ければ幸いです。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 18:57:16.03 ID:o3IDggx2O
始まってたか!
若干強くてニューゲームなシステムな
のね
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 19:36:41.82 ID:DW+sFwUbO
生意気ツインテじゃない理亞ちゃんなんて……
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 19:41:37.31 ID:MZy2dsfl0
申し訳ないです。
今日の更新はお休みさせて頂いて翌日以降に変更なります。
風邪が治ったと思ってもぶり返すこともありますので、気をつけて頂ければ。
油断なりませんね……。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 22:15:57.18 ID:R77M3x5+O
映画までには完結ってことなんでまったり楽しませてもらうよ
体調第一でお大事に
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:22:12.68 ID:dX+UK2dc0
 久方ぶりに職場に行くような気分になり、
 デデンとそびえ立っているハニワプロのビルを、
 建物自体に負けフラグが立っている気分で見上げ、
 体験していない過去の記憶が自分にこびりついている感覚が、
 どう足掻いても拭うことができずに、妙な焦燥感と違和感に気持ちが粟立ってしまいそう。
 建物の中に入り、いつものように各アイドルたちのスケジュールを確認して、
 ”違和感が残っている人と””残ってない人”がいることに気がつきました。
 おそらくハニワプロのスタッフで前者なのは南條さん――いや、もっとフランクに彼女を呼んでいた気がしますが、
 プロデューサー間で私情を持ち込んで仕事をするわけにも行かないので、名字での呼び名で統一します。
 残ってない人というのは彼女以外のスタッフ、そして多くのアイドル。
 社員の方や、私の上司にあたる方々もそうでしょうか? 
 ただ、上に立つ人は何食わぬ顔をして自分の敵に回りそうな気がして、
 その想像を首を振って払いました、問題を想定することは大事ではありますが、
 雁字搦めになって行動に差し支えになればまったく意味がありません。
 そんなことになるならばもとより問題など放り投げたほうが良い、弱気は敵です。

「絢瀬プロデューサー、その、どうしてもお会いしたいという方が」

 困ったような顔をして私に問いかけるのは、スタッフの一人の古田さん。
 得意なことはプレーイングマネージャー、それって違う人じゃないですか?
 ただ、面会とか懇談の予定は入っていなかったはずなので断ってしまっても良かったんですが、
 彼は基本的に優秀で仕事ができる人なので、取るに足らない相手ならスルーしてくれます。
 わざわざ問いかけてきて下さったということは、無視できない相手であるということ。
 どこかのえらい方が娘の面倒を見てくれとお願いでもしに来たのかと思い、
 仕事をしていた手を止めて古田さんと一緒に待って頂いているという方に会いに行くと――
 正直魂が抜けてしまいそうなほどに驚いてしまったのでした。

「古田さん……って、いない!?」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 04:22:53.42 ID:dX+UK2dc0
 先ほどまで一緒だった古田さんは息苦しいような苦しさを覚える状況に耐えきれなくなり、
 何も言わずに私を生贄に捧げて会議室から出て行かれました、薄情者です……。
 部屋の中にいたのは、園田海未さん、高海千歌さん、そして――黒澤ルビィさん。
 午後から仕事の打ち合わせがあり、会社に来るのはそれでいいと言っていたはずなのに。
 
「失礼しました、ご用件は?」
「正直会って頂けるとは思っていませんでした――アポイントすら取っていませんでしたからね」

 おそらく、私の前にいる方々は私と同じ状態のはずです。
 海未さんはともかく、ルビィさんと高海さんは醸し出している空気の中に、
 こちらに対する敵意が見て取れます、裏切り裏切られの芸能界ではありますが、
 面持ちからしてこちらの敵に回りますと言わんばかりであるのは、自分を憂鬱にさせます。
 電話した際に同一人物か怪しい程に透き通るかつ落ち着いた声を出し、
 穏やかで柔和な態度を見せた理亞が関わっているのか、それとも別のなにか――

「”園田さん”ご用件は」
「はい、本日は顔見せと――そうですね、”宣戦布告”をしに」

 来たるべき時が来た――と言うのは、自分の勘を見誤りすぎでしょうか。
 落ち着いた雰囲気の中に3人の中で一番こちらに対して暗い感情を持ち、
 有り体に表現すれば憎悪にも似た感情を抱えていることを読み取れてしまう――
 ただ、それは今後対立するであろう関係を感じて、自分自身がネガティブになってしまっているから。
 正直頭を抱えたいほど気分が落ち込んでしまいそうでしたが――絢瀬姉妹は見栄を張るのが得意なんです。

「私はただの彼女たちが歌う曲の作詞担当というだけではあるんですが」
「要件は単刀直入にお願いします」
「――この二人はECHO所属のアイドルとして天下を取る心持ちです」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:23:30.95 ID:dX+UK2dc0
 ”園田”さんはついに私に対して――いや、姉に対してでしょうか?
 自分を確かに見ているような気もするんですが、誰か違う人間に対して”宣戦布告”をしているように思います。
 その事が読み取れてしまうのは以前まで仲が良好であったからであるのか、
 言外に相手が伝えているのかまでは判断が付きませんが。

「そのことを姉は知っていますか?」
「……いいえ」

 相手の態度が揺れたことが分かります。
 彼女は存外……というより、μ'sの中でおそらく一番姉に対する好感度が高いので。
 度々口にしていた尊敬の念と言うよりも、恋愛感情と表現したほうが私にはしっくり来ます。
 ただ、控えている二人はそんな”海未”さんの心境を知ってか知らずか――いや、恐らく分からないんでしょう。
 彼女を矢面に立たせて居丈高な態度を取っている二人が、急にとても可哀想な子に見えてきました。
 心の中に沸き上がる苛立ちを出さないように――いえ。

「黒澤さん」
「はい」
「他の事務所に行っても頑張ってください」
「はい」
「それから――社交辞令でも今までお世話になりましたくらいのおべっかは
 使えるようになったほうが良いですよ? いくら私に敵意を持ち合わせていても」

 姉であるダイヤなら私の敵に回ると宣言するようなことがあれば、こんなつまらないヘマはしません。
 海未さんも痛い所を突かれたと言わんばかりに苦笑し、ルビィさんのこちらに対する視線は悪意が強くなりました。
 どのみち――彼女はさしたる障害になることはないでしょう。
 事務所から出るのは自身の意志でありましょうが、出ることに心を砕いたのは恐らくダイヤ。
 高校時代から善子さんとかの後ろにひっついていてそのままアイドルになった彼女が、
 模範的な行動を社会で取れるとは思いません、無視しても構わないでしょう。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/27(火) 04:24:33.27 ID:dX+UK2dc0
「高海千歌さん」
「はい」
「今度は逃げて周囲の人間に迷惑など掛けないよう――
 二度同じ過ちを繰り返したりしないよう――
 もし、私の大事な人たちの心を傷つけるようなことがあれば
 ”今度こそ”私はあなたを許しません」
「……に、逃げませんから」

 高海さんは社会人として数年仕事をして来て、
 酸いも甘いも噛み分けられる人間に成長したかと思いましたが、
 元々が親のコネで入った場所で働いていた以上、立場的には甘かったのでしょうか?
 根拠のない自信を二人して持ち合わせているのは滑稽ですらありますが、
 それよりも姉に対するダメージがいかほどになるかが心配です。
 海未さんが真正面から絢瀬絵里に対して敵に回ると宣言すれば覚悟を決めるかも知れません。
 ただ、おそらくそれを要求するのは無理でしょう。
 わざわざ回りくどい手段を用いて、姉に言って欲しいと言葉の裏に示していますから。
 と、私は思い当たることがあり、問いかけることにしました。

「穂乃果さんは海未さんのことを知っていますか?」
「――何から何まで教えるわけには行きません」
「態度がすでに言っています」

 園田海未さんが姉や穂乃果さんに対して対立関係を取るということは、
 おそらく苦渋の選択――なにか目的があるのは確かでしょうが、それを教えては頂けないはず。
 推測ではありますが、ルビィさんは理亞に対して腹に据えかねる思いを抱えて離反したのでしょうが、
 高海さんが動いているというのはいったい誰の意志なんでしょう?
 自分でこんな事する自信はないでしょうから誰かにせっつかれたか、そのような状況に追い込まれた?
 どのみち自分の力でなんとかしようとする意志がない二人が、
 海未さんを自由に使おうとするのは許せないので、もう少しだけ喧嘩を売っておくことにしましょう。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:25:22.37 ID:dX+UK2dc0
「覚悟を決めました――では、私は徹頭徹尾。
 プロデューサーとして全力を尽くしましょう――理亞と、姉には頑張って貰って
 ”あなたたち”が陽の光を浴びることでさえ恥ずかしいと感じるほど惨めになって頂きます」
「亜里沙……あ、いや――こちらも覚悟の上です」

 海未さんを眼中から外し、後ろの二人だけを見て宣言する。
 ぐいっと前に出て二人をかばうように海未さんが前に立ちますが、
 さも当然と言わんばかりに胸を張っているおふた方には微塵も伝わってはいないでしょう。
 ――もうすでに海未さんは私が自由に動かせていることには。



 他の事務所の方々には退室して貰って、古田さんには塩でもまいておいてとお願いしました。
 お客様の迷惑と嗜められましたが、私を身代わりにしてさっさと逃げた人間の言う台詞とは思えません。
 いや、でも、本気出した海未さんの怖い視線とか、私も震え上がりますけどね……。
 おそらくではありますが、絢瀬亜里沙には遠慮をしてくれたのだと思います。
 それが、姉に対する配慮であるのは心が痛いですが。

「なんでかしらね、プロデューサーに近づくのが怖いわ……」
「ツバサさん!」

 思わず抱きつこうとしてしまい、仕事中であるのが周囲の視線で理解し、
 咳払いを一つしながらクールで格好いいプロデューサーを演じます。
 ええ、それがいかほど出来ているかは私の責任ではありませんが! もう、心がウッキウキですが! 
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:25:52.26 ID:dX+UK2dc0
「絵里は……あの子たちのところ?」
「はいっ! ――あ、いえ、はい」
「じゃあ、私が言ってくるわ。プロデューサーは絵里や理亞さんのプロデュースに集中して」
「……ツバサさんにはアイドルとしての仕事があります、そのようなことをさせるわけには」
「いいのよ。海未ちゃんには、すごくお世話になっているし――
 あんな辛い顔をされたら亜里沙さんも私情が混じってしまうでしょう?
 それに、なんかこういう役回りでもしないと自分が目立てない気がしてね……」
「ツバサさんは……その、対立するようなことは?」
「あら……して欲しいの? いやでも、勝ち目がない戦いに挑む度胸はないわよ」

 くすくすと笑いながら、こちらに笑みを浮かべる。
 ただ、微妙に距離が遠いのは何故でしょう、近ければ何食わぬ顔をして抱きつくのに。
 ああ、でもそういう態度がいけないのかな? 押せば押すほど押し倒せそうではありますが、
 ここは一歩退く態度を示すのも従順な妻の務め――
 ん? しかしなぜ、ツバサさんへの好感度がこんなにえらい高いのでしょう?
 首を捻りながら彼女を見送り、私は南條さんと一緒にスケジュールの調整を始めました。
 あ、いや、まだ姉はハニワプロ所属ではないんですが、もう、扱い的にはそうでいいですよね?
 どのみち拒否権はありませんし、どうせしょうがないなあって顔をしながらお願いは聞いてくれます。

「南條さん……なぜ、私と距離が遠いんですか?」
「なんだか亜里沙さんといると労働基準法という言葉が遠いものに感じて怖いので」
「安心してください、ハニワプロのプロデューサーは会社員みたいなものです」
「アイドルに適応してくれることを願います。絵里さんはともかく、理亞さんは人間です」
「ナチュラルに姉を人外扱いするのはやめてください、多少人間は辞めてますが」 

 周囲がドン引きするような会話をしながら――そういえば、お昼はお姉ちゃんが作ったご飯でしたね。
 今度、様子を見に行くと称して姉の作るご飯でも南條さんとたかりに行きましょう。
 いえ、これもよき妻として妻の好む食事を作るために必要なことなんです――くすくす。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 04:34:21.72 ID:dX+UK2dc0
−亜里沙視点− 
と、注意書きをするのをまたも忘れました。

今回の話は前回の亜里沙ルートとは違って、
かなり登場キャラクターが絞られてきます。

割りを食っているのは希ちゃんと真姫ちゃんが筆頭ですが。
他のμ'sで出番がありそうなのは穂乃果ちゃんくらいで、
レギュラーはほぼほぼ海未ちゃんオンリー。

エリちに辛辣だった面々が揃って出てこないので苦しい……あれ?
体調が万全なら夜に、もう一度更新をする予定です。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 08:53:09.84 ID:bEW1y9BeO
いきなり波乱の予感だあ…
うみちかルビィって珍しい組み合わせだね
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 13:03:00.90 ID:CjxjW9/Y0
申し訳ありません。
作者です。

家庭の事情でもしかしたらしばらく更新が滞る可能性がありますので、取り急ぎ報告します。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 18:54:45.67 ID:FfF+pQd/O
これツバサルートは修羅場不可避なんじゃ…
>>62
待ってるから早めに頼むぞ!
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 16:11:20.58 ID:v031+L4u0
 エトワールという建物は――なぜか私の聞いていたイメージと、
 実際の外観と雰囲気が異なっていた。
 一般住宅街に紛れていても芸能関係者がいることすら気が付かれない、
 そんなこじんまりとした建物である――などと勝手に思っていて、なぜだか自信もあったんだけど。
 数年前に一度リフォームされたという建物は、新築の雰囲気そのままに綺麗で、輝いていて、
 いや、輝くと言ってもイルミネーションは燦然と輝いているのではなくて。
 おそらく、この建物が自分の家の周囲にあったなら、この家には誰が住んでいるんだろう?
 と疑問に思うほど目立つ、とにかく目には入る、白を基調としたややもすればホテルみたいな、
 少なくともアイドル候補生が――その上パッとしない人間ばかりが集った、
 明日の仕事も心配になるほど売れていない芸能人が住んでいる建物のようには見えない。
 大きな犬でも飼っていそうな、私達お金持ちですみたいなオーラで
 ででんと建っているエトワールに入ることしばらく、一人ひとりの面々と挨拶を交わすことに成功した。
 絢瀬絵里だと名乗ると、若い! 変わってない! すごい! 映像のまんま!
 という反応で尊敬されているのか、化物扱いをされているのか怪訝に思うほど。
 正直、自分のことなんてネットに情報が溢れていて、
 高校時代の所業から光堕ちしたキャラ扱いされている(ピ○シブ百科事典参考)のに
 それが今に至っては元ニートであるのだから、お前なんていらねえ扱いされても、
 不思議じゃないし、罵声の一つや二つ飛んだところで文句など言えようはずもない。
 ――でも、光堕ちしたキャラに理亞さんとか、果南ちゃんとかは入っててもしょうがないな〜って思うんだけど、
 ニコとダイヤちゃんはどうなの? それなら聖良さん入れても良くない?
 一応体面ではエトワールの管理人であり、それに加えて新人アイドル兼トレーニングコーチ、
 学力面のフォローから、日々の生活の模範となるよう立派な人間たるべし――。
 ニートにはハードルが高すぎる気もするんだけれど、雪姫ちゃんからは
 だいじょうぶ! できます! となぜか太鼓判を押され。
 アイドル候補生の住民たちにも、やれます! 模範となってください! と、
 なぜか期待をされているので、単純な私は案外できるのではと思って、
 ひとまずまあ、期待を裏切らない程度には頑張ってみようと思う、フォローはきれいな理亞さんに任せる。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/28(水) 16:12:06.91 ID:v031+L4u0
 この寮に住んでいるのは合計五人。
 アイドルとして仕事があり、でも現在はルビィちゃんと仲違いしているとかで、
 基本的にエトワールにいて一人でレッスンに励んでいる鹿角理亞さん。
 過去には私に対してツンツンしていたと思うし、
 なにか口を滑らせれば蹴りがかっ飛んでくるはずだったし、
 ストイックで他者との交流も拒んじゃうようなガチアイドルだったような気もするんだけど。
 自分でも驚くくらい心に余裕があるらしく、もしかしたら死亡フラグでも建っているのかも知れない
 と、真顔で言ってしまうほどに優秀で有能で何でもできる。
 演技から歌から踊りまでエトワールの中では二番目以内をキープ。
 生活力だけは下の方かも知れないけれど、エトワールに住んでいるみんなは
 おそらく一人暮らしをしたらゴミ屋敷になっちゃうレベルなのでそれでも上位なのかも知れない。
 もともと得意だったと吹聴していたお菓子作りは、他アイドルをゲロインにさせてしまうレベルらしく、
 お菓子作りどころかどんな料理を作っても涙を流させる凛といい勝負。
 ご飯を残すと凶悪な視線を向ける花陽でさえ、え、あ、しょうがないよね! みたいな顔して
 私に残りを押しつけてくる、おかげで凛の料理くらいでは胃も荒れない。
 二人目の住人は英玲奈の妹である統堂朱音ちゃん。
 自分でも歌くらいしか取り柄がなくて、と困った顔をした彼女に演技や踊りを見せて貰ったところ、
 体力面で他のメンバーに比べて劣るけれど、優秀な結果を残してくれた。
 おかしい、英玲奈に比べて私は――という自己判断はともかく。
 10以上年上の姉を呼び捨てで呼ぶ度胸は買ってあげないといけないかも知れない。
 ――私? オトノキの学生からポンコツって呼ばれてるみたいだけど?
 ただ、歌声は別次元レベルで優秀。なにせマイクがいらない。
 声量も大きく、高音も低音も私なんぞが手も足も出ないほどに空間に響き渡る。
 私もっと出来ない人間じゃなかった? と親友同士だというエヴァリーナちゃんに訪ねていて、
 彼女は流暢な日本語と、綺麗でおしとやかな声色で、あなたは雪姫と同じくらいできるわ。
 と説明されていた。私の中にいる雪姫ちゃんのことらしいけど、詳細は不明。
 いや、聞いてみても今は知らなくてもだいじょうぶです! とサムズアップされるばかりで。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 16:12:35.76 ID:v031+L4u0
 三人目の住人はエヴァリーナちゃん。
 銀髪の妖精かっていうくらい浮世離れした外見で、最近妖精から妖精王にランクアップした――
 と、説明されたけど意味はよく分からない、美人さ具合が向上したみたいだけど……。
 その外見と同じようにどこか違う視点から物事を見ていて、
 やたら私にベタベタとしてきては、今度は上手に行く、だいじょうぶ、と励ましていた。
 中にいる雪姫ちゃんとタッグを組んで褒め称えてくるので、まあ、そんなものかと思いつつある。
 ダンスが得意でEXI○Eかってくらい、踊りに関してはアイドルの中で別次元レベル。
 私もそれなりにダンスができるかなあっていう自負があったけれど、彼女のレベルと比べてしまうと
 チキとバヌトゥくらい違う、驚きの性能差――反面、声は透明感があって綺麗だけど声量には欠ける。
 あと、コミュニティスキルは最底辺で、相手が目上だろうがなんだろうが、面倒くさいときはスルーする。
 彼女のフォローにあたるのは栗原朝日ちゃん、自分はなんにもできないからと自嘲気味に笑うけれど、
 アイドルの中で実力が劣っているからではなく、他の面々が恐ろしく優秀だから。
 今までのレッスンのおかげで最低限アイドルとしてのメンツは保っていると言うけど、
 明らかに現在の絢瀬絵里と同格レベルなんですが、なんでこの子達売れないアイドルなの?
 最後の住人は津島善子ちゃん。
 髪の毛が前日と比べて何十センチも伸びたと語り、嘘は吐かなくていいのよ? 
 って言ったら、他の面々が本当なんです! びっくりしたんです! このヒト人間じゃない!
 と、さんざっぱら説明してくれて、信用はしたいけど気分的には複雑。
 エヴァリーナちゃんの妖精王と比べてしまうとまだ人間レベルだけれど、
 理亞さんと比べても同じかそれ以上の美少女っぷり、おかしい、もっと私は――
 と言っていたけど、ここのみんなそんなこと言ってばっかりだね?
 元Aqoursというのは伊達ではないらしく踊りや歌も高ランクなのに
 むやみやたらにできてしまう人間がいるので、結局平均点レベルだと自嘲する。
 夢の中にベルちゃんなる人物が出て、好色と欲望を司る古代の悪魔と名乗ったそうだけど、
 いやあ、気軽にベルちゃんって言ってくれていいから! とやけにフランクに話しかけられたらしい。
 困ったときは希と一緒にそっち行くと宣言され、何故に? と私も疑問に思い、
 彼女にLINEを送ったら、もう今後バトルはしませんという土下座の写真が送られてきて
 頭の上にある疑問符が更に増えた。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:07:05.41 ID:Rq40jsKV0
-園田海未 視点 (前回更新分よりも多少未来のお話です)-

 かねがねから人は行動をする時には何かを失うことを覚悟せねばならない。
 などと自分に言い聞かせているフシがあります。
 このたびの出来事のように、かつての友人たちの意思に背いてさえもやり遂げたい何事かの想いを抱えている。
 まるで言い訳のようではありますが、苦しさを覚えても、卑しさを感じようとも、
 自分が正しいと思った行動を取る――
 どのように反応をされようとも構わない、気をつけていたつもりではあったのですが。
 こと、何故そのようなことをしているのかと怪訝そうな視線を向けられると、
 精神的苦痛を覚えてしまうのは、私の心根もまだまだ幼かったということなのでしょうか?
 私達は現在エニワプロという芸能プロダクションでデビューの準備をしています。
 ハニワプロのバッタ物のようではありますが、実際産まれた経緯はその通りであり、
 一時期無くなる寸前まで追い込まれたかの事務所と同じ道を巡るように、
 現在プロダクションとしての立場は下降の一途を辿っています。
 V字回復したハニワプロと同じように状況を変えるアイドルを心待ちにしていて、
 その期待が私達に寄せられているというのは――
 半分は千歌の、半分はルビィのプロモーションによる弊害と言えば良いのでしょうか。
 私自身が迂闊であった側面はあるのでしょうが、自分は作詞活動に専念できると思ったのです。
 それがよもや作曲担当者とか、自分たちをプロデュースしてくれる相手を探さねばならないとは、
 なんとも辛いところではあります、まるでマネージメントをする経営者のようです。
 一番始めに、芸能界の先輩に挨拶に行くとともに、
 売れっ子タレントである星空凛に協力を仰ぎ――
 自分が彼女から慕われていることを重々承知しているという心根の卑しさは当然あって、
 話題にしてくれるだけでも良いからと根回しをしに行ったら、
 そんなことは絶対にできませんと断られてしまいました。
 エニワプロと敵対関係にある事務所であるから、とか分かりやすいできない理由でもあれば
 断られるのも致し方ない部分はあるんですが。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:07:36.21 ID:Rq40jsKV0
 凛は私一人が頑張るのであれば協力は惜しまないと言ってくれて、
 自分自身の評価はそれなりであったと認識はしたのですが――
 穂乃果が傷つく出来事の原因の一端を担っている千歌を連れて行ったのはやはりまずかったでしょうか?
 ただ、誤魔化して協力を仰いで評価が奈落へと転落すれば困るのはこちらです。
 最終的には、同情を誘うように食い下がって事務所には話してみるとまでは凛も言ってくれましたが、
 どこまで積極的に行動をして頂けるかまでは分かりません。
 私のAqoursを終わらせるために活動をしているという目的を話せば、もしかしたら――
 そこまで考えて私は首を振りました、しがらみにとらわれていて苦しんでいるのは私も、
 穂乃果も――そして何より高海千歌という人間が前に進むためには、一度スクールアイドルとしての
 自分自身を捨てなければならない。
 穂乃果が言っていたように、過去は置いていかなければいけない、終りを迎えなければいけない。
 いつまでも高校時代のようには過ごしてはいられないと、誰かが言わなければならない。
 絵里に敵対するようなマネをした時点で心が折れそうですが、きっと誰かが分かってくれるはず。
 自分が生きている間には悪評ばかりが先行しようとも、きっと、誰か一人くらいは私の気持ちを慮ってくれる。
 それが絵里であるならばすごく嬉しいのですが、
 よもやそのようなことはないでしょう、もしかしたらダイヤやことりや真姫と言った面々から、
 私達の行為が伝えられているかもしれない、そうでなくても亜里沙やツバサと言った人間から、
 園田海未が敵対していることくらいはもうすでに把握しているかも知れません――心が折れそうです。
 凛からの協力は断られてしまいましたが、花陽は微力ながらも力を尽くしてくれると言ってくれました。
 結論的には私達に協力してくれると言ってくれたのは彼女一人であり、
 ルビィがいるからダイヤも協力してくれるだろう、幼なじみだからことりも協力してくれるだろう、
 親友関係にある真姫ももしかしたら作曲くらいはしてくれるかも知れない
 ――などという想像は見事に意気消沈する結果しか産みませんでした。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:08:19.40 ID:Rq40jsKV0
 真姫のところにも行きました。
 千歌やルビィと言った面々を見てもネガティブな反応をしなかったのは彼女くらいで、
 仕事と友人関係は別物とクールに反応してくれる真姫らしい出来事ではあるのですが。
 最初は私が前に立ってアイドル活動をすると言ったら応援してくれました。
 反応も好意的で、これは曲作りも期待できるのではと判断し話題を出してみたら、
 それはできないと断られました。
 真姫はたとえ園田海未が正しいことをしていると分かっても協力できませんとはっきりと宣言されました。
 絵里と敵対するからという理由ではなく、そこまで協力する義理はないと。
 凛と同じように海未だけが頑張るのならば私もやるとは言ってくれましたが、
 千歌やルビィを苦手にしているからやらないなどという単純な理由ではなく、
 話題を向けた時に園田海未だけが矢面に立っているのが許せないと、
 珍しく怒気を含んだ視線で千歌やルビィを睨みつけて、本気で憤慨している様子でした。
 誰かの根回しがあったのかはさすがに彼女に聞くことは出来ませんでしたが、
 そばにいた西木野和姫さんにはこっそりと、あれはお嬢様の意志ですと教えて頂きました。
 ただ、凛も真姫も中立を守って絵里や亜里沙にはつかないとフォローはしてくれました。
 ハニワプロの後ろ盾があり、亜里沙やツバサと言った面々が協力する絵里が困り果てる姿は、
 本当にこれっぽっちも想像できない事象ではあるのですが……。
 この時点でことりやダイヤの所に行くのは控えるべきだったのですが、
 エニワプロに上の二人の支援も受けられそうと千歌やルビィが話題にしてしまった手前、 
 挨拶や顔見せだけでも行かねばなりませんでした。
 ことりは無理でも曜はだいじょうぶという千歌の魂胆も手伝ってのことです。
 先ほどの失敗から学び、千歌やルビィにも前に立って活動することを宣言すると、
 絵里に対する態度みたいにハァ? みたいな顔をしました。
 別に絵里のことをことりが嫌っているとかそういう理由ではなく、私や亜里沙といった人間が
 彼女を甘やかすから! 誰か厳しい顔をしないと! と無理をしているんだと説明してくれた過去がありますが、
 ことりのサンドバッグが絢瀬絵里であることを私は知っています。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:08:51.17 ID:Rq40jsKV0
 ――話はズレましたが、真姫や凛のように頑張ってとも言ってくれることもなく、
 逆になんでそんなことをするのと問いかけられ、亜里沙と同じように穂乃果はこのことを知っているのかと
 真剣な面持ちで疑問を呈されました。
 私自身への言葉ではなく、ルビィでもなく、千歌に対しての態度でした。
 千歌が穂乃果さんには会えませんと言うと、ことりは本気で怒った様子で、
 もし売れっ子になった時にまた穂乃果のおかげだと持ち上げるのかと声を荒げ、
 イエスかノーかとも言えなかった千歌に対して、そんな態度だから! と腕を振り上げようとし、
 ――結局、癇癪を起こした子どものように絵里ちゃんのところに行く! と言って会談は終わりました。
 すみません絵里……顔を見せる機会はおそらくないですが、ほんとうに申し訳ありません……。
 ただ、千歌をフォローするならば、
 ”ラブライブの優勝者である高海千歌が穂乃果を持ち上げた結果、高坂穂乃果がどんな想いをしたのか”
 は、まったく知らないのです、Aqoursの三年生組も伝えるべきではないと判断して箝口令すら敷いているほど。
 知らないことで情状酌量の余地があるとは、私自身さえも思わないのですが……。
 悲しいことにことりがあんなに憤慨した理由は、千歌はわからないのです。
 その後に曜にも会いに行きましたが、協力するのは絶対に嫌と断られました。
 ことりの影響があるのかと思いましたが、Aqoursの活動を彷彿とさせることはもう二度としたくない、 
 絶対に嫌だと繰り返し宣言されてしまい、焼け出されるように気分は盛り下がりました。
 今日はダイヤに会うので最後にしようと言い泣きそうな千歌をなんとか説得し、
 元よりアポイントを取っていたから誰かしら行かなければならなかったのですが、
 用事があると断ってでも私一人で行けばよかったと後悔する結果となりました。

「ようこそいらっしゃいました」

 と、最初こそ和やかなムードで交流は始まりました。
 緊張していた千歌も不安そうだったルビィも微笑むダイヤと同じように笑って見せ、
 ひどい結果は生み出すまいと安心してしまい――結果、それが故意に安堵させる手段であったと、
 したたか過ぎる黒澤家の長としての実力を目の当たりにし、私自身の甘さを知りました。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:09:40.99 ID:Rq40jsKV0
 何をしにここに? と問われたので、アイドル活動をするために協力は仰げないかと
 はっきりということにしました。
 要は私達を宣伝して欲しいというお願いに伺ったわけですが彼女はニッコリと微笑みながら、
 なぜかと理由を問われました。
 その時点で薄ら寒い気配を私は感じたんですが、気が緩んでいたルビィや千歌が、
 誰一人自分たちに協力してくれないと愚痴のように言ってしまい、迂闊にもダイヤを褒めてしまいました。
 他の面々に断られたとしても、ダイヤならばやってくれるんじゃないかという魂胆を白状したのも同じ、
 私は肝を冷やしましたが、それでも「事情は理解しました」とこちらを安心させるように微笑んでみせました。
 
「ルビィ、何故ハニワプロを離れて活動をするんですか?」

 何気ない調子でルビィは問われて、
 彼女もそう聞かれたらこう答えようと思ってたかのようにすらすらと、
 理亞ちゃんが頑張っているから、私も頑張りたいと思って! と説明。
 千歌と一緒に活動する時にルビィが協力すると言ってメンバーに加わった時にも
 そのように言っていたので、私もそうなんだろうとは思っていたんですが。

「嘘をつくのはやめなさい」

 最初は何を言ったのかと思ったんです。
 ダイヤは先ほどまでの和やかだった声色を捨てて、冷淡な反応をして、
 これはなにかおかしい、明らかに何かを把握されていると気がつきました。
 
「私がアイドルとして理亞ちゃんよりも実力はないのはわかってるし、
 いつまでも一緒にいるために」
「言い訳は控えなさい、それでも黒澤家の人間ですか」

 この時点でルビィを止めるか、私自身が矢面に立てば、
 今後黒澤家の敷地に足を踏み入れることは許さないと宣言されずに済み……
 いや、おそらくダイヤは最初からルビィを切り捨てるつもりだったんでしょう。
 それでもなお顔を合わせてくれたのは最後のチャンスだったんです。
 私という人間はいつも気がつくのが遅い。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:10:10.92 ID:Rq40jsKV0
「あなたの活動の理由は嫉妬です」
「誰に?」
「理亞に……いえ、違います。
 絢瀬絵里に嫉妬しているんです、敵愾心すら抱いている」

 ピンときました。
 愚かな感情だとは思いません、私自身も抱えることがある思い。
 それは――

「原因の一端が私にもあるのは理解します
 確かに、ヨハネや理亞や私……あなたと仲が良い人間は
 揃って絵里を評価して尊敬している――ただ、銃爪はマルちゃんですか」
「……」
「人間誰しも暗い感情は抱えています。
 でも、だからといって無意味に相手を恨んでも意味がありません、
 それは逆恨みという感情です。あなたにはちゃんと教えていませんでしたね」
「……」
「ルビィ、あなたは自分自身よりも絢瀬絵里を評価しているのを聞き
 憤慨する思いを抱えた、愚かだとは思いません。
 私も、誰しもがあるような感情です、嫉妬するのは当然――」
「ち、ちが……」
「ですが、わたくしは以前警告しました。
 相手を変えることよりも、自分自身を戒め、努力を重ね、
 成長すればよいではないかと。
 卑しい心根を抱えてしまうのは誰しもある、光があれば闇もある、
 なにより絵里は評価されるような行動をされていないから当然ではあるんです――
 思いもよらない評価をされて、それを羨んでしまうのも」
「そんなこと思ってない!」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/29(木) 03:10:41.92 ID:Rq40jsKV0
「――認めなさいとはいいません。
 わたくし自身も言葉足らず、努力が不足している。自分もまた卑しい
 本来なら! 本来なら! ルビィのやることなら認めてあげたいのですわたくしは!
 高校時代に辛く当たってあなたがどれほど苦しんだか知っているから!

 私はよき姉ではありませんでした――後悔しかありません。
 でも、そんな不出来な姉でも妹にできることがある。
 今後この屋敷の敷居をまたぐことを禁じます、もう、姉でも妹でもありません
 千歌、ルビィと一緒に出ていきなさい、話は以上です」

 梃子でも動かないと言ったルビィではありましたが、
 私が退席しようとすると渋々と言った面持ちで立ち上がり、
 酷く怒った様子で部屋から抜け出たんです。
 でも、それよりもダイヤが、
 私達に背中を向けて黙り込んでしまってから――本当に小さく、小さい声ではありましたが
 泣いているようでした。
 後日、真っ赤な目をして私に会いに来てくれた彼女は感動する映画を見て泣きはらしたと言っていました。
 表立って支援はできないけれど、フォローはする。
 協力はできませんが、困った時には相談して欲しい――そう約束してくれました。
 あと、中立を守り絵里たちにも協力しないと言ってくれましたし、果南や鞠莉にも伝えてくれると。

 ――失ったものは多く、傷ついたことは事実です。
 ですがもう私達は前に進むしか無い。
 何もしないと言ってくれた人たちのためにも、頑張るしか無い。
 ただ、ルビィの目的は分かりましたが、千歌は何故アイドル活動を始めようとしたのでしょう?
 たしかに私に同調して、Aqoursを過去にするために活動はしてくれると言ってくれましたが――。
 いえ、疑ってはいけませんね、同じ志を持つ仲間なのですから。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/29(木) 05:40:26.87 ID:3nBV7lJEO
ここまで逆境だと海未ちゃん応援したくなってしまう人の性
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:45:12.38 ID:wduEW69f0
 ウォーミングアップのつもりで身体を動かし続けていたら、
 朝日ちゃんにちょっと待ってくださいと忠告をされてしまい、
 強制的に休憩時間を入れられて、途方に暮れる絢瀬絵里がここにいます。
 仲良しの面々に喜び、管理の仕事もできそう! と、 
 やたらハイテンションになりながら先頭に立って運動を重ねていたから、
 いつの間にかに視野が狭くなっていたみたい、いけないいけない。
 ただ、この中のメンバーって、私と年齢の近い理亞ちゃんと善子ちゃんでさえ、
 妹である亜里沙の2個下であるから……ええと……うん! 前を向こう!
 私から距離をとって飲み物を飲んでいる朱音ちゃんに、
 おっかなおっかな近づいてみると、彼女は思いのほか嬉しそうな表情で
 どうしたんですか? と問いかけてくれたので、
 質問を質問で返すのは失礼だと思いながら、尋ねたいことを聞いてみる。

「歌もすごい上手だけど、昔から得意だったの?」
「昔から観察するのが得意で、上手な人を見て聞いて――
 歌だけはうまくいきました」
「ダンスもすごく上手じゃなかった?」
「自分の理想通りに体が動いて……不思議なんですけど」

 いかにも不思議と言わんばかりに首を傾げながら、
 朱音ちゃんは過去に人の指摘ばかりして嫌われたということを話す。
 どこ吹く風だったのは親友関係にあったエヴァちゃんくらいで、
 とても嫌味な子だったと苦笑しながら話してくれた。
 過去の自分を思い出すのは苦しいけれど、
 確かに自分にもそういう部分があったから理解できる。
 間違いや失敗を指摘するのは簡単で、
 相手の不備をあげつらえば自分の気持はスッキリとする。
 ただ、改善策も指摘をしないと、言われた相手も困り果ててしまうし、
 何より、口ばかりで行動できなければ信用なんて得られない。
 高校時代の私が仮に、すごくダンスとか運動が苦手な人物であったら、
 おそらくμ'sのみんなは私を放逐かなにかしていると思う。
 優しいからそれとなくではあって、未来の自分がバカなことをしたと気がつくのだ。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:45:57.28 ID:wduEW69f0
「なんで英玲奈みたいに動けないんだろうって思う時もありました」
「そりゃ、朱音ちゃんは英玲奈じゃないし」
「ええ、そうですね。でも、そういうのってできなくて焦燥している
 人間だったりすると気づかないものじゃないですか?」

 なるほど。
 気がついてはいるけれど、改善する余裕がない。
 問題点は把握していても、矯正する時間がない。
 焦燥感はたえず膨らんで行き、イライラになり、ストレスにもなり、
 いずれ周囲に辛く当たっていき、だんだんと孤立していく。
 まるで絢瀬絵里のよう! ハラショー!
 なお、ラブライブ! というμ'sの軌跡を辿った物語があり、
 アニメでも放送されたけれど。
 DVD・BD特典に付いてきたスクールアイドルダイアリーという小説は
 μ's一年生組からエピソードを聞いたライターさんが、
 μ'sの監修と許可もなく発行されていて、
 絢瀬絵里の過剰なる装飾が施されている。
 なにせヒナが書いたし。
 海未には穂乃果穂乃果ばっかり言ってるじゃないですか! と不評で、
 ことりも凛のエピソードばっかり読んでいるとの話。
 なお、まきりんぱなの話のうち、真姫のエピソードだけは装飾がやたら強く、
 彼女いわく高校時代の話は恥ずかしいそうだけれど、
 ならば私の黒歴史を楽しそうに脚本家に言うのはやめて欲しかった、ダメージが大きい。

「今はみんなの問題点も分かりますよ。もちろん絵里先輩のも」
「お手柔らかにお願いね」
「考えておきます。ですが、今はわかってもらえるように行動しようと思うんです
 自分の不出来さが本当によく分かるようになってきたので」

 黒歴史は掘り起こされてしまうけれど、
 そのことに文句を言ってもどうしようもない、身から出たサビであるし。
 ただ、それを戒めにして改めて行くのは誰しもができること。
 自分自身を省みて前進していく、朱音ちゃんはいい笑顔だ。
 穏やかさと精神的な余裕を持ち、気持ちも晴れやかになった様子。
 理亞ちゃんに言わせればもうちょっとツンケンしていたらしいけれど――是非は問わない。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:46:33.19 ID:wduEW69f0
 そういえばと朱音ちゃんが何かを思い至り、
 私に昔のことは覚えていますかと問いかけてくる。
 一部一部にモヤがかかったみたいにどうしても思い出せないエピソードがあるというと、
 すごく残念そうな表情をされてしまい、不出来な記憶回路に文句を言いたくなった。
 ほら、最近流行じゃない? ノコギリヤシとかイチョウなんたらとか。
  
「私には友人がいました、友人だった期間はそれほどでもないですが
 驚くくらい良い子で、性格が悪い私にも気長に付き合ってくれました。
 歌が得意だって気づけたのは彼女のおかげなんです」

 名前を聞いてしこたま驚いてしまった。
 だけども、その子なら今は私の心の中に居て、
 慌てふためいて動揺しきっているとか、やーめーてー! と叫んでいるとか。
 朱音ちゃんが恋心を語るみたいに連々と雪姫ちゃんを褒め称えるのを、
 心の中で叫び声みたいな悲鳴と一緒に聞きながら、
 雪解けをするみたいに何かを思い出しそうになり、首を振った。
 あんまりいい思い出はないような気がしたし、過去にはそれほど意味はない。

「雪姫と比べるまでもないですが、
 私は彼女みたいになりたい。みんなから好かれるような
 そんな素敵な人に」
「私になにかできることはあるかしら?」
「自分に至らない点でがあれば指摘してください、
 できれば改善できるものであると嬉しいですが」

 舌を出しながら微笑む朱音ちゃん。
 明るく前向きな姿になぜだか私は安堵をしてしまって、
 どこかで会ったことがある彼女とは違う気がしてならなくて、
 そんなこともあるかなと気分を一新した。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:47:20.59 ID:wduEW69f0
 朱音ちゃんとの交流を果たして、次の目的はきれいな……いや、
 なぜか性格が変貌してしまった鹿角理亞ちゃん。
 以前までさん付けで呼ばないといけない空気感があったけれど、
 慇懃無礼な感じがする! と涙目で訴えられてしまい現在に至る。
 遠慮せずに仲良くしましょうと言われても、どこまで踏み込んで良いのかは極めて疑問。
 先ほどの自分のパフォーマンスに納得の行かない部分があるのか、
 鏡を見ながら常に自分の動きを確認している。
 元から能力は非常に高いのに、やる気が持続しないと問題視されていたから、
 理由はわからないけれどモチベーションが高いのは歓迎できる。
 ただ、いまさら過去の理亞ちゃんに戻っても戸惑うばかりなので勘弁願いたい。

「ああ、絵里先輩」
 
 先輩に対する敬意と一緒に、おちゃめな感じで周囲を観察をしないとと嗜められてしまう。
 問題があるのは自分ばかりであるので、
 真っ当な指摘を羞恥心と一緒に自分の腑に落とし、噛み砕いて納得する。
 ただ、今後何度も改善のために失敗するケースもあるので、
 できれば見捨てないで頂きたい。

「エトワールのみんなは、以前は本当、吹き溜まりと言うか……
 かなり問題があるアイドルで、私のことも戸惑っていますが、
 成長具合が解せないんです」
「自分の中のイメージと違うということ?」
「私一人ではなく、みんなもアレ? っていう感想があるみたいです
 なんだか怖いですね」

 誰かに都合の良いシナリオのようというので、
 思い当たる人はいないのと聞いてみたら、自分自身を指差して
 まるで物語の主人公になったみたいな気分だという感想を残す。
 あまり嬉しくない様子なので、何があったのか聞いてみると
 今のような自分になってから、アンリアルで行動をともにしていたルビィちゃんと
 連絡が取れなくなってしまったみたい。
 既読すらつかないLINEや電話やメールをしてもなにもないので、
 しばらくしたら事務所に問いかけてみたいよう。
 そんな心配な心持ちでありながら、私を迎えに来るのを優先しれくれたあたり、
 本当に申し訳ない気分になってくる。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/01(土) 12:48:05.03 ID:wduEW69f0
「朝日、慌てないで冷静にね。
 パフォーマンスができる下地はあるから――この人別格だから
 気にしないでいいの」
「ええ、わかってるんですけど……今までニートだった人より
 動きが劣ってることを自覚していると少々焦りも」
「だいじょうぶ、朝日ならできる」

 絢瀬絵里というイレギュラーのせいで焦慮が湧き上がるのなら、
 連れてきたプロデューサーに文句を言ってください。
 ――手前勝手な理由ではあるのだけど、ほら、
 やっぱり、調子に乗りがちな人生送っているからね、私。
 そこを改めろというツッコミは改善には至らないのでアドバイスをお願いします。
 二人の距離感は近く、感心するほど指導も適切であり、
 私の出番はないと思われたけど、一応年上の人間を顔を立ててくれたのか、
 とりあえず言わんばかりに何かありますかと聞いてくれた。
 多少緊張を覚えながらも、考えられるうる限りのアドバイスを出しておく。 

「ルビィはどうしたんでしょう? こんなに交流が途絶えたのは
 高校時代から通算してもなくって」

 私のアドバイスは常人にはこなせない任務だったらしく、
 相手を見て指導はしてくださいという、酷く当たり前な指摘を受け、
 朝日ちゃん強化人間化計画は実行されずじまいだった。

「メッセージも残されていないの?」
「はい、仮に何かあれば、ダイヤさんから連絡があります……いや、 
 あると思うんです。あっちから連絡が取るのは嫌かもしれませんが、
 社会人ですからね、仕事上必要であれば」

 見えないかもしれないけれど、
 ダイヤちゃんも真っ当な社会人らしく、
 仕事と私情は切り分けて考えられるみたい、本当かしら?
 多少解せない部分があるとは言え、
 それ以上にルビィちゃんの行動も分からないので、
 想像で判断せず、経緯が分かるまで動かないことを言ってみた。

「分かりました、確かにルビィの目的がわからない以上
 こちらから行っても仕方ないです
 不安ではありますが、時が解決するのを待ちたいと思います」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/01(土) 18:07:36.64 ID:5N6tUWAaO
みんなな強くてニューゲーム状態じゃないか!
改変の影響が良いことばかりなら良いんだが…
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:32:59.79 ID:iAmGxFo+0
 考え込むように腕を組んで静かになってしまった理亞ちゃんが
 一人で考えてみたいふうであったので場を離れた。
 黙々とトレーニングや動きの確認を続けている朝日ちゃんに手を上げて挨拶したら、
 ちらっとこちらを見て。

「足をうまく動かすためにはやっぱり筋力なんでしょうか?」

 さきほど的外れなアドバイスを送ってしまったので、
 評価が転落してしまったかと思いきや、それでもなお指導を受けてくれることが嬉しい。
 テンションが跳ね上がってしまった私だけど、ここでこうすればいいと言うと
 普通の人にはできませんで終了してしまうので、
 相手にあったアドバイスを送るためにちょっと考えてみる。
 自称能力値が低い彼女だけれど、他のメンバーが優れているのと、 
 自分自身の評価自体が低いせいで客観性に欠ける部分があるのだと思う。
 UTXの出身だったせいか、基本的に自分よりもできる相手ばかりが周囲にいたため、
 自ずから出来て当然と判断してしまうのでしょう。
 はじめて見た動きや、振り付けや、トレーニングメニューを難なくこなせるというのは、
 元からの下地があってできることなので、見た通り、考えたとおりにこなせないからと言って、
 何ら落ち込むことはないと思う。

「リズム感や柔軟性、もちろん何回も同じ動きを繰り返して身体に覚えさせるというのも必要ね」
「うう、私に足りないものがいっぱいあるということでしょうか?」
「いいえ、誰しもそうなのよ、最初からスマートにできるなんて、
 私の知る限り綺羅ツバサくらいしかできない所業よ?」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:33:43.60 ID:iAmGxFo+0
 ちびっこい外見のくせにオリンピックアスリート相手にも渡り合う運動能力で、
 あいつは人間じゃないのではないか(英玲奈)
 基本的に比較対象にすらならないわね(あんじゅ)
 なんであんなすごい人が絵里ちゃんの友達なの?(凛)
 最後の凛のコメントは、一緒に居て恥ずかしくない? という台詞が言外に含まれている。
 自分にできないのは恋人くらいと自嘲気味に笑い、
 人生基本的に9割方勝利してる綺羅ツバサにも実はちゃっかり弱点がある。
 優れた観察力と身体能力の高さのおかげで順応性が果てしなく高いので、
 努力する気が失せてしまうこと。
 やがて努力する相手に追い抜かされてさらにやる気が失せるとは彼女の言葉だけど、
 アイドルだけは続けているわねと問いかけてみると、追い抜かせない相手が居て悔しいから
 と教えてくれた、そりゃすごい人間がいるものねと言ったら、バカじゃないの? 
 みたいな顔をされたので、あ、地雷踏んだなって思って賢明な私は黙った。
 
「絵里さんにできないことってあるんですか?」
「たくさんあるけど……え? そんなにデキる人みたいなイメージある?」

 確かに恋人はできないし、赤ちゃんもできないけど! 
 と、小ボケをかまそうとしたけれど真剣な面持ちでこちらを見上げる彼女を見て、
 咳払いを一つして発言を回避する。
 空気を読まずに迂闊に本能のままに発言する癖は、
 長年の経験で披露される機会はずいぶん少なくなった。
 私を知らない人からするとあの橋! 本で見たことがある! がえらい有名。
 なんであんなにテンション高かったの? 海外初めてじゃないでしょ?
 と、よくネタにされるけど、私だってわからない、嬉しかったのかも知れない。

「いえ、もちろん何でもできるわけじゃないっていうのは知っています
 こう、踊りとか、動作とか……身体を動かすことに関しては
 かなりレベルが高いんじゃないかなって、なにせ姉の歌声も成長させましたし」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:34:16.81 ID:iAmGxFo+0
 歌うのは大好きだったけれど、歌唱力が低レベル過ぎて泣けるヒナを
 彼女が泣け叫ぶレベルの指導で実力を向上させたのは――まあ、お互いに黒歴史。
 最近会ってないからわからないけれど、やられたらやり返す! 倍返しだ!
 とか言われたら、もう、どんな酷い目に遭うかわからない、
 魔法少女が敵役にやられたときみたいなことになるかも知れない、
 あ、もう、ダイヤモンドプリンセスワークスではそうなってたけど、あれは絢瀬絵里じゃない。

「うーん……成長する人間はすごいかもしれないけど
 アドバイスする人間はすごくなんかないわよ?」
「世の指導者全否定ですね」
「指導してお給料を貰っている人はまた違う世界があるんだろうけど、
 私みたいな素人が相手にできるアドバイスなんて、
 せいぜい一緒に頑張りましょうくらいなものよ?」
「姉にはなんて説明するんですそれ」

 私は朝日ちゃんの目を真っ直ぐに見られなかった。
 彼女の指摘に恥ずかしいやら、消したい過去を思い出すやら、
 一つも反論もできないし、言われたままの刑を受けるしか無いし。
 私がしどろもどろする様子を見て、多少気分も晴れたのか、
 朝日ちゃんは先ほどよりも和やかな雰囲気の笑みを浮かべて、

「私は、絵里さんみたいになりたいです」
「なれそうだから?」
「それもありますけど」

 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。
 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。
 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、
 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。
 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:34:48.79 ID:iAmGxFo+0
 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。
 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。
 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、
 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。
 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。
 
「ねえ、朝日ちゃん、ちょっと尋ねてみたいんだけど
 なんでアイドルになろうと思ったの?」
「うーん? なんででしたかねえ? 
 気がついたらそうなりたいと思ってたフシもありますけど……」

 天井を見上げながら思案する朝日ちゃんを見て、
 以前ヒナに聞いた話を思い出していた。
 子ども時代はアニメ好きだったという朝日ちゃんが憧れたというのが、
 きらりんな感じの月島さん。
 同じアニメを見て、妹はこうして芸能プロダクションに入り、
 姉はエロゲーを作るという微妙に差異のある結果になったけれど。
 金髪に心を惹かれる結果になったのはアレのおかげと言われても、
 私としてはなんて反応をしていいのか分からない、胸を張ればいいの?

「ああ……もしかしたら、アイドルが姉妹の会話の種になったからかもしれないですね」
「アイドルは好き?」
「現実を見て諦めようと思うことも何度もありましたが
 それでも続けているってことは好きなんじゃないでしょうか?
 嫌いはともかく、好きって長年続けてるとよくわかんなくなるものじゃないですか?」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:35:23.20 ID:iAmGxFo+0
 そう言われてみれば、そのような気もする。
 人に対する感情は別にしても、私の料理好きはしてないと違和感があるとか、
 身体を動かすことも習慣化しているから勝手にやってしまうという感じだし。
 長年好意的な感情を持ち続けていると、それが自然になってしまって、
 いつの間にかにやめてしまうとかいう話も聞いてしまうし。
 
「ヒナのことは好き?」
「ああ、うん、尊敬はしています。好意的であるのは確かですが
 ……ええ、言葉にするのは恥ずかしいですね」
「ふふ、さっきのお返し」
「年甲斐を考えてください」

 暗に子どもみたいなことをすんなよ、と殴り返されてしまい。
 ちょっと拗ねてしまった私は、笑みを浮かべながら彼女に背を向け、
 亜里沙のことを思い出していた、ここにいる面々って妹ばっかりで、
 さっきからついついμ'sの憧れていた彼女のことを考えてばかりだ。

 μ'sに対する憧れと言えば、Aqoursのことも思い出す。
 不運にも両者の交流は上手くは行かなかったけれど、
 こうして一部では一緒に同じ仕事をしていたりとかもして、
 何もかもうまく行ったわけではないけれど、何もかも失敗したわけじゃない。
 以前真姫が信者とアンチの違いは、
 一つの事実をネガティブに見るか、ポジティブに見るかの違いしか無いと言っていた。
 同じものを見ているのに受け取り方が違うというのは、面白さでもあり、
 大変でもあることではあるんだけれど。

「よし……ヨハネちゃんて呼んだほうがいいの?」
「あー……どうなんだろう? 千歌以外のメンバーはヨハネって呼ぶけど……」
「じゃあ、よっちゃんで」
「気がついたら善子ちゃんって呼んでるオチじゃないですか?」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:35:58.94 ID:iAmGxFo+0
 クールに髪の毛をかきあげながら、長い髪が煩わしいと言っているよっちゃん。
 短髪だった過去は高校時代にまで遡り、経緯は忘れてしまったらしいけれど、
 朝起きたら短くなっていて、視力も大変悪くなったそう。
 ただ、その出来事の後から他の面々は必ずヨハネと自分のことを呼び始めたらしく、
 高校時代は喜んだけど、今となっては気恥ずかしいだけみたい。
 なんと統合先の高校で生徒会長も勤め上げ、
 仕事もAqours1年生組だけでこなしたせいか、
 デスクワークには絶対の自信があるらしい、ルビィちゃんと花丸ちゃんは戦力外だった模様。
 
「たぶん、AqoursのメンバーでAqoursであることで得したのって誰も居ないんですよ
 でも、私はAqoursとして活動した過去を後悔なんかしない、Aqoursが大好き。
 できればもう一度Aqoursとして活動したい、曜とか梨子は絶対に嫌だって言うだろうけど」
「そうなんだ、一年生組では?」
「マルは賛成してくれると思います。ルビィはどうだろう? 最近、私達3人で集まってないし……」

 過去のことで振り返ることはないかと問うてみたら、
 敏い彼女はAqoursとして活動していた自分のことを話してくれた。
 私や穂乃果は……まあ、μ'sとして活動していたことを後悔する時代もあったけれど、
 それでもその時の出会いや経験はかけがえのないものになっている。
 おそらくμ'sが揃ってこれから同じことをする機会というのは、 
 ほぼ可能性としては0に近いんだろうけれど。

「ルビィは……さっきちらっと理亞の話が耳に入りましたけど
 私ともマルとも連絡を取ってないみたいで。
 知らないアドレスからメールが入ってて、誰かと思ったらマリーだったんですよ」

 どこでどうアドレスを調べたのか、と苦笑しつつ口にしながら文面を見せてくる。
 内容を見てもいいのかと聞いてみたら、どうしても見てほしくてと。
 一人で抱えられない事実があったみたいで、私なんかで力になれるのかなとは思うけど。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:36:39.43 ID:iAmGxFo+0
「ええと……海を見ています?
 最近和菓子にハマってあんこに飽きたと二人して言ったら怒られました。
 理想の人は居候にも厳しいのです
 姉妹喧嘩は犬も食べないと聞いたので、
 姉に会ったら宜しくお伝え下さい……?」
「理想の人というのは、高坂雪穂さんのことなんですよね
 だから日本にいるみたいで、海って言うには東京湾?
 あんこに飽きたって、果南ちゃんがそんな事言うかなぁ……」

 雪穂ちゃんが理想の人というのは、
 何でもAqoursがラブライブの優勝に貢献したからであるみたい。
 なんとか静岡県予選を突破した彼女たちは、
 ラブライブ本戦の一回戦の前に雪穂ちゃんと亜里沙が顔を見せて、
 Aqoursの欠点や改善点をアドバイスした結果浦の星女学院の優勝に貢献。
 今から考えれば、あの指摘がなければ初戦で姿を消していた弱点だったらしく――

「私達の身の丈に合わない優勝という結果、
 目標を達してもなお廃校を回避できなかったおかげ……いや、せいで
 千歌は努力は実らない、μ'sみたいになれないと絶望し
 姿を消す訳にはなるんですが……あ、ごめんなさい」
「え?」
「すごく怖い顔をしてました、絵里さんも表情を変えることがあるんですね……」

 よっちゃんが恐怖に感じてしまうくらい、
 恐ろしい顔をしてしまっていたみたいで、私は慌てて頬を上げ
 笑顔を作ってみせる。
 多少なりともうまくは行ってないのか、やや距離は広がってしまったけれど。
 
「いえ、ちょっと、ちょっとね、
 知り合いにμ'sに入りたいっていう子がいたものだから
 差異がね?」
「千歌が身勝手なのは知っています
 ただ、私はそんな千歌が好きなんですよ、とても残念なことに」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:37:17.65 ID:iAmGxFo+0
 口を開こうとして辞めてしまった。
 どんなに言葉を重ねたところで議論は平行線になる。
 世の中には優れているから好きという人もいるし、
 面倒極まりないから好きという人もいる。
 好意的な感情を寄せるのは、好意的な人間であるからばかりが理由にはならない。
 蓼食う虫も好き好きというように、評価の基準は人それぞれ……
 ではあるのだけれど。
 個人的な感情で言わせて貰えば、彼女が穂乃果を持ち上げたおかげで、
 穂乃果がどんな目に遭ったか知っている人間としては、
 一概に好意を寄せられることや理想だと崇められることが
 いい結果を招くとは限らないと知ってしまったので……いや、ほんとう、
 なんて言っていいのか分からない。

「私も、μ'sみたいにみんなで仲良くしたいです、
 ありえないですよ? 数年経ってもなお9人揃う機会があるとか」
「こう……スケジュールを調整してくれる有能な人がいて
 たまたま集まっているだけという言い訳はなし?」
「奇跡ですよ、Aqoursが今後9人揃うとしたら。
 もう、千歌という欠けたピースは元に戻らない。
 もしかしたら彼女には会う機会はないのかも……」

 とても寂しそうな表情を浮かべる善子ちゃんに、
 幸運にも私とお付き合いがあるμ'sのみんなの事を考えながら、
 私自身にも身勝手な部分があって、それで彼女たちを嫌っている側面があるとすれば
 なにかできることがあるかもしれないと思い至った。
 
 なんとなく物別れしてしまった感のあるよっちゃんとの交流を終え、
 ひとりボーッとしながらエトワールの住人を遠巻きに見ているエヴァちゃんに話しかけてみる。
 なんとなく楽しげである表情から花咲く表情に変化し、
 やたら私に対する好感度の高い面々の中でも、飛び抜けて評価が高いのが彼女である。
 エヴァちゃんの中では空気! 水! 絢瀬絵里! みたいな感じで、
 必須栄養素か! と言ってしまったけれど。
 見てないと禁断症状が出るというのはもはや金髪中毒と言って良いんじゃないかと。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:37:54.82 ID:iAmGxFo+0
「みんなの輪に入れば良いのに」
「仲良くしたいです
 でも、私って思わず言ってはいけないことまで言ってしまうみたいで」
「そうなの? 例えば?」
「---------」

 ん?
 あれ、おかしいわね? 
 エヴァちゃんが何事か言っているはずなのに耳に入ってこない。

「ええと?」
「物語で言うところのネタバレというものなのでしょう
 禁則事項です――みたいなものですね」
「----------」(残念ながらバストサイズが)

 ん?
 あれ、おかしいわね?
 口にしようとした言葉が耳に入ってこない。
 
「-----------」
「--------」(だいじょうぶ、胸のサイズは成長するものよ!)
「-----------」
「--------」(亜里沙も高校卒業後に大きくなったし! 胸も背も!)
「-----------」
「どうしたの? なにか悲しいことでもあった?」

 あ、声が出た。
 胸の大きさに関するフォローは
 矢澤にこ、星空凛、園田海未に関してはまったく成功しなかったものの、
 後に下がいるから油断していた、思ったよりも大きくなかったと述懐する
 西木野真姫に対しては一定の成果を収めた。
 なお、バストサイズに対する励ましは亜里沙も上手じゃないし、
 希が酔ったニコに白々しい! と怒鳴られたエピソードもあるので、
 胸が大きいと苦労するみたいな話はμ'sでは禁句。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:38:34.49 ID:iAmGxFo+0
「もし……これは仮の話ですが」
「んー?」
「今がもし、今より未来の延長線上にあるとすれば
 私はどうすれば良いのでしょう?」
「創作の話?」
「はい。似たようなものです。
 だって、目にしたもの以外、聞いたもの以外を知る時、
 想像に頼るしか無いのであれば、
 自分が知る事象以外は、ありとあらゆるものが
 想像に委ねられる創作物であると仮定すれば、
 たとえ現実世界に存在するものであろうとも、
 その人自身が空想する創作物であるとは思いませんか?」
「残念ながら、想像と想像を形にした創作物は違うものだわ」

 ソースはなろう系小説を読んだり、
 自身が演じる機会もあり、自分でも書けるんじゃないかと想像(妄想)を重ね
 実行性が高い計画(笑)を持ってしても物語を完結させられなかった西木野真姫。
 その際の悔恨の句は「口にする言葉と手で書く文章は違う」であり、
 聞いたツバサにも目に入るモノと耳に入るモノが同じワケがないでしょと突っ込まれたり、
 海未にも妄想と文章化され世に出た作品が同じものではないと断言されている。
 ただ、海未に関しては頭の中にあることがだいたい歌詞として表現されていて、
 ことりからムッツリとネタにされたり、希から耳年増なんじゃない? と言われたり、
 凛からも頭の中にある妄想をシロップ漬けにして現実に出したらμ'sの曲の歌詞ができると評され、
 穂乃果の歌詞は素直なのにどうして口下手なの? という言葉は海未にクリティカルヒット。

「未来は未来、過去は過去……生き方論としては
 今をきちんと生きるしか無いんじゃない? 問題は時間が解決してくれるわよ」
「生きていくのは私一人では怖いです」
「だったら一緒に行ってあげる、まあ、役に立たないかもしれないけれど」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/02(日) 04:39:39.88 ID:iAmGxFo+0
 自嘲気味に笑ってしまったので、苦笑しているようにも見える自分の顔を鏡で見ながら。
 エヴァちゃんはくるりと振り返り天井を見上げて、

「……いえ、一緒にはいけません」
「ええ? 頼りにならないから?」
「それもありますけど」
「あるんだ」
「でも、もし、今よりも未来――そして、今よりも過去にその必要があれば
 一緒に行ってもいいかもしれませんね」

 そして彼女はこちらを見て。

「今日はボルシチにしましょう」
「え? 作ってくれるの?」
「スープの赤い色が血液でよろしければ」
「……作らせてください」

 食べ物トークで盛り上がっていると、
 ハラペーニョ(お腹すいたの意)なみんなが食べたい! 食べたい!
 とやたらボルシチを褒め称えるので嬉しくなった私は
 エトワールのみんなで一緒に買物に行き、ビーツがないことに愕然とし、
 これから来ると電話してきたツバサにビーツ持ってきて! とお願いし、
 ふざけんな! ロシア料理とか飽きたわ! と返答されたものの。
 優秀な彼女の手腕でビーツは用意され無事にボルシチは完成された。
 なお、ボルシチと言う言葉は知っていたものの見たことがない面々は、
 ロシア料理が数多く置かれた食卓を見て、
 コトレータを指さしながらボルシチ美味しそう! と言ったので、
 ツバサが大受けして、ロシア料理の知名度ってそんなものよ、怒らない怒らないとフォローしてくれた。

「やっぱり、帰ってきた時に食べるものといえばこれですね」

 エヴァちゃんの言葉の意味はよく分からないけれど。
 とにかくまあ、みんな嬉しそうなので良かった。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 06:42:24.14 ID:YAt64JBjO
エヴァちゃん黒幕説……流石にないか
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 18:26:01.06 ID:qhHesepK0
みくるちゃん好きだったな〜
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:06:15.93 ID:KGnAEq7N0
 ボルシチを中心としたロシア料理を囲み、
 そういえばなんでツバサはここに来たのと問いかけてみると、
 まあまあ、それは後にすればいいじゃないと
 話をごまかされてしまったので、
 特に何を追求するわけでもなく、ちびちびとお酒を飲む。
 未成年者がいる手前、遠慮しようかなって思ったんだけれど、
 いいから飲め、とりあえず飲め、遠慮せず飲め、
 と異様なほどみんなから勧められてしまったので、
 酔いすぎない程度に日本酒を飲む。
 結構量を出したとは思うけど、胃袋が宇宙らしいツバサや
 私自身の努力によって作りすぎた料理はみんなお腹におさまった。
 摂取したカロリーがやばいのでは? と冷静になった面々は
 一目散に地下のレッスン場に向かい、今はトレーニング中。
 残っているのはカロリー? 知ったことか! なツバサと、
 食べる量をセーブしていたらしい理亞ちゃん。
 カロリーどころか肝臓の出来も心配になるけれど、
 と、私が言ったら、お前が言うなみたいな顔をされてスルーされた。

「すごい変わったわね、理亞さん」
「はい、何故だかこう……しなければならないと言いますか
 こちらのほうが自然で」

 おしとやかさかげんではエトワール随一に変わってしまったのは、
 エロゲーのプレイしのしすぎで3次元と2次元が混同されてしまったのではなく、
 普段からさらさらヘアでおしとやかさんな自分のほうが自然だったからみたい。
 どちらかといえば、そうでない自分のほうが違和感があるらしく、
 異様なほどエロゲーにハマっていた過去は消し去りたいほど恥ずかしいよう。
 人としては真っ当ではあるのかも知れないけれど、
 しかしながら、そんな鹿角理亞ちゃんのほうが違和感があるというと、
 怒られてしまうだろうか?
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:06:46.93 ID:KGnAEq7N0
 ツバサは興味深そうにしげしげと彼女を眺めたのち、
 自分が持ってきた大量の度数の強い酒をストレートで口にし、
 
「なにか隠してるでしょ」
「公式プロフィールが詐称されていたのは知ってますが」
「いや、そうじゃなくて、
 なんでそうなったのか自分では分かってるでしょって話」

 何気ない風ではあったけれど、
 的確に心を貫いてくる指摘に理亞ちゃんは苦笑いしながら、
 私の方をちらりと見て、首を振る。
 なお、ツバサも私をちらりと見て、
 なんで気づかないかなこのポンコツはと言いたげだったけれど、
 あいつの洞察力がチートレベルだって言うのは指摘してはダメかしら?

「心の中では負けたくない相手がいると思っているんです」
「その人ってすごいの? そうならなければならないほどに」
「……正直な話、負けたくないと思ったのは事実ではあるんです
 強い憤りを持って、過去の自分を改めたいと願ったのは記憶しています」

 理亞ちゃんの能力値は私から見てもかなりのレベルにあると推測される。
 才能はあるけどやる気がないとか、
 もうちょっと努力すればいいのにとか、
 明日から本気出すと言っていつの間にか死んでいる人扱いな彼女が、
 躊躇いもなく全力を出して何かに取り組んでいる姿というのは、
 過去の理亞ちゃんを見るに異様過ぎる案件だ。
 本気出すと言ってどうにもならない人間はこの世にたくさんいるけれど、
 全力を出すと、周囲が困るほど成長してしまうのは良いんだか悪いんだか。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:07:19.90 ID:KGnAEq7N0
「そいつには勝てそう?」
「どうでしょう? 今のところは勝っているとは思いますが」
「気をつけなさい、そいつは本気だすどころか、
 ちょっとやる気出すで追い抜いてくるから」
「……経験済みですか」
「ええ、何度も何度も」

 私には関係無さそうな話であるので、
 まったく聞いていない風を装っていたら、
 脛を高らかに蹴り飛ばされた。
 クリティカルヒットしてしまったために悶絶するほど痛く、
 飲んでいた酒をつい勢いよく飲み込んでしまい。
 鼻に逆流してしまってけふけふ言ってるけど、
 二人はまったく意に返さずに分かってないなあこの人って目で見下ろした。
 なんということでしょう、私はいつだってフツーでありたいというのに。
 いつも空気読めないで嫌味な態度見せてるみたいじゃん……。

 特に意味もなく脛を蹴り飛ばされたり、
 みんながお腹を痛めているから来て欲しいとお願いされたから行ってみたら、
 食べた後ですぐに動いたから苦しんでいるだけだったので、
 慌ててくる必要もなかったと安堵していると。
 一人フツーに過ごしているエヴァちゃんが、クニクニと私のわき腹を引っ張る。
 結構そういうことをされてしまうと太ったかなと勘違いしてしまうので勘弁して欲しい。

「動けるからと言って、調子に乗ってはダメよ
 急いで何かをしようとするとね、人間死ぬのが早くなるだけだし」

 私が忠告してもあんまり効果がないのに、
 ツバサの言葉は真剣に聞いているだけに、
 あれ!? 私の信頼度低すぎ……!? みたいに
 手で口を抑えながら驚いた顔をしようと思ったけれど、
 そんなことをするから尊敬の度合いが下がると思ったので自重。
 なお、ツバサの言葉がクリティカルヒットしたのは存命の面々だけではなく、
 私の心の中に居て同調してばかりの雪姫ちゃんにも。
 生き急ぐとろくな事にはなりません! と亡くなった人間に言われてしまうと、
 なんでだろう、色々と自重してしまいたくなるね?
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:07:50.50 ID:KGnAEq7N0
「朱音さん、あなた自分が売れっ子になれると思ってるでしょ」
「はう!?」
「善子さん、もうすでにサイン会で行列が出来て困る想像してるでしょ」
「うあ!?」
「朝日さん、さっきデザートもう一個食べられたかなって思ったでしょ」
「私をオチに使わないで良いんですよ、当たってますが」

 綺羅ツバサさん心を読解している疑惑。
 どういう人生を歩めば、もうすでに人気が出た自分自身を想像している――
 人間の表情からその事実を読み取ることができるのか。
 あ、でも朝日ちゃんがちょっと食べ足りなさそうなのは分かったよ?
 お腹痛いのかなって心配して駆け寄ったら、
 あと3個は食べられたって頭抱えてたし、もうちょっと健全に心配させて?

「この中に、売れている人間はみんな実力があるって思ってる人!」
「はーい!」

 高らかに手を上げたのは私だけだった。
 お前には聞いてないみたいな顔をしてツバサに見られたのと、
 すごく優しい目でエヴァちゃんがこちらを見たので、
 空気読めてなかったなって反省する。
 ちょっとノリでおとぼけてしまったけれど、
 エトワールにいるみんなも、売れているアイドルなり歌手なり、
 声優だったりする人間がみんな優れた歌唱力とかを持っているかどうかは、
 分かっているものであるらしい。
 仮にみんながみんな優れた部分があって、優れているからこそ仕事をしているのなら、
 実力派〇〇なんて言葉はおそらく存在しないものであるだろうし。
 
「はい、みんなもお察しの通り、歌が上手い人が歌手をやってるわけでもなく、
 当てるのが上手い人が声優をやっているわけでもなく、
 演技が上手な人が俳優やっているわけじゃありません。
 ただ、9割は上手な人がやってます」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:08:22.53 ID:KGnAEq7N0
 何故こんな話をツバサがしているかと言うと、
 今までほとんど上手く行ってなかったのに、急にいろんな才能に目覚めて、
 やればやるほどできるようになるんじゃない?
 みたいになってオーバーワークを起こすのを防ぐため。
 私もそのあたり一家言持ってるけど、説得力がないからやめてって言われちゃった。
 反論しようとしたら理亞ちゃんに優しい声で、やめてくださいって念押しされたし、
 中にいる雪姫ちゃんにさえ、やめたほうがいいですって止められたし。

「何より大事なのは、売れてない人たち。
 もちろん、実力がないから人気がないという人たちも数多いけれど、
 事務所に所属している人間の大多数は、
 売れている人と同程度かそれ以上の実力を持っていても
 売れていないという現実です」

 頑張るなというわけではなく、
 頑張りすぎてはだめだ――という忠告。
 上手くいっているとついつい調子に乗りがちではあるけれど……
 そういえば調子に乗りがちな人生であったなあ、と勝手にたそがれる絢瀬絵里(笑)
 なお、みんながみんな、オチはあいつだなって目で私を見てる。

「はい、みんなもお分かりですね、
 μ'sで羽目を外して頑張った挙げ句、
 数年間ニートとして過ごし、妹のスネカジリを続け、
 今はその人のコネで仕事しているあの人みたいになります」

 パラパラと沸き起こる拍手。
 それはツバサの発言が的を射ているから?
 すごく分かりやすい説明だったって納得した拍手?
 ちょっと扱い的に不遇であったので、唇尖らせて拗ねてみると、
 綺羅ツバサさん(笑)がさらに、

「くだらない話を聞いてくれたみんなに
 ああいう人を意のままに操る方法を教えます」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:08:53.53 ID:KGnAEq7N0
 えー!? と深夜の通販番組の商品紹介の時みたいに
 みんながノリよく高らかに驚いてみせる――雪姫ちゃんも言ってる。
 
「これは別に絢瀬絵里オンリーに使える技術ではなく、
 自分では頭が良いと思っていてそれなりに仕事はできるけど、
 言われたことしかできないやつと、褒めれば動いてくれる人にも利用できます
 なお、仕事ができない人間にやってもこっちが損するだけです」

 ツバサが私と正対して、やけに真剣な面持ちでこっちを見る。
 ふざけた態度から一点、謝罪の意でも示すみたいに殊勝な表情をして、
 責めるべきはこちらなのに、なんか悪いコトしたかなと罪悪感が揺さぶられる。

「はい、今の通り、こちらが下手に出て申し訳なさそうな風を示すと
 ああいう人は心が揺さぶられます、
 今あの人、なんか悪いコトしたかな? って考えました」
「か、考えてないし……」

 心を読解されたのでしどろもどろになる。
 観察眼と言うよりニュータイプレベルの所業、
 おそらくファンネルは使えるね? ハイパー化するかもしれない。
 いくらこっちがハンブラビで頑張ってもビーム全部弾かれちゃう。
 
 こちらが反抗的な態度を示したことで、
 相手は第二の作戦を取る。
 死んでも屈するもんかと思って気合を入れていると、

「絵里」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:09:41.21 ID:KGnAEq7N0
 その台詞と一緒にこちらに潜り込んでくるツバサ。
 正拳突きでも決められるかと思って身体をくねらせると、
 なんと私の手を取り、せつなそうな瞳でこちらを見上げ、
 愛おしい人に甘えるみたいにボディータッチを重ねながら
 なんかいい匂いがすると同時に心が揺さぶられた。
 あかん、これは孔明の罠やんなと希の声が聞こえてきた。
 そうよ私、こいつは一度弱みを見せたら最後、
 死ぬまで罵倒をしてくるやつだと思い直し、ぐっと一声漏らして、
 鼻息荒く相手を睨みつけてやると、

「ごめんなさい、許して絵里」
「だ、騙されたりしないわよ! そういってェェェ!?」
 
 寄せられる唇、撫でられる身体、鼻には絶えず甘い香りが届く。
 なんでこの人さっきまで酒にまみれてたのにこんな匂いがするの?
 との冷静な思考回路は一瞬で吹っ飛び、
 熱量高く、ガチで女性の方が好きみたいな態度を取られ、
 まるでイケないことをしているみたいな気分にだんだんと落ちていく。
 的確に身体がハネてしまいそうな部分を刺激されてしまうと、
 抵抗虚しく陥落してしまいそう。
 恋人つなぎで手を重ねられ、潤んだ瞳と湿った唇を寄せられてしまうと、
 あ、こういうのもアリかな? と――

「はい、いざという時はこうしてボディーランゲージで何とかしましょう
 ああいう人は感情に飢えているので、距離が近づくと動揺します」
「うえ……?」
「何してんの絵里、発情してるの? 肉の加工会社に売るわよ?」
「こ、この! またダマ……!」
「ごめんね……」

 騙されていると分かっていても、
 人恋しい気持ちを埋めるような的確なボディータッチに、
 為す術もない絢瀬絵里なのでありました。
 断じて発情しているわけでもなく、相手に性欲を抱いているのでもなく、
 あくまで綺羅ツバサさんが上手なんです、あとエヴァちゃん写メ取らないで
 どこに送ったのそのメール。亜里沙じゃないよね?
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:10:18.48 ID:KGnAEq7N0
 絢瀬絵里を意のままに操る方法を体得したエトワールの住人は、
 扱いやすい金髪の発言は右から左に流すようになり、
 カリスマ性を高めた綺羅ツバサさん(笑)の演説はヒートアップの一途をたどる。
 これがもしジオンだったらハマーン・カーンかシャア・アズナブルレベルの所業、
 おそらく私だったらよくてグレミー、下手するとゴットン。
 でも、ゴットンさんはちょっと感情移入しちゃうよね、上司に恵まれなくて。
 でもガンダムシリーズってだいたい上司に恵まれない人か、
 部下に恵まれない人しかいない気がするけど、現実ってそんなものなの?

「さて、統堂朱音さん、エヴァリーナさん、栗原朝日さん、津島善子さん
 あなた方のデビューが企画検討されています」

 今のがもし、私の発言だったら本当かよみたいな顔をされるだろうけれど
 あいつの信頼度は今や亜里沙レベル。
 ボルシチを作るために呼ばれたやつレベルから、
 神と崇めてもいいレベルにまでジャンプアップを重ねたあの人は、
 そろそろハウツー本でも出せばいいと思う、売れそう。

「今は4人揃ってということになりますが、
 望むなら単独でも、売れてからの話になるとは思いますが」
「質問があります」
「はい、朝日さん」
「絵里さんはともかく、理亞さんは私達とセットになる話でしたよね?」

 うん、そこは理亞さんは一緒じゃないんですか?
 で、良いと思うの。私をオチに使わないで良いんですよ。
 エトワールで一緒に過ごしている以上、
 アンリアルとしてはパッとしない売れ行きだった彼女を
 グループのセンターとしてという意図はあったのか、
 みんながみんな、え、私達だけ? みたいな顔をしている。

「うん、ネタばらししてしまうと、元々、そこの金髪の代替要員が理亞さんでした」
「あ、どうも、私が変な金髪です」

 ボケてみるとみんながスルーした。
 雪姫ちゃんだけが面白いですよ! とフォローしてくれる。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/04(火) 16:11:11.48 ID:KGnAEq7N0
「元々、この場の管理人として絢瀬絵里が来なければ、
 理亞さんをまとめ役としてみんなをデビューさせて、いずれ一人くらいは当たれば
 という魂胆でした。
 みんなを軽んじているのではなく、その程度の実力だったと冷静に判断した結果です。
 が、ハニワプロの意図とは異なり、理亞さんはみんなと一緒に堕落する方向に向かい、
 どうしようかねこの人達扱いされていたのは……まあ、分かりますね?」

 顔を見合わせながら苦笑いする面々。
 何故かは分からないけれど実力が向上したみんなは、
 ハニワプロの困りモノから、推すべきアイドルへとレベルアップに成功し、
 グループとしても行けるよね? 扱いになったのは――分かりますね?
 英玲奈の妹として審美眼があって、歌唱力に優れていた朱音ちゃんや、
 外見では誰にも太刀打ちできないレベルの美少女であるエヴァちゃん、
 Aqoursとして活動し、頭脳明晰で仕事もできる善子ちゃんや、
 とりあえずグループにはちっちゃい子を入れとけみたいな扱いの朝日ちゃん。
 プロデュース業でも優れているヒナのおべっか取りだった側面があったのは
 ここだけの秘密、本人も分かってるだろうけど。

「エトワールは使えないアイドルの隔離場所から
 金の卵の育成所に変化しようとしています。
 ただまあ、そういう会社の意図はね、ほんとう、クソくらえなんだけどね?」

 冷静な口調から本音が漏れ始めたツバサ。
 アイドルを管理するような上の立場での話は、
 アイドルであることにプライドを持っている彼女からすれば許せないのだろう。
 
「私達はハニワプロを有名にさせるためだけの商売道具じゃない
 ううん、アイドルは――芸能事務所を潤すための使い捨ての駒じゃない
 みんなに希望を与えて、夢を与えて、理想とされるもの
 ――悔しいことに、私にはまだその実力がない。

 だから言える、あなた達はできる、もっともっと奇跡を起こせる
 隠居みたいな私なんかを越えて、有名なアイドルになってください

 でないと、そこの金髪とか、そこのおしとやかさん使って
 私が下剋上するから」

 だから私をオチに使わないで?
 せっかくちょっといい話だったのに、
 みんなの表情があーあ、みたいな感じで終了するのは、
 なんていうかやるせない気持ちにさせるからさ。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/04(火) 16:22:39.46 ID:KGnAEq7N0
少し更新が不定期になっていますが、
ちょっと忙しくて。
ただ忙しいと言っても。自分の用事ではないというのが悲しく。

こっちの方を最優先して更新しますので、
できれば毎日。できれば一日二回……二回は無理かな……。

なお、ハーメルンの方で更新している作品は、
アラ絵里の共通ルートの分岐から産まれた世界という設定を把握すると
この後に続く、共通ルートからの分岐である海未ルート、ツバサルートが
どんな感じになるか――というお話もしたいんですが、忙しいので自重。

なお、海未ルートの分岐で真姫ちゃんのルートが入り、
ツバサルート分岐で誰かもうひとり攻略ヒロインを入れたい!
と思ってるんですが、考えるだけはタダなので――
やると決まってはいるので、ボルシチ……じゃなかった、ボチボチ。

鹿角理亞ちゃんルートは、このあともう一話絢瀬絵里視点の話が入り、
鹿角理亞ちゃん視点の話が挿入されて一話が終了します。
楽しみにして頂ければ幸いです。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/04(火) 22:15:19.57 ID:ztTimas/O
理亞ちゃんの真意そういうことだったのね
北海道だけにめんこいのう
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 04:09:48.34 ID:XgGnBrAE0
>>100
う〜ん。。。これはレズ!
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:51:05.60 ID:KHC8AQuS0
 ちょっとツラ貸せやと言わんばかりに肩をぐっと掴まれて、
 絢瀬絵里専用とされるべき管理人室に連行された。
 私を連れてきたのはこの場でもっとも権力がある人物、つまりは綺羅ツバサ。
 なんでそんなに女の子の扱いが上手なのって尋ねたら、
 あなたもやろうと思えばできるでしょっていう意味のわからないことを言われた。
 私の人生経験で意のままに操れた女の子って高校卒業するまでの亜里沙くらいじゃない?
 下剋上くらって今では顎で使われてるけど、知り合いは大抵私を顎で使うけど。
 今まで荷物の溜まり場だった場所は、すっかり綺麗に掃除をされて、
 家事くらいしか取り柄のない私から見ても、それなりにピカピカのレベルを保っている。
 ただそれを口に出してしまうと、私の部屋が荷物置き場に逆戻りしてしまうので、
 口が裂けても言えない、まあ、口が裂けたら喋られないけどね? え? そういう問題じゃない?

「さて、作戦会議をします」
「そう、わかったわ、おやすみ」
「永眠してもいいんならさせてあげるけど?」
「絞首刑はやめて」

 ワシワシするみたいに手を動かして、鶏を絞める動作をする。
 なんで暗殺術に長けているのかは聞きたくはないけれど、どうせ何かのゲームの影響でしょう。
 人間が妄想することなら誰でも実行できるらしいからね? タケコプターでも作ってて欲しい。
 さて、この場にいる面々はずっと話題にのぼっているツバサだけでなく、
 おすまし顔で微笑ましそうに私達の交流を眺めている理亞ちゃん。
 家畜かっていうほどに人権がない私を眺めてニコニコと微笑んでいるのは、
 なんともやるせない気持ちに浸らせてしまうのだけれど。
 実は絢瀬絵里を心の底から嫌っていて、私が不遇な目に遭うとうっかり微笑んじゃうとか?
 うん、それは被害妄想だ、ぶっちゃけありえない。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:52:32.50 ID:KHC8AQuS0
「エニワプロっていう芸能事務所は知ってる?」

 私は首を振る。
 なにそのハニワプロのパチもんみたいな名前は? と怪訝そうな顔をすると、
 実際に生まれた経緯もそういうものであるらしい。
 かの事務所が斜陽化した際に独立した一部の面々が作ったのが、
 話題のタネらしく、独立したのに元ネタにあやかってるじゃない! 
 と、言ってみると誰しもがそう思っているらしく、無駄口を叩くなと睨まれた。
 最初こそ華々しい活躍を見せた芸能人たちの頑張りで、
 それなりの地位を保つことが出来たものの、ハニワプロの業績がV字回復するに従い、
 だんだんと経営が厳しくなってきたらしい。
 もっと業績予測をまともにできる人間がいれば、そもそも独立はしなかったろうけれども、
 まさかハニワプロが亜里沙とか南條さんとかその他諸々の人たちの活躍で、
 経営を立て直すなどとは誰も予測してなかったらしい、そりゃそうだ。
 亜里沙自身でさえ月島歩夢という成功例があるものの、
 長続きなんてするはずもないと当人でさえ思っていたし、
 まだトップ走ってる歩夢ちゃんでさえ、持って3年くらいかなと思ってたらしい。
 転機は仕事を抱えに抱えた結果、現役女子高生というポジションを捨てようとした妹を
 とある人がフォローに入ったことだった。
 もっと早く他の誰かがフォローしてよとはその人の談だけど、
 亜里沙よりもよっぽど優秀で仕事ができた南條さんの手が加わり、
 妹もプロデューサーとして成長を見せた……らしいのだけれど、
 なんで成長したの? チート能力でも付与されたの?

「え? 亜里沙さんが成長を見せた理由?」
「ええ、だって亜里沙ってアレよ? 仕事ができる人間じゃないわよ?」
「元ニートにそんな事言われるのは彼女も心外だと思うけど、
 アレよアレ、あなたに付きまとってたストーカー。
 ゴミはゴミ箱に捨てるものだって気づいて、仕事に感情を持ち込まないようになったって」
「……良かったんだか、悪かったんだか」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:53:11.01 ID:KHC8AQuS0
 結論から言えば、悪い男に引っかかった私を妹が地獄に落としたでFAだけども。
 天使みたいに愛おしく可愛らしい妹は、だんだんとクールで冷徹に変貌していき、
 誰かを意のままに操るのが上手になり、現在のポジションに至るらしい。
 ただ、理亞ちゃんがサラッと――
 「絵里先輩を上手く使って、人を上手に操るすべを覚えたんですね」
 などと言うのが耳に入り、血反吐吐きそうなくらいダメージを受ける、かいしんのいちげき!
 ツバサはコロコロとほんとうに楽しそうに笑いながら、
 誰かの役に立てて良かったじゃない、世の中誰の役に立たない人間のほうが多いし。
 使おうと思ったって使えない人間のほうが多いしさ、
 と、何のフォローにもならない発言をした、それで私はどう思えばいいの?
 わーい! 私って顎で使われるのが相応しい人間だった! って喜べばいいの?

「で、エニワプロだけれど、
 いま、渾身の一手を使って業績を戻そうとしているわ」
「亜里沙みたいなのを連れてきたの?」
「確かに芸能経験のない人間を連れてきたというのは、正しい――」

 呼びかけられて、何? みたいな感じで顔を見てみると、
 珍しく何かを躊躇ったかのように眉をひそめて、
 ズケズケと足を踏み入れてくる彼女にしてはほんとうに珍しく、
 こちらの感情を慮るように口を開いた。

「海未さんと喧嘩でもした?」
「ん? いや、彼女との仲は良好よ? 
 この前も一緒にエロゲーやったし」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:53:48.93 ID:KHC8AQuS0
 理亞ちゃんがまだ、ツンケンしていた頃に一緒にダイヤモンドプリンセスワークスをプレイした。
 なんだか遠い昔のような気がするけれど、えらく穂乃果に似たヒロインがお気に召したらしく、
 何とかして攻略できないのか、ファンディスクなら、そこまで行くともう……
 と言っていたのを思い出す。
 一時的に疎遠になったことはあるけれど、
 おそらくは私が悠々自適にニートしていたのが許せない側面があったのだ。
 真面目一途で頑なな彼女が、妹のスネカジリして働く気もなかった私を見て、
 どんな感情を抱いたのか――想像するに気分が暗くなりそう。

「そう、ならなおさら解せないわね
 理亞さん、ルビィさんと喧嘩でもした?」
「え? 最近連絡が取れないのは確かですが
 思い当たるフシはないです」
「そうよね、絵里みたいに考え無しに迂闊な発言する人じゃないし」
「私を心配する表情で、私をディスるのやめない?」

 ツバサの表情は可哀想なものを見るとか、哀れに思って同情するとかではなく、
 心の底から私のことを心配する素振りを見せているのに、
 口ではさっきからズケズケとナイフで精神を切り込んでくるのはどうして?  
 私がおとぼけていると、理亞ちゃんは何事か思い当たったことがあったらしく、
 怯えると言うか、かすかに震えながらツバサに問いかける。

「ルビィは……ハニワプロから引き抜かれたんですか?」

 信じられないと言わんばかりの、
 泣きそうなくらいに辛いと言う風な震える声で理亞ちゃんは問う。
 信頼している相手に裏切られたというよりも、
 自分がその行動を引き起こしてしまったと責任を感じている風だ。
 ただ、ツバサは沈痛な表情で彼女を見て、
 一つ小さくため息を吐き、
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:54:18.48 ID:KHC8AQuS0
「いいえ、彼女は自分の意志で事務所を移籍しました
 ただ解せないのは……そうであるはずなのに、過去がそうではない気がするの」
「うん?」
「最近まで確かに彼女はハニワプロにいたはずなのに、
 なぜか、いつのまにかエニワプロに移籍したことになってる
 そうであるのが都合がいいと言わんばかりに」
「誰かの意志でそうなっているということ? この世界が?」
「事務所を移籍するのってそう簡単じゃないのよ?
 売れてるタレントが独立するのだって大変なのに、
 アイドルがライバル事務所に移籍することで起こるデメリットは
 おそらくあなたが考えている以上よ」

 ツバサは一度引退してからハニワプロに入ったから、
 デメリットというデメリットはあまりなかったらしいけれど。
 それでも芸能界の道理を分からないやつ扱いをされているみたいだから、
 たしかにそれを考慮すればルビィちゃんの件はあっさりと済まされ続けている。
 引き抜き工作が事前にあれば、
 ツバサや理亞ちゃんが引き止める工程もあったかもしれないし、
 事務所の移籍をしても何かを成し遂げたい意欲があるのなら、
 アンリアルとして一緒にいた理亞ちゃんが事実を把握していないのはおかしい。
 誰かに何かを改変でもされているみたいに、
 そうであったのが自然だと済まされている事象が少し多すぎやしない……?

「ツバサさん、絵里先輩。
 もし、誰かの意志でこの状況が生まれたのなら……
 その道理に従いましょう」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:54:50.71 ID:KHC8AQuS0
 考え込んでしまった私達をなだめるみたいに、
 極めて明るい表情を作り、励ますように言葉をかける理亞ちゃん。
 辛くて辛くて仕方がないはずなのに、自分のことよりも私達の感情を優先している。
 年下の子にそんな扱いをされてしまうと、恥ずかしいやら情けないやらで、
 一度思考を打ち切って、ツバサと笑いあった。

「ルビィが私と対立するつもりならば、正面からぶつかります」
「絵里」
「分かってる、理亞ちゃんをサポートして欲しいってことね?
 私はまだハニワプロの人間じゃないし、
 全面戦争になって火の粉が飛んできても私一人を切れば良いもの」
「その献身的な態度は素晴らしいけれど、
 サポートじゃなくて、ともに進む仲間となって前に進んでほしいの」
「……ん?」
「最終的に二人には、私にも、エトワールのみんなにも勝って欲しい
 ……んだけども、私があなたに負けるのは死んでもゴメンだからさ。
 
 アイドルの世界へようこそ絢瀬絵里。
 できるだけ酷ったらしく、この綺羅ツバサがあなたを殺してあげるわ
 それが嫌なら、私を殺すことね?」
「なんで……?」
「言っておくけれど、
 私の生涯のライバルってあなただけだから――
 
 理亞さん、あなたは取るに足らないの」
「残念ながら、私は絢瀬絵里の添え物でおさまるポテンシャルじゃないので……

 と、言いたいのですが、やはり同じ事務所の人間同士ある程度は協力しないと」
「うん、ちょっとシリアスになっちゃったけど、冗談は善子ちゃんよエリー」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:56:13.18 ID:KHC8AQuS0
 脳の回路が軽くショートして、
 複雑怪奇と言わんばかりな様々な事象が浮かび上がってきて、
 泣きそうになって、凹みそうになって、頭抱えて逃げ出したくなって、
 冗談と言いながら全然ひとっつも笑ってない顔向けてきて、
 私を蹴り落として夢を叶えようとする友人を見て、
 なんだか、今まで見てきた彼女と違う側面の彼女を見て、
 当然、私の見てきた綺羅ツバサが彼女のすべてではないことは知っていたけど、
 だからといって、今までずっと味方でいてくれたのに、
 笑いあって仲良くしてきたのに、
 それがまるで嘘だったと言わんばかりに、バカを見たのが私だけだと言わんばかりに――

「……まだダメか」
「え?」
「ごめんなさい、許して絵里。
 でもね、いつか起こる未来で私があなたの敵に回った時
 容赦なく切り捨ててほしいの、いくらでも嫌って欲しい
 それが私の生きる道理だから」
「ツバサ……?」
「絵里先輩、私は――鹿角理亞はあなたの味方でもあり、
 敵でもあります――
 いつか起こる未来で私が敵に回っても、
 どうか切り捨てて前に進んでいってください、お願いします」
「理亞ちゃん……?」

 そして二人は遠くへ、
 私から離れるみたいに、置いて行ってしまうみたいに、
 ううん、ふたりだけじゃない、海未や、真姫や、穂乃果や亜里沙――
 みんながみんな、私を置いてどこか遠くへ行ってしまって――
 やがて独りぼっちになった私のそばにいるのは――誰? 

 ――いや、もしかして。
 私は一人で立っていかなければいけないの?
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 20:56:48.72 ID:KHC8AQuS0
 いつの間にか眠ってしまったらしく、
 私は身体を起こす、ちょっとだけ頭痛を感じて視線を這わすと、
 先に服をまとってないツバサがいた。
 悲鳴をあげそうになり、え、もしかして私何かやらかしたって思ったけど
 自分が起きたのと同時に彼女も向こう側を向いて体を起こし、

「酒に飲まれるのは良いけど、話があるって言ったのに寝ないで」
「え?」
「覚えてないの? あなたに聞かせたくない話があるから
 先に部屋に行っててって言ったじゃない。
 まさか寝てるとは思わなかったわ」
「……え? 夢オチ!?」
「せっかく全裸で潜り込んで、責任とって! キャハって言おうと思ったら案外冷静ね?
 それとも嫌な夢でも見た?」
「どこから夢うつつだったのか……地下にいたのは覚えてるんだけど」
「その後部屋に戻って眠ってたってわけか……
 あなた緊張感がなさすぎ……る?」
「ん?」

 ツバサがすばしっこい動きで私の背後にまわり、
 怯えきって恐ろしいものを見たと言わんばかりにガクガクと口に出し、
 ガクガクってそんな口に出す台詞じゃないでしょとツッコミを入れようとすると、
 
「「ガクガク……」」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/05(水) 21:01:52.34 ID:KHC8AQuS0
 狂気に身を委ねた――
 妹らしき生き物が出刃包丁を手に――
 感情を完全に失いきった冷徹な瞳で――
 こちらに微笑んだような表情を見せながら――
 もう、ガクガクって言うしか無いでしょ? ってツバサも私も分かってて。

「さーあーゆーきーをだーしー
 みーじーんーぎーりーだーほーうーちょー

 いーたーめーよーうーみーんーちー」

 あ、これ、
 今日の食卓に私達のミンチが載っかるやつだ。

 デッドオアダイ。
 ああ、選択肢が一つしかないゲームとかクソゲーじゃん……
 まったく、現実って本当にクソゲー。

「いーざーすーすーめーやー きーちーん

 ゆーでーたーら かーわーをーむーいーてー

 ぐーにーぐーにーと つーぶーせー」

 揚げればコロッケ……私達は見事に調理され、
 あの二人はどうしたんですかって誰かが言って――

 赤いナポリタンができあがるんですね――分かります。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 21:05:14.40 ID:KHC8AQuS0
シリアスに傾くと亜里沙がオチをつけてくれます。

次回は鹿角姉妹のお話です。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/06(木) 00:46:06.03 ID:UBckaTlfO
嫉妬の二乗で亜里沙のヤンデレゲージがヤバい
絵里は本当の意味での自立にはまだまだ遠そうなのかなぁ…
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:24:05.07 ID:LffsrmXp0
−視点 鹿角理亞−

 お酒を飲んだわけでもないのに、
 いつの間にかに寝てしまっていて、
 自室に戻った記憶もないのに意識を失うように横になっていたとか。
 それでも姉さまからのメールに一発で気がつき、
 飛び起きて内容を確認してしまうというのは、
 私自身が亜里沙さんの言うところのシスコンである証明なのかも知れない。
 なんでこんな事を思ってしまったのかと言うと、
 身支度を整えて、全身を写す鏡で乱雑になってしまっているところがないか確認して、
 みっともない姿など見せるわけにはいかないと気合を入れているさなか、
 私の尊敬するプロデューサーが唐突にエトワールに来訪されたからです。
 なにか良いことでもあったのか鼻歌を歌いながら台所に向かわれたので、
 どうしましたって問いかけてみたら、
 一瞬だけ怪訝そうな表情で私を見たのち、
 記憶にある鹿角理亞と、現在の鹿角理亞が合致したらしく、
 ずいぶん変わりましたね、と仰られました。
 とりとめない話で盛り上がりたいのは山々ではありましたが、
 急ぎの用事があった手前、詳しい話は後でしますと言い、
 それで何事かを察して下さったのか、
 ではコロッケでも食べながら一緒にお話をしましょうと告げられました。
 何故片手に包丁を持ちながら、絵里先輩が眠る管理人室に向かい、
 コロッケを作ると言ったのかは分かりませんが――

 ええ、わからないということにしておきます。
 仮に先輩が二人ほどこの世から消え去っていたら、
 何も言わずに胸に秘めるくらいのことはやってのける女ですよ私は。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:24:34.11 ID:LffsrmXp0
 エトワールから歩いてしばらく、
 高まる気持ちを胸に秘めながら、朝陽が降り注ぐ道を歩く。
 春になってからだんだんと暖かくなってきて、
 真新しい制服を着た学生なども初々しく歩を進めていて、
 そういえば、朱音とエヴァは進級したはずなのに
 いっこうに学校に行く素振りを見せなかったのはいかなる理由があってのことなのかと
 ふと、思い当たってしまって、英玲奈さんに絞められないのかと不安になりました。
 朱音やその親友であるエヴァには遠慮しいですが、
 ツバサさんや絵里先輩には情け容赦なく蹴りを入れるので――
 ん? 何故そんなことを私が把握しているのでしょう?
 仮にA-RISEや仲の良い先輩が一緒にいるというのはシチュエーションとして
 想定できることではありますが、その場に自分がいるというのは
 もしかすると不自然なのでは? 
 確かに遠慮なく二人を蹴り飛ばしている英玲奈さんをどこかで見た記憶はあるのですが、
 過去を振り返ってみても場面が思い出せません、
 そうであったという記憶しか思い浮かばないので、
 一度疑問は胸に秘めておいて、姉さまとの待ち合わせ場所であるクローシェという喫茶店に
 そういえばこの時間にあのお店は開いているんでしょうか?
 姉さまのことだから、どこの店も24時間営業をしているくらいのことは
 平気で考えそうなものです、公共交通機関は32時間走ってるそうですが、
 一体どこの世界の話なのか私は疑問です――。

 回転からしばらく経っていたのか、
 それとも姉さまの願いが届いてこのお店が24時間営業であったのかは、
 私の知る限りではなく。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:25:02.43 ID:LffsrmXp0
 誰の導きもなしにこの場に何食わぬ顔をして席についてお茶しているという
 自宅でしかありえなかった光景を目の当たりにし、
 この人は私の知る姉さまなのかと疑問に思わざるを得なかったのです。
 なにせ自宅からすぐにあるセイコーマートに行くのでさえ、
 誰かしら一緒に行かないと道に迷ってしまう方向音痴っぷり。
 顔なじみである人たちは姉さまのアレな姿をよく把握していてくれて、
 ついうっかり姉さまが外出しようとするとすぐさまおまわりさんに連絡が行く始末。
 高校に登校するのでさえ、飼っている犬の補助なしでは一人で行けなかったですが、
 そんな素振りを見せず、毎朝の散歩のついでに高校に行くという言い訳を
 みんなが微笑ましいものを見る感じで聞きつつ見つつしていたのは、
 姉さまだけが知らない事実ではあります。
 ――私が入学した時、あなた一人で高校に行けたの!?
 って先輩に問われてびっくりしたのはね、黒歴史というものですね?

「理亞……ずいぶんと大人びましたね
 やはりと言うべきでしょうか。私自身も過去の自分との違いを認知していますが
 比ではないようです、とりあえず座りなさい」
「はい……」

 見せかけだけの落ち着きっぷりではなく、
 ファンの人とか、姉さまが知らない方が想像する鹿角聖良の体現ぶりに。
 もしかして未だに夢の中にいるのではと、自分に問いかける。
 これがもしやハニワプロの誰かしらの変装で、
 私自身にドッキリを仕掛けていると言われたほうがまだ信用できる。
 インターネットって聞くと、蜘蛛の巣を想像する人ですよ?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:25:47.31 ID:LffsrmXp0
「驚かないで聞いて貰いたいんだけれど、
 実は私はここまで一人で来たの」
「それはその……歩夢さんや亜里沙さんの補助無しで
 お一人でここまでいらしたということですよね?」
「ええ、自分でも驚いています。
 一人で家を出て、電車に乗って、歩いてここまで来ました
 カメラもいませんし、歩夢もついてきていません、彼女は岐阜の実家です」

 ということは我が家の賢い犬の補助もつけず、
 本当にお一人でここまでいらしたということ。
 財布も忘れず、Suicaだって使い、身なりをきちん整えて、
 今日日小学校高学年だってできそうなことを聖良姉さまがこなしたということ。
 アイドル以外のことはできないと言われていた姉さまが――
 思わず感極まって泣きそうになりましたが、
 変なことは考えるのはよしなさいと言われたので自重。
 姉さまは洞察力も身につけられたようです。

「SaintSnowとして活動し、高校卒業後――
 すぐにでもデビューさせたいという芸能事務所はいました
 正直、私はできると思ったんです、とても恥ずかしいことに」
「姉さまは私のことを待っていてくださいました」
「ええ、待っていたつもりだったんです
 実際は理亞がいなければ何もできない人間だったと言うに」

 自宅から近い駅から東京に一本で行けると思っていた姉さまは、
 事情を知らない駅員さんに東京行きの電車はどこですかと問いかけ、
 東京というのが道内にないことに気が付かれてしまいました。
 神田明神でAqoursのみんな(3年生組欠席)に出会いましたが、
 あの時に姉さまは寝起きで、半分くらい意識が飛んでいたのはここだけの秘密。
 姉さまが迂闊にもこっそり立ったまま寝てしまったから、
 意識をそらそうとムーンサルトしたのはここだけの話。
 意味もなくドヤ顔で飛んでいたわけじゃないんです――。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:26:15.43 ID:LffsrmXp0
「理亞には辛く当たりました――
 自分の不出来さを棚に上げて、いつまでも大きく成功しないのは
 あなたのせいだと思って」
「いえ、そう思われても仕方ありません。
 亜里沙さんと出会うまで、本当に堕落しきっていましたし」
「……ごめんなさい、あなたが本当にやる気を出した理由
 私は知っていたの。でも……認められなかった……
 まるで自分がすごくないのだと言われてしまったようで……認められなかったんです」

 成人向けゲームにドハマりしている間に同期のアイドルが成功を重ね、
 後輩にすら追い抜かれ、聖良姉さままでが使えないやつ扱いをされていた日々。
 使えないというか、歩夢さんが来るまで姉さまの動きに合わせられる人がいなかった
 というのが正解なんですが。
 Aqoursでラブライブを優勝したという触れ込みでやって来ていたルビィも鳴かず飛ばずで、
 あの世代の人間はみんな失敗だなという扱いを受けていたころ、
 正直な話、私は結構疲労を重ねていました。
 ゲームで徹夜していたからではなく、聖良姉さまに引っついて
 呼ばれてもいないのに現場に行ったり、出番が終わるまでずっと待っていたり。
 私自身も売れてないんですが、姉さまもマネージャーの代わりに妹が引っ付いているという
 つまりは、仕事は持ってくるけどあとは自分でなんとかしろ扱いをされていて、
 面倒――うん、面倒を見ていたというのが正解だったのだと思います。
 いつまで続くんだろうこんな日々って憂鬱になっていて、
 亜里沙さんと会う日だっていうのに、現実から逃げ出したくて大遅刻し、
 眠くて機嫌が悪かったから口が過ぎて、喧嘩を重ね、
 よくもまあ見捨てられなかったものだと私自身のことなのに笑ってしまいそう。
 姉さまは亜里沙さんに私の面倒を見て欲しいと頼み、
 実際、その手腕に載っかることによってルビィともども多少売れ始めた。
 その認識しかしておられないと思っていましたが。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:27:01.79 ID:LffsrmXp0
「正直、μ'sってバカにしてました、
 A-RISEに比べれば寄せ集めでしかなかった、
 なんでラブライブを優勝したのかっていつも疑問でした」
「ええ、私もそう思ってました。
 メンバーの名前も覚えてなかった……あなたをやる気にさせた絢瀬絵里だけは
 死んでも忘れるかって思って死ぬ気で覚えましたが
 ああ、いえ、本当は人の顔って結構簡単に覚えられるみたいなんですけど」

 苦笑しながら言う姉さま。
 交流を果たした結果、いつの間にか覚えていたという高海千歌という人間は
 本当ごくごく限られた例外。
 ルビィから元Aqoursの面々がどれほど彼女の捜索に身を投げ出し、
 巻き込まれ、裏切られ、それでも帰ってこなかったのかは聞き及んでいて、
 正直な話あいつの顔だけは見たくはないのですが――。
 
「彼女、ほんとうにニートしてたんですか?」
「亜里沙さんはそう言っていて、後日ツバサさんにも伺いましたが
 遊び歩いてばっかりだったらしいですよ? だから信じられなかった――」

 ゲームにハマって、かつ姉さまと一緒に数々の現場に行ってもなお
 自分と姉さま以上にできる人間なんていないと思いこんでいた私は、
 家でニートしていた……というか、本当に遊び歩いていた絵里先輩を見て、
 最初は恥ずかしいやつだと思いました。
 おそらく、絵里先輩も自分が恥ずかしい存在だったって言うかも知れませんし、
 客観的に観れば妹のスネカジリしているニートなのだから、
 恥ずかしい存在ではあるのかも知れない。
 さんざん家事くらいしか取り柄がない、今すぐ捨てられても仕方ない、
 と言ったはずなのにどこ吹く風で。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:27:36.55 ID:LffsrmXp0
 いやまあ、再会した時に私のことをまったく忘れていたのは――
 ルビィに話しかけてもらってドヤ顔で登場した意味がなかったのは、
 すごく悲しい思い出ではあるんですけど。
 どうにかして絵里先輩が自身を恥ずかしい人間だと認識して貰うために。
 私が実力を最大限発揮できるあらゆる勝負事で挑みました――
 格闘ゲームでは軽く捻られ、大乱闘するやつでも手も足も出ず、
 パーティーゲームならどうだと思ったら、亜里沙さんをフォローしながら
 ぶっちぎりで勝ち抜けてしまうというチートぶり。
 暇だからゲームはやるヒマがあるしというコメントに怒り狂って、
 つい、歌と身体能力で勝負を挑みました。
 売れない人間とは言えレッスンはきちんと顔を出し、
 日々トレーニングを重ねていた私が負けるわけなんて無いと思ったんです。
 よくよく考えてみれば、当時トップアイドルとして君臨していたツバサさんとカラオケに行き、
 彼女の周囲の太鼓持ちしてた人間がドン引きするほど歌唱力で圧倒した人間に、
 私なんぞが勝てるわけもなく。
 亜里沙さんに絵里先輩がやったことなさそうなスポーツはないかと問い、
 見当がつかないというコメントの末に、だったらアレやってみたいアレ、
 と当人が会話に乱入して指をさしたのがセパタクロー。
 何だアレという感想しか抱かないスポーツでしたが、
 身体能力ではまだ勝てると思った愚かな私は、
 二人して練習に参加し、思いもがけない才能を発揮し、
 代表になれるからアイドルなんてやめて参加して欲しいと抜群の評価をされ、
 実際に絵里先輩にも勝ったと思って――
 後日何やってんだと思った私に、亜里沙さんが絵里先輩が加減していた、
 と思わず立ち直れなくなりそうなコメントを頂き、鹿角理亞は完全に意気消沈し――
 自分自身を認めさせるために努力に励み、ルビィと一緒に人気もでて、
 エトワールにも絵里先輩の代わりとして来訪し――あの子達と一緒に堕落したのは
 もう、黒歴史というか、情けなさ過ぎて本当は認識して欲しくはないんですが。 
 こっそり胸の内で披露するくらいは構わないでしょう。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:28:08.76 ID:LffsrmXp0
「私は情けないんです……負けないと、傷つかないと
 本当に大切なものに気が付かない」
「……いいえ、理亞。私も同じです。
 だから姉として、情けない姉としてできる、大切な妹へ向けての
 アイドルの先輩としての最後のメッセージです」
「え?」
「失敗をしたら失敗を認めて、次に活かせるよう常に改めなさい
 間違った時には間違いを認めて、やり直すように心がけなさい
 自分を正当化したり、言い訳を重ねたり、相手の非を突くなど言語道断――

 いいですね理亞、今までアイドルとして間違いを続けていた姉が言います
 あなたに勝てるアイドルなど誰一人いません。
 綺羅ツバサよりも、絢瀬絵里よりも――あなたは優れている
 引っ込み思案だったあなたを引っ張り出したのは、
 私がアイドルになりたかったんじゃなくて、輝くあなたを見たかった――
 ようやく思い出した、気づくのが遅すぎた、代わりに千歌さんを求めた。
 とても情けない姉です――いくら貶されても仕方のないことです」
「待って姉さま! 私は! 二人で!」
「身の丈に合わない夢を見続け、ようやく現実を生きることが出来ます
 理亞、あなたに夢の続きを託します――
 勝手な姉です。さようなら理亞――」
 
 姉さまは立ち上がり、私は会計を済ませて出ていかれるのを見ていることしかできなかった。
 本当にどこかに行ってしまう姿を見送ることしかできませんでした。
 どこに行くのか問いかけることも出来ずに、何をするのかと聞くことも出来ず、
 心にポッカリと穴が空いてしまい、正直な話、どうやってエトワールに帰ったのかも分からないほど、
 空虚で、涙が出そうで、感情が錆びつき始めて、膝を抱えて。
 自室で一人ぼっちでいると、絵里先輩が顔を出しました。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/06(木) 21:28:40.79 ID:LffsrmXp0
「理亞ちゃん」
「……なんですか」
「何があったのかは知らない。
 でも聞いて欲しい、お願いします。
 私と一緒にアイドルをやってください」
「私なんかが、人の気持ちに鈍感な私なんかが
 何ができると言うのでしょう」
「できることはあるわ」
「どうせくだらないことなのではないですか?」
「友人の間違いとエゴを正すために、一緒に来て欲しい」
「……間違えたのなら、放っておけば良いのではないですか?」
「いいえ、友達が間違ったのなら、間違いを認めさせてやり直させるの。
 失敗をしてしまったら、今度は失敗しないように改めさせるの
 これは、私自身を正当化させるためのエゴでもある、身勝手な感情」
「……」
「でも、大切な友だちが間違っていたら、
 どんなに身勝手でも、殴ってでも止めなきゃいけないの」
「ツバサさんがいるじゃないですか」
「理亞ちゃんがいいの、あなたじゃなきゃダメなの。
 お願い、ちょっとだけでも良いから――」
「……私からもお願いしてもいいですか?」
「叶えられることなら」
「私を置いてどこかに行かないでください、間違いを認めのなら――
 認めたら……一緒に……きて……欲しかったのに……なんで……」
「わかった、私はどこにも行かない、ずっとそばにいる」
「約束ですよ? 裏切ったらもう……承知しません……」

 絵里先輩の手を取り、一緒に。
 前へ進むために、自分自身に言い訳しないようにまっすぐ。
 でも、まだ私は知らなかった。
 絵里先輩が間違っているといった相手が誰なのか、
 ほんとうにこれぽっちも。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/06(木) 21:32:21.51 ID:LffsrmXp0
明日以降更新分から絵里視点に戻り、
時間的には多少逆行しますが、
ようやく鹿角理亞シナリオっぽくなるというか、その。
理亞ちゃんばかりが辛い目に遭ってるような気がするんですが。

聖良姉さまの出番は作らない限り終わりです!(精一杯のフォロー)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/06(木) 23:58:54.18 ID:AAZiOcfCO
聖良さんアイドル辞めちゃうのか……
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 07:31:46.39 ID:07vchWx00
えりりあユニット誕生か!?可能性しか感じない
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:42:22.41 ID:hAni2gsL0
 絢瀬亜里沙のお説教というものを経験したことのないツバサにとって
 ――人格を否定されるレベルで罵倒されたことがないという彼女にとって、
 なんとも幸運なことに、そして愚かなことに、
 雑巾を絞るみたいにキリキリと精神的に追い込んでいく妹キャラを見たのは、
 結構新感覚でいい経験だったらしい、ドMと呼称するべき?
 ドヤ顔でこうして問題点を指摘されるのもいいわねとか言うので、
 アレをいつも喰らっている私の身にもなってみたらと真剣に告げたら、
 それはそういう態度をされるあなたに問題があるんじゃないのと、
 ぐうの音も出ない正論をぶちかまされたため、
 頭をグリグリとウメボシをやったところ、
 きゃーきゃー言いながら犯されるーって叫んだため、
 包丁を置きに行き出て行ったはずの亜里沙が戻ってきて、
 まだいちゃつく余裕があったようですね、罵倒では足りませんでしたか?
 と、スチームクリーナーを構えたため、誠心誠意土下座させて頂いた。
 どこのいったい何を掃除しようというのか、疑問ではあったのだけれど、
 返答が絢瀬絵里自体をだ! みたいなのだったら夜も眠れないので、
 殊勝な私は問いを控えさせていただく。

 何事かストレスを抱えていたと思しき妹の精神状態も、
 おふざけによって落ち着きつつあったと思うので、
 なんでそんな土下座に慣れているの? 高校時代のクールさどこに行ったの?
 という綺羅ツバサのコメントもスルーすることにした、傷口はまだ浅い。
 なお、亜里沙の近くにはスチームクリーナーとアイスピックがあり、
 機嫌を損ねるようなことがあれば、誰かの体の一部分に発動されることが予測され、
 自分でないことを祈りたい、できれば隣にいて私の服を着てるヤツにして貰いたい。
 もっとまともな服持ってきてないのとか、少しは高い衣服を買えと
 さんざっぱら注意してくるので、
 だったらあなたが隣りにいて選んでと口を開いて言おうとしたら、
 雪姫ちゃんがやめてください! 死にたいんですか! 
 と、死人にあるまじきセリフを言ったので少々自重をしておく。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:43:04.83 ID:hAni2gsL0
 妹はハニワプロのプロデューサーとして日々忙しく過ごしており、
 なにか目的があって此処に来訪されたことも予想できたため、
 それがきっと、私の苦労に繋がるんだろうなあと少々憂鬱ではあるんだけれども、
 妹のお金でさんざん飲み食いを重ねてきた報いだと言われれば、
 それもまた仕方なしかなとも思わないでもない。
 お仕事モードでクールに正対する亜里沙に対し、
 殊勝な態度で正座をする元トップアイドルと元ニートという組み合わせは、
 なんか不思議な縁を感じられた、空気が冷え込んでいるのは私のせいじゃない。

「作戦会議をしたいと思いまして」
「ええ、でも足を崩して良いかしら? こっちの金髪は慣れてるけど
 私はあいにく反省を促される経験が少なくて」
「仕方ありません。ツバサさんの頼みでは聞かざるを得ませんね、
 では今度なにか私から頼ませてください、反論は受け付けません」

 特大級の地雷を踏みつけて正座からの脱却に成功し、
 むしろ、正座をさせられていたほうが足が痺れるくらいで良かったのではないか、
 悠然とした顔をしているけれど、心の中では何を要求されているのか不安で仕方がないのだと思う、怯えたように私との距離が近くなった。
 私はクールに正座なんて平気ですよと言わんばかりに構えるけれど、
 反省を促されるサルみたいな態度をする必要もないと思って、
 
「私も足を崩していい? ほら、年を取ると膝が痛くなるから」
「ええ、分かりました、耳に入れておきます――
 ああ、そのままの姿勢でいてください? 
 聞くか聞かないかは私の意志次第です、耳に入れましたが聞く耳は持ちません」
 
 などといいつつ、正座する私の太ももに辞書みたいな本を乗っけた。
 まるで古来の拷問のようね……と黄昏れた表情で言ってみると、
 近くのツバサがあなた強いわねと関心した風だった。
 強くなりたくて強くなったわけではありません――。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:43:37.16 ID:hAni2gsL0
 昨日まで、もうちょっと甘えたがりの妹だったはずで、
 結構親しく交流できていたような気がするけれど、
 恋する乙女というのは感情の変動が激しいみたい、お前のせいだろ
 みたいなツッコミは右から左へ受け流すのでよろしくお願いします。

「と、失礼しました。電話ですね……
 二人はきちんと反省してくださいね? 特にお姉ちゃん!
 今度はダンベルだからね!」

 可愛らしい口調でとんでもないことを抜かす妹が、
 バタバタと自室から抜け出て、ふうとため息をついたツバサがこちらを見て、
 ダンベルって何キロか問うので、以前は5キロを乗せられたと言ったら、
 何故乗せられたのか問われたから、
 あなたから預けられた成人向け同人誌を妹に観られたからと告げると、
 何故ちゃんとベッドの下に隠しておかないのかと怒られてしまった。
 別に性的な欲求不満でそういう同人誌を二人して見るわけではないんだけれど、
 自分を題材にしたナマモノ系をみたりすると、あまりのギャップに笑えてくるのよね。
 あくまでも、ラブライブ! っていうアニメを題材にしたやつだから、
 実際問題現実の絢瀬絵里ではないんだけどね? でも、外見自分だから、
 複雑ながらも面白くてついつい読んじゃうのよね? 当人経験ないのに
 ビッチキャラみたいな感じで男性と交流していると、妄想たくましい! って
 関心してしまうし、あの時見つけられたのが、亜里沙のやつだったから
 なおさら破壊力が高かったのかもね? あの子アニメ出てないのにね!
 どこで調べ上げて絢瀬亜里沙の同人誌を書いたのか、
 そして何故それを綺羅ツバサが持っていたのか疑問は尽きないけれどスルー。 

「以前、μ'sの同人誌を観たことがあるの」
「ナマモノ?」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:44:18.60 ID:hAni2gsL0
 コクリと頷くツバサ。
 芸能人関係はご法度というケースも多いけれど、
 スクールアイドルはそのへんが緩いのか当人に知られないように
 という基本的原則はあるみたいだけれど、私達μ'sの場合は
 仮に見つかってもアニメのやつ! と主張できるので人気があるらしい。
 結局エロ同人を売るために都合のいい材料を探してるだけじゃないか!
 と言いたい気持ちも確かにあるけれど、案外好んでそういうのを見てしまう手前、
 話題に出すのはそういうのが平気な面々だけ、真姫とか。
 あの子は自分の出演している同人誌を大人買いする人間だからね?
 まあ、真姫以外は怒るけれど、筆頭は凛とことり、
 作者じゃなくて私にキレるのはどうしてなんだろうと今でも疑問、
 絢瀬絵里って実はμ'sのサンドバッグだったのかしら。

「なかなか9人揃って出演するっていうのは少ないんだけど
 BiBi編っていうのがあったのよ」
「lily whiteとかPrintempsはあったのかしら……」

 しかもシリーズものなんだ。
 なんでもご奉仕系のイチャラブ同人誌だったらしく、
 作者はツバサが所属していた事務所のアイドルだった(現在は引退)よう。
 かなり私を推していた作者だったみたいで、
 過去にはうみえり、絵里オンリーと書いていて、満を持してのBiBiVer。
 
「あなたの出番1ページしかなかった」
「あれ、おかしいわね? それってBiBiじゃなくてにこまき同人誌じゃないの?」
「現実のにこまきはさほど仲が良くないけれど、やっぱアニメで注目されたからなのかしら?」

 不仲というわけではないけれど、やたら百合率と3P率が跳ね上がる二人は
 実際、二人でなにかした経験は3年生組の高校卒業後では片手で数えられるほど。
 特に、真姫がお酒を飲めるようになって以降はBiBiだけで集まった事自体がなく、
 そのことを同人誌描いている人にネタにすると、
 妄想を裏切るな! と怒られるので要注意、イミワカンナイ!
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:44:55.89 ID:hAni2gsL0
「ええと、亜里沙さんは何故此処に来たのかしら?
 別に私達を注意するためでは――もちろん無いのよね?」
「そこまで暇じゃないわ、仕事と私事は分けるし」

 成人向け同人誌でニコがにこにこにーやらされる率について
 真姫と真剣に話し合っていたところ、あろうことか当人にそれを知られてしまい、
 慌てた私達はそういうのシタことあるのと、つい口を滑らせて、
 んなわけあるか! じゃああんたはハラショー! ってイカされた時に言うのか! 
 と反論をされて経験自体がない! と二人して言ったら場の空気がお通夜になった。
 なんて言おうと思ったんだけど、話題は軌道修正される。 

「あなたに言ったような言わなかったような気がするんだけれど、
 エニワプロというのがあってね」
「聞いたような聞かなかったような気がするけれど、
 確か……斜陽化して一大プロジェクトに賭けるんだっけ?」
 
 業績の回復のためにルビィちゃんを引っこ抜いたというのをどこかで耳にしたような。
 夢の中で逢った、ような……気はするんだけど、ひとまず棚に上げる。

「承知の通り――か、どうかは置いておいて、
 元Aqoursの二人がデビューするってことになってる、
 社運を賭けているから結構華々しく出てくると思うわ」
「ルビィちゃんと高海さんだっけ? ルビィちゃんはともかく、
 高海さんってアイドルできるの?」
「聞いた限りでは、一流レベルで仕事はこなせるみたい。
 ただ、問題はそこじゃないの」

 何故芸能関係の仕事を今までアイドルとして活動をしてこなかった彼女が、
 ツバサに評価されるレベルでこなせるのかはスルーしてもいいとして、
 警戒に値するのはアイドルとして出てくる二人ではないみたい。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:45:23.92 ID:hAni2gsL0
「人員がいないせいで海未さんがフォローに当たってる」
「……海未? 冗談でしょ?
 海未のAqoursの苦手の仕方はネタにできないレベルよ?」
「私もそう認識していたのよ、そうであったはずなの。
 でも、ルビィさんと同様に最初からそうだったみたいに、
 海未さんと千歌さんは揃って行動している、優れた動きをしたとは言え、
 コネもなにもない千歌さんが事務所に潜り込めたのは、海未さんの功績だし」

 A-RISEがニコの芸能界引退後に出てくる際に、
 ソルゲ組で曲を提供したことがあり、ミリオンセラーに近いレベルでヒット、
 芸能関係者のメンツを叩き潰した経験がある。
 未だに園田海未作詞なら誰が歌っても行けるという信仰に近い評価もあり、
 そこを交渉の材料にすれば多少の無理は引っ込む。
 真姫やことり、希や凛あたりの協力を得られると考慮すれば、
 優れた人材が喉から手が出るほど欲しい斜陽事務所が動くのも分かる。
 特に凛は海未を花陽と同じレベルで慕っているし(だから私に冷たい)
 アイドル関係者にも顔が広いおかげで、デビューしたてのグループを推すならば、
 こんなにうってつけの人物も居ない、凛なら海未が言えば断らないはずだし。
 
「梨子さんや曜さんも動いているの?」
「水面下では分からないけれど、μ'sもAqoursも――もちろんA-RISEも動いてない」
「……海未が行動しているのに、μ'sが動かないの?」

 曜さんはアスリート兼タレントとして抜群の知名度があるし、凛との交流もある。
 梨子さんは銀座の胡蝶として人員を導入すれば、
 売れないアイドルだろうが多少は行ける。
 高海さんとその二人は仲が良いと認識していたけれど、アテが外れたかしら?
 ルビィちゃんが動いていることにより、ダイヤちゃんあたりも協力に励むかと思ったけれど、
 彼女が動けば自然とマリーや果南ちゃんも動き出すから、いや……
 そういえば、マリーは海を観ていると書いていたけど、もしかして園田海未ってこと?
 ともすればダイヤちゃんも協力に動くはずだから、難敵であるのは確実。
 ただ、亜里沙がその動きを認識していないはずはないから、
 先回りして釘を刺すくらいは無難にこなしそうではある。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:45:55.84 ID:hAni2gsL0
「いくら高海さんが穂乃果から評価が低くて、
 希しかフォローしてないのは知っているけれど……」
「海未さんが困っているなら絵里も彼女に協力するの?」
「ええ、あいにくだけど断言するわ」
「……ふふ、まあ、絵里ならそう言うと思った。
 あなたって本当に甘っちょろいもの、海未さんも困ったらあなたを頼るでしょうね?
 つまりは、そうしないということをμ'sのみんなが把握しているから、
 きっと、彼女たちが動いていないんだわ」

 助けてと言わないでも、穂乃果や凛や花陽と言った、
 仕事をよりも私情を断然優先する面々が動かないのは不自然だけれど、
 よもや頼られても支援しないという選択肢は取らないであろうから、
 海未の意志を尊重して動向を見守っているとするのが正しいのかも。
 
「海未さんが困ってたら、あなたはどちらにつくの?」
「亜里沙やあなたを取るか、海未を取るかってこと?」
「いずれ決めなければいけないかも知れない、だから聞いておきたいの」

 暗に敵に回るなら先に言え、ということ。
 μ'sとして過ごしてきた日々は私にとって本当に幸せな時間だった。
 客観的に観れば幸せなことばかりではないんだけれど、
 それでも、高校時代を振り返ってほほえましい気分になってしまうのは、
 あの時に良い青春を送ることが出来たから。
 でも――過去に幸福だからといって、現実の生活まで損なってもいいのかしら?
 μ'sが大事だから今は不幸であっても仕方ないというのは、
 何かが違う気がしてならない、それは誰一人望んでいないと思うし。

「ごめんなさい、海未が困っていたら、私は彼女を取る」
「覚悟の上なのね」
「ほんとうにごめんなさい」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:46:25.90 ID:hAni2gsL0
「……いいのよ、私も英玲奈やあんじゅが頼ってきたら、
 あなたを捨てるわ、A-RISEで活動できるんならそっちを優先するもの
 えと、こんなこと言ってしまうと嘘だと思われてしまうかもだけれど、 
 私は絵里を親友だと思ってるから」
「恥ずかしいこと言わないでよ。
 仮に対立することになっても、ツバサを親友じゃないとか思えないじゃない」

 おそらく賢い選択とは言えない。
 そもそも亜里沙を裏切るとして海未を助けに入ったところで、
 なんにも役に立たない可能性があるし、明日にも食べられなくなる危険すらある。
 無収入のニートが後ろ盾もなく協力すると言った所で、たぶん意味はない。
 意味はないのだけれど、道理でもないのだ。
 海未だけじゃなく、ニコや凛とかことりの私に辛辣なら面々が困っていたら、
 罵倒されたって協力して助けに入ると思う。
 人を助けたいと思うのは、道理や常識では語れない側面がある。

「もしかしたら、海未さんは無意識下に絵里に……」
「ん?」
「ううん、仮定だから言わないわ、あなたを惑わせるだけだから。
 でも、私はそれでいいと思うんだけれど、
 ハニワプロのプロデューサーとしての妹さんはあなたの意見をどう思うのかしら?」
「……先程からスチームクリーナーの音がするかと思ったら」

 迂闊にも亜里沙が戻ってきたことに気が付かず。
 妹よりも海未を取る! 宣言も聞かれてしまい。
 せっかくコネで就職に至ったとはいえ、それを自ら投げ出す所業に、
 注意散漫にも程があるなと自嘲するため息をついた。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:47:04.05 ID:hAni2gsL0
「どこでも好きに洗浄なさい」
「良い度胸です、おしりが良いですか」
「……それはやはり側面ということよね?」
「有り体に言えば大腸ということになるでしょうか、
 ノズルが付いていますから、入りますよね? 穴があるんだから」
「成人向け同人誌みたいな感じではいけないと思うの」
「安心してください、無理を通せば道理は引っ込みます――ツバサさん、逃亡禁止」
「なんで!? 絵里のうかつな発言でしょう!?」
「乗せたのはツバサさんですよね、だいじょうぶ、安心してください
 おしりじゃなくて前の方に入れます」
「純潔がスチームクリーナーに犯されるのはイヤァ!?」

 うん、スチームクリーナーさんも
 そういうところを洗浄するのがゴメンだと思う。
 あと、先程から下ネタ豊富な会話を聞いている雪姫ちゃんには
 ちょっとだけ申し訳ないと思うんだけど、もう手遅れよね?
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 01:53:04.19 ID:hAni2gsL0
このあと絢瀬絵里さんが鹿角理亞さんになんて言うのか、
珍しく読者の方もお分かりになっているので、
もしかしたら、先回りしていろいろ書くという選択肢はあっているのかも、
と、思います。

しばらく絵里視点が続き、
ブラック亜里沙が猛威をふるいますが、
彼女自身のルートと同様にいつの間にかその他大勢みたいな扱いになる
ような気がしてならないのです……。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 04:25:38.06 ID:PfbBO5noO
いつの間にか姉妹揃ってシリアスキラーにw
>>132
このシリーズに心当たりがあるのは俺だけじゃないはず…
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:38:22.52 ID:hAni2gsL0
 すったもんだの末、スチームクリーナーは掃除で使うものだと説明し。
 人体のですか? という妹に、ホコリとか汚いもの! って言ってみると、
 なるほど、汚い性根にも効果があるのですか? と返答があり、
 どうしよう試してみる? とツバサに問いかけると、自分で試してとそっけなく言われる。
 埒が明かないので、ツバサがどれほど亜里沙のことを大切に思っているか、
 嘘(99%)を交えて熱々と説明すると、分かりましたツバサさんは許しますと
 自分を追い込む結果にしかならず、売ろうとした彼女の評価も奈落に転落し、
 カップル(笑)の二人が人体はどこまで痛みに耐えられるかを試そうとし、
 あなた達すごくお似合いじゃない! 結婚しなさいよ! と叫んだら、
 思いのほか妹には好感触で拷問は回避された、人体損壊ショーはさすがの私も
 いつの間にか復活しているということはないと思う、ギャグ漫画じゃないんだし。
 
「さて、ではエニワプロのアイドルグループECHO対策を話しましょう」

 なにそれ? と思ったけれど、
 ルビィちゃんや高海さんの二人が所属するグループがあるらしく、
 てっきり二人が表立って出てくるのかと思いきや、保険はかけられているみたい。
 メンバーは声優、アイドル、グラビアの人と多岐にわたり、
 全員が全員売れていないという共通点があるものの、知名度はそこそこ。
 球団創設時の楽天ゴールデンイーグルスみたいに、他の球団から戦力外になった選手とか、
 温情ある無償トレードで来たアイドルに注目する人も多いらしく、
 その中でもルビィちゃんは岩隈さん級の扱いで、
 アンリアルで不遇な扱いを受けていたからやって来たみたいなコメントもある。
 公式サイトがいつまで経ってもCOMING SOONな感じなのはネタにされているけれど、
 少なくともネガティブに観ている人間は少ないみたい。

「正直、アイドルグループとしての実力は高く見積もった所で赤点です
 ルビィさんや千歌さんが別格の動きをしているのは警戒する要素ですが
 あの二人がどうこうした所でどうにかなるレベルの人間は少ないでしょう」
「海未さんの指導で変わりそうな人はいる?」
「打てば響く熱い鉄なら、不遇でも人気は出るでしょう
 そうではないということは察せられる事情があるということですね」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:39:26.98 ID:hAni2gsL0
 一時期隆盛を誇った事務所がえらい推してしまっているということと、
 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法で琴線に触れる人間がいたという理由で、
 アイドルのバーゲンセールみたいな状態だから最初こそは活躍を見せるのではないか?
 というのが亜里沙やツバサの判断だった。

「海未がその程度のグループを指導するかしら?」
「どういうこと?」
「海未が指導に当たるということは、誰かしら私達が警戒するべき人間がいるということ
 ……だと思うの。
 響かない鉄にいつまでもこだわる人間じゃないわ、あの子は意外とドライよ」

 私の海未評が殊更響いたのは亜里沙。
 気が付かなかった自分を恥じるように表情を曇らせる。
 高校時代にあれだけ慕っていた海未の行動原理を把握できなかったと言うのと、
 私が海未の行動を頭に入れていることに、何かしらの感情は抱いたみたい。
 一方、それほど海未を知らないツバサにはピンとこない話らしく、
 体育会系で熱血指導するだけの人ではないのね、と認識を改めるだけで終わった。

「わかりました。海未さんに関する認識ならばお姉ちゃんは信用できます」
「他の信用度は?」
「……μ'sに関する把握度合いならば多少信用に値する可能性はあります」
 
 海未に関すること以外では、
 あまり信用のならない相手だと白状をされてしまうと、
 それだけは自信があると胸を張ってもすぐにしょげてしまいそう。
 ただ二人とも警戒する要素があると思い直してはくれたみたいで、
 私自身も二人にこっそりエニワプロやら、ECHOっていうユニットを見に行こうと決意。
 いかんせん金髪は目立ってしまうから、変装する手段を用いなければならないけど。
 カツラとかきぐるみとかで自分を偽る行動は慣れてる、いざとなればヒナを頼る。

「お姉ちゃん、もしかして自分が調査するとか見に行こうとか考えてますか?」
「失敗前提の行動は無謀と呼ぶのよ」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:40:01.07 ID:hAni2gsL0
「あくまでも推測ではありますが、
 此処にツテを頼り海未さんの日記帳のコピーを入手しています」
「亜里沙、私みたいな扱いをする人間はそこにいるツバサくらいにしたほうが」
「私も控えて、できれば絢瀬絵里オンリーにして」

 プライバシーは尊重をしていると妹は言うけれど、
 当人の許可無く内密にしていることを知るのはマナーどころか、
 人間として何かとアウトである可能性は高いのではあるまいか。
 ただその点の配慮を遠慮なく切り捨てて黒歴史を露出させるのは、
 よほどの悪人であるか、姉である私くらいなので、
 もしかしたら海未も許容しているのかも知れない、どれほどかはわからないけれど。

「いつの話かは分かりません、でも、海未さんは過去に
 高海千歌さんと喧嘩をしたそうですね」
「経緯はともかく、どのような喧嘩だったの?」
「取っ組み合い寸前とは書いてありますが、
 あの雪穂にさえ平手打ちをされてるような人が、
 海未さんになにかされないとは思えないんです」

 比較的好感度が彼女に対して高い希とか、
 信頼度の高いよっちゃんが言うには迂闊に人の神経を逆なですることがあるらしく、
 被害者はAqours、μ's多岐に及ぶ。
 例外はそういう事に気がつかない聖良さんくらいで、
 過去の理亞ちゃんの高海さんの嫌いっぷりは、
 おそらく私が両親を嫌っているレベルの比じゃない。
 今の理亞ちゃんがそこまで嫌悪するとは思えないけれど、
 冷静でおしとやかな彼女が憤慨して怒鳴るようなことがあれば、
 私が止められる出来事であろうか心配でならない。
 妹が教えてくれた内容では、海未は今までの自分自身を悔い改め、
 反省する心持ちで顔を合わせに行ったら、彼女が口を開く前に
 穂乃果がどうしているのか問い、なんでそんなことをまっさきに聞くのかと思ったそうだけど、
 喧嘩腰ではいけないからと懇切丁寧に言葉を尽くして説明をし、
 一通り満足したらしい高海さんは今日はそのために来たのかと言ってしまった。
 妹から過去を披露されるたびに、海未の怒りぶりが如実に想像できて、
 裏切り者として処理されるフラグではないか、
 実は海未はハニワプロのスパイなのではないか疑惑が生じたけれど、
 一応現在では仲は良好であるらしい、とても信じられない。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:40:47.55 ID:hAni2gsL0
「”高海さん”がどういう経緯でAqoursである自分を放棄したのか、
 過去を知ることによって歩み寄る決意をされたようですね」

 よっちゃんから聞いた話では、
 描いていた理想と現実との差異がありすぎて
 精神的に堪えられなくなった故に何も云わずに失踪してしまったみたいだけど。
 高海さんには高海さんなりに重要な理由があるみたい。
 それを胸を張って穂乃果に告げられるのかは疑問ではあるけれど、
 海未が動いている以上、穂乃果と高海さんが歩み寄れると判断はあったんだと思う。
 Aqours結成当初から既に浦の星女学院の廃校は決定されており、
 奇跡を起こした所で覆せないのは、当初高海さん自身もわかっていたみたい。
 統合先の高校との話し合いは既に進められており、
 入学希望者が増えた所で存続は叶わないとは誰しもが分かっていたけれど、 
 そんな彼女を改めてしまったのは、東京来訪時の出来事である様子。
 スクールアイドル公式サイトで人気が出た為、
 東京に呼ばれた6人のAqoursはSaintSnowの二人に出会う。
 聖良さんや理亞ちゃんの二人がまともにポテンシャルを発揮していれば、
 9位っていう微妙な結果には留まらなかったのは推測されるのだけれど、
 30組中30位で、かつ投票された人数が0人だったことで、
 トラウマレベルで傷をつけられたみたい。
 上位100位以内の人間が呼ばれているのに30組しか参加していない、
 審査している人間はいったいどんな人間であったのか(花陽は居たらしい)と
 疑問は尽きないのだけれど、そこを突くと絢瀬絵里が轟沈してしまいそうだから控える。

「0からの始まりを意識した高海さんは
 失敗をしたことにより、小さな成功で喜び、失敗にもくじけないようになりました」

 それ以降やたらポジティブに変貌してしまった高海さんは、
 同時にAqoursの中心メンバーとして活躍を見せ3年生組の加入後も
 まとめ役として常に前に進んでいった。
 学校存続の可能性が限りなく0に近くなった以降も、
 可能性がないわけではないからと諦めず。
 亜里沙や雪穂ちゃんの”一人だけ前に出て一人でなんとかしようとするな”
 というAqoursとしての致命的な欠点も
 周りのフォローでラブライブの優勝という結果として残す。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:41:21.61 ID:hAni2gsL0
 が、自分たちが奇跡を起こしてもなお現実が改められなかったという結果は、
 彼女を精神的に叩き潰すこととなり。
 μ'sは上手に行ったのにAqoursは何も残せなかったのは何故なのかと、
 疑問に感じ始めたらどうしようもなくなってしまい、取り返しのつかない事態に陥る。
 失踪した後にこっそりと廃校祭を見に行き、
 自分が居なくても上手く立ち回っているAqoursの面々を目の当たりにし、
 なおのことダメージは増幅されて、今もおそらく立ち直れていない。

「海未の同情を買うには都合のいい理由ね」
「お、お姉ちゃん……?」
「海未はもしかしたら、そんな彼女を開放するために動いているのかもしれない
 ならば、私は海未を止めないといけない――
 ごめんなさい亜里沙、やっぱり私は彼女に会わないと」
「ダメよ絵里、敵役を買うつもりならスマートになさい」

 決意を翻意するように告げられてしまい、
 思わずムッとしてツバサを眺めてしまって、やらかしたと思ったけれど、
 私のイラつきすら想定内だと言わんばかりのそいつは、おでこをツンとつつき。

「絵里、いまさら”高海さん”が正論やきちんとした指摘を受けて、
 きちんと立ち直れると思っているの? 
 だって彼女は悪いことをしているなんて思っちゃいないのよ? 
 本当に相手を思うのなら手助けをするんじゃなくて
 事実に気づかせてあげなさい、正しいと思うという感情に従って動くのは、
 なさねばならない正しい行動を放棄して、短絡的になってしまっている証拠よ」
「お姉ちゃん、怒る気持ちはごもっともです。
 ですが、お願いします。
 短慮に走らず、私やツバサさんを信用してください」

 感情的になって、先走ってしまったらしく。
 本気で心配そうな亜里沙や、しょうがないわねぇみたいな顔をするツバサを見て、
 自分自身を省み、改められる欠点は改善しようと決意する。
 とはいえ、腹に据えかねる思いはこの場の面々の共通認識であるようで、
 ついつい表情が険しくなってしまうのはなんとも言えない心持ちがした。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:43:34.77 ID:hAni2gsL0
「話題を変えます。
 エニワプロの事も問題ですが、ハニワプロでも
 アイドルの引退が連続してまして――」

 売れたりなんだりしていない人間が新しい道に進むために
 芸能活動の引退を決意したみたいな話を予測していたら、
 セイントムーンの二人が揃って岐阜の月島家の農場とか牧場に舞い戻り、
 牛や野菜や果物の世話にあたるらしい。
 ハニワプロでも実力が指折りの二人が引退するのは寝耳に水だった――
 のは、普通のスタッフだけみたい。
 亜里沙や南條さんと言った一部の面々は聖良さんの方はともかく、
 歩夢ちゃんが実家に戻りたいと願っていたのは把握しており、
 きっかけがあればそのような選択を取ることもあるだろうとは思ってたみたい。
 が、把握はしていてもバリバリと仕事をしていた彼女たちがいなくなるのは、
 ハニワプロにとってはマイナス要素でしかない。
 実力が向上したエトワールの面々が代替要員になれるかは不透明であり、
 かといって、他のアイドルたちが同じことができるのかとは妹も判断できず。
 聖良さんや歩夢ちゃんといった二人が引退することで、
 仕事が来るかも! と期待しているアイドルは多いそうだけれど、 
 そういう人間に限って手も足も出ないほどに実力が離れているのは頭痛の種。
 なお、人の顔は覚えるのに苦労する聖良さんも動物は判別できて、
 いま、牛のカリスマとして牛舎で大人気らしいけれどだいじょうぶ?
 彼(彼女?)らは食用肉になる可能性高いよ? 岐阜でも有数のブランド牛だよ?
 あと、お米の名前が歩く夢っていうのは微妙だと思うよ?

「正直、エニワプロなど相手にしている余裕はありません。
 局からは代替要員を出さないと総スカンをすると宣言されていますし、
 ツバサさん一人を代打に出せば、後に続くアイドルがいません。
 理亞や善子さん辺りを押し出せばある程度は……」
「理亞ちゃんは聖良さんの引退は知っているの?」

 私の言葉にハッとした表情を浮かべる亜里沙。
 そこまで構っていられるほど余裕がないのは察せられて、
 彼女へのダメージを認識せずぽっと口に出してしまったのは、
 重ね重ね反省する事柄ではあるんだけれど。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/08(土) 17:44:02.53 ID:hAni2gsL0
 ハニワプロでは聖良さんを慕う理亞ちゃんはかなり有名であり、
 姉妹間の感情を超えているとか、度を超したシスコンという評は浸透中。
 円満に姉妹で話し合いが行われ、理亞ちゃんが納得して見送るのなら 
 問題は生じ得ないと思ったけれど、亜里沙の反応からするにそれはない。
 ルビィちゃんが敵に回ることでさえ精神的ダメージが大きそうだっただけに、
 重ねて聖良さんが芸能活動から身を引き、憧れもあった海未も対立するとあれば
 精神的影響はかなり強いものだと思われた。
 
「……迂闊でした、これではお姉ちゃんを悪く言えません」
「亜里沙さん、気にしないでいいのよ、この人いつも迂闊だから」
「妹をフォローするつもりで私を下げるのはやめて」

 理亞ちゃんのことを考えると心苦しい。
 これがツバサとか真姫が同じ状況下に置かれていたなら、
 無難に乗り越えられるよね? で気にせずにいられたかも知れないけれど。
 亜里沙は本当に自分自身の妹であるから考慮せずに、
 妹みたいな扱いをしている人間が苦しむ状況下に置かれていると、
 自分のことを棚に上げて心配してしまうのは、私自身のエゴだろうか。
 穂乃果や海未とか凛もそうだけど、ほっておくと折れてしまいそうという認識を
 彼女らに持っているとバレたらどんな反応がくるだろう?
 理亞ちゃんもおそらく、自分自身の心配をするのが先だと
 健気にも忠告されてしまうかも知れないし。

「お姉ちゃん、理亞のことは任せます。
 もし彼女が困っていたら、協力してあげてください」
「絵里、私からもお願い――あと、事務所的に
 理亞さんが折れると、綺羅ツバサさん死んじゃうから
 仕事量がキャパを超えちゃう……」

 亜里沙の懇親のお願いや、ツバサの同情を誘う本音もあり、
 そしてなにより、妹扱いとしてかなり好感度が高い理亞ちゃんに対して、
 意も分からない感情の揺れ動きを覚えてしまった私は――

 部屋に慌てて入ってきたよっちゃんの、
 理亞が大変なんですという言葉に居ても立ってもいられなくなり、
 あの、正直彼女と何を話したのかはあんまり覚えていなかったり。
 
 ずっとそばにいるという誓いは心に刻みこんでいるけれど。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 20:13:23.55 ID:8Kop+r/YO
なんだかんだ根っからのお姉ちゃん気質なんだなぁ
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 22:50:11.68 ID:Ev+jkU+CO
久々に少しだけかしこさを取り戻してる気がする
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 23:13:15.84 ID:H5viyWMt0
ヤンデレ亜里沙が強烈すぎてツバサルートがマジで怖いんだが。。。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:51:39.50 ID:qcVrnA6J0
 理亞ちゃんと一緒にゆっくりと階段を降り、
 何を言ったか記憶に無いほどに慌てふためき、動揺を重ねたあげくに
 変なことを口走っていないかと考える余裕を持ってみると。
 それは毎度のことであるなと、頻りに省みた所で一向に成長しない自分に気が付き、
 肉体面の老化は著しく、精神面の成長は高校時代が全盛期。
 人生100年時代とか、平均寿命が延び続けていると言うけれど、
 100年生きるとか憂鬱すぎてならない。
 あと数十年こんなアホなことを考えたり失敗を繰り返したりするかと思えば、
 人間50年くらいで充分、戦国武将か。

「先輩」
「なあに?」

 精神的に追い込まれるのを繰り返した結果、
 それでもなお以前までのツンケンした彼女を見られないことに、
 一抹の寂しさを覚えつつ。
 冷静であるのか、弛緩しきった態度を見せているのか、
 多少、再会を果たした時と同じ風ではあるけれど、
 内心不安でたくさんだと思っている。
 私に呼びかけたは良いけれど、何を言おうか記憶から飛んでしまったみたいで、
 一通り声も出さずに口をパクパクと動かしたあとで、
 恥ずかしそうに俯いて私の服の袖をクイクイと引っ張るだけで終了。
 こう、か弱さ全開で不安を抱えている儚げな女の子が、
 身体を寄せながら自分を頼る素振りを見せられると、
 ついついなんとかしなきゃ! という気分になってくるんだけれど。
 ただ、自分を意のままに操る行動を取った時の綺羅ツバサさんも妙に思い出すから、
 自分は基本的に頼られると何とかしたくなってしまう人なんだと思う。
 誰かしらに上手く使われている人間だという自覚は放り投げる。

「安心して、理亞ちゃんに何かいう人が居たら盾になるわ」
「仮に亜里沙さんとかツバサさん……あ、凛さんからなにか言われても
 喜んで盾になってくれますか」
「骨は拾って」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:52:35.32 ID:qcVrnA6J0
 海未が対立行動を取るとすれば、
 それに準じてこちらを攻撃することが予測される星空凛のことを思い出し、
 凛がそのような選択をすれば小泉花陽も同調することが予測され、
 花陽が反応をすれば真姫もそれなりの態度を取り、
 真姫が動けば年齢不詳の毒舌メイドさんが喜んで罵倒をしてくるから、
 絢瀬絵里というシールドは保たないかも知れない。
 私のメンタル面が脆いのは仕方ないにしても、
 基本的に指摘される方に問題がある以上、言われっぱなしになるのは仕方ない。
 理亞ちゃんも自分と対立するのが関わりのある相手だとか、
 仲良く会話している相手だということを既に察知していて、
 おそらく自分の精神面が強固ではなかったという自覚も手伝い、
 私のことを頼ろうとはしてくれているんだろうけれど……いい姉にも、
 いい盾にもそれほどなれそうにもないと自嘲気味に笑った。
 元からいい姉であったか疑問だという内容については、天高く放り投げる。

「先輩の前で聖良姉さまの話をするのは――ためらいがあります」
「いいのよ――でも、それ楽しいお話?」
「優勝確実と言われて地区予選すら突破できずに終わり、
 二年に進級後、スクールアイドルを続けると宣言したにもかかわらず
 誘う友人も居なくて、結局姉さまとトレーニングを重ねる日々の話です」

 すごく楽しくなさそうという感想を抱いたものの、彼女がお話したいということは、
 心の中に抱えているには苦しいエピソードであるのでしょう。
 ラブライブの優勝は果たせなかったものの、
 能力値とスキルはスクールアイドルの中では抜きん出ていた理亞ちゃんは、
 頼りにしきっていた聖良さんを失ったのと、
 今度こそラブライブでの優勝を目指すとの強い意欲に反して、
 誰からも協力が得られない自分にふさぎ込んでいた日々。
 誘われない自分に理由があると笑う彼女も、
 自宅では聖良さんが居たために虚勢を張って通常通りでいたものの、
 校内ではやるせない気持ちに包まれて投げやりに過ごしており、
 周囲にも腫れ物を触るみたいに扱われていたと振り返る。
 心休まる時間はルビィちゃんとの交流とお風呂に入ってる時で、
 その中にもう一つ、とあるクラスメートとの時間をあげた。
 いつまでも続かなかったと自嘲するけれど。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:53:08.30 ID:qcVrnA6J0
「当時の私と会話をしようなんて命知らずですね」

 そういって理亞ちゃんは微笑む。
 彼女が省みるほど、ツンケンしていた理亞ちゃんが不出来な人間とは思えない。
 多少頑張り過ぎのきらいはあったものの、
 それは自分自身が過去を振り返っても感じることであり、
 一生懸命思う気持ちが単純に空回りしたに過ぎないのだと、
 絢瀬絵里は生じた結果を考慮に入れずに思考する次第。

「名前は楠原雅。彼女もまた優秀すぎる姉を持って苦労していた人です」

 理亞ちゃんが語るほど聖良さんが完璧であるかは――
 私などが判断することではないとして。
 楠原さんというのは函館聖泉女子高等学院で生徒会長を務め、
 ダイヤさんが右腕として引っこ抜きたかった楠原静香さんの妹。
 お嬢様ばかりが揃う高校において、
 アイドル枠でもない一般生徒で生徒会長を務めたのは後にも先にも彼女一人で、
 SaintSnowが仮にラブライブで優勝できていたら、
 偉大な業績に傷がつかずに済んだんですけどと理亞ちゃんは語る。

「親近感というか……似てるなって思うと急に好感度上がりません?」
「過去の理亞ちゃんが漏れてる」
「……はっ!?」

 とにかくお互いに境遇が似ていると感じ、好意的な態度を持って交流を始め、
 趣味嗜好が似ていた(当時の理亞ちゃんの趣味はお菓子作り――出来はお察し)ため、
 スクールアイドルではμ'sを推していたことと、
 SaintSnowとして活動をしていた理亞ちゃんのことには触れないようにしながら、
 腹を割って話す仲であったみたい、北海道でその言葉はどうでしょうか?

「当時の私にとっては、μ'sのラブライブの優勝って解せないんです」
「私もそう思ってるから良いのよ」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:53:45.97 ID:qcVrnA6J0
 気まぐれな神様が起こしたご都合主義ではないかと問いかけたいほど、
 普段の実力以上にとんでもないパフォーマンスを見せたμ'sは、
 おそらく皆が皆、奇跡の中に居たのだと思う。
 当時の実力で同じパフォーマンスを見せろと言われれば、
 あまりの横暴に過去のことりだって助走をつけてぶん殴ってくるレベル。
 いまのことりはよく私を殴りかねる勢いで罵倒するけど。

「Aqoursが優勝した後でμ'sの話題っていうのはミーハーと言いますか、
 スクールアイドルにあまり興味のない人間でも彼女たちのことは知ってるみたいな」
「……そういえば、ルビィちゃんが理亞ちゃんが一年生の時
 お二人は去年すごい成績を残して地区予選を勝ち上が――」
「それ以上はいけません」
「理亞ちゃん留n――」
「気まぐれな神様はお話を作るときも整合性を考慮しないだけです」

 指摘するのも野暮な内容だったみたいで、私自身もなかったことにする。
 なかったコトにしたい黒歴史を抱えているのはみんな一緒。

「雅は単純なファンではなかったんです」
「どういうこと?」
「その……信者と呼ぶのも生ぬるい……心酔する信者……
 カルト教団の教祖みたいな、彼女にとってμ'sっていうのは、
 奇跡の体現者といいますか」

 自分の不出来さを責任転嫁する手段は数多くあるけれど、
 一番簡単なのは自分は悪くないと思うことである。
 いずれにせよ責任転嫁には様々な手段があり、数多くの人が――
 もちろん私自身を含めて責任を放棄することは常同行動であり、
 常に自分を律して生きていこうなどという行為は海未だって無理。
 自分は悪くないと開き直ることが出来ない人は、たいてい誰かにその責を押し付ける。
 自分の抱える問題は他の誰かが解決してくれる事象であり、
 雅さんという子が抱えているコンプレックスなり、問題点というのは
 μ'sが解決してくれるものであったのだと思う。
 いわば、お姫様に憧れる女の子がみんながみんなお姫様になりたいのではなく、
 お姫様になった誰かを見ることによって満足感を得られちゃうアレ。
 現実に問題を抱えていたとしてもμ'sが幸せなら私も幸せ――
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:54:33.34 ID:qcVrnA6J0
「雅が私に感じていた友情は、一般的な友情ではなく
 不出来な自分をごまかすための手段と言いますか――
 それでも私は良かった、居場所がない高校でも、気持ちを偽らなければならない家でも
 でも、あの子はルビィを手に掛けようとしたから」
「ん?」

 μ'sが当時においても仲が良いというのはかなり有名な話だったらしく、
 売れっ子になって全面に出ていたのはニコくらいで、
 凛はブレイク前、A-RISEも知名度がそこそこレベル、
 真姫はコスプレにハマっており、ことりも学業をこなし、
 希も一部でカルト的に人気があったに過ぎなかった。
 だからこそ案外μ'sが揃って集まる機会は数多く(ことりの欠席率は高めだけど)
 仲が良い模様をブログなりなんなりにアップしてコメントがあったのは知っている。
 ただ、その行動をμ'sはとても素晴らしい! 
 現実がうまくいかないけれどμ'sが上手く行っているなら構わない!
 という逃避の手段に用いられてしまうのは、ちょっと反応に困る。
 そしてなにより、穂乃果を中心に手放しで讃えられてしまうほど
 みんながみんな上手く行っていたかと言うと果てしなく疑問、特に穂乃果。

「雅にとって、自分が親近感が湧くような出来損ないが
 自分以上に仲が良い人間がいるという現実が許せなかったのでしょう」

 有り体に言えば、理亞ちゃんに裏切られた心持ちがしたのでしょう。
 それがまるで客観性のない逆恨みであれど、
 被害が及べば困るのは加害者ではなく被害者であり、
 仮に命が狙われてしまうほど危険が及ぶのであれば、
 国家権力を用いてでも行動は回避しなければならない。
 その子にとって不幸だったのは、黒澤家を掌握し始めていたダイヤちゃんが
 顔見知りにおまわりさんやら何やらお偉い方が居たということと。
 ルビィちゃんに被害が及べば多少の不利益はあった所で、
 加害者を消すくらいのことはやってのけるシスコンだったということ。
 なにより、雅さんの姉が行き過ぎた感情を抱いていたことを把握していたのも手伝い、
 ルビィちゃん殺害計画は実行以前に頓挫し、
 なによりルビィちゃんに知られることもなく問題は解決した。
 
「その時に私は思ったんです、自分の幸福はもう考えず
 誰かのために尽くして生きていこうと」
「聖良さんにどっぷりだったのはそういうこと?」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/09(日) 09:55:10.00 ID:qcVrnA6J0
「ルビィにも、姉さまにもそうです――そしてこのたび
 その二人から距離を取られるという結果になったのですが

 私自身が……何か間違っていたんでしょうかね……」

 辛そうに俯く理亞ちゃんに、言い得ぬほどに母性を刺激されてしまった私は、
 据え膳美少女に迫られるハーレム主人公を思い出し、
 ああ、この気持ちが伊藤誠なり安芸倫也なり羽瀬川小鷹が抱いていた気持ちか、
 これならしょうがない、相手が同性だけど理亞ちゃんの可愛さなら世界を狙える――
 まったく、鹿角理亞ちゃんは最高だぜ! と思わず抱きしめてしまいそうになった瞬間

「スチームクリーナーの音……ッ!?」

 私がどこへ向かおうとしていたのか。
 リビングで真剣に会議を続けているはずの亜里沙やツバサが
 いつまでも戻ってこない私たちを心配し様子を見に来ることくらいは簡単に予測……!

「理亞。復帰したてのあなたに言うのは心苦しいですが
 リビングで話し合いが行われています」
「いえ、こんなところで挫けてなどいられません。
 これからは絵里先輩もいますから」

 輝く笑顔で亜里沙に言う理亞ちゃん。
 もう、エリちは理亞のもーの! と言わんばかりに所有権を主張(個人の妄想です)し、
 過去の女に喧嘩を売るみたいに(個人の妄想です)幸せ満載の微笑みで
 妹と絢瀬絵里も放り出し、ルンルン気分でリビングへと向かった。
 ――おそらく、絢瀬亜里沙の静かな怒りを直感で把握し、
 あえて現実を見ないようにして私を売ったんだと思う、哀れな被害者は一人で充分。
 はたしてこれからに絢瀬絵里が存在するのか、
 
 スチームクリーナーを片手に姉を掃除する妹言う絵面が、
 R-18Gに該当しないかどうか戦々恐々としながら私は天井を見上げ、
 ハーレム系主人公は得てして報復を食らうことを思い出し、ちょっと泣きそうになった。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 19:06:42.72 ID:rLI3q4hTO
理亞ちゃんのこのメインヒロイン感よ……
たしかにアニメでも応援してくれる子はいたけど姉様卒業後新たにグループ組めるかは微妙だったよね
経験の差もあるし理亞ちゃんの運動能力についてこれるだけのレベルがないといけないもんな
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 22:54:22.74 ID:Sf1BkS1Eo
ルート確定イベント感良いね
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:56:24.28 ID:myA/Y7C00
 スチームクリーナーを片手に私に抱きつくように近づき、
 あ、これは死刑執行だ! と思った亜里沙がいつまで経っても刑を施さないので
 どうしたんだろうと思って顔を覗き込んでみると、
 思いのほか真剣な面持ちで理亞ちゃんの姿を見送り、
 その姿が確認できなくなった時にようやく身体を離す。

「彼女は実力はありますが、メンタルは脆いですからね」
「……そんなに私と二人きりになりたかった?」
「か、勘違いしないでよね! 9割がたスチームクリーナーでアバロンのダニを
 掃除しようとしただけなんだからね!」

 ――そんなツンデレ嫌だ。
 ともあれ刑が執行されないのなら一安心。
 心の中で安堵をしつつ、理亞ちゃんに関しては絢瀬姉妹の琴線に触れる
 か弱さとほっとけなさを持ち合わせているみたいで、
 私と同じように亜里沙も何事かの強い感情は抱いているみたい、恋多き女みたい。
 妹は一息ため息を吐き、
 
「ツバサさんと、エトワールのみんなともう一度ECHOのアイドルを洗い直しましたが
 海未さんがこだわりを見せるような子は見当たりません」
「となると、やっぱり高海さんやルビィちゃん辺りに注目をしているのかしら?」
「正直、理亞へのライバル意識が高まって移籍を決意したルビィさんと、
 そもそも何を考えているのか分からない高海さんに対して
 対策を施そうとするだけ無駄である気がします」

 これが私もよく知っているμ'sの子が対立行動を取るとすれば、
 ある程度、困った時にはどのように動くかは見当を付けられるけれど。
 どのみち、ツバサとかニコとか凛クラスの芸能界で一流クラスの実績を残しているとか、
 花陽みたいにサポーターとして的確な才能を発揮している人間が相手なら、
 対策を講じて警戒に当たるだけの理由が思いつこうものだけれど。
 相手の実力がそもそも未知数なだけに、
 華々しくデビューさせてから機会を設けて会議するのも手かもしれない。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:57:06.56 ID:myA/Y7C00
 ただ、デビューした時には既に大売れするレールになど乗っかられたりすると、
 こちら側が顔を売るには困難になり、ハニワプロよりもエニワプロかな?
 みたいな評価になってしまい、挽回は不可能になってしまいかねない。
 理亞ちゃんを支えると決意した以上、ルビィちゃんとかに彼女が負けるようではダメなのだ。
 
「油断をする理由もないけれど、
 必要以上に警戒をする理由もない――なにより」
「私たちは負けられないのです。
 どんな理由があれど、海未さんがこちらに対立をしてまで
 成し遂げたい何かがあるというのであれば」
「……お姉ちゃんの台詞を取らないで」

 決意は高らかに。
 妹が面白そうなものを見たと言わんばかりにクスクスと笑い、
 私は本当にもうしょうがないわねって顔をしてみていると思う。
 かつての姉妹間の交友のようなほのぼのとした時間が、
 いつまでも続けばいいのにと思いつつ、
 私たちは作戦会議が行われているリビングへと舞い戻った。

 ――というに。

「ど、どうしました……?」

 冷徹なプロデューサーモードから一転。
 素に近い亜里沙としての姿で戻って来、
 姉妹揃ってなにか異常はないかな? あるべくもないかな?
 と、和やかにリビングに入ると。
 緊張しきった表情でツバサがこちらを見、
 エトワールのみんなが何故こんなことと言わんばかりに表情を曇らせ、
 中心にいる理亞ちゃんが頭を抱えている。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:57:38.58 ID:myA/Y7C00
 そのようにしなければならない事実が判明してしまい、
 問題発生と言わんばかりに気落ちした態度を見せられてしまうと、
 私としては現状を改めるために高らかにギャグの一つでも披露しようと決意し、
 中にいる雪姫ちゃんに一度前に出ても良いですかと問われた。
 要は、迂闊に口を滑らせてカーリングの人たちみたいに「そだねー」
 の一つで会話などされないように矢面に立ってくれるということ。
 絢瀬絵里のアイデンティティの一つである、脆いシールドとしての役目は放棄し、
 優秀で強固なまとめ役としての側面を見せましょう! とのことだけれど。
 見せてもらおうか、西園寺雪姫の実力というものを! 
 と、思いつつ、お試しな感じで入れ替わってみる。

「亜里沙、みんなが焦燥にくれているときこそ
 プロデューサーとしてまとめ役にならなければダメよ?」

 常に前面に立って慌てふためいて後ろから蹴り飛ばされる私と違い、
 動揺が走っている面々に対して肩の力を抜いてと言わんばかりにウインクの一つをし、
 この場で一番統率力がある亜里沙を立てて自分は一歩引く。
 確かに外見は自分であって、ちょっと頑張ればこれくらいできそう!
 とは思うのだけれど、今までちょっと頑張ったところで頼れるお姉さんは演じられなかったので、
 なるほど、こうやってみれば良いんだな? と胸の内に沁みるよう
 常に比較対象を観察しながら次に活かせるように心がける。
 ただ、中の人が小学校高学年っていうのは、
 国民的アニメの声優の年齢層は高いのと似てる? 違うかな?

「は、はい! どうしました?」
「二人共ちょっと来て欲しいの。見た目は普通なんだけど
 理亞さんがこの人がルビィさんの近くにいるのかって聞いてきて」

 自分はあくまで控えめな二番目として妹に追随し、
 事情を聞けば必ずしもそういう反応をすると言わんばかりの事実を、
 緊張した感じでツバサが披露する。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:58:14.68 ID:myA/Y7C00
 雪姫ちゃんはその言葉を静かに目を閉じながら聞きながら、
 中にいる絢瀬絵里は驚嘆で慌てふためいているのに、
 理亞ちゃんにそうと決まったわけではないからとフォローをして、
 ツバサにも――もっとしっかりして私をからかうみたいにしてよ、
 と、おちゃらけながら言っている。
 外見上は絢瀬絵里が言っているだけに、
 変なもの食べたんじゃないかみたいなことは、ツバサも考えてはいるだろうけれど、
 雪姫ちゃんが全面に出てきたときの自分の強キャラ感が異常。
 これほどのスペックを自分が持ち合わせていたのか、
 今どきの小学校高学年はこれほど老成しているのかは判断つかないけれど。

「何を目的にして雅がECHOの一員として潜り込んでいるのか。
 純真にアイドルとして頑張りたいからであるならば」
「理亞ちゃん落ち着いて。
 冷静ではない時にいくら考えても出てくる結論は見当違いであることが多いから」

 冷静でないくらいは見て取れるけれど、
 落ち着くようにアドバイスをする姿は私から見ても違和感がある。
 これがもし、数十分後くらいに私がもとに戻った時に
 同じことをして欲しいと願われてしまったらどうしたら良いだろうと思う。
 この場における暗澹とした空気は取り払われ、
 一度様子を見て誰かしらには情報を伝えることを結論づけ、
 でも、誰から情報を流せばいいだろう? とポンコツな私でさえも疑問になり、
 ただ、それはあっけらかんとした雪姫ちゃんの言葉ですぐに解決した。

「花陽に伝えてみましょう」
「絵里、あなた冴えてるけれど、え、亜里沙さん掃除でもした? 
 ハードディスクとか交換した?」
「いいえ、もしかしたらスチームクリーナーで
 根詰まりを起こす要因となっていたゴミが取れたのかも知れません……」
「すごいわね……ジャパネ○トで宣伝するべきよ」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:58:56.57 ID:myA/Y7C00
 感嘆する様子で妹と友人が会話するのを、
 このまま彼女に入れ替わってもらっていれば、問題は解決するのではないか?
 と、ちらりと考えてしまったけれど――。
 改めて自分の能力の低さが思い至り、改善するためにはどうすれば良いのかと
 益体のつかないことを考えてみて。
 少しずつでも協力してもらって成長を重ねていこうと思った。
 もう亡くなってしまった彼女がなぜか私なんぞに憑いて、
 最善の方法を提案してみんなをまとめているから。

「花陽さんなら仮に相手がどのような手段を用いて
 楠原雅という子を事務所に入れたかを把握できるはずよ」
「はい。仮に事務所側が把握していなくても、ツテで情報は入ってくるはずです」

 二人の中で花陽の評価が高いので、
 そんなに真面目で一生懸命な姿が好感を覚えるのかな? 
 と、思っていたら雪姫ちゃんが全てではないですがと言っていろいろと教えてくれた。
 凛をたいそうのおねえさんのオーディションに送り出したのは知っているし、
 スクールアイドルやアイドルに匿名で手紙を送って激励やアドバイスを送っているのは、
 ちらりと聞いたことがあったりするけど。
 そもそも、亜里沙にハニワプロの存在を教えたのは花陽であるみたい。
 お母さんが元々ハニワプロのアイドル候補生で、父親さんと出会ってなければ
 テレビで踊っていたかもなんて話もあったらしく。
 結局ニコが引退するまでA-RISEはトップアイドルとして君臨できなかったけれど、
 デビューしてからしばらく本当に売れなくて、
 私とのカラオケ代すら四苦八苦していた頃からアドバイスと激励の言葉を送り続け。
 当初は認められなかったことを少しずつ実行していた結果A-RISEがどのようになったか、
 もう言わなくても分かるよね? 若者の認識率100%叩き出したスーパーアイドルだよ? 
 Aqoursがラブライブの本戦に出場する前に雪穂ちゃんや亜里沙がアドバイスを送り、
 結果的にオトノキの4連覇を阻むことになるけれど、
 その際の致命的な弱点を最初に看破したのも花陽らしい。
 それだけではなく、
 高坂姉妹が窮地に陥った際に、手助けしたいと申し出たAqours3年生組と
 穂乃果と雪穂ちゃんの間に入って仲を取り持ったのも花陽。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 15:59:23.92 ID:myA/Y7C00
 真姫がオタク活動にハマるきっかけとなったアニメの原作漫画を彼女に貸したのも花陽。
 ニコがアイドルを引退した際にUTXに情報を流したのも花陽、
 2次元に傾倒した結果コスプレに懐疑的だった真姫に、
 そんなことないよ、とりあえずやってみたら気持ちがわかるかもよ?
 と、教えた結果西木野真姫が現在あやせうさぎ(裏名)になってるのはご存知ですね?
 私にはなにかないの? と冗談半分に聞いてみると。
 高校卒業後、希と交流が途絶えて再会するまでに時間を要したんだけれど、
 その際に彼女は素の自分を見せて受け入れて貰おうと決意し、
 女磨きを重ねに重ね、今の理亞ちゃんみたいな感じで完全美少女となり、
 ここまで頑張ったんだから受け入れて貰えなかったら
 強制的に自分のものにしよう――な、希を止めてくれたのも花陽。
 あれおかしいな、ヤンデレ(デレ0%)みたいな希を
 どこかで見たような記憶があるんだけど、その恐怖が簡単にわかっちゃうんだけど。
 ともあれ、絢瀬絵里は花陽に足を向けて眠れない、今度お米を届けよう、なにがいいかな。

「花陽には……できれば知り合いではない人がいいわ、
 彼女が知らないで、ちょっと気軽に裏情報代わりを提供できそうな」
「私がやります」

 と、言って挙手したのはエヴァちゃん。
 なんにも聞いていない風を装いつつ、常に私の数十センチ横に陣取り、
 空気と水を摂取するみたいに新栄養素エリチカの吸収に励み、
 信頼度が急激に上昇したと言わんばかりな私でも、
 全ては分かってますと言わんばかりに悠々とした態度で。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/10(月) 16:00:14.40 ID:myA/Y7C00
「見た目何を考えているのか分かりませんし、
 ちょっと事務所が漏らしたくない情報を提供するのならば、
 自分が的確だと思います」

 この中の面々で一番花陽と関わりがないのは、
 朱音ちゃん、朝日ちゃん、理亞ちゃん、よっちゃんとエヴァちゃんの5人。
 スクールアイドルをやっていたよっちゃん以下朝日ちゃん理亞ちゃんは
 花陽がどのような人間かを把握しているみたい、どういう情報網? 
 あの子を引っ張り込んで味方にするほうが先じゃない?

「エヴァさん……そんな、裏切らせるようなマネを」
「構いません」
「亜里沙、彼女がそう言っているのだから、
 プロデューサーとして送り出してから、
 戻ってきた時にちゃんと面倒を見てあげなさい。
 成功は私が保証するから。私の保証じゃ信用出来ないかも知れないけれど」
 
 などと絢瀬絵里が言うさまを
 何より自分が眺めながら、やっぱり最初から入れ替わってもらったほうが、
 案外何もかもうまく行くのではないか疑惑が抜けないエリーチカでした。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 19:18:23.01 ID:M/3llrBvO
本来これぐらい楽々やれそうなのになぁ
ニート期間で熟成されすぎたか…
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 18:06:42.76 ID:qkU4GUwB0
申し訳ないです。
疲弊具合が深刻で更新がいつできるか分かりません。
忙しいのに悲しいことに自分の用事ではないのは置いておきまして。

今後の更新予定です。
時系列で言うならば、

絵里理亞デートイベント −絵里視点−

ことりちゃん来襲 イベント −絵里視点−

エヴァぱな会談−花陽視点−

鹿角理亞ルート番外編 聖良姉さまの憂鬱 −聖良視点−

になるんですが、
エリち視点以外の話は比較的自由に行けるので、
聖良姉さまの話かかよちんの話は先でもと思っています。

聖良姉さまの話は舞台が岐阜とか愛知になるのと、
登場人物の大半が家畜(観客含め)という仕様ですが
姉さま扮する家畜アイドルミルク(うしちち→牛乳→ぎゅうにゅう→ミルク)ちゃん
のライブイベントの話です。
この話を構想しながら、姉さまの海未ちゃんから逃げるために
岐阜に行ってしまった疑惑が出てくるんですが、まあいいや。

かよちんの話は、かよちんの裏ボス疑惑が生じる話です。
海未ちゃんが凛ちゃんに挨拶に行く前にかよちんを懐柔して堕としておけば
ハニワプロは積んでたという話になれば。
では、もう少しお待ちいただければ。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 21:49:12.35 ID:62NXylE5O
農業アイドルより更に過酷そうな家畜アイドルとは一体…
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:55:13.64 ID:JoGf4NMo0
 −鹿角理亞ルート番外編 鹿角聖良姉さまの憂鬱−
 〜もう どうにもとまらない〜

 親友である歩夢の実家である農場は、
 下呂市にある下呂駅から車で一時間ほどにある山の近くの
 超巨大な立地を誇る全国でも有数のモノです。
 最初に彼女から岐阜県出身であると聞いた時に、
 北海道と東京以外の県名というものがまったく分からなかったので、
 岐阜というのは何ですか? と尋ねてしまい。
 近くにいた理亞が顔面蒼白になりながら、姉さまは東京以外の都道府県名は分かりません!
 と言い放ち、ずいぶんと憮然とした態度を取ってしまったものですが。
 今にして思えば歩夢が岐阜県をどれほど愛していているかを知らずに、 
 岐阜とは一体どこの辺境の土地なのかと言ってしまったのは、迂闊だったとしか言いようがありません。
 すっかり岐阜ナイズされた今では、車で走れば到着する場所に何かがあれば
 全て都会のような心持ちです、歩かなくて良いんです、なんと素晴らしいことでしょうか。
 ちなみに私は運転免許は持っていないので、
 月島家の専属ドライバーである羽島さんが農場まで連れて行ってくれています。
 敷地が広大ゆえに何人ものお手伝いさんが管理運営その他諸々、
 その中で先頭を切って放牧し、畑を開梱し、登山を繰り返し、犬と駆け回り、
 動物と戯れてばかりの歩夢をトップアイドルに添えた亜里沙プロデューサーというのは、
 まさに名トレーナーという存在ではないでしょうか、理亞も救って頂きましたし。
 持て囃すのは絢瀬絵里の方ではなく、
 よっぽどあの人に付き合っている周囲の人であるべきなのではないかと。
 妹が世話になっていなければ、もっと気合を入れて叩き潰したと言うに……。
 憧れのA-RISEのツバサ様に何故あのような人と付き合いがあるのか問うたら、
 たまに捨てられた子犬みたいな目で見るから庇護欲が湧くから、であるよう。
 
 ――さっさと捨ててしまえ。 
 その年になってまで妹の世話になり続けているなんて、
 まったく、北海道よりも上にあるロシアというのはよほど未開の地なのですね。
 本当、亜里沙さんの爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいくらいです。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:55:49.33 ID:JoGf4NMo0
 きっとロシアの人にも優秀さが伝わることでしょう、ええ、まったくもって。
 どこかからお前が言うな的な声が聞こえてきましたが、気のせいでしょうか。
 私だって過去とは違いきちんと函館から東京まできちんと来ることは出来ます、
 飛行機だって乗れるのです、妹の付き添いはいらないのです。
 チケットさえ用意していただければ!
 乗るだけの状態にしていただければ私はどこへでも行けるのです、
 あのニートしている人とはまったくもって違うのです、ぷんすか。

「しかし、理亞が望むのであれば少しは彼女も役に立つのでしょう。
 あの子にもちゃんと独り立ちして頂けねばなりませんしね……」
「聖良さん、言われていた東京土産は買ってきました?」
「理亞がいればノルマは簡単にこなせたのです。
 つまり、私一人で何かをさせた歩夢が悪いのです」
「お嬢さん、すごい楽しみにしていましたよ
 今日あたり雷が落ちるんじゃないですか?」 
「……歩夢が悪いんだもん」



 帰宅して早々に仲の良い牛たちに事情を話し匿って貰ったものの、
 いつまで経っても歩夢が来ないので、
 もしかしたら元より怒っていないのでは? お腹も空きましたしね――
 と思って牛舎を脱出するとニッコニコ笑った歩夢が居たので、 
 あまりにも機嫌が良さそうであるから、
 すっかり安心しきってこちらを笑みなど浮かべながら応対すると、

「よく帰ってきたわね聖良、妹さんとはちゃんとお別れできた?」
「ええ、そのために東京に顔を出したんだもの。
 優秀な妹には何のためらいもなく、姉のことなど忘れて――ん?」

 私に対していつもは気が強く、
 ちょっと距離のある感じで交流する彼女にしては珍しく、
 なんだか下手に出たかのような、申し訳なさそうな表情のままに
 こちらの手を握り、しょげたような声で謝ってきました。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:56:22.42 ID:JoGf4NMo0
「東京に行って大好きな妹とお別れするのも辛いのに、
 買い物まで頼んでしまってごめんなさい」

 身体を擦り寄せるようにし、いつになく情熱的なボディータッチに
 きっと寂しくて甘えたくなってしまったのでしょうと思い。
 なんとなく甘い感じのする匂いを鼻腔に感じながら、
 デレデレとした表情など浮かべないように凛々しい態度のままに、

「構いません。
 それにしても商工会がイベントに参加して欲しいと言っていましたね?」
「ええ、でも聖良が乗り気でないなら断ろうと思うの」
「アイドルはもう引退したのです――」

 甘えたがりな妹を持つ姉になったような気分で肩を抱き寄せると、
 思いのほか小さく、華奢な体躯は庇護欲をそそります。
 同じ年で私のことなぞいつまでも妹に甘えているニートみたいな扱いで、
 仕事上でなければ敬意もへったくれもなかった歩夢が――
 まるで親しい恋人にする態度みたいに、愛を求めてばかりの幼子かというくらい、
 このまま唇でも寄せれば何の抵抗もなく――はっ!

「し、失礼。岐阜は暑いですね? 東京とはまるで違います」
「いいのよ聖良。ほら、あの事務所女の子が女の子を好きなパターンが多いじゃない?
 だから私もいいかなって」
「い、いえ、ですが同姓は風当たりが強く、世間の目もあります。
 立派な農場主になるにはスキャンダルは少ないほうが……」
「別に誰でもいいっていうわけじゃないのよ?
 聖良だから良いの、こんなことをするのは聖良だけなのよ?」
「……し、仕方ありませんね。
 あなたがそういうのならば仕方ありません。
 不肖、鹿角聖良、あなたのために何でもすることを――」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
「え?」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:56:57.29 ID:JoGf4NMo0
 私の身体を突き飛ばすように離れた歩夢は、
 ポケットからレコーダーを取り出し、いかように再生したかはわかりませんが、
 先程の――あまりに迂闊な私の台詞を何度も何度も再生するのです。
 ハメられたと思いました! なんてことをするのだと!

「くっ! こんな不埒な行為で私の純情を弄んで……!」
「いやあ、さすがツバサさんだ。本当に落とせるとは思わなかった」
「然るべきところに行きます! 亜里沙さんに訴えれば!」
「ごめんなさい……聖良……冗談よ……
 あなたのことが愛おしいからついつい意地悪をしてしまうの……」

 両手を重ねられ、唇を寄せんばかりに顔を近づけ、
 あと一歩踏み出せば本当にキスなど交わしてしまいそうな――
 いいえ、いけないのです、よっこらせいら!

「は、離しなさい! あなたの魂胆は分かっています!
 自分の意のままに私を操ろうというのでしょう! そうはいきません!」
「ねえ、聖良……いつも独りで戦ってきて、そろそろパートナーが欲しいと思わない?
 寂しい夜も身体を重ねていれば、ほら、暖かい」
「……そ、そうはいかなINNOCENT BIRD!」
「どうしたら信じてもらえるの? このまま服でも脱いで胸を押しつけたら、
 心臓の鼓動がドキドキしているから本気だって分かってもらえる?」
「はしたないことはおやめなさい! そんなことされたら私はCLASH MINDして
 社会からDROPOUTしますよ!?」
「私はじめてなの……優しくしてくれる?」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:57:33.01 ID:JoGf4NMo0
 こ、こういうのが――
 もしや、以前まで理亞がよくプレイしていた成人向けゲームの主人公の心持ち
 据え膳食わぬは女の恥というものなのでしょうか!?
 相手はいかにも好感度100%で、私が押し倒すのを待っている――!
 冷静に考えてみれば私は鹿角聖良なのだから、
 あのニートの人みたいに同姓からやたらモテるも当然かも知れません。
 先程の歩夢の態度はツンデレというものなのでしょう、ええ、そうに決まっています。
 
「わ、分かりました……あなたを信用します……」
「なんでもしてくれる?」
「な、なんでもしますよ! すればいいのでしょう!? 
 どんな恥ずかしいことだってしてみせます! 何でも言ってください!」
「じゃあ、家畜アイドルとして名古屋のステージに立ってウチを宣伝して?」

 ……ん?
 
「家畜アイドル?」
「ええ、ウチの牛や馬の前で歌って踊るの、品評会に参加する子だから
 人前に立っても大丈夫よ、衣装はね白と黒の牛をイメージしたビキニだから」
「は、謀りましたね!? なし! なしです! ――んん〜〜〜〜!?」

 唇と唇がそれなりの時間合わさって、私は思わず昏倒しそうになりました。
 じょ、冗談の範囲にしてはあまりに本気すぎる所業ではありませんか?

「ふふ、今のキスは前払い、帰ってきたらもっと情熱的なことしてみましょう?」
「じょ、情熱的なこと? い、いったいそれは……」
「子どもじゃないんだから分かるでしょう?」
「や、やめなさい! それは結婚前のカップルがする行いです!」
「結婚してもいいよ? 一緒に農場を頑張っていこ?」
「……し、仕方ありませんね、あなたがそこまで言うのであれば
 家畜アイドルを行うのもやぶさかではありません、婚約届を用意して待ってなさい!」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 20:58:31.24 ID:JoGf4NMo0
 ――この日。
 鹿角聖良は人権を失い、家畜アイドルとして華々しくデビューすることになりました。
 いえ、もう、ミルクちゃんと自身を呼称するべきですね。
 バックダンサーの動物たちも全裸だからだいじょうぶ! 
 という言葉に乗せられ、確かに全部脱いでいるわけではないし――
 なんて考えたミルクちゃんは名古屋のステージに立つことになったのでした。
 笑いたければ笑えと、今も妹と一緒にいるであろうニートの人に言い放ち、
 いかばかりかのリハーサルをこなし、私は完璧な動きで本番を迎える――

「こんな姿を妹に観られれば、本当に立ち直れないかも知れませんね」
「ミルクちゃんはもっとおちゃらけた喋りかたよ」
「もぉー! 理亞ちゃんに観られちゃったら〜☆ 
 嬉しくって泣いちゃいそぉー! ミルクちゃんこまっちゃーう!」
「ふふ、いい調子よミルクちゃん」
 
 片時も離れないと言わんばかりに歩夢は私のマネージメントをしています。
 亜里沙さんのようにすると言っていますが、私から見ても遜色ないのではないでしょうか。
 しかし私の仕事ぶりも完璧ですね、本当にただの家畜のようです。
 歩夢の言うままに動く哀れな家畜、明日には食用肉にでもなっているのかも。
 
「いっけなーい! ついついセンチになって理亞ちゃんの幻覚が見えちゃうぞー☆」

 以前に離別した妹が、いけないものを観たと言わんばかりに表情を曇らせ、
 彼女の隣にいる金髪のニートの人が必死になって肩を揺り動かしているのを見ながら、
 ずいぶんリアルな幻想であると思ったのです、
 理亞の幻想がなまじリアル――これは良いですね、ギャグとして披露しましょう。

「歩夢、斃れても良いですか」
「ダメよ、ここでやめたらハニートラップに引っかかってこんなことをしてるってバラす」
「……きゃは☆ ぅ絵里ちゃーん!」
「穂乃果みたいな声を出さないで!? や、やめて! お願い正気に戻って! 
 理亞ちゃん! ラーのかがみ! ラーのかがみ出して!」
「あぶないみずぎで私は1ターン行動不可能です、絵里先輩」

 願わくば夢オチでこのお話が終わってくれることを、
 ミルクちゃんは思うのです。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 21:03:07.02 ID:JoGf4NMo0
亜里沙ルートの番外編と同じように、
設定だけを流用した訪れない未来である可能性が高いですが。
この話はまだまだ続く予定です。

劇場版まで1ヶ月を切りました(遠い目)
劇場版で廃校をやっぱり回避できました! やった!
ってエンディングになったら次のルートが自分の想定通りに行きます。
廃校回避して笑って終わる話だったら良いのになあ……。

ではまた明日。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/12(水) 21:47:38.31 ID:QwcS3T4EO
まったくこの世界のお姉ちゃんときたら……
ただ牛柄ビキニの姉様がやってると思うと興奮が収まらんぞ
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/15(土) 20:00:23.10 ID:P7AvJWmk0
 ミルクちゃん控室と書かれた鹿角聖良の公開処刑場。
 執行人は妹である理亞。
 少々変貌してしまったけれど――元々のポテンシャルを考えれば、
 自分よりも遥かに上の稀な容姿を持っているのだから、
 キチンと身なりを整えてシャンとすれば誰もが羨むレベルにまでみずからを高めることは
 十二分に可能であったのです。
 ギャラリーはそんな妹と私に視線を這わし続けている絢瀬絵里。
 自分の身の回りの人間がやたらと持ち上げて一部神格化し、
 ニートをしていてもなお評判が落ちることがなかったよく分からない方。
 私の目が及ぶ範囲でも、ツバサ様や亜里沙さん歩夢やハニワプロの一部のアイドル。
 そして何より妹が目標とし励み、常に努力した人間を追い抜いていきやがる方。
 容姿こそ下手すると理亞の妹にすら見えるほど若々しく、
 ハニワプロでも異次元クラスに優れているツバサ様がお手本と呼ぶほど、
 優れた身体能力を発揮していますが滅多に活用されることがありません。
 とんでもない資質を持ち合わせていますが、
 肩に力が入ると空回りするというとてつもない欠点があり、
 結果的に誰よりも能力が低いとされる――いや、実際に能力は低いのだと思いますが。
 平均的に能力が発揮されることがないポンコツよりも、
 断然妹やツバサ様のような、全てにおいて優れたパフォーマンスをする人間のほうが、
 よっぽど評価される謂れがあるような気がするのですが。
 ただ牛柄のビキニという自分の格好を鑑みるに、
 そのような謂れをされることはないと憤慨されても仕方がないかも知れません。
 私の現状と絢瀬絵里氏のどちらがみすぼらしい格好をしているかと言われれば、
 どう足掻いても自分を指さされてしまうのは分かっています。

「ええと、聖良さん。この”もぉ〜ぎゅっと“love”で接近中!”っていうのは、
 やっぱり牛と一緒にライブをするからなのかしら?」
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/15(土) 20:00:56.19 ID:P7AvJWmk0
 何気ない調子で一番突かれたくないところを刃で刺してくる。
 相手に会心の一撃を与えようとせずに、無意識に深刻なダメージを与えるのは
 鈍感な人間の証左であり、かつとても罪深いことなのだと思います。
 理由があり罪を犯すのならば致し方ない面もあれど、
 特に意味もなく罪を犯すのは、同じ罪でも後者の方がよほど酷いと思いませんか?
 とはいえ、それを指摘したところで相手に何を伝えられるわけもなく、
 キョトンとした顔をしながらそうなんだの一言で済まされてしまいそう。
 これから牛と一緒にライブを行い、家畜と称する観客の歓声を受け、
 家畜扱いをされているのはむしろ私なのではないかという思考を放棄し、
 高らかにミルクちゃんになりきらなければいけない自分に
 鋭利な刃で精神的ダメージを与えようとは、やはり彼女は卑しい。

「姉さま、私が言えた義理ではないですが
 嫌な時は嫌というべきだと思います、歩夢さんは極悪人ではありません
 おそらく人権を無視するようなことはなさらないかと」

 トップアイドルとして何年もハニワプロを引っ張り、
 ふと思い当たって仕事を放棄し家畜(私含め)の世話をしていますが、
 周囲からの評判もトップとして君臨するに相応しいもので、
 業界きっての良い人、聖人君子として崇められても構わないレベルではあります。
 なにより今まで不出来な自分と付き合ってきて文句のひとつも零されたこともないですから、
 確かに本気で嫌だと訴えれば彼女も考えを改めてはくれるでしょう。
 ただ、そのような態度を示してくれる人間だからこそ、
 多少の恥はかき捨てなければならないとも私は思うのです。
 これが気に入らないプロダクションのプロデューサーが持ってきた仕事ならば、
 ふざけないでくださいの一言で切って捨てることも可能ではありますが、 
 アイドル活動ができないことを寂しく思ってた私を看破して、
 このような扱いをしているのならば、それに準ずるのもいいのかもと思うのです。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/15(土) 20:01:39.12 ID:P7AvJWmk0
「いいえ、ある程度は私の意志です
 理亞、心配してくれてありがとう、とても良い子ですね」

 美しく成長しきった妹の頭を撫でる、
 牛柄のビキニを着ているみすぼらしい姉という、
 ひとたびの姉妹間の交流は和やかに過ぎていきました。
 なにより、失言する確率が高い絢瀬絵里氏も私を不憫に思っているのか、
 それとも多少なりとも冷静さを身につけることに成功したのかは定かではありませんが、
 口を滑らせて私の感情も逆なですることもなく、
 理亞を動揺させてストレスを与えんでもなく、
 本当にこのままの時間が過ぎていけばいいのに――と思わずにはいられないのです。
 
 覚悟を決めた私は――
 
 多くの方の前でミルクちゃんとして大歓声に包まれました。
 鹿角聖良とは思えないパフォーマンスで観客の方々の盛り上げ、
 どんなにさもしい心根で観られているのかを考えないようにしながら、
 テンション上がっている牛たちの応援を背に受け、
 イベントは成功したのです――



「全国デビュー?」
 
 歩夢から信じられない話を聞きました。
 名古屋の一部で盛り上がったステージはネットでも評判を呼び、
 農場の一人員として働く私を見に遠方からも多数来客もあり、
 ビキニにはならないんですかというセクハラも受けたことは受けましたが、
 一時のブームが終われもそのようなこともなくなるでしょうと歩夢とも話したのですが。
 世間ではまだ鹿角聖良というのは耳目を集めるというのが認知でき、
 良いのか悪いのかは判断できませんが、メリットは多少なりともあるのでしょう。
 本当に必要のない情報であるのなら、歩夢は私に話を持って来すらしません。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/15(土) 20:02:16.87 ID:P7AvJWmk0
「ええ、本当はお断りしたかったんだけど
 結構、上で盛り上がっている方がいるみたいで」

 敷地が広大な月島農場と地元の議員さんを中心とした権力者は、
 当然といって良いのか繋がりがあり、無視できない影響を与えてきます。
 岐阜の知名度云々には興味などありませんが、
 歩夢にデメリットを生じさせるのであれば重たい腰も上げねばなりません。
 人目を引くピエロにだって喜んでなりましょう、妹に観られるのは嫌ですが。

「農場の知名度が上がれば、経営にも好影響が出ますね」
「デメリットを考慮しなければ。
 でも、聖良にワガママを言うのはあの時限りだったから。
 嫌だったら断ってくれてもいいのよ?」
「どのみち、一時的なブームでしょう?
 あのようなイロモノが持て囃されるなど人の倫理から考えれば
 あってはならないことというものです」

 人類が誕生してからこの方男性上位社会であるとは言え、
 その方々がこぞって性欲の塊であるとは私は思いません。
 いかに分かりやすい性欲のはけ口として利用されていようとも、
 自分自身に被害が及ぶべきもありません、
 それにそういうのが好きな女性もいるのは知っています。
 どのみち人気は持続することはありません、そういう方は新しいものが出てくれば
 目移りして私のことなどすぐに忘れてしまうことでしょう。
 スクールアイドルだった時代には忌避したさもしい性根も、
 人間の一部分でしか無いと分かれば、そこまで嫌悪することもありません。
 性欲が犯罪に直結する方はひと限り、上手く活用すればデメリットなく
 自分に都合の良い結果を導くことも可能です。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/15(土) 20:03:35.87 ID:P7AvJWmk0
 月島農場にメリットがあって、結果的にお給金も良くなるのであれば
 自由に使えるお金も増えて、もしかすればバレずに妹の顔も見に行けるかも知れません。
 浅ましい理由ではありますが、以前の仕返しもしたいですし。
 ええ、あのステージが終わったあとで、
 自分にはそんな恥ずかしい格好はできないって言った金髪ロシアンには。
 ただ、妹からのメールでそのひとはバニーガールの格好をして営業に回ったというから、
 因果応報という言葉を告げておいて欲しいと頼んでおきました。

「分かったわ、牛たちは全国を回れないし
 私も覚悟を決めてあなたと一緒にステージに立ちましょう
 まあ、動きは劣るかも知れないけれど」
「ありがとう歩夢、きっとステージに立っていた万次郎も浮かばれるわ」
「あなた牛に名前つけてるの?」
「ええ、あの子はタケシ、あの子はカスミ、あの子はサチコ」
「最後までポケモンの登場人物縛りを続けなさいよ」

 私自身の判断ではありますが、
 名前をつけて呼んであげると牛たちも喜ぶのです。
 ひとときの交流ではありますが幸せな気持ちになってくれるのであれば、
 多少感情が入って分かれが寂しいという気持ちも拭い去れるというものです。

 ――そしてその後。
 とある事務所のバニーガールの格好したうさぎと、
 とある農場の牛柄のビキニを着たウシがタッグを組み
 微妙に人気を得るというのは別の話であります。
 そのようなことがあっても良いものでしょう――人生何が起こるのかはわかりません。
 ええ、先輩が取られたと妹に恨みがましい目で見られて困り果てたのも
 今となってはいい思い出というものです。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 22:51:11.21 ID:z8038z/4O
お姉ちゃんズの牛とウサギとはなんてけしからんタッグだ…
イラスト化切に希望
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 23:37:33.96 ID:LOYlQIAbO
えりちが無自覚に怨みを買いまくってる風潮…
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:15:01.43 ID:KrUzi/3Z0
−エヴァぱな会談−
〜世界はエリチカのためにできている〜

 いつからかは定かではないですけど、
 ふと気がつくと希ちゃんのところで働いている自分がいました。
 たしかに以前までのアルバイト生活からは解放されて、
 ひとまず就職を果たして両親を安心させることには成功をした様子ではあります。
 何がしかの違和感が拭えないのは私一人ではないようで、
 雇い主である希ちゃんも、希ちゃんのそばにいる鈴さん(あだ名はベルさん)も、
 私が思い至らない事情は把握しているみたいです。
 それを告げられることがないのは私自身の力不足でもありますし、
 たとえ何を解決することはなくても相談くらいには乗ってあげたいと思うのは、
 自分自身の思い上がりがすぎるというものでしょうか。
 誰からの協力を得られることができなかった海未ちゃんにも、
 力になることを告げてしまったのは、一抹の寂しさというものがあったのは事実です。
 みんなで一歩引いた立場で見守ろうとしていたのに、
 裏切るようなマネをしてしまったのは拭いきれない思いというものが―― 
 今ではない過去にそのようにしなければならない理由がある気がして。
 仕事中だと言うのにため息をついてしまい、
 いけないいけないと集中してなさねばならいことをしようと前を向くと、

「あ、ベルさん」
「花陽ちゃんお疲れみたいね、夜も眠れなかったりするの?」
「無理はしないで、何なら希に言っておくからこき使うなって」
「いいんです。ちょっとくらい無理したほうが嫌なことも忘れられそうで」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:15:33.84 ID:KrUzi/3Z0
 意外とと言ってしまうと失礼なんだけど、
 私と同じくらい後ろ向きな思考回路を持っているのは絵里ちゃんで。
 力が入ると空回りしてしまうのは、自信のなさの現れだと私は思います。
 そこが絵里ちゃんの良いところでもあり、
 身の回りの人たちがいらない苦労をする点でもあるんですが、
 なかなか改められることはありません、性格を変えようとするには大変ですし、
 何よりそうしなければならない事情があるわけでもありません。
 変化に億劫になってしまう心も傷もあるので、藪をつついて蛇を出すよりかは
 現状維持のままでも構わないのではないかと、私も思っていたりはします。
 絵里ちゃんが自信満々に能力を発揮する姿を想像できないというのは
 私自身の思い上がりも手伝ってのことでしょうか、事実かもしれないのですが。

「花陽ちゃんに会って欲しい人がいるんだけれど」
「会う前からそのように不安な表情をされてしまうと、
 思わずお断りしたくなってしまいそうです……」

 苦渋の選択をしたと言わんばかりに、
 躊躇う表情を浮かべて言葉を告げられてしまうと、
 以前の真姫ちゃんのようにはっきりとお断りしたくなるのは人の常。
 仕事上のお付き合いの相手なら希ちゃんが言ってこないのは変ですし、
 私が担ぎ出されることもないと思います。
 ある程度私の推量に会うか会わないかは任せられていて、
 状況によっては断っても構わないのかとは思うのですが。

「でも、別にとって食べられてしまうわけではないんですよね?」

 気軽に聞いてみると、ベルさんはその可能性もあると言わんばかりに考え込み、
 私をものすごく不安にさせたのですが、

「……だいじょうぶよ、ええ、だいじょうぶ」
「本当にだいじょうですか?」

 すごく不安になったのは事実ですが、
 そこまで不安にならずとも良いでしょうと自分自身を励まし、
 何かあれば凛ちゃんに言ってくれるようにお願いして
 待ち合わせ場所であるという喫茶店へと向かったのでした。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:16:02.38 ID:KrUzi/3Z0
 私が働いている希ちゃんの事務所からしばらく、
 最寄り駅で電車に乗ってさらにしばらく、
 そこから歩いてしばらく。
 春の陽射しがだんだんと強くなり、春キャベツを中心としたお野菜が
 ますますご飯と合うようになってから体重の増加が気になるこの頃。
 特別なにか対策をしているわけでもないのに、
 いくら食べても太らないというのは不公平だと思います。
 せめて人並みに食べたら身体に行くということをして欲しいものです。
 などと心の中で愚痴ったところで何の解決にもなりません。
 どうしてもというのであれば凛ちゃんかことりちゃんにそれとなく伝えてもらいましょう、
 二人がそれとなく伝えるで済ませるかは不安ですが。

「ずいぶん流行っているんだね……座れるかな?」

 待ち合わせ相手がどのようなひとであるのか、
 何故私を待っているのか疑問は尽きることはありません。
 いかんせんベルさんが何を伝えてもくれなかったので、
 後ろ向きである私とすれば、逃げ出したい衝動が我慢できなくなってしまうのは
 致し方なしと言ったところではあるのでしょうか。
 仮に可能性としては低くても、本当に取って食べられなどされてしまうと
 亡くなったおばあちゃまに会った時に何をしているのかと問いられかねません。
 願わくばそのようなことはあってほしくないものです。

「小泉花陽様ですね?」

 いつの間に後ろに立っていたのか、
 それともそんな事に気づかないほどに緊張してしまっていたのか、
 驚いた感じで自分の身体が跳ねたのを認識して恥ずかしく思います。
 振り返ってみるとそこには、悠然と、もしくは非現実的なほど美しい造形で、
 絵から出てきたよう、俗な言い方をすれば二次元のキャラクターみたいに綺麗な女の子が
 私に向かって微笑みかけていました。
 たしかにこうしてありえないと不意に思ってしまうほどきれいな人を見れば、
 取って食べられてしまうと評されてしまうのもしょうがないです。
 ――よもや、食べられてしまうというのは性的な意味ではないんですよね?
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:16:41.62 ID:KrUzi/3Z0
「はい、小泉です。もしかしてあなたがベルさんが言っていた?」
「リリーと申します、気軽にりっちゃんと呼んでください」

 どこぞの軽音部でドラムを叩いていそうなあだ名で呼ぶことは、
 ひとまずにせよ遠慮をすることにしまして。
 二人で喫茶店の中に入り、空いていた場所に店員さんに案内されて、
 今日は来ていただいたということで、何を頼んでもだいじょうぶと告げられましたが、
 どう考えても年下の女の子に奢られてしまうと社会人としては形無しです。
 遠慮するばかりが相手を立てることには繋がりませんが、
 ここは一応年上の人間としてお財布の中身を確認することくらいは――
 と、思い手提げの中を確認すると見事にお財布がありませんでした。
 そういえば最近金銭的に厳しい状況が続いて、
 できる限り無駄遣いは控えようと意識して家においてきたのを思い出し、
 頭を抱えてしまいたくなる心持ちがしました、情けないことです。

「すみません、お財布を置いてきてしまって」
「安心してください、支払いは私がします、任せろと言ったところですビリビリー」
「やめ……! じゃなかった、お返ししますからね?」

 状況が相手に有利であるのは迂闊さが招いたこととしまして、
 主導権くらいは握りたいです。
 どのような目的があるにせよ、自分に発言権くらいは取っておきたいものです。
 ただ、リリーさんは相手の嫌がるようなことであったり、
 マウントを取って一方的に何かをするような子ではないと思うので、
 警戒すると言ってもそれなりで済むような心持ちでは居ます。

「まずはいただきましょう」
「はい、いただきます」

 お互いに両手を合わせてから、デザートセットのケーキをついばみます。
 流行っているだけあって味もしっかりしているのか、
 ついつい食べすぎてしまいたくなる衝動に駆られましたが、
 ちょっと食事量を控えないと昨日凛ちゃんと頂いたラーメンのカロリーは
 小泉花陽に深い傷跡を残しています。
 凛ちゃんは胸につくから良いのではみたいなことをいいますが、
 胸以外にもカロリーは影響は与えるということをキチンと教えないと。
 いつことりちゃんの逆鱗に触れるかわかりません、本気で怒られるのは絵里ちゃんで充分。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:17:15.36 ID:KrUzi/3Z0
「では、こちらの目的をお話します。
 頼まれごとを了承して頂きたいんです」

 下手に出るというわけではないみたいだけど、
 強制的にお願い事を聞いて貰おうという意志は感じられません。
 要件を伝えて一方的に何とかしてほしいということであれば、
 たとえ仲が良い人でもためらってしまいますから。
 絵里ちゃんみたいに言われた瞬間深く考えずに了承してしまうのは、
 本来ならば良くないことだとは思うんです、たいていなんとかしちゃうけど。
 ついうっかりキャパシティを超えて周りに迷惑をかけちゃうのもご愛嬌。
 
「内容を伺ってもいいですか?」
「……流石に絵里みたいに、わかったと二つ返事は頂けませんね」
「やっぱり絵里ちゃんに関係するひとでしたか」
 希ちゃんを通じてお願い事をするくらいだから、
 100%とは言わないまでも、高確率でそうだとは思ってました。
 一つだけ不思議なのは絵里ちゃん自身のお願いであるなら、
 絵里ちゃんがお願いしてくるはずなんです。
 誰かに人任せにしてやってくれるようにお願いをできるほど器用じゃないですし、
 なにより、無茶はひとにやらせるよりも自分でやる人ですから。
 それが困ると何度も言っているはずですが、改善されることはありません。
 了承されてしまうのは、周りにいる私にとって神様みたいなツバサさんが
 しょうがないわねえみたいな感じで許してしまうからだと思うんです。
 この時点でよほどのお願いではない限り了承しようと思いましたが、
 もう少しリリーさんの人となりや周囲の状況を探っておくことにしましょう。
 絵里ちゃんの周囲に身勝手な理由で横暴な態度を取る人はいないと分かりきっていますが、
 可能性は低くても迷惑を被るのは私だけで充分。

「ルビィさんの周囲に危ない方が居ます
 すぐに累を及ぼすようなことはないと思いますが、
 それとなく状況を見ていてくださるよう海未さんにお願いして欲しいのです」
「危ないとされる内容を聞きたいのと、
 なにかある可能性がどれほどあるか聞いてみても?」
「ご、ごめんなさい、そうですよね。
 では、順を追って説明します」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:17:54.11 ID:KrUzi/3Z0
 海未ちゃんから頂いているメンバーのデータの中で、
 実力的に何故メンバーに含まれているのだろうと疑問なひとは数人居たけれど、
 何が目的でアイドルとして活動をしているんだろうと思った方。
 それほど熱心に活動をしているわけでもなければ、
 仕事に真面目に取り組んでいるわけでもなかったので、
 正直な話、過去の私みたいに数合わせ要員なのかななんて思ってしまったり。
 実力が秀でているだけがアイドルとして成功する条件ではないけれど、
 少なくとも仕事はすると信じてもらえるようなひとじゃないといけないんです。
 仕事を振って成功するしないは時の運であれど、
 仕事を振って貰えるためには個人の資質がおおいに関わってきます。
 それは信用であったり、実績であったりしますが、
 新人アイドルにおいては信用の度合いが果てしなく高い。
 楠原雅さんというひとは実力においても、信用されるか否かにおいても、
 海未ちゃんが熱心な指導を受けるに至らないひとだとは思いましたが、
 不穏な感情を抱いているのを察して面倒を見ていたということですね。
 いらぬ苦労を抱えてしまうのは海未ちゃんの良いところでもあり、
 また悪いところでもあるのですが。
 
「私を通してではなく、直接事情を話せば
 海未ちゃんはちゃんと理解してくれる方です」
「絵里や亜里沙さんを中心とした方が真実を告げても、
 対立行動を取っている以上、頑なに拒む可能性はあると思いました」

 亜里沙ちゃんが海未ちゃんを頑なだと思う可能性は著しく低いですし、
 絵里ちゃんはおそらくお願いすれば聞いてくれるだろうという判断はするでしょう。
 相手が拒否する可能性があると冷静に判断できるのはツバサさんや
 理亞さんあたりも的確に察することができるかも知れませんが、
 ただ、あのお二人がそこまで話に介入して何かをするとは思えません。
 絢瀬姉妹は基本的に妹の亜里沙ちゃんが強いように思われがちですが、
 絵里ちゃんが拒否するようなことをすれば亜里沙ちゃんに真っ先にダメージが行きます。
 結局のところお互いに足りないところを補っている二人ですから、
 やはり海未ちゃんに冷静な評価を下しているのはこのリリーさんか、
 もしくは絵里ちゃんを冷静に操っている誰かがいるのかも知れません。
 どのみち、被害に遭うのがルビィちゃんである以上は、
 人生の諸先輩として、かつ高校時代に推してくれたことも助けるに値する理由です。
 悲しきかな、今のルビィちゃんは私のことを推してはいないみたいですが。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:18:51.79 ID:KrUzi/3Z0
「個人的な興味なんですが、リリーさんは絵里ちゃんのことをよく知ってますよね」
「はい、ファン……ファンと言えば良いのか応援しているといえば良いのか」
「それに、海未ちゃんのことも、それだけじゃないμ'sのこともよく分かっています
 何より私自身のことも――なぜかは問いません
 ですが、情報は共有できると嬉しいです」
「すみません、それは何故でしょうか」
「ひとりで抱えていても悩みは解決しません。
 悩んでいるのなら誰かに話すくらいはしても良いと思います
 個人的な経験談です」

 リリーさんも言い得ぬ何かの問題を抱えていて、
 自分ではとても解決できないような感情を私に対しても、
 何より応援しているという絵里ちゃんに対しても持ち合わせているようです。
 ただ、悩んでいることを自覚してはいない様子だったので、
 多少なりとも誰かに話をする余裕くらいは持っていて欲しいのです。
 解決には至らなくても共有すれば気持ちの持ちようくらいは変わる。
 絵里ちゃんも――絵里ちゃんが憧れ続けている穂乃果ちゃんも成せなかったこと。
 問題を抱えたら悩みを相談する相手くらいは作らなければならなかったですし、
 μ'sの誰一人、もちろん私を含めて、
 いざという時に頼る誰かがお互いに悩みを抱え続けてしまったのは、
 私たちの不手際であり、拭い去れない後悔の念でもあるのです。

「そう……ですね。
 私はμ'sの方々のことはよく分かる状況にあります
 悩みかどうかはわからないのですが」
「暗い気持ちを抱えたら悩みみたいなものです、
 ちょっと気分が暗いなって思ったら誰かにお話すると良いですよ」
「経験談ですか?」
「私自身も経験がありますが、絵里ちゃんや穂乃果ちゃんが、
 心の傷を負うに至ったきっかけもそうであると認識しています」

 穂乃果ちゃんが大学時代にひどい経験をしたのは、私自身も把握しています。
 なにか対策を取れたわけでもなく、後手に回らなければ解決できた問題でもないですが、
 少なくとも傷口を必要以上に広げることはなかったんです。
 Aqoursのみんなが出てきた時にも海未ちゃんやことりちゃんも――穂乃果ちゃんも
 恥ずかしそうにはしていたけれど、
 少なくとも今のようにすごく嫌な人達を見るような目では観ていませんでした。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:20:42.01 ID:KrUzi/3Z0
「もしかして花陽さんは絵里が何故ニートに至ったかを把握しているんですか?」
「それをリリーさんが把握していることには驚くけど、深くは聞かないよ?
 何より私もそうなんじゃないかなーって思うだけだし」

 予想の範疇ではありますが、
 世間話として出すくらいならある程度は許されると思います。
 それにリリーさんなら違う時は違うと言ってくれるでしょうし。
 凛ちゃんやことりちゃんも絵里ちゃんの前では色々言ったりもするけれど、
 μ's以外の誰かの前で絵里ちゃんを揶揄するようなことは絶対に言ったりはしません。
 ――私はいけない子です。

「絵里ちゃん自身が色々あって問題を抱えてしまったのは直接の原因じゃないの
 嫌なこともあったろうし、面倒な目にも遭ったと思う、
 でも、絵里ちゃんをちょっと狂わせてしまったのは、
 穂乃果ちゃんの力になれなかったという負い目――ああ、違う、
 悩みを抱えているμ'sの力になれなかったっていう責任感だと思う」
「μ'sの方々だけではありません」
「そうだね、絵里ちゃん誰かが悩んでいるのを見ると
 まるで自分が悩みを抱えているみたいに深刻に悩んでしまうから」

 だからこそ、ある程度深刻に悩みを抱えてしまうと。
 亜里沙ちゃんを通じて希ちゃんに話が行って、記憶をある程度すっ飛ばしてしまうんだけど。
 デメリットもあって関係ない記憶も巻き込んでなくしてしまうせいで、
 むやみやたらにいろんなことを忘れちゃう人扱いされてしまうのは……
 絵里ちゃん自身にもいかほどの原因があるからなんとも言えません。
 相手の悩みを自分のことのようにしてしまい、
 結果的に相手よりもダメージを負ってしまうのは、
 絵里ちゃんと言うより、周囲の人のほうが面倒事を抱えている気がします。

「そのことを知っているのは」
「たぶん、亜里沙ちゃんは分かってない、ツバサさんもそこまでは
 穂乃果ちゃんくらいじゃないかな。 
 一番絵里ちゃんを使えるのは穂乃果ちゃんだと思うし」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:21:16.33 ID:KrUzi/3Z0
 絵里ちゃんのことを上手く使えると自負している亜里沙ちゃんとか、
 ツバサさんとか海未ちゃんとか真姫ちゃんや希ちゃんや凛ちゃんも、
 上から抑えて利用しようとすると絵里ちゃんは反発する事実に気がついていません。
 普段から頼りに頼って甘えるみたいにすると絵里ちゃんはやはり反発をするので、
 適度に放っておきつつ、適度に頼っていると一番能力を発揮してくれます。
 距離を保ちながら肩に力が入らないように、やる気にさせて空回りさせないように、
 そこまでして絵里ちゃんに力を発揮させるメリットが無いので、
 私は望まれない限りは絵里ちゃんは頼らないようにしています。
 ただ、それを抜きにしても絵里ちゃんがμ'sで一番頼りになる人だというのは、
 良いのか悪いのか……判断に迷うところではあります。

「穂乃果さんは……まだ、悩みを抱えていると思いますか?」
「絵里ちゃんが穂乃果ちゃんを頼りにしないってことは
 つまりはそういうことなんだと思う」
「悩みがなにかまでは……」
「ごめんなさい、そこまでは言えない」
「いえ、ごめんなさい、私自身もさしあたりがあることを聞いてしまいました」

 では、私の事情もある程度お話します
 ……とはいえ、信じて頂けるかは分からないのですが」
「私のお話に付き合ってくれたから、そのお礼。
 あ、ルビィちゃんのことは任せておいて、海未ちゃんには伝えておくからね」

 仮にすごい事情を抱えていたとしても、
 おそらく人間の想像に及ぶ範囲の事柄であると、
 小泉花陽は迂闊にも考えてしまったのです。
 ややもすれば手に負えない面倒事に巻き込まれてしまったというのは、
 そのあたりの至らなさが原因にあるように思います。

「同じ時間を繰り返す物語というのをご存知でしょうか」
「俗に言うループもの? それともサザエさん時空って呼ばれるものかな」
「前者であると推測されます。
 花陽さんは違和感を覚えませんでしたか?
 海未さんが経験したことのない過去を基として
 行動原理のひとつとしていることに」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/16(日) 18:22:20.88 ID:KrUzi/3Z0
 この世界が物語であるとするならば、
 なにか一定の要因により同じ時間であるとか、
 もしくは誰かを主役とした時間軸をたえず繰り返しているということ?
 世界の中心である誰がしかが何かを改めない限りは
 乗り越えられなかった過去を土台にして上手く回るように励む――
 どのみち非現実的な話ではあるけれど、
 私自身の拭い去れない違和感を解消するには、
 誰かを中心としたエピソードを繰り返し体験していると考えるのが都合がいい。

「リリーさんはループさせている当事者ということ?」
「関わりがあるのは事実です――ただ、そのきっかけは私ではありません」
「……絵里ちゃんが関係しているの?」
「はっきりと申し上げますが、それはNOです」

 リリーさんの関わり具合からしても、
 絵里ちゃんに関して都合の悪い事実が起こった際に、 
 世界がリセットされるのではないかと推測されたんだけれど。
 もしくは時間の変遷で条件を達成できなかった時にループをするとか?
 奇想天外な話ではあるんだけれども、そう考えれば腑に落ちることはいくつもある。
 そして何より、物語の主人公がするような世界の裏事情を知らされてしまい、
 少々地味なタイプの私とすれば荷が重いのは事実ではあります。

「巻き込んでしまってごめんなさい」
「ううん、たしかにそれは他のみんなには荷が重いし……
 不安はあるけれど、凛ちゃんや穂乃果ちゃんをね、
 そういう大変なことにつき合わせちゃうのは私は嫌だから」

 私自身が何ができるというわけでもなくて、
 いつだって凛ちゃんや穂乃果ちゃんとかにこちゃんの後ろにいて、
 地味な賑やかし要員だった私が、問題の解決のために苦労をするのは――
 きっと、今まで先頭に立って私をかばい、助けてくれたみんなのためにも役に立つ。

「お礼というわけではありませんが、できることがあれば協力します」
「うーん……あんまり思いつかないなあ。あとにするっていうのもいいかな?」
「はい、差し当たっては今日の代金は私持ちということでひとつ」
「……大金持ちになるとか、宝くじが当たるっていうのはお願い事になるのかな」
「できないことはありません。ただ、お金持ちになった際に
 どんなイレギュラーな事態が起こるかは私には判断できません」

 ――そうそう上手くは回らない。
 世界の事情を知ってもなお、都合の良いようには行かないというのは
 苦々しくもあり、面白さであるとも思うのです。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 19:28:26.09 ID:5y6/YGZVO
裏ボスどころかループ解決に乗り出す主人公みたいだ…
えりちはやく覚醒しないと主役交代のピンチだぞ!
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 15:59:37.42 ID:hu2rPRUD0
希との飲み会の時あたりを読んでたはまさかこんなにμ’sとAqoursの間に溝というか対立関係ができるとは思わなかったなぁ
千歌ちゃんとも普通に絡んでたし
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 20:04:46.42 ID:6ItMOtU+O
千歌の旅館にみんなで泊まったりもしてたっけ?
やはりなんらかの力が働いてるのか…
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:23:42.23 ID:C6zctXIS0
 雪姫ちゃんの手助けにより一時的に優秀になった私は、
 妹やツバサから高熱に浮かされているのではないか、
 ロウソクの火は消える寸前が一番燃えあがると言うから死ぬ直前なのではないか、
 自分の不遇な評価というよりも、
 不出来っぷりが如実に表されてしまい悲しんでいいのか、
 嘆いて良いのか分からない中。
 他のメンバーの結論としては、ひとまず私を休ませるに至ったみたいだけど、
 西木野総合病院で精密検査を受けさせるという提案が実行されそうになったのは、
 いったい誰の差金なんだろう?
 周囲が違和感を覚えるほど頼りになるお姉さんキャラをやってしまった私のせい?
 でも、あれは中の人の影響が強いからなあ……。

(雪姫ちゃん、これは一大事よ)

 私の中の人に呼びかけてみた。
 見事な演技で絢瀬絵里もその周囲の度肝を抜いたとは言え、
 雪姫ちゃんはポテンシャルを発揮さえすれば絵里お姉さんでも出来ます。
 という謎の評価をし、危うく信じてしまいそうになったけれど――
 できるのであれば最初から妹やツバサあたりから病気を疑われていない。
 どのみち私の態度が不自然なほど優れていたのがぶっちゃけありえないので、
 理亞ちゃんという監視を付けられている現状に至るのである。
 監視をしている彼女の目付きは、当初の怪しい宇宙人に取り憑かれて
 思わぬ能力を発揮しているというものから、あ、普段どおりのポンコツな人だ
 まで落ち着いている、いかんせん今は雪姫ちゃんが前面に出てない。
 私が胸を張ってあんな優秀にはなれない! というと、
 雪姫ちゃんのなれます! という言葉の言い合いになり、
 しばらくちょっと剣呑な雰囲気にはなってしまったけれど、
 雪姫ちゃんと私との仲は良好、基本的に彼女のほうが大人。

(一大事……ですか、先程から理亞さんの目がだんだん
 普段の絵里お姉さんを見るような、生ぬるい視線になっていることですか?)
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:24:11.90 ID:C6zctXIS0
 理亞ちゃんの視線が悪霊に取り憑かれた何者かを眺めるような、
 畏怖と敬意を混ぜ合わせたような、いまだかつて感じたことのないような、
 そんなけったいな視線から一転。
 いつものどこにでもいるかのような平凡なポンコツを眺めるような目に戻り、
 安堵をして良いのか、評価の低さを嘆けば良いのか。
 とはいえ、一大事と言ってもそんな事を言いたいわけではない、言いたいけれども。
 もっと絢瀬絵里はできる子だよとアピールしたいけど、残念ながら結果が伴ってない。

(雪姫ちゃんが出たときみたいに頼りになる姉キャラになると、
 そうでなかった時に残念極まりないとされるのは当然よね?)
(ひとり百面相をしている時点でかなり評価として危ういとは思いますが、
 絵里お姉さんは、冷静かつ見栄をはらず、かと言って過度に緊張することもなく、
 また平常時においては力を発揮できる下地があるように思います)
(いつにおいても力を発揮できないと断言されているような気もするけれど、
 やはりここは嘘を本当にするべきだと思う。
 恥ずかしい話ではあるけれど、もういい年齢になるのだし
 年下の女の子から能力はあるのに発揮できないとされるのは
 そろそろ改善しなければならないと思うの)
(さすがは絵里お姉さんです。
 冷静至極に年齢相応の態度を取るという事実に気がつかれて、
 私は思わず泣いてしまいそうです――)

 雪姫ちゃんのグスグスと鼻をすするような声が聞こえてきて、
 みっともないほど年齢非相応な態度を取り続けていた事実を実感し、
 私自身も泣いてしまいそう――
 お嬢様の成長を喜ぶじいやみたいな態度を干支ひとつ分離れた年下の女の子にされて、
 精神的なダメージが深刻というわけじゃない。
 
(まずは、そこにいる理亞ちゃんの信頼を得ることから始めていきましょう
 ショックなことを抱えていると思うから、できるだけ癒し系なお姉ちゃんっぽくね)
(わかりました、精一杯アドバイスは送ります。
 安心してください、ありとあらゆる世界の絵里お姉さんの情報を把握し、
 的確かつ手助けとなるように誠心誠意尽くします!)
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:24:44.42 ID:C6zctXIS0
 こうして理亞ちゃんの信頼を得る大作戦が始まる。
 おそらく相手の信頼度はかなり低め、警戒をされているとは思う。
 たまにすごく優秀になる人扱いから、平均的に力を発揮する人くらいには改めたい。
 大人びて落ち着いた雰囲気を醸している理亞ちゃんの信頼を得るには、
 やはり聖良姉さま……じゃなかった、聖良さんに近づくのが近道であ――

(ブー! です!)
(決意の時点でダメ出し!?)
(理亞さんは聖良さんの行為により傷を抱えてしまっています!
 そんな聖良さんのマネをすれば傷口に塩を塗るようなものです!)
(私の脳内データベースでは頼りになる姉キャラと言えば聖良さんなんだけど……)
(だめです! 検索をやり直してください!
 それに姉に限定しなくても良いんですよ、落ち着いた感じの
 頼りになる人という条件で考えてみれば良いのです!)

 髪型をサイドポニーにしようとするのを改め、
 もう一度はじめから私の人生で頼りになった人を思い浮かべてみる。
 やはり一番に思いつくのは亜里沙でしょう。
 どんな失敗をしても、仕方ありませんねと言いながらフォローしてくれるはず。
 姉キャラという観点で言えばちょっとベクトルが違うと思うけれど、
 理亞ちゃんからの信頼度もかなり高いように思うし、方向性としては――

(ブッブーです!)
(ええ……? でも私の人生で一番迷惑をかけているのは間違いなく……)
(絵里お姉さんに亜里沙さんのマネは無理です! ボロが出ます!
 冷徹になろうとしてもなりきれなくて、なんだかよく分からないキャラになります!
 もっとマネをしやすい、自分が一番に思う方にしてください!
(そ、そう? 亜里沙が言うみたいに暁の水平線に勝利を刻むのだ! みたいに言っちゃダメ?)

 なんとなく絢瀬亜里沙を想像していないような気がするけれども、
 確かにポンコツ扱いされている私が偉そう加減でアドバイスを送るのは、
 ちょっとだけ想像できなかったりする。
 それに何をアドバイスとして送れば良いのか分からない、
 知識量や技術力で上にいる理亞ちゃんに年上であることくらいしか勝っている点がない私が、
 ここはこうすればいいのよと言ったところで「ハァ?」で終わる可能性もある。
 この理亞ちゃんにだから何なんですかと逆にダメ出しをされてしまえば
 かなり拭いきれない精神的ダメージを追うことは確実。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:25:25.64 ID:C6zctXIS0
(もっと、絵里お姉さんの人生において助けになった人を思い浮かべるんです!)
(そうなるとやはりおばあさまね! 任せて!
 私の心の中にあるおばあさまを再現してみせるわ! えっと……ピロシキだっちゃ!)
(ブッブッブー! です! なんで東北の方言なんですか!)
(まあまあ、あんまりそわそわしないで雪姫ちゃん)
(確かに絵里お姉さんの助けになっているかも知れませんが――
 いいですか、大ヒントです!
 意地を張っていた時に手を差し伸べてきた方を心に思い描き、
 理想とする自分をもっと想像してください! 絵里お姉さんならできます!)

 ここまでヒントを頂き、自分が見当違いの方向で考えを進めていたことに気がついた。
 別に穂乃果を忘れていたわけではないんだけれども、なんだか気恥ずかしくて。
 私にとって穂乃果っていうのは――感覚としては高海さんが語る高坂穂乃果像に近い。
 徹頭徹尾想像で塗り固められている彼女の想像が適切であるかは私が判断することではなく、
 神格化された穂乃果の姿がAqoursのラブライブ優勝によって一般にも知識として通じることになり、
 その行為がどれほど迷惑をかけたのかはここで語ることではない。
 高校時代に穂乃果だけが助けになったかといえば決してそうではないと言い切れるし、
 忘れてはいけない存在というのは何人もいる、別にμ'sのメンバーに限ったことではなく。

(わかった――穂乃果みたいにするならできるわ)
(はい、辛い時、泣きたくなる時、そばにいて心の傷を告白するのを待ってくれるような
 温かい存在になってみてください、絵里お姉さんならできます!)
(ええ……理亞ちゃんに寄りそってみるわ。
 私が穂乃果にされたように、自分を改めるきっかけとなった出来事を思い出しながら)
(その意気です! あと、ファイトだよ禁止)
(ぐはぁ!?)

 最初の言葉は理亞ちゃんファイトだよ! だっただけにダメージが大きい。
 ほのまげを再現しようとした手は空を切り、がくっとorzみたいなポーズになったけれど。
 それを不審なものを見るような目で理亞ちゃんが眺めているのに気が付きながらも、
 これくらいのダメージではまだへこたれるわけにはいかない。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:25:58.25 ID:C6zctXIS0
「理亞ちゃん」
「絵里先輩は先程から百面相を繰り返したり、
 なにかしようとして失敗をしたりしていますが……
 その、疲れているならゆっくり休んでも良いんですよ? 
 なんならマッサージとかしましょうか? やったことないですけど」

 おずおずと不安そうな面持ちをした理亞ちゃんが私を見上げ、
 ここからは頼りになるお姉さんとして彼女の前に立たねばならないと思い直し、
 二度とこのような表情をさせるものかと決意を改める。
 心の中の雪姫ちゃんがファイトだよ! とか、GOGOエリチカ! と応援してくれるけど――
 それはともかく、穂乃果みたいに、穂乃果みたい――

「……理亞ちゃん」
「ど、どうしました、そのように深刻そうな顔を見せて」
「大きいお風呂に入ろう!」
「お風呂!?」
「裸の付き合いしよう! 背中流してあげる!」
「うぇぇぇぇ!?」

 真姫みたいな悲鳴をあげて、ズササササ! っと距離を取る理亞ちゃん。
 処女ビッチに襲いかかられてうろたえる童貞主人公みたいに、
 手を顔の前に差し出し、ブンブンと勢いよく振り、
 顔を真っ赤にしながら慌てふためく姿に、
 まるで奴隷ヒロインにマウントポジションを取って粋がってるなろう読……じゃなくて、
 主人公みたいに性的興奮のような精神の昂揚を覚えた私は、
 うひひひ、うひひひと笑いながら――
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:26:38.55 ID:C6zctXIS0
「ふふ、ごめんなさいね、慌てる理亞ちゃんがおかしくて
 ついついからかってしまったわ」

 雪姫ちゃんに意識を乗っ取られる。
 どうやら鹿角理亞ちゃんルートの攻略は一度頓挫したものであるらしい。
 おかしい、真姫が深刻な表情でイヤホンを付けられた時の穂乃果の事を話し、
 それを思いっきり再現をしたつもりであったのに。
 彼女はああいう強く行くとつい頷きたくなってしまうと言うから、
 てっきり理亞ちゃんもその系統の人かと思ったのに。

「だいじょうぶよ、取って食べたりしないから。 
 ふふ、それとも、私に美味しく食べられたかったかな?」
「いやいやいやいや!? そんなことないですから!? 女同士ですから!?」
「冗談よ冗談、本気にしちゃダメ。
 ああでも、期待してしまっているのなら応えないといけないかしら?」
「違いますからね!? 私はノーマルですから! ええ、ノーマルですとも!」

 かなり年上の鹿角理亞ちゃんを手玉に取る幼女雪姫ちゃんを見て、
 ちょっと意識してなかったお色気ムンムンお姉さま系キャラになってみると、
 もしかしたら別の相手でもマウント取れるかも知れないと学ぶ。
 今度機会があれば他の誰かに試してみよう――。
 そんなことを思いながら、顔を真っ赤にして退散する理亞ちゃんを見送り。
 
(絵里お姉さん今回は失敗してしまいましたが
 次の機会があります――頑張りましょう!)
(そ、そうよね! 穂乃果の一面を再現したに限らないものね!
 だいじょうぶ安心して、私の穂乃果フォルダは256まであるから!)
(穂乃果さんを再現するのはやめましょう、もっとこうなんかないですか、
 スケコマシみたいなフォルダは)
(……え、もしかして絢瀬絵里に女の子の攻略を望んでる?)

 いくら男性経験がない私でも女の子に手を出すようになると。
 誰一人自分のことをフォローできないのではないか疑惑が――。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/18(火) 18:32:16.98 ID:C6zctXIS0
長い休みを勝手にした際に設定をいろいろ整理し、
飲み会編では使わないでスルーしてしまった、
穂乃果のトラウマにAqoursの面々が関わっているとか、
のぞみんとの飲み会編で千歌ちゃんは海未ちゃんをキレさせた(だからエリちと一緒にタクシーで帰った)とか、
そもそも、穂乃果が傷を抱えていることをμ'sの面々は知らなかったとか、
いろんな出さなかった設定があるので、きっちりリメイクを重ねて、できれば過去の飲み会編はなかったことにしたい――

真姫ちゃんが出演して爆死したというなろう小説のモデルとなったとある作品が
本当にアニメ化されてしまい、いやぁ、そんなのまさにマイルねぇ!
というネタをやりたいのですが、やる機会がありません。

これから小説だけに集中してどんどん更新していきますので
体調を崩さない限りはがんばります。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 10:44:27.65 ID:/3DqZnL+O
裏で色々あったわけか…
ユッキちゃんの変な知識もそのへんの事情かな
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:13:29.37 ID:JuDb21/q0
 理亞ちゃんの退散により代わりにこの場に送り込まれたのは綺羅ツバサ。
 私がいつもの私とは違うとは認識しているであろうけれど、
 かといって中に西園寺雪姫ちゃんという別個の存在がいるとまでは把握されていないはず。
 普段とはちょっと違う、少し警戒感が入り混じったかのような怪訝な表情をして、
 ただ態度としては悠然と何が来ても余裕とみたいな風ではあるけれど。
 こういう時の彼女はさり気なく緊張している。
 槍でも鉄砲でも持って来いというかのような泰然自若とした行動を取っている時には
 本当に余裕であることもあるんだけれど、だいたいそうなんだけれども。
 ごく一部のイレギュラーな事態が起こった際には、できる限り問題に触れないように
 スルーしたい衝動にかられてしまうものであるらしい。
 普段のツバサなら「ちょっと絵里キャラが違うわよ」くらいの言葉は吐くものであるし、
 人を意のままに操るのが好きな彼女からすれば、
 相手が何をするのか分からない状況はあまり歓迎できないのだと思う。
 
「ツバサに相談したいことがあるの」
「協力しましょう?」

 生活スタイルがソロプレイな彼女であっても、
 頼りにされたりするのは嫌いじゃないのか、
 それとも私に頼られるのが好きなのかは定かではないけれど、
 興味ありげに私の顔を覗き込みながら応える。
 雪姫ちゃんのデータベースには極度のブラコンで、実は頼りにされたがり
 というのがあるらしいけれど、弟って何? コタくんみたいなの?
 もしかして女装するとすごく可愛くなっちゃうタイプだったり?

「誰かから頼りにされたいの」
「その発言からして頼りにならない自分にコンプレックスがあるようね?」
「ええ、いつまでも迂闊なままではいられないの
 せめて年齢相応に落ち着いた態度を見せたい」

 興味を誘うことには成功したのか、
 先程までの警戒感漂う表情は無事に改善され、
 距離を取られていた事実も改められる。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:14:24.95 ID:JuDb21/q0
(まだですよ、まだ釣り上げてはいけません!
 エサに食いつこうとしているくらいです! 待ちの姿勢で行きましょう!)

 雪姫ちゃんから提供されるツバサのパーソナルデータは、
 あいにくだけど私の知らないことばかりだった。
 上辺だけの付き合いをしているつもりはなかったけれど、
 少なくとも頼りになる男性がタイプだというのは知識として持ってないし、
 弟くんに対して果てしなくダダ甘だというのも把握していない。
 私はてっきり男性よりも女性が好きなのだとばかり思っていたけれど、
 弟くん以上に魅力的な男性が見当たらないという理由が強いみたい。

「例えば……年下の異性からお姉さまって呼ばれるようになるには
 どのような態度を示せば良いのかしら?」
「あなたの知り合いに年下の異性なんていたんだ」
「年下の男性がいざっていう時に頼りになるさまを見せてくれたら
 ちょっとキュンってなるっていうか、ツバサは経験がない?」
「あr……な、ないわね、そんなことまったく。
 事務所の後輩はほとんど同姓だし、仕事上付き合いのある男性で年下って
 そんなにいない気がするわ」

 断言しようとして躊躇う姿勢を見、
 よもや英玲奈みたいな態度で弟くんと接しているわけじゃないよね?
 なんてことを考えながら。
 しかし、なぜ年下の女の子のアドバイスのもとで
 アラサー二人がこんなコイバナみたいなトークをしているのか解せない。
 それとも一般的に女性はこんなふうにコイバナで盛り上がるものなの?
 私個人の感想でいいなら、異性より伊勢海老食べようみたいなトークのほうが好きよ?

「庇護欲を誘う相手が自分をかばってくれたりとか」
「――ああ、創作の話? あなたにそんな異性がいるとは思えないし
 私もけ、経験があるわけじゃないけれど
 そういう妄想のトークで構わないならアドバイスできるわ」
「うん、頼りになる姉キャラとしてのポジションを確保するためにも
 ツバサのアドバイスが聞きたい、頼りにしているわ」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:14:58.80 ID:JuDb21/q0
 妄想という形でふだん彼女がしている行動を把握できれば。
 データを疑うわけではないけれど――
 彼女が好きな相手が常に弟であるというのは疑念が生じる。
 なにせ一人っ子だと思ってたし。

「守りたくなる女性が好きな男性というのも確かにいるけれど、
 誰かに甘えたい衝動が強いというのが大半でしょうね」

 持論を展開するツバサ。
 バブみというのが以前流行りに流行り、
 幼女やら人妻やら今まで攻略対象になりづらかったキャラが
 やたらフィーチャーされていたのは知っている。
 その点を考慮すれば確かに甘えたがりな男性がいるというのも頷ける。
 が、ツバサとしては好きな人にはやたら甘えられたい人というデータを提供され、
 主観がたいへん入り混じった意見と分かり素直に頷けない。
 自分のことを棚に上げれば、男性のことをやたら分かっている風なアラサー処女の時点で
 なんとなくほほえましい気持ちになってしまうのはどうしてでしょう。

「ツバサは頼られたい誰かとかいる?
 モデルを作れば想像もしやすいかなって思って」
「あなたにしては賢いモノの考えね」

 それじゃあふだんはまるで賢くないみたいじゃん。
 みたいに思って雪姫ちゃんに意識を向けたら、
 「あ、はい、そうですね、そんなことないです」とまるで無感情に返されてしまい、
 あっ、察し……という気持ちになった、ちょっと泣きそう。
 いつの間にかにツバサではなく、私自身が雪姫ちゃんに自由に操られている
 そんな疑惑が生じ始めているけれどスルー。

「これは妄想の範疇ではあるのだけれど
 あなたが頼られるのなら中性的な男性であると良いと思うわ」
「女装が似合いそうな感じ?」
「ええ、でも自分がノリノリで着るようなのではダメ、
 控えめながらも女の子の格好が似合うというのが良いわね」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:15:37.32 ID:JuDb21/q0
 ツバサが胸を張って断言する。
 自信満々と言った風の声色に思わず頷いてしまいそうになるほど、
 彼女の仕草や表現は優れていてカリスマ性にあふれていた。
 これが自分の妄想を私に押し付けていると分かってさえいなければ、
 純粋に頷きながら彼女の話を聞いたと言うのに――
 ひどく残念な人を見る心持ちで、さらにツバサの発言を促した。

「絵里は見た目だけは頼れるお姉さま系じゃない?
 背も高いし胸も大きいから相手がドギマギとさせてしまうような色気っていうものをアピールしてみたらどうかしら?」

 要約:色っぽいお姉さまだと弟さんから思われたい。
 仮に彼に対して効果がある選択肢であったとして、
 ツバサがどのように変貌するのかは私が追求することではないにしても。
 元々フランクで仲良くなるきっかけ自体はハードルの低い彼女ではあるけれど、
 そこから仲良しに至り、さらには恋人になるためには難関が多く待ち受ける。
 自分がそれを乗り越えた自覚はないけれど、雪姫ちゃんが言うには乗り越えたらしい。
 こうなりたい私という感覚を自分があまり持ち合わせていないのは把握しつつあり、
 誰かの理想型が他人から見た絢瀬絵里という存在であるのは――
 私がどうもうこうも言えない。
 不意に気がついてしまったのだけれど、
 自分自身というものが誰かから観た風評でしかないというのは、
 気づいてしまえばカラクリは単純。
 亜里沙やツバサや理亞ちゃんがいう絢瀬絵里像は頷ける部分があっても、
 必ずしもすべて私自身を分かっていての判断ではないのだ。
 そりゃ、私だっていくら分かっているとは言ったところで、
 亜里沙やツバサとかのことを何から何まで把握なんぞできるわけはない。
 彼女たちがどのような人物かなど”誰か一人”が判断する問題ではなく、
 自分というフィルターを通してみた彼女たちがどんな人物であるかなど、
 半分以上思い込みであるという可能性すらある。

「もう少し指導をしてみて欲しいわ
 私も頑張ってみるけれどイメージだけでは難しいから、
 お手本が欲しい」
「私に色気なんてないでしょ」
「お願い、イメージの取っ掛かりにしたいから
 こう、極めて理想的で頼りがいのある姉キャラを見せて欲しいわ
 ほら、私もやってみるし」
「ふむ……まあ、行動を伴ってみれば参考にもなるか
 あなたもダメ出ししても構わないわ、
 指摘するのならばやる度胸があるということだものね?」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:16:14.12 ID:JuDb21/q0
 というわけで私自身の感覚というものをある程度割り切ることに成功し、
 自身でなりたいものを追求するよりも、
 誰かから観た絢瀬絵里像を演じてみせたほうがよっぽど
 自分らしいと言われることを直感的に私は理解をしてしまった。
 たしかに私の理想は穂乃果みたいな人であり、亜里沙みたいな人であり、
 ツバサでもあり、真姫でもあり、理亞ちゃんでもあり、海未でもあり――
 そんな友人たちが描く理想の絢瀬絵里像というものが、
 もしかすれば自分らしく見た目と合っているというのなら、
 いかばかりか演じてみせるのも悪くない――私に演技の才能はないけど。

(絵里お姉さん――いつになく賢いです!)
(雪姫ちゃんはこう――私の内面を見てがっかりとか、
 うんざりとかなかった?)
(深く知れば、そりゃがっかりするところもあると思います
 でも、だからといって絵里お姉さんの評価を下げるようなことはしません
 絵里お姉さんの新たな一面を知れて私はとても嬉しく思うだけです)
(あまりにも差異があったような気もするの
 誰かから観たμ'sの絢瀬絵里という存在が多少なりとも、
 ちょっと格好良い系の完璧超人みたいに扱われているのは
 案外”思い出して”しまったし)
(んー? 絵里お姉さんにすごく好きな人がいて――
 もしもその人が知っていくほど迂闊だったり、失敗が多かったり、
 例えば亜里沙さんがちょっとがっかり系な趣味を持っていたり、
 ツバサさんがブラコンで男性用下着を見ると弟さんもこういうの穿いて?
 みたいに考えることがままあるというのを知って
 その人の評価を下げるとしたら、私はそれはダメですとはっきり言います)

 木を見て森を見ずとされるような、
 自分の意に沿わない行動をして百年の恋も冷めるとする――
 そんな恋愛系エッセイであるような、相手の失敗の責を咎める内容の文章。
 よくよく考えてみれば、誰かから観た絢瀬絵里がたとえ本当に
 自分自身を写す鏡だったとしても、考慮する必要はあっても気にしすぎることはなく。
 本当に好きな相手が、仮にとんでもない趣味を持っていたとしても
 笑って許すくらいの度量はある程度必要であるかもと。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:16:54.35 ID:JuDb21/q0
「あいにく私も色気のある姉というものが、どんな行動をするのかはわからないわ」
「確かに絢瀬家は姉妹だし、弟がいるっていうニコには色気のカケラもないわね!」 
「……今のは聞かなかったことにしてあげる
 だから男性人気があるマンガを参考にすると良いかも。
 仮にこういう姉が良い! っていう理想がマンガの題材であるのならば
 参考にする価値は充分にあるわ!」
「いま、男性に人気がある漫画って言うと……ワンピースとか?」
「んー。たしかに人気があってお色気シーンもあるけれど、
 そういうマンガを色気がある女の子がいるから読みます! っていう人は少ないじゃない?」
「そっか、ならラブコメ系?」
「ええ、男性人気を掴んで離さない(たぶん)童貞(たぶん)な男の子から
 絶大な人気を誇る(たぶん)ToL……」
「ん? どうしたのツバサ、私の顔に何かついてる?」
 
 というより、私の背後になにか恐ろしいものが見えてしまったよう。
 スチームクリーナーの音は聞こえないから亜里沙じゃないにしても、
 怯えるような目で後ろを見ろと言わんばかりのツバサに対して
 多少腑に落ちない思いは抱えつつも振り返って背後を観てみる。

「理想の姉キャラ談義は終わりましたか?」
「あ、亜里沙……ま、まだオチをつけるには時期尚早というものよ?」
「トークが盛り上がりに盛り上がった結果、
 顔面騎乗位が起こるシチュエーションになると
 私には分かります」
「さ、未来の先読みでラブコメの主人公を制裁するヒロインは……
 さ、さすがに新ジャンルすぎない? ねえ、ツバ……」

 っていない!?
 音もなく姿をくらまし、
 亜里沙に絢瀬絵里という生贄を捧げる見事な手腕。
 敵ながらあっぱれと言ったところでしょうか。

「で、でも、今はスチームクリーナーも無いみたいだし、
 殴ってどうこうするっていうのは良くないと思うわ、手も痛いし」
「はい、罰の実行は暴力行為ではなく行動でしていただきたく」
「な、なにをすればいいの?」
「まずはこれを確認してください」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:17:37.30 ID:JuDb21/q0
 その言葉と同時に示される紙の資料。
 そこには突貫工事で用意されたと思しきエニワプロのアイドルたちの
 これからのスケジュールが刻まれていた。
 やはりというべきかECHOとしてのルビィちゃんは大きく取り上げられていて、
 むやみやたらにハニワプロとの対立行動を煽るような宣伝文句が書かれている。

「この内容……もしかしてハニワプロは了承しているの?」
「そのようですね。
 私を通されていない以上、自分が担当するアイドルを
 提供するわけには行きませんが……まあ、一社員が会社には逆らえません。
  
 ――警戒して頂きたいのです。
 確かになにかの大きな意志が都合良く何かを回そうとしているのは、
 ”お姉ちゃん”も分かっているとは思うけれど。
 でも、その前に……ハニワプロとエニワプロという存在が、
 アイドルを都合よく使おうとしているのは気をつけて欲しい。

 私が迂闊だったの
 海未さんが対立行動を取れば相手になる誰かが必要になって、
 上にいる人たちが都合の良い駒を探していることに気づかなかった――
 まさか裏でくっついているとも思わなかったし
 それに想像以上にμ's同士の対立というものが世間の目を引くということに気づかなった。
 ほんとうにごめんなさい、謝っても仕方がないかも知れない
 遅かれ早かれ、絢瀬絵里はハニワプロの所属のアイドルとして
 理亞やツバサさんといったA-RISEやSaintSnowの協力を伴い、
 μ'sの園田海未と対立行動を取ることを世間が知ることになります」
「……どっちに転んでも得をするのは会社ということ?」
「うん、どちらが勝っても注目を集めるのはエニワプロとハニワプロ、
 対決の様相次第では優れたパフォーマンスを発揮させた、
 プロデュース手腕をアピールすることができる。
 仮に失敗しても裏でつながっている以上、一つの会社として元の鞘に戻ればいい
 ――切り捨てるのは、失敗した私たちだけで充分」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:18:08.39 ID:JuDb21/q0
 奥歯を噛み締めながらふざけていると感じた。
 でも――利用されているのならば、私たちにもできる手段がある。
 亜里沙を――妹をこんな泣きそうな辛い表情にさせる人間がいるのであれば、
 姉としては全身全霊を持って利用する輩を叩き潰すしか無い。

(雪姫ちゃん……ごめんなさい
 あなたの手助けがまだ必要になるかも。
 情けないったらないわね)
(いえ、西園寺雪姫は断言します
 絵里お姉さんの行動というものが、どのように”世界”に影響を与えるのか
 身の程を知るのは彼らの方というものです――)
(こ、怖いわ雪姫ちゃん、何か別の意志が入ってない?)

「亜里沙。お姉ちゃんを見ていなさい、
 そりゃあ今まで頼りないところもあったし情けなかったかも知れないけれど
 あなたを泣かせる人間がいるのなら、私はその人を許さない。
 ちょっと本気に……空回りするかも知れないけれど、
 本気になってみるわ」
「やってくれるの?」
「私よりも理亞ちゃんやツバサを前に出したほうがイベントは成功するかも知れないけど
 ――亜里沙、私のトレーニングメニューはあなたに作ってもらいたい
 あなたは私に一番力を発揮させる優れた手腕を持っているのだから」
「……はいっ! 覚悟してください!
 地獄に落ちるほうがマシだっていうくらいのメニューを考えます!」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 16:18:40.92 ID:JuDb21/q0
なお、
 数時間後に私に見せられたメニューを覗き込んだ綺羅ツバサという人間は、
 「あなたに人権ってなかったのね」みたいな反応を示し、
 仕方ないわね付き合ってあげるわよと返答する。
 エトワールにいた面々もみんな私を中心に支えてくれることを宣言してくれた。
 その中でも理亞ちゃんが、

「絵里先輩ばかりが目立ってはタッグを組む相方の名折れです
 亜里沙さんにはもっと私を苦しめていただかなくては」
「あらいいの? このメニューは綺羅ツバサには楽勝だけど、鹿角理亞さんにはどうかしら?」
「最終的に音を上げるのはツバサさんだと分かっていますから」

 すごく格好良く凛々しい態度をする理亞ちゃんだけど、
 私がスケコマシっぽく手を頬に寄せたりなんかすると、 
 ほへっ!? とかいう聞いたこともない声を発するため、
 まだちょっと他人から見た理想的な絢瀬絵里像で接するのは難しいみたい。

(誰かの理想が自分の意に沿わなかろうとも、
 それがベストパフォーマンスであるというのであれば
 多少の無理で道理は引っ込むものよね)
(絵里お姉さんがベストを発揮するために私もサポートします!
 まず手始めに朱音に歌で勝ちましょう!)
(最初からクライマックスね!?)

 こうして私たちの行動は始まった。
 どのような結果を生じさせることになるかは、
 それこそ神のみが知るっていう感じなのかも知れない。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 16:39:38.14 ID:JuDb21/q0
小ネタになりますが、
綺羅ツバサさんがすごくどうでもいい話をして、
亜里沙がオチをつけるパターンは。

亜里沙がエリちにお願いごとを聞いてもらうために
ツバサさんが体を張ってその方向に仕向けるという目的があるんですが、
たいてい、話で盛り上がっちゃってその事実を忘れているので、
そろそろ粛清されてしまいそう――

次はデートイベントを延期して、ことりちゃん来襲編です!
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 20:35:23.59 ID:jssN58QlO
このssのツバえりの相棒感好きだわぁ
絵里ちゃんがToLOVEる参考にしたら理想のお姉さまってより理想の女教師になっちゃうねw
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/21(金) 22:16:32.40 ID:mHsT9tot0
ことりちゃん期待
理亞ルート完結劇場版までに間に合うか・・・?
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:47:35.53 ID:0qrvKHZY0
 5月のはじめ。
 エトワールに来てから一月が過ぎようとしています。
 GWなどと呼ばれる大型連休はとても関係なく、レッスンやトレーニングに明け暮れる日々。
 冗談かと思えるような過酷なメニューであっても、
 いつからか常設のノルマみたいに、ソシャゲ的に言うのなら
 デイリーミッションをこなすくらいの気軽さで無難に乗り越えられるようになりました。
 絢瀬絵里の成長に貢献してくれたのは統堂英玲奈。
 エトワールのアイドルたちのレッスンやトレーニングを監督し、
 私やツバサに限っては鉄拳制裁も辞さない鬼教官でもあります。
 二人して迂闊に気に障ることを言ってしまっているという可能性は考慮に入れつつ――
 まったくもって改善される可能性には至らない、やっかみではないのよ?

(統堂英玲奈)

 UTXで講師を努めていたはずの英玲奈は、
 一身上の都合により退職し、タレント活動も控えめにして私たちに協力をしてくれている。
 私やツバサの説得が功を奏したという事実は何一つなく、
 妹である朱音ちゃんのおねがぁい(はぁと)で即決してくれたのである、意味がわからない。
 てこでも動かないと言わんばかりの英玲奈に対して、
 南ことりを彷彿とさせるような甘えた声を出してお願いをした時には、
 流石にちょっとやりすぎたのではないかと思ったものだけど。
 クールな表情で絶対に嫌だと言っていたのに、朱音ちゃんの発言のあとには
 デレッデレの表情を浮かべて、仕方ないなあと言って
 一つも仕方のなさそうでもない態度でエトワールの地下に直行。
 私たちに対しては鬼教官ではあっても、自分よりも年下の人間ならば全員妹に見えるのか、
 ふだんの堅物ぶりが鳴りを潜めて懇切丁寧な指導でみんなのレベルは高まっている。

(栗原朝日)

 中でも成長を果たしたのは”通称歩く平均点以上”栗原朝日ちゃん。
 グループとしてデビューが決まった後でも、みんなの足を引っ張らないようにします、
 絵里さんの作るデザートを食べすぎないようにして体重の維持に努めます。
 と、優等生めいたコメントを残してサイトの閲覧数もパットしなかった彼女ではあるけれど。
 自身でも語るように性格が大雑把であり、動きの一つ一つが結構大きかった彼女に、
 トレーニングコーチである英玲奈が「わかった、もっと大きく動け」とアドバイスを送り、
 ツバサと一緒して「英玲奈どん正気でござるか!」なんて言ってしまったものだけれど。
 当人いわく動きのコツを掴んだとのことで、エトワールの中で期待の成長株へとジャンプアップ。
 その姿を見た理亞ちゃんでさえちょっと焦りますとのコメントを残し、
 英玲奈のことを姉のように慕い始めてヒナが拗ねた。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:48:17.66 ID:0qrvKHZY0
(栗原陽向)

 ハニワプロに所属しているとは言え会社の後ろ盾が得られない私たちは――
 エニワプロと水面下で繋がっている以上、私たちとECHOどちらが一方的に勝利をされても会社の不利益になりかねないとされて、
 一部のスタッフ以外には応援くらいしかして頂けないんだけれども。
 私たちの陣営にヒナを引っ張り込むと決めたのはツバサと亜里沙であったけれど説得に当たったのは私。
 成人向けゲームブランドの代表であり、出すゲームはいずれにせよ大ヒット。
 優秀なスタッフにも恵まれて、プログラマーであるセゴドンさん作成のUIは
 様々なビジュアルノベルゲームで使われていてその利用料で食べていけるとか。
 かなり高級取りの妹の給料を遥かに超えるお金を月に稼いでいて、
 もしかしてヒナは何もしなくても良いのではと口走ってしまいそうになり、
 雪姫ちゃんのフォロー(入れ替わった)で事なきを得た。
 ――実際に説得したのは雪姫ちゃんなのではないか疑惑があるけど、肉体は絢瀬絵里なので私がやったってことでいいのでは?

(ヒナプロデューサー)

 津島善子ちゃんをリーダーとするハニワプロでデビューするアイドルグループの名前を、
 なにかいい名前を考えてとツバサでも私でも亜里沙でもなく英玲奈に頼み、
 ちょっとだけ不満が溜まった我々は「なら私たちも考えるから勝負させて欲しい!」と言ったら、
 時間がないから30秒で考えてと言われ、勝負の末に同じく30秒で考えた英玲奈に軍配が上がる。
 いくら朝日ちゃんを見たからと言って「Ordinary Days」ってグループ名はどうなの?
 でもツバサは英玲奈が英単語を知っていることに驚いてたけど。
 ”Ordinary Days”のデビューを芸能系ブログに垂れ流したヒナは、次にホームページの作成に取り掛かった。
 誰かがやってくれるのかとツバサと二人して安心してたら、暇なら自分たちで作ってと大量のテキストと一緒に指示をされ、え、やったことないんだけどというコメントはスルーされた。
 しかしやったことはないわりには優れた能力を発揮するのがツバサのすごい所で、
 テキストにパラパラを目を通した後に1時間位でウェブサイトを作り上げることに成功し、ヒナプロジェクトにスカウトされてた。
 私? 戦力外だったからちょっと気合い入れてデザート作ってましたがなにか?
 
(SDS)

 Ordinary Daysの一般的な認知から少しばかり、鹿角理亞ちゃんと私とのユニットがデビューすることに決まった。
 前日エニワプロのECHOのアイドルが大量にデビューを飾り、下手な鉄砲、数のゴリ押しとの評価もあるけれど、反応は概ね好意的。
 ただ一番トップに出ている煽り文句が「園田海未作詞の各曲」であるのは、
 アイドルグループとしての実力がないことの証左? それとも能ある鷹は爪を隠すということの現れ? 
 作曲担当は聞いたこともないようない人ばかりで、真姫が名前を変えて活動しているとか、他に有名作曲者がいるのではと話し合われたけれど――
 考えても埒が明かないので、ユニット名は自分たちで考えようと理亞ちゃんと二人して徹夜で考えていたら、
 翌日に最近エトワールに泊まり込んで活動しているヒナに「エス・ディー・エス」という名前に決まったからと事後報告で済ませられ、
 エリア51という名前は無事落選することに相成る。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:48:55.02 ID:0qrvKHZY0
 何の略であるかまるで見当もつかなかった私は、ヒナに何の略かと問いかけてみたら不憫そうなモノを見るような目で見られて、
 お年寄りが飲みそうなセサ○ンやらコンドロイ○ンやらイチョウ葉エキスのサプリメントを手渡されてしまい、どういうこと? って首をひねっていたら、
 それ以降エトワールのみんなが続々と「疲れてませんか?」「なにか代わりましょうか?」「寝てて良いですよ」と老人みたいな扱いをしたのは解せない。
 私をからかう傾向にあるツバサにも「あ、はい、えっと、今度お酒でも飲みましょうか?」とえらい気を使われてしまった。

(トレーニング)

 エトワールのアイドルを成長させつつある統堂英玲奈は、
 妹と一緒に仕事ができて嬉しいみたいなニッコニコな表情でいるけれど、
 指導は適切。
 朝日ちゃんを無事に成長させた手腕は言うまでもなく、これ以上伸びしろがあるのかと思われた朱音ちゃんの歌唱力や、エヴァちゃんのダンスの能力も向上させた。
 ツバサと一緒に「私たちも指導して!」とお願いしに行ったら「熟女趣味はない」とそっけなく断られ、二人して「(´・ω・`)」みたいな顔をするしかなかった。 
 英玲奈のレッスンに加えて亜里沙のメニューもこなしている。
 最初の方は付き合いがあったツバサや理亞ちゃんは、自分にはやることがあるのでと私をぼっちにし、たまにエヴァちゃんがここはこうするといいですよとアドバイスをくれるくらい。
 時折ビデオカメラで撮影しているから、どうしたのと声を掛けたら映像を研究施設に送っているんですとの答え、そんなに非人間じみた動きをしていた? って笑ったら、
 「自覚はないんですか!」と朝日ちゃんのコメントを得た。
 そのコメントが一番私にとってダメージが大きかったのは秘密。

(ECHO)

 デビューしてから間もなくECHOのアイドルたちの
 自己紹介映像なり、インタビューシートの公開が進んでいき。
 その中にちゃっかり園田海未のコメント映像も含まれているけれど、
 再生数が一番多いアイドルの3倍近くあって、おそらく彼女はすごい苦笑いしながら日々を過ごしているんだろうなあと察する。
 なお、ルビィちゃんや高海さんはとっておきであるのか、本人たちの希望があるのか知る由もないけれど、未だに映像は取り上げられていない。
 実力が呈されてきたせいで売れてもいないのに一発屋みたいな扱いがある一方、
 ハニワプロ所属のアイドルたちの風当たりは微妙にきつくなってきた。
 「Ordinary Days」や「エス・ディー・エス」の映像もツバサ制作のページに上げられてるけど、
 どう考えても弱い者いじめにしか見えない実力差に好感度の低下は止まらない。
 これがエニワプロの戦略であるなら舌を巻くしかないけれど。
 「元ニート」とか「エゴスティックエリーのギルド長」との触れ込みと一緒に絢瀬絵里の紹介がなされている件については、好感度とは関係がないとしてスルー。
 
(西木野真姫)

 デビュー前から若干の逆風が吹く中。
 もっと私たちの完全勝利(ハニワプロは無関係)に向けてなにかできることは無いかと、筋力トレーニングをしながら(相変わらず独り)考える。
 確かに実力で言えば取るに足らない相手とは言え、評価は私たちが下すわけじゃない。
 受ける受けないというのは私たちが決めるわけではないし”評価”をされていることが優れている証左にはならない。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:49:41.68 ID:0qrvKHZY0
 トップアイドルとして君臨するA-RISEが隆盛を極める前のμ'sみたいな扱いで、A-RISEは実力は有しているけれどμ'sの方が好きというコメントは過去に多く聞かれた。
 まあ、その評価は小泉花陽のアドバイスのもと「あえて意に沿わない行動」というツバサの努力も手伝い改められることになるけれど。
 ちなみにツバサが言うには「ご主人様にお仕えするメイド」みたいな行動だったらしく、腑に落とすまでにはかなりの時間がかかったとか。
 詳しい内容を尋ねても「あなたにはできない」と断言されて、食い下がってみたけれど「絢瀬絵里は絢瀬絵里のままでいればいい」と珍しく本気で私のことを考慮し、
 雪姫ちゃんにも「今は引くべきです」とのアドバイスもありそれ以降話題にはしていない。
 ちなみに花陽にもLINEで問い合わせたら「絵里ちゃんには無理だよ」と同じ答えが返ってきたのでよほどの内容なのだと思われる。
 何故そんな事を思いついたのかと言うと、以前まで私にベッタリだった西木野真姫から連絡がうんともすんとも来ないのだ。
 リアルメイドに傅かれ、μ's解散以前までは学力面でも優秀。
 運動能力では下位であっても、意外に器用で何でもこなせるせいか、
 ダンスの能力でコメントされることは滅多になかった。
 歌唱力はμ'sの中でも優秀で、指導力でも優秀で花陽や凛は未だに感謝し続けており、
 酒を飲むとタガが外れるという欠点を抜けば人徳面でも高評価。
 同業者から微妙に評判が悪いのは仕事に対して手を抜くことを知らないせい。

「手のかかる妹がいなくなった気持ちになってしまうというのは
 さすがに真姫に失礼というものかしら?」

 いい面を見れば優れた人徳者のようにも見えるけれど、
 よくつきあってみると平凡で普通の女の子である。
 凛なんかは意外と自己評価が低いよねみたいなコメントをすることがあるけれど、
 生まれこそ飛び抜けて優等であっても、性格面や技能面で優秀かと言うとそんなわけもなく、周囲の評価ほど天才じみた芸術家肌の女の子ではない。
 仕事に対しても真面目に真摯だからこそ自他ともに厳しく、かといってお酒を飲むとそれを保っていられないのはご愛嬌――いや、まあ、後処理は大変なんだけれども。
 園田海未の歌詞は頼ることはできなくても、私たちのデビュー曲のために曲を描き下ろしてはくれないかなとふと頭をよぎり。
 そんな訳はないんだけれども、通話越しに汗臭かったりしたら相手に失礼かなとなんとなくシャワーまで浴びてしまい。
 どこかに出かけるんですかとエヴァちゃんに問われたので、これから電話で作曲してくれる人にお願いすると言ったら、
 さすがの生真面目さですと褒められてしまった――褒められてるんだと思う。
 
「……生真面目か」

 部屋に戻る途中で海未のことを思い出した。
 なんだか涙が出そうなくらい感極まってしまい、鼻をすすりながら彼女との思い出を回想したりなんかする。
 μ'sの時の思い出もそれなりにあるのだけれど、やはり私の大学入学以降たびたび会うたびに世話を焼かれてばかりだった。
 年上なのに放って置けないという彼女の評を思い出し、それは穂乃果に対しての放っておけなさに通じるのかななんて考え、ついついスマホを手に取る。
 失敗するしないは置いておいて、常に行動に移してみる。
 手酷く失敗することはあっても、いつかは取り返すことができるはず。
  
「出るかしら?」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:50:23.86 ID:0qrvKHZY0
 通話の相手は西木野真姫。
 LINEなりなんなりでは既読になることもなく、
 もしかして避けられてるのかななんてネガティブになる。
 その前にメールとかでアポイントでも取ればよかったかなと、
 しても意味のない後悔をしてしまったり。
 長いコール音の末、諦めてしまおうかと頭によぎった瞬間
 奇跡でも起こったかのように通話が無事につながった。

「エリー」

 私の名前を呼ぶ真姫ではあったけれど、
 寝起きであるのか、それとも不愉快な出来事でもあったのか、
 私が電話を掛けてきたからそうであるという可能性は放り投げた。
 連絡を取れないにもかかわらず急に電話を掛けてきて――なんて真姫が考える可能性はなくもないけれど。

「……ごめんなさい、ほんとうは出てはならなかったのよ」
「そうかなと思ったんだけど、あえて空気を読まなかったわ」
「あなたらしいわ、やっぱり穂乃果の強引さに通じるところがある」
 
 暗い気持ちを抱えているのか、
 辛い出来事でも体験してしまったのか、
 それともその両方であるのかは私の知るべきことではない。
 消沈していると言わんばかりに声色も庇護欲を誘うような弱々しさで、
 ちょっと気を張っていないと泣いてしまいそうと言わんばかりの真姫に対して、
 強い気持ちを抱えた私は励まそうと口を開こうとし、

「みんながそれぞれに何かをしようとしているのは
 エリーもなんとなく分かっているわね?」

 海未のことはμ'sのみんなに深い影響を与えていることは、鈍い私でもよく分かっている。
 花陽だけは普通にLINEをすれば返ってくるけれど、
 返答が数日遅れであったり、忙しいからメッセージは控えてと拒絶をされてしまったり。
 仕事で忙しいであるとか、誰かが問題を抱えて連絡が取りづらくなることはあっても、
 今のように断絶に似た――問題の解決がいつになることか想像ができなくなるような、
 μ'sに亀裂が走ったというのは過去に例がない。
 
「どちらかの一助になるのはマナー違反なのよ
 海未にも私はお世話になっているから――
 本音を言えばエリーに協力したいけれど……」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:51:13.28 ID:0qrvKHZY0
 真摯な態度で私や海未の行動を尊重してくれる。
 自分や海未が手を取り合って協力するというのはお互いのメンツを叩き潰すことになり、
 共通の敵でも出現すれば別だろうけれど、おそらくそんなことはないはず。
 とはいえ、自分が折れることができるかと言われればそれはありえない。
 賽は投げられた以上は時流に沿って行動する他ない。
 抵抗をしたところで絢瀬絵里に何ができるとは思えない。

「これは独り言、耳に入れてくれるだけでいいから」
「強引ね――貸し一つだからね?」

 少しだけ表情が緩んだ真姫が想像できた。
 本当に貸しであるのなら、こちらとしても過去の出来事を例に取り、
 あのときのこととつらつらと語ってしまおうかと思う。

「私たちは海未の関わるアイドルたちには負けられません
 そのためには真姫の作る曲が必要なの
 
 歌詞はまだ誰かに頼むか――」
「提案があるのだけれど」

 反応をしてくれたということは、私の言葉を耳に入れてくれたということ。
 条件は付けるけど好意的な返答をしてくれたことに私自身にできることならと思いながら言葉を待つ。

「歌詞はあなたが作ってみて」
「真姫の曲には釣り合わないかも知れないわよ?」
「私の曲に見合う歌詞であれば協力を考えましょう――ふふ、
 でも、ぶる〜べりぃとれいんみたいな歌詞を作ったら張り倒すからね?」
「ことりにすら不評だった黒歴史を引っ張り出さないで」
「安心して、張り倒すのは和木さんだから」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/22(土) 19:51:49.61 ID:0qrvKHZY0
ことと経緯によっては歌詞を封印し、
 真姫の協力は取り付けられずにひたすら罵倒される可能性すらある。
 そして和木さんに張り倒されることがあるとすれば、この身に多大なダメージを受けるに至るかも知れないので、エス・ディー・エスとのデビューは延期になるかも。
 ただ、少なくとも一人で考え事をしているよりかは状況も改善された。
 
「ありがとう真姫」
「お礼を言うのは早いわ。いい歌詞期待している」
「ええ、任せて!」

 とりあえずの商談は成功に終わり。
 ついウキウキして気合い入れてトレーニングを重ね、
 そしてそのままの勢いで夕食のメニューを作り上げ、その大半を私とツバサで平らげ、
 「いい嫁になれるわねえ」「やだぁ石油王とか相手にしてくれないかしら〜」
 「ゾンダーよ光になれぇ!」「それ勇者王じゃない〜!」
 と笑いあっていたら、いつの間にかに周囲にいたはずのみんなが音もなく退場し、
 ツバサがハッとした表情で私の肩を揺さぶり
 尋常のない恐怖ぶりになにか怖いこともあったかなと思い振り返ると。

「楽しそうですね?」
「ツバサが悪いのよ、この子ねいつもテキトーなこと言って
 ほら、謝るのよ! 仕事でお忙しいプロデューサーが不機嫌じゃない」
「その言葉をはっきり返すわよポンコツ! いつもテキトーに生きてきて
 あなたの大半の生活費を負担しているプロデューサーが不愉快そうじゃない!」
「二人とも正座」
「「はい」」

 これは発言権がしばらく復活しなさそうだな。
 そしていつの間にかにツバサと妹が一緒になって責めまくるのである。
 サンドバッグは鍛えに鍛えられて少々の痛みには鈍感になり、
 このニブチンがぁ! と言われるに違いないのである。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 19:55:57.86 ID:0qrvKHZY0
これから劇場版を見るまでに多くて15回。
おそらく10回くらいしか更新できないと思います。

――どう考えたところでルートが終わりません

というわけで早々に完結まで行くのは諦め、
次ルート以降に使用をする予定だった劇場版をふまえた設定を使うか使わないか
考慮に入れたいと思います。

まだ3割くらいしか物語が終わってない上に、山場すら迎えていない体たらく。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 21:50:31.16 ID:vd+PAPAbO
延期はこの業界の宿命
じっくりまったり楽しませて貰います
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 23:11:12.56 ID:vaWgi6HjO
SDS忘れちゃうのはかしこくないなーw
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/23(日) 18:15:32.68 ID:4n+TLE0aO
どんな歌詞なら納得してくれるんやろなぁ…
そろそろえりちの良いところ見せて欲しい
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:05:45.57 ID:O8SRoyhI0
 亜里沙が訥々と語ることには、
 表向きはエニワプロに喧嘩を売られて困っている体ではあるけれど、
 水面下で手を取り合って甘い汁を吸いましょうかみたいな動きが上層部にあり。
 甘い汁を吸う面々にハニワプロで一番稼いでいるであろうツバサや、
 プロデューサーとしてV字回復に貢献してきた妹や南條さんが入っていないのは、
 人の上に立ってええかっこしく過ごそうという魂胆がないからだと思う。
 亜里沙を取り立ててくれた徳丸社長、少し前まで社長職に携わっていた大塚社長には義理も恩もあるけれど――
 という妹であっても、今のこの世は全てお金! みたいな島津社長にはついていけないと。
 
「売られた喧嘩は買うつもりはないですが、
 飛びかかる火の粉は払わなければなりません
 ――手のかかる子どももいますからね」

 亜里沙は所属するアイドルのことを語っていると思いきや、
 最近では金銭面でも負担をかけつつある絢瀬絵里を指しているみたい。
 その事に気がつかなった私は「そうなの大変ね」みたいな反応をしてしまい、
 ツバサと一緒くたになっていかに自分の稼ぎがないか語ってくれた。
 そういえばエトワールの管理人としての仕事は私に代わってヒナが務めつつある――

「ECHOがいずれイベントを開くことになります
 表面上では成功という体で動くと思いますが、反応は芳しくないでしょう
 芸能関係者しか入れない動きすらありますからね」

 突貫工事で実力を身に着けてからイベントを開いても
 お金の取れそうな私たちとは違い――
 あ、私がその中に含まれるかは分からないんだけども。
 アイドルとしての知名度や実力ともに有しているとは思えない彼女たちは、
 やはり急ごしらえでレッスンやトレーニングを重ねているらしい。
 亜里沙と繋がりがありそうな面々がエニワプロに行ったところで門前払いを食らうので、
 私の友人でもあり亜里沙とも関係の深い芸能記者の清瀬千沙に動向を確かめてもらい教えて貰った事実。
 彼女は絢瀬絵里の単独インタビューで華々しく私のことをフォローしたいと言ったみたいだけど、
 会社としてはツバサや理亞ちゃんといった記事の閲覧数を向上させてくれそうなアイドルの記事を持ってきて欲しいみたいで。
 もう既に原稿は上がっているらしいけれど、私はどこでインタビューされたの?
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:06:18.65 ID:O8SRoyhI0
「下馬評ではECHOとOrdinary Daysとエス・ディー・エスがいずれが
 飛び抜けて名を挙げてトップになることはないとされています
 結局ツバサさんがトップにいるオチになるとは思いますけど」

 その発言を聞いて頭が痛そうなツバサ。
 実力が未知数どころか若干のネタバレを含めれば、
 アイドルグループとしては下位の知名度と実力しか有していないECHOや、
 デビューイベントは無難にこなせそうであっても、いつの間にかに空中崩壊してそうなOrdinary Daysや、
 理亞ちゃんのアイドルとしての評価は揺るぎないけれど、 
 絢瀬絵里っていうよく分からないコマがいるせいでどうなるか判断つかないエス・ディー・エス。
 華々しくデビューしたところでいつの間にかツバサがそいつらの代わりに仕事してそう――
 などという亜里沙の判断は何ら間違ってない。
 エトワールにおいて私やヒナのフォローをしていてテレビの仕事をセーブしているツバサに代わり、多くのアイドルがその枠を競っているそうだけれど。
 番組スタッフ間では凛くらいしか使えるのがいねえともっぱらの評判。
 凛はまた絵里ちゃんのせいで仕事が増えたと投げやりだそうだけど、どこで私が凛の仕事を増やしたのか問いかけたい。

「私も又聞きでしかないけれど、人気や実力において
 当時のアイドルやタレントが手も足も出なかった天才子役がいた」
「ん?」
「それほどの存在なれれば、どれかのアイドルグループが覇権を取れるかも」

 ツバサが遠い目をしながらそんなことを語り。
 アイドルとしての活動は楽しいけれど、仕事はぶっちゃけ面白くないと笑いながら、
 私にえらい真剣な眼差しを向ける。
 いつの間にやら正座しているのが私一人になってしまっているのはツッコむべき問題ではないとしても。

「亜里沙さんのプロデュースや千沙みたいな記者に上手く扱ってもらって
 ――それが理亞さんになるか、あなたになるか。
 Ordinary Daysのみんなもポジションのおさまるポテンシャルはあるけれど、
 長くアイドルをしてくれそうなのって朝日さんくらいしかいないし」

 ツバサの発言を聞いて亜里沙も考え込む。
 私一人蚊帳の外で「えーなにー? 何の話題なのー?」と中にいる雪姫ちゃんに問いかけ、
 「天才子役って私のことじゃないですよね?」と逆に質問されてしまった。
 生前の彼女がどういう仕事をしていたのか尋ねたことなかったし、
 いかんせん高校時代は芸能活動に一つも興味がなかったものであるから、
 過去の記憶を反芻したところで天才子役西園寺雪姫がどんな仕事をしていたのか考えもつかなかったりする。
 一回だけ雪姫ちゃんの出演しているドラマとか無いの? って聞いたら、
 「やめてください恥ずかしいです! 見ないでください!」と拒否されてしまい、
 気になる素振りをしてからかってみたら通りかかったエヴァちゃんに
 「あんまりからかうのはやめたほうがいいです」と忠告をされてしまった。
 突然だったから何のこと? とすっとぼける事もできずに「アッハイ」と頷いちゃった。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:06:49.41 ID:O8SRoyhI0
「エリー、西園寺雪姫って子役の人を知ってる?」
「……え、えーっと、し、知らないですか?」
「なんで疑問形なのお姉ちゃん」

 ちなみに中では「黒歴史が露出されてしまいます!」
 と、その西園寺雪姫ちゃんが騒ぎ倒してしまっているけれど。
 過去って大抵が黒歴史だよね、
 私なんか振り返りたくない過去ばっかりだもん。
 「わかる、分かるわその気持ち、消したい過去ってたくさんある!」
 と同調して雪姫ちゃんも「やっぱりこの気持ちがわかりますか! さすが絵里お姉さんです!」
 などと、本当の姉妹のように交流を果たした。
 慌てふためいているのが多少なりともツバサや妹に伝わっているのか、
 彼女たちはお互いの顔を見合いながら口を開く。

(天才子役西園寺雪姫)

 二人とも雪姫ちゃんの全盛期は聞いた話でしか知らない様子なので、
 中の人の補足説明をふまえてまとめてみる。
 天才子役として持て囃されたのは彼女が5歳のとき。
 とある連続テレビ小説の主人公の子役時代を演じて注目を集め、
 拘束時間が少ないという利点も手伝い、さまざまなドラマの――彼女いわく端っこの方で、
 出演作を多く重ねた。
 雪姫ちゃんが言うには言われたことを言われたようにやっていただけ、
 ではあるそうなんだけども、有名監督やらスタッフやらに評判が良かったので、
 演技をすることが好き嫌いという以前に期待に応えるのが好きという”性癖”も手伝い、
 学業を優先しつつ仕事をしていた様子。
 テレビ視聴者の注目の的となったのは、
 10月くらいに撮影されたという夏を舞台にした恋愛ドラマで「また主人公の子ども時代でした」
 とのコメント――そりゃ子どもなんだから子ども時代を演じるほかはないのでは?
 なんて考えたけれど、コナ○君みたいなキャラもいることだし、
 役によっては大人びた人物も演じる機会はあったのかも知れない。
 そんな彼女の要望が叶えられたのは、あるアニメの中学生の女の子役。
 キャラが日本語が不得手で、基本的に発言がスケッチブックに手書きされることも手伝い、
 実際に喋った回数は少なく「マイサムライマスター!」くらいしか印象に残ってないとか。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:07:24.89 ID:O8SRoyhI0
「性格も明るくて素直でとっても良い子だったそうね」
「そ、そうなんだ……あはは……」
「なんでお姉ちゃんが照れてるの?」

 亜里沙のツッコミより我に返る。
 いかんせん中の人がわーきゃー言いながら慌てふためいているものだから、
 一緒になってきゃーきゃー言っているせいで少し外見にまで影響が。
 ともあれ活動時期は雪姫ちゃんの言う通り長くは続かず、
 最終的にはμ'sのフルメンバーが幼くして亡くなった彼女を見送ることになる。
 ――そういえばその時に朱音ちゃんとも会った。
 靄がかかった記憶が鮮明になっていき、エヴァちゃんことリリーちゃんとも会っていると認識している。
 交流期間は長くは続かなかったけれど、その時に身も蓋もないアドバイスを送ってしまったようなそうであるような。

「そう――とある先輩が言ってた。
 私たちが売れてないときに彼女の爪の垢でも煎じて飲めって」
「ツバサさんに煎じて飲ませるような爪の垢なんてありませんからっ!」
「お姉ちゃん?」

 パニックになった末に絢瀬絵里から西園寺雪姫ちゃんが漏れる。
 怪訝そうな目で二人が見てくるけれど、
 「いつものことだからだいじょうぶ!」とフォローを入れると、
 まあ、絵里だから仕方ないわねっていう反応――
 もしかして泣いていい場面だった?

「花陽さんからのアドバイス――
 アイドルとして駆け出しで売れていなかったころにはまったく分からなかった。
 ”自分の実力”を発揮さえすれば”他の人”は受け入れてくれると思っていたし。

 でも違うのよ。
 人間我を通したところでうまくいくのは一握り。
 西園寺雪姫ちゃんのように”人が何を求めているのか分かる能力”が、
 私には根本的に足りていなかった」
「いえ、そのような大仰なものでなくてですね!
 ちょっと空気を読んで、人の顔色を窺うことでしか上手く立ち回ることが出来なかったと言いますか!」
「お姉ちゃん落ち着いて」

 亜里沙がどうどうと馬を落ち着かせるみたいに肩を揺さぶり、
 そのショックで雪姫ちゃんも冷静さを取り戻したのか、
 意識を手放している私を引っ張り込んで絢瀬絵里にエリチカの魂が吸収される。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:08:00.75 ID:O8SRoyhI0
 彼女の中でも綺羅ツバサの優れている点は認識しているらしく、
 絵里お姉さんのほうが上です! とフォローはしてくれるけれども、
 客観的に評価をしてみればツバサのほうが私よりも上なのは確実。
 そのツバサが言うのであれば、仮に私たちが売れて評価をされ、
 ECHOに絶対的に勝利をするために必要な要素であることなんでしょう。
 かといって私がちゃんと空気を読み、相手の行動を理解し要望を叶えて、
 さらには人の顔色を窺って上手く立ち回るという行動ができるかどうか。
 どのような行動をすればそれが実行可能であるのか、まったくこれっぽっちも想像できないというのは私の能力値が低いから?

(問い詰め)

 来訪者が増えると地下のレッスン場において寝袋に入り就寝する。
 自分より年下の相手に同じことをさせるのは心苦しいし、
 同じ年の英玲奈やツバサにはきっちり役目がある。
 誰か一人部屋を提供して寝床とし、地下の味気ない場所で睡眠を取るとなれば、
 オチを付けなくても自分がその立場になるというのは言われずとも分かっていた。
 最初のうちはちょっと寂しいとか、寝るときにだけなにか置こうかな?
 とか考えてみたりもしたけど、人間は慣れる動物である。
 ちょっと気合い入れて寝よう! って思うとこてんと意識を失うように寝てしまい、
 朝になると絢瀬絵里が死んでるんじゃないかと思って誰かしら様子を見に来て、
 ぐっすり寝ている私に憤慨する思いを抱え、色んな所を蹴り飛ばされて起床する。
 
(雪姫ちゃんはすごいっていうか……ええと)
(能力があったわけではなく、大人から見て使いやすかったんでしょう
 仕事上都合がいいと言うだけで、才能にあふれていたわけではありません)

 雪姫ちゃんは自嘲をするように笑い。
 その大人びた悔恨入り交じる老成された溜め息の吐きっぷりに、
 よもや私が苦労を掛けてこの状態になっているのかと不安が生じる結果になった。
 彼女の私への評価は先ほどからうなぎのぼりを重ねているけれど、
 私から雪姫ちゃんへの評価もまた同様の行為を続けている。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:08:44.95 ID:O8SRoyhI0
 なにせ空気を読まずに行動すること多く、
 また余計に才能を発揮することも手伝ってか、
 仕事はできていても評価に直結しないことはままある。
 アルバイトレベルなら人間関係で悩むことは正社員ほどでもないから、
 大学時代には私って結構できるのかもと思ったりもしたけれども。
 雪姫ちゃんは多くの大人が体よく使えるという才能を微塵も感じていない様子だけれども、
 仮に私に仕事の才能が溢れていたとして、雪姫ちゃんの能力よりも優れていても、
 結局人気が出て多くの人から親しまれるのは雪姫ちゃんの方である。
 誰かからの評価を基準として生きるか、自己評価を信じるのかはその人次第ではあるけど、
 あんまり自信がない私としては誰かからの評価に自身の価値をおもねるのも悪くない選択だと思っている。

 エトワールの邸宅から地下のレッスン場までは階段を使うんだけれども、
 材質が硬いものであるせいか、足音が結構高く響き渡って耳に届く。
 起床する時間には熟睡してしまっているために感じることは少ないんだけども、
 寝る前のちょっとだけ寝ているんだか、起きているんだか分からない状態の時には甲高く聞こえることもある。
 その人物は自分が来たことをアピールしているのか、
 寝ている私を意識せずにまったく遠慮せず階段を降りてきて、
 ああこれは綺羅ツバサであるなって一発で分かった。
 腐れ縁で今の今まで付き合いがあり、お互いにしょうがないやつだなって思ってはいるんだろうけれども離れる機会はなかった。
 友人と呼称しても構わないと思うし、親友と表現されることもやぶさかではない。
 
「ツバ……ぐへぇ!?」
「ああごめんなさい、膝が滑ったわ」

 何という新感覚の言い訳。
 私のお腹の辺りにニードロップを叩き込んだそいつは、
 自分は悪くありませんどころか、非があるのはあなたみたいな表情でこちら見ている。
 寝袋の中に入っていなければ即死だったかも知れない、ふうやれやれと思いながらもぞもぞと動いて寝袋から抜け出す。

「あなた……絢瀬絵里よね?」
「二次元世界では桜井綾乃という名前で活躍しているかも知れないわ」
「ヒナもいい加減私をダイヤモンドプリンセスワークスに出すべきだと思うの」

 統堂英玲奈と優木あんじゅの両名はダイプリに出演を果たしているのに、
 A-RISEのリーダーである綺羅ツバサだけは徹頭徹尾触れられていない。
 ちまたでは創り手と仲が悪いとかエロシーンが嫌いだとか囁かれているけれど、
 そんなやつが自身をモデルにしたキャラのエロ同人を見てゲラゲラ笑ったりはしない。
 ヒナと仲が悪いかって言うとそんな訳もなく、お互いに絢瀬絵里よりは使えるという抜群の評価をしあっていたりもする。
 私を顎で使いにくい尊さがあるんだと思う、きっと。
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:09:15.37 ID:O8SRoyhI0
「問いかけるけれど、あなたは誰かに取り憑かれてはいない?」
「むしろ取り憑いていたらその人って不幸じゃない?」
「否定はしないのね」
「隠し通せると思ってないもの」

 「また面倒事に巻き込まれて」などとため息をつくツバサ。
 ニートになる少し前に面倒事が列を作って訪れてくる時代があり、
 椎名伊織の件もそうであり、気に食わない企業に連れて行かれて「仕事はできるけど評価できない」というクソみたいな反応で嫌がらせにあった時もそう。
 μ'sが持て囃されていた時期には、高校時代は優秀なのに就職活動もうまくいかないと後ろ指さされた時期もあったし、買い物に行けば誰かが私を見ている。
 フォローを入れるなら、私の3倍くらい穂乃果は嫌な目に遭っているけれど、
 誰のせいでそうなったのかは問いかける気もしない。

「あー……もしかして入れ替われるの?」
「ええ」
「腑に落ちたわ、出なければこの私が絢瀬絵里如きに上手く使われるわけないもの」
「使う気がないということで一つ」

 何のどの場面を指してツバサを上手に使ったのかは定かではないけれど。
 私が人から上手く使われないということに対しては、後日記憶がすっ飛ぶほどに酔っ払ってしまった花陽に言われた台詞から察している。
 
「絵里ちゃんって人から上手く使われようとすると反発するし、
 仮に上手く使えたところでそこまで役に立つ人じゃないよね」

 ことりんぱなという面々との飲み会で、
 遠慮なく事実を指摘(主に罵倒を持って)されていてからしばらく、
 花陽がちびちびとお酒を飲みながら不意に黙ってしまったので、
 「だいじょうぶ?」と声を掛けたら唐突に言われた台詞。
 私に恐ろしく辛辣な凛やことりでさえ「かよちん!?」「かよちゃん!?」と白目をむかんばかりに驚き、慌てふためき。
 無防備な状態でボディーブローを受けたみたいにダメージを受けた私に「だいじょうぶだから、ね、飲み会の代金払うから!」とことりはフォローを重ね、
 凛は「違うから、かよちんは誰かと絵里ちゃんを間違えているだけだから!」と、本当に申し訳なさそうな表情で私に謝罪の言葉を述べた。
 なお、その事実は行われた飲み会と共に封印され、
 飲み会の現場に絢瀬絵里はいなかったと記憶がすっ飛んだ花陽には説明された。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:09:52.24 ID:O8SRoyhI0
 どこまで真実味がある発言だったかは、後日ネタ交じりにツバサに上記の発言を伝えたら、
 「ああ、あなたの話?」と返答をされてしまったのでいろいろと察している。
 
「何故そのようなことに?」
「空よりも青い、星よりも明るい事情がありまして」
「腹に膝蹴りでもして意識を失えば中の人も出てくるかしらね?」
「え、なんで助走付けようとするの? ガンジーなの?」

 懇親の説得は見事に空を切り、
 話をごまかそうとしたところで最後には強制的に吐かせよう(夕食と一緒に)とするから、
 絢瀬絵里がこれ以上言葉を重ねたところで綺羅ツバサは動かない。
 年下の女の子を盾にするような真似には躊躇いも生じようものだけれど、
 このままでは本当に膝蹴りが腹部に直撃しかねないので。

「僭越ながら絵里お姉さんと同居しております、西園寺雪姫と申します」
「恋人の父親に会いに行く彼氏みたいな台詞どうもありがとう。
 ――でもそうか、やけに上手く立ち回るなって時があったから。
 凹んだ理亞さんを元気づけたのもあなたなの?」
「敵いませんね、察せられたとおりです」

 なるほど、妙に理亞さんの好感度がだだ上がりした出来事があったなと、
 自分のことなのに自分の記憶になかったものだから、そんなこともあるかなくらいにしか認識をしていなかったんだけど。
 
「理亞さんが言っていたの、聖良さんと同じことを言って
 でも自分はそばに居てくれるって、聖良さんとは違うって言ったって
 よもや絵里が人の動向を把握して励ましの言葉を送るとか
 天地がひっくり返ってもありえないから
 誰かがアドバイスを送ったか、誰かにいいように使われているのかなって思ったの」
「ツバサさんの中で絵里お姉さんの評価というのが高いのか低いのか大変判断に困りますが。
 察せられる通りにしゃしゃり出てしまいました」
「中の人は自由に入れ替わることができるの? たとえ”絵里の意思”でも?」
「――ツバサさんが察するとおりです」
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/23(日) 19:10:24.51 ID:O8SRoyhI0
 何回か意識を刈り取られる経験はしたけど、
 私が雪姫ちゃんに頼んだことはなくて、雪姫ちゃんがなにがしかの事情でそうせざるを得なかった際にはそうなってるんだなーくらいにしか認識せず。
 なお、雪姫ちゃんの言葉を聞いたツバサは不満そうに口をとがらせたあと、
 バカじゃないの? と、中の人化している私に言い、
 その後何事か口を開いて述べようとしたんだけども、言葉にならないのか、
 それとも適切な言葉を探しているのかは定かではないけれど。
 もどかしい想いを抱えたかのような憂鬱そうな表情を浮かべ、
 こめかみを押さえながらため息をついた。

「確認するけれど、害意はないのね?」
「敵対する意思はありません」
「わかった、それ以上は聞かない。
 でも覚えておいて、そこの金髪を一番上手に扱えるのは私だから
 ここではないどこかの絢瀬絵里を知っていようとも
 そいつはそこの絢瀬絵里とは違う人間だってことを把握しておいたほうが良いわ」
「肝に銘じます」
「絵里、お人好しは程々にしておきなさいよ?
 椎名伊織の時みたいに情けを掛けて後ろから刺されるなんて経験は
 私も亜里沙さんもフォローできないんだからね?」
「刺すような方がいるんですか?」
「高海さんには気をつけたほうが良いと、私は認識している
 理亞さんが言ってた楠原雅という人よりもよっぽど

 仮定だけど、海未さんが警戒しているのは――
 あえて彼女の味方のふりをしているのは、もう既に高海千歌という人が
 精神的に保たないと察しているからかも」

 真剣な口調で語るツバサ。
 あと、後ろから刺してきたという椎名伊織氏は亜里沙に地獄に叩き落とされたので、
 刺してきたというのは比喩だけど、落としたのは比喩じゃない。
 そしてツバサは地上に戻って寝るのかと思いきや、 
 私の寝袋にもぞもぞと入りさっさと寝息を立て始めてしまった。
 いかんせん寝袋は私の分くらいしか用意がなく、
 庭にある物置にはなぜかテントがあるけれど、そこで寝るのは寂しい。
 寂しいんだけども、スマホを眺めながらえっちらおっちらとテントを張り、
 完成した瞬間に空を見上げたら星空が煌々と輝いていて、
 テンションが跳ね上がった私はタオルケットを身体に巻きそのまま就寝した。
 その日私はリヤカーを引っ張り喜界島を一周しテントで寝た4人組の夢を見た。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/23(日) 19:16:00.45 ID:O8SRoyhI0
だいたいツバサさんが長台詞を語っている時は
ツバサさんの出番が無い時です。

もうすでに東條希さん津島善子さん南ことりさんが出番をすっ飛ばされ、
鹿角理亞ルート(笑)状態になりつつあるのはツバサさんの責任ということで一つ。
プロットは今週更新分は完成しており、南ことりさん来襲も亜里沙ルートで使えなかった
彼女の穂乃果ちゃんへの想いを吐露してくれ……ると思うんです、プロットではそうなってる。
南ことりちゃんのエピソードが終了したあと、海未ちゃん視点になりニコニー登場。
その後にかよちん視点になり、ほのりんぱな会談となり――

そろそろ主役の看板をエリちは降ろしたほうが良いのではないか疑惑が……頑張ります。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/23(日) 20:48:56.09 ID:tLDw1pOSO
最近扱いがどんどん酷くなってない?
入れ替わり設定必要だったのかなぁ
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 18:35:44.59 ID:FRabj/EK0
「自宅遭難民エリち」

 目を覚ますと周囲が明るくなっていて、地下の割には陽光の明るさを感じるなと思い、
 そういえばとテントを張って眠ったことを思い出す。
 夏場に近づき暑くなっている時期に差しかかるとは言え、
 夜に外で眠るとタオルケット一枚では肌寒さを覚えるのかもしれない。
 身体を起こしてテントから顔を出すと、見慣れたエトワールの邸宅が輝かしいものに感じる。
 建物内の空調機器であるとか、隙間風が入らない剛健な壁。
 地面と違って柔らかなマットレスの上に布団を乗せて横たわる幸せ。
 最近寝袋に寝ていてもなおベッドの上で眠れるというのは幸せなことなのだと
 しみじみと考えてしまうほど劣悪な環境下で眠りについたと認識。
 勢い余って外で眠ってしまったけど、
 実は外で眠らなくても良かったのではないか疑惑が私の中で急上昇。
 にこまきが戦力外だったせいでテントを一人で完成させ、
 真姫は徹夜で作曲していて建物の中で過ごしたから、
 テントで眠ったのはほぼほぼ自分だけだったことを思い出す。
 朝起きた時に一人だったので寝坊したかなって慌てて外に出たら、
 いかんせん山の中は朝方だと肌寒く、上着を一枚羽織り太陽の光が眩しいな、
 なんて考えながら伸びなんかしているとニコと目が合った。
 まずいことでもあったのか申し訳なさそうな表情を浮かべながら朝の挨拶をするので、
 どうしたのなんて気軽に声を掛けたら、眠れたなんて問いかけられて。
 疲れていたのか意識を失うように寝てしまったと笑うと、
 「そ、そうよねえ! やっぱり眠たくなるわよね! さ、今日も頑張っていくわよ!」
 とやたらテンション高くテントの中に入ってしまい首を傾げたりなんかしたんだけども。
 私が眠った後にテントから抜け出たニコは真姫にバレないように別荘の中に入り、
 気持ちよくベッドで眠ったものであるよう。
 朝早く起きてテントの中で過ごしている体でごまかそうとしたら私が起きていて、
 ずいぶん肝を冷やしたけどツッコミがなくて良かったと数年後告白されるに至る。
 私の融通の利かなさはニコの上手にやり過ごす器用さを学び活用しないと、
 そのうち風邪のひとつでもひいてしまいそう――そんなふうに苦笑いしながら以前と同じように伸びをしながら太陽の光を浴びた。
 このままラジオ体操でもして身体を動かしたいな、と思いスマホを取り出そうとしたら荷物は建物の中だったのを思い出す。
 まるで着の身着のままで家出をして困り果てる子どものようだと笑いながら、先ほどからそんな私の様子を見ていたと思しき南ことりと目が合う。

「おはようことり。どうしたの? そんなイエティに遭遇したみたいな顔をして」
「あの、逆に問いかけたいんだけど、なんで庭でテントを張って寝ていたの?」
「あー……勢い余って?」
「もしかしてこの建物の中にいる人から不遇な扱いとか受けているの?
 だったら私文句を言いに行かないと」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 18:36:38.44 ID:FRabj/EK0
 何か要件があってこの場に来訪した南ことりが
 庭になぜか真新しいテントが建てられていることを疑問に考え、
 こんなことをするのは絢瀬絵里くらいしかいないだろうなと一発で認識したんだけども、
 まさかこんな時期にそんな阿呆なことはしないよなうんうん、と考えてたら中から私が顔を出したため不憫に思ったらしい。
 よもや自分の迂闊さが怒りを携えてやって来たことりの同情を買うことに成功し、
 それどころか自分に代わり怒ろうとしてくれたことに感動を覚えたけれど。
 
「身から出た錆と申しますか」
「自分に至らないところがあるからって何されても仕方ないと考えるのは
 絵里ちゃんの悪い癖だよ、そろそろ身体壊すよ?」
「重々承知しておきます」

 テントの中で寝袋の中にすら入らず、
 タオルケット一枚で眠ったなんてことが知られてしまったら、
 憤慨したことりにツバサが鶏ガラでスープ作るみたいに煮込まれてしまうかも知れない。
 とりあえず彼女には建物の中で待っていて貰う。
 テントを片付けながら今後ここで寝るのはこれっきりになるよう――身も蓋もない想像をしつつ。

「好きなものはチーズケーキ by南ことり」

 家の中が騒がしいなー、なんて益体のないことを考えつつ。
 洗顔でもしようかと思い至り繋がるドアを開くと怯えきった表情のツバサがいた。
 何かから逃げ出したと言わんばかりに恐怖を抱えて、私を見上げながら助かったと言いたげな彼女に私は、

「外でことりと会ったけど」
「ひいっ!?」

 誰かに対して異様に警戒しているので、
 おそらくことりのことなのではないかと思いカマをかけてみた。
 ホラー映画に登場する殺人鬼に怯える被害者みたいな顔をしていたから、
 ついついなんでそんな顔をしているのと尋ねてみる。

「いえ……あの、あなたが平気な顔をしているものだから
 どれほど酷い扱いをしていたのかと認識するのが遅れて」
「ああ、昨日のこと? いきなり寝袋取られちゃったのは困ったけど」
「外に出て貰いたいとは思って行動に移したのは事実よ? ちょっとあなた抜きで話し合わなければならない事情があったから」
「そうなの? またツバサの手のひらの上で転がされたのねえ」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 18:37:07.06 ID:FRabj/EK0
 そうなんだへーくらいの反応しかない私に、
 思いの外に深刻な問題を抱えていると認識したと思しき彼女は、
 やけにこちらに気を使うような視線で私を眺めた。
 哀れみや同情とかの憐憫の情を越えた、本当に私を労る視線を向けられ、
 また何かやらかしたかな? そんな扱いされる必要はないよなーって考えていると。

「相変わらず自分は何をされても仕方ないと考えてるみたいだけど、 
 どのような理由があれ何をされても仕方のない人なんていな……」
「みぃつけたぁ」

 私の背後から高校時代さながらのとても可愛らしい声色で告げられた、
 殺人鬼が被害者を見つけた時の反応みたいな台詞が耳に入る。
 おそらくことりが腹に据えかねる怒りを抱え、
 この建物の中で一番権力がありそうな綺羅ツバサを探していた事実は今認識した。
 それがややもすると私に怒りが直撃していたと考えるとついつい恐怖してしまうけれども、
 テントで寝るという迂闊な行動がそれを回避させたと考えると、
 たまには失敗をするのも良いものだと、できる限り背後を見ないようにしながら洗面台へと足を向けた。
 刑の執行は多くの悲鳴とともになされたみたいだけれども、
 その中に東條希と思しき声が混じっていたのは聞かなかったことにする。
 管理人として作る朝食はせめてみんなを労れるような豪勢なものにしよう――
 なんてことを考え自室に逃げ込み、ことりに怒られなさそうなレベルの衣服に身を包み、
 エトワールの建物から逃げ出すように抜け出た。
 後ろから誰一人追いかけてこないことを常に確認しながら。

「ユッキ反省回顧録」

 外に出歩いてからしばらく、
 そういえば先程から雪姫ちゃんが口を開かないことを怪訝に思い、
 どうしたのと声を掛けてみる。
 いつも明るい表情を浮かべているという印象はないけれど、
 いつになく気落ちをした様子ではあったので、
 何かまたやらかしたのではないかと不安を覚えつつ尋ねてみた。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 18:37:40.55 ID:FRabj/EK0
(ことりさんの発言を聞いておりまして
 自分にも当てはまるなあと反省しきりなんです)
(ことりの? 確かに心を抉ってくる罵倒はよくされているけれど)
(現在エトワールではツバサさんを中心とした面々が集められてまして
 絵里お姉さんへの対応に関しての是非を問いかけているのです)
(ことりは海未と同じくらいまっすぐだから多少行き過ぎることはあるとは思うけれど
 悪い子だなんてとても言えない、むしろ良い子と称するべきね
 あいにくと私の対応が後手に回っているのと、改善するスピードが遅いから
 何を言われても仕方がない側面はあるわ)

 反省はするんだけれど、反省する材料が多すぎて何から手を出してよいのやら。
 夏休みの宿題を溜め続けて困り果てる小学生のよう。
 集められているメンバーがツバサとか亜里沙とかヒナとか
 私の味方になってくれる面々が多いからさぞかし議論は紛糾――

(私も絵里お姉さんに甘えている側面があったと)
(ん? それは甘えたいさかりみたいな年齢でもあるし、
 大人びた面は見えるけれど、甘えたくなる気持ちもわからなくは)
(いえ、精神的な安寧を求める面ではなく、
 ちゃっかりこうして同居していますけど、
 もしかして大変なことをしでかしたのではないかと思いまして)

 雪姫ちゃんの声色が震えている。
 怒られそうで心配というよりも、嫌われてしまいそうで不安といった感じ。
 自身の想像にがんじがらめになって対応に困る気持ちを抱えるのは、
 幼いころには多くの子が体験すること。
 あっけらかんとしている風な私だって、多少気落ちする時間くらいはある。
 立ち直るまでに時間がかかって迷惑をかけることだってある。
 
(そうね……じゃあ、問題を挙げてみましょうか)
(余計なことをしているのではないかと不安になります。
 私はとある意思のもと絵里お姉さんの意識を取ることもあります
 ですがそれは……有り体に言えば大きなお世話なのではないかと)
(迂闊さに自信はあるんだけれどねえ……)
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 18:38:16.78 ID:FRabj/EK0
 甘えているという人物が誰なのか気になるんだけれども、
 私の興味本位でどこかから会話を受信している彼女に内容を問いかけるのは、
 ひとまず天高く放り投げることにした。
 私がこうなっている状況を鑑みてみれば、不可解な現実ではあるんだけれども、
 こうして四六時中一緒にいてみて、何も悪いことをしようとして雪姫ちゃんがいろいろやっているわけではないのは知っている。
 雪姫ちゃん一人ではなく、ツバサや亜里沙やヒナや……希やことり。
 私の精神をへし折ってストレスを解消するために口調が荒くなるわけじゃない。
 たまに私はとんでもない不遇な目に遭っているのではないかと頭を過ることはあるけれど、
 多少なりとも身から出た錆という側面がある以上は、解決するために身を砕くのは私であって他の誰かじゃない。
 
(もし、雪姫ちゃんが間違えてしまったとか、失敗したなって思ったら
 またやり直せば良いのよ、改善するために努力をすればいい
 うまくいくことばかりじゃないけれど、失敗したことを悔やんで何もしないよりはいい
 できないと思ってたら何もできないのよ、だから――
 
 だからもう少し私を頼ってみてちょうだい?
 頼りないかも知れないけれど、これでも30年近く生きてきたのだし
 それに、もし私になにかあったら代償を払うのは私だから良いのよ)
(……ことりさんは絵里お姉さんをみんなが頼りにし過ぎだと言ってます)

 ――何という過剰評価。
 頼りになるどころか迷惑かけっぱなしな自分の人生を見てもなお、
 ことりがそのような判断を下すのであれば彼女は聖人君子かも知れない。
 頼りになると言うか、盾になって矢が全身に突き刺さっている経験ならあるかも知れない。
 自分にそれほどの活用術がないゆえにそうなっていたとばかり思っていたけれど、
 ことりにはことりの私の見方というのがあるのかも知れない。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 18:38:45.83 ID:FRabj/EK0
(亜里沙さんは……希さんにも言われたことがあります)
(ん?)
(元より、亜里沙さんは絵里お姉さんが隣にいないと、一人で立つことすらできません)
(まるで不出来な妹みたいだけれど、違うのよ? 
 あの子は私に構って――)
(違うのです絵里お姉さん。亜里沙さんが自分の意志に反してクールになり
 仕事ができるプロデューサーとして立っていられるのは絵里お姉さんがいるからです)
(雪姫ちゃんはそう見えるの?)
(こういう言い方は卑怯ですが、亜里沙さんが絵里お姉さんに依存していないと思っているのは
 μ'sの方々の中では絵里お姉さんくらいですよ?)

 思わずこめかみを抑えてしまった。
 冗談交じりで亜里沙は私がいないとねえみたいな話を花陽に語ったことがあるけれど、
 その時に彼女は哀れな人間を見るような目で何もコメントを発しなかった。
 てっきり何いってんだこの人みたいな反応であったとばかり。

(まったく、ことりにはちょっとお説教をしないとね)
(え? お、お説教ですか?)
(頼りになる存在だったらこんな扱いされないわよ、
 もっとこうゲームの英雄みたいに、誰からも尊敬される聖人君子――
 私みたいに誰かに助けられて、担いでくれる誰かがいて、
 いつの間にか前面に立ってる人間なんか頼りになるとは言わないの)
(あ、あの、絵里お姉さん?)
(まったく、いろいろやることがあるっていうのに、
 真姫を説得できるような歌詞も考えないと、ああ、忙しい忙しい)
(え、絵里お姉さん? あ、あれ? 入れ替われな――)

 せっかく外出したというのに買い物を放棄し、
 ぷりぷりと怒りを発しながら、なおも私に呼びかける雪姫ちゃんを申し訳ないけど無視して、
 エトワールへと戻っていく絢瀬絵里なのでした。 
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 18:44:24.65 ID:FRabj/EK0
ユッキのエピソードを前に持ってきました。
レスを頂いて初めて、あ、エリち下げすぎという事実を認識。
まだまだ失敗ばかりの作者なので、
また何かあればお願いします、エピソードを前倒しするくらいならなんとか。
作品をつまらなくするのは作者ですが、面白くするのは読んでいる方との共同作業ですので。

このエピソードの前倒しにより、ことりちゃんのエピソードが次回更新分。
そのまた次回には絢瀬絵里歌詞制作編に突入したいと思います。
今の所の想定では、歌詞制作を前倒ししたほうがほのりんぱな会談でのオチに繋げられるかなと。
では、また次回です。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 19:13:32.85 ID:xVlTfgStO
ことりちゃんが味方してくれる時の頼もしさよ…
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/25(火) 15:55:02.55 ID:3yKTianVO
ニート期間が長すぎたからなぁ
みんな発破かけてくれてるんでしょう
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/25(火) 19:59:03.05 ID:yAwcj0R+0
「お前は用済みだ」

 怒りを携えてエトワールの建物中に足を踏み入れると、
 感情が消沈としてしまうほどにシンと静まり返っていて、異様な雰囲気に辺りは包まれていた。
 空気が冷めきっていて目立った物音一つすらしないので、
 先程までスルーしてしまっていた雪姫ちゃんに思わず声を掛けてしまう。

(雪姫ちゃんだいじょうぶ?)
(もちろんです! 絵里お姉さん!
 ……ただ、ことりさんの言葉は皆様にかなり響くものがあったようです)
(アイスケースの中に放り込まれたみたいな空気はそれが原因か……)
 
 意気揚々とテンション高く怒りに燃えて帰ってきたというのに足を前に踏み出すのが怖い。
 ことりがどれほど私のために怒ってくれたかと思うと感動してしまいそうになるけれど――
 不遇な扱いというものが、自分にとってダメージがあるかと言うとそんな訳もなく。
 そのように扱われる自分にこそ問題がある気もするし、
 それでいて問題があるのならば改善する努力をすれば良いだけ。
 仮に亜里沙やツバサが私に甘えていた側面があるのなら、
 私だって二人に甘えていた側面がある。
 どちらが一方が悪いというわけじゃない、お互い様の精神で行こう――
 という言葉でことりが納得してくれるかどうかは分からない、心がへし折られるかも知れない。

「あ、え、絵里先輩……」

 玄関先に亡霊でも見たみたいな、おっかなおっかなと言った反応をしながら
 鹿角理亞ちゃんが私に声を掛けてくる。
 緊張しきったような態度は気になってしまうけれど、
 かといって指摘して緊張を加速させてしまっても自分が困るだけ。
 できうるかぎりにこやかに笑みの一つでも浮かべながら声を掛けてみた。

「おはよう理亞ちゃん。
 どうしたのそんな幽霊でも見たみたいな顔をして」
「い、いえ……その、怒っていないのかなと心配になりまして」
「怒りたい気持ちはたしかに持っていたけれど……」

 今はみんなが心配と告げようとしたら、
 理亞ちゃんはこの世の終わりを見たみたいにしょげた顔をして、
 頭を抱えながら膝をつく。
 何故そんなことにと問いかけたいのは私の方ではあったけれども、
 あまりの気落ちした様子に声を掛けることすら躊躇われる。
 ショックな事があったのは理解はできるんだけれども、
 頭に疑問符が浮かんでばかりの私に誰か状況を教えて頂きたい。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/25(火) 19:59:32.87 ID:yAwcj0R+0
「どうしたの理亞さ……あ、絵里……」

 続いて出てきたツバサまでが私の顔を見て、
 なにかとんでもないものを見られてしまったと言わんばかりに表情を曇らせ、
 いろいろと問いかけたい気持ちは抱えてはいるんだろうけれども、
 なんとあの綺羅ツバサが私に対して遠慮をしている。
 もっと強調するならば下手に出るようにしながら気を使っている風。
 この状況が私に対するドッキリでなければ、
 南ことりが猛獣を躾ける女王……じゃない、ムツゴロウさんであるかもしれない。

「もしかしてすごく怒っているのかしら?」
「付き合いの長いツバサなら分かっているとは思うけれど
 怒らなきゃって気合を入れないと私って怒れないタイプなんだけれど」
「……そういうあなたに今まで甘えてきてしまったのね、ごめんなさい」
「そ、その、困るわ、なにせ自覚がないものだから
 一体何に謝られているのか……」

 これが仮にドッキリであるならもちろん大成功。
 ドッキリでなくてもとんでもない無茶ぶりをされるか、
 騙されてやんのブヒヒとか影で笑われていると思ったほうがまだ自然。
 此処にいるのがツバサだけなら演技も疑えようものだけれど、理亞ちゃんは本当にがっくりと魂が抜けてしまっているのが見るのが耐えられない。
 しかしながら今まで絢瀬絵里の人権など、
 鼻をかむティッシュくらいの価値にしか見ていなかったみんなが、
 幕府の将軍様に気を使うみたいに気苦労を重ねる様子を見ると、
 なぜかもうしわけなさで私が爆発してしまいそう―― 
 これも誰かの判断だとしたらその人は前世が諸葛亮孔明、はわわ! ご主人様! 敵が来ちゃいました!

「客観的に見ると、こう……使い捨てカイロみたいな扱いだったじゃない?」
「言葉はこの上なく的確だと思うけど、別にカイロみたいに捨てられるわけじゃないでしょ?」
「「……」」
「ふたりともこっち向いて!?」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/25(火) 20:00:07.45 ID:yAwcj0R+0
 ドッキリで騙されている説が私の中で急上昇したけれど、
 雪姫ちゃんが言うにはふたりとも本気で私のことを考えているみたいで。
 多少なりとも私の扱いが使い捨てカイロから、
 四天王で一番最初に出てくるやつくらいにまでジャンプアップさせて欲しい――
 扱いが変わってないのではないか疑惑はとりあえずリビングに居る人に問いかけてみたい。

「みなみけの三姉妹の次女ことり」

 リビングでは南ことり――ことりというより女王……いや、覇王――ううん、ラオウといえば良いのか。
 この世で一番偉いのは私と言わんばかりに、あらゆる面々からマッサージを受けたり、
 飲み物を差し出されたり、この世の繁栄の中心にいると思しき彼女を見ている。
 亜里沙が使用人の中でも最下級の存在らしく、
 あちこちに駆け回り、エヴァちゃんや朱音ちゃんと言ったエトワールの面々の中でも一番年齢がしたなメンバーの世話を焼き、
 希やよっちゃん朝日ちゃんといった上司には仕事がしやすいように下っ端としての役割を真っ当。
 まるで自分自身を見ているような不遇な扱いに、涙がホロリと流れそうになり。
 ついつい見なかったことにして回れ右をしようとすると、雪姫ちゃんに「も、目的を忘れないでください!」と忠告される。
 いかんせんことりのオーラが悪の帝王。
 雪姫ちゃんが語ることには絢瀬絵里のことをかばい、
 不遇な扱いを止めて欲しいと訴えたそうだけれど、
 とてもそうは見えない、すごく疑わしい。
 私をサンドバッグ扱いにする筆頭がことり(次点 凛)だっただけに、
 どういう風の吹き回しでそのような考えに至ったのか――現実逃避に雪姫ちゃんに聞いてみる。
 
(海未さんと会った後、意気揚々と絵里お姉さんをなじりに行こうとしまして)

 此処に来た目的はやっぱり私をサンドバッグにするつもりだったのではないかと、
 頭を抱えて嘆きたい衝動には駆られてしまうけれども。
 とある出来事のあと本気で憤慨したことりは、
 体のいい罵倒相手の私を言葉を尽くして追い込むために、
 まあ絵里ちゃんなら何とかしてくれるでしょうという強い信頼(笑)のもと、
 コンビニでお菓子を買いに行くみたいに仕事場から出ようとする。
 が、その日までに仕上げなければいけない仕事があったため、
 後ろ髪を引かれる思いでアトリエに戻り、
 私をなじりたいがためにふだんの数倍でデザインを仕上げ、
 あまりの出来のよさにさすが絵里ちゃん頼りになる! と思ったそうだけど、
 私は一つも嬉しくない、そして頼りにならないからなじられるのである。
 
(ふだんより数倍おしゃれに気合を入れて、お化粧を施して
 周囲の方からは新しい恋人でも出来たのかなと言われたんだそうです)
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/25(火) 20:00:47.35 ID:yAwcj0R+0
 しかしことりの魂胆は上手くは行かない。
 仕事上のパートナーでもある渡辺曜ちゃんが泣き腫らしたような顔で
 ことりに見つからないように移動をしていた所に運悪くばったり遭遇。
 彼女を憤慨させた高海さんたちに対し、
 自分の気持ちを抑え込むように彼女たちを突き放すような態度を取り、
 そのダメージが拭えないままお酒に走り、感情を爆発させ大泣きしまったあと、
 上司でもありパートナーでもあることりに見つかる。 
 私が同じことをしていれば「ああそう」の一言でスルーする彼女も、
 曜ちゃんはかなり強く信頼しているらしく、どうしても放っておけなくなってしまったらしい。
 
(もともと曜さんは活動のほぼ全てが千歌さんのために行われたことです)

 タレントとして知名度を上げたのも行方不明になっていた高海さんに見てもらうため、
 オリンピック候補として名を挙げたのも高海さんに応援してもらうため、
 結果的にことりのパートナーとして名を挙げた目的も高海さんに会いに来てもらうため、
 もともと幼なじみでありAqoursとして活動をしたきっかけも高海さんと何かがしたいからであり、
 それはAqours解散後に皆が散り散りになった後も何ら変わることもなく、
 強い思いを抱えて高海さんがもとに戻ることを望んで生活していたみたい。
 そんな彼女の思いがことりの琴線に触れて強い信頼を得る経緯になるわけだけれど、
 ことりと共に生活をすることによって、高海さんがまったく自分が眼中にないと察するきっかけにもなってしまった。
 なんでも高海さんが語る高坂穂乃果像と実際に会った穂乃果に差があり、
 一度会っただけでは分からないと考えた彼女も、ことりや海未との交流の結果、
 穂乃果が奇跡を起こすとか、みんなのリーダーとしてμ'sを引っ張ってきたという部分は、
 高海さんの幻想に過ぎないと気がついた。
 それでもなお彼女のことを信じようとした曜ちゃんだったけれど、
 穂乃果とことりと海未の3人組が今もなお強い信頼に結ばれてお互いを理解をしているのに、
 自分のことをまるで考慮せずに会いに来てすらくれないことに深く絶望。
 傷も癒えない状態のまま海未を伴い高海さんは来訪し、ことりを怒らせた後、
 曜ちゃんでもいいやみたいな態度で声を掛けられ、彼女は久しぶりの再会に言葉が詰まり反応すらできないのを心配すらされなかったことに憤慨。
 感情のままに相手に文句を言い放ち、突き放してしまったことを後悔――
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/25(火) 20:01:16.12 ID:yAwcj0R+0
(一番の悲劇は千歌さんにそれほどダメージがなかったという点です)
(……ことりはどうして私のことをかばおうと?)
(曜さんは経験上、信頼する相手もその相手の都合で自分から離れると分かっています)
 
 私自身にはそんな意志はなくとも、
 病気とか事故とか……いろいろな都合で自分がこの世から離れることもある。
 昨日会っていた友人と、後日再開できるとは限らないのだ。
 ことりにとって穂乃果や海未といった面々は言うに及ばず、
 元μ'sのメンバーである私たちも彼女にとってはいつでも再会できる友達だった。
 それだからこそ海外留学も気軽に行ったし、有名になっても時間を取れば会える、
 むしろ自分に都合を合わせてくれる、それどころか絢瀬絵里はサンドバッグになってくれる。
 人間は信頼を得るのは大変だけど、信頼を失うのはいともたやすい。
 泣きはらす曜ちゃんに自分を重ねたことりは深い後悔のもと、
 その後今までの間に自分を戒め、真姫や花陽や凛や希(←さっきから肩を揉ませている)
 にこや穂乃果といった面々に謝罪の言葉を告げこれからも付き合ってくださいとお願いをし、
 私にだけは今まで乱暴に扱ったことが気恥ずかしく再会までに時間を要したけれども、
 誠心誠意謝ってあわよくばなじって貰おうと気合を入れエトワールに来訪、
 そこで不遇なテント生活をしているように見えた絢瀬絵里を発見、怒りに震える。
 エトワールのみんなは不幸にもことりの逆鱗に触れてしまったわけで、
 この場にたまたまいた希もテントにいた私をスルーしてしまった罪でなじられ、
 多くの面々は反省をした様子ではあったけれど、
 今後いったい自分がどのように扱われるのか考えるだに恐ろしい。
 やっぱりちょっと現実逃避がしたくてたまらない。
 
 ――女王様はひとしきり奉仕を堪能して、
 その中の面々にちゃっかり絢瀬絵里が混じっていたことに驚愕、
 海未から教えられた土下座の方法(穂乃果と一緒にならった)で謝罪を見せ、
 エトワールのみんなが私に向かって頭を下げて謝罪をするという、
 黄門様になった気分を味わった私は、
 やっぱり土下座するほうが性に合っているなあと思った。
 あと、ついでに朱音ちゃんの後方に陣取り、スカートの中を覗こうとする英玲奈さんは
 もう手遅れなんだなって思った。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/25(火) 20:16:52.54 ID:yAwcj0R+0
これから丁寧に理亞ちゃんルートらしく互いを思いあうパートナーに……
なるエピソードが今後も展開されることがなくて泣きそう。

では、また明日です!
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/25(火) 21:40:34.86 ID:71VwmwuGO
トッリの顔文字顔で笑いながら御奉仕受けてる様が目に浮かぶ
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/27(木) 15:51:28.34 ID:4JWbl/n0O
えりちが理亞ちゃんの気持ちに気付くのはいつの日か……
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 13:47:26.47 ID:7+1b5EI30
明日とは一体・・・
年末暇だし最初から読み返してくるか
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/31(月) 14:47:53.33 ID:uR368zZ60
 ことりが背中を預けていた大きなソファーは一昔前に稼ぎのあるアイドルが購入したもので、
 少し前に私が気合を入れて掃除をしたものだ。
 ハンドクリーナーで丁寧にゴミを取り除き、シミや油汚れなどを丁寧に拭き取り、
 あまりの汚れっぷりによく座って利用していたよっちゃんなんかは、これから丁寧に掃除をするので! と言っていたけれど。
 普段から気を使って汚れを取り除いているのは主に私、
 清潔にしているソファがことりのお尻を丁寧に受け止めてくれて、
 きっと彼(もしくは彼女)は「ありがとうございます!」って言ってるはず。
 ニート生活が長かったせいか、掃除や料理に関してはエトワールの中でも右に出る人間がいないくらい優秀で、
 これからは一家に一台絢瀬絵里の時代が来るかも知れないわね、とツバサは訳知り顔で言うけれど、他の面々の家庭に入る才能が少ないというのは考慮しない。
 私が来る前にはモノで溢れていて、とにかく雑多という印象があったリビングも根気よく片付けを
した結果、物が少なくなり清潔に保たれるようになった。
 はじめから大きな家ではあるんだけれども、その分掃除に億劫になってしまうので、
 汚れや物も溜まりやすくはあって、年若い子ばかりが暮らしていると経験もないからそのまま放置されがちだけども、やろうとすればいつでもできるのである。
 さて、いつでも私やいろいろな子の協力によって清潔に保たれているリビングにおいて、
 南ことりと亜里沙が自分の前に集っていた。
 先ほどまでの土下座姿勢はなんとか改めて貰ったものの、謝罪しようと思っていた相手に
 ふくらはぎを丹念にマッサージされてしまったダメージは彼女の中で大きく、
 先ほどまで注意を重ねていた亜里沙や他の面々に合わせる顔がないというのも理解できる。
 例えにツバサばかりを使用して申し訳ないけれど、よほどのことがないかぎり反省した態度を人前で見せない彼女が、
 盛り下がった気分そのままに、まるで悪ふざけが見つかった子どもみたいにしょげた様子を見せるのはかなりのレア機会。
 よほど真理を突いていたか、防御力無視の言葉の刃でも使用したかどちらかだけど、
 おそらく前者なのだと思う、後者だったらいざってときのために教えていただきたいくらい。

「ええと、ことり。
 まずはありがとう、私のために怒ってくれて」

 満面の笑みのことを花の咲くような笑顔と例えるけれど、
 イメージとしてはそのように、少なくとも引きつった笑みなど浮かべないよう重々承知しながら。
 雪姫ちゃんにもいい感じに笑みを浮かべられてます! と褒められているので、
 年齢相応の落ち着いた態度は示していられているように思う。
 ことりも私の言葉に安心した素振りを見せて、
 緊張しきった様子から少しばかり肩から力が抜かれた。
 姉が怒っていないという立場が見受けられた亜里沙も、先ほどからびたっと私の左腕にくっついてしまっているのは変わらないけれど――。

「言うべきことを言えたと思ったけど、私もまだまだ自分に甘かったよ」

 高慢な態度が南ことりの素ではないとは思うけど、
 女王様のような仕草が似合ってしまうのはいったい誰の影響だろう?
 自己主張をしないと外国では受け入れられないと言うし、
 海外での生活で性格を改める必要があったのかも知れない。
 元からこのように気位が高くあらせられたというのは考慮しません、あしからず。
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/31(月) 14:48:29.19 ID:uR368zZ60
 とりとめのない会話を繰り返しながら、
 周囲の空気もほぐれたところで、彼女が何故来訪に至ったのか問いかけてみる。
 最初は怒っていたことりも時間が経つに従い
 内容を整理して話せる程度には腑に落とすことに成功したようす。

「私のところに、海未ちゃんとルビィちゃんとその他一名が来ました」

 高海さんに関しては気持ちが落ち着いてもなお、名前を出すのも腹立たしいみたい。
 似たような気持ちを抱えつつある私自身でさえも、穂乃果の人格形成に悪影響を与えたことに関してはいくら文句を言っても足りない。
 過去のことではあれど、思い出にするにはまだまだ時間が必要。
 謝罪をされたところで分かりましたと言えるかどうか、私自身も疑わしい。
 ことりの説明と雪姫ちゃんの補足を総合するところによれば、
 海未は想定外に困った状況下に置かれているみたい。
 此処のところ少しばかり社会との交わりを断って自己鍛錬に励んでいたせいで、
 ダンスや歌唱力は多少なりとも見栄えがするようにはなったけれど、
 μ'sのみんながどのように過ごしていたかまではまるで考慮に入れていなかった、反省。
 亜里沙も難しい顔をしてことりの話を聞いているので、
 エニワプロでどういう扱いをされているのか、私が想像した会社の経営を立て直す英雄と言う評価とはまるで違ったよう。
 裏で繋がりがある以上、類が及べば切り捨てられるのは彼女たちであるので、
 自分の立場を省みないのであれば今すぐにでも手を差し伸べたいくらい。
 私がどれほど力がある存在であるのかは思考を放棄するけれど。

「海未ちゃんはね優しいの、穂乃果ちゃんの力になれなかったことを今でもすごく後悔してる
 自分のことばかりを考えて、高海千歌という人を自分の自由に扱おうとは思ってないの。
 ――でもね、その事に気がついているのは私たちμ'sだけ」

 ツバサの抗議が何処からか寄せられた気もするので、
 ことりの言葉にA-RISEも海未の動向を気にかけているという補足をする。
 海未の下についているルビィちゃんであるとか、高海さんであるというのは、
 尊敬の念を持って慕っているという態度ではない様子。
 正しいことをしていれば正しく評価されるのが当たり前であった海未の人生において、
 いくら言葉を尽くしたところで暖簾に腕押しな態度を示されることがどれほどのストレスになるのか、憂慮に余りある。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/31(月) 14:49:06.31 ID:uR368zZ60
「海未ちゃんは多分――ほんとう、私の想像だけど
 穂乃果ちゃんに受け入れてもらえる人に、高海さんにはなって欲しいんだと思う」

 ことりの発した言葉を耳に入れて、私自身も少しばかり考えてみる。
 自分で考えた結論というものが、どれほどくだらないものかよく知っている私は、
 雪姫ちゃんにも協力を求めて”お互いがわかり合う”ためにどうすれば良いのか思考する。
 高海さんが自身の思考を捻じ曲げて穂乃果のことばかり考えていては、
 今までと何ら変わりはないし、それがいけなかったことだと教えるには骨が折れる。
 他の人に好意を寄せることが何ら悪いことだと考えたことすらない彼女にとって、
 尊敬の念を持って相手を慕うことが迷惑に繋がることもあると論じたところで信用などされるわけがない。
 ことりの推測でも、もちろん私自身の推測でも、
 高海さんが自己を改められる人である人というのは疑いようもない。
 海未が高海さん自身をある程度信じている事実からも、
 Aqoursの面々が彼女を捨てきれないでいる現状から察しても。

「ことりさんに反論するわけではありませんが、
 穂乃果さんが高海さんに歩み寄れる可能性というのはどうなんでしょう?」

 高海さんばかりに改善する姿勢を求めてばかりでは心苦しい――
 などという観点が欠けていた私たちにとって、亜里沙の発言は寝耳に水のよう。
 確かに穂乃果が苦しんでしまったのは疑いようのない事実ではあれど、
 別に彼女だって苦しませようとして苦しめたわけでもなく。
 どちらが一方を悪だと断じて、良くする努力を勧めてばかりでは
 問題を指摘ばかりして解決策を示さない愚鈍な相手と同じ。
 穂乃果に問題があるとは私自身は考えないけれど、
 穂乃果自身が自分にも問題があったと考えることを止められる立場にはない。
 もしお互いに歩み寄れる姿勢が取れるのであれば、
 今のようにうだうだと話し合ってばかりいるよりかは和解は叶えられるかも知れない。

「ことりはやっぱり、彼女のことは許しがたい?」
「今までは……でも、もし、穂乃果ちゃんがいいよっていうのなら……
 時間はかかるかも知れないけれど」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/31(月) 14:49:36.91 ID:uR368zZ60
 妹の金言を踏まえてことりに問いかけてみる。
 私自身も、そして彼女も穂乃果のことを考えているようで
 自分の感情を中心に物事を判断しがちであったのは紛れもない事実。
 受け入れがたい感情を正しくさせて貰った気分で亜里沙に微笑みかけてみると、
 左腕を締め付ける感覚が多少なりとも緩んだ気がする。
 ラブコメの描写で胸を押し付ける感覚がって主人公がもやもやする場面とかあるけれど、
 雑巾を絞り上げるみたいに左腕を締め付けられると、
 もしやストレス解消のためにしているのでは? と疑いかねない。
 不安だからこんな態度を取っていると願いたい、力強さは焦燥感の表れ。

「高海さんに……ああ、いや”千歌さん”にことりは何をしてもらいたい?
 アイドル活動を踏まえて何を願う?」
「そうだね……」

 私の言葉に頬に手を当てながら考える風なことり。
 今まで妹の亜里沙であるとか、穂乃果の妹である雪穂ちゃんが選んだ、
 μ'sに憧れながらもμ'sを目指さないでいる道が正道のように感じてはきたし、
 別に自分なんか憧れるに値しない人間でもあるしという自己評価の低さも手伝って、
 憧れを持ってスクールアイドルとして活動をしてきたAqoursはちょっと変と思ってきたけれど。
 目標が達成できずに逃げ出した事実の一端は責められたところで仕方ない側面もあるけれど、
 応援ありがとうの一言で済ませずに、なんでそんなことをするのと言わんばかりの態度であったのは、私たちも責められても仕方がない。
 相手に非があると考えて、相手ばかりに責任の所在を追求してきたのは
 私たちに見たくもない現実があって、目を背けてきた理由があって、
 その点を踏まえれば千歌さんばかりを責め立てるのはお門違いも良いところだと反省する次第。

「私はね、あの子は間違ってると思う――ああ、間違ってると思ってたかな
 Aqoursはね、μ'sじゃないんだよ9人いたって同じグループじゃない
 彼女には自分の人生を歩んでいって欲しいんだ、μ'sは応援するくらいで留めて

 人はさ、違うんだよ、違うからこそ手を取り合って協力するのが尊い
 もし彼女が、μ'sの高坂穂乃果とAqoursの高海千歌が同じだと感じているのなら
 それは絶対に間違いだって言うし、違うからこそ千歌ちゃんは穂乃果ちゃんに憧れたんだって
 ――説得の材料にするから」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/31(月) 14:50:13.50 ID:uR368zZ60
 曜ちゃんと親しいことりの言葉であるなら、もしかしたら彼女も頷いてくれるかも知れない。
 今までなんで分かってくれないのと言わんばかりの態度を、私もことりも恥ずかしながらしてきたけれど。
 もしかしたら、分かってくれないのの前にわかってもらえる努力が自分たちにも不足していたのかも知れないから。
 明るい兆しが見えてきたような気がして、
 お互いに自己主張をするばかりではなくて、分かり合うために励んで見る。
 新たなる道が見つかり、ことりも私も――そして亜里沙も。

「穂乃果ちゃんの意思とは違うかも知れない、でも私は絵里ちゃんに協力するよ」
「海未のことはいいの?」
「よくはないけど」

 亜里沙とことりが似た表情を浮かべる。
 でも、海未が私たちの意と対立してしまうような行動を取ったからこそ、
 もしかしたらそうなのかも知れないと考えるに至ったから。
 だからこそ、相手を一方的に違うからと否定するのではなくて、
 分かりあおうとする姿勢こそ自分たちに必要だったんだと意識をする。
 ――もしかしたら、間違っているのかも知れないけれど。

「まずはね、歌詞活動のお手伝いをする」
「Wonder zoneみたいな感じで手を貸してくれるの?」
「ううん、歌詞作りは歌詞作りが得意な人の意見を参考にするのが一番なんだよ」

 そう言ってスマホを取り出してどこかへと電話をかけることり。
 ふと気がつくと、右腕にも誰かにしがみつかれているので誰かなって思ったら、
 エヴァちゃんがオーラも発しないで亜里沙と同じ仕草を取っていた。
 いかんせんハーレムにも見える状況下ではあるけれど、
 音もなく気配もなく静かに右腕を取られて抱きつかれてしまうと心臓に悪いのでやめて欲しい。

「絵里ちゃん、私の真似して?」
「え、死刑宣告?」
「死刑に処されるようなことをしないように努力してくれると嬉しいな」

 おそらく必要性がって行為をするように頼んでいるんだと思う。
 容赦なくぶん殴るために、あえてその行動をさせてるのではないと願いたく。
 雪姫ちゃんにも発言のフォローを任せ、
 あくまでもぴゅあぴゅあな南ことりを意識しながら、ちゅんちゅんとちゅんちゅん――(^8^)

「あ、もしもし海未ちゃん? ことりです。ちょっとね、歌詞作りをしててさ」

 (^8^)から(・8・)みたいな表情へと変遷する私。
 亜里沙も予想外であったのか左腕を締め上げる力が強くなる。
 その、綱引きの綱を全力で引っ張るみたいな扱いをされてしまうと、
 左腕がもげてしまいそう、着脱自由なゾンビではないので勘弁願いたい。

「結構行き詰まってて、うん、うん……」

 言葉を発しつつ、海未に感づかれたりしないようにスマホを私の耳を中心に押し当てる。
 まるではんだこてで金属を接着するみたいに彼女のスマホが密着。
 注意深く電話越しの相手の言葉に耳を傾けつつ、ことりのイメージで声を発した。

「歌詞に想いを込めるにはどうしたら良いのかなあ?」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/12/31(月) 14:55:21.27 ID:uR368zZ60
年末で忙しかったというのもありますが、
風邪をひいてえらいことになってました、病原菌ダイエットのおかげで
今年中に目標体重を下回ることは出来ないと諦めていたのが達成できました。
一つも嬉しくないです! 健康も欲しいけどデブでも良い。
――22キロ一年で痩せたとは言え、まだまだデブ、来年はもうちょっとスマートに。

キリの良いところまで書いてからと思ったのですが、
今週も相も変わらず忙しく、いつ投稿できるか分からないので
今年最後の更新が中途半端で申し訳ないです。
ほんとうは歌詞作りイベントまで終了させたかった(遠い目)

では、来年も良い年でありますように。
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/31(月) 16:17:28.09 ID:wsKI98dwO
更新キター
新年迎える前に治って良かったね
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/31(月) 21:03:10.13 ID:0/jN0qoL0
おっつおっつ
来年も楽しみにしてますぜ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/01(火) 19:03:26.11 ID:RtvT/NrY0
 少なくとも自分の耳には南ことりの声として届いている。
 彼女の幼なじみであり、親しい間柄の海未がどのような判断を下すかまでは分からないけれど、私だとバレればすぐに追求されるであろうので。
 ひとまずはバレていない風を装い彼女からの言葉に耳を寄せる。
 歌詞作りに関しては素人も良いところ、高校時代にちょっとかじったに過ぎない。
 みんながみんな素人だったにもかかわらず、私の作った歌詞は内外に不評。
 穂乃果が作った歌詞は海未に手伝ってもらったんでしょとか、
 寝ている間に雪穂ちゃんに書いて貰ったんでしょ扱いをされて、
 そういう価値基準で判断されたいかと言うと微妙なところではあるんだけど。

「歌詞に想いを込めようとしたことはないので判断に困りますが……そうですね」

 歌詞に自らの気持ちを含ませる。
 やり過ぎてしまっては厚かましいという判断を下されてしまうし、
 あっさりとしていては伝わらなくて効果がない。
 分かる人が見れば分かるでは分からない人を切り捨ててしまうことになる。
 結果的にできあがった創作物が分からない人にはわからない出来になっても、仕方のない側面はあっても最初から切り捨てていては問題がある。
 言外に気持ちを含ませたところで、何度も聞いているうちに良さが分かるスルメ曲みたいな扱いになってしまうし、
 美辞麗句を並び立てて綺麗事のように仕立て上げたところで説得力は生じてこない。
 その点、園田海未の作る歌詞というのは器用だ。
 心に伝わるよう気を使われているし、かといって自己主張が激しくて聞いてて疲れることもない。
 控えめでありながら、やるべきことはやり、なすべきことはなす。
 そのような力強さを感じる曲だと思うんだけれど、もしかして褒め過ぎかしら?

「海未ちゃんの作る曲って、自分で勉強とかしたりしたの?」

 さりげない調子で問いかけてみる。
 歌詞作りのコツや手腕を問われて誰かに倣ったことがないとか、
 あくまでも自己流を主張し続けていた彼女。
 私自身もそれを鵜呑みにして、そうなのかなとばかり想像してきたけれど。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/01(火) 19:03:56.10 ID:RtvT/NrY0
 よくよく考えてみれば何事にも真剣に取り組み、恥ずかしいと言いながら投げキッスまでこなす。
 そんな彼女が歌詞を作ろうとした際に、何からも学ばずにオリジナリティ一本で創作物を作り上げることなどありえない、それはあまりにも無責任だ。
 元から伝統芸能を指導する立場のお家柄で、型や培っていた技術の重要性は心得ているはずの彼女が先人から学ばないという選択はしないはず。
 元からの素養があったとは言え、何かしら勉強して身につけた型にスクールアイドルとして華やかに聞こえるようなオリジナリティを加えたのでしょう。
 そのような解釈を含めると、いかに自分が何にも考え無しに歌詞を作り上げ、あろうことかことりに歌わせたのか、それは罵倒されてしまう、エリチカ失敗。
 知識を学んだ上で自己流のアレンジを加えるという技術を持ち、さらにはスクールアイドルとして活動をしながら、家でのお稽古ごとまでこなす――
 もしや園田海未という人間は宇宙人とか……さよなら天さん!

「ふむ、確かに昔から昔の歌謡曲は聞いていました
 優劣は私には分かりませんでしたが、一般的なスクールアイドルが作る曲には
 含まれていない要素はあるように思います
 生まれ持った資質というのは疑わしいですが――
 人にはない大衆に迎合する才があったのでしょう」

 サラリと言ってのけるけれど、
 要は「一般の人が何を求めるのか何となく分かる」才能であり、
 凡人にはどう足掻いても出てこない才能です。
 海未に関して努力する才能であるとか、一生懸命に取り組む実直さは今まで感じていたけど、
 人とは違う天才みたいなセンスを持ち合わせているとは思わなかった。
 雪姫ちゃんの「大人たちが自分に求めているものが分かる」才能と似たようなものであり、
 器用に生きていくには「誰かが自分に求めるもの」を提供することが何よりも重要。
 私の中の人が”絵里先輩みたいな才能がないので!”と手をブンブン振りながら否定するけれど、隣の芝生は青いみたいな感じなのかしら?

「あくまで一般論ではありますが、数をこなせば実力は身につけられます」

 少し考え込むように息を吐いたあと、
 海未は何事かいい考えでも思い至ったのか、多少明るい調子で続ける。
 数をこなすという言葉に対して、μ'sで行った夏場の合宿メニューを思い出したのは私だけではない様子、ことりもうわぁいみたいな顔をしている。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/01(火) 19:04:23.25 ID:RtvT/NrY0
「どのような想いを歌詞に込めるのかは作り手の自由です。
 ですが、そのためには自身の想いを言語化するスキルが必須となります」

 西木野真姫の話で恐縮だけれど、
 以前も言ったように「なろう小説」に挑戦し見事敗退。
 もし仮に彼女に「小説家になろう」の情報を教えて「何が受けるのか」アドバイスできるサポーターがいればどうなっていたかはわからない。
 何の事前準備もせずに「できるだろう!」と挑戦をすれば跳ね返されるのは当たり前。
 見た目簡単そうに「テンプレ」だとか「チーレム」みたいな単語でなろうの隆盛を説明している人がいるけれど、
 そんな単語一つや二つで大型投稿サイトの事情を説明できるわけがない。
 ことりのアドバイスにより、こうして海未から直接歌詞作りのコツを聞くことができて――何に代えても成功しなければならないという思いが?
 
「……?」
「箇条書きであってもメモのような雑文であっても、
 そうですね――ルーズリーフ表裏一〇枚分くらい用いて……? どうしました?」
「ううん、なんでもないのよなんでも」
 
 いきなり痛みがこめかみの辺りに生じた。
 針を突き刺されたような痛みが走り、私が感じたことがない偏頭痛というものかな? 
 思わず屈んでしまいそうなほど強烈な頭痛を覚え、借りたスマホを落としそうになってしまう。
 心配そうに見上げる亜里沙やことりやエヴァちゃんに笑みを作って頷いてみせ、
 海未の言葉をさらに促してみる。

「私の作る詞にはある程度のストーリーがあります
 また、ストーリーの起草となるものはたいてい”もしなにかがなにかであったら”であることが多いとされています」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/01(火) 19:04:54.42 ID:RtvT/NrY0
 ドリフのコントでもしも〇〇な銭湯があったらというのがあるけれど、
 私みたいなアラサーにも分かる表現だと「空を自由に飛びたいな」「はい、タケコプター」というのが分かりやすい。
 問題を抱えている誰かがそれを解消する為に行動するというのが物語の基本原則であり、それを突き詰めると「あれがああなったらいいのになー」ということになる。
 ただ、そんな物語にばかり触れていると「TRPG」みたいなものを体験する時に困ったことになってしまう「GM」はやらされてやるものじゃない。
 ――話がずれてしまったけれど、伝えたいものがあるなら、伝えられるようにストーリーラインを制作するのは良い手だ。
 その辺りはライターにも挑戦したツバサにアドバイスを求めるのも良いかも知れない。

「なにはどうあれ、浮かんだ表現を言語化するには翻訳が必要になります」

 とある曲の歌詞で頭に浮かんだことをそのまま伝えられたら、みたいなものがある。
 思っていることをそのまま言葉にすることなど、どんな優れた論者でもなしえないことであるし、
 それをまた大衆に伝えるとなるとさらに難度は跳ね上がる。
 想像したものをそのまま文章化しているように見える作家でさえ、
 頭から表現をひねくりだすにはそれなりにカロリーがいる、感覚でやってる人もいるけど。
 浮かんだものを見て分かるようにするためには翻訳が必要、海未も上手に言ったものだと思う。

「そのためにはひとまずアウトプットを重要視しましょう。 
 最初は難しいかも知れませんが、やはりとにかく量を重視するべきですね」

 海未が言うには最初の「START:DASH!!」の制作の際には、頭に浮かんだ表現をノート一冊分書き込みを果たしたみたい。
 スピーカー越しに聞いていることりが絶句しているので、海未の歌詞作りにかける情熱は他の二人には知る由もない内容であったよう。
 あっけにとられてしまうほど淡々と努力の量を言ってのける海未。
 私だって一応賢い部類に属する人間だと思うし、勉学に関しては多少なりとも結果を残した――ポカンとした表情を浮かべている亜里沙に抜かれたけれど。
 別に自信を深めて思い上がっていたわけではないけど、ある程度素養があって上手いこと歌詞作りもこなせるのではないかと考えた私の鼻をへし折ってくれた。

「また、敵を知りではありませんが
 伝えたい相手のことを知るのも重要です。
 どのような意図を含めたところで、相手が理解をしなければまるで意味がありません」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/01(火) 19:05:23.89 ID:RtvT/NrY0
 海未から発せられる言葉の一つ一つがボディーブローのように私の至らない点を打ち抜いていく

 ヘロヘロになりそうな言葉による衝撃と、先程来感じている頭痛がセットになってしまい、
 私自身が倒れそうになってしまう、慌てた亜里沙が椅子を持ってきてくれて腰掛けると身体の重さを感じ始めた――知恵熱か何かかも知れない。アラサーにもなって。
 絢瀬絵里の思い上がりを砕くと一緒に、改善するポイントがあまりにも多すぎて気落ちしそうになってしまう。 
 でも、負けるもんかって思って前を向き、真剣になりすぎたせいか目が霞む。
 ただ、これでやめるなんて至らなすぎて笑える。
 交流する機会を与えてくれたことりにもそうだし、
 おそらく”絢瀬絵里”と気がつきながらもアドバイスを送ってくれている海未にも。

「絵里、勉強家のあなたならば優れた創作物が
 優れた創作物を土台にし成り立っていることが理解できると思います。 
 ああ、いや、私の歌詞が優れた創作物かは別ですが――」

 やっぱり。
 ちょっと疲労を感じているせいか、
 海未が”しょうがないなあ”みたいな表情をして通話している姿が見える。
 その表情が楽しげであるのは”先輩”としていささか恥ずかしいコトではあるんだけれども、
 
「いつからバレてたの?」
「絵里なら呼吸で分かります――
 では、久方ぶりのあなたの本気を期待しています」

 通話が切れる。
 なんだかものすごいことを言われてしまったような気がするけれど、
 熱に浮かされたような情熱なのか、それとも疲労が蓄積されてオーバーヒートでもしたか、
 ごめんなさいちょっと寝るの一言を何とかして発して、私は意識を放り投げた。
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/01(火) 19:11:18.04 ID:RtvT/NrY0
というわけで、かよちんのアドバイスによる絢瀬絵里覚醒イベントは延期、
次回から海未ちゃん視点の物語に移ります。

亜里沙ルートの番外編で凛ちゃんに「なんでニコちゃんのモノマネが似ているの?」
みたいな台詞の伏線を今更になって拾い、意味がある設定も拾えてないですが頑張ります。
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/01(火) 20:37:59.66 ID:Joq9qytBO
モノマネスキルSやったか…
新年一発目はとても真面目な内容でなんか安心した
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/02(水) 15:50:22.94 ID:Jp+HBiIn0
 最近睡眠時間を二時間ほど割増で取れるようになりました――
 などと自慢をしてしまうと、とても不憫な人を見るような目で見られてしまいます。
 おかしいですね? 絵里ならばとても素晴らしいと「ハラショー!」という言葉を用いて喜んでくれるのですが。
 ここしばらく睡眠時間を削ってECHOのために駆けずり回っていたもので、
 それが誰のためでもなく私のためであるから協力もまるで得られず、
 ふと入ったロシア料理を出すお店で、ついついハラショーハラショーと一人で盛り上がっていたら、
 思わず声を掛けられてしまいそうになるほどしみったれた顔をしていたのでしょう――
 業界関係者だと名乗る女性に声を掛けられ、はじめこそ警戒をしていたものの妙に自分を分かりきった反応をされ愚痴を少々。
 勢い余って裏話まで暴露してしまって後悔した頃、自分にお手伝いできることはありませんかと同情を買ってしまいました。
 まるで絵里のように、こう、頼りなさかげんでも似ていたのでしょうか? 
 弱みを見せれば見せるほど、だいじょうぶですだいじょうぶですと元気づけられ、
 気分が良くなったころには、あ、もうだいじょうぶですとは口が裂けても言えない雰囲気になってしまっておりました。
 流れるままに事務所まで戻り、超常的な力でも働いたかのように「姫」と名乗る彼女は私の右腕扱いをされ、気がついたら社員のような扱いになっている。
 怪訝な点も数あれど、すべてを投げ出してしまいたいほど憔悴しきった私が、よもや「あ、だいじょうぶなんで、間に合っているので」と突き放すわけにも行かず、
 自分が苦手としている雑務を悠々とこなしているのを眺めながら、
 作詞活動やECHOの皆のレッスンメニューを作り上げている自らを俯瞰して見、
 ようやく絵里たちと戦える立場を勝ち得たのだと思います。
 準備が整ったと言っても半分くらいは自分の業績ではないのが難点ではありますが、とても胸を張って絵里と戦えますとなどとは言えませんが――
 もともと作詞家として参加していたアイドル活動は、有無も言わさない会社の期待も手伝い、雪崩式に仕事はどんどん増えていき――面倒事を抱え。
 気分が盛り下がり続けた日々もなんとか改善しつつあり、
 なんとなく希を彷彿とさせる声と仕草などを覚える”姫”の姿を眺めながら、
 これで居てもう少し絵里みたいに胸があればアイドルとしても注目を集めたに違いないと、自分のことを天高く棚に放り投げて思います。


 先日に珍しく休日をいただき、
 何もやることがない日々に呆然としながら、
 仕方なしに作詞活動をいたしました。
 しばらくホテルぐらしが続いてしまった故に自宅に戻った時には、
 まるで幽霊か何かを眺めるような目で見られてしまい、出戻りの姉にもこれ食べるあれ食べるとえらい親切にされてしまいました。
 あまりに下手に出るので、冗談で絢瀬絵里のなにか資料でもありませんかと言ったところ、
 わかったすぐに持ってくるという答え。
 姉が描いているのは「桜井綾乃」であり、あくまで「絢瀬絵里」をモデルにしたキャラであったはずですが、などと首を傾げて歌詞のイメージを固めていると、
 慌ただしく部屋にノックもせずに入ってきた姉が、出すわ出すわ盗撮とか切り抜きとかプリクラまで――確か絵里はプリクラは知らないと言っていたような?
 小柄な女の子とのツーショットであるとか、亜里沙と二人で取られた写真であるとか、
 μ'sに入る前の頑なな彼女そのままの凛々しい表情で取られたお宝――ああ、いえ、
 ええと……とにかくまあ、見ごたえのあるものを閲覧することが出来ました。
 私と姉との空気も和やかなものになり、絵里には感謝しなければなりません。
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/02(水) 15:50:52.19 ID:Jp+HBiIn0
 何故そんな物を持っているのかは問いかけなければなりませんが、際どい水着のコスプレの写真もあったので一応黙ります。
 成人向け雑誌を覗き込もうとしている中高生と同じ表情をしていると言われ「ノξソ・ω・ハ6」みたいな表情になったのはここだけの話です。

「へえ、プロデューサーかあ」

 出したくない自分を出してしまいそうになったので、
 代わりに仕事の愚痴などを少々――最近そればっかりですね?
 これが亜里沙や凛が抱えているであろうストレスなのかと思えば、辛いことばかりではありません。だいたい絵里で憂さを晴らしている点は頷けませんが。
 姉も一応社会人であり、機密事項をベラベラと他人に愚痴ったりなどしないと踏まえていろいろと話してしまいました。
 そもそもそんな友人がいないという認識はおそらく正しいとしておきましょう。

「今まで自宅に居て、少しばかり調子に乗っていたようです。
 社会人として働くというのは大変なのですね……」
「不慣れな点もあるししょうがないよ、くっすんもしっかりやってくれるだろうし」
「……くっすん?」
「なんとなくね、姫っていうとその子のことを思い出す、ていうか十中八九その子だと思う」

 仕事が優秀かつ、周囲から本名由来だという「姫」というあだ名で呼ばれているのは、
 元々声優として仕事をしていた楠川姫なる人物だということです。
 私に近づいてきた時点でμ'sの誰かしらの関係者であるとは推測されましたが、
 まさかアニメで放送されていたという「ラブライブ!」で東條希役を務めていた人物だとは。
 現在は何をしているのかわからなくて心配していたと姉も語り、詳しい経緯までは分かりませんが私の右腕としてしっかりと仕事をこなしてくれている以上、
 過去のことをとやかく言うつもりはありません、本来ならば細かい点まで気にするべきではありますが、彼女も姉も事情は教えてはくれないでしょう。
 不得手な仕事を抱えていた私に代わり、ECHOデビューイベント以降の仕事も持ってくる手腕には頷くしかありません。
 上役の評判も良く、デビュー以降は白紙だったスケジュールも徐々に会社のサポートを得られつつあります。
 ただ、アイドルたちのレベルが「Ordinary Days」とか「エス・ディー・エス」には遠く及ばないのは誰しも理解しているらしく、
 持って数ヶ月との評価が今後改められるかは彼女たちの頑張りと、私の作る曲次第でありましょう。
 歌詞作りのノルマが徐々に膨れ上がりつつあるのはご愛嬌ではありますが――
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/02(水) 15:51:21.73 ID:Jp+HBiIn0
「この、桜井綾乃抱き枕カバーというのは非売品ですか」
「ヒナが愛用している絢瀬絵里写真付き桜井綾乃抱き枕カバーなら持ってきてもいいけど」
「やめてください破廉恥です!?」

 姉の語る「ヒナ」なる人物が変質者と呼ばんばかりのレベルで絵里を愛好しているというのは、
 どうやって彼女に伝えればいいでしょうか――とても判断に困ります。
 朝起きたら絵里の写真に挨拶を交わし、朝食は彼女の写真と一緒に採り、仕事の前には友人の「あやせうさぎ」なる声優と一緒に動向を探り、
 淫靡なテキストを打ちながら先の彼女と絵里はどんなイメージでセリフを言うかディスカッションを交わす、とても姉の語る真っ当な社会人とは思えません。
 ただ、その妄想が「ダイヤモンドプリンセスワークス」を作り上げたのは……なにか、神様の悪戯でもあったのでしょう、それか奇跡か何かが。



 リフレッシュも完了し、手荷物の中にはお宝写真を数枚忍び込ませ、何食わぬ顔して出社します。
 凛々しい顔つきも作り上げ、徹夜でダイプリをプレイしたことなど微塵も見せぬよう、
 それどころか上機嫌であるように振る舞ってみせます。
 体よくアイドルたちが揃って歌う歌詞も完成したところではありますし、
 創作が調子よくてメンタル面でも上向いてばかりとアピールするには結果を出し続けています。
 見る人が見れば、欲に従った結果細かいことがどうでも良くなったとすぐにバレるでしょうが
 そこまで敏い人間がこの事務所にいるとは思えません、おそらくだいじょうぶでしょう。
 ”姫”と合流し、トレーニングやレッスンを重ねる皆の様子を見に行きます。
 自分たちの評判の悪さは彼女たちにも伝わっているでしょうが、その点は千歌のフォローによって事なきを得ています。
 リーダーシップを持って他のメンバーの指導にもあたり、ムードメーカーにもなっている。
 最初こそルビィが実力も手伝ってセンターに居たものの、徐々にそのポジションが千歌に移行しつつあるのはECHOの危うさとも言えるでしょう。
 繰り返しますが、実力や経験で言うのならば理亞と共に居たルビィが適しています。
 綺羅ツバサや月島歩夢や鹿角聖良といった、絵里と同格かそれ以上の動きをしていたトップアイドルの事情も把握しており、
 自分たちがどれほど至らない実力の持ち主であるかを知っているルビィの奮起には期待したところではあります。
 また、千歌が高坂穂乃果を模して活動をしていて「穂乃果ならこうする」というイメージのもとで動いている以上、それが露出した時にどんな反応をされるか。
 千歌のフォローをルビィに任せるには荷が重く、同じアイドルにない私や姫の意見も耳には届かないでしょう。
 あくまで私も過去のスクールアイドルμ'sの一員でしかなく、
 今のアイドルに向けて言葉を発するには残念ながら説得力が足りない。
 危うい表情の上で踊っているかのようなグループがもう一皮むけるためには
 誰かしら協力者を得たいところではあります。
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/02(水) 15:52:01.92 ID:Jp+HBiIn0
 私たちのデビューイベントで披露するのは、
 過去にA-RISEが披露して大ヒットした曲となっています。
 真姫と絵里と一緒に作った曲ではないのは残念ではありますが、
 あの曲は思い入れもあるので指導がいつの間にか体罰に代わってしまいそうですし。
 ただ、トップアイドルA-RISEのパフォーマンスと自分たちのレベルは埋めようもなく、
 誰もが知っている曲を披露して、印象に残してもらおうという魂胆しかないのは頭痛の種。
 一番最初に姫がECHOの面々のレッスン風景を眺めながら、A-RISEと同じ曲を歌っているとは思えないとポツリと言い、
 それが本番直前の今でさえ覆すことが出来ていません、残念ながらA-RISEがアイドルなら私たちはお遊戯レベル。
 私自身も姫が「A-RISEのダンスを見ました?」と問いかけてくるまで、埋めようもない差に気づくことがなかったのは恥ずべき部分ではあります。
 生でA-RISEの本気のパフォーマンスを見たことがあるという彼女も、どうですか? と千歌に問われて反応に困っていたくらい、まさか事実を教えるわけにも行きませんし。
 センターがいつの間にか千歌に代わっていたのはアイドルたちの都合もありますが、ルビィが我に返り始めたのも大きいのでしょう。
 詳しい経緯は不明ですが、理亞や絵里への対抗意識も手伝いハニワプロから出たものの、二人がホームページにアップした動きを見て、
 自分のことを本気で叩き潰そうとしているのを理解したのだと思います。
 マルやヨハネとは連絡を取ることに成功したようですが、理亞からの返事はいまだに来ていないようです。
 喧嘩を売った相手に助けを求めるという点は首肯し難いですが、同じく連絡を取るのならばダイヤにすればいいとアドバイスを――送っても無駄でしょうか?
 成長が止まってしまったルビィに取って代わり千歌もセンターとして、皆のモチベーションの向上に一役買っていますが。
 残念ながらA-RISEのセンターだったツバサと比べれば、トップアイドルとスクールアイドルほどに差がある。
 一度、私に千歌がアドバイスを求めてきたことがありました。
 珍しく絵里という名前を用いて疑問を呈したので、穂乃果や私以外のμ'sの面々の名前を把握していたことをいささか驚きながら何事か尋ねてみると、
 絵里が高校時代やそれ以降に行っていたトレーニングについての問いかけでした。
 最初はおべっか取りでもしに来たのかと思いましたが、絵里のことを語るならばおべっかでも構いません。
 そう考えてたいして相手の動向も把握せずに何食わぬ顔してこんな事をしていたと言うと、
 分かりました! 参考にします! との返答。
 彼女がどう考えたのかまでは分かりませんが、それ以降も穂乃果のことばかり語っているので、考慮したということはないのでしょう。
 自分たちのデビューイベントが業界関係者のみに留められたことも危機意識を持っているのは、私やルビィくらい――皆が焦燥感を抱かないのは千歌の手腕としておきましょう。
 盛り上げるのも大概にせねば、ルビィのように最近ヨハネとばかり連絡を取っていて、気がついたらいなくなっている――なんてことにも。
 ルビィが自らの行動に疑問を呈してしまうほど、明るくカリスマ性を発揮し始めた千歌が
 「高坂穂乃果」のことしか考えていないというのは、自分の先走った行動のゆえの結果であるのか、それともこの世界がなにがしかおかしいからであるのか。
 ステージの下から姫と一緒にECHOのデビューイベントを眺めながら、
 世の中うまくいくことばかりではないけれど、うまくいくことだってもちろんある。
 「あやせうさぎ」なるキャストの妙に絢瀬絵里を把握したボイスを着信音に替えた園田海未は、そんな事を考えてしまうのでした。
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/02(水) 15:58:41.76 ID:Jp+HBiIn0
改行処理がちょっと上手に行っていないようです。
専ブラとかサイトで見ている方にはちょっと見にくいかも知れないので、
今後改められるように努力します。
かといってスマホから見やすいかと言うと、おそらくそうではなく。
うまくいくことばかりではないですね。

海未ちゃんのお姉ちゃんはさりげなく本スレで初登場ですが、
元アニメーターで現在ダイプリの原画家をしているくらいに把握しておいて頂ければ。
東條希さんの出番がベルちゃんや、ことりちゃんに取られただけではなく、
お姫ちんにまで先を越されてしまいましたが、名誉挽回する機会は……あ、あると思うんです?
では、また次回。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/02(水) 18:19:40.96 ID:9Jry1be/O
くっすんが有能なのなんか面白い
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/03(木) 19:22:46.96 ID:tzFFkVUi0
 ECHOの皆のデビューイベントは、おおかたの予想を裏切り盛況に終わりました。
 少なくとも私の周囲ではひいき目に見なければとても成功とは言えない出来――
 などという陰口と言いますか、グループの状況を的確に捉えた評判ではありましたし。
 ライブステージが終わった直後には拍手も起こり、
 少なくとも今後に期待できる結果を残した彼女たちには私からも万感の拍手を送りたい。
 それでもなお、着実に評判を高めつつあるハニワプロの――絵里たちには警戒をしなければなりません。
 絢瀬絵里というイレギュラーが加わってもなお、優れた指導者でも付いているのか、
 グループに足並みの乱れは見られません、彼女のパートナーである鹿角理亞も
 垢抜けたと表現するべきか、別人のように優れた動きを発揮し、
 ルビィがむしろ足かせだったのではないかと考えてしまうほど明るく輝いている。
 絵里が指導していてそうなったのならば、彼女の指導を受けたことのある私でも分かることがある。
 元より鹿角理亞という人間は姉である鹿角聖良よりも、もしかしたら綺羅ツバサよりも
 類まれなるポテンシャルを持ち合わせていたのかも知れない。
 ですがあいにく才能や実力で人気が出る世界ではありません。
 私たちに勝ち目はまだある、今回のライブのMVPと呼ばなければならない楠原雅――
 高海千歌が実力を発揮するくらいは予測できた私も、
 彼女が周りのメンバーが萎縮してしまうほどに先走ってしまうとは思いませんでした。
 隣で見ていた姫がまるで成長してない! と思わず嘆いてしまうほど。
 千歌一人に責任を押し付けるわけには行きません、彼女が先行して動かなければならないほどに実力の差は歴然だったのが悪い。
 フォローを果たすべきルビィも気が抜けてしまったように動きが悪かったので、
 正直最初の曲を披露し終えたあとには頭を抱えたくなるほど後のことが心配になりました。
 一人だけレッスンの時もやる気があるようにも見えませんでしたし、
 周りのメンバーとの交流などもってのほか、何故メンバーに選ばれたのか疑問を呈してしまうほど彼女は浮いていました。
 本番になって本気でも出したのか、彼女自身になにか考えでもあったのかは分かりません。
 雅が動き出すと同時にルビィも優れた動きを発揮し、グループとしてまとまりができた。
 見た目には千歌が先行して目立ったようにも見えますが、
 彼女を支える屋台骨ができた心持ちがして、私自身にも行動してきた事が報われた気分です。
 曜や梨子といった彼女の友人たちにすらそっぽ向かれてしまった彼女には、
 μ'sでもAqoursのメンバーでもない誰か支えとなってくれる人間が必要――
 目を掛けたわけでもない雅がそこにおさまるのかだけは不安材料ではありますが……。
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/03(木) 19:23:15.41 ID:tzFFkVUi0
 今後が心配レベルから期待しても良いのではレベルに至ったECHOは、
 ひとまず控室でメンバーのみの懇談会を開くようです。
 客観的に見ても成功を収めたと判断できますし、
 彼女たちの喜びは私が抱えているものとは比にならないでしょう。
 邪魔するのも悪いですし、後で一言くらい挨拶でもできれば御の字。
 片付けなどを中心とした後処理は仲間たちに任せ――ん? 視界の端にヒフミたちが?
 いえ、そのようなことはありません。
 彼女たちはオトノキの面々の中でも有数の勝ち組――廃校問題で一番得をしたのは、
 今もラブライブの運営で重鎮となっていることりの母かヒフミトリオ。
 彼女たちの友人である穂乃果にすら「μ'sとはいったい……?」と、
 テレビに出て成功の秘訣を語っているヒデコを観て言ってしまうような。
 友人であるヒフミたちが得をするのは私としても歓迎したいところですが、
 ことりにすら「風見鶏」と表現されてしまう理事長が未だに良いお給料を貰っているのは、
 本当になんとも言えません、あの方は問題しか起こさなかった気がするんですが。
 
「姫、しばらくしたらECHOの皆に挨拶の一つでもしてきますが」
「海未さん、お宮はあんまり褒めないようにして下さい
 あの子は調子に乗るとたいがい失敗するので」

 雅のことをお宮と表現するのはどんなものなのでしょう?
 自分の上司がそう呼ぶのでと説明しましたが姫のことを「お姫ちん」雅のことを「お宮さま」
 そして栗原陽向なる人物を「おヒナさま」と呼ぶのは実に変わっている。
 どんな人物なのか問いかけてみると、姫自身も変わっている人と例えてくれました。
 ただそれ以上は尋ねてみてもはぐらかされてしまうので、
 誰と似ているのかだけヒントとして聞いてみると。

「マナマナ」
「あ、聞かなかったことにしますね、ええ、私は何も聞いていません」

 依存癖と言えば聞こえが良い方、
 ヤンデレと例えられてもむしろ好意的。
 一時期多くのキャラクターが誕生し隆盛を極めた彼女たちも、
 結局デレてねえじゃねえか! と皆が気づいたのでしょう。
 ただのサイコパス、クレイジーサイコレズとキャラクターは過度に過度に表現され、
 いつの間にか終焉を迎えることはよくあるものです。
 ちなみに私は幼なじみがメインヒロインでないとプレイしません。
 いいじゃないですかゲームの中でだけでも夢見たいんですよ!
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/03(木) 19:23:53.92 ID:tzFFkVUi0
 どうでも良い妄想をしながらECHOの控室へと向かい、
 ドアを少しだけ開けて中を覗き込むと皆が和気藹々と話している様子でした。
 私が登壇して堅苦しい雰囲気にしては可哀想であるので、
 自分に気がついた雅とルビィにだけは目配せをしておきます。
 彼女たちが仲が良いというのは知らないことではありましたし、
 真ん中に居て一番喋っている千歌がこちらに気がつかないのは残念でしたが、
 楽しそうにしている姿が”穂乃果”を意識しないでいたみたいであり、
 以前話したアイドルは嫌いというのは本音ではないのかも知れません。
 自嘲気味にAqoursは何も残すことは出来なかったと言いましたが、
 あなたが生きている以上、これからだって何かを残すことなどいくらでもできる。
 人生の先達として私自身などが役に立つのであれば、いくらでも尋ねていただきたい。
 もしかしたらこれから、穂乃果とだって和解できるかも知れない。
 彼女が望むかは分かりませんが、Aqoursだってμ'sのようにみんな仲良くいつまでも――

「……?」

 ふと、近い将来に誰かがいないμ'sの姿が見えた気がします。
 一時的に誰かしら揃わないことがあっても、機会を持てば9人は必ず1つになる。
 まったく、ふと不安を覚えたからと言って見えもしない将来に怯えることなどないのです。
 たしかに今の私の前には問題が山積みと言っても良いでしょう。
 ECHOのことや千歌や穂乃果のこと。
 私自身が今一人で問題を抱えてしまっていること。
 そして問題の解決には時間が多くかかり、解消するすべはなかなか持ちえないこと。
 μ'sの皆と仲違いをしてしまうような心が冷え切る経験をこれからしなければならないこと。
 高校時代の絵里がどれほど自分を抑えて活動をしていたかよく分かるというものです。
 彼女の抱えている悩みはついぞ聞くことができませんでしたが、
 理解ができないと突っぱねてしまったのはいまさらになって後悔をしています。
 絵里は強い人間です。
 目的のためには平気で自分の精神をへし折ってくる。
 無理は重ねれば重ねるほど平気になっていくという考えでもあるのか、
 楽な道と苦労を重ねる道があれば何食わぬ顔をして苦労する道を選び取る。
 私自身もこの年齢になってようやく、楽な道を選べば堕落するだけだと気がつきました。
 喉元を過ぎれば熱さを忘れるというわけではありませんが、
 苦しみというのは乗り越えれば自分の糧となるというものです。
 そしてまたその苦しみというのもいつまでも持続するものではなく、仲間がいれば乗り越えられる。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/03(木) 19:24:28.27 ID:tzFFkVUi0
「今は孤独でも、いつか必ず報われるでしょう――
 ああ、いえ、今まで問題を見て見ぬふりしてきた報いが私の苦しみなのか――
 因果応報とはよく言ったものですね」



 デビューイベントの打ち上げをするという誘いに応じます。
 スタッフの皆と交流するのはとてもいい機会です。
 視点も改めることができますし、会話が弾めば嫌なことも忘れられる。
 楽しく騒ぐというのは不得手ではありますが、
 社会人にもなって一方的に酒の席で騒ぐということもないでしょう。
 絵里や真姫あたりとお酒を嗜んだりすると羽目を外しがちではありますが、
 あんなことはおそらくないのです、ええ、たぶん、おそらくは。
 しかしながら私の魂胆は見事に空を切り、姫によって強制的に腕を引っ張られ、
 有無も言わさずにタクシーに乗せられました。
 これは園田海未拉致事件であり、アラスカあたりにオーロラを観に連行させられる。
 もしかしたらこれから向かうのは北海道の十勝平野かもしれない――
 車は有無も言わさずに東京の入り組んだ道を進み、
 落ち着いた雰囲気の東京独特と表現できるような下町を通り抜け、
 土地代が私の考えつかぬほど高い一等地を直進し、
 言い得ぬ気分で隣で腕を絡め取っている姫の顔を覗き込んでみると、
 無防備な可愛げのある表情をしてすやすやと寝息を立てていました。
 これでは振りほどいて逃げ出せば罪に問われるのは私になってしまいそう――
 溜め息を一つついて、どこかに向かうタクシーから流れる街の景色を眺め、
 いつの間にかウトウトと。

 このような場所に来た記憶がないと思わず逃げ出してしまいそうなほど、
 古風な料亭へとたどり着きました。
 政治家が接待でも重ねられてそうな大きな和風建築で食事をするには、
 自分自身がどれほど金額を支払えばよいのか想像もできません。
 姫も緊張している様子で私の右腕に抱きつくようにしているので、
 絵里ではありませんが胸を張って後輩の前でみっともない姿など見せないよう。
 いえ、別にバストサイズを過大申告するためにしているのではありません。
 従業員の方が「哀れですね……」と言わんばかりに観ていると被害妄想に包まれそうになりましたが――
 案内されて辿り着いた個室には顔見知りの三人が待ち受けていました。
 思わず目を見開いて彼女たちを眺めてしまい、
 なぜ此処に連れてきたのかと咎めるように姫を睨めつけてしまいました。

「まあ、座りなさいよ海未、あ、くっすんはこっちね」

 矢澤にこ、小泉花陽、星空凛。
 μ'sの一年生トリオと誤解されるにこりんぱなの三人が――
 おそらく私に何事か言おうとしているのを肌で察し、思わず天井を見上げ――
 なぜだか分かりませんがバカが見ると書いてあり、涙を流しそうになりました。
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/03(木) 19:30:19.04 ID:tzFFkVUi0
カラオケDAMにも虹ヶ咲の面々の曲が入り、
天王寺璃奈ちゃんの曲を「ドキピポ☆エモーション」ではなく「ハメドキ☆エモーション」
と覚えていて、よく考えたらそんなタイトル付けるわけないですね。

明日はサンシャインの劇場版の公開日ですが、
作者は来週の木曜日に観に行けそうです。
ネタバレをされてどうにかなる脚本だとは思わないですが、
そういうのが嫌いな方もいるかも知れませんので――

ようやく鹿角理亞ルートのラストシーンも決まりましたが、
物語は佳境すら迎えていない始末、明日までにこのルート完結する予定だったんだよな?

では、また次回です。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/03(木) 20:21:26.82 ID:lkXX4CDAO
そうかルビィは何も気づいてないのか…
ECHOの今後恐ろしすぎるけど気になるなぁ
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/04(金) 01:38:27.80 ID:mouLap0X0
今さらだけどBiBiとかユニットは存在しなかった世界なのかな
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/04(金) 19:49:40.30 ID:59pKduCm0
申し訳ありません、今日の更新はお休みです。
大晦日から五連勤というとても素敵なシフトも終わったので、これからがんばります。
なお、ほのりんぱな会談は都合上没となり、
海未ちゃん視点の話以降は歌詞作りをするとか、ステージのための鍛錬と称して
色々なキャラクターとデートイベントが行われます、エロゲーみたいに。
理亞ちゃんだけ二回デートイベントがある予定です、ヒロインですから。

初回はエヴァちゃん、二回目は理亞ちゃん、それ以降はせつ菜とか、ツバサとか、
真姫ちゃんとかダイヤちゃんあたりもできれば。
デートイベントの更新のさなかに海未ちゃんルートの前日譚を投稿できればと思います。
設定が今までのアラ絵里とは違うので早めに書いて、できればサラッと流して頂ければ幸いです……。
明日には握力が戻ってると信じて。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/04(金) 20:19:51.27 ID:/ME0HuLaO
エロゲみたいにって事はデートの後にはもちろん……期待して待ってる
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:32:23.19 ID:PK/oh1WM0
 天井に落書きがしてある経緯を問いかけるのはマナー違反である気がします。
 落ち着いた雰囲気のある料亭の中の個室において、
 わざわざ私に仕向けたいたずらが施してあるという状況はコメントに困りますが、
 ここ最近まともに食事をしてこなかったことも手伝い、
 どこかから香っていく料理の匂いは鼻腔をくぐりお腹がなってしまいそう――
 彼女たちからどのような発言がなされるかという不安もないではないですが、
 姫と一緒に立ち尽くしているのは彼女たちも困ってしまうことでしょう。
 何かが仕組まれている雰囲気を感じますが、改善する手立てもありません。
 事前準備もなく誰かに何事かを説明するのは極めて不得手ではありますが、
 覚悟を決めて自身の思いの丈をぶつけてしまうしかありません。
 
「では、全員着席したわね? まず海未、おつかれさま」
「――久しく労られていなかった気がします、ありがとうにこ」

 礼と感謝は人としての礼儀。
 四角四面な堅物で融通の利かない私でもねぎらわれれば安堵してしまうのは常。
 にこが咎めるような視線を姫へと向けますが、彼女は申し訳なさそうに顔を伏せるのみ。
 何事か目的があり私へと近づいたのならば、目的を優先して他が蔑ろになるのは
 私自身にもあり得ることです、誰しにもあると断言しても良いでしょう。
 そのあたり、人との交流範囲が広いにこならば器用にこなせるかもしれませんが、
 誰しもが同じことができるというわけではありません。
 もう一度にこに礼の言葉を告げると、渋々と言った表情のままにこは口を開きました。

「まずは謝罪、あなたにばかり負担をかけた。
 ここまで手を貸してこなかったのは、手抜きや横着と言っても過言じゃない
 海未にはいくら罵倒されても構わないわ」
「皆忙しかったのでしょう? それに自分が勝手な行動をしていたのは承知しています
 それに罵倒には慣れていません、そういうのはことりに任せます」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:33:00.00 ID:PK/oh1WM0
 謝罪行脚にまわったことりも心の黒い部分まではなかなか改められません。
 私自身も彼女には劣りますが創作をしているので、
 黒い部分というものがコト”創作”をする上に適しているのは言うまでもない。
 聖人君子のような善き人が創作が長続きしないというのは、
 清濁併せ呑むような豪胆さが足りないからと断じることも出来ます。
 人として優れているクリエイターと呼ばれる人が居ないというのは、
 常人ではほぼ理解できないことではあるのですが。
 しかしながらにこのファッションサイトの人気モデルが飛び出してきたようなコーディネイト。
 自分のそこにあるものを着てみましたと言わんばかりの服装とは雲泥の差です。
 凛や花陽も気合の入った服装をしているのに――せめて事前準備を通告してほしかった
 というのは私の至らなさの象徴であるのでしょうか?

「私自身も協力するつもりはなかったの、正直勝手にすればって
 でもそれは本当にしょうもない自分勝手な思い上がりだった
 μ'sがAqoursというユニットを生み出したのならば
 私たちがみんなで手を取り合って何とかしなければならなかったのよ」
「繰り返しになりますが、勝手な思い上がりをしているのは私の方です
 にこも花陽も凛も何も悪いことはしていません」
「悪いことはしていなくても、謝らなければならないことってあるものよ
 だから海未も謝罪の言葉は受け取っておいて、無料だからさ」

 懇切丁寧に――武道に精通しているかのようなにこの礼。
 芸能界を引退したあとすぐに就職活動を始め、働き先が引く手数多だったのは、
 基本的に礼節が整っているからなのでしょう。
 凛や花陽の礼には謝罪の想いが強すぎて礼が含まれていないのは難点ではありますが、
 それでも自分に本当に謝りたいという気持ちは十二分に伝わってきました。
 あのように頭を下げられる謂れなど本当に存在しないことではありますが、
 こちらもきちんとした態度で応じなければなりません。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:33:39.00 ID:PK/oh1WM0
「三人ともありがとう――そしてごめんなさい。
 正直絵里しか頼る気がありませんでした」

 私の言葉になんとも言えない表情を浮かべる三人。
 彼女たちの心のうちは分かりませんが、態度はそんなに絵里が好きなのかと言わんばかり。
 絵里の気を引きたいがために自身に恋人が居たことがあるなどと吹聴し、
 経験したこともない話を酒の席でしてしまったのは――今は関係ありませんね。

「じゃあ、凛、ここに私たちがいる理由、
 そして、私たちが海未に協力するってことを伝えて」
「うん」

 思えば凛が直接私に本音を告げる機会は思いの外少なかったように思います。
 元より好きな人にはすごく尽くすタイプで、献身的な態度を取る凛に対しては、
 私自身もそのようにされる謂れはないからと好意を遠慮していた側面があります。
 凛の好意に応えるつもりがなかったと言えばそれまでではあるのですが、
 私自身の度量の狭さであるとか、心の余裕がないことも手伝って彼女には大変申し訳無いことしました。
 いつだったか真姫が言っていたことがあります。
 常々μ'sの一年生組であるとか、BiBiとか、ソルゲ組と呼ばれるメンバーとなにかしたい、
 できればお酒も飲みたいと語っている彼女ではありましたが――
 ここにいるにこや凛や花陽はそんな真姫の酒癖の悪さを知っていて、できればお酒の席だけは遠慮したいと。
 μ'sの中でも有数の常識人であり真面目な彼女と交流するのは遠慮しない私たちも、
 お酒に弱い彼女の相手だけはしたくない――酒を絵里くらいしか相手にしてくれないのは、
 吐瀉物を顔から引っ掛けられてもそんなこともあるかで済ませる彼女の度量の大きさが――
 ああ、いや、元からいろいろなネガティブな感情に鈍いというのもあるのかも?
 話はズレましたが、恋人ができない件について真姫が語るには、
 凛や花陽は相手に尽くして何も返ってこなくても平気な側面があるからだそうで。
 私の前で申し訳なさそうにする凛が私に冷たくされるような態度を取られても、
 自分が好きだから相手を大切にするという甲斐甲斐しい姿勢の故に
 今もなお園田海未というポンコツを相手にしてくれているというのは――なんと反応をすれば良いのやら。

「先立って穂乃果ちゃんとかよちんそして私の三人で話したの
 海未ちゃんのこと、絵里ちゃんのこと、μ'sのこと……いろんなことを」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:34:32.68 ID:PK/oh1WM0
 その現場を用意したのが東條希であったというのは、
 私がツッコむべき問題ではないのでしょう、どうせなら彼女も同席をさせれば――
 ほのりんぱなというエンゲル係数が高くなりそうな組み合わせの懇親会は、
 お酒を頼っての本音の発言をぶつけあう機会もなく、
 振り返ってみれば平穏な雰囲気のままで言葉をかわし合って楽しかったという印象で。

「海未ちゃんのことはひとまず後で。
 先に絵里ちゃんのこと――
 私やかよちんは絵里ちゃんなら問題が起こってもどうにかしてくれるよね?
 って思ってたの、亜里沙ちゃんやツバサさんがしっかりしてくれているから、
 何かあったところで絵里ちゃんは困らないって」

 穂乃果には私と絵里が対立行動を取るのは伝えていませんでしたが、
 おそらくおせっかいな――雪穂あたりでしょうか? 亜里沙と繋がりのある彼女なら、
 動向を誰かしらから聞いて……いや、ダイヤあたりも雪穂とつながりがありましたね。
 よくよく考えてみれば私の行動が穂乃果に伝わらないと考えるほうがおかしい。
 頭を抱えてしまいそうなほど自分自身の迂闊さに落胆してしまいそうでしたが――

「でも、穂乃果ちゃんは言ったの
 もう、絵里ちゃんを頼りにするのはやめようって、ことりちゃんにも言ったって、
 Aqoursの千歌ちゃんみたいに、μ'sに囚われてμ'sの絢瀬絵里としか見られない
 絵里ちゃんを何とかして救ってあげようって、可哀想だって」

 バールか何かで殴られたような衝撃を受けました。
 思えば、私が絵里を頼りがちにしてしまうのもμ'sでの彼女の態度がきっかけ。
 元よりスクールアイドルμ'sが存在しなければ、私と絵里が交流する機会もなかったでしょう。
 穂乃果自身もいざとなれば絵里が何とかしてくれると考えているフシがあり、
 私自身もそれを認知していて、だからこそ絵里が立ち上がれない時に穂乃果をフォローできる人が誰もいなかった。
 絵里が落ち込んだ時期と穂乃果が落ち込んだ時期が同じだったからこそ、
 私たちμ'sとAqoursとの距離が開いて今もなお同調しないでいるのではなかったのか。
 そしてなにより、私自身に何かがあってもハニワプロにいる絵里を頼れば、
 Aqoursとμ'sの両者の交流は十分に成功するなどと考えていたのではなかったか?   
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:35:03.96 ID:PK/oh1WM0
「一度ね、真姫ちゃんと喧嘩したことがあったの」

 凛が躊躇うように口を閉ざして、それを補うように花陽が口を開く。
 彼女が語るには一度”絵里にとんでもない発言”をしたことがあり、
 知った真姫が激昂して胸ぐらをつかみあげられんばかりに怒り、激しく怒鳴りつけられたと。
 西木野真姫という人間が怒りに震える機会というのはさほどなく、
 胸に熱いものを持っていたところでアピールすることも表に出すこともなかった。
 みんなと仲良くしたいということでさえ遠慮して口を閉ざしてしまうような彼女が、
 激しく怒りに震えるとはどんな発言だったのか、ただそれを聞くのは憚られました。

「私ね、自分のアドバイスでA-RISEのみなさんや、凛ちゃん、歩夢ちゃんとか
 聖良ちゃんがね成功していくのを見て、自分の審美眼や感覚っていうのが
 優れてるなって思ってたの、ううん、思ってたことに気づいてなかった」

 花陽自身が語るには問題があっても自分が本気を出しさえすれば解決できると。
 たしかに小泉花陽のアドバイスは多くのアイドルたちに信仰され、ECHOでも
 彼女のアドバイスを心待ちにしている人間がいるのは承知しています。
 有益な助言により様々なアイドルが成功したのは事実であり、
 その点については疑いようもない。
 ただ、そんな彼女も就職活動に失敗し続けることになった。
 ニートだった絵里と飲んだ際にも花陽が心配と言っていて、
 つい自身の就職先を探すのが先決では? なんて告げて黙らせてしまったけど。
 
「私ね、自分が優れてるって思っていたみたいなの
 おどおどして何も取り柄が無いって嘘だったの、自分でも気づかなかった
 穂乃果ちゃんに言われて……私は凛ちゃんでさえ、思いのままに動かしてるって
 大切な幼なじみである凛ちゃんも良いように動かしてるって。

 ショックだった、卑しい自分に泣きそうだった。
 そんなとき真姫ちゃんの言葉の意味に気がついたの」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:35:46.07 ID:PK/oh1WM0
「なんと告げられたのですか?」
「自分と親しい人が、自分の発言を何でも許してくれるだなんて思わないでって、
 相手には相手の人生があって、価値観も違うまったく違う人間だって

 恥ずかしいよね、私まったく気がつかなかったの」

 凛の背中を追いかけ続けた花陽にとって、
 μ'sに入ったというのは凛の背中を追い抜いた初めての経験だった。
 凛がもとより花陽のために心を砕いて自分の人生ですら投げ出そうとするのは、 
 絵里が一度、凛に告げて本気で否定されてしまったことがある。
 私自身も絵里の発言を聞いて疑わしいと思ったくらいだし、
 今になって思えばそうであったのかも知れないと今になって思う。
 小泉花陽という少女を星空凛が常に支え続けているという発言を絵里が発し、
 そういえば穂乃果一人が反論も同意もしなかったのではなかったか?

「花陽、ではなぜ、絵里ではなく私に協力を?」
「凛ちゃんを支えたかったの、凛ちゃんの意志を大事にしたかった
 海未ちゃんに協力したいっていう凛ちゃんを、私自身の意志で支えたかったから」

 元々穂乃果を交えた話し合いで園田海未という人間に好きにさせよう――
 協力もしないけれど、かといって見捨てたりすることもない。
 その合言葉のもと凛は私への協力を断り、花陽は少し手伝う程度に発言を留めた。
 穂乃果に何があったのかは私自身は知らない、
 おそらく発言をなかったことにしたいほど慟哭し、花陽や凛に辛い事実を告げてまで
 自分の意志を押し通そうとする何事かの経験があったのだと思われます。
 それは今まで遠慮して本音を言う機会もなかったことりにまで意志が通され、
 彼女は謝罪行脚をしてまわるという経験までした。

「穂乃果ちゃんは言ったんだ、自分たちがね成長した姿を見せて
 絵里ちゃんを安心させてあげようって、絵里ちゃん自身のことを考えさせてあげようって」
「凛は……なぜ私に協力を?」
「海未ちゃんの事好きだし、私って思いの外尽くすタイプみたいで
 気がつかなかったけど……できれば好意に答えて欲しいなーって身勝手な理由」
「……感謝します、凛、花陽、答えはこれから……そうですね、全てが終わった後に」
「うん!」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:36:16.31 ID:PK/oh1WM0
 人の好意に応えることが出来ないハーレム系ラノベの主人公になった気分です。
 考えを保留し、ややもすれば私が想いに応える気がないのも承知した上で凛が協力してくれるのは如何ともし難い。
 一度真面目な懇親会は取りやめ、出てくる料理に舌鼓。
 空腹では考えもまわらない、思いのほか疲労している自分にも気がつき、
 にこがこの場になぜ参加しているのかという問いをしなかったのを思い出しました。

「すみません、ニコが協力してくれる理由を聞いていませんでした」
「恥ずかしいことに、私も気がつかなかったのよ――絢瀬絵里が自分の想定外に
 μ'sの中心にいるっていう現実に」

 ニコ自身が忙しいというのもありましたが、
 私や真姫といった面々とは違い、希やにこは一時的に絵里から距離を取りました。
 
「あいつ、学生時代だった頃からツバサさんに付き合って遊び歩いて、
 お酒を飲んだりするようになってからは飲み会も主導したでしょ?
 腑抜けたって思ったのよ、絵里は変わったって、正直がっかりしたって」
「……」

 落胆をするということは、元よりにこが絵里を高く評価していたことの証左。
 絵里自身が撒いた種とは言え、高校時代のクールな絢瀬絵里を知っている人間が、
 変わったと評することは何の不自然な理由もない。
 真面目な性格のにこがニートをして働く素振りすら見せない絵里を悪く言うのは、
 仕方ないと言うよりも当たり前です。
 本当に見た目で言えば、家でのんびりして何もしてないようにしか。

「気づいたの、たまにお酒を飲むと……あいつ、私のこと妙に分かってるのよ
 どこで何をしてて、どういう生活を送ってて、ほぼほぼ把握されてる。
 それが私一人ならともかく、μ'sのみんなやツバサさんのことも」
「そういえばそうでしたね? 見合い話の件は知らなかったですが」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:36:43.95 ID:PK/oh1WM0
 あれは希ですら知らない案件なので――絵里が把握していなくても仕方ないのです。
 気づきませんでしたが、自分が伏していた情報もああそうと言わんばかりに反応をして、
 驚きもしないのは感覚が鈍いのだとばかり思っていましたが。
 μ's以外の人間に関して情報を把握していなかったのはご愛嬌ですが――

「まさか!?」
「絵里にLINEを送ると、だいたい数分で返ってくるの、あいつがそこまで考えてるとはね
 思わないのよ、でも、思うしかないの、μ'sの動向を常に警戒してたって」
「いや、まさか……遊び歩いた結果ではないのですか?」

 ニコの結論が信じられません。
 確かにμ'sの誰かと飲み歩いたり、交流を果たせばその人物と親しい誰かしらの情報が手に入るのは確実。
 絵里が動向を探るために飲み会を開いていたというのは
 流石にニコの早とちりと言いますか、時期尚早な結論と言いますか。

「海未は経験がない? 自分が悩みとかポロッと言って
 いつの間にか絵里が私たちの悩みすら記憶してなかったこと」
「……あります、絵里に記憶の不備があると疑ってしまうほど」
「希が白状したわ、あいつ、ニート時代も自分の就職の前にね
 私たちの悩みを解決しようと動き出すんだって、
 絵里は人を頼るすべを知らないから――亜里沙ちゃんも働いているし、
 私たちも忙しいじゃない? だからね、
 絢瀬絵里が一人でなんとかしようとしているってことに最初は誰も気がつかなかった」

 ではなぜ希がその動向を把握しているのかと首をひねると、

「A-RISEが実力通りに売れて、でも案外ツバサさんって絵里と付き合いがあったでしょ?
 あいつを顎で使いやすいからって絢瀬姉妹の近くに住んでて、
 その、ボロかったのよ家が、だからね人の目にも触れやすくて」

 綺羅ツバサという人間が盗撮や盗聴と言った被害にどうのこうの言う人間ではないことは、
 ここにいる面々は誰しもが分かっているであろうし、
 同じA-RISEの二人も放っておいた所で問題は解決するであろうとふんだ。
 実際、結構過激に監視されてたみたいなんですが、まったく気にすることなく数年。
 たまたま絵里がその問題を知るに至りました。
 きっかけはツバサ個人がどうのこうの言われている動画を観たと言うより、
 絢瀬絵里がニートをしているという情報が彼女の預かり知らぬ所でネットに流れていたから。
 気づけばμ'sの面々とかその関係者が彼女がニートをしているのを把握しているのは、
 当然のことだとしても――なぜ縁もゆかりもない人間がそのことを知っていたのか。
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:37:14.06 ID:PK/oh1WM0
 思えば不自然でした。
 ラブライブというアニメで絢瀬絵里という人間を知っている人間がいるのは仕方ないです。
 でも、なぜ”鹿角理亞”という人間が亜里沙のプロデュースを受ける前から絵里がニートをしていることを把握し、
 さも当然のようにその動向を把握していたのか。
 Aqoursの面々でダイヤなどは絵里のことは知っていたけれど、
 ダイヤと関わりの薄かった理亞がその情報を仕入れているのはあまりにおかしい。
 トップアイドルと就職してないニートが一緒にいるというのは、
 正義感に燃える人間にとって”罪”が許されると思うほど――本当に愚かなことに、
 絢瀬絵里という人間を笑い者にすることが許されると思うほど。
 ただ、理亞は口では絵里を悪く言いますが、実際姉以上に憧れの視点を持っているのは
 おそらく私くらいしか知らないんでしょう、ダイプリでもシナリオ面で評価されている、
 園田海未をモデルにしたキャラのシナリオよりも、絢瀬絵里をモデルにしたキャラのシナリオを推していましたし。
 
「ツバサさんがね妙に付き合いが良いなって気がついた時には、
 ツバサさんの情報が絢瀬絵里の悪い情報に塗り替わってた、
 そりゃ、良いところしかないトップアイドルより、笑いものにしやすいアイツのほうが、
 ネットの住人もおもちゃにしやすかったんでしょ」
「絵里ちゃんはすごく器用にμ'sの情報も自分の情報で塗り替えてた、
 凛がね売れてない時に口が滑ってひどいことを言ったことがあって、
 それを指示したのも絵里ちゃんってことになってた」
「絵里は……全ての悪意を自分に寄せて……まあ、パンクしたのよ
 亜里沙ちゃんが休日の時にあいつが部屋から出てこないと思ったら倒れてたって。
 
 前からなにか不都合なことがあると希が暗示かけて記憶すっ飛ばすんだけど、
 その出来事は、あいつにとって大きかったみたい、
 すごく楽しいことがあると、自分への悪意にまみれた反応を思い出すんだって
 楽しければ楽しいほど、綺麗な思い出になればなるほど、
 辛い出来事が忘れられなくて――」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:37:42.06 ID:PK/oh1WM0
「だけどね、その出来事を基本的に忘れちゃっているから、ニートだった時代には
 たびたび誰かが問題を抱えるたびに解決に動いちゃって――

 ほら、絵里ちゃんAqoursのことは殆ど知らなかったけど、
 Aqoursのみんなのその後は結構把握してたでしょ? いや、みんなというか、
 ダイヤちゃんとか果南ちゃんとか鞠莉ちゃんとかなんだけど」

 いかんせん問題解決をするための行動を改めさせるには、
 問題解決に動きすぎてしまった過去を思い出させなければならず、
 それができないとなると、椅子か何かに縛り付けるしかなかった。
 μ'sのメンバーである私や他の面々にも、まさか絵里がそのような行動をしているとは露にも知らず、
 相手がついつい聞いてくれるという都合の良さも手伝い悩みの吐露は続いた。
 希が絵里が大好きなわりには妙に付き合いが悪くて、たまに爆発したように距離を近づけてしまうのはその辺の事情もあったみたいです。
 なお、なぜ絵里がAqoursの三年生組と仲が深いかと言うと、
 常に誰かしらの手駒の人が絵里の動向を探っていたからという笑えない話も。
 まさか私も誰かから監視などされてないですよね?

「と、宴もたけなわだけど、絵里のことばっかり話して時間が過ぎてしまったわ
 まったくアイツのことを語ると長いのよね……ああ、迷惑だわ」
「嬉しそうだねニコちゃん」
「絵里は手のかかる妹みたいなもんだからね」

 と、会話が弾みすぎて隣りにいたはずの姫のことを――
 などと気がついたら、壁に寄りかかって眠っていました。
 あの、さすがに眠り過ぎではないですか? 放っておいたのは申し訳ないですが。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:38:29.28 ID:PK/oh1WM0
 ホテルを取ってあると言うのでどこに連れて行かれるのかと思いきや、
 一泊いくらなのだろうと考えてしまうほどの高級ホテルでした。
 それぞれ個人で一部屋取る――後先を考えないような豪胆なお金の使いっぷり。
 出したのは希という笑えない話はするべきでしょうか控えるべきでしょうか?
 にこや凛といった面々は一泊してからエニワプロに向かって会社と交渉。
 彼女たちから届いたLINEでは会社の私への協力の不備を問い合わせたら、
 自分たちがECHOのアイドルの面倒をみる仕事を押し付けられたと。
 ――いや、まるで、私に全責任を押しつけて何かあったら逃げ出されてしまいそうですね。

「じゃあ、海未ちゃん。
 海未ちゃんのことと、そしてこれからのμ'sのこと
 意見があったらお願いね?」
「ええ、そういえば姫は」
「くっすんはほら忙しいから」

 話を逸らされてしまったような気もしますが、
 たしかに彼女が眠る暇もないほど忙しいのは一応把握しています。
 なお、なぜ花陽や凛が彼女を知っているかと言うと、
 ラブライブというアニメで共演を果たしたからだそうです。
 そういえば二人は当人の役どころで出演を果たしてましたね?

「海未ちゃんに関して穂乃果ちゃんが言っていたのは
 いい加減絵里ちゃんは諦めたらって」
「他にはないのですか」

 静かに首を振る花陽。
 なぜか絵里が大好きな人みたいな扱いですが、
 私には穂乃果やことりと同レベルで大事というだけなんですよ?
 ただ、絵里には抱かれてもいいかなあってくらいで
 別に行き過ぎた愛情は持ってはいないんですよ?
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/05(土) 19:39:49.49 ID:PK/oh1WM0
「これからのμ'sのこと。
 また集まりたいよねって、9人揃ってμ'sとしてって」
「……穂乃果は、μ'sとしての過去を受け入れてくれるようになったのですね」
「うん、もしね、この出来事が終わって
 時間が取れるようになったら9人で歌いたいよねって
 作詞は海未ちゃんや、絵里ちゃんでも」
「絵里が歌詞作りですか? 出来が心配に……」

 と、此処でスマホが鳴り始めました。
 知り合い以外の着信は容赦なく拒否の姿勢を取るので、二回目はなく。
 最近は忙しいので知り合いからすら電話がかかってこない始末。
 
「ことりからですね?」

 花陽が首を捻りながらなんだろうね? みたいな顔をする。
 ことりからの電話を出ないわけには行かないので。

「ことりですか?」

 ことりからの着信と思いきや、
 彼女に代わって絵里とも通話できました。
 すぐに正体に気づいたのですが、声が聞きたいなあデヘヘと思い、
 ついついどうでもいい話などもしてしまいましたが――

 しかしながら、
 まるで恋人の声を聞きたいがばかりに通話を切るのをためらう
 高校生の初々しい彼女さんみたいだと言われ
 ついつい絵里と恋人同士になる自分を想像し花陽に溜め息をつかれました。
 いや、でも……通話を切る瞬間は凛々しかったですよね? 
 と、問いかけてみたら、顔が甘々と言われさり気なく写真にも撮られていました。
 それが本当に甘々で絵里に指導した土下座にて花陽に写真の消去をお願いする私は、
 本当に誰にも知られてはならないのです、少なくとも指導をするECHOのアイドルには。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/05(土) 19:54:55.82 ID:PK/oh1WM0
これから絢瀬絵里視点に戻り、
鹿角理亞ちゃんの二回目のデートまで絢瀬絵里さん視点で進むと思います。
デートするキャラクターもリクエストを求めようかなって思ったんですが、
一応、μ'sの全キャラクターおよびAqoursの全キャラクターとも話の設定上会ウノでできると思ったんです。

ただ、ルビィちゃんとか千歌ちゃんとかとも会えるんですが、
仮にリクエストされても ちょっと会話して終わっちゃうので
作者の方で最初のエヴァちゃん、二番目の理亞ちゃん 、最後から二番目のツバサさん、
ラストの理亞ちゃんは本決定で、あとは流れでなんとか。
聖良姉さまとか歩夢あたりにも岐阜へ行く予定、サラッと流れますが。

なお、理亞ちゃんとのデート以降はECHOとの対決、
Aqoursとμ'sとの果たし合い(予定) そしてラストイベント!
ただおそらく、理亞ちゃんとのデートが終わり次第
視点が別のキャラクターに移行することになります、おそらくはラストまで。

そしてまた西木野真姫ちゃんのイベントが没になりました。
このルートで一番不遇なのはさり気なく真姫ちゃんなのでは……?
というわけで次回また。
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/05(土) 23:13:23.47 ID:iDa3h8/HO
なんでも背負い込む悪い癖は治ってなかったんだなぁ
そこが良いところでもあり心配でもあり……

真姫ちゃんが不遇?なら真姫ちゃんルートを実装するしかないな!
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:12:35.30 ID:jJQfg4Sl0
 エリちの中にいる人に色々と事情を聞くから、
 そっち系の知識の専門であるウチに白羽の矢が立てられたんは、
 仕方がない側面もあります。
 抱えていた仕事を放り出し、しばらくご相談承れませんとお触れも出し、
 とある乙女ゲームにハマりだし、最近はキャラ作りも忘れたベルちゃんの食事をもスルーし。
 全てを投げ出さん勢いでエトワールに行って
 少しはエリちと会話でもできるかなって思ったら、その当人の処遇でことりちゃんに
 ――いやもう、あれはことりやなくて、おおとりやんな、もしかしたら怪鳥と呼ぶべきかも。
 人ならざるものに触れがちな職業にあって、
 もしかしてこの世で一番怖いのは人の情ではあるまいか、
 そんな結論をひしひしと感じている昨今ではあるけれど。
 とにかくまあ、ドえらい勢いで怒られ続け、
 エリちにはその場に居たことすらスルーされてしまったような気もするけれど、
 彼女もいつの間にか眠り込んでしまったようで、会話の一つも交わせずに帰ってきて、
 あーしんどかったなあとお風呂に入ってから、目を通さなければならない書類をドンと渡され、
 その処理をしている間に2日ほどが経ったみたい。
 会社での自室みたいなところ……オフィスと呼ぶべき?
 その場にある観葉植物とかに混じってテレビがあるんだけれど、
 なんとなく付けてみたらサザエさんがやってたん。
 ご長寿番組にして日本を代表するアニメーション。
 サザエさん時空なる言葉で”終わらない物語”であるとか”日常を繰り返す物語”を示すこともあるん。
 目を覚ましたらベルちゃんに「ループものの初端だから」と説明を受け、
 失ってた記憶を無理やりこじ開けられ、未来の時間にある過去の記憶が出てきて、
 誰かの意思のもと、強制的に似たような時間が繰り返されているのを認識した。
 記憶を持ち越している子は数少なく、だいたいは何となくそうであったくらいしか記憶してない。
 でも、一部の子たちは似たような時間を繰り返していると気がつき、
 解決するための行動に当たっている。
 それは世界がループする事情の根本に関わっているからであるのか、
 ただ単に必要以上に聡くてループしていると認識しているのかまではわからない。
 また一定時期経つと記憶が蘇るパターンもあるようで、
 原因はともあれこの世界は本当に摩訶不思議と言ったところです。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:13:03.75 ID:jJQfg4Sl0
「……ベルちゃんの食事でも作るかな」

 気分転換に恩人と呼ばなければならない相手の食事を作ってなかったことを思い出し、
 オフィスのお台所の冷蔵庫にはなにか入ってたかなー? なんて考えていると、
 その当人が音も立てずに部屋の中に入ってきた。
 
「希、帰ってたのね」
「うん、すごい目に遭った」
「ことりを動かしてる穂乃果はループしてると認識してるからね
 そりゃ、語り部に何かあった時には怒られることもある」

 ベルちゃんはいつからかエリちのことを語り部と呼び、
 その際にはループしている時間を認識している面々も教えてくれた。
 まず、μ'sのリーダーである高坂穂乃果ちゃん。
 エリちとは距離をとって問題の解決にあたっているタイプ。
 μ'sで最初から世界が変だと気づいているのは彼女だけみたいで、
 気苦労も多い反面、案外そういう役回りも楽しいよねと笑ってる。
 一つだけ問題があるのは、穂乃果ちゃんが問題を抱えてしまうと、
 その解決のために真っ先にエリちが動き出してしまうので、
 何とかして知られない方向性で動いているみたい、気持ちはよく分かるん。
 いらない悩みまで抱えてしまい自縄自縛に陥ってしまうんはエリちの専売特許――
 海未ちゃんとか真姫ちゃんもその傾向が強いからソルゲ組の特徴というべきかな?

「そういえば、語り部元気?」
「ウチを認識してくれへんかった……」
「周りに”攻略対象”が多すぎて非攻略キャラは眼中にないか」
「え、ダイプリだけじゃなくて、この世界でも非攻略対象なの?」

 なお、おヒナさまがウチを攻略対象にせず、添え物みたいな3P要員なのは、
 口調を描くのが面倒だからみたい、別に関西弁混じりの口調でなくてもと言ったら、
 そうしないと東條希って認識してもらえないでしょ! と逆に怒られた。
 こと創作世界では書くのも面倒だけど、
 特徴もさほどない東條希の未来はどっちだ。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:13:34.17 ID:jJQfg4Sl0
「前から気になってたんだけど、語り部って人間なの? 
 オーラがやけに非人間寄りだからさ」
「産まれは一応ロシアってことになってる」

 あと、亜里沙ちゃんとはちゃんと血縁関係がある。
 一度冗談でツバサちゃんとか、亜里沙ちゃんとか、ヒナちゃんとかの
 エリち大好き組でそう言えばみたいな話になり。
 まずは絢瀬絵里が本当にロシアンクォーターであるのか調べることから始まり、
 どこかの橋の下で異世界人であるエリちを拾った、
 実は宇宙人で皆の記憶が書き換えられている等、
 お酒の勢いも手伝い様々な仮説が定義され、結果全て否定されることとなった。
 あと、始祖の悪魔たる彼女にオーラが非人間と呼ばれると、
 ウチもだいぶ非人間スタイルであるのに自分の能力が疑わしくなるね?

「いや、前の世界のときに見たときと比べて、ずいぶん身体にガタが来ているから
 なんでかなーって探ってみたのね」
「一応、エリチカはウチと同じ年だからね?」

 確かにツバサちゃんが語ることとか、理亞ちゃんに伝えられたことには、
 思ったより動きが悪いという話だったん。
 ツバサちゃんはループした当初から記憶を取り戻し、かつエリちの近くにいてくれて
 しれっと嘘をつくことすらいとわない性格だから安心。
 行動原理が自分のためではなくエリちのためと言うと思わず嫉妬してしまいそうにもなるけれど、
 ウチの記憶が誰かに言われないと取り戻せなくて、
 彼女は記憶を取り戻した状態で覚醒するのだから、
 おそらく神様か何かから与えられた役割というものがあると思うん。
 でも不思議なのはループ事象の中心に居なければならない絢瀬姉妹が、
 基本的にループが起こるときにも、起こった後にも蚊帳の外というのがなんとも。
 ちなみに理亞ちゃんは先に語った時間経過で記憶を取り戻す組で、今回は比較的最初からループしている前提で動いてた。
 μ'sでは花陽ちゃんも該当するけれど、リリーちゃんに突っついて貰って確かめた結果、
 今回はまだ記憶は取り戻していないみたい。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:14:01.11 ID:jJQfg4Sl0
「最初は中の子の影響かなって思ったんだけど……」
「なに、歯切れが悪い、入れ歯でもする?」
「えと、あなたさ、語り部の記憶すっ飛ばす時になにした?」

 うちのボケをスルーし(エリちっぽさを再現したつもり)
 妙におずおずと年甲斐もない(エリち的表現)仕草を取り、
 ご機嫌取りをするような、非人間にあるまじきゴマをする行為(エリち的ry)
 などと考えていたら心を透視されて目付きが怖くなってしまったん、めんごめんご(エry)

「ええと、まずは記憶を叩き潰します」
「オーケー分かった、アレだわアレ、それ、記憶消去じゃなくて呪術だから」
「は?」

 別にウチが超常的な力を用いて(非人間寄りではある)記憶をすっ飛ばしているのではなく、
 きちんとスピリチュアルな方面では活用されている記憶消去スタイル。
 お金はそれほどかからないけれど、時間がそれなりに掛かってしまう結果、
 記憶を消去してから日常生活を取り戻すまで誰にも迂闊なことを言えないのが玉に瑕。
 高校時代は時間があったので1週間かけてヒナちゃんの記憶をすっ飛ばしたけど、
 大学に入るころには数時間くらいでなんとか。
 扱いが雑になっているのではないかというツッコミは甘んじて受ける次第です。
 
「いやね、記憶をすっ飛ばすって大変なのよ、
 今でこそ科学の力でそれっぽいことができるけれど、
 進歩の途中だから副作用だってもちろんあるのよ?
 記憶って人生みたいなもんだし」
「んー? でもエリち普通にしとったけど?」
「それは語り部がおかしいのよ、あの呪術はね、3回以上やったらフツー死ぬから」

 ウチの中で時間が止まる。
 冗談かと思いきや冗談では無さそう。

「何回やった?」
「両手両足の指じゃ数え切れないほど」
「そんなにやったら私だって殺せる」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:14:31.01 ID:jJQfg4Sl0
 確かに過去の資料を引っ張り出して調べた結果、
 そもそも複数回記憶消去をしているケースは存在しなかったはず。
 ただ、長い時間経過で資料も存在をしたりしなかったりするし、
 なにより絵里ちゃんが平然としているから、多少記憶の混濁があるのは仕方ない――
 いや、自分の能力を棚に上げて仕方がないと思おうとしていた?
 私から見て何の変調もないと認識をする前に、
 自分以外の専門職の方の見識を確かめるべきだった?
 そもそも記憶消去しても記憶を取り戻すケースがあったことに際して、
 もうちょっと慎重に身体への負担を考えるべきだった?

「ど、ど、どうしよう……わ、私……私」
「まだ方法がある」
「ほんとうに?」

 先ほどまでの私の態度を改めて、
 両膝を突いてベルちゃんに縋るようにしながら彼女の顔を見上げる。
 できることなら自分の命の及ぶ範囲であるなら何でもしようと思った、
 これがみんなに犠牲を強いるものならば本当に諦めてしまうほかない。
 絵里ちゃんが犠牲になった人を知ったらそれこそ自分で自分の命を投げ出しかねない。
 そんなことになってしまったら私は地獄に落とされていたって後悔をする。
 どんな辛い目に遭っていようが自分自身を許せなくて悪魔にでもなってしまう。

「この世界では諦めて」
「……は?」
「どのみち語り部は助からない、呪いをしこたま掛けられた今の状態じゃ
 解呪しているあいだに間違いなく死ぬ。
 かといって”この世界”を前提とした時間転移では呪いをかけられているのが前提だから意味がない。
 後は助かるすべは一つしかない。今に至る状況を全てなかったコトにして
 ――いや、そんな事ができるとは思わないけれど、できるのだったらそうするしかない」
「ほんとうに……それができるの?」
「できると信じて動くしかない」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:15:04.86 ID:jJQfg4Sl0
 諦めてしまうのは何より簡単だ。
 投げ出してしまうのは楽な道だ。
 でも、少しでも可能性があるのならば私は悪魔にだって魂を売る。
 彼女が嘘を言っている可能性はもちろんある、
 でも、悪魔が嘘を付く時は自分にメリットがある時だけ、こういう存在とは長い付き合いだし。
 本来”冗談”とか”面白半分”で人間を惑わせることはない。
 自分自身の卑しい性根であるとか、卑屈な態度が悪魔の力の根源となり、 
 利用されるのだとしても、絵里ちゃんが助かるのだったら、未来への道が開かれるのなら、
 
「やる、やるったらやる! 私は! 私は可能性があるなら!」
「わかった――以前も説明した通り、綺羅ツバサ、高坂穂乃果はループしている記憶を保っている。この二人にまずアプローチを掛ける
 それからリリーっていうあの”非人間”と語り部の中にいる子にも告げてみる、ただこの二人は直接この世界とは関係がないと思うから無駄かも」
「他にできることは?」
「語り部にはできることをさせなさい、できるだけ多くの人間と交流させて、
 できれば”フラグ”を立てさせなさい、それが彼女とのつながりになり、
 次の世界での絆となる可能性がある。
 
 もし、記憶を失ってもなお語り部の近くにいる人間がいるとすれば、
 この世界が終わるきっかけにもなるかも知れない
 多く仲間を作って、みんなで困難に立ち向かわせなさい――μ'sのように」

 居ても立ってもいられなかった。
 仕事なんか放り出してすぐにでも行動に移したかった。
 でも、長い間デスクワークをしていた身体は絵里ちゃんみたいに動くことはなく、
 勢い余って前のめりになって倒れた。

「希、私は悪魔だからお代を頂いていくわよ」
「断れない状況を作ってお代をせしめるなんてひどいなあ……」
「東條希の本気を見せてちょうだい――傍観者でいようとするあなたへの戒めにもなるから」
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/07(月) 16:30:47.54 ID:jJQfg4Sl0
世界のネタばらしするのが早すぎでは?
と思ったんですが、情報もない状態で鹿角理亞ちゃんの視点に移るのも不親切であるし、
今回投稿分のネタを知らないと海未ちゃんルートの前日譚がわけわからないことになります。

と、先のことばっかり考えているのは真姫ちゃんの呪い、早く出番が欲しいって言ってる(今回もカットされました)
ちなみに海未ちゃんルートの分岐で真姫ちゃんルートへ行きます。
あと、これから虹ヶ咲学園の面々がちらちら出てくるので、
スクスタは早くリリースしてほしいです! 

ではまた次回です。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 19:24:40.87 ID:JBJwb/z9O
このルートはアイドル対決路線かと思ってたら一気にファンタジー色が強くなってきた
スクスタは楽しみっすね
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 20:16:39.64 ID:5NRCMBRoO
のんたん大戦犯やんけ
ことりは無双してるし花陽はなんか黒いしでピュア組がヤバい
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 10:17:45.69 ID:/R4MM/ur0
お疲れ様です。
作者でございます。

先週の金曜日くらいから手に力が入らない、握力やばい。
と感じていたのですが、今日になって身体に力が入らず体調不良です。
現在展開中のシナリオから少々未来の話で、こういう展開になるという予告編を書いています。
そのため、本スレには投稿せずピクシブにて公開して日にちが経ってから
同じ展開にするかしないか決めることにします。
聖良姉さまと月島歩夢さんの話、前回更新分が日取りが5月ですが、
クリスマスの話です。時期外れです。

聖良姉さまのエピソードが終わると、ルビィちゃんと楠原雅さんの話、
それから朝日ちゃんとエリち以外のRe Starsの面々のエピソードとなります。
こちらのスレも放っておけないので、とりあえずクリスマスの話で一区切りにはなりますが。

本スレッドではエリち起床後に理亞ちゃんとの会話から始まります。
では、しばらく更新停止になるかと思います、手に力はいらない……。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/10(木) 21:47:53.21 ID:Vo6JsgrEO
えりち達より>>1の体調が心配になってくるな…
再開待ち望んでる
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 06:09:39.66 ID:slUbI0fK0
おつかれさまです。
聖良姉さまの話も投稿が終わり、
なんとか、視点が絵里さんに戻り物語が動き出しそうです。

各番外編は時間経過で次々に挿入されます。
警告文を書かなければいけないかな? と思うほどのアレなエピソードばかりですが。
安心してください、μ'sもA-RISEも平等に――
それは果たして平等と言えるのか。
今日か明日にはこのスレでも再開できそうです。では
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:19:18.56 ID:slUbI0fK0
 (絢瀬絵里 覚醒中?)

 音ノ木坂学院の桜は老木でありながら今もなお春になると満開の花を咲かせる。
 私の高校時代に、そんな桜の大木を見るたびにオトノキの終焉と一緒に、
 もしかしたら彼(もしくは彼女)もその役目を終えるのかも知れない――
 目を覚まして身体を起き上がらせ、
 ”思ったほど動けない”自分に苦笑を浮かべながら、
 そんな私の顔を覗き込む一人の女の子に声をかけた。

「理亞ちゃん」
「絵里先輩よかった……もう週が変わってますよ?」

 窓の外から差し込む朝日というものが、少し前に感じた日よりもかなり先にあり、
 眠りこむようなことがあれば多少なりとも身体に不調を感じるのも仕方がないことのように思える。
 数時間眠ったあとでさえ、身体を起こす時には布団に引きずり込まれるような不調を覚えるというのに。

「ずっと観ていてくれたの?」
「あいにくと仕事がないのが私だけなもので」

 そういって微笑む姿に多少違和感を覚える。
 もとから過去とはまったく変わってしまったのは把握しているんだけれども、
 それ以上に必要以上に大人びてしまったと言うか、
 私の知らない私まで把握してそうな態度には首を傾げてしまう。
 ただ、それを指摘してしまうのは野暮というものだし、
 なにより直感で感じたことが正しいとされることはほとんど無い。
 自分のやるべきことを抑えてまで、こんな私の面倒を見ていてくれたことにお礼を言い、
 両手で身体を支えながらベッドから抜け出ようとすると、

「やっぱり思ったより力が入らないわね」
「疲労もあるんだと思います、今日一日はゆっくり休んで下さい
 私はそのための監視ですから」
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:20:06.01 ID:slUbI0fK0
 もとより原因を作ったのは自分たちだと自嘲するような笑みを浮かべる彼女に、
 その選択をしたのは何より私であると反論してしまおうとするんだけれどやめる。
 意見の相違で口論になってしまうことは避けておきたいし、
 なによりその元気もない。
 まるで重病人にでもなったようと思いながら、
 部屋の片隅にあるスケッチブックが目に入ったので何かと尋ねてみた。

「私自身、ずっと続けていた趣味というのがありまして」

 体を動かすことであるとか、
 アウトドアな趣味(アキバ豪遊とか)ばかりがクローズアップされがちな彼女ではあるけれど、
 もともとインドアなタイプだったのを聖良さんが家の外に引っ張り出したのが
 スクールアイドル鹿角理亞誕生のきっかけであり、
 ポテンシャルの高さを発揮し今は絢瀬絵里(ポンコツ)を凌駕する才能を――
 いや、そこの基準が私って言うとあんまり凄さを感じないわね?
 綺羅ツバサを凌駕するような――というと、なんだろう、どこかから抗議の視線が。
 
「元々昔からお絵かきが好きで、人前に見せられるようなレベルになくて
 いっつも自分ひとりでばれないように描き続けて。

 それで、最近バタバタして描けてなかったので、
 過去作を見てたら恥ずかしいと思うほど出来も悪くなくて、
 つい熱心にハマっちゃって」

 と言いつつもスケッチブックの中身までは見せてくれない様子。
 たしかに私も人に見せられない趣味――がひとつもないから見当もつかないことにして。
 自分の中で良い出来と思っていても、他人に見せた時にそうでもないというのはよくある話。
 私なんかも料理はいい出来と思えばたいてい皆いい出来と思ってくれるけど、
 ファッションセンスあたりはいくら頑張っても雪姫ちゃんの手直しがないと恥ずかしいレベル。
 鏡の前で結構イケてるのでは? と思う私に、
 しどろもどろというか、申し訳なさそうに「あっちの服が良いです」と幼女に言わせてしまう
 アラサーのセンスがイケてないのはもう確実と言っても良い。
 
「絵里先輩はないですか? 私に見せられないような趣味」
「いかんせん自分の中に取っておいた趣味がやたらネットに流れてるのよね……」
「アコースティックギターとかですか」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:20:53.93 ID:slUbI0fK0
 どういう経緯でツバサや亜里沙にすら言っていない趣味がネットの海に奔流することになったのか。
 雪姫ちゃんに尋ねてみても分かりかねますという返答。
 首を傾げながらなんだろーみたいな顔で言葉を返されてしまい、
 そりゃ、私の中にいるからと言って全てを把握されていても困るし。
 別に見られて困るものは思いつかないけど、
 雪姫ちゃんの目に触れて良いものばかりであるとも思わない。
 黒歴史ばかりの人生がこういう結果を生み出してしまうとは……

「あとは、高校一年生のときの100メートルハードルのタイムが凛より上だったとか」
「興味のない人にはまったく興味のない情報がネットにですか」
「ええ、誰が流したのやら……困らないから良いけど」

 良い点ばかりを放流してくれるのなら恥ずかしいで済むけど、
 悪い点も含まれてしまうと見当違いの憤りを覚えてしまう。
 元からそんな悪い点があるお前が悪いんだと言われば、
 涙目でうつむきながら「そ、そうっすね……」と返答するしかないんだけれども。 
 エヴァちゃんみたいに絢瀬絵里よりも絢瀬絵里に詳しい人だっているくらい、
 その面々に目の前の鹿角理亞ちゃんがいるのは言うべきか言わざるべきか。

「あら? でもSaintSnowってだいたい聖良さんがやってるのよね?」
「そういう事になってます」

 高校時代は一人で高校にすら行けなかった聖良さんが
 公開されているデータ通り「服飾・作詞・作曲」スキルを持ち合わせているとは思えない。
 理亞ちゃんも「もう時効なので」と語るにはSaintSnowの二人には数多くの協力者が居たということ。
 彼女たちが聖良さんと同じ年齢だったことで理亞ちゃんは苦労を重ねるわけだけれど、
 姉さまの卒業と同時に手助けも無くなることを知らなかった自分が悪いと理亞ちゃんは笑う。
 ただ、姉である私なんかは考えてしまうけれど、
 その辺の事情を説明するのは間違いなく聖良さんの役回りで、
 ポカをやらかしたのはむしろ聖良さんの方なのではないかと思ってしまうのは、
 私自身の思い上がりと言った話なんだろうか?
 
「プロになるとか……有名になるとか……
 お金を貰って何かをするっていう以外の趣味があると楽しいものですね」

 子どもの頃は楽しいで済ませてしまうことも、
 大人になるに従ってお給料であるとか、仕事という観点が加わり、
 楽しいはいつの間にかノルマに変わり、大体の人は夢を理由に心が折れる。
 だいたい夢というものは叶った瞬間から仕事に変わり、
 楽しいばかりでいられないことにはみんなよく分かっているけれど。
 そんな現実を示した所で夢を叶えようとする人間はよほどのドM。
 だからこそ夢を叶えました! みたいなサイトでは耳心地に良いことしか言わないし、
 夢をあきらめないでという歌は都合の良いことしか歌わない。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:21:23.32 ID:slUbI0fK0
 でも、夢を叶える人っていうのはだいたい
 夢を叶えてしまうと都合の悪い現実が始まるって分かっている人。
 趣味を低レベルをバカにする人間というのは数多くいるけれど、
 お金にならなくても好きなことを続けるというのは夢を叶えることよりも尊い。 

「そういえば絵を描くっていうのはほとんど体験したことがなかったわね」
「そんなこと言って、写真と同じような風景を描けるとかそういうオチなんでしょう?」
「やったことがないことでも高レベルを保ってるツバサが人間じゃないの」

 星のカービィという作品があって、絵描き歌が起動後しばらくして流れるゲームがあった。
 だけども得てして絵描き歌通りにはカービィは描くことが出来なかったし、
 描ける人は絵描き歌なんぞ使わなくったって上手だった。
 私自身が胸を張ってカービィを書いてみたところ、
 理亞ちゃんや中にいる雪姫ちゃんでさえ絶句してしまうほどの球体の何かが完成し、
 その出来の悪さはカービィとして公開すれば任天堂法○部に訴訟の一つでも起こされてしまいそうなほど、黒歴史が一個増えちゃう。

「え、絵里先輩にもできないことってあるんですね」
「できないことのほうが多い人間なの、これが普通なの!」

 とはいえ球体の何かは不出来過ぎて目を背けたくなる。
 理亞ちゃんを暇にさせないために、あえて苦行をしたと自分では思うけど、
 別に自分が絵を描かずとも、ちょっとアドバイスをちょうだいで暇は潰せた。
 そして私の球体の何かを後生大事と言わんばかりにしまうのはやめて欲しい、
 誰に公開をするのか問いかけたい、ツバサとかには見せないで欲しい、笑いものにされちゃう。

「その……今日は身体を動かす訳にはいかないし、
 これをせめてカービィかピンクハロにする実力は身につけたいわ
 アドバイスをくれる?」
「……私の至らないアドバイスで、ハニワをメイドロボにするほどのことはできませんが」
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:21:54.69 ID:slUbI0fK0
 自信は無さそうだけれど全力は尽くしてくれる模様。
 雪姫ちゃんも頑張ります! と宣言してくれているので、
 なんとかして体調の悪さを隠しながら、理亞ちゃんを満足させて暇をつぶす程度のことはできそう。

「では僭越ながら、楽しく描くというのが前提とは言え
 上手になるためには技術がいります」

 楽しんで何かをやろうというのはおおいに結構だけれど、
 成長するには都合の悪い現実もたくさん見ないといけない。
 もとより自分自身を把握をしていなければ、自分自身で何かを作り上げることは出来ず、
 有り体に言えば能力も分からずに能力以上のことは出来ない。
 才能を補うのが技術であり、技術を上げるモチベーションになるのが努力。
 実力を上げるためには、才能、努力、技術の三権分立がエンドレスワルツのように(ry

「絵を描く、文章を書く、歌を歌う、表現というものは
 優れているものを再現することから始まります
 よく観察して、まずはこれと同じものを描きましょう」
「……見たこともない制服を着ている私が見えるんだけど」
「桜井綾乃ちゃんです」
「それのモデル絢瀬絵里さんじゃない?」
「桜井綾乃ちゃんを精巧に再現したコレクター品です」
「ちなみに値段は」
「コミケにおいて限定発売され、ネットオークションでは100万を越えます」

 ラブライブフィギュアコレクションにおいて300円くらいで売られている絢瀬絵里さんの価値とは。
 いや、あれは私監修してないもんね、綾乃ちゃんも監修してないけど、
 友人のヒナが口出ししまくっているから、実質絢瀬絵里さん監修ってことでいいんじゃない?

「彼女の初代……いや二代目の声優さんが引退され、
 3代目にはあやせうさぎさんが起用されました」
「それ次作で別のキャラ担当してない?」
「はぴねすとはぴねす2のキャストが似通っているのと同じです」
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:22:24.93 ID:slUbI0fK0
 きれいな理亞ちゃんエロゲー卒業できてない説。
 なお、ヒナは難色を示し、あらゆるスタッフからアコギな商売みたいだと言われた、
 あやせうさぎ収録Verのダイプリには添い寝ボイスCDが付いているらしい。
 NGテイクにおいて自分のことを絢瀬絵里と言い放ち、面白がったスタッフが限定公開し、
 本人の預かり知らぬところでたいそう盛り上がったらしい。
 添い寝ボイスは18禁じゃないからオーケーとは
 いったい誰の許可を頂いての発言なのか。

「では、私はこれをプレイしてますので」
「……自分をモデルにしたキャラが出てくるゲームの場面を見ながら
 自分をモデルにしたキャラのフィギュアを描いている私っていったいなんなのかしら?」
「絵里先輩はもう少し自分を好きになったほうが良いんです」

 とはいえ、今の私には抵抗する権利がない。
 はあ、と一つため息を吐きながらペンを片手に自分(桜井綾乃さん)を見やる。
 μ'sやA-RISEの一部メンバーのことは容赦なくネタにするくせに、
 栗原陽向のことに関しては不自然なほど取り上げられていない。
 今は別のライターが書いているんだから良いじゃないかとは思うけれど、
 色々と抵抗したくなるものであるみたい。
 
「……観察するコツとかない?」
「最初から人を頼らず、まずは自らの行動原則に基づいて手を動かしてください」
「その通りね、ごめんなさい」

 苦手なものだからと言って迂闊にも人に頼りすぎた。
 イヤホンもせずにゲームをプレイするのはどうかと思うけれど、
 きっと何かしら意味のある行為なのだと思われる。
 パソコンの画面から聞こえてくる綾乃氏の声は、
 真姫なんだけども真姫ではなく、
 私のようで私でもない。
 プロとしてお給金を頂くという行為は成長していくにおいて必要。
 締切であるとか、他者からの目であるとか、人からの評価であるとか――
 面倒だけども受け入れていかなければいけないし、文句を言っていても始まらない。
 頭の中でいくら桜井綾乃を再現しても、手が人体の成れの果てしか製造できず、
 中にいる雪姫ちゃんが「わ」みたいな声を無自覚に上げている。
 幼稚園児とかでももう少しまともに絵を描く子はいるというのに、
 30も手前になったアラサーがとんでもない絵を創造している。
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:22:56.40 ID:slUbI0fK0
「もう一度描いてみましょう」
「はい」
 
 美少女ヒロインと言うよりも美少女ゲームで登場するモンスターの成れの果てみたいな、
 ややもまかり間違って桜井綾乃たんとか書いて公開などしてしまったら、
 あらゆる人から心のない罵倒を受けることは必至レベルの代物が完成。
 理亞ちゃんは特にコメントもせず、雪姫ちゃんも励ます言葉すら掛けられない絵は、
 監督をしている彼女が大事そうにファイルしてしまわれた。
 だけども自身の実力のなさを嘆いているわけにもいかないので、
 今度は自分の手元を確認しながら優れたフィギュアの造形を観察する。
 絵をまともに勉強をしたことがないから適当かどうかは分からないけれど、
 目で見たものを技術を使って再現するという行為はモノマネすることと似ている。
 もともと学ぶという言葉の由来がまねぶから来ているらしいので、
 創造されたものがどういう技術を使い創造されたものであるのか、
 どのような技術を用いて良い出来と評価されるに至ったのかは観察し思考する必要性がある。
 頭にあるものを文章化することさえ難しいと言うのに、
 それを絵として表現することなど自分自身にできるとは思えないけれど、
 失敗を繰り返しながら自分自身のできることや役割というものを示していきたい。

「……多少見栄えはするものになったかしら?」
「数時間でこの成長速度」
「え、あ、理亞ちゃん?」
「やはり絵里先輩は私の理想とするべき先輩です」

 不出来なクリーチャーから人体とかろうじて識別できるものまでイラストのレベルは向上し、
 そのできの良さには理亞ちゃんも満足したみたい。
 どういう経緯で自身の理想とすべき先輩であると自らがなったのかは不明ではあるけれど。
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 13:23:28.46 ID:slUbI0fK0
「歌詞作りをされるんですよね」
「……え、あ、うん?」
「忘れていたみたいな反応は気になりますが、
 身体が元気になったら出かけてみると良いですよ、
 
 あと、これはメモ帳です」
「イラスト付きノートブック? これ、μ'sのグッズ?」
「私が描きました」
「市販品かと思った」
「もっと褒めてください」
「風景も人物もよく描けていると思うわ」
「上から目線です」
「……褒めるのって難しいわね」

 女の子が理想とする女の子の褒め方のレクチャーは
 鹿角理亞先生と西園寺雪姫先生の熱血指導もあり、
 絢瀬絵里のおべっかの技術を向上させることに成功した。
 特に怒りを携えたツバサや亜里沙へは効果が抜群で、
 なんとかお説教だけは回避する。
 
 ただ彼女たちやあらゆる面々に私の不出来な絵がコピーして回されているという件が、
 彼女たちの怒りのボルテージを下げたという事実に関してはノーコメントを貫きたい。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 16:02:53.29 ID:ZyopUFBVO
>>315
しょうこ姉さんのスプーかな?
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/14(月) 02:15:43.80 ID:Kbcg/dK+0
 ここ最近起きるたびにベッドに戻りたくなる衝動が浮かぶ。
 身体の調子の悪さはいっこうに改善されず、おかしいなおかしいな、
 なんて考えつつもいつもの日課をこなす。
 それはウォーミングアップでありトレーニングでありストレッチであり、
 自身を引きずり込もうとせんばかりの堕落した要素は陽の光を見るたびに解消。
 日に日に起きる時間が早くなり、睡眠時間が減っていき、
 このまま寝てしまったら二度と目を覚まさないのではないかという感覚は、
 無理やり習慣づけしたかろうじて早朝と呼ばれる時間に起床することで解決。
 なんだか早い時間に起き出して絢瀬絵里がなんかやっている。
 というのはエトワールの住人の誰しもが分かっているようだけれども、
 老化現象、仕事がなくて暇だから身体を動かしている、むしろ寝ないほうが調子がいい、
 と良いのだか悪いのだかなんとも言えない反応に落ち着く。

(歌詞作りも微妙に進みつつあるわね)
(いまだ真姫お姉さんの反応は芳しくありませんけど、頑張っていきましょう)
(真姫は初心者に辛過ぎると思わない? 何を作ってもまだまだって)

 比較対象が園田海未の歌詞であることを差し引いても、
 真姫の反応というのは今までの私の対応とはうってかわり厳しいものになっている。
 ただ、歌詞に関して辛口でも何もかもが辛辣に変貌したのではなくて、
 なにかがあったのか、たびたびエトワールに来訪しては私の料理に舌鼓をうつ。
 最近急速に距離を近づけたというニコの愚痴ばかりを吐きながら、
 にこまきなるカップリングの是非について実演を交えながら語ってくるけど、
 私の中にいる子が小学校高学年くらいだっていうのと、
 エトワールの住人には未成年もいるっていう事実は少し認識して欲しい。
 いや、前者は無理だっていうのは分かるんだけどね?
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/14(月) 02:16:56.78 ID:Kbcg/dK+0
「絵里、歌詞作りおつかれさま」
「……音もなく後ろに忍び寄るのはやめて」
「私が忍び寄ったんじゃなくて、あなたが気がつかなかったの」

 ツバサは面白いものを見つけたとばかりに微笑みながら、
 隠そうとするノート(理亞ちゃん作成)を引ったくり、ふむふむと読み耽る。
 元から執筆業に携わっていた(遠い過去のように思える)だけに言葉選びであるとか、
 表現が思いつかないときの上手なごまかし方は真姫が舌を巻くほど優秀。
 A-RISEが売れてない時期にツバサ当人が歌詞を作っていれば
 もう少し売れるのが早かったのでは? と私が思ってしまうくらいに、
 ここはこう、これはこうするといいというアドバイスも的確。
 ただ、そのアドバイスは真姫が人を頼るんじゃないの一言で切って捨てられてしまうけど。
 何もかも私が作るっていうのは無理があるんじゃないかと思うの。

「あんまり根を詰めると、死ぬのが早くなるわよ」
「なにそれ、経験上?」
「……え、あ、そ、そうね」
「どうしたのよ」
 
 ツッコミを入れてみるといつになくしどろもどろな反応。
 死ぬとか死なないとかいう話に対して私が切り返してくると、
 いつになく動揺したと言わんばかりに困った顔をする。
 ただ、動揺をさせるとその行為に恥ずかしい気持ちでもあるのか、
 ごまかすように喋り始めるのである。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/14(月) 02:17:25.18 ID:Kbcg/dK+0
「ここにも多くのμ'sのメンバーが顔を出すようになったわね」
「穂乃果の絵里ちゃんまだ生きてたのは衝撃だったけどね」
「いや、まあ、分からなくもないのよ?」

 にこや凛や花陽と言った付き合いが多かった面々だけではなく、
 穂乃果や真姫と言った私と距離を取るような態度を示していた子も
 エトワールに来訪すること多数。
 その中の面々に紛れてどう見ても園田海未なポニーテールもいるけど、
 川澄詩衣という偽名を使っているため誰もツッコまない。
 偽名っていうか、自身をモデルにしたキャラクターの名前であるから、
 園田海未の別個体ってことでいいのではないかと思いつつある。

「希さんは衝撃だったわね」
「……心臓に悪いわね」
「ええ、色々あってちっちゃくなったって、コナンくんじゃないんだから」

 さすがに小学校低学年とは言わないけれど、
 中学生かって言わんばかりにロリ化を果たした東條希。
 いろいろとありましての一言と一緒に説明をかっ飛ばし、
 なぜそうであったのか理由付けもさほど語らず、
 口調すら標準語基準になる。
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/14(月) 02:17:55.51 ID:Kbcg/dK+0
 彼女自らが来訪しようとやって来たのではなく、
 朱音ちゃんが不審者を見つけたと意気揚々に宣言し、
 それを聞いた英玲奈にとっ捕まえられた。
 
「偽名がダイプリ由来なのは改めたほうが良いと思うの」
「あの二人は絵里に気づいて欲しいのよ」
「なんでかしらね、海未はともかく希を掘り下げると恐怖が」

 今までキャラ作りをしていたという点に対しては頷けるけれども、
 こう、控えめでおずおずとした態度で絵里ちゃんと呼ばれると微妙に庇護欲を誘われる。
 凛は「希ちゃんって可愛かったんだね」という周囲が困るコメントを残し、
 海未は「lily whiteの長女が三女になりましたね」と自身の正体が露見する発言をし、
 「人から聞いた話ですが!」とごまかしになってないごまかしをした。
 なお、BiBiの三女枠は満場一致で私で、長女がニコ。
 にこりんぱなだと三女がニコ、次女が凛、長女花陽。
 Printempsに対してはことりの希望もあって、誰が長姉であるかは語られず。

「あんまり机に張り付いてると、運動不足になっちゃうわよ」
「そんなに集中してた?」
「そろそろお昼だもの、皆がお腹空いたって騒ぐわよ?」

 朝食を作って部屋に引きこもり数時間。
 確かに延々と机に向かっていては身体にも反応が出る。
 一度大きく伸びをして立ち上がり、ふんすかふんすか息を吐き、
 友情をテーマにした歌詞のことは一度封印することになった。
 「友達にありがとうを」みたいな曲名にしたいなと思って仮のタイトルをつけているけど、
 微妙にしっくり来ない、サンキューフレンズとかのほうが良いのかしら?
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/14(月) 18:46:09.85 ID:kuAD9Zw0O
えりちがBiBiの三女は結構意外
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/15(火) 01:33:47.40 ID:nbOK9mt50
 本日は珍しく来客数も少なく、
 何食わぬ顔をして真姫が私の作ったぶっかけそば(字面がエロい)を食べながら、
 さも今思い出したと言わんばかりに口を開いた。

「創作の際に必要なのは気分転換よ」

 自身の失敗体験から”創作”において必要なのは、
 メリハリであると主張。
 たしかに一つの作業にばかり集中をしていると、自然と視野も狭くなるし、
 凡ミスに気がつかないケースも多々ある。
 真姫の凡ミスはそれを聞いた私が「じゃあ、真姫とデートしましょう!」
 と発言することを信じて疑ってない点。
 そしてなにより、もうすでに出かける準備は出来てますか何か?
 みたいに小奇麗な格好をしている点。
 別に彼女と出かけることは気分転換になるし、楽しい。
 私の存在価値とかをボールペンの替芯レベルにしか思ってない面々も多いし、
 そういう人達に比べれば真姫はすごく私に気を使ってくれる。
 しかしながら、そういう言葉に甘えて本当にデートになど赴こうものなら、
 すでに私の背後に陣取り背中を蹴り飛ばす準備を欠かしていないメイドさんに
 何をされるかわからない、いや、蹴り飛ばすんだろうけど。
 そういえば昔蹴りたい背中って作品があったわね? 私の話かしら?

「それはとてもいい案ね、絵里、ちなみに私はオフよ」
「私はオフではないです」

 困る私を見て常に面白がっているツバサが話に乗っかり、
 トークを進めていくと以前までの理亞ちゃんが露出する傾向にある彼女は残念そうに
 ちゅるちゅるとそばをすすった。
 ツバサも案外私に気を使ってくれるけど、気を使うのが気が向いた時だけなので、
 あまり迂闊に頼ってなどもいられない。
 オフであれば満場一致100エリチカポイントを使って理亞ちゃんをデートに誘うけど、
 仕事がある彼女を引っ張り出せば私の人権が妹によって塵芥になっちゃう。
 そこから挽回するにはダイジョーブ博士の能力強化イベントに成功するくらい難しい、
 科学の発展のためには多少の犠牲はつきものデース。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/15(火) 01:34:17.36 ID:nbOK9mt50
「絵里、これはフラグイベントです」

 Ordinary Daysの面々もそれなりに忙しく過ごしている中、
 エヴァちゃんだけはちゃっかりこの場で暇ですか何かみたいな顔をしている。
 たまに私越しに雪姫ちゃんと会話をしているのが難点だけど、
 彼女と歩いていると他の人に気を使わなくて楽、視線が一点に隣で歩いている子に向くから。
 私の外見なんてホコリレベルで認識してくれない。

「ツバサさんを誘えば、好感度が1上昇します」
「デートイベントにしては上昇が抑えめね」
「どうせ絵里はフラグをへし折ってしまうので」

 「あー」みたいな顔をして周囲の面々がさも納得したと言わんばかり。
 中にいる雪姫ちゃんですら私を励ますことを忘れ「そうですねー」みたいな感じ。
 いつ私がフラグをへし折ったというのか、
 いや、未だに処女だっていうのはフラグをへし折り続けたからと言われれば、
 頷くことしか出来ないんだけどね?

「理亞を誘うと死亡フラグが立ちます」
「絵里先輩の覚悟を待ってます」
「ちなみに亜里沙は南條さんと岐阜です」

 「誘うこともできるよ?」といいつつ、
 「誘ったら死ぬよ?」と言わんばかりの反応。
 何故岐阜に行っているかと言うと、ミルクちゃんっていう著名なアイドルがいるかららしい。
 家畜系アイドルって本当にアイドルなの? 牛柄のビキニって真冬でもその恰好なの?
 あと公称スリーサイズを見た理亞ちゃんが怪訝そうな顔をしたのはどうして?
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/15(火) 01:34:50.31 ID:nbOK9mt50
「真姫さんを誘うとこの場で死にます」
「絵里の覚悟を私は期待しているわ」
「私は血は見たくありません」

 真姫一人がエヴァちゃんの冗談だと思っているらしく、
 私の背後にいる人が「いま、殺しに行きます」と言わんばかりに準備体操を始めた。
 おそらく誘っても殺されるけど、誘わなかったら何故誘わなかったって怒られる。
 自分の命をベッドして真姫ルートに入るのはしばらく控えておきたい、
 できるのならこれからも控えたい。

「ちなみにエヴァちゃんを誘うとどうなるの?」
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会ルートが開けます」
「虹ヶ咲?」

 聞いたこともない場所でありながら、
 どこかで聞いたことがあるような場所だと思ったので、
 その辺の事情に詳しそうなツバサに問いかけてみることにした。

「UTXをやたらライバル視しているトコね、最近芸能関係者でも
 そこ出身って子が増えたわ」

 芸能関係だけではなく、スポーツや芸術関連の才能を磨くことに力を入れ、
 たくさんの寄付金を募っていたりしている所らしい。
 ただスクールアイドルの実力としては、UTXはおろか、
 オトノキにすら勝ったことのない貧弱さ。
 現在の実力ではラブライブの東京予選ですら突破できないとか。
 お金だけはある金満高校の行く末にはまるで興味が無いけど、
 どこかに行くなら目的地があったほうがわかりやすくて面白い。
 
「誰も得しないハーレム系ラノベの主人公みたいな選択です」

 といいつつ、エヴァちゃんは嬉しそう。
 ごねる面々を今度誘うから! 絶対誘うから! 
 機会があれば後ほど! と言いつつなだめすかし。
 私は数年ぶりになるデート……あ、希と行ったのは一応デートになるのよね?
 だとすると十年……あ、いいや考えるのやめよう。

 なお、二人きりではあるみたいだけど、
 暇だというツバサと真姫はついてくることを決断したみたい。
 できればそういう話は当人に聞こえないところでしていただきたいです。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 05:16:23.26 ID:TbRbDcQPO
エヴァちゃんはこの世界の神様か何かかもしれないな…
虹ヶ咲の面々は性格とかいまいち把握できてないのでこのスレで学ばせて貰おう
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 11:39:37.06 ID:J3K2Q1QUO
俺もえりちとデートしたいお
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:17:00.89 ID:bTgsQhbk0
 最近暑い日ばかりが続いているけれど、
 あまり外出する機会がなかったせいか、ねっとりと絡みつくような熱気に
 思わず「うわっ」って声を上げてしまいそうになる――いや、たぶんあげた。
 隣りにいるエヴァちゃんが私は暑くありませんがなにかみたいにクールに平気そうなので、
 てっきり今日は暑くないものだと思っていたのに。
 デートに行くのだから気合を入れた格好にしよう!
 と、最初から雪姫ちゃんのファッションセンスであるとか、
 ツバサのセンスを頼る――真姫は服飾に関しては二次元寄りなので戦力外。
 試行錯誤の末、
 信じられないことに美少女に見えるとコメントを寄せられる程度には変貌を見せた絢瀬絵里は、
 三次元の人間と言うより、二次元ヒロインがパソコンとかから飛び出してきたみたいな美少女の
 エヴァちゃんと遜色ない(期待値込み)レベルに無難にまとめる。
 少なくとも隣りにいて、何だあいつ呼ばわりされないくらいには可愛くなったつもり(期待値込み)

「今日は絵里とデートです」
「……ルンルン気分みたいだけど、もう少し嬉しそうに言ってくれると助かるわ」

 花の咲くような笑顔ではあるし、
 鼻歌交じりに歩いているので嬉しそうではあるんだけど、 
 いかんせん声色がボーカロイド寄りなのであんまりそうは見えない。
 エヴァちゃんは私をキョトンとした表情で見上げながら、
 ひとしきり考えにふけるように指先をくちびるに当て、
 
「では、雪姫に来てもらえば」
「え、着脱可能なの?」
「可能です」
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:17:32.25 ID:bTgsQhbk0
 それならばツバサとか真姫(いずれも処女)とかと下ネタをふんだんに込められたエロトーク
 など聞かせずとも済んだというのに。
 真姫がコミケに赴き、自身をモデルにしたダイプリのキャラの同人誌を見つけて、
 私とどっちが可愛いかなと作者をえらい困らせた話とか聞かせることなかったのに。
 ただあまりに困らせたせいで、こういうコトしてるんですよねとカウンターを喰らい、
 すいません経験ないですと正直に白状して周りからシュプレヒコールが起こったと自慢気に語ったのには、私はなんと反応すればよかった?
 やっぱり時代は処女よねとかツバサみたい言えばよかった?

「あー、ボイステストボイステスト」
「雪姫ちゃん?」
「はい、絵里お姉さん、リリーの身体は動かしやすいですね
 特におっぱいがないのが良いです」
「エヴァちゃんの顔でおっぱいと言われてしまうと違和感があるわね」

 なんとも面白げに目の前の妖精さんみたいな外見をした美少女が、
 手を動かし足を動かし、プールに入る前の準備体操をするように身体を動かす。
 すごい胸が揺れない! とさも嬉しそうに語るけど、
 中にいるであろうエヴァちゃんがどんな反応を示すのか気になってしょうがない。
 なお、ロシアンクォーターである私と、
 銀髪の湖の精みたいなエヴァちゃんがおっぱいおっぱいと連呼しているせいで 
 周囲の注目が微妙に集まる。
 本来なら気にするべきなのかも知れないけれど、
 美少女の下ネタトークは微妙に私自身も耳馴染みにいいので、
 公共の迷惑にならない程度に続けることにする。

「女性的なくびれであるとか、おっぱいの大きさも魅力的ですね」
「そんなマジマジと見られてしまうと恥ずかしいわね……」
「おそらく私の予想だと、リリーとは20センチくらい差がありますね、触ってもいいですか?」
「雪姫ちゃん微妙にキャラ違くない?」
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:18:04.08 ID:bTgsQhbk0
 いいわよと許可をする前に胸元に手を伸ばした彼女は、
 遠慮ない態度で力を入れて胸部をもみもみとする。
 鶏肉に味を染み込ませるみたいに、丹念に指先でマッサージするみたいに。
 しかしながら、私やツバサとかの下ネタトークの結果、
 純粋無垢な雪姫ちゃんがこのように変貌したであるのならば、
 あまんじて衆人環視の中で胸を揉まれてしまっても仕方がないのかも知れない。
 
「例えるのならば絵里の胸はゴムまりのようでいて、
 しかし指先に心地いい感触を残し、
 なおかつ性的興奮を喚起させるような不埒な……
 
 それでいて男性経験がないんですからちょっとくらい分けて欲しい」
「中身が入れ替わるなら予告して」
 
 エヴァちゃんの方もつねづね触ってみたいと思っていたと白状し、
 先程の雪姫ちゃんが実は遠慮してくれていたと分かるくらい、
 胸に指先が沈み込んで、先ほどが唐揚げを作るようであるくらいであるなら、
 今はフォークボール投げるくらいの握力の強さ。
 ちなみにフォークボールの名手であるマサカリ投法の人は
 人差し指と中指で砂の入った一升瓶を挟んで持ち上げる人よ?
 50越えても140キロの直球を投げて、
 引退時に衰えた姿を見せたくないっていう理由で2ケタ勝利を上げてから引退した人。
 なおその年に二桁勝利したのは白武投手とその人しかいなかったし、
 何より首位のライオンズから25ゲーム差離されての24の負け越しってどうでもいいわね?

「何してるの絵里ちゃん」

 寒々しいと評してしまえるような声色で、
 いかにも呆れたと言わんばかりにため息を吐きながら私に声を掛けるのは、
 乳・ヴェル……じゃなかった、エマ・ヴェルデちゃん。
 なお、とてもフランクに話しかけてくるけど、
 彼女は朱音ちゃんとかエヴァちゃんと同じ年なので、
 さり気なく私とは干支ひとつ分近く歳が離れていたりする。
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:18:39.01 ID:bTgsQhbk0
 別に彼女が礼儀知らずであるとか、
 私が年下からナメられているのではなく(その可能性もある)
 初対面時に年齢を打ち明けることができず、
 そのままの流れで20どころか30に近いと判明したあとも、
 親しい友人のように話しかけてくれる。
 彼女の後ろには大量の荷物を抱えた優木せつ菜ちゃんがいるので、
 お買い物の最中である模様。
 いくら腕っぷしが強い彼女とは言えど、
 あたかも人権が無さそうな感じでこき使われているのを見ると
 私を彷彿させるっていうか、親近感が湧くっていうか。

「ええと、スキンシップ?」
「やめたほうが良いよ、こういう童貞には刺激が強いから」
「その発言もどうかと……」

 否定したのは私ではなく荷物持ち扱いをされてる彼女。
 エマちゃんは日本語が不慣れ(らしい)なために経験がないことを
 童貞というと認識しており、コトあるたびにせつ菜ちゃんを童貞と称する。
 しかしながら迂闊に私も童貞なのとアピールすることも出来ないので、
 訂正は未だになされず。
 でも、事あるたびにせつ菜ちゃん自身も違うので、童貞じゃないのでと否定するけど、
 そのたびにエマちゃんはウソつけとか、相手もいないくせにと
 言葉の意味を認識しているような気もしなくないんだけども。

「私の友人もこう、ボディタッチと言うか、わしわしというか」
「以前アニメを見ました」
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:19:10.48 ID:bTgsQhbk0
 あ、私の黒歴史がエマちゃんの知るところになってる。
 スクールアイドルになろうという誘いを私自身も、せつ菜ちゃんもしてしまった手前、
 μ'sのことを語らないわけには行かず。
 しかしながらやたら私の黒歴史をアピールしやがった(脚本家の趣味)アニメのラブライブを知られてしまうと、ただでさえ低い私への評価がだだ落ちしちゃうので。
 なんとかしてそちら方面の興味は捨てていただこうとしたんだけども。

「絵里ちゃん、疑問なんだけど」
「はい」
「どこまでが真実なの?」
「……残念ながら放送された内容は90%近く真実です」

 μ'sの二年生組に協力を断られたアニメは、
 私を生贄に捧げることによって多少なりともドラマティックになり、
 結果、絢瀬絵里のネタ要員としての認知度は、
 不動のものになったっていうか、私の預かり知らぬところで盛り上がりやがったっていうか。
 でも、サンシャインも打ち切られなければ、理亞ちゃんが同じ扱いをされていたので、
 Aqours全員から協力を断られたのがいい方向に繋がったんだと思う。
 なお、自身を出さないで欲しいと願ったとある二人のメンバーは、
 当人とは全く離れた(同じところもある)キャラクター性で評判となり、
 私もそっちの方面で活躍して欲しかった。
 ちなみにぶっぶーの人と、地味なタイプの人よ?

「で、絵里ちゃんはどこに行くの?」

 私の黒歴史にはさほど興味がなかったのか、
 会話を一度打ち切ってエマちゃんが問いかけてくる。
 なお、隣りにいたエヴァちゃんは巨大バストに注目してる。
 そりゃそうよね、でかぁい! 説明不要! みたいな胸してるもん、私も目が行くし。
 
「虹ヶ咲学園に行くつもりなんだけど」
「え? どうして? 休日なのに」
「……今日って休日だったの?」
「絵里ちゃん、せめてカレンダーは見よう、忙しいのは知ってるけど」
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:19:56.34 ID:bTgsQhbk0
 一応彼女の中で私はエリートキャリアウーマンということになっていて、
 休日がまだらに存在する、毎日忙しなく昼夜関係なく働いている、
 という大嘘(と言うか亜里沙の話)を信じてもらっている。
 ――どこまで信じて貰っているのかは分からないけれど、
 アイドルをやっているというのは認識してはいないみたい。

「忘れているのかも知れないけれど、初対面の時に
 虹ヶ咲学園にこの4月から編入するって言ったよ」
「仕事で忙しくて忘れていていたってことで一つ」

 そういえばそんな話をした覚えがある。
 別に彼女の大胆に露出されたバストしか記憶していなかったのではなく、
 身体に発声の基礎を教えるために揉みしだいたことを忘れたわけではなく、
 せつ菜ちゃんにトレーニングをするという話は
 4月以降仕事にかまけていてすっかり忘れてしまっていたため、
 そういえばそんな過去もあったなくらいの認識度しかなかったということで一つ。

「せつ菜、行き先変更」
「……もう昨日から荷物持ちし続けて疲れました」
「バラすよ?」

 困ったように笑うせつ菜ちゃん。
 ちなみにバラすというのは秘密を話すというのではなく、
 海にばらまくみたいな話らしい。
 初対面時にせつ菜ちゃんも自分には秘密があると言っていたような気もするし、
 やたらめったら肌を露出することに対してガードが固いのは
 何かしら事情があるのだと思う。
 まあ、きっとやけどのあとがあって恥ずかしいとかそういう話なんでしょう。
 これだけの美少女がちょっとコンプレックスがあるというのもよくあるみたいだし。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:20:31.66 ID:bTgsQhbk0
 エマちゃんとせつ菜ちゃんという仲間が増えたパーティは、
 虹ヶ咲学園の最寄りの駅へとたどり着いた。
 お台場と言うとやはりテレビ局があるわけで、
 それなりに観光客であったり人が多い場所である。
 長い間放っておいてしまったせつ菜ちゃんに謝ろうと思うんだけども、
 エマちゃんがそれを阻止するかのようにせつ菜ちゃんをコキ使い、
 さらにはエヴァちゃんが本気で不愉快そうに私から彼女を突き放そうとする。
 最初は小柄(ツバサとかニコと同じくらい)なのに胸が大きい(初対面時よりも大きい)
 ことに対して言い得ぬ思いを抱えているのかと思ったけど。
 なんだか事情が違うみたい。

「そんなに警戒しなくてもいいのよ? ほら、ちょっと腕力強いけど
 とってもいい子だから、彼女とてもいい子だから、ね?」
「残念ながら絵里の言うことは聞けません」

 お願いすればだいたい何でも聞いてくれる(無理そうなことも聞いてくれる)
 エヴァちゃんにしては珍しく、私のお願いを拒否する姿勢。
 宝くじ当たらないかなー、1億円くらい欲しい、働きたくないー
 と冗談で言ったら、
 本当にどこかから大量の札束が入ったトランクケースを持ってきて、
 私は亜里沙にしこたま怒られた。
 おそらく空を自由に飛びたいなって言ったらタケコプターとか出してくれると思う。
 ――エヴァリーナちゃんドラえ○ん説。

「うーん、でも、あんまり仲が悪いっていうのも」
「いいんですよ絵里さん、私はほら、変わってると言うか
 そうせざるを得ない事情があると言いますか」
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:21:11.42 ID:bTgsQhbk0
 悪い感情を向けられても基本聖人君子。
 ただ、女性に危害を加えようとする輩には容赦と遠慮がない。
 大人の男性が10人くらい復讐にやってきたことがあったけど、
 10秒足らずで全員を昏倒させて、あ、人種が違うんだなって思った。
 きっと前世でいいことしてチート能力とかつけられてるんだなって関心した。
 ちなみにエマちゃんと初対面時に彼女にナンパしていた人ね?
 顔面を蹴り飛ばされてゴロゴロ転がって行った人元気かな……。

「ほら、エヴァちゃんも相性はあると思うけど、私の顔を立てて、ね? 仲良くしよう?」
「……仕方ありません、ではせつ菜さん」
「はい?」
「先ほど私がしていた行動を、私にしてください、仲良しのスキンシップです」

 なんでそんなことを? と疑問に思ったのは私くらいで、
 エマちゃんも、せつ菜ちゃんも、雪姫ちゃんが教えてくれたところによると、
 離れた場所で私を監視している二名(+メイドさん)も固まっている。
 そりゃ、自分からおっぱい揉んでくださいというのは大胆にも程があると思うし、
 さあ手を伸ばせと言わんばかりに胸を張ってみせるのはどうかと思うけども。

「分かりました……! 不肖優木せつ菜! 行きます!」

 私以外の全員が「ええ!?」みたいな反応を示し、
 言った当人であるエヴァちゃんも珍しく驚いたような顔を見せ、
 中にいる雪姫ちゃんが「それはあなたの本名じゃない」とツッコんでた。
 そこまでしなくてもと言うべきか、
 それなら次は私とコミュニケーションとネタに走るべきか。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/16(水) 12:27:35.63 ID:bTgsQhbk0
エリち視点という関係上。
優木せつ菜という人物が「優木あんじゅさんに憧れ」ていて「優木性を名乗る綺羅ツバサの弟」であり、
その正体を知らないのは「絢瀬絵里さん」ただ一人だと作中で白状できないので補足。

ちなみにリメイク版アラ絵里において、
「https://syosetu.org/novel/165937/6.html」
かよちんの飲み会編で二人とは出会っています。
読まなくても、とりあえず男だってことさえ覚えておいてくれれば、
状況はわかって頂けるかと思います。

ちなみに今作品では男性ですが、
黒澤サファイアと同じくらいの二次創作ネタなので、
ご注意頂ければ幸いです。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/16(水) 13:09:24.71 ID:qfhEyfZBO
えりちのおっぱいはちょい固め?アラサーでも十分な張りがあると見た
そしてまさかの男の娘登場か…エヴァちゃんだけでなくえりちのおっぱいにまで手を出したら流石に無事じゃすまなそうw
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/17(木) 04:22:10.69 ID:Alh601f10
 目をギュッと閉じながら恐る恐る手を伸ばすせつ菜ちゃんを見て、
 そんな彼女の手を待ち構えつつも、その空色の瞳をうるうると湿らせ、
 周囲の人間も「え、本当に?」「やばい、これまじやばい」みたいな感じで反応し、
 私の中にいる雪姫ちゃんも「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」って叫んでる。
 いつだって冷静で年上の私をむしろ窘める傾向が強い年下の二人が、
 動揺し、混乱している状況下に逆にクールさを取り戻してしまった私は、
 ――果たしてその行動がほんとうにクールであったのか、
 ネリー・ラスフォルトみたいに自称クールでしかなかったのかは怪しいけれど。

「せつ菜ちゃんこっち!」
「え?」

 私の耳に届いたのは彼女自身の「え?」だけではあったけど、
 エマちゃんも言っていただろうし、ツバサも真姫も言ってただろうし、
 エヴァちゃんも言っただろうし、雪姫ちゃんも我を取り戻して言ってる。
 せつ菜ちゃんの手を取り、自分の胸元に導いてみせた。
 回りくどく言っているけれど、
 要はせつ菜ちゃんに私のおっぱい揉ませたったということで。

「ごぁぁぁぁぁエリィィィィィッッッ!?」

 プロの声優(エロゲー出演多数)である真姫の全身全霊の叫びが、
 仕事でだってそんな鬼気迫った声を出さないのではないかという怒号が
 駅前に響き渡り周囲の視線が一斉に私たちに向いた。
 なお、慌てていないのは私一人。

「……どう?」
「どうとは」
「感想!」
「はいぃぃぃぃ!」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/17(木) 04:22:46.76 ID:Alh601f10
 胸から手を離さずせつ菜ちゃん直立不動。
 彼女の腕力(大の男10人を返り討ち)なら私の手を振りほどくなど容易なはず。
 それでもその行動をしないのは空気を読んでくれているからでしょう。

「とても良い触り心地だと思います。
 過去の人をダメにするソファというものがありましたが、
 手に伝わる感覚は人間を堕落させるに相応しいと言えるでしょう
 やわらかすぎず、硬すぎず、大きさも立派であり、
 これがもし禁断の果実と呼ばれるものであるのなら
 私は喜んでもぎ取ってしまうことでしょう。
 おっぱいプリンとかおっぱいなんたらと呼ばれて親しまれるような存在が、
 矮小な存在であるように錯覚してしまうほど、
 代替するものと呼ぶにはふさわしくないと自分は断言できます。
 癖になると言うより、あらゆる存在をおっぱいを揉み続ける何かにするほどに
 魅力的であり蠱惑的であり
 たわわであるとか色々とこれを表現する言葉がありますが、
 私としてはやはりおっぱいという言葉が一番正確だと思います
 胸であるとか、巨乳であるとか、表現する言葉は様々ですが
 もう、おっぱいと呼ぶに相応しいと思います。
 芸術的なフォルムに感触の素晴らしさは、
 あらゆる美術品を軽く凌駕し、これをもし直に触れるような人間がいるとすれば
 それはすなわち神と呼ぶべき存在なのではないか――」

 そこまで感想を言わなくていいのよ? と、言おうとして
 あまりに褒められてしまっているのでちょっと気恥ずかしくなってきた。
 ちなみにこの行動を見ている面々は「◇」みたいな口をしてみてる。
 変態だーって言いたいんだと思う。
 真面目で一生懸命な彼女は多少パニックを起こして長台詞に至ったんでしょう、
 中身が変態的であるという可能性はとりあえず信じない。
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/17(木) 04:23:36.31 ID:Alh601f10
「そ、そろそろ手を話してくれると嬉しいな?」
「むにゃむにゃ、あと五分……」
「せつ菜ちゃんいま夢の世界なの!?」

 ――中身が変態であるという可能性は、と、とりあえず信じない。

「周囲の男性は聞いてください」

 私の体の一部分から手を離さず、
 せつ菜ちゃんは慈愛が溢れたあらゆる悪を許諾する女神みたいなほほ笑みを浮かべ、
 
「この世界は、好きなものを好きというのに躊躇いを感じてしまう世界。
 人からバカにされたり、足を引っ張られたり、
 おっぱいが好きだなんて言えないみたいな事情があったり。

 でも、みんなおっぱいって好きじゃないですか。
 柔らかくって、ふにふにして、純真無垢と表現されてしかるべき。
 揉んでる人も、揉まれている人も、おっぱいが大好きで、素直に大好きだって言える。

 優しい世界っていうのは素直におっぱいを揉める世界だと思うんです。
 楽しくって、キラキラして、奇跡が溢れて、トキメキが溢れて、
 愛って知ってますか?
 愛っていうのは、そそげばそそぐほど湧いてくるんです。
 いくらだって止まらない、ここには愛が溢れてる!

 大好きが溢れた世界は、
 いらないとか、暗いとか、そんなネガティブな世界を凌駕するんです。
 諦めるとか、もうだめだとか、めげて投げ出したくなる気持ちを
 どうにかする力があるんです。
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/17(木) 04:24:13.64 ID:Alh601f10
 大好きな世界を
 おっぱいが大好きだって世界を広めたい!
 好きなものを好きってはっきり言える世界を広めていきたいんです!

 果てのない夢物語です。
 石だって投げられるかも知れない、
 罵詈雑言だって投げかけられるかも知れない。
 でも私たちは負けない! 
 ネガティブな感情は! 途方もない悪意は!
 大好きで塗り替えることができる!
 かつてμ'sが起こした奇跡のように!
 私たちは違うからこそ一つになれる!
 一つになった光は! 誰にも負けないんです! 
 新しい輝きへと! トキメキへと続いてくんです!

 かつて――とあるプロレスの方が仰られてました。

 この胸を揉めばどうなるものか。
 ――迷わず揉めよ! 揉めば分かるさ! ありがとぉぉぉぉ!!!!」

 周囲の男性には泣きながら拍手を送っている人もいたけど――
 私が見たこともないような怒りを抱えた表情のツバサであるとか、
 般若みたいな表情を浮かべた真姫、死神に取り憑かれたんじゃないかっていうエマちゃん、
 そして徹頭徹尾無表情だけど激しく怒り心頭なのが分かるエヴァちゃんにより、
 優木せつ菜ちゃんは結構痛い目を見たみたい。

 ただ、悔いは無さそうだったので私は敬意を評したい。
 でも、猪木にはビンタされたほうがいいと思う。
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 05:46:05.26 ID:+yIREKIKO
おっぱいの感想への拘りに>>1の本気を見た
せつ菜くん不可抗力とはいえ得たものが大きすぎて同情できないな
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 07:58:22.34 ID:Hg38JMOQO
絵里ちゃんのおっぱいのためなら人生捨てても良い
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 20:49:41.87 ID:3olCWaR+O
美少女が美少女のおっぱい揉みながら演説してる構図…
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/18(金) 04:19:56.61 ID:1kM8A+jI0
 現在虹ヶ咲学園前。
 UTXみたいにビルなのか高校なのか分からない外観をしている高校を観ても、
 ああ、そんなものなのかな? と思った私。
 過去にオトノキが流行らなくて生徒数が減少した時でさえ、
 ここにはここなりの良いところがたくさんあるし! と思ってた。
 オシャレで清潔感のある、目を引く外観をした虹ヶ咲学園を見上げながら、
 もしかしたら近い未来にオトノキも繰り返し廃校の危機を迎えるのかも知れない。
 なんて考えた。
 そりゃあ、自身の出身の場所を貶めるようなことは考えたくないけど、
 流行には流行りも廃りも当然のように存在する。
 未来にオトノキみたいな場所が、むしろ新鮮さを持って捉えられ、
 私の想像など風の前の塵のように吹き飛ばしてくれる可能性はあるけれど。
 
「増築を何度も繰り返しているUTXよりも立派ですね……」

 ちなみに隣にいるのは優木せつ菜ちゃん。
 ツバサを中心としたメンバーから全身全霊を込めた報復を与えられ、
 腕があらぬ方向に曲がっていたような気もするけれど――
 20秒位で復活を果たし、
 失礼なことをしたので私が絵里さんをエスコートします! と宣言。
 当然周囲の女性たちは反対もしたし、何いってんだみたいな態度を取られたけど。
 強固な意志で説得に耳を傾けず、最終的にはエマちゃんが
 ツバサと真姫にアンチエイジングの方法を尋ね、
 若い若いとおだてられた二人は私を見捨て4人でお茶に行ってしまった。
 ちなみに和木さんも一緒、彼女は私と真姫を引き離したくて工作に走ったし。

「あまり絵里に近づかないことです」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/18(金) 04:20:27.72 ID:1kM8A+jI0
 エヴァちゃんはせつ菜ちゃんを最大限警戒中。
 ちなみに中にいる雪姫ちゃんも、きしゃーきしゃー言いながら威嚇してる。
 小動物が必死になって抵抗しているみたいでとても可愛らしいけれど、
 聞こえているのが私だけというのが難点、ブイチューバーな感じで放送したら、
 さぞかし人気を集めるに違いない、女子小学生が威嚇してみたとかで。
 輝夜月とかキズナアイレベルで有名になってしまうかも。
 絢瀬絵里がデビューした暁には吹き替えはのじゃロリおじさんでお願いします――

 校内の中に入れないかも知れないと思ったけど、
 一部スクールアイドルがイベントをしているとかで自由に入場することができた。
 挙動が怪しいであるとか、見た目が怪しいである人間はいないので安心。
 自分が年甲斐もなく美少女二人引き連れてるアラサーであるという事実は棚に上げる。

「耳に届く声がするわね」
「絵里も聞こえた?」

 エヴァちゃんと一緒にあたりをキョロキョロと見回す。
 大きい声を張り上げているわけでも、
 特徴的な声をしているわけでもなく。
 雑踏の中でも特別輝きを放って――耳に入るから、輝きとは違うんだけども。
 しかし声はすれども姿は見えず。
 人が多いせいで誰が出している声だかわからないし、
 チラシを配っていると思しき少女はそこら中にいるので特定することができない。

「あの人じゃないですか?」

 1メートル以内に近づくなとあらゆる女性から厳命されても、
 エヴァちゃんの絶対零度の怒りに触れてもなおどこ吹く風。
 UTXナンバーワンアイドル(自称)の優木せつ菜ちゃんは私に距離を近づけてくる。
 あえて文字にするなら「コァァァァァ!?」みたいな声を出す雪姫ちゃんの喉が心配。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/18(金) 04:21:05.07 ID:1kM8A+jI0
「彼女もスクールアイドルなのかしら?」
「確かにアイドルがビラ配りをするのはよくあることです」

 せつ菜ちゃんと私との間に割り込むようにしてエヴァちゃんが乱入。
 彼女は左腕を絡め取るようにしたり、せつ菜ちゃんを警戒したりとすごく忙しそう。
 もっと私にせつ菜ちゃんを邪険に扱って欲しいみたいだけど、 
 どうにもそういう事ができない、真面目で融通のきかない一面が自分を彷彿とさせるのかも知れない。
 
「ちなみにせつ菜ちゃん、見た目からしてバストサイズはどう?」
「82センチと識別しました」
「この離れた距離で胸のサイズにだけ優れた洞察力を発揮するのはどうなんですか」

 先ほどおっぱいに関して熱く語ってくれたので、
 冗談半分で大きさとかカップは分かるのって問いかけてみたら、
 分かりますよ? と何気ない調子で答えられてしまい一同驚愕。
 言葉を聞いた全員が全員エマちゃんのバストに着目し、
 当人でさえ「あ、ネタにされたな?」みたいな感じで諦めた表情を浮かべ、
 せつ菜ちゃんに解説を求めた。
 ――92センチという規格外のサイズだったけれど、
 今の彼女はμ'sであった時代の園田海未と同じ年齢だっていうことを認識し、
 エマちゃんが大きいのか海未が普通であったのか。
 とりあえず彼女には知られないように努力しようと思う、何があっても。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/18(金) 04:21:41.82 ID:1kM8A+jI0
「気になる、絵里?」
「なんだか目を離せないわね、動悸かしら」
「そこは恋であったほうが自然だと思います」

 小ボケにクールにツッコミを入れるせつ菜ちゃん。
 でもなぜか、恋という単語にエヴァちゃんも雪姫ちゃんも敏感に反応、
 敵意の視線が激しく高まり、まあまあと二人をなだめながら目を引く彼女の元へと向かった。

「スクールアイドル”いざ鎌倉”ライブしまーす!」

 ガクッと来た。
 μ'sであるとか、A-RISEというのが一般的なスクールアイドルの名前である、
 なんて断定はしないけれど。
 何故お台場にある虹ヶ咲学園のアイドルの名前が”いざ鎌倉”であるのか、
 どうしてそんな名前にしようと思ったのか、確かにインパクトはあるけど。
 しかしながらチラシを配る彼女がいくら努力をしようとも、
 受け取ってくれる人は少なく、手に持っている紙は減る様子が見えない。

「彼女がグループのセンターに居るなら観ても良いかも」
「絵里の中で高評価だね」
「Dですね」
「そこは解説は求めてないのよ」

 ――真面目なところがきっとネタ方面に走りがちになってしまうんだと思う。
 そこしか見てないという疑惑は置いておく。
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/18(金) 09:09:39.48 ID:NgZTGDmZO
エマちゃんから漂う強キャラオーラ
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/20(日) 18:53:03.40 ID:E+W6QlVG0
 大人しそう――という私の第一印象がどれほど正確であったか。
 エマちゃんにも同様の感想を抱いているので、
 人間は見た目通りの性格をしていることは少ないのかもしれない。
 自分の直感が鈍いという想像は棚に上げる。
  
 上原歩夢さんはチラシ配りの手を止めて、
 金髪と銀髪と黒髪という妙な三人組をみやり、
 ニッコリと微笑んでみせた。
 自分に興味を持たれたことをいち早く認識し、
 自身の味方であると把握した模様――私にはおおよそできない芸当。
 その時点でただのおとなしい少女ではなさそうと思ったけれど、
 彼女の才能の優れている部分はなんとなく伝わったではあるので、
 歩夢さんが”いざ鎌倉”の一員であることを信じつつ声を掛けてみる。

「え? ああ、私はただのお手伝いです」

 しょんぼり。
 私が露骨にがっかりしてみせたのが功を奏したのか、
 歩夢さんは虹ヶ咲のアイドルのアピールポイントを挙げてくれるけど、
 その表現に怪訝な表情を見せたのはUTXのトップ(自称)なせつ菜ちゃん。

「メンバーは中で待機ですか?」
 
 同じスクールアイドルとしてのライバル意識かと思いきや、
 咎を責めるみたいな真剣な面持ちで、
 なんとなく目を引く凛とした顔つきなので、
 首を傾げながら、何故同性の子にここまで興味が惹かれるのかな? なんて考えた。
 美少女さ具合で語るなら、ここにいるエヴァちゃんであったり
 元気に仕事中の理亞ちゃんもそう、不承不承ツバサも挙げておく。
 近づかれるとほかの可愛い子には感じないような、
 動悸息切れ悲しくないのに涙が出ちゃう――ウキウキ恋煩い。
 そんな訳はなかろうと思う、たぶん。

「いえ、あまり知名度のないグループが
 自身でビラ配りもせずに待機しているという光景が
 妙なものに映ったので」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/20(日) 18:54:14.57 ID:E+W6QlVG0
 私も違和感を覚えていることではあったのだけど、
 確かにもともと部活動であるスクールアイドルだけあって、
 よほど有名なトップでもないかぎり事前準備や作業は自分たちも行う。
 A-RISEもUTXのプロモーションとしてアイドルである以上は
 トップがファンと距離を近づけてはいけないという建前もあって、
 当人いわく「結構偉そうにふんぞり返っていた」らしい。
 UTXも一度落ち目を迎えたのが大きかったのか、
 アイドルとしてファンから愛される存在を意識した結果、
 現トップのせつ菜ちゃんも例外なく、力仕事を中心にこき使われているみたい。
 周りが女の子ばかりだっていうのは何? あなたもその女の子なのでは?

「絵里さん、ちょっと喝入れてきます、喝」
「え、私連れて行ってくれないの?」
「絵里はこの人の好感度高いですね? 僭越ながら私も手伝います」

 ビラ配りをしている彼女一人、
 え、そんなことしますのん? みたいな表情を浮かべつつ、
 多少の疑問点はあるのか私たちを止めなかった。
 しかしながら、自分は巻き込まないでくださいという人間を
 やたら引っ張り込みたくなる習性を私もせつ菜ちゃんも持ち合わせていたので、
 この場で待機しようとした歩夢さんを引っ張り込むで連れて行く。
 目標は”いざ鎌倉”――いや、なんていうか、
 私たち武士か何かではないけど、ほんとう妙なグループ名よね?



 過去ちょっとスクールアイドルやってましたな私よりも、
 アイドルとして事務所に所属していて知名度もそれなりにあるエヴァちゃんよりも、
 学園が目標とするUTXのトップスクールアイドル(事実)な優木せつ菜ちゃんは
 思ったよりも歓迎されることとなった。
 が、彼女たちはせつ菜ちゃんを知っていても、
 当人が”いざ鎌倉”というグループを知っているかに関しては事実の把握が遅かった。
 インパクトが有り、確かに一度目にすれば忘れないような名前を持っていても、
 認知をされるかどうかは別問題、UTXに限らず目立つ名前のスクールアイドルなど腐るほどいるらしいし。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/20(日) 18:54:51.20 ID:E+W6QlVG0
「東京でも有数のグループなんですね」

 ここまで来たのだから自分たちに興味を持ったのであろうという想像はある意味では正しい。
 それがポジティブな方面でないことを察するスキルが低いのは、
 別に彼女たちの責任じゃない、私もたぶん同じことをされたら一緒に頑張りましょう! 
 とか言って後からニコや真姫あたりに空気を読めって怒られると思うし。
 が、μ'sを昔のスクールアイドルくらいにしか知らなかったことと、
 先頭を切ってグループのするべき仕事に励んでいた歩夢さんに対する把握がなされなかったことは、
 すでにせつ菜ちゃんの憤慨ポイントを如実に高めてしまい。
 ついてきたはいいものの、何もすることがない。
 怒る彼女に引っ張られ同調してしまった手前、
 では後はなかよしこよしでごゆっくりと退場をすることもできず、
 自身の迂闊さを反省しながら歩夢さんに話しかけてみる。

「本当にスクールアイドルμ'sの絢瀬絵里さんなんですか?」
「一応同姓同名の可能性はあるけど……」

 ツバサや穂乃果あたりにも、
 μ's時代の絢瀬絵里といまの絢瀬絵里は別物疑惑があって、
 もっと賢くなかった? そんなにポンコツだった?
 みたいな扱いはされることもある。
 が、私みたいな人間が世の中に複数人いるとすれば、
 さぞかし周りに迷惑をかけるであろうので、
 まあ、たぶん、そういうことなんだろうとは思う。
 なお、スクールアイドルに関する知識がそれほどない歩夢さんでも、
 μ'sのことは結構有名な存在だったらしく。
 自身の高校のスクールアイドルが私たちを知らないという話は、
 驚きを持って迎えられた模様。
 なお過去に放送されたアニメにおいてμ'sを知らないとされた梨子ちゃんも、
 そんなわけ無いですの一言ともにその事実を否定してくれた。
 そりゃそうだ、横浜高校に通ってて松坂大輔知らないレベルだもんね?

「私の中でμ'sってすごくて、小さいころ、すごい人がいるなーって」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/20(日) 18:55:25.53 ID:E+W6QlVG0
 私たちが活躍をしているころ、
 上原歩夢さんは小学校入学したてみたいな事実を知り、
 ダメージを受けるアラサー(笑)
 東京でも東京扱いされない田舎出身だという彼女も、
 テレビや周囲の女の子たちの出す話題はμ'sとかA-RISEだったらしく、
 興味本位で誰を推してたの? って尋ねたらすごく困った表情を浮かべて、
 海未の名前を挙げてた。私はって聞いたら、
 それ以上はダメだって、エヴァちゃんと雪姫ちゃんに静止された。

「憧れるのと同時に、こうはなれないと諦める気持ちもありました。
 この学園に入ってから部活動や委員会のお手伝いを続けて、
 私は頑張っている人の応援をするのが好きなのかなって」

 私自身が断じるわけではないけど、
 身勝手と言わればそれまで。
 自分ができないから人のことを応援するという気持ちは、
 何も決して悪いものじゃない。
 みんながみんな自分が自分が! と自己主張と自分語りを始めれば
 交流とかあったものじゃないけれど。
 だからといって、自分ができないことを人任せにすることは、
 応援するという言葉に置き換えて良いものじゃない。
 ボランティアでもそうだけど、善意の行動に見返りを求めてしまうと、
 いいえぬ争いごとが始まってしまうことは多かったりもする。
 でも、善意を否定なんかできない。
 身勝手な要素があれど、見返りを求める部分があっても、
 気持ちの代替により応援するという行動にとどまっていても、
 友人であるならともかく、私なんぞが違うからやめよう? 
 なんてことは言えない、そもそも説得力がまるでない。

「勝手ではあるんですが、私けっこうグループに協力したつもりだったんです。
 ちょっと残念ですね……」

 歩夢さんはちょっと周囲が見えていないとするべきなのか、
 私が必要以上にせつ菜ちゃんの怒りっぷりを分かりきっているのか。
 建前上アイドルであるので、笑顔の仮面こそ貼り付けているけど
 声色には微妙に怒気が漏れて、先ほどから両手はグーになりっぱなし。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/20(日) 18:56:05.75 ID:E+W6QlVG0
 裏方を蔑ろにすることはスクールアイドルにとってタブー中のタブー。
 一般生徒は善意の協力者であり、応援して貰えるのが当然などと思っていては、
 スクールアイドルとしては落第点。
 私が意外と裏方に回るケースがあったからではなく、 
 UTXのA-RISEを中心としたグループも見えないところでフォローはしていたし、
 ツン期全開の理亞ちゃんや、人の顔を記憶するのが苦手な聖良さんでさえ、
 自分たちを支えてくれる人がいたからと感謝の気持ちは絶えてない。
 歩夢さんのバストサイズを寸分違わず当ててみせ、
 ブラジャーのブランド(上手いこと言った)も見もしないのに把握していて、
 この人なんなんだと思うのは仕方ないにせよ、
 せつ菜ちゃんが歩夢さんのために怒り狂ってるのは感じて欲しいところ。
 
「え? 本当に私も参加しても良いんですか?」

 私もおそらく苦笑いを浮かべているけど、
 あまり表情を変えることがない(他人にそもそも興味がない)エヴァちゃんも、
 うわぁみたいな顔をしている(雪姫ちゃんは中でうわぁって言ってる)
 詳しいトークの経緯は伏すけど、
 イベントに自分を参加させててめえらのメンツを叩き潰すという意図そのままに、
 できるだけ相手から参加して欲しいとお願いされる形で会話を誘導してみせた。
 それに気がついているのは、私とエヴァちゃんと歩夢さんくらい。
 ようやくここに来て裏方に精を出していた自分をかばってこんなことをしていると気づいたみたいで、せつ菜ちゃんへの尊敬度が上がった模様。
 本来真面目で熱血なスクールアイドルなんですよ? 真面目ゆえにネタに走るだけで。

「あ、ソルゲ組の音源もあるんですか? すごいですね! 
 偶然にもここに絢瀬絵里さんがいるんですよ! 参加してもらえないかなあ……?」
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/20(日) 18:56:38.49 ID:E+W6QlVG0
ちらっと私を見るせつ菜ちゃん。
 態度こそ申し訳なさそうに、できれば参加してほしいなあ? 
 と思っているようではあるけど、おそらく本心はついてきたんだから分かってますよね?
 なのではないかと。
 年下の子を生贄に捧げてふんぞり返っているのは絢瀬絵里としても胸が痛いので、
 意気揚々と頷いてみると。

「え? μ'sが一昔前のスクールアイドルではないかって? あはは……」

 μ'sのことはさほど知らずとも、
 30近い年齢の年上のオバサンがまともに踊れるわけがないと思うのは当然。
 今もなおトップアイドルとして仕事をしているツバサみたいな人が別格で、
 アイドルの賞味期限はだいたい25歳くらい。
 だからこそセイントムーンの芸能活動の撤退もさほど引き留められなかったし、
 そのメンバーの妹である理亞ちゃんでさえ、アイドルグループの中ではかなり年上のメンバーである。
 ただ、私自身もアイドルグループのエス・ディー・エスの一員として理亞ちゃんの動きと遜色なく踊れていると思うし、
 一部ではババア無理すんなとネタにはされているけど、
 けっこう尊敬の念を持って観ている人は多いみたいですよ? 聞いた話だけど。

「えー、そんなコトないですってー」

 優木せつ菜ちゃんの参加は歓迎しても、 
 旧人類みたいな扱いの私や、私を貶されたことにより準備を始めたエヴァちゃんには来てほしくないらしい。
 スクールアイドルだけでイベントはやりましょう!
 みたいな提案をすれば問題は解決するのに、それをしないでいるのは、
 その事を考えていないのか、好意的に見ればせつ菜ちゃんの機嫌を損ねて
 話をなかったコトにされたくないのか。
 歩夢さんが一人、どちらに味方をすれば良いんだろうみたいな態度で困っているので、
 私は先ほどせつ菜ちゃんが言い放った下着のブランドが正解かどうか尋ねてみた。
 彼女は困った表情しながら、こういうところにお金はかけるべきだと言われて……
 と、正解であることを教えてくれたけど。
 ほんとう、露出してもない下着のブランドを当てるとかどういう眼力であるのか……。
 そして、私がちょっとスルーしている間にいざ鎌倉の面々を納得させて、
 絢瀬絵里、優木せつ菜、エヴァリーナという即席のソルゲ組のイベントの参加を決まらせるトーク術――今度教えてもらおうと私は思った。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/20(日) 21:16:51.14 ID:S8WagfkjO
見た目どんだけ若くても年齢ネタにされるのね……
せつ菜くんが海未ちゃんでエヴァちゃんが真姫ちゃんパートかな?なんとなく
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/21(月) 19:50:18.56 ID:pfqkmEiC0
 一同集まっての作戦会議。
 いざ鎌倉側と即席ソルゲ組に分かれ、
 事前準備という名目によりそれぞれが好き勝手に時間を過ごしていく中。
 虹ヶ咲学園の学生にありながらこちら側に引きずり込んでしまった歩夢さんには、
 本当に申し訳立たなくて仕方がないんだけども。
 ただ誰かの手伝いをするのが好きという言葉通り、
 どこぞから衣装を持ってきてアラサーという年齢にある私も
 パっと見どこかからやってきたスクールアイドルに見えなくもないくらいには、
 外見では整えられた様子。
 ――口を開くとボロが出るという忠告は聞かなかったことにする。

 もともとスクールアイドルで名を売ろうとしている高校だけあって、
 どこぞの分からないグループに乱入されようともイベントをこなせる程度には
 スタッフの皆様は優秀らしい。
 中にはμ'sと同時期に関東圏で活動をしていたというスクールアイドルの方もいて、
 夢みたいです! とあまりに褒め称えてくれるので、
 いまはツバサと同じ事務所で踊っていると言ったら、
 サインを貰ってきてくれませんか! と、先ほどよりも強い勢いで言われてしまい、
 歩夢さんを通じて彼女にはプレゼントが送られることとなった。
 その分私たちのステージでは頑張ってくれると言うので、
 是非にも私のために頑張っていただきたい、ツバサにサインをお願いしておくので。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/21(月) 19:51:02.25 ID:pfqkmEiC0
 自分以外の人間がピチピチの10代のチャンネー(アラサー流の表現)であり、
 アラサーであることを隠しつつ、髪の毛をツインテールにして澤村英梨々とでも名乗ろうかと思ったけど、
 ツインテールはバストサイズをサバ読みするんですよね?
 と、反応に困る指摘を受けて諦める。
 ニコは顔が広いので、どこで絢瀬絵里が悪口を言ったか把握しそうなので、
 迂闊に3センチサバ読みをしたところでμ'sの中で一番下だという事実は、
 私の胸の中にとっておくことにする、容量は大きそうな気がする、見た目的に。 
 なお、川澄詩衣さんと名乗る方も凛の暴露により、
 四捨五入すると70になるらしい、あの、苦労しているからね? 胸の大きさでステータスは決まらないからね?
 
「センターに立つのが私というのが不承不承ではありますが……」

 説得の際に目立つのは優木せつ菜であることを約束してしまったらしく、 
 ちょっと動きを合わせると称して3人で踊ってみたら、
 私しか見てないエヴァちゃんと、とりあえずやってみようの私と、
 そんな二人に振り回されるセンター(笑)の構図が誕生した。
 ちょっとびっくりしたんだけども、スクールアイドルのイベントにもかかわらず
 様々なゲストが入り乱れて2時間くらいのステージで、
 自分たちの出番まで1時間以上もあったりする。
 北は栃木、南は静岡から遠征しに来るスクールアイドルのほうが、
 虹ヶ咲学園のアイドルよりもレベルが高いのではないか疑惑があり、
 以前会った時にスクールアイドルをやってくれると約束したエマちゃんも、
 イメージと違うという理由でグループに所属せず、気のあった仲間と自由気ままに過ごしている様子から察するに、この高校はえっと……。
 が、スクールアイドルに逆風が吹いているという状況は、
 優木せつ菜ちゃんの熱血ポイントを刺激するらしく、 
 是が非でもスクールアイドルの底力を見せましょう! と、私にばっかり言ってる。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/21(月) 19:51:32.55 ID:pfqkmEiC0
 確かに三人で着替えとなった際にも、お前はあっちいけと言わんばかりに
 せつ菜ちゃんを壁際に押しつけて潰そうとしたので、
 苦笑しながらダメでしょって優しく忠告したら、
 エヴァちゃんが渋々と言った調子で着替え始めたらせつ菜ちゃんのほうが退場した。
 肌を露出をするのがあまりということなので、そういった部分があるアイドルも素敵だとフォローしておいた。
 私もそう! とエヴァちゃんが負けずに主張したけど、下着まで脱いで着替えようとした彼女が露出するのが苦手とはこれいかに。
 しかし、エヴァちゃんとせつ菜ちゃんは肌の露出が最小限抑えられた
 クラシカルなスタイルにとどまっているのに、
 年上の私一人がやたら露出が激しいのはどういった経緯と思惑があってのこと?
 例えるなら私だけがNo brand girlsで、二人がLove wing bell(タキシード風)みたいな感じね?
 ちなみに誰かの指示で本当にNo bra girlなんだけども、あ、girlって年齢じゃないわ。

「即席ではありますが、グループ名はどうしましょう」

 もともと身体を動かすのが得意な面々だけあって、
 30分もすればお互いの動きを観察して合わせる程度のことはできるようになり、
 最初は笑っちゃうくらいバラバラな3人も、
 「え、何この人たち……」みたいなコメントを発した歩夢さんから察するに皆からの評価もうなぎのぼり(たぶん)
 せつ菜ちゃんもセンターとしてがんばりますと意気込みも新たにして貰ったので、
 なんとかある程度のパフォーマンスは披露できると思う。

「そうね……私は命名センスが無いから、エヴァちゃんは?」
「処女(おとめ)はお姉さま(ボク)に恋してるとか?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/21(月) 19:52:20.83 ID:pfqkmEiC0
 それはなんだか2に私の声っぽい人がいるゲームじゃない?
 何よりグループ名っぽい提案ではないので、エヴァちゃんには自重を促し、
 私も文句を言ってばかりでは難なので、少しは考えてみることにした。
 
「せつ菜ちゃんの好きなものって何?」
「おっぱ」
「それ以外で、あとボケに走らなくてもいいのよ?」
「いえ、実際好きなものは好きですから」

 相手に告白するのではないかっていうくらい、
 本当に真剣極まりない顔をしながら私はおっぱいが好きですと告白されても。
 先ほどから私達と一緒にいて、尊敬の視線を向けたり、何だこいつって目をしたり、
 上原歩夢さんが忙しいから、そこはせめて平均的にすごいなって目でいてほしいし。
 でも実際問題すごいのよ? 
 フツーのスクールアイドルは死角から飛んでくるエヴァちゃんの飛び膝蹴りを
 気配だけで察して避けて見せた上に、これは演出と言わんばかりに
 動きを止めなかったという姿。
 あまりに自然だから事前に打ち合わせたのかと思ったら、
 エヴァちゃんが本気で忌々しいものを見る目で睨みつけてたから察した。
 なので、女の子には暴力振るっちゃダメ、振るうなら私みたいなのにしなさいと言ったら、
 返事だけは高らかにわかった! と言ってくれたけど……。

「じゃあ……ALSTROEMERIAで」
「ログインボーナスで貰えそうだね?」
「350日ログインって大変ですよね、性能はがっかりですが」

 ちなみに花言葉は”未来への希望”
 私たちの未来が輝かしく明るいものになりますようにという意味を込めて。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/21(月) 20:07:27.53 ID:pfqkmEiC0
さて、次回のアラ絵里は!

せつ菜です。

春が好きという方は多いですが、
私は夏が好きです。
異性のブラ透けをお咎めもなく眺められるのは、
高校生までだと思うんです。
服装も露出度が高くなっていきますし、
水着なんか最高ですよね? 
特にビキニなんか素晴らしいと思います。
あんじゅ姉さまのビキニは
姉に歩く性犯罪と称される通り大変犯罪的。
あんな下着姿と変わらない姿で、
多くの異性の前に立てる季節はYeah!めっちゃハラショー!
と言っても良いのではないでしょうか?
なお、ビキニのあんじゅ姉さまに
着替えさせてもらった綺羅雪菜は日本で一番幸福なんでしょう。
ツバサ姉の弟で本当に良かったと思います。

真姫 先頭を切ってヲタ芸を披露する
理亞 ルビみやに喧嘩を売られる
絵里 死期を悟る

の三本です!

と、暗くてシリアスな話になったら箸休めを置こうと思うんです。
次回の登場は2話か3話くらいあとになると思います。
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/21(月) 20:27:08.10 ID:9ndzFNZxO
唐突なサザエさん風で草
せつ菜くんはすっかりおっぱいキャラが板についてしまってるわ…
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/22(火) 19:44:46.31 ID:WwXa6ch60
 高校を卒業して10年は経過しようとしているメンバーがいるALSTROEMERIAが、
 スクールアイドルを名乗っていることに関してふと疑問に思えど、
 すでにステージ裏に集結している二人に私って参加しても良いのかな?
 と、空気を読まずに問いかけることはできなかった。
 ここからちらりと見えるステージの上では高校生女子たちが輝きを放ち、
 ちょっとくらいアンチエイジングに効果がないかなと思ってまじまじと眺めてたら、
 観客の中のエアーポケットのような、特等席に私の知り合いが集結しているのが見えた。
 ありていに言えば、ツバサとか真姫とかエマちゃんであるとか、
 私を見捨てて撤退していた面々が何食わぬ顔をして騒ぎ散らしている。
 あまりにもテンション高く大きな声で応援しているみたいであるので、
 ステージから返ってくる一部のアイドルたちが、
 怪訝そうな表情で会場をあとにしている様子が散見された。
 すごく迷惑だと思いますが、このあと私が登場したら
 もっと大きな声で騒ぎ出すから、誰あのツバサさんに似た人っていうのは、
 おそらくそいつは綺羅ツバサっていう私の知り合いなので。

「……ステージに立つ時は一つも悔いは残さないようにしています」

 先ほど自身をボコボコに殴りつけた相手が
 何食わぬ顔をして観客席にいることを察知した彼女も緊張を隠せない。
 エヴァちゃんの痛そうな膝蹴りの連打にもめげず、
 徐々にステージに立つアイドルの顔になっていく姿には感動すら覚えたのに。
 キリっていう表情から、なんだかなーみたいな感じに変貌しつつあるので、
 今一度緊張感を高めてもらうためにもコメントを求めることにした。
 ネタに走らないようにと重ね重ね警告したのできちんとやってくれるはず。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/22(火) 19:45:17.36 ID:WwXa6ch60
「お客様にお金を支払って頂き見てもらう以上、
 みっともない姿は見せられません。
 その人が最後に見たスクールアイドルが優木せつ菜の失敗した姿では
 申し訳が立たないというものです」

 5分くらい前までシリアスな表情をしながら目にものを見せると息巻いていたのに、
 3分くらい前からエヴァちゃんにバストアップのコツを教え始めるというポカをやらかす。
 なんでもっと大きくならないんですか、手を抜いているんですかという名言は、
 是非にも矢澤にこ氏に伝えておきたいと思う。

「エヴァリーナさんでしたか、私なんぞいくらでも嫌って頂いても構いません。
 でも、ステージでみっともない姿を見せるようなら、
 そこから蹴り落としますから」
「上等です、何もしなくてもステージから蹴り落とすから覚えておいてください」
「……何故そこまで恨みを買ってしまったのでしょう?」

 なお、着脱可能と判明した雪姫ちゃんは都合上エヴァちゃんの中に入ってもらってる。
 いざという時は静止してくれるようにお願いしているけれど、
 きしゃーきしゃー言ってた彼女がどこまで作戦を実行してくれるかは怪しい。
 胸に手を当てて考えてくださいという言葉で、私に手を伸ばしたので、
 小ボケはダメですと忠告した。
 すごく残念そうに自分の胸をわっしわっしと掴んでる。
 そのゴムまりを扱うみたいな扱いはどうなの?

「エヴァちゃん、せつ菜ちゃん……いまはまだ私たちはイロモノでしかない」
「絵里?」
「応援や声援を私たちの力で驚きや憧れに変えてしまいましょう」
「……絵里さん?」
「なんだろう、二人にはねメッセージを残しておきたくなっちゃった」

 このままなんだかなーみたいな空気のまま曲へ突入されても、
 二人のモチベーションであったり未来のこの子達にいい影響が見られないので、
 ちょっと空気を読まずにシリアスさを取り戻すことに努力を重ねた。
 多少なりとも真剣な態度であったのか、
 エヴァちゃんは調子を切り替えて真剣な面持ちを浮かべ、
 せつ菜ちゃんもそんな彼女に引っ張られるようにシリアスに頷いてくれた。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/22(火) 19:45:48.39 ID:WwXa6ch60
「絵里お姉さんのお願い事なら聞くしかありません」

 けっこう気軽に入れ替われるみたいだけど、
 ダンスのスキルに関してはエヴァちゃんに利があるので、
 状況によっては元に戻って欲しいと心の中で願うことにする。



 会場のお客さんが誰を目的にして来場されたかは私が知る由もないけれど、
 乱入するように参加したグループのことを知っている面々っていうのは、
 おそらく特等席みたいな所でこちらをまんじりともせず眺めている人たち。
 彼女たちは私がポニーテールにしてステージに立っている時点で騒ぐのをやめ、
 近くに居た上原歩夢さんと、黒髪で私は地味ですと言わんばかりの見慣れない子と、
 エマ・ヴェルデちゃんがぎょっとしている。
 
「会場の皆様こんにちは、”μ's”の絢瀬絵里です」

 穂乃果がμ'sを終わらせてしまった手前、
 本来は元と名乗るべきではあるだろうけれど、
 たまにはこんな日もあって良いかなって思う。
 スクールアイドルμ'sの一員ではなく、μ'sと名乗って勝負をかけるという私の意気込みは、
 水面に雫が落ちたときに見える波紋のように会場に広まりまわった。
 何だこいつらと見ていた人たちも、スクールアイドルのイベントに来ているだけあって、
 μ'sのことくらいは知識として存在するみたい。
 いまの私がμ'sを名乗りどのあたりまで信じて貰えるかは不明瞭ではあるけど。

「主役を一番最初に名乗らせておいて、ただUTXでスクールアイドルをしている
 優木せつ菜という人間の知名度がいかほどかは分かりませんが」

 余計なことを話す前にせつ菜ちゃんにマイクを渡しておいた。
 本気でパフォーマンスをしますという意志だけは一部を除いた観客の皆様に浸透すればいいと思う。

「現在UTXのトップである以上、過去にラブライブを優勝したという方に負けるつもりはありません。
 いまのスクールアイドルがどれほどレベルが向上したか披露するいい機会だと思います」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/22(火) 19:46:19.77 ID:WwXa6ch60
 スクールアイドルとしてのプライドを持って、
 化石はそのまま埋まってろと言わんばかりだけど。
 当人のA-RISEやμ'sのリスペクトっぷりから察するに、
 いまのキャラでコメントを引き伸ばしすると途端に弱気になってしまいそうなので、
 エヴァリーナちゃんにマイクが渡された。
 が、トークスキルが根本的にない彼女が全面に出てくるわけもないので、
 
「みなさんこんにちはー! 西園寺雪姫でーす!」

 何を言うかと思ったら最初から中の人のフルネームを披露してくれた。
 が、そんなこともつゆも知らない大半の観客は、
 知名度がないから西園寺雪姫を名乗ってる痛いやつみたいな感じで見てる。
 子役として一時代を築いた彼女の知名度はアイドルオタだけではなく、
 一般にも浸透しているので、彼女に比べたら絢瀬絵里(笑)だし、優木せつ菜(笑)である。
 だから彼女をリスペクトした風な自己紹介がある程度観客の耳に入るのは、
 後にどのような反応を示されるのか考えなければ効果は抜群。

「その人芸能界引退しちゃったし、時間も経っているので時効だと思うんですけど、
 昔アイドルで〇〇〇〇さんっていう人がいまして、何回か仕事で共演した時に、
 スクールアイドルはアイドルとは違うって頑なに強硬姿勢を示してて、
 実力と主張が見合ってればよかったんですけど、
 結局ニコさんとか、ツバサさんに蹴り落とされちゃって、
 で、後輩のスクールアイドル上がりの子を脅迫して引退して、万引きで捕まって――」
「では、聞いてくださいsoldier game!」

 時間が限られている中、
 雪姫ちゃんの芸能界暴露話で私たちの出番が終わってしまいそうなので、
 強制的にトークは終了することとなった。
 オチがつくようにお願いはしておいたんだけど、
 オチではなくケチがつきそうなトークは控えて貰いたい。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/22(火) 19:46:48.36 ID:WwXa6ch60
 ちなみにこのsoldier gameは、
 西木野真姫、絢瀬絵里、園田海未の三名が歌い、期待されたほど人気が出なかった。
 ことりや花陽のポワポワコンビと穂乃果と凛の元気な二人が飛び抜けていて、
 希とにこが私らに比べれば多少注目が集まった程度。
 真姫がフラグのように「私たちが一番最初に握手券とCDがハケちゃったらごめんなさい」
 みたいなことを言って、海未も「私たちの進む道はいつだって青信号ですね」と自身の髪色を
 例えたネタまで披露し、私もなんとなくニコと希には勝てそうと淡い期待を抱いた。
 が、いつまで経っても売れずに残った自主制作CDを前に、
 「いつになったら青信号になるの?」という凛のコメントに涙する一同だった。

「ありがとうございますー! soldier gameでしたー!」

 経緯はどうあれ”soldier game”の評価はμ's解散以降に高まり、
 まきうみえりの三人組は人気があるというコメントを残す人間もいるけど、
 海未が未だにソルゲ組ではトリオを組まないと言っている通り、
 彼女に生じた傷は海よりも深い、海未だけに。

「一つのグループに付き最大10分しか時間がないので、
 次がラストの曲になります」

 どのような反応が来るかと思ったけど、
 だいたいの観客の目は好意的な”何この人たち”だった。
 イベントではお約束として終わりを宣言すればブーイングみたいな
 拒絶する反応が来るんだけども。
 それすらも忘れて私たちをひたすらに見上げていた。
 おそらく、虹ヶ咲学園のイベントにおいてお客の方が拍手を忘れて
 ステージの人間が次の曲を歌おうとする状況下はなかったんだと思う。
 真姫やツバサといった私だったりせつ菜ちゃんにわりあい辛辣な人間だけが、
 こちらを見上げながらもっと頑張れと目で応援を続けてくれている。
 彼女たちが求めるパフォーマンスを示していないのは反応から見ても明らかで、
 私も本調子ではないということを自覚しつつある。
 自分がやる気になれば誰だって凌駕する実力を持っているとは思わないけど、
 あの二人が私を見て応援するなんてことは異常事態と言ってもいい。
 μ'sを名乗ってステージに立っている以上、
 真姫だってふざけたことはするなよみたいな心証は抱いているはずなのに、
 それでもなお、私を応援している――
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/22(火) 19:47:23.93 ID:WwXa6ch60
「私たちはスクールアイドルです。
 だからこそ、スクールアイドルを皆が始めるきっかけとなった、
 A-RISEのことをリスペクトしないわけにはいきません」
「ですがA-RISE以降、UTXにおいてラブライブ出場を果たしたグループすら少数。
 そして、園田海未さん、西木野真姫さんの二人で作られた曲を使用していたオトノキを
 破ることはついぞ叶うことがありませんでした」
「確かにμ'sはアメリカや秋葉原での路上ライブ等、目玉になるイベントの先頭に立ってきました
 ですがそれは、はじまりとなったA-RISEがいたからです。
 一番最初に何かを始める、それは大変難しいことです。
 でも、今日ステージを見上げて下さる皆様にはぜひ覚えていて頂きたいんです
 何かをなすことよりも、何かを始めることのほうがよほど尊く
 たとえ失敗したとしても、周囲の方は笑わないでいて欲しいと」

 ツバサなんかは初期のA-RISEで披露した曲はレベルが低いとか、
 とても観せらんないと笑いながら言うけれど。
 でも、そのクオリティは当時のアイドルと同レベルかそれより上。
 A-RISEを見てスクールアイドル部という部活を作り始めた各校の動向から分かる通り、
 彼女たちが優れていたからこそ、憧れや理想を持って追える存在だったからこそ、
 いまの私たちがあるのだ。
 ――あと、最後にコメントを発した雪姫ちゃんがオチをつけるのではないかとエリチカ戦々恐々としてたけど空気は読んでくれてよかった。

「A-RISEの始まりの歌を当人の前で歌います。では聞いてください!!」

 どれほどのパフォーマンスが発揮できるかはわからない。
 でも、いまが最高と歌ったμ'sのメンバーである私が、
 自分たちが憧れたグループの歌を歌う以上は全力を尽くさないわけにはいかない。
 ツバサのパートを自分が歌うことに対して彼女がどう思うかは分からないけど――
 今まで出演したグループよりも断然大きい大歓声が耳に届いたのを聞き届け、
 ごめんなさい、ちょっと休ませてとかすれた声で言ったのを最後に私の意識は途絶えた。
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 22:02:31.59 ID:WtzqxpAW0
歓声を貰うと倒れる呪いか・・・
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 22:24:53.15 ID:Vfczl3DzO
こんなんで理亞ちゃんとのユニット活動は大丈夫なんですかね…
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/23(水) 18:38:12.52 ID:aNM8bIbN0
 ステージに立つ際には一つも悔いは残さないようにと言いながら、
 壁に寄りかかって力なく倒れていくスクールアイドルの先輩を見て、
 なぜ体調を悪そうにしている事実に気がつかなかったのかと――
 正体をバラさないようになどという気遣いなどまるきり失せ、
 自身の外見とはまったくそぐわないような怪力っぷりを発揮し、
 お姫様抱っこスタイルで絵里さんを抱えあげ、医務室に駆け込んだ時には、
 先ほどまで遠慮なく私のことを殴り飛ばしたり蹴り飛ばしていた面々が、
 真面目な表情を作り自分たちのことを待っていました。
 まるでこうなることを予測していたかのようで驚きです。

「よくやったわ雪菜、じゃあ、和姫ちゃんあとはよろしく」
「承知しました――ついでに着替えさせておきましょう」
「和木さん、せめて年齢相応に見える衣装でお願いね」
「お嬢様のファッションセンスのままに」

 女性中心の空間において、
 私自身ができることなどはたかが知れています。
 いくら外見が女性のそれとは言え、
 医療行為に携わったこともなければ、医師免許を持っていることもない。
 名残惜しい気持ちそのままに横たえる先輩を見送り、
 一度落ち着かなければということで、学園のカフェテラスに向かいました。
 イベント時のために一般入場客が立ち入りを制限されているだけあって、
 比較的落ち着いた雰囲気のまま話し合いに参加することができました。

「そうね……察しているかも知れないけれど、
 絵里の体調は万全とは言い難い、というより動いているのが奇跡かな」

 好きなようにさせるという意図において、
 重篤な事故に繋がらない限りは放っておくという言葉に、
 理由を問いたくなってしまったのは自分だけではないようです。
 一刻も早く病院に入院をさせるべきだとか、
 自重を促すべきなのではないかとか、
 健全な提案はいくらでも思いつくのです。
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/23(水) 18:39:21.75 ID:aNM8bIbN0
 でも、ツバサ姉であったり真姫さんであったり絵里さんと仲が良い二人が、
 その提案を重々承知の上で現状に至っていることが手に取るように分かるんです。
 諦めないでほしいというのは簡単です。 
 二人が諦めたくもないのに諦めるしかない状況にいるのが分かるのに、
 なんでそんな事を言うのかと言えるわけがありません――

「ツバサ姉」
「どうしたの?」
「僕は現状に納得がいきません」

 身勝手に絵里さんの言葉を代弁するわけではありませんが、
 それほど彼女のことを自分が知っているわけでもありませんが、
 それでも言わずにはいられなかったんです。
 愚行と言われればそれまでというものですが、
 思ったよりも僕は愚かなんです、もうすでにバレバレなような気もするのですが。

「ツバサ姉が諦めてしまうほど絶望的な確率で絵里さんがダメだとしても、
 それでも、諦めてしまうよりかはなんとか」
「なんとか、どうするの?」
「これから考えたいんです、僕はそれほどでもありませんが、
 真姫さんもツバサ姉もいい案がまだ、思いつきそうな気がするんです。
 諦めてしまったら本当になんにもなりませんから」
「格好良いことを言っているようですが、
 この人は先ほどその絵里ちゃんの胸を揉みしだいて
 演説をかました変質者ですから」

 格好良く決めたつもりはないだけど、
 真剣に相手に考え直してほしいと気持ちを込めたら、
 エマちゃんに過去の罪状をバラされて、あたりにはなんとも言えない空気が流れる。
 ウエストのサイズが違うのであなたはわしわしの対象外などと反撃したいですが、
 したところで必要以上の顰蹙を買うのは確実です。
 バストサイズはまだネタになる範囲ですが、
 ウエストに関しては太ってる太ってないの会話になるので、
 必要以上に敵を作ります、体重と並んでこういう話題は禁句なんです。
 
「まあ、不肖の弟が嫌われ気味なのは姉としては悲しいけど……」

 嫌われ気味な理由が身から出た錆であるので、
 僕としてもなんとも言えません。 
 とはいえ、真姫さんも先ほどまでの暗い表情から、
 話し合いをしても良いんじゃないと気分を改めたようであるので、
 ある程度の嫌悪感は織り込み済みということでお願いします。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/23(水) 18:40:11.27 ID:aNM8bIbN0
 歩夢さんであったり、エマちゃんであったり、絵里さんと気が合いそうだという理由で
 姉にパーティの一員として連れてこられた宮下愛さんには、
 いちおうご帰宅頂きまして。
 なお愛さんは「わだすも頑張ってエリチカみたいなアイドルになるべ!」と言って、
 歩夢さんに知識を求めていたけど、変な方向性に行かないことを願いたい。 
 東北のなまりが強いのと、意外と我が強い部分が姉の琴線に触れたみたいですが、
 次に出会う時に彼女がどうなってるのか――

「身体的にはどうでもないから、病院に担ぎ込まれても
 点滴でも打たれて一日で帰ってくるでしょうね」

 どういうことなのかは話している当人でさえも把握していないではあるようですが、
 人間が生きるにおいて必要な生命力というものがあるそうで。
 身体が弱そうで陽に当たると倒れるような人でも命までは失わない、
 みたいな人は俗に生命力が強いとされるそうです。
 肉体的な部分で不調を抱えているのであれば病院に入院して、
 復帰まで時間をかけるという選択も取れるそうではありますが。

「雪菜君の言う通り、希望は捨てるわけにはいかない。
 恥ずかしいけど、私も――きっと誰もが諦めている部分があったわ
 運命ならしょうがないって、大きな力には従わないといけないって」

 日常生活を送っているのでさえ奇跡であり
 例えるならインフルエンザなどの病気で高い熱に浮かされている患者に
 フルマラソンを走らせているようなものだと例える姉に対し、
 絵里さんは辛くなんですかと問いかけてみたら、
 先ほどからわき腹をつねり倒してくるエヴァちゃんが口を開いた。

「絵里お姉さんの言葉を例えるのなら、
 水の中を泳いでいるような感じらしいですね」
「……それはもう、ダイビングに例えて良いのではないかしら?」
「ウェットスーツ無しで水の中でたえず泳いでいる、
 それは穂乃果がまだ生きてたの!? って驚くわね……」
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/23(水) 18:40:52.67 ID:aNM8bIbN0
 ちなみに言葉通りに受け取ると、ひどい表現のように感じるけれど――
 それくらいの体調不良なんだからお願いだから休んで欲しい!
 というニュアンスであるみたい。
 絵里さんが休めと言ったところで休まない人であるのは、
 ここにいる誰しもが重々承知している模様。
 今日だって常人なら起き上がるのさえ困難なほど疲弊しているのに、
 私なんぞを片手にひねるほど優れたパフォーマンスを発揮したのは、
 同じスクールアイドルとして焦燥感を覚えるというか、
 悔しさに似た感情を抱いてしまいかねない。
 ツバサ姉が絵里さんに感じる衝動の一部分がそれであることは、
 僕もなんとなくだけど分かっている。
 天才だとか、史上最高のアイドルと評される姉のモチベーションの一端が、
 気がつくと自身の得意分野で実力を発揮する絵里さんであるということは、
 本当に一部の人しか分かっていないことを僕は残念に思います。

「まあ、絵里も夜には目を覚ますと思うわ、ごめんなさいね真姫さん
 西木野総合病院をホテルみたいに使っちゃって」
「見舞客が来やすいからね、酒盛りでもしてなければいいけど」

 僕たちはいまエトワールに向かい、
 和木さんという方が運転する車内にいるのですが、
 僕を後部座席の真ん中に添えて、左隣にエヴァリーナさん、
 右隣にツバサ姉と微妙に居た堪れない位置に添えたのは、
 やっぱりおっぱいは大きければ大きいほうが良いという発言が耳に届いたからでしょうか?
 仕方ないじゃないですか、エマちゃんはそこを指摘すると一番喜ぶんですよ!
 別に僕はおっぱいは大きくても小さくても好きなんですよ! 男の子だから!



 エトワールに来訪して早々男性立入禁止ですと忠告され、
 絵里さんがかつて使用したというテントに放り込まれそうになったけれど、
 助けてくれたのは妹である亜里沙さんでした。
 男性禁制というのはエヴァさんであったり、理亞さんであったりする方の大嘘でしたが、
 問題行動を起こせばすぐに黒澤家のSP(頬に傷がある)や小原家のSP(サングラスを外せない)
 という方々に売りつけると言うので、むしろ危機が増えたのではないか疑惑が。
 基本的に終始誰かしらが自分のことを目にやっているので、
 まるで人気者にでもなった気分です、嬉しくないです。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/25(金) 18:38:28.03 ID:+OUshGnA0
 檻に入ったパンダみたいに人気者になりましたが、
 トイレやお風呂に侵入されることはないようです。
 よもや僕が入っているにもかかわらず、お風呂でばったりイベントを起こすことは、
 みなさまそのようなことまではしないと誓って下さいました。
 見たくないものを見たくないからと傷つく表現を用いられたのは、
 多少なりとも心の傷になりえましょうが、 優木せつ菜(芸名)は今日も元気です。



 エトワール滞在から2日目の夜。
 ――何故帰宅せずに女性ばかりが集う乙女の園にて、
 肩身の狭い日々を過ごしているのかと言うと。
 僕が姉と一緒にこの建物に来訪した日の夜に絵里さんが目を覚ましたと聞き、
 一刻も早く謝罪の意を伝えなければと優木せつ菜に変貌していると、
 え、何なのこの人みたいな顔をして鹿角理亞さんが音もなく忍び寄り鏡に写りました。
 姉を中心とした方々から”きれいな”理亞さんと称される彼女も自分には辛辣。
 猫かぶりなのではないかという疑念も多少なりともありますが、
 それを指摘したところで身分が不遇になるのは自分の方、
 元から三次元の男性は好きじゃないので、というのでついつい、
 「あはは、鹿角理亞さんに男性人気なんてご冗談を」と疲労もあり口を滑らし、
 かつて絵里さんを震撼させたという回し蹴りが飛んでくるかと思いきや、
 ところがどっこい道端に捨てられた猫を観たときみたいな慈愛を込めた視線を見せたので、
 「だいじょうぶです! お姉さんの方は男性人気すごいですよ! 胸も大きいですし!」
 などとフォローした瞬間に膝蹴りが腹部を直撃し悶絶するほど痛かったですが、
 次はその出番の無さそうなタマを潰すと言われたので、これでもまだマシな処遇なはず。
 話の方向性が多少ズレましたが、高校生は夜遅くの帰宅になるから
 ここで待っていなさいと忠告をしに来てくれたんです。
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/25(金) 18:39:18.64 ID:+OUshGnA0
 僕自身のことを心配してくれたのならば、
 多少後ろ髪(カツラ70%)が引かれる思いがするとは言え、
 素直に待たざるを得ません。
 居残り組には高校生の面々と朝日さんもいたのですが、
 「現実にいるんですねえ男の娘って」と和やかに話しかけてきてくれるので、
 身から出た錆と重々承知しつつも不遇な立ち回りに億劫としていたのでついつい、
 そこんじょそこらの女の子よりもアイドルをしているつもりですと言ってみたら、
 「あはは、そりゃすごい」とやはりにこやかに対応してくれるので、
 朝日さんってば聞き及ぶよりもすごく優しい人なのではないかな? と、油断していると、
 「私、性転換手術って見てみたかったんですよ」とジャブが飛んできて、
 発言の意図を尋ねる前に「やっぱり去勢すると女の子にならざるを得ないんですか?」
 「トンカチかなんかで潰せるんですかね?」
 「あ、亜里沙さんが使ってたスチームクリーナーがありますよ?」
 「ああ、でもその前にお尻を綺麗にしないと、女の子の気持ちになれそうですし」
 と、えらく病んだ目を向けられたので、ひとまずの滞在場所である姉の部屋に退散し、鍵をかけて膝を抱えること数時間。
 なお、住人でもないのに姉の部屋がある理由は来るべき日に備えて、
 だそうです。



 絵里さんが体力の回復と、
 本当に身体面において不調がないかどうか検査するということで、
 しばらく西木野総合病院に入院されるということでした。
 必ず何かしらの動向は把握されていると察した僕も、
 高校から帰る時間に道を間違えたふりをして、尾行していたと思しき朱音さんを撒き、
 病院まであと少しというところであんじゅ姉さまにお会いしました。
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/25(金) 18:39:48.44 ID:+OUshGnA0
 最初こそ、自分の監視に!? と思い気分も憂鬱になったのですが、
 ちょっとデートしようデートと暗鬱な気分を吹き飛ばすような言葉を頂き、
 姉さまを自分から寝取った(勘違い)という男性に飽き飽きして、
 ついに年若い幼なじみに乗り換える(スマホのごとく)気になられたのかと、
 意気揚々と言われるがままに優木せつ菜へと変身をし、
 あれやこれやと自身を題材にしたファッションショーも執り行われ、
 可愛い可愛いと煽てられ、ついでに着た衣装もたくさん頂き、
 なにか大事な用事があった気がすると感じながらも楽しい時間を過ごし、
 意気揚々とエトワールに帰宅し、姉に「ハニートラップという単語を知っている?」
 なんて聞かれてまんまに罠にハマったことに気がつき、
 むしゃくしゃして事務所所属のアイドルでもないのにトレーニングやレッスンに参加し、
 最初こそ何だこいつ扱いをされていたけれども、
 性別が異なるので基礎体力が違うことをアピールし、
 ツバサ姉みたいに別格のアイドルには劣るけど、
 並のアイドルには負けないよははんみたいな態度が多くの面々の癪に障り、
 結果、しれっとレッスンに参加する約束を取り付けた。
 本気を出せば頭が回るとアピールをし、
 ツバサ姉も褒めてくれるのかと思いきや、
 ふだんから迂闊な発言は控えるよう、ポンコツぶりは控えるよう怒られ、
 どうすればよいのか問いかけるとしばし考えた姉は、
 「メイドになれば?」
 と答え、意図は良く分からないけれど、
 それが自分に必要なことであるならばと了承をし、
 あんじゅ姉さまから頂いた服装の中にとびきり可愛いメイド服があったのを思い出し、
 地下のレッスン場にああでもないこうでもないと試行錯誤を重ね、
 すっごく可愛い感じに振る舞えるようになったのでツバサ姉に見せたら、
 「じゃあ誰かにお仕えすれば? 相手のことをしっかり考えてね」
 誰にしようかと悩み、結果姉に次いで能力が高く、
 アイドルとして模範的に仕事もあり、真面目にレッスンを取り組む理亞さんにお仕えすることにした。
 断られるかと思ったけど意外とすんなり了承をしてくれて、
 いまでは背後霊のように付き従い、メイドらしく相手のことを思いやり、
 私ってもしかして美少女メイドとしての才能があるのでは?
 と自賛で鼻を伸ばしていたら、全然ダメ、やり直しとツバサ姉に厳しい言葉を書けられ、
 鼻は天高くすっ飛んでいった。

 そして本日。
 絵里さんが帰宅される日――。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/25(金) 22:04:41.70 ID:NAtURZHTO
ツバサ姉って呼び方ええな
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:07:03.87 ID:hEUd3Ks10
 私、絢瀬絵里という人間が形作られたのは――
 自分のことよりも他の人のことを優先してしまい、
 困り果てて自縄自縛に陥った結果、助けた誰かからフォローをされてしまう
 そんなポンコツなどと呼称されたところで仕方のない人間へと成長をしたのは、
 祖母の影響がずいぶんと大きい――
 などというと、祖母が育て方を間違えて私という人間が生まれたとしまいがちだけども、
 もちろんそんなことはまったくなく。
 私という人間が祖母のアドバイスのもとで間違って成長しただけの話。 
 幸か不幸かツバサとか希あたりの仲の良いメンバーから私がよしとされる部分は、
 祖母がきちんと成長せずにアホっぷりを発揮し続けた私にもめげず、
 一生懸命に根気よく律してくれたからである。
 チューニングがなっていないのではないかという指摘は、
 徹頭徹尾私に責があるので、間違っても祖母に文句を言ったりなどしないように。
 近いうちにおばあさまと声をかけた瞬間に烈火のごとく怒られてしまうのは、
 間違いなく私――いや、若くして亡くなっている時点で、
 きっと恐ろしく怒られてしまうのは確実ではあるんだけどね。

 私がまだ中学二年生だったとき、
 その時分を過ごしてきた人間には多少の自覚はあるかもしれないけど、
 反抗期であるとか、思春期真っ只中にあった私にとって、
 世界というのは忌むべき敵くらいに思っていた時期がある。
 自己を中心に考えていたからこそ、
 世界から疎まれているのは自分であるにもかかわらず、
 他者を嫌える自分格好良いみたいに悦に入っていたのは、
 本当にネタにならないレベルで黒歴史。
 嫌われる理由しかないけど、かなり能力も高かった私を切ることも出来ず、
 周囲の人達は本当に苦労を重ねていたと思われる。
 いかんせん祖母譲りの金髪がいい方面でも悪い方面でも目立っており、
 人の上に立って仕事をするのが好きな部分も兼ね備え、
 誰しもから嫌われるカラスみたいな人間を矯正した祖母の手腕を振り返ってみたい。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:07:36.55 ID:hEUd3Ks10
「本当にダメね」

 他者の不備を指摘するのが好きという人間として欠陥があるとしか思えない――
 しかもそれが指摘された当人のためになると疑っていない――
 性格面でも能力面でも極めてポンコツであった自身を振り返るのは心が痛い。
 生徒会の面々から総スカンを食らっているにもかかわらず、
 その面々から仕事を押し付けられている自覚もなく、
 体よく使われているのを勘違いしたままで、ほかのやつよりも自分はできていると思いこむ。
 書類の作成から、要望の実現まで――
 夏休みにもかかわらず、友人と遊ぶ暇もないほど、
 それは健全な学生生活であったのかたいへん疑わしい。
 妹が出来たばかりの友人と遊びに行くのを見送り、
 冷房が利いた室内で文句ばかり言いながら仕事をしているのを見た祖母が
 何をしているのかと問いかけてきたので、

「仕事です」

 自身に理由が大いにあれど、自分の不備は認めたくないお年頃。
 イライラばかりが募り、大好きなおばあさま相手であれど
 取り繕って笑みすら浮かべることが出来なかった私に――

「エリチカ、もし、今私が死んだらどう思うかい?」

 書類を作成する手を止めて、
 何を言っているのだろう――? というより、
 年を召されたから構って欲しいのかな?
 などという思い上がりも甚だしい身勝手な感想を抱いた。
 構って欲しいとしているのは自分の本心の方であり、
 誰かに自分を認めてもらいたい衝動は絶えず心の中に巣食っており――
 自覚がないというのは滑稽な自分の目を曇らせて、
 本当に笑ってしまうほどアホっぷりを増加させる。
 
「おばあさまが亡くなられたらとても悲しいと思います」

 とても白々しく――
 実際どうでも良いことのように思い、恐ろしく事務的に反応をしたのを覚えている。
 覚えていると言うより、今まで忘れていたのだから思い出したと表現するのが正しい。
 おばあさまのことをロクに覚えていなかったのは――
 それを忘れさせられていたというのはもちろんあるんだけども、
 忘れたいほど目を背けたい思い出も数多いのである。
 誰しも、事実を自覚するっていうのは苦しいものだからね。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:08:06.92 ID:hEUd3Ks10
「エリチカ、お前にはきちんと教育をしたことはなかったね」

 すごくムッとしたんだと思う。
 おばあさまから直接バカだと言われたことはないんだけども、
 教育を受けたことのないサルレベルだと表現された気がして、
 非があるにもかかわらず認めることをしなかった。
 正論をぶち当てられれば反論するくらいしか脳のない野猿みたいな反応で、
 年若いとは言え、ずいぶんとアホっぷりを発揮できたものだ。
 
「言いたいことははっきりと仰っていただけると助かります」

 なにか理由があってというわけではないけれど、
 基本的にはいまと変わらず鈍感な人間だったのだと思う。
 おばあさまがフォローを重ねてらっしゃるにもかかわらず、
 それに気づかない自身を棚に上げ、相手の不備を指摘する。
 こういう人間を他の人は畜生と呼ぶのかななんて苦笑しつつ振り返っている。

「でははっきりと告げてやるが、
 エリチカ、お前はいま自分一人で何でもできると勘違いしているね?」

 何を言われているのか、なんて思ったの。
 とても恥ずかしいことに学校生活というものがすべてだった私にとって、
 学校で生活さえできていれば何でもできるのだと思い上がっていたし、
 おおかたの仕事は社会に出れば何の役にも立たないことを言葉でしか知らなかった。
 上辺だけで学校で教えられることは社会で役に立たないとか吹聴し、
 ろくにすっぽも優秀でもないのに自身の権利ばかり主張する。
 いまでも確かにロクな人間ではないんだけども、
 いまよりも数倍はろくでなしであったんだと思う。
 なにせ勘違いした挙げ句に思い込むのが私の得意技――
 現在の自分が割とマシではないかと思ったけど
 過去に比べれば多少優れている程度の違いしかないのかも知れない。

「仕事はできますが」
「ほう?」

 おばあさまが目を細くして睨むような表情を浮かべる。
 気圧されて挙動不審になりそうなほど怖かったけれど、
 そんなことは露にも出さないように虚勢ばかりを張り。
 
「では、店で仕事をしてみるかい?」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:08:36.71 ID:hEUd3Ks10
 おばあさまがロシア料理の店を営んでいて、
 私たち姉妹がお手伝いに駆り出されることもしばしばあった。
 能力がそれほどでもないのに、能力が高いと勘違いしていた私も、
 ”お手伝い”レベルの仕事しか貰えないことに多少の不満はあったし、
 お小遣いに多少のプラスしか貰えないことよりも、
 妹の亜里沙と同じコトをさせられていることのほうが不満だった。
 いまでこそ多少はお姉ちゃんのフリができている自覚はあるけど、
 あの時期の自分というのは亜里沙のことなんて使えない子扱いをしていた。
 ――いや、その数年後にはその亜里沙から使えないヤツ扱いをされるのだから、
 因果応報という言葉が痛切に身にしみるのである。

「構いません。
 今いる従業員の方よりも断然優秀さを発揮してみせます」
「何も教わらずともいいっていう事かい?」
「おばあさまやほかの方の仕事ぶりは――よく見ていますので」

 近い未来μ'sに所属して以降も、その前の薄汚い野良犬みたいに荒れていたころも、
 人を観察して自身の能力に付加するという作業を身に着けたのは、
 このときの経験がひじょうに大きかったんだと思う。
 大口を叩いて困り果てるのはご愛嬌だけども、
 それでもなお、おばあさまの教育が未来に活かされたことは、
 本当に何よりなんだと思う――そろそろ、おばあさまのお墓参りにも行かないといけない。



 自身の散々な仕事ぶりを思い返しつつ、
 私がニート時代に体験したとある出来事を思い出した。
 希には苦労を掛けさせられたとばかり思っていたけれど、
 それどころかむしろ逆に負担しか掛けていなかったことを自覚する。
 ヒナのことで色々悩ませてしまったのもそうであるし
 問題を抱えて凹みきった際にはいつだって助けてくれた親友。
 私自身が希の助けになっているかと問われると、
 え、あ、はい、おそらく、ええ、ちかいうちに機会があれば――
 と、平身低頭、五体投地、それとも土下座で許しを乞うしか――

「海未の家にでも行こうかな」
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:09:05.33 ID:hEUd3Ks10
 亜里沙が数日家をあけていたことにより、
 家での仕事もなく、ニートを満喫するしかなかった暇人の私が、
 穂むらに行ってお饅頭でも買おうと思いいたり、見事休業で空振りに終わった結果。
 海未の家で憂さを晴らそうとしたのは、何の運命のお導きだったんだろう?
 しばらく歩いていると、祖母の知り合いだった女性が怪訝そうな表情で私を見るので、
 仕事もなく平日に遊び歩いている私を見てそんな表情を浮かべていると勘違いをし、
 今日はたまたまオフでと嘘八百を述べようと口を開くと、

「絵里ちゃんがプータロしているっていうのは知ってたけど……」

 先回りされ、妹のスネカジリしていることを相手が把握していることを察し、
 苦笑を浮かべるしかなかった私は、
 その方がそれでもなお自分に気を使っていらしたことに気が付かず、
 亜里沙ちゃんは何をしているのかと尋ねられたので、

「亜里沙なら、数日家を空けると書き置きがありましたけど」
「もしかして絵里ちゃんは何も知らないの?」
「妹の仕事なら何をしているのかは把握してませんが」
「――おばあさまはいま何をされてる?」

 祖母が入院をして、
 一時かなり厳しい状態に陥ったけれど、
 現在は小康状態を保っている――
 ただ、現在は面会に赴くには大変だということで、
 私はなにかできることは無いかと思い悩んだ挙げ句、
 妹に何もしないでくださいと冷たく告げられてふてくされた。
 そんなことを思い出し、多少の憤りも覚えつつ。

「祖母なら先日入院されて、今は小康状態を保たれているとか」

 たしかに何も知らない私にもある程度は誹りを受ける部分はある。
 祖母の死を受け入れられる精神状態ではなかったというのは、
 私の不徳の致すところではあるのかも知れない。
 自身がある程度問題を抱えていたというのは、
 今振り返れば身から出た錆の側面もある。
 大切な人が困っていると知れば、何かにつけて手助けに励む性分も手伝い、
 真姫やらことりやらのトラブルに顔を出していたのは――
 やっぱり自業自得なのではないのかと。

「絵里ちゃん、彼女は最期まであなたの心配をしていたわ
 亜里沙ちゃんの頭を撫でながら、エリチカのことをよろしく
 それが最期の言葉だったそうよ」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:09:46.42 ID:hEUd3Ks10
 何を言われているのかと認めたくない要素も多分にあって。
 でも、思い返して見るならばいくらでもその事実を察せられる自身も居て。
 いつになく焦燥したふうな妹に、ことりの問題を解決しようと努力に励んでいることを
 指摘などされないように極めて明るく振る舞い。
 隠そうとしたところで既に私が余計なトラブルを抱えて奮闘していることなど、
 とうにお察しだった妹に「しばらく家から出ないでください」と冷酷な口調で言われ、
 バレることはないだろうと高をくくり、平然と行動した結果知りたくもない現実を知る。
 自身の迂闊さもそうであるし、
 私に知られないように行動をしていた亜里沙やおばあさまの行動を無に帰すような、
 無神経に伝えられた言葉もそうであるし。 
 ――とにかくどのような経緯かは分からないけれど、
 園田海未の家に行くという目的だけは覚えていたらしい私は、
 顔面蒼白で来訪をし、彼女の家でしばらく過ごしたという事実だけはなんとなく認識している。
 食事をしばらくしていなかったという記憶はあるけど、
 なんとなく無難に園田家に馴染んでいたような気もする。
 よく覚えているのは、迎えに来た亜里沙と希に念入りに暗示をかけられたことだけ。
 滑稽にもその行為により私は元の生活を取り戻し、
 今はその行為の結果、体調不良を抱えているという――



 見覚えのあるベッドに身体を預け、
 意識を取り戻したあとしばらく、雪姫ちゃんに声を掛けてみる。
 ともすれば長い付き合いになる彼女も、
 希の暗示から解放されつつある私が記憶を取り戻していることを察し、
 おずおずとこちらに気を使うように顔を出してくれる。
 朱音ちゃんであるとか、リリーちゃんであるとか、
 そのあたりのメンバーと同じ年であることは事実なんだけれども。
 幼少期から大人に揉まれ続けていたことも手伝い、 
 私みたいなBBAの機嫌を伺うことなど造作も無いこと。
 そうさせてしまう私の至らなさを反省しながら、
 極めてにこやかに呼びかけてみる。

「ごめんなさい、また倒れちゃったのね」
(絵里お姉さん……”どこまで”思い出されていますか?)
「そうね、過去に澤村絵里であったことくらいまでは」
(それ以前は?)
「ありとあらゆることを――たぶん、忘却された記憶が次々と出てるんだと思う」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:10:22.73 ID:hEUd3Ks10
 記憶というものが、蛇口を捻ったみたいに溢れ出してきて。
 感じたことのないような頭痛を覚えてしまうくらい。
 嘆いて投げ出して泣き出してしまいそうなほど、辛いことばかりが。
 そりゃ記憶をすっ飛ばされている部分というものが、
 私が抱えるに値しないような辛いものばかりであったのだから仕方ない。
 おばあさまのこともそうであるし、ヘイトを集めるために奔走していた事実もそう、
 やたらネットに自分の情報が流れているなと感心したのは過去の話。
 原因が自分自身であるのなら笑い話にすらならない。

「ずいぶん長い付き合いだったのね」
(そうですね……以前お会いしたのが初めてではないことは)
「もっとあなたは小さかったものね――ごめんなさい、我ながら見たくもない過去ばかりで」
(誰しもそうではないですか、消したい過去などいくらでもあります)

 雪姫ちゃんにそっぽ向かれると絢瀬絵里の死亡確率が跳ね上がるらしく、
 付かず離れないならまだしも、身体を自由に扱うという行動にさえ取らせてしまうほど、
 彼女が後悔するような選択を私は選び続けてきたようである。
 しかしながら自分が死んだであろう瞬間が記憶として蘇ってくると、
 なんとも言えない気分になってくる、ステージにある照明器具が落下してくるとか――

(これが最後だなと思いました、絵里お姉さんの身体を自由に扱うなど
 本来はいけないことだったんです)
「いいのよ、すべて自分の迂闊さが招いたことだから
 そのことに後悔はないの」
(ではなぜ、そんな悲しい表情をしているんです?)
「死んでみて気がついたけど、死ぬ瞬間よりも死ぬなって自覚する時間のほうが辛いからかしらね?」
(よく分かります、私も死ぬちょっと前は辛かったですから)

 交通事故で死んだり、崖から転落したり、
 やたら死亡する選択肢があるギャルゲーとかの主人公を笑えないほど――
 自分が近いうちに死ぬなと分かっていると、精神的にも追い詰められる。
 おそらくこの世界ではまだ何も成せていないっていうのが、
 私が一番辛く思う部分なのだと思う。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:11:08.29 ID:hEUd3Ks10
「――でも私、前死んでなくなかった?」
(近いうちに死ぬ予定だったので、大いなる意思のもとリセットです)
「ありがとう大いなる意思、死ぬのは辛いのよね……」
(よく分かります、この気持ち死人にしか分かりませんよね)

 過去に発売されたラノベで「ああ、よく死んだ!」みたいにキャラが生き返るシーンがあるけど、
 あの人達はちょっと精神的に強すぎると思う。
 死ぬほど疲弊したり、死ぬほど辛い思いをしたからこそ死んだのであり、
 よく死んだとか言ってお風呂入ったあとみたいな反応をするのはちょっと。

「こんなところで寝ている場合じゃない、すぐに私ができることをしないと」
(――分かりました、私も覚悟を決めます。たとえ本当に最期だとしても)

 西木野総合病院の個室のベッドというのは、
 外から見えないようにカーテンで遮断をされており、
 当然私からもカーテン越しには外の様子など見えない。
 だからこそ、私が身体を起こした時に待ち構えている誰かが居たという事実くらいは、
 認識していないといけなかった可能性がある。
 ただその方も、私が身体を起こしてしばらく独り言を漏らすように
 雪姫ちゃんと会話しているのをスルーしながら一段落するのを待っていてくれたので、
 厳しいことは言いつつも心根は優しい人なんだと思う。

「ついに耄碌して独り言まで漏らすようになりましたか」

 近場に真姫が居ないので、いつものクラシカルなメイド服じゃなくて、
 少々気の抜けたラフなスタイルの和姫ちゃん。
 今まで年齢不詳だの、得体の知れない怖い人扱いしてきたけど、
 実際はμ'sの二年生組と同じ年だった真姫のお姉さん。
 なお、真姫は母親違いの妹だけども、
 私の中にいる雪姫ちゃんは父親違いの妹、ドラマでも作れそう。

「ごめんなさい、なんだかんだ言っていつも世話かけてるわね」
「そのようにフランクに話しかけられる関係にないと思いましたが、
 ついにボケましたか?」
「真姫にも雪姫ちゃんにもお世話になっている手前、
 お姉さんである和姫ちゃんには一声かけようと思ったのよ」

 事情がわかっている人でさえ、おそらくなんだそれという話ではあるし、
 基本的に記憶が戻るキャラじゃない彼女からすれば、
 何故そんなことをいきなり把握されたのかだと思う。
 最初こそ驚いた表情を浮かべて、素はけっこう幼い系の女の子なのかなと
 思わず親近感が湧いてしまいそうな可愛さを発揮したけれど。
 しばらくすれば、いつもの毒舌メイドキャラを取り戻し、
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:11:38.15 ID:hEUd3Ks10
「ふざけたことを抜かしますね――ですが、
 礼の言葉だけは頂いておきましょう。

 お加減はいかがですか?」

 年上のように扱われているから私に対しても容赦ない彼女だけど、
 基本的には目上であったり、年上の人間には経緯をもって対応してくれる。
 年上というよりおばあさんを相手するような白々しさも多少あるけれど――
 それはおそらく、照れ隠しの要素があるんだと思う。

「ちなみに妹はなんと?」
「あんまり絵里お姉さんに厳しくしないでくださいって」
「雪姫のように優秀であったなら考慮しましょう」

 雑談を繰り返しているうちに多少は調子を取り戻す。
 和姫ちゃんが告げることには、病院の体面で検査だけは受けてもらうとか。
 たしかに彼女の言う通りお金の無駄な側面もあるだろうし、
 病気だと告げられたところではいそうですかと頷く人間じゃない。

「ツバサさんには目を覚ました時点で連絡を入れろと
 なんどもなんども重ね重ね言われているので――」
「あいつなら事前に察してそこらへんにいそうね」

 ツバサ自身とも長い付き合いになるんだけども、
 彼女の弟である雪菜クンとも長い付き合いになっている。
 いかんせん私も記憶がすっ飛ぶし、彼自身も記憶がすっ飛ぶせいで、
 互いに互いをはじめましてと認識すること幾度も。
 彼を中心とした虹ヶ咲の面々にはそもそも会わないケースもあるんだけども、
 優木せつ菜であるか、綺羅雪菜として会うかは定かではないにせよ、
 どちらにせよ100%顔は合わせることにはなっている模様。
 これがギャルゲーなら私がヒロインか、彼がヒロインなんだと思う。
 しかし私がヒロインだとすると、絢瀬絵里R-18CGが誰かの手で描かれることに、
 それならまだ男の娘の全裸CGのほうが需要がありそうな気はする。

「お嬢様にも拡散しておいたので、おそらく翌朝には来れる方が来るでしょうね
 ――騒がしくなりそうではあります」
 
 30分もしないうちに目覚めることを予測していたツバサが来訪し、
 μ'sとかA-RISEであるとか、とにかく様々な面々が
 罵倒が7割弱、文句が2割の熱烈な歓迎を見せ、
 愚痴の捌け口と化した絢瀬絵里の見事なサンドバックぶりは、
 詳しい描写と動向については明言を避けることにする。
 ことりの絵里ちゃんに優しくしよう! という決意があまり保たなかったことは、
 後日しこたま穂乃果が怒っていたことから察していただきたい。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:13:18.93 ID:hEUd3Ks10
 てんやわんやの騒ぎの末、
 無駄に入院期間が長引いたのを利用し、
 亜里沙やツバサとシリアスに会話したいとの旨を相手に伝えたところ、
 すごく面倒くさいという表情をされつつもなんとか了承を得る。
 個人面談のように二人きりで、雪姫ちゃんをリリーちゃんにキャストオフして
 準備は万端、病室に盗聴器を仕掛ける人は多分いない。
 二人きりという言葉の響きが良かったのか希望者は多数いたけれども、
 病院での性生活の参考にとエロ同人を持ってきたお嬢様には、
 わかったわかった後日実体験をふまえて教えるからと言ってその気にさせておいた。

「お姉ちゃんと呼べば良いのか、姉さんとシリアスに呼べばよいのか」

 最初の面談相手は妹である亜里沙。
 多少の記憶の混濁はありつつも、基本的に記憶は持ち越してないので、
 変だとは気づきつつも関係ないこととして仕事に取り組む見事なキャリアウーマン。
 私自身が生きることに執着しているのも可愛い可愛い亜里沙の存在があるからで、
 彼女を安心させるか、限界が来て寿命が尽きるかどちらが先か分からないけれど、
 ひとまずお姉ちゃんとしての仕事は取り組みたい所存。

「紅薔薇さま相手みたいな感じにしても構わないのよ?」
「最後に(笑)が付く感じでも良ければいいですよ」

 白薔薇さまのつぼみの妹(笑)とかだと本当に敬意が感じられない。
 ちなみにこれでロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンのプティ・スール・かっこわらいと読むんだと思う。
 真面目に会話がしたいと言った手前、妹もそれなりの緊張感を持って
 この場に臨んでいるんだと思うけれど。
 まずはそれを和らげてあげないと。

「シリアスに会話をしたいという話でしたが」

 多少の憤りと解せない部分は感じているのか。
 表情を多少曇らせつつも、相手が病人であることも把握していて、
 あまり強気にはでられないみたい。
 こちらが相手に時間をとってもらいつつ伝えたい事柄があることは、
 亜里沙のストレスにもなっているは分かっているので、
 私としても用事は手早く済ませておきたい。
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:13:46.26 ID:hEUd3Ks10
「希は元気にしてる?」

 今回、私が倒れたことによって必要以上に責任を感じているのか、
 面会のメンバーに含まれていなかったので、
 とりあえず生きてるんなら顔を出せやくらいのニュアンスで
 エリチカがあなたを所望していると伝えてもらうことにする。
 まあ、退院すれば断られても会いに行くけど、
 大体の場所はリリーちゃんと雪姫ちゃんのスキルを頼る。

「一番に希さんの話をされると緊張が走りますが」

 希の暗示から解放されつつあることは、
 ツバサやヒナと言った相手への態度から察しているみたい。
 徐々に過去の記憶を取り戻していることもふまえて、
 キチンと伝えなければいけないことかも知れない。

「亜里沙、あなたには謝罪しなければいけないことがたくさんあるわ」
「……数えられる範囲ですかね?」

 具体的にどれほど謝罪すれば良いかはわからない。
 おそらく謝罪の折に腹を切れと言われれば、
 私の腹はシックスパックどころでは済まない。
 腹部みじん切り事件としてミステリラノベで話題になりそう。

「本当はね、もうちょっと――長生きをしたかったなって」
「殺しても死ななそうな姉さんにしては珍しく弱気です」
「あいにくと死ぬのよ、私けっこう死にやすいみたいよ?」
「星の巡りですかね?」

 亜里沙がもう既に私の方をまっすぐ見ずに、
 やけに遠くの方を見ているのが辛い。
 星の巡りで死にやすいとすると言うより、
 面倒事を抱えた結果、事故が多発的に発生するのが正解であり。
 半分くらいは自業自得、いつも残してばかりの亜里沙には
 大変申し訳はないんだけども。
 ただ、そんな面倒くさいこの現象もおそらくこれで終わり。
 雪姫ちゃんも最後と言ったくらいだから、
 おそらくリリーちゃんも最後という認識のもと行動に移っているはず。
 残念ながら私はハッピーエンドを迎えられ無さそうではあるけれど、
 それでも、もう既にたった一人になってしまった血の繋がりのある家族を
 最期まで大切にしたいと思うのは、責任感からではない。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:14:31.93 ID:hEUd3Ks10
「おばあさまのことも謝らないといけない」
「そのことは謝罪をされても仕方ないのです」
「全部あなたに任せてしまった、辛いことも苦しいことも、
 私一人が何も知らなかった、何もせずに過ごしてしまった」
「私は謝罪を求めてません」
「亜里沙には、本当に何も出来なかった
 μ'sやA-RISEのみんなは喜び勇んで助けに行くのに
 妹を、たった一人の家族には何も」
「謝らないでって言ってるでしょう!?」

 久方ぶりに聞いた妹の金切り声。
 感情を露出させることでさえ稀な妹が、
 迷わず私にそれをぶつけてくるということ。
 想定通りではあるんだけども、自分で恨みを買うような行為に
 なんとも言えず胸が痛い。
 亜里沙が仕事内容を告げていなかったことも、
 トラブルを抱えれば私が喜び勇んでしゃしゃり出るからであり、
 今回アイドルなんてことになったのも、
 姉妹でできる仕事っていうのがそれしかなかったっていうのが大きい。
 ニート時代が長くてスキルを身につける鍛錬をしなかったことは不覚だったけど。

「なんで! 別に私はお姉ちゃんをダメだなんて思ったことなんてないよ!
 謝って貰う必要なんてない! 自慢のお姉ちゃんだよ!
 今まで色々たくさんのものをくれた! 感謝してるよ!
 なんで! なんでそんな自分を卑下するようなことばっかり言うの!」
「それはね亜里沙、
 妹に弱みを見せて貰えなかった情けないお姉ちゃんだから」
「……っ!?」
「甘えて欲しかったのよ、亜里沙には幸せになって欲しかった
 私にいつまでも構ってないで、いい人と幸せな日々を送って欲しかったの
 それを自分が足を引っ張り続けていたと自覚できた今、
 あえて言わなくちゃいけない

 私が死んだとしても、私の遺してきた思いと一緒に生きてほしい」
「……なにを、残すつもりなんです?」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:14:59.78 ID:hEUd3Ks10
 声色が涙声だし、
 私自身も視界が揺らいでいる自覚があるけれど、
 お互いにそれを指摘しないまま――
 目覚めてからしばらく、
 自身に蘇りつつある過去の記憶と一緒に、
 どうでも良いスキルまで扱えるようになってきた。
 これが異世界創世記みたいな話ならチートスキルになるんだろうけど。

「計画書? なんですかご丁寧に」
「アイドル育成計画書まで見て」
「見ましたがあまりにくだらなくて目に入れたくなかったんです」

 確かにB級バラエティがネタに困った時に、
 芸人を使って体を張る計画のようではある。
 今更ながらに子育てなど出来ないし、
 子どもを妊娠することも出来やしないので、
 生憎ながらある程度育った面々に絢瀬絵里要素を育んでもらう。
 私の要素を入れた所でと思うことはあったんだけども、
 歌詞作りなどの作品を残しても黒歴史にしかならなそうではあるので。
 良いタイトルが思いつかないけど、花陽に歌って貰おうかなって曲の歌詞は
 凛には好評だったりする。
 「かよちんが歌うにはいい曲」「作ったのが絵里ちゃんていうのが腹立つ」
 という言葉をどこまで評価と断じて良いのかはわからないけど。

「理亞と……ええと……」
「彼女と言えば良いのか、彼と言えば良いのか」

 苦笑しつつツバサの弟さんの顔を思い浮かべる。
 基本的に顔はノーメイクなので、ふだんから顔面は優木せつ菜さんではあるんだけども、活動形態は男性のそれなのでなんとも言えない。
 亜里沙もそのあたりは把握しているようで、
 本当に女性であったのならスカウトに挨拶させるのにと残念そう。
 ただ外見こそは美少女であるものの、
 オカマさんみたいに女性を模して活動をしているわけではないので、
 見る人が見ればすぐに判断されてしまうほどの危うさはあるらしい。
 気づかなかった私への当てつけのようなセリフではあれど。
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:15:39.04 ID:hEUd3Ks10
「何かを残す……ついに男性を妊娠させることに」
「計画にはそんなことは書いてないはずよ」
「そもそもの前提が二人の了承を得るなんですが、
 穴だらけではないですかこの計画」

 計画に興味がなければ読まずに捨てられてしまうので、
 コメントを頂ける程度には出来は良かったものと思われる。
 全体的に目を通して頂き、
 実現できる可能性が多少低いことを除けば、
 妹の満足感はあったものであるみたい。
 お見舞いに来るみんなの乱痴気騒ぎのあと、静かになった深夜の病室で、
 実際にキャリアウーマン化していた過去の私のスキルを引っ張り出し、
 そこに絢瀬絵里要素を加えた力作。
 自分の要素が高評価の不確定な部分に直結してしまうのは、
 ちょっとあれなんだけども。

「……私へのメッセージはないのですか」
「歌を作るの」
「歌? 作詞だけではなくですか?」
「ええ、まあ、亜里沙は怒るかもしれないけど、
 私にとって10人目のメンバーは亜里沙だから、
 そのことをふまえた曲かな」
「雪穂を差し置いてファン代表ですか――まあ、良いでしょう」

 雪穂ちゃんがファンである自分を止めて亜里沙も同調したけど、
 なんやかんや言ってアイドルに関わっている自分がいる以上、
 ネタに含んでも問題はないような気がした。
 仮にこっぴどく叱られでもすれば、
 私の涙と一緒に棺にでも入れて欲しい、できれば大量のボツと燃やして欲しい。

「そうそう、お姉ちゃんの部屋にあった歌詞だけど」
「……鍵かけてたでしょ?」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/27(日) 16:16:11.32 ID:hEUd3Ks10
 ちなみに管理人室ではあるけど、だいたい客の誰かの宿泊施設と化していて、
 管理の仕事をしているはずの私は、エトワール内のどこかしらで寝ている。
 ことりの意見以降様々な子が一緒に寝ますかと誘ってくれたけど、
 朱音ちゃんは英玲奈の反対があって頓挫し、
 他アイドルたちは亜里沙の反対があって機会はない。
 せっかく知名度が上がっているのに絢瀬絵里要素を入れるなんて!
 という判断の元、誰も否定してくれなかったのが悲しい。

「にこにこナースっていうのはもしかして、にこさんに歌わせるつもりですか」
「……似合いそうじゃない?」
「海未さん……あ、いえ、詩衣さんも、
 見るに値するのは1割に満たないという話でした」

 おそらくパソコンの中にデータとして残してあるものに関しては、
 ノータッチであると思われる。
 手書きで書くという作業もそれなりにクオリティを保てるけど、
 それでは量を作成できないので、本当に見るに耐えないものを制作する 
 デメリットは生じても、メイキングスキルは磨かれる気がした。

「データのロックは外しました」
「!?!?!?」
「正直もっとエッチな方面でのファイルを期待しましたが、
 なんで創作物に関しては真面目なんですか」

 ……念には念を重ねて、絶対にバレないようなパスワードにしたつもりが。
 雪姫ちゃんと相談を重ね、これならオッケーですと太鼓判も頂いたと言うに。

(絵里お姉さん、今だから白状しますが。
 私への相談は基本的にリリーに筒抜けです)

 そうなんじゃないかなーとは思ったけど、
 そうであったという事実はちょっと私にとってダメージが大きかった。
 そしていつの間にリリーちゃんから私に戻ってきたの?
 ではまた! って言って手を振られても反応に困るのよ?
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 20:30:39.47 ID:Ahp0t45oO
あれ?これ理亞ちゃんルートだよね?
なんか総まとめに入ってないか
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 22:38:38.89 ID:wttMvZ1N0
ギャグならギャグ、シリアスならシリアスに振り切った方がおもしろくなりそうだけどなぁ・・・
両親がアレなだけでも辛いのに祖母まで死ネタは流石にキツい
あと毎回絵里の独白自虐風にディス入ってるような気がするのは俺だけか
このルートだけの設定なら良いんだけど本編の解釈がこれだとしたら主とは永遠に相容れなそう
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/28(月) 15:49:26.45 ID:QnaZhIpZ0
 少し話の方向性がズレてしまったけれども、
 これからもうちょっとがんばりましょう(笑)レベルの歌詞ではなく、
 目を覚ましてからしばらくちょっとばかり能力が上がったであろう私の歌詞を妹に見せてみる。
 とんでもないものを見せられて時間の無駄なのではないかと疑問を浮かべてそうな彼女も、
 ある程度の出来であると察せられたのか、紙をめくる手が進んでいく。
 さすがに病室にパソコンは持ってこれなかったので、
 手書きでの作品になるわけだけども、
 なんとなく過去の名作詞家みたいにも見えて、
 絢瀬絵里的には大変満足行く結果を得た。
 ただ、出来不出来にはまったく関係がない。

「……まあ、叩き台にはなるレベルにはあるようです」

 こんなの全然ダメレベルから多少上昇。
 人に見せて出来を判断させてもいいよレベルには至っていたみたいで、
 多少の満足は寄せられたみたい。
 とは言え、今回の目的は作詞をして妹の感動を得よう!
 ではなく、これからの協力を求めること。
 私が仮にいなくなってしまった後にも、
 姉のことなんて忘れてまっすぐ生きてくれるようにお願いすること。
 そのためには仕事をしてくれている方が気分もまぎれると思うし。
 でも、亜里沙はそれを事前に察知していて、
 私のあとは任せたのでよろしくみたいなコメントを許してくれない。
 さっきから口を開こうとすれば、恐ろしいにらみっぷりが披露される。
 大相撲で待ったの連続で立ち会いがうまくいかないときみたいな
 そんな微妙に弛緩した空気が流れ込み始めたあと、
 埒が明かないと判断したのか、用事でもあったのか分からないけど、
 ツバサが部屋に入ってきて、何か言うのかと思ったら、
 いきなりベッドの下を覗き込んで手を突っ込んでいる。
 その挙動に驚いた絢瀬姉妹だけど、
 下からズルズルと引きずられるように出されたのは、
 ハニワプロ所属のアイドルのエヴァリーナちゃん(本名リリーちゃん)
 何故そんなところにいたのかと問いかけたいけど、
 裁きを言い渡されたあとの悪代官みたいに肩をがっくり落とし、
 なんとなく同情を誘うような小動物みたいな目をして
 ちらっ、ちらっ、とこちらを見るので、雪姫ちゃんを預かってくれるよしみもあり、
 その場で待機して口出ししないようにすればいても良いという事にしておいた。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/28(月) 15:50:06.42 ID:QnaZhIpZ0
「私に出て行けって言うつもり?」

 リリーちゃんをその場に残しつつ、
 ツバサを退場させるわけには行かなかったので、
 アイコンタクトで協力を求め(首を横に振られた)たあとで、
 言おうと思っていたコメントを追加する。
 
「ええと、空気読めないみたいな発言ではあるけど、
 おそらく私はもう長くないと思う」

 南ことりのお肩がコッティーというダジャレも受けそうな空気の中、
 それでもシリアスに軌道修正をしつつ、
 妹に伝えなければいけないことを伝える。
 亜里沙も私の台詞は聞きたくなかったのか、
 空気を弛緩させてしまった、ツバサやリリーちゃんを睨むようにしているけど、
 やがて力なく肩を落とし、少しだけ潤んだ瞳で私を見上げた。

「お姉ちゃんがいなくなってしまうっていうのは、分かってるの」

 なんとも言い切れない思いを抱えて、
 それでも私に強く意見を言うことも出来ず、
 かといってツバサやリリーちゃんに当たることも出来ずに
 我慢を重ねている亜里沙に声を掛けたい。
 かと言って、残念でしたドッキリです! 
 みたいな結果にはなろうはずもなく、睡眠を取れば
 次は目を覚ますことはないかもしれないと不安にもなっている。
 私一人が不安におびえて強がっているなら、
 誰かに責任をなすりつけることもできようけど、
 誰もがこいつ死ぬんだろうなっていうのを分かりつつ、
 私にそれを告げることがなかったことに関して、自分はどのように反応すれば良いんだろう。 
 いっその事話してくれればなんて開き直った所で結果は変わらない、
 かと言って嘆いたところで死が待つばかりの状況下で、
 かろうじて現状維持を保つことによってみんな精神の安寧を保ってる。
 それこそご都合主義的な奇跡でも起こりえれば、
 私も助かるかもわからない。
 でももう、その奇跡すら誰かの犠牲によってしかなしえないのなら、
 もういっそのこと諦めてしまうほかない――それはきっと正しくない。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/28(月) 15:50:37.70 ID:QnaZhIpZ0
「本当に諦めるほかないの? もう、これでお別れなの?」

 私に向けていった言葉なのか、
 それともここにいない神様にでも言った言葉なのか、
 胸が苦しく、今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られた私を制したのは、
 ツバサだった。

「亜里沙さん、私や絵里の愚痴は聞いてくれないけど
 英玲奈が良い反応をくれるはずよ」

 解せないことを言う。
 確かに彼女より年下の亜里沙が、
 英玲奈にとっての妹扱いされるのは……うーん。
 予想外の台詞だったのか亜里沙もキョトンとした表情を浮かべて、
 何故その人にみたいな反応をしている。

「もともとね、朱音ちゃん育成計画の第一候補が亜里沙さんだったし」

 なんでも、可愛い可愛い妹よりも可愛い妹キャラが亜里沙だったらしく、
 英玲奈にとって、羨ましい姉が私だったらしい。
 過去に微妙に辛辣な態度を取られていたのは、
 あんな可愛らしい妹の方向性が!
 であった模様。
 怒れば良いのか、同情の視線でも向ければ良いのか。
 なお、育成計画は3人目の妹キャラで頓挫したらしい、よくそこまで保ったな。

「だからね、遠慮なく愚痴っていいわよ、悦ぶから」
「……私はまだ諦める気はないから」

 仕事を任せる云々は後日改めてお願いしたいと思う。
 亜里沙には理亞ちゃんと雪菜クンのプロデューサーとして
 取りまとめてくれれば、下地は私がなんとかするつもり。
 二人して亜里沙を見送り、
 ツバサの方は誰も見てないのを確認してどこかから酒を取り出す。
 さ、さすがに病室で酒盛りをするのはと怯える私に、
 どうぞどうぞ許可は取ってあるから、としきりに勧めるトップアイドル(笑)
 あ、ツバサはガチのトップだから(笑)必要ないか。
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/28(月) 15:53:25.99 ID:QnaZhIpZ0
「で、私にシリアスに話したい内容って?」

 まずは一杯を気兼ねなく飲み干し、
 どうぞどうぞと言われている間に3杯目まで。
 お互いにお酒が強いからこの程度では酔わない。
 まるでノンアルコールのビールを飲んでいるかのよう。

「本当は、ツバサに後を託したくってさ」
「……さすがに絢瀬絵里の後枠は荷が重いわ」
「μ'sのこととか、スクールアイドルのこと、いろいろ任せるには
 ツバサしかいないって」

 珍しくつらそうに表情を歪めた後、
 酒を一杯勢いよく飲み干し、一息大きく吐いて、
 彼女は天井を見上げたのち、言葉を促す。

「でもね、ツバサに任せると、ツバサがやっちゃうから
 絢瀬絵里(笑)みたいになっちゃうかなって」
「……私は、どういう立場になればいいの?」
「二人を叩き潰してくれればそれで」

 ツバサは目を細くして、私を見る。
 興味深く面白いものを見つけたときの表情。
 リーダーシップがあって、極めて能力の高い彼女は、
 挑戦することに対して消極的な態度を示すことがある。
 上手く行ってしまうことをやるのは面白くない――というのが理由。

「つまり、絢瀬姉妹プロデュースのアイドルを
 私がひねり潰せばいいの?」
「無敵の横綱みたいな態度で一つ」
「……面白い相手でなければダメよ」

 了承というわけではないけれど、
 私のすることを止めやしないといったばかりの反応だ。
 あれこれ条件をつけるのは、
 話にダメ出しをするときの彼女の態度ではある。
 けれども、ダメ出しをするということは、
 ある程度付き合ってくれるということ。
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/28(月) 15:53:56.91 ID:QnaZhIpZ0
「ま、私に付き合えるヤツって言ったら、あなたしかいないわ」
「ただ、私の育成スキルって微妙じゃない?」
「私は好きよ、効果もあると思う。
 でも、万人に受けない、なんでかしらね?」

 雪菜クンに関しては分からないけれど、
 理亞ちゃんに関してはある程度ついてきてくれると思う。
 ただ、まだ私を師と仰いてくれるには理由付けが足りないので、
 彼女の心に影響を与える聖良さんにも会いに行きたい。
 でも、私一人ではそっぽ向かれるので、
 ツバサか穂乃果あたりにも付き合いが欲しい、
 どちらも誘うには難易度が高いというのが難点ではあるけど。

「……どこまで指摘して良いのかわからないけど」
「うん?」

 お互いにお酒の酌み交わしが二桁の回数を突破し、
 病室には似つかない空の酒瓶が辺りを支配する。
 どこから取り出しているのかなと思ったら、
 以前に希を通じてベルちゃんと顔なじみになったらしく、
 けっこう顎で使えるようになったらしい、あの人本当に歴史書とかで出てくる悪魔なんですけど?
 酒をくれって言うとデリバリーしてくれるような人ではないような気がするですが。

「その、胸を揉ませたのは……かなりチョンボかと」
「……年頃の男の子には刺激が強かったかしらね?」
「おっぱいの感想がやたらリアルになったわ……辛い……」
「……矯正するから。頑張るから」

 弟に関してかなり好感度の高いツバサでさえ、
 軽く引いてしまうレベルの感想をコメントしてしまうとは……。
 そして聞いたところによれば、彼女の手元に置きたいからと言うワガママで、
 エトワールで寝泊まりを繰り返しているみたいだけど。
 その、エトワールの住人が彼にどういう態度を取っているか、
 私は気になって仕方ない。
 あと、ツバサさんはエトワールの住人ではないんだけども、
 やっぱりあそこに帰還してもなお、テント暮らしか、
 もしくは住居のどこかしらで睡眠を取るということになるのでは?

 ――なお、やっぱりというかなんと言うか。
 酒盛りに許可を出すような病院はないので、看護師さんからしこたま叱られた。
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/28(月) 16:02:09.37 ID:QnaZhIpZ0
亜里沙ルートでのシリアスイベントのレスの具合と、
直近のシリアスイベントのレスを頂いた感じを見て、
今後理亞ちゃんルートを続行するのは無理だと思います。

なので、理亞ちゃんのデートイベント後に
ちょうどキリのいい場面まで行くので、
そこから海未ちゃんルートにこっちのスレでは入るか、
作品自体の更新をSS速報VIPでは諦めるかどちらかにします。

シナリオ的には半分くらいですが、海未ちゃんルートに行っても問題はないので、
とりあえず今後の更新内容を見ながら決めたいと思います。
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/28(月) 18:44:23.40 ID:eL0UNJY0O
わいわいほのぼのルートかと思いきや急展開だったからなあ
個人的にはエスディーエスとECHOの今後とか非常に気になるんだが>>1のやりたいようにやってもらうしかないね
ハメや渋で続くなら追いかけさせてもらう
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:24:22.39 ID:7iZADKKX0
 ハニワプロのアイドルが集う住居――名前はエトワール。
 病院から退院する日だと言うのに迎えに来たのが理亞ちゃんだけという、
 世知辛さを微妙に感じてしまう対応ではある。
 嬉々とした表情を浮かべながら、みんなでドッキリでもするの?
 なんて尋ねてみたら、
 ものすごく困った表情を浮かべながら、
 あ、はい、そうです……
 と、まったくそうではなさそうな反応をされてしまい、
 クラッカーでも鳴らされたらハラショーって驚くことには決めたけど、
 そのシチュエーションがイマイチ想像できないので、
 実行できるかどうかは不確定。

「優木せつ菜さんをどう思うかですか?」
 
 本日の夜くらいに
 理亞ちゃんと雪菜クンを集めて、
 アイドルプロジェクトを宣言したいと思っている。
 協力を得られることを前提で計画は立ててしまっているし、
 嫌ですと一言で切られる予想もしているんだけども、
 仮にダメだとしても限られた時間の中で説得する事に集中はしたい。
 ただ、ここであいつの顔なんか見たくもない!(過去に自分が言われた)
 と宣言をされてしまうと困ってしまうので、
 いちおう現在の好感度は確かめておく。

「……能力は高いですね」

 相手をどう思うかよりも先に、
 客観的に相手がどのような能力を持っているかを言うあたり、
 好感度は低空飛行していると察せられた。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:24:49.53 ID:7iZADKKX0
 無難にごまかすこともできたはずだろうけど、
 私がわざわざ問いかけるくらいだから正直に言ってくれたんだと思う。
 ただ、彼女が語ることには
 久方ぶりに再会を果たした(過去に英玲奈を通じての顔見知りだった)
 朱音ちゃんの好感度は恐ろしく低いらしく、
 朝日ちゃんやよっちゃんも私やツバサからの好感度が高めの男性を
 どう扱っていいかわからないみたい。
 エトワールの住人として扱うことには難儀というか、
 せめて理亞ちゃんとレッスンやトレーニングを受けられる立場にするには、
 課題が山積しているようにも思える。

「質問を頂いたので、私からもいいですか?」
「遠慮なくどうぞ」
「以前仕事場でルビィたちに会いました」

 不愉快というわけではないけれど、
 対応に困っているふうな、湧き上がる情動に戸惑っているみたいだった。
 なんでも、以前警戒にあたった楠原雅さんと一緒にいて、
 しかも恐ろしく仲が良さそうだったらしい。
 まるで過去の自分を見ているかのよう――と寂しげな理亞ちゃんも、
 かいがいしくルビィちゃんのフォローをしたり、
 しょげれば前に出てくる彼女を見て、
 いっそう警戒感を強めたみたいだけども。

「ルビィに対する悪い感情は見て取れませんでした」
「……理亞さんに対する感情は?」
「絶望的なまでに嫌われているようです」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:25:18.78 ID:7iZADKKX0
 なんとなく嫌われることがあるというのは、
 私も、理亞ちゃんも――そりゃあ誰しもあるけれど。
 以前まで仲が良かった友人からそういう対応をされるというのは、
 身につまされる思いをする。
 嫌われていることに自身に原因があるなら、
 改善することができるけど、人間関係はそうは行かない。
 特に女の子になればなおさら。
 いや、まあ、男性のコトなんて想像でしかないけどね?

「挑戦状を叩きつけられました」
「実力に見合わない挑戦ね」
「え、あ、絵里先輩?」
「私たち、エス・ディー・エスもナメられたもの、でしょう?」
「ま、まだ前に立つつもりですか?」
「セーブはするわ、でも、売られた喧嘩は買わないと」

 亜里沙も私にとってとても可愛らしい妹ではあるけれど、
 理亞ちゃんもツンが強い時期も可愛いなあとも思っていたので――
 蹴りが入るとついつい恐怖感が先んじてさん付けで呼んじゃうけど。
 とにかく、変貌を果たしたとは言え、
 可愛らしい妹扱いをしてしまうのは、
 彼女の放っておけなさが琴線に触れるんだと思う。
 μ'sやA-RISEの面々から放っておけない人扱いされてる私の事情は
 天高く放り投げておくことにする。

「確かに身体的には異常はないと聞きましたが」
「優れたパフォーマンスは発揮できないかも知れない
 でも、理亞ちゃんのパートナーとして、あなたを支えることはできるから」
「期待はします
 ――ですが、頼りにならない支柱なら折ります」
「ええ、期待に応えられるよう頑張るわ」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:25:57.04 ID:7iZADKKX0
 同業者として理亞ちゃんの期待には答えないといけない。
 どれほどできるかなんてわからない――
 でも、やるしかないのだ。
 ただ、理亞ちゃんが叩き潰す相手が私にならないようには気をつけたい。


 
 意気揚々と帰宅しようとしたけれども、
 まだ身体も本調子ではないようなので喫茶店でちょっと休憩。
 駅前であったり、駅の中にあるビルの店は混雑しているので、
 知る人ぞ知るみたいな、それほどお客が入っていない、
 カフェテリア「朝香」というところに入った。
 コーヒーよりも断然紅茶派(苦くて飲めない)理亞ちゃんも、
 出てきたお高めなティーカップに入った紅茶にふうふう息を吹きかけながら、
 おっかなおっかな口に入れている。
 アンティークであったり、質のいい音楽であったり、
 お店自体は高級感漂ってはいるんだけども、
 紅茶もデザートもすごく美味しいんだけどもお客さんの入りが少ない。

「マスターも苦労されているんですね……」

 このあたりで店を開いて5年目で、
 以前はバリバリのエリートサラリーマンだった
 マスターもここまで店が流行らないとは予想もしていなかったみたい。
 確かにおいてあるレコードから奏でられる曲は格調の高いクラシック。
 店も丁寧に清掃されており、使われているカップなどは綺麗でテカテカ。
 掃除が行き届いていない店だと、ちょっと一肌脱ぎたくなる衝動に駆られる私も、
 まったく手を出さずに店の中で落ち着いていられる。
 高校生姉妹と言われ、おべっかなんて良いんですよとつい言ってしまったけど、
 実際の年齢を白状したら、マスターと10くらいしか離れていなくて泣けた。
 しかもマスター、高校二年生の娘さんがいるとかで、
 娘さんがお年を召されているのか、私が若いのかは判断しないけど、
 娘よりも10以上も上には見えないというお言葉は頂けた。

「マスターは格好良い顔つきされていますから、
 娘さんもさぞかし美人さんなんでしょうね」
「絵里先輩、事実はオブラートに包むべきですよ」
「二人してそこまで褒めないでください」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:26:45.60 ID:7iZADKKX0
 顔つきだけではなく、体型もシュッとしている。
 だいたい40くらいの年齢と言うけれど、下手するとライダーとか戦隊モノの
 主人公でもやれそうなくらい若々しいし、がっしりしている。
 最近一番目にした男性というのが、
 優木せつ菜(芸名)さんであったので、
 男性のイメージがだいたい彼だったんだけど、
 そんなわけないよね、そりゃそうだ。

「経営は言うほど赤字ではないのですが、
 娘にやりたいことをやらせられないのは苦しいですね」

 生活に支障はなくても、わがままを言うには躊躇いがあるのか、
 節約志向に舵を取り、学園でも目立たない方向で動いているみたい。
 虹ヶ咲学園でも特等性枠を勝ち取り、学力や運動能力でも優秀。
 美麗な容姿に素行でも非の打ち所がないとか。
 とはいえ、性格の良さがワガママの言えなさにも直結しており、
 かといって自分に非があるのにやりたいことをやれとも言えず。
 本当はエトワールに早いとこ帰らないと、みんなも心配するかも知れないけど
 美味しいデザートも食べさせてもらったし、
 なにより娘さんの姿にも興味があるのでしばらく滞在させてもらうことにする。


 
 娘からメールが友人と帰ってくると言うので、
 μ'sの裏話はしばらくお休み。
 ことりはどこまで低い声を出せるか選手権で、
 あの子は「えーできないよー」みたいなことを言って、
 確かにできていない風だった。
 それがキャラ作りだったのか、
 パリで嫌なことでもあったのかは定かではないけれど――
 ふだんはそんなでもないのに、
 私キレましたって瞬間になると背筋を凍る声を出す。
 ここ最近ではツバサもその被害に遭ったけれども、
 その声を称して”メガトロン”もしくは”星一徹”と宣言。
 多くの同意を得るけど、本人には悲しきかな伝えられていない。
 ちなみに妹もキレるとハマーンみたいな声を出す、俗物って言われるとゾクゾクきちゃう
 エリーチカ・セロとしてスペース・ウルフ隊と一騎打ちしちゃうかも知れない。
 最後のセリフは愛してるばんざーい!でいかがか。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:27:13.36 ID:7iZADKKX0
「……!?」

 私はドアに背を向けているので分からなかったけど、
 自分と対面する理亞ちゃんはとんでもないものを見たと言わんばかりに、
 表情を驚愕の色に染めた。
 幽霊か何かと言うより、ぶっちゃけありえないと言った風で、
 そんなにイケメンな美少女がきたのかと思い振り返ったら、
 なんてことはない、知り合いのエマ・ヴェルデちゃんその人。
 が、以前であった時には私服であったためにダイナマイトバストも
 溢れんばかりであったけれども、
 制服を着ていようがダイナマイツであった――!
 東條希も私も高校時代には高校生割を使えなかったし(にこも使えなかった)
 さぞかし学生と宣言するには苦労も多いんだろうなあとホロリと来た。
 ちなみエマちゃんは寮生のはずだけど、
 案外簡単に抜け出ているあたり校則は緩いと思われる。

「あのサイズ……1.5倍聖良姉さま……ッ!?」

 言葉の意味は分からないけど、とにかく理亞ちゃんは震撼した。
 理亞ちゃんを震わせるバストをぷるんぷるん勢いよく震わせ、
 呆れ半分、心配半分と言った表情でこちらに寄ってくる。
 彼女の後ろには高校生と思しき、
 背もスラリと高く、足も長く、腕も長い、非の打ち所のない美少女。
 マスターが言うには地方の出身で子ども時代はずいぶんわんぱくだったそうだけども、
 その面影すらない。
 都内に住んだことにより大人びたか、元からの素養が発揮されたか。
 なお彼女がマスターの子どもなら、名前は果林さん、血が増えそう。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:27:45.43 ID:7iZADKKX0
「珍しくお客さんがいる……」
「失礼だな果林、一日5グループはキープしているぞ?」
「しかも私と同じ年くらいの人じゃない、ナンパでもしてるの?」

 ちなみに朝香果林ちゃんは私よりも11くらい年下である。
 絢瀬絵里の年齢を知っているエマちゃんや、理亞ちゃん、マスターもれなく苦笑い。
 ひとり私をアラサーだと知らない彼女だけがキョトンとしている。
 冷静な感じの彼女ではあるけど、以外に抜けている部分もあるものだと思われる。
 ファッションかも知れないけど、靴下の色が左右で違う。

「絵里ちゃん、身体だいじょうぶなの?」
「ちょっと病み上がりでね、無理しすぎた」
「それと、アイツいないけど? 体のいいパシリが使えなくて……」

 朴訥な感じがするエマちゃんではあるけど、
 優木せつ菜その人には容赦がない。
 果たして彼自身が自信を持っていっていた胸のサイズを褒めると喜ぶというのが
 どこまで真実なのか、なんとなく空気も緊張しているふうなので確かめてみることにした。

「……あ、その前にマスター、ちょっと向こうへ、女の子トークしたいので」

 さすがにバストサイズを男性の前で暴露するわけにはいかない。
 自分を女子と称することに些細な抵抗感はあったし、
 マスターも「子?」みたいな顔をしてこちらを見ているけど。
 ただ、年齢は干支一回り変わっても、女性というのは変わらないので
 なんとかしてキッチンの方に戻って貰った。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:28:32.07 ID:7iZADKKX0
「エマちゃん胸のサイズを褒めると喜ぶってほんとう?」
 
 私の方を驚くように見たのが果林ちゃん。
 まあ、知り合って間もないのに下ネタぶっこんでくるということに関して、
 多少の倫理観の欠如は疑われても仕方ない。
 ただ、それをしないと理亞ちゃんが先程からおっぱいに目が釘付け。
 彼女にとって近年稀に見る衝撃具合だったみたいなので、
 そろそろリカバリーディスク入れてあげないといけない。

「絵里ちゃん、普通の女の子は喜ばないんだよ」
「え?」

 声を発したのは理亞ちゃん。
 そんなに大きいんだから喜んでおけよと言わんばかり。
 ただ、外見ではおしとやかな妹キャラではあるので、
 ここにいる全員がその声に驚いた。

「あ、すみませんはじめまして、エマ。エマ・ヴェルデと申します」
「どうもご丁寧に、鹿角理亞と申します」
「え?」

 理亞ちゃんも理亞ちゃんでおっぱいをガン見しつつ頭を下げ、
 エマちゃんはSaintSnowの鹿角理亞ちゃんが思い至ったのか、
 二人して、え、あの、みたいな顔をしている。
 ただ、私は状況を理解しているけど、
 知り合いが一人もいない状況下の果林ちゃんはかわいそうなので経緯を説明してみる。

「果林ちゃんで、いいのよね?」
「エマがちゃん付けで呼んでいるけど……絵里……さん?」
「はやめに年齢を暴露しちゃうけど、あなたより10は年上」
「……え?」

 自分よりもむしろ父親と年齢が近いアラサーに対し、
 またまたご冗談をみたいな顔をしている。
 スマホで高校時代の理亞ちゃんを検索し、
 これはあなたなんですか? と尋ねているエマちゃん。
 いやもう、この年齢になるとツインテールにもできなくて、
 聞かれてもないことを答える理亞ちゃんはまだおっぱいばっか見てる。
 とりあえずこの状況が落ち着くまで、
 マスターには新しい飲み物を注文することにした。
 男性の前で胸の話ばっかしていることに謝罪の意味も込めて。
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/29(火) 18:33:54.77 ID:7iZADKKX0
理亞ちゃんルートの方は、ハーメルンにて続きを書きます。
ある程度更新が終わったら URLを貼っておきます。
どこで切ろうと海未ちゃんルートに行っても問題がないというシナリオではありますが、
ラストまで続きます。

なお、海未ちゃんルートでは、
絵里ちゃんアラサーじゃないし、亜里沙ちゃんキャリアウーマンじゃないので
完璧タイトル詐欺ですが、今更ですね……。
舞台は静岡は内浦――高海千歌ちゃんが高校二年生の春のお話。
年齢設定も変更があります、最初に説明を書くか、
物語進行上で披露するかはその時に決めたいと思います。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/29(火) 21:37:10.28 ID:29h/NruTO
ここまで乙でした
海未ちゃんルートも楽しみにしてる
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/03(日) 09:18:03.93 ID:9cYP/HwO0
 話が少しだけ軌道からそれてしまったけども、
 本来の目的を話すためにみんなで一つのテーブルに集まってもらう。
 私や理亞さんがけっこう年上であることを認識してくれた果林ちゃんや、
 さっきからバストサイズしか認識されてないと気づいたエマちゃんには、
 色々と謝りたい気持ちも無きにしもあらずなんだけども。
 
「自分のやりたいことをやるですか……難しいですね」

 私と同じというと語弊があるかもしれないけれども、
 わがままを言える立場になかったという点では共通項があると思うので、
 自らの経験を踏まえたアドバイスをしながら、
 少なくとも私の両親と違って甘えられる立場にある以上は、
 もうちょっと甘えてもええんでね? とも言ってみる。
 友人であるエマちゃんも彼女がそれなりに我慢をしていることは察しているので、
 私のフォローなどもしてもらっている。
 なお、相手にわがままを言うことが不得手な理亞ちゃんには
 実家が喫茶店であるという共通項を持ってマスターにアドバイスを送ってもらっている。
 過去の聖良さんが優秀な店員だった(疑わしい)喫茶店が繁盛していたという事実からある程度客観性を持ってのもの。
 自宅が案外有名であったのは理亞ちゃんも驚いていたけど。

「果林ちゃん、スタイル的にイケてるし、もうちょっと人前に立ってなにかするのも良いんじゃないかな?」

 現在スクールアイドルとしてチラホラとイベントに登壇中の彼女も、
 友人となにかしたいという衝動はあるみたい。
 エマちゃんは背も高いし、彼女一人が前に経っても目立ちすぎてしまう側面があるので、果林ちゃんみたいに落ち着いた感じのパートナーが居ると映える。
 本当はもうひとり誰かいると良いのかなって思うけど、
 そこまで望むのはまだ贅沢かなって思う。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/03(日) 09:18:35.98 ID:9cYP/HwO0
「今の生活でも満足してるけど……」

 多少の不平や不満はあるんだと思う。
 満足していたら自分が満足しているとはいわないものであるし。
 誰しも何かしら、ああなったらいいこうなったらいいという願望は持ち合わせている。
 表立って披露するかしないかの違い。

「んー……じゃあ、エマちゃんと一緒になにかしたくない?」
「ずるい言い方をしますね絵里さん」

 以前もみた虹ヶ咲にいるスクールアイドルのレベルで考えれば、
 エマちゃんがトップとして君臨していないという状況には違和感がある。
 規格外のバストサイズを誇るからという安直な理由ではなく、
 UTXでトップにいる優木せつ菜ちゃん(男性)と対等に渡り合う身体能力や、
 彼女(男の娘)よりも優れた歌声も持ち合わせている。
 知識や経験と言った様々な事項の差でせつ菜ちゃんに軍配が上がる側面もあるけど、どちらかといえばエマちゃんを応援したい。
 同姓ゆえの贔屓目であるとも言えるし、性別バレをしたときに何が起こるのかおっかなくて仕方ないというのもある。
 エマちゃんがある程度不遇な立場にいることは、果林ちゃんも認識しているみたいでそこを指摘されるのは弱いみたい。
 ただ、経緯はどうあれ、友人と一緒になにかしたいよねっていわれたら、したいですと言っちゃうものだけどね。

「私みたいな子でも、アイドルってして良いんですかね?」
「とても失礼な言い方になるけど、果林ちゃんはアイドル向きだと思うわ」

 エマちゃんも自分のことを地味っていうし、
 おそらく友人である果林ちゃんも自分のことをおとなしいであるとか、地味なタイプだって思ってるんだと思う。
 どのμ'sのメンバーにこの二人が地味かと問いかけたところで、何いってんだ絢瀬絵里っていわれるのがオチ。
 
「まあ、でも、スクールアイドルって華々しく前に出るだけが良いことじゃないから」
「そうなんですか?」
「今でこそ輝かしく応援されるアイドルばかりが前面に立っているけど、
 学校の名を残したいとか、みんなでなにかしたいっていうのが、
 ――本来はμ'sもそういうグループだったんだけどね」

 自身の身の丈以上に評価をされてしまい、
 私はそれで生活をしていた側面があるから良いけれども、
 困った事態も多少なりとも引き起こしてはいたのだ。
 
「自分のやりたいこと……」
「果林ちゃんが私と一緒になにかしたいっていうんなら協力するよ
 それに私も果林ちゃんとなにかしたいし」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/03(日) 09:19:09.00 ID:9cYP/HwO0
 μ'sとしての過去エピソードを語るとどうしても明るい内容ばかりではないから、
 私自身の気分も沈みがちになってしまうんだけども、
 鬱々とした私のフォローを年下の二人にされてしまう、不覚。
 エマちゃんの一緒になにかするなら協力する、
 そして私はあなたと一緒にしたいという言葉は、
 果林ちゃんの心を動かした模様。
 彼女たちがやる気になれば、同じスクールアイドルの先輩として何事かはアドバイスできると思う。
 これが優れたスクールアイドルとして何ができるか問い合わせたいとかなら
 もっといい相手がいるんだろうけども――

「果林!」

 スクールアイドルとしてアドバイスなんぞ送っていると、
 そういえば理亞ちゃんはどんなアドバイスを送ったのだろうと疑問に思い、
 まあ、そんな特異なアドバイスは送らないであろうと考えてた矢先。
 そのアドバイスの対象先のお父さんが娘さんを呼びかける。
 ただならぬ雰囲気にみんながみんな背筋を伸ばしてしまい――

「ウチの店に足りないのは店員の露出度だ! 果林! まずはビキニで接客」
「理亞ちゃぁぁぁぁん!!!!????」

 真面目なマスターをトチ狂わせてしまう鹿角理亞ちゃんのトーク術。
 彼女ばかりがドヤ顔して上手いことやったぜみたいな感じだけど、
 この落ち着いた雰囲気の喫茶店が違う意味で繁盛――いや、炎上しないことを願いたい。
 いちおう説得のために一肌脱いだつもりではあるけど、
 どこまで聞き入れて頂けたか、ただ、時給5万は魅力――いやでも、ビキニはちょっと……



 一波乱の末エトワールに帰宅。
 私の退院歓迎会でもあるのかと思いきや、
 帰って早々善子ちゃんの送別会を行うというので、
 みんながそれ一色になっていたのが泣ける。
 ちらっちらっと、病院から帰ってきたアピールをしたら、
 そんなことより! みたいにいわれてしまい――
 見送られる本人ばかりが、いやそんなことより快復祝いをと言っていたから、
 私がこれ以上こだわるのもあれだと思い、
 率先して今までにないパーティーを開こう! と宣言。
 帰宅したときよりも喜ばれてしまって解せない思いを抱えつつ、
 あんまり歓迎している風ではないツバサや亜里沙を無理やり味方に引きずり込んだ私の手腕――
 とりあえずやりたいことをやらせて欲しい! という熱意に根負けさせたのを振り返ってみると、レベルを上げて物理でゴリ押しという言葉がよく似合う。
 巻き込まれたに過ぎないのに、いつの間にか前面に立ってイベントを取り仕切っている私の姿を見ながら、
 誰かのためにしか行動力を発揮しない、そんな誰かの言葉がやけに耳についた。
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 11:11:07.42 ID:Z/71InZDO
お、こっちでも続けてくれる感じ?
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/04(月) 15:14:31.87 ID:NyPu3odI0
今日更新予定ですが、出来なかったときのために。

理亞ちゃんルートは現在投稿分以降の
真姫ちゃんとのデートイベント(桜坂しずくちゃんフラグ)
→理亞ちゃんとのデートイベント(天王寺璃奈ちゃんフラグ)
→善子ちゃん送別会(????フラグイベント)

送別会のあとにもうワンシーンあるんですが、それは暗いので
どのみち切るんなら明るい雰囲気のまま 海未ちゃんルートに行きます!
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/04(月) 19:53:43.68 ID:NyPu3odI0
 善子ちゃんの送別会までそれほど日がない中、
 事前準備に全力を尽くしているせいでむしろ早く出ていって欲しいのではないか
 そんな主役の自虐ネタも飛び出す昨今。
 書き溜めた歌詞もそれなりの数になり、そろそろお嬢様をこちらの味方に引っ張り込めそうなデキになったかと思う――。
 個人的には花陽に歌って貰う予定の――未だにタイトル未定の曲なんかは私のお気に入りでもある。
 ツバサの消えかけのロウソクって、消える寸前が一番輝きを見せるのよねっていうコメントが気になるけど反応は悪くない。
 なお、今までろくに創作したことにない(ことになっている)と知っている周囲の面々からは盗作は良くないよって言われてる。
 ひとまず、デキが良いと受け止めて盗作疑惑にも負けない――世の中には読んだこともない作品の盗作を疑われている人もいるというし。

 エトワールで暇しているのが私だけになり、
 一人でいると無茶をやらかすと信用度も抜群の絢瀬絵里であるので、
 たいていは誰かしらがその監視役として暇な私に付き合ってくれる。
 その中にはμ'sやA-RISEと言った人もいるんだけども、本来敵対関係にあるはずの園田海未さんにそっくりな川澄詩衣さんも役目を担い。
 エニワプロのことはだいじょうぶかと問いかけたら、その人は作詞に集中できる環境にあるから平気だそうで。
 ずいぶん問題を抱えてしまったみたいだけども、手助けをしてくれる誰かがいてくれて本当に良かったと思う。
 本来自分もその役目を担いたかったけれど、その考えは分不相応。
 彼女が望む通りの敵役として前に立ちはだかりたいところではあるけれど、よれよれになったら理亞ちゃんに任せる。
 ひきこもってばかりだという希の頬もひっぱたいてやりたいところだし、おちおち死んでもいられないところではある。
 
 朝食でも作ろうかと人気のない建物の中を歩き、
 誰かいるなあって思ってリビングに入ると――真姫が泣いてた。

「え、あ、真姫!?」

 意外と涙腺が脆い真姫ではあるけれど、
 私の前で泣くのはたいてい酔っ払っている時だったから、
 朝から素面だろうし、静かに思い出にふけるように泣いているという姿は
 自分の中でかなり衝撃が激しかった。
 冷蔵庫に何が入ってたかそれによって朝食は流動的に――
 とかいう考えはものの見事に吹っ飛んだ。

「絵里? ――ああ、ごめんなさい、私泣いてたんだ」
 
 役作りであるとか、演技で涙を流す場面というのも、
 演じることが本職にある彼女には当然存在する。
 それでもなお、涙を流している自分自身にすら気がつかず、
 なにかに没頭している姿を見て、私は羨望の気持ちすら抱いた。
 自分自身の、ある程度頷ける能力の高さはある。
 往々にして手痛いしっぺ返しが来るという点を除けば、
 私が何事にも対応できる器用さというのは存在している。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/04(月) 19:54:15.17 ID:NyPu3odI0
 それが、何事にも一生懸命になりきれない私の弱点でもあり、
 穂乃果や海未といった面々に私が惹かれる、ひたむきさであったり、
 一生懸命さであるんだと思う。
 自身を器用なタイプであると語る真姫も、
 私からすれば一生懸命でかわいい後輩である。
 なんとも言えない反応をされても、それは変わらない。

「みっともない姿を見せてしまったわね」
「何か、琴線に触れるものでも見た?」
「あなたの歌詞を見ていたわ、繰り返しね」

 あまりの出来の悪さに嘆きたくなった――などといわれれば、
 涙目になって俯くくらいしか選択肢が取れないけれど。
 多少なりとも、真姫の心を動かすことができる創作物を作成でき、
 ループ現象に巻き込まれてる雪姫ちゃんであるとか、
 リリーちゃんには申し訳ないんだけども。
 ツバサに導かれてベストセラー作家になった経験が活かされてよかった。
 逆恨みされて刺殺される結末はできれば活かされないでいただきたいけど。

「なんでしょうね、これを花陽が歌うというところがぐっとくるわね」
「いい曲名が思いつかないのよね、感情が入りすぎてしまって」
「にこにこナースでレベルでなければいいと思うわ」

 最底辺と比べられても私としては苦笑いしか浮かばない。
 なんとなく弛緩した空気が流れ始めたので、
 これから朝食だけどなにか食べる? って尋ねたら、
 トリュフとフォアグラとフカヒレがいいというので、
 そんなものが冷蔵庫の中に入っているわけ無いでしょって言いながら――

「え、あ、真姫……ネタ仕込んだ?」
「主人公の子種は仕事上よく仕込まれてるけど、
 あいにく他の人の冷蔵庫にネタは仕込まないわ」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/04(月) 19:57:24.27 ID:NyPu3odI0
 とんでもない下ネタを織り交ぜつつ、礼儀知らずな側面はないアピール。
 常識が多少ない部分には頷いてしまうけど、
 真姫の言葉通りわざわざ世界三大珍味を冷蔵庫に放置などしないと思う。
 過去に同居していた際に絢瀬姉妹の家に自身のものをたくさん放置していた記憶があるけど、
 彼女自身も成長したんだろう、おそらく。

「食べたい?」
「食べたくない」

 フカヒレはともかく他の食材は調理をしたことがないし、
 許可も取らずに食べてしまうと、弁償しろと言われた時に困る。
 酔っ払ってでもいれば、わかった出す! とかいって吐き倒してもいいけど、
 これが亜里沙の所有物だったりすると、
 ハラワタをぶちまけろぉ! とかいって殴られかねない。

「軽いものでいいわよね?」
「軽いオリモノでなければいいわ」

 先ほどから西木野真姫さん下ネタが激しいけど、
 キャラ作りの結果? あと、オリモノ方面のネタは
 絶対に異性に受けないから止めたほうが良いと思うの――。



 仕事を蹴ってまで私の面倒を見に来たというとんでもない事実を知らされ、
 なんとかできないのなんとか! って言ったら、
 鎌倉の方でトークイベントがあって! でも絵里のことが心配で!
 といわれてしまい、ついつい後先考えずにわかった! できることならやってやるわ! と豪胆に宣言。 
 それが最初から私を誘うための手段であり、 
 見事に真姫の手のひらの上でコロコロ転がされてしまったんだけども、
 いちおう私としても過度な運動は無しでとか、
 悪目立ちはしないようにという条件は付けさせて貰えたのでだいじょうぶ。
 事務所所属のアイドルではあるので、亜里沙とかに話は通してあるのかと尋ねたら、
 もう既に私の仕事として真姫とのイベントが組まれていた。
 少しだけ嫌な予感がよぎるのは、真姫が普段の名義として使っている名前ではなく、
 あやせうさぎとしての活動であるという点だけ。
 よもや、そんな大事にはなるまい――会場まで電車とかで移動というのも、
 高校時代みたいで楽しい――期待を抱かさせる旅路になんとなく胸躍る経験をしながら、先ほどからこれから起こることが楽しみで仕方がない。
 そんな顔をしている真姫を眺めながら、仕事が楽しいっていうのは良いことよね
 などと迂闊過ぎる感想を抱きつつ――
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/05(火) 19:47:30.08 ID:2zEl1S2h0
 古都鎌倉。
 アジサイの季節が近いだけありあたりには観光客で溢れていた。
 人がたくさん歩いている観光地というと、修学旅行を思い出す。
 高校時代は沖縄に行ったため希が大きかった(感想)という思い出しかないけど、
 中学時代は京都に行ったので、やたらテンションが跳ね上がったのを記憶している。
 神社仏閣寺院というあらゆる古来からの建物に感動し、
 インスタントカメラを手に歩きまわったので、
 日本語が上手な外国の女子高生(当時の私は中学生)が可愛いと一部で話題になり、
 やたら高度な撮影技術を身に着けたのは、いい景色をおさめたかったからかもしれないと思う。
 今はスマホでお手軽に撮影することもできるけども、
 やっぱり私は一眼レフとかインスタントカメラであるとか、
 撮影している感がするカメラで写真を取るのが好き。
 おそらく形から入るのが好みであるんだと思うし、好きや憧れをそのまま行動に転化することができるんだと思う。
 上達は模倣から始まる部分もあるし、上手くかち合えば今からでも新しいことを始められるかもしれない――
 などと急にテンションが跳ね上がった私は、カメラないのカメラ!
 と、人の波に多少うんざりした感のする真姫に声を掛け、
 やたら迷惑そうな顔をする彼女に構わず、見つけたインスタントカメラで
 景色や建物を撮影し、多少憤慨の様相を呈した真姫に仕事に行きましょう? と怒られるまでバカ騒ぎは続いた。

 収穫もあった。
 仕事に行くまでの道中にタクシーで行きましょうと言う真姫を
 わかったわかった歩いていきましょうと聞かせる気もない理論を元にゴネて抑え、
 同じ景色を撮影するのは5分以内という条件はつけられたものの、
 道中でやたら琴線に触れうる景色にめぐり逢い、
 すごい! すごい! もっといいカメラないのカメラ! 
 ないからさっさと行くわよという真姫をなだめ、
 きゃーきゃー言いながら撮影していると、
 建物の中から出てきたと思しき髪の毛の長いおしとやかそうな女の子が出てきた。 
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/05(火) 19:48:03.05 ID:2zEl1S2h0
 邸宅の門前で騒ぐ金髪にヤキを入れに来たのではなく、
 父親と喧嘩して飛び出したところに私たちと遭遇したみたい。
 名前は桜坂しずくちゃん。
 過去に優木せつ菜ちゃん(生徒から正体バレバレ)と同じ虹ヶ咲学園に通い、
 どす黒い発言と中須かすみちゃんとの喧嘩は日常茶飯事。
 初対面ではないのに過去に初対面みたいな対応をされたことから、
 私の認識度というものをちょっと疑いたくなる側面はあるけど――
 現在中学3年生ということもあり――
 かどうかはわからないけど、素でもおしとやか、
 性格も穏やか、大和撫子という表現が的確なお嬢様。
 何故このお嬢様が年齢の変遷により、
「穂乃果さんのことをホノカスと呼ぶ表現を見ましたが、
 中須かすみさんって、なカス カスみって言いますけど
 なんか悪いコトしたんですか?」
 とか言う毒舌を披露するお嬢様になるかと思うとちょっと怖い。
 お嬢様だけども、演劇を嗜んでいるらしく、
 演技人としての西木野真姫も知っていたことが赤毛のお嬢様の好感度の跳ね上げ、
 私そっちのけでしずくちゃんに絡んでいる。
 だが、私も真姫もここでチョンボをやらかす。
 基本的に年齢層が上のイベント(18歳以上対象)に、
 中学3年生のお嬢様を参加させてしまうこと。
 彼女のおつきの使用人さんに、お嬢様のことをよろしくお願いします――
 などと涙目でお願いされたにもかかわらず――
 真姫なんかは必死になって必ずや立派な子に育ててみせます!
 とか言ってたけど、あなたの子じゃないけど。(私の子でもない)
 観客男性率98%というなんとも言えない会場に――
 なぜあやせうさぎのイベント会場に絢瀬絵里が呼ばれたのか、
 深く考えずに付いてきたことと、
 それよりも断然――やっぱり、なんていうか。
 イベント参加者が基本的にエロゲーに出ている人や
 それに準ずるスタッフばっかりのステージに中学生っていうのは、
 やっぱりほんとう、殴られても文句を言えないかもしれない。
 しずくちゃんが憧れるという星空凛あたりには。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/05(火) 19:48:46.22 ID:2zEl1S2h0
 会場に到着してからしばらく、
 エッチなゲーム出続けて25年近く、芸歴40年近いベテラン声優の方にあいさつに行くというので、
 もう既に会場の空気に赤面しているしずくちゃん共々留守番しようとしたんだけど。
 どうしてもついてきて欲しいとお願いされ、
 真姫が顔出しが出来ないのでステージに立つ代理として呼ばれただけの私が、
 何故あいさつをしなければと疑問には感じたんだけども、
 横に広い芸能界において、人間関係の繋がりは思わぬ結果を招くこともあるからと自身を無理やり納得させた。
 旦那が超有名声優だからサインが貰えるかも――
 としずくちゃんも引っ張り出すことに成功し、
 控え室と書かれた場所のドアの前に立つ私たち。

「いい絵里、司令に顔を見せたら、おはようございますトキミおばさんっていうのよ?」

 あまりに長くエロゲーに出演し続け、
 あらゆる声優が年齢ゆえに成人向けゲームを引退していく中、もう還暦も近いというのに未だにヒロインとしてキャスティングされている人。
 新人時代から演技力と声質が据え置きという
 ディスってんだか褒め称えてるんだか分からない評を聞き、
 おばさんというのも業界関係者が使う常套句みたいなもので、当人も受け入れてるんだろうということにした。
 なお、司令というのはヒロインとして出演しつつ音響監督もこなす多彩さを備えての褒め言葉である。
 指摘が的確であるといった部分もあるのかもしれないけど、
 当人の演技力に活かされることがないのが玉に瑕――
 そしてドアを開いて、おはようございますと挨拶をしようとして固まる。
 隣にいるしずくちゃんも固まっているので、
 自分の見ている光景が現実であるという認識をする。
 年齢が私の二倍近くだと聞いていたし、
 人間は年を重ねればお年寄りと呼ばれる外見に近づくと認識していた。
 それに反するのは吸血鬼か荒木先生くらい――
 美魔女という言葉では生ぬるい、しかしロリババアと呼ぶのも憚られる――
 例えるなら、女子高生声優が新人として出演していて
 目の前にいる人が還暦というのは真姫の大嘘であるといわれたほうが信じられる。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/05(火) 19:49:30.24 ID:2zEl1S2h0
「ほら絵里、あいさつ!」

 真姫に肘で突かれ、目の前にいる人が真姫の言っていた司令であると思い、
 旦那さんの声は幼少時からアニメで聞いているのにとアホなことを考え、
 多少テンパった私は新人のイメージで高らかに

「おはようございます! トキミおばさん!」

 と言い放ち、
 お腹抱えて笑いだした真姫と
 私と仕事がしたいばかりに呼んだは良いけど、
 亜里沙に申し訳ないことをしたと後に述懐するヒナの凍りついた表情を見、
 あ、やらかしたなって思ったころには司令が手にしていた扇子が額に飛んで――



 年齢はどうあれ、女性相手におばさんと呼ぶことは死を招くと学んだ私と、
 演技者として長年ご飯を食べることに対しての心構えをお嬢様に仕込んでいる司令。
 その発言を一字一句も逃すまいと真剣に聞いているしずくちゃん。
 私に蘇生処理を施した後にイベントの説明をしだすヒナ――
 なお、策略を果たした真姫は端っこの方で正座させられてる。

「孫娘が世話になったようですね?」
「はい?」

 別に彼女が倉橋の戦巫女だからというわけではなく、
 過去に私と対面したこともある(理亞ちゃんをジャギと例えた)
 天王寺璃奈ちゃんの祖母でもあるらしい。
 なんと璃奈ちゃんは常に記憶を引き継いでいるらしく、
 早く孫を未来に進ませて欲しいとお願いされてしまうと私は苦笑しか出来ない。
 長かれ遠かれ、このけったいなループ現象も今回で私の命運が尽きて終わりだろうし、その結果何が残せたというわけではないけれど。
 今度お孫さんに巻き込んでしまってごめんなさいと謝りに行くと言ったら、
 理亞ちゃんと共々でお願いと言われてしまい、よもや喧嘩になることはないだろう――
 
「でも、ほんとう、孫が未来に大役を担うことを考えると、
 今日あなたと私が顔を繋いでおいてよかったですね」

 ――司令はべつに未来を見通しているわけではないよね?
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:18:09.59 ID:h/a5/t7L0
 男性比率9割以上というステージに立つというのは、
 人生において中々存在しない。
 自分を応援してくれる存在がたいてい女の子であるというのも手伝い、
 あやせうさぎイメージ図として多くの野太い歓声を受けている私。
 エッチなゲームに出ていても顔出しが平気な人というのはいるけれど、
 いかんせんμ'sとしての知名度や全年齢向け作品の出演履歴、
 果てにはコスプレイヤーとしての活躍も手伝い
 バレバレではあるんだけども、お約束としてあやせうさぎ=西木野真姫は秘密ということになっている。
 それでもファンと交流する機会があれば良いよねと言う話で、
 ヒナ真姫という二人は盛り上がり。
 どうせなら、あやせうさぎとして絢瀬絵里をステージに立たせれば面白いのでは?
 と酒の席に話題になり、それが現実になることはないだろうとヒナも真姫も
 同席していたスタッフの皆さんも考えていたそうなんだけども。
 アイドルとして前面に立っての活躍は体力的にも無理であるけど、
 なんとかして理亞ちゃんの力になりたいという無茶振りを亜里沙にし、
 簡単に有名になれる方法ないかなあツバサー ねぇー聞いてよー――
 という私のうかつな発言が、この罰ゲームみたいな知名度向上作戦のきっかけになってしまった以上、
 イベント本番まで私には内密であったのは何も言うまい。
 
「ええー、本日はあやせうさぎさんに登壇いただきましたー!」

 声質が永遠の17歳教のとある有名声優に似ているおかげで、
 ヒナはヲタのみなさまから絶大な人気を誇る。
 容姿が優れているクリエイターという部分でも知名度があり、
 ライブイベントを開くと本業の人よりも観客が集まると評判。
 さすがにアイドルクラスに可愛い真姫であるとか、
 ベテランとして活躍する司令(顔出し可)には敵わないものの、
 いちおう立場としては一般人であるので、集客率は驚異的と表現しても構わないのではないか。
 ステージに立つのは好きではないという彼女も、私を晒し上げたことに罪悪感を覚えているのか、
 めっちゃ愛想を振りまいている、さっきまで憂鬱そうにすっごい嫌なのだって嘆いていた人と同じとは思えない。

「それに皆さんご存知ですね! 司令です! 司令!」

 司令に向かってあらゆる観客の皆さまがババアババアと大きな声を上げる。
 オバサンは禁句でもババアは事実なので平気らしい。
 なお、私はマイクは持っているんだけど発言権はない。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:18:48.26 ID:h/a5/t7L0
 司会であるヒナが色々聞いては来るけど、控え室でマイクを握っている真姫が答えるという流れ。
 質問事項はファンから募集された内容ばかりというのが一抹の不安を覚えるんだけども、真姫と一緒にしずくちゃんもいることから下手なことは言わないはず。
 しかしながら、何故私が元キャラである桜井綾乃のコスプレをしているのか、
 あらゆるスタッフが似てますよ! すごいですね! と
 持て囃してくれたけど、元ネタが私なんだから似ていて当たり前である。

「えー、最初の質問、スリーサイズはなんですか!」
「上から71 54 74でーす!」

 隣で素っ頓狂な声を出しながら応える司令。
 テメエじゃねえー! 引っ込んでろババア―! と観客からは大歓声。
 最初からセクハラな質問事項である故に、
 そういうのが平気な人が答えるというお約束の流れではあるんだけども、
 中にいる真姫が割とそういう質問でも平気な人(コスプレ界ではよくあることらしい)なので、

「恥ずかしいけど、高校時代のプロフィールなら答えまーす!」

 マイクを通じて垂れ流される台詞に観客は大歓声。
 真姫がいちおう、新人が雨後のたけのこのように出てくる声優界に置いて、
 もはやベテランの域に達しているアラサーと言えども、
 私の隣の人が還暦寸前である故に盛り上がり度はパない。 
 
 
「上から88――」

 高校時代の西木野真姫ではなく、絢瀬絵里のプロフィールを暴露されそうになり、
 思わず真姫の方を向いて叫びそうになったのを、
 思わぬ事態察した司令であるとか、ヒナが飛びかかって抑える。
 ステージにいる面々が、もんどりうってる金髪ポニーテールを抑えているのに
 会場では悠々とプロフィールの暴露が続いている。
 中の人が別枠にいることはみんな知っていても、
 最初から目立つ格好をしている金髪が発言を無視して暴れまわる状況に
 会場の空気は笑って良いのか、ブーイングをして良いのか戸惑う声ばかりになった。
 しかしながら、その状況を打開したのは他ならぬ喋っている彼女であり。

「まあ、冗談はおいておいて、今語った高校時代のその人っていうのは
 けっこうすごい人なんですよ?」

 動きを停止させる私に、なんかエロゲーにありがちな
 涙腺を刺激するようなBGMが流れ始めた。
 スタッフGJ! と観客さんのフォローも手伝い、
 話だけは聞いてあげようじゃないかと思う。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:19:20.38 ID:h/a5/t7L0
「彼女は高校時代の自分を黒歴史であるとか、
 言うのも恥ずかしいと語ることもありますが――

 はっきり言って、高校時代の彼女を恥ずかしいと思っているのは、
 他ならぬ彼女自身だけです」

 怪訝な表情を自分が浮かべているんだと思う。
 簡単に言えば素直になれずに問題を起こしたのであって、
 穂乃果を中心とした他のμ'sの協力がなければ――
 少なくとも生徒会長絢瀬絵里はオトノキを廃校に導いていたかもしれない。
 
「今ここにいる栗原陽向さんと交流を果たし、
 間接的にUTXとオトノキが顔を繋げられる下地を作ったのは、
 他ならぬ、絢瀬絵里さんの業績なんです
 ほんとうなら、私たちμ'sのメンバーは絵里に感謝しないといけない
 綺羅ツバサさんがμ'sに興味を持ち、結果的に交流を果たし、
 SUNNY DAY SONGを中心とした秋葉原のイベント、
 ――海外での公演、それだって外国語が堪能であるメンバーがいなければ、
 そもそも呼ばれたりなどしなかったんです」

 やめてって言いたかった。
 そんなに私のことを褒めたりしないでって言いたかった。
 自分に自信がない私であるからこそ、
 褒められるよりも貶されたほうが力が出るし、
 凛やことりがそれを理解して私に厳しくあたっているのは知っていた。
 持ち上げられれば疑いを生じてしまう人間だったせいで、
 本当にみんなは私という人間を持て余しているんじゃないかって――
 
「だから、いつか、絵里が――
 μ'sのメンバーのことを気にせず前に進む日が来て――
 もう大丈夫だよって言う日が来たら――
 
 ネタバラシをしようと思ったんです。
 絵里を悪く言う人間なんて、絵里の知り合いの中ではいないって
 全部全部思い込みで、この”世界”は優しさで溢れているって
 
 でも――
 次の誕生日に計画されたこのエピソードを――
 ど、どうやら……ど、うあぁ……やら……
 絵里は迎え……られそっ……に……ないからっ……!
 ひとあし……はやっ……く……
 ドッキリっていう形で……つたぁえ………たかったから……!」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:20:01.83 ID:h/a5/t7L0
 気づいてしまった。
 朝方なんで真姫が涙を流していたのか。
 凛が一度私に言っていたことがある。
「絵里ちゃんの前以外で真姫ちゃんが感情を表すことって本当に少ない」
 なんて。
 私の妹分みたいな真姫が、
 業界人からクールで冷静沈着でややもすると冷徹な印象を受けてるって、
 とても信じられない話。
 花陽もとある出来事の末に真姫からこっぴどく叱られた話も、
「真姫ちゃんがあんなになって怒るんだから、私は間違ってた
 正しいと思いこんでた――ごめんね。絵里ちゃん」
 私からすれば事実であり、花陽の言葉には正しさしか感じなかったことも――
 他のμ'sの面々からすれば間違っているということがあるんだって
 ――私はほんとうに、バカな子だ。
 そして冷静に見ると観客の中にダイヤちゃんや鞠莉ちゃんの配下の人たちが混じってる。
 もしかしたら、偶然巻き込んだと思しき桜坂しずくちゃんも全てを承知して――

「ごめんなさい絵里……感極まって台本すら……読めない私を許して
 ほんとう、プロ失格ね……後は任せたわ、穂乃果」

 おそらく、何も言えなくなってしまうくらい涙を流している真姫が見えて、
 でも、実際に私の瞳に写っているのは、紛れもない穂乃果で。

「絵里ちゃん」
「穂乃果……いつから?」
「昨日は桜坂しずくちゃんの家でパーティでした」

 ずるい。

「絵里ちゃんには謝らないといけないことがたくさんあります」
「なぜ? 別にあなたに謝って貰う必要なんてないわ」
「私のせいで、絵里ちゃんは高校入学以前から廃校を何とかするために
 頑張っていたのに――私のせいで――
 その事実が遠く霞んで行ってしまった」

 結果が出なければやっていないのと同じ。
 行動せずにいて、心配だけしていた私が廃校を回避するために
 活動を続けていたなんて語るのはおこがましい。
 たしかに私をきっかけにしてμ'sが上手く行った要素もあるのかもしれない。
 それでも私は――私のせいでμ'sが上手くいなかった事実を後悔せずにはいられないんだ。
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:20:30.83 ID:h/a5/t7L0
「本当は、μ'sの足跡を辿った話をアニメにするって話が出たとき、
 私はちょっとだけ、自分自身に得をすることがあるかなって頭をよぎった
 止められたんだよ私は――アニメの作成自体を。
 でも止められなかった。
 μ'sのことをたくさんの人が知って、また、みんなで……9人で活動できるかもしれないて思ったら、その可能性を捨てきれなかった、
 もうμ'sは終わりにしようって思ったのに、μ'sである自分にこだわってしまった
 ごめん絵里ちゃん」
「ふざけたこと言わないでよ!」

 感情が爆発した。
 みんながみんな自分のことを悪い悪いってばっかり言って
 本当に悪いのはいったい誰なのか!

「ええ、私はあいにくだけど死ぬみたいよ、
 でもまだ死んじゃいないのよ!
 まだこれから――! 誕生日だって迎えられると私は思ってるわよ!
 勝手に――! 勝手に殺さないでよ!
 もう、会うのが最後みたいに……今生の別れみたいに接しないでよ!」
「私だって嫌なんだよ! 絵里ちゃんとお別れなんかしたくないよ!
 ――でも、もう――分かっちゃうんだよ私には――
 絵里ちゃんの体が保たないって……分かっちゃうんだよぉ……」

 身体がぐらりときた。
 少し感情を吐露しただけで最近はすぐにガタがくる。
 すでにヒナに自身を支えて貰っているという情けない姿に
 私が私に失笑してしまいそうだけど。

「穂乃果……忘れないでよ……」
「え?」
「私って諦めが悪いのよ……だから、こんな……
 ごめんヒナ、ちょっと座らせて」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:21:16.66 ID:h/a5/t7L0
 力なく倒れそうなのをなんとか踏ん張って、
 なんとか床にお尻をつけて体育座りみたいな格好をする。
 ネタバラシは済んだからなのか、私の背後には音もなく
 黒澤ダイヤちゃんが近づいてきて、久しぶりの感触と言いながら
 胸をもみ始めたけど、シリアスな場面なのでスルー。
 そこは支えなくてもいいのよとツッコむ気力はない。

「まだ私は、μ'sが9人揃って活動できる機会があるって信じてる」
「ちょっと動いたらへばっちゃう絵里ちゃんなのに?」
「諦めるのは簡単じゃない?――でも、諦めちゃったら、
 みんなで活動する機会の可能性すら失っちゃう
 私は――それこそが嫌なの
 
 たとえ、100%に近い確率で私が死ぬとしても
 それが近い未来だとしても――
 どうか忘れないで穂乃果――あなたが言ったのよ?

 高坂穂乃果は諦めないって、必ずオトノキの廃校を防いでみせるって
 そんなあなたに私は惹かれたの――」
「絵里ちゃん……」
「それからダイヤちゃん」
「作業は抜かりなく、私のこの両手に残る感触も抜かりなく」

 この会場に集っている面々が、私を持ち上げるために集ったと知って
 とある女の子が背を向けて走り出したんだけども――
 どうやらその子の姉であるダイヤちゃんは全てお見通しであったらしい。

「心残りではあるの、ルビィちゃんには伝えたいことがあるから」
「――わたくしの不肖の妹が世話を掛けます
 本来ならば不出来な姉がしつけなければなりませんのに」

 この調子なら日が変わるくらいにはなんとか目をさますことができそう――
 まあ、仮に少し長くなったとしてもよっちゃんの送別会までにはなんとか体調は整えたいところではある。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/06(水) 19:45:07.61 ID:h/a5/t7L0
次回更新分は黒澤ルビィちゃんとエリちの記憶にないせいで触れられてない
楠原雅さんとのエピソード――なんですが。
書いたことによって出来上がった作成物如何では、すっ飛ばしてそのまま
天王寺璃奈ちゃんイベントに向かいます。

よっちゃんの送別会にて理亞ちゃんルートの本編はこのスレでは展開終了します。
ハーメルンかピクシブに移って更新が続きますが、
海未ちゃんルートに向かう前にこちらのスレでは番外編を一本。
絵里ちゃんを悪く言う人を見たときのμ'sのメンバーの反応で
やっぱり出来上がった作品次第でそのまま海未ちゃんルートに行きます。
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 20:36:44.61 ID:QdFq9iIaO
おっつおっつ
雅との展開は理亞ルートの重要なポイントっぽいから気になるなあ
海未ルートと平行して続けるのかわからないけどどっちも楽しみにしとるで
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 23:55:24.31 ID:x9qK78zhO
理亞ちゃんルートだけど理亞ちゃんより真姫ちゃんとのフラグをビンビンに感じるんだよなぁ
奇遇にもスクフェスもぷちぐるもえりまきの燃料来てるのに運命を感じる
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/07(木) 20:22:27.74 ID:2bDLPRUV0
 以前に一度ニコが言っていた言葉を思い出す。
 人間関係に比較的ドライな彼女ではあるけれど、
 人当たりの良さと誰かとの交流の器用さで比較的に敵は少ない。
 そんなニコが真姫にアドバイスをしたことというのは――
 高校時代と比べるとずいぶんと少なくなってしまったらしいけれど、
 真姫は頭が良いから自分がアドバイスしなくても器用に生きていける――
 というのが理由ではあるみたい。
 ちなみに私に対してアドバイスが少ないのは、
 したところで意味がないからではあるらしい、いちおう褒め言葉として受け取っておきたい。
 とある出来事の末に関係を切った人と仕事上付き合いがあるから、
 ある程度ヨリは戻すべきかとなった際に、やめるように言ったのが最後――
 使えないと判断すれば容赦なく縁も切るニコにしても、
 厳しさを露出させて勧告しているあたり、
 腹に据えかねる相手ではあったみたい。
 ニコに対して話を聞いても深く考えなかった私は、
 真姫が怒るなんてよっぽどのことを言ったのねと深い関心示さずに、
 そんな私を見た彼女があなたにとってはそんなものなのよね、
 とえらいがっかりした表情で言ったのを思い出す。
 ニコが回りくどい方法でわざわざそのエピソードを伝えてきたということは、
 そいつが私のことを悪しざまに告げたということであり、
 経緯は分からないけれど、一部から評判悪いよ特に意味もなく、
 というニコのアドバイスでもあったんだと思う。
 今となってはそうなんだへーで済ませてしまったことを後悔すると同時に、
 彼女の言葉を今一度思い出すことにしたい。

「その人のことを知りもしないのに、
 その人の友人である人間にそいつの悪口をいうのは罪深い
 縁もゆかりもない人間の悪くいうのは往々にしてあることではあるけど、
 その言葉を相手に伝わる可能性を考慮せずに言うのは、
 なおさらひどいことだと私は思う。

 もし絵里が相手を悪く言う機会があるとしたら、
 絶対に相手に伝わらないように言うのが良いと思うわ、
 今後の人間関係の改善のためにも」

 起床してしばらくしたら
 相手を深く傷つける意図で悪しざまに言葉を告げることを
 私はいつかニコに謝罪をしなければならないと思う。
 寝ている時に胸が重くてという希の怖い話をニコに振ってしまったこともついでに。
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/07(木) 20:23:04.11 ID:2bDLPRUV0
 時間の感覚が少々飛んでしまったけれども、
 なんとか私の読みどおりにその日のうちには目覚めることはできた。
 体力をそれほど消費しなかったことも手伝ってか、
 日々熱に浮かされたような生活を送っていてもなんとかなるものである。
 何もしていなくても疲弊していることにはずいぶんと慣れ親しんでしまった。
 身体が重くてやる気がしなくても、ある程度行動を伴えばそのうち調子は取り戻すもの。
 仮に目を覚まさなかったときは――それはその時に考えよう。

「……しかしながら、ここは」

 想定していた場所とはずいぶんと趣が違う。
 高級リゾートホテルに寝ていたい! というわけではなかったけれども、
 肉体を沈ませるベッドはオリンピックアスリートが愛用していそうな、
 身体をあずけるだけで一眠りしてしまいそうな抜群の気持ちよさ。
 寝袋で寝ている時とは雲泥の差であるなあなんて感想を抱きながら、
 掛け布団は通信販売の人が大げさに驚きそうな軽くて暖かくてフカフカなもの。
 和風建築の中であるのか、落ち着いた雰囲気でありクラシックなデザインな装飾品であるとか家具が備え付けてある。
 これが誰かの自室であるのならば贅沢至極。
 近くに置かれている自分の荷物が安物のように思えたけれど、
 確かに値段は安いのかも知れないけど、
 これは私が大学時代にバイトに励んでいた頃にこのまま就職をするのもありかも――
 なんて高望みをして、それを鵜呑みにした亜里沙が
 社会人として恥ずかしくない格好セットを購入。
 それをベースにして多少代替わりは果たしているけれども、
 社会人として活用される機会がそれほどなかったというのも妹には申し訳ないけども、
 愛着を持っているので、安物と称するのは失礼だったなと反省。
 身体を起こしてからしばらくしてもそれほど変調も感じないので、
 部屋から抜け出して、人がいればここがどこであるのか尋ねたいところ。
 実は監禁をされていて、お屋敷みたいな場所から抜け出られないとすれば
 しょんぼり極まりないではあるんだけども。

 深夜なのであたりはしんと静まり返っていた。
 外界から遮断されているかのように物音一つ聞こえない。
 耳に届くのは多少緊張したふうである自身の呼吸音だけ。
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/07(木) 20:23:32.86 ID:2bDLPRUV0
 そういえば雪姫ちゃんは現在リリーちゃんと一緒に遠征中であり、
 よっちゃん卒業後にトークできるのが朝日ちゃんだけという状況では
 仮にアイドルとして優れていても売れないという判断から雪姫ちゃんの手助けを借りているんだけど。
 リリーちゃんは優しい子ではあるんだけども、私が関わらない相手にはそもそも興味が無いので言うことも多少辛辣。
 カツラ疑惑のある司会者相手だろうが、禿げてますよね! 頑張ってくださいって励ましますよハゲだけに! とか言っちゃう。
 それではやばいということで、いざとなれば入れ替われ!
 という亜里沙の指示の下で仕事の際には同行するケースが増えた。
 私と入れ替わるのでさえ、苦渋の選択として仕方ないと思っていた彼女は、
 親友の意志を無視するかのように入れ替わることもためらったし、
 私もあんまり無茶ぶりは良くないんじゃない? とは言ったんだけど、
 仕事に関して私に発言権はないし、最終的には私のためだからっていう理亞ちゃんの言葉に二人が折れた。
 しかしながら何が私のためかまでは理亞ちゃん自身も首をひねっていたし、
 了承した雪姫ちゃんも何故了承したのか疑問みたいだった。
 何故そうであるのか考えずに発言してしまい、
 思いのほか盛り上がるけど、よく分からない言葉ってあるものよね。
 瞬間移動するではあるまいし、
 呼びかけたら雪姫ちゃんも来るかな? それとも寝てるかな?
 なんてことを考えつつ、おいでーおいでーと目の前の壁に向かって手を振ってみたら

(西園寺雪姫! 絵里お姉さんの呼びかけに馳せ参じ候です!)
(……なんでもありなのね)
(お倒れになったと聞いて仕事を早々に終わらせてこちらに一足先に!
 ――あまり無茶はしないでください! 後で亜里沙さんも来ます!)
(怒ってた?)
(すごく怒ってました! だから、亜里沙さんが合流したら私はリリーと逃げます!)
(……どんな感じ?)
(そうですね――昔見たアニメで言うなら、クリリンのことかー! とか言って超サイヤ人になっちゃうくらいでした! 怖かったです!)
(……逃げたい)
(もし逃げようとしたら入れ替わってその場にとどまれって脅迫されてるので!)
(ふふ……あはは……はは……)

「……はあ」

 和風建築と言う言葉が似合う、そんな木の香りがする廊下には
 私の大きな溜め息の音が響いた。
 なんとも言えない憂鬱な心持ちがした。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/09(土) 14:38:04.61 ID:muPO02Hp0
お疲れ様です。
作者です。

今回更新のエピソードなんですが、
予想外に暗い展開になってしまったために、ここでの公開は控え
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10724724
アドレスの案内のみにしておこうと存じます。

このように話が飛び飛びで更新していくというのも申し訳ないので、
次回更新分から海未ちゃんルートに飛びたいと思います。
理亞ちゃんルートの後を想定しているルートではありますが、
ネタバレにならないようにかつ、話としての整合性を保つため、
シリアスに傾かないよう、全編ほのぼのルートで行きます。
ハートフルに、熱く、楽しいお話になりますので、
楽しんで頂ければ幸いです。

なお、その次のルートとして想定している真姫ちゃんルートは、
そのハートフルな世界を過ごしてきた自分たちが本当に正しかったのか?
というアンサーになるので、書くのか書かないのか含めゆっくりとやっていきます。

では次回は、淡島ホテルに滞在するエリチカからスタートです。
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/09(土) 15:16:54.35 ID:4NRTIXBpO
過去の話になるとどうしても……ね
ほのぼの好きだから期待してます
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:52:50.36 ID:AMo6ZAMt0
=園田海未ルート プロローグ=

〜にこにーの鉄板ギャグ〜

 ――みんなが幸せな結末を迎えることができたんだと思う。
 ――その結末の中に私がいなかったことは少しだけ悲しい。
 
 私が意識する前からループを繰り返していた世界は、
 おそらく私が生存し何かをなすことを条件にして未来へと進んで行くはずだったのだろう。
 ただそれは私自身の寿命が尽きることによって達成できなかった。
 何らかの都合でもしもまた新しい世界へと旅立つこととなり、
 同じようにループ現象が繰り返されるのであれば私は耐えられない――
 どうすればいいのか? 私が原因となってふざけた現象が起こるのならば、
 私が最初からこの世界に存在しなければいい。
 この世で起こる誰しもの不幸が私に原因があるとは言わないけれど、
 私が要因となって起こる誰かの不幸は防げたのではないかと自尊している。
 自尊という言葉通り、誰しもが目指すハッピーエンドではなかったことは、
 私自身も自覚をしているし、経緯を知られたらツバサあたりには殴られても仕方ない。
 
 天国にしては無機質なベッドだと思う。
 目覚めたらどこかのホテルの一室にいて、
 上等なベッドの上に身体を横たえているという状況。
 多少なりとも既視感がある――過去には割と多かったシチュエーションに
 私は首を傾げつつ、死んだというにはまるで生きているようだな?
 いかんせん死んだ経験がないものだから天国っていうのも未見だけど、
 少なくともグレードが高いホテルの一室みたいな天国って何!
 というのは神様に文句の一つも言いたいところではある。

 文句は聞くけど要望は叶えてくれなさそうな神を思い出し、
 カーテンを開いて外の景色を観ると、抜けるような青空と目の前に広がる海。
 視界の先に広がる自然は見覚えがあり、
 まだ自分が元気だった時代に同じ景色をヘリから見たような。

「私のあてにならない記憶を紐解くと、この景色は内浦――というより淡島?」
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:53:40.78 ID:AMo6ZAMt0
 そして過去を反芻するという作業をしているうちに
 妙な人生回顧録が私の頭の中に浮かび上がった。
 誰を媒体とする記憶であるかは定かではないけれど、
 おそらく自身のモノであると考えるのが適当。
 絢瀬家の長女として”日本”で生誕した私は、
 両親からの”愛情”をふんだんに注がれながら育ち、
 的確な表現を探すのであれば溺愛されて研鑽を重ねてきた。
 妹である亜里沙の誕生後も何一つ変わることはなく、
 姉妹は愛情という愛情を栄養過多なのでは言わんばかりに飲み込み、
 それほど苦労する経験もせずに生きてきたせいか――

「μ'sはA-RISEに勝てなかった」

 ご都合主義のような展開を見せる私の人生の中で、
 音ノ木坂学院が廃校の危機を迎えたと言う事実は喉に引っかかる魚の小骨みたいだった。
 順風満帆に人生を過ごしてきた私にとってのはじめての難題であった。
 行動を開始した私は幼なじみである穂乃果たち二年生組や凛と花陽と一緒にスクールアイドルμ'sの結成に携わる。
 最初は生徒会長として見守るだけだった自身が、いつの間にか先頭を切って走っているのはご愛嬌だけども、
 にこや真姫や希も加わり、過去のようにメンバー9人も集い、
 廃校の危機は回避したものの、ラブライブの予選はついぞ通過できなかった。
 それでも振り返れば楽しかった部活動であり、
 私は皆の良き先輩、そして慕われる生徒会長として卒業――
 卒業寸前まで自分が会長職に励んでいることには解せない思いも抱えるけど、
 今もなおオトノキが存続していることは大変喜ばしい。

「だけども、そのμ'sのメンバーとは卒業と同時にほぼ縁が切れたみたいね」

 手荷物が行方不明であるのでスマホの連絡帳がどれほど寂しいか――
 確認できないのは良かったのか悪かったのか。
 卒業後は穂乃果たちに就職すると嘯いていたみたいだけども、
 UTXで出会った親友であると表現してもいいヒナにかじりついていたみたい。
 体面上は彼女に泣きつかれてサポートに当たっていた風だけども、
 μ'sでの活動に熱意を向け過ぎたせいで受験や就活をすっ飛ばし、
 来年から無職なのでは? と気がついた時にヒナがゲーム作るって言って、
 わかった! あなたの力になる! と無職ではないという体の良い言い訳もできた。
 それと同時に様々な技術も身に着けた。
 
「……ヒナはなんにもできなかったわね」
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:54:10.45 ID:AMo6ZAMt0
 物語を作りたい願望はあったものの能力はなかったヒナは、
 書きなぐったプロット(と呼ぶのはおこがましい)作業と営業(なぜか好感度抜群)に従事しその他は私に任せられた。
 当初は原画作業も私に任せられる事となり、作業に準じたけど、
 どんな名作を作ったところでこれでは売れないと評されるイラストでは、
 私もヒナも満足行かなかった。
 どうしようとなった際に匿名で原画作業がしたいという子が現れ、
 天からの助け! 出来は問わない! と二人して盛り上がり、
 実際に描き上げられたイラストを見て私達は度肝を抜かれた。
 自分よりも上手ければ良いよね? 絵里より下手なんてそうそうないのだ。
 という会話もあり、期待はしてなかったんだけど――
 プロの原画? え、無償でお願いしたよね? とこちらが申し訳なくなり、
 提供されたのがラフだという言葉に更に衝撃を受け、
 二人して彼女が住んでいる函館にまで遠征に行き説得を試みたけども、
 素敵な作品を書いてくれればそれで、と一言で済まされてしまった。
 当初私は気づくことはなかったけども、協力を申し出てくれたのは鹿角理亞ちゃんであり、
 未だに彼女と縁があり、今もなお助けられている状況に、
 まるで成長していないと安西先生にも見限られそうと思った。
 しかしながら、彼女のクリエイターネームの”天王寺あやせ”っていうのは誰へのメッセージ?

「でも、SaintSnowが私達と同時期のスクールアイドルとは……」

 μ'sがラブライブに出場できず。
 東京の絶対的な覇者としてA-RISEが君臨していた頃には、
 SaintSnowが北海道の王者だったみたい。
 というより、A-RISEに対抗できたのが彼女たちくらいしかいなくて、
 多大な実力差からスクールアイドルブームがそれほど起こらず、
 ラブライブ運営が結構経営が苦しそうというのはなんとも言えない。
 なお、ツバサとも数回ニアミスしていたみたいだけど、
 私自身にもμ'sにもさほど興味を持たれなかったのか、
 同時期のスクールアイドルです程度の関係にとどまっている。
 寂しい気持ちはあるんだけども、自分の所業を考えれば馬乗りになってタコ殴りに遭っても仕方ないので
 これからもできれば付き合いは持ちたくない、アイツなら記憶を取り戻すくらいなら容易にやってのける。
 ――理亞ちゃんがきれいな方であったことから察するに、
 そのうち過去由来の記憶を取り戻す面々が出てくるかもしれない。

「逃げる準備をするのが先かしらね……」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:54:49.59 ID:AMo6ZAMt0
 仮に地の果てまで逃げ出そうとも、
 そこに先回りをする程度のことはツバサはやってのけるので、
 時間と金の無駄であるからおとなしく殴られることにしよう。
 とりあえずこの淡島ホテルから抜け出ないといけない。
 持ってきたはずの荷物がないのは残念ではあるけれど、
 中にはノートパソコンとスマホと金銭類……戻ってくることがあれば
 まずはヒナに無事の知らせを届けて、納期まではまだ時間があって、
 ヒナタプロジェクトの新しいスタッフとの懇親は彼女にやってもらって――

「はい?」

 コンコンというドアをノックする音が聞こえてきて、
 私は少しばかり恐怖を覚えた。
 おそらく理亞ちゃんだって私に記憶が戻ってないから蹴り飛ばさなかったけど、
 何食わぬ顔をして私が生きていることには多少の憤りがあるかもしれない。
 もしかしたらツバサとタッグを組んで襲いかかってくるかもしれない。
 全責任は私にあるので痛い目を観るのは仕方ないにせよ、
 ホテルが鮮血の結末を迎えるのはね? 悲しみの向こうへ行っちゃうからね?

「お目覚めかしら?」

 とはいえスルーするわけにはいかないので、
 顎にハイキックが飛んでくる覚悟をしながらドアを開けると、
 なんてことはない、過去に縁もあった小原鞠莉ちゃんがにこやかに微笑んでいた。
 私の知る彼女よりも若返っている様子ではあるけれど、
 この世界の自分自身はAqoursをまったく知らないし、何より彼女たちが存在した形跡を確認できないから、
 Aqoursが結成される前の時間軸であると推察される。
 だとすれば鞠莉ちゃんは高校3年生? 
 穂乃果が大学4年生になる年齢だから、私は今年23に……にじゅうさん!?

「どうしたの絢瀬絵里さん?」
「ごめんなさい鞠莉ちゃん、ちょっと現実についていけなくて……」
「何故私の名前を知っているのか尋ねても良い?」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:55:31.05 ID:AMo6ZAMt0
 本当に若返っている自分自身に戸惑い、
 面識もない相手につい気軽に呼びかけてしまったけども、
 相手は少しだけ警戒した様子にとどまっていた。
 私の名前を知っていたということは、荷物は彼女に漁られたということであり、
 中身の無事は確認できたけども、私自身の無事は保証されてない。
 よもや内浦の魚の餌にはならないにせよ、スターブライト号の遊び相手にはされるかもしれない。

「真実を話しても信用されないかもしれないけど……」
「ふうん? まあ、それは私が決めるわ? 
 手短にかつ、要領よく話してくれると助かるケド」

 過去に別の世界で自分と鞠莉ちゃんは出会っているということ、
 何らかの要因でその世界はなかったことになり、
 その世界での記憶を保ったまま自分は新しく人生をやり直しているということ、
 Aqoursの情報を出そうか出さないか迷ったけども、
 詳らかに明らかにするという目的の元、最終的に彼女たちがどうなったのかのみ言及を避けて話すことにした。

「私がスクールアイドル? それも、果南やダイヤと?
 果南は千歌に誘われればやりそうだけど、私やダイヤが?
 あのカタブツがスクールアイドル?」
「……堅物なの?」
「あなたの話にある、会うたびに胸を揉んでくる黒澤ダイヤというのは
 大変信用ならないわね?」

 ダイヤちゃんがここでどのような存在になっているか知らずに、
 ついつい過去の記憶だからと全部話してしまったけども、 
 当人と乖離がある情報の白状は少し迂闊だったかもしれない。
 
「よく作られた話だと思うけど、私の知り合いの名前を知っていたこと、
 ある程度情報が正確だったことを考慮して、
 ひとまずは信用することにするわ」
「ありがとう鞠莉……ちゃんでいいのかしらね?」
「あなたが女装した男でなければ許してあげる」
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:56:21.99 ID:AMo6ZAMt0
 そんなバカな、と思って胸元を見てみると、
 多少なりともあるかな? と過去の私が思っていた胸が突き出てないのである。
 胸と言えば突き出てるものでしょ? くらいのニュアンスでニコには申し訳ないけど、
 私自身が大変スレンダーであって多少戸惑っている。
 鞠莉ちゃんの言う通り女装した男かと言われればそのようにも見える自身の外見に、そこはもっと絢瀬絵里寄りにさぁ! と嘆き、
 怪訝そうな鞠莉ちゃんに荷物を取りに行きましょうと言われるまで慟哭は続いた。



 胸が軽い! こんな気持ち初めて! もう何も恐くない!
 と数分後にはエ/リになってそうな感想を抱きつつ、
 ノートパソコンのせいで重量感のある荷物を片手に、
 私はホテルに設営されているテレビを眺めていた。
 A-RISEが卒業後にトップアイドルという歴史は改変されなかったけども、
 数年後に引退するという事象だけは回避できなかったのか、
 今はそんな彼女たちに代わり女性二人コンビの芸人がブームであるらしい。
 
「ニコヤス……」

 矢澤にこと緒方靖子の二名からなるニコヤスは、ちびっこからお年寄りまで
 絶大な人気を誇るお笑い芸人である。
 「矢澤にこに胸はありまぁす!」というヤスコのギャグがブームだそうだけど、
 女神の世界改変があってもなおニコの胸はどうにもならなかったと考えると、
 神が苦心してもどうにもならなかった鉄板ギャグなのかもしれない。
 ――そんなことを彼女の前で口に出せばおそらく殴られるけど。
 
「なに? そんな辛気臭い顔をして」
「果南さん」
「なんで鞠莉はちゃんなのに、私はさんなの?」

 私がさん付けで呼ぶ人はなんとなく恐怖を覚えるから――
 という白状をなすわけには行かないので、
 曖昧にお茶を濁しながら微笑んでおいた。
 港のすぐ側で寝袋に入って寝ていたという私を凍死するんじゃないかと思い
 担ぎ上げて持ってきてくれた。
 果南ちゃんがでかい魚を持ってきたと思った鞠莉ちゃんはたいそう迷惑そうな顔をしたらしいけど、
 幼なじみのよしみでという言葉で折れてくれたとか。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:56:55.13 ID:AMo6ZAMt0
 過去の関係から比べても最初から親しいことに私は安堵したけど、
 ダイヤちゃんがクールな堅物という評を果南ちゃんもしたので、
 どこまで信用して良いものかわからない。
 こんな時期に港で寝てたら死ぬよ! とマジな顔で忠告されたので、
 実は怖い人疑惑というのもまだ拭えていない。

「テレビに映ってる人、私の知り合いなの」
「確か千歌が言ってた……ムーズ?」
「惜しいわね」
「マーズだったっけ?」

 ライブシーンの作画が静止画像になりそうな名前はちょっと。
 果南ちゃんの発言からも分かる通り、μ'sの知名度はそれほどない。
 スクールアイドルブームでさえかなり下火の中、
 地方予選で敗退するようなグループを覚えているというのは
 かなりコアなファンであるようで。
 過去の千歌ちゃんに感じたにわかっぽさは微塵も感じられず、
 純粋にμ'sを応援している風であるので、
 少しだけ会うのが楽しみでもある。
 ただ、μ'sで活躍した過去はなくても芸能界で活躍するニコを見て、
 思ったよりもこの世界も悪くないなと。
 記憶を思い返してみると、芸能活動に取り組んでいるのがニコ一人で、
 ほかはみんな大学生(だった希含む)という状況には反応しづらい部分もあるけど。
 そして何を思ったのか希は教師になるために教育大学へ進み、
 晴れてこの春から教師として採用されました!
 という話題を唯一繋がりがある(アドレス帳に名前がある)海未から聞いていた。
 私一人がμ'sの面々と縁が離れる中、ヒナと一緒になってエロゲーを作り、
 ここに来た経緯も仕事から逃避するために来たというしょうもない理由でいて、
 違う意味で穂乃果や真姫あたりには殴られる覚悟だけは決めておきたい。
 別にμ'sの二年生組や一年生組が揃って同じ四年制の大学に通って仲が良さそうだから寂しいからこんな感想を抱くんじゃない。
 あれおかしいわね? このコーヒー涙の味がする。

「ああ、思い出した! チーズ!」
「ちなみに正解はμ'sね?」
「そう言ってなかった?」
「ずいぶん美味しそうな名前を言っていたわ」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:57:25.11 ID:AMo6ZAMt0
 いやあ、失敗失敗と笑う果南ちゃんを見て、
 何ら陰も見えないことに少しだけ安堵しつつ、
 ホテルの宿泊代をどう補填するべきか考えることにした。



 宿の代金をなんとかして出世払いで許してもらい、
 ヒナに連絡を取り私自身の不備を許諾頂けないかとお願いしたら、
 電話口に出た彼女が泣き始めてしまったので、急いで帰らねばと思っていると、
 どうにも様子がおかしいので、一つ一つ事情を話してごらんと
 同い年の親友ではなく、小さい子に語りかけるように言ってみて、
 少しずつ彼女が話したことには――どうやら経営が危ういらしい。
 元から大企業のトップの令嬢である彼女であっても、
 あまりにも赤い表示が多い経営では色々と指摘を受けるらしく、
 妹である朝日ちゃんから来年度末までに結果を出さなかったらやめろと
 有無も言わさぬ口調で指摘を受け、
 そんな中仕事が多すぎてパンクしてた私は逃避行を開始し、
 誰も頼る相手がいなくなって困ってたところに私からの電話が来たとか。

「ごめんなさい、もう大丈夫よ、今すぐ帰るからね?」
「でも、これ以上絵里に仕事させたらぶっ壊れてしまうのだ……」
「安心なさい、私は意外と頑丈なのよ」
「でも、ディレクションとシナリオとスクリプトとダウンロード販売の手続きと
 委託のショップでのコスプレとグラフィッカーとホームページデザインと
 曲作りと歌詞作りと歌手の仕事はさすがにやらせすぎたと思うのだ」

 いくら頑丈さに定評があるという絢瀬絵里でも原画以外のエロゲー作りの作業を
 だいたい一人でやってしまっているという事実には頭が痛くなってくる。
 パンクするくらいなら誰かに頼れよ! と思わず自身にツッコミたくなるけど、
 その作業をしながら400KBくらいシナリオを書いているので、
 もしかしたら以前までの私よりも、この世界の私は超人かもしれない。
 ちなみにラノベ一冊が200KBくらいで、速筆のラノベ作家さんとかだと1週間くらいで書く人もいるから飛び抜けて早いわけではないわ。
 
「ヒナ、仕事としては何が必要なの?」
「これ以上絵里に負担はかけられないのだ」
「言って――お願いヒナ、もう少しだけ私を頼って?」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:58:22.63 ID:AMo6ZAMt0
「本職の声優――できればそれでお客を呼べるようなトッププロ
 それから事務――スケジュールを決めたり、お金を借りるために
 回収できる見込みがある作品なのか説明したりの裏方、
 UIを自前で用意するためのプログラマー、
 できればテストプレイヤーも、
 販促をするためにコスプレする人も欲しい。
 広報として私がショップの担当者にセールスポイントは説明するけど……」
「わかった、できるかぎり頑張ってみる――それから」
「それから?」
「私は諦めない、だからお願いヒナ、私を信じて」
「なんとかするつもりなのか?」
「ええ、一度通話を切るわね、また後日連絡するわ」

 ヒナはまだ何か言いたそうではあったけど、
 私のお客様がもう既に待ちきれそうにないので通話は切らせて貰った。
 もう少し後になるのではと考えたけれど、
 殴りに来る面々が少ないうちに自分の用事を済ませる――ということであったり、
 このタイミングであれば私も記憶を取り戻しているであろうから、
 暴力を振るうベストタイミングであると察したのかもしれない。

「ツバサ――いいわ、好きになさい」
「いい度胸じゃない絵里――歯ァ食いしばりなさい!」

 出会って早々親友と呼んでも良い相手の手にかかり、
 淡島ホテルに絢瀬絵里のシカバネができることになるけれど、
 どうか鞠莉ちゃんには許して貰いたい。

 お腹に蹴りが飛んでくるか、
 それとも歯を食いしばれと言われたことから察するにビンタか殴られるか。
 痛い目に遭うだろうと思ったのは確かだけど、
 まさか心が痛くなるような出来事が待っているとは思わなかった。

「ツバサ……泣いてるの?」
「殴ってやろうかと思ったわよ、どれだけ痛い目に遭わせてやろうかって
 でも、あなたの顔を見て、昔と同じようにツバサって呼びかけられたら、
 安心して殴る気なんか失せちゃったじゃないのよ!」

 長い付き合いだから、本当に殴ろうとはしたって言うことがわかる。
 ツバサの言葉に嘘はないっていうのが、仮にフェイクだったとしても、
 私を油断させて顎に上段蹴りかます前振りだったとしても仕方ないって。
 本気で嘆いて慟哭してちっちゃな子どもみたいに両手で涙を拭いながら泣く姿に
 慰めの言葉を投げかけるのも変だけど、
 いつまでも泣かせているのも彼女に申し訳ない。
 別に口説き落とすわけではないけど、ツバサは泣き顔より
 私を蹴り飛ばしてふんぞり返っている姿がよく似合うランキング2位だし。
 1位? ことりと凛と理亞ちゃんが同率ですがなにか?
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 19:59:16.22 ID:AMo6ZAMt0
「あんまり泣かないの――ほら、この世界に来て一番気色悪いと思った
 メールの文面見せてあげるから」
「言っておくけど絵里、今の私はそうそう笑ったりはしないから」

 ツバサには申し訳ないけど、おそらくその素晴らしい前振りは
 芸人矢澤にこよりも優れていると思う。



「あっはっはっは!!! はー!!! あはははは!!!」

 スマホを操作する間に私の胸が縮んだことにも触れず
 ひたすらぐずっていたツバサがなんとなく恋しい。
 先ほどまでの凹みっぷりが嘘だったのではないかと疑ってしまうほど、
 常軌を逸した笑いっぷり。
 お腹を抱えながら身体を折り曲げ、ひぃひぃ言いながら笑いこけ、
 一見するとお腹が痛くなる系の病原菌に冒されたようにも見える。
 彼女は私の父親とも過去に交流があり、
 いけ好かないとか噂すら聞くに堪えない人物だと知っているので、
 流石にいとしの絵里(誰が上手いこと言えと)とかいう件名の、
 溺愛する私を心配する父親からのメールは腹筋大量破壊兵器と呼ぶにふさわしかった模様。
 添付された写真にはキス顔が写っていたけど、
 流石に忍びないので先にネタバラシをして観るかどうか伺ったら
 勘弁して欲しいと言われた、正しい選択であると思う。

「ひぃひぃ……ああ、記憶取り戻してから久しく笑ってなかったから破壊力が」

 ツバサが様々な憤りを携えてこの場にやってきたことを伺わせる発言に謝罪する事もできずにもにょる表情をしてしまう。
 みんなが揃ってこの世界に飛んでいる以上、
 私が望んだ、私がいなくなってハッピーエンドを迎えるというのは、
 何ら意味を果たさなかったのかと思うと言葉も出ない。
 
「何しみったれた顔をしているのよ」
「いや、あの女神仕事しなかったのかなって」
「……ちょっと落ち着いて会話できる場所は――なさそうね?」

 小洒落た喫茶店にでも入ってと望んだツバサが困ったようにあたりを見回し、
 以前までのトップアイドルが悶絶線ばかりに笑っている姿は、
 あまり表情を変えないコンセルジュさんであるとか、ホテルのスタッフ、
 そしてなにより小原鞠莉ちゃんや松浦果南ちゃんには衝撃だったみたい。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/10(日) 20:34:58.27 ID:AMo6ZAMt0
というわけで海未ちゃんルート開始です。
しみったれたシーンをカットというコンセプトのもと、
UTXでトップアイドルとして君臨するアイドル三人組。
μ'sでは二番目に記憶が戻る真姫ちゃん。
等のシーンはまた後日、ちかいうちに書ければと思います。

なお、ツバサさんは本当に殴りつけるシーンを構想していましたが、
執筆途中に「おちんぽ気持ちいい!」っていう彼女を見て、
シリアスはやめようと思いました。良かったのか悪かったのか。

次回は十千万旅館にてエリちに会いに行きたいけど、
縁が切れていて行動に出せないあの方や、
高海三姉妹なども登場してくれると思います。
高望みはするつもりはなく、ゆっくりほのぼので――
ではまた次回。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/10(日) 20:40:53.73 ID:D6lV2bMXO
ツバサさんの安心感ヤバイな
理亞ちゃんもだけどこのss読んでたら好きになってきた
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:39:34.13 ID:xZkV+3KQ0
 どこかで落ち着いて――というのがあまりできそうになかったので、
 船で淡島から離れてからしばらくタクシーに乗車し車は発進した。
 しばらくして一人拾っていくというので、誰? って問いかけたら。
 あなたを殴りたいって息巻いている人と答えられてしまい
 なんとも言えない表情で空を見上げている私が後部座席の窓に映った。

「ツバサの周囲は特に変わったことはない?」
「そうね……城ヶ崎って言ったら誰を思い浮かべる?」

 問いかけられたくない話題だったのかな?
 と、土足で触れられたくない事実に踏み入ってしまったようで、
 迂闊な自分自身を反省しつつ。
 
「やっぱり、まる子ちゃんかしらね?」
「若い子はシンデレラガールズらしいわ」
「ああ、あの……ポケモンかっていうくらいキャラ数がいるソシャゲだっけ?」
「……あなたもしかして、ポケモンって言うと151匹の人?」
 
 古くはオーキド博士がひゃくごじゅういちも歌っていたし――
 と思ったけど、ツバサや40は上に見える運転手さんも「え?」
 みたいな顔をしているので、あれって思いつつスマホで検索をかけてみた。
 もうすぐ花陽(874)に迫らんばかりにポケモンがいて、
 時代の進歩は切ないと思ったけども、
 一部の子は名前を全部言えると聞いて、
 イマクニさんも大変ねって返したら、
 聞いてはいけない発言を聞いたと言わんばかりにツバサはため息を吐いた。

「A-RISEは結構人気だった――のかしら?
 私たちがすごかったと言うより周りが凄くなかった
 でも、スクールアイドル全体の人気が下火だったからさ、
 続けないとって思ったのよ」

 μ'sも廃校を回避するという実績を残したものの、
 世間の扱いとしてはA-RISEの壁を超えられなかった同世代のスクールアイドル止まり。
 ちょくちょく私とエンカウントするeAst heArtのリーダーも、
 自分の求めていた世界と違うという理由で芸能界で活躍しながらも早々に引退し、
 水が合っていたのか今ではエリートキャリアウーマンとしてツバサよりも稼いでいるらしい。
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:40:22.23 ID:xZkV+3KQ0
「闇雲に頑張って希さんが大学を卒業するまでだから、ちょうど4年?
 なんかね、違うなって、そんな折、たまたま昔のことを思い出した」

 タクシーの運転手さんが聞いている中で、違う世界の自分の記憶云々
 なんて会話は出来ないので、
 あくまで当該の内容だと分かるようにしつつ、
 ツバサの過去回想に耳を傾けた。

「その時にはね、解散は決まってた。
 私たちの意志じゃなくて、後進が育たないっていうもっともらしい理由
 反発する気力もなかったわ
 確かにそうなの、私たちは絶対的な覇者で誰も敵わない無欠のアイドル
 自分が求めていた世界ってそうだったのかって――正直退屈で」

 そんなとき英玲奈にツバサはツバサのやりたいことをやれば良いじゃないか
 と言われて目からウロコが落ちたようだったみたい。
 
「別にアイドルしている自分が嫌いではないのよ?
 でも私にとってアイドルっていうのは、自分のやりたいことをやる一手段でしかなかったの」

 私と一緒に何かをやりたい――と言われれば、ウソつけ
 と一言で返すつもりではあった。
 でも、そんな事は絶対に言わないことは分かりきっていたし、
 ツバサが誰かと一緒に何かをなそう! という対象は私じゃなくて、
 英玲奈やあんじゅ。
 自分を卑下しているんじゃなくて、彼女とは対等な……ライバルみたいな?
 友人でもあるし、親友と言っても良いし、仲が良いと思うし。
 凹んでたら叱咤激励したり、叩き潰してみたり、
 血なまぐさいとは思うんだけど、仲良しというより殴り合いをするほうが、
 私とツバサの関係としては適切なんじゃないかと思う。

「自分にとって、上手くいくよりも、上手くいかないほうが面白いのよ
 そびえ立つ壁は高いほうが良い、壊しがいもあるしね
 ほら、私ってとっても諦めが悪いじゃない?」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:40:49.53 ID:xZkV+3KQ0
「それが何故異性の恋人への執着に向かわないのか」
「もしかしたら――私にとってあまりに困難で諦めるほかない事象が、
 異性の恋人を作るということなのかもしれない」
「お互いに本当に異性には縁がないわね……」

 あらゆるループを繰り返しても、
 異性の恋人のひとりも出来たことがない私たちは顔を見合わせつつ。
 道を歩く高校生くらいのカップルを見ながらツバサが口を開いた。

「私の母の妹の娘が竜宮雪菜というのよ」
「それって、あなたが私に偽名で名乗ったときの」
「何の因果かしらね……?
 私に弟がいないっていう事実はたぶん、私がここに来て一番つらいことだった」

 抗議の声が上がりそうではあるので、白状してしまうけど。
 私の亜里沙の好き具合と、ツバサの雪菜クンの好き具合はよく似ている。
 どちらが上というと血を見るまで殴り合いになってしまうから言わないけど。
 
「写真を見るまで信じたくはなかった。
 自分と身長は変わらないのにバストサイズが10センチくらい上という事実を」
「……女装したときの公式プロフィールのバストサイズが同じっていうのが、
 なんともコメントに困る内容ではあるわね」

 男性としても女性としても小柄な方の身長でありながら、
 現在の私やツバサなどを軽く凌駕するバストサイズ。
 きっと彼女の前でバストサイズで女性の価値は決まらないと言えば、
 たとえそれがあらゆる世界で正しい絶対的真理であろうとも、
 負け犬の遠吠えにしか聞こえないでしょう。
 
「絵里……しばらくしたら、彼女に会いに行きたい」
「そうね、私の顔を忘れたなんて言ったら、殴らないと」
「どっちかって言うと、エマちゃんを連れて胸を揉ませたほうが思い出すかも」
「誰も得しない結果になったらお酒でも飲みましょう」
「強いお酒が良いわ、すべてを忘れられるくらいに」

 果たして、竜宮雪菜さんという少女が一体私たちにどんな境遇をもたらすのか。
 でも、エマちゃんの胸を揉んでツバサや私を思い出すというストーリーは、
 どうあがいても姉弟の再会を彩らないので止めて頂きたい。
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:41:25.59 ID:xZkV+3KQ0
 沼津市の駅前。
 まだ再会には至ってないけど、前述の彼女と同格のバストサイズを誇り、
 一年前には中学三年生だったんだよね? とか考えてしまうと、
 誰しもが闇に落ちそうなスタイルをしている国木田花丸ちゃんが、
 沼津市に行くと何でも揃う! と自信満々に言っていた過去を思い出す。
 全国系列のビジネスホテルがあったりバスターミナルもそれなりに大きく、
 一見すると栄えているように見える。
 だけどもやはり、大都会の近くで生活していた私であるとか、
 実家がでかい綺羅ツバサなんかからすると、
 まだまだ発展途上といったところやんな?
 とかドヤ顔で思ってしまうかもしれない。
 しかしながらそんなことを口にすれば、
 胸のサイズが発展途上な人に言われたくないとか、
 その卑しい思考回路、まるで原始人みたいに進化途中だね?
 とか言われるかもしれないので、沼津市=発展途上という考えは
 胸に秘めておくことにする。

「ここからしばらく歩いた先に、結構大きなホテルがあってさ」
「語頭にラブとかが付くホテルじゃないわよね?」

 少し後ろの方にシンデレラでも住んでそうな豪奢なホテルがあって、
 ついつい興味深くが眺めてしまったため、
 ツバサが「シッ! 見るんじゃありません!」って言いながら腕を引いた。
 おそらく私が使うことはないし、ツバサがこれから使うことはないんだろうけど、
 ここでの出来事の体験談とか聞いてみたいなあって思う。
 都市伝説かもしれないけど、昔受験生とかがお母さんと一緒に
 こういうホテルに泊まるっていうエピソードがあったのは知ってる――宿泊代が安いから。

「彼女にね、どこか食べに行こうって誘ったの。
 お金が足りないって言うから断られちゃったけど」
「……ツバサとサシで飲み食いできるのって誰かいるの?」
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:42:58.91 ID:xZkV+3KQ0
 過去に体験したあらゆる私自身の記憶を振り返ってみても、
 ツバサと二人きりで飲み食いしている面々というと自分しか思いつかない。
 彼女もいるわよそれくらい! といった後に黙り込んでしまったため、
 今までの会話はなかったことにして新しい話題を作った。

「話は変わるけど、今スクールアイドルってどこが強いの?」
「UTXの一人勝ちかな」

 ツバサはその言葉を寂しそうに語った。
 自分たちが頑張った結果スクールアイドルが衰退した――
 とまでは考えていないにせよ。
 μ'sと同程度に浸透させることは出来なかったという自戒というか、
 嘆くように出た言葉に私自身も物寂しさを覚えた。
 
「今一番UTXで実力があるスクールアイドルグループは
 彼女たちが1年生のときからラブライブの優勝して
 昨年度もぶっちぎりで――彼女たち以外はどのスクールアイドルもお遊戯みたいだったわね」
「へえ、それはずいぶんと面白いじゃない?」

 彼女たちが私のやりたいことの障壁となるのなら、
 こんなに挑戦しがいのあることはない。
 
「……まさかAqoursを結成させてラブライブに挑もうっていうの?」
「芸能活動の経験もない、コネもない、実力もないスクールアイドルが、
 もし本当に全国で一大ムーブメントを起こすのであれば、
 それこそ”あの子”が望んだ通りの結果になるじゃない」
「あなたが”あの子”にそこまで入れ込む理由が分からないわ」
「妹みたいで放っておけないのよ――無理に協力しろなんて言わないわ
 私が勝手にやりたいからやるの」
「ALSTROEMERIA――あなたが挑戦する相手の名前よ」

 それって。

「メンバーの名前は、統堂朱音、西園寺雪姫、藤咲璃々。
 最後の子はリリーと呼ぶべき? それともエヴァリーナと呼ぶべきかしら?」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:43:27.22 ID:xZkV+3KQ0
 心臓が早鐘のように高鳴りだした。
 軽い気持ちで弱小野球部が仲間を揃えて勝利する物語みたいに、
 こうなったら良いなっていう私の気持ちを踏みにじるよう。
 
「……やる」
「絵里?」

 動悸は収まらない。
 雪姫ちゃんやリリーちゃんがどれほど私のことを想い、
 自分が悪と呼ばれようとも私の体調を鑑み、
 最終的には死ぬからっていう理由で”あの子”と同調して私を世界から消し去った。
 泣きながら私を見送る二人を、もうこんな思いはこの子達にさせてはいけないって、
 そう思ったにもかかわらず、この体たらく。

「やるのよ、私は今度こそ、みんなが笑えるハッピーエンドを目指すの」
「どれほど彼女たちから恨まれようとも?」
「いいえ、誰からも恨まれようとも、やるったらやるの!」
「……あなたって底抜けのバカね」

 珍しく私を射抜くように睨みつけ、
 呆れているとも、嘆いているとも言い切れない、
 ただひたすら、こいつバカなだなって見下すような感情のこもってない瞳をしている。
 さすがのツバサも私と縁を切るかなって思った。
 ”あの子”が私の周囲であるとか、ツバサの周囲もそうだけど、
 どれだけの人を嘆き悲しんで泣かせたのか私自身も知っている。
 だから、協力する義理はないっていう気持ちは痛いほど分かる。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:43:58.13 ID:xZkV+3KQ0
「あなた一人じゃクリアできないわよ、そのストーリー」
「でもやるの、諦めたら――諦めたら何も出来ないじゃない」
「高い壁は、乗り越えたくなる
 私はさきほどあなたにそう言ったわね?」

 ツバサのいつもの、
 仕方ないなあ、みたいな表情をしながら私を見下す目。

「乗ったわ、私に都合の良い物語よりよっぽど面白そうじゃない?
 ううん、協力させて絵里――今度こそハッピーエンドを目指しましょう?」
「ツバサ……協力するって言っておいて後ろから刺さないわよね?」
「そういうのは、今あなたの背後にいる怖い女の子に任せるわ」

 その言葉聞いた瞬間、圧倒的な殺意とも呼べる感情が迫り、
 振り返った時には

「歯ァ食いしばってください! 絵里先輩ィィィィィ!!!」

 避けようと思えば避けれたと思う。

「遠慮なくやりなさい! 理亞!」
「……ッ!?」
 
 アスリート級の身体能力の彼女が繰り出される上段蹴りが私の顔の寸前で止まる。
 振り上げられた足はヘナヘナと降ろされ、そのまま彼女自身も力を失ったようにぺたんと座り込んでしまう。

「絵里……あなた卑怯よ、一体あなたがどんな基準で呼び方を変えているのか知っている私たちには……本当に」
「ずるかったかな? でも、もう、理亞も私の仲間だから」
「あは……はは……わ、わたしが、μ'sやA-RISEと同じ
 呼び捨てで呼んでもらえる仲間に……?」

 本当はもっと良いシチュエーションで彼女を理亞と呼びたかったのに、
 回し蹴りを回避するためにやむなく言ったみたいになってしまったけど……。
 私らしいと言えば、私らしいのかもしれない。
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/11(月) 19:52:05.26 ID:xZkV+3KQ0
”あの子”となっているのは、
いちおうネタバレ防止のために伏してありますが。
理亞ちゃんルートのラスボスのことです。

ネタバレしてどうこう変わる話ではないですし、
なにより、悪いことはするけども悪人じゃないので
名前を出しても良いのかなとは思うのですが念のため。

予告した内容に行く前に本日の更新分が力尽き、
十千万へは次回行きます!
ではまた次回です!

理亞ちゃんルートの璃奈ちゃんボード作成回も頑張って書きます……。
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/11(月) 21:37:23.69 ID:J6rgrDNxO
あの子……ストレートに考えればあの子なんだろうけど果たして
その辺りも含めて理亞ちゃんルートの方も楽しみにしとります
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/12(火) 03:47:57.46 ID:VJw7dbW70
 落ち着いた場所の前に温泉に入りたいと希望した理亞のために、
 ツバサが良いところがあると提供してくれたのは、リゾートホテルでも、
 一泊何千円のビジネスホテルでもなく。
 思えば過去に私も宿泊したことのある十千万旅館。
 いちおう私は黒澤家の長姉さんから乞われて凛とニコの二人を連れてAqoursと出会う。
 名目としては凛のタレントとしての仕事の付き合いではあったんだけど、
 だいたい海未の家でバイトして一日を過ごしてた凛に注目のスクールアイドルAqoursのエピソードを追う!
 なんてネット番組のオファーが来るはずもない、彼女には申し訳ないけど。
 
「ゆっくり足を伸ばして入れる露天風呂、いいわね……」
「はい、絵里」
「理亞さんはもう少し絵里と距離感を広げるべきだと思うの」 
 
 理亞はこの度改めて私のことを呼び捨てで呼ぶようになった。
 ツバサがポロッとランクが下がったのではないかと言ってはならないことを言ったけど、
 彼女にとっての聖良”姉さま”と一緒の扱いでは恐縮ではあるし。
 アポ無しで旅館にやって来る不躾さに関しては、
 今までA-RISEのリーダーとして頑張ってきた実績でごまかしたい。
 私自身が虎の威を借る狐でしかないけど、
 沼津市ではそうでもなかったのに、内浦では紅白にも出たことがある綺羅ツバサの注目度は
 お湯を抜いていて清掃していた湯船にお湯を張って頂けるほど。
 ここに来たってお風呂入れないじゃないですかと冷たくツッコミを入れていた理亞や
 お客さんが多いから満室かもしれないと言っていた私などをあざ笑うように、
 多少の面識もある高海家の長姉さん(元特攻隊長)は大きな部屋と温泉を用意してくれた。

「いいじゃないですか、バストサイズを3センチサバ読みしていた人は黙っててください」
「相変わらず5センチサバを読んでいるあなたに言われたくない」
「17センチ少なくなった私へのあてつけかしら?」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/12(火) 03:48:49.18 ID:VJw7dbW70
 高校時代から比べると10センチは減ってるコトになるんだけども、
 体感的には同じ胸かと呼ぶにふさわしくないような気もする。
 これがまだ、ツバサとか理亞だからコメントの一つも送れるけど、
 隣にいるのがエマちゃんだったりすると、思わず謝ってしまうかもしれない。
 
「……ところで、なんでツバサと理亞は私のこと覚えてるの?」

 私が過去に”あの子”のトンデモ能力で世界から痕跡を消された後、
 同じように痕跡を消された被害者のみなさまと還ってくる時に、
 女神と名乗るヒトからお前の望み通りにするからなんかよこせと言われたので、
 私への好意度であるとかとにかくあの世界で私が享受してきたありとあらゆるメリットを
 渡してやるからなんとかしてと応えたんだけども。
 好感度はともかく、胸のサイズは目減りされすぎなのではないかと思うけど、
 私の望みがあんまり叶ってないことに関しては文句の一つも言いたい。

「そうね、絢瀬絵里の痕跡は……確かに消えたわ」
「私たち以外はみんな忘れたんです。絵里のこと、全部」

 二人が語る通り、私の存在ともども私の全てが世界から消え去ったようではある。
 いちおうは仕事はしてくれたみたいなので罵倒くらいで済ませようとは思う。
 
「よく考えてみてよ絵里、私……だと不安だから、穂乃果さんが
 あなたと同じ行動をしたら、あなたは彼女を忘れられるの?」
「……それは、とても難しいわね」
「でも、勝手なことをしたって思わなかったんです、むしろ解放させられるのかなって
 ただ、怒った方がいまして」

 理亞が遠い目をしたので、そこにいるツバサが怒り心頭を発したのかと思ったけど、 
 彼女が苦笑しながら違うとばかりに首を振った。
 
「姉さまがこんな結末は認められない! って怒って、
 絵里と同じように自己責任で消えようとしていた”アイツ”の胸ぐら掴み上げて
 なんとかしろって、あんなに怒った姉さまを見たのは初めてです」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/12(火) 03:49:17.83 ID:VJw7dbW70
「”あの子”は胸ぐらを掴み上げられてばっかりね……」

 当時ロリロリしかった朝日ちゃんにも「お姉ちゃんに手を出したら今ここでお前を殺すぞ」って胸ぐらをつかまれてたし、
 ただ、彼女が何より怖いのは、〇〇したら殺すって言って、本当に〇〇したら殺しにかかってくるところよね。
 普通なら脅しで済ませるところを実行しようとするのがおっかない。

「それでも同意していたのは千歌だけでしたけど」
「彼女は死ぬほど空気が読めないわね……」

 ”あの子”が自身にどんな悪評が立とうとも救いたいと執着した相手とは思えない。
 まあ、経緯はどうあれ好きっていう感情は評判には由来しないんだけどね。

「そんな姉さまを諌めたのは、亜里沙さんでした」
「理亞は亜里沙よりも年上になっちゃったわね」
「一度会いに行った際に同じ人かどうか怪しかったです」

 ここでの亜里沙は中学卒業から姿が据え置きだったので、
 理亞が同じ人物か疑わしく思うのも無理はない。
 
「亜里沙さん、泣いている自分に気づいていませんでした」
「絵里、やっぱり一発彼女には殴られるべきよ」
「過去よりも痛く無さそうだけど、どの過去で亜里沙から受けた仕打ちよりも痛そう」

 亜里沙から言われた聖良さんはとりあえず矛を収めてくれて、
 ハッピーエンドを迎えられると思ったら、やっぱり空気を読めない人がいた。
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/12(火) 03:50:02.81 ID:VJw7dbW70
「妹を泣かせるとは姉の風上にも置けん奴だ――だったかしら?」
「その前に、姉として私と同格だと思っていたがが付きます」
「英玲奈の人への評価基準って姉として優れているかいないかなの?」

 とにかく超級シスコンの英玲奈はその言葉を置き土産に
 私を殴りに行きたいがためにリリーちゃんや雪姫ちゃんを連れて何処かへと消えたらしい。
 未だに殴り倒されてはいないけど、近いうちに襲いかかってくるかもしれない。
 彼女とはエンカウントしないことを願いたい。

「まあ、英玲奈のことだから、朱音さんに慕われている自分に満足してるかも」
「とにかく亜里沙さんの姿を見て、一番辛いのは自分じゃないって思ったんです
 だから、やめて欲しいと泣いている亜里沙さんのためにも、もう一回やり直そうって」
「今までの記憶を担保にもう一回だけ世界創造、まるで神ね、宇宙神かもしれない」

 そんなことに自分が関わっているかと思うと憂鬱。
 しみじみと空を見上げていると、どちらが先に記憶を取り戻したかで
 ツバサと理亞が口論になっていた、二人はもうちょっと仲良くして欲しい。
 お前が原因じゃないかというツッコミは甘んじて受けるから。

「聖良さんは?」
「岐阜の恋人を口説き落としに行きました」

 理亞ちゃんと同時に記憶を取り戻し、
 それから岐阜に飛んで農場で仕事を始めたらしいけど、
 相変わらずお金に困るとミルクちゃんになるっていうのはやめて欲しい、笑っちゃう。
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/12(火) 07:32:54.26 ID:N19rZk8IO
ミルクちゃんは健在かw
ツバサや理亞も普通に過ごしてて突然思い出したってよりは別世界に飛ばされてこの世界の記憶埋め込まれたって感じなのかな
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/14(木) 03:48:49.80 ID:9tQZDwVv0
えりちの胸が消えた・・・だと・・・?
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/14(木) 18:47:41.84 ID:edPbgfuO0
 お風呂上がりに飲むものは何? と問いかけられたので、
 私こと絢瀬絵里は麦茶が良いかなあ? なんて首を傾げながら答える。
 その言葉にツバサは良いことを思いついたばかりに、
 こちらをなんとも不安にさせる企み顔で何処かへと消え、
 残された私はと言えば理亞と一緒に設置された体重計に乗るか乗らないか
 そんなことを逡巡していたりした。
 ポカポカとした身体がようやく平穏を取り戻したころ、
 しばらくするとまた暑い時期がやってきますねと理亞がポツリと呟き、
 今年の夏はどのように過ごす時間となるだろうか?
 なんて言うことをぼけーっと考えた。
 身体の自由が利くようになったとは言え、
 あまり熱心に活動をしていてはまた倒れてしまうかも分からない。
 自分の預かり知らぬところで存分に疲弊し、気がついた時には指一つ動かすことも困難を極める――
 なんてことになってしまえば、何のために世界を乗り換えしたのかわからない。

「絵里、根を詰めた表情をしても意味ないです
 それとも体重計が亜里沙さんのカタキに見えました?」

 つい真剣に過去の記憶を反芻してしまった私は、
 表情を緩ませてエアわしわしを執り行った。
 その結果何が変わるというわけではないけど、理亞もノリ良く胸元を手で抑えた。
 気合を入れてあれこれ考えた所で変化をすることはさほど無いと結論づけ、
 妹みたいになりつつある理亞を伴って浴場から抜け出す。
 ツバサさま御一行の使用人みたいな私たちではあったけれど、
 残念ながら平伏する人たちを足で踏みつける趣味もなかったので、
 私たちは一般人ですので、と重ね重ねお願いし、
 妹がμ'sっていうスクールアイドルグループにハマっていて――
 と、志満さんが世間話をするように語り、
 そのグループのメンバーだと応えてまた恐縮されても困るので、
 私たちも同時期のスクールアイドルで、それでツバサとも縁があり、
 とお茶を濁しておく。
 すぐに正体は割れてしまうんだろうけども、
 いちおうA-RISEとラブライブの優勝を競ったSaintSnowのメンバーである理亞は、
 自身の知名度の無さに微妙に傷ついたふうであったので、よしよしと頭を撫でておいた。

「にゃーん、ごろごろー」

 理亞のあごを猫を扱うみたいに撫でながら、
 そういえばツバサはどこに行ったんだろうと、久方ぶりに悪友の顔を思い浮かべた。
 いれば基本的に我が強く騒がしくて疲れることもあるんだけども、
 私自身世話になりっぱなしではあるので、何かしらお礼をなー
 なんて考えていると理亞が微妙に表情を消してこちらを見上げながら、

「違う女の人考えませんでした?」
「ごめんなさい浮気症で」
「ホームベースは死守するつもりです」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/14(木) 18:48:12.62 ID:edPbgfuO0
 それは正妻宣言?
 メガネを直す動作をしながら、シルバースラッガー賞も頂きですと言っているけど、
 日本には残念ながらその賞は存在しないし、メガネのキャッチャーと言うと
 さすがに例えが古すぎやしないかと思う。

「絵里!」

 しばらく姿を消していたツバサが、透明な二つのコップを持って現れた。
 中身は二つとも麦茶に見えるけど、
 湯あたりをしたかもしれない私たちのために飲み物を入れてきてくれたのかな?
 と思ったんだけど、どう考えても企みが上手く行った感がある自信満々な顔は、
 そんな殊勝なことをしてくれる表情ではない。
 
「片方は麦茶、片方はめんつゆ! いやあ、麦茶に見える配合に苦労した!」

 ツバサの横暴な行動に付き合わされたと思しき美渡さんは、
 げんなりという表現がよく似合う表情のままこちらをじっと見ていた。
 まるでこちらにめんつゆを飲むことを希望しているようではあったけれども、
 そうはどっこいこちらは強運(自称)の絢瀬絵里であるし、
 空気が読めない扱いをされることにも定評があるから、麦茶を飲み当てることもいとわないのである。
 気合を入れて一気飲みするために準備体操に励む私を冷ややかな目で見る理亞が、
 ふと何かを思いついたようにツバサに向かって口を開いた。

「両方ともめんつゆという可能性はありますよね?」

 腱を伸ばし始めた私と、
 どれだけ気合を入れてるのよと面白がってるツバサの動きが急停止。
 よもやそんなことはないだろうと思って目を細くすると、
 彼女は天井の方に視線を這わせ、右を見て、左を見て、
 自身の味方がいないことを察したのか、
 
「そんなわけ無いでしょ、なにいってるのよあはは」

 思いっきり棒読みでこちらを見ずに否定の言葉を述べ、
 両方ともめんつゆあることはほぼ確証を得た気がする。
 しかしながら両方とも罰ゲーム対象とわかったからと言って、
 こんなに苦労させたのにお前は飲まないつもりかと美渡さんが見ているので、
 私自身も困り果てた感があるので、ツバサと顔を見合わせ。

「お風呂上がりには麦茶をごくっと行きましょう!」
「ええ! 絵里!」

 ヤケになったように薄めためんつゆをごクリゴクリと飲み
 危機回避のために忠告したのにと言いたげな理亞のジト目を横目に、
 良い飲みっぷりとひたすら褒めてくれる高海姉妹に乗せられるように、
 まだまだじゃんじゃんと二人してめんつゆを飲まされ、
 VIP待遇にあるというのは実は勘違いで嫌がらせに遭っているのではないか?
 そんなふうに思うころには昼食も食べられないほどお腹いっぱいになっていた。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/14(木) 22:33:23.99 ID:5yfj4ThqO
理亞ちゃんがすっかり良い女房役になってる
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/17(日) 15:34:16.89 ID:cBReHfnH0
 すっかりお腹がいっぱいになってお腹を撫でている私やツバサを、
 理亞がなじみになりつつあるどうしようもないものを見る目で見上げ、
 呆れきったと言わんばかりに軽くため息を吐きながら口を開く。

「二人とも、お腹を壊すんじゃないかってくらい飲んでましたね」

 できるだけ多くめんつゆを飲んでいたほうが勝ち――
 そんなふうにも見える哀れ過ぎる勝負は、
 現場で働いている高海家お父様から家の食材を使うんじゃないと、
 ご申告受けるまで続き、両者ノックダウンをしないので痛み分けに終わる。
 理亞には私たちへのダメージを心配する態度も見せたけど、
 残念ながらこの程度では胃だって荒れやしない。
 星空凛や優木せつ菜(芸名)という料理と呼ぶのがおこがましい劇物製作者の制作物に比べれば、
 だし汁なんかいくら飲んだ所で身体は傷めない。
 多少なりとも身体に悪いのは事実ではあろうけれども、
 十千万旅館の温泉はデトックス効果も抜群であろうから、大丈夫だ問題ない。

「さて、今は始業式――ということになるのかしらね?」 

 カレンダーで現在の日付を確認し、
 長女さん次女さんからの情報を統合し、
 結論づけた結果がAqours結成前。
 黒澤姉妹がなぜか三姉妹になっているというやや解せない状況や
 タイムスケジュールや各設定(理亞の表現)が異なっている部分もあるけど、
 誰かが存在しないであるとか、誰かが代替されているということはないみたい。
 ただやっぱり、黒澤サファイアと呼ばれる人と、津島善子ちゃんが同居している状況は不自然だけど。

「ルビィから昔聞いた話によれば、
 梨子さんが転入してくるのが翌日――住んでる場所は、
 旅館の隣のようですが建物がないです」

 旅館の窓から見える景色はどこまでも自然ばかりで、建物はというのは数少ない。
 海の近くにあることから洗濯物が大変そう――
 などという主婦目線の感想はんなことは良いの一言でスルー。

「Aqoursの結成までにハードルがあるとすれば、
 いまいち乗り気でない三年生」
「そして何より、本気にさせるには難易度が高そう」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/17(日) 15:34:48.21 ID:cBReHfnH0
 周囲の人達に聞いたところ、
 千歌ちゃんの本気度はそれほど高くない。
 目標にしているμ'sがA-RISEに立て続けに敗れて、
 結局ラブライブ優勝も絢瀬絵里さん大好きSUNNY DAY SONGが披露されるイベントもなく、単に廃校を阻止した1スクールアイドルであることもあり。
 μ'sのように廃校も阻止ししてラブライブ優勝していつまでも語り継がれる(ry
 過去のAqoursでは高すぎるハードル(私は思わないけど)がないことも手伝い、
 廃校が本決定しているため思い出つくりで幼なじみの子たちとなにかしたいなー
 くらいの千歌ちゃんに対し、
 わかった、じゃあラブライブ優勝目指そうぜ! という私の存在は邪魔である。
 
「幸いにしてやるならば本気で――聞いた限りだと、
 3年生組はそういうタイプみたいね、実際に会わないと信じられないけど」
「実際に千歌がどれほど本気であったかは疑わしいですが、
 始めさせてしまえば、彼女は本気になるでしょうね」

 好きは何かにつけて表現するけど、嫌いを口に出さない理亞にしては珍しく、
 同族嫌悪なんですけどと言いながら千歌ちゃんのことは嫌いではあるらしい。
 私からすると、理亞と”あの子”のほうがよっぽど似ている気がするし、
 自分やツバサが”あの子”と同じように、穂乃果やμ'sやA-RISEと言った、
 自身よりもその存在の方がよっぽど大事であるといったものが、
 危機や”全ての問題が解決する”とするのであれば、
 喜んで同じポジションに立つ人間になる気がする、だからこそ私も”あの子”の背中を押し続けたし。
 
「大事なのは結果を残すことじゃない、
 もし記憶が戻ってAqoursが9人揃って何かをやれる状況なのに
 何も出来なかった――そういう状態にならないようにするべきよ」

 ツバサが自嘲するように笑いながら口を開く。
 私や目の前にいる二人は自身が大切に思うスクールアイドルだった時代に
 記憶が戻ることはなく、半ば不完全燃焼という形で時を過ごした。
 ラブライブを優勝し、常にアイドルとしてトップ街道をひた走ってきたツバサも、
 私や理亞を相手に本気を出して雌雄を決したかった――自分がどれほど他人から評価されようともやれなかったことをしないほうが辛い。
 だからこそ、過去に道を違えてしまったとは言えAqoursには後悔せずにこれからを過ごしてもらいたい。
 しかしながら”あの子”と顔合わせをする機会があれば、理亞と二人してラスボスラスボスって騒ぎ立てるつもりだっていうのはどうなの?
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/17(日) 15:35:51.87 ID:cBReHfnH0
「そろそろ帰ってくる時間ね――では、手はず通りに」
「……この状態で金髪ポニーテールにするのに違和感があるんだけど」
「安心してください絵里、私もツインテールにして目にはセロハンテープを貼ります」

 どれほど効果があるかは疑わしいけれど、
 千歌ちゃんにとって憧れる要素があるμ'sのメンバーである私や、
 ラブライブで良いところまで行ったSaintSnowの鹿角理亞が
 高校時代と遜色なくその場にいるというシチュエーションが大事らしい。
 記憶が戻るとたちまち美少女要素が高まる(原理不明)理亞は四苦八苦しながら
 ツリ目を作り上げてみせ、あーあーと低め低めに声を調整していく。
 
「絵里ももうちょっと柔和な感じで」
「……そうね、今の自分からすると緊張感のカケラもないというか、
 亜里沙の姉なんだなあって感じだったわね」

 過去の記憶を反芻してみると、
 キャラとしては南ことり方面に近かったようで、
 おしとやかで柔和で天然っぽい私自身のキャラをやはり四苦八苦しながら作り上げてみる。
 あなたがもう少しキャラが絢瀬絵里に近ければ記憶も戻ったのにとツバサにやっかみを言われたりもしたけれど、
 理亞に高校時代のあなたはもっと殺伐としていたと反撃され、
 私も彼女に準じて完全無欠なA-RISEのリーダーを演じればと素っ気なく言ってみた。

「こう……こう……おおぅ……」
「頑張るわねツバサ、目がどうしたって殺伐としないもの」
「絵里ももうちょっと喋り方を……あ、いや、しゃ、喋れよ!」

 これで誰かが、
 どうせすぐにネタが割れるんだから過去通りにしなくても
 とでも言えば、無駄な努力だったと笑えるんだけども。
 いかんせんやったからには本気になってしまう傾向がある三名は、
 過去の自分のキャラを取り戻すために必死になり、
 千歌ちゃんが私達に顔を見せにやって来るまで無駄な行為は続いた。
 ツバサや私たちのどうしようもない楽屋裏トークも聞かれてしまい、
 憧れのμ'sやA-RISEやSaintSnowへの評価がどれほど下がったのか――
 人は変わるものですもんね! とフォローされている三人を見て、
 彼女の友人の渡辺曜ちゃんが実際にどう思ったのか――
 Aqours結成までに多大な障害を残し、私たちポンコツ三人組は
 仕方ないからラスボスいじりに行こうぜラスボス! 
 というツバサの音頭に従い浦の星女学院に向かうのだった。
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/17(日) 15:55:53.36 ID:cBReHfnH0
少々時間がかかりました。

再度の路線変更のため調整に時間がかかり、
シリアスに傾く――のではなく、シリアスはやめよう、シリアスは!
もう暗いネタは良いや! という路線変更のため、
どうしても変えられない部分以外は改められることになりました。

おかげでさんざん伏線を張り続けた小泉花陽ちゃんピックアップエピソードは
ある程度なかったことになりそうです。
ただ、そのおかげで海未ちゃんルートにおいてμ'sの面々が
内浦にやってこれそうなのでいい方向につながると思います。

没になったネタはこんなループもあったよね、みたいな、
過去トークをする時に披露される機会もあるかと思います。

UNITIAというDMMのゲームにエヴァリーナちゃんのイメージにそっくり!
というトワって名前のキャラがいて嬉々として使っているんですが弱い。悲しい。
レア度としてはガチャで引ける最低ランクですが微妙に出辛い上に
スキルも弱い(彼女自身も弱い)と性能面では良いところがないんですが、
必殺技が無駄にかっこいいのでプレイヤーの方は使って頂ければ幸いです。
声も設定も能力も自分がパクったんじゃねえかってくらい似ているので、
R-18のゲームなのにエロシーンを見たくな――という自分語りはおいて。

違和感なく方向転換する作業は終わりましたので、
これからはどんどん投稿できればと思います。
楽しみにして頂けるようがんばります。
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 19:51:59.11 ID:JdFE0vqOO
Aqoursを支えていくのが主軸になってく感じかな?
次回はいよいよラスボス登場か、一体何者なんだ……
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 03:55:59.62 ID:zCajDgUPO
トワちゃん見てきた
銀髪で若干つり目っぽい亜里沙ちゃんって感じで可愛いね
というかこのゲームやれば実質エヴァちゃんのR18シーンも見られるのか
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/18(月) 20:44:32.99 ID:JGJc82NH0
 十千万旅館から浦の星までバス通学をしていた千歌ちゃんと曜ちゃん。
 彼女たちが過ごしていく様を過去において数度眺めたこともあるけれど、
 面倒臭そうにもせず、それどころか日々楽しそうであったので、
 最寄りのバス停から学院までさほど時間がかかることはないだろうとふんでいた。
 一時間に一本程度しかない時刻表を見て、
 言ってはいけないけどとツバサは私たちに聞こえないような声で、
 もしかしたらここは田舎なのではないか? などと怪訝そうな顔でいったけれど。
 都会での生活が長い私自身も、自称函館の都会民な理亞も、
 バスを逃すとえらい時間待たされるという経験はさほどしたことがなかった。
 最初のうちはまるで遠足に行くためにバスを待っているかのよう。
 などとテンションも高く、そわそわとした状態で乗り物を待っていた私たちも、
 時刻表の時間になってもいっこうにバスが来ない状況には憤懣やるかたない気持ちにも多少なる。
 どうする自転車でも借りてかっ飛ばしていく? なんて話し合いが行われていたころ、どこかに出かけると思しき千歌ちゃんと遭遇。
 バスが来ないことを訴えかけてみると、彼女はあーみたいな表情を見せ、お昼ごろになると時々来ないんですよねえ――
 いつものことのように語り、いかんせんお客がいないから会社の都合で減便されることがよくあるみたい。
 バスがだいたい定刻通り来るものとして認識していた私たちからすると、
 何のための時刻表なんだ! と憤りを持って叫びたいの我慢した。
 千歌ちゃんがレンタルサイクルを行っているというので、マウンテンバイクを想像し、
 多少ワクワクしながら倉庫に行ったらママチャリしかなかった。
 レンタルサイクルという言葉と目の前の光景が違うことを文句や不満を漏らしても仕方ないと飲み込み、
 私たち三人はママチャリをかっ飛ばして浦の星女学院に到着した。
 しかし千歌ちゃんが帰宅していることから察するに、部活動を行っている生徒でもない限りは学校に残っている人間は少ない。
 アテが外れたかしら? とツバサはやけに遠くの方を眺めながら校舎を眺め、
 私は理亞と二人で愛車(ママチャリ)になんて名前を付けよう? と話し合い、
 かっこいい名前がいいか可愛い名前が良いかで多少言い争いになっている間に
 ツバサはスタスタと校舎内に入っていってしまったので、
 これがゲームならデートイベントかフラグイベントなのに、何故女性三人でママチャリに乗っているのでしょう?
 と理亞が言ってはいけないことを言ってしまったため、今度お菓子でも買ってあげるからとなだめておいた。
 好感度が99%なので、1%上げるとエッチシーンが入ります。
 なぜモノの例えがソシャゲ方面に傾いているのかは疑問だったけど、
 そういうキャラってだいたい戦力外になるよね? って言ったら、
 花騎士は☆2でも☆6にレベルアップできると言われ、
 そこまでして頑張る理由はなんだろうと首をひねりながら、
 ツバサの背中を追いかけていった。
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/18(月) 20:45:26.42 ID:JGJc82NH0
 校舎内に入り、
 残っている生徒数が少ないから多少ざわめきも控えめな、
 静かな廊下を覗き込む。
 スリッパが見当たらなかったのでどうするかなーって思ってたら、
 ツバサが私に向かって屈めと言うので、えー? と言う言葉が頭を過りながらも
 彼女の言われるままにうさぎ跳びでもするようなポーズを取る。
 すると背中に思いっきり体重がかかり、「うわっ、重っ!」
 と、何も考えずに失言をかました。
 相手が気の置けない仲の親友であるとはいえ、
 女性に向かって重いと発言することは多少顰蹙を買う。
 苦笑しながら立ち上がり、うっそうっそ、ロシアンジョーク!
 と、言ってみると理亞とツバサが喧嘩をし始めた。
 どちらが背負われるかを二人で争い始めたんだけども、
 結局の所どっちかを私が背負うことになるので、
 できるならば履物を見つけに行くとか、
 私に負荷がかからない方面で努力を重ねてもらいたい、
 重いって言ってしまった罰であるなら喜んで受ける所存ではあるけれど。


 
 騒ぎ倒していると、部外者がさんざっぱら我が物顔で校舎を使っていることに
 誰かが教師に知らせたりでもしたのだろうか? 
 バタバタと足音が聞こえてきて、ちょっとそこの人たち!
 みたいな声が嫌に聞き覚えのある声だなって思ったら、希がいた。
 お互いに「え、あ、え?」みたいにロクに言葉も発することが出来ずに、
 困った私は想定どおりと言わんばかりの表情で腕を組む(じゃんけんには負けた)ツバサの顔を見ながら。

「どう? 希さん、あの背中に張り付いている子、
 一回千円で呪いをかけて貰えない? 一生バストが成長しない類の」
「その喋り方……もしかして記憶が?」
「分かって貰えて嬉しいわ――
 でも安心して、この人いちおう絢瀬絵里だから、澤村英梨々じゃないから」

 いくらプロフィールが本当に澤村英梨々に近づいたからってイジらなくても。

「とりあえず、津島善子を出せ」
「彼女は今生徒会でダイヤちゃんと仕事を」
「答えはイエスかハイか了承でお願いするわ」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/18(月) 20:45:59.38 ID:JGJc82NH0
 結構真面目な雰囲気でツバサは話している風だし、
 状況を把握している人間でなければ、
 彼女をぶん殴りに来たと思われても仕方がない。
 希の格好からして教職員関連の何事かの仕事でここに潜り込んでいるんだろうけど、暴力沙汰は勘弁して欲しいという思いは抱えているはず。
 しかしながら私たちは「磯野ーラスボスイジリに行こうぜー!」くらいの
 やる気の無さでココに来訪しただけであり、
 罵倒の大半が八つ当たりであることを自覚した上で相手をなじるという、
 いくら責められても仕方がない行動をしている。
 私の知る希であるならば、私の背中に張り付いて首元をスーハースーハーしている理亞を見れば、
 ツバサが心の中では半笑いで希をイジっていることが丸わかりだろうし。
 仮に分からなくても私がツバサを止めない時点で、
 シリアスに傾いているのが演技だということを認識してもらいたい。
 おそらく希の中で私やツバサに対して強く行動を取れない感情が渦巻いており、
 理亞がひたすらクンカクンカしながらも、身体を小刻みに震わせ
 あたかもツバサに怯えているように見える態度を取っているのに気づけば、
 本当にこちらをなじるくらいのことはしてもいいと思うのよ?

「希、私やツバサに申し訳なく思っている事実があるのなら、
 言うことを聞きなさい」
「エリち……」
「でなければこちらから行くわ、生徒会室よね?」

 私たちが希の横を通り抜けて歩みを進め、
 彼女が何も言わずに、つらそうな表情を見せたのを
 私自身も気が付きつつ見なかったことにした時、
 一人の女の子が曲がり角の陰から出てきた。
 強い視線でこちらを睨むようにしながらも
 小さく震えながら怯えているのが丸わかりな、
 強がりをしているさまを見せてくれる。
 この態度から察するに彼女自身も記憶を取り戻しており、
 ある程度自身が望んだ世界になっていることは認識しているようだけど、
 だからといって私たちが怒っていないかと考えれば、
 彼女の過去の行動から察するに怒っていて当たり前と判断するのは当然。
 それでも怯えれば容赦なく殴るのをためらうと考えているのか、
 こちらに非があるけど何か? みたいに胸を張っている――私よりも大きい。
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/18(月) 20:46:39.45 ID:JGJc82NH0
「覚悟は出来てる――」
「あ! 野生のラスボスが出てきたぞ!」
「ラスボスだ! すごい! クロノトリガーみたい! ほら理亞も!」
「ダメよ絵里! あの時みたいに消されちゃう! 人類消失マジック!」
「キャー! 消されちゃうわー!」

 と、唐突に笑いながらラスボス(笑)を弄り倒す三人組。
 ツバサなんかシリアスな仮面をかなぐり捨てて、
 私の左腕をねじりあげながら(重いと言われたのを怒っている)
 善子ちゃんを指さして笑っている。
 理亞も多少憤りはあるんだろうけど、彼女の行動原理は理解できなくもないので、
 ――とくに最たる被害者の私やツバサが怒りのカケラもないから、
 怒るに怒れないというのが正しいのだと思われる、でも、
 もうすぐ死んじゃう状態じゃなくてもっと前から行動しろよ! 
 と、やじるのはやめて欲しい、私も抵抗してたんですよ必死に。

「え、あ、怒って……?」
「はぁー、あのねえ、別にあなた一人が責任背負う必要はないのよ?」

 私の左腕を小麦粉をこねるみたいにつねり上げながら、
 優しい表情をたたえつつ、穏やかな口調で話しかける。

「悪いのは自分だと思うのは結構、責任感じるのも良い、 
 でも、それを理由にして行動をしないのはやめてちょうだい、迷惑よ」
「……許して、くれるんですか?」
「許すも許さないも何も、私たちは怒ってないのよ、
 ただ、どうしても責任を感じるというのなら、協力してほしいことがあるの」

 ツバサに乗せられるように私も怒ってるみたいな表情をかなぐり捨て、
 やれやれ肩がこったと言わんばかりに、首を左右に捻りながら、
 善子ちゃんを妹みたいに扱うように優しく言葉をかける。
 すると彼女は魔王とか死神でも見たみたいに恐怖に慄いた表情を浮かべ、
 え、あ、誰か怖い人でもいるのかな? って思った瞬間、
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/18(月) 20:47:48.71 ID:JGJc82NH0
 なにかに気づいた理亞やツバサも私を盾にして、
 悪いのこの人! この人が全部やれって言ったの!
 と、誰に言い訳しているのかまるで分からないなあ? 
 そういえば希のことを忘れてたなーって振り返ってみると。

「……希どうしたの、そんな、私の寝そべりぬいぐるみに血をかけたときみたいな表情をして、嫁の貰い手が無くなるわよ?」
「エリち、ウチまでひっかけることは、なかったんじゃない?」 
「敵を騙すためにはまず味方からっていうじゃない?
 私は希が分かってくれることを信じてあえて心を鬼にしたのよ?」
「あー、よかったぁ、凛ちゃんからムエタイ習っておいて――
 上手いことお腹に決まると良いなあ……膝蹴り――」

 何故星空凛がムエタイをやっていたのか、
 何故それを希が習っていたのか、
 あらゆる疑念が私の中で生じるんだけども、
 本当につらそうな希の表情(全力助走中)を見ながら、
 お昼をめんつゆで済ませておいて本当に良かったと思う、
 いかんせん食材が入ってると、吐いたときの処理が大変――

「嫌われたと思って怖かったんだからね!!!!」

 甘んじて罰は受けようと思う。
 そういえば希の胸も小さくなったな――そんな事に気がついた私は
 えらい勢いで腹部に決まる膝蹴りに対し、

「強く――なった――」

 と、死を悟った師匠キャラみたいに微笑んで見せ、
 そのまま意識を手放すことになる。
 仮に吐きそうになったものが喉に詰まったとかあれば
 できれば病院に連れて行ってもらいたい――
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 22:09:13.10 ID:Kg1pbAhpO
え、善子だったのか
投下分の理亞ちゃんルートもっかい読み返すかな
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 00:22:26.84 ID:yyhvOPYFO
サファイアちゃんはあの子か…
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/19(火) 19:53:59.30 ID:T5gHitaP0
 夢であり、過去の記憶を反芻した結果でもあり。
 まどろみの中で私が見た幻想であるのかもしれない。
 夢うつつの中で見た私の光景が、果たして現実のものであるのか。
 それは神の味噌汁……ではなく、神のみぞ知る――ということにして欲しい。
 どういう経緯かは分からないけれど、リリホワの皆々と焼き肉に行くコトになった。
 焼き肉大好き希が先頭を切って音頭を取ったのかもしれないし、
 タレントとして多くの収入を得ている凛や印税でウハウハ生活の海未が
 普段ニートっていうのは塩と水で生きているだろうから施しでも与えるか
 とか考えたのかもしれない――そんなリリホワ嫌だ。
 どのような魂胆があったとはいえ、タダ飯とタダ酒の機会を逃す手はない、
 仕事で忙しい妹に向かって、ちょっと焼き肉に行くでありんすと言ったら、
 興味無さそうにどこの焼肉屋ですかと問われたので、
 園田海未ちゃんとデートだからどこでもいいの! とテンション高く告げたら、
 お前を食肉に変えてやろうか! とデーモン閣下みたいなことを言われ、
 恐怖を感じた私は早々にアパートから退散し、秋なのに極寒の冬みたいに寒いわー恐怖体験アンビリーバボーだわーとテンション高く出かけ、
 本当に怯えるような経験をすることなど夢にも思わず哀れな子羊は見当違いな自信とともにその生涯を閉じるのである。
 ――いや、閉じてない閉じてない、驚いたのは事実だけど。

 ペニーワイズのコスプレをしている人を傍目に見ながら、
 どうせなら排水口にでも潜ってればいいのに――そういえばもうすぐハロウィンの季節なんだな。
 イベントで盛り上がる人達を眺めながら、私もなにか仮装をしてハロウィンに顔でも出してみようかしら?
 と首を捻りながら考慮していると、以前ことりが働いていた(ことりがいなくなった瞬間潰れかけた)メイド喫茶があった。
 半年ごとにマイナーチェンジを重ねるこのお店は現在ケモミミ喫茶を営んでおり、
 店内をちらりと見てみると、デンジャラスビーストな格好をしているけど、
 何故銀髪なの? それはマシュじゃなくて空銀子ではないの?
 ツッコミ待ちと言わんばかりの店員さんに心の中で拍手を送り、
 あの店が風営法で引っかからないことを願いながら待ち合わせ場所へと急ぐ。
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/19(火) 19:54:31.37 ID:T5gHitaP0
 秋葉原の駅前から歩いて数分。
 人通りの多い道からそれるようにして、
 少しばかり薄暗い裏路地みたいな小さい道を抜け、
 個人経営みたいな少なくともμ'sが揃って入ったら何人かあぶれそう――
 そんなこじんまりとした店に見覚えのある髪の長い少女(という年齢じゃない)がいたので、
 多少イタズラ心を持った私は肩に手を置いて、振り返ると頬に指先がつくイタズラを仕掛けてみた。
 この悪ふざけに引っかかるのは花陽がほぼ100%だ。
 他の面々も案外引っかかってくれるけど、海未は引っかかるとキレる。
 高校時代とは違うのだからと自らに言い訳しつつ、
 飲む前に殴り倒されたら指を指して笑って貰おうとした私の魂胆は――

「あら?」

 あら?
 私の指先が見事に彼女の柔らかな頬に付き
 そのなんとも言えない感触に多少動悸を感じつつ。
 始めは彼女がからかっているのかと思った、その天然ボケお嬢様みたいな声色や
 キョトンとした表情、あらあらうふふと言わんばかりの柔和な笑み。
 以前ツバサに見せられて、これは海未じゃないでしょとツッコミ入れてしまった、
 μ's(アニメの方 薗田さん未監修)の一般同人誌を思い出した。
 ツバサは好きじゃないと言ったけど、全巻購入した上で総集編を買うのは好きではないのかとツッコミたい。
 
「引っかかってしまいましたわ、うふふ」

 花が咲くと表現してもいい、美しく可憐な笑顔に
 私はひたすら恐怖を覚えた。
 少なくとも私の知る園田海未はうふふなんて笑わないし、
 ダイヤちゃんのパチもんみたいなお嬢様口調などでは話さない。
 犯人はお前だみたいに指先を海未に向けたまま
 私は口をポカンと開いて固まる。
 激しく憤慨された上でこんな塩対応を受けるのならば、
 自分が悪かったと申し訳無く思えば構わない。

「焼き肉楽しみですわね、一度も食べたことがないから不安ですの」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/19(火) 19:55:04.38 ID:T5gHitaP0
 海未を大和撫子と称することに対しては得意料理が男前すぎやしないか――
 そんなふうに公式プロフィールを思いながら思案する私だけど。
 だからといってこんなエセお嬢様みたいな口調で話されても不安しか覚えない。
 どちらが園田海未らしいかと言われれば、断然普段の硬派で丁寧語の彼女であり、
 エロゲーのお嬢様キャラみたいな口調で話されても困る。
 これでは後々やって来る希や凛がどんなキャラをしているのか――
 海未にアテられて私自身もあらあらうふふ症候群になりつつあるけど、
 引っかかったな間抜けめ! とか凛に言われたら正気に戻ろうかと思う。

「ワンワン!」

 ワンワンッ!?
 素っ頓狂な声が聞こえてきて何だなんだと思いつつ振り返ると、犬が居た。
 わんこ系後輩キャラとか犬の耳を付けた人とかではなく、本当に犬。
 首輪もつけていない、リードも巻かれていない、
 抱きしめたら”どうする アイ○ル〜”みたいな曲が流れそうな、
 小型犬がしっぽを嬉しそうに振りながらこちらを見上げていた。
 
「凛、早いですわね?」
「ワンワン!」

 嘘だよ言ってよと言ってしまう反応を海未が示した。
 嫌な予感ばかりが当たるので、これから焼き肉をタダ食いするというのに
 テンションがだだ下がりになった。
 これではもしかしたら花陽はコシヒカリになって新潟で作付されているかもしれないし、
 ことりはもしかしたらブルートレインになっていて、穂乃果は太陽になっているかもしれない。
 しかしながら子犬のつぶらな瞳には私自身も抗うことが出来ず、
 相手が星空凛だと分かっていても(分かりたくないけど)
 思わず抱きしめてもふもふしてしまう。

「もふもふ天国だー!」

 相手が多少毛深くなって肌触りが犬であろうとも、
 私にとっては可愛らしい後輩の星空凛である(たぶん)
 多少トマトの匂いがするのを解せなく思いながらも思いっきり凛を堪能していると、

「エリち! 早いやん!」
 
 いつもどおりの希の声、
 これがまるっきりコテコテの関西弁キャラであったり、
 生まれも育ちも秋葉原キャラになっていたりしたら、
 もう立ち直れないくらい驚いてしまったに違いない。
 喜び勇んで振り返りながら手を振った私はそのまま固まる。
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/19(火) 19:55:42.59 ID:T5gHitaP0
「エリち! どうしたんそんな面白い顔して?」
「そんな嬉しそうな顔をしないでよ……」

 目の前にいる東條希らしき人が

          「;:丶、:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:_;:}
          ト、;:;:;:丶、:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:_;:;: --―;:''"´;:_」
          {::ト、:;:;:;:;:;:` '' ー―――;:;: '' "´;:;:;:;:;:;:;:;:;:;_ ,.ィ彡!
          l::l 丶、:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:_,. -r==ニ二三三 }
          ',:i r- 、、` ' ―――― '' "´ ,ィ彡三三三三三/、
            || ヾ三)      ,ィ三ミヲ  `丶三三三三三ん',
            lj         ゙' ― '′     ヾ三三三ミ/ )}
           | , --:.:、:..   .:.:.:.:..:.:...      三三三ツ ) /
           | fr‐t-、ヽ.  .:.:. '",二ニ、、    三三シ,rく /
           l 丶‐三' ノ   :ヾイ、弋::ノ`:.:.    三シ r'‐' /
           ', ゙'ー-‐' イ:   : 丶三-‐'":.:.:..    三! ,'  /
            ',    /.:             ミツ/ー'′
            ',   ,ィ/ :   .:'^ヽ、..       jソ,ト、
             ',.:/.:.,{、:   .: ,ノ 丶:::..  -、   ,ハ  l、
            ヽ .i:, ヽ、__, イ   _`゙ヾ  ノ   / ,l  l:ヽ
             ,.ゝ、ト=、ェェェェ=テアヽ }   ,/  l  l:.:(丶、
           _r/ /:.`i ヽヾェェシ/  ゙'  /   ,' ,':.:.:`ヾヽ
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一 '' "´        ',ヽ丶:.:.:ヽ、 ⌒    ,r'"    / /:.:.:.:.:.:.:ノ,ノ |      ``丶、
            ヽ丶丶、:.:.ゝ、 ___,. イ     / /:.:..:.:.:.,ィシ′ |
             `丶、 ``"二ユ、_,.,____/__,/;: -‐ '"  /
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/19(火) 19:56:12.74 ID:T5gHitaP0
 ↑ こんな顔をしているので、
 これはきっと夢なんだと早々に結論づけ、
 私自身に早々の現実への帰還を促した。
 自分を見上げる凛(犬)やこんな状況になってもあらあらうふふな海未のことは、
 もう永遠に思い出すことはないと思われる。


 
「うわぁぁぁぁ!?」
 
 水戸黄門を見ると希を思い出しそうな嫌な夢を見て、
 私は意識を取り戻した。
 多少みぞおちが痛いけれども名誉の負傷と思い後悔はしない。
 あれで少しは私とおちゃらけて付き合ってくれるでしょうと考えながら、
 身体を起こして前方にいる人影に微笑みかける。
 知り合いだったものだから、ついつい後先考えずに笑みを掛けてしまったけど、
 相手がまだ記憶を取り戻していない可能性もある――

「寝ていたかと思ったら、今度は叫び声、
 千歌が言っていたμ'sの方とはずいぶん差異があるようですね?」

 冷徹で感情のこもっていない口調、
 厳しく優しさのない冷たい印象しか持たない視線、
 あらゆる部分が私の知る黒澤ダイヤちゃんとはあまりに違ったため――

「うわぁぁぁ!? 黒澤ダイヤちゃんのバッタもんだぁぁぁぁ!?」

 ついそんなふうに叫んでしまい、
 大いに相手に呆れられてしまい、なおさらAqours結成までのハードルが上がってしまったような気がする――
 心の中でツバサや理亞に謝罪をしながら、とりあえず胸元はガードしておいた。
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/19(火) 20:07:35.88 ID:T5gHitaP0
AAはもう利用することはないです。

これから理亞ちゃんルートの方もここではないにせよ投稿していきますので、
ここでの更新は不定期になるかとは思います。
だいたい今回のエピソードのように各キャラクターにエリちがすっとぼけた反応をする話になると思います。

μ'sの面々も次回以降続々登場予定なんですが、
まだ予定は未定です。
風邪などひかぬよう暖かくして過ごして頂ければ幸いです。
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 20:20:18.44 ID:zwBQndf3O
夢オチだろうなとは思ってたけど麻呂は草
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/24(日) 04:32:02.63 ID:KW13dpK30
 私に興味など失ったかのように仕事に戻る彼女を観ながら、
 過去のいつしかに眺めたダイヤちゃんの仕事ぶりを思い出す。
 自分と接する際にはおちゃらけ要素が強い彼女ではあるんだけども、
 ”私以外”と接する際には態度を改めることが多かった。
 それは妹のルビィちゃんであるとか、仲が良かったAqoursの三年生組も例外ではなく、
 それが妹さんの嫉妬フラグを呼び起こし、ツバサや雪姫ちゃんが憂慮した彼女が私を刺殺する結末――
 そんな未来もあり得たかもしれないと思えば、多少なりとも交流することをためらう――ことはない。
 残念ながら、一縷の可能性とあり得たかもしれない想定で自らの行動を制限するのは滑稽ではある。
 躊躇するのは、やりたくないことをやらないことの体のいい言い訳でもあるし、
 やらなければならないことを先延ばしにする要素でもある。
 それが何かと私自身の死亡フラグにつながるケースも多々あり、どれほど雪姫ちゃんを中心とした周囲の人達の心労に繋がったか――
 絢瀬絵里という人間が愚物と評される要素でもあるのかもしれないけど、仲良くなれるキッカケすら否定して、交流すら拒んでしまうのは嫌だ。
 私自身のワガママでもあるし、そう思う理由が穂乃果由来で、彼女もそれは理想だと言ったこともあるけれど。
 ただ過去の経験から、仲良くなる要素があって親しみを込めるのは女の子だけと決めてはいる、そのきっかけを作ったやつは今どうなっているかは知らないけど、亜里沙がプロデューサーしてないループでは南條さんと知り合うケースが稀であるので、
 もしかしたら存在自体が消去されている可能性もある、よっちゃんがそいつを知らなければ生存がワンチャンあるけど――

 ダイヤちゃんの外見は凛々しい。
 かつて見た彼女よりも少しばかり若々しいから――
 ではあるんだろうし、大和撫子要素が強すぎる件に関しては、かつて同人で見た”ですわ口調の園田海未”みたいでもにょる。
 習字を習った経験もあるのか、書類に示される文字は驚くほど流麗、ボールペンを使って書かれた字を見て、明朝体で書かれたテキストみたいだなって思った。
 元から真面目な性格であり、一途な部分もあり、思い込むと一直線でもある。
 故に黒澤家の掌握を目論んだ黒澤家から追い出された人たちにもハメられた経緯があった。
 知らない人ではないからと温情をかけようとしたけど――そういえばあの人達どうなったんだろう? よっちゃんの逆鱗に触れることを何度も繰り返したから存在自体がなかったことになってる可能性もあるけど。
 20センチ近く自分の胸が縮み、15センチ近く胸が縮んだ希を見て、巨乳がよっちゃんの怒りを招くフラグである――とは思わないようにしたい。
 リリホワで一番あるのが園田海未っていう時点で、何かしら胸に恨みがあると思われても――

「尋ねてもいいかしら?」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/24(日) 04:32:44.23 ID:KW13dpK30
 声を掛けてみると、
 ダイヤちゃんは一瞬だけこちらに目を寄せ、
 書類の確認をしながら了承のサインを出した。
 聡明な彼女は”私がある程度自身を知っている”ことを察しているだろうし、
 それがどれほどであるのか試す意図もあったんだと思う。
 妹のルビィちゃんが見抜けなかった、ダイヤちゃんが否定しないということはオーケーサインである――
 それが見抜けなかったせいで姉妹の仲が劣悪になったのは私には関係ないってことで。

「どうして生徒会室に寝具が用意されているの?」

 最初から学校に寝具が用意されているのならば、
 もうちょっと汗臭かったりホコリ臭かったりするもの。
 μ'sで数度合宿を行った際も用意された寝具には文句が出たこと複数回。
 私はどうしようかなって悩んだけど、ワガママを許すなと言わんばかりに海未がキレる(そして一番に寝る)ので、
 なんとなく設備に文句を言う空気はなくなったけど。
 でも私が寝ていた布団は少なくとも使用感がそれほどなかったものであったし、
 校内に用意された設備にしては、布団の柔らかさ豪華さが過度であるので、おそらく黒澤家自宅から使用人の人達が持ってきてくれたんだと思う。

「廃校までの問題点の解決、統合先の高校との話し合い、
 書類の整理、生徒会での雑務――
 一人で行うには寝泊まりを重ねる必要もあるんです」

 どれほど苦労を重ねているのかはわからない。
 年齢よりも精神面で大人びていたり、落ち着いた印象を受けるのは疲労も手伝ってのことかもしれない。
 私も基本的にこの世界では一人で生徒会職をこなしていたし、過去には右腕だった希も”生まれも育ちも秋葉原”だった。
 自分と同じレベルの仕事をしていたと考えれば疲弊していないと断ぜられない。
 おまけに廃校が本決定している部分もあるから、この学校を閉めるためのイベント、統合先の調整、自身は卒業をしてしまうから業務の引き継ぎ――難題複数。
 新人である希が教師として1クラス受け持っているのは裏で手を回している人がいるかららしいけど、
 慢性的な人手不足というのもあるんだと思う――あ、1クラスって言っても、1年生はもう1クラスしかないから、実質1年生を見ていることになるのか。

「そんなに怒った顔を示されましても」
「ごめんなさい、同じ”生徒会長”として自主性由来の
 苦労の押しつけに関しては怒りを覚えるのよ」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/24(日) 04:33:15.55 ID:KW13dpK30
 すべての人達とは言わないけど、
 多感な高校時代に通っている高校が閉校することに、
 教師を中心とした大人にはわからない側面もある。
 オトノキもそうだったけど、廃校通知の徹底から、周囲への事情説明はやってくれるけど、通知後の事務作業は生徒会を中心とした生徒の自主性に委ねられている。
 つまり、周囲の大人たちへの事情説明はやってくれるけど、生徒の不満やイベントごとの調整、閉校に向けての作業は大体私たちに押しつけられる。
 廃校に不満がある生徒と、さっさと廃校して新しい就職先に向かいたい教師とかの折衝で苦労したのは――まあ、過去のことりが母親である理事長をぶん殴ったので少しは胸はすっとしてる。
 いやでも、殴っておいたからの事後報告で済ませられても、あ、そうなのの一言で済ませる他ないんだけどね? その際に私以外のμ'sがだいたい揃ってて(希だけ欠席)誰も止めなかったことから人徳のなさが伺えるけどね?

「投げ出したい衝動にも駆られます。
 でも、わたくしがやらなければ、周りが困るのです」
「自分だけが困るんならよしとする――そういう意識は身を滅ぼすわ」
「妙に感慨深げに言うんですね?」
「実体験をふまえて――ま、私にアドバイスなんてできないのよ、説得力ないし」

 知り合ったばかりの彼女にしたり顔であれやこれややるな、と言ったところで意味がない。 
 意見の押しつけでもあるし、たとえ未来においてダイヤちゃんがその思考回路で困ると私が見当をつけても、やって来るかもしれない未来の可能性程度で説教するのは余計なお世話。
 想定される可能性で年下にアドバイス(と表現されがちな余計なお世話)をするのは老害の一歩手前。
 とても残念なことに、正しいことも多いけど、正しいからと言って相手が聞いてくれるかと言えば違うし、
 なにより、そういう老害は相手に正しく伝えるというスキルが無いからトラブルになる。

「絵里さんは奇妙な方ですね?
 わたくしの知る人生経験豊富な方は、
 なにかと”自分の想定通り”に事が運ばないと、
 たいてい不満を漏らすというのに」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/24(日) 04:34:34.32 ID:KW13dpK30
 奇妙と言いつつも信頼に足る発言ではあったのか、
 先程までの冷徹な印象すら受けるクールな表情から、
 笑っていると称してもいい穏やかな顔へと変わった。
 印象を改めてもらえるのは嬉しいけど、落胆に変貌しないように気を引き締めないと。

「”絵里さん”が奇妙なほど人から慕われる理由――
 その理由の一端が伺えた気がします」
「分不相応に、そしてなにより周囲が優しいから
 それでそのみんなは?」
「自身を理由としない――なるほど。
 騒いでいたので追い出しました、目を覚ましたら連絡を入れる約束でしたね」

 近くにあったスマホを手に取り(校則違反ではないらしい)
 しばらく逡巡したのちに机上に戻す。
 こちらを繁々と眺めた後、目を細くして、口元に笑みすらたたえてから口を開いた。

「オトノキを廃校から救った生徒会長の仕事ぶり、
 何かとご教示頂ければ幸いです」
「書類の整理くらいなら手伝えるけど、期待しないでよ?」

 こちらを煽るように胸を張りながら、
 手伝いに来たというよっちゃんにも手渡さなかったという書類を示される。
 評価が転落しないくらいには頑張りたいところだけども、この仕事量でAqoursに加入させている隙があるのか、
 小一時間ほど仕事に励んだ末、用意された布団で48手の授業をしていると疑ったメンバーがなだれ込んでくるまで彼女との仕事は続いた。
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/24(日) 04:39:32.76 ID:KW13dpK30
https://syosetu.org/novel/165937/98.html

理亞ちゃんルートの更新分を含めまして、
今回から一度書き上げたものを冷却させた上でリメイクし直す
などという作業により更新が多少滞りましたが、
自作の出来にはある程度満足しているので、
これから更新は不定期になります――忙しい時期も越えたので、
お届けられる回数は増えることを望みつつ。

ではまた次回です。
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 11:40:40.88 ID:YCaYmgQfO
真面目なダイヤさんとえりちの絡み新鮮で良いなあ
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/25(月) 18:51:57.54 ID:GbU1UAz50
 十千万旅館において綺羅ツバサという人間は、
 めんつゆをいくら飲んでも体調が悪くならない鉄人。
 という評価に落ち着いた。
 仮にも過去に歓迎を受けたトップアイドルとしては、
 並々ならぬ評価の低下と表現しても良い転落ぶりではあるけど、
 私を騙すために苦労してめんつゆを麦茶と遜色ないよう、
 気合を入れて配合するという時点で、
 底辺までに落ち着いた評判を覆すことは出来なかったと思われる。
 私はと言えばツバサの連れとして胃袋な頑丈な人扱いだし、
 理亞もおそらく変な人なんだろうなあ? みたいな感じ。
 大なり小なり適正な評価ではあるけれど、
 綺羅ツバサにとっては万人は自分を敬って当たり前――
 な、能力の高さである。
 故に私みたいに人の評価なんて上下して当たり前みたいに達観できず、
 理亞みたいに評判なんて興味もないと判断も出来ず、
 志満さんから”自分たちが使うところは自分たちで掃除!”
 と、有無も言わさずに指示をされ、
 ちょっと前には三人で裸の付き合いをしていた場所の清掃をする。
 ”何故絵里みたいな扱いを受けなければならないのか”
 と、ツバサは愚痴をこぼしながら手を動かし、
 ”プール掃除のイベントみたいですね”
 と、早々に清掃作業を諦めて私たちをスケッチをしている。
 彼女は私たちが巻き込む形になっているため、
 掃除をして欲しいと強くお願いすることもできなかった。
 
 数十分ほど清掃に取り組み、
 ツバサも”こんな事やってられるか!” 
 と理亞と一緒にスケッチに取り組み、
 モデルにして奴隷みたいな絢瀬絵里は一人で温泉を綺麗にした。
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/25(月) 18:52:40.91 ID:GbU1UAz50
 が、この体験は私にとっては斬新なものであり、
 気をつけて掃除をすると水垢であったり汚れであったりを、
 いとも簡単に取り除けることが対人ゲームでワンキルするのと
 同じような快感を得、
 二人から”なんでそんなに楽しそうなのか?”
 と問われ”掃除って楽しいじゃない!”
 と答えると、見てはいけない物を見たと言わんばかりに表情を曇らせ、
 そんなに楽しかったら他に掃除させてもらえば?
 なんて言う忠告を鵜呑みにし、
 様子を見に来てくれた志満さんに
 ”もっと掃除したいです! すごく楽しいです!”
 とテンション高く迫り、
 ”なぜ罰ゲームみたいなことをやらされてそんなに楽しそうなの?”
 ”もしかして、人から雑に扱わられると快感に変わる人?”
 いらない評判まで付け加えられてしまったけれども、
 お客様の迷惑にならない範囲で、
 困ったことがあったらすぐに人を呼ぶこと、
 とあって無いような条件をもらい、
 完璧に綺麗にしてみせるから! と、豪胆にスマイルをかっ飛ばし、
 十千万の従業員からは”あのめんつゆにはやばい成分が含まれていたのではないか?”
 と、まことしやかに囁かれることになった。
 ツバサも真実味を帯びた口調でそういうこともあるかもしれない。
 なんて言ってたけど、あなたも飲んだクチじゃない?
 
 十千万旅館はお客様の評判も良い名旅館であるので、
 多くのお客様にご利用を頂こうとも、
 空き部屋は数多く存在する。
 自分の外見に注目してなかったから、
 今の私が”成人式を迎えたばかりの女子大生”くらいに見え、
 少しばかり日本語が通じ無さそうな見た目もしているから、
 ”志満さんが新人に面倒くさい仕事をさせている”
 ”なんであんなに汚れ仕事が楽しそうなんだ、女神か”
 などという、身の丈に余る評価を頂いた。
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/25(月) 18:53:10.03 ID:GbU1UAz50
 清掃作業に励みながら、
 宴会場では綺羅ツバサがイベント開いてる!
 というお客様のテンション高い掛け声を聞き、
 ツバサが本気出して自身の評価を高めようと努力しだしたなあ――
 なんてその時には何も考えずに掃除に励んでしまったけど、
 アイツの評判が上がるということは、
 その連れである私の評判が相対的に下がるということで。
 数時間後気分良く客室を磨き上げ、満足した私を待っていたのは、
 乱痴気騒ぎと表現しても良いイベントもどこ吹く風、
 自身の仕事に集中、調理場で道具の手入れをしていた高海家のお父様。
 上司にもあたる(かもしれない)ので、挨拶をしようとすると
 ”先にシャワーでも浴びてきなさい”と、
 いつの間にダンディーなオジサマとのフラグが!?
 声が女子校に女装して潜入しそうな人っぽい声のお母様は!?
 と思ったけど、私が汚れていたので綺麗にしなさいという意味だった。
 
 高海家の崩壊フラグも華麗に回避し、
 内湯を使わせていただくこともできたので、
 お掃除ついでに私自身も身綺麗したのち、
 調理場にいるであろうお父様にお礼に伺うと、
 必要な時以外は娘の三姉妹でさえも道具に触らせない彼が、
 調理道具の手入れの方法は分かるのかと尋ねてきたので、
 家事ばっかりしてた過去の経験も手伝い、
 プロではないからと前置いた上で、
 包丁を研いだりなんかしてみると、
 思いのほか手際が良かったのか、
 新人よりも断然使えるじゃないかと抜群の評価を頂いた。
 過去にはループを繰り返し、無駄に芸が細かくなったのが、
 存分に披露される形になったけど。
 あまりに仲良く二人で会話をしながら仕事しているせいで、
 いつまで経っても帰ってこない私を心配して様子を見に来た理亞が、
 調理場で二人が蜜月を過ごしている!?
 と、反応に困る言葉を発しながら昏倒した。
 従業員の皆様からは掃除から調理場の補助まで何でもこなせる人
 という評判に落ち着いたものの、
 高海家三姉妹からは父親を母親から寝取ろうとしている人扱いで、
 ツバサとの扱いの差が天と地ほどもあって泣ける。
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/25(月) 18:54:30.75 ID:GbU1UAz50
 さすがに不憫に思ったのか、ツバサが何度も、
 この人すごくってね? と説明を繰り返しても、
 ツバサと一緒に会場に立ち遜色ないパフォーマンスを見せても、
 目を輝かせて褒めてくれるのは千歌ちゃんばかり。
 スクールアイドルってすごい! と、Aqoursの結成までのハードルは下がったものの、 
 この泥棒猫みたいな視線は長女さんたちから拭えない、悲しい。
 ツバサとか理亞のリクエストに答えて、
 調理場を自由に使わせて貰っていることも評価を下げているけど、
 その件に関してはノーコメントを貫かせて頂く。



 十千万滞在からしばらく経った休日。
 桜内梨子ちゃんがいつまでも転入してこないのは怪訝だけど、
 よっちゃんが言うことには、Aqoursが揃わないことはない
 ということなので気長に待つことにする。
 梨子ちゃん以外の面々とも無難に顔を合わせ、
 花丸ちゃんが食いしん坊キャラじゃないことにしこたまびっくりする
 というアクシデントはあった(よっちゃんも驚いてた)ものの、
 一年生を面倒見ている担任の希からのアプローチであったり、
 お固くて真面目なダイヤちゃん(いまだに信じられない)の、
 ”とても真面目な善い方”との評も手伝い、
 みんなからの評価は平均点以上と胸を張っても構わないかと。
 ただ、十千万だけでなく淡島ホテルでもイベントを開き、
 天上人みたいな扱いを受けているツバサを観ると、
 尊敬の度合いが微妙に低いような気もしなくもない。
 果南ちゃんや鞠莉ちゃんは同じ年の友人を扱うみたいだし、
 はてには曜ちゃんにも気軽にあれこれ頼まれるようになり、
 私の作るお菓子は飛び込みで練習を重ねる皆様や、
 ツバサのイベントに参加される皆様にも評判の模様。
 ただ、私のお菓子が好評なことに言い得ぬ感情を抱いた理亞が、
 自分にだって同じものを作れます! と宣言し、
 ツバサや私が全身全霊を持って止めても
 やります! ヤッテヤルデス! と譲らず、
 彼女が見た目だけは美味しそうに見える劇物を作成した結果、
 Aqoursのメンバーである果南ちゃんや曜ちゃんが被害に遭い、
 めでたく理亞も見た目は可愛いのに変人という、
 私やツバサと同じ扱いに落ち着いた――
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/25(月) 20:58:55.07 ID:ylqSfalIO
外国人美女が仲居さんの修行してるって話題になりそうやな
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/26(火) 00:11:03.60 ID:aETduqmAO
家事スキルがここでも活きたな
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:06:10.55 ID:adiLbGNt0
 曜ちゃんと果南ちゃんの不幸な事故により、
 飛び込みの練習に支障が出てしまい、
 理亞が意識の朦朧とする中書いた謝罪文と
 二度とお菓子は作りませんという誓約書を渡すため、
 当人不在の中で千歌ちゃんと共に話し合いの真っ最中。
 あの悲しい出来事以降には曜ちゃんはカロリーメイト以外のお菓子を見ると悲鳴をあげるようになり、
 曜ちゃんファンクラブのメンバーからはたいそう恨まれることになった。
 私自身も突然現れたくせに誰よりも調理スキルが高いことから、
 飛び込み界の大天使な彼女をオトそうと企んでいる悪魔扱い(でも私の作成物は食べる、そして高評価)
 いくら千歌ちゃんの口添えがあろうとも、
 宝塚の親衛隊の人たちみたいなファンの壁をくぐり抜けるのは容易ではない。
 曜ちゃんを毒殺しようとしたやつとその手先みたいな扱いなので、
 人の壁を排除するには力押しせねばならないけど、
 暴力を持ってして謝罪の言葉を告げるという意味の分からない事になりかねないのであった。
 自身のお菓子を食べて昏倒するに至り、
 現在安静中の理亞が目覚めるまでには曜ちゃんとの仲を取り持っておきたい。
 なぜAqours結成までの障害は高まったかというと。
 あまりに不出来なお菓子を食べながら、
 お菓子を食べさせるぞと脅せばAqoursが結成されるのでは?
 と、ツバサがネタで言ったところ、
 鵜呑みにした理亞(お菓子作りしたくてしょうがない)が、
 連続殺人事件ができそうなほど劇物を作成。
 見た目はいかんせん普通なので、
 食べる瞬間まで毒物とはわからないナニカは、
 以前も言った通り尊い犠牲を出した――
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:06:37.91 ID:adiLbGNt0
「ところで絵里さんは人間なんですか?」

 唐突に気がついたと言わんばかりに、
 千歌が私の顔を見ながら首を傾げる。
 おまえの能力が人外だと文句を言われているのではなく、
 多くの人が昏倒しうなされるお菓子を、
 結局ツバサと一緒に処理したのが私だからである。
 せつ菜氏の劇物に慣れているツバサとは言え、
 一度に大量摂取してしまったせいかダウンしているのに、
 私一人が平気そうにしているからたいそう疑問なのだろう。
 それだけではなく、
 やたら人から仕事を任せられるにいたり、
 休んでいる様子もないのに疲れてるわけでもない姿が、
 絢瀬絵里人間ではない説をみんなにまことしやかに囁かせていた。

「おそらく……自信はないけど……」
「もっと力強く否定してください!?」

 十中八九黒澤サファイアとして潜り込んでいるであろう
 原祖の悪魔の人にも”人間なの!?”と言われるほどではあるし、
 あらゆるループの時間を過ごした結果、
 ループで身につけた能力を引き継いでいることも手伝い、
 人間じゃないと言われれば、
 そうかもしれないなあと首を傾げることくらいは容易。
 千歌ちゃんが冗談みたいに言ったにもかかわらず、
 はいそうですみたいに言ってしまったので、
 今更ながらに笑いながら冗談と言ったけど
 どこまで相手に伝わっているかはわからない――微妙に距離が広がる。
 いやでも、何千年単位で生きている人が
 ダイヤちゃんの妹やっているであろうという事実に比べれば、
 私が人間かそうでないかっていうのも些細な問題じゃない?
 ルビィちゃんがお気に入り(悪魔的らしい)っていうのは分かるけど、
 それをよっちゃんに知られたら殴り倒されるじゃ済まないんじゃないかしら?
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:07:12.01 ID:adiLbGNt0
「その、確実に私が作ったってことが分かれば、
 差し入れともども理亞の手紙も渡せるんじゃ?」
「でもそれだと、練習施設で料理しなくちゃいけないですよ?
 曜ちゃん、今はコンビニの商品も食べられないっていうから、
 パックに入れたりしても食べてくれないでしょうし」

 理亞の呪いが根深い――
 果南ちゃんは二日ほど寝込んで立ち直り、
 いいダイエットになったと笑っているけど、
 鞠莉ちゃんの理亞への評価は急転落。
 彼女が淡島に渡ろうとしたら、容赦なくスターブライト号の餌にすると息巻いているので、
 なんとかして鞠莉ちゃんの説得も行っておきたい、
 うかつな行動するのは私の専売特許であるから、
 理亞にも自重と反省を促したいところ。
 彼女も痛い目は見ているから、
 そこまで酷いすれ違いにはならないと良いんだけど……。

「みんなで料理を作って食べるみたいなイベントは?」
「ああ、そうですね! 揃ってバーベキューみたいな!」
「――とりあえずツバサに金は出させましょうか
 元トップアイドルだからはした金よね?」
 
 彼女の許可を取らずに計画を進めると、
 あとで私がどんな目に遭うのかわかっている千歌ちゃんも、
 苦笑しながらも何も言わずに話に頷いてくれたけど。
 とんでもない対価でも支払えと要求されない限りは、
 桜内梨子ちゃん歓迎会になるか、
 Aqours結成会になるかは分からないけれど、
 大型連休くらいには仲直り会が結成できるとふんでいた。
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:07:46.67 ID:adiLbGNt0
 体調が悪い彼女に向かって、
 媚びを売るように差し入れでも持っていき、
 実はこんなイベントを開こうと思ってるからお金貸して――
 などと告げたところで首は縦に振ってはくれない。
 それなりに私に付き合ってはくれるけど、
 興味がなければ素っ気なく勝手にやれで済まされてしまう確率は以外にも高い。
 彼女にメリットがあれば動いてもくれるけれど、
 メリットがあるから動けと言えば、ハァ? の一言と一緒に蹴り飛ばされる。
 私自身も面倒くさい人間ではあるし、
 自分に言われるのはとても心外ではあろうけれど、
 綺羅ツバサはそれなりに面倒な人間である。
 彼女も自分のことを割と面倒くさいと自覚はしているけれど、
 あなたって面倒な人よねと告げれば確実に反論と一緒に蹴り飛ばされる――蹴り飛ばされてばっかりだな私。
 客人三人組で寄せ集められ、同じ部屋に寝泊まりしている私たちも、
 さすがに毒物を作った人とそうでない人を一緒にするのはバツが悪かったのか、
 理亞は離れの個室に隔離され、ツバサは私と同じ部屋にいたりする。
 最初は本当に体調が悪そうであったので、
 あれやこれや心配して面倒を診たけれど、
 そのうち本性をさらけ出し、一発宴会芸しろ、
 高級ステーキを食べさせろと過度な要求をし始めたため、
 お父様と仕事があるから〜と言って逃げてきたのである。
 この浮気者ぉー! という悲鳴がなんか刺さる発言だったので、
 うるせぇエビフライぶつけんぞ! と返しておいた。
 意味はわからないがツバサは黙らせることに成功した。
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:08:16.87 ID:adiLbGNt0
「まあ、イベントとかに頑張っていたから
 疲労もあったんでしょうね、ああ見えて気は使うし」

 私自身に配慮されるケースは稀であれど、
 基本的に気配りはできる人間である。
 なんでそんなに気を使われないの? と凛にも言われたことがあるし、
 もう少し絵里ちゃんに人権があってもと穂乃果も言ったことがある。
 基本的に優しくされるよりも、
 冷たくされる方が心地良いことも手伝い、
 乱雑に扱うと私は喜ぶと思っている人もいるけど、
 ニュアンス的には間違ってない、困難が好きな人ではあるし。
 ほぼ自室と言っても良い現在の住居施設にノックの後で侵入し、
 ツバサがテレビを見ながらカップラーメンを啜っているの見、

「……ずいぶん体調が良さそうね?」

 呆れ半分安堵半分といった口調で告げる。
 心のうちでは何事もない様子で涙が出そうなくらい嬉しかったけど、
 それを表に出すのは非常に癪。
 敏いツバサだから私が実際に怒っていないことは百も承知だろうけど。
 せめてもの抵抗で態度だけは激おこぷんぷん丸っぽく言ってみる。
 
「あはは、ごめんなさい
 何持ってきてくれたの? 見舞いの品?」
「ええ、まあ、切っただけだけど」
「すごいわね、私は厨房なんて使わせてくれないのに」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:08:46.13 ID:adiLbGNt0
 誰よりも新人のくせ(だからこそかもしれないけど)に、
 誰よりもはやく来て遅くまで働いているせいか、
 真面目一本槍のお父様であるとか、
 普段は東京で働いているというお母様や、
 あらゆるベテランさんからは信頼の厚い絢瀬絵里さん。
 我が物顔で何でもかんでもというわけには行かないけど、
 来て一ヶ月も経たないのにある程度信頼されて自由を任せられているのは、
 長年続けたニート生活の賜物か、
 それともループを繰り返した故の老廃物な才能か。
 病人に食べさせるという事情もあったけど、
 仕事で忙しい方々を邪魔するように火を使わせてもらうのもなんなので、
 手で食べられるサンドイッチや果物の盛り合わせに落ち着いている。
 なお、このようなお見舞いの産物は
 全責任を持って理亞の手持ちのお金から支払われているけど、
 そのお金の大半がヒナタプロジェクトからでていることから察するに、
 タッグを組んで創作していた私が払っていると言っても過言ではないような気がする。
 彼女は同人誌も何冊か出しているけど、
 題材は彼女が実際に過去において観た私の姿が中心なので、
 出演料として少しばかり頂いても――と思ったけど請求は控える。

「相変わらず、料理だけは別枠の才能を誇るわね」
「なんでかしらね?
 バーテンダーをやってたときも料理ばっかしてた気がする」
「私は基本的にアイドルばっかりやってたし、
 よく考えたらもっといろいろやっておけば良かったわ」
「いつかオリンピックにでも出る?」
「いいわね、マラソンで二時間切りましょうか」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:09:15.88 ID:adiLbGNt0
 多分無理ではあろうけど、
 なんとなくツバサはやらかしてしまいそうな気がする。
 しかしながらそんな彼女を一時的にとは言え昏倒させる
 理亞のお菓子の破壊力は、もはやテロレベルと言っても良いのではないかと疑わしい。

「で、なにかお願い事?」
「敵わないわね、何その洞察力、
 どうやったら身につけられるの?」

 私自身もバーベキューとかのイベントごとやるから金よこせ
 というのを忘れていたと言うのに。
 目的をそっちのけにしてついついご奉仕してしまうのは、
 ヒモみたいな生活をしながら働かずにいてばかりだったからかしら?
 よく考えれば就職する折にも
 たいてい誰かのコネを使っての場合が多いけど、
 企業が私を上手く使えないということで一つ。

「みんなで上手いことなにかやりたいなあって、
 ほら、もうすぐゴールデンウィークだし」
「計画の上ではその時期にはAqours結成してなかった?」
「……メンバーが千歌ちゃん一人でもAqoursはAqoursなのよ」

 第一候補の果南ちゃんは理亞の不幸な爆弾投下でおじゃんになり、
 第二候補の曜ちゃんはやはり理亞の防御無視の攻撃でおじゃんになった。
 左手にドリルを装備している私やツバサはレベルがカンストしているため平気だったけど、
 耐性がない場合は大ダメージ受けること請け合い。
 あの料理の腕前を把握した上で今までスルーし続けていた聖良ちゃんは……
 まあ、特に何も言うまい。
 レシピ通りに作ると美味しい料理が出来上がるからレシピ作成の意味があるという発言は、
 ループを繰り返す中で私が納得した発言の中でも上位にランクイン。
 でも、レミ氏の料理本ならちょっと買ってしまいそう、くやしい! ビクンビクン!
 ――うん、ちょっと、想定通りいかなくてテンパっているわね?
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/02/27(水) 16:10:06.41 ID:adiLbGNt0
「自主性に任せるという絵里の判断は間違っていたんじゃない?」
「自主性に依らなければまた同じ結果になるでしょ」
「……そうね」
 
 よっちゃん希望のもと、
 Aqoursが不幸にならなかった世界がどんなものであったのかは――
 まあ、私自身があんまりそこにいなかったので語らないとして。
 Aqoursがμ'sのように扱われていた世界が、
 はたしてツバサであるとか、理亞にどんなふうに映ったのか。
 あくまでも私たちが望んでいるのはAqours結成!
 ラブライブ優勝! 全国に名を轟かせる! ――だけではなく。
 少なくとも高校時代を振り返って良かった思い出になるようにしたい。
 その状態になるにはμ'sを模して9人揃えたAqoursではなく、
 結果的に9人集まったみんなが輝きや奇跡を起こすスクールアイドルグループじゃないと。

「あ、そうそう、いちご狩りを計画しているからお弁当でも作って」
「GWくらいだと時期外れじゃない?」
「英玲奈が絵里の頭をトマトにするって息巻いているからご機嫌取りのために」
「ああ、持病の痛風が! 頭が痛い!」
「痛いっていう字面だけで頭になにか症状が出ると思っているなら
 それは本当に頭が痛いわね……」

 メンバーが十数人いると言うので、
 おそらくUTXで活躍するスクールアイドルでも連れてくるんだろう
 なんならちょっと気合い入れてご機嫌でも取っておき、
 Aqours結成後にライバルとなるであろう雪姫ちゃんたちのグループに
 ちょっとばかし賄賂を贈っておくのも悪くない――
 肉を焼くイベントにしたい、どうせ金出すなら肉にしろ肉!
 と、イベントに出資金を出させる約束も取り付けることに成功し、
 次の休日に約束されたいちご狩りイベントに向けて
 私は気合を入れて準備に取り組むことになる。

 ――いちごという食べ物が、
 誰の好物であるのか滑稽にも気づかずに。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/27(水) 23:13:55.97 ID:oemWrTBGO
メシマズもここまでいけば一種の才能だよね
いちご狩りは堕天使フラグかはたまた太陽か
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/03(日) 19:51:09.53 ID:4eNiR0b/0
 時期外れとも言える時期でのいちご狩りは、急遽次の週末に執り行われることとなった。
 事前準備に取り掛かる私はツバサから押しつけられる様々な条件を涙と一緒に飲み込みながら、
 想定される最高のパフォーマンスを見せようと躍起になり続けていた。
 今までそんな私をサポートしてくれた理亞だけども、自分の作成したお菓子を食べて昏倒するという、
 自業自得としか思えない結果を招き、何日か寝込んだ後、考えたいことがあると言って交流を絶たれてしまった。
 私は嫌われたかと思って心配になったけども、理亞と仲が良いのか悪いのかいまいち分からないツバサが、
 構って欲しさをこじらせての行動だから放っておけと冷たく言い放ち、なおも面倒を見ようとする私の両手足を縛り上げ、
 前と後ろの処女を失うのと、言うことを聞くののどちらが良いかと脅迫され、
 熱しあげた鉄棒を打ち込まれてしまうと痛いどころでは済まないので、私はうなだれるように首肯せざるを得なかった。ごめん理亞。
 その後にツバサがフォローをするように、自分のやるべきことを優先して成して、後から謝るなりなんなりすれば良いじゃない――
 なぜその言葉を反論できない状態にしてから告げるのか、まるで悪魔の所業ではないかと言いたいところではあったけども、
 言ったら何をされるかわからないので、心の中でひたすらばーかばーか(^o^)
 って言ったら、うるせえ! って蹴り飛ばされてしまった。
 口には出していなくても、顔で何を言いたいか分かるらしい――
 いったいどのような人生を送ればそのような洞察力が得られるのか疑問で仕方がない。

 いちご狩りにはAqoursのメンバーも参加するらしい。
 千歌ちゃんにリクエストはないのか尋ねてみたら、美味しいもの!
 という漠然とした結果しか得られなかったので、どうしても嫌だというものを聞くと、
 理亞のお菓子という答えが返ってきた。彼女たちのトラウマは根深く未だ改善に至る経路が見えない。
 それでもなお良い子な千歌ちゃんは、怖いもの見たさという理由付けをし幼なじみの曜ちゃんと一緒に彼女の顔を見に行き、
 命の灯が消え掛けそうな病室の令嬢みたいな顔をした理亞が懸命に何かをしている様子なので、
 ついつい何も考えずに近づいたら18禁原画作成の真っ只中だった。
 当然、商業作品ではモザイクがかかるようなシーンも原画では彼女のこだわりを持ってリアルに描かれており、
 まるでそういう知識がなかったらしい両名は悲鳴を高らかに上げ蜘蛛の子を散らすように逃げ出したよう。
 ただ、彼女が作成していたのが桜井綾乃陵辱シーンだったために、二人の私を見る目が微妙に憐れみが込められた気がしなくもない。
 同一人物だと思われているけど、過去にはやたら3Pとレズシーンばかりだったじゃないあなた達と言うのも変なので、
 苦笑しながら、金髪って結構人気があるのよとだけ言っておいた。
 フォローを間違えた気もしなくもない。
 理亞のメンタル面はループを繰り返した故に成長した部分はあるけど、
 鋼鉄かって言うほどでもないので、落ち込みが激しければツバサを通じて聖良ちゃんを十千万旅館に招きたい。
 私が誘ったところで「ハァ?」の一言で素っ気なく断れることが予想されるけど、ツバサが誘えばホイホイ来てくれるはず。
 ミルクちゃんとうさぎちゃんでステージに立ったじゃんと言えば来てくれる可能性が微レ存だけど、言った瞬間連絡が途絶えそうだから言わない。
 聖良ちゃんにとってツバサは神々しい尊敬できる先輩だけど、私はそうではない。
 尊敬の度合いの差は自分の行動に理由があるので、できれば今後改善できるようにしたいけれど、あんまりにもやりすぎてしまうと、嫉妬した理亞に刺されちゃう。
 過去において経験があるけど、あの後の世界線において彼女が基本的に下ネタしか言わない人に変貌したのは、
 過度なストレスの結果であると推測したい、元がそういう人というわけではないと思われる。
 なお、私の中で、通常のツンツン理亞を”ふつう”現在における理亞を”きれい”下ネタ魔神の理亞が”きたない”と呼ぶけど、
 ”きたない”理亞とエロゲー声優として略歴を重ねた末に次の世界線にかっ飛んだときの真姫との会話は壮絶の一言。
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/03(日) 19:53:21.11 ID:4eNiR0b/0
「……ええと、お肉料理にニンニク禁止、お魚控えめ、ご飯に味付け禁止――制約が多くて燃えるわ」

 あの時の世界線は私自身も過去の記憶をまるっきり忘れ、
 希もベルちゃんが中に入っていたせいで能力的にも凶悪、
 性格面でも嫉妬深さが強調されふとしたことで天変地異を起こしてたなあ……。
 ツバサにとっては念願の雪菜クンとの高校生活(UTXと虹ヶ咲と別の高校ではあったけど)をし、
 スクールアイドルとして研鑽を重ね合いモチベーションが向上したツバサと、
 念願の朱音ちゃんの妹になることができた英玲奈がやっぱり張り切りすぎてμ'sもAqoursも太刀打ち出来ないほど高スペックになった結果、
 こりゃあかんわってことで別の世界線に飛んだけど、あれはあれでよかったのではないかと今になっては思ったり。
 なお、聖良ちゃんはUTXに編入し、理亞はオトノキに入学していたためにSaintSnowの結成はなされず、まきりあぱなというエロゲーヲタ三人組での会話はカオスだった。
 いや、花陽にあの時の話を振ると、ちょっと頭を冷やそうかって感じでキレられるんだけどね?

 
「しかしながら、私やたらハイスペックね……
 まるでチート主人公のよう、ひとりだけつよくてニューゲームを繰り返しているしなあ……」

 様々な世界線を飛ぶ系の物語は制約が激しかったりもするけど、私自身に目立った影響はほとんど無い。
 過去に体験したあらゆる能力の引き継ぎというだけでもかなりチート入っているようだけど、
 それがほとんど活かされている様子がないのは今後改める材料ということで。
 昨今ネットで隆盛の俗になろう系と呼ばれる小説は、悲しきかな何をしても主人公が持ち上げられるけど、
 持ち上げられる部分でもチートになってほしかったなあ……
 いや、ツバサとかの私の友人が能力を引き継いでもいないのに、過去の記憶を反芻した結果同じスペックを発揮するせいで、
 私が目立たないっていうのもあるのかな? 
 こう……前読んだ悪役令嬢を主人公にした小説みたいに、ヒロインの頬をなんの前触れもなく引っ叩いてもマンセーされてみたい。
 あれは一巻で打ち切られたけど、そもそも書籍化されたっていうのが闇が深い気がする。
 
「でも、女をダメにする女っていう評は改善したい……」
「紛れもなく事実じゃない」

 室内であれやこれや考えていると、いつの間にかにツバサが近寄ってきて、
 私の頬をツンツン突き始めた。まるで恋人同士みたいな仕草だけど、過去に私が男体化した際にツバサにやけに迫られた記憶がある。
 そういえばツバサが男体化した際にはμ'sの面々が挙ってお熱を上げてたっけ。

「あなたって人を堕落させる名人でしょ」
「その、褒めてますみたいな顔で言われても微妙なんだけど」

 理亞にも過去に言われたことがある私がひときわ能力を発揮する料理においては、
 とりあえず数多く絢瀬絵里の料理を食べさせておけば、どんなにツン期をこじらせた相手も勝手に堕ちる――ものであるらしい。
 ついつい余計に理亞も料理で私のことを好きになったのって尋ねたら、そんな理由じゃないと逆に叱られてしまった。

「亜里沙さんのヒモだったときも、園田家にいたときも、真姫さんに世話になっていたときも、こいつほっとけねえオーラ出してたじゃない」
「……いや、無自覚なのよ? そうらしいっていうのは誰しもに聞いているんだけど。わからないのよ?」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/03(日) 19:55:19.37 ID:4eNiR0b/0
 無自覚であろうが自覚的であろうが、人の庇護欲を誘ってヒモをすることが良いこととは思わないけど。
 そしてなぜか、ヒモを許容している相手がいつの間にか困った問題に陥ると、
 私自身がその人よりも給料を稼ぎ出し、お金は得るけど誰かからの恨みは買って私自身が命を落とすケースばっかり。
 私自身が考える、自身がいることによって様々な問題が起こる――
 という思考は自分自身首肯したいけど、ツバサや理亞から全否定されてばかり。

「ツバサに世話した際には……」
「男になったほうを指してるんだったら、とりあえず殴る」

 グーの手を作り有無も言わさず殴るぞのポーズを取る。
 あらゆる場面でスペックを発揮する彼女も男体化した際には加減が分からなかったらしく、
 やたらめったら女性陣から惚れられるハーレム系主人公に変貌したことがある。
 私自身も堕ちかけた際に記憶を取り戻し、ゲラゲラ笑いながら、
 自分自身の男体化した結果を示し、いろいろ世話を焼いたことがある。
 が、世話を焼きすぎた故に恨みを買い、
 UTXの屋上から突き飛ばされ見事に命を落とした、やっぱり私死にすぎじゃない?

「それ、テキスト?」
「ん、プロット」
「私はちゃんとメインヒロインなんでしょうね?」
「あなたをメインにするには外見のスペックが、あ、いや、ごめんなさい、やめて、顔面に膝はやめて」

 冗談でも容姿をバカにするのは良くない――
 十千万旅館において誰よりも働き、
 誰もが嫌がる仕事をノリノリでやってしまう変人との評判を拭えない絢瀬絵里。
 あまりに働いているとブラック企業みたいだからと志満さんに忠告され、
 最近は自室に引っ込んでヒナや理亞に当ててのシナリオ作業に励む。
 ダイプリを下地にしたシナリオなので、ヒナの記憶が戻るような事態になれば懇々と説教される恐れあり。
 ただ、理亞は頼んでもいないのに桜井綾乃の陵辱シーンを書いていたけど、私が恨み買ってるわけじゃないのよね?

「あ、ツバサ仕事お疲れ様」
「ええ、いい加減私の仕事の影響で
 Aqoursの結成がなされると良いんだけど」
「……未だにメンバーが一人っていうのは」

 スクールアイドル部という部活動を作ることには成功したものの、メンバーは未だに千歌ちゃん一人。
 部員としては既に1年生組や果南ちゃんも含まれているのに、誰も彼もスクールアイドルを行おうとしないのが難点。
 顧問として潜り込んだ希もお喋りばっかりの活動内容に、お硬いダイヤちゃんのカミナリが落ちそうだと怯えている。
 私にとっては可愛らしい妹みたいなダイヤちゃんも、希にとってはおっかない相手なよう。
 はやくエリちの胸が大きくなればいいのにと無茶難題を押し付けてくる――
 わしわしの対象が主に私であるのは良いとして、コミュニケーションの一種だと認識してるけど、
 のぞえりがガチのカップルみたいにされるのはAqoursの結成に悪影響ではないか疑惑。
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/03(日) 19:57:02.26 ID:4eNiR0b/0
「でも好評よ、あなたの黒歴史トーク」
「……それもAqoursの結成に障害になってない?」
「主に男体化した当初に訪れた、エロ本の処理に困った際の」
「やめよう!? 花陽に殺意向けられた記憶思い出すからやめよう!?」

 綺羅ツバサは男体化した際に綺羅ツバサとして転生したのに、
 私は過去に存在した涼森都という少年に乗り移り、
 彼の幼なじみであったりんぱなからいろいろ世話を焼かれたのは――やっぱり黒歴史。
 音ノ木坂学院が共学化しているという、私がいくらお願いしても通らなかった生徒数減少の改善策が通るも、
 やっぱりオトノキが廃校の危機に瀕していて解せない思いと叫びたい衝動に駆られた。

「ふふ、ちゃんと褒めてもいるわ、
 廃校を回避できたのは絢瀬絵里の業績だって」
「男体化したエピソードの後に私の話するのもやめてくれない?」
「あらごめんなさい、承諾を得るのを忘れてた、いいわよね?」
「事後承諾で済ますのもやめて」

 私自身も無駄に優秀であったのも廃校回避に一役買ってはいるんだけども、
 何より回避成功に影響を及ぼしたのは、オトノキにお金を出してくれる援助者が現れたからで。
 それが私に関わりがあるかないかと言うと、ヒナの両親であるからないわけではない。
 生徒数の減少に歯止めがかかったとは言え、
 未だに危機には及んでいるらしく、援助がなければすぐにでも廃校という結果が――

「……ねえ? そういえば、ヒナのご両親に言われた、
 オトノキの援助の期限って何年だっけ?」
「ええと、あなたが卒業してから5年のうち……ん?」
「……私って、卒業してから……何年?」
「5年……ね……」

 お互いに真っ青になり顔を見合わせ、テキストの作成は一旦休止。
 ツバサと私は全速力でヒナに連絡を取り、彼女との顔合わせをする用事を急遽挿入した。
 何故ヒナが妹の朝日ちゃんからせっつかれて結果を出そうとしていたのか、
 私が何故躍起になって仕事をした末にパンクしたのか、
 全てが合致する内容が脳内に浮かび――
 すっ飛んできたタクシーに飛び乗り、私たちはタッグを組んでヒナタプロジェクトがある秋葉原へと向かった。
 なお道中、淡島ホテルでのイベントの約束をすっ飛ばしてしまったことに気づいたツバサが、
 信頼できる友人に頭を下げながらあとをお願いしているのを見ながら、
 ツバサが頭を下げる相手って誰かなーって益体もつかないことを考えた。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 22:47:11.01 ID:973aZeebO
男体化した世界線まであるのか…処女だけど童貞じゃない可能性まであるな
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/04(月) 00:48:28.75 ID:f5we7HFbO
ツバサさんも理亞ちゃんも性癖歪んでそうなのが垣間見える
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:27:21.07 ID:x5hn4Fkn0
 沼津駅から三島の駅に向かう。
 新幹線の停車駅などろくに知らず、新横浜か小田原から乗り換えるんだろうなんて考えていた私を、
 ツバサが大きな溜め息と一緒に罵倒の言葉を吐きつつ、手を取って誘導してくれた。
 まるで小さな子どものようではあったし、恥ずかしい想いを抱えてしまったんだけども、彼女自身にも意図はあった模様。
 ややもすると金髪外国人にも見える私を風除けに使い、
 トップアイドルに声を掛けたいという人に忙しそうという印象を与え、
 さらには日本語が不慣れそうな私の手を取ることによってなんていい人なんだという心象すら与える。
 余計なことをくっちゃべるんじゃないとアイコンタクトで情報を提示し、
 新幹線の指定席を確保し乗車するまでロシア語での交流が続いた。
 周囲に乗客はいれども、ツバサをガードするように私がいるせいで、サインをくれとねだる人もいない状況下となる。
 彼女は窓の外の高速で移動する風景を眺めながら、小さくため息を吐いた。

「ヒナに土産を買う暇もなかったわね……」
「ええ、時間はあったけど人が多かったわ、ごめんなさい絵里、
 私にもまだ知名度っていうものがあったのね……」

 ツバサは自嘲しながら笑う。
 紅白に何度も出場し一時代を築いたトップアイドルが
 引退も間もないにもかかわらずどこの誰とも知らない金髪と一緒にいる
 というのは人目も興味も引いた模様ではある。
 関心を寄せられているのは歓迎したい部分ではあるけれど、
 煩わしいという気持ちを覚えるほど他者から観られるというのは、
 いつになっても慣れない心持ち。
 これが当初の予定通り自由席でのんびり、
 下手すれば東京の駅まで立ちながら移動というのも覚悟していたら、
 車内はもしかしたらパニックが起こったのかもしれない。
 そこまで乗客マナーが悪いとは思わないけど、可能性だけは否定できない。
 モラルが低下していると文化人を名乗る方々が警鐘を鳴らすほど、
 実際問題意識は低下していないにせよ。
 一部の人達の自身さえ良ければ他者はどうなっても良いという思考回路は、
 24時間営業を強制するコンビニの偉い人とか
 それに追随して夜も営業すればいいじゃんと簡単に言う人を見ても明白。
 人間思ったよりも簡単に死ぬもんである、
 いくら自分が平気でいると思っていようと、なんでも。
 過去に何回も死んだ私が言うのだから信憑性があると思う。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:27:57.70 ID:x5hn4Fkn0
 新幹線が発車してからしばらく、
 次は小田原に停車するとのアナウンスを聞き届け、
 いつもの通りお酒や爆食いで憂さを晴らすことも出来ないので、
 とりとめのない、聞く人が聞けば創作か何かであるような、
 過去において自身が聞いた私の話をすることにした。
 聞いた話と第打つのは、
 私が主に亡くなって以降に世界がどうなるか、
 次のループにおいてその情報を耳にしたからであり、
 実際にその通りに世界が進んだかどうかまではわからない。
 ツバサや理亞と言った記憶を引き継いでいるメンツは、
 私が亡くなってしばらくすると別の世界へかっ飛ぶ
 という体験を繰り返しているらしい。
 今回のように今まで綺羅ツバサとか鹿角理亞として過ごしていた人物に乗り移る形での転生が主であるけれど、
 時折男体化するというハプニングのようなループも多少なりとも存在する。
 基本的に絢瀬絵里自体は死亡が主で転生を果たすのだから、
 その世界で絢瀬絵里として過ごしていた彼女たちには本当に申し訳が立たない。
 いつか自分自身もこの身体をお返しする機会はあるかもしれないから、
 できれば大事に取り扱いたいところではある、蹴り飛ばすのも控えめにしてもらいたい。

「未来においては……アンドロイドが人間を駆逐するんだっけ?」
「まるでハリウッド映画、すごいわね絵里」
「私自身がそれに影響するとはまったく……」

 絢瀬絵里死亡により世界がどのように変化するかと言うと、
 ツバサや理亞や海未といった面々のように絢瀬絵里の代替を探す――
 という人もいれば、
 亜里沙やヒナの妹である朝日ちゃんのように構わず後を追う――
 などという反応に困る人もいる。
 未来において問題が起こるとすれば、
 私が死亡が原因で優秀な人材が後を追うという事実であると思われた。
 嘘のようなたわごとではあるし、遠い未来のことなんてツバサも分からない。
 しかしながら、未来から持たされた現代におけるオーバーテクノロジーは、
 思わぬ形で周囲に埋没をしていたりする。
 代表は天王寺璃奈ちゃんがステージに立つ際に活用する
 璃奈ちゃんボードなる機械。
 スケッチボードに書かれた彼女の顔は私自身が書いたデザインが元となり、
 常にこうでありたいと思われる笑顔の表情は理亞が作成した過去がある。
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:28:36.67 ID:x5hn4Fkn0
 電子世界では理亞の自筆は再現できないものの、
 私の書いたお手軽な璃奈ちゃんは簡単に表すことができた模様。
 彼女の心の動きによって表情がリンクするトンデモ技術は、
 実情を知らない人間にとっては、璃奈ちゃんが必死こいて動かしている
 なんて言われることもあるけど――。
 はるか未来からもたらされたオーバーテクノロジーが、
 すごくどうでも良いことに活用されていることに関してはもにょるけれど、
 未来から来た人を顎で使う璃奈ちゃんであったり、
 そんな人達からマザーって呼ばれる真姫に関しては、
 私が死亡に至ってもさほど影響がないみたい。
 真姫がドライな感じで死亡を受け入れてくれることに関してはすごく嬉しく思う。
 絢瀬絵里がいない世界であろうとも、
 強く生きる姿を見せてくれればそれほど嬉しいことはない。
 ただ一度穂乃果がマッドサイエンティストみたいな真姫ちゃんを観たような?
 みたいな話をしていて、
 ツバサもそれを聞きながら彼女は真面目で一途だからてっきりねえ……
 と、後を追う組に加入するものと思っていたみたい。
 なお、璃奈ちゃんが未来の人たちに無理難題を押しつけ作らせたボードは、
 特に意味もなく絵里ちゃんボードも存在するとか。
 その後すぐに私自身が退場することも手伝いお披露目はなされなかったけど、
 まさか今もこの世界にそのボードが存在するわけじゃないよね?
 
「絵里の生死が未来において影響……」
「よもや精子ってオチじゃないわよね?」
「そこは卵子じゃないの? あ、いや、子宮?」
「私の子孫が未来で科学者になって、
 私を助けるために未来人を」
「ドラえも○みたいね……」

 未来がどのような世界になっているかは、
 さすがに体験したことがないので想像でしか語れない。
 今よりも科学技術が発展しているのであろう――程度しか妄想できないけど。
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:29:12.52 ID:x5hn4Fkn0
「絢瀬絵里を模したアンドロイドが設計されて、
 人間に反乱を起こしているとか」
「10秒で鎮圧されてしまいそう」
「さすがに絵里じゃないんだからもうちょっと保つでしょ」

 簡単に鎮圧される部分については否定してくれない。
 私由来の部分が外見のみならば、
 多少アンドロイドに勝利のフラグが立ちようものだけど、
 これがもし性格面でも私が存分に活かされようものならば、
 人類が地球の覇者でいるのも長くなりそう。
 μ'sを模したロボットを作成するならば、穂乃果が欲しい。
 なんやかんや言って誰か一人を選ぶのなら穂乃果が良い。
 海未や花陽あたりなら傅いてくれそうだけど、
 他の面々だといつの間にかに主従が変わってしまいそう――
 ツバサだけは勘弁したい。
 別に恨みがあるわけではないけど、
 あの優秀さがアンドロイドに発揮されようものなら、
 人類はおそらく1日で天下から転がり落ちてしまいそうだし。
 


 東京駅に到着してから在来線に乗り換え
 山手線で秋葉原駅に向かう途中ツバサに腕を引かれた。
 風除けにするために利用するのかなって思ったら、
 私自身が彼女の想定以上に気合入った怖い顔をしていたせい。
 まさかそんなに怒り心頭なワケがないでしょと
 ショーウインドウに映った自分の顔を観たらまるで討ち入りに行くようだった。
 オトノキが危機に瀕しているのは自らとは関係がない。
 それどころか延命に力を注いだではあるんだけども、
 んなことを言われても廃校になる運命が悔しくないかと言えば嘘になる。
 必死になって自分が頑張ったからという理由ではなく、
 μ'sの影響で高校に入学した後輩が、
 自らと同じように廃校の運命を知らされるときの気持ちが、
 なみなみと分かってしまうから。
 そんな事を考えているとツバサがまた怖い顔をしているとたしなめ、
 苦笑を浮かべながらなにか美味しいものが食べたいとわがままを言い、
 良いものが見当たらなかったのでバナナミルクで我慢した。
 甘ったるい味が移動で疲労した身体に浸透し、
 思いのほか美味しいとハマったツバサを止めるのに苦労した。
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:29:38.93 ID:x5hn4Fkn0
 久方ぶりにやってきた秋葉原駅は人で溢れていた。
 何度も訪れた電気街の方の片隅にヒナタプロジェクトは存在し、
 両親から独立したい願望があった私は別の駅近のアパートを借り、
 そこから常に出勤していた過去がある。
 以前までのように自社ビルの中に開発室がある贅沢仕様ではなく、
 マンションを二部屋借りて開発室と生活室に分け、
 生活室ではヒナとかなり友好的に交流していた。
 主にソフト開発は私が行い、ヒナの妹である朝日ちゃんとも仕事をする。
 過去のループでの記憶の保持のためか、
 この世界での私の記憶が多少混濁していて、
 朝日ちゃんの姿が以前までのちっちゃい彼女しか思い当たらない。
 そうではなかった気はするけど、思い出すことも出来ないので
 とりあえず謝罪をの言葉を心のうちに秘めながら道のりを進む。
 
 高校時代には幾度ともなく訪れた秋葉原。
 UTXがあるからという理由もそうであるし、
 綺羅ツバサと幼なじみであった時には頻繁にここで遊んでいたりもした。
 彼女が感慨深そうに自分がUTXに入学してなかったらどんな人生を歩んでいたのかしら? 
 なんて問いかけ言葉が出なかった私は、
 自分の仕事が無くなってしまいそうの一言しか返事をすることができなかった。
 スクールアイドルとしての原点はやっぱりツバサであると思う。
 過去において素人にしか見えないと暴言かましたけど、
 それを改めさせ真摯に向き合うようになったのもA-RISEがキッカケ。
 自分のレベルを認識したことにより、
 思いのほか自虐的なネタをかまし怒られるようになったのはご愛嬌だけど、
 お高くまとまっている私よりは親近感が湧くようになったのでは?
 海未とか真姫はSっぽい私のほうが良いと不評ではあるけど、
 さすがにあれはキャラ作りの様相が強いので、今後の披露は控えたいところ。
 いわば、穂乃果にとってもそうだし、
 私にとってもA-RISEが――というよりツバサがいなければ
 きっと、もっとアレな人だったんだろうなあ……と思う。
 口が裂けても言わないけど。

「ヒナがどれほど、家庭の事情を把握していると思う?」
「会うことを受け入れた以上はある程度は」

 心労が溜まりそうである会話をしに秋葉原へ来た。
 マスコットキャラ以上の扱いをめったに受けないヒナが、
 私たちが考える通りオトノキや支援を続ける会社のことを
 どこまで把握しているのかは疑問符がつく。
 希望的な観測を抱けば私たちの心配は全て杞憂であり、
 絢瀬絵里と会いたいがために細かい事情を話さずにいた可能性もある。
 ただ、私の卒業以降オトノキの生徒が爆発的に増えた記録はなく、
 ラブライブなどのイベントごとで著しい結果を残したわけでもない。
 そのような廃校寸前の高校を支援することに対して、
 世間では不況と呼ばれて久しい昨今、どのような風評を得てしまうのかは想像に難くない。
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:31:59.19 ID:x5hn4Fkn0
 私の知る理事長が今もなおその職に付き、
 廃校を上手いこと隠し、生徒に伝えるのは回避できなくなる時間になってから
 という技術に長けているのは良く知っている。
 ふわふわとしたことりや基本的に人を悪く言わない穂乃果、
 真摯で真面目で目上の人には礼儀を持って対応する海未――
 そんな彼女たちにまで仕事の出来に疑問を抱かれてしまう人。
 心の中に少しだけ、そこまで自分が頑張ることはないのではないか、
 なんて想いが去来してしまうほど――

「絵里さん、ツバサさん」

 ネガティブな思想に心を覆い尽くされてしまいそうになったあと、
 自分の名前を呼ばれたので振り返る。
 そこには長身のモデルのようなスタイルの美人さんがいて、
 こちらと親しいと丸わかりな、にこやかな笑みを浮かべながら手を振っていた。
 冷静に考えれば私ではない私の記憶を反芻し、
 彼女の名前を言い当てることができるでしょう――
 と、すっかり考え込んでしまった私をあざ笑うように
 さっさとツバサがその正体を言い当てた。

「久しぶりね? あー子」
「記憶が戻るのが遅すぎです、その様子だと絵里さんも戻りました?
 ちゃんと一発殴りました?」
「……殴ろうとは思ってたんだけど」
「ダメですよ、ツバサさんは基本的に口ばっかりなんですから
 殴れる相手には殴っておかないと、我慢は毒です」
「ごめん朝日ちゃん、ツバサは我慢で済むけど
 私は殴られたら痛いんだけど」
「ああ、その物言い。
 やっぱり私の知る絵里さんですね、感慨深いです」
「……本当に私のこと好きなの?」
「好きですよ、絵里さんがいなくなると基本的にこの世に未練が無くなりますし」

 過去においては私の死亡が確認されれば早々に後を追う。
 よっちゃんの行動で私が退場したあとにはツバサとともにタッグを組み
 Aqoursを叩き潰さんがために行動をした。
 やりすぎちゃったせいでツバサともども退場させられてしまったのはご愛嬌。
 私自身が好きだという言葉は疑わしいし、
 好意を寄せられた記憶もさほど無いんだけども、
 ヒナもそうだし彼女自身も私にとっては可愛い妹である。
 私自身が栗原姉妹から面倒をかけられているのではないか――
 そのような思いはとりあえず天高く放り投げる。
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/04(月) 20:39:46.23 ID:x5hn4Fkn0
未来の話をしていますが、
そろそろ理亞ちゃんルートも進めないといけません……。
推敲作業に手間がかかっていて公開できる状態ではありませんが、
原文はある程度先まで完成済みです。

春色バレンタインが連載を開始したという都市伝説が、
よもや本当のものだと思いもしませんでした。
理亞ちゃんルートでのりんぱなのイベントが没になるので、
代替のほのぼのイベントの参考にしたく。

未来の話をしていますが、
未来編はありません、真姫ちゃんルートへの伏線ではありますが、
おそらく真姫ちゃんルートに行くころにはそのコトを忘れていると思います――

では、また次回です。
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/04(月) 21:51:31.83 ID:W6AURWtpO
絵里ちゃん型アンドロイドとか絶対欲しい
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/05(火) 20:05:45.42 ID:tft65Zrg0
 大学にも通わず、かと言ってバイトに明け暮れることもない。
 ヒナや理亞と一緒にエロゲーの制作を続け、
 雀の涙ほどの黒字を成し得た際にはささやかな打ち上げもした部屋。
 制作環境や時間等の留意すべきことは数多くあれど、
 本来自身や理亞が得るべき給料を考えると、
 黒を出したとは到底言えない数字ではあった。
 その当時から部屋の片付けが苦手、掃除はあんまり上手ではない――
 そのようなお部屋が汚部屋になっているのではと不安になったけど、
 驚嘆すべきことにハウスクリーニングでも成したかのような
 身綺麗で整えられた部屋を覗き、以前までの絢瀬絵里と同じよう、
 過去のループにおいてはなかなかできなかった、
 140センチにも満たない身長のヒナの頭をなであげることに執着。
 まるで小さい子どもを相手にするかのような態度であるとか、
 常軌を逸していると表現されるほど変質者めいた顔をして愛情を注ぐのを観られ、
 朝日ちゃんやツバサの手にはスマートフォンが握られた。
 冗談かと思ったら真剣な面持ちでおまわりさんに連絡しようとしたので、
 多少テンパった私は、あなた達も撫でられてみる?
 と、問いかけ朝日ちゃんの了承を得た。
 彼女の琴線にたまたま引っかかる撫で方であったのか、
 私が人の頭を撫でる才能に満ち足りていたのかは不明だけど、

「人をダメにする撫で方ですね、女性に産まれたことを呪うべきです、
 男性だったら撫でポでハーレムを築いていたかもしれません」

 との抜群の評価を得た。
 過去において一度自身の右腕兼パートナーとしてタッグを組み、
 かなり好感度も高かったと思われる朝日ちゃんであるとか、
 あらゆるループにおいてUTXに入ってからアイドルの自身と関係なく
 付き合いも豊富であるヒナであったり。
 そんな二人が絢瀬絵里ごときに籠絡される様子を見て、
 絵里のものは綺羅ツバサのものくらいの認識があると思われる彼女も、
 興味を惹かれたのか、頭を撫でられたかったのかは不明だけど。
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/05(火) 20:06:14.39 ID:tft65Zrg0
「私を満足させてみなさい」

 とのコメントともに頭を差し出したので、
 やれやれもうしょうがないなあって思いながら、
 全身全霊を込めて優しくなで上げたら、
 過去において見たこともない至福の表情を浮かべ、
 私に身体を預けながら寝た。

「つ、疲れてたのよ! 別に絵里が上手なわけじゃないから!」

 起床した際にそのような言い訳をし、
 朝日ちゃんを連れて私に作らせるためのお昼の材料を買いに行ってしまった。
 あんなに可愛いツバサは初めて見たという栗原姉妹のコメントが、
 彼女のどれだけクリティカルヒットしたのかは想像に委ねておきたい。
 おそらく結構痛い感じで報復されると思う。主に私が。



 ヒナと一緒に開発室の方の掃除。
 自室の方は綺麗になっていたものの、
 人手も少ないし、働いている私が逃亡してしまったため、
 数ヶ月前に見たままで時が完全に止まってしまっていた。
 これからダイプリ(仮)を開発をするためにプログラマーなり、
 いろいろな立場の人がここを利用する可能性もあるので、
 できれば整頓に従事しておきたい、主に自分が利用するのではないか?
 そんな想像は棚にでも入れておく。

「最初は絵里やツバサに怒られると思ったのだ」

 清掃の手を一度止め、ヒナが話題の提供をする。
 一度にまとめて根を詰めて掃除をしたところで、
 見落としはあるものである。
 こうして気分転換に会話を挟むことも、
 モチベーションの維持であったり、品質の向上に役立つ。
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/05(火) 20:06:43.54 ID:tft65Zrg0
「とても残念なことに、私にはヒナを怒る理由はないのよ?」
「オトノキがもう廃校寸前であっても?」
「”私たち”はもう、オトノキの卒業生でしかないから」

 μ'sが過去のあらゆるループにおいて、
 史上最高のスクールアイドルとして評判――。
 身の丈に余る思いも抱えてしまうし、
 実際でそうであったのかは著しく疑問ではあるのだけれど。
 でも、仮に自分たちがそれほどの存在であったのならば、
 廃校の危機に瀕した際にお呼びがかかったり、
 そうでなくても事前に私以外のメンバーが動くはずである。
 勘ではあるけど、私よりも前に過去のループでの記憶が蘇っている――
 希以外の子が存在するはず、彼女は気づいていなかったけど。
 十中八九、花陽は全てを把握しつつ凛との生活を楽しんでいると思う、
 過去においては辛い目にも遭ったし、私やよっちゃんを殴り倒したい
 と思っているかもしれないでもないし。
 でも、そんな花陽であるとか、穂乃果あたりがオトノキの廃校を知っても、
 私や希といった生徒会の仕事に精通し、
 立場的にも助けを求めたかもしれない現役生にアドバイスを送るくらいのことはできる人たちに何も言わない――
 それはおそらくつまりはそういうこと。

「ヒナ、変わったことはなかった?」
「匿名でメールが来たのだ、助けになりたいって」

 私が話題を変えて欲しいと察したヒナが、
 こちらに気取られないように誠心誠意努力しつつ。
 匿名で来るということは私の知り合いである可能性が高い、
 メールの文面を見たけれど、
 とても残念なことに誰かと特定できる材料は隠していた。
 おそらく社会人としての経験がある人間であろう
 それくらいは鈍い私にも分かる。
 人を見る目に関しては私よりも数段上にいるヒナが大丈夫と判断し、
 朝日ちゃんもその人と合流して連れてくると言っていたそうなので、
 ツバサや私よりも先にその人と話す腹づもりではあったらしい。
 おそらく朝日ちゃんも私たちが過去を取り戻していたので、
 つい嬉しくなって作業を忘れちゃったんだと思う、それくらいのポカは多い子だし。
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/05(火) 20:07:38.56 ID:tft65Zrg0
「ごめんなさい、話を変えてしまって」
「いいのだ、まだ話する?」
「ええ、周囲の状況はどう?」
「あんまり芳しくないのだ」

 たえず廃校の話題は流れてくるそうだけど、
 生徒数は減少していない、学校も廃校しない。
 とても残念なことに私たちが卒業以降も実権を握っている方は、
 そんなことをおっしゃられている模様。
 μ'sの結成のときのように廃校を回避するすべを持ってしまうと、
 海外旅行も延期せざるを得ないかもしれないので、
 おそらく生徒に告げられるのはのっぴきならない状況に陥ってから。
 二年生組あたりにせっつかれれば連絡くらいはしてくれるかもしれないけど、
 私がやれといったところでそっけなく断られるはず。

「絵里、オトノキはもう……」
「そうなんでしょうね、誰しもが学校の存続を願っていない
 そんな感慨すら抱いてしまいそう」

 自身のワガママを押し通すほど高いモチベーションも沸かず、
 誰かを巻き込んで問題を解決に当たろうか、そんな意志も浮かんでこない。
 オトノキは好き、感謝もしている、できれば存続して欲しい。
 廃校を知らされる生徒の気持ちを考えると心が痛い、
 個人の事情で未来のことばかりを考え、現在通学する生徒のことを蔑ろにされてしまうのは放ってはおけない。
 μ'sが廃校を回避したことを綺麗事にし、
 私たちをバカにされる事態になれば立ち上がるけれど、
 それは私自身の衝動ではなく、穂乃果たち二年生組や
 真姫たち一年生組の動向次第、あと芸能人であるニコの事情も留意したい。
 就活をしているという穂乃果や、気ままに大学生活を楽しんでいるまきりんぱなの邪魔だけはしたくない。
 自身だけに迷惑がかかるのであれば、何だってする。
 でもそうじゃない、そうだと思ってたけど、
 もう私はそうではないという現実に気がついてしまった、うかつには動けない。

「絵里、こういうときは気分転換でもするのだ」

 ヒナが考え込んで手を止めてしまった私を見上げながら、
 身につけていた洋服を邪魔だと言わんばかりに脱ぎ始める。
 気分転換とはまさかこの場で開発していたゲームみたいなこと!?
 と、慌てた私に向かってにっこり微笑んだ全裸のヒナが、

「お風呂!」
 
 あ、お風呂ね、そうよね?
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/05(火) 21:23:05.61 ID:2gdyIkIiO
R-15くらいのイベントシーンは見れそうやな
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/10(日) 07:53:11.82 ID:8vNeOyBm0
 開発室と名乗っていても、実際はアパートの一室。
 何人かで作業できる部屋と脱衣場とバス・トイレ。
 お家賃はそれなりであるはずだし、
 二部屋借りているのだから、
 やっぱりささやかな打ち上げの時実際は赤字だったのではないか?
 なんてことを考えてしまう現実主義エリーチカ。
 ヒナの脱ぎ散らかしたお洋服と表現するべき?
 幼児服と呼称するべきか、子ども服とあえて言ってしまうべきか。
 少なくとも二人並んで、私が同じ年の友人なんですと名乗れば、
 ババア耄碌したか、そんなふうにコメントを頂く機会もまたあるかもしれない。
 相手は18歳以上にも関わらず、裸で駆けてく陽気なサザ……じゃなかった、
 ヒナを眺めながら、この現場をおまわりさんに目撃されたら、
 確実に言い訳できない感じでとっ捕まってしまいかねない。
 しかもこの手には、ヒナが脱ぎ散らかしたばかりのホカホカな衣類がある。
 先程来の変質者一歩手前なスマイルで手に握ったコレをクンカクンカなどしようものなら――やはり言い訳できないレベルで逮捕。
 いやでも、パンツ握ってる時点でかなりやばいのは確実よね?

 脱衣場のカゴにヒナの下着をボッシュートし、
 私自身も服に手をかけて一度停止。
 誰も見ていないとは言え、一度脱いだ下着類を
 もう一度身につけ直すという事実に躊躇いを覚える。
 誰も見ていないしと思うではあるんだけども、
 一日になんども下着を脱いだり身に着けたりを繰り返していると――
 評判になるわけ無いと思い直し、ヒナを追いかけて浴室の中へ突入した。

 部屋の中の惨状とは異なり、
 浴室内は大変綺麗に整えられていた。
 何でも過去の私もお風呂場だけは綺麗に清掃していたらしく、
 ヒナもその教えを守って頑張ってくれていた模様。
 あえて推察するならば、
 開発室の状況は私が戻ってくるまで彼女が手出しをしなかった――
 ではあるんだろうけれど。
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/10(日) 07:54:18.57 ID:8vNeOyBm0
 お風呂に入る前に身体を身綺麗にするか否か、
 私は前者であるし、亜里沙も前者、ツバサもさり気なく前者。
 とりあえず湯に浸かっとけや、温泉施設とかでは洗うけど――
 というのは穂乃果やことりや海未の二年生組。
 過去にμ'sで温泉旅館に行った際にも、
 絵里ちゃんなんでそんなに身体とか綺麗にするの?
 なんて問いかけられてしまったので、みんなそうなのだとばかり思っていた。
 さすがにヒナも髪の毛や身体は一人で洗えるし、
 私が手出しをする必要性はまったくないのだけれど、
 なんとなく神様的な人がヒナの体を洗っておけと言ったような気がするので、
 背中や腕といったボディータッチしても問題のない部分の洗浄をしておいた。
 ヒナがお礼に朝日ちゃんが持ってきたというヘチマで洗ってくれるとし、
 そんなので綺麗になるのか疑わしい部分はたくさんあったんだけれど、
 これいい! すごくいい! ヘチマ良いじゃん!
 朝日ちゃんにどこで買ってきたのか早速聞いてこなくちゃ!
 と、泡も流さずに飛び出そうとしたのでヒナに必死に止められてしまった。

 四人で入れば狭いと感じるであろう浴槽も、
 ヒナと私がいっぺんに入ってもかなり余裕があるデキになっている。
 お風呂の背景が完成していなかったのか、
 それとも原画家が手を抜いたのかは分からないけど、
 唐突に画面が暗転し、全部モノローグと台詞でお風呂場でのエッチシーンを済ませたゲームがあったことを思い出す。
 3月にはある程度完成する心づもりのゲームも、
 18禁になるのか否かは分からないけれど、
 エッチシーンの時にはイベントCGを用意したいと思っている。
 あの時の理亞(ツンツンモード)の嘆きようは、
 聖良ちゃんがブロッコリーが苦手だというのを月島の方の歩夢ちゃんに私がバラしてしまい、
 ブロッコリーを食べられるようになるまで彼女に(性的な)調教をされたのを理亞が知った時と同じレベル。
 人はエッチシーンのCGがないだけであそこまで悲しい気持ちになるのかと、
 感嘆……いやでも、彼女が嘆いたのはわりとプラトニックな関係なのかと思ってたら、結構ガチで激しかったのを知ったからだと思うけど。

「夢の中で絵里はもうちょっと大きかったような気がするのだ」
「ええ。ヒナももうちょっと大きかった気がするわ」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/10(日) 07:55:26.91 ID:8vNeOyBm0
 過去には170センチ近く身長もあったし、
 胸のサイズもエマちゃんと同等だったのに縮小してしまった。
 そうそう、エマちゃんのことをネタで乳・ヴェルデちゃんと言っていたのを
 あろうことか当人に知られてしまい。
 その折、百歩譲って私がそう呼ばれるにふさわしかったとしても、
 それならあなたは絢瀬乳じゃない!
 と、彼女と大の仲良しだった星空凛の前でネタバレされてしまい、
 私は凛に無慈悲に粛清されてしまった。

「絵里はどちらかというと、澤村英梨々っぽいのだ、
 こんど、コスプレしてみる?」
「できれば希には霞ヶ丘詩羽、ツバサに波島出海、
 ユッキに加藤恵のコスプレをしてもらいましょう、
 ――胸のサイズ的に無理そうだけど」

 ハーレムラノベの負けヒロインであり、
 ことあるたびに負け犬と評される金髪ツインテールの人を見ていると、
 コレがもし喫茶店を舞台にしたエロゲーだったら、
 ツンデレ大全とかの表紙を飾るような
 キャラ人気の高いヒロインになれたであろうに。
 業界が先細りして次々とライターがラノベ業界に行ってしまったけど、
 いつか復権することもあるんだろうか?
 でもあの世界に限らず、労働に対価が支払われない限り、
 いずれはその場所は無くなって行ってしまうんだと思う。

「絵里、やっぱり思い詰めた表情をしているのだ」
「……ヒナには敵わないわね」

 頭の中でどれほどバカバカしいことを考えていようと、
 オトノキの現状は自分にとって憂慮に余りあるのだと思う。
 廃校という言葉を考えないようにすればするほど、
 近い内にその未来が確実に訪れてしまうのであろうことが、
 体感的に分かってしまう。
 私が人目を考えずにツバサや理亞と言ったアイドルとして手本となって、
 誰しもがスクールアイドルになりたいと願う存在を見せたり。
 英玲奈やニコといった指導に定評がある面々に声を掛けてサポートしたり、
 海未や真姫といった子たちに楽曲は全ておまかせしてしまえば、
 私はふんぞり返って座っているだけでオトノキの存続は叶う――はず。
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/10(日) 07:56:17.74 ID:8vNeOyBm0
 Aqoursは私たちの介入がなければ結成する確率は低いし、
 UTXのALSTROEMERIAの三人は私が土下座でもしたら
 ラブライブの出場を取りやめてくれるかもしれない。
 朱音ちゃんは嫌がると思うし、そのことがバレれば英玲奈に殴り倒されるけど、
 私がそういう扱いを受けるのには慣れてる。
 亜里沙やツバサとかの私を下にする扱いをする子には不評かもしれないけど、
 誠心誠意土下座すれば頭を踏みながらしょうがないわねえみたいなことは言ってくれるかもしれない、おそらく。
 虹ヶ咲の面々がちゃんと9人揃ってスクールアイドル同好会として、
 ラブライブに出場してくると危うい要素もあるけど、
 あの子達は雪菜クンが男性だったからこそ9人で集まれたと踏んでる、
 ツバサのことを思い出せれば同様のことができるだろうけど、
 その可能性に介入するのを避ければ――
 でも本当に良いの?
 オトノキが廃校になるからと言って、
 私のやりたいことを避けてまで存続に執着をするの?
 そこまでして、本当に音ノ木坂学院は存続を果たさなければならないの?
 元からALSTROEMERIAの三人はスクールアイドルの中で実力は別格。
 故に扱いは多少不遇であるし、オトノキが廃校を回避するため立ち上がり、
 それにμ'sやA-RISEやSaintSnowが協力すれば、
 UTXは世間からヒールの烙印を押されるのはほぼ確実。
 雪姫ちゃんはそれなりに人生うまく立ち回ってくれるかもしれないけど、
 朱音ちゃんやリリーちゃんが後ろ指さされることを私は耐えられない。
 絶え間なく浮かんでくる自分自身の嫌な想像に首を振りながら思い悩む、
 自分のせいじゃない、自分に類は及ばないと考えて、
 形振り構わず廃校阻止のために動けば恐らく願望は叶う。
 でもそれは本当に正しいことなの?
 そして何より、廃校を阻止して輝かしい結果を残したμ'sは
 ――私たちは過去に本当に幸せになることができたの?
 できていないからこそ今があるのではないの?
 
 思考の渦に飲み込まれ、鬱々とした私に
 ヒナが体をめいいっぱいに使って顔を抱きしめてくる。
 下世話な話で恐縮ではあるけれど、
 コレが男性が幼女に抱くバブみという感情なのかと思った。

「絵里はいつだって自分ひとりで問題を抱え過ぎなのだ」

 後頭部のあたりを優しく撫でられ、
 相手は小学生かっていうくらいあれやこれや小さいのに
 聖女か何かに抱きしめられるよう、
 あふれる母性に身を包まれるような感覚を抱く。
 まるでおばあさまに抱きしめられているみたい――
 などと言うとヒナに殴り倒されるかもしれないけど。
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/10(日) 07:56:55.21 ID:8vNeOyBm0
 ヒナは小さかったり大きかったりするけど、
 分岐の条件は私と高校時代に仲違いするかどうかにかかっている。
 ツバサなんかはヒナはでかくなる要素があるのに
 自分は高校時代から身長据え置きじゃねえか、解せない、
 と愚痴ることもあった。
 男体化したときは大きかったから良いじゃないとフォローしたら、 
 嬉しくねえ! と膝蹴りが顔に飛んできた。
 
「考えてばかりでは何も始まらないのだ。
 人を変えるためには常々自身が行動することと絵里も言っていたのだ」
「ヒナ……」
 
 彼女と仲違いをしていない世界は、 
 なぜかは不明だけど絢瀬姉妹が二人して幸福なパターンになるケースばかり。
 ただ、大方他の誰かがやらかすので、こうしてループするんだけど。

「考えるのは自由だと近世では認められているし、
 考えて行動をするのは人として当たり前なのだ、人間は考える葦。
 思想の自由は日本国憲法でも保証されてる
 でも、あれこれ自分で考えるのは自由だけど、
 人に考えたことを押し付けるのは思想の自由を害しているからいけない
 だから、絵里も話半分に聞いてほしいのだ
 
 何も私がこうしたほうが良いと言ったからって、
 そうしなくていい、だけど、私は絵里が”こうしたほうが良い”と思うから
 たとえ、絵里から嫌われたとしてもあえて言うのだ
 
 絵里がいつでも模範として、こうでありたいと願った姿は
 考える前に動いちゃう人じゃなかった?
 
 可能性を感じたら ススメって ――きっと、その人もそう言うと思うのだ」

 行動を伴わない理想論はいつだって耳馴染みが良い。
 人として正しい道を進むよりも、自身にとって都合の良い話のほうが、
 信じてしまいがちになるからこそ、人は誰かに騙される。
 こんないいことがあります、あんないいことがありますと
 メリットばかり謳う人間はたいていが詐欺師である。
 私が信じた道は、正しいと思う道程は、
 どんなに諦観にまみれてしまったって諦めきれずにいたのは、
 穂乃果が廃校を阻止するために立ち上がり、
 見事に願望を叶え、ついでに私自身も改めさせてくれた姿を見たからではなかったか。
 強い願いを持ち、理想を持って行動をし、希望を叶えた姿は、
 私の心に強く焼き付いて離れない。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/10(日) 07:57:23.85 ID:8vNeOyBm0
 ――ただ一つ訂正を加えるなら、
 その歌詞のイメージモデルは穂乃果かもしれないけど、
 実際に書いたのは海未だから
 その理論に従って動いてしまうと、海未が色んな意味で悦んじゃうから自重。

「そうね、人を動かすのはいつだって行動……
 考えるのはいつでもできる、その前に動かないとなにも変わらないわ」
「うん!」
「ありがとうヒナ、あなたには”いつだって”大事なことに気付かされてばかり
 手始めに感謝の気持ちを行動に示して
 頬にチューでもしていい?」
「構いませんよ?
 地獄に落ちていいのならばいくらでも
 ただ小学生に例えられても問題のない女の子にそのようなことをするのは、
 ここの”姉さん”はずいぶん年下にストライクゾーンが下がりましたね?
 少々ロリ化している私は身の危険を感じてしまいます――」

 久方ぶりに聞く妹の声はずいぶんと険があり、
 地獄におちると言うより、私自身を地獄に叩き落すような
 冷徹かつ、陰険であり、悪魔的、堕天使のよっちゃんも(笑)レベルになっちゃう。
 懐かしい亜里沙の姿であるとか、 
 多少声もロリ化していることも手伝い、
 涙がでるほど嬉しいという感情が拭い去れない。
 恐怖も感じているし、
 チューしようがしまいが地獄に落とされるであろうので、
 恐らく嬉しいという感情が目から溢れているんだと思う、
 もしくはコレは心の汗、怖いじゃない、慄いているんじゃない。

「ヒナ、ありがとう――
 私はひとりじゃないって気づいた、
 たとえ孤独であっても支えてくれる人がいるんだって思えた――
 お別れが近くても、この世界から消え去っても、
 後を任せられる人がいるって気がついて、信じることができた。
 明日の私は存在しないかも知れないけれど、
 あなたを信じて私は逝ける――
 こんな気持ち初めて――もう何も恐くない!」
「理亞に聞かれたら殴られるだけではすみませんよその台詞、
 しかも、彼女から聞くに今とシチュエーション変わりませんよね?」

 ヒナを背後に隠しつつ、
 お風呂場のシーンだからR15くらいで済むかなあって思ったけど、
 エロゲーもそうだし、お風呂場っていうのはだいたいR18になっちゃうわね?
 まあ、おそらくはR18というより、R18Gなんだけどね?
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 14:19:27.26 ID:LyFNNReKO
もう何も恐くない!はアカンフラグや…
本番シーンの前のちょっとしたジャブで全裸立ち絵お披露目みたいな事が多いよね>お風呂シーン
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/11(月) 07:32:28.21 ID:zpKmHmpT0
ヒナちゃんもどのルートでもなかなかのキーパーソンっぽい
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/11(月) 19:08:52.84 ID:F0bT+rlj0
 元パートナーであると呼称すると、
 まるで過去に恋人同士であったかのようではある。
 絵里があまりにも妹っぽい、放っておけないタイプと言っていたので、
 ついつい私も構いすぎてしまった過去はあるけれど。
 なんとも悲しいことに彼女はずいぶんと背が高くなってしまい、
 そんな意図はないにせよなんとなく見下されている感がする。
 能力の高低の差ならば断然私のほうが高いのに、
 背が低い私がそのことを告げると負け惜しみのようにも聞こえる。
 朝日ちゃんはそんなことはないんだろうけれども、
 本当にそうではないか疑わしい側面もないではないけれど、
 あまりに追求してしまうとチビの僻みとしてまとめブログに書かれてしまう――
 何がない三人組とは言わないけど、
 矢澤にこ、綺羅ツバサ、鹿角理亞の三名は色々足りない三人組として有名だった。
 絵里にそんなことを言えば、今は私もよ! というに違いないけど、
 その失言でニコさんに殴られないことを願いたい。
 ある人間にはない人間の気持ちがわからない――
 お金、美貌、様々なものを持ち合わせている人間は、
 ふとしたきっかけでない人間の逆鱗に触れることがある――

「うーん?」

 秋葉原駅前であんじゅと待ち合わせている。
 旦那を探しに行くとご結構な目的で私と袂を分かったけれど、
 気の置けない親友でもあり、非処女が確定している人でもある。
 絵里はμ'sで男性経験がないのが真姫と自分くらいで肩身が狭い――
 と言っていたけれど、絵里の周囲にいる人間で彼女への好意が激高な面々は
 たいてい処女で統一されている、処女厨もびっくり。
 唯一黒澤ダイヤさんだけが旦那がいるという話で、過去のループでは
 絵里と一緒に結婚式にも参列したことがある。
 A-RISEでは私だけが呼ばれ、後日にその時の写真をあんじゅに見せたら 
 この写真を絶対に英玲奈に見せるなと厳命された。
 確かに旦那というより、ダイヤさんの妹にも見える彼を英玲奈にお披露目したら、
 もしかしたら私の妹にしに行くと彼が寝取られていたかもしれない、くわばらくわばら。
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/11(月) 19:09:25.87 ID:F0bT+rlj0
「そういえば……朱音さんが私の弟を苦手にしていたわね?」
「トラウマを思い出すそうですよ? 詳しい経緯は聞けずしまいでしたが」

 あんじゅに彼氏がいたという事実は私にとって驚くに値しないけれど、
 英玲奈の元カレの話は私も絵里も知らない話のはず。
 あの妹バカである彼女に彼氏がいたという事実は自分にとって闇が深い案件だけど、
 りんぱなの元カレより闇の深い案件は恐らく存在しないと思われた。
 ネタにできるレベルの範疇を越えており、真姫さんが男なんて! という思考に至る要因でもあり、絵里でさえ口を滑らせない。
 そんな凛さんに結婚運が高まっているとつい口にしてしまった希さんが、
 彼女の評価が低いのは――まあ、私が触れる案件ではない。
 
 待ち合わせまで時間があったので、
 UTXのオーロラビジョンを見上げてみたりもする。
 ALSTROEMERIAの三人が過去の私達のように大々的に宣伝されており、
 披露されている楽曲のレベルはおおよそスクールアイドルレベルではない。
 彼女たちの歌っている曲が主に絵里が最終的にボツにした曲の流用であるのは、
 三人のクリエイターとしてのスキルのなさを表しているかもしれない。
 ただ、そんな絵里が大好きな三人もにこにこナースだけは歌いたくなかったのか、
 それとも歌っても披露できないのかはわからないけれど――
 おそらく過去と同じように彼女たちもSUNNY DAY SONGを引っさげ、
 Aqoursの前に立とうとするに違いない。
 あの時と違って目の前に絵里がいる可能性がある中、
 SUNNY DAY SONGを披露できるかは半々……いや、8割無理だと思われた。
 朱音さんは平気かもしれないけれど、少なくとも雪姫さんは
 μ'sの代替要員としてSUNNY DAY SONGを披露することは許せても、
 自身の楽曲としてあの曲を歌うのは絶対に許されないと考えるはず。
 エヴァリーナちゃんも何を考えているかわからないフシがあるけれど、
 雪姫ちゃんに同調すると思う、秋葉原でμ'sが起こしたイベントを模した際に
 絵里の許可を取って披露する可能性ならあるかもしれない。
 よほどAqoursが彼女たちの逆鱗に触れ、
 絶対に叩き潰してやるという強い意欲にでもかられない限りは、
 恐らく彼女たちはそれほど敵にはならないと思われる。
 雪菜がいる虹ヶ咲か、オトノキがスクールアイドルをやるとすればそちらの方が、
 よっぽど警戒するべき対象である。

「しかし、UTXに綺羅ツバサがいるのに
 サインの一つもねだられないわね?」
「その絵里さんみたいな発言のせいじゃないですか?」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/11(月) 19:11:02.98 ID:F0bT+rlj0
 UTX出身のスクールアイドルとして華々しい活躍を見せ、
 卒業以降はトップアイドルとして君臨し、
 誰もついて来れねえから! 実力が違うすぎるから!
 みたいな理由で半強制的に引退させられた。
 いつか絵里や理亞さんを伴って下剋上をしてもいいけれど、
 おまえの自由に絵里を巻き込むんじゃないみたいな理由で英玲奈にたしなめられるか、
 お願いだからやめて欲しいと亜里沙さんに言われるか。
 記憶が戻った彼女が絵里にどんな仕打ちをするのか楽しみだけれど、
 見てはいけないような気がしてヒナ共々置いてきてしまった、できれば生きていて欲しい。

「だって、綺羅ツバサなのよ?」
「アーサーなんだぜみたいな言い方やめてもらいます?」

 絵里が壁に叩きつけられてそのまま目を開けたまま事切れるのを、
 亜里沙さんが必死になって目を開けてください! 
 と言っているさまがありありと想像できる、殺ったのはあなただけど。
 先程まで絢瀬絵里っていういかにも日本語が不自由そうな人間が
 下ネタやエロネタで私と会話をしていたので近づき辛いのかと思いきや、
 朝日ちゃんが言うことにはスクールアイドル時代を含め、
 芸能活動をしていた私とはあまりに人格が違うため、
 同一人物だと思われていないのが原因であるものらしい。
 過去に絵里もなかなか自身のことを認識されないと悩んでいたけれど――

「仕方ない、サイン! 売るよ!」
「ガンダム売るみたいに言わないでくれます?」
「月は出ているか」
「残念なことに曜さんの知り合いに月なる人物はいないそうですよ?」

 絵里くらいしか反応してくれなさそうなネタまで
 朝日ちゃんはしっかりとフォローしてくれる。
 サラッと言われてしまったけど、静真高校の件はAqoursにとっても都合が悪いらしく、
 2割弱善子さんの意向が反映されているこの世界にもやはり存在しないものであるか。
 一体どこからどこまでラスボスちゃんが世界創造に関わっているかは不明だけど、
 絵里の胸が縮んだことを把握していなかったあたり、
 やっぱり他の誰かしらの意志が反映されての結果だと思われた。
 だいたい想像はつくし、未来組が口出ししてこないことを考えれば、
 そうであるんだろうなあ……胸の無さは彼女にとってのコンプレックスの一つだったのかも。
 ――私から見れば、贅沢な悩みだと思うし、
 なにより、彼女に失言かまして、次の世界にループしないことを願いたい。
 私がしなくても絵里がするであろうことは容易に想像つくけれど。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/11(月) 19:19:52.09 ID:F0bT+rlj0
今回更新分から立て続けに番外編となります。
次と次次回更新分が綺羅ツバサ視点での話になりますが、
原文が半分くらいしか行っていないので、今週がツバサの話になる可能性があります。

その次はかよちんこと小泉花陽視点
「淡島ホテルでのできごと」

その次がエマ・ヴェルデ視点の
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会結成日誌 優木せつ菜フラグその1」

園田海未ちゃんが出る予定だった話がいつ更新分だったかな?
と振り返ったら3月3日更新分の後の話で登場する予定で、
今が11日……もうそろそろ沼津駅で干からびているかもしれない――
かよちん視点の話にて、穂乃果ちゃんあたりが、
あれ海未ちゃん、十千万に行ったんじゃないの? 絵里ちゃんの迎えは?
みたいにいう小ネタになる可能性がありますが、
ちゃんと海未ちゃんルートなんです……千歌ちゃんは準主役……。

では、また次回です!
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/11(月) 22:26:38.27 ID:Ksjmn/zcO
アクア=水(海)だからAqours結成の話は実質海未ちゃん√!みたいなオチにならない事を祈るw
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/13(水) 19:12:18.69 ID:C0VndK7a0
 絢瀬絵里という人間は誰かにとっての評価の高低の差が激しい人物でもある。
 当人は不当に低評価を続けており、その説得には困難を極める。
 私が過去のループにおいてアイドルをやっていた時代にも、
 μ'sというのは自分のあこがれであるとは常々言っていたし、
 その中でも絢瀬絵里っていうのはとんでもないやつでね?
 と、確かに身分不相応に高い評価を下していたかもしれない。
 ただ、そんな私自身のすごい人という評価よりも、
 綺羅ツバサなんぞと付き合いがあるμ'sの絢瀬絵里は超人――
 という英玲奈やあんじゅの評価の方が信憑性を高く謳われていた気がする。

「あー、直接すごいというよりも
 アイツはすごいんだなって結果を示したほうが分かりやすいじゃないですか」
「別に私自身の信頼度が低い結果ではないのね?」
「申し訳ありませんがそれもあります」

 英玲奈やあんじゅが周囲の芸能関係者から評価が高く、
 実際食いっぱぐれることがないのだから、リーダーとしては喜んでおきたい。
 リーダーはメンバーを尊重してこそ輝きを放つものである。

「亜里沙さんからの評価も高いじゃないですか
 ただのシスコンが過剰に評価してた疑惑がありますけど」
「うん、一部分聞かなかったことにしておくわ?」

 あまりにも的確かつ、
 あまりにも真実を捉えている気もする。
 彼女の妹である亜里沙さんは、
 Re Starsであるとか、絢瀬絵里当人のプロデュース業では
 感情が先走ってしまうのか失敗ばかりではあったけど。
 なんであんな人がというハニワプロのアイドルがたまに出てくると
 亜里沙さんが口を出していたりするので、芸能関係者は常にヤキモキしていた。
 最初のうちは亜里沙さんの発言を聞いて殊勝な態度を取るアイドルたちも、
 売れ始めてくると反発するのが常のパターンであり、
 仲良しの月島の方の歩夢さんであったり、聖良さんであったり、理亞さんであったりが、
 売れている街道を進んでいったのは、ちゃんと彼女の言を聞きつつ、
 聞かないべきところをきちんと自身で考えてわきまえていたからである。
 亜里沙さんは調子に乗り始めるとアイドルの絢瀬絵里化を目指すようになり、
 ハイハイ分かりましたと流せる人じゃないとそもそも付き合いが長続きしない。
 SaintMoonの二人の引退を早めたのが妹さん疑惑が私の中であるけれど、
 とりあえずその考えは墓場まで持っていくことにする。
 そういえば、今更ながらに彼女は略すと”SM”なんだけども、
 聖良さんがMなんだなって――月島のMoonだと思ってたんだけど……。
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/13(水) 19:13:10.76 ID:C0VndK7a0
「凛さんも本人の前では低評価を謳ってましたね?」
「複雑な乙女心なのよ……」
「あの界隈女の子が女の子を推してばっかりですね?」
「妹が姉を推し……あ、なんでもない」

 凛さんが絵里をイマイチ評価していないふうであるのは、
 彼女が一番に推す園田海未さんが輪にかけて絵里を推しているせい。
 実際とばっちりではあるんだけども、
 私からすれば星空凛から観た絢瀬絵里評は実に的確だと思われる。
 売れっ子タレントとしての人生経験上として考える趣もあるけれど、
 彼女の影の支配者にしてパートナーの小泉花陽さんの意思が強い可能性もある。
 過去に真姫さんがブチ切れた”絵里をうまく使おうとすると使えない”
 との発言は実に的確であったと思うんだけどな……。
 
「ニコ……朝日ちゃんはニコさんとの付き合いは?」
「そうですね……先生との付き合いはあまり
 売れっ子というのもありますし、幸せな環境で記憶が戻るのも悪いですし」
「お父さんがあんなにイケメンだとは……」

 UTX出身のスクールアイドルの実力の底上げに一役買っていたニコさんは、
 いかんせん指導した人間が多すぎて外れたり当たったりするケースが有るのか、
 正当に評価を受けているケースが少なかった人。
 μ'sの面々の中でもトップクラスに成功している人なのに、
 自分は出落ちみたいなものだからと自己評価もそれほど高くない。
 その点においては絢瀬絵里と矢澤にこさんはよく似ている。
 今では家族揃ってテレビにも出演をしていたり、
 美人姉妹(長女除く)みたいな評判もなくはないけれど、
 芸人をしているという点ではプラスになっていると思う。
 長女除くもあれだけど、一番下は弟であるという事実が、
 どれほど浸透しているか怪しい。

「ことりさんは……怖くないですよね?」
「……あくまでもぴゅあぴゅあ」

 過去には絢瀬絵里だけではなく、
 私や理亞さん、はてには絢瀬亜里沙さんやメンバーの同士である希さんまで
 鬼! 悪魔! ことり! ――あの事務員さんって別に課金要求しないよね?
 絵里が夢で魘されている現場を観たことが数度あるし、
 怖い人疑惑は私の中で未だに拭えない。
 が、ことりさんをよく知る海未さんからすると、
 パリで付き合っていたデザイナーの知り合いが、
 性格がブラックだったせいで生き残るためにはその影響を受けざるを得なかった
 のが正解であるらしい。
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/13(水) 19:13:38.36 ID:C0VndK7a0
 メイドさんを連れて授業に取り組み、学院をたいそう優秀な成績で卒業し、
 誰もが知る有名デザイナーとして私も名前だけは良く知っている。
 外見的にあまり露出できないとは聞いているけれど、声はあんじゅに似ているらしい。
 そんなことりさんもなんやかんや言って絵里の評価は高く、
 海未さんや穂乃果さんが高く買っているから私は評価しないというツンデレ――
 な側面もなくはないけれど、本人に伝わらないように本人を評価している。
 なお、朝日さんが怖がっているのは、
 私とタッグを組んでアイドルとして活躍し始めた時に、
 衣装を提供してくれたんだけど、名前が気に食わないって言って
 多少辛辣な態度を取られたから。

「真姫さんは……今大学生なんだっけ?」
「そのようですね、てっきりもう声優になっているかと」
「コスプレもオタク趣味も控えているみたいね、
 元から真面目であった疑惑は無いこともないけれど」

 絵里に評価高くいたいがために自身の感情をど返しして
 キャラを演じる面々というのがμ'sには存在する。
 希さんなんかもそうであるし、海未さんもそう。
 真姫さんも明るくおちゃらけた下ネタオーケーキャラを演じ、
 それ故に絵里からの信頼度も抜群だった。
 ただ彼女にとって迷惑をかけられない妹的な立場であることも手伝い、
 それがお嬢様にとってはたいそう不満であった模様。
 未来組からマザーって呼ばれている事実と、
 過去において絵里になにかあって命を落としたりすると、
 絢瀬絵里を作り出そうとすることから、
 絵里があまり迷惑をかけないようにしたいという思いは的確。
 ただ、絵里に何かあれば絵里みたいなアンドロイド作ろうとするから交流は避けろ
 なんて口が避けても言えない。
 西木野真姫さん当人は自己評価があまり高くなく、
 人気もそんなにないしなーみたいな言い方をすることがあるけれど、
 彼女の強烈なシンパである桜坂しずくさんは影響を色濃く受け、
 弟のことを粗チンと呼んだりするケースもしばしば。
 どこまでが演技だかわからないあたり深窓のご令嬢のストレスの闇は深い。

「まあ、絵里を持ち上げると絵里は疑うからそこそこでいいのよ」
「ツバサさんとかがソコソコ具合に持ち上げているかと言うと、
 私はつねづね疑……あ、なんでもないです」
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/13(水) 19:14:13.92 ID:C0VndK7a0
 ついつい表情が険しくなってしまったみたい。
 アイドルというのは笑顔が大事だとニコさんも言っていたし、
 作り笑いする技術は絵里共々学んでおかないと。

「……なに?」
「本当に絵里さんのこと大好きですよね」
「ばっ、違うし、ちょっと気になるだけだし!」

 腐れ縁具合を考えれば、ちょっと気になるの範疇は軽く越えている。
 朝日ちゃんはニヨニヨと言った感じの――とても不愉快な、
 恐ろしく気持ち悪いと評しても良い笑みを浮かべながら、
 いやいや分かってますよみたいな態度を取る。
 今まで英玲奈であるとか、あんじゅであるとか、
 私と仲が良い面々が絵里のことを考えてる私を見た時に
 あー、もう、みたいな笑みを浮かべることがしばしば。
 とても不愉快で残念ではあるけれど、
 絢瀬絵里も脳内で高確率で私のことをネタにしているらしく、
 いい加減結婚でもして同性婚の前例を作れと英玲奈には脅されている。
 同性かつ妹と婚約したいドシスコンはそんな無茶ぶりを振ってくるけれど、
 恐らく遠い未来でも妹と結婚できる法は作られないと思われた。

「この天才綺羅ツバサと対等に付き合えるのが
 絢瀬絵里しかいないから仕方なく付き合っているの」
「絵里さんくらいしかツバサさんと付き合ってくれないし、
 互いにそうだから傷の舐め合いしているだけですよね?」
 
 私はこめかみ辺りに感じる頭痛を指で抑えながら押し黙る。
 栗原姉妹ともなんやかんや言って長い付き合いではあるけれど、
 この二人はヒトの耳に入れたくない、目にしたくない事実を伝えてくる。
 ロリ化したヒナは情に厚い性格をしているせいか、
 そういう側面はないのだけれど。
 絵里が栗原姉妹を性格が良くて優しいと言っているけれど、
 私は常々、いい性格している姉妹だなって思っている。
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/13(水) 19:15:02.53 ID:C0VndK7a0
「Aqoursは大丈夫ですか? 千歌さん歪んでません?」
「見た目はね。
 感じた限りでは記憶が戻ることそうでない子がいそう」
「善子さんの意志ではなさそうですね?」
「そうね、黒澤家のお姉さんがもう既に絵里を怪しい目で見ている以上――
 というより、三年生組はもう既にだいたい把握しているよね?」
「ダイヤさんは素晴らしい演技者ですね、旦那さんの影響でしょうか」
「あの子の旦那って妹みたいに可愛い子よね?」
「え、あ、ツバサさんあの人のこと知らないんですか? 
 だって英玲奈さんの元カレですよね?」

 恐ろしく驚いたと思う。
 あまりに驚きすぎて自分自身が驚いたという感覚がないくらい。
 統堂英玲奈に彼氏がいたという事実は私も知るところではある。
 しかしながら、園田海未さん、東條希さんと言った面々が
 彼氏がいると嘘をついていたため、
 あのドシスコンが男性に抱かれることなんて無いから、どうせ処女なんだろう、
 とばかり考えていた。
 朱音さんが私の弟に拒否反応を示すのは幼なじみで昔付き合いがあった――
 というわけではなく。
 
「英玲奈の元カレって……朱音さんと同じ格好させられてた人でしょ?」
「……ダイヤさんの旦那様は亜里沙さんと同じ年でしたね?」
「英玲奈が彼氏がいるって言ったのはハタチ前だから……あ、うん」

 まだ小学生で幼かった朱音さんが、自身に優しくしてくれたお兄さんの格好が、
 自分自身と同じであったことがかなり恋愛方面でのトラウマになっている模様。
 そりゃ、優木せつ菜化した弟に拒否反応も示すのも分かる。
 しかしながら、英玲奈とその彼氏さんとの付き合いは半年くらい続いたので、
 絵里に熱烈な愛情を向けるダイヤさんと付き合うくらいは訳がなさそう。
 朱音さんには菓子折りを送って、ダイヤさんには彼氏との生活を聞いておこう。
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/13(水) 19:24:25.94 ID:C0VndK7a0
次回更新分からかよちん視点のお話に行きます!

このアラ絵里においてほのぼのを続けるには、
絢瀬絵里と綺羅ツバサの両名が出てこないと
そちらの方面に傾く気がします――

ストーリー的にはあんまり深部に行く話ではありませんが、
楽しんでいただければ幸いです。
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/13(水) 20:37:44.80 ID:z6kf1uK2O
統堂姉妹も闇が深いな……ダイヤと英玲奈の遭遇イベント発生したらどうなるんだろう
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/13(水) 21:50:01.96 ID:afKVJ2miO
海未ルートなのにこんなこと言っていいかわからんがなんか絵里が唯一幸せになれそうなのがツバサルートな気がする
気のせいだとは思うけどお前らはやくくっついちゃえよ
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/13(水) 22:20:09.67 ID:Fy1piSDF0
花陽が言ってたのは使えても役に立たないじゃなかったっけ
どういう意味で言ったのか謎だけど無能扱いしてるように聞こえた
理亞ルートでは絵里に協力するって言った後海未に協力してたりこのSSの花陽はなんか印象良くないし悪いけど次のエピソードはスルーかな
しばらくしたらまた読ませて貰います
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/13(水) 22:53:25.15 ID:ijYTCQL8O
その辺はまあラブマジPVのリボンの件とか憧れのツバサさんがぞっこんだとかで思わず愚痴っぽく出た言葉なんじゃないか?
酔って出た本音だとしたら何を根拠に言ってんだと思わなくもないけど
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/14(木) 10:50:29.48 ID:IUIZfNdfO
色々意見あるけど俺は>>1が書きたいものを楽しみにしてるからなー
頑張れー!!!
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 18:38:21.40 ID:VgmpwgPR0
コメントを頂いて自己を振り返り、
荒れた雰囲気になりそうだから公開を控えようと考え、
書いた作品を出し惜しみをするのは止めようと思いました。

実は前回更新分のツバサの話には続きがあり、
作者的には彼女の特大死亡フラグ宣言だと思ってますが、
回収される見込みはありません、あの人は作者が想定していない場面でも
勝手に出てきて会話の主導権を握る人なので。

そんなツバサさんの話ではなく、
書いた以上は責任を持って公開し、
改められるものは改め、この作品を続けていくと宣言するとともに、
今作品によろしくお付き合い頂ければ幸いです。

次回更新分はツバサの番外編および、
小泉花陽視点のお話。
花陽視点と謳って良いものか戸惑いますが、
原文ではどう考えても真姫ちゃんが主役に見える――

覚悟を決めて最後まで書き上げられればと思います。
楽しんで頂ければ幸いです。
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:53:39.98 ID:VgmpwgPR0
「千歌さんは……おそらく、歪んだキッカケが起こりえないので
 大丈夫なんじゃないですか?」
「キッカケ? Aqoursが廃校を回避できなかったからじゃないの?」
「え? だって聖良さん知ってましたよ?」
「いやに聖良さんが千歌さんをドライに見捨ててるなとは思ったけど……」
「言っておきますけど、その理由、ルビィさんが絵里さん嫌ってるとか
 そんなのが甘っちろく感じる理由ですからね?」

 過去の絵里はルビィさんに苦手にされても可愛い妹であったらしく、
 二回殺されているにも関わらず、そしてどのループでも常に苦手にされていたのに、
 まあ、しょうがないわねで済ませている。
 行き違いがあったせいで理亞さんにも一回殺されているのに強い信頼をしているから、
 どこかしらおかしな部分はあるんだと思う、絵里も私も。
 ルビィさんが絵里を苦手にしている理由は、ダイヤさんも把握している通り
 嫉妬と逆恨みが主成分として含まれる。
 言い表すなら自分より努力をしていない(ように見える)絵里が、
 ダイヤさんとか善子さん、千歌さん以外のAqoursやμ'sのメンバーとかから
 強い信頼と友好的な感情を抱かれていることが気に食わないであるみたい。
 幼い頃からシスコンのお姉さんから大事にされすぎたせいで、
 自分自身より愛されている存在に関して敏感に反応を示すんだと思う。
 絵里は人間でものそういうこともあるわで済ませたけど、
 理亞さんは二度と日の目を見れないようにしてやろうかとブチギレた、そりゃそうだ。
 ただ、ルビィさんの過去のループにおいての行動は、
 彼女を煽って甘い汁を吸おうとしていた人間がいたこともあるし、
 そいつは善子さんにアイツだけは許さないと逆鱗に触れて以降どうなったかわからない。
 私達が元の世界に還ってくる時に姿がなかったから、
 絵里にすら見捨てられた可能性がある、ご愁傷様。

「千歌さんがああなった理由を善子さんに告げていれば、
 もっと仲良くみんなで過ごせる時間が増えたかもしれませんね……」
「……どのみちああなったのよ、あなたが責任を感じる必要はない」
「大好きだったんですよねえ……善子さんのこと……」

 恩義を感じている千歌さんをなんとかしたい、
 というのがキッカケだったとは思う。
 桜内梨子さんが人実に取られたからとか、ダイヤさんが脅迫されたからとか、
 仕方ない部分はあったにせよ、結論づけたのは千歌さんへの低評価。
 全人類の敵に回ろうともその願いが叶わないことに動揺した彼女が、
 花陽さんや理亞さんにせっつかれて
 μ'sのメンバーを消し去ろうとしたのを思いとどまってくれた。
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:54:57.88 ID:VgmpwgPR0
 絵里や希さんに関してはそうせざるを得なかったのでしょうがない。
 ただ、もう既に退場させられていた私であるとか朝日ちゃんもそう、
 あんじゅとか雪穂さんとか月島の方の歩夢さんもそう。
 私やあんじゅや絵里が世界から存在しなくなって弟がどれほど落ち込んだかを考えると、
 確かに彼女を許せなく思う側面はあったりもする。
 朝日ちゃんが言う通り、私も善子さんを好ましく思う部分があったし、
 絵里も善子さんへは守りたい人扱いをしていた。
 ただ彼女のチョンボは世界から退場させ存在を抹消させられるけど、
 元には戻せないという点であり、
 朱音さんがなんとかしなかったら私は退場させられた面々と
 仲良く酒を飲んでいた可能性がある。
 天国みたいな場所だったんですよ?

「千歌さんがああなったのは――
 高坂穂乃果さんが幸福な状況でなかったからですね」
「え? だって、それは」
「Aqoursの活躍によって穂乃果さんが問題を抱えたのは知っています
 千歌さん自身も精神的にパンクして、それでも最後に
 憧れてた穂乃果さんが幸せならば――
 もう、その時点で彼女がどうかしていたんだと思います」
「まさか、”あの時”の穂乃果さんを見てしまったの?」
「……ツバサさんは知っていたんですか?」
「あ、ごめんなさい、私も人づてにしか聞いたことがないの
 誰もが、あの時穂乃果さんを助けておけばって――そんな後悔をしてしまう、
 そんな状況に陥った穂乃果さんを見たって」
「絵里さんは――」
「観たであろうとは推測している
 ただ、観たという記憶を既に持っていない、
 おそらく、そんな状況に陥った穂乃果さんを観たら、
 絵里はもうどうにかなってしまって――」

 いや?
 もしかしたら私の認識する絢瀬絵里という人間は―― 
 もうすでにどうにかなってしまっているのでは?

「ちょっと考えさせて」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:55:25.21 ID:VgmpwgPR0
 朝日ちゃんに告げる。
 あの時、ルビィちゃんに背中刺されて死んだ後のループで、
 いやぁ、また殺されちゃったなあとサラッと言ってた。
 あの時のニュアンスとしては黒澤ルビィさんに殺されるのが二回目ではあったはず。
 でも、以前のループで西園寺雪姫ちゃんがルビィさんに関してはそこまで警戒していなかった。
 どちらかと言えば、理亞さんや千歌さんの二人を気にしていたはず。
 理亞さんに関しては絵里の意思を曲げてまで入れ替わり好感度を上げ、
 聖良さんとの交流は歩夢さん退場後に彼女が接触するまで控えられた。
 絵里が聖良さんのような態度で理亞さんの好感度を上げようとすると、
 特大の死亡フラグが立ってしまうし。
 そういえば絵里がきれいと称する彼女になったのは、記憶にある限り以前が最初。
 完璧に美少女化するまで多少の変遷はあったけど、
 絵里のことを何でも許してしまうところまでは行っていなかった――

「……あんじゅさん、ツバサさんいつ気が付きますかね?」
「背中にセミでもくっつけておきましょ」

 なんだ? 誰かではない何かの意思――
 それが私にも、絵里にも、理亞さんにも――
 もしかしたら人類の誰しもが
 何者かの都合の良いような世界を作り出すために
 こうしてループを重ねている?
 絵里が未来に進むためではなく、その誰かの意思によってループが?
 なら私は――
 


「園田海未ルート番外編 淡島ホテルでのできごと」

 凛ちゃんや真姫ちゃんと一緒に淡島ホテルでμ'sの再結成会!
 何ていう話を穂乃果ちゃんが言って、
 トントン拍子に話が進んでいった時に、
 正直私は不安な気持ちでいっぱいになりました。
 μ'sが9人揃って集まる機会というのは好ましく思うのです。
 でもそれが、Aqoursのお膝元である静岡の淡島ホテルで行わなくても――
 なんて考えてしまいました。
 穂乃果ちゃんの知り合いが居てたまたまその場所で行うのなら、
 私もこんなふうには考えたりしません。
 でも、黒澤ダイヤちゃんとか、小原鞠莉ちゃんが
 淡島ホテルでμ'sの再活動を始めて欲しいとお願いしたのなら
 Aqoursのためにそのように活動をして頂きたいと懇願されたとするのが当然です。
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:55:52.78 ID:VgmpwgPR0
 嫌だとも言い切れず、断る理由も思いつかなかった私は、
 凛ちゃんが”またμ'sが9人揃って活動ができて本当に嬉しい!”と、
 心底喜んでいる様子を見て、困ったように笑うことしかできなかったのです。
 ――思えば、その時に真姫ちゃんは確信を持って、
 私がもはや小泉花陽の体をしているだけの赤の他人であると気づいたのでしょう。
 いつからであったのか、
 そんなことは私自身でもわかりません、
 穂乃果ちゃんが元気を無くす様子を見て小泉花陽がもうすでにどこかしら
 精神に変調をきたしていたのは確実で――
 まだ機会はある、西園寺雪姫にも私が気づかれていない以上、
 大いなる意思のもと、あの方の希望するままに皆が過ごせる世界を作れるはず――

「真姫ちゃんはこの世界を地獄のようと言った
 でも、あの方の意思のままに生きることが地獄のはずがない
 間違っているのはあの子たち――

 ひとまず……さようなら花陽、あなたがもとに戻った時、
 あなたがあなた自身でいられる保証はないけれど、
 そこまで私が責任を持つ必要はない、あいつらは一人残らず地獄に落ちればいい」

 私自身が小泉花陽から離れる前に
 ほんの少しだけ過去の記憶を反芻してみます。
 どれほど自身が正しいか思索すると同時に、
 歪んでいる人達を見て笑いたい気分でもあるから――



 μ'sの一年生組が先鋒隊として淡島ホテルに到着し、
 歓迎されるのと同時に厄介事を押しつけられたなあという感想を抱きました。
 恐らく小泉花陽としては凛ちゃんと同じように、
 μ'sが9人揃って活動できて嬉しい! という気持ちもあるのでしょう。
 体面上は嬉しい気持ちを隠さずに居ますし、それを気取られるとすれば、
 もうすでに私の正体に気づき始めている真姫ちゃんだけ。
 彼女も確証を持てないであるのか、晒し上げる機会を待っているのか、
 それとも私に遠慮する気持ちもあるのか――
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:56:19.75 ID:VgmpwgPR0
 記憶が戻った当初にサシで飲む機会を作るなら一番最初は絵里と、
 なんて言っていたのですぐに私たちとの関係を解消し、
 無理矢理にでも記憶を取り戻させて仲良く付き合うくらいのことはしそうではあったのに、
 μ'sの一年生組で一緒にいることを選択しました。
 元からこの世界では大いなる意思のもと、ある程度の記憶操作が行われ、
 平穏かつ皆が幸福に過ごしていけるような配慮がされました。
 この世界における人類と呼ばれる存在が
 ”何故こうであるのか”
 ”理由があるのではないか”
 ”意図があるのではないか”
 深く考えず意味よりも単語の力を強く尊重し、何も考えず生きていけるよう――
 人間は群れで集まった所で意味はなく、誰かの意思のもと飼い犬のように過ごしていけば
 なんら不自由なく過ごしていけるのです。
 そのような世界を作ったつもりであるのに。  
 大いなる意志の嘆きが聞こえるようです。
 
「凛ちゃんはお留守番なの?」
「ええ、過去のお話をするのに差し支えがあるでしょう?」

 この様子ならば星空凛という女の子が記憶が戻らない組に所属していることに
 まったく気づいていないのでしょう。
 いかに過去の話をしたところで夢物語としてしか判断しません、
 考慮が仇になるのは真姫ちゃんのダメなところでもあります。
 私が敵だと判断をしているのならば最初から消しにかかればいい、
 もうすでに小泉花陽としての意思が存在しない以上、遠慮する必要はないはず。
 人間の甘さと言えばそれまでですが、
 ゆえにやはり人間は管理されていかなければならない。

 ホテルのバーに向かい、
 VIP向けの個室にて私たちは対面しました。
 人払いでもされているのか、なにかに警戒でもしているのか。
 人間がどれほど集まった所で何ができるわけでもありませんが。
 警戒にあたっている方々にはご愁傷様という言葉を送っておきましょう。
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:56:46.64 ID:VgmpwgPR0
「一つ確認するけれど、あなたは私の知っている小泉花陽であるの?」

 確信をしている風ではあるけれど、
 お酒の席ということで少しばかりアルコールが入り、
 耄碌した発言をしているとこちら側が判断してもいい。
 そのように発言をすれば違うと否定しつつも、
 花陽の意識が残っていると判断して矛を収める可能性もある。
 コトを荒立てることは本意ではないし、
 私も少しばかり憂慮をしてもいい立場ではあります。

「私が知っている花陽なら、
 私とサシで飲もうといえば全力で回避するでしょう?」

 黙っていると彼女が話題を進め始めました。
 過去においてもそうであったと言われてしまうと、
 意識としては花陽の分も多少存在していたから、
 小泉花陽が西木野真姫との飲み会を避けているという事実が知られるところになる。
 彼女がどれほど意識的にμ'sのメンバーからお酒での交流を避けられているのか
 知らないと思われる、知っていたら私を誘ったりなどしない。

「人は変われるものだよ
 だからね、真姫ちゃんもお酒に弱いのが治ったと思ったの」

 カクテルを提供されたため仕方なくそれを口に含み
 正直酒の味なんか分からないけれど、飲まないでいるのは不自然。
 真姫ちゃんが望む通りの反応ができたと自負しているし、
 さぞかし納得のいった顔を――

「まずひとつめ、私の知っている花陽ならば、
 お酒を口にした後に本音は吐かない。
 絵里の前で酒の力を使って本音を吐いた見えるのは、
 そうであると判断されたほうが相手によく伝わると分かっているから」

 自分の手が止まりました。
 なぜかは分からないけれど、私が知る以上に彼女は小泉花陽を把握している。
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:57:14.71 ID:VgmpwgPR0
「ふたつめ、花陽は必要にかられない限りはポン酒しか飲まない
 私の前で遠慮をしてカクテルを飲むなんてことはしない
 私の知る花陽なら、分かってるでしょ真姫ちゃん――
 それくらいのことは遠慮せず言う。
 だって私たちは長い付き合いのある親友であるのよ?」

 どこまで私のことまで把握されている?
 ……いや、小泉花陽が変調を来たしている程度に受け止めている可能性がある。
 ループを重ねた末に人格が改められたり変化するのは
 彼女だって知っているはず。

「みっつめ、何故凛を止めなかったの?
 凛が辛い思いをするのであれば、花陽なら必ず彼女を止めたはずよ
 私の知る花陽は、私が想定する以上に誰のこともよく分かっている。
 自身が不幸になることを厭わずに、誰かの幸福を考えている女の子よ?
 絵里と花陽はよく似てる――そして今のあなたは、似てない」

 西木野真姫という人間が私を見ていることに気がついた。
 射抜くような視線を向けられて思わず怯えた。
 
「あなた、この世界はどう思う?」

 冷徹な視線を捨て、柔らかな表情と優しい声色。
 先程までの態度が演技であったかと疑ってしまうほど、
 仲のいい友人に問いかけるように尋ねられた。
 確かに慌てても仕方がない、私をどうこうできる存在は
 よもやこの場にいるとは思わない。
 ――そのとおりです。
 私に手出しができないのならば、冷静に対応するのが筋というものです。
 酒の席なら、彼女にお酒をすすめればそのまま沈むことでしょう。

「みんなが幸せになれる世界だと思うよ?
 だって実際に不幸なできごとって起こってないでしょう?」
「ええ、μ'sはラブライブに出場することは叶わなかったけど
 円満に終わらせることができた、穂乃果がトラウマを作ることもなかった」 
 
 彼女が大学入学当初に体験した有象無象の嫌がらせは、
 私が小泉花陽に介入するキッカケにもなりました。 
 誰しもが自身の不備を問うできごとでもあり、
 誰もが後悔をせずにはいられなかったという話でもあります。

「ことりちゃんや海未ちゃんも穂乃果ちゃんと要られて幸せそうだよね?」
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 20:58:03.10 ID:VgmpwgPR0
「ええ、二人は穂乃果の危機に居合わせることができなかったのが、
 かなり根深いトラウマでもあった――海未が千歌を相手にしたのは、
 穂乃果を助けられなかった代替手段でもあったと思う、
 意識的であるのか、もうそこまで考えられる精神ではなかったのか」

 この世界に至る頃のμ'sのメンバーはどこかしらにそれぞれ精神に異常をきたしていた。
 彼女たちはついぞ気がつくことはなかったようではありますが、
 μ'sが幸福に至れなかった現実がAqoursを狂わせたのです。
 津島善子という少女が暴虐的に世界改変に臨んだのも、
 μ'sが至らなかった故の結果であることに気が付かないのは可哀想でもあります。

「真姫ちゃんは何が不満なの?」
「この世界は地獄よ」

 何を言っているのかと思いました。
 彼女はお酒を一気に飲み干し、熱い息を吐きながらこちらに目を向け。

「幸せになれる世界? 馬鹿なこと言わないで
 この世界は地獄よ。
 まるでプログラミングされたみたいに幸福だって思われる事象が起こる。
 絵里たちがあんな両親から愛されている世界が幸福?
 ニコちゃんがアイドルやらないで芸人やってる世界が幸福?
 海未が穂乃果のお母さんみたいに世話焼いている世界が?
 ことりが夢を捨てて穂乃果の近くにいるのが?
 希が両親に何不自由なく育てられてずーっと秋葉原で過ごしていた世界が?
 穂乃果が仮面を貼り付けたみたいに笑っている世界が――!

 確信したわ、あなた――あなたとあなたの背後にいる人達は私の敵」
「あなたごときに何ができるというの?
 あなたが相手にしようとしているのは、
 そうね、あなたに分かるように言うのならば、神よ?」
「だから何だって言うの? 気に入らない存在なら、
 神であろうが喧嘩を売るっていうのが人間のお約束でしょう?」
「そこまで自信を持てる理由が私にはわからないけれど」

 でも、愚かな人間に慈悲を与えるのも
 大いなる意思の願いでもある。
 この西木野真姫が意思のもとに消されていない時点で
 ある程度の反逆は考慮のもとでもあるのでしょう。

「私の妹がいずれ成長を重ね、あなたたちを潰す」
「あら? 結局は人任せ?」
「でも彼女は先鋒、あなた方の場所に案内させるためのメッセンジャー」
「ふふ、わかった、今はひとまず引いてあげましょう?
 小泉花陽は返してあげる、でも忘れないで?
 私がいたからこそ彼女は今の今まで生きてこられていたという事実に」

 埒が明かないと判断し、私は彼女に背を向けてバーから出ていく。
 花陽が目覚めた時にそこらで寝転がらせていてはかわいそうであるから――。
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/14(木) 21:05:59.64 ID:VgmpwgPR0
小泉花陽視点といいつつ、
作者が犬って呼んでいるやつの視点で申し訳なく。
犬がどれまで犬の意思であるのか、
果たして理亞ちゃんルートでどれほど犬がかよちんに影響を与えていたのか、
そして真姫ちゃんが妹といったのが誰であるのかあたりを考えると、
犬にフラグしか立ってなくて早く回収したいところですが、
海未ちゃんルートやこの次の真姫ちゃんルートでは回収されません、とても残念です。

次回更新分は虹ヶ咲学園……と、思うのですが、
この雰囲気でエマ・ヴェルデさんや桜坂しずくさんと言った面々が活躍する話というと、
多少躊躇いを持ってしまうではあるので、
いったんエリち視点の話に戻る可能性もあります。
とにかく次回更新分を全力でがんばります。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/14(木) 23:28:49.50 ID:J6KMG3jyO
謎が深まる伏線回ってやつか、回収される日を楽しみにしつつ応援していくぜ
真姫ちゃんとツバサさんが協力すればあっさり解決しそうな…とはいかないくらい厄介な存在なんだろうな
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/15(金) 00:19:52.98 ID:VobM4q7bO
ガチガチなR-18G展開にならない限り追ってくから安心してくれ
>>1はもっと自分の作品に自信をもっていいと思うの
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/17(日) 19:55:24.55 ID:E7GNc9ru0
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 番外編 エマ・ヴェルデの憂鬱」

 国語の授業を受けていた時にふいに昔のことを思い出しました。
 とは言っても、何も幼少期のことを思い出し、 
 スイスの景色を懐かしく思考したわけではなく、
 世界創造の瞬間に立ち会うというなかなかレアリティの高い――
 そんな体験をしたことが記憶として蘇ったのです。
 数えるのがバカバカしく思えるほどの複数回目の高校三年生である自分に気づき、
 もはや幼なじみクラスに顔なじみになっている現国の先生の授業を、
 あ! ここ過去のループで体験したところだ! 
 と、進○ゼミで読みが当たった主人公みたいな感想を抱き、
 絵里ちゃんも記憶が戻ったらすごく苦笑しながら日々を過ごしているんだろうなあ――
 そんなふうに思うのです。

 過去には憧れ、恋愛のライバルのように思った絵里ちゃん。
 ライバルと思っていたのは私だけであり、実際には10くらい年が離れているから、
 彼女からすれば大きな(胸の話ではありません)子どもみたいな扱いだったはずです。
 自覚はないようですが雪菜の野郎も憧れと同時に恋愛感情を抱いている節があったので、
 交流の間は常にヤキモキをしましたが、
 仮に二人の仲が進展するような事態になれば、
 もっと早々に世界創造はなされたはずです。
 みんながラスボスと称して、確かにラスボスっぽく振る舞っていた津島善子ちゃんですが、
 シリアスに振る舞う中、私の胸に注目して思わずたじろぎ、
 その瞬間に現世とえいえんの世界(って呼ばれてた退場後の世界)を繋いで、
 絵里ちゃんやツバサさんと言った面々が還ってきたのですが、
 どんなμ'sの方々の説得にも耳を貸さなかった善子ちゃんが、
 私の言葉には「え、あ、はい」みたいな反応を示し、
 みんなからは渾身の説得だったと褒められるのですが、
 真実を知っている自分からすると心中は複雑でしかありません。
 その後に口を開いた雪菜の発言には善子ちゃんを感情をあらわにし、
 おまえ私ができなかったことをなぁ! と叫んで
 その結果Aqoursの三年生組の暗示が解けたんですが、
 できなかったこと=絵里ちゃんの胸を揉むコミュニケーションであり、
 雪菜が言った正論ではないということを私は知っています。
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/17(日) 19:55:53.38 ID:E7GNc9ru0
 ツバサさんであるとか絵里ちゃんであるとかあんじゅさんが退場して、
 完全にふさぎ込んでいた雪菜を早々に復帰させ、
 私と一緒に説得にあたってればあんな苦労をしなかったのではないか。
 そんなふうな思いを抱えてしまうのです。

 何度めかの高校三年生ということで、
 過去にエンドレスエイトという修行僧が見るアニメのシーンがあったコトを思いだします。
 修行僧ではなく視聴者なのでは? と私は疑問に思い、
 暇をしていた雪菜の胸ぐらをつかみあげ、 
 おめーの家に夜に行くから予定を開けておけや!
 と半強制的に徹夜アニメマラソン兼お泊まり会を実行させたのです。
 いちおうあんな外見をしているとは言え、生物学上は男性であるので、
 身体をずいぶんと身綺麗にしたものです。
 あまりに長くお風呂に浸かっているせいで、沈んでいるのではないかと
 母にもものすごく心配され、理由を白状して止められるのを危惧した私は、
 スクールアイドルで懇親会を! と嘘を吐いてしまいました。
 そういえば、あのループでは家族揃って日本に来訪していて、
 すごく幸せだった記憶があるんですが――まあ、それは置いておきましょう。
 
 かなり緊張しながらおぼっちゃんな雪菜の家に来訪し、
 ヤケにきれいな女の人がいるものだから、どなたか伺ったら
 家に仕えるお手伝いさんという答えが返ってきて、
 以前虹ヶ咲の面々で押しかけた時には居なかったとさらに問いかけると、
 自分と二人きりで過ごすのは嫌かなと思ってとの答え。
 気を使われたのは嬉しいし(基本的に優木せつ菜時には同性なので気を使われない)
 多少なりとも私といることを意識し(気合い入れた下着を見られる可能性があると思った)
 お手伝いさんも私にお邪魔はしませんので、と耳打ちし、
 あ、これはもう、絵里ちゃんやツバサさんとかが体験したことのないことを
 先んじてやってしまうチャンスなんだなって思った。
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/17(日) 19:56:41.42 ID:E7GNc9ru0
 私の仲の良い面々で唯一の非処女枠な凛ちゃんや花陽ちゃんには
 別にそんな特別なものじゃないよみたいに言われ、
 経験のない組のツバサさんや絵里ちゃんには相談なんてできるわけもなく。
 不安はあったものの、文字通り胸を張って雪菜の部屋に赴き、
 アニメマラソンの最中に優木せつ菜(笑)さんは寝落ちしました。
 たしかに同じ場面が何度も続き暇はしていたのは事実ですが、
 すぐにベッドの上に寝転がれるようそこに腰掛けていた私をスルーし、
 ごめんなさい眠いですと言って眠りこけたのはなんなの?
 もう一回言うけどなんなの? もしかして女装しているから女性に興味無いの?
 朝になってお手伝いさんに顔を見せるのが恥ずかしくて、
 その表情を見た彼女もすべてを察してくれて、
 お互いに気まずいだんまりのままで屋敷を後にしたけど――
 後日、雪菜の野郎がよりにもよってしずくちゃんにその時のエピソードをバラし、
 そんなでかい胸をしていても女と意識されないなんて哀れですね!
 とさんざっぱらネタにされ悔しい思いをした。
 
 ――なお、優木せつ菜のネタバレから察すると、
 後日、上原歩夢ちゃん、中須かすみちゃん、桜坂しずくちゃんといった、
 雪菜に好感度高めの面々が次々と来訪し、
 私と同じように撃沈して行ったみたい。
 この経験から自分たちには何が足りないのか追い求める会が結成され、
 金髪ポニーテールになればすぐにイケるのでは? 
 と、ツテを頼り金髪ポニーテールになってみたら、
 優木せつ菜は何かを察し、絵里ちゃんに助けを求めた。
 当時何を考えたのかバーテンダーをしていた彼女は常連だったツバサさんや
 同僚だった桜内梨子さんを連れ立って来訪し、
 もうこの際だから女の子同士でイケば? と何の解決にもならない宣言をし、
 絵里ちゃんいわく冗談だったらしいけど、真に受けたのが1名。
 梨子さん指導の元で女の子なら誰でも落とせるトーク術を身に着け、
 絶大な支持を得たけど何かがあったのかその世界はなかったことになっていた。
 今度、もし機会があればなんでそうなったのか聞きたい。
 絵里ちゃんはよくわからないと言っていたし、ツバサさんも首を傾げていたので、
 誰かしらがなにかやらかしたのではあろうけど、
 いいかげんループする条件を決めてほしいものである、今後もずっとループを重ねるのならば。
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/17(日) 20:22:08.61 ID:E7GNc9ru0
https://syosetu.org/novel/165937/99.html

理亞ちゃんルートの方も
亀の歩みではありますが進んでいます。
なお、この理亞ちゃんルートで語られている、
悪魔さんに理亞ちゃんのお菓子を食べさせた結果は
ちらっと海未ちゃんルートで語られていますね……。

今作品、
各キャラクターが情報を共有し、
一人で突っ走らずにみんなで協力すれば
ループはするにせよ問題はさほど起こらないと作者は分かっているんですが……。

この作品をお読みの皆様方は、
エリちに良い顔見せようとして、一人で突っ走っていく各キャラクターの様子であるとか、
物語の進行上エリちに嘘をつく皆様の様子をご覧になると、
また違う楽しみが見つかるかもしれません、綺羅ツバサさんは地の文でも平気で嘘をつきます。

そのへんを整理した番外編もいつか書きたいですね……機会があれば。
今何が問題なんだよ! も含めて。

ではまた次回、エマちゃんのお話で。
ようやく、宮下愛さん(ギャル化前)や上原歩夢さん(理亞ちゃんルート終盤月島歩夢と同じ場所にいて作者が困る)
そしてなにより、優木せつ菜さん(女性化)の三名が登場させられそうです……。

これでようやく、登場していないのが近江彼方さんだけになりました。
今作品で一番頼りがいがあって非の打ちどころのない姉キャラの予定ですが、
その予定だった聖良姉さまがどうなったのか察するに――すみません長くなりました。
また次回に。
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/18(月) 04:41:55.91 ID:2tm4gmxmO
2ルート同時進行のおかげで密接にリンクしてるのが見れて面白いね
彼方ちゃんは公式シスコンお姉ちゃんみたいだけど果たして…
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/18(月) 08:31:53.21 ID:ArMavGUIO
せつ菜とかいう鈍感系ラッキースケベラノベ主人公
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/18(月) 16:23:45.51 ID:lV8oTIDS0
 目覚めたり、目覚めていなかったり、
 記憶の覚醒が中途半端な中で、私は屋上で空を見上げていました。
 友人である果林ちゃんであるとか、スクールアイドル同好会で同じグループのメンバーだった
 近江彼方ちゃんは記憶の覚醒がまだのようであったので、
 こんなケッタイな体験に巻き込むわけにはいかず、
 ちょっと一人になりたいなーと言って教室を抜け出しました。
 果林ちゃんは目に見えないように隠れていてあげるからとか、
 彼方ちゃんはじゃあスイスのことを思い出してセンチになってるんだって言えば良いよ〜
 ――彼方ちゃんが実際にどれほど過去のことを思い出していないかは分かりませんが、
 この学園にいる多くの留学生が故郷を思った時にそうするように、
 一番高い場所から空を見上げていると、目に触れる自然ばかりがいつものままで、
 世界に生きる人間ばかりがワタワタとしているようにも見える。
 もし仮に神様がいるとしたら、ワタワタしている人間なんて取るに足らない存在で、
 私達自身もそんな神様の意思など関係なく生きていけばいい、
 そんなふうに思えてきます。

「……誰?」
「うひぃ!?」

 屋上と校内を繋ぐドアは施錠こそされていないものの、
 結構重かったりするので、開閉すると音が耳に届きます。
 慎ましやかに音を立てないようにしたようですが、
 とても残念なことに最後に気を抜いたのかバタンと大きな音がしました。
 別に屋上は私一人が使う場所ではありませんが、
 いい感じに思考もまとまり、前を向いてみようと思った瞬間であったので、
 多少なりとも声に険が含まれてしまったのも仕方ない。
 とはいいつつ、そんな八つ当たりのような感情を向けてしまったことは不覚です。

「ごめんなさい、ちょっと考え事を」
「おお! わだすこそ、申し訳ないっペぇ!」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/18(月) 16:24:24.20 ID:lV8oTIDS0
 東北弁――と、彼女は言っていた記憶があるけれど、
 実際にどこまで日本の田舎の言葉が混じっているのかは分からない。
 宮下愛ちゃん――。
 東北の山の中で生活をしていた彼女(神様の巫女をしていたらしい)が、
 東京に行きたい! とクマみたいなナリをした神様にお願いをし、
 どうせすぐに田舎に帰ってくるだろうという大人たちの意に反し、
 友人が一人も出来ない、勉強もロクについて来れないという状況下でも、
 一人暮らしをしながら頑張っていたところを綺羅ツバサさんに見初められた。
 絵里ちゃんや、雪菜、あと、私が彼女をエヴァリーナと白々しく呼ぶのはなんなので、
 キューちゃんと呼ぶけども、彼女たちが出演したライブがキッカケで
 「わだすも絵里ちゃんみたいなスクールアイドルになるべ!」
 と、一念発起――同じくスクールアイドルを始めることになる果林ちゃんや、
 いつの間にかスクールアイドルをやっていた彼方ちゃんと一緒に鍛錬に取り組んだ。
 絢瀬絵里ちゃんを髪を金色に染めたギャルと勘違いし、
 長かった髪をバッサリと切り、黒く美しかった髪の毛を金色に染め、
 さらには絵里ちゃんみたいなオヤジギャグを連呼するよく分からないキャラになり、
 最高学年が二年生だけども、過去に一度だけフルメンバーが揃ったことのある
 虹ヶ咲スクールアイドル同好会が再結成されることとなった。
 再結成して初めて開いたライブの直後に世界創造されるとかいう、
 よく分からない経験をすることになったけど、
 同好会の結成がフラグにならないことを祈りたい。 
 
「わだすは日の目を見てはいけなかったんだ! こんな! こんな!
 おっぱいオバケみたいな人がいる東京なんて!」
「落ち着いて愛ちゃん、だいじょうぶ、あなたの根性は誰しもが認めることになるわ
 ちなみに昨日の夕食は?」
「公園で捕まえてきた虫の煮付けとたんぽぽを茹でたのとご飯だ」

 うぐっ、と言葉が詰まるのをどれほど隠せたかわからない。
 愛ちゃんの野生料理が平気だったのが絵里ちゃんや海未さん。
 雪菜作成の劇物でさえ食べてのけるツバサさんでさえ、
 ザザムシ、ハチノコ、イナゴの三点セットの豪華料理を見て、
 絵里ちゃんにしがみついて震えていた。
 まったくしょうがないわねぇとか言いながら絵里ちゃんが全部食べてたけど、
 その二日後には絵里ちゃんは善子ちゃんの力で退場することになる。
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/18(月) 16:24:54.55 ID:lV8oTIDS0
 直後に愛ちゃんはギャル化してなんとしても絵里ちゃんにこの姿を見せる!
 と涙ぐましい努力を重ねた。
 絵里ちゃんは同好会メンバーを見て愛ちゃんいないじゃないと寂しそうに言っていたから、
 もし仮に愛ちゃんが記憶を取り戻す機会があったら、
 あの時のギャグをかっ飛ばしまくっていたギャルは愛ちゃんですよと伝えてあげたい。
 
「東京の人はもっとハイカラのものを食べてるって聞いただ……おっぱいさんもそうなんじゃろ?」
「エマ、エマ・ヴェルデ、なんか私のことを胸でしか認識してない人多くない?」
「はっ! エマ先輩! 申し訳ないだ! わだすみたいなド貧乳が失礼しました!」
「落ち着いて愛ちゃん、はい深呼吸、吸って……吐いて……」
「はぁー……すぅー……」
 
 吸ってと言うと吐いて、吐いてと言うと吸うんだけども、
 私の日本語が下手なわけじゃないよね?
 あと、愛ちゃんが貧乳って言うと同好会の一年生組とか、
 上原歩夢ちゃんがキレるので改めて貰いたい。
 雪菜がおっぱい好きなのを隠さなくなったことで、
 私に対する風当たりがずいぶんと強くなったのを思い出す。
 ちっちゃくてもいいです! とフォロー(なってない)をしたけれど、
 璃奈ちゃんだけは性格が相容れなかったのか、
 あなたのは板ですと嫌悪感を隠さずにいた。
 璃奈ちゃんは私に対しても、なんでそんなに胸が大きいの? ホルスタインなの?
 岐阜で歩夢(月島さんの方)ちゃんに飼って貰えばいいじゃんと言ったけど、
 私はあなたの悪口を言った覚えはないんだけど……。

「あ、そうだ、愛ちゃん」
「なんだべ?」
「セツナって名前の響きの……子、知らない?」

 セツナと言う響きの男子と言おうとしてためらう。
 仮に上手いこと隠し通していればいいんだけども、
 私が優木せつ菜のネタバレをしてしまうのはいただけない。
 自分が認識していないだけで学園で独自に活動をしているのかもしれないし、
 もしかしたらUTXで華々しく活躍している可能性もある。
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/18(月) 16:30:32.88 ID:lV8oTIDS0
「セツナ……セツナ……ああ!」
「いるの!?」

 思わず喜んでしまい一つ咳払い。
 飛び上がるように喜んでしまうのは私の悪癖。
 璃奈ちゃんやしずくちゃんにじっとしてろよ! と感情を込めて言われることしばしば
 ――私が悪いの?

「わだすのクラスにとっても可愛い子がいるっペ」
「へ、へえ……」

 相変わらず女装しているんだなと思いながら、
 さらに情報を提供してもらってみる。
 しかしながら通常時には綺羅雪菜として活動し優木せつ菜の正体は秘密であった。
 ということは通常時から女装をしているの?
 ――優木せつ菜始まったな。
 ……いや、終わった? 終わったと称するのが自然じゃない? 

「竜宮雪菜ちゃんっていうとっても可愛い女の子がいるだ
 学園の中でもトップクラスに可愛いのにスクールアイドルをやらないなんてもったいねえだぁ」
「……え? その子、着替えとかも女の子と一緒なの?」
「あはは、エマ先輩は不思議な事言うだ、女の子同士なら
 気兼ねなく着替えするっペ、女装した男じゃあるめぇしなー」
「……あは……あはは……」

 どうしよう。
 これは姉であるツバサさんにつぶさに知らせるべきか、
 それとも絵里ちゃんに一度情報を預かって貰い判断を仰ぐか。
 こいつ犯罪者ですと晒し上げても構わないかもしれないけれど、
 もしかしたら微粒子レベルで情状酌量の余地がある可能性がある。
 私は絶えず乾いた笑いを浮かべながら、
 その竜宮雪菜という人間が女の子であるという情報を愛ちゃんから入手し、
 できるだけ速やかに存在を抹消しなければならないと義憤に駆られた。

 ――さっきまでの悩みは全部吹っ飛んだ。
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/18(月) 20:16:07.06 ID:Vp9P2MoqO
くまみこ最終回は嫌な事件だったね…
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/22(金) 15:51:01.85 ID:lPyuBD500
 私が二年生のクラスに来て早々、何食わぬ顔をして女子の集団にいて、
 吾は女の子ですがなにか、みたいな表情でにこやかに微笑んでいる罪人を見て、
 エマは激怒した。
 必ずあの超弩級の変態を駆逐しないとと決意した。
 エマはスイスのスクールアイドルである、エマには変態の気持ちはわからぬ――
 と、ちょっと前に習った太宰治風な表現をしてみたけれど、
 エマに太宰は分からぬ――

「周囲の影響を考えて、いきなり下半身を露出させるのは控えましょう
 さすがに(見たことはないけど)成人男性クラスのそれを見せるわけには――」

 かといって、優木せつ菜の擬態は並大抵のものではない。
 付き合いがあればすぐに気づくけど、
 絵里ちゃんみたいによほどのことがない限り気づかない場合だってある。
 てめぇ男だろ! と胸ぐらを突き上げても、
 証拠はあるんですか! と反論されれば窮地に立つのは私だ。
 それに――

「あの様子だと性別を隠している様子には……」
「とても良い判断だと思います、
 胸に全て栄養が行ってしまった――
 というわけではないようなので安心です」

 いつから私のことを見ていたのか、
 なぜかどこかから巨乳死すべしみたいな視線がするかと思ったら、
 案の定、桜坂しずくちゃんが私を監視していたみたい。
 虹ヶ咲の1年生組は何かと私の胸を目の敵にするけれど、
 果林ちゃんであるとか、彼方ちゃんには特別意識を向けないので、
 私自身はむやみやたらに大きいのだと思う、そう思わないとやってられない。

「警戒したほうが良いですよ、
 今の竜宮雪菜には親衛隊がついています」

 憎々しげに優木せつ菜(芸名)の胸元に視線を向け、
 桜坂しずくちゃんは私の肩を掴んで人目に触れない方へと導く。
 まるで私にヤキを入れるぞみたいな感じではあるんだけども、
 残念ながら胸はちぎろうとすると大きくなるらしい、絵里ちゃんが言ってた。
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/22(金) 15:51:51.38 ID:lPyuBD500
「竜宮雪菜――であるそうです。
 ツバサ様の弟である事実はどうやら雲散霧消したようですね」
「本当に女の子なの?」
「戸籍を調べましたが。徹頭徹尾女性でした。
 まあ、一度スカートを引きずり下ろして確かめましたが、
 ありませんでしたしね、おちん○ん」

 変態に敵意を向けた結果、他の人の敵意を招いてしまったのか、
 しずくちゃんは周囲の女生徒を舌打ちしながら見やる。
 とても深窓の令嬢だとか、鎌倉で一番のお嬢様には見えない。
 変態的な発言はキャラ作りだと何度も説明されたところで、
 まるで説得力がない、同じキャラ作りの真姫さんはしっかりやればできる人だし。
 なお、演劇に関しては真面目一徹、真姫さんをマネて下ネタに偏ったのも、
 もとは真姫さんに憧れたのが変な方向に行ってしまったゆえ。
 何かと名言が多い彼女だけど、
 誰しもがそのとおりだよ! と納得したのが、
 優木せつ菜がかつて歌った、とある曲で”なりたい自分を我慢しなくていい”
 みたいに歌い、それを聞いたしずくちゃんが、おまえは我慢しろよ! と言った件。
 基本的に雪菜と言う人間に甘いツバサさんや絵里ちゃんまで、
 言われてもしゃあねえみたいな顔をしていたし。

「その……はっきり、男性器の名前を言うのは……」
「”お”をつけて丁寧に言っているから良いんです」
「言い逃れが出来ないほどソレしか想像できない発言は……」
「いざとなれば金で解決するから良いのです」

 しずくちゃんは本当に人生が楽しそう。
 堅苦しい生き方しかできなかった幼少時代から
 恐ろしい変貌を遂げてしまった彼女ではあるけれど、
 親御さんは思いのほか喜んでいるものであるらしい、悦んでるんじゃないよね?
 ビシバシと言葉のムチで殴られている優しそうなご両親を想像し、
 エマは震えた――
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/22(金) 15:52:40.51 ID:lPyuBD500
「……もしかして、しずくちゃんが
 周りの人から性犯罪者みたいな目で見られているのは」
「行動がたまたま失敗したまでです、
 優木せつ菜のタマタマを露出させようとしたのは事実ですが」
「そして私がなにか不思議なものを見る視線で見られているのは――」
「それはその巨乳がヒト目を引いているだけです、嫌味ですか」

 これ以上しずくちゃんと一緒にいると、
 私の評判が変態な女の子と一緒にいる胸の大きな人になってしまう。
 それではとても残念なことに果林ちゃんであるとか、
 彼方ちゃんに悪評が沸いてしまう、私個人なら耐えられそう――
 いや、原因が私自身にないから許せない側面はあるんだけども、
 なにか口を滑らせてしずくちゃんがこちらに敵意を向けても困る――
 今はまだ潜伏の時。

 しかしながら放課後、
 雪菜のクラスメートがなにかに気がついて高らかに悲鳴をあげ、
 それが体育の授業であったことから私はすぐさま行動に移すべきではないかと察した。
 
「……彼女の親友だと言っているエヴァリーナちゃんが
 殴り込みに来て雪菜が殺されたりしないよね?」

 絵里ちゃんの言うことはごくたまにスルーするエヴァちゃんであっても、
 上原歩夢ちゃんに関しては徹頭徹尾付き従う愛情の向けっぷり。
 触らぬ神に祟りなしと言うし、
 歩夢ちゃんを介抱したというのが竜宮雪菜という人間であったことに
 恐怖を感じつつ私はとある人にメールを送った。

「ラブライブで会いましょう……か、
 ていうことは、そのうちみんなの記憶が戻るってことかな?
 面倒なことにならないと良いけど」

 私という人間が思いのほか苦労性であることにため息を吐きつつ、
 屋上で身体を動かすための準備を始めた。
 一人でやらないと一年生メンバーが嫌味かっ! ってツッコんでくるから――
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/22(金) 20:06:18.92 ID:lPyuBD500
https://syosetu.org/novel/165937/104.html

理亞ちゃんルートも更新ということで。

エマちゃんの回想でよっちゃんが胸を見て云々――
というのがありますが、もちろんおっぱい見て、たじろいだわけじゃありません。

それを公開できるのはいつのことなのか。
作者はとても不安です。

次回更新分から絵里ちゃんの視点に戻り、
一回まきぱなの話を挟んだり、穂乃果ちゃんの話だったり、
ツバサさんが何をしようとしたのか――

とかいろいろ語りたいことがあるんですが、
そんな事を忘れてしまいそうな設定が公開されるので、
できればそちらに注目が集まって欲しい。

では、また次回です。
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/22(金) 22:05:12.33 ID:sdBGb5DCO
しずくちゃんがヤベエ人になってる…
そしてせつ菜ちゃんはみんなに見られたわけか…
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:31:53.07 ID:gMrRKXQa0
 これあかんわ、早々に処刑執行されるやつやん――
 恐怖を覚えた私はヒナをお風呂場から退場させ、
 煮るなり焼くなり好きになさいと格好良く宣言。
 
「いい度胸です、まずは風呂に入ってください」
「……煮るということね」

 私が浴槽につかった後、妹がその上に乗るように。
 中世の拷問のようではあるけれど、
 これがヒナプロ(略)が作るエロゲーであったのなら、
 おそらく抱っこする感じでアレが中に入ってるパターンだなって思った。

「……かつての姉さんが書いたシナリオ、
 なんでやたら対面座位ばっかりだったんですか?」
「原画家の趣味よ」

 エッチシーンの構図であったり、
 その際の展開であったりはすべて原画である鹿角理亞さんの趣味であられる。
 頼みものしないのに18禁シーンはこれで行くと宣言され、
 ライターである私は”なんかフツーのCGより気合入ってない?”
 ヒナも”すごくエッチなのだ!”
 と、女性陣からは評判であったけれど、
 あいにく私のライターとしての腕前はさほど優れていなかったのか、
 18禁シーンだけは3流と呼ばれた――原画は悪くない。

「私知ってますよ、この姿勢は背面座位というのですよね?」
「ノーコメントでお願いします」
「このシーンがピクシブなどで取り上げられようものなら、
 これ絶対入っているよね? 的なタグが」
「ノーコメントでお願いします」
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:32:38.57 ID:gMrRKXQa0
 シーンでは主人公の顔や身体が透明化したりなんだりであったので、
 原画がそれを描けない疑惑がネットを中心に持ち上がったけれど。
 いつの間にか挿入している人間が
 金髪ポニーテールになってたりするので諸般の事情で、
 なかったコトにされたのが実情なんです。
 今になって思えば、まあいいやで済ませていた私を殴りたいところだし、
 なかったことにしなければもっと売れた可能性もある。

「……この世界はどうですか? 居心地はいかがですか」

 ノーコメントで済ませたかったけど、
 挿入を望むように(んなわけはない)腰を落とされて、
 お姉さんとしては妹の髪が湯に浸からないように
 気をつけるしかなかったりした。

「薄ら寒いかな」
「同じ感想です――」

 白々しい――と一言で表現すれば的確かもしれないけれど、
 この世界は創作的な都合の良さで溢れている。
 最初のうちはそれで良いのかなとも考えたけれど、
 徐々に抗いたいという感情が浮かび上がってきた。
 なのでこれまで妹を放っておいてしまったことは、
 いくら謝り倒したところで私も私を許せない側面はあるし、
 何が何でもこちら側に連れてくればよかったと思った、たとえ記憶が戻らずとも。

「姉さんは、誰の意思が反映されていると思いますか?」
「少なくとも私の知り合いの意思が反映されていないとは思ってる」
「素晴らしい判断です」
「あるとすれば、神様的ななにか?」
「絢瀬絵里の判断としては優れすぎていますね」

 亜里沙はこちらに目を向けて、何かを警戒するように目を細めた。
 少なくとも褒められていないことは分かるけど、
 こちらを貶めたり、馬鹿にする意図がないことは鈍い私にも察せられた。

「一つ尋ねたいことがあります」
「一つでいいの?」
「私の言いたいことを先回りして把握する、
 その感覚は今までどのループであろうとも絢瀬絵里が持ち得なかったはずです」
「質問は簡潔に」
「姉さんもしかして、今の自分が既にどこまで自身だか分からなくなってますか?」
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:34:21.37 ID:gMrRKXQa0
 私が持ち得る記憶が、過去の自分が見た以外の記憶が混在していることに気がついた。
 最初のうちはどこかしらのループで私が体験したり、
 その動作をどこかしらで目撃したのかと思っていた。
 私に観察眼があり、過去の能力を引き継いでいるのならば、
 その発揮の際に妙な違和感は覚えなかったはず。
 十千万でやたらと評価されていた体験もそうであるし、
 ツバサから罵倒される回数が少ないのも常に気になっていた。
 元から私は仕事はできても評価されない人間であるから、
 誰かしらから何だコイツと思われる部分というのはなければおかしい。
 高海姉妹の上二人から微妙に扱いが冷たかったのも、
 千歌ちゃんの扱いが上手すぎるからであったと思う。
 あの二人は私が過去にAqoursをどんな扱いをしていたかを既に察しているし、
 はっきり言ってしまえば過去の記憶を保持しているはず。
 扱いについては果南ちゃんや鞠莉ちゃんも気になるではあるけれど、
 彼女たちに関しては靄がかかったように分からない。

「亜里沙は心配しなくていいのよ」
「聖良さんみたいに両穴の初体験がバイブとかになっても?」
「……だいじょうぶ、ペニバンは愛でなんとかなる」
 
 私がどこまで過去に生きていた私であったかは分からない。
 いかんせんループを繰り返した結果でそうなってるのもあるし、
 得てきたメリットは数え切れない。
 記憶を常に保持し続けてきた事も手伝って、
 能力がやたら高いのを”まあいいや”で済ませていたのは、
 功罪どちらも存在すると思う。
 スキル高くて便利だとポジティブに私もツバサも考えていたし、
 さほど問題にはなるまいと思っていた。
 でも、そこら辺の事情を深く考えてしまう傾向にある理亞であったり
 誰よりも大切な妹がどう判断するかまでは私は分かっていなかった。
 なお、聖良ちゃんがドMなんじゃないかっていうエピソードは深く追求しないことにする。
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:34:58.54 ID:gMrRKXQa0
「でも安心してください、姉さんはどこでも姉さんですよ?
 絢瀬亜里沙のお姉ちゃんです、徹頭徹尾、何も変わること無く」
「古い例えだけれど、ロマサガ2の最終皇帝みたいな感じかしら」
「いえ、どちらかと言えばゲームのプレイヤーの感覚を持ち合わせているのでしょう」
「そこまで何から何まで把握しているわけではないけれど」
「そのようですね、誰のことがわからないですか?」
「Aqoursのことはわからない、μ'sとツバサと理亞かな、もちろんあなたも」
「恋愛に不器用なお姉ちゃんらしいですね」
「恋愛したことあるかな?」
「好きな人のことは知りたくなるものではないですか、
 でも、お姉ちゃんは逆のようです。
 恐らく距離が近ければ近いほど、事実の把握が困難なんです」

 恋愛経験が豊富であれば、もっと器用に立ち回れたのか――
 後悔先に立たずではないけれど、
 自分が知るべき情報を先回しにしすぎて雁字搦めになるというのは、
 私の悪癖でもあり、今後治ることがない習性でもあるのだと思う。
 仲が良い人間の情報を察せられていないのは、
 知るのが怖いという臆病な自分自身の表れであるのかもしれない。



 あんじゅや朝日ちゃんが来訪すると言うので、
 ツバサは? って朝日ちゃんからかかってきた電話越しに尋ねたら
 ”Aqoursを結成しに行く”と言って
 内浦の方にとんぼ返りしてしまったらしい。
 私が長い時間かけても出来なかったことも、
 ツバサなら1時間くらいでやってのけるかもしれない。
 ただ、桜内梨子ちゃんが欠席であるので、
 過去のAqoursを完全再現という形は難しいかもしれない。
 よっちゃんは絶対にくると言っていたけれど、
 彼女が把握していなこともチラホラと存在するし、
 確信を持って梨子ちゃんがくるというのは”そうであって欲しい”
 そんな願望の表れなんじゃないのか、とも考えたりもする。
 
「お姉ちゃん、お腹すきました」
「亜里沙はいったいどっちのキャラなのだ?」
「どっちもなの」
「どっちもならば仕方ないのだ」
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:35:28.00 ID:gMrRKXQa0
 ヒナが豪胆。
 仮に亜里沙がいつの間にか男になろうとも、
 まあそんなこともあるのだで許してくれそう。
 実際に許してくれなさそうでも、
 ヒナなら私が実は男でした! と雪菜クンみたいに性別披露しても
 そんなこともあるのだ! と元気づけてくれそう(そして18禁シーンへ)
 ナニを元気にするのか? というツッコミは甘んじて受ける。

「ええと、亜里沙、あんじゅと朝日ちゃんが来るのね?」
「はい、ツバサさんはいないので人が食べられる量を作ってください」

 ツバサが人間ではないみたいな扱いではあるけれど、
 実際に二人で同棲までして、結婚寸前まで行ったというのだから、
 私よりも亜里沙のほうがツバサのことをよく認識していると思う。
 そう考えると何故か胸がざわざわするような感情も浮かんでくるけれど、
 妹が友人にNTRされる感じがして不愉快なだけなんだと思う。
 妹が別の男にというのはエロゲーにある展開だけれども、
 逆に私に恋人ができたら亜里沙に寝取られそうな感じがする。
 妹の優秀さに舌を巻く絢瀬絵里に、これでずっと一緒だよエンディング。
 展開としてはアレだけどドラマティックだと一部の人に評判になる可能性がある――

「……ツバサに話すネタばかり浮かんでくるわね」

 第三話で衝撃的な展開をすれば商業的に成功する――
 などという感じで一時期流行を見せたけれど、
 伏線がなければただの悪手であるし、
 なによりやればいいというものではない。
 いかんせん成功したものの成功した部分ばかり見ているから、
 メリットがあるなら当然デメリットだって付いてくる事に気づいてくれない、
 とても悲しいことに。
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:35:57.68 ID:gMrRKXQa0
 あんじゅや朝日ちゃんに向けて料理を作り、
 なぜ私の好物を把握しているのかとサラッとあんじゅに問いかけられた私は、
 それが伏線であることもまったく気が付かずに、
 どこかで教えてもらったことなかったっけ? ととぼけたふりして首を傾げると、
 亜里沙やあんじゅや朝日ちゃんと言った、私以外の面々は
 深刻な問題を抱えていると言わんばかりに肩を落とし顔をうつむかせた。
 
「もう! 食べないの!? せっかく作ったのに!」
 
 と、逆ギレをしてみせると、
 仕方ありませんね、料理に罪はありませんしね!
 なんて朝日ちゃんが言ってのけ、
 作られた料理をあらかた彼女が片付けてしまった。
 太ったらどうするんですか! とニッコニコな笑顔で言われ、
 反論する気力も失った私は、運動なら付き合いますとだけ言うほかなく。

「ええと、絵里」

 テンションが下がりましたと言わんばかりに、
 多少のためらいも覚えつつあんじゅが私に問いかける。
 食後なので賢者タイムという表現が適切かどうかは分からないけれど、
 私の作成物で毒気というか牙は抜かれたものであるらしい。

「英玲奈の元カレ知ってる?」
「いたっていうのは知ってるけど」

 過去にA-RISEと絢瀬絵里とかいう、私がただのオミソじゃねえか!
 みたいな組み合わせで飲み会を行った際に、
 飲み会でありがちな処女非処女論争で英玲奈に元カレがいたという話を知る。
 その当時は朱音ちゃんという存在は知らずに、
 彼女が恐ろしく溺愛する妹がいるということだけは把握していたけれど。
 飲み会に出かける前に英玲奈は朱音ちゃんに絢瀬絵里に会いに行くと言い放ち、
 尊敬の念を集めようとした(明らかに悪手)けど返り討ちに遭い。
 私とツバサがずいぶんと小馬鹿にされたのは、
 その際のストレスも手伝ってのことだと思われた、八つ当たりじゃん。
 なお、絢瀬絵里のサインを貰う件を反故にした英玲奈は妹さんに
 何日間か口を聞いてもらえなかったらしい、後日責められたが私は悪くない。

「お姉ちゃん、もうちょっと記憶を追求してみて」
「……うーん?」
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:36:40.53 ID:gMrRKXQa0
 インターネットにてグーグ○さんで検索するみたいに記憶回路をほじくってみる。
 該当する記憶をすぐに取り出せればツバサに”記憶不全がある”とか、
 理亞に”もうちょっと思い出すの早く出来ません?”とか言われない。
 そこまで優秀なハードディスクでも私が抱えていれば問題はすぐ解決するのに、
 首を左右に振り、時計の振り子みたいな仕草をしてみても英玲奈の彼氏は
 私の記憶に浮かんでこなかった。

「絵里」

 私の肩に手を乗せて言葉をかけてくるヒナ。
 超常的な力でも発揮して問題を解決するのかと思いきや、
 彼女はおばあちゃん相手にするみたいに優しく揉み始めた。
 ヒナがそんなコトをするとお年玉をねだる小学生にも思えて、
 ついつい財布の中身を考えてしまったけれど、
 ここまで来るお金はすべてツバサ持ちであったので私の財布の中身は
 たいへん心もとない、果たして静岡の内浦に帰ることができるだろうか。 

「記憶というのは結びつきが大事なのだ、
 縁と同じ、きっかけがあればすぐに蘇るもの
 英玲奈にはもともと恋人がいたって件と何か結びつくような
 そんな情報はない? あんじゅ」
「そうね……ダイヤちゃんの旦那」
「旦那?」

 あんじゅやヒナからもらった情報を元に記憶を掘削してみる。
 ダイヤちゃんの旦那さんは一度ツバサと彼女の結婚式に出席した際、
 え、あ、美少女? ダイヤちゃん女の子と結婚するの?
 と、きれいな理亞を3倍くらい可愛くしたヒトが新郎側にいて
 ツバサと一緒に見なかったことにして酒に逃げたことを思い出した。
 後日ほんとうにその人が男性で男女間の結婚式であったことを説明され、
 黒澤家は法律を裏で動かしている説は絢瀬絵里の中で封印されたけど。

「……ん? いや、朱音ちゃんってその人のこと知ってるよね?」
「英玲奈の元カレは朱音ちゃんの初恋の人だから」

 今の話は聞かなかったことにしたい。
 自分の記憶の中に誰かの目線を通したものが浮かび、
 それが徐々に鮮明化されてくると、
 ダイヤちゃんの旦那が英玲奈の横にいるという場面が見えてきた。
 当初から美少女にしか見えない外見であり、
 アレなら英玲奈が男性と承知しつつ付き合うというのもワケないな、
 と妙に納得してしまった。
 しかしながらカレがしている服装が当時小学生の朱音ちゃんまんまであり、
 エトワール来訪時にも優木せつ菜としてやってきたツバサの弟さんを観て、
 朱音ちゃんが恐ろしく拒否反応を示したのも理由があったんだと思った。
 ――単純に男性が女装しているという件でも拒否反応を示すのも
 理由としてわからないではないけれど。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:37:12.02 ID:gMrRKXQa0
「絵里、英玲奈にその彼氏さんが告げた言葉わかる?」
「たぶん」
「やっぱり、明らかに絢瀬絵里が知りえない情報まで把握しているわね」

 いつからかと言われると厳密にはわからない。
 雪姫ちゃんが私の中で情報をどこかから仕入れてくるのを
 あーそうなんだなー、みたいな反応で済ませ、
 特に深く考えてこなかったとすると私はお気楽にも程がある。
 
「……私の初恋の人分かる?」
「とても残念なことに」
「なんで私がA-RISEであって、最終的に結婚という形で
 A-RISEを捨てなければならなかったのか、分かってもらえた?」
「ツバサにソレを告げられない理由が腑に落ちたわ」

 雪菜クンが優木あんじゅに憧れて優木せつ菜を名乗っている綺羅ツバサの弟である――
 その経緯であるとか、きっかけをツバサに問いかけたことはなかった。
 A-RISEで活動中に雪菜クンとあんじゅの間に交流があり、
 ちょっと人と違う憧れをあんじゅに抱いたとばかり考えていたけれど、
 優木あんじゅと綺羅ツバサの交遊録というのは雪菜くん誕生前から存在し、
 ツバサがその情報を認知してなかったものだから私自身も把握が遅れた。

「ツバサってお嬢様だったのね」
「私の母は綺羅家で働いていたわ、お手伝いさん……使用人っていうか
 今は私の姉も同じ家で働いてる、結婚して名字が変わっているから
 雪菜クンは気づいてないけど」
「もしかして私とも会ったことある?」
「若いでしょ?」
「……まあ、年齢不詳の年上には慣れてるから」

 筆頭が司令。
 還暦という話であり、璃奈ちゃんのおばあさまでもあるけれど、
 どこまで真実かと言うと多少の疑いはある。
 雪菜クンからの信頼も厚いあんじゅのお姉さんは、
 虹ヶ咲の面々が撃沈したとある出来事にも明るく、
 これがハーレム系鈍感主人公……! と戦慄したものでもあるみたい。
 個人的な感想ではあるけれど、
 過去何度も結ばれている上原歩夢ちゃんと一夜を共にし
 手を出さなかった件に関しては褒めてあげたい。
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:37:55.00 ID:gMrRKXQa0
「お姉ちゃん、試すような真似をしてごめんなさい」
「亜里沙が謝る必要はないわ
 なんていうか……巻き込まれ属性に磨きがかかったと思うわね」
「でもね、これだけは信じて欲しい
 どんなお姉ちゃんであろうと、私はお姉ちゃんの妹」
「ワタシは絵里の親友だぞ!」
「じゃあ、私は初恋の人の親友と言う扱いで」
「栗原朝日の彼女ということで私は認識することにします」

 朝日ちゃんが自分の役割を理解しオチまで用意してくれた。
 彼女だからお風呂も一緒に入りますよね?
 と言われ、え、そこはネタじゃないの? みたいな反応を示してしまったけれど。
 どうせならウチに来て両親に挨拶してポイントあげておくと良いですよ、
 と言われ、ヒナにもお世話になっているものだから
 お礼共々絢瀬姉妹は栗原家に何日間か滞在した。
 なお、栗原家でも家事スペックを発揮してしまったがために、
 ぜひヒナか朝日の嫁に! とご両親から高評価を頂いたけど丁重にお断りをした。

 後日亜里沙を拐かしていくと両親に宣言し、
 いつでも左脇は開けておくよと気持ち悪く言われてしまったけれど、
 許可は取れたと思うことにしておく。
 なお、私や亜里沙の内浦までの移動費は朝日ちゃんに負担をしてもらい、
 嫁にする件を断ったにもかかわらず逆に弱みを握られ、
 いつか彼女の嫁としてこき使われることを想像して絢瀬絵里は震えた――

「あ、絵里ちゃん」
「あれ? 志満さん仕事ですか? 沼津駅まで来て」
「うん、一刻も早く連れてこいやってツバサさんに脅されちゃって」

 以前も観たことがある軽トラの”荷台部分”に私は”載せ”られ、
 ああ、懐かしいわ、この人権のない扱い懐かしいわ――と言う感想を抱き。
 猛スピードでかっ飛ばすトラックにてひたすらしがみつく感じで荷物になった私は、
 十千万旅館に戻った際にも疲労で周囲の状況を気にせずに
 建物の中を歩いていた。

「絵里」

 そんなふうに呼びかけられ、
 ごめんツバサちょっと眠いから寝ると言おうとして振り返ると、

「……海未?」
「私を認識して頂いて助かります、
 あと、軽くスルーした希や真姫やニコには後で謝ってください」
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:39:22.50 ID:gMrRKXQa0
 海未の後ろでたそがれている希であったり、
 昔懐かしい澤村絵里仕様のバニーガールのコスプレをしているすまし顔の西木野真姫や
 千歌ちゃんにサインをねだられて悪い気分ではないけれど、
 私にまるっきりスルーされ多少機嫌が悪そうなニコの顔を観て、
 いちご狩りと言うイベントが誰の意志で行われるイベントであったのかようやく気がついた。

「……いちご狩りの時に好きなもの作ってあげるから」
「助かります――ああそれと」

 言い足りない罵詈雑言でもあるのかと震えた私ではあるけれど、

「理亞はきちんときれいなほうに矯正しておきました」
「……チューニングありがとう」
「自身のお菓子を食べて汚くなるなど……まだ修行が足りませんね
 絵里共々、能力の保持に協力しましょう
 山頂アタックです!」
「……そこにいちごはないから勘弁して」

 μ'sのフルメンバーが恐らく既に十千万に集結しているんだろうなあ、
 そんなふうな感想を抱きながら海未に見送られた私は、
 どうせならツバサにも顔を見せておこうと思い、
 なら、宴会場にいるので一緒にレッスンでもしたらどうですか?
 と、海未に言われた。

 ――もっとまともに考えられる身体状況であるのなら、
 誰にレッスンをしているのか、海未がやけに簡単に見送ったのはなぜか、
 矯正されたはずの理亞が顔を見せないのはなぜか。
 それくらいのことは予想できたはず。

「ほら! 掛け声!」
「はい! 穂乃果さん! せーの!」

「Aqours!! サンシャイン!!!」
 
 宴会場にてフルメンバーで集結しているAqoursであったり、
 穂乃果や凛と言った指導に定評があるメンバーがいることであったり、
 この状況を仕向けたツバサがドヤ顔をしてこっちに観ている事に気が付き、
 桜内梨子ちゃんは一体どこにいたんですか……?
 益体ない感想しか抱けなかった絢瀬絵里でした。

 あと、 私の身体を支えるふりをして胸を揉むのはダイヤちゃんを思い出すからやめて欲しい。
 本当に海未に矯正されたの? きたないほうじゃない?
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/23(土) 09:55:12.31 ID:gMrRKXQa0
今気づいたのですが、
高海千歌ちゃんが瞬間移動している件に気が付き、
あ、美渡ちゃんと千歌ちゃん間違えているじゃん!

と1のへっぽこっぷりを披露しつつ、謝罪の言葉は省略することにします……。
意図的にごまかしている部分や、間違えているふりをしている部分があるという主張が
説得力ないなと痛感しております。

次回以降からようやく海未ちゃんルートで一番書きたかった、
Aqoursとμ'sの仲良しな交流イベントが始まり、
ほのぼの! といいつつ、ほのぼのでなかった展開を謝罪しつつ、
次回をお楽しみに! と宣言することにします。
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 13:40:53.04 ID:CKZvLsIFO
色んなピースが噛み合ってく回だったな
μ'sとAqoursの交流会は素直に楽しみ
いちご狩り(意味深)になるのかならないのか
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 18:17:10.83 ID:9EYSILwu0
やっぱ絵里パートがおもしろい
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/24(日) 06:37:52.01 ID:jSsbhjMH0
 どや! 絢瀬絵里がなしえなかったことを短期間でやってのけたで!
 もっと褒め讃えろや!
 みたいな態度をするツバサを称賛し、舌を巻き、自身を卑下しなければと思ったけど、
 そんな彼女であるとか。
 胸を揉むのは恥ずかしいですね、どうせなら揉まれる方が良いです。
 さんざっぱら鶏肉に味を染み込ませるみたいに胸を揉みしだいた感想がソレで、
 表面上はかつてのきれいな方を取り戻しているように見える理亞であるとかは、
 妹が強制連行していきました。
 人気のある猛獣をしつける調教師という表現が適切かは分からないけれど、
 クセもアクも強い二人が何事か口にする前に、
 天使のような悪魔の笑顔をしながら亜里沙が肩を掴み、
 有無も言わさずに拉致していくのを見て、
 私の人権が蔑ろにしていたころを思い出してしまった。

「絵里ちゃんおかえりなさい、これね、どうしてもいいたかったの」
「穂乃果にそう言われると恥ずかしいわね……」

 私はいま十千万旅館で風呂掃除をしながら穂乃果と一緒にいたりする。
 μ'sの面々の愚痴でも披露されるのかな、しょうがないなーみたいな感じでいたら、
 穂乃果にちょっと付き合ってと言われた。
 彼女にはなに言われてもしょうがない、私自身穂乃果に感謝したいこと、
 謝罪したいことも複数あるけれど、どれから告げていいのか分からない――
 正面切っていろいろ言ったり言われるのはお互いに恥ずかしいので、
 仕事をしつつ、世間話の体でトークを始める。

「ツバサちゃんであるとか、亜里沙ちゃんであるとか、
 絵里ちゃんを上手く使える人を見てね、
 あー、私もこういう態度を取れば絵里ちゃんを顎で使えるのかなーって」
「別に顎で使う必要はないのよ? 顎で使われる私に問題はあるけど」
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/24(日) 06:38:20.75 ID:jSsbhjMH0
 露天風呂の岩場であったり、備品であったり、
 お客様が何不自由なく使うに問題ないように綺麗にかつ、調整を重ねていく。
 なんでそんなコトできるの? なんて問いかけられたので、
 長年のサビを落としているのと答えてみた。
 表現として適切かは分からないけど、
 不意に甦る記憶はなにかをしているとごまかせるので楽なのだ。

「自分の本心でないことも、
 厳しいことも絵里ちゃんには言いました
 ごめんなさい」
「何を言ってもと思うけれど――
 私に関しては言われている私が悪いからそこまで気に病む必要はないわ」
「ううん、言っている私が悪いから
 そこだけは受け止めてくれると嬉しいな」

 反論する要素はあったし、
 穂乃果の言葉を否定することもできたけれど。
 それは彼女の行動の否定になってしまうからやめた。
 人の欠点というのは評いたくなるのが常であるし、
 悪い部分や欠点はだいたい露出してしまっているから分かりやすい。
 私は自身を欠点の塊だと思っているけれど、
 μ'sの面々はそういう私の自己評価を否定してくれる。
 嬉しくもあり、悲しくもあり。

「だからね、絵里ちゃんと付き合う時には私の心に思うままに行こうって」
「それはいいんだけど、私、褒められても喜ばない人よ?」
「でもそれは貶していい理由ではないんだよ」

 私は動揺して手を止めてしまった。
 過去にルビィちゃんに事実の指摘と称され、結構悪しざまに言われた。
 その発言を聞いた理亞であるとかダイヤちゃんが憤慨するできごとがあった。
 私ばっかりが”まあまあ”と二人をたしなめたのだけれど、
 自分自身、非があるのが私だからいくら貶されてもしょうがないよね?
 みたいな感じであったし。
 なにより、私という人間は貶されたほうが楽な人だ。
 易きに流れ、自身を堕落させてしまうのは、
 繰り返しニートをしていたことからも分かる通りではある。
 だから、そういう楽を選択することによって、
 周囲のみんなに負担をかけていた側面があるのなら、
 それは私が改めなければいけないことだ。
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/24(日) 06:38:59.54 ID:jSsbhjMH0
「お願いだから我慢して」
「本心なの?」
「本心だよ、ワガママでもある
 だから絵里ちゃんには拒否権がある」
「その、褒められると困るわ……身に覚えがない称賛はもっと困る」
「その件は私も同意だけど」

 苦笑しながら穂乃果が言う。
 私自身も退場するまで気が付かなかったし、
 穂乃果も私や希がいなくなって代替する二人が加入して以降、
 持ち上げられ続けるAqoursであったり、抵抗するA-RISE(というかツバサ)であったり、
 μ's(笑)みたいな扱いでいる中で気づいたことだと思う。
 いかんせん、それを私が知っているというのは穂乃果には秘密だけれど、
 μ'sを持ち上げていたのは高海千歌ちゃんただ一人ではない。
 彼女が目立っていたから認識が遅れたし、ヘイト的な感情もずいぶん向けてしまった。
 ヒフミちゃんたちが成功し、かつ社会的にも評価され、
 そんな彼女たちがμ'sの活躍の裏でそれを支え続けていたと世間が認識していた――
 ということに私も穂乃果も忘れていたのだ。
 当然、彼女たちの手助けがなければμ'sの活躍はなかったことくらい、
 μ'sの誰しもが理解していたし、日々感謝もしていた、扱い的には悪かったかもしれないけど。
 社会的な評価を受けている彼女たちが、今の自分たちがあるのはμ'sのおかげといえば、
 スクールアイドルで活躍していた高海千歌ちゃんが穂乃果がすごい!
 というよりも断然社会的に影響が強い。
 μ'sがAqoursと違って木っ端なスクールアイドルみたいな扱いになる中でも
 一部の人達から絶大な支持を受けていることに恐らくよっちゃんも気が付かなかった。
 ヒナがAqours単独で世界的に評価されうるようなライブを開くためにイベントを企画。
 彼女たちの力を見せつけるために前座としてμ'sやA-RISE(と言っても英玲奈一人)や
 SaintSnowの二人や虹ヶ咲のみんな、そしてALSTROEMERIAの三人を呼び、
 自分たちが評価されて絶大な支持を受けるというシナリオを予想していた(そのように説明も受けていた)よっちゃんは
 前座として呼ばれていて、オミソでしかなかったみんなを喝采する声に戸惑った。
 ヒナや亜里沙といった小狡い面々が素直で人を信じるよっちゃんを上手く利用し、
 手のひらの上で転がしたというのが正解なんだけど。

「ヒデコやフミコやミカが私の友人で、
 彼女たちが評価している私を持ち上げる人がいた
 いやあ、さすがに気が付かないよね?」
「千歌ちゃんが言うだけではスクールアイドルの中だけの評判だもの」
「絵里ちゃんも経験あるよね? 知らない人から評価されるの」
「残念なことに評価ばかりではなかったけど」
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/24(日) 06:39:51.93 ID:jSsbhjMH0
 私も苦笑していると思う。
 ツバサであったりμ'sだと凛とかことりが
 妙に私に辛辣であったのは、私自身至らない部分が存在し、
 それが原因であるとばかり思っていたけど。
 妙にμ'sを神格化して持ち上げる面々に対しての牽制や、
 絢瀬絵里の実情を披露することで、私への過度な称賛を防いでいた――んだと思う。
 ことりが主導していたのはトラウマを抱える穂乃果を観て
 過度な称賛のマイナス面であったり、
 称賛を嫉妬する人たちの心情を目撃し、内情を完全に把握していたから。
 同じことを海未ができなかったのは――
 私への好意っていうか、私に対して遠慮があったんでしょう。
 それを過去のことりに告げれば、そっぽ向きながら調子に乗らないでみたいに言って、
 下手すれば蹴り飛ばされるかもしれないけど、まあそれもよしかな。

「でも、誰かを観て、自分の気持ちを我慢するとね、損するって気づいたんだ」
「心の思うままに私を罵倒してくれたほうが楽なんだけど」
「無理」
「お願いだから罵倒してほしいんだけど」
「無理」
「罵って欲しいんだけど、ぽーちゃんが聖良ちゃん罵るみたいに」
「あれはああいうプレイだから良いんだよ」

 月島の方の歩夢ちゃん退場後、かなりシリアスに活動を続け、
 誰しもに理亞のお菓子を食べておかしくなった、キャラ違いますよ?
 と言われ続けた聖良ちゃんだけど。
 ぽーちゃん奪還後に一番最初に言った台詞が
 ”思う存分罵って欲しい”
 その後に、 
 ”私はもう真面目なキャラを演じるのは疲れました”
 であり、この世界で記憶を取り戻した後も一目散に岐阜に飛んだので、
 今もたぶん、さんざっぱら罵られて悦んでいると思う。
 彼女には理亞を支え続けてくれたことに対しての感謝しかない
 ――んだけど、伝わるかな……?
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/24(日) 06:40:42.12 ID:jSsbhjMH0
「絵里ちゃん」
「……そんなふうに潤んだ目を向けられると困るわ」
「私は好きの気持ちは隠さないよ、誰かを見て私の気持ちを隠すのはやめたの」
「素直になってほしいわ、できれば私の欠点を評って!」
「ちょっと乗り遅れた感あるけど、絵里ちゃんのハーレム一番手になってみせるから」
「誰も得しないわ! だいじょうぶ! かつてのPrintempsのように!」

 いくら私がネガティブな自己アピールを繰り返しても、 
 とても残念なことに穂乃果は頷いてくれなかった。
 私を好きな面々は私のわがままを許してくれない。
 それが絢瀬絵里への対応であり、おまえへの評価なんだよ――
 そう言われれば頷くしかないけれど、
 それは好意なのかと疑問に思うと闇に落ちそう。
 
 そして何よりこの現場を目撃してしまったお米ガールさんに(穂乃果を呼びに来た)
 
「私も告白したくて」
「良いのよ花陽、あなたは不器用なままでいて、
 むしろ不器用のままでいたほうが私と仲良くなれる」
「いろいろ謝りたいこともあるの、今度穂乃果ちゃんみたいに素直な気持ちを言うね」
「そんな潤んだ目をしても誰も得しないわ、
 絵里にキスする5秒前みたいな目は誰も得しないから!」
「その時には二人で寝るお布団用意しておくから」
「あなたの部屋は二年生組と凛がいるでしょう!?」
「だいじょうぶ! 絵里ちゃんならできる! ファイトだよ!」
「穂乃果みたいに励まさないでぇ!?」

 これがハーレム系主人公への過度な好意と称賛――
 嬉しいのかと言われると3%くらいしか嬉しくない。
 相手がみんな同姓じゃねえか! と言われれば私が選んだんじゃない! 
 と反論したい。
 これが一過性のブームであり、
 もしくは夢オチであり、
 起床したらツバサや亜里沙から罵られるっていう展開を予測したけど、
 一人にしとかないと誰かが妊娠するぞ! というどなたかのデマを信じた旅館の方に、
 私は独房みたいな個室で寝ていたから起床した時には一人だった。
 ただこの人権のない扱いは私を満足させ微妙に気分は良くなった。
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/24(日) 06:48:00.29 ID:jSsbhjMH0
しばらく絢瀬絵里さん視点になります。
エリちが一番書きやすくて嘘つかなくていいので、どうしてもという場合でなければこれで。

一箇所だけ意図的に嘘ついている場面がありますが、それは理亞ちゃんルートで披露できればと思います。

書いている当人的にはハーレムに見えないんですが、ハーレムなんでしょうか?
そんな疑問を持ちつつ、時間があればもう一つエピソードを今日中に……。
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 21:16:26.82 ID:1KHCVvDeO
穂乃果ちゃんとお互い本音で語り合ったのは最初の飲み会以来だったりするのかな
ループ自体は理亞ルートからだけど亜里沙ルートの時点で距離置いてる感あったかもう一度読み返してみるか
嘘ってのも気になるしラスボス()が全部の黒幕とはなんとなく思えないんだよなぁ
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 10:23:34.11 ID:PJHhjz/ZO
穂乃果ルート突入したら作中のあらゆる人敵に回しそうで怖いな
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/25(月) 14:55:08.84 ID:eiJym/ni0
 かつてのループではついぞなされることがなかったAqoursとμ'sの懇親会。
 私自身の努力で浦の星女学院にスクールアイドルが誕生したわけではないのは、
 これから私が行動して何かしらの結果を残すことで許して頂くとして。
 すぐそのイベントに赴くことになるかと思いきや、
 
「……20人近くの大人数が泊まれる宿泊施設の確保が難しい」

 この企画を主に担当したツバサであるとか、
 μ'sのメンバーを集めるために奔走してくれた穂乃果であるとか、
 Aqoursの集結に骨を折ってくれた海未や真姫であるとか。
 私が協力している余暇もなくスクールアイドル部に9人が揃い、
 スケジュールも私が感知すること無く余裕があり、
 唯一多忙を極めていた矢澤にこもいきなりの休業宣言により余裕ができた。
 だけども、季節はもうすぐゴールデンウィーク。
 大型連休中に大人数で移動をし、
 大人数でイベントに参加すれば、
 当然、他の観光客に多大なる影響を与えるのは必至。
 しかもAqoursに限らず私たちは年若き乙女(とても信じられない)
 その上、綺羅ツバサや矢澤にこは知名度が例えようがないレベル。
 秋葉原から沼津駅に帰ろうとした際にも、私という風除けがなかったせいで
 山手線に乗車したまでは良かったものの、東京駅に到着。
 なんか飲み物でも飲むかで、
 私がいた時にはなんにもなかったニューデイズに単独来訪。
 ああ、これ甘さが染み渡るなあ、と気を抜いた瞬間集まる人。
 え、あ、マジ? と心の中で思いながら、それでも集まってくれた人を邪険にもできず、
 にこやかに対応して、サインにも気軽に応対を重ねていたら
 目の前から人が消えず東京駅大パニック。
 結果的に警察車両とタクシーの二段構えで護送されるみたいに十千万に帰還。
 亜里沙に借りてきた猫みたいに連れて行かれるときにも妙に抵抗しないなって思ったら、
 それなりに疲労は重ねていたものであるらしい、私も罵倒されなくて辛い。 

「私なんでサイン描いてるの?」
「相方が欲しいって言ってたから」
「あなたの相方ってヤスコ……とか言ったっけ?」
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/25(月) 14:55:43.63 ID:eiJym/ni0
 穂乃果や花陽の比較的周囲から好感度の高い面々から予想外の告白日和。
 ――日和はいらないか。
 多大なカリスマ性を誇る両名から信頼の厚い絢瀬絵里の評価も、
 私が何にもしていないにも関わらず急上昇。
 特にAqoursの二年生組の評価は、理亞のお菓子を何食わぬ顔をして食べる人から、
 実は神様みたいにすごい人レベルになり、居心地が悪くてしょうがない。
 ダイヤちゃんだけは厳しめで評価が低空飛行なのが救い。
 今度黒澤家に来訪してミルクちゃんのコスプレでもしたい、ちょっと迫力に欠けるか。

「そうよ、あれは芸名だけど」
「本名は何ていうの?」
「南條伊織」

 手が止まる。
 どこにヤスコ要素が? とすっとぼけることもできず。
 私は油が切れた機械みたいにギギギと首を動かしながらニコの方を向く。

「ええと……妹さんとかいる?」
「よく知ってるわね? そうよ、声優のあやせみなみ」
「……あやせみなみ。
 本名はメグミとか言ったりする?」
「よく知ってるわね?」
 
 ニコは過去のループ時の記憶が戻ってない、予測ではこれからも戻らない。
 聡くて賢くてうまく周囲の空気を読んで立ち回れる彼女は、
 ループ時の記憶を保持している面々とそうでない面々の関係性の変化に気づいている。
 それでもことりや凛、Aqoursのダイヤちゃんや千歌ちゃんやルビィちゃんや花丸ちゃんといった、
 記憶が戻らない組とも交流を深めつつ、私みたいなループ組とも仲が良い。
 
「あなたの相方、女の人?」
「絵里が望むようなオタ方面にありがちな男の娘ではないわね」
「私のファンなの?」
「珍しいでしょ」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/25(月) 14:57:16.87 ID:eiJym/ni0
 人気絶頂のニコヤスの休止の一番の障害になったのがヤスコの意志。
 説得には困難を極めたらしいけど、どうしても欲しいものがないかと物量作戦に出て、
 彼女(ほんとうかどうか怪しい)が欲しいものっていうのが私のサインであったみたい。

「妹と一緒に会いに行ってもいい?」
「ヤスコを妊娠させないでよ?」
「その前に歩夢ちゃんも連れてってみるかな……なんて反応するかな……」

 ニコのボケに対応することができず申し訳ない。
 そこは女だから妊娠なんかさせられるわけがないというべきなのは分かってるけど。
 その、綺羅雪菜女体化でも結構絢瀬絵里の中で度肝が抜かれたけど、
 まさか椎名伊織まで女体化して登場があいなるとは、よっちゃんは詰めが甘い。
 彼女がラスボスを努めた世界では、椎名氏が可愛く思えるほど悪意を持った連中がいて、
 一人残らずよっちゃんや私やツバサとかに退場させられたかと思ったけど、
 アイツ生き残ってたんだな……。
 今度、ツバサに ボブ・サップの真似をするボビーオロゴンのマネをしながら
 ビリー隊長の台詞を読む、そんなコントでもやってもらおう、私も付き合う。

「大型連休中に大きなホテルは確保が難しいか、ニコ縮めない?」
「縮めるか! まあ、ニコは人気者だからサングラスは必須だけど!」
「ごめんなさい、まな板は削らなきゃいけないものね」
「ヤスコみたいなボケをかっ飛ばすんじゃない」

 記憶が全て戻っているかは分からないけれど、
 ある程度ニコの扱いを把握しているあたり、私の付き合いを思い出したか、
 メグが姉妹の仲が良好だと言うのでアドバイスでも送ったか。
 ただ、あやせみなみという人気声優が現役女子高生だという事実に、
 顔を見せた時になんて反応をするのか気になった、絢瀬姉妹ともども。
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 20:29:17.14 ID:eiJym/ni0
いかんせん、ヤスコヤスコと呼んでいたせいで、
そういえば緒方靖子って名前を出したのをすっかり忘れ
説明があれなことになっておりますが。

ニュアンスとしては、
ニコヤスとしてはヤスコとして参加してるけど
緒方靖子というのも芸名であるくらいに捉えて頂ければ幸い。
彼がちゃんと女体化して登場するのは決めていたのに、
そういえば最初にミスって名前出したなということを思い出しました。

また、何かミスを思い出したら明日以降フォローします。
やらかしが多くて申し訳なく
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 02:52:08.22 ID:WIGWZINP0
 英玲奈であったり、過去のダイヤちゃんであったり、
 多くの年下の女の子を自身の妹だと思っているフシがある人間が数多く、
 とても恥ずかしいことにそれが私にも当てはまったということを、
 過去に指摘を受けてようやく認めざるを得なかったというか、
 確かにそうであったなと思い返さざるを得なかったと言いますか。
 μ'sの年下の面々は妹かなんかだと思っている私が、
 特に可愛い妹扱いをしているのは穂乃果であったり、海未であったり、真姫だったりするけど。
 手がかかるのが誰かと言えば赤毛のお嬢様を挙げたい。
 手のかかるという部分がある程度キャラ作りによるものであるのは、
 ご愛嬌と私がコメントして良いものか迷うけど、
 ただ、酒を飲んだ後の処理に関しては、みんなが私に押し付けてくるので、
 多少はあらためて欲しいところではある。

「よっちゃんへの嫌がらせのためにバニーガールに扮したは良いけど、
 微妙に自身への評価が下がってない?」
「あやせうさぎ再始動への伏線になったから良いのよ」

 よっちゃんがラスボス化するまでには心理面が冷え切る体験があり、
 そこに関しては私もノーコメントを貫きたい、不愉快だから。
 が、冷酷になってからそれを解凍させるまでには苦労したものであるらしく、
 亜里沙や理亞や真姫と言った面々はよっちゃんに対してそれと周囲に分からないよう
 悪質ではないレベルの嫌がらせを度々披露している。
 善子ちゃんへの評価の向上へ繋がるようには調整されているものの、
 分かっている面々にはそこまでしなくても臭は微妙に存在する。
 微笑ましいレベルに留まっているし、苦笑で許している面々が度量が広いので、
 度が過ぎなければ止めないようにはしている、よっちゃんが嘆けばその限りじゃないけど。

「それに、自身を高められるのならば羞恥なんて捨てきれるでしょ?」
「同意だけど、そういう態度が同業者の友人の少なさを物語ってるでしょ?」
「友達は数じゃなくて質だから良いのよ」
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 02:52:40.24 ID:WIGWZINP0
 真姫と会話していると楽しい。
 物事の捉え方もそうであるし、行動に対する意識もそう。
 なんでやたらめったら何に対しても一生懸命なの? と言われがちな私も、
 真姫を見ているともっと一生懸命でいいよね、みたいに楽になれる。
 まあ、彼女に関しては仕事や好きなことに熱意や情熱をかけ、
 社会的な評価へと繋げられる器用さがあるから、
 私なんかと同列視されても嬉しくないかもわからない、愛情くらいにとどめておこう。

「あやせみなみは客を呼べる声優なの?」
「まだまだね、別に私が優れた声優ではないけれど、
 彼女一人では同人ゲームを売るには足りないでしょうね」
「英玲奈に殴り倒される覚悟は必要かしらね」
「朱音ちゃんは素直で可愛いから、指導したら楽しそう」

 二人が現役女子高生であるという点はいただけないにせよ、
 断られれば18禁要素を削ってしまえばいい。
 真姫や司令に二人を指導させてゴネようものなら、
 仕事で食べていくつもりならゴタゴタ抜かすなって怒られるでしょうけど。
 社会通念上エッチシーンを現役女子高生に演じさせるのは心苦しいけれど、
 演技であるならばなんとか行けそうな気もする、無理そうな気もするけどね?

「真姫はやってくれないの?」
「やるわよ? でも、お願いするなら代償が必要よね?」
「資金面は何不自由なく」
「私がお金じゃなくて義理で動く人だって知ってるでしょ?」

 昔からお金に関しては何不自由なく過ごしていたせいか、
 お金をかけて得るものに関して真姫はまるで興味がない。
 海未ともそのへんで馬が合うみたい。
 逆に労働には対価としてお金を得なければ
 後進が報われないというニコとは微妙に距離がある。
 私もどちらかと言えば真姫寄りではあるんだけれども、
 エトワールで過ごしたり、ハニワプロに行ったりして、
 頑張っても報われなくて夢を諦めた人達を見ているから、
 私自身がお金を得ることが役に立つならそちらの立場でありたい。
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 02:54:00.13 ID:WIGWZINP0
「声優として……私はそれなりに声優であることにプライドがあるし」
「でしょう? だからそんなあなたの邪魔にならないように」
「私をサポートするなら私のモチベーションを上げるのがあなたの仕事よ」
「言葉は立派だけど、水着になれと言われればなり、喘げと言えば喘ぐんでしょ?」
「安心して、あなたのプラスになる」

 どこまで真実味がある話だかは分からないけれど、
 確かに全身全霊で喘ぐっていうのは、見た目的に痛々しい側面はあっても
 歌唱力や大きな声を出す喉に負担をかけずに可愛らしい声をだすことに
 絶大な効果があるから困る。
 真姫がいうようにエロは地球を救う! というわけではないし、
 別に私がエロエロが大好きな人ってわけではないんだけども。
 ただ、全身を使って声をだすのには喘いでいるイメージが重要ってだけで、
 別にエッチな声を出す必要はない、色気を出す必要もない。

「あの一つだけ伺ってもいいですか?」

 淡島ホテルでお酒を提供する仕事をして、
 内浦にいながらも私たちに見つからないようにしていた桜内梨子ちゃん。
 あそこにいたってことは、鞠莉ちゃんや果南ちゃんも当然彼女の保護に一役買っており、
 いつから気づいてたの? って尋ねたらすっとぼけるのが楽しかったって答えが返ってきた。
 どこまで真実を言っているかは分からないけど、そこを追求するつもりはない。

「なあに?」
「その、演技をなさる際に感情に浸ってしまうことはあるんですか?」
「喘いでいる時にいやらしい気持ちになるかってこと?」
「真姫、相手はいちおう現役女子高生」
「絵里ちゃん、いちおうは余計」

 かつては同業だったり、仲良しであったこともあったので、
 梨子ちゃんは私を結構砕けた呼び方もする。
 Aqoursの面々の前だと年上の先輩であるので器用に合わせるけど、
 夜の蝶として年収が億単位であったり、スナックのママとして成功したり、
 そんな過去を持つ彼女が現役女子高生やっているのには違和感がある。
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/26(火) 08:48:41.52 ID:nsVVEFRnO
今の絵里ちゃんにバニー衣装着せたらおっぱい部分ぺローンってなりそうだな…
>>608
色んな設定複雑に絡んでそうなルートだし多少混乱するのも仕方ない
2ルート平行だし大変そうだけど頑張って
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 19:15:31.30 ID:WIGWZINP0
「浦の星に入らなかったのはピチピチのチャンネーばっかりで
 商売のこと思い出すからすぐの転入を控えたと評判の人がなんか言ってる」
「そんなことないですよ? ええ、真姫さんそんなコトありません」
 
 梨子ちゃんの目が泳いでいる。
 あんまりいいこと無かったという夜の蝶時代の癖で、
 ついついおしぼりを開けるのが上手だったり、
 身体を密着させながらついおべっかを言ってしまうとか。
 いつしか彼女のハーレムが築かれないことを願いたい。
 梨子ちゃんは女性に貢がれているだけで年収億単位、怖い。

「例えば――そうね、私にとって収録現場っていうのは
 コンサートの発表会場みたいなものね」

 おちゃらけた空気になるかと思いきや真姫が軌道修正。
 演技をすることに際しては妥協を許さない彼女だから、
 エッチな演技をする時にエッチな気持ちになるんですかと言われて、
 はいなりますよ、とは絶対に答えない。
 ちょっとムッとしたのが私にもわかったので、空気を弛緩させたつもりではあったんだけど、
 真面目に答えなければいけないと使命感にでも駆られてしまったのか、
 私に目配せをして口を開かないでのサインを出してきた。

「緊張もするし、気合も入る。真面目にこなさなければと使命感にも駆られる
 はっきり言ってしまうと、自身の感情に身を委ねている余裕はない」

 梨子ちゃんを眺めてみると、失言をしてマズったみたいな仕草はせずに、
 真姫の発言をじっと待っているようにおすまし顔をしている。
 そこらへんの感情の機微を利用して都合の良いように人を回す技術に関しては、
 おそらく私の知り合いの中で敵う面々はいないと思う。
 だから私なんぞがじっと表情を眺めたところで梨子ちゃんの意図はイマイチ理解できない。
 ネガティブな方面に繋がる要素を回避することに関しては慣れている私も、
 何を考えているのかわからないとか、意図が取れない人に関しては少々苦手。
 梨子ちゃんは普段はおしとやかで心優しいのに、
 人を使う技術は神がかっているので、その点ではまだ理解が及んでいないのかなと思う。
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 19:16:21.94 ID:WIGWZINP0
「ただ、一部の天才は違う。
 梨子ちゃんは天才って人に会ったことある?」
「夜の世界ではありません、私が一番です」
「さすがね」
「でも、一番になっても幸せにはなれなかったです、上に立っても、
 お金をどんなに得たって幸せではなかった」
「今は?」
「よっちゃんがその身をかけて教えてくれました
 人は幸せになるのではなく、幸せに気がつくものだと
 誰かを蔑ろにしたって、貶めたって、追い抜いたって幸せにはなれない
 真姫さんはそれでも、天才を目指しますか?」
「それが私がここにいる理由だから」
「絵里さんに教えて貰うと良いですよ、その人参考になります」
「この人天才だけど、いったい何の天才なの?」
「天才になったら分かるかもしれませんよ? もしかしたら璃奈ちゃんの言う通り、
 ただのゴリラの可能性もあります」
「西木野真姫は絢瀬絵里をただのチンパンジーかゴリラだと思ってるわ」
「あの、二人して私をディスのやめてくれない? いつから共闘したの?」

 類人猿みたいなやつと言われると苦笑しか浮かんでこない。
 ただ、ニュアンスとしては本当にゴリラだとか思っているわけじゃなく、
 ディスではないくらいのことは分かる。
 花陽なんかも私をディスる発言をしつつ自分の目的を果たそうとするし、
 ツバサも私をディスりつつ目的を果たしつつ憂さまで晴らす。
 そこらへんのツバサ△を意識し始めた面々がこぞって私を罵り始めたけど、
 今の所ツバサや花陽や梨子ちゃんみたいに上手いこと目的を果たしている子はいない。
 ただの悪口を私に言っているだけではないか説は封印しておく。

「まあ、真姫さんが言葉通りの淫乱でおちゃらけている下ネタキャラでないことは
 Aqoursのみんなに伝えておきましょう」
「ついでに絢瀬絵里が類人猿ってことも伝えておいて」
「なんでツバサといい穂乃果といい、自身の評判を上げるついでに
 私の評判を下げようとするの? 心地いいからいいんだけどさ
 他の人にはやっちゃダメよ?」
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 19:18:44.47 ID:WIGWZINP0
「やるわけないでしょう? 絵里だからやるのよ」
「絵里ちゃんはいくらでも下げられる要素があるから下げやすくていいよね」
「本当に褒めてる? なんかすごい天才を見る目で見てるけど本当に褒めてる?」

 言葉通りのニュアンスではない発言をして、自身にヘイトを集めようとするのは、
 私の専売特許であるから改めてもらいたいけれど。 
 いかんせんそれを私自身やってしまっているから説得力の欠片もない。
 花陽あたりの説得なら聞いてもらえるかもしれないけれど、
 花陽自身もそれを多用して凛やことりに警告していたりするから
 どこまで聞いてくれるかわからない、誰かなんとかして欲しい、ダレカタスケテ――

「真姫」
「なあに?」
「花陽は本当に私のこと好きかな、あなたみたいに」
「違うでしょうね、穂乃果もそうだと思う」

 花陽に誰かが憑いているという件は真姫から教えて貰った。
 雪姫ちゃんみたいな善玉ではなく、
 偉そうな割には敵意を向けたら背中向けて逃げたり、
 花陽への影響が寝不足くらいしかなかったり、
 もとから花陽が睡眠したり、意識を飛ばさない限り何もできないというへっぽこさと、
 発言の端々から私があっちの世界で会った使えないやつにそっくり。
 他人を見下して偉そうな割には誰かに都合よく使われている頭の悪さは、
 ルビィちゃんや理亞の親友騙ってたヤツを彷彿させて不愉快。

「穂乃果の態度は海未へのあてつけ?」
「そう読んでる」
「絵里ちゃんはそういう子を本気にさせるよね」
「絢瀬絵里NiceBoat計画を推進するのはやめて」
「穂乃果が私みたいに絵里を愛し始めたら面白くなりそうね」
「あらあら、ごちそうさまです」
「愛してくれるのは嬉しいけれど、私の意志を尊重してくれるともっと嬉しい――」

 穂乃果や花陽が私に抱きついたりなんだりすると、
 海未の視線の温度が下がる、海ではなく雪山にいそう、ありのままの自分を見せてそう。
 ダイヤモンドプリンセスよりも強い絶対零度の氷属性。
 目を開くとみんなが怯えるっていう理由で常に笑顔、怖い。

 ――今回の淡島ホテルで親交会の会費、何故か私持ち。
 ココ最近鞠莉ちゃんへの借金が増えてばっかりだね? これからも増えるだろうけど。
 イタリアで魚の餌にされるのは嫌だな……。
 間接的にアクアパッツァの素材になる自身を想像し、私は震えた。
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/26(火) 19:26:20.72 ID:WIGWZINP0
彼女たちがゴールデンウィークにどこに行くか、
とある姉妹が関わるということでしばらく秘密です。
姉って言うよりミルクちゃんと呼ぶべきだろうし、
ミルクちゃんがいるとうさぎもいないといけないですね?

その後にはツバサさんと虹ヶ咲へ
優木せつ菜覚醒イベントその1になると思います。

思うんですが、
ミルクちゃんのイベントの前に星空凛ちゃん、南ことりちゃん、国木田花丸ちゃん
のイベントがあったんですが、内容を構想してそのまま忘れました。
3人がとても可愛く見えるイベントを考えたまでは良かったのですが、
フラグでも何でもないので忘却されました、年かな……。

では、また次回です。
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/27(水) 02:25:34.89 ID:tiFL8aFO0
 浦の星女学院ではゴールデンウィークに入る少し前に
 家庭訪問なるイベントがある。
 今までは浦の星に常に滞在していたベテラン教師が、
 顔見知りの生徒のチェックをするくらいでこなされていたイベントも、
 今年ばかりは少々風向きが変わる。
 一年生の面倒を見るのは私の親友でもある東條希で、
 大卒一年目の彼女が教壇に立って教鞭を振るうのは様々な根回しと、
 いろいろな物語の都合が存在する。
 いくらヘマしたところでクビにならないのだけれど、
 とはいえ、真面目な彼女はより良い高校生活を送ってもらうため、
 心砕いていたりなんだり、ここ最近は事務処理の追われていた模様。
 私が秋葉原に行っていたり、ツバサがAqours結成のために熱心に活動している際も、
 一年生全生徒の動向であったり、家庭環境の巧拙、勉学の状況の把握に努め、
 頑張りすぎてしまった結果、数日間の休養をせざるを得なくなってしまった。

「生活態度は良好ですね、気は優しくて真面目、クラスメートとの交流も問題なく、
 勉学面で文系教科に不得手があるようですが、それはこれから改善していけば良いでしょう」
「ありがとうございます――ですが、あなたは東條先生の代理なんですよね?」
「とても残念なことに今の私は浦の星の学生ですから」

 怪訝そうな表情をする津島善子ちゃんのお母様。
 元教師という過去を持つだけに、現状には様々な疑問があるらしい。
 だけどもそんなことは私も百も承知であり、わざわざツッコまれても困る。
 今年23にもなろうかっていう人が現役女子高生と交じって授業を受け、
 明らかに年下の面々から絵里ちゃん絵里ちゃんと気軽に呼びかけられ、
 放課後にはこうして生徒のご両親にツッコミを入れられつつ現状報告。
 ダイヤちゃんは私のことを高く評価してくれるのはいいんだけど、
 それにしては私の扱いが体のいい駒みたいではないか――

「彼女は理系で輝く素養があります、責任感も強く、真面目で心優しい
 今はスクールアイドルとして他者とのコミュニケーションスキルも磨いています
 立派な子です、胸を張って良いでしょう」
「心配な部分もありますが」
「その点においては東條先生にも見ておくように頼みますし、
 微力ですが私もご協力します」
「娘があなたをすごく応援していて、だから贔屓目で見ているわけではないんですよね?」
「もちろんです」
「結婚するならこの人と言っていた過去がありますが良いんですよね?」
「同姓での婚約は法律で認められておりません」
「あなたが周囲にいる女性から熱烈な愛情を向けられている件については」
「ノーコメントでお願いします」
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/27(水) 02:27:12.74 ID:tiFL8aFO0
 お母様が善子に手を出すなよ? みたいなことをいいつつ、
 娘を選ばないなんて目が腐ってやがると言いたげで面倒である。
 ――できればお父様が帰宅される前に私も帰宅したい。
 絢瀬絵里ループ現象の名バイプレイヤーであり、
 このたび本当によっちゃんの父親になることができて、
 こうして私との付き合いも復活したけど報われたのか報われていないのか。
 
「周囲の方々が噂をするような、女性と見れば誰にでも手を出す人というのは、
 間違いのようですね?」
「その周囲の方に興味がありますが、私はノーマルです」
「ほんとうですか? 仮に男性と亜里沙さんならどちらの恋人になられますか?」
「あり……えない想定です、それに男性と妹ならば妹を選ぶのが姉です」
「ごまかした言葉が露出しています」
「……はっ!?」
 
 ひどく疑わしい目を向けられてしまったけれど、
 なんとか津島パパが帰ってくる前に国木田花丸さんの家に向かうことができた。
 100点満点で採点するのならば、今の家庭訪問イベントは満点を付けてもいい――
 他の学生のご両親に”なぜそこまで娘の何もかもを把握しているのか”
 ”今まで付き合いがないはずなのに一挙手一投足のクセまで理解しているのはなぜか”
 ”娘があなたに熱烈な愛情を向け始めたけどどうしてくれるのか”
 とは言われなかった、言われたような気もするけど、
 よっちゃんとは長い付き合いになっているからだいじょうぶ、平気。

「次の花丸ちゃんは長い付き合い、ボロが出ないようにしないと……」

 かつては顔を合わせる機会もさほどなかったのだけれど。
 アンポンタンな妹キャラの暗示からルビィちゃんを矯正したり、
 μ'sとAqoursが疎遠になりそうになるのを上手く立ち回って防いでくれたり。
 いかんせんそれらの行動が私が世界から退場後なので、
 彼女からすれば私は彼女の努力を知らないことになっている。
 お寺の子であることが性格の下地になっているのか、
 人間関係の修正であったり、空気を読むことに関しての能力はずば抜けており、
 よっちゃんもそれだけで食べてんじゃねえか! と言ったことがある。
 芸能事務所にいたけど人間関係の良好さだけでそこにいたから、
 将来一番心配な人は誰かって言われれば私は花丸ちゃんを挙げたい。
 海未に矯正される前の聖良ちゃんと波長が合ってすごく仲良しになっていたけど、
 お互いに、仕事ができないのは相手の方と語っていたから、
 その事実だけは私の胸に秘めておきたい、今の私の胸の容量小さそうだけど――
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 17:10:32.88 ID:tMzCNMMMO
顧問的な立場かと思ったら一緒に授業受けてるのかw
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/28(木) 20:19:05.80 ID:pXHs2kjK0
 各家までは自転車での移動になっている。
 最初こそ、あ、無理じゃない? 沼津市内まで自転車で行くとか無理じゃない?
 と思っていたんだけども、やろうと思えば人間なんでもできるもんである。
 ママチャリから十万円近くするマウンテンバイクへとの格上げもあり、
 すごい! さすが黒澤家のお姉ちゃん! 私ができることをふまえて
 ちゃんと考えての発言だったんだね! と言ってみたら、
 もちろんそうです、とかなりドン引きした表情を浮かべながら言われてしまい、
 絢瀬絵里冗談が通用しない説が黒澤家において浸透した模様。
 ダイヤちゃんの魂胆はどうであれ、静岡は景色もよく車通りもそう多くもないので、
 自転車を猛スピードで漕いでいてもさほど問題にはならない。
 一回調子に乗って前方を走っていた軽トラを追い抜き、
 いい気分で十千万旅館に帰ったら、志満さんが幽霊でも見たような顔をしたので、
 どうしたのか問いかけたら、あなたは人間なの!? と言われてしまった。
 運転していたのは私の上司でもある彼女だったらしく、
 あんまりな安全運転だと追い抜かれちゃんですよとフォローしておいた。
 高海姉妹の間で絢瀬絵里100メートル9秒台で走る説が唱え始められた、 
 ウサイン・ボルトか!
 
「花丸さんはのんびり屋さんですが、芯が強く
 周囲との協調性も抜群、気弱な一面もまた魅力的です」
「メリケンさんは孫のことを何でも知っておるのぉ」

 否定をしたのはやまやまであれど、国木田家のお祖母様は
 一見するとボケが進行しているように見えるけれどあなどれないと
 希が言っていたし、ベルちゃんも言っていたらしい。
 私と違って非人間要素が強い二人からそんなことを聞いてしまうと、
 実は全てを操っている悪の親玉であったり、
 ほんとうは異世界魔王であったりするのかもしれない――
 とはいえ私なんぞがそんなことに気がつくことができるわけがないので、
 当たり障りのない内容で花丸ちゃんのことを褒め称えてみる。
 ツバサみたいにちょっと頭をひねられないといいところが見つからないやつとは違い、
 何も考えなくても褒められるところがあって、
 別におべっかを使っているつもりはないのだけど、
 ずいぶんとおばあちゃまの機嫌はよろしくなったような気がする。
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/28(木) 20:21:26.24 ID:pXHs2kjK0
「メリケンさん」
「はい、なんでしょう?」
「孫は時々、楽しそうにしている”フリ”をしている時があるんじゃ」
「聡い子ですから」
「スクールアイドルと言ったかの? 仲間と活動していても
 どうしようもなく寂しそうにする時がある」

 μ'sでもAqoursでも――
 もちろん、ツバサとか理亞とかも。
 必ずしもそう、というわけではないんだけども、
 過去の記憶を引き継いでいる面々は不意に、いま自分はなにをしているんだろう?
 みたいな、虚無感と表現をすればよいのか、
 どうしようもないやるせなさと表現すれば良いのか。
 空虚な心情のまま寂しくなる。
 ただ、そんなふうにセンチな気分になっていると、
 エスナ! エスナ! と叫んだツバサに膝蹴りを背中に入れられるし、
 ポロムとパロムのリスペクトですか? と理亞にはツッコミを入れられる。
 エスナは物理攻撃ではないし、あの双子は自分の意志で石になっているから
 あの場面は本当にギャグじゃないから、と懇切丁寧に説明する。
 そうするとなぜか気分が晴れる。

「こんな事を絵里さんに言うことは悪いんじゃが、
 孫を見守っていて欲しい
 先の短い老いぼれでは玄孫を抱くのが精一杯じゃ」
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/28(木) 20:21:57.48 ID:pXHs2kjK0
 本当に先が短いと思っているのかは疑問であれど、
 お年寄りのお願い事は叶えたくなってしまうのが私。
 誰かに話せばまた厄介事を抱え込んでと蹴りとツッコミを入れられてしまうので、
 今の話は誰にも言ってはいけませんよとシリアスに警告したら、
 メリケンさんご飯はまだかいの? と言われてしまった。
 仕方がないので今お餅焼いているから後で食べてと言っておいた。



 よっちゃん、花丸ちゃん、で最後がルビィちゃん。
 神様の意志であるとか、誰かの事情であるような、
 そんな家庭教師イベントの締めは黒澤家来訪イベント。
 何回か来訪したことがある黒澤家を見上げながら、
 一言で表すのならば豪奢な和風建築。
 幼少時にルビィちゃんが転落したという人工の池。
 夏場だから良かったものの、冬場に転落したらさぞかし寒そうである。
 庭にはルビィちゃんがよそ見をして激突したという岩。
 勢いがあれば打ち身ができるくらいではすまなかったことが予想される。
 ルビィちゃんが子どもの時分開くことができなかった郵便ポスト。
 ルビィちゃんが鍵を落として家に入れず玄関先で泣いて出来たという壁の傷。
 家の中に入ればルビィちゃんがクレヨンを使って書き、落としきれなかった汚れ。
 姉妹喧嘩した際にルビィちゃんが作り上げたダンボール製のバリケード。
 様々なルビィちゃん製品が黒澤家には存在し、
 シスコンにしか理解できない妹製品が姉の業の展示会みたいに並んでいる。
 かつてのループでは一番最強の姉は誰か選手権も黒澤家において開かれ、
 穂乃果が見事に優勝をかっさらい、その費用でアメリカに渡航した。
 誰でも良いじゃなねえかみたいな空気になった際、
 常識人かつ人気もある雪穂ちゃんのプッシュで穂乃果が優勝したけど、
 彼女の同意を得られば絢瀬絵里が見事制覇したと思われる、リベンジしたい。

「黒澤家の家長として、妹であるルビィが学校でどのような生活をしているのか――
 興味があります、絵里さんの私見を詳らかに聞かせて頂きたいのです」
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/28(木) 22:16:39.62 ID:DHaCJLyDO
メリケンさんワロタ
ルビィちゃんの思い出の数々はダイヤさん言か
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/29(金) 20:26:16.23 ID:zDl8y4C00
 私への好感度や認識度はかつてのループほどではないみたいで、
 会えばすぐに胸を揉んできたり、何かにつけて私を持ち上げたりはしない。
 出会ってから早々に株を上げたは良いけれど、
 それからのダイヤちゃんの評価は常々据え置き。
 先の回想の通り、ルビィちゃんに対する愛情ばかりが先行しているけれど、
 私にも類が及んだこともある姉妹のご両親が前触れもなく退場しているあたり、
 人格面の矯正はなされなかったものと思われた。

「ダイヤさんが知らないルビィさんのことなどありますか?」

 私がオドオドと告げてみると、ダイヤちゃんは指を顎に当てて考えるフリ。
 こちらを楽しげに見ているあたり、妹のほぼすべての所業は頭に入っている。
 ルビィちゃんに熱烈な愛情を向けつつ、Aqoursとして活動をしつつ、
 生徒会長として行動しつつ、廃校の打ち合わせにて校内の代表者として挨拶、
 合併先の高校への顔見せ、さらには黒澤家の管理、経営活動の口出し、
 私なんぞが彼女と同じ活動をすれば栄養ドリンクが何本消費されようか。
 ダイヤちゃんは謙遜してフォローしていただいていますからと言うけれど、
 フォローしている人間が何百人単位でいることを一人で管理することに対して、
 彼女はもっと胸を張ったほうが良い、人と会う時に威厳があるように見せるため
 多少膨らみを大きくしていることが必要なくなるくらいには。

「あります、無ければ知りたいという意欲が湧いてきません」
「知らないことはないと肯定された気もするけれど、
 学院内でのルビィさんの様子について説明しますね?」
「はい、あなたから見た黒澤ルビィ像に大変興味があります
 隠し事などされず、ごまかさずにお話頂けると助かります」
「では遠慮なく、学院内ではダイヤさんの妹かな」
「……」

 喜んで良いのか悲しんで良いのか。
 なんとも言えない表情を一瞬だけ見せて、ダイヤちゃんは目を閉じる。
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/29(金) 20:26:47.50 ID:zDl8y4C00
 私みたいに悪目立ちをする姉を持つと、亜里沙みたいに苦労をする部分はある、
 妹はいい子だから、お姉ちゃんのおかげで交友範囲が増えました、
 と喜び7割で発言してくれることもあるけれど。
 私と関わりがある知り合いで、亜里沙にネガティブな反応をする人間は、
 だいたい誰かしらに地獄に落とされているので、姉としては安心。
 妹にそういう反応をするということは、私にもすぐに縁を切られるハメになるであるし、
 亜里沙に危害が及べば私も気合を入れて何してやろうかと反応する。
 だけども、私がよし! 地獄に叩き落とそう!
 と意気揚々とすると、ツバサとか亜里沙自身とかあらゆる知り合いが
 先んじて地獄に叩き落としてしまう、私の感情は常に空回り。

「黒澤ルビィという女の子は、常に黒澤ダイヤの妹
 誰しもの第一印象はすごく優秀な姉の普通な妹」
「……遠慮せずにお願いします」
「おおよそ、不出来と言われているかな」
「経験がお有りですか?」
「ルビィちゃんと亜里沙ってよく似ているわ、姉の優秀さだけが違う
 姉をね、越えようとすると、不器用になるのも似てる」
「生憎ですが、わたくしは絵里さんほど愛されていません」
「……その点だけは、頷けない」

 ダイヤちゃんが意図的に、私と彼女で優秀さが違うということをスルーし、
 なあなあで済ませようと珍しく逃避するような態度を取ったので、
 私も姉の先駆者(年上の意)として警告するように目を細くしてじっと見つめる。

「ルビィちゃんはあなたのことが大好きよ」
「それは、客観的に見てですか?」
「客観的に物事を見るのが苦手だから、
 どうしたって主観混じりの意見になってしまうけど」
「……同じシスコンと呼ばれる者同士、
 妹のことに関しては主観的になってしまうのも致し方がないというものです」
「ダイヤちゃんって人から嫌われること、ないことないでしょう?」
「有象無象のことは知る由もありません」
「明確に否定してちょうだい」
「……申し訳ありません」

 私もかつてそうであったし、亜里沙もそうであるし、
 黒澤家で過ごしているダイヤちゃんも自身を産み育んだ相手から
 嫌悪を向けられたことがある。
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/29(金) 20:27:16.05 ID:zDl8y4C00
 彼女は有象無象として切り捨てようとするけれど、
 さすがに肉親相手では言葉でしたところで上手くいかない側面はある。
 かつてのループでは社会人であったことも手伝い、
 追放みたいな形で家から追い出してもさほど問題にならなかった。
 でも、今のダイヤちゃんは未成年。
 いくら彼女が能力が高く、追い出した相手が無能であっても
 周囲の目は小生意気なガキ扱い。
 持ち前の優秀さで評判を抑えたところで人の口には戸は立てられない。
 そういう相手がダイヤちゃんに口出しが出来ない以上
 誰に罵詈雑言をかっ飛ばすかと言うと、抵抗できない相手および、
 能力が彼女よりも劣る相手である。

「亜里沙に嫌われたことってないわ」
「羨ましい話です」
「ダイヤちゃんもそうよ、ルビィちゃんがあなたを嫌ったことなんて
 ただの一度もない」
「それは……客観的に、根拠のある意見ですか」
「シスコンの勘よ」
「……統計よりも、証拠よりも、根拠のある説明よりも、
 あなたの勘を信じてしまうわたくしがいる」

 力でゴリ押しみたいな戦法は私の得意とするところではある。
 天王寺璃奈ちゃんには数度もゴリラ扱いされるような無理矢理感漂う説得でも、
 何故かシスコンには通用してしまう側面がある。

「ダイヤちゃんも、自身の意見を押し通そうとするとき、
 もしくは自分をあげようとしたり、相手のマウントを取ろうとする時、
 一番手っ取り早い手段って分かるでしょ?」
「相手の不備を指摘すれば良い」
「ご明答、問題点の指摘は抵抗できない
 相手の弱点を攻めれば気軽にマウントを取れる
 ――反論すれば逆上、黙れば図星、直せば自分の意見を聞いた結果
 では、どうしよう?」
「わたくしには分かりません。
 ルビィのことを突き放すことはできません、
 罵詈雑言を飛ばす連中を粛清しきれません
 同じシスコンの先輩として未熟なわたくしに教示いただけますか?」
「迷ったけど、私は私だった、シスコンは、シスコンでしかなかったのよ」
「あなたはいつだって、どこだって絢瀬絵里ではないですか」
「だって絢瀬絵里以外で生きられないし」
「……自身のことは信じられませんが」
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/29(金) 20:28:07.84 ID:zDl8y4C00
 ダイヤちゃんが応えてくれた。
 こちらに芯の強い、思わずトキメキを感じてしまうような、
 意志の強い、思いのこもった、真剣な瞳。
 そして何のためらいもなく、このドシスコンエピソードにオチをつけるよう、
 私の胸元に手を伸ばしてきた。

「……いつから?」
「わたくしが絢瀬絵里のことを忘れるはずがありません
 何があろうと、世界があなたを忘却しようと、どこにいようと、
 やはり良いものですね、多少サイズはランクダウンしましたが
 この揉み心地というものはたまりません」
「雪菜クンみたいなこと言わないでくれる?」
「懇親会の件ですが、いい場所を確保しておきました」

 μ'sとAqoursの交流は少しずつだけど始まってきている。
 遠慮しいよっちゃんは花丸ちゃんやルビィちゃん、
 凛やことりと言った、以前までの記憶が戻っていない面々からの誘いに答え、
 こっちに来た瞬間にツバサとか理亞とか真姫あたりの
 どっちがラスボスなのか分からない強者に弄られもしている。
 鞠莉ちゃんも理亞に対して地獄に落としてやろうかというポーズは取っているけれど、
 理亞がお詫びの意味を込めて作成するお菓子攻撃により最近黙りつつある。
 お菓子を作らない誓いは曜ちゃん相手にのみ適応されるらしい。
 劇物の処理をする私の、最近はやっと美味しくなってきたのではないか?
 理亞も成長したんじゃないか。
 そんな発言を信じた海未がためらいもなくお菓子を口に入れ、
 ぐぁ! とか、がぁ! みたいな聞いたこともない声を出してのたうち回り、
 私は後少しで園田海未ルートを完結させてしまうところだった。
 青い顔をして修行が足りませんでしたと彼女は私にむしろわびてきたけど、
 海未をそんな扱いにすれば亜里沙や穂乃果が遠慮なく私の人権を奈落に落とし、
 面白がったツバサや真姫やニコが更に追撃を加える。
 理亞に手出しをしないのは、申し訳なさそうに彼女がお詫びの品として提供してくる――
 そんな劇物の処理が全部絢瀬絵里に押し付けられるからであると思う。
 劇物処理に当たらせるか、それとも先んじて地獄に叩き落としておくか。
 一番の被害者である海未には、今度ゆっくりデートでもしましょうと言っておいたので、
 わかりました! プランを練っておきますね! 
 彼女が楽しみそうにしているのがせめてもの救い、とりあえず登山する覚悟は決めた。
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/29(金) 20:29:15.05 ID:zDl8y4C00
「ミルクちゃんに会いに行きましょう」
「岐阜に行くの?」
「ええ、歩夢に話したら土地は有り余っているからと喜んでくれましたよ?」
「ほんとに? あそこ人が泊まれるところってほとんどないわよ?」
「わたくし、テントというもので過ごしたことがないので楽しみです」
「……牧場でテントは厳しいと思うわよ? 匂いとか」
「自然の中で過ごすのですから、ある程度の不満はあるものです
 ですが、問題を抱えつつ、交流を果たすことにより、
 かつて成し得なかった両スクールアイドルが手を取り合う姿が……
 わたくし、目に浮かぶようです」

 誰だこんな場所に連れてきたのは!
 そんなことを言うツバサであったり、理亞であったり。
 ダイヤちゃんが理想とするμ'sとAqoursが手を取り合う姿が
 果たして本当に見られるのかどうか。
 希にはまだまだ休んでいてもらわないといけないかもしれない、
 病み上がりに牧場や農場と呼ばれる場所で一晩過ごさせるのは、
 親友として心苦しい、嫌われても強制的に休ませるべきか。

 いつまで経っても帰らない絢瀬絵里を把握し、
 なにか問題でもあったんじゃないかと様子を見に来た黒澤ルビィちゃんが、
 自身の敬愛する姉が人の胸を揉みしだいて、楽しみ楽しみと言っているさまを見て
 誤解のないようにきちんと説明を果たすべきだったか。
 
 いろいろなことを考えた結果、珍しく私は風邪をひき、
 仕事もせず、一日中寝ているという体験をした。
 妹に”今年の風邪はタチが悪いようです”と言われ、
 ツバサに”差し入れは理亞さんのお菓子が良い? 凛さんのおかゆが良い?”
 と死刑宣告みたいなことを言われつつ心配され、
 真姫や海未と言った面々がメイド服を着てご奉仕活動にあたった。
 希に良いから寝ていなさい! と言おうとしたのに、私自身が寝ていたせいで、
 負担をかけてごめんねと謝られてしまい、人生うまくいかないことばっかりだなと思った。
 なお、私以外にはいちご狩りに行くと説明がなされた。

 イベント当日いちご好きな穂乃果やよっちゃんが恐ろしくテンションが跳ね上がり、
 二人で肩を組んでいちごの歌(作詞者不明)を歌う中、
 私は車窓から見える外の景色を眺め、
 何事もなく平穏無事にイベントが終わるよう神に願うしかなかった。

 ただ恐らくこのイベントが終わって帰宅の途につく時、
 私の神様嫌いが増強されているに違いなく。
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/29(金) 22:13:06.55 ID:e88VxVcaO
ダイヤさん記憶引き継ぎ組だったのか、やはりこの世界のお姉ちゃんは侮れない
ミルクちゃんもとい聖良さんと理亞ちゃんの再開も一波乱ありそうで楽しみだ
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:22:09.80 ID:VCM1jx2z0
 こぞって反発などされないように何台かに分乗し、
 自身は大好きな絢瀬絵里と同じ車に乗り込んだことにより、
 だいたいダイヤちゃんが何かを企んでいることは、
 敏い面々の間で共通認識されることになる。
 それでもまあ良いかで済まされているのは、
 自身の利益のために行動されたわけではないと予測されることと、
 未だにいちご狩りへ向かうことを信じて疑っていないよっちゃんや穂乃果が
 テンション高くいちごの歌を歌い続けているからである。
 μ'sの面々は穂乃果が楽しそうであるからいいや、で納得している部分があるし、
 Aqoursの面々はよっちゃんが楽しそうだから良いや、で納得している部分がある。
 二人が目的地に到着し落胆した際のフォローはダイヤちゃんや、
 一人だけ目的地を知っていそうな絢瀬絵里に任せておけばいいや、
 特に後者の人は憂さ晴らしにも適任だからどんな目に遭わせてやろうかな――
 というのは私の被害妄想だと思う、
 ツバサが真姫と一緒に露出度の高いコスプレの話をしているので、
 ミルクちゃんと一緒に晒し者コースなんだなと思ってるけど。
 
 暇なのでスマホで検索かけてみたら月島農場がクラウドファンディングをしてた。
 ある程度の投げ銭をするとミルクちゃんの画像や動画を見られることになっており、
 一体何が聖良ちゃんをそこまで突き動かすのかは分からないけれど、
 アイドルやってた時代よりもよっぽど稼いでいるのではないか疑惑はとりあえず封印。
 基本的に聖良ちゃんは恥ずかしい姿を他人に見られるのが好きなのではないか――
 そんな考えも姉に会えることをシスコンの嗅覚で察した理亞の
 楽しげな表情を見て考えないことにした。
 ただ、少しだけミルクちゃんプラチナ会員(月額一万円)の特典である、
 秘密画像と撮り下ろしボイスなるものが気になったので、
 それとなく理亞に”特に意味はないんだけどこれってなにが聞けるの?”
 と、尋ねてみたら、絵里も会員になってくれるんですか? と逆勧誘され、
 ”予算の都合が厳しくて”と言ったら、”わかりました私が出します!”
 なんて言われてしまい、申し訳ないのでお金を稼げるようになったら会員になるからと
 お断りしておいた、結局ボイスの詳細は聞けなかった。 
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:22:36.81 ID:VCM1jx2z0
 休憩を取るためサービスエリアで過ごすというので、
 特に意味もなく牛肉でも食べたくなってしまった私。
 幼少時にはただの休憩所でしかなかった場所に
 数多くの子どもや観光客がいるのを見て、
 亜里沙の好感度上昇グッズでも買おうという気分になった。
 妹は私に代わりヒナのサポートというかプロデュース業にあたり、
 もうすでにあやせうさぎ(トマトあげると好感度上昇大)であるとか
 あやせみなみ(裏名考え中)であるとかを
 自作のゲーム(私がシナリオを作っている)においてのキャスティングしたり、
 散り散りになっていたスタッフをかき集めゲームを作る下地を作り上げてしまったので、
 おそらく妹の懐にはそれなりに分厚い財布があるであろう。
 たいして好感度のパーセンテージは上がるまいと思いつつ、
 何を喜ぶだろうかと首をひねりながら、マンゴーの入ったサンドイッチが目についたので、
 それを買ってプレゼントすると思いのほか好感度の上昇に関与することができた。
 しかしながら、それを目撃した赤毛のお嬢様(ヒロインC担当予定)とか元トップアイドルが、
 私にもよこせと要求してきたためお財布の中身は少なくなった。

「絵里ちゃん、ちょっといいかな?」

 この世界にて久方ぶりに顔を合わせた際に、
 ついつい昔なじみの姿に戻っていたので、
 テンションが跳ね上がり嬉しくなってしまい、
 久しぶりね! 元気だった!? 
 と、キャラにない感じで抱きついてしまい、
 それ以来微妙に距離が遠い気がすることりが声を掛けてくれた。
 嬉しくなって抱きついてしまいそうになったけれども、
 過去の失敗から学んでいかなければ、
 ことりも昔のキャラクターを取り戻す可能性がある、0ではないと思っているし。

「ええ、どうぞ? 
 でも、とても残念なことにお財布の中身は心もとないから、
 何かを食べるって言ったら空気くらいしかできないけど」
「絵里ちゃんモテモテだよね、いつの間にそんなことに?」
「体感的には、寝て起きたらだと思う」
「すごく斬新なプロローグから始まりそうな物語だね?」
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:23:06.68 ID:VCM1jx2z0
 たしかにモテモテではあるんだけれども、
 相手からすごく好意を寄せられるばかりで、お金が次々と減っていくのは、
 ハーレム主人公の宿命? 相沢祐一を主人公とする二次創作も
 ヒロインにおごってばっかりな話だった気もする。
 攻略対象の機嫌ばかりが良くなり、私の財布は薄くなり。
 ことりを伴って、ゆっくり会話ができそうな場所を探したけれども、
 残念ながらサービスエリアでは顔を突き合わせて会話できる場所など稀、
 基本的に人がごった返している施設では少々周囲の声が騒がしいけれど、
 対面という条件はなんとか満たすことに成功した。

「相談事?」
「うん、はっきり言っちゃうと
 絵里ちゃんってμ'sのみんなと交流してなかったよね?」
「……不自然に穂乃果や海未と仲が良いのが気になる?」
「すごいね、確かに私が生徒会長を務めてる時に絵里ちゃんの仕事量を見たよ
 一人でやっているということに驚いた
 私はずっと絵里ちゃんってふだん何しているんだろうって思ってた
 ごめんなさい」
「いいのよ、確かに私はμ'sのみんなと接触を避けていた、
 生徒会の業務もろくに引き継ぎ作業をせず、
 後進であることりや二年生の皆にずいぶんと迷惑をかけてしまった」
「その側面は確かに存在するかもしれないけれど」

 私が一人で生徒会において仕事をし、結果の都合のいい面悪い面どちらも存在する。
 確かに3年生は私が全部何もかもやってくれたので得をしたかもしれないけれど、
 とても残念なことに引き継ぎ作業という作業はまるでこなせてはいなかった。
 2年生のみんなが私に全部任せきりだったとは思わない。
 他に役員はいないのかと聞かれてもスルーしていた私が問題点に気づかず、
 とりあえず全部私がやってしまえばいいやで突き進んでしまった結果だ。
 いかんせん仕事においては優秀であったものの、
 誰かを信頼して仕事を任せる点においては無能極まりなく、
 私卒業以降に生徒会の仕事が軽く滞ったことは想像に難くない。
 当時に海未や穂乃果が記憶を取り戻す機会があれば、難しい面もなかったかもしれない。
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:23:49.39 ID:VCM1jx2z0
「私ね、穂乃果ちゃんや海未ちゃんのこと結構分かっていると思ってたの」
 
 お互いに謝罪をしてばかりでは話は進まないので、
 過去の記憶を振り返ることは一旦打ち切り。
 本題であることりの相談事に話題をシフトした。
 ループ時の記憶がない彼女は、穂乃果や海未が自身の知らない何かを知っていて、
 ことりが知らない事情まで把握している事に不自然さを覚えている。
 幼なじみの二人がろくに付き合いもなかった私に好感度高く、
 問題を解決するには声を掛けてみる他ないと思ったに違いない。
 負荷をかけて申し訳なく思うけれど、
 謝ったところで何が解決するわけでもないので、
 
「ことりは私よりもよく知っているわ、
 今の彼女たちに違和感を覚えるのも当然
 知らなくて興味がなければわからないでしょう? そういうことって」
「すごいね絵里ちゃん、結構長い間離れていたのに
 私のこともよく分かっているみたい」

 ことりが過去のループにおいて、露骨に千歌ちゃんを苦手にしていたのは、
 彼女が穂乃果のことを私分かってます! みたいな態度を取っていたからだと思う。
 穂乃果の幼なじみである海未やことり(このループではりんぱなと私も)の二人は、
 互いに互いのことを一番私が分かっていると思っているフシがあるし、
 間違っても私が穂乃果のことを世界で一番分かってますなんて言おうものなら
 海未やことりから総スカン食らう可能性もある。
 雪穂ちゃんあたりからも評価が下がること請け合いなので、
 怒った亜里沙に殴られる危険性もある。

「ことりは不安?」
「……何もかも分かられてしまうのは、ちょっと不安かな」
「穂乃果や海未みたいにね、私のことを信頼して好きでいて欲しい、
 なんて言わないわ、だけど
 今後、仲良くなれたら私は嬉しいと思う」
「絵里ちゃんは時々、ものすごく大人びたことを言うね? 達観しているっていうか」
「若さが足りないのよ」

 年齢の割に落ち着いて見えるという部分が、良い部分にもなるし悪い部分にもなる。
 扱いやすいという人もいれば、小生意気であると判断されることもある。
 自分を見守ってフォローしてくれる人が好きな穂乃果であるとか、
 穂乃果みたいにおとぼけている子を見守る立場にいるけど
 基本的に誰かに甘えたくて仕方ない妹属性の海未とは、
 ことりは一線を画している。
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:24:22.70 ID:VCM1jx2z0
 それがデザインセンスに直結し、誰もおよびつかない個性になることもあるし、
 酒飲みのビッチ化する方面に行くこともある、聞いた話だからほんとうかどうかはわからない。
 かつてのループでも男をとっかえひっかえしているという話ではあったけれど、
 私はことりの恋人というのを見たことがない、おそらく曜ちゃんも見たことがないはず。

「仕事って……どうかな?」
「今の私の仕事が健全な仕事であるとはとても言えないけれど」

 健全な仕事をしているときもあった、エロゲー作りにも営業活動は必須。
 頭を下げて、苦労をすることもあった、でも、私の仕事というのは基本的に報われている。
 報われない仕事といえば、私は主婦を思い出す。
 お給料が基本的にない、相手を選ばないと感謝もロクにされない、
 いつもふらついてお喋りとかしているイメージがある、子育てをフォローされることが少ない。
 私と仲が良い面々で唯一海未だけは家庭に入っても良い
 みたいなことを言ったことを覚えているけれど。
 ツバサは死んでも嫌っていうし、理亞もそうみたい、亜里沙はどうだろう?
 私もそれほど嫌悪するわけじゃないけど――

「ことりは早々に就職を決めたのよね、3年の時?」
「アパレル関連のね、と言ってもデザインとかじゃなくてショップ店員だけど」
「デザイナーの道は厳しかった?」
「面接の人がたまたまμ'sを知ってて、それの縁故みたいな感じかな
 最初就活している時にμ'sのこととか絶対に言わないようにしてたの――
 でも、何の因果なんだろうね……」

 スクールアイドルという存在がそれほど輝かしい存在ではない世界において、
 ちょっと高校時代にアイドル扱いされてハメ外した存在な感を
 年上の人たちは持っていたりして。
 だからこそことりはスクールアイドルであったことを伏して就活し、
 穂乃果はμ'sのことを言って就活で連敗続き。
 記憶を取り戻すと同時に穂むらにいるか、それとも――
 なんて言いながら、いざとなったら絵里ちゃんに養ってもらおう!
 とも言っているけれど、同じような発言を海未や希や真姫にもされている。
 ヒナや亜里沙だけでも手一杯なのにこれ以上手のかかる子どもが増えれば
 ツバサには何人かよこせって言われるだろうし、
 理亞にはもうひとり追加良いっすか? みたいに言うに違いなく。
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:27:25.63 ID:VCM1jx2z0
「と、私はこのあたりかな、もう時間なんだ」
「時間?」
「絵里ちゃんに話を聞いて貰おうの会、また今度も付き合ってくれる?」
「予約しておかないと私のスケジュールって開かないの?」
「本人のあずかり知らないところで予定が決まるって楽しそうだね」

 ことりはそう言いながら楽しそうに笑うけど、
 私はちらりと希がこっちを伺っているのが見えて、
 あーなに言われるんだろうなー、家庭訪問の話かなー。
 と、少し憂鬱になった。



 親友である希のことを少々蔑ろにしがちである、
 そんなふうな自覚を持ち、つねづね気を使ってきたと思う。
 かつては彼女自身から距離を取られたことも数回、
 私の方から殴りかかったことも何回か。
 当時の私が優秀で人の気持ちを常に慮り、器用に立ち回れていたのなら、
 おそらく、こんな若返ってエロゲーのシナリオ書いている――
 そんな状況は生まれるはずもなく。

「希、体の調子は?」
「エリちみたいに走ってる軽トラ追い抜いて
 金髪ポニーテールがバイクで暴走していると警察に数件通報されるとか
 それくらいには元気じゃないけど」

 バイクはバイクでも自動二輪ではなくマウンテンバイクである。
 あいにく免許は持ってない、暴走している自覚はあるけど。
 希はたそがれた表情でなんだかなあみたいな顔をしているけれど、
 そんな顔をされると私もなんだかなーという気分にもなる。

「ああ、希」
「うん、なになに?」
「あなた恋をしたって嘘ついたわよね?」
「な、なんのことやん!?」

 ちょっとだけ意地悪をされた心持ちになったので、
 簡単に伏線回収。
 石投げてきたから石を投げ返した感があるけれど、
 私が反撃すると誰かしらに袋叩きにされて終わる傾向が強い。
 ちょっと最近持ち上げられすぎて、あかん物語の主人公みたいやん!?
 と発言が希みたいになってしまいそうなので、そろそろ出る杭みたいに叩き潰されたい。
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:27:53.02 ID:VCM1jx2z0
「ほら、わからないあなたの気持ちが、のところ」
「花陽ちゃんがなー、素っ頓狂なー、歌詞がなー」

 希の目が泳いでいる。
 何事か相談しに来たのは分かっているけれど、
 希が持ってくる話はだいたい大した話じゃない。
 そしてなにより、希が持ってくる話の大筋を私は理解している。
 あいにく希のことでわからないことほとんど無いし。
 昔なじみでもあるし、ことあるごとに親友やっている私としては、
 手に取るように分かる、距離が近いツバサや理亞のことはさっぱりなのに。

「恋愛したんだってね? 私にそういったわよね?」
「も、もちろん――い、いやー、痛かったなー」
「経験もなかったのに?」
「エリち、な、なんで……?」
「いや、希の発言を振り返ってね、確かに体験時の話は聞いたんだけど、
 その前のデートとか、付き合い始めの馴れ初めとか、愚痴や不満を聞いてないなって」
「そ、それは、どのループでも処女だったエリちに失礼やんなって」
「経験の話はいくらでもするのに? 凛が真姫に話した思い出エピソードみたいな話を?」
「ごめんなさい、土下座でいいですか?」
「私のほうが謝るべきなのよ」

 話を軌道修正。
 希は自身を悪いと思ってばかりいるから、
 こうして私がガス抜きしてあげないといけない、私がそうできないと
 希は常に病んだ方面に加速してしまうし。
 親友の顔を見て女子高生みたいに若々しいであるなと感想を抱きつつ、
 どう考えても学生と姉妹みたいな関係にしか見えないけれど、
 本当に彼女が言う通り熱烈な信頼を持って接せられている教師であるのか――

「わからないあなたの気持ちが、花陽に対してのセリフじゃないでしょ?」
「い、いやー、なんでこんな歌詞を作るんかなーっていう
 花陽ちゃんへのメッセージをね?」
「私の気持ちが、分からないってことなんでしょ?」
「……ウチは、真姫ちゃんや海未ちゃんが考えない――
 どうしても女の子相手っていうのを意識してしまうからね」
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:28:22.12 ID:VCM1jx2z0
 のぞえり同人誌ではよく私を押し倒している(私も希を押し倒している)けど、
 彼女は意外と現実的に将来設計しがちだから、
 私を仮に押し倒して、私がどれほど働いてくれるかに頭が行くのだと思う。
 当たり前じゃないかと言う人もいるかも知れないけれど、
 そんなことは海未や真姫に言って欲しい。
 二人は比較的常識人だから暴動は起こさないけれど、
 タガが外れればなにかするのは過去のループからも容易に想像できる。
 誤解のないように言えば、タガが外れる=私に何かがあるであり、
 おまえは死亡フラグ建てなきゃ良いだろと言われれば、涙目で頷くほかない。

「ごめんなさい、あなたにはずいぶん迷惑をかけたわ
 できれば殴って欲しい、どうしてもっていうんなら膝蹴りまで良い」
「エリちはなんでそこまで暴力的手段を取られたいん?」
「それで心の傷が癒えるのなら、私はいくらでも殴られてもいいのよ」
「自己犠牲で仏像に僧侶みたいやね……」

 そこまで高尚な決意があるとは思わない。
 どちらかと言うと殴られるのが好きなドMの可能性だってある。
 安直な言い方をすれば、私自身が痛いのはいくらでも耐えられるけど、
 μ'sやA-RISEの面々が泣いてたりすると、なりふり構わず問題の解決にあたり、
 自身の肉体が悲鳴を上げていることに気づかず、だいたい結果的に倒れている。
 とても残念なやつであり、ツバサもよく、あなたって放っておけないタイプって言うし、
 理亞もフォローを入れつつ、面倒な人は好きですというし、それはフォローなのか。

「私は希といつまでも親友でいたいのよ」
「えらく直接的にフラレてない?」
「どうかしら? 親友でいたら、希の努力で絢瀬絵里攻略ルート開けるんじゃない?」
「他人力やね……」
 
 やりたければやれば? くらいのニュアンスであるけれど、
 別に突き放しているわけじゃない、今はその気はないですと言うだけ。
 今の希なら、私の人権をスルーして強制的に自身のものにはしないだろうし、
 仮にそうされても逃げ切れる手段が存在する、助けて雪姫ちゃん。

「ところで希。
 女磨きをしたあと、私を監禁しようとして花陽に説得されたんだって?」
「なんで知って……!? あ、違う、違う
 んなわけないやーん、もうエリチカボケてしまったん?」
「否定があまりに遅すぎる気がするけど、なんて言われたの? 興味ある」
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:28:49.12 ID:VCM1jx2z0
別に希の黒歴史を知って金銭面で強請ってやろう――
 というわけではなく、これから私の周囲の人達がヤンデレる恐れがあるので、
 それを回避するためにも対抗策は取っておきたい。
 
「これ、内緒だからね? 誰に言ったらダメだからね?」
「内緒にできる内容ならね、警察に今すぐ駆け込むような話でなければ」
「……」
「なにか言ってよ希!?」

 冗談めかして言ったら思いのほか本気にされてしまったでござる。
 あと、東條希さんが本気だすと国家権力とか風の前の塵に同じだから、
 仮に警察署に駆け込んでもおまわりさん困っちゃう、
 ひのきのぼうじゃ魔王は倒せない。

「思えば事前準備に時間をかけずに、花陽ちゃんに計画がバレなければ」
「仮に本気でそれ実行してたら、あなたツバサに消されるわよ?」
「そうだね、ホント。善子ちゃんにもそうされたかも
 だからよかった、だからこそ私はこれ以上、エリちには近づかないよ」
「……あなた、誰かからそう言うと私が逆に近づいてくるって
 アドバイス受けなかった?」
「……なんでバレてしまったの?」

 花陽がヤンデレた希に言ったことには、
 絵里ちゃんは捕まえようとすると逃げるよ、
 トラップには簡単に引っかかるから無駄に労力使っちゃダメだよ、
 だったそうで、なんで花陽が私のことをそこまで理解しているかは不明だけど、
 直接的手段を取られるよりかは、間接的手段や籠絡で私は簡単に落ちると思う。
 誰かが仕掛ける籠絡は、仮に亜里沙が仕掛ければツバサや理亞が、
 真姫が仕掛けるとツバサや海未が、海未が仕掛けると穂乃果やツバサが、
 ツバサが本気だすと亜里沙が押し倒しにかかってくるので、絶妙なバランスを保っている。
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/31(日) 18:29:30.99 ID:VCM1jx2z0
 誰かが暴走すると綺羅ツバサさんがなんとかしてくれる説が私の中であるけど、
 仮に彼女がヤンデレる方面に行ったらどうなるかな?
 気になるけど、とりあえず彼女を敵には回したくない、
 敵に回すとオンラインゲームの彼らや、芸能界の彼らや、
 黒澤家の人達のように音もなく人権が消える。
 ただ、彼女も万能ではないし、私もまた万能ではない。
 なんとかしようとすればするほど新しい問題がひっついてくるので、
 できれば平穏無事に過ごしたい、おまえには無理だろって声がどこかから聞こえそう。

「もう! どうしたらエリちを同人誌みたいにウチのものにできるの!」
「私に聞かないでよ!?」

 はっちゃけた方面にオチがついてしまったけど、
 仮に、絢瀬絵里をこうすればモノにできるということを、
 他の誰かが知っていたら恐怖である、知っていても間違っていて欲しい――
 そんなことを考えながら車に乗り込もうとすると、
 そっちじゃないですよ? と国木田花丸ちゃんに言われ、
 え、こっちじゃないの? と思いながら誘われるがままに車に乗り込んだら、 
 果南ちゃん、凛、海未という武闘派三名――。

 助けを求めるように連れてきた花丸ちゃんを見ようとしたら、
 もう既に彼女は避難を完了させていた、

「……この三名、ちょっとリリホワっぽくていいわね」
「ダイヤが言う目的地に着いたら、秋のあなたの空遠くを歌ってあげるから」
「……別にそれは、私が天高く蹴り飛ばされる犯行予告ではないのね?」
「ああ、それいいね、私の蹴りは届きますかだっけ?」

 そうです蹴りの跡消えないのです――
 そうです鉄下駄がしまえないのです――
 蒼色傷跡が私のヘマね――
 あなたのキックよもう一度――

 嫌な歌が聞こえた気がして、もうちょっと希をいじっておくべきだったと思った。
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/31(日) 22:21:30.92 ID:5+z8qUTDO
ヤンデレ希ルートは一先ず回避できた感じ?
えりちの周囲が絶妙なパワーバランスで成り立ってるならいつ崩れるかハラハラですな
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/01(月) 19:09:36.34 ID:fb6E2ZE20
 車内の後部座席は星空凛、絢瀬絵里、園田海未の組み合わせになっている。
 真ん中の席が私という点については文句はない、海未のポジションが一番偉いのは
 年収という意味でも、μ'sでのポジションという意味でも正しい――。
 彼女は自分が常識人であり、いつも冷静沈着であり、
 問題行動をする面々がいれば窘める役目にあると思っている。
 一方、私の左隣にいる星空凛という女の子は
 一見するとボーイッシュで、乙女らしさも欠片もないみたいな自己評価をし、
 胸もないし(ニコの顔を見ながら)と発言し、料理を作ると劇物が完成する腕前。
 かつてニコと希という組み合わせで乙女式れんあい塾という歌を歌ったときにも、
 どこに乙女がいるのか? と疑問を呈し、そう言われてみればそうねと同調した私は、
 希やニコからスネを蹴り飛ばされる体験をした、解せない。

「凛……なにか言いたいことがあるの?」
「もう少し気持ちが落ち着くまで待って」

 岐阜に到着するまでこの身が安泰かどうかは心配だけど、
 口を開いた瞬間に代償はおまえの命だ! とか言われて車外に叩き出され、
 後続から来たトラックに跳ね飛ばされる場面が思い浮かんだので、
 殊勝な私は凛が何事かを発言するまで待つことにした。
 海未と凛が組み合わされると、だいたい希もメンバーに加わるけれど、
 この場においては欠席、発言を先回りしてヤンデレ化を防ぎ、
 同時に彼女のガス抜きまでした私の手腕を誰か褒めて欲しい――
 海未と凛という組み合わせはこの世界では幼なじみ同士であり、
 かつては微妙な三角関係も構成し、μ'sの中では数少ない非処女として、
 多くのメンバーに男なんて! と言わせる要因にもなったのは黒歴史。
 彼女自身は別にその出来事があったから
 海未に熱烈な愛情を向けるようになったわけではなく、
 冷静に考えてお付き合いするなら園田海未という結論に至ったようである。
 男前な恋愛ポエマーな海未を見て、理想と言ったら彼女という結論に至った理由は、
 今度花陽にも問いかけてみたい。
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/01(月) 19:10:03.62 ID:fb6E2ZE20
 そういえば以前ラブライブというアニメが放送され、凛のインタビューも雑誌に載ったけど
 花陽をかよちんと呼ぶ理由を問われ、忘れたの一言で済ませたのはどうなんだろう?
 重要なエピソードであると思うし、もしも私が部外者だったらソコは気になると思う。
 りんぱなの二人は私に手厳しいことが多いので、問いかけることが少なかったから、
 今度、三人で飲み会でも開いて色々聞いてみようかな。

「絵里ちゃん」
「なあに?」
「花嫁修業について聞きたいの!」

 え? とか、はい? と言ったと思う。
 あまりに衝撃的すぎて、自分の耳に凛の発言が入らなかった気がする。
 反応も何言ってまんがなみたいな形になってしまい、
 隣にいた海未の視線の温度がずいぶんと冷却方面に向いてしまった。
 だからそうやって、ア○と雪の女王みたいな感じでありのままの姿見せてそうな
 そんな視線はやめてほしいの、私に原因があるのは分かってるけど。

「……花嫁修業というのは、それはつまり、夜伽の訓練を」
「絵里、車内から飛び出すんなら手伝いますよ」
「あ、ごめんなさい、冗談、冗談なのよ、軽いジョーク」

 真剣な凛を茶化すような真似をして申し訳ないと思うけれど、
 星空凛の能力値は料理以外はほぼ完璧。
 かつては海未に仕込まれてあらゆる才能を発揮した彼女だけど、
 この世界ではあくまで大学生。
 まきりんぱなの組み合わせでどれほど普通の学生生活を送ったかは分からないけど、
 現、愛の天使イオリン(笑)登場のループではにこりんぱなの組み合わせで 
 綺羅ツバサと絢瀬絵里のコンビの人気すら凌駕してみせたから、
 真姫が言うほど平穏な大学生活は送っていないと推測される。
 私というオミソが着いてツバサが能力を発揮できなかったのではないか疑惑があるけど。

「絵里ちゃんのスキルを凛に教えてほしいの!」
「お、おお……」
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/01(月) 19:13:18.57 ID:fb6E2ZE20
いつまで持続できるかは分かりませんが、
理亞ちゃんルート及び、この海未ちゃんルート、
そしてオリジナル作品、悪役令嬢エヴァリーナちゃんの話を毎日更新するため、
分量としては少なくなりますが、楽しんで頂ければ……。

エヴァリーナという名前ではありますが、今作品とはまるで関係ありません。
ええ、ないんです、まったくもって。
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/02(火) 02:27:14.63 ID:wX8quGNW0
 星空凛から頼られたことが滅多になく、
 顔を合わせれば罵倒ばかりされる。
 一度、素直になれないだけよねー、本当は私のこと大好きなんだよねー
 って言ったら、頬を赤く染めながらそっぽ向かれ、
 照れてるのかと思いきや、今まで遠慮して悪口を言ってなかった自分がバカだった、
 なんてことを言い放ち、あ、これ地雷踏んだやつだと思った後に、
 さんざっぱら罵詈雑言をかっ飛ばされ、遠慮しい凛ちゃんカムバックと願った。

「泣いているのですか絵里」
「人から優しくされるのが、こんなにも嬉しいことだったなんて」
「大げさすぎだよ絵里ちゃん!?」

 大げさであろうがなんだろうが感動を覚える。
 基本的に私も素直でない側面があって、
 それに準じた面々の素直でない好意には慣れきっている。
 今の凛のようにワンコみたいな感じで純真無垢に好き好きされてしまうと、
 ついつい罠なのではないかと疑いつつも従ってしまう私がいる。

「絵里ちゃん、そんなに不遇な日々を過ごしていたの?」
「人から感謝されない日々を過ごしていました――」

 海未の視線の温度が多少向上する。
 それはおそらく、温かいと言うよりも生ぬるいと呼称するべきだけども、
 なにより、憐憫の情を浮かべられていると言うべきだけども、
 嬉しいものは嬉しいのである。
 何やってんだこの人達という果南ちゃんの視線はスルー。

「凛はちゃんとありがとうって言うよ?」
「ありがとう、ありがとう……」
「絵里ちゃんだいじょうぶ? やっぱり疲れてない? 肩揉んであげようか?」
「ありがとう、肩なんて揉まれるの久しぶり」
「……海未ちゃん少しは労ってあげなよ」
「ツバサのような態度が好感度を上げると思ってましたが、
 そういえば雪姫のような妹キャラが彼女の好みでしたね……」
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/02(火) 02:27:56.19 ID:wX8quGNW0
 私も常々厳しくされたほうが楽だと思っていたし、
 ツバサみたいに何かにつけて忠告してくれる友人と付き合いがちだったから、
 海未の言う通り雪姫ちゃんみたいに褒めてくれる人であったり、
 たまにスルーするけど、エヴァリーナちゃんみたいな子が可愛く思う事を忘れていた。
 他人への好意は弄れず素直でありたいと願ったエリーチカでした。

「凛ね、料理が苦手で、誰も食べてくれないの」
「安心して凛、あなたの作るものなら何でも食べるわ」
「集団食中毒事件として処理されそうになったものでも?」
「安心して凛、私は丈夫なの、
 かつて私は原祖の悪魔が滅しようとした料理も食べてみせた」
「ちなみにですが事実です」

 私が言うと、感謝の言葉で頭がおかしくなった故の妄想みたいなので、
 海未がきちんとフォローしてくれる。
 妄想でなくても悪魔が現実にいることも凛にはわからないだろうし、
 まだ黒澤サファイア(笑)さんには遭遇していないはずだから、
 この人すごいっすよとちゃんと説明しないといけない、人じゃないけど。

「絵里ならソコらへんに落ちているレジ袋を食べても平気です」
「亀じゃないんだから」
「はちみつはかけて欲しい」
「食べられるのを否定してほしいな!?」

 人工物ならばある程度はイケると思っている。
 必要に駆られればという条件は尽くし、おそらくそこらへんのものを食べる状況下になれば、
 誰かしらが助けてくれるし、そこまでの状況にならないとも思う。

「あの、ね、今日はサンドイッチを作ってきたの」
「……サンドイッチって紫色のオーラ漂ってたかしら?」
「あ、絵里にも見えるんですね?」
「愛情を込めたの!」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/02(火) 02:29:11.52 ID:wX8quGNW0
 おそらくその愛情はヤンデレ方面だし、紫色の人って言うと
 ちょっと前に会ってきたような気もする。
 そうではないと断言するけど、サンドイッチと言えばパンで挟む料理だから、
 愛情なんぞ込めないでも、テキトーに作ってもそれなりに美味しい。
 ちなみにツバサさんは私の作ったサンドイッチ以外はまずいって言って食べない、贅沢な。

「絵里、これは確かにサンドイッチ、いえ、あえて言うならば、
 SAN度イッチ表現するべきでしょう、食べると0になります」
「ふふ、海未は優木せつ菜さんの料理も、鹿角理亞のお菓子も食べてなかったわね
 ――おそらくこれは、私にとって乗り越えるべきモノ」
「絵里ちゃんなんでそんなにこやかな笑顔で言うの?
 まるで死んじゃう前みたいだよ?」
「海未、私になにかあったら亜里沙をよろしく、とてもいい子よ」
「遺言まで!?」

 紫色のオーラを漂う劇物を食べるのは初めてではある。
 それは料理によって作成されたものと言うより、
 魔女の大鍋で作られた調合物と例えるべきなのは分かっている。
 しかしながらこうして、今の凛みたいに捨てられた子犬みたいな、
 不安で打ちひしがれている瞳で見上げられると、
 ちょっと死んでもいいかなっていう気分になる、ちょっとではすまなくても。

「ん……」

 サンドイッチを口に含む。
 なにが入っているのかは分からないけれど、ハムときゅうりだろうか。
 挟んであるものは普通なのに味が強烈に苦味に似た――
 私は経験がないけれど、水の中で溺れた子どもの視界が見えた。
 どんどん沈んでいく中、体温が下がり、希望もなにも無くなっていく、
 ああ、死ぬんだなみたいな空虚な気持ちが胸の中の広がり――
 
「絵里!?」
「絵里ちゃん!?」

 最近疲れていたことも手伝い、
 そういえば風邪も引いていたからちょっと免疫が少なかったかもしれない。

「ごめん凛、次はちゃんと残さず食べる――ごちそうさま」
「絵里ちゃん!? お願い目を開けて!」
「さすがです絵里、集団食中毒と言いましたが、
 実際に凛の料理を食べた人間は誰ひとりいなかったんです――」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 02:54:12.95 ID:0wrwHq96O
急に途絶えたな
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/08(水) 20:35:22.81 ID:slKnqBV90
なんで急に終わったの?
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:11:51.61 ID:8pjYQA6r0
 メシマズ属性というものがある。
 μ'sでは星空凛が該当し、数多くの劇物を作り出した結果、
 多少の毒素では物ともしない絢瀬絵里が生誕し、
 アイツは非人間疑惑が非人間の方々から持ち上がった。
 よく、ラノベなりコミックなりで味見をしないので、最悪の代物が出来上がる。
 そんな過程が存在したりするけれど。
 星空凛が料理作成の際に魔界の瘴気でも発生させ、
 見物していた私や花陽が幻覚でも観た可能性は確かにある。
 ただ、同じくメシマズ属性を持つ優木せつ菜(芸名)の姉である綺羅ツバサも、
 弟が味見をしたのを確かに見たと言っているので、
 アイツが魔界の正気ごときでどうにかなるとは思わないから、
 おそらく二人はきちんと味見をしているんだと思う。
 きちんと味見をするという行動をした結果が劇物であるので、
 もはや改善するための行動はできないと思われる、理亞と違って
 二人が料理をつくることは稀であるし。
 なお、鹿角理亞という少女はお菓子作りに今もなお絶対の自信を持っており、
 自身を昏倒させ悶え苦しませるほどの劇物を作り上げても、
 反応としてはたまたま失敗しただけにとどまっている。
 あまりにクソ不味いお菓子を食べたせいでブラック化し下ネタキャラとして
 一時期活躍したそうだけども、私は秋葉原でヒナと遊んでばっかりいたし、
 海未にいつの間にか座禅の修行により矯正されたそうなので、
 西木野真姫との共演はなされなかった、あのループでは西木野家に鹿角姉妹が滞在していたので、
 ワッキーの胃に穴が飽きそうになったらしい、気持ちはわからないでもない。
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:12:47.97 ID:8pjYQA6r0
「……つう、頭が感じたことのない痛みを発してる」

 気がつけば周囲の視界に映るのは以前も滞在したことのある、
 それなりにお高級なホテル。
 みかん色と表現してもいい薄い紅に黄色が交じった明かりや、
 清潔な白い壁や調度品の数々。
 岐阜県に滞在した折、なんか高級そうなホテル行こうぜ!
 とか言ったツバサの言葉に乗せられてテキトーに入ってしまったけれど、
 食事がついていたらもうちょっと財布が薄くなったんだろうなという感想の
 お値段が張る場所である、もう二度とこないものだと思われたのに。
 ここまでやってこれたということは、少なくとも岐阜県までは入ることが出来、
 私が昏倒してもなお農場まで数時間の距離の場所まで移動をすることはかなった模様。

「油断してた、まさか凛の料理がパワーアップしているとは」

 凛が作ったものでも人間が食べられるレベルであろうと油断していた私が悪い。
 人間の蘇生技術に精通している果南ちゃんや海未が控えていたのは、
 暴れだした私を取り押さえる役目ではなく、
 私が死にかけた時に蘇生させるという重要な役回りだったみたい。
 そこまで用意周到にしなければ私の命が危ないというのであれば、
 少しばかり、私にそれを食べさせないという選択肢が取れたのではないか。
 食べてしまった手前それを声高に叫ぶ気はないけれど。

「胃がもたれるっていうのは、こんな感じなのね」

 気分が悪くなることは少々ある私も、
 気持ちが悪いとか、頭が痛いであるとか、
 この感じは二日酔いに似た症状なんだろうな、と思う。
 体験がないので、あくまで似た症状であろうとしか言えないけれど、
 世間のオジサマ方はこの気分で日夜過ごしているのかと思うと、
 ちょっとくらいは同情しなくもない、お酒を飲むなといいたいではあるけれど。
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:13:45.21 ID:8pjYQA6r0
「……ツバサ?」

 待ち構えていたのか、と思ったけど、
 風呂上がりと言った感じな髪の毛をタオルで水気を拭うちょっと色っぽい姿に、
 私はドキドキしてしまって、もう不意打ちだわ――
 って場面を書いたのはヒナだけど、書いた後に真姫と会ってこの人誰って言ったし、
 真姫当人もこの人西木野真姫って書いてあるけどこの人誰って言った。

「危なかったわ……ショッカーの改造手術が成功しなかったら、
 凛さんが殺人犯になってしまうところだった……」

 真面目な顔をして俯きながらツバサが告げるので、
 信用味のある話のような気がした。
 未来人だの何だのがいる世界でショッカーがいないとは限らない、
 ツバサの顔の広さならば銭形のとっつぁんみたいな首領と知り合いでも不思議じゃない。
 もしかしたらお酒でも酌み交わす仲かもしれない。
 なお、私がアホなことを考えていることを把握したのか、
 呆れたというべきか、いつもの私をした見るような見下すと言った感じの
 表情を見せ、ひとまず私が特に精神に異常を来たしていない通常体だと
 認識してもらえたようである。
 
「私はライダーになるの?」
「ええ……これまで通りの生活は送れないかもしれない」
「でもいいの、デストロンが相手でも」
「なんで先にV3なのよ」
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:14:13.67 ID:8pjYQA6r0
 改造人間みたいな扱いをされることはあっても、
 ひとまず改造人間ではないし、変身もできない。
 凛の作った料理を食べれば昏倒するし、理亞のお菓子を食べればお腹を壊す。
 ツバサの弟さんの料理はまだ未体験だけど女体化していることから、
 メシマズランクとしては下がっている可能性がある。
 仮に彼女と今後会う際にパワーアップしているのならば、
 私は遺言でも残しておかないといけない、メシマズは顔を合わせると料理を作りたがる。

「あー、記憶はどう?」
「その前に風邪をひくから服を着なさい」
「ドキッとした?」
「今ちょっとドキッとするモノローグ考えるから」

 これでツバサが巻かれたバスタオルの下が最終兵器彼女みたいなことになり、
 ごめんね絵里こんな体になっちゃったたとか正体を吐露したならば、
 多少なりともドキッとする展開ではある。
 お色気要素が強まって心臓がドキドキする展開は、
 私にとっても、ツバサにとってもお呼びではないであろうし、
 仮にそんな展開になったところで自分はどうしたらいいのか分からない。
 急にムラムラしてキャラを押し倒すのはエロゲーの主人公だけで十分である。

「安心して手術は無事に成功したわ」
「まだその展開続けるの?」
「ええ、ライダーみたいなポーズを取りながら変身っていうと
 あなたの秘められた力が発動するから」
「え、ライダーみたいなポーズ前提なの?」

 ライダーみたいなと言っても、ライダーで思いつくのは昭和ライダーばかりなので、
 藤岡弘、氏の取ってるポーズを取りそうになってしまう。
 かつて年下なのに一つも気を使って貰ったことのない天王寺璃奈ちゃんには
 ハァ? みたいな顔をされるかもしれないし、下手すると穂乃果にも
 何それみたいな顔をされてしまうかもしれない、ツバサなら分かってくれる。
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:14:41.27 ID:8pjYQA6r0
「こう、懐中電灯を上に」
「ウルトラマンじゃん」

 ボケの連呼で多少ツバサの心配も解消できたのか、
 いつもどおりの私をアピールしつつ、体調の悪さはごまかせた模様。
 別の意味で頭が痛い会話をしてしまった気もするけれど、
 ツバサと私の間ではこれが通常運転なので気にしないで欲しい――
 誰に対してのセリフなのか。

「懐かしいわね、このホテル」
「代金は亜里沙に要求してちょうだい、手持ちがなくて」
「要求していいの?」
「できれば出世払いでお願いしたく」

 ダイヤちゃんは農場でテントを貼って眠ることも辞さないみたいないいかただったけど、
 さすがに辛いものがあると思われた。
 聖良ちゃんや歩夢ちゃんは気にしていない様子だったけれど、
 動物の匂いというのは想像以上に鼻につく。
 そんなことを口を滑らせてしまえば、SaintMoonの二人から胸ぐらをつかみあげられ、
 彼女たちお気に入りの万次郎あたりの餌にされてしまうかもしれない、牛は草食だ。
 住居スペースがほとんどないというのもあるし、海未が好きそうな山の上にあることも手伝い
 おそらく黒沢家の彼女が想像するコテージみたいなので
 20人くらいのうら若き女子が泊まれる場所というのはほとんど存在しないと思われた。
 なお、過去にはツバサと一緒に二人が暮らす住居スペースに滞在させてもらったけれど、
 愛の巣と言った様相で、理亞が観たら悲鳴でも上げそうな産物が、
 ところかしこに存在していて、二人で顔を見合わせながら何に使うんだろう?
 みたいなものもあった、三角ポールとか。

「で、身体は?」
「元気に決まってるでしょ、んなにやわじゃないわよ」
「凛さんの料理からはかつて、トリカブトを使用したような痕跡が」
「ような?」
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:15:17.81 ID:8pjYQA6r0
 ネタかと思ったけれど、残念ながらそうではなく。
 国家権力に精通しているとある方の圧力で有耶無耶にされたけど、
 匂いで人間がバッタバッタと倒れる劇物を作り上げ、
 専門家の調査が入ったところ、トリカブトの毒と似た成分が検出され、
 使用を疑われた結果、凛が様々な方の検知のもとで料理を作成、
 何ら不審なものを使った痕跡が見られないのに同じ成分が検出され、
 凛に対する疑いは晴れたのに、様々な課題が見つかり
 研究者はてんやわんやした模様。
 
「しびれはない? バッドステータスは?」
「ちょっと頭が痛い」

 ごまかしてみても長い付き合いであるので、
 私がちょっとばかり体調がへんであるのはバレたみたい。
 凛の料理の破壊力がことさらやばいであるからめちゃくちゃ心配された 
 可能性はなくもないのだけれど。
 ツバサも微妙に表情を引きつらせつつ、
 緊張しているふうであるのか、それとも他になにか意図でもあるのか、
 服を着ろと言ったのにもかかわらず、多少はだけさせる感じで
 私の隣に腰を下ろした、さすがに付き合いが長くても
 美少女面(見た目中心)している友人が隣にいると多少緊張はする。

「いいホテルね、みんな泊まっているの?」
「ええ、二人や三人の組み合わせでそれぞれね
 あなたの隣を勝ち取るのに苦労したわ」
「そこまでの価値は私にはないと思うのだけれどどうだろう」

 首をひねりながら言ってみると、
 ツバサはなにか考え事でもするみたいに指を顎に当て、
 上を向きながらうーんとか口に出した。
 彼女が考え事とかすると私は基本的にコメント不可なので、
 一体どんな組み合わせで泊まっているのかなーなんて言う
 益体のつかないことを考えてみた。
 凛と花陽の組み合わせに真姫が加わる可能性がある。
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:15:44.88 ID:8pjYQA6r0
 かつて一世を風靡したにこりんぱなの組み合わせを見ながら、私は?
 みたいな顔をしてはしゃぐ三人を眺めていた真姫ならば(私は酒につきあわされた)
 この度のお泊りイベントには積極的に仲間に入れてと宣言するかもしれない。
 いの一番にエリチカと寝たい(いろいろな意味で)と言い出したことが予測されるけど、
 何らかの対決でツバサが勝利していることから、願望は叶わなかったと思われる。
 聖良ちゃんのところに行くと分かってからテンションの高い理亞もどうせならエリチカと寝よう
 とか考えるかもしれない、というか考えて欲しい、付き合いの長さ的に。
 身体能力の高さではツバサには引けをとらない彼女も、頭脳面では(と言うか悪賢さでは)
 そこでふんぞり返って考えごとしているやつには敵わないので、
 もしかしたら真姫と二人かつてのループ時のように酒でも酌み交わしている可能性はある、
 ただ当時の二人は同じ年ではあったけれど、オトノキの一年生同士であったので
 色々と自重して欲しかった側面はある、私は生徒会長としてスルーしたけど。

「ねえ、絵里、あなた誰かと付き合うつもりはないの?」
「アホなこと考えている時に反応しづらいネタ振ってくるのはやめて?」
「あらごめんなさい、事後承諾だけど構わないわよね?」
「承諾するのを前提に構えられると、微妙に腑に落ちない面があるけど」

 ツバサは思考の読めない(いつも読めない)飄々とした表情で、
 んなこと口にせず黙っとけやくらいな声色で言うけれど。
 私もなんやかんや言って何を言われたところで許してしまうので、
 最初から承諾するつもりならば会話が面倒だからスキップしておけや
 という彼女の思考回路は分からなくもない。
 なお、思い出していただきたく願うのは、ツバサさんの格好(全裸にバスタオル一枚)
 であり、付き合うという言葉の意味が、大人な関係(代表例 かなまり)であることは察せられ、
 この場でツバサ以外を選ぼうものならば私が鮮血の結末を迎えてしまう。
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:16:13.93 ID:8pjYQA6r0
 今までなんとなく、付き合う付き合わない、恋人になるならないみたいな話は、 
 すっとぼけてきたというか、棚に上げてきた過去があるので、
 こうして真正面から付き合えやみたいな態度をされると反応に困る、私はノーマルだし。

「そろそろハーレム系主人公は終わりにするべきだと思うのよ」
「ハーレム系主人公が相手を選ぼうとすると話は終幕を迎えない?」
「終わりにする気はないの?」
「あなたにも分かるでしょ、どう考えても私には敵が多すぎる」

 実際に敵対関係にある人間はそうそういないけれども、
 私がストーリーテラーを務める物語には問題が多すぎる。
 どのヒロインを選ぶかという問題は先回しにしてスルーしても問題はないと思われた。
 ツバサ自身も理解しているであろうし、それでもなお自分を選びなさいと言ってきたのは、
 そうせざるを得ない事情があったか、それとも単なる独占欲か。
 私なんぞよりも数倍聡い子であるから、身勝手な感情だけで話を進めようとした理由は存在していても
 私がそれを許すかどうかまでは別問題だ、私は身勝手な自己犠牲は嫌いだし。

「どう動いてくるかわからない敵は不安?」
「昔なら良かった、今は自分自身に守りたいものが多すぎて」
「その自己犠牲精神には感服するけれど――
 あなたに守れるものなんてたかが知れているわよ、
 だから守れるものだけを守りなさい」
「……ふざけたこと言わないで」

 トロッコ問題というのがある。
 そもそもの前提がツッコミどころ満載であるという諸事情はともかく、
 私の答えはトロッコを破壊して全員を救うである。
 誰かを切り捨てて、物語はハッピーエンドを迎えるくらいならば
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:16:44.85 ID:8pjYQA6r0
 私は喜んで身を捧げてしまうことだろうし、今までもそうしてきたと思っている。
 正しい正しくないでいえば、確実に正しくない。
 私がそうしてきたからこそ、このふざけたループ現象にたくさんの面々を巻き込み、
 その健全な精神を不健全な方面に導いてきたのであるから。

「あなたのできることなんて、たかがしれているでしょう?」
「だから切り捨てろっていうの?」
「切り捨てるべきなら、切り捨てるべきよ」
「ふざけないで、”あなた”を切り捨てるくらいなら私は今ここで死んでやるから」

 だからこのたび、ハーレム系ラノベの主人公らしく、
 告白には、誠心誠意想いのこもった言葉で答えてみる。
 ツバサとは長い付き合いにもなったし、腐れ縁みたいな関係を築いてきた。
 私に問題が差し迫った時に、いつだって側に居てくれたのはちっちゃいこいつであるし、
 これから本当に問題に巻き込まれたときにはそばに居てほしいのはツバサである。 

「本気? 亜里沙さんや理亞さんでもなく、穂乃果さんでもなく私なの?」
「この場でちゃっかり海未や真姫を切り捨てたのはあなたらしいけど、
 あいにくね、私は恋人に対する理想は高いの」
「そしてクサいことを平気で言うわね、その顔とセリフがすぐに出れば
 本気でハーレム築けたかもしれないのに」

 ツバサは顔を伏せ、嬉しいであるような、悲しいであるような、
 ニュアンスの取れない微妙な表情を見せた。
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:17:21.78 ID:8pjYQA6r0
 そして急に立ち上がるからどうしたのかなって思ったら、
 ベッドの下に手を突っ込み、昔懐かしい銀髪の妖精みたいな美少女と
 もうひとり、黒色の髪のオッドアイの女の子を引きずり出した。
 名前を伏してしまったけど、エヴァリーナちゃんと西園寺雪姫ちゃんの二人。
 エヴァちゃんの方は本気で驚いているふうであったけれど、
 中二病患者(間違った方面)に過度に装飾されている雪姫ちゃんはしょうがないなー
 みたいな顔をしている、その顔が多少加藤恵に似ている。

「このお邪魔虫め」
「なぜ、なぜわかったのです――」
「ハーレム系ラブコメではね、こういういい場面になると必ず邪魔が入るものなのよ
 分かってないのはそこの金髪だけ」
「ククク……未来の予見者(サイキック・アンチストーリーテラー)よ
 未来を改訂して、その場に居合わせるシチュエーションを作り上げた私たちによく気がついた
 お礼にハーレム要員(すべり台送り)に格下げさせてやろう」
「中二病表現が絢瀬絵里に偏り過ぎなのよ!」

 西園寺雪姫ちゃんはとてもいい子なので、
 私の影響を多分に受けている。
 中二病でありながらネタが古く微妙におっさん臭く、
 美少女の外見を保ちながらも、男性人気が高い。
 過去には大人たちから絶大な支持を受けていた彼女も
 絢瀬絵里要素が加わったせいで、相手にされるのはツバサや真姫みたいな
 片足おっさんに突っ込んでいるような人ばっかり。
 なお私はもう既に両足を突っ込んでいることは確実なので深くは問わない。

「久しぶりね二人とも、私のこと殴りに来たの?」
「かつて英玲奈は言いました、絵里は殴られるのが好き」
「とんでもない風評被害を受けそうだけど、それで?」
「絵里お姉さんは殴られるのが好きではないんですよね、
 ギャフンってオチをつけたい人なんです」
「雪姫ちゃんはせめて最後まで中二病保って、そこだけ素直な妹キャラされると、
 なんか物語のオチがついて次の話に行きそうな気がするから」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:17:48.81 ID:8pjYQA6r0
 一世一代の告白返しは見事にスルーされ、
 なんだかなあというオチがついてしまったけれど、私は一つの決意をした。
 思ったより真剣に返答されて、オチがついたことに安堵をしているツバサを眺め、
 ちょっとくらいびっくりさせてみようと思ったのである。



 結局ホテルの一室に一人で寝泊まりすることになってしまった。
 起床した時に一人でいたものだからついつい何か出来ることないかな?
 そんなふうに思った私。
 念入りにストレッチを重ね以前までと変わらぬ柔軟性を誇っているとほくそ笑み、
 少しばかりで汗ばんだ体をシャワーでも浴びてさっぱりさせよう。
 などと考え、ついでだから浴槽に浸かってのんびりとしよう。
 鼻歌なんぞ一人で歌いながら、気分がいいなーとか思って伸びなんぞしながら、
 気分転換をしていると浴室のドアが開き誰か来たかなって思って眺めると。

「機嫌がずいぶん良さそうだな絵里」 
「ついうっかり殺される準備をしてしまった気がするわ」
「いい覚悟だ。とにかく顔を貸せ、話はそれからだ」

 統堂英玲奈がこちらに向かってにこやかに微笑みかける。
 久方ぶりに見た彼女は、高校時代のクールな印象そのままに、
 過度のシスコンであると主張したところで誰も信用しないに違いない。
 おでこに朱音命とか書いてあるハチマキをしていなければ。
 一体何に気合を入れていたのか、私を殺すつもりで気合を入れていたんだろうか。
 憂鬱になってこのまま風呂場で沈みたいと思ったけれども、
 良いホテルで事件を起こすのは申し訳ない気がして憚られた。
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:18:21.37 ID:8pjYQA6r0
 風呂上がり、タオルで身体の水気を丁寧に拭き取りながら、
 用意されていた昔懐かしいUTXの制服を着用する。
 着用しなければ殺すぞみたいな顔をされてしまえば着たくなくても着てしまう。
 ただ一度身につけたいではあったので良い機会だとは思った。

「まずは感謝を、朱音とは随分仲良くなることができた」
「思い込みではないのね?」
「今まで私が愛情込めて接すれば必ず応えてくれると思っていたが
 押してもダメなら引いてみな、とても良いアドバイスだったぞ絵里」
「おかしいわね? そのアドバイス朱音ちゃんのためのセリフではなかったのだけれど」

 とはいえ活用して貰えたのは嬉しい。
 英玲奈の信頼度はかなり低めであると思われたし、
 顔を合わせれば投げられる可能性は高いと思われた。
 これから殴られる危険性は相変わらずあるようだけれども、
 それは失言をする私が悪いのであって英玲奈が悪いわけではない。

「ツバサを選んだのか?」
「朱音ちゃんの話はもういいの?」
「感謝を重ねたいのは山々ではあるが、
 あまりに不自然に何度もありがとうというのはおかしいだろう?」

 確かに今までの英玲奈との関係からすれば、
 何度も感謝の言葉を告げられてしまうとたちまち疑問が生じ始めてしまう。
 それはお互い様であるのでこれから良好な関係が築ければ良いと思う。
 誰かと仲が悪くなるのは心苦しくはあるし、
 仲良くなれない者同士ではないと確信している。
 統堂英玲奈はとても良い人間であると思うし。

「私が言うのもなんだか迷惑な女だぞあいつは」
「自分で言うのもなんだけど私ほどの迷惑な女はいないと思うわ」
「その点釣り合っているとでも?
 似た者同士であることは認めなくもないが、
 お互いの関係でこれからも良好さを続けるかどうかは私は疑問だ」
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:18:49.56 ID:8pjYQA6r0
 英玲奈が私を心配してくれているのはよくわかる。
 私なんぞよりもよっぽどツバサとの付き合いが長い。
 実は初恋の相手でしたというあんじゅよりもパートナーとして適切なのは
 英玲奈のほうだと思う。

「すまない止めるつもりはないんだ」
「止められると思う?」
「なぜお前の周囲の人間はお前の意思を無視するような選択をするんだろうな?」
「それはおそらく私の意志のままに過ごすと死亡フラグが立つからだと思うわ」
「確かにその通りではあるが、お前の意志を無視していい理由にはならんだろう」

 困ったように眉をハの字にする英玲奈。
 本気で心配している風であったので大丈夫大丈夫とごまかすよりも、
 こちら側の魂胆をはっきり話した方が良いと思われた。

「好きとか愛しているとかそういうんじゃないのよ」
「ほう? 随分安く見られたものだなA-RISEのリーダーが」
「その隣にいて欲しい人ではあるのよ?
 ただ私家族になるって感覚がよく分からなくて」
「……そうか、まあ私の両親は普通であったからな」

 困った顔の深刻さが増したような気がする。
 確かに私の両親を知っていれば彼女みたいに困るのは確実。
 愛しているのは自分のことばかり、そのついでで子育てをされた私たちは、
 多少愛情について歪んだ認識を持っているのは間違いない。
 それは何もあの人たちに育てられたからだと責任転換をするわけではなく、
 知る機会がなかったという自身の不備を指摘したい。
 困ったことになれば知る機会を入れたいと願うのは人間、
 残念ながら周囲の人から愛されていたらしい私は、
 その中で一人愛する人を決めるということに関してどういうことなのか、
 全くもって分からなかったのである。なんとも恥ずかしいことに。

「お前の愛は重いな」
「重々承知しているけれど」
「いや構わないんだ、ただお前たちは付き合い始めになるのだろう?
 最初から家族になるとかそういうことは決めるのは早いんじゃないか?」
「英玲奈はネタキャラにならなければかなり真面目な人だったのね?」
「一発ぶん殴ってもいいか?」
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:19:19.35 ID:8pjYQA6r0
 おちゃらけるにはまだ早かったよう。
 私の失言をする確率が高い事はみんな承知しており、
 一つや二つでは笑って許してくれる模様。
 機嫌次第でひとつでぶん投げられる危険性は常に存在するけど。
 
「真面目な話お前たちは誰かと付き合った経験はないのだろう?」
「英玲奈に彼氏がいたというエピソードは掘り下げるべき?」
「さあどうだろうな? あまり良い彼女ではなかったとは思うぞ?
 身体を許しても良いと思う程度には、
 相手に好意的であったと思う。
 別れてから気が付いたがな?」

 自嘲するように笑う英玲奈。
 私が恋人が100人ぐらいで百戦錬磨な女性であったら、
 彼女に適切なアドバイスが出来るのかもしれない。
 仮に100人恋人がいれば99人と別れたのかもしれないけれども、
 少なくとも一度たりとも男性経験のない私と比べれば、
 いい言葉が彼女にお礼として送れたかもしれないのにと残念に思う。

「ただ別れても後悔はしなかった。
 自分の悪い部分がいくらでも見えたしな、
 おそらくその経験がなければ朱音と本当に向き合うことはできなかったかもしれない」
「後悔しても、その経験が良かったということ?」
「そうだな、お前達ももしかしたら後悔をすることもあるかもしれん
 ただ人生終わった時にな、笑っていたものが勝つんだ
 笑顔でなみんなとお別れしたら、後悔していても構いやしないんだぞ」
「……私は笑っていたつもりだったんだけど」
「とても残念なことにお前は泣いていたぞ」
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:20:28.16 ID:8pjYQA6r0
 不覚すぎる。
 晴れやかな笑顔を持ってお別れが出来たと思っていたのに、
 なおのこと英玲奈には殴られないといけないかもしれなかった。
 
「良い女だぞツバサは、基本的に押しに弱いしな」
「そこが良いポイントだと訴えられると少し不安が残るんだけど」
「友人として付き合うのなら、とてもいいやつだ
 恋人として付き合うのは少し重いと思うがな」
「私の妹と一時期付き合っていたわ」
「お前の妹だからお前の重さに慣れていたんだろう
 二人が付き合ったらどこまでも沈み込みそうだな?」

 私のこともツバサのこともわかりきっている英玲奈の――
 何とも言えない表情を見て私は一つ息を吐いた。
 そしてこれから皆に彼女と付き合うことを宣言すると思っていたんだけど、
 反応が少し怖い。

「フォローお願いできない?」
「ふふっ、調子に乗るな、私は妹を愛するので忙しい」
「朱音ちゃん来ているの?」
「会わせんぞ? お前に会いたがっていたが、とても会わせられん」

 首をかしげながら理由を尋ねてみると。

「あまりに可愛いらしいからな、絢瀬絵里に妹が寝取られてしまったら
 私は勢い余ってお前を内浦の海に沈み込ませてしまうかもしれんからな?」
「朱音ちゃん可愛らしいものね亜里沙の次に」
「ふふ、お前はどんな人物に対しても絢瀬亜里沙の次にかわいいというのだろう?」
「かなわないわね、さすが世界一のシスコン」
「ふふん、そうだろうそうだろう」

 英玲奈との懇親会は無事閉幕を迎える。
 とりあえず殴られなかったので御の字である。
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/21(火) 20:24:31.61 ID:8pjYQA6r0
諸事情が重なった結果、
二次創作自体の更新は問題がなかったものの、
ここでの更新作業に少々問題が起こりまして。
もう忘れて頂くほかないと告知もせずに更新停止して申し訳ありません。

本来、まあ良いかで済ませてはいけないのではないでしょうが、
考えてやめちゃうより、やって後悔すればいいやということで、
これから更新作業を再開します。

かまってちゃんのようであり、かまってちゃんじゃねーかと言われれば何の否定もできませんが、
これから海未ちゃんルートは最後までここで。

最後にもう一度、重ね重ね、
身勝手な理由で更新停止して申し訳なく思います。
謝罪の意を込めてこれからどしどし更新を重ねていければと思います。
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/22(水) 03:30:35.95 ID:M1jtyz340
 さてこれからホテルのロビーにて新しい彼女の紹介。
 などと息巻き多少、綺麗な格好して廊下を歩いている。
 身綺麗な格好と言ってもUTXの制服であり多くの人の印象はコスプレしてる奴である。

 こいつはとてもいいやつでね?
 こいつというと――馴れ馴れしいやつとも見えるような気もしなくもない 。
 長年連れ添ってきた妻に対してぞんざいな扱いをする夫のようにも見えなくもない。
 
 私の恋人の綺羅ツバサさんです――
 なんとなくいやらしい感じがしてとても恥ずかしいではあるんだけれども。
 これから殊勝な態度で彼女になってもらうとお願いするのであるから、
 下手に出るのはむしろ私の方かもしれない。
 俺の彼女になれみたいなイケメンには逆立ちしてもなれないのだし、
 私らしく土下座する勢いでお願いすれば思いのほか頷いてくれる可能性がある。
 何故か脳裏に嫌な顔をされながらパンツを見せてもらいたい――
 そんな言葉がよぎった。

「絵里ちゃん」

 ぅ絵里ちゃんとも聞こえなくもない穂乃果の声が耳に届いた。
 朝から困ったような声色であったらで私がUTXの制服を着ているせいである
 と勝手に理由をつけ、にこやかに恋人リスペクトであると主張しようとしたら、
 彼女が本当に困ったような表情をして私に話しかけてきたので、
 ボケる部分は完全に封印されてしまった。

「どうしたの穂乃果」
「どうしたはこっちのセリフだよ、絵里ちゃん」
「え? この格好の事?」
「違う違うツバサさんのこと」
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/22(水) 03:31:31.57 ID:M1jtyz340
 穂乃果が真剣に問いかけてくる風であったので、
 ついつい何の事を言っているのか? なんて疑問を呈してしまったけど。
 先ほど英玲奈からも同様の問い合わせをされていることに対して、
 すっかり記憶が抜け落ちてしまった、記憶不全を疑われても仕方がない。

「私を選んでくれると思ったのに」
「そのボケ、実に面白いと思うわ」
「あはは、そうだね、でも今の意見みんなから言われると思うよ?」

 こめかみに指を当てて頭痛を感じた。
 そんな場面がありありと想像できて、特に好感度高めの面々が、
 すごく気を引くように私に向かって告げることが思い浮かんで、
 逃亡する準備を始めなければならないそんな意味のないことを考えてしまった。

「これでサイは投げられたと思う」
「ごめんねあなたがバランスを取ろうとしているのは気づいたんだけど」
「その辺りの空気の読めなさが絵里ちゃんらしい」
「褒められているということでいいのよね?」

 むしろ私の方がよっぽど穂乃果よりも猪突猛進の習性がある。
 まあ、その辺りのクセは穂乃果由来ということで、
 どうにか許してもらいたい。

「それでも私は絵里ちゃんを応援するよ?」
「ありがとう穂乃果、でもなんでそんな逃げる折みたいな格好しているの?」
「嫌だなぁ月島農場に行くんでしょ? よっちゃんが聖良ちゃんに
 どんな扱いを受けるかなって心配で、ついついね」
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/22(水) 03:32:02.32 ID:M1jtyz340
 私自身が聖良ちゃんとエンカウントするのはこのループでは初めて。
 自分がぶん殴られる恐ればかりを考えてよっちゃんがどのような扱いを受けるか
 まるで考えてこなかったことがとても恥ずかしく思えた。
 ただ歩夢ちゃんもいることから、顔を見た瞬間殴りかかってくるのであれば
 私は積極的に楯になる心持ちではある。

「じゃあ私は一足先に準備してくるよ、ことりちゃんに顔を見せてくる」
「一緒じゃなかったのね」
「そうだねことりちゃんの方が良かったんだけど、
 海未ちゃんがどうしてもって」

 私に凛の料理を食べさせたこと、やはりと言うべきか後悔していたらしい。
 彼女の中にも罪悪感は多少産まれ、それに耐え切れなくなり、
 いざとなれば頼りにしてしまう穂乃果と一緒にいたかったのだと思われた。
 そんな甘えたがりな海未の顔を考えつつ、
 目の前で私を選ばなければ死にますなるという白装束の彼女も
 なぜだか脳裏に張り付いて離れないのである。

「ちなみに次の面会相手は小泉花陽ちゃんです」
「私の意思にかかわらず私の予定が決まっていく……」
「あはは、我慢して絵里ちゃん、しっかり」
「止めてはくれないのね」



 私がかつてのループと違いμ'sで一番背の高いキャラではない。
 160センチはキープしているけれども、胸も小さくなったし、
 かなり小型化しているのは間違いない。
 一方、かつてのループと身長が据え置きされているのは小泉花陽で、
 私との差はおよそ5センチ。
 そのサイズ小さかったのが過去の話で、
 今はいろんな意味で彼女の方が大きくて大きい、何がとは言わない。
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/22(水) 03:33:00.86 ID:M1jtyz340
「ごめんなさい花陽」
「絵里ちゃん……謝るのならやらないで欲しかったよ」
「あなたの背が大きいことを認められなくて」
「そっち!?」

 考えてみればμ'sで一番背の高いキャラクターである――
 というのが絢瀬絵里のアイデンティティでもあった気がする。
 その事実に目を背けてしまったのは私の恥ずかしい過去でもある。
 これから成長期が訪れる可能性は限りなく低いであろうとも、
 私はそのわずかな可能性を信じたいところではある。
 もっと他に信じるべきものがあるであろうことは薄々感づいている。

「話を戻して」
「あ、うん。じゃあ、絵里ちゃん?」
「殴るのなら、背中でお願い、一番痛くないし」
「殴られる前提なの?」

 悪いことをしたと思うとついつい暴力的手段を取られたい絢瀬絵里。
 非を改めるためには痛みが必要だと思う。
 精神的なものよりも肉体的なものの方が治りが早い。
 もちろん切断などされようものならどうあがいても手術不可だけども、
 そこまでされることはないと思われた。

「絵里ちゃん、ひとつだけお願いを聞いてほしいの」
「花陽のお願いなら叶えられるものは何でも聞くけど」
「どうして絵里ちゃんの中で私の評価が高いのかそんなにもわからないけど
 一つねクセを改めて欲しいところがあって」
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/22(水) 03:34:15.36 ID:M1jtyz340
 私が改善できるクセが果たしてどれほどあるのかわからない。
 花陽が言うくらいであるからある程度可能である可能性はある。
 私自身の能力は疑わしくともμ'sの誰かの言葉は信じられる。
 絢瀬絵里に対する信用度は限りなくゼロに近い。

「絵里ちゃんって褒められると疑ってしまうでしょ?」
「そ、そうね」
「知らない人のおべっかなら聞かなくていいと思う
 でも、今後ツバサさんの絵里ちゃんを褒める言葉は頷いた方がいいと思う」
「それは体験談?」
「そうだね、凛ちゃんの言葉を頷くことができなかったことが多かった
 小泉花陽の体験談だよ」

 本来なら、μ'sのみんなと主語を大きくしたかったんだとは思う。
 でも今までの人生の中で。
 褒められてしまうと疑う、そんな悪癖がある私を改善するのは難しい。
 小泉花陽の判断は 間違ってはいない。

「ところで花陽」
「なあに絵里ちゃん?」
「どうして逃げるみたいな格好をしているの?」
「そうだね直接的に言うと」
「言うと?」
「絵里ちゃんの血を見たくないものだから」
「あ、やっぱりその方向性になる?」

 花陽はしぶしぶという感じで頷いてくれた。
 ポジティブに見送りたいではあるんだと思う。
 それでもその可能性がミジンコくらいのサイズしかないものだから、
 彼女にとっても難しい判断だった。
 仮に四肢切断などされようものならば、
 ベルちゃんあたりの悪魔に助けてほしいと思う、神様助けて――
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/22(水) 23:41:15.58 ID:G87Zb4s2O
お、続き来てたか
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/23(木) 03:06:49.32 ID:72WTPisN0
 もし仮に私が助かる可能性があるならば、
 ハーレム王に俺はなる! とかいう豪胆な宣言でもする必要がある。
 一部の人間からは総スカンを食らう可能性があるけれども、
 最低限、命が助かる可能性は急激に上昇する。

 扱いこそ最底辺になる可能性も急上昇するけれども、
 もとより絢瀬絵里の扱いなど大体の人間から最底辺である。
 そのことを考えれば他の女の子に手出しをして、
 ”もう! 女の子に関わるのは懲り懲りだぁ!”みたいな感じで
  逃亡するエンディングが見られるかもしれない。

 私は女性であるのに女性から逃げていると突っ込まれる可能性はある。
 しかしながら男性から相手にされていない以上相手にするのは女性でなければならない。
 なぜなら私の身が仮に安泰だったとしても、付き合っている恋人(男性)が無事でいられるとは限らない。
 ただでさえ男性方に対して横暴な態度されがちな人たちが集っているので、
 何か問題を起こせばすぐさま判決が処刑になる恐れがあります。
 
 そんなふうにアホなことを考えながらホテルの廊下を歩き続けていた。
 人払いでもされているのか、人っ子一人歩いてやしない。
 こんなことができるのはオハラグループのご令嬢しかいないけれども、
 そこまでするとなるとガチ度が急上昇するので、
 私の命の灯火は以前のループのように燃え尽きようとしている可能性がある。

 そういうことになると助けになってくれるのは、
 今何とも言えない表情でこちらを眺めている西園寺雪姫ちゃん。
 以前までは私の中の人として、絢瀬絵里退場劇から華麗なる復活まで、
 多岐にわたりプロデュースしていただきました。
 妹の亜里沙なんぞよりもよっぽど私に対する扱いが上手い疑惑がある。
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/23(木) 03:07:18.87 ID:72WTPisN0
「絵里お姉さん、この先は地獄という言葉が生ぬるいほどの修羅場です」
「あなたに初めて会った時も地獄っぽい場所だったわよね?」
「絵里お姉さんがあの時に言った
 現実の方がよほど地獄であるという言葉の意味が
 私はよく分かってしまいました」
「その言葉に対して何て反応をしていいのかよくわからないのだけれど」

 生前に一度会っているので、正確に言えば初対面ではないのだけれど。
 雪姫ちゃんはあの時から成長し続け今では中学2年生くらいと言ったところ。
 昨日までの中二病キャラはあまりにパニックになる事態があったのか、
 元からネタ方面に舵を切っていたせいであるのか、
 ひとまずは封印される方向に至ったらしい、
 私としてはどちらにしても可愛い妹みたいなもので、
 長い付き合いの彼女にこんな表情させてしまうのは大変申し訳ないのだけれど、
 以前までと何も変わらないし成長しない私に対して
 そっぽ向かないだけで彼女は女神か何かなのかもしれない。
 
「相方のエヴァリーナちゃんは?」
「リリーなら、真姫お姉ちゃんと一緒です」
「あの二人に仲いいわよね?
 過去に1億円持ってきた時に資金源が西木野家であると疑ってしまったのだけれど」

 エヴァリーナちゃんドラえも○疑惑のエピソード参照。
 基本的に他人に興味のないリリーちゃんではあれど、
 私に関する知識と西木野真姫に関する知識は、
 別格であるのか何か理由でもあるのか、多くの知識をベラベラと語ってくれる。
 基本的にリリーちゃんは真姫を褒めてくれるので、
 褒めてくれることに飢えている真姫は妹のように扱うケースもある。
 その姿を見て半分くらい妹の雪姫ちゃんはよく自重しろリリーと
 クソリプかっ飛ばしてたりしてたけど、私の脳内で。
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/23(木) 03:08:11.81 ID:72WTPisN0
「私もお供します」
「すごく嫌そうな顔しているんだけど
 大丈夫? Printempsはもう避難しているわよ?」
「いえ、この命に代えても絵里お姉さんをお守りするのが
 西園寺雪姫の役割でもあるのです」
「そんなことに命をかけなくても構わないのよ?
 大体あなた元は希に命を提供して昇天する予定だったじゃない」
「そんなネタバレする必要はないんですよ絵里お姉さん」

 呆れさせれば、もう絵里お姉さんなんて知りません!
 とか言って撤退してくれるかと思ったのだけれど、
 私のそういう自己犠牲精神を常に間近で見ていた雪姫ちゃんが
 その私の意図に気がつかないわけがなかった。
 賢くて人の心に聡い、それゆえにいらぬ苦労を抱えてしまう。

「第一のハードルは東條希さんです」
「戦闘力ではなかなかラスボスに近そうな気もするのだけれど」
「配下に津島善子さんがいらっしゃいます」
「なぜラスボスをそんな簡単に顎で使ってしまうのか
 私はものすごく疑問に思ってしまうわ」

 それでもよっちゃんが私の好感度高めで希に付き合ってくれるというのは
 茶番劇になるのか、ガチで命の奪い合いになってしまうのか。
 気になるではあるし、そこまで行くと私が何かできる要素はなくなってしまうので
 できればガチの戦闘シーンはなしの方面であってほしい。
 雪姫ちゃんがいる以上、アガートラームは使えなくはないけれど
 ホテルが真っ二つになってしまうのでできれば使用は控えたいところ。
 絢瀬絵里の死亡フラグを立ててやろうか?
 ただし(アガートラームで)真っ二つだぞ?

「……現実逃避はやめてそろそろ行きますか」
「絵里お姉さん!? やめてください顔に死相が出ています!?」
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/24(金) 15:54:40.38 ID:HZfeqgUm0
 津島善子と東條希との組み合わせ。
最近よく見るような見ないようなではあるんだけれども、
 浦女でもよく一緒にいるのが確認されている。

 私がなんとなく家庭訪問のイベントを終え、
 学院に入るのもお役御免かなと思ったのだけれど、
 生徒側から絵里ちゃん絵里ちゃんという問い合わせが多数寄せられ、
 仕方なしに今もなお制服を着て学院に行くことが決定されてしまった。
 ――私の意思に関わらずである。

 四捨五入すると20になるとはいえ、
 高校を卒業した人間が制服を着ているという点に
 痛々しさすら覚えるのはなぜであろう?

 需要のなさを問い合わせられるかと思ったら、
 一種の憧れとして神々しさすら感じる、
 というよくわからない意見まであるみたい。
 誰だんなことを言ったのは。

 晒し者として評判になっているという感想を残しつつ、
 慕われているのは悪いことではないので、
 悪評が先んじるようになるくらいまでは、
 今の生活を続けていこうかと思う。

 津島善子ちゃん――通称よっちゃん。
 私はよっちゃんよっちゃんと呼ぶばかりに、
 μ'sであるとかAqoursであるとか、
 最終的には理亞までもがよっちゃんよっちゃんと呼ぶようになってしまった。

 善子玉なんて呼称されるシニヨンも作ってなかったんだけど、
 あれはどうしたあれはどうした記憶が戻っていると判明されたAqoursの面々から
 ツッコミ及び指摘が多数寄せられ、
 最近はもう中身は高校生ではないのだから、
 あんな痛々しい髪型はできない、
 何ていう真っ当な意見も彼女は言っていたんだけども、
 あいにく自身よりも年上の人間が制服を着ている事実というありえへん世界に負け、
 かつての高校時代そのまま、善子玉は作られることと相成った。

 堕天使にはならないとそこは譲れないと言っていたけれども、
 私との決戦においては、1ハードルとして堕天使モードとしての参戦であるらしい。
 しかしながら東條希がアークデーモンみたいな格好してるので――

「……黒澤サファイアさん何やってんですか」
「よく見破ったわね、そっちの子気がついてなかったのに」
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/24(金) 15:57:00.75 ID:HZfeqgUm0
 マジで!? みたいな顔をして津島善子ちゃんがベルちゃんを見やる。
 確かに雰囲気と見た目こそ東條希にそっくりではあるんだけども、
 オーラの禍々しさが多少非人間寄りに偏っているので、なんとなく見破ってしまった。
 私のスキルの高さ故なのか、ベルちゃんがオーラを漏らしていたのか悪いのか。

「まあ、小ボスとしてはね、あなたと決戦してみたかったのよ、
 ちなみに希は次のハードルよ」
「数合わせ要員としてはハードル高すぎでは?」

 それに小ボスって……かつてラスボスから寝返り、
 そのまま味方として裏切ることもなく、頼めば言うことも聞いてくれる――
 扱い的にはとてもいい人、善玉と呼んでもいいかもしれない。

 しかしながら彼女は大昔から存在する大悪魔ベルフェゴールであり、
 とにかくまあ悪いお方ではある。
 かつてのループではよっちゃんへの不可侵条約を私の手で結ばされ、
 イベントには介入しなかったものの、それなりに楽しめたという感想残す。
 今もなお味方として活躍中。
 でも1ハードルとして出てきていい人ではない。 

「絢瀬絵里はバトルするには困難な相手ではない?」
「非人間に戦うならこいつっていうのが、私のありえなさよね?」
「こっち見ないでください」

 よっちゃんはもうすでに戦いを放棄して、
 雪姫ちゃんとお土産は何にしようかなんていう話をしている。
 浦女のみんなにどこか行くという話をしてしまい、
 じゃあお土産に何かよこせと言う田舎特有の厚かましさを断りきれなかったものであるらしい。
 雪姫ちゃんは コミュニケーションスキルに優れ、敵や味方問わず、
 あらゆる誰も味方にできる能力の持ち主である。
 女子校生を喜ばせるお土産を選ぶことぐらい造作もないことみたいだ。
 
「かつて、とある聖人も生を放棄させた――可能性がある」
「ボケなくていいのよベルちゃん」
「ま、私に比べればラーメン二郎とかのほうが人間堕落させてる」
「ある程度事実だけども!?」

 マックのハンバーガーに堕落させられた経験がある大悪魔としては、
 悪魔よりもよっぽど人間が作り出す食べ物の方が
 人間を堕落させることができることを経験上よく知っているみたい。
 ラーメン二郎を誰かの手によって食べさせられたのか分からないし、
 もしかしたらスマホで検索して知ったかぶりをしているだけの可能性もある。
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/24(金) 15:59:49.26 ID:HZfeqgUm0
「仕方ない私と戦おうというのであれば、一肌脱ぐ所存よ」
「ベルフェゴールと戦おう、ちょっと本気出すぞ。
 みたいな態度をされるとあなたが本当に人間がどうか怪しく思えてしまうわね」
「でぇじょうぶだ、ドラゴンボールで生き返れる」
「絵里お姉さんならドラゴンボールがなくても生き返れそうです」

 雪姫ちゃんの反応に誰しもがあーそうですね、
 みたいな感じで首を上下にウンウンと振り、
 喜んでいいのか悲しんでいいのか。

 家の中に何度も出てくる害虫みたいな扱いで、
 生命力としぶとさだけは常人を越えているとは思わないでもないけど。

 少しだけ話がずれてしまったであるので、
 何をもって対決をするのかそんなことを問いかけてみると、
 ベルちゃんは少しだけ緊張したと言わんばかりの表情を見せた。

 ガチの命の取り合いなどはしないであろうけど、
 多少痛い思いの一つくらいはしても構わない。
 彼女には割と気軽に言うことを聞いてもらっているし。

「世界三大劇物食べ比べ対決、はいよっちゃん」
「あなたまでよっちゃん呼びなの!? どんどんぱふぱふー」
「――死に急がなくていいのよベルちゃん」

 世界三大劇物とは星空凛の料理、
 優木せつ菜の手料理、
 鹿角理亞のお菓子の三つである。

 世界三大と言いつつ、どれも私の知り合いが作っているという事実には頭が痛くなってくる。
 けれどもかつて凛の料理を食べた時に吐血しながら、殺す気か!
 なんて叫んだこともある彼女にしては本当に死に急いでいるのではないか、
 そんな風に錯覚してしまうほど、バラエティ番組としては破格の見てて痛々しい芸風である。
 ちなみに料理を持ってきてくれたのもテーブルを用意してくれたらも鞠莉ちゃんの配下の人達みたいで。
 なぜか全員が全員防護服を着用していた。
 宇宙ステーションの中にいるみたいな格好に対して何故そんなことをしているのか、
 もしかして本当にやばいものが作られたのか、そんなふうに不安に思うではあるんだけども。

「優木せつ菜さんは相変わらずメシマズ属性なのね?」
「パワーアップしたそうですよ、エマちゃんの話によると」
「ちょいとよっちゃん、その話を私は聞いてないんだけど」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/24(金) 16:03:55.82 ID:HZfeqgUm0
 小ボス(自称)さんの額から汗が出ている。
 汗腺が存在するとは驚きではあるんだけど、
 汗でも吹き出そうな料理が出てきたではある。

 おそらく鹿角理亞が愛しの聖良姉様に向けて、
 気合を入れて劇物を作成してしまったのであろう。

 普段は見た目では普通であり、
 それゆえに被害者を続出させることになってしまうんだけど、
 今回の劇物はフツーにやばいオーラを発している、とても食べ物とは思えない。
 多分理亞は小麦粉を使ったであるとか、普通にいちごを乗せました、
 くらいのことは平気で言うのかもしれないけれど、
 どう考えてもその食材は魔界とか宇宙の果てから取り寄せているに違いない。

「……タルトよね?」
「私に聞かないでよ、人間の世界のお菓子は明るくないの」
「どう考えてもあなたの世界の産物でしょ」
「私のいる世界にだってこんな禍々しいもの存在しやしないわ」

 オーラはともかく見た目はちょっと失敗して形が崩れてしまったかな?
 くらいの失敗に止まっていた。
 自称完璧主義者である鹿角理亞としては、
 テンションが高くて失敗したことに気づいていない可能性もある。

 ゴミ箱だって受け取りを拒否してしまうような失敗であれば、
 この対決はやめようなんて話になるけれども、ここで作られたお菓子はまだ前哨戦。
 どっちかが死ねばそうならないとは思うけど、
 一応救急隊員の方々は私を何とかしようと待ち構えている様子ではある――できれば止めてほしい。

「先手番は絢瀬絵里さんです」
「……仕方ないわね」

  とりあえず手に持って食べてみる。
 多くの人間からどよめきが上がった。
 手で触れることができないのほどの劇物に平気で触っているみたいな反応が気になるではあるけど、
 まだ食べ物で作られているのであれば食べ物である可能性がある。
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/24(金) 16:05:26.18 ID:HZfeqgUm0
 匂いはよくわからない。
 タルトだから多少甘い香りとか食材の香りくらいはするかと思いきや、無臭である。
 鼻が嗅覚を使うことを拒否している可能性もある。
 命の危険を感じているのか――この私が。

「……ぐふっ!? ……お、おお……ま、まだっ!」

 口に含んだ瞬間に熱波を感じた。
 おおよそタルトが発する波動ではないけど……。
 辛味でもない、えぐみでもない、痛みでもなかった。ただ味というより熱いなという感想が適切。
 熱湯口の中に注ぎ込まれればこのような感想を残す可能性はある。
 味覚が感想を拒否しており、どんな味と言われても全くわからない。

「後手番、黒澤サファイアさんです」
「うっ! 南無三!」

 大悪魔らしからぬ掛け声を上げながら、
 かつて大災害を引き起こしたと言う彼女がタルトを口に含んだ。
 その勢いのままに後方に倒れ、昏倒したままビクンビクンと震えている。
 その姿は多少、陸に上がった魚のようであった。
 救急隊員にどこかへと運び込まれる彼女を眺めながら、
 一体どんな治療を施すものであるのか気になって仕方がない。

「第二ラウンド! 凛さんの料理!」
「誰と戦っているの私は!?」
「あえて自身に」

 よっちゃんやみんなの手により、世界三大劇物は私の胃袋の中に収まった。
 ちょっとかっこよく絢瀬絵里の胃袋は宇宙だ、
 何て言ってみたら。
 宇宙というよりブラックホールと言った方が適切かもしれません、
 雪姫ちゃんの言葉はみんなの同意を得た――解せない。
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/26(日) 18:40:42.85 ID:Rr8/ewWx0
 原祖の悪魔を打倒したことにより、
 よっちゃんが仲間に加わった。
 パーティがより華やかになる、しかし二人は現役女子高生。
 微妙に肩身が狭い絢瀬絵里さん(元アラサー)

 これから倒した相手が仲間になるのかは不明。
 だけども不幸な事故さえなければ黒澤サファイアさんも仲間になったとのこと。
 凛の料理の犠牲になった人を気にせず、私はただ前を向くのみである。
 なお、ホテルのスタッフからはアイツ人間なのか疑惑が生じているらしい、その情報はいらない。

 次に勝負を仕掛けてくるのは東條希と園田海未の組み合わせであるみたい。
 海未を中心に絢瀬絵里と対決したいという人間は複数存在した。
 厳正なる抽選と時間の都合上――
 小原鞠莉ちゃんがホテルを貸し切りにできる時間も限られているということで、
 次のステージともう次のステージでイベント終了とのこと。

 ラスボスとして待つのは西木野真姫。
 頭脳派の彼女を支えるためには、肉体派のメンバーがラストに入るかと思っていた私。
 しかし意外や意外”にこまき”のふたりで私に勝負を仕掛けてくるらしい。
 にこまきと言うとイベントがあると一緒にいたぐらいで、
 私の中ではカップリングの一つと言われてもピンとこない。
 仲がいいと言われれば首をかしげながらも肯きつつ、
 仲が悪い聞かれれば全力を持って首を振るそんな組み合わせ。
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/26(日) 18:41:11.44 ID:Rr8/ewWx0
 にこまきがタッグを組んで責めかかってくるより、
 断然、凛が欠けているリリホワの方が私にとっては障害になる。
 二人は存外と私に対してぞんざいな扱いをするケースが有る。
 優しい性格をしているから私に対して遠慮しているところもあるんだけど、
 ストレスが溜まればその限りじゃない。

 常識人ではある2人組ではある。
 けども私が今後殴られて血まみれになる可能性はそれなりに。
 呪いとかで気がついたら血まみれになっている可能性もある。
 けれどそれはおそらく希の手によって意識を失わされている事もありえる。
 私を暴力的な手段をもってして痛い目を見るのはある程度納得しているので
 仕方ないということにしておいてほしい。
 雪姫ちゃんがさも疑問と言わんばかりにこちらを見た。
 
「来ましたか絵里」
「海未ちゃんとタッグを組んでエリちを潰しにかかってきたで!」
「死亡フラグを立てることに余念のない東條希さんちーっす」
「なんでそんなに エリちはハイテンションなん!?」

 人生で初めて食べたものは吐くという経験をした。
 誰かに対して食べ物は粗末にしないようにと忠告することはできなくなってしまい。
 私のアイデンティティの一つは失ってしまったことによりテンションが上がってしまった。
 
 吐かなければ死ぬと言うこともあったので、
 後日になれば何食わぬ顔して食べ物は粗末にしちゃダメよ、まったく!
 とか言いながら劇物を食べるハメになることにはなるであろうことは簡単に予測できた。

 星空凛は食べ物をちゃんと食べてくれる人が大好き! 
 なんて言ってくれたので、
 彼女のリクエストに応えるためにも私はどんどん劇物を食べていかなければならない。
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/26(日) 18:41:39.72 ID:Rr8/ewWx0
「絵里、友人の一人である東條希を言葉でなじってはなりません。
 その不遜な態度は肉体言語により矯正していかなければなりませんね」
「暴力的な手段によって性格を矯正しようというのはDVと同じよ、
 もし海未に恋人ができたとしたらそのクセは改めないといけないわね?」
「うふふ、正論を言われてしまいました。
 なるほど絵里は必要があればきちんと矯正してくれるということですね?
 さすがです、これからは積極的に甘えることにいたしましょう?
 どのような路線がよろしいでしょうか、家に帰ったら裸エプロンでいるとか?
 まるで新婚さんですね」

 海未がどんなことを考えているのかまではわからない。
 私がエロい格好をしながらエロいことをさせている――そんな妄想しているみたいではある。
 隣にいた東條希が、海未ちゃんはこんなキャラだったっけな?
 みたいな表情をして勝負の前に勝負が決しているような気がしなくもないのだけれど。

「ところで勝負の進行をしてくれるのは誰かしら?
 何かしらの対決をするっていうことは、
 私の方にも海未の方にも融通がきいてはならないわね?」
「その判断力はさすがです。
 私の絶対的な味方である彼女を呼びました、
 理亞カモン!」

 指パッチンをしながら(音が出ていなかった)理亞を呼ぶ海未。
 しぶしぶといった感じで理亞がいそいそと登場した。
 あまりにテンションが低く、
 ちょっと体調でも悪いのかなと心配になるくらい彼女の表情は暗かった 。
 陰気なオーラを発しつつ、儚いと表現できそうな、
 大手術前の美少女ヒロインみたいなキャラ作りをしている。
 海未の味方をしたくてしているわけではないアピールをしていた。
 理亞の様子に気づいているのか居ないのか、
 海未は胸を張りながらいい味方を手に入れたみたいなドヤ顔をしている。
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/26(日) 18:42:12.62 ID:Rr8/ewWx0
「私を罵ってください」
「あなたがドMになってしまうと聖良ちゃんのエムさ加減が
 目立たなくなってしまうのだけれど――
 私は喜び勇んで罵ればいいのかしら?
 それとも本当は何もしないでいる方がいいの?」
「これぞ私の作戦です!
 私は理亞を支配下に置けている!
 今回の勝負において優遇されるのは確実と言っても良いでしょう!」

 園田海未もなんかやけっぱちになってるみたいな感じで、異様にテンションが高い。
 この中で私に勝つつもりでいるのは東條希だけみたいだ。
 他に援護者でも現れては別だけど、
 見回す限り誰かが割り込んでくる様子も気配もまったくない。

 いざとなればこっちには元ラスボスであるよっちゃんもいる。
 よっちゃんに全てを任せてれば私の尊厳は保たれる。
 10秒くらいしか保たないけど。

「今回の対決はエロい衣装を着て自撮り対決です」
「なにそのコメント欄が炎上してしまいそうな対決」
「私が勝利するのが難しい対決ではないですか……
 あの時融通を利かせるという理亞の言葉を信用した私が間違いでした。
 ですが勝負においては勝利は至上命題です――
 ここは心を鬼にしてエロい衣装を着ることにしましょう」
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/26(日) 18:42:39.42 ID:Rr8/ewWx0
 海未発せられるエロという言葉になんとなく違和感を覚えなくはない。
 ただ、みんながみんなとりあえずやってみようかみたいな空気になっているのはどことなくおかしい。
 雪姫ちゃん一人が私は一応現役女子高生になるので応援に回ります――
 でも必要であれば――
 なんて健気な表情を向けたので、私は全身全霊をもって止めることにした。
 あなたが戦ってしまうとぶっちぎりで勝ってしまうからやめてちょうだい――
 そのように告げてかばい、好感度を上げることにも成功してしまった。
 あと1%でエッチシーン開放です――一体誰と誰の。

「またエリちが女の子を口説いている」
「またって……その風評被害やめてくれる?」
「景品の女の子に全部聞いたもん、ぷんすか」
「景品て、ぷんすかって」

 私に勝負をしかけてきた面々はツバサを人質に取り――
 その上でこんなことをやらかしてしまっているらしい。
 ツバサがそんな人たちに向けて、何事か言い放った――
 ここをこうすれば絢瀬絵里を落とせるよみたいな――
 
 とりあえずこちらとしてはノリよく今回のイベントに参加する、クリアしないと先に進めない。
 ただ、心の中で今も待っているであろうセイントムーンの二人に謝罪をした。
 ダイヤちゃんがいないのは二人に謝りに行ってるんだと思う。

「西木野真姫さんプレゼンツ、
 多くの露出の高いコスプレ衣装の発表です」

 まだらに起こる拍手。
 真姫がラスボスである以上彼女の意向がかなり強く反映されているみたいだ。
 スタッフの方々によって多くの衣装が集められた模様。
 中にはエロいどころか布一枚といった衣装もある。
 それを着ろよみたいな目をみんながみんなしているけど――
 あえて空気を読まずにその衣装(布)は全身全霊をもって避けることにした。
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/26(日) 18:43:10.24 ID:Rr8/ewWx0
 露出度の高い格好をして自撮りをするという目的がある以上。
 何を持って勝負の勝ち負けを決めるのか大変不安ではある。
 誰の評価を持ってして勝ち負けを決めるのか、
 私は何の説明されていない。
 おそらく園田海未と東條希も全く説明を受けていないと思われた。
 でないと普通にエロい格好すれば勝てるだろみたいな表情はできないはず。

「私は黒髪の大和撫子ですから――
 谷間の一つでも見せつければ勝利はおぼつかないことでしょう?
 
 なんです希……お前に谷間ができるのかみたいな顔は?
 気に食わないのですが、絵里の評価を引きずり落とす前に
 あなたの腸を引きちぎりますよ?」
「怖いよ海未ちゃん!?」

 もうすでに仲間割れが始まっている。
 参加者としてはよっちゃんもいた。
 この格好暑かったんですよねみたいなことを言いながら、
 中二病としてのアイデンティティを気軽に脱ぎ捨ててしまっている。
 一応名目上は雪姫ちゃんよりも年下であるので、
 この度の勝負には参加しなくてもいいんだけれども、
 もうそんな恥ずかしがるような年齢じゃないですしみたいな顔をしながら、
 とりあえずエロい自撮りは取る気満々であるらしい。

「まあエロいエロくないはおそらく真姫が決めるものであるでしょう。
 なら、二次元美少女に合わせた方が評価は高いでしょうね。
 コスプレならば昔からよくやらされているし、
 私に勝利の道筋が見えてきたかな」
「これ絵里さんに着て欲しいんですけど」
「金髪ってそういう魔法少女のイメージがある?
 金髪で魔法少女って言うとなんとなく
 首がなくなってしまいそうな気がしてならないんだけど」
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/26(日) 18:43:43.06 ID:Rr8/ewWx0
「そのイメージ古いですよ?
 今の流行はやはりパンツじゃないから恥ずかしくない方なんじゃないですかね」
「なんとなくそのイメージ……さらに古いような気がしならないわ」

 とはいえその501のコスプレ衣装もあるようで、
 コスプレ衣装とは名ばかりのパンツがあるんだけども。
 どうせならばストライカーユニットも用意して欲しかった。
 
 それがなければパンイチの露出魔であるし、
 この場において女の子しかいなくても、
 自撮りをする以上誰かしらにその場面を見られる可能性は存在する。


「ふふ? ウチが選んだ衣装はコレ!」

 東條希がした格好は全裸に包帯を巻きつけるだけのもの。エロい。
 ハロウィンで活躍しそうなミイラの格好であった。
 確かにエロければ良いのだし、希のスタイルが多少縮こまってしまったことを抜かしても、
 年頃の男子から見れば鼻血が出そうな格好ではある。

 この場において年ごろの男子を用意することは不可能ではあるでしょう。
 仮に高校生くらいの男子に見られるとすれば
 海未が発狂してしまいかねないので、そんなことはなされないものと思われた。

「なかなか良いですよ希、
 ですが私のミニスカ巫女さん+谷間全開に比べれば、
 エロさは微々たるものといったところでしょうか」
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/26(日) 18:44:20.70 ID:Rr8/ewWx0
 私の前でビビとはこれいかに。
 
 海未が全部説明してくれたけれども、清楚な中にもエロさはそこはかとなく存在する。
 エロゲーに出演してそうな破廉恥な巫女さんが海未の手で完成した。

 高校時代の園田海未ならば破廉恥ですと言いながら着用拒否するけど、
 彼女も成長したのか
 それとも衰退したどうかまではわからない。
 
 ただこういう衣装ノリノリで着てくれるノリの良さは身につけたみたい。
 私の影響が強いというガヤの声は、とりあえず聞かなかったことにする。

「私は悪の女幹部みたいなこれよ!
 やっぱりスタイルは良くないから似合わないかな――少し恥ずかしい」

 よっちゃんが着用しているのは特撮で出てきそうな無駄に露出の多い女幹部みたいな格好だ。
 悪の組織の中では実力があるのかないのかわからないし、
 いつもは賑やかし要員で戦うとなるとモンスター化したりする――
 人間体でいる必要性があるのかと問いかけたものある。
 
 確かに人間の女性の格好をした女幹部が
 特撮のヒーローをフルボッコにするというシーンは幼子に悪影響を与えなくもないので、
 気持ちは分からないでもない。
 だったら最初から登場させるなよというツッコミはとりあえず控えておく。
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/26(日) 18:44:50.88 ID:Rr8/ewWx0
「私は白スク水、1度起きてみたかったのよね」
「ダントツで絵里が優勝だと思います」
「自撮りをする前からはもうすでにいろんな箇所が濡れてそうやね?」
「恐ろしくエロゲー的ね……理亞はどう思う?」
「コメント不要よよっちゃん、
 やっぱりエロさにおいては絢瀬絵里以上のエロゲヒロインは存在しない!」

 なぜかみんなからご好評をいただいてしまった。
 何故そんなにエロいのか、冗談はよしこちゃん! 
 という台詞は言えずじまいであった。

「では、 自撮りという言葉は嘘ということで
 審査委員の皆様方に登場していただきましょう。
 この度このホテルに滞在していて今回のイベントに巻き込まれてしまった
 虹ヶ咲学園の2年生の皆様方です」

 は? とか。
 え? みたいな反応指し示したと思う。
 年ごろの高校生男子の前でハレンチな格好しているやつら(私たちのこと)
 着替えこそ見られなかったみたいだけれども、
 彼らの目が一点に集まり非常に恥ずかしいことになっている。
 これはやばいなと思った、
 私でもなく東條希でもなく、
 園田海未の鬱憤がいつしか爆発するんではないか。
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/26(日) 18:45:23.06 ID:Rr8/ewWx0
「……ふふ」
「逃げて! 男子高校生の皆さま逃げて!」
「何を言っているのです絵里?
 彼らの記憶を暴力的な手段をもってして消すのみです。
 大丈夫です暴力的手段を取られた事すら彼らは記憶できないほど、
 もしかしたら明日の朝日も拝めないほど、
 
 ――ふふ、1分後には生気を失い寝ているだけの状態になってしまう可能性も確かに存在しますが、
 ご安心ください、彼らがその暴力的手段を取られたことは全く記憶しておりません。
 つまり私の完全犯罪はなされたことになり、
 目撃者は女の子の皆さんと恥ずかしいコスプレをした皆様方だけです。

 恥ずかしい格好をした方々は正義の行動をする私に糾弾できないでしょう
 女性の方は、年頃の女子ですから好きな方の一人ぐらいもいるでしょう?
 その方がこんな年増のコスプレを見て興奮をなさっているようなことがあれば
 百年の恋も冷めるというものです。
 その百年の恋も冷めるような相手がどうなろうとも構いませんよね?」 

 勝負があっという間にうやむやになり、
 私たちは全身全霊をもって園田海未を静止させることに全力を尽くすのみになった。
 最終的に理亞にお菓子持ってないお菓子! なんて言葉を放ち、
 彼女の劇物を園田海未の口の中に放り込むことにより、
 この場の暴動は終息。

 なぜ虹ヶ咲学園の二年生がこの場にいたのか。
 景品であるツバサの意向がどれほど絡んでいたのか?
 この茶番劇は、いろんな意味で私やツバサのために行われていると推測される。
 みんな素直ではないから、
 こういうふざけた方面になり多くの人を巻き込む方面へとイベントを起こす。
 
 苦笑いしかできない結果を生むこともあるけれど――
 
「竜宮雪菜さんの記憶は目覚めないのね」
「そのようです絵里、よほど過去に嫌なことがあったのでしょうね――
 よっちゃんはどう思う?」
「ノーコメント」
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/26(日) 20:53:34.63 ID:P7q9sMoFO
胸がなくなったハンデをものともしない白スクとは…そこにシビれるあこがれるゥ
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:29:40.44 ID:lPmIsCOG0
 竜宮雪菜という人を見て、大変失礼ながら一番最初の感想はこの人誰であった。
 かつて天王寺璃奈ちゃんからこの人誰みたいな扱いを受けていた鹿角理亞も、
 この清楚な大和撫子みたいな人誰? という意見を持ち合わせるに至った。
 いかんせんとポカンと私と理亞が顔合わせの際にしているものだから、
 ガチの大和撫子である雪菜ちゃんは驚きを隠せないといった表情をしつつ、
 若干この人たち失礼だなみたいな感情を抱いていると思われた。

「私の料理を所望される奇特な方がいて大変驚きました
 しかも全部食べてくださったそうですね?
 そのような方は人生において存在していなかったので大変嬉しく思います」

 穏やかな口調で話されているけど少々声色にトゲがあり、
 感謝しつつと言いつつも先ほどまではしたない
 コスプレをしていた私たちに向けて(理亞は違う)
 それなりの警戒感を抱いているらしい。
 当然といえば当然である。
 ホテルを貸し切って修学旅行生を巻き込み、
 けったいなイベントを行っているのであることから察しても。

 後に控えている真姫たちには、
 今ちょっとフラグイベントを起こしているから休憩でもしていてと告げてある。
 景品であるツバサが一番偉そうに早くしなさいよと言いながら見送ってくれた。
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:30:23.66 ID:lPmIsCOG0
「まわりの人たちが、アイドルのステージを見られたから今日はいい日だ
 そんなふうに言っていたけれど、雪菜さんはそうではないみたいね」
「はい、アイドルというものをあまり好ましく思っていないので
 はっきり言ってしまえばなぜあのように盛り上がってしまうのか
 問題行動でさえも許してしまうのか、大変疑問です」

 過去にあなたは女装してアイドルやっていましたよ、
 言っても信じてくれないし、
 隣にいる理亞は呆然といった表情を隠しきれていないから信用も薄い。
 印象としては理亞がいるおかげで何言ってんだコイツみたいに見受けられてしまうので、
 よっちゃんに頼んで回収してもらった。
 一応、以前はパートナーとしても活躍していたので、あの子の気持ちは大体分かる――
 ではあったそうなんだけどそのキャパシティを超えてしまっていたらしい。
 気持ちはすごくわかる。

「あの方もステージに上がっていました。
 ステージから降りるとただの人なのですね?」
「そうね、演技者が舞台から降りるとただの人になるのと同じ
 アイドルと言うと落差があるから少し目立ってしまうかもね」
「……今のは失言でした申し訳ありません」

  雪菜さんの意見としてはステージそのままの輝きを放っていればいいのに、
 ということだと思われる。
 若干ニュアンスとしては異なっていても、
 落差はもう少し控えめにしておけばいいのにということである。
 理亞だってあまりに驚いたことさえなければ、
 人の顔をまじまじと眺めてしまいごめんなさいの一言くらいはあるんだろうけれども、
 動揺は微妙に私へも伝播してしまっていることから彼女の衝撃度は……。
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:30:54.68 ID:lPmIsCOG0
 それと咎めるつもりはなかったのだけれど、
 敏い彼女はどうしたって今の台詞を良い印象通りに受け取ってはくれなかったみたい、
 声に険を持ってしまった可能性もある。

「いきなりこちらに連れてこられて、大変だと私が認識してなかった
 ごめんなさい年上なのに気の一つも使えなくて」
「それではお互い様ということにしておきましょう、
 どちらも悪いと言っていれば話は平行線になってしまいますから」

 大和撫子である上に、おしとやかであり大人でもある。
 対応の美しさは私も見習わなければいけない。
 この手のタイプは一度心が折れてしまうと修復は難しい。
 かつての彼女(彼)は柳みたいなメンタルを持っていて、
 叩き潰したって気が付いたら復活してるような強さがあったけれども、
 竜宮雪菜という人の強さは前面に偏ってしまっている。
 
 人気があると聞いているけれど微妙に浮いてしまっているのは、
 その辺りに原因があると思われた。
 何気なくではなく自分が正しいと思えば人への忠告も
 はっきりと言ってしまう癖があるんだと思う。
 それだと人間関係はなかなかうまくいかない。ソースは私。

「チラリと姿が見えましたが、
 私のいとこだという方がいらっしゃいましたね?
 その方のわがままなのでしょうか今回の経緯は」
「その人だけではないと思う、
 8割くらいはその人のわがままだとしても、
 同意してくれる人がいなければこんなことはできないからね、
 あの人金遣い荒くないからお金で人を動かす術を知らないのよ」
「お金で人を動かさない? 人の情で人を動かすというのですか?」
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:31:20.81 ID:lPmIsCOG0
「そうかな……?
 ギブアンドテイクのギブはだいたいお金じゃないわよあの人。
 自分がねその人にとって欲しいものをあげるの。
 すごいでしょ? そういう観察眼をあの人は持っているのよ、
 だからこそトップアイドルになれた」
「私は今までお金で人を動かす術を学んできました、
 絢瀬絵里さんでしたか不思議です、
 お金で動かない方というの初めて見た気がします」

 持ち上げてくれるのは嬉しいのだけれど、
 記憶を取り戻したという上原歩夢ちゃんもそうであるし、
 姿が見えないけれど宮下愛ちゃんもそう、
 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の面々はだいたいそう。
 おそらくではあるけれどお金で動かない方
 というのが印象に残らないタイプ何だと思う。
 悪気はないのだけれど人間はそのように動くものだという
 教育を過去から受けていたのだとあり。
 そのような奥手で清楚な人がツバサを見て
 ふざけている人だと思うのは無理からぬことだ。

「アイドルというのは、なんて表現したらいいのかなチャラチャラ?
 落ち着いていない印象を今でも受ける?」
「私の通う学園でもスクールアイドルなる存在がいます、
 楽曲のレベルも提供されるイベントのレベルも
 お遊戯会と言っても差し支えはないと思います」
「そうだね、A-RISEと比較してしまうと、
 どんなスクールアイドルを見てもお遊戯会レベルになる可能性もある」
「絵里さん?」
「でも、彼女たちは真剣よ?
 確かに提供される楽曲であったり、
 踊りはお遊戯会と言われても仕方がない、
 でもね下手だからといってやめようやめるべき、
 そんなことはね本人たちが決めなければならないこと」
「……私は、そんな」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:32:02.30 ID:lPmIsCOG0
 少し痛いところをついてしまったような気もする。
 人は得てしてレベルの低いものに対して辛辣である。
 つまらないであるとか技術が劣っているとか、
 何かしらの理由をつけて人に何かを辞めさせるコトは誰しもにある。
 本当に辞めさせた方がいい人も何人かいるんだけれども、
 大体は余計なお世話である。
 誰しもがそうであるから竜宮雪菜さんを許せとはツバサも言わないであろう。
 それどころか私の弟を泣かすんじゃねくらいに殴りかかってくる危険性はある。
 とりあえず私を待たせたから殴りつけるは覚悟してるけど。

「私も元々スクールアイドルだった、あんまり有名ではないみたいだけれど、
 今もこうしてね仲間たちと一緒にいたりするの
 もちろん楽しい思い出ばかりではない、辛いこともたくさんあった
 後悔することももちろん――
 竜宮雪菜さんは何か青春をかけてやりたいことってないかな?」
「私にはありません、才能がありませんから、
 やりたいことをして許される立場ではありませんし、
 親が敷いたレールの上を歩くしかありません。
 誰かは私を無欲と言います。
 ――でも、私は学園のスクールアイドルの皆様が羨ましかったのかもしれませんね」

 優木せつ菜復活フラグを立てることに成功した気がする。
 もちろん過去の記憶を取り戻してくれれば一番手っ取り早いではあるんだけど、
 彼は本当に女体化してしまっているので、
 過去の記憶を取り戻した瞬間精神崩壊する可能性もあるから――
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:32:30.23 ID:lPmIsCOG0
 さすがにそのフォローまでは私にはできない。

「もしあなたが変わりたいと――」
「チョリーッス!」

 落とすにはあともう少しといったところで、
 空気を読まないと言わんばかりに破天荒なギャルが現れた。
 先日の世界のラストイベントでさりげなく登場し、
 祖母が好きという部分とダジャレが大好きという部分で妙に馬が合ってしまった
 正体不明の謎の女の子が――
 彼女は私を知っているみたいなんだけど私は彼女をまったく知らない。
 なぜだか突如現れて意気揚々と言わんばかりに、
 やたらテンション高い彼女は私と肩を組んで。

「会いたかった会いたかったエリチカ!」
「ええと、以前会ったことあるけど、名前を伺ってなかったわね?」
「あ、そうだったそうだった! 宮下愛!」
「宮下愛?」

 私の記憶の中で宮下愛という女の子は極めて地味で、
 一人称はわだす。果たしてそんな田舎が存在するのかというくらいの
 東北の田舎に住んでいて、主な食事は昆虫類、野花などになっていたはず。
 少なくともイケイケのギャルではなかったはずだし、
 同一人物と言われても恐ろしく疑問ではある。

「東北の山の中で神様の巫女をしていた宮下愛ちゃん?」
「そうそう、昔はダサい姿で野菜を交えながらそんなことをしていたね、
 まさに芋娘っていたところかな?」
「ちょっと雪菜ちゃん、待っててもらえる?」
「は、はい……」
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:33:14.90 ID:lPmIsCOG0
 自称宮下愛ちゃんを伴って、竜宮雪菜さんから離れる。
 ギャグのセンスは私に及ばないもののなかなかいい感じではある。
 なかなかいい感じに留まっているから
 もしかしたら自分には理解できる可能性がある、
 私のギャグば発想が天才すぎて誰も笑ってくれない(笑)
 
「どうしてそんな姿に?」
「エリチカに憧れて、そうだ金髪にしなきゃって思って」
「別に私はギャルだから金髪ではないのだけれど」
「そうかもしれないけどわだすのアイデンティティーになったから」
「確かに唯一無二であるかもしれないけれど」

 一人称や反応から確かに宮下愛ちゃんであることが確認できた気もする。
 彼女がこれだけ私に対して慕ってくれているのにも関わらず、
 彼女の言葉を信用しないのは愛ちゃんに対して恐ろしく失礼なことだ。
 少し信じられないではあるのだけれども。

「でも愛ちゃんもう少し出番は後でもよかったのだけれど」
「あの子にスクールアイドルをやってもらうんだっぺ?
 んだば、無理なことよ、あの子が良くても環境が良くないからな」
「そんなにお嬢様面しているの?」
「ツバサさんもすごくお嬢様だけんども、竜宮家っていうのは結構敷居が高い感じだ
 土地の広さだったらわだすの所には負けないんだけどなー」

 ちなみに宮下愛ちゃんの土地というのはその地方全体を指すので、
 東京で言うと大田区くらいと同じサイズ。
 さすがに家が大田区と同じサイズではないのだろうけど、
 ツバサがホイホイと会いにいけない立場であることは分かった。
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:34:32.17 ID:lPmIsCOG0
 雪菜ちゃんがいとこの人と言ったのは、
 それ以上の関係にはなれないというメッセージであった可能性もある。

「物語でありがちなご両親を感動させてとか無理そうかな?」
「エリチカならできる、わだすが応援してるエリチカなら、絶対できる
 エリチカができないことなんてわだすは知らね」
「そう、愛ちゃんがそう言うんだったらそうなんでしょうね、
 愛ちゃんはスクールアイドルやるつもり?」
「もちろん、スクールアイドルっていうのは楽しいしな、
 上原の歩夢ちゃんも誘うっぺ、
 ちょっとトラウマが激しそうだけんどもな」
「トラウマ?」
「体育の授業中な着替えてる最中に、彼女が隣におって」
「あーはいわかった」

 上原歩夢ちゃんと竜宮雪菜ちゃんは自他共に認める親友同士であったらしい。
 結構深いことまで話す関係であったせいか、
 記憶が目覚めてからの衝撃は歩夢ちゃんにとって激しいものであったみたいだ。
 その点に関しては私も謝らなければいけない部分もいくつもあるし、
 もう少し気を遣ってあげてもよかったかなと思わんでもない。
 ただメインヒロイン属性の彼女とすれば、
 ラッキースケベイベントにいの一番にぶち当たる、
 もしくは気づいてしまう。
 やっぱりエヴァリーナちゃんの言うとおり、
 彼女がなんだかの特異点に所属しているのは確実みたい。
 まあ特異点に所属することに気づかされるイベントが、
 大体ラッキースケベというところに不憫さを覚えなくもない。

「じゃあまたね」
「また会えることが嬉しい、それだけでも
 ここに来た価値があるさね」
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 16:35:24.27 ID:lPmIsCOG0
今回のエピソードには欠席ですが、
この竜宮雪菜さんに桜坂しずくさんが何をしたかを思い出すと、
もっとお楽しみ頂けるかと思います。

では、また明日です。
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 19:20:51.60 ID:H1efONUb0
 宮下愛ちゃんは確かにギャル化はしたかもしれない、
 でもその本質は心優しい、私を敬ってくれる、健気な女の子だった。
 そんな姿にちょっとだけ感動を覚えてしまい、
 肩を組みながらまるで同い年の友人に向かって話しかけるみたいな、
 そんな宮下愛ちゃんにエリチカは一言だけ言いたいのです。

「まだ食事は昆虫なの?」
「貧乏は敵だ、人付き合いでお金がどんどん減ってくねー」
「本当に困ったら言ってね、エマちゃん通じて今度メールアドレス教えるから」
「おお、天からの助けだ、金欠になったらすぐに言うから」
 
  彼女にどれほど助けになれるかはわからないけれども、自分を慕って自分を支えてくれた女の子に対して、それがどれほど勇気のある決断であったか、私も分からなくもないから、100万円よこせとかは言われないだろうけれども、その百分の一くらいは気軽にホイホイあげられる立場でありたい。
 今のところ妹の亜里沙に頼まなければ1000円でさえも辛い。これではみっともないので少し稼ぐ手段を考えるべきかとも考えなくもない。

「せっちゃんがわだすが連れてくでな」
「やっぱり私への印象は悪い感じかな」
「彼女は誰に対しての心を許す気配がないでな、でもそういうところにグイグイ来ちゃうのが愛さんのいいところよ!」

 彼女ならきっと雪菜ちゃんに心を許してくれるような関係に至ってくれると思う、上原歩夢ちゃんの心の傷が癒えれば2年生3人組でユニットの一つでも作ってみても構わないかもしれない。
 ただ愛ちゃんの憧れっていうのが、私であることに一抹の不安はあるのだけれど、真面目な彼女が高校生の違いで脱退何ていうことにならないように、ギャグは控えめにした方がいいよと忠告するべきかしないべきか。
 あれは愛ちゃんのアイデンティティでもあるから、禁止すると微妙にキャラが弱いような気がするんだよね。

「戻ってきたようですね、会話あぁー!?」
「よろしくせっちゃん、アタシの名前は宮下愛って言うの
 頭脳明晰なせっちゃんならもちろん知ってるよね」
「馴れ馴れしいですね、いきなりこれような肩を組む行為をなさるなんて」
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 19:21:28.77 ID:H1efONUb0
「馴れ馴れしくないよ友達なら誰しもこれぐらいのことはやってるもんさ」
「友達って」

 そして雪菜ちゃんは愛ちゃんに引きずられるように退場していく、
 これから修学旅行でもベタベタするつもりなんだろうか、
 そしてこの季節に普通修学旅行など行われているのだろうか、
 なんとなく物語の整合性が気になる絢瀬絵里なのでした。



 そんな仲睦まじいと言わんばかりの二人が退場後、
 彼女たちの会話に参入できなかったと思われる、
 綺羅ツバサが私の背後に忍び寄った。
 その隠密行動をするみたいな応対は反応に困るのでやめてもらいたい。
 
「自身を慕ってくれる後輩を見つけてデレデレしているわよ絵里」
「たまにはどうやって持ち上げられないと、下に落ちた時に底辺である自覚を持てないじゃない」
「そこまで卑下する必要は何もないと思うけれど、どうだった」
「記憶が戻る可能性は今のところをほぼないと言ってもいいところだった」
「そのようねスクールアイドルという単語を聞いても無反応、
 まさかあの子があそこまでお嬢様になっていたなんて思いもしなかったわ」
「そういうお嬢様に気軽に会いに行けるあなたも十二分にお嬢様なのではないの?」
「私がお嬢様だったら、あなたもお嬢様に見えるわよ山賊」
「何よ蛮族」

 このまま罵り合いが始まるかと思いきや、意外にも殊勝な態度を見せるツバサ。
 眉をハの字にしていかにも困ったと言いたげな表情に、
 ついつい昨日のことを思い出してここで押し倒しの一つでもしてやろうか、
 いやそんなことをしたらいろんな人に殺されてしまうけどね、何ていう自己ツッコミをしつつ。

「でも、ああいう子は帰ってみせるのがアイドルのいいところじゃない?」
「私がステージに立っても無反応だったのよ?
 あなた程度の人間が一体何ができるって言うの?」
「私一人だったら無理かもしれない、でも私とあなただったらどうかしら?」
「ちなみにあの子達は今日岐阜城に向かうそうよ」
「さすがに岐阜城ではスクールアイドルのイベントは難しいわね」
「私が織田信長だったらあなたは……ヤスケ」
「いや確かに奴隷的な扱いはみんなから抜けているような気がしなくもないけど」
「さすがに冗談よ絵里、そこは反発してふざけるなというところよ
 真面目に自分の立場がヤスケに近かったと考えるのは予想外の反応だからね?」
「ごめん、ネタにマジレスかっこ悪かった」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/29(水) 10:45:30.72 ID:YZI8LH490
高校の修学旅行は10月頃が多いけど5月にいくとこもあるとは思う
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 04:02:12.21 ID:EOXETaht0
 どうでもいい話から話題は展開し始める。
 別に織田信長の話がしたかったわけではないのだけれど、
彼女が口を開くとマシンガンのようにこっちに言葉の銃弾を浴びせ掛けてくることばかりなので、
 いつのまにか英玲奈やあんじゅが対応している彼女の操縦法を身につけたようではある。
 A-RISEのふたりはツバサに付き従っているようで、
 面倒事は絶えず彼女に押し付けてる傾向があるので、
 なんで私ばっかりという点はツバサも感じているようだけれども、
 なんやかんや言って能力の高い彼女についてこれるのは、
 過去の私であったり理亞であったり、
 覚醒した朝日ちゃんであったり。
 生半可なアイドルでは自身についてこれないことが分かっているので、
 意外と悪い扱いをするA-RISEのほかのメンバー相手でも強気に出れない。
 その点絢瀬絵里なら安心である。
 いくらフルボッコしても心が痛まないことはないではあるけれども、
 基本的に悪い扱いをしても喜んでくれるので、
 ツバサは自身にはないとドS性を 遺憾なく発揮している。
 亜里沙と一緒にいるケースが多かった過去においては、
 尻に敷かれっぱなしで、ろくに反論すら許されていなかったことから、
 本来は上から指示されるのが好きなタイプではあるのだとは思う。
 能力が高いから指示してくれる人が誰もいないだけで。
 
「彼女はねアイドルを嫌っているみたいなの」
「好きな子に意地悪をしたくなるタイプ、というわけではないの?
 素直になれないだけにも見えるわよ?」
「それが頑なだから頭が痛いの」

 この世界における竜宮雪菜という人は、
 大変なお嬢様ではあるようではある。
 虹ヶ咲に入学したのは物語的な都合と言うかご都合主義的な何かがあるんだろうけれども、
 生活においては他者の行動にあまり介入したりしないし、
 友達作りは得意だけど本心はなかなかさらけ出さないみたい。
 なんでそんなことを知っているのかと言うと、
 エマちゃんが不気味だから何とかしてほしいというメールを絶えず送ってくるからである。
 彼女からすれば都合のいいアゴで使える相手はいなくなってしまい、
 買い物の時に荷物持ちがいなくなって久しい、とか、
 なんやかんや言って能力が高かったから目標にしていたのに、
 話しかける機会もなくなってしまって寂しい、
 などという素直なんだか素直でないんだかわかんない反応をしていて、こちらとしても反応に困る。
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 04:04:37.97 ID:EOXETaht0
 胸の一つでも揉ませれば思い出すんじゃないの?
 と言うメールも返したこともあったんだけど、
 そんなことをしたら親衛隊に嬲り倒されてしまう、とのことらしい。
 桜坂しずくちゃんが起こしたとある事件により、
 セクハラに関しては周囲の目も彼女自身も厳しいらしく、
 余計なことしやがってとはエマちゃんのそのままの台詞。
 しずくちゃんは相変わらずステージでは清楚キャラとして売っており、
 本性がとても下ネタまじりで口を開けばセクハラ発言ばっかり言っているとは思われていない模様。
 虹ヶ咲内部では危険な存在として認知されているみたいだけど、
 ファンは本心を理解しえないものではあるらしい、
 観察眼もあり人の不備を指摘することには右に出る人はいないので、
 あれでよく下ネタ属性が他の人にはバレていないというのが信じられない。
 何回かセリフを言ったら男性器の名前がでるような人よ?

「周囲の仲間たちに包まれて、
 もう一度スクールアイドルとしての楽しさを思い出したら
 もしかしたら彼女の過去の記憶を取り戻すんじゃないかしら」
「過去の記憶を取り戻したら自害とかしないわよね?」
「できればそこらへんは融通を利かせてもらえると助かると思うわ」

 過去に優木せつ菜(芸名)という人はどんなキャラであったのか、
 基本的に真面目で努力家心優しい性格、オタク属性以外は非の打ち所のない。
 過去の他の人の反応だと清楚すぎる美少女だとか、
 女神みたいな人、どういう反応があり、概ね支持されている。
  基本的に他者に厳しいエマちゃんやしずくちゃんも、あいつは女神かなんかだ、
 という反応が返ってくることもあり、性格面では欠点がおおよそない。
 
 年頃のオトコノコであったせいなのか、それとも姉の教育が間違っていたのか、
 セクハラ方面のイベント事になるとやたら張り切ってしまう傾向があり、
 それを防げるのは胸がない面々のみ。
 彼女らにはやたら辛辣。
 エマちゃんの名言でもある璃奈ちゃんボードを胸に付けてるんじゃない発言をさらにパワーアップさせて、
 どこもかしこもボードにしてるんじゃねえだとか、
 まな板が私の後ろに立つんじゃねえみたいな発言は姉にも突き刺さっている。
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 04:07:20.68 ID:EOXETaht0
 顔を突き合わせるばすぐには過去の記憶を取り戻すかと思いきや、
 そうではない辺りよっちゃんはその点だけかなり余計なことをしてくれたと思われた。
 優木せつ菜(芸名)どういう人への反応に関しては、
 嫉妬心が先んじてしまい、
 常軌を逸していた傾向にあるので彼に関しては謝った方がいい可能性がある。
 それでも立ち上がってきた彼をみて、
 こいつはもしかして物語の主人公かなんかなんじゃないのか、
 というコメントちょっと前に残した。
 やっぱり今でも苦手ではあるようではある。

「分かったしばらく様子を見てみる
 とりあえず景品は真姫さんたちの顎で使われることにするわ」
「自由にホイホイを歩いているみたいだけど本当に景品なの?」
「ちょっと準備があるから、そこにいる凛さんとお話ししてたら?」

 少しだけ嫌な予感がしたけど、星空凛という人は過去での記憶を取り戻さず、
 平穏に過ごす運命にあるみたいなことを聞いたような気がするので、
 少々安堵しつつ、それでも膝蹴りの一つは腹部に受ける覚悟で、
 にこやかに微笑みかけてみた。
 今まで話しかけてこなかったことから、超絶人気アイドルに対して遠慮していた部分はあるようである。

「あのね絵里ちゃん」
「どうしたの凛」
「また料理食べてくれたんだよね?」
「ええ、今度はきちんと完食したわ、ご馳走様」
「私ね、料理人になりたいと思って」

 とんでもない告白をされてしまった気がする。
 ジェイソンが私チェーンソーを持ちたいんです。そんな発言をしたような、
 人殺しの相談ならもっと穏便にしてくれ、
 そんな反応したいではあった。
 でも目をうるうるさせながら、
 自身が料理が苦手なことは重々承知した上で夢を追いかけたいみたいな反応であるので、
 さすがに現実的に人が死ぬような料理をしなくなったらねとコメントすることは未然に防がれた、
 私も空気はちゃんと読めるようになったようではある。
 私の中の人が警告したっていうのもあるけど、命の危機ですって言って入ってきた。

「絵里ちゃん、料理を教えて欲しいの」
「それはもちろん、私にできることならちゃんと教えてあげるわ」
「今までねどんな人も匙を投げてきたの」
「……あ、ちょっと待って、いま希呼ぶわ」 
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 04:08:50.66 ID:EOXETaht0
 自身の能力の低さを棚に上げつつ、
 彼女が何らかの術をかけている可能性は存在している。
 現実的に考えて、
 お勉強家である星空凛がいくら料理をしても劇物を作成してしまうのは
 何らかの呪いがかけられていると考えた方が現実的ではある。

 凛の家には本当に私が台所に立てない呪いをかけられており、
 かけた希もそういえば忘れていた、みたいなエピソードが過去には存在していたし。
 どうせどっかで話聞いてるんだろうと思い、
 周囲を見回してみたら、はいはいと言わんばかりにこっちに向かって駆けてきた。
 本当に私の話を逐一聞いているかと思うと、色々考えたいことはあるのだけれど、
 何から何まで腹を割って話してしまうと、壮絶ヤンデレルートの解放フラグが立ってしまう気がする。
 彼女が多少病んでる方面に性格が偏っているのは、
 私自身にも多少の原因はあるんだけれども、希が言うには元から暗いからね? ではあるみたい。 

「希、凛に呪いの一つや二つ掛けてるんでしょ」 
「その、友達に対して平気で呪いの一つや二つかける人扱いされると
 ウチも困ってしまうんだけど」
「でもことりに腹黒くなる呪いかけたよね?」
「なぜそれを……じゃなかった、そんなわけないやん!」 

 なぜ今の私が希の過去の罪状を逐一把握してしまっているのは、
 自分の中の検索エンジンが優秀になってしまっているからである。
 このたび肉体を持って現世に現れている西園寺雪姫ちゃんも
 やろうと思えば私の中に入ることができるらしく、
 過去改変をすることにより昨日ベッドの下に潜り込んでいたけれども、
 なんでそんなことができるのか? という問いに関しては答えてくれなかったけど、
 ある程度自由が利くことは白状してくれた。
 今も私の中に入り、記憶の検索エンジン、
 つまり他者が経験したあらゆる全てを把握している私自身の記憶回路を探り、
 必要な情報を持ってきてくれているのである。

 さりげなくやっているけど、自分には不可能な仕事ぶりで、
 それこそなんでそんなことができるのかと問いかけたい、
 大いなる意志が協力とか言ってくれているんだけれども、
 それはいったい何なのか、本当に私に害する存在じゃないのか少々疑わしいではある。
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 04:10:50.43 ID:EOXETaht0
 ちなみに天王寺璃奈ちゃんの祖母(仮)である司令も大いなる意志の部下であるらしく、
 彼女は大いなる意志のあらゆる全てを統括しているから司令であるらしい、
 過去に希と一緒にいた姫ちゃんは彼女の部下でもある。
 彼らのグループは一枚岩ではないらしく、
 たまに妙な連中が私を持ち上げたり、利用しようとしたり近づいてくるけど、大体ロクな目に遭わずに退場している。
 司令はナンバー2なんだけど、その司令と同格の存在が雪姫ちゃんである。
 彼女は下っ端ですのでとか言ってるけど、
 司令以外の面々で大いなる意志の声が聞けるのは雪姫ちゃんだけである。

(絵里お姉さんはネタバレに関して遠慮がないですね)
(ちょっと記憶回路がいじられて正直になってしまったのかしらね?)
(これからはできるだけ私がサポート致します)
(でもあなたにはあなたの人生がある、私なんぞに関わっていないで
 お友達と過ごしなさい、朱音ちゃんとか)
(では代わりを置いていきましょう、絵里お姉さんの言葉ならば何でも聞いてくれる優秀な子です) 
(別に私の中に置いて行かなくてもいいのよ? 今のところ困らないから)

 聞いてくれたかどうかわからないけれども、
 まあ何があろうとも私の言うことを聞いてくれるのであれば困らないであろうと結論づけた。

「あんまり人に呪いかけちゃダメよ、結局そうやって自分が苦しむことになる」
「希ちゃん、私に変なことした……?」
「あ、その目、ウチの罪悪感が10倍増しぐらいになっちゃう」

 庇護欲を誘う凛の目は私でさえ罪悪感を覚えるほど、
 健気で美しく、とても可愛らしく頭を撫でたいくらいであった。シスコンと言われてもしょうがない。
 ふるふると震えつつ本当は怒鳴りつけたいほど怒っているのかもしれないけど、
 でも自分に悪い所があるのなら直すよみたいな目で希を見ている。

「エリち、ちょっと検索かけて」
「私はアレクサじゃないけど、はいはいやりますよ」

 やるのは私ではないけど、知識を把握しているのは私なので、
 私が行っているということで胸を張ってもいいかもしれない。

「ええと、確かにある程度呪術はかけているみたいね」
「多分、凛ちゃん自身から頼まれたんだよね?」
「ええ!? 私頼んでないよ!?」
「ああ、ごめん、こっちの話」
「凛の話なのに!?」
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 04:11:27.29 ID:EOXETaht0
 確かに記憶をたどると凛から頼まれたことにはなっているみたい。
 どこまで真実かと言われると反応しづらいけれども、
 呪術をかけられてしまったこと自体は事実であるみたいなので、
 ちゃんと元に戻しなさいよとは言っておいた。

「よかったこれで料理がちゃんと作れるようになるんだね」
「ええ、まあ、不安だったら私が食べてあげるわ
 料理が上手になってもっと色んな人に食べてもらえるといいわね」

 そんな会話をする私たちを希が苦笑しながら眺めている。
 凛が料理を作ってくる! 何て言いながら退場したあと、
 彼女がこっそり。

「でも知らないよ? 昔は過去のトラウマがあって料理を封印することになったけど」
「凛ならちゃんと乗り越えられる、サポートはするつもり」
「ふうん? そういうの全部わかっちゃってるんだね?」
「分かってしまっているから、なんでもかんでも手を出してしまいそうになる
 やっぱりこの検索エンジンはダメね、私では扱うのが難しい」
「ご安心ください絵里お姉さん! 今! 少しバージョンアップいたしました!」
「中の人が出てくるなら、もう少し前置きがあってくれると嬉しいわ」

  肉体を持つ持たないということに関して自由が利く、
 というのはかなりチートスキルだと思うんだけど、
 なんでかしら不思議とあまり能力が高そうに見えない。

(なんでかしら? ちょっと理由を探ってみてくれる?)
(かしこまりました)

 西園寺雪姫 チートスキル 検索結果 102件
 などと、脳内に浮かび上がる文字。

(これ、一個一個クリックしないといけないやつ?)
(はい、これが雪姫の指定した条件です)
(今さらカムバックって言えないわ……)

 とりあえず私の能力は雪姫ちゃんが中にいて最大限に発揮される模様。
 しばらくポンコツと呼ばれても仕方がないかもしれない。 
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/30(木) 10:55:56.31 ID:2x/7hNHwO
呪いがあらゆる面で万能すぎる
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/31(金) 03:13:55.75 ID:0c7BuQAN0
 途中小休憩が挟まれてしまったけれども、
 この度のイベントは勇者エリーチカが魔王マッキーを倒すために、
 恋人であるツバサを助け出すために奮闘するストーリーである。
 途中仲間がいたような気がしたけれども、ちょっともう付き合えへんわ
 なるという言葉を筆頭に今は私ひとり。
 勇者は孤独なるものということで、仲間が冷たかったわけではない。
 最近流行りというわけではないけれど、
 パーティーから追放されてしまうのはよくある話ではあるみたい。
 誰か分かりやすい悪にして、
 その誰かが悪いから自分は悪くないというのは、
 私は苦手ではあるので、できれば一方的に私を悪者にして欲しいものである。
 ーーみんなは心優しいから、そうしないのはわかっているんだけども。
 たまにそんな優しさが辛くなる時がある。

「絵里、あなたのモノローグは大変ネガティブです」
「藤咲璃々ちゃんって呼べばよかった?」
「はい私に個体名は存在しません、何と呼ばれようとも構いません
 もし機会があるならば、絵里に私の名前を決めて欲しいのです」
「まさか子どもの名前を決める前に、
 私の大切なお友達の名前を決めなくてはいけないとはなんという」

 この子の名前はいまいち安定しないけれども。
 私からすれば初対面時のリリーとか、長い付き合いな名前のエヴァリーナ
 そして今回は藤咲璃々であり、璃々は何となく分かるけど。
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/31(金) 03:14:23.52 ID:0c7BuQAN0
「なんで藤咲なの?」
「私の声がその人に似ているという話がありましたので」
「ウサ?」
「ウサ」

 最初、かおりとか言ってボケようかと思ったんだけども、
 誰のことですかとか言われると妹好きとしては困ってしまうので、
 もし知らない人がいれば藤咲+かおりで是非にもググってほしい。
 攻略ヒロインが二人しかいないのにゲームで、
 1番人気が高い非攻略キャラの声の人。

「しかしながらよもや絵里とダンスで対決しなければならないとは」
「ネタバレがさすがに早すぎると思うのだけれど 
 このようなところであなたのダンスは危ないと思うわ」
「はい、このような場所で踊れば建物が崩壊します」
「崩壊しないように気をつけてくれると助かるのだけれど」
「さすがです絵里、略してさすおに」
「どこからお兄様が出てきたのかはわからないけれど、
 褒めてくれるのは嬉しいわ」
「はい絵里は褒める要素がいっぱいあるので
 何も考えずともホメリマ・クリスティです」
 
 ずいぶんとエヴァリーナちゃんの私要素が強まっている気がする。
 雪姫ちゃんの私要素は余計なものでしかなかったけれども、
 エヴァリーナちゃんの私様子はちょっとチャームポイントにも思えてしまうから
 かなりたちが悪いと思う。
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/01(土) 04:05:03.84 ID:bnFGxEFW0
 ダンス勝負と言うのでいったいどんなダンスをするのかと思いきや、
 意外や意外、聞こえてきたBGMは和風といえばいいのか
 日本特殊なダンスというよりも踊りと言うべきであるような、
 有り体にはっきりと言ってしまうと盆踊りをしている――

「納涼とか夏といった感じの音楽ね」
「はい日本人として、盆踊りから江戸しぐさと呼ばれるものを
 学びたいと思いました。事実かどうかは知りませんが」
「あえて言うのならば、古来の文化というのであれば
 平安仕草とか学んだ方がいいんじゃないかしらね
 国風文化の起こりであるから」

 過去に小さな時に夏祭りに参加したことを思い出す。
 今となってはどこまで自分自身の記憶だったか定かではないけれど、
 何度も何度も盆踊りというのは行ったことがある。
 真夏、ひぐらしの鳴き声でちょっと秋の気配を見たようになるそんな時期
 カレンダー上では確かに8月の週末に向かい9月の足音が近づいてくる
 ちょっと憂鬱にもなり、宿題に追われる学生はこのまま夏休みだったらいいのに
 なぜだかエンドレスエイトという言葉が思いついたけれどノーコメントでお願いします。

「日本人にとってお盆とは、お笑い芸人の一人である」
「そういうボケはいいのよ、あんまり真面目に解説するとなると
 ちょっとこだわりがあるから長くなってしまうけれど」
「さすがは絵里です、私の小ボケにもちゃんと付き合ってくれます」
「私に合わせてネタを提供することは他の人には通じないから注意してね」
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/01(土) 04:05:35.89 ID:bnFGxEFW0
そこんじょそこらの女子高生がおぼんこぼんと言われて、
 お笑い芸人の? 何ていう反応が返ってくるとは思わない。
 怪訝そうな目に見られ、仮にスマホとかでググって出てきたとしても
 この人たち誰と言われるのがオチだと思う大阪とかの学生ならともかく。

「大丈夫です絵里、私はUTXで他の学生と交流いたしません」
「その友達が少ない宣言は心配になってしまうけど」
「私は人と関わることが最小限にせねばならないのです」

 アイドルであるがゆえだろうか?
 確かにお高くとまっている彼女らからすれば、
 他の生徒たちと交流をして仲良く話していると、
 マイナスポイントになる可能性は存在している。
 そのあたりの事情は私よりもツバサが詳しく、
 彼女の記憶を辿ればどういう経緯でお高くとまったかは
 確かめられないわけでもない。
 でもそんなことをすればぶん殴られるのがオチなので、
 殊勝な私はそんなことはしない、したくはないというのが正しいでもあるけど。

「では踊ります」
「璃々ちゃんのダンス期待してるよ」
「もちろんです、どのような踊りやろうとも全て完璧にこなしてみせます」

 大言壮語というなかれ中で彼女のダンスの実力は、
 綺羅ツバサよりも上である。
 はっきり言ってツバサよりも踊りができる人間がいることを、
 正直私は感心するほど驚いたことを覚えている。
 あいつは思い上がりとか言うかもしれないけれども、
 ツバサよりも何事かできる人間っていうのは、
 私にとって珍しい存在であるのはお約束しよう
 ――いったい私は誰に向かって呼びかけているのか。
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/01(土) 17:40:22.35 ID:bnFGxEFW0
 どれほどの盆踊りの見せてくれるのか、
 私の期待はひたすらに高まり、頭の中には空を飛ぶまで行くのではないか
 そんなことがよぎり、それは盆踊りじゃねえ!
 というツバサのツッコミが聞こえてきたような気がした。
   
 空を飛ぶのは無理だとしてもキレッキレの盆踊りは見られると思い、
 対決だというのは重々承知だとしていても素晴らしいものは目にうつる
 期待がほのかに膨らみ始め――

「……あれ?」

 それは盆踊りというよりロボットダンス。
 人間がコミカルに動き滑稽さを笑う、そんな――
 オチをわかりやすくするためにふざけているのかと思った。
 しかし彼女の表情は思いのほか真剣である。
 もっと楽しそうに踊った方が盆踊りに見えるのではないか、
 そんな感想を抱いてしまうけれど。
 どのようなアドバイスをくればロボットダンスが
 人間が提供する盆踊りに変わるのか私はよく分からずにいた。

「ダンスに関してはボケは挟まないのよね?」
「あえて私を挑発し、動きを鈍らせようと言うのですね
 さすが絵里汚い、さすが絵里」
「褒めるのなら、ちゃんと褒めて?」

 ボケているのならばネタが判明した時点でこちらに向かって微笑みかける
 そんな動きを予想していたんだけども、応対の仕方が明らかにツバサ寄りで、彼女は真面目にやっていると簡単にわかってしまった。
 真剣な表情や、動きの硬さなどから見ても、
 エヴァリーナちゃんは真面目に盆踊りを踊っているものであると判明した。
 しかしながらこのシュールなロボットダンスを踊りと評するのは難しい。
 誰かやっているのかと言われればどう考えてもコロ○ケ。
 顔が美少女な分、違和感が半端ないけど。
 指差して笑える人は私しかいないので、
 ヘタレ手入れ私はとりあえず拍手を送っておくことにした。
 日和ったとか言わないで欲しい。
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/01(土) 17:41:09.46 ID:bnFGxEFW0
「この私の素晴らしい盆踊りを見て
 絵里の意欲が踊る前になくなってしまうことを願います」
「そう、その踊りを盆踊りと評するのね?
 見てなさい! 本当の盆踊りというものを教えてあげるわ!」
「台詞はかっこいいですが、提供されるのは盆踊りだと知っている私は
 あえて苦笑いを持って絵里を応援したいと思います」

 過去には夏の祭りに参加し、
 皆の先頭に立って踊った経験もある――気がする。
 どのみち踊りは得意であるバレエを習っていた過去もあるし、
 才能は発揮できなかったけれども、
 今なお身体能力の維持にこれほど役に立つものは存在しない。
 本物の盆踊りを彼女に見せあげ、口をぽかんと開けたまま
 私は間違っていましたと言ってくれることを願っている。
 その思考回路こそが間違っているかと言われれば、
 私は涙を飲みながらはいと言わざるを得ない。

「やぐらの上から、民たちを見下ろすであるような
 そんな優雅なスマイルを絵里がしているーー!」

 盆踊りの知識は彼女には存在したようである。
 基本的にお勉強家のエヴァリーナちゃんが
 盆踊りも知らないという可能性は低かったとはいえ、
 本当は何も知らないで私に花を持たせたかったという考慮も
 存在したかと思ったんだけども。
 心優しく親友を思う気持ちは人一倍。
 情に厚い彼女が私なんぞを見捨てずに今まで付き合ってくれた感謝を込めて、
 全身全霊気合のこもった盆踊りで、彼女の涙を誘うと思う。

「どうエヴァリーナちゃん! 私の全力の盆踊りは!」
「そこまで気合を入れられてしまうとボケた意味がなくなってしまいます」
「あ、やっぱボケてたのね?」
 
 私の全身全霊の気合い空回り。
 ――いつものこといつものこと。
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/01(土) 21:47:30.94 ID:xXrj6++bO
金髪美女と銀髪美少女の盆踊り大会はちょっと見てみたい
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/02(日) 09:17:27.00 ID:bGj/c0Dc0
 グダグダに終わったダンス対決を勝利という結果をもっておさめた。
 そんな――私こと、絢瀬絵里。
 エヴァリーナちゃんからの評価はダダ下がりしてしまったように思うし、
ここまでのイベントでは倒したら相手が仲間になっていたはずだけど、
 雪姫の解説を求めますという言葉とともに彼女は撤退してしまった。
 
 意気揚々(笑)と次のダンジョン――もとい次の対戦相手を求める。
 実に申し訳なさそうな表情をしつつ、
 本当はやりたくないんだけどと言わんばかりに、
 苦痛にも似た表情しながらやってきたのは矢澤にこだった。
 くたびれたような表情と、力のない笑顔を見て、
 散々何か言わされたか何かをやらされたような、
 ツバサとかのむちゃぶりに対して対応する自分自身を見ているかのようで
 一発でニコに同情の念を抱いてしまった。
 彼女は西木野真姫の配下としての登場。
 過去までの世界であったらこんな登場の仕方はしないはず。
 少なくとも真姫に顎で使われるのは我慢ならなかったように思う。
 とりあえずもったいぶったしょうがないわねぇ?
 なんて言葉はまるで聞かれず
 悟って諦めきった表情のまましょうがないわね、みたいに言っている。
 一応同い年のはずだけど、
 そのこびりついたと言わんばかりの磁場を重ねた多いみたいなものが、
 彼女にしわなんてひとつもないんだけど、
 しわくちゃのおばあさんが無理に笑ったみたいな涙が出てきそうな表情を見て、つい慈しみを覚えてしまう。
 彼女が実は60歳くらいなんですと言っても、
 あーそうねよくわかるわと反応してしまう可能性すらある。

「勝負よ、絵里」
「ニコはとりあえず休みなさいよ」
「私も帰ってそうしたいけど、真姫ちゃんが満足しないからね
 なんなのよあのポーズ異様にカッコ悪いじゃない」
 


 
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/02(日) 09:18:27.97 ID:bGj/c0Dc0
 ニコが何のポーズを持ってきて異様に格好悪いと称したのか、
 今の私は知る由もない。
 お笑い番組に出演すれば会場のみんなをドッカンドッカン笑わせる、
 ニコニーの鉄板ギャグも異様に格好悪いような気もするけれど、
 あれは仕事であるのか、それとも彼女自身はかっこいいと思っているのか、
 天王寺璃奈ちゃんがヤケになって示す”胸板璃奈ちゃんボード!”
 にも似た、矢澤にこ胸板鉄板疑惑のギャグ――
 過去においてはこういうギャグもあるのねと感心していたけれど今となってはかなり笑うことができない。
 ここで気を利かせて何のポーズをとったのは問い合わせていれば、
 後で怒りに震えてどうしようもなくなってしまうのも防げた可能性もある。
 その辺りの気の利かせようは残念ながら私には持ち合わせない才能であるので、
 今後に期待と言うかできる人にやってもらって下さいとお願いしたいところではある。
 ツバサとか真姫とかがなんでこんな茶番のようなイベントを起こしたのか、
 次回をお楽しみに……ってまだこの話は続くわね……?

「お笑いで勝負よ」
「プロのあなたに素人が叶うと思っているの?」
「持ち上げてくれるのは嬉しいけれど――
 ああ、絵里なら私が芸人でなくても面白さで勝ってしまいそうね」

 私がお笑い芸人の鏡であると評する――
 そんなトリオの3人組と共演している矢澤にこを過去に何度も見たことがあるけれど、
 彼らと遜色の無い扱いやギャグを披露していて、一応アイドルなんだよなという反応残したの覚えている。
 この度アイドルからお笑い芸人へと転向し、
 お茶の間にお笑いを提供し続けてきたニコもとある都合で一旦休業。
 肩肘力の抜けた彼女を見ていると、
 以前までの世界では絶えず苦労を続けていたんだなと思わなくもない、
 誰のせいかといわれると涙目で俯くしかないけど。

「ふふ? 負けられない戦いといったところかしら?
 さすがの私にお笑いで負けるわけにもいかないものね?」
「プロとして本気を出すのは大人げないとは思うけれども、
 そこまで挑発をされたら矢澤にこは子どもから、
 あ! 胸だけ成長してないお姉ちゃんだ! て、ディスられた時と同じ反応せざるを得ないわね!」
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/02(日) 09:20:00.10 ID:bGj/c0Dc0
 悲しみを誘おうとしているのか、
 それとも同情して勝負を放棄して欲しいのか、
 とりあえず彼女が真剣な面持ちであるので、笑みを浮かべるなと頻りに念じるほかなかった。
  この場のムードとしてはもうすでになんだかなと言わんばかりの感じたけども――

「審査員は誰がするの? 愛ちゃん?」
「彼女が仮に絵里のシンパでも、私の親衛隊に加わってしまうほど、
 虜にさせることができるけれども、とても残念なことに彼女はこれから岐阜城へ行くらしいわ」
「じゃあ誰が?」
「僭越ながら、散々セイントムーンの二人から罵られ倒した
 不肖、黒澤ダイヤがお笑いの審査員として登場です」

 目の前には女子高生であることが疑わしく感じてしまうほど、
 焦燥しきった表情を浮かべた黒澤ダイヤちゃんがこちらに微笑みかけた。
 微笑みというより頭に後光でも差させた――
 疲れきってパトラッシュと共に眠りにつこうとするネロみたいな感じで、
 もういいから休め! 休め! と抱きついてしまいそうになる。

「お二人とも怒ってる?」
「とても怒っていらっしゃいます、全責任を絢瀬絵里のせいだとしておきましたので、
 今後罵られることがあるとすればあなたのほうかと」
「それで二人が満足してくれるならいいけど」

 私の表情が砂漠の中を三日三晩さまよい歩いた後の旅人――
 みたいな感じになっていないことを祈りつつ、
 自分が両手を広げてダイヤちゃんを手招きすると、
 至福の瞬間――生命力を流し込まれたと言わんばかりに私に向かって抱きつかんばかりに近づき、
 胸元をわっしわっしといじり始めた。
 これがちょっと前のエピソードまで絶対零度、
 鋼鉄の美少女と言われていた黒澤ダイヤと同じ人とは思えない。 
 ニコも、え? みたいな顔して目の前のお嬢様のご乱行に対して
 口を開いたまま驚きの表情を見せている。
 ダイヤちゃんは視界が開けた、悩みが全てなくなったと言わんばかりに、
 目の前にある霧が全て開けてしまったとこちらに向かって微笑みかけた。
 今までのはすべて彼女の演技なのではないかと疑ってしまうけれども、
 満足してもらったようであるならば私は小さくなった胸も喜んでくれると思う。

「まさかその人が、絵里の信者だったとは」
「わたくしは自らの価値判断に私情を含めるつもりはありません」
「口はかっこいいけど、目尻が下がりまくってるわよ?」
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/02(日) 09:21:26.16 ID:bGj/c0Dc0
 初孫を可愛がるお年寄りのように、目の端にシワを寄せながら、
 私の胸を揉みしだく姿に、これがシリアスクラッシャーの本懐かと思った。
 この世で一番尊いものがと問われれば、
 絢瀬絵里の胸であると何食わぬ顔でいってしまいそうなくらい、
 激しい情愛を向けている。
 かつては演技で本当にダイヤモンドみたいな硬さを誇っていたけど、
 あの演技に気がつかなかった私をとりあえずぶん殴っておきたいと思う。

「このような状況下でも、逆転のホームランを打つのが
 芸人矢澤にこの真骨頂と言ってもいいでしょう」
「本当に逆転のホームランを打っても喜んでくれるのかしら
 その顔を見ていると
 絵里が何をやっても大爆笑してくれそうで私は不安だわ」
「ご安心ください、かつて絢瀬絵里が放ったギャグで
 わたくしが笑ったことはただの一度もありません」
「ちなみに本当なのよ?」

 とりあえず社交辞令として笑ったことはあるけど、
 心の底から爆笑するというシーンは未だかつて見たことがない。
 彼女自身が大爆笑するシーン自体が珍しいんだけれども、
 妹のルビィちゃんがダンディ坂野直伝のゲッツをやった時、
 特に意味もなく大爆笑していたから笑うことができるんだと思う、
 忖度しないという主張はとても信用できないけど。

「分かった、いまだかつて笑わなかった人がいない、
 渾身のネタを披露してあげるわ、
 笑いすぎてお腹を壊さないようにね!」

 大言壮語がいつものことではあるんだけれども、
 こんなに自信満々に笑いに関してネタを提供してくるとは私は思ってもみなかった。
 芸人としてかなり幸せであるからこのような発言をしていることがわかり、
 無理この世界の脱出であるとか、
 世界改変のための準備であるとかもする必要はないのかなと今のうちはそんなふうに考えている。
 
 ――そしてダイヤちゃんは面白すぎると言わんばかりにお腹をくの字にしながら、
 絶頂でも迎えたみたいにビクンビクンと震えながら笑っていた。
 ニコは本当にそうなると思ってなかったらしく多少引いていた。
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 21:24:06.07 ID:iN3rhzOLO
一体どんなギャグを披露したんや……
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/03(月) 02:56:46.10 ID:bUsbbgzZ0
 矢澤にこは私に困ったような表情を向ける。
 悄然したと言わんばかりであるし、かなわないなぁと嘆いているようにも見える。
 そんな表情を向けられても、私が困るばっかり。
 
 なぜダイヤちゃんがそこまで笑ったりあるのか、確かに面白いネタではあるけど、
 ビクンビクンと震えながら笑うほどのネタではなかった気がする。

「いまだかつて、今のネタで笑わなかった貧乳はいない」
「何故そこでひとくくりにしてしまうのか分からないけど、
 彼女は割とあるほうだと思うの自虐的に無いと言うけど」
「そのギャグすごく面白い、私の負けでいいから」
「勝負に勝ったのは黒澤ダイヤちゃんって言うべきかしら」
 
 とりあえず陸に打ち上げられた魚であるみたいに悶絶しているので、
 ニコに介抱を任せて先に進むことにする。
 がっかりとして腰の辺りからガクッと力が抜けてしまったような気がしたけど、
 次はいつもイベントはまだまだ続いていくということで――

「思いのほかお早い到着ね? 絵里」
「食事の時間に来てしまったのは本当申し訳なかったわ」

 サンドイッチを口に含みもぐもぐしながら、
 彩りの良い用意されたテーブルを前にして座り、
 イベント会場の奥の方で私を待っていたはいいけれど、
 暇なものだから食事をしてしまっていたらしい。
 緊張感のない間は思うところがあるけれど、私の渾身のネタが披露されず
 それどころか審査員がケンシロウに秘孔を突かれた悪役みたいな感じなので、
 五分くらいで勝負がつくとは西木野真姫も思っていなかったようである。

「その料理誰が作ったの? テーブルの上がお花が咲いてるみたい」
「いい褒め言葉ね、絵里。その人がいるからお礼を言うといいわ」
「きっととても良い人なのね? 一つ一つの料理に気を使われていて
 ――できれば私の人間としての尊厳も保って欲しいし、
 殴るのであれば麻酔でもして、意識を失い昏倒させて欲しい」
「良い度胸です絢瀬絵里、私も遠慮なくあなたをボコボコに殴ることができます」
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/03(月) 02:57:15.27 ID:bUsbbgzZ0
 私の背後に音もなく忍び寄り、まるで樹木が並び立つよう。
 恐怖を覚え、痛みを覚悟し、天井を見上げた。
 真姫にここまで気を使って調理することができるのは、
 姉である西木野和姫さんその人しかいない。
 ――シスコンが言っているのだから間違いない。
 私もそのうち水に浮かぶほこりみたいにプカプカとその辺に――
 できれば死体損壊と言われるような感じではなく、
 内浦の覇者(ギャグに震えてる)に処理を頼んで欲しいものである。

「記憶の目覚めが遅れました、
 あなたにばかり責務を押し付け、
 妹を妹として扱うことができなかった――
 シスコンとして不徳の致すところです」
「あまりにそうやってシスコンシスコンと言うと
 シスコンっていうのが病気であるように思えてしまうわ」
「シスコンは病気なのですよ絵里さん」

 初耳である、精神病と言われればそうである可能性は高いと、
 でも私はお医者様ではないのだし、自分の身勝手な想像で、
 シスコンが心の病であると言うことはできないと思っていた。
 不倫が文化であるならば文化の体現者でありそうな、
 総合病院の院長の娘の一人、各地方に一人ずつ娘がいるとか、
 一人一人娘を捜すと1ヶ月に1人は仕込んでいる計算になるとか――
 なぜさけるチーズをさくみたいに子どもをしこむことができるのか?
 真姫いわく、思いのほか姉も妹もたくさんいた、
 シスタープリンセスのお兄ちゃんになった気分――
 的確すぎて言葉にならない。
 
「私は審査員を務めます忖度はいたしませんので
 そのつもりで」
「お嬢様サンドイッチむさぼり食べてるけど、
 その状態でも勝てる勝負なの?」
「もちろん、私の本業が何なのか忘れたのかしら?」
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/03(月) 02:57:49.46 ID:bUsbbgzZ0
 唇をふきつつ、自信と確信に満ちた良い声を発する。
 頼りになるお姉ちゃんが来てくれたから喜ばしいであるのか、
 それとも私で遊ぼう企画的な感じで良いネタを思いついたであるからなのか。
 おそらく矢澤にこが本業であるお笑いで勝負をしかけてきたのであるから、
 西木野真姫は当然本業である声優として――演技の勝負をしかけてくる。
 彼女に羞恥心がないとは言わないけれども、
 演技をするにおいて羞恥心は軽く捨てられるらしいから、
 恥ずかしい思いをするのはこの場においては私一人である。

「今回の勝負はよりエロい感じでセリフを言えた方が勝ちです」
「その判断、和姫ちゃん任せでいいの?」
「当然です私の脳内にはあらゆる18禁声優のデータが
 縦横無尽に記憶されています。
 どの程度のランクにあるのかすぐさま判断することができるのですよ」
「もうちょっとまともなデータを脳内に入れたら?」
「その失言でお嬢様の信頼を失うことがないと願いますよ
 まあとりあえず蹴りは一発入れておきましょう」

 確かに今のは声優を本業とする西木野真姫の目の前で発言するには、
 不適格な発言であったのでスネをカカトで蹴り飛ばされても仕方がない。
 でも、できれば喘ぎのエロい部分じゃなくて、
 演技の部分で着目して欲しいものである。
 データベースにはちゃんと演技の出来不出来も含まれているのであろうか、
 そんなことばかりが気になってしまう。
 西木野真姫という女の子は、演技に対しては虚飾をしない無欲である、
 媚びないし、へつらわないし、いつも自信満々にあふれている。
 真面目一筋にあるし、実直で、なおかつ素直である。
 恋愛に関してはアブノーマル要素が多分に含まれてしまうけれども、
 それは私が悪いであるので、放っておけない要素を持つ私が悪いので。
 苦情は絢瀬絵里にお願いします。
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/03(月) 02:58:47.29 ID:bUsbbgzZ0
「シチュエーションや、どのように演技すれば良いのか、
 その辺りのことはこの紙に書いてありますのでチェックして下さい」
「私に有利な条件をつけてくれるのね?」
「すごくエロい感じに書けましたので、それを見ながら羞恥に震えるあなたを
 みたいとお嬢様がお望みであったので、是非そうしてください」
「おかしいわね? 演技を始める前から演技を求められている……」

 とはいえ苦情出しても受け入れてもらえないので、
 言われた通りのことをやるほかない。
 精一杯反発したところで、蚊でも潰すみたいに私が潰されるので。
 羞恥心をかなぐり捨てて、紙に書かれたエリーなる魔法少女が
 ひたすら悪役から陵辱されるシーンを想起し、演じるための準備をする。
 一応そういうゲーム(純愛)を作らねばならない目的もあるので、
 それではあるけれどそのための準備も兼ねているんだと思う。
 そう思わないとやっていられない。
 
「絵里、演技というものは、現実に存在しないものを体現することにより成り立つ
 また、聞いた人見た人が体験したと錯覚してしまうくらい、
 そんなリアルな感じになると良いとされているわ」
「おかしいわね? 言っていることはまともであるのに
 今から私が演じるのは魔法少女が触手に二穴責めされるシーンだけど
 それで本当に体験したと錯覚してしまって構わないの?」
「私が絵里に陵辱されるのであれば、構わないと思う
 勇んで闇堕ちしてくれていいのよ?」
 
 足が棒になったみたいな精神の鈍化を覚えつつ、 
 一度突き飛ばされてば二度と起き上がれることはなさそうなくらい疲労感があり。
 演技の前にはこういうものだという真姫のアドバイスも手伝い、
 積極的に現実を放棄したい衝動にかられた。

「人はこういう状態の時に耳かきボイスを聞くのかしら?」
「仕事でやったことあるけど、ブランドが違うけどスタッフは同じだった」
「そういう裏事情は暴露しなくていいのよ?」
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:33:19.43 ID:2dXLccVO0
 私の声がとある声優さんに似ていると言われたことがあった。

 真姫は私の声はいい声だと言ってくれる。
 私に辛口な人たちは声だけは良いよねって言うこともある。
 〇〇だけはいいよねの確率が高いけど、〇〇に当てはまる言葉が複数――喜んでいいの?

 淫靡な台詞を言わせられるたびに、
 もっともっと聴きたいと言ってくれるのが嬉しくて、
 ついついどんなリクエストにも答えてしまう。
 ――私が淫猥ではなく演技にハマったからである、エロからではない。

 真姫のリクエストを受け続けてきたことを少しばかり後悔している。
 後悔と言葉では生ぬるい、黒歴史にするにはその後に起こった事象は私に深い傷を残した。
 聞かなければよかった、
 そんなふうに思ったことも何とかあったような気がした、
 そのこともたまたま思い出してしまった。
 ちなみに今私がいる場所は和姫ちゃんが運転する車の中。
 
 淫猥な台詞を読まされることはど嫌いではない。
 好きかと言われると疑問、面白くはあるけど。

 淫猥な存在であるから台詞を読むのが楽しくて仕方がないというわけではなく、
 そのようなセリフを読む職業な人をリスペクトしているからである。
 実際にやってみろと言われればちょっと勘弁してくださいみたいな台詞も、
 演技という大義名分のもと、
 高らかに読み上げる声優さんと呼ばれる職業の方は本当に素晴らしい存在だと思う。

 エロい演技をしろと言われても演技ができているかどうかも分からない。
 それに未だに処女、エロいかどうかもわからない、真姫(処女)はエロいって言ってくれる。
 彼女が言うほど私が演技ができてるかどうかも分からない。
 ただひとつ言えることは読み上げてるセリフが、
 多くの方に聞かれていると羞恥心を刺激するのである。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:34:12.49 ID:2dXLccVO0
 人前で台詞を読み上げさせるのは可哀想です、
 ――こちらを心配する和姫ちゃんの台詞もあり、
 衆人環視からは避けられた状態で淫猥なセリフを読まされ続けていた。
 大義名分は演技対決ではあるんだけれども、
 対戦相手にある西木野真姫はあんまりセリフを読まなかったような気がする。

 乗せられるがままに対魔忍になったような気分で、
 シラフでは言えないような、いやらしいシーンの台詞も読んでしまった気がする。
 上手だとをおだてられるばかりに、
 ここがホテルの中だということも忘れ、
 私の声聞いたとあるメンバーが「エリちって経験ないよね?」と言い、
 その問いに「脳内では経験してるだよ、ファイトだよ!」って誰かが応えた。
 誰かを追求するつもりはない、私はわかってる。

 私、絢瀬絵里現在護送中――監視人園田海未。
 卑猥なセリフを高らかに読み続けた結果。
 ふと気が付くと周囲に明らかに偉そうな方がいた。
 スーツ姿の男性、社長とか、会長って言葉が似合いそう。
 その彼が鞠莉ちゃんを伴っている。
 鞠莉ちゃんの表情がこちらに対して敵意にも似たものだった。
 「ノξソ・ω・ハ6」みたいな感じ。敵意あるのこれ?

 もちろん彼女が本気でこちらを敵意をもって睨みつけるような表情をするわけがない。
 ――半分くらい呆れが入っているから、敵意も幾分マイルド。
 ポーズだとは後で白状してくれた。

 果南ちゃんなんかは片手でリンゴを叩き潰しそうなほど怒っている感じだった。
 千歌ちゃんの目つきが殺人犯みたいだよ!? という声で我に返らなかったら、
 絢瀬絵里は果南ちゃんの手で握りつぶされてた、顔を掴まれてグイッと。
 「∫∫( c||^ヮ^||」みたいな顔で、サイコパスか。
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:35:05.31 ID:2dXLccVO0
 でも私にとってはそんなことは遠く霞んでしまうほど、
 その後に起こったイベントシーンが私の脳内にこびりついて離れようとしない。
 演技対決はグダグダであったし、
 結構いやらしいセリフ高らかに読んでるとストレス解消になるかもね! 
 と真姫にフォローしなければならないほど、
 矢澤にこのセリフは私の脳内から離れようとしない。
 聞いた記憶の戻っているμ'sのメンバーの表情も含めて、
 何もかもが私の脳裏に張り付いて離れない。

「いつから気が付いてた?」
「聞いても疑わしいのは事実でした、
 そうではない矢澤にこというのを想像できませんでした、
 修行が足りませんね」

 エロい私を矯正してくれる人ということで隣には海未がいる。
 彼女は私の肩に頭でも乗せて、
 海が綺麗ですねと言わんばかりな――
 ビーチに体育座りをしながら寄り添う恋人同士みたいな感じで私と世間話を続けている。
 雰囲気はまるでそんなんじゃない、世間話という体ではあるけど。

 西木野真姫が記憶の戻っていない矢澤にこを前面に出し、
 ニコも真姫ちゃんがなんでこんなことをしているんだろうみたいなことを言いつつ、
 それでも私を楽しませんがためにイベントに参加してくれた。

 μ'sにとって、
 少なくとも記憶の戻っている面々にとって。
 μ'sだけじゃないAqoursもA-RISEも――
 にこにこにーって言えばいいの? なにそれ? あのポーズって何かのギャグ?
 という発言がどれほど衝撃を与えたか、。

 なんでこんなイベントが起こされたのか。
 高らかに笑いながら完結へと向かうことは出来なかったのか。
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:35:43.18 ID:2dXLccVO0
 そして今さらながらに月島農場に向かっているのはなぜであろうか?
 よっちゃんが聖良ちゃんに謝りに行きたいのを知ったダイヤちゃんが、
 顔を繋いでくれたがために今回の大元のイベントが企画されたのは確かだけども。

 パンフレットに書かれたミルクちゃん歓迎会。
 シリアスな雰囲気のまま聖良ちゃんはミルクちゃんになるのかと思うと居た堪れない。
 それとも何か意図があってミルクちゃんになるのか。
 私は疑問でならない、だってミルクちゃんはやばい。
 ――ミルクちゃんはひとまず置いておいて。

「お父様が健在というのがよもや伏線とは……」
「絵里は知っていたのですか? ニコの口癖が
 お父様の遺言のような、メッセージ由来のものだと」
「とりあえず知っていたのは希だけだったみたいね?
 あの子もニコから聞いて知っていたというより、
 情報として把握していたと私は見るわ。
 ああいう感じの希を見たのは久しぶり」
「おちゃらけていられませんでしたね、
 必死におちゃらけようとしたんですけど」
「本当におちゃらけるつもりで私に対魔忍の快楽堕ちの台詞を言わせるつもりだった?」
「今でも言って欲しいくらいですけど、
 さすがにこの現場では空気を読んで言わないことにします」

 園田海未が沈痛な表情を浮かべながら、
 真姫みたいに髪の毛を指でいじる。
 行儀が悪いですね申し訳ありません――
 髪の毛をいじっていたことに気がついたと言わんばかりに。

 私も今どんな表情をしているのかわからない、
 なんでという感情が私の中に対する渦巻いている。
 一番辛そうにしていたのはよっちゃんだった気がする。
 記憶の戻っている面々の中で辛そうにしていないのは誰一人いなかった気がする。
 気がするというのは私の中でダメージが大きすぎて、
 そうであったくらいの認識しか覚えていないからである。
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:36:14.55 ID:2dXLccVO0
「真姫は今どうしているの?」
「絵里、誰かのことを考える前に、まずは情報を整理しましょう
 辛いかもしれませんが、今はあれが現実なんです」
「……そうね、少し情報を洗ってみる……海未も手伝ってくれる?」
「はい、とはいえ、記憶を洗うという作業に私は役に立てるとは思わないのですが」
「支えになってくれればそれでいい、
 考えるとすれば――高校時代、μ'sとしての1年間」

 ニコがにこにこにーを恥ずかしいポーズであるといい放ち、
 こんなポーズは私にはできない――
 という発言を最初はギャグのように思った。
 ギャグにしか思えない台詞であった。
 彼女の代名詞みたいな存在で、
 少なくともにこにこにーを抜きにして、
 矢澤にこという存在を語ることはできないと、
 勝手に考えていたフシすらある。

 彼女がそのポーズを本格的に取り始めるようになったのは、
 少なくとも私が知る限りではμ'sとして踊るようになってからだと思う。

 高校入学当初にそのポーズをとっていた記憶はない。
 一応生徒会役員としてスクールアイドル部の活動は把握していたから、
 ステージには何度か顔を出していた記憶がある。
 それは希も知っているはず――私の保持されていた記憶が、
 本当に私だけの記憶家は疑わしいけど。

 にこにこにーに関しては二度と顔を合わせたくないような
 元々のスクールアイドル部の人達にも聞いてみて確かめることはできる。
 この世界では彼女達とは険悪な仲になっていないから、
 会いたいと言えば会ってくれる可能性がある、忙しければその限りではないけど。

「ニコがキャラづくりの重要性を指し示したところ?」
「凛が、ちょっと寒くない? と言った記憶があります」
「当初、本気ではなかったみんなが見たら
 矢澤にこの本気は空回りしていた可能性がある」
「絵里も空回りしていましたよ」
「それは私も自覚してるからいいの、海未も言うようになったわね」
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:36:53.23 ID:2dXLccVO0
 ため息をつきながら海未の頬を突く――そこまで言って内緒なんてずるいわ。
 それは私の台詞なのか。
 記憶は黒歴史も蘇らせてくるけど、
 そこらへんの痛みに負けて過去の記憶を戻す作業を止めることはできなかった。
 なんとなく、そこらへんの痛みはむしろ体験していた方が
 衝撃的な現実についてこられるかもしれない。

「とにかく、μ'sにとってにこにこにーは、矢澤にこの代名詞って言うか」
「その結論はひとまず先延ばしにしましょう、
 今はそうではない、そう結論付けてどうすれば良いか
 安心してください絵里、私も考えます一人で抱え込まず
 もっとμ'sのメンバーを頼ってください」
「そうね冷静になれるかどうかはわからないけれども――」

 あまりに衝撃的な事実が起こってしまったせいで、
 ツバサへのガチ告白を白状するのは先延ばしされることになった。
 
 ――ってそうじゃない。
 何かしら意図を思って今回のイベントは企画された。
 発案者は西木野真姫――
 彼女はそんなことないと否定するかもしれないけどニコのことをよく観ている。
 少なくとも私たちは今まで、矢澤にこがにこにこにーをやった記憶がないと
 まったく気が付いていなかったくらいだから。

 もう少しおちゃらけた空気になるものだと思われた。
 ちょっと前まで私の気分は対魔忍ユキカゼ。
 ことりや凛の反応から観るに
 そんなに衝撃を受けているのかと言われても過言ではない。
 今まで記憶が戻っていないと嘘をつき続けていた国木田花丸ちゃんでさえ、
 本当に深刻な口調で冗談はよしこちゃんとよっちゃんに向かっていったので、
 Aqoursにも一定の衝撃を受けさせたものだと思われる。
 そのおかげで果南ちゃんが私をトマトにするのは改めてくれた。

「私たちは彼女に記憶を取り戻させるべき?」
「どうなのでしょう? 私はそうしない方が良いと思いましたが
 第一、色々なことが私たちにとって都合が良かったではないですか
 これからもそれが続くのだとばかり思っていました。
 Aqoursとともにイベントごとに参加し、ラブライブの優勝ももしかしたら
 彼女が――千歌が廃校をきちんと受け入れて
 笑顔のまま高校生活を終えてくれるのではないかと
 そのための世界が今の世界なのだと」
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:37:23.43 ID:2dXLccVO0
「それはねもちろん誰もに都合が良い世界だったら、
 歪みというものはもちろん存在してしまう、
 誰しもに都合がいいなんてことは本来ありえない」
「そのようですね、見て見ぬふりをしていたのかもしれません
 不覚だったといえばそれまでかもしれません」

 和姫ちゃんの運転は相変わらず運転はうまい。
 一昔前の刑事ドラマみたいな運転もできるみたいだけど、
 今そんなことされてしまうと私の頭の中が大変なことになってしまう、
 できれば控えてもらいたいやりたそうにうずうずしてるのはわかるけど。
 
「悪くないと思ってたでしょ? この世界
 文句や不満はある、でも感想としては悪くないだった」
「そうですね、確かに不平不満を漏らすばきりがありません。
 薄ら寒いと思うこともあります。
 でも、よっちゃんがああすることによって一時的に仲良くなった私たちが、
 本当に仲良くできるかもしれないという世界が悪いものではあるわけがないのです」
「あなたまでよっちゃん呼びなのね海未、あ、ごめんなさい茶化すようなこと言って」

 これであらゆる面々がよっちゃんのことをよっちゃんと呼ぶようになってしまった。
 海未の声から察するに彼女への好感度はかなり高いと思われる。

「なんとかしなければなりませんか」
「私たちが犠牲にしたものの大きさが見えてしまった。
 犠牲と言うより、まあいいかですませていたものが、
 自己愛に包まれていた自分に気がついてしまった」
「でも私たちは受け入れなければならない、
 そうであると思っていたんですよ、そうであると……」
「これは仮の提案、海未にだけは白状しとく」
「光栄です絵里、そのシリアスなあなたを観ていると
 白雪姫を起こすみたいにするところでした」
「その前後の脈絡がないあなたの本音っていうのが私は聞いたほうがよかった?」
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:38:07.35 ID:2dXLccVO0
 私は大きく息を吐きつつ、心の中に整理をつける。
 どのように言っても感情の揺らぎを感じる。
 それほどに大きな決断を迫られた気もする。

 おそらく私の決断は、みんなが受け入れてくれることだと思う。
 少なくともμ'sとA-RISEは――

 Aqoursはどうだろう? ダイヤちゃんには泣かれてしまう可能性があるけど――

「私たちはなかったことになった方がいい」
「そのようですね」
「期限は来年の3月、いや浦の星の廃校祭?」
「それが良いでしょう、新しい学校には私たちは顔を出せないので」
「理亞にもそろそろルビィちゃんと仲直りしてもらわないと
 思い残すことが多すぎて何から手を出していいか」
「千歌はどうしますか?」
「過去の記憶を取り戻してもらいたい、そして受け入れて欲しい。
 ……そしてAqoursとして、あの曲を歌ってもらいたい」
「そうですね、勝手な話かもしれませんが
 創作物ぐらいでは私たちがいた痕跡を残してもいいかもしれません。
 ――別れは辛いですが」

  窓を覆うように黒い幕がかかっているから外の景色までは分からない。
 でも先ほどから曲がりくねった道の連続みたいなので、
 山を登っているんだな程度のことはわかる。
 車の酔いが激しい人なんかは大変よね……などと現実逃避をしつつ。
 あの曲の歌詞を千歌ちゃんに完成させてもらう心づもりでいた。
 海未にも協力は頼むつもり、
 やってくれるとは思うけど礼節は尽くさないと。

「ところで絵里。
 私の聞かされているミルクちゃんなる存在のステージイベントですが、
 本当に彼女が水着で踊るのですか?
 共同生活をしましたが、過度に露出することすら稀でしたよ?」
「とても残念なことに水着で踊るわ……
 すごいわよ? もう本当にすごいのよ?」
「本当にすごいですか、現実逃避をするために、
 よく目に焼き付けておくことにしましょう」
「本当に現実逃避のため? すごく楽しみみたいな顔をしているけど」
「あんな淫猥なセリフを読み続けていた絵里の発言とは思えません
 今は私一人しか聞いていないのでもう一度読んでもらって良いですか?」
「わかったわかった、ミルクちゃんのイベントの時に耳元で囁いてあげるから」
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/05(水) 01:40:42.15 ID:2dXLccVO0
海未ちゃんルートの最中ににこっちがにこにこにーやってたら
設定忘れて勢い余ってのミスです、やってたらタコ殴りにしてください……
亜里沙ルートで一回やったのは覚えてるんですけど。

そして、聖良姉さまのイベントですが、
おそらく次回以降メインを張るのは、理亞ちゃんやよっちゃんなので、
海未ルート(笑)みたいな感じですね?
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/05(水) 13:09:37.76 ID:MIzPPZFSO
ツバサルート入ったのかと錯覚してた
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/06(木) 19:03:01.97 ID:sPVaM/qu0
右手首が特に意味もなく激痛が走るので、
しばし更新を控えます、申し訳ないです。

前々から痛い痛いと思ってスルーしていたら、握力がやばいので
しばしキーボードでの執筆を控え、音声入力で行きます。
誤字脱字があれなので、投稿はできませんが執筆はするので、
できるだけ早々に復帰できればと思います。
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/09(日) 18:58:38.54 ID:/B+ehobB0
 過去に月島農場に訪れた時には、
 岐阜県には土地があり余っていますので東京ドーム何個分の土地と言われても、
 あんまり自慢にはなりませんから――
 何ていう風に、歩夢ちゃん言われて鵜呑みにしたことがある。
 今から思えば、その通りなのかもしれないな、と思う自分もいるし。
 だからってこれだけの敷地を様々な動植物と一緒に過ごすのは大変でしょう?
 と疑問に思う自分もいる。
  彼女たちはアイドルをやっていた時代の方がよっぽど楽しかったと語ったけれども、
でも牛の万次郎とかと一緒に過ごしている彼女を見て、この姿は妹の亜里沙には見せられないなと思っていた。
 すっかり出番がご無沙汰のような気もする妹を隣に置いて、
 牛や馬、様々な動物を眺めつつ、私たちは歩夢ちゃんから解説を受けていた。

「うちは米も作ってるけど、やっぱり一番は牛だね
 乳製品のよく、ミルクちゃんのイベントで出してね
 売り上げがいいんですよ」
「さすがね、前からあなたの経営者としての資質は
 この子よりも上だなって思ったし」
「自分のことを棚に上げ、私をディスった上に、
 何の根拠もない歩夢に対してのマウント取りお疲れ様です」

 妹の絢瀬絵里の評は誰よりも的確。
 反論の要素がないし何よりも正しい。頷きたいところではある。
 私なんぞが、あなたは優れている! といったところで、
 何をもってして、その言葉を吐いているのか根拠がない(ように聞こえる)し。
 歩夢ちゃんはそれを苦笑いしながら聴きつつ、
 相変わらず亜里沙はお姉ちゃんのことが大好きなよねなんて言った――
 どの辺りがそう聞こえるのか彼女の耳を疑うしく思ったけれども、そこらへんをツッコんでしまってもしょうがない。

「絵里さんはどうして私が経営者として優れているの――
 なんてトンチンカンなこと言ってしまったんですか?」
「オチを求められているような気がするけど、 
 あなたは人を使うのが上手だから、この妹。
 人を使う時に私情を入れてしまうから
 上に立った時に失敗する確率が高いの」
「相変わらず分かったような事を言っているようですが
 そんなことはありませんよね歩夢」
「ごめんね亜里沙、今の発言を聞いたこちらのからすると
 絵里さんが正しいと思う、あなたは人の上に立ってはいけない人よ」
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/09(日) 18:59:15.42 ID:/B+ehobB0
 ふてくされたように唇を尖らせる妹。
 どうやら自覚は持っているようである、南條さんも苦労してたし。
 私はそんな妹を見て可愛いなぁと思いつつ。
 さらには牛の解説を聞いていた。
 牛に関してそこまで語ることがあるのだという驚きをもった。

 月島農場にたどり着いた時、
 バニーガールで晒し者になるかなと思って警戒したんだけども。
 残念なことに(?)私に話しかけてくる人は誰一人いなくて。
 海未も絵里の人気が地に落ちましたね、まるでかつてのソルゲ組のようです。
 と思わず本音(自虐)が出てしまうくらい、私は相手にされなかった。
 車を多数分譲させ、おそらく私を含めないメンバーで何らかの話し合いが行われ、
 これからについて話し合われたものと思われたけど。
 その辺りの話題を私の耳に入れないのが正しいと思う。
 自分で言うのもなんだけど、そこら辺の面倒ごとを抱えて倒れるのはいつものことであるし。
 海未を穂乃果に連れて行かれて、一人寂しくいると、
 妹が姉さんの居場所はあそこですよなんて牛舎を指さしながら隣に来た。

「亜里沙がPとして失敗する時
 必ず誰かのことを考えるんですよ、だいたいプロデュース相手なんですけど」
「とても残念な事によく分かるわ、
 Re Starsもそれで成功しなかったし」
「絢瀬絵里というイレギュラーがいたせいでプロデュースが成功しなかったのです
 結論から言えば私は悪くないと言えるでしょう」

 セイントムーンが亜里沙に手を出されなくて良かった。
 と、歩夢が言い、私も同調してRe Starsを赤羽根Pが担当したらどうだったかな?
 なんて言いながら妹の様子を眺める。
 ちなみにRe Starsとしてアイドルグループとしてデビューしてパッとしなかったのは、
 メンバーのが不仲だったというわけではなく、
 絢瀬絵里をみんなで取り合って険悪だったというわけでもなく、
 単純にアイドルグループとしてパッとしなかったせい。
 もちろん亜里沙が悪いわけではない。
 彼女が私情を交えず、プロデューサーとして私たちを扱っていれば、
 売れる要素はあったんだと思う、英玲奈やツバサもイケると言っていたし。
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/09(日) 18:59:54.73 ID:/B+ehobB0
「でもこの子たちは私情は関係ない
 亜里沙も今後に人を使うんだったらこの子たちから学ぶといいよ」
「歩夢はどこに行くつもりなんです?」
「よっちゃんが謝ろうとして追いかけているのに
 ふてくされているお姉さんを調教しに」

 私が後ろはやめてあげてねといい、
 妹もあんまり過激なプレイはやめてくださいよと言い、
 歩夢ちゃんは何一つ否定をしなかった。
 鹿角聖良ドM疑惑が私の中であるけど、
 今のところその疑惑は解消される予定はないみたい。

「牛から何を学べというのです」
「私は珍しく答えが分かっているけれど、
 亜里沙のことを想って答えは教えてあげない」
「自分が分かっていないからそのようなことを言っているのでしょう?
 ですが私は姉さんよりも優秀なので
 姉さんよりも優れた答えを見つけ出しましょう、
 余計なことは言わないでください」

 妹も感じるものがあるらしく、
 万次郎を眺めながら彼は牛のくせにイケメンですね、と言っている。
 彼と言っている子は乳牛。

「絵里ちゃん」

 振りかえるとことりがいた。
 海未や穂乃果が二人で話し合っているみたいなので、
 記憶が戻っていない組の彼女はあぶれてしまったのだろう。
 二人が仲良さそうにしているのよく寂しそうな目で見ているから、
 私もついつい彼女を構いたくなってしまう。
 心優しい子であるという印象は過去から変わっていないし、
 彼女の中で評価が高かったというのは感じている。
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/09(日) 19:00:36.00 ID:/B+ehobB0
「絵里ちゃんの隣にはいつも違う女の子がいるね?」
「私のハーレムに入る? 挑戦者は随時募集中よ」
「ハーレムは遠慮しておくけど、かまってもらっていいかな?」
「私に構わずどうぞ、女の子と見るとこの人は誰に対しても手を出しますけど」
「妹がこんなことを言っているけれど、そんなことしないからね?」

 ことりは楽しそうにコロコロと笑いながら、
 妹に断って私の隣に来る。
 その点の配慮を過去から感じてはいたけれども、
 露出しないように心がけていたのは知ってる。
 彼女はとても可愛らしい、それこそ人から嫉妬されてしまうほどに。
 μ'sの中でも一番の美少女は誰かなんて話になれば、
 南ことりか西木野真姫の二択になるみたい。
 残念ながら絢瀬絵里は選外。
 デザイナーとして才能発揮する際、美少女デザイナーなんて
 呼ばれるのが嫌で、外見にできるだけ着目されないように口調を荒くした。
 そして今も女性からの評価はあまり高くないようである。
 μ's以外のメンバーとは今だに壁があるみたいで、
 他人からどう思われるというより、
 嫌われる確率が高いということを彼女は察しているみたい。
 ちなみによっちゃんと理亞はことりを観ると、この人誰みたいな顔してる。

「絵里ちゃんは本当に女の子を見ると手を出すの?」
「手を出すとどうなると思う? 亜里沙を見て十秒で答えなさい」
「あはは、他の子に背中を刺されて終わりだね」
「でしょう? ちなみに今は誰が刺してくると思う?」
「誰かって特定することはできないかな」

 ことりは聡い子だからある程度は察しているみたい。
 もちろん本当に刺してくるような子はいないけれども、
 荒れそうな人間は何人かいる、親友の希もそうであるし、海未もそう。
 ツバサは刺してくるというより
 私を振り向かせようとして気合を入れてくるから何とも言えない。
 ちなみに彼女は現在ぷりぷりと怒っている。
 告白まがいのことをしたのに、
 ニコのことでそっちのけにしてしまった私にご立腹。
 子どもみたいに無視したり睨み付けたりするのではない。
 怒っているから話しかけるなと言って、理亞を伴って牧場に入ってしまった。
 私に話しかけてもらおうとしているのが丸わかりではあったんだけれども、
 それをしてしまうとツバサルートが開放されてしまいそうであるので、
 そこら辺の機微に詳しい(エロゲ由来)理亞に後を任せることにした。
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/09(日) 19:01:06.13 ID:/B+ehobB0
「ところでこんなカードがあったんだけど」
「なんか入り口のところで置いてある紙みたいなやつ?」
「この人確か、よっちゃんに追いかけられてる人だよね?」 

 亜里沙も私の隣に寄ってカードなるものを眺める。
 それはポストカードと呼ばれるもので、ミルクちゃんが印刷されていた。
 これを入場者に配っているのか、
 それともセルフサービスで持って行ってもらうようにしているのかはわからないけれども。
 少なくとも普通の牧場にはビキニを着たお姉ちゃんのポストカードが置いていないと思う。
 妹もこれぐらい好きな人を使えるようになったのならば、プロデューサーとして優れた才能を発揮できた可能性がある。

「ここって別にいかがわしい場所とかじゃないんだよね?」
「アイドルのイベントは行われているそうよ?」
「野外ステージみたいなやつ?」
「そうですことりさん、
 ここではミルクちゃんが牛たちと一緒に踊るんです」
「ここで牛と踊る……この格好で――
 やっぱりここいかがわしい場所なんじゃないの?」

 彼女の疑問はごもっとも。
 SaintSnow時代のクールなイメージとはまるで違う、
 超絶電波ソングを歌うミルクちゃんを観。
 私はあの人誰って言ったし、ツバサもあの人誰って言った。
 聖良ちゃん曰くあれは歩夢ちゃんに強制されてという話ではあったんだけれども、
 どこをどう調教したらあの真面目にクールでかっこよかった鹿角聖良ちゃんが
 あんな風に電波ソングを高らかに歌ってしまうのか。
 ちなみに作詞はすごく有名なアニソンのシンガーソングライターの人、
 私でも聞いたことがある人で畑……なんたらって言ったっけ?
 
「いかがわしいとは心外です」
「聖良ちゃん」
「あれはミルクちゃんの正装です
 いかがわしい目的があってあのような服装をしているのではありません」
「ことりや亜里沙がすごく疑わしいっていう態度を隠していないけれど
 鹿角聖良ちゃんはそこら辺ちゃんと反論できる?」

 よっちゃんから逃げ出して、偏差値30の彼女が出した結論は、
 絢瀬絵里の近くにいればフォローをしてくれるだろうということだった――実に的確である。
 ちなみによっちゃんからの謝罪を受け入れてもしょうがないという態度であるし、
 逃げ出しているというのもある程度ポーズであるのは知っているけど、
 少なくとも不遜な態度を取りつつ、お高くとまっているようにも見える彼女が、
 ステージに立つと牛柄のビキニを着てミルクちゃんと化すのは未だにおかしいと思う。
 自信満々な感じで腕を組みながらこちらを見下すように眺めているけれども、
 私たちの手にあるのはミルクちゃんのポストカードである。
 どうしたって目の前にいる彼女と比べてしまう、
 そのことにどうやら鹿角聖良ちゃんは気が付いていないようであった。
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/09(日) 19:02:52.38 ID:/B+ehobB0
手首の事情を鑑み、しばらく不定期の更新になりますが、
お付き合い頂ければ幸いです。

いつも読んでくれる方々へ感謝の念しかありません。
ありがとうございます。
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 20:07:53.90 ID:xt8GkP5LO
ミルクちゃんポストカード俺も欲しい
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/16(日) 15:25:26.13 ID:EN97AfiJ0
 ただいま時刻は正午を過ぎている。
 私たちはお昼ごはんを食べようなどと会話をしながら、
 岐阜県は月島農場に到着した――
 この場で鹿角聖良ちゃんはアイドルイベントを行い。
 ミルクちゃんとして男性方の前で歌って踊っているのである。
 気の強そうな瞳、抜群のスタイル、
 水着の写真集でも出せばツバサの数百(千?)倍は売れたであろう。
 普通にしていても誰かを見下してるように見える――
 そんなツン要素の強い鹿角聖良ちゃん。
 絢瀬絵里なんて下駄箱に入った消臭剤、
 それくらいの存在価値しかないみたいな顔をしているけれども、
 南ことりと絢瀬亜里沙の両名は一人でにらめっこするみたいにポストカードを眺め、 
 やがて決断し聖良ちゃんに問いかけた。

「この水着デザインしたのは誰?」
「……!?」

 ことりがおずおずといった感じで鹿角聖良ちゃんに問いかけた。
 彼女のおっかなびっくりみたいな態度は注目に値するけれども、
 聖良ちゃんの驚きっぷりは半端なく、印籠差し出された悪役みたいな顔をして、
 
「それはイベント限定で配られた……」
「牧場の入り口にあったけど」
「歩夢めぇーーーーーー!?」

 イベント限定で売れ残った――
もしくはゴミとして処理する予定だったものを私たちに嫌がらせのような感じで配布する。
 彼女は先程に会った時に結構ニコニコしていて機嫌が良さそうではあったんだけれども、
 聖良ちゃんは何かと逆鱗に触れるようなことを迂闊に言ってしまったりもするので、もしかしたら腸が煮えくり返るようなこともあったのかもしれない。
 絢瀬姉妹に対しては対応が普通であったので、
 私は何事か怒らせるようなことをしたということはあってほしくない、お尻は調教されたくない。

「そのデザインは有名デザイナーに頼みました、
 ちょうど知り合いに滋賀県出身のデザイナー候補生がいたもので」
「このデザイン何か引っかかる。
 淫靡なんだけど、それだけじゃない聖良ちゃんの魅力を存分に引き出す――
 写真を見ただけでこれだけの仕事をするってことは優れたデザイナーであることは確実……」
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/16(日) 15:26:53.00 ID:EN97AfiJ0
 妹に脇腹のあたりを小突かれる。
 ことりの記憶が目覚めようとしているのであれば、私は積極的に戻してあげたいと思っていた。
 ブラックな部分まで元に戻られてしまうと、
 私の精神的な安定が保たれなくなるんだけれども、
 だからといってもとに戻ることまでは止められない。
 記憶を検索をするみたいに調べてみると、
 希が呪いをかけるような現場にはだいたい私が隣に立っているのである。
 ことりがブラックになる現場にもいたようで、
 むしろ私がブチ切れたからこそ希がそんなことをした、
 みたいな映像が脳内に浮かび上がって困る。
 唐突に苦笑をして頭を抱えそうなばかりに俯いた私に、
 見上げるような感じで心配そうな目を向ける妹ではあったけれども、
 心配をされてしまうと姉のメンタルが折れかけてしまうと気が付き、スネのあたりを蹴り飛ばす――悶絶するほど痛い。

「ことりならどんなデザインにする?」
「なんだろう今まで全然思い浮かばなかったようなものが
 泉が湧き出るみたいに浮かんでくる……」

 紙とペンをご所望であったみたいなので、
 黒澤サファイアさん提供のスケッチブック(異次元から出てきた)をことりに手渡し、
 みるみるうちに聖良ちゃんの衣装が出来上がった。
 監獄でムチでも振っていそうな黒を基調とした衣装が出来上がり、
 それを見た私たちはこれを鹿角姉妹が着たらとても映えそうな衣装だなと思った。
 衣装というよりもボンテージに近い感じで、
 スクールアイドルとしてはこの衣装は着られないかもしれないけれども、
 さらし者になるような牛柄のビキニを着させられるよりは鹿角聖良ちゃんに似合っているような気がした 。
 活動期間としては少なかったけれども、
 かつては絢瀬絵里と鹿角理亞の二人で純白の衣装を着て活動をし、
 もうすぐ死ぬんですか? 死装束ですか?(by朝日さん)と突っ込まれた経験もあった。その時の理亞のあだ名は大天使。
 ちなみに私の衣装を見て一時期ツバサも真っ白な衣装を着ていた、
 当人いわく死装束であったらしいけどあいつは何があっても死ぬ要素がない。

「なんだかわからないけれど、姉妹で歌ったら
 こんな感じかなって思った」
「ありがとうございますことりさん、大切にします
 いつか姉妹で歌う機会があれば、この衣装を身につけたいと思います」
 
 そして何しに来たのか忘れてしまったみたいに、聖良ちゃんがそのままスタコラと退場し、この場には南ことりと絢瀬姉妹が残った。

「ねえ絵里ちゃん」
「何かしらことり」
「ちょっと椅子になってもらえるかな? いいデザインが思いつきそうなの」
「それは私が椅子にならないと……ダメみたいねわかった、
 ちょっと亜里沙、この椅子一人用だから、あなたまで座る必要ないから」

 あくまでもピュアピュアなふたりの椅子になった私。
 その後、列を作って、みんながみんな私に座りたがったけれども、
 私が椅子になっている最中に、愛されていますね、
 という理亞の言葉は聞かなかったことにした。
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/22(土) 16:17:48.14 ID:EGZAinLp0
 農場で行動していようがいまいが、時間が来ればお腹がすくのが人類である。
夕食の作成に取り組むということになった際、私が私がと言うリクエストは存在していたのだけれども、
 実際に星空凛に料理を作らせてしまっては多くの人間に後日からの活動に影響が出てしまうし、
 鹿角理亞に料理を手伝わせれば、気が付くとお菓子という名の危機物を作成してしまうので、やはり後日の活動に影響が出てしまう。
 なお、初日からミルクちゃんのライブを見ることができると期待していた園田海未は、
 絵里の力で何とかしてラッキースケベみたいなイベントを起こすことはできませんかとお願いしてきたのだけれども、
 いまだかつてそんなイベントを引き起こした記憶が……ないことはないのだけれども、
 その辺りの事は優木せつ菜さんにお願いして欲しいところ。
 かつての彼は1日に数度虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の面々とラッキースケベイベントを引き起こしていたらしく、
 主要な被害者は上原歩夢ちゃんとか桜坂しずくちゃんあたりで、
 今回のループ世界でも着替えを覗かれている上原歩夢ちゃんにはそろそろスケベな神様からお詫びの言葉でも告げていただきたい。
 ただ海未は取り繕うように、彼女たちに提供されてる楽曲の作詞のレベルを知りたいであるとか、
 イベント事に不埒な輩が存在していないか確かめる、みたいな言い訳を重ねて、
 牛柄のビキニを着た鹿角聖良ちゃんには全く興味はないみたいなことを言っていたけれども、
 どのあたりまで彼女の言葉を信用していいものかは私は把握していないことにする。

 そうそう料理の話に戻る。
 夕食には私がまず作成スタッフの第一候補に挙げられ、
 多くの人間からもこいつはうまいこと使ってやればシリアスなことも忘れるだろう!
 みたいな感じで持ち上げられ囃し立てられ、料理の作成に関しては一日の長があることから、
 厳選するまでもなく、料理作成者の一員として名前が含まれることは最初から予測していた。
 かつては綺羅ツバサと一緒にこの月島農場に訪れた際に料理を作成しているし、
 その際には鹿角聖良ちゃんをアシスタントとして料理の作成をした。
 なお、私たち作成の夕食を平らげた面々は、
 鹿角聖良ちゃんが思ったより使えるということを把握していなかったらしく、
 絢瀬絵里が全部作り上げたんでしょみたいな話をしたんだけれども、
 彼女は私の意志を無視して自分の作りたいものを作っていたので、
 その辺りの事まで私が作成したということになってしまうと、
 聖良ちゃんの恨みをむやみやたらに買ってしまうことになるので、
 控えていてほしいところではある。
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/22(土) 16:19:12.72 ID:EGZAinLp0
 そのあたりの事情があるのか、それとも他に何かやることでもあるのか、
 鹿角聖良ちゃんはアシスタントとして手をあげることはなかった。
 妹の理亞ちゃんが積極的に手をあげるのを止めてくれたので、私に何かしらの敵意を向けているというのはないと思われる。
 
 先ほど多くの人が先程私の背中に座りたかったけれども、
 津島善子ちゃんと言うパートナーを引き連れて鹿角聖良ちゃんも私の背中に座った。
 詳しい経緯は把握していないけれども、恋人同士であるかのようにイチャラブする感じで私の背中の上で話をしていたので、
 良かったとは思うのだけれども、別に私の背中の上でなくても仲良くすることはできるのではないかと少し疑問ではあった。
 そうそう以前のループでヨーロッパのパリなる場所があると鹿角聖良ちゃんが主張し、
 何度説明したところでヨーロッパはたくさんの国があるということを納得してくれなかったんだけれども、
 とりあえずアメリカとヨーロッパは違う国であるくらいのことは彼女は認識しているらしい――
 そしてなぜイタリアとかフランスとかイギリスっていうのではなくヨーロッパで一括りしているのかと言うと、
 鹿角聖良ちゃんは何故かはよくわからないけど、あそこらへんの国はヨーロッパとして頭の中に入っているみたい。
 なので新婚旅行ではヨーロッパに行きたいですねみたいなことを言っていて、一体どこの国に行くのか、何をしに行くのか大変興味がある。

「絵里、手が疎かになっているわよ?」
「ああ、ごめんなさいツバサ、ちょっと今ね過去回想していたものだから」
「そういうメタネタっていうのは読者受けが悪いからやめたほうがいいと思うわ」
「だって誰か私の心の中をのぞいているかわからないでしょ?」
「物語の主人公みたいなこと言ってるんじゃないわよ」

 絢瀬絵里の料理のアシスタントとして多くの面々が手をあげてくれたんだけれども、
 でもぶっちゃけ全部絵里ちゃんが全部やっちゃうと思うから、という穂乃果のコメントで、
 そう言われてみればそうだなみたいな感じでだいたいのメンバーが手をあげるのはやめてしまった。
 その中でじゃあ私が絵里をうまく使うみたいな感じでツバサが手をあげてくれたのは大変嬉しく思った。
 先ほどまで怒り心頭みたいな感じではあったのだけれども、
 そのうちぷりぷりと怒っていることが馬鹿らしくにもなってしまったのか、
 今では普通の態度で私と接してくれている。パフォーマンスで怒っていたのは重々承知ではあるのだけれども、
 その態度が思いのほか周囲に影響を与えることに察したのか、
 それとも穂乃果の絵里ちゃん好きすぎないですかっていう冷静なツッコミが影響を与えたのか。
 
「新婚旅行にはヨーロッパに行きたいという話をしている聖良さんが言っていたけど、
 絵里はどこか旅行に行きたいって言うリクエストとかはあるのかしら?」
「そうね、今まで行ったことのない国には行ってみたいっていう要望はあるけれども、海外は遠慮しておくわ」
「あら、でも日本で行ったことのない場所ってそんなにないでしょ?」
「なぜかしらね? 乗ったら飛行機が墜落してしまいそうな気がするのよ」
「確かにあなたの死亡フラグの建て方ぶりには定評があるけれども、さすがに飛行機事故が起こる可能性は低いのではない?」
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/22(土) 16:21:14.52 ID:EGZAinLp0
 別に何か意思があって飛行機に乗らないわけではないのだけれども、移動なのか電車とか車の方が楽な私ではある。
 その方が時間がかかるけれども安上がりという事情もあるんだけど、飛行機が浮き上がる感覚がどうにも慣れなくてしょうがない。
 誰に言っても理解をしてもらえない感覚ではあるんだけれども、
 死んだ時であるとかループする前の感覚に近くて、飛行機に乗ることはちょっと恐怖感を抱いてしまう。
 追及されれば死んだときの感覚を思い出すから嫌、と説明するつもりではあるんだけれども、そこをよもや追求はしてこないだろうとは思っている。
 その辺りの事情に気が付いているのかいないのか、ツバサの手の動きを見てもこれぽっちもわからないけれども、
 何も言ってこないということも何も知らないということで納得しておこうと思う、余計なことを考えてもしょうがない。

「それで? この食材を見て何を作ろうというの?」
「大人数で食べるのだから鍋というのが一番かと思ったのだけれど、
 とても残念なことにこの食材では足りないわね」
「様々な食材を用意されているみたいね、以前に来た時はなかったコテージみたいな建物もあるし、なかなか儲かっているのかしら?」
「私はこの御殿をミルクちゃん御殿と名付けたいのだけれど、命名センスとしてはどう思う?」
「牛柄のビキニを着て踊れば、私もこれくらいの需要はあるのかしら」

 お互いに需要はないのではないか、そんなふうに考えてしまうのだけれども、
 そこでお互いに需要がないと言ってしまうよりかは、鹿角聖良ちゃんだからこそ人気が出た、とコメントする方が適切か。
 なお、ミルクちゃんと同じように動物達と歌って踊るアイドルというのはこの世界では多数存在していて、
 一番人気はやはりミルクちゃんではあるらしいんだけれども、
 規模としては北海道は富良野でラベンダー娘48(重ねすぎでしょ)なるグループが最大――
 全員が全員ラベンダー色の水着を着て踊るらしいんだけれども、
 そこまで行くとなんだかS○Dとか、S○とか○レステージとかから発売されてそうなビデオを彷彿させるんだけども。
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/22(土) 16:21:42.78 ID:EGZAinLp0
「唐突に話題を転換してしまうけれども、エマちゃんに水着を着てもらって、羊の毛刈りをするイメージビデオとか発売させたらどうかしら」
「話題の転換がなされていないような気がするんだけれども、確かにそれはインパクトが大きいわね……彼女は高校三年生なのよね?」
「時折メールが来て助けを求められるんだけれども……そろそろ虹ヶ咲学園にも顔を出さなければいけないかしら」

 記憶が強固に封印でもされているのか、優木せつ菜ちゃんは未だに過去の記憶を取り戻していない様子ではある。
 嫌なことがあってそうされているというわけではなく、単純に思い出すきっかけがないだけではないか、と、希もツバサも見ている様子。

「私が先日ステージに立った時は、私を見て思い出してくれるのではないかとは、淡い期待を抱いてしまったわ」
「何かキッカケが必要なのでしょうね? 私の顔を見てもツバサの顔を見ても思い出さないのであれば、見当がまるでつかないのだけれども」
「絆とか仲間意識というもので、私たちは繋がっていたけれども、弟にとってはそうではなかったということかしら?」

 彼が結局のところを男性であるから私たちの想像の及ぶところではないのか、それとも誰かさんの推測通り条件でもあるのか。
 とりあえず姉妹の再会じゃなかった――姉弟の顔を合わせても全く思い出してくれなかったので、
 それこそ本当に胸の一つでも揉ませなければ思い出せない可能性すら存在する。
 私は過去とは違いサイズが小さめになってしまっているので、
 その役回りは他の誰かに任せなければいけないけれども――

「フライパンでぶん殴ってみるとかどう?」
「確かに昔そういうスーパーファミコンのゲームがあったような気がするけど、
 仮に殴って記憶が目覚めなかったら私たちは拘束されるのではない?」

 過去の優木せつ菜ちゃんからは想像できないほど、現在の彼女はバリバリのお嬢様である。
 エマちゃんから送られてきたメールによると、
 桜坂しずくちゃんがとんでもない失礼な事を成してしまったらしく、
 仮に彼女が鎌倉の大豪邸に住むお嬢様でなかったら、たくさんの人に拘束されて東京湾の藻屑になっていた可能性がある。
 詳しい話は姉である綺羅ツバサにはお話できないけれども、
 過去のループ世界ではかなり高頻度で好意を寄せていたような気がするんだけれども、
 そういう男性に対してスカートを引きずり下ろすという行動は適切であったのだろうか今でも疑問。
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/23(日) 08:20:57.30 ID:9i1ZlSlF0
 置かれた食材をだいたい使い切ってしまい、多くの人間が集う月島農場とはいえ、
何日か分の食材を先回りしておいていただけなのではと不安になり、
 ノリノリで様々な食材を使いああしろこうしろと私に指示をし続けていたツバサに
 アイコンタクトでやりすぎではなかったかと問いかけてみると、
 彼女は私の意図に気づきながらも、天井を見上げた。いざとなれば天高く昇天し逃げ出せということであろうか。

 料理に対して辛口な面々というのは存在しないのだけれども、
 普段から良い食材を食べている小原鞠莉ちゃんにあるとか、
 松浦果南ちゃんあたりにもご好評いただくことができたので、
 料理の出来に関してはかなり満足している。

 食べているみんなにも喜んでいただいて恐縮ではあるんだけれども、
 園田道場のお嬢様がこの料理を毎日食べたいと至福の表情で宣言し、
 それを聞いた西木野総合病院のお嬢様が、私
 が囲うつもりだからトラナイデ(懐かしい響き)と言った。

 しかしながら二人に対してとある語尾に「ニャ」をつけがちな女の子が、
 そんなに料理を食べたいなら私が作るよみたいなことを言い出し、
 夕食の空気は一気にお通夜の方面に向かうことになった。

 彼女には感謝しておかなければならないのだけれども、
 あなたの料理は私以外は食べることができないのよとはっきり言うこともできず、
 わかったわかったこれからあなたの料理を毎日食べるわと言ってみたら、
 すごく喜んでくれたけれども、
 隣にいたお米大好きガールさんが「また絵里ちゃんがフラグを建ててる」と言ってのけ、
 それに対抗した色んな女の子がお菓子を作るだの料理を作るだの言い出し、
 最終的にはとある妹さんが、では私の作ったお菓子を食べてくださいとにこやかに宣言し、
 やはり食卓の空気はお通夜の方面に向かった。

「ミルクちゃんのパートナー?」
「はい」

 食卓が平穏な空気のまま終了し、さてのんびりお風呂にでも入ろう、
 みたいな気分でぼーっとしていると、
 鹿角聖良ちゃんが私に向かって声をかけてきてくれた。
 ただミルクちゃんのパートナーを探したいという話ではあったんだけれども、
 私はミルクちゃんではありませんよみたいな顔をしながら尋ねてくるので、
 いやミルクちゃん=鹿角聖良ではないのとツッコミたいではあるんだけれども。
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/23(日) 08:24:22.27 ID:9i1ZlSlF0
 彼女自身も設定を忘れてしまうので、たまにしか披露されないんだけれども、
 ミルクちゃんのサポーターをしている(設定上)鹿角聖良ちゃんは、
 彼女にパートナーがいないことを心配している様子ではある。
 ステージの上で人間一人が露出度の高いビキニを着ながら歌い踊り、
 子どもに見せたくないアイドルナンバーワンになりつつあるミルクちゃんではあるけれど、
 楽曲であるとかパフォーマンスのスキルは極めて高く、
 彼女のスキルが高いからこそ、他のアイドルが模倣してもミルクちゃんレベルの人間がなかなか出てこない。

「人材はいるのです、ただ名前が思いつかなくて」
「命名センスの無さはみんなに指摘されているけれども、そんな私でよければ考えてもいいけど……」

 ココアちゃんと言うと何となく矢澤にこの妹であったり、
 なぜだかよくわからないけれど絢瀬亜里沙の顔を思い出してしまうので、
 なんとなくミルクちゃんのパートナーとしてココアちゃんという名前を出すのはためらわれた。
 
 私に命名センスがないのは誰しも理解しているはずなので、
 提案したところで採用されることはないだろうと思い直し、
 彼女も数ある提案者の中の一人として私に世間話の体で話しかけているだけみたいだから、
 私も気楽に考えることにした。

「ミルクちゃんっていうのは、コンテンツの視聴層としてはどの辺りの人たちを想定しているの?」
「アイドルなのですから、当然アイドルを目指す女児向けに」

 おまえは何を言っているんだというミルコ・クロコップみたいな顔をしていないことを祈る。
 確かに大きな友達に大人気であるプリキュアも女児向けアニメとして提供されているし、
 そう考えればミルクちゃんの女児向けのコンテンツであると考えても過言ではないかもしれない。
 まず間違いなく誰しもが過言というではあるけれども。

 ミルクちゃんの名前というのは彼女が牛柄のビキニを着ているから、
 というわけももちろん存在するんだけれども、
 月島農場が当時を推していた商品が牛乳でもあったから、という理由もあったりもする。
 なお、ミルクちゃん提供の月島農場の牛乳はこれを飲むと胸が大きくなる、
 特に風呂上がりに飲むと効果が抜群、何て言う煽り文句を月島歩夢ちゃんが披露し、
 すぐさま冗談と彼女は言ったんだけども、彼女の隣にいた鹿角聖良ちゃんに皆の注目が集まる。
 冗談と訂正はされたんだけれども、
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/23(日) 08:26:02.15 ID:9i1ZlSlF0
 牛乳を飲む西木野真姫とか園田海未とか黒澤ダイヤちゃんの牛乳を飲むペースは一向に治まる事がなかった。
 資金源が存在する彼女たちに買い占められてしまったら、
 おそらく牛乳をいくら絞っても枯渇してしまうんだろうなという感想を抱きつつ。

「では乳製品とかそういうものは避けたほうが良さそうね、
 または競合する企業の推している商品であるとか、
 地元で人気がある商品も避けた方がいいかも、
 そう考えるとやっぱり農場とは全く関係のないものがいいかしらね?」
「彼女を使って商品を売り出すコトはしませんけど
 ……でもそういう事に気を使っていただけるのは助かります」

 特に他にアイドルが売り出しているようなものをパクったみたいな扱いをされてしまうと、
 知名度と人気度に影響が出てしまうので。ただその点に悪影響を及ぼしたとしても、
 ミルクちゃんのパフォーマンスは飛びぬけて優れているので、悪評はすぐさま払拭できるものと思われる。
 と、ここで先ほどの園田海未の行動を思い出し、
 仮にパートナーが胸の大きいキャラであったら、
 彼女が商品を買い占めてしまう可能性を考慮し、彼女が苦手にするものであったら無用な心配をする必要もないであろう――
 そんなことを思いついてしまった私は、先ほどまでの考慮を全く無碍にしてしまうような名前を披露してしまった。

「ラムネちゃんとか」
「飲み物系ですか、確かにこれから夏場にラムネちゃんとしてデビューし、
 彼女の人気を高めるためにはいい名前かもしれませんね」

 思いつきではあったのだけれども、
 思いのほか聖良ちゃんはすごくいいと言わんばかりに頷いて見せ、
 鼻歌を歌いながら私に背中を向けて歩き出した。
 ただ聖良ちゃんのパートナーとして、そこんじょそこらの女の子をデビューさせるのは厳しいものとは思われる。
 パートナーである聖良ちゃんがトップアイドルの中でも才能が抜きん出ているし、
 彼女と遜色なく踊れる相手がいるとしたら、それこそ綺羅ツバサであったり、
 妹である理亞でなければいけないと思う。
 ツバサがラムネちゃんというのが大変想像できないことでもあるし、
 理亞も聖良ちゃんと踊りたいという思いは抱えているかもしれないけれども、
 ミルクちゃんのようなパフォーマンスをしろと言ったら、
 彼女は尻込みをしてしまう可能性もある。
 聖良ちゃんが過去にハニワプロで売れなかった時代に、
 その障害になっていたのは、彼女自身のスキルの高さであり、
 遜色なく踊ることができた歩夢ちゃんが、たまたまユニットを組んで活動できるほど暇ができたからこそセイントムーンは売れたのだし。

「それに何より、聖良ちゃんが認めるような相手でなければ、
 パートナーは組んでくれないよね、私も一時的だったら、
 ラムネちゃんとしてパフォーマンスを披露してもいいんだけどな」
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/24(月) 10:05:16.94 ID:NGpV7QsAO
お姉ちゃんユニット結成か!?
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/24(月) 20:13:07.16 ID:PsQJmBAV0
 ではお風呂にでも入ろう、ということになった際に誰か付き合ってくれないかなぁと見回してみると、
 みんながみんなお風呂上がりではあったので、仕方ない一人で入るかと思ったのだけれども。
 そんな寂しがり屋の私に付き合ってくれる子が一人だけいた、南ことりである。
 先ほど私を椅子にしてデザインに赴いてしまったのを大変申し訳なさそうに謝り続けてくれて、
 いいのよいいのよ椅子になるのは慣れているから、何て言ってしまったので台詞を間違えたような気もしなくもない。
 とにかくこちらに向けて謝意を伝えたかったのは明らかであったようなので、
 お風呂上がりの彼女ではあれど快く付き合ってもらうことにした。
 とはいえ背中を流すとか、体を懇親丁寧に洗うからという誘いは謹んでお断りさせていただくことにした、
 彼女にしてもらうのは構わないんだけれども、
 私に好感度の高い面々が調子に乗らせるなよみたいな顔をして眺めているので、
 その恐怖に屈したということで許してもらいたい。
 特に園田海未の目は暗殺者か何かみたいで、
 近くにいた穂乃果が海未ちゃんゴルゴ13みたい目をしてる!
 と言われるまでその視線の強さに気がつかなかった模様。
 別に南ことりに対してみんなが思うところがあるというわけではなく、
 私が彼女が親しげに話した結果、記憶が戻ってしまう事を皆は考慮しているのである。

「絵里ちゃんさっき、椅子になるのは慣れてるって言ったけど、もしかしてみんなからそんなひどい扱いをされてしまっているの?」

 こちらに対して心配そうな視線を向けることり。
 発言からすれば私に関わりにある、もちろんことりにも関わりのあるμ'sの面々から、
 椅子扱いされていると思ってしまっても不思議のない発言をしてしまった。
 単純に考えれば、理由はどうであれ人間を椅子扱いするというのは、
 その人間の人権をなかったことにし、精神面を著しく阻害し、
 聞いた人が思わず心配になってしまうような出来事であると考えるのも不思議ではない。
 私は別に椅子にされてもかまわない人だからと説明したところで、
 優しいことりが私以外の面々に疑わしい目を向けてしまうのは致し方ないことである。
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/24(月) 20:15:50.61 ID:PsQJmBAV0
 ツバサであるとか真姫であるとか海未であるとかが、
 私に対して親愛の情を込めた罵詈雑言をかっ飛ばすのを見ていれば、
 この人たちは絢瀬絵里に悪意を向けていると判断しても仕方のないことではある。
 幼なじみである園田海未はともかく、
 西木野真姫と綺羅ツバサの両名はスクールアイドルとして一緒だったという接点しかない。
 Printempsの両名がいくら丁寧に絵里ちゃんは、ああいう扱いをすると喜ぶ人だからと説明したところで、
 悪口を言っているという事実は変わらないし、
 たまに暴力的な手段をもってして私を是正しようとするのは、
 あまりいい印象を受けないというのも分かっている。
 とはいえ今更ながらに、ちょっと殴るの控えめにであるとか、
 蹴り飛ばすのは二人っきりの時にお願いなどということはできない。
 迂闊な発言をしてしまった時には蹴り飛ばされることぐらいはしたいところではあるし、
 何より彼女たちの愛情表現であることがわかっているからこそ、私はそういう手段を受け入れているわけだし。
 などとは考えるんだけれども、私が納得しているから暴力的手段を見逃せとも説明しがたい。
 彼女は優しさから絢瀬絵里が暴力的手段をもってして是正されるのは可哀想と思っているわけだし、
 それが人として正しい行動であるのはよくわかる。
 これが幼い子への親の教育であったり、
 教育現場でなされているシチュエーションであったのならば全身全霊をもって、
 そういうことをしている教育者(笑)を地獄に叩き落とすつもりで再教育を施すところでもあるけれども。

「そんなに酷い扱いをされているわけではないわ、と私は思っていたのだけれども、
 ことりや他の子から見てそう見えるのであれば、そういうことはしないようにと忠告するつもりよ」
「そんなことを言って殴られちゃったりしないかな?」
「正しいことを言って、図星をつかれたから暴力的な手段をもってして、
 それを解決しようとする友人はいないから心配しないで」

 ここで納得しないように首を傾げる姿を見れば、海未の名前を使って彼女はそういう人ではないでしょうと諭すつもりではあったけど、
 渋々といった感じで意見を取り下げてくれた。
 論争を重ねても仕方がないし、私の意見に納得できないと言うのであれば、卑怯ではあるけれども穂乃果や花陽に頼るほかなかった。
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/24(月) 20:17:13.65 ID:PsQJmBAV0
「ところで何かデザインを描いていたみたいだけれども」
「さっき聖良ちゃんに、ラムネちゃんのデザインを頼まれてさ」
「やる気なの? ことりがそういうことをしたくないって言うのであれば、私から彼女達に言ってもいいのよ?」
「ううん、確かにμ'sの活動を境にデザインしないっていうのは決めていたんだけど、
 今はね私ができることを残しておかなければいけないなって思って」

 できることはいつまで続くかわからないし、できなくなってしまうのは一瞬。
 そしていつ復活するかは全くわからない。そういうことを知っているデザイナーが、
 できるうちに何かを残そうと思うのは必然と言っても構わないかもしれない。
 デザインを頼むということは、
 誰が身に着けるのかはもうすでに決定事項ではあるんだろうけど、それをことりに尋ねるのは卑怯な気がした。
 ミルクちゃんは白と黒の――牛柄のビキニであるので、ラムネちゃんは青と白とかがいいのではないかと思われる。
 そのあたりのデザインセンスは私には存在しないので、ことり任せではあるんだけれども、
 彼女がどんな色にすればいいかななんて問いかけてきてくれたので、採用しないでねと前置きをして、そのように告げてみた。

「ラムネっていうのはどんなイメージ?」
「そうね晴れ渡る夏の日って感じかな、のんびりね軒先で何か飲みつつ、
 空を見上げながら友達と話す。炭酸飲料って聞くとそんなイメージがするの。
 でもねそれはコーラとかサイダーじゃなくて、やっぱりラムネかなって」

 ラムネという飲料に関して随分過大評価をしているような気もするんだけども、
 サイダーやコーラではなく夏といえばラムネを飲むような気がしてならない。
 それは別にラムネに対して並々ならぬ愛情を向けているというわけではなく、
 その可能性ももちろんあるんだけど、みんなで飲むものといったらラムネ一択であるような気がした。
 それは海未が炭酸飲料が苦手でラムネしか飲むことができないというのもあるし、
 私自身がそういう物語的なイメージにとらわれているということもある。

「なるほどなるほど、創作意欲が湧いてきたよ」
「ことりに協力できてよかった、やっぱり素直な子と話すのは楽しいわね、
 何か言うと言っているそばからそんなわけないでしょとか、哀れな子を見るような目をされてしまうと、
 何かを言うのにためらいを覚えてしまうものね」
「その発言をできればためらってほしいと思ったよ、
 やっぱり前言撤回して、絵里ちゃんが暴力を振るわれるの止めた方が良かったかな」
「今のは私に非があるから、私が悪いということで前言撤回しないでもらえるととてもありがたいわ」

 なんとなくお風呂でのイベントがグダグダになってしまった感はあるけれども、
 こうして一緒に裸の付き合いなんてしてみると、とても良いものだなと思った。
 そしてお風呂上がりにツバサが飲み物を持ってきてくれて、
 これはめんつゆだよなと思ってぐいっと飲み干したらちゃんとした麦茶で驚いてしまい、
 何でめんつゆじゃないのと叫んで隣にいたことりから怪訝そうな目で見られてしまった。
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/26(水) 01:12:11.33 ID:Pidvhjid0
 みんなが宿泊している場所は、コテージのようになっていて、
 普段、会話をすることができていないメンバーと枕を横に並べることができるかなと思ったのだけれども、
 なぜだか脅迫に屈して一人部屋で寂しくベッドに横になっている。
 その脅迫現場には私一人ではなく隣に西木野真姫も存在していたんだけれども、
 普段は私に対して下ネタをかっ飛ばしつつ、
 お酒を飲みながらセクハラまがいの言動をする彼女も、
 あんまりなシチュエーションに、では一緒に寝ましょうなんて言葉もなく、
 酔いも冷めた感じでさっさと撤退してしまったのが印象的だ。
 私達みたいな酔っ払い組がお酒を酌み交わす中、
 唐突にこんな施設の管理者でもある月島歩夢ちゃんや鹿角聖良ちゃんがやってきた。
 酔いも回っていた私たちはセクハラまがいの言動をしつつ、
 二人はこれからイチャラブしちゃうんですかみたいなことを海未も真姫も言っていた気がする。
 普段であったのならば基本的に酔わない私も、
 なぜだか曇った表情をする二人を見て、
 気分を盛り上げてもらおうとお似合いであるとか、
 おべっかを使って彼女たちを褒め称えたような記憶もある。
 そこら辺の記憶が曖昧であるのは、別に私はその状況下で酔っ払っていたからというだけではなく、
 その辺りの記憶が吹っ飛んでしまうような脅迫をされたからということに他ならない。

「部屋割りを決めていたんですが、誰もが絵里さんの部屋に泊まりたがってしまって困っているんですよ」

 最初に歩夢ちゃんはそんな発言をした気がする。
 誰もが寝たいというよりも、
 寝たいと強硬に叫ぶメンバーが声がでかいだけではないかそんな印象も抱くんだけども、
 その発言を聞いた海未と真姫が二人こぞって、自分は絵里と寝たいと主張したなどと言い出した。
 絵里と寝たいというよりも、
 絵里とシタいと言った方が彼女たちの欲望を表現するのが適切ではないかと思うのだけれども、
 でも彼女たちもぶっちゃけネタで言っているだけで、本気で私とイチャコラしたいと言うわけではないと思われた。
 あんまりわがまま言うと過去のツバサみたいに、
 うるせぇ! 牛の所に寝かせるぞ! ミルクちゃんも一緒にな!
 とか言われてバッサリと斬られてしまうのがオチなので、反発の声もほどほどにした方がいいわよと忠告したのはなんとなく覚えている。
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/26(水) 01:16:01.49 ID:Pidvhjid0
「そのように言われてますが、絵里さんは誰か特定の方と寝たいとかそういうことは考えていますか?」

 そんなことを言われて、私は普段会話をしない面々と少しだけ横になりたいなあというリクエストを飛ばしたのを覚えている。
 別に両隣にいる二人と寝たくないというわけではないのだけれども、
 せっかくこういう交流イベントが起こったのだから、
 少しくらいはAqoursの面々と合流したい気分でもある。
 とても残念なことにAqoursの面々は現役高校生であられるので、
 お酒を酌み交わすということが倫理通念上不可能であるから、この場においては私と同年代の面々しか存在しない。
 しかしながら私の発言を何と捉えたのか、
 園田海未も西木野真姫も二人して、自分がいかに絢瀬絵里と普段会話をしていないかというアピールをしだした、
 酔いも回ってきているのか、マシンガンと言わんばかりに二人がベラベラベラベラ喋っているので、
 これはそろそろ止めてあげないと私が痛い目をみるパターンだよな、
 なんてことが頭をよぎり、そのよぎったシチュエーションがまさかあんな感じなものになるとは思いもしなかった。

「私たちもこのように絵里さんと寝たいとアピールすれば方がたくさんいて、
 絵里さん自身も特定の方と寝たいというのは考えていないようなので、
 やはり一人ずつ黙らせるのが一番かと思いまして」

 口調は丁寧ではあるけれども、
 歩夢ちゃんは多くの面々から私と寝かせろみたいなことをさんざんぱら言われ続けたらしい、
 この場にツバサはいないけれども、
 なんやかんや言いつつ私とのイベントが起こるのを楽しみにしてくれた――
 であるのならば、うまいことやって二人っきりにさせろみたいなことは言う可能性がある。
 彼女が主張するのであれば、多くの面々がそれに賛同する可能性もあって、
 私が私がという声がどんどんどんどん増えていくのは簡単に予測することができた。
 それに頭を抱えた歩夢ちゃんが聖良ちゃんでストレス解消するというのは容易く推測できる。
 しかしながら挑戦的な目を向けられてしまうと、熱く燃えてしまうのが園田海未と西木野真姫の両名である。
 いとも簡単に黙らせることはできるとは思わないことですね、みたいなことをどちらかが言ったような気がする。
 フラグとしては完璧だけれども、その後の退場劇まで完璧になろうとは思わなかった。

「こちらに一つのバイブがあります」
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/26(水) 01:16:46.60 ID:Pidvhjid0
 そんなことを言いながら彼女がどこかから取り出したのが、
 妙な機械音を発しながら上下左右様々な動きを見せるバイブである。
 どこかから取り出したというより――詳しいことは何も言うまい、
 明らかにどこかに入っていたと言わんばかりの玩具に対して私たちは思わずたじろいでしまった。
 やっぱりこのパターンなのと思ったのは私だけで、
 二人も噂くらいは聞いていたかもしれないけれども、
 目の前にいるカップルというのはなかなかアブノーマルな感じではある。
 物欲しそうな目で淫猥な動きをするバイブに釘付けなせい……ミルクちゃんは私は見なかったことにしたい、
 人間色々な面が存在して構わないと思う、でもどっちだかと言うと笑顔が素敵な女の子というより、アヘ顔が素敵な女の子にしか見えない。
 度々私も好感度99%みたいな女の子と会話することがあるけど、
 好感度100%にした後にアイテムを使ってさらにプレゼント送ると追加のシーンを見られる――
 そんなゲームがあるけれども、100%を超えた100%っていうと、女の子っていうのはこういう顔をするのかなって思った。

「絵里さん寝ていただくのですから、どうせこういうものを使ったプレイというのも乙なものかと思います、
 どうせならば私たち――じゃなかった一般的なカップルが使用する双頭バイブというものもご用意しておりますので、その覚悟がおありでしたら――」
「やはり絵里は一人で寝るべきかと思います」
「そうね、むやみに手を出してしまって後ろから刺されてしまうよりは、一人で寂しくいた方が身のためだと思うのよね」

 後ろから刺されるというセリフを言いながら、真姫は怯えたようにバイブを眺めていた。
 収録現場で用意されてましたみたいなことをスタッフブログで書いて、
 メーカーが大炎上したことがあるけれども、当然、知らないものではないと思うのだ。
 収録現場というものは常に緊張感が溢れていて、結構シリアスなのよと真姫は言うんだけれども、
 いかんせん使用感が溢れるものだから、営みというものを如実に想像することができて、
 絶対にこれが突き刺さってしまったら痛いよな? ということも考えてしまうであるし、
 仮にこれを使用するとなったらどちらが刺される方なのか? ということも考えてしまう。
 冷静な西木野真姫であったのならば、こういうのは一人で使用するものよね、
 絵里もちょっと使わせてもらいなさいよくらいのことは言ってのけるけれども、
 愛というよりも根性が試されそうな太さのバイブに対して、何を言うこともできず、
 酔いもあっという間に覚め、前述の発言のようにさっさと撤退して行ってしまった。 
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/26(水) 01:18:35.96 ID:Pidvhjid0
「……誰とも会話することができないというのは寂しいではあるけれども、でも考えをまとめるっていうのには適切かもわからない」

 考えるべきことがたくさんある。
 私たちのこれからのことに関してもそうだし、Aqoursの事に関してもそう。
 みんながみんなこの世界から退場したいわけではないし、
 そういう道を選ぶのが適切であるかどうかも分からない。
 私自身の意志でみんなの意思をないがしろにすることがとてもできやしない。
 そんな時私の部屋のドアをノックするなんともチャレンジャーな――もしかしてバイブなんか持って来たりしないよな?
 そんなことが頭によぎりつつ、部屋を開けてみると理亞が立っていた。
 かわいらしい黄色を基調とした寝間着を着ていて、フリルなんかもそこかしこに施されている。
 おそらく自身の私物ではないので、誰かからこういうものを着用するように求められたからこそ服を着ているのだと思う。
 元々が美少女の聖良ちゃんの隣にいてもさらに美少女に見える理亞なのだから、
 可愛らしい格好をしていても当然映える存在ではある――
 そういえば先程の聖良ちゃんの表情は、すごく好みのゲーム(R18)をプレイした後の理亞の表情にそっくりであるな、
 そこはやはり姉妹なのだなということを考えてしまったので。

「とりあえず先にシャワーを浴びてきた方がいいと思うわ」
「そのボケとても面白いです絵里、しかしながら脱がすことを考える前に、
 相手の服装を褒めた方が好感度が上がると思います」
「そうよね、先ほど好感度上げすぎてしまったヒロインみたいな顔をした人を見てしまって、
 ついつい動揺してしまったわ――
 とても可愛らしい格好よ、あなたによく似合っている、花が咲いたようと表現してもいいし、
 まるで天使みたいだと褒め称えてもいい」
「そんなガチで褒めなくてもいいんですよ!?」

 ついつい口説き落とすようなことを言ってしまい、好感度の上昇がなされたのか、
 それとも低下するイベントが起こってしまったのかはわからないけれども、
 真っ赤になった理亞の頭を撫でつつ、私たちは一緒に眠ることにした。
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/29(土) 15:09:02.96 ID:a1nmi5aO0
 なんだか眠れない感じがする。
 気になると言うか、喉に魚の小骨が引っかかったみたいな違和感を覚える。
 なんとなく予定調和的な何かを見たり聞いたりしてしまったみたいで、
そもそもこうなることを誰かによって望まれたみたいな感じ。

 それは先ほど聞いた、
歩夢ちゃんが持っていた中に入れると性的に興奮する道具の機械音を耳にしている風であり、
もしくは、今までずっと仲良く過ごしてきたのに、やむにやまない事情のおかげで別れをするといったふうであるような。

「……ねえ、理亞」
「起きてしまいましたか、
寝ている間にこれを何とかして入れてみようかと思って」

 それは先ほど見たこけしほどのサイズの、男性器を模した道具。
 これを自身の中に入れられてしまえばさぞかし痛いことだろう、
入れられる部分は少ないけれどもどこに入っても痛い気がしてならない。
 
 ――なぜか理由はよくわからないけれども、いつのまにかに理亞に恨みを買ってしまったようである。
 少なくとも好意の表れからバイブを中に入れるなどという恐ろしい発言は聞かれまい。

「よくは分からないけれども、それを本人の許可無く使ってしまったら、
あなたは誰かにしょっぴかれなければならないと思うわ」
「寝ている間だったら合法ということになりませんか?」
「斬新が法律に関しての認識だけれども、
相手が寝ているという状況は同意を得てないということになるから、
罪を問われる確率は高まると思うわ」
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/29(土) 15:16:50.90 ID:a1nmi5aO0
 彼女だって本来は理解しているのだ。
 なにせその極太の物を入れれば、誰だって目を覚ますはず。
 熱々の白玉もどこかしらに入れられてしまえば誰だって起きるはず。
 寝ていることなどありえない。

 どうして彼女がそんなことを言いたくなってしまったのか、
 もしくはしたくなってしまったことを問いかけてみるのが重要である。

 罪状は明らかではあるのだけれども、
 いつものように鈍感な私が何かしら悪いことをしたから、
背中に冷や汗をかくような体験をしているので。

「それで何か相談事?」
「これは愛を確かめる道具なのでしょうか?」
「確かにこれを入れるというのは、
相手に対しての愛情がなければなし得ないことだとは思う。
私にはあまり理解ができない世界だけれども」

 理亞は何かを考える風にしながら、私の言葉に耳を傾けてくれている。
 いかんせん手に極太のバイブを握ったままであるので、
どこまで私の話を聞いているかは疑わしいではあるんだけど、
それでも表情を読み取る限りは、私の言葉に真摯な態度で接してくれているはず。

「……ラムネちゃんの話は聞きましたか?」
「聖良ちゃんのパートナーは大変でしょうね」
「昼夜問わず、パートナーであるとされるそうですよ?」
「夜のパートナーと聞くと不安を覚えてしまうのはなぜかしら」

 昼のステージだけではなく、夜のステージまで付き合わされてしまうとしたら、
アブノーマルな彼女たちに何をされてしまうか分からない。
 今日の会場はオジサマの腰の上です! 何て説明をされたラムネちゃんが、
昼で見せた過激なパフォーマンスとみたいに腰を振る姿を想像し私は恐怖を覚えた。

 ――そんなことが全くの想像であることは、確かなんだけども。
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/29(土) 15:31:22.92 ID:a1nmi5aO0
「明日、ラムネちゃんが披露されるそうです」
「え? ステージ衣装の作成であるとか、振り付けであるとか、
 聖良ちゃんへの顔合わせとかも済んでいるの?
 なかなか難しいと思うわ、付け焼き刃の技術しかない子が聖良ちゃんと合わせるのは」
「とても良い判断だと思います、私も私の知り合いでなければ、
 明日ステージイベントをいきなり行うというのは難しいと言うでしょう」

 なんと理亞の信頼を得ていることをも彼女の発言から察してしまった。
 どこぞの有象無象のアイドルであったり、
 どこかしらのスクールアイドルを連れてきて聖良ちゃんのパートナーにするということになれば、
 シスコンの気がある彼女は絶対に反対するに違いない。
 
 反対する感情が個人的なものであっても、
 どれほど客観的に理由付けできるかで説得力が変わっていってしまう。
 そしていくらでも客観的な根拠で否定的な理由を付けられるような人であったら、
 そもそも聖良ちゃんのパートナーにはなれない。

「ステージ衣装はさっちゃんに頼むことにしました」
「その人、太古から存在する恐ろしい悪魔なんだけど」
「私のお菓子と凛さんの手料理を食べさせるぞと言ったら、快く了承してくださいましたよ?」

 それはベルフェゴールだけではなく、絢瀬亜里沙だって綺羅ツバサだって首を上下に振る行いだと思う。
 もしくは首を縦に振らない人は地球上で私だけの可能性すらある。
 快く了承してくれたと理亞は言っているけれども、
 否定をすれば命の危険性がある状況下で潔く死を選ぶのは誰でも難しいと思う。

 でもまあ、反発できるメンバーが了承しているのだから、
 経緯はどうであれ快く了承したということでいいのだろう、おそらく。


763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/29(土) 15:49:09.96 ID:a1nmi5aO0
「ことりがデザインするのだからとても良い衣装なのでしょうね」
「はい、デザインされたものを具現化されたのを眺めましたが、
 先日までデザイン活動をほとんど引退していたとは思えません」
「彼女自身の才能であるのか、それともループを重ねすぎてしまった弊害であるのか」
「絵里は、自分の起こした出来事に対して悲観的過ぎると思います」

 私はいつだって不安極まりない。
 自分が余計なことをしたからみんなを付き合わせた、と考えてしまってもいる。 
 いくらみんなが、私も自分の意思でこうすることにしたからとフォローしてくれても、
 その原因が自分自身にあれば、やはり思い悩んでしまう。  
 穂乃果みたいに前向きでありたいとは思うんだけれども、
 前を向いているとどうしたって後ろが不安になり、
 ついついどうしようもない状態で後ろを振り返ってしまうのは、
 私の悪い癖であるのはわかりきっている。

「ことりさん謝りたがってましたよ、絵里を椅子にしなくてもいいデザインができたって、
 あんなことする必要はまったくなかったって」
「それはおそらく、
 ことりが椅子を必要としなくなった後も私に座り続けた面々に対して含むところがあるんじゃないかしら?」
「やっぱりそうですかね?」
「そうであると思うのが適当であると思うわ」

 ことりからビシバシと蹴り飛ばされていた私でも思い出したらしい、理亞は口をつぐむ。
 南ことりが悪意のある存在に対してとる行動は時おり苛烈を極める。
 わざわざμ'sの”のぞえり”以外のメンバーを揃え、
 母親である理事長先生をフルボッコにしたことも話に聞いたことはある。
 ネタばらしをしてしまうけれども、彼女が黒幕に進言をしなければ、
 高坂雪穂ちゃんが早々に退場することもなかったので、
 穂乃果がどれほど怒り狂っていたかは想像するだけにとどめておく。

764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/29(土) 18:42:13.50 ID:a1nmi5aO0
「ラムネちゃんの候補になるのは誰だと思いますか?」
「あなたが適切だと思う」
「……それは、絵里の近くに私はいらないということですか?」
「違う、断言してしまうけどそれは違うわ」

 聖良ちゃんレベルのアイドルに対して、
 生半可な実力の人間を付け焼刃な感じで設置したところで、
 彼女のレベルについてこれないで諦めてしまうか、
 そもそも相性が合わなくて解散してしまうか。

 セイントムーンの時にコンビを組んでいた歩夢ちゃんも、
 理亞から姉さまをお願いしますと頭を下げられるほどの逸材であったし、
 私もたまたまエンカウントした時に、亜里沙と仲が良さそうであったので、
 これからも亜里沙を支えてくれるようお願いしますと頭を下げた記憶がある。

 よっちゃんが無理をして彼女を退場させることになったのは、
 私が退場してもなお、
 そして理亞がお願いしてもなお、アイドルとして立ち上がってくれなかったから――と白状してくれた。

 つまりは聖良ちゃんのパートナーというのは、それぐらいのレベルのアイドルが基本となる。
 私の知り合いの中で該当をするのは、理亞か、ツバサのどちらか。
 後者だとミルクちゃんが目立たなくなってしまうので、必然的に理亞一択になってしまう。

「ラスボス化したよっちゃんが、自身を倒すのはあなた達としたように、
 あなたたちの絆は、あなた達が思う以上に強固であるのよ」
「……私がいなくなったら寂しいですか?」
「寂しいに決まっているでしょう、死ぬほど嫌よ」

 ため息をつきながら理亞に向かって言葉を向ける。
 彼女の手には相変わらず極太バイブがウインウインと鳴りながら動いているけど、
 全く気がつかないといった感じで手に強く握られている。
 私のお尻に向かって突っ込むぞみたいな感じではあるんだけれども、
 おそらくそうではないと思う。
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/29(土) 18:56:44.67 ID:a1nmi5aO0
「死ぬほどですか、誰よりもというのでないのが残念です」
「ごめんなさい、やっぱりね聖良ちゃんを倒してあなたを奪うというのは私には荷が重いわ」
「その時にはやはり私は花嫁衣装を着ていなければならないでしょうか」
「結婚式で花嫁を奪うというのは、確かに劇的なストーリーかもしれないけれども、
 逃げている途中で、必ず捕まってしまいそうね」

 私が理亞のことを、一番大事な誰かと考えることができないように。
 理亞が私のことを、一番大事な人と考えることができないように。

 一番の仲良しであることが結ばれる条件ではないとは思う。
 過去の優木あんじゅのように、ツバサが好きだけど諦めざるを得ないから、というケースもあったりもする。

 そしてなによりそこら辺の恋愛事情で不器用になってしまうのは、
 私たち姉妹がどういう人に育てられてきたか、ということに由来してしまうのだろう。

「ラムネちゃんのデビューイベント楽しみですか?」
「すごく期待しているわ、あなたたち姉妹の復帰のイベントを」
「ええ、ご期待に添えるよう最善を尽くします」
「歌も歌うの? あなたラップくらいしかできないんじゃない?」
「そのネタ引っ張るんですか? ラムネちゃんにそぐわないのでラップはありませんよ、
 ご期待に添えず申し訳ないです」
「それはそれでありのような気がするのだけど……」

 二人でいろんな会話をする――
 後日のイベントに差し支えてしまうほどに眠らず。
 私と別れて行動するということが、今後どのようなものになるのか、
 彼女だってわかっているはずなのだ。

 そして何より、その道が正しいものであると、
 理亞も、分かってくれているから背中を押してくれるのだ。

 ならば、絢瀬絵里も頑張らなければなるまい。
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/30(日) 09:18:19.83 ID:tys7uFso0
 ラムネちゃんの方から控室に入りますか?
 何ていう問いかけがあり、謹んでお断りさせて頂いた。
 別に彼女たちの歓迎を受けたくないというわけではなく、
ひとりの観客として彼氏たちのイベントを楽しみたいという目的があったため。
 
 なので、そこら辺の機微に疎そうな綺羅ツバサであるとか、
黒澤ダイヤちゃんとかを引き連れ、いかにイベントを盛り上げるか――
 とは言っても観客は彼女の知り合いしか存在しないので、何かしら失敗があってもフォローができる算段はついている。

 前日にミルクちゃんの写真を配られている記憶の戻っていないメンバーは、
 どんな不埒なステージは始まるんだろうみたいな感じで、
 ここにいてもいいのかなみたいな表情を浮かべているけれども、それぞれに親しい友人達が、
 大丈夫だから本当に大丈夫だからと言っているのが印象的である。

 やはり、極太のバイブを見て表情を蕩け顔気味にしていたミルクちゃんのインパクトは強く、
 それだけの印象がなければ(もしくはスクールアイドルとして活躍していた知識がなければ)
 どんな淫猥なステージが行われるのであろうと思うのは致し方ない。

「良かったの絵里? 慕ってくれる後輩キャラとお別れして」
「無様なステージを見せるようなら、連れて帰るつもりだけど」
「それは無用な心配ね、彼女の実力を考えれば、
 あなたをびっくりさせる程度のステージなんかお茶の子さいさいと言ったところなんじゃないの」

 なんやかんや言ってツバサも理亞を高く買っている様子ではある。
 事ある度に私のハーレム要員から外しがちなんだけれども、
 それは彼女を深く警戒していたからという可能性もある。

 別に私のハーレム要員だからといって、私を慕ってくれているとか、
 敬ってくれているということはないので、本当に私がハーレムを作っているのかとは疑問に思いつつある。
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/30(日) 09:30:58.53 ID:tys7uFso0
「わたくしが思うに、今回のステージはSaintSnowが再び輝けるようになる、
 とっておきのステージになると思います」

 自身と親しい巨乳キャラは聖良ちゃんぐらいしかいなくなってしまい、
 その聖良ちゃんの胸を揉んでいると、
 怖い表情した歩夢ちゃんにこれを入れますかなんて、
 敬う要素のない敬語表現でバイブを見せられてしまったとか。

 するとダイヤちゃんは座薬を入れるみたいにそんなものは入りませんわ、
 と反発を生みかねない表現で反論してしまい、
 この子には結構入るんですよ見せて差し上げましょうか?
 反撃の反撃を食らってしまい、ぐうの音も出ず、
 最近は空気の胸(ダイヤちゃんなりの表現)を揉み続けている。

 そんな姉の姿を見て、ルビィちゃんはバストアップの準備を始めたらしい、
 しかしながらはそのアドバイスを求めたのが友人の花丸ちゃんではなく、
 よっちゃんであったのはどういう意図が含まれるんだろう。

「そうね、SaintSnowなら逆風をものともしないでしょ」
「逆数の大半は自業自得なんだけれども、本当に彼女達は覆せるのでしょうね?」

 こういうアイドルのイベントには参加したことのない、記憶の戻っていないメンバーは、
 おっかなびっくりといった感じでステージを見上げている。

 非人類のサファイアさんにあるとか、見せ場を提供されて張り切っていると希とかが、
 数分で会場を作り上げ、ラムネちゃんのデビューイベントの準備は万端に整っている。

 どんな淫猥なステージを見せられるんだろう、みたいな反応もあるんだけど、
 サファイアさんであるとか希に対して、
 この人たちは何の力を使ってステージを作り上げたんだろうみたいな感じの反応もある。

 SaintSnowだけが逆風を作り出しているわけではないとだけは信じてほしい。
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/01(月) 14:09:12.67 ID:3o3gRLwZ0
「お、そろそろ牛たちが搬入されてきたわね」
「そこは入場と言っておきましょうよ」

 何とも言えない表現を使ってステージに立つ牛たちのことを表現するツバサ。
 たまにたくさんのブタさんを乗せて走っているトラックを見たことがあるけど、
 聖良ちゃんのパートナーである牛たちも似たような感じで運ばれてくるのだなぁという感想を抱いた。

 人間と動物との共存みたいな感じで、パンフレットには書いてあるんだけれど。
 どう考えても牛さん達の方が絢瀬絵里より扱いがいい。
 月島農場にこんなにスタッフがいたのかと感心してしまうほど、たくさんの人が牛に付いて世話をしている。
 
 羽島さんであったり三国山さんであったり白川さんであったり、普段はどこにいるんですかという農場のスタッフも登場。
 まだ生きてたんですか絢瀬さんとか言われたけど、今のところ死ぬ予定はないので勘弁してほしい。

 素直なAqoursの面々は牛たちと踊るということに懐疑的な姿勢である。
 特に動物がちょっと苦手なルビィちゃんは、牛たちのつぶらな瞳を見ながら美味しそうと言っていた。
 牛たちもルビィちゃんのことはとても可愛らしく見えたみたいで、
 こんなテンションの高い万次郎は見たことがない、という嫉妬する聖良ちゃんのコメントも頂いた。

 私からすればどれもモウモウ鳴いている牛だし、誰が見たって牛は牛なのではないかと思うのだけれども――

「絵里さん、なぜルビィは牛たちに大人気だったのでしょうか?」

 ダイヤちゃんが今、気がついたと言わんばかりに私に問いかけた。
 牛のことは牛に聞かなければ分からないとは思うし、
 私に聞くよりも聖良ちゃん辺りに聞いた方が、実りのある答えが返ってくるような気がするんだけど。
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/01(月) 14:17:06.58 ID:3o3gRLwZ0

 ステージが始まるまでの世間話の体であるのならば、
 私の身勝手な想像話してみても構わないのではないかと思う。

「やっぱりかわいさというのは牛にも分かるのではないかしら」

 おべっかでもなんでもなく、ルビィちゃんはとても可愛らしい。
 ルビィちゃんに限らずAqoursのメンバーであるとか、
 SaintSnowの二人であるとか、歳下のスクールアイドルはとても可愛らしい。

 希が一時期、今のスクールアイドルは可愛くて、ウチなんかは入る隙間がないなぁ、
 なんて自虐的につぶやき、単純にそんなことないと言えばよかったのだけれども、
 ついつい熱意を持って希の可愛らしさを語ってしまったら、もうやめてって言われた。

「なるほど、確かにルビィの可愛らしさは、人間だけではなく牛にも魅力的に映るということですね」
「お前ら変態かよ」

 満面の笑みで妹で惚気るダイヤちゃんであったり、
 牛っていうのは意外と人を見ているのかもしれないわね、
 なんて牛のことを饒舌に語りだした私に、綺羅ツバサはジト目を向けながら辛辣な反応を見せた。

「……と、そろそろステージが始まるみたいね」
「はじまった……」
「これが物語なら、私達は勝ちました……いえ、勝たねばならない」
「あなた達、ステージに対する語彙がそれしかないの?」

 ボケをかましてみると、そのセリフを聞いていないはずの綺羅ツバサが無難なツッコミを入れた。
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/02(火) 03:43:44.42 ID:jNVfd9qS0
 ステージが始まる。
 正直言うと私はドキドキしていた。
 姉妹であるとはいえ、今まで離れ離れになっていたのだから、
 動きを合わせるだけでも至難の技だと思っていたのに。

 そして何より聖良ちゃんよりも、私の方が理亞のパートナーに向いていると思い上がっていたのである。

 1曲目は、ラムネちゃんのソロから始まった。
 背後にいる牛たちがステージが始まる前まではモーモー泣いていたのだけれども、
 音楽がかかった瞬間、魔法でもかかったみたいに鳴くのをやめた。
 あれは一体どういう原理なのか――
 ステージを見上げているダイヤちゃんが感心してしまうほどのマジックだった。

 理亞の能力の高さというのは、かつては遠慮によって発揮なされなかった。
 その要因の一つが彼女の気の弱さ。
 周囲がなんやかんや言って彼女に能力を発揮させることを許さなかったというのもある。

「ようやく本気を出したみたいね」
「まさか、私にも遠慮していたとは思わなかった」
「病気してたあなたに遠慮しない人なんていたの?」
「そこにいるような気がしてならないのだけど」

 ラムネちゃんとしては目立つパフォーマンスはしない、と教えられていたんだけれども。
 ステージに設置されたトランポリンであるのか何らかの器具を用い、
 とにかくどういう原理かは全く分からないんだけれども、彼女は唐突に跳躍した。
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/02(火) 03:44:13.96 ID:jNVfd9qS0
 宙返りをした、と表現をしても構わないし。
 踊っている最中に空を飛んだみたいな感じで表現しても適切であるかもしれない。
 とにかく見ている面々がみんながみんな、
 何をしてるんだあの人みたいな感じで眺めていたのが印象的である。

 そして何より跳躍している最中も高らかに歌い上げているのが、
 彼女の能力の高さと言うか、化け物じみた能力であるような気がしてならない。
 
 そうそう、触れるのが遅れてしまったけれども、
 ラムネちゃんの衣装は青と白を基調とした、夏場にふさわしいドレスと称してもいい格好をしている。
 だからつまり、
 イメージとしてはウェディングドレスで格闘シーンをしているハリウッド映画みたいな感じで、
 目の前のステージが展開している。

 しかもそんな風にステージで乱痴気騒ぎしているようではあるんだけど、
 背後にいる牛たちが時折、彼女に合わせて踊っているような動きにも見えるダンスをしている。
 牛たちはステージの添え物ではなく、
 彼らもステージを構成する一員なんだと認識してしまうほどに動きは揃ってきた――一体どういう原理なのか。

 2曲目はミルクちゃんのソロであった。
 彼女がステージに上がった瞬間に多くのため息が聞かれた。
 感嘆であったような気もするし、多くの人間が胸元を押さえていることから、
 自身とのサイズ差を、如実に分からされてしまったような気がしてならない。

 死んでも痛感するかよみたいな感じの表情をして、嫉妬で歯噛みと言わんばかりの苦々しい表情をしながら、
 ツバサもダイヤちゃんも私の胸元触っているのが――そろそろ膝蹴りの一つでもかませなければいけないかもしれない。

 後者の人にそんなことをしてしまえば、絢瀬絵里が内浦湾の藻屑になってしまうので、遠慮したいところではある。
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/02(火) 03:45:07.70 ID:jNVfd9qS0
 その時に南ことりの声が聞こえた気がする。
 それ以上強く揉んだらちぎれちゃうよ!

 一体誰の話であるのか、
 あんなにミルクちゃんのパフォーマンスを楽しみにしていたのに――

「みんなミルクちゃんだよー!!」

 語尾に☆でもつけてそうな感じで、ステージに上っているミルクちゃんが話し始めた。
 ダイヤちゃんが実際に彼女のステージを見たのは初めてだったらしく、あの人誰って言った。
 
 私たちも彼女のステージを見た時にあの人誰って言ったから、
 誰しもがあの人誰って言ってしまうほどのインパクトだったと思う。

 それでいて超人的な動きをする理亞の後に出ても、
 遜色ないパフォーマンスをしてしまうのだから鹿角姉妹というのはいろんな意味でチートである。

「おいおーい、声が出てないぞ、みんな大きな声で私の名前を呼んでくれるかな?」

 私は名前を高らかに叫んだ。
 ヤケだったと思う。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/02(火) 03:46:48.37 ID:jNVfd9qS0
 だって、観客の誰しもが私の方を見たと思ったから。
 実際問題ステージの上にいる、ミルクちゃんも私をちらりと見たような気がしてならないのだ。

 ここで大きな声を出して晒し者になるのはあいつだなみたいな感じで。

「はーい! 声援ありがとう、これからも盛り上がっていこう!!」

 その後数曲入れ替わり立ち代わり曲を披露した。
 そして私たちの盛り上がりも、ステージの雰囲気も、
 牛たちの興奮度もマックスになった時に、
 ついに二人揃っての曲が披露されることと相成った。

「私達姉妹が披露する曲は一体何がいいだろうと考えました」
「そんな時にスター西木野さんが、詞に曲をつけたから歌っても構わないわよ、と言っていました」

 その時にスター西木野はステージを見上げているようで、どこか遠くを眺めているような気もしてなかった。

 後々、あの時何を考えていたの? と尋ねてみた時に、
 スーパーロボット大戦のおっぱいの動きって実際にするのね? とか言っていたから。
 ミルクちゃんばっかり見ていて、彼女たちが何を話したのかまったく聞いていなかった様子である。

「作詞絢瀬絵里」
「作曲スター西木野」
「「お腹いっぱい食べたいな、聞いてください!!」」

 そしてあの子たち、一回作ってさっさと封印した私の黒歴史を引っ張り出した。
 実際引っ張り出したのは西木野真姫であるんだろうし、この曲は近江彼方ちゃんも参考にして自身の楽曲に加えていたから。
 何かしら引っ張り出す要素はあるんだと思う。

 誰かの何かに影響を与えるのは嬉しいんだけれども――
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/03(水) 04:09:23.45 ID:bdi1w2Xj0
 帰り道は一体どのようにして帰るのかなと思っていたら、修学旅行でも使われそうな大きいバスが農場の入り口で停車していた。
 あまりに大きかったので、すごく……大きいですって言ってみたら、それはそこで使う表現なのかとツッコミを入れてくれた。

「あまりにもどうしようもないパフォーマンスをするようなら、内浦に連れて帰ろうかと思った」
「ありがとうございます」
「もう、私の手は必要ないみたいね」
「そう、ですね……」

 今生の別れみたいな、そんな会話をしている。
 私と距離をとるということは、私たちはこの世界からの撤退を考えている以上、実際にありうる話。
 そして、私たちが撤退した以降。
 二人再会したとしても、記憶をお互いが持っているかどうかわからない。

 また出会う時に、初めましてという可能性は高い。

「すごかった、いい踊りをしていた。輝いてた」
「遅すぎますかね?」
「別に? 今もなお、行き遅れているような私みたいな人がいるからいいのよ」

 人生において遅いか早いかなどおおよそ重要ではない。
 プロになって輝きを放つ勝負師みたいな職業では話は別かもしれないが、私たちはアイドルである。

 どんな年齢でも輝けるようになると謳っている以上、私たちは遅いか早いかなどそんなことは重要視したりはしない。

 なお、彼女のパートナーである聖良ちゃんは、渋る理亞を見送りくらいはして来なさいと姉らしく忠告してくれたらしい。
 ミルクちゃんの衣装であったというのが玉に瑕だけども、そこんトコロを突っ込んでしまってもしょうがない。

 理亞はちゃんと普段通りの衣装に着替えているんですよ?
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/03(水) 04:10:24.90 ID:bdi1w2Xj0
「絵里は、これからどうするんですか?」
「気の向くままに生きることにする」
「またニートに戻るつもりですか、せっかく亜里沙さんが外の世界に連れ出してくれたのに」
「妹の手に引かれてっていうのが、姉として思うところがあるのよね、まるでリードを付けられて散歩する犬みたいじゃない?」
「あなたらしいです、どこに行くかわからない危うさがすごく心配ですが」

 ちなみに、大きなバスを用意してくれたのは誰かと言うと、ダイヤちゃんではなく鞠莉ちゃんである。
 虹ヶ咲学園の面々が修学旅行の最中すごく楽しそうな表情をしていたので、羨ましくなってしまったらしい。

 知り合いのマジックミラー号を作ってるところに提供お願いしたと言ったけれども、
 あなたはそういうネタを振るような人ではないでしょと言っておいた。

 赤毛のお嬢様がはっきりバコバスなのって言ったけど、殊勝な絢瀬絵里はあえてツッコミを入れないことにする。

「見送るというのは辛いですね、仲間を見送るというのも受け入れるのは、すごく」
「私は見送られてばかりだから、その辺りの気持ちはよくわからないけれども」

 別れが惜しいと思うのは、すごく楽しい時間を過ごしてきたからで。
 良い出会いをしたから、別れが惜しくなってしまう。

 だからこそ私たちは、別れが惜しい人生を歩んでいかなければならない。

 寂しいねと言いつつ、また会えるように言いつつ。
 別れや終わることを考えて、出会うことを忘れてしまったら、私はミイラかなんかになってしまいそう。

「またね」
「はい」

  

 
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/07(日) 17:50:51.85 ID:qZyHfiaL0
 高校時代の修学旅行を彷彿とされそうなバスの中で、
私は窓の外の景色を眺めながら無言を貫いていた。
 どうしたって口を開けば泣きそうになってしまうものだし、
 別れというのは年齢がいつになっても辛いものである。

 今度出会う機会があれば、お互いに始めましてと言ってしまう可能性すらある。

「……内浦に着くまでに、松の木が百本あったら今日も幸せ」

 松の木などどこにでも植えてあるかと思いきや、
 実はそうでもなかったりする。
 気をつけて探せばまた違った見方が出来るのかもしれないけれども、
 そんな気力が湧いてこなかったりもする。

 そんなテンションだだ下がりになった私を、他のみんなは放っておいてくれている。
 仲の良い友達同士でめちゃくちゃと喋りながら、それなりに仲の良い友人であった人たちと別れているのに、
 今まで通りのみんなを眺め――強いなと思った。

 特に記憶の戻っているAqoursのメンバーであったり、
 ツバサであったり、理亞と長い付き合いのある面々は、
 私の気持ちを特に理解しているみたいで。

 お互いに牽制し合って私の隣に来れないようにしている――
 そんな疑惑はあるのだけれども、とりあえず今は誰かと話すよりも、
 自分一人でぼーっと何もせずにいる時間が愛おしく感じる。

777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 18:36:42.81 ID:bDqWnuaX0
 しかしながら、ずっとぼーっとしていると疲れてしまうので。
 そろそろ誰かと会話したいなー、とか思っていたら。

 ふと気がつくと穂乃果が隣に座っていた。

「音もなくやってくるのって、流行ってるの?」
「気配を[ピーーー]ことができるんだよ、こんな世界繰り返してるとね」
「何それ、私もやってみたいんだけど」

 穂乃果が特別なスキルを身につけたわけではなく、私が気が付かなかったというだけの話である。
 その点に関して的確に私が突っ込みを入れることができるボケを放つ彼女は、なかなか私のことを的確に理解しているのではないか。

「ファイトだよ! ってあるじゃない」
「あるみたいだね、アニメで使用されたから私の口癖みたいになってるけど」
「バイトだよ! とか、ルートだよ! みたいな発展形をね」
「それを私にやれって? なかなか酷だよ絵里ちゃん」

 アニメに関してはお互いにいい思い出がない。
 私のキャラ付けに関してアニメが正史みたいなところがあるし、穂乃果もアニメとは違う未来に進んだものだから、
 そのギャップのせいで人から印象が違うみたいなことを言われることもあるし。

「オーバースロースリークォーターアンダースロー、あと一つは」
「サイドだよ!」
「誰でもひとり ひとりきり?」
「コートだよ!」
「安心宇宙旅行!」
「ヤットだよ!」

 ひとしきりボケを重ねつつ、穂乃果もボケを放ちつつ。

「面白かった、じゃあ、寝るね?」
「おやすみ、王様さん」
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 14:29:04.23 ID:i63Omi5a0
 十千万旅館に帰還後、早々に高海姉妹の上二人から”絵里ちゃん働いて!”
 と、有無も言わせぬお願いをされた。
 抜け殻になりたいほど意気消沈したかったのに、その暇もないまま、
 あれやこれやを言いつけられ、24時間働けますか状態。 

 ――栄養ドリンクのCMを言いつけるならぜひ私に。

 しばらく引きこもりたいので、とか言おうとした私をあざ笑うよう――
 旅館の従業員はこんなにも働いているのかと感動しそうなほど、
 そしてなにより、抜け殻になる暇もないままに働いて働いて、じっと手を見る。 

 過労死ラインという言葉をあざ笑うほど働きに働き、
 お客様からあの金髪の人以外に従業員いないの? そんなことが評判となり、
 
 孫をブラック企業に殺されたというお祖母様からしこたま優しくされ、
 理亞と別れたショックは次第に癒えつつある。

 そんなことで癒えないでくださいよ! この前電話した時に言われたけど。

 働きに働いた結果、笑みもだんだん浮かべられるようになり、
 いつものペースで罵倒されるパターンも増え、凛の料理の餌食になる機会も増えた。

 呪いは解かれたはずだけど、凛が作るのは相変わらず劇物。

 十千万旅館では調理できないので、近所の料理教室が彼女専用の調理場になっているけれど、生ゴミを放置してもカラスが出ないと評判。 

 志満さんのあだ名が鬼畜ヤンキーになる中、
 誰かに頼まれて私をこき使っているというのはなんとなくわかった。

「働くって素晴らしいわね……」

 高海千歌ちゃんが遊び行きたい! というので、
 わかった! お風呂掃除は任せて! うまく千歌ちゃんがやったようにやるから!
 と発言をしたのをすっかり忘れ、見事にテッカテカにしてしまった。
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 14:30:11.26 ID:i63Omi5a0
 しかし、千歌ちゃんも心得たもので、無理だと思いますって言ったし、
 遊び相手の亜里沙もツバサも、無理でしょって言った。

 三人でどこ行くのって聞いたら、ダイビングって答え。
 いいなあ、私も行きたいなあ! って言ったら、
 
 素潜りでもしてこいって言われた、誰が言ったのかは秘密。
 

 前の世界ではニートをしていたはずだし、アイドルとかバーテンダーとか。
 様々な業務に勤務していた記憶もある。

 とはいえ、ループを繰り返した末にこのような能力の高さを身につけたのならば、
 今までのことは何も無駄ではなかったのだと思う。

 よっちゃんが私たちからラスボスラスボスとか呼ばれているせいで、
 Aqoursのメンバーにまでラスボスって呼ばれるようになってしまったのは、
 私が悪いということで一つ。



 働かせすぎだと苦情が出た――そんな、一つも申し訳なさそうな志満さんの顔を眺め、

 部屋で謹慎みたいなことをさせていても気分が盛り上がるだけでしょ?
 だから、海未ちゃんに頼んで仕事持ってきたから。

 何をさせられるのかと思った。
 もうすでに東條希からの頼みで、彼女が本来するべき教師としての仕事を分け与えられているのに、これ以上仕事を山積みにさせるつもりか。

 とは考えてしまったけど、確かに動いていないと泣きそうになるので、
 彼女の判断は正しいと思われる。
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 14:30:41.09 ID:i63Omi5a0
「……つまり、ゴーストライター」

 暇だからという理由で真姫と一緒に作詞作曲活動をしている海未。
 
 以前までの法外なレートでは作詞活動はしていないけれども、
 泉のように歌詞が湧いてくる! 絵里とも再会できましたし!
 
 と、タッグを組んで次々と名曲を完成させていく。
 それらは下火になっているスクールアイドルの為に無償で提供された。

 しかもサンプルとしての曲は、元A-RISEの面々が歌っていて。

 匿名なものだからA-RISEが歌っているとは思っていない人たちが、
 とんでもなく上手い人が歌っている、しかも曲も素晴らしい――

 なんだか一大ブームを巻き起こしている。
 私がちょっと凹んでしまっている間に、世界が変わりつつある。

「海未も直接言えばいいのに、こんな手紙を用意するなんて」

 手紙の内容は、気分転換に作詞でもしろ、添削はします。
 みたいな感じであった。
 部屋で寝てばかりいても気分は落ち込むだけなので、
 何かをさせてもらうのは大変嬉しい。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 14:32:39.60 ID:i63Omi5a0
 しかしながらは希が私に持ち込んだ小テストの問題作成であるとか、
 他の教師が担当しなければならない課題の問題作成とか、
 私が請け負って構わないものなのか疑問だ。

 もうすでに半分以上取り組んでしまった私が言うのもなんだけど、
 部屋にいたところで寝る暇がないのはなぜだろう。



 そんなこんなで、部屋にやってくる真姫とかツバサの相手をしながら、
 私は作詞活動を続けていた。

 いつのまにか1人部屋に隔離されてしまっていた私も、
 心の傷が癒えようとしているのは感じる。

 苦しいことっていうのは時間が治療薬になるのだな、そんな感想を抱く。

 部屋にこもっていたせいか、あの金髪の人働かせ過ぎて労働局から訴えでもされたの? との風評被害も起こったせいで、やっぱり高海姉妹にはこき使われてるけど。

 あとブラック企業に孫を殺されたというお祖母様は、最近孫が結婚したらしい。
 記憶があやふやになることはよくあるからね……。
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/19(金) 19:44:13.57 ID:+IHzkB+n0
現在園田海未ルート更新中ではあるのですが、
ちょっとメンタル面の調子を崩し、これからシリアスにちょっと傾く場面を書いていけないので、
一旦この場での更新は停止します……。

絵里やツバサが虹ヶ咲学園に行くのですが、
そこで登場する優木せつ菜さんがね? あの人基本シリアスだからね?
ということで、深くお詫びします。エリちが。

なお、鹿角理亞、園田海未、両ルートは更新停止しますが、
ハーメルンの方で、西木野真姫ルートでお茶を濁そうかと。

海未ちゃんルートのアフターであり、
書きたいものを書いて、幸せな話にしてやるとか、甘ったるい話にしようと。

真姫ちゃんルートの前日譚はこの場において、
その後はハーメルンにて。
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