【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」

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294 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 01:08:52.94 ID:r9PzCrqV0





まほ「お母様に報告するために家に帰ろうとしたんだが、たまたまこの学園艦が近くにいると知ってな。せっかくだから寄らせてもらったんだ」


大洗女子学園の車庫。

夕陽が窓から入り込む中で、まほは世間話でもするかのようにみほたちにそう語る。

けれどもその雰囲気には一切の喜びも、あるいは気楽さも感じず、

気安い態度から発せられる刺すような緊張感がみほたちを竦ませる。

特に沙織はその空気に耐えきれず、逃げるように後ずさりをした。

その様子にまほは口だけ笑顔を作ると、指でみほを指す。


まほ「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれ。別にこいつをどうこうする気は無いさ」

「沙織さん……大丈夫ですから」

沙織「でもっ……」

まほ「……ああ、やっぱりあのふざけた真似事はやめたのか」

「お姉ちゃん……」


みほの態度から自分の推測が正しいと確信すると、まほは蔑むようにみほを見つめる。


まほ「仲間たちの前で嘘を暴かれて、それでも嘘を貫けるような面の皮は持っていなかったようだな?」


みほは何も言い返せず、俯く。

そんなみほを庇おうと、麻子がまほの視線を遮って前に立つ。


麻子「嫌がらせに来たのなら帰ってくれ。私たちは忙しいんだ」

まほ「あなた……確かこいつの友達だったわね。おばあ様の容態はどう?」

麻子「……おかげさまで元気だ」


警戒を解かず睨みつけてくる麻子に対してまほは優しく、嬉しそうにその表情を緩ませる。


まほ「そう、それは良かった。本当に……家族は大事だものね」

麻子「……ああ」


先ほどとは打って変わって気遣う様な素振りをみせるまほを怪訝に思いつつも、麻子はみほをまほの視界に入らないようその小さな体で隠し続ける。

すると、まほの視線は麻子―――その後ろのみほから離れ、今度は隣に並ぶ沙織たちに向けられる。

295 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 01:30:54.43 ID:r9PzCrqV0




まほ「そういえば……そこの3人も前に見たな。お前の戦車の乗員か?」

みほ「……友達、だよ」


麻子をそっと手でどかし、みほが震える声を出す。

まほはまた、先ほどと同じく蔑むようにみほを見つめる。


まほ「へぇ?4人も友達が出来たのか。凄いじゃないか。こっちにいた時よりも随分社交的になったんだな?」


その軽口にみほがなんと答えようかと逡巡するも、答える前に新たな質問がかぶせられてくる。


まほ「それで?次は誰になるんだ?」

みほ「え……?」


自然と喉から漏れた声。

まほが何を言っているのかみほには理解できなかった。


まほ「エリカになれなくなったのなら、今度はそこの中から選ぶんだろう?ルーレットか?くじ引きか?それとも四人一役か?」

みほ「お姉、ちゃん……」

まほ「もっとも……そんな事したってお前はまた逃げ出すのだろうけどな」


まほがみほに近づく。

みほが後ずさると、その後退は先ほどまで整備していたW号によって止められた。

厚く冷たい鉄の感触と、それ以上に冷たい汗が伝うのを背中に感じた。


まほ「まさかお前のようなクズが決勝にまで出られるとは思わなかったよ。実力もだが何よりも心が弱いお前がな」


みほはもちろん、麻子も沙織も優花里も華も、まほの気迫に動けなくなる。


まほ「途中で嫌になって逃げださなかったのを誉めてやろうか?あははっ、それは気が早いか。明日にでも逃げてるかもしれないしな」


嘲りを、侮蔑を、怒りを隠さずまほは笑う。

その姿は、その嘲笑にはみほの知っている姉の姿はどこにもない。

296 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:18:53.69 ID:r9PzCrqV0


まほ「貧弱な戦車と、素人を集めてお山の大将は楽しいか?やりたいようにやって、好き勝手振舞うのはさぞかし楽しいだろうなぁ?」


そう言って隣で震えて縮こまる沙織たちに目を向ける。


まほ「お前たちも災難だな?こんなのにそそのかされて、たまたま運が良かったばかりに大舞台で笑いものにされるんだから」

みほ「お姉ちゃんっ!!」


友達を馬鹿にされ、みほがたまらず叫ぶ。

すると、まほの表情から笑顔が消え不機嫌そうにため息を吐く。


まほ「……今さら正気に戻ったつもりか?なら、もう遅い」

みほ「お姉ちゃんっ……私はっ!!」

まほ「あの時こう言ってたな?『大洗に来て友達がたくさんできた』って。なぁ、みほ。エリカから奪った名前と、エリカから奪った姿と、お前の空っぽの中身で作った友達はどうだった?」

みほ「お姉ちゃんっ……私の友達は、みんなはとても素敵な人たちなのっ!!だからッ」

まほ「黙れッ!!」

みほ「っ!?」


突然、弾けるようにまほの怒りが轟く。

怒りのあまり目元に涙を浮かべ、まほはみほを睨みつける。


まほ「全部全部偽物だっ!!お前もっ!!その友達もっ!!」


空気を薙ぎ払うように腕を振って、弾劾するようにみほたちを指さしていく。


まほ「エリカが亡くなったのは不幸な事故だ……それだけなら皆悲しみを受け入れられた。だがみほっ!!お前は、エリカの全てを奪ったんだっ!!

   エリカの家族からッ!!私からッ!!みんなからッ!!」


慟哭が、激昂が、車庫に響き渡る。

あるいは呪詛のようにみほへと向けられたその言葉は、他でもないみほが実感している事だった。


まほ「お前は……お前がッ!!エリカをもう一度殺したんだッ!!」



実感していた、はずだった。



297 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:31:28.88 ID:r9PzCrqV0


呼吸が乱れ、肩を揺らすまほ。

その眼前でみほは虫の息のようにか細い呼吸しかできなくなっていた。


みほ「お姉……ちゃん……」


それでも何とか声を出す。

その言葉が自らを指し示している事が不快だと言わんばかりにまほは顔をしかめる。


まほ「なんだその顔は?『そんな事思ってもいなかった』とでも言うつもりか?だとしたら、お前は本当に救えないな」

みほ「……ごめ、んなさい」


絞り出すようにそう告げると、その胸倉をまほが掴み上げる。

勢いのままW号に押し付けられ、ただでさえか細かった呼吸が更に小さく、絶え絶えになる。

けれども、まほの激昂は止まらない。


まほ「今さらなんだッ!?それで許してもらうつもりかッ!?それでッ!!エリカに顔向けできると思ってるのかッ!?」


まほを掴むみほの手からどんどん力が抜けていく。

だけど、まほの声はどんどんクリアに、まるで脳内に直接響いてるかのように伝わってくる。

その怒りが、哀しみが、どうしようもないぐらい伝わってくる。

だから、

まほ「エリカの……私の大切なものを奪ったくせにッ!!お前がッ!!全部壊したくせにッ!!なのにお前はッ!!」


もしもまほがこの怒りのまま自分を裁いてくれるのならそれで姉が満足してくれるなら。

みほが諦めではなく、そう望んだ時、


沙織「やめてッ!!」

298 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:55:28.14 ID:r9PzCrqV0


まほの手がみほから引きはがされ、離れていく。

磔のようにされていたみほはそのまま膝から崩れ落ち、意志とは無関係に荒い呼吸を繰り返し酸素を取り込む。


優花里「大丈夫ですか!?」


駆け寄ってきた優花里の気遣いに答えようとするものの、未だ呼吸を繰り返すばかりで満足に声を出す事も出来ずみほは手をあげる事で無事を表現する。

そのみほの前では沙織と華がまほにしがみつき、麻子が先ほどのようにみほの前に立ち両手を広げてまほに立っていた。

まほは沙織たちを振り払おうともがくものの、無理やり引きはがそうとはしない。


まほ「離せッ!!部外者は引っ込んでろ!!」

沙織「部外者じゃないっ!!」


その言葉に、まほの動きが止まる。

今度はゆっくりと沙織たちの手を離していき、みほではなく、沙織を睨みつける。

突き刺さり、体の内側で暴れているのかと思えるほどの視線。

それでも沙織は逃げずに視線をぶつけ、食らいつく。


沙織「私は……私たちは、みほの友達ですッ!!」


その言葉を鼻で笑う。


まほ「……こいつの名前も素性もついこの間知ったばかりなのに友達か?」

沙織「違うっ!!私たちは、みほと出会ってた!!初めて会った時からずっと、私たちが過ごしてきたのは西住みほだよ!!」


恐怖に負けないよう必死で拳を握る。

気圧されないように瞬きすらせず睨みつける。


沙織「名前を知らなくたって、素性を知らなくたって、私たちはっ、今日まで一緒に戦ってきたみほの友達だッ!!」



沙織は喧嘩なんてしたことが無い。あるとすれば精々そこで座り込んでいるみほの頬を叩いたぐらいだ。

だけどもし、まだまほがみほに危害を加えようとするのなら、立ち向かうつもりだった。

そしてそれは他の3人も同じだ。

華も優花里も麻子も。その瞳には先ほどまでの怯えは一切なく、まほへ揺るがぬ視線を突きつける。

みほを守るように周りを囲む沙織たちを見て、まほが目を閉じる。

空気から重さが消え、刺すような緊張感が解けていく。

そして、まほがゆっくりと目を開きみほを見つめる。


299 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:56:39.87 ID:r9PzCrqV0


まほ「……ここが、お前の居場所なのか。あの子たちはお前にとって大切なものなのか」


敵意のこもってない声にようやく整った呼吸でみほはたどたどしく返す。


みほ「……私は、何もかも投げ出して、逃げ出してここに来た。嘘をついて、誰かを傷つけて、その先でまた誰かを騙して傷つけた」


許さる事ではない、許されてはいけない事だ。

自分がした事を考えればそれは当然の事だ。

それでも、


みほ「それでも、私が嘘をついてた時から、沙織さんたちは優しくて、強くて……私は、私はずっと憧れてた」


嘘が白日の下にさらされても、彼女たちは自分を案じてくれた。

何一つ真実なんて知らなず、嘘で塗り固められた自分を本気で心配して、それでも友だと言ってくれた。

だから、


みほ「だから、だから……こんな私を見捨てないでくれるのなら、友達だと言ってくれるのなら……私も、それに応えたい」


償いから逃げ罪だけを重ねてきた。

けれども、もう逃げたくない。


みほ「空っぽの私が、それでも皆の為に何かできるのなら……私の全てを尽くしたい」


未だに、大洗を居場所だとは思えていない。

思うつもりもない。

こんな自分に彼女たちがいる『世界』は相応しくないから。

今ここにいる事さえおこがましいから。

だから、みほはせめてもの恩返しをしたいと思った。


みほ「お姉ちゃん……私のした事、許せなくて当然だと思う。あなたは何も悪くないのに、私は自分勝手にあなた達を傷つけた」


姉の気持ちは痛いほどわかる。

己のしたことを考えれば姉の態度はむしろ優しいとまで思えた。


みほ「だけど……決して私は黒森峰に、お姉ちゃんたちに敵対するつもりはないの。ただみんなの為に、出来る事がしたいの」


300 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 03:00:39.63 ID:r9PzCrqV0


床に手をつき、額を付ける。

差し出せるものなど何もなく、プライドも何もない自分の土下座なんて何の意味も無いとみほはわかっている。

それでも今はこうすることしか出来ないから。

みほは額をこすりつける。


みほ「手加減してとか、許してくれとかじゃなくてただ……決勝が終わるまで待ってください。それさえ終われば……私はどんな報いでも受けます」


まほがじっと自分を見下ろしているのを感じる。

やがて、そっとまほが跪き、みほを起こした。

姉の行動に動揺するみほを立ち上がらせ、その肩を押し沙織たちの下へとやると、ゆっくりと目を閉じる。

何かを考えるかのように天井を見上げ、ゆっくりと目を開く。


まほ「……みほ、訂正するよ。お前の友達は偽物なんかじゃない。本当にお前の事を大切に思ってくれている」


ちらりと瞳だけで沙織たちを見ると、

その口元に微笑みが浮かぶ。

瞳が嬉しそうに潤む。


まほ「そしてお前もまた、ここにきて何かが変わろうとしてるのかもな。自分勝手に生きてきたお前が、皆の為に何かをしたいだなんて……良かった」


感慨深そうにそう頷くと、まほは右手で目を覆う。

手の隙間から零れた涙がコンクリートの床を濡らした。

そして、


みほ「お姉ちゃん……」

まほ「ああ、良かった。本当に……本当に……」


その涙を乱暴に拭う。

隠れていた表情が露わになる。


真っ赤に充血した瞳が、

裂けそうなほど吊り上がった唇が、



まほ「だって……だってこれで、お前に罰を与えられるんだからなッ!!」



どす黒い歓喜を称えていた。



301 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 03:03:50.53 ID:r9PzCrqV0


憎しみを喜びで包み込んだらこんな表情になるのだと、

こんなにもおぞましいものになるのだと、

みほたちは初めて知った。


まほ「空っぽの偽物を壊したところでなんの報いにもならない。お前が、本当に大切なものを見つけたというのなら。居場所を見つけたというのなら、全部叩き壊してやる」

みほ「お姉、ちゃん……」

まほ「知ってるよみほ。明日の決勝に負けたら、大洗は廃校になるのよね?」


うっとりと、思いを馳せるようにまほの笑顔に艶が入る。

みほたちを見ているのにまるでみほたちを見ていない。

恐らく、まほが見ているのは未来――――決勝の日。その結末。


まほ「くふふっ……その時お前はどんな顔をするんだろうな?今度はどんな言い訳で自分から逃げ出すんだろうな?」


我慢しきれないといった風に口の端から笑い声が漏れる。

その口元をおさえ、粘土細工でもするかのように唇を結ぶと、今度はしっかりみほを見つめる。

その瞳に宿る感情に、みほはようやく理解する。

―――自分の罪が、ここまで姉を変えてしまった、と。


まほ「覚悟しろ。私が、お前から命以外の全部を奪ってやる」


そう言い切ると、再び我慢できなくなりけらけらと笑いだす。


まほ「ふふっ、あぁ……楽しみでしょうがないよ。……みほ。もう一度、全てを失え。それが――――お前への罰だ」



最後通牒。

―――お前を、許さない。


元より姉はそのつもりだったのだとみほは理解した。

夕陽の中呪いのような笑い声をあげながら去って行く背中にみほは、みほたちはただ立ち尽くし、目を逸らす事も出来なくなっていた。、


302 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 03:05:40.95 ID:r9PzCrqV0
遅くなりましたがここまでー
次回から決勝に入る予定ですが…来週は別のガルパンSSを投稿したいのでこっちはお休みします。

ちょっとだけ待っててください。

一応内容だけ言うとみほとエリカが友達じゃない話です。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 03:59:35.18 ID:3Kz+urJX0
お姉ちゃん頑張れ!
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 04:24:28.30 ID:demKR+/6O
乙でした
お姉ちゃん荒ぶってるなぁ…誰かお姉ちゃんも救ってあげて
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 04:56:16.75 ID:jPXv/KEh0
乙でした!
最初から最後まで緊張感マックスな展開で胃が擦り切れそう
久しぶりの単発楽しみにしてます!
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 07:40:48.44 ID:ou9CUYTgO
このままではいずれ殺される気がする
気をつけろみぽりん!
もはやお姉ちゃんは修羅ぞ
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 09:17:03.63 ID:04/mPBWi0
おつおつ

どう考えても修復不可能なんですが…
お姉ちゃんがこのまま過労死したらみほにはお姉ちゃんになってもらおう(提案
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 22:49:00.49 ID:RsAP6VmI0
やべえよやべえよ・・・。
命だけは取らないって言ってるけど、正直それも怪しいな。
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 01:06:33.13 ID:2z7ozHNDO
乙です
まほはみほが生きて苦しむ様を見続けたいのだから殺しはしないでしょう
まほがさらに精神的に壊れたらその限りでは無くなるだろうけど…
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 04:22:42.61 ID:fyviDJdN0
カチューシャ相手に怒りぶちまけてた頃はまだ、理性も姉妹愛も残ってたろうに
しほさんが子育てセンスなさすぎる所為で… なんとか言えよこの家元(未就任)
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 09:45:04.75 ID:tuPqG0GX0
大洗学園絶対潰すマンと化した姉御。
この分だと仮に廃校回避できたとしても、文科省に「大洗を潰せ」って直談判して、辻を逆にドン引きさせそう。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 00:09:28.46 ID:k/f852Bi0
こういう壊れた女の子見ると勃起を抑えられない
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 12:19:34.48 ID:J/ntnUCf0
罰も何もエリカが氏ぬ前からずっとみほに嫉妬して奪おうとしてたじゃんお姉ちゃん…
よっぽどからっぽのすっからかんだよ
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/12(水) 04:35:59.52 ID:Q8NA5/340
>>311
大洗を…潰してやる!
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/13(木) 11:30:53.13 ID:e8LuSTjZO
このまほは小梅ちゃんが倒しそう
鈍器のようなもので
そろそろサスペンス劇場に突入しても違和感ないぜ
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/13(木) 13:00:01.05 ID:nWqwRRGbo
お姉ちゃんの方が死にそう
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/13(木) 21:46:58.19 ID:oM9HV9CIO
「おやおや、これは気になりますねぇ?」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/22(土) 21:51:25.72 ID:FlpKlbLw0
早く更新してくれ。待たせるのもいい加減にしろ
319 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:17:05.10 ID:+nuVNca90





西住邸。その一室でしほはまほ向かい合っていた。

本来ならまほは夕方には来ていたはずだったが用事があったとの事で遅れ、今はもう夜になっていた。


まほ「……お母様、次はいよいよ決勝です」

しほ「ええ」


最初に切り出したのはまほだった。

全国大会の決勝。今までの、今の黒森峰にとってその言葉が示す意味はとても重い。

前年度の優勝を逃し、今年度こそという士気は確かにある。


まほ「まさか、大洗が勝ち進んでくるとは思いませんでしたが所詮は素人集団。黒森峰の敵ではありません」

しほ「……」

まほ「ましてや隊長が逃げ出したやつだなんて……これ以上無様を晒させないためにもしっかりと終わらせます。……もっとも、あいつが決勝に出ない可能性もありますが」


はっ、と鼻で笑うまほ。

侮蔑と嘲りの混じった表情とは対照的にしほの頬は、目じりはピクリともしない。

しかしテーブルの下で握りしめた手には痛いほど力が込められていた。

自分の娘がその妹を嘲笑う。

そんな日が来るだなんて思ってもいなかった。

けれど、そんな現実から目を逸らせるほどしほは弱くは無かった。弱く、なれなかった。

320 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:20:48.96 ID:+nuVNca90



しほ「……まほ」

まほ「なんですか」


なんと言えばいいのか、どの言葉を選べば伝わるのか。

これが、戦車道の事であれば誰よりも的確な言葉が言えるのに。

しほは内心で自嘲しながら、それでも伝えたい事を伝えるために選んだ言葉を告げる。


しほ「……戦車道は、復讐の道具ではありません」

まほ「……」

しほ「ましてや、あなたとみほは姉妹なのですよ」

まほ「それは、西住流の師範としての言葉ですか?」


冷たい問いかけ。

そこには一切の感情は乗ってない。

だから、しほは精一杯の温度を乗せて答える。


しほ「……あなた達の母としての言葉です」


その返事に、まほは興味を失ったように目を逸らす。

娘の拒絶に胸を掴まれたように心臓が跳ねる。

それでも、諦めるつもりはなかった。

もう一度、まほに伝えようと口を開いたとき、ため息をつきながらまほが立ち上がる。


まほ「……お母様、私はそろそろ戻ります。雑魚相手とはいえ、準備を怠るわけにはいきませんから」

しほ「待ちなさい、まだ話は終わってません」


引き留めようと立ち上がるしほを、まほは瞳で押しとめる。


まほ「……黒森峰は優勝します。……これ以上必要ですか?」

しほ「違います。まほ私はあなたの事を心配して……」

まほ「今さら母親面?」

しほ「っ……」


今度は明確な感情――――侮蔑がそれに乗る。

321 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:31:47.87 ID:+nuVNca90



まほ「お母様は……お母さんはいつだって、私たちに勝利を望んでたでしょ?今回だってそうするよ。それでいいんでしょ?」

しほ「……まほ、勝利の為に犠牲を厭わない。それは確かに西住流に必要なものです。ですがそれは他者を……自分をみだりに傷つけて良いという理由にはなりません」

まほ「理由ならあるよ。あいつはエリカを騙った。私に、唯一残ったものを奪った」


まほは、わなわなと震える手を胸にあて、握りつぶすように掴んでその震えを止める。

怒りに染まった瞳はしほを見ているようで見ていない。

きっと、『あの子』を見ているのだと、しほは察した。


まほ「全部あいつが悪いのに、誰もあいつを裁かない。なら、私がやる」

しほ「……エリカさんを理由にしたって、あなたが苦しんでいい理由にはなりません。エリカさんだってそれを望むような子じゃ……」

まほ「何も知らないくせにエリカの事を語らないでッ!!」


まほの叫びに押し込まれそうになるも、唇を噛みしめぐっとこらえる。

その姿に何を思ったのか。

まほは戸に手をかけると、しほを見ずに伝える。


まほ「家元、決勝見に来てください。あいつが『終わる』瞬間を見届けてください。それが……あなたの義務です」

しほ「……ええ。元よりそのつもりです」

まほ「ならよかった」

しほ「まほ」


僅かに震える声がまほを引き留める。

信じて欲しいと、向き合って欲しいと、懇願する。


しほ「…………私に、チャンスをくれませんか」

まほ「……もう、元通りになんてならないんだよ」


まほは吐き捨てるように呟くと、振り向くことなく出て行き、冷たく閉ざれた戸を開いてその背中を追う事が、しほには出来なかった。


322 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:39:44.32 ID:+nuVNca90
短いですけど今日はここまででごめんなさい。

ちょっと2話見たら振ってきたネタを投稿しちゃいたいので。

また来週。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/23(日) 00:40:46.35 ID:UxB25gZ7o
乙です
324 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:41:13.18 ID:+nuVNca90
【ガルパン】エリカ「パラレル対談会?」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1561217761/

こちらになります。

登場人物はエリカさん他一名です。
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/23(日) 00:54:37.54 ID:0NxAWNlk0

そりゃあアンタがちゃんと母親をやってくれれば二人ともここまでこじれて壊れることは絶対になかっただろうになぁ…
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/23(日) 01:01:51.89 ID:Y81fhGKto
乙。勝っても負けても悲劇しか見えない件
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/23(日) 01:06:58.11 ID:VJYKfZ6n0
乙ーシャ!
ご自分のペースで構いませんよー
328 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/06/23(日) 02:22:59.38 ID:+nuVNca90
>>321
まほは吐き捨てるように呟くと、振り向くことなく出て行き、冷たく閉ざれた戸を開いてその背中を追う事が、しほには出来なかった。




まほは吐き捨てるように呟くと、振り向くことなく出ていった。

冷たく閉ざれた戸がまほの心のようには見えるも、戸を開け、その背中を追う事が、しほには出来なかった。

上記のように訂正します。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/23(日) 05:21:50.76 ID:khqiStFZO
ああ、なるほどパラレル対談よんでて気がついたよ
この世界線のエリカさんは異世界転生して生きてるんだね?
よかったよ。
いやもしくは過去転生して本来なら有り得なかった可能性として再び生を受けたのだろう。
あんこうの誰かとか小梅ちゃん(957週目)とかにダウンロードされてんだろう。
うん。素敵やん。
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/23(日) 10:42:12.84 ID:He5TkIO50
お姉ちゃん、かつてのみほみたいになっちゃってるよ…
こんな状態の西住姉妹を戻せるのもきっとエリカなんやろうなあ
331 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/06/23(日) 16:46:40.87 ID:+nuVNca90
あ、誤字発見。

>>321
まほ「家元、決勝見に来てください。あいつが『終わる』瞬間を見届けてください。それが……あなたの義務です」
             ↓
まほ「師範、決勝見に来てください。あいつが『終わる』瞬間を見届けてください。それが……あなたの義務です」



上記のように訂正します。
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/24(月) 18:09:45.26 ID:6R364Hp70
自業自得とはいえ流石にちょっと、しほりんが可哀想になってきたな。
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 10:39:40.48 ID:gx/rDpCs0
パラレル対談会面白かった、その後にここ読み返すと頭が混乱しそうだw
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 12:31:44.95 ID:7SHbpSu5o
>>330
エリカはもう居ないんだ……
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/27(木) 17:12:52.08 ID:NMqOcxucO
小梅ちゃん先々週からスタンバってそう
336 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 00:13:19.16 ID:GvqkCp0m0





夢のような時間だった。


『みほ』


彼女がいて、私がいて。

それだけで、『世界』が輝いていた。


だから、それが『終わった』時、夢は、悪夢に変わった。

どれだけ泣いても、どれだけ叫んでも、悪夢から覚めることは無く。

気が付くと、夢はもう遠く、小さくなって、代わりに空っぽの私だけが残されていた。

だから私は、永遠に眠り続けるために、夢を見続けるために、私を捨てた。

それしか考えられなかった。

そして、




『だって……だってこれで、お前に罰を与えられるんだからなッ!!』



ようやく理解した。これは、夢なんかじゃない。現実なのだと。

私が、姉の現実を悪夢に堕としてしまったのだと。



『もう一度、全てを失え。それが――――お前への罰だ』



脳裏にこびりついたその声が、その表情が、私のしたことを理解させる。

あんな表情をする人じゃ無かった。あんな、憎悪に満ちた怨嗟を発する人じゃ無かった。

自分が、そうさせてしまった。


ならば、どう償えばいいのか。

わからない。だって私はまだ、何一つその術を見つけられていないのだから。

今の私には、命さえ自由に出来ないのだから。




私に、道を示してくれる人はもう、いないのだから。



337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/30(日) 00:22:23.13 ID:PTO3S7Hqo
はじまった、期待
338 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 00:29:18.80 ID:GvqkCp0m0






甲高いチャイムの音が、みほの意識を浮上させる。

どれだけ深い眠りについていようとも否応なしに目覚めを引き起こすその音は、ある種の条件反射を引き起こすのかもしれない。


一回。

二回。

チャイムが押されると、今度は扉の向こうから声が聞こえてきた。


沙織『みほー!!もう行くよー!!』


その聞きなれた声は、けれども今聞こえるには不自然で、みほは布団を跳ねのけるように起き上がるとまだ寝ぼけている頭を揺らしながら玄関に向かい、扉を開けた。


沙織「あー!まだパジャマなのー?良かった迎えに来て……」


扉の前で待っていた沙織は呆れと安心を混ぜ込んだようなため息を吐く。

対してみほはあっけにとられたまま目を見開いていた。


みほ「なんで……」


突然の訪問はみほの予定には無かった。

もちろん今日が決勝の日だという事は承知しているが、今までの試合と同様集合場所に各々集まる予定だと思っていたからだ。

みほが驚きと疑問で漏らした呟きに沙織は一瞬目を伏せると、眉尻を下げて微笑む。


沙織「……みほさ、お姉さんの事で色々悩んでそうだし、ちょっと朝起きるの辛いかなって。麻子はゆかりんたちに起こしに行ってもらってるよ」


先日のまほの訪問。その場には沙織たちもいた。

怒りなんて言葉では足りないほどのまほの激情を彼女たちも目の当たりにしていたのだ。

そしてその原因は他でもない自分で、つまり沙織たちはただただ巻き込まれただった。


だからみほはまず頭を下げた。


みほ「……ごめんなさい、迷惑かけて」

沙織「良いよ。迷惑かけてくれた方がずっと良い。何も言わずに、どっかいかれるほうがずっと嫌だから」


微笑みながら言われたその言葉に、みほは何も返すことが出来なかった。

唇を噛みしめ、ただじっと頭を下げる事しか出来なかった。

そんなみほの肩を沙織はポンと叩くとそのまま部屋に押し戻そうとしてくる。


沙織「……ほら!さっさと着替えて!!髪も梳かして!!朝ごはんにお弁当作ってきたからみんなで食べよう?」

みほ「……はい」


そのあまりにも真っすぐで優しい笑顔に、みほはただ力なく微笑み返した。


339 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 00:51:51.01 ID:GvqkCp0m0






大洗の港から駅に向かい戦車を輸送できる特別列車に乗り込んでそのまま数時間。

大洗女子学園の面々がたどり着いたのは、富士の膝元にある東富士演習場。

今日行われる第63回戦車道全国高校生大会の決勝、黒森峰女学園対大洗女子学園の試合が行われる会場である。


優花里「戦車道の聖地!!まさか選手として来られるだなんてっ……!」


試合会場を見下ろしながら優花里が感激の極みといった様子で打ち震える。

優花里ほどではないにしろ沙織たちも同じことを思っていたようで、緊張、喜び、あるいは不安。

それらの感情が混ざった複雑な表情をしていた。

そして、そんな彼女たちの隣でみほだけは、無表情でじっと空を見つめていた。


340 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 01:05:46.95 ID:GvqkCp0m0





決勝の試合会場にはそれまでの試合会場よりも更に大きいモニター、席数の増えた観覧席が設置されている。

そしてその裏では様々な出店が立ち並んでおり、試合前にそれらで楽しむ観客たちと共に文字通り祭りの様相を呈していた。


そんな喧騒から距離を取って。

試合会場の一角に置かれた整備場所(パドック)では、大洗女子学園の面々が間近に迫った決勝に向けて自車輛の最後の点検に勤しんでいた。


ナカジマ「一応西住さんのチェックもお願いしていい?」

みほ「あ、はい」


パドックの一つではあんこうチームの車輛であるW号が、あんこうチームと大洗の車両整備の責任者であるナカジマによる最終点検を受けていた。

刻一刻と迫る決勝を前に時間はいくらあっても足りず、少しでも、一つでも不備や不安の残らないよう皆集中していた。


「ミホー!!」


そんな時、唸るようなエンジン音と共に明るく、陽気な声がみほの名を呼んだ。

みほが振り向くと、みほたちの前にジープが停車し、ドアを飛び越えて降りてくる人物。


みほ「ケイさん……」

ケイ「久しぶりねミホ!!」


金髪を揺らし朗らかに笑うのは、サンダース大付属高校の隊長、ケイ。

ジープのハンドルを握ったままこちらを見つめる副隊長のナオミと、ケイとは逆にどこかしおらしい様子でドアを開け降りてきた同じく副隊長のアリサ。

3人と会ったのは一回戦ぶりであり(優花里はしばしばサンダースに出入りしていたので久しぶりというほどでもない)、しかしみほが気まずそうに目を伏せたのには別の理由がある。


ケイもそれを察したのか、先ほどまでの明るさを収めて静かに微笑む。


ケイ「今更だけど……ミホ、で良いのよね?」

みほ「……はい」


341 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 01:19:54.06 ID:GvqkCp0m0



彼女たちに名乗った名は『西住みほ』ではなく、『逸見エリカ』だ。

ケイの口ぶりからみほは自分の現状はもう知られているのだと察し、降参するように頷く。

元より、ケイとナオミ……アリサも自分の正体なんて知っていたのだろうとはわかっているが。

やはりケイの瞳を見つめられないままそんな事を考えていると、


ケイ「ならミホ。……ごめんなさい」

みほ「え?ちょっ、何……」


ケイと、その隣に立つアリサが深々と頭を下げる。どういうことかとみほがとハンドルを握ったままのナオミを向くと、ナオミもまた申し訳なさそうに頭を下げた。

いよいよ混乱してきたみほの前で、頭を下げたままケイが声を出す。


ケイ「アリサを庇ってくれてたのね」

みほ「え……」

ケイ「本当にごめんなさい。何も気づかなくて。あなたに汚れ仕事させて」



その言葉の意味をみほは直ぐに察した。

サンダースとの試合、その中で対戦相手であるアリサが行った無線傍受。

戦車道のルールには反さないものの隊長であるケイの主義に反するその行い。

バレたらタダでは済まないという事はアリサも覚悟していた。

だからみほは、それを庇った。

口汚い言葉でアリサを、サンダースを罵り、自分に怒りを向けさせることでアリサのしたことを隠した。

それが結果的にアリサに重いものを背負わせ、それを見ていたあんこうチームの面々にも愁傷を抱かせてしまった。

だから、こうやってケイたちに頭を下げられてみほはむしろ申し訳なく思ってしまう。

ケイの隣で同じように頭を下げているアリサに向かって、みほは寂しそうに笑う。


みほ「……言っちゃったんですね」

アリサ「ミホ……ごめんなさい。あなたの気遣いを無為にした」

みほ「……良いんですよ。元々私が勝手にやった事なんですから。むしろ、余計な事しちゃいました。私が変に庇い立てたせいで拗らせちゃったんじゃ……」

アリサ「違うっ!!」


みほの言葉を、遮るようにアリサが声を張り上げる。

目元に涙を浮かべ、唇を噛みしめ、それをゆっくりと解く。


アリサ「違うわミホ。私は……」


その先は言葉にならず、嗚咽交じりに謝罪を繰り返すアリサ。

その肩をそっと抱いてケイがみほに向き直る。


342 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 01:32:28.12 ID:GvqkCp0m0



ケイ「……アリサが、話したい事があるっていうから聞いてみたの。無線傍受の事、それをあなたが庇ってくれた事。それと……なんでアリサがそんな事したのか」

みほ「……」

ケイ「いっぱい怒ったわ。なんでそんな事したのか。なんで言ってくれなかったのか」

みほ「……アリサさんは、ケイさんのために」


それ以上言わないで。と、ケイは手みほの言葉を遮る。


ケイ「わかってる。わかってるわ。だから……たっぷりと反省会をしたわ。アリサと、私の二人でね」


ようやく泣き止んだアリサが、顔を上げて赤い目でみほを見つめる。

その姿を見てケイは嬉しそうに微笑む。


ケイ「アリサの気持ちに気づけなかったことを謝った。これからどうしたいのか、どうして欲しいのか。たくさん話した。受け入れられることもそうじゃない事も。一つずつ」


ケイとアリサの視線が合わさる。

彼女たちが一体何を話したのか、どういう結論を選んだのか、

みほにはわからない。だけど、きっと確かな絆が、一回戦を終えた時よりも強固な絆がそこに生まれたのだと感じた。


ケイ「ミホ、私は……正々堂々のフェアプレイが好きだわ」

みほ「……とても素晴らしい事だと思います」

ケイ「でもね、私は知らぬ間にそれをみんなに押し付けてた。ううん、それならまだよかった。アリサの……みんなの意見を聞かずにそれが正しいってみんなハッピーだって思ってた」


アリサがその言葉に辛そうに唇を噛みしめる。


ケイ「だから、アリサのしたことは遅かれ早かれ起きてたと思うの。アリサじゃなくて他の誰かであっても」


その言葉をみほは否定しなかった。

ケイの言う通りだと思っているからではなく、ケイがアリサと向き合って出した結論を否定したくなかったから。


ケイ「ミホ、あなたに辛い真似させたこと本当にごめんなさい。でも……ありがとう。私たちが向き合える機会を作ってくれて」



343 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 01:47:12.10 ID:GvqkCp0m0


ありがとう。

その言葉をみほは自分の中で反芻する。

そんな言葉は自分に相応しくないと、吐き出しそうになるのを必死でこらえる。

やがて、ゆっくりと深呼吸をし、ケイを、アリサを見つめる。


みほ「ケイさん、アリサさん。私は……あなた達のようになれませんでした」


みほは思い直したようにかぶりを振る。


みほ「いえ、なろうとすらしてなかった。何も言わず、何も伝えず、いつか来る破綻なんて目に見えていたのに何もせずにいて……当たり前のように壊れた」


それはきっと手のひらに落ちた雪のように儚い夢だった。

いずれ溶けて、消えていくだなんてことわかっていたのに。永遠であって欲しいと願うばかりで何もしなかった。


みほ「なのに大洗の皆はそんな私をまだ信じるって言ってくれるんです」

ケイ「……良い仲間と出会えたのね」


ケイがそう微笑むとみほは悲しそうに笑い返す。

良い仲間。それは、間違いない。

自分にはもったいないほど、大洗の皆は優しく、善良な人たちだった。

だから、

344 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 01:52:34.32 ID:GvqkCp0m0




みほ「ケイさん、私の戦車道は勝つ事だ。……以前そう言いましたよね」


みほの言葉にケイは無言でうなずく。


みほ「それは、今でも変わりません。あの時は、エリカさんであるために。エリカさんが唯一褒めてくれた事を汚さないために」

ケイ「……なら、今は?」


その問いかけに、みほは決意と諦観を込めて答える。


みほ「……みんなのために。みんなが諦めてないから。私を、信じてくれるから。だから私は、燃えカスの私を最後の一片まで燃やし尽くします。勝利を、目指して。結果がどうなろうとも」

アリサ「……決勝が終わったらどうするの?」


尋ねたのはアリサだった。

先ほど泣いたばかりなのに、また泣きそうな瞳でみほを見つめる。

それはまるで、今にも崩れそうな積み木を見るような目。


その視線を受け止めたみほは何一つ感情の無い表情で口を開く。


みほ「……生きる」


たった一言。

それが、全てだった。

ケイも、アリサも、何も言えなくなる。

そんな二人を見てみほはうっすらと笑った。


みほ「今は、それしか言えないんですよ。これだけは守らないといけないから」




その約束だけが、今もみほと『彼女』を繋いでいた。



345 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/30(日) 01:53:58.54 ID:GvqkCp0m0
ここまでー。
もうちょっとイベント会話が続きます。
最終章のパンフ後編買いに行かないと…

また来週。
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/30(日) 02:28:20.68 ID:wJF2XuqD0

完全お姉ちゃん派の俺としては、みほのスタンスが終始気に入らん。
悲劇のヒロイン気取ってるように見える。
エリカが死んで直ぐはまあ仕方ないけど、それからずっとそうだし、みほ自身に戻って心理描写が明瞭になった今はより一層そう思えてしまう。
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/06/30(日) 10:31:54.05 ID:13fmDWD/0
>>1ーシャ
エリみほ原理主義者過激派の俺としては両サイドの言い分憤りも分かるがまぽりんのは嫉妬から来てるってのがな
そんな羨ましいなら入ってくりゃ良かったやんと思う
踏み出せなかったのを転化してる分、不健全さではみぽりんのなりきりに劣るが、同じくらいこのキレ方は質悪い
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/01(月) 00:05:10.57 ID:BIUuwP4i0
>>346 >>347

みぽりんが悪い派と、姉御が悪い派か・・・。
それじゃあ間をとって、辻が悪いって事で。
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/01(月) 01:31:12.72 ID:00CQZqLq0
この話でここまで来たらもうそんな外部に原因を作って納得する事は出来ないよ
黒森峰も、大洗も
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/01(月) 23:05:43.08 ID:024Kn3Ek0
>>348
どっちかが悪いとかじゃないよ、どっちとも可哀想だしどっちとも面倒臭い子
みほのスタンスが気に入らないってだけ
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/02(火) 01:13:39.91 ID:hAhMzFBGO
誰が悪いかという話になるとみほとまほ2人とも悪いからね
というよりも、2人以外の殆どの人も大事な事を語ろうとしなかったせいでここまで拗れてきた訳だし
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/02(火) 11:20:05.25 ID:+6eS5Qxl0
誰がって、そりゃオトナが悪いよーオトナが

自分達の都合で従来の慣例押し付けて、見たくないモノ無視するために臭いものには蓋をして 少なくともみほ周りはそのやり方通してきた所為で
気づいた時には手遅れになってた感が大きい 原作からして、理不尽に押し付けられる逆境をひらめきと友情パワーで打破してく作品ではあるけど
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/04(木) 16:15:26.09 ID:Em5dcxR8O
生きる

このまるで目に光のないこの女の名前は西住みほという。一応、形式的にはこの物語の主人公である。
彼女は毎朝この道を歩いて職場に向かう。
一見端から見れば彼女は忙しそうなごく普通の社会人のようには見えるだろう。
しかし、それは大きな間違いである。
実際には彼女の心は全くの病的な状態にあり、その目にはなにも映ってはおらず、周囲に対しても完全に無感動そのものなのだ。
彼女はただ毎日機械めいて会社に出社しこの椅子に座って必要最低限の仕事をさも忙しそうにこなし他と一切の交流もなく椅子の人となる。
それがここ数年の彼女の全てである。恐ろしいことに他には本当に何もないのだ。
仮に彼女をそれなりに知る者であるならば、そこに虚無とでもいうのだろうか、言い知れぬような何か、もしくはもっと恐ろしいものの片鱗をかいまみることだろう。彼女は終始にこやかに何事もそつなくこなし微笑んではいるが、それはあくまで辛うじて整えた外面に過ぎず、事実、この西住みほという人間の一切合切は、生きているという演技なのである。

「西住くん、...君、やる気あるのかね?」

「...え...はい...すみません」

結論を言おう。この西住みほという人間は、今日から3ヶ月後の朝方、遺体で発見される。
死因は_自殺だ。
その前提の元、この物語は始まる。
これは西住みほ、最後の頑張り物語である。

ででーん。エンターエンターみっしょーん
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/04(木) 16:50:31.77 ID:A+Jw5l+8O
そんな未来が見える...
355 : ◆eltIyP8eDQ [sage]:2019/07/06(土) 01:14:31.47 ID:pcRR3pBI0
ちょっと今晩の投稿難しそうなんで明日でお願いします!!
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/06(土) 18:39:16.43 ID:KEZyX9bNO
大佐!大佐アアア!(あ、はい)
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/06(土) 23:15:15.25 ID:lp86NVty0
今更だけど週一更新ってすっげえ有難いことだよな
しかも常にハイクオリティ
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/07(日) 10:08:18.48 ID:QABo4zqRO
偉大なるガルパンss聖人だ
359 : ◆eltIyP8eDQ :2019/07/07(日) 23:42:51.86 ID:8KNquDFZ0



重く、深いみほの言葉は周囲の空気に重力を与える。

他でもないみほ本人が自分の言葉に膝をつきたくなるほどに。

アリサの顔はまたもや涙に濡れ、くしゃくしゃになる。

そして、いつもにこやかなケイもその表情を消し去り、じっと考え込むように目を閉じている。

これで、話は終わりか。

そう思ったみほが最後の点検に戻ろうとした時、ケイが口を開いた。


ケイ「……ミホ」

みほ「……なんですか」

ケイ「……いいんじゃないそれで?」

アリサ「はぁっ!?」


軽く、あっけらかんとした声に最初に反応したのはアリサだった。


アリサ「ちょ、ちょっと何言ってるんですかっ!?」

ケイ「えー?だってそれ以外言う事ないんだもの」


アリサが胸倉をつかまんばかりに詰め寄って抗議するも、ケイはめんどくさそうにアリサから目をそらす。


アリサ「なに言ってるんですかっ!?」

ケイ「大丈夫よ大丈夫。ノープロブレム!モーマンタイ!って事」

アリサ「広東語ですよそれはっ!!」


わめくアリサを無視してケイはみほへと向き直る。

その表情には笑顔と陽気さが戻っていて先ほどの重い空気は消え去っていた。


ケイ「ミホ、この世で最もポジティブな事って何だと思う?」

みほ「え……」

ケイ「それはね、生きてる事よ」


360 : ◆eltIyP8eDQ :2019/07/07(日) 23:58:39.05 ID:8KNquDFZ0



どういう意味かとみほが尋ねる前に、ケイは指で数えながら楽しそうな声を出す。


ケイ「生きていれば好きなもの食べられるしポップコーンとコーラ片手に映画見られるしみんなでバーベキューが出来るわ」

アリサ「食べる事ばかりじゃないですか…」


わめき疲れたのか、息を切らしながらアリサが突っ込む。

そんなアリサにケイはウィンクで返事をすると、やっぱり楽しそうにみほに話しかける。


ケイ「楽しい事は、生きてないと出来ないの。なら、生きるって決めたあなたにはもう何も言う事ないわ。だって、今のあなたはとってもポジティブなんだからっ!!」

みほ「……何の目的が無くても、価値が無くても、それどころか罪を重ねていても、生きていればそれでいいって言うんですか」

ケイ「いいのよ。どんなにバッドな人生でも、明日になればハッピーな事があるかもしれないんだから」


そんな事ない。

エリカを失った日から、明日に希望を持てた事なんてなかった。

みほにとってエリカは全てだったから。

全てを失ったみほは、その絶望と怒り。そして、エリカの言葉で辛うじて生きているだけなのだから。

だから、ケイの言葉を否定しようとする。

私に、幸せなんて訪れない。そんな日が来てはいけないと。

だけど、


みほ「そんな事、そんなの……」


明日に希望なんて無いと分かっているのに。

他でもないみほが、明日の絶望を信じているのに。


なのにケイの笑顔は明日の幸福を信じている。

自分のだけじゃない、みほの幸福まで。

その眩しさに耐えられず、みほは目をそらす。


そんなみほの仕草にケイは微笑みながらうなずく。


361 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/08(月) 00:17:00.56 ID:4imz0c/d0




ケイ「良いわよ。いくらでも泣いて。明日も泣くのなら明後日、それでもだめなら明々後日。いつか笑えるわよ。幸せに消費期限なんてないんだから」


そんな事を言われたところで肯定なんてできるわけがない。

だけど、ケイを睨みつける事も否定の言葉を出すこともできず、みほは唇をかみしめる。


すると、ケイは目をそらしたままのみほの視線に回り込むと、立てた人差し指をグイと突き付ける。


ケイ「それじゃあ最後に、あなたにホームワークをプレゼントするわ!!あなたの戦車道を、今日の決勝で示して」

みほ「……」

ケイ「あなたがどうありたいのか、それが出来るのか。試合の中で表現して見せて。あなただけの輝きをみんなに見せて」

みほ「私だけの輝き……そんなの」

ケイ「いいえ、あるわ。きっと」


その表情に笑顔は無かった。だけど、『信じている』と、言葉よりも強く伝えてきた。

大して話したこともない自分になぜそんな表情が出来るのか、みほにはわからない。

わからないのに、わかってしまう。

ケイが自分を信じているのだと。


そんな自分の気持ちさえ伝わってしまったのか。ケイは満足げにうなずくと手を振りながらジープへと戻っていく。


ケイ「それじゃあ私たちはそろそろ行くわね!!ミホ、頑張ってねっ!!」

アリサ「ちょ、隊長待ってっ……頑張ってミホ」


ジープに飛び乗るケイの後をアリサが慌てて追う。

ハンドルを握っているナオミがみほに一礼すると、そのまま返事を待たずにジープは去っていった。




362 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/08(月) 00:28:35.53 ID:4imz0c/d0





サンダースの三人が去っていき、みほは祭りの喧騒の中、じっとケイの言葉を反芻していた。


みほ「……私の、幸せ。それに……私の戦車道」


どちらもみほにとってあり得ない、遠いものだ。

どちらもエリカがいないのなら、あり得ないものなのだから。

それで終わりのはずなのに、みほは考え込んでしまう。


どれだけ考えても結論は変わらないのに。

とはいえ、決勝前の大事な時間をいつまでも堂々巡りな思考に費やすわけにはいかない。

みほは首を振って無理やり頭の中を切り替え、点検に戻ろうとする。

すると、


「あ゛ー!!いたいたー!!見つけたぞ西住ー!!」


濁音の強い声がみほを呼び止めた。

声の方を向くと大きなツインテールを揺らしながら必死でこちらに走ってくる影が一つ。

その特徴的なツインテールに、遠くからでもその影が誰なのか察することが出来た。


みほ「安斎さん……?それに……」


ツインテールの影に隠れてもう一つの人影を捉える。

もう一つの影は確かペパロニと呼ばれていた事をみほは思い出していた。


アンチョビ「ほらさっさとこいペパロニ!!」

ペパロニ「ドゥーチェが出店に目移りしてたんじゃないっすかー」

アンチョビ「お前だっていつの間にか焼きそば買ってただろっ!?」

ペパロニ「パスタも良いけどたまにはこういうのも良いっすよねー」

アンチョビ「だなっ!ってちがーうっ!!」


バタバタと騒がしい足音とそれに合わせてバタバタと振り回されるツインテールがみほへと向かってきた。

よく見るとペパロニはパックに入った焼きそばを抱えていた。

ようやく二人がみほの元にたどり着くと、息を切らしている二人にみほは恐る恐る声をかける。


みほ「あの……安斎さん?」

アンチョビ「アンチョビと呼べっ!!……って今はまぁいい。それよりも西住今時間はあるか!?」

みほ「え、ええ。大丈夫ですよ。まだ試合まで時間はありますし」


念のためナカジマに視線で確認を求めると、ナカジマは両手で〇を作って許可を出す。

どうやら最終チェックを代わりにやってくれるようだ。

363 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/08(月) 00:45:26.23 ID:4imz0c/d0


アンチョビ「そうか!!……あれ!?カルパッチョはっ!?」

ペパロニ「カルパッチョならあそこっすよ」


抱えた焼きそばを食べながらペパロニが目線で促す。

すると、その先で金髪の―――カルパッチョと呼ばれている少女がカバさんチームのリーダーのカエサルと向き合っていた。


カルパッチョ「たかちゃーん!!」

カエサル「ひなちゃん!!」


二つの黄色い声は少し離れたみほたちの元へもはっきりと届いてきて、その仲睦まじさにみほが羨望も込めて苦笑する。


アンチョビ「もーっ!!……まぁ、あいつはいいか」


苛立たし気に釣り上げた眉をすぐに戻すとアンチョビはみほへと向き直る。

そして、ツインテールが跳ね上がるほどの勢いで頭を下げた。


アンチョビ「西住!!この間はすまなかったっ!!」

ペパロニ「本当に悪かった!!」

みほ「え、え」


アンチョビに続いてペパロニも頭を下げる。

本日二度目の謝罪にみほはやっぱり混乱してあたふたとしてしまう。


アンチョビ「こいつが迂闊にお前の名前を言ったせいで、迷惑かけて…」

みほ「そんなこと……」


アンチョビが謝罪した理由に確かに覚えはある。

あの時の自分は逸見エリカを騙ってて『西住みほ』の名は出したことが無かった。

だから、それを聞いていた沙織が気になって調べてしまい、一時的とはいえ沙織と華の離反を招く結果にはなった。

だが、それはあくまでみほ自身の問題故であって、ペパロニや、ましてやアンチョビの責任ではない。

なので謝罪をされる謂れなんてないと伝えようとすると、頭を下げたままのペパロニが申し訳なさそうに話し出した。


ペパロニ「前に、姐さんが悩んだ様子であんたの名前を言ってて……だから、調べて……」

みほ「……」


ペパロニを庇うようにアンチョビがその肩を抱く。

364 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/08(月) 01:35:07.49 ID:4imz0c/d0



アンチョビ「言い訳するつもりじゃないがあの時の私は、お前と、お前の姉のと……逸見の事でちょっと、な……つい、呟いたのが聞かれていたんだ」

みほ「……なんで、あなたが?」


みほやまほ、エリカの件にアンチョビはなんの責任も無い。

悩む理由なんてないはずなのに。

そんな疑問にアンチョビはあっけにとられた様子で答える。


アンチョビ「そんなの……気にするに決まってるだろ。仲間の事なんだから」

みほ「仲、間……」


その言葉を口の中でつぶやく。


アンチョビ「試合では戦っても、同じ戦車道仲間だ。それが、あんな事になって心配しないわけないさ」


みほはこの間の試合で始めて会話をした。

顔こそ黒森峰の中等部時代に合わせた事があるが、それっきりだった。

なのにアンチョビはそんなみほも仲間だと思っていた。

その事実が、みほの心を僅かに揺らした。


みほ「……アンチョビさん」

アンチョビ「なんだ?」

みほ「……ありがとうございます」


先ほどとは逆にみほが頭を下げる。

当然下げられた頭に、今度はアンチョビが慌てふためいた。


アンチョビ「うぇぁっ!?なんでお礼なんていうんだ!?」


みほはゆっくりと頭を上げ、けれどもうつ向いたままポツポツと声を出す。


みほ「あなたは、ずっと私の事を気遣ってくれました。勝手に落ち込んで、勝手に逃げて、勝手にたくさんの人を傷つけていた私に」

アンチョビ「……」

みほ「あなただけじゃない、ケイさんも。本当に、感謝してます。私なんかのために、そんなにも優しくしてくれて」

アンチョビ「『なんか』じゃない。そんな事言うな」

365 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/08(月) 01:59:25.10 ID:4imz0c/d0



遮った声にほんのわずかに怒りが滲んでいたことをみほは察した。

吊り上がった眉がみほを睨みつけ、固く結んだ唇が意志の強さを表している。

だけど、すぐに唇は緩み、眉は下がり、アンチョビはみほの肩にトンと手を置く。


アンチョビ「本気で戦って、一緒に食事した。ならもう、私たちは友達だ。だから、お礼なんていらないさ。だから……」


言葉の先が霧のように散っていく。

大きく見開いた目がみほではないどこかを見ている。

どうしたのかとみほが尋ねようとすると、アンチョビが悲しそうに笑った。


みほ「……アンチョビさん?」

アンチョビ「……この言葉を、あいつにも言えてたらな」

みほ「え……?」


みほがどういう意味かと首をかしげていると、アンチョビはやはり悲しそうな笑みを残したまま、みほへ視線を戻す。


アンチョビ「……すまん、なんでもないよ。それじゃあ私たちはもう行くな。頑張れよ西住っ!」

ペパロニ「優勝しろよー!!」


止める間もなくアンチョビたちは去っていった。

先ほどの悲し気な笑顔なんてかけらも感じさせない元気な後ろ姿に、みほはもう一度頭を下げた。





なお、途中でペパロニによって回収されたカルパッチョが悲劇のヒロインさながらに「カエサル様ああああああああああああー!!」と叫び、同じように「カルパッチョオオオオオー!!」と手を伸ばすカエサルがいたが、

その二人以外のアンツィオとカバさんチームの面々は冷めた目で彼女たちのシェイクスピアを観劇していた。



366 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/08(月) 02:01:27.94 ID:4imz0c/d0
ここまでー
早く梅雨明けしてほしいです。
また来週。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 02:39:00.50 ID:VtDxCRsXO

ありがとうそしてありがとう
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 02:40:41.36 ID:MC7MiuL8O
ケイさんの陽気力半端ねーす
みほちゃんを救うのはおケイだったか
こいつは僕も元気になっちゃうね
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 11:38:49.66 ID:CN6ZeOfx0
更新乙
ケイもアリさも素敵
意外とキャラがよくわからないカルパッチョ
最新のドラマCDで、ペパロニに対して少し深堀されたのは嬉しい
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 12:30:47.50 ID:yR3P4We+O
おつ
ケイはイイ女だよ
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/09(火) 21:21:13.56 ID:0yJET4lm0
乙です
「ケイさんが信じてくれている」ってことを信じられるんだから、絶対みほは立ち直れるよ
いくら時間がかかろうとも、いま自分を大切にできなくても、仲間や周囲の人々を信じられるのならまだ希望はある
天国からきっとエリカさんもみほとまほの平和を祈ってくれている……
372 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 00:27:58.12 ID:LUa+0x7l0





アンチョビたちが人ごみに消えていった後もみほはじっとその方向を見つめていた。


みほ「それで、今度はあなたですか?」


みほは振り向かずに問いかける。

砂を踏みしめる音が返答をする。


みほ「ダージリンさん」


ゆっくりと振り向くと、そこにいたのはダージリンとお供のオレンジペコ。

決勝の熱気に充てられてるのかオレンジペコはせわしなく周囲を見ている。

対してダージリンはみほを見つめたまま、だけど時折視線を揺らしている。

みほは何も言わずにじっとダージリンを見つめ、彼女が口を開くのを待つ。

そして、


ダージリン「その……ごめんなさい」


開口一番、ダージリンの口から出たのは謝罪だった。

なんとなく想像はしていたがいざその通りになると流石に苦笑してしまう。


みほ「……今日は会う人みんな謝ってきますね。ダージリンさんはなんでですか?」

ダージリン「……あなたに、何もしてあげられなかった事」


冗談交じりに聞いたものの、返ってきた声はみほの知っているダージリンとは思えないほどしおらしく辛そうだった。


みほ「何もする必要なんてないのに?」

ダージリン「……その通りよ。これはただの自己満足。事実、あなたに謝ってちょっとすっきりしたわ」

みほ「現金な人ですね」

ダージリン「……そうね」

みほ「……調子狂うなぁ」


思わずついてしまった悪態に自分でも驚く。

それに、殊勝に、しおらしくうなずくダージリンにも。

みほが知ってる範囲ではダージリンはいつも余裕で人を食ったような態度しかとらず、おまけにある事ない事ふれ回るような人間だ。

なので、ダージリンに対してはみほは遠慮というか配慮に欠けてしまう。

とはいえ、今日のダージリンの弱々しい姿にキツ目の言葉を投げてしまった事にほんのわずかに後悔してしまい、フォローも兼ねてみほは自身の内心を吐露する。


みほ「ダージリンさん。言った通りあなたが何かする必要なんてないんです。事故の事も、その後の事も、今の私の事もあなたは何も気に病む必要なんてないんです」


ダージリンだけじゃないみんなそうだ。

みほの事をまるで自分の事のように気にかけ、心配して、胸を痛めている。

理解できない。そんな必要ないのに。

だけど、

373 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 00:43:54.44 ID:LUa+0x7l0



みほ「だけど……そうやって気にかけてくれたことは感謝してます」


それでも、その気持ちを受け止められる程度には、

感謝の言葉を言える程度にはなっていた。

かつて、自身を思って優しくしてくれた人に酷い言葉を浴びせたのを思えば、多少はマシになったんじゃないか。

そう思うと同時に、こんなことすら碌にできなかった自分はやはりどうしようもないと自嘲してしまう。

すると、恐る恐るとダージリンがみほの顔を伺って尋ねてきた。


ダージリン「何か……私に出来る事はない?」

みほ「ありません」


即答すると、ダージリンは辛そうに唇をかみしめる。


―――しまった。また、刺々しくしてしまった。


みほは直ぐに次の言葉を探し、伝える。


みほ「……誰かに出来ることがあったのなら、きっと私はこんな事にはなってませんから。他でもない私が、差し伸べられた手を振り払ってきたんですから」


黒森峰にいたときからみんな優しかった。

自分だって自責の念に苦しんでいたのにそれを必死に押し殺してみほのために手を差し伸べてくれた人がいた。

それを、すべて無碍にしたのがみほだった。

近くにいた仲間に対してでさえその有様だったのに他校のダージリンに出来る事なんて無かっただろう。

差し伸べられた手を、自分はきっと口汚く罵って振り払っていただろう。

みほはそう確信していた。


みほ「あ、でも。私の事白雪姫ーって他校に言いふらしたことはちょっと怒ってますよ?」

ダージリン「ああそれは……謝るのはまだ早いわね」

みほ「え?」


重苦しい空気を何とかしようと軽口交じりに言った恨み言は少し余裕を取り戻した様子のダージリンによってさらりと躱される。

拍子抜けして間抜けな声を上げたみほをダージリンは舐めるように下から上へと視線を動かすと、 一瞬小さく笑って告げる。



ダージリン「だって……あなたはまだ白雪姫よ」

みほ「……どういう事ですか?」

ダージリン「眠ってるって事。いえ、目をつぶってるって言った方がわかりやすいかしら?」


得意げにほほ笑むダージリンに若干苛立ってみほが眉根を寄せる。

それを察したのか祭りの様子に嬉々としていたオレンジペコが慌てて、けれども澄ました様子でダージリンに忠告する。


374 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 01:03:09.20 ID:LUa+0x7l0


オレンジペコ「ダージリン様。あんまり煙に巻くような話し方すると嫌われるってアッサム様にも言われたじゃないですか」

ダージリン「あら、ごめんなさい。……でも、わかるでしょ?」

みほ「……」


返答はしなかった。

それは今考えるべきことじゃなかったからだ。

ダージリンの言葉遊びに付き合えるほどの余裕は今の自分にはない。

なので、ここは無視をするのが正解だ。

……そんな内心の声を言い訳がましいと思う気持ちまでは無視できなかった。


ダージリン「それじゃあそろそろ行くわね。観客席から応援させてもらうわ」

みほ「……はい」


来た時のしおらしさはどこかへ捨ててきたのか、初めて会った時と同じ、余裕ぶった表情を取り戻したダージリンがオレンジペコを連れて立ち去ろうとする。


ダージリン「最後に。……みほさん、あなたにイギリスの格言を送るわ」


ああ、いつもの格言かとみほが呆れたように小さくため息を吐く。

それは隣に立つオレンジペコも同じなのか、ジトっとした目をダージリンに向けるとすぐに表情を引き締めダージリンの言葉を待つ。

けれども、彼女の口からいつもの気取った格言は出てこず、口を開いたままどこか上の空でみほを見つめていた。

オレンジペコ「……ダージリン様?」


どうしたのかと思ったのだろう、オレンジペコが心配そうに声をかける。

すると、ダージリンはゆっくりと口を閉じ、大きく鼻で息を吸って、大きく吐いた。

そしてもう一度大きく息を吸って、


ダージリン「……あなたの歩んだ道は、あなただけのものよ。過去も、今も、未来も。そして、過去も今も未来も、あなたを見守ってくれるわ。だから……頑張って進みなさい。あなただけの人生を」


そう言い切ると、スタスタと歩き去っていった。


375 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 01:48:24.63 ID:LUa+0x7l0






大洗のパドックから離れ、観客席へと向かうダージリンの背中に、オレンジペコは先ほどから気になっていた問いを投げかける。


オレンジペコ「ダージリン様、今のは誰の格言なんですか?」


目の前の先輩は息をするようにあちこちで格言を吐く。

アッサム曰く、「昔はそんな事なかったんですけどね……」との事だが、あれやこれやと蘊蓄を交えて楽しそうに講釈するダージリンに付き合ってくれる同級生はそうおらず、

結果的に後輩でなおかつ同じ車両に乗ってる自分が彼女のお遊びに付き合う事になっていた。

格言を言った人物について知らないとダージリンは殊更得意げに説明してくるのでオレンジペコはアッサムから教えてもらったダージリンが参考にしているのと同じ格言の本を買ってあれこれと勉強していたのだ。

恐らく今後ダージリンと共にいる以外では使う事は無いであろう知識の吸収に時間を使うのは勿体ないと思わなくも無いが教養とは得てしてそんなものだと納得している。

……別にダージリンを嫌いとかそういう事は無いし、一年である自分を重用してくれる事に感謝と尊敬はしているが、それはそれとしてめんどくさい人だというのもオレンジペコの紛れもない本心なのである。

そんな風に色々思うところはあるものの、それでもここ最近は彼女の格言トークに付いていけていると自負していたが、先ほど彼女が言った格言には覚えがなく、

だというのにそれを知らない時にしてくる得意げな講釈が無いのでどうにも座りが悪い。

奥歯にものが挟まったような感覚を抱えたまま決勝の試合を観戦するのはあんまりにも精神的によろしくないと判断し、多少の長話は飲み込む覚悟で質問したのだが、



ダージリン「私」

オレンジペコ「へ?」


返ってきた答えにオレンジペコはあっけにとられてしまう。


ダージリン「たまには、自分の言葉を伝えたかっただけよ」

オレンジペコ「ダージリン様……とうとう自己顕示欲がそこまで……」


――元よりそのケはあったがまさかオリジナル格言まで作り出すだなんて……

先輩の将来にいくばくかの不安を抱いたオレンジペコにダージリンがむっと唇を尖らせる。


ダージリン「いいじゃない。ちょっとぐらいカッコつけたい年ごろなのよ」

オレンジペコ「いや普段からじゃないですか」

ダージリン「細かいわねぇ……それで、最後はあなた?」

オレンジペコ「え?」


376 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 01:58:27.33 ID:LUa+0x7l0

突然、ダージリンの視線と声がオレンジペコから離れる。

オレンジペコが振り返ると、物陰から小さな影が出てきた。

その影は背の低さに思うところがあるオレンジペコよりもさらに小さく、

その人物はオレンジペコもよく知っている人物だった。


カチューシャ「……わかってたの?」

ダージリン「ええ。その可愛らしい姿は白ウサギよりも見つけやすいわ」


ダージリンは物陰から出てきた人物――カチューシャにいたずらっぽく笑いかける。

彼女の態度にカチューシャは腹立たし気に小さく舌打ちをする。


カチューシャ「……相変わらず意地が悪いわね」

ダージリン「ふふっ。……行かないの?」


カチューシャの悪態にダージリンは嬉しそうにほほ笑むと視線で促す。

その先には決勝前の準備にいそしんでいる大洗のパドックがあった。

カチューシャはダージリンの問いかけには答えず、その方へと向かっていく。


ダージリン「頑張ってカチューシャ。あなたは、私なんかよりもずっと強いわ」


背中に投げかけられたダージリンの声が聞こえたのか、あるいは聞こえなかったのか。

カチューシャの歩幅は大きくなり、強く大地を踏みしめて歩いて行った。

377 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 02:22:57.15 ID:LUa+0x7l0






来客も途切れ、そろそろ決勝の合図が近づいてきたなと思っていた時、

みほの前に小さく、可愛らしく、けれども確かな気迫を持った少女―――カチューシャがやってきた。


カチューシャ「思ってたよりも元気そうね。めそめそしてるなら脛のあたり蹴ってやろうかと思ってたけど」


相変わらず不遜な態度を崩さずに値踏みするようにこちらを見つめてくるカチューシャに、みほは内心動揺する。


なぜ、ここに。

彼女が自分に言うべきことがまだあるのか。

だとしたら、どうすれば。


焦りと困惑に少量の恐怖が混じって額から汗が垂れてくる。

そんなみほの動揺はカチューシャからも見て取れるのだろう。

呆れたようにため息をついて彼女は口を開いた。


カチューシャ「言っておくけど、あなたの素性をばらしたこと、謝るつもりはないわよ。あんな状態が健全なわけないんだから」

みほ「あ、いえ……怒ってなんか……」


準決勝。

それがみほにとって大きな契機となった。

隠し通していた秘密は、嘘はいともたやすく明かされ、逸見エリカなんていないと知った大洗の仲間たちに大きな動揺と困惑を与えてしまった。

しかし、それが誰のせいかと言えば他でもない自分のせいで、謝られるつもりはもちろん怒るつもりなんてものもみほには毛頭なかった。

カチューシャもそれがわかっているだろうに、なぜそんな事をとみほが思った時、

カチューシャがふと目を伏せた。


カチューシャ「でも、あの事故の事は、私に責任があるわ」

みほ「え……」


顔を上げ、みほを見つめる。

一点の曇りもなく、一寸の揺るぎも無い瞳が、みほを貫く。


カチューシャ「あの時、V号を撃つように命令したのは私よ」


息を吸う。小さな、小さな体には不必要なほどたくさんの空気を吸う。

そして、



カチューシャ「私が、エリカを殺したのよ」



一瞬、彼女の声が震えたのを感じた。


378 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 02:38:58.77 ID:LUa+0x7l0


カチューシャ「許しを請うなんて真似はしない。許されるような事をしていないから」


畳みかけるようにカチューシャは続ける。

ぎゅっと握りしめられた拳は震え、必死に怒りを、あるいは悲しみをこらえているように見えた。


カチューシャ「土下座でも何でもするわ。気が済むまで殴っても良い。誰にも文句なんて言わせない。だから、あなたの好きなようにしなさい」


その言葉を最後に、カチューシャは黙り込む。

みほは、じっとその姿を見つめ、ふっとため息を吐く。

そして、掠れて低くなった声で、それでも今できる柔らかな声色で語り掛ける。


みほ「……知ってましたよ。あなたが、撃ったことを」


知らないわけがない。

誰が撃ったかなんていの一番に調べた。

大好きだった人を失った。

その理由の一片まで知らないままじゃいられなかったから。


カチューシャはその言葉に口元だけで笑みを作る。


カチューシャ「……そう。なら、なおさら恨み骨髄じゃない?決勝前にスッキリさせてあげるわよ」

みほ「カチューシャさん。私は……あなたを恨んだことなんてありませんよ」


無理やり作った笑みが消え去り、じっとみほを睨みつけてくる。


みほ「あなたの事は知ってました。それでも、私は、私が一番悪いって、誰かを恨んでいるとすれば、私は私を恨んでいるんです。

   死んで欲しいと、殺したいと」


ああそうだ。誰が撃ったかなんて、何が原因だったかなんて何度も何度も調べた。

あの彼女との思い出が残る6畳一間で、何もかも失った世界で。

みほはずっと考えてた。誰が悪かったのか、何が悪かったのか。

……その結論はいつだって『自分』だった。

事故は仕方ない。その事故がどれほどのものなのかなんて当事者以外に分かるわけがない。

ならば、勝利のために引き金を引くことが責められて良い訳が無い。

そうだ。悪いのは自分だ。

あの時、エリカを助けられたのは自分だけで、なのに、助けられなかった。


――――私は、エリカさんに救われたのに。


379 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 02:42:52.49 ID:LUa+0x7l0



何一つ恩を返すことが出来ず、何一つ成し遂げられなかった自分が、みほは許せない。

たくさんのものをもらったのに、それに縋ってばかりで一歩も進んでいなかった自分が、みほは許せない。

もしもあの時に戻れるのならば、あの濁流をもう一度目の前にできれば、きっとみほは迷わず飛び込むだろう。

飛び込んで、エリカを救って、それで、笑って水底に沈んでいくのだろう。


そんな夢物語を今でも夢に見る。

目覚めたとき、無様に生きている自分に吐き気がする。

手に持ったシャーペンを首に突き立てたくなる。

学園艦の遥か下の海に飛び込んでしまいたくなる。


それでも、生きている。


彼女が望んだから。

神様なんていないから。


そんなものがいるのなら、自分が生きていることを許すわけがないから。

だから、神はいない。

だから、生きるしかない。

だから、


みほ「だから……許すとか許さないとか。そういう事じゃないんです。そんな権利、私には無いんです」


カチューシャが気に病む必要なんて何一つない。

事故は仕方ない。偶然起きてしまったことを責めるだなんて不条理、あってはいけない。

ましてや、全ての原因が自分にあるのだから。


みほはカチューシャに微笑みかける。

彼女には前を向いて欲しい。

それが難しいだなんてことはわかっている。それでも、彼女は何も悪くないのだから。

彼女はただただ、仲間たちのために最善を尽くしただけなのだから。


みほの微笑みにカチューシャは舌打ちをするかのように目を背ける。


カチューシャ「……あなたも、私を責めないのね」


カチューシャがみほの脛をつま先で小突く。

驚きと痛みにみほが片足を上げると、その姿を鼻で笑った。



380 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 02:44:38.85 ID:LUa+0x7l0


カチューシャ「結局、マホーシャだけだったわ。私を責めてくれたのは」


少し赤くなった脛をさすりながらみほがどういう意味かと見つめる。

その視線にカチューシャは返答せず、今度は震えのない声で告げた。


カチューシャ「ミホ、私あなたの事嫌いよ」


態度が大きく、悪びれのない声。


カチューシャ「自分勝手で、わがままで、自分がこの世で一番不幸だって思ってそうなところ。私そっくりで大っ嫌い」


嘲笑うようにみほの顔を覗き込む。


カチューシャ「だから――――見届けてあげる。あなたの末路を。見せてみなさい、あなたの等身大を」


そう言い終わるとカチューシャは踵を返し歩いていく。

その背中に、みほが呼び止めようと声をかける。


みほ「か、カチューシャさんっ!!」

カチューシャ「じゃあね。応援はしてあげないけど精々見苦しくあがきなさい。面白かったら笑ってあげるから」


そう言って、振り返ることなくカチューシャは去っていった。

追いかけてくるなと無言で告げるその背中に、みほは結局何も言う事が出来なかった。

ただじっと、その場に立ち尽くし彼女の言葉を頭の中で反芻し続けていると、甲高いチャイムの音と共にスピーカーから抑揚の薄い声が流れてきた。


381 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 02:45:04.74 ID:LUa+0x7l0







『まもなく、試合開始となります。決勝に参加する選手は集合場所に集まってください』






382 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/14(日) 02:48:53.17 ID:LUa+0x7l0
ここまでー
ごめんなさいまた遅くなりました。
とりあえずもうすぐ決勝開始です。
ここまで長かった…

また来週
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 04:16:23.49 ID:ddVXFu0kO
ヒヤッとした
カチューシャ度胸ありスギィ...

384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 12:50:23.53 ID:PMOKLTgt0
本当このSSのカチューシャ大好きだわ
自分がしたことを理解し、それに向き合いながら、それでも前を向いてるんだよなあ
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 12:14:12.10 ID:m6nd18q90
弱ってるダージリンさんかわいい
ここのカチューシャは本当に強いな
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/17(水) 12:02:06.72 ID:8wo7VwUI0
更新乙
準決勝から決勝戦開始まで、本当に長かった(1スレほど)
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/17(水) 18:42:13.97 ID:qcS3UD6A0
試合前にもう一波乱ありそうだな。
試合前に両校の隊長、副隊長が前に出て挨拶をしなければいけないんだけど、その時に姉御ともう一度顔合わせしなくちゃいけないし、何よりも小梅ちゃんがヤバそう。
388 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/07/20(土) 22:29:49.84 ID:2hy0K/dY0
今日ちょっと無理そうなんで明日でお願いします
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:33:09.87 ID:MxN4s5Dco
まだ?
390 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/22(月) 01:25:04.55 ID:0JjIDz+w0





試合会場、両校のスタート地点の丁度中間のあたりに出場選手たちは集まっていた。


戦車道は武道だ。

それ故に試合の前、試合後には両校が揃って挨拶をする。

それは、今までの試合もそうだった。

しかし、今大洗の面々がいる場所は決勝の地。

一呼吸するたびに緊張が体にまとわりついてくる。

それは、大洗で一番経験豊富なみほであっても変わらない。

それでも、緊張を顔に出さないよう小さく、だけど深く呼吸をして何とか気持ちを落ち着けようとする。


蝶野「両チーム、隊長副隊長前へ!!」


審判長の呼びかけと共にみほと桃が緊張した面持ちでゆっくりと前へと歩み出る。

向かいからは対戦相手である黒森峰の隊長、副隊長が同じようにやってきた。


両校の指揮官が向かい合う。

その時、黒森峰の隊長―――まほがみほを見て嘲笑うかのように唇を吊り上げる。


まほ「ちゃんと試合に出るぐらいの厚顔さは残っていたか。いや良かったよ。この間は言いすぎたと反省してるんだ」

みほ「……」


みほは、沈痛な面持ちでじっと黙り込む。

何を言い返せばいいかわからないから。いや、そんな資格は無いと思っているから。


まほ「ああ、すまない。今は話をする気分じゃないか。次はどこに逃げるか考えないといけないものな?」


その様子にまほはわざとらしく謝ると、一瞬でその表情を鋭く、ナイフのように尖らせる。


まほ「だが、これだけは伝えておく」


視線がみほを貫く。みほの意識からまほ以外の全てが消え去って、冷や汗が止まらなくなる。


まほ「みほ、お前は私が倒す。……いや、潰す。二度と戦車道なんてできないように。二度とエリカの名を騙らないように。……覚悟しておけ」


吐き捨てるように言い放ったのを最後に、まほの顔から表情は消えた。

その様子を眺めていた審判長―――蝶野はため息を吐くと、窘めるようにまほへと声をかける。


蝶野「決勝だしテンション上がるのもわかるけど……そこまでにしましょうか」


まほが小さく頭を下げるものの、その表情は一向に変わらず、無表情のままだ。

それを気にした様子もなく、蝶野は双方の生徒たちに視線を配り、先導するように大きく声を張り上げる。


「両校、挨拶!」

『よろしくお願いします!』


様々な思いの込められた声が、富士の青空へと響き渡った。


391 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/22(月) 01:48:44.23 ID:0JjIDz+w0




挨拶が終わり、両校の生徒がスタート地点へ向かおうと離れていく。

まほも、氷のように冷たい目で、みほを一瞥すると無言で歩いていく。


けれど、みほともう一人。

二人がその場で立ち尽くしていた。


最初に声を出したのは、みほと向き合っていた人物だった。


「みほさん」


力なく、弱々しい声。

だけど、溢れ出るような喜色がその声には宿っている。

対してみほの返事は同じように弱々しく、けれども戸惑いと罪悪感に満ちていた。



みほ「赤星さん……」



みほと向かい合っているのは先ほど向かい合って挨拶した黒森峰の副隊長。


赤星小梅。


みほと、エリカと、友達だった少女だ。



優しくて、おっとりとしていて、それでいてどこか強かで、そして何よりも誰かのために戦える人。

エリカが『強い』と評した人。

みほにとって小梅はそんな人だった。


ふんわりとした癖毛は彼女の柔らかい雰囲気を強調し、その笑顔はいつだってみほたちを見守るように優しかった。

みほにとって小梅は、そんな人だった。


しかし、今目の前にいる小梅はそんなみほの記憶とはかけ離れていた。

ずいぶんと痩せて……いや、やつれて。目元には濃い隈が浮かんでいる。

立っているだけなのにその体は揺らぎ、足元が覚束なく、今にも倒れそうに見える。


先ほどの挨拶の時も、まほに対してそうだったように小梅に対しても何を言えばいいのかわからなかった。

変貌した彼女の姿は、みほの頭に鈍器のように衝撃を与えてくる。

それを必死で誤魔化すためか、同じようにかつての面影を残さない自身の真っ白な髪には無意識に触れてしまう。


そんなみほの荒れ狂う内心をよそに、目の前の小梅は笑顔のままぽろぽろと涙を零す。


小梅「……良かった。戦車道、やめないでいてくれて。なによりも……元気でいてくれて」


涙をぬぐって、晴れやかな笑顔を見せる彼女に対して、みほはどこまでも困惑したように表情しか出来ない。

ある意味まほ以上に彼女に何を言えばいいのかわからなかった。


392 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/22(月) 01:52:06.06 ID:0JjIDz+w0




小梅「ずっと、ずっと心配してたんですよ。あなたがいなくなった日からずっと」

みほ「……ごめんなさい」


傷ついていたのは同じだったのに、なのにみほは更に彼女を傷つけた。

自らの留飲を下げるためだけに心無い言葉で彼女を傷つけた。

それでも、小梅はみほのために動いてくれた。自分を傷つけた人間のためにそれでも、なんとかしようと動いた。

そしてみほはそんな彼女の厚意すら踏みにじった。


こうやって、今ここにいる事こそが何よりもの裏切りの証明なのだ。


悔やんでも悔やみきれず、どれだけ謝ろうとも足りない。

なのに、今こうやって謝罪してしまう自分が愚かしく恨めしい。

こんな事したって何の解決にもならず、なんの詫びにもならないのに。

後悔と悔恨でぐちゃぐちゃになった内心を必死で抑え込んでみほはひたすら頭を下げる。


小梅「謝らないでください。怒ってなんかいませんよ。むしろ、謝るべきなのは私なのに」


なぜ。そう問いかけるより先に、小梅がポツポツと懺悔のように語りだす。


小梅「……おかしいですよね。私が副隊長だなんて。本当なら、あなたがいるべき場所なのに。あなたを守れなかった私が、そのあなたの場所に座ってる。ほんと、ふざけた話です」


自嘲じみた言葉にみほがなんと言えばいいのか逡巡していると、曇っていた小梅の表情がぱぁっと明るくなる。


小梅「でも、それも今日で終わりです」

みほ「え……」

小梅「この試合が終われば、またあなたが黒森峰の副隊長です。いいえ、隊長が引退すれば今度はあなたが隊長です」


393 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/07/22(月) 02:03:01.15 ID:0JjIDz+w0


何を、言っているのか。

みほの内心がその言葉で埋まる。

鼓膜がありもしない危険信号(アラート)を捉える。


小梅「ふふっ、あなたのいない黒森峰は寂しかったですよ。でも、もうそんな日々ともおさらばです」


戻れるわけがない。自分がどれだけの人を裏切ってきたと思っているんだ。

仲間を、姉を、家族を、その中には小梅だっているのに。

まほが業火のような怨嗟をみほに向けていることを知らないはずないのに。

なのに小梅は、なんの不安も無いと言わんばかりに笑顔を絶やさない。


小梅「あ、大丈夫ですよ。あなたのロッカーはまだ残ってます。部屋は……まぁ空き部屋なんてたくさんありますから。見つかるまでは私の部屋にいればいいですよ。ちょっと狭いですけどね?」


つらつらと淀みなく、規定事項を話すかのように小梅はあれこれ並び立てる。

その瞳にはかつてと同じ優しさと輝きが灯っていて、やせ細った体と深い隈がそれを異常なまでに際立てる。

目の前の人物が本当に小梅なのかさえ疑ってしまいそうになるほど、記憶の中の小梅と目の前の小梅は乖離していた。

それでも、何かを言おうと口を開くものの、一向に音らしい音はでず、ただただ空気が空気を僅かに擦る音しか出てこない。


小梅「だから、安心してください。あなたの居場所は今も黒森峰です。今度こそあなたを守ってみせます」


そして、小梅は最後に何の疑いも憂いも無い笑顔で、

かつてみほやエリカに向けていた笑顔で、


小梅「だから、みほさん。一緒に帰りましょう。それがきっと――――エリカさんの望みですから」



どこまでも未来に希望を抱いた表情でみほの手を握り締めた。



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