【シャニマスSS】甜花「シンデレラと」夏葉「サンドリヨン」

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136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 10:18:01.80 ID:6UwxXZbaO
待っとるよ
137 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:15:22.95 ID:VbCE5XXv0

照準器を覗き、息を止める。

ゆっくりと狙いを定めて、引き金を引く。

そうして発射された弾は、的のど真ん中に命中した。

銃を下ろす。

夏葉「甜花、今日も来ていたのね」

甜花「あ、夏葉さん……」

気が付くと、夏葉さんが後ろに立っていた。

甜花「うん……撃ってると、落ち着くから……」

甜花「色々と許可をくれて……ありがとう、夏葉さん……」

ここは、有栖川家管理の射撃場。

夏葉さんの家に泊まっている期間は、自由に使って良いと言われている。

夏葉「どういたしまして。言ってくれればまた、いつでも許可を取ってみるわよ?」

甜花「楽しそうだけど……」

甜花「ううん……ここに来るのは、今日までにする……」
138 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:16:10.27 ID:VbCE5XXv0

夏葉「……そうね。分かったわ」

甜花「代わりにこれ……今日、借りて行っても良いかな……?」

さっきまで使っていたエアガンを、手元でかざす。

夏葉「構わないけど……それ、何に使うの?」

甜花「エアガンを……お守り代わりに、しようかと思って……」

夏葉「納得したわ」

夏葉「ふふ、ちゃんと弾が出ないようにしておきなさいよ?」

甜花「甜花……そこは、抜かりない……」

弾を別々にして、安全装置を下ろし、銃口を布で括ってから、ガンケースに収納する。

これで完璧。

甜花「準備、できた……」

エアガンをカバンに入れて、しっかりと手に持つ。

夏葉「それじゃあ、行きましょうか。迎えの車がもう来ているわ」

甜花「うん……」

去り際に、お世話になった射撃場を振り返る。

もう二度とに来ることはない。

今日は、初回公演の日だ。
139 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:16:52.88 ID:VbCE5XXv0

車の中で、自分の手のひらを見つめる。

あの夜のベランダで、この手が重なったのはもう一週間以上前の事だ。

それなのに時折、こうして思い返してしまう。

『だって私達、結構似た者同士なんだから』

あの言葉が自分の中に、強く残っている。

甜花(『似ている』……)

似た者同士だと言われた。

似ているね、と言ってくれた。

その言葉自体は、自分にとって言われ慣れている言葉だ。

双子だから、いつも何回でも言われている。

なーちゃんと並んで、『似ているね』とよく言われてきている。

もちろん嬉しかった。

そして、嬉しいだけじゃなかった。

なーちゃんと似ているなんて、嬉しいし誇らしい。

だけど、似ているのに、と勝手に自分の心が囁いてしまう。

甜花(なのに……夏葉さんに、言われた時は……)

嬉しくはなかった。

痛くもなかった。

ただ、心に光が灯った気がした。

甜花(甜花は……)

重ねた手を握りしめる。

自分は感じていた。

あの日から、自分の中の何かが変わったのだと。
140 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:17:32.75 ID:VbCE5XXv0

P「番号」

果穂「いちっ!」

樹里「2!」

凛世「参……です……」

智代子「4だよ!」

千雪「5です♪」

甘奈「ろーく☆」

P「よし、全員揃ってるな」

P「全員、揃えられちゃったな……」

甘奈「6人のオフを合わせるの、大変じゃなかった?」

甘奈「希望した甘奈が聞くのも、アレなんだけど……」

P「何とかなって正直驚いている」

凛世「壮観で……ございます……」

P「はづきさんに助けられた結果だな。何故か本人は、社長のせいで来れなくなってしまったが……」

P「帰ったらちゃんと、お礼を言わないとな」

果穂「はい! あたしも手伝いますっ!」

P「おお、ありがとう。やっぱり果穂は偉いな!」

果穂「えへへ」

P「しかし、現役アイドル6人か。こうして見ると……」

千雪「甜花ちゃん、随分とお世話になったみたいで……」

智代子「いえいえ! 夏葉ちゃんも、ああ見えて……」

千雪「いえいえ」

智代子「いえいえ」

P(お母さん同士の会話か!)
141 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:18:28.84 ID:VbCE5XXv0

P「座席番号は……よし、ここだな」

樹里「時間ギリギリになったよな。誰かさんのせいで」

P「すまん……まさか懇意にしてるディレクターさんが居るとは思わなくて」

樹里「別に責めてるわけじゃねーよ」

智代子「でも一言いいたくなるよね。樹里ちゃん、凄い楽しみにしてるもん」

樹里「な……!」

智代子「だって凄いソワソワしてるし。さっきから時計ばっかり見てるし……」

樹里「わ、悪いかよ! アタシが楽しみにしてたら!」

樹里「『ロミオとジュリエット』の時は一緒の舞台だったし、客席から夏葉を見るの初めてなんだよ」

甘奈「……」

樹里「だから、楽しみ! それだけだ!」

智代子「あはは、ごめんごめん」

樹里「……それに、アタシよりも楽しみにしてる奴が居るだろ」

智代子「あ、うん。プロデューサーさんだね」

P「俺?」

樹里「そうだよ。さっき6人のオフって言ったけど、本当は7人だよな」

智代子「今日はプロデューサーさんもオフなんですよね? スーツ着てますけど」

P「誰かが情報漏洩をしてくれているようだな」

樹里「社長から聞いたんだよ。オフ取るのが珍しい、なんて言ってたぜ」

樹里「だから……プロデューサーも、楽しみにしてるんだよな?」

P「楽しみ……」

智代子「プロデューサーさん?」

P「……ああ、そうだな。多分そうだ」

P「ここに来るのを、俺はずっと楽しみにしていたよ」
142 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:19:18.47 ID:VbCE5XXv0

夏葉「もうすぐね」

甜花「うん……」

袖から舞台の上を眺める。

点いている照明は最低限で、目の前には大きな薄暗い空間が広がっていた。

観客席の方は幕が掛けられていて、見る事が出来ない。

夏葉「甜花って、意外と肝が座っているわよね」

夏葉「きちんと受け応えが出来ているし、落ち着いている様に見えるわ」

甜花「緊張して……何していいのか、分からないだけ……」

心臓が有り得ない速度で脈打っている。

気を抜けば足が震えてしまうことは確実だ。

ただ良い点としては、緊張のしすぎで逆に滑らかに喋れている気がする。

少なくとも、言葉をかむ気はまるでしない。

夏葉「緊張しても動揺せず。良い事じゃない」

甜花「ポジティブシンキング……夏葉さん、いつも通り……」

夏葉「私の場合は、これが2回目の初回公演だからね。平静を保つ事くらいは出来るわ」

夏葉「これでも一応、緊張はしているのよ?」

夏葉さんが髪をかきあげる。

全然緊張している様には見えないが、夏葉さんが言うならそうなのだろう。

『開幕まで後5分です』

伝令が飛ぶ。

甜花「夏葉さんは……前の公演の時も、そんな感じでいられたの……?」

夏葉「前は……そうね。樹里に緊張を悟られたくなくて、必死に隠していたわ」

甜花「うまく、隠せてた……?」

夏葉「樹里も緊張を隠そうとしてバレバレだったから、きっと私も同じね」

夏葉「今よりずっとずっと緊張していたわ。初めてだったから」

『開幕まで後4分です』
143 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:20:02.18 ID:VbCE5XXv0

夏葉「その靴は、もう慣れたかしら?」

自分の履いている靴を、夏葉さんが指差す。

自分と夏葉さんの間にある、9cmの身長差。

双子設定の為に、その9cm差を埋める厚底の靴だ。

シンデレラとサンドリヨンが、同時に舞台に居るシーンでは、これを履かなければならない。

甜花「うん……もう、違和感ないよ……」

最初の頃は、この靴のせいで転んでばかりだった。

だけど今は躓く事すら無くなった。

夏葉「今のアナタの演技力なら……」

夏葉「私としては、無くても誤魔化せると思うのだけど」

甜花「でも……まだ、必要だよ……」

夏葉「……まだ……」

夏葉「そうね。甜花が言うなら、そうよね」

『開幕まで後3分です』

3度目の伝令が来て、最後の照明が落ちる。

見えるのは目印である蛍光テープのみ。

心臓の鼓動が、さらに速度を増していく。
144 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:20:41.93 ID:VbCE5XXv0

会話は続く。

身体中の熱は、静まる気配すらない。

夏葉「アナタの演技、上手になった」

夏葉「公園の時から上手だったけど、さらに磨きがかかっているわ」

甜花「そう……かな……?」

夏葉「ええ。通し稽古の時なんて、ビックリして目が離せなかったもの」

演技が上達してる自覚は無い。

だけど、思い当たる心境の変化はある。

甜花「それは、多分……」

甜花「サンドリヨンが、なーちゃんじゃないって分かったから……」

甜花「サンドリヨンは……甜花と地続きだって、分かったから……」

夏葉「なら甜花は、サンドリヨンみたいになりたい?」

なりたいもの。

夏葉さんに、劇団で初めて会った時にされた質問だ。

何のために舞台に上がるのか。

それは期待に応えたいから。

その日の夜に、そう見つけた。

舞台の先に何を見て、何になりたいのか。

その日には、それは分からなかった。

甜花「ううん……甜花がなりたいのは、サンドリヨンじゃないよ……」

だけど今は、不確かながらも、そう答えられる。

『開幕まで後2分です』

心臓を強く握りしめた。
145 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:21:33.38 ID:VbCE5XXv0

会話を切り上げる。

4度目の伝令は、移動開始の合図でもあった。

最初のシーンの為に、定位置に着いておかなければならない。

甜花(ここ……)

音を立てない様に気をつけながら、目印を頼りに辿り着いた。

少ししか歩いていないのに、わずかに息が切れている。

夏葉さんが舞台の中心に立っている。

その夏葉さんから見て、自分は3メートルほど右に立ち、半歩下がる。

夏葉さんを挟んで自分と反対側、その舞台端に、継母役と二人の義姉役が既に待機していた。

甜花(もうすぐ、だよね……)

もう伝令はない。

幕が上がる10秒前に、開演のブザーが鳴るだけ。

甜花(夏葉さんは……)

舞台の中心を見る。

夏葉さんが自分の方を向いてた。

暗くとも、夏葉さんが頷いてくれたのが分かった。

だから、自分も頷き返しておく。

甜花(あ……れ……?)

そこで気づいた。

この瞬間に感じている緊張が、今までのモノとまるで質が違う事に。
146 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:22:17.70 ID:VbCE5XXv0

それに気づくや否や、開演のブザーが鳴る。

幕が上がった。

そして、夏葉さんなスポットライトが当たる。

『昔々、シンデレラという美しい娘がおりました』

ナレーションが入る。

夏葉さんはシンデレラとして、自らの手を握り合っていた。

祈りのポーズだ。

セリフはまだ無い。

『シンデレラは、意地悪な継母と義姉達と共に暮らしております』

ナレーションに合わせて、スポットライトが登場人物に当てられていく。

継母、二人の義理の姉、そして

『ですがシンデレラは、自分が不幸のドン底に居るとは思いません』

サンドリヨン。

『シンデレラには、双子の姉であるサンドリヨンがいたからです』

自分の姿が、明るく照らし出された。
147 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:23:36.37 ID:VbCE5XXv0

眩しい。

明るすぎて、未だに観客席は見えていない。

緊張が頂点に達している。

叫び出しそうになるくらいに心臓が熱い。

しかし不思議と気持ち悪さは感じていなかった。

今まで感じていた緊張は、心臓が熱くなるだけ。

体は冷たいままで、肺も脳も縮みあがっていた。

やめておけと、冷たく自分に囁いてきていた。

今は違う。

肺も、頭も、筋肉も暖かい。

爪先の一片に至るまで、全てが温まっている。

熱を持って、動き出せと叫んでいる。

甜花(これなら……大丈夫……)

甜花(『大丈夫よ、大丈夫』……)

自分で言って、言ってもらったセリフを噛みしめる。

それは時間にして、一瞬にも満たない思考だったのだろう。

自分の体は、自然と演技を開始した。

甜花「『……』」

やはりセリフはない。

シンデレラに笑いかけるだけ。

その動きのみに集中していて、もう舞台の上しか認識できない。

もうシンデレラしか見えていない。
148 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:25:53.18 ID:VbCE5XXv0

夏葉「『サンドリヨン!』」

シンデレラが姉に呼びかける。

最初の言葉を口にする。

夏葉「『サンドリヨン! サンドリヨン! ねえったら……!』」

甜花「『なあに、シンデレラ?』」

自分の口から、半ば自動的に言葉が出てきた。

サンドリヨンが勝手に喋りだしたように。

甜花「『あらシンデレラ。また汚れているじゃない』」

夏葉「『あ、これは上のお姉様に掃除を頼まれて……』」

甜花「『ジッとしてなさいな。はたいて上げるから』」

脳内鏡を作り出す必要はない。

腹式呼吸を意識する必要もない。

もうそうしなくとも、最適な演技が可能になっていた。

甜花「『綺麗になったわ』」

夏葉「『あ、ありがとう。サンドリヨン』」

甜花「『それじゃあ、行きましょうか』」

夏葉「『ええ! 今日はワルツを教えてね!』」

甜花「『もちろん。約束だものね』」

シンデレラの手を取る。

そこで余計な事が脳裏によぎる。

演技の初日に夏葉さんの手を取れなかった事、学園ドラマのエキストラの事。

それらが浮かんできては、薄れて消えていく。

演技に影響する事なく、ぼやけて霞んでいった。

甜花「『ああ……今日も明日も、楽しくなりそうね』」

自分は今、演じられているという確信を持てている。
149 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:27:01.82 ID:VbCE5XXv0

……

甜花「『私はこれから姉様たちに、舞踏会用の服を見たてなくちゃいけないから……』」

義姉1役「『そうよ。貴方、服飾を見繕う腕だけは確かだもの』」

甜花「『そう言うわけだから……ごめんなさい、シンデレラ』」

夏葉「『あ、待って!』」

夏葉「『待って……! サンドリヨン……!』」

……



甜花「ふぅ……」

控え室で一息つく。

この後は舞踏会の初日のシーンになる。

自分の出番はしばらくないので、こうして休息に励んでいるのだ。

とはいえ備え付けのモニターで、舞台の進行はしっかりと確認している。

気は抜いていない。

主人公の夏葉さんは出突っ張りだ。

小道具「お疲れ様、甜花ちゃん。飴ちゃんいる?」

甜花「お疲れ様……です……」

甜花「飴ちゃんは……大丈夫、です……」

甘い物を口にしたら緊張が途切れてしまいそうなので、申し訳ないと思いつつも断っておく。

小道具さんが向かい席に座った。

小道具「さっきの演技、とっても良かったわ。通し練習の時よりもずっとね」

小道具「ひょっとして、通しの時は手を抜いてた?」

小道具「なーんて……」
150 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:27:42.52 ID:VbCE5XXv0

甜花「え……? あ、えっと……!」

甜花「甜花、そんなことしてない……です……!」

小道具「分かってる分かってる。ゴメンね、冗談よ」

甜花「あ……はい……」

小道具「それほど、上達してたって事よ」

甜花「そう……なのかな……」

練習の時の演技と、さっきの演技を比べてみる。

思い当たる節はあった。

甜花「確かに……声もスッと出せてたし……感情も乗せられてた……と思う……」

甜花「あ、でも……動きはちょっと先走っちゃった部分が……」

良くなった部分も多かったが、逆に不安になった部分も少しあった。

小道具「へぇ……」

小道具さんが目を細める。

甜花「甜花……変なこと、言ったかな……?」

小道具「ううん、そんな事ないよ。それはそうと……」

小道具「甜花ちゃん、大道具さん見てない?」

甜花「大道具さん……?」

小道具「ずっと探してるんだけど、見当たらないのよ。昨日までは、間違いなく居たらしいんだけど」

小道具「あの人もベテランだから。何かあった時を考えると、居てくれないと不安で……」

甜花「甜花、分からない……ごめんなさい……」

考えてみると、自分も朝から大道具さんの姿を一度も見ていない。

小道具「特に連絡ないし……というか、連絡も何故かつかないし」

小道具「それなのに、演出家さんは探さなくて良いって言うし……もう訳が分からないのよ」
151 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:28:30.65 ID:VbCE5XXv0

甜花「あの……」

小道具「あ、何か知ってるの?」

甜花「そういうわけじゃないけど……」

甜花「甜花、何か手伝えること……ないかな……?」

小道具「まあ……」

小道具さんは目を丸くしてから、再び先程の様に目を細めた。

小道具「気持ちだけ受け取っておくわね」

小道具「本番が始まった以上は、演者さんに裏方の手伝いなんてさせられないわ」

甜花「そう……?」

小道具「極力ね。甜花ちゃんには、演技に集中してもらいたいから」

小道具さんが席を立つ。

小道具「もう一度電話してみて、他の所も探してくるわね」

そして、去り際に言う。

小道具「甜花ちゃん、変わったわね」

小道具「何というか……視野が広くなって、遠くまで見えてる」

小道具「そんな感じよ」

聞き返そうとした時には、もう部屋を退出していた。

甜花(遠く……? それに『変わった』って……)

変わった。

変わりたい。

それは、自分が願い続けてきた事で。

甜花(……あ……)

ようやく自分は、あの夜に起きた自分の変化を自覚した。

夏葉さんの言葉で、自分に宿った物が分かったのだ。
152 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:29:08.54 ID:VbCE5XXv0
……

甜花「『このガラスの靴を持って、湖のほとりに行けば……いいのね』」

甜花「『そして私が、代わりに舞踏会に……』」

甜花「『代わり……シンデレラの、代わりに……? 本当に……?』」

甜花「『いいえ、嘘よ……本当は、本当に私がしたいのは……』」

甜花「『それは……』」

……



一度、幕が降りた。

舞台も折り返し地点に差し掛かり、これから20分の休憩に入る。

甜花「夏葉さん、もう幕は降りたよ……」

夏葉「分かっているわ。ありがとう」

夏葉さんがベッドの中から、静かな動きで出てくる。

先程のシーンでは、シンデレラは眠っていた。

夏葉「今のところは順調ね」

甜花「うん……」

夏葉「お互い集中できているみたいで、何よりだわ」

小声で話す。

幕が掛かっていて、観客席は休憩時間で騒がしくなっている。

とはいえ、音が漏れるのは余りよろしくない。

甜花「あ、そうだ……夏葉さん……」

観客席の事を考えていたせいか、気になる事ができた。

甜花「夏葉さんは……観客席って、見えてる……?」

甜花「甜花は、全然見る余裕なくて……」
153 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:29:51.88 ID:VbCE5XXv0

夏葉「いえ、私もよ。舞台の事で手一杯ね。どうして?」

甜花「なーちゃんと千雪さん……来てくれてるから、どの辺りにいるのか気になって……」

夏葉「そうだったの。アルストロメリアの二人も来ているのね」

甜花「も……?」

夏葉「放クラの残りメンバーも来ているのよ」

甜花「プロデューサーさんも来てるから……ユニットのみんなは、全員集合だね……」

夏葉「事務所の半数が来ているって、結構なことよね」

夏葉「……悪い気はしないわ」

甜花「うん……」

夏葉「だから、もっと集中ね。そっちの方が大切よ。無理して見るものでもないし」

甜花「今日は、甜花達が見られる側……だもんね……」

舞台の上の自分を見せると、なーちゃんに約束した。

プロデューサーさんと、千雪さんの期待に応えると決めた。

今のところは手応えがある。

自分はよくやれていると、そう感じられている。

甜花(このまま、続けられれば……)

やっと3人にも、感謝を返せるかもしれない。

自分自身に期待してしまう。

期待して、自分の中から不安が溢れ出した。

甜花(劇場の裏で、夏葉さんと会った時も……)

甜花(その直前は……自分に、期待してたよね……)

自分自身に期待して裏切られる。

そんな経験を、幾度となく繰り返してきた事を思い出してしまう。

ふと、祭囃子が聞こえた気がした。
154 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:30:34.65 ID:VbCE5XXv0

夏葉「これ……」

否、劇場の中で祭囃子など聞こえるはずがない。

聞こえたのは、練習中に何度か聞いた効果音だった。

ピンポンパンポンというアナウンス音。

甜花「館内放送……?」

夏葉「そのようね」

頭上を見上げる。

ラストシーンのための仕掛けが見えた。

『本日は当劇団に起こし頂き、誠に有難うございます』

『お客様にお知らせ致します。予定では15時10分から、劇の再開となっておりますが……』

『劇団側の都合により、再開を20分遅らせた15時30分からとさせて頂きます。15時30分からの再開とさせて頂きます』

『大変申し訳ありません。繰り返します……』

夏葉「休憩時間の延長ね。トラブルかしら?」

甜花「あ……」

夏葉「何か心当たりがあるの、甜花?」

甜花「ひょっとしたら、だけど……大道具さんが……」

小道具さんから聞いたことを伝える。

大道具さんの姿が見つからない事。

演出家さんが探さなくても良いと言った事。

夏葉さんの顔が、みるみる曇っていくのが分かった。

夏葉「……行きましょう、演出家さんの所に」

苦々しく、夏葉さんが言う。

自分の中で何故だか、幼い日の縁日の思い出が蘇っていた。
155 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:31:13.63 ID:VbCE5XXv0

夏葉「ラストシーンの演出が出来なくなった……?」

小道具「そうなの、そうなのよ……」

ミーティング室は重苦しい雰囲気に包まれていた。

夏葉さんは、憤りを隠せていない。

小道具さんは泣きそうな顔でオロオロしている。

他の人達は、その二人のどちらかに近い表情をしていたか、もしくは悔しそうに俯いていた。

自分は……分からない。

小道具「そ、その……気づいたらこうなってて……! 昨日までは、ちゃんとしてたのに……!」

机の上に置かれているのは、粉々に砕かれた手の平サイズの装置。

ラストシーンの仕掛け、その内側バルーンを割るためのスイッチだ。

演出家「破壊された上に丁寧に水にまで浸してある。それに加えて、巧妙に隠されていた」

演出家「今から修理するのは不可能。仕掛けを作動させるのも不可能だ」

演出家「よってラストシーンは、煙の演出は無しで行う」

義姉2役「そんな……!」

役者の一部が悲痛な叫びをあげる。

同じ気持ちだ。

それ以上の気持ちだ。

自分はシンデレラに、自分自身を重ねていた。

ラストシーンは、そのシンデレラが信念を得て、ガラスの靴を返す大事なシーンだ。

王宮に行く道を諦めて、姉との再会を願い、歩き始める為のシーンだ。

シンデレラが歩き始めれば、自分だって歩き出せる気がしているのだ。

だから、そのシーンが完璧に行われないのは、我が身が裂ける様に思えてしまう。
156 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:32:12.45 ID:VbCE5XXv0

小道具「……装置の管理は、大道具さんの管轄でした」

小道具「あの人の姿が見えない以上……誰がこれをやったのかは、もう明白です」

小道具「そして演出家さんは……あの人を探すなと言いました……」

演出家「……そうだな」

小道具さんの目に暗い光が宿る。

小道具「アナタは知っていた……! 大道具さんが何かをするかもって……! こういう事をする人だって……!」

小道具「何で止めてくれなかったんですか!? 何で防げなかったんですか!?」

小道具「何で……! 何で……!!」

演出家さんに非難の目が向けられる。

自分もそうすべきかは、やはり分からない。

演出家「小道具の言う通り。全責任は俺にある。どんな非難も罰も受けよう」

演出家「だが舞台は舞台だ。何がしらかの完結に、必ず着地させなくてはならない」

演出家「それなら、お前達はどうしたい?」

演出家「どうすべきだと……思うんだ?」

演出家さんが、指針についての意見を求めるのは珍しいと思った。

この人なりに動揺しているのか、罪の意識を感じているのか……

その辺りの事は、今は関係ない事かもしれないけど、それも分からない。

甜花(……寒い、よ……)

体が冷えていくのを感じる。

この状況下において、どうしたいのか。

あるいは、どうするべきなのか、どうすればいいのか、何一つ分からない。

思考が混沌に沈んでいき、熱が失われていく。

前にもあった、分からないづくしだ。

自分には何も分からない。

何も、できない。

甜花(……助けて、なー……)
157 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:32:46.79 ID:VbCE5XXv0

『なにごとも最初は一つずつ』

混沌とした思考の中で、その言葉が最初に煌めいた。

『どんなに複雑に見える問題も、そうすれば必ず解決できるものよ』

夏葉さんの言葉だ。

それに呼応して、いくつもの言葉が蘇る。

『楽しむこと、忘れちゃダメですよ?』

この舞台は楽しい、自分は楽しんでる。

『甘奈が見てみたいのは、舞台の上の綺麗な甜花ちゃん』

『だから……ダメ、かな?』

なーちゃんとの約束がある。

『だが、今回ばかりは何とかするよ。それでどうだ?』

『期待してくれるなら、応えたいって……今は、そう思えるよ』

『遠くまで見えてる。そんな感じよ』

期待に応えたいという気持ちがあって。

今はその先の、遠くまで見えて来ている。

なら、どうしたい?

『甜花も……このラストシーンは、好き……』

『私もよ』

自分は、ラストシーンをやり通したい。

なら、どうするべき?

『そうなったら、頑張る……』

『歯を食いしばって、足を地に踏ん張って、前を向いて立っていられるのなら……』

『甜花も……そう、なれるのかな……』

自分にできることを、全力でやるべきだ。

なら、どうすればいい?
158 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:33:35.56 ID:VbCE5XXv0
『外側バルーンには半径50ミリの穴が、既に等間隔で開けられています』

『内側バルーンの一箇所にでも穴が開けばいいからな。簡単な仕事だ』

『……甜花、本当に何もしなくていいのかな?』

『仕方がないわよ。割り振りが決まったのは、代役を探してる時期だったから』

『裏側……? あ……』

『言い方が悪くなるけど、ハリボテみたいな物ね』

『アナタの射撃精度には及ばないわ』

『エアガンを……お守り代わりに、しようかと思って……』

ピースが順番に埋まっていく。

敷き詰められて、一枚の風景を描き出す。

それは、あの日の縁日だった。

幼いなーちゃんが自分の手を引いて、屋台の奥にある宝物を指差す。

そして言うのだ。

だからその前に、もう一度だけ自分に問おう。

それなら自分は、どうすればいい?

『あまなもね。あれがほしいの』

『だから、うって! あれにあてて、てんかちゃん!』



思考はクリアに。

視界は現実に戻って来た。

もう迷う必要はない。

自分はなーちゃんに、最高の舞台を見せるのだ。

甜花「甜花になら……」

甜花「甜花になら、出来ることがあります!」
159 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:34:18.07 ID:VbCE5XXv0

王子役「現実的じゃない! セットの裏に隠れておいて、エアガンで穴を開けるなんて馬鹿げている!」

王子役「隠れるのは……まぁ、多分可能だろうとは思うよ」

王子役「だけど問題は射撃の方だ! 当たる保証はない! 当たったとして割れる保証は、もっと無いだろ!」

夏葉「当たるわ」

王子役「へ……?」

夏葉「命中に関しては、私が保証します。何を賭けたっていいです」

継母役「彼女の射撃精度は、プロ級だとも?」

夏葉「そう言うわけでは無いけれど……一定水準以上の腕はあります」

夏葉「今の彼女なら、必ず当てられます。そう私は信じています」

継母「つまり……精神論?」

夏葉「ええ」

夏葉「割れるかどうかに関しては……注入する煙の量を想定より多く、設計ギリギリにすれば割れ易くなると思います」

夏葉「バルーン自体をパンパンにするんです」

演出家「それは可能か、小道具?」

小道具「え……? え、ええ! 恐らく可能です。計算し直してみないことには確実には言えませんが……」

小道具「スモークマシンの遠隔操作機器は、壊されていませんから!」

演出家「だが……煙の量を増やせば、予期せぬタイミングで割れる事もある」

小道具「……あ」

演出家「関係ない場面で煙が出て仕舞えば、舞台は続行不可能。その時点で中止だ」

演出家「つまり、70点の舞台で満足するか、0点の可能性を孕みながら100点を目指すかだ」

演出家さんが、周囲に目で問いかける。

王子役「そりゃあ出来ることなら、100点狙いたいですよ! 俺だって!」

義姉2役「私もそう。でも……」

そこにいる全員が口々同じことを言い、そして自分に目を向ける。

博打だと判明して、それをうつ本人である自分に、意見を求めていた。
160 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:34:55.21 ID:VbCE5XXv0

演出家「総意は決まった。後はお前さんの意見次第だ」

演出家「お前さんが、やりたいかどうかだ」

一段と、視線が強まった気がした。

そう問われて、縮んで俯くような仕草をする。

それは、最近気づいた自分の癖だ。

落ち込んだ時、辛くなった時、右腕を左腕で隠すような体勢を取ってしまう。

だけど今は違う。

この動作は、右腕が左腕の裏側に触れる。

少しだけ膨れた、左腕の腕橈骨筋に触れるのだ。

ほんのちょっぴりだけの筋トレの成果が、自分の努力を思い出させてくれる。

努力を始めた時の想いを、胸の内に蘇らせてくれる。

それが力をくれる。

失敗する事への恐れに対する力を。

自分の判断によって、不幸になってしまう事への怖さに対する力を。

そこに宿った想いが、恐怖と共にある勇気を与えてくれるのだ。

『問題は、甜花がやりたいかどうかだ』

最後に、プロデューサーさんの言葉が輝いた。

腕橈骨筋から右腕を離す。

そして、力強く頷いた。
161 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:35:36.24 ID:VbCE5XXv0

P「あれ、まだ始まっていないのか?」

凛世「はい……休憩時間を20分の延長する……とのことです」

樹里「館内全体でかかってたみてーだぞ。聞いてないのか?」

P「いや、取引先と電話したり、さっきのディレクターの話し相手になってたりしたから……」

智代子「プロデューサーさん、一応オフなんですよね……?」

P「そうだが……いや、今は俺の事はどうでもいい」

P「それより延長の事だ。何が理由わ言ってなかったか?」

凛世「それは……ただ『劇団側の都合』とだけ……」

P(トラブルか。それも、かなり偶発的な)

P(……)

凛世「プロデューサー……さま……?」

智代子「プ、プロデューサーさんが……珍しく怖い顔してる……!」

P「……え、そうだったか? すまん、意識してやったわけじゃないんだ。ごめんな」

智代子「い、いえ……大丈夫です、はい」

P「とにかく事情を聞いてくるよ。あの二人のプロデューサーだから、関係者証はあるしな」

P「それじゃあ行ってくる。ああ、それと……」

P「多分時間までには戻れないから、俺の事は気にせず鑑賞していてくれ」
162 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:36:35.85 ID:VbCE5XXv0

舞台が再開されている。

サンドリヨンは魔法をかけられて、舞踏会におもむいた。

夢の様な一時を過ごし、名前を問われるという責め苦を受けて、家に帰還した。

そして今はもう、サンドリヨンという意味でのラストシーン。

シンデレラに責められて、ガラスの靴を返して、彼女から離れていくシーン。

このシーンが終われば自分は、この劇の裏側での戦いに挑まなければならない。

その為に、このラストシーンの最後の最後を全力で演じるのだ。



甜花「『最後に……これ、返すわね』」

ガラスの靴を差し出す。

これは、シンデレラに置いていかれたくなかった彼女が、自分の為に持ち出したもの。

だから感情は悲痛に。

甜花「『それを……大事に持っておいて』」

それは、シンデレラの幸せのために、彼女の元に返そうとしているもの。

だから、悲痛さを必死に取り繕う様な表情で。

だけどそんな事は、まだシンデレラには分からない。

シンデレラは、声を上げるしかない。

夏葉「『貴女は……』」

夏葉「『貴女は……!』」

サンドリヨンに、悲しみをぶつけるしかないのだ。
163 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:37:16.72 ID:VbCE5XXv0

シンデレラが叫ぶ。

夏葉「『貴女は、何がしたいの……!?』」

ガラスの靴を使って、シンデレラに王宮で幸せになって欲しいと思う。

これは、サンドリヨンの気持ち。

サンドリヨンは、シンデレラの言葉に黙っているしかない。

夏葉「『貴女は何がしたかったの……!?』」

大好きな家族とずっと一緒に居たい。

ずっと一緒に居たかった。

これは、自分とサンドリヨンの気持ち。

夏葉「『貴女は……! サンドリヨンは……!』」

夏葉「『私は……! 私は、ただ……私は……』」

シンデレラが泣き崩れる。

それをサンドリヨンが抱き止める。

そして、別れの言葉を告げる。

大好きな家族に、最後の言葉を告げる。

甜花「『……ごめんなさい、さようなら』」

これは、サンドリヨンの言葉。

甜花「『……ずっとずっと、ありがとう』」

これは、自分とサンドリヨンの言葉。

でも自分は、なーちゃんに別れの言葉なんて言えない。

だから自分は、サンドリヨンになりたいわけじゃない。

同じなのは、大好きな人達と一緒に居たい事。

その為に必要な願い事は、もう分かっている。

自分がなりたいものは、もう見つけてある。

そうして、自分のラストシーンが終わった。
164 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:39:03.31 ID:VbCE5XXv0

私服に着替えて、控室を飛び出す。

舞台のラストシーンがもうすぐ始まる。

その前に裏口から入って、セットの裏側に隠れていなくてはならない。

エアガンはあらかじめ、セットの裏側に置いてある。

弾も既に装填済み。

後は自分がそこに行くだけで良い。

辿り着くだけで良い。

だと言うのに。

その道を塞ぐかの様にして、人が立っていた。

それは、プロデューサーさん。

プロデューサーさんが、まるで最後の敵の様に、その場所に仁王立ちしていたのだ。

P「事情は聞いた」

P「それで俺は、甜花を止めに来たんだよ」

P「俺は283のプロデューサーとして、甜花を止めなくちゃいけない」

P「このまま甜花を……この先に、進ませるわけには行かないんだ」

明確な意思を持つ壁が立ち塞がる。

プロデューサーさんのことだ。

それはきっと、自分の為なのだろう。

だけど、自分は撃つと決めた。

プロデューサーさんが何を言おうと、自分が撃たなくてはいけない。

だったら、この壁を超える以外にはないのだ。
165 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:39:46.05 ID:VbCE5XXv0

P「単刀直入に言う」

P「エアガンは、俺が代わりに撃つ」

P「甜花が撃つ必然性はない。この劇団の人間の尻拭いを、甜花がする必要は無い」

おそらく、正論なのだろう。

最後の仕掛けの不備について、自分には責任はないはずだ。

甜花「甜花じゃ……当てられないと、思ってるの……?」

話題をわざと誤魔化す。

しかしそれは、無意味に終わった。

P「そういう話をしているんじゃない。個人としては、甜花を信じているよ」

P「だけど組織に属する人間としては、リスクを考慮しない訳にはいかない」

P「それを止めないという選択肢は無い」

甜花「で、でも……甜花がちゃんと当てれば……」

P「話が変わっていないが……リスクを度外視しても、許可はできない」

P「メリットがない。甜花が撃って当てたとして、得るものが無い。せいぜい劇団の人間に褒められるくらいだ」

P「はっきり言ってしまえば……甜花がやろうとしているのは、名誉なき戦いだよ」

甜花「あう……」

正論の、たったの二発でKOされてしまう。

つくづく自分の口下手さが恨めしい。

かと言って、プロデューサーさんの言葉には従えない。

だけど言い返す事が出来なくなって、プロデューサーを見つめている事しか出来ない。
166 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:40:26.46 ID:VbCE5XXv0

視線をぶつけ合うこと数秒ほど、プロデューサーが先に目を逸らした。

P「やっぱり甜花は……意外と肝が据わってるんだよな」

甜花「そ、それじゃあ……」

P「それとこれは話が別だ。リスクとリターンが釣り合ってない以上は、許可できない」

甜花「そう……だよね……」

P「……だから、リターンを示してくれ」

甜花「え……?」

P「単純な話だよ。甜花か撃つ事で得られるものを、俺に教えて欲しい」

P「甜花の言葉で、俺を説得して欲しいんだ」

P「そうしたら……俺は、喜んでこの道を譲るさ」

プロデューサーさんがニコリと笑う。

その表情は、坂の上で子供が登り切るのを待つ親の様な、そんな柔らかさを持っていた。

不意に、涙が溢れてくる。

自分はきっと誰よりも、周囲の人にだけは恵まれていたのだろう。

こんな自分だけど。

周り人達が暖かかったからこそ、自分は今ここで、腐らずにいられるのだ。

甜花(ちゃんと……言葉に、しなきゃ……)

甜花(それで……これからは甜花の……自分だけの、力で……)

自分は口下手だ。

それでも、言葉が必要な時はある。

言葉はいつだって、誰かを変えてくれるものだから。

自分を変えてくれた言葉で、目の前の壁を越えてみせる。

その為に必要な言葉は、自分の心に火を灯してくれた、あの言葉だ。

自分の中に一杯あった言葉達に、意味を見出させてくれた、あの言葉だ。

今あの言葉に、想いをありったけ乗せて。
167 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:41:08.81 ID:VbCE5XXv0

甜花「甜花ね……『似ているね』って、言われたんだ……」

甜花「夏葉さんが、甜花にね……『似ているね』って言ってくれたんだ……」

声が震える。

甜花「おかしい、よね……? 夏葉さんとは双子じゃないし……性格だって、全然違うし……」

甜花「好きな本も知らないし……趣味だって、きっと合っていないのに……それなのに……」

甜花「夏葉さんは『似ているね』って……こんな甜花に……そう、言ってくれたんだ……」

甜花「確信を持って……迷う事もなくて……『似ているね』って……!」

甜花「ちゃんと……『似ているね』って……甜花に、そう……言ってくれたよ……!」

重なった手の平を、心臓に当てる。

そうして心臓を握りしめる。
168 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:42:21.27 ID:VbCE5XXv0

甜花「それが不思議で……甜花ね、たくさん考えたよ……」

甜花「そうしたら……思えたんだ……」

甜花「自分の中にあるものを……ちょっとぐらいは、信じて良いのかもって……」

声の震えは上ずりに変わった。

でも止まらない。

言葉が溢れてくる。

甜花「それで……ちょっとだけ信じてみたらね……」

甜花「すぐに……願い事が、できたよ……」

甜花「そして、甜花がなりたいもの……ちゃんと、見つけられた……」

甜花「やっと……やっと、見つけられたよ……!」

鼻をすすり、より強く心臓を握りしめる。

ここから先は決意表明だ。

それは、確かな声で言わなくてはならない。

甜花「だから……! 甜花は、もう逃げない……!」

甜花「きっと、甜花が撃たなくちゃダメ……!」

甜花「だって、甜花の願い事は……!」

甜花「甜花が、なりたい甜花は──!!」

俯きがちで言ってしまったけど、それでも言葉にした。

しっかりと宣言した。

プロデューサーさんの、息を飲む音が聞こえる。
169 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:43:04.92 ID:VbCE5XXv0

P「それは、ささいで……ちっぽけな願い事だ」

甜花「うん……甜花も、そう思う……」

P「ありふれていて……だからこそ、誰もが心のどこかで願っていて……尊くて……」

P「それでいて……とても、難しい願いだ」

甜花「……強く、なるよ」

P「甜花……?」

甜花「なりたいもの、やっと分かったから……目指す場所が分かったから……それなら……」

甜花「甜花だって、強くなれるよ」

P「……甜花、お前は……」

甜花「……でも、甜花はまだ弱いから……」

甜花「これからもきっと、たくさん転んで……たくさん泣くと思う……」

甜花「だから見守ってて、プロデューサーさん」

甜花「見てくれてる人が居たら、甜花は何度だって、立ち上がるから……」

甜花「そして立ち上がったら……これからは、自分の足だけで歩いていけるから……」

なーちゃん、パパ、ママ、千雪さん、プロデューサーさん……

立ち上がる力はいつだって、周りの人が与えてくれていた。

そこから歩み出す勇気は、夏葉さんがくれた。

だからここから先は、自分の力で歩いていく番だ。
170 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:43:40.00 ID:VbCE5XXv0

P「ああ。ああ……」

P「分かったよ。ちゃんと見てる。見守ってる」

P「甜花がトップアイドルになる日まで、ちゃんと側に居るさ」

甜花「トップ、アイドル……?」

P「ああ、トップアイドルだ」

甜花「そう、だよね……甜花だって、目指していいんだよね……」

甜花「トップアイドル」

P「ははは、当たり前だろ」

プロデューサーさんが拳を突き出す。

包み込む手の平からは、もう卒業だ。

P「その願い事じゃ、甜花が撃たないわけにはいかないよな」

P「よし。行って来い、甜花」

拳の先だけを軽くぶつけ合う。

そして笑う。

甜花「行ってくるね、プロデューサーさん」

一言だけ告げる。

それから振り向いて、駆け出した。
171 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:44:10.93 ID:VbCE5XXv0

王子役「あれ、Pさん? こんな所で何してるんすか?」

P「……」

P「曰く、『この世は舞台なり──誰もがそこでは、一役演じなくてはならぬ』」

王子役「シェイクスピアっすね」

P「ああ。そして俺たち役者にとって、いつだって舞台は戦場だ」

王子役「……? 急に、どうしたんです?」

P「いや、な……」

P「あいつは、演じるべき舞台と役を、自分の意思で選べるようになったんだな、って……」

P「そう、思ったんだよ」

P「それだけさ」
172 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:44:48.71 ID:VbCE5XXv0

セットの裏側は冷たくて暗かった。

同じステージの上、演劇のラストシーンは進んでいく。

そこではきっと、名誉と称賛に満ちているのだろう。

夏葉「『私は姉の心を見つけたのです。自分のすべき事を見つけたのです』」

置いてあったエアガンを拾う。

それは朝に撃った時より重く感じられた。

老婆「『だからガラスの靴を返すと? それがあれば、不自由のない世界に行けるというのに』」

老婆「『それが無ければ、灰にまみれるだけの生活に戻るだけだと言うのに』」

壁を隔てただけのステージが、とても遠く感じた。

それでいて、遠く離れたこの場所が、今の自分には丁度いいと感じる。

それも当然だ。

だって自分は誇りも自信も、まだ持ててはいないのだから。

夏葉『それは……違います』
173 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:45:25.28 ID:VbCE5XXv0

サンドリヨンが演じられるようになった。

遠くのマトに当てられるようになった。

それは嬉しいことだ。

少しずつ先に進めてると、感じる事が出来たから。

だけどまだ、自信に満ちた自分など描けない。

誰かに追いつけているとは、到底思えない。

それでも

夏葉『ガラスの靴が無くなっても、私が得たものは失われません』

それでも、強くなりたかった。

栄光を掴めるような強さはいらない。

誰かに認められるような強さもいらない。

夏葉『父を、姉を、貴女を──家族を愛しています』

夏葉『この気持ちが消えることは、決してありません』

ただ、一緒に歩いて行きたい人達がいるだけ。

その人達と肩を並べて、歩いて行きたいだけ。

夏葉『だから……』

だから自分は、その為だけに強くなりたいのだ。
174 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:46:58.22 ID:VbCE5XXv0

「甜花は誇れるものなんて、何一つ持ってない」

歯を食いしばる。

「弱くて、何もできなくて、いつも助けて貰ってばっかりで」

足を地に踏ん張って、射撃体勢に入る。

「きっとこのままじゃ、笑っていられなくなるんだって……分かってるよ」

落としていた視線を前に向けて、それから、目標物を見上げる。

そして、言葉にする。

「だから、変わりたい」

それは願い。

「こんな甜花でも、強くなりたい」

それは、今描ける精一杯の幸福の形。

「自分の為に、強くならなくちゃいけない」

それは、あの縁日の日から燻り続けてた想い。

「誇れる自分なんて分からないけど……! だけど……! だからこそ……!」

「だから、甜花は甜花を……! 自分自身の事を……!」

「蔑まずにいられるような、甜花になりたい──!」

その叫びのような呟きは、誰にも届くことはなくて

それでも、自分の中では確かに木霊して

全身に力が漲った。
175 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:47:26.42 ID:VbCE5XXv0

『たとえ灰被りでも良いのです』

『まずは大切な人の隣で、曇りなく笑える自分でいたいのです』

『だから』

『ガラスの靴でなく、自分の足で歩いて行きたいのです』
176 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/17(月) 04:48:21.24 ID:VbCE5XXv0

煙が舞台に満ちている。

何とか成功したらしい。

白いカーテンがかかって、何も見えないけれど。

その事が何よりの成功の証だ。

ステージの袖の方に移動して、観客席の方を見た。

煙が掛かっていても、方向は分かる。

拍手の音が耳に響いているから。

煙が晴れて、魔法が解けているのを見れば、万雷の拍手になるのだろうか。

そうでなくてもいいと思った。

もう祭囃子が聞こえなくなるくらいには、この音は大きいのだから。

煙が中央の方から晴れてきて、拍手がさらに大きくなる。

もう一度、観客席の方向に目を向ける。

袖の方だって、じきに煙が晴れていくだろう。

その瞬間を心待ちにする。

もう目を離すまいと決めて、一点だけを見つめ続ける。

(……)

ついに、目の前の煙のカーテンが切れた。

視界が開けて、観客席がよく見えるようになる。

そして

大好きな家族の、笑顔が見えた。
177 : ◆/rHuADhITI [sage saga]:2018/12/17(月) 04:51:44.99 ID:VbCE5XXv0
終わりです。長々とお目汚し失礼しました。

夏葉さんの良さはtrueコミュの「期待に応えるのは得意なのよ」というセリフに詰まってると思います。
178 : ◆/rHuADhITI [sage saga]:2018/12/17(月) 04:53:33.45 ID:VbCE5XXv0
途中でコメントを頂いた皆様には、心から感謝を述べたいと思います。本当に大きな励みになりました。ありがとうございます。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 11:52:35.29 ID:XGDMHaMB0

楽しく読ませてもらった
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 12:52:16.35 ID:ErK6iUEDO


最後だけちょっと物足りないかも……でもこういうのもアリなんだろうね


ちなみにエアガンだと、甜花も夏葉も発砲することは法律で禁止されてますからね
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 15:23:21.06 ID:A04mfmrn0
乙 

泣いた
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/18(火) 04:54:14.30 ID:Y/4B0vSv0
素晴らしかった。とても素晴らしかった。乙
183 : ◆/rHuADhITI [sage saga]:2018/12/18(火) 09:28:22.49 ID:0IyVLnTw0
皆さん、コメントありがとうございます。

エアガンは18禁と10禁の物があり、法律には一応抵触していません。
まぁ、10禁のエアガンのパワーで割れるの?と言われると限りなく怪しいですが……
その辺りは話の都合と思って貰えると助かります。
184 : ◆/rHuADhITI [sage saga]:2018/12/18(火) 09:31:28.83 ID:0IyVLnTw0
おまけ(ギャグ)をふと思いついたので、近日中に投下します。HTML申請はその後で……
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/18(火) 14:18:48.34 ID:n8rRXNHo0


素敵なお話をありがとう
186 : ◆/rHuADhITI [sage saga]:2018/12/19(水) 02:37:12.67 ID:KYXmPgoJ0

以下おまけ(ギャグ)
本編の空気感などを完全にぶち壊しているので、その点を踏まえた上でお読み頂くか、ブラウザバックをお願いします。

シャニマス本編と4コマ時空くらいの差があると思って読んで頂けると幸いです。
187 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/19(水) 02:38:11.91 ID:KYXmPgoJ0

『うけつがれるちから』



甜花「じゅういち……じゅうに……じゅう……さん……」

甘奈「たっだいまー☆」

甜花「……あと、ちょっと……じゅう……よん……」

甘奈「うぇ……?」

甘奈(て、甜花ちゃんが……ダンベルを持ってる……!?)

甜花「……じゅう……ご……ふぅ……」

甜花「あ、なーちゃん……おかえり……」

甘奈「て、て、て、甜花ちゃん? そ、その……何してるの?」

甜花「……? 一応、筋トレのつもりなんだけど……」

甘奈(甜花ちゃんが、家で筋トレを……!?)

甜花「甜花、最近気がついた……」

甜花「筋肉って……凄いのよ……」

甘奈(これ絶対、誰かから変な影響受けてるー!)

甜花「なーちゃん……?」

甘奈(いや、いやいやいや……あわわわわわ……あわわ……)

甘奈(……で、でも……! 甜花ちゃんにしては変だけど、家で筋トレくらいは普通の範疇のはず……!)

甜花「筋肉がつくと……基礎代謝が増える……」

甜花「基礎代謝が増えれば……プリンもポテチも食べ放題……にへへ……」

甘奈(あ、やっぱり甜花ちゃんは甜花ちゃんかも……)

甜花「そういえば……プロテイン入りプリンってあるのかな……」

甘奈「やっぱりダメー!!」

甘奈(こ、このままじゃ甜花ちゃんがムキムキになっちゃう……!!)
188 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/19(水) 02:38:51.00 ID:KYXmPgoJ0

『みぎてにおもしを、ひだりてにほんを』



P「それでは、富山県出身のA・Oさんからのお便りです」

P「『突然ですが、私は甜花ちゃんの大ファンです! とにかく甜花ちゃんの事が大好きです』」

P「『いち早く甜花ちゃんの魅力に気が付いた事が私の自慢です! たぶん、世界で三番目です!』

甜花「これ……なーちゃん、だよね……?」

P「何を言う。富山県出身のA・Oさんだ」

P「えー……『最近甜花ちゃんが、筋肉トレーニングにハマっていると聞きました!』」

夏葉「そうなの?」

甜花「うん……まだ、家族しか知らないことだけど……」

P「『ですが私は心配です! 筋肉がつき過ぎると、甜花ちゃんの可愛さが損なわれ兼ねません!』」

P「『甜花ちゃんは今の時点でも、十分かわいくて、愛らしくて、良いお姉ちゃんで、それで』……」

P「……まぁ、この後はいいか」

P「とにかく! 事務所に届いたこの怪文書の事で甜花に話がある!」

夏葉「私が呼ばれたのは?」

P「夏葉も当事者だからだ。間違いなく」

P「……とは言え、別に説教する訳じゃないんだ。喫茶店で談笑するような気分でいい」

甜花「喫茶店で……」

夏葉「談笑を……」

甜花←カバンからダンベルを取り出す
夏葉←何処からともなく鉄アレイを取り出す

甜花←漫画本を出して左手に装備する
夏葉←君主論を開いて左手で持つ

甜花←丸まりながらも空いた手にダンベル
夏葉←足組みポーズで空いた手に鉄アレイ

P(アカン)
189 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/19(水) 02:39:36.01 ID:KYXmPgoJ0

『はんぱつかんせん』



P「言ったけど! 喫茶店で、って言ったけど!」

P「その何処でも努力する姿勢は見習いたいけど! 感心しているけどさ!」

P「甜花にまで感染ってるのは何でだー!?」

甜花「にへへ……」

P「可愛いけど誤魔化されないならな!」

夏葉「……そこまで言うのなら、よ。プロデューサー」

P「何だ?」

夏葉「アナタが普通の『喫茶店の過ごし方』を見せてくれるのよね?」

P「えっと、何故そうなるか分からないんだが……分かった」

P「注文を済ませたところから始めるぞ? まずは……そうだな、注文した物が来るまで空き時間になる」

P「ぼーっとしてるのも勿体無いので、手帳を取り出してスケジュールチェックやら何やらをするな」

P「しかし、本格的な仕事をするには半端な時間だ。だから過去の情報の再確認が中心になって……」

P「そうすると片手が淋しくなるから、カバンから水ダンベルを取り出して……」

P「周りに気をつけながら……いち、に、いち、に……と」

P「……はっ!!」

甜花「にへへ……プロデューサーさんも、一緒……」

夏葉「ええ、それでこそ私達のプロデューサーよ!」

P(俺にも感染ってるぅーッ!!)



夏葉「……真面目な話をすると、甜花がムキムキになるのはマズイわよね」

P「そうだな。アルストロメリアにもイメージがある」

夏葉「それなら、私に良い考えがあるわ」
190 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/19(水) 02:40:49.03 ID:KYXmPgoJ0

『みえるんだけど、みえないもの』



甜花「42……43……44……」

甘奈「たっだいまー☆」

甜花「……あと、15秒……46……47……」

甘奈「うぇ……?」

甘奈(て、甜花ちゃんが……変なポーズでプルプル震えてる……!?)

甜花「……50……51……おかえり、なーちゃん……54……55……」

甘奈「て、甜花ちゃん?」

甜花「58……59……60……終わり……」

甘奈「それ……何してるの?」

甜花「辛い姿勢を、長時間維持する……体幹トレーニングみたいな……」

甜花「インナーマッスルを鍛える、トレーニング……うん、もう一セット……」

甘奈「インナーマッスル……?」

甜花「体の内側の筋肉で……鍛えると、姿勢が良くなったりする……」

甜花「鍛えた成果は自分で分かるけど……見た目は、あんまり変わらない……」

甜花「つまり……見えるんだけど、見えないもの……!」

甘奈(わ……甜花ちゃん、凄いドヤ顔……これは……)

甜花「……? なーちゃん、今度はダメって言わないんだね……」

甘奈「う、うん……それは、だって……」

甘奈(ドヤ顔でプルプルしてる甜花ちゃん、メッチャ可愛いんだもん!!)



甘奈(……それに……)

甘奈(カッコいいよ、頑張ってる甜花ちゃんは)

甘奈(ムキムキ甜花ちゃんは、さすがに嫌だけどね☆)
191 : ◆/rHuADhITI [sage saga]:2018/12/19(水) 02:41:36.97 ID:KYXmPgoJ0
お目汚し失礼しました。HTML申請してきます
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 06:16:36.01 ID:MmLorwpDO
ムキムキなーちゃん……



是非見たいです。全裸で

乙でしたー
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 16:54:44.47 ID:QWqwVODUo
乙乙

いや凄かった
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