勇者「彼は正しく英雄だった」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:49:59.25 ID:h08jzXpsO

戦士「先生から……」

受付嬢「彼は貴方達の成長を楽しそうに語っていました。彼にとっても特別な日々であったことは間違いありません」

戦士「……」カサッ

受付嬢「それから、貴方に伝言が」

戦士「伝言? 何だ?」

受付嬢「貴方は大丈夫だそうです。何の心配もない、安心してよいと、そう言っていました」

戦士「大丈夫ってどういう意味だよ……つーか、先生は俺が何をされたのか分かってんのか?」

受付嬢「そうかもしれませんね。私には分かりませんが」

戦士「何者なんだよ……」

受付嬢「傭兵ですよ。それも、私や貴方が生まれる前から……」

戦士「それは分かってる。つーか、確実なことはそれしか知らねえ」

受付嬢「私もです。さあ、そろそろ迎えに行って下さい。一人では寂しいでしょうから」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:51:19.34 ID:h08jzXpsO

戦士「だな。行ってくる」

ガチャ

受付嬢「戦士」

戦士「あん?」

受付嬢「貴方はどうなのです。貴方は寂しさを感じるのですか」

戦士「手の掛かるガキがいるから寂しがってちゃいられねえんだ。きっとこういう役割を期待されてんだよ、俺は」

受付嬢「兄のような役割を、ですか」

戦士「……実際はどうなんだろうな、父親役に聞かなきゃ分からねえよ」

受付嬢「この二週間、私には本物の家族のように見えましたよ」

戦士「気持ち悪ぃこと言うなよ。魔法使いにはそれが必要だった、だからそうしただけだ」

受付嬢「貴方がそうでも、魔法使いは違った感情を抱いていると思います」

戦士「だからガキなんだよ、あいつは……」

バタンッ

受付嬢「……幾ら大人ぶってみても子供ですよ。貴方も、そして私も」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:52:25.09 ID:h08jzXpsO

>>>>訓練場

魔法使い「……」

戦士「此処にいたのかよ、捜したぞ」

魔法使い「ごめん……」

戦士「ほら、行くぞ。受付サンも心配してる」

魔法使い「今はちょっと無理かも」

戦士「……」

魔法使い「……」

戦士「あの人はお前の父親じゃないし、俺達は捨てられたわけでもない。あの人は傭兵で、どっかの依頼を受けただけだ」

魔法使い「……言われなくたって分かってるよ、そんなこと」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:53:51.71 ID:h08jzXpsO

戦士「はぁ、ほら、これ読め」

魔法使い「手紙?」

戦士「先生からだ。先に言っとくけど居場所については何も書いてないからな」

魔法使い「……」カサッ

戦士「……」

魔法使い「…………故郷を守って欲しい。これだけ?」

戦士「それだけだ。でも、そこに込められた想いは途轍もなく大きくて強い」

魔法使い「そんなこと言われても私には分かんないよ。私、オッサンのこと何も知らないし……」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:55:43.35 ID:h08jzXpsO

戦士「かつての戦乱、国家統一戦争」

魔法使い「?」

戦士「この最後の国家間戦争の最中、一人の傭兵が伝説となった」

戦士「彼は人並外れた身体能力と卓越した戦闘技術によって数多くの戦果を上げ、自国防衛に幾度も貢献した」

戦士「その戦果を聞いた誰もが歴戦の傭兵と信じて疑わなかったが、実際は十代そこそこの少年だったと言う」

戦士「脚色されたとしか考えられない華々しい活躍は民衆を奮い立たせ、希望を与えた」

戦士「一方、敵は彼を怖れた。異常なまでにな。敵国の王さえも彼一人を怖れた」

戦士「しかし、奮闘も虚しく彼は国を喪った。現国王によって国は統一され、幾つもの国が国ではなくなった」

戦士「だが、故郷は残った」

戦士「この街が彼の故郷であること知った現国王が敢えて滅ぼさなかったんだ。ここで、彼の戦いは終わった」

戦士「現国王は故郷の安全を約束し、彼に服従を誓わせた。彼は自国を滅ぼした連中に従わざるを得なかったんだ。故郷を守るためにな」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:57:31.62 ID:h08jzXpsO

魔法使い「それ本当なの?」

戦士「だから、亡国の傭兵なんだ」

魔法使い「……」

戦士「先生が俺達に故郷を守ってくれと言っている。それだけ大切なものを俺達に託したんだ」

魔法使い「正直、ぴんと来ない……」

戦士「あのなあ、そこは大人しく感銘を受けろよ馬鹿者」

魔法使い「そう言われても私にはただのオッサンだし、優しいセンセなんだよ……」

戦士「そのオッサンの故郷を守るんだ。国は手出ししないってだけで守ってくれるわけじゃない。
   この先どんなに魔物が出ても助けちゃくれない、この街を守れるのは傭兵しかいないんだ」

魔法使い「……」

戦士「やらねーなら、俺一人でやる」

魔法使い「何でそこまでするのさ、憧れてるから?」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 23:59:17.32 ID:h08jzXpsO

戦士「理屈じゃねえだろ、こういうのは」

魔法使い「……確かに。でもさ、守って欲しいとか言われてもどうしたら良いのかな?」

戦士「分かんねー。出来ることなんて魔物討伐くらいだろ。調査は先生ありきだしな」

魔法使い「じゃあ、今まで通り?」

戦士「まあ、そうなるだろうな……」

魔法使い「何それ、悩んで損した」

戦士「はぁ。ほら、もう行こうぜ? 飯でも食おう」

魔法使い「……ねえ」

戦士「あん?」

魔法使い「この先も私と組んでくれるの? もうセンセはいないんだよ?」

戦士「……理由なんて、何だっていいだろ」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:01:58.89 ID:DDkwfYUyO

魔法使い「ありがと……」

戦士「……おう」

テクテク

魔法使い「センセはさ、私達のことどう思ってたのかな」

戦士「さあな、今後会ったら聞いてみろよ」

魔法使い「会えるかな?」

戦士「会いたいと思ってれば会えるだろ」

魔法使い「うわキモい」

戦士「うるせ」

魔法使い「……あのさ」

戦士「何だよ」

魔法使い「楽しかったよね? 三人でいるの」

戦士「……」

魔法使い「戦士?」

戦士「……そうだな。ああいうのも、悪くなかったな」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:04:59.05 ID:DDkwfYUyO

>>>>

カランカラン

老人「おお、あんたか、随分久し振りだな」

老人「あんたが都に来るのは何ヵ月振りだったかなあ。また、あの小僧にでも呼ばれたのか?」

老人「本当なら都になんて来たくないだろうに……で、今度は何だい? また剣術の稽古でも頼まれたのかい?」

老人「……」

老人「そうかい、今回は依頼か……」

老人「まあ、勇者なんて言われているが王子だからなあ。断るわけにもいかないわな」

老人「さ、座りな。飲み物くらいは出すよ。小僧が来るまでゆっくりするといい。近頃は抜け出すのも一苦労だろうからな」

老人「何だい? ああ、これか?」

老人「近頃話題の傭兵の記事だとさ、前に来た客が置いてったんだ。欲しけりゃやるよ?」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:07:00.87 ID:DDkwfYUyO

業界に新星!

今回紹介するのは何と、伝説の傭兵に育てられたと噂の二人だ!

一人目、魔法使いは若干十六歳の美少女、炎の魔術に特化した超攻撃型の魔術師。

威力、精度、持続力、そのどれもが一級品。集中力には難ありと言われているがご愛嬌。

普段は後衛、支援に徹しており、相棒の戦士が魔物を引き付けている間にも火球を放つ。

火球の精度は百発百中、近頃は追尾させる術を身に付けたらしく、その才能は留まることを知らない。

これだけ見ると優れた魔術師だが、相棒が危険と見るや恐れず前に出る勇気も持ち合わせている。

凡百の魔術師にはない大胆さ、気の強さ、相棒の戦士も彼女のそこに惹かれたのだろう。

前衛の際は広範囲に高威力の炎を放ち、一瞬で火の海にしてしまうという。

どんな魔物だろうと、彼女に掛かればあっという間に火達磨に違いない。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:12:17.42 ID:DDkwfYUyO

続いて二人目!

相棒の戦士は十八歳の野性味溢れる男子、魔術と剣術を融合させた新時代の使い手だ。

普段は前衛で魔物を引き付けながら、刃を自在に伸縮させて魔物を翻弄する。

ただ、上記のような様子見も兼ねた戦術は中級以上の魔物に限り、それ以外ならば様子見などせずに一瞬で切り刻んでしまう。

後方から刃を伸ばす一撃は目にも止まらぬ早業、遠距離からでも切り刻んでしまうというから驚きだ。

視野も広く、魔法使いに危機が迫った時は迷わず飛び込み身を挺して守る。

顔からは想像も付かない献身的な戦いぶりが、魔法使いの心を射抜いたに違いない。

こんなに頼れる相棒がいるからこそ、魔法使いも安心して魔術を使うことが出来るのだ。精度の高さも頷ける。

戦士は攻守優れた実力を持ち、遠近自在、正に万能型の傭兵であると言える。


※二人は交際を否定したが、筆者は引き続き見守っていこうと思う。乞うご期待!
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:13:32.16 ID:DDkwfYUyO

老人「さっきから何をニヤニヤしてんだい?」

老人「なんでもないことはないだろ、そんなに面白い記事なら儂にも見せてくれ」

サッ!

老人「確かにくれてやるとは言ったが、そこまでするかね……しかし、そこまでされると気になるな」

老人「え〜っと、それ何て雑誌だい?」

スッ

老人「月間傭兵特集?」

老人「そんなもの聞いたことないぞ。三流紙か? 次から買ってみるとしよう……」

カランカラン

老人「おお、どうやら来たようだな」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:17:36.54 ID:DDkwfYUyO

第十三話 旅立ち

終わり
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/12(土) 00:19:56.36 ID:DDkwfYUyO
今日はここまでです。ありがとうございます。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 01:21:54.65 ID:prtSyZVA0
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 01:27:49.23 ID:paGEDCSDO
乙乙
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:22:56.74 ID:RyAmNbjwO

第十四話

女騎士「お待たせした」

老人「おや? 騎士さん、あんた一人なのかい? 小僧はどうした?」

女騎士「訳あって、勇者様は此処に来ることが出来ない。その説明も含めて貴公に話がある」

▼女騎士は席に着いた。

女騎士「挨拶が遅れたな」

女騎士「私は魔術騎士団所属の騎士だ。此処へは勇者様の代わりに来た。宜しく頼む」

▼傭兵は神妙な顔で頷いた。

女騎士「簡潔に言うと、国王陛下は件の失踪事件の黒幕であると思われる魔術結社の捜査を打ち切った」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:24:44.25 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は驚愕の表情を浮かべた!

女騎士「勇者様が来られないのはその件についての抗議だ。捜査継続を求めて訴えている」

女騎士「次に、貴公への依頼の件だ。勇者様は貴公と共に調査することを強く望んでいた」

女騎士「しかしこうなった以上、勇者様に捜査は不可能。加えて捜査打ち切りによる新たな問題が起きた。その対処に協力して欲しいと言うのが勇者様の依頼だ」

女騎士「依頼とは教会の警護。捜査打ち切りによって軍による警護は解かれ、現在は無防備な状態だ」

▼傭兵は疑問に思った。

女騎士「確かに魔術騎士団は軍ではない。我々は勇者様の発案で新たに組織された、軍には属さない部隊だ」

女騎士「勇者様の部隊といっても過言ではないだろう。軍に代わって我々が警護することも可能だ」

女騎士「そこで勇者様は魔術騎士団に警護を命じたのだが、軍からの圧力が掛かった」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:26:00.34 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は不審に思っている。

女騎士「だからこそ勇者様は国王陛下のご判断を疑問視し、抗議しているのだ」

女騎士「私はあくまで個人的に勇者様に従っている。今の私は、魔術騎士団に所属していた騎士と言っていい」

女騎士「しかし騎士を志した者として、教会にいる子供達を危険に晒すわけにはいかない」

女騎士「勇者様は貴公を強く信頼しておられた。どうか、協力して欲しい」

▼傭兵は頷いた。

女騎士「有難い……」

女騎士「勇者様から貴公の話は聞いている。様々な意味で師であると、そう仰っていた」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:27:15.84 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は困ったように頬を掻いた。

老人「騎士さん、一息吐いたらどうだい?」コトッ

女騎士「お茶? すまないな……」

ゴクッ

女騎士「美味しい……」

老人「それは良かった。で、あんたは大丈夫なのかい?」

女騎士「分からない。勢いで出て来たようなものだからな。しかし後悔はない。正しい決断だと信じている」

老人「随分と信頼しているんだな」

女騎士「女だからと入隊を拒否されたところを勇者様に拾われてな。いつも気さくに接して下さった。十分過ぎる程に与えられた」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:28:09.96 ID:RyAmNbjwO

老人「あの小僧がなあ……」

女騎士「ご老人、貴方の話も聞いている。素性を知っても小僧として接してくれる数少ない人物、理解者だと」

老人「本当か? 口うるさいクソ爺とは言ってなかったか?」

女騎士「ハハハ、そんなことは言っていない。今日会えないことを残念だと言っていた」

老人「落ち着いたら来ればいい」

女騎士「私も早くそうなることを願っている。さて、そろそろ行こう。教会に案内する。お代は」

老人「今日は要らないよ。また今度、あんたが騎士に戻った時で良い」

女騎士「お気遣い感謝する……では、行こう」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:29:06.67 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は頷いた。

老人「あんたのお代も今度でいい。また顔を見せに来てくれ、傭兵」

▼傭兵は深く頭を下げた……

老人「二人共、気を付けろよ。何だか最近は都の空気もおかしいからな」

▼二人は店から立ち去った。

老人(しかし、突然の調査打ち切りとは確かに妙だな。あの王が敵を見逃すとは思えない……)

老人(むう、何ともないと良いが嫌な予感がしてならない。何かが起きる、そんな気がする)

老人「……」

老人「……」

老人「……店、早めに閉めるか」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:30:00.83 ID:RyAmNbjwO

>>>>教会へ

女騎士「言い忘れていたが、教会を警護する理由は他にもある」

女騎士「僧侶と呼ばれる人物だ。稀有な魔術を扱うらしい。その人物を守るのも依頼の一つだ」

女騎士「いや、彼女の魔術について詳しくは分からない。勇者様も説明が難しいと仰っていた。友人とだけ聞いている」

▼傭兵は質問した。

女騎士「私? 私は勇者様の友人とは言えないよ」

女騎士「勇者様は王子であるし、私のような者が友人と呼んで良い方ではない」

女騎士「いつも気に掛けて下さるけれども、私にはどうしたらよいのか分からない。決して迷惑なわけではなく嬉しいのだが……」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:31:03.45 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は微笑みながら言った。

女騎士「対等に? いいや、私には無理だよ」

女騎士「どうしても身分を意識してしまうし、同世代だからこそ尚更緊張すると言うのもある」

女騎士「正直、何を話したらよいのか分からない。きっと私の話など退屈なただけだよ」

▼傭兵は首を横に振った。

女騎士「……」

▼傭兵は女騎士の言葉を待っている。

女騎士「いや、済まない」

女騎士「傭兵であると聞いていたから荒々しい人物かと思っていたんだ。それがこんなにも心穏やかな人物で今更ながら驚いている」

女騎士「団には年配の騎士の方々もおられるが、貴公からは彼等とはまた違う印象を受けるよ」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:31:59.83 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は質問した。

女騎士「ああ、世間一般では今でも傭兵は荒くれ者という印象が強いんだ」

女騎士「だがそれは傭兵に限ったことではない。魔術師にとっても同じことだ。一度根付いたものは中々消えない」

女騎士「たった一人の魔術師がしでかしたことが魔術師の印象を決定付け、それが今でも消えずにあるのだからな」

▼傭兵は顎を摩っている。

女騎士「確かに……魔術が進歩した今、いつまでも過去に囚われていては先へ進まないだろう」

女騎士「現に魔術師の数は増加しているのに、活躍出来る場は限られている」

女騎士「だからこそ勇者様は魔術騎士団を創設したわけだが、未だ理解は得られていない。魔術師に平和は守れないなどと言われる始末だ」

女騎士「……」

女騎士「ところで質問があるのだが、傭兵にも女性はいるのだろう?」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:33:00.18 ID:RyAmNbjwO

▼傭兵は頷いた。

女騎士「ふむ、貴公の言葉だと、こちらより女性が受け入れられているように思えるな」

女騎士「自主性の強い女性が多いようにも思える。いつかは会ってみたいものだ」

▼傭兵は魔法使いのことを話した。

女騎士「十六? 随分若いのだな。驚いたよ。十六か、私の六つ七つ下だ……」

女騎士「しかし残念だな、そのような女性にこそ魔術騎士団に入って欲しかった」

女騎士「傭兵の低年齢化は社会問題になりつつあるし、軍でも世代交代を計らなければならない頃合だろう」

女騎士「ふむぅ……」

女騎士「す、済まないな。聞かれてもいないことを長々と語ってしまった……」

▼傭兵は首を振った。

女騎士「ためになる? そ、そうか? こういう話しか出来ないのだ。済まない……?」

女騎士「ああ、あれが教会だ」

女騎士「そうだな、勇者様の説得が終わるまでは二人だけでの警護となる。一刻も早く軍の警護が戻ることを祈ろう」
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:33:41.63 ID:RyAmNbjwO

第十四話 待ち人

終わり
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:34:22.81 ID:RyAmNbjwO

第十五話

勇者「父上、答えて下さい」

国王「いずれ調査は再開する。今は干渉しないというだけだ」

勇者「俺はその理由を聞いているんです!!」

国王「声を荒げるな。お前にも分かるだろう、あの技術には目を見張るものがある」

勇者「父上!!」

国王「案ずるな、目星は付いている。絞首台に送るのが少しばかり遅れるだけのことだ」

勇者「ならば、その人物の居場所を教えて下さい」

国王「息子よ、あまり困らせないでくれ……」

勇者「それは俺の台詞です。父上の考えが正常だとは到底思えない」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:35:24.81 ID:RyAmNbjwO

国王「よく考えろ、肉体の強化と言うのは医療の進展に多いに役立つ。失うには惜しい」

勇者「犠牲がなければ俺も喜んで賛成してる。何が大切なのかよく考えて下さい」

国王「お前は頭が固い。敵を滅ぼすだけでは何も生まないのだ。利用することを覚えろ」

勇者「今はそうすべきではないと言っているんです。民に被害が出ているなら戦うべきだ」

国王「一時のものだ。技術が確立されれば多くの者達を救うことが出来る」

勇者「未来を語るのは狂人のすることです」

国王「私はいつでもそうしてきた。そして語った通りの未来を手に入れた。今の私を見れば分かるだろう? 私を信じろ」

勇者「父上、お願いです。俺の言葉を聞いて下さい……」

国王「……」

勇者「今は戦時ではない。王には民を守り平和を維持する責任がある。父上、貴方は王でしょう?」

国王「王の責任は果たす。いずれ調査は再開すると言ったはずだ。お前は何をそこまで怖れている?」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:36:15.19 ID:RyAmNbjwO

勇者「父上、何故分かってくれないのですか……」

国王「心配はない。私は今まで敵と見做した者を見逃したことはない。一度もな」 

勇者「……」

国王「まだ不安か?」

勇者「……俺には、今の父上が分かりません」

国王「……」カツン

勇者「父上、あまり無理は」

国王「よい、一人で歩ける。息子よ、よく聞いて欲しい」

勇者「…………はい」

国王「お前が抱く思いはよく分かる。危険な集団である以上、速やかに排除すべきだ」

国王「以前の私ならそうしただろう。しかし、私はこの通り老いた。自分の体でさえ自由に出来ん」

国王「若いお前には分からんだろう。緩やかに朽ちていくような、死を待つ感覚など……」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:37:05.28 ID:RyAmNbjwO

国王「私は、希望が欲しいのだ」

勇者「その希望がまやかしであるとは、何故考えないのです……」

国王「分かってくれ、息子よ」

勇者「……」

国王「すぐに終わる。ほんの少しの間だ」

勇者「……申し訳ありません、失礼します」

国王「そうか、残念だ……」

勇者(父上は何かに囚われている。でなければ、子供を攫う連中を野放しにするはずがない。
   教会に行こう。師なら、きっとよい知恵を授けてくれる)
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:38:01.73 ID:RyAmNbjwO

国王「息子よ」

勇者「……何です」

国王「教会には行かぬ方が良い」

勇者「父上、貴方は何を……まさか……」

国王「いつもそうだった。新しい時代には、それが必要なのだ」

勇者「っ!!」

ガチャバタンッ

勇者(父上、何故……)

勇者(考えるのは後だ。教会に急がなければ……)
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:42:47.13 ID:RyAmNbjwO

第十五話 錯綜

終わり
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:44:08.96 ID:RyAmNbjwO

第十六話

女騎士「……うっ」

目覚めると、そこには誰もいなかった。

傭兵と僧侶の姿もなく、子供達の姿もない。教会の中は静寂に満たされている。

女騎士はよろよろと起き上がり、辺りを見渡す。

その足取りはふらふらと覚束ない。

壁に肩を預けながら何とか歩みを進めるものの、一歩進むごとに痛みに喘いでいる。

「これは……」

大きく抉れた床、紙きれのように千切られた椅子、壁には大きな爪痕が残っている。

「何が、起きた……」

女騎士は膝を突き、壁を背に蹲った。額から流れた血が頬を伝っている。

頭を抑え、朦朧とする意識の中、女騎士は懸命に記憶を探った。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:44:51.28 ID:RyAmNbjwO


▼ぼやけていた記憶が、徐々に鮮明になる。

186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:46:02.13 ID:RyAmNbjwO

>>>>数時間前

僧侶「そうですか、勇者君が……」

女騎士「今頃は国王陛下を説得している最中だろう。警護が戻るまでは私と彼が警護を担当する」

僧侶「でも、そう上手く行くでしょうか?」

女騎士「どういう意味だ」

僧侶「だって警護を外したのは此処だけですよ? 王には何か企みがあってそうしたと思います」

女騎士「企みとは?」

僧侶「そうですねえ、国王陛下が失踪事件の黒幕と繋がっているとか」

女騎士「何を……」

僧侶「だって、そう考えるのが普通じゃないです? 私には教会を差し出したように思えますけどね」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:46:53.00 ID:RyAmNbjwO

女騎士「大胆な発想をする方なのだな……」

僧侶「勇者君の話では魔術結社は進んだ技術を持っているようです。王はそれに目が眩んだんじゃないですかね?」

女騎士(有り得ないとは言い切れない……陛下は望んだものを全て手に入れた御方だ)

僧侶「数ある国をまとめ上げたようですが、私からすれば単に欲深い人間ですよ。いつか必ず罰が当たります」

女騎士「……」

僧侶「何です?」

女騎士「いや、言葉が出ないだけだ。それは明らかに王家に対する侮辱では?」

僧侶「侮辱? 貴方は面白い人ですね。王は神ではない。あれはただの人間です。幾ら文句を言っても罰は当たりませんよ」

▼傭兵は声を出して笑った!

僧侶「あれ、笑われるようなこと言いました?」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:47:45.26 ID:RyAmNbjwO

女騎士「それは極めて危険な思想だ」

僧侶「そうですか? 私、間違ったことは何一つ言ってないと思いますけど」

女騎士「貴方個人が何を思おうと勝手だが、口にするのは止めた方が良い」

僧侶「勇者君はその通りだって笑ってましたよ? 貴方もそうだと思ってました」

女騎士「勇者様は変わっているからな……」

僧侶「貴方だって本当はそう思ってるんでしょ? 悪人を野放しにするなんて、もっと悪い人のすることですよ。そう思いません?」

女騎士「……」

僧侶「素直じゃないですね」

女騎士「私は貴方のように強くないんだ。そのような批判は口に出来ない。まして王家になど」

僧侶「身分なんて人間が作り出したまやかしに過ぎない。まやかしは、いずれは消え去ります」

女騎士「また大胆な……」

僧侶「この世界には男と女しかない。違いなんてそれだけです。王だって一人の男に過ぎない、素っ裸になれば同じですよ。女もそうです」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:49:19.62 ID:RyAmNbjwO

女騎士「……」

僧侶「身分になんて囚われず、好きなように生きた方がいいです。一度きりの人生ですから」

女騎士「私には悪魔の囁きに聞こえるよ」

僧侶「天使も悪魔も必要だから存在しています」

女騎士「貴方の思想は危険過ぎる……」

僧侶「危険だと思うのは、私の言葉が魅力的に感じるからでしょう?」

女騎士「……否定はしない」

僧侶「だったら素直になればいいのに」

女騎士「もうやめてくれないか、貴方と話していると大事な何かが壊されそうだ……」

僧侶「あはは、騎士さんは可愛いですね。貴方みたいな人は大好きですよ?」

女騎士「……勇者様が貴方を友人と呼ぶのが分かる気がするよ」

ギィィ

▼教会の扉が開いた。一人の男が立っている。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:51:05.22 ID:RyAmNbjwO

武闘家「情報通りみたいね」

女騎士「何だ、貴様は……」

武闘家(まずは僧侶からだったわね。で、あれが亡国の傭兵かしら? 錬金術師も無茶言ってくれるわね)

▼武闘家は姿を消した!

女騎士「何だ、今の気色悪い男は……」

僧侶「きゃっ!?」

女騎士「何!?」

▼僧侶は武闘家に拘束されてしまった!

女騎士「彼女を離せ!!」

武闘家「はいはい、面倒だから動かないで頂戴、まずは剣を床に……あら?」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:53:11.59 ID:RyAmNbjwO

▼武闘家の右腕がするりと床に落ちた!
 傭兵はいつの間にか剣を構えている!

女騎士(擦れ違い様に斬ったのか……)

武闘家「やるじゃない……」

▼武闘家は左腕で僧侶を掴むと、飛び退いて距離をとった!

女騎士「出入口は此方にある。貴様に逃げ場はない、彼女を解放して降伏しろ」

武闘家「それは無理よ。さあ僧侶、私の腕を治しなさい」

僧侶「嫌です、腕毛がチクチクして痛いので離して下さい」

武闘家「言っておくけど来たのは私一人じゃない。仲間がいるのよ。彼は今頃子供達のところにいるわ。隠したみたいだけど無駄。それから腕毛のことは言うな」

僧侶「!!」

武闘家「何をすべきか分かるわよね」

僧侶「……」

▼僧侶は武闘家の右腕に手をかざした。
 武闘家の右腕がみるみるうちに再生していく!
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:54:11.46 ID:RyAmNbjwO

女騎士「馬鹿な……」

武闘家「これが彼女の力よ。さあて、ちょっとごめんなさいね?」

僧侶「うっ……」

▼武闘家は僧侶を気絶させた!

武闘家「亡国の傭兵、次は貴方よ」

女騎士(想定通りと言った風だ。我々が此処へ来ることを予め知っていたのか)

武闘家「亡国の傭兵、武器を捨てて此方に来なさい」

女騎士「何を馬鹿な、自分の置かれた状況が分からないのか」

武闘家「あのね、その男を相手に何の策もなく来ると思う? 貴方は知らないでしょうけど、彼はと〜っても危険な男なのよ?」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:55:40.08 ID:RyAmNbjwO

▼武闘家は懐から何かを取り出した!

女騎士「……眼鏡?」

武闘家「気になるなら確かめたら?」

▼武闘家は銀縁の眼鏡を傭兵に投げ渡した。

武闘家「どうかしら? 貴方になら、それが誰の物か分かるはずよ」

女騎士「貴公、それは一体……」

武闘家「僅かに動揺したわね。と言うことは当たり。なのね?」

▼傭兵は凄まじい速度で武闘家に斬り掛かった!
 武闘家はひらりと身を躱した!

女騎士(あれを避けただと? 傭兵殿は勿論、あの気色悪い男も次元が違う)

武闘家「貴方にも可愛いところがあるのね。でも、私は何をされても喋らない。と言うより、居場所は知らされていない」

武闘家「良い? 貴方の帰る場所は私達の手中にある。失いたくなければ従いなさい。従わなければ殺すわ。言っておくけど、私達は本気よ」

▼傭兵は剣を納めたが、怒りに震えている……
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:57:10.58 ID:RyAmNbjwO

女騎士「傭兵殿……」

武闘家「私は反対したんだけどね。やるからには何でもやるって聞かなかったのよ……」

女騎士「貴様等の目的は何だ、傭兵殿に何をした……」

武闘家「すぐに分かるわ。近々、時代は動く。今は眠りなさい」

▼武闘家は下から抉るように拳を振り上げた!
 切り裂くような暴風が教会内に吹き荒れる!

女騎士「この程度で……」

▼女騎士は正面に手をかざした!
 その周囲だけが穏やかに凪いでいる。

武闘家「あら上手、貴方も風を使うのね」

女騎士「何が起きたのか、何をしたのか、貴様を拘束した後で聞かせてもらう」

武闘家「ごめんなさい、もう時間みたい」

▼女騎士の背後、入口から年老いた男が現れた。
 傭兵は年老いた男の顔を見て固まっている。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:58:21.77 ID:RyAmNbjwO

錬金術師「首尾はどうだ、武闘家」

武闘家「彼は従うわ」

錬金術師「そうか。では傭兵、早速で悪いが私と共に来て欲しい。済ませたい用事がある」

女騎士(仲間か。何が起きているのか分からないが、せめて彼女だけは……)

錬金術師「申し訳ないが部外者は消えてくれないか? これは君のためでもある」

▼錬金術師は杖を振るった!
 巨大なツタのような植物が床から突き出し暴れ回る!

女騎士「うぐっ……」

▼女騎士は吹き飛ばされ、壁に頭を打ち付けて気を失ってしまった!

錬金術師「んん、頭がくらくらする……」

武闘家「魔術なんて使うからよ。大丈夫なの?」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 22:59:18.22 ID:RyAmNbjwO

錬金術師「少々気分が悪いようだ……」

武闘家「呆れた。子供達は無事なのよね?」

錬金術師「いや、もう送った」

武闘家「話が違うわ!! もう止めるって言ったじゃない!!」

錬金術師「これで最後だ。次はない。約束する」

武闘家「……信じて良いのね」

錬金術師「勿論だ。さて、君は僧侶を連れて先に帰れ。私は彼と用事を済ませる」

武闘家「……」

錬金術師「どうした、早く行かないか」

武闘家「無事かどうかくらい教えてあげなさいよ。彼が可哀想だわ」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:00:11.94 ID:RyAmNbjwO

錬金術師「彼は口で言っても信用しない」

▼傭兵は堅く目を閉じている。

武闘家「大丈夫、貴方の帰る場所は無事よ。手出しはしないわ」

▼傭兵は堅く目を閉じている。

武闘家「……」

錬金術師「そろそろ勇者が来る頃だな。我々は彼と入れ代わりで城に入る」

▼傭兵は倒れた女騎士の下へ行き、懐に何かを入れた。

武闘家「……」

錬金術師「……行くぞ」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:02:44.79 ID:RyAmNbjwO

第十六話 略奪

終わり
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:03:59.77 ID:RyAmNbjwO

第十七話

>>>>現在

女騎士(城へ急がなければ)

女騎士(頭が痛い、私はどれ程の時間気を失っていたのだ? 勇者様が教会に来るより早く……)

▼教会の扉が開き、足音が鳴り響いた。

女騎士(あぁ、来てしまわれた……)

勇者「女騎士!!」

女騎士「勇者様、今すぐ城へお戻り下さい」

勇者「何?」

女騎士「僧侶様は武闘家という男に連れ去られ、その仲間であると思われる年老いた魔術師は、傭兵殿を連れて城へ向かいました」

勇者「師が? 何故?」

女騎士「脅されていたように思います。銀縁の眼鏡を差し出され、酷く動揺しておられました」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:06:34.29 ID:RyAmNbjwO

勇者「眼鏡……」

女騎士「今は老いた魔術師を追って下さい」

女騎士「おそらく軍も魔術騎士団も手出しはしないでしょう。頼りになる者は城内に残っていないと思われます」

女騎士「状況を変えられるのは勇者様だけです。この機に捕らえてしまえば、まだ目はあります。逃してはなりません」

勇者「……医者を寄越す。信頼出来る者に預けるように言うから、そこで待っていてくれ」

女騎士「奴等は勇者様の動きを把握していました。全てが仕組まれていたように思えてなりません……」

勇者「分かってる……」

女騎士「勇者様、お気を付けて」

勇者「ああ」

▼勇者は走り去った。

女騎士(もし彼女の言った通りなら、国王陛下は最初からあの連中と? 民を売ってまで、何を欲すると言うのだ)
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:08:18.41 ID:RyAmNbjwO

>>>>

国王「随分早かったな」

錬金術師「急いでいるのでな」

錬金術師の傍には傭兵がおり、その周囲を軍の兵士達がぐるりと囲んでいる。

国王「ところで、何故その男が此処にいる?」

錬金術師「貴方が最も恐れ、最も信頼する傭兵だ。何の不都合もあるまい。さて、取引に入ろう。これが貴方の希望だ」

▼錬金術師は輝く液体の入った瓶を取り出した。

国王「それは?」

錬金術師「今に分かる。さあ、飲め。陛下に効果の程を見せるのだ」

▼傭兵は渡された瓶の蓋を開くと、輝く液体の半分を飲んだ。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:09:09.02 ID:RyAmNbjwO

国王「……」

▼傭兵は直後に倒れ込み、苦しみ藻掻いた!
▼周囲の兵士達はざわついている!

国王「落ち着け、よく見るのだ」

▼なんと、傭兵が二十代にまで若返った!
▼しかし、立ち上がることは出来ないようだ。

国王「素晴らしい」

錬金術師「ご要望とあらば私も飲むが」

国王「その必要はない。その瓶を近くの兵士に渡してくれ」

▼錬金術師は兵士に瓶を渡した。
▼兵士は国王の前に跪き、輝く液体の入った瓶を捧げた。

国王「……」

錬金術師「……」

▼国王は意を決して液体を飲み干した!
▼国王は玉座から崩れ落ち、苦しみに喘いでいる!
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:11:10.73 ID:RyAmNbjwO

錬金術師「……」

▼兵士達は錬金術師に武器を突き付けた!

国王「よせ……」

国王「私を見ろ、武器を下ろせ」

▼なんと、国王は二十代にまで若返っている!
▼兵士達は驚愕した表情を浮かべている。

国王「活力に満ちている。体も、声も……」

錬金術師「これで約束は果たした。これからも不干渉であることを願う」

国王「勿論だ」

錬金術師「それから、この傭兵を戴きたい」

国王「何を企んでいるのか知らんが、その男には私を殺すことは出来んぞ」

錬金術師「王の命など興味はない。私の研究に必要なのだ、死んでしまうかも知れないが構わないだろう?」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:12:08.27 ID:RyAmNbjwO

国王「……好きにしろ」

錬金術師「では、失礼する」

▼錬金術師が杖を振ると、傭兵と共にその場から姿を消した。

国王「愛想のない男だ……」

ギィィッ

国王「何だ? 誰も通すなと言ったはずだが」

▼勇者が兵の制止を振り切って現れた!

国王「おお、勇者よ、よくぞ戻った」

勇者「魔術師が此処に入ったと……父上? 父上なのですか? その姿は一体、まさか」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:14:26.06 ID:RyAmNbjwO

国王「何をしている、兵に戦の準備をさせろ」

勇者「何を……」

国王「これ以上、奴等を泳がせておく必要はない。奴等の根城は西の砂漠にある。指揮はお前が執れ」

勇者「ふざけるなっ!! どの口がほざく!! 自分が何をしたのか分かっているのか!!」

国王「王の命に従わないと言うのか」

勇者「貴方には従えない」

国王「ならば、お前に用はない。従えないのなら何処へでも行くがいい。この際だ、王位継承権は剥奪する。王は一人でいい」

勇者「……所詮は猜疑心の塊か。その異常なまでの怖れが貴方を統一王にまでしたのだろう」

勇者「以前から気付いてはいた。息子の目を見ようとはしなかったからな。貴方は息子の俺を怖れていたんだ」

国王「自惚れるな」

勇者(このまま暴走を続けるのなら、今此処で……)
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:16:20.52 ID:RyAmNbjwO

▼勇者は、剣の柄に手を掛けた。

国王「お前にしては大胆だな」

勇者「……」

国王「お前には父を殺せない。だが、私には息子を殺せる。それが私とお前の違いだ。やれ」

勇者「!!」

▼勇者に兵士が押し寄せた!
 勇者はあっという間に囲まれてしまった!

国王「私の玉座、私の王冠、私の城、私の兵、此処にはお前の物など何一つない」

勇者「……」

国王「躊躇うのなら剣など捨ててしまえ、勇者」

▼勇者は力なく崩れ落ち、床に手を突いた。

国王「王の前で剣に手を掛けたのだ。その意味が分からぬわけではあるまい」

▼兵士の一人が、勇者の頭に剣の柄を振り下ろした!
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:17:23.33 ID:RyAmNbjwO

勇者(もう、後戻りは出来ない)

▼勇者の掌から雷が迸る!
 雷は床を這い、周囲の兵士達を吹き飛ばした!

勇者「……」

国王「……」

▼国王は無傷。
 紋章の刻まれた盾を構えた兵士が立っている。

勇者(あの盾は……)

国王「機を逃したな」

▼廊下からは鎧の鳴らず音が響く。
 他の兵士達も向かって来ているようだ。

国王「……」

勇者「……」

▼勇者は玉座の間から走り去った……

国王「いいや、追う必要はない。城の守りを固めろ。騒ぎにはするな。今は戦だ。戦の準備をしろ」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:17:51.20 ID:RyAmNbjwO

第十七話 激流

終わり
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:30:54.29 ID:RyAmNbjwO
ここまでです。ありがとうございます。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2019/01/16(水) 08:09:48.26 ID:0sKkxXwjO
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/16(水) 20:01:05.49 ID:XYzKSkXA0
乙乙
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:40:14.48 ID:UlC/3mmdO

第十八話

「何だってこんな事に……」

寝息を立てる女騎士を横目に茶を啜りながら、老人は溜め息交じりに独り言ちた。

そろそろ店を閉めようかと思っていたところに突然運ばれて来た女騎士。

勇者の願いと聞いて断る訳にもいかず、医師に言われるままに奥の仮眠室に寝かせたがやることはない。

医師によって治療は既に済んでおり、後は勇者を待つのみである。

ただ、教会で何かが起きたことは確実であり、傭兵の姿もないのだから不安で仕方がない。

老人(無事だと良いが……)

カランカラン

老人「!!」

▼老人は仮眠室を飛び出した!
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:44:53.55 ID:UlC/3mmdO

勇者「……」

老人「……………酷い顔だな。さあ、取り敢えず奥の部屋に入れ。話はそれからだ」

▼勇者は無言のまま、仮眠室へ入った。

老人「飲め。少しは落ち着く」

勇者「お爺さん、ありがとう……」

▼勇者はお茶を飲んだ。

老人「……何があったんだ」

▼勇者は疲れ果てた声で話した。

老人「なら、王は若さを手に入れる為に?」

勇者「そうさ。その為に警護を解き、教会の者達を差し出したんだ。王は狂った。いや、きっとそれ以前から狂っていたんだよ」

▼その声には強い後悔が滲んだ。
 父の本心が見抜けなかったことに悔いているのだろう。

老人「しかし、警護を解いたのは不自然だ。民も馬鹿じゃない、今回の襲撃は不審に思うはずだ」

勇者「大した騒ぎにはならないよ。大方、警護が離れた僅かな隙を突いて襲撃されたとでも言うつもりなんだ」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:49:06.64 ID:UlC/3mmdO

老人「そんな説明が通用するか?」

勇者「王は戦の準備を始めてる。魔術師連中を捕らえて公開処刑にでもすれば疑念は塗り潰せる。そう考えているんだよ」

勇者「民を苦しめる悪しき魔術師達、それに立ち向かう正義の王。分かりやすい図式だろ……」

老人「……これからどうする。城へは戻れんし、取り敢えず都を出た方が」

勇者「王の暴走を止める」

老人「お前一人でか!? どう考えたって無茶だ!! 今のお前に味方はいないんだぞ!? 今頃は魔術騎士団も拘束されてるはずだ!!」

勇者「……」

老人「冷静になって考えろ。取り敢えずは都から出た方が良い。逃げるんだ」

勇者「俺は逃げるなんて出来」

老人「意地を張るな!! お前は王に敵対したんだぞ!! 全てを支配した男にな!! お前の師もその一人だ!!」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:50:04.26 ID:UlC/3mmdO

勇者「……」

▼勇者は拳を強く握っている。
 掌には爪が食い込み、血が流れた。

老人「冷静なれ。逃げることは恥ではない。何があっても生きるんだ。機会は必ず訪れる」

勇者「……」

老人「……店の裏に馬を用意してある。嬢ちゃんは任せろ。さあ行け、いつ追っ手が来るかも分からない」

勇者「…………分かった」ガタッ

老人「ま、待て」

勇者「?」

老人「危うく、これを渡すのを忘れるところだった」

勇者「それは?」

老人「医師に渡された物だ。嬢ちゃんの鎧の隙間に挟まれていたらしい」

勇者「……月間、傭兵特集?」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:51:09.36 ID:UlC/3mmdO

老人「それからこれもだ。これは、その雑誌に包まれていたようだ」

勇者「小瓶? 中身は?」

老人「それは分からん。だが、その記事には見覚えがある。傭兵が持って行った物だ」

勇者「師が? なら、この記事にも何か意味があるはずだ。何か手掛かりが……」

▼勇者は紙面に目を通した!

勇者「……」

老人「どうだ? 何か書いてあったか?」

勇者「……頼るべき者達とその居場所が書いてある。この記事そのものが伝言だったんだ」

老人「頼るべき者達……傭兵か。確かに軍を頼れない今、頼れるのは傭兵しかいない。場所は?」

勇者「国の干渉を受けない場所、軍の存在しない唯一つの街、彼等はそこにいる」


勇者「師の故郷、傭兵の街に」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/17(木) 00:52:09.14 ID:UlC/3mmdO

第十八話 微かな光

終わり
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/17(木) 00:52:45.61 ID:UlC/3mmdO
短いですがここまでです。 
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 01:14:20.38 ID:ENoBCRzDO
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 19:06:42.56 ID:JCE/o5bro
なかなか深い
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/20(日) 20:31:51.11 ID:0/tTU//bO

読みごたえがあるな
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:04:06.31 ID:Jm7MmzXnO

第十九話

>>>>同日

魔法使い「今日はどうする?」

戦士「朝飯まだだろ? 朝飯食ってからにしようぜ」

魔法使い「え、もう食べたんだけど……」

戦士「あのな、前から思ってたけど合流すんの早くねーか? もうちょい遅くてもいいだろ」

魔法使い「早めに依頼受けた方がゆっくり出来るじゃん」

戦士「そりゃそうだけどよ……妙なとこで真面目だな、お前」

魔法使い「ほら、朝ご飯食べるんでしょ。行くよ」

戦士「はいはい」

傭兵が街から姿を消してから一ヶ月半程が経ったが、二人は今も変わらず共に行動をしていた。

昼前には合流し、二人で依頼を選び、二人で依頼を達成する。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:05:12.45 ID:Jm7MmzXnO

>>>>お食事処

戦士「食わないのか?」

魔法使い「うん、温かい飲み物だけでいいや」

戦士「分かった」

▼戦士は注文した。

魔法使い「あのさ」

戦士「どした?」

魔法使い「安定して戦えるようになってきたし依頼の難度上げたいと思うんだ。お金も増えるし」

戦士「そんなに貯めて何に使うんだよ」

魔法使い「別に良いじゃん」

戦士「まあ良いけどよ……でも慣れてきたとは言え、まだ危険な場面もある。今はまだ中級上級の討伐に専念して経験を積むべきだ」

魔法使い「何それ、センセみたいなこと言わないでよ」

戦士「そんなつもりはねーよ。つーかお前、何を急いでんだ?」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:06:13.05 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「だって……」

戦士「仮に俺達の評価が急激に上がったとしても、先生と同じ依頼は受けられねーぞ。先生が受けたのは国からの依頼だろうからな」

魔法使い「別にそんなこと言ってないし」

▼魔法使いは俯いてしまった。

戦士「……はぁ、上級討伐以上の依頼って言ったら特級だぞ? 上級とはわけが違う」

魔法使い「それは知ってるよ。めっちゃ強い魔物でしょ? 数は十体にも満たないって話だけど」

戦士「えらく雑な知識だな、幾ら歴が短いって言ってももう少し知っとけよ」

魔法使い「仕方ないでしょ、そういう話する人いなかったし……」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:08:24.50 ID:Jm7MmzXnO

戦士「あ、独りぼっちだったもんなあ」

魔法使い「うっさいな……」

▼料理が届いた。

戦士「受付サンからは聞いてないのかよ」モグモグ

魔法使い「そういう話はしないんだ。普段は服とかお料理の話しかなあ。後はお化粧とか」

戦士「気持ちわるっ、脳内女子の十代か?」

魔法使い「女子なんだよ!! 十代の!!」

戦士「仕方ねーから教えてやるよ」

魔法使い「おい、無視すんな」

戦士「特級ってのは自分から襲ってくる奴等じゃない。基本的には大人しくて臆病らしい」

魔法使い「えっ? そんな奴等が何で上級って言われてるわけ?」

戦士「魔物だからって取り敢えず殺そうとした傭兵やら兵士やらが、ことごとく返り討ちに遭ってるからだ」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:10:00.49 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「戦った人は殺されてないってこと?」

戦士「みたいだな。全部が全部そうでもないだろうが、生き延びた多くの傭兵や兵士が危険性を広めたんだ。で、それが繰り返されてる内に特級なんて言われるようになったのさ」

魔法使い「じゃあ、特級の魔物って討伐されてないの?」

戦士「いや、何体かはやられたって聞いた。特級個体は非常に数が少なく、生殖活動も確認されてない。基本は放っといてるんだろう」

魔法使い「ふ〜ん」

戦士「で、どうすんだ? 受付サンに頼めば依頼内容くらいは見せてくれるはずだ。居場所も分かるだろう」

魔法使い「え、そうなの?」

戦士「特級の監視は今でも続けられてるからな」

魔法使い「はぇ〜、知らんかった」

戦士「お前が知らなすぎるんだよ。でもまあ、依頼は見るだけで受けられないと思うけどな」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:12:24.64 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「え、何でさ」

戦士「実績がねーだろ。俺もお前もまだまだ新人だ。そんな大きな依頼は受けられない。死なれて迷惑するのは受付サンだしな」 

魔法使い「そうだよね……でもさ、この前取材受けたじゃん」

戦士「よく分からねー雑誌の記事だろ? あんなもん何の得にもならねえって」

魔法使い「そうかなあ」

戦士「読んでる奴見たことないぜ?」

魔法使い「でも、それで少しでも名が売れれば儲けもんじゃん? きっとセンセも喜んでくれるよ」

戦士「だと良いけどな。つーか、今頃は何処で何してんだろうな? あれから受付サンも元気ねーし、手紙でも出してくれりゃあ良いのに」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:14:20.95 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「忙しいんだよ、きっと……」

戦士(寂しそうにしてんのはコイツもだな。依頼受けて紛らわしてるようなとこもある。受付サンもだが、コイツにも何か特別な思いがあるんだろう)

魔法使い「……」

戦士(このままだと危ねえ気もするな。たまには気分転換でもしてみるか……)

魔法使い「どしたの?」

戦士「取り敢えず、特級に関わる依頼内容だけ見てみようぜ? 今日どうするかはそれからだ」

魔法使い「うん、そうだね」

▼支払いを済ませ、二人は酒場へ向かった。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:16:27.64 ID:Jm7MmzXnO

>>>>応接室

魔法使い「おいっす〜」

戦士「よお、受付サン」

受付嬢「おはようございます。今日も早いですね」

戦士「早速で悪いが、特級討伐の依頼を見せてくれるか?」

受付嬢「お二人には早過ぎます。許可出来ません」

戦士「それは分かってる。見せてくれるだけで良いんだ。魔法使いが興味あるみたいでな」

受付嬢「そうですか。では、此方になります」

▼受付嬢は古い依頼書を差し出した。

魔法使い「へ〜、なんか紙も今のとは違う気がする。何て言うか、時代を感じる」
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:17:44.43 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「初期の依頼ですからね」

魔法使い「ってことは二十年も前の依頼?」

受付嬢「いえ、そこまで古くはありません。古くても十四、五年程でしょう」

魔法使い「そうなんだ。ねえ、戦士」

戦士「何だ?」

魔法使い「倒された特級もいるって言ってたでしょ? 何で討伐対象になったの?」

戦士「金のなる場所に棲み着いたからだ。金鉱とかな。国も全力で殺しに行っただろうよ」

魔法使い「なるほどね。でもさ、そうじゃない場所はどうなるの?」

受付嬢「重要ではないと判断された場合、その土地の所有者は諦めるしかなかったでしょう」
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:19:37.85 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「そっか……」

戦士「どうする? 見てみるか?」

魔法使い「何を?」

戦士「特級を監視してる傭兵んとこに行くんだ。最近は戦ってばかりだったから、たまにはそういうのも良いだろ」

魔法使い「え? そんなこと出来るの?」

受付嬢「監視者に会いに行くだけならば問題はありませんよ。いい顔はされないでしょうけれど」

魔法使い「まあ邪魔だよね。普通に……」

戦士「どうする? 近場ってわけじゃねーけど、今から行けば今日中に帰って来られる」

魔法使い「ん〜、そうだね……うん、たまには良いかもね。折角だし行ってみたい」

戦士「んじゃ、早速行こうぜ」

魔法使い「……」

戦士「何だよ」

魔法使い「なんでもない。私、先に行って馬車用意してくる」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:21:19.35 ID:Jm7MmzXnO

戦士「お、おう、頼むわ」

魔法使い「あっ、運転はアンタね。行き帰りどっちも」

戦士「はいよ」

魔法使い「受付さん、またね!」

受付嬢「はい、お気を付けて」

▼魔法使いは足早に立ち去った!

戦士「ちょっと露骨だったか……」

受付嬢「割と自然な誘い方でしたよ?」

戦士「そうかあ? 何つーか、ご機嫌取りっぽくなかったか?」

受付嬢「そう感じたのなら誘いは受けませんよ。貴方の意図が分かったから承諾したのだと思います」

戦士「それはそれでダセエな。こういうのって悟られないようにやるもんなのによ」

受付嬢「それでも良いではありませんか。魔法使いにも貴方にも、よい気分転換になりますよ」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:23:22.23 ID:Jm7MmzXnO

戦士「あいつが途中で臍曲げなきゃな」

受付嬢「魔法使いはそこまで子供ではありませんよ。これで少しは落ち着いて考えるようになるでしょう」

戦士「……」

受付嬢「どうしました?」

戦士「今度、三人で飯でも食わねーか?」

受付嬢「はい?」

戦士「だから、俺と魔法使いと受付サンでご飯でも食べに行きませんか?」

受付嬢「いえ、それは分かります。貴方の意図が分かりません」

戦士「余計な世話だろうが、あんたも気分転換した方が良い。最近は魔法使いとも出掛けてないんだろ? まあ、あいつが依頼受けてばかりだったからだろうけどよ」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:24:12.20 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「……」

戦士「無理にとは言わねえ。でも、少しはゆっくりした方が良い。そんなんだと先生が心配するぜ?」

受付嬢「……考えておきます」

戦士「ありがとよ。んじゃな、受付サン」

受付嬢「戦士、お気を付けて。魔法使いを頼みます」

戦士「おう、またな」

▼戦士は立ち去った。

受付嬢「……」

受付嬢「……三人」

受付嬢「……」

受付嬢「……もっと早く、私から言っていれば」
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:25:29.31 ID:Jm7MmzXnO

>>>>数時間後

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

カチコチ

カチコチ

カチコチ

カチコチ

受付嬢(そろそろ到着した頃でしょうか?)

受付嬢(あそこの監視者は特別変わった考えを持った方ですから、退屈はしないでしょう)
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:26:30.83 ID:Jm7MmzXnO

コンコンッ

受付嬢「はい、どうぞ」

錬金術師「初めまして、錬金術師と申します」

受付嬢「魔術師の方ですね。どのような依頼でしょうか?」

錬金術師「いや、依頼を願いたくて訪ねたわけではない。私は君達が言うところの魔術結社の長だ。個人的に話がある」

受付嬢「……」

錬金術師「座っても宜しいかな?」

受付嬢「どうぞ」

錬金術師「その前に」

▼錬金術師は杖を振るった。
 杖から伸びたツタが全ての出入口を塞いだ。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:27:09.46 ID:Jm7MmzXnO

錬金術師「では、改めて」

▼錬金術師は席に着いた。

受付嬢「個人的な話とは何でしょうか」

錬金術師「彼についてだ」

受付嬢「誰を指しているのか分かりかねます」

錬金術師「それは済まない。君の父についてだ」

受付嬢「父はいません。私が生まれる前に他界しています。話せることなどありません」

錬金術師「君がそう主張するなら受け入れよう。では、亡国の傭兵とでも言えば分かるかな?」

受付嬢「はい、存じています。しかし、居場所をお教えすることは出来ません」

錬金術師「そうではないよ。場所なら既に知っている。今の君より詳しいと言える」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:28:08.82 ID:Jm7MmzXnO

錬金術師「彼は今、我々と共にいる」

受付嬢「信じられません」

錬金術師「そう思って、これを持ってきた」

▼錬金術師は道具袋から剣を取り出した。

錬金術師「彼の剣だ。見覚えはあるだろう?」

受付嬢「偽物である可能性があります」

錬金術師「そうだな、確かにそうだ。しかし、そうと分かっていても従わざるを得ない。彼も、君もな」

受付嬢「どういう意味でしょうか」

錬金術師「これを使って君を人質にしたと言ったところ、彼はすぐに協力してくれた」

▼錬金術師は銀縁眼鏡を差し出した。

受付嬢「……」

錬金術師「この眼鏡は私が精巧に作った偽物だが、彼にとっては本物に見えた。或いは偽物と疑ったけれども可能性がある以上は従わざるを得なかった」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:29:43.66 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「何故私を……」 

錬金術師「君の存在そのものが彼の守る故郷であり、帰る場所だからだ」

受付嬢「有り得ません」

錬金術師「彼は君のために王と決別した。今後は私達と共に国軍と戦うことになる」

受付嬢「下らない戯れ言です」

錬金術師「何故そう言い切れる? 私が直接此処に来たのが何よりの証明ではないのか?」

受付嬢(これ以上は無意味。彼の迷惑になるのなら今此処で)

▼受付嬢は短剣を握り締めた。

錬金術師「彼は既に此方側にいる。その行為は無意味だ」

▼受付嬢は自分の喉元に短剣を突き付けた!

錬金術師「君が死ねば彼は絶望するぞ? それは救いにはならない。苦しめるだけだ」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:30:53.59 ID:Jm7MmzXnO

▼受付嬢は喉元に短剣を押し付けた。
 薄く血が滲み、喉を伝っている。

錬金術師「まあ無理にとは言わない。君の偽物なら既に用意してある。後に発覚すればより深く絶望するだろうが仕方ないだろう」

▼受付嬢は錬金術師を睨み付けた!
 短剣を握り締めた手が悔しさに震えている!

受付嬢「………私に何をしろと言うのですか」

錬金術師「戦の準備は出来ているが人手が足りない。私達の組織は少数精鋭なものでね」

受付嬢「先に言っておきますが、私は満足に動くことが出来ません。戦闘など不可能です」

錬金術師「問題はない。私と共に来れば以前と同じように動けるようになる」

▼受付嬢は驚愕に目を見開いた!

錬金術師「聞こえなかったのか? 君は再び戦うことが出来るのだ。かつて、踊り子と言われた時のようにな」

▼受付嬢は明らかに動揺している。
 生じた迷いを振り払おうとしているようだ。

錬金術師「戦が終われば彼も君も自由だ。王の束縛から解放され、自由の中を彼と共に歩ける」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:32:40.28 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「……」

錬金術師「君は魔法使いと戦士に奪われた場所を取り戻す。親子であることを隠す必要もなくなる。父と娘として生きられる」

受付嬢「……」

錬金術師「ただ、それまでは従ってもらう。君にとっても悪い話ではないと思うが」

▼受付嬢は無言のまま椅子から立ち上がる。
 受付嬢は杖を突かず、机を支えに歩き出した。

錬金術師「掴まりたまえ」

受付嬢「結構です。貴方になど触れたくありません」

錬金術師(気丈な娘だ)

▼錬金術師は杖を振るった。
 二人はツタに呑み込まれ、姿を消した。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/22(火) 00:35:04.18 ID:Jm7MmzXnO

十九話 希望

終わり
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 00:39:12.27 ID:Jm7MmzXnO
今日はここまでです。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 01:11:39.36 ID:h4hLOY+1o
なんと…
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 03:20:13.19 ID:aNNNVEcDO
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 08:47:47.32 ID:rLgS8dro0
乙!
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 10:15:48.56 ID:3C38/8WyO
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:27:23.31 ID:hT6/aIqMO

第二十話

魔法使い「あっつ〜」グテー

戦士「水飲め、水」

▼魔法使いは水を飲んだ。

魔法使い「ぬるっ……」

戦士「文句言うな。あるだけ有難いと思え」

魔法使い「あいあい……」

戦士「もうすぐ岩山が見えてくる。その岩山沿いに監視所があると書いてあった」

魔法使い「砂漠の入り口だっけ? って言うかさ、気温ってここまで急激に変わるものなの?」

戦士「詳しくは知らねーが、岩石砂漠の地熱も影響してるとかって話だ」

魔法使い「それ、昔授業で聞いたかもしれない。内容はさっぱり思い出せないけど……」

戦士(そういや都の学校に通ってたって言ってたな。良いとこのお嬢様だったりすんのかね)
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:28:21.62 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「地下には何があるのかな?」

戦士「さあな。太陽に焼かれた蛇が潜ったとか、そんな昔話なら聞いたことがある」

魔法使い「砂漠の地下で蛇が熱冷ましてるんだ」

戦士「昔話が本当ならな」

魔法使い「ふ〜ん、変なの」

戦士「昔話なんてそんなもんだ」

魔法使い「……」

戦士「……」

魔法使い「……ねえ」

戦士「あん?」

魔法使い「さっき、受付さんを誘ったって言ってたでしょ。三人でご飯食べようってさ」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:29:30.92 ID:hT6/aIqMO

戦士「おう」

魔法使い「来てくれると思う?」

戦士「あの人の場合、嫌なら即断るはずだ。本当に少し考えたいんだと思うぜ?」

魔法使い「ん〜、どうだろ。受付さんは弱味を見せない人だし、人に甘えたりするの苦手だし」

戦士「類は友を呼ぶんだな」

魔法使い「うるさいなぁ……」

戦士「でもよ、あの人はどこか違う気がする。何つーか、しっかりし過ぎてるだろ?」

魔法使い「ああいう職業だし、しっかりしなきゃって思うんじゃないかな? 私にだってそこまで砕けた態度は取らないよ?」

戦士「お前の前だと特にじゃねーか? 年上だし弱いとこは見せられないだろ。先生が絡まなければな」

魔法使い「そんなの気にしなくて良いのに……」

戦士「そういう風に生きてきたのかもな。身に染み付いた生き方っつーかさ」
297.93 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)