【艦これSS】不器用を、あなたに。

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475 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:35:27.42 ID:Xg6j+0MOO
大本営から直々に、あの時と同じ「同時突入」の案が示されている。

・・・提督の言う通り、今回の作戦はレイテ沖海戦とは決して同じではない。
相違点などいくらでもある。

しかし・・・大本営が大々的に計画する作戦、それもこの鎮守府がまだ経験した事のない領域である。
通常の出撃とは重みがまるで違う。

同時突入に失敗して、自身の指揮した艦隊が全滅・・・いや、正確にはあの娘だけは違ったが・・・そんな過去を持つ自分としては、どうしてもスリガオの記憶を重ねずにはいられなかった。

苦々しい、消し去りたい記憶。

それをまた・・・よりにもよってこんな作戦で西村艦隊を再編するなんて・・・
あんな状態なのに、このメンバーでなんて・・・!

そんな湧き上がる苛立ちは山城から普段の冷静さを消し去ってしまっていた。
476 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:36:19.52 ID:Xg6j+0MOO
山城「アンタは何考えてんの!?大規模作戦は普段の出撃とは比べ物にならないのよ...!」

提督「あぁ、分かってるさ。...でも、だからこそ絶好のチャンスなんだ」

提督「こんなにも重要で危険な任務を他でもない君達で成功させれば...」

提督は少しだけ言い淀んだ。

提督「...西村艦隊は元の絆を取り戻せるだろう」

山城「私は仲良しごっこなんて求めてないわ!リスクを背負ってまで...そんなもの...!」

山城は激しく反発する。
477 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:37:18.15 ID:Xg6j+0MOO
提督「そんなに西村艦隊が嫌いか」

山城「えぇ、そうよ」

提督「いいんだぞ、別に私は。君が編成入りを拒否したって認めよう。他の部隊で活躍してくれるならそれでいい」

提督「だが君以外のメンバーについては深い絆で結ばれているようだしな...せっかくだから彼女達は全員一緒の部隊にするよ」

山城「...っ!」

山城「(こいつは分かってて...!)」

提督「こういう事は言いたくないが...私は提督だからな。編成を決定する権利を持つのはあくまで私だ」

提督「異論は認めるし積極的に取り入れていくが...それは正当な理由がある場合のみだ」
478 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:39:22.03 ID:Xg6j+0MOO
山城「理由?アンタだって知ってるじゃない!」

提督「だが最近は特に不都合はないだろう」

山城「それでも安全策は取るべきでしょう!それに今だって、問題になってないのは私が強引に抑えてるようなもので...」

提督「ほう、そこは認めるんだな」

山城「っ...。まぁ...どうせ察してるんだろうしもう隠すつもりはないわ」

山城「...でも何で貴方は西村艦隊に拘るのかしら」

山城「私のやり方に不満があるのも分かるけど、提督として最優先で心配すべきはあの娘でしょう」

やや強めの口調で問い詰める。
479 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:40:25.38 ID:Xg6j+0MOO
提督「あぁ、もちろん心配してるさ。それに憎み合うメンバーで組むなんて、司令官としては不安で仕方がない」

山城「じゃあ何で...!絆がなんて、そんなの理由にならないわよ」

提督は少しだけため息をした後こう呟いた。

提督「山城と同じだよ」

山城「...どういうことよ」

提督「...それを聞きたいなら交換条件にしよう。山城も話してくれ」

唐突に提案されたら交換条件。

提督「あの日、山城が時雨たちにした事の意味を、理由を。包み隠さずに全てだ」

山城「だからほぼ察してもらってる通りよ...」

提督「全部教えてくれ」

提督はまっすぐと山城の目を見る。
480 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:43:00.50 ID:Xg6j+0MOO
山城「(まぁ...本当に彼にはバレてるだろうし...)」

山城「(隠し続ける必要性は無いわね...)」

彼女としては交換条件に乗ることにデメリットは無かった。
そこで・・・

山城「...分かったわ。その代わり提督にもその編成の意味はちゃんと説明してもらうわ」

山城「私がくだらない理由だと思ったら、即刻その案は中止にしてもらえるかしら」

提督「構わないよ」

こうして山城は提督に、今度は全ての事情を打ち明けることになった。


山城「まずは提督の推測通り...」

481 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:44:00.46 ID:Xg6j+0MOO



提督「そうだったのか...」

少しの間、提督は唸り声や微かな呟きを発するのみで、会話は途切れてしまっていた。

それでもやがて、提督はゆっくりと話し始める。

提督「...色々と思うところはあるが...まずは約束を守ろう」

提督「私の考えというのは...やはり予想通り君と同じだったみたいだ」

苦笑しながら提督は続ける。
まだ提督の言わんとすることが先読みできず、山城の方も黙って彼の話を聞き続ける。
482 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:45:23.12 ID:Xg6j+0MOO
提督「なぁ、山城。君は自分のやっている事が逃げだとは思わないか?」

山城「逃げ、ね...」

提督「だってそうだろう。山城の分析では、これは君が彼女の近くに居すぎてしまった事が原因の一つという」

提督「たしかに私も今の話を聞いてそこは納得したし、その本質をいち早く見抜いたのは流石と讃えるべきだが...」

提督「それは根本的な解決じゃないだろ」

その言葉は、まさに山城が今までに何度も自問自答してきたものだった。

山城「...随分とストレートに言うのね」

提督「気を悪くしたら済まない。でも実際君は、結局は今の立場に甘んじる事で問題から逃げてるだけとも言えないか?」

提督「...たしかにあれは結果的に最善だったと思う。山城のおかげで今まで大事には至らなかった」

提督「それでも...決して解決策なんかではない...」

提督は少し俯く。
483 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:47:07.79 ID:Xg6j+0MOO
山城「...そんなこと、私だって分かってるわ」

そう返した山城に、提督は一瞥して申し訳なさそうな顔をした。

提督「...何もできなかった私に言われたくはないよな」

提督「しかも、山城の言動の理由には早くから薄々気付いていたのに...結局は君の孤独な奮闘に頼ってしまってたんだ」

彼の視線は、自信なく虚ろなものだった。

山城「さっきも言ったけど、むしろそれで良かったのよ」

山城「...怪我した傷が痛む事だけが問題じゃないわ」

山城「ややこしくしているのは...怪我をしてしまう自分を責めている事だもの...」

山城「看護をしてやることが、余計に繊細さに染み込む毒となってしまう......どうしようもなく、不幸だわ」

そう言って山城は提督の自責の念を和らげようとしてやった。

その例えは決して取り繕ったフォローではなく、山城が感じ続けた無力感の表れであった。
484 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:49:01.70 ID:Xg6j+0MOO
提督「それでもな...この、まるで君達の悲劇をなぞるような作戦要綱が届いた時、閃いたんだ」

提督は顔を上げた。
依然として、彼から自信はまるで感じられない。

提督「この鎮守府で私は立場上、唯一の最高権力を持つ」

提督「だから...私が命令して荒療治をするのが...1番手っ取り早いんだ」

山城はようやくピンと来た。

彼は、山城に仲直りを求めているわけではなかったのだ。

提督「山城と同じと言ったのは...私達が突き放すという点だ。そして今回は、あの日よりも遥かに“解決”に近付けるものだと思う」

提督「...その代わりに比べ物にならないリスクがあるがな」

山城「ほんとよ...」
485 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:50:13.46 ID:Xg6j+0MOO
彼の考えを理解した山城にそれ以上の説明は必要なかった。

提督「それでも、試す価値はある」

提督「君の言う通り、最終的には本人が何とかするしかないんだから」

提督「その必要性から、私達までもが逃げてはダメだ...」

山城「でも...大規模作戦の海域ともなると...何かあっても私でもフォローは難しいと思うわ」

山城「あの頃みたいに保護者役に徹する事はできない。そんな余裕を残せる海域じゃないもの」

提督「分かっている。だからこれは山城に決めてもらいたかったんだ」
486 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:51:35.96 ID:Xg6j+0MOO
提督「さっきはあのように言ったが...本当に最初から君に委ねるつもりだった」

山城「(そういえば決断してもらうために秘書艦に呼んだみたいな事言ってたわね)」

提督「大本営からの通達も基本的には“推奨”であって、この通りの作戦を組む義務は無い。現場が状況に応じて合理的な別案を作成・報告しても、間違いなく許可される」

提督「そこは心配しないでほしい」

山城「この時代の司令体系はマトモでありがたいわね」

山城の軽口に提督の表情は、ほんの少しだけ和らいだ。

提督「どのみち、西村艦隊の多くは攻略部隊に編成して出撃させるつもりだ」

提督「扶桑はまだ心許ないが...他は既に充分な練度を持ってたり二次改装を終えて迎えられそうだからな」
487 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:52:38.16 ID:Xg6j+0MOO
提督「しかしあくまで山城の判断に従った編成にする。君が反対と言ったなら、西村艦隊はバラバラにして編成に入れる」

提督「もちろんリスクがあるそれ以外の艦についても考慮する。まぁ、それでも君のおかげでだいぶ編成に苦労はしなくなったがな」

山城「...それは何よりね」

提督「それと一番の要因だった山城は...逆に一緒にした方が安心だな」

提督は苦笑いする。
そしてまた、気まずそうに沈黙した。

山城「ほんとに私が決めていいのね...?」

提督「あぁ...今まで何もできなかった私なりの償いだ」

提督は終始弱気だった。

自分のエゴが、金剛や加賀と同じような立場と思っていた彼をも、実は苦しめていた。
そう山城は申し訳なく思うのだった。
488 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:53:30.94 ID:Xg6j+0MOO
山城「提督は...客観的に見てこの作戦が上手くいくと思うかしら」

ふと山城は尋ねる。

提督は想定外の質問をされ少し戸惑った様子だが、すぐに答えた。

提督「この戦力なら大丈夫だと思っている。もちろん余裕は一切ないが...」

提督「大本営だって各鎮守府の戦力や練度を把握した上で作戦要綱を作成している。この海域を割り当てたのも、私達で攻略できると判断したからだ」

提督「今の大本営はマトモさ、そこは信じていい」

山城「...そうね」

彼は山城の軽口をそのまま引用してみせた。
489 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:57:04.01 ID:Xg6j+0MOO
提督「空母がろくに足りてなかったレイテとは全く違う。今回はミッドウェー組が健在だ」

提督「同時突入だって...今度は指揮体系が一つにまとまっている。私達が普段通りの連携を発揮して部隊の歩調を合わせられれば、必ず上手くいくさ」

提督「少なくとも...一部隊が単独突入をして集中砲火で壊滅するなんて事は...絶対にさせない」

しっかりと断言した提督の顔は、少しだけ自信を取り戻していたように思えた。

提督「...私もだいぶ昔の事に詳しくなったもんだな」

それでもやはりどこか遠い目で、そう付け加えて呟くのだった。
490 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:58:04.54 ID:Xg6j+0MOO

・・・彼の提案は正しい。
それは自分でもいつかは必要と感じていたことでさえある。

それでも、どうしても不安が先行してしまうのだった。
だから避け続けてきた。進みすぎないようにした。

だが・・・
問題の早期解決のために身勝手に動いていた自分が、よりにもよってそのチャンスを不安を理由に拒むなど、そもそもおかしな話ではないか。

きっとこの作戦は、彼の言うように絶好のチャンスなのだ。

・・・私のあの日の決断は、この日のためじゃないか。

逃げてはいけない。
私が打ち勝てないでどうするのだ・・・!
491 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 13:58:47.91 ID:Xg6j+0MOO
山城「...受けるわ」

提督「...えっ?」

山城「だから、提督の提案を受けるわ。私を旗艦にして、西村艦隊を編成してちょうだい」

提督「自分で言っておいては何だが...本当にいいのか?」

山城「提督の言う通りだもの。私の存在が無くても大丈夫になって、初めて解決と言えるのだから」

提督「そうか...。」

自身の提案を認めさせたというのに、提督はちっとも嬉しそうではない。
不安に支配されている。

まるで私を映す鏡だ。
492 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 14:04:22.28 ID:Xg6j+0MOO
山城「...ところで、一つだけお願いがあるのだけど」

提督「...なんだ?」

山城「作戦の実行は1ヶ月後からでしょ?それなら準備期間は私の部隊については、私に完全指導権を与えてほしいの」

提督「...また「口を挟むな」かい?」

山城「...特に憎まれてる相手達だから...強い権限が必要になると思っただけよ」

やましいわけではないのに、些か言い訳のようになってしまった。

提督「心配するな、許可するよ」

提督「山城の分析はいつだって正しいからな。...苦すぎる薬だったのだと、ようやく今日になって答え合わせができた」

山城「随分と高く評価してくれるのね」

提督「そりゃそうさ。結局さっき聞いた話でも、君は正しい分析しかしていなかったように思う」

提督「賛成などしたくはないが...事実として上手くいってるわけだからな」
493 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 14:05:51.01 ID:Xg6j+0MOO
山城「...理解してくれるなら...提督には最初から全部説明しとけば良かったかしら」

提督「そんなことはないな。あの時私がこの話を聞いていても、やはり山城の言う通り断固反対してただろうな」

提督「そこすらも、読まれていたわけだ」

山城「そう...」

提督「今こうして納得できているのだって、もう一方が未だにあの頃から大きく改善してないのを知ってるからな」

山城「提督も把握してるのね」

提督「まぁ、ちょくちょく聞くようにしてる。つい先日、本人からもそれとなく聞いて確認済みだ」
494 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 14:07:09.78 ID:Xg6j+0MOO
山城「改善しないのも仕方ないわ...こればっかは本人次第だもの」

山城「かといって簡単に切り替えられるものじゃないから...」

提督「あぁ、まったくだ」

提督「あっちはいつになるか分からない...まさに君の予想通りだ...」

提督「本当、君の分析能力には恐れ入るばかりだよ...」

提督は困ったような顔をしながらも笑ってみせた。


私の読みでは、大規模作戦では恐れている事は起きないと思う。
・・・もちろんそれは、準備期間中に西村艦隊メンバーで慣れさせる事に成功すればの話だが。
495 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 14:14:01.83 ID:Xg6j+0MOO
それでも、レイテとは全く背景が違う事は大きい。
スリガオの要素など、この鎮守府の総力を以て事前に取り除いてしまえば良い。
単純な戦力も、指揮系統も、レーダーでの備えも、連携も・・・全てがかつてよりも優れているのだ。

・・・何より今の私は・・・ネガティブな忌まわしさではなくポジティブなもののはずだ。

山城は自身に言い聞かせて決心した。

山城「...作戦は必ず成功させるわ」

山城「あとは...目論見通りにそれが本当の幸運をもたらしてくれる事を祈るばかりね」

提督「そうだな...」

執務室の窓からは今日の太陽からの光が射し込んでいる。

提督「それじゃあ...これで会議を始めるよ」

提督は山城の決意を受け取り、放送用のマイクをセットする。

山城は手に持っていた作戦要綱を机に置き、明るく照らされた窓辺に歩みを進めたのだった
496 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/07(日) 14:15:36.39 ID:Xg6j+0MOO
とりあえずここまでです
いやぁ、ほんとペースを上げたいです
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/07(日) 14:22:19.56 ID:2bwKg2aZO
おっつおっつ
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/07(日) 14:28:25.07 ID:DvzvxC+QO
なんか壮大な話になってきてワクワクしてきたぞ
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/08(月) 00:34:55.63 ID:WcwtS8/Zo

この世界の山城が報われて欲しい
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/08(月) 23:26:05.12 ID:Zv5jYZZso
乗るな山城鬼より恐いが見れるのか
501 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 13:18:09.35 ID:BuxhNj0mO
気付いたら3週間が経とうとしてましたね...
一向に進まなくて申し訳ないです
今日の夕方頃に続き投下します
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/27(土) 13:38:33.19 ID:DtsITkBno
了解
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/27(土) 16:39:51.01 ID:0iTtYljTO
まってる
504 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:19:44.82 ID:FvzkVLeNo
22時は個人的にまだ夕方です(毎度ほんとに申し訳ないです)

それでは投下します
505 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:20:51.86 ID:FvzkVLeNo
−−−

那珂「...だから山城さんは...むしろ時雨ちゃんの事は大事に思ってるんじゃないかな」

雷「そんなことが...全く気づかなかったわ...」

Верный「私も...これは驚いたな」

暁「やっぱり、山城さんもほんとは優しい人なのよ!」

青葉「暁さんや私の見聞きした話から考えても...いよいよそれは間違いように思えます」

青葉「でも...それなら何であんな態度を取るようになったんでしょう...」


つい最近結成されたばかりの探偵達は暁型の部屋に集まっていた。
506 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:21:47.93 ID:FvzkVLeNo
普段、このメンバーだけで揃うというのは難しい。
このメンバーに限定したい理由はもちろん、目的が目的なだけに事情を知る組に悟られないようにするためだ。

ストレートに聞いてもある程度は話してくれるが、肝心の点については決して教えてくれない。
だからまずは何とか直接聞く事無しに情報を集め推測し、それに確信を得てから彼女らに −少し怖いが山城本人でも良いのだ− 確かめる方針なのである。

せっかく掴みかけている真実を諦めたくはない。

しかし残念な事に彼女らはそれぞれ、まさにその事情を知る組の姉妹艦(青葉は厳密には違うが似たようなものである)なわけである。

・・・逆に言えばそんな背景が、彼女らに山城が隠す何か重要そうな真実の存在に気づかせたわけであるが。
507 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:23:09.85 ID:FvzkVLeNo
ゆえに尚更これ以上釘を刺されないように慎重に嗅ぎ回らなくてはならない。
こうした理由で下手には集まれないのである。

そんな中やって来たチャンスが、今ちょうど執務室で行われている大規模作戦に向けての会議であった。

この会議には普段の艦隊運営を手伝う者、つまり主には各艦種それぞれの最古参勢が呼ばれる。
ここにごっそりと事情を知る組が招集されているのだ。

また、那珂曰くこちらには引き込むのが難しそうという神通も会議に呼ばれている。
そして逆に神通より着任が早いВерныйが呼ばれなかったのはかなりの幸運かもしれない。
508 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:24:21.36 ID:FvzkVLeNo
とはいえそもそも基本的に、より旗艦を任されやすい艦種が会議に呼ばれやすい事は当然ではある。
また軽巡の方がむしろ普段の駆逐艦の動きを客観的に見ているのだから的確な提言が期待できるし、駆逐艦代表として初期艦の電も招集しているから十分なのだろう。

いずれにせよ放送があって暫くしてから青葉はこのチャンスを無駄にするまいと、暇を持て余していた那珂を軽巡寮で拾って、またもや電のみが居ない暁型を訪ねたのであった。

こうして暁型の部屋で開かれることになった待望の“会議”で、まずは各々がこの1週間ほどで得た情報を共有しあったわけである。
509 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:25:30.20 ID:FvzkVLeNo
Верный「みんなの話から考えると...やっぱり嫌われる事に意味があるみたいだ」

雷「でもそんな事ってあるのかしら...正直周りに迷惑でしかないわよ?」

暁「結局そこよね。山城さんは何がしたいんだろう...」

那珂「那珂ちゃんも山城さんとだいぶ仲良くなれたとは思うのになぁ...そこはどうしても教えてくれないみたい」

探偵達は行き詰まってしまった。
お互いの情報交換によって、今の彼女達の中における山城の人物像は変わりつつあった。

おそらくその事情とやらも、きっと山城の優しさの裏返しであるとすら強く思えるまでになった。

しかしそれが今のところの限界なのである。

そのもどかしさに皆は落ち込んでしまっていた。
510 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:26:30.81 ID:FvzkVLeNo
青葉「この中で1番山城さんに絡んでる那珂さんすら、ですもんねー...。」

探偵団の創設者とも言える青葉もそれは同様であった。

青葉「...そういえば那珂さんはどうやってそこまで山城さんに近づけたんですか?」

青葉「あんな態度取り続けてるわけですし、てっきり歩み寄ってくる人に対しても容赦なく距離を置くんだと思ってましたが...」

那珂「それがね〜、こっちからグイグイ行けば何だかんだ付き合ってくれるんだよ」

雷「へぇー、それは意外ね」

響「グイグイ行く、か...。那珂さんは凄いね」

暁「さすが艦隊のアイドルだわ!」

那珂「暁ちゃんは分かってるね〜!」

アイドルとして認められ、那珂は嬉しそうな顔をする。
511 : ◆eZLHgmSox6/X :2019/04/27(土) 22:27:48.74 ID:FvzkVLeNo
那珂「ちなみにね、今のアイドルパワー溢れる那珂ちゃんを作ってくれたのも実は山城さんなんだ!」

那珂「それに最初は...むしろ山城さんの方から歩み寄ってくれたようなもんだし」

青葉「...どういう事ですか?」

那珂「あれはね...」


那珂は行き詰まった調査の息抜きに、山城への初めての接触について皆に語るのであった。

512 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:30:21.78 ID:FvzkVLeNo
−−


川内から山城の事情の存在を聞かされてから数日後、那珂はまた朝礼台をステージにライブをしていた。

・・・観客は居なかったが。

艦娘達はちらほら足を止めるくらいはするのだが、その場にずっととどまって聞いてくれる人までは居なかった。

そんなわけで多少は落ち込みはするのであるが、もともと那珂はダンスをしながら歌えれば満足であった。
客が居ないからといって、その事実が那珂に絶望を与えるわけではない。

落ち込みといっても、「ちょっとは私の曲聞いてくれてもいいじゃん」くらいの軽いものなのだ。
それに、この状態には慣れっこであるし。
513 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:31:33.61 ID:FvzkVLeNo
こうしていつも通りにパフォーマンス終了後に機材の片付けをする。
だがその日はいつも付き添ってくれる川内も神通も居なかったため1人で黙々と片していたのだった。

そんな時、那珂は思い出したようにあのベンチの方を向いた。

朝礼台から決して近くはないが、そこに座る人物を判別出来るくらいには遠くない・・・そんな絶妙な位置にあるベンチに、またしても山城が座っていたことを那珂はライブの途中に気付いていたのだった。

今や那珂の目に映るその人物は、以前までのその人物とは全く違って見えた。

何か大きな優しさを持っている。

川内がそれを、伝えられる範囲で最大限に教えてくれたのだ。
514 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:32:13.96 ID:FvzkVLeNo
那珂はこの数日間で、川内が伝えてくれなかった部分を一生懸命に考えた。

だが出てくる推測はどれもあまりに強引なもので、とても山城の言動を正当化できるものではなかった。

神通にもそれとなく川内が隠した事情の話を振っても、「姉さんがあそこまで隠すのですし私はもう諦めます」と、まるで興味を示さなかった。

だから今この状況はチャンスだった。
川内も神通も、おそらく川内と同じように事情を知ってそうな人達も、逆に事情の存在を一切知らず山城を憎む人達も・・・皆この場所には居ない。

那珂「(まさか観客が居なくて喜ぶ日が来るなんて思わなかったなぁ)」

そう心の中で自虐しながら那珂はベンチの方へ向かった。
515 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:33:34.99 ID:FvzkVLeNo
近くまで行くと、足音に気づいてか山城は顔を少しだけ横に向けながらこちらを尻目に見た。

那珂「あの...山城さんこんにちはっ!」

山城「...何か用?」

緊張のあまり上擦った那珂の挨拶に、単純に山城は困惑しているようだ。

那珂「いやぁ、そのぉ...用があるわけじゃなくて...世間話でもしようかと...」

突然の思いつきで行動した那珂はちっとも会話の準備をしていなかった。
本当は山城本人から事情について詳しく聞きたかったのだが、それ以前の問題である。

そんな挙動不審な那珂を見て察してくれたのか、山城は自ら口を開いてくれた。

山城「川内が謝ってきたわ。妹達に少しだけ喋っちゃった、って。」

山城「それ関連の世間話ならお断りよ」
516 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:34:40.41 ID:FvzkVLeNo
一瞬で自分の意図を見抜かれ、那珂はビクッとする。
しかしそれと同時に、どうしてそこまで隠したがるのかがやはり気になって仕方がない。

那珂「詳しく教えてくれないのは...私が信用できないからですか...?」

山城「別に貴方だけの事ではないじゃない。しつこく聞いてきた人には面倒臭いから話しただけよ」

那珂「そ、それなら...!私もしつこく聞きます」

山城「何でそこまでしたいのよ」

那珂「だって...!山城さんが本当はやりたくない事で傷ついてるなら...」

那珂「そんなの放っておけないよ...」

山城「私が望んでやった事よ」

那珂「でも...!本心は違うんですよね?」

宣言通り食い下がる那珂に対し、山城は困った顔をした。

しかし沈黙する訳ではなく、那珂にまるで諭すような口調で話し始めた。
517 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:36:10.18 ID:FvzkVLeNo
山城「...貴方に言うメリットがないのよ」

山城「川内には弱みにつけ込めば口出ししなくなる見込みがあったから言っただけ」

山城「でも貴方は...まぁそういう要素も少しはあるけど...そうはいかないと思う」

那珂「弱みって...」

山城「そこは気にしなくていいわ。とにかく貴方に言っても反対されるだけなのは明らかよ」

山城「私は自分が正しいと思ってるから。わざわざ邪魔されにいくような事はしないわ」

那珂「じゃあ山城さんのやる事に反対はしないって約束するから...」

山城「無理でしょ。というか何でそんなに必死になれるんだか」
518 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:37:07.15 ID:FvzkVLeNo
その呆れたような言葉にも那珂はめげなかった。

もし自分が、何らかの事情によって川内や神通に暴言を吐かなくてはならなかったら・・・そんなのは考えたくもない。

だが目の前の人は、持ち前の不幸のせいなのか、きっとそういう状態を強いられているのだ。
川内が言っていた事は、そういう事だ。

ならば、絶対に見捨てることなんてできない。

那珂「山城さんだって...みんなと同じ1人の艦娘だもん...!」

那珂「せっかく艦娘として生まれ変われたのに...仲間たちと心から楽しめないなんて悲しいよ!」

その叫びは1度は忘れかけていた、それでも那珂の心に在り続けた1番大切な想いそのものであった。
519 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:38:42.40 ID:FvzkVLeNo
山城「...そうね」

対する山城はそう呟いて肯定はしたものの、それだけだった。

その口調は乾いたもので、那珂の言葉に感情を動かされたような様子は見受けられない。

− そんなのは分かっている。だけど私は違う −

そう突き放されたように感じた。

2人は少しの間、気まずい沈黙に見舞われた。
それが耐えられず那珂は再び口を開いた。

那珂「でも、とにかく...少なくても山城さんは本当は悪い人じゃないって信じてますから...!」

那珂「だから私は...山城さんの味方です」

那珂「山城さんは拒否すると思うけど...いつか今の状況を変えたいんです!」
520 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:40:48.53 ID:FvzkVLeNo
山城「アンタ、艦隊のアイドルじゃなくて嫌われ者になりたいの?」

山城はすました顔で那珂を軽くあしらう。

那珂「...白露型との仲が拗れないように、って気遣いまでしてくれた人を見捨てるなんて嫌だよ...」

那珂「そうしてまでみんなに好かれるアイドルなんかやりたくないです」

那珂はハッキリと意思表明をする。

山城「アイツに喋るんじゃなかったわね...」

山城はため息混じりにボヤいた。

那珂「お願いです、事情をどうしても教えてくれないなら、せめて味方でいさせてくださいっ!」

那珂「山城さんが孤独な所を見るのは...今は耐えられないんです」
521 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:42:39.80 ID:FvzkVLeNo
山城「...嫌だと言ったら?」

その返しには少し戸惑ってしまう。

しかし那珂は山城をもう1度信じると決意しているのだ。
その決意が勇気を与えてくれる。

那珂「嫌だと言われても...付きまといます。みんなに...嫌われる事になっても...」

そう那珂が言うと山城は「馬鹿ね」とだけ呟いた。

那珂「...馬鹿でいいです」

那珂は強がってそう返すのだった。


正直に言えば、その時の那珂には不安まみれの覚悟しか無かった。
山城擁護を理由にせっかく仲良くなれた人達と関係が拗れる事は怖かった。

山城のように孤独を何とも思わずに過ごすなど、自分には到底出来ないと思っていた。
522 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:44:44.71 ID:FvzkVLeNo
だが、ここで負けてはいけない。

自分の弱い心を見せたら、きっと山城はそれを理由に自身の味方など出来っこないと突き放すのだろう。

もしかしたら山城の言っていた「弱み」とはこの事なのではないか?
山城は皆の心の弱さを指摘することで、自身の味方をさせないのではないか?

そうやって彼女は孤独を維持し、いつまでも事情とやらを隠し続けるつもりではないか?

だとしたら・・・山城の味方をするためにも、孤独を恐れない強さを見せつける必要がある。

そんなことを考えていたのだった。


山城「...アンタ、自分で言うだけあってほんとアイドルに向いてるわよ」

那珂「へっ?」


那珂があれこれ考えていると、今度は山城から唐突に予期せぬ言葉がかけられた。
523 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:46:25.47 ID:FvzkVLeNo
山城「もうちょっと工夫すれば立派な艦隊のアイドルになれるわ」

那珂「え...?本当ですかっ!?」

那珂「...って、何ですか急に..。山城さん絶対そんな事思ってないでしょ...」

今までの話の流れと全く関係ない事を持ち出されて困惑する。

とはいえ少しはお世辞でも褒められて嬉しいという気持ちはあるが。

山城「私がお世辞言うキャラに見えるの?アンタの歌はよくここから聞いてるわ」

那珂「ほ、本当に聞いてくれてるの!?」

山城「まぁね...。歌声も悪くないし、歌自体の出来も良いと思うわ」

那珂「嬉しいっ!そう言ってくれる人なんて川内ちゃんと神通ちゃんだけだったからっ!」

那珂「まさか山城さんに言ってもらえるなんて!!」
524 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:47:45.08 ID:FvzkVLeNo
那珂はすっかり舞い上がり興奮してしまっていた。
自分が先程まで山城の事を案じていた事など忘れたかのようにである。

山城「けれど1番の点はそこじゃないわ」

山城「アンタのその活発さは...艦隊を明るくできる」

山城「そして、周りを動かせるような優しさも持ってる」

山城「まさに艦隊のアイドルに相応しい要素を持ってると思うわ」

那珂「そんな言われると照れちゃうなぁ...//」

山城「まぁ、だから私は応援してるってことよ」

山城はシンプルにそうエールを送ってくれたのだ。

普段の彼女からは想像もできないが、アイドル活動が上手くいっていないともいえる那珂を、なんと直々に励ましたのであった。

そもそも那珂とはろくな接点を持っていないのにである。
525 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:49:28.69 ID:FvzkVLeNo
那珂「じゃあ山城さんはファン1号だねっ!」

山城「いや別にファンってわけじゃないけど...」

那珂「何でよ〜!那珂ちゃんの歌、気に入ってくれたんじゃないの〜?」

那珂「そういえばこの前ライブした時も山城さんここに居たし!やっぱりライブ全通の熱心なファンだよ!!」

山城「調子に乗らないで」

那珂「むぅ〜!いいじゃ〜ん!」

やはり興奮は冷め止まない。
だらしなくも嬉しさで頬が緩んでしまう。
そんな那珂に山城は呆れたような口調で応えたが、その表情もどこか穏やかな気がした。

山城「でもそうね、誰もファンが居ない様子には親近感を覚えるわ」

那珂「ひ、酷い...」
526 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:51:14.50 ID:FvzkVLeNo
口ではそう言いつつも、山城と友達同士のような会話が出来ていることがとても嬉しい。

山城は意外と軽口を言うようだ。
それは勇気を出して話しかけていなければ絶対に気づかなかったであろう点である。

那珂「(まだ不安はあるけど...山城さんとも仲良くなれたらいいな)」

事情について聞き出す事が本来の目的ではあったが、話しているうちに那珂は山城という人物自体への興味も強く持ったのであった。

那珂「よし!決めたっ!」

那珂「山城さんが川内ちゃんに話した事も、今はこれ以上聞かないようにする!」

山城「そうしてもらえると助かるわ」

那珂「でも、その代わり変に気遣って那珂ちゃんの事避けないで欲しいな!」

那珂「そりゃ不安が無いわけじゃないけど...でも山城さんは大事なファン1号だもん!」
527 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:52:20.73 ID:FvzkVLeNo
山城「いやだからファンってわけじゃ...」

那珂「那珂ちゃんルールではファンなの!」

食い気味に返してみせた。
山城は驚きで言葉を失っている。

とても、とても気分が良い。

那珂「だからさ、時間があるなら那珂ちゃんの歌、これからも聞いてよ!」

那珂「ここのベンチからでもいいから!」

そう言うと固まっていた山城がやがて返事をした。

山城「...まぁ、ここにはしょっちゅう来てるからいいわよ」

山城「実際アンタのライブとやらはしょっちゅう聞いてるわけだし...ファンじゃないけど」

那珂「最後は納得したくないけど...嬉しいな!」
528 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:54:46.12 ID:FvzkVLeNo
山城「でもそれなら、貴方はちゃんと艦隊のアイドルを目指しなさいよ」

山城「私が艦隊の雰囲気を悪くする分、貴方がみんなを楽しませてあげて」

山城「どんな根深い闇も明るくさせる、艦隊の光になりなさい」

那珂「うん!」

嬉しさから、返事にも自然と元気が込められる。

那珂「でも今の状態だとそんなアイドルになるまでどれくらいかかるか分からないけどね...」

もっともライブを見届けてくれる客が居ない現実を思い出すと、少しダウナーになってしまうのだが。

山城「まぁ貴方の明るさや活発さも、もう既にこの鎮守府で楽しくやってる子達にとっては騒いでるようにしか聞こえないかもしれないわね」

那珂「辛辣だぁ...」

あざとく落ち込んでみせる那珂に、山城は言葉を続けた。
529 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:55:54.86 ID:FvzkVLeNo
山城「アドバイスよ。貴方はせっかく恵まれたアイドルらしさを持ってるのに活かせてないのよ」

那珂「どういう事?」

山城「どうせ歌う事自体が楽しいからファンが居なくてもアイドル活動を続けてるんでしょう」

山城「でもそれじゃファンは増えないわよ。だって他人の趣味を追っかけるだけなんて面白くもないでしょ」

那珂「確かに...!」

那珂は山城の言葉に驚いていた。

だがその驚きとは、内容についても然ることながら、山城が自分の考えていた事を簡単に言い当てた事である。

− 観察眼が並外れている

山城を唯一褒めるものとして機能してきたその言葉を、今まさに実感したのである。
530 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:57:09.74 ID:FvzkVLeNo
山城「貴方がアイドル活動でファンにしようとするべき対象は、もっと今に不安を抱えている子達だわ」

山城「そういう子達をターゲットに歌を披露したりすればいいのよ。「私が元気づけるから安心しろ」ってね」

那珂「なるほど...!」

山城「まぁ那珂も今は新参な方だけど、これからどんどん艦娘は増えるわ」

山城「貴方は最初から楽しくやれたみたいだけど...そう上手くいかない子だって出てくるはずよ」

山城「そういう子達を救うつもりでアイドル活動をしてれば、きっとファンも増えるでしょう」

その山城のアイデアは、那珂に驚くほど自然に染み込んだ。

自分がありたいと思う姿を、その言葉で山城が具体的に示してくれたように感じた。
531 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 22:57:57.70 ID:FvzkVLeNo
那珂「そっか!そうだよね、艦隊のアイドルってそういう人だよね!」

那珂のアイドルへの憧れが再び燃え上がった。

今度は漠然とした自身の理想形としての艦隊のアイドルではなく、文字通り“艦隊の”アイドルを目指そうと強く思い立ったのである。

山城「せっかく“那珂”って名前なんだし、みんなの“仲”を取り持てるアイドルになればいいと思うわ」

山城「川内の話を聞いてると、貴方にはそういう素質があると思う。自信持ちなさい」
532 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 23:00:00.35 ID:FvzkVLeNo
那珂「“那珂”が“仲”を...。うん...!凄くいい!」

山城がたった今さらっと言った言葉は、那珂にとってはまるで魔法の言葉のように感じられたのだった。

那珂「那珂ちゃんのアイドル活動で艦隊のみんなが仲良くなれたらいいな!」

那珂「(そして私が...山城さんとみんなの事も繋げられたらいいな)」

そう決心する那珂を、山城は優しい眼差しで見ていたのだった。
533 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 23:01:00.17 ID:FvzkVLeNo


−−


那珂「って事があって今の那珂ちゃんになれたわけなんだよー」

暁「そんな事があったなんて...」

雷「“みんな仲良く”ってキャッチコピーが山城さんの発想から来てたなんて驚きよ」

話を聞いていた探偵達は驚きを隠せなかった。

青葉「そういう経緯があったから那珂さんはあんなに山城さんと仲良しなんですね」

那珂「うん!あの日以来、山城さんに恐怖とか近付きにくさを感じる事が無くなったからね〜」
534 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 23:02:48.59 ID:FvzkVLeNo
雷「にしても...まさか山城さんが自分から那珂さんの歌を褒めてたなんてね...」

Верный「正直私も...山城さんにまでファンサービスとか言ってる那珂さんは凄いなと思ってたけど...まさか本当の事だったなんて」

青葉「そこですよね。これかなりのスクープですよ、山城さんって物好きなんでしょうか...」

那珂「ちょっとぉ〜!那珂ちゃんへの信用低くない!?青葉さんは特に酷くない!?」

暁「山城さんにまで認められてたなんて、やっぱり那珂さんはさすが艦隊のアイドルね!」

那珂「もうここにいるファンは暁ちゃんだけだよ...」

こうして彼女達は会議が終わる頃まで、山城の事を語り合うのであった。
535 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/04/27(土) 23:06:28.36 ID:FvzkVLeNo
今回の投下はここまでです

当初2〜3ヶ月で終わらせる予定でしたがそれが無理になって今もちんたら書いてるわけですが、実は自分なりにデッドラインは決めてあります

そのデッドラインまであと1ヶ月切ってるのでほんとにGW中に一気に進めてあと1ヶ月以内に終わらせたいと思ってます

毎度遅筆で本当に申し訳ないです

p.s.艦これ6周年おめでとう!
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/27(土) 23:09:49.67 ID:tOVP6iYio
おつおつ
次も楽しみだ
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/28(日) 00:07:45.41 ID:2txToR4ko
おつおつ
期間空いても気長に待つからそんなに気にしなくていいんだぜ
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/28(日) 06:36:18.17 ID:uDbttJtRO
いつも見てます。がんばれー。
539 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 00:56:58.87 ID:BMm/1y0AO
続きを投下します

p.s.遅れましたが令和おめでとう!
540 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 00:57:44.77 ID:BMm/1y0AO

−−−

同日 22:00 古鷹と青葉の部屋



青葉「あの...古鷹さん」

古鷹「どうしたの青葉?」

就寝の準備を進めていたルームメイトの古鷹に青葉は声をかけた。

青葉「大規模作戦...。上手くいくでしょうか...」

青葉は不安気に言った。

古鷹「...心配?」

青葉「はい...」

その返答に古鷹の表情も少し曇る。
541 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 00:58:37.76 ID:BMm/1y0AO
あぁ、またやってしまった。

彼女にはずっと笑顔でいて欲しいのに・・・
いつもそれを壊してしまう自分が、本当に情けない。

青葉はそう自責する。

古鷹「大丈夫だよ。青葉の練度なら、きっと上手くいくよ」

古鷹「青葉はもっと自信持たなきゃ!」

古鷹は天使のような微笑みで励ましてくれた。
天使はいつだって希望の光を青葉にもたらそうとしてくれる。

だがその光は時に、闇を強調してしまうのである。
542 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:00:09.84 ID:BMm/1y0AO
青葉「いえ、その...私はいいんです。気を抜くわけではないですけど、前哨部隊ですから。」

青葉「でも、古鷹さんは攻略本隊じゃないですか...。危険度がかなり違います」

古鷹「...青葉は心配し過ぎだよ」

古鷹は俯いている青葉に近寄って頭を撫でた。

古鷹「油断はするつもりないけど、私だって練度高いんだよ?」

古鷹は子供を落ち着けるような優しい口調で言う。

古鷹「今回の作戦だって、主力殲滅まで全て任されるっていう事が初めてなだけだよ」

古鷹「厳しい海域に赴く事自体は何回もやってきたんだから。心配しないで」
543 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:01:44.59 ID:BMm/1y0AO
顔を上げれば、古鷹は優しく青葉を見つめていた。

真っ先に彼女の綺麗な左目の光に目を奪われた。
青葉はその輝きに吸い込まれていくのだ。

私がその輝きを受け取る事はできない。
むしろ私がそれに包まれるしかないのである。


青葉「本当は、古鷹さんの隣で戦いたかったんです」

青葉「青葉なりに、少しは強くはなりました」

青葉「それでも、ちっとも古鷹さんの横に並べる気がしないんです」

古鷹「青葉...」

古鷹の表情が再び曇り出す。
それでも彼女の左目は相変わらず輝いている。

その眩しさに涙が出てくる。
544 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:02:29.45 ID:BMm/1y0AO
青葉「古鷹さんを守れるようになりたいのにっ、私は弱いままなんですっ...!」

青葉「今度こそ私が古鷹さんを、って思うのに...!私は自分にすら勝てなくてっ...!」

青葉「こうやって、いつも迷惑しかかけられなくてっ...!!」

耐えきれず泣いてしまった青葉を、古鷹は優しく抱きしめた。

古鷹「大丈夫だよ、青葉。迷惑なんかじゃないよ」

古鷹は優しく背中をさすってくれた。

古鷹「青葉は心配性すぎるだけなんだよね。普段飄々としてる反動が一気に来ちゃうだけなの」

古鷹「それにね、青葉が私をそんなに想ってくれる事はすごい嬉しいんだよ」

天使は微笑む。
545 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:03:39.70 ID:BMm/1y0AO
青葉「でもっ...私は古鷹さんに甘えてばっかで...」

青葉「これじゃいつまで経ってもっ...」

古鷹「気にしないでよ、そんな事」

古鷹が青葉の言葉を遮るように口を開く。

古鷹「私はいつまでも青葉の隣にいるよ」

古鷹「だから、「いつか」でいいじゃない。ずっと待ってるからさ」

彼女は優しく、そう言い切るのだった。


青葉は本音ではそれに従いたくはなかった。

古鷹への依存を正当化したくはない。
彼女の優しさに甘え続けるなど、あってはならない。

罪を背負っているのはこの私なのだから。
546 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:05:05.19 ID:BMm/1y0AO
それでも、結局はそうするしかないのかもしれない。

頭の中にしつこく湧き起こるものを消す事はできないのだ。
それは影のように常に追ってくる。
考えないように意識するほど、それを考えてしまう。

私は罪からは逃れられないし、逃げてはいけないのである。

そして私は...未だにそれらを受容できないでいる。
逆に私がそれらに呑まれてしまっているのである。


青葉「今でも...古鷹さんが中破や大破したりすると息が止まりそうになります」

古鷹「...うん」

青葉「お願いです...無事に作戦を終えてください...」

青葉「私では何も力になれません...行っても逆に迷惑をかけてしまいます...」

青葉「だから祈る事しか出来ないんです」

そう訴えるように言うのだった。
547 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:06:10.42 ID:BMm/1y0AO
古鷹「...青葉達が前哨戦で敵を減らしてくれれば、その分だけ私達攻略部隊も楽になる」

古鷹「だからさ、そんなに卑下しないでよ。青葉の頑張りはちゃんとみんなの役に立つんだから」

優しい言葉が耳に染み渡る。

古鷹「それに何度も言ってるじゃない。私は青葉が居るから頑張れるんだよ」

古鷹「青葉が居てくれるだけで...私は嬉しいから...」

古鷹はそう言って青葉を抱きしめた。

今日も青葉は天使の救いに包み込まれるのである。

古鷹「ほら、青葉。もう寝よう」

青葉を抱きしめたまま、古鷹が優しく言う。
548 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:07:10.33 ID:BMm/1y0AO
古鷹「早速明日から大規模作戦に向けての演習が始まるでしょ?」

古鷹「ちゃんと眠って、明日に備えなきゃ」

青葉「そうですね...」

古鷹「青葉が眠るまで手繋いでであげるからね」

そう言うと古鷹は青葉の後ろに回していた手を解いて、再び微笑みながら青葉を見つめた。

古鷹の綺麗な金色の左目が、涙で濡れた青葉の顔を照らした。


この眼差しはなんて綺麗で残酷なんだろう。

青葉はそう思うのだった。
549 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:08:13.82 ID:BMm/1y0AO

−−−


あぁ、またこれだ・・・


暗闇の中を、僕は仲間達と進んでいた。

しばらく進んでいると、僕達は敵と交戦することになった。

もうこのシーンにはうんざりだ。


「扶桑...!魚雷が来てる!」

結果を知っている僕は、扶桑に向かって叫んだ。

・・・それでもやっぱり魚雷は扶桑に当たってしまう。
扶桑はまた脱落だ。
550 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:10:28.41 ID:BMm/1y0AO
そしてこれだけでは済まない。

「満潮っ!」

「朝雲っ!山雲っ!」

あっという間に敵の熾烈な砲撃で僕以外の駆逐艦仲間は全滅する。

そして次は・・・

お願いだ、沈まないで。

そう言おうとすぐ近くの旗艦を見た。

しかしその艦は、何故か不敵な笑みをこちらに見せていたのだ。

「じゃあ、貴方が沈めば?」

その言葉に僕の思考は固まってしまう。

・・・僕にとっては不思議な事ではないのだが、その場の僕にとってはまるで意味が分からないのである。
551 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:11:32.16 ID:BMm/1y0AO
「私を不幸にさせるこんな艦隊、邪魔でしかないわ」

そう言ったその人は、主砲を最上に向けていた。

・・・は?

まさか・・・やめろっ・・・!


その場の僕の願いは届かず、最上は即座に炎上する。

味方に・・・いや、たった今敵になった者によって、最上は一瞬で沈められた。


・・・思い出した・・・こいつは・・・!
許さない・・・絶対に許さない・・・!

そしてようやく僕が、そこにいる僕に同化するのである。
552 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:14:28.55 ID:BMm/1y0AO
こうして驚きが憎しみに変わった時、既にソイツは僕に主砲を向けていた。

「さようなら、時雨。アンタらとの関係を終わらせられるなんて...幸福だわ」

そう言って、アイツは僕を撃った。

激しい怒りに支配されながら僕は沈んでいく。
それでも僕は不思議とある種の安らぎを得ていた。

・・・むしろこれでいいのだ。

そうとすら思っている。


ただ、絆を引き裂き仲間を捨てて喜ぶお前だけは・・・絶対に許さない。
本当の仲間たちと共に、お前を全否定してみせる・・・!


こうして時雨は目の前の戦艦への憎悪を抱きながら、深淵な世界に優しく包み込まれていくのであった・・・


553 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:16:30.02 ID:BMm/1y0AO
−−−
12月16日 朝



目覚まし時計の音が聞こえる。

目は開いたが意識まではまだ微睡みから離れない。

この心地よい安息とお別れするのはなかなか気が進まない。


夕立「時雨〜!村雨〜!起きるっぽ〜いっ!」

しかし結局は犬みたいにいつも元気な姉妹艦によって強制的に起こされるのである。

時雨「ふわぁ...おはよう...」

村雨「夕立は朝から元気ねー...。一番に起きたみたいだし...」

時雨と共にたった今起きたばかりの村雨もまだ眠そうである。

白露「むむっ、いっちばーんは私!」

既に起きて顔を洗っていた白露が洗面所から顔を覗かせていた。
554 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:18:00.39 ID:BMm/1y0AO
時雨「はは...そんな所まで競わなくても...」

いつも通り姉妹艦は朝から賑やかだ。

ふと、今日はよく眠れたなぁと思う。
昨日の事があったから、尚更それは意外であった。

夢の内容はあまり覚えてないが、嫌な夢では無かったのだろう。

・・・でも何か僕は夢の中で怒ってた気もするのだが。

時雨は嬉しい誤算に安堵しつつ、パジャマから制服に着替える。


村雨「そういえば今日から2人とも...あの艦隊ね...」

村雨が遠慮がちにそう言った。

夕立「...クズ戦艦と同じかぁ」

時雨「提督も酷いよね。まさかわざわざアイツ入れた西村艦隊組むなんて思わなかったよ」

村雨「しかもよりによって旗艦だなんてね」
555 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:19:48.12 ID:BMm/1y0AO
昨日のブリーフィングにてついに大規模作戦の詳細の発表があった。

それによると作戦では前哨部隊と攻略部隊に分け、攻略部隊は3つの部隊で構成するとのことである。

その攻略部隊の第3隊の旗艦が山城で、メンバーが西村艦隊組(扶桑、最上、満潮、時雨)と夕立という構成なのである。

この発表が全艦娘にとてつもない緊張感を与えた事は言うまでもない。

白露「いい?時雨も夕立も、また昨日みたいに何か突っかかってこられたらお姉ちゃんに教えるんだよ?」

いつの間にか顔を洗い終えた白露が会話に参加してきた。

実は昨日のブリーフィング直後に早速、山城とそれ以外のメンバーで口論になっていたのだ。
当然そのような事は容易に想定できたし、誰も驚きはしていなかった。
556 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:20:43.08 ID:BMm/1y0AO
そしてその際に、山城はまたも腹立たしい言葉を執拗に使ってきたのである。

白露が指しているのはこの事であった。

夕立「大丈夫っぽい!逆に西村艦隊には不幸戦艦の味方なんて誰も居ないっぽい!」

時雨「そうだね。提督には悪いけど...アイツには絶対に容赦するもんか...!」


提督は昨日、あまりに危険なこのメンバーを発表した際に、こう付け加えるように説いた。
557 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:21:59.76 ID:BMm/1y0AO



提督「私は皆お互い仲良くしろと強制するつもりはない。だから今まで一切口出しをしてこなかった」

提督「だが今やここは、非常に危険な海域の敵を殲滅させる任務まで任されるほどの鎮守府に成長した」

提督「こうなると艦隊全体の雰囲気に関わる不仲は、もはや見過ごせないレベルであると捉えるしかない」

提督「仲良しになれとは言わない。だが艦隊の戦術の幅を広める為にも、作戦を共に遂行するに相応しい仲にはなって欲しい」

提督「それと当事者達が1番よく分かっていると思うが...この作戦でわざわざ西村艦隊を編成する理由はもう1つある。言わずとも伝わるはずだ」

提督「だからどうか、お互い不満はあるだろうが、他でもないこのメンバーで海域攻略に貢献して欲しい」

提督「それがきっと、君達全員が望む結果をもたらすと私は信じている」


558 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:23:00.42 ID:BMm/1y0AO
提督の望みはもっともだし、言わんとする事も分かった。

だが、それでもアイツへの嫌悪をどこかに置いておけるわけではない。

そもそも提督が問題に感じている不仲だって、絆を大事にして結束を固めてきた私達を馬鹿にしてぶち壊したアイツのせいなのだ。
アイツが存在しなければ最初からこんな事は起こっていないのに。

今更になって、まるで喧嘩両成敗のような言いぶりをする提督に、時雨は少し不満を感じたのであった。


時雨「まぁ第3隊の編成については...思う事はあるけど...古参勢が会議で認めたって事だし受け入れるよ」

時雨「だけどアイツについてだけは...絶対に許さない...!」

時雨「アイツは仲間じゃない...!クズ戦艦の手なんか借りずに私達で攻略してやる...!」
559 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:24:12.98 ID:BMm/1y0AO
今日は始業の直後から、早速大規模作戦に向けた部隊ごとの集まりがある。

もちろんこういう時も自ずと部隊の旗艦がリーダーのような役割を担うため、時雨はもう既に気分が良くなかった。

あんな奴に指図されたくない。
あんな奴より下の立場でいたくない。
あんな奴が旗艦だなんて、書類上では認めてやるが僕達は絶対に認めない。

そう強く思うのである。

時雨「僕達だけの力で作戦を成功させて...アイツの居場所を無くしてやる...!」

今にも溢れ返りそうな強い憎しみを胸に、時雨は第3隊の初ミーティングを待ち構えるのであった。

560 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:26:06.34 ID:BMm/1y0AO



9:00 中庭


山城「集まってくれて嬉しいわ。昨日あれだけ煽っておいたかいがあったわね」

満潮「......チッ...」

最上「独り言はいいから早く始めてくれない?こっちは顔も見たくないんだからさ」

時雨「全くその通りだね」

攻略部隊第3隊は中庭でミーティングを始めようとしていた。

ボイコットすらありえるこのメンバー構成のため、そもそもこのミィーティングは開催する事すら一苦労である。
561 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:27:15.24 ID:BMm/1y0AO
そういう理由からなのだろう。
山城とメンバー達が昨日口論になった発端も、山城が「あんたら群れるしか能が無い烏合の衆はボイコットとかしちゃうのかしら。勘弁ね」と煽ってきた事だった。

実際それは時雨達も考えていた事であったから、そのような煽りを受けなかったらわざわざミーティングになんて来なかったかもしれない。


挑発に乗るのは癪だが、あえて乗ってこの場で改めて自分達の立場をはっきりさせておこう。

そうメンバー達で決めて、嫌々ながらもきちんと集まる事にしたのであった。
562 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:30:11.19 ID:BMm/1y0AO
山城「じゃあミーティング始めるけど、まず最初に言っておくわ」

山城のその言葉に一同がさらに身構えた。

山城「アンタらが私を旗艦として認めたくないのは分かるけど...残念ながら実力と経験からして私しか無理ね」

山城「そういうわけだから、諦めて私の言う事は絶対聞いてもらうわ」

山城は冷たい口調で宣言した。

夕立「でも旗艦に相応しい人柄じゃないっぽい!」

満潮「......フフッ...夕立...w」

夕立が繰り出した鮮やかな横槍に満潮が噴き出す。

山城「はぁ。作戦の旗艦に人柄もクソもないでしょう。みんなが強いなら人柄で選べばいいけど、アンタらは雑魚なんだから」

対する山城は表情を一切変えずにあしらってみせた。
563 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:31:45.44 ID:BMm/1y0AO
このメンバーの半数はだいぶ昔からいるというのに、その彼女達すら山城は“雑魚”呼ばわり出来てしまうのである。
・・・だがそれは認めたくなくても事実ではある。

最上「...ウザイなぁ...」

早くも皆の表情が怒りに支配された。

山城「まぁだから私の言う事は絶対に守ってもらうわ」

山城「あとそれは作戦時だけじゃなくて、今日からの作戦準備期間中の第3隊に関わること全てについてよ」

山城「訓練メニューとかについてもだから、アンタらがみんなでのんびりできる日は基本来ないと思いなさい」

時雨「は?」

あまりに高飛車な要求に無意識的に声が出た。
564 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:34:39.05 ID:BMm/1y0AO
扶桑「...どうして?...何様のつもりなの?」

山城「姉様に命令するのは心苦しいのですが...生憎と戦力に不安がある者ばかりですので...」

時雨「...ッ!」

時雨は山城を睨みつける。
だが山城はまるで動じない。

山城「アンタらは弱いんだから、大規模作戦までになんとか強くしないと駄目なのよ」

山城「なのに口にするのは仲間だの絆だの...。こんな奴らに訓練委ねてたら成功する作戦も上手くいかないわ」

最上「...っ、仲間がいないお前には分かんないだろうね」

沸き起こる怒りを抑えて最上がすかさず嫌味で返す。
565 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:37:14.30 ID:BMm/1y0AO
山城「別に仲間を大切にしている人全員に言ってるわけじゃないわ。金剛とかにこんな事を言ったりしないもの」

山城「ただアンタらは、実力が無いくせにそういう実体の無いものにばかりすがろうとするから言ってるだけ」

山城「この鎮守府の最高戦力組ですらしっかり調整しとかないと危ない海域なのよ?そこんとこ分かってんの?」

満潮「...アンタに言われなくても分かってんだけど!?」

満潮が怒気をはらんで言い返す。
一方の山城はやはり冷静なままだ。

山城「分かってないから「旗艦の人柄が〜」とか言い出すんでしょ。和気藹々と深海棲艦相手に何するの?おままごとかしら?」

夕立「ッ...!」

先程の煽りをまんまと返されて夕立も苛立ちがピークになる。
566 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:39:22.39 ID:BMm/1y0AO
山城「...そうね、アンタも頑張れば改二が間に合うから“使える雑魚”くらいにはなるわ。まずはさっさと改二を目指すことね」

山城は満潮の方を冷酷な目で見つめながら言った。

山城「時雨は改二は間違いないけど練度が問題ね。ただでさえ脆い艦種の3人の中で、アンタが1番練度低くて幸運頼りの雑魚だし」

続いて時雨の方を向き暴言を吐いた。

山城「最上、夕立は...まぁ練度はそこそこだけど...相変わらず周りが見えない雑魚ね。艦隊運動スキルを何とかしなさい」

その次は最上と夕立。

山城の一人一人に対する批評もどきの暴言に、全員の怒りが限界まで到達する。
567 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:41:51.85 ID:BMm/1y0AO
そこで爆発するのを止めるものは、やはり山城に実力では勝てないという事実なのであろうか。

どんなに熾烈に反発してみせても、どうしても負け犬の遠吠えになってしまうのだ。
つくづく山城が最古参勢で最高練度を保持する事が憎たらしい。

山城「姉様は改二に間に合わせるのは難しいかもしれませんが...姉様なら大丈夫です!全力でフォローします!」

扶桑「...不快だから馴れ馴れしく呼ばないでもらえる?」

扶桑の嫌そうな顔をみて、山城はバツが悪そうにすぐに目を逸らした。

だがこうして出来あがった最悪の場の雰囲気を気にする事なく、山城は話を続ける。
568 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:45:14.06 ID:BMm/1y0AO
山城「ちなみにこの事は既に提督に了承を得てるわ。気になるなら確認してみなさい」

満潮「...あのクソっ...!」

山城「彼も渋ったんだけど、それくらいの特権貰わないと統制出来ないと言ったら認めてくれたわ」

山城「そこで意地でも編成を変えないあたり、提督もアンタらみたいに絆とか大事にしてるみたいね」

山城「...まぁそんなものにこだわるなんて馬鹿だとしか思わないけど。」

・・・コイツは分かっててわざと煽ってくる。
本当に腹立たしい。

こんな言動・・・許すものか!
黙っていられるわけがない・・・!

時雨「お前っ...」

時雨にとっての禁句を出され、ついに爆発する。
569 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:46:11.54 ID:BMm/1y0AO
山城「その代わり」

しかし、即座に時雨を遮るように山城が言葉を挟んだ。

山城「...その代わり、アンタらの命だけは保証するわ」

山城「私の言う事を絶対に聞くなら、どんな状況に陥っても必ずアンタら全員を生還させる」

山城「それだけは...約束するわ」

山城は力強くそう言った。

夕立「...こんな奴の力借りなくてもっ!」

夕立は強がるようにそう言う。
570 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:48:59.54 ID:BMm/1y0AO

だが少なくても時雨においては、どうしても不安が拭えなかったのは事実である。

・・・アイツの力を借りるものか、とあれほど強く決意していてもである。

昨日のブリーフィングでも、真っ先に思い浮かんだ事は憎しみではなく不安だったのだ。

夕立は別だが・・・それは他のメンバーも同じではないだろうか。


最上「...」

満潮「.......クソっ...。」

少しの間、今までヒートアップしていた場に静寂がもたらされる。

扶桑「...そんなに自信があるのかしら?」

やがて扶桑が沈黙を破って尋ねた。
571 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:50:27.48 ID:BMm/1y0AO

山城「不幸を散々経験してますから。良くない事が起こりそうな時はたいてい予測できます」

山城「案外、不幸艦だからこそ最悪を避ける能力には恵まれたのかもしれません」

山城は自身を皮肉るように笑ってそう言った。

扶桑はそれを聞いて少し考え込んだ。

そして・・・

扶桑「そう...。分かったわ」

沈黙を維持している他のメンバー達を軽く一瞥して、扶桑はついに決断した。

扶桑「じゃあ私はそれでいいわ。条件は飲みましょう」

夕立「扶桑さん!?」

最上「扶桑...」
572 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:53:00.82 ID:BMm/1y0AO
扶桑「そこまで言うならいいじゃない。それに、指示に従いさえすれば何言ってもいいでしょう?」

山城「ええ、別に文句は気にしません。それに姉様達を奴隷のように扱おうというわけでもありませんし」

扶桑「こう言ってるし、どうかしら。正直私は作戦に不安もあるし、経験のある人の指示通り動く事はどのみち必要になるわ」

満潮「でもっ...!」

明らかな不満そうな満潮の肩にそっと手を置きながら扶桑は話を続ける。

扶桑「それでも、私達の絆は変わらないわ。西村艦隊4人と、そして夕立ちゃんと。」

扶桑「この5人でお互いに助け合って、大事にしあって、この作戦を乗り越えましょう」
573 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:54:43.97 ID:BMm/1y0AO
その言葉は時雨の心にすんなりと入ってきた。

そして他の西村艦隊メンバーや夕立も、それは同じのようだった。

最上「そうだね...確かにボク達が仲間な事は変わらないもんね」

満潮「それもそうね。別に悪口言うなってわけじゃないんだし」

夕立「夕立も仲間に入れてくれて嬉しいっぽい!」


・・・嫌いな相手ともビジネスの都合で交流しなくてはならない場合がある。
今回はまさにそのようなケースだ。

まぁ提督が望む程のレベルでは無理だが、合理的な指示だというならアイツの指示も聞いてやっていいだろう。

それは僕達の絆がアイツに屈する事を意味するわけではないのだから。
574 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 01:58:56.30 ID:BMm/1y0AO
時雨「うん。僕も扶桑やみんながいいなら同意するよ」

扶桑「決まりね...。じゃあそういう事で、指示に従うっていうのは妥協してあげるわ」

山城「姉様は理解が早くて助かります」

扶桑「その代わり...そっちも何言われてもいい覚悟は持っておくことね。まぁ、そんなの慣れっこでしょうけど」

扶桑は山城を睨みつけていた。

山城「...そうですね。慣れっこですから、構わないですよ」

独特な張り詰めた空気が場を支配した。


こうして第3隊は名実ともに山城が指揮をする事が改めて決まった。

憎悪を取り除く事なく結成されたその因縁の艦隊に未来はあるのか。

それは神のみぞ知る事である。

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