勇者「彼は正しく英雄だった」

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202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:09:09.02 ID:RyAmNbjwO

国王「……」

▼傭兵は直後に倒れ込み、苦しみ藻掻いた!
▼周囲の兵士達はざわついている!

国王「落ち着け、よく見るのだ」

▼なんと、傭兵が二十代にまで若返った!
▼しかし、立ち上がることは出来ないようだ。

国王「素晴らしい」

錬金術師「ご要望とあらば私も飲むが」

国王「その必要はない。その瓶を近くの兵士に渡してくれ」

▼錬金術師は兵士に瓶を渡した。
▼兵士は国王の前に跪き、輝く液体の入った瓶を捧げた。

国王「……」

錬金術師「……」

▼国王は意を決して液体を飲み干した!
▼国王は玉座から崩れ落ち、苦しみに喘いでいる!
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:11:10.73 ID:RyAmNbjwO

錬金術師「……」

▼兵士達は錬金術師に武器を突き付けた!

国王「よせ……」

国王「私を見ろ、武器を下ろせ」

▼なんと、国王は二十代にまで若返っている!
▼兵士達は驚愕した表情を浮かべている。

国王「活力に満ちている。体も、声も……」

錬金術師「これで約束は果たした。これからも不干渉であることを願う」

国王「勿論だ」

錬金術師「それから、この傭兵を戴きたい」

国王「何を企んでいるのか知らんが、その男には私を殺すことは出来んぞ」

錬金術師「王の命など興味はない。私の研究に必要なのだ、死んでしまうかも知れないが構わないだろう?」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:12:08.27 ID:RyAmNbjwO

国王「……好きにしろ」

錬金術師「では、失礼する」

▼錬金術師が杖を振ると、傭兵と共にその場から姿を消した。

国王「愛想のない男だ……」

ギィィッ

国王「何だ? 誰も通すなと言ったはずだが」

▼勇者が兵の制止を振り切って現れた!

国王「おお、勇者よ、よくぞ戻った」

勇者「魔術師が此処に入ったと……父上? 父上なのですか? その姿は一体、まさか」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:14:26.06 ID:RyAmNbjwO

国王「何をしている、兵に戦の準備をさせろ」

勇者「何を……」

国王「これ以上、奴等を泳がせておく必要はない。奴等の根城は西の砂漠にある。指揮はお前が執れ」

勇者「ふざけるなっ!! どの口がほざく!! 自分が何をしたのか分かっているのか!!」

国王「王の命に従わないと言うのか」

勇者「貴方には従えない」

国王「ならば、お前に用はない。従えないのなら何処へでも行くがいい。この際だ、王位継承権は剥奪する。王は一人でいい」

勇者「……所詮は猜疑心の塊か。その異常なまでの怖れが貴方を統一王にまでしたのだろう」

勇者「以前から気付いてはいた。息子の目を見ようとはしなかったからな。貴方は息子の俺を怖れていたんだ」

国王「自惚れるな」

勇者(このまま暴走を続けるのなら、今此処で……)
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:16:20.52 ID:RyAmNbjwO

▼勇者は、剣の柄に手を掛けた。

国王「お前にしては大胆だな」

勇者「……」

国王「お前には父を殺せない。だが、私には息子を殺せる。それが私とお前の違いだ。やれ」

勇者「!!」

▼勇者に兵士が押し寄せた!
 勇者はあっという間に囲まれてしまった!

国王「私の玉座、私の王冠、私の城、私の兵、此処にはお前の物など何一つない」

勇者「……」

国王「躊躇うのなら剣など捨ててしまえ、勇者」

▼勇者は力なく崩れ落ち、床に手を突いた。

国王「王の前で剣に手を掛けたのだ。その意味が分からぬわけではあるまい」

▼兵士の一人が、勇者の頭に剣の柄を振り下ろした!
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:17:23.33 ID:RyAmNbjwO

勇者(もう、後戻りは出来ない)

▼勇者の掌から雷が迸る!
 雷は床を這い、周囲の兵士達を吹き飛ばした!

勇者「……」

国王「……」

▼国王は無傷。
 紋章の刻まれた盾を構えた兵士が立っている。

勇者(あの盾は……)

国王「機を逃したな」

▼廊下からは鎧の鳴らず音が響く。
 他の兵士達も向かって来ているようだ。

国王「……」

勇者「……」

▼勇者は玉座の間から走り去った……

国王「いいや、追う必要はない。城の守りを固めろ。騒ぎにはするな。今は戦だ。戦の準備をしろ」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:17:51.20 ID:RyAmNbjwO

第十七話 激流

終わり
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 23:30:54.29 ID:RyAmNbjwO
ここまでです。ありがとうございます。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2019/01/16(水) 08:09:48.26 ID:0sKkxXwjO
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/16(水) 20:01:05.49 ID:XYzKSkXA0
乙乙
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:40:14.48 ID:UlC/3mmdO

第十八話

「何だってこんな事に……」

寝息を立てる女騎士を横目に茶を啜りながら、老人は溜め息交じりに独り言ちた。

そろそろ店を閉めようかと思っていたところに突然運ばれて来た女騎士。

勇者の願いと聞いて断る訳にもいかず、医師に言われるままに奥の仮眠室に寝かせたがやることはない。

医師によって治療は既に済んでおり、後は勇者を待つのみである。

ただ、教会で何かが起きたことは確実であり、傭兵の姿もないのだから不安で仕方がない。

老人(無事だと良いが……)

カランカラン

老人「!!」

▼老人は仮眠室を飛び出した!
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:44:53.55 ID:UlC/3mmdO

勇者「……」

老人「……………酷い顔だな。さあ、取り敢えず奥の部屋に入れ。話はそれからだ」

▼勇者は無言のまま、仮眠室へ入った。

老人「飲め。少しは落ち着く」

勇者「お爺さん、ありがとう……」

▼勇者はお茶を飲んだ。

老人「……何があったんだ」

▼勇者は疲れ果てた声で話した。

老人「なら、王は若さを手に入れる為に?」

勇者「そうさ。その為に警護を解き、教会の者達を差し出したんだ。王は狂った。いや、きっとそれ以前から狂っていたんだよ」

▼その声には強い後悔が滲んだ。
 父の本心が見抜けなかったことに悔いているのだろう。

老人「しかし、警護を解いたのは不自然だ。民も馬鹿じゃない、今回の襲撃は不審に思うはずだ」

勇者「大した騒ぎにはならないよ。大方、警護が離れた僅かな隙を突いて襲撃されたとでも言うつもりなんだ」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:49:06.64 ID:UlC/3mmdO

老人「そんな説明が通用するか?」

勇者「王は戦の準備を始めてる。魔術師連中を捕らえて公開処刑にでもすれば疑念は塗り潰せる。そう考えているんだよ」

勇者「民を苦しめる悪しき魔術師達、それに立ち向かう正義の王。分かりやすい図式だろ……」

老人「……これからどうする。城へは戻れんし、取り敢えず都を出た方が」

勇者「王の暴走を止める」

老人「お前一人でか!? どう考えたって無茶だ!! 今のお前に味方はいないんだぞ!? 今頃は魔術騎士団も拘束されてるはずだ!!」

勇者「……」

老人「冷静になって考えろ。取り敢えずは都から出た方が良い。逃げるんだ」

勇者「俺は逃げるなんて出来」

老人「意地を張るな!! お前は王に敵対したんだぞ!! 全てを支配した男にな!! お前の師もその一人だ!!」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:50:04.26 ID:UlC/3mmdO

勇者「……」

▼勇者は拳を強く握っている。
 掌には爪が食い込み、血が流れた。

老人「冷静なれ。逃げることは恥ではない。何があっても生きるんだ。機会は必ず訪れる」

勇者「……」

老人「……店の裏に馬を用意してある。嬢ちゃんは任せろ。さあ行け、いつ追っ手が来るかも分からない」

勇者「…………分かった」ガタッ

老人「ま、待て」

勇者「?」

老人「危うく、これを渡すのを忘れるところだった」

勇者「それは?」

老人「医師に渡された物だ。嬢ちゃんの鎧の隙間に挟まれていたらしい」

勇者「……月間、傭兵特集?」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/17(木) 00:51:09.36 ID:UlC/3mmdO

老人「それからこれもだ。これは、その雑誌に包まれていたようだ」

勇者「小瓶? 中身は?」

老人「それは分からん。だが、その記事には見覚えがある。傭兵が持って行った物だ」

勇者「師が? なら、この記事にも何か意味があるはずだ。何か手掛かりが……」

▼勇者は紙面に目を通した!

勇者「……」

老人「どうだ? 何か書いてあったか?」

勇者「……頼るべき者達とその居場所が書いてある。この記事そのものが伝言だったんだ」

老人「頼るべき者達……傭兵か。確かに軍を頼れない今、頼れるのは傭兵しかいない。場所は?」

勇者「国の干渉を受けない場所、軍の存在しない唯一つの街、彼等はそこにいる」


勇者「師の故郷、傭兵の街に」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/17(木) 00:52:09.14 ID:UlC/3mmdO

第十八話 微かな光

終わり
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/17(木) 00:52:45.61 ID:UlC/3mmdO
短いですがここまでです。 
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 01:14:20.38 ID:ENoBCRzDO
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/17(木) 19:06:42.56 ID:JCE/o5bro
なかなか深い
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/20(日) 20:31:51.11 ID:0/tTU//bO

読みごたえがあるな
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:04:06.31 ID:Jm7MmzXnO

第十九話

>>>>同日

魔法使い「今日はどうする?」

戦士「朝飯まだだろ? 朝飯食ってからにしようぜ」

魔法使い「え、もう食べたんだけど……」

戦士「あのな、前から思ってたけど合流すんの早くねーか? もうちょい遅くてもいいだろ」

魔法使い「早めに依頼受けた方がゆっくり出来るじゃん」

戦士「そりゃそうだけどよ……妙なとこで真面目だな、お前」

魔法使い「ほら、朝ご飯食べるんでしょ。行くよ」

戦士「はいはい」

傭兵が街から姿を消してから一ヶ月半程が経ったが、二人は今も変わらず共に行動をしていた。

昼前には合流し、二人で依頼を選び、二人で依頼を達成する。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:05:12.45 ID:Jm7MmzXnO

>>>>お食事処

戦士「食わないのか?」

魔法使い「うん、温かい飲み物だけでいいや」

戦士「分かった」

▼戦士は注文した。

魔法使い「あのさ」

戦士「どした?」

魔法使い「安定して戦えるようになってきたし依頼の難度上げたいと思うんだ。お金も増えるし」

戦士「そんなに貯めて何に使うんだよ」

魔法使い「別に良いじゃん」

戦士「まあ良いけどよ……でも慣れてきたとは言え、まだ危険な場面もある。今はまだ中級上級の討伐に専念して経験を積むべきだ」

魔法使い「何それ、センセみたいなこと言わないでよ」

戦士「そんなつもりはねーよ。つーかお前、何を急いでんだ?」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:06:13.05 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「だって……」

戦士「仮に俺達の評価が急激に上がったとしても、先生と同じ依頼は受けられねーぞ。先生が受けたのは国からの依頼だろうからな」

魔法使い「別にそんなこと言ってないし」

▼魔法使いは俯いてしまった。

戦士「……はぁ、上級討伐以上の依頼って言ったら特級だぞ? 上級とはわけが違う」

魔法使い「それは知ってるよ。めっちゃ強い魔物でしょ? 数は十体にも満たないって話だけど」

戦士「えらく雑な知識だな、幾ら歴が短いって言ってももう少し知っとけよ」

魔法使い「仕方ないでしょ、そういう話する人いなかったし……」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:08:24.50 ID:Jm7MmzXnO

戦士「あ、独りぼっちだったもんなあ」

魔法使い「うっさいな……」

▼料理が届いた。

戦士「受付サンからは聞いてないのかよ」モグモグ

魔法使い「そういう話はしないんだ。普段は服とかお料理の話しかなあ。後はお化粧とか」

戦士「気持ちわるっ、脳内女子の十代か?」

魔法使い「女子なんだよ!! 十代の!!」

戦士「仕方ねーから教えてやるよ」

魔法使い「おい、無視すんな」

戦士「特級ってのは自分から襲ってくる奴等じゃない。基本的には大人しくて臆病らしい」

魔法使い「えっ? そんな奴等が何で上級って言われてるわけ?」

戦士「魔物だからって取り敢えず殺そうとした傭兵やら兵士やらが、ことごとく返り討ちに遭ってるからだ」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:10:00.49 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「戦った人は殺されてないってこと?」

戦士「みたいだな。全部が全部そうでもないだろうが、生き延びた多くの傭兵や兵士が危険性を広めたんだ。で、それが繰り返されてる内に特級なんて言われるようになったのさ」

魔法使い「じゃあ、特級の魔物って討伐されてないの?」

戦士「いや、何体かはやられたって聞いた。特級個体は非常に数が少なく、生殖活動も確認されてない。基本は放っといてるんだろう」

魔法使い「ふ〜ん」

戦士「で、どうすんだ? 受付サンに頼めば依頼内容くらいは見せてくれるはずだ。居場所も分かるだろう」

魔法使い「え、そうなの?」

戦士「特級の監視は今でも続けられてるからな」

魔法使い「はぇ〜、知らんかった」

戦士「お前が知らなすぎるんだよ。でもまあ、依頼は見るだけで受けられないと思うけどな」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:12:24.64 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「え、何でさ」

戦士「実績がねーだろ。俺もお前もまだまだ新人だ。そんな大きな依頼は受けられない。死なれて迷惑するのは受付サンだしな」 

魔法使い「そうだよね……でもさ、この前取材受けたじゃん」

戦士「よく分からねー雑誌の記事だろ? あんなもん何の得にもならねえって」

魔法使い「そうかなあ」

戦士「読んでる奴見たことないぜ?」

魔法使い「でも、それで少しでも名が売れれば儲けもんじゃん? きっとセンセも喜んでくれるよ」

戦士「だと良いけどな。つーか、今頃は何処で何してんだろうな? あれから受付サンも元気ねーし、手紙でも出してくれりゃあ良いのに」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:14:20.95 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「忙しいんだよ、きっと……」

戦士(寂しそうにしてんのはコイツもだな。依頼受けて紛らわしてるようなとこもある。受付サンもだが、コイツにも何か特別な思いがあるんだろう)

魔法使い「……」

戦士(このままだと危ねえ気もするな。たまには気分転換でもしてみるか……)

魔法使い「どしたの?」

戦士「取り敢えず、特級に関わる依頼内容だけ見てみようぜ? 今日どうするかはそれからだ」

魔法使い「うん、そうだね」

▼支払いを済ませ、二人は酒場へ向かった。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:16:27.64 ID:Jm7MmzXnO

>>>>応接室

魔法使い「おいっす〜」

戦士「よお、受付サン」

受付嬢「おはようございます。今日も早いですね」

戦士「早速で悪いが、特級討伐の依頼を見せてくれるか?」

受付嬢「お二人には早過ぎます。許可出来ません」

戦士「それは分かってる。見せてくれるだけで良いんだ。魔法使いが興味あるみたいでな」

受付嬢「そうですか。では、此方になります」

▼受付嬢は古い依頼書を差し出した。

魔法使い「へ〜、なんか紙も今のとは違う気がする。何て言うか、時代を感じる」
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:17:44.43 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「初期の依頼ですからね」

魔法使い「ってことは二十年も前の依頼?」

受付嬢「いえ、そこまで古くはありません。古くても十四、五年程でしょう」

魔法使い「そうなんだ。ねえ、戦士」

戦士「何だ?」

魔法使い「倒された特級もいるって言ってたでしょ? 何で討伐対象になったの?」

戦士「金のなる場所に棲み着いたからだ。金鉱とかな。国も全力で殺しに行っただろうよ」

魔法使い「なるほどね。でもさ、そうじゃない場所はどうなるの?」

受付嬢「重要ではないと判断された場合、その土地の所有者は諦めるしかなかったでしょう」
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:19:37.85 ID:Jm7MmzXnO

魔法使い「そっか……」

戦士「どうする? 見てみるか?」

魔法使い「何を?」

戦士「特級を監視してる傭兵んとこに行くんだ。最近は戦ってばかりだったから、たまにはそういうのも良いだろ」

魔法使い「え? そんなこと出来るの?」

受付嬢「監視者に会いに行くだけならば問題はありませんよ。いい顔はされないでしょうけれど」

魔法使い「まあ邪魔だよね。普通に……」

戦士「どうする? 近場ってわけじゃねーけど、今から行けば今日中に帰って来られる」

魔法使い「ん〜、そうだね……うん、たまには良いかもね。折角だし行ってみたい」

戦士「んじゃ、早速行こうぜ」

魔法使い「……」

戦士「何だよ」

魔法使い「なんでもない。私、先に行って馬車用意してくる」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:21:19.35 ID:Jm7MmzXnO

戦士「お、おう、頼むわ」

魔法使い「あっ、運転はアンタね。行き帰りどっちも」

戦士「はいよ」

魔法使い「受付さん、またね!」

受付嬢「はい、お気を付けて」

▼魔法使いは足早に立ち去った!

戦士「ちょっと露骨だったか……」

受付嬢「割と自然な誘い方でしたよ?」

戦士「そうかあ? 何つーか、ご機嫌取りっぽくなかったか?」

受付嬢「そう感じたのなら誘いは受けませんよ。貴方の意図が分かったから承諾したのだと思います」

戦士「それはそれでダセエな。こういうのって悟られないようにやるもんなのによ」

受付嬢「それでも良いではありませんか。魔法使いにも貴方にも、よい気分転換になりますよ」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:23:22.23 ID:Jm7MmzXnO

戦士「あいつが途中で臍曲げなきゃな」

受付嬢「魔法使いはそこまで子供ではありませんよ。これで少しは落ち着いて考えるようになるでしょう」

戦士「……」

受付嬢「どうしました?」

戦士「今度、三人で飯でも食わねーか?」

受付嬢「はい?」

戦士「だから、俺と魔法使いと受付サンでご飯でも食べに行きませんか?」

受付嬢「いえ、それは分かります。貴方の意図が分かりません」

戦士「余計な世話だろうが、あんたも気分転換した方が良い。最近は魔法使いとも出掛けてないんだろ? まあ、あいつが依頼受けてばかりだったからだろうけどよ」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:24:12.20 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「……」

戦士「無理にとは言わねえ。でも、少しはゆっくりした方が良い。そんなんだと先生が心配するぜ?」

受付嬢「……考えておきます」

戦士「ありがとよ。んじゃな、受付サン」

受付嬢「戦士、お気を付けて。魔法使いを頼みます」

戦士「おう、またな」

▼戦士は立ち去った。

受付嬢「……」

受付嬢「……三人」

受付嬢「……」

受付嬢「……もっと早く、私から言っていれば」
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:25:29.31 ID:Jm7MmzXnO

>>>>数時間後

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

カチコチ

カチコチ

カチコチ

カチコチ

受付嬢(そろそろ到着した頃でしょうか?)

受付嬢(あそこの監視者は特別変わった考えを持った方ですから、退屈はしないでしょう)
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:26:30.83 ID:Jm7MmzXnO

コンコンッ

受付嬢「はい、どうぞ」

錬金術師「初めまして、錬金術師と申します」

受付嬢「魔術師の方ですね。どのような依頼でしょうか?」

錬金術師「いや、依頼を願いたくて訪ねたわけではない。私は君達が言うところの魔術結社の長だ。個人的に話がある」

受付嬢「……」

錬金術師「座っても宜しいかな?」

受付嬢「どうぞ」

錬金術師「その前に」

▼錬金術師は杖を振るった。
 杖から伸びたツタが全ての出入口を塞いだ。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:27:09.46 ID:Jm7MmzXnO

錬金術師「では、改めて」

▼錬金術師は席に着いた。

受付嬢「個人的な話とは何でしょうか」

錬金術師「彼についてだ」

受付嬢「誰を指しているのか分かりかねます」

錬金術師「それは済まない。君の父についてだ」

受付嬢「父はいません。私が生まれる前に他界しています。話せることなどありません」

錬金術師「君がそう主張するなら受け入れよう。では、亡国の傭兵とでも言えば分かるかな?」

受付嬢「はい、存じています。しかし、居場所をお教えすることは出来ません」

錬金術師「そうではないよ。場所なら既に知っている。今の君より詳しいと言える」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:28:08.82 ID:Jm7MmzXnO

錬金術師「彼は今、我々と共にいる」

受付嬢「信じられません」

錬金術師「そう思って、これを持ってきた」

▼錬金術師は道具袋から剣を取り出した。

錬金術師「彼の剣だ。見覚えはあるだろう?」

受付嬢「偽物である可能性があります」

錬金術師「そうだな、確かにそうだ。しかし、そうと分かっていても従わざるを得ない。彼も、君もな」

受付嬢「どういう意味でしょうか」

錬金術師「これを使って君を人質にしたと言ったところ、彼はすぐに協力してくれた」

▼錬金術師は銀縁眼鏡を差し出した。

受付嬢「……」

錬金術師「この眼鏡は私が精巧に作った偽物だが、彼にとっては本物に見えた。或いは偽物と疑ったけれども可能性がある以上は従わざるを得なかった」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:29:43.66 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「何故私を……」 

錬金術師「君の存在そのものが彼の守る故郷であり、帰る場所だからだ」

受付嬢「有り得ません」

錬金術師「彼は君のために王と決別した。今後は私達と共に国軍と戦うことになる」

受付嬢「下らない戯れ言です」

錬金術師「何故そう言い切れる? 私が直接此処に来たのが何よりの証明ではないのか?」

受付嬢(これ以上は無意味。彼の迷惑になるのなら今此処で)

▼受付嬢は短剣を握り締めた。

錬金術師「彼は既に此方側にいる。その行為は無意味だ」

▼受付嬢は自分の喉元に短剣を突き付けた!

錬金術師「君が死ねば彼は絶望するぞ? それは救いにはならない。苦しめるだけだ」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:30:53.59 ID:Jm7MmzXnO

▼受付嬢は喉元に短剣を押し付けた。
 薄く血が滲み、喉を伝っている。

錬金術師「まあ無理にとは言わない。君の偽物なら既に用意してある。後に発覚すればより深く絶望するだろうが仕方ないだろう」

▼受付嬢は錬金術師を睨み付けた!
 短剣を握り締めた手が悔しさに震えている!

受付嬢「………私に何をしろと言うのですか」

錬金術師「戦の準備は出来ているが人手が足りない。私達の組織は少数精鋭なものでね」

受付嬢「先に言っておきますが、私は満足に動くことが出来ません。戦闘など不可能です」

錬金術師「問題はない。私と共に来れば以前と同じように動けるようになる」

▼受付嬢は驚愕に目を見開いた!

錬金術師「聞こえなかったのか? 君は再び戦うことが出来るのだ。かつて、踊り子と言われた時のようにな」

▼受付嬢は明らかに動揺している。
 生じた迷いを振り払おうとしているようだ。

錬金術師「戦が終われば彼も君も自由だ。王の束縛から解放され、自由の中を彼と共に歩ける」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/22(火) 00:32:40.28 ID:Jm7MmzXnO

受付嬢「……」

錬金術師「君は魔法使いと戦士に奪われた場所を取り戻す。親子であることを隠す必要もなくなる。父と娘として生きられる」

受付嬢「……」

錬金術師「ただ、それまでは従ってもらう。君にとっても悪い話ではないと思うが」

▼受付嬢は無言のまま椅子から立ち上がる。
 受付嬢は杖を突かず、机を支えに歩き出した。

錬金術師「掴まりたまえ」

受付嬢「結構です。貴方になど触れたくありません」

錬金術師(気丈な娘だ)

▼錬金術師は杖を振るった。
 二人はツタに呑み込まれ、姿を消した。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/22(火) 00:35:04.18 ID:Jm7MmzXnO

十九話 希望

終わり
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 00:39:12.27 ID:Jm7MmzXnO
今日はここまでです。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 01:11:39.36 ID:h4hLOY+1o
なんと…
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 03:20:13.19 ID:aNNNVEcDO
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 08:47:47.32 ID:rLgS8dro0
乙!
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 10:15:48.56 ID:3C38/8WyO
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:27:23.31 ID:hT6/aIqMO

第二十話

魔法使い「あっつ〜」グテー

戦士「水飲め、水」

▼魔法使いは水を飲んだ。

魔法使い「ぬるっ……」

戦士「文句言うな。あるだけ有難いと思え」

魔法使い「あいあい……」

戦士「もうすぐ岩山が見えてくる。その岩山沿いに監視所があると書いてあった」

魔法使い「砂漠の入り口だっけ? って言うかさ、気温ってここまで急激に変わるものなの?」

戦士「詳しくは知らねーが、岩石砂漠の地熱も影響してるとかって話だ」

魔法使い「それ、昔授業で聞いたかもしれない。内容はさっぱり思い出せないけど……」

戦士(そういや都の学校に通ってたって言ってたな。良いとこのお嬢様だったりすんのかね)
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:28:21.62 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「地下には何があるのかな?」

戦士「さあな。太陽に焼かれた蛇が潜ったとか、そんな昔話なら聞いたことがある」

魔法使い「砂漠の地下で蛇が熱冷ましてるんだ」

戦士「昔話が本当ならな」

魔法使い「ふ〜ん、変なの」

戦士「昔話なんてそんなもんだ」

魔法使い「……」

戦士「……」

魔法使い「……ねえ」

戦士「あん?」

魔法使い「さっき、受付さんを誘ったって言ってたでしょ。三人でご飯食べようってさ」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:29:30.92 ID:hT6/aIqMO

戦士「おう」

魔法使い「来てくれると思う?」

戦士「あの人の場合、嫌なら即断るはずだ。本当に少し考えたいんだと思うぜ?」

魔法使い「ん〜、どうだろ。受付さんは弱味を見せない人だし、人に甘えたりするの苦手だし」

戦士「類は友を呼ぶんだな」

魔法使い「うるさいなぁ……」

戦士「でもよ、あの人はどこか違う気がする。何つーか、しっかりし過ぎてるだろ?」

魔法使い「ああいう職業だし、しっかりしなきゃって思うんじゃないかな? 私にだってそこまで砕けた態度は取らないよ?」

戦士「お前の前だと特にじゃねーか? 年上だし弱いとこは見せられないだろ。先生が絡まなければな」

魔法使い「そんなの気にしなくて良いのに……」

戦士「そういう風に生きてきたのかもな。身に染み付いた生き方っつーかさ」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:31:05.01 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「どういうこと?」

戦士「頼る人間がいないから全てを自分で何とかするしかない。隙を見せてはならない。とかな」

魔法使い「……分かる気はする」

戦士(……そうか、こいつも色々あったみたいだからな。似たような境遇だからってのもあるかもな)

魔法使い「受付さんはさ」

戦士「ん?」

魔法使い「受付さんはね、私が傭兵になったばかりの頃から色々助けてくれたんだ。
     依頼とかも選んでくれた。だから何かしたいんだけど、受付さんはあんな感じだからさ」

戦士(珍しいな……)

魔法使い「欲しい物とか探ろうとしてもはぐらかすし、料理とかも教えて貰ってばかりだし」
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:32:50.85 ID:hT6/aIqMO

戦士「何か作って渡せばいいじゃねえか」

魔法使い「いやいやいや、料理上手に手料理渡すとか無理だって」

戦士「そんなの気にすんのかよ。若妻二人の料理格差みたいな話だな。女かよ」

魔法使い「女なんだよ!! 日に二度も言わせんな!!」

戦士「気にしなくても良くねーか? そういうのって気持ちだろ?」

魔法使い「じゃあ、可愛い女の子が手料理作ってきてマズかったらどうするわけ?」

戦士「そりゃあ全部食うさ」

魔法使い「今のは質問が悪かったよ。同性の友達が急に料理作ってきたらどうする? ちなみに味は保障しません」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:33:33.02 ID:hT6/aIqMO

戦士「……」

魔法使い「ほらぁ〜!!」

戦士「それはちょっと考えるだろ!!」

魔法使い「それって困るってことでしょ? だから渡せないの。困らせたくないの。分かる?」

戦士「そんなもんか? 喜ぶと思うけどな」

魔法使い「無理無理。それよりさ、身に付ける物とかを渡した方が良くない?」

戦士「身に付ける物って?」

魔法使い「眼鏡の入れ物とか、髪留めとかさ。日常生活で使えるやつだよ」

戦士「俺はそっちの方が難しいと思うけどな。趣味の合わない物を渡されたらキツいだろ?」
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:34:35.19 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「むぅ……」

戦士「そんなに悩むことか?」

魔法使い「こういうのは外すと痛いからね。慎重にやらないと駄目なのさ」

戦士「そんなもんかね。考え過ぎてると渡す機会を逃すぞ?」

魔法使い「……」

戦士「どうした?」

魔法使い「………手伝ってよ」

戦士「はあ?」

魔法使い「帰ったら眼鏡買うから手伝ってよ」

戦士「眼鏡って何だよ。さらっと難易度上がってんだろ」

魔法使い「だから手伝って欲しいの。私は強気に行くって決めた。勝負だよ、勝負」

戦士「……お前、好みに合わないって言われたら俺が選んだとか言うつもりだろ」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:35:15.00 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「……」

戦士「……」

魔法使い「そんなことしないよ」

戦士「今の間は何だよ」

魔法使い「いいから手伝ってよ!!」

戦士「大声で誤魔化すのやめろよ」

魔法使い「なにさ、こんなに頼んでるのに……」

戦士「誠意を毛ほども感じねえんだよ。まあ、良いけどよ」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:36:03.01 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「いいの!?」

戦士「俺も何かお礼したいしな」

魔法使い「え、もしかして受付さん狙ってんの? それはちょっと引くわ」

戦士「この前の記者みたいなこと言うな。何でもかんでも恋愛に結び付けようとしやがって」

魔法使い「止めはしないよ。だけどさ、まずは己の身の程を」

戦士「話を聞けよ。つーか身の程を何だよ」

魔法使い「己の身の程を知れ」

戦士「言うのかよ……」

魔法使い「冗談はさておき、何で?」

戦士「寝床用意してくれたりしたからな。それから日頃の感謝ってやつだ」

魔法使い「日頃って?」

戦士「他の街では傭兵の扱いが結構雑なんだよ。あんなに傭兵を大切にする人はいないぜ?」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:36:44.36 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「へ〜、そうなんだ」

戦士「反応薄いな」

魔法使い「私はいつも世話になってるからね」

戦士「胸張って言うことか?」

魔法使い「えっ、変なとこ見ないでよ」

戦士「……」

▼戦士はある一点をじっと見つめている。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:37:57.91 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「な、なにさ……」

戦士「………ふっ、他愛ねーな」

魔法使い「待て、何故笑う。他愛ないって何だ」

戦士「哀れに思えてな。ちなみに他愛ないってのは手応えがなく張り合いがないってことだ」

魔法使い「は? そこそこあるから、着痩せするだけだから」

戦士「笑わせんな身の程を知れ。そういうのは受付さんくらいになってから言うんだな」

魔法使い「謝罪しろ、今すぐにな」

戦士「おっ、見えた。あれだな」

魔法使い「おい!!」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:39:28.43 ID:hT6/aIqMO

>>>>監視所

監視者「見学をしたい?」

戦士「ああ、特級の監視を体験させて欲しいんだ。迷惑だろうが何とか頼む」

監視者「まあいいさ、別に構ないよ」

魔法使い「え、いいの?」

監視者「正直言って邪魔だが彼女の理解を深めるには良い機会だな。我慢しよう」

魔法使い「ありが……ん?」

監視者「ちょっと準備をするから待っていてくれ」

戦士「おう、分かった」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:40:04.67 ID:hT6/aIqMO

▼監視者は奥の部屋に入った。

魔法使い「……」

戦士「小屋みたいなとこ想像してたけど、結構しっかりしたとこだな。研究所みてーだ」

魔法使い「……」

戦士「どうした?」

魔法使い「いや、あの人ちょっと」

ガチャ

監視者「来たまえ」

戦士「魔法使い、行こうぜ」

魔法使い「う、うん」

パタンッ

監視者「普段はこの望遠鏡で監視している。彼女の方からどうぞ。固定しているから覗くだけでいい」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:41:12.59 ID:hT6/aIqMO

▼魔法使いは望遠鏡を覗き込んだ。

戦士「見えるか?」

魔法使い「……うん、いる」

戦士「どんな感じだ?」

魔法使い「白いくて大きな狼? みたいな感じかな。なんか、普通に寝てるっぽい」

監視者「美しいだろう?」

魔法使い「いや、あれ魔物だし」

監視者「美しいだろぉ?」

魔法使い「……はい」

戦士(変人相手だと敬語になるのか)
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:41:40.92 ID:hT6/aIqMO

監視者「彼の方もどうぞ」

▼戦士は望遠鏡を覗き込んだ。

戦士「本当に真っ白だな。綺麗なもんだ」

監視者「ンフフ、そうだろぉ?」

戦士「あんたみたいに大声じゃ言えないけどな」

監視者「分かる、分かるよ。美しいものを美しいと言えないのは非常に悲しいことだ」

戦士「あんたは違うみたいだな」

監視者「私は違いを怖れていないからな。私は彼女を美しいと感じている。人間の女性など足下にも及ばないよ」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:42:30.95 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「あのさ」

監視者「何だ?」

魔法使い「あの魔物が好きなの? その、異性として……」

監視者「恋をしていると言っても過言ではないな。何時間見ていても全く飽きないよ。最近は望遠鏡越しに熱く見つめ合っている。もう最高さ」

魔法使い「無理キモい!!」

監視者「アハハッ!! それはそれで真っ当な意見だ。正しい反応だが、間違いでもある」

戦士「見つめ合っているって大丈夫なのか?」

監視者「勿論だよ。縄張りに入らなければ問題はない。でも、あの視線には何かを感じるよ。目が合う回数も増えているし、私を求めているのかもしれないな」

監視者「それに、彼女には他の魔物にはない知性を感じる。何かを訴えかけているのかもしれない。あくまで個人的な見解だが」
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:43:45.21 ID:hT6/aIqMO

戦士「面白いな、あんた。興味が湧いてきた」

監視者「ンフフ、お茶でも用意しよう。掛けたまえ」

▼戦士と魔法使いは席に着いた。
 魔法使いはとても帰りたそうにしている。

監視者「どうぞ」

▼監視者は冷たいお茶を差し出した。

監視者「さて、戦士と魔法使いだったな。君達は私を変人、変態だと思っているだろう?」

魔法使い「だってそうじゃん」

監視者「アハハッ! それが普通の感覚と言うやつだ。否定はしない。だが、私の言い分も聞いて欲しい」

戦士「ああ、いいぜ?」

監視者「簡単に言うと、愛おしいんだよ」
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:44:21.96 ID:hT6/aIqMO

戦士「愛おしい?」

監視者「彼女は人間より優れた力を持ちながら子を残すことは出来ない。人間を怖れ、こんな場所に隠れて生きている」

監視者「もし彼女に人間と同等の知性があれば、彼女に限らず特級と呼ばれる魔物に知性があれば、もっと違った結果になっていただろうね」

戦士「もしそうなれば、人間は消えるな」

監視者「人間もそうやってのし上がった。他の生物を追いやり、彼等の土地を奪った。絶滅させもした。人間を絶滅させる生物が現れても不思議ではない」

監視者「どんな生物にも生きる権利があり、同時に命を奪う権利がある。それが人間だけの特権と勘違いするからおかしなことになる」

監視者「彼女は襲われて身を守った。それで人が死んだ。それの何が悪い。魔物を狩るなら、魔物に狩られることを覚悟すべきだ」

監視者「もし彼女に何かがあれば、私は彼女を守るだろう。傭兵ではなく、人間としてね」

魔法使い「……」

監視者「ああ、済まない。私は別に人間が悪だとかそんなことを言いたかったわけではない。話を戻そう」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:45:35.19 ID:hT6/aIqMO

監視者「さて何だったかな。ああ、彼女に惹かれた理由だった」

監視者「何と言えば良いかな。彼女は生きているだけで美しいんだ。人間には出せない美しさとでも言うべきかな」

戦士「自然だからか?」

監視者「正にそれだよ。人間は不自然な生物だろう? こうした方が良いと分かっていながら、それとは全く別の行動を取る」

監視者「他人と比較して考えを変えたり、嘘を吐いて誤魔化したりもする。私は人間の方が危険だと思うよ」

監視者「一方、彼女は思想に惑わされることもない。嘘を吐くこともない。ありのまま生きてるんだ。それが美しいのさ」

魔法使い「だったら他の生き物でもいいじゃん。猫とか犬とかさ」

戦士「そういやそうだな。自然に生きてる生き物なんて他にもいるだろ?」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:46:03.70 ID:hT6/aIqMO

監視者「犬? 猫? 駄目だ駄目だ」

魔法使い「何でさ」

監視者「あれは媚びる。それに人間より弱い生物だ。魅力は感じないよ」

戦士「……なあ」

監視者「何だい?」

戦士「つまりあんたは、強い女が独りで生きてるってのが良いのか? 女って言って良いのか分かんねえけど、人間に置き換えると何となく分かる気はする」

監視者「君は面白いな、感覚的にはそれに近いのかもしれない」

戦士「とは言え、そこまで入れ込むのは全く理解出来ねえけどな」

監視者「ん〜、もっともっと人間的に分かりやすく言うなら、そうだな」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:47:26.03 ID:hT6/aIqMO

▼監視者は考え込んでいる。

監視者「この世の者とは思えないほどの美女がいたとする。彼女は極めて原始的で服を着ることもしない。いつも裸だ」

監視者「更には意思疎通は出来ない。安易に近付けば直ぐさま殺される。とても危険な女性だ」

監視者「彼女は水場で水を飲み、腹が減れば獣を狩り、喰らう。彼女はただ生きている」

監視者「着飾りもせず、媚びもせず、自分を曲げることもしない。彼女の心はいつも自由の中にある」

監視者「そして私は、そんな彼女の私生活を覗き見て涎を垂らす変態だ」

魔法使い「紛う事なき変態じゃん」

戦士「間違いねーな」

監視者「やっと理解してくれたようで嬉しいよ。さて、とっとと帰ってくれ。語っている内に気が昂ぶってきた。私にはやらなければならないことがある」

戦士「今すぐ帰る。席から立ち上がるのは俺達が出て行ってからにしてくれ」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:48:33.13 ID:hT6/aIqMO

監視者「早く行け、長くは持たん」

魔法使い「アンタさ、下半身に脳味噌付いてんじゃないの? 間違い起こさない内に切除した方が良いよ?」

監視者「心配はない。私は人間の雌になど一切興奮しないからな」

魔法使い「それはそれで問題だと思うけどね」

戦士「つーか、コトを済ませたいから帰らせるとか相当だな。抑えが効かねーのかよ」

監視者「人間も所詮は獣ということだ、少年」

戦士「やかましいわ」

魔法使い「じゃあね変態、話は楽しかったよ」

監視者「ああ、さらばだ。また遊びに来たまえよ」

▼二人は返事をせずに立ち去った。
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:50:05.64 ID:hT6/aIqMO

>>>>帰り道

戦士「とんでもねえ奴だったな」

魔法使い「そうだね。でも面白かったよ。ああいう人間がいても良いんじゃないかな」

戦士「意外だな、毛嫌いするもんだと思ってた」

魔法使い「言ってることは真っ直ぐだったじゃん。性癖はねじ曲がってるみたいだけどさ」

戦士「俺は圧倒されたよ。あそこまで欲望に正直な人間は見たことねえ」

魔法使い「人間も所詮は獣なんだよ」

戦士「本当にそうかもな。こんだけ殺し合ってる生き物は他にいねえし」

魔法使い「だね。って言うか、魔物かぁ……」

戦士「ん?」

魔法使い「突然現れて、人間に目の敵にされて、殺されて、絶対人間のこと憎いよね」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:50:38.77 ID:hT6/aIqMO

戦士「心があればな」

魔法使い「ないのかな?」

戦士「考えたこともねえよ」

魔法使い「私も」

戦士「……」

魔法使い「……」

戦士「魔物がいなくなったら、傭兵はどうなるんだろうな?」

魔法使い「どうなるんだろうね? きっと、困る人が多いと思う」

戦士「だろうな……」

魔法使い「変だよね。いつも殺してる生き物に生かされてるなんてさ」 
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:51:21.65 ID:hT6/aIqMO

戦士「何かが間違ってんのかもな」

魔法使い「……魔物がいなくなったら、どうする?」

戦士「分かんねえ。お前は?」

魔法使い「私にも分かんないや」

戦士「……でも、魔物がいない方が良いのは分かる。それは間違いない。だから俺達がいる」

魔法使い「そうだね……」

戦士「……」

魔法使い「……」

戦士「取り敢えず、街に着いたら眼鏡でも見ようぜ? 店が開いてたらだけどな」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:52:14.10 ID:hT6/aIqMO

魔法使い「そうだね、どんなのが良いかな?」

戦士「あんまり攻めない方が良いだろ」

魔法使い「でもさでもさ、赤いのとか似合いそうじゃない?」

戦士「それは分かる。分かるが、受付サンが使うどうか分からねーだろ」

魔法使い「赤いの買って、別のも買おうよ」

戦士「二つもか? 迷惑だろ」

魔法使い「そうかなあ……気分で替えるとか良いじゃん」

戦士「そんな奴いるか?」

魔法使い「分かんない。受付さんに先駆けになってもらおうよ」

戦士「お前は受付サンに何を求めてんだよ……」

魔法使い「求めてないよ。私はただ色んな顔の受付さんが見たいだけ。出来れば笑って欲しいけどさ」

戦士「ま、お前が納得するまで付き合うさ」

魔法使い「ん、ありがと……」
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/23(水) 23:53:55.18 ID:hT6/aIqMO

第二十話 惚け

終わり
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:55:37.65 ID:hT6/aIqMO

第二十一話

>>>>夜

戦士「おい、おい起きろ」

魔法使い「……ん〜? 着いたの?」

戦士「ああ着いた。でも、眼鏡を買いに行く暇はないみたいだ」

予定より早く到着したが、何やら街が騒がしい。

魔法使い「何か、街の様子が変じゃない?」

戦士「ちょっと聞いて来る。お前は待ってろ、動くなよ」

すぐさま馬車を降りて見知った傭兵達に話を聞くと、次のような答えが返ってきた。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/23(水) 23:56:30.43 ID:hT6/aIqMO

「受付嬢が消えた」

「受付嬢が逃げた」

「軍が攻めてくる」

事実確認出来ないまま憶測は憶測を呼んでおり、街の傭兵達は酷く混乱している様子だ。

見ると、受付嬢の同僚であるらしい街の仲介業者達も質問攻めにされている。

傭兵達にとって受付嬢は街の顔とも言える存在、彼女が姿を消した影響は大きいようだ。

戦士「……」

魔法使い「何て言ってた?」

戦士「まだ分かんねえ。酒場に行くぞ」

魔法使い「……受付さんに何かあったの?」

戦士「言ったろ。まだ分かんねえ」

それ以上のことは何も言えず、戦士は酒場に向けて馬車を走らせた。
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:08:22.12 ID:kY2YNde0O

>>>>

酒場に到着したが、そこに傭兵達の姿はない。

二人は静まり返った酒場の中央で呆然と立ち尽くし、暫く動くことが出来なかった。

どれだけ時間が経とうと賑やかさが戻ることはなく、落ち着かない静けさだけがある。

床に転がる酒瓶が、からからと音を立てた。

二人は顔を見合わせると意を決して応接室へと足を踏み入れたが、そこに受付嬢の姿はない。

机はいつも通り綺麗に整理整頓されていて、作成していたであろう依頼書が置かれてある。

杖も車椅子も何もかもがそのままの状態で残されており、不自然な程に変わりはない。

ただ、彼女の姿だけがない。微かに残された彼女の存在感が、二人の心を余計に締め付けた。

そこにいるはずの人物がいない。そこにいるはずの人物が突然姿を消す。それは二人にとって二度目の経験だった。
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:10:03.33 ID:kY2YNde0O

戦士「……攫われたのか」

魔法使い「黙って攫われる人ようなじゃない。抵抗しないなんて絶対変だよ」

戦士「だが杖も椅子もそのままだ。見た感じ、乱れたところはない。抵抗したなら散らかったりするもんだ。誰も声を聞いてねえってのも妙だ」

魔法使い「まだ分からないよ。変わったとこがないか調べよう。部屋暗いから照らすね」

戦士「頼む」

▼二人は部屋を調べた。

魔法使い「……ない」

戦士「ない? 何が?」

魔法使い「短剣がない」

戦士「短剣? そんなのあったか?」

魔法使い「うん、引き出しの裏側に隠してあるんだ。前に受付さんが見せてくれた」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:11:10.42 ID:kY2YNde0O

戦士「戦おうとしたのか」

魔法使い「かもしれない。それから、相手は魔術師だった」

▼魔法使いは床を照らした。

戦士「これ擦り傷か? 随分細かいな」

魔法使い「うん。這い回ったみたいな細かい擦り傷が沢山ある。向こうの扉にも、こっちにも」

戦士「近付かないと分からねーが、来客用の椅子の辺りから放射状に伸びてるみたいだな」

魔法使い「植物っぽいね。でも、これだけじゃ何も分からない……」

戦士(……コイツの手前口には出せねえが、付いて行った可能性もある。だが、だとしたら何故?)
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:12:37.18 ID:kY2YNde0O

魔法使い「ねえ、戦士」

戦士「どうした?」

魔法使い「皆はさ、受付さんがいなくなったから混乱してるんでしょ?」

戦士「ああ、どうやら本当にそうみたいだ。この目で見るまでは信じたくなかったけどな」

魔法使い「……」

▼魔法使いは杖を握り締めて目を閉じた。

戦士「おい、大丈夫か?」

魔法使い「うん、大丈夫。このまま止まってても始まらないし、まずは混乱を鎮めよう。
     この街を守れるのは傭兵しかいないんだ。私達がしっかりしないとダメだよ」

▼魔法使いは自分に言い聞かせるように言った。
 瞳は潤んでおり、その声はか細く、震えている。

魔法使い「だから今は出来ることをしよう? 考えるのは後でも出来るしさ」

▼魔法使いは明るく笑った。
 細めた目尻からは涙が溢れ頬を伝った。
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:14:27.18 ID:kY2YNde0O

戦士「お前……」

▼魔法使いは咄嗟に背を向けた。

戦士「魔法使」

魔法使い「さ、行こう!」

▼魔法使いは戦士の言葉を遮り、背を向けたままで言った。

戦士「……」

魔法使い「立ち止まってちゃダメだよ」

戦士「……そうだな、行こう」

▼二人は応接室を立ち去った。
 二人の背中に声を掛ける者はいなかった。

▼扉が閉じられた。
 独り言は聞こえない。誰もいないようだ。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:16:12.88 ID:kY2YNde0O

>>>>翌日

事態が収束したとは言えないが、ひとまず暴動が起きるような状態は脱した。

酒場には傭兵達の姿が戻り、応接室に代わりの仲介業者が入ったことで落ち着きを取り戻しつつある。

しかし、当然のことながら不満を漏らす傭兵も数多くいた。

明らかな拒否反応を示す者、事実を受け止めて渋々ながら従う者、反応は様々である。

以前から街にいた仲介業者とは言え、新顔の受付は信用出来ないのだろう。

中には街を立ち去る傭兵もいた。それだけ受付嬢の存在は大きかったようだ。

冷淡とも言える態度と事務的な口調。そうした態度を取りながらも傭兵の身を案じる受付嬢。

そんな彼女が消えたことは非常に衝撃的であり、裏切られたとすら感じる者もいたようだ。

裏切り行為であるかは別としても、この街の仲介業者に対する不信感が高まったと見ていい。

信用回復は容易なことではなく、時間が掛かることは間違いないだろう。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:17:44.52 ID:kY2YNde0O

戦士「何とかなったな」

魔法使い「だけどさ、酒場の雰囲気とか全然違うよ。なんか、ぴりぴりしてる」

戦士「安心して仕事出来ないんだ。そりゃ、ああなるさ。新しい受付は苦労しそうだな」

魔法使い「気の毒だけど、こればっかりは時間だよ。何とか頑張って貰うしかない」

戦士「そうだな……」

魔法使い「……」

戦士「俺達はどうする。依頼受けるか?」

魔法使い「ん〜、今日はやめとく」

戦士「じゃあ飯でも食うか。帰って来てから食ってねえしな」

魔法使い「お肉食べたい」

戦士「はいよ。んじゃ、行こうぜ」
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:18:34.01 ID:kY2YNde0O

>>>>お食事処

戦士「……」モグモク

魔法使い「……」

戦士「どうした? 食わねーのか?」

魔法使い「……ねえ、戦士」

戦士「あん?」

魔法使い「受付さん、何処に行ったのかな」

戦士「魔法使い」

魔法使い「分かってるよ。沢山調べたし、何も残ってないし、見慣れないお爺さんが来たってこと以外に情報ないし、それに」

戦士「……」

魔法使い「付いて行ったのかもしれないし……」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:20:14.72 ID:kY2YNde0O

戦士「そうだな……」

魔法使い「もしそうなら、もし本当にそうだとしたらさ、追わない方が良いのかなあ」

▼魔法使いは涙を流した。

戦士「……」

魔法使い「先生も受付さんもいなくなっちゃって、街の雰囲気も変だし、なんかもう分かんないよ」

戦士「出来ることをする。街を守る。お前は昨日そう言っただろ?」

魔法使い「言った……」

戦士「だったら強がれ」

魔法使い「ちょっと無理っぽい」

戦士「あのなぁ……」

魔法使い「だって先生はどっか行くし、受付さんは消えちゃうし、それに」

戦士「何だよ」

魔法使い「やっぱり寂しいし……」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:21:19.93 ID:kY2YNde0O

戦士「……………はぁ」

魔法使い「溜め息吐くことないじゃん。本当のことだよ? って言うかこれが普通だよ……」

戦士「そりゃあ俺だって寂しいさ。受付サンを捜したいのも分かる。でも、手掛かりがないんじゃ捜しようもないぜ」

魔法使い「そうだけどさ……?」

▼見知らぬ男がやって来た。

戦士「何だよ、俺達に何か用か?」

勇者「戦士と、魔法使いか?」

魔法使い「そうだけど、誰?」

勇者「良かった、やっと会えた。街に到着してから随分探した」

魔法使い「いや、だから誰? 出来ることなら放って置いて欲しいんだけど」

勇者「ああ、済まないな。俺は勇者だ」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:25:35.86 ID:kY2YNde0O

第二十一話 子供達

終わり
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:26:43.23 ID:kY2YNde0O

第二十二話

戦士「勇者? あんたが?」

魔法使い「勇者って王子でしょ? お供も連れずに一人で来たわけ? かなり嘘っぽいんだけど」

勇者「疑問や質問は後にして今は話を聞いて欲しい。二人にとっても無関係な話じゃない」

▼勇者は返事を待たず語り出した。
 王の暴走と教会襲撃、傭兵の失踪と人質の存在、そして追放、順を追って説明していった。

戦士「……大体の話は分かった。だが、何で俺達を?」

勇者「これを師が持っていたそうだ。俺はこれを見て二人を頼ることにした」

魔法使い「あ、この記事……」

戦士「本当に売ってたんだな。つーか先生も読んだのかよ。何か恥ずかしいな」

勇者「先生か……」

魔法使い「なあに?」

勇者「いや、先生と呼んでいるから、師が二人を育てたのは本当なんだと思ってな」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:27:28.62 ID:kY2YNde0O

戦士「あんたも師って呼んでるな」

勇者「俺も一時期教育を受けていたんだ。師のことはとても尊敬している」

魔法使い「ふーん。故郷を材料にセンセを脅して従わせた癖にね」

勇者「ぐっ……その点を含めて尊敬してるんだ。第一、あれは父のやったことだ。俺ならそんなことはしない」

戦士「そうやって歯向かった結果、若返った父親に城を追い出されたわけか。難儀だな」

勇者「父だろうと王だろうと間違いは間違いだ。それに、あれはもう父ではない」

戦士「……」

勇者「それから、これもあった」

▼勇者は小瓶を取り出した。

戦士「何だそれ?」

勇者「中身は俺にも分からない。この記事に包まれていたらしい。二人なら分かると思ったが、どうだ?」
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:28:06.70 ID:kY2YNde0O

戦士「俺には分かんねーな。お前は?」

魔法使い「ん〜? どっかで見たけど、どこだっけな? ちょっと貸して?」

▼勇者は小瓶を手渡した。
 魔法使いはしげしげと眺めている。

魔法使い「あ、毒だこれ」

勇者「毒?」

魔法使い「センセが持ってたやつで矢尻に塗って使うんだ。数分で視神経がやられるらしくって、それはもう凄い毒なんだってさ」

戦士「何だってそんな物騒なもんを……」

魔法使い「そんなの分かんないよ。必要になるってことかな? それとも暗号とか?」

勇者「それはひとまず魔法使いに預ける。それより本題だ。手を貸して欲しい」

魔法使い「王様を何とかするのはセンセと受付さんを助けた後、それで良いなら協力するよ」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:29:03.99 ID:kY2YNde0O

勇者「最初からそのつもりだ。俺にも助けなければならない友がいる。攫われた子供達もな」

戦士「なら、戦の混乱に乗じて忍び込もう。その方が楽だ。だが、子供達を救い出すのはかなり厳しい。三人助けるのとはわけが違う」

勇者「厳しいのは承知の上だ。だが、何としても救い出さなければならない」

魔法使い「うん、そうだね……」

戦士「魔術師の隠れ家は砂漠だったか? 場所は分かるのか?」

勇者「いや、砂漠にあるとしか聞いていない。軍の後を付けようかと考えてる」

魔法使い「それは良いけど人は増やさないの? 流石に三人じゃ無理だよ」

勇者「君達以外の傭兵を信用しろと? 師との繋がりがあるからこそ君達を頼ったんだ。そうでなければ此処にはいない」

戦士「傭兵は嫌いか?」

勇者「好き嫌いじゃない。信用ならないだけだ。そもそも渡せる金がない」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:31:02.29 ID:kY2YNde0O

魔法使い「お金は必要ないと思う」

勇者「どういうことだ?」

魔法使い「この街には受付さんに世話になった若い傭兵が沢山いる。事情を話せば協力してくれる傭兵は絶対いるよ」

戦士「そうか、そうだよな。それでも少ないだろうが三人よりはマシだ」

勇者「傭兵が誰かの為に戦うのか? 金も要求せずに?」

魔法使い「王子様は分かってないね、薄汚れた傭兵にだって矜持があるのさ」

勇者(矜持……)

戦士「はっ、何が矜持だよ。さっきまで寂しい寂しいって泣いてたくせに格好付けんな」

魔法使い「は? 泣いてないから。泣いたこととかないし」

戦士「はいはい。なあ、勇者」

勇者「ん、何だ?」

戦士「俺や魔法使いには兵を率いた経験はない。あんたが先頭に立って指示を出してくれないか」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:32:03.95 ID:kY2YNde0O

勇者「俺で良いのか? いや、俺は構わないんだが、傭兵達が素直に従うとは思えないな」

魔法使い「そこはあれだよ。俺様が玉座を奪った暁には褒美を与えるとか言えば良いよ」

勇者「君は簡単に言ってくれるな……」

魔法使い「そうかな? 城を落とすなんて聞いたら小躍りしそうだけどね」

戦士「城の前に救出だろ。勇者、魔法使い、今の内に飯食っとけ。俺は先に酒場に行って人を集める。食い終わったら酒場に来い」

勇者「了解した」

魔法使い「うん、すぐ行くよ」

▼戦士は立ち去った。

魔法使い「で、何食べる? お肉が美味しいよ?」

勇者「そうだな……じゃあ、同じものにしよう」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:33:08.97 ID:kY2YNde0O

▼魔法使いは注文した。

勇者「戦士は頼りになる男だな」

魔法使い「そうだね。私が温かいお肉食べられるように、先に注文してた冷えたお肉食べてってくれたし」

勇者(おそらく幼子に対するそれだな、単に甘やかしているとも言えるが)

魔法使い「なにさ」

勇者「いいや? ところで、戦士はいつもああなのか?」

魔法使い「うん、戦ってる時もあんな感じ。どんな時も周りを見てるんだ。何度も助けてくれた」

勇者「戦士とは長いのか?」

魔法使い「まだ二ヶ月三ヶ月くらいだよ。でも、ずっと一緒にいる。苦にならないんだ」

勇者「苦にならないか、攫われた友人がそんな感じだったな。身分を気にせず話してくれた」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:34:26.56 ID:kY2YNde0O

▼料理が届いた。

魔法使い「いただきます。その友達は男の子? 女の子?」

勇者「いただきます。名は僧侶、女性だ。俺と同世代だから女の子って歳じゃあないな」

魔法使い「アンタと同世代ってことは二十三、四歳くらい?」

勇者「そうだな。顔立ちは幼いが言動が過激なんだ。とても面白い人物だよ」

魔法使い「へ〜、僧侶さんは可愛い?」

勇者「顔は可愛らしいな。いつもからかわれているから素直に可愛いとは言えない」

魔法使い「仲良いんだね。きっと待ってるよ。絶対に助けてあげようね」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:35:05.08 ID:kY2YNde0O

勇者「……ああ、そうだな」

魔法使い「どしたの?」

勇者「快く引き受けてくれたばかりか、こうして一緒に食事をするとは思わなかった。礼を言うよ」

魔法使い「それは私達もだよ。受付さんが消えて、何の手掛かりもなかったところにアンタが来た。本当に助かった」

勇者「師のお陰だな、これがなければ二人に辿り着くことはなかっただろう」

魔法使い「そうだね…………あのさ、王子様」

勇者「何だ?」

魔法使い「話聞いて思ったんだけど、王様って年老いて狂ったのかな?」

勇者「いいや、元から狂っていたんだと思う。あの人は猜疑心と恐怖心の塊だ。きっと正常ではいられなかったんだろう」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:37:57.01 ID:kY2YNde0O

魔法使い「……お父さんと戦うのは怖い?」

勇者「ああ、怖い。躊躇いなく民を犠牲に出来るあの人が怖ろしい。でも、だからこそ、俺はあの男を許せない」

魔法使い「そっか、それなら大丈夫だよ。怖いって言えるなら、きっとお父さんより強いから」

勇者(不思議な子だ。子供かと思えば大人のように、そうかと思えば子供のようだ)

魔法使い「でもまあ、それはまだ先の話だし、今は救出に集中しないとね。さて、行こうか」

勇者(戦士と魔法使い、この二人が師に何を与えたのか、ほんの少しだけ分かった気がする)

魔法使い「どうしたの? 行くよ?」

勇者「ああ、済まない。今行くよ」

▼支払いを済ませ、二人は店を出た。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:40:39.54 ID:kY2YNde0O

>>>>酒場前

魔法使いと勇者が到着した時、酒場の前には二十名近くの傭兵達が集まっていた。

戦士が声を掛け、声を掛けられた傭兵がまたそれを広め、そうして集った志願者の中から選ばれた者達だ。

一対多、または共闘に慣れている者を選抜しており、各々の力量には若干の差はあるものの高水準でまとまっている。

加えて彼等、彼女等は受付嬢に恩義を感じている傭兵の中でも特別熱心な者達であり、忠誠を誓っていると言っても過言ではない。

受付嬢を救うという今回の任務に限り、絶対に裏切る心配はないだろう。正に精鋭と言えた。

まるで何年も前から存在する部隊のような団結力、得体の知れない貫禄がある。

戦士の口から勇者が指揮を執ると告げられても不満を漏らすことはなく、黙して従う姿勢を見せた。

次に戦士は砂漠到着までの流れと、到着してからの大まかな流れを伝えた。
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:42:36.50 ID:kY2YNde0O

戦士「行商人に話を聞いたが軍の姿は見ていないらしい。今から行けば先回り出来るかもしれない」

戦士「そこで、監視所に向かう。あそこになら全員隠れられるし望遠鏡で周囲を観察することも出来る。待つには良い場所だ」

戦士「軍が到着してからは勇者に任せる。兵を率いた経験はこの中の誰よりも豊富だ。信頼して良い」

戦士「それから、到着する頃には日が暮れているだろう。中に着込むか羽織る物が必須になる。かなり冷えるから注意しろ」

戦士「装備を整えたら再度此処に集合して出発する。食料は持って行くが、此処でも食っておけ。焦らなくて良いが、出来るだけ急いでくれ。俺からは以上だ」

▼傭兵達は短い返事と共に散開した。

戦士「さて、俺達も準備しようぜ?」

魔法使い「俺からは以上だ、だってさ〜」

戦士「どうせ茶化されると思ったよ」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:43:23.08 ID:kY2YNde0O

勇者「戦士」

戦士「あん?」

勇者「君には部隊を率いた経験があるのか?」

戦士「はあ? ねーよ。適当にそれっぽいこと言っただけだ。足りないことあるなら後で皆に言ってくれ。解散って言う前に解散しやがって」

勇者「はははっ、きっと居ても立ってもいられなかったんだろうな。気持ちは分かる」

魔法使い「私、ボウガン買ってくるよ」

勇者「武器屋に行くなら案内してくれないか、俺も武器防具を揃えたい」

魔法使い「分かった。戦士も行こ?」

戦士「おう」

▼三人は武器防具屋に向けて歩き出した。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:44:53.24 ID:kY2YNde0O

魔法使い「あの人達、頼りになりそうだったね。女の子までいたから驚いたよ」

戦士「話を聞いたら受付サンを崇拝してるみたいなもんだったからな。信仰に性別は関係ないんだろ」

勇者「その受付嬢という女性が銀縁眼鏡の持ち主だったな。そこまで人気のある女性なのか?」

戦士「一部にな。冷ややかで割り切った態度と仕事に対する真摯な姿勢が好きなんだってよ。まあ顔は綺麗だし普通に魅力的だと思うぜ?」

勇者「師との関係は? 彼女が人質に取られたのを知り、師は魔術師に従ったと聞いた」

魔法使い「それが私達にも分からないんだよ。受付さんに聞いたことないし、話さないし」

戦士「普通に娘とかじゃねーのか? そんくらいしか思い付かねーよ」

魔法使い「それは私も思ったけど、単に親子ってわけでもなさそうじゃない? 王子様は何か知らないの?」

勇者「師も身の上は話さなかった。あくまで噂だが、愛した女性がいたと聞いたことはある。何だったかな……」

戦士「その噂は俺も知ってる。踊り子って言われた伝説の女傭兵だろ?」

勇者「そう、それだ!! 死の舞踏だったか?」
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