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千歌「ポケットモンスターAqours!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:20:53.81 ID:WoQi+oWD0
......prrrr

......prrrrrr

pi!!


 「あーあーテステス……これ繋がってるのかしら?」

 「……ん、よし大丈夫そうね」

 「Hi ! こんにちわ! 見えてるということは、あなたが今度旅立つ新人Trainerさんね」

 「え? なに? どうしたの、キルリア? ……ああ、名乗るのを忘れていたわ」

 「わたしは鞠莉。あなたの住むウラノホシタウンの外れの島──アワシマに研究所を構えるポケモン博士よ! って、言ってもまだ新人博士なんだけどね」

鞠莉「この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、わたしたちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする」

鞠莉「わたしはここオトノキ地方で、そんなポケモンと“どうぐ”の関わり合いについて研究しているの。ただ、まだまだ新人のせいもあってか、余りフィールドワークの情報が足りてなくてね……」

 「キルキルゥー!!」

鞠莉「って今度は何、キルリア……? ……わたしの話は後でいい? 確かにそれもそうね……それじゃあ、とりあえず、あなたの名前を教えてくれるかしら?」


…………


鞠莉「Hm...Your name is CHIKA。千歌、いい名前ね」

鞠莉「それじゃ千歌。研究所で待っているから、また後で──」


【ウラノホシタウン】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:24:13.02 ID:WoQi+oWD0


■Chapter001 『旅のはじまり』





 「千歌ちゃーん!!」


外からチカを呼ぶ声がする。

私は窓を開け放って、半身を乗り出しながら、屋外に向かって返事をする。


千歌「曜ちゃーん! おはよー!!」

曜「おはよー!! 準備できたー?」

千歌「うん! 今行くね!」


そう言って、チカは室内に翻して、昨日お母さんが用意してくれた、リュックを乱暴に引っ手繰り、曜ちゃんの元へと向かう。

チカが自宅の階段を滑るように駆け下りると、一階で姉たちがなにやら雑談をしていた。


美渡「ついに、今日か……」

志満「もう、美渡ちゃん。心配しすぎよ……もう千歌ちゃんも16歳なのよ?」

美渡「って言ってもあの千歌だよ?」

千歌「どのチカなのさ!」


不届きな姉の言葉に不満気に抗議の声をあげる


美渡「この千歌でしょ」

千歌「むー!! 志満姉の言うとおり、もう私16歳なんだよ!」

美渡「いやー……まだ、こんなちんちくりんのガキじゃん」

千歌「うっさいな! お母さんからも許可貰ってるんだからね!」

志満「二人とも、こんな日にケンカしないの」


顔を合わせるや否や、ケンカが勃発する下の姉妹二人を長女の志満姉が嗜める。


志満「それに、しいたけもいるから」

美渡「……ま、千歌よりは頼りになるか」

千歌「みーとーねーぇー?」


私はますます顔を顰めながら、美渡姉を睨み付けた。


美渡「……ま、せいぜい頑張れよー」


手をひらひら振りながら私の視線から逃げるように美渡姉は家の奥の方に歩いていってしまう。


千歌「むぅ……失礼しちゃうな」

志満「ふふ、美渡ちゃんもあれで千歌ちゃんが心配なのよ」

千歌「そうなのかなぁ……」

志満「それより、曜ちゃん。待ってるんでしょ?」

千歌「あ、そうだった!」

3 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:25:37.96 ID:WoQi+oWD0

私は志満姉の言葉で幼馴染を待たせてることを思い出して、外へ飛び出そうとする。そんな私の背中に──


志満「千歌ちゃん」


志満姉の優しい声。


千歌「なに?」

志満「いってらっしゃい」

千歌「……いってきます!」


私は返事をして、家を飛び出した。





    *    *    *





千歌「曜ちゃん、お待たせ!」


外に出ると、曜ちゃんが眩しそうに手をかざしながら、お空の太陽を見つめていた。


千歌「……曜ちゃん?」

曜「いい天気だなって思って」

千歌「……うん、そうだね」

曜「いよいよ、始まるんだね」

千歌「うん」


私は幼馴染の呟きに、微笑みながら相槌を打つ。

二人して、物思いに耽りながら、空をぼんやりと仰いでいると


 「ワンッワォゥ!!」


そんな鳴き声とともに、さっき自分が飛び出してきた家の方から、白い毛むくじゃらのポケモンが私の足元に擦り寄ってくる。


千歌「わわ!? なんだ、しいたけか……」

美渡「ほらさっさといきな、二人とも。博士が待ってるんでしょ?」


しいたけの来た方向から、美渡姉がやってきて、私と曜ちゃんを促す。


美渡「しいたけ、千歌をよろしく頼むぞー」

 「ワフ」

千歌「もう、大丈夫だってば」

曜「美渡姉、行って来ます」

美渡「おう、曜ちゃんも千歌のことよろしくね」

曜「ふふ、はーい」

千歌「むー……いつまでそのネタ引っ張るのさ……いこう、しいたけ」

 「ワフ」


そういって、私はしいたけと一緒に失礼な姉に背を向ける。
4 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:26:49.90 ID:WoQi+oWD0

美渡「千歌ー!」


それでも、まだ、声を掛けてくる姉に


千歌「なにー?」


振り返りながら、ぶっきらぼうに返事をすると


千歌「……!」


──美渡姉は親指を立てながら、私に向かって


美渡「思う存分、暴れて来い!!」


そう言ってから、私に向かって、ニカっと笑った。


千歌「!! ……うん!!」


──私は姉達に背中を押されて、思わず走り出す。


 「ワフ」


私に釣られて、しいたけが


曜「あ、千歌ちゃん! 待ってよー!」


曜ちゃんが


千歌「えへへっ!」


思わず笑みが零れる。

これから、始まるんだ


千歌「──私たちの冒険が!!」





    *    *    *





曜「しいたけ、連れてくんだね」


曜ちゃんがそういって私の横を歩くしいたけに目を向ける。


千歌「うん、美渡姉が旅に出るなら、連れて行けって」
 「ワフ」


しいたけ──はニックネームなんだけど……この子はトリミアンの♀で、子供の頃から一緒に育ってきた家族みたいな子。

しいたけは毛むくじゃらで、カロス地方とかのオシャレなトリミアンから見たら、トリミアンに見えないらしいけど……。

私は子供のころから見てるトリミアンと言えば、しいたけだから、そういわれても全然ピンと来ないんだよね。

──海岸沿いを曜ちゃんと歩きながら、船着場に目を向ける。


千歌「アワシマまでの定期便まで、もう少し時間あるかな?」
5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:28:18.40 ID:WoQi+oWD0

私たちの目的地──アワシマの研究所に行くためには、ここウラノホシタウンから船に乗らないといけない。

いけないんだけど……。


曜「そんなの待ってられないよ!!」


そういって今度は曜ちゃんが走り出した。船着場の横の砂浜にめがけて一直線に

そして、走りながら海に向かって──


曜「ラプラスー!! いるーー!?」


声を張り上げた。

寄せては返す波の音が、絶えず聴こえるこの海いっぱいに、曜ちゃんの声が響き渡る。

そのまま海に向かって──


千歌「よ、よーちゃん!」


──曜ちゃんは走る

砂浜へ、

そして、そのまま幅跳びの要領で海へと、


曜「とうっ!」


飛んだ──


千歌「よーちゃん!」


ザブン!! と海に水しぶきがあがる──ことはなく、曜ちゃんは水面に着地していた。

いや──


 「キュゥー♪」
曜「ラプラスー! おはよー♪」


曜ちゃんの着水地点に先回りした地点に、さっき呼んだラプラスが浮上していた。


千歌「もう……びっくりさせないでよ……」

曜「えへへ、ごめんごめん。昨日ラプラスと約束してたんだ♪」

千歌「ラプラス、おはよー」

 「キュウー」


海の上に長い首を伸ばして、ラプラスは気持ち良さそうに伸びをした。

この子は私としいたけの関係みたいに、曜ちゃんの家族のポケモン。曜ちゃんのお父さんのラプラスです。

とっても人懐っこくて、私も昔からよく一緒に遊んでいたんだけど、曜ちゃんには特に懐いています。


曜「千歌ちゃんと同じで、私もパパから連れて行くように言われてたんだ。せっかくだし、アワシマまで乗せて行ってもらおうと思って」

千歌「なるほど。戻れ、しいたけ」
 「ワフ」
6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:29:47.65 ID:WoQi+oWD0

私は曜ちゃんに返事をしながら、しいたけをボールに戻す。

……あ、“モンスターボール”の説明って必要かな?

ポケモンはモンスターボールって言う小さなカプセルに入れて、持ち歩くことが出来ます。

ボールに入れたポケモンはポケットに入ってしまうから、ポケットモンスター──通称ポケモンって言うらしいんだよね。

なんでこんなボールに入っちゃうのか、不思議だよね。確かその理屈を学校の先生が前に言ってたような──


曜「千歌ちゃーん! いくよー!」

千歌「あ、うん!」


……ま、いっか。どうせ後で先生にも会うし。

私は曜ちゃんに引っ張りあげて貰って、ラプラスの背に乗る。


曜「ラプラス、いける?」
 「キュゥ〜」

曜「よぉーっし! 全速前進! ヨーソロー!」
 「キュゥ〜♪」


ラプラスは曜ちゃんの掛け声と共に海の上を走り出した。





    *    *    *





──ウラノホシタウンは海に囲まれた自然豊かな町です。

まあ、自然豊かななんて言うと聞こえはいいけど、逆に言うなら周りには海しかない。

そんなウラノホシだけど、離れの島には研究所があります。

その名も『オハラ研究所』

最近建ったばっかりの新設研究所で、そこの博士も最近博士になったと言うオハラ博士。

何を隠そう、私たちはオハラ博士からの依頼で集められた選ばれた新人トレーナーなのです!


曜「えへへ」


ラプラスの背で揺られながら、空でみゃーみゃーと鳴いているキャモメの群れをぼんやり眺めていると、突然前に座っていた曜ちゃんが一人笑う。


千歌「どしたのー?」

曜「んー、なんかワクワクしちゃってさ!」


曜ちゃんは目を輝かせながら、陽光をキラキラと反射する海に目を向けている。


曜「やっと旅に出られるんだなって! それも千歌ちゃんと同じ日に!」

千歌「曜ちゃん……うん、私も嬉しい」


ラプラスの背の上で曜ちゃんが楽しそうにくるくると回る


千歌「よ、よーちゃんっ 危ないよ」


私の声を聞いてか、曜ちゃんは不安定なラプラスの背の上でピタリと止まって、今度は私の顔を見つめてくる。
7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:30:56.96 ID:WoQi+oWD0

曜「千歌ちゃん、覚えてる? 子供の頃、よく一緒に冒険ごっこしたよね」

千歌「あ、うん! 隣のウチウラシティまで、しいたけ連れて冒険に行ってたよね!」


幼馴染との在りし日のことを脳裏に思い出しながら。


曜「子供の頃は野生のポケモンに襲われたら大変だからって言われて、あんまり遠くまでいけなかったけど……今度は違うんだって、そう思ったら何か嬉しくて!」

千歌「そっか」

曜「千歌ちゃんは旅に出たら何したい?」

千歌「えっへへ、とりあえずなんかすごい感じになりたいかな!」

曜「あはは、なんか千歌ちゃんらしいね! 私は船乗りのパパみたいに、世界中の海をラプラスと一緒に冒険できたらなーって思ってる!」
 「キュー♪」

千歌「そっかそっか! あとね、旅にワクワクしてるのは私も曜ちゃんと同じだよ。ずっと、憧れてたんだもん」


ポケモンを貰って、旅に出る。それは子供たち、みんなの憧れ。


千歌「この辺は研究所もなかったし、オハラ博士のお陰だよねっ」

曜「研究所がないと、初心者用ポケモンってもらえないしね。普通の子は10歳くらいで旅に出るみたいだけど……」

千歌「この辺あんまり人いないもんねぇ。10歳のときは研究所でポケモンを貰って旅に出る、なんて考えてもみなかったけど、まさに地獄に仏……!! あ、いや、でもウラノホシはいい町だから、天国に仏……?」

曜「なんかいろいろごちゃごちゃだね……」

千歌「と、とにかくっ! 今回はなんせ博士直々の御指名だもんねっ!」


──そうなんです。今回の旅は博士直々にチカと曜ちゃんに依頼が来たのです。


曜「って、言い切っちゃうと語弊があるけどね」


曜ちゃんがそんな風に補足を入れる。

正確にはウラノホシタウンの子供たちにオハラ博士から依頼されたんです。


千歌「この辺、そもそも子供も少ないから、たまたまこの辺に珍しく住んでる子供たちってことでチカたちにお願いしてきたんだろうけど……でも、ラッキーだったよね!」

曜「聞いた話だと、一応他の町からも何人か来るらしいけど……」

千歌「そうなの?」

曜「うん。隣のウチウラシティから一人。それと、もっと遠くから、もう一人って言ってたかな」

千歌「えっと……確か、ウラノホシから旅立つのは私と曜ちゃんと……ちょっと遅れて花丸ちゃんとルビィちゃんが、ポケモンを貰うって話になってるんだっけ」


共通の幼馴染の名前を挙げながら、指折り数える。


曜「うん、私はそう聞いてるかな。だから、さっきの2人を含めて、6人だね」

千歌「普通って、多くても3人くらいなんじゃないっけ?」

曜「私もそう思ったけど……まあ、オハラ博士もいろいろ事情があるってことじゃないかな。それも含めて今から聞きに行こうってことだしさ」

千歌「それもそっか」


のんびりと海を行くラプラスの背中の上で、目線をあげると……その先に目的地のアワシマが近づいてきていました。





    *    *    *


8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:31:57.47 ID:WoQi+oWD0

──アワシマ。

ウラノホシタウンとウチウラシティを南北に繋ぐ道路──1番道路。その西側に面している海にその島はあります。

ラプラスを岸に付けて、私たちはアワシマへと降り立つ。


曜「ラプラス、じゃあまたあとでね」
 「キュー」


曜ちゃんがそう言うと、ラプラスは再び海へと潜って行く。


千歌「ラプラス、ボールに入れないの?」

曜「どっちにしろ島から出るときも乗るし。それに……」

千歌「それに?」

曜「普段ボールに入れてなかったから、ちょっと抵抗あって……」

千歌「あーわかるかも……」


私も、しいたけをボールに入れるのに抵抗があって、旅立ちまでに慣れておけって美渡姉に言われて、ボールに入れて持ち歩く練習とかしたなぁ……。


曜「私も、しいたけみたいに慣れないとなんだけどね。それこそ、陸を行くときはボールに戻さないといけないし」

千歌「ラプラスじゃ長距離歩けないもんね」

曜「もともと海のポケモンだから、長時間陸を歩かせるとケガしちゃうかもしれないしね」


そんな話をしながら、研究所に向かって歩を進めていると──


 「ロトトトトトトト!!」


……と、奇妙な鳴き声が目的地の方から聴こえてくる。


千歌「……?」

曜「……ポケモン?」


次の瞬間。

今度はガラスが割れるような、音が響き渡る。

音と共に、


 「ロトトトトトー」


板状のポケモンらしきものが視界の先に見えていた研究所から飛び出してくる。


千歌・曜「「!?」」


そのポケモンは手……っぽい場所にモンスターボールを持っている。

私たちが目の前で起こった状況を飲み込もうとしている場所に、更に


 「ちょっと待ちなさーい!!」


と叫びながら研究所を飛び出してくる若い女性。


曜「今度は何……?」


その容姿は金髪に左側頭部に特徴的な6の字のような形に髪を結んだ女性──というか見たことある。
9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:32:40.63 ID:WoQi+oWD0

千歌「……オハラ博士?」

鞠莉「……え?」


ビデオ電話で見たから、間違いない。オハラ博士だ。というかこんな特徴的なビジュアルなかなか忘れないし。


鞠莉「あ、あー……えーっと」


ビデオ電話だったということは博士も私たちの顔を知っていると言うことで……


鞠莉「……」


博士は何故かバツが悪そうに目を逸らしていたけど

少し悩む素振りを見せてから、諦めたように私たちに向き直って。


鞠莉「……あなたたち、千歌と曜ね」


そう切り出してくる。


千歌「は、はい」

曜「き、今日はよろしくお願いします……?」

鞠莉「……こちらこそ、と言いたいところなんだけど……。Emaergency──ちょっと緊急事態」


博士は一旦神妙な表情をしてから、


鞠莉「……あなたたちに渡すはずだったポケモン……連れ去られちゃった……♪」


そういって、いたずらっぽくペロリと舌を出した。


10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:33:23.27 ID:WoQi+oWD0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アワシマ】
 口================= 口
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 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 曜
 手持ち ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!


...To be continued.


11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:46:59.24 ID:WoQi+oWD0

■Chapter002 『パートナー』





千歌「え」

千歌・曜「「ええーーーー!!」」


私たちは博士の言葉を聞いて驚きの声をあげた


曜「え、え、それじゃ私たちポケモンもらえないんですか!? 博士!? せっかく、今日まで楽しみにしてたのに……!!」


曜ちゃんが博士の両肩を掴んで前後に揺する。


鞠莉「Oh... Wait a minute」

千歌「うぇぃ……?」

鞠莉「2人とも落ち着いて? あなたたちのポケモンはちゃんと私が連れ戻すから。あと私のことは博士じゃなくて、気軽にマリーって呼んでくれる?」

千歌「え、えーっと……」

鞠莉「はい、マリー」

千歌「ま、まりー?」

鞠莉「OK.それじゃ、ちょっとあのイタズラポケモンを捕まえてくるから、あなたたちはここで……」


そういって私たちの前を去ろうとするマリー……えっと、鞠莉さんに、


曜「ちょっと待ってください!」


曜ちゃんが食い下がる。


鞠莉「?」

曜「さっきあの変なのが持ってたボールに入ってるのが、私たちが貰う予定だったポケモンなんですよね?」

鞠莉「ええ、そうだけど」

曜「それなら……取り戻すの私たちも手伝います!」

鞠莉「え、ダメよ。あなたたち、新人Trainerでしょ? 野生のポケモンに会ったらどうやって戦うの?」

千歌「あ、私たちポケモン持ってますよ! 家族に借りた子だけど……」


私はそう言って、さっきボールに戻した、しいたけ入りのモンスターボールを取り出し放る。

ボン、という特有の音と共にしいたけがボールの外に飛び出してくる。


 「ワフ」

鞠莉「……見たことないポケモンなんだけど」

千歌「ト、トリミアンです!」

鞠莉「Furfrou...? トリミアンってもっと、精悍とした顔つきだったと思うんだけど……」
 (*Furfrou=トリミアンの英名)

千歌「ちょっと、この子はのうてんきな性格なんで!」

鞠莉「Hmm...? まあ、手持ちがいるなら、付いてくるのは構わないけど……あなたは?」


鞠莉さんは今度は曜ちゃんに尋ねる。
12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:48:53.63 ID:WoQi+oWD0

曜「あ、はい! ラプラスー!」


海に向かって名前を叫ぶと

 「キュゥー」

少し遠目の海岸にラプラスが顔を出したのが見える。


曜「ラプラスがいます!」

鞠莉「なるほど……」

曜「どっちにしろ、さっきのポケモン……? アワシマの外に飛んで行きましたよね? それなら海を渡る手段が必要だと思います!」

鞠莉「Hmm...OK. じゃあ、すぐに身支度済ませてくるから、二人とも海岸で待っててくれる?」

千歌「はい!」

曜「了解であります!」





    *    *    *





──アワシマの浜辺にて。


千歌「なんか大変なことになっちゃったね」

曜「あはは、そうだね……」

千歌「さっきの……南の方に飛んで行ったよね。あれってポケモンなのかな?」


これから海の上を運んでくれるラプラスを撫でながら、ぼんやり呟く私に、


鞠莉「──半分ポケモンよ」


研究所の方から戻ってきた鞠莉さんがそう答える。


千歌「半分?」

鞠莉「……あれはロトムって言うポケモンなんだけど。家電に住み着くゴーストタイプのポケモンなの」

曜「ロトム? 千歌ちゃん知ってる?」

千歌「うぅん……知らない」

鞠莉「ちょっと珍しいポケモンだからねぇ……。最近カロスの方で開発された、ポケモン図鑑とロトムを一体化させた、ロトム図鑑って言うものの話を聞いて私も試してみたんだけど……」


聞きなれない単語の羅列に私は眉を顰めた。


千歌「ポケモン図鑑……? ロトム図鑑……??」


カロスって言うのは地方のことだってわかるけど……確か、しいたけ──じゃなくて、トリミアンが主に分布してる地方だったよね。

説明を聞きながら、私たちはラプラスの背に乗る。


鞠莉「あ、えーっと……後で話そうと思ってたんだけど、ポケモン図鑑。自動で出会ったポケモンたちのデータを登録してくれる、ハイテクな図鑑よ。今回初心者Trainerを集めたのも、この図鑑のデータを収集してもらうためだったんだけど……」

曜「じゃあ、もしかして、半分ポケモンって言ってたのは……」

鞠莉「ええ、あなたは察しがいいのね。ポケモン図鑑を乗っ取ったロトムよ」


話を聞いていて、私はあることに気付く。
13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:51:14.55 ID:WoQi+oWD0

千歌「え、それじゃもしかしてそのポケモン図鑑……って言うのも持ってかれちゃったってことですか?」

鞠莉「ああ、それなんだけどね。あなたたちの分はここにあるわ」


そう言って鞠莉さんが私たちにそれぞれ橙色と水色の板状の端末を差し出してくる。


曜「え、じゃあさっきのって……」

鞠莉「あれはわたしの……ついでに言うならロトムもわたしの手持ちなんだけど……なまいきな上にイタズラが好きな子でね……」

千歌・曜「「…………」」


私たちは思わずジト目で鞠莉さんを見つめる


鞠莉「何、その目は?」


軽く頭を掻いてから、鞠莉さんは頭を振って、言葉を付け足す。


鞠莉「……コホン。とりあえず、あなたたちのポケモン図鑑。ここで渡しておくわ。ホントは使い方も含めて研究所で教えるつもりだったんだけど……これがあるとポケモンバトルも便利になるから」

曜「便利、ですか?」


私は橙色の図鑑を、曜ちゃんは水色の図鑑をそれぞれ受け取る。


鞠莉「取り急ぎだけど……スライド式になってるから、画面を出して液晶を押してみて?」

千歌「ここですか?」


言われたとおり、図鑑の開いて、液晶を押す──と


 『トリミアン ♀ Lv.15』


というデータが表示されていた。


鞠莉「……さっきの子、ホントにトリミアンだったのね」

曜「私のラプラスは……Lv.20って表示されてる」

鞠莉「この通り、図鑑があれば、自分の手持ちや周りにいるポケモンの詳細なデータがわかるわ。ポケモンの強さ、使える技とかもね。きっと戦闘の役にも立つと思うから、うまく使ってね」

千歌「あ、ありがとうございます」

鞠莉「ついでに……わたしの図鑑が発している固有電波も登録しておいたから、マップを開くと表示されると思うんだけど」

曜「あ、ホントだ」


言葉に釣られて、曜ちゃんの図鑑を覗き込むと、確かにマップが表示されていて、アワシマから少し離れた場所で赤く点滅している表示がある。


鞠莉「そこにロトム……とわたしの図鑑があるってことね。……よりにもよって面倒くさいところに逃げ込んでくれたわね」

千歌「ここって……」

曜「うん……」


曜ちゃんと二人で顔を見合わせる。


千歌「クロサワの入江ですよね」

鞠莉「あはは……さすが地元民。詳しいわね」


──クロサワの入江。

ウラノホシタウンの西端にある入江で、地元の人でもほとんど立ち入り禁止の場所だ。
14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:52:47.10 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「うーん……ここはちょっと手が出し辛いわねぇ……。まあ、止むを得ない、か……」

曜「あんまり地元の人も近付かない場所だけど、大丈夫かな……?」

千歌「でも、どっちにしろ入江の奥に逃げちゃったんなら、行くしかないよっ」

鞠莉「……そうね、あそこの入江は水上からの出入り口は一つしかないし。むしろ、これ以上逃げる道がないと言う意味では助かるか……」


鞠莉さんはそんな言葉に付け加えるように、ボソリと、


鞠莉「──後でうまい言い訳考えておかないといけないわね」


そんなことを呟いていました。





    *    *    *





──クロサワの入江。


曜「……ここかぁ」

千歌「相変わらず、おっきな入江だね」


海岸の崖に出来た大きな横穴からは、海水が流れ込んでいて、中も水に浸かっている。


鞠莉「奥の方に行けば陸があるわ。そこまでラプラスで進んでもらっていい?」

曜「あ、はい。ラプラス」
 「キュ」


ラプラスの背に乗ったまま洞窟を進んでいく。


千歌「鞠莉さん、入江の中、詳しいんですか?」

鞠莉「ん、まあ、前に調査で入ったことがあるから」

曜「地元の人でもあんまり入らないのに……」

鞠莉「一応研究者だしネ。ここの野生ポケモンは基本臆病だから、考えなしに近づくなとは言われてるんだけど……」


そんな鞠莉さんの言葉を耳の端に捉えながら、入江の洞窟を見回していると、


千歌「……?」


私の視界にキラリと光る物が飛び込んでくる。


千歌「なに? ……宝石?」


洞窟の壁や天井に小さな宝石のようなものが……


曜「い、いや、あれ動いてない?」


曜ちゃんに言われて気付く。確かに僅かにぷるぷると震えている気がする。


鞠莉「ふふ……早速役に立ちそうね♪ 二人とも図鑑を開いてみて」

千歌「え、あ、はい」
15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:54:22.51 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんに促されて、二人で図鑑を開く。


 『メレシー ほうせきポケモン 高さ0.3m 重さ5.7kg
  身にまとう 宝石は 多種多様な 種類が ある。
  また その宝石の 種類によって 性格が 異なる。
  地の底には メレシーの女王が暮らす 国があるという。』


図鑑にはそう表示されていた。


曜「宝石はポケモンの一部……あれ、もしかしてメレシー?」

千歌「先生とかルビィちゃんが持ってるポケモンだよね。……ウラノホシのおとぎばなしにもよく出てくるし」


ウラノホシにある御話には何故かこの宝石ポケモンがよく出てきます。

それがメレシーです。

小さい頃から、メレシーは大切にしなさいと、おじいちゃんおばあちゃんたちから口酸っぱく言われて育った記憶があります。


鞠莉「Yes. ここクロサワの入江はCarbink──メレシーの群生地なのよ」
                (*Carbink=メレシーの英名)


ここは洞窟だから、奥に進むほど外からの太陽の光が入ってこなくなるため、キラキラと光るメレシーたちの宝石の光がより一層眩く見える。

それはまるで星空のようで──


千歌「綺麗……」


私は思わず、そう呟いていた。


鞠莉「夜に宝石に溜め込んだ、月の光が漏れ出しているから、暗い洞窟の中でも光って見えるのよ。強い個体だと、その溜め込んだ光を一瞬で外に解き放つ“マジカルシャイン”って言う技が使える子もいるわ」

曜「へぇー……」

鞠莉「それと……わかるかしら、メレシーたちの光の色がそれぞれちょっとずつ違うんだけど」

千歌「あ、ホントだ! あの子は青……あっちは赤」

曜「あっちは緑に、黄色……水色……ピンクの子もいる」

鞠莉「本来は水色から透明の水晶を身に纏っているんだけど、ここクロサワの入江のメレシーは特別で、いろんな宝石を身に纏っている個体がたくさんいるのよ」


まるで夜空に輝く七色の星のようなその光景に私と曜ちゃんはうっとりしてしまう。


鞠莉「……すごく綺麗なんだけど、こんな見た目だから、悪い人からしたらいい獲物になっちゃうの。見てのとおり、普段は体を岩にすっぽり嵌めて、大人しいから尚更ね。だから、ここは基本的に立ち入り禁止なのよ」

曜「そうだったんだ……」


幼い頃から近づいちゃいけないと言われていた、この場所だけど。そんな理由があったんだ……。


千歌「それにしても、鞠莉さん! ホントに博士なんですね! すごいポケモンに詳しい!」

鞠莉「あはは、ありがと、千歌っち。でも、わたしもまだまだ未熟でね。……こんな事態になっちゃったのもわたしのせいだし……」

曜「そ、そんなこと……」

鞠莉「ふふ、二人ともそんなに気を遣わなくて良いのよ? わたしこう見えて歳もあなたたちと一つしか変わらないのよ? トレーナー歴で言うならかなり先輩かもだけど」

千歌「え、そうなんですか?」

鞠莉「若い新人女性博士だなんて持て囃されるけど……その実は経験不足な若輩者なのよ。だからこそ、今回あなたたちに旅に出ることをお願いしたのだけれど」

曜「鞠莉さん……」

鞠莉「……って、新人Trainerちゃんたちにする話じゃなかったわね! 早くロトムひっとらえて、研究所に戻りましょう」

千歌「は、はい」
16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:55:29.49 ID:WoQi+oWD0

ラプラスの背に揺られ、私たちは幻想な七色の星空を見ながら、ゆっくりと入江の奥へと進んでいく。





    *    *    *





鞠莉さんの言ったとおり、洞窟の奥に進むと陸が顔を出していた。

私たちはラプラスから降りて、洞窟の地面に足を下ろす。


曜「ロトムは更に奥に逃げ込んだみたいだね……。ラプラス、ちょっと窮屈かもしれないけど、ごめんね」
 「キュゥ」


曜ちゃんがそう言いながらボールにラプラスを戻す。

私は改めて洞窟を見回してみる。

薄暗い洞窟の中だけど、依然キラキラと光るメレシーたちが、天井に張り付いてぷるぷると震えているため、洞窟内は常に七色の優しい光に包まれている。

辺りには私たちが入ってきた場所同様、海から続いているのか波打つ水辺がいくつかあるけど、陸地自体はしっかりとした足場になっていて、歩いて探すのに不安はなさそう。

──ふと、そんな探索の視界の中に赤い欠片のようなものが落ちているのを見つける


千歌「ん、あれ……?」


私はそれに小走りで駆け寄って拾う。


鞠莉「モンスターボールの破片ね……」


私が手に取ったそれを、横から覗き込んで鞠莉さんがそう呟く。


曜「どうしてこんなところに?」

鞠莉「Hmm...」


曜ちゃんの言葉を受けて、鞠莉さんが辺りを見回す。


鞠莉「……二人とも、あそこを見て」


何かを見つけたのか、鞠莉さんが指を差して、私たちを促す。


千歌「……穴?」

曜「穴というか……窪み?」


鞠莉さんが指差した先には幅30cmほどの幅の窪みが壁に空いていた。


鞠莉「たぶん、ふらふら飛んでるロトムがあそこに嵌ってたメレシーにぶつかったんだと思うわ」

千歌「あ。あれって、メレシーが嵌ってた窪みなんだ!」

鞠莉「Yes. 個体によるけど……メレシーの特性は“がんじょう”だから、運悪くボールがぶつかって砕けちゃったんだと思うわ。ぶつけられたメレシーはびっくりして奥に逃げちゃったんだと思うけど……」


私の手からボールの破片を摘みあげて、鞠莉さんはそう言う。


千歌「え……そ、それじゃ中のポケモンは……」

鞠莉「たぶん外に放り出されてると思うわ。参ったわね……」

千歌「! ……しいたけ!」
17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:57:36.84 ID:WoQi+oWD0

私は腰からボールを取り出して、しいたけを外に出す。


 「ワフッ」
千歌「鞠莉さん、その破片もう一度貸してもらえますか?」

鞠莉「え、うん。いいけど……」


私は再度ボールの破片を受け取って、しいたけの前に置く。


千歌「しいたけ、“かぎわける”」
 「ワフ」


私の指示でしいたけはくんくんとボールの欠片の臭いを嗅ぐ。


 「ワフ」


しいたけが一回吼えてから、地面を嗅ぎながら歩き出す。


鞠莉「ち、千歌っち?」

千歌「たぶん、しいたけなら外に飛び出しちゃった子の臭いを嗅いで見つけられると思うんで! 曜ちゃんと鞠莉さんはロトムを探してください!」

鞠莉「で、でも……」

曜「鞠莉さん、ここって危険な野生ポケモンとかもいるんですか?」

鞠莉「……たまにSableyeが出るとは聞くけど……基本的にはメレシーだけよ」

曜「じゃあ、千歌ちゃんに任せましょう。千歌ちゃん、しいたけ、お願いねー!」

千歌「任せて!」
 「ワフッ」


私はガッツポーズを作ってから、洞窟の奥へと歩を進めていきます。





    *    *    *





鞠莉「ホントによかったの?」


鞠莉さんが私に尋ねて来る。


曜「ターゲットが二手に分かれちゃったなら、その方が都合がいいかなーって」

鞠莉「千歌っち、一人にしちゃって心配じゃないの? 幼馴染なんでしょ?」

曜「心配じゃないわけじゃないですけど……。でも千歌ちゃんはこういうとき、どうにかしちゃうんです」

鞠莉「どうにか?」

曜「子供の頃二人でトレーナーごっこって言って、町の外まで出てたことがあったんですけど……そのとき、たまたまオニスズメに襲われたことがあって」

鞠莉「……」

曜「そのとき、私ビックリしちゃって、あれだけ大人にポケモンを持たずに外に出るなって言われてたのに……どうして言うこと聞けなかったんだろうって……すっごい後悔しながら逃げ回ってたんだけど」

鞠莉「だけど……?」

曜「オロオロしてる私の前で、千歌ちゃんったらオニスズメに自分の羽織ってる上着被せて、身動きを取れなくして……」

鞠莉「それは……なんというか、度胸があるというか、無鉄砲と言うか……」

曜「まあ、結果としては、オニスズメが怒って仲間を呼んじゃって、結局群れに囲まれて更にピンチになったんですけど……」

鞠莉「Oh... よく無事だったわね」

曜「あはは……千歌ちゃんのお姉ちゃんが駆けつけてくれて、しいたけと一緒に追い払ってくれたんです」
18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:58:48.69 ID:WoQi+oWD0

その後、結局すごい怒られたんですけど、と私は笑いながら付け足す。


曜「でも、あのとき千歌ちゃんにどうしてあんなことしたのって聞いたら、こう言ったんです」

 千歌『チカも怖かったけど……曜ちゃんに何かあったら嫌だったから』

曜「千歌ちゃん、誰かが困ってたら放っておけないんです」

鞠莉「……」

曜「それが人でも、ポケモンでも放っておけない。千歌ちゃんってそんな人なんです」

鞠莉「……なるほどね」

曜「それで今回もどうにかしてくれる──と言うか止めても聞かないんじゃないかなって……まあ、今回はしいたけも一緒だし」

鞠莉「……確かにどちらにしろ、二手に分かれる必要はあったから、間違った選択ではないのだけれど……」


鞠莉さんの話を聞きながら、私は図鑑の表示を見て足を止めた。


曜「──鞠莉さん」

鞠莉「? What ?」

曜「近くに……います」


私はサッと図鑑の画面を鞠莉さんに見せる。

図鑑に表示されたマップには自分たちの現在位置を示すアイコンと、追いかけているロトム図鑑の赤い点滅が重なっていました。





    *    *    *





千歌「迷子のポケモンくーん?」


私はしいたけの後ろを付いていきながら、反響する洞窟内で声をあげる。


千歌「うーん……せめて、どんな名前かくらい、聞いて置けばよかったかな」


ロトムが手に持っていたのは両の手にボールを1個ずつ。それなら、2匹のうちのどちらかが今現在、迷子になってる子だと思う。

鞠莉さんなら、もちろん何のポケモンかは知ってるはずだから、それさえ聞けば……。


千歌「まあ、名前聞いただけじゃ、どんな見た目かわからないけど……ん?」


──ガンガン、

何か硬いものを打ち付けるような音が聴こえてくる。

その音を、辺りを見回しながら探していると──大きな岩の割れ目に、ガンガンと身体をぶつけているメレシーを見つける。


千歌「あわわ……なんかすごい頭ぶつけてる……」
 「ワフ」

千歌「もしかして、ロトムにボールをぶつけられて、逃げてきたメレシーかな?」
 「ワォ…?」


そんな風にしいたけと会話していると、

 「メ…」

メレシーと目が合う。
19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:01:23.53 ID:WoQi+oWD0

千歌「……?」


その目からは脅えてるような感じはしなかった。と言うか──


千歌「……怒ってる?」


次の瞬間、天井から──ゴッ、ゴッという重たい音が響く、


千歌「え、何……?」
 「ワオッ!!」

千歌「うわっ!?」


しいたけの声がしたかと思った途端、視界が揺れる。


千歌「し、しいたけ!!?」
 「ワフ!!」


気付くと私の身体を庇うように、しいたけが覆いかぶさっていた。

その上からは大小様々な石や岩が降ってきている。

──もしかして、メレシーに攻撃されてる!?


千歌「そうだ、図鑑!」


私はしいたけの下でうつぶせになりながら、ポケットに入れた図鑑を取り出した。

鞠莉さんはポケモンの技とかもわかると言っていた。メレシーの使ってる技を調べて対策を……。


 『メレシー 覚えている技 いわおとし』


千歌「“いわおとし”……!」


理由はわからないけど、メレシーが怒って攻撃してきている。

当のメレシーは完全に私たちを敵と認識したらしく、先程まで激しく頭を打ち付けていた、岩の窪にすっぽりはまってこちらに“いわおとし”をして来ている。


千歌「とにかく、どうにかしないと……!!」


遠距離攻撃でこっちの行動を封じられてるのが不味い。ならこっちも遠距離で……!


千歌「しいたけ! “つぶらなひとみ”!」
 「ワフ」


指示するとしいたけのもふもふの毛が軽く逆立って、目が露出する。

くりくりの目が。


 「メ…」


可愛い目で相手の戦意を削ぐ技、“つぶらなひとみ”

一瞬メレシーの攻撃が止む。


千歌「いまだよ! しいたけ、“たいあたり”!」
 「ワフッ!」


私の指示でしいたけが飛び出す。

大地を蹴って、
20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:02:39.68 ID:WoQi+oWD0

 「メッ!!」


しかし、メレシーはすぐに正気に戻ったようで、しいたけに向き直って、岩を飛ばしてくる。

──“うちおとす”だ!!


千歌「しいたけ!」
 「ワフッ!!」


しいたけは私の声に反応して、首を一振り。飛んできた岩を頭で弾き飛ばす。

しいたけの特性“ファーコート”は防御を著しく上昇させる特性。

小さな岩くらいでは体当たりの勢いが止むことはない!

 「ワォ!!」

ゴツン!! と言う鈍い音がする。

しいたけの“たいあたり”が炸裂した──んだけど


 「メ…」


岩の窪みにすっぽり嵌った、メレシーはびくともしない。


千歌「しいたけ! 大丈夫!?」
 「ワフッ!!」


有り難い事にしいたけは、自慢のファーコートのお陰で堅い岩にぶつかってもダメージが跳ね返ってくることはない。

だけど……。


千歌「ここからどうしよう……」


完全に膠着状態だ。

そのとき──


 「ヒノ…」


戦っている真っ最中のメレシーの岩の下から、微かにだけれど……か細い鳴き声が私の耳に届いてきた。





    *    *    *





 「ロトトトトトト」


──洞窟の中に鳴き声が響く。


曜「研究所の前で聞いた鳴き声……!」

鞠莉「ロトム!! どこにいるの!? 出てきなさい!!」

 「いやロトー」


鞠莉さんの声に返事が返ってくる。──返事?
21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:03:50.87 ID:WoQi+oWD0

曜「え、返事?」

鞠莉「要求は何!?」

 「週休8日制を要求するロトー あと、おやつを増やせロトー」

鞠莉「あんた、わたしの手持ちで一番おやつ食べてるじゃない!? いつもスターブライト号からポフィン横取りして!!」

 「あれは貰ってるだけロトー」

曜「理由しょうもなっ! というか、喋ってる!?」


機械の合成音声のような音で返って来る言葉が洞窟内に響き渡っている。


鞠莉「図鑑の機械音声を使って喋ってるのよ。コミュニケーションが取れるのはありがたいんだけど……なまじ頭がいいから、手に負えないわね……」

曜「鞠莉さんの手持ちなんですよね?」

鞠莉「むかしっから、なまいきな子で困ってたのよね……あんまり懐かないし……」

曜「…………」


思わず再度ジト目になる。


鞠莉「……最後通告よ、ロトム。ゲコクジョーなんて無駄な考えやめて、出てきなさい」


鞠莉さんの声が、水気を含んだ入江の洞窟内で何度も反響する。

私も改めて洞窟内を見回して、ロトムの姿を探してみる。

随分奥まった場所まで来たけど、視界の端にはちらほらと別の場所から入り込んだ海水溜まりが目に入る。

さっき千歌ちゃんが探していた子が、その水溜りに落ちていたらと考えると少しぞっとするけど……。

そんなことを考えながら、ロトムを探して視線を彷徨わせていると──


 「い・や・だ・ロトー!」


突然そんな声と共に洞窟の岩がフワリと空中に浮かんだ。


曜「!? な、なに!?」


──いや、違う。浮かんだのは岩じゃない!!


曜「メレシーが飛んでる!?」

鞠莉「“テレキネシス”か……あくまで抵抗するっていうのね」


どうやら、鞠莉さんの口振りからすると、ロトムが“テレキネシス”という技でメレシーたちを浮かせたらしい。

 「ロトー!!」

ロトムの声と共にメレシーたちが一斉にこっちに飛んでくる。


曜「わわ!?」

鞠莉「出てきて、キルリア、ポリゴン」


そんな状況に臆することもなく、鞠莉さんは腰からボールを2つ放つ。


 「キルゥー!」「ポリリ…」


ボールから、飛び出したポケモンが方や元気な声をあげ、方や角ばったポケモンが静かな鳴き声で低空を浮遊しながら飛び出す。


鞠莉「キルリア! “ねんりき”!」
 「キル」
22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:04:49.11 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが指示をするとこちらに飛んできたメレシーたちが空中で止まる。


 「ロトトトト! 止められてしまったロト! でも、また逃げればいいロトー!」


再び声が響き渡る。


鞠莉「ふふ、ロトムったらおばかさんね〜」

 「ロト…?」

鞠莉「せっかく隠れてるのに、“テレキネシス”で浮かせたメレシーをこっちに飛ばしてきちゃったら……飛んできた方向の先にいるって言ってるようなものよ?」

曜「あ、確かに……」


浮かび上がったメレシーはたくさんいたけど、それはほぼ私たちの前方で浮いていた。

それが私たちに向かって飛んできたということは、そのメレシーたちを挟んで向かい側にロトムは潜んでいるということで……。


 「ロ、ロト!?!?」


メレシーたちが飛んできた方向の先に向かって、鞠莉さんは指を指す。


鞠莉「ポリゴン! “じゅうりょく”!」

 「ポリ…!」


さっき指示を出さなかった角ばった方のポケモンが、一瞬鈍く光ったと思ったら、

──鞠莉さんの指差した方向の天井から板状の何かが落ちてきた。


 「ロ、ロトー!!」

曜「ロトムだ!」


左手……の様な部位にボールを1個持っている!


鞠莉「ロトム……よくも好き勝手やってくれたわね……」

 「ロ、ロトー! 来るなロトー!」


ロトムはポリゴンの重力を受けて、地面でばたばたとのた打ち回っている。


 「そ、そうだロト!! ポイー!!」

鞠莉「なっ」


ロトムは思いついたかのように持っていたボールを投げ捨てる


曜「あ……!」

 「さぁ、マリー早くボールを追いかけないとロトー」

鞠莉「次から次へと……!!」


そのボールはカツンカツンと音を立てながら転がり、入江内の洞窟に出来た大きな海水溜りへ──


曜「ま、まずい……!!」


私は思わず飛び出した。

──“じゅうりょく”下だから、このままだとボールが沈んでしまう。
23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:05:36.74 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「よ、曜っ!?」

曜「鞠莉さんはポケモンへの指示を!」

 「ロト!? 邪魔するなロトー!!!?」


私はロトムの脇にある海水溜りに一直線に走る。

──走る。

だが、転がったボールは縦穴の中にコロコロと

転がって……。

ポチャン──


曜「……!!」


私は思わず腰からラプラスのボールを穴に向かって投擲する。

 「キュウゥー!!」

ボールから飛び出したラプラスが本当にギリギリ入れるくらいの穴。


曜「ラプラス!! 潜れる!?」
 「キュゥー!!」

曜「よし、いくぞー!!」


私は走りの勢いのまま、水へ飛び込んだ。


鞠莉「曜、待って──!!?」


飛び込む最中に、背後では鞠莉さんが、声をあげたのが聴こえた気がした。





    *    *    *


24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:06:30.21 ID:WoQi+oWD0


──水の中は静かだった。

私はラプラスの背に掴まって、真っ直ぐに縦穴を潜っていく。

この狭い穴では、身体の大きなラプラスじゃ、水底に落ちたボールを拾い上げて浮上することは難しい。

そうなると──

私が助けなきゃ……!

海水の中で目を開ける。

──暗い。

ここにはメレシーがほとんどいない。

つまりほとんど光源がない。

いわタイプは水の中は苦手だからかな。

私の中で焦りが芽生える。

見切り発車過ぎたかもしれない。

──でも、私も助けたい。

無鉄砲に皆を助ける幼馴染のように。

……ラプラスが止まる。

水底に着いたようだ。

私はラプラスの身体を伝いながら、水底に手を伸ばす。

手で探る。

手繰る。

でも、私の手は砂や岩肌を攫うばかりで、ボールが見つからない。

──お願い。

お願い。

息が苦しくなってくる。

お願い、お願いだから──。

──コツン──

水底を攫う指に何かが当たる。


曜「……!!」


私はソレを掴む。

後は戻──。


 「メレ!!!」


瞬間、何かの鳴き声と共に、目の前が突然激しく光る。


曜「──!!!??!?」


私は驚いて、思わず水中で息を吐いてしまった。


曜「……がぼっ……!!」
25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:07:15.33 ID:WoQi+oWD0

口の中に海水が流れ込んでくる。

とてつもない塩気が口内を満たしていく。

──不味い。

不味い。

目の前が暗くなっていく。

息が──

…………。

だ……め……。

だめ……だ……!!

この子は……この子だけは……助け……る……!

手を伸ばす……。

ラプラス……この子だけ……でも……。

外に……連れて……。

手の中でボールが揺れている…………。

ごめん……わた……し……。

……。


──ボム。


落ちていく意識の端で──聞き覚えのあるような音を聞いた気がした。





    *    *    *





鞠莉「曜……!! 曜!!」


わたしは僅かに気泡の浮かぶ水面を覗き込んで叫ぶ。


 「ロ、ロト…ここまでするつもりじゃ……」


端で無責任な発言をしているロトムを振り返って、


鞠莉「ロトム!! 曜の図鑑サーチ!!」
 「ロトト!?」


指示を出す。


鞠莉「早く!!」

 「た、たぶん縦穴の底に……」

鞠莉「そ、そんな……」


絶望的な言葉。わたしは……わたしはなんてことを……。


鞠莉「今いくから……!!」
26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:08:25.68 ID:WoQi+oWD0

白衣を脱いで、海に飛び込もうとする。

 「キ、キルゥー!!」

キルリアが腰にすがりついてくる。


鞠莉「キルリア!! 放しなさい!!」

 「無理ロト…人間が一人で潜るのは」

鞠莉「じゃあ、曜はどうなるの!!? わたしが、わたしが連れてきたから……!!」


わたしは思わずへたり込む。


鞠莉「何が……何が博士よ……。何も、何も出来てないじゃない……!!」

 「ロト…」

鞠莉「……一番足引っ張ってるの……わたしじゃない……」

 「……マリー……。……!! 図鑑の反応!!」


突然ロトムが声をあげた。


鞠莉「!?」

 「どんどん昇ってくるロト!!」


ロトムの言葉と共に

水面から──何かが顔を出した。


 「ゼニィー!!」

鞠莉「ゼニ……ガメ……」


その水面からは水色のカメポケモン──曜か千歌に渡すはずだった最初のポケモン。

そして、飛び出したゼニガメの頭上には──


曜「…………ぅ……」

鞠莉「……曜!!」


わたしはすぐに、ゼニガメの掲げた両腕の上に持ち上げられている曜を、水から引っ張りあげる。

曜は気を失い、ぐったりとしていた。


鞠莉「曜!! 曜!! しっかりして!!」

曜「ぅ……げほっげほっ……」


ちゃんと、息はある……!!


鞠莉「曜……!! よかった……!」

曜「ぅ……鞠莉……さん……私……」

鞠莉「もう……!! あんな無茶して……!!」

曜「……光って、溺れ……て……あ……、……あれ……“マジカルシャイン”……かな……? 私……助かって……? ……ラプ……ラス……?」
27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:09:46.41 ID:WoQi+oWD0

途切れ途切れな言葉で曜はラプラスに呼びかける。

気付くと水面に上ってきたラプラスが曜に首を伸ばして、曜の顔に頬ずりをしていた。

 「キュゥゥ…」

そして、ラプラスは首を振る。


曜「じゃあ、誰が……」


曜が力なく辺りを見回すと。

 「ゼニィ」

ゼニガメが水から出て、曜の傍に寄り添ってくる。


曜「あ……そっか、君が、助けてくれたんだ……」
 「ゼニ」

曜「あはは……君、みずタイプだったんだね。……じゃあ、最初から大丈夫だったんだ」
 「ゼニィ…」


そうやり取りする一人と一匹を見て、わたしは驚きを隠せなかった。


鞠莉「ゼニガメ……どうやってボールから……」

 「……感情を強く揺さぶられたポケモンが、思わず自らボールを飛び出す、と言うのはよく聞く話ロトー」


わたしの疑問にロトムが勝手に答える。


曜「……ゼニガメ……ありがと」
 「ゼニ」


曜の助けたい気持ちを感じたゼニガメが、逆に曜を助けるためにボールから飛び出した……。


曜「えへへ、よかった……」


曜がくたりとする。


 「ゼニィ…!」 「キュゥ…」

曜「ごめん……少し疲れた……だけ、だから……。……」


そういって、曜は静かに寝息を立て始めた。

わたしはさっき脱ぎ捨てた白衣を拾って、曜の体に掛ける。


 「いい話ロト…」


未だ重力の影響を受けたまま、地面で感動しているロトムを見下ろす。


鞠莉「……あなた、これで丸く収まったと思ってる?」

 「…ロト!?」

鞠莉「わたしも甘やかしすぎた……今後こんなことがないようにしないとね」

 「ぼ、ぼぼぼ、暴力反対ロト…!!」

鞠莉「…………言い残したことはそれだけ?」

 「……。……仕方ないロト。罪を償う……ロト」


ロトムが潮らしく萎縮する。
28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:11:00.64 ID:WoQi+oWD0

 「なんて言うと思ったロト!?」


──刹那、わたしに両手を向けて、攻撃の態勢を取った。

“10まんボルト”の姿勢。

──……残念ながら、不発したけど。


 「ロ、ロト!? な、なんで攻撃が出ないロト!?」

鞠莉「ふふ、ロトム。せっかくの図鑑機能なんだから、それ使ってキルリアの技を確認してみなさい」

 「? キルリアの技なら、“ねんりき”、“でんじは”、“10まんボルト”、“ふういん”。……“ふういん”?」

鞠莉「“ふういん”ってどんな技でしょうか?」

 「そんなの簡単ロト! 自分が覚えてる技が周りのポケモンも使えなくなる……ロ…ト…」

鞠莉「はい、よく出来ました♪ さすがポケモン図鑑ね♪」

 「“テレキネシス”!! “テレキネシス”!!」


ロトムが叫ぶ。


鞠莉「まだポリゴンが“じゅうりょく”を発動中だから、“テレキネシス”は使えないわよ」

 「マリー、仲良くしようロト」


わたしはロトムにニッコリと微笑みかける。


 「鞠莉ちゃん」

鞠莉「ロトム」

 「鞠莉様」

鞠莉「少し頭を冷やしなさい。ポリゴン“シグナルビーム”」
 「ポリッ」


ポリゴンから七色のビームが発射して、


 「ロドドドドドド!!!?!!」


洞窟内にロトムのイルミネーションが眩くShinyした。





    *    *    *





しいたけとメレシーが頭を押し付けあって、膠着している中。


千歌「い、今の鳴き声、まさか……!?」


私はメレシーの岩の下に目を向ける。

──最初あのメレシーを見つけたとき、ガンガンと岩の隙間に向かって突進していたのを思い出す。


千歌「……攻撃してたんだ……」


自分にぶつかってきた、他所から来たポケモン。ボールから飛び出してきたポケモンに怒って……!!


千歌「じゃあ、あの下には!!」
29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:12:07.33 ID:WoQi+oWD0

私は思わず、走り出す。

そして、岩にくっついて声をあげる。


千歌「ごめん……!! ずっと一人で逃げてたんだね……!!」


岩の隙間に向かって。


 「メ…!!」


突然視界に現れた私の姿に、メレシーが驚いて攻撃の姿勢を取る。

 「ワフッ!!」

──ガスン!!

それを止めるように、しいたけが頭を振って、メレシーに“ずつき”をしてひるませる。


千歌「今、助けるからね……!!」


私はメレシーの下に空いた僅かな岩の隙間に手を入れようとする。


千歌「せ、狭っ……」


けど、ギリギリ腕は入る。

私は隙間の中を手で手繰る。

すると──ふわりとした感触に当たる。


 「ヒノ…!!」


感触と共に鳴き声がした──と思った、その瞬間。


千歌「熱っ……!!」


──ボフっと、小さく“ひのこ”が爆ぜた。

 「ワフッ!!」

千歌「……大丈夫。しいたけ、もうちょっと」
 「ワフ!!」


しいたけは私の言葉に応えるように、今度は“かみつく”でメレシーをひるませる。

それを確認してから、私は岩の隙間に向かって、出来るだけ優しく声を掛けた。


千歌「ごめんね……。研究所にいたのに、突然こんなところ連れてこられて……初めて見る野生ポケモンに追いかけられて、怖かったよね……」
 「ヒノ…」

千歌「震えてたね……すっごい怖い思いしたんだよね……。ごめんね。もう少し早くチカたちが研究所に来てれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに」
 「…………」

千歌「……でも、もう大丈夫だから……今助けるから……!!」

 「…メェ!!」


──その瞬間、突然メレシーが激しく“フラッシュ”した。

全く警戒していなかった為、激しい光によって至近距離で目を焼かれる。


千歌「い゛……!!!」


思わず声をあげそうになったけど──
30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:13:22.09 ID:WoQi+oWD0

千歌「……ぐっ」


堪える。


 「ワンッ!!」

千歌「しいたけ……大丈夫……!!」


私はしいたけを落ち着かせる。

かくいう、しいたけは無事のようだ。普段から目が隠れてるのが功を成したのかも。

私は霞む視界のまま、再び岩の割れ目に手を伸ばす。

切り立った岩肌で、手や腕に引っかき傷が出来るのを感じる。

でも、伸ばす。

私がここで痛がったり、大声をあげたら、この子が不安になっちゃうから。

今怖がってるこの子を不安にさせちゃいけない。

今この手を引っ込めるわけにはいかない。

だって、だって──


千歌「私はキミのパートナーだから……!!」
 「ヒノ…!」


再び柔らかい感触が手を撫でる。


千歌「これからは……私が守るから……!!」


撫でた手の先で……キミの震えが止まる。


千歌「私の言うこと……聞いてくれる……?」
 「ヒノ…」


岩の隙間で丸まったキミが、僅かにもぞもぞと動くのがわかった。

……今度は熱くない。


千歌「ありがとう……」


私は岩の隙間からそっと手を引き抜いて。


千歌「──私が合図したら、さっきの炎で思いっきり!! できる!?」
 「ヒノォー!!」


私の指示に呼応するように鳴き声が響く。


千歌「よし、しいたけ!! “ほえる”!!」
 「ワォンッ!!!!」


しいたけが大きな声が吼えると、

 「──!!!?」

驚いたメレシーが一瞬勢いを止める。


千歌「いまだよ!! 思いっきり!!!!」


私は叫んだ、私のパートナーに向かって、
31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:14:10.49 ID:WoQi+oWD0

 「ヒノォーーーーーー!!!!」

 「メメメ──!?!?!!!?」


メレシーの直下の岩が赤く光ったと思った直後

そこから激しい炎柱が立ち上り、

 「メェーーー!!!?」

メレシーを打ち上げた。


千歌「いっけぇーーーー!!!」


まるで“ふんか”のように噴出すその炎は

 「ヒノォオオオオオ!!!」

私の声に呼応するように更に勢いを増して、


 「──!!!!!!!?!?!?!?」

そのまま、メレシーを天井まで突き上げた。

メレシーはガスン、と鈍い音を立てながら天井にぶつかった後、

 「メ…レ…」

床に落ちて、目を回してひっくり返り、大人しくなった。


千歌「……か、勝った……」


私はよろよろと岩の隙間に近づいて、手を伸ばす。

炎の余熱で少し熱かったけど、それよりも今は……。


千歌「ありがとう……キミのお陰で勝てたんだよ……」


岩の隙間で丸まっているキミを抱き上げた。


 「ヒノ…」


もふもふとした、キミを抱き上げて。


千歌「帰ろっか」


優しく撫でながらそう語りかけた。


 「ヒノ…」


キミはもぞもぞと丸まった体を伸ばして、顔を出す。


千歌「ふふ、キミの目もしいたけみたいだね」


可愛らしくつぶったままの目を見て、私は思わず笑ってしまった。





    *    *    *


32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:15:06.67 ID:WoQi+oWD0


鞠莉「千歌っちーーー!!」


鞠莉さんの声が遠くから聞こえてくる。


千歌「あ、鞠莉さーん!! こっちー!!」


声をあげると鞠莉さんが、曜ちゃんをおんぶしたまま、私の元に走ってくる。


千歌「って、よーちゃん!?」

鞠莉「気を失ってるだけよ。それにしても、よかった……。爆発音が聴こえたから、心配したのよ?」

千歌「あ、えへへ、ごめんなさい……」

鞠莉「もう煤だらけじゃない……」


鞠莉さんは私の身体についた黒い煤を見てから、


鞠莉「……無事見つかったみたいね」


私の腕の中にいる子を見て、そう言った。


千歌「はい。……ちょっと怖い思いさせちゃったみたいだけど……」
 「ヒノ…」

鞠莉「……大丈夫よ」

千歌「?」

鞠莉「だって……“おくびょう”な性格のヒノアラシが、今あなたの腕の中でそんなに安心してるんだもの……」


鞠莉さんはそう言ってから、私に向き直って。


鞠莉「千歌……本当にありがとう……」


そうお礼を言ってくれました。


千歌「えへへ……はい!」





    *    *    *





曜「ん、んぅー……」

千歌「あ、曜ちゃん!」


入江の外へ繋がる海の上をラプラスで航行している最中、曜ちゃんが目を覚ます。


曜「あ……千歌ちゃん……」

千歌「曜ちゃん、お疲れ様」

曜「うん……あ、あれ? ゼニガメは……」


曜ちゃんが半身を起こして、辺りをキョロキョロとする。
33 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:16:25.76 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「大丈夫、そこにいるわ」


鞠莉さんが曜ちゃんの視界に入るように視線で、水面の方を指す。

そこではゼニガメが、辺りを警戒しながら泳いでいた。


曜「あはは、まだ警戒をしてくれてるんだね。……ありがとーゼニガメー!!」


曜ちゃんが声を掛けると、気付いたゼニガメが背面泳ぎになって

 「ゼニー」

曜ちゃんに向かって手を振る。


曜「……あ、そうだ! 千歌ちゃんの方は──」

千歌「うん、大丈夫。ほら」
 「...zzz」


私の腕の中でのんびりお昼寝をしている、ヒノアラシを見せる。


曜「ほっ……よかったぁ……」


それを見て、曜ちゃんが安堵する。

間もなく、入江の外が近くなってきて、外の光が洞窟の中に差し込んできた。

そのとき、


鞠莉「二人とも……」


突然、鞠莉さんが立ち上がった。


鞠莉「……今回は本当にごめんなさい。わたしの不手際のせいで……危ない目にあわせてしまって」


鞠莉さんはそう言って頭を下げる。


千歌「い、いや、付いていくって言ったのは私たちですし……!」

曜「そうですよ! それにロトムを止めたのも鞠莉さんだったし……」

鞠莉「そういう問題じゃないの……これは大人として、ちゃんと反省しなくちゃいけないことだから……」


依然、頭を下げて謝罪する鞠莉さんを二人で必死にフォローしようとしていると──


 「──全くその通りですわ」

千歌・曜「「!?」」


入江の外から、洞窟内に向かって、聞き覚えのある声が木霊した。

声のする方に目を向けると、細長い体躯で海を悠然と泳ぐポケモンの上に、毅然と立ちながら黒いロングの髪を潮風にはためかせて、こちらを見据える女性が一人。


 「……事情を説明して頂けるかしら? オハラ博士?」

鞠莉「...Oh. 思ったより早かったわね……」


──私と曜ちゃんはその光景を見て、思わず顔を見合わせて声をあげてしまった。


千歌・曜「「──ダイヤ先生!?」」

34 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:17:44.91 ID:WoQi+oWD0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./             .●回/         ||
 口=================口


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:7匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:2匹


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



35 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:52:25.74 ID:WoQi+oWD0

■Chapter003 『オハラ研究所』





ダイヤがこちらに向かって鋭い眼光を向けている。

長い付き合いだからわかるのだけど、あれは結構怒っているときの目だ。

参ったなぁ……だから、ダイヤにバレる前にSolution──解決しちゃいたかったんだけど。

良い言い訳も思い浮かんでないし……。


ダイヤ「わたくしの可愛い生徒達に何かあったら、どうするつもりでしたの? 回答によっては──」


ダイヤの冷たい声が響くと共に、ダイヤをここまで泳いで運んできたミロカロスが、トレーナーとシンクロするかのように冷たく睨みつけてくる。


千歌「ま、待ってダイヤさん!」

曜「これは私たちが勝手に付いて来ただけで……!」


二人が再びフォローを入れてくれるが、


ダイヤ「今は貴方達には聞いていません。これはあくまで監督者側の問題ですわ」


そう言って、一蹴する。Umm...相変わらずVery hardだネ……。まあ、その意見はわたしも概ね同意なんだけど。


鞠莉「……反省はしてるつもり。でもとりあえず、今はここを出てからにしない? 説教なら研究所で聞くから」

ダイヤ「…………。……はぁ……まあ、いいでしょう」


ダイヤは嘆息してから、ミロカロスに目配せする。

言葉を発さずとも察したミロカロスが、ラプラスの横に付けて併走──いや、泳いでるから併泳かしら?──しだす。


千歌「あ、あの……ダイヤ先生……」

ダイヤ「学校の外ですから、いつも通りでいいですわよ」

千歌「あ、はい、ダイヤさん」


先生と言ってもダイヤは千歌たちとは一歳差。

トレーナー歴ではかなりの先輩になるけど、基本は地元の幼馴染みたいなものだものね。


ダイヤ「それにしても……二人ともずぶぬれに煤だらけ……危険なことをしては、ダメではありませんか」

曜「ご、ごめんなさい……」

ダイヤ「はぁ……貴方達は二人揃って昔から無鉄砲でしたわよね……。お母様も貴方達の先生をやっている間は手を焼いたと言っておりましたわ」

千歌「うぅ……」


ダイヤは息をするように生徒達に説教を始める。


ダイヤ「ただまあ……」

千歌「?」
 「ヒノ……zzz」


ダイヤは千歌っちの腕の中で眠るヒノアラシと、
36 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:53:35.15 ID:WoQi+oWD0

 「ゼニガーー」


ラプラスの前方を警戒しながら泳ぐゼニガメに目を配らせてから、


ダイヤ「良き出会いに恵まれたようですわね」


優しい口調で二人に語りかける。


千歌「えへへ……」

曜「ヨーソロー!」


そんな三者の姿を見て、反省中にも関わらず、思わず笑ってしまう。


鞠莉「──ふふ……なんだかんだで、すっかり良い先生じゃない」


わたしはダイヤに聴こえないように、そんなことをこっそりと呟いたのだった。





    *    *    *





千歌「ところでダイヤさん」

ダイヤ「なんですか?」

千歌「どうやって、私たちが入江にいるってわかったんですか?」


私はダイヤさんに疑問をぶつける。


ダイヤ「噫……それはですね」


ダイヤさんがそう言って腰からボールを放る。

ボールからは、さっきから何度も目にしていたポケモンと同じ姿──


 「メレ…」

曜「あ、ボルツ」


──ダイヤさんの手持ち、メレシーのボルツが顔を出した。

その頭には目立つ真っ黒な宝石がキラキラと光っている。


ダイヤ「この子が教えてくれたのよ。この子がタマゴから孵ったのも、この洞窟だからかもしれないのだけれど……この洞窟で何かあるとすぐに気付くのよ」

千歌「そうなんだ……」

 「メレ…」


聞いてぼんやりと関心する私の傍にボルツがふわふわと近付いてくる。

学校では先生の手持ちとして、授業のサポートもしていた子なので、私も曜ちゃんも顔見知りなわけで……。

──でも、ここ最近は旅の準備で会ってなかったから、


千歌「ボルツ、久しぶりだね」


私はそう挨拶した。
37 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:55:49.07 ID:WoQi+oWD0

 「メレ…」


ボルツは軽く一鳴きすると、『千歌の反応は確認した』とでも言わんばかりに、ふわふわと私の傍から離れてダイヤさんの元へと戻っていく。


ダイヤ「ごめんなさい、相変わらずぶっきらぼうな性格でして……」

曜「あはは、なんかこの感じ懐かしいなぁ」

千歌「あ、そういえば……“ボルツ”の名前って」

 「メレ…?」


私は振り返って入江の洞窟の奥の方を見る。

出口に近付くほど数は減ってきたが、遠方に先ほど見た宝石の星達の瞬きが目に入る。


千歌「不思議な響きだなって、学校にいるころから思ってたけど……もしかして、その子の体の宝石に関係があるのかなって」

ダイヤ「……驚きましたわ。あの千歌さんがそのようなことに気付くとは……確かにボルツはこの子の宝石の種類が由来ですわ」

千歌「む、それどういうことですか」


私は先生の失礼な物言いに、怪訝な顔をする。

一方ダイヤさんは鞠莉さんの方をチラリと一瞥。

すると、鞠莉さんは、


鞠莉「まあ、一応これでも博士だからね? ちょっとした課外授業よ」


そうおどけて言う。


千歌「メレシーたち、いっぱいいるけど……皆、個性的に光ってて……もしかして、ダイヤさんのメレシーも……うぅん、ルビィちゃんのメレシーも琥珀先生のメレシーもニックネームがあったから、そこから付けてるのかなって」

曜「あー確かに……琥珀先生のオレンジの宝石のメレシーはそのまんま、アンバーだったもんね」

ダイヤ「ええ、その通りですわ。少し考えはしたのですが……何せわたくしの名前がダイヤでしたので、ダイヤモンドと付けるのも分かり辛いかと思いまして」

鞠莉「ブラックダイヤモンドって言う黒いダイヤのことをボルツって言ったりするのよ」

ダイヤ「そこから名前を貰って、ボルツと名付けました」

曜「じゃあ、ルビィちゃんのメレシーも?」


そう言う曜ちゃん。

ルビィちゃんの持っているメレシーは、コランと言うニックネームだ。


ダイヤ「ええ、コランもルビーの含有物のコランダムから名前を貰って、ルビィが自分でそう名付けたようですわ」

曜「へぇ……なんか学校のメンバー、花丸ちゃんと私以外、皆ニックネームの付いた手持ちがいるんだね……ラプラスにもニックネーム付ければよかったかな? ……ヨーソロー丸とか?」

千歌「そ、それはどうだろう……」

 「キュウゥゥ・・・」


曜ちゃんのネーミングセンスを聞いて、ラプラスも困り顔になる。


ダイヤ「ふふ……まあ、ニックネームですと、どのようなポケモンなのかは他の人には分かり辛くなってしまいますし。クロサワの家は代々メレシーも子へ継ぐと言う習わしがあるため、ニックネームがないと区別が出来ないから付けてるだけですのよ」


そんな話を聞いて、しいたけもそうなのかな? ……と、少しだけ思ったけど。

たぶん、トリミアンと呼んでも周りが混乱するからニックネームを付けていたんだろうな、などと思い私は一人で苦笑い。

──さて、そんな話をしながら気付けば、私たちは入江を抜けて、アワシマへと再び辿り着こうとしていた。

38 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:57:27.31 ID:WoQi+oWD0



    *    *    *





──さて、オハラ研究所に戻るや否や。

ダイヤさんは鞠莉さんを床に正座させ、


鞠莉「Seiza? ここ床なんだけど……」

ダイヤ「いいから正座なさい」


……正座させ、私たちをほっぽりだして、説教を始めました。


ダイヤ「今回のことに関して、貴方がどうしてもと頼むから、わたくしも承服したのですわよ? その辺り、わかっているのですか?」

鞠莉「……」


鞠莉さんが苦い顔をする。


ダイヤ「そうでもなければ、わざわざ危険な旅に自分の生徒を送り出すと御思いなのですか? 貴方は?」

鞠莉「それはわかってる……Sorry.」


鞠莉さんが再び潮らしく謝罪する。ただ、一方的に捲くし立てられるのが気に入らなかったのか、


鞠莉「……でも、ダイヤもこの話を持ちかけたときは喜んでたじゃない。生徒の門出だ、なんて言って」


そう呟く。


ダイヤ「……そ、そんなことあったかしら……?」


ダイヤさんは図星を指されたのか、少し赤くなってホクロを掻く──ダイヤさんが誤魔化すときの癖です。


ダイヤ「だ、第一、なんでわたくしの生徒四人、余すことなく皆旅に出るのですか!」


重ねて誤魔化すように、ダイヤさんはそう言って声を荒げる。

その口調に鞠莉さんは更にムッとした顔をして、


鞠莉「それはダイヤの教え子が少ないからでしょ!」


反論。


ダイヤ「新米教師なんだから仕方ないではないですか!? それにこの辺はそもそも子供も少ないのです! それくらい貴方も知っているでしょう!?」

鞠莉「だーかーら、ダイヤにお願いしたのよ!! この辺りで旅に出る子供紹介して貰うんだったら、学校しかないじゃない!!」

ダイヤ「貴方も研究者なら、ここまでにコネの一つでも作れなかったのですか!?」

鞠莉「しょうがないでしょ! 研究所設立のアレコレで手一杯だったのよ!? と言うか、そこらへんはダイヤも知ってるでしょ!?」


二人が子供みたいな口喧嘩を始める。


千歌「……」
 「…ヒノォ…ッ…」


私は腕の中であくびをするヒノアラシを撫でながら、博士と先生の口論をぼんやりと眺めていた。
39 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:58:54.13 ID:WoQi+oWD0

曜「……それにしても、鞠莉さん、先生と知り合いだったんだね」

千歌「あ、うん。それも結構仲良さそうだよね」


横で私と同じように行く末を眺めていた曜ちゃんが耳打ちしてくる。


ダイヤ「このような危険なことに巻き込むのでしたら、今後ルビィと花丸さんを旅に出すのは反対ですわ!」

鞠莉「う……だから悪かったって言ってるじゃない……反省もしてるわ……」

曜「あ、あのー……ダイヤさん、私はこの通りピンピンしてるから……」


詰問され続ける鞠莉さんを見かねてか、曜ちゃんが割って入るが、


ダイヤ「曜さんは黙っていてください! 今はこの人と話をしているので」

曜「は、はいっ! 失礼しましたっ!」


すぐに回れ右して戻ってくる。


千歌「……長くなりそうだね……」


ダイヤさん、お説教始まると長いんだよね……。

 「…ヒノ」

そんなことを考えていたら、腕の中でまたヒノアラシが眠そうにあくびをした。





    *    *    *





ダイヤ「──第一呼ばれて来てみたら、研究所には誰もいませんし、最初のボールも6つのうち4つがなくなっているし、最初と約束が全然違うではありませんか!」

曜「……? なんの話だろう」

千歌「……さぁ?」

ダイヤ「……なんですって?」


首を傾げる私たちに、ダイヤさんはピクリと反応して、こちらに視線を向けてくる。


千歌「ひぃ!?」

ダイヤ「まさか、鞠莉さん! そのことも説明していなかったのですか!?」

鞠莉「Wait! Wait! それは予め説明してたヨ!」

曜「なんの話ですか……?」


このままじゃ本当に埒が明かないと思ったのか、曜ちゃんが質問する。


ダイヤ「今回旅立つ新人トレーナーは6人……という話は前に話しましたわよね」

曜「あ、はい」

ダイヤ「それに当たって、人数分の初心者用ポケモンと図鑑を用意して頂いたのですが……」

千歌「……あ、言われてみれば私たち、ヒノアラシとゼニガメにしか会ってないね」

ダイヤ「その通りですわ。……わたくしは公平性を欠かないように最初のポケモン選びは3人ごとに集まって、相談して選んで決めて貰うようにお願いしたではありませんか!!」

鞠莉「Wait! Wait! それもちゃんと理由があるのよ!」
40 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:01:46.82 ID:WoQi+oWD0

激昂したダイヤさんに襟首を掴まれて、慌てて弁明する鞠莉さんとの会話を聞いて、私も今朝曜ちゃんとした話を思い出す。


千歌「そういえば、最初のポケモンってどうして3匹のうちから1匹を選ぶんですか?」


別に選ばせてくれるんだったらもっと多くてもいいし、貰えるって言うんだったら、いっそ選べなくても文句はないのに、なんで決まって『3匹から1匹』なんだろ?


ダイヤ「まずはポケモンタイプ相性に慣れてもらうため、初心者でも扱いやすい、くさ、ほのお、みずの3つのタイプから選んで貰って渡す。これが理由の一つですわ。自身で決めてタイプを選ぶことによってポケモンに相性があることを強く認識してもらうためですわね」

鞠莉「もう一つは、研究者側の理由なんだけど……最初にポケモンを渡すのはデータ収集の目的もあるから、育成のデータに初期状態から大きくブレが出ないように、出来るだけタマゴから孵化した時期の近い3匹を厳選する。更に出来るだけトレーナーも歳の近い3人に渡すのよ」

ダイヤ「それがわかっていて、なんでここにくさタイプを選んだ子がいないのですか!?」

鞠莉「Oh stop DIA!!」


再び鞠莉さんを睨みつけながら、怒るダイヤさん。


鞠莉「くさタイプを選んだ子は朝一番、研究所の戸を開けたらすぐ外で待っていたから、そのとき渡したのよ!」

ダイヤ「あ・な・た……人の話を聞いておりましたの!? それが平等性に欠けると言う話をしていて……!!」

千歌「ダ、ダイヤさん、ちょっと落ち着いて!!」

ダイヤ「……考えてみれば、千歌さん! 貴方も貴方ですわ!! あれほど、クロサワの入江には近付くなと言っていたのに、どうして付いていったのですか!?」

千歌「うわっ!? 飛び火した!?」


思い出したかのように、突然話題を切り替えたダイヤさんに詰問される。

びっくりして、私が飛びのくと腕からヒノアラシがころころと研究所の床に転がり落ちる。


 「ヒノ…」

千歌「あわわ、ヒノアラシ! ごめんね!」


床の上で丸くなって、ヒノアラシがボールのようにころころと転がっていく。

私はすぐにヒノアラシを再び抱き上げる。


 「ヒノォ…」

千歌「……大丈夫?」


私が撫でるとヒノアラシは再び丸めた体を伸ばして、あくびをする。

大丈夫みたいだ。


ダイヤ「…………」


気付くと、ダイヤさんが少しバツの悪そうな顔をしていた。

自分が怒鳴った勢いでヒノアラシを落としてしまったからだろう。


曜「とにかく、ダイヤさんも、鞠莉さんの話を一度聞きましょう? このままじゃ話進まないし……」

ダイヤ「は、はい……そうですわね」


ダイヤさんはやっとクールダウンしたのか、少し赤くなって俯く。


鞠莉「──今回旅立つのは最初にも言ったけど、6人。そのうち2人はウラノホシの外から来た子なんだけど……」

ダイヤ「まあ、ルビィと花丸さんがポケモンを貰ったという話は聞いていませんから、察するにそのお二方が先に貰いに来たということなのでしょうけれど……」

鞠莉「ま、結論から言っちゃえばそうなるわ」

ダイヤ「それで……納得の行く理由なのでしょうね?」

鞠莉「んー……そうね」
41 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:03:55.99 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが少し、顔を顰める。


鞠莉「とりあえず、千歌と曜がいるから、先にそっちの3匹のうち1匹についてね。さっきも言ったけど、ここにはいないもう一人の子が朝一で受け取りに来たのよ」

ダイヤ「それで言われて渡してしまったのですか?」

鞠莉「まさか。わたしも最初は断ったわよ」

曜「それで引き下がらなかったってことですか……?」

鞠莉「そういうことね。……今すぐにでも旅に出たい……というか、何か切羽詰ってる感じがしたから」

ダイヤ「切羽詰っている感じ?」

鞠莉「『私には時間がないんです』って」

ダイヤ「……ああ、そういえば……その子は他の地方から来た良家のご子息と言う話だった気がしますわ」

鞠莉「……なにそれ初耳なんだけど? なんでダイヤが知ってるのよ」

ダイヤ「その子のご両親から、旅立ちの際に軽く指南して欲しいと依頼されていたのよ。まあ、来てみたら既に当人がいなかったのですが……」

鞠莉「……ははーん……なんとなく、話が読めてきたわ」

曜「……? ……。……あ、ああ、なるほど」


皆が勝手に納得する中


千歌「……?」


正直、私は話がよくわからなかった。


千歌「まあ、よくわかんないけど、とりあえず、その子がもう一人のトレーナーってことだよね?」

ダイヤ「ええ、まあ、そうですね」

千歌「今朝早く来て、先にポケモンと図鑑を貰って旅に出たってことだよね?」

鞠莉「そうね」

千歌「よっし!」

曜「千歌ちゃん……?」

千歌「じゃあ、まだ急げば追いつけるかも! 行こう! ヒノアラシ!」
 「ヒノ!」


そう言って私が声を掛けると、腕の中で寝息を立てていたヒノアラシが目を覚まして、もぞもぞと動く。

私はそのままヒノアラシを床に降ろして走り出す。


曜「え!? ち、千歌ちゃん!?」

千歌「せっかく一緒に旅に出る子なんでしょ? 同期ってことだよね!? 挨拶しなくちゃ!」


私の後ろをヒノアラシが走りながら付いてくる。


曜「ええ!? ま、待ってよ千歌ちゃん! 私も行くから!! ゼニガメ!!」
 「ゼニ!」


曜ちゃんが研究所の出入り口の前で、律儀に外を見張り続けていたゼニガメに声を掛けて、走り出す。


ダイヤ「あ、ちょっと千歌さん! ウチウラシティに着いたら、ポケモンスクールに寄るのですよー!?」


背後でダイヤさんが、そう叫ぶ


千歌「わかってまーす!!」
42 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:05:47.19 ID:WoQi+oWD0

後ろに向かって手を振りながら、返事をする。


鞠莉「あ、そうだ! 図鑑は3つで1セットで、近くに揃うと音が鳴るからー! それですぐに本人だとわかると思うわー!」

千歌「はーい!」

曜「い、いってきまーす!」


──とにかく、曜ちゃんと一緒に、図鑑が鳴るところまでダッシュだ!


千歌「いっくぞー!!」
 「ヒノォー!!」


せっかくの旅立ち前にずっと話聞いてられないもん!

私はヒノアラシと研究所を飛び出した。





    *    *    *





突然弾けるように飛び出して教え子たちが去ってしまった。研究所内が突然静かになる。


ダイヤ「……全くあの子達は変わりませんわね」


そういえば、学校のいるときもお説教から逃げるときはこんな感じだった気がしますわ。

今回はお説教していたわけではないのですが……。


鞠莉「そういえば、7年前ウチウラシティでポケモンを貰ったときもこんな感じだったわね」

ダイヤ「……もうそんなに前のことですか……」

鞠莉「わたしたちが旅に出たのって、10歳のときだからね〜 パパからポケモンを貰ったあと、いろいろ説明受けてるとき……」

ダイヤ「……ああ……言われて見れば確かに、果南さんが我慢できずに飛び出して行ってしまったのでしたわね」

鞠莉「そうそう、懐かしいわね……」

ダイヤ「……7年ですか。……気付いたら貴方はポケモン博士になっているし」

鞠莉「あら、あなたも気付いたら教師になってたじゃない」

ダイヤ「そうね……ただでさえ忙しいのに、最近は“もう一個”大きなお勤めも増えてしまって、大変ですわ」

鞠莉「……“そっち”は名誉なことじゃないの?」

ダイヤ「もちろん、どちらの仕事も誇りを持ってやっているつもりですが……」


なんだかセンチメンタルな気分になって、なんとなく机を撫でる。

図鑑と二つのボールが残っている、机を。


鞠莉「そういえば……もう一人なんだけど」

ダイヤ「あ、ああ……そういえば話の途中でしたわね」

鞠莉「こっちは、正直かなり強引に持ってかれちゃったのよね」

ダイヤ「……貴方が強引と揶揄するとは、相当ですか?」

鞠莉「理由は説明したんだけど……『依頼されたのは私なんだから、いいでしょ?』って言って、さっさと貰うもの貰って出て行っちゃったのよ」


鞠莉さんが苦笑してから、
43 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:07:14.08 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「やっぱダメね……新人だからイゲンが足りてないのかしら」


そう零す。


ダイヤ「……。……らしくもない。貴方も随分謙遜するようになったのですわね」

鞠莉「……今回の件も元はと言えばロトムのシツケの問題だからネ」

ダイヤ「貴方のロトムは昔からトラブルメーカーでしたからね。一応、苦労は察しますわ」


落ち込む幼馴染の姿を見て、なんだかこれ以上責めるのも憚られる。

そんなわたくしの胸中を知ってか知らずか、


鞠莉「……リューインは下がったの?」


そう不安そうな顔をして訊ねてくる。


ダイヤ「まあ……そうですわね。……トレーナーがポケモンを選ぶように、ポケモンにもトレーナーを選ぶ権利がありますから」

鞠莉「……?」

ダイヤ「……ヒノアラシも、ゼニガメも、よく懐いていましたし。……それが確認できたのなら、これ以上口出すのも野暮かと思いまして」

鞠莉「……なるほど」


……まあ、ルビィと花丸さんが貰うポケモンが不平等なことに関しては少し納得出来ていない節もありますが……。それはその本人を問い詰めたが良さそうですし。


ダイヤ「さて……わたくしも仕事に戻りますわ」

鞠莉「ん、今から学校?」

ダイヤ「いえ──そちらではない方の仕事ですわ」

鞠莉「ああ、なるほど。ダイヤも忙しそうね」

ダイヤ「ふふ、お互いね……。まあ、もう少ししたら落ち着くと思いますから。そうしたら、またお茶でも飲みに来ますわ」

鞠莉「OK. 頑張ってね──新米ジムリーダーさん」





    *    *    *





──汗が頬を伝う。

目の前にいる小鳥ポケモンと何度目の対峙だろう。


 「今度は、逃げられないように……」


呼吸を整える。

ちょっとずつ弱らせながら追いかけているのだ、そろそろ捕まえられるはず。

私は件の鳥ポケモンの目の前で、不機嫌そうに待っているポケモンに指示を出す。


 「チコリータ! “はっぱカッター”」
  「チコッ」
44 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:08:10.26 ID:WoQi+oWD0

指示と共に鋭利にとがった葉っぱが飛び出して、

 「ポポッ!」

目の前の対象を怯ませる。

そこに向かって追い討ちを掛けるような強力な一撃、


 「チコリータ! “やつあたり”!」
  「チィィコッ!!!!!!」

 「ポポォッ!!?」


チコリータが葉っぱを振り回して、ポッポに攻撃する。

貰ったばっかりでまだ懐いていないから、“やつあたり”の威力が大きい。

強力な攻撃を受けてフラフラな状態になったポッポに向かって、


 「……今だ!!」


私は博士から受け取った空のモンスターボールを投げつけた。

シュゥゥ──という音と共にポケモンがカプセルに吸い込まれる。


 「お願い……いい加減、捕まって……」


コンコン──と地面に落ちたモンスターボールが一揺れ……二揺れ……

三回目の揺れを確認した後、

止まった。


 「はぁ……やっとゲットできた……」


私が溜息を吐いてへたり込むと、


 「チェリリ」


バッグから相棒のチェリンボが飛び出して、ポッポの入ったボールを拾って持ってきてくれる。

  「チェリリ!」
 「ありがと、チェリンボ……。チコリータもお疲れ様。戻って」


そう言ってチコリータをボールに戻す。


 「ブルル…」


先ほどの戦闘を後ろで見守っていたメブキジカが、へたり込む私の傍にやってきて、鳴き声をあげる。


 「あはは、ありがとメブキジカ……」


メブキジカに支えられながら、私は立ち上がる。


 「……はぁ、ポッポ一匹でこれじゃ……先が思いやられるなぁ……」


そんな風に1人ぼやいていると──

pipipipipipipi──!!


 「きゃぁ!?」


上着のポケットに入れた図鑑が激しく鳴り出す。
45 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:08:38.19 ID:WoQi+oWD0

 「な、何!?」


咄嗟に図鑑のボタンを押すと音が止まる。

私は顔を顰めながら、今先程まで鳴っていた図鑑を睨む。

……なにかの通知かな?

そんなことを考えていると……


 「今鳴ったよー! この近くにいるみたい!」

 「うん! あと一息かな!」


背後から、私と同じくらいの歳の女の子の声が聞こえてきた。

私が振り返ると──


 「──もしかして、貴方!?」


そこには、それぞれヒノアラシとゼニガメを連れた二人の女の子が、立っていました。


46 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:10:45.89 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

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【1番道路】
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 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹

 主人公 ???
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 曜と ???は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.

47 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 20:54:48.56 ID:WoQi+oWD0
■Chapter004 『梨子』


  「ケロ…」
 「……ケロマツ? どうしたのよ」


上空を飛びながら、肩の上でケロマツが下方に何かを見つける。

私はポーチからオペラグラスを取り出して、ケロマツの見ている方を覗き見る。


 「女の子? ……しかもこんなド田舎に3人も。……もしかして、同業者?」


我ながら素晴らしい考察。


 「観察の余地ありね。ヤミカラス、しばらくこの辺り旋回出来る?」
  「カァー!」


脚に掴まった私を持ち上げ羽ばたく相棒に頼み、彼女らを観察することにする。


 「……さて、どうなるかしら」


対象から、やや角度と高度を保って、出来るだけ目立たないように、でも見失わないように、私は密かに彼女達を注視する──。




    *    *    *





 「──もしかして貴方!?」


髪を片側で三つ編みにしている、明るい髪色の快活そうな女の子が問い掛けてくる。


 「えっと……どちら様ですか?」


私は怪訝な顔をする。


 「千歌ちゃん、自己紹介しないと! 困ってるよ!」


もう一人、癖っ毛のショートボブの子がゼニガメを抱えたまま、隣の子にそう言う──最初に私に問い掛けてきた子は千歌ちゃんと言うらしい。


千歌「あ、そうだった! 私、千歌! 16歳! さっき、鞠莉さんからヒノアラシを貰った新人トレーナーだよ!」
 「ヒノ」


……『千歌』と名乗った子がそう言うと、足元でヒノアラシが声をあげる。

鞠莉さん……? ……ああ、オハラ博士のことか。


曜「私は曜。見てのとおり、私も鞠莉さんからゼニガメを貰った新人トレーナーだよ」
 「ゼニィ」


今度はもう一人の女の子──『曜』と名乗る子が自己紹介をする。そして、さっきの子の手持ちのヒノアラシ同様、今度はゼニガメが声をあげた。


 「えっと……それで何の用ですか?」

千歌「あ、うん! 貴方が最初の三匹を貰った最後の一人かなって思って! 図鑑、鳴ってたでしょ?」

曜「図鑑は三つセットで揃うと音が鳴るんだってさ」


二人の子がそれぞれ手に持った橙色と水色の図鑑を掲げる。
48 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 20:56:03.38 ID:WoQi+oWD0

 「あ、あぁ……」


先ほど、けたたましい音を立てて主張をしていた私の桜色の図鑑にはそういう仕組みがあったんだ……つまり、同期ってことだよね。


 「えっと……私は梨子です。オハラ博士からはチコリータを頂きました」


私──梨子はそう言ってペコリと頭を下げた。


千歌「梨子ちゃんって言うんだね! えへへ、同じ新人トレーナーとしてよろしくね!」

梨子「……よろしく。それじゃ、私急いでるから」


そういって踵を返す。


曜「え、あ、え?」

千歌「え、ちょっと! 梨子ちゃん!」


歩き出そうとした、ややうるさい方の子が私の肩を掴む。


梨子「何?」

千歌「いや、えっと……私たち同じときに同じ場所でポケモンを貰った仲間だよ? もっと親睦とか……」

梨子「私は先に貰ったんだけど」

千歌「あ、確かに……」

曜「そこ納得しちゃうんだ」

梨子「……ホントにそれだけなら行ってもいい? 私忙しいの」


私が再び、歩を進めようとすると、


千歌「──バトルしよう!」


彼女はそう言った。


梨子「……え?」

千歌「ポケモンバトル! トレーナー同士は目があったらポケモンバトルだよ!」


……確かにポケモントレーナー同士は、視線があったらポケモンバトルをする。

……というのは多くの地方でも共通認識的なところはあるけれど、


梨子「……それなら、そっちの子──えっと」

曜「あ、曜だよ!」

梨子「そうそう、曜ちゃんとバトルすれば?」

千歌「曜ちゃんはいいの! いつでもバトルしてくれるから! 私は梨子ちゃんとバトルしたいの! 私すっごいトレーナーになるんだから、梨子ちゃんにだって負けないよ!」


彼女は慌しく、そう捲くし立ててくる。

……正直こういうタイプの子はめんどくさい。苦手だ。
49 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 20:57:54.18 ID:WoQi+oWD0

梨子「…………」

曜「梨子ちゃん」

梨子「何?」

曜「なんか、急いでるみたいだけど……私たちって最初の三匹を貰った三人で、それなりに縁があるわけだしさ」

梨子「……まあ、そうね」

曜「挨拶代わり、と言ってはなんだけど……トレーナー同士の流儀でもあるわけだしさ、ちょっと千歌ちゃんの相手してあげてくれないかな」

梨子「…………」


まあ、一理ある。


梨子「……はぁ、しょうがないな」

千歌「ホントに!? やったぁ!」


千歌ちゃん、とやらが目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねる。元気な子だなぁ……。


千歌「よっし! いくよ、ヒノアラシ!」
 「ヒノ!」


千歌ちゃんの掛け声と共にヒノアラシが前に躍り出る。

──さて、私は……。


梨子「ん……?」


そのとき、腰に納めたボールがカタカタと動いているのに気付く。


梨子「……チコリータ」


先ほど戻したチコリータのボールだ。

チコリータからしても、ヒノアラシは同郷のライバル。やる気が出るのはわからないでもないんだけど……。

……まだ、出会ったばっかりでこの子のことはよくわからない。先ほどポッポと戦闘を終えたばっかだし、今は──


梨子「メブキジカ、お願いね」
 「ブルル…」


傍らのメブキジカにお願いする。


梨子「チェリンボはバッグの中に居てね」
 「チェリリ」


私の言葉を聞いてチェリンボは再びバッグの中に潜り込む。


曜「それじゃ、ポケモンバトルスタート!」


曜ちゃんの合図と共に、


千歌「ヒノアラシ! “ひのこ”!」


ヒノアラシの背中から戦意を示す炎が噴出し、


 「ヒノ!」


開いた口から火の粉が飛んでくる。
50 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:00:08.55 ID:WoQi+oWD0

梨子「そんな小さな炎じゃ効かないわ」

 「ブル」


メブキジカは首を振って、火の粉を軽くあしらう。


千歌「あ、あれ!?」

梨子「メブキジカ! “メガホーン”!」
 「ブルッ!」


地を蹴って、飛び出したメブキジカが、

 「ヒノッ!?」

ツノでヒノアラシを掬い上げるように、上空に投げ飛ばす。


千歌「ひ、ヒノアラシー!?」




    *    *    *




観察していたら、ポケモンバトルが始まったわけだけど……。


 「随分一方的……レベルが違うわね」


二人とも新人トレーナーだと思ってたんだけど……。

髪の長い子の方が圧倒的に強そうね。


 「あっちの三つ編みアホ毛の方が弱いのね」


バトルを見つめながら、私はふんふんと一人頷く。


 「ん? ああ、ヒノアラシ、メガホーン一発で戦闘不能になっちゃったのね。次のポケモンが出てくるわ。……って、何あのポケモン。見たことないんだけど」


思わず図鑑を開く。


 「トリミアン……? ……トリミアン……。 ……トリミアン……??」


私の独り言が空に消えていく中、バトルは進む。




    *    *    *




千歌「しいたけ! お願い!」
 「ワォンッ!!」


戦闘不能のヒノアラシをボールに戻して、千歌ちゃんは次のポケモン繰り出す。


梨子「……ひっ! 犬!?」


見たことのないポケモンだけど、私が滅法苦手な犬だと言うのは一目でわかる。


千歌「しいたけ! “たいあたり”!」
 「バゥッ!!」
51 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:02:16.76 ID:WoQi+oWD0

梨子「こ、こっちこないでぇ!!」


突撃してくる犬ポケモンに私が声をあげると。

 「ブルル…」

メブキジカが自慢のツノで“たいあたり”を押さえ込む。


梨子「び、びっくりした……。メブキジカ、そのまま“ウッドホーン”!!」


そして押さえつけたまま、そのツノを突き刺す。


千歌「力くらべなら負けないもん! しいたけ! “ふるいたてる”!!」
 「ワフッ!」


しいたけと呼ばれたポケモンが鼻息を荒げて、気合いを入れる。


梨子「……ふふ」

千歌「む、何がおかしいの!」

梨子「貴方、本当に初心者なのね」

千歌「? それってどういう──」
 「ワゥ…」


私に疑問を投げかけるとほぼ同時に、しいたけが膝を付く。


千歌「え!? し、しいたけ!?」

梨子「“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ」

千歌「し、しいたけ、離れて!!」

梨子「逃がさない! メブキジカ、“とびげり”!」


一歩引いた、しいたけ──と呼ばれてるポケモン──に素早く背を向けたメブキジカが後ろ足で蹴り上げる。


 「ワフ!!」
千歌「しいたけ!!」


その蹴りに吹っ飛ばされて、

ドスンと音を立てて、

──地面に落ちる。


千歌「しいたけ!!」
 「ワォ…」

曜「えっと……ヒノアラシ、しいたけ、戦闘不能で千歌ちゃんの手持ちは残ってないから、梨子ちゃんの勝ち……だね」

千歌「…………戻って、しいたけ」

梨子「……これで気は済んだ?」

千歌「……うん、ありがとう」


お礼を言う千歌ちゃん。だけど、顔をあげない。

まあ、ここまで惨敗したら、悔しいもんね。


梨子「……それじゃ、私は行くから」


そう言って踵を返したが、
52 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:05:37.14 ID:WoQi+oWD0

千歌「……次」

梨子「え?」


千歌ちゃんの声に振り返る。


千歌「次、会うときは……負けないから……」

梨子「……そう、頑張ってね」


私は、それだけ返して、メブキジカと共に歩き出す。

そのとき、


梨子「……?」


またカタカタとチコリータのボールが震えた。


梨子「……ごめんね、もう戦闘は終わったの。メブキジカが全部やってくれたから」


私はそうボールに声を掛けるが、

カタカタ、カタカタとボールは抗議をあげるように震え続ける。


梨子「……もう、何?」


そんなに戦いたかったのかな……。

今日知り合ったばっかでこの子のことよくわかんないな……。

早くなついてくれるといいんだけど……。





    *    *    *





 「……終始一方的だったわね」


一部始終を見届けた私は嘆息してから、


 「……しかし、いい情報が手に入ったわ」


そう言って、一人ニヤリと笑う。


 「……あいつには私のポケモンたちの良い経験値になってもらおうかしら。ヤミカラス、ホシゾラシティまでお願い」
  「カァー」


ヤミカラスに指示を出して、私は少し先の町へと向かう。


 「クックック……全てはこの堕天使ヨハネの計画の礎に過ぎないのよ……!!」


笑いながら北に向かって飛ぶ空は、そろそろ逢魔時が迫り、闇に呑まれ始めていた。





    *    *    *

53 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:08:55.46 ID:WoQi+oWD0


千歌「…………」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「あはは、自分から勝負吹っかけた割に、全然歯が立たなかったね……悔しい」


思わず拳を握る。


千歌「負けるのって……悔しいんだね」

曜「…………」

千歌「……強く、ならなきゃ」


戦闘不能になった2匹が眠るボールを撫でる。


千歌「……一緒に強くなろう、ヒノアラシ、しいたけ」


私は2匹のボールに……そう、語りかけた。


54 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:09:53.85 ID:WoQi+oWD0


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 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.7  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.6  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:6匹

 主人公 ヨハネ?
 手持ち ケロマツ♂ Lv.7 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.9 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:22匹 捕まえた数:17匹

 千歌と 曜と 梨子と ヨハネ?は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.

55 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:47:22.88 ID:WoQi+oWD0

■Chapter005 『姉妹とメレシー』





研究所から“そらをとぶ”で飛び立ち、幾数十分。

自らの勤める学び舎の隣に併設された、ポケモンジムへと戻ってくる。

わたくしはジムの前へと降り立ち、


ダイヤ「ありがとう、オドリドリ」
 「ピィ」


此処まで運んできてくれた“まいまいスタイル”のオドリドリをボールに戻す。

──さて、ジムに戻って一仕事しましょうか。

と思った矢先。

腰に付けた真っ白なボールがカタカタと震える。


ダイヤ「? どうしたの? ボルツ?」


件のボールを放り、ボルツと言うニックネームを付けられたメレシーを外に出してあげる。

 「メレ…!」

ボールから飛び出したボルツは体中の漆黒のダイヤモンドに夕陽を反射させながら、声をあげてジムの隣のポケモンスクールへと飛んでいく。


ダイヤ「?」


わたくしが怪訝な顔をしていると、


 「ま、まってー!! コランー!!」


……と、学校の方から幼い少女のような子の叫び声。


ダイヤ「……なるほど」


わたくしは肩をすくめてから、一旦ポケモンスクールへと足を向けることに致しました。





    *    *    *





 「コランー!!」
  「ピィー」


コランと呼ばれた赤い宝石を煌めかせたメレシーが、元気そうに教室内を飛び回っている。

その子の“おや”のルビィちゃんが追い掛け回しているけど、コランは楽しそうに逃げ回ってる。

コランはおいかけっこしてるつもりなのかな?


ルビィ「コランー! お願いだから言うこときいてよぉー! またお姉ちゃんに叱られちゃうからー!」
 「ピピピー!」


マルは読んでいた本をパタンと閉じて、辺りをキョロキョロと見回す。
56 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:49:19.53 ID:WoQi+oWD0

花丸「アンバー……いないずら?」


そうルビィちゃんに訊ねる。

アンバーと言うのは、黄色寄りのオレンジの宝石を身に纏ったメレシーで、ルビィちゃんのお母さん──琥珀さんのメレシーのこと。


ルビィ「アンバーはお母さんと出かけちゃってて……」


ルビィちゃんはそう言って、涙目になる。

いたずらっこのコラン。

いつもならアンバーかボルツが止めてくれるんだけど……。


花丸「いないなら、しょうがないずら……ゴンベ」
 「…ゴン?」


横でパンを齧っている、マルの手持ちのゴンベに声を掛ける。


花丸「どうにかできる?」
 「…ゴン」


尋ねてはみたけれど、ゴンベも困り顔。

……カビゴンに進化すれば“とうせんぼう”が使えるんだけど……。

──えっと、ゴンベが使える今役に立ちそうな技……

“いやなおと”、“おいうち”、“なげつける”……うーん、どれも微妙ずら。


花丸「“ふきとばし”……は、どっか行っちゃうし。あ、行動を能動的に制御する技なら“おさきにどうぞ”とか……」

ルビィ「“おさきにどうぞ”しても余計に暴れるだけだよー!」

花丸「うーん……じゃあゴンベ、“ゆびをふる”」

ルビィ「え!? は、花丸ちゃん!?」

 「ゴン」


“ゆびをふる”は何かの技がランダム出る技──ゴンベが覚えることの出来ない技もランダムで飛び出す。

特に状況を打開できる技もないし、こうなったら運任せずら。

マルの指示を出すとゴンベがチッチッチと指を振る。

すると、ゴンベの指から火花が散って、教室中に緩く稲光が走る。


ルビィ「ピ、ピギィ!?」

花丸「いい技引けたずら? “でんげきは”かな?」


広がる電撃を見て“でんげきは”かと思ったんだけど……。

 「ピピピピピピー」

コランは依然、その細い稲妻のネットの中を楽しそうに飛び回っている。


花丸「んんー? “エレキネット”ずら? でも、それならすばやさが下がるはずだし……」


そんなことをぶつぶつ呟いていると

 「ピーピピー!」

暴れまわっていたコランが、今度はこっちに回転しながら突っ込んでくる。
57 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:51:47.16 ID:WoQi+oWD0

ルビィ「は、花丸ちゃん! 分析してる場合じゃないよっ」

花丸「ずら!?」


体当たりしてくるコランの体表には稲妻が絡み付いている。

 「ゴン」

咄嗟にゴンベがマルたちの間に立ち塞がったけど──

その必要はなかったみたい。

──気付いたら教室中に石の欠片が浮いていることに気付く。


花丸「ずら? “ステルスロック”?」


コランがその石にぶつかって、一瞬動きが鈍ったところに


 「ボルツ! “パワージェム”!」


そんな声と共に、光る石が飛んでくる。

──ガスン


 「ピー!?」


鈍い音と声をあげながら、コランが教室の端の方に弾き飛ばされる。


 「“リフレクター”で囲って、ついでに“じゅうりょく”」
  「ミミミ」


教室内でコランの吹き飛んだ逆サイドから、真っ黒な宝石を身に纏ったメレシーと一緒に女性が入ってくる。


ルビィ「お、お姉ちゃん〜……」

ダイヤ「ルビィ? 学校では先生と呼びなさいと言っているでしょう?」


ルビィちゃんが泣きつく先には、ルビィちゃんのお姉さん──ダイヤ先生が立って居たずら。


 「ピーピピピピ!!」


リフレクターの物理障壁に囲まれながら、赤い宝石を光らせならだ、コランがじたばたしている。


ダイヤ「はぁ……全く元気ね、この子は……。それはそうと花丸さん」

花丸「はいずら」

ダイヤ「“ゆびをふる”で出た技……何かわかりましたか?」

花丸「うーんと……“たいあたり”が電撃を纏ってたところからして……“そうでん”ずら?」


“そうでん”は場の攻撃全てがでんきタイプになるっていう珍しい技ずら。


ダイヤ「正解。よく勉強していますわね」

花丸「えへへ、褒められたずら」

ダイヤ「それに比べてルビィ……また、コランを暴れさせて……」


ダイヤさんが溜息を吐きながら、泣きつくルビィちゃんに視線を落とす。


ルビィ「ぅ……る、ルビィも……コランにやめてって言ったもん……でも、やめてくれなくて……」

ダイヤ「はぁ……全く……」
58 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:53:34.73 ID:WoQi+oWD0

ダイヤさんが溜息を吐くと

 「ピピピピピピピピピピ」

と声をあげて、コランが床で回転し始める。


ルビィ「ふぇ!? 今度はなに!?」

花丸「“こうそくスピン”……? ってメレシーは覚えないような」

ダイヤ「ですわね。それに“こうそくスピン”なら先ほどボルツが撒いた“ステルスロック”を吹き飛ばせるはずですわ」

花丸「じゃあ、あれって……?」

 「ピピ!!」


急に回転を止めたコランが気持ちスマートに見える。

体を床に擦り付けて体表の岩を削ったみたい。


ダイヤ「“ロックカット”で身軽になったみたいですわね」

花丸「……ルビーの硬度で回転したから、床が抉れたずら」

ルビィ「コランー!? もうやめてよー!!」


ルビィちゃんの制止も虚しく、コランが小さな岩の欠片を飛ばす。さっきダイヤさんのボルツが使ったのと同じ“ステルスロック”。


ダイヤ「……ふむ。確かに補助技ならリフレクターをすり抜けますわね。ボルツ、“マジックコート”」
 「ミー」


冷静に指示を出すダイヤ先生。

飛び出してきた岩の欠片が、薄ピンクの透明な壁に反射されて、コランの元へと跳ね返っていく。

変化技は“マジックコート”で反射できるずら。


ダイヤ「はぁ……ただでさえ騒がしいのに、これ以上素早くなっても困りますわね……。“トリックルーム”」
 「ミ」


視界が一瞬ぐにゃりと歪む。

 「ピ」

それと同時にコランが速いのに遅くなる。

──何を言ってるかよくわからないと思うけど、文字通り速いのに遅いずら。


ルビィ「わぁっ すごぉい!」

ダイヤ「“トリックルーム”下ではすばやさの遅いポケモンほど速く動き、速いポケモンほど遅くなる不思議な技ですわ。ルビィ、今のうちにボールに戻しなさい」

ルビィ「あ、うん!」


ルビィちゃんはダイヤ先生の指示通りにコランに近付いて、真っ白なコラン専用のボールを投げつける。


ルビィ「ほ……よかったぁ」


ボールを手に取って、ルビィちゃんが安堵でホッと──


ダイヤ「……全然、よくありませんわ!」

ルビィ「ピギィ!?」


訂正、ホッと出来てなかったずら。
59 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:55:18.52 ID:WoQi+oWD0

ダイヤ「教室も滅茶苦茶……わたくしが帰るまで大人しく自習と言ったではありませんか!」

ルビィ「だ、だから……それはコランが……」

ダイヤ「貴方はコランの“おや”でしょう? 手持ちの責任はトレーナーが取るものです!」

ルビィ「ぅ、でもコランをルビィに持たせたのはお母さんだもんっ ルビィが決めたことじゃないもんっ」


二人が姉妹喧嘩を始めてしまう。


花丸「ずら……」


困ってゴンベに視線を送ると

もぐもぐとまたパンを食べている。

我が手持ちながら、かなりのんきずら……。


ダイヤ「だいたい貴方はこれから旅に出るというのに──」


詰問口調の先生の前に

 「ミィ…」

ボルツが割って入る。


ダイヤ「ボルツ……」


妹メレシーのコランの失態を許して欲しい……とでもいいたげに。


ダイヤ「……はぁ。……今日のところはボルツに免じて不問に致しましょう。……留守にしていたわたくしにも非がありますから」


ダイヤ先生は「ルビータイプのメレシーは何故かやんちゃな子が多いのも事実ですし……」と呟きながら、めちゃくちゃになった教室を片付け始める。

ボルツも妹の失態を取り返すかのように“サイコキネシス”で物を片付ける。


花丸「マルたちも手伝うずら。ゴンベ」
 「ゴン」


ゴンベが自分の毛にパンを押し込んで──また後で食べるのかな──椅子や机を元の場所に戻し始める。


花丸「ルビィちゃんも……ルビィちゃん?」


そう言ってマルが振り返ると、ルビィちゃんは少し暗い顔をしていて、


ルビィ「…………」

花丸「ルビィちゃん……?」

ルビィ「……あ、ごめんね、花丸ちゃん」


そう言ってから、いそいそと片付けの輪に加わっていく。


ルビィ「……こんなんで、ルビィ……冒険なんか出来るのかな……」

花丸「……」


自信なさ気にそう呟くルビィちゃんの独り言を、端で捉えながら、マルたちは散らかった教室の片付けに勤しむのでした。

60 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:57:48.52 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         ● .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 花丸と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/29(月) 00:59:11.75 ID:vk45oGxM0
それぞれの冒険がこれから始まると思うととても楽しみです
続き待ってます!
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/29(月) 09:45:54.68 ID:BI3RVkRZ0
まーたヨハネ悪役か
63 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:08:31.61 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter006 『ポケモンスクール』





私たちが1番道路を抜けて、ウチウラシティに付く頃には日もすっかり暮れていた。

歩いてそこまで掛かる道程ではないんだけど……。

私は後ろを歩く千歌ちゃんを振り返る。


千歌「…………」


千歌ちゃんは俯いて、二つのボールを悔しそうに見つめながら、とぼとぼと歩いている。

草むらを避けて歩いていたから、あのあと野生ポケモンに会うこともなかったけど、

何かあったときのために手持ちが二匹とも戦闘不能な千歌ちゃんの前を私が先導する形を取っていた。


曜「千歌ちゃん」


私が声を掛けると、


千歌「……え。あ、なになにっ?」


笑顔を作って、駆け寄ってくる。


曜「……大丈夫?」


もう何年の付き合いだと思っているんだろうか。

そんな作り笑顔で誤魔化せないよ。


千歌「……あはは」


私の胸中を察したのか、千歌ちゃんは頭を掻いた。


千歌「……バトルで負けるのって……思った以上に悔しいんだね」

曜「…………」

千歌「それに……ヒノアラシにも、しいたけにも……申し訳なくて。私を信じて付いてきてくれてるのに……何もさせてあげられなかったなぁって……」


そう言いながら、千歌ちゃんがその手いっぱいに握っている2つのボールに力を込めたのが私の目から見てもわかった。

本当に悔しいんだ……。


曜「千歌ちゃん……」


私は思わず、千歌ちゃんの手を握る。


千歌「曜ちゃん……」

曜「これからだよ! まだ私たちの旅ははじまったばっかりなんだから!」

千歌「えへへ……うんっ」


千歌ちゃんは頷きながら、握った私の手に──二つのボールに──コツンとおでこを当てて、


千歌「……私、強くなるから」


自分のポケモンたちに言い聞かせるように、宣言するように、そして自分自信に誓うように、
64 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:09:38.76 ID:VhOLIMaZ0

千歌「強く、なるから……」


そう言いました。





    *    *    *





千歌「こんばんはー!」


私はそう言いながら、かつて自分たちの通っていた教室の引き戸を開ける。


ダイヤ「ごきげんよう。先程振りですわね」


自分たちが通っていたあの頃と変わらない、ダイヤ先生の笑顔で出迎えられる。


曜「遅くなりました!」


曜ちゃんがそう言いながら敬礼する。


ルビィ「千歌ちゃん! 曜ちゃん!」

花丸「二人とも、お疲れ様ずら」


そんな私たちに後輩二人が駆け寄ってくる。


千歌「ルビィちゃん、花丸ちゃん、待っててくれたの?」

 「ゴン……」

千歌「あはは、ゴンベも」


……もう外は暗いのに


ダイヤ「帰って良いと言ったのですが……二人とも、残ると言って聞かなかったので」


ダイヤさんはそんな風に言うけど、口振りに反してその表情は笑顔だった。


花丸「先輩達の勇姿を見届けたかったずら! ゴンベもだよね」
 「ゴンー」

ルビィ「うん! 二人とも先に冒険の旅に出るんだもんね!」

千歌「えへへ、ありがとっ 二人とも」

曜「ヨーソロー! こんな後輩が持てて、私たち幸せだね!」

ダイヤ「──尤も、先程までコランが散らかした教室の片付けをしていたのですけれど」

ルビィ「お、お姉ちゃん……っ」

曜「あはは、コランは相変わらずやんちゃなんだね」


ダイヤさんのボルツとルビィちゃんのコラン。同じメレシーなのに、性格は真逆だもんなぁ……。

それはそうと、と。ダイヤさんはパンと手を打って、
65 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:10:53.66 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「さて……日は暮れてしまいましたが、千歌さん、曜さん。貴方達には旅に向けて、いろいろな基礎知識をおさらいしてもらおうと思います」

千歌「はーい!」

曜「了解であります!」

ダイヤ「まあ、尤も……もうすでに千歌さんは悔しい思いをしたようですが」


ダイヤさんが私に視線を向けて、そう言う。

私は思わず両手に持ったボールをささっと背中に隠したけど……。

流石、元担任の先生だけあって、お見通し……。私が梨子ちゃんに負けたこと……なんとなく気付いてる。


千歌「え、あ、っと……」


うろたえる私に、


ダイヤ「……大丈夫よ」


ダイヤさんはそう言って、優しく頭を撫でてくれる。


ダイヤ「……貴方はきっと強くなりますわ。わたくしはそう信じています」

千歌「……はい」

ダイヤ「ですから、今はその悔しい気持ちをバネに、前に進み続けてください」

千歌「……はい!」

ダイヤ「ふふ、良いお返事ですわ」


ダイヤさんは優しく笑ってから、


ダイヤ「それでは、二人とも、一旦ジムのバトルスペースに移動しましょう」


そう言って身を翻しました。





    *    *    *





──今、私たちがいる、ここウチウラシティには、ダイヤさんとルビィちゃんのお家、クロサワ家が代々ジムリーダーを努めている、ウチウラジムがあります。

ちょっと前までは二人のお母さんの琥珀さんがジムリーダーだったんだけど……。

つい最近、ダイヤさんが代替わりでジムリーダーに就任しました。


曜「ここのバトルスペースも久しぶりだなぁ……」


曜ちゃんが言うように、私たちはここには何度か来たことがあって──ウチウラジムの横に併設されたポケモンスクールの体育館的な役割も兼ねています。


千歌「でも今日はただの生徒としてじゃないんだよ!」


私は胸を張る。
66 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:12:24.68 ID:VhOLIMaZ0

千歌「チカは今、一人のポケモントレーナーとして、ポケモンジムの門を潜ったのだ!」

花丸「おぉー!」

ルビィ「千歌ちゃんすごーい!」


後ろから後輩達がやんややんやと褒めてくれる。


千歌「さあさあ! ヒノアラシたちも回復したし、ダイヤさん! ジムバトルだよ!」


カツンカツンとヒールを鳴らして、前を歩くダイヤさんがこちらを振り返る。


ダイヤ「そうですわね。……トレーナーたるもの、ポケモンジムに訪れてすることは一つ──」


ダイヤさんの表情が、普段の優しい先生から、ジムリーダーのソレに代わり、私は思わず身構える。


ダイヤ「──と言いたいところなのですが」

千歌「ふぇ……?」


緊張したところに予想外の言葉を貰って、間抜けな声が出る。


ダイヤ「本来ポケモンジムはある程度はトレーナーの持っているバッジの数に合わせて、ポケモンを変えるのですが……」

千歌「ですが……?」

ダイヤ「新人ジムリーダーのわたくしは、バッジの少ないトレーナーさんとのジム戦に使うポケモンの育成が終わっていませんの」

千歌「えぇー!! そんなぁ!! じゃあ、せっかくのチカのやる気はどこにいっちゃうの!?」

ダイヤ「申し訳ないのですけれど……このジムは現状では、ジムバッジ5つ以上のトレーナーのお相手をしていますわ。お陰で来客も少ないので、早く準備を整えたいのですが」


ダイヤさんはそう言って溜息を吐く。


ダイヤ「時に花丸さん。何故ジムリーダーはチャレンジャーのバッジの数によって、使用ポケモンを変えるのか、答えられますか?」


唐突にクラスの優等生の花丸ちゃんに質問が飛んでいく。


花丸「ジムリーダーは地方全体のポケモントレーナーを育成のために存在するポケモンリーグの公認機関ずら。だから、どこの町の出身の人でも段階を持って、ステップアップしやすいようにチャレンジャーのバッジの数を基準に、手持ちを変えているずら」

ダイヤ「その通り。よく勉強していますわね」

花丸「逆に本気の手持ちはちゃんと別に持ってる人が多くて、ジムリーダーは地方の中でもトップクラスの実力者。だからなのか、自然とジムのある町ではジムリーダーがそこのリーダー的な役割なことが多いみたい」

曜「ここでも、クロサワのお家がいろいろ仕切ってるもんね」

ダイヤ「ええ、そうですわね」


ダイヤさんが得意気に頷く。


花丸「ついでに言うと、もう一個理由があって……」

ルビィ「あ、花丸ちゃんそれは……」

花丸「ジムへの挑戦者の数はジムリーダー協会に通達されて、あまりに突破人数が多かったり、逆に少なかったり、そもそも挑戦者が少なすぎたりすると、上から注意を受けるずら。だからジムの難易度調整は臨機応変に対応しないといけない。公務員は大変ずら」

ダイヤ「……よ、よく勉強していますわね……」


ダイヤさんは今度は少し困ったような顔をした。気を取り直すように、一回コホンと咳払いして、


ダイヤ「とにかく、そういうことですので、ジムに挑戦するなら、ここからだとホシゾラシティのホシゾラジムが一番近いポケモンジムになりますので、そこを目指すことになると思いますわ」

千歌「うー……じゃあ、ジム戦デビューはお預けかー……」


そう聞いて、私はうなだれる。
67 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:13:25.83 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「今日トレーナーに成り立てで気が早いですわよ。ですので、ここからは旅立ち前の最後のおさらい。ポケモンバトルの実習と致しましょう。曜さん」

曜「はーい!」


ダイヤさんに呼ばれて、曜ちゃんがバトルスペースの奥の方へと駆けていく。


ダイヤ「最初にポケモンを貰った、千歌さん、曜さんに実際にポケモンバトルをして頂きます」

千歌「おお! だから、バトルスペースに来たんだね!」

ダイヤ「ええ。ルビィ、花丸さんもすぐに後に続く形で旅立ちになると思いますので、よく見ておくように」

花丸「了解ずら」

ルビィ「…………」

ダイヤ「……ルビィ?」

ルビィ「あ、はいっ」

ダイヤ「……。……コホン」


ダイヤさんは二人の返事を確認してから、軽く咳払いをする。


ダイヤ「それでは二人とも、バトルの準備は宜しいですか?」

千歌「はーい!」

曜「いつでも大丈夫であります!」

ダイヤ「ルールは使用ポケモン1体。戦闘不能が1体出た時点で試合終了です。それでは──バトル、スタート!!」





    *    *    *






──空に二つのボールが放たれる。


千歌「いけ! ヒノアラシ!」

曜「行くよ! ゼニガメ!」


ヒノアラシとゼニガメが対峙する。


曜「やっぱり、ヒノアラシ!」

千歌「曜ちゃんも!」

曜「千歌ちゃんとの最初のバトルはパートナーの子って決めてたんだ!」

千歌「えへへ、私もだよ!」

ダイヤ「二人とも、バトル中ですわよ!」


ダイヤさんが私語は慎めと言わんばかりに喝を飛ばしてくる。


千歌「てへへ、叱られちった……。ヒノアラシ! “ひのこ”!」

曜「ゼニガメ! “あわ”!」

 「ヒノ!」 「ゼニッ」
68 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:14:44.98 ID:VhOLIMaZ0

小さな火と泡が両者から飛び出し、ぶつかる。

爆散した“あわ”のみずエネルギーと“ひのこ”が散りフィールドを毛羽立たせ、

お互いが相殺し合って、バトルフィールドには湯気が立つ。


ルビィ「あわわ……互角……」

花丸「“ひのこ”も“あわ”も同じくらいの威力の技だから相殺したずら……」


曜「ゼニガメ! “たいあたり”!」


ゼニガメが甲羅に身体を引っ込めて、そのまま回転しながら突っ込んでくる。


千歌「ヒノアラシ! “まるくなる”!」

 「ヒノ……」


──ガスンッ!!

私の指示でヒノアラシがその場で丸まり、ゼニガメの体当たりでピンボールのように弾き飛ばされる。


曜「ゼニガメ! そのまま吹っ飛んだヒノアラシを“みずでっぽう”で狙い打ちだよ!」

 「ゼニィ!!」


甲羅から首を出したゼニガメの口から、噴出す水流。

空中にまるまったまま、浮いているヒノアラシは避けられない。


千歌「ヒノアラシ! 背中の炎! とりあえず、おもいっきり!!」


入江でメレシーを撃退したときの炎を指示。

丸まった状態から、一本棒が生えるように前方に向かって火柱が伸びていく。

水鉄砲とぶつかりあって、相殺しようとするが──


ダイヤ「水と炎。水に軍配が挙がりますわね」


火柱を押し返すにように、

ジュウジュウと火柱を消火しながら水流が一直線に飛んでいく。

気持ち威力は殺せたが、消しきることは出来ずにヒノアラシは水に飲み込まれ、

そのまま、水流に押されるようにヒノアラシが更に天井近くまで突き上げられる。


曜「よっし、ナイスゼニガメ!」


ルビィ「あわわ、一方的……」

花丸「攻撃が届かないと、水で圧倒されちゃうずら……」


ダイヤ「ですが、千歌さん……何かたくらんでますわね。イタズラを思いつくのはいつも曜さんではなく、貴方なのですから」


千歌「ニシシ♪ ヒノアラシ!」


天井にぶつかるその瞬間──

丸まったヒノアラシが激しく回転を始める


曜「!?」
 「ゼニ!?」
69 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:16:04.76 ID:VhOLIMaZ0

回転したヒノアラシの身体は天井板の反動を借りて“ころがる”ことによって、ゼニガメに向かって射出される──!!


曜「ゼ、ゼニガメ!? よ、避けて!?」


咄嗟に起こったことに反応出来ず、曜ちゃんの指示が雑になる。

──間に合わず、ヒノアラシの回転突進がゼニガメを吹き飛ばす。


曜「ゼニガメッ!!」

千歌「ヒノアラシ!! 畳み掛けて!!」


ゼニガメを吹き飛ばして尚、回転を続けるヒノアラシ

地面を転がり空や天井以上に大量の運動エネルギーを得た回転体は速度を増して、ゼニガメを追尾する。


曜「ゼニガメ!! “こうそくスピン”!!」


そのままじゃ防御が足りないと判断した曜ちゃんの指示でゼニガメが地面を転がりながら、甲羅に首を引っ込め回転する。


ルビィ「回転と……」

花丸「回転がぶつかるずら!!」


ダイヤ「……! なるほど、考えましたわね」


──えへへ、ダイヤさんは気付いたみたい!


千歌「ヒノアラシ!!」


回転するヒノアラシの身体が──

ボン──という爆発音と共に

──爆ぜた。


曜「え!?」


爆炎の中、

ヒノアラシが回転したまま炎を纏って、

ゼニガメに突っ込む──


千歌「いっけえええええええええ!!!!」


掛け声と共に勢いを増した炎の車がゼニガメを飲み込む──!!

…………。

──場が一瞬静まり返る。


曜「…………!!」

千歌「はぁ……はぁ……!!」


──気付けば、フィールドには気絶して伏せったゼニガメと、

──黒く焼け焦げた、一直線のレールを引いた先にヒノアラシが立っていた。
70 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:17:51.91 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「……ゼニガメ戦闘不能。よって千歌さんの勝ちですわ」

千歌「……ゃ、」


千歌「いやったあああああああ!! ヒノアラシー!!」


私はヒノアラシに駆け寄る。


千歌「やったぁ!! 勝った!! 私たちの勝ちだよー!!」
 「ヒノー!」

喜びながら相棒を抱き上げると、ヒノアラシも嬉しそうに声をあげる。


曜「……あはは、負けちゃったね。ゼニガメ、ありがと」


曜ちゃんがそう言ってゼニガメをボールに戻す。


ルビィ「ね、ねぇ、最後何が起こったの……?」

花丸「爆発したずら……」

曜「私も知りたい……千歌ちゃん、何か指示出してた?」

千歌「えっとね……ヒノアラシをずっと撫でてて、思ったんだ……この子って、戦闘以外はこんなに大人しいのに、どうして背中から炎が出るんだろうって」

曜「……?」

ダイヤ「ふふ、確かに。常時、燃えているヒトカゲやポニータと違って、ヒノアラシは能動的に炎を出しますわね」

千歌「それで私思ったんだ! きっとこの子の背中は爆発してるんだって! それで図鑑で確認したの!」


私は図鑑を開く


 『ヒノアラシ ひねずみポケモン 高さ:0.5m 重さ:7.9kg
  ふわふわの 体毛の毛先は 可燃性の 火薬のような 
  成分を含んでおり 危険を 察知すると その体毛を 
  擦り合わせ 火花を散らし 引火させ 爆炎を巻き起こす。』


ダイヤ「ヒノアラシが丸くなると、露出する部分はほぼ黒い毛で覆われる」

花丸「……あ、もしかして空中であんなに回転できたのって……」

千歌「うん! あのふわふわの毛なら、降ろしたての毛皮のコートが水を弾くみたいに、水を受け流せるかなって思って!」


そして、それはまるで水車のように水を噛みながら、回転へのエネルギーへ


ルビィ「で、でも爆発の説明が……」

曜「……最初の“ひのこ”と“あわ”の撃ち合い……」

ルビィ「え?」

曜「……弾けた火の粉と泡がフィールドをちょっと毛羽立ててた」

ダイヤ「まるでヤスリのように荒れた地面の上で、ヒノアラシが高速で回転したらどうなるかしら」

ルビィ「……あ!!」

花丸「火花と摩擦熱で毛先に着火するずら!」

千歌「えへへ、そういうこと! まあ、最初は考えて“ひのこ”撃ったわけじゃなかったけど……」

曜「それであの火力か……」

ダイヤ「加えて、“まるくなる”から“ころがる”を出すことによって威力が上昇しますわ。それによってより大きな回転を得たヒノアラシは本来のレベルでは覚えていないであろう、“かえんぐるま”を擬似的に再現した」

千歌「えっへへ!」
 「ヒノ!」

ダイヤ「よくヒノアラシを観察し、短時間でその子の特徴を把握して、尚且つ強い信頼関係を結んだ。千歌さん、貴方の勝利ですわ」

千歌「はい!」
71 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:18:48.60 ID:VhOLIMaZ0




    *    *    *





曜「完全敗北だったなぁ……」


千歌ちゃんが嬉しそうにヒノアラシを胴上げしている。


ダイヤ「曜さん、貴方も初のバトルでよく健闘しましたわ」


そういって、ダイヤさんに頭を撫でられる。


曜「えへへ……」

花丸「それにしても、千歌ちゃんがあんな頭脳戦を……」

曜「頭脳戦……というか、なんとなく思いついたんだと思う」

ルビィ「なんとなく?」

ダイヤ「……戦いの場になると、そういう直感が強く働く人が稀にいますが、千歌さんはそういうタイプなのかもしれません」


ダイヤさんは物思いに耽るように、


ダイヤ「トレーナーの機転により、ポケモンの力を100%……いえ、120%引き出す。……千歌さんはもしかしたら、とんでもないトレーナーになってしまうのかもしれませんわね。──あの人たちのように」


あの人たちが誰を指してるのかはわからないけど……。


千歌「ばんざーい!! ばんざーい!!」
 「ヒッノォ!! ヒノォ!!」


千歌ちゃんとヒノアラシを見ながら、そう呟いていました。


72 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:19:59.49 ID:VhOLIMaZ0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         ● .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.9  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:19匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.7  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:19匹 捕まえた数:2匹

 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 曜と 花丸と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


73 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:11:16.89 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter007 『はじめての捕獲』





早朝のウチウラシティの家屋に、静かに響くコール音。

──1コール……2コール……3コール……

早起きな鳥ポケモンたちの鳴き声に耳を澄ませながらぼんやりと回数を数え、

大凡、30回を超えるくらいのところで──


鞠莉『Be quiet!! 何時だと思ってるのよ!!』


鞠莉さんがやっとポケギアを取る。


ダイヤ「6時ですわ」

鞠莉『ダイヤは早起きすぎ……』

ダイヤ「幼馴染からのモーニングコールですのよ? もう少し有難がって頂きたいものですわ」

鞠莉『はぁ……んで、何?』

ダイヤ「あの子たちが起きる前に報告でもしようと思いまして」

鞠莉『ん……ああ、千歌っちと曜のこと?』

ダイヤ「昨日バトルについては一通り復習して……今日捕獲の実習をして、旅立つと思いますわ」

鞠莉『相変わらず過保護ねぇ……』

ダイヤ「そうでしょうか?」

鞠莉『電話の一本も滅多に寄越さない、幼馴染もいるのよ?』

ダイヤ「……まあ、確かに」


紺碧の髪をポニーテールに縛った共通の幼馴染を思い出す。


鞠莉『緊急時のポケギアの番号だけ教えといて、後は好きにさせてあげればいいのよ』

ダイヤ「また、貴方はそのようなことを言って……」

鞠莉『……でも、嬉々として連絡してくるくらいなんだから──そっちは順調なんでしょ?』

ダイヤ「べ、別に嬉々としているわけでは……」

鞠莉『声が弾んでいるわよ、幼馴染サン♪』


そういって鞠莉さんは家庭用のポケギアの向こうでからからと笑う。


鞠莉『大丈夫よ。あなたの見立て通り、勇気もあるし、自分たちのポケモンのことも信頼している』

ダイヤ「……そうですわね」

鞠莉『まあ、もっとも……梨子に関しては心配だけどね……』

ダイヤ「梨子……例のチコリータのトレーナーですか」

鞠莉『その感じだと、あの子ジムにも寄らなかったんでしょ?』

ダイヤ「ええ」


鞠莉さんは電話口で少し「Umm...」と唸り声をあげましたが、
74 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:12:28.11 ID:VhOLIMaZ0

鞠莉『まあ、なんとかなるでしょ……。最悪、ポケギアに掛ければ連絡も取れるし』

ダイヤ「割と楽観的ですわね……」

鞠莉『そういうことも含めての旅だからネ。可愛い子には旅をさせよって言うじゃない』

ダイヤ「……一理あります」

鞠莉『まあ、報告は素直にありがたいけどね。とりあえず──』
 『マリー起きたロト!? そろそろ、反省したから解放して欲しいロト!!』


通話の先でロトムが騒ぎ出す。


ダイヤ「ロトム、相変わらず元気そうですわね」

鞠莉『……とりあえず、また明日ね。研究所で図鑑とポケモン用意して待ってるから。ルビィと花丸によろしく伝えておいて』
 『ロトー!! マリー!! 解放を要求するロトー!!』

鞠莉『ポリゴン、“シグナルビーム”』
 『ロドドドドドドド!!!?』

ダイヤ「あははは……。了解しましたわ。……あと、あまりロトムを虐め過ぎないようにしてくださいませね」

鞠莉『……まあ、善処するわ』


そのような言葉を残して、鞠莉さんからの通話が切れる。

……まあ、あれでロトムとは長い付き合いなので大丈夫でしょう。多分。


ダイヤ「さて……」


わたくしはポケギアをポケットにしまってから、身を翻してルビィの部屋へと歩を進める。

──ルビィの部屋の襖を静かに開けると。


ダイヤ「……ふふ」


その光景を見て、思わず笑ってしまう。


千歌「……わらひは……すごいとれーなーにぃ……むにゃ……」
 「ヒノ…zzz」

曜「すぅ……すぅ……」
 「ゼニィ…zzz」

ルビィ「ぅゅ…………」
 「zzz…」

花丸「……もう食べられないずら……」
 「ゴン…zzz」


ルビィの部屋で雑魚寝をしながら、眠る四人の生徒とそのポケモンたち。


ダイヤ「可愛い子には旅をさせよ……ですか」


先程、鞠莉さんに言われた言葉を思い出し、一人反芻するように呟く。


ダイヤ「……あと一仕事して、しっかり見送らないといけませんわね」


そうひとりごちてから、皆を起こすために敷居を跨ぎ、部屋の中へと──生徒達の元へと。わたくしは歩を進めるのでした。





    *    *    *



75 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:13:55.25 ID:VhOLIMaZ0

千歌「ふぁぁ……」


朝の日差しに照らされながら、私は欠伸を漏らす。


ダイヤ「もう、だらしないですわよ」

千歌「はぁい……」


ダイヤさんに注意されて、ぼんやりと返事をする。

一方で、腕の中では──


 「ヒノ……zzz」


ヒノアラシが相も変わらず、おやすみ中で釣られて眠くなりそう。


曜「ヒノアラシ、のんびり屋さんだよね」
 「ゼニ」


横で私たちを見て笑う曜ちゃんと相変わらず真面目そうなゼニガメ。

私たちとは真逆かも……。


ダイヤ「はい、二人とも、私語はおやめなさい」


ダイヤさんがパンパンと手を叩きながら、私たちを注意する。


ダイヤ「これから捕獲について実習致しますわ。これが貴方達にとっての最後の授業になると思いますので、心して受けるように」

千歌・曜「はい!」


元気に挨拶。ダイヤ先生の元での指導もこれが最後になると思うとちょっと寂しい気もする。

そんな様子を見ながら、後ろで見守っていたルビィちゃんが私たちに、とことこと近付いてきて耳打ちする。


ルビィ「お姉ちゃん、みんなが旅に出ること心配してたから……」

曜「……まあ、そりゃそうだよね」


曜ちゃんが苦笑いする。

まあ、あれだけ苦労掛けた先生だもんね。


千歌「よっし……!! そういうことなら、ここは華麗に捕獲を決めて、先生を安心させてあげるよっ!!」


私はそう啖呵を切った。


花丸「二人とも頑張るずら!」
 「ゴン」

ダイヤ「──だから、貴方達!! わたくしが喋っているときに私語は慎みなさーいっ!!!!!」





    *    *    *



76 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:15:29.31 ID:VhOLIMaZ0

──2番道路。

ウチウラシティとホシゾラシティを繋ぐ道路で、両側を海にそれぞれ違う名前の海があります。

西側はスルガ海、東側はスタービーチと呼ばれていて、まさに大自然の真っ只中にあるこの道路は、

草むらにも、海にも、そして仰ぎ見る空にも、たくさんの種類のポケモンが生息しています。

そして、私と曜ちゃんはこんな2番道路で捕獲の真っ最中なのです!!

……なの、ですが──


千歌「わー!! ヒノアラシ!! 火力強すぎ!!」
 「ヒノ…?」


ヒノアラシが私の方を不思議そうに振り返る。

その先では戦闘不能になったコラッタが気絶している。


千歌「うぅ……全然うまくいかない……」


全然、捕獲出来ていませんでした。


ダイヤ「戦闘不能にしてしまっては、捕獲できませんからね……。弱らせてボールを投げればいいのですが……」

千歌「さっきから、やってるもん! なのに、逃げられたり、一発で倒しちゃったりで……」
 「ヒノッ」

ダイヤ「……どうにも貴方には捕獲の才能はないのかもしれませんはね……」

千歌「うぅ……酷い……。……ん? 『捕獲は』ってことは、他の才能ならあるんですか……?」

ダイヤ「それは言えませんわ」

千歌「えーなんでー!!」

ダイヤ「教えたら調子に乗るでしょう?」

千歌「むー……ちぇっちぇっ……いいもん……」


私は頬を膨らませながら、草むらを掻き分ける。


千歌「……そういえば、曜ちゃんは?」


気付いたら近くから姿を消していた曜ちゃんのことをダイヤさんに尋ねると、


ダイヤ「曜さんなら、先程釣竿を持って、スルガ海の方へ行きましたわよ。少し沖に出てポケモンを探すみたいですわ」

千歌「えーいいなー。チカもそっちの方がうまくいくかも……」

ダイヤ「貴方はみずタイプのポケモンを持っていないでしょう。どうやって沖まで出るのですか」

千歌「むぐ……じゃあそれはいいとして……。なんでダイヤ先生は私についてくるんですか。曜ちゃんは心配じゃないの?」

ダイヤ「曜さんは昔から釣りが得意でしたし……何よりあの子は器用ですから。捕獲にもあまり苦労しなさそうだったので」

千歌「……」


──チカもしかして、信用されてない系?

……まあ、悔しいけど、ダイヤさんの言う通り曜ちゃんの方が捕獲は上手いかもしれない。

釣りも上手だし、あの真面目なゼニガメと穏やかなラプラスなら、いい感じに弱らせられるかもしれない。

反面私の手持ちは……


 「ヒノ……?」
77 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:17:31.57 ID:VhOLIMaZ0

ヒノアラシが小首を傾げる。

どうやらこの子はフルパワーはすごいんだけど、火力の調整が少し苦手みたい。

お陰で、近くにいたポケモンは焦げた草の臭いのせいか逃げちゃうしで、遭遇すら思うようにいかない。


千歌「うぅ……前途多難だよぉ……」


逃げ惑うオタチやポッポを見ながら、私はぼやく。


千歌「ん……?」


──ふと、逃げ惑うポケモンたちの中に、随分と堂々とその場に居座っている鳥ポケモンを見つける。


ダイヤ「あれは……ムックルですか」

千歌「ムックル……」


私はおもむろに図鑑を開く。


 『ムックル むくどりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg
  普段は たくさんの群れで 行動している。
  身体は 小さいが 羽ばたく 力は 非常に
  強い。 鳴き声が とても やかましい。』


千歌「……群れてないじゃん」


思わずポケモン図鑑にツッコミを入れてしまう。


ダイヤ「珍しい個体ですわね……。わたくしもあのようなムックルを見たのは、初めてかも知れません」


そのとき、

 「ピィ…」

そのムックルがその見た目に似つかわしくない目つきで私たちを睨みつけてくる。


千歌「……なんか睨まれてる」
 「ヒノ…」


──次の瞬間、

ムックルが地面を蹴って、低空を飛びながら、

突っ込んできた──


千歌「……!? ヒノアラシ! “えんまく”!!」
 「ヒノッ!!」


ブシュウウウ──と

ヒノアラシの背中から黒い煙幕が噴出し、視界を塞ぐ。

その煙幕から、ムックルがそのままの勢いで飛び出し、

ヒノアラシ、そして私のすぐ横を掠めていく。


千歌「……!!」


私はすぐさま振り返ると、ムックルは空に飛び上がっていた。

そして、バタバタと力強く羽ばたき始める。

すると、撒いた“えんまく”が見る見る吹き飛ばされている。
78 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:18:48.97 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「先程の技は“すてみタックル”でしょうか? ……そして今度は“きりばらい”。あまり野生の個体が使う技ではないのですが……本当に珍しいですわ」

千歌「ねえ、ダイヤさん!」


少し離れたところでムックルを分析するダイヤさんに声を掛ける。


ダイヤ「なんでしょうか」

千歌「つまり、あのムックル……強いってこと?」

ダイヤ「……まあ、そう言ってしまって差し支えないと思いますわ」

千歌「なるほど……。……よし、決めた……!」
 「ヒノ!」


私は空から、私たちに向かって狙いを定めるムックルに対して、


千歌「キミは絶対、チカが捕獲するんだから!」


そう宣言した。





    *    *    *





曜「コイキング……シェルダー……メノクラゲ……」


捕まえたポケモンをボール越しに透かしてみる。


曜「うーん……なんか違うんだよなぁ……」
 「ゼニ?」「キュゥ?」


私のぼやきにゼニガメとラプラスが疑問の鳴き声をあげる。


曜「なんか……せっかく一緒に旅するんだったら、海にきたぞー!! って感じのポケモンがいいんだけど……」
 「……ゼニ?」


再びゼニガメが不思議そうに首を傾げる。

ふと顔をあげると、

ザッブーン──と、大きな音を立てて水しぶきがあがる。


曜「そうそう……あんな感じにド派手に水しぶきを上げて……ん?」


少し間を置いて、丸い──丸いクジラが飛び出した。


曜「……!!」


ザッブーンと──再び大きな音を立てて水しぶきがあがる。


曜「きたきたきた!! 曜ちゃんレーダーにピンと来たよ!!」


海のポケモン──たまくじらポケモン、ホエルコ!!!

パパに乗せてもらった船の上で見たことがある、あのとにかくおっきなクジラ、ホエルオーの進化前のポケモン!


曜「あの子! 捕獲するよ! ゼニガメ!」
 「ゼニ!!」
79 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:20:44.76 ID:VhOLIMaZ0

私の指示と同時にゼニガメがラプラスの背中から飛び降りて海に着水する。

そしてすぐさま、身体を甲羅に引っ込める。


曜「“アクアジェット”!!」
 「ゼニッ!!」


指示と共にゼニガメが甲羅から水を逆噴射して、水中をロケットスタートする。

私だって、千歌ちゃんに負けてられない!

トレーナーとして、フィールドを利用したり、技を組み合わせて、ポケモンから本来よりも強い力や技を引き出すんだ!


曜「そのまま“ずつき”!!」


ロケットスタートした、ゼニガメの痛烈な頭突き──それ即ち、


曜「“ロケットずつき”!!」


ゼニガメが水中から抉り込むように、ホエルコへ頭突きする。

──水中から、ホエルコが玉突きのように突き出される。


曜「よっし!!」


しかし、ホエルコは宙をくるくると舞いながら、


曜「……?」


ホエルコを突き上げた拍子に飛び出したゼニガメに向かって、

落下しながら、


曜「!? ゼニガメ!! “からにこもる”!!」
 「ゼニ!!」


私は咄嗟に指示する。

突き飛ばしたはずのホエルコはその巨体のままゼニガメに向かって落ちてくる。

“ヘビーボンバー”だ!!

殻に篭ったゼニガメを海面にたたきつけるように、

ホエルコが落下し、三たび、大きな水しぶきがあがる、


曜「くっ……!! ゼニガメ!!」


水上から海中を見る。

だが、ホエルコの落下の際に発生した波が激しすぎて、全然見えない。


曜「こーなったら!!」


私はバッグから、水中メガネを取り出す。

この前の反省を生かして、水中戦も考慮に入れて持ってきた秘密兵器!


曜「とう!」
80 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:29:14.60 ID:VhOLIMaZ0

素早くゴーグルを付けて、ラプラスからダイビング!

ザブン──!!

──水中に潜ると、ゼニガメが何度もホエルコに突進しては跳ね返されていた。

よかった、ゼニガメは無事みたいだ……。

……というか。

──ホエルコ、大きくなってない?

私は水中で図鑑を開く。


 『ホエルコ たまくじらポケモン 高さ:2.0m 重さ:130.0kg
  身体に 海水を 溜め込むことによって 大きく膨らむ。
  丸く大きな 身体は 弾力性に 富んでいて 地上でも
  高く 弾む。 但し 身体が乾くと 元気が なくなる。』


海水を飲んで大きくなって弾力性があがってるんだ……。

じゃあ、突進系の攻撃じゃダメだ!

図鑑をポケットに押し込んでから、私は水中で両手の指を怪獣の爪のように立て、それを上下に合わせるように動かす。

 「ゼニ…!!」

それを見たゼニガメはコクリと頷いて、ホエルコに“かみつく”

 「ボォォォォ……」

ホエルコが苦しそうな鳴き声をあげて、少しずつしぼんで行く。

よし! 効いてる!

でも決定打に欠ける……。

図鑑の通りなら乾けば弱る……。

乾けば……。

…………。

そうだ……!!

私は今度は水中で拳を突き上げるジェスチャーをする。


 「ゼニ!!」


痛みでしぼんだホエルコを再び海上に吹き飛ばすためにゼニガメの拳がホエルコを穿つ、

“メガトンパンチ”!!

私はすぐさま、上に泳ぎ出て、

海上に飛び出したホエルコを指差し、


曜「ぷは……っ!! ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
 「キュウッ!!」


ラプラスに指示を出す

ラプラスから放たれた、乾いた冷気がホエルコを一気に乾燥させる。

 「ボォオォォォォォ……!!!!」


曜「いまだ!!」


私はラプラスの背中に片手を伸ばして手を付き、その反動を使ってボールを中空のホエルコに向かって投げつける。

──でも、


曜「……っ!! 届かない!!」
81 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:30:50.46 ID:VhOLIMaZ0

僅かに投げたボールの勢いが足りない、

──だが、

 「ゼニッ!!」

海中から回転しながら飛び出したゼニガメが、その勢いのまま尻尾でボールを打った。


曜「ナイス!! ゼニガメ!!」


乾いた身体でHPの減ったホエルコにボールが当たり。


 「ボオォォォ……」


ホエルコがボールに吸い込まれ、そのまま水面に落ちていった。


曜「…………」


ラプラスの背に乗ったまま、ボールの落下地点へと移動すると──。


曜「……ゼニガメ、ラプラス、ありがと!」
 「ゼニッ」「キュゥッ」


私たちの新しい仲間を入れたボールが大人しくなってぷかぷかと浮かんでいました。





    *    *    *





──上空に羽ばたいたムックルがヒノアラシに向かって一直線に急降下してくる。


千歌「また“すてみタックル”……! ヒノアラシ、“ひのこ”!」
 「ヒノッ!!」


私の指示で小さな火球が飛んで行く。

──が、


 「ピィィィィ!!!!!!!!!」


ムックルは火球を突き抜けて、さらにそのまま突進してくる。


千歌「わわ!! ヒノアラシ、前に向かってダッシュして……!」
 「ヒノッ」


──間一髪、ヒノアラシの上スレスレを通ってムックルが背後の地面に突き刺さる。

その破壊的なタックルの威力によって地面が抉れていた。


ダイヤ「……いくらなんでも、ただの“すてみタックル”にしては威力が高すぎますわね。あのムックルの特性は“すてみ”ですわね」

千歌「それなんですか!?」

ダイヤ「自分への反動を省みずに突っ込むことで、突進系の技の威力をあげる特性ですわ」

 「ピィィィィ!!」


なんて話をしていたら、ムックルが鳴き声をあげて、再びヒノアラシへの突進体勢を取っている。
82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:31:57.35 ID:VhOLIMaZ0

千歌「あの威力じゃ、“かえんぐるま”でも負けちゃうし……。……あれ?」


──自分への反動を省みず?

つまり、自分への反動は普段よりも大きくなる……。攻撃をすればするほど……。

じゃあ、適任がいるじゃん!


千歌「しいたけっ!!」


私はボールは放って、しいたけを繰り出す。


 「バゥッ!!」


千歌「しいたけ、“いばる”!」
 「ワフッ」


しいたけはその場に堂々とお座りして、偉そうに鼻を鳴らす。

 「ピッ…」

それを見たムックルが、前方で戦っていたヒノアラシから注意を逸らされ、しいたけを睨みつけてくる。

そして、地面を蹴って飛び出す、

三たびの“すてみタックル”!


千歌「しいたけ、“コットンガード”!」
 「ワフ」


しいたけの体毛が更にもこもこになる。

これで防御力倍増……!!

──ガスン!!

と、ムックルがしいたけに突き刺さる。

──が、ふわふわの体毛で受け止めたため、しいたけへのダメージは小さい。

ここからは根競べだ!

 「ピィピィ!!」

ムックルは鳴きながら、距離を取るために空中でサマーソルトし、そのままの勢いで再び突っ込んでくる。

──ガスン!!

──ガスン!! ガスン!! ガスン!!

鈍い音を立てながら、何度も突進を繰り返す。


ダイヤ「……ですが、いくらトリミアンの防御力を持ってしても、これ以上は耐えられませんわよ?」

千歌「わかってる! しいたけ! “ねむる”!」
 「ワフォ…zzz」


一旦あくびをしてから、しいたけが眠りだす。

──ガスン!! ガスン!!

依然ムックルの攻撃は止まないけど、


ダイヤ「なるほど……眠って体力を回復して、その分更にムックルには反動を蓄積させる」
83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:34:43.03 ID:VhOLIMaZ0

 「ピッピッピッピ…!!」

“いばる”の効果もあってか目に見えて、ムックルがイラついている。

……と思った次の瞬間

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!」

とてつもなく甲高い声が、辺りを劈いた。


千歌「うわわわわ!? 今度は何!!?」
 「ワオッ!?」


寝ていたはずのしいたけが思わず目を覚ます。


ダイヤ「こ、これは……“さわぐ”ですか……!?」


怒ったムックルが騒ぎながら、突撃してくる。


千歌「う、うるさ……っ!! でも起きたなら丁度いいかも! しいたけ!」


迫るムックル、

私の言葉でもこもこと毛を増量するしいたけ、

防御姿勢で乗り切る!!


千歌「──と、見せかけて」
 「バウッ」


しいたけがお手をするように、ムックルを前足ではたく。


 「ピイイイイィィィ!?!?」


ムックルは予想外のことに反応出来ず、ゴロゴロと草むらの上を転がっていく、


ダイヤ「これは良い“ふいうち”ですわね」


そして、地面に転がったムックルに向かって、先ほど走り出た先から戻ってくるように、こちらに向かって、一直線に転がる、焔──


千歌「ヒノアラシ!! “かえんぐるま”!!」
 「ヒノォォォ!!」

 「ピィィィィ?!?!」


燃える車輪に弾き飛ばされ、大きなダメージを負って高く高く空に跳ねるムックル。

 「ヒノォ」

ヒノアラシは昨日同様、焼け焦げた黒いレールを地面に引きながら、私の前で停止する。


千歌「いま!!」


私は軽くボールを放る。

──ヒノアラシの背中辺りに、

 「ヒノッ」

──ボンッ!!

という爆裂音と共に、ヒノアラシの背中の爆発でボールがムックルに向かって一直線に弾き飛ぶ。


 「ピィ…」
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:35:28.87 ID:VhOLIMaZ0

ムックルは弱々しい鳴き声を残して

──パシュン。

という音と共にボールに吸い込まれた。

ボールは高所から地面に落ちて、

──カツーン!!!

という大きな音を立てて、大きく一揺れした後、すぐに動かなくなった。


千歌「……!!」


私はそのボールの元に走り出して、

それを手に取った。


千歌「えへへ……ムックルゲットだよ!」


それをヒノアラシとしいたけに見えるように前に掲げた。

 「ヒノ!」「ワン!」

──パチパチパチパチ

気付いたら、傍で見ていた、ダイヤ先生が拍手をしていた。


ダイヤ「お見事でしたわ」

千歌「え、えへへ……」


恩師からの賛辞に、思わず照れる。

そして、いいタイミングで遠方から声が聞こえる。


曜「──千歌ちゃーん!! ダイヤ先生ー!!」

ダイヤ「曜さんの方も終わったみたいですわね」


ダイヤさんは私に向き直って、


ダイヤ「合格ですわ。おめでとうございます」


そう言って、いつものあの優しい笑顔を向けてくれました。


85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:36:14.83 ID:VhOLIMaZ0



    *    *    *





ダイヤ「二人とも、食事はちゃんと取るのですよ? 特に山や森に入るとき、海を渡るときは入念に食料を調達して……」

千歌「もう、わかったからぁ……」

ダイヤ「本当ですか? 曜さんはともかく、千歌さんは特にそういうところが心配ですわ」

千歌「むー……大丈夫だって言ってるじゃないですか!」

曜「あはは……」

ダイヤ「……コホン。……まあ、確かに旅立ち前にながながしいお説教も野暮でしたわね」


ダイヤさんは咳払いをしてから、そう付け足す。


ダイヤ「二人とも、これを」


ダイヤさんはバッグから、宝石のようなものを二つ取り出し、赤い物を私に、青い物を曜ちゃんに手渡す。


千歌「……これは?」

ダイヤ「ジュエル……というものですわ。一回限りしか使えませんが、それぞれほのおタイプとみずタイプの威力をあげる効果がある道具です。旅立つ教え子への餞別ですわ」

曜「ダイヤさん……」

ダイヤ「それでは改めて、千歌さん、曜さん」

千歌・曜「はい」

ダイヤ「ポケモンたちとの旅……楽しんできてくださいませね。いってらっしゃい」


ダイヤさんの激励に、二人で笑顔になりながら──


千歌・曜「「いってきます!!」」


──私たちは元気にそう答えました。


86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:37:29.18 ID:VhOLIMaZ0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【2番道路】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.11  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.16 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.10 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:3匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.9  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.10 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:26:36.92 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter008 『ホシゾラシティ』 【SIDE Chika】




──ダイヤさんに見送られ、私たちは2番道路の先の分かれ道で立ち止まる。


千歌「私はこのままホシゾラシティを目指して西に進むけど……曜ちゃんはどうするの?」


私が訊ねると、曜ちゃんは、


曜「私は、最初に言ったとおり海を旅したいから……東のスタービーチから海を渡ってフソウ島を目指そうかなって思ってるよ!」


そう答える。


千歌「じゃあ、ここで一旦お別れだね」

曜「あはは、そうだね」


私の親友は返事をし、笑いながら、拳を前に突き出してくる。


千歌「! えへへ……!」


私も同じように、拳を前に出して、コツンと合わせる。


千歌「……次会うときは」

曜「お互いもっとすごいトレーナーに!」

千歌「うん!」


ずーっと、曜ちゃんとは一緒に過ごしてきて……。

離れ離れになるなんて、ほぼ初めてかもしれないけど──


千歌「……今はこの子たちがいるから」


──腰に付けた3つのボールに目の端で視線を送る。


曜「うん!」


お互いの拳が離れて、曜ちゃんはそのままトトッと後ろにステップし、


曜「それじゃ! またね、千歌ちゃん!」


敬礼のポーズをした後、踵を返してスタービーチに向かって走っていった。


千歌「よーちゃーん!!」


私は曜ちゃんの背中に呼びかける。


千歌「わたしー!! 次会うときはホントにすっごいトレーナーになってるからー!! 楽しみにしててねー!!」

曜「わたしもー!! いっぱい海の旅のお話、聞かせてあげるからー!!」


そして、私たちの一人旅はここから始まります──。





    *    *    *
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:28:17.70 ID:VhOLIMaZ0




歩くこと数時間。


千歌「ここが……」


到着しました。ホシゾラシティ。

大きな町ではないけど、ウラノホシタウンに比べればポケモンセンターやフレンドリーショップなど、いろいろな施設が揃っている町……。

でも、右手には大きな山、左手には相も変わらずスルガ海が広がっている。そんな自然豊かな町です。


千歌「とりあえず、ジムだよね!」
 「ヒノ?」


足元をちょこちょこ歩くヒノアラシが小首を傾げる。

私は、そんな小さな町の中でも気持ち大きめな建造物を目指します。

ポケモンジムは分かりやすいように、外観はどの町でも、さほど変わらないので、ウチウラシティで見た覚えのある建物を見つけ、そこに直行。

ジムの前に辿り着き。扉を開こうとして、気付く。


千歌「……張り紙?」


ジムの扉には張り紙がしてあって、


千歌「『所用により、『流星山』にいます。──ジムリーダーより。』 ……」
 「ヒノォ…zzz」

千歌「また、出鼻くじかれたー!!」


──足元でヒノアラシ寝てるし!


千歌「むー……ここで待つのもなぁ……。いつ帰ってくるのかわからないし……」
 「ヒノ…zzz」


流星山って──私はジムの更に向こう側に見える大きな山に視線を向ける。


千歌「確か、あの山だよね」


──どっちにしろ、ジムリーダーには会わなくちゃいけないんだし、


千歌「じゃあ、いってみよっかな!」
 「ヒノ…zzz」


お昼寝中のヒノアラシを抱き上げて、町の北にそびえる山へ、歩を進めます。





    *    *    *





──流星山。

その名の通り、流れ星や天体観測の有名なスポットで、ウチウラシティからそこまで離れていない観光地でもあります。

そのため、山道と言ってもほとんどはロープウェイで山頂まで行くことが出来るので、行き来はそこまで大変ではありません。

なんでこんなに詳しいのかと言うと。小さい頃、何度かお母さんや果南ちゃん──あ、果南ちゃんって言うのはアワシマに住んでた1個年上のお姉さんです──に連れていってもらって訪れたことがあるからです。
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:29:38.31 ID:VhOLIMaZ0

千歌「そういえば果南ちゃん……今何してるんだろう」
 「ヒノ…zzz」


7年前にポケモンを貰って旅に出て以来、たまーに帰ってくることはあるんだけど、正直ほとんど会っていない。

確かダイヤさんと一緒にポケモンを貰ったんだったよね。

……じゃあ、そうなると果南ちゃん、ダイヤさん、鞠莉さんが一緒にポケモンと図鑑を貰った3人なのかな。


千歌「そういえば、鞠莉さんも図鑑持ってたもんね」
 「…zzz」


お昼寝中のヒノアラシをもふもふしながら、先程乗り込んだロープウェイのゴンドラの外を見る。


千歌「町、ちっちゃいなぁ……」


子供の頃、お母さんや志満姉、美渡姉……そして、果南ちゃんと一緒に乗って見たこの景色。

あのときは一人でここに来ることはできなかったけど、今はこうして一人でこの景色を一望出来る。


千歌「私……今旅してるんだ」


景色を目に焼き付けながら、私はそんなことを今になってやっと自覚する。

──すると、さっきまで丸まって寝ていたヒノアラシが首を伸ばして、私の胸辺りに鼻をこすりつけてくる。

 「ヒノ」

千歌「あはは、ごめんごめん。一人じゃないね。皆が一緒だもんね」
 「ヒノ…」


そう言って、ヒノアラシの頭を撫でると、また丸まって、

 「…zzz」

お昼寝を始めた。


千歌「キミは自由だね……」


私はぼんやりと言葉を零す。

ゴンドラは間もなく頂上に到着しようとしていた。





    *    *    *





千歌「……着いたっ!」
 「ヒノ…zzz」

千歌「そろそろ、起きてくれないかな……」
 「ヒノ…?」


ヒノアラシをそっと地面に転がすと、のそのそと歩き出す。


千歌「よしよし」


私はヒノアラシが起きたのを確認して、辺りを見回す。


千歌「──確か、天文台があったはず……あ、あそこだ」
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:31:37.22 ID:VhOLIMaZ0

山頂にある建物を見つけ、そこに数人の白衣を着た人達が集まっているのが見える。

たぶん、あの中にジムリーダーもいるんだろう。

そう思い、そっちに向かおうとしたとき──

 「ヒノッ」

ヒノアラシが声をあげた。


千歌「? どうかしたの?」


ヒノアラシの視線の先を見ると──どこかで見たような人影。

メブキジカを連れて、長い葡萄色の髪の毛をバレッタ留めた女の子。


千歌「あ、梨子ちゃん!」

梨子「え?」


私の声に梨子ちゃんが振り返る。


梨子「ああ……貴方……」


そして、少しめんどくさそうに応える。


千歌「梨子ちゃんもジムリーダーを探しに?」

梨子「違うわ」


そう言って梨子ちゃんはポケットからケースを取り出して、それを開けて見せてくる。

その中には流れ星のような形のバッジがはまっていた。


梨子「この通り、私はホシゾラジムを突破した後よ」

千歌「そうなんだ……! すごいね!」

梨子「……1個目のバッジなんて、誰でも手に入るわよ」


そう言って、梨子ちゃんは私の横をすり抜けていく。


千歌「あ、あれ? もう行っちゃうの?」

梨子「……ここにはないみたいだから」


私が振り返りながら問い掛けると、梨子ちゃんは若干苦しそうな顔をして、そう言う。


千歌「ない……? なにが……?」

梨子「……なんでもない」


そう言って、去っていく。

 「ブルル…」

その後ろでメブキジカが私に向かって、会釈をしてから、一人と一匹は去っていった。


千歌「……なんだろ?」
 「ヒノォ…」


気付くと足元でヒノアラシがあくびをしている。


千歌「あーもう……寝ないのー。いくよー?」
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:34:26.64 ID:VhOLIMaZ0

私がそう言って天文台の建物に向かって歩き出すと、

 「ヒノ」

ヒノアラシは後ろをとてとてと付いて来る。

このまま突っ立ていると、またヒノアラシがお昼寝しちゃうし。

梨子ちゃんの言ってたことはちょっと気になるけど……。私もジムリーダーと戦わなくちゃだもんね!





    *    *    *





 「──ですから! せっかく最新鋭のですね!」

 「えー、でも実際目で見たほうが早くないかにゃ? ほら双眼鏡もあるし」


天文台に近付くと、その外で白衣を着た人、数人と比較的明るい髪色のショートカットのお姉さんが何やら口論をしていた


 「せっかくローズシティから頂いた観測機なんですよ!?」

 「真姫ちゃんはすぐお金に頼るから……こーいうのは自分の目と足で確認した方がいいんだってばー」


お姉さんは恐らく天文台のスタッフさんらしき人たちからプイっと顔を背ける。


千歌「……あっ」

 「……にゃ?」


その拍子にお姉さんと目があった。


 「? ……?」


お姉さんは少し考える素振りをして、


 「……あ、もしかしてキミ。ウラノホシ旅館トチマンの末っ子ちゃんかにゃ?」


思い出したかのように、そう言った。


千歌「え、あ、はい……?」


私は突然、自分の正体を言い当てられて少したじろぐ。


凛「あ、ごめんごめん。私のこのホシゾラ天文台の所長の凛って言うんだけど、あなたちっちゃい頃何度かここに来てたよね?」

千歌「え、あ、はい。……何度か、親とか、友達と……」

凛「やっぱり! よく子供の頃、果南ちゃんと一緒に遊びに来てた子だよね! 懐かしいにゃ〜! ……って言っても当時はお母さんが所長だったけど」

千歌「果南ちゃんのこと、知ってるんですか?」


私は凛さんの口から飛び出した、聞き覚えのある名前に反応する。


凛「うん! 7年前にも旅してる果南ちゃんに会ったし……そのときもこうしてお話したんだよ」

千歌「そうなんだ……」


果南ちゃんもここに来たんだ……。まあ、そっか。同じ場所から旅に出てるんだから、同じ場所に来てるのなんて全然不思議なことじゃない。
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:36:09.11 ID:VhOLIMaZ0

凛「もしかして、あなたも……えぇっと」

千歌「あ、千歌です!」

凛「千歌ちゃんも冒険の旅に?」


凛さんは私の足元で、もそもそと動くヒノアラシを見ながらそう問うてくる。


千歌「あ、はい!」

凛「……それじゃ、まずはこっちだにゃ!」


凛さんが突然、私の腕を掴む。


千歌「え!?」

凛「レッツゴー!!」

千歌「え、えええーー!?」


凛さんがそのまま私の腕を引っ張って走りだす。

 「ヒノ…」

その後ろをヒノアラシがトコトコと付いて来る。


千歌「ち、ちょっと……」


突然の展開に動転して、一旦制止しようとするが、


凛「にゃにゃ〜!」

千歌「ちょ、は、はやっ……!!」


思った以上に腕を引いて走る凛さんの足が速いため、転ばないように頑張って足を動かすことで精一杯。制止の声を掛けるどころではない。

──と思ったら、


凛「到着!」

千歌「わわ!!」


すぐに目的地に到着したのか、凛さんが急に停止して、私は前につんのめる。


凛「おっとと……」


凛さんがつんのめった私をぐっと引っ張って、体勢を立て直させる。

華奢で小さな体躯に見えたけど、思ったより力が強い。

それはともかく──


千歌「い、いきなりどうしたんですか……?」


私は顔を顰めながら、凛さんに尋ねる。


凛「えへへ……冒険に来たのなら、まずコレを見ないと──って思って!」


そう言って凛さんが指差す先には、


千歌「コレ……? ──うわぁ……!!」
93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:39:30.68 ID:VhOLIMaZ0

高い山の上から、一望出来る絶景。

先に見える、豆粒みたいな町々や自然豊かな山、河、森もすごいんだけど……何より──


千歌「あの木……すごい……」


流星山よりもずっと高く伸び、雲さえも突き抜ける高さの大樹が目を引いた。


凛「この山から北西に見えるあの木。あれが、ここ──オトノキ地方のシンボルとも言われている『音ノ木』だよ」

千歌「音ノ木……!」

凛「ちょっと遠いから、夜は意識しないと見えにくいけど、あれだけ大きな木だから、晴れた日にこの山から見るとその大きさに圧倒されるにゃ。……通称『龍の止まり樹』……」

千歌「龍の止まり樹?」

凛「昔から、あの樹の先から龍の雄たけびのような音がすることがあってね。あの樹のテッペンでは龍が休憩しているなんて言われてたんだよ。今では違うってことがわかってるんだけど……はいこれ」

千歌「? ……双眼鏡?」


次々と進んでいく話に多少頭が付いていかないながらも、とりあえず手渡された双眼鏡を覗いてみる。


凛「──あ、もっと上の方」


言われて、音ノ木の上の方を見ると。


千歌「……岩?」


岩のようなものがふわふわと浮いているのが見えた。


凛「あれはメテノって言うポケモンだにゃ」

千歌「メテノ……」


言われて私は図鑑を開く。この距離でサーチできるかな?


 『メテノ ながれぼしポケモン 高さ:0.3m 重さ:40.0kg
  もともと オゾン層に 棲んでおり 身体の 殻が重くなると
  地上に 向かって 落ちてくる。 とても 頑丈な 外殻だが
  落下 したときの ショックで 木っ端微塵に 砕けてしまう。』


凛「にゃにゃ? それポケモン図鑑かにゃ?」

千歌「え? あ、はい」

凛「凛が使ってたときよりも進化してるにゃ〜……」

千歌「凛さんもポケモン図鑑、持ってるんですか……?」

凛「うん! 旅してたときにね! でも、もう結構前の話だけど……。──っと、いいタイミングだにゃ!」


そう言って、凛さんが突然指を指す。


凛「あっち! あそこのメテノを見てみて欲しいにゃ!」

千歌「あっち!? どっち!?」


双眼鏡を上に下に動かす。


凛「もうちょっと、上にゃ」
94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:41:03.35 ID:VhOLIMaZ0

凛さんが私に手を重ねて微調整する。

……というか、この人肉眼で見えてるんだ。すごい視力。

すると、ちょうどいいタイミングで、


千歌「!?」


メテノが音ノ木にぶつかって──弾けとんだ。

そして、数秒の後、その爆発音がここ流星山まで響いてくる。


凛「あれが龍の咆哮の正体」

千歌「え、メテノは……」

凛「にゃ? ああ、大丈夫だよ もう一度、さっきの場所を見てみて」


言われて、双眼鏡を覗き込むと


千歌「……ピンクのがいる」


シルエットは同じなんだけど、今度は岩ではなく、ピンクの柔らかそうな質感の物体が飛んでいる。


凛「メテノの特性“リミットシールド”って言うんだけど……。ダメージを受けるとああやって外殻が割れて身軽になるんだよ。殻が割れて軽くなったら、あとはまた上空に向かって戻ってくにゃ」

千歌「そうなんだ……よかった」

凛「本来オゾン層にいるんだけど、いろんな理由で降りてきたり、休もうとしたメテノが音ノ木にぶつかった時の音が、昔からずっと鳴り響いてたんだろうね」

千歌「それで音の木……」

凛「そうそう、そういうこと」


凛さんは嬉しそうに笑いながら、


凛「そして、そんな音ノ木とメテノたちの観測をしているのが、ここホシゾラ天文台なんだよ。……あ、もちろん普通の天文観測もしてるけどね」


そう続ける。

──私は凛さんの言葉を聞きながら、再び大樹に目を向ける。

とてつもなく大きい、雄々しい、大樹。


凛「気に入ってくれたかな?」


そう言って、凛さんが私の顔を覗き込んでくる。


千歌「……はい!! とっても!」

凛「それはよかったにゃ」


凛さんはそう言って、からからと笑う。


凛「ところで、千歌ちゃんはどうしてここに?」

千歌「え?」

凛「わざわざこんな時間に山頂まで来るなんて物好きだなぁって思って……」

千歌「えっと……あれ? なんでだっけ……」


言われて首を傾げる。

 「ヒノ…」

やっと追いついたヒノアラシが私の足元にトコトコと寄って来る。
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:41:48.95 ID:VhOLIMaZ0

千歌「……あ、そうだ! ジムリーダー探しに来たんだった!! 凛さん、知りませんか!?」

凛「にゃ? ……ああ、ジム!!」


──瞬間。

凛さんが何かを思い出したかのように突然走り出す。


千歌「──え、ちょっと!? 凛さん!?」

凛「ジムリーダーに挑戦だよね!? ジムで待ってて!!」


そう残して、居なくなってしまった。


千歌「……ってか、足はや」


下手したらポケモンより速いんじゃないかな……。


千歌「う、うーん……? 凛さんがジムリーダー呼んで来てくれるってことだよね? ……ジムで待ってよっか」
 「ヒノ」


騒がしくも明るい女性、凛さんとの衝撃的な邂逅を終え、

私はヒノアラシと一緒にロープウェイへと戻っていくのでした。





    *    *    *

96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:42:48.91 ID:VhOLIMaZ0



──ロープウェイを下り、ホシゾラシティのジムに戻ると、さっきまであった張り紙がなくなっていました。


千歌「ジムリーダーさん、戻ってきたんだね!」
 「ヒノッ」


私はジムのドアを押し開ける。


千歌「た、たのもー!!! ……でいいのかな?」
 「ヒノ!!」


私の声がジムの中に反響する。

その奥で、女性が一人。


千歌「──え」

 「もう、遅いよ千歌ちゃん。待ちくたびれちゃったにゃ」


先ほど流星山で会った人。


千歌「凛、さん……?」

凛「にゃ? どうかしたの?」


凛さんが素っ頓狂な声を出す。


千歌「え? ジムリーダー……え??」

凛「あれ? 言ってなかったっけ? ……それじゃ、改めて」


凛さんはそう言ってから、一歩前に出る。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛! 正々堂々……お願いします、にゃ♪」


私の目の前でジムリーダーが直々に頭を下げました。


97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:43:58.66 ID:VhOLIMaZ0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
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【ホシゾラシティ】
 口================= 口
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 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.13  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.11 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:26匹 捕まえた数:3匹

 千歌は
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...To be continued.



98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 00:22:26.47 ID:w6UfemS/0
ムックルは夢特性でもするどいめじゃなかったっけ
99 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:35:44.49 ID:8koyJWg30
>>98
第五世代は夢特性もするどいめでしたが、
第六世代以降はムックルの時点から特性がすてみに変更されてますね。
100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:39:06.89 ID:8koyJWg30

■Chapter009 『決戦!ホシゾラジム!』





凛「使用ポケモン2体! 先に2匹とも、戦闘不能になった方が負けだよ! 行け、バルキー!」


そう言って、凛さんが放ったボールから、ポケモンが飛び出す。


 「バルッ」

千歌「え、えーっと……」

凛「ほーら! 早く! 千歌ちゃんもポケモン出して!」

千歌「あ、は、はい! 出てきて、ムックル!」


倣う様に私がボールを放ると中空でボールが弾け、ムックルが飛び出す


 「ピィィィ!! ピィィィ!!」

凛「そのムックル、気合い十分だね! バルキー“マッハパンチ”!」
 「バルッ!!」


バルキーが大地を蹴る。

──と、思った瞬間、

ムックルに拳が迫っていた。


千歌「!! “でんこうせっか”!」
 「ピィィィ!!」


音速の拳に対抗するように、

素早く空を切りながら、拳と嘴が相対する。

──しかし

 「ピピッ!!?」

一瞬遅れた指示のせいか、力負けしたムックルが吹き飛ばされる。


千歌「ムックル!?」
 「ピピィィッ!!」

地面を転がったが、ムックルはその勢いのまま床を蹴って、再び空に飛び立つ。


千歌「大丈夫だね!? よっし!! “すてみタックル”」


勢いを殺さぬまま、ムックルが更に加速する。


凛「真っ向勝負!! いいね、凛そういうの好きだよ!」
 「バルッッ!!」


──ダンッ!!

凛さんの声に呼応するようにバルキーが震脚する。

踏み込んだ足の反動を利用して、捻り出す弾丸拳。


凛「“バレットパンチ”!!」
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:40:30.60 ID:8koyJWg30

再び衝突する拳と嘴。

──ガィン!と鈍い音と共に、

軌道をズラされたムックルがバルキーのすぐ横の床に刺さる。


千歌「ムックル! すぐ振り返りながら“つばさでうつ”!」

 「ピピッ!!」


すぐさま床から嘴を引き抜き、

その勢いも載せて、翼を振るう


凛「“ローキック”!!」


バルキーも振り返りながら、その反動で低位のムックルに蹴りを繰り出す

──今度は翼と脚が交差し、

お互いの膂力がぶつかり合い、弾ける。

 「ピピッ」「バルッ」

威力はほぼ互角

両者、お互いの攻撃を交えた反動で距離を取る。

バルキーは私に背を向ける形でステップを踏み、

ムックルは凛さんに背を向ける形で空へ。


凛「かくとうタイプのポケモンにも劣らない筋力! すごいにゃー!」


両者互角の真っ向勝負。


千歌「ムックル、“みだれづき”!」


再び宙空から、嘴を、

──今度は連打で!!


凛「バルキー “こらえる”!」


一方、凛さんは防御を選択。

──ガガガガガ!!

嘴の連撃をバルキーは両腕で頭を庇うようにして、堪える。

──でも確実にダメージは与えてる……!!


千歌「そのまま押し切って!!」
 「ピピ!!」


私の声に呼応するムックル

だが、

一瞬声を掛けたのがかえって仇となった、
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:41:38.41 ID:8koyJWg30

凛「いまにゃっ! “かわらわり”!」

 「バルッ」

 「ピギッ!?」

私の声に反応した瞬間に生まれた隙を突いて、

バルキーの手刀が振り下ろされ、

 「ピピィ!!」

ムックルが地面に叩き付けられる。


千歌「!! ま、まだ!! “リベンジ”!!」

 「ピィィィ!!」


地面を蹴って、ムックルが全身を使った体当たりで応酬する。

そのまま“がむしゃら”にぶつかって攻撃する。


凛「バルキー! “こうそくスピン”!」

 「バルッ」


でも凛さんは冷静に対抗策を打つ。

バルキーは指示に従い、右足を軸にして回転し、我武者羅に突撃するムックルを弾き飛ばす。


千歌「ムックル!」

 「ピピッ!!」


──ザザッと、

今度は地面を転がらないように、ムックルは自慢の脚の爪で床を踏ん張る。


凛「そろそろ、お互い体力も限界かな?」


──なら……!

先に繰り出す、

地を蹴り、

飛び出す、


千歌「“でんこうせっか”!!」

 「ピピィ!!!!!」

凛「“マッハパンチ”!!」

 「バルッ!!!!」


最初に選んだ技の応酬。

神速の攻撃がすれ違い様に、ぶつかった後、

先に指示を出した、ムックルが──

──地に落ちた。


千歌「ムックル!?」
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:42:47.94 ID:8koyJWg30

私はムックルに駆け寄る。

 「ピピィ…」

千歌「ど、どうして……」


戦闘不能になったムックルを抱きかかえながら、私は呟く

攻撃は先に出したはずなのに……。


凛「さっき当てた“ローキック”」


──そんな私の疑問に答えるように


凛「すばやさを下げる効果があるんだよ。その差が出たにゃ」

千歌「……くっ」


私はムックルをボールに戻す。


凛「さぁ! まだ、バトルは終わってないよ!」

千歌「……っ ヒノアラシ!!」


私は元の立ち位置に戻るため走り出すと共に、バトルスペースの外で待っていたヒノアラシに声を掛ける。

「ヒノッ!!」

私の声を聞いて、スペースに走り出すヒノアラシ。


千歌「“えんまく”!!」
 「ヒノッ!」


──ブシュウウウウ、と

私とすれ違い様にバトルフィールドに立ったヒノアラシの背中から、黒煙が噴出す。


凛「にゃ? ここで目晦まし? せっかく真っ向勝負だと思ったのに……」


黒煙の先で凛さんの残念そうな声が聞こえる。


凛「まあ、絡め手も対策済みだけどね! バルキー“みやぶる”!」


凛さんの声が響く。

…………。

……だが、変化は無い。


千歌「ヒノアラシ、警戒!」
 「ヒノッ」


ヒノアラシがキョロキョロと見回しながら、周りを警戒する。

──瞬間、

黒煙の中から腕が伸びてくる。

 「ヒノッ!!」

そして、ヒノアラシの背を掴む。


凛「逆に、煙幕が仇になっちゃったね!」
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:44:39.42 ID:8koyJWg30

煙の先で凛さんの声が響く。

眼前には気付けばバルキーの姿、

“みやぶる”で“えんまく”の先のヒノアラシの位置がバレていた。


千歌「……えへへ」

凛「……にゃ?」


思わず笑いが漏れてしまった。


千歌「ヒノアラシの警戒方向はむしろ背中側です!」

凛「……!?」

千歌「ヒノアラシ!! “はじけるほのお”!!」
 「ヒッノッ!!」

 「バルッ!!!?」
凛「バルキー!!?」


──ボンッ

と音を立てて、

ヒノアラシの背中が弾ける。

その爆風によって晴らされた黒煙の先では──


 「バ…ル…」


吹き飛ばされたバルキーが気絶していた。戦闘不能だ。


凛「しまったにゃぁ……。……まあ、さすがに一匹じゃ無理か」


凛さんはそう言ってバルキーをボールに戻す。


凛「ズルッグ!」


二匹目のボールが放たれると同時に


凛「“ねこだまし”!」
 「ズルッグ!!」


先制攻撃が飛び出す、

ヒノアラシの眼前に飛び出た黄色い影が、

彼の目の前で両手を叩いて、威嚇する。

 「ヒ、ヒノッ」

驚いて怯むヒノアラシに畳み掛けるように、


凛「“グロウパンチ”!!」


──拳が襲う!!


千歌「ヒノアラシ!! 踏ん張って!!」
 「ヒノッ!!」


私の合図で背中から炎を吹き出し、その炎の反動で自身を地面に押さえつけ、踏ん張る。


凛「“グロウパンチ”!!」
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:46:07.32 ID:8koyJWg30

連打される拳!


千歌「ひ、“ひのこ”!」


ズルッグの腹部辺りに“ひのこ”を打ち込む。

──だけど、


凛「まだまだにゃ!! “グロウパンチ”!!」


連打が止まらない、

踏ん張りが追いつかず、ヒノアラシの身体が浮きかける、


千歌「ヒノアラシッ!! 一旦距離とって!!」
 「ヒノッ!!」


拳にあわせるように“ずつき”して、その反動で後ろに下がる。

──というか、軽く吹っ飛ばされる。

たぶん、パンチをする度に威力が上がってる……さっきの“ローキック”みたいにそういう効果がある技なんだ、


千歌「じゃあ、長期戦は出来ない!! ヒノアラシ!!」
 「ヒノッ!!」


再び背中に炎を宿し、

そのままヒノアラシは身体を丸める

十八番──


千歌「“かえんぐるま”!!」


地面の反動を借りて飛び出す、火炎車。


凛「にゃ、大技!? ズルッグ“てっぺき”!!」
 「ズルルッグ!!」


ズルッグは指示と共に身体の皮を伸ばして、防御姿勢を取る。

──でも、関係ない!!


千歌「燃えろおおお!!」
 「ヒッノオオオオオ!!!!」


回転量と比例して、火勢を増しながら、

炎球がズルッグに突撃する──

 「ズルルッ」

──勢いで吹き飛ぶズルッグ

踏ん張ることなど、許さない威力……!


千歌「よっし!」
 「ヒノッ!!」


炎を解除した、ヒノアラシが身体を伸ばして、着地する。


凛「ズルッグ、大丈夫?」
 「ズル…」

凛「ありゃりゃ、やけどまでしちゃったにゃ……」
106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:47:19.46 ID:8koyJWg30

──効いてる!


千歌「なら、もう一回! “かえんぐるま”!」


…………

……?

しかし、何も起こらない。


千歌「ヒノアラシ? “かえんぐるま”!!」
 「ヒ、ヒノ…」


ヒノアラシが困ったように頭を振る。


千歌「ど、どうしちゃったの……??」

凛「にゃはは♪ ねー千歌ちゃん。ジム戦の前にポケモンセンター寄った?」

千歌「え?」


突然そう尋ねられる。

──言われてみれば行ってない。


凛「ダメだよー 挑戦の前はちゃんとHPもPPも回復しておかないと」


PP──技のパワーポイントが切れた……?


千歌「え、そんな……すぐにPPが切れるような技じゃ……」


私は急いで図鑑を開く。

──見ると、ほとんどの技のPPが切れ掛かっている。


千歌「……!?」

凛「ふふん♪」


得意気な凛さんを見て、何かされたんだと気付く。


千歌「ヒ、ヒノアラシ! “まるくなる”!」
 「ヒ、ヒノ」

凛「んー……時間稼ぎ?」


凛さんが問い掛けてくる。


千歌「さっき、やけどしたって……!! それなら、防御に徹して──」

凛「──じゃあ、遠慮なく。ズルッグ“だっぴ”のチャンスだよ」

千歌「……え?」


そう言うとズルッグが身体に纏う皮を脱いだ──下から、同じような皮が出てきたけど。


凛「ふふん、状態異常を回復する特性にゃ」

千歌「う……」
107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:48:15.17 ID:8koyJWg30

対策されてる……。

それじゃ、次の指示、他の技を……!!

図鑑に視線を落とすと、“まるくなる”のPPがどんどん減っている。


千歌「!? 使ってる技のPPを削る技!? ヒノアラシ、元に戻って!」
 「ヒ、ヒノ…!?」

凛「えへへ、ばれちゃったにゃ。その技は“うらみ”って技だよ」

千歌「ひ、“ひのこ”!!」


僅かに残った小技でどうにか削りきるしか……!!

──飛び出す“ひのこ”がズルッグを襲うが、

 「ズルル…」

ボーっとした様子で、まるで熱がらない。


千歌「き、効いてない……?」

凛「“ドわすれ”──これで熱いのも忘れちゃうにゃ」

千歌「……そんな……」

凛「終わりかにゃ? じゃあ、“ドレインパンチ”!」
 「ズルッ─」


──拳が、

ヒノアラシを、

吹き飛ばす、


千歌「──あ……」
 「ヒノッ…」


ぼてっとヒノアラシが私の足元まで飛んでくる。

 「ヒノ…」

足元で弱々しく鳴く、ヒノアラシ


千歌「……ヒノアラシ……!!」
 「ヒ、ノ……」

千歌「……っ」


傷つき倒れたヒノアラシを見て──梨子ちゃんとの戦いを思い出す。

私の力が足りないばっかりに、また自分の手持ちを傷つけてしまった。

そんな後悔が襲ってくる。


凛「……辛いなら、やめにしてもいいよ」

千歌「……え?」


凛さんが突然そんな提案をしてきた。


凛「“ドレインパンチ”でヒノアラシの体力を吸収して、ズルッグは回復もしちゃったし。ヒノアラシももう打てる技がないんだったら、降参してもいいんだよ」

千歌「──降参……」

凛「ジムは何度でも、チャレンジャーの挑戦を受け付けてるから、もっと修行してから出直してきても大丈夫だにゃ♪」

千歌「…………」
108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:48:57.66 ID:8koyJWg30

──まだ、私たちのレベルじゃ足りなかったんだ。

これ以上、ヒノアラシを傷付けるだけなら──


千歌「……こうさ──」
 「──ヒノオオオオオオ!!!!!」

千歌「!?」


そのとき突然、ヒノアラシが、吼えた。

 「ヒノオオオオオオ!!!!」

背中から炎を吹き出して、


千歌「あ、あっつ!!?」


というか、私を炙っていた。


凛「…………」

千歌「ヒ、ヒノアラシ……?」
 「ヒノッ!!!」


声を掛けると、ヒノアラシが顔をこっちに向ける。

相変わらずの無表情だけど──なんとなく、わかった。

ヒノアラシはこう言ってる──「まだ戦える」と、


千歌「──そうだよね……」


──私、言ったもんね。


千歌「── 一緒に強くなろうって……!!」
 「ヒノッ!!!」


──最後まで諦めるもんかっ!!!


 「ヒノッ!!!!」


ヒノアラシの背中にやる気の炎が燃え上がる。


千歌「“ひのこ”!!」
 「ヒノッ!!!」


飛び出す“ひのこ”、


凛「降参はしないってことだね」

千歌「“ひのこ”!! ありったけの“ひのこ”!!!」
 「ヒノッ!! ヒノッ!!」

凛「千歌ちゃんのそういうところ凛は好きだよ♪ それなら、こっちも相応の技で──ズルッグ!! “もろはのずつき”!!」
 「ズルッグッ!!!」


──ダン、と床を蹴って、ズルッグが前傾姿勢で突撃してくる。


千歌「“ひのこ”!!」
 「ヒノッ!!!」


その勢いで“ひのこ”を蹴散らしながら、
109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:49:58.60 ID:8koyJWg30

千歌「“ひのこ”!!!」
 「ヒノッ!!!!」


──迫る。

最大の攻撃。

──でも、


千歌「──負けるもんかっ!!!!」

 「ヒッノォ!!──」


──瞬間、

ヒノアラシが光り輝いた。


千歌「“ひのこ”!!!!!!」
 「──マグッ!!!」

千歌「“ひのこ”!!!!!!!」
 「マグッ!!!」


私の声に呼応するかのように、

飛び交う“ひのこ”は勢いを増して、


千歌「ありったけの!!!!! “ひのこ”を!!!!!!」
 「マグゥゥゥッ!!!!!」


咆哮と共に、

キミの口から爆ぜ出す炎は、

辺りいっぱいに散らばった“ひのこ”たちと一つになり、

それを凌駕する、

大きな火炎へと、


千歌「いっけえええええええええ!!!!!!」


──昇華した。


千歌「やきつくせえええええ!!!!!!」
 「マグウウウゥゥゥゥゥ!!!!!!」


ありったけの火の粉を集めて出来た火炎の中を、頭で裂きながら突き進むズルッグは──

 「…」

走った末に、

私たちの目の前で、

──ドサッ

っと、崩れ落ちた。


千歌「……はぁ…………はぁ…………??」


一瞬、状況が理解できず思わず言葉に詰まる。


千歌「……あ、あれ……?」


凛さんが焼き焦げた、ジムの床を歩きながら、近付いてくる。
110 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:51:22.70 ID:8koyJWg30

凛「ズルッグ、戦闘不能だにゃ。凛の負けみたいだね……」

千歌「……嘘……」

凛「嘘じゃないよ、ほら──」


そう言って、凛さんが向けた視線の先を、釣られて追うと──


 「マグ」


ヒノアラシ──ううん、さっきまでヒノアラシだった子がそこに立っていた。


凛「千歌ちゃんのマグマラシは、ちゃんとまだ立ってるよ」

千歌「マグ、マラシ……」
 「マグッ」


そう鳴いて、マグマラシは私の足元に擦り寄ってくる。


凛「諦めない気持ちが──ポケモンの力を引き出したんだね」

千歌「──」


私は未だ状況が飲み込めずポカンとしていたけど、

だんだん、実感する。


千歌「キミが──キミが助けてくれたんだね……」


マグマラシが、私に応える為に、新しい力を解放したんだ──と。


凛「千歌ちゃん」

千歌「……はい」

凛「その最後まで諦めない気持ち。これから先も、忘れちゃダメだよ」


そう言って、何か小さな物を私に向かって差し出してくる。


千歌「バッジ……」

凛「あなたをホシゾラジムの勝者と認め、この“コメットバッジ”を進呈するにゃ」

千歌「……はい!」


──こうして、私たちは初のジム戦に勝利したのでした。

111 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:52:09.72 ID:8koyJWg30


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.●_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.14  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.12 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:4匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



112 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 12:54:32.78 ID:8koyJWg30

■Chapter010 『サニーゴの海で……?』 【SIDE You】





千歌ちゃんと別れて、半日ほど。

私はスタービーチから開けた海をラプラスの背に乗って移動中であります。

──スタービーチはその名に相応しく、多くのヒトデポケモンが群生していることで有名な海。

また、ちょっと潜ると色鮮やかな桃色と水色の二色のサニーゴを見ることができ、この光景はその煌びやかな名前に恥じない、この地方の名物と言われています。

……言われているんだけど──


曜「んー……」


私は水中メガネを装着して、ラプラスから半身を乗り出す形で水面を覗く。

ぶくぶくぶく──


曜「……ぷはっ! ……聞いてた話と全然違う」
 「ゼニ」


水面に顔を出した、私の元に辺りを泳いでいたゼニガメが寄って来る。


曜「ゼニガメ……どうだった?」
 「ゼニゼニ」


尋ねてみるも、ゼニガメも首を左右に振るだけ──


曜「後は深くまで行ったホエルコ待ちだけど……うーん……」


──私が何を唸っているのかというと、


曜「──サニーゴ、全然居ないよね……」


この星の海に、件のサニーゴの姿がほとんど見当たらないのだ。


曜「……というか、アイツ多くない?」


私はそうボヤキながら、水底に居る“アイツら”を調べるために図鑑を開く。


 『ヒドイデ ヒトデナシポケモン 高さ:0.4m 重さ:8.0kg
  頭 以外の 場所なら 千切れても すぐに 再生する。
  サニーゴの 頭に 生える サンゴが 大好物で
  獲物を 探して 海底や 海岸を 這い回る。』


曜「ヒドイデ……」


確かにこのポケモンも、ヒトデポケモンだけど……。

 「ボォォォォ…」

そんなことを考えていたら、海底まで潜ってくれていたホエルコが顔を出した。


曜「ホエルコ、どうだった?」
 「ボォォォォォ」


尋ねるとホエルコは、頭部に付いた二つの鼻の穴から潮を噴出し、×を作って見せてくれた。


曜「……ホエルコ、思いのほか器用だね」
 「ボォォォォ」
113 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 12:55:54.55 ID:8koyJWg30

……それはともかく。

なんだか、嫌な予感がしてくる。

そんなところに──


 「おーい……!!」

曜「?」


女性の声が聞こえて来てその方向に振り返る。

──とは言っても、もちろん海の上なので、立っているなんてことはなく、スターミーに掴まって泳いでいるビキニのお姉さんが視界に入る。

どうやら一般トレーナーのようだ。


ビキニのお姉さん「こんにちは」

曜「こんにちは、何かご用ですか?」

ビキニのお姉さん「あなたさっきから海の中を確認してたから、もしかしてサニーゴを見に来た人かと思って……」


ズバリな話を振られる。


曜「! はい、そうなんですけど……」

ビキニのお姉さん「せっかく来てくれたのに残念なんだけど……今サニーゴが減っていて、ちょっと問題になってるの」

曜「それって……もしかしなくても、あのたくさんいるヒドイデたちが原因ですか?」

ビキニのお姉さん「ええ……貴重な観光資源……ってこともあるんだけど、最近フソウタウンからスタービーチの間で、ヒドイデが異常に増えてるの。有志を募って原因を探ってるんだけど……」


つまり、このお姉さんはその有志のトレーナーの一人と言うことだろう。


曜「何かわかりましたか……?」

ビキニのお姉さん「うーん……ホントに突然増えたのよね。それと、今まで野生で見られてたヒドイデよりもサニーゴの捕食能力が高い個体が多いのよね……」

曜「……捕食能力が高い?」

ビキニのお姉さん「ヒドイデって、サニーゴを食べるんだけど……」


確かにそんなことが図鑑に書いてあったっけ。


ビキニのお姉さん「集団で一匹のサニーゴを囲い込んだり、異様にレベルの高い個体が居たり、ちょっと不自然なくらいにサニーゴが狩られてるのよね」


……それって……。


曜「……誰かが訓練されたヒドイデを逃がしてる……とか?」


──いや、これはさすがに考えすぎかな……


ビキニのお姉さん「……そうじゃないかって考えてる人も少なくないわ。……だけど──」

曜「──なんのためにそんなことを?」

ビキニのお姉さん「……そうなのよね」


サニーゴを減らすことに意味があるのか、ここが問題だ。

私は図鑑を開いて、サニーゴの項目を確認する。


 『サニーゴ さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:5.0kg
  暖かく 綺麗な 海に 生息する ポケモン。 サンゴの 
  枝は 太陽の 光を 浴びると 七色に キラキラ 輝き
  とても 綺麗な ため 宝物としても 人気が 高い。』
114 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 12:57:35.93 ID:8koyJWg30

捕まえる……とかならともかく、食べられてしまったら、誰も得しない。


曜「…………」


私は思わず眉を顰めた。


ビキニのお姉さん「結局誰かがやってるんだとしても、理由がわからないのよね。とりあえず、強い個体をどうにかこうにか、倒したり捕まえたりしてるんだけど、キリがなくて……」

曜「……この数ですもんね」


水底を蠢く、大量のヒドイデたち。

僅かにポツポツと見えるサニーゴたちも脅えて、すぐに岩の隙間に逃げ込んでしまう。

名物の景観は見る影もないと言ったことになっている。


ビキニのお姉さん「だから、もしサニーゴの海を見に来たんだったら、残念だけど……」

曜「そうですか……」


せっかく、海に出たのに、幸先悪いなぁ……。


ビキニのお姉さん「私たちも全力で原因は探るから……あなたも、もし何かわかったら、フソウタウンの本部に来てくれると助かるわ」

曜「わかりました」


そう返事をすると、お姉さんはスターミーに掴まったまま、離れていった。


曜「……うーん」
 「ゼニ」「キュゥ?」「ボォォ」


ゼニガメ、ラプラス、ホエルコと一緒に海を進みながら頭を捻る。


曜「やっぱ、明らかに不自然だよね」
 「キュゥ?」

曜「突然増えた。しかも強いヒドイデがたくさん」


ヒドイデからしたら食事をしているだけ、かもしれないけど……。

それもサニーゴを狩りつくしてしまったら、餌がなくなったヒドイデはどうなるか。

明らかに自然のバランスを欠いている。不自然な程に。

うまく言葉にならないけど……そうだなぁ──


曜「……何か悪意──みたいなものを感じる気がする」
 「…キュゥ」


私の言葉にラプラスが静かに頷く。


曜「ラプラスもそう思う?」
 「キュゥ」

曜「……そっか」


私は少し、考えてから、


曜「……できる範囲で私たちも原因を探ってみようか」
 「キュゥ」「ゼニ」「ボォォォ」


ヒドイデ対策に協力することにしたのだった。



115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:00:25.96 ID:8koyJWg30

    *    *    *





曜「──とは言っても……」


私は適当に捕まえたヒドイデを並べながら、ラプラスの上で頭を捻る。


曜「……とりあえず、捕まえたりはしてみたけど、原因らしい原因もよくわからない……」


私は、ポケモン図鑑を開く。


『ヒドイデ♂ Lv.11
 ヒドイデ♀ Lv.16
 ヒドイデ♀ Lv.8
 ヒドイデ♂ Lv.25』


曜「レベルも性別もバラバラだし……。いや、むしろバラバラなのが問題なのか」


通常個体よりも強い個体がうろついてるから、サニーゴが一方的に襲われるわけだし。

でも、捕獲できるってことは、以前はどうだったのかはともかく、現在誰かのポケモンってわけではないだろう。

人が所持しているポケモンは、逃がしたりしない限り、捕まえたときに使ったもの以外ではモンスターボールに入ってくれないのだ。

そうなると、誰かから直接指示を受けてるとも考えづらいし……。


曜「うーん……とりあえず、このままフソウタウンまで捕まえるなり倒したりするくらいかなぁ……」
 「キュウ」


気付くと、ラプラスが鳴きながら、私を振り返っていた。


曜「ラプラス、どうしたの?」
 「キュウ」

 「ゼニ」


私が訪ねると、ラプラスは近くを泳いでいるゼニガメを呼び寄せ、


 「キュキュゥ」
 「ゼニ」

何か会話をしたあと、ゼニガメがラプラスの上に登って来る。


曜「?」
 「ゼニ」


そして、ラプラスの背の上に並べたボールを、

 「キュウ」

ラプラスの指示でゼニガメが並び替える。


曜「……ん?」


図鑑でその順番を確認すると、

『ヒドイデ♀ Lv.8
 ヒドイデ♂ Lv.11
 ヒドイデ♀ Lv.16
 ヒドイデ♂ Lv.25』


曜「レベル順?」
116 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:01:32.41 ID:8koyJWg30

ラプラスは非常に賢いポケモンとしても有名だ。

もしかしたら、何かに気付いたのかも……?

私は目の前のボールの開閉スイッチを押す。


「ヒド」「ドヒ」「ヒドド」「ドイデ」


飛び出したヒドイデ達を見て、


曜「……あ」


あることに気付く。


曜「レベルが高いほど、体が大きい」


考えてみれば当たり前のことだった、

強い個体ほど多くの餌が捕食できるってことだから、その分身体も大きくなるということだ。


曜「…………」


元々この海には大なり小なりヒドイデは生息していた。

しかし、最近になって突然強い個体のヒドイデが増えた。

──もし、さっきお姉さんと話した通り、誰かが意図的に強いヒドイデを放っていたのだとしたら、


曜「……相変わらず理由はわからないけど、確認したいことは出来たかな」


ヒドイデ達をボールに戻して、

私は近くでぷかぷかと浮いている、ホエルコに飛び移り、再びゴーグルを装着する。


曜「ゼニガメ、ラプラス、付いてきて」
 「ゼニ」「キュゥ」


私の言葉でゼニガメが再び海に飛び込む。


曜「ホエルコ、“ダイビング”」
 「ボォォ」


そして、私たちは海へと潜っていく──。





    *    *    *





視界が深い蒼色に染まる。

その海底には未だ、大量のヒドイデ。

──だけど、

岩場──サニーゴの隠れ場──に群れている、ヒドイデと、

その輪から外れていてるヒドイデを見比べると……。

……
117 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:03:19.79 ID:8koyJWg30

明らかに、輪の外にいるヒドイデは身体が小さい。

逆に言うなら、大きいヒドイデはより多くのサニーゴを狩る事が出来る強い個体、それが何故か“群れている”。

つまり、小さいヒドイデたちと大きいヒドイデたちはそもそも“違う群れ”なんじゃないだろうか?

何故そんなことが起きるのか? 大きくて強いヒドイデたちはなんらかの原因で“外から混じり込んだ群れ”だからでは?

──つまり。


今回の事件。イレギュラーなのはあくまで大きなヒドイデたち。

元から居たヒドイデたちが大量発生したのではなく、大きなヒドイデがサニーゴを狩るために、どこかから混入したと考えた方がいいのかもしれない。

相変わらず『何故?』の部分に回答は出ないが、とにもかくにも、体の大きなヒドイデを優先的に捕まえるなり、倒したりすることが、解決への近道だと言うヒントにはなっている。

私はパッとホエルコから放れる。

そして、ホエルコに指示を出す。

──水中で腕を振り下ろす。


“のしかかり”
 「ボォォォオ」


ホエルコがヒドイデたちの群れに圧し掛かる。

 「ドヒ!?」「ドドヒ!?」


突然、真上からの物陰に驚いたヒドイデたちがのそのそと岩場から離れる。

 「ボォォォォ」

ホエルコの“のしかかり”が、すんでのところでかわされて、水底の岩の上をホエルコが跳ねる。

ヒドイデ達が驚いて散り散りになって逃げる中、

それでも、堂々と残って戦闘態勢を取っている個体達も居る。

ことごとく大きい個体。

──今度は拳を作って、下に向かって打ち付けるように腕を下ろす。


“ヘビーボンバー”
 「ボォォォォ」


今度は逃げない、気の強いヒドイデ達を薙ぎ払いながら、

ホエルコが岩に向かって落ちていく。

そして、再び岩にぶつかり跳ね──


 「ボオオオオオ……!!!」


と、思ったらホエルコが苦しみ始めた。


曜「!?」


私は咄嗟に図鑑を開くと『どく』の表示。

……毒? ヒドイデ達に刺された?

でも、攻撃姿勢とかは見られなかったし……。

 「キュウ」

やや混乱した、私の肩をラプラスが突っつく。

ラプラスの方を振り返り、彼女の視線を確認して、その先を見ると、ホエルコがぶつかった岩──いや、岩だと思っていたものがもぞもぞと蠢いていた。

あれ──岩じゃない……!!
118 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:04:11.50 ID:8koyJWg30

 「キュゥゥゥ〜〜♪」


私が指示をするまでもなく、ホエルコのサポート姿勢に入ったラプラスが“いやしのすず”でホエルコのどくを回復する。

その間に私は図鑑を開き、動き出した岩だと思っていたものを確認する。


 『ドヒドイデ ヒトデナシポケモン 高さ:0.7m 重さ:14.5kg
  12本の 足で 中身を守る ドームを作る。 その 
  ドームは  頑丈で 更に その表面に 毒針を 持つ。
  近付いてきた 相手は 足の 先端にある 爪で 追い払う。』


ポケモンだ──!!

ヒドイデの進化系、ドヒドイデ。


──恐らく、あれが群れのボス……!!


恐らく今ホエルコが毒を受けたのは、ドヒドイデの“トーチカ”のせいだろう。

攻撃を防ぐと同時に接触した相手をどく状態にする技だ。


──なら、あいつさえ倒しちゃえば──


そう思って図鑑を開くと──

『ドヒドイデ♂ Lv.51』

──と、表示されていた。





    *    *    *





──レベルが高すぎる。

そう思った瞬間、

私のすぐ横を何かが掠める。

 「キュウゥゥ!!?」

声で気付き振り返ると、


 「キュ、キュゥ…」


ラプラスが一撃で戦闘不能になって、水中を力なく漂っていた。

恐らく今の攻撃は“ミサイルばり”……!


──真っ先に回復手段を潰してきた……!? 不味い……一旦退却……!!


ゼニガメとホエルコに指示を出そうと、辺りを見回すと


曜「!?」


気付かないうちに、紫色のトゲトゲの機雷のようなものがそこら中に浮遊していた。


──たぶん、ヤバイ。何かわからないけど、かなりヤバイ!!
119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:05:57.08 ID:8koyJWg30

ラプラスをボールに戻しながら、ゼニガメとホエルコの様子を確認すると、

二匹とも既に水中でふらふらとしていた。

立て続けに起こる予想外のことに対処するべく図鑑を開こうとした瞬間──

──自分の左足辺りにビリビリとした、激痛が走った──


曜「……っ……!?」


思わず息を吐きそうになったが、すんでで堪える。

痛みの先を見ると、先ほどから漂っていたトゲトゲが私の左足に接触していた。


──これ、“どくびし”……!!


ラプラスに気を取られているうちに、辺り一体に“どくびし”を撒かれて、

ゼニガメもホエルコもそれに触れて、毒で弱らされている。


──ホンットに不味い!!!


私はすぐさま、海上に浮上するように、手を下から上に振って、ゼニガメとホエルコに指示を出す。

──が、

 「ゼ、ゼニィ…」「ボォォォ…」

ゼニガメもホエルコもいつもの調子で泳げていない、

ふと、ドヒドイデの方を見る、と

ドヒドイデはドーム状の触手を少しだけ持ち上げて、

──笑っていた。

不気味に。

嘲るように。

そして、想った。


──完全に相手の方が格上だ──


そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、左足の激痛が勢いを増して主張を始める。

本格的に毒が回ってきたのかもしれない。


──あはは。……これ、もう……ダメ……かも……
 「ゼ、ゼニィ…」


ゼニガメが近付いてきて、私の口元で“あわ”を出す。

息継ぎに使えってことかな?

ありがと……ゼニガメも毒で苦しいのに……。

落ちていく意識の中で、


──ごめん……未熟な……トレーナー……で……


あのときと同じように、

ゼニガメのボールを、皆底で拾い上げた取ったあのときと、同じように。


──ゼニガメ……ホエルコ……逃げ……て……
120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:07:27.34 ID:8koyJWg30

──逃げて──と、

キミたちだけでも助かって、と

祈って──。

私は力なく手を振る。

──瞬間。

脇の辺りを何かが、

掴んだ。

そのまま、

引っ張りあげられる──





    *    *    *





──ザバァ、


曜「……ぁ……っ……は…………??」


霞む視界に、太陽の光が見える気がする。


 「“どくびし”から“ベノムトラップ”、野生にしては、あんまりに手際がいいね、あのドヒドイデ」


消えかけの意識の外から、何処か懐かしい声がする。


曜「だ……れ……」

 「今、毒消し使ったから。……あーこれポケモン用だけど……まあ、大丈夫でしょ」

曜「…………??」

 「曜、後は私がどうにかするから、そこで休んでるんだよ?」

曜「……ぅ…………」


その声を最後に、私の意識は──プツリと落ちた。





    *    *    *





 「ギャラドス、曜のことお願いね」


シュノーケルを口に咥え、再び海中へと潜る。

そしてすぐさま、腰からボールを三つ放つ。

 「ボ〜ゥ」「ボンッ」「…」

それぞれ、ママンボウ、ニョロボン、ドククラゲ

私は両手を広げるように動かし、


──散!!
121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:09:04.65 ID:8koyJWg30

三匹を散開させる。

 「ボ〜ゥ」

ママンボウは“いやしのはどう”でホエルコとゼニガメの回復、そして回収。

 「…」

毒タイプのドククラゲには“どくびし”の回収をしてもらう。

そして、ニョロボンは、


 「ボンッ!!!」


動かないドヒドイデの触手に“ばくれつパンチ”を叩き込む。


 「ドイヒ…」


効果はいまひとつのようだ……。

忌々しそうに、ドヒドイデが僅かに開いた触手のドームに、


 「ボンッ!!」


すかさず、ニョロボンが手を差し込む


 「ドヒッ!!?」


驚いたドヒドイデはすぐさま、ニョロボンに自らの“どくバリ”を突き立てて応戦してくる、が──


──上等!! でも技はもう決まってるから、


私はそれだけ確認して、海上にあがっていく。


 「ぷはっ……」


シュノーケルを外す。

そして、その背後で、

ザバァ──と音を立てて、ドヒドイデが水中から飛び出した、


 「“ともえなげ”はそっちが組み付いてくれた方がうまく行くしね」


続け様、宙を舞う、ドヒドイデに向かって


 「ギャラドス!! “はかいこうせん”!!」
  「ギシュァァァア!!!」


ギャラドスの咆哮と共に飛び出した、破壊の一閃が、

空を突きぬけ、


 「ドヒッ!!!!!!」


無抵抗なドヒドイデを貫く。


  「ドヒ…」

 「よっし」
122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:12:16.42 ID:8koyJWg30

私はそのままギャラドスに飛び乗り、

その背の上から、振りかぶって、空のダイブボールを放る。

──パシュン。

音と共にドヒドイデはボールに吸い込まれて、海面に落ちていった。





    *    *    *





 「──ミャァミャァ」

──と、キャモメが鳴く声が聞こえる。

そして、水を切りながら、進むいつもの波の音、

──いや、ラプラスのそれよりは力強い、かな。


曜「──う……ん……」


私が目を開くと、差し込んでくる赤い夕日が眼を焼いた。


曜「……まぶし……」

 「あ、気が付いた?」


すぐそこから、聞き覚えのある声がした。

私は上半身を起こそうとして、


曜「……っ゛……!!」


左足に痛みを感じて、思わず声にならない声が漏れる。


 「まだ動いちゃダメだよ。ドヒドイデの毒は猛毒なんだから……。応急処置はしたけど、ちゃんとポケモンセンターで見てもらってからだね」

曜「あ……うん……」


横たわる私の頭上の方。藍色のポニーテールを海風に靡かせながらギャラドスに指示を出すトレーナー──果南ちゃんに向かって、私は力なく返事をした。


曜「……また、助けられちゃった……」


自分から解決のために飛び出したのに、ゼニガメのとき同様──また誰かに助けられた。


果南「また?」

曜「……あ、ゼニガメとホエルコは!!? ……っつぅ……!!!?」


思い出して、跳ねるように身体を起こそうとして、再び主張してきた痛覚に悶える。


果南「だから、動いちゃダメだって。二匹とも無事だよ」


そう言って果南ちゃんが私に二匹が入ったボールを差し出してくる。


果南「二匹とも、ママンボウが回復したけど、一応ポケモンセンターで見てもらってからの方がいいかな」

曜「あ、ありがと……」

果南「二匹とも、随分“どくびし”に触れてたからね」
123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:13:22.21 ID:8koyJWg30

曜「……」

果南「余りに多く毒を受けてたけど……きっと、曜のところに“どくびし”が行かないように、してたんだろうね」

曜「……そっか」


私は話を聞きながら、空を仰ぐ──まあ、動けないから必然的に空を仰いでるんだけど。

そして、思い出したかのように、


曜「──果南ちゃん……久しぶり」

果南「ん? ……ああ、言われてみれば随分久しぶりかもね」


そんな私の言葉に、果南ちゃんはあっけらかんと返事をする。


曜「……助けてくれて、ありがとう」

果南「いや、ホント……たまたま通りかかってよかったよ」

曜「よく海の中にいる私たちに気付いたね……」

果南「あーまあ……ちょっと人を探しててね」


──なんで、人を探して海に潜るんだろう。

……そう疑問には思ったけど、今は正直そんなことよりも──


曜「果南ちゃん……」

果南「んー、なに?」

曜「……私……弱いね……」

果南「……。……あれは完全にイレギュラーだよ。あのレベルのポケモン相手によくやったよ。今回は運が悪かっただけ」


横になったままの私の頭を、ふわりと果南ちゃんが撫でる。


果南「まあ……旅をしてれば、いろんなことがあるから」

曜「……でも……果南ちゃんがいなかったら、今頃……」

果南「……ゼニガメやホエルコが、頑張ってたから、案外どうにかなったかもよ」

曜「…………」


彼女の言葉に、私は思わず押し黙ってしまう。

そんな私の様子を見てか、果南ちゃんは一度頭を掻いてから、


果南「まあ……こんなとき、なんて言ってあげればいいのか……。……私こういうの得意じゃないからさ。ごめん」

曜「あはは……やっぱり果南ちゃんだ……」


私は変わらぬ先輩トレーナーを見て、力なく笑った。


果南「……でもね、曜」

曜「何……?」

果南「今回は運が悪かったけど、その勇気は大切なものだから。誇って良いと、私は思うよ」

曜「果南……ちゃん……」

果南「……明らかに格上だってわかってても、ずっとポケモンたちに指示を出し続けていたのを私は見てたから」

曜「…………ぅ……っ……ぐす……っ……」

果南「……フソウタウンに着くまで、まだ時間あるからさ。……今はゆっくり休んでていいよ」
124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:14:07.11 ID:8koyJWg30

そう言って、再び前を向いて、私に背を向ける。


曜「……っ……ぅ……っ……」


──自分が情けなくて、悔しくて、ポケモン達にも申し訳なくて、声を殺して泣く私に気を遣ってくれたのかもしれない。

滲む視界の先で、

熱い目頭の先で、

夕暮れの背景に揺れる、紺碧のポニーテールが、とても印象的でした。


125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:15:07.54 ID:8koyJWg30



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【13番水道】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥●‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:20:01.82 ID:8koyJWg30

■Chapter011 『 † 堕天使 † 』 【SIDE Chika】





凛「千歌ちゃーん! 早く早くー!」

千歌「ち、ちょっと待ってください〜……」


ロープウェイから降りるやいなや、弾けるように飛び出した凛さんが、私に向かって早く来るように促している。


千歌「ジム戦の後なのに、体力ありすぎ……」
 「マグ…」


同調するように足元でマグマラシが呻く。

凛さんを追いかけるために、顔をあげると、


凛「これから、旅を続けるのにそんなこと言ってる場合じゃないにゃ!」

千歌「わわっ!」


目の前に戻ってきていた。


凛「いつでもどこでもポケモンが指示を出せる場所にいるとは限らないんだから、トレーナーはフットワークが軽くないとダメだよ!」

千歌「……は、はい……」

凛「じゃあ、天文台に先に行ってるから、早く来てね!」


凛さんはそれだけ残して、再び走り去って行ってしまう。


千歌「え、えー……」


──正直、今日だけで二度目の登山。

しかも途中にジムバトルを挟んだし……。

いい加減、膝が笑っている。


 「マグ…」


そんな私を心配してか、マグマラシが私の足先に頭をすりすりと擦り付けてくる。


千歌「あはは……大丈夫だよ、マグマラシ。ありがと」
 「マグ」


マグマラシにそう伝えてから、私はお昼にも近くを通った、天文台を目指して歩き始めた。



127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:21:20.14 ID:8koyJWg30

    *    *    *





──さて、私たちは再び流星山に登っています。

ジムでのあの闘いの後のことなんだけど……。



────────
──────
────
──


バトルに勝利し、凛さんから手渡された、バッジ──コメットバッジ。


千歌「……」


初のジムバッジを手にした感慨に浸っていたところ、目の前の凛さんから、


凛「ジムバッジはただ勝った証ってだけじゃないから、大切にしてね」


そうアドバイスを受ける。


千歌「? どういうことですか?」

凛「ジムバッジはポケモンリーグ公認の特注品でそれぞれ不思議な効力を持ってるものが多いにゃ。そして、そのコメットバッジもその一つ。持っているだけで手持ちのポケモン素早さがちょっとだけ上昇するんだよ」

千歌「……そうなんだ」


じゃあ、ダイヤさんのバッジにもそういう効果があるのかな……。


凛「他にもポケモンがトレーナーの実力を認める基準にもなるから、バッジの数に応じて他人から貰ったポケモンが言うことを聞きやすくなるとも言われてるよ」

千歌「なるほど……」

凛「えーっと、ここが初めてのジムだよね?」

千歌「あ、はい」

凛「じゃあ、このバッジケースも渡しておくから、大切に保管してね!」


そう言って凛さんから、ケース状のものを手渡される。

早速開いてみると、窪みが8つあり、一番左端には先程貰ったばっかりのコメットバッジのシルエットが見て取れた。

──カチリ

コメットバッジをそこに納めると、なんだか心地のいい音がした。


千歌「えへへ……」


なんだか嬉しくなってニヤけてしまう。


凛「えっへへ、改めてジム攻略おめでとう」

千歌「はい! ありがとうございます!」


ジムバッジの説明と激励もそこそこに、


凛「そういえば、千歌ちゃんはこの後どうするの?」


凛さんは私にそう訊ねて来る。
128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:23:44.97 ID:8koyJWg30

千歌「この後ですか?」

凛「すぐにコメコに向かうのかなーって」

千歌「こめこ……?」


余り聞きなれない単語に首を傾げる。

──そう言えば先生が授業で言ってたような気もしなくはないけど──


凛「あ、えっとね。ホシゾラシティの西にある町、コメコタウンのことだにゃ」

千歌「あ、そうだ! ダイヤさんが授業で言ってた! モーモーミルクの町!」

凛「そうそう! あそこのモーモーミルクは絶品だよね!」


凛さんが楽しそうに同調する。

確か牧場の町って言ってた気がする。


凛「それで、どうするにゃ?」

千歌「んーっと……どっちにしろ、東は海だから、西のコメコタウンに行くとは思いますけど」

凛「それじゃ、ここを発つのは明日の方がいいかもね」

千歌「? 何かあるんですか?」


私が訊ねると、


凛「うん。コメコタウンに行くには、『コメコの森』を抜けないといけないから」


凛さんはそう答える。


千歌「森……」

凛「穏やかな森ではあるんだけど……それなりに広いし、大きくはないけど川も流れてるから。暗がりの中、初心者が歩くにはちょっと大変なんだよ」

千歌「なるほど」


ふと、ジムの窓から外を見ると、日が傾き始めている。


千歌「──それなら、今日はこの町で休もうかな」


私がそう呟くと、


凛「じゃあ、今日はこの町で過ごすってことだよね! なら、星! 見に行こっ!」


凛さんはご機嫌になって、声をあげた。


千歌「え、星?」

凛「せっかくホシゾラシティに来たんだから! 流星山から夜空を見てかなくちゃ損だよ!」


矢継ぎ早にそう捲くし立てて、私は手を引かれる。


凛「さぁ! レッツゴーにゃ!」

千歌「え、ちょ、まっ……!! せ、せめて、ポケモンセンターによらせてくださいぃーーーっ!!」


──
────
──────
────────

129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:25:22.02 ID:8koyJWg30


──というわけで、ポケモンセンターで手持ちを回復させたあと、この流星山に再び登ってきたわけです。

天文台の前では凛さんが、その場に留まったまま、忙しなく足踏みをしていた。


凛「千歌ちゃん! 遅いにゃー!」

千歌「す、すいません……」


この人、元気すぎる……。


凛「じゃあ、もうちょっと高いところまで行くよー。お昼に音ノ木を見た場所まで」

千歌「あ、はーい」


──とは言っても、

私は夜空を仰望する。


千歌「……綺麗」
 「マグッ」


すでに満天の星空が煌いている。

子供の頃、果南ちゃんやお母さん、お姉ちゃんたちと見た、あの星空と同じだ。

今はこうして、自分のポケモンたちと共に、見れていることがなんだか不思議な気分。

ぼんやりと空を仰ぎ見ながら、歩いていくと、程なくして件の場所に到着する。

──もう既に爛々と輝く星空は堪能した、と思っていたんだけど──


千歌「……わぁ……っ!!」


夜空の中に薄暗く聳え立つ一本の大樹──音ノ木。

その周りに色とりどりの光がイルミネーションのように輝く、幻想的な光景がそこにはあった。


千歌「あの光……もしかして、メテノですか?」

凛「うん、そうだよ! 今はちょうどメテノの発生期だからね! 世界の中でもこんな風にメテノが見られる場所は珍しいんだよ!」


満天の星空をバックにひっそりと暗闇の先に聳える大樹と、たくさんのイルミネーション。

確かにこれは絶景かも……!


凛「朝一番でジムに挑戦しに来た子にもオススメしたんだけどにゃー」


凛さんがそう呟く。


千歌「……あ、それってもしかして梨子ちゃん?」

凛「ん、知り合い?」

千歌「一緒に最初のポケモンと図鑑を貰った一人です」


──厳密にはちょっと違うけど


凛「なるほど……」

千歌「梨子ちゃんもジムは突破したんですよね」

凛「うん、割とあっさり」

千歌「そっか……負けてられないな」
130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:26:24.14 ID:8koyJWg30

そう呟く私に反して、凛さんは


凛「……」


少し複雑な顔をしていた。


千歌「……どうかしたんですか?」

凛「ん、うーん……ちょっと梨子ちゃんを見てると、焦りすぎてて心配に思ったと言うか……」

千歌「……?」

凛「……ま、こういうのはきっと取り越し苦労だよね」

千歌「は、はぁ……」


なんだろう……?

……そういえば、ジムリーダーは地方のトレーナーを育てる機関でもあるって花丸ちゃんが言ってたっけ。

私も含めて、ジムリーダーは戦いながら、そのトレーナーがどう成長するのかを見守ってくれる人たちなのかもしれない。

そんなことを考えていたら──

──すんすんと、


千歌「?」

凛「……?」

千歌「人の……声……?」


女の人がすすり泣くような……。


凛「誰かいるのかにゃ?」


凛さんが辺りを見回していると、今度は


 「キィアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

千歌「!?」


それは泣き叫ぶ声に変わる。


千歌「な、なに!!!?」

凛「……これって」


凛さんは心当たりがあるみた──

突然、頭──いや髪を後ろから何かに引っ張られる


千歌「!!!?!?!?」


驚いて、叫びにならない叫び声が出る。


 「マグッ!!」


主の急変にマグマラシが臨戦態勢になるが、


凛「落ち着いて千歌ちゃん」


落ち着いた調子のまま、凛さんが声を掛けてくる。
131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:27:18.66 ID:8koyJWg30

千歌「り、凛さん……い、今……」


私は恐る恐る後ろを振り返ると、


 「ムマァァァァァッ!!」

千歌「わひゃぁっ!!?」


闇に溶けるかのよう体色で、浮遊している何かが眼前にいた。

私は驚いて尻餅をつく。


千歌「いったぁ……!!」
 「マグッ!!」


軽く涙目になりながら


千歌「マ、マグマラシ……お、おばけ……」


マグマラシに抱きつく。


凛「うにゃ!? 大丈夫!? お化けじゃなくて、ポケモン……あ、でもゴーストタイプだから、ある意味お化けかな……?」

千歌「ポ、ポケモン……?」


私はポケモン図鑑を開く。

 「ムマァ〜」


 『ムウマ よなきポケモン 高さ:0.7m 重さ:1.0kg
  夜中に 人の 泣き叫ぶような 鳴き声を 出したり
  いきなり 後ろ髪に 噛み付き 引っ張って 人の
  驚く 姿を見て 喜んでいる イタズラ好きな ポケモン。』


千歌「な、なんだ……びっくりした……」

 「ムママ♪」


ムウマは驚かせるのに成功したことに満足したのか、ご機嫌そうに飛び回っている。


凛「……でも、ムウマなんてこの辺りで見たことないにゃ」

千歌「え? ……じゃあ、これって誰かのポケモンってことですか?」


私がそう言った直後、


 「よくぞ見破ったわね!!!!!」


上空から声が響く。


千歌「こ、今度は何……?」

 「とうっ!!」


声と共に、人影が飛び降りてくる。


 「シュタッ!!」


自分で着地音言ってるし……。
132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:28:50.45 ID:8koyJWg30

 「ふ、決まった……」

千歌「…………」

 「全く待ちくたびれたわよ、『 † 火鼠の衣の所有者 † 』よ」

千歌「え、えーと……どちら様ですか……」

 「相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら? 堕天使ヨハネの前でそのような狼藉が許されると思っているの?」


いや、そう言いながら自分から名乗ってるし、


千歌「えーっと……千歌です。ヨハネ……ちゃん? って言うのかな?」

ヨハネ「さぁ、トレーナー同士、目が逢ったら始まることと言えば!!」

千歌「え、えぇ?」

ヨハネ「……クックック……!! さぁ、サバトをはじめましょう……!!」


全然会話が成立しない。


凛「……オカルトガールかにゃ?」


ヨハネちゃんを見て、凛さんが一言。


ヨハネ「誰がオカルトガールよ!! と・に・か・く!! そこの三つ編みアホ毛!!」

千歌「三つ編みアホ毛……?」


私のことかな……。


ヨハネ「ヨハネとバトルしなさい!!」

千歌「え、あ、はい……」

ヨハネ「ムウマ!! “サイコウェーブ”!!」
 「ムマッ」

千歌「え、い、いきなり!?」


ボールから出てきたムウマと呼ばれたポケモンが、念波を発し、マグマラシを襲う。


 「マグッ」

千歌「マグマラシ!」


少しふらついたけど、ダメージは少ないみたいだ。


千歌「ふ、不意打ちなんて卑怯だよ!」

ヨハネ「勝負の世界に卑怯もへったくれもないわ!! ムウマ!! “くろいまなざし”!」
 「ムゥー」


ヨハネちゃんの指示でムウマの紅い瞳が、黒く染まる。


ヨハネ「クックック……これでもう、マグマラシは逃れられない──」

千歌「マグマラシ! “やきつくす”!!」
 「マグッ!!」


マグマラシの口から火炎が吹き出し、ムウマを焼き焦がす。


 「ムマッ!!? ムマァッ!!?」

ヨハネ「ちょ!!? ムウマ!!?」
 「ム…マ…」
133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:30:09.01 ID:8koyJWg30

炎で焦がされ、ムウマが地に落ちる。


ヨハネ「何してくれてんのよ!!」

千歌「……えー」


この子、理不尽……。


凛「ムウマ戦闘不能にゃ。他に手持ちは?」

ヨハネ「まだ居るわ!!」


凛さんもしれっと審判してるし……。バトルしているはずなのに、何故かチカだけ置いてかれている……。


ヨハネ「目覚めなさい『 † 変幻自在、激流の水蛙-スイア- † 』よ!!」

凛「……ちょっと、寒くないかにゃー」


口上と共に、ヨハネちゃんがボールを放る。


 「ケロッ」


出てきたのは水色のカエルポケモン。


 『ケロマツ あわがえるポケモン 高さ:0.3m 重さ:7.0kg
  胸と 背中から 出る 繊細な 泡で 身体を 包み 肌を
  守る。 弾力のある 泡で 攻撃を 受け止めて ダメージを
  減らす。 のんきに 見えて 抜け目のない 性格。』


千歌「ケロマツ……みずタイプのポケモン……!」


マグマラシの弱点タイプのポケモンだ


ヨハネ「よくぞ、見破ったわね…… † 叡智の端末を扱いし者 † ……ケロマツ! “みずのはどう”!!」
 「ケロッ」

千歌「マグマラシ! “かえんぐるま”!」
 「マグッ!!」


波状に広がるみずエネルギーに、炎を纏って回転したマグマラシで対抗する。

水と炎がぶつかり、

──ジュウウウウ、

と言う、水が煮える音と共に、

 「マグッ!」

マグマラシが波動に弾き飛ばされる。


千歌「マグマラシ!?」
 「マグッ…!!」


戦闘不能にはなっていないようだけど、さすがに相性不利。

分が悪い。


ヨハネ「“みずあそび”!」
 「ケロッ」


ヨハネちゃんの指示でケロマツが辺りに水を散布する。
134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:31:00.53 ID:8koyJWg30

ヨハネ「クックック……これで、炎の威力は更に半減よ……」

千歌「なら……!!」


マグマラシの技はほのおタイプだけじゃない……!!


千歌「マグマラシ!! “スピード──」


私が指示を出そうとした、

瞬間、

──ドォーーーン!! と、

轟音が辺りに鳴り響き、地が揺れる。


千歌「!?」


その轟音は、余りの衝撃からか、周囲の空気をビリビリと震わせている。

──ケロマツが何か……!!


ヨハネ「え、ちょ、え!? な、なに、今の!!?」

千歌「ほぇ……?」


予想外にも、ヨハネちゃんもその爆音に驚いて取り乱していた。


凛「二人とも! バトル中止!」

千歌「凛さん!?」


私たちの間に凛さんが割って入ってくる。


千歌「い、一体何が……」


辺りを見回してみるが、爆音は周囲の上空全体に轟き、あまりに音が大きすぎて、どこからの音なのかがよくわからない。


凛「……緊急事態にゃ」


そう言って凛さんは──夜の闇の先にある、音ノ木の方を指差した。


千歌「……え」

ヨハネ「……嘘」


その指差す先には、

こちらに向かって、猛スピードで降り注ぐ、

七色の隕石たちだった。


135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:32:16.67 ID:8koyJWg30



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|●⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.12 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:4匹

 主人公 ヨハネ?
 手持ち ケロマツ♂ Lv.14 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.12 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.10 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:37匹 捕まえた数:20匹


 千歌と ヨハネ?は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:47:50.72 ID:8koyJWg30

■Chapter012 『龍の咆哮……?』 【SIDE Yoshiko】





──こちらに向かってくる七色の隕石。

あれは、恐らく……。


凛「メテノたち……」


私はポケットから白色のポケモン図鑑を取り出した。

 『メテノ ながれぼしポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.3kg
  コアは とても脆く 剥き出しの ままだと  直に 消滅してしまう。 
  急いで ボールに 入れれば 無事。 野生の モノは 外殻を 作るため
  餌である 大気中の チリを 求めて オゾン層へと  戻っていく。』


千歌「あ、あれ!? それポケモン図鑑!?」


三つ編みアホ毛が、私──ヨハネの図鑑を見て驚きの声をあげた。


千歌「もしかして、私たちより先に、最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た、梨子ちゃんと別の子って……!」

ヨハネ「ふふふ……バレてしまっては仕方ないわね……私は──」


──ドォオオーーーンと、

名乗りを掻き消すように再び大地が揺れる。


ヨハネ「ちょっと! 今ヨハネがかっこよく名乗ってるところなのに……」

凛「だから、緊急事態なんだって!」

千歌「そうだった! 一体何が……」


三つ編みアホ毛──もとい千歌はそう言う。


凛「メテノたちが降って来てるんだよ!」

ヨハネ「降って来てるって……」

千歌「じゃあ、さっきの揺れって……」

凛「メテノが地上にぶつかって“だいばくはつ”したんだと思う……。危ないから一旦バトルは中止、二人とも建物の中に避難して──」


凛と呼ばれていた人──えーっと、確か割と有名人。ホシゾラシティのジムリーダーだったかしら──の話を聞きながら、考える。

──“だいばくはつ”。

現在確認されているポケモンのわざの中では最も威力の高い技だったと思う。

その代償に、ポケモンは戦闘不能に……。

……?

ちょっと待って、さっきの図鑑の通りなら……。


ヨハネ「……!!」


私はとあることに思い至り、咄嗟に駆け出して、


千歌「ヨハネちゃん!?」

凛「!? ち、ちょっと待って!?」

ヨハネ「ヤミカラス!!」
 「カァッーーー!!」
137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:49:03.53 ID:8koyJWg30

千歌「ヨハネちゃん!?」

凛「!? ち、ちょっと待って!?」

ヨハネ「ヤミカラス!!」
 「カァッーーー!!」


先ほど、上空から飛び降りたときに、その場で旋回しながら待っているように指示を出した、ヤミカラスを呼び寄せ、

その脚を掴んで飛び立つ。

──ぐんぐんと地表を離れ、山肌を上空から観察すると、


ヨハネ「……いた!」


さっきの爆音に相応しく、山を穿ったクレーターの中心に、メテノを見つける。

──そのメテノは、弱々しく光っていた。


ヨハネ「……っ!!」


私は考えるよりも先にメテノに向かってボールを放っていた。





    *    *    *





千歌「ヨ、ヨハネちゃん……??」


突然飛び立ってしまった、ヨハネちゃんを見て呆然とする。


凛「千歌ちゃん!!」

千歌「……! は、はい!」


すぐに凛さんの声で意識を呼び戻される。


凛「危ないから、一旦天文所に避難してて。いい?」

千歌「え、えっと……」


凛さんから二回目の避難警告を受ける。


千歌「ヨ、ヨハネちゃんは……」


私の言葉に対して、凛さんは両肩を掴みながら、私の目を真っ直ぐ見て、


凛「あの子は凛が連れ戻すから!」


そういう。

具体的な説明ではなかったけど、その剣幕でわかる。

それくらい危険な事態が起こっているんだ。


千歌「は、はい……!」
138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:50:39.85 ID:8koyJWg30

私が頷くのを確認すると、凛さんはすぐさま、ヨハネちゃんが飛び立った方向に駆け出した。

私は言われるがままに天文所に向かって駆け出す。

……でも、なんでヨハネちゃんは、飛び出してしまったんだろう……?

さっき図鑑を見てたけど……。

小走りで天文所に足を運びながら、改めて図鑑のメテノのページを確認する。


千歌「……あれ?」


すると、メテノの図鑑の項目に『りゅうせいのすがた』と……『コア』という項目があるのに気付く。

──そして、コアの項目を見ると……。


千歌「……!!」
 「マグ?」


──私は踵を返す。


千歌「マグマラシ、戻って」
 「マグ」


マグマラシをボールに戻し、


千歌「出てきて、ムックル!」


代わりにムックルを出す。

 「ピピピッ」


千歌「ぶっつけ本番だけど……!! ムックル!! 私を持ち上げて飛べる!?」
 「ピピィ!!!!」


私の無茶振りにムックルは、任せろと言わんばかりに頼もしく返事をしてくれた。





    *    *    *





──パシュン。

メテノがボールに吸い込まれる。

クレーターを見つけたら、とにかく片っ端からボールを投げつける。


ヨハネ「次……!!」


私は次のクレーターを探す。

 「ケロッ!!」

そのとき、肩の上のケロマツが鳴き声をあげる。


ヨハネ「何!? 新しい子、見つけたの!?」


ケロマツの視線を追うと、上空を覆わんばかりの大量の七色の煌き。

次のメテノが降って来る。

──キリがない。
139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:51:44.83 ID:8koyJWg30

ヨハネ「……っく」


腰に下げたポーチから、げんきのかけら──戦闘不能のポケモンを回復させるアイテムを取り出して、


ヨハネ「ムウマ! ちょっと、忙しないかもしれないけど、手伝って!」


ムウマにアイテムを使い、空にボールを放る。

 「ムマー」


ヨハネ「“あやしいかぜ”で……どうにか勢いやわらげられる……?」
 「ムマァ〜」


ムウマは私の指示に従って、落ちてくるメテノたちに向かって風を起こす。

正直、怪しい技の使い方だけど……。

いや……。

──メテノたちを助けるには元の原因を絶たないと──

考えるのよ、善子……。……。


善子「……メテノたちは音ノ木から、山に向かって落ちてきてる……」


本来なら、音ノ木にぶつかって“リミットシールド”が剥がれたら、オゾン層に戻っていくはず。

なのに、それが何故か山に落ちてくる……。


善子「……原因は音ノ木にある?」





    *    *    *





凛「ハリテヤマ、“ふきとばし”! コジョンド、“アクロバット”!」


ハリテヤマが大きな両手で風を生み出し、メテノたちの勢いを殺したあと、

 「コジョッ」

クイックボールを持たせたコジョンドがメテノたちが着弾する前に、軽い身のこなしで山肌を飛び跳ねながら、ボールを当てる。


凛「サワムラー! 手伸ばして届く限界までボール投げられる!?」
 「シェェイ!!」


同じようにサワムラーにも捕獲を手伝って貰う。

視線を空に戻す。

已然、夜空は七色の光はこちらに向かって、いくつも落ちて来ている。

こういうとき自分を運びながら飛べるポケモンを持ってれば違うんだろうけど……!!


凛「……って!! 凛が弱気になってどうするにゃ!!」


パンと気合いを入れるために両の頬を叩く。

それと同時に、鳴き声が聞こえてくる。
140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:52:43.36 ID:8koyJWg30

凛「……にゃ?」

 「ピピピピピッ!!!」


聞こえた声の先に振り返ると、


千歌「頑張れ! ムックル!!」


先ほど、避難するように言ったはずの千歌ちゃんが居た。

少しだけ浮いた状態で、


凛「千歌ちゃん!? 凛、避難するように言ったよね!?」

千歌「言われました!! けど、このままじゃメテノたちが……!!」

凛「……!」


せっかく、言わないでおいたのに気付かれてしまった。


凛「千歌ちゃん、あのね……!!」


すぐさま、千歌ちゃんを説得しようと、言葉を発するが、

それを阻止するかのように、『pipipipipipipi』と、ポケットから音が鳴り出す。


凛「もう!! 今度は何!?」


ポケギアの着信音だ。

乱暴にポケギアを取る。


凛「今、緊急事態!!! 後に──」

 『所長!! 音ノ木からメテノたちが降って来ています!!』


天文所の職員からだった。


凛「知ってる!! それだけなら切るよ!?」

職員『それが音ノ木の方に素早いポケモンの影を確認しまして……!!!』

凛「ポケモン!? 種類は!?」

職員『調査中ですが、観測機によるとドラゴンタイプであることがわかっていまして……!!』

千歌「──凛さん!!」


通話に気を取られていたら、千歌ちゃんが凛の近くまで来ていた。


千歌「メテノたち、そのドラゴンポケモンにびっくりして、落ちてきてるんですか!?」


凛はその問いに一瞬迷う。

──どう答えるべきか。


千歌「凛さん!! 教えてください!!」


千歌ちゃんは叫ぶ。


千歌「今、チカに出来ることはないですか!?」

凛「……っ」
141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:53:43.58 ID:8koyJWg30

ジムリーダーなら、わざわざ目の前の子供を危険に晒してはいけないと思う。

だけど、


千歌「メテノたち!! 助けたいんです!!」


真っ直ぐな想いと言葉。それは皆、同じなんだ──そう感じて。

凛は腰からボールを放る。


 「〜〜〜」


そこからふわふわと私の手持ちのメテノが飛び出す。


凛「千歌ちゃん……!」

千歌「は、はい!」

凛「凛が今持ってる手持ちだと、千歌ちゃんやさっきの子みたいに空を飛べないから……せめて、お供に凛のメテノを連れて行って……!!」

千歌「!」

凛「敵はたぶん音ノ木の周辺を飛んでるドラゴンポケモン! 途中ヨハネちゃんにもそう伝えて!」

千歌「……はい!!」
 「ピピィー!!!」

千歌ちゃんがムックルに掴まったまま、飛び出す。

それを補助する形で凛のメテノが、千歌ちゃんのバッグの下から持ち上げる。

飛行の補助として。


凛「無理はしちゃダメだよー!! 追い払うだけでいいからねー!!」

千歌「はーい!!」


飛び立つ千歌ちゃんに向かってそう叫んだ。


凛「……はぁ。こんなの海未ちゃんにバレたらお説教待ったなしだよね……」


そうボヤキながらも、


凛「──ま、後で考えよっと」


七色の隕石たちに向き直る。


凛「……ここからは一匹たりとも、地上には落とさせないから」


──凛はボールを構えた。





    *    *    *





落ちてくるメテノたちを避けながら、


善子「ムウマ! “サイコキネシス”!」
 「ムマー!」


メテノのたちの勢いを殺して
142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:55:23.64 ID:8koyJWg30

善子「よし! てりゃ!」


ボールを投げて、捕獲する。


 「ケロッ」


肩の上でケロマツが鳴いたら、クレーター発見の合図


善子「ケロマツ!? どこ!?」
 「ケロッ」


ケロマツの指差す先を見ると、今にも光が消えそうなメテノが見える。


善子「……っ!! ヤミカラス!!」
 「カァー!!」


ヤミカラスに指示を出してクレーターまで、飛行するが──

どんどん光は弱くなる。

──間に合わない……!!

そう思った瞬間。


 「コジョッ」


機敏な動きの何かが、今にも命の灯火が消えそうなメテノに覆いかぶさった。


善子「な、何!? コジョンド……?」

 「コジョッ」


コジョンドは私を一瞥してから、軽い身のこなしで山肌を登っていく。

その手にはクイックボールを持っていた。


善子「! あのジムリーダーのポケモン!」


どうやら、この場はジムリーダーに任せてしまった方がいいのかもしれない、と思った矢先、


 「ヨハネちゃーん!!」


名前を呼ばれて、振り返る。


善子「アホ毛!?」

千歌「む、チカだよ! ……ってそれどころじゃなくって」

善子「それどころじゃなさそうなのは、あんたのムックルだと思うんだけど……」


ムックルは力が強いポケモンではあるけど、30cmほどの大きさで人間を運ぶのは、ビジュアル的にかなり重そうに見える。

──まあ、それを言ったらヤミカラスも大変そうだけど。


千歌「ダイジョブ! この子気合いならあるから! それに、凛さんのメテノもいるし!」
 「〜〜〜」


言われて、よく確認してみると、千歌の背負ったリュックの下から持ち上げるように『りゅうせいのすがた』のメテノがいる。
143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:56:28.21 ID:8koyJWg30

千歌「っと、それよりも! メテノたちが落ちてきてる原因!」

善子「何かわかったの?」

千歌「音ノ木の近くでドラゴンポケモンがメテノたちを脅かしてるみたい」

善子「……わざわざヨハネにそのことを伝えに来たってことは──」

千歌「うん! ヨハネちゃん! 止めに行こう! 音ノ木まで!」


真っ直ぐな瞳で、千歌はそう言う。


善子「──しょうがないわね。今回は特別に貴方をこのヨハネ様のリトルデーモンにしてあげるわ!」

千歌「……ほぇ?」


…………。


千歌「……えっと?」

善子「……一旦休戦して、共闘しようってことよ!!」

千歌「あ、うん!」





    *    *    *





善子「メテノたちにぶつかったら、一発アウトだからね!?」

千歌「うん! ってヨハネちゃん、前!!」

善子「!? ヤミカラス、左!!」
 「カァカァ!!」


すぐ横をメテノが過ぎって行く。


善子「……し、死ぬかと思った」

千歌「ヨハネちゃん! ダイジョブ!?」

善子「へ、へーきよ、これくらい!」


虹の閃光の中を2人と5匹で前進する。


善子「ケロマツ! “あわ”!」
 「ケロッ」


ところどころで泡を散布しながら、メテノの素早さを下げて進む。

気休め程度だけど、ないよりマシでしょ。


善子「そういえば、千歌!」

千歌「何ー!?」

善子「あんた、スカイバトルの経験は!?」

千歌「すかいばとる……初めてー!!」


まあ、そうよね。自分のポケモンだけで飛べないんだから。


善子「相手も飛んでる以上、完全に空中戦だから、マグマラシやトリミアン……? は使えないから、それは頭に入れて置いた方がいいわよ!!」

千歌「わかった!」
144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:57:21.30 ID:8koyJWg30

ヒノアラシのままだったら、ギリ肩に乗せて戦うのもアリだったかもしれないけど……。

まあ、そんなことは言っても仕方がない。

程なくして、虹の流星の先から、


千歌「……? 音……?」


驚いて騒々しいメテノたちの“それ”とは違った、叫ぶような甲高い音が聴こえる。


善子「……明らかにメテノの鳴き声じゃない……!!」


私は図鑑を開く。


善子「……どうやら、ボスキャラのお出ましのようね……」

千歌「……あれが、ドラゴンポケモン……!」


虹の光の先に、素早く飛び回るポケモンの姿を捉える。

薄い翼膜と鋭い眼光。そして、何より目を引くのは、頭に付いた大きな耳のような部位。


 「キィーキキキキキキ!!!!」


そして耳に不快感を与える甲高い鳴き声。


善子「……オンバーン!!」


 『オンバーン おんぱポケモン 高さ:1.5m 重さ:85.0kg
  月明かりすら ない 闇夜を 飛び回り 獲物を 襲う。 耳から 
  発する 超音波で 巨大な 岩をも 粉砕する。 非常に 
  乱暴な 性質で 目に 入る もの 全てに 攻撃する。』

ついで言うなら図鑑曰く、あのオンバーンはLv.51


 「キィーーキィーーー!!!」


私たちに気付いたのか、オンバーンがこちらに進路を向けてくる。

──ってか、

気付いたら、眼前に迫っている。


千歌「は、はやっ!?」


前歯を剥き出しにして、噛み付いてくる気満々だ


善子「!? ケロマツ! “えんまく”!!」
 「ケロッ!!」


ケロマツが白煙を噴出す。

 「ギィイイイ!!!」

耳障りな叫び声をあげながら、オンバーンが煙を突き抜けてくる。


善子「ムウマ!!」
 「ムー!!」
145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:58:21.75 ID:8koyJWg30

オンバーンが飛び出し、ムウマに前歯を立てる──が、

すり抜ける

 「キィィィイイ!!!!」

善子「やっぱり“いかりのまえば”ね! ゴーストタイプには不発よ!」

千歌「ヨハネちゃん、すごーい!」


でも、このスピードは厄介。レベルが高いだけはある。


善子「でも手の打ち様はいろいろあるわよね! ムウマ、“トリックルーム”!!」
 「ムマァー」


ムウマを起点にして、周囲の空間の時間が逆転する。


善子「格上相手には、やっぱりこれに限るわ!」

 「キィィィィィィイイイ!!!」


だけど、もちろん相手が止まるわけではない、

オンバーンは口をガバっと開けて、ムウマに“かみつく”姿勢を取る。


善子「千歌!! あわせなさい!!」

千歌「おっけー!!」

善子「ヤミカラス!!」
千歌「ムックル!!」

千歌・善子「「“フェザーダンス”!!」」


 「ギギキィィイィイイイ!!?!?」

二匹の羽が舞い踊り、オンバーンに纏わり付く。

“フェザーダンス”は相手の攻撃を著しく下げる技だ。

 「ギィィィィィイイイ!!!」

重なるデバフと歪んだ時空の中で、尚も激しく威嚇の声をあげ、噛み付く意思を見せてくるオンバーン。


 「〜〜〜」

千歌「? ヨハネちゃん! 凛さんのメテノが何か言ってる!!」

善子「!! その気があるなら、盾役任せるわよ!!」


そう声を掛けると、千歌のバッグの下で、メテノ外殻の割れ目からチカチカと光が漏れ出るのが見える。


善子「了承と受け取るわ! ムウマ、“サイドチェンジ”!!」
 「ムマァッ」


ムウマが叫んだ瞬間、ムウマとメテノの位置が『入れ替わった』

──ガキッ!!

オンバーンの牙がメテノの頑丈な外殻に噛み付き、鈍い音が響く。

 「〜〜〜」
 「キィェィィィイイイイ!!!!」

オンバーンが予想外の硬さに歯を立ててしまったためか、また激しく鳴き声をあげる。
146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:59:32.16 ID:8koyJWg30

千歌「す、すごい!! って、あれ? これチカ落ちない?」
 「ムゥ〜」

千歌「あ、こっちにはムウマがいるんだ」

善子「感謝しなさいよ! リトルデーモン!」


まあ、正直相性が悪いムウマであくタイプの“かみつく”を受けるのは、よろしくなかったし、メテノと入れ替わるは助かるんだけど。


善子「距離も取れたし、悪くないわ! ムウマ! “いたみわけ”!!」

 「ムー」


千歌のバッグの下で、ムウマの目が光る。


 「キギッ!!?」


途端、オンバーンは動きが目に見えて重くなり、メテノから離れて距離を取る。


千歌「な、何したのー!?」

善子「“いたみわけ”はお互いのHPを足して平等に分け合う技よ。こっちの方が圧倒的にレベルが低いから、オンバーンは相対的に大ダメージを受けたはずよ!!」

千歌「よ、よくわかんないけど、ヨハネちゃんすごい……!!」


オンバーンは距離を取りながらも旋回して、こちらを睨みつけてくる。

まだ戦意はあるようだ。


善子「なら、ケロマツ、“うちおとす”!」
 「ケロッ」


──バシュン、と

道中でメテノの砕けた殻でも拾ったのか、小さな石礫を泡で包んで相手の翼目掛けて撃ち出す。


善子「これでチェックよ……!!」


飛行の制限も加わればさすがに──

そう思った瞬間──


 「──ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


──それは──

──空気が裂けるような音だった。

ケロマツの飛ばした礫を消し飛ばすほどの空気の振動。


千歌「……!!!?!?」

善子「……っ!!!?」


途端、身体が浮遊感に包まれる。


千歌「……!!!」


何故か、視界の上の方で千歌が私の方に腕を伸ばしてきて、私の腕を掴む。

メテノも戻ってきて、私の下に潜り込む。


千歌「──!!! ──!!!!!」
147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:01:36.60 ID:oTWJbR4y0

千歌がパクパクと何かを言っている。

──そこでやっと気付く。

ヤミカラスがオンバーンの撃った“ばくおんぱ”で気絶しかけている。

千歌の方もムックルが相当ダメージを負ったらしく、かなり我武者羅に翼を振っているのが目に入る。

──千歌、あんた、私を助けてる場合じゃないわよ……!!


善子「──!!」


そこで気付く。声が出ない。

──いや、“ばくおんぱ”で一時的に耳が聴こえ辛くなっている。

咄嗟にポーチに手を伸ばし“いいきずぐすり”を二つ取り出し、

一個を千歌に投げ渡す。


千歌「!?」


説明してる暇は無い。

戦闘不能になったケロマツをボールに戻しながら──見て真似ろ、と言わんばかりにヤミカラスにスプレー状の回復アイテムを使う。


千歌「!」


それを見て気付いた千歌も倣うように、ムックルを回復させる。

それに伴い、赤い顔をして頑張っていた、ムウマの表情が緩むのを確認する。

ムウマがゴーストタイプで“ばくおんぱ”を透かせていなかったら、本当にやばかったかもしれない。

──いや、それでも結果が先送りになっただけだ。


千歌「──!!! ──!!!!」


わかってるわよ。

めちゃくちゃ不味い状況なのは。

 「────」

オンバーンがこちらを睨みつけている。

私は咄嗟に、掴んだヤミカラスの足先、叩く。

『トンツー トントンツートン ツートントンツートン トンツートンツートン』

うまく声が出せないし、ヤミカラスも聴覚をやられている可能性を考慮して、モールス信号を出す。

ヤミカラスが文句を付けるようにオンバーンを挑発する。

“いちゃもん”──同じ技を繰り返し出すことを封じる技だ。

とりあえず、これでオンバーンは“ばくおんぱ”を連発できない。

……まあ、これも問題の先送りでしかないけど。

私は一旦、チラリと千歌のムックルに目を配らせる。

 「──」

何言ってるか、聴こえないし、聴こえてもわからないけど、あんたはご主人様を守りなさい。


善子「──」
148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:02:44.70 ID:oTWJbR4y0

私は今度はムウマを一瞥して、手の平を後ろに向けて見せた。

 「──」

私のハンドシグナルを見て、ムウマが嫌そうな顔をした。

ご主人様の命令だから、聞きなさい。


善子「……」


そして、今度は人差し指と中指の二本だけ立てて、前を指す。

オンバーンに。

まるで銃口を向けるように、

この合図を確認した、3匹は、

動く──

ムックルが振り返り、ムウマと共に千歌を後退させる。


千歌「!!?!?!? ──!!!!? ──!!!!!!!」


そして、私とヤミカラスは前へ。

ムウマ、ごめんね。


千歌「──!!!!! ──ヨ──ネ──ん!!!! ──待──だめーーーっ!!!!!」


千歌の絶叫が途切れ途切れに聴こえてくる。

全く、今更戻ってこなくていいのよ、聴力。


善子「──ヤミカラスッ!! “ちょうはつ”!!」


私も声──出るじゃない。


 「カァーーーー!!!」

ヤミカラスが全力でオンバーンを挑発して、惹き付ける。


 「ギキィイイイイ!!!」

オンバーンが私たちに注意を向けてくる。

その横をすり抜けて、ヤミカラスは風を受けて、一直線に滑空する。

──言っておくけど、ヨハネは誰かのために生贄になってあげるほど、お人好しじゃないんだからね?


善子「ヤミカラス!!! 全速力で音ノ木まで飛んで!!!」
 「カァーーー!!!」


無茶は承知。

でも、現状全員が無事に生き残るにはこれしかない!!

 「〜〜〜」

さっきまでは私の身体の下に潜り込んでいた、メテノが今度は背中を押してくる。

背後で──パキパキと、何かが割れる音がしてから、一気に加速する。


善子「“ボディパージ”? 洒落た技持ってるじゃない! 貴方、私のリトルデーモンにならない!?」
 「〜〜〜」


自ら外殻を脱いで身軽になった、メテノに背中を押されて、音ノ木まで一直線に進む。
149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:03:52.71 ID:oTWJbR4y0

 「キシャアアアアアアアアアア!!!!!」


そろそろ、“トリックルーム”も切れた頃だろう。

背後からはオンバーンが猛追してくるのが気配でわかる。

スピード比べ……!!!

雲の隙間を抜け、闇に溶けていた大樹の樹皮がだんだんと鮮明に見えてくる。


善子「あと、ちょっと──!!」


そう言葉を零した、

瞬間、

──ガブリ、

体内に響く嫌な感触と音、

そして、右足の脹脛に激痛が走る。


善子「──っ!!!!!」


痛みの方向に目を向けて、

見ない方が良かったと後悔する。

──後ろから右足の脹脛にオンバーンが噛み付いていた。


善子「……っ!!!」


私は咄嗟に左足の踵で、オンバーンの顔を蹴る。


 「キィィィ」


オンバーンの発声体である、耳からまた耳障りな音がする。


 「〜〜〜」


今度は背中を押していたメテノがオンバーンを小突く。

だが、牙は抜けない。

──痛い。

──あ、やばい。

──オンバーンって“きゅうけつ”覚えたっけ

──“すいとる”だったかしら。

いろんなことが頭の中を過ぎる。

あとちょっとで音ノ木なのに──

そう思って、目を配らせた音ノ木から


──刃が飛んできた。


何を言ってるかわからない?

……私も何が起きたかわからないから、おあいこよ。


 「ギシャアアアアアアア!!!?」


空を薙ぐ刃がオンバーンに直撃し、オンバーンの牙が私の脚から離れる。
150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:04:45.58 ID:oTWJbR4y0

善子「……っ!! な、何が起きたの……?」


今の何……?

刃が飛んできたであろう方向を見ると、


善子「ポケ……モン……?」


音ノ木の太い枝の上に、

白い体毛と、頭の先に黒い鎌のような刃を生やしたポケモンが、四足で堂々と、立っていた。

初めて見るポケモンだった。


善子「…………」


──その毅然とした姿に、思わず息を呑む。

月に照らされる、そのポケモンの姿は余りに美しく、一瞬怪我の痛みすら忘れてしまう程で。


善子「……今のは……あのポケモンの“かまいたち”?」


 「ギシャアアアアアアアア!!!!」


そんなことを呟いていたら、私の横をオンバーンが猛スピードで、通り過ぎていく。

攻撃をされて、怒り狂っている。


善子「ま、まずっ!! 逃げて!!」


私は叫ぶが、オンバーンは猛スピードで音ノ木に近付き、

 「ギシャアアアアアアアアアアア!!!!!」

白いポケモンに噛み付こうとする、

──が、

 「……」

そのポケモンはひらりと身を交わす。


善子「“みきり”!?」


華麗なステップのまま、オンバーンの胸部を、自らの頭から生えている鎌の先で

一突きした。

 「キィァ!!」

オンバーンはよろけたが、頭部の耳を白いポケモンに向かって構える。


善子「……あっ!! 他の攻撃挟んでるから、“いちゃもん”の効果切れてる!! “ばくおんぱ”を撃ってくるわよ!! 逃げて!!」


私は白いポケモンに向かって叫んだ、

──が、それは不要だったことを知る。


 「キィァ…」

善子「え」


何故か、オンバーンの“ばくおんぱ”が……攻撃が不発した。


善子「い、今の……もしかして、“じごくづき”……?」
151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:06:03.00 ID:oTWJbR4y0

──“じごくづき”──受けた相手が音を発する技を出せなくなる技だ。

 「……」

白いポケモンがオンバーンを睨みつけると、

 「キィ…」

オンバーンは勝てないと思ったのか

 「キィー」

已然速いあの飛行速度のまま

逃げ出して、闇夜に消えていった。

オンバーンが見えなくなったのを確認してから、大樹に視線を戻す。


善子「…………」

 「……」


白いポケモンと目が逢う。


善子「……貴方は……」


名を問おうとしたら、


「──ヨハネちゃーん!!!」


後方から声が聞こえた。


千歌「ヨハネちゃん!!!」

善子「千歌……!! なんでこっちくるのよっ!!」


思わず振り返りながら、怒鳴る。


千歌「それはこっちのセリフだよ!! いや、こっちのセリフじゃないけど!!! なんで、囮になんかなったのっ!!!! 脚も怪我してるしっ!!!!」

善子「……それは」


更に言い返そうと思ったけど、


千歌「……あんなことしないでよ……っ……共闘するって……っ……言ったじゃん……っ……」


千歌は泣いていたから、それ以上の追い討ちは憚られた。


善子「悪かったわ……でも、あのポケモンが助けてくれて……」

千歌「……ぐす……っ……あのポケモン……?」


私が再び、音ノ木を振り返ると


善子「あれ……?」


既にそのときには、そこにはあのポケモンの姿はなかった。


善子「……一体……なんだったの……?」


私の呟きが、先ほどまでの絢爛なイルミネーションの奔流が嘘のように、

澄んだ闇夜の先──月と大樹だけの背景に、

静かに溶けて消えていった。
152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:08:50.71 ID:oTWJbR4y0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【大樹 音ノ木】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回● |    |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムックル♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:34匹 捕まえた数:6匹

 主人公 善子
 手持ち ケロマツ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      メテノ  Lv.49 特性:リミットシールド 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:41匹 捕まえた数:21匹


 千歌と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



153 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:03:40.48 ID:oTWJbR4y0

■Chapter013 『夜の帳は下りていく』 【SIDE Yoshiko】




千歌「これでよし……」

善子「……思ったより、器用なのね」


包帯が巻かれ、応急処置を施された右足を見て思わず関心する。


千歌「えへへ……昔っから、生傷が絶えなかったから、応急処置くらいならね」


──私たちはあの戦いの後、音ノ木の太い枝の大きな葉の上で休息を取っていた。


千歌「思ったよりは傷も深くはないみたいだし……しばらくは少し痛むかもしれないけど、ひとまず大丈夫だと思うよ」

善子「そ……あ、ありがと……」

千歌「えへへ、どういたしまして♪」


千歌が無邪気に笑う。

さっきまでの泣き顔が嘘のようだ。


千歌「ポケモンたちも回復しないとね。ムックル、ヤミカラス、ムウマ、メテノ、こっちおいでー」
 「ピピ」「カァ」「ムゥ」「〜〜」

千歌「ついでに善子ちゃん、ケロマツも回復してあげて」

善子「……そうね」


千歌が呼び寄せたポケモンたちに、順番にきずぐすりを吹きかける。

 「〜〜」

その際メテノはHPが回復したためか、再び外殻を身に纏い、元の『りゅうせいのすがた』に戻っていた。

私もポーチから取り出した、げんきのかけらでケロマツを回復させて、ボールから出す。


 「ケロッ」
善子「ケロマツ、お疲れ様」


自らのポケモンに労いの言葉を掛けていると、


千歌「ど、どうしたの!? ムックル!?」


隣で千歌が困惑の声をあげた。


善子「な、なに?」


私も釣られて、ムックルの方を見ると、


 「ピィ…」


ムックルは声をあげながら、ぷるぷると震えていた。


千歌「ムックル? 寒いの……?? ど、どうしよ……!!」

善子「千歌、落ち着きなさ──」


うろたえる千歌を落ち着かせようとしたら、
154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:05:17.67 ID:oTWJbR4y0

 「ケロロッ…!!」

善子「え!? ケロマツまで!?」


ケロマツも同じように震えだした。


次の瞬間

二匹は眩く光り。


千歌「…………あ」

善子「…………!」


一回り大きくなった、違う姿になっていた。


 「ピピイーー」「ゲロ…」


千歌共々、二人で図鑑を開く。


 『ムクバード むくどりポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.5kg
  森や 草原に 生息し むしポケモンを 狙って 飛び回る。
  群れで 行動し グループ 同士が 出くわすと 縄張りを 
  懸けた 争いが 始まる。1匹になると やかましく 鳴く。』

 『ゲコガシラ あわがえるポケモン 高さ:0.6m 重さ:10.9kg
  器用で 身軽な ポケモン。 泡で 包んだ 小石を 投げ 
  それを 30メートル 先の 空き缶に 命中させる ほど。 また
  その身軽さで 600メートルを 越える タワーも 1分で 登りきる。』


千歌「進化した……!!」

善子「あれだけの激しい戦いだったし……経験値が溜まって、進化したのね」

千歌「えへへ! ムクバードーっ!」
 「ピピイ!!」


千歌が喜びの声をあげながら、ムクバードを抱きしめる。

一方で、


 「ゲロ…」


ゲコガシラは静かに鳴き声をあげるだけだった。

らしいと言えばらしい。

私は思わず肩を竦めながら、図鑑をしまおうとして、

──画面に見慣れない表示が出ていることに気付いた、のだが、


千歌「ヨハネちゃん! 進化だよ! 進化ー!!」


千歌が有無を言わせず抱きついて来たため、詳しく確認する暇がない。


善子「わ、わかってるわよ! って、抱きつかないでって!!」


喜び勇んで抱擁に巻き込んでくる千歌をあしらう。


善子「と、とりあえず……」

千歌「はぇ……?」


嬉しい気持ちはわかるが、今は一旦確認することがある。
155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:07:40.53 ID:oTWJbR4y0

善子「これからどうする?」

千歌「……あー、そうだね……」


音ノ木の枝は太く、しっかりとしているため、ここで一晩過ごしても問題はなさそうだが……。

辺りを見回すと、落ち着きを取り戻したメテノたちが、昼間と同じようにふよふよと浮遊している。

そこからも、恐らく今回の事件は解決したと見ても問題はないのだが、


千歌「うーん……とりあえず、私は凛さんのところに戻る方がいいと思う。心配してるだろうし……」

善子「連絡先はわかんないの?」

千歌「……聞くの忘れてた……」

善子「あっそ……」


私はゲコガシラをボールに戻しながら、立ち上がって東の方へ歩き出す。


千歌「あ、あれ? ホシゾラシティってそっちだっけ……?」


千歌が投げかけてくる疑問に


善子「いや、流星山ならここから見えるでしょ」


そう言って、南を指差す。


善子「私はちょっと、用事が出来たから……ホシゾラには戻らないわ」

千歌「用事? 一緒に戻らないの?」

善子「……まあ、ちょっとね」

千歌「ケガ……大丈夫……?」


千歌は心配そうに声をあげるが、


善子「お陰様で、痛みも大分落ち着いたから」

千歌「でも……」

善子「……東の方にある、サニータウンに付いたら、ちゃんと病院にも寄るから」

千歌「そ、そっか……」


千歌は少しシュンとしていたが……まあ、急用が出来たのは事実だし。


善子「あ、そうだ……」

千歌「?」


私は思い出したかのように振り返って、バッグから大量のダークボールを取り出して、千歌の前に一個ずつ置く。

1個、2個、3個……7個ほどある。


善子「捕まえたメテノよ。弱ってるから、ボールから出さないで、そのままジムリーダーに渡してもらえる? 私じゃ、この後どう処置するのかわかんないから」

千歌「あ、うん。わかった」


千歌はそう言って、いそいそと黒いボールをリュックに詰め込む。

私は今度は、一緒に戦ったメテノの方を見て、


善子「それじゃ、千歌の帰り道と……あのジムリーダーさんによろしく伝えてね」
156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:08:38.23 ID:oTWJbR4y0

メテノに言伝する。

 「〜〜〜」

メテノは再び外殻の割れ目から光を点滅させる。きっと了承の返事だろう。


善子「……ま、ムックルもムクバードに進化して、飛行能力もあがったから大丈夫だとは思うけど」

千歌「あ、待って! ヨハネちゃん!」

善子「……まだ何かあるの?」

千歌「連絡先! 教えて!」

善子「……え?」

千歌「何かあったら、今度は私が助けるから!」

善子「…………」


少し考える。


善子「…………」

千歌「ね? ね?」

善子「……………………」


考えて……。


千歌「ね、ねねね? 教えて?」

善子「…………はぁ……わかったわよ」


根負けする。

お互い、ポケギアの番号を赤外線で手早く交換したあと。

私は背を向けて、再び東へと歩を向ける。


善子「あー……千歌」

千歌「ん?」


去り際に千歌に向かって、


善子「……できれば次会うときもヨハネって呼んでくれるかしら」

千歌「え? ……あ」


恐らくポケギアの登録名を見て、気付かれたと思うので──我ながら、なんで本名で登録しちゃったのかしらね──


善子「それじゃ」


私はヤミカラスに掴まり、ムウマを従えて、虹の夜空を飛び出した。


千歌「元気でねー!!!!」


背後から大きな声が聞こえてくる。


千歌「……またどこかで会おうねー!!! 善子ちゃーん!!!!」

善子「だから、ヨハネよー!!!!!」
157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:11:21.39 ID:oTWJbR4y0

背後に怒声を浴びせながら、私たちは東へ向かって飛行する。

……だから、あんまり教えたくなかったのよね。

…………。

……まあ、それはそれとして。

私は図鑑を開く。

さっきの白いポケモン。あれだけ近付いたなら、データが登録されているはずだ。


善子「……えーっと……。あ、このポケモン……」


 『アブソル わざわいポケモン 高さ:1.2m 重さ:47.0kg
  アブソルが 人前に 現れると 必ず 地震や 津波などの 災害が
  起こるという 言い伝えが あるため 災いポケモン という 別名で
  呼ばれる。 普段は 山奥に 生息し 人前には 余り 現れない。』


善子「アブソル……って言うのね」


災いポケモン──そのワードがそもそも私好みではあるのだけど、


善子「借りも出来ちゃったし……」


図鑑をポチポチと弄ると、先ほど見つけた新機能──。


善子「追尾モード……」


動き回るポケモンを追跡することを想定されているであろう名前の機能を開くと、タウンマップ上にポケモンの所在を示す黒い点が東の方に表示されていた。

ちょうど方角的にも、サニータウンの方だ。都合がいい。

正直、特別コレと言った目的がある旅でもなかったが、一先ず目標が出来た。


善子「アブソルにもう一度会う……!!」
 「カァー」「ムマ♪」


決意新たに飛び出して、

静かな夜空に、一人と二匹の闇色のポケモンの声が溶けて消えていくのだった。





    *    *    *

158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:12:30.30 ID:oTWJbR4y0



──ウチウラシティ。

一通り事務仕事を終えて、メレシーのボルツと共に教室の見回りをしていると、


 「メレシ…」
ダイヤ「……あら?」


体育館──もとい、ジムの方の明かりが付いていることに気付く。


ダイヤ「……」


出来るだけ物音を立てないように、ジムの方へと足を運び、


 「──コラン! “いわおとし”!」


ジムの中をこっそりと覗き見ると、


 「ピーピー」
ルビィ「だ、だから、“いわおとし”!」


ルビィとメレシーのコランの姿が見えました。


ルビィ「ねーコラン……」
 「ピ?」

ルビィ「ルビィのこと……嫌い?」
 「ピピピ」


難しい顔をして、そう問い掛けるルビィに対して、コランは楽しそうに身を寄せる。

好きとか、嫌いと言うより、遊び相手という認識なのでしょう。


ルビィ「これから一緒に旅に出るんだよ?」
 「ピピピ」


コランは鳴きながら、ルビィの周りをくるくると飛び回る。


ルビィ「はぁ……ホントにルビィが冒険なんかに出て、大丈夫なのかなぁ……」

ダイヤ「……」


ルビィはあまり言うことを聞いてくれないコランを見て溜息を吐く。


 「メレシ…」


そんなルビィの許に、わたくしの近くにいたボルツがふよふよと飛んで行く。


 「ピィ」
ルビィ「あ、ボルツ……」


ボルツが近付いてくることにいち早く気付いたコランの声を聞いて、ルビィもボルツの姿を認める。

わたくしもその後ろについていくように、ジムの中へと足を運ぶ。


ダイヤ「ルビィ。明日は早いのですから、そろそろ休みなさい」

ルビィ「お姉ちゃん……」


ルビィは弱々しい声を出す。
159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:14:00.82 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「ダメよ……トレーナーがそんな不安そうな顔していては──」


──ポケモンが不安になってしまう。

そう続けようとしましたが、


ルビィ「──ルビィ、きっと才能ないんだと思う……」


ルビィは先ほどとは打って変わって大人しくなったコラン──ボルツが近くにいるからでしょうか──を抱き寄せて、そう言う。


ダイヤ「……始める前から、才能なんて言葉を使うものではありませんよ」

ルビィ「でも……」


気持ちはわからなくはない。お昼のことと言い、消極的なルビィに対してコランは少しやんちゃが過ぎるのは概ね同意できますし。


ダイヤ「最初は誰しも、うまく行かないものですわ。ましてや、貴方はまだ旅立ち前なのですから」

ルビィ「……うん」

ダイヤ「コランも貴方のことが嫌いなわけじゃなくて……遊んで欲しいだけなのでしょう。いざ旅に出たら案外頼もしいパートナーになってくれるかもしれませんわよ?」

ルビィ「……そうなの、コラン?」
 「ピピ?」

ダイヤ「とにかく、そう言う諸々のことを確認するために、ポケモントレーナーは旅に出るのですから」

ルビィ「……うん」

ダイヤ「……今日はもう遅いですから、早く休みなさい」


わたくしはそう言って、ルビィの頭を撫でた。


ルビィ「……はぁい」


ルビィは弱々しく返事をすると、コランを抱えたままトコトコとジムを出て行った。

……それを見計らっていたかのように、


 「ふふ、姉としても、教師としても、それらしいことが言えるようになりましたね。ダイヤ」


ジムの奥の方から、声がする。

声の方へ、目を配らせると、妙齢の女性が一人。


ダイヤ「……お母様、こちらにいらしたのですか」


私の母──名を琥珀。わたくしやルビィと同じように、メレシーを従えて、ジムの奥の倉庫でなにやら片付けをしていた。


琥珀「私が居ないと、ルビィがここで特訓をしている間の監督役が居ないでしょう?」

ダイヤ「確かにそれはそうですけれど……。戻るなら、一報を入れてくれれば、迎えを出しましたのに……」

琥珀「どちらにしろ、今日は一旦戻って仕事をしようと思っていたから大丈夫ですよ。昨日は入江の方が少しざわついていたので大変でしたが……」

ダイヤ「噫、えっと……それについては──」

琥珀「大丈夫よ、鞠莉さんから事情は聞いたから。千歌さんも曜さんも相変わらず元気なようで安心しましたわ」


件の入江での大立ち回りで、多少メレシーたちが動揺していたのかもしれない。


琥珀「お陰で……というわけではないですが、今回はそれなりにいろいろ石が採掘できましたし」
160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:16:53.70 ID:oTWJbR4y0

お母様はそう言いながら、倉庫内へと目を配らせると、エレザードやレアコイルたちが石の仕分けをしている。

彼らはお母様の手持ちのポケモンなのですが、

それはともかく採掘──とは一体なんのことなのか、説明した方がいいかもしれませんわね。

クロサワの入江は、ただのメレシーの群生地というわけではなく、我がクロサワ家の私有地でもあります。

詳しい理由はわかってはいませんが、洞窟内では“ほのおのいし”や“みずのいし”と言った──所謂、進化の石や先刻、千歌さんと曜さんに手渡した“ほのおのジュエル”や“みずのジュエル”のような宝石。

そして、多種多様な鉱物が採掘できます。

他の街が天文観測や農業、工業などで経済を回しているように、わたくしたちの暮らす、ウラノホシタウン〜ウチウラシティではこうした鉱物を採掘・出荷することによって、成り立っています。

『お陰で』と言うのは、千歌さんたちが戦闘をしたためか、いつもよりも鉱物が掘り返されていたということでしょう。


ダイヤ「……あまり、褒められた話ではないのですが……」

琥珀「ふふ、生徒はちゃんと見てなくてはいけませんよ? ダイヤ」

ダイヤ「……元はお母様の教え子でもあるのですが」


入江の管理を隠居されたお婆様から任されて、それに集中するために、お母様は教職を離れて、入江の正式な管理者になったのです。

そして、その教え子を引き継ぐ形でわたくしが受け持っているのが現状というわけです。

尤も、明日にはそんな教え子たちも全員が旅立ってしまうので、当分はジムリーダーの職務に集中できそうですが……。


琥珀「そういえば……今日、入江で珍しいヤミラミを見たのですが」

ダイヤ「……珍しいヤミラミ?」


──ヤミラミは、簡潔に言うとメレシーの天敵です。

捕食者と言っても差支えがない。宝石を食べるポケモンです。

入江内はメレシーの群生地なので、餌を求めてヤミラミが現れることはそこまで珍しくはないのですが……。


琥珀「普通ヤミラミの胸の宝石は赤いはずなのに、それがダイヤモンドになっている個体だったのです」

ダイヤ「……確かにそれは珍しいですね。わたくしも見たことがないですわ。それで、そのヤミラミはどうしたのですか?」

琥珀「一応、捕獲しましたわ。この通り」


そう言ってお母様がヤミラミの入ったボールを見せてくれる。

ヤミラミはメレシーが居れば、どこからともなく現れるので、それを捕獲して、メレシーたちの安全を確保するのも管理者の仕事というわけです。


ダイヤ「流石ですわね、お母様。後日、鞠莉さんに調査してもらいましょう」

琥珀「ええ、そうですわね」


──しかし、ダイヤモンドを持ったヤミラミ……。


ダイヤ「……何かの予兆でなければいいのですが」


思わず、そんなことを呟いていた。

──然し、千歌さんたちが暴れてくれたお陰(?)でお母様が緊急で様子見に出掛け、それによって、ヤミラミの変種個体を見つけることが出来た──と言うのはある種の『人間万事塞翁が馬』と言うことなのかもしれませんわね。

そんなことを胸中で嘯きながら、


ダイヤ「全く、あの子たちの周りではいつも事件ばかりですわね──」


そんなトラブルメイカー──というかトラブルヒッターでしょうか──な彼女たちは今頃何をしているのでしょうか。

……また、危ないことをしていなければいいのですが……。

……まあ、止まれと言って止まるなら、それこそ苦労はしないのですけれど──
161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:18:14.03 ID:oTWJbR4y0




    *    *    *





千歌「──へくしっ!!」
 「ピィー?」

千歌「あ、ごめんごめん、大丈夫だよ、ムクバード」


突然くしゃみなんて、誰かが噂でもしてるのかな……。

……それはさておき、音ノ木で善子ちゃんと別れてから、私たちも空に飛び立ち、流星山を目指しています。

さっきの虹の流星群とは打って変わって、静かな夜空を風が切る音と、ムクバードの羽ばたきの音だけが聴こえてくる。

先ほどまでの激闘が嘘のようだった。

流星山が眼前に迫ってくると、山頂には飛び出してきたときと同様に──


凛「おーい!」


凛さんが手を振りながら待っていた。

 「〜〜〜」

相も変わらず私のリュックの下に潜り込んで飛行のサポートをしてくれていたメテノがぷるぷると震える。

主人の許に帰ってきたことを喜んでいるようだ。

地表近くで軽く、減速してから、


千歌「よっと……!」


ムクバードから手を離して飛び降りる。


千歌「ありがとね、ムクバード。ボールの中でゆっくり休んでね」
 「ピィ〜」


ムクバードに労いの言葉を言ってからボールに戻す。


凛「千歌ちゃん!」


そんな私に凛さんが駆け寄ってくる。


凛「よかったにゃ……無事に戻ってきてくれて……」
 「〜〜〜」

凛「メテノも、お疲れ様」


凛さんはメテノに労ってから、キョロキョロとあたりを見回す。


凛「千歌ちゃん、あの子……えーっと」

千歌「あ、善子ちゃん」

凛「そうそう、善子ちゃん……あれ、そんな名前だったっけ?」

千歌「善子ちゃんは用事があるからって、音ノ木から東の方に飛んでいきました」

凛「……まあ、言いたいことはあったんだけど、とりあえず無事ってことだよね?」

千歌「はい、ちょっとケガしたくらいで……」


そのとき突然、腰に付けたボールの1個がカタカタと震えて、
162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:19:47.84 ID:oTWJbR4y0

 「ワフッ」

千歌「わっ!? しいたけ!?」


しいたけが飛び出した。


千歌「急にどうしたの?」
 「ワフッ」


ずっと控えが続いてたから、退屈で出てきちゃったのかな……?

私の足元に擦り寄ってくる。


千歌「……あ、そうだ」


それはともかくと思い出したかのように、リュックから黒いボールを取り出して。


千歌「凛さん、これ善子ちゃんから……」

凛「にゃ?」


凛さんに手渡す。


千歌「捕まえた瀕死のメテノたちだって……」

凛「……そっか。直接お礼言いたかったんだけどなぁ」
 「〜〜〜」


凛さんがそう言うと、メテノがチカチカと点滅する。

それを見て凛さんは何か納得したように、


凛「まあ、いっか! そのうちまた会った時にお礼しよっ」


強引に話を締めくくった。


凛「とりあえず、今回のことをまとめないといけないから、千歌ちゃんに聞きたいことがいくつかあるんだけど……」

千歌「あ、はい」


事後調査ってことだよね。

私が返事をしながら、前に歩み出ようとした時──

──カクン。


千歌「──え?」


突然膝が折れて、前に倒れる。

──バフ。

 「ワフッ」

そこにはしいたけが居て。


凛「ち、千歌ちゃん!?」

千歌「あ、あれ……足に力が……」


考えてみれば、今日は本当に一日中ずっと動き回っていた気がする。

全てが終わって、緊張の糸が切れたのか、身体が体力の限界を主張し始めた。
163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:20:57.93 ID:oTWJbR4y0

凛「……お話聞くのは明日にした方がいいかもね」

千歌「あはは、そう……みたい……です……」


疲れを自覚すると、今度は急激に眠気が襲ってくる。


千歌「う……ふぁぁ……」
 「ワフ」

凛「天文所に仮眠室があるから、そこで休もっか」

千歌「はい……」


しいたけは私が限界なのに気付いて、出てきたんだね……なんだかんだ一番付き合いが長いだけはある。

そのまま、しいたけの背中にぐでっともたれかかったまま、


凛「すぐに付くからもうちょっとだけ頑張ってね」

 「ワフッ」


長い一日が終わりを迎えるのでした。





    *    *    *





──13番水道。

ぼんやりとした、意識の中、依然波の音が聴こえてくる。

うっすらと目を開けると、空が暗い。

私はギャラドスの背の上で横たわったまま、眠ってしまったんだと気付く。

近くには変わらず果南ちゃんの紺碧のポニーテールが潮風にはためいている。


果南「あーもしもし」


どうやら、電話をしているらしい。


 『……果南、貴方今どこにいるのですか?』


ポケギアから通話先の人の声が、私の耳にも聞こえてくる。

はっきりとしていて、凜とした通る声だ。
164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:23:00.46 ID:oTWJbR4y0

果南「13番水道」

 『……はぁ、まあ自分から連絡を寄越してきただけ、いいとしましょう。13番水道からなら、見えたのではないですか?』

果南「虹色の流星群なんて、おだやかじゃないねぇ……」

 『そうですね……。とりあえず、凛の報告待ちですが……。最近各地でポケモンの大量発生や異常行動が見られて、今度はメテノですか……またしばらく休めそうにないですね……』

果南「13番水道もヒドイデが大量発生してるよ」

 『それもすでに他の方から、報告を受けていますよ』

果南「ついでに親玉らしき、ドヒドイデも見つけた」

 『親玉、ですか……』

果南「とりあえず、捕獲したから、フソウに付いたら引き渡すよ」

 『お願いします。……しかし、どうにも嫌な感じがします』

果南「……まあ、そうだなぁ」

 『……同時に起こっている各地の異変……何者かの差し金なのでしょうか……』

果南「現状じゃ何も言えないかなぁ……」

 『そうですね……。引き続き調査をお願いできますか?』

果南「はいはい、りょーかい。……まあ、私の目的はそこじゃないんだけど」

 『そういえば、捜索の真っ最中でしたね……もし、どこかで会うことがあったら──なんですか?』

果南「……? どうかしたの?」

 『……あ、すみません。凛からキャッチが入ったみたいです』

果南「さっきの報告かな」

 『だと思います……。話の続きは、またいずれ──』

果南「んー」


ツーツーと電話が切れた音が聴こえる。


曜「……果南ちゃん、誰と電話してたの?」

果南「ありゃ、曜……起きてたの? んーまあ、偉い人?」

曜「……何か、起きてるの?」

果南「ま、それを調査中って感じかな。その定期報告」

曜「……そっか」


ヒドイデたちの動きから感じた、妙な悪意のようなもの──それを感じているのは私だけじゃないらしい。

この地方で何かが起ころうとしている、もしくは起きている。


曜「…………」


私が仰ぐ夜空には静かに月が光っているのに……波の音のすぐ下では何やら謀略が渦巻いているのかと考えると、少しだけ複雑な気持ちになる。

私の大好きな、海で……。


曜「…………」


なんか嫌だな……。

そのとき、またフワリと、果南ちゃんが私の頭を撫でる。


果南「……ま、どうにかなるよ」

曜「果南ちゃん……」

果南「……きっと、どうにかなるから」
165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:24:43.52 ID:oTWJbR4y0

無責任な言葉だけど、果南ちゃんが言うと不思議とどうにかなってしまう気もした。


曜「うん……」


──夜の漣を聴きながら、私たちはフソウタウンへ向かう。





    *    *    *





 『……民間のトレーナーを巻き込んだんですか?』

凛「えーと……まあ、そうなるにゃ……なります」

 『……まあ、いいでしょう』

凛「……え、いいの?」


電話口に向かって間の抜けた声が出る。


 『なんですか?』

凛「てっきり、お説教されるかと思ってたから……」

 『……まあ、褒められたことではありませんが、規模が規模でしたし……。結果どうにか収まったなら、必要以上に責任追及するのも頭の堅い考え方かなと思いまして』

凛「……海未ちゃん丸くなった?」

 『丸く……なったのでしょうか。まあ、無茶苦茶する人に囲まれすぎたのでしょうか……』

凛「苦労人だにゃ……」

 『……貴方もその一人ですからね?』


電話の先で溜息を吐く声が聞こえる。


 『とりあえず……情報をまとめると、音ノ木上空へのオンバーンの襲来が原因。結果、音ノ木を休息場にしていたメテノたちが地上及び流星山に落下すると言う事態が発生したということですね』

凛「うん」

 『原因となっていたオンバーンは現地に居合わせたトレーナー二人が撃退。……千歌さんと善子さんという名前だったでしょうか』

凛「うん、千歌ちゃんと……善子ちゃん?」

 『……ふむ』

凛「あとは落ちてきたメテノたちは全部捕獲出来た……と思う」

 『件の善子さんが捕まえた7匹……と凛が捕獲した19匹。26匹ですね。ただ、コメコの方からも報告があったのですが』

凛「え、そうなの?」

 『数匹、町周辺とコメコの森に落ちたそうです。町のメテノはジムの方で保護したそうですが、森に落ちたメテノは夜が明けてからでしょうね』

凛「そっか……」


思わずシュンとなる。……メテノ大丈夫かな。

166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:26:37.65 ID:oTWJbR4y0

 『コメコの方で保護したメテノはポケモンセンターで治療した後、そちらに転送すると思いますので』

凛「了解にゃ」

 『……さて、オンバーンについてなんですが』

凛「……オトノキ地方にオンバットもオンバーンも生息してないよね」

 『せいぜい私は見たことがないですね……かなりの高高度を住処にしていると言う可能性もなくはないですが……』

凛「音ノ木の上の方から降りてきたってこと?」

 『まあ、可能性はゼロではない……くらいですね。どちらにしろ、音ノ木の上層部はあまり調査も進んでいなかったので、今度調査隊を派遣します』

凛「そのときは声掛けてね。ホシゾラからも人出すから」

 『助かります。なんせ人手不足ですからね……それに拍車を掛けるかのように各地でのポケモンの大量発生……猫の手も借りたい状況ですね。……む、またキャッチですね』

凛「大変そうだね……」

 『お互い様ですよ。それじゃ、何かあったらまた連絡してください』

凛「うん、了解」


通信を切って、一息吐く。


職員「所長、まだお休みには……」


職員が気遣って声を掛けてきたけど、


凛「んー……もう少しだけ。あとちょっと仕事したら仮眠取るから」

職員「分かりました。無理しないでくださいね」

凛「ありがと」


電話口でてんてこ舞いの旧知の友人と話した直後だったからか、休む気にはあまりなれなかった。


凛「……よし、もう少しだけ、頑張ろう」


凛は自分に喝を入れて、普段は滅多にやりたがらない事務仕事に取り掛かることにした。





    *    *    *





カタカタとキーボードを打ち鳴らしながら、本日の研究結果をまとめる。


鞠莉「これでよし……っと」


一通り、まとまった文章を軽く見直してから、わたしは伸びをする。


鞠莉「んー……」


さて、明日も早いし、そろそろ寝ようかしら……。


 「お嬢様」


そう思って机に背を向けたところに声を掛けられる。

オハラ家の仕様人だ。


鞠莉「……研究所では博士と呼びなさいって言ってるでしょ」
167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:28:32.41 ID:oTWJbR4y0

──兼、研究所の手伝いをしてもらっている。


メイド「失礼しました。博士、お休みになられるのですか?」

鞠莉「ええ、そのつもりだけど……どうかしたの?」

メイド「いえ、その先ほど郵便受を見たら、手紙が入っていまして……」

鞠莉「Letter...? 朝昼はそんな報告なかったと思うけど……」

メイド「見落としていたのかもしれません……申し訳御座いません」


申し訳なさそうに頭を下げるメイド。


鞠莉「別に大丈夫よ」


手紙を受け取り、宛名を見る。


鞠莉「……カヅノ・聖良……?」

メイド「送り主に心当たりがないのですか? ……でしたら、代読いたしましょうか?」

鞠莉「んーいや……確か、どっかの学会でチラッと見たことがあったような……。とりあえず、中は自分で確認するから、下がって大丈夫よ。ありがとう」

メイド「かしこまりました」


仕様人を下げて、再び椅子に腰を降ろして、机の上のペーパーナイフで便箋の入った封筒を開ける。

内容に目を通す。


『拝啓
風が春から初夏の香りを運んでくるのを感じる季節。お健やかにお暮らしのことと存じます──』


鞠莉「……」


目が滑る……。ダイヤの書く手紙みたいね……。

とりあえず、上から流し読みしながら、要点をかいつまんでいく。


鞠莉「……まあ、要約すると同年代の研究者の一人として、会って話したいってとこかしら……」


そう呟きながら、学会で見かけた彼女のことをだんだんと思い出してくる。

少し前に新しくポケモンを研究するために調査団を作ったカリスマ女性研究員がいるという話が話題になっていた気がする。

その頃、丁度研究所を新設するためのごたごたで、わたしは余り情報が追えていなかったのだけれど……。

──まあ、光栄な話ではある。同年代と言うことなら、わたしも会って話してみたい気もするし……。
168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:29:20.63 ID:oTWJbR4y0

鞠莉「……って、約束の日取り、明日じゃない……」


手紙の後付を確認すると、書かれたのは数週間前だと思われる。

ポストマンの手違いで届くのが遅れたのかしら……?


鞠莉「うーん……明日か……」


朝に花丸とルビィにポケモンを渡して……その後だったら大丈夫かしら。

まあ、どちらにしろ今から返事を書くのは無理そうだし……研究所に来てくれるということだから、どっちでもいいか。


鞠莉「とりあえず……」


私は研究室の長机に並んだ、二つのボールと図鑑を一瞥してから、


鞠莉「明日に備えて本当に寝た方がいいわね……」


手紙を机に置いて、就寝するために寝室へと足を向けるのだった。


169 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:29:55.63 ID:oTWJbR4y0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラ天文台】【9番道路】【13番水道】【ウチウラシティ】
 口================= 口
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  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃| ||
  ||.  回____  |    | |    .|__|    ||
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  ||./             o回/       ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:7匹


 主人公 善子
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:46匹 捕まえた数:22匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 善子と 曜と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:23:27.11 ID:oTWJbR4y0
>>169
AAずれてた 訂正。


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラ天文台】【9番道路】【13番水道】【ウチウラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
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 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:7匹


 主人公 善子
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:46匹 捕まえた数:22匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 善子と 曜と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:25:52.10 ID:oTWJbR4y0

■Chapter014 『来訪者』 【SIDE Ruby】





ダイヤ「ルビィ、準備は出来ましたか?」


玄関でお姉ちゃんが訊ねて来る。


ルビィ「だ、大丈夫……」


旅の荷物はちゃんとまとめたし、コランもボールの中で大人しくしている……きっと大丈夫。


ダイヤ「……花丸さんはアワシマに直接行くとのことでしたので、わたくしたちも向かいましょうか」

ルビィ「う、うん」


お姉ちゃんの後ろをちょこちょことついていきながら、アワシマ行きの船が出ている港に向かう。

──今日からポケモントレーナー──

そんなワードが頭の中に浮かんでは消えていく。

大丈夫かな……。


ダイヤ「ルビィ」

ルビィ「……へ? あ、なに、お姉ちゃん?」

ダイヤ「緊張してる?」


前を歩くお姉ちゃんが少しだけ歩みを遅めて、ルビィの顔を覗き込みながらそう聞いてくる。


ルビィ「ぅ……その……うん……」


ルビィは正直に頷いた。

正直、昨日からずっと不安で堪らない。


ダイヤ「……そう」

ルビィ「ルビィに出来るのかなって……」

ダイヤ「……最初は皆そう思うものよ。次第に自信もついてくると思うから」

ルビィ「ホントに……そうなのかな……」

ダイヤ「大丈夫……コランも一緒でしょう?」

ルビィ「それが一番心配なんだけど……」

ダイヤ「大丈夫よ、あの子やんちゃだけど、ルビィのことが嫌いなわけじゃないから」

ルビィ「ぅ、ぅゅ……」


コランは本当にいたずらっ子で……だけど、生まれたときからずっと一緒に居る。お姉ちゃんとは違った意味で姉妹のように育った子だから、

お姉ちゃんが言わんとしてることの意味はわかる気はする。

だけど、ルビィは本当にコランのトレーナーとしてちゃんとできるのかな……。


ダイヤ「……ほら、定期船が来てしまいますわ。急ぎましょう」

ルビィ「……ぁ、うん……」


不安からか、ますます遅くなっていた歩みをお姉ちゃんに急かされ、ルビィは研究所に向かいます。

……ポケモントレーナーになるために。
172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:27:04.04 ID:oTWJbR4y0




    *    *    *





花丸「ルビィちゃん、おはよう」

ルビィ「花丸ちゃん……おはよう」


アワシマに着くと船着場には、花丸ちゃんがゴンベと一緒に待っていました。


花丸「ダイヤさん、おはようございます」

ダイヤ「おはようございます。花丸さん。ゴンベも、おはようございます」

 「ゴン…」


ゴンベはもそもそとおにぎりを食べながら、お姉ちゃんに返事をする。


ダイヤ「それでは二人とも、研究所に参りましょうか」

花丸「はい」

ルビィ「う、うん……」


お姉ちゃんが再び先導する形で前を歩き出す。

その後ろを花丸ちゃんと並んで、のろのろと歩き出す。


花丸「ルビィちゃん、大丈夫?」

ルビィ「あ、うん……ちょっと緊張してる、だけだよ」


花丸ちゃんがさっきのお姉ちゃんみたいに、心配そうに顔を覗き込んでくる。


花丸「そっか……」

ルビィ「ねえ、花丸ちゃん……」

花丸「ん、何?」

ルビィ「花丸ちゃんは緊張……してない?」

花丸「……緊張はしてるけど」

ルビィ「……けど?」

花丸「ちょっと、ワクワクもしてるかな……」

ルビィ「ワクワク……?」

花丸「物語の中の登場人物みたいに、マルも旅に出るのかなって思ったら少しだけ、ね」


花丸ちゃんはそうおどけた風に言う。


ルビィ「そっかぁ……」


ルビィもそんな風に思えればいいんだけどな……。

そんなことを話していると程なくして研究所が見えて来ました。





    *    *    *

173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:28:25.70 ID:oTWJbR4y0



鞠莉「ルビィ、花丸。待ってたわ」


研究所に入ると、そんな言葉と共に鞠莉さんに出迎えられる。


ルビィ「き、今日はよろしくお願いします……」

花丸「お、お願いします……!!」


博士を前にして、改めて二人揃って緊張してしまう。

鞠莉さんはお姉ちゃんの幼馴染でもあるから、ルビィとは面識があるんだけど……。

こうして研究所を訪れたのは初めてで、鞠莉さんの研究所と言われるとなんだか身構えてしまう。


ダイヤ「ほら、二人とも、入口に立っていないで中に入ってください」

鞠莉「Yes. 奥の部屋までお願いできる?」

ルビィ「は、はい!」

花丸「ずら……」


鞠莉さんとお姉ちゃんに促されて、後ろをついていく。

言われるがままに奥の部屋へ通されると、


花丸「み、未来ずらぁ……」

ルビィ「う、うわぁ……」


見るからに研究所っぽい感じの、大きな装置が目に入る。


鞠莉「ふふ、それはポケモンの回復装置よ。ポケモンセンターに置いてるのと同じものね」

花丸「こ、こっちは転送装置ずら!?」

鞠莉「ええ、ボックス管理システムに繋がってるモノでポケモン転送が行えるわ」

花丸「み、未来ずらぁ……!!」

鞠莉「花丸はこの装置に興味があるの?」

花丸「あ、えっと……子供の頃から、そういう研究の本とかも読むことがあって……その、オハラ博士の──」

鞠莉「マリーでいいわよ。オハラ博士ってなんか堅苦しいし」

花丸「え、えっと……鞠莉さんの“どうぐ”についての論文もいくつか読ませてもらったずら……!! ……じゃなくて……もらいました。面白かったです!」

鞠莉「Really? そう言われるとなんだかこそばゆいわね」


花丸ちゃんがやや興奮気味に鞠莉さんと談笑している。


ダイヤ「花丸さんは勉強熱心ですからね」


そんな教え子の姿を見て、お姉ちゃんがクスクスと笑う。

……そのやり取りを見て、ルビィも少しは勉強とかしてくればよかったかなと、思ってしまう。


花丸「ミラクルシューターについての戦略研究とか、すごく興味深かったずら!」

鞠莉「Wao! そこに食いつくとは将来有望ね」


なんかすごい盛り上がってるし……。


ダイヤ「鞠莉さん、盛り上がるのはいいのですが、本題を忘れないでくださいね?」

鞠莉「Oh... そうだったネ」
174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:30:34.55 ID:oTWJbR4y0

お姉ちゃんに言われて、鞠莉さんはツカツカと歩いて、ボールと板状のアイテムがそれぞれ2つずつ置いてある、長机に移動する。


鞠莉「さて、ルビィ、花丸」


鞠莉さんがそう切り出しながら、ルビィたちの方を振り返る。


鞠莉「あなたたちにはこれから最初のポケモンとポケモン図鑑を託すわ。初心者用のポケモン3匹──と言いたいところなんだけど、1匹は既に他の子が持って行っちゃったから、残りの2匹から選んでもらえる?」

ルビィ「は、はい」

花丸「ずら……!」


言われて二人しておずおずと机の前に進む


鞠莉「ボールのボタン、押してみて?」


言われるがまま、二人でそれぞれボールのボタンを押し込むと──

ゆっくりとモンスターボールが開き、

 「チャモ」
 「トル〜」

ヒヨコのようなポケモンとカメのようなポケモンが飛び出した


鞠莉「ほのおタイプのアチャモと、くさタイプのナエトルよ」

ダイヤ「二人で相談して、どちらが欲しいか決めてください。……まあ、本当はみずタイプのケロマツもいるはずったのですが」

鞠莉「……」


事情はもう聞いてて納得してるけど、お姉ちゃんがそう言うと鞠莉さんはバツが悪いのか目を逸らす。


花丸「ルビィちゃんはどっちの子がいい?」

ルビィ「え、んっと……」

 「チャモ」
 「…zzz」


アチャモは見た目からして可愛いけど、ほのおタイプ……火はちょっと怖いかも。それにちょっと元気が良さそうでコランも居るルビィの手には余りそう……。

一方ナエトル。すごく大人しいポケモンみたいだ。というかむしろのんきすぎるくらいで、早速居眠りを始めている。くさタイプだから、ほのおよりは怖くないかな? ……あ、でも草で手切っちゃうかな?

ルビィがじーっと2匹を吟味していると、

 「チャモッ!!」

アチャモが“ひのこ”を吐き出した。


ルビィ「ピギィッ!?」


びっくりして、思わず後ろに下がる。


鞠莉「こら、アチャモ? びっくりさせちゃダメでしょ〜? ごめんね、ちょっとやんちゃで」

ルビィ「い、いえ……」


やっぱりほのおポケモンは怖いかも……そう思って、今度はナエトルに視線を向ける。


ルビィ「え、えーっと……ナエトルさん……こんにちは、ルビィです」


しゃがみこんで声を掛けてみるが、

 「…zzz」

完全に寝ている。
175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:33:45.80 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「……ナエトルさーん……」

 「…トル…?」


再び声を掛けてみたら、目を開けた──けど、

 「…zzz」

すぐにまた居眠りを始める。

全く相手にされていない。

どうしよう……どっちとも気があわないかも……。


ルビィ「は、花丸ちゃんはどっちがいい?」

花丸「ずら?」


ルビィじゃ決められそうにないから、花丸ちゃんに訊ねてみる。


花丸「んー……マルは大人しい子の方が好きだから、どっちかって言うならナエトルかなぁ……」

ルビィ「そっかぁ……」


じゃあ、ルビィは消去法でアチャモかなぁ……。

そう思ってアチャモに視線を向けると、


 「チャモッ!!」

ルビィ「ピギィ!?」


再びアチャモが口から“ひのこ”を散らす。

……どうしよう、こっちはこっちでダメそう。


鞠莉「まあ、ゆっくり決めてもいいから。これから旅を共にするパートナーだからネ」


そう言いながら鞠莉さんは机の上にあった板状のアイテムを手に取って、


鞠莉「先に図鑑……渡しておくわね」


そう言いながら、私に桃色の図鑑を、花丸ちゃんに黄色の図鑑を手渡してくる。


花丸「! こ、これが……ポケモン図鑑……!! 未来アイテムずらぁ〜!!」

ルビィ「お姉ちゃんが使ってたやつとも、千歌ちゃんが持ってたやつとも形が違うね」


記憶の中でお姉ちゃんや千歌ちゃんたちが使ってたモノと形状が違うことに気付く。


鞠莉「ええ、わたしたちが貰った旧型はともかく、あなたたちに渡す3つのセットは千歌っちたちが持っていったものとは違う機種だからネ」

ルビィ「そうなんですか?」

鞠莉「千歌っちたちに渡したのは液晶が二つあるモデルね。イッシュ地方から取り寄せたものから橙色のものを千歌っちに、水色を曜に……そして、桜色を梨子って子に渡したわ。そしてあなたたちに今渡したものはホウエン地方から取り寄せたモデル。桃色、黄色、白色の3つで1セットよ」

花丸「共鳴音って言うのも鳴るんですか!?」

鞠莉「ええ、詳しいわね。3つのセットが近くに集まると音が鳴るわ。だから、ここにもう一個白色の図鑑があると音が鳴るわよ」

花丸「ずらぁ〜!! 未来ずら〜!!」

ルビィ「……それはそんなに未来感ないと思うけど……」


それはともかく……その白色の図鑑を持ってるのがケロマツを貰ったルビィたちと同じ図鑑の所有者。

旅をしてたら、会ったりするのかな……。そんなことを考えてたら、
176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:35:47.18 ID:oTWJbR4y0

 「チャモッ!!」

ルビィ「ピギッ!?」


後ろからふくらはぎ辺りを軽く突かれる。


ルビィ「あ、アチャモ……? ビックリした……」

 「チャモ!!」

鞠莉「何、アチャモったら……ルビィが気に入ったの?」

ルビィ「気に入られたと言うか……たぶんからかわれてるんだと思います……。ルビィ、自分のメレシーにもよくからかわれるし……」


きっとそういう星の元に生まれた人なんだと思う。ますます自分がポケモントレーナーに向いてないんじゃないかと思ってしまう。


鞠莉「あら、イヤヨイヤヨモスキノウチって言うじゃない」

ダイヤ「それは言葉の意味が違います……」

鞠莉「好きな子をついイジめちゃうみたいな?」

ダイヤ「言い得て妙ですが、それも違うような……」


ルビィ、イジめられてるんだ……。

お姉ちゃんたちの会話を端で聴きながら、再びアチャモに目を配らせる。

 「チャモッ!」

アチャモは目が逢うと、また鳴き声をあげる。

やっぱりやんちゃな子みたいだ。

……でも、嫌われてはないのかな?

そんな風に思っていると、


メイド「博士、今宜しいですか?」

鞠莉「ん? どうしたの?」


いわゆるメイドさんの衣装をした人が鞠莉さんに話しかけてくる。


メイド「博士にお客様が……」

鞠莉「来客……? ……あ、あー、そうだった」

ダイヤ「何か約束があったのですか?」

鞠莉「まあ、ちょっと昨日急にね……」

メイド「一先ず、応接室にお通ししました。もし、宜しかったらなのですが、ダイヤ様も一緒にお越しいただけませんか?」

ダイヤ「わたくしもですか?」

鞠莉「先方にダイヤがここにいることも言ったの?」

メイド「いえ、お客様がお嬢様──失礼しました。博士とダイヤ様を訪ねてウチウラシティに来られたと仰られていたので……この後、ダイヤ様の元へも足を運ぶのだと思いまして」

ダイヤ「なるほど……たまたまわたくしが居合わせていたから」

メイド「はい、僭越ながら声を掛けさせて頂きました」

ダイヤ「その人はどのような人なのですか?」

鞠莉「若い女性の研究者よ。同じ若い研究者として、話がしたいってことで……確か進化の石とか宝石とか、そういう方向の研究家だった気がするけど」

ダイヤ「なるほど……それならわたくしも同席しますわ」

鞠莉「いいの?」

ダイヤ「あの子たちも、もう少しゆっくりポケモンを選びたいだろうし……」
177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:38:29.51 ID:oTWJbR4y0

そう言いながらお姉ちゃんがルビィと花丸ちゃんの方に目を配らせてくる。


ルビィ「あ、うん……しばらく二人でどっちがどの子を貰うか相談してるね」

花丸「ルビィちゃん! この図鑑、どうやって使うかわかる!?」

ルビィ「あ、えっと……それはね」


花丸ちゃんは図鑑に夢中でそれどころじゃないから、もう少し時間も欲しいし……。


鞠莉「そう? そういうことなら……少し席を外すわね。ここ少しお願いできる?」

メイド「承知しました」


メイドさんが鞠莉さんの言葉に頭を下げる。


ダイヤ「それじゃ、二人とも余り騒ぎ過ぎないようにね」

ルビィ「はぁい」


そう残して、お姉ちゃんは鞠莉さんと来客対応に向かっていきました。





    *    *    *





応接室を訪れると、机を挟んで置かれている椅子のうち、ドアに一番近い席で彼女は待っていた。

わたしとダイヤが部屋に入ると、すぐに気付いてこちらを振り返り立ち上がる。


聖良「お初にお目に掛かります。オハラ・鞠莉博士。カヅノ・聖良と申します」


Ms.聖良は丁重に頭を下げて、挨拶をする。


鞠莉「初めましてMs.聖良。遅くなってごめんなさい」

聖良「いえ……こちらこそオハラ博士の返事も待たずに申し訳ありません」

鞠莉「Sorry. ちょっと手違いがあったみたいで、手紙を受け取ったのが昨日だったの……」

聖良「そうだったんですか……」

鞠莉「何はともあれ、同じポケモンを研究する学者の一人として、会えて光栄だわ」

聖良「そんな学者だなんて……私はまだ、博士のような地位や名誉を持っているわけではないので」

鞠莉「謙遜しないで? あなたの噂はここにも聴こえて来ているのよ」


社交辞令を交わしながら、失礼にならない範囲で彼女のことを観察する。

伸びた背筋に、キリっとした顔立ち

やや紫掛かった黒髪を左側頭部でサイドポニーにまとめている。

噂通りの真面目そうな女史であることがわかる。


鞠莉「調査団の設立おめでとう。わたしも同年代の研究者として、実績を挙げている人間がいるのは心強いわ」

聖良「オハラ博士も、研究所設立おめでとうございます。そのように言っていただけて光栄です」


二人でお互いを労いながら、握手をする。

そのとき、聖良はわたしの後ろにもう一人いることに気付き、
178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:40:47.49 ID:oTWJbR4y0

聖良「もしかして……クロサワ・ダイヤさんですか?」


そう訊ねてくる。

一応ジムリーダーということで容姿くらいは予め調べが付いていたのかもしれない。


鞠莉「ええ、ダイヤにも用事があると仕様人に聞いたから……」

ダイヤ「話を聞いて、たまたまこの場に居合わせたので、わたくしも同席しようと思いまして……初めまして、カヅノ女史。クロサワ・ダイヤですわ。事後承諾みたいになってしまいましたが、ご一緒しても迷惑ではなかったでしょうか?」

聖良「いえ、とんでもないです……! むしろ、ありがたい」


彼女はやや面食らった様子ではあったが、本当にありがたそうに言う。

どうやら、ダイヤを通したのは良判断だったようだ。


鞠莉「とりあえず、立ち話も難だし、席に着きましょうか」


わたしは二人にそう促す。

机を挟んで奥の席にわたし、その隣にダイヤ、そしてわたしたちの向かいにMs.聖良と言う形でそれぞれ腰を落ち着ける。


鞠莉「今日は忙しい中、研究所までありがとう。島だからここまで来るの、大変じゃなかった?」

聖良「いえ、そんなことは……こちらこそ、不手際でアポがしっかり取れていなかったようで申し訳ないです」

ダイヤ「カヅノさん、そんなに気に病まれなくても大丈夫ですよ」

聖良「あ、私のことは聖良と呼んでいただければ」

ダイヤ「そうですか? では聖良さん。わたくしもダイヤと呼んでいただけると……」

鞠莉「わたしも鞠莉で大丈夫よ。オハラ博士はちょっと馴染みがないから……」

聖良「わかりました、鞠莉さん、ダイヤさん」


恭しく挨拶を交わして、ダイヤが話の続きを始める。


ダイヤ「不手際と言うのもきっと鞠莉さんが手紙を見落としていたと言うところでしょう。この人は自分の研究所を持っても、相変わらず机の上がごちゃごちゃで……」

鞠莉「ちょっとダイヤ! 手紙はポストマンの手違いで受け取るのが遅れただけよ!」

ダイヤ「机の上が汚いのは事実でしょう?」

鞠莉「む……いや、今は確かにばたばたしてて散らかってるけど……」

ダイヤ「ほら、みなさい」


痛いところをダイヤに指摘されて、少し膨れてしまう。

そんなやり取りを見てか、聖良さんがくすくすと笑っている。


鞠莉「もう! ダイヤが余計なこと言うから笑われちゃったじゃない!」

聖良「ふふ、すみません……お二人とも仲がよろしいんですね」

鞠莉「まあ、同郷の人間としていろいろ助けてもらってるけど……正直腐れ縁なんだけどね」

聖良「いいではないですか。私は同郷の友人と言うものには余り恵まれなかったので、羨ましいです」


その言葉を聞いて、ダイヤがやや神妙な顔をする。

それを見てか、聖良は、


聖良「ヒナギクシティの更に北の山間部の生まれで、あまりご近所付き合いというものがなかったので……」


そう答える。
179 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:42:56.96 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「そうなのですか……あの辺は気候も厳しいと聞き及んでいますわ。苦労なされたのですわね」

聖良「いえ……家族も居ましたので……。あ……すみません、身の上話をするつもりはなかったんですが」

鞠莉「ふふ、気にしないで。同年代同士気楽に行きましょう?」

聖良「ありがとうございます」


元気な子たちに囲まれていたせいか、こうして格式ばったやり取りは久しぶりな気がする。

とはいえ、一応ルビィと花丸を待たせている以上、必要以上にまったりと話しているわけにもいかないと思い本題に入ろうとすると、


ダイヤ「そういえば、聖良さんはどのような研究をされているのでしょうか? 一応、事前に石や宝石の研究をしている方と伺ったのですが……」


ダイヤが先に切り出した。

それを受けて聖良は、


聖良「厳密に言うなら……特定のポケモンに効果を現す道具の研究を行っています」


と、答える。


ダイヤ「それは進化の石のような?」

聖良「それもありますが……“でんきだま”や“ふといほね”と言った特定のポケモンを著しく強化するアイテムや──」


そのとき、彼女の目の色が少しだけ変わった気がした。


聖良「──伝説のポケモンに関わる道具についての研究をしています」

鞠莉「伝説のポケモンに関わる道具……」


わたしはそのワードを聞いて、少しだけ考えてから、


鞠莉「ジョウト地方の“とうめいなすず”や“うみなりのすず”。ホウエン地方の“べにいろのたま”や“あいいろのたま”。シンオウ地方の“こんごうだま”や“しらたま”のことかしら?」

聖良「……流石ですね、鞠莉さん。その通りです」

鞠莉「わたしも“どうぐ”の研究をしている以上、何度か触れることがあった議題だからね」

聖良「本日、こうして鞠莉さんを尋ねたのも、他でもない、それらの“どうぐ”についての博士の見解をお聴きしたいと思いまして……」

鞠莉「……と言うと?」

聖良「ピカチュウの持つ“でんきだま”や、カラカラ、ガラガラの持つ“ふといほね”はどういう仕組みでポケモンを強化していると御思いですか?」

鞠莉「……そうね。前者は群れの中でも特に強い力を持った個体が繁殖の過程の中で生み出したエネルギーの結晶体のようなものだと考えてるわ。後者はより強い子孫を残すために、より鍛え抜かれた武器を子供に引き継がせる過程で生まれた頑強な骨、と言ったところかしら」

聖良「はい。私も概ねそのように捉えています。つまりはそう言った世代を経て生まれたエネルギー体や、練度を持った武具に相当するアイテムが、ポケモンたちを強化している。それはポケモンたちが、自らの種族を繁栄させるために生み出した道具、ということになります」

鞠莉「……ふむ」

聖良「ですが、先ほど鞠莉さんに言っていただいたような、伝説のポケモンの道具はどうでしょう」

ダイヤ「? どうとは……?」


ダイヤも教職ゆえ博識ではあるが、専門の研究者ではないためか、表情に疑問を浮かべる。

わたしはなんとなく、話の意図を汲み取り、


鞠莉「……そういったアイテムと違って、世代交代をすることが確認されていない伝説のポケモンの道具は出自がわからないと……」


そう返した。


聖良「そういうことです。私はその原点を調べるために、調査団を立ち上げ研究をしているんです」

ダイヤ「なるほど……」

聖良「少し話が逸れてしまいましたね……博士はこれについて、どのようにお考えですか?」
180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:47:58.21 ID:oTWJbR4y0

聖良さんに質問をぶつけられ、再び考える。


鞠莉「……いわゆる伝説のポケモンと言われるポケモンたちに関係のある道具と言っても、他地方に目を向けて見てみると結構な数があるわよね」

聖良「そうですね……ジョウトでは伝説のポケモンルギア、ホウオウに纏わる道具として、“にじいろのはね”、“ぎんいろのはね”、“とうめいなすず”、“うみなりのすず”」

ダイヤ「……確か、数年前にホウエン地方ではグラードン、カイオーガをマグマ団・アクア団と言う組織が復活させ、大災害を引き起こしたと言う話がありましたわね」

鞠莉「そのときにGroudon、Kyogreに対応した道具が“べにいろのたま”、“あいいろのたま”……だったわね」
       (*Groudon=グラードン、Kyogre=カイオーガの英名)

聖良「他にもシンオウ地方でギンガ団という組織がディアルガ、パルキアをその手で御しようとした事案もありました。そんな彼らには“こんごうだま”や“しらたま”と言った道具が対応しています」

鞠莉「……“にいいろのはね”、“ぎんいろのはね”は文字通りHo-ohやLugiaの朽ちることのない羽根だと思うわ。二つの鈴は人間側が二匹の心を癒やすため、コミュニケーションを取るために作ったものと考えているわ」
                                   (*Ho-ohn=ホウオウ、Lugia=ルギアの英名)

まあ、恐らく彼女が聞きたいのは羽やら鈴のことではないと思う。


鞠莉「わたしに見解を聞きたいって言うのは、珠ね……」

聖良「はい。聞いた話ではポケモンそのものを御したり、ポケモンの真の力を引き出す道具と言われています」

ダイヤ「……あの、それならその道具は元はそのポケモンの一部だったのではないでしょうか」

聖良「何らかの原因でポケモンが自分の体の一部だったソレを失って、結果としてパズルの最後のピースのように、ポケモンの真の姿を引き出す道具になった、と言うことですね。確かに……そう言う考えも出来ますが、説明出来ないことがあるんです」

ダイヤ「説明出来ないこと?」

鞠莉「……何故、その道具にポケモンを御する機能があるのか、ないし何故一匹しかいないと言われている伝説のポケモンたちが自分の真価を発揮する道具を手放してしまったのか……ね」

聖良「はい」


もし自分の一部位にそんな効果があるなら、普通は手放さないように細心の注意を払うとは思う。

仮に自分以外のものが持つことがあったとしても、自分の制御権を持つ部位と言うとほぼ脳とも言えるものだ。

簡単に切り離せると考えるのは些か不自然である。


ダイヤ「……確かに」

鞠莉「……考えられるとしたら、強すぎるポケモンの力を封じるために、人間が後から制御する機構を取り出した……か、もしくは作った?」


頭の中でそれぞれの珠を思い浮かべる。

──タマ?


鞠莉「......ball」

聖良「……!」

ダイヤ「……鞠莉さん?」

鞠莉「……もしかして、モンスターボール……?」

聖良「!! ……そうです!! やはり、鞠莉さんもその発想に至りますか!!」

ダイヤ「えっと……?」


聖良さんが興奮気味に同調する中、ダイヤは怪訝な顔をしている。


鞠莉「モンスターボールには大なり小なり、持ち主が誰かを認識させる力があるわ」


もちろんボールに入れて連れ歩くと言う過程でポケモンが“おや”を認識し、信頼すると言うことが大きいのだけれど。


鞠莉「実際、今のモンスターボールには他の“おや”が捕まえることが出来なくする機構もある。表現があまりよくないかもしれないけど、特定の人間がポケモンを所持・制御するための補助道具と言う面があるわ」

ダイヤ「……確かにそれを問題視したポケモン倫理団体が、脱モンスターボールを唱えたことがイッシュ地方でありましたが……プラズマ団でしたでしょうか」

聖良「まあ、その話自体は結果として、プラズマ団は解散。幹部達が今でも国際指名手配されているのが現状ですが……」

鞠莉「でも、モンスターボールに大なり小なりそういう影響があることは否定できない。……そして、もし伝説のポケモンの珠が同じような制御機構だとしたら……」

聖良「! そう! そうです!」
181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:55:01.00 ID:oTWJbR4y0

聖良の考えが読めてきた、が、


ダイヤ「ち、ちょっと待ってください!」


ダイヤが割って入る。


ダイヤ「モンスターボールが出来てからまだ100年も経っていないのですよ!? しかも、あの発明は完全に偶発的なものだったと言われていますわ」


──モンスターボールの誕生は1925年、タマムシ大学にてニシノモリ教授が、研究中にオコリザルへの投薬量を誤り衰弱させてしまった際に、そのオコリザルが生存本能からか教授の老眼鏡ケースの中に小さくなって入り込んだことから、ポケモンは『衰弱時に縮小して狭いところに隠れる』と言う本能が判明する。

それを利用して、開発されたのがモンスターボールだ。

今ではカントー地方のシルフカンパニーやホウエン地方のデボンコーポレーション、カロス地方のクノエシティと言った場所で生産出荷。我らがオトノキ地方でもローズシティのボール会社から生産出荷をして流通している。


ダイヤ「伝説のポケモンの伝承は少なくとも数百年前……長いものは数千年前や紀元前からのものもあります。いくらなんでも、近代で開発された道具を引き合いに出すのは無理がありませんか?」


ダイヤらしい、優等生な意見だけど、


鞠莉「それは収納性や携帯性の話でしょ? モンスターボールに洗脳的な機能がある、なんて極端なこと言うつもりはないけど……ポケモンを制御する方法として、同じように道具で持って御そうとしたと言う説は否定できないわ」

ダイヤ「それは、まあ……そうですが」

聖良「真偽はともかく、もしそのような制御機構が人工物なんだとしたら、予めそういう機構や製造法を把握することによって、ホウエンやシンオウのような事変も、あそこまでの大きな被害を出す前に対処が取れたのではないかと私は思ったんです」

鞠莉「……そういうことね」


わたしだけでなく、ダイヤを尋ねてきた理由を図りかねてたが、やっと話が見えてきた。


鞠莉「……聖良はその秘密がここにあると睨んでる、と言うことかしら?」

ダイヤ「……え?」

聖良「……話が早くて助かります」


聖良さんはダイヤに向き直る。


聖良「ダイヤさん……クロサワの入江の調査をさせていただけないでしょうか」

ダイヤ「なっ……」

聖良「クロサワの一族が代々管理・保護してきた場所と言うのは重々承知しています。ですが、あそこからは貴重な鉱物や、何より特殊な宝石を纏ったメレシーが多く見つかっています。私は伝説のポケモンたちの宝珠のようなものを、人間が拵えたんだとしたら、そういう特殊な鉱物を発掘出来る神聖な場所から発祥したんじゃないかと思うんです」

ダイヤ「……」

聖良「科学の発展のために、調査を許可してもらえないでしょうか」


聖良さんは立ち上がり頭を下げる。

……だけど、ダイヤは、


ダイヤ「許可を取ろうとわたくしを尋ねて来てくださった手前、申し訳ないのですが……そのお話は承服致しかねます」


一蹴する。


ダイヤ「……地元の人間ならまだしも、外部の人間からの調査依頼はちょっと……」

聖良「…………。……そう、ですか……」


ダイヤに了承の意思がないとわかったのか、聖良さんが残念そうに顔をあげる。


ダイヤ「意に添えなくて申し訳ないですが、どちらにしろわたくし一人で決められることではなくなってしまうので……」
182 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:56:04.79 ID:oTWJbR4y0

……まあ、仕方ない。

地元のわたしでさえ、ある程度自由な出入りを許可してもらうまで、それなりの時間を要したのだ。

一朝一夕で外の人が入り込むことをダイヤが了解するはずがないし、仮にダイヤが了承したとしてもクロサワの家そのものを通すのにさらに時間もかかるだろう。


聖良「……不躾なお願い、失礼しました」

ダイヤ「いえ……」

鞠莉「……ある程度だったら、内部の調査はオハラ研究所でしているし、もし思い当たるサンプルが取れたら連絡するわ」

聖良「ありがとうございます……」


なんとなく、空気が重い。

まあ、交渉が決裂したわけだから、仕方ないか。

そんな沈黙を破ったのは──


──少し離れたところで派手に何かが壊れる音だった。


ダイヤ「!? な、なに!?」


驚いて声を上げるダイヤ。

わたしは咄嗟に立ち上がり、壁に掛けられている連絡用の受話器を取る。


鞠莉「セキュリティ? こちら応接室、何かあった?」

メイド『お、お嬢様、大変です!!』


受話器からは仕様人の焦った声。

その焦り様はわたしのことをお嬢様と呼んでしまっていることに全く気付いてないところからも伝わってくる。


鞠莉「落ち着いて報告して」

メイド『──け、研究所が、何者かに襲撃されていますっ!!』


──知らないところで事態が大きく急転していた。


183 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:56:31.72 ID:oTWJbR4y0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【オハラ研究所】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:1匹

 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:1匹


 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



184 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:17:17.25 ID:oTWJbR4y0

■Chapter015 『襲撃』 【SIDE Hanamaru】





時は鞠莉さんとダイヤさんが応接室に行ったあとくらいのこと、


 「チャモッ!」

ルビィ「いたたっ! アチャモ突かないでよ〜!!」

花丸「ルビィちゃんのお肌はもちもちだから気に入られたのかもね」

ルビィ「嬉しくないよー!! いたっ!!」


アチャモはルビィちゃんのことがよほど気に入ったのか(突き心地がよかったのか)ずっと逃げ回るルビィちゃんを追い回している。

マルには目もくれないし……。


花丸「これはパートナー決定かな?」
 「…zzz」


横で寝てるナエトルがきっとマルのパートナー

マルと同じのんびり屋さんだし、気は合うと思う。


 「チャモォー!!」

ルビィ「アチャモ〜! いい加減にして〜!」

 「チャモ」

ルビィ「……あ、あれ?」


ルビィちゃんが叫ぶと先ほどとは打って変わってアチャモは足を止める。


ルビィ「も、もしかして……ルビィの言うこと聞いてくれた?」

 「…」


しかし、アチャモはルビィちゃんの方ではなく──天井を見上げていた。

 「チャモーー!!!」

次の瞬間アチャモは天井に向かって叫びながら、“ひのこ”を吐き出した。


ルビィ「え、アチャモ!?」


何も無い場所に向かっての攻撃──と思ったんだけど、

その場から何かが音も立てずに素早く動くのが見て取れた、


花丸「え!?」

ルビィ「な、なに!?」

メイド「何かいる……? キルリア!」


メイドさんがすぐさま手持ちを繰り出す。


メイド「お二人ともお下がりください!」


天井を見上げると、依然何かが飛び回っている。

早すぎて見えない。
185 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:18:25.02 ID:oTWJbR4y0

花丸「この狭い室内を羽音もなく、縦横無尽に飛び回ってる……そんなの4枚羽根のポケモンじゃないと不可能ずら。……そうなるとアメモース、ヤンヤンマ、メガヤンマ、クロバット……あの大きさだと、メガヤンマかクロバット……」

メイド「キルリア! “サイコショック”!!」


マルがそんなことをぶつぶつと呟きながら考えていると、メイドさんは既に攻撃態勢に入っていて、指示を受けたキルリアから発せられ、実体化した念波がそのポケモンに向かって飛び掛る。


 「“かげぶんしん”!!」


天井のポケモンの方から人の声がしたと思ったら、その高速の影はさらに数を増やし、“サイコショック”が透かされてしまう。


メイド「っく!!」

 「ほっといてくれれば、見逃したのに」


そんな声と共に影の一つから、人影が飛び降りてくる。

──二つボールを放ちながら、


 「ゴォーリ!!!」


巨大な氷の顔面がボールから飛び出す。


花丸「お、オニゴーリずら!!」


そんなマルの叫びは全く間に合わず、


 「オニゴーリ!! “かみくだく”!!」
  「ゴォーリ!!!」


キルリアに襲い掛かる。


 「キルゥ!?」

メイド「キルリア!?」


大きな顎が噛み付いたあと、オニゴーリはその丸い体躯を回転させながら、キルリアを壁に向かって放る。

研究所の机ごと、その上にある書類やら書物を吹き飛ばしなら、キルリアが壁に叩き付けられた。


 「キルゥ…」

メイド「くっ……!!」


メイドさんが次のボールを構える。

が次の瞬間、


 「動くな」


背後から鋭い声がした。


ルビィ「え、え!?」

 「コイツの首が飛ぶわよ」

花丸「る、ルビィちゃん!!?」
186 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:19:39.39 ID:oTWJbR4y0

気付いたら背後には上から飛び降りてきた声の主の姿。

全身を真っ黒な服で包み、口にまで布を当てている。

まるで訓練を受けた、特殊部隊の人間のような出立ちだった。

声から察するに若い女の子だということはわかったけど……。

それどころじゃない、


 「マニュ…」


ルビィちゃんの首筋にはマニューラの鋭い鉤爪が充てられていた。


メイド「その方を離しなさい!!」


メイドさんが叫ぶ。この場を主人から預かった使命感からか、強い殺気さえ感じさせる剣幕。


謎の女「……動くなって言ったんだけど」

 「ゴォォーリ」


その女性が一声あげると


メイド「……!?」


メイドさんの手足が凍り付いていた。


メイド「い、いつの間に……!!」

謎の女「モブに用はない」
 「ゴォォーリ」


その台詞と共にメイドさんの体がどんどん凍り付いていく。


花丸「メイドさん!?」


マルが声をあげると、


謎の女「言ってる言葉の意味、わかんないの?」

花丸「!!」


今度はマルに向かって視線が飛んでくる。


ルビィ「は、花丸ちゃ……っ」

花丸「……っ」


ルビィちゃんはすでに恐怖でぽろぽろ涙を流しながら、オラの名前を呼ぶ。

──だけど、

足が動かない。

蛇に睨まれた蛙のように。


謎の女「…………」


目の前の黒尽くめの女の子は、マルとルビィちゃんを何度か交互に目を配らせたあと、


謎の女「……こっちか」
187 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:21:14.92 ID:oTWJbR4y0

そう言ってから、ルビィちゃんを小脇に抱えた。


ルビィ「ピギィッ!?」


同じくらいの体格──いや、ルビィちゃんよりも小さいかもしれないのに、ルビィちゃんを小脇に抱えて、


謎の女「クロバット」
 「クロバ」


天井のポケモンを呼び寄せる。

すぐにその背中に紫の4本の羽根が生えて、クロバットに背中を掴まれた状態で飛び立つ──


花丸「だ、ダメ!! ゴンベ!! “なげつける”!!」
 「ゴンッ!!」


ずっと研究所の端でご飯を食べていたゴンベに指示を出す。

咄嗟の指示を受けて、ゴンベが近くの分厚い本を投げつける。

──だけど、


 「ゴォォォーリ」


オニゴーリの凍った体から突出するように突き出た氷塊によって、投げつけた本が弾き返され、

──バサリ、と近くに置いてあった機械に当たってから虚しく床に落ちる。


謎の女「……無駄な抵抗ね」


冷たい言葉──


 「そうでもないロト」


──に返事をするかのように、本がぶつかった機械の方から声がした。


ルビィ「ピギッ!?」

謎の女「!? な、何……? ……電子レンジ?」

 「ロト」

謎の女「!?」

 「“オーバーヒート”ロトーー!!!!」


──部屋の隅の電子レンジが突然その蓋を開いて、熱波を噴出した──いや、あれは、


花丸「ヒートロトムずら!!」


電子レンジに乗り移ったロトムが、電子レンジに搭載されている合成音声で喋りながら、攻撃している。


 「ゴォォォーリ…!!」


激しい熱波がオニゴーリの体表の氷を溶かしていく。


謎の女「この研究所は……珍妙なのがいるのね」

 「ロトトトト!!!!!」

謎の女「マニューラ! “つららおとし”!」

 「マニュ!!!」
188 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:22:50.94 ID:oTWJbR4y0

今度はロトムに向かって、攻撃を放つ。

氷のエネルギーがロトムの頭上に飛んで行ったかと思うと、次の瞬間には大きなつららが出来上がり、ロトムに襲い掛かる。


 「ロトトトトトト!!!!!!」


続け様に熱波を発する、ロトムの頭上でつららが蒸発するが、


 「ロトトトトトト…!???」


精製され続け、振り続けるつららは次第に勢いを増し、融解が間に合わなくなり始める。

──いや、


花丸「“オーバーヒート”は繰り返し使ったら威力が下がっちゃうよっ!!」

 「そ、そうだったロトー!!!」


パタパタとレンジの蓋を開け閉めし、


 「ロトムに出来るのはここまで、ロト…」


そう呟いた。


ルビィ「ロトム!! 逃げてっ!!」

謎の女「終わりね」

 「ナムサン…」


ロトムが最後の言葉を残したそのとき──


 「No problem!! 十分よ! ロトム!!」


聞き覚えのある博士の声が響いた、


鞠莉「スターブライト号!! “ほのおのうず”!!」
 「ブルル、ヒヒィーン!!!」


研究所の大扉を蹴破る形で飛び込んできた、ギャロップが、

──ゴォと、ロトムの周りを“ほのおのうず”が包み込み、


謎の女「!!」


頭上のつららを蒸発させる。


 「マ、マリー!!!」

鞠莉「ロトム、よく堪えたわね! お手柄よ!」

謎の女「っち……」


謎の女性は、舌打ちする。


謎の女「マニューラ、迎撃──」

ダイヤ「──など、許すと思いますか?」


今度はダイヤさんの声が鋭く響く。
189 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:24:48.88 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「ジャローダ! “へびにらみ”」
 「ローダ…」

 「マニュ!!!?」


“へびにらみ”──睨んだ相手をまひさせる技だ。


ルビィ「お姉ちゃん……っ!!」

ダイヤ「ルビィ! 今助けますわ!」

謎の女「……くっ」


謎の女はまひしたマニューラを素早くボールに戻し、クロバットの肩に乗せたまま、後ずさっていく。


鞠莉「そっちは壁よ……チェックメイトね」

ダイヤ「観念していただけますか?」

謎の女「…………」


ダイヤさんのジャローダと鞠莉さんのギャロップがじりじりと謎の女に近付く。

──そのとき、

聖良「み、皆さんっ!!」


聞きなれない人の声が響いた。

──なんとなく、だけど、その瞬間、謎のトレーナーが、


謎の女「……ふ、あははは……っ!!」


突然笑い出した。


鞠莉「何、追い詰められておかしくなった──?」

聖良「そ、外に──」

ダイヤ「外──?」


──次の瞬間。

謎の女性が背にしていた、壁が、

刳り貫かれる形で、

引き剥がされた。

外に待機していた、大型のクマのようなポケモンによって。


鞠莉・ダイヤ・花丸「「「!?」」」

謎の女「リングマ!! “じならし”!!」
 「グルゥォォオオ!!!!」

ルビィ「ピ、ピギィ!?」


大きな揺れが巻き起こり、一瞬怯んだジャローダが視線を外してしまう。


ダイヤ「──し、しまっ──!? 予め外に手持ちを!?」



謎の女性はその刳り貫かれた壁から、真後ろに飛ぶように外に飛び出す。


ルビィ「あ、あわわっ!!?」
190 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:27:31.26 ID:oTWJbR4y0

彼女はリングマたちを素早くボールに戻しながら、ルビィちゃんを抱えて。


花丸「ルビィちゃん!!」


マルは叫ぶ。

飛行体勢に入って飛び立とうとするクロバットとそのトレーナーに向かって、


鞠莉「に、逃がしちゃだめ!! スターブライト号!!」
 「ヒヒィーン!!!!」


鞠莉さんがすぐに次の攻撃態勢に入るが、“じならし”の影響で足を取られてうまく進めない。

全員がルビィちゃんをその視界に捉えたまま、

今まさに目の前で連れ去られようとしている、その瞬間、

──小さくて身軽な影がルビィちゃんに向かって走り出していた。


 「チャモォーー!!!」

ルビィ「ア、アチャモ!?」


鳴き声を上げながら、アチャモがルビィちゃんの足元に飛びついた。

もうそのときには、ルビィちゃんの身体は完全に中空に居て、


ルビィ「だ、ダメ、アチャモ!!? 来ちゃダメだよぉっ!!」
 「チャモォーーー!!!」


ルビィちゃんの脚に器用に組み付いて、


謎の女「余計なのがいるけど……ま、いい。クロバット!」
 「クロバットッッ!!!」


そのまま、飛び立つ体勢を整えたクロバットが翼を広げる。


鞠莉「ま、待ちなさいっ!!」

ダイヤ「ジャローダ!! “グラスミキサー”!!」
 「ロローダ!!!!」


クロバットを追うように、ジャローダの尾から巻き起こる草の旋風も虚しく、

それを無視するかのように風を切って、

 「クロバッ!!!!」

クロバットは猛スピードでその場を飛び立ってしまった。


花丸「ず、ずら……」


マルは思わずペタンと尻餅をついてしまう。

──この短い間にとてつもないことが起こった。

……ルビィちゃんが連れ去られてしまった。


メイド「申し訳……御座いません……お嬢様……」


そんな頭を現実に引き戻したのは、先ほどオニゴーリから直接攻撃を受けた、メイドさんの声だった

声の方に目をやると、メイドさんはいつの間にか首の辺りまで厚い氷で覆われていた。


鞠莉「!! じっとしてて、今溶かすから……!! スターブライト号、お願い」
 「ヒヒン…」
191 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:28:50.89 ID:oTWJbR4y0

ギャロップが特性“ほのおのからだ”でメイドさんの氷を少しずつ溶かす。


鞠莉「スターブライト号……ゆっくり、ゆっくり溶かすのよ?」
 「ブルル…」


改めて研究所を見回すと、それはそれは酷い有様でした。

室内には物が散乱し、戦闘不能のキルリアと、氷漬けのメイドさん。

それを溶かす鞠莉さんのギャロップ──スターブライト号という名前みたいです──

研究所の壁には大きな穴が空き、そこからは皮肉にも陽気な太陽の日が差し込んでいる。


ダイヤ「っく……」


ダイヤさんが唇を噛みながら、その壁に出来た大穴のところへと足を運ぶ。


ダイヤ「ルビィ……どうして、こんなことに……」

鞠莉「ダイヤ……」

聖良「……あの、皆さん、今しがた警察に通報しました。すぐに来てくれるそうです……」

鞠莉「Oh...Thank you...聖良さん」

聖良「い、いえ……その……何か私にお手伝い出来ることは……」

ダイヤ「……結構ですわ」


──ユラリと、怒気を感じさせるダイヤさんの声。


鞠莉「ダイヤ……?」

ダイヤ「ルビィは……わたくしが取り返してきます……」


ダイヤさんはそのまま、壁の大穴から、外に歩き出す。


鞠莉「ち、ちょっと、ダイヤっ!! 落ち着いて!!」

ダイヤ「これが、落ち着いていられますかっ!!?」

鞠莉「ルビィが連れ去られた先もわかってないでしょ!?」

ダイヤ「…………」

鞠莉「気持ちはわかるけれど……一旦Cool down...」

ダイヤ「……ごめんなさい。確かにその通りですわね……今ここで騒いでも、事態は解決しませんわね……」

花丸「……せめて、ルビィちゃんの居場所がわかれば……」

 「わかるロト」

花丸「え?」


気付くと、図鑑モードになったロトムがふよふよとこっちに近付いてきていた。


鞠莉「わかるって……?」

 「ルビイちゃんは図鑑を持っていたはずロト」

花丸「ずら?」

鞠莉「……あ、それなら」

ダイヤ「追尾が……!!」


ダイヤさんは咄嗟に上着のポケットから真っ赤な図鑑を取り出した。
192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:29:52.35 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「追尾……追尾……」

鞠莉「ダイヤ、落ち着いて……あなたの図鑑は旧式だから、ルビィの図鑑を追尾する機能はないわ……」

ダイヤ「…………そう」


ダイヤさんは相当うろたえていた。

こんなダイヤさん見たことないってくらいに。

──そりゃそうだよね、目の前で実の妹が攫われたんだから……。


鞠莉「花丸、ちょっと図鑑貸して貰っていい?」

花丸「ずら!? は、はい!!」


言われて図鑑を差し出すと、鞠莉さんがポチポチと操作を始める。

ルビィちゃんの図鑑の行き先をサーチしているんだろう……。


花丸「ルビィちゃん……」


ルビィちゃん……無事で居て……。

そう祈りながら、結果を待つ。

程なくして、


鞠莉「──結果、出たわ……!!」


鞠莉さんの声にオラとダイヤさんが画面を覗き込むと、


鞠莉「Oh...」

花丸「ここって……」

ダイヤ「……またですか」


そのマップに表示されたルビィちゃんの居場所を確認して、マルたちは思わず顔を見合わせる──。





    *    *    *





視界には太陽の光を反射している海面が凄い勢いで流れていく。

そんな中、宙ぶらりんのルビィの足元では、


 「チャモォーーー!!! チャモォォォーーー!!!」


アチャモが声を上げて、しがみついている。


ルビィ「ア、アチャモっ!! 大人しくして!!」

謎の女「……そのアチャモうるさいんだけど、ボールにしまってくれない?」

ルビィ「ぴぎっ!?」


上空で小脇に抱えられながら、冷たい声でそう言われる。
193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:31:26.50 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「い、いやっその、ル、ルビィこの子のボール、も、持ってない……っ」

謎の女「別に落としてもいいのよ?」

ルビィ「ダ、ダメ!!」


研究所を飛び出したクロバットはとてつもないスピードで飛行し、すでにアワシマを抜け、海上を移動している。


ルビィ「ほのおタイプのポケモンなんだよ!? 海になんか放り出したら死んじゃうよっ!!」


そう叫ぶ。


謎の女「じゃあ、静かにさせて」

 「チャモォーーー!!!」

ルビィ「アチャモ……!!」


足に必死にしがみついているアチャモにどうにか手を伸ばして、

 「チャモッ?」

胸に抱きかかえる。


ルビィ「お願い……大人しくして……ね……」
 「…チャモ」

ルビィ「……ありがとぅ」


全力でお願いしたら、アチャモは先ほどまでの様子からは信じられないくらい、スンと大人しくなる。


謎の女「……やれば出来るじゃない」


そんな声が上から降ってきて、思わずルビィはそっちの方に視線を向ける。


ルビィ「……な、なにが……も、目的ですか……っ……」

謎の女「そんな震える声ですごまれても怖くないんだけど」

ルビィ「……ル、ルビィのこと、さ、攫っても……い、いい、いいことなんか、ないです……よ……っ!」

謎の女「それはあんたが決めることじゃない」


必死に抵抗の声をあげたけど、振り絞った勇気も虚しく一蹴される。

海上まで連れて来られてしまった以上、どちらにしろ逃げ場はないから、落ちるか連れ去られるかしかもうないんだけど……。

高速で飛翔するクロバット、その進行方向に洞窟ようなものが見えてくる。


ルビィ「え」


ちょっと、待って……あの場所って……。


ルビィ「クロサワの入江……?」





    *    *    *




図鑑に表示されたマップはクロサワの入江に妹が──ルビィがいることを示していた。

場所がわかれば次の行動は早い。
194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:32:29.46 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「今すぐ、入江に向かって発ちますわ。鞠莉さん、花丸さんのことお願いできますか?」

鞠莉「わかった」


鞠莉さんは、今研究所から離れるわけにもいかないだろう。

そう思い、花丸さんを任せようと思った矢先、


花丸「ま、待ってダイヤさん!!」


花丸さんがわたくしと鞠莉さんに割って入る。


ダイヤ「……花丸さん?」

花丸「マルも連れてって!」

ダイヤ「……ダメです。……危険ですわ」


わたくしは花丸さんにそう伝えましたが、


花丸「そんな危険な場所に連れ去られたルビィちゃんはもっと怖い思いしてるずら……っ!!」


花丸さんは目にいっぱいの涙を溜めて、そう主張する。


ダイヤ「花丸さん……」

花丸「オラ、怖くて動けなかった……ルビィちゃんが泣いてたのに……オラに出来ることなんにもないかもしれない……だけど、だけど、ルビィちゃんのこと考えたら……待ってるだけなんて……っ……」

ダイヤ「…………」


目の前で、ずっと一緒に居た親友を連れ去られたのです。

今、彼女の中では猛烈な後悔が押し寄せて来ているのかもしれません。


ダイヤ「……すぐに仕度しなさい」

花丸「ダイヤさん……」

ダイヤ「ただし、勝手にわたくしの傍を離れないたりしないこと。約束できますか?」

花丸「はいっ」

ダイヤ「……そういうことですので、鞠莉さん」

鞠莉「OK. こっちは任せて……ってわたしの研究所だけど。何かあったらポケギアに連絡してネ」

ダイヤ「わかりましたわ」


そんなやり取りの中、

 「ナェー」

気の抜ける声が足元からする。


花丸「ずら……ナエトル?」
 「ナェー」

花丸「一緒に来るずら?」
 「ナェー」


花丸さんがナエトルを抱きかかえて訊ねるとナエトルはまた気の抜けそうな声をあげる。


鞠莉「アチャモのことが心配なのかもね。研究所でずっと一緒に遊んでたわけだから」

花丸「そっか……! じゃあ、一緒に行こう」
 「ナェー」
195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:32:56.49 ID:oTWJbR4y0

ナエトルは依然気の抜ける返事をしながら、コクンと頷いた。

花丸さんはモンスターボールにナエトルを戻して、


花丸「ゴンベも」
 「ゴン」


二つのボールを腰に携える。


ダイヤ「準備はよろしいですか?」

花丸「はいっ!!」

ダイヤ「では、行きましょう!」


わたくしたちは研究所を飛び出しました。


花丸「──ルビィちゃん……待っててね」


196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:33:26.56 ID:oTWJbR4y0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】【アワシマ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./             ●回/         ||
 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.5 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:2匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.5 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:2匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:28:15.74 ID:oTWJbR4y0

■Chapter016 『クロサワの祠』 【SIDE Ruby】





謎の女「クロバット、ここで降ろして」
 「クロバッ」


研究所から連れ去られて僅か数分。

見慣れた場所です。

ここはクロサワの入江の内部……。


謎の女「さて……」


ルビィのことを小脇に抱えていたトレーナーは、突然ルビィをパッと放す。


ルビィ「え!?」


咄嗟のことに反応出来ず、ルビィは地面に身体を打つ。


ルビィ「ぴぎぃ!? い、痛い……あ、アチャモ? 大丈夫?」


岩肌がむき出しになった地面に落とされて、痛かったけど……胸に抱えたアチャモが押しつぶされてないか心配になって声を掛ける。

 「チャモ」

……よかった、元気そう。


謎の女「さっさと立ってくれない?」


頭上から声が降ってくる。


ルビィ「……」


ほぼうつ伏せになるように落とされたルビィは、どうにか転がってお尻を付く形で地面に座り、アチャモを抱き寄せて、座ったまま後ずさる。


謎の女「どっちにしろ、もう逃げ場とかないから」

ルビィ「……な、何が……目的なの……?」


クロバットをボールに戻しながら、ルビィたちを見下ろすトレーナーさんを見ながら、声を絞り出すように訊ねる。


謎の女「祠に案内しなさい」

ルビィ「!」


──祠。その言葉に一瞬反応してしまう。


謎の女「その反応……やっぱり、ここには祠があるのね」

ルビィ「!? な、ない!! 祠とかないよ!!」


カマを掛けられたと気付いたときにはもう遅くて、


謎の女「私、あんまり気長い方じゃないから、さっさと教えた方が身の為よ」

ルビィ「ぴぎ……っ……」


布で覆われて目しか出ていないけど、その鋭い眼光で睨みつけられ、身体が強張る。

──でも、
198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:33:27.82 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「ほ、祠なんて……知らない、です……っ」


ルビィはそう答える。


謎の女「あくまでシラを切るつもり?」

ルビィ「だ、だって……知らないものは……知らない……です……」

謎の女「ふーん……」


トレーナーさんはルビィに冷たい視線を送りながら、腰からボールを放る。

 「グォゥ…」

ボールからはさっき研究所の壁を引っぺがした大きな体躯のクマのようなポケモン──リングマが飛び出す。


ルビィ「ピ、ピギィ!?」

謎の女「リングマ、こいつ持って」
 「グルゥ…」

ルビィ「ピ、ピギィーー!?」


今度はリングマさんにヒョイとつまみ上げられ、再び宙ぶらりんになる。


ルビィ「は、放してー……!!」

謎の女「とりあえず、このまま練り歩いてみて、あんたの反応を見ることにするわ。どうやら、顔に出るタイプみたいだし」

ルビィ「ぅゅ……っ」


そう言って、トレーナーさんが先導する形で歩き出すと、リングマさんもそのままルビィを掴んだまま、のしのしと歩き出す。


謎の女「……しかし、本当にメレシーだらけね」

ルビィ「……ぅゅ」

謎の女「色とりどり……普通のメレシーとは違う。まさにメレシーの楽園……」

ルビィ「……」


口は噤んだまま、ルビィもなんとなく周囲を見回す。

子供の頃から何度となく訪れたことのある入江の中は今日も七色の光に包まれて……。

七色の光が……あれ?


ルビィ「……なんか、足りない……?」


強い違和感を覚え、思わず声が漏れてしまう。


謎の女「足りない? 何が?」

ルビィ「……!? な、なにも言ってないです!」


うゅ……ルビィどうしてこう余計な事言っちゃうんだろう……


謎の女「……リングマ」

 「グォゥ!!」


トレーナーさんが合図をすると、リングマさんがルビィを掴んだまま腕を上下左右に振るう。


ルビィ「ぴぎぃぃぃぃ!? や、やめてぇぇぇぇぇ!!?」
 「チャモォー!!?」
199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:37:40.99 ID:oTWJbR4y0

そのまま振り回される。抱きかかえたアチャモもろとも。

しばらく、振り回された後、


謎の女「リングマ、ストップ」


トレーナーさんの声で止まる。


謎の女「やめて欲しいなら話しなさい」


トレーナーさんはそう言うけど、


ルビィ「い、いや……です……」


ルビィは拒否します。


謎の女「……あんた自分の置かれてる状況わかってるの?」

ルビィ「……」

謎の女「……思ったより強情じゃない」

ルビィ「……こ、ここは……っ」

謎の女「?」

ルビィ「……ここは、大切な場所……なんです……っ……顔も見せない、自分の名前も、名乗ってくれないような人に……教えることなんて……ない、です……っ」

謎の女「…………」


精一杯睨みつけながら──ちゃんと睨めてたのか自信はないけど──ルビィはそう答えます。


謎の女「……一番弱そうだから、選んだけど……それでも良家の人間ってことね」


そういうと、トレーナーさんが突然顔や頭を覆う布を取り、素顔を晒す。

整った顔立ちに、赤みがかった紫色の髪をツインテールに縛っていた。

晒された素顔はまだ幼さを残していて、ルビィと同年代……うぅん、もしかしたら年下かも? と思ってしまうくらい。

こんな状況じゃなかったら、普段周りから子供っぽいと言われるルビィは親近感を覚えたかもしれません。


謎の女「これで信用できる?」

ルビィ「……か、顔見せられただけじゃ、信用出来ないよ……」

謎の女「……理亞」

ルビィ「……え?」

理亞「名前。理亞」


ルビィから信用を得るために名乗った、ってことかな……?


ルビィ「それ……」

理亞「?」

ルビィ「ホントの名前なの……?」


この状況で本名を出す理由がない。恐らく偽名のはず。


理亞「……あ」


──と、思った矢先、理亞(偽名?)さんは短く声をあげて、しまったと言わんばかりな顔をした。
200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:38:59.95 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「え」

理亞「ぎ、偽名よ……あ、いや……」

ルビィ「……」

理亞「……」

ルビィ「……くす」


この誘拐犯さん、思ったよりお間抜けさんなのかもしれないと思ったら、笑いが漏れてしまった。


理亞「……何笑ってんのよ」

ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさい……!」


不機嫌そうな声に思わず謝ってしまう。


理亞「……あ、あんたが好きに判断すればいいじゃない……」


そう言ってプイっと顔を背けて、歩き出す。

その後ろをルビィを摘んだままのリングマがのっしのっしと付いていく。


理亞「……で?」

ルビィ「え?」

理亞「何が足りないのよ」

ルビィ「……」

理亞「あんたさっき私が名乗ったら喋るって言ったじゃない」

ルビィ「……言ってないけど」

理亞「……」


理亞さんはルビィの返答を聞いて、少し考えたあと、


理亞「…………」


バツが悪そうに再び顔を逸らす。

また、自分が勘違いしていたことに気付いたみたいです。

……うーん……やってることの割にちょっと可愛い性格なのかも……?

いや……とはいっても、現にルビィは攫われてるし……。


ルビィ「あの……理亞さん」

理亞「……何?」

ルビィ「……理亞さんはどうしてルビィをここに連れてきたんですか……?」

理亞「……はぁ? 祠を案内させるためって言ったでしょ?」

ルビィ「……ほ、祠なんてないですよ?」

理亞「そんなわけないでしょ」

ルビィ「……」


とにかくここにある祠に用があることはわかる。


ルビィ「……じゃあ、仮に祠があったとして……どうするつもりなの?」

理亞「それは……」
201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:41:08.32 ID:oTWJbR4y0

──祠。

このトレーナーさん──理亞さんが探してるのは祠。

だけど、祠を見つけたとして出来ることなんてお祈りするくらいしかないんじゃないかな?

……あ、泥棒さんなのかな……。

いくらかやり取りしていて、少しだけ余裕が出てきたのか、さっきよりも冷静にいろんな考えが頭の中を回っている。

そもそも、気が長くないなどといいながら、結局のところルビィは傷一つ負っていない。ホントに悪い人ならもっと強引に脅して来そうなものだけど……。

……ちょっと振り回されて気持ち悪いくらいはあるかな……。


理亞「……あんたに言う必要はない」

ルビィ「……」


でもやっぱり、仲良くは出来なさそうです……。

リングマに摘み上げられたまま、ノシノシと洞窟を奥へと運ばれていく。

──そのとき、

カタカタカタカタ──と、ルビィの腰についている真っ白なボールが震えだした。


ルビィ「え!? コラン!?」


真っ白なボール──コランの入っているプレミアボールだ。

ルビィの次の言葉を待たずして、コランがボールから勝手に飛び出す。


 「ピィー!! ピピィー!!」

ルビィ「ち、ちょっとコランーっ」

理亞「……」


理亞さんが怪訝な顔をしている。


ルビィ「え、えっと、ごめんなさいっ」


反射で思わず謝ってしまう。


ルビィ「この子やんちゃで……!! 今大人しく……」
 「ピィー!!! ピピピピィーー!!!」


大きな声で鳴き声をあげるコラン。

生まれたときから一緒のこの子が出す鳴き声だから、わかる。

これは……。


ルビィ「威嚇してる……」

理亞「威嚇? 私を?」


敵を威嚇する鳴き声、周りの仲間たちに外敵がいることを知らせる鳴き声、

外敵? 誰? 理亞さん?

コランの視線を追うと、理亞さんは完全に無視している。

そのもっと奥、洞穴のもっともっと奥に向かって、激しく鳴いている。


ルビィ「…………」


目を凝らすと──闇の奥に、溶けるようにそいつは居た。
202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:42:54.23 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「……!」


闇の中に浮かぶ宝石のような硬い質感の目玉、闇色の体色をカクカクと不気味に動かしている、子供の頃から教えられてきた、メレシーの天敵──


ルビィ「……ヤミラミ……!!」

理亞「ヤミラミ……なんでこんなところに」


理亞さんもルビィの言葉で気付いたのか、闇に溶けるヤミラミに視線を送る。

そんなルビィたちを端に、外敵を排除したい一心なのか、

 「ピピィーー!!!」

コランが飛び出した。


ルビィ「!? ま、待って!! コラン!!」


有無を言わさずにコランが突進をお見舞いするが、

 「ピ、ピピィ!?」

その体はヤミラミをすり抜ける。


ルビィ「“たいあたり”はヤミラミには当たらないよぉ!!」

 「ヤミィ」


ヤミラミはすり抜けたコランを振り向き様に爪を引っ掛けるように腕を振るう、


 「ピィ!?」

ルビィ「コラン!?」


そのまま、コランはヤミラミに抑え付けられる。

──い、いけない!!


ルビィ「コラン!! 振りほどいて!!」


メレシーがヤミラミに抑え付けられる──即ち、それは捕食されそうになっているということだ。

コ、コランが食べられちゃう……!!


 「ヤミィ」

 「ピ、ピィ…!」


ヤミラミはコランを吟味するようにジロジロと宝石のような目玉で観察したあと、

予想外なことに、


ルビィ「……え!?」

 「ピピィ!?」


コランをこちらに向かって放り投げてきた。


ルビィ「コ、コラン……!!」

 「グォォ!?」

理亞「え!? ちょ、あんた!?」
203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:44:38.32 ID:oTWJbR4y0

咄嗟にルビィが大きく体を捩ったのに驚いたのか、リングマの掴む力が一瞬緩む。

その隙にどうにか抜け出して、

こちらに向かって投げ飛ばされた、コランを全身でキャッチする。


ルビィ「ぴぎぃ!?」


とは言っても、実質岩の塊みたいなものだから、その勢いを殺しきれず、コランを抱きしめて、後ろにゴロゴロと転がる。

岩肌だらけの洞窟の地面を転がされ──


ルビィ「──い、いた……くない……?」


──たが、痛みはなかった。

全身擦り傷や切り傷、打ち傷だらけになると思っていたんだけど……。

気付くと周りにはオレンジ色の羽毛が敷き詰められていた。


 「チャモォ」

ルビィ「も、もしかして……アチャモが助けてくれたの……?」

 「チャモ!」

理亞「あんた何考えてんのよ!!」

ルビィ「ぴぎ!?」


アチャモと話していたら、すぐに理亞さんがルビィに駆け寄ってきて、大きな声をあげる。


理亞「飛んできたメレシー受け止めるとか、このポケモン岩の塊よ!? そのアチャモが“フェザーダンス”してなかったら、大怪我してたわよ!?」

ルビィ「ぅ、ぅゅ……」


確かに理亞さんの言う通り、ちょっと考えなしだったかもしれないけど……けど、


ルビィ「……この子はルビィのポケモンだから……」
 「ピ…」


コランを強く抱きしめて、そう言った。

と言うか……なんでルビィこの人に叱られてるんだろう……。


理亞「……」


理亞さんは呆れたようにルビィを一瞥してから、今度はの方をヤミラミを見据える。


理亞「……んで、あいつ何? ここってメレシーしかいないんじゃないの?」

ルビィ「ヤミラミはメレシーの天敵なんです……メレシーを食べちゃうポケモン。メレシーがたくさんいる場所にはどうしても出てくるから、定期的にお母さんやお姉ちゃんが退治するんだけど……」


闇の先で依然カクカクと不気味な動きをしているヤミラミを見ていると、


ルビィ「あれ……?」


違和感に気付く。


ルビィ「あのヤミラミ……胸の宝石が……透明だ……」


本来赤いはずのヤミラミの胸の宝石が、透明。あの輝きは恐らく、


ルビィ「ダイヤモンド…………もしかして」
204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:46:27.58 ID:oTWJbR4y0

ルビィは上下左右を見回す。

ヤミラミに驚いたメレシーたちが、“一種類だけ欠けた”玉虫色の宝石たちがもぞもぞと動いている。


理亞「なに?」

ルビィ「ダイヤモンドのメレシーが居ない……」


投げ飛ばされたコラン──真っ赤な宝石を持ったメレシー。

どこを見回しても、姿が見えない、ダイヤモンドタイプの宝石を持ったメレシー。

そして、奇怪なことにダイヤモンドを胸に携えたヤミラミ。

先ほどの違和感の正体が確信に変わる。


ルビィ「……た、食べたんだ……」

理亞「え?」

ルビィ「……あのヤミラミが……ダイヤモンドタイプのメレシーたちを……選んで食べたんだ……」

理亞「……な!?」


ルビィは図鑑を開いた。

さっき研究所で操作して試したように、ヤミラミのデータを表示する。

 『ヤミラミ くらやみポケモン 高さ0.5m 重さ11.0kg
  硬いツメで 土を 掘り 太い キバで 宝石を
  バリバリかじる。 石に 含まれた 成分は 結晶となり
  体の 表面に 浮かび上がってくる。 メレシーが 好物。』

 「ヤミ…」

ここには獲物がいないと気付いたのか、ヤミラミはその身を再び闇の中に隠そうとゆっくり洞窟の奥へと歩き出す。


ルビィ「に、逃げちゃう……!!」


理由はわからないけど、執拗なまでにダイヤモンドタイプのメレシーに拘って襲っている、逃がしたらまたその子たちが捕まって食べられてしまう。


理亞「マニューラ!!」


そう思った瞬間、

理亞さんの元から、何かが高速で飛び出した。


理亞「“おいうち”!!」
 「マニュ!!」


さっき、ルビィの首筋に鉤爪を立てていたポケモンだと気付いた頃には、


 「ヤミィ!?」

ヤミラミにその爪を引っ掛け、転倒させていた。


ルビィ「理亞さん!?」

理亞「……あいつ、メレシーのこと食べるんでしょ」

ルビィ「え、うん」

理亞「メレシーがいなくなるのは私も困るのよ」

ルビィ「え?」

理亞「だから、あいつは私にとっても敵よ」


這ってでも逃げようとするヤミラミに、理亞さんとマニューラは、
205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:47:28.66 ID:oTWJbR4y0

理亞「マニューラ!! “つじぎり”!!」
 「マニュ!!」


追撃を叩き込む。


 「ヤミィ!!?」

理亞「“ダメおし”!!」
 「マニュ!!」


さらにもう一発。

 「ヤ、ヤミィ…」


ヤミラミが大人しくなると、理亞さんは近付いて、

空のボールを投げつけた。

──カツーンとモンスターボールが弾むときの特有の音が洞窟内に響き渡ったあと、それを拾い上げ、


理亞「捕獲完了……」


そう呟く。


ルビィ「……」


その光景を見てルビィは、ポカンとしてしまう。


理亞「──何?」


この人の目的はなんなんだろう?

ただの悪人だったら、なんでメレシーを助けるんだろう?


ルビィ「あなた……一体……」

理亞「……変なのが割り込んできたから、忘れてたけど、リングマ」
 「グルゥゥ」


理亞さんが指示をすると再びリングマがノシノシと私に近付いてくる。

──そこでふと気付く。

理亞さんはルビィに祠の場所を案内させようとしている。

だけど、ルビィは答えないから拘束して虱潰しをしようという魂胆だ、

──ならこれはチャンスです。


ルビィ「アチャモ! 付いてきて!!」
 「チャモッ」

理亞「なっ!?」


ルビィは踵を返して、洞窟の奥に走り出す。

それなら、リングマの手を離れたこの瞬間に逃げてしまうのがベストだ。


理亞「この入江に逃げ場なんてないでしょ……!!」


後方で理亞さんはそう言うけど、

ここはルビィにとっては庭のような場所です。

子供の頃から、コランと一緒に何度も通ってきた。
206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:49:06.85 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「確か、この辺だったら……あった!」


洞窟内部はこれくらい入口に近い場所だったら、それなりに覚えている。

すぐ近くにある狭い横穴を見つけ、体を潜り込ませる。


理亞「っ……! マニューラ!!」
 「マニュッ!!!」


小さな横穴にはリングマでは入れないと咄嗟に判断したのか、身軽なマニューラで追跡を試みようとしてくる。


ルビィ「コラン! “リフレクター”!」
 「ピピィ!!」


その入口を遮るように、物理攻撃を防ぐ壁を張る。

──ガッ、とマニューラの爪が突き刺さるが、

攻撃は抜けてこない……!


ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!」
 「チャッモッ!」


入口で立ち往生する、マニューラに向かって“ひのこ”を放つ。

 「マニュッ…!!」

レベル差があるとは言え、完全に反撃不能な状態で攻撃されたら、少しは怯む。


ルビィ「今……!!」


そのまま、ルビィは体を滑らせるように横穴を中腰になったまま、出来る限りのスピードで走り出す。

この横穴は少し先に行くと開けた空間がある。更にその先は迷路みたいになっている、逃げるには打ってつけだ。

──このまま、完全に撒いてしまえば、どうにか──


理亞「──舐めんじゃないわよ……!!」

ルビィ「……!?」


背後から怒声が響いた。


理亞「マニューラ! “かわらわり”!!」
 「マニュ!!!」


理亞さんの指示の声と共に──バリン、と薄い硝子が割れるような音がする。


ルビィ「リ、“リフレクター”が……!!」


奥の大部屋には出ることが出来たが、壁が割られてしまう。

早く次の通路まで──


理亞「リングマ!! “いわくだき”!!」
 「グォォォォル!!!!」


そんな余裕を許さない、とでも言わんばかりに、背後の岩壁が激しく音を立てて、


ルビィ「ぴぎぃ!!?」
207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:50:28.37 ID:oTWJbR4y0

リングマによって、殴り崩される。

──ガラガラと音を立てながら崩れ、大きな穴を空けた岩の先では、


理亞「…………」


理亞さんがこちらを睨み付けていた。


理亞「ザコの遊びに付き合ってる暇はないのよ……」

ルビィ「う、うゅ……」


理亞さんがこちらに向かって歩いてくる、


理亞「さっさと祠に案内しなさい……」


苛立ちの篭った声で言う。

──そのとき、


 「──その必要はありませんわ」

理亞「!?」

ルビィ「この声……!!」


子供の頃から、ずっと傍で聞いてきた、安心する声が響き渡る。

次の瞬間──リングマが、

 「ガゥゥ!!?」

一直線に飛んできた水流が直撃し、吹き飛ばされる。


理亞「……っ……“ハイドロポンプ”か……!」


“ハイドロポンプ”の飛んできた方向に目を配ると、

艶やかな黒髪を揺らして、毅然と立つ女性。


ダイヤ「ルビィを……返してもらいますわよ」

ルビィ「……お姉ちゃんっ!!」


ダイヤお姉ちゃんの横ではミロカロスが戦闘態勢に入っている。


ダイヤ「先ほどは、油断しました」

理亞「……っ」

ダイヤ「ここからは……手加減なしですわ」


お姉ちゃんがスッと空を切るように手を真っ直ぐ上に振り上げると、

──地が揺れ始める。


理亞「な、何……!?」


──理亞さんの驚きの声も束の間、

理亞さんの足元の岩石を砕いて、

鋼の蛇が、飛び出した、
208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:52:04.97 ID:oTWJbR4y0

 「ンネェェェェーーーール!!!!!!」

理亞「!?」

ダイヤ「ハガネール!! “かみくだく”!!」

理亞「オニゴーリ!!!」
 「ゴォォーーーリ!!!!!!」


ハガネールの大きな顎が理亞さんに襲い掛かる、

理亞さんは咄嗟に腰のボールからオニゴーリを出して応戦する。


理亞「“こおりのキバ”!!」
 「ゴォォリ!!!!!」


ハガネールの開いた下顎に噛み付く形で牙を立てる。


ダイヤ「ハガネール!! そのまま“たたきつける”!!」
 「ガネェェェル!!!!」


声と共に、ハガネールが噛み付いたオニゴーリをそのまま地面に叩き付ける。

 「ゴォォォーーリ!!!!」

──バキャリ、と言う岩が砕けるような音と共に、噛み付いた顎ごと噛み砕かれたオニゴーリが崩れ落ちた。


理亞「……っ」

ダイヤ「…………」


攫われたルビィが言うのもアレなんだけど……お姉ちゃん、相当怒ってる。

怒ったときのお姉ちゃんは見境がなくなる。

このままじゃ、巻き込まれちゃうかも……。

そのとき、背後から、


「ルビィちゃん!」


肩を叩かれる。


ルビィ「ぴぎ!?」


一瞬驚いて声をあげてしまうが、


花丸「オラだよっ!」


それは、花丸ちゃんだった。


ルビィ「は、花丸ちゃん!」

花丸「ダイヤさんに裏から回るように言われたずらっ 後はゴンベの“かぎわける”でルビィちゃんの匂いを辿って……」
 「ゴン…」

ルビィ「そ、そうだ……ここにいるとお姉ちゃんの戦闘に巻き込まれちゃうから……!!」

花丸「うん! ここに来るまでの間、道標を撒いてきたから!」

ルビィ「みちしるべ……?」


言われて、花丸ちゃんの視線を追うと、

岩肌に突き刺さるように蔓を伸ばした植物がそこらじゅうに生えているのが目に入る。
209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:53:14.13 ID:oTWJbR4y0

ルビィ「え!? あ、あれどうしたの?」

花丸「ナエトルの“やどりぎのタネ”ずら!」
 「ナエー」


場にそぐわない間の抜ける声が足元から聴こえる。


花丸「このまま、裏道を使って脱出しよっ」


そう言って花丸ちゃんがルビィの手を引く。


ルビィ「う、うん!!」


釣られてルビィも走り出す、最中


ルビィ「…………」


お姉ちゃんと戦う、理亞さんのことが何故だか、気になっていた。

メレシーやルビィたちを気にかけてくれる……悪い人のはずなのに、優しい人。

後でちゃんと──なんでこんなことをしたのか、理由が聞けたらいいな。





    *    *    *





目の前の少女──先ほどしていたマスクを外してしまっているので、外見は多少違いますが、

服装が同じですし、何より状況証拠から、ルビィを攫った犯人だと断定できる。


理亞「マニューラ──」

ダイヤ「ハガネール!! “アイアンテール”!!」
 「ンネェーーール!!!!」


その長い体躯を振り回すように動き出す前にマニューラに鋼鉄の一撃を食らわせる。


 「ンマニュッ!!!!」
理亞「マニューラ!! ……っく」


目の前で戦闘不能になったマニューラをボールに戻している、少女に向かって声を掛ける。


ダイヤ「……今回わたくし相当頭に来ていますの……」

理亞「……クロサワの人間なのに、こんなに派手に入江ぶっ壊していいのかしら……?」

ダイヤ「人の妹を拐かし、それだけでは飽き足らず人様の庭を土足で踏み荒らしている人間に言われたくありませんわ」

理亞「…………」

ダイヤ「今更降伏など受け入れるつもりもないのですが……もう打つ手もないでしょう?」


マニューラ、リングマ、オニゴーリ戦闘不能。

逃げ道を作らないように彼女の周りをハガネールがその長い体躯で取り囲んでいる。


理亞「……ふふ、流石ジムリーダーね」

ダイヤ「……ハガネール、“ジャイロボール”!!」
 「ガネェーール!!!!」
210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:54:41.83 ID:oTWJbR4y0

最後の一撃を加えるために、ハガネールが全身の節を高速回転し始める。


理亞「──これは奥の手だったんだけど」


そのとき、目の前の少女はそう呟いた。

 「ガネェェェーーーール!!!!!」

そのままハガネールが高速回転した頭で飛び込んでいく。

──瞬間。

彼女の腕に装備されたアクセサリーのようなものが七色の光りを発した。


ダイヤ「!! ……一筋縄ではいきませんわね」

 「ガ、ネェ…!!!」


その光りが晴れると、そこには全身の節を凍らされ、回転を無理やり止められたハガネールの姿。

そして──


 「ゴォォォォォオオオオオリ!!!!!!」


大きな顎を一際大きく空けた、オニゴーリが──

いや、メガオニゴーリが──!!


ダイヤ「メガシンカ……!」

理亞「オニゴーリ!!!」
 「ゴォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」

理亞「“だいばくはつ”!!!!!」

ダイヤ「…………!!!」


特性“フリーズスキン”により強力な冷気を纏って周り全てを吹き飛ばす破砕の一撃、

加速度的に膨張する冷気が、冷波となって襲い掛かってくる。


ダイヤ「っ!!」


咄嗟に顔を庇う。

──腕が足が、冷爆風とでも言えばいいのか、自分の体を凍りつかせていく、

その横を──

紫色の影が飛翔しながら通り過ぎる、


ダイヤ「!! お待ちなさいっ!!」


音速で飛び荒ぶ影は、更に爆風を“おいかぜ”にして、爆発的に加速し、飛び去っていった。


ダイヤ「…………」


気付けば洞窟内の灰色の岩肌は、霜によって白くなり。

すぐ目の前で爆風を受けたハガネールは凍ったまま横たわっていた。

案の定、その場には先ほどの少女の姿はなく、オニゴーリ、リングマを回収したのち、クロバットで逃走を測ったのだとわかる。


ダイヤ「……そうですわ、ルビィと花丸さんは……!?」
211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:55:50.13 ID:oTWJbR4y0

先に脱出する手筈になっていた、もし脱出中のところを追いつかれていたら──

わたくしはすぐさま、入江の入口に走ろうとして、


 「お、お姉ちゃーん!?」


声が聴こえて安堵する。

洞窟内を反響して、声が聴こえてくる。

キョロキョロと声がする方を探す形で見回すと、


花丸「ダ、ダイヤさん……」


花丸さんが洞窟内の通路から顔を出しているのが目に入る。


花丸「大きな音がして……壁が凍りだしたから、隠れてたずら……」

ダイヤ「その判断で正解ですわ。ありがとう……花丸さん」


花丸さんに礼を言った直後、


ルビィ「お姉ちゃん……!!」

ダイヤ「ルビィ……!!」


ルビィがわたくしの胸に飛び込んでくる。


ダイヤ「ルビィ……よかった……よく頑張ったわね……」

ルビィ「お姉ちゃん……っ……」


ルビィの頭を撫でながら、どうにか妹を無事、救出出来たことに胸を撫で下ろすのでした。





    *    *    *





ダイヤ「クロサワの入江は当分は完全封鎖。今回の件に関しては……自己評価としては30点と言ったところね……」

鞠莉「それはStrictだネ……」

ダイヤ「ルビィは救出出来ましたが……犯人には逃げられてしまいましたし……」

鞠莉「でも、顔は見たんでしょ?」

ダイヤ「ええ、まあ……」

鞠莉「完璧じゃなかった、かもしれないけれど……ルビィが無事で何よりだったと思うわ」

ダイヤ「そう……ですわね」


鞠莉さんの言葉に同意しながらも、犯人を取り逃がしてしまったことを後悔している自分がいる。


鞠莉「ルビィの証言から、犯人の名前は理亞って言うこともわかったし……警察の方で指名手配になると思うから」


今現在、鞠莉さんは戻ってきたルビィから事情を軽く聞いて、警察へ提出するための情報を整理している。

わたくしもそれを一緒に手伝っていたら、もう日も暮れる時間になっていた。
212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:57:25.07 ID:oTWJbR4y0

ダイヤ「そういえば、鞠莉さん」

鞠莉「What ? 」

ダイヤ「聖良さんはもう帰られたのですか?」

鞠莉「ええ……一通り落ち着いたところで帰ってもらったわ。軽く警察が事情聴取はしたけど……聖良はたまたま居合わせただけだし……」

ダイヤ「……そうですか」

鞠莉「ねぇ、ダイヤ……ルビィのことなんだけど……」

ダイヤ「……たぶん、同じことを考えていると思いますわ」

鞠莉「そ……なら、今回の旅立ちは当分先送りね……。しばらくは、ダイヤの目の届く場所で──」


残念ですが、こんな事態が起こってまで旅に出すわけには行かない、

と、思った矢先。


ルビィ「ま、待ってくださいっ!」


部屋に響くルビィの声。


ダイヤ「ルビィ!? 今は隣の部屋で大人しくしてなさいと……!!」

ルビィ「ルビィ、旅に出たい……!!」

ダイヤ「!? な、何を言ってるのですか!! あんなことがあった後なのですわよ!?」


ルビィの言葉を聞いて、わたくしは思わず強い語調で捲くし立ててしまう。


ダイヤ「貴方は当分は此方で……」

鞠莉「ダイヤ、落ち着いて。ルビィの意見も聞きましょう?」

ダイヤ「…………っ」

鞠莉「ルビィ、どうして旅に出たいの? ダイヤやわたしが止める理由は……言わなくてもわかるわよね?」

ルビィ「……研究所も入江も、こんなことになっちゃったのはルビィの所為だと思うんです……」

ダイヤ「ち、違いますわ! これはルビィのせいでは……!!」

ルビィ「聞いて、お姉ちゃん……」

ダイヤ「…………」

ルビィ「理亞さんの目的は……ルビィに入江の中を案内させることだったから……。ここにいたら、また襲いに来るだけだと思うんです」

ダイヤ「それは……」

ルビィ「だから、ルビィはここに留まるより、移動していた方がいいと思う……それにね」

鞠莉「それに……?」

ルビィ「祠を案内するだけなら、ルビィじゃなくても出来る人がいます……お姉ちゃんもお母さんも……それなのにルビィが攫われたのはルビィが弱かったからだと思うんです……」

ダイヤ「ルビィ……」

ルビィ「旅をしていれば……少しは強くなれると思う、だから、だからね……!!」

ダイヤ「……。……わかりました」

ルビィ「い、いいの……?」


……まさか了承してくれるなどと思ってなかったとでも言わんばかりの表情でルビィが確認をしてくる。


ダイヤ「但し、いろいろと準備が御座いますので、出発は明日以降で宜しいですか?」

ルビィ「う、うん! わかった!」


ルビィはぱぁっと明るい顔になり、嬉しそうにその場を後にした。
213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:58:46.44 ID:oTWJbR4y0

鞠莉「ダイヤ……いいの?」


ルビィが去った後、鞠莉さんがわたくしに問うてくる。


ダイヤ「……敵方の目的がはっきりしている以上、クロサワの入江が近くにある、ここに留まるのも危険、と言うのは一理ありますし……。それに……」

鞠莉「それに……?」

ダイヤ「昨日まで、あんなに旅立つことに消極的だった、妹の決意を無碍にするのは……」

鞠莉「……そう、わかった」


もちろん今日のことも含め、お母様に報告・了解を得ないといけない。

わたくしは妹の願いを叶えるために、明日の準備を始めるとしましょう──。





    *    *    *





花丸「ルビィちゃん、どうだった……?」

ルビィ「あ、うん。お姉ちゃんには許可貰えたよ!」

花丸「ホントに!?」

ルビィ「うん! 明日までは待ってって話だったけど……」

花丸「じゃあ、マルもそのときにルビィちゃんと一緒に行くね!」

ルビィ「ホントに!?」

花丸「うん! というか、実は最初からマルはルビィちゃんと一緒に旅したいなって思ってたし……えへへ」

ルビィ「えへへ、実を言うとルビィも……」


花丸ちゃんと明日のことを話しながらも、ルビィの中ではあることが引っかかっていた。

──理亞さんの言った言葉。

 理亞『メレシーがいなくなるのは私も困るのよ』

あの言葉の真意はなんなのか。

悪い人だとは思うんだけど……ただの悪い人とは少し違う気がする。

ルビィは理亞さんにちゃんとお話を聞かないといけない気がする。

そのために、旅の中で強くなるんだ……アチャモとコランと一緒に……。


214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:59:13.06 ID:oTWJbR4y0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【オハラ研究所】
 口================= 口
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 口=================口


 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.7 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.7 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.5 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:17匹 捕まえた数:2匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 23:59:35.97 ID:PZuJAYypo
また聖雪悪役か
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 00:24:59.08 ID:p0L2yeYh0
続き楽しみにしてます
217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:14:36.82 ID:bTwUl7S20

■Chapter017 『グレイブ団』 【SIDE Chika】





メテノ騒動の翌日。

ホシゾラ天文台に泊まった私たちは、朝一番最初のロープウェイで下山し、


千歌「それじゃ、凛さん! ありがとうございました!」


ホシゾラシティを発つところ。


凛「こちらこそ、ありがとね千歌ちゃん!」


凛さんはニコニコと笑いながら御礼を言うが、その目の下にはうっすらと隈が見える。

今朝はチカたちよりも早く起きていたし……もしかしたら、徹夜明けなのかもしれない。


凛「ホシゾラの近くに寄ったらまた星を見に来てね!」
 「〜〜〜」


そう言って手を振る凛さん。そして、一緒に戦ったメテノがチカチカと光る。


千歌「はい! また来ます! メテノも、元気でね!」

凛「またねー」
 「〜〜〜」


凛さんたちに見送られながら、私たちはホシゾラシティを後にします。


千歌「……よし、じゃあ行こうか!」
 「マグ」「ワフッ」「ピィー」


マグマラシ、しいたけ、ムクバードと一緒に再び旅路を歩き出しました。





    *    *    *





──コメコの森。

ロープウェイで降りる最中、凛さんがいろいろ教えてくれたんだけど、オトノキ地方南部に所在する、オトノキ地方最大の森林地帯がこのコメコの森です。

とはいっても、鬱蒼とした森と言う程でもなく、森の木々からは木漏れ日が差し込んでいて視界も良好。

道も森と言う割に歩きやすくて、


千歌「これなら、ホントにお昼前には抜けられちゃいそうだね」
 「マグ」


私がそう言うと、足元をトコトコと歩くマグマラシが相槌を打つ。

道中には森特有のくさポケモンやむしポケモンが飛び出してきたけど、

 「ピピィー」

やや先の方を旋回して飛ぶひこうタイプのムクバードと、ほのおタイプのマグマラシのお陰で難なく進めています。

ただ──


千歌「相変わらず、みんな加減苦手だよね……」
 「マグ?」「ピィ?」
218 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:16:33.06 ID:bTwUl7S20

飛び出してきたクルミルやスボミーと言ったポケモンたちは一撃で撃退してしまうため、やっぱりここでも捕獲が捗らない。


千歌「そろそろ新しい仲間が欲しいんだけどなぁ……」


曜ちゃんだったら、簡単に捕獲しちゃうんだろうけど……。

やっぱりチカは捕獲が苦手みたい。

 「ワフッ」

千歌「ん、どしたの、しいたけ?」


私の横をのそのそと歩くしいたけが軽く吼えたため、足を止める。


 「ワフ」


しいたけは少し道から外れた森の奥を見つめていた。

──そこには大きな岩が鎮座していた。


千歌「うわ……おっきな岩……」


その岩は表面がコケに覆われていて 触るとなんとなく気持ちいい感じがします。


 「ワフ」

しいたけはどうやらこの岩が気になるみたい。


千歌「あれ?」


なんとなく岩の周りを確認していると、たくさんのくさポケモンが集まっていることに気付く。

先ほども見かけたスボミーを始め、キノココ、タネボー、チェリンボ、チュリネ、ナゾノクサと言った小型のくさタイプのポケモンが岩の周りでお昼寝をしている。


千歌「くさタイプのポケモンの休憩所みたいな感じなのかな?」

 「ワン」


野生のポケモンだけど、敵意などは全く感じられずほんわかとした雰囲気。


千歌「……新しい仲間は欲しいけど、ここは戦う感じの場所じゃないね」

 「ワフ」「マグ」 「ピピ?」


しいたけ、マグマラシが相槌を打ち、少し離れた場所を飛んでいたムクバードが私の肩に留まりながら、首を傾げた。


千歌「んー……」


私はなんとなく胸いっぱいに空気を吸い込みながら身体を伸ばす。

森林浴ってこういう感じなのかな。なんだか気持ちがいい。


千歌「ちょっと、休憩にしよっか」


そういって大きな岩を背もたれに腰を降ろして、リュックを漁る。


千歌「ふふふ〜 ホシゾラシティ名物スターシュガーだよ! 皆で食べよっか」
 「マグッ!」「ピピィッ」「ワフ」
219 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:18:36.58 ID:bTwUl7S20

スターシュガー……まあ、いわゆるコンペイトウだけど、

ホシゾラシティでは星にちなんだお菓子として、いろんなところでカラフルなコンペイトが売っていたので、おやつにと思って買っていたのです。

袋から小さめのお皿に出してあげて、3匹はそれを身を寄せ合って食べている。

私も星型の砂糖のお菓子を口に放り込む。


千歌「甘い」


朝からずっと歩いていたせいか、甘さが身体に染みる。


千歌「おいしぃ……」


幸せの味がする……。

森の木々が風にそよいでかさかさと葉っぱ揺れる音が絶え間なく鳴り続け、高い木の上からは鳥ポケモンたちの鳴き声が微かに響いてくる。

森林浴を満喫しながら、ぼんやりと視線を泳がせいると……。


千歌「……ん?」


少し離れたところで、何かが集団で漂っているのが目に入ってくる。

白とピンク、黄緑もいる……ポケモン?

私はポケモン図鑑を取り出した。


 『モンメン わたたまポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.6kg
  風に 吹かれて 気ままに 移動する。 集団で いると 
  落ち着くのか 仲間を みつけると くっついて いつも間にか 
  雲のように なる。 身体の ワタは 何度も 生え変わる。』

 『ハネッコ わたくさポケモン 高さ:0.4m 重さ:0.5kg
  とても 身体が 軽く そよ風が 吹いただけで ふわふわと
  浮かんでしまう。 風に 乗って 漂う ハネッコが 野山に
  集まりだすと 春が 訪れると 言われている。』

 『ポポッコ わたくさポケモン 高さ:0.6m 重さ1.0kg
  太陽の 光を 浴びるため 花びらを 広げるだけでなく
  近付こうと 空に 浮かんでしまう。 温度に より 花の
  開き方が 変わるので 温度計の 代わりを することもある。』


どうやら体重の軽いくさタイプのポケモンたちが集団で漂っているようだ。


千歌「何かあるのかな……?」


ハネッコやモンメンたちが流れてくる風上の方向に目をやると、


千歌「あれ……?」


なんだか見覚えのある光が、森の影の中で光っている。

チカチカと力なく光る、ソレは──


千歌「メテノ……?」


コアをむき出しにし、力なく漂うメテノだった。





    *    *    *

220 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:21:06.48 ID:bTwUl7S20



昨日、音ノ木から落ちてきたメテノの一部かもしれない。

私はリュックを背負うと、森の奥に弱々しく逃げていくメテノを駆け足で追う。


千歌「っは……!! っは……!!」


歩きやすい道から外れたため、木の根っこや地面の凸凹に足を取られ、少し走りづらいが、

それでも弱ったメテノを追うには十分で、


千歌「こ、これなら追いつける……!!」
 「マグッ」


手持ちたちと共にメテノに迫る。

──その次の瞬間。

後ろから私の顔を掠めるように、虹色の光線が一閃し、


千歌「!?」

 「〜〜〜!!?」


メテノを撃ち落した。


千歌「な、なに!?」
 「ワフッ!!!!」


しいたけが身構えているのがわかる。私もすぐさま振り返り、光線の出元を見やると、

森の影で、頭の上に水晶玉みたいなものを乗っけた豚が跳ねていた。

咄嗟に図鑑を開いて正体を確認する。


 『バネブー とびはねポケモン 高さ:0.7m 重さ:30.6kg
  尻尾を バネがわりに して 飛び跳ねることで 心臓を
  動かしているため 止まると 死んでしまう。 頭に
  乗せていてる パールルの 真珠が サイコパワーの 源だ。』


どうやら、あのバネブーが攻撃したようだ。

その少し後方に、木に半身を隠した人間の姿が見える。


千歌「今のあなたが攻撃したんですか!?」


大きな声で訊ねると、


 「……ちっ」


少し離れているため、わかりづらかったけど、たぶん舌打ちをされた。


千歌「……なに?」


チラリとメテノを見ると、飛ぶ体力も残ってないのか、とうとう地面に墜落して、力なく点滅している。

……とりあえず、ボールに入れないと。

私はバネブーの方向にも警戒しながら、半身を捩ってモンスターボールをメテノに向かって投げる。

──その瞬間、
221 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:22:59.51 ID:bTwUl7S20

トレーナー「バネブー! “サイケこうせん”!!」
 「ブーー」


命令と共に七色の光線が飛び出して、私の投げたボールを弾き飛ばす。


千歌「! さっきメテノを攻撃したのと同じ技……!!」

トレーナー「そのポケモンは私が先に見つけたんだけど、横取りしないで貰える?」


バネブーのトレーナーが私に向かって、そう言葉をぶつけてくる。


千歌「じゃあ、早く捕獲してください! このままじゃメテノが死んじゃいます!!」

トレーナー「死ぬ? 別にいいけれど」

千歌「……なっ!!」

トレーナー「我々の目的は、メテノじゃなくて、そのポケモンの持ってる“ほしのかけら”だ」


トレーナーはそう言いながら、私に冷たい視線を送ってくる。


千歌「我々……?」


その不可思議な物言いに、トレーナーをよく観察してみると。

若い女性で、髪を薄紫の帽子の中に纏めている。

服は襟付きで帽子と同じ色のパンツルックを身に纏っていた。

……なんというか、色は少し目に痛いけど、その姿は、会社員……ううん、兵隊さん? のような印象を受ける。

胸には墓石……のようなシンボルの上にGと言うアルファベットがあしらわれたワッペン。

何かの団体なのかもしれない。


千歌「……」

トレーナー「さぁ、お嬢さん。わかったら、どいてもらっていい?」


高圧的な物言い。


千歌「……」


私はずり……っと、半歩後ろに足を下げてから、


千歌「ムクバード!! “すなかけ”!!」
 「ピピィィィ!!!」


低空を羽ばたいてたムクバードが私の前に躍り出て、翼で起こした風によって砂を巻き上げる。


トレーナー「!?」


目の前のトレーナーがそれに怯んだ瞬間に、私は身を翻してポケモンたちと一緒にメテノの方へと走り出す。


千歌「しいたけ!!」
 「ワフッ!!」


合図と共に、床に転がるメテノをしいたけが口に咥えて持ち上げる。


トレーナー「あくまで我々グレイブ団の邪魔をする気か……!!」


立ち込める砂の向こうからそんな声がする。
222 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:24:43.14 ID:bTwUl7S20

グレイブ団下っ端「バネブー! “パワージェム”!!」


砂の向こうから、光る石礫が飛んでくる。


千歌「わわっ!?」
 「ピピッ!!」


あてずっぽうな攻撃であったが、無造作に飛んでくる石の一つがムクバードを掠める。


千歌「ムクバード、だいじょぶっ!?」
 「ピピィ〜…!!」


掠っただけなので大きなダメージではなかったようだが、いわタイプの技はこうかはばつぐんだ。


千歌「戻って!」


走りながらムクバードをボールに戻す、

そのとき──


千歌「──った!?」


身体が宙に浮く。

空を飛ぶムクバードに視線を向けていたため、足元への注意が疎かになっていた。

木の根っこに躓いたんだと気付いたときには、身体は既に前のめりに地面に転んでいた。


千歌「……いつつ……」

グレイブ団下っ端「バネブー! “じんつうりき”!」

 「マグッ」


転んだ私のすぐ傍を吹き飛ばされたマグマラシが横切る。


千歌「! マグマラシ!」

グレイブ団下っ端「子供は黙って大人の言うことに従っていればいいのにね……我々に逆らった報いを受けてもらおうかしら」


もうもうと立ち込める砂煙の先から、声がする。


千歌「……」


私は体勢を立て直しながら、考える。

たぶんだけど……この人たちは、この弱ったメテノそのものが目的じゃないと言っていたし、ここで道を通しても助けたりしないと思う。

……逃げる余裕はない。

そうなると、


千歌「倒すしかない……」


手持ちは手負いのムクバード。

マグマラシは“じんつうりき”が直撃し、吹き飛ばされたまま木の下で蹲っている。

恐らく戦闘不能。


千歌「……」


そうなると残っているのはトリミアンのしいたけだけだ。
223 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:25:51.46 ID:bTwUl7S20

千歌「しいたけ……」
 「ウォフ」


私は傍に居た、しいたけから口に咥えられたメテノを、受け取って胸に抱き寄せる。

そのまま、流れるように


千歌「いけっ!! しいたけ!!」
 「ワフッッ!!!」


しいたけが飛び出す。


グレイブ団下っ端「なに!? “サイコショック”!!」


突然飛び出した、しいたけに動揺したのか、相手のトレーナーは咄嗟に攻撃を撃って来る、が


 「ワォォォ!!!」


鳴き声を挙げて、勢い良く突撃するしいたけは全く怯まない。

そのままバネブーを至近距離に捉え、


千歌「しいたけ!! “かたきうち”!!」

 「ワォォォ!!!」


マグマラシの、仲間の“かたきうち”、

全身全霊のパワーを込めて、突進する。


 「ブブーー!?!?」


バネブーはしいたけに撥ね飛ばされて、


 「ブブゥ…」


バネブーは少し離れたところに落ちた後、気絶した。


グレイブ団下っ端「……こ、こんな子供に……」

千歌「……」


私が軽く睨むと、


グレイブ団下っ端「……お、覚えてなさい」


バネブーをボールに戻しながら、そう捨て台詞を吐いたあと、そのトレーナーは逃げていきました。


千歌「はぁ……か、勝った……」


トレーナーがいなくなったのを確認して、安堵する。

どうやら相手の手持ちはバネブーだけだったようだ。

他にも居たらどうなっていたか……。

と、考えを廻らせてから、思い出す。


千歌「……そうだ、メテノ!」


胸に抱いたメテノを見ると、より一層点滅が弱くなっていた。
224 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:27:02.49 ID:bTwUl7S20

千歌「ボ、ボール!!」


慌てて、バッグから空のボールを取り出して、抱えていたメテノを捕獲する。

……これでひとまずは安心かな。

 「ワフ」

気付くと、しいたけが私の近くに戻ってきていた。

長年の付き合いのせいか、その鳴き声だけで、しいたけが早く森を抜けることを促しているのがわかるような気がして、


千歌「……うん、森早く抜けちゃおうか」


私はそう答える。

木の根っこ辺りで倒れているマグマラシをボールに戻しながら、


千歌「早くポケモンセンターにいかないとね」
 「ワォ」


満身創痍な手持ちたちを回復させるために、しいたけと歩き出しました。


千歌「……そういえば、あの人グレイブ団って言ってたよね」
 「ワォ?」


団ってことは……他にも同じような人がいるってことだよね……。

──私はなんだか得も言われぬ不安を胸に抱きながら、コメコの森を抜けるのでした。


225 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:28:18.41 ID:bTwUl7S20


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコのもり】
 口================= 口
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 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.18  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.19 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.16 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:7匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



226 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 10:57:44.90 ID:bTwUl7S20

■Chapter018 『ポケモンコンテスト』 【SIDE You】





 「ミャァミャァ」


──キャモメの声が聴こえる。


曜「ん……んぅ……」

果南「あ、曜。おはよ」

曜「果南ちゃん……おはよう」


目が覚めると、夜が開け朝日がこちらに向かって主張してきている。


果南「足の調子、どう?」

曜「えっと……」


果南ちゃんに訊ねられて、足を軽く動かしてみる。

痛みはほとんどない。


曜「だいぶよくなったみたい」

果南「それはよかった」


果南ちゃんはそう言いながら、優しく笑う。


果南「次の目的地も見えてきたし、またすぐ旅に戻れそうだね」

曜「次の目的地?」


果南ちゃんの言葉に反応して、彼女の視界の先を見ると、


曜「……島だ」

果南「あれが13番水道の先にある、フソウ島だよ」


新たな町が見えてきていた。





    *    *    *





──フソウタウン。

さっき果南ちゃんが言っていたとおり、13番水道の先にある島の上の町だ。


曜「島なのに、アワシマとは大違いだね」


船着場にギャラドスを着けて貰って、降り立った私はそこに広がる活気に目を白黒させる。

港から、すぐに市場が広がり、まだ朝方だと言うのに、漁師や船乗りの人達が海沿いの道を行ったり来たりしている。
227 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 10:59:37.28 ID:bTwUl7S20

果南「魚市場は朝が勝負だからね。それにこの島自体はリゾート地だから、内地の方に進んでもそれなりに賑わいがあるよ」

曜「リゾート地……! 楽しそう!」

果南「それはいいけど、曜はまず病院」

曜「ん、いや、もう大丈夫だよ! 一人で歩けるし!」

果南「ダメ」


はしゃいで飛び出す私は服の襟首を掴まれ、


曜「ぐぇっ」


喉が絞まって、変な声を出してしまう。


果南「全く、千歌じゃないんだから……毒もまだ応急手当てしただけなんだよ?」


そう言いながら果南ちゃんは私をずるずると引き摺っていく。


曜「か、果南ちゃん……一人で歩けるから……」

果南「そ? じゃあ、ちゃんと歩いて病院行く。いいね?」

曜「は、はーい……」


気を取り直して、果南ちゃんと一緒に町の方へと歩き出す。


曜「……そういえばさ」

果南「ん?」

曜「果南ちゃんもここに用事があったの?」

果南「ああ、もともと目的があったわけじゃないけど……こいつをね」


果南ちゃんはそう言って腰につけたダイブボールを手に持って、私に見せる。

僅かに透けて見えるボールの中には、


曜「……ドヒドイデ」


私が戦って、勝てなかったドヒドイデが居た。


果南「明らかに普通の野生の強さじゃないからね。報告の意味も込めて、協会に送るつもりだから、ポケモンセンターに行こうかなって」

曜「協会?」


私は首を傾げる。


果南「リーグ協会のことだよ」

曜「リーグ協会って……確かポケモンリーグとか運営してる団体だっけ」


前に学校で習った気がする。確かジムリーダーは協会に所属している人間なんだっけ。


曜「果南ちゃんって、リーグ協会の人なの?」

果南「いや、違うよ〜」

曜「でも、報告はするんだ」

果南「知り合いが協会の割と偉い人でね。その人に地方内で何か異常なことがあったら教えて欲しいって頼まれてるんだ」

曜「なるほど……」

果南「ポケモンセンターには人用の病院も併設されてるから、目的地は一緒ってこと」
228 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:01:10.54 ID:bTwUl7S20

果南ちゃんは自慢のポニーテールを揺らしながら、そう言う。

港沿いの魚市場を抜けて、そろそろ町が見えてこようとしている。


曜「そういえば、果南ちゃんって今何してるの? 人を探してる……とか言ってたっけ?」


なんか、うろ覚えだけど、何故か海に潜って人を探してた気がする。


果南「何って言われると、返答に困るなぁ……。まあ、現在進行形なのは人探しかな」

曜「どんな人なの?」

果南「……どんな人……一言で言うなら、めちゃくちゃ強いトレーナーかな」

曜「そうなんだ……? 会ってどうするの?」

果南「戦って、勝つ」

曜「ふーん……?」


そういえば果南ちゃんは昔からポケモンバトルが好きな人だった気がする。

強敵を探して地方中を旅してるってことは、それは今でも健在ということだろう。


果南「ま、これは完全に個人的な理由で探してるだけだから、そんなに深い話ではないよ」

曜「そう……?」

果南「それより、ほら。ポケモンセンター、見えてきたよ」


促されて、視線を向けると、ポケモンセンター特有の赤い屋根の建物が見えてきた。





    *    *    *





ジョーイ「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは、皆元気になりました!」

曜「ありがとうございます!」

ジョーイ「あなたのケガも問題ないですよ。応急処置がよかったみたいですね」


ポケモンセンターにポケモンを預けた後、病院で足を見てもらい、お墨付きを貰う。


曜「応急処置がよかったってさ」

果南「応急処置って言っても、どくけし使っただけだけどね」

ジョーイ「全身に毒が回る前に使ったのが幸を成したんだと思いますよ」

果南「まあ、そういうことなら、私の勘は間違ってなかったってことかな」

ジョーイ「ただ、次からは出来ればポケモン用じゃなくて、人間用の薬で消毒・解毒してくださいね」

果南「うへぇ……そうします」

曜「それじゃ、ありがとうございました!」

ジョーイ「またいつでも、ご利用くださいませ!」


ジョーイさんに注意され、複雑そうな顔をしている果南ちゃんと一緒にポケモンセンターの外に出る。

時刻は昼前でご機嫌な太陽が私たちを照らしつける。


果南「さて……」
229 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:04:11.21 ID:bTwUl7S20

果南ちゃんが切り出す。


果南「曜はこのあとどうするの?」

曜「うーん……島を見て周りたいかなって思うけど……」

果南「……けど?」


何気なく腰のボールに触れる。

その仕草を見て果南ちゃんは察したのか、


果南「……当分はバトルは避けたい感じ?」

曜「あはは……うん」


そう言う、果南ちゃん。先日の戦いでいたずらに手持ちを傷つけてしまったためか、またすぐに冒険の旅に繰り出す気にはならなかった。


果南「一緒に行動してあげたいのは山々なんだけど……私も頼まれごとがあるからなぁ……」

曜「あ、いいよ! 大丈夫! ポケモンたちと一緒にフソウタウンの観光してるからさ!」


果南ちゃんにこれ以上迷惑掛けるわけにもいかないし。


曜「この街、リゾート地なんでしょ? 見る場所いっぱいありそうだもん!」


恐らく繁華街なのであろう、島の奥地は日も高くなってきたためか、賑わいを見せ始めている。


果南「そう? ごめんね」


私が気遣ってそう言ってることもバレてるのか、果南ちゃんに謝られる。

しばらく会ってなかったとは言え、伊達に幼馴染ではないということだろう。


果南「何かあったら、遠慮せずにポケギアに連絡するんだよ?」

曜「うん、ありがとう」

果南「それじゃ、またね」


果南ちゃんはそう言って、再び港の方向へと足を向ける。


果南「……あ、そうだ」


──と、思ったら、何かを思い出したかのように振り返り、


曜「?」

果南「もし、今バトルをする気分になれないならさ」

曜「うん」

果南「この街にはうってつけの場所があるから、そこに行ってみるといいかもよ」

曜「うってつけの場所……?」

果南「ちょうど今日が上のランクの開催日だったと思うし。繁華街の先にあるから、興味があったら見に行ってごらん」

曜「う、うん?」





    *    *    *


230 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:06:10.62 ID:bTwUl7S20


進むにつれて、数を増す人混みの中、

果南ちゃんの言った通り、繁華街を抜けた先に“ソレ”はあった。


曜「……うわぁ……!!」


絢爛豪華な装飾を施されたドーム状の建造物。

建物の近くには看板が置いてあり、私は思わず一人でそれを口に出して読み上げてしまう。


曜「ここが……ポケモンコンテスト会場……!」


──バトルをする気分じゃないときに来るにはうってつけの場所。

あたりを見回すと、トレーナーと一緒にキュウコンやドレディアと言った見栄えするポケモンたちが闊歩している。

……あ、この場合はトレーナーじゃなくて、コーディネーターって言うんだっけ?


曜「とにかく中に入ってみよう……!」


自動ドアから会場内に足を踏み入れると、


曜「わぁ……!!」


再び感嘆の声が漏れる。

落ち着いたオレンジ色の照明に照らされた、華美な装飾たちが会場内を彩っている。

内装を見渡すと、高いところに額縁が飾ってあり、そこにはチョウチョのようなポケモンが描かれている。

その絵に描かれたポケモンは小さな胴体のレース状の衣装を身に纏っているように見える。


曜「さすがに最初から服着てるわけじゃないよね……? ……あの服、自分で作ったのかな?」


エントランスでポカンと口を開けて、圧倒されていると──


 「ごめんなさい、通してもらっていいかしら?」


後ろから声を掛けられる。

その声で我に返り、入口を塞いでしまっていたことに気付く。


曜「あ、ご、ごめんなさい! ……あんまりに豪華な内装にびっくりしちゃって」


私は横にずれて入口を開けながら、頭を下げる。


女の人「ふふ、そうでしょ〜? なんせ、ここフソウ会場は地方最大のコンテスト会場だもの」

曜「そうなんですか……?」


私が顔を上げると、そこにはゆるふわロングなブラウンヘアー、加えてサングラスとマスクをつけた女性が一人。

変装……? ……有名人か誰かなのかな……?


女の人「あら〜その反応……もしかして、コンテスト会場は初めてなのかしら?」

曜「あ、はい」

女の人「そう、それなら……」


お姉さんは肩に掛けたバッグに手をいれ、ケース状の物を差し出してくる。
231 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:07:33.60 ID:bTwUl7S20

女の人「どうぞ」

曜「え?」

女の人「これはアクセサリー入れよ。ポケモンコンテストの必需品」

曜「あ、いや……私は別に出場するつもりで来たわけじゃ……」


周りを見回すと、それはもう華美な様相のポケモンたちがコーディネーターと一緒にパフォーマンスの練習や打ち合わせをしている姿が見える。


女の人「そうなの? じゃあ、どうしてここに?」

曜「あ、えっと……ちょっとバトルから離れたい気分だったんですけど……そしたら、ここを案内されて」

女の人「なるほど、気分転換ってことね」


お姉さんは少し考えた後、


女の人「……やっぱり、これ渡しておくわね」


再び、アクセサリー入れを差し出してくる。


曜「え、でも……」

女の人「どうせ、受付に話したら初めての人は無料で貰えるものだしぃ……な・に・よ・り」

曜「何より……?」

女の人「今日ここでコンテストを見たら、きっとあなたも出場せずには居られなくなるから♪」


──そう言う顔はサングラスとマスクで隠れてるのに、何故だがお姉さんはいたずらっぽく笑っているのがわかるような気がした。





    *    *    *





曜「……結局貰ってしまった」
 「ゼニ?」


私は観客席でゼニガメと一緒に座りながら、アクセサリー入れを開けたり閉めたりしている。

先ほどのお姉さん曰く、


 『あぁ、わたし会場の関係者でコンテスト普及の意味合いも込めてるから。遠慮せずに受け取ってくれると嬉しいわ〜』


──と言われ、断るのも忍びなかったため、そのまま受け取ってしまった。


曜「まあ……タダで貰えるものなら、誰から貰っても同じ……なのかな?」
 「ゼニィ」


ケースの中に最初から入っていた光る棒をチカチカさせながら呟く。そんな私の言葉に相槌を打つゼニガメとお話しながら、待っていると、


 「あら? もしかして、曜ちゃん?」

曜「え?」


ふいに声を掛けられる。

──そこには見慣れた幼馴染の姉の姿が……。
232 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:08:38.94 ID:bTwUl7S20

曜「し、志満姉!? なんでここに!?」
 「ゼニ?」

志満「それはこっちの台詞……と言いたいところだけど、曜ちゃんだったら確かに海を渡るルートを通りそうよね。その子最初に貰ったゼニガメね?」

曜「あ、うん」
 「ゼニ」

志満「初めまして、ゼニガメ。千歌ちゃんのお姉さんの志満です」

 「ゼニィ」

そう言ってゼニガメの頭を撫でながら、志満姉は私の隣の席に腰を降ろす。


志満「フソウまでって、ウチウラシティから定期船が出てるんだけど……好きでよくお休みの日に見に来てるのよ」

曜「そ、そうだったんだ……」

志満「でも、ばったり会うなんて驚いたわ」

曜「私も! 旅してると思いがけない出会いって結構あるもんなんだなーって」

志満「? 他にも誰かと会ったの?」

曜「あ、うん。13番水道で果南ちゃんと会って……さっきまで一緒だったんだけど」

志満「あら、ホント? 果南ちゃん最近ウラノホシにはあんまり帰って来てないから、私も会いたかったわ……」


そういって残念がる志満姉。


志満「それはそうと……」

曜「?」

志満「ここにいるってことは曜ちゃん、コンテストに興味があるのよね?」

曜「えーと、まあ、成り行きだけど……興味はあるかな」

志満「ふふ、じゃあお姉さんがコンテストについて教えてあげるわ」

曜「え? 志満姉が?」

志満「これでも、私ポケモンコーディネーターだったのよ?」

曜「え、そうなの!?」

志満「今は旅館の仕事があるから、そんなに頻繁に参加したりは出来ないけど……観客的で眺めながらいろいろ教えてあげることくらいなら出来るわよ」

曜「お、おぉ……頼もしい」


──まあ、考えてみればわざわざ休みの日に定期船を使ってまで足を運ぶくらいなんだから、出場経験があっても、なんらおかしい話ではない。

そんなことを考えながら、志満姉と談笑していると、次第に辺りの照明が落ち始め──


曜「お……」

志満「そろそろみたいね」
233 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:09:36.09 ID:bTwUl7S20

──ドルルルルルルルルル!!!!

というドラムロールと共に、マイク越しに司会の声が響く。


司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!!』


お決まりの口上と共に、


司会『本日はお集まりいただきありがとうございます!! ポケモンコンテストへようこそ!!!!』


その声と共にワアアアアアと会場が沸く。


曜「わわ、すごい歓声」
 「ゼニ」

志満「ふふ、すごいでしょ?」


ステージ上に目をやると、落ち着いた栗色の髪をデコ出しポニーテールでまとめているメガネの似合う女性が、マイク片手に司会をしている。


志満「彼女コンテストでは名物司会者なのよ」

曜「へー」


司会『さて今週もやってまいりました、ポケモンコンテスト・フソウ大会のお時間です!』


曜「今週ってことは毎週やってるの?」

志満「フソウの大会は毎週やってるわね。他の会場はもうちょっと頻度が少ないけど……ここは地方で最大規模の会場だから」

曜「あ、さっきそんな話聞いたよ! とにかくおっきい会場なんだね!」


司会『さて、皆さんご存知の通り、このフソウ大会ではポケモンの“うつくしさ”を競う大会となっております』


曜「“うつくしさ”……かぁ」

志満「ポケモンコンテストには5つの部門があって、それぞれ“かっこよさ”、“うつくしさ”、“かわいさ”、“かしこさ”、“たくましさ”のそれぞれを競い合うの」

曜「今回は“うつくしさ”だけなの?」

志満「ええ、そういうことになるわね。この地方特有のルールになるんだけど……会場ごとに審査科目がわかれてて、ここフソウ会場は基本的に“うつくしさ”を競う大会なの」


司会『それでは皆様お待たせしました! 出場するポケモンとコーディネーターの入場です!!』


志満姉の説明を聞きながら、入場してくるポケモンたちを見る。

外で見た、キュウコンやドレディアに加えてドラゴンタイプのハクリューと言ったポケモンが出てくる中、

一際目を引く──白いポケモン。

そのポケモンを目視したと思った瞬間、大きな歓声が湧く。


曜「わわ!?」

志満「……珍しいポケモンね」


先ほどのキュウコンと同じ九本の尾を持つが……雰囲気が少し違う。


曜「あ、あれも……キュウコン?」

志満「アローラ地方にだけいるキュウコンね」

曜「へぇー……?」

志満「アローラ地方のポケモンを持ってるコーディネーターなんてそんなにいないんだけど……」
234 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:15:48.05 ID:bTwUl7S20
♡ ♥♥♥♥
235 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:20:32.05 ID:bTwUl7S20
>>234 環境依存文字が表示されるかテストしようと思ったら、そのまま書き込んでしまった。
236 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:22:14.82 ID:bTwUl7S20

そういう志満姉の視線を追って、コーディネーターの方を見ると、

綺麗な金髪をポニーテールにまとめた女性だった。


司会『おーっと!!! エントリーナンバー4のアローラキュウコンに大歓声!! これは一次審査は圧勝かぁー!?』


志満「一次審査はポケモンの見た目や毛並みを見てお客さんが投票するのよ。アクセサリーいれの中にペンライトあったでしょ?」

曜「あ、この棒って審査に使うんだ」

志満「これで、第一印象で良かったポケモンに投票するのよ」


志満姉の言葉を聞いて背後を振り返ると──会場が水色一色に染まっていた。


志満「今回はキュウコンが赤、ドレディアが緑、ハクリューが白……アローラキュウコンが水色だから」

曜「うわ……圧倒的……」

志満「流石ね……」

曜「? 流石って……知ってる人?」

志満「実際に見たのは初めてなんだけど……アローラ出身の姉妹が気まぐれにコンテストに出てくることがあるって噂があってね。たぶん、その一人だと思うわ」

曜「ふーん……やっぱ、珍しいポケモン使う人はそれだけで目立つんだね」


司会『さてさてさて!! 一次審査の集計が終了しました!! それでは次はお待ちかねのアピールタイムです!!!』


志満「二次審査では、実際にポケモンが技を出してアピールするわ」

曜「バトルとは違うの?」

志満「妨害とかもあるにはあるけど……そこまでストレートに攻撃したりすることはないかしら」


そう言ってる間に二次審査を開始した、コーディネーターが指示を出す。


金髪のコーディネーター『キュウコン! “オーロラビーム”!』
 『コォォォーン』

 《 “オーロラビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを 驚かす 〕 ?? ???
   キュウコン(リージョン) +?? ExB(*)+?
   Total [ ??? ] 》          (ExB=エキサイトボーナス)

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


コーディネーターの指示と共にアローラキュウコンが口から放った“オーロラビーム”が会場の天井に散布され、広がる。


曜「うわぁ……!!」


司会『これは素晴らしい!! 初手から“オーロラビーム”によって、会場全体をオーロラで魅了しています!!』

志満「ポケモンのアピールにはそれぞれ得点と部門タイプがあって、大会部門と技の部門タイプが一致すると会場が盛り上がるから、少しだけボーナス点がもらえるのよ」

曜「へぇー!」


ドーム内が七色に光り、思わず目を奪われる。

オーロラビームは直線的なビームの技なのに、こんな風にわざと散らして美しく魅せてるんだ……。


コーディネーター2『ハクリュー! “れいとうビーム”!!』
 『リュー』

 《 “れいとうビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ? ????
   ハクリュー +? ExB+?
   Total [ ?? ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
237 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:26:21.81 ID:bTwUl7S20
>>236 訂正


そういう志満姉の視線を追って、コーディネーターの方を見ると、

綺麗な金髪をポニーテールにまとめた女性だった。


司会『おーっと!!! エントリーナンバー4のアローラキュウコンに大歓声!! これは一次審査は圧勝かぁー!?』


志満「一次審査はポケモンの見た目や毛並みを見てお客さんが投票するのよ。アクセサリーいれの中にペンライトあったでしょ?」

曜「あ、この棒って審査に使うんだ」

志満「これで、第一印象で良かったポケモンに投票するのよ」


志満姉の言葉を聞いて背後を振り返ると──会場が水色一色に染まっていた。


志満「今回はキュウコンが赤、ドレディアが緑、ハクリューが白……アローラキュウコンが水色だから」

曜「うわ……圧倒的……」

志満「流石ね……」

曜「? 流石って……知ってる人?」

志満「実際に見たのは初めてなんだけど……アローラ出身の姉妹が気まぐれにコンテストに出てくることがあるって噂があってね。たぶん、その一人だと思うわ」

曜「ふーん……やっぱ、珍しいポケモン使う人はそれだけで目立つんだね」


司会『さてさてさて!! 一次審査の集計が終了しました!! それでは次はお待ちかねのアピールタイムです!!!』


志満「二次審査では、実際にポケモンが技を出してアピールするわ」

曜「バトルとは違うの?」

志満「妨害とかもあるにはあるけど……そこまでストレートに攻撃したりすることはないかしら」


そう言ってる間に二次審査を開始した、コーディネーターが指示を出す。


金髪のコーディネーター『キュウコン! “オーロラビーム”!』
 『コォォォーン』

 《 “オーロラビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥♥
   キュウコン(リージョン) +♡♡ ExB(*)+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》          (ExB=エキサイトボーナス)

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


コーディネーターの指示と共にアローラキュウコンが口から放った“オーロラビーム”が会場の天井に散布され、広がる。


曜「うわぁ……!!」


司会『これは素晴らしい!! 初手から“オーロラビーム”によって、会場全体をオーロラで魅了しています!!』

志満「ポケモンのアピールにはそれぞれ得点と部門タイプがあって、大会部門と技の部門タイプが一致すると会場が盛り上がるから、少しだけボーナス点がもらえるのよ」

曜「へぇー!」


ドーム内が七色に光り、思わず目を奪われる。

オーロラビームは直線的なビームの技なのに、こんな風にわざと散らして美しく魅せてるんだ……。


コーディネーター2『ハクリュー! “れいとうビーム”!!』
 『リュー』

 《 “れいとうビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   ハクリュー +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
238 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:28:14.77 ID:bTwUl7S20

と、思ったら会場中のオーロラが上書きされるように冷凍光線で凍りつき、掻き消えてしまう


 《 キュウコン(リージョン) -♥♥♥♥
   Total [ ♥ ] 》


司会『おっと、ここでハクリューが妨害に出ました!!』


志満「出場ポケモンはそれぞれ順番に技を出すんだけど、全員の技が出し終わった時点でそのターンの審査をするから、こういう風に会場を彩る技を使っても、脅かされたり技そのものを妨害されることがあるの」

曜「妨害もあるって言ってたのはそういうことなんだ……」


コーディネーター3『ドレディア! “エナジーボール”!』
 『レディ〜』

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ドレディア +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


コーディネーター4『キュウコン! “かえんほうしゃ”!』
 『コーーンッ!!!!』

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


それを無視するように、キラキラとしたエネルギーの光と、火の粉がステージ上で舞い踊る。


志満「ドレディアもキュウコンも、氷技の流れを無視して自分のアピールに集中するみたいね」


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♥    ]
          ハクリュー ♡♡       [ ♡♡    ]
          ドレディア  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡ ]
          キュウコン ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡ ] 》


司会『さて、2ターン目です!!』


司会者がそう言うと、ドレディアの足元がライトアップされる。


曜「あれ? 今度はドレディアからなの?」

志満「前のターンによりアピールが出来たポケモンから、次のターンのアピールが出来るの。だから、今回のターンはドレディア、キュウコン。妨害に走った分自分のアピールが出来てなかったハクリュー、邪魔されてほとんど技が目立たなかったアローラキュウコンが最後みたいね」

曜「そういう駆け引きもあるんだ……」


思ったより奥が深いかも、


コーディネーター3『ドレディア、“せいちょう”』
 『ディディアー』

 《 “せいちょう” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   ドレディア +♡♡ +✪
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ドレディアは陽光を浴びるように両手を広げる。すると、ドレディアの体が太陽の光に反応して光り輝く。


志満「あれは調子をあげる技ね。調子をあげると、このあとのアピールがいつもよりうまく出来るようになるの」

曜「ふむふむ」
239 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:29:29.97 ID:bTwUl7S20

司会者『ドレディア、うつくしい輝きです!! 度重なるうつくしさアピールの応酬により、会場のボルテージも最高潮まで高まっております!!』


志満「アピールが最高潮まで高まって、会場のエキサイトゲージが5つ溜まりきると、そのときにアピールしていたコーディネーターとポケモンは“ライブアピール”って言う特別な技を追加で使うことが出来るの」


コーディネーター3『ドレディア、“グレースフラワーガーデン”』
 『レディア〜〜』

 《 “グレースフラワーガーデン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 くさタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ドレディア✪ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


コーディネーターの指示でドレディアがその場でクルリと周る。

すると、ドレディアを中心にステージ上に一気に緑が広がり、花が咲き誇る。


曜「うわぁ……! すご……綺麗……!!」


司会者『“グレースフラワーガーデン”決まりました!! 花の香りに心が透き通るようですね……。さあさあ、ライブアピールの成功でエキサイトゲージはリセットされ、次のポケモンへと移りますよ!』


コーディネーター4『キュウコン、“にほんばれ”』
 『コーン』

 《 “にほんばれ” うつくしさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡
   キュウコン +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


出番が周ってきたキュウコンは空を見つめ、日を照らせる。

キュウコンのアピールから間髪いれず、


コーディネーター2『ハクリュー! “ふぶき”!』
 『リュー』

 《 “ふぶき” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥
   ハクリュー +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


突然、ハクリューの全身から冷気が吹雪きだし、アピールを終えたポケモンたちに襲い掛かってくる。

 『コン!』

 《 キュウコン -♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》


 『ディア!』

 《 ドレディア -♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》


司会『おぉーっと、補助技に集中していた2匹ですが、“ふぶき”に驚いて体勢を少し崩しました! これはマイナスポイントですね』


志満「あのハクリューは妨害特化みたいね」

曜「妨害特化?」

志満「うつくしさ部門だとちょっと珍しいんだけど……かっこよさやたくましさ部門だと、他のポケモンをびっくりさせてアピールの邪魔をする戦い方もあって、他のポケモンのアピールを掻き消すことで相対的に自分の順位を稼ぐのが妨害技なの」


しかし、そんな流れを意にも留めていないのか、
240 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:31:07.84 ID:bTwUl7S20

金髪のコーディネーター『キュウコン、“あられ”』
 『ココーン』

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜
   キュウコン(リージョン) +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


アローラキュウコンの高い透き通った声と共に会場内をハラハラと霙のようなものを降り始め、照っていた日を遮ってしまう。

ついでと言わんばかりに大量の氷の粒が他のポケモンたちに降り注いで邪魔をする。


 《 ドレディア -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 キュウコン -♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 ハクリュー -♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》


司会『おっとぉ!? 1ターン目の仕返しかぁ!?』


曜「うわ、すご……」

志満「後手に回った分、まとめて妨害を出来る技を選んだみたいね……」


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
         .ドレディア✪  ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ]
          .キュウコン ♡♡ ♥♥♥♥        [ ♡♡♡     ]
          .ハクリュー ♡♡ ♥           [ ♡♡♡     ]
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡            [ ♡♡      ] 》


他のポケモンに大きく減点が付いたためか、今度はアローラキュウコンの足元が真っ先にライトアップされる。


司会『3ターン目です!』


金髪のコーディネーター『キュウコン、“オーロラベール”』
 『コーーーーン』

 《 “オーロラベール” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡♡ ◆
   キュウコン(リージョン)◆ +♡♡ ExB+♡ (*)CB+♡♡♡ (*CB=コンボボーナス)
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


コーディネーターの指示と共に、再び会場がオーロラに包まれる。

さっきの“オーロラビーム”のときとは非にならない規模で。


曜「ほわぁ……きれい……」


司会『おーっと!? これは前ターンの“あられ”から繋いだようです!! 審査員の方たちも思わずニッコリしています!!』

曜「……繋いだって?」

志満「技のコンボが成立したってことよ。次のターンを見据えて、前のターンに次の技が栄える技を使っておくの。これで大きくポイントを稼ぐのがコンテストの定石なのよ」

曜「そういうのもあるんだ……! それじゃ、“あられ”から“オーロラベール”を使ったからコンボになったんだね。……あ、でもこれまた妨害されて掻き消されちゃうんじゃ……」

志満「……“オーロラベール”なら、平気だと思うわ」

曜「え?」
241 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:33:02.46 ID:bTwUl7S20

コーディネーター3『ド、ドレディア! “ギガドレイン”!!』
 『レディア〜〜』

 《 “ギガドレイン” かしこさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   ドレディア✪ +♡ (*)✪B+♡ (*)ExP-♥  (*✪B=調子アップボーナス、ExP=エキサイトペナルティ)
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ドレディアがアピールするアローラキュウコンにピンポイントで狙いを定めて“ギガドレイン”を使うが、


 《 キュウコン(リージョン)◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


志満「“オーロラベール”は防御の技……相手からの妨害を防ぐ能力の高い技だから、あれくらいの技じゃ妨害が成立しない」

曜「妨害を防ぐ技もあるんだね」

志満「それに、急な妨害が重なったせいでコーディネーターも焦ったみたいね」

曜「え?」


司会『おっとぉ? 審査員の皆さん、強引な妨害の“ギガドレイン”に少し苦笑い……うつくしさ部門でかしこさ技はあまり好まれませんねぇ。エキサイトが減少してしまいました』


志満「“ギガドレイン”は部門にあわないアピールだったから、エキサイトもさがっちゃったし、減点になっちゃったわ」


コーディネーター2『ハ、ハクリュー! “ふぶき”!!』
 『リューーーー!!!』

 《 “ふぶき” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥
   ハクリュー +♡
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ハクリューは再び“ふぶき”を放ち、妨害を試みるが、


 『レディーーッ!?』

 《 ドレディア✪ -♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 『コン』

 《 キュウコン(リージョン)◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


ドレディアは妨害を受けてしまうが、キュウコンは相変わらず“オーロラベール”で妨害を防いでいる。


志満「これまた、ことを急いたみたいね」

曜「?」


司会『おっと……ハクリューの“ふぶき”、これは前のターンと同じ技ですねぇ。同じ技の連発はあまり印象がよくなく、減点の対象になってしまいます。妨害合戦で判断を誤ってしまったのでしょうか』


 《 ハクリュー -♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》


志満「同じ技を連続で使うのは基本的に減点の対象になるの。同じ技ばっかりだと見てる側も飽きちゃうから……この場合は部門と同じタイプのアピールでも、エキサイトはあがらないわ」

曜「なるほど……」
242 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:35:34.32 ID:bTwUl7S20

コーディネーター4『キ、キュウコン!! “ねっぷう”!!』
 『コーーーンッ!!!!』

 《 “ねっぷう” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   キュウコン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


最後尾、キュウコンが“ねっぷう”を吹きつけ全力の妨害。


 『コン』

 《 キュウコン(リージョン)◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


 『レディアーー!!!?』

 《 ドレディア✪ -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》


 『リューーーッ!!!』

 《 ハクリュー -♥♥
   Total [ ♡ ]》


他の二匹が妨害を受けて減点されるが……やはり、アローラキュウコンは“オーロラベール”のお陰で平気な顔をしている。


曜「ん……皆なんで、アローラキュウコンは“オーロラベール”を使ってるのを見てるに、妨害技を使うんだろう……?」

志満「技はライブアピール以外はターンの最初に全員何を出しておくか予め決めておかないといけないのよ」

曜「え、そうなの?」

志満「そうじゃないと、防御技の駆け引きの意味合いが薄まっちゃうからね」

曜「言われてみれば……それもそうか。じゃあ、コーディネーターはターンが始まったときに決まったアピール順だけで、アピールするか防御するか妨害するか、考えないといけないんだね」

志満「ええ、そういうことよ。さすが曜ちゃんね、飲み込みが早くて、あんまり私が説明することがなくなっちゃうわね」

曜「いやそれほどでも……」


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ]
         .ドレディア✪ ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡    ]
          .ハクリュー ♡ ♥♥♥   [ ♡        ]
          キュウコン ♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡   ] 》


司会『さあ、4ターン目はアローラキュウコン、キュウコン、ドレディア、ハクリューの順です!』


金髪のコーディネーター『キュウコン! “こなゆき”!』
 『コーーーンッ』

 《 “こなゆき” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   キュウコン(リージョン) +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


アローラキュウコンが鳴き声をあげると共に細雪が辺りに舞い散り始める。

“こなゆき”は差し込む太陽の光や、会場内のスポットライトを反射して幻想的に光る。

その光景に思わず息を呑むオーディエンス。

そして、そこに畳み掛けるように、
243 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:36:39.85 ID:bTwUl7S20

金髪のコーディネーター『キュウコン! ライブアピール行くわよ!』
 『コーーンッ!!!!』

金髪のコーディネーター『“アイシクルグレース”!!』
 『コーンッ!!!!!』

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   キュウコン(リージョン) +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


アローラキュウコンの息吹と共に、周囲が一気に冷やされ、空気が凍り、辺りに複数の氷の結晶が浮かび上がる。

その結晶は、同時に炸裂して、砕けた結晶が光を乱反射して、会場に七色の光を降らせる。


司会『決まりました!! ライブアピール!! 圧倒的な美しさです!!』


曜「うわぁ……綺麗……」


思わず見蕩れてしまう。

さっきのドレディアの技もそうだったけど、ライブアピールは本当に圧倒的な演技で会場を魅了している。


司会『さあ、コンテストライブは続行中です。次のアピールはキュウコン……えっと、ほのおタイプのキュウコンです!!』


コーディネーター4『キュウコン! “かえんほうしゃ”!!』
 『コンコーン!!』

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


キュウコンが吐いた炎熱が会場に火の粉を散らす。


司会『これは手堅くうつくしい“かえんほうしゃ”! 文句なしの高評価ですね!』


志満「手堅いアピールね」

曜「ふんふん」


司会『次はドレディアの番です!』


コーディネーター3『ドレディア、“すいとる”』
 『レディァー』

 《 “すいとる” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ドレディア✪ +♡♡♡♡ ExB+♡ ✪B+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


司会『さあ、手堅いアピールが続きます!』


コーディネーター2『ハ、ハクリュー!! “はかいこうせん”!!!』
 『……リュウウウウウウウウウ!!!!』

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ハクリュー +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》


曜「うわ!?」


不意に、破壊の一閃がステージ上を跳ね回る。
244 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:38:49.82 ID:bTwUl7S20

 『レディッ!?』

 《 ドレディア -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》


 『コーンッ!!!』

 《 キュウコン -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡ ] 》

 『コンッ』

 《 キュウコン(リージョン) -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》


“はかいこうせん”と言うだけあって、その凄まじい威力に先ほどまで凛としていたアローラキュウコンまで僅かにその身を引いてしまう。


曜「ま、まさか、まだ逆転を狙って……」

志満「うーん……あれは破れかぶれかな」

曜「え?」


司会『目論見どおりか、大きく周りの妨害には成功しましたが、“はかいこうせん”は残念ながらかっこよさの技なので、エキサイトボーナスはありません……それに加えて──』


志満「反動で次のターンは行動不能」

曜「……あ、そっか」


“はかいこうせん”ってそういえばそういう技だった。


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン(リージョン) ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ]
          .キュウコン ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡     ]
         .ドレディア✪ ♡♡♡♡♡⁵♡ ♥♥♥♥       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡        ]
          .ハクリュー ♡♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡           ] 》


司会『さぁ、運命の最終ターン!! ここまで華麗にアピールを成功させているアローラキュウコンからのアピールです!』


金髪のコーディネーター『さて、キュウコン』


金髪のコーディネーターがアローラキュウコンと共にライトアップされる。

と、共に腕を目の前でクロスさせた。


曜「え?」


私は突然のその行動に驚いて、志満姉に解説を求めようとしたが、


志満「え……」


志満姉も驚いた顔をしていた。

金髪のコーディネーターの手首にしてあった腕輪が突然キラリと光り、そのまま、機敏な動きで腕の交差を何度か組み替え、


金髪のコーディネーター『行くわよ!!!』


掛け声と共に、横に、縦に、素早く、両腕を真っ直ぐ伸ばす。まるで鋭利な刃物のようなジェスチャー、

──と、共に腕輪はますます大きく光り輝き。

アローラキュウコンも光り輝いていた。


司会『おぉぉぉぉぉぉおおーーーーっと!!!? これはーーーーー!!!?』
245 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:40:29.20 ID:bTwUl7S20

金髪のコーディネーター『キュウコン!! 全力のZ技!! “レイジングジオフリーズ”!!!!』
 『コォォォォォォーーーーン!!!』


キュウコンの透き通る雄叫びと共に、キュウコンの足元から巨大な氷柱が突き出し、自らの身体をステージの上部に持ち上げる。

 『コオオオオオーーーン』

そして、高所からステージ状に向かって一気に冷気を放つ、

──バキリ

そんな、空気が凍りつく音と共に巨大な氷の大結晶が出来上がる。


曜「す……すご……!!」


金髪のコーディネーター『キュウコン』
 『コォーン』


コーディネーターの呼び声と共にキュウコンは氷柱を滑らかな動きで駆け下りて、


金髪のコーディネーター『フィニッシュ』
 『コン』


合図と共に氷の柱と大結晶が粉微塵に砕けて、キラキラとした宝石のようなダストが会場を包み込む。

会場は何が起きたのかわからなかったのか──静まり返っていたが。

パチ……

パチパチ……

パチパチパチパチ──

と、誰かが打った拍手をきっかけに、

──ウオオオオオオオオオオ

大歓声に包まれた。


曜「……すご……」

志満「まさか、コンテストZ技を使う人がいるなんて……」


Z技って言うのがなんなのかよくわからないけど、とにかくすごい技だったってことはわかる。


司会『……す、素晴らしいアピールに司会の私も言葉を失ってしまいました……!! これはすごい、コンテストでZ技を見ることになるとはー!!!』


司会のお姉さんもアローラキュウコンのアピールに興奮気味に喋っている。


司会『あ、っと……まだコンテストは終了していません! キュウコンのアピール、お願いします!!』

コーディネーター4『……え?』


原種キュウコンのコーディネーターは自分の番が回ってきたのに、完全にさきほどのZ技に見蕩れていたのか、


コーディネーター4『あ、え、えっと、キュウコン! “だいもんじ”!?』


ハッと我に返って、焦って技を指示する。


志満「……対戦相手すらも魅了する……。勝負あったわね」


私は志満姉の言葉を意識の端で聞きながら、未だ先ほどの余韻でキラキラとステージ上を煌くダイヤモンドダストの先で、

悠然と立つアローラキュウコンと金髪のお姉さんに、思わず見蕩れていた。


246 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:41:24.26 ID:bTwUl7S20



    *    *    *





ステージ会場の外に出ると、


曜「うわ……あれ、何?」


ものすごい人だかりが出来ていた。


志満「ステージを見ていたファンの人たちだと思うわ。あれだけすごいパフォーマンスだったから、無理もないかな」


言われてみて、人だかりの中心部の方を見ると、確かに少しだけ金色の髪がチラチラと見える。

あの人、長身なんだなぁ……などと、どうでもいい感想を胸中に抱いていると、


志満「曜ちゃんはいいの?」


志満姉がそんなことを言って来る。


曜「え? わ、私は別に……」

志満「完全に見蕩れてたでしょ? すっかりファンになっちゃったのかなって」

曜「え、あ、うーん……確かに見蕩れてたのは否定しないけど……」

志満「……けど?」

曜「なんというか……私もコンテストに出たら、あんな風にキラキラ出来るのかなって……気持ちの方が……強いかも」

志満「……ふふ、そっか」

曜「ポケモンたちに服とか作ってあげて……綺麗に着飾って……どんな風に技を組み合わせたらいいかな……!!」

志満「……着飾って……」


ステージ状で美しく振舞う、ラプラスの姿が脳裏に浮かんでは消えていく。


志満「曜ちゃん」

曜「え?」

志満「すっかりコンテストの虜みたいね」

曜「あ、いや……なんというか……。……そうかも」


まんまとアクセサリーいれをくれたお姉さんの言う通りになっている自分がいる。


志満「……ねえ、曜ちゃん。さっきのアローラキュウコン……すごかったけど、あれでも、まだコンテストの頂点じゃないのよ」

曜「え?」

志満「コンテストクイーン」

曜「くいーん……?」

志満「本当の上位コーディネーターのみが参加出来る『グランドフェスティバル』で優勝した人だけが得られる称号なんだけど……」

曜「う、うん……」

志満「……もし曜ちゃんが今ホンキでコーディネーターになってみたいって思ってるんだったら……せっかくだし、会ってみない?」

曜「? 誰に?」

志満「コンテストクイーンに、よ」

曜「え?」
247 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:42:14.42 ID:bTwUl7S20

私は志満姉の言葉に眉を顰める。

それってつまり、この地方で最も優秀なポケモンコーディネーターということだ。


曜「会えるなら会ってみたいけど……でも、そんなすごい人ってことは有名人でしょ? そんなに簡単に会えるの?」

志満「会えるわ」


志満姉は私の目を見据えてそう言う。


志満「付いて来て」

曜「え、あ、はい!?」


私は志満姉に手を引かれて、言われるがままに付いて行くのだった。





    *    *    *





──『STAFF ONLY』と書かれた扉の前に、黒服にサングラスを掛けて頭をスキンヘッドにしている怖そうなガードのお兄さんがいる。

私は志満姉に手を引かれて、そこに向かって一直線に進んでいた。


曜「え、ちょ、志満姉!?」


そのままずんずんと進んでいく志満姉。

ええ!? まさかの強行突破!?


曜「ちょ、それはまずいって……!!」

志満「こんにちは」


──と、思ったら普通にガードの人に挨拶してるし!!


スキンヘッド「ああ、志満さんですか。そちらの子は?」

志満「妹の友達なんだけど、コンテストにすごく興味があるみたいで……通して貰っても大丈夫ですか?」

スキンヘッド「ええ、志満さんのご紹介ということなら」


そう言ってガードのお兄さんがドアの前を開けてくれる。


曜「……ええ……?」


予想外の展開に呆けていると、


志満「ほら、曜ちゃん」

曜「え、あ、はい」


志満姉に手を引かれ、一緒に『STAFF ONLY』のドアを潜る。


曜「……??????」


完全に置いてけぼり状態の中、入った室内の奥の方から、女性の声が聴こえて来た。
248 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:43:08.02 ID:bTwUl7S20

 「絵里さん、あのままだともみくちゃにされちゃうと思うんだけど……。あの人ステージ上やバトルだとビシっとしてるのに、プライベートはなんかヌケてるのよねぇ……。適当なところで救出してあげてもらっていい?」

 「はい、承知しました」


そんなやり取りのあと、黒服の人が私たちと入れ替わるように外に出て行く。

──その先に、声の主が居た。


曜「……え?」


そこには見覚えのある、そこにはゆるふわロングなブラウンヘアーの女性が、


志満「あんじゅちゃん! 久しぶり!」

あんじゅ「あら? もしかして、志満?」


そう言いながら、志満姉はその女性──あんじゅさん?──と抱擁を交わす。


曜「ええ……???」


もう今日私は何回馬鹿みたいに口を開けて呆ければいいんだろうか。

状況についていけず、ポカンとしていると、


あんじゅ「あら? あなた……」


あんじゅさんがこちらに気付いたのか、


志満「あら? もしかして、あんじゅちゃん、曜ちゃんと既に知り合いなの?」

あんじゅ「知り合いと言うか……まあ、ちょっと運命的な邂逅を交わしちゃった子ってところかしら」

曜「え、えぇーと……?」


さっきアクセサリーいれをくれた自称コンテスト会場関係者のお姉さんと志満姉が知り合いで……???


志満「あ、えっと、曜ちゃん」

曜「は、はい」

志満「この人が、現クイーンよ」

曜「──は?」


もう、今日の私はダメかもしれない。

顎が呆けた形で固定されそうだ。


あんじゅ「ふふ、それじゃ改めて」


──フワリとスカートドレスとはためかせながら、一歩前に出て、彼女は、


あんじゅ「コンテストクイーンのあんじゅよ。よろしくね。えっと……曜、でいいかしら?」


そう自己紹介してくれました。

かくして、私は超有名人と簡単に知り合いになってしまったのであります──。


249 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:43:34.43 ID:bTwUl7S20


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     ●  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:9匹


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



250 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:27:48.37 ID:bTwUl7S20

■Chapter019 『グランドフェスティバルを目指して』





あんじゅ「それで志満」

志満「?」

あんじゅ「確かに曜とは運命的な邂逅をしたところがあるから、ここに連れて来たその勘は流石だと思うんだけど……」


あんじゅさんはそう言いながら私のことをジロジロと観察し始める。


あんじゅ「そうは言っても、あなた素人よね……?」

志満「あんじゅちゃん、若い芽を摘むようなこと言っちゃダメよ……?」


志満姉はそう言ってくれるけど、

──そりゃそうだ。

私はコンテストの経験もない。志満姉があんじゅさんとどういう関係なのかはわからないけど、たまたま知り合いだったからという理由でこの地方の頂点にいる人の楽屋にタダで通して貰うなんて都合が良すぎる。


曜「い、いや……会えただけでも光栄なんで! 私、やっぱり失礼しますっ」


そういって、すぐさまスタッフルームを飛び出そうとする私を、


志満「待って、曜ちゃん」


志満姉が引き止める。


あんじゅ「……志満はその子に何か期待してるの?」

志満「曜ちゃんはきっとすぐに伸びるわ」

曜「えぇ!?」

あんじゅ「根拠は?」

志満「私の勘がそう言ってるの」

曜「えぇ……」


勘って……千歌ちゃんみたいな……。

落ち着いてるように見えて、やっぱそういうところは姉妹ってことなのかな。


あんじゅ「んー……志満の勘はバカに出来ないところがあるし……」

曜「ええ……」


あんじゅさんもあんじゅさんで、なんか納得しかけてる……。

私なんかただコンテストを見て、口開けて感激してただけだと思うんだけど……。


あんじゅ「曜、だったわね」

曜「え、あ、はい!」

あんじゅ「あなたコーディネーターを目指すに当たって目標とかあるのかしら?」

曜「え、目標……」


いきなりそう問われて、困ってしまう。

今さっきやってみたいなって思っただけだし、
251 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:29:27.87 ID:bTwUl7S20

志満「もちろん、コンテストクイーンよね!」

曜「え、えぇ!?」


さっきから私、『え』で構成された台詞ばっかり言ってるんだけど……。


あんじゅ「コンテストクイーン、目指すの?」

曜「え、えーと……まあ、やるんだったら、目指したい……かな?」

あんじゅ「……へぇ〜♪」


言ってみてから、それが目の前にいるあんじゅさんを打ち負かすと言う意味なのに気付き、


曜「え!? あ!! いや!? な、なれたらいいなーみたいな話で、あんじゅさんに勝てるとかそういう話じゃなくて!!?」


そもそもデビューもまだだし。


あんじゅ「ふふ、わかってるから大丈夫よ〜。でも、現役クイーン目の前なのに、思わずそんな言葉が出ちゃうところは嫌いじゃないわ」

曜「あ、あう……ご、ごめんなさい……」

あんじゅ「あなたなかなか面白い子ね」


あんじゅさんは縮こまる私を見ながら、くすくすと笑う。

……どうやら、悪い印象ではなさそうで安心したけど……。

と、思いながらチラっとあんじゅさんの方を見ると、


あんじゅ「……」


あんじゅさんが志満姉にアイコンタクトを送っているのがなんとなくわかった。

『まるで、ホントに理由はこれだけ?』とでも聞いてるような、

それを受けてか、


志満「ねえ、曜ちゃん」


志満姉が私に話しかけてくる。


志満「今日のコンテスト……どうだった?」

曜「え?」

志満「率直な感想でいいから」

曜「え、えっと……すごかった……かな?」

志満「他には?」

曜「え、えーと……そうだな……二次審査は戦略があって、奥が深かったなって感じたけど……」

志満「けど?」

曜「それに比べると、一次審査が地味だったような……それこそ、もっと工夫が出来るんじゃないかなって」

あんじゅ「……工夫?」


私の言葉に何故だか、あんじゅさんが食いついてきた。


曜「いや、その……アクセサリー入れがあるってことは、ルール上ポケモンにアクセサリーを付けるのはいいんですよね?」

あんじゅ「ええ、むしろ推奨されるわ」

曜「その割には、出場してたポケモンたち、ワンポイントのリボンとかをしてたくらいで……私だったら──」
252 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:31:20.14 ID:bTwUl7S20

──私だったら、


曜「もっと自分のポケモンをうつくしく魅せるために、衣装から全部考えてあげたいかなって……」

あんじゅ「……うふふ、なるほどね……」

曜「って、あ、ご、ごめんなさい! 生意気でしたよね!」

あんじゅ「志満がこの子をここに連れて来た理由、なんとなくわかったわ」

曜「……え?」

あんじゅ「まあ、気持ちだけでどこまであがってこれるかはわからないけれど……いつかグランドフェスティバルで会えること、楽しみにしてるわ」

曜「え……あ、はい……」


それだけ言ってあんじゅさんは、室内の時計を一瞥する。


あんじゅ「そろそろ次のお客さんが来ちゃうんだけど……同席する?」

志満「あ、ううん。他に用事があるなら、この辺でお暇しようかな。ごめんね、アポもなしに」

あんじゅ「全くよ……旅館継いで落ち着いたと思ったら、そういうところ昔と変わらないんだから……」

曜「昔……?」

志満「あー!! 妹の友達の前でそう言う話しないでー!! おしとやかなお姉さんで通ってるんだからー!!」

あんじゅ「おしとやかなお姉さんねー……」

志満「それじゃ、またね! あんじゅちゃん! 曜ちゃん行きましょ!」

曜「え、あ、はい」


再び志満姉に手を引かれ、退室を促される。

──その背に、


あんじゅ「志満」


あんじゅさんが呼び掛ける。


あんじゅ「楽しみにしてるわ」

志満「……ええ」

曜「……?」


意味深なやり取りを残して、私たちは現クイーンの楽屋を後にした。





    *    *    *





──その後、日もとっぷり沈んで、志満姉と同じ部屋で宿を取ったところで……なんとなくさっきのやりとりを言及してみる。


曜「志満姉って昔は、なんというか……おてんばだったの?」

志満「え!? えーと、どうだったかしら、おほほ……」


雑な誤魔化しに内心苦笑する。こういうところもなんだか千歌ちゃんに似てるし、

きっと昔の志満姉は、今の千歌ちゃんみたいだったんだろうなぁ……。

やっぱり歳は離れてても、姉妹と言うことか。
253 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:34:51.36 ID:bTwUl7S20

志満「そ、そんなことよりも、曜ちゃんのデビュー戦についての話をしましょう!」

曜「え、デビュー戦!?」


私、今日見たコンテストライブみたいなパフォーマンス出来る自信ないんだけど……。

そんな考えが顔に出ていたのか、


志満「そうは言っても、初心者用のレギュレーションよ?」


そう補足される。


曜「そういえば、さっきもグランドフェスティバルに出られるのは上位コーディネーターって言ってたっけ……」

志満「いきなりあのレベルを求められると競技人口なんてあっと言う間に減っちゃうもの」

曜「……どうすれば、上位コーディネーターになれるの?」

志満「あら……さっきはあんじゅちゃんの前であんなに遠慮してたのに、実はやる気まんまん?」

曜「い、いや、そんなつもりじゃ……でも目標を持つなら高いほうがいいし、知っておいて損はないかなって……!」

志満「ふふ、冗談よ。それじゃ、それも含めてオトノキ地方のコンテスト大会の仕組みについて説明するわね」


そう前置きしてから、志満姉が説明を始める。


志満「まず、さっきも言ったけど、この地方では会場ごとに競う部門が決まっていて、ここフソウタウンは“うつくしさ”部門の会場になるわ」

曜「ふむふむ」

志満「他の部門はそれぞれ“かっこよさ”はサニータウン会場、“かわいさ”はセキレイシティ会場、“かしこさ”はダリアシティ会場、“たくましさ”はコメコシティ会場になるんだけど……いきなり知らない街の名前言われても覚えられないだろうから、これは今後街に訪れたらそこに行くくらいの気持ちでいいと思うわ」

曜「はーい」

志満「そして、次に階級。ビギナーランク、ノーマルランク、グレートランク、ウルトラランクの4つが開催されていて、ビギナーランクは随時各会場で行われているわ」

曜「まず私が出るのはビギナーランクってこと?」

志満「ええ、そういうことになるわね。ただ、ビギナーランクはホントに初心者向けのレギュレーションだから、上の階級を目指すなら普通はノーマルランクからエントリーすることになるわ」

曜「なるほど」

志満「それでここからがちょっとややこしいんだけど……それぞれのランクで昇級点って言うものがあるの」

曜「昇級点?」

志満「次のランクに挑むための権利を得るためにコーディネーターはこのポイントを溜めていくの」

曜「あ、じゃあ……いきなりウルトラランクとかに挑むことはそもそも出来ないんだ」

志満「そういうこと。昇級点はコンテストで勝てば増えるわ。部門ごとにノーマルランクは誰でも参加可能だけど、グレートランクは1点以上、ウルトラランクは3点以上昇級点を持ってないと参加出来ない」

曜「ポイントはどうやったら貰えるの?」

志満「ノーマルランク以上の大会で1位は3点、2位は1点、3位は0点、4位は-2点ね。グレートランクはそれぞれ昇級点が2倍、ウルトラランクでは3倍になる」

曜「あ、減ることもあるんだね」

志満「0点以下になっても持ち点がマイナスになることはないけど、例えばグレートランクで4位を取ると持ち点は−4点だから、ほぼ降級が確定で、ノーマルランクからやり直しね」

曜「うへぇ、厳しいなぁ……」

志満「逆に言うなら無理に上位ランクに進まずノーマルランクで3回2位を取ってウルトラランクを目指す人もいるし、ノーマル→グレートでそれぞれ2位を取ってもウルトラランクに昇級出来るわ」

曜「あ、ポイントは全ランクで共通なんだね……となると」

志満「ええ、ノーマルランクで1位を取ればいきなりウルトラランクへの挑戦権を得ることも出来るわ。もちろんウルトラランクにあがっても4位で負けたら-6点でノーマルランクからやり直しだけどね」

曜「ポイント獲得のチャンスも増えるけど、負けたときの点の減り方も大きいから、そこは考えてレギュレーションを選ばないといけないってことだね……」

志満「ただ、一回上のランクに参加したら、降級が決まるまで下のランクへの挑戦権もなくなっちゃうのは注意点ね」

曜「あ、そっか……そうじゃないと上位ランクの人が下位ランクでポイント稼ぎ出来ちゃうもんね」

志満「そういうこと。まあ、でも曜ちゃんはグランドフェスティバルを目指すんだから、全部1位を目指しましょう!」

曜「えぇ!? い、いきなりハードル高すぎない……?」
254 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:39:35.65 ID:bTwUl7S20

……全部1位って、今日始めてコンテストライブを見たばっかなのに、

……あれ? そういえば……。


曜「上位コーディネーターって具体的にどれくらいの人のことを指すの?」


いわゆる、グランドフェスティバルなるものに参加出来るレベルの人はどれくらい点を稼げばいいんだろう?


志満「年間での獲得ポイントの合計が100点以上のコーディネーターよ」

曜「え、100点も!?」

志満「100点以上ポイントを稼ぐと、マスターランクって呼ばれるランクに昇級して、最上位大会のグランドフェスティバルに参加出来るようになるわ」

曜「え、えーっと……ウルトラランクで勝つと3倍ポイントだから……優勝で9点だよね? それだと100点になるには……」

志満「最初のノーマルランク含めて、12連勝すれば最速で100ポイント以上溜まるわね」


12連勝……気が遠くなりそう。

まあ、最強を競う祭典なんだし、そんなもんなのかな……?

──あれ?


曜「そういえば、志満姉……会場によってコンテスト大会の開催頻度が違うって言ってなかった?」

志満「そうね。ノーマルランク以下はどこの会場でも週に1回以上はやってる。けど、グレートランク以上の開催は、一番多いここフソウ会場で週に1回、一番少ない場所だとコメコ会場で月に1回の開催になるわ。加えて同じ週に複数回、同会場、同ランクに出場することは出来ないから、ノーマルランクでコツコツ稼ぐのはかなり大変なの」

曜「んー? それだとコメコシティの大会……えっと」

志満「たくましさ部門ね」

曜「そうそう! たくましさ部門だけだと、ポイント溜めるの大変だよね?」

志満「だから全会場の合計ポイントを競うんだけど……逆に言うなら開催頻度の少ないコメコ会場は自然と競技人口も少ないから、ライバルも少ないの。だから、逆にここを狙い撃ちでポイントを稼ぐ人もいるのよ」

曜「な、なるほど……」

志満「そして、年間昇級点が100ポイントに到達したコーディネーター──つまり、マスターランクのコーディネーターが3人になると、その時点でのコンテストクイーンを含めた4人でのマスターランク大会、グランドフェスティバルが開催されるのよ」

曜「ふむふむ……え?」


──その時点で?


曜「じゃあ今はまだマスターランクの人って3人いないの?」

志満「3回連続でクイーンになると、永世クイーンで殿堂入り扱いになるの。それに加えてマスターランク大会は2位は持ち点を半分に、3位以下はその時点で0点になるから、その兼ね合いもあって、今期のマスターランクの人はあんじゅちゃんを除くとまだ2人しかいないわ」

曜「う、うわ……厳しい……」

志満「こうしないと、毎回同じ人たちがマスターランクでぶつかることの繰り返しになっちゃうからね。あ、ただ一度マスターランクにあがると年間ポイントを次の年に繰り越し出来るから、先にマスターランクになったら同ランクが3人揃うのを待つだけになるわ」

曜「なるほど……」

志満「ちなみにあんじゅちゃんは次が2回目のクイーン防衛戦。永世への王手になるわね」

曜「あんじゅさんってやっぱり強いんだ……と、言うか既に他に2人、マスターランクの人がいるんだね」


じゃあ、残りの椅子は一つ……。


志満「きっとこのままだと、今日出ていたアローラキュウコンのコーディネーターさんがここから10連勝して、マスターランクにあがってくると思うけど……」

曜「あ、そっか……フソウ会場は一番頻度が多いから……」


うつくしさ部門で周りを圧倒できる人だと、理論上一番早くポイントが稼げるから……。


曜「次のグランドフェスティバルは無理かぁ……」


大会の仕組みや志満姉の口振りからしても、グランドフェスティバル自体、数年に1回くらいしか行われない行事みたいだし、

私が出場するってなると、どれくらい先になるんだろう……。
255 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:41:08.74 ID:bTwUl7S20

志満「……と、思うでしょ?」

曜「え?」

志満「これだけだとうつくしさ部門をこなすメリットが大きくなりすぎちゃうから、特例措置があるの」

曜「特例措置?」

志満「かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさ……この5部門全てのウルトラランク優勝経験がある場合、持ち点を倍にして扱うの」

曜「倍……」


ノーマルランク優勝で3点、そこからウルトラランクで9点加算されたら合計12点……ってことは、


志満「あのコーディネーターさんが毎週大会に参加するとは限らないし、仮にそうだったとしても、曜ちゃんがこれからオトノキ地方を廻りながら、全部門ウルトラランクでストレート優勝すれば全然間に合うってことね」

曜「お、おぉ!!」

志満「もちろん全部門制覇は簡単じゃないけどね。それぞれの部門ごとに戦略も変えなくちゃいけないし……でもグランドフェスティバルは全部門のコンディションが要求される特殊レギュレーションだから、無駄にはならないわ」

曜「なるほど……!」


じゃあ、一応私にもまだチャンスはあるんだ!


曜「それを聞いたら、ちょっとチャレンジしてみる気が起きてきたかも……!!」

志満「ふふ、それなら説明した甲斐があったわ」

曜「よーし! それじゃ早速ビギナーランクに──」

志満「あ、えーと……今日はもう参加受付が終わっちゃってるから……」

曜「……出鼻を挫かれた」

志満「明日以降の出場登録だけして、帰りましょうか。どっちにしろ基礎技術を教えないといけないから、今からコンテストの戦略についていろいろ教えてあげるわ」

曜「ヨーソロー! よろしくお願いします!」





    *    *    *





 「ハ、ハラショー……」


そう言いながら、金髪の女性が楽屋のソファーで項垂れている。


あんじゅ「絵里さん、大丈夫?」

絵里「……あ、ありがとう……あんじゅさん。ウルトラランク優勝となるとあんなに人に囲まれるものなのね」

あんじゅ「いや、あそこまでのは稀よ? Z技使うなんてびっくりしたわ」

絵里「……アローラ出身の人間の特権みたいなところがあるから、使わない手はないと思って」

あんじゅ「お陰様でいいものを魅せてもらったわ」


──ふと、わたしは先ほど新人のコーディネーターが言ったことが脳裏を過ぎり、今日と言う日の衆目を独り占めにした彼女にも聞いてみようと思った。
256 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:42:31.07 ID:bTwUl7S20

あんじゅ「絵里さん、ちょっと聞きたいんだけど」

絵里「? なにかしら?」

あんじゅ「絵里さんはキュウコンに服とか作ってあげないの?」

絵里「服……うーん、たまに考えるんだけど、いい案が浮かばないし……結局ルール的にも二時審査のウェイトが大きいから、そこを意識して重点的にトレーニングする方が効率的だと思うのよね」

あんじゅ「じゃあ、服はいらない?」

絵里「いらないとは言わないけど……アクセサリーでも十分こと足りてるし、キュウコンの魅力も引き出せてると思っているわ」

あんじゅ「そう……ありがとう、参考になったわ」

絵里「そう?」


やはり、と言った回答。

頭もよく回り、比較的効率主義な絵里さんらしい回答だと思った。


あんじゅ「きっとそういう効率的な考え方だとバトルも強くなるんだろうけれど……」

絵里「あんじゅさん、バトルはからっきしだものね」

あんじゅ「ホント……どっちも出来る人が羨ましいわぁ……」


ふと、バトルの話をしていて思いだす。


あんじゅ「それはそうと……仕事の方は大丈夫?」

絵里「仕事? ……一応休暇申請出して来たけど……?」

あんじゅ「ここ数日、オトノキ地方南部がざわついてるから、何か忙しいんじゃないかと思ってたんだけど……」

絵里「……え」


わたしの言葉を聞いて絵里さんはすぐにポケギアを取り出して、ポチポチと確認をし始める。


絵里「……ハラショー……」


そして、引き攣った笑いを見せてくれる。

やっぱり、この人プライベートは少しポンコツなところあるのよねぇ……。


絵里「海未から恐ろしい数の着信履歴が……」

あんじゅ「早く戻った方がよさそうねぇ……関係者用の裏口を開けるから、そこから出るといいわ」

絵里「ありがと、そうする……もう、せっかくの休暇なのにぃ……」


さっきのステージ上の凛とした姿からは想像できないような情けない声を出しながら、よろよろと裏口への通路へと向かっていく。


あんじゅ「そうだ、絵里さん」

絵里「? なにかしら?」

あんじゅ「ツバサに伝言して貰っていい? たまには顔くらい見せに来なさいってあんじゅが言ってたと」

絵里「わかった、伝えておくわ」


旧友へのお小言を添えて、絵里さんを見送ったあと、


あんじゅ「……」


ボールを放る。


 「リリィリリィ」
257 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:44:28.80 ID:bTwUl7S20

綺麗な鳴き声と共に青と水色を基調とした上に黄色い放射状の羽模様を持つビビヨンが飛び出す。


あんじゅ「ビビヨン」
 「リリィー」


手の甲を持ち上げ、名を呼ぶと、ビビヨンはそこに止まる。

チョウチョ型のポケモン特有の翅に比べて、小さいスケールの身体には衣服が纏われており、

それを見て、昔のことを思い出す。


 『あんじゅさん、きっとこの服着せたら、ビビヨンちゃんもっと魅力的になると思うんですっ!』


敵であるはずの、ライバルであるはずのわたしに、そんな助言をしてきた彼女を思い出しながら……。


あんじゅ「真っ先にポケモンを着飾るなんて発想……わたしにはなかなか出なかったのに……もしかしたら、もしかするのかもしれないわね……」
 「リィーー?」


わたしは天井仰ぎ見ながら一人呟くのだった。



258 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:46:02.84 ID:bTwUl7S20

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     ●  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.14  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:9匹


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 21:57:44.11 ID:POQTwNJk0
>青と水色を基調とした上に黄色い放射状の羽模様
あんじゅさんのビビヨンは表現からして「サバンナのもよう」かな?
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 22:05:14.85 ID:wzDwK4CX0
ゲームではこっちのレベルに合わせて悪役もレベル合わせてくるけど
実際は初心者でもいきなり強敵と戦わなきゃいけない可能性があるシビアな世界だよなぁ
261 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:44:36.86 ID:ISz0KMwo0

■Chapter020 『コメコシティ』 【SIDE Chika】





千歌「──あ、あとちょっと……」


揺れる木々が続いた景色に切れ目が見える。


千歌「森、抜けたー!!」
 「ワフッ」


満身創痍なまま、森を抜けた先にはすぐに町が見えて、ポケモンセンターの赤い屋根がすぐに視界に入る。


千歌「皆を早く回復しなくちゃね! メテノも」
 「ワフッ」


凛さんからも忠告されたし、まずはポケモンセンターで回復!


千歌「いこ、しいたけ」
 「ワフッ」


コメコシティで最初にやるイベントはポケモンセンターでの休息になりそうです。





    *    *    *





ジョーイ「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは、皆元気になりました!」

千歌「ありがとうございます! メテノも大丈夫でしたか……?」

ジョーイ「だいぶ衰弱していましたけど、回復をしたら外殻も復活しましたし、もう大丈夫ですよ!」

千歌「そっか、よかったぁ……」


これでひとまずは一件落着……かな?

さっき襲ってきたグレイブ団って言う人たちも気になるけど……それよりも、


千歌「なんか、さっきから人がいったりきたりしてる……」


ポケモンセンターで手持ちの回復を待ってる間も室内外関わらずあちこちで人が右往左往している。


千歌「なにかあったんですか?」

ジョーイ「町の北部に田園地帯があるんですけど……そこにもメテノが落ちたらしくて」

千歌「ここにも……そっか」

ジョーイ「幸い怪我人は出なかったし、家屋への被害もなかったんですけど……」

千歌「けど?」

ジョーイ「田園への道が……」


ジョーイさんが続きを話そうとしてくれたそのとき、

入口の方から、人の声。


牧場おじさん「今は無理に田園へ行くのは危険だよ、花陽ちゃん」

牧場おばさん「しばらく様子を見たほうが……」
262 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:46:17.41 ID:ISz0KMwo0

思わず振り返って見ると、農家の格好をしたおじさんたちとそれに囲まれた、小動物のような印象を受ける女の子が一人──花陽ちゃんと呼ばれたのは恐らくあの人のことだろう。


花陽「でも、田んぼの様子が心配だから……おじさんたちもそろそろ牧場のお仕事の時間でしょ? あとは花陽が一人でどうにかするので……」

牧場おじさん「いやぁ、でもなぁ……」


なにやら揉めている……?


千歌「あの……何かあったんですか?」


私はその集団に近付いて声を掛ける。


花陽「あ、えっと……大丈夫です。これからすぐにわたしが向かうので……」

牧場おじさん「いやぁ、でも今は無理に近付かないほうが……」

千歌「……?」

牧場おばさん「……はて、そういえばあなた見ない顔だねぇ? 旅人さんかい?」

千歌「あ、はい」

牧場おばさん「ならもしよかったらなんだが、花陽ちゃんについていってあげてくれないかねぇ……この子、田んぼのことになるとどんな無茶でもするから……」

千歌「え?」

花陽「お、おばさん! 関係ない人を巻き込むわけにいきません! これはコメコシティの問題であって……」

牧場おじさん「でも、止めても花陽ちゃん無理するだろぉ? 俺たちも仕事があるからずっとは手伝ってやれないし……」

花陽「大丈夫です! わたしこれでもコメコのジムリーダーなんですよ!」

千歌「え!?」


突然、飛び出した情報に私は驚いて声をあげてしまう。


花陽「え?」


花陽さんが不思議そうな顔でわたしの方を見つめてくる。


花陽「えっと……?」


困惑しているようだけど……。

これって前回と同じパターンじゃ……。


千歌「あのぉ……参考までに聞きたいんですけど」

花陽「な、なんでしょうか?」

千歌「今ポケモンジムに行っても……ジムリーダーの人、いないってことですよね」

花陽「……もしかして、挑戦者の方ですか?」

千歌「……はい」

花陽「ご、ごめんなさい……今はちょっと……」


ですよね。
263 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:48:39.14 ID:ISz0KMwo0

千歌「……わかりました! 私、千歌です! 花陽さん……でいいですか? お手伝いさせてください!」

花陽「え? えぇ?? でも……」

千歌「その代わり、解決したらジムバトルしてくれませんか!」

花陽「え、えぇーと……それは構わないですけど……」

千歌「だから、事情聞かせてもらえませんか?」

花陽「え、えーっと……」


花陽さんは私の申し出に戸惑っていたけど、


牧場おじさん「花陽ちゃん。こちらのお嬢ちゃんもそう言ってくれてるんだし」

牧場おばさん「手伝ってもらえるとわたしたちは安心だよぉ……」

花陽「……わかりました」


おじさんたちを納得させるためにか、花陽さんは渋々と了承し、


花陽「えっと……実はですね……」


事情を話し始めた──。





    *    *    *





千歌「……あの子ですか?」

花陽「はい、あの子です……」


私は花陽さんに案内される形で、ポケモンセンターの北にある田園へと続く道に来ていた。

その道を横切るように流れる小川があり、そこには更に壊れた桟橋のようなものの残骸が見える。


花陽「近付くだけで攻撃されちゃうんです……」


そう言う花陽さんの視線の先には……薄茶色のイタチのようなポケモンが辺りを警戒しているのが見える。

私はいつも通り図鑑を開く。

 『ブイゼル うみイタチポケモン 高さ:0.7m 重さ:29.5kg
  2本の 尻尾を スクリューの ように 回して 泳ぐ。
  首に ある 浮き袋は 空気を 溜め込む ことが でき
  浮き輪の ように 膨らみ 水面に 出るときに 使う。』


──話を聞いたところによると、昨晩田園地帯にメテノが落ちたあと、そのメテノを保護しに行った帰り、突如桟橋を破壊しながらあのブイゼルが現れ、川に近付く人やポケモンを攻撃し始めた、ということらしい。

……でも、


千歌「うみイタチポケモン……海のポケモンじゃないんですか?」

花陽「普段は海の近くに暮らすポケモンなんですけど……何故だか、今はあんな風に川の一帯を警戒していて……」

千歌「これだと田んぼまで行き来が出来ないですね……」

花陽「田んぼだけなら、まだ……良い……いや、全く良くはないんですけど……!!」

千歌「!? は、はい!?」

花陽「あ……ご、ごめんなさい。ちょっとお米のことになると、興奮しちゃって……」

千歌「は、はぁ……」
264 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:51:15.77 ID:ISz0KMwo0

なんか独特のテンポを持った人だなぁ……。


花陽「あの小川から田んぼの水や、その他にも農園や畑に水を引いてるんですけど……その際に近くで仕事をしていた、ドロバンコやディグダも手当たり次第に襲われる始末で……」

千歌「戦闘で勝てないんですか……?」

花陽「うーん、最終手段はそれでもいいんですけど……出来れば、平和的に解決したいんです……お互い自然に暮らす生き物同士、排除すればいいと言うのは乱暴だと思うし……それに、海辺に暮らすブイゼルが小川を占拠するなんて何か特別な事情があるんじゃないかって思うので……」

千歌「なるほど……」

花陽「せめて、理由さえわかれば……」


理由……かぁ。

小川に近付かれたら困る理由がある……ってことだと思うけど、


千歌「水の中に何かがある……?」

花陽「……だとは思います」


そのとき、近くをふわふわとアブリーが小川の方に近付いていくのが見える。

恐らく野生のアブリーだと思う。


 「ゼルルル!!!!」

 「アブリ!?」


アブリーを視界に捉えたと思ったら、激しく威嚇し、

 「ゼルゥ!!!!」

激しく“みずでっぽう”を撃ち出す。

 「アブリリィ〜〜」

何もしていないのに突然攻撃されて驚いたアブリーはすぐさま反転して、森の方へ逃げていく。


花陽「あんな感じで水の中を確認するどころじゃないんですよ……近付くだけで、攻撃されちゃうんで」

千歌「うーん……」


……確かにこれは困った状態だ。

けど、ここで話していても始まらない。


千歌「平和的解決が目的なんですよね?」

花陽「は、はい……」

千歌「それじゃ、本人に聞いてみるしかないですよね! あ、この場合、本ポケモン……?」

花陽「え、えぇ?」


私は草陰から立ち上がる。

すぐにその草音に気付いたのか、

 「ゼルルルルル!!!!!」

ブイゼルが威嚇してくる。


花陽「ち、千歌ちゃん!? 危ないから!」

千歌「大丈夫です! こういうの慣れてるんで!」

花陽「え、ええ!?」


自然の中でポケモンと遊んで育ったんだ、多少攻撃されるくらいなら──
265 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:52:20.39 ID:ISz0KMwo0

 「ゼルーーー!!!」

千歌「──わぷっ!?」


──と、思っていたら顔面に思いっきり、水を吹き付けられ、しりもちを着く。


千歌「……いつつ」

花陽「千歌ちゃん!? 大丈夫!?」

千歌「大丈夫です……」


相当警戒している。

なら、とにかく敵じゃないことをわかってもらう必要がある。


千歌「よし、リトライ!」

花陽「えぇ!?」


私は今度は両手を挙げた状態──手に何も持っていないのをアピールしながら、草陰を飛び出す。

 「ゼルルルルル!!!!」

依然激しく威嚇してくるけど、


千歌「敵じゃないよー!!」

 「ゼルーーーー!!!!」

千歌「──どわっぷ!?」


再び水を吹き付けられる。

ただ、今度は予測出来ていたので踏ん張ることで転倒は防ぐ、


千歌「セーフ……!」

花陽「ち、千歌ちゃん!! ホント危ないですから」


そんなチカを見かねてか、花陽さんも飛び出してくる。


 「ゼルルルルルルル!!!!!!!!」

未だ激しい威嚇。


花陽「そこまで身体を張らせるのは、町の人間として申し訳ないです……!! そこまでさせるくらいなら、一旦バトルで戦闘不能にさせるので……」

千歌「待ってください」


ポケットのボールに手を伸ばす花陽さんを静止する。


千歌「皆あの子と争いたいわけじゃないんですよね?」

花陽「そ、それは……そうですけど……」

千歌「なら、ちゃんと争わないで解決した方がいいと思います!」

花陽「……」

千歌「私は大丈夫なんで、野生のポケモンとケンカなんてちっちゃい頃からたくさんしてきたし、これくらいなら慣れっこだし!」

花陽「……でも」

千歌「大丈夫です!」

花陽「………………はぁ……わかりました。でも……ケガをさせたら、立つ瀬がないので」


花陽さんはそういって、後ろに向かってボールを放る。
266 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:53:20.41 ID:ISz0KMwo0

花陽さんはそういって、後ろに向かってボールを放る。


 「メェーー」


ボールからはヤギのようなポケモンが飛び出す。


花陽「メェークル、“グラスフィールド”」
 「メェー」


花陽さんが指示をすると一帯に草が生い茂る。


千歌「うわ……草が生えた」

花陽「これならちょっと転んでも、草が衝撃をやわらげてくれると思います……」

千歌「えへへ、ありがとうございます」

花陽「本当に無理しないでくださいね……? 本来はわたしたち町の人間が自分たちの力で解決しなくちゃいけない問題ですから……」

千歌「はい!」


私は足を踏み出す。


 「ゼルーーー!!!!」


再び“みずでっぽう”が飛んでくる。


千歌「──わぷ……!! 大丈夫だよー!! 敵じゃないよー!!」

 「ゼルルルル!!!!」

千歌「あなたがそこを守りたいのはわかったけど、そこを通れないと困る人たちがいるのー!」

 「ゼルゥゥ!!!」

千歌「そこになにかがあるのー!? 別に取ったりしないからー!」

 「ゼルーーーー!!!!」

千歌「──わぷっ!!」


さっきよりも気持ち強い勢いで水が飛んできて、再びしりもちをついてしまう。


花陽「千歌ちゃん!!」

千歌「だ、だいじょぶです!! “グラスフィールド”のお陰であんま痛くないんで!!」

 「ゼルゥゥゥ!!!!」


私は依然威嚇し続けるブイゼルに向かって、両手を広げたままゆっくりと前進する。


千歌「ホントに敵じゃないからー!」


敵じゃないと必死に伝えながら。

一歩、二歩、ゆっくりと前に進む。

 「ゼルル…!!」

三歩、四歩、足を前に、

 「ゼルル!!!!」

ブイゼルが突然2本の尻尾を激しく回転させ始める。


花陽「!! 千歌ちゃん!!」
267 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:55:50.09 ID:ISz0KMwo0

背後から花陽さんの声が飛んでくる。

その声が届いてくるのと時を同じくして、前からは強い風が吹く。

私の頬を掠めるように、


千歌「いっつ……!!」


右頬に鋭い痛みを感じた。

──真空の刃が私を掠めたことに気付く。


花陽「“かまいたち”……!! こ、これ以上はダメです!! 下がって──」

千歌「ダイジョブですっ!!」

花陽「!?」


私はブイゼルを視界から外さないように、花陽さんに目を配りながら。


千歌「ダイジョブです」


そう、伝えた。

──私はさっきから、この光景何かに似てるな……とずっと思っていた。

それがなんなのか、切れた頬の痛みから思い出す。

あの時、爆ぜた“ひのこ”の熱さを、

あの入江で出会ったヒノアラシの炎を、

身を守るために必死にその場にうずくまっていたあの子のことを……。

今回もどんなに激しく攻撃をしてきても、ブイゼルは一歩もあの場所を動かない。

ヒノアラシのとき同様に何かを恐れてる。でも、今回は自身の身の安全だけじゃないと思う。

あれだけ激しい威嚇。仮にあの場所を独占したいだけなら、もっと動き回って、もっと思いっきり攻撃して、私を追い払ってもいいはずなのにだ、


千歌「そこに、キミの大切なモノがあるんだよね……!!」


何かはわからないけど、守りたいものがあるんだ


千歌「でも、周りをただ攻撃するだけじゃ、ダメなんだよ……っ!」

 「ゼル…!!」


五歩、六歩、距離を詰める。


千歌「ここに暮らしてる、いろんな人たちと、ポケモンたちと、助け合って一緒に守ろう……?」


七歩、八歩、


 「ゼル…」


九歩、


千歌「怖く……ないから……ね?」


十歩、


 「ゼル…」


少し脅えた顔のブイゼルが手の届く距離にいる。
268 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:56:53.91 ID:ISz0KMwo0

千歌「大丈夫……キミの大切なモノはきっと、チカにとっても大切なモノだから……」


ブイゼルの頭を撫でる。

震えているのがわかった。


千歌「怖かったんだよね。でも、守らなくちゃいけないって……思ったんだよね」

 「ゼル…」


大人しくなったブイゼル、そのお腹の下には、

 「ミィー」「ゼリュー」

小さな小さな子供のブイゼルが2匹。首の浮き袋を膨らまして、顔だけ出した状態で。


千歌「よく頑張ったね……でも、もう一人で頑張らなくても大丈夫……皆で守るから……」

 「ゼル…」


ブイゼルは、わかってくれたのか、


 「ゼルゼル」

一言二言、子供たちに声を掛けると、

 「ミィーミィー」「ゼリュリュゥ」

小さなブイゼルたちが小川からのそのそと私の足元まで這い上がってくる。


千歌「えへへ、信用してくれて、ありがと」


そういって、私はブイゼルを小川から抱き上げた。

 「ゼル…」


千歌「う……思ったより、重いんだね、キミ……」


そういえば、さっき図鑑に30キロくらいあるって書いてあったっけ……。


花陽「千歌ちゃん……」


私の背後で草を踏みしめながら、花陽さんが近付いてくるに気付いて、


千歌「えへへ……解決しました」


後ろを振り返りながら、ブイサインをしてみせる。

 「ミィミィー」「ゼリュリュゥー」

そんな私の足元では、ブイゼルの子供たちが元気にじゃれついているのでした。





    *    *    *





 「ゼルゼル」

千歌「こっち?」


ブイゼルに導かれて、田園の少し奥まった方向進むと、少し高めの草陰の中に、細くて柔らかい枝や落ち葉などを集めた痕跡が見られる、
269 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:59:31.46 ID:ISz0KMwo0

千歌「これって……もしかして、巣?」
 「ゼル」

花陽「……まさか……ブイゼルがこんな場所で育児をしていたなんて……」


そこにはブイゼルの巣──だったものがあった。


千歌「海辺は天候によって荒れたりするから……子供を育てる間だけ、流れの穏やかな小川まで登ってきてたんだね」
 「ゼル」


先ほどとは打って変わって、大人しくなったブイゼルは、事情を伝えるためか、

 「ミィー」「ゼリゥー」

子供たちをその背に乗せながら、私たちをこの場所に案内してくれた。


花陽「ここは……ちょうど昨日メテノが落ちた場所の近くですね」

千歌「そのときの衝撃で、巣が吹き飛ばされちゃったから……焦って子供たちを連れて、安全な水中に避難してたんだね」

 「ゼル…」

花陽「ごめんね……メテノを捕獲するのに必死だったから……たくさん人がいったりきたりしてて、びっくりさせちゃったんだね……」

 「ゼルゥ…」


花陽さんがそう言いながらブイゼルの頭を撫でる。

もう敵意がないことがわかったのか、反撃はしてこない。


千歌「子供たちを守るために……一人で戦ってたんだよね、偉い偉い」

 「ゼルゥ…」

花陽「千歌ちゃん……本当にありがとうございました。わたしだけじゃ、こんな風に平和的に原因は突き止められなかったと思います……」

千歌「えへへ……どういたしまして」

花陽「ブイゼルたちはポケモンセンターで健康を確認したのち、また小川に返してあげるので……」

千歌「ブイゼルくんたちもそれでいい?」
 「ミィー」「ゼリュゥー」

千歌「ありゃりゃ……随分なつかれちゃったな……」

 「ゼル……」


私の言葉がわかったのか、ブイゼルは小さく頷いた。


千歌「じゃ、いこっか」

 「ゼル」


270 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 01:00:36.66 ID:ISz0KMwo0


    *    *    *





──さて、ポケモンセンターでジョーイさんに3匹のブイゼルたちを引き渡したあと、


花陽「……先ほどは本当にありがとうございました」

千歌「えへへ、もういいですって」


約束通り、花陽さんとコメコジムに訪れていた。


花陽「ですけど……ジムバトルでは手加減するわけにいかないので……」

千歌「もちろん! 全力でお願いします!」

花陽「それでは……使用ポケモンは3体。先に相手の手持ち3体のうち、2体を戦闘不能にさせた方が勝ちです……っ!」


花陽さんは、ゆっくりとポケットから、黄緑色のボールを出し、構える。


花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽。よろしくお願いします……っ!!」


花陽さんがそう言いながら、構えて、

ボールが放たれました──。


271 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 01:01:34.69 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================= 口
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 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.18  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.19 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.16 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:7匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



272 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:23:14.99 ID:ISz0KMwo0

■Chapter021 『決戦! コメコジム!』





花陽「お願い! ドロバンコ!」

千歌「いっけー! ムクバード!」


お互いの初手が繰り出される。

花陽さんの一匹目はドロバンコ──確かじめんタイプのポケモンだ。

さっき持っていたメェークルから考えて、くさタイプを使うのかと思ってたけど、違うみたい。

ダイヤさんと同じで普段使うポケモンと専門のタイプが違うのかもしれない。


千歌「でも相性有利……! ムクバード! 上空で旋回しながら、体勢を整えるよ! “こうそくいどう”!」
 「ピピィ!!」


じめんタイプの攻撃はひこうタイプには届かないもんね!


花陽「ドロバンコ、“すなあらし”!」
 「ンバンコ」


一方花陽さんのドロバンコはフンと一回荒く鼻息を出した後、その場で地団駄を踏むように砂を巻き上げる。


 「ピピッ」

千歌「ムクバード! ひるまないで! そのまま、“ふるいたてる”!」

 「ピピピィ!!!」

花陽「ドロバンコ、“ステルスロック”!」
 「ンバー」


今度はフィールド上に無数の石が漂い始める。


千歌「させない! “きりばらい”だよ!」

 「ピィーー!!」


ムクバードは上空から力強く羽ばたいて、すぐに撒かれた石を吹き飛ばす。


花陽「ドロバンコ、“かげぶんしん”」
 「ンバ」


今度はドロバンコの姿がぶれるように増える、回避をあげる技だ。


千歌「ぅ……“みやぶる”!」

花陽「なら、“てっぺき”です」
 「ンバコ」

千歌「お、“オウムがえし”!!」

 「ピィ〜〜」


“てっぺき”を奪う形、見様見真似で防御を上げるが……。
273 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:24:53.04 ID:ISz0KMwo0

千歌「ぐぬぬ……」

花陽「千歌ちゃん、攻めあぐねてますね」

千歌「うっ……」

花陽「ムクバードは“かぜおこし”も“エアカッター”も覚えませんから、上空から様子を見ているだけだと、“すなあらし”で消耗するだけですよ」

千歌「ば、ばれてる……」


流石ジムリーダー、自分のポケモンじゃないのに、使える技を把握してる……。

──そう、ムクバードには実はほとんど遠距離攻撃の手段がない。

あっても、“さわぐ”くらいで、あとは遠距離で使えるのは、ほとんどが補助技。

どうにか上空で攻撃を敬遠しながら、体勢を整えようと思ったんだけど……。

甘えた時間稼ぎを許さない、“すなあらし”がムクバードの体力をじわじわと奪っていく。


千歌「なら──!!」


花陽さんは完全に待ちの姿勢、ならノルカソルカ!


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピピィ!!!」


──ムクバードの十八番!!

空中を軽くサマーソルトしながら、その勢いを乗せて、


 「ピィーー!!!」


地上のドロバンコに向かって一直線に飛び込んでいく!!


花陽「ドロバンコ! “アイアンヘッド”!!」
 「ンバンコ!!」


それに合わせる形で、鋼鉄の頭突きを繰り出すドロバンコ。

──ガキィン!!

打ち合って、硬い音がジム内に響く。


千歌「ムクバード!」

 「ピピィ!!」


すれ違い様に一撃を叩き込んでそのまま空に離脱、


花陽「ドロバンコ、平気だよね」
 「ンバコ」


先ほどの“てっぺき”の影響か、相殺しあった攻撃は余り効果を出していない。


千歌「ならもう一発!!」

 「ピピィ!!!」


私の言葉に呼応するように、ドロバンコの背中向かって、一直線に『翼を立てる』

──まるで一刀の刃のように──


千歌「“はがねのつばさ”!!」
 「ピィィィ!!」
274 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:25:45.40 ID:ISz0KMwo0

硬質化した鋼のような翼を上空から振り下ろす。


千歌「いっけぇえ!!!」


── 一閃

目一杯翼で斬り付ける。

「ピィィ!!!」

「ンバゴッ!!」


その勢いのまま、低空を伝って、離脱──


花陽「させません!」
 「ンバ」


──と、思った瞬間。

ドロバンコの後ろ脚がムクバードを捉える。


花陽「“ローキック”!」

 「ピピッ!?」


脚を掛けられ、ムクバードがよろめく、

──凛さんとの対戦のときにもやられた戦法だ。


千歌「まずっ!? ムクバード! とにかく離脱!」

 「ピピ…!!」

花陽「逃がしません! “ふみつけ”!」
 「ンバコ」


今度は正確にドロバンコの蹄がムクバードを捉える。


 「ピギャ」

千歌「ムクバード!?」


踏みつけられて、ムクバードが普段聞かないような鳴き声を出す。


千歌「く……! “フェザーダンス!!”」
 「ピィィ!!」


──でも、ここで私が動揺しちゃダメだ……!

指示を受けて、ムクバードがドロバンコの脚の下でもがくように暴れると、羽根があたりに舞い散る。

 「ンバゴ…ッ」

纏わり付く鬱陶しい羽毛は、攻撃の阻害をする。


花陽「“のしかかり”!!」


それを無視するように、力が自慢のドロバンコは上から更に激しくプレスを掛けてくるが、

力が自慢なのはこっちも同じ──


千歌「“リベンジ”!!」

 「ピィィィィィ…!!!」


地面を踏みしめて、
275 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:27:35.26 ID:ISz0KMwo0

花陽「……!」


ドロバンコを下から押し上げる、


 「ンバコ…!」

花陽「ドロバンコ、無理に力比べしなくていいから!」


だが、花陽さんも切り替えが早い

押し返されると気取ったのかすぐさま、プレスを止めて次の攻撃に手を移す。


花陽「“にどげり”!」
 「ンババッ!!」


一瞬の隙を突いて、隙間から逃げようとした、ムクバードを後ろ足で蹴り上げる。


 「ピピ!!」

千歌「ムクバード!」


そのまま、蹴り飛ばされた勢いにまかせてどうにか空に離脱する。


千歌「大丈夫ー!?」

 「ピィィ…!!」


まだ闘志は見えるが、ダメージは大きい。

降りたら、降りたでまた掴まっちゃうだろうし……。


千歌「なら、“さわぐ”!!」

 「ピ!!」


私の合図で、


 「ピイィィィィィィィ!!!!!!」


鳴き声がジム内を劈く、


花陽「わわ!?」
 「ンバゴ!?」


狂乱状態になって、しばらく落ち着かなくなっちゃうけど、


千歌「掴まるくらいなら、全力で突撃ー!!」

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」


大きな鳴き声を挙げながら、再び上空からドロバンコに向かって飛び掛かる、


 「ンババコ!?」
花陽「ド、ドロバンコ……!! 落ち着いて……!!」


一方ドロバンコは急な爆音に動転して、

意識が逸れている。


千歌「突っ込めぇぇ!!!」

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」
276 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:28:24.22 ID:ISz0KMwo0

花陽「ぼ、防御!! ドロバンコ!!」
 「バゴッ!?」


──ズドン、と

上空からの杭のように、落ちてきた、

ムクバードの下で、


 「バゴォ…」
花陽「……っ」


──ドロバンコが伸びていた。


千歌「……よっし!」


私は思わず拳を握り締める。


花陽「……ドロバンコ、戦闘不能です。戻って」


花陽さんの言葉と共にドロバンコがボールに戻される。


千歌「ナイス! ムクバード!」

 「ピピィィィィ!!! ピピピピィイイイ!!!」

千歌「うわっ わ、わかったから」


そういえば、まだ騒いでる状態だった。


花陽「2匹目、行きます! ディグダ、お願い!」


ボム、と言う音と共に放たれたボールから飛び出す、小さなポケモン。

2匹目もじめんタイプ……!


 「ディグディグ」


可愛らしい、見た目とは裏腹に力強く地面を掘り返しながら、俊敏な動きで、ディグダがムクバードに向かって突撃してくる。


千歌「ムクバード!!」

 「ピイイイイイ!!!!!!」


狂乱状態のままだけど、どうにか動いてる敵を認識は出来てる、


千歌「よっし! そのまま!」

 「ピィィィイイイイイ!!!」


──迎え撃つ!!


花陽「ディグダ! “ひっかく”!!」
 「ディグ!!」


ディグダから放たれる斬撃を迎撃しようと思ったが、


 「ピィィィイイイイ!!!?」


ディグダは小さな体躯を生かして、ムクバードの周りを俊敏に耕しながら、ちまちまと引っ掻いて来る。
277 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:29:09.06 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!? ムクバード!!! 落ち着いて、一旦空に逃げて!!!」

 「ピィィピィィィ!!!?」


しかし、狂乱状態のムクバードは私の声が届いていない。


花陽「今度は逃がしません!」


花陽さんはそんな隙を見逃すはずもなく。

ディグダはもこもこと、周囲の地面を掘り返す最中、

だんだんと大きめの石塊が混じり始める


 「ピィィィィ!?!!?」

千歌「やばっ!!? ムクバード!! 逃げて!!!」

 「ピィィィィィ!!!!!!」


声が届いていない、不味い、


花陽「ディグダ!」
 「ディグ!!!」


花陽さんの合図と一瞬地面に潜ったディグダが、

その頭で押し上げるように一層大きめの岩塊を地面から投げ飛ばす


千歌「ムクバード!!」

 「ピピピピィィィィィイイイ!!!!!?」


混乱した、ムクバード

足を奪う石と岩、

そして、その頭上に、

落ちてくる──


花陽「“がんせきふうじ”!!」


岩塊の着陸と共に激しい砂煙がトレーナースペースまで吹き込んでくる。


千歌「わぷっ!!!?」


その勢いで砂が軽く口に入る。


千歌「うぇ……っぺっぺ……」


そして、少しの間を置いて砂塵が晴れた先では──


千歌「……くっ……」

 「ピ…ピィ…」


ムクバードが気絶していた。


千歌「戻って、ムクバード」


“さわぐ”のデメリットが抑え切れなかった。
278 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:30:28.68 ID:ISz0KMwo0

花陽「これで戦闘不能はお互い一匹ずつ……」

千歌「……」


と、なると。

相性の悪いマグマラシだと、一方的に押し切られる可能性が高い。

まだ花陽さんの手持ちには裏もいる以上、様子を見たい。

なら……。


千歌「しいたけ! お願い!」


私はボールを放る。


 「ワフッ!!」


しいたけが飛び出す──と、共に


 「ワオッ!?」


しいたけの脚がずぶずぶと地面に埋まりだす。


千歌「え!?」

花陽「……よかったです」

千歌「……!?」


声のする方を見ると、“すなあらし”の先に花陽さんの笑顔が見えた。


花陽「飛んでいる子の相手はドロバンコでって決めてるから……やられちゃったときはどうしようかと思ったけど……ふふ」

千歌「……!!?」


その笑顔に背筋が一瞬ゾクリとする。

大人しく、優しく、怖い、笑顔。


千歌「し、しいたけ! “コットンガード”!!」
 「ワフッ!!」


咄嗟に、しいたけの防御を固める。


花陽「動かないなら、それはそれで……」

千歌「……っ」


物静かな迫力に気圧される。

しいたけの足元はどんどん地面に……いや、砂に埋まり始めている。

そんな中──


花陽「わたし、たがやしガールなんて呼ばれてるんですよ」

千歌「え」

花陽「普段はこの、じめんポケモンたちと一緒に畑を耕すんです」

千歌「……」


花陽さんはにこにこしながら楽しそうに喋る。
279 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:31:53.57 ID:ISz0KMwo0

花陽「ドロバンコは硬い岩地でも踏み砕いて柔らかく……ディグダが動きやすい地面を作ります。そして、ディグダは地面を掘り返しながら、どんどん柔らかくするんです」


そういう間にもディグダがもこもこと地面を耕し、フィールドを形勢していく。


花陽「わたし本当はくさポケモンの方が好きだったんです……最初に貰ったポケモンもフシギダネだったし……だけど、一緒に過ごす間にくさポケモンや植物が育つためには、地面を耕して健康にしてくれる、この子たちがいるからなんだって」


繰り返し耕された地面は岩から石に、石から礫に、礫から……砂に、


花陽「だから、この子たちと作る“じめん”が好きなんです……いっぱい耕して、いっぱい実ります……♪」


──だから、


花陽「ここは、もう……わたしたちの作った“じめん”です……♪」

千歌「……しいたけ……!! 全力ダッシュで砂から逃げて!!」
 「ワフッ…!」

花陽「無理ですよ……ディグダの特性“ありじごく”からは簡単に抜け出せません」

千歌「なら、交代……!!」


これなら、マグマラシの方が軽い分きっと動ける──

一旦引かせようとボールを投げるが、


 「ワ、ワオッ…」

千歌「な……!?」


ボールはしいたけをその中に収納することなく、地面にポトリと落ちる。


花陽「特性“ありじごく”はひこうタイプかゴーストタイプのポケモン以外の交換を許しません」

千歌「……!!」

花陽「もう……千歌ちゃんにはそのトリミアン……? ……で戦うしか、選択肢はありません」

千歌「……なら!! しいたけ!!」


選択肢が無いなら、やるしかない。


千歌「“ずつき”!!」
 「ワフッ!!」


周囲でぴょこぴょこと頭を出したり引っ込めたりしながら、地面を耕すディグダに向かって、その頭を振り下ろす。

──が、

ぼすっという間の抜ける音が砂の上に立つだけ、


 「ディグディグ」


しいたけの真後ろでディグダが顔を出す。


 「バウッ!!!」


そのまま首を捻って、後ろのディグダに再び頭を振り下ろす。

──ぼすっ


 「ディグディグ」


今度は少しズレた場所でディグダが顔を出して鳴き声を挙げる。
280 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:33:05.48 ID:ISz0KMwo0

 「ワフッ!!」

──ぼすっ

 「ワフッッ!!」

──ぼすっ

──ぼすっ

──ぼすっ

…………


花陽「ふふ、まるでもぐらたたきですね」

 「クゥゥーン……」


しいたけが情けない鳴き声を挙げながら私の方を見つめてくる。


千歌「ぐぬぬ……」


しかし、足を取られて自由が利かない、しいたけが出来ることは限られる。


花陽「でも、このまま持久戦をしていても埒が明かないので……ディグダ、準備できた?」
 「ディグディグ」

花陽「よし。じゃあ、“すなじごく”」


花陽さんの指示と共に、しいたけがいるところを中心に砂が飲み込まれるように沈んでいく、

ディグダが移動し続けることによって柔らかくなった地面が土に、土はより細かくなって砂に──


千歌「し、しいたけ!!」
 「ワ、ワオ……」


ずぶずぶとしいたけの体が砂に埋まっていく、


 「ワォォ…」

千歌「とにかく、抜け出さないと……!! “からげんき”!!」
 「……! バゥワゥ!!」


私の指示でしいたけは体を大きく動かして、少しでも砂から出るように身を捩る。


花陽「抵抗……しますよね。ディグダは防御力が低いポケモンなので、攻撃が当たるとすぐに戦闘不能になっちゃうので……ディグダ、戻って」

千歌「!」


“がむしゃら”に暴れるしいたけから、貰い事故を防ぐために一旦引いてくれた。

チャンス──


花陽「お願い、ナックラー」
 「…ナク」


と、思った瞬間ボールから飛び出したそのポケモンは窪んだ流砂の中央の陣取り、


 「ワフッ ワフッ!!」

花陽「“すなじごく”」


先ほどよりもアグレッシブに、しいたけをその砂に巻き込んでいく。


千歌「また、“ありじごく”!?」
 「ワォォ…」
281 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:35:43.30 ID:ISz0KMwo0

そのまま、中心の方に引きずり込まれ、


花陽「ナックラー、“むしくい”」
 「ナク」


ナックラーが大きな顎でしいたけの前足に噛み付く。


 「バゥッバゥッ」

千歌「ぐぅ……“ずつき”!!」
 「ワゥッ!!」


砂に足を取られながら、どうにか上半身を捻って、頭突く。

だが、体勢も悪いせいか攻撃に威力が乗らない。


花陽「ナックラーはディグダよりも力持ちなので、このフィールド上で力負けはまずしません。更に……“ギガドレイン”!」


噛み付いたままの顎から、体力を吸収してくる。


千歌「く……ど、どうしたら……」

花陽「勝負……ありましたね」

千歌「ま、まだ何か……」


思考を巡らせる。

組み合ったまま、体力を吸われるしいたけを見て──

──あれ、なんだろ

──デジャブ?

なんか、似たような光景が前にもあったような……。


 ──梨子『“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ』──


千歌「……そうだ」


初めて梨子ちゃんとバトルした、あのときと同じだ。


千歌「あのときから、何も変わらない……? ……いや、そんなこと、ないよね……!!」
 「ワフッ」


あのときは初めてのバトルだった、でも、


千歌「まだまだ、初心者かもしれないけど、もう初めてじゃないから……!! しいたけ! “わかるよね”!?」
 「ワフッ!!」


しいたけが身を捩って硬質化させた、尻尾をナックラーに向かって突き立てる──


千歌「……“アイアンテール”!!」
 「バゥッ!!」

花陽「……ナックラー、“ばかぢから”」


硬い尻尾に噛み付くように、ナックラーが受け止める。
282 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:37:02.42 ID:ISz0KMwo0

花陽「この足場で力比べをしても、ナックラーに分があります」

 「ワフッ……!!」

花陽「“すなじごく”と“すなあらし”、それに加えてこっちは“ギガドレイン”でHPを吸収し続けます」

千歌「……」

花陽「……諦めないのは花陽も大事なことだと思います。だから、ジムリーダーとして、一人のトレーナーとして、千歌ちゃんのその姿勢は賞賛します」

千歌「……」

花陽「とてもじゃないけど、降参なんて、してくれなさそうですね……ナックラー、“かみくだく”」

千歌「……」

花陽「……?」

千歌「……」

花陽「ナックラー……? “かみくだく”……」

千歌「しいたけ、たぶんもうおっけーだよ」
 「ワゥ」

花陽「え……?」


しいたけが尻尾をブンと上に振り上げると、

ナックラーが引き摺りだされ、空に放られる。


花陽「ナ、ナックラー!?」


花陽さんが放り出されたナックラーにすぐさま駆け寄って、


花陽「……!」


驚いた顔をした後、私の方に顔を向けた。


花陽「……やられました」

千歌「……はぁ……どうにか、間に合った……」
 「ワフッ」

花陽「ナックラー……戦闘不能です。手持ち三匹のうち、二匹が戦闘不能……。このバトル、挑戦者、千歌ちゃんの勝利です」


こうして、私たちは静かに勝利を喫しました。





    *    *    *


283 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:38:05.74 ID:ISz0KMwo0


花陽「……最初からあの“アイアンテール”は攻撃目的じゃなくて、ナックラーの内部に出来るだけ身体の一部を差し込むのが目的だったんですね……」

千歌「えへへ……目立つおっきな顎だったし、“アイアンテール”を指示したら、ナックラーは噛み付いて反撃してくるかなって」

花陽「まさか……それはフェイクで……」


──花陽さんはどくけしをナックラーに使いながら、


花陽「“どくどく”を使うのが目的だったなんて……」


そう言う。


千歌「えへへ……しいたけが私の思いつきに気付いてくれなかったら、絶対負けてたんですけどねっ」
 「ワフッ」


──そう、“アイアンテール”はフェイク。

本当の目的はその尻尾の先から毒を注入することだったのだ。


花陽「言葉にしなくても、意図を汲み取ってもらえる自信があったんですか……?」

千歌「しいたけは……小さい頃からずっと一緒に育ってきたから……たまーに私の心を読めるのかな? なんて思っちゃうこともあるくらいで……だから、たぶんわかってくれるって思って!」
 「ワフッ」

花陽「……信頼、しているんですね」


花陽さんは戦闘を終えたナックラーを撫でて労いながら、


花陽「その点に置いては……ジムバトル用に育てたこの子とのコミュニケーションが足りなかったことが、わたしたちの敗因なんだと思います……」
 「ナック…」

花陽「ナックラーがもうどく状態になってるって……もっと早く異常に気付けば、負けていなかった。フィールドを完成させて、“ありじごく”の型を完成させたと思い込んでいた花陽の完敗ですね……」

千歌「い、いや、こっちもギリギリでしたし……!!」

花陽「いえ……今日は千歌ちゃんには教わってばっかりですね。……わたしももっと頑張らないといけないと思い知らされました」


花陽さんはそう言ってから、抱きかかえていたナックラーを降ろして立ち上がり、私の方に歩を進めてくる。


花陽「……そんなあなたに、千歌ちゃんに、コメコジムを突破した証として、この──」


花陽さんは上着の裏ポケットから、麦穂のようなシルエットをした“ソレ”を取り出して──


花陽「──“ファームバッジ”を進呈します。おめでとうございます……♪」


ニコりと優しく笑いながら、そう言いました。


千歌「えへへ……しいたけ、やったね♪」
 「ワフッ♪」


──こうして、私たちは無事、2つ目のジムバッジを入手したのでしたっ。


284 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:39:18.85 ID:ISz0KMwo0


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 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



285 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:39:36.14 ID:ISz0KMwo0

■Chapter022 『旅立ちの条件』 【SIDE Ruby】





理亞と名乗る少女の襲来を受けてから、一連の話をお母様にしたところ、


琥珀「ルビィ本人が希望しているのでしたら、旅に送り出してあげれば良いのではないですか?」


お母様はそう言った。


ダイヤ「え」


わたくしはここまですんなり快諾されると思って居なかったため、逆に困惑してしまう。


琥珀「え……って、貴方がルビィを旅に送り出したいと言ったのでしょう?」

ダイヤ「それは、そうなのですが……お母様は心配ではないのですか?」


結果として未遂に終わったとは言え、ルビィは誘拐されたのです。

もう少し反論があってもいいものではないかと思ったのですが……。


琥珀「7年前のこと覚えていますか?」

ダイヤ「?」

琥珀「貴方の旅立ちの直前」

ダイヤ「……お、お母様、今はルビィの話をしていて……」

琥珀「一人で旅に出るなんて不安だ、ここに残ると泣き喚いていたのは誰ですか? そのあとボルツに引きずられるように旅立っていきましたわよね? それに比べたら、ルビィは随分と逞しいではないですか」

ダイヤ「ぅ……」


昔の話を出されて思わず、言葉に詰まる。


ダイヤ「で、ですが……わたくしのときとは少し状況が……」

琥珀「ダイヤ」

ダイヤ「な、なんでしょうか」

琥珀「貴方の旅は何のトラブルもなく、順風満帆、怪我一つなく終わることが出来ましたか?」

ダイヤ「それは……」

琥珀「何度も予想外の出来事が起こったり、危ない目に逢う事もあったのではないですか?」

ダイヤ「……」

琥珀「それに、貴方は本当に一人でしたか?」

ダイヤ「いえ……ツタージャとボルツがいつも傍に居ましたわ。旅の中で出会ったこの子たちも……」


なんとなく、腰に下げた6つのボールを撫でる。

相棒たちの入れられたボールを。


琥珀「その上で、旅に出て、後悔していますか?」

ダイヤ「いえ……あのとき旅に出て、よかったと思っています」

琥珀「その中で貴方は確実に強くなった。そして、今このオトノキ地方でも最上位の実力者である証として、ジムリーダーと言う立場に就いている」

ダイヤ「はい」

琥珀「ルビィはそんな貴方の背中を見て、自分も旅に出て強くなりたいと言っているのでしょう? なら止める理由はないではないですか」

ダイヤ「……」
286 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:41:27.52 ID:ISz0KMwo0

確かにそれはそうかもしれない。ですが、


ダイヤ「やはり、わたくしとは状況が違いますわ。もう少し慎重に考えても……」

琥珀「ダイヤ、貴方はルビィを旅に出したいのか出したくないのか、どっちなのですか」

ダイヤ「……」

琥珀「それに、あのルビィがなんで自分から旅に出たいと言い出したのか……」

ダイヤ「……? ですから、ルビィは強くなって自衛の力を……」

琥珀「それも理由だとは思いますが……たぶん口実だと思いますよ」

ダイヤ「口実? 何故そのような口実を……」

琥珀「ルビィ自身が頭の中で何を考えているかまではわかりませんが……ルビィなりに何か他に目的があるのではないですか?」

ダイヤ「目的……」

琥珀「確かに危険な旅になるのかもしれませんが……旅に危険は付き物です。それをわかった上で自分から旅立ちたいと娘が言うなら、それを見守るのが親の努めでしょう」

ダイヤ「そういう……ものなのでしょうか」

琥珀「そういうものなのですよ、貴方もいつか子を持つ親になれば、わかることですから……」





    *    *    *





母との会話を反芻しながら、家の軒先に足を運ぶと、


ルビィ「あ、お姉ちゃん!」

花丸「ダイヤさん、おはようございます」


そこで、ルビィと花丸さんが待っていた。


ダイヤ「二人とも、おはようございます」

ルビィ「お姉ちゃん、お母さん……許可してくれそう?」


ルビィは少し不安げに瞳を揺らしながら、そう訊ねてくる。


ダイヤ「……ええ、お母様は許可をくださいましたわ」

ルビィ「ホントに!?」

ダイヤ「ええ」

ルビィ「えへへ、やったー!」

花丸「ルビィちゃん、よかったね」

ルビィ「うんっ!」


本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる妹を見ながら、わたくしは思う。

噫、今この子は本当に旅に対して前向きなんだな、と。

唯、わたくしはどうしても自分の中にある不安がうまく消化しきれず、


ダイヤ「ですが、条件があります」


気付いたら、ルビィに向かって、そう言っていた。


287 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:43:35.58 ID:ISz0KMwo0


    *    *    *





──2番道路。

ルビィは花丸ちゃんと一緒にウチウラシティの外に来ていました。


花丸「ルビィちゃん、やっぱりマルも協力した方が……」

ルビィ「うぅん、大丈夫。それに、お姉ちゃんのこと安心させてあげるためにもルビィが一人で達成した方がいいと思うから」


──さて、さっきお姉ちゃんから出された条件はこういうものでした。

『今日中に手持ちを4匹以上にすることが出来れば、旅立ちを許可します』

今ルビィの手持ちはアチャモと、メレシーのコラン、その2匹。つまり後2匹新しくポケモンを捕まえなくてはいけません。


ルビィ「ルビィも少しは戦えるところを見せないと!」

花丸「ルビィちゃんが燃えてる……珍しいずら」


花丸ちゃんがそう言うのを聞いて、確かに我ながら珍しくやる気に満ち溢れてる気がします。


花丸「そういうことなら、マルはあくまで見守ることにするずら」

ルビィ「うん、ありがとう」

花丸「ただ、方針とかはあるの?」

ルビィ「? 方針って?」

花丸「手持ちを4匹にするだけなら、捕まえやすいポケモンを狙う方が効率がいいと思うんだけど……」

ルビィ「捕まえやすいポケモン……」

花丸「コラッタとかオタチとかは、捕まえやすいポケモンだけど……」


なんとなく、花丸ちゃんの言いたいことはわかる。

これはルビィの実力試し。

ただ手持ちを4匹にするだけでも、お姉ちゃんは予め出した条件を引っ込めたりはしないだろうけど……。


ルビィ「ただ数をそろえるだけじゃ、実力を示したことにならないよね……」

花丸「うん」

ルビィ「強いポケモン? とか、珍しいポケモン? の方がいいのかな」


正直どんなポケモンが強くて、どんなポケモンが珍しいのかもよく知らないんだけど。


花丸「それなら、ここ2番道路で一番珍しいって言われてるポケモンは……たぶん、ヌイコグマずら」

ルビィ「ヌイコグマ……」


ヌイコグマなら、本当に数えるほどしかないけど、町の近くで見たことはある。

ピンクの体に黒い足のぬいぐるみみたいなポケモン。
288 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:48:53.96 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「じゃあ、目標はヌイコグマともう一匹捕まえる!」

花丸「了解ずら! じゃあ、まずはウォーミングアップで一匹捕まえて、そのあとヌイコグマを探すといいと思うずら」

ルビィ「うん!」

花丸「あ、そうだ」

ルビィ「?」

花丸「今回この課題達成のためにルビィちゃんに秘密兵器を渡そうと思ってたんだ」

ルビィ「ひみつへいき?」


花丸ちゃんはそう言いながら、ごそごそとリュックの中を漁る。


花丸「あったずら!」


花丸ちゃんが取り出したのは、色とりどりのモンスターボールが収納されたボールケースだった。

花丸ちゃんは収集癖なところがあって、珍しいボールを集めるのが好きだったっけ、


花丸「ボールによって、いろんな効果があるから、きっとルビィちゃんの役に立つかなと思って」

ルビィ「え……ルビィが使っていいの?」


モンスターボールは基本的に消耗品です。

たまに繰り返し使うことが出来ることもあるけど、基本的には捕獲に失敗したら割れたり、砕けたりしてしまうし、

成功したらしたで、そのポケモンと紐付けされるので、あとでそのボールを空に戻すことは出来ません。


ルビィ「大事に集めてたのに……」

花丸「道具は使ってこそ意味があるんだよ。本来の用途で使わないまま、後生大事にしまっておくなんて、逆に道具が可哀想ずら」

ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「それに、マル一人でこれ全部は使い切れないから、ルビィちゃんと一緒に使えればいいかなって」

ルビィ「……えへへ、花丸ちゃん。ありがと」

花丸「どういたしまして。それじゃルビィちゃん、どのボールにする?」

ルビィ「えっと……」


ボールケースに整然と並べられたボールはかなりの種類がある。

……けど、ルビィには違いがよくわからない。


花丸「さすがにマスターボールとかサファリボール、パークボール、コンペボールは持ってないけど……」


マスターボールが一番すごいボールなのは聞いたことあるかも……他の3つはわかんないけど、


花丸「とりあえず、使いやすくて高性能なのはスーパーボールとハイパーボールかな」

ルビィ「それ高いやつじゃないっけ……お姉ちゃんのハガネールとかオドリドリはそれに入ってたよね」

花丸「ダイヤさんのボール選択は手堅いからね。リピートボール、レベルボールは今回は使いづらいかな……」

ルビィ「それってどんなボールなの?」

花丸「リピートボールは捕まえたことのあるポケモンが捕まえやすくなるボールで、レベルボールは自分のポケモンより相手のレベルが低いと捕まえやすくなるずら」


確かにそれだとはじめての捕獲向きじゃないかも。


花丸「ネストボールは……レベルの低いポケモンを捕まえやすいってボールだけど、今回はルビィちゃんの目的に沿ってないかも。でも、状況によって使い分けるボールなら捕獲の知識や実力の証明にもなるから……」


花丸ちゃんが一個ずつボールを指差しながら、
289 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:49:57.70 ID:ISz0KMwo0

花丸「ルアーボール、ムーンボール、ラブラブボール、ヘビーボール、スピードボール、タイマーボール、ネットボール、ダイブボール辺りかな。時間帯を考えてもダークボールは最終手段だね」


……確かにこれだけ使い分けられたら、捕獲名人かも。


花丸「どれにする?」

ルビィ「えっと……違いがよくわからないんだけど……」

花丸「それぞれ捕まえやすいポケモンが違うずら」

ルビィ「それ覚えるだけで日が暮れちゃうよ! 最終的に捕まえるポケモンはヌイコグマって決めてるんだから、そんなに使い分けを考えなくても……」

花丸「む……それは確かに……」


花丸ちゃんは少し眉を顰めてから、


花丸「じゃあ、これなんかどう?」


そう言って、花丸ちゃんが黄緑色のボールを手渡してくる。


ルビィ「これは?」

花丸「フレンドボールって言って、捕まえたポケモンがすぐになついてくれるボールずら」

ルビィ「あ、それいいかも!」


これから一緒に旅する仲間が、最初からなついて力になってくれる姿を見れば、お姉ちゃんも少しは安心してくれるかもしれない。


花丸「じゃあ、フレンドボールを持ってって。5個くらいしか持ってないけど……」

ルビィ「それだけあれば大丈夫! ありがと、花丸ちゃん!」


ルビィは花丸ちゃんからボールを受け取って、


ルビィ「アチャモ! コラン! 出てきて!」


腰からボールを外して放る。

 「チャモ」「ピピィ」


ルビィ「よっし! 捕獲作戦スタートだよ!」
 「チャモ!」「ピピ」


ルビィの旅立ち前の実力試しがスタートしました。





    *    *    *





ルビィ「まずは一匹……試しに、だよね」


身を屈めて、こそこそと草むらを移動する。

──すると、

 「タチッ」

尾を垂直に立ててその上で辺りをキョロキョロと監視しているポケモンがいる。

オタチだ。
290 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:51:23.09 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「まずは図鑑で、相手がどんなポケモンか調べるんだよね……えっと」


身を屈めたまま、ポチポチと図鑑を押していると

 「チャモ?」

アチャモが横から図鑑を突いてくる。


ルビィ「ぅゅ……アチャモ、今はちょっと大人しくしててね」
 「チャモ」


 『オタチ みはりポケモン 高さ:0.8m 重さ:6.0kg
  遠くまで 見れるように 尻尾を 使って 立つ。 群れの
  見張り役は 敵を 見つけると 鋭く 鳴いたり 尻尾で
  地面を 叩いて 仲間に 危険を 知らせる。』


オタチのデータを確認していると、


ルビィ「あれ? 他のポケモンも近くにいる?」


図鑑が近くに他のポケモンを察知したようで、


 『オニスズメ ことりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg
  食欲旺盛で 忙しく あちこちを 飛び回り 草むらの
  虫などを 食べている。 羽が 短く 長い 距離を
  飛べないため いつも 忙しなく 羽ばたいている。』


ルビィ「オニスズメ……」


顔をあげて、頭上を見回すと、確かにオニスズメが飛んでい──


 「オタアアアアアアアアアアアアアアチ!!!!!!」

ルビィ「ぴぎぃっ!?」


ルビィがオニスズメの姿を認めると同時に、地上のオタチが甲高い声をあげた。


ルビィ「ぅ、うるさい……オタチもオニスズメを見つけて、威嚇してるんだ……」


このままだと野生のオタチとオニスズメが戦闘を始めるかもしれない。

どうしようかと考えていると、


 「チャモーーー!!!!」

ルビィ「え、ちょ、アチャモ!?」


何故かアチャモが飛び出した、


 「ピピィーーーーー!!!!」

ルビィ「え、コランも!?」


何故かコランも上空に飛び出した。


 「チャモーーー!!!」

 「タチッ!!!?」


草むらから突然飛び出して、アチャモがオタチに向かって“ひのこ”を放つ、
291 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:53:44.77 ID:ISz0KMwo0

 「ピピー!!」

 「オニィッ!!?」


上空のオニスズメも突然飛び出してきた、コランに“たいあたり”される。


ルビィ「ちょっと、二人とも! 勝手に行動しないでよぉ!!」


 「チャモ!! チャモ!!」

一方、アチャモは“ひのこ”と“つつく”をオタチに向かって連打している。


ルビィ「あ、アチャモ! そんなにやったらオタチが戦闘不能になっちゃうから!! ほどほどに弱らせないと、捕獲出来ないからっ!」


そんなアチャモの頭上に、突然の落下物、直撃。


 「チャモ!?」

ルビィ「わっ!? アチャモ!?」


先ほど上空でコランが突撃した、オニスズメだった。

 「ピーピピピピッ!!!」

その上空ではコランが楽しそうに笑っている。


ルビィ「コランー!? 勝手に“うちおとす”使わないでよー!?」

 「チャモ…」


アチャモは散々攻撃していた、オタチのことをもう忘れてしまったのか、

上空のコランを睨み付けた。


 「ピピピ」

 「チャモォ…」


ルビィ「ちょっと、二人ともそんなことしてる場合じゃ……!」


 「オニ…!!!」


ルビィが指示を出すのを待たず、墜落してきたオニスズメが起き上がり、アチャモを標的に──


 「チャモォ!!!」


──そのオニスズメの頭をアチャモが踏みつけて、


 「オニ!?」


高く、高く、跳んだ。

コランのところまで、

“とびはねる”。

 「ピピ!?」

オニスズメをその健脚で蹴り飛ばした反動を使って、前中をするように中空で縦回転しながら、コランに向かって鋭い鉤爪を立てる。

“ブレイククロー”だ。

 「チャッモォ!!」

──ガキン。硬い爪と岩がぶつかり合う音のしたあと、
292 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:55:03.39 ID:ISz0KMwo0

 「ピピ!!!!」


ルビィの顔の横を掠めるように、岩──もとい、コランが降ってきた。


ルビィ「……」

 「チャモ…!!」


そして、地面にめり込んだコランの上にアチャモが着地する。


ルビィ「…………」


辺りを見回す。

戦闘不能で気絶した、オタチとオニスズメ。

めり込んだコランと、その上でふんぞり返るアチャモ。


ルビィ「……花丸ちゃん……やっぱりルビィ、ダメかも……」


ルビィの捕獲劇は、初戦から無事失敗で始まりました。





    *    *    *





花丸「ナエトル! “たいあたり”!」
 「トル!!」

 「ポポ!!?」


ナエトルの“たいあたり”でポッポが怯んだところに、


花丸「いくずらー!」


マルはすかさずボールを投げつける。

そのボールは見事ポッポにぶつかる──ことはなく。1mも前に飛ばずに、マルの足元に落ちる。そしてテンテンと、音を立てて地面を転がる。


 「ポポ…!!」


その隙にポッポが起き上がって、逃げようとするところ、

 「ゴン…」


ゴンベがモンスターボールを拾い上げて、


花丸「ゴンベ! “なげつける”ずら!」
 「ゴン」


ボールを投げつける。一直線に飛んでいくボールは、


 「ポポッ!?」


ポッポに直撃して、そのままボールの中にポッポが吸い込まれた。


花丸「よし! ずら」
293 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:56:39.66 ID:ISz0KMwo0

ボールは無事3回ほど揺れたあと大人しくなった。


花丸「これで5匹目だね。ゴンベ、毎回外してごめんね」
 「ゴン…」


ゴンベは慣れっこだと言う感じで鼻を鳴らした。

マルはどうしても運動が苦手だから、ボールがうまく飛ばないんだけど、そこはゴンベがうまくカバーしてくれているから、捕獲はかなり順調。


花丸「オタチ、ミネズミ、オニスズメ、ムックル、ポッポ……ホントに順調ずら」


この辺りにいるポケモンはもしかしたら今日中に大方捕まえきってしまうかもしれない。


花丸「あとはこの辺りだと、レディバとかアゴジムシとかコフキムシみたいな虫ポケモンがいたかな? ……夜にはコラッタとかホーホー、イトマルが出るはず」


夜行性のポケモンは日中の時間はあまり姿を見せないから、とりあえずお昼のポケモンを端から捕まえる。


花丸「実際やってみたら、捕獲って苦労するのかなって思ってたけど……案外平気だね」
 「ゴン…」「ナエー」


そんな風に言ってると、前方からナエトルがとてとてと歩きながら戻って来る。


花丸「この分だと、ルビィちゃんも最初の捕獲は終えて、今はヌイコグマを探してるところかな?」


じゃあ、マルもヌイコグマを探してみようかな。

見つけたらルビィちゃんに教えてあげないと。





    *    *    *





ルビィ「…………」


ルビィの目の前に広がる光景──黒こげの草むら、撃ち落とされ気絶している大量のポッポとオニスズメ、ムックル。その数は10匹以上。

遠巻きにオタチが巣穴からこっちを警戒している。

少し遠目に逃げ惑うミネズミ、日中の時間帯なのに、逃げるポケモンたちの中にはコラッタの姿も見える。

巣穴で寝ていた子たちが驚いて逃げているのかもしれない。

そして、ルビィのすぐそばでは、


 「チャモォ!!!」

 「ピッピピィ!!!!」


アチャモとコランが爪と岩をぶつけ合って、戦っていた。


ルビィ「……ぅゅ」


捕獲どころじゃない。

周りの野生ポケモンを巻き込みながら、手持ちの2匹が大喧嘩をはじめて、もう数十分経つ。

縄張りを荒らされたと思って攻撃してきたオニスズメを撃ち落とし、騒ぎに気付いて鳴きだしたムックルも撃ち落とし、ついでにたまたま近くを通り過ぎたポッポも撃ち落している。

ただ、アチャモもコランもケンカが第一のようで、野生のポケモンには目もくれない。

そんな状況で警戒心の強い陸上のポケモンたちは巣穴に逃げ込んだり、とにかくこの場からはほとんどが逃げてしまった。
294 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:58:39.30 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「もうー!!! 二人ともいい加減にしてよぉ!!」


ルビィの言葉は虚しくも、そのまま空に飲み込まれていく。


ルビィ「ぅぅ……。クロサワの入江では言うこと聞いてくれたのに……」


ルビィは思わず体育座りをするように地面にへたり込んで、ぼんやりと二匹のケンカを眺める。


 「アブブゥ」


腕に止まったアブリーがルビィに向かって、鳴き声を挙げる。


ルビィ「ありがと……慰めてくれてるんだね……」


…………。


ルビィ「え」


ルビィは自分の目を疑いました。

体育座りの姿勢の自分の手の甲から、膝を伝って、のんきに歩いている、小さなポケモンが一匹……。


ルビィ「えっと……」

 「アブブゥ?」


大きさは10cmくらい。

割とよくそこらへんを飛んでいるので、知っているポケモン。

アブリーだ。とりあえず、図鑑を開く。


 『アブリー ツリアブポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.2kg
  花のミツや 花粉が 餌。 オーラを 感じる 力を
  持ち 咲きそうな 花を 見分けている。 また
  花に 似た オーラを 持つ 人に 集まってくる。』


ルビィ「花に似たオーラって、なんだろう……」

 「アブ?」


膝を伝って、アブリーがそのまま胸の辺りに潜り込もうとしてくる。


ルビィ「わわっ!? ルビィ、花粉とかミツとか出ないから!?」


驚いて、立ち上がると、

 「ブブ」

コロコロと地面を軽く転がったあと、


ルビィ「あ、ご、ごめんねっ」

 「アブブブ」


小さな翅を羽ばたかせて、空に浮き立つ。

そのまま、ルビィの頭の上に留まる。


ルビィ「……」


とりあえず、ポーチから空のフレンドボールを取り出して。
295 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:59:31.62 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「えい」


アブリーに押し付けてみる。

 「アブブ──」

鳴き声を残して、ボールに吸い込まれるアブリー。

ほとんど、ボールが揺れることもなく。

そのまま大人しくなった。


ルビィ「……えーっと」


ルビィは困りました。


ルビィ「これは捕獲成功でいいのかな……」


捕獲したにはしたんだけど……これって捕獲に入るのかな?


ルビィ「……とりあえず」


 「チャモォ!!!」
 「ピピピピピピ!!!!」


二匹のケンカを止めようかな……。それから考えよう。





    *    *    *





ルビィ「考えてみれば、最初からこうしてればよかったんだよね……」


二匹を無理やりボールに戻してから、ルビィは2番道路の草むらを行ったり来たりしていました。

ただ、ルビィの手持ちが大暴れした情報が野生ポケモンの間で行き渡っているのか。


ルビィ「うぅ……ポケモンたちが近寄ってこない……」


思わず項垂れてしまう。


花丸「る、ルビィちゃーん!」


そんなルビィに遠くから名前を呼ぶ声。


ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「……は……はっ……!!……る、ルビィ……ちゃ……」

ルビィ「は、花丸ちゃん! ゆっくりでいいから!!」


運動が苦手な花丸ちゃんは少し走るだけで、肩で息をしていた。


花丸「る……ルビィ……ちゃんが……落ち込んでる……気が……した、から……」

ルビィ「ルビィは花丸ちゃんの方が心配だよ……大丈夫?」

花丸「ち、ちょっと休憩ずら……」
296 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:00:50.23 ID:ISz0KMwo0

花丸ちゃんはそう言ってルビィの傍でへたり込む。


ルビィ「もう……花丸ちゃんったら……」

花丸「えへへ、ごめんずら……」


ルビィもちょっと休憩しようかな。


花丸「捕獲は順調?」

ルビィ「えーと……あんまり」

花丸「そっかぁ……」

ルビィ「花丸ちゃんも捕獲してたの?」

花丸「あ、うん。さっきまで順調だったんだけど……急に野生のポケモンが出てこなくなって……」

ルビィ「あ、そうなんだ……なんか、ごめんね」

花丸「?」


たぶん当分、ここの一帯のポケモンはトレーナーに近付いてこない気がする。


花丸「あれ? 腰のボール一個増えてる? 捕獲したの?」

ルビィ「あ、うん。たまたまというか……」


言われて黄緑色のボールを放ると、中からアブリーが飛び出す。

 「アブブ」


花丸「アブリーずら! マルはまだ捕まえてなかったんだよね」

ルビィ「この子、全然ルビィのこと警戒しなくて……」
 「アブブ」


そのまま、頭の上に停まって来る。


ルビィ「捕まえる前から、こんな感じで……」

花丸「ルビィちゃんが優しいことに気付いてたんじゃないのかな?」

ルビィ「完全に運が良かっただけだよ……」

花丸「運も実力の内だよ?」

ルビィ「あはは、ありがと……花丸ちゃん」


他のポケモンの気配のしない2番道路に、そよそよと風が吹いて、ルビィたちの髪を揺らす。


花丸「ねぇ、ルビィちゃん」

ルビィ「なぁに? 花丸ちゃん」

花丸「どうして、旅に出たいって思うようになったの?」

ルビィ「え……」


花丸ちゃんが急に核心を突くようなことを言ってくる。
297 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:02:15.11 ID:ISz0KMwo0

花丸「うぅん、そうじゃないね。クロサワの入江で何があったの?」

ルビィ「な、何……って……」

花丸「ルビィちゃんを攫って行った犯人と関係があるのかな?」

ルビィ「……ぅゅ……」

花丸「あ、ごめんね……別に責めてるわけじゃないんだけど……」

ルビィ「……」

花丸「無理に聞き出したりはしないけど、気にはなってたんだよね」


ルビィはずっと旅に出ることに消極的だった。それを一番よく知ってるのは他でもない花丸ちゃんだ。

そんなルビィがなんで急に旅に出たいなんて言い出したのか、一番気になってるのも花丸ちゃんな気がする。


ルビィ「……花丸ちゃん聞いたら怒るかも」

花丸「怒らないずら」

ルビィ「本当?」

花丸「マルはルビィちゃんに嘘吐かないよ」

ルビィ「……うん、そうだね」


じゃあ、ルビィも嘘や隠し事は花丸ちゃんにはしたくない。


ルビィ「……理亞さん──あ、ルビィのことを攫おうとした人だけど……」

花丸「うん」

ルビィ「たぶんなんだけど……ルビィ、あの人は悪い人じゃないと思うんだ」

花丸「そうなの?」

ルビィ「たぶん……」

花丸「そっか」

ルビィ「メレシーたちを大切にしてたし……やり方は乱暴だったけど、ちゃんとお話すれば……もっと分かり合えれば誰も悲しい想いしなくて済むんじゃないかなって、たぶんなんだけど……」

花丸「……じゃあ、その人を探すために旅に?」

ルビィ「そう、なるのかな……でも、今のまま会っても意味ないから」

花丸「強くなって、なんであんなことをしたのか、ちゃんと聞きたいんだね」

ルビィ「うん」

花丸「やっぱり、ルビィちゃんは優しいね」

ルビィ「そんなんじゃないよ……ただ──」

花丸「ただ?」

ルビィ「メレシーを大切にする人に悪い人はいないから」

花丸「ふふ、そっか。昔からばあちゃんも同じようなこと言ってたずら。じゃあ、その……理亞さん? は悪者じゃないんだね」

ルビィ「信じてくれるの?」

花丸「ルビィちゃんはそう思うんでしょ? なら信じるよ」

ルビィ「花丸ちゃん……ありがと」

花丸「どういたしまして、ずら。そのためには、早くヌイコグマ探して捕まえないとだね」


花丸ちゃんはそう言って立ち上がる。


ルビィ「うん、そうだね」
298 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:03:33.08 ID:ISz0KMwo0

ルビィもつられて立ち上がる。

とは言っても、どうしようかな……。野生のポケモンたちはこの辺りからほとんど逃げちゃったし……。


 「…アブブ?」


そのとき頭の上でアブリーが鳴き声をあげた。


ルビィ「アブリー? どうしたの?」
 「アブブ」


パタパタと翅を動かして、ルビィから放れたアブリーは西の方を見ていた。


花丸「何か居たずら?」

ルビィ「ん……」


アブリーの見ている方向に目を凝らすと、


ルビィ「……お車?」


ポケモン輸送用の軽トラックがこっちに向かって走ってきていました。





    *    *    *





 「メェー」「メェー」「メェーメェー」


花丸「わ、メリープがいっぱいずら」


そのトラックには花丸ちゃんの言う通り、たくさんのメリープが輸送されていた。

確か西のコメコシティに牧場があったはずだから、そこから来たのかな?


 『メリープ わたげポケモン 高さ:0.6m 重さ:7.8kg
  ふかふかの 体毛は 空気を たくさん 含んで 夏は
  涼しく 冬は 温かい 優秀な 服の 素材になる。 ただし
  静電気が 溜まりやすいので 特殊な 加工を する。』


安全運転でのんびりと走る、トラックに積まれたメリープを二人で眺めていると、運転手のおじさんが窓から顔を出して、


牧場おじさん「お嬢ちゃんたち、この辺りの子なのかいー?」


そう訊ねてきた。


ルビィ「あ、は、はいっ」

花丸「こんなにたくさんのメリープ、どうしたずら……どうしたんですか?」

ルビィ「こ、この先には、港……しか、ないよね」


なんとなく、知らない人なのでルビィは花丸ちゃんの後ろに隠れてしまう。
299 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:06:40.32 ID:ISz0KMwo0

牧場おじさん「その港へのお届けなんだよー」

花丸「港に?」

牧場おじさん「なんでも、急にメリープの綿毛を発注した人がいるらしくってなー。拘りが強い人らしくて毛刈りも自分でってことさー。明日の朝一の船に載せてフソウタウンまでメリープを送らないといけないんだよー」

ルビィ「明日……随分急だね」

牧場おじさん「おじさんも長いことメリープやらミルタンクやら運送してるけどー。ホシゾラより東に運ぶのは久しぶりだよー」

花丸「大変ですね……」

牧場おじさん「まあ、これも仕事さーそれに今日は野生のポケモンも随分少なくて運転が楽だよー」

ルビィ「……あはは……」


なんとなく、目を逸らして苦笑いする。


牧場おじさん「2番道路は力の強い野生ポケモンがいるから、気をつけろー。なんて言うけど、この分なら問題ないなー」

ルビィ「力の強いポケモンですか?」


そんなポケモンこの辺りにいたっけ……?


牧場おじさん「なんでもぬいぐるみみたいな見た目してるわりにー。随分力が強いポケモンらしくてなー」

ルビィ「え?」

牧場おじさん「かわいい見た目の割に気性が荒くてー。縄張りに入られると機嫌が悪くなるっていうからなー。うっかり縄張りに近付かないようしないとなー」

ルビィ「え??」

花丸「……もしかして、ヌイコグマずら?」

牧場おじさん「確か、そんな名前だったなー」

ルビィ「え???」

牧場おじさん「ただ、普段はあまり表に出てこない珍しいポケモンさー。こっちから行かない限りは、他のポケモンが縄張りに侵入してきて、その拍子に表に飛び出してきたーなんてことがなければまず出くわすこともないさー」

ルビィ「…………」


ルビィは嫌な予感がして、あたりをキョロキョロと見回してしまう。


ルビィ「あの……」

花丸「ルビィちゃん、どうかしたの?」

牧場おじさん「お嬢ちゃん、顔色悪いけどだいじょうぶかー?」

ルビィ「ヌイコグマって……そこにいるポケモンですか……?」

花丸・牧場おじさん「「……え?」」


メリープを積んでいる、貨物車の後輪辺りに、ピンクと黒のぬいぐるみみたいなポケモンが、居ました。





    *    *    *





牧場おじさん「ど、どわああああー!?」
 「メェーー」「メェェーーー」


 「クーーマーーー」

ヌイコグマが身体を車輪に潜り込ませるようにすると、トラックがいとも簡単に後輪から浮き始める。
300 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:07:49.52 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「わ、わっ!?」

花丸「ずら!?」

牧場おじさん「た、倒れちまうー」

花丸「い、いけないずら! ゴンベ、ナエトル!」
 「ゴンッ」「ナエー」


花丸ちゃんがバスを挟んで、ヌイコグマとは対角線上の車輪の方にゴンベとナエトルを繰り出す。


花丸「“かいりき”!」

 「ゴンッ!!」「ナエー!!」


逆側から押すことで少しだけ、傾く速度が遅くなるが、

すぐにまた押し負け始める。


 「メェー」「メェェー」
牧場「なんて“ばかぢから”だー!?」

ルビィ「あ、あわわ……!!」


ヌイコグマをどうにかしなきゃ……!!


 「アブゥーー」

慌てるルビィの目の前にアブリーが飛んでくる、


ルビィ「! 指示を出せってこと!?」
 「アブアブ」


花丸ちゃんは二匹の指示に精一杯だ、それなら、


ルビィ「ルビィがやるしかない……!! アブリー“ようせいのかぜ”!」
 「アブーリィー!!」


アブリーから、放たれた風がヌイコグマを直撃する。

 「クーーマーー」

ヌイコグマはアブリーに攻撃されたことを認識すると、

──ガン、とトラックに一発頭突きをかましてから、


 「ゴンッ!!」

牧場おじさん「おわわー」

花丸「倒れるずらー!? ナエトル、“ワイドガード”!!」
 「ナエー」


ヌイコグマがこっちに向かって、走ってきた……!!


ルビィ「アブリー! 一旦ここから引き離そっ!」
 「アブブ」


ルビィは踵を返して、アブリーと一緒に走り出した。

トラックはたぶん、花丸ちゃんがどうにかしてくれる……。

だから、ヌイコグマはルビィが引き付けて……!!

振り向くと──


ちょっと走っただけで、ヌイコグマとかなり距離が離れていた。
301 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:09:53.73 ID:ISz0KMwo0

花丸「ルビィちゃーん!! ヌイコグマは脚が遅いずらー!!」

 「クーーーマーーー」

ルビィ「ええええーー!!!!?」


全速力で走り出したせいか、ヌイコグマはすでにルビィたちを見失いかけて、トラックの場所へもどろうとしていた。


ルビィ「な、何かおびき寄せる技……!!」


ルビィは図鑑を開いて、アブリーの技を確認する。


ルビィ「こ、これ!! アブリー、“ないしょばなし”!」
 「アブブー」

アブリーがヌイコグマの元へ近付いて、周囲をぶんぶんと飛び回る。

 「クーーーーーーマーーーーーー…」

ヌイコグマの意識がまたアブリーに向いた。


ルビィ「よっし、アブリーまたおびき寄せようーっ!」

 「アブブー」


またアブリーがルビィの元に戻って来るけど、


ルビィ「ぬ、ヌイコグマ……遅い……!」


さっきは全速力で走りながら背を向けたから見ていなかったけど、こうして見てみると確かに遅い。

でも、あの“ばかぢから”で暴れられたらトラックに被害を与えかねないし、出来るだけ引き付けたい……。

再び図鑑でアブリーの技を調べて──


ルビィ「! この技なら……! アブリー!」
 「アブアブ」

ルビィ「“スピードスワップ”!」
 「アブアブブ」


ルビィの指示と共にアブリーのスピードががくっと落ちる。

そして、

 「クーマー」


ルビィ「ぴぎぃ!!?」


ものすごいスピードでヌイコグマがこちらに近付いてくる。


ルビィ「た、タイミング速すぎた!? アブリー頑張ってー!」
 「アブー」


“スピードスワップ”でアブリーとヌイコグマの素早さを入れ替えた結果、ヌイコグマが猛スピードで追って来はじめた。

あの可愛い見た目とあのパワーのポケモンが猛スピードで迫ってくるのは、謎の迫力があって、正直怖い。

意図したことだけど、ヌイコグマに追い回される形になる。


ルビィ「は、はっ……!! アブリー!!」
 「アブ」
302 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:11:20.81 ID:ISz0KMwo0

ルビィは素早さの下がったアブリーと併走する。

背後を見ると、ヌイコグマが後ろから迫ってくる。

引き付けるのには完全に成功したようだ。

視線を前に戻す。

すると、遠方に浜辺が見えてきた。


ルビィ「す、スタービーチ!!」


ここまで来れば十分、


ルビィ「アブリー、“ねばねばネット”!」
 「アブブーーー」


アブリーがその場で粘着性のネットを散布する。

 「クーーマーー」

そのネットに足を取られて、ヌイコグマの動きが少しだけ遅くなる。


ルビィ「ぬ、ヌイコグマさん! ルビィとバトルしてください!」


ここまでくれば、もう一対一。あとはルビィがヌイコグマを捕まえるだけ、

 「クーマー」

と、思った瞬間、ヌイコグマが跳ねて、そのままの勢いでアブリーを前足で蹴り飛ばした。“メガトンキック”だ。


 「アブゥーーー」

ルビィ「!? あ、アブリーッ!!?」


ルビィは蹴り飛ばされたアブリーをどうにか腕を伸ばしながらジャンプしてキャッチする。


 「アブブ…」
ルビィ「アブリー、ありがと。あとは休んで」


アブリーをボールに戻す。

 「クーーマーーー」

ヌイコグマの視線がルビィに向く。


ルビィ「ぅゅ……」


一瞬身が竦んだけど……。


ルビィ「ダメだ……戦わなきゃ……!!」


自分を叱咤する。ルビィの手持ちは残り二匹、アチャモかコランか、

腰からボールを選ぼうとしたら、


 「チャモー」「ピピー!!」


アチャモとコランが同時にボールから、勝手に飛び出した。


ルビィ「!」

 「チャモチャモ」「ピピィ」
303 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:12:29.12 ID:ISz0KMwo0

それぞれ、アチャモが“フェザーダンス”を、コランが“ステルスロック”を放つ。

二匹とも、ヌイコグマの足止めの技だ。


ルビィ「二人とも協力できる!?」
 「チャモ!」「ピピ!」


やんちゃな二匹だけど、いざというときは心強い。


ルビィ「アチャモ! “ひのこ”! コラン! “たいあたり”!」
 「チャモ!!」「ピピ!!」


アチャモの“ひのこ”と共に、弾けるようにコランが飛び出す。

 「クーマー」

ヌイコグマは攻撃を避けようと、身体を横にずらそうとする、が。

 「クーーマーー」


“ねばねばネット”に引っかかって、うまく移動が出来ていない。

そこに“ひのこ”がヒットする。

 「クーーマーー」


ルビィ「効いてる!」


ヌイコグマが怯んだところに

 「ピピーーー!!!」

そのままコランが突撃する。

 「クーーーーマーーー」

ヌイコグマが鳴き声をあげながら、怯んだ──ように見えたが、

 「クマー」

突撃してきた、コランを捕まえるように、前足で押さえつける。


 「ピピ!?」
ルビィ「コラン!?」


そのまま、前足でコランを掴み、後ろ足で回りながら、コランを“ぶんまわす”

 「クーーマーー」


ルビィ「コラン!!?」


ルビィがコランに向かって叫ぶと、

 「チャモ!!」

アチャモが一歩前に出た、


ルビィ「あ、アチャモ!?」
 「チャモ!!」


任せろと言わんばかりに、


ルビィ「!」


その姿を見てハッとする。ここでルビィが動揺しちゃダメだ……!

この前、千歌ちゃんが見せてくれたみたいに、トレーナーがポケモンの力を引き出すんだ……!!
304 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:13:21.25 ID:ISz0KMwo0

 「クーーーマーー」

ヌイコグマが回転した反動を乗せたまま、コランを投げ飛ばしてくる。


ルビィ「コラン!! “かくばる”!!」

 「ピピーーーー」


コランの身体をより攻撃的にして、


ルビィ「アチャモ! “ブレイククロー”で片足だけ、地面を踏みしめて!」
 「チャモォ!!」


ルビィ「アチャモ! コラン!」

 「チャモ!!」「ピピ!!」


一直線に飛んできた、コランをアチャモが片足で受け止め、踏みしめた逆の脚を軸足に回転して、コランをさらに投げ返す……!!


 「クーーマーー!?」

ルビィ「いっけー!!!」


かなり特殊な形だけど、二匹の力を合わせて、ヌイコグマに攻撃を倍返しする! “カウンター”!!

 「ピピーーーー!!!」

その激烈な勢いで、飛んできたコランに、

 「クマーーー!?」

今度は受け止めることが出来ずにヌイコグマが後ろに大きく吹き飛んだ。


ルビィ「い、今だ……!!」


ルビィは地を蹴って走り出す。

 「ク、マー」

ヌイコグマに近付いて、花丸ちゃんから貰ったフレンドボールを構えて、

投げた。


 「クマ──」


──パシュン、カツンカツーン。

ヌイコグマを吸い込んだボールが音を立てて、地面で跳ねる。


ルビィ「はぁ……はぁ……!!」


ボールが一揺れ、二揺れ……三回揺れて……大人しくなった。


ルビィ「はぁ……はぁー……」


ルビィは思わずへたり込んでしまう。
 「チャモ…」「ピピ」

そんなところに二匹が近寄ってくる。


ルビィ「えへへ……ちょっと、気が抜けちゃったね」


そうはにかんでから、アチャモとコランを抱き寄せる。

 「チャモ」「ピピ」
305 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:14:17.07 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「えへへ、みんなのお陰で捕獲出来たよ……アチャモ、コラン、アブリーも……ありがと」
 「チャモ」「ピピ」


激闘の末、ルビィはヌイコグマの捕獲に成功したのでした……!!





    *    *    *





あの後、ルビィたちがトラックの方に戻ると、花丸ちゃんとおじさんが待っていました。


牧場おじさん「いやーほんとに助かったー」

花丸「ルビィちゃん、怪我とかしてない?」

ルビィ「うん、大丈夫だよ」

牧場おじさん「何かお礼させて欲しいさー」

ルビィ「あ、えっと……お礼は大丈夫、というか……ある意味ルビィたちが原因というか……」

花丸「ずら?」

ルビィ「と、とにかく大丈夫なんで!」

牧場おじさん「そうかー? 最近の子は謙虚なんだなー この恩は忘れないさー」
 「メェー」


おじさんはそう残して、港の方へとトラックを走らせて去って行きました。


ルビィ「花丸ちゃんは怪我してない?」

花丸「うん、ルビィちゃんがヌイコグマをひきつけてくれたお陰で無傷ずら」

ルビィ「そっか、よかったぁ……」

花丸「それで、あのヌイコグマは……」

ルビィ「あ、うん、ここにいるよ」

花丸「ずら!? あの状況から捕まえたの!?」

ルビィ「え? だって、最初からヌイコグマ捕まえるって話だったし……」

花丸「そうだけど……ホントにどこも怪我してないの? あのヌイコグマ、結構強かったんじゃ……」

ルビィ「強かった、けど……」


ルビィは、3つのボールを撫でながら、


ルビィ「皆が助けてくれたから……」

花丸「…………」

ルビィ「……? 花丸ちゃん?」

花丸「あ、ううん、なんかルビィちゃんすごいなって思っただけ」

ルビィ「え、えへへ……なんか花丸ちゃんに改めてそう言われると照れちゃうな」


ルビィは少しだけ恥ずかしくなって、頬を掻く。

……さて、
306 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:14:44.94 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「後はお姉ちゃんに報告して、認めてもらうだけだね……」

花丸「ふふ、そうだね」

ルビィ「ぅ……なんで、笑うの、花丸ちゃん……ここが一番緊張するんだよ?」

花丸「そんな心配いらないよ」

ルビィ「そうかな……?」

花丸「だって、今日のルビィちゃん」


花丸ちゃんはニコっと安心する笑顔を作ってから、


花丸「100点満点通り越して、はなまる200点満点だったから! ダイヤさんも絶対認めてくれるずらっ」


そう言って笑うのでした。


307 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:15:55.21 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【2番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_●_|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.13 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.7 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:4匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.12 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:12匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



308 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:34:09.18 ID:ISz0KMwo0

■Chapter023 『犬ポケモンの楽園』 【SIDE Chika】





──コメコジムでのジムバトルを終えた後……。

コメコのポケモンセンターにて、


花陽「千歌ちゃん、もう行っちゃうんですね……?」

千歌「はい! あんまりのんびりしてると、梨子ちゃんに置いてかれちゃうんで!」

花陽「梨子ちゃん……ちょっと前にジムでバトルしましたけど、あの子は千歌ちゃんのライバルなんですか?」

千歌「ライバル……になるのかな? 同じときに図鑑とポケモンを貰った子だから、負けてられないなって!」

花陽「そうですか……そろそろ日も暮れ始めると思うから、気をつけてください」

千歌「はい、ありがとうございます!」


花陽さんとそんな会話をしている千歌の足元に、

 「ゼリュー」「ミィー」


千歌「わわっ?」


小柄なブイゼルが二匹寄って来る。


千歌「なんだ、君たちか……」
 「ゼリュ」「ミミィ」


じゃれつく子ブイゼルの後ろからゆっくりと、

 「ゼルゥ」

この子たちの親のブイゼルが歩いてくる。


花陽「巣や小川の修復は順調に進んでるみたいだから……何日かしたら野生に帰してあげられると思います」

千歌「そっか、よかったぁ……ブイゼルくんたち、またね」


私がそう言って、手を振ると。

 「ゼル」

ブイゼルは礼儀正しくお辞儀をする。


千歌「ポケモンセンターの中では自由に動き回ってるのかな?」

花陽「もう敵意もないみたいだし……町の人たちも事情を聞いてからは、ブイゼルに優しくしてくれてます。元々牧場の町なので、ポケモンが自由に歩き回ってることにも、皆慣れてますし」

千歌「そうなんだ。じゃあ、もう心配なさそうですね」

花陽「ふふ、そうですね」


ブイゼルたちはまた自然に帰って、子育てを再開するんだろう。

それを見届けることが出来ないのはちょっと残念だけど……。


花陽「そういえば、千歌ちゃんはホシゾラシティから来たんでしたよね?」

千歌「あ、はい」

花陽「そうなると……次は北西のダリアシティのジムを目指すんですよね」

千歌「そう、なるのかな?」


正直道なりに進んでるだけだからよくわからないけど、次のジムがあるなら、そういうことだと思う。
309 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:35:26.69 ID:ISz0KMwo0

花陽「それなら、手持ちの数を揃えた方がいいと思いますよ」

千歌「数……ですか?」

花陽「はい。ダリアジムはちょっと変わったジムで……ポケモンが6匹いないと挑戦できないので……」

千歌「え、そうなんですか!?」

花陽「だから、後回しにする人も多いんですけど……ストレートに進むならダリアに付くまでに6匹揃えた方がいいと思います」

千歌「な、なるほど……」


考えてみれば、捕獲はダイヤさんが付いてくれていたときに捕まえたムックルが最初で最後だ、

いい加減新しい手持ちを増やさないととは思ってはいたんだけど……。

 「ゼル?」
  「ゼリュゥ」「ミィミィ」

気付くと、ブイゼルたちが再び千歌の足元に近付いてきていた。


花陽「そのブイゼルたち……千歌ちゃんによく懐いてるし、連れて行ってもいいんじゃないですか?」

千歌「うーん……」


そう言われて、私は少し悩む……が、


千歌「子供の内はちゃんと自然の中で育った方が、いいと思います」

 「ゼル」

千歌「だから、子育てが終わって、二匹の子供が独り立ちしたら……また、戻ってこようかな。そのときまで、私のこと覚えててくれたら、またそのとき考えます」

花陽「……ふふ、そうですか」


……となると、この先でポケモンを3匹捕まえないといけない。

そんな私の考えてることに気付いたのか、


花陽「大丈夫ですよ、この先にはポケモンがたくさん生息してる場所があるから……」


花陽さんはそう言うのだった。





    *    *    *





──4番道路。


千歌「わぁー……!!」


私は見渡す限りにたくさんのポケモンがいるのが一目でわかる、光景を目の当たりにして感嘆の声を挙げた。

元気に走り回ってるのはガーディかな?

反対にのんびりとしているブルーやロコンの姿。

何匹か群れているのはポチエナだ。その群れの中心にはグラエナもいる。

その群れを横切るように俊足で走りぬけるのは、ラクライたちの群れ。

その後方から追いかけるように一直線に走るマッスグマ、それをじぐざぐと走りながら追いかけるジグザグマの群れ。

ちょっと遠目にある、切り立った岩肌にポツポツ見えるポケモンも、犬のようなシルエットをしている。
310 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:40:07.48 ID:ISz0KMwo0

千歌「ここが、ドッグラン……!!」



────────
──────
────
──



千歌「ポケモンがたくさん生息してる場所?」

花陽「はい、コメコの西の4番道路は犬ポケモンの楽園──通称『ドッグラン』って言われてる場所なんです」

千歌「ドッグラン……」

花陽「昔コメコの牧場犬を育てるために犬ポケモンを集めて放牧してた名残なんだそうです。今では、そういうことはしていないので全部野生ですけど……千歌ちゃんのしいたけちゃんも犬ポケモンだし、もしかしたら犬ポケモンが好きなのかなって思ったから……」

千歌「はい! 犬ポケモン好きです!」

花陽「それならきっといい仲間が見つかると思いますよ」



──
────
──────
────────



そう言われて来た、ここ4番道路は本当に犬ポケモンの楽園だった。


千歌「確かにここなら、新しい仲間に出会えそう……!!」


ただ、あまり敵意がないのか、近くを通っても、吼えたり、襲い掛かってきたりする様子は全然ない。


千歌「昔は放牧場だったって言ってたし……人に慣れてるのかな?」


ブルーたちの群れの横を通りすぎながら、ぼんやりと呟く。

私が周囲を見回していると、


千歌「あ……あのポケモン……」


一際大きな身体をした、犬ポケモンが目に入ってくる。


千歌「あれって、確かムーランドだよね」


私は図鑑を開く。


 『ムーランド かんだいポケモン 高さ:1.2m 重さ:61.0kg
  山や 海で 遭難した 人を 救助する ことが 得意。
  長い 体毛は 包まれると 冬山でも 一晩 平気なほど 暖かく 
  レスキュー隊の 相棒と して 連れられる ことも多い。』


どっしりと構えたムーランドの周りには、進化前のハーデリアとヨーテリーがたくさんいる。


千歌「うちの手持ちは落ち着きがない子が多いから、ああいうどっしりとしたポケモンが居るといいかも……あ、でもしいたけは落ち着いてるか」


しいたけの場合、どっしりというよりは、のんびりだけど……。

そんなことをぼやきながら、ムーランド率いる群れを観察していると。


千歌「ん……?」
311 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:41:38.12 ID:ISz0KMwo0

ムーランドのすぐ近くに明らかに犬ポケモンとは違うシルエットが飛び出てるのが目に入る。

──というか、あれって……。


千歌「……人の脚?」


なんだか綺麗な脚……女性の脚かな?

ハーデリアやヨーテリーが群がっていて、それ以上はよくわからない。

犬ポケモンたちと、じゃれてるのかな……?

いや、その割には、ピクリとも動かないし……


千歌「……あの人、大丈夫かな……?」


私は心配になって、その人影に駆け寄る。


 「ウォフ…」


私が走ってきても、ムーランドは毅然としたまま、そこに鎮座していた。


千歌「ち、ちょっとごめんねー」

 「ワンワン?」「ワォフ」


その女性の安否を確認するために、ヨーテリーとハーデリアを手で掻き分けて、


千歌「え」


私はそこに倒れている人の顔を見て、驚きの声を挙げた。


千歌「梨子ちゃん……?」


ヨーテリーとハーデリアにもみくちゃにされて、気絶していたのは、


梨子「…………」


私よりも遥か先を旅してるはずのライバル──梨子ちゃんだった。





    *    *    *





千歌「梨子ちゃん、梨子ちゃーん?」


ぺちぺちと頬を叩いてみる。


梨子「……ん……」

千歌「あ、よかった……息はあるね」


それにしても、なんでこんなところに……まさかお昼寝してたとか……?


千歌「うーん……梨子ちゃんって私の中で、そういうイメージじゃないんだけどなぁ……ムーランドくん、なんで梨子ちゃんこんなところで寝てたの?」

 「ヴォッフ…」
312 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:42:30.19 ID:ISz0KMwo0

ムーランドに訊ねてみるも、ムーランドは鼻を鳴らすだけだった。

原因が全くわからず、頭が捻っていると、


梨子「ん……あれ……わた、し……」

千歌「あ、梨子ちゃん!」


梨子ちゃんが目を覚ました。


梨子「……あれ? 貴方……」

千歌「貴方じゃなくて、千歌だよ! いい加減覚えて!」

梨子「ぁぁ、うん……千歌、ちゃん……なんで私、こんなところ……に……」


目を覚ました梨子ちゃんが見る見る青ざめていく。


千歌「梨子ちゃん?」


梨子ちゃんの視線を追うと、私の後ろにいるムーランドを見て、


梨子「────」


口をパクパクとさせている。


千歌「梨子ちゃん?」

梨子「……い──」

千歌「……い?」

梨子「いやああああああああ!!!!!」


──突然、梨子ちゃんが絶叫して、私に抱きついてきた。


千歌「え!? な、なに!?」

梨子「いぬ!!!! 犬!!!!!」


梨子ちゃんは半狂乱で何度も『犬、犬』と叫んでいる。


千歌「り、梨子ちゃん落ち着いて……!!」

 「ヴォッフ…」

梨子「た、助けてっ!! か、噛まれるっ……!!」

千歌「だ、大丈夫だからっ 梨子ちゃん!?」


明らかに異常な脅え方。


梨子「千歌ちゃん、助けっ……!!!?」


すごい力で腕にすがり付いてくる。

その騒ぎに周りのヨーテリーやハーデリアがわらわらと近寄ってくる。


梨子「こ、来ないでっ……!!!? 来ないでぇっ!!!」


それに反応するように、パニックはどんどん激しくなっていく、このままじゃ不味い。
313 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:43:57.35 ID:ISz0KMwo0

千歌「ちょっとごめんね皆! いけ、ムクバード!」

 「ピピィーーー!!!」


腰のボールからムクバードを繰り出す。


千歌「ムクバード! “ふきとばし”!!」
 「ピィーー!!!」


周囲一帯に強風を巻き起こし、

 「ワフ!?」「ウォッフ!!」

ヨーテリーやハーデリアを吹き飛ばす。


千歌「梨子ちゃん、大丈夫だから!」

梨子「はっ……!! はっ……!! 千歌ちゃ……っ」


だけど、

 「ワンワン!!!」「ウォッフウォフ!!!!」

敵対行動と見做されたのか、追い払っても追い払っても、ヨーテリーとハーデリアが寄って来る。


梨子「ひっ……!!」

千歌「くっ……!!」


そのとき、

 「ヴォッフ!!!」

近くで腰を据えていた、ムーランドが吼えた。


梨子「ひ……!!!」

千歌「む、ムーランドも……!?」


ムーランドに攻撃される、と思ってマグマラシのボールに手を掛けたが、

 「ワフ…」「ウォフ」

予想に反して、周りのヨーテリーとハーデリアの動きがピタリと止まり。


 「ヴォッフ…」


ムーランドは再び鼻を鳴らして、その場に腰を降ろした。


千歌「あ、あれ……?」

梨子「ふー……ふー……っ!!」


涙目でガタガタと震えながら、私の腕にすがりつく梨子ちゃん。

ヨーテリーとハーデリアは、さっきとは打って変わって、のそのそとその場から離れていく。


千歌「ムーランドくん……キミが助けてくれたの?」

 「ヴォフ…」


ムーランドは先ほど同様、鼻を鳴らすだけだった。


梨子「千歌ちゃん……っ……!! い、今のうち……に、逃げなきゃ……っ……!!」


梨子ちゃんがそう言って引っ張ってくる。
314 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:45:00.96 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!?」


ただ、激しく動揺していたためか、


梨子「きゃっ!?」


脚をもつれさせ、私を巻き込んで倒れそうになる。


千歌「あ、あぶなっ!!?」


そのとき、うつ伏せに倒れそうな背中を、何かに引っ張られる。


千歌「っ!!」


そのまま、腕に力を込めて、梨子ちゃんごと体勢を持ち直した。


梨子「!?!?」


梨子ちゃんの顔色がまた恐怖の色に染まるのを見て、

ムーランドが転びそうなところを、服に噛み付いて持ち上げ、助けてくれたんだと気付く、と同時に、


千歌「ごめん、梨子ちゃん!!」


梨子ちゃんの口を手で塞いだ。


梨子「!? むーっ!!! むーっ!!!?!?!?」


このままじゃ埒があかない、


千歌「ムクバード!! 手伝って!!」
 「ピィーー」


指示を待ってすぐ近くを旋回していた、ムクバードを呼び寄せ、リュックの上の部分を掴ませる。


千歌「梨子ちゃん! すぐ、犬がいないところに連れてくから、少しだけ我慢して!!」

梨子「……!!」


梨子ちゃんが目を見開いて、コクコクと頷いた。

そのまま、お姫様抱っこの要領で梨子ちゃんを抱きかかえる。

梨子ちゃんは私の首に腕を回して、身を縮こまらせたあと目を瞑った。


千歌「ムクバード!! 全速離脱!!」
 「ピピィーー!!!」


私はムクバードの揚力を借りる形で、梨子ちゃんを持ち上げて、その場から全速力で退散したのだった。


 「ヴォッフ…」


離れた背後で、ムーランドがまた鼻を鳴らした気がした。





    *    *    *


315 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:47:21.32 ID:ISz0KMwo0


千歌「梨子ちゃん……落ち着いた?」

梨子「あ……うん……」


4番道路の犬ポケモンの群生地から、やや東に戻り、コメコの町の近くにあった小さな旅人用の小屋で私たちは腰を落ち着けていた。

時間はもう夕暮れ時を過ぎて、東の空からは宵闇が迫り始めていた。

……あのあと、徐々に落ち着きを取り戻した梨子ちゃんは、小屋の隅っこで縮こまっていた。

まだ少しだけ、震えている。


梨子「あの……千歌ちゃん……」

千歌「ん、何?」

梨子「ごめんなさい……」


梨子ちゃんは謝ってから、俯いてしまう。


千歌「うぅん、気にしないで……それより、何があったか、訊いていい……?」


どうして、あんな場所にいたのかもだけど、

それよりもあの尋常じゃない脅え方。何もないわけがない。


梨子「……私、犬ポケモンが苦手なの……」

千歌「うん」

梨子「4番道路にあんなに犬ポケモンがいるなんて知らなくて……他の犬ポケモンから逃げ回ってたら、ヨーテリーたちの群れに囲まれちゃって……その後はよく覚えてないんだけど……あまりに怖くて、あそこで気を失っちゃったんだと思う……」

千歌「……そっか」


そういえば、初めて出会ったときも私のしいたけを怖がってたような気がする。

知らなかったとは言え、悪いことしたかな。


千歌「でも、怪我とかしてなくて、よかったよ」

梨子「……お陰様で……ありがとう……」


梨子ちゃんは少しだけ照れくさそうにお礼を言ったあと、


梨子「……今まで邪険に扱って……ごめんなさい」


頭を下げた。


千歌「あはは、チカは気にしてないから大丈夫だよ。顔をあげて?」

梨子「でも……」


梨子ちゃんはおずおずと顔をあげる。依然不安そうな表情を見て、


千歌「ちっちゃい頃はお姉ちゃんから、もっと酷い扱い受けてたから……末っ子はそういう扱いには慣れっこなのだっ」


私はそうおどけて返した。


梨子「……ふふ、ありがと……」


私の冗談を汲んでくれたのか、梨子ちゃんの表情が少しだけ和らいだ。
316 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:48:58.82 ID:ISz0KMwo0

千歌「えへへ、やっと笑った」

梨子「え?」

千歌「梨子ちゃんいっつも苦しそうな顔してたから……」

梨子「私……そんな顔してた……?」

千歌「してたよ。しかめっつらで、来るもの全部を睨みつけるみたいな感じで……」


千歌が眉を怒らせるような表情の真似をすると、


梨子「い、いや……さすがにそこまで怖い顔じゃなかったと思うんだけど……」

千歌「えーそうかなぁ? 結構睨まれてるなーって思ってたんだけど」

梨子「というか、さっき気にしてないって言ったのに、気にしてるじゃない……意外と根に持ってる?」

千歌「妹は姉からされた仕打ちを忘れることはないからね……そういうところあるかも」

梨子「さっき慣れっこって言ってたじゃないっ!」

千歌「あ、確かに……じゃあ、両立出来るってことだね」

梨子「……ふふ、もう、それじゃなんでもありじゃない」

千歌「あはは、そうだね」


二人して、クスクスと笑ってしまう。


梨子「千歌ちゃん」

千歌「何?」

梨子「最初に会ったとき、私ロクに自己紹介もしなかったから……改めて」


梨子ちゃんが私を真っ直ぐ見て、


梨子「私はサクラウチ・梨子。カントー地方から来ました」


改めて、そう名乗りました。





    *    *    *





──日が完全に沈み、小屋の中にあったロウソクを見つけて、


千歌「マグマラシ、“ひのこ”」
 「マグ」


明かりを灯す。


梨子「……私ね、カントー地方のタマムシシティの出身なんだ」

千歌「カントー地方……ここからずーっと東の方にある地方だっけ?」

梨子「ええ」


梨子ちゃんは相槌を打つ。
317 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:55:48.26 ID:ISz0KMwo0

千歌「どうして、オトノキ地方に来たの?」

梨子「うんとね……旅のやり直し、なのかな」

千歌「やり直し……?」

梨子「普通ポケモントレーナーが旅に出るのって、10歳くらいでしょ?」

千歌「うん、らしいね。チカたちは近くに研究所もなかったから、10歳のときに旅に出れた人はあんまりいないんだけど……」


果南ちゃんやダイヤさんが旅立って行ったのが、確か7年前とかだったから……前はウラノホシタウンでも10歳くらいで旅に出てたのかもだけど、


梨子「私もね、10歳のとき、タマムシシティから旅に出ることになってたの」

千歌「そうなの? ……なってた?」

梨子「うん……結果から言うと、旅には出られなかった」


梨子ちゃんは悲しそうにそう言った。


梨子「旅の前日にね、下見をしようと思って、タマムシの近くある7番道路に一人で行っちゃったの」

千歌「……」

梨子「そのときにね……噛まれたの」


梨子ちゃんはスカートの上から、左脚の内腿辺りをさすっていた。

たぶんそこを噛まれたってことだと思う。


千歌「……犬ポケモンに噛まれたってこと?」

梨子「うん。デルビルってポケモン。“ほのおのキバ”で噛まれて、大怪我だった」

千歌「……」

梨子「なんであのとき、一人で下見なんてしようとしちゃったのかなぁ……旅立ち前で浮かれてたのかも」

千歌「あはは……ちょっとわかるかも。チカもトレーナーの真似だって言って、ちっちゃいころから勝手に1番道路に出て怒られたことあるもん」

梨子「ふふ……なんかトレーナーとして旅に出るなんていうとちょっと大人になった気分になるもんね」


梨子ちゃんは自嘲気味に笑った後、話を続ける。


梨子「とにかく痛くて……熱くて……怖かったことはよく覚えてる。実際怪我の具合も相当酷かったみたいで、それから1年間はまともに歩けなかったくらいでね。……もちろんトレーナーとして旅立つなんてもってのほかで、私はお母さんのポケモンと、昔から仲の良かったチェリンボとずっと家の中に居たわ」

千歌「そうなんだ……」

梨子「でもね……それでも私は、お母さんから見たら、旅に出たそうにしてたんだと思う」

千歌「……そんなことがあったのに?」

梨子「……お母さんがね、タマムシシティでもちょっとした有名な芸術家なの。最初旅に出るときは、お母さんの薦めで……旅に出て、いろんなものを見てきて欲しいって言われて……でも、私がバカなことしたせいで全部出来なくなっちゃって……」

千歌「……」

梨子「お母さんのツテで図鑑も最初のポケモンを貰う約束を取り付けてくれてたのに、全部無駄になっちゃって……それからは機会もなくて、気付いたら16歳。お母さんは、怪我が完治した後も、ずっと旅立ちの機会を探してくれてたんだけど……そんなときに」

千歌「偶然、ここで条件に合う旅立ちの機会を見つけた……」

梨子「そういうこと」


言われてみれば、旅立つ3人は歳の近い人を選ぶって言ってたっけ……。

本来10歳くらいで旅に出る人が多いから、16歳や17歳みたいな半端な年齢で旅に出る人はかなり珍しい。実際私たち4人も地元の人間だけじゃ数が集まらなかったわけだし。
318 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:57:29.06 ID:ISz0KMwo0

梨子「これでやっと罪滅ぼしが出来るって……思ったの」

千歌「罪滅ぼし……?」

梨子「お母さんが、せっかく用意してくれた、舞台を私がめちゃくちゃにした……私の勝手で、めちゃくちゃに……」

千歌「そんな……」

梨子「お母さんの後押しで旅には出たけど……それでも、今回の旅立ち前もすごい心配してて……自分の育てたポケモンもたくさん持たせてくれた」


そう言って梨子ちゃんは腰から3つのボールを放った。


 「ブルル…」

梨子「一匹はこのメブキジカ。いつも桜の花を咲かせてる不思議な個体なの」


 「リコチャンリコチャン!!」

梨子「二匹目はこのペラップ。その場その場でいろんな声や音を記憶出来る不思議なポケモン」


メブキジカにペラップ……でも、私は三匹目に目を引かれた。だって……。


 「ドブルー…」

千歌「犬……ポケモン……」


筆のような尻尾の先から、桜色のインクを滴らせたポケモン。


 『ドーブル えかきポケモン 高さ:1.2m 重さ:58.0kg
  尻尾の 先から にじみ出る 体液で 縄張りの 周りに
  自分の マークを 描く。 5000 種類以上の マークが
  見つかっており その 独創性から 芸術家に 好まれる。』


梨子「三匹目はこの色違いのドーブル……芸術家のお母さんの相棒でね。三匹ともちっちゃい頃から私の面倒を見てくれてたから……犬ポケモンだけど、多少は平気なの」

 「ドブル…」


でも、ドーブルはペラップやメブキジカに比べると梨子ちゃんから距離が遠い。


梨子「ただ……ちっちゃい頃はあんなに仲良しだったのに、あのときから触ることは出来ない……」

千歌「……」

梨子「どうしても、犬ポケモンに触られるとパニックを起こしちゃって……ダメなんだ」


梨子ちゃんはそう言いながら、三匹をボールに戻す。


梨子「それでも、お母さんがドーブルを持たせてくれたのは……期待なのかなって」

千歌「期待……?」

梨子「芸術家として、私が旅の中で何かを見つけてくることを期待して……ね」

千歌「……そう……なのかな……」

梨子「……きっと、そうなんだと思う」


私はなんとなくもやもやとしたけど、梨子ちゃんがそういうなら、そうなのかもしれない。

会ったことのない梨子ちゃんのお母さんが何を考えて、梨子ちゃんにポケモンを託したのかまではさすがにわからないし。


梨子「だから、私は結果を出さないといけない……。まだ、芸術として残せそうなインスピレーションは見つけられてないし……正直それが見つかるのかわからない。……それなら、せめて他に何かの結果を……ジム制覇をしたら、こうして旅に送り出してくれたお母さんにも報えるのかなって」

千歌「……そっか」
319 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 14:01:00.28 ID:ISz0KMwo0

ここまで来て、やっと梨子ちゃんが何を焦っているのかがわかった気がした。

全部ではないにしろ……お母さんのために、梨子ちゃんは精一杯なんだ。


梨子「でも、それもここで終わりみたい……」

千歌「え……?」

梨子「だって……今日の私、見たでしょ? この地方にはデルビルは生息してないって言うのは先に調べてたんだけど……あんなに犬ポケモンが居る場所があるなんて知らなかったから」


確かに私も知らなかったくらいだし、カントー地方から来た梨子ちゃんが知らなくても無理はない。


梨子「さて……これから、どうしよっかなぁ……。私はこの先は進めないし……戻って、船で海路かな……」

千歌「……梨子ちゃん」

梨子「何?」


私は思わず、立ち上がって、手を差し伸べていた。


千歌「私と一緒に行こう」

梨子「え……」

千歌「あそこの犬ポケモンたち、人に慣れてるから寄って来ちゃうけど……変に刺激しなければ、十分素通り出来ると思う」

梨子「……」

千歌「それに、もしパニック起こしちゃっても、チカが近くに居れば今日みたいに助けてあげられるし」

梨子「いや、でも……悪いよ」

千歌「お互い目的地は一緒なんだし、折角ここまで来たのに、わざわざスタービーチまで戻るの?」

梨子「それは……。……でも、千歌ちゃんにそこまでしてもらうわけには……」

千歌「私たち、一緒に図鑑と最初のポケモンを貰った仲間……うぅん、友達でしょ?」

梨子「友達……」

千歌「困ったときはお互い様だよ!」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「だから、一緒に行こう!」

梨子「……」


梨子ちゃんがソロソロと手を伸ばす。

私はその手を強引に、掴む。


梨子「……!」

千歌「一人で乗り越えられないなら、二人で乗り越えよう! ううん、私たちは二人だけじゃないよ。ポケモンがいる!」
 「マグッ」

梨子「……うん……うんっ!」


精一杯想いを伝えたら、梨子ちゃんは私の手を握り返して、力強く頷いてくれたのでした。


320 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 14:01:37.39 ID:ISz0KMwo0



    *    *    *





小屋で夜を明かすために出した寝袋の中で、千歌ちゃんが寝息を立てている。


千歌「……えへへ……なかまがいっぱいー……ふえたー……」


というか、寝言を言っている。

明日は千歌ちゃんの厚意に甘える形になるけど……。

……明日を想像して、思わず震える手を、押さえつける。


梨子「……きっと、今乗り越えなくちゃいけないことなんだ……」


私は一人そんなことを呟きながら、


梨子「千歌ちゃん、ありがと……おやすみ」


少し遅れて、眠りに就くことにしました。


321 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 14:02:53.58 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |__●回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.19  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.20 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:68匹 捕まえた数:7匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.19 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.37 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



322 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:07:23.60 ID:ISz0KMwo0

■Chapter024 『ドッグランを駆け抜けろ!』





──4番道路。夜が明けて、十分視界が確保できるようになった頃。


千歌「梨子ちゃん! 行くよ!」

梨子「う、うん!」

千歌「マグマラシ、ムクバード、頑張って付いて来てね!」
 「マグッ」「ピピィッ」

梨子「メブキジカ、お願いね。チェリンボは振り落とされないように」
 「ブルル…」「チェリリ」


私と梨子ちゃんはメブキジカの背中に乗って。


千歌「そういえば、私が前に座ってて良いの?」


私は前でメブキジカに馬乗りする形、梨子ちゃんはそのすぐ後ろに座っている。


梨子「それなりに慣れが必要で、いきなり後ろに乗ると振り落とされちゃうと思うから……」

千歌「なるほど、了解!」


時間を経るほど、ポケモンたちが起き出してくる。雑談もほどほどに出発しなくちゃ。

もちろん、野生のポケモンたちも視界が確保され始めるこの時間帯にはすでに活動を始めてる子も多いけど、


千歌「とにかく、最短時間で駆け抜けよう!!」

梨子「うん! メブキジカ!」
 「ブルル!!!」


梨子ちゃんの合図でメブキジカが走り出した。





    *    *    *





千歌「──うわっとと!?」

梨子「千歌ちゃん!?」

千歌「だ、大丈夫! 確かに結構揺れるね……!」


全速力で走るメブキジカに掴まったまま、ドッグランを駆け抜ける。


梨子「ち、千歌ちゃんっ」

千歌「何!?」

梨子「う、後ろからっ」
323 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:09:00.64 ID:ISz0KMwo0

言われて半身を捻ると、早速後ろからジグザグマが追ってきているのが見える。

 『ジグザグマ まめだぬきポケモン 高さ:0.4m 重さ:17.5kg
  好奇心 旺盛な ポケモンで 何にでも 興味を 持つため
  いつも あっち こっちへ ジグザグ 歩いている。 そのためか
  よく いろいろな ものを 拾ってくるため 探険家に 重宝される。』

ジグザグに走っているため、そこまで速くないけど、

メブキジカも二人を乗せている分スピードが落ちている。

でも、一匹ずつ相手するのは効率が悪い、


千歌「マグマラシっ!! “えんまく”!!」

 「マッグッ」


私たちの横を併走するマグマラシに指示を出す。

 「ジグザ!?」「クマー!!」

噴出した黒煙に目をくらまされて、何匹かのジグザグマの足が止まる。



千歌「そういえば、ジグザグマは梨子ちゃん的に犬ポケモンに入るのー!?」


風を切って走るメブキジカの背中の上で声を張り上げて訊ねる。


梨子「い、一応タヌキポケモンかなって思ってるけどー! 犬と言われれば犬かもー!?」


と、なると、他の犬ポケモンに比べれば犬っぽさみたいな怖さはあまり感じてないのかもしれない。

なら、必要以上の迎撃は無用。前方に視線を戻す。

その刹那──。


 「ワンワンッ」

梨子「ひっ!?」


前方から鳴き声がして、梨子ちゃんの身体が大きく揺れる。


千歌「梨子ちゃん!?」


咄嗟に身を翻して、梨子ちゃんを抱き起こ──せずに、一緒に落ちそうになる。


千歌「わわっ!? ムクバード!?」

 「ピピィーーー!!!」


咄嗟にムクバードを呼び寄せて、リュックを引っ張らせる。

 「ピピピィーーーー!!!」

ムクバードのパワーで後ろ向きに引っ張られ、


千歌「……せ、セーフ!!」


体勢を崩す、すんでのところで持ち直す。


千歌「梨子ちゃんは!?」

梨子「ち、千歌ちゃん……っ!!」


腰に抱きついている。一先ずは落ちていない。
324 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:10:55.03 ID:ISz0KMwo0

千歌「なら、とりあえず……!!」


声の主を探す。

ただ、私も犬ポケモンは好きだし、あの犬ポケモンの代表みたいな鳴き声は知っている。

 「ワンッ ワンッ!!!」


千歌「ガーディ!!」


 『ガーディ こいぬポケモン 高さ:0.7m 重さ:19.0kg
  嗅覚に 優れ 一度 嗅いだ 臭いは 何が あっても
  絶対に 忘れない。 見知らぬ者や 縄張りを
  侵す 者には 激しく 吠え立てて 威嚇 する。』


ガーディの姿を認めると、同時に攻撃態勢に移ってるのが確認できる。


千歌「マグマラシ! “ひのこ”で迎撃!」

 「マグ!!」

 「ウーーワウッ!!」


ガーディの飛ばしてくる、“ひのこ”をマグマラシの同じ技で撃ち落す。

ガーディは基本的に、縄張りからは動かない。

攻撃さえやり過ごして、縄張りを抜ければ問題はない。


 「ピィー!! ピィー!!」


千歌「ムクバード!? どうしたの!?」


今度はすぐ近くを飛んでいたムクバードが声を挙げる。

ムクバードの視線を追うと、背後から──土煙を上げて一直線に追って来る影、


千歌「つ、次から次へと……!!」


 『マッスグマ とっしんポケモン 高さ:0.5m 重さ:32.5kg
  獲物 目掛けて 一直線に 突っ走る。 時速 100キロを
  超える スピードを 出すが 緩やかな カーブを 曲がるのは
  苦手な ため 直角に 折れ曲がって 避ける。』


千歌「100キロ!? それは無理ー!!?」

梨子「ち、チェリンボ!!」
 「チェリリ!!」


図鑑を見て思わず叫ぶ私の後ろで、梨子ちゃんがチェリンボに指示を出す。


梨子「“くさぶえ”!」
 「チェリ〜♩♪♬」


チェリンボが自分の頭の葉っぱで音楽を奏でると──

程なくして、土煙が止まる。


梨子「よ、よかった……一発で眠った……!!」

千歌「梨子ちゃん、ナイス!!」

梨子「でも、あんまり命中しない技だから、あんまり迎撃に向いてないのー!」
325 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:15:44.40 ID:ISz0KMwo0

──スタート地点から、岩山を目印にして、だいたい中腹くらいまで駆け抜けてきた、

ジグザグマの群れと、ガーディの縄張りをやり過ごして……。

ムーランドやグラエナが率いてる群れはもっと手前だったし、最初の山を抜けた感じだ。


 「ブルル!!!」

梨子「メブキジカ!?」


今度は前方でメブキジカが声をあげた、視線を前方に集中すると、


千歌「ブルーの群れっ!!」


 『ブルー ようせいポケモン 高さ:0.6m 重さ7.8kg
  顔は 厳ついが 実は 結構 臆病。 人に
  よく懐き よく甘える。 必死に 威嚇する 仕草と
  顔に ギャップが あり それが 女性に 人気。』


今度はブルーの集団のようだ。

猛進してくるメブキジカを見て、ブルーたちは散り散りに逃げているが、逃げ遅れた何匹かが前方でうろうろしている。


千歌「避けられるっ!?」

梨子「た、たぶん無理っ!!」


ブルーたちはあちこちめちゃくちゃに走り回っているため、避けるのは難しいと判断し、


梨子「ど、どうしようっ!! 千歌ちゃんっ!!」


梨子ちゃんから焦りが見える。

この速度で迂回も出来ないけど、引き帰したらもっと意味がない。


千歌「梨子ちゃん! ちょっと、目瞑って、チカの背中に顔押し当てててっ!」

梨子「ええっ!?」

千歌「いいからっ!!」

梨子「し、信じるからねっ……!!」


梨子ちゃんが顔を押し付けた感触を背中で確認しながら、


千歌「メブキジカ!!」
 「ブルル!!!」

千歌「“メガホーン”で走り抜けながらブルーを投げ飛ばせる!?」
 「ブルル!!!!」

千歌「お願いね!!」


今までの行動を見ていても、梨子ちゃんを守りたい気持ちが一番伝わってくる、このメブキジカなら、“おや”じゃないチカの言うことも多少は訊いてくれるはず……!!


千歌「ムクバード!!!」
 「ピピーー!!!」

千歌「飛んでった、ブルーお願いね!」
 「ピピーー!!!!」


それだけ伝えると、ムクバードはそのまま高度をあげていく。

前方、進行ルート上に逃げ遅れたブルーが2匹!

 「ブルル!!!!」

メブキジカが走りながら、首を低く下げ、ツノで掬い上げる姿勢を取る、
326 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:16:43.02 ID:ISz0KMwo0

梨子「……っ!!」


 「ブルル!!!!」

完全にびびって逃げ遅れたブルーをメブキジカのツノが掬い上げて、

 「ブルー!?!?」

上に向かって放り投げる。

上空に放り投げられた2匹のブルー。

 「ピピー!!!」

その二匹は空中でパワーが自慢のムクバードがキャッチする。


千歌「ナイス、ムクバードっ!! 安全な場所に降ろしてあげたら、追いついてきてー!!」

 「ピピーッ!!!」


千歌「梨子ちゃんっ! もう顔あげていいよっ!!」

梨子「ぬ、抜けたの……っ!?」

千歌「メブキジカのお陰でどうにかっ!!」


全速力で駆けて来て、もうじき岩山だ、

その瞬間──前方を稲妻の大群が走る。


梨子「ら、ラクライの群れ……!!」

 『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg
  電流で 足の 筋肉を 刺激して 爆発的な 瞬発力を
  生み出し 目にも 止まらぬ スピードで 走る。 その際
  空気の 摩擦で 電気を 発生させて 体毛に 蓄える。』


バチバチと静電気の音がする。

稲妻がメブキジカを併走している。

そのうちの一匹がバチリと“スパーク”する。


梨子「きゃぁっ!?」

千歌「い、威嚇してきてる!?」


このドッグランの中ではかなり好戦的なポケモンのようだ。


千歌「戦意があるなら、もうここからはバトルだよねっ! マグマラシっ!!」
 「マグッ」

千歌「“ニトロチャージ”!!」
 「マグッ!!!」


マグマラシが全身に炎をまとって、加速する。

 「ライ!?」「ギャウ!?」「ラク!!!?」

加速しながら、稲妻の閃光たちに炎の体当たりをし、一匹ずつ倒していく。


千歌「いいよ! マグマラシ! このまま、岩山を迂回して──」


瞬間、


梨子「キャァッ!?」


梨子ちゃんの悲鳴。
327 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:17:41.26 ID:ISz0KMwo0

梨子「“マジカルリーフ”ッ!?」
 「チェリリリ!!!」

 「ギャウッ」


千歌「梨子ちゃんっ!?」

梨子「だっ……だいじょぶっ!! どうにか倒した……っ!!」


どうやら仕留め損なったラクライが飛び掛ってきたようだが、梨子ちゃんがチェリンボで迎撃したようだ。


千歌「うんっ!!」


出来るだけスピードを維持しながら、岩山を迂回し始める。

その際、チラリと岩山の山肌を見てみると、ドッグランに初めて訪れた際にも見えた、ポケモンたちが点々としていた。


梨子「千歌ちゃんっ!!!!!」


また梨子ちゃんが突然私の名前を叫んだ、

──瞬間、

視界が回転した、


千歌「なっ!!?」


──メブキジカから投げ出された!?


梨子「──“グラスフィールド”ッ!!!!!!!」


視界が回転するなか、梨子ちゃんの声が響き渡る。


千歌「っ!!」


草の生い茂った地面を身体が転がる。


千歌「いったぁっ……!!」


投げ出されて、全身を打ったけど、梨子ちゃんの機転で硬い地面に身体を打ち付けずに済んだ。


千歌「そうだ、梨子ちゃんっ!!?」


視界が揺さぶられたせいで、目が回っているが、どうにか身体を起こして、状況を確認する。


 「ブルルッ…」


少し離れたところで、メブキジカが蹲っているのが目に入ってきた。


千歌「メブキジカ!」


そして気付く、何かに“ふいうち”されたんだと、

たぶん、岩山の影に隠れていたポケモンがいたんだ……!!


千歌「梨子ちゃんはっ!?」

 「チェリリリ!!!」
328 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:19:23.07 ID:ISz0KMwo0

チェリンボの声がして反射的にそっちを見る。

声のした方向に、


梨子「……っ」


梨子ちゃんが倒れてぐったりとしていた。

そして、その近くに赤い体毛の狼のようなポケモンの姿があった、

直感がそいつに攻撃されたんだと告げてくる。


千歌「梨子ちゃん!!」

 「ルガン…」

梨子「……ぅ……」
 「チェリリ!!!」


そいつは赤い目を冷酷に光らせて、梨子ちゃんに鋭い爪を振り下ろそうとしていた、


千歌「マグマラシーーーー!!!!」


三半規管が混乱の中から戻ってきていない。

今、マグマラシがどこにいるかわからなかったから、とりあえず指示が届くように叫ぶ。

──バチバチと、音が聴こえる。炎熱を纏って加速したマグマラシが、先ほどの稲妻たちのように、今度は電気を纏って走っている。


千歌「“ワイルドボルト”ーーーーー!!!!!!!」

 「マッグゥ!!!!!!」

 「ルガン!!!?」


視線を梨子ちゃんに戻すと、そこにはパチパチと放電の余韻を残した、マグマラシ。

そして、その少し離れたところにさっきの赤いポケモンが倒れていた。


千歌「マグマラシッ! 信じてたよ!」


足を踏ん張って立ち上がる。

まだ少し足はふらつくけど、そのまま梨子ちゃんの元へ走る。


千歌「梨子ちゃん!!」

梨子「ぅ……っ……千歌……ちゃん……っ」


蹲る梨子ちゃんに声を掛けると、ぼんやりとした瞳で私を捉えている。

どうやら、意識が朦朧としているようだ。

メブキジカから放り出された、私とチェリンボを庇って、軽く頭を打ったのかもしれない。


千歌「あとちょっとだから……っ!!」


梨子ちゃんに肩を貸す形で立ち上がらせる。


梨子「千歌……ちゃん……」

千歌「メブキジカ、戻してあげて……!! 戦闘不能だから……!!」

梨子「う……ん……」


メブキジカの近くまで梨子ちゃんに肩を貸しながら、移動する。
329 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:20:03.65 ID:ISz0KMwo0

 「ブルルゥ…」
梨子「メブキジカ……戻って……」

千歌「よし……あとは、歩い……て……」


私は周囲を見回して、


千歌「……うそ……」


愕然とした。


 「ルガン…」「ガルルルル…」


気付けば、私たちの周りには、前方に灰色の狼ポケモンの群れが、後方にさっきのと同じ赤色の狼ポケモンの群れが集まってきていた。


千歌「囲まれてる……」


完全にあのポケモンたちの縄張りに迷い込んだらしい、


梨子「千歌……ちゃん……?」

千歌「……っ……大丈夫、後ちょっとだから……っ」


梨子ちゃんの意識が朦朧としてて、かえってよかったかもしれない。

意識がはっきりしていたら、この状況だと、どうやってもパニック状態になってしまう。


千歌「ふー……」
330 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:20:59.50 ID:ISz0KMwo0

落ち着け。

どっちにしろ脱出するなら後退はダメだ。

なら前方の灰色のポケモンを倒すべきだ、

勝算は? ……ないかも……。でもやるしかない、


千歌「マグマラシ……!!」


私が前方の群れに標的を定めた、瞬間。


 「──そこのあんたたち!! 耳塞ぎなさい!!」


よく通る、少し幼さを感じる声が一帯に響いた。


千歌「!?」


だけど、そんな一瞬で咄嗟に耳を塞ぐ余裕なんてなく、


女性の声「ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!!」

 「フィイイアアアアアアアアア!!!!!」


千歌「……っ!!?」

梨子「……っ」


ビリビリと大地を振るわせるような、轟音が響き渡る。


千歌「……梨子……ちゃ──」


手で塞ぐとか、そんなことは関係なしに、その轟音の衝撃で、私の意識はそこでプツリと落ちてしまった。


331 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:22:33.84 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  |●○_ __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:70匹 捕まえた数:7匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



332 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:12:14.05 ID:ISz0KMwo0

■Chapter025 『旅立ちの船』 【SIDE Hanamaru】





──ウチウラシティ。早朝。

ジムの前でこれから旅に出ると言うところで、

マルたちの旅立ちの瞬間をダイヤさんと鞠莉さんが見送りに来てくれていました。


ダイヤ「ルビィ、身体には気をつけるのですよ?」

ルビィ「うん」

ダイヤ「もし何かあったら、ポケギアにすぐ連絡を入れるのですよ?」

鞠莉「ダイヤ、そんなに心配してたら、ルビィたちが旅に出づらいでしょ?」

ダイヤ「それは……」


鞠莉さんが過保護なダイヤさんを嗜めるようにそう言う。


ルビィ「お姉ちゃん、心配しないで」

ダイヤ「……」

ルビィ「花丸ちゃんもいるし」

花丸「ずら」

ルビィ「何より、皆がいるから」
 「チャモ」「ピピィ」「アブブ」「クーーマーー」


ルビィちゃんの4匹の手持ちが鳴き声をあげる。


ダイヤ「……わかりました」


ダイヤさんはそれでも尚不安そうにルビィちゃんを見つめる。


ルビィ「ぅ、ぅゅ……お姉ちゃん。ホントに大丈夫だから……」


そんな、二人のやり取りを眺めていると、


鞠莉「……マル。ちょっと」

花丸「ずら?」


鞠莉さんがこそこそと話しかけてくる。


花丸「なんですか?」

鞠莉「今回の旅、ルビィのサポートがメインになるとは思うんだけど……そのついでいいから、図鑑収集……してくれないかしら」

花丸「図鑑収集……捕獲ってことですか?」

鞠莉「Yes. 一応データ集めって名目で送り出してる割に、旅に出てる子、みんなちゃんと捕獲してくれてるのか怪しいのよね……」

花丸「……言われてみれば」


ルビィちゃんや千歌ちゃんは捕獲が苦手って言ってたし、先に旅に出た二人も話を聞く限り、あんまり図鑑収集に積極的なのかは怪しい。

海のポケモンに関しては曜ちゃんに任せちゃってもいいのかもしれないけど。


花丸「尽力するずら」

鞠莉「お願いね、マルのこと頼りにしてるから……!」
333 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:13:36.60 ID:ISz0KMwo0

鞠莉ちゃんは両手を合わせて、軽くウインクした。

ホントに期待されてるみたい……頑張ろう。


鞠莉「じゃ、マル。あなたも先生に最後の挨拶して来なさい」

花丸「あ、はーい」


そう言われて、ダイヤさんとルビィちゃんの元に駆け寄る。


花丸「ダイヤさん」

ダイヤ「花丸さん……」

花丸「ルビィちゃんのことはマルがしっかり見守ってるから、心配しないで」

ダイヤ「……頼もしいですわね」


ダイヤさんは思いに耽るように一度目を瞑ってから、

マルとルビィちゃんのことを抱き寄せた。


ルビィ「わわっ、お姉ちゃん?」

花丸「ダイヤさん……?」

ダイヤ「ちょっと変な旅立ちになってしまったかもしれないけれど……二人とも、旅を楽しんできてくださいね」


背中に回された腕に力が込められる。


花丸「ダイヤさん……」

ルビィ「お姉ちゃん……行ってくるね」

ダイヤ「ええ……」

鞠莉「ふふ」


少し離れたところで鞠莉さんが微笑ましそうに笑う。

──程なくして、恩師と旅立ち前の抱擁を終えて。


ダイヤ「最後に……これは餞別ですわ」


ダイヤさんが“ほのおのジュエル”と“くさのジュエル”を差し出してくる。


ダイヤ「千歌さんと曜さんにも渡したものです。花丸さんなら、使い方も知っていますよね?」

花丸「はい」


“ほのおのジュエル”をルビィちゃんが、“くさのジュエル”をマルが受け取る。


ダイヤ「……それと──」

鞠莉「ダイヤ」

ダイヤ「な、なんですか」

鞠莉「名残惜しいのはわかるけど、いい加減送り出してあげましょ、ね?」

ダイヤ「……そうですわね」


ダイヤさんはマルたちに向き直って、
334 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:16:32.26 ID:ISz0KMwo0

ダイヤ「二人とも……」

ルビィ・花丸「「はい」」

ダイヤ「いってらっしゃい」

ルビィ・花丸「「行ってきます!」」


マルとルビィちゃんの旅が、始まりました。





    *    *    *





花丸「ところで、ルビィちゃんはどこを目指すつもり?」


そういえば、目的は聞いたけど、目的地を聞いていなかった。


ルビィ「んっと……理亞さんの情報を集めたいから……とりあえず、人の多いところに行ってみるのがいいのかな……」

花丸「人が多い場所……この地方だと、おっきな街はセキレイシティとローズシティ……次にダリアシティかな」

ルビィ「あとフソウ島も観光地だから、人がたくさん来るって聞いたよ」

花丸「確かに……そうなると、マルたちはまず船でフソウ島に渡ろうか」

ルビィ「うんっ」


と、いうわけでウチウラシティの東の港に足を向ける。

その道すがら、ふとさっき鞠莉さんに言われた話を思い出す。

──旅に出た他の子たちの話。


花丸「そういえば、ケロマツを貰った人ってどんな子なんだろう」

ルビィ「言われてみれば……まだ一度も会ってないよね」


所謂、最初の三匹のうち、一匹を連れている、マルたちの同期。


ルビィ「確か、ウラノホシタウンとかウチウラシティの外の人って言ってたよね」

花丸「この辺り子供が少ないから……」

ルビィ「あはは、そうだね……それこそ子供はルビィたちくらいしか……」

花丸「……昔は居たんだけどね」

ルビィ「昔?」

花丸「うん、子供の頃ウチウラシティのはずれに友達が住んでたずら」

ルビィ「そうなの……? ルビィは会ったことないけど……」

花丸「ルビィちゃんは、ちっちゃい頃はウラノホシタウンの方の実家からあんまり出てなかったからじゃないかな?」

ルビィ「確かに……そうかも……。花丸ちゃんのお家は1番道路の脇道にあるお寺だもんね」

花丸「元気な子でね。よくウチウラシティから、マルを連れ出しに家まで来てたんだよ」

ルビィ「そうなんだぁ」

花丸「うん、いっつもムウマを連れてる子でね。『わたしはポケモンマスターになるんだから!』って言うのが口癖な子だったずら。9歳くらいのときに都会の街に引っ越しちゃったんだけど……」


話が脇道に逸れてしまったけど……。ルビィちゃんと雑談しながら、歩を進めていると、波止場が見えてくる。
335 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:18:34.31 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「あれ?」

花丸「ずら?」


そして、二人してその波止場の様相に、思わず疑問の声をあげた。


ルビィ「お船……なんで、あんなに停まってるんだろう?」


船着場に溢れんばかりに着けられた船の大群を見て、ルビィちゃんが首を傾げた。





    *    *    *





ルビィ「──え!? 船出てないんですか!?」


港についたマルたちは早速出鼻を挫かれました。


船乗り「13番水道でヒドイデが大量発生しててね……怪我人も出てるらしいから、安全を考慮して一旦定期便を止めてるんだよ」

花丸「他にフソウ島へ行く方法はないんですか……?」

船乗り「一応、ウラノホシタウンの南の港から船は出てるには出てるけど……」

ルビィ「あそこの港ってちっちゃいし……お船って一日に一回あるかないかだよね……」

花丸「それに13番道路を通る船に比べると、かなり遠回りだから、何倍も時間がかかるずら……」

ルビィ「どうしよう……ウラノホシまで行ってみる……?」


二人して、頭を抱える。


船乗り「申し訳ないね……ただ、こればっかりは自然の問題だから」

ルビィ「うぅ……大丈夫です……他を当たってみます……」


口ではそうは言うものの、ルビィちゃんはガックリと肩を落として、落ち込んでしまう。

マルはルビィちゃんと港沿いに停泊されてる海岸を沿うように歩きながら、


花丸「……西に進んで、ダリアシティを目指す……?」


そう提案する。

まあ、選択肢はそんなにないし……。


ルビィ「うーん、どうしよ……」


二人して波止場に泊めてある船を眺めるが、確かに出港しようとする船は個人のものを含めてほとんどない。

途方に暮れたまま、ぼんやりと船着場を歩いていたそのとき、


 「あんれー? お嬢ちゃんたち、どうしたさー?」


聞き覚えのある間延びした口調で声を掛けられた。


花丸「あ、昨日の牧場おじさん」


声の方に振り返ると、昨日メリープたちを運んでいた、牧場おじさんでした。

見るとおじさんは、手持ちらしきガーディを使って、メリープを船に誘導しているところだった。
336 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:23:36.84 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「おじさんも、港で足止めされてるの?」


ルビィちゃんがそう訊ねると、おじさんは首を振って、


牧場おじさん「いんやー。メリープがみんな乗ったら、このままフソウ向かってに出るつもりさー」


そう答える。


花丸「大丈夫なんですか……? 今13番水道って、ヒドイデが大量発生してるって……」

牧場おじさん「らしいなー。だがまー。仕事だし、しょうがないさー」

ルビィ「で、でも危ないんじゃ……」

牧場おじさん「それでも漁師たちは早朝に出て行ったしなー。行く人は行くのさー」

ルビィ「ぅゅ……お仕事って大変なんですね……」


そこで、ふと……マルの頭に妙案が浮かんだ。


花丸「この船っておじさんのなんですか?」

牧場おじさん「コメコシティの皆で共同で使うものだけどなー」

ルビィ「おじさん、お船も運転……操縦……? 出来るんですね……!」


船は操舵ずら。

まあ、そんなことはどうでもよくて、


花丸「ねーねーおじさん」

牧場おじさん「なんだいー?」

花丸「前言ってた、お礼って……今お願い出来たりしないですか?」

ルビィ「花丸ちゃん……?」


神様仏様閻魔様、ごめんなさい。マルは今からちょっとだけ、人の足元を見る悪い子になるずら──。





    *    *    *





──船に揺られて、数十分。

ウチウラシティの港から、もうそれなりに離れた頃。

 「メェー」    「メェー」
ルビィ「それにしても、びっくりしたよ……マルちゃんが突然あんなこと言い出すなんて」
  「メェー」
                        「メェー」
花丸「オラも普段なら、あんまりこういうことはしないけど……ルビィちゃんはフソウタウンに行きたがってたし、頼んでみようって思って」
「メェー」
             「メェー」
ルビィ「花丸ちゃん……お陰で、島まで渡れそうだね。ありがとっ」
   「メェー」                  「メェー」
          「メェー」
花丸「まあ、こういう無茶も旅の醍醐味かなって……」


さて、マルが何をお願いしたのか。

まあ、この鳴き声を聴いてれば、誰でもわかると思うけど……。

337 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:24:52.49 ID:ISz0KMwo0

────────
──────
────
──



花丸「──マルたちもフソウ島まで、一緒に乗せてもらえませんか?」

ルビィ「え、花丸ちゃん!? そんないきなりはおじさんに迷惑だよぉ……!!」

牧場おじさん「別に構わないさー」

ルビィ「いいの!?」


ダメもとで頼んでみたけど、おじさんはすんなりと了承してくれる。


牧場おじさん「ただ、何人も人が乗る用に出来てないからなー 乗るんだったらー……」


おじさんはメリープたちを積んでいる、積荷室の方を見る。


花丸「それでも大丈夫です。ね、ルビィちゃん」

ルビィ「え!? う、うん! 大丈夫ですっ!」


牧場おじさん「そうか、じゃあ、ちょっと窮屈かもしれないけどなー乗り込んでくれるかー?」



──
────
──────
────────



──と、言うわけで。

 「メェー」「メェー」「メェー」

マルたちは、メリープたちと一緒に海の上を運ばれている。


ルビィ「ぅゅ……それにしても、メリープさんたちって一匹一匹がなんか……もこもこなせいで……見た目以上に狭いかも……ボールに入れて運んだりしないのかな……」
 「メェー」 「メェー」
    「メェー」
花丸「ボールに入れると、それがストレスになって毛の質が落ちちゃうらしいよ」
   「メェー」         「メェー」
ルビィ「この子たち、注文されて運ばれてるって言ってたもんね……ぅゅ……それじゃあ、ルビィたち一緒に乗っちゃってよかったのかな……メリープさんたちのストレスにならないかな……」
               「メェー」
花丸「あんまり考えすぎずに気軽にいくずら。どっちにしろ、何が起こっても、もう海の上に出ちゃった以上、泳げるポケモンを連れてないマルたちはどうにも出来ないし……」
  「メェー」   「メェー」
ルビィ「マルちゃん! さらっと怖いこと言わないでよっ!? ホントに沈んだりしたらシャレにならないよっ!?」
      「メェー」                      「メェー」「メェー」
花丸「それにしても、メリープの綿毛ってふわふわで気持ちいいずらぁ……」
  「メェー」           「メェー」
ルビィ「もう……のんきなんだから……」
         「メェー」
花丸「こういうのは、なるようになれだよ。それに……旅は“みちずれ”、あの世行きって言うでしょ?」
  「メェー」             「メェー」
ルビィ「聞いたことないよ!? そんなことわざ!?」
       「メェー」

どっちにしろ、ほとんど身動きが取れない状態で運ばれるんだし、考えるだけ無駄だよね。


花丸「お昼寝でもして、のんびり待ってればそのうち着くずらー……」
  「メェー」              「メェー」
ルビィ「ぅゅ……まあ、完全に行く充てがないよりはいいけど……」
           「メェー」


マルがメリープたちの中で横になると、

「メェー」

一匹のメリープが、マルの顔の辺りに寄ってくる。
338 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:26:19.71 ID:ISz0KMwo0

花丸「君も一緒にお昼寝するずら?」
 「メェー」


なんか気の合う子発見かも。

ふかふかのメリープの身体に頭を乗せる。
 「メェー」


花丸「ルビィちゃんもお昼寝、するずら」

ルビィ「……花丸ちゃん、たまに千歌ちゃん以上に肝が据わってるなって、思うことあるよ……」

花丸「あはは、ありがとー」

ルビィ「……はぁ」


マルはもこもこに包まれて、目を瞑る。

ちょっぴり、幸せな気分で、リラックスしていると──だんだんと意識がまどろんできた。

……うん、このままフソウ島に着くまで一眠りしよう……。

おやすみなさん。





    *    *    *





花丸「…………zzz」
 「メェー」

ルビィ「花丸ちゃん、ホントに寝ちゃった……」


よくこんな状況で寝られるなぁと、もはや呆れるというより、関心してしまう。


牧場おじさん「ルビィちゃんも寝てていいだよー?」


前の操縦席からおじさんがそう声を掛けてくる。


ルビィ「あはは……ルビィは何かあったら怖いから……」

牧場おじさん「そうはいってもなー思った以上に今日の海は平和さー。ヒドイデも話に聞いてたほどいないみたいだしなー」

ルビィ「そうなんですか?」

牧場おじさん「大量発生の後の対処が早かったのかもなー。本当に今日定期便が止まってたのは、大事をとってだったのかもしれないなー」


誰かすごい人がヒドイデの群れをやっつけてくれたのかな? それだったら、いいんだけど……。


牧場おじさん「ほらー。もうフソウ島見えてきたさー」


おじさんに言われて、

 「メェー」
ルビィ「ちょっと、ごめんね、メリープさん……」


メリープを掻き分けて、船首の方に移動する。

前方の窓から、外を確認すると、確かに前方に島が見えてきていた。


ルビィ「あれが、フソウ島ですか?」

牧場おじさん「そうさー ここまで来ればもう心配ないさー。窮屈かもしれんが、もうちょっとだけ我慢してなー」

ルビィ「は、はい」
339 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:27:53.89 ID:ISz0KMwo0

そう言って、ルビィはお船の窓から、ぼんやりと目的地の島を眺める。

あそこがルビィたちの最初の目的地……まあ、たぶん経由するだけだけど。

おじさんの言う通り、見えるところまで来てしまえば安心感はだいぶ増してきて。

あとは徐々に近付いてくる、島でこれからどうするかを考えようかな。

……とりあえず、理亞さんの特徴を伝えて、知ってる人が居るか探す、とかかな?

お姉ちゃんや鞠莉さんの口振りだと、肖像画を元に作られた指名手配書が全国にばら撒かれちゃうから、その前に何か情報を得られればいいんだけど……。

あ、でもそれはそれで情報を集めやすくなるのかな……?

そんなことをぼんやりと考えながら、ルビィは再び前方の島に視線を戻す。

さっきと変わらず、同じように、島が前方に見える。


ルビィ「……?」


何か、違和感を覚えた。

なんだろう……?


牧場おじさん「……? なんだー?」


どうやらおじさんも何か違和感を覚えたようだ。


ルビィ「どうかしたんですか──」


ルビィがそう言った瞬間、


ルビィ「ぴぎっ!?」

牧場おじさん「ぬわー!?」


──ガタンと船が揺れ、その振動で前につんのめって、貨物室の壁におでこをぶつける。


ルビィ「い、いたい……」


……いや、それどころじゃない。

ルビィは、再び船内のメリープたちを掻き分けて、花丸ちゃんの居るところに駆け寄ってから、


ルビィ「は、花丸ちゃん!! 起きて!!」


花丸ちゃんを揺する。


花丸「……ずら……?」


花丸ちゃんは眠そうに目をこすったあと、


花丸「ルビィちゃん、おはようずら……」
 「メェー」


寝起きの挨拶を言う。


ルビィ「それどころじゃないよっ!!」

花丸「ずら?」


ルビィはそう言って、船の両側部についている、覗き窓を指さす。

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。
340 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:28:20.95 ID:ISz0KMwo0

花丸「すごいスピードずらぁ……未来ずらぁー……」

ルビィ「そうじゃなくって!!!!」

花丸「ずら……?」

ルビィ「逆なの!!!」

花丸「逆……?」


花丸ちゃんは寝起きの頭をふるふると軽く振ってから、もう一度窓の外を見て、


花丸「え……ど、どうなってるの、これ?」


ルビィに訊ねてきた、


ルビィ「ルビィにもわかんないけど……!!」


窓の外を見る。

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。

──船の本来の進行方向とは……真逆に。


341 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:28:47.56 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【13番水道】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥●  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.14 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.14 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.12 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:4匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.13 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:13匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



342 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:50:08.75 ID:ISz0KMwo0

■Chapter026 『開催! ビギナーコンテスト!』 【SIDE You】





──さて、件の期待の新人、曜のデビュー戦を見ようと、久しぶりにビギナーランクの会場に私は訪れたのだが、

観覧用の関係者席に見知った人物を見かける。


あんじゅ「ことり……来てたのね」

ことり「あー、あんじゅちゃん! 久しぶりだね〜」
 「ホーホ」


彼女はモクロー抱きかかえながら、オペラグラスの度を調整していた。


あんじゅ「全く、今週はいろんな人に会うわね……」

ことり「いろんな人?」

あんじゅ「一昨日くらいに、志満に会ったのよ。たぶん、今日も会場にいると思うわ」

ことり「わっ! 志満ちゃんも来てるの? それなら、関係者席に通してあげればよかったのに」

あんじゅ「志満は普通の観客席が好きだからね。誘っても断られると思うわ」

ことり「んー……確かに関係者席って、ちょっと遠いもんね。ことりも前の席行こうかな〜?」

あんじゅ「随分のんきだけど……仕事は大丈夫なの?」

ことり「んー? んー……どうかな……」

あんじゅ「どうかなって……」

ことり「まあ、これも仕事みたいなものだからっ! それにね、昨日急に衣装のアイデアが降って来ちゃって、メリープの綿毛を発注しちゃったから、届くまで帰れないんだ〜」

あんじゅ「わざわざ、フソウに送って貰う様に頼んだの……?」

ことり「うん! 会場に届くと思うから、後で取りに行くね」

あんじゅ「……そういうのは宿泊先とかにしてもらえないかしら……」


長い付き合いだし、自由人だと言うのは知っているけど……。

ここ数年でそれに拍車が掛かった気がする。


ことり「ところであんじゅちゃんこそ、ビギナーランク会場に顔出すのって珍しいよね?」

あんじゅ「志満の知り合いが今日コンテストデビューするから、見に来たのよ」

ことり「え、ホントに? どの子かな」

あんじゅ「たぶん、あなたなら見ればわかると思うわ」

ことり「?」


──さて、お手並み拝見と行きましょうか。曜。



343 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:51:21.55 ID:ISz0KMwo0

    *    *    *





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、本日も新人コーディネーターたちの最初の羽ばたきの場!! ビギナーランク大会のスタートです!!!』

司会『さあ、早速ですが、出場するポケモンとコーディネーターの入場です!!』

司会『エントリーNo.1 クロバット! エントリーNo.2 ライボルト! エントリーNo.3 バタフリー! エントリーNo.4 ラプラス! となっております──』

司会『……? エントリーNo.4のポケモンとコーディネーターが見当たりませんね……。……ん、何々? 準備に戸惑ってて、少し遅れてる……? 成程、こういうハプニングもビギナーランクならではで、微笑ましいですね!』

司会『……ですが、ステージにあがれば、ここは勝負の場でもあります! 一組足りない状態ですが、早速一次審査を開始しようと思います!!』





    *    *    *





ことり「どの子が志満ちゃんの知り合いの子?」

あんじゅ「……ラプラスのコーディネーターよ」

ことり「ありゃりゃ、はじめてで緊張しちゃったのかな?」





    *    *    *





司会『さて、そろそろ集計の時間に──』

曜『ち、ちょっと待ってくださーい!』

司会『おっとぉ! ここでラプラスのコーディネーター、ギリギリ一次審査に間に合ったようです! アピールタイムは少ないですが、加点0ではなくなりまし──おお!? これは!!』





    *    *    *





ことり「!!」


横で見ていた、ことりが思わず立ち上がった。


あんじゅ「……丸一日できっちり、仕上げてきたわね」





    *    *    *

344 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:56:57.97 ID:ISz0KMwo0



私がラプラスと一緒に会場に踊りだした瞬間、会場中のペンライトが、続々と私たちへの投票色──青色に変わっていくのがわかった。

──大成功だ。


 「キュゥー」


司会『こ、これは……!! ラプラス、全身に衣装があしらわれています!!』


今日のイメージは──中世貴族。

前に大きく鍔の伸びたボンネット帽子。右耳の辺りにアクセントとして、中央に宝石をあしらったコサージュ。

全体にゆったりとした深い青色のドレスを纏い、首元に大きな白いリボンを拵えた。

一日の突貫作業で作ったから完璧とは言えないけど……手応えはある……!!


司会『ビギナーランクで遅刻から、まさかの自作衣装でのフルコーディネート!! 会場がどよめきから、歓声に変わっていきます!!』


曜「よっし……!!」


準備時間の短さにやや面食らったけど……逆に目立てて、よかったかもしれない。


司会『おっと、ここで一次審査の投票締め切りです!! ここからは二次審査! 技によるアピールのお時間です──!』





    *    *    *





ことり「……!! ……!!」


ことりが声にならない声を出している。

内心叫びたくて堪らないのだろうけど、

さすがにマナーを弁えているというか、興奮しても大声をあげて騒ぎ出したりしないのは、流石と言うべきかしら。


 「ホー…ホー…」


胸に抱かれたモクローが潰されないか心配だけど……。





    *    *    *





曜「二次審査、いくよ!」
 「キュゥー」


司会『さあ、アピールタイム開始です!』


司会の人が、そう言うと、スポットライトはまっさきにラプラスを照らし出した。

──アピールは私たちが一番最初のようだ。

昨日、志満姉に叩き込まれた、コンテストの戦い方を思い出す。
345 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:58:35.54 ID:ISz0KMwo0

曜「ラプラス! “いやしのすず”!」
 「キュウー!」

 《 “いやしのすず” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   ラプラス◆ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


綺麗な鈴の音が会場中に響き渡る。

──もし、最初からアピール一番手に回るようなら、他の出場者から狙われやすくなる。

だから、妨害に対する様子見。

“いやしのすず”は他のポケモンからの妨害を受け付けなくなる防御の技だ。


司会『これは綺麗な鈴の音です! 美しい! そのままアピールは二番手のバタフリーに続きます!』


コーディネーター1「バタフリー! “ぎんいろのかぜ”!」
 「フリーフリー」

 《 “ぎんいろのかぜ” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   バタフリー +♡ ExB+♡ ✪+1
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


“ぎんいろのかぜ”は確か自分自身の調子を上げる技。今後のアピールにより磨きを懸けるための布石の技だ。

そのまま続くように、クロバットがアピールをする。


コーディネーター2「クロバット! “ねっぷう”!」
 「クロバッ」

 《 “ねっぷう” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   クロバット +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


会場に“ねっぷう”が吹き荒ぶ。

 「フ、フリー」


 《 バタフリー✪ -♥♥
   Total [ ] 》


司会『おっと、バタフリーの“ぎんいろのかぜ”が熱波で吹き飛ばされてしまいました!』


バタフリーは“ねっぷう”に驚いて、技を中断させられる。減点だ。

でも私のラプラスは、

 「キュゥ」

“いやしのすず”で守られている。

 《 ラプラス ◆
   Total [ ♡♡ ] 》


コーディネーター3「ライボルト! “ほうでん”!」
 「ボルッ」

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ライボルト ♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


次に動くはライボルト、会場全体に稲妻が走る。
346 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:02:24.36 ID:ISz0KMwo0

 「フリーッ!!?」
 「クロバッ!?」


 《バタフリー✪ -♥♥
   Total [ ♥♥ ] 》

 《 クロバット -♥♥
   Total [ ♡ ] 》

 《 ラプラス ◆
   Total [ ♡♡♡ ] 》


妨害に集中していたクロバットも、バタフリー同様後続の技に脅かされてしまったようだ。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
      ラプラス   ♡♡      [ ♡♡  ]
   バタフリー✪  ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♥♥  ]
     クロバット  ♡ ♥♥     [ ♥   ]
     ライボルト   ♡♡♡     [ ♡♡♡ ]                》



司会『1ターン目、妨害技が続きます! このまま2回目のアピールはライボルトから!』

コーディネーター3「“かえんほうしゃ”!」
 「ボルル!!」

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ライボルト +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ライボルトが薙ぐように、炎を吐くとその炎が散り散りになりながら、光のように、会場を舞う。

度重なる、うつくしさ技の応酬によって、会場のボルテージが最高潮に達しエキサイトゲージがMAXになった瞬間──コーディネーターは“ライブアピール”を使用することが出来る……!!


コーディネーター3「ライボルト!! “電影のアポカリプス”!!」
 「ライボッッ!!!!!!!!」

 《 “電影のアポカリプス” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 でんきタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ライボルト +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


ライボルトが天空に向かって電撃を放つ──すると、天空に雷雲が発生し、ライボルトの周囲に雷が降り注ぎ、舞い踊る。

会場中に電撃が走り、うつくしい火花を会場中に散らした。


司会『ライボルト! 素晴らしいライブアピールです!! 会場の盛り上がりも最高潮に達しております!! さあ、この空気を引き継いだまま、次のポケモンのアピールです!!』


二番手──ラプラスにスポットライト。

速いけど、ライボルトが頭一つ抜けてることもある。仕掛けよう……!


曜「“あられ”!」
 「キュウーー」

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜
   ラプラス +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


会場内に“あられ”が降り始める。

 「ギャゥ…!?」


 《 ライボルト -♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》
347 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:07:32.10 ID:ISz0KMwo0

激しく降り注ぐ氷の粒に、炎は掻き消え、更にライボルトを驚かせる。


司会『おっと、これは布石でしょうか!? ラプラスの次の技に期待が集まりますね!』

コーディネーター2「クロバット! “くろいまなざし”!」
 「クロバッ」

 《 “くろいまなざし” うつくしさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡
   クロバット +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


中空に出現する大きな黒い目。

後続のポケモンを緊張させて、技を出させなくする技……だけど、

 「フリーフリー」


司会『おっと、“ぎんいろのかぜ”で調子をあげていた、バタフリーは緊張せずに済んだようです!』


調子を上げる技は今後の展開を有利にする。攻防両立した技だ。

そのままバタフリーがアピールに入る。


コーディネーター1「“ちょうのまい”!」
 「フリーフリー」

 《 “ちょうのまい” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   バタフリー✪ +♡ ✪B+♡ ExB+♡ +✪
   Total [ ♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


最初と同じく自身の調子をあげる“ちょうのまい”


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
      ライボルト  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥♥ [♡♡♡♡♡⁵♡♡♡]
       ラプラス  ♡♡♡                [♡♡♡♡♡   ]
      クロバット  ♡♡♡               [♡♡      ]
   バタフリー✪✪ ♡♡♡               [♡       ] 》


司会『バタフリー、あくまで自己補強に努めます! 3回目のアピールもライボルトから!』

コーディネーター3「えっと……“ほうでん”!」
 「ボルル!!」

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ライボルト +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


ライボルトは二度目の“ほうでん”


司会『再びうつくしい稲妻が会場を包みます!』


最初と同じ技。うつくしさに該当する技が他になかったのかな? でも、連続じゃないから減点にはならない。一番手だから、妨害にもならないけど。

さて、次の番は──


司会『会場も大きな盛り上がりを見せ始めました! それではラプラスのアピールをお願いします!』

曜「!」


絶好のタイミングだ!
348 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:09:09.95 ID:ISz0KMwo0

曜「ラプラス! “こごえるかぜ”!!」
 「キュウゥゥーー」

 《 “こごえるかぜ” うつくしさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


“あられ”を巻き込みながら、会場全体に凍て付く風が吹き荒び、

会場のライトの光を反射しながら、キラキラと舞い踊る。


司会『これは素晴らしい! 期待通り、“あられ”から“こごえるかぜ”へとコンボを繋げて来ました! 会場のボルテージも一気に最高潮まで登って行きます!!』


──今だ……!!


曜「ラプラス!! ライブアピール行くよ!! “アイシクルグレース”!!」
 「キュゥーーー!!!!!」

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


合図と共にラプラスの周囲が凍て付き、周囲に浮かぶのは氷の結晶。

その氷が砕けると共に、氷の結晶がライトの光を乱反射し、ステージを映えさせる。

──そのアピールを見て観客の歓声が大きくなる。ライブアピール成功だ。


曜「よっしっ!」





    *    *    *





あんじゅ「決まりかしらね」

ことり「まだ3ターン目だよ?」

あんじゅ「そういう割に……さっきからラプラスのことしか見てないじゃない」

ことり「それは……だって、あの衣装……♡」


衣装もそうだが、二次審査もかなり手堅い。

初手の防御から、会場の盛り上がりにピッタリコンボをあわせてた。

現時点でバタフリー♡1、クロバット♡2、ライボルト♡11だが……。


あんじゅ「ラプラスは今のコンボだけで♡13……合計♡18」


完全にコンテストの内側からの視点だけど、ここから他の出演者は勝ちきれるかしら?




    *    *    *


349 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:14:11.95 ID:ISz0KMwo0


コーディネーター1「バタフリー、“エナジーボール”!」

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   バタフリー✪✪ +♡♡♡♡ ✪B+♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


バタフリーの手堅いアピールからの、


コーディネーター2「クロバット、“くろいきり”!」

 《 “くろいきり” うつくしさ 〔 アピールが 終わった ポケモンの 調子を さげる 〕 ♡♡♡
   クロバット +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


他のポケモンが自己補強で上げた調子を元に戻す“くろいきり”


 《 バタフリー✪✪ ⇒ バタフリー
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   .ライボルト ♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡        ]
    ラプラス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ]
   .クロバット ♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡              ]
   バタフリー ♡♡♡♡♡⁵♡♡        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡            ] 》


司会『さて、コンテストも終盤に差し掛かって参りました! 4回目のアピールタイム!』


かなり、他のコーディネーターに差を付けたとは思う、が。


曜「最後まで、手は抜かない……ラプラス、“うずしお”!」
 「キュウー」

 《 “うずしお” うつくしさ 〔 このアピールの後 会場が しばらく 盛り上がらなくなる 〕 ♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


激しい“うずしお”が発生する。


司会『おっと、ここでラプラス、“うずしお”を発生させました!』


“うずしお”は会場全体の勢いを固定する。周りのポケモンのアピールによる、エキサイトの上昇を抑える効果がある。


コーディネーター1「バタフリー、 “エナジーボール”!」

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   バタフリー +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


コーディネーター2「クロバット、“ベノムショック”!」

 《 “ベノムショック” うつくしさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡〜♡♡♡♡♡♡
   クロバット +♡♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》
350 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:16:29.72 ID:ISz0KMwo0

コーディネーター3「ライボルト、“ほうでん”!」

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ライボルト +♡♡ 繰り返しP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


 「キュウッ」
 《 ラプラス ♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 「フリィー!!?」
 《 バタフリー ♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 「クロバッ!!!!」
 《 クロバット ♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》


他のコーディネーターたちはここまで使った技、使ってない技を様々繰り出すが、


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
    ラプラス  ♡♡♡♡ ♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ]
   バタフリー ♡♡♡♡ ♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡          ]
   クロバット  ♡♡♡♡♡♡ ♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡          ]
   ライボルト ♡♡ ♥      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡       ] 》


司会『さあ、最後のアピールです!』


“うずしお”の影響で、変わらぬ雰囲気のまま、最後のアピールへと突入する。


司会『クロバットからお願いします!』

コーディネーター1「クロバット、“りんしょう”!」
 「クロバーーーッ」

 《 “りんしょう” うつくしさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡〜♡♡♡♡♡♡
   クロバット +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


1番手、無難な技だ。


司会『次はラプラスの最後のアピールです!』


曜「ラプラス! “りゅうのはどう”!」
 「キュウウー!!」

 《 “りゅうのはどう” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ラプラスが口から、渦巻く大きな衝撃波を繰り出し、それを薙ぐ。


司会『さあ!! ここに来て再び会場のボルテージはMAXに達しております!!』


──二度目のライブアピールのチャンス……!!


曜「ラプラス!! “グレースブレッシングレイン”!!」
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!!」

 《 “グレースブレッシングレイン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》
351 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:20:56.19 ID:ISz0KMwo0

ラプラスの鳴き声と共に水中が立ち上り、それは天空からうつくしい雨となって会場に降り注ぐ……。


司会『ラプラス! 二度目のライブアピールもしっかり決めました! 雨がライトを照り返していてうつくしい光景が広がっております!』


コーディネーター3「バタフリー、“しんぴのまもり”!」

 《 “しんぴのまもり” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても 一回 くらいは がまんできる 〕 ♡♡ ◆
   バタフリー◆ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


コーディネーター2「ラ、ライボルト! “はかいこうせん”!!」

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ライボルト +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》



    *    *    *





司会『──さあ、“はかいこうせん”によって最後まで波乱の展開となった、ビギナーランク二次審査でしたが、あとは最終結果を待つのみとなります!』


最後の最後まで、盛り上げる流石の名司会だが──最終結果は見るまでもない。クロバット♡9、バタフリー♡13、ライボルト♡17、そして……。

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   クロバット  ♡♡♡ ♥♥♥♥          [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡                  ]
    ラプラス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡ ]
   バタフリー ♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡             ]
   ライボルト ♡♡                [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡          ] 》


司会『今大会、優勝は……。……エントリーNo.4 ラプラスです!! 皆様、出場ポケモンのラプラスとコーディネーターに大きな拍手を!』


ラプラスは♡24で二次審査も大差をつけて圧勝。

……それに加えて──。

結果発表で、ある程度目に見える形で伸びた一次審査二次審査の得票率のゲージは、


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【 クロバット】 〔 ♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                       〕
   【ライボルト】 〔 ♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                〕
   【バタフリー】 〔 ♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                  〕
  ✿【 ラプラス 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


一次審査の時点で周りのポケモンに既に大差を着ける形になっていた。


あんじゅ「どうかしら、ことり。わたしがわざわざ見に来た理由はなんとなく、わかったんじゃ──」


わたしがことりに声を掛けながら、振り返ると──


あんじゅ「……? ことり……?」


──既にそこに、ことりの姿はなかったのだった。





    *    *    *

352 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:22:43.11 ID:ISz0KMwo0



志満「曜ちゃん、優勝おめでとう!」


控え室に戻ると、早速志満姉に出迎えられる。


曜「えへへ、ありがとう志満姉」

志満「やっぱり、私が見込んだだけあったわ!」

曜「そんな……志満姉が昨日のうちに戦術を叩き込んでくれたお陰だよ」

志満「それだけじゃないわ! あの衣装も……ギリギリまで調整してたのよね? 入場に遅れたときはちょっとひやひやしたけど……」


確かにそこは反省点だ。

あそこまで、準備に手惑うとは思わなかった……。今後はもうちょっと詰めて準備をしてこないと……。


志満「とにかく、優勝したのは曜ちゃんとラプラスの実力よ」

曜「えへへ……」


志満姉に褒めちぎられ、なんだか照れくさくて、もじもじしてしまう。

……そのとき──


 「──あ、いたーーーー!!!」
  「ホー」


控え室の扉が開くと共に、胸にペンダントを煌かせ、同時に目をきらきらさせた女性が入ってくる。

その人は、私の方に向かって、とてとてと近寄って来る。


曜「え、誰……?」

志満「……ことりちゃん?」

曜「ことりちゃん……?」


志満姉から、ことりちゃんと呼ばれた女性は、私の目の前まで来ると、


ことり「あなたがラプラスのコーディネーターさんだよねっ!?」
 「ホーホー」


身を乗り出して、興奮気味にそう訊ねてくる。


曜「え、えっと……はい、そうですけど……」

志満「ことりちゃん……久しぶり……?」

ことり「あ、うんっ 志満ちゃん久しぶりっ!」


志満姉との挨拶もそこそこに、


ことり「あなた名前は!?」


名前を聞かれる。


曜「えっと、曜です」

ことり「曜ちゃんって言うんだね! わたし、ことりって言うの、よろしくね!」

曜「よ、よろしくお願いします……?」

ことり「服作るの好きなんだよね? いい素材があるの! ついてきて!」

曜「え」
353 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:23:30.17 ID:ISz0KMwo0

ことりさんはにこにこしたまま、私の腕を引いて、走り出す。


ことり「れっつごー!」

曜「え、えええええええ!?」


そのまま全速力で連れ去られました。





    *    *    *





あんじゅ「遅かったか……」

志満「あんじゅちゃん……」


志満はポッポが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


あんじゅ「ここに、ことり……来なかった?」

志満「来た……そのまま、曜ちゃんを連れてっちゃった……」

あんじゅ「ことり、興奮すると見境なくなるから……曜、大丈夫かしら」


さて、頭の中がコンテストで埋め尽くされている、ことり女史……今度は何をする気なのかしら。

わたしは曜を憂いて、思わず天井を仰いでしまった。





    *    *    *





曜「──あのー……」


コンテスト会場から連れ去られた先は、ホテルの一室だった。


 「ホー」 「ホーホ」
  「ホー」 「ホー」 「ホーホーホ」

 『モクロー くさばねポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg
  狭くて 暗い場所が 落ち着く。 そのため トレーナーの
  ふところや バッグを 巣の 代わりに することも  ある。
  刃物の ように 鋭い 羽を 飛ばして 攻撃する。』


ものすごい数のモクローのいる部屋。


ことり「あ、ちょっと待ってね!」


そして、恐らくその部屋の主である──ことりさん? は何やら大きなスーツケースの中をまさぐっている。


ことり「あった、これ!」


そう言って、ことりさんが取り出したのは──大きめのケープハット?
354 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:24:39.31 ID:ISz0KMwo0

ことり「曜ちゃん、ラプラス出して」

曜「え?」

ことり「すぐ、仕立て直しちゃうから」

曜「……?」


ことりさんは帽子を構えて、こっちをじっと見つめている。

──とりあえず、ラプラス出せばいいのかな?


曜「出てきて、ラプラス」


室内にラプラスを出す。


 「キュゥー」


ことり「こんにちは、ラプラスさん♪」


ことりさんはメジャーと先ほど出したケープハットを持ち、ラプラスに近寄る。


 「キュゥ?」

ことり「ラプラスさん、頭少しさげてもらっていい?」

 「キュウ」


それだけ言うと、ラプラスは何故か初対面のはずのことりさんの言うことを聞いて、頭を下げる。

そのまま、ことりさんは手際よく、メジャーをラプラスの頭部に当てて、寸法を測り。


 「ホーホ」

ことり「ありがと、モクロー」


一匹のモクローが持ってきた、裁縫箱を受け取り、帽子を仕立て直し始めた。


ことり「よし、完成」

曜「え、はや!?」

 「キュウ」

ことり「んー……ケープハットもいいかなっておもったんだけど、やっぱりさっきのボンネット帽子が衣装にはマッチしてたよね……でも、服の組み合わせによっては、まだ全然可能性はあるし──曜ちゃんはラプラスの衣装についてどう思う?」

曜「え、私!?」


突然話を振られる。
355 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:26:12.98 ID:ISz0KMwo0

曜「うーんと……今回はあくまで服に印象を持たせたかったから、人が着る服のリメイクって感じで中世の婦人が着ていたようなドレスをイメージしましたけど……ラプラス自体に合う衣装はもっと他にあると思います」

ことり「ふんふん、例えば?」

曜「もっと、ラプラス自身の持つ気品──みたいなのを生かすにはスパンコール……のキラキラはちょっと品がないかな。……そうだなぁ」

ことり「シルクとか」

曜「! そうですね、シルクのレース生地を基調として……」

ことり「色合いは派手になりすぎず、かつ個性を殺さない白かな」

曜「それ、いいかも……! ウェディングドレス風にしたら」

ことり「! やーん♪ そんなの絶対可愛いよ〜♪ じゃあ、帽子はケープハットじゃなくて、マリアベールとか──」

曜「いい……すごくいいです!」

ことり「よし、じゃあ作ろうっ 衣装のアイディアは鮮度が大事だから!」

曜「了解でありま──」


ハッとする。


曜「ち、ちょっと待ってください……。そもそも私なんでここに連れて来られたんですか?」


完全にことりさんのペースに飲み込まれてしまっていた。


ことり「あれ、説明してなかったっけ……」


ことりさんは小首を傾げたあと、


ことり「アナタをことりの弟子に任命します!」


そう言い放ってくる。


曜「……え? 弟子」

ことり「コンテストライブの弟子だよ〜 曜ちゃん今日がコンテスト初参加だったんだよね?」

曜「は、はい……」

ことり「将来有望すぎるので、ことりが一人前に育てることにしましたっ」

曜「え、えっと……」


話が唐突すぎる。困惑する私に、


ことり「……わたしじゃ……ダメかな?」


そう言って、上目遣いをしてくる……。なんか可愛い生き物がいるであります。


曜「ま、まず自己紹介を……」

ことり「! それもそうだね」


ことりさんは、私の前に来て、


ことり「私はセキレイシティのことり──前々回大会までコンテストクイーンをしてました♪」


ニコっと笑ってお辞儀をした。





    *    *    *

356 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:29:07.75 ID:ISz0KMwo0



曜「……クイーン……?」


完全に予想外の方向からのパンチを食らって呆然とする。

……前々回大会までコンテストクイーンってことは、あんじゅさんは二連覇って言ってたから、前回のクイーン……ってことだよね……??

自分の中で自問自答がぐるぐるする。


ことり「前々回のマスターランクであんじゅちゃん負けちゃって、今のクイーンはあんじゅちゃんに譲ってる形だけど……ことりじゃ役者不足かな?」

曜「め、滅相もないでありますっ!!!!」


一回頂点を取ったことのある人から、まさかの師事の申し出。

──そんなことある?


ことり「じゃあ、決定ね♪」


ことりさんはニコニコと笑いながら、私のことをじーっと見た後、


曜「え、えっと……」

ことり「ゼニガメとホエルコだね」

曜「……え?」

ことり「その子たちにも衣装考えなきゃだから、ラプラスの後に考えようね♪」


そう言って、部屋の中にいるラプラスの元へ戻っていく。

──え、何今の……?

私の手持ちを言い当てた……?

ラプラス以外は会場では出した覚えがない……なんで?

コンテストでクイーンを取るような人は、ボールからポケモンを出さなくてもわかるのかな……?


ことり「ほら、曜ちゃん! ラプラスの衣装案出して!」

曜「え、は、はいっ!」


めちゃくちゃ気にはなるんだけど……今はそれを聞く空気じゃない気がする。

後で、時間が出来たら聞いてみようかな……。





    *    *    *





ことり「おかしいなぁ……」


ことりさんが時計を見ながら、首を傾げた。

二人で衣装案を出し合ってる最中、ことりさんは何度か時計をチラチラと見ていた。


曜「どうかしたんですか?」

ことり「あ、ごめんね。今日はメリープの綿毛を注文してたんだけど……なかなか連絡が来なくてね。やっぱり急に注文はよくなかったかな……」

曜「メリープの綿毛……」

ことり「うん、ちょっとニットの衣装を作りたいなって思って、この場で発注しちゃったんだけど……」
357 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:33:20.65 ID:ISz0KMwo0

そういえば、さっきも『衣装は鮮度』とか言っていたし、思いつきでそういうことをしてしまう人なのかもしれない。

しかし、届かないとなると困った話だ。

メリープの綿毛──だと、確かホシゾラの西に牧場があったはず。そこから来たんだとしたら、13番水道を越えて来るんだろう。


曜「何かトラブルがあったんじゃ──」


私がそう言い掛けたそのとき──prrrrr──とポケギアの着信音


ことり「あ、よかったぁ、連絡来た……。──もしもし?」


ことりさんが着信を受けると、


 『た、大変さー! お客さんー! 船が引っ張られてー!!』


ポケギアから、おじさんの焦った声が聞こえてくる。


ことり「!? どうかしたんですか!?」

 『船がー!!』

ことり「一旦落ち着いてください……!」


ことりさんから、先ほどのふわふわした雰囲気が抜けて、少し緊張感が走る。本当にトラブルがあったようだ。


 『俺にも状況がわからんでさー!!』


電話に耳を澄ませると……波の音と、船のエンジン音が聞こえる。


曜「海の上……船上? これは小型の貨物船の音かな……? それもかなり限界ギリギリまでアクセル入れてる……」

ことり「小型貨物……輸送中に船が引っ張られてるんですか?」

 『おじさん、電話代わって欲しいずら!』


すると、今度は女の子の声──あれ、この声?


 『もしもし!! 今乗ってる船が、14番水道を北に向かって、何かに引っ張られてるずら!!』


曜「花丸ちゃん!?」

 『と、とにかく助けを──『ピギィィィィ!?』──ルビィちゃ──』


──ブツ ツーツーツー


曜「た、大変だ……!!」


なんかよくわからないけど、ことりさんの頼んだ荷物を輸送してる船にトラブルがあって、何故かそれに花丸ちゃんとルビィが乗ってて、


ことり「──曜ちゃん」


焦る私の両肩をことりさんが掴む。
358 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:35:21.59 ID:ISz0KMwo0

ことり「落ちて着いて? さっき電話を代わった女の子は知り合い?」

曜「あ、はい……!! 同じ学校の後輩で……!」

ことり「わかった、詳しい話は移動しながら聞くね、今は荷物まとめて」

曜「え、えと」

ことり「すぐに助けに出るから──」


ことりさんは窓を開け放って、そこから飛び降りる。


曜「!? こ、ことりさ──」


そこに、風が吹き込んだ。

気付くと、


 「チルゥ〜」


目の前には綿のような羽を広げた、大きな鳥ポケモン。

飛び降りたはずのことりさんは、そのポケモンの背に乗っている。


 「ホーホ」

そして、私の荷物をまとめた、モクローが近くに飛んでくる。


ことり「行くよ! 曜ちゃん!」

曜「! は、はい!!」


頭が付いて行かないが、今はとにかく花丸ちゃんたちを助けにいかなきゃ……!!

私は窓の外で、鳥ポケモンの上から伸ばされている、ことりさんの手を──取った。





    *    *    *





さて──私……ヨハネは、サニータウンで治療を受けた後、依然図鑑で徘徊するアブソルを追尾していた。

ただ、困ったことに……。


善子「ここ……どうみても海の上なのよね」


私が今いるここは15番水道。

スタービーチから始まり、コの字を左下から描いて続く、長い水道の果てだ。


善子「アブソルは泳げるとか……?」


とはいえ、あちこちに海岸の中に顔を出す岩や木の板が浮いているし……もしかしたら、その上を伝って来ているのかもしれない。


善子「……図鑑が間違ってる可能性もなくはないけど、他に頼る情報もないしね……ヤミカラス、このまま東に」
 「カァー」


ヤミカラスと共に海上を飛ぶ。


善子「それにしても……ここの海、随分ゴミが多いわね」
359 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:37:58.87 ID:ISz0KMwo0

目下の海には、先ほどからも目に付いていた木の板をはじめとした、大きめのゴミが大量に浮かんでいる。

さっき近付いて見てみたのだが、十分な浮力を持ったソレは、結構大きさがあり、軽いポケモンや人が乗っても簡単には沈まないほどだ。


善子「まるで船みたいな……いや、逆かしら」


──恐らく、船だったもの。

船の残骸に見えた。

東へと進路を向けるほどにその浮遊物たちは多くなっていく。


善子「……なんか、嫌な感じがするわね」


双眼鏡で遠方を覗き込みながら、東に向かって飛行を続ける。

──このままだと水道を抜けて、沖に出ちゃうわね。

さすがにヤミカラスの飛行だけで沖に出るのは自殺行為だ。

水道の端まで捜索をしたら、一旦引き返したほうがいいかもしれない。

東に移動しながら、アブソルらしきポケモンがいないか四方を確認する。そのとき、


善子「ん……何アレ?」


南の方角から、面妖な影が動いているのが目に入ってきた。


善子「……小型の貨物船……よね……?」


牧場で育てたポケモンなどを海路で運ぶのに使う用の船。

ただ、酷く違和感があった。


善子「あれ……逆に向かって進んでない?」


バックで、14番水道の方から、こっちに迫ってきている。

只事じゃない事情を感じ──。


善子「ヤミカラス、一旦あの船に向かって、移動して」
 「カァー」


──堕天使は羽ばたく。


360 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:43:12.54 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】【15番水道】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /     ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥ ●:o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     ●  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.15  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.24 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.14 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:44匹 捕まえた数:9匹

 主人公 善子
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.20 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.21 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.18 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:53匹 捕まえた数:28匹


 曜と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



361 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:06:43.05 ID:bS2bQuBP0

■Chapter027 『いかりの海上戦!』 【SIDE Hanamaru】





──14番水道、貨物船内。


 「メェー!!!」 「メェーーーー!!!!」


メリープたちも異変に気付いたのか、貨物室はかなり混乱していた。

そのメリープたちが驚いて出した“でんじは”や“かいでんぱ”のせいか、ポケギアの通話も切れちゃったし……。


花丸「とにかく、状況確認ずら……!!」


このままじゃ、不味いことは今のマルにもわかる。


牧場おじさん「どうするさー!?」


操舵室でアクセルを全開にしながら、おじさんが訊ねてくる。


花丸「おじさんはそのままアクセルを全開にしてて!」

牧場おじさん「わかったさー!?」


後は貨物室。


 「メェーーー!!!!」「メェー!!!!」「メェーーー!!!!」

花丸「とりあえず、メリープを落ち着かせないと……!!」


このまま放っておいたら、何か他の重要な機械も壊されちゃうかもしれない、

一旦、完全にメリープを大人しくさせるには──


花丸「捕獲するずら!」

ルビィ「え!? でもさっきそれは不味いって……!」

花丸「緊急事態ずら!」


マルはリュックから、空のボールを取り出して、メリープにぶつける。

 「メェー」

まず一匹。このメリープは戦闘慣れしてないからか、ボールの素投げでも捕まる子は捕まる。


花丸「次──」


次のボールを構えようとした、瞬間──バチン、と火花と共に構えたボールが弾かれる。

花丸「っ!」


“でんげきは”が飛んで来たようだ。


ルビィ「花丸ちゃん!?」

花丸「……オラは大丈夫ずら!!」
362 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:08:04.74 ID:bS2bQuBP0

捕獲に驚いた個体が攻撃してきたのかもしれない、暴れられるとそれこそ不味い……!

ナエトルかゴンベで応戦する?

でも、今ナエトルが船から投げ出されたら、救う術が無い。ゴンベは船の上に出すには重過ぎて船を沈めかねない。

──思考をフル回転するけど、今のオラには手持ちが少なすぎる。

そのとき──。


 「メェーーーーーー!!!!!!」


一際大きなメリープの声、


ルビィ「ピギィ!?」

花丸「なんずら!?」


声のした方を見ると、先ほどより二周りほど大きくなった、メリープが立っていた。

──臨戦態勢!?

と、思ったけど……。

 「メメェ…」「メェ…」

急に他のメリープが大人しくなる。


ルビィ「う、うゅ……?」

花丸「! 今、捕獲ずら! ルビィちゃんも!」

ルビィ「え、あ、うん!」


二人で空のボールを投げて、大人しくなったメリープたちを捕まえる。

だんだん貨物室にスペースが出来、あとはさっき鳴いたメリープだけ──


花丸「助かったずら……」


オラの声を聞くと、

 「メェー」

メリープはしゅるしゅると縮んでいく。

“じゅうでん”で帯電し膨らませた綿毛から、空気中に電気を逃がしているのだろう。

 「メェー」

そして、マルの足元に顔をこすり付けてくる。


花丸「ずら!?」

ルビィ「もしかして、その子……さっき花丸ちゃんが気が合うって言ってた子じゃ……」

花丸「あ……それじゃ、オラが捕獲しようとしてるのを察知して、皆を落ち着かせてくれたずら?」
 「メェー」


メリープは返事をするように鳴く。

他のメリープたちと違って、一緒に戦ってくれそう……!


花丸「“でんじふゆう”の応用で、逆に船にくっついたり出来る!?」
 「メェー!!」


メリープの足が一瞬バチバチと爆ぜたあと、床に吸着される。
363 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:11:08.05 ID:bS2bQuBP0

花丸「ルビィちゃん! 一旦この子にしがみつくずら!」

ルビィ「う、うん!」


スペースが空いた分、ぼーっと突っ立っているだけだと、振り落とされる可能性はあがる。

オラたちは磁石の要領で船の床に張り付いた、メリープを抱きしめるようにして、安定を図る。

捕獲したメリープたちはボールごとリュックに詰めて、貨物室の端の方に括り付ける。

足場は確保した、次は──。

ダンッ!!!──


ルビィ「ぴぎっ!?」


今度は天板から大きな音がする。

そして、それとほぼ同時にルビィちゃんのポケットから──pipipipipipipi!!!という機械音が鳴る。


ルビィ「わわ、こっちからも!? なにっ!?」 pipipipipipi

花丸「なんずら!?」


思わず上を向くけど、もちろん天板は鉄の板に覆われていて、外は見えない……が、


 「あんたたち何やってんの!? このままだと15番水道のどっかに岩にぶつかって海の藻屑になるわよ!!?」 pipipipipipi


声が降って来る。


花丸「人!? こ、この船何かに引っ張られるずらー!!」

 「なんですって!?」 pipipipipipi


上の人に声を掛けると、驚いた風にそんな返事が降って来る。


 「ってか、うっさいわよ!! 今緊急事態なのよ!!」 pipipipipipi

ルビィ「ぅゅ……鳴ってるの図鑑……!?」 pipipipipipi


なにやら、ルビィちゃんが図鑑を開いてボタンを押している。

程なくして、二つの電子音がほぼ同時に止まる。

その後、すぐに、


 「とりあえず、これ!!」


貨物室の窓の隙間から、何かが投げ入れられる。


ルビィ「ふぇ!? な、なんか来た!?」

花丸「ロープ……!」


ある程度頑丈そうなロープが何本か投げ入れられた。


花丸「ルビィちゃん、自分と……あと、飛べるポケモンに、ロープを付けて!」

ルビィ「! う、うん、わかった! コラン! アブリー!」
 「ピピ」「アブブ」


ルビィちゃんにロープの端を手渡し、

オラはルビィちゃんに渡したのと逆側を船室内に結び固定する。
364 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:13:17.91 ID:bS2bQuBP0

花丸「メリープも」
 「メェー」


メリープにもロープを括り付ける。


 「今、船の周りぐるっと見てみたけど、特に目立った異常はないわよ!!」


またさっきと同じ声が降って来る。


ルビィ「じゃ、じゃあ……!」

花丸「海の中から引っ張られてる……!!」

 「みずポケモン持ってる!?」

花丸「持ってないずら!!」

 「──ずら……? ……とりあえず了解! 私は一匹持ってるけど、このままじゃ速すぎて、出してもおいてかれるだけだから、何か一瞬でも減速させられない!?」

ルビィ「や、やってみるっ! アブリー……!」
 「アブブ」


ルビィちゃんが身体にロープを巻いた状態で、アブリーと一緒に船の後ろ側に踏ん張って歩く。


花丸「メリープ! オラたちも!」
 「メェー」


 「貨物室の後ろのハッチ開く!?」

牧場おじさん「ま、任せろさー」


おじさんが操作して、貨物室の後ろのハッチが開き始める。

開き始めの小さな隙間から、


ルビィ「アブリー、“しびれごな”!」
 「アブブ!!」


アブリーが“まひ”効果を持った、攻撃。

──した瞬間。

船がガタンと揺れる、


 「わっ!?」

ルビィ「ぴぎっ!?」


突然だったため、ルビィちゃんの身体が浮く。


花丸「る、ルビィちゃん!?」

 「ピピィ!!!」
ルビィ「コ、コラン!!」


すぐに気付いたコランが、ルビィちゃんが吹き飛んでいかないようにルビィちゃんごと身体を船内に押し付けた。


花丸「……ほっ」


どうやら、船を海中から引っ張ってるポケモンには効いているようだ。

徐々にハッチが開いてきたところに、

 「メェー」

メリープと一緒に乗り出して、
365 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:14:30.83 ID:bS2bQuBP0

花丸「メリープ! “エレキネット”!!」
 「メェー!!!」


素早さを下げる稲妻のネットを海中に放る。

その際に、外に顔を出して船の上の方を見上げて、


花丸「そっちは大丈夫ずらか!?」

 「だ、大丈夫よ! それより自分たちの心配を──」


ヤミカラスに掴まったまま、下を覗く顔と目が合った。


花丸「よ、善子ちゃん……!?」

善子「ずら丸……!!?」





    *    *    *





“しびれごな”と“エレキネット”が効いてきたのか、更に後ろに引っ張られるスピードが下がる中、


花丸「善子ちゃん!? 本当に善子ちゃんずら!?」

善子「よ、善子じゃなくて、ヨハネよ!!!」


善子ちゃんらしき人に声を掛けると、謎の言葉が返って来る。


花丸「ヨハネ……? 人違い……?」

善子「! そ、そうよ、人違いよ! 善子なんて人知らないわ!!」


同調される。

──怪しい。


ルビィ「花丸ちゃん! そんなことしてる場合じゃないよ!」

花丸「ずら!」


ルビィちゃんに言われて、船内に戻る。

そういえばまだスピードは下がったけど、問題は解決していない。


善子「っと……そうだったわね! ゲコガシラ!」
 「ゲコッ!!!」


近くの水面に向かって、ポケモンが放たれる。


善子「“みずのはどう”!!」


ヨハネちゃん? のゲコガシラが攻撃を放つと、

──ガタンという揺れと共に、船を引っ張っていた力がなくなる。

──そのまま、浮遊感に包まれる。


花丸「ずら!?」


その勢いで船が止まって、身体が前に投げ出される。
366 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:16:50.64 ID:bS2bQuBP0

ルビィ「花丸ちゃん!」


一瞬浮いた、マルの手をコランに掴まったままのルビィちゃんが掴んで、


ルビィ「マル、ちゃん!!」


ルビィちゃんが掛け声と、共にオラを船内に引っ張る。


花丸「ずら!!」

ルビィ「わっ!!」


そのまま、ルビィちゃんにダイブするように船内に引き戻される。


ルビィ「はっ……はっ……花丸ちゃん……よかった……」

花丸「──ルビィちゃん、ありがと……助かったずら……」


完全に、動きを、止めた、船の上で──


善子「どうやら、あいつが原因らしいわよ……っ!!」

花丸「あれは……」


船から、やや後方の水面に、浮かぶピンクと水色の影。


花丸「ブルンゲルずら……!!」


二匹のブルンゲルのつがいの姿を認める。


ルビィ「ブルンゲル……?」

花丸「確か、船を引きずり込んで沈めるって言うゴーストポケモンずら!」

善子「さっきの船の残骸……ここが縄張りなのね……ってか、あんた、そこまで知っててなんでブルンゲルの居る場所に船でのこのこ出てくのよ!?」

花丸「ブルンゲルの生息域は15番水道以北の海ずら! オラたちが捕まったのは13番水道の辺りだから、そもそもそこにブルンゲルが居るなんて、予想出来ないよ!」

善子「はぁ!? 野生のポケモンが水道二つ分移動してわざわざ船沈めに来たとでも言うの!?」

ルビィ「二人とも、言い合いしてる場合じゃないよっ!!」


 「ブルン…」「ゲル…」


ブルンゲルたちはユラリと不気味に揺れた後、

大きな海水の波を立ててくる。

波の力によって、船が大きく揺れる。


ルビィ「わわわっ!?」

花丸「これは、“なみのり”ずら!?」

善子「……っ! 話は後よ、ヤミカラス!!」
 「カァー!!」


ヨハネちゃんの指示でヤミカラスが船の開いた後部ハッチの前に飛んできて、


善子「“オウムがえし”!」
 「カァーー!!!」


波を撃ち返す!
367 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:19:40.38 ID:bS2bQuBP0

 「ゲル…?」「ブルン…」


攻撃としての効果は薄いけど、波が相殺して船の揺れが収まる。


花丸「今ずら! メリープ! “チャージビーム”!」
 「メェーーー!!」


電気を収束した光線が、ピンクのブルンゲルに向かって飛び、

 「ブルンッ!?」

直撃し、驚いたのか、ピンクのブルンゲルが海中に逃げていく。


花丸「やったずら!」
 「メェー」


喜びも束の間、

 「ゲル…」

♀を攻撃されて怒ったのか、水色のブルンゲルが触腕を素早く伸ばして、

メリープに“からみつく”。


 「メェ!?」
花丸「ずら!? メリープ、踏ん張るずら!!」


咄嗟にメリープを掴むが、


花丸「ずら!?」

善子「ち、ちょっと!?」

ルビィ「ま、マルちゃんっ!!!」


メリープごと海に引き摺りこまれそうになる。


善子「ヤミカラス!」
 「カァー!!!」

メリープごと、ブルンゲルに引っ張られるマルの背中を、ヤミカラスの脚が掴む。


ルビィ「コラン! アブリー! 引っ張って!」
 「ピピッ!!!」「アブブ」


ルビィちゃんもオラの背中側から腕を回して、引っ張り、そのルビィちゃんに括り付けられた、ロープをコランとアブリーが引っ張る。

メリープを基点に綱引き状態になる。

──だけど、それでもずりずりと前方に引っ張られる。


花丸「ち、力負けしてるずらぁ!!」

善子「ちょっと何やってんのよ!!」


そういいながら、船の上にいたヨハネちゃんも船内に飛び降りて、

メリープを掴んで、引っ張る。


善子「な、なんつーパワーなのよ、あのクラゲ……!!」

花丸「ブルンゲルは135kgあるずら……!! それに海水も含むから」

ルビィ「解説してる場合じゃないよー!!!」
368 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:21:13.14 ID:bS2bQuBP0

──このままじゃ、沈む……!!

もう一度踏ん張って、顔をあげると、

──目の前に“このは”が舞っていた。


ルビィ「木の葉……?」

善子「ここ、海の上よ!?」

 「ゲルゥ…」


次の瞬間──


 「──モクロー! “リーフブレード”!!」


小さな影が一閃──ブルンゲルを袈裟懸けに斬り裂いた。

 「ゲルッ!?」

それに驚いたのか、ブルンゲルの触腕がメリープから緩む。

急に引っ張る力がなくなったので、


善子「なっ!?」

ルビィ「えっ!?」

花丸「ずらっ!?」


──ガシャンッ!!

後ろに向かって踏ん張ってた勢いを殺せず、3人と4匹で後ろに転がった。


ルビィ「ぅゅ……痛い……」
 「ピピィ…」「アブブ…」

善子「つつ……っ」

花丸「た、助かったずら……? メリープ、平気ずら?」
 「メェー」


メリープとコラン、アブリーは無事、

 「カァカァ」

ヤミカラスはちゃっかり、ヨハネちゃんの頭に止まっている。

一応、綱引きをしていた全員、無事ずら。

そのまま、船の後方に開いたハッチの前に、人を2人乗せたチルタリスが舞い降りてくる。


ことり「助けに来ました! 大丈夫ですか!?」


チルタリスの背に乗った女性の一人が、ブルンゲルを睨んだまま、そう問い掛けてくる。


善子「……え、ちょ、なんでここに」

ことり「え?」

ルビィ「だ、大丈夫です、全員無事です!」

ことり「そ、そう?」


何故か、ヨハネちゃんがこそこそとマルの後ろに隠れているが、

そういえば……もう一つの人影は──と思ったら、チルタリスから飛び降りて、船内に駆け込んで来る。
369 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:22:36.55 ID:bS2bQuBP0

曜「花丸ちゃん! ルビィちゃん!」

花丸・ルビィ「「曜ちゃん!?」」


曜ちゃんが私たちをほぼタックルするように勢いよく抱きしめてくる。


曜「もう、なんで貨物船になんて乗ってるの!?」


出会い頭にそう問われる。


花丸「あーいやー……かくかくしかじかで……」

ルビィ「かくかくしかじかとか、本当に言ってる人、初めて見たかも……」

曜「とにかく二人とも無事!?」

花丸・ルビィ「「……うん!」」

曜「じゃあ、よし……っ……!!」


そのまま、ぎゅーっと抱きしめられる。


ことり「人の貨物にいたずらしたら、めっなんですよ?」

 「ゲルゥ…」

ことり「反省してください! モクロー! “ブレイブバード”!」

 「ホーホ」


さっき突っ込んだモクローは、気付いたら再び飛び上がっていた。

そして、上空から、再び弾丸のようにブルンゲルに一直線に落ちて、


 「ゲルゥ!!!」

激しい水しぶきをあげながら、ブルンゲルに強烈な突進攻撃をかます。

どうやら、勝負あったみたい。


善子「ゲコガシラ、戻りなさい……っ 撤退するわよ……!」


気付くと船の端っこでヨハネちゃんがこそこそしている。


花丸「ずら……?」

曜「? 貴方も巻き込まれたの? 大丈夫? 怪我してない?」


曜ちゃんが声を掛けると、ヨハネちゃんはビクリとして、


善子「い、いえー!! お気になさらずー!!」


と言って、何故かそそくさと逃げようとしてるところを──


ことり「あれ? 善子ちゃん?」


モクローのトレーナーさんに声を掛けられる。
370 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:24:25.21 ID:bS2bQuBP0

善子「ぎ、ぎくっ!! ひ、人違いです……」

ことり「……人違わないと思うんだけど……そのヤミカラス、わたしがあげた子だよね?」

善子「こ、この子はヨハネが自分で捕まえて……」

ことり「ヤミカラス、元気ー?」

 「カァ! カァ!」

善子「って、こらヤミカラス!! 返事してんじゃないわよっ!」


どうやらこの人の知り合いみたいだ──と言うか、


花丸「やっぱり善子ちゃんじゃん!」

善子「……ぐっ!? り、離脱!! とうっ!!」
 「カァーー」


ヨハネちゃん──というか、善子ちゃんは船床を蹴って、飛び立ってしまった。


ことり「ありゃりゃ? もう、善子ちゃんいつもすぐ逃げちゃうから……」


 善子「──善子じゃなくてー!!! ヨ・ハ・ネーーーー!!!!!!」


少し遠方から叫び声が聞こえた。


ことり「曜ちゃん、お友達は無事?」

曜「はい! ことりさん!」

花丸「……ことりさん……?」

ルビィ「うぇぇ……ありがとうございますぅ……助かりましたぁ……っ……」


ルビィちゃんは緊張の糸が切れたのか、へなへなとその場にへたり込みながら、お礼を言う。


ことり「うんうん、みんな無事でよかったね♪」

花丸「ことりさんって……」

ことり「ん?」

花丸「あの、ことりさんずら?」

ことり「うん♪ あの、ことりさんだよ♪」


道理で強いわけずら……。


ルビィ「あ……そうだ、おじさん大丈夫かな……?」


ルビィちゃんの言葉で思い出して、


花丸「おじさん! もう、大丈夫ずらー!」


操舵室に向かって、声を掛ける。


牧場おじさん「もうアクセル入れなくて大丈夫かー!?」

花丸「うん、だいじょう……ぶ……──」


……? 『もうアクセル入れなくて大丈夫』……?


花丸「おじさん!! アクセル入れて!?」

牧場おじさん「どっちさー!?」
371 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:26:22.72 ID:bS2bQuBP0

判断が間に合わなかった──ガクン、と……先ほどとは比べ物にならない規模で、船が大きく傾く。


花丸「ずらっ!?」


バランスを崩す。


ことり「わわ、危ないっ」


ことりさんに抱きとめられる。


ルビィ「え、何!?」


ルビィちゃんはどうにか船内に掴まれたようだが、


曜「何!? 解決したんじゃないの!?」


曜ちゃんが叫ぶ。

マルはそれに答えるように、


花丸「アクセルはずっと入ってたずら……! なのに船はずっと『停まってた』──何故かずっと推進力と引っ張られる力が釣り合ってた……!!」


言葉を返す。


花丸「……ブ、ブルンゲルは最初から、便乗してただけだったずら……!」


最初から、ちゃんと近くをサーチしなくちゃいけなかった。そのための道具も持ってるんだし……。

船の端に括り付けていた、リュックを開けると──pipipipipipiとマルの図鑑がけたたましい音を上げていた。


花丸「え、これどうやって止めるずら!?」

ルビィ「マルちゃんもしかして、リュックに入れたまま、ずっと図鑑鳴ってたの!?」

花丸「ル、ルビィちゃん、どうしよう……止め方わかんないずらぁー!!」





    *    *    *





──最初から便乗。花丸ちゃんの言葉を聞いて、


曜「まだ、他にいるってこと……!?」


私が代わりに図鑑を開いて、近辺をサーチする。

他に、ポケモンが──居た!!


曜「海の中……!!」


私は傾く船の中をダッシュで駆け出す。


ことり「曜ちゃん!?」

曜「ことりさん、船のことお願いします!!」
372 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:28:12.47 ID:bS2bQuBP0

私は走りながら、ゴーグルを装着して、

そのまま船を踏み切って、海に飛び込んだ。


────
──


潜ると共に、

 「ゼニー」「ボォー」

ゼニガメとホエルコを繰り出す。

この間は手持ちを全部同時に出して、やられた反省を生かそう、ラプラスは控えたままにする。

 「ゼニ」

ゼニガメに掴まって潜ると──

船に向かって一直線に伸びる鎖のようなものが目に入ってくる。

その鎖を伝っていくと、

──居た。

海底に舵輪のようなポケモンが、居た。

私は先ほどサーチに使ったままの図鑑に視線を送る。


 『ダダリン もくずポケモン 高さ:3.9m 重さ:210.0kg
  鎖の ような 緑の 藻屑は 数百メートルも 伸びる。
  でかい 錨を ブンブン 振り回し ホエルオーさえ
  一撃で KOする。 緑の モズクが 本体だ。』


13番水道から、“アンカーショット”で船を引っ張ってきたのはこのダダリンだったんだ──!!

その途中でブルンゲルたちが、便乗して近付いてきただけで……。

潜って、ダダリンに近付こうとする。

…………。

……。


──いや、待って……。あのポケモン。


めちゃくちゃでかくない?

4メートル近い巨体のためか、潜っても潜っても、どんどん見た目が大きくなるだけで、遠近感がおかしくなる。

これ以上の素潜りは不味い。

私はゼニガメから手を放して、ホエルコに掴まる。


 「ゼニ」
──ゼニガメ、GO!


水中で打つように前方に拳を出す。


──“アクアジェット”!!

 「ゼニーー!!!」


飛び出したゼニガメがみるみる小さくなる。

程なくして、ぶつかるが、ダダリンはビクともしない。

ゼニガメはそのまま、身体に“かみつく”。

だけど、無反応。ゼニガメは無視して、どんどんアンカーを巻き取っている。
373 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:29:56.81 ID:bS2bQuBP0

──不味い。このままじゃ船が沈む。


ゼニガメ、一旦戻ってきて、

手を手前に引くようにハンドシグナルを送り、


 「ゼニ」


ゼニガメに戻ってくるように促す。

さっきの図鑑の説明が正しいなら、本体はあの陀輪のような部分じゃなく、船と海底のアレを繋いでいる鎖にこびり付いている緑のモズクだ。

攻撃対象を変更しよう。

その最中に、


 「ゼニガー」

曜「!」


ゼニガメの身体が光る。


これは──。


ゼニガメの丸い頭には耳が生え、尻尾はふさふさに──。


──進化だ!!

 「──カメーー!!!」





    *    *    *





ことり「モクロー!! 全員全力で持ち上げて!!」
 「ホホー」「ホホーホー」「ホー」「ホーホー」「ホォー」

花丸「おじさん! エンジン全開で!!」

牧場おじさん「やってるさー!」

ルビィ「曜ちゃん……!」


ルビィちゃんが曜ちゃんが潜った水面を見つめている。

でも、もうこうなるとマルとルビィちゃんは戦う手段がない。

信じて待つ以外に──。

──ガタンッ


ルビィ「うゅ!」

花丸「!」


今日何度目かわからない、揺れ。

直後──

 「カメーーーー!!!!!!!」

水中からポケモンが飛び出してくる。

その口に鎖を咥えたまま、
374 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:31:54.41 ID:bS2bQuBP0

曜「──ぷはっ!!」


一息遅れて、曜ちゃんが水面に顔を出す。


曜「カメール!!! そのまま、巻き取れ!!!」

 「カメーーーッ!!!!」


そのまま、鎖に噛み付いたまま、首を引っ込め、高速回転する。

カメールの身体がリールを引くかのように鎖を巻き取る。

──そして、鎖の上で回転しながら、加速していく。


曜「いっけぇー!!! “ジャイロボール”!!!!」


スピードをあげながら、力いっぱい、巻き上げる。


ルビィ「は、花丸ちゃん!!」


ルビィちゃんの声で海面に視線を移すと、


花丸「海が……!!」


海が盛り上がっていた。山のように、

次の瞬間、

激しい水しぶきをあげながら、

大きな陀輪が飛び出してきた。

海上に横向きに飛び出た、舵輪の上に、影一つ。


曜「はぁ……はぁ……君の負けだよ」


曜ちゃんはダダリンの中央の舵輪と鎖との継ぎ目の部分にルアーボールを押し当てた。





    *    *    *





ことり「本当にごめんなさい……っ! ことりがもう少し我慢してれば、こんなことにならなかったのに……」

牧場おじさん「いやー。さっき連絡したら、13番水道の封鎖も昼前には解除されたらしいしなー。遅かれ早かれの問題だったさー」

ことり「うぅ……ありがとうございます。このまま、一旦サニータウンまで船は牽引しますので……」

牧場おじさん「助かるよー」


夕焼けの中、牽引される船の横では曜ちゃんがホエルコに乗ったまま、寝転がっている。

戦闘で疲れたのだろう。


ルビィ「ぅゅ……」


こちらも相当お疲れの様子。


花丸「ルビィちゃん、大丈夫?」

ルビィ「うん……どうにか……」
375 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:33:02.54 ID:bS2bQuBP0

さて、船はこのままサニータウンに行くらしいけど……。


花丸「ルビィちゃん、フソウには寄らなくてもいいずら?」

ルビィ「……一番行きたかったのはセキレイシティだから、このままサニータウンに行けばいいと思う」

花丸「了解ずら」


マルは図鑑をポチポチと押しながら、いろいろなメニューの出し方を確認している真っ最中。


ルビィ「あ、えっとね……そこは決定ボタンで……」

花丸「決定……決定……」

ルビィ「あ、そっちは戻るボタン……」

花丸「……ずら」


未来アイテムが使いこなせないずら……。


ルビィ「そういえば、あの図鑑が鳴ってたのって……共鳴音ってやつなんだよね?」

花丸「そうだと思うよ」


3つセットの図鑑が揃ったときに鳴る音。


ルビィ「じゃあ……あの子が」

花丸「うん、たぶんそういうことずら」


考えてみればゲコガシラもケロマツの進化系だし……。

ただ、解せないのは──


花丸「なんで逃げちゃったんだろう……?」

ルビィ「うーん、何か理由があるのかも……?」

花丸「……まあ、旅してればまたどこかで会うこともあるずら……」

ルビィ「あはは、そうだね……」

花丸「何より、今日は──」

花丸・ルビィ「「もう、疲れたー……」」


二人してメリープの居なくなった、船内に寝そべる。

もうさすがに動く元気が残ってない。

あとはサニータウンに着くのを大人しく待とう……。

西から差す陽で真っ赤に染まった海の中、マルたちはやっと平穏な船旅に漕ぎ着けることが出来ましたとさ──。


376 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:33:48.48 ID:bS2bQuBP0


    *    *    *





善子「完全に誤算だった……失敗、大失敗よ……」


なんでよりによって、難破しかけてる船に乗ってるのよ……。


善子「しかも、なんでそこにあんなタイミングで、ことりさんが助けに来るのよ……」
 「カァー」

善子「カァじゃないわよっ!」
 「カァーカァー」

善子「ったく……」


まあ、それはそれとして……あらためて図鑑を確認すると、お目当てのアブソルは水道を引き返し、サニータウンを抜けて、更にセキレイシティの方へと移動していた。


善子「……でも、あの近くにアブソルがいたんだとしたら、船が襲われる現場をアブソルが察知したってこと……?」


ある意味、また──導かれて出逢ってしまった──ということかしら……。


善子「まあ、いいわ……追いかけるわよ。ヤミカラス」
 「カァー」


そしてまた、堕天使は羽ばたくのです。


377 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:35:29.50 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【15番水道】【9番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o●.回‥●‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.18  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.24 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.17 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.25 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:49匹 捕まえた数:11匹

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.15 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:40匹 捕まえた数:5匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.12 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      メリープ♂ Lv.14 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:13匹

 主人公 善子
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.21 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.23 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.18 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:28匹


 曜と ルビィと 花丸と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



378 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:31:49.97 ID:bS2bQuBP0

■Chapter028 『まひるとまよなかとイワンコと』 【SIDE Chika】





…………。

……。


 「この子大丈夫かな?」


女の子の声がする。


 「ここあ、揺すったりしたら、ダメだよ」

 「こころこそ、うるさくしちゃダメなんだよ」


ぼんやりと声を聞きながら、意識が覚醒するのを感じる。


千歌「ん……ぅ……」

 「「あ、起きた!」」


近くで同じ声がユニゾンする。


千歌「……ここ……は……?」

 「「にこにー! 起きたよー!!」」

千歌「……にこにー……?」

女性の声「はいはい、わかったから、こころもここあも静かにするにこ。今は向こう行ってて?」

こころ・ここあ「「はーい」」

千歌「……?」


今度は聞き覚えのある声。

さっき聞いた声だ……。

ぼんやりと目を開けると、そこには──

真っ黒な髪にツインテールを揺らした。……女の子?


女の子「おはよう」

千歌「おはよう、ございます……?」

女の子「受け答え出来るなら、そこまで深刻じゃないかしら……はい指、何本かわかる?」

千歌「2……」

女の子「はい」

千歌「5……」

女の子「これは?」

千歌「……2……5」

女の子「OK. 大丈夫そうね」


なんで、2と5だけ?

疑問には思ったけど、だんだん意識が鮮明になってきて、


千歌「……!!」


思い出す。
379 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:34:52.97 ID:bS2bQuBP0

千歌「梨子ちゃんは!? 梨子ちゃんは──!?」


起き上がろうとしたところ、女の子は私の唇に指を当てて、無理矢理私を静かにさせる。


女の子「大丈夫、一緒に居た子なら無事よ。隣で寝てるから」


そう言われて、隣に目線を移すと、


梨子「……すぅ……すぅ……」


言われたとおり、梨子ちゃんは静かに寝息を立てていた。


千歌「あ……よかったぁ……」


それを確認して安堵する。

落ち着いて確認すると、梨子ちゃんの枕元にはチェリンボが寄り添って、床ではマグマラシとムクバードも休息を取っていた。

つまり、全員無事のようだ。


女の子「そこのムクバードが飛んでるのが見えて、何かと思って駆けつけたら、あんたたちがルガルガンの群れに完全に囲まれてて……驚いたわよ」


そう言われて、私はこの人があのピンチから助けてくれたんだと確信する。


千歌「あなたが助けてくれたんですよね……! ありがとうございます……!」

女の子「気にしなくていいわよ、見ちゃったらほっとくわけにもいかないでしょ?」

千歌「ホントに助かりました……! あ、私は千歌って言って、こっちの子は梨子ちゃんで……えっと……」


矢継ぎ早に自己紹介をしながら、

そういえば、まだこの人の名前を訊いてなかった。言葉に詰まった私を見て、


女の子「わたしのこと知らないの? 全く田舎者はこれだから……」


彼女は突然、辛辣な言葉を投げかけてくる。


千歌「え、ご、ごめんなさい……」


もしかして、有名人なのかな……?

咄嗟に謝ってしまう。


女の子「じゃあ、よーくその耳に刻み付けなさい、わたしは──」


にこ「大銀河宇宙No.1アイドルトレーナー! にこよっ!!」


そう名乗りをあげた。


千歌「だいぎんが……? ……アイドルトレーナー……?」

にこ「……え、まさか本当に知らないの」

千歌「す、すいません……」

にこ「……。……はぁ、まあしょうがないにこ……」


にこさんはガックリと肩を落として項垂れたあと、
380 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:37:02.68 ID:bS2bQuBP0

にこ「──やっぱり、バトルで強くても、全然知名度上がらないじゃない……」


小さな声でそんなことを呟いた。


にこ「まあ、それはともかく……災難だったわね」

千歌「あ、いえ……お陰で助かりました」

にこ「ま、たまたまわたしが居るときだったのは、不幸中の幸いかしら」


にこさんは両腕を組みながら、そう言う。


こころ・ここあ「「あ、待ってー!! イワンコ逃げたー!!」」


一方で部屋の外が騒がしい、


にこ「また、あの子たち騒いでる……ちょっと待ってて」

千歌「あ、はい」


にこさんが部屋の外に注意をしようと、席を立つ。


にこ「ちょっとー、こころ、ここあ! 騒がしくしないのっ!」


そう言いながら、ドアを開けた瞬間──

 「ワンッ!!!!」

僅かに開いたドアの隙間を縫うように、灰色の子犬のようなポケモンが部屋に侵入してきた。


千歌「!?」


犬ポケモンを認識して、咄嗟に梨子ちゃんを守ろうと、半身を起こす。


にこ「クレッフィ」


だけど、それは不要だったようで──


千歌「──鍵……?」


いつの間に繰り出したのか、にこさんの手持ちらしきポケモンが私の前に浮遊していた。


にこ「“フェアリーロック”」

 「ワォンッ!?」


逃げ回っていた、イワンコ? と呼ばれるポケモンの動きが急に止まる。


こころ「イワンコ止まったー」

ここあ「さすがにこにー」

にこ「もう……ちゃんと、イワンコ見ててって言ったでしょ?」


にこさんの近くに、にこさんをそのままちっちゃくしたような女の子が二人、駆け寄ってくる。

歳は10歳を過ぎたくらいの子たちに見える。

その二人は髪型こそ微妙に違うけど、顔は瓜二つ──双子の妹なのかな? こころちゃん、ここあちゃんって呼ばれてたよね。

 「ワォゥ…」

ベッドの下から、さっき飛び込んできた犬ポケモンの鳴き声がして、視線を戻す。
381 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:39:06.79 ID:bS2bQuBP0

千歌「イワンコって言ってたよね……」


私は傍らに置いてあったリュックを漁って、図鑑を取り出した。


 『イワンコ こいぬポケモン 高さ:0.5m 重さ:9.2kg
  昔から 人と 暮らしてきた。 よく 懐くので 初心者に
  お勧めの ポケモンと 言われるが 育つに つれて
  気性は 荒く 攻撃的に なるため 持て余す 人も 多い。』


私が図鑑を確認していると、にこさんがこころちゃんとここあちゃんとのやり取りを終えたのか、こっちに戻ってきて、


にこ「それポケモン図鑑ってやつ?」


私にそう質問を投げかけてきた。


千歌「あ、はい」

にこ「確か、凛とか花陽が持ってたやつよね」

千歌「凛さんと花陽さんのこと、知ってるんですか?」


聞き覚えのある名前に思わず反応する。


にこ「ま、コメコなんかは隣の町だしね。特に花陽とは牧場経由で育て屋の餌とかも仕入れてるから、昔からの付き合いなのよ」

千歌「育て屋……?」

にこ「ああ……そういえば、まだ言ってなかったわね」


にこさんは軽く肩を竦めてから、


にこ「ここはポケモン育て屋なの。ポケモン育成の代行サービスをする場所」


そう説明してくれる。


にこ「今はあくまで、家族が経営してるんだけどね。主にママが……ま、そんなことはいいんだけど……そこのイワンコ」

千歌「?」

にこ「あんたたちを襲ったルガルガンってポケモンの進化前よ」

千歌「えっ!?」


思わずベッドの上で身を引く。


にこ「あの距離だったら、その図鑑にデータが登録されてるんじゃないの?」

千歌「あ、確かに……」


あの時はそれどころじゃなかったから、忘れてた。

イワンコのすぐ下に、確かにルガルガンの項目を見つける。


 『ルガルガン(まひるのすがた) オオカミポケモン 高さ:0.8m 重さ:25.0kg
  素早く 動き 敵を 惑わす。 ツメや キバの ほか タテガミの
  とがった 岩も 武器の ひとつ。 忠誠心が 強く しっかり
  育てられると トレーナーを 裏切らない 頼もしい 相棒に なる。』


説明文と一緒に図鑑に表示された姿を見て、


千歌「あれ? 灰色のやつがルガルガン?」


首を捻る。
382 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:41:03.71 ID:bS2bQuBP0

にこ「赤いのもルガルガンよ」

千歌「あ……ホントだ、もう一個項目がある……」


図鑑を操作して他の“すがた”の項目に移ると、


 『ルガルガン(まよなかのすがた) オオカミポケモン 高さ:1.1m 重さ:25.0kg
  手強い 相手を 前に するほど 血が 昂ぶる。 肉を
  切らせて 頭突きを くらわせ タテガミの 岩で 骨を 砕く。
  非常に 好戦的で 勝つためなら 我が身を 顧ず 襲い掛かる。』


確かにそっちは私たちを直接襲ってきた、赤いポケモンだった。


千歌「同じポケモンなのに、姿が全然違う……」

にこ「詳しいことはまだ研究中らしいけど……日光をたくさん浴びると“まひるのすがた”に、月光をたくさん浴びると“まよなかのすがた”になるって言われてるんだけどね」

千歌「へー……」

にこ「ま、今回はソレが問題なんだけどね」

千歌「問題?」


にこさんはそう言いながら、地面でへばっているイワンコを抱き上げ、


 「ワォ…」

にこ「このイワンコ……どっちのルガルガンに進化すると思う?」


そう問い掛けてくる。


千歌「どっちって……わかんないですけど……」

にこ「そうなのよね……イワンコの状態じゃ誰にもわからないのよね」

千歌「……? どういうことですか?」

にこ「ルガルガンたちも、見分けが付いてるのか付いてないのか……イワンコの間は二つの“すがた”のルガルガンが共同で育てるのよ」

千歌「えっと……それじゃ、進化して、どっちの姿かがわかったら、群れに入れてもらえるってことですか?」

にこ「そんなところね」


もしかしたら、図鑑なら何かわかる要素が見つかるかも?

そう思い、目の前のイワンコの詳細なデータを呼び出してみる。


『イワンコ Lv.26』


千歌「レベルが私の手持ちのどのポケモンよりも高い……」

にこ「そういえば、図鑑にはレベルを見る機能とかあるらしいわね。ちなみにルガルガンにはLv.25くらいで進化するの」

千歌「……へー……。……ん? じゃあ、このイワンコ……なんでルガルガンに進化してないんですか……?」


当然の疑問が沸いて来る。


にこ「そう、問題はそこなのよ……」


にこさんが困った顔をしながら、


にこ「進化しないイワンコは……どっちの“すがた”のルガルガンの仲間なのか、ね」


そう言葉を続けた。


383 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:42:58.62 ID:bS2bQuBP0


    *    *    *





 「ワンッ ワン」

千歌「──待て」
 「ワンッ」


イワンコは私の言葉を聞いて、動きを止める。


千歌「お手」
 「ワン」

千歌「よしよし、いい子だね。食べていいよー」
 「ワンッ ワンッ」


私が許可すると、餌をがっつき始める。


にこ「へー……基本的な躾は教えてたつもりだけど……。随分慣れてるわね」


その姿を見てか、にこさんが関心しながら、声を掛けてくる。

あの後、部屋にイワンコが居たままだと梨子ちゃんが起きたときに大騒ぎになってしまうので、

一旦部屋を移して……なんとなく、なりゆきでイワンコと遊んでいる。


千歌「昔からしいたけ──トリミアンを飼ってたんで……犬ポケモンには慣れてるんです」

にこ「なるほどね。でも助かるわ、ただでさえ妹たちがおてんばなのに、イワンコまで増えたら相手しきれなくて……」

千歌「そんなこと言って、この子も保護してあげたんですよね? にこさんって世話焼きなんですね」

にこ「……ま、そうかもね。どっちかというとほっとけないタチかもしれないわ」


──保護した。

このイワンコは、十分に成長しきったのに、一向に進化しないため、群れから追い出されてしまった子らしい。

両方の“すがた”のルガルガンから、追い回されて、怪我をして弱っていたところを、にこさんが保護して、ここに匿っている。

 「ワフッ ワフッ」

餌をがっつく姿を見ながら、


千歌「どうして、この子は進化しないんだろう……」


思わず私は呟く。


にこ「この子だけなら、イレギュラーだったってことで、済んだのかもしれないけどね……」

千歌「……そうですね」


──にこさんに話を詳しく聞いてみたところ、このイワンコだけでなく、最近ルガルガンたちの群れの中に何匹か進化しないイワンコが現れ始めたとのことで、


千歌「最初の数匹はこの子みたいに追い出してただけだった……」

にこ「だけど、数が増えてきて、異変を感じたルガルガンたちが今度は逆に群れ同士で子供の取り合いを始めた。困った話よね」


その結果、“まひるのすがた”のルガルガンと“まよなかのすがた”のルガルガンが争いを始めてしまったと言うことだ。

普段はその名の通り、活動している時間帯が違うから、群れ同士が衝突するなんてことは滅多にないらしいんだけど……。
384 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:44:48.68 ID:bS2bQuBP0

 「ハッハッハッ」

千歌「あ、もう全部食べちゃったの?」
 「ワンワン」

千歌「遊びたいの? じゃあ、ボール遊びしよっか」
 「ワンワンッ!!」

千歌「ボール……モンスターボールでいっか。それーとってこーい!」
 「ワンワンッ!!」


軽くボールを投げると、イワンコはボールを追って走っていく。


千歌「結局この子どうするんですか?」

にこ「そうねぇ……最初はこの子だけが特殊なだけなら、知り合いの研究所に連れて行くのが一番丸く収まるかって思ってたんだけど……」

千歌「群れそのものに異変があるってなるとキリがないですよね……」

 「ワンワンッ!!」

千歌「あ、ちゃんと取って来れたね。偉いぞー」
 「ワン」

千歌「じゃあ、もう一回いくよー? それー!」
 「ワンッ!!」

にこ「地方のあちこちで野生ポケモンに異変が起こってるって、聞いてたけど……。いざ、目の当たりにすると、どうしたものかしら」


──野生ポケモンの異変。

音ノ木、流星山のメテノ騒動もだけど、にこさんの話を聞く限り、曜ちゃんの進んでいったスタービーチでも異変が起こってるらしい。

そして、ここドッグランでも。

今回の異変はイワンコとルガルガン。

理不尽に傷つけられ追い出された、イワンコが今目の前に居る。


 「ワンワン!」
千歌「……このイワンコ自体にはなんの問題もなかったんですよね?」

にこ「ポケモンセンターで治療のついでにいろいろ検査はしたけど……攻撃されて傷付いてた以外は健康体だったわ。強いて言うなら、進化しないことくらいかしら」

千歌「なるほど……」


私は少し考える。何か力になれないかな?

 「ワンワン」

この元気なイワンコ自体に問題は全くない。

なら、


千歌「進化さえすれば群れに戻れるってことだよね」
 「ワォ?」

にこ「まあ、そうだけど……」

千歌「ちょっと、電話してきます!」

にこ「? 誰に?」

千歌「知り合いに進化に詳しい人がいるんで──!」





    *    *    *


385 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:48:26.02 ID:bS2bQuBP0


ダイヤ「──進化しないイワンコ、ですか……」


突然教え子から掛かってきた電話口にぶつけられた質問。


千歌『何かわかったりしませんか? ダイヤさんって、進化の石とか詳しいし、何か知ってるかなって』

ダイヤ「……情報が断片的すぎて、なんとも言い難いのですが……“かわらずのいし”を持っていたりはしませんか?」


“かわらずのいし”──ポケモンを進化させなくする石のことです。


千歌『んー……イワンコ自身は何も持ってませんでした』

ダイヤ「ミツハニーやヤトウモリのように、性別によって進化しないポケモンも居るには居ますが……イワンコはそういうポケモンではないですし。そうなると条件が満たされてない、と考えるのが自然でしょうか」

千歌『条件が満たされてない?』

ダイヤ「一応現在の考えだと、ポケモンの進化は、戦闘を経験して体内に蓄積されたエネルギーが進化の源になったり、外的なエネルギーを与えることで進化する、と考えられています。どちらもエネルギーが十分な場合ということですわ」

千歌『外的なエネルギーって?』

ダイヤ「それこそいい例としては進化の石のことですわね。“ほのおのいし”や“みずのいし”は見せてあげたことがあるでしょう? あれは該当するポケモンに近付けるだけで進化を促します。まあ、尤も進化させたあとはエネルギーを失ってただの石になってしまうのですが……」

千歌『なるほど。他には?』

ダイヤ「土地が関係しているポケモンも居ますね……お母様の持っているジバコイルのようなポケモンは特殊な磁場を帯びた場所でレアコイルから進化すると言われていますわ。あとは……」

千歌『……あとは?』

ダイヤ「……それこそイワンコなら日光や月光の有無でしょうか」

千歌『……んーと?』

ダイヤ「確か、資料があったはず……ちょっと待っていてくださいね」


わたくしはそう言って、ポケギアを繋げたまま、本を探し始める。


ダイヤ「例えばイワンコは日光を浴びたから“まひるのすがた”のルガルガンに進化するのでしょうか」

千歌『? そうなんじゃないんですか?』

ダイヤ「依然はそう考えられていたこともあったのですが……あ、この資料かしら」


お目当ての資料を見つけ、手に取って中身を確認する。

そこにはイワンコの進化について、実例が何ケースか載っている研究資料。


ダイヤ「日光の下で十分に育てられたイワンコが進化をしなかったケースと言うのは何度かトレーナーから報告されていますの」

千歌『え? あのイワンコが特殊だって、言ってたんですけど……』

ダイヤ「話は最後まで聞きなさい。……その後、そのような報告があったイワンコは漏れなく、夜に月光の下で“まよなかのすがた”に進化したそうですわ。逆に月光の下で進化しなかったイワンコも漏れなく、日光の下で“まひるのすがた”に進化したそうです」

千歌『?? んっと……実は夜になると進化するってことですか?』

ダイヤ「と言うより、イワンコ自身は最初から進化する先が決まっていて、その進化の条件にそれぞれ日光下か、月光下か、と言うのが加わると言う考え方ですわね。ただ、話を聞いている限り、日光や月光では進化しなかったから、群れから追い出されてしまったんだと思いますが……」

千歌『……じゃあ、もしかしたらそれ以外のなんか光を当てれば進化する可能性はあるってことですか?』

ダイヤ「……可能性はあります」

千歌『! わかりました! 試してみます!』

ダイヤ「え、ちょっと千歌さん!? これはまだ可能性の話で──!!」


──ツーツー。


ダイヤ「切られてしまいましたわ……」


全く昔から、人の話を聞かない子でしたわね……。
386 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:49:58.65 ID:bS2bQuBP0

ダイヤ「はぁ……大丈夫かしら」


わたくしは思わず、ポケギアを握り締めたまま、溜め息をついてしまった。





    *    *    *





千歌「──と言うわけで光を当ててみます!」
 「ワォ?」

にこ「光、ねぇ……」


私はさっきダイヤさんから聞きだした話をにこさんに説明をして、イワンコを屋外に連れ出した。

──梨子ちゃんは依然眠ったままだけど、こころちゃんとここあちゃんが看病してくれるらしい。

心配には心配だけど、私が何かしたところで梨子ちゃんが突然元気になるわけじゃないし、イワンコはイワンコで心配だから、今は自分に出来ることをしよう、と。


にこ「とは言っても、日光も月光もおなかいっぱいよ? 他に何か心当たりとかあるの?」

千歌「……あー」


言われてみて……特に思いつかない。


千歌「にこさん、なんか光ありますか……?」

にこ「ないんかいっ!! 全くしょうがないわね……クレッフィ、マネネ」


にこさんが2つボールを放る。

 「フィー」「マネマネ」


にこ「技になっちゃうけど、この子たちなら何種類か光を出せるわ」

千歌「じゃあ、ちょっとやってみましょう! イワンコ、ちょっと我慢できるかな……?」
 「ワォ?」


イワンコを抱きかかえる。


千歌「手加減でお願いしますっ」

にこ「はいはい……クレッフィ、弱めの“ミラーショット”」
 「フィー」


金属光沢のあるクレッフィの身体から光線が発射される。

 「ワゥ…」

出力を絞ってもらった弱めの光がイワンコに当たる、


千歌「イワンコ、何か変化ありそう?」
 「ワゥ…」


イワンコには何も変化がなく、ぷるぷると首を振ってから、あくびをしただけだった。


千歌「これじゃなさそうですね……次、お願いします!」

にこ「これ意味あるのかしら……」


387 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:51:19.60 ID:bS2bQuBP0


    *    *    *





──数十分後。


にこ「“ミラーショット”、“マジカルシャイン”、“ラスターカノン”、“シグナルビーム”、“サイケこうせん”……全部ダメそうね」

千歌「うーん……やっぱ、違うのかなぁ……」
 「ワォ?」

にこ「私は最初から違うと思ってたけどね……」

千歌「他にはなんかないですか?」

にこ「……そうね、補助技で、加減が難しいから、降ろしてもらっていい? あんたも巻き込まれるわよ」

千歌「あ、はーい」


言われてイワンコを地面に降ろす。
 「ワォ?」


にこ「マネネ、“あやしいひかり”」
 「マネマネー」


にこさんの指示でマネネからなんとも言えない色の光球が発射され。

 「ワォ?」

イワンコの周りで揺れる。


にこ「さすがにこれでネタ切れね……はぁ、無駄な時間だった」

千歌「うーん……全く変化なしですね」


イワンコは退屈だったのか、私の足元に擦り寄って、
 「クゥーン」

と、鳴き声をあげるだけ。


千歌「あ、ごめんね、退屈だったよね……また、ボール遊びしよっか?」
 「ワゥワゥ!!」


さっきと何も変わらない。やっぱりダメそう……。


にこ「……ちょっと待って……変化なさすぎじゃない?」

千歌「え?」

にこ「マネネ、もう一度“あやしいひかり”」
 「マネ」


再び飛んできた光の球がイワンコの周りで揺れる。

 「ワォ??」

だけど、イワンコは首を傾げるだけ、


千歌「にこさん?」

にこ「……千歌、あんたもしかしたら、お手柄かもしれないわよ」

千歌「え?」


今度は私が首を傾げる番だった。


388 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:52:39.70 ID:bS2bQuBP0


    *    *    *





にこ「マネネ、“フラフラダンス”」
 「マネー♪」


マネネが不思議な踊りを踊りだす。

だけど──。

 「ワゥ」

イワンコは無視して、近くに生えた草をてしてしと叩いている。


にこ「やっぱり……このイワンコ、“こんらん”しないわ」

千歌「“こんらん”しない?」

にこ「イワンコの特性は“するどいめ”か“やるき”、あとは“ふくつのこころ”の3つ……その中に“こんらん”を防ぐ特性はないし、そういう技も覚えないはず」

千歌「……特性ってポケモンが固有に持ってる能力ですよね」


──つまり。


千歌「この子はイワンコじゃない……とか?」

にこ「当たらずとも遠からず……じゃないかしら。ポケモン図鑑がイワンコって言ってるんだから、イワンコには違いないと思うわ。逆に、だけど」

 「ワゥ?」

にこ「たまたま、“まひるのすがた”にも“まよなかのすがた”にも進化しなかったんじゃなくて、進化先にどっちの“すがた”もないってことじゃないかしら」

千歌「え、それじゃあなんの解決にも……」

にこ「……いいえ、ちょっと大規模になっちゃうけど、群れのイワンコたちをまとめて“こんらん”させる技を撃てば、進化しないイワンコを見分けられるかもしれない……」

千歌「……それって……あらかじめ特殊なイワンコだけ群れから、引き離しちゃえば、ルガルガンたちが争う理由もなくなる、ってこと……ですか?」

にこ「そういうことね……ちょっと、協会の方に連絡してくるから、あんたは──」

千歌「ま、待ってください!」


嫌な予感がして、にこさんの言葉を遮った。


にこ「……」

千歌「それじゃ、この子は……この子はもう群れには帰れないんですか……?」
 「アォ…?」

にこ「……そういうことになるわね」

千歌「そんな……」


私は言葉を失った。


千歌「……この子、何も悪いことしてないのに……」

にこ「……そうね」

千歌「そん……な……ことって……」

にこ「……」


 「ワォ…?」
私の足元にイワンコが擦り寄ってくる。

まるで、元気ないよ、どうかしたの? とでも聞いてるようにも思えた。


千歌「……」
389 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:53:30.80 ID:bS2bQuBP0

私は再びイワンコを抱き上げた。


 「ワォ?」
千歌「何か……何か他に……」

にこ「……もしかしたら、あるかもしれないわね」

千歌「! ホントですか!?」

にこ「でも、その方法は現状じゃわからない」

千歌「……!」

にこ「その方法を探る方法を見つけた。……それだけで十分お手柄よ、千歌」

千歌「で、も……それじゃ、この子は……」
 「ワゥ…?」


イワンコを抱き寄せると、

 「ワゥ」

頬を舐められる。


にこ「……協会に連絡してくるから。あんまり建物から離れちゃダメよ」


それだけ言うと、にこさんは育て屋の中に戻っていった。





    *    *    *





──ボールを放る。

 「ワンワン」

イワンコが取ってくる。

──また、ボールを放る。

 「ハッハッハッ」

また、イワンコが取ってくる。


にこ「千歌」


体育座りしたまま、イワンコと遊んでいると、育て屋から出てきたにこさんに、声を掛けられる。


にこ「いつまでしょげてるのよ」

千歌「……」

にこ「協会に連絡してきた。追って、それなりの規模の調査隊を派遣してくれるらしいから」

千歌「そう……ですか……」

にこ「ありがとね。あんたのお陰でこの異変はひとまず解決しそうよ」

千歌「……はい……」

にこ「……」
390 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:55:04.93 ID:bS2bQuBP0

私は、ただボールを投げる。

 「ワンワンッ」

ただイワンコはボールを拾ってくる。

ただひたすらに、マイペースに。

理不尽に追い出されただけなのに。もう、元居た場所に戻れない。


にこ「……あと、梨子が目覚ましたわよ」

千歌「! ホント……ですか……?」

にこ「……ただ、今戻ってこない方がいいわね。あんた酷い顔してるわよ」

千歌「……あはは、そう、ですか……」

にこ「…………」


にこさんは何を思ったのか、無言で私の頭を撫でてくれた。

なんだか、懐かしい感触な気がした。


にこ「……なんか好きな食べ物ある?」

千歌「……オレンの実」

にこ「わかった。用意して待ってるから、日が暮れる前には戻りなさい」


それだけ言うと、にこさんは再び屋内へと消えていった。





    *    *    *





──ボールを放る。

ボールを拾ってイワンコが戻ってくる。

何回繰り返したっけ。

なんか、思い出せないかも。


梨子「千歌ちゃん」


背後から声を掛けられる。


千歌「……! あ、梨子ちゃん、ち、ちょっとここには犬ポケモンが……!!」

梨子「……だいたいの話は聞いたよ。だから、ちょっと離れた場所から、ごめんね」

千歌「あ……うん」


梨子ちゃんが2m程離れた場所に腰を降ろす。


千歌「イワンコ、おいで」
 「ワゥ?」


ボールを取ってきた、イワンコを抱き上げる。
391 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:56:29.87 ID:bS2bQuBP0

梨子「……いろいろ、ありがとね千歌ちゃん。あらためて」

千歌「……ううん、私偉そうなこと言ってた割に、結局梨子ちゃんに怪我させちゃったし……」

梨子「そんな大袈裟に捉えないで? さっき、にこさんがお医者さんを呼んでくれてね。軽い脳震盪はあったみたいだけど……ちょっと休めば問題ないって。あとは擦り傷くらいだったって言ってたよ」

千歌「……でも、私が無理に連れ出さなきゃ、怖い思いさせることもなかったんじゃないかな……」

梨子「そんなことないよ」

千歌「……」

梨子「現に私は前に進めてるもん」

千歌「……ホントは梨子ちゃん、一人でどうにかしてたのかもよ」

梨子「千歌ちゃんが居なくちゃ無理だったよ」

千歌「……私に……そんな力、ないよ」
 「クゥーン…?」

梨子「どうしたの? 昨日は自身満々だったのに……らしくないよ?」

千歌「……」

梨子「最初に会ったときの、理不尽なほどの前向きさはどこにいったの?」

千歌「あはは、理不尽なほどの前向きさって……。……私が自惚れてただけなんだよ」

梨子「……」

千歌「……とにかく、頑張ればどうにかなるって思ってたんだ」

梨子「……うん」

千歌「……だから、梨子ちゃんもあそこから無理やり連れてけた、それで失敗した」

梨子「……」

千歌「……それに……今度は本当に何も出来なかった……」
 「クゥーン…」

梨子「千歌ちゃん……」


胸の辺りがじくじくする。

旅に出て、初めての大失敗。本当にうまく出来なかった。何も出来なかった。

ああ、そっか私……。


千歌「私……悔しいんだ……」


言葉にして、自覚する。


千歌「ごめんね……イワンコ……」
 「クゥ…?」


私はイワンコを抱き寄せて、謝る。


千歌「チカ、バカだから……キミに何もしてあげられない……」
 「クゥーン…」

梨子「……」

千歌「……ごめん……っ……」

梨子「……千歌ちゃん……あの──」


梨子ちゃんが何かを言いかける。が、


梨子「…………」


言葉を詰まらせたあと、
392 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:57:49.79 ID:bS2bQuBP0

梨子「……先に戻ってるね」


それだけ言って、立ち上がったのがわかった。


梨子「……そのイワンコ……懐いてるし、このまま千歌ちゃんの手持ちにしてもいいって、にこさんが」

千歌「…………」

梨子「知り合いの研究所に送るのは、他の個体を捕獲してからでも大丈夫だからって、言ってたよ」

千歌「…………うん」

梨子「…………」


梨子ちゃんは静かに足音を立てながら、育て屋の中へと戻っていった。


 「クゥーン」
千歌「イワンコ……」

 「クゥン?」
千歌「一緒に来る?」

 「クゥーン」
千歌「あはは、そればっか……。君はホントにマイペースだね……」


少しだけ顔をあげると、西の空に太陽が沈みつつあった。

辺り一帯が茜色に染め上げられる。


千歌「明日は良い天気になりそうだね……」


沈む夕日を眺める。

イワンコと、


千歌「イワンコ、夕日好きなの?」
 「…」

千歌「夕日、綺麗だね」
 「クゥン…」


イワンコは私の胸の中で、大人しくなって夕日を凝視していた。

そのまま、数十分。夕日が沈みきるまで、私たちはただ、ぼんやりとその茜に照らされて続けているのでした。


393 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 03:01:32.96 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃| ||
  ||.  回____  |    | |    .|__|    ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :    ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |          |     ||
  ||.  | |____| |____    /     .||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
  ||.  | |      | |  _.    /     :  ||
  ||.  ●     . |_回o |   |      :  .||
  ||.  | |          ̄    |.     :  .||
  ||.  | |        __    \    :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|    回 ||
  ||.   _/       o‥| | .|       ||
  ||.  /             | | .|       ||
  ||./             o回/       ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      イワンコ♂ Lv.26 特性:マイペース 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:8匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



394 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 03:02:32.53 ID:bS2bQuBP0
>>393
間違えた訂正



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      イワンコ♂ Lv.26 特性:マイペース 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:8匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/04(土) 10:12:47.39 ID:Yx/lA1IJo
追いついてしまった
396 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:48:32.51 ID:bS2bQuBP0

■Chapter029 『ダリアシティ』





──翌日。育て屋にて。


にこ「そういえば、あんたたち、コメコからダリアまで来たってことは、ジムに挑戦するの?」


にこさんにそう訊ねられる。


梨子「あ、はい。そのつもりで……」

千歌「──あっ!!」

梨子「!? ど、どうしたの? 千歌ちゃん……?」


そういえば、花陽さんに言われたことを完全に忘れてた……。


千歌「ポケモン6匹いないと……ジムバトル出来ないんですよね」

梨子「言われてみれば、私もコメコのジムでそんな話されたかも……私は6匹持ってるけど」

千歌「どうしよう、イワンコ入れても私、ポケモン4匹しか持ってないっ!」

にこ「まあ、そんなことだろうと思ったけど……」


にこさんは呆れたように肩を竦める。


梨子「大丈夫だよ、千歌ちゃん」

千歌「だ、だいじょばないよ!」

梨子「『私たち』合わせれば6匹以上持ってるから」

千歌「……ほぇ? どゆこと……?」

にこ「あんた、ホントに下調べとかしてないのね。ダリアジムはダブルバトルなのよ」

千歌「ダブルバトル……?」

梨子「ポケモンを同時に2匹ずつ出して戦う公式ルールのことだよ」

千歌「……んーと?」

にこ「だから……二人で同時にジムに挑戦するなら3匹ずつでいいのよ」

千歌「二人……同時……。二人同時……!!」

梨子「うん、私も千歌ちゃんも挑戦するつもりだったから、それなら──」

千歌「梨子ちゃんっ!」


梨子ちゃんに向き直って、頭を垂れる。


梨子「え、ちょっと千歌ちゃん!?」

千歌「後生ですので、チカと一緒にジムに挑戦してください……」

梨子「いや、そのつもりで話してたんだけど……」

にこ「ちゃんと、人の話聞きなさいよ……」

千歌「ホントに!? いいの!? 足引っ張るかもよ!?」

梨子「あはは、足は引っ張らないでくれると嬉しいかな……」





    *    *    *

397 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:50:57.95 ID:bS2bQuBP0



さて、朝のやり取りを終えた後、私たちはダリアシティの中心街に来ていました。


千歌「うわぁ……でかー……」


田舎育ちの私からすると、人で溢れるこの街は未知の大都会。


梨子「とは言っても郊外の学園都市だから、セキレイシティほどの大きな街じゃないらしいけど……」

千歌「更におっきな街があるの……?」


都会怖い……。


梨子「千歌ちゃんは図書館行くんだっけ?」

千歌「あ、うん。図書館で何すればいいのかよくわかんないけど……」

梨子「……私もついてくね」


──先ほど、にこさんに図書館に行くように勧められたので、行くことに。

数十分前のことです。


────────
──────
────
──


梨子「そういえば、わざわざこの話題をそっちから振ってきたってことは……このまま、ジムに案内してもらえたりするんですか?」

にこ「んー、そうしたいのはやまやまなんだけどね。昨日の件の先行調査を午前中の間にしたいから、ジム戦は午後まで待って欲しいって話をしたくてね。状況周知のために、こころとここあも連れて行きたいし……」

千歌「状況周知……?」

梨子「そういうことでしたら……午後になったら、千歌ちゃんとジムの方に伺いますので」

にこ「悪いわね」


なんか、よくわからないけど、話がトントン拍子で進んでいく。


にこ「せっかくだし、二人でダリアシティの観光でもしてきたら? 自分で言うのもなんだけど、結構大きな街だから時間はそれなりに潰せると思うし」

梨子「ん……まあ、ジムリーダーが居ないなら、しょうがないかな……千歌ちゃんもそれでいい?」

千歌「え、あ、うん!」


なんかよくわかんないけど。


にこ「千歌、あんたは特に行って置くべき場所があるわ」

千歌「い、行っておくべき場所……?」

にこ「ダリア図書館よ」

千歌「……図書館?」

梨子「あ、言われてみれば……ダリアには大きな図書館がありましたね」

にこ「あんたは知識面が弱すぎる。事細かに下調べしなさいとまでは言わないけど、ちょっとは基礎知識を身につけなさい」


──
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398 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:52:46.60 ID:bS2bQuBP0

──ダリア大図書館。

ダリア大学に併設された、オトノキ地方最大の蔵書量を誇る図書館で、毎日多くの学生さんが出入りしているそうです。


千歌「こ、これ……全部本なの……?」


中に入って、すぐ、高い天井までパンパンに本が詰まっている様子に圧倒される。


梨子「噂には聞いてたけど……確かにこれはすごいかも」

千歌「これだけあると、なんか襲ってきそう……」

梨子「襲っては来ない……と言いたいところだけど、確かにこれだけの本があると圧倒されちゃうね」


なんか、本棚を見上げてる首が痛くなりそうだ。


梨子「何か調べたいこととかある?」

千歌「特に……」

梨子「……だよね。たぶん、そういうタイプだなって思ってた」


梨子ちゃん、そう言って苦笑いしたあと、


梨子「とりあえず、旅にすぐ役に立つ、地理とか地図とかを見てきたらいいんじゃないかな」

千歌「地理とか地図かぁ……覚えられるかな」

梨子「ちょっと見ておくだけでも、後で何かを思い出すヒントになったりすると思うから」

千歌「……なるほど」

梨子「地理と地図は3階の人文科学の本と一緒にまとめて置かれてるみたいだね。それじゃ、私は1階に居るから……」

千歌「ほぇ? 梨子ちゃんは一緒に来ないの?」

梨子「私も読みたい本があるから……美術書は1階にあるみたいなの」

千歌「あ……確かに芸術の話、してたもんね」

梨子「うん。お昼前になったら、また1階に集合ね」

千歌「うん、わかったー」


私は一旦、梨子ちゃんと分かれて、3階に向かうことにした。





    *    *    *





さて、3階の……人文科学? の階に来て、私は一人頭を抱えていた。


千歌「……地図以外に読めるものがない」


人文科学と言うのは、なんなのか──と思って来てみたはいいが、実際に読んでみても、何の本のコーナーなのかよくわからない自分がいる。

ざっくり言うと、いろんな勉強の本がごったになってるような印象かな……?

当然、おバカなチカには理解できそうな本は全然なくて……。


千歌「地図眺めてるのも飽きてきた……」


地理の本とかも手には取ってみたけど……思った以上に文字が多くて、読むのをやめてしまった。
399 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:54:49.62 ID:bS2bQuBP0

千歌「んー……もっと、読みやすそうな本、ないかな……」


私は席から立って、自分に合いそうな本を探して、広い図書館の中を探索してみることにする。


千歌「哲学……倫理……。うーん……」


全然ピンとこない。

こんなことなら、私も1階に残って、梨子ちゃんの隣で絵本でも眺めてた方がよかったかも……。


千歌「ここからは、宗教、歴史……民俗学……ん?」


そこの棚の中で懐かしい本を見つける。

──『ディアンシー伝説』

確か、メレシーの女王様のおとぎ話。


千歌「わ、これ懐かしいな。子供の頃、よくウラノホシでおじいちゃん、おばあちゃんが話してくれてたやつじゃないかな……?」


少し古ぼけた、本を棚から引っ張り出すと、本独特の臭いがする。


千歌「絵本……にしては、分厚いかな……」


パラパラと本をめくると、中にはメレシーの写真や、イラストがたくさん載っている。

その中に、


千歌「あ……クロサワの入江だ」


見知った、土地の項目を見つけて、なんとなく視線がそっちに吸い寄せられる。

『クロサワの入江
 星と輝きの地方──オトノキの地の神、ディアンシーを祀る土地。
 オトノキ地方の最南端に位置し、人が足を踏み入れる前はディアンシーがメレシーの王国を築いていたとされている。
 公式の記録として、ディアンシーが確認されたことはないが、メレシーの特殊個体が多く生息し、その地下深くでは、今でもディアンシーを中心としたメレシーの王国があるのではないかと考えられている。』


千歌「へー……」


子供の頃、聞かされたおとぎ話に比べると、マイルドさはかなり削られてるけど、確かメレシーのおとぎ話はこんな話だった気がする。


千歌「確か……メレシーと人間たちは最初は仲良く暮らしてたのに、ある日その美しさに我慢できなくなった人間が、メレシーたちを捕まえちゃうんだっけ……」


──その結果、その人間たちの醜い姿に哀しみを覚えたディアンシーは人間たちの前から姿を消して……。


千歌「最終的に人から、宝石の輝きが失われた……」

 「──今ではその名残として、残されたメレシーたちを大事に保護している──という話でしたね」

千歌「?」


気付くと、後ろから、少し年上のお姉さんが、本を覗き込んでいた。


千歌「あ、ごめんなさい……これ、探してましたか?」


私は本を閉じて、手渡そうとするが──


 「あ、いえ、その本は前に読んだことあるので大丈夫ですよ」


そう言って、断られる。
400 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:58:17.43 ID:bS2bQuBP0

 「……ただ、この辺りの棚まで来て、本を開いてる人は珍しいので、随分研究熱心な学徒さんがいるのかなと興味深くて」

千歌「え、いや、学徒とかそんなんじゃ……ただ、故郷のお話だったんで、懐かしいなって思って」

 「ウラノホシのご出身なんですか?」

千歌「あ、はい。ウラノホシから来た、千歌って言います」

 「あ、すみません。申し遅れました……私は聖良と言います」


聖良さん──と名乗る女性はそう言って、恭しくお辞儀をする。


聖良「あの……もしよかったら、その話もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」

千歌「え? その話って……メレシーのおとぎ話ですか?」

聖良「はい。私はポケモン史学を研究していて……ちょうどディアンシー伝説について調べていたところなんですが、あまり資料がなくて」

千歌「んー……私が知ってるのも、この本に書いてあることくらいですよ?」

聖良「いえ、こういうのは案外、現地で育った人の口から聞くと発見があったりするので……もう一つ発見しましたし」

千歌「?」

聖良「千歌さんは手に持っている本には『ディアンシー伝説』と書いてあるのに、あくまで『メレシーのおとぎ話』と言うんですね」


言われてみれば……。


千歌「んっと……ディアンシー様の名前を出すと、警戒するから、あまり名前は口に出さないようにしなさいって……おばあちゃんから言われたことがあったかも」

聖良「ほう……」


子供の頃からの習慣だったから、そこまで意識はしてなかったけど……。


千歌「どっちかというと、メレシーの女王様って言うことの方が多かったです」

聖良「……ディアンシーは美しさに目の眩んだ人間から、身を隠したと言われていますから、その意思を尊重した伝承の名残なのでしょうか」

千歌「あと、メレシーを見つけたら、すぐに入江に帰すようにも言われてたかな……野生のメレシーは何年かに一回くらいしか見たことなかったですけど……」


つい最近入った、クロサワの入江に居たメレシーの数を考えると、あそこは私たちが思っている以上に厳重な管理をされていたのかもしれない。

──まさか、あんな形で足を踏み入れることになるとは思ってなかったけど。


聖良「しかし、不思議な話ですね」

千歌「? 何がですか?」

聖良「まるで、それだとディアンシーが世界の裏側から、私たちを見張っているみたいではないですか」

千歌「言われてみれば……」


あーえーと……それも、なんか似たような疑問を花丸ちゃんが町のおじいちゃん、おばあちゃんにぶつけてたような……。


千歌「確か……ディアンシー様は今、どこにでも居て、どこにも居ないから、って言ってたっけ」

聖良「──何処にでも居て、何処にも居ない……?」

千歌「いつでも人々を観察できる場所に居て、いつか、綺麗な心の持ち主の前に現れる……なんて、言ってましたけど……」

聖良「! それは、本当ですか?」

千歌「え? は、はい……」


変なところに食いつかれて、少し困惑する。


千歌「でも、やっぱただのおとぎ話かなって」
401 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:59:53.53 ID:bS2bQuBP0

話のオチとか、ディアンシーの今とか、ホントにふわふわしてて、よくわかんないし。

本当にあったことなのかは結局、伝説の域を出ない。


聖良「──本当にそうでしょうか?」

千歌「……え?」

聖良「本当にただの伝説なのでしょうか」


そのときの聖良さんの顔を──瞳を見て、何故だか私は背筋がゾクリとした。


聖良「……なら何故、あそこには今でも多くの特殊なメレシーが多く生息しているのでしょうか? 繋がりがない、あくまで御伽噺の中だけの幻と言い切れますか?」

千歌「それは……わかりませんけど……」

聖良「あ、すみません……興味のあることだと熱くなってしまうのは、研究者の悪い癖ですね。失礼しました」


そう言って謝る、聖良さんの瞳からは、さっきの変な感じはなくなっていた。


聖良「お時間を取らせてしまいましたね……ただ、非常に参考になる話が聞かせて頂けました。ありがとうございます、千歌さん」

千歌「あ、いえ」


聖良さんがまた恭しく頭を下げるので、私も釣られて軽く会釈する。


聖良「また、ご縁がありましたら──」


聖良さんはそう言って、図書館の棚の影に消えていった。


千歌「……『ディアンシー伝説』……かぁ……」


 『本当にただの伝説なのでしょうか』

あんまり、考えたことがなかったかも。

おとぎ噺はおとぎ噺、としか思ってなかったし……。


千歌「……んー、やっぱチカには難しいことはよくわかんないや……」


そう呟いて、私もその場を後にした。





    *    *    *





私は1階に降りて、集合場所に戻ってきたが、まだ梨子ちゃんが居ないことに気付き、

1階の美術書のコーナーへと足を運んでみる。

すると、本を食い入るように見つめている梨子ちゃんを見つけた。


千歌「梨子ちゃん」

梨子「あ、千歌ちゃん? ……もうこんな時間」


梨子ちゃんは少しバツの悪そうな顔をする。


梨子「ごめん、ちょっと集中してたから……」

千歌「ううん、チカが飽きて降りてきちゃっただけだから」
402 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:01:27.27 ID:bS2bQuBP0

そう言いながら梨子ちゃんの開いている本を見ると、

──梨子ちゃんをそのまま大人にしたような、女性のインタビュー記事だった。


千歌「梨子ちゃん、もしかしてこの人……」

梨子「あ……うん。私のお母さんだよ」


梨子ちゃんはそう言いながら、本を閉じて棚に戻す。


梨子「お母さんへのインタビュー記事とかは割と目を通してるつもりだったんだけど……読んだことないのも、結構あったから」

千歌「そっか。何かヒントは見つかりそう?」

梨子「……ううん。お母さん、すごいんだなってこと再認識したくらいかな」


梨子ちゃんはそう言って俯く。


千歌「……」

梨子「こんなんで、お母さんの期待に応えられるようになるのかな……」

千歌「梨子ちゃん……」

梨子「……って、こんな弱音呟かれても困るよね」

千歌「いや、私は大丈夫だけど……」

梨子「あはは、ありがと、千歌ちゃん。もうお昼前だし、どこかでご飯食べたら、ジムに行ってみようか」

千歌「あ、うん」


私は梨子ちゃんの言葉に頷いて、図書館を後にすることにした。





    *    *    *





──昼食を終えて昼過ぎ、ダリアシティを散策していると、程なくしてダリアジムを見つける。


千歌「ここが三つ目のジム……!」

梨子「えっと……この向きだと……西はあっちだよね」

千歌「?」


気付くと梨子ちゃんが建物の周りを観察していた。


千歌「どうしたの?」


私が声を掛けると、


梨子「あ、うん。日当たりを見てて」


梨子ちゃんはそう答える。


千歌「日当たり?」

梨子「私の手持ちってくさタイプが多いでしょ? くさタイプって日当たりによって、調子が変わるから……」

千歌「なるほど」


確かにくさポケモンって日光浴とかしてるイメージかも。
403 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:03:27.37 ID:bS2bQuBP0

梨子「ただ、公式のバトル用施設だけあって、そんなに心配する必要はないのかも。東、南、西から日が差し込むような構造になってる」

千歌「梨子ちゃんは偉いなぁ……そういうことに気が回って」


私とか、とりあえず『タノモー』って突撃しちゃうのに。

そんな私たちに、


にこ「……全くね」


にこさんが近付いて声を掛けてきた。


千歌「にこさん!」

梨子「調査の方は……」

にこ「お陰様で順調に終わったわ」

千歌「それじゃ……!」

にこ「ええ、すぐにでもジム戦は始められるわ」





    *    *    *





にこさんに先導される形でジムに足を踏み入れる。


にこ「バトル形式は6対6のダブルバトル。今回は千歌と梨子、二人で同時に挑戦だから、3匹ずつよ」

千歌「はい!」

梨子「わかりました」


私たちが入口側のバトルスペースに二人で並び立つ。

にこさんは奥へと歩を進めて行く。


千歌「……にこさん、どんなポケモン使ってくるんだろ」


私が見たのはクレッフィとマネネ。あ、私たちを助けてくれたときのポケモンもいたっけ……姿は見てないけど、


梨子「? にこさん……」

千歌「ん?」


梨子ちゃんが不思議そうな声をあげて、首を傾げる。


梨子「あれ……もしかして、千歌ちゃん勘違いしてる?」

千歌「え……?」

梨子「ここのジムリーダーは──」
404 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:04:07.72 ID:bS2bQuBP0

にこ『これより、ジム戦を開始するわよ!』


にこさんの声が響く。

バトルフィールドの脇の審判の立ち位置から。


千歌「え?」


にこ『チャレンジャー、ウラノホシタウンの千歌とタマムシシティの梨子』


フィールドを挟んで向かい側には──


にこ『ジムリーダー、こころとここあ! 各人使用ポケモン3体のマルチバトル! 使用ポケモンが全て戦闘不能になった時点で試合終了よ!』


こころ「じゃあ、ここあ」
ここあ「じゃあ、こころ」


こころちゃんと、ここあちゃんが立っていた。


こころ・ここあ「「ダリアシティ・ジムリーダー『いたずらフェアリーツインズ』 こころとここあ。いっくよー!!」」


千歌「え、ええー!!!!?」

梨子「……確かにこれは下調べ不足って言われても仕方ないかも……」


にこ『バトル──スタート!!!』


驚きも束の間、試合の火蓋が切って落とされたのだった。


405 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:05:57.77 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
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【ダリアシティ】
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 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      イワンコ♂ Lv.26 特性:マイペース 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:8匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
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 千歌と 梨子は
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...To be continued.



406 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:45:15.17 ID:bS2bQuBP0

■Chapter030 『決戦! ダリアジム!』





四者揃ってボールを放る。


千歌「ム、ムクバード!」
梨子「ペラップ!」

こころ「ピッピ!」
ここあ「プリン!」


相手は初手、ピッピとプリン。

 『ピッピ ようせいポケモン 高さ:0.6m 重さ:7.5kg
  月明かりを 浴びた 翼は 淡く 輝き 羽ばたかなくとも
  宙に 浮かんで 舞い踊る。 愛くるしい 仕草で 老若男女
  問わずに 人気だが その数は 非常に 少ない。』

 『プリン ふうせんポケモン 高さ:0.5m 重さ:5.5kg
  歌う ときは 一度も 息継ぎを しない。 12オクターブを
  超える 声域を 持っていて 相手が 一番 眠くなる
  波長で 歌を 歌い 続ける ことが 出来る。』


梨子「千歌ちゃん! とりあえず、集中狙いで!」

千歌「う、うん!」


動揺している暇は無い。

梨子ちゃんの視線を追うと、その先にいるのはプリン──


千歌「ムクバード! プリンに“すてみタックル”!」
 「ピピィー!!」


風を切って、ムクバードが飛び出す。


梨子「ペラップ、プリンに“エコーボイス”!」
 「オハヨーオハヨー!!!」


こころ「ピッピ!」
 「ピッピー」


一方プリンは動かず、ピッピが指を上げる。

すると──


千歌「あ、あれ!? ムクバード!?」


一直線にプリンに突っ込んでいたはずのムクバードが、無理やり曲がりピッピの方へと方向転換をする。


こころ「“このゆびとまれ”ー」
 「ピッピー」


まるでピッピに引き寄せられるように、


千歌「う、もう、そのまま行っちゃえー!!」


──ズンッ……と捨て身の一撃をピッピに食らわせるが、


こころ「ピッピ、がんばれー」
 「ピピッピー」

千歌「嘘!? 受け止めた!?」
407 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:47:57.62 ID:bS2bQuBP0

ピッピは少し後ずさっただけ、そのまま肉薄したムクバードの嘴を片手で掴んで止める。

見た目よりもパワーがある。流石ジムリーダーもポケモン……。

関心していたら、受け止められたムクバードの背後から、


 『オハヨーオハヨー!!!』
 「ピピ!?」


ペラップの出した衝撃波が襲ってくる。

驚いたムクバードは、すぐさま足でピッピを蹴ってどうにか空に離脱する。

思わず、梨子ちゃんの方を見てしまう。


千歌「ち、ちょっと梨子ちゃん!?」

梨子「ご、ごめん!? 攻撃が吸い寄せられて──」

ここあ「プリン!」
 「プュ」

千歌・梨子「「!?」」


梨子ちゃんとの会話をしている、一瞬。指示が遅れた、


ここあ「“ハイパーボイス”!!」
 「プリイィィィィィィィン!!!!!!!!」


千歌「だわっ!? う、うるさっ!!」

梨子「っ……!!」


プリンから放たれた大きな衝撃波に、

  「ピ、ピィィィィ!!!?」

空に逃げたムクバードが吹っ飛ばされて、ペラップの方に向かって吹き飛んでくる、


梨子「!? ペ、ペラップ、避けて!?」
 「リコチャン!? リコチャン!?」


だが、動揺したペラップは避けきれず。

二匹はぶつかって、

 「オハーリコー!?」
 「ピピィ!!!!」

そのまま、地面を転がる。


千歌「ムクバード!」
 「ピィッ…!!」


ムクバードは転がった勢いを残したまま、地面を蹴って空に逃げる。


梨子「ペラップ、大丈夫!?」
 「オハヨー!! オハヨー!!」

梨子「ほ……」


どうやら、ペラップも無事みたいだ、


千歌「梨子ちゃん、ご、ごめんっ!」

梨子「ううん、大丈夫──」
408 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:51:09.76 ID:bS2bQuBP0

こころ「ピッピ、“じゅうりょく”!」

ここあ「プリン、“うたう”!」


 「ピピッ!?」

息を吐く暇もなく、空を飛んでいた、ムクバードは地面に引き摺り堕とされ、

 「…オヤスミー…zzz」

ペラップはプリンの歌を聴いて、寝息を立て始める。

梨子「ペ、ペラップ!」


ま、まずい……。

“じゅうりょく”に驚いて体勢を崩したムクバードと、眠ってしまったペラップ。


梨子「く……ペラップ交代!」
 「…zzz」

梨子「メブキジカ!」
 「ブルル!!!」


梨子ちゃんがすぐさま行動不能なペラップを戻してメブキジカを出す。


梨子「“しぜんのちから”!」
 「ブルル!!!!」


建物の床から飛び出すように、赤と青と黄色の三色をしたエネルギー弾が飛んでいく。

──これはたぶん“トライアタック”だ。


こころ「ピッピ! もう一回“このゆびとまれ”!」
 「ピッピ」


だが、ピッピが再び指を上げると、またしても攻撃はそっちに向かって吸い寄せられる。


こころ「ピッピ! “コスモパワー”!」
 「ピッピッピ〜♪」


“コスモパワー”で防御能力をあげたピッピは身体を張って“トライアタック”を打ち消してしまう。


ここあ「プリン、“うたう”!」
 「プープリー♪」

 「ブ、ブルル…zzz」

梨子「メ、メブキジカ!」

千歌「ム、ムクバード、“からげんき”!」
 「ピイィィィ!!」


“じゅうりょく”の下で体勢を崩しているムクバードは根性で、地面を蹴って、ピッピに向かって低空を飛んでいく。


こころ「ピッピ、“おさきにどうぞ”」
 「ピピッピ」

ここあ「プリン、“めざましビンタ”!」
 「プユ!」


ピッピの指先が再び光ると、今度はプリンが加速した、


千歌「!?」

409 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:52:22.05 ID:bS2bQuBP0

そのまま、プリンがメブキジカをビンタする。

 「ブルルゥ…!!」

梨子「メブキジカ!」


ここあ「わっ!? まだ、立ってる!?」


目も覚めるようなビンタだったが、梨子ちゃんのメブキジカは踏ん張る。

それが予想外だったのか、

 「プユ!?」

驚いて動きを止めたプリンに、メブキジカが自慢のツノを突き立てる──


ここあ「後ろに逃げてー!」


勢いを殺すために、ここあちゃんが後ろに向かって飛ぶようにプリンを促す。


梨子「“だましうち”!」
 「ブルル!!」

 「プギュッ!?」


──と、見せかけて、蹄で踏み潰す。


こころ「ここあ!?」

 「ピィィイイイ!!!」

こころ「わわっ!?」


一瞬プリンに気を取られたのか、こころちゃんが驚きの声をあげる。

“じゅうりょく”の中、根性でピッピの元まで辿り着いたムクバードが、


千歌「“つばさでうつ”!」

 「ピピィ!!」


翼を振りかぶって、叩き付ける。


 「ピッピー!?」

こころ「ピッピー!」


攻撃が直撃し、ピッピが床を転がる。


千歌「たたみかけて! “すてみタックル”!!」
 「ピピィーーーー!!!」


再び地を蹴り、飛び出す。

転がるピッピに追い討ちを掛けるように、突進をかます。


 「ピピッ…!!」


そのタイミングで“じゅうりょく”の効果が切れたのか、ムクバードは再び空中に飛び立つことを許される。


梨子「! “じゅうりょく”が元に戻った!」

 「プリィ…」
410 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:57:30.12 ID:bS2bQuBP0

足元から逃げるようにもがくプリンに対して、

 「ブルル」

メブキジカをステップを踏むように一瞬脚を浮かせると、


梨子「“とびげり”!!」
 「ブルルル」

 「プュ!?」


ふわっと、ジャンプしたプリンを後ろ足で蹴り飛ばした。

プリンは私たちの背後の壁と天井にぶつかり、ボールのように室内を跳ねたあと、

 「プリィ…」

ジムの中央当たりに落ちて気絶、ピッピも“すてみタックル”の直撃によって、戦闘不能となっていた。





    *    *    *





にこ「ピッピ、プリン、戦闘不能」


審判の立ち位置から裁定を告げる。


こころ「今のここあの判断ミス!」
ここあ「でも、こころもあのタイミングだったら“めざましビンタ”するでしょ! こころこそちゃんとムクバード見てないからだよ!」
こころ「ここあのミスに誘われたの!」

にこ「二人とも、いいから次のポケモン出しなさい!」


こころとここあがピッピとプリンをボールに戻す間に、ムクバードとメブキジカは定位置に戻る。


千歌「な、なんとか、競り勝った……」

梨子「こっちも……」


ここあがメブキジカの力量を測り間違えたことで一気に形勢が逆転した。

ただ、その分の代償も小さくない。

梨子は手持ちが一匹眠っているし、メブキジカも少なくないダメージを受けている。

更に、千歌のムクバードはもう慢心創意だ。

さて、ダブルバトルの独特のゲームスピード、掴み切れるかしら。





    *    *    *





目の前では、ピッピとプリンが戦闘不能になって、言い争いを始めた、こころちゃんとここあちゃんがにこさんから注意されている。

そんな中、


梨子「千歌ちゃん……」


梨子ちゃんが耳打ちで、
411 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:58:32.12 ID:bS2bQuBP0

千歌「何?」

梨子「今のうちにムクバードは交換した方がいいかも……」


そう促してくる。


梨子「さっきの攻防も一瞬で状況が目まぐるしく変わっちゃったし、お互い意思疎通をする暇なく状況が変わっちゃうから」

千歌「……確かに」


その隙を突かれるとせっかく逆転した形勢も、すぐにひっくり返されるかもしれない。


千歌「ムクバード、戻って」
 「ピピ…」


ダメージを負った、ムクバードを戻して、


千歌「マグマラシ!」
 「マグッ」


私はマグマラシに交代する。

──私は梨子ちゃんの顔を見た。


梨子「?」

千歌「梨子ちゃん、勝とうね!」

梨子「う、うん? ……もちろん?」


今の私の控えを考えると、マグマラシは実質……。

……。

……ここで勝ちきらないと、


梨子「千歌ちゃん、次来るよ……!」


梨子ちゃんの言葉で視線を戻すと、口論が終わったのか、こころちゃんとここあちゃんは新しいポケモンを繰り出そうとしていた。





    *    *    *





こころ「エレキッド!」
ここあ「ブビィ!」

ジムリーダーの二番手はエレキッドとブビィ!

 『エレキッド でんきポケモン 高さ:0.6m 重さ:23.5kg
  腕を ぐるぐる 回して 電気を 発生させ 充電する。
  ツノが 青白く 光ったときが 充電 完了の サイン。
  触ると ビリリと 痺れるので 注意が 必要。』

 『ブビィ ひだねポケモン 高さ:0.7m 重さ:21.4kg
  小柄だが 体温は 600度。 ブビィが 落っこちると
  小さな 池 くらいなら 干上がってしまう。 息を  吸ったり
  吐いたり するたび 口と 鼻から 火の粉が 漏れる。』


──相手はでんきタイプとほのおタイプ、相性から考えて……。
412 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:00:01.02 ID:bS2bQuBP0

千歌「マグマラシ! ブビィに向かって“ニトロチャージ”!」
 「マグッ!!!」


──ブビィはチカたちがひきつける!

マグマラシが火炎を纏って、走り出す。


梨子「メブキジカ、エレキッドに向かって“エナジーボール”!」
 「ブルル!!!」


こころ「エレキッド! “エレキボール”!」
ここあ「ブビィ! “はじけるほのお”!」


一方、ジムリーダーは、


梨子「!」


攻撃をメブキジカに集中させている。

空中で“エナジーボール”と“エレキボール”が相殺し、その後ろから“はじけるほのお”が続け様に飛び荒び、メブキジカを襲う……!


 「ブルルッ!!?」

梨子「メブキジカ!!」


一方で、マグマラシは、

 「マッグゥ!!!」
 「ブビビッ」

“ニトロチャージ”をブビィに炸裂させる。


千歌「梨子ちゃん!」

梨子「大丈夫! 千歌ちゃんはブビィを!」

千歌「! うん! マグマラシ、“かえんぐるま”!」


続け様に炎を身に纏って、回転したまま突進。


ここあ「ブビィ、“ほのおのパンチ”!」


マグマラシとブビィの炎の打撃がぶつかり合う。

私の仕事はブビィをひきつけることだ……!


梨子「メブキジカ! “こうごうせい”!」
 「ブルル…!!」


こころ「エレキッド、“でんこうせっか”から──」


回復するメブキジカの元にエレキッドが飛び出して──


こころ「“まわしげり”」
 「レキッド!!!」


エレキッドの捻りを加えた足がメブキジカの頭部を蹴り飛ばす。

フィールド手前ではメブキジカとエレキッドが、

奥側ではマグマラシとブビィが組み合っている。

さっきと違って、うまく分断出来た……! このまま、個々で──
413 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:01:19.02 ID:bS2bQuBP0

こころ「エレキッド!」 ここあ「ブビィ!」

こころ「“ほうでん”!」 ここあ「“ふんえん”!」

梨子「!」

千歌「わわ!?」


ジム内部の広範囲を、電撃と、灼熱の噴煙に包み込む。


梨子「“ほごしょく”!」

梨子ちゃんは咄嗟に防御の技を撃ったようだ、


千歌「マグマラシっ! “ずつき”!」

 「マグッ!!」
 「ブビッ」


マグマラシはブビィに“ずつき”をかまして、一旦距離を取る。

──が、

 「マグ・・・!!」

噴煙と電撃にまみれるフィールドの中で、マグマラシは表情を歪める。


千歌「マグマラシ!?」

梨子「今の“ほうでん”でマヒした……!? メブキジカ、“アロマセラピー”!」
 「ブルル!!!」


噴煙の硫黄の臭いを、心地よい花のような匂いが上書きする。

確か、周りのポケモンの状態異常を癒やす技だ。


千歌「梨子ちゃん、ありが──」

こころ「エレキッド、“ばくれつパンチ”!」
 「エレキッ!!!」

 「ブォッ!!!?」

梨子「っ!!」

千歌「!?」


メブキジカがサポートするために出来た隙に、攻撃が叩き込まれる。


ここあ「ブビィ! “からてチョップ”!」
 「ブビィーー!!」

千歌「──“かわらわり”っ!!」
 「マグッ」


今、意識を相手から外しちゃダメだ。

メブキジカの助けが無駄になる。

ブビィの手刀と、マグマラシの打撃がぶつかる。

──スピードで押し切る!

“かわらわり”で薙いだ反動を、そのまま返す刀で次に繋げる……!
414 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:03:12.04 ID:bS2bQuBP0

千歌「“つばめがえし”!!」
 「マグゥ!!」

 「ブビッ!!!」

千歌「よし、このままエレキッドも……!!」

こころ「エレキッド──!」


だが、振り返ったときには──遅かった。


こころ「“かみなりパンチ”!!」


電撃を纏った拳が、反応しきれなかったマグマラシに直撃する。


千歌「マグマラシ!!」

 「マグ…」


にこ『……メブキジカ、ブビィ、マグマラシ戦闘不能ね』


ここあ「うー……戻れ、ブビィ……最後の一匹になっちゃった」


エレキッドが定位置に戻る中、ここあちゃんが恨めしそうにこっちを見ているが、


千歌「……マグマラシ、戻れ」

梨子「ありがとう、メブキジカ……」


フィールドから三体のポケモンが手持ちの戻され、ここあちゃんと梨子ちゃんが次のボールを構える。

中で──私は……。


梨子「……? 千歌ちゃん……?」


ダメだ、このタッグバトルで、梨子ちゃんと一緒に戦う上で……。


にこ『千歌、次のポケモンを出しなさい』


──犬ポケモンは、出せない。


にこ『……次を出さないなら、戦意喪失とみなすわよ』


私は──マグマラシまでで勝たなくちゃ、いけなかったのに……!

腰につけたボールに手を当てたまま、これ以上動けなかった。

思わず、唇を噛む。


梨子「千歌ちゃん」


その時、


千歌「……!」


隣の梨子ちゃんが、腰のボールを握る、私の手に触れた。


にこ『……』
415 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:03:56.84 ID:bS2bQuBP0

梨子「……私のことは気にしないで」

千歌「でも……」

梨子「……」


梨子ちゃんは重ねたままの手で、私のボールのボタンを勝手に押し込む。


千歌「あ!!」

 「──ワンッ!!」


ボールからはイワンコが飛び出し、元気に声をあげる。


梨子「……っ!」


梨子ちゃんがその声に反射的に身を竦めたのがわかった。


千歌「……!」


ダメだ、やっぱりダメなんだ、

──チカが無理矢理に連れてきちゃったのに、

梨子ちゃんに、これ以上──


梨子「──これ以上、私に怖い思いさせちゃダメだって」

千歌「え……」

梨子「そう、思ってるんだよね」

千歌「…………」


にこ『…………』


梨子「千歌ちゃんが背負わなくていいんだよ……」





    *    *    *





このまま、千歌ちゃんの優しさに甘えたままじゃ、ダメだよね。

視線をゆっくり下に降ろす。

──千歌ちゃんの足元にいる、イワンコに。


千歌「梨子、ちゃん……」

梨子「……すぅ……」


息を吸う。


梨子「…………ふぅ……」


吐いて……膝を折ろうとして──脚が震えていることに気付く。


千歌「梨子ちゃん、やっぱり……!」

梨子「大丈夫……!!」
416 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:04:58.68 ID:bS2bQuBP0

私は、笑う膝に無理矢理力を込める。……折って、中腰になる。

そして、

手を伸ばした、

 「ワォ…?」

イワンコに、


梨子「……っ……」


脳裏に過ぎるのは、

あのときの記憶、

あのときの、トラウマ、

今でも痕の残っている、

あの傷、

心臓の音が自然と早くなる、

──この子は違う、

──この子はデルビルじゃない、

 「ワン」

自分にそう言い聞かせても、手が震える、

でも、

──私がこれ以上、足を引っ張ってどうするの。

泣いて怖がる私を……助けてくれた、千歌ちゃんに、

これ以上迷惑掛けて、どうするの……!


梨子「私が──私自身が乗り越えなくちゃ、いけないんだ……!」

千歌「……!!」


手を降ろすと、

そこに、

 「ワォ…?」

イワンコが、居た。

毛の質感がする。

 「ワンッ!!」


梨子「きゃっ!?」


イワンコが鳴き声をあげた拍子に、驚いて尻餅を搗く。


梨子「はぁ……はぁ……触れた……」

千歌「……梨子ちゃん……!!」

梨子「触れたよ……千歌ちゃん……」

千歌「うん……うん……!」


一瞬だけど、触ることが出来た。


梨子「千歌ちゃん……勝とう!」

千歌「……っ……!! ……うんっ!!」
417 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:07:06.70 ID:bS2bQuBP0

にこ『千歌は、イワンコね……。……さ、梨子も。次のポケモンを』


梨子「はい、失礼しました。チェリンボ!」
 「チェリリ!!!」

千歌「イワンコ、行くよ!」
 「ワンッ!!」





    *    *    *





私がチェリンボと一緒に前を向くと、ここあちゃんが最後のポケモンを繰り出した。

──様子を見て、待っていてくれたのかもしれない。


ここあ「いけーマイナン!」

ここあちゃんの最後のポケモンはマイナン。

 『マイナン おうえんポケモン 高さ:0.4m 重さ:4.2kg
  マイナンと プラスルの 電気を 同時に 浴びると
  血行が 良くなり 元気に なる。 体から 発する
  電気を ショートさせて 火花を 出しながら 応援する。』


にこ『試合再開!!』


梨子「千歌ちゃん! 少しだけ時間稼げる!?」

千歌「ガッテン!! イワンコ! “がんせきふうじ”!!」
 「ワンッ!!」


イワンコが床を踏み砕いて、作り出した岩石を前方に飛ばす。


こころ「エレキッド! “いわくだき”!」

ここあ「マイナン! エレキッドを“まねっこ”!」


一方相手は迎え撃つ形で、降り注ぐ岩を叩き割る姿勢。


梨子「チェリンボ! “にほんばれ”!」
 「チェリリ!!」


私の指示、チェリンボの鳴き声と共に、ジムの西側から、日が差し込んで来る。

──“ひざしがつよい”、晴れ状態だ。


梨子「出来るよね、チェリンボ!」

 「チェリリ…!!」


差し込んできた光を吸収して、チェリンボが眩く光る。

 「チェリリーー!!!!」

チェリンボの頭上に即座に収束された光の球が打ち出され、


こころ「わっ!? 狙われてる!?」
 「エレキッ!?」

梨子「“ソーラービーム”!!」
 「チェリーーーー!!」
418 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:08:30.69 ID:bS2bQuBP0

その光球から打ち下ろすように、光線が走る──

そのまま、岩を砕くことに注力していた、エレキッドを貫く……!

 「エ、エレ…キ…」


にこ『エレキッド、戦闘不能!!』


こころ「も、戻れ! いけ、プラスル!」
 「プラァッ」


 『プラスル おうえんポケモン 高さ:0.4m 重さ:4.2kg
  いつも 仲間を 応援している ポケモン。 仲間が 頑張ると
  身体を ショートさせて パチパチと 火花の 音を 立てて
  喜ぶ。 電柱から 電気を 吸い取って 電気を 溜める。』


こころちゃんがすぐさま、控えのポケモンを繰り出す。

流れが来てる、好機を逃さない、


梨子「もう一発──!」


そのとき、


梨子「!」


チェリンボがさっきよりも、更に眩く光りを放つ。

──この光……!


千歌「進化……!!」

梨子「……! うん、一緒に前に進もう!! ──チェリム!!」
 「チェリーーーーー!!!!!」


チェリムの鳴き声と共に、花びらが──フィールド上を舞い踊る。

──チェリムの特性、“フラワーギフト”が日差しにより、花開く……!





    *    *    *





ここあ「マイナン、“てだすけ”!」
こころ「プラスル、“でんげきは”!!」
 「マイマイー」「プラァァァアア!!!」


バチバチと火花をショートさせながら、派手に応援するマイナンと、それを受けて高められた気合いからより大きなエネルギーの電撃の収束させるプラスル。


千歌「イワンコ! “いわおとし”!」
 「ワンッ!!!」

梨子「チェリム! “ソーラービーム”!!」
 「チェリーー!!!!」


フィールド上に立つのは恐らく、事実上の最後の4匹。

強化された、電撃が乱れ飛び、降り注ぐを岩を破壊しながら、迫る。

その電撃を収束された太陽光線が薙いで、相殺する。

バトルは佳境……!
419 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:10:09.44 ID:bS2bQuBP0

こころ「ここあ、任せるよ! プラスル、“じゅうでん”!」
 「プラァッ!!!!」
ここあ「OK! マイナン! “ワイルドボルト”!!」
 「マイマイー!!」


後ろで、電気を蓄えるプラスル。その隙を稼ぐためにマイナンが飛び出す。


千歌「イワンコ、迎え撃つよ!」
 「ワンッ!!!」

千歌「“ロッククライム”!!」
 「ワンッ!!!!!」


岩山も駆け上る勢いで、敵に突撃する突進技で出迎える。


梨子「チェリム、“せいちょう”!」
 「チェリリーーー」


一方チェリムは、“じゅうでん”したプラスルを迎え撃つための準備を始める。


 「マイーーーー!!!!」 「ワンッ!!!!!」


フィールドを駆け抜ける、イワンコとマイナンが衝突する!

──二つの衝撃がぶつかり合い、


ここあ「いけ、マイナンッ!」

千歌「イワンコッ!」


──鍔競り合う。

後ろでは、チェリムの花びらが舞い踊るたびにより強く、日差しが差し込んでくる。

ジムの中は、桜色の花びらと、夕日の茜色が交じり合い、幻想的な光景を作り上げていた。


千歌「ふふ……」


今は、バトルに集中しなくちゃいけないんだけど、

その美しい光景に、私は思わず笑ってしまった。


 「ワォンッ!!!」

 「マイッ!?」


突進対決は辛うじて、イワンコが制する。

吹っ飛ばされて、宙を舞うマイナンに、


ここあ「マイナン、“てだすけ”!」
 「マイッ!!!」


ここあちゃんがすかさず指示を出す。

中空に居ながら、周囲をショートさせて、盛り上げる。


こころ「プラスル! “10まんボルト”!!」
 「プラァアアアアアア!!!!!!!」


そして、プラスルから放たれる、渾身の電撃。


梨子「迎え撃つよ、チェリム! “ソーラービーム”!!!」
420 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:11:33.51 ID:bS2bQuBP0

三たび、太陽光線がバトルフィールドを走る。


──……もう、イワンコは二度と仲間の元に戻れないって、それが何故だか、すごく悲しかった。

何も悪いことしてないのに、気付いたら仲間外れにされて、追い出されて──

どうにもしてあげられないのが、もどかしかった、

だけど、だけどさ──


“ソーラービーム”と“10まんボルト”がぶつかり合って、光が音が熱が、フィールドを駆けながら、飛び散る。

 「ワンッワンッ!!!!」


こうして、一緒にこの景色を見て、この景色の中を走って、この景色の中で戦って、

もうそんなの、そんな風に出来たら、もう十分……──


千歌「──私たちはもう、キミの仲間だよね……っ!!! イワンコッ!!!!!」

 「ワンッ──!!!!」


私の言葉に呼応するように、イワンコが眩く輝いた──。

花が、岩が、電が、光が、音が、熱が……そして、茜が、舞い狂う戦場の中で──。

 「ワォオーーーーーーン」

一匹の『たそがれ色の戦浪』が“とおぼえ”をあげた。


千歌「“アクセルロック”!!!」
 「ワォーーーーン!!!!!!」


421 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:12:24.52 ID:bS2bQuBP0


    *    *    *





こころ「やられたにこー……」

ここあ「にこー……」


にこ『……プラスル、マイナン。戦闘不能』


千歌「はぁ……はぁ……」

梨子「ち……千歌ちゃん……」

千歌「……うんっ!」


にこ『ジムリーダーこころ、ここあは手持ちの全てのポケモンが戦闘不能。よって──』


梨子「チェリム……ありがと……」
 「チェリー」

千歌「やったね……!」
 「ワォーン」


にこ『チャレンジャー千歌と梨子の勝利!』


千歌「梨子ちゃん!」

梨子「千歌ちゃん……!」


私たちは、目線を交わしてから、

──パァーン!

自然とハイタッチを交わしていた。





    *    *    *





こころ「にこにー負けたー……」
ここあ「負けちゃったー……」

にこ「ちゃんと、見てたわよ、二人ともいい勝負だったわ」

こころ「わーい」
ここあ「にこにーもっと褒めてー」

にこ「今日は夕食は二人の好きなもの作ってあげるから、先にジム戦の仕事を真っ当するにこ」

こころ・ここあ「「はーい」」


にこさんに言われて、こころちゃんとここあちゃんがこっちを向く。


こころ「ダリアジムに勝った証として」
ここあ「千歌ちゃんと梨子ちゃんの二人には、この──」

こころ・ここあ「「──“スマイルバッジ”を進呈します!」」





    *    *    *

422 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:13:45.89 ID:bS2bQuBP0



──ジムでの激戦を終えたあと、私たちは本日も宿を貸してもらえるということだったので、育て屋に来ています。

夕食も終わり……。


こころ・ここあ「「……にこにーおかわりー……zzz」」


こころちゃんとここあちゃんは疲れたのか、もう寝てしまった。


梨子「寝言まで一緒……」

千歌「さすが双子だね」

にこ「……それはともかく、よ」


にこさんがそう言って私の方を見る。


にこ「千歌、もう一度見せてもらっていい?」

千歌「あ、はい」


私はボールから、そのポケモンを出す。

 「ワォン」

オレンジ色の、ルガルガン。


にこ「このポケモンは……ルガルガン、でいいのよね」

千歌「たぶん……そうだと思います」


ポケモン図鑑には、姿自体はルガルガンとして登録されたんだけど……。


千歌「『Unknown Forme』って出ちゃうけど……」


フォルムの項目には、謎の姿として登録されている。


にこ「“まひる”とも“まよなか”とも違う、更に別の“すがた”があるなんてね……」


にこさんがルガルガンを見ながら、首を傾げている。


千歌「ところで──梨子ちゃんはなんでそんなに離れてるの……?」

梨子「えっ!? え、えーと……まあ、その、仲良くなるのはもうちょっとゆっくりでいいかなーとか思ったり、思わなかったり……?」

千歌「大丈夫だよ、怖くないよー」

にこ「そういう風に急かすんじゃないの」

千歌「えー?」

にこ「触れただけでも上出来なんでしょ? こういうのはゆっくり解決するんでいいのよ」

千歌「はーい」


私はルガルガンをボールに戻す。
423 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:15:23.49 ID:bS2bQuBP0

梨子「ほ……」

にこ「とにもかくにも、ジム戦突破おめでとう」

千歌「ありがとうございますっ!」

梨子「ありがとうございます」

にこ「あんたたちが受け取った、スマイルバッジには手持ちのポケモンの防御力をあげる効果もあるわ。大切にしなさい」

千歌「はい! ……それにしても、にこさんと戦うんだとばっかり思ってたんだけどなぁ」

にこ「……まあ、旅してれば、そのうちどこかで戦うこともあると思うわよ」

梨子「あはは……」

千歌「?」


梨子ちゃんは何故か苦笑いをしている。


にこ「それで、あんたたち、今後はどうする予定なの?」

千歌「今後……」

梨子「ここからだと、北のヒナギクシティか、東のセキレイシティかですよね」

にこ「このままジム巡りを続けるなら、そうかしらね。まあ、どっちにしろヒナギクシティに行くにはカーテンクリフを越えてかないといけないから、オススメしないけど……」

千歌「カーテンクリフ?」

梨子「オトノキ地方の北部を分断してる絶壁のことだよ、千歌ちゃん」

にこ「かなり高高度まで飛べるポケモンが居るなら別だけど……基本的にはローズシティを経由して、迂回した方がいいと思うわ。どっちにしろ、セキレイにもローズにもジムはあるしね」

千歌「じゃあ、次はセキレイシティかな?」

梨子「少なくとも、私はセキレイを目指すことになると思います」

千歌「あ、じゃあ、梨子ちゃんとはもうちょっと一緒に旅になるね」


私が笑いながら、能天気に言うと、


にこ「あー……それについてなんだけど……」


にこさんが言葉を濁した。


千歌「?」

にこ「ルガルガンについての報告をしたいから、明日すぐに発つのは待ってもらえないかしら? 出来るだけ早く、調査は終わらせるから」

千歌「あ、そっか……」


もともとイワンコも、進化できないのが原因不明だったから、チカが引き取っていいって話だったけど……事情が変わっちゃったもんね。


千歌「梨子ちゃんはどうする?」

梨子「ん……私は……」


梨子ちゃんは私の言葉に少し迷った素振りを見せたけど──


梨子「私は、出来るだけ早めに……セキレイシティに向かおうかなと思います」


まあ、梨子ちゃんは私よりも急ぎの旅みたいだし……お別れは残念だけど、仕方ないかな。


にこ「そう……なんか悪いわね」

梨子「いえ、そんな……」

にこ「概ねの予定はわかったわ。それじゃ、わたしは先に休ませてもらうわね……明日も動かないといけないし、何より夜更かしは美容の敵だから──」
424 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:16:16.86 ID:bS2bQuBP0

にこさんはそう言うと、私たちを残して自室へと戻っていった。





    *    *    *





──なんとなく、育て屋の外に出て、夜のドッグランを見つめる。

建物の近くだと、ポケモンも寄ってこないから、安心して夜風に当たることが出来た。


梨子「千歌ちゃん……ホントにありがとね」


ぼんやりしていると、梨子ちゃんがお礼交じりに話しかけてくる。


千歌「ううん、こちらこそ、ありがとうだよ」


私は思わず立ち上がり、お礼を返して、梨子ちゃんの手を取った。


千歌「もし、あの場で梨子ちゃんが勇気を出してくれなかったら、ジム戦には勝ててなかったし……それに私、イワンコのこと、ちゃんと自分の中で飲み込めてないままだったと思う」

梨子「千歌ちゃん……それを言うなら、あの場で前に進めたのは千歌ちゃんのお陰だよ」

千歌「……じゃあ、お互い様ってことで!」

梨子「ふふ、そうだね」


夜風が二人の髪を揺らす。


梨子「明日からは、またお互いの旅が始まるけど……少しの間でも、千歌ちゃんと一緒に過ごせて良かった」

千歌「私もだよ。それもお互い様だね」

梨子「ふふ、うん」


また、明日からはそれぞれの旅が始まる。

梨子ちゃんと出逢ってから、一緒に過ごして、一緒に戦った激動の三日間が締めくくられようとしている。

出会いと、別れの予感を感じながら、私たちの旅は、まだまだ……続くったら、続くのです──。


425 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:16:43.50 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.25  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.24 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.27 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:9匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.27 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:7匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



426 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:19:40.91 ID:bS2bQuBP0

■Chapter031 『サニータウン』 【SIDE You】





──さて、船での激戦を終えて……辿り着いたサニータウンで宿を取った、翌日。


花丸「それじゃ、マルたちは先に行くね」


花丸ちゃんとルビィちゃんはセキレイに急ぐってことだったから、今は見送りの真っ最中であります。


曜「二人とも、あんまり無茶なことしちゃだめだよ?」

ルビィ「ぅゅ……ルビィも流石に海の藻屑にはなりたくないから……気をつける」

花丸「当分は海から離れる一方だから、大丈夫だと思うけどね」


……そういう意味じゃないんだけど。


曜「とにもかくにも、何かあったら曜ちゃん先輩に連絡するんだよ?」

ルビィ・花丸「はーい」


……まあ、そういう私も果南ちゃんがいなかったら危なかったんだけどね。なんて、カッコが付かなくて言い出しづらいけど。





    *    *    *





曜「さて……じゃあ、私も活動を始めますか」


私は昨日辿り着いた、サニータウンのサニー港へと一人足を向ける。

──そう、今は一人だ。

ことりさんは今朝方、牧場おじさんをコメコシティに送った後、フソウタウンに置いてきてしまった荷物を取りに行くとのことだった。

……ちなみにここまで牽引してきたおじさんの船は、一旦メンテナンスをしてから、お返しするらしく、サニー港で入渠中だ。

ただ、ことりさんが帰ってくるまでぼんやりおやすみ、なんてことはなく……ちゃんと今後のための活動方針を言い渡されているのであります。



────────
──────
────
──


曜「手持ちの拡充?」

ことり「そうです! 曜ちゃんにはグランドフェスティバルを目指してもらう以上、今のままじゃ、手持ちの数が全然足りてないんだもん!」


確かに……昨日捕まえたダダリンを含めてもメインパーティとして扱ってるのは今のところ4匹だけだ。


ことり「でもね、ただ手持ちを増やせばいいってわけじゃないからね」

曜「? どういうこと?」

ことり「コンテストの各部門については、もうわかってる?」


──各部門。
427 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:21:48.32 ID:bS2bQuBP0

曜「それは、志満姉から聞いたよ……かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさだよね」

ことり「そうそう。その5つの部門を渡り歩くための手持ちが必要だから」


詰まるところ、手持ちの中にそれぞれの部門担当のポケモンがいた方が良いと言うことだ。


ことり「ちなみに曜ちゃんは今の手持ちの中だと、どう役割分担するのか考えてるの? うつくしさはラプラスだと思うけど」

曜「えっと……かっこよさはカメールに、かわいさとたくましさはホエルコ、うつくしさとかしこさはラプラスにお願いしようと思ってたんだけど……。かしこさは今回入ったダダリンに変わってもらおうかなって」

ことり「部門兼ねかぁ……悪くは無いけど」


ことりさんは難色を示す。


ことり「かわいさとたくましさは、アピールの考え方が全然違うから、やめた方がいいと思うよ? それにホエルコはかわいさ部門の子にするのは……」

曜「え? ホエルコ、かわいくないかな……?」


正直、こういう反応されるのは予想外。

まるっこくて、愛らしいフォルムだと思うんだけど……。


ことり「ううん、わたしもホエルコはかわいいと思うよ」

曜「?」

ことり「でも……曜ちゃんその子、進化させたいって思ってるんだよね?」

曜「……あー」


そう言われて、納得してしまった。

ホエルコの進化系のホエルオーは体長14mを超える巨体を持つポケモン。


ことり「あの大きな体でかわいさコンテストに出ると、相対的に威圧してるっぽくなっちゃうというか……」

曜「確かに……」

ことり「それでも、ホエルコでかわいさコンテストを勝ちに行くって言うなら、ことりは全力でサポートするけどね!」


ことりさんはそうフォローはしてくれるけど……。

確かに私としてはホエルコはあくまで海の旅のお供として、ホエルオーに進化することを見据えた上で、手持ちに入れたところがある。コンテストの担当としては他を考えた方がいいかもしれない。


曜「となると、最低でもかわいさ担当のポケモンは増やさないといけない……」

ことり「もちろん、今の担当メンバーよりも相応しいなってイメージのポケモンが居るんだったら、そういう子を探してみてもいいと思うよ?」

曜「……なるほど」

ことり「とにかく、わたしが戻るまでに最低でも一匹は新しくポケモンを捕まえておくこと。出来る?」

曜「ヨーソロー! 了解であります!」

ことり「うんっ♪ いい返事だね」


──
────
──────
────────



と言うことで、新たな仲間を探して散策をすることになったんだけど……。

実のところ、ホエルコ以外にたくましさをイメージするなら、私の中では絶対にこのポケモンと言うポケモンが居る。

サニー港を見回すだけでもそこら中に姿が見える。
428 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:25:12.71 ID:bS2bQuBP0

船乗り「ワンリキー! そっちに積荷持っていってくれ」
 「リキッ」

船乗り2「今こっち手外せないんだ、ワンリキー、そっち支えてくれないか!?」
 「リキッ」

船乗り3「ワンリキー、そこの岩退けといてくれるか? 仕事の邪魔でな」
 「リキッ」


あちこちで、荷物を運ぶ姿──そう。


曜「やっぱり、船乗りと言えばワンリキーだよね!」


思わずに声に出ていた。

港のあちこちで船乗りからの指示を受けながら、仕事をしているワンリキーたち。

私にとってのたくましさを象徴するポケモンと言えばこの子たちだ。


船乗り「なんだい、お嬢ちゃん。ワンリキーが好きなのかい?」

曜「あ、はい!」


港で仕事をしているワンリキーたちを熱心に監視していたら、船乗りさんの一人が話しかけてきた。


曜「私、パパがフェリーの船長で、ちっちゃい頃から海の上での仕事に憧れてたんです! それで船上で働くワンリキーはずっと昔から見てたから……!」

船乗り「はは! そうなのかい! 確かにワンリキーはいいぞ、体は小さいが、パワーがあって働き者だしな」


 『ワンリキー かいりきポケモン 高さ:0.8m 重さ:19.5kg
  全身が 筋肉に なっており 子供ほどの 大きさしか
  ないのに 大人 100人を 投げ飛ばせる。 ゴローンを
  何度も 上げ下ろしして 全身の 筋肉を 鍛える。』


船乗り「お嬢ちゃんもワンリキーが欲しいなら、港の北側にある岩場に行ってみるといいぞ。あそこは昔からワンリキーがたくさんいるからな」

曜「ホントですか!? ありがとうございます!」


ことりさん、曜は幸先良く目標を達成出来そうであります──!





    *    *    *





──港の北の岩場。


曜「ここ……だよね」


岩の陰に隠れながら、顔を出す。

確かにそこには、


 「リキッリキッ」
 「リキッ」


ワンリキーたちが何匹も居るのが見える。

ほとんどが、ゴローンやイシツブテを持ち上げながら、筋トレをしている真っ最中だ。


曜「確かにたくさんいる……さて、どうしようかな」
429 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:28:59.90 ID:bS2bQuBP0

ここのワンリキーたちは野生も含め、トレーニングのためにたまに港まで来て自主的にお手伝いをしてくれるらしい。

元々、人とかなり密接に生きてきた野性ポケモン故に、人の集落の近くに生息していても、人はワンリキーを必要以上に怖がらないし、ワンリキーは人を必要以上に怖がらない。

捕まえること自体はそこまで苦労しないかもしれないが、端から捕まえると言うのは少し躊躇われる。


曜「でも、せっかく捕まえるなら、よりたくましい個体がいいよね……」


そう呟きながら、じーっとワンリキーたちを観察していると──


 「リキッ!」
 「リキッ!!」

曜「ん……?」


ワンリキーたちは急に筋トレを止めて、岩場の奥の方へと走っていく。


曜「どうしたんだろ……?」


私はワンリキーたちを追って、岩場の奥の方へと足を運ぶ。





    *    *    *





曜「わ……ワンリキーがいっぱいいる……」


奥の方へ進むと、そこには多くのワンリキーたちが集合していた。

そのワンリキーたちの視線は一点の注がれ、


曜「……あれって」


少しだけ高くなった平らな岩の上に胡坐をかいているポケモンが一匹。


曜「ゴーリキーだよね?」


私は図鑑を開く。

 『ゴーリキー かいりきポケモン 高さ:1.5m 重さ:70.5kg
  疲れることのない 強靭な 肉体を 持つ。 その筋肉を
  生かして 進んで 重労働を 手伝う。 自分に とって
  いい 筋力 トレーニングに なると 知っているからだ。』

ワンリキーの進化系。……群れのボスかな?

と、考えながら見ていると、

 「リキッ」

一匹のワンリキーが、そのゴーリキーの前に躍り出てくる。

 「ゴーリキ…」

 「リキッ!!」

──突然、ワンリキーがゴーリキーに向かって飛び掛ったと思ったら、

 「ゴーリキッ」

 「リキッ!?」

ワンリキーはゴーリキーに片手で掴まれ、そのまま投げ飛ばされた。


曜「力比べしてるのかな?」
430 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:31:45.56 ID:bS2bQuBP0

順番にワンリキーたちがゴーリキーに向かって、立ち向かっていくが。

 「ゴーリキ」

ゴーリキーは苦もなく、ワンリキーたちを一匹一匹投げ飛ばしていく。


曜「……あのゴーリキーがこの辺りで一番強いってことかな」


程なくして、挑戦していくワンリキーがいなくなり、

 「ゴーリキ…」

ゴーリキーは退屈そうに鼻を鳴らした後、立ち上がる。

ここには自分より強い相手は居ないとでも言いたげな──

なら……!


曜「ちょっと待った!!」


 「ゴーリキ?」


曜「その力比べ、私も混ぜてよ」


私はその場で立ち上がり、手にボールを構える。

野生のポケモンなら、戦って捕まえる、そのルールに則ろう。

 「ゴーリキ」

ゴーリキーは私の言葉を聞くとその場で、片手の平に、逆の手で拳を作って打っている。

掛かって来いとでも言わんばかりに、


曜「よし……!」


私が岩の影から躍り出ると、群れを成していたワンリキーたちが私を避け、ゴーリキーまでの道が出来る。

その道を走って、


曜「行くよ! ダダリン!」


手持ちを繰り出した。

 「────」

──ドスン。重量感のある音と共にダダリンが飛び出し、大きな舵輪の底が岩で出来た土俵の上に突き刺さる。

私の手持ちは地上で動けるポケモンが少ない、がカメールだと確実にパワー負けしている。

ならここは頑強さと重量を兼ね備えた、ダダリンで、


曜「ダダリン! “アンカーショット”!」
 「────」


ダダリンは突き刺さった舵輪の底を軸に身体を回転させ、錨をぶん回しながら投擲する。。

 「ゴーリッ」

一方ゴーリキーは避けようという素振りは全くない。


曜「あくまで真っ向勝負ってことだね……!」
431 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:32:55.23 ID:bS2bQuBP0

なら、お望み通り……!

ダダリンのアンカーがゴーリキーの周囲を飛び、ゴーリキーを鎖が捕縛する。

──ズンッ! ゴーリキーの背後にアンカーが音を立てて、突き刺さると同時に、

 「ゴーリッ!!!」

ゴーリキーが力を入れて、ダダリンを引っ張る。

 「────」

すると、舵輪部分だけでも3m近い、200kgの巨体が一瞬中に浮く。


曜「! “ヘビーボンバー”!!」
 「────」


咄嗟に指示を出し、ダダリンは再びその場に垂直落下して、踏ん張る。


 「ゴーリ…!!」

再びゴーリキーが力を入れると、ダダリンの巨体が岩板をバキバキと割りながら、引っ張られる。


曜「流石に、すごいパワー……! でも」


そもそも、そこはダダリンの『本体』じゃない、

 「────」


曜「ダダリン!」

 「ゴーリッ!!」


ダダリンの本体はあくまで鎖や錨に絡みついた、長いモズクだ。

つまり、アンカーを飛ばした後でも、本体を使って無理矢理鎖だけを動かせる。


曜「ダダリン、“まきつく”!」
 「────」


だから鎖だけを動かし、締め上げながら、


曜「そのまま、“たたきつける”!」


ゴーリキーを鎖でなぎ倒すように、横から地面に押し倒す。

──が、

 「ゴーリキッ!!!!!!」


曜「!? う、嘘!?」


ゴーリキーは足元の岩板に拳を突き立てて、無理矢理体勢を保つ。

そのまま、

 「ゴーーーリキッッ!!!!!!」

腕の筋肉だけで、

拳の突き立った岩板を揺さぶる。


曜「わわっ!? これ、“じならし”!?」
 「────」


大きな地面の揺れにダダリンの舵輪部分が不安定になる。
432 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:33:47.33 ID:bS2bQuBP0

曜「不味い……!」


ダダリンが横向きに倒されたら、負けだ──


曜「“こうそくスピン”!!」
 「────」


舵輪部分に残っているモズクが、舵輪のベアリングを使って、一気に鎖を巻き取る。

 「ゴーーーリ!!!!!!」

再び綱引き状態に、

 「ゴーーーーーリキーーーーー!!!!!!!」

ゴーリキーは今度は片足を前に出して、踏ん張りを見せる。

──このまま、膠着してたら消耗戦。


曜「ならっ! ダダリン!」
 「────」

曜「抜錨!」
 「────」


錨側をモズクの本体で引き抜く。

 「ゴリ!?」

ゴーリキーは突然背後から飛んでくる、錨を受け止め切れずに──


曜「!?」


──いや、

 「ゴーリ…!!!」

ゴーリキーは後ろ手に受け止めた。

しかも、片手で。


曜「“みやぶる”で見破られてる!?」

 「ゴーーリ!!!!!」


何度、攻撃を畳み掛けても、その“ふくつのこころ”で攻撃を真正面からねじ伏せる。

それが、群れのボスたる所以か、

 「ゴーーリキ!!!!!!」

 「────」

ついに次の手を失った、ダダリンは鎖を引っ張られ、再び中に浮く。


曜「ダダリン!!」


そのまま、鎖を引っ張られ、引き寄せられたところに、ゴーリキーの渾身の一撃が──


曜「……っ! ……ゴーリキー、ごめん!」
433 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:35:00.22 ID:bS2bQuBP0

──ダダリンの身体をすり抜けた。

 「ゴリ!!!?」

全力の拳を空振りし、前のめりになるゴーリキーに、一息遅れるタイミングで、

 「────」

ダダリンの巨体がぶち当たる──!


曜「“ゴーストダイブ”!!!」

 「ゴッ!!!」


いくらパワーが自慢のポケモンと言っても、全身全霊の攻撃を振りぬいたあとに、数百キロの塊が降って来たら、対応は出来ない。

ゴーリキーは鎖と錨を巻き込んだまま、ダダリンに吹き飛ばされた。


曜「“ゴーストダイブ”は最初に幻影となって、消えた後に不意打ちで飛び掛かる技だよ」

 「ゴーリ…」


私は岩板をよじ登り、ゴーリキーの傍まで歩いていく。


曜「ダダリン、ありがと。戻れ」


ダダリンをボールに戻し。


曜「バトルには勝った、けど……」

 「ゴリ…」

曜「純粋なパワー勝負では完全に私たちの負けだったね」


私は頭を掻く。


曜「なんか、ズルして勝ったみたいな感じだし……なんか君が望んだ力比べとはちょっと違ったよね」

 「ゴーリ…」

曜「もうちょっと力付けて、パワーで負けないくらいになったら、また挑戦に来るから、それまで──」


私はそう言って、踵を返そうとしたら、

 「ゴーリキ」

ゴーリキーは私の前にのしのしと歩いてきて、


曜「ゴーリキー……?」
 「ゴーリキ」


──膝を折った。

まるで、忠誠でも誓うように。


曜「え、いや……」
 「リキ」

曜「……認めてくれるの?」
 「リキ」


ゴーリキーは私の問いかけに対して、静かに首を縦に振る。

ゴーリキーが何を思ったのかわからないけど、負けは負けということなんだろうか。


曜「……わかった」
434 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:35:32.42 ID:bS2bQuBP0

私はゴーリキーの前の、一個。モンスターボールを置く。


曜「君が認めてくれるなら……一緒に行こう」
 「ゴーリ」


ゴーリキーは再び首を縦に振った。





    *    *    *


435 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:36:36.52 ID:bS2bQuBP0


曜「──と、言うわけで新しいたくましさ担当のゴーリキー!」
 「ゴーリキ」

ことり「うんうん♪ ちゃんと、課題はこなしたね、さすがことりが見込んだお弟子さんです♪」

曜「えへへ……」


夕方頃になり、ことりさんが戻ってきたところで今日の報告。

実はあの後も何匹かサニータウン周辺の野生ポケモンは捕まえたんだけど……。


曜「かわいさ担当でしっくり来るポケモンは居なかった、かな……」

ことり「そっかー。まあ、でもどこかでビビッと来るポケモンとの出会いがあったりするから、今日はゴーリキーを捕まえただけで十分だと思うよ♪ それじゃ、明日は──」

曜「明日は──!」


サニータウンと言えば、

志満姉の言葉を思い出す。

かっこよさコンテストが──!


ことり「セキレイシティにいこっか」

曜「え?」


思わず力の抜けた声が出てしまう。


曜「コンテスト、行かないの!?」


私は思わず抗議の声をあげてしまう。


ことり「かっこよさ会場は開催頻度も比較的多いし、後回しかなって」

曜「えー……」

ことり「それに一日で衣装作れないでしょ? まだ衣装案も考えてないんだから」

曜「う……それは、まあ……」

ことり「とにかく、目下の目標は開催頻度の少ない大会を、押さえるところからだよ」


確かに、グランドフェスティバルを目指す以上、開催頻度の少ない大会に勝っておかないと、結局のところ、意味がないのは確かだ。


曜「……じゃあ」

ことり「コメコシティのたくましさ大会、ローズシティのかしこさ大会が優先かな。その準備として──」

曜「準備として?」

ことり「セキレイシティのことりのお家で衣装作りしよっ♪」


──と、言うわけで。

次の目的地はセキレイシティになるようです。


436 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:37:54.85 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
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【サニータウン】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.20  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.18 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:63匹 捕まえた数:16匹


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



437 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:37:06.09 ID:bS2bQuBP0

■Chapter032 『太陽の花畑』 【SIDE Ruby】





──サニータウンを昼前に出て、今は9番道路です。


ルビィ「結局、サニータウンでは特に情報は得られなかったね……」

花丸「あんまり人の行き交う場所じゃないから仕方ないずら。どちらにしろ、セキレイシティに着いてからが本番だよ」

ルビィ「うん……」


朝、曜ちゃんと別れたあと、ルビィたちはサニータウンで理亞さんの情報を集めながら、町を西に進んでたんだけど……。

結論を言うと収穫ゼロでした。

そのまま町を出て、今は9番道路をセキレイシティに向かって歩いているところです。

──ふと、


ルビィ「ん……?」

花丸「ルビィちゃん? どうしたの?」


腰につけたボールが震えていることに気付く。


ルビィ「ん、ちょっとボールがね……またコランかな」


ルビィの手持ちは元気な子が多いから……。

言いながら、ボールを手に取って


ルビィ「あれ?」


それがコランの入った真っ白なプレミアボールではなく、フレンドボールだと言うことに気付き、


ルビィ「……アブリー?」


そのまま、外に出してあげる。

 「アブアブブ」

すると、アブリーはそのまま一人で先に飛んで行ってしまう。


ルビィ「え、アブリー!?」


ルビィは慌てて、アブリーを追いかけます。


花丸「この先って確か……」

ルビィ「アブリー、待ってー!」





    *    *    *





しばらく、おいかけたところで、


ルビィ「……な、なにこれ……!!」
438 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:39:29.40 ID:bS2bQuBP0

ルビィは一面に広がる光景に言葉を失いました。

──眼前にはとてつもない大きさの花畑が広がっていました。


花丸「この辺りは日当たりがいいし、近くに川もある。土に栄養も豊富で、有名な花園なんだよ」

ルビィ「へぇ、そうなんだぁ……」

花丸「通称『太陽の花畑』ずら」

ルビィ「そういえば、アブリーは……」


キョロキョロと花畑を見回す。

そこにはアゲハントやバタフリーのようなちょうちょポケモン、フラベベ、キュワワーといったお花に関係しているポケモンが多く見える。

その中に紛れるように──


ルビィ「あ、居た!」

 「アブアブブ」


花に止まって、蜜を集めているアブリーを見つける。


ルビィ「もう……勝手に行っちゃうから、心配したよ?」
 「アブアブ」

花丸「アブリーは花の蜜や花粉が好物だからね」


そういう意味ではごちそうなのかもしれない。


花丸「それにしてもいい匂いずら〜……。ここでお昼寝したら、気持ち良さそう」

ルビィ「ぅゅ……そんな暇ないよぉ……」

花丸「冗談ずら」

ルビィ「花丸ちゃんが言うと、冗談に聞こえないよぉ……」


二人で花畑を進んでいくと、


ルビィ「……ほわぁ……」


大きな、本当に大きなお花がそびえ立っていた。


ルビィ「あれって……ヒマワリかな……?」

花丸「そうずら。太陽の花畑の名前の由来にもなったと言われている、大輪華・サンフラワーずら」

ルビィ「あのお花、ルビィの顔よりも大きいんじゃ……」

花丸「高さは5mを超えてて、何よりも茎が太いのが特徴ずら」

ルビィ「へぇ……」


見上げていて、首が痛くなりそうだ。

花丸ちゃんが居るだけで、ガイドさんが付いているみたいでちょっと楽しい。

確かに言われて見てみると、ヒマワリの茎がかなり太いように見える。


花丸「ここの花畑の花の中でも、特に太陽のエネルギーを多く浴びてるって言われててね。“たいようのいし”と似たようなエネルギー体なんじゃないかって言われてるずら」

ルビィ「へぇ……?」


サンフラワーの周りでは確かにナゾノクサや、ポポッコがひなたぼっこをしている。

その中に居たチュリネが、
439 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:41:08.65 ID:bS2bQuBP0

ルビィ「ぴぎっ!? マルちゃん! あのチュリネ!」


チュリネが光っていた。

程なくして、光が収まると、

 「レディーア」

チュリネは別の姿に──


花丸「ドレディアに進化したみたいだね」

ルビィ「ホントに“たいようのいし”と同じ効果があるんだ……」

花丸「自然の中には、そういうエネルギーを帯びたものはいくつかあるんだよ。コメコの森の岩とか、ね」

ルビィ「進化か……」

花丸「ルビィちゃんのポケモンもそのうち進化するずら」

ルビィ「ドレディアみたいに可愛いポケモンに進化するといいんだけど……」

花丸「んー……皆が皆そういう進化をするわけじゃないからねー」


ルビィの今の手持ちは見た目が可愛い子が多いし……ちょっと怖くなっちゃうなら、進化しないで欲しいかも……。


花丸「進化が嫌なら、“かわらずのいし”を持たせると進化しなくなるよ?」

ルビィ「ん、うん……でも、進化させなくてもいいものなのかな?」


ポケモンは進化させると、基本的には強くなるってお姉ちゃんも言ってたし……。


花丸「それはトレーナー次第だと思うよ? 拘りがあって進化させない人もいるし」

ルビィ「そうなの?」

花丸「ほら、ことりさんなんかはモクローを使ってたけど。あのモクローはとっくにフクスローに……ううん、その次の進化も出来るくらいのレベルだったと思うよ」

ルビィ「言われてみれば……すごい強かったもんね、あのモクロー」

花丸「要はどう扱うかだからね」


じゃあ、ルビィも……アチャモのまま、一緒に旅をしようかなぁ……。

なんだかんだ言って、アチャモの姿は愛らしくて、好きだし。

やんちゃなのがたまに傷だけど……。

……そういえば、進化もだけど、ルビィの手持ちはお姉ちゃんの課題でヌイコグマさんを捕まえてから、代わり映えしていない。


ルビィ「そろそろ、新しい手持ちを捕まえた方がいいのかな……」

花丸「気に入ったポケモンがこの辺に居たの?」

ルビィ「うぅん、ただそろそろ手持ちも揃えた方がいいのかなって……」

花丸「確かに4匹じゃ、ちょっと心許ないかもね。そういうマルも3匹だけど……」


花丸ちゃんはそう言って苦笑いするけど……。


ルビィ「でも、花丸ちゃん、ポケモン結構捕まえてたよね……?」

花丸「それはそうなんだけど……」


二人で道路を歩いている間も、花丸ちゃんは結構積極的に出会ったポケモンを捕まえている。


花丸「気が合うかは別だからね」

ルビィ「そういうものなんだ……」
440 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:46:16.51 ID:bS2bQuBP0

花丸ちゃんは手持ちが3匹と言っても、この前、気の合ったメリープを加えた3匹をメインで連れ歩いてるだけで、別に6匹手持ちをそろえようとすれば問題なく揃うはず……。

──正確にはルビィもあのときメリープの捕獲は手伝ったけど……結局、花丸ちゃんに懐いていたあのメリープ以外は、もともとことりさんのところに行くはずだったので、あのあと全部引き渡しました。なので、今はルビィの元には居ません。

ただ、花丸ちゃんのメリープだけは、ことりさんが『懐いてるし、あなたと一緒に居た方がその子も幸せだと思うから』と言うので、譲ってもらったわけです。


花丸「マルの手持ちはナエトルもゴンベもメリープものんびり屋さんだから……それこそ、ルビィちゃんみたいにアチャモやコランみたいな元気な子は持て余しちゃうよ」

ルビィ「……ルビィも持て余してる気がするけど……」

花丸「そうずら? マルはよく、楽しそうだなって思ってみてるけど」

ルビィ「楽しくはない……」


花丸ちゃんは、あのアチャモとコランの大喧嘩を見ても、楽しそうだなって思って見てるのかと思うと、少し複雑な気分です……。


ルビィ「……でも、それこそ、ここなら気の合う子見つかるんじゃないかなぁ?」

花丸「言われてみれば……」


二人で話していると、気付けばさっき遠くに見えた大きなヒマワリの根元まで来ていた。

そこには中央の巨大なヒマワリだけでなく、陽の当たる南側の周囲には普通のサイズのヒマワリたちも群生している。


ルビィ「それこそ、ここで日向ぼっこしてる子とか……」


ヒマワリの茎に手を当てながら、花丸ちゃんの方に振り返る。


花丸「あ、ルビィちゃん、それ……」

ルビィ「?」


そのとき、触っていた茎が動く。


ルビィ「……え、う、動いた!?」

花丸「それはヒマワリじゃなくて、ポケモンずら」

 「キマー…」

ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさいっ!?」


反射的に謝ってしまう。

どうやら、大きな茎のすぐ近くにいた、ヒマワリと良く似たポケモンと間違ってしまったみたい。

そのポケモンは、ルビィが手を放すと、またすぐに日向ぼっこのために太陽の方に大きな花びらを向ける。


花丸「キマワリずら」

ルビィ「キマワリさん……」


図鑑を開く。

 『キマワリ たいようポケモン 高さ:0.8m 重さ:8.5kg
  暖かい 日差しを エネルギーに 変換する。
  そのため 昼間は ずっと 太陽の 方を 向いたまま
  追いかけて 移動する 習性で 知られている。』


ルビィ「この子も太陽の光が好きなんだね」

花丸「ヒマナッツも“たいようのいし”で進化するポケモンだからね。さっきのドレディアと一緒ずら」


……それにしても、


ルビィ「このキマワリ、ルビィたちがこんなに近くにいても全然気にしないんだね」
441 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:47:38.39 ID:bS2bQuBP0

キマワリはこうして近くでルビィたちがお話してても、夢中で太陽を浴びている。

かなりののんびり屋さんだ。


ルビィ「花丸ちゃん、この子となら気合うんじゃないかな?」

花丸「……ふむ。悪くないずら」


花丸ちゃんはそう言ってキマワリを見る。

 「キマー…」


花丸「……このまま捕まえられそうかも?」


花丸ちゃんが至近距離でそのままボールを投げる。

──パシュンと、言う音と共にキマワリがボールに吸い込まれた、が。

 「キマー」

ボールは1回も揺れることなく、中からキマワリが飛び出してくる。


花丸「さすがに無理だったずら」

 「キマー」

花丸「ずら?」


さすがにルビィたちを認識したのか、キマワリがこっちを見ている。

──瞬間、キマワリの花弁が光り輝き、光線が一閃した。


花丸「ずら!?」

ルビィ「あ、あぶない!!」


咄嗟に花丸ちゃんごと押し倒して、花畑に二人で転がる。


ルビィ「……花丸ちゃん大丈夫!?」

花丸「だ、だいじょぶずらぁ……今の“ソーラービーム”ずら」

ルビィ「も、もしかして、怒らせた……?」

 「キマー」


転がった、頭上でキマワリが表情を変えずに再び光る。


ルビィ「ぴぎっ!? ア、アブリーっ! “むしのていこう”!」
 「アブブ」


近くを飛んでいた、アブリーが小さな体でキマワリにぶつかっていく。

 「キマー」

一瞬怯みはしたが、

 「キマー」

キマワリはまたこっちに視線を戻すと、再び光る。


ルビィ「わ、わっ!?」

花丸「メリープ! いくずら!」
 「メェー」


花丸ちゃんがメリープを出し、
442 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:48:41.22 ID:bS2bQuBP0

花丸「“かいでんぱ”!」
 「メェェメメェー」


メリープは指示と共に、不思議な鳴き声をあげながら、謎の電波を浴びせる。

 「キマー」

キマワリが再び怯んだところに、


花丸「そのまま、“とっしん”!」
 「メェー!!」


キマワリに突進する。

 「キマー」

キマワリはメリープに突き飛ばされたが、すぐに起き上がって……。

 「キマー」

未だ表情を変えずに、両手の葉っぱを振る。


花丸「“はっぱカッター”ずら!? メリープ、“コットンガード”!」
 「メメェー」


メリープがもこもこになって、鋭い葉っぱを受け止める、が。

葉っぱがメリープにぶつかる度に、メリープの綿毛がふわふわと舞う。

 「キマー」

キマワリはそのまま、畳み掛けるように、攻撃を仕掛けてくる。

葉っぱだけじゃない、四方八方から、花びらが舞い狂ってルビィたちに迫る。

 「アブブ!!?」

その攻撃に巻き込まれて、アブリーが吹き飛ばされそうになっている。


ルビィ「あわわ!? アブリー戻って!」


すんでのところでルビィはアブリーをボールに戻して、メリープの後ろに隠れた。


花丸「今度は“はなふぶき”ずら……場所が場所だけに攻撃し放題だね」

ルビィ「は、花丸ちゃん、冷静に言ってる場合じゃないよっ」


メリープの影から、キマワリを見てみると、


ルビィ「というか、キマワリさっきより大きくなってない……?」

花丸「この日差しの下だから……“せいちょう”したんだと思う」
 「メェェー」


視界を舞い踊る花弁が埋め尽くす。

その間も尚、葉っぱの刃がメリープの綿毛を散らしていく。


ルビィ「こ、このままじゃまずいよ!?」

花丸「ずら……」

 「キマー」

そして、防ぐ手段がないまま、再びキマワリが光を収束し始める。

 「メェー」

メリープはどんどん綿毛を削がれて、痩せ細っていく。
443 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:51:57.94 ID:bS2bQuBP0

花丸「……?」

ルビィ「は、花丸ちゃん! このままじゃ毛が……!!」

花丸「違うずら」

ルビィ「え?」

花丸「毛、刈られてるんじゃないずら」

ルビィ「な、何言ってるの!?」

花丸「毛が抜け始めただけずら!」


花丸ちゃんがそう言った、瞬間──


「メェェ──」


メリープも光りだした、


ルビィ「!?」

花丸「メリープ……ううん、モココ!」
 「──メエェーー」


メリープが後ろ足で立ち上がり、


花丸「“ほのおのパンチ”!」
 「メェェー!!!」


そのまま綿毛から、ショートした火花を拳に纏って、

光を集める、キマワリに叩き付けた。

 「キ、マ…」

姿勢を崩したキマワリの溜めた光は、行き場を失い上空に向かって一閃する。


花丸「今ずら!」


花丸ちゃんは立ち上がって、モンスターボールを投げつけた。

 「キマ──」

再びボールに吸い込まれた、キマワリは、一揺れ、二揺れ……三回揺れた後、大人しくなった。


ルビィ「た、助かった……?」

花丸「うん、助かったずら。モココのお陰で」

ルビィ「モココ?」

 「メエェェ」


先程よりもメリープは綿毛がなくなって、すっきりしていた。


花丸「メリープの進化した姿だよ」

ルビィ「進化……」

 『モココ わたげポケモン 高さ:0.8m 重さ:13.3kg
  ふかふかの 毛に 電気を 蓄えすぎた 結果 体の
  表面に 産毛すら 生えない 部分が 出来てしまった。
  ゴムのような 皮膚の お陰で 自分が 痺れることは 無い。』


花丸「何度も綿毛に電気を充電すると、性質が変わってモココに進化するずら」

ルビィ「そ、そうなんだ……とにかく助かったよ……」
444 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:52:29.94 ID:bS2bQuBP0

ルビィはほっと胸を撫で下ろす。


ルビィ「モココさん、ありがとね」
 「メェェー」





    *    *    *





──花畑でのトラブルもあったけど、花丸ちゃんは無事キマワリを捕獲し、

ルビィたちは太陽の花畑を抜け、日が傾き始める頃には、


花丸「ルビィちゃん、見えてきたよ!」

ルビィ「うわ……すごい……!」


9番道路の先に見える、大きな街を視認することが出来る。


花丸「あれが、オトノキ地方最大の都市……」

ルビィ「セキレイシティ……!」


ルビィたちは次なる目的地に辿り着きました。


花丸「あ、あんなにおっきな建物がたくさん……み、未来ずらぁ〜──!」


445 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:54:37.36 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【9番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回●_o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.15 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:5匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.14 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.14 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      モココ♂ Lv.16 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.15 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:51匹 捕まえた数:21匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



446 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:33:23.79 ID:bS2bQuBP0

■Chapter033 『風斬りの道』 【SIDE Riko】





梨子「それじゃ行くね」

千歌「うん! またね、梨子ちゃん!」


ダリアシティでのジム戦を終えて──次の日。

育て屋の前で千歌ちゃんとにこさんに別れを告げるところ。


にこ「セキレイシティは5番道路と6番道路を越えた先だけど、6番道路は上の道を通った方が早いと思うわ」

梨子「はい、上の道──サイクリングロードを使うつもりです」

にこ「ダリアシティの北部にレンタルサイクルがあるから……って、梨子は大丈夫かしらね」

梨子「はい。にこさん、何から何まで……ありがとうございました」

にこ「ま、結果としてこっちもいろいろわかったし、気にしなくていいわよ」


にこさんはそう言って、手をひらひらと振る。

口調が少し強くて最初は面食らったけど、本当に優しい人でよかった……。


梨子「千歌ちゃん……じゃあ、いくね」

千歌「もう、梨子ちゃん、そんな顔してないで? 会えなくなるわけじゃないんだからさ。すぐに追いつくから!」

梨子「うん! 先に行って待ってるね」


私は振り返って、走り出す。

先に進むために。


千歌「梨子ちゃーん!! またねー!!」


千歌ちゃんの声を背中に受けながら。





    *    *    *





──5番道路、6番道路。

ダリアシティから、セキレイシティを繋ぐ道路でにこさんが言ったとおり、ダリアシティの北部で自転車の貸し出しを行っている。

5番道路を北上していくと、分かれ道があり、そのまま北に進むと7番道路を経由して、カーテンクリフへ、

そこで東に行くとセキレイシティへの道の6番道路に入ることになる。

6番道路では道を横切るように比較的大きな川が流れている。水位そこまで高いわけではないから、水ポケモンさえ持っていれば渡ることは出来るが、そっちの道の利用者は少ない。

何故なら、その上には大きな跳ね橋が架かっているからだ。


梨子「ここを東に進むと……6番道路ね」
447 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:39:31.60 ID:bS2bQuBP0

眼前には、噂通りの大きな橋が見える。

サイクリングロードと呼ばれる自転車専用の道が通っている──通称『風斬りの道』

セキレイシティとダリアシティのインフラの要であり、この大きな橋の下に流れる河は、ダリア・セキレイ・ローズの3都市を結ぶ重用な河とされている。

その河を残したまま、陸路としても利用出来る形にしたのがこの風斬りの道だ。

私はにこさんに言われたとおり、ダリアシティの北部で自転車を借りて、5番道路を抜けたところ。

特に問題もなく順調に進んできて、ここから6番道路のサイクリングロードに差し掛かる。

やや長い道路だが、舗装されている道故にセキレイまでは日が暮れる前に到着できるだろう。


梨子「よし、行くぞ……」


私はサイクリングロードを抜けるために、再び自転車を漕ぎ出した。





    *    *    *





──風斬りの道。

何故このサイクリングロードがそう呼ばれているのかというと、


梨子「うわ……すごい……!」


大橋の左右の空には、たくさんの鳥ポケモンが風を切って飛んでいる。

私も持っているポッポはもちろん、ムックル、オニスズメ、スバメ、キャモメ、マメパトと言った数多くの鳥ポケモンの姿が見られる。

そんな風を斬るポケモンたちと共に走り抜けることが出来る為、このサイクリングロードには、そんな通称が付いたらしい。

──話には聞いていたけれど……。


梨子「確かにこれは気分いいかも……」


開放感がある。

風斬りの道に入ってからは、なんだかペダルも幾分か軽く感じる。

これなら、本当にすぐにセキレイシティに着いちゃいそう。





    *    *    *





──堕天使ヨハネは今日もまた図鑑と睨めっこをしていた。


善子「アブソル……このまま西に向かうのね」


セキレイを超えた先、6番道路にいるらしい。

この追尾機能、大まかに居る場所はわかるけど、完璧なリアルタイムで位置情報を表示してくれるわけじゃないから、気付いたら隣の道路に居たり、追い抜いてしまったりしていて、困るのよね……。

でも、確かこの先って……。


善子「風斬りの道よね……」
448 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:41:51.56 ID:bS2bQuBP0

主要都市を結ぶインフラの要なのはいいとして……飛行を主な移動手段にする人間からすると、鳥ポケモンが多く飛ぶこの一帯は正直進み辛い。


善子「ヤミカラス、ちょっと橋側に寄って飛びましょう。鳥ポケモンと正面衝突はご免だし」
 「カァーー」

善子「……ふぁ……」


陽光を反射する川を遠目に見ながら、欠伸を噛み殺す。

昨日は8番道路の脇の方で野宿だったせいか、やや睡眠不足だった。


善子「……んー、せっかくセキレイの近くだったんだし……家に帰ったほうがよかったかしら」


なんてことをぼやくも。


善子「いや……家帰っても、ママが変な気回しそうだし……」


自分の母親が大したイベントでもないのに、娘の帰宅を口実に豪勢な夕飯を作って出迎えてくる姿が目に浮かぶ。

それに何より──。


善子「ことりさんが戻ってくる可能性があるし……」


昨日、15番水道で会ったということは、遠くないうちにセキレイにも顔を出す気がする。

正直なところ、あの人は苦手だ。

いつまで経っても、このヨハネのことを子供扱いしてくるし。


善子「ま……感謝はしてるけど……」


私が飛ぶ為の翼をくれたのは、間違いなくあの人だし。


 「カァ?」
善子「はいはい、なんでもないわよ」


まあ、ホントに暇が出来たら……たまにはヤミカラスを連れて遊びに行くのも悪くないかもしれないけど。

橋に寄ったまま、ヤミカラスは風を斬る。

──ふと、橋の上に目をやると、


善子「ん?」


前方から、走ってくる自転車の1台がたまたま目に入った。

長い葡萄色の髪をはためかせながら、自転車を走らせている少女の姿。


善子「あれって……」


ヨハネ御用達の双眼鏡を覗き込みながら、


善子「1番道路で見た子よね。千歌と戦ってた……」


少し、考えてから。


善子「ヤミカラス、ちょっと橋に降りるわよ」
 「カァカァ」


堕天使は舞い降りる──。

449 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:45:27.39 ID:bS2bQuBP0



    *    *    *





6番道路も中腹くらいまで走ってきた。

このまま、順調に進めるかな、と思った矢先、


梨子「……? 人?」


少し遠目に、橋の上の柵に立っている変な人が見える。


梨子「……」


関わらないでおこう。


善子「くっくっく…… † 叡智の端末を扱いし者 † よ……」


私はその前を自転車で通過する。


善子「え、ちょ!? あんた待ちなさいよ……!!」


なんか私に話しかけていた気もするけど……気のせいだよね。


善子「──あんたよ! あんた! 無視しないでよ!」

梨子「うわ!? 追ってきた!?」


声が追走してきたのでそっちに顔を向けると、ヤミカラスに掴まったまま空を飛んでいる少女が私を追いかけてきていた。

なんだか、嫌な予感がしたけれど、とりあえずサイクリングロードの端に寄りながら、自転車を減速させる。


善子「くっくっく……」

梨子「あの……どちら様ですか」

善子「 † 叡智の端末を扱いし者 † よ……」


なんか言い直してるし……。

……叡智の端末って、もしかして──。


梨子「ポケモン図鑑のこと……?」

善子「! 貴方、堕天使の言葉がわかるのね? くっくっく……見込みがあるわね……」


見込みがあるらしい。……見込まないで欲しい。


梨子「それで、何の用……? というか、なんで私が図鑑を持ってるって知ってるの?」

善子「私も同じく † 叡智の端末を扱いし者 † だからよっ!」


そう言って、目の前の子は真っ白なポケモン図鑑を見せてくる。

そういえば、千歌ちゃんと曜ちゃんとは別に他にも3人旅に出るって、オハラ博士から説明を受けたっけ。
450 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:47:27.17 ID:bS2bQuBP0

梨子「貴方もオハラ博士にポケモンを貰った子なのね」

善子「その通り──我が名は † 堕天使ヨハネ †」

梨子「ヨハネ……? 変わった名前ね」

善子「貴方のことは、この † 堕天使の曇り無き眼 † でずっと見ていたのよ」


……うーん、微妙に言葉遣いが変だけど……そういう類の人なのかな……?


梨子「……オカルトガール?」

善子「誰がオカルトガールよっ!!」

梨子「……ずっと見てたっていつから?」

善子「貴方が1番道路で † 火鼠の衣の所有者 † と競い合っていたときからよ」


火鼠の衣……ヒノアラシか。

って、それ随分前からじゃないかな。


梨子「……ストーカー?」

善子「誰がストーカーよっ!!」

梨子「それで……そのー、堕天使? さんが何の用?」

善子「何の用も何も、私たちは時を同じくして、旅に出た言わばライバル……!」


そうだったんだ……。初めて知ったけど。


善子「一時顔を交えれば、その研鑽を披露しあうのは、もはや道理っ!」

梨子「はぁ……」

善子「さあ、行くわよ! ゲコガシラ!」
 「ゲコゲコ」


有無を言わさずバトルが始まる。


梨子「……仕方ないなぁ……メブキジカ」
 「ブルル…」

善子「ちょっとタンマ」

梨子「え、何……」

善子「ここはメブキジカを出す場所じゃないでしょ」

梨子「……?」

善子「ここは最初に貰ったパートナーで戦い合う場面じゃないの!?」

梨子「ん……チコリータは……」


相手のゲコガシラを見る限り、私のチコリータはそれと張り合えるほど育成が進んでいない。


善子「チコリータ……?」


一方で、私の言葉を聞いて、ヨハネちゃんは訝しげな顔をした。


善子「まだチコリータなの?」

梨子「……」


少しだけ刺さる言葉。


梨子「別にいいでしょ……」
451 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:49:21.19 ID:bS2bQuBP0

だって、未だになかなか懐かないし……。


善子「ふーん、ま、いいけど……」


そう言いながら、ヨハネちゃんは柵からサイクリングロード内の私の目の前に降りたつ。


梨子「バトルするなら、バトル早く済ませようよ」

善子「……ふん、最初のポケモンも満足に育てられないような人間が、私に勝てるとは思えないけど」

梨子「……む」


少しカチンと来る。


梨子「メブキジカ! “ウッドホーン”!」
 「ブルル!!」

善子「あら、怒ったの? ゲコガシラ、“みがわり”!」
 「ゲコ」


メブキジカのツノが変わり身のように出てきて、みがわり人形を突き飛ばす。


善子「案外、挑発に弱いのね」

梨子「……“しぜんのちから”!」
 「ブルル!!」


周囲の空気が刃の形になって、ゲコガシラを襲う。


善子「“アクロバット”!」
 「ゲコゲコ」


ゲコガシラは風刃をかいくぐるように軽い身のこなしで、かわしたあと、

 「ブルッ!!!」

その勢いまま、軽やかにメブキジカを蹴り飛ばす。


梨子「くっ……」


ふざけた口調のただの痛い子かと思ったけど、印象以上にこの子、強いかも。


善子「風斬りの道だと、“しぜんのちから”は“エアカッター”になるのね」


悔しいが、相手には余裕がある。

いい加減にこちらからも攻め手を決めないと──

そのとき、ふと。

さっきまで、善子ちゃんも乗っていた、柵とは逆側の柵をこっちに向かって走ってくる物影──


梨子「……何、あれ?」

善子「余所見とは、随分余裕ね……!」


まさに風を斬るようなスピードで──その真っ白な影が私たちの横を走り去った。


善子「え!?」

梨子「ポケモン……?」


綺麗なポケモンだった。
452 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:50:29.13 ID:bS2bQuBP0

善子「ア、アブソル!? いつの間に追い抜いてた!?」

梨子「アブソル……?」


ヨハネちゃんは自分の後ろから走ってきた、そのポケモンを見た瞬間、目の色が変わった。


善子「こ、この勝負、次会ったときにお預けよ! ヤミカラス!!」
 「カァー!」

梨子「え、ちょ!?」

善子「あ、一応名前だけ聞いておいてあげるわ!」

梨子「え、ええ……梨子だけど」

善子「覚えたわ、またどこかで会いましょう、堕天使リリー。ゲコガシラ、ついてきなさい!」
 「ゲコッ」

梨子「いや……リリーじゃなくて、梨子……」


訂正も聞かずに、ヨハネちゃんは飛び立ってしまった。


梨子「……もう、なんだったの……」
 「ブルル…」

梨子「ありがと、メブキジカ。戻って」


ボールにメブキジカを戻しながら、再び自転車のペダルに足を掛ける。


梨子「…………」

 善子『……ふん、最初のポケモンも満足に育てられないような人間が、私に勝てるとは思えないけど』


なんとなく、その台詞が頭の中で反響していた。

あのままだったら、その通り負けてた……のかな。


梨子「……気にしてもしょうがないか、とりあえず進もう」


私は再びペダルを扱ぎ出した。

日が沈む前にセキレイシティについておきたいもんね。もう一頑張り……──。


453 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:51:43.30 ID:bS2bQuBP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【6番道路】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.28 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:71匹 捕まえた数:7匹

 主人公 善子
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.23 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.25 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.19 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:60匹 捕まえた数:28匹


 梨子と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



454 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:08:33.89 ID:bS2bQuBP0

■Chapter034 『ダリアの街とグレイブ団』 【SIDE Chika】





──梨子ちゃんと別れたあと、育て屋にて。


にこ「まあ、こんなもんかしらね」


ルガルガンの検診を終えた、にこさんがそう言葉を漏らす。


千歌「ほとんど、健康診断みたいな感じだったけど……」

にこ「そりゃね、ここは別に研究施設じゃないから。他のルガルガンとの違いを軽く調べてただけだし」

千歌「何かわかりましたか?」

にこ「……まあ、正直なところ、“まひる”と“まよなか”の中間っぽい……くらいのことしかわからないかったわね。後は専門家の意見待ちかしらね」

千歌「専門家の意見……」
 「ワォン」

にこ「とはいっても、今更あんたにルガルガンを返せとか言ったりしないわよ。別にわたしのポケモンってわけでもないし」

千歌「ほ……」

にこ「とにもかくにも……悪かったわね。付き合わせちゃって」

千歌「あ、いえ、大丈夫です!」

にこ「そのお礼と言っちゃなんなんだけど……ちょっと待ってて」

千歌「?」


にこさんはそう言って、育て屋内のポケモン育成スペースらしき場所に行ってしまう。

言われた通りに少し待っていると、

──あるものを抱えて、戻ってきた。


千歌「……タマゴ?」

にこ「……ええ、ポケモンのタマゴよ」

千歌「なんで育て屋にタマゴが?」

にこ「たまに、預けられたポケモンが知らぬ間にタマゴを持ってることがあるのよ」

千歌「そうなんですか……?」

にこ「どこから、持ってきたのか、タマゴがどこから来たのか、それを見た人はまだ誰もいないんだけどね。……まあ、それはいいとして」


にこさんはその抱えたタマゴを、


にこ「良かったら、貰ってくれないかしら」


そう言って、差し出してくる。


千歌「え、良いんですか?」

にこ「手持ち増やしたがってたし、それに何よりタマゴは元気なトレーナーが持って歩かないと孵化しないのよ。中から何が生まれるのかはわからないけど……」

千歌「そういうことなら……!」


にこさんからタマゴを受け取る。


千歌「……なんか、あったかい」


タマゴはなんだかぽかぽかとしている気がした。
455 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:11:59.94 ID:bS2bQuBP0

にこ「そのタマゴが生きてる何よりの証拠ね。これがタマゴから生まれてくるポケモン用のモンスターボールよ」

千歌「あ、はい! ありがとうございます!」

にこ「大事に育てなさいよ」

千歌「はい!」

にこ「さて……それじゃ、私からの用事は終わりよ」


にこさんはそう言ってから、


にこ「千歌」


私の名前を呼ぶ。


千歌「なんですか?」

にこ「強くなりなさい」

千歌「!」


それは短いながらも、頼もしい激励の言葉だった。


千歌「はい……!」





    *    *    *





にこ「……ってわけで、ルガルガンのトレーナーは送り出したわ」


パソコンに繋がれたテレビ電話の先にそう伝えると、先方はやや困った顔をした。


真姫『その件のルガルガンが居ないんじゃ、研究しようがないじゃない』

にこ「だから、それはこれから捕まえるって言ったじゃない」

真姫『ま……甘々なにこちゃんに、そこのところは期待してなかったけど……』

にこ「別に昨日伝えた通りでしょ!? なんで、にこがルガルガン取り上げられなかった、みたいな言われ方してるのよ!」

真姫『……結構、切羽詰ってるからよ』

にこ「何がよ?」

真姫『音ノ木のメテノ騒動から始まって、スタービーチのヒドイデ大量発生、クロサワの入江も襲撃を受けて全面封鎖。それに、今回のドッグランでのルガルガンの異常な抗争。これ全部、偶然だと思う?』

にこ「……何が言いたいの?」

真姫『……はぁ。私は全部どっかで繋がってる気がしてならないのよね』


真姫はカメラの前で溜息を吐きながら、毛先をくるくると指で弄っている。


にこ「野生のポケモンが各地で異常な動きをしてるってのは、聞いてるけど……クロサワの入江のことは人為的な話でしょ?」

真姫『……まあ、別なら別でいいんだけど。それだけに限定するなら、ローズシティとしては原材料が急に減るだろうから、困るといえば困るって話くらいかしら』


今度は私が顔を顰める。


にこ「真姫は、逆にこれが……全部人為的だとでも言いたいの?」

真姫『……可能性はなくはないって話』

にこ「発想が飛躍しすぎじゃないかしら」
456 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:14:47.38 ID:bS2bQuBP0

精々、私が見た限りでは、ドッグランには人の手が入った様子はない。

そんな私の考えを言い当てるかのように、


真姫『直接的には、関係ない問題も少なくないだろうけど』


そう付け足す。


にこ「? 間接的に人為的って何よ」

真姫『人為的の有無に限らないけど……野生のポケモンは私たち人間より遥かに敏感だから、何かの前触れを感じ取って、普通と違う行動をしてる可能性もあるって話』

にこ「……」

真姫『ルガルガンが“まひる”とも“まよなか”とも違う変異個体を突然産むようになったのって、種の多様性を拡げるための本能に見えない?』

にこ「……見えなくはないけど。つまり、種が途絶えかねないような、何かが起こってるってこと?」

真姫『……その前兆なんじゃないかって話。確かに、今の段階じゃ妄想の域を出ないけど』

にこ「けど……何よ?」

真姫『希から連絡があってね』

にこ「希から? 珍しいわね」

真姫『どうにも地方全体に最近ゴーストポケモンが多い気がするから調べて欲しいって言われたのよ』

にこ「ゴーストポケモン……?」

真姫『別にゴーストポケモンが居ることが悪いとは思わないけど……あの子たちは命がたくさん消えるときに、こぞって大量発生するし』

にこ「もしかして……真姫ちゃん、怖いにこ〜?」

真姫『なっ!? 今そんな話してなかったでしょ!!? バカにこちゃん!』

にこ「って、誰がバカよ!?」

真姫『はぁ……。希の言うこと、馬鹿に出来ないの、にこちゃんも知ってるでしょ?』

にこ「まあね……」


あいつの言うことはいちいち、ものごとの中核を言い当てていることがあるから、今回も気には留めておかないといけないかもしれない。


真姫『……にこちゃんはこの後どうするの?』

にこ「一旦戻ろうと思ってるけど……そろそろ理事の方へ報告もしたいし」

真姫『ま、それが無難ね』

にこ「とりあえず、あと数日中にそっちの研究室にルガルガンは送るから」

真姫『わかった。出来るだけ急いでね』

にこ「はいはい」


その会話を最後に通話が終了する。


にこ「……。……全く、この地方で何が起こってるんだか」


私は窓の外から、ドッグランを見つめる。

そこでは今日もルガルガンたちがにらみ合いをしているところだった……。





    *    *    *


457 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:16:59.01 ID:bS2bQuBP0


千歌「さて、これからどうしよっか」
 「マグ?」


ダリアシティの街を一緒に歩くマグマラシは、私の言葉に小首を傾げた。


千歌「自転車が必要って言ってたけど……」


ダリアシティの北部で貸し出ししてるって言ってたっけ。でも……。


千歌「せっかくなら、自分用の欲しいよね」
 「マグ」


サイクリングロードがすぐ近くにあるなら、レンタルショップだけじゃなくて、自転車屋さんもどこかにあるはず。

そう思って、ダリアシティを散策中。

表側の道はだいぶ見たけど、レンタルが主流なせいなのか、自転車屋さんは見当たらなかった。

ならば、裏路地も、と足を広げてみている。


千歌「それにしても……ダリアシティってホントに広いんだね」
 「マグ」


裏路地まで足を伸ばしたのはいいけど、今日一日で散策しきることは出来なさそう。

ちょっと探してみて、見つかりそうになかったら、私もレンタルした方がいいのかな……。

そんなことを思いながら、キョロキョロと辺りを見回していると──。


 「マグ!」
千歌「わっ マグマラシ、どうかしたの?」


マグマラシが急に声をあげる。

その視線を追うと──。


千歌「……あれって」


昼でも少し薄暗い裏路地の端っこの方で、なにやら見覚えのある、薄紫の帽子と襟付きの制服のようなものを身に纏っている女性が二人……。


千歌「グレイブ団……?」


それは、コメコの森で私たちを襲撃してきた女の人と同じような服装だった。


グレイブ団下っ端1「? なんだお前は」


人通りの少ない場所をふらふらしていたせいか、見つかってしまう。


千歌「……いや、たまたま通っただけです」


とりあえず、関わってもいいことがなさそうなので引き返そうとすると、


グレイブ団下っ端2「いや待て、お前。その服装とマグマラシを連れたトレーナー……報告があった気がするぞ」

千歌「……ひ、人違いじゃないですか?」

グレイブ団下っ端1「そういえば……コメコの森で我々の同士を邪魔した奴の特徴と同じじゃないか?」


あれ、私思ったより有名人……?
458 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:19:54.48 ID:bS2bQuBP0

グレイブ団下っ端2「なら、逃がすわけにはいかないな……プルリル」
 「リル…」

グレイブ団下っ端1「バネブー」
 「ブブ」


目の前で二人は手持ちのポケモンを繰り出す。


千歌「う……」


どうする? 戦う?

いや……。


千歌「マグマラシ、“えんまく”!」
 「マグッ」


指示と共に、マグマラシがブシューと黒煙を噴出す。


千歌「逃げよう!」
 「マグッ!!」


私はすぐさま踵を返して、走り出す。


グレイブ団下っ端1「ま、待て!!」


後ろから、呼び止める声が響くが、もちろん止まる理由はない。


千歌「とりあえず、路地裏から出ちゃえば人目がある……!!」


そう思った瞬間、


グレイブ団下っ端2「プルリル! “ナイトヘッド”!!」


視界が歪む。


千歌「っ!?」


頭に直接、恐怖感を滲ませるような、幻聴が聞こえる。


千歌「っ……相手の攻撃……」
 「マグッ」


どうやら、トレーナーの私を直接狙ってきてる。

とにかく、路地の外へ……!

私が力を振り絞って、路地から飛び出すと、

すぐ目の前に人影、


千歌「わっ!?」


そのままぶつかる、


千歌「ご、ごめんなさ──」

 「千歌さん?」

千歌「え?」
459 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:22:17.14 ID:bS2bQuBP0

名前を呼ばれて顔をあげる。

そこに居たのは、


千歌「聖良さん……?」


昨日、ダリア図書館で会った、聖良さんだった。

直後、路地から団員たちが追いついてくる、


グレイブ団下っ端1「待て……!」

千歌「……っ……!!」


不味い……! 聖良さんまで巻き込むわけには……!

思った瞬間。


聖良「……こっちです!」

千歌「え!?」


聖良さんは私の手を取って、走り出した。

──瞬間。


千歌「……っ!!」


足に痛みが走る。

視線を足元に配ると、確かに踝の後ろ辺りが切れて、軽く流血していた。

“ナイトヘッド”を食らいながら逃げていたから、その際にどこかにぶつけて切れたのかもしれない。


聖良「足、怪我してるんですか……!?」

千歌「……ち、ちょっと切っちゃったみたいで……っ」

聖良「……少しだけ我慢してください!! 近くに私の研究室があります、そこなら身を隠せますし、治療も出来ますから!」

千歌「は、はい……!!」





    *    *    *





……どうにか、うまいこと追っ手は撒けたようで。

聖良さんを巻き込むことも、これ以上、追撃をされることもなかった。


研究室に着いてから、聖良さんは手際よく私の足に応急処置を施していく。

私を椅子に座らせ、すぐに止血。血を綺麗なタオルで拭き取ってから、消毒。


聖良「ちょっとしみるかもしれませんが、我慢してください」


消毒用のアルコールを吹き付ける。


千歌「あ、あの……見た目ほど痛くないんで」

聖良「足は知覚神経が少ないので、痛みに反して傷が深いことが多いんです。だから、甘く見ると重篤化しやすいんですよ。念には念を入れましょう」

千歌「は、はい」
460 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:23:55.79 ID:bS2bQuBP0

有無を言わせず、処置を続ける。

切り傷に合うサイズの大きめな絆創膏を貼り、その上から軽く包帯を巻く。


千歌「応急処置……慣れてますね」

聖良「小さい頃から妹がよく怪我をする子だったので……」

千歌「そうなんですか……」


確かに言われてみれば、お姉ちゃんたちも私がよく怪我をするせいで、気付けば傷の手当てに慣れていた気がする。

何処もお姉ちゃんは大変そうだな……などと、他人事みたいに思う。


聖良「……よし、これで大丈夫ですよ。動かし辛くないですか?」


言われて、足首を上下に動かしてみる。


千歌「大丈夫そうです」

聖良「腱も特に問題なさそうですね、よかった」


聖良さんは私の状況を確認して安堵したのか、立ち上がる。


聖良「災難でしたね」

千歌「いえ、お陰で助かりました……あの人たちなんなんですか……?」

聖良「グレイブ団ですね」

千歌「グレイブ団……」


確かに前会ったときも、そう名乗っていた。


聖良「研究団の一つなんですが、やり方が少し強引だと言われている節があるみたいですね」

千歌「そうなんだ……」


なんか、成り行き上とは言え、変な人たちに目をつけられちゃったかも……。


聖良「もし、特別急ぎでないなら、少しここで休憩していってください。今飲み物と、ポケモン用のおやつを用意するので」

千歌「あ、はい。ありがとうございます」

聖良「千歌さんにはコーヒーでも淹れましょうか」

千歌「あ、私……コーヒーはちょっと……」

聖良「ふふ、苦くて飲めませんか?」

千歌「う……はい」


……ちょっと恥ずかしい。


聖良「わかりました、ミックスオレを持ってきますね」


そう言って聖良さんは室内の冷蔵庫に飲み物とポケモンたちのおやつを取りに席を立つ。


千歌「みんな、おやつの時間だよ。出ておいて」
 「マグ」「ワォ…」「ピピィ」「ワォン」
461 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:27:46.14 ID:bS2bQuBP0

皆をボールの外に出してあげる。

少し落ち着いてきた私は、改めて室内を見回してみる。

研究所内は片付いていて、整理が行き渡っている。

鞠莉さんの研究室はもっとそこらへんに物が転がってたから、研究する場所ってそういう感じなのかなってイメージだったけど……。

……いや、それよりも。

部屋のあちこちには試験管やビーカー、培養液のようなものに入れられたいろんな種類の宝石が棚のところどころに置かれていた。


聖良「珍しいですか?」


聖良さんが戻ってきて、私の目の前にミックスオレの入ったマグカップを、ポケモンたちの前にポフィンの乗ったお皿を置く。

すぐさま、ムクバードがポフィンを食べ始める。遅れてマグマラシが。その2匹の姿を見て、食べていいんだと悟ったルガルガンががっつき始める。


千歌「こんなにたくさんの種類の宝石初めて見たかもしれないです……しいたけも食べていいよ?」
 「ワォ…」


しいたけは私がそう言うと、もそもそとポフィンを食べ始めた。

……えっと、それで宝石。種類だけで言うなら、クロサワの入江で見たものより多そう。


聖良「そうかもしれませんね。私の研究の主な分野なので、あまりこれだけの種類の宝石を置いている研究室は少ないかもしれません」

千歌「研究の分野……そういえば、昨日会ったときも、ディアンシーの研究してるって」

聖良「ディアンシーの……と言うよりは、ポケモンの伝説全般についてですが。宝石は何かとポケモンの伝承に度々登場するので、研究している内に自然と増えてしまって」


そんな風に話す聖良さんの胸元にも、ペンダント状になった、ピンク色の宝石が輝いていることに気付く。

なんだか、他の宝石よりも断然に美しく輝いている気がする。


聖良「ふふ、このペンダント、気になりますか?」


視線に気付いたのか、聖良さんはそう訊ねてくる。


千歌「綺麗な宝石だなって……」

聖良「そうですね。……世界一美しい宝石ですから」

千歌「世界一美しい宝石……?」

聖良「そう……世界一美しい宝石ポケモン。ディアンシーの宝石です」

千歌「……え?」


私はポカンとしてしまう。


聖良「ふふ。不思議そうな顔をされてますね」

千歌「いや、だって、ディアンシーはおとぎ話の中のポケモンで……」

聖良「いいえ、千歌さん」


聖良さんは私の瞳を覗き込みながら、


聖良「ディアンシーは実在しますよ」


そう言い切った。


聖良「私は幼少の頃、妹と一緒にディアンシーに会ったことがあるんです」

千歌「ホントですか……?」
462 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:29:44.00 ID:bS2bQuBP0

軽く疑いの眼差しを向けてしまうが……。


聖良「とは言っても……夢現の前に現れただけなので、確たる証拠があるわけではないですが──」


そう言いながら、聖良さんは胸に下げたペンダントを指で弄る。


聖良「これは、その夢から覚めた時に近くに落ちていた宝石の欠片なんです」


確かに、その宝石は他の宝石とは比べ物にならないほどに綺麗な輝きを持っているけど、


聖良「それだけじゃ、理由になってない……と言いたげですね?」

千歌「え、あ、いや、そんなことは……」

聖良「ふふ、気になさらないでください。にわかには信じがたい話ですからね。ただ──」

千歌「ただ……?」

聖良「この宝石はディアンシーがまた会うために残してくれたもの……なんだと思って、ここまで研究を続けてきたので」


聖良さんは、そう言う。

目を見れば、その声を聞けばわかる。その言葉はホンキの言葉だった。

なんだか、重みがあった。

──ただ、同時に、


聖良「どうして、そこまでディアンシーに拘っているのか、と考えていますか?」

千歌「えっと……はい」


この人にはなんだか見透かされている気がする。


聖良「──救われたからです」

千歌「救われた……?」

聖良「命を救われたんです」

千歌「命を……?」

聖良「雪山で、死に掛けていた私たちは、ディアンシーに出会ったんです。さっきも言ったとおり意識が朦朧としている状態だったので、それが本当にディアンシーだったのか、確たる証拠はありません。証拠らしい証拠と言えば、本当にこの宝石の欠片だけ」


聖良さんは再びペンダントを握り締めてそう言う。


聖良「ただ、何故だか自分の中には確信があるんです。あのとき感じた光や暖かさは、本物だったと」


──証拠はないけど、確実にそうだった。

聖良さんの言うことは矛盾してる気もするけど、わからなくはなかった。


聖良「って、これだと結局、信じてもらえる要素が全然ないですね……すみません、変な話をしてしまって」

千歌「あ、いえ……」


上手いこと返事をすることは出来なかったが、その話をする聖良さんが嘘を言っているようには思えなかった。

この人はホンキでディアンシーを追っている。また会うために、


千歌「……だから、昨日も熱心にディアンシーのことを」

聖良「そうですね……ディアンシーは目撃例はまさに幻と言うに相応しいほど情報がなかったので……。伝承の残っている場所で育った人の話は、なんであれ貴重なんですよ」

千歌「なるほど……私の話って何かヒントになりましたか?」

聖良「ええ、それはもちろん」
463 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:33:27.47 ID:bS2bQuBP0

そう言って聖良さんは笑う。


千歌「……それなら、良かったです」


ホンキで追い求めてる人の力になれたなら、それはきっと良いこと……だよね。

ただ──何故だか、何かが引っかかっていた。

それが何か、よくわからないけど……。

私はミックスオレに口を付ける。

甘くておいしい味が口いっぱいに広がる。

……まあ、いっか……。





    *    *    *





──研究室から出る頃には日が傾き始めていた。


千歌「ありがとうございました、助けて貰った上に、休憩もさせて貰っちゃって……」

聖良「いえ、気にしないでください。私も久しぶりに人とディアンシーの話が出来て、嬉しかったので」


今は聖良さんに見送られる形でダリアシティから出るところ。

結局、自転車ショップは見つけたものの、高すぎてとてもじゃないけど、私の手持ちで買うのは無理でした。

だから、大人しく諦めて、先ほどレンタルショップで自転車を借り、やっと次の街に向かう準備が出来たところです。


聖良「次の街までは結構あるので、気をつけてくださいね」

千歌「はい、ありがとうございます」


自転車を押しながら、5番道路へ足を向ける。

──ふと、振り返ると、

聖良さんが小さくを手を振っている。


千歌「聖良さん」

聖良「?」

千歌「ディアンシー、会えるといいですね」

聖良「! ……はい!」


私は、きっとそれが良いことなんだと思って、聖良さんに向かってそう言っていた。

憧れていたポケモンに出会える。きっと、それが一番良いことだと……そう思ったから──。


464 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:34:34.28 ID:bS2bQuBP0


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【ダリアシティ】
 口================= 口
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  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
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  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.26  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.24 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.27 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:9匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 20:41:28.83 ID:4Zqn3I0Y0
女の子だけの世界でも横行するダイレクトアタックと流血描写
466 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 23:56:02.70 ID:bS2bQuBP0

■Chapter035 『セキレイシティ』 【SIDE Ruby】





──さて、セキレイシティに着いたルビィたちですが……。

街に到着した頃には日が暮れてしまっていたので、一晩宿に泊まって。

次の日の朝。


ルビィ「あ、あのっ!」

通行人「? なにかしら?」

ルビィ「人を探してるんですけど……」

花丸「髪型はツインテールで、ツリ目が特徴的な女の子……見覚えないですか?」

通行人「うーん……さすがにそれだけじゃ……」

ルビィ「あはは……ですよね」


絶賛聞き込み中なんですが、


ルビィ「ありがとうございます……他を当たります」


全く手応えがありません。


ルビィ「やっぱり、言えることが漠然としすぎてるというか……」

花丸「じゃあ、やっぱりアレ見せるずら?」


花丸ちゃんが指差すアレ──掲示板に貼られている、指名手配書。

今日から本格的に指名手配が始まったらしく、朝起きてセキレイシティを歩いていたら、そこら中に理亞さんの似顔絵が描かれた紙が貼られていた。


ルビィ「それこそ、警察でもないのになんでそんなことしてるんだろうって疑われそう……」


当初の目的では、理亞さんの指名手配が始まる前にコンタクトが取れれば……と思っていたけど、


花丸「警察は優秀だってことだね」


花丸ちゃんの言う通り、指名手配は思ったより迅速だった。ウラノホシは田舎だから、もう少し時間がかかるかなと思ってたんだけど……。


ルビィ「でも、ホントにどうしよう……都会の街に来れば、手掛かり見つかると思ってたんだけど……」

花丸「実際問題、探してるのは手配書の子なんだし、見た目で聞き込みしてもあんまり意味ないかもね」

ルビィ「ぅゅ……それはそうかも……」


ある意味、皆探してるわけだし。

ルビィたちに言う暇があったら、警察に行ってる気もする。


ルビィ「でも、他の聞き方って……なんだろ」

花丸「うーん……例えば──」




    *    *    *


467 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 23:58:47.76 ID:bS2bQuBP0


花丸「すみません」

通行人「ん? なんだいお嬢ちゃん」

花丸「この辺りでメレシーを探してる人って居ませんでしたか?」

通行人「メレシーって……南の方の入江に生息してるポケモンかい?」

ルビィ「そ、そうです」

通行人「あの宝石みたいなポケモンだよね。むしろボクが見てみたいよ」

ルビィ「ぅゅ……そうですか」


理亞さんがやってそうなことで情報を集めてみる作戦に変更してみました。……が、今みたいな反応が圧倒的に多いです。


花丸「考えてみればメレシーって、この地方だとクロサワの入江にしか生息してないんだよね」

ルビィ「あんまりに身近すぎて、忘れてた……」

花丸「もうちょっと、漠然とした聞き方の方がいいのかな……?」

ルビィ「これ以上、漠然にするの?」


もう結構ふわふわした聞き方だと思うけど、


花丸「最近怪しい人見ませんでしたか、とか」


それは確かに漠然としている。


ルビィ「うーん……」

花丸「ただ、街中で聞いて回るより……もっと、情報が集まるところに行ってみた方がいいかも」

ルビィ「情報が集まるところって、例えば?」

花丸「ふっふっふ……これだけ都会なら、あるはずずら」

ルビィ「何が……?」

花丸「裏路地に入ると、そこにはスラム街が! そして、そこには非合法な手段で情報を仕入れている情報屋が!」

ルビィ「いないよ!」


花丸ちゃんの中で都会のイメージはどうなってるんだろう……。


ルビィ「そもそも、そういう情報屋さんがいたとして、ルビィたちに情報くれる理由がないよ……」

花丸「……確かに、それもそうずら」


やっぱり、足で探すしか……。


花丸「いや、待ってルビィちゃん」

ルビィ「花丸ちゃん……今度はなにかな……」

花丸「ルビィちゃんには都会の街なら、今探してる情報をくれるかもしれない場所があるよ!」

ルビィ「え……?」


……そんな場所あったっけ?





    *    *    *


468 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:01:10.89 ID:IYa5VeT80


店員「いらっしゃいませ!」


店内に入ると深々とお辞儀をされる。

店員さんは顔をあげて、私たちと目が合うと、少し困った顔をした。


店員「えーっと……お嬢ちゃんたちは宝石に興味があるのかな?」

ルビィ「あ、えっとぉ……」


花丸ちゃんに連れてこられたのは、デパートの中にあるジュエリーショップでした。


花丸「ルビィちゃん、ほらコラン出して」

ルビィ「う、うん。出てきて、コラン」
 「ピピ」

店員「あら? メレシー」

花丸「この子はクロサワの家の子ずら」

店員「クロサワの家の子って……あのクロサワ家?」

ルビィ「は、はい……ちょっと、聞きたいことがあって」


花丸ちゃんの読み通り、ここなら少しだけ、自分の身分が通る場所みたいです。

クロサワの入江で採掘された宝石の原石は、ローズシティで加工されてから、多くがセキレイシティの宝石屋に並びます。

宝石商であれば、直接関係ないとは言え、原産地を取り仕切っているお家の人間が訪ねてきたら、少しは聞けることもあるかもしれない、と。


ルビィ「最近この辺りで宝石とか、メレシーとかを集めてる人の噂って聞きませんでしたか……?」

店員「宝石やメレシー……それって」


店員さんは一瞬バックヤードの方を見た気がする。

商売柄、指名手配書が事務所にあるのかも。


花丸「指名手配のことはもう知ってる……と言うか、この子はクロサワの家の子として独自に犯人像を追っているところなんです」

店員「なるほど……」


微妙に嘘だけど、店員さんを納得させるには悪くない口実です。


ルビィ「もし、何か少しでも気になることとかあったら……教えてくれませんか?」

店員「そうね……」


店員さんは少し、考えた後。
469 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:02:47.00 ID:IYa5VeT80

店員「そういえば……ちょっと前から、オトノキ地方のあちこちで宝石を集めてる集団が居るって噂が……」

ルビィ「宝石を集めてる……集団?」

店員「グレイブ団って言うポケモンの調査団体らしいんだけど……サニーゴのツノを折ったり、パールルやバネブーから真珠を採取したりしてて、ちょっと前に宝石商の間では話題になったのよ」

花丸「ちょっと前に……今はどうなってるんですか?」

店員「最近は少し落ち着いたらしいけど……別に非合法な組織ってわけじゃないから、ダリアシティではたまに姿を見かけるって聞くわ。ダリアシティに団体の本部があるらしいし」

ルビィ「ダリアシティ……」

店員「ただ、指名手配の人と関係があるかはよくわからないけれど……何か手掛かりになった?」

ルビィ「は、はい! ありがとうございます!」

花丸「ありがとうございます。それじゃ、ルビィちゃんいこ」

ルビィ「あ、ちょっと待って、花丸ちゃん」

花丸「ずら?」

ルビィ「お店に入って、質問だけして帰ったりしたらお姉ちゃんに叱られちゃう……最近仕入れた、オススメの宝石とか、ありますか?」

花丸「……」





    *    *    *





花丸「──クロサワ家恐るべし……」

ルビィ「花丸ちゃん? どうしたの?」


ルビィが宝石屋さんで買った宝石をポーチにしまいながら、店を出ると、花丸ちゃんが頭を抱えていた。


花丸「なんでもないずら……とりあえず、ダリアシティに行ってみる?」

ルビィ「うん。理亞さんに関係あるかはわからないけど……今のところ一番近い情報だし」

花丸「それなら、6番道路の風斬りの道を抜けて行けばそんなに時間は掛からないかな」

ルビィ「風斬りの道?」

花丸「うん。サイクリングロードのことで……あ」


サイクリングロード……自転車で通る道。でも……。


ルビィ「ルビィ……自転車乗れない……」

花丸「そういえばそうだったね……うーん、じゃあ下の道を通ろうか」

ルビィ「うぅ……ごめんね、花丸ちゃん」


文字通り、ルビィが足を引っ張ってしまっています……。


花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃん。もしかしたら、道中で何か有益な情報が得られる可能性もあるし。焦らず行こう」

ルビィ「うん……ありがと、花丸ちゃん」


ルビィたちは、6番道路に向かうことにしました。





    *    *    *


470 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:05:08.70 ID:IYa5VeT80


──6番道路。

いわゆる下道に下りてきたルビィたちの頭上には大きな橋が架かっています。

その下には川が広がっていて、上の橋を使えないルビィたちは、ここを渡らないといけません。

ただ、幸い6番道路には岸の両側に貸しボートもあるので、時間はかかるけど、行き来は出来ます。


花丸「よし、じゃあいこっか」

ルビィ「うん!」


先ほど貸しボート屋で借りたボートに乗り込み、二人でオールを漕ぐ。


花丸「……つ、疲れたずら」

ルビィ「花丸ちゃん!? まだほとんど進んでないよ!?」


なんなら、まだジャンプすれば岸に戻れる。


花丸「お、オラには……重労働すぎるずら……」


運動が苦手な花丸ちゃんがさっそくギブアップ宣言。


ルビィ「ぅゅ……えっと、コラン、ヌイコグマさん」


ルビィは2匹の手持ちをボートの上でボールから出す。


 「ピピピ」「クーマー」

ルビィ「ヌイコグマさんはオール漕げるかな?」
 「クマー」


掴むことはできないので、片側のオールを押したり引いたりするくらいだけど……。


花丸「なるほど……ポケモンに手伝ってもらうのはいい案ずら」

ルビィ「うん、コランは引っ張ってね」
 「ピピピ」


コランには縄を括り付けながら、言う。


花丸「引っ張るだけなら、ゴンベ!」
 「ゴン」


ゴンベが水しぶきをあげながら、着水する。


花丸「ゴンベなら泳げるし、重量があると効率がいいずら! お願いずら」
 「ゴンッ」


花丸ちゃんが船の上から縄を投げ渡す。


花丸「よっし……マルももうちょっと頑張るずら」

ルビィ「うん、頑張って進もうか」


二人と三匹で頑張って船を前に進めます。





    *    *    *

471 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:07:30.93 ID:IYa5VeT80



──さて、気付けば日も暮れてきました。

ルビィたちは……。


花丸「も、もう無理ずら……」

ルビィ「ボート……漕ぐのって……結構、大変……だね……」


二人して、完全にばてていた。

 「クーマー」

ヌイコグマさんは相変わらず頑張って漕いでくれてるけど……。


花丸「でも……もう少しずら……」


ゴンベとコランが引っ張ってくれたお陰で、向こう岸まで残り4分の1くらいのところまでは来ています。


ルビィ「ち、ちょっと休憩したら……また漕ごうか……」

花丸「うん、そうだね……」


二人して、空を仰ぎ見ると、夕闇の迫る空の中を、ヤミカラスやホーホーが飛んでいる。

──ふと、その中に。


ルビィ「ん……あれ、なんだろ?」

花丸「ずら?」


鳥ポケモンに紛れて、何か丸い物体が飛んでいる。


ルビィ「ポケモン……かな?」


ルビィは図鑑を開く。少し距離こそ離れていたけど、サーチは出来るみたい。

 『フワンテ ふうせんポケモン 高さ:0.4m 重さ:1.2kg
  あてもなく 浮かぶ 様子から 迷える 魂の 道標と
  伝える 昔話も ある。 幼い子供の 手を 握り
  あの世へと 連れ去る という。 重たい 子供は 嫌い。』


ルビィ「フワンテさん……」

花丸「ゴーストタイプのポケモンずら。日が暮れてきたから、出てきたのかな」


そのフワンテさん。どうやら、ルビィたちに気付いたのか、風に乗りながらふよふよとこっちに近付いてくる。


ルビィ「こっち来るね……」

花丸「マルたちを連れ去ろうとしてるのかも」

ルビィ「え、それってまずいんじゃ……」

花丸「って言っても、連れ去られるって言うのはもっとちっちゃい子供のことだよ。マルたちは持ち上がらないと思う」

ルビィ「それならいいんだけど……」


そう言ってる間に、フワンテさんはすぐそこまで近付いてきていました。

 「プワプワー」

フワンテは鳴きながらルビィたちのお船の周りを漂っています。


ルビィ「なんか近く飛んでるけど……」

花丸「でも、連れ去ろうって感じじゃないよ」
472 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:09:22.49 ID:IYa5VeT80

確かに、図鑑には手を握ってくると書いてあったけど、今のところ周りを浮いているだけ。

 「プワプワー」


花丸「人が珍しくて、出てきただけかもね」

ルビィ「人が珍しくて?」

花丸「今ってサイクリングロードが出来て、この川を渡る人ってほとんど居ないから……」


確かに言われてみれば貨物船みたいなのはときどき通るけど、貸しボートを使っている人はルビィたち以外には見当たらない。


花丸「風斬りの道だと、すぐに通り過ぎちゃうし……フワンテも久しぶりに人を見たから、寄ってきたんじゃないかな」

 「プワプワー」


花丸ちゃんの言う通り、フワンテは依然、近くを浮遊しているだけ。


ルビィ「もしかして、遊んで欲しいのかな……」


ルビィは冗談めかして言ったつもりだったけど、


花丸「ふふ、その話……案外的を射てるかもね」


花丸ちゃんは笑いながらそう言う。


花丸「ゴーストポケモンが子供を攫う……なんて伝説は昔から聞くけど、本当は遊んで欲しいだけなのかもしれないし。攫うなんて表現も、結局はどこか一点からの視点に過ぎないずら」

 「プワプワー」

ルビィ「フワンテさん、ルビィたちと遊びたいの?」

 「プワプワー」


敵意は感じない。

おだやかな性格なのかもしれない。

船も穏やかに岸に近付いている。

 「プワプワー」

フワンテさんは、ルビィの疑問に答えるかのように、ボートの中心辺りに降りてきた。

 「プワプワー」

あれ? でも、こういう方法で油断させて、子供を連れ去ってるのかな……?

そんな疑問も頭の中には浮かんだけど、

 「プワプワー」


花丸「退屈だったのかもね」

ルビィ「退屈?」

花丸「技術がどんどん進歩して、そうすると皆移動も早くなるから」

ルビィ「うん」

花丸「フワンテみたいなのんびり飛んでるポケモンはあんまり人の視界に入ることもなくなっちゃったのかもしれないよ」

 「プワー」


依然フワンテは船の真ん中でぼんやりとしている。

ゴーストポケモンとこういう風に一緒の船に乗ることがあるなんて、想像してなかったかも……。
473 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:11:00.42 ID:IYa5VeT80

花丸「せっかくだし、フワンテも一緒に広い世界を見に行かない?」

 「プワ?」

花丸「のんびり過ごすのもいいけど……きっとこの辺りをのんびり渡る人は、また当分来ないずら」

 「プワー」


花丸ちゃんの言葉を聞いて、何か思うところがあったのか、フワンテはのんびりと花丸ちゃんの膝の上に飛んでいく。


花丸「うん、じゃあ一緒にいこっか」


花丸ちゃんがリュックからダークボールを取り出すと、

 「プワ」

フワンテはそのボールに自分から飛び込んで行った。


花丸「フワンテ、ゲットずら」

ルビィ「ふふ、こんな出会い方もあるんだね」


捕獲というには穏やかすぎる光景になんだか笑ってしまう。


花丸「旅に出てから、ずっと忙しなかったけど……こういうのんびりした旅路も悪くないずら」


あともうちょっとで、岸に着く。

そんな最中にボートの上でぼんやり過ごしながら、夜空を仰ぐ花丸ちゃんの声は、

そのまま闇に掻き消えていきました。


474 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:11:55.88 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【6番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
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  ||.  | ●___ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
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 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.14 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.17 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.13 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.14 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:5匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.17 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.17 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      モココ♂ Lv.17 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.17 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワンテ♂ Lv.17 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:61匹 捕まえた数:24匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



475 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:02:28.85 ID:IYa5VeT80

■Chapter036 『ことり』 【SIDE You】





──サニータウンでゴーリキーを捕まえた翌日。


ことり「よっし、到着」


ことりさんのチルタリスに相乗りする形で、昼前にはセキレイシティに到着する。


曜「うわ、建物……たか……」


ウラノホシシティ出身の私は、都会の様相に圧倒されてしまう。


ことり「そこのビルはセキレイデパートって言って、いろんなお店が中に入ってるんだよ♪ 衣装のための生地とかも、たくさん置いてあるからあとで見にいこっか」


ことりさんはチルタリスをボールに戻しながら解説してくれる。


ことり「えっと、それじゃ……一旦私の家に──」

 「あーことりちゃんだー!」「ことりちゃんー!」「ことりちゃんが帰ってきたー!」


家に向かおうとした矢先、子供たちがことりさんの元に集まってくる。


ことり「あ、みんな♪ ただいまー♪」

 「あら、ことりちゃん、帰ったのね」「ことりさん、お帰りなさい」「お帰りなさい、ことりちゃん」


子供だけじゃなく、街行く人々も、ことりさんを見ると声を掛けてくる。


ことり「みんな、ただいま〜♪」

子供1「ことりちゃん、バトル教えてー」
子供2「わたしはコンテストー」
子供3「ほかくのこと教えてー」


セキレイシティに降り立って数分も経っていないのに気付けば、ことりさんの周りには人だかりが出来ていた。


ことり「わわ、そんなにいっぺんにいろいろ出来ないから、またあとでねっ 曜ちゃん、一旦家までダッシュ!」

曜「え、ヨ、ヨーソロー!」


ことりさんが急に走り出したので、その後を追いかけるのであります。





    *    *    *





ことりさんの家は、10階建てほどのマンションの最上階らしい。

今はそのマンションをエレベーターで昇っている。なんか、シティガールって感じ。

それにしても……。


曜「ことりさん、人気者なんだね」


老若男女問わず、街の皆がことりさんにフランクに声を掛けていたのが印象的だった。
476 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:04:01.76 ID:IYa5VeT80

ことり「んーまあ、ちょっとだけ有名人ってだけだよ」


さすがに元コンテストクイーン。自分が有名人という自覚は一応あるらしい。

ただ、あの慕われ方は有名人だからってだけじゃない気がする。

──昇降機は間もなく、最上階に到着して、扉が開く。


ことり「ことりの部屋は一番奥だよ。たぶん、曜ちゃんは今後出入りもすると思うから、あとで合鍵作っておくね」

曜「え、いいの……?」

ことり「もちろん♪ ただ、ちょっと家の中が騒がしいから、そこは我慢してもらう感じになっちゃうけど……」

曜「騒がしい……?」


家族がたくさんいる……とか?

私が首を傾げているのを傍目に、


ことり「みんな、ただいまー♪」


ことりさんが開いた戸瞬間、大量の羽が私の視界いっぱいに飛び出してきた。


曜「わっ!? な、なに!?」

ことり「ほら、曜ちゃんも。中に入っちゃって」


ことりさんに腕を引かれて、部屋の中に踏み入れると……そこは──


 「ポポ」「クルックー」「カァカァ」「ドードー」「クワ」「ケラッケラッ」


鳥ポケモンだらけだった。





    *    *    *





曜「ポッポ、マメパト、オニスズメ、スバメ、ムックル、ヤヤコマ、ツツケラ、カモネギ、ネイティ、チルット、ペラップ、ワシボン、バルチャイ……」


視界に入るだけでもかなりの種類の鳥ポケモンがこれでもかとたくさん居る。


 「クルッポー」
ことり「マメパト、ただいま」

 「ティ、ティ」
ことり「ネイティ、ただいま」


さっきから、ことりさんの元にはご主人の帰りに喜んでいるのか、鳥ポケモンがひっきりなしに寄って来ている。


ことり「あはは……ちょっと皆元気すぎるから、隣の部屋いこっか」

曜「あ、はーい……」


言われて、奥の部屋にいざなわれる。

奥の部屋の引き戸を開けると──


 「ズバ」「ホー、ホー」「クピピピ」「カァ…」
477 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:05:46.83 ID:IYa5VeT80

遮光カーテンの閉められた部屋の中で今度は別の鳥ポケモンたちが眠っていた。

中には鳥じゃないポケモンいるけど……たぶん、全員ひこうタイプのポケモンだ。


曜「こ、この部屋も鳥ポケモンだらけ……」

ことり「賑やかなのが好きで……なんか気付いたらこんな感じになってたんだよね」


そういえば、フソウタウンで見たことりさんのホテルの部屋も、モクローがたくさんいてこんな感じだったかもしれない。


ことり「とりあえず、荷物だけまとめて、衣装案出すための用意しててくれる?」

曜「り、了解!」


ことりさんはそう言うと、近くの木箱から何かを取り出してる。ちょっと部屋が薄暗いのでわかりづらいが──あれは餌箱かな?


ことり「確かドードーの餌が減ってるなぁ……買い足しておかないと。あとは豆と……あのきのみは──」


もしかして、あの数の鳥ポケモンたちの好みとかも把握してるのかな……。


ことり「あ、そうだ。曜ちゃん」

曜「?」

ことり「もし可愛い子が居たら、一匹くらいなら連れていってもいいよ♪」

曜「連れていってもいいって……?」

ことり「よく街の子供たちにも、小鳥ポケモンとかをあげることがあるから……」


──なるほど。ここでようやく、ことりさんがあそこまで子供たちに懐かれている理由が少しわかった気がした。


ことり「鳥ポケモンって、扱いやすいし、育てやすいし、その上で一緒に冒険とかしてると、移動でも戦闘でも、最後まで頼りになるから、最初に触るポケモンとしてはうってつけだと思うんだよね」

曜「だから、子供たちに?」

ことり「うん♪ 子供の頃から、ポケモンと自然に触れ合えるようになるための準備みたいな感じかな」


やっぱり、というか。ただの有名人じゃないとは思っていたけど、ことりさんが人からもポケモンからも好かれるのはある意味当然なのかもしれない。そう思わせるだけの説得力があった。

部屋だって、ポケモンの生態に合わせて部屋が区分されてるし、餌箱も部屋ごとに各種揃っている。

しかも、ドアが引き戸になってるのも、小さな鳥ポケモンたちが挟まれてケガをしないための工夫なんじゃないだろうか。


ことり「あ、そっか……あとでコンテスト会場とジムの方にも顔出さないと……」


しかも、多忙なスケジュールをこなしながら……そういえば、フソウタウンに来てたのはコンテストの観覧のためだっけ……?

とてつもないバイタリティ……。


ことり「うーん……とりあえず、ジムが先かな。挑戦者が来てたら悪いもんね」

曜「?」


挑戦者?


曜「ことりさんってコーディネーターだよね?」

ことり「? うん、そうだよ?」

曜「ジムってポケモンジムだよね……? バトル用の施設にも行くの?」

ことり「……? ……あれ? 言ってなかったっけ?」

曜「え??」


ことり「──わたし、セキレイシティのジムリーダーだよ?」
478 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:06:53.61 ID:IYa5VeT80




    *    *    *





梨子「よし……行こうかな」


サイクリングロードを抜け、セキレイシティで一日宿を取って過ごした私は、昼過ぎ頃にジムへと足を運ぶ。

ポケモンたちはポケモンセンターでしっかり回復させ、準備万端だ。

割と街中にあるポケモンジムの入口の前に立つ。

……が、中から人の気配がしない。


梨子「留守……かな?」


幸先が悪い……と思いながらも、とりあえずジムリーダーを探しに行こうと踵を返したとき、


 「あれ? もしかして、梨子ちゃん?」


どこかで聞き覚えのある声がした。

振り返ると、アッシュグレーの髪にパーマの掛かった女の子。

確か……。


梨子「曜ちゃん?」


1番道路で千歌ちゃんと一緒に居た女の子……曜ちゃんだった。


曜「うわっ ホントに梨子ちゃんだ! 偶然だね!」

梨子「う、うん」

曜「もしかして、これからジムリーダーに挑戦?」

梨子「あ、うん。そのつもりだったんだけど……今は留守みたいで」

曜「それなら、グッドタイミングだよ!」

梨子「え?」

曜「ちょうど今来るところだから……」


曜ちゃんが振り返りながら、そういう。

視線を追うと、


 「ねー、ことりちゃーん」「ことりちゃーん」
ことり「ご、ごめんねー 今はちょっとジムに向かわないとだからー」


子供の群れの中を歩く特徴的な髪型をした女性が居た。


曜「ことりさん!」

ことり「んー?」

曜「ちょうど挑戦者の人、来たみたいだよ」

ことり「あ、うん」


──ことりさん。確かにセキレイジムのジムリーダーはそんな名前だったはずだ。
479 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:07:49.03 ID:IYa5VeT80

ことり「こんにちは、あなたが挑戦者さん?」

梨子「あ、はい。梨子です」

曜「梨子ちゃんは、私と一緒に最初の三匹と図鑑を貰った子なんだよ」

ことり「そうなんだー……。……そうなの?」

曜「? ことりさん?」


目の前にいる、ジムリーダーのことりさんはなんだか複雑な表情をしていた。


梨子「……?」


そのまま、私を凝視している。


ことり「…………」

梨子「あ、あのー……」

ことり「あ、ごめんね。いきなりジロジロみられても困っちゃうよね」

梨子「い、いえ……」

ことり「挑戦者って他に待ってる人とかいる?」

梨子「特に居ませんけど……」

ことり「ん、そっか……」

梨子「……??」


なんだろう、このやり取り。


梨子「えっと、その……ジムバトル、よろしくお願いします」


とりあえず、私はことりさんに向かって頭を下げた。


ことり「え? ああ、うーん……」


……うーん?


ことり「えっと、梨子ちゃんって言ったかな」

梨子「は、はい」

ことり「ごめんね」

梨子「……?」


ことり「──あなたとはちょっと、バトル出来ないかな」


梨子「……なっ」

曜「え!?」

ことり「じゃあ、待ってる人も他にいないなら、とりあえずコンテスト会場の方に……」

梨子「ち、ちょっと待ってください!!」


突然有無を言わさず、挑戦を拒否され、私は抗議の声をあげる。


梨子「ジムリーダーは原則チャレンジャーの挑戦を断らないんじゃないんですか!?」

ことり「一応そういう人は多いけど……断っちゃいけないわけじゃないよ」


いや、そういう問題じゃない。
480 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:08:35.48 ID:IYa5VeT80

梨子「ジム戦をしてもらわないと──」

ことり「バッジが貰えない?」

梨子「……っ そ、そうです!」


食い下がると、ことりさんは再び「うーん」と、何かを考えてから、


ことり「ジムバッジってさ、ジムリーダーがトレーナーを認めた証として、トレーナーに渡すものだよね」

梨子「そ、そうですけど……」

ことり「もし、今あなたと戦っても……あなたはわたしに勝てないし……わたしが認められるようなトレーナーでもないから、どっちにしろジムバトルをしたところで、バッジはあげられないよ?」

梨子「なっ!?」


──意味がわからない。


梨子「やってもいないのに、どうしてそんなことが言えるんですかっ!!」


思わず語気が荒くなる。


曜「ち、ちょっと、ことりさん……いくらなんでもそれは」

ことり「わかるよ。ジムリーダーだもん」

梨子「……な、なんですか、それ……!!」


頭に血が昇っている。いや、落ち着け……この人は何故か本気でそう思ってるんだ。

──なら……。


梨子「それなら……バトルで勝って認めさせます。とにかく、バトルを受けてください……!」

ことり「……はぁ、わかった。今ジムを空けるね」

梨子「……お願いします」


こういうときこそ、バトルで実力を誇示するしかない。

私はことりさんと一緒にジムへと入っていった。





    *    *    *





ことりさんはバトルスペースに移動すると、


ことり「モクロー、お願い」
 「ホホー」


早速ポケモンを繰り出した。

図鑑を確認すると、

『モクロー Lv.30』


ことり「えっと、梨子ちゃんが今持ってるジムバッジは3個だよね?」

梨子「はい」
481 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:09:12.59 ID:IYa5VeT80

おおよそ、繰り出してきたポケモンのレベルは適正値だ。

あんなことを言っていた手前だ。本気の手持ちを出されて負けるのは、あまりにチャレンジャーに優しくない。

だけど、とりあえず、そういうことはなさそうだ。


ことり「じゃあ、バトルのルール説明」


何か特殊なルールが来るのかと身構えていると。


ことり「ことりの使用ポケモン1体。このモクロー。梨子ちゃんは何匹ポケモンを使ってもいいよ」

梨子「……は?」

ことり「6匹全部使ってもいいし、3匹でも1匹でもいいよ」

梨子「……」

ことり「あ、心配しないで。梨子ちゃんが勝ったら、ちゃんとバッジはあげるから」


何故、この人はここまで私と向き合わないんだろう。

ずっとそれが頭の中をぐるぐるとしていたけど……。


梨子「わかりました……」


もういい。とにかく、


梨子「私が勝ちます……メブキジカ!!」


私はメブキジカのボールを放った──。





    *    *    *

482 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:09:47.38 ID:IYa5VeT80



千歌「んーっ やっと着いた! 都会だー!」
 「マグ」

サイクリングロードを抜けて、セキレイシティに着いた頃には、もう夕方前。


千歌「とりあえず、ジム! いこ、マグマラシ!」
 「マグッ」


セキレイシティの街を走り出すと、割とすぐポケモンジムが見えてくる。


千歌「ジム! 早速発見!」


ジムの入り口に立った瞬間。

──pipipipipipipipi!!!!


千歌「わわっ!?」


ポケットに入れた図鑑が鳴り響く。

それと同時に、ジムのドアが開いて。


曜「り、梨子ちゃん……!」

梨子「…………」


そこには、見知った二人の女の子。


千歌「梨子ちゃん……曜ちゃん……?」

曜「ち、千歌ちゃん!?」

梨子「……千歌ちゃん……」


──pipipipipipipipipi......!!!!!

三つの図鑑が揃って共鳴音を響かせていました。


483 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:10:39.24 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.28  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.24 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.26 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      タマゴ  なかから おとが きこえてくる! もうすぐ うまれそう!
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:81匹 捕まえた数:9匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.28 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:7匹

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.22  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:89匹 捕まえた数:17匹


 千歌と 梨子と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



484 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:27:01.37 ID:IYa5VeT80

■Chapter037 『再会、幼馴染』 【SIDE Chika】





──pipipipipipipi......!!!!!!!


梨子「千歌……ちゃん……」


ジムから出てきた、梨子ちゃん。

だが、様子がおかしい。


千歌「梨子ちゃん……?」


私が梨子ちゃんに声を掛けると、曜ちゃんもハッとしたように梨子ちゃんに声を掛ける。


曜「あ、えっと……梨子ちゃん……その」

梨子「…………」


だけど、梨子ちゃんは暗い表情で俯いたまま。


曜「あ、あのね、ことりさん普段はああいう感じじゃなくて……」

梨子「ごめんなさい……」


取り繕うように言う曜ちゃんの言葉を振りほどくように、


梨子「……一人にして……」


梨子ちゃんは、その場から逃げるように走り去ってしまう。


千歌「梨子ちゃん……?」


会ってから、一度も私と目を合わせることなく、梨子ちゃんは行ってしまった。

……正直、何がなにやらと言ったところなんだけど、


曜「……」

千歌「……んと、曜ちゃん久しぶり?」

曜「う、うん……」


なんだか、変な空気になってしまっている。

どうしようかなと思っていると、曜ちゃんの後ろから──


ことり「ん、この音って……図鑑の共鳴音かな?」


胸には綺麗な光るネックレス。長い髪を頭の右側で特徴的な結び方をしている女性が顔を出す。

そう言えば図鑑……鳴りっぱなしだった。

曜ちゃんも同じことを思ったのか、二人で図鑑のボタンを押して音を止める。
485 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:28:27.64 ID:IYa5VeT80

曜「ことりさん……」

ことり「ん……じゃあ、その子が曜ちゃんが言ってた千歌ちゃんかな?」

千歌「え、えと……はい、千歌です」

ことり「ふふ♪ 曜ちゃんからお話は何度も聞いてたよ。わたしはことり。セキレイジムのジムリーダーです♪」

千歌「! ジムリーダー……!」


私はジムリーダーという単語に思わず反応してしまう。


ことり「あ、でも、ごめんね……もう今日はちょっと遅いから、ジム戦は明日じゃダメかな?」


言われて、気付いたが、夕日が沈んで夜の時間が始まっている。


千歌「わかりました」


私がことりさんの言葉に頷くと、


ことり「じー……」


ことりさんは何故か私のことをじっと見つめていた。


千歌「な、なんですか……?」

曜「…………」

ことり「マグマラシ、ムクバード、ルガルガン……それと、トリミアンだね」

千歌「……え?」

ことり「それじゃ、明日ジムに来てね」

千歌「え、は、はい……」

曜「ほ……」


何故か手持ちを言い当てられる。

誰かに教えてもらってた……のかな?


ことり「千歌ちゃんは今日の宿泊先とか決まってる?」

千歌「あ、いえ……」

ことり「じゃあ、わたしの家に泊まっていいよ♪」

千歌「え、いいんですか?」

ことり「うん♪ 同郷の子なら、曜ちゃんと積もる話もあるだろうし♪ 曜ちゃん、鍵お願いね」

曜「ヨ、ヨーソロー!」


そう言って、ことりさんは曜ちゃんに鍵を手渡す。


千歌「曜ちゃんもことりさんの家に泊まってるの??」

曜「ん、まあ、いろいろあって……」

ことり「ふふ♪ ことりはまだちょっと用事があって、帰りは遅くなると思うから、ベランダの窓だけ開けておいてくれると嬉しいな♪」

曜「り、了解」

ことり「それじゃ」


そう言って、ことりさんは歩き出してから、すぐに街角の脇道の入っていって、見えなくなった。
486 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:30:21.42 ID:IYa5VeT80

千歌「……」

曜「千歌ちゃん、とりあえず、移動しようか」

千歌「あ、うん」


私は曜ちゃんに促されて、ひとまずことりさんの家に向かうことになりました。





    *    *    *





 「クルッポー」「ホーホ」「ポポ」「カァー」

千歌「なにこれ……」

曜「まあ、そうなるよね」


ことりさんの家に辿りつき、鳥ポケモンの楽園を見て唖然とする。


千歌「これ全部ことりさんのポケモンなの?」

曜「そうみたいだよ。えっと、玄関の鍵閉めて──ってオートロックか……窓の鍵は開けておいて欲しいって言ってたっけ……どこの部屋の窓だろ」


曜ちゃんが、戸惑いながら戸締りをしていると、

 「ホーホ」

一匹の丸っこいフクロウみたいなポケモンが近くに飛んでくる。


 「ホーホ」

曜「あ、モクロー。案内してくれるの?」
 「ホーホ」


モクローと呼ばれたポケモンはそのまま、室内を音もなく飛んでいく。


曜「千歌ちゃんはどっかに座って待ってて」

千歌「あ、うん」


とりあえず、リビングの中央に置かれているソファーに近付くと、

 「ピピ」「ピピピィ」「ピピピ」

ムックルの群れがひしめいていた。


千歌「ムックルがいっぱい……ムクバードとなら、仲良く出来るかな?」


そう思ってムクバードをボールから出す。

 「ピピピィ」

 「ピーピー」「ピピー」「ピピピー」


鳴き声をあげて、コミュニケーションを取り出す。

何言ってるのかはわからないけど、悪い雰囲気ではなさそう。

程なくして、群れの中にムクバードが入っていく。


千歌「ふっふっふ……やっぱり、チカの目に狂いはなかったね」

曜「千歌ちゃんって、なんかそういうの得意だよね」
487 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:32:08.50 ID:IYa5VeT80

気付くと曜ちゃんがモクローと一緒に戻ってきていた。


千歌「そういうの?」

曜「なんか、仲良くなれそうな人とかポケモンとか、見つけるの?」

千歌「んー、どうだろ」

曜「ちっちゃい頃からあっちこっちで野生のポケモンと仲良くなってた気がするよ。……まあ、同じくらいケンカもしてた気がするけど」


確かに、家に帰るたびに美渡姉から、危ないことするなって叱られてた気はする。


千歌「あはは……確かに、そうなのかも」


毎日が冒険だったからなぁ、ちっちゃい頃は、


曜「だから、なんか安心した」

千歌「安心?」

曜「ああ、千歌ちゃんだ……って」

千歌「曜ちゃん……」

曜「千歌ちゃんの旅の話、聞かせてよ!」

千歌「うん! 私も曜ちゃんの話も聞きたい!」


ことりさんの言う通り、私たちには積もる話がたくさんあるみたいです。





    *    *    *





──さて、二人で旅の近況を交えて話をする。

──私が3つのポケモンジムを突破したこと、


千歌「これがバッジだよっ」

曜「わ、本物! ダイヤさんに見せて貰ったのみたい」

千歌「みたいじゃなくて、本物だからねっ! ……コメットバッジ、ファームバッジ、スマイルバッジ──」


──
────


──曜ちゃんがポケモンコーディネーターになったこと。


千歌「コンテストかぁ……そういえば、お姉ちゃんたちが好きだったかも」

曜「うん、フソウタウンで志満姉に偶然会っていろいろ教えてもらったよ」

千歌「あー……志満姉、確かにおやすみの日はコンテスト見に行ってること多かったかも──」


──
────



──そして、ことりさんに弟子入りしたこと。
488 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:34:25.51 ID:IYa5VeT80

千歌「ジ、ジムリーダーの弟子……急に曜ちゃんが遠い存在に……」

曜「あはは……とは言っても、コンテストの、だけど。実戦はこれからだし」

千歌「でも、ことりさんって、コンテストでもすごい人なんでしょ? そんな人に見込まれたってことは、曜ちゃんきっと才能あるんだよ!」

曜「だといいなぁ……」


ことりさんの話題が出て、ふと思い出す。


千歌「そういえば、ことりさんにチカの手持ちを教えたのって、曜ちゃん?」

曜「え?」

千歌「ほら、ジムの前で手持ち言い当てられたから……」

曜「ううん、私じゃないよ。……というか、私さっきまで千歌ちゃんの今の手持ち知らなかったし……」


言われてみれば、そうだった。

別に連絡取り合ってたわけじゃないもんね。


千歌「じゃあ、梨子ちゃん……?」


私の手持ちを知ってる人だと、そうなるかな??

そんなことを考えながら、頭を捻っていると。


曜「えっとね……ことりさんは、なんかわかるみたいなんだよね」

千歌「なんかわかる……? 何が?」

曜「うーんと……ポケモンの持ってる独特の雰囲気とか気持ち、みたいなのって本人は言ってたけど……」

千歌「……? え、じゃあボールから出さなくても、なんとなく人の持ってるポケモンがわかるってこと?」

曜「そうみたい。ただ、ボールに入ってる状態だと、多少わかりづらくなるから、基本はボールの外に出してるのがいいんだってさ」


曜ちゃんがそう言いながら、室内を自由に飛ぶ小鳥ポケモンたちを目で追う。


千歌「だから、こんなことになってるんだ……」

曜「あはは……でも、それくらい強い感性だからこそ、一度はコンテストの大舞台で頂点に立てたのかもしれないなって思うと、ね」

千歌「感性かぁ……」


私はコンテストとか、芸術とか、なにか表現するみたいなことは今のところ考えてないからなぁ……。

……そういえば、芸術と言えば……。


千歌「……あのさ」

曜「うん?」

千歌「梨子ちゃん……何かあったの?」

曜「……」


曜ちゃんがこの話題を避けていたのは、なんとなく気付いていたけど、


千歌「別に言いたくないなら、無理には聞かないけど……」

曜「言いたくない、というか……」


曜ちゃんは目を泳がせる。
489 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:35:52.20 ID:IYa5VeT80

曜「……梨子ちゃん、セキレイジムに挑戦しに来たんだけど……」

千歌「うん」

曜「最初、ことりさんは挑戦を断ったんだよね」

千歌「? どうして?」

曜「それがよくわからなくて……結局、梨子ちゃんが勝って証明するって説得して、バトルを始めたんだけど──」


そう前置いて、曜ちゃんは梨子ちゃんのジムバトルの話を始めました。




────────
──────
────
──



梨子「メブキジカ!! “メガホーン”!!」
 「ブルル!!!」


梨子ちゃんのメブキジカがモクローを下からツノで突き上げる。

メブキジカがブン、とツノを振り上げると、


 「ホー、ホー」


そのツノの上にモクローが止まっている。


ことり「……」

梨子「なっ!?」

ことり「力任せに攻撃しても、モクローは身のこなしが軽いからダメージにならないよ」


そのまま、ツノを伝って、モクローがメブキジカの頭に降りてくる。


梨子「め、メブキジカ! 一旦下がって──」

ことり「モクロー、“おどろかす”」

 「ホーー!!」


モクローはそのまま、顔を突き出すようにメブキジカの顔の周りに羽根をばら撒く。

 「ブルゥ!?」

驚いて怯んだ、メブキジカの横っ面に、

蹴りを叩き込む、

 「ブルルゥッ!!!!」


梨子「め、メブキジカ! 下がって!!」


メブキジカが指示を聞き、後ろに跳躍すると、何かに脚を取られたかのように体勢を崩したあと、

──ボンッ、と音を立てて地面が爆ぜる。


梨子「なっ!!?」

 「ブルル…」
490 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:37:45.34 ID:IYa5VeT80

そのまま、メブキジカはユラリと地面に崩れ落ちた。戦闘不能だ。

梨子ちゃんが戦っている姿は、1番道路で見たけど……。

あのとき千歌ちゃんを圧倒していたのが嘘のように、一方的にやられてしまった。


梨子「…………嘘」

ことり「何されたか、わかんなかったって顔だね」


私はバトルをことりさんの後ろで見ていたから、なんとなくわかったけど……。

“おどろかす”際にフィールド上に“フェザーダンス”をばら撒き、そのまま“ふいうち”で蹴りをお見舞い。

下がったメブキジカの足元に“くさむすび”を使って、転ばせ“フェザーダンス”の中に紛れ込ませていた“タネばくだん”が爆発した。


ことり「……そのメブキジカ、梨子ちゃんが育てたポケモンじゃないよね」

梨子「……!?」


ことりさんの言葉で梨子ちゃんがビクッと体を震わせた。


ことり「……人から貰ったポケモンだね。ちっちゃい頃から、一緒だったのかな」

梨子「な、なにいって……メブキジカッ、戻って!」


メブキジカをボールに戻して、次に構えたボールから、


梨子「ペラッ──」

ことり「次はペラップかな?」

梨子「……!!」
 「オハヨーオハヨー」


梨子ちゃんはぶんぶんと頭を左右に振る。

まるでことりさんの言葉を掻き消すかのように、


梨子「ペラップ!! “ばくおんぱ”っ!!!」
 「オハヨーーーーゴザイマーーース!!!!!」

 「ホホーーホッ!!」


ペラップから発せられるとてもつもない、爆音。


曜「う、うるさ……!!」


モクローが怯んだ隙を見て、梨子ちゃんのペラップは次の技。


梨子「ペラップ! “わるだくみ”!」


“わるだくみ”──特攻をあげる技だ。


ことり「“くろいきり”」
 「ホー」

梨子「!」


一方ことりさんは“くろいきり”。

あげた能力を元に戻す技で対応する。


梨子「ペ、ペラップ、もう一発……!!」
491 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:39:54.26 ID:IYa5VeT80

即座に対応され、梨子ちゃんが僅かに動揺し、一瞬見せた隙に、

 「ホー」

モクローが空を蹴って、弾丸のように飛び出した。


梨子「!!? ペ、ペラップ、避けてっ!?」

ことり「“はがねのつばさ”!!」
 「ホーー!!!」

 「ペラッ!!?」


そのまま、硬い翼で叩かれた、ペラップが後ろに転がる。


ことり「“ばくおんぱ”を使ってて、気付かなかったのかもだけど……モクローは“こうごうせい”で回復しながら、技を受けてたんだよ」

梨子「そん、な……」


自慢の音波攻撃もハナから避ける気がなかったモクローは回復を決め込んでいた。


梨子「……ペラップ」

ことり「“ばくおんぱ”に“メガホーン”……強い技だね」

梨子「だ、だったら、なんですか……」

ことり「ううん、いいと思うよ。バトルだもん。強い技で相手を圧倒して、勝ち続ければいいもんね」


ことり「──それが自分の育てたポケモンじゃなくても」


梨子「……!!」


また、梨子ちゃんの肩がビクリと跳ねた。


ことり「次は、ドーブル? チェリム?」

梨子「ペラップ、戻って……チェリム」
 「チェリ…」

ことり「!」


ことりさんはチェリムを見て、少しだけ意外そうな顔をした、が。


梨子「チェリム、“にほんばれ”!」
 「チェリリ!!!」

ことり「モクロー! “ついばむ”!」
 「ホホー」


晴れと共に“フラワーギフト”で姿を変えるチェリムに、モクローが嘴を立てる。


 「チェリ!!!」


チェリムは一瞬怯みこそしたが、すぐに攻撃の態勢を整え、


梨子「チェリムッ!!! “ウェザーボール”!!!」
 「チェリッ!!!!」


チェリムから、メラメラと燃える太陽のような球体が打ち出された。


ことり「! モクロー! “つるぎのまい”!」
 「ホホー」
492 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:41:15.43 ID:IYa5VeT80

モクローは回転し、舞いながら、炎球に包まれる。

その炎の中から、


梨子「!!」


切り裂くように、真っ黒な影のような爪が飛び出す!


ことり「“シャドークロー”!!」

 「ホーー!!!!」


モクローは脚を叩き付けるように、上から下に薙ぐ。


梨子「チェリムッ!!」

 「チェリッ!?」


その脚に上から蹴り込まれ、地面を跳ねて、中空に浮き上がり、

 「チェリ…」

ジムの床を何度かバウンドしたあと、チェリムは気絶した。戦闘不能だ


ことり「……」

梨子「チェリム……戻れ……」


圧倒的だった。

ことりさんのモクローは梨子ちゃんのポケモン三匹を相手して、ほとんどダメージを負っていない。


ことり「ねぇ、梨子ちゃん」

梨子「……」

ことり「わかったかな」

梨子「…………」

ことり「……次出さないの?」


ことりさんに言われて、梨子ちゃんが弱々しく、ボールに手を掛けた、が……。


梨子「……っ……」


梨子ちゃんは次の手持ちを出すことなく……腕を下ろした。


ことり「……」

梨子「……こんなやり方、楽しいですか……」

曜「梨子ちゃん……?」


梨子ちゃんは声を震わせながら、ことりさんを見ていた。


ことり「楽しくないよ。だから、断ったんだもん」

梨子「……っ……!! ……貴方はジムリーダーで強いから……私の気持ちも焦りも……わかんないかもしれないですけど……!!」

ことり「……」


梨子ちゃんは自分のバトルスペースから、ことりさんに向かって肩を怒らせながら歩いてくる。
493 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:43:56.58 ID:IYa5VeT80

梨子「私は前に進むために、必死で……だから──!!」

ことり「それは理由にならないよ」

梨子「……っ」

ことり「……理由になってないよ」


ことりさんは梨子ちゃん、そう告げた。

正直、二人がなんの話をしているのか、わからなかったけど、

ことりさんが梨子ちゃんに話しかけるその声は、酷く悲しそうな声な気がした。


梨子「…………」


梨子ちゃんは俯いてから──重々しく踵を返した。


曜「え、り、梨子ちゃん!?」


そのまま、重い足取りでジムから出て行こうとしている。

私は咄嗟に梨子ちゃんを追いかける形でバトルスペースの脇を走る。

──その折に、背後からことりさんの声がした。


ことり「あなたは……何のために旅をしてるの……?」


その言葉に、一瞬、梨子ちゃんの足が止まった。

止まった、が。


梨子「…………」


梨子ちゃんはそれに答えず、また歩き出した。

ジムの出口に向かって。



──
────
──────
────────



曜「そのあとは千歌ちゃんの知ってる通りかな」

千歌「…………」

曜「正直、ことりさんの梨子ちゃんへの態度には私もちょっと疑問を感じたんだけど……」

千歌「けど……?」

曜「……ことりさん、梨子ちゃんを嫌って断った、って言うのとは少し違った気はした……かも」

千歌「そっか……」


千歌はソファーの上で腕を組みながら、

梨子ちゃんを追いかけるべきなのかを考えていた……が。


 梨子『ごめんなさい…………一人にして……』


そう言って去る梨子ちゃんを思い出して、


千歌「……」
494 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:45:31.21 ID:IYa5VeT80

追いかけて、どんな言葉を掛ければいいのか、その答えがわからなかった。

……それに、ダリアジムのときもそうだったけど、

ここで梨子ちゃんを無理に追いかけても、それが梨子ちゃんの負い目になるんじゃないか、とか……。


千歌「曜ちゃんは……」

曜「ん……?」

千歌「曜ちゃんは、どう思ったの……?」


私の質問に、曜ちゃんは少しだけ難しそうな顔をして、


曜「……ほっといて良いのかは、私も迷ったけど……。事情がよくわからないし……何を言えばいいのかわからなかった、というか」


私と同じような感想を言う。


千歌「そう、だよね……」


とにもかくにも……梨子ちゃんを追いかけようが、追いかけまいが、

私にも自分の旅がある。目的がある。今やることは……。


千歌「今はセキレイジムに挑戦すること……だよね」


そう、自問自答していた。





    *    *    *





梨子「……痛っ……」


日もとっぷりと暮れて、暗くなった道路をとぼとぼと歩く。

気付けば、靴擦れを起こしたのか、足が痛む。

 「ブルル…」

メブキジカが、服を引っ張ってくる。

乗れ、ということだろう。

……けど、


梨子「……いい、自分で歩く……」


ことりさんの言葉が頭の中で木霊する。

 『──それが自分のポケモンじゃなくても』


梨子「……っ」


悔しいが、返す言葉がなかった。

ただ……ただ、泣いてる暇なんてない。

ないんだ……。

セキレイジムが相手をしてくれないなら、次のジムへ進むしかない。


梨子「ローズシティに……」
495 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:47:45.28 ID:IYa5VeT80

私は夜の10番道路をとぼとぼと、ローズシティに向かって歩き続ける──。





    *    *    *





にこ『──ルガルガンの件はそういう感じよ』

海未「そうですか……調査、御苦労様です」


現在、私──海未は、にこからの報告を受け、電話口に立っている。


海未「近日中に捕獲の人手を派遣するよう手配します」

にこ『お願いね、海未。あと、希の件も……』

海未「はい、順を追って理事長に伝えておきます」

にこ『助かるわ。そっち着いたら、仕事は代わるから』

海未「代わる……? 何の話ですか?」

にこ『あんた、働き詰めでしょ。ちょっと休暇取りなさい』


にこが電話口でそう言う。


海未「いや……こんな状況で休むわけには……」


そう返す私に、


にこ『こういうときだからこそ、休みなさい』


さらにピシャリと言い返される。


にこ『本当に何か起こったときにあんたが動けないのは、不味いのよ。わかるでしょ?』

海未「は、はい……」


普段は忘れがちだが、にこが自分より年上だったと、こういうときに思い出す。


にこ『じゃあ、出来るだけ早く戻るから、またね』


そう残して、にことの通話が切れる。


海未「…………」


通話の切れた電話を見て、顔を顰めていると、


 「確かに、少し休んだ方がいいかもしれないわね」


背後から声がした。


海未「理事長……」


そこに居たのはポケモンリーグの理事。


理事長「休むことも仕事のうちですよ?」

海未「はい……」
496 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:49:29.61 ID:IYa5VeT80

人から見たら、そんなに私は仕事人間に見えるのでしょうか……。

そんな胸中を読んだのか、


理事長「最近ちゃんと寝ていますか?」


理事長にそう言われて、言葉に窮する。確かにここ数日、夜も忙しく、余り寝る時間が取れていなかった。


理事長「わかったのなら、今回のにこさんからの報告を整理するのを目処に、一旦まとまった休暇を取ってくださいね」

海未「……わかりました」


私が首を縦に振ると、理事長は踵を返して、


理事長「……たまには、ことりに会いに戻ってあげて?」


そう付け足してから、部屋を出て行った。


海未「……はぁ」


なんだか溜息が出てしまう。

次から次へと問題が浮上し、それに追われている。

地域のあちこちに人を派遣し、ジムリーダーたちからも密に報告を受けながら、本部で仕事をしていると、少し感覚が狂ってしまう。

──prrrrrrr....

そんなことを考えている端から、またジムリーダーの一人から電話が入っている。

ですが、その電話主の名前を見て、私は眉を顰めた。


海未「……ことり?」


今さっき名前が出た手前、タイムリーと言えばタイムリーなのですが……ことりの方から、連絡があるのは珍しい。

ことりは割と自分で解決したがる節がある。……誰に似たんだか。


海未「もしもし、海未ですが……」

ことり『うみちゃぁ〜ん……』


受話器の先から聞こえる、甘ったるい声。

私はさっきとは別の意味で眉を顰めた。


海未「……ことり、もしかして飲んでますか?」

ことり『ちょびっとだけだよぉ〜……』

海未「はぁ……貴方は酔うと片っ端から知り合いに電話を掛けるタイプですか……」

ことり『むー……いいもん、うみちゃんのいじわる……』

海未「はいはい……それでどうしたんですか?」

ことり『……うみちゃん……』

海未「はい」

ことり『……ことり……やっぱり、ジムリーダー向いてないかも……』

海未「……そんなことありませんよ」


最近は大分減ったのですが、ことりはたまにこういう電話をしてくることがある。

──正直、セキレイジムに関しては私は他人事ではないので、真剣に聞く義務があります。
497 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:54:15.67 ID:IYa5VeT80

ことり『そんなことあるよぉ……やっぱり、ジムリーダーはことりにはつとまらないよぉ……』

海未「あの大きな街で人からも、ポケモンからも信頼されているんですから、大丈夫ですよ」

ことり『そうかなぁ……ことり……海未ちゃんや……穂乃果ちゃんみたいに…………うまく……っ……できなくて……っ……』

海未「ことり……大丈夫ですよ。貴方がよくやっていると思いますよ」

ことり『……うん…………』


受け答えをしながら、本当に一旦休暇を取って──たまにはことりに会いに戻ろう。……私はそんなことを考えていました。





    *    *    *





──夜。ことりさんの家。


千歌「……ん?」

曜「千歌ちゃん?」


腰に付けたボールが震えているのに、気付く。


千歌「このボール……」


ボールから、外に出すと、


曜「うわ、これポケモンのタマゴ?」

千歌「うん、育て屋さんで貰ったタマゴなんだけど……」


タマゴが揺れていた。


曜「こ、これってもしかして……」

千歌「生まれるところ……!」


初めて見るポケモンの孵化。

──パキ、パキパキ、と音を立てて、タマゴにヒビが入る。

タマゴが割れる瞬間。


千歌「わっ!?」

曜「まぶしっ」


タマゴが眩く光って、


千歌「ん──」


目を開けると、そこには……。


 「リュオ…」


小柄の青いポケモンがちょこんと座っていた。


千歌・曜「「か、かわいい……!」」
498 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:55:23.92 ID:IYa5VeT80

思わず、曜ちゃんと声が揃う。

 『リオル はもんポケモン 高さ:0.7m 重さ:20.2kg
  体から 発する 波導は 怖いとき 悲しい時に
  強まり ピンチを 仲間に 伝える。 感情を
  波の形 として 見分ける 不思議な力を 持つ。』


 「リュォ…?」

千歌「リオル……かわいい」
 「リュオ」


私が声をあげると、よちよちとリオルは私の近くに寄って来る。


千歌「! チカが“おや”だってわかるんだね」
 「リュォ」


長い長い風斬りの道をずっと一緒に連れ歩いていたからかもしれない。

産まれたてでも、私を“おや”だと認識して、近寄ってくるリオルを思わず抱き上げた。


千歌「リオル、よろしくね」
 「リュオ」


こうして、また一人仲間が増えた私たちの夜は更けていきます。

明日の戦い──セキレイジムのことりさんのとのバトルを控えて……。





    *    *    *





──翌日。朝起きると、リビングに書置きがありました。


曜「千歌ちゃん、おはヨーソロー……」

千歌「曜ちゃん、おはよ」

曜「ん、これ……」

千歌「うん、ことりさんから」


書置きには、こう書かれていた。

 『ジムで待ってます♪』





    *    *    *





書置き通り、セキレイジムを訪れると、

ジムの奥の方に人影が見える。


ことり「千歌ちゃん、いらっしゃい♪」

千歌「お、おはようございます!」


──昨日の梨子ちゃんの話を聞いた手前、少し緊張はしていたけど……。
499 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:56:14.94 ID:IYa5VeT80

ことり「それじゃ、早速対戦はじめよっか♪」


どうやら、その心配は必要なさそう。


ことり「曜ちゃんはどっちで見る?」

曜「え、えっと……千歌ちゃんの応援を……」

ことり「あー! 酷いなぁ、曜ちゃんは師匠よりも友達なんだね……」

曜「え!? ご、ごめんなさいっ!?」

ことり「うそうそ♪ 冗談だよ♪」


ことりさんは朗らかに笑いながら、バトルスペースに移動する私に視線を送ってくる。


ことり「使用ポケモンは3体。先に使用ポケモンが2体戦闘不能になった方が負けだよ」

千歌「はい!」


両者、ボールを構える。


ことり「ふふ♪ セキレイジム・ジムリーダー『ゆるふわハミングバード』 ことり、負けないよ〜♪」


ことりさんの声と共に二つのボールが宙を舞った──。


500 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:57:36.72 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】【10番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      |●|           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.28  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.24 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.26 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      リオル♂ Lv.1 特性:いたずらごころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:10匹

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.22  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:17匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:7匹


 千歌と 曜と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



501 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:01:37.38 ID:IYa5VeT80

■Chapter038 『決戦! セキレイジム!』





千歌「行くよ! しいたけ!」
 「ワフッ」

ことり「モクロー、お願いっ!」
 「ホホー」


ことりさんの一匹目はモクロー。

対してこちらは最近出番の少なかったトリミアンのしいたけ。


千歌「しいたけ! 今日は思いっきり暴れていいよ!」
 「ワフッ」

千歌「“かみつく”!」
 「ワォッ」


しいたけが床を蹴って走り出し、口を開く


ことり「“フェザーダンス”!」
 「ホホー」


その開いた口に向かって、モクローが大量の羽で牽制、

 「ワゥ!!」


ことり「そのまま、“みだれづき”!」

千歌「くっ! “コットンガード”!」


攻撃が2撃3撃……連続で嘴が突き立てられるが、

 「ワフッ」

自慢の防御力でそれを凌ぐ、


ことり「モクロー、一旦引いて、“かげぶんしん”!」
 「ホホー!」


モクローが後ろに飛び退きながら、分身を作り出す。


千歌「しいたけ!」
 「ワゥ」


逃がさない……!


千歌「“とっしん”!!」
 「ワフ!!!」

 「ホホー!?」


分身たちには見向きもせず、しいたけは本体に的確に突進をぶちかます。


ことり「! “かぎわける”……!」


ことりさんは一瞬で気付く、しいたけが自慢の鼻で本体をかぎ分けていたことに、


ことり「モクロー、“はねやすめ”」
 「ホー」


回復に転じてきた、けどこの機会を逃さず、畳み掛ける……!
502 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:02:35.56 ID:IYa5VeT80

千歌「しいたけ! もう一発!」
 「ワフッ」


しいたけが再度の“とっしん”で畳みかけようとした瞬間、

──床が爆発する。

 「ワォ!?」
千歌「!」


昨日、曜ちゃんに聞いてたのに、抜かった。“タネばくだん”を撒かれていた。


ことり「“つるぎのまい”」
 「ホー」


しいたけと距離を取ったまま、モクローがくるくると舞い踊る。

 「ワゥ…」

千歌「しいたけ、一旦落ち着いて」
 「ワフ」


これ以上、爆弾を踏み抜いて、わざわざ自分からダメージを貰うのは良くない。

その間にモクローはことりさんの攻刃の舞を終えて、一旦ことりさんの元まで引き返していた。


ことり「モクロー、“バトンタッチ”」
 「ホー」


ことりさんが技を指示すると、モクローはボールに戻っていく。


千歌「……交代?」

ことり「ただの交代じゃないよ♪ いけ、モクロー!」
 「ホホーー!!!」

千歌「!? また、モクロー出てきた!?」


二匹目のモクローがボールから飛び出すなり、突っ込んでくる。


ことり「“リーフブレード”!!」
 「ホホー!!!」

千歌「!」


回転しながら、弾丸のように飛んでくるモクロー、

しいたけは足場が悪い状態だけど……。


千歌「撃ち合う! “アイアンテール”!」
 「ワフッ!!」


鉄のように硬質化した、尻尾で迎撃する。

──ガキッ、

硬いモノがぶつかり合う音がジムに響く。


千歌「しいたけ、そのまま打ち返して──」


バットの要領で……と思ったが、


 「ホーホ、ホーホ!!!!」

千歌「!?」
503 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:04:14.43 ID:IYa5VeT80

しいたけとぶつかり合ったモクローの攻撃は相殺するどころか、そのまま回転速度を上げ始める、

──ギャリギャリギャリ、と、

小気味の良かったヒット音は、段々金属をすり合わせるような不快な音に代わっていく。

このまま撃ち合っても負ける──そんな予感が頭を過ぎり、


千歌「しいたけ! 攻撃やめ!」
 「ワォ!」


尻尾を引かせる。

しいたけは激しく回転するモクローに弾かれる形で少し後ずさる。

一方モクローは、


 「ホーホホーホホー!!!!」


さらに回転速度を高めながら、もう一度上空からしいたけに突撃しようと準備しているところだった。


千歌「! “あなをほる”!」
 「ワンッ」


咄嗟に、指示。

しいたけが素早く潜るための穴を掘り、潜り込むと、

──ギュン、

さっきまでしいたけの居た場所を風と共にモクローが切り裂いた。


千歌「セ、セーフ……」


間一髪避けたはいいが……。


ことり「ふふ♪ “あなをほる”じゃ、モクローには攻撃できないね♪」


ことりさんの言う通り、空を飛んでいるモクローには効果がない。

モクロー……明らかに最初の子よりも攻撃力が高い。

別段レベルが高いわけじゃなさそうだけど……。


千歌「攻撃力があがった状態だった」


曜「──千歌ちゃん!」


その折、後ろから曜ちゃんの声が飛んでくる。


曜「“バトンタッチ”は前のポケモンの上昇した能力を引き継ぐ技だよ!」


千歌「! それなら! しいたけ!」

 「ワッフ…」


もこ……っと、穴から顔を出したしいたけが、


ことり「モクロー! そこ!」
 「ホー」

千歌「“ほえる”!」

 「ヴォッフ!!!!!!」
504 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:05:38.54 ID:IYa5VeT80

大声で吠え掛かる、


ことり「!」
 「ホホ!?」


その大きな鳴き声に驚いたモクローは、そのままことりさんの手持ちに戻っていき、

 「ホホー」

ことりさんの手持ちから別のモクローを引きずり出す。


千歌「え、えっと……それは新しいモクロー……?」

ことり「ううん、最初に出してた子だよ」


モクローはことりさんの周りをパタパタと飛んでいる。


ことり「もう、曜ちゃん酷いなぁ……バトル中の人へのアドバイスは厳禁ですよ?」


曜「う……失礼しました」


曜ちゃんは叱られて恐縮してるけど、助かった。


千歌「ありがとう、一旦戻って、しいたけ」
 「ワフ」


私はしいたけを一旦ボールに戻す。


ことり「じゃあ、ことりも交換。この子は最初からサポート要員のモクローだから」


そう言いながら、ことりさんも交換、

 「ホホー」

再び2匹目のモクローで戦うようだ。

……どっちにしろ、しいたけじゃ攻撃の範囲的に受け気味になる。

なら──

私は2匹目を繰り出した。





    *    *    *





千歌「ムクバード! “すてみタックル”!!」
 「ピピィーーー!!!!」


交換と共に、私の元からムクバードが飛び出す。


ことり「! モクロー、“リーフブレード”!」
 「ホホー」


モクローは高速で飛び込んできた、ムクバードに対して、再び回転しながら放たれる斬撃で攻撃する。

──ガイン、と

再び大きな音をあげながら、ムクバードは弾かれる、が
505 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:07:36.52 ID:IYa5VeT80

千歌「もう一発!!」

 「ピピィーーー!!!!」


今度は“つるぎのまい”の隙を与えない。


ことり「モクロー」
 「ホホ」


ことりさんは切り返すムクバードを、目で追いながら、


ことり「撃ち抜け、“ブレイブバード”!!!」
 「ッホーーーーー!!!!!!」


指示を出す。

今度は一直線にムクバードに向かって、モクローが飛び出してくる。


千歌「ムクバード!! いっけぇーー!!」

 「ピィィーーーー!!!!」


──真正面から、技が衝突する。

二匹の嘴が正面からぶつかり合い、


 「ホーーー!!!!」
 「ピーーー!!!!」


嘴同士がぶつかりあう硬い音と共に、二匹はお互いの攻撃の衝撃で僅かに軌道をずらされる形で再び中空を舞う。

──互角……!

だが、


ことり「“このは”!」


ことりさんの次の指示は早かった。

 「ホー」

モクローの飛ぶ軌跡に木の葉が舞い散る。


ことり「そのまま“はっぱカッター”!!」


そして、舞い散る“このは”はそのまま刃物のように、四方八方から、ムクバードに降り注ぐ、


千歌「ム、ムクバード!!」

 「ピピ!?」


一方私は判断が遅れた、

ムクバードは回避しきれず、

 「ピピ!!!」

“はっぱカッター”を全身に受けながら、地面に向かって墜落する。


千歌「ムクバード!」

ことり「“ブレイブバード”!!」
 「ホホー!!!」

ことりさんはそこに向かって容赦なく追い討ちを掛けようと次の指示を出す。
506 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:08:48.56 ID:IYa5VeT80

千歌「……っ!!」


次の手を──。

墜落して、土煙に隠れて見えない、ムクバードに次の指示を──。


 「ピィィィイイイイイ!!!!!!!!」

千歌「!!」

ことり「!?」


突然ムクバードが甲高い声をあげた。

迎え撃つ、戦意を感じる鳴き声。


千歌「“リベンジ”!!!!」


私は思いっきり叫ぶ、

後の先の技、


 「ホーーー!!!!」


──ズドン、と

立ち込める土煙に向かって、撃ち込まれるモクローの一閃。


 「ピィィィイイイ!!!!!」


それを吹き飛ばすような気合いの鳴き声──いや、実際に吹き飛ばした。


 「ホーーー!!!?」


土煙から、モクローだけが吹き飛ばされて、飛び出す。

──劣勢だったけど、気合いで打ち返した。


ことり「モ、モクロー! 体勢立て直して!」
 「ホホーホ!?」


私は中空を舞う、モクローを目で追う。

標的を真っ直ぐ指差して、さっきのお返し、


千歌「ムクバード!! 撃ち抜け!!」


見よう見真似の“オウムがえし”!!


千歌「“ブレイブバード”!!!」
 「ピィィイイイイ!!!!!!!」


ムクバードが健脚で地面を蹴って、飛び出した。


千歌「いっけぇーーー!!!!!!」

ことり「モクロー! “こうごうせい”!」
 「ホー!!?」


モクローがコントロールを取り戻す前に、決める。
507 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:09:47.14 ID:IYa5VeT80

 「ホ!!!?」

 「ピピィイイイイ!!!!!!」


決死の一撃がモクローを捉えた、


 「ホホ!!!!」


そのまま、突き飛ばされて、モクローがジムの天井と壁を跳ね回る。


千歌「そのまま、追撃!!」


最大の好機、最後の一撃を──


 「ピ…」

千歌「!? ムクバード!!」


思った瞬間、攻撃を決めたムクバードはよろよろと力なく、地面に落ちて行った。


ことり「モクロー!? 大丈夫!?」

 「ホ、ホー…」


モクローも慢心創意だったが、やはり最後の一撃が足りなかった。


千歌「ムクバード!!」


再びジムの床に墜落した、ムクバードに声を掛けるが、

 「ピィ…」

ムクバードは弱々しく鳴き声をあげるだけだった。戦闘不能だ。


千歌「……っ……。ムクバード、ありがと、戻って」


私はボールにムクバードを戻す。


ことり「……“ブレイブバード”の反動がなかったら、こっちがやられてたね」
 「ホホー」


見よう見真似で出した技だから、必要以上に反動が返って来てしまったのかもしれない。

でも、十分な仕事だ。

モクローを追い詰めてる、

このまま──


千歌「いけ、ルガル──」


次のポケモンを出そうとした瞬間。

腰のボールがカタカタと勝手に震えて、


千歌「??」


──ボムッと音ともに、

 「リュォ!!」

リオルが飛び出した、
508 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:11:13.10 ID:IYa5VeT80
>>507 訂正

 「ホ!!!?」

 「ピピィイイイイ!!!!!!」


決死の一撃がモクローを捉えた、


 「ホホ!!!!」


そのまま、突き飛ばされて、モクローがジムの天井と壁を跳ね回る。


千歌「そのまま、追撃!!」


最大の好機、最後の一撃を──


 「ピ…」

千歌「!? ムクバード!!」


思った瞬間、攻撃を決めたムクバードはよろよろと力なく、地面に落ちて行った。


ことり「モクロー!? 大丈夫!?」

 「ホ、ホー…」


モクローも慢心創意だったが、やはり最後の一撃が足りなかった。


千歌「ムクバード!!」


再びジムの床に墜落した、ムクバードに声を掛けるが、

 「ピィ…」

ムクバードは弱々しく鳴き声をあげるだけだった。戦闘不能だ。


千歌「……っ……。ムクバード、ありがと、戻って」


私はボールにムクバードを戻す。


ことり「……“ブレイブバード”の反動がなかったら、こっちがやられてたね」
 「ホホー」


見よう見真似で出した技だから、必要以上に反動が返って来てしまったのかもしれない。

でも、十分な仕事だ。

モクローを追い詰めてる、

このまま──


千歌「いけ、ルガル──」


次のポケモンを出そうとした瞬間。

腰のボールがカタカタと勝手に震えて、


千歌「??」


──ボムッという音とともに、

 「リュォ!!」

リオルが飛び出した、
509 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:12:15.23 ID:IYa5VeT80

千歌「え、ちょ、リオル!?」
 「リオー」


リオルはそのまま、フィールドで構えを取る。


千歌「リオルも、戦いたいの?」
 「リオ!!」


リオルは私の問い掛けに元気一杯に答える。

──リオルは人やポケモンの感情に左右されるって図鑑に書いてあったし、もしかしたら私とムクバードの戦意をボールの中から感じて、戦いたくなったのかもしれない。


千歌「よっし……!! じゃあ、いこうか!! リオル!!」
 「リオ!!!!」


一方で私とリオルのやり取りを見ていた、ことりさんが、


ことり「あのー、千歌ちゃん? 勝手に出てきちゃっただけなら、交換してもいいよ?」


そう提案してくる。


ことり「見たところ、そのリオル……タマゴから産まれたばっかりみたいだし」


確かに、産まれたてでレベルは低い、けど。


千歌「ダイジョブです!」


私は答える。


千歌「リオルのやる気、尊重したいから!」
 「リオ!!!!」

ことり「! ふふ♪ そっか……!」


ことりさんは何故だか、その言葉を聞いて嬉しそうに笑った。





    *    *    *





 「リオ!!!!」


リオルが床を蹴って飛び出す。


ことり「モクロー! “このは”!」
 「ホホー…」


一直線に突っ込んでくる、リオルに向かって、飛び出す木の葉。

だが、


千歌「リオル!!」
 「リュオ!!!」
510 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:14:46.11 ID:IYa5VeT80

そのまま、地面を踏みしめて、体を捻る。

“このは”攻撃を迂回するように、外側に軌道をそらして、

滑るように、モクローの横側に素早く回りこむ。


ことり「“でんこうせっか”から“フェイント”!?」
 「ホホ!!?」


モクローから見ると、この行動はリオルが消えたように見えるが、

ことりさんの視線が追いかける。


ことり「モクロー! 右!!」
 「ホーー!!!」


モクローは言われたとおり咄嗟に自分の右側に翼を振るう、

力一杯足を踏み込んで、


 「リオ!!!!!」


だが、産まれたてのリオルは、小さかった。

身を低くして翼を潜るように避けた後、

 「リオォ!!!」

地面を擦るように、足を薙ぐ。


千歌「“ブレイズキック”!!!」
 「リオォオ!!!!」

 「ボッ…!!!」


深手を負って、動きが鈍っていたのもあっただろう、

力一杯踏み込んだのが、逆にリオルの攻撃を直撃させる要因になった。

いわば、“カウンター”だ。


 「ホ…」


リオルの燃える蹴撃を食らった、モクローはコテンと力なく、床を転がった。


ことり「!」


ことりさんはその光景を見て、驚いたような顔をした。


ことり「モクロー戻って」
 「ホ…」


戦闘不能になった、モクローをボールに戻す。


 「リュオ…!!」


その場から、リオルが飛び退くように戻ってくる。


ことり「すごいね、そのリオル……産まれたばっかりなのに」

千歌「あはは……私も正直びっくりしてます」
 「リオ!!」

ことり「……ふふ♪」
511 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:15:53.89 ID:IYa5VeT80

ことりさんは何故か笑いを漏らす。


千歌「?」

ことり「あ、ごめんね。久しぶりにすごく楽しいバトルしてるって思って」

千歌「ホントですか!?」


ジムリーダーにそう言われると、なんかむずがゆいかも。


ことり「うん♪ 千歌ちゃん予想外のこと、いっぱいしてきて、次何してくるかわかんなくて、ドキドキして、ワクワクして……」


ことりさんは一息吸ってから、


ことり「なんか、昔のこと思い出しちゃった♪ 私も旅してたときのこと」


ことりさんと目が合う。


千歌「えへへ、でもバトル、まだ終わってないですよ!」

ことり「うん♪ 最後まで楽しもう♪ お願い、チルタリス!!」


ことりさんの三匹目が繰り出される。





    *    *    *





ことりさんの三匹目はチルタリス。

 『チルタリス ハミングポケモン 高さ:1.1m 重さ:20.6kg
  晴れた日 綿雲に 紛れながら 綿雲のような 翼で
  大空を 自由に 飛び回る。 美しく 透き通った
  ソプラノの 鳴き声で 心地の 良い ハミングをする。』


千歌「リオル、いける!?」
 「リュオ!!!」


リオルが地面を踏みしめる。


千歌「よし、GO!!!」
 「リオ!!!」


私の合図でリオルが飛び出す。


ことり「真っ向勝負、断れないよね!」


チルタリスはふわりと羽ばたいたあと、


ことり「“ドラゴンダイブ”!!」
 「チルー」


そのまま、重力に身を任せて落下してくる。


千歌「迎撃! “スカイアッパー”!!」
 「リッオ!!!」
512 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:17:46.49 ID:IYa5VeT80

リオルは地を蹴って、落ちてくるチルタリスにアッパーを繰り出す。

両者の攻撃がぶつかりあうが、

 「リュオ…!!」

リオルはチルタリスの綿雲のような突撃に、押し負けるように、地面に向かって吹っ飛ばされる。


千歌「! リオル!」

 「リォッ!!」


リオルは咄嗟に受身を取って、すぐに体勢を立て直すが、


ことり「このままいって!!」

 「チルゥゥ!!」


吹き飛ばされたリオルを、そのまま押し潰す勢いでチルタリスが迫る。


千歌「“みきり”!」
 「リュオ!!!!」


指示は出した、が、

リオルの上に──ズン、とチルタリスがのしかかる。


 「チル…」


──いや……。


ことり「チルタリス! 羽の間っ!!」
 「チル!!」

さすがに二度目は対応が早い、が

 「リオ!!!」

小さな体躯を生かして、羽の隙間に潜り込んだリオルがジャンプで飛び出す。


千歌「“ダブルチョップ”!!」
 「リオ!!!」


チルタリスの顔に向かって、連撃のチョップをお見舞いする。

 「チル!!!」


千歌「よし、効いてる!!」

ことり「チルタリス! “ドラゴンクロー”!」

千歌「“バレットパンチ”!!」


チルタリスの爪とリオルの弾丸拳が弾けて、その反動でリオルは後ろに飛ぶ。

軽い身のこなしでうまく、攻撃をいなせてる。

このまま、畳み掛ける──


千歌「リオル! “クロスチョップ”!」


リオルに次なる指示を出す。

が、

そのとき、リオルに異変が起きた。
513 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:18:44.59 ID:IYa5VeT80

 「リュオ…」
千歌「!? リオル!?」


──突然、リオルがぼんやりとフィールド上で立ち尽くす。

何かダメージを受けた……!?


ことり「! “りゅうのはどう”!!」


その隙をことりさんは見逃さない。

 「チルゥ…!!」

チルタリスの口にドラゴンタイプのエネルギーが収束される。


千歌「リオル!! 避けて!!」
 「リオ…」

千歌「リオル!!」


 「チル…!!!」


チルタリスの攻撃がリオルに向かって、撃ち出される。

──瞬間。

 「リオ…!!!」

リオルが光り輝いた。





    *    *    *





千歌「な……」

ことり「なにが起こったの……?」


──確かに、ことりさんのチルタリスは“りゅうのはどう”を撃った。

が、その攻撃は捻じ曲げられるように、リオルを避けて……。

……いや。


 「フー…」
千歌「進化……した……?」


昨日の今日産まれたばかりのリオルは、新しい姿になって、

“りゅうのはどう”を捻じ曲げた。


ことり「……うそ、そんな早くルカリオに進化……」


 『ルカリオ はどうポケモン 高さ:1.2m 重さ:54.0kg
  あらゆる ものが 出す 波導を 読み取ることで
  1キロ先に いる 相手の 気持ちも 理解出来る。
  波導を 操る 力は 戦いにも 利用 するぞ。』


ことり「ふふ……波導を操る能力で“りゅうのはどう”の軌道を逸らしたんだね」


ことりさんがまた笑う。


ことり「ホントに千歌ちゃんとのバトルは……ワクワクする!!」
514 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:19:31.86 ID:IYa5VeT80

ことりさんの声とともに、チルタリスの全身を激しい光が包み込む。


千歌「……!!」


目の前で起きた光景にぼーっとしていた私はそれで我に返る。


千歌「ルカリオ!!!」
 「グォゥ!!!」


ルカリオを呼ぶと、一瞬で私の元まで戻ってくる、


千歌「って、はや!?」
 「グゥ!!!」


進化して、より一層能力があがっている、

これなら、


千歌「いける……!! ルカリオ!!」
 「グォゥ!!!」


ルカリオの拳が光る。

地を蹴り、飛び出した後、

ルカリオは流星の如く、パンチを繰り出す。


千歌「“コメットパンチ”!!」


降り注ぐ流星拳……!!

一方、

チャージが終わり闘志を漲らせた、チルタリスから、放たれる、全身全霊のエネルギー


ことり「チルタリス……!! “ゴッドバード”!!」
 「チルゥゥウウウ!!!!!」


千歌「いっけぇええええ!!!!!」


“コメットパンチ”、“ゴッドバード”

お互いの最大級の攻撃がぶつかり合う。


ことり「……チルタリス!!」

千歌「ルカリオ!!」


 「グゥゥ…!!! リオァア!!!!」
 「チリュゥゥウウウ!!!!!」


お互いの攻撃のエネルギーが爆ぜ、


千歌「くっ……!!」
515 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:21:52.34 ID:IYa5VeT80

ジム内に旋風が巻き起こる。

──バチバチと、音を立てながら、

ぶつかる二匹。

決着が近い。

固唾を呑んで見守る中、

頭の中に声が聞こえた。


 『負けたくない』


千歌「!?」


 『負けたく……ない……!!』


次の瞬間、ぶつかり合っているチルタリスが、さらに大きな、大きな光に包まれた。


ことり「チルタリスーーー!!!!」


ことりさんの声にハッとなって視線を配ると、

彼女が首から提げている、ネックレスが眩く光っていた。


ことり「──メガシンカ!!!!!!」

千歌「!!?」


その叫び声と共に、バトルフィールドは七色の光に包まれた──。





    *    *    *





──気付けば、


 「グゥ…」

千歌「ル、ルカリオ……!!」


ルカリオが力負けして、吹き飛ばされていた。


千歌「ルカリオ……よく頑張ったね」
 「グゥォ…」


どうやら、戦闘不能……みたいだ。


ことり「……はっ……!!……はっ……!!」


向かいのスペースに目をやると、ことりさんが肩で息をしていた。

そしてフィールド上のチルタリスは、

 「チルゥ…」

さっきよりも綿雲が増えて、身体の色も水色から、もっと薄い色合いの体色をしていた。


千歌「あ……っと……」
516 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:23:26.34 ID:IYa5VeT80

視線を泳がせると、ことりさんと目が合う。


ことり「……え……?」


──ことりさんは、何故だか驚いた顔をしていた。


ことり「え……っと……」


私は戦闘不能になったルカリオをボールに戻す。


千歌「えっと……ルカリオが戦闘不能になったから……私の負け、です?」

ことり「……あ……えーっと……」


ことりさんは今度は急に焦ったような顔付きになる。


ことり「え、えーっと……な、なんというか……あ、えっと、そのね!」

千歌「……?」

ことり「う……その……。……こ、この勝負、ことりの勝ちかも……?」


何故か疑問符の付く勝利宣言に、


 「──そんなわけないでしょう!!」


ジムの入り口の方から、凛とした声がジム内に響き渡った。


ことり「ぴぃ!!!!!!?」


その声を聞いて、ことりさんの肩がビクッと跳ねる。

思わず振り向くと、

そこには、長い青髪を携えた、女性が背筋を伸ばして立っていた。


ことり「う、海未ちゃん……なんで……」

海未「なんで、じゃないです……!!」


海未と呼ばれた人はそのまま、ことりさんの元へと一直線に歩いていく。


ことり「え、えっとね!!? これには事情があって!!? たまたま熱くなっちゃったというか、すごい盛り上がったから、思わずメガシンカしちゃったというかね……!?」


ことりさんが盛大にテンパり始める。


千歌「……えっと?」


状況に追いつけず、私は首を傾げる。


曜「千歌ちゃん」


そんな私の元に、観戦していた曜ちゃんが近付いてきた。


千歌「曜ちゃん……」

曜「えっと……お疲れ様」

千歌「うん……負けちゃった」

曜「うん、見てた……けど」
517 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:24:59.34 ID:IYa5VeT80

曜ちゃんがバトルフィールドを挟んで向かい側に視線を送る。

私も釣られて目で追うと、


海未「人が心配して、来てみれば……さっきのは、どういうことですか?」

ことり「だ、だから……その……バトル、負けたくなくて……っ……」

海未「貴方は子供ですかっ!!」

ことり「だ、だってぇ!!」


さっき入ってきた、海未という人とことりさんが口論をしていた。

いや、口論というか、ことりさんが一方的に叱られていた。


千歌「……どういう状況?」

曜「さぁ……?」


曜ちゃんも首を傾げている。


海未「はぁ……とりあえず、チャレンジャーの方」


向こう側から、声を掛けられる。


千歌「!! は、はい!!」


何故だか、背筋を伸ばしてしまう、そんな迫力があった。


海未「名前は?」


そう言いながら、こっちに向かって歩いてくる。


千歌「ち、千歌です!」

海未「千歌」

千歌「は、はい」

海未「このジム戦は貴方の勝ちです」

千歌「……え?」


思わず素っ頓狂な声が出る。


千歌「え、でも、私……手持ちが二匹戦闘不能になったから……」


負けのはず。


海未「確かにそうなんですけれど……」


海未さんが振り返って、再びことりさんに視線を送ると、


ことり「……っ」


ことりさんが全力で顔を逸らす。
518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:27:23.58 ID:IYa5VeT80

海未「はぁ……貴方ジムバッジは何個持っていますか?」

千歌「え、えっと……3個です」

海未「ですよね……。ですが、オトノキ地方のポケモンジムでは、メガシンカは強力なため、バッジ5個以上の相手にしか使ってはいけないという決まりがあるんです」

千歌「……え、っと……つまり?」

海未「ことりのルール違反で千歌の勝ち……と言うことになりますね」

千歌「……そ、そうですか……」


なんだか、変な話になってきた。


海未「ことり」

ことり「ぅ……」

海未「……ことり」

ことり「ぅ……はい……」


ことりさんが海未さんに呼ばれる形で私たちの居るところに歩いてくる。


ことり「えっと……そういうことだから、4つ目のバッジは、千歌ちゃんに……」

千歌「……貰えません」

ことり「え?」

千歌「私、バトルで負けました」

海未「……それはそうですが」

ことり「……千歌ちゃん」

千歌「こんな形でバッジを貰っても……納得出来ないです」


私は抗議の声をあげた。

バッジがもらえるのは嬉しいけど……なんか釈然としない。


海未「千歌。今の試合、本来はルール上使わないという約束をしていた、メガシンカを引っ張り出した……ということで納得出来ませんか?」

千歌「……出来ないです」

海未「……そうですか」

ことり「あ、あの……千歌ちゃん……ことりが言うのはアレなんだけど……千歌ちゃんの勝ちでいいんだよ……?」


ことりさんが海未さんの後ろから遠慮がちに顔を出しながらそう言う。


ことり「ことりも使っちゃダメなことは知ってたし……でも、なんかうわーって熱くなって、メガシンカさせちゃったというか……」

千歌「バトルしてるときに……」

ことり「?」

千歌「声が聞こえました」

海未「……声?」

千歌「『負けたくない』って」

ことり「……」

千歌「あれって……ことりさんの声だったんじゃないですか?」

ことり「……ルカリオの波導を通して、感情が伝わっちゃったのかな……」

千歌「ことりさんも私と戦って、負けたくないって思って、全力で戦って、その結果、私が負けたんだったら……やっぱり、バッジは貰えません」
519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:28:02.85 ID:IYa5VeT80

私の中での答えはそれ以上でも、それ以下でもなかった。

納得行かないものは納得行かない。


海未「……なら、こうしましょう」


海未さんは、困ることりさんと、釈然としない私の顔を順に見てから、


海未「再戦の機会を設けます」


そう提案する。


ことり「う、うん! それはもちろんだけど……!」

海未「ただ、次はメガシンカは無しで……と言ってもこのままでは千歌が納得できないでしょう」

千歌「……はい」

海未「ですが、現状メガシンカポケモンと戦うのは条件的にチャレンジャーに厳しすぎます。ですので……」


海未さんは私を真っ直ぐ見つめてくる。


千歌「?」

海未「メガシンカに対応できるように、私が稽古を付けましょう」

千歌「……え?」


なにやら、話が予想外の方向に舵を切り始めました。


520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:28:49.05 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.28  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.27 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.29 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.19 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:109匹 捕まえた数:11匹

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.22  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:17匹


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:31:47.27 ID:IYa5VeT80

■Chapter039 『海未』 【SIDE Chika】





──8番道路。セキレイシティの南の道路です。

私は今そこを歩いています。

……海未さんと一緒に。


海未「どうかしましたか? 千歌」

千歌「あ、いえ……」


前を歩く海未さんが振り返って聞いてくる。


海未「疲れたのなら、少し休憩しましょうか」

千歌「いや、そうじゃなくて……」

海未「?」


海未さんは不思議そうな顔をする。


千歌「あの……どうして、私を鍛えるなんて……?」


セキレイシティでの一件のあと、南のアキハラタウンで稽古を付けるという話をことりさんとしていたところまでは聞いていた。

そのまま、流れで付いて来てしまったけど……。


海未「どうして、ですか……。一言で答えるのは難しいのですが……」


海未さんは少し考えてから、


海未「一つは責任でしょうか」

千歌「責任……?」

海未「ことりがセキレイのジムリーダーをやっているのは……ある意味、私のせいでもあるので」

千歌「……?」

海未「もともと、セキレイシティのジムリーダーは私が就く予定だったんです」

千歌「そうなんですか?」

海未「はい。ただ、役職上ジムリーダーになれない立場になってしまって……もともと、ことりはコンテストクイーンの立場もありましたから、ジムリーダーよりもコーディネーターの道に進みたかったと思うのですが」

千歌「他に候補の人とか、居なかったんですか……?」

海未「居るには居ましたが……最終的には、セキレイシティの多くの人から望まれた、ということが大きいですね」

千歌「……望まれた?」

海未「ことりの親御さんが、ポケモンリーグの理事長なんですよ。元はセキレイシティのジムリーダーでした」

千歌「……ダイヤさんと同じ感じかな……?」


私は話を聞いてなんとなく、そう呟いた。

ダイヤさんもお母さんがジムリーダーだったから、ジムリーダーになったって言ってたし、そういうものだと言われればなんとなく納得してしまう。


海未「そうですね……ただ、ダイヤよりは強制力が強いものではないはずだったんですが……。セキレイは人口も多いので、望む人間の数が多いとなかなか……」

千歌「! ダイヤさんのこと知ってるんですか?」

海未「ええ、もちろん。ポケモンリーグ協会の人間なので。オトノキ地方のジムリーダーのことなら、よく知っていますよ」

千歌「ポケモンリーグ協会……」
522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:34:30.06 ID:IYa5VeT80

ジムリーダーたちをまとめている人たちの集まりなんだっけ……?

花丸ちゃんがそんなことを言ってた気がする。


海未「えっと、話を戻すと……ことりは私の代わりにジムリーダーになったわけですから、ジムでの失敗は私も責任を取る義務があると思うので」

千歌「なるほど……」

海未「後は、感謝です」

千歌「?」

海未「ことりがあんな楽しそうにバトルをするのは、久しぶりに見たので……」


海未さんは少し遠い目をしながら、そう言う。


海未「就任理由が理由だけに、ジムリーダーではあるものの、本人はもともとバトルが特別好きという人じゃないんですよ。そんなことりが、思わず本気で相手をしてしまう程の何かを持っている貴方に、私自身が興味を感じた、というのもありますが」

千歌「……あんなにバトルが強いのに、ことりさんはバトルが好きじゃないんですか?」


私は疑問に思う。あんなに強いんだし、バトルも好きなんじゃないかなと思ってしまうけど……。


海未「そうですね……。確かに勝てることによって楽しいと感じる人は多いと思いますが……」


海未さんは難しい顔をしながら、


海未「なんと言うか、ことりは普段はあまり勝敗に興味がない節があるんです。根本的に強いからなんだと思いますが……」


そう続ける。


千歌「根本的に強い……?」

海未「正直、私はあまりピンとこないんですが……直感がいいんです。ポケモンの気持ちがわかる、と言えばいいのでしょうか」

千歌「……そういえば、そんなこと言ってたかも」

海未「世界にはポケモンを見ているだけでなんとなくそういうことがわかる人が居るらしい……と言うのは耳にしたことがあるのですが、ことりはその中でもさらに特別な気がしますね」

千歌「特別?」

海未「確か、千歌はポケモン図鑑を持っていますよね」

千歌「え、は、はい」


また、ことりさんのときみたいに言い当てられたのかと思って、ビクっとする。

そんな私の様子を見て、海未さんは申し訳なさそうに、


海未「ああ、えっと……貴方が図鑑を持ってることはことりから聞いただけですが……」


そう続けた。拍子抜けはしたけど、ちょっと安心する。


海未「……その図鑑で手持ちのポケモンのいろいろな情報が見れますよね」

千歌「ん……はい」

海未「ことりはそういう情報を図鑑なしでほぼ把握できるらしいんです」

千歌「え……」

海未「レベル、性別、性格、個性……この辺りは観察次第ですが、どれだけ懐いているか、そのときポケモンがどんな気持ちか、果てはどこで出会ったか、ポケモンが持っている潜在的な能力もわかるみたいです」


そんな人が居るのか。と、言いたいところだけど……実際、私も手持ちを言い当てられてるし、曜ちゃんも同じようなことを言ってたし……。


海未「ことりはそれが子供の頃から自然に出来るんです。それゆえにことりは強い」

千歌「そう……なのかな……?」
523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:35:52.02 ID:IYa5VeT80

いまいち、それを強さの基準にされてもピンと来ないけど……。


海未「そうですね……例えば」


海未さんは近くにある小石を拾い上げる。そして、右手で握り締めてから、両手をグーにして前に出す。


海未「今私が拾った石はどっちの手に入ってるか、わかりますか?」

千歌「?? 右手?」

海未「はい、そうですね」


そういって、海未さんは右手を開いて石が乗っているところを見せる。


海未「それでは……」


今度は両手を後ろに回してから、再び両手を出す。


海未「今度はどっちかわかりますか?」

千歌「えーっと……じゃあ、左手」

海未「残念、右手です」


──それを何度か繰り返す。


海未「10回中7回……そこそこですね」

千歌「???」


これで何がわかるんだろう……?


海未「今度は千歌がやってください。私が当てるので」

千歌「え、は、はい」


言われたとおり、小石を受け取って、後ろ手でシャッフルしたあと前に出す。


海未「右」

千歌「正解」

海未「左」

千歌「正解」

海未「左」

千歌「せ、正解」

海未「左ですね」

千歌「……正解」

海未「右」

千歌「せ、正解……」


──結局……。


千歌「──10回やって、10回正解……」

海未「人によって、出す順番の癖、みたいなものはあるのですが……今、私は千歌が後ろ出で石を入れ替える動きを、前から観察して当てました」

千歌「え、うそ!?」

海未「訓練次第ですが、観察力さえ身につければ、千歌にも出来るようになりますよ。……さて、これが出来る人はバトルで強いと思いますか?」
524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:39:09.63 ID:IYa5VeT80

──バトルで強いか。そういえば、そういう話だった。


千歌「強い……かな。相手が何しようとしてるか、先読み……みたいなこと出来るし。少なくとも出来ない人よりは」

海未「そうですね。普通のトレーナーはこういう勝負勘みたいなものを経験で手に入れます。私も例外ではありません。ただ、ことりはそういう次元じゃないんです」

千歌「そういう次元じゃない……?」

海未「元から10回のうち9回くらいは正解が言い当てられるんです」

千歌「な、なるほど……」


確かにそう言われれば強い……のかな?


海未「だから、ことりは本気でバトルに傾倒すれば、かなり上まで行ける可能性すらあります。ただ、本当の勝負勘、みたいなものを持っているのはさらに別の次元みたいですが……」


まあ、とりあえず、ことりさんが強いってことはわかった。けど……。


海未「バトルが好きじゃないことの説明になってないって顔をしていますね」

千歌「まあ、はい……」

海未「この力は応用が利きます。ことりはそれをコンテストで生かしている、故にバトルに強く興味を惹かれなかったんだと思います。後は……」

千歌「後は……?」

海未「ことりよりもポケモンバトルが強い人間が近くに居たからでしょうか」


海未さんは前をゆっくり歩きながら、まるで何かを懐かしむような声で、そう言う。


千歌「えっと……海未さんが、ってことですか?」

海未「え? ……ああ、まあ、確かに公式戦だけなら、私はことりに勝ち越してますね。ただ、私よりも圧倒的に強い人が居たんです」


圧倒的。


海未「穂乃果……と言う、私とことりの幼馴染なんですが……。私は穂乃果よりも強いトレーナーには会ったことがありません」

千歌「穂乃果、さん……」

海未「調子にムラがあると言えばあるんですが……ここぞと言うときの勝負の強さと言うのでしょうか。公式戦での穂乃果はほぼ負け無しでした」


さっき言った圧倒的と言うのは、本当に言葉通りの圧倒的な強さを指しているということだろう。


海未「私は穂乃果と競い合って居ましたが……ついに、公式戦で勝つことは一度も敵いませんでした。そんな、私たちと一緒に育って、ポケモンと触れ合ってきたことりが、バトルとは違う道で才能を開かせたのは、ある意味道理だったのかもしれませんね」


海未さんは話を終えて、ふぅと一息吐く。


海未「随分話し込んでしまいましたね。お陰で町が見えてきました」


話しながら、歩き続けていたら、気付けば私たちはアキハラタウンへと辿り着いていた。





    *    *    *





──アキハラタウン。

海未さんに付いてきて、辿り着いたその町は、正直田舎だった。

海じゃなくて、山に囲まれていること意外はウラノホシタウンとそっくりかも。

ただ、近くには、流星山でも見た音ノ木が、巨大な存在感を放っている。
525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:41:02.13 ID:IYa5VeT80

海未「この町は、私と、ことりと……あと、穂乃果の出身の町なんですよ」


そう言ってから、海未さんは音ノ木を見上げる。


海未「この景色も久しぶりですが……やはり、何度見ても音ノ木は存在感がありますね」

千歌「あ、あの」

海未「? なんですか?」

千歌「私はその……ここで修行をするんですか?」

海未「ええ、まあ、そうなりますね」

千歌「そう……ですか……」

海未「? 何か言いたそうな顔をしていますね」

千歌「えっと……その……」


さっきの話を聞く限り、この人がかなりの実力者らしいことはわかった、けど……。


千歌「海未さんって……どれくらい強いんですか……?」

海未「……なるほど。自分を鍛えると豪語する私がどれだけ強いのか、気になるんですね」

千歌「まあ、その……はい」

海未「そうですね……簡単に強さを証明すると言うのは少し難しいですが……」


海未さんはそう言いながら、懐に手を入れた、

そのとき──

背後から大きな音が聞こえてきた。


千歌「!?」


大きな岩が、落ちてきたような、そんな重々しい音。


千歌「な、何!?」


音の方に視線を向けると、そこは南の流星山から続く山が連なっていて、

その斜面を何か、大きな岩がたくさん町の方に向かって転がってきている。


千歌「ら、落石!?」

海未「いえ、あれは……ゴローンとゴローニャですね。ポケモンです」

千歌「え、ポケモン!?」


咄嗟に図鑑を開く、

 『ゴローン がんせきポケモン 高さ:1.0m 重さ:105.0kg
  山道を 転がりながら 移動する。 その際 通り道に
  何が あろうと 気に 留めず 邪魔な ものは どんどん 
  押し潰しながら 進む 豪快な 性格。 岩を 食べて 成長する。』

 『ゴローニャ メガトンポケモン 高さ:1.4m 重さ:300.0kg
  大きな 地震が 起こると 山に 住んでいる ゴローニャが
  何匹も ふもとまで ごろごろと 転がり 落ちてくる。
  岩石の ような 硬い 体は ダイナマイトでも 傷付かない。』


千歌「300kgって……!!」

海未「最近、大きな地震なんてなかった気がしますが……」

千歌「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……! 止めなきゃ!!」
526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:42:22.71 ID:IYa5VeT80

私は思わず、山に向かって走り出す。


海未「え、千歌!? 待ちなさい!」


海未さんの制止を背中で聞きながら──。





    *    *    *





山の斜面のふもとに辿り着くと、ゴローニャたちはいよいよ町に飛び込んでくるんじゃないかという場所まで転がってきていた。


千歌「と、とにかく、全員気絶させないと!!」


このままじゃ、町が危ない。


千歌「マグマラシ!」
 「マグ!!」

千歌「“かえんほうしゃ”!!」
 「マッグゥ!!!」


マグマラシが勢い良く炎を吹き出す。

この勢いで押し返せれば……!!

が、ゴローニャどころか、ゴローンすら止まらない。

炎を押し返しながら斜面を転がってくる。


千歌「ど、どうしよう!!?」


猛スピードで斜面を転がるゴローニャたちは、あっと言う間に眼前に迫る。


海未「──千歌!! 伏せなさい!!」

千歌「!!」
 「マグッ!?」

背後から声が響き、咄嗟にマグマラシごと地面に伏せる。


海未「カモネギ!!」
 「クワッ」

海未「“いあいぎり”!!」

千歌「…………っ……。…………?」


急に周りから、ゴロゴロという音が消えて、

顔をあげると、


千歌「え、うそ……!?」

 「ゴローン…」「ゴローニャァ…」


山から転がってきていた無数のゴローンとゴローニャが、引っくり返って目を回していた。


海未「全く……急に飛び出すから、驚きましたよ」

千歌「え、これ……海未さんが、一瞬で全部……!?」
527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:43:26.98 ID:IYa5VeT80

──ドクン。

何故だか心臓が高鳴って、熱くなった。

私が攻撃しても、全く止まりそうもなかったのに……これだけの数、さっきの一瞬の指示で……?

ポケモンもトレーナーも、こんなに強くなれるの……?


海未「大丈夫ですか? 立てますか?」


海未さんがへたり込んでいる私に、手を差し伸べてくる。


千歌「え、あ、はい……!!」


海未さんの手に引っ張られる形で、立ち上がる。


千歌「あ、ありがとうございます……!」

海未「勝手に飛び出してはダメではないですか」

千歌「え、その……ご、ごめんなさい……」

海未「止める算段もないのに、突っ込むのは勇気ではなく、無謀ですよ」

千歌「ぅ……はい……」

海未「まあ……」


海未さんは肩を竦めてから、

フワリと私の頭を撫でる。


千歌「……!?」

海未「町を守ろうとしてくれた、その心意気には感謝しますよ。ありがとうございます」

千歌「海未さん……」

海未「それで……強さの証明ですが……」


海未さんは、さっきの話の続きを始めようとするが、


千歌「いや、大丈夫です!!」


私はそう返してから、


海未「え?」

千歌「むしろ、失礼なこと言ってすいませんでしたっ!!」


腰を直角に曲げて、頭を下げる。


海未「い、いえ……」

千歌「私にも……」

海未「?」

千歌「私にも、さっきみたいな必殺の技、出来るようになりますか……!!」

海未「!」


もし、あんなことが私の仲間たちと一緒に出来るようになるんだとしたら、やってみたい。


海未「ええ、最初からそれを教えるつもりでしたので」
528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:46:08.96 ID:IYa5VeT80

さっきみたいな、一瞬で戦況をひっくり返す、一撃必殺……!!


海未「ただ、必殺技というレベルまで辿り着けるかは、千歌。貴方次第です」

千歌「は、はい!!」


さっきまで少しだけあった海未さんへの不信感は、気付いたら吹き飛んでいた。

それどころか、海未さんの技のキレに、私は一目惚れしていたのだった。





    *    *    *





曜「千歌ちゃん……大丈夫かな……」


心配そうに呟く私は、今現在、ことりさんの家で衣装作りの真っ最中。


ことり「曜ちゃん、そこ間違えてるよ」

曜「え? わ、ホントだ!?」

ことり「集中だよ! 今週中にたくましさと、かしこさはやっつける。それが目標なんだから!」


──今週開催される、たくましさコンテストとかしこさコンテストをストレートでクリアする。

それが、ことりさんから提示された次の目標だった。

千歌ちゃんとの再戦に関しては、海未さん曰く、少し稽古を付ける時間が欲しいとのことだったので、

その間は私と一緒にコンテストに専念するとのことだった。

……もちろん、ことりさんは仕事と平行しながらだけど……。


ことり「そういえば、曜ちゃん。かわいさ担当の子は決まった?」


ことりさんは手際良く衣装を繕いながら、訊ねてくる。


曜「あ、えっと……ベイビィポケモンがいいかなって」

ことり「ベイビィポケモン?」

曜「千歌ちゃんのリオル見たとき……すごい可愛いって思わず言葉が漏れちゃったくらいで……」

ことり「なるほど……よし、わかった! 曜ちゃん付いて来て!」

曜「え、う、うん!」





    *    *    *





ことりさんに言われて連れて行かれたのは、


曜「……お風呂?」


ことりさんの家のバスルーム。

私も何回か使わせてもらったけど……。
529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:48:00.48 ID:IYa5VeT80

ことり「うん。夜は、曜ちゃんも使うと思って、ボールに戻してたんだけど……。お昼の間は水を張ってて、ポケモンたちが泳いでるの」


言われて浴槽を見てみると、

 「クワクワ」

コアルヒーが泳いでいる。


ことり「えっとね。ことりが持ってるポケモンは全部ひこうタイプなんだけど……ひこうタイプで、プラス曜ちゃんの好きなみずタイプのポケモンが居てね」


言って浴槽に向かって、


ことり「出ておいでー」


声を掛ける。

 「タマ〜」

飛び出したのは、青色の小さなマンタのようなポケモン。


曜「! タマンタ!」

ことり「うん♪ 正解」


 『タマンタ カイトポケモン 高さ:1.0m 重さ:65.0kg
  2本の 触角で 海水の 微妙な 動きを キャッチする。
  人懐っこく 人間の 船の 近くまで 近寄ってくる。
  テッポウオの 群れに 混ざって 泳ぐことが 多い。』


この地方では、フソウ島よりもさらに南の海いるらしく、パパに載せて貰った船以外で目にしたのは初めてだ。


ことり「このタマンタ、曜ちゃんにプレゼントするね♪」

曜「いいの!?」

ことり「うん♪ 曜ちゃんのイメージにピッタリあうのは、この子くらいだろうし……お師匠様からのプレゼントです♪」

曜「ありがと、ことりさんっ!!」

ことり「いえいえ♪ 人懐っこいから、すぐになつくと思うよ」

曜「うん! タマンタ、よろしくね!」
 「タマ〜」


ことりさんから譲り受ける形で、最後の担当も決まり、あとは次のコンテストに備えて、衣装を完成させるだけであります……!!


530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:48:35.57 ID:IYa5VeT80


    *    *    *





梨子「……着いた」

 「ブルル…」


10番道路をひたすら北に向かって歩いて、辿り着いた街。


梨子「ローズシティ……」


新しいバッジを手に入れるために、辿り着いた街。


梨子「ローズジムに……っ」


私は真っ先にポケモンジムに足を向ける。

 「ブルル…」

後ろからは心配そうに、メブキジカが付いて来る。

……次こそ、次こそ勝って、前に進むんだ。

私は靴擦れの痛みを誤魔化すように、心の中で自分を奮い立たせて、また歩き出す……。


531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:49:32.04 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アキハラタウン】【セキレイシティ】【ローズシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_●o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.29  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.27 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.29 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.19 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:110匹 捕まえた数:11匹

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.22  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.11 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:18匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:7匹


 千歌と 曜と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:52:41.54 ID:IYa5VeT80

■Chapter040 『旅の意味』 【SIDE Riko】





──ローズシティ。オトノキ地方ではセキレイに次ぐ大きな街で、この地方のモンスターボールはここにある工場から出荷されているらしい。

他にも製品工場や会社などがあるらしく、確かに少し辺りを見回すだけでもビルが目に入ってくる。

……ただ、私の目的は工場見学じゃない。


梨子「ローズジム……」


街に着いて真っ先に向かう場所は、もちろんポケモンジム。

ドアを開けて、中に入る。


梨子「失礼します……」


ジムの中には見慣れたバトルスペースと……その周りにはたくさんの機械が置かれていた。

そして、その更に奥。ジムリーダーの立ち位置の少し後方にある、大きな椅子に、

彼女は座っていた。

真紅の髪を揺らして、まるで玉座に座すように。

確か……名前は、


真姫「……挑戦者?」


ローズジム・ジムリーダー……真姫さん。


梨子「はい……!」

真姫「……」

梨子「今すぐ挑戦……始められますか!?」


私はジムの向かい側に向かって声を張り上げる。

真姫さんは私を軽く観察したあと、


真姫「……ちょっと待って」


立ち上がって、こっちに向かって歩いてくる。


梨子「…………」


──ここでもか。なんだかそんな思いが頭を過ぎる。

私はここでも相手にしてもらえないのかな。

そんなことを考えていると、真姫さんは目の前まで近付いてきていた。


梨子「……わ、私……ジムバトルが早くしたくて……!!」

真姫「……ちょっと触るわよ」

梨子「え?」


真姫さんはおもむろにしゃがみこんで、私の足に触れる。
533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:53:54.91 ID:IYa5VeT80

梨子「痛っ……!」

真姫「まあ、そりゃ痛いでしょうね……酷い靴擦れじゃない。貴方それでも冒険してるトレーナーなの?」

梨子「……っ」

真姫「手当てするから、こっち来なさい。……そこのメブキジカ」


真姫さんはおもむろに、私の後ろで大人しく待っているメブキジカに声を掛けた。


真姫「この子のポケモンよね?」
 「ブルル」

梨子「え、いや……このメブキジカは……」

真姫「? 野生が付いて来ただけとか言うの?」

梨子「い、いえ……」

真姫「すぐそこに医務室があるから、貴方も運ぶの手伝って貰えるかしら」
 「ブルル」


私は真姫さんとメブキジカに運ばれるように、医務室へと連れて行かれる……。





    *    *    *





医務室の椅子に座らされ、靴を脱いでみると、


真姫「……はぁ。なんでこんなになるまで放ってたの?」


踵の少し上の辺りの皮膚が捲れてしまって、真っ赤になっている。


真姫「とりあえず、消毒するわよ。沁みるからね」


真姫さんはそう言って、治療用の台の上に乗せられた私の足に消毒用のスプレーを掛ける。


梨子「痛っ!!」

真姫「自業自得、我慢しなさい」

梨子「…………」

真姫「小指の方もちょっと炎症起こしてるわね……。こっちはそこまでじゃないけど」


真姫さんは手馴れた風に手当てを施していく。


梨子「あ、あの……」

真姫「……気にしなくていいわ。私、こう見えても医者だから」


……そういうことが聞きたいんじゃないんだけど。


梨子「ジ、ジム戦を……!」

真姫「は?」

梨子「ジム戦……してくれませんか」

真姫「…………」


真姫さんは眉を顰めて、私の顔を見つめてくる。
534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:55:23.79 ID:IYa5VeT80

真姫「そういえば、貴方どこかで見たことある顔してるわね……」


藪から棒に、真姫さんは突然そんなことを言い出す。

……と言うか、今の今まで顔を見てなかったんだろうか……。

足に目が行ってたのかな。


真姫「……タマムシのサクラウチさん?」

梨子「え!?」

真姫「でも……こんなに若かったかしら……?」


そう言われて気付く。


梨子「あ……た、たぶん、それは母で……私は娘の梨子です」

真姫「なるほど……娘か。道理で似てるわけね」

梨子「お母さんのこと……知ってるんですか?」

真姫「まあ、有名な芸術家だし。貴方のお母さんの作品、私は好きよ」

梨子「そ、そうですか。ありがとうございます……」


再び、真姫さんは私を観察し始める。


真姫「それで、カントー地方の子が、なんでオトノキのローズにジム戦しに来てるの?」

梨子「えっと……お母さんの薦めと言うか、お陰と言うか……たまたまこの地方で旅をすることになって」

真姫「ジムを巡ってるの?」

梨子「はい……」

真姫「……もしかして、鞠莉のところから図鑑とポケモン貰って旅に出た子って貴方かしら?」


鞠莉──確かオハラ博士のことだ。


梨子「は、はい。なんで知ってるんですか……?」

真姫「医者も大雑把に言えば研究職だし、よく連絡取って情報交換してるのよ。その時に聞いた」


真姫さんは簡潔に答える。


真姫「バッジはいくつ?」

梨子「……3つです」

真姫「3つ? アワシマの研究所で貰ったなら、海路を通らない限り、ここまでジムは4つあるはずだけど?」


痛いところを付かれる。


真姫「どっかのジムで負けて、再戦もしないまま、ここまで来たの?」

梨子「う……」


追い討ちを掛けられて、言葉に詰まる。


梨子「その……セキレイジムで挑戦を断られて……」

真姫「! あー……なんか、悪かったわ」


真姫さんがバツの悪そうな顔をして目を逸らす。
535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:56:57.65 ID:IYa5VeT80

梨子「あ、いえ……それでも食い下がってジム戦はしてもらいました……」

真姫「……負けたのね」

梨子「……はい」


思わず俯いてしまう。

完敗以外に言う言葉がないくらいの負け方だった。


真姫「…………」


真姫さんは言葉に窮したのか、少し視線を泳がせたあと、

 「ブルル」

メブキジカと目が合ったようで、


真姫「……」


おもむろに懐から、何か機械を取り出した。

……いや、形は違うけど、私も同じようなものを持っている。


梨子「それ……ポケモン図鑑ですか?」

真姫「そうよ。……って、そのメブキジカ随分レベルが高いわね」

梨子「あ、いや……この子はお母さんが貸してくれたポケモンなんです」

真姫「……ちょっと他の手持ちも見せてもらっていい?」

梨子「え……」


ジム戦の前に手持ちを相手に見せるのは……。


真姫「別にバトルの前に貴方の手の内暴こうなんて思ってないわよ」


胸中を見抜かれたのか、真姫さんはそう補足してから、


真姫「たぶん……ことりが貴方の挑戦を断った理由がそこにあると思うから」

梨子「……」


私は5つのボールから手持ちを外に出す。


 「チェリ…」「リコチャンリコチャン!!」「ドー…」「チコ」「ポポ」


真姫「チェリム、ペラップ、ドーブル、チコリータ、ポッポ……ね」


図鑑に表示された情報と目の前の一匹ずつを見比べながら、


真姫「ま、確かにことりはこういう手持ち好きじゃないかもね」


パタンと図鑑を閉じる。


真姫「ことりはこういうとき、ポケモンが出てこなくても手持ちとどう接してるのか見えちゃうから、気になっちゃうんだろうけど」

梨子「あの……」


ことりさんが、私の挑戦を拒んだ理由。

一応なんとなくは察している。
536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:58:37.89 ID:IYa5VeT80

梨子「人から貰ったポケモンで戦うのは……悪いことなんですか……?」


ことりさんはお母さんから貰ったポケモンで戦っている私が気に食わなかったんじゃないか、と……。

その一方で真姫さんは、


真姫「別に悪いことじゃないわよ」


さも当然のことのように切り返す。


真姫「ポケモンバトルである以上、強いポケモンで相手を倒せばそれで勝ちだし。貰ったポケモンでも自分の言うことを聞くなら、それで勝つことが悪いなんてことはないでしょ」


ここまで断定的な答えが返ってくるのは正直予想外だった。


梨子「じ、じゃあ、なんでことりさんは……」

真姫「はぁ……ことりは言葉が足りないのよね」


真姫さんは椅子に腰掛けて、脚を組みながら溜息を吐く。


真姫「たぶん、逆よ」

梨子「逆……?」

真姫「貴方が人から貰ったポケモンを使ってるから、というか……自分で育てたポケモンを使う気が感じられなかったからじゃない?」

梨子「……? えっと、それにどんな違いが……?」


私は首を傾げる。


真姫「チコリータ。鞠莉から貰ったポケモンでしょ?」

梨子「は、はい」

真姫「それがここまで一緒に旅してて、メガニウムどころか、ベイリーフにすらまだ進化してないのはどうして?」

梨子「それは……」


ヨハネちゃんにも道中同じようなことを言われた気がする。


真姫「初心者用ポケモンって、すごく人に慣れてるし、バトルにも抵抗をあまり持たない。逆に言うなら、元からそれなりに闘争心が強いのよ」

梨子「闘争心が強い……?」

真姫「今まで、チコリータが戦いたがることって、あったんじゃない?」

梨子「…………」


言われてみれば、最初千歌ちゃんと戦ったときもチコリータのボールが震えていた。

改めて、思い返してみると、ホシゾラジムもコメコジムも……もしかしたら、そうだったかもしれない。


真姫「それは、ポケモンからしてみたら、結構なストレスなのよ」

 「チコ…」

梨子「で、でも……チコリータじゃ勝てないバトルもあったかもしれないし……」

真姫「そうね。ダリアジムまでは順調に進んでたなら、それはそれで間違いではないと思うわ。ただ……」

梨子「ただ……?」

真姫「ことりはその状況が健全じゃないって思ったんじゃないかしら」

梨子「……?」


健全じゃない……?
537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:00:16.38 ID:IYa5VeT80

真姫「一緒に旅してるポケモンは置いておいて……まるで、ジムをクリアするためだけに旅をしてる」

梨子「……それってそんなに悪いことですか?」


ポケモンに気が回ってないのは確かによくないかもしれない。

だけど、目標を持って旅をすることが悪いこととは思えない。


真姫「……梨子……って言ったかしら。貴方はなんのためにジム制覇をしようとしてるの?」

梨子「それは……旅に送り出してくれた、お母さんを安心させてあげるために……」

真姫「……なるほどね」


真姫さんは椅子から、立ち上がって、私を見下ろしながら、


真姫「梨子──貴方は根本的に勘違いしてるわ」


再び断定的な口調で、言い放った。





    *    *    *





梨子「あの……真姫さん。どこに行くんですか……?」

真姫「行けばわかるわ」


私はあの後、メブキジカに乗せられて10番道路まで引き返してきていた。


梨子「行けばわかるって……」

真姫「すぐ見えてくるから」


黙って後ろを付いていく。

10番道路を東に逸れて……坂道を登って行くと、視界が開けてくる、


梨子「湖……?」


そこには大きな湖が広がっていた。


真姫「クリスタルレイク。オトノキ地方最大の湖よ」

梨子「は、はあ……」

真姫「──……オトノキ地方はね。輝きの地方って呼ばれてるの」

梨子「?」

真姫「星がよく見える地方で、それ目当てに観光に来る人も少なくないわ」

梨子「な、なんの話ですか……?」


突然始まった話に私は顔を顰める。


真姫「その中でも、夜の虹と賞される三大スポットがあるの」

梨子「あの真姫さん! 私は観光に来たわけじゃ……」

真姫「一つはクロサワの入江。一般人が立ち入りすることはほぼ出来ないけど……洞窟の天井にはいつも、七色の宝石が光っている」


私の言葉を無視して、真姫さんは続ける。
538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:02:36.51 ID:IYa5VeT80

真姫「二つ目は大樹・音ノ木。季節になると、メテノの群れが集まってきて、まるで大樹が七色の実を宿らせている様だって言われるわ」

梨子「…………」

真姫「そして、三つ目はここ──クリスタルレイク」

梨子「あの……私はジム戦を」

真姫「──梨子」


私の言葉に被せるように、真姫さんに名前を呼ばれる。


真姫「貴方はなんで、貴方のお母さんが、この地方に旅に出してくれたんだと思う?」

梨子「それは……」


──10歳のとき、大失敗した私への最後のチャンスとして……。


真姫「貴方はたぶん、その意味がわかっていない」

梨子「……?」

真姫「メブキジカ、こっちよ」

 「ブルル…」


真姫さんに先導される形でメブキジカは私を乗せたまま湖に近付いていく。


真姫「ここはただの大きな湖じゃなくて……大昔に海底が地殻変動で隆起して出来た丘上の塩湖。しかも、水晶や鉱石を多く含んだ岩石で出来ているのよ」

梨子「はあ……」

真姫「水深が深い湖じゃないから、湖の丁度真下には、ポケモンたちが長い年月を掛けて掘ったトンネルがいくつもある。通称『クリスタルケイヴ』。そして──」


真姫さんの足が止まる。

そこには縦穴がぽっかりと口を開けていた。


真姫「ここはその入口の一つ」

梨子「あ、あの……だから、それとジム戦になんの関係が」


抗議の声をあげると、こっちを向いた真姫さんと目が合う。


真姫「ねぇ、梨子」

梨子「な、なんですか……」

真姫「……親の期待って、重いわよね」

梨子「え……?」

真姫「こっちはたった十数年しか生きてないのに、それに20年とか上乗せした価値観で、成功して欲しいとか、素敵な経験をして欲しいとか、立派に育って欲しいとか、子供に押し付ける」

梨子「……そんな、こと……」

真姫「私は正直、嫌だった。こうしたらうまく行くなんて、親の勝手な思い込みみたいなレールをたくさん敷かれて。その道から外れたら、お前の為を思ってるんだって、お説教されて。余計なお世話よね」

梨子「…………」

真姫「ただ、少しだけ大人になってわかったことがいくつかある」


風が吹く、赤い髪が風に揺れている。
539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:03:42.98 ID:IYa5VeT80

真姫「親の言葉も、受け止めたり、受け止め切れなかったりしながら、その中で見つけた景色が、自分が、私なんだって。感謝とか、親がどう思うかとか、そういうのはその後のこと」

梨子「…………」

真姫「だから、梨子。貴方も誰かの為とかは置いておいて──まず貴方の景色を見つけなさい」

梨子「私の……景色……」

真姫「……ま、たぶん、そんなに怪我はしないと思うから──」

梨子「……? 何の話──」

 「ブルル」


突然、私を乗せたままのメブキジカが穴に向かって背を向け、急に前足を上げて立ち上がる。


梨子「!?」


もちろん、背中に乗ったままの私はそこから滑り落ちるように、

先ほど言われた、縦穴に、吸い込まれる──


梨子「え、まっ……!!!?」


思わず前に出した手が、宙を掻く。

そのまま、全身がフワリと浮遊感に包まれ、


梨子「────きゃああああああああ!!!!!!!??!!?」


私は重力の言うがままに、縦穴を垂直に落下する。


真姫「……もし怪我したら、そのときは私が責任を持って、治療するわ」


540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:04:36.62 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クリスタルレイク】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:7匹


 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:07:21.60 ID:IYa5VeT80

■Chapter041 『きらきら』





梨子「きゃあああああああああ!!!!!?!!?」


体が背中から自由落下している。

──このまま、地面に激突……つまり、

死。

そのとき、腰のボールが揺れる。


梨子「っ!!!」


──ボム! ボールは音を立てて、

 「ポポ!!」「チコッ!」

ポッポとチコリータが飛び出す。


 「ポッポー」


ポッポは私の腕を掴み、羽をばたつかせる。


 「チコ!!」


チコリータは私に“つるのムチ”を巻き付け、


 「チコッ」


もう一方に伸ばしたムチで岩肌の出っ張りを掴もうとする。


梨子「ポッポ! チコリータ!」


だが、落下速度は僅かに緩んだだけ、


梨子「ダメっ!!!」


咄嗟に二匹を抱き寄せる。

 「ポポ!?」「チコッ!!」


このままじゃ一緒に地面に叩きつけられちゃう……!

せめて、少しでも二匹への反動が減るようにと……。

そしてそのまま、私は地面に──。





    *    *    *





梨子「──は……っ……は……っ……」


天を仰向けで見ている私の視線の遠くの方に、今しがた私たちが落ちてきたであろう穴が見えた。

視界にはキラキラとした、粉みたいなものが舞っている。
542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:09:00.07 ID:IYa5VeT80

梨子「いき……てる……っ……?」


落下は止まっていた。


梨子「そ、そうだ! チコリータ! ポッポ!」
 「チコ」「ポポ」


抱きしめられたままのチコリータとポッポが腕の中から顔を出す。


梨子「はぁ……よかった……」


ひとまず、無事を確認して、私は身を起こす。

辺りは岩肌に覆われていて──まあ、洞窟に落とされたんだから、当然か……。

ただ、不思議な点がいくつか。洞窟内が薄ぼんやりと明るいこと、

そして、私たちが無事だった、理由。

──白いふわふわとしたものが、私たちの下には広がっていた。


梨子「これ……なんだろ……」


しかも、光っている。


 「チコチコ」


気付くと、チコリータが口で私の服を引っ張っていた。


梨子「な、何?」
 「チコ」

チコリータは頭の葉っぱで洞窟の奥を指す。そこには……。


 「シュ…」「シュー…」


ポケモンが岩の陰に隠れてこっちを見ている。

ただ、そこも光るふわふわのせいで丸見えなんだけど……。


梨子「そうだ……図鑑」


私はポケモン図鑑を開いた。

 『ネマシュ はっこうポケモン 高さ:0.2m 重さ:1.5kg
  点滅しながら 発光する 胞子を 辺りに ばら撒く。
  薄暗く 湿った場所が 好きで 昼は 寝ながら
  樹木の 養分を 吸い 夜に 目覚めて 活動する。』


梨子「ネマシュ、胞子……ってことはもしかして、これって……」


──キノコ?

気になって力を入れて押してみると、

──ボフ。


梨子「きゃ!?」
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:11:30.45 ID:IYa5VeT80

胞子が飛び出して、キラキラと点滅している。

やっぱり、大きなキノコみたいだ……。

とにもかくにも、お陰で助かった。

上を見上げると、先ほど同様、遠くに私たちが落ちてきた穴の口が見える。

あそこから一直線に落ちてきたということだ。


梨子「結構落ちたみたいだね……あの高さじゃポッポも飛べないよね」
 「ポポ」


……というか、ペラップでも無理。

垂直に飛ばないといけないし……。


梨子「ここから上に戻るのは無理……」


視線を上から戻して、洞窟内を見回す。

薄ぼんやりと光るキノコに照らされた洞窟内の岩肌には、あちこちに水晶のようなものが見える。

キノコの灯りを反射して、僅かに光っていた。

そういえば、真姫さん、水晶や鉱石を多く含んだ岩石で出来ているって言ってたっけ……。


梨子「そうだ……真姫さん」


真姫さんが合図を出した瞬間、メブキジカから振り落とされた。


梨子「…………」


正直、身体よりも心への精神的なダメージが大きかった。

ずっと、私を見守ってくれていたメブキジカがこんな形で謀反を起こすとは思ってもみなかった。

 「チコチコ」

ぼんやりとしていると、チコリータがまた私の服の裾を引っ張っている。


梨子「チコリータ……奥に進もうってこと?」
 「チコ」


……確かに、ここでボーっとしていてもしょうがない。


梨子「とりあえず、いけるだけ行ってみようか」
 「チコ」


私はふわふわのキノコの上で立ち上がる。

すると、足がずぶずぶと沈みこむ。

キノコは上からの見た目よりもずっと大きく、かなり弾力があるようだ。

歩き辛いキノコの上を転ばないように歩く。

 「ポポ」

ポッポが肩に止まり。

 「チコ」

チコリータはぴょんぴょんとキノコの上を跳ねながら軽快に前進する。

私たちは洞窟を奥へと進んでいく。


544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:12:36.79 ID:IYa5VeT80


    *    *    *





 「ブルル…」

真姫「心配なら、追いかけてもいいのよ? 貴方のレベルなら、登攀することは出来なくても縦穴を降りることは出来るでしょ?」

 「ブルル」

真姫「……ま、好きにすればいいけど」





    *    *    *




 「チェリ…」


一応チェリムも出してみたけど……。

完全に“ネガフォルム”になってしまっている。


梨子「洞窟の中じゃ、日差しがないからしょうがないか……戻れ」


チェリムの特性“フラワーギフト”は晴れていれば花を咲かせて、元気になるが、反対に日差しがない場所では元気がなくなってしまう。

それにしても……。


梨子「ホントに真姫さん……どういうつもりなのかな」
 「チコ?」

梨子「理由があるにしても、普通いきなり落とす……?」


自分の景色を見つけろ……って言ってたけど。


梨子「ずっと洞窟だし……」


確かに薄ぼんやり光ってるキノコは綺麗と言えば綺麗だけど……ちょっと不気味でもある。

夜の虹の話もしてたけど……。


梨子「洞窟の中じゃ、夜空見えないし……」
 「チコ」


私の独り言に相槌を打つようにチコリータが鳴く。

ふわふわしたキノコの上を進むたび、岩陰に見切れていたネマシュたちが奥の方に逃げ、しばらく逃げたら、また同じように岩陰から覗いてくる。

そんな光景の繰り返し。


梨子「……ん……」

 「ポポ」


耳元でポッポが鳴く。


梨子「…………?」

 「ポポ、ポポ」
545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:13:46.28 ID:IYa5VeT80

──何か……変だ……。

頭の中に靄が掛かってくる。

視界に映る、ぼんやりとした光が点滅して……。


 「チコチコ!!」「ポポ!!」


梨子「あ……れ…………?」


だんだん、力が抜け……て……。


 「チコッ!!!」

──チコリータが鳴くと同時に、ボンボンボンッ! と連続で破裂音がする。


梨子「!?」


音に驚き、意識が戻ってくる。


梨子「な、なに!?」
 「チコ!!」


チコリータの方を見ると、自分の頭の葉っぱの上にタネが乗っていた。

それを私に見せるように、放ると──

──ボンッ!!

音を立ててタネが爆ぜる。

“タネばくだん”みたいだ


梨子「わ、私……今寝てた……?」
 「チコッ」


チコリータが頷く。

気付けば、大きなキノコの上でうつ伏せになっている。

私は上半身を起こして、頭を振った。

気付いたら眠っていた……いや、眠らされていた。

キノコを踏むたびに、飛び出る、光る胞子を見ていたら、だんだん視界が──。


 「ポポッ!!」

梨子「……はっ!!」


今度はポッポの鳴き声で戻ってくる。


梨子「この光、見てると眠くなる効果がある……!?」


私は立ち上がって、走り出す。

このキノコ地帯は思ったより危険だ……!

視線を前に戻すと、


 「シュー」「ネマシュー」


また岩陰からネマシュがこっちを覗いている。


梨子「もしかして、あのネマシュたち……!!」
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:14:51.57 ID:IYa5VeT80

ある疑惑が脳裏に浮かぶ。


梨子「チコリータ! “はっぱカッター”!」
 「チコッ!!」


チコリータが頭の葉っぱを振るうと、そこから鋭く硬い葉っぱが飛び出す。

その葉っぱは、ネマシュたちの隠れている岩にぶつかり、硬い音を立てる……が。


 「シュー」「ネマシュ」


梨子「やっぱり、逃げない……!!」


私は勝手に臆病なネマシュたちが驚いて逃げてるんだと思っていたけど……違う。


梨子「私が“キノコのほうし”で眠るのを待ってたんだ……!!」


眠った後……養分にするために……!

だが……わかっていても、

視界が揺れる、


 「ポポッ!!」


耳元でポッポの大きな声。


梨子「……!! ごめん、ありがとうポッポ」


視界をどこに向けても光が目に入ってきて、気付くと眠りかける。

ポッポがこうして起こしてくれるから、どうにかだけど……。


梨子「ポッポが寝ちゃうのが一番まずい……チコリータ、ポッポに“なやみのタネ”」
 「チコ」


チコリータがポッポに向かって、タネを投げつける。

そのタネがポッポの羽毛に紛れると、

 「ポッポ…」

ポッポが少しだけ苦い顔をする。


梨子「ごめん、ポッポ! ちょっと我慢して!」
 「ポポー」


“なやみのタネ”は対象のポケモンの特性を“ふみん”にする技だ。

チコリータはそもそもくさタイプだから、“キノコのほうし”で眠ることはないが、ポッポは別。

だから、予め眠らないように対策を打つ。

後は──

 「シュー」「ネマシュー」

よくよく見ていると、ネマシュたち自身も光る胞子を放っている。


梨子「チコリータ、ネマシュたち、撃退できる?」
 「チコッ!!」

梨子「よし! “マジカルリーフ”!」
 「チコッ!!」
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:16:28.57 ID:IYa5VeT80

先ほどの“はっぱカッター”同様、葉っぱを飛ばして攻撃する。

が、さっきの技とは少し違う。

“マジカルリーフ”は周りこむように、一匹のネマシュに炸裂する。

 「ネマッシュ!」

この技は必中技。追尾式だ。

攻撃を食らったネマシュはさらに洞窟の奥へと逃走する。


梨子「よし、効いてる!」
 「チコッ」


私はそのまま一本道を埋め尽くす、光るキノコの上を全力で走る。

すると、今走っている、通路の先の方で、キノコの道が終わり、開けた空間が見える。


梨子「! 通路の出口……!」


出口を見つけた拍子に、逸ったのか足に力が入る。


梨子「きゃ!?」


足場が悪いこともあったせいか、足がもつれて、身体が前傾のまま、宙を浮く。

柔らかいキノコの上を転がりながら、


梨子「きゃぁっ!!」


通路の外に放り出され、開けた空間を転がる。


梨子「──……痛……くない……?」

 「チコチコ」


チコリータの鳴き声を聞きながら顔をあげると、辺りに“グラスフィールド”が敷き詰められていた。


梨子「チコリータがやったの?」
 「チコ」

梨子「そっか、ありがとう。怪我せずに済んだよ」
 「チコ」


改めて辺りを見回す。

後ろには先ほど走ってきた通路が光っている。

前方には比較的開けた空間が広がり、上方には──。


梨子「何……これ……」


大きな水の塊が浮いている……?

その中を何か、魚のようなポケモンの影が泳いで……。


梨子「いや、違う……これ、水晶……?」


よく見てみると、それは水が浮いているんじゃなくて、透明な水晶の壁を隔てた先に、水が溜まっているだけだと気付く。

まるで、天然の水槽のように。


梨子「すごい……もしかして、クリスタルレイクの湖底……?」
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:18:17.73 ID:IYa5VeT80

天然水槽の上の方からはわずだが太陽の光が差し込んで、洞窟内を仄かに照らしている。

幻想的な光景だった。


梨子「綺麗……」

 「ポポ!」「チコッ!」

梨子「!」


見蕩れていたのも束の間、二匹の声で我に返る。


梨子「ネマシュたちは!?」


視線を下に戻すと、

 「マシェー…」

そこにはネマシュよりもさらに大きな傘のキノコを持ったポケモンが怪しく身体を揺らしていた。


 『マシェード はっこうポケモン 高さ:1.0m 重さ:11.5kg
  点滅する 胞子を 吹き出し 眠りに 誘う。 眠った
  獲物の 精気を 腕の 先から 奪うことが 出来る。
  仲間が 弱ると その 生気を 送って 助けてあげる。』


梨子「ネマシュの進化系……! 群れのボス」


 「マシェー」

マシェード鳴き声と共に辺りいっぱいに“キノコのほうし”をばら撒く。


梨子「!! ポッポ、“かぜおこし”!」
 「ポポー!!」


ポッポの羽ばたきによって巻き起こる風で胞子を吹き飛ばす。

この開けた空間なら、さっきみたいに辺り一面を“キノコのほうし”に囲まれるということはない。

好機を逃すまいと、マシェードに視線を戻すと、

 「マッシェーー!!!」

マシェードが激しく閃光した。


梨子「きゃっ!?」


咄嗟に目を庇って、腕を上げる。


梨子「っ! ポッポ!? チコリータ!!」
 「ポポ」「チコッ」


名前呼ぶと声が返ってくる、どうやら無事みたいだ。

ただ、


梨子「今の“マジカルシャイン”……!」


突然の激しい閃光を浴びて、目がちかちかする。

落ちた視力の先でぼんやりとマシェードが揺れている。


梨子「チコリ──」


チコリータに指示を出そうとした瞬間、急に膝が落ちる。
549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:19:37.79 ID:IYa5VeT80

梨子「な、に……っ……!?」


急に全身から力が抜けていく。

 「マシェー」


梨子「こ、れ……マシェードの攻撃……“ちからをすいとる”……?」


どんどん力が抜けていく、

すぐに上半身を起こしていることも出来ず、四つん這い状態になる。

そのすぐ横を、光弾が飛んできて、

 「ポポッ!!」

ポッポを弾き飛ばした。


梨子「ポッ、ポ……!!」


恐らく今のは“エナジーボール”だ。

私が体勢を崩して指示が遅れたところに、攻撃が飛んできた。

 「マッシェー」

ポッポが戦闘不能になったのをいいことに、マシェードは再び“キノコのほうし”をばら撒く。


梨子「……く……」


急激に眠気が襲ってくる。

 「チコッ、チコッ!!」

チコリータが私を葉っぱでぺしぺし叩いている。


梨子「……っ」


奥歯を噛み締めて、眠気を堪える。


梨子「チコ、リータ……! “つるのムチ”……!」
 「チコッ!!」


チコリータの伸ばした蔓がマシェードを捕える。
550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:20:15.00 ID:IYa5VeT80

 「マシェ!?」

 「チコッ!!」

梨子「“しぼりとる”……!!」
 「チコッ!!!」

 「マシェシェ…!!」


そのまま思いっきりマシェードを蔓で締めあげる。


梨子「ぅ……だめ、だ……今、寝ちゃ……」
 「チコッ!!!」

 「マーシェー!!!!」


霞む視界、意識がまどろみ始める。

響き渡る鳴き声から、恐らくチコリータとマシェードの力比べ状態。


梨子「チコ、リータ……」
 「チコッ」


この攻防を勝ちきらないと、恐らくマシェードの養分になる。


梨子「おね……が、い──」
 「!! チコッ──」


……意識が落ちる瞬間。チコリータが眩く光った気がした──。





    *    *    *


551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:22:29.44 ID:IYa5VeT80


────────
──────
────
──



 『梨子』


懐かしい声が聞こえる。


 『梨子はどんなトレーナーになりたい?』


あれ、なんだっけ……これ……。聞き覚えがある……。

これは……夢……?


 『わたしはね! きらきらしたとれーなーになりたい!』

 『キラキラしたトレーナー……素敵ね! お母さん楽しみにしてる!』


ああ、そうだ……あの日、タマムシシティから旅立つ前日にお母さんとした会話だ……。

これは、私の……記憶だ──。




──
────


 『いたい……っ……!! いたいよぉ……っ……!!』

 『梨子、大丈夫だから!! すぐにお医者様が見てくれるから……!!』


これは……デルビルに噛まれた後かな。



──
────


 『後遺症こそ残りませんが……痕はどうしても……深く牙が刺さったのは内腿だったので、目立つ場所ではありませんが』



──
────

552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:23:21.37 ID:IYa5VeT80

 『梨子……』

 『あ、何……お母さん……。ちょっと、ボーっとしてた……』

 『梨子は今でも旅、出たい……?』

 『……あはは、あんな目にあって、今更旅に出たいなんて言わないよ』

 『……そう』


……嘘だ。

私はずっと冒険に憧れていた。



──
────


 『え、旅に出られるって……』

 『遠くの地方でたまたま、貴方と同い年の子が旅立つってことで……梨子、行ってみない?』

 『い、いや……でも、私は……』


ホントは行きたい。

私もいろんな世界が見たい。


 『梨子がやりたいことなら、お母さん、応援するから……!!』

 『お母さん……。……お母さんが、そう、言うなら……』

 『ホントに……!? すぐに先方に連絡するわね……!!』



──
────


 『梨子、何かあったらメブキジカに頼ってね……!! この子はお母さんの相棒で、きっと梨子の力になってくれるから……!!』
  『ブルル』



──
────


 『キレイな地方だって聞いたから、たくさんいろんなものを見てきて』


 『梨子』

──『キラキラしたトレーナーに』──





    *    *    *


553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:24:37.57 ID:IYa5VeT80


 「ベイベイ…」
梨子「……やっと、思い出した……」
 「ベイ…」

梨子「私……キラキラしたトレーナーに、なりたかったんだ……っ……」


 真姫『──なんで、貴方のお母さんは、“この地方”に旅に出してくれたんだと思う?』


──それは……


梨子「……わたし、が……っ……わたしが……きらきらを、ほしがったから……っ……」
 「ベイ」


思い出して、想わず、涙が零れた。


梨子「……かがやきを……っ……ぅっく……っ……さがしたかったから……っ……」


母の愛の深さを、想い出して……。


梨子「……こんな、けしきを……っ……、……わたしに……っ……たくさん……っ……みつけて、ほしかった……から……っ……」


だから、この輝きの地方──オトノキ地方だったんだ。

──天を見上げると、

水晶で出来た水槽の中で

たくさんの光が──ケイコウオたちが、

水の夜空を、

踊っている。

プリズムのように七色に光を乱反射させ、

──タマムシ色の世界が広がっている。


梨子「……おかあさん……っ……わたし……っ……わた、し……っ……」


バカみたいだった。

ちゃんと足を止めて、空を見ればよかった。

私の欲しいものは、きっとここまでにもたくさんあったんだ。

私が見ようとしなかっただけで、
554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:25:33.44 ID:IYa5VeT80

 「ベイベイ」「ポポ」


──旅の仲間も。

私が子供のとき夢見た、冒険も、こんなに近くにたくさんあったのに、


梨子「……ベイリーフ……っ……ポッポ……っ……」
 「ベイ」「ポポ」

梨子「……いままで……っ……、ちゃんと、むきあえなくって……っ……ごめん、なさい……っ……」
 「ベーイ…」「クルッポー」


ベイリーフとポッポが顔を寄せてくる。


梨子「……こんな……、じぶんかって、な……グス……っ……わたしに……っ……いまでも、ついてきてくれて……っ……ヒグ……っ……ありがとぅ……っ」
 「ベイベイ…」「ポポッ」


──ずっと私の欲しかった冒険は、すぐ傍にあったんだ。

涙の先で、七色の光が、水中の夜空を踊っている。

クリスタルレイクの虹が……夜の虹が──


梨子「おかぁさん……っ……、……わたしっ……」


──虹色の幻想に包まれて、しゃくりをあげて泣きながら、


梨子「……きらきら……、……みつけたよ……っ……」


私はやっと……。

……やっと、

自分の景色を見つけることが出来た。

──そんな気がしました。


555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:26:57.25 ID:IYa5VeT80


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 口=================口

 主人公 梨子
 手持ち ベイリーフ♀ Lv.18 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.17 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:8匹


 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:24:28.46 ID:IYa5VeT80

■Chapter042 『星』





梨子「──よい、しょ……!」


ひとしきり泣いた後、私はクリスタルケイヴを歩き回り、外に出る口を見つけ、


梨子「よし……着いた……!」


丘の頂にあるクリスタルレイクへと再び赴いていた。

たぶん、場所的には大きな湖の東側だと思うから、最初に落ちた場所とはちょうど反対側……だとは思うけど、

とりあえず、それはいいや。


梨子「ベイリーフ!」
 「ベイベイ」

梨子「“つるのムチ”!」
 「ベイ!」


時間帯は既に深夜。静かな湖畔に釣り糸の要領でムチを垂らすと……。


 「ベイ」

梨子「! 引いて!」
 「ベイ!!」


すぐに、ポケモンが引っかかって、釣りあがる。

 「キョキョッキョキョッ」

野生のケイコウオが月夜の中で発光しながら、飛び出した。


 『ケイコウオ はねうおポケモン 高さ:0.4m 重さ:7.0kg
  太陽を いっぱいに 浴びた 尾ビレの 模様は 暗くなると
  鮮やかな 色で 光りだす。 2枚の 尾ビレを 羽ばたかせて
  泳ぐ 姿から 別名 湖の アゲハントと 呼ばれている。』


梨子「いけ、ポッポ!!」
 「ポポッ──」


ボールから繰り出したポッポが、眩く光る。


梨子「うぅん!!」


マシェードの戦いを経て、経験が溜まったポッポも新しい姿に──。


梨子「ピジョン!!」
 「ピジョーーー!!!」


私は、決めた。

この旅を目一杯、楽しむんだって。

いろんな景色を見て、いろんな場所を歩いて、経験して、

戦って、勝ったり、負けたりしながら、

仲間たちと、一人のポケモントレーナーとして……!


梨子「ピジョン!! “つばさでうつ”!!」
 「ピジョピジョオーーーー!!!」
557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:26:44.07 ID:IYa5VeT80

空中に飛び出した、ケイコウオを翼で弾く、

 「キョキョッ!!!!」

吹っ飛ばされたケイコウオは空中にいるまま、

 「キョキョキョ!!!!」

ピジョンを、自らが吹き出した水で狙い打つ。

“みずでっぽう”!


梨子「ピジョン! “オウムがえし”!!」
 「ピジョッ!!!」


ピジョンは羽を使って、その“みずでっぽう”をケイコウオに撃ち返す。


 「キョキョ!!!」

直後ケイコウオは空中に居るまま、尾ビレをたくみに使って、回転し始める。

すると、その激しく振るわれる尾ビレから、強い風が吹き始めた。


梨子「きゃっ!? 魚なのに、“かぜおこし”!?」


強風に煽られ、打ち返した水は軌道を逸らされ、外れる。

その隙にケイコウオは水へと潜り──

──すぐさま、ピジョンへ向かって、“とびはねる”で距離を詰めてくる。


梨子「ピジョン、“エアカッター”!!」
 「ピジョォー!!!!」


ピジョンの翼から空刃が撃ち出される。

 「キョキョ、キョキョキョ!!!」

ケイコウオはまたも尾ビレを使って器用に回転しながら、

その尾ビレで“エアカッター”を薙ぎ消す。


梨子「“アクアテール”か……!」


攻撃的なケイコウオはそのまま、ピジョンに空中で突撃しようとしてくる、


梨子「ピジョン! “たつまき”!」
 「ピジョッピジョオォーーー!!!」


ピジョンが力一杯羽を羽ばたかせると、目の前に竜巻が発生する。

 「キョキョ!? キョキョキョ!?」

その竜巻に飲み込まれた、ケイコウオはさらに高く打ち上げられて、

 「キョキョ キョキョキョ」

さすがにこれ以上の空中制御の手段を失ったまま、落ちてくる。


梨子「ベイリーフ! お願い!」
 「ベイ!」
558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:28:22.98 ID:IYa5VeT80

ベイリーフに空のモンスターボールを渡して、

 「ベーイ!!!」

“つるのムチ”を使っての遠投。

大きく蔓をしならせて、振りかぶったボールは、ケイコウオに吸い込まれるように飛んでいく。

 「キョキョ──」

ボールがぶつかり、そのまま吸い込まれたケイコウオは、

湖の水面にボールに入ったまま落ちたあと、

──大人しくなった。


梨子「……やった!」

 「ピジョ」


そのボールをピジョンが脚で掴んで持ってくる。


梨子「ありがとう! ピジョン!」
 「ピジョピジョ」

梨子「ケイコウオ……ゲットだね」
 「ベイベイ」


1番道路でポッポを捕獲して以来の捕獲だ。


梨子「……ベイリーフ、ピジョン……!」


二匹を抱き寄せて、


梨子「ありがとう……」


お礼を言う。

 「ベイベイ」「ピジョ」

私が勝手に壁を作っていた二匹と、今こうして一緒に戦って、一緒に捕獲が出来たことが、なんだか嬉しかった。

──パチパチパチ。

背後から拍手が聞こえる。


真姫「いいバトルだったわ」

梨子「真姫さん……!」


気付けば、背後に真姫さんが立っていた。


真姫「吹っ切れたみたいね」


ベイリーフとピジョンを抱きしめて喜ぶ私を見て、真姫さんはそう言う。


梨子「はい……ありがとうございます」

真姫「別にお礼言われるようなことじゃないけど……私は貴方を洞窟に突き落としただけだし」


……まあ、確かにそうだけど。
559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:29:47.86 ID:IYa5VeT80

梨子「その……なんというか、お陰で目が覚めました」

真姫「それは、メブキジカに伝えてあげた方がいいと思うわよ。貴方が落ちた穴の口で、まだ待ってるから」

梨子「! ホントですか!」

真姫「貴方のことを一番心配してたのは、きっとあのメブキジカよ。早く行ってあげなさい」

梨子「はい!」


私が走り出すと、


真姫「メタング、出して」
 「メタ」


真姫さんは恐らく手持ちであろう、浮いているメタングに腰掛けたまま、後ろをついてくる。





    *    *    *





 「…!!」

梨子「メブキジカ!!」


メブキジカは言われたとおり、私たちが落ちた縦穴の口で待っていた。

私が近付くと、声を掛けるよりも早く、私に気付いて顔をこっちに向けてくれる。


梨子「メブキジカ……お待たせ……!」
 「ブルル…」


ずっと帰りを待っていてくれた、メブキジカを抱擁する。


梨子「心配掛けて、ごめんね……ありがとう……」
 「ブルル…」


メブキジカはペロリと私の頬を舐める。


梨子「私……もう、大丈夫だから……」
 「ブルル」

真姫「それで、これからどうするの? ジム戦、やる?」


後ろから追いついてきた真姫さんが、そう訊ねてくる。


梨子「……いえ、当分は鍛えなおしたいなって思ってます。私の手持ちたちと」

真姫「そ……“私の手持ち”……ね」

梨子「はい。だから、お母さんから借りていた、ペラップとドーブルと……あと、メブキジカはポケモンセンターに着いたら、返そうと思います。これは、私の冒険だから……」

真姫「ま、いいんじゃない? 貴方がそれがいいと思うなら」


真姫さんはぶっきらぼうな言葉選びだけど、心なしか嬉しそうに言っている気がした。


真姫「ただまあ、メブキジカは不満みたいだけど?」

梨子「え?」
560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:31:07.71 ID:IYa5VeT80

言われて、メブキジカに視線を戻すと、

 「ブルル…」

私の頬に鼻をこすりつけてくる。

まるで、離れたくないとでも言わんばかりに。


梨子「メブキジカ……」


私は少しだけ、考えてから……。


梨子「改めて……私と一緒に旅をしてくれる? 今度は保護者としてじゃなくて、仲間として……」
 「ブルル!!」


私がそう言うと、メブキジカは一鳴きしてから、私の頬を舐める。


梨子「きゃっ くすぐったいよ、メブキジカ……!」

真姫「決まりみたいね」





    *    *    *





深夜のポケモンセンターでボックスにペラップとドーブルを転送する。


梨子「真姫さん、結局ローズシティまで送ってもらっちゃって……ありがとうございます」

真姫「別にいいわよ……私が連れてったんだし」


真姫さんは相変わらずぶっきらぼうに言葉を返してくる。


梨子「ふふ……優しいですね」


言葉とは裏腹な親切心に、思わず笑ってしまう。


真姫「べ、別に……そんなんじゃないわよ」


私がそう言うと恥ずかしいのか、真姫さんは腕を組んだまま、毛先をくるくると弄り始める。癖なのかもしれない。


梨子「その……優しいついでに、わがまま言っていいですか……?」

真姫「だから、私はそういうんじゃ……。……わがまま?」

梨子「……私を鍛えてくれませんか」

真姫「…………」

梨子「今日一日でいろんな大切なことに気付けました。真姫さんと一緒に居ると、もっといろんな景色が見れるかもしれない……だから、もし迷惑じゃなかったら……私に少しの間、バトルを教えてくれませんか」


私は頭を下げる。


梨子「私の仲間の皆と……一緒に戦う術を」

真姫「……。……ごめんなさい、そういうの柄じゃないの」


……ダメか。さすがに虫が良すぎたかな。
561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:33:04.96 ID:IYa5VeT80

真姫「まあ、でも……」

梨子「?」

真姫「貴方が勝手にバトルの訓練してるところに、たまに横から口出しするくらいなら……別にいいけど」

梨子「……!! 真姫さん……!!」

真姫「ただ、ホント仕事の片手間よ? ジムに病院の研究の仕事に、私は忙しいんだからね」

梨子「いえ、それでも十分です! これから、よろしくお願いします……!」

真姫「……だから、私は貴方が勝手に訓練してるのを見てるだけって……ま、いいけど」


真姫さんは、肩を竦めてから、歩き出す。


真姫「ほら、行くわよ……梨子」

梨子「はい!」





    *    *    *





千歌「──ん……トイレ……」


深夜。海未さんの家で寝泊りしてた私は、布団から身を起こす。

 「ワフ…zzz」「マグ…zzz」「スピィ…zzz」「ワゥ…zzz」

辺りを見回すと、手持ちの皆は自分の好きな場所で丸まって寝ている。

ルカリオだけは、部屋の出入り口の近くで座ったまま寝てるけど……。

まあ、あれが好きなんだと思う。たぶん。

私は皆を起こさないように、そーっとトイレへ行くために部屋を出る。





    *    *    *





──海未さんの家はアキハラシティの東端にある道場だった。

今は門下生もいないので実質ちょっと大きい普通の住居らしいけど……。


千歌「あれ?」


トイレからの帰り道、庭で空を眺める海未さんを見つける。


千歌「海未さん?」

海未「千歌? どうしたんですか、もう夜中ですよ」

千歌「んと……トイレから部屋に戻ろうとしたら、海未さんが居たから……」

海未「ああ、そうでしたか……」


海未さんの視線を追うと。


千歌「音ノ木……」
562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:35:10.91 ID:IYa5VeT80

大樹・音ノ木がその存在感を示していた。


千歌「庭から見えるんですね」

海未「大きな樹ですからね。お陰で朝は日当たりが悪くて少し困るのですが……」

千歌「あはは、確かにそれはそうかも……」


二人で並んで、大樹を見上げる。


千歌「ホントにおっきいなぁ……」


何度見ても、その大きさに圧倒される。


海未「千歌は……龍の止まり樹の話は聞いたことがありますか?」

千歌「あ、はい。……流星山で凛さんから聞きました。メテノがぶつかる音、なんですよね」

海未「龍の咆哮のことですね。確かに音はそうなんですが……」

千歌「音は?」

海未「あの大樹は、この地方のほぼ中心に位置しているんです」


……確かに、地図はそんな感じだったかも。


海未「それは、龍神様が空からこの地方全体を見守るため……と子供の頃から教わって来ました」

千歌「龍神様……」

海未「この地方には今、異変が起こっています」

千歌「異変……メテノのこととかですか?」

海未「……それをはじめとして、地方のあちこちで不穏な動きがあるんですが……この異変も龍神様は空から見守ってくれているのかな、と思いまして」

千歌「どうなんだろ……」


この町にもメレシーのおとぎ話みたいな話があるってことだと思うけど……。


千歌「私の感覚では……神様は居ても見てるだけってイメージだけど……」

海未「ふふ……千歌の故郷では、そういう感じなんですか?」

千歌「んー……ウラノホシはホントにそういう感じ、かなぁ……。罰が当たるって、言われたことはあるけど……罰が当たったことないし」

海未「確かに……それは、この上ない実体験ですね」


海未さんはそう言ってくすくすと笑う。


海未「子供の頃……よく三人で──穂乃果と、ことりと一緒に、龍神様に会うためにあの樹を昇ったものです」

千歌「あの樹、子供だけで登るには高くないですか?」

海未「そうですね……ただ、ことりの周りにはいつでも鳥ポケモンがたくさん居たので、意外と安全な木登りでしたよ。専ら音ノ木の周りの太い蔦や茎、葉の上を歩くわけなので、全然楽ではありませんでしたが」


確かに、善子ちゃんと一緒に音ノ木に行ったときも、葉っぱの上で一休みした記憶がある。

2〜3人どころか、10人以上乗っても大丈夫そうな、そんなスケールだった。


海未「そういえば、千歌……」

千歌「なんですか?」

海未「ことりのこと……恨まないであげてくださいね」


海未さんは真剣な声音で言う。
563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:36:15.63 ID:IYa5VeT80

千歌「突然、どうしたんですか……?」

海未「いえ……こうして今、千歌と並んで音ノ木を見ているのも、元はと言えば、ことりにいろいろなことを押し付けてしまったからなのかなと、思って……」


……海未さんなりの、ことりさんへのフォロー、ってことかな。


海未「ことりは……背負い込みすぎるきらいがあるので……」

千歌「背負い込みすぎる?」

海未「元からジムリーダー候補だった、私や……穂乃果の役割まで自分が果たさなくちゃいけないなと思っているんです。だから、厳しく人を導くことや、純粋に楽しさを教えることを同時に果たそうとしたりして、空回りしてしまうときがあって……」


梨子ちゃんと私の挑戦に対して、両極端な反応をしていたことを言ってるのかも。

こうして海未さんなりに、ことりさんを気遣ってフォローしてる辺り……。


千歌「……海未さんって」

海未「?」

千歌「ことりさんのこと、大好きなんですね」


ホントに大切な人だから、誰かに嫌いになっても欲しくない、って気持ちなら、わかる気がする。

私も曜ちゃんが人から嫌われるのは、嫌だし。


海未「……ええ、もちろん。大切な幼馴染ですから」

千歌「大丈夫です! 恨んだりなんか、してないですよっ! むしろ、お陰で海未さんに稽古付けて貰えるんだから、感謝したいくらい!」

海未「ふふ、そうですか。なら、安心しました」


海未さんは微笑んでから、
564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:36:50.56 ID:IYa5VeT80

海未「稽古が始まっても同じことが言える根性があることを願っていますよ」


不穏なことを言う。


千歌「うぇ……? そ、そんなに厳しいんですか……?」

海未「……まあ、それも、貴方次第ですよ」


海未さんはそう言ってから、踵を返して、家の中に戻っていく。


海未「長話になってしまいましたね。そろそろ、休みましょう」

千歌「あ、はい!」


私は返事をしながら、海未さんのあとについていく。

そのとき、ふと──

夜空の遥か向こう側に、何かの影が過ぎった気がして、


千歌「……?」


思わず振り返って、再び空を仰ぐ。

でも、そこには星が眩しいくらいに光ってるだけで……。


千歌「気のせい……かな……?」

海未「千歌? 何してるんですか?」

千歌「あ、なんでもないです!」


海未さんに促されて、私も部屋へと戻っていく。

夜には満天の星空が広がる、このオトノキ地方の中心で……明日からは、私の修行がスタートします。


565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:37:48.34 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】【アキハラタウン】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 梨子
 手持ち ベイリーフ♀ Lv.20 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョン♀ Lv.19 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ケイコウオ♀ Lv.18 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:83匹 捕まえた数:10匹

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.29  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.27 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.29 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.20 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:109匹 捕まえた数:11匹


 梨子と 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:52:36.77 ID:IYa5VeT80

■Chapter043 『開催! コメコたくましさコンテスト!』 【SIDE You】





司会『さて……たくましさ大会ノーマルランク、優勝者は──』


司会のお姉さんの声と共に、スポットライトが私の前に集まってくる。


司会『エントリーNo.4! ゴーリキーとそのコーディネーターヨウさんです! おめでとうございます──』





    *    *    *





曜「さて……まずはノーマルランク突破だね! ゴーリキーお疲れ様!」
 「ゴーリキ!!」


今、私はコメコシティのたくましさ会場に一人。

今回のことりさんからの任務は──。



────────
──────
────
──


ことり「コメコシティのたくましさ大会をノーマル、ウルトラランク続けて一気に勝ち抜くこと!」


そんな高いハードルだった。

おさらいだけど……ノーマルランク優勝は+3ポイント。グレートランクは+6ポイント。ウルトラランクは+9ポイント。

グレートランクはノーマルランク2位以上、ウルトラランクはノーマルランクで優勝すれば挑戦権が貰える。

コメコで稼ぎたいポイントは最低でも+10……ウルトラランクの優勝は今からグランドフェスティバルを目指すなら必須条件だ。

──そうなると、必然的にノーマルランクを優勝。グレートランクを飛ばして、ウルトラランクで優勝する必要がある。


ことり「まあ、ノーマルランクは曜ちゃんなら苦戦しないと思うけど」

曜「い、いきなりウルトラランク一発優勝は、ハードルが高いような……」


お師匠様からの期待が重い……。


ことり「でも、たくましさランクは開催頻度が1ヶ月に1回だし、これを逃すとチャンスはどんどん減っちゃうからね?」

曜「それはそうだけど……」

ことり「むしろ、どこまで行っても曜ちゃんはフソウ大会で絵里ちゃん──えっと、アローラキュウコンのコーディネーターさんね──に勝たないといけないから、他の4大会は出来るだけ早くパスしておかないと。……絵里ちゃん相手に10勝以上勝ち越す自信があるなら別だけど」

曜「むむむ……」


とは言うものの……ことりさんの言う通り、絵里さんは恐らくフソウ大会を今後も勝ち続けるだろう。経験者曰く、それくらい圧倒的に強いみたいだし……。そうなると毎週勝ち点+9ポイント。

現在の持ち点が12ポイントらしいから……10週勝ち抜きで102ポイント。その時点でマスターランクへ昇級してしまう。

つまり、最低でも後9週間……いや、もうあれから1週間弱は経過してるから、8週間ちょっとで他のランクをウルトラランクで抜けている必要がある。


ことり「そのために曜ちゃんにはアドバイスをしておきますっ!」

曜「アドバイス?」

ことり「コンテストの戦い方、ね♪」
567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:54:17.90 ID:IYa5VeT80

──
────
──────
────────



さて、アドバイスをしてくれた張本人のことりさんは、仕事があって現在この場には居ない。

朝にセキレイシティから、コメコシティまでチルタリスの背に乗って、送ってもらったあとは、私だけだ。


 ことり『コメコ会場を制覇したら、そのまま4番道路を抜けてダリアシティに向かってね♪ 遅刻したら、次のかしこさ大会は3週間後になっちゃうから、ちゃんと辿り着くようにっ!』


今週末は珍しく、たくましさ大会とかしこさ大会が同時に開かれる週らしく、それ故か、同日の開催ではなく日をずらしての開催らしい。

これが好機だと、ことりさんに二つのコンテストを制覇してこいと送り出されたわけだけど……。


曜「……まあ、言っててもしょうがない! 勝って、コメコシティとダリアシティの二つのウルトラコンテストリボンをことりさんに自慢するんだ!」


ことりさんにはよくしてもらってる。今、私に出来る恩返しはコンテストで勝って、ポイントと優勝リボンを集めることだ。


曜「行くよ! ゴーリキー!」
 「ゴーリキ!!」





    *    *    *





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、月に一回、ポケモンたちのたくましさを競う祭典、ポケモンコンテスト・コメコ大会のお時間です!!』


司会の声と共に沸き立つ会場、


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ゴローニャ&ノボル! エントリーNo.2……バクーダ&タモツ! エントリーNo.3……ナゲキ&マコト!』


一匹ずつ順に、スポットライトが当たる。

対戦相手はやまおとこのおじさんがゴローニャ、キャンプファイヤーのお兄さんがバクーダ、バトルガールの女の子がナゲキを使っているようだ。

ゴローニャ、バクーダ、ナゲキ……やっぱり、ウルトラランクともなると、他の3人は最終進化系……。

でも、コンテストでは進化してることがイコールで強さには直結しない。

とにかく、まずは一次審査だ……!!


司会『エントリーNo.4……ゴーリキー&ヨウ! お、おおっと──!?』


スポットライト共にゴーリキーが着ている白を基調とした衣装が光を反射する。

──今回の衣装テーマは……ずばり船乗り……!

真っ白な衣装に袖と襟に青いライン。水兵帽に青いスカーフをして、まさにザ・船乗りな自信作!

やっぱり、たくましさの象徴と言えば船乗り……これしかないよね!

……何故か、ことりさんは、


 ことり『ええっと……船乗りさん? う、うーん、確かにたくましいけど……』


と微妙な反応をしていたけど、会場を見ればそれははっきり──


司会『これは……船乗りでしょうか!? たくましさコンテストで衣装まで用意してくるとはよほどの船好きでしょうか!!?』
568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:55:53.66 ID:IYa5VeT80

……あれ?

概ね会場は盛り上がってるけど……なんかちょっとざわついてる?


司会『さあ、一次審査の開始です!! ゴローニャは緑、バクーダは赤、ナゲキは黄色、ゴーリキーは青でお願いします!』


会場審査が始まる。

青は……たぶん会場の3分の1以上はある……!


曜「あれ……おかしいな。ぶっちぎりで一位だと思ったんだけど……」


思わず小さく呟いてしまう。

……あれー?


司会『さて、インパクトのある、船乗り衣装が気持ち優勢でしょうか!! 間もなく投票を締め切りますよー!!』


……なんか思ってたのと反応が違う……けど、まあとりあえず滑り出しは悪くない、かな?


司会『さて、ここで投票締め切りです! それではお待ちかね、二次審査・アピールタイムです!』


それに今回はことりさんから二次審査の戦い方も教わったんだ──


────────
──────
────
──



ことり「まず最初に、コンテストはどうしたら優勝できる?」

曜「ポケモンの魅力を最大限に引き出して、会場のお客さんに見せることだと思うであります!」


即答。


ことり「うん、正解♪ ……でも、コンテストは競技だし、妨害もある。いつでも思い通りに自分のアピールが出来るとは限らないよね」

曜「うん」

ことり「特にたくましさ大会とかっこよさ大会では、妨害技も多いから……妨害特化、荒らし技で周りのアピールを邪魔しながら、結果として一番目立つって言う作戦が他大会に比べて多いの」

曜「えっと……“かみくだく”とか、“のしかかり”とか?」


確かこの二つはたくましさの技の中でも直前にアピールしたポケモンを大きく驚かす技だったはず。


ことり「うん、曜ちゃんよく勉強してるね♪ それは本当に妨害のための技。たくましさだとアピールも両立出来るのは“いわなだれ”とか“だくりゅう”、“ダストシュート”とかかな」

曜「じゃあ、そういうことも踏まえた対策は……」

ことり「“てっぺき”、“とける”、“ワイドガード”とかだね。アピールを両立するなら、“あなをほる”、“かたくなる”とか……その分防御は薄くなっちゃうけど」


こうして部門ごとに技がすらすら出てくるのはさすがことりさんと言ったところだろう。


ことり「状況に応じて、自分も妨害したり、防御技も使える対応型のコーディネーターさんが自然と増えてくのも上位大会の特徴かな。ただね……」

曜「?」

ことり「曜ちゃんが目指すべき作戦はそういうのじゃなくて──」


──
────
──────
────────

569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:56:58.43 ID:IYa5VeT80

司会『さあ、二次審査はゴーリキー、ゴローニャ、ナゲキ、バクーダの順で始まります!』


コンテストは妨害もあるから、アピールが万全に出来るとは限らないけど……。


曜「ゴーリキー! “かいりき”!!」
 「ゴーリキ!!!」

 《 “かいりき” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ゴーリキー +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


ゴーリキーは床に指を付きたてた後──

……ステージごと床を、引っぺがした。


司会『おおっと!! いきなり会場をぶっこわしにきたー!!!』


──たくましさをアピールすると、必然的に激しいアピールでコンテスト会場が壊れてしまう。

故にたくましさ会場は開催数が極端に少ないのだ。

頭の痛いジレンマだけど、ウルトラランククラスになったら、使えるアピールは最初から全力で……!!


曜「持ち上げる!」
 「リキッッ!!!!!」


そのまま、さっきまで会場ステージの一部だった塊を持ち上げ、

 「ゴーーリキッ!!!!!」

音を立てて震脚しながら、ゴーリキーは岩塊を掲げる。

……と、同時に会場が歓声で沸き立った。


司会『もはや、たくましさコンテストでは名物の会場割りですが、やはり圧巻ですね!! 審査員の方々もこれを見に来たと言わんばかりの表情です!!』


……よし! いける……!!



──────
────
──


曜「──目指すべき……?」

ことり「曜ちゃん自身は対応タイプのコーディネーターさんな気はするけど……やりたいことはそうじゃないでしょ?」

曜「やりたいこと……」

ことり「うん、コンテストライブで、どうしたい?」

曜「……自分のポケモンに似合う衣装で、会場を魅了したい」

ことり「うん♪ なら」

曜「最初から最後まで、ポケモンの持ってる魅力で圧倒する……!」

ことり「そういうこと♪ 曜ちゃんの目指すべきところは、とにかく魅力的な衣装と技で会場を沸かせることだけを考えるアピール特化!」


──
────
──────

570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:58:12.92 ID:IYa5VeT80

私が今回目指すのは、とにかくぶっちぎりで周りを置いていくことだ、

ただ、ことりさん曰く──『アピール特化を狙い撃ちした妨害特化もいるから、あくまで方向性として、だけどね』──とのこと。

状況を見て、あまりに狙い撃ちされるようなら、考える必要があるけど、

あくまで第一目標は自分たちのアピールをしっかり決めること……!!


ノボル「ゴローニャ、“てっぺき”だ」
 「ゴローニャ」

 《 “てっぺき” たくましさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   ゴローニャ◆ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


一方ゴローニャは初手は手堅く様子見。


マコト「ナゲキ!! “やまあらし”!!」
 「ゲキ!!」

 《 “やまあらし” たくましさ 〔 どの コンテストで みせても 必ず 盛り上がる アピール 〕 ♡♡
   ナゲキ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


そんなゴローニャをすかさず、ナゲキが背負い投げる、

──ズン!!

300kgの巨体が、コンテスト会場を揺らす。


司会『おおっと、ナゲキがアピールのためにゴローニャを投げ飛ばしました!!』


ノボル「はっはっは、元気だねぇ」
 「ゴロー」


一方でゴローニャは丸まったまま、全く動じない。


司会『ゴローニャ、“てっぺき”による防御力を見せ付けます! 一方ナゲキも妨害にはなりませんが、素晴らしいたくましさですね……!』


ぐらぐらとゴローニャの衝撃で揺れるなか、ゴーリキーは岩を持ったままだ。


曜「ゴーリキー、大丈夫っ?」
 「リキ!!!!」


どうやら、平気だ。よし、好調なまま次のアピールに──。

思った矢先、


タモツ「バクーダ! “じしん”!」
 「バクー!!!」

 《 “じしん” たくましさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜
   バクーダ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


バクーダがさらに大きな揺れを発生させる。
571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:08:15.70 ID:IYa5VeT80

曜「わっ!?」
 「リキ!!!?」

 《 ゴーリキー -♥♥♥
   Total [ ♡♡ ] 》

足元を揺らされた衝撃で、ゴーリキーは岩を手から滑らせる。


 「ゴローニャッ」

 《 ゴローニャ◆
   Total [ ♡♡ ] 》

ゴローニャは“てっぺき”で防いでいる。


 「ゲキッ」

 《 ナゲキ -♥
   Total [ ♡♡ ] 》

ナゲキもゴーリキー同様バランスを崩して減点。


司会『おっとぉ!! ここで更なる妨害!! ゴーリキーが岩を落としてしまいました!!』

曜「……!」

タモツ「足元注意だな」

司会『さあ、序盤から激しいアピールの応酬です!!』

曜「……ゴーリキー、ドンマイ!」
 「リキ…!!」


……いや、最初から失敗の可能性は折り込み済みだ。

その上で自分のアピールを優先する。

──ペースを乱されないようにするんだ。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ゴーリキー  ♡♡♡♡♡ ♥♥♥ [ ♡♡  ]
   ゴローニャ  ♡♡        [ ♡♡  ]
      ナゲキ  ♡♡♡ ♥     [ ♡♡  ]
    バクーダ  ♡♡♡       [ ♡♡♡ ]                 》


司会『さあ、二次審査2ターン目! バクーダ、ゴーリキー、ゴローニャ、ナゲキの順番にお願いします!』

タモツ「バクーダ! “マグニチュード”!!」
 「バグッ!!!!!」

 《 “マグニチュード” たくましさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡
   バクーダ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


──再び、バクーダが会場を揺さぶる。


司会『お、おおっととと、畳み掛けるように、バクーダが会場を揺さぶります!! これは大きな加点が期待できますね!!』


“マグニチュード”は確か、会場の盛り上がりにあわせて評価が変わる技だったはず、更にエキサイトはMAXだから──。


タモツ「バクーダ、ライブアピールだ! “強烈な縦揺れ”を起こせぇ!!」

 《 “強烈な縦揺れ” たくましさ 〔 たくましさ部門 じめんタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   バクーダ +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


その名の通り、“強烈な縦揺れ”が発生し、それに伴いステージが大きくひび割れる。
572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:09:24.21 ID:IYa5VeT80

司会『たくましいライブアピールが決まりました!!』


バクーダによる、かなりの加点が出来るアピール……しかも全てが噛み合った完璧なタイミングだ。

いや、でもいい。関係ない。

私の戦い方に周りの動きは関係しない。


曜「……ふー」
 「リキ」


先ほど、ゴーリキーが手から取りこぼした、岩塊を目の前に、息を整える。

“マグニチュード”の揺れが収まり、私のアピールが一番光る瞬間を見極めて──


曜「“からてチョップ”!!」
 「ゴーリキッ!!!!」

 《 “からてチョップ” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ゴーリキー +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


──手刀を振り下ろす。


司会『!! これは素晴らしいチョップだ!! 大きな岩が真っ二つです!!』


目の前の岩が正中からバックリと割れて、そこから開くように崩れ落ちる。

その光景を見て、会場が再び沸きあがる。


曜「……よし!」


大丈夫、負けてない。


ノボル「ゴローニャ」
 「ゴローニャ!!!」


今度はゴローニャが、会場を殴りつけ、その反動で割れたステージの欠片が宙を舞う。


ノボル「──“いわおとし"!」

 《 “いわおとし” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ゴローニャ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


そのまま、砕かれた破片は岩となって、降り注ぐ。


司会『さあ、再び会場が破壊されています! 2ターン目でありながら、もはや会場はボロボロだぞぉ!?』


──降り注いでくる岩。

避けるか? いや……。


マコト「ナゲキ!!」
 「ゲキッ!!」

曜「ゴーリキー、そのままで」
 「リキ」


横のバトルガールの女の子が動き出したのを見て、ゴーリキーに動く必要がない旨を伝える。
573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:10:33.37 ID:IYa5VeT80

マコト「“リベンジ”!!」
 「ゲキッ!!!」

 《 “リベンジ” たくましさ 〔 1番 最後に アピールすると アピールが すごく 上手くいく 〕 ♡♡〜♡♡♡♡♡♡
   ナゲキ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》



ナゲキは会場中に降り注ぐ岩を拳で叩いて、割り砕き、

──最後に振ってきた多きめな岩を背負い投げるようにして、


 「ゲキッ!!!」


会場に叩き付けた。


司会『逆に“いわおとし”を利用してのアピール!! これはたくましい!!』


これは確かにたくましい……!

会場も盛り上がっている、高評価だ。


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
    バクーダ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ]
   ゴーリキー ♡♡♡♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡          ]
   ゴローニャ ♡♡♡♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡          ]
      ナゲキ ♡♡♡♡♡⁵♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡        ] 》


司会『さあ、ウルトラランク!! 白熱してまいりました!! 第3ターン、バクーダ、ナゲキ、ゴーリキー、ゴローニャの順です!!』

タモツ「バクーダ! “とっしん”!」
 「バクッ!!!」

 《 “とっしん” たくましさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡
   バクーダ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


第3ターンの開始と同時にバクーダが飛び出す。

ナゲキが最後に背負い投げした、岩に向かって。

そのまま、岩に体をぶち当てて、バクーダがアピールをする。


マコト「ナゲキ!!」


──が、

その岩陰にいた、ナゲキはバクーダをいなすように手を伸ばし、


 「バク!?」

マコト「“のしかかり”!」
 「ゲキッ!!!」

 《 “のしかかり” たくましさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   ナゲキ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


そのまま、押さえ込むように圧し掛かる。
574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:11:33.59 ID:IYa5VeT80

 「バクゥッ!!?」

 《 バクーダ -♥♥♥♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

タモツ「!!」

司会『おっと!!! 乗りに乗っていたバクーダをナゲキが手堅く咎めます!!』


──今朝ことりさんとも話してた“のしかかり”。

直前の相手のアピールを激しく咎める技だ。

やはり、妨害合戦になってきた。

加えて、エキサイトゲージはMAXに──


マコト「ナゲキ! “屈強なる鉄砲玉”!!」
 「ゲキッ!!!!」

 《 “屈強なる鉄砲玉” たくましさ 〔 たくましさ部門 かくとうタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ナゲキ +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


ナゲキが走り出し、周囲に落ちている岩石たちを、その勢いで一気に割り砕く。


司会『さあ、必殺のライブアピールが炸裂しています!!』


周りのポケモンたちが順調をアピールを重ねている。

でも焦るな……いや、むしろ自分たちのアピールをしっかりと……!


曜「ゴーリキー」
 「リキ」


ゴーリキーは割り砕かれた岩石たちの中で比較的大きいまま残っているものの前まで、のしのしと歩いていき、


曜「“いわくだき”!!」
 「ゴゥ!!!!」

 《 “いわくだき” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ゴーリキー +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


岩に向かって、正拳突き……!!

大きな岩は、

時間差で、

ヒビ入り──割れ崩れた。


曜「……っし!!」
 「リキッ!!!」


あくまで私のアピールは手堅く。


ノボル「ゴローニャ、“じならし”だ!」
 「ゴローー!!!」

 《 “じならし” たくましさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ゴローニャ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:13:36.83 ID:IYa5VeT80

ゴローニャがピョンと跳ねて、その体重で再び会場を揺さぶる。

全体妨害技……!!

 「リキッ!!!」「バクゥゥゥ!!!!」「ゲキッ」

 《 ゴーリキー -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 バクーダ -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 ナゲキ -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》


不安定な足場に全員が体勢を崩す。


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
    バクーダ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ]
      ナゲキ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ]
   ゴーリキー ♡♡♡♡♡ ♥♥              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡     ]
   ゴローニャ ♡♡♡                    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ] 》


司会『さあ、混戦模様ですが、このまま4ターン目です! ナゲキ、ゴーリキー、ゴローニャ、バクーダでお願いします!』


マコト「ナゲキ! “ちきゅうなげ”!!」
 「ゲキッ!!!」

 《 “ちきゅうなげ” たくましさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡
   ナゲキ +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ナゲキは会場に大量に落ちている岩の中から大きめのモノを選び、背負い投げるようにして、空に放り投げる。

手堅くたくましいアピール。

そしてゴーリキーは、さっきの“いわくだき”がうまく行った証拠か、4ターン目はライブアピールを決めたナゲキに付ける形で2番目のアピール。

ここは最後の大技のことを考えて、


曜「ゴーリキー、“がまん”」
 「リキ…」

 《 “がまん” たくましさ 〔 この次の アピールを 終わりの方に だすことが できる 〕 ♡♡♡ C
   ゴーリキーC +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


ゴーリキーを落ち着かせる。


司会『おっと、ゴーリキー。勢いに任せず、一旦体勢を立て直すようです』


今は精神を集中させる。最後の一撃のために。


ノボル「がっはっは、随分大人しいな! ゴローニャはもっとたくましいぞ!」
 「ゴローニャッ!!!!!」


言うと同時にゴローニャが最初のゴーリキーのように床に手を突く。

 「ゴロォオーー!!!!!」

そのまま、ゴローニャが鳴き声をあげると──ミシミシと、ヤバイ音が聞こえる。

ステージ上に更なるヒビが入り、
576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:24:06.36 ID:IYa5VeT80

ノボル「ゴローニャ! “ばかぢから”ァ!!」
 「ゴロオオオオォニャ!!!!」

 《 “ばかぢから” たくましさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡
   ゴローニャ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


曜「うわっ」

マコト「!」


最初のゴーリキーが持ち上げたものよりも、遥かにでかい──と言うか、自分の身体の倍以上ある、さっきまでステージだったものを持ち上げる。


ノボル「がっはっは!!」

司会『4ターン目も会場がぶっ壊されていきます!! もはや、ステージ上に立つ場所がほとんど残っていません!』


司会の人の言う通り、隅の方から指示を出す私たちの立ち位置以外、ほとんど残っていない。更に──


ノボル「ライブアピールチャンスだなぁッ!! ゴローニャ!! “ロック&プリズナー”!!」
 「ゴロォォーーー!!!!!!!」

 《 “ロック&プリズナー” たくましさ 〔 たくましさ部門 いわタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ゴローニャ +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


ゴローニャの周囲に巨大な石柱が競り上がり、ゴローニャを巻き込んで持ち上げる。

その石柱を内側から穿つように割り砕き、ゴローニャが自らのたくましさをアピールする。


司会『本日3回目のライブアピール!! 各々が自身をアピールするために、破壊の限りを尽くしております!!』


タモツ「なら、さらに壊そう!! バクーダ! “じわれ”!!」
 「バクウウウ!!!!!」

 《 “じわれ” たくましさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜
   バクーダ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


バクーダを中心に会場に亀裂が走る。


ノボル「のわっ!?」
 「ゴロッ!!!?」

 《 ゴローニャ -♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

ゴローニャはせっかく大きくポイントを稼いだが、“じわれ”による妨害で大きく体勢を崩して、失点してしまう。


 《 ナゲキ -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》

 《 ゴーリキーC -♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 「ゲキッ」「リキ…ッ!!」


ついでと言わんばかりに、ナゲキとゴーリキーも僅かな失点を貰う。


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
       ナゲキ ♡♡♡♡ ♥♥                      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ]
   ゴーリキーC ♡♡♡♡ ♥♥                      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡     ]
     ゴローニャ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡        ]
      バクーダ ♡♡♡                         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡     ] 》
577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:25:51.00 ID:IYa5VeT80

司会『もはや会場はめちゃくちゃですが、泣いても笑っても、次がラストターン!! バクーダ、ナゲキ、ゴローニャ、ゴーリキーの順でラストアピールです!!』


“がまん”していたため、ゴーリキーは後ろに回される。

 「リキ──」

最後の最後に向けて、集中を始める。


タモツ「バクーダ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「バグゥ!!!!」

 《 “ヘビーボンバー” たくましさ 〔 1番最後に アピールすると 会場が とても 盛り上がる 〕 ♡♡♡
   バクーダ +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


一方一番手、バクーダが飛び出して、先ほどゴローニャが取りこぼした、会場を体重を乗せてさらに踏み砕く。


マコト「ナゲキ!! “ギガインパクト”!!!」
 「ゲキッ!!!!」

 《 “ギガインパクト” たくましさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ナゲキ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


 「バグゥ!!!」

 《 バクーダ -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》


そのバクーダごと、殴り飛ばす破壊の一撃──“ギガインパクト”!!


司会『最終アピール!! 大技です!!』


会場を破片が飛び荒び、砂煙が立ち込める。

そんな中、のしのしとボロボロの会場を闊歩する、ゴローニャは──


ノボル「がはは──“だいばくはつ”だ!」
 「ゴロ──!!!」

 《 “だいばくはつ” うつくしさ 〔 すごいアピールに なるが このあと 最後まで なにも できなくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡♡♡
   ゴローニャ +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


──大きな破砕音を立て、会場の中心でゴローニャが爆発する。


司会『やはり出ました!! ゴローニャのお家系、“だいばくはつ”!!!』


ただでさえ、無茶苦茶な会場は爆炎を交えて、もはや前が見えない。

このまま、ゴーリキーは存在を忘れられそうな勢いだが、

──それでいい。


曜「ゴーリキー」
 「リキ」


この激しいラストアピールの間、一切動かず、精神集中して待っていた。

自分の順番が回ってきたゴーリキーは集中力を高め、
578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:26:38.48 ID:IYa5VeT80

曜「──たくましく……!!」

 「リキッ!!!!!!!!」


会場の煙も瓦礫も爆炎も全てを、掻き消すように──

全てを拳圧で消し飛ばす、ただ一発の拳によるアピール……!!


曜「“きあいパンチ”!!」
 「ゴゥッッ!!!!」

 《 “きあいパンチ” たくましさ 〔 1番 最後に アピールすると アピールが すごく 上手くいく 〕 ♡♡〜♡♡♡♡♡♡
   ゴーリキー +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


気合いの拳は拳圧だけで、周囲の瓦礫などまるごと、


司会『おぉっと!!?』


全てを吹き飛ばした。

会場が一瞬──シンとなったあと、


司会『……は、破天荒極まる会場の中、最後はゴーリキーが拳圧で全てを吹き飛ばしましたー!!! 最後のアピールは文句なしの大成功です!!』


静寂は司会者さんの実況を皮切りに、歓声に変わる。


曜「──押忍!」
 「リキッ…!!」


私は歓声を受けながら、ゴーリキーと共に仁王立ちする。


司会『さあ、これにて二次審査終了です!!」

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
    バクーダ ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡          ]
      ナゲキ ♡♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡ ]
   ゴローニャ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡      ]
   ゴーリキー ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡   ] 》


司会『これより、最終結果に移らせていただきます!!』


壮絶な光景になった会場の中、ドラムロールと共に、スクリーンに優勝者の名が──


司会『……それでは、発表します。コメコたくましさコンテスト・ウルトラランク……優勝者は──!!!』





    *    *    *


579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:27:36.49 ID:IYa5VeT80


──コンテスト終了後。

改めて、観客席から会場を眺めてみると……。


曜「あはは……確かにこれは、月イチ開催になるかな……」


ステージ上はほとんどが割れ砕け、陥没している。

アピール中は気づかなかったが、照明や他の大道具も傾いたり、曲がったりしている。

むしろ、これ一ヶ月で直るのかな……?


 「ゴゥリキ」
曜「まあ、一個くらいはこういう大味な大会になるのかな……たぶん」


……ポケモンの魅力はそれくらい奥が深い、と言うことにしておこう。

そして、崩れかけの会場の大スクリーンには最終結果が映し出されていた。


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【ゴローニャ】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡        〕
   【 .バクーダ 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡            〕
   【 ナゲキ  】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡       〕
  ✿【ゴーリキー】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


曜「じゃ……ゴーリキー、いこっか」
 「リキ」


ゴーリキーと共に会場を後にする。

4番道路を抜けて、ダリアシティに向かうために、私たちは歩き出す。

私の横をのっしのっしと歩くゴーリキー。

 「ゴーリキ」

その胸には、黄色いリボンが──たくましさコンテストウルトラランクを優勝したことを証明するリボンが揺れていた。

──さて、次はダリアかしこさコンテストだ……!!


580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:29:06.62 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.25  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.27 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.22 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.27 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.31 ? 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.12 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:106匹 捕まえた数:18匹 コンテストポイント:12pt


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 18:13:57.40 ID:IYa5VeT80
>>580 訂正


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
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 手持ち カメール♀ Lv.25  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.27 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.22 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.27 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.31 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.12 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:106匹 捕まえた数:18匹 コンテストポイント:12pt


 曜は
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...To be continued.



582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:38:29.32 ID:IYa5VeT80

■Chapter044 『グレイブ団と宝石と?』 【SIDE Ruby】





──ダリアシティ。

花丸ちゃんと一緒に辿り着いたこの街では、街中を研究者や大学の生徒さんが歩き回っています。

ルビィはセキレイシティのときと同じようにコツコツと聞き込み調査をしているところでした。


ルビィ「あの、すいません」
 「チャモ」

研究員「? 何かしら」

ルビィ「グレイブ団って人たちがこの辺りに居るって聞いたんですけど……」

研究員「グレイブ団……確かそこの裏道の奥に研究室があった気がするけど……。余り近付かない方がいいと思うわよ」

ルビィ「そうなんですか?」

研究員「宝石の研究をしてるらしんだけど……どうにも、その集め方がかなり強引だって悪い噂を聞くわ」

ルビィ「そうですか……」

研究員「貴方みたいに、ちっちゃい女の子が一人でウロついてたら攫われちゃうかもしれないし……あんまりフラフラしていちゃダメよ」

ルビィ「ぅ……は、はい。ありがとうございます……」
 「チャモ…」


ルビィ、これでも15歳なんだけど……。

さて──聞き込みの調査結果……。


ルビィ「やっぱり、グレイブ団さんは街でもちょっと浮いてる人たちみたいだね」
 「チャモ?」


宝石に関連する人物像から理亞さんに結び付けようと、グレイブ団の聞き込みを始めて、半日ほど。

グレイブ団はどうやら、宝石を集めていると言う噂が真実味を帯びている。

その中にはポケモンの名前もいくつかあって、

ダリアシティの学生さんや研究員さん曰く、バネブーやパールル、サニーゴと言った宝石を持っているポケモンを捕獲している。

そして、何よりルビィが引っかかったのは、


ルビィ「最近はメレシーやヤミラミの研究をしてるところを見たって人が結構居たこと……」
 「チャモ」


ダリアシティは学園都市だから、研究室間での交流が度々あるらしく、中にはグレイブ団の研究室を見に行ったことがある人も居るようで……。

──ただ、気になるのは、人によって評価がわかれるところ。

ポケモンの捕まえ方や、強引さに難色を示す人が多い反面、研究結果や実績などはこの都市内でもそれなりに良いらしい。そのため、同じ研究者として必ずしも悪いとは言い切れないって考えている人も少なくない感じだ。


ルビィ「まあ、場所がわかったからって……一人で勝手に研究室に行くわけにはいかないけど……」
 「チャモー」


目の前をとことこ歩くアチャモを目で追いかける。


ルビィ「はぁ……こんなとき、花丸ちゃんが居れば……」


花丸ちゃんなら、ルビィよりもこの街に詳しいだろうし……。

ルビィが一人、溜息を吐いていると──

 「アブブ」

アブリーが飛んでくる。
583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:41:00.08 ID:IYa5VeT80

ルビィ「あ、アブリー! おかえり」
 「アブアブブ」


アブリーは私が手を持ち上げると、掌の上に留まる。


ルビィ「花丸ちゃん……どうだった?」
 「アブブブ」


アブリーは首──がどこかはわかんないけど、恐らく否定の意味で身体を左右に振る。


ルビィ「はぁ……やっぱりかぁ……」





    *    *    *





さて、花丸ちゃんがどこに行ってしまったか……なんだけど、

ルビィはダリア図書館に足を運び、そのまま2階に進んでいく。

──見渡す限り、本、本、本──な館内を奥へと進んでいくと、


花丸「…………」


花丸ちゃんは図書館の奥の方で、本を自分の横に山積みにしたまま読書に耽っていた。


ルビィ「花丸ちゃん」

花丸「…………」

ルビィ「マルちゃん、花丸ちゃーん」

花丸「……ずら? ルビィちゃん、どうしたの?」

ルビィ「どうしたのじゃないよ……聞き込み、そろそろ手伝って欲しいなって……」

花丸「あ、そうだったね! えっと、この本が読み終わったら行くから……」

ルビィ「う、うん……」


それはさっきも聞いた。

──と言うか、今読んでるのさっきの本じゃないし……。

花丸ちゃんは本が大好きで、いつかダリアの大図書館に行ってみたいと言うのは前から、聞かされていたけど……。

まさかここまでとは思わなかった。


花丸「…………」


確かに学校にある小さな図書室の本はほぼ全て読破しちゃったって言ってたし、『大図書館だったら何日も過ごせるね』なんて笑い話をしてたんだけど……。


ルビィ「これじゃ、何日どころか……何年経っても読み終わらないよね……」

花丸「…………」


天井までそびえ立つ本棚を見て、思う。
584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:42:45.34 ID:IYa5VeT80

ルビィ「ねぇ花丸ちゃん」

花丸「…………」

ルビィ「ルビィ、グレイブ団さんのこといろいろ聞き込みしてきたんだけど……」

花丸「……ずら?」


とりあえず、このまま放っておいたら文字通り一生終わらない気がしたから、無理矢理会話を振ってみる。


ルビィ「グレイブ団さんはこの街に研究室を持ってるみたいで、その人たちが宝石を集めてるのはホントみたい。ダリアシティの学生さんとか研究員さんがそう言ってた」

花丸「……確かに研究室同士なら交流もあるだろうし、信憑性があるずら」

ルビィ「うん。あとメレシーやヤミラミの研究もしてるみたい」

花丸「……なるほど、それは確かにマルたちが追ってる人物像に近いね」


ルビィたちが追っている人物像──理亞さん。

ただ、これ以上は恐らく中に入らないとわからない。


ルビィ「だから、花丸ちゃん」

花丸「……わかった。一緒に研究室に行ってみようか」

ルビィ「! うん!」


どうやら、わかってくれたみたい。

近くに積んであった本を棚に戻し始める。


花丸「えっと……じゃあ、この本だけ借りる手続きしてくるから、外で──」

ルビィ「一緒に付いてくね」

花丸「え、大丈夫だよ。ルビィちゃんは先に──」

ルビィ「ほら、早くカウンター行くよ? 花丸ちゃん」

花丸「え、え? う、うん?」


このまま一人にしたら、また花丸ちゃんはここに根っこを生やしちゃうから、

ルビィはそう思って、花丸ちゃんを引き摺るように一緒に貸し出しカウンターに歩いていくことにしました。





    *    *    *





花丸「……グレイブ団は随分、街の目立たないところに研究室があるんだね」

ルビィ「そうだね……」


再び街往く人たちに聞いて、研究室の詳しい場所を教えてもらった。

どうやら、研究室自体は一般開放してるところが多いらしい、

もちろん研究の全てを完全公開したりしてるわけじゃないけど、基本的には来るもの拒まずで研究の同胞を増やすのが目的みたい。

とりあえず二人でそこを目指すことに。


花丸「ルビィちゃん……なんならマル一人で行くのもありだと思うんだけど」

ルビィ「……うーん」
585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:44:42.83 ID:IYa5VeT80

その言葉を聞いてルビィは唸る。

マルちゃんの懸念は、言うまでもない。ルビィの身の安全についてだ。

ルビィは理亞さんに攫われた。その理亞さんを探して、手掛かりになりそうな場所にこれから行くのだから。

──もし、仮に理亞さんがグレイブ団に所属している人間なら、ルビィは狙われる対象になる。


ルビィ「でも、ルビィが言い出したことだし……危険なのはわかってるというか」

花丸「……虎穴に入らずんば、虎子を得ず……ずらね」


どっちにしろ、会えたからと言って、はい落ち着いてお話しましょうと言うことにはたぶんならないと思う。

別に攫われたいわけじゃないけど……。


ルビィ「前と違って、戦う手段はあるし……!」


あのときとは違う。ルビィには4匹の仲間がいる。


花丸「勝つことは出来なくても、騒ぎが起きれば人が来るもんね……」


もし襲われるようなことがあれば手持ちで戦う。戦えば騒ぎになるから、誰かしら来るだろう。

……ちょっと無責任な考え方かもしれないけど……どっちにしろ、探してる当の本人が指名手配犯なわけで……その人を探してる理由もルビィが『ただの悪い人だとは思えない』って言う曖昧な理由だし……。

どうやっても、現状では万人が納得するような理由は、説明出来ない。


ルビィ「それにもし、本当に理亞さんがいたら、花丸ちゃんだって安全とは限らないし」

花丸「……まあ、マルも顔は見られてるもんね」

ルビィ「だから、お互いがお互いを守れるように。一緒にいこ?」

花丸「わかったずら」


花丸ちゃんの了承を得て、ルビィたちはダリアの街を奥へと進んでいきます。





    *    *    *





ルビィ「し、失礼しまーす……」


裏路地を抜けて、少しだけ開けた場所に研究室があった。

言われたとおり一般開放されている場所で、扉を開けて中を覗く。

……中には人気がなかった。


ルビィ「……誰もいないのかな……?」

花丸「無用心ずら」


二人で室内へと入っていく。

入ってすぐ目の前にあるホワイトボードには、


ルビィ「『研究室に御用の方は奥の部屋までお願いします』……だって」

花丸「なんか誘い込まれてる感じがするずら……」

ルビィ「……そうだね」
586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:47:40.28 ID:IYa5VeT80

さて、どうしようか……もとから敵陣の可能性も考えてきてるわけだし、必要以上に立ち往生をする必要もないかもしれない。

室内を見回すと、棚には宝石が置いてある。研究に使うものなのかも。

そのとき、カタカタと腰のボールが震える。


ルビィ「? コラン?」


……また、コランがボールの中で暴れてる。

こんな場所じゃなければ、出してあげるんだけど、

──ボムッ
 「ピ」


ルビィ「っわ、勝手に出てきちゃダメだよぉ……」
 「ピ…」

花丸「ルビィちゃん、あんまり騒いだら……」

ルビィ「う、うん……コラン今はボールに戻って……」
 「ピ…」

ルビィ「……? コラン?」


ふと、コランの様子がいつもと違うことに気付く。

勝手に飛び出た割に……大人しすぎる。

そのまま、ふよふよとコランは奥の部屋のドアに近付いて、

身体を使って、器用にレバータイプのドアノブを上から押して、ドアを開く。


ルビィ「あ、コラン……!」


どうしようか考えていたところだったのに、コランが入っていってしまったせいでルビィたちもなし崩し的に入ることに。

……だけど、奥の部屋にも人気は感じられなかった。


ルビィ「……留守なのかな」


コランはそのまま、部屋の奥の方にある棚に向かってふよふよと飛んでいく。


ルビィ「……?」

花丸「コラン、宝石が気になるずら……?」


コランは棚の前に着くと、その場で止まった。


ルビィ「宝石、というより……棚そのものかな……?」


コランの視線は棚──と言うか、棚の先を見ているようにも見える。

……まあ、壁があるだけなんだけど……。


花丸「それにしても、無用心だね……宝石がそのまま置いてあるなんて」

ルビィ「ん……確かに無用心だけど、ここにあるのは言うほど高価じゃないよ……?」

花丸「ルビィちゃんは金銭感覚がおかしいずら……確かにちっちゃい宝石ばっかだけど」

ルビィ「……ううんそれだけじゃなくて……ここに置いてあるのはホントに安めの宝石だし……」

花丸「……安めってどれくらい……?」

ルビィ「うんと……ほとんど加工してない状態のが多いから、10円もしないくらいのもあるかな。高くても1000円くらい」

花丸「え、そんなに安い宝石ってあるの……?」

ルビィ「宝石って言っても加工してないとそこまでじゃないのも多いんだよ。シリトン、ターコイズ、ラピスラズリ、水晶なんかはあんまり値段しないし」
587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:50:05.79 ID:IYa5VeT80

もちろん大きさとか、状態によっても変わるけど……。


花丸「さすがクロサワ家の子ずら……詳しいね」

ルビィ「メレシーのこと知ろうとすると自然と宝石に詳しくなるから……でも、コラン、ここになにかあるの?」


依然として、静止したまま棚を見つめているコラン。

改めて棚を見てみると、そこにある宝石は普段から人が触っている痕跡が見られる。

そういう意味でも状態の良い宝石とは言い難い。

試しに手に取ってみてみるけど……。


ルビィ「うん……やっぱり、店頭に並んでるものとは違って、そんなに高価な石じゃないと思うよ」

花丸「じゃあ、実験用……とかなのかな?」

ルビィ「……だと思う」


宝石は工業用に加工されるものも多いし、何よりここは研究室だ。研究や実験用途と考えるのが自然だと思う。

いくつか手に取って見て、棚に戻す。


花丸「? ルビィちゃん、なんで並び替えしてるの?」

ルビィ「え? ……あ、えっと……癖で」


言われて気付く。なんとなく、希少性順に並び替えをしてしまっていた。お母さんから将来のために、と宝石目利きの授業を受けていた影響かも……。

……とは言っても、これらの石はさっきも言ったとおりそんなに価値の高いものじゃないから、それなりに詳しくないと希少性順に並び替えたと言ってもわからないだろうけど……。

最後の一個を戻したところで、

──ガコン。

音がした。


ルビィ「ぴぎ!?」

花丸「なんずら?」


何かが外れるような音が鳴り、ガタガタと目の前の棚が揺れ始める。

そのまま、宝石棚が奥側にスライドし始める。


花丸「こ、これは……未来ずら……!!」

ルビィ「え、え、なに……?」


そして、きっちり棚一個分後ろに下がった後、棚が横にスライドし、


ルビィ「こ、これ……」


先ほどまで宝石棚があった場所はぽっかりと口を開けていた。

棚の裏側に通路が出現した。


ルビィ「隠し通路……?」
 「ピ」

ルビィ「あ、コラン……!」


コランはふよふよと通路の中に入っていく。


花丸「この先に何かあるずら……?」

ルビィ「ち、ちょっと待って、コラン」
588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:52:27.40 ID:IYa5VeT80

コランを追いかけて、ルビィたちも通路の中へと進むと、

──ガコン。

再び音が鳴る。


ルビィ「ぴぎ!?」

花丸「ずら?」


背後を振り返ると、宝石棚が元に戻ろうとしている──つまり、通路の出入り口が閉まろうとしていた。


ルビィ「え、あ、しまっちゃう!」


早くコランを、戻して外に出ないと……!

……だけど、コランは既にさらに奥の方まで飛んでいってしまっている。

コランを放っておくわけにはいかない。

ルビィはコランを追いかけて、通路を奥に向かって駆け出す。


花丸「あ、ルビィちゃん、待って!」


──ガタン……。

背後で棚が完全に閉まる音がした。





    *    *    *





ルビィ「コラン、どうしたの……!」
 「ピ」


コランが再び止まっていた、その場所には、


ルビィ「……え?」


大きく透明な硝子のシリンダー。

そして、中には──


ルビィ「メレシー……」


メレシーが居た。コランとは違う、別のメレシー。


花丸「……ル、ルビィちゃん……」


後ろから花丸ちゃんが遅れて追いついてくる。


花丸「え……こ、これ、メレシーずら?」

ルビィ「う、うん……」


その中でメレシーは固まったまま、動かない。眠っているのかもしれない。


ルビィ「コラン……もしかして、このメレシーに引き寄せられたの?」
 「ピ」
589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:58:14.89 ID:IYa5VeT80

肯定とも否定とも取り辛いけど……お姉ちゃんのボルツもコランに何かあると、離れててもわかるみたいだし、メレシー同士何か通じることがあるんだ。恐らくそういうことだと思う。


花丸「このメレシー……クロサワの入江から……?」

ルビィ「ううん、他の地方から捕まえてきたメレシーだと思うよ。入江にいる特殊なメレシーと違って、他の地方に一般的にいる種類だし……」


目の前のメレシーが身に纏っているのは、特殊な宝石ではなく、まさにメレシーの原種とでも言うべきなスタンダードな宝石だ。

……でも、なんでこんなところに……?

改めて、辺りを見回すと、暗がりの中で硝子のシリンダーがいくつもあることに気付く。

その中にはさらに数匹のメレシーに加えて……。


花丸「バネブー、パールル……サニーゴ、ヤミラミ、これはヒトデマンずら……?」


何種類かのポケモンが並んでいた。

いずれも、大人しく眠っている。


ルビィ「……」


明らかに異様な場所だ。

そんなことを考えていると、奥から、

──足音が聞こえてきた。


ルビィ「!?」

花丸「ルビィちゃん!」


花丸ちゃんが咄嗟にルビィの手を引く。

コランを抱きかかえるようにして、そのまま大きなシリンダーの影に隠れるようにして、二人で身を屈める。

程なくして、


 「……どうした?」

 「……通路の入口の方から音がした気がして……」


女性が二人。

影から、こっそり見てみると、淡い紫の制服を身に纏っていた。


 「まさか……この通路への入り方は、団長と幹部、研究員クラスの人間しか知らないはずだ」


……あの人たち、もしかしてグレイブ団……?


研究員1「今日ここにいるのは私たちだけだ。団長は出張中だし、理亞様も現在はクリフのアジトだ」


ルビィ「……!」


研究員2「だから、確認しに来たんじゃない……もしかしたら、通路の開け方が漏れたのかもしれないし」

研究員1「それも今日入るときに変えたばかりだろう? 通路があることに気付く奴が仮にいたとしても、あんな安物の宝石を価値順に並び替えられる人間なんて、我々のような専門家でないと不可能だ」

研究員2「……まあ、それもそうか」

研究員1「早く成果を出さないと、いつまでもここの研究所勤務のままだぞ」

研究員2「……そうね。早くアジトに行けるように、結果出さないと……」
590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:01:07.70 ID:IYa5VeT80

…………。

二人の研究員はそのまま、奥へと引き返して行った。

……ルビィたちの狙いはズバリ的中だった。

先ほど出た名前──“理亞様”。

グレイブ団と理亞さんは関係がある。

その確信が得られた。

更にクリフのアジトに居ると言っていた。居場所もわかった。

成果は十二分、問題は……。


ルビィ「どうやって、脱出しよう……」


中に人がいる以上、開ける方法はあるんだと思うけど、

開けたら、今度こそ、その音を聴きつけてさっきの団員たちが駆けつけてくるだろう。


花丸「ルビィちゃん……」


そう思って、困っていたところに花丸ちゃんが後ろから声を掛けて来る。


ルビィ「は、花丸ちゃん……どうやって、脱出しよう……」

花丸「それなら、こっち……」

ルビィ「……?」


花丸ちゃんはそう言って、身を屈めたまま、奥へと歩いていく。

そこには……。

取っ手のついた、鉄の板が壁に付けられている。

大きさは一辺50cmくらいの正方形。


ルビィ「これは……?」

花丸「たぶんダスト・シュートずら」

ルビィ「ダスト・シュート……?」

花丸「この先がゴミ捨て場に繋がってるずら。ここが秘密の研究所なら、どこか外に通じる、一方通行のゴミ廃棄口があると思って」

ルビィ「! それじゃ……!」

花丸「たぶん、ここを抜ければ外に出られる気がするずら」


どっちにしろ……このままじゃ、最初入ってきた出入り口からは出る方法がない。なら選択肢は一つ。


ルビィ「……降りてみよっか」

花丸「うん」


ルビィたちは、ダスト・シュートを滑り落りることにしました。





    *    *    *





ルビィ「コラン、ちょっとずつね……」
 「ピピ」
591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:03:11.47 ID:IYa5VeT80

ダスト・シュート内は狭いけど、身体を伸ばせば子供が通るには困らない大きさだった。

頭の上に掲げるように、コランを持って、ダスト・シュート内の斜面に体を押し付けながら、コランの揚力を利用してゆっくりと降りていく。

上を見ると、花丸ちゃんも同様に、フワンテに掴まって降りてきている。

……そのまま、時間を掛けてゆっくりと降りると、

ダスト・シュートのチューブが終わりを告げると同時に、視界が開け、


ルビィ「……ぅ」


……悪臭が漂ってくる。

眼下にはゴミ袋の山。


ルビィ「コラン、もうちょっと前に……」
 「ピピ」


パラシュートの要領で、出来るだけゴミ袋が少ない場所へ向かって、ふわふわと降りていく。

そして、ルビィから少し遅れて、花丸ちゃんとフワンテも降りてくる。


花丸「やっぱり、ゴミ集積所に繋がってたね」


花丸ちゃんが周りを見回しながら、そう言う。


花丸「いくつか、口が見えるし……何個かの研究室で共用してるみたいだね」


確かに、結構な大きさのゴミ集積所みたいだ。


花丸「この大きさだと……1ヶ月に一回くらいの頻度で回収に来るのかな……」

ルビィ「う、うん……」


花丸ちゃんは冷静に分析してるけど……。

ルビィは耐え切れずに鼻と口元を抑える。


花丸「る、ルビィちゃん!?」

ルビィ「ご、ごめん……臭いが……」

花丸「確かに……酷い臭いだね。早く脱出しよっか。たぶん、どこかに人が出入りするための通用口があるはずだから……」

ルビィ「うん……」


頷いて、歩き出した折に、

──ガサ。


ルビィ「……?」

花丸「? ルビィちゃん?」

ルビィ「今……何か動かなかった?」

花丸「え?」


暗がりの中、確かに何かが動いた気がする。


花丸「こんな場所に何かいるわけ……」
592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:05:59.16 ID:IYa5VeT80

花丸ちゃんがそう言った、

──刹那。

何かがこっちに向かって飛んできた。


ルビィ「!! コラン、“うちおとす”!」
 「ピピピ!!!」


咄嗟に指示を出し、コランが体から、石を飛ばしてソレを撃ち落した。


花丸「ずら!?」

ルビィ「やっぱり、何かいるよ!」


撃ち落したものを確認すると──。


花丸「ゴミ袋……?」


ゴミ集積所らしいモノが飛んできていた。

でも、ゴミ袋は勝手に飛ばない。


ルビィ「何かが投げてきた……!」


辺りを見回すと、普通のゴミ袋とは別に、いくつかの動いてるゴミ袋が……?


花丸「! あれはヤブクロンずら!」

ルビィ「ヤブクロン……」


図鑑を開く。

 『ヤブクロン ゴミぶくろポケモン 高さ:0.6m 重さ:31.0kg
  不衛生な 場所を 好む。 ゴミ袋が 産業廃棄物と 化学変化を
  起こした ことで ポケモンとして 生まれ変わったと 言われている。
  ゲップのように 吐き出す ガスは 吸い込むと 1週間 寝込む。』

 「ヤブ…」「ブクロン…」「ヤブクー…」

ヤブクロンたちは、ゴミの影からこっちを睨んでいる。


花丸「ヤブクロンはゴミを食べるポケモンずら! マルたちが急に降って来たから、餌を横取りしに来たんだと思ってるのかも……」

ルビィ「や、ヤブクロンさん! ルビィたちは、たまたま通っただけで餌を奪ったりするつもりじゃ……」

 「ヤブ!!!」


有無を言わせず、ヤブクロンの口からなにかが飛び出す、


花丸「ルビィちゃん! 危ない!」

ルビィ「ぴぎぃ!?」


花丸ちゃんの声と共に、咄嗟に転ぶように避ける。

そして、その攻撃がさっきまでルビィがいた場所で弾けると同時に、

──ジュウ……と何かが溶ける音がする。


ルビィ「あ、あわわ!?」

花丸「“アシッドボム”ずら!」


酸による攻撃。完全に敵として認識されてる。
593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:09:29.80 ID:IYa5VeT80

ルビィ「と、とにかく逃げよう……!!」


パッと起き上がって、出口を探して辺りを見回して、気付く。


ルビィ「あ、あれ……もしかして……」

花丸「……囲まれてるずら」


さっきまでただのゴミ袋だと思っていたものがもぞもぞと動いている。


花丸「四面楚歌ずら……」


花丸ちゃんがそんなことを呟くと同時に──


 「ヤブ!!!」


ヤブクロンたちが一斉に飛び掛かってきました。





    *    *    *





ルビィ「コラン、“パワージェム”!! ヌイコグマさん、“ぶんまわす”!!」
 「ピピ!!」「クーーマーーー」


飛び掛かってくる、ヤブクロンたちを迎撃しながら、とにかく走り回る。


ルビィ「出口はどこー!!」

花丸「とにかく壁伝いに探すしかないずら!! フワンテ、“あやしいかぜ”! ナエトル、“はっぱカッター”!!」
 「プワー」「トルッ」


四方八方から飛び掛かってくるヤブクロンをとにかく撃ち落としながら、壁にドアがないかを探す。


ルビィ「ここにもない……!!」

 「ヤブ!!!」

花丸「ルビィちゃん伏せて!!」

ルビィ「うゅ!!?」

花丸「ナエトル、“タネばくだん”!」
 「トルッ!!」


ルビィの頭上で“ヘドロこうげき”を“タネばくだん”の爆風が吹き飛ばす。


花丸「ルビィちゃん、大丈夫!?」


花丸ちゃんが声を掛けてくるが、その背後に飛び掛かる、別のヤブクロン、


ルビィ「ヌイコグマさん! “アームハンマー”!!」
 「クーーマーー」

 「ヤブクッ!!!!」


また一匹ヤブクロンを吹っ飛ばす。


花丸「ずら!?」
594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:11:16.08 ID:IYa5VeT80

二人で死角をフォローしながら戦っているが……。

まずい、キリがない。

とにかく、出口を……!!

そう思って、再び走りだそうとした、ルビィを、


花丸「ルビィちゃんストップ!!」


花丸ちゃんが腕を引いて止める。


ルビィ「な、なに!?」

花丸「“どくびし”が周りにばら撒かれてるずら!!」

ルビィ「!!」


気付けば、辺りに黒くトゲトゲしたものがばら撒かれている。


ルビィ「身動きが……ぅっ……げほげほっ……!!」

花丸「る、ルビィちゃん!? フワンテ、“きりばらい”ずら!」
 「プワーー」

ルビィ「ぅ……」


しかも、ヤブクロンたちが“どくガス”を吐き出しているのか、徐々に呼吸も苦しくなってくる。


ルビィ「コランッ……“しんぴのまもり”……!」
 「ピピピ」

花丸「る、ルビィちゃん……! 大丈夫……!?」

ルビィ「う、うん……“きりばらい”で吹き飛ばしてくれたから、随分楽になったよ……」


ついでに神秘のベールで毒対策……でも、ジリ貧だ。


花丸「ナエトル! “タネマシンガン”!!」
 「ナエトルルルルルル!!!!」


ナエトルが飛び掛かってくる、ヤブクロンたちをタネの銃撃で連続して撃ち落す。


花丸「フワンテはルビィちゃんと一緒に出口を探して!!」
 「プワー!」

ルビィ「え!? 花丸ちゃん!?」

花丸「このままじゃ、二人ともやられるずら! ルビィちゃんは出口を……!!」

ルビィ「で、でも!!」

 「クーーマーーー」

ルビィ「!? ヌイコグマさん!?」


突然ヌイコグマが、ヤブクロンたちの集団に飛び込んで、

 「クマァーーーーーーーー」

“あばれる”!!


 「ヤブーー!?」「ブクロー!!?」


花丸「ルビィちゃん! ヌイコグマ借りるよ!!」

ルビィ「……っ!! わかった……!! フワンテさん!!」
 「プワー!!」
595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:13:20.05 ID:IYa5VeT80

フワンテを呼び寄せて、走り出す。


ルビィ「コラン! “マジカルシャイン”!!」
 「ピピピー!!!!」

 「ヤブ!!?」「ヤブブ!!!!」「ブクロン!!!」


前方のヤブクロンを光閃で怯ませ、その隙に通りぬける。

とにかく出口……!!

コランに照らされた集積所内部を見回してみるが……。


ルビィ「見つからない……っ!!」


とにかく、ルビィたちが見つけないと……! 早く……!!


ルビィ「そうだ! フワンテさん!」
 「プワー」

ルビィ「ちょっとでもいいから、風が入り込んでくる場所、わからない!?」

 「プワー!!」





    *    *    *





前方で暴れまわるヌイコグマ、

その後方から“タネばくだん”、“タネマシンガン”で脇を固める。

殲滅は無理でも、時間稼ぎくらいなら、どうにかマルにも出来る。


 「ヤブクッ!!!」


不意に飛び掛かってくる、ヤブクロンも、


花丸「“かみつく”!」
 「ナエッ!!」


ナエトルがヤブクロンに噛み付きそのまま、地面に叩き付ける。

どうにか、迎撃が間に合う。

今どきダスト・シュートを使ってるのは珍しいとはいえ、緊急用の出入り口すらないなんてことは絶対ない。

とにかく、マルたちが時間さえ稼げばルビィちゃんたちが、出口を見つけてくれるはずだ。


 「クーーマーー!!?」

花丸「ずら!?」


声がして、前方に顔を戻すと、


花丸「ヌイコグマ!!」


何かに投げ飛ばされたヌイコグマを体で受け止める。


花丸「ずらっ」
 「クーーマーー…」
596 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:14:36.35 ID:IYa5VeT80

突然、ヌイコグマが力負けした……?

再び、視線を戻すと、

 「ヤブ…」「ヤブクロ…」

ヤブクロンたちが大人しくなって、道を開け始めた。


花丸「いや、新手……!」


 「ダス…」

鳴き声をあげながら、奥から巨大なゴミの塊が歩いてくる。


花丸「ダストダス……!!」


 「ダス…!!」

ヤブクロンの進化系──ダストダス。恐らくあいつが群れのボス……!

ダストダスは長い腕をこっちに伸ばし、


 「ナエッ!!!」

ナエトルを手で押さえつける。


花丸「ナエトル! “かいりき”!!」
 「ナエェェ…!!!!」


ダストダスはその長い手でナエトルをずるずると引き摺り始める。

ナエトルはその場で踏ん張り、耐えているけど……。

体重が違いすぎる。


花丸「ダストダスは107kg……じゃあ、ゴンベで──」


そう思い、加勢のゴンベを出そうとした瞬間。


 「ナェ──!!!!」
花丸「!」


目の前でナエトルが光り輝く。


花丸「進化ずら……!! これなら、いけるずら……!!」


 「──ガメェ…!!!!」

花丸「引っ張るずら!! ハヤシガメ!!!」
 「ガメェーー!!!!」


ナエトルが進化した──ハヤシガメ。進化して体重はナエトルの約10倍の97kg

これならダストダスとの綱引きも一方的じゃなくなる。


花丸「ハヤシガメ!! “ばかぢから”!!」
 「ガーメェーー!!!!!」

 「ダスダァ!!!!!!」


完全な綱引き勝負。

今度は逆にダストダスが腕ごと引き摺られ始める。
597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:15:41.68 ID:IYa5VeT80

 「ダストォ!!!!」

ダストダスが強く足を踏ん張り、再び拮抗状態に、


花丸「“くさむすび”!!」
 「ガメ!!」

 「ダストダ!!?」


その瞬間を狙って、足元に“くさむすび”を使って、足を引っ掛ける。

バランスを崩した、ダストダスは前のめりになり、そこに追い討ち


花丸「“だいちのちから”ずら!!」
 「ガメーー!!!」


転んだダストダスの足元から大地のエネルギーが放出する。


 「ダストダァアアアーー!!!!」

ダストダスが怒りの声をあげているが、

そのとき、背後から──


ルビィ「花丸ちゃーん!!!!」


──ビュウと舞い込む風の音と共に、ルビィちゃんの声。

マルはヌイコグマを抱えたまま、踵を返して、


花丸「ハヤシガメ!! 走るずら!!」
 「ガメ!!!」


ルビィちゃんの声のする方へと走り出した。





    *    *    *





ルビィ「花丸ちゃん!!」

花丸「ルビィちゃん!!」


ルビィは通用口の扉の外から手を伸ばし、花丸ちゃんの手を掴む。

 「ダストダァアアア!!!!!」

後ろから、大きなポケモンが腕を伸ばしてくるのが見える、


ルビィ「!! コラン、“フラッシュ”!!」
 「ピピィ!!!」


咄嗟に、コランが花丸ちゃんの後ろに周りこみ、激しく閃光する。

 「ダストダァ…!!!!」

その光に怯んだのを見て、


ルビィ「花丸ちゃん!!」


花丸ちゃんを思いっきり引っ張った。
598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:16:45.25 ID:IYa5VeT80

花丸「ずら!!」


そのままの勢いで二人して外に転がる、


ルビィ「コラン!!」


地面に転がったまま、声を張り上げて、コランを呼び戻す。

 「ピピィ!!!」


ルビィ「ドア!! 閉めて!!」
 「ピピ!!!」


指示に従い、コランは外開きのドアを内側に向かって、体を押し付け、ドアを閉める。

 「ダストダァーー!!!!」

集積所内から、再び怒りの声が聞こえるが、


花丸「ハヤシガメ!! 手伝って!!」
 「ガメ!!!」


二匹がドアを体で押して、

無理矢理、押し閉めた。

その直後に──ガン!! と激しく何かがドアにぶつかったが──


ルビィ「はぁ……はぁ……」

花丸「ず、ずらぁ……」


それ以降は音が止み、大人しくなった。


ルビィ「は、……はぁ……」

花丸「た、助かった……ずら……」


地面に転がったまま、思わず二人して脱力する。

ルビィたちは、どうにかヤブクロンたちの猛攻を掻い潜り……助かったようです。


599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:18:01.07 ID:IYa5VeT80


    *    *    *





──数分後、やっと呼吸も落ち着いてきたところで。


花丸「この辺りは……6番道路の南辺りみたいだね」

ルビィ「うん」


前方には河が、左手の少し遠方に、大きな橋──恐らく風斬りの道と思われる橋が見える。

さっきまで居た、ゴミ集積場は後方にある切り立った崖の下に位置していて、その崖の上部にはダリアシティが見えた。


花丸「とりあえず……次の目的地は、カーテンクリフかな?」

ルビィ「……うん。理亞さん、そこにいるみたいだから」


グレイブ団の人たちが言っていた通りなら、理亞さんはカーテンクリフにあるらしい、グレイブ団のアジトにいる。


花丸「それなら、登山道具を街で調達しよっか……一日二日じゃ超えられないから」

ルビィ「うん、わかった」


……期せずしてかなり激しい戦いになってしまったけど、

期待以上の情報を得たルビィたちは、次の目的地への赴くための準備と、休息を取りに……一旦ダリアシティへと戻っていくのでした。


600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:19:34.69 ID:IYa5VeT80


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【叡智のゴミ捨て場】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回●    . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.17 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.21 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.16 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.18 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:6匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.22 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.19 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      モココ♂ Lv.20 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.18 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワンテ♂ Lv.22 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:28匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 20:26:30.63 ID:aWZEDGr/0
前みたポケライブSSはトレーナー同士の人間関係がメインだったけど
これは人とポケモンの関係がメインかな
602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:51:51.71 ID:IYa5VeT80

■Chapter045 『修行』 【SIDE Chika】





千歌「──……21……22……23……」


……どうして、私はこんなことをしているんだろう。

竹刀を振りながら思う。


海未「千歌。集中が切れていますよ」

千歌「……あのー海未師匠」

海未「……貴方を門下にした覚えはないのですが……なんですか?」

千歌「……なんで素振り?」


私は意味もわからず、竹刀の素振りをしていた。


千歌「ポケモンバトルの修行じゃないんですか……」

海未「これも修行ですよ」

千歌「ホントですか……?」

海未「不服そうですね」

千歌「これでバトルに強くなるのかと……」

海未「基礎訓練は大事ですよ。トレーナーもポケモンも最終的には体力、集中力、判断力が必要ですから」

千歌「……そういうもんなのかな」

海未「わかったら、続けてください。貴方のポケモンたちは皆、真面目に訓練をしていますよ」


言われて、道場の外を見ると、

 「マグッマグッ」
 「ピピィ!!」
 「ハッハッハ!!!」

マグマラシとムクバードとルガルガンがどこから持ってきたのか、体にくくりつけたロープでタイヤを引いている。

 「……」

ルカリオは片足を立てたまま、瞑想中。

 「ワフ…」

しいたけは寝てる。


千歌「しいたけ、サボってるじゃん……」


思わず、眉を顰める。


千歌「こんなんじゃ、必殺技出来ないですって!」

海未「そう言われましても……」

千歌「なんか、すごいド派手に滝とか割ったりとかしないんですか?」

海未「貴方は修行をなんだと思っているんですか……? 修行とは耐え忍ぶことから始まるのですよ。地道な訓練がいつか実を結ぶ、そういうものです」

千歌「それにしても地味……」


外はすごく良い天気なのに……私は室内で延々と竹刀を振っている。

竹刀は意外と重く、確かにいい運動にはなるんだけど……。

竹刀を振るたびに前髪が揺れる。
603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:53:55.00 ID:IYa5VeT80

千歌「髪……邪魔……師匠〜……せめて、髪留め返してくださいぃ……」

海未「……確かにやりづらそうですね」


普段から顔の右側の髪を留めている、トレードマークのヘアピンは、何故か朝、師匠に没収されてしまった。


海未「ただ、今日一日は待ってください」

千歌「うぇぇ……?」


思わず変な呻き声をあげてしまう。


海未「ほら、とにかく。素振り、続けてください」

千歌「はーい……」





    *    *    *





千歌「──……96……97……98……!!」

海未「もう少し、頑張ってください」

千歌「……99……100!!」


やっと100回。


千歌「はっ……はっ……も、もう……無理……っ……」


竹刀を床に置いて、その場にへたり込む。


海未「意外と根性がありますね。素人がいきなり100回も振るのは苦労するのですが」

千歌「正直……50回くらい、から……ずっと、やめたかったです……」

海未「まあ、初日ですから、100回でいいでしょう」


ショニチデスカラ……?


千歌「あのー……参考までに、何回やって欲しいんですか……?」

海未「500回くらいが目標でしょうか」

千歌「無理!! 絶対、無理です!!」

海未「最初は皆、そう思うものですよ」

千歌「師匠!! 私は剣道が強くなりたいんじゃないです!!」

海未「千里の道も一歩からです。3〜4ヶ月も続ければ500回なんて……っは」


海未さんが突然……ハッとする。


海未「……考えてみれば、3〜4ヶ月も私が見てあげられませんね……」

千歌「…………」


これ、振り損なのでは?
604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:56:33.27 ID:IYa5VeT80

千歌「……さっきも聞きましたけど、これホントにバトルの修行なんですか?」

海未「そうですよ」

千歌「これで何が強くなるんですか……?」

海未「こういうことはその意味を自分で見つけることに意義があります」

千歌「そういうのはいいのっ!! 海未師匠も今さっきそんなに時間ないって言ってたじゃないですか!」

海未「む……それはそうですが……」


海未さんは少しだけ悩んだ後、


海未「……さっきも言いましたが、トレーナーもポケモンと同様、体力、集中力、判断力は常に求められます」


話し始めた。


海未「激しいバトルを続けると、息が切れたりする経験、あるんじゃないですか?」

千歌「……確かに、あります」

海未「思った以上に戦局を意識し、常に自分のポケモン、相手のポケモンの状態を把握し続けることには体力が要ります。体力が尽きてくれば、自然と集中力や判断力も落ちますし、その分ポケモンへの指示の精度は落ちていきます」

千歌「そのための体力作り……ってことですか?」

海未「その通りです。常にトレーナーは状況を把握し、ポケモンに的確な指示を出せなくてはいけない。そういう総合した能力を鍛えるのに素振りは向いてるんですよ」


なるほど、わからなくもない。


海未「それにトレーナーは、ポケモンにとっての目です」

千歌「目……?」

海未「ポケモンの死角を常に把握し、的確に次の手を指す。その繰り返しによって、信頼関係を育むことが出来れば、ポケモンの判断も早くなる。技の出が早くなれば──」
 「クワ」

千歌「!?」


へたり込んでいた私の額に、いつの間にか、カモネギのネギの先端が皮一枚くらいの場所にあった。


海未「こういうことが出来ます」

千歌「カモネギ、外に出してたんですか……?」

海未「いえ、ボールに入れていましたよ。千歌の視界、私の視界、ボールから出たカモネギの攻撃がどこまで届くかを把握していれば、簡単なことです」


確かにこうして実際にやっているのを見ると、達人技ではあるけど、バトルで強いと言うのは頷ける。


千歌「……基礎訓練が大事なのはわかりました」

海未「わかってくれましたか」

千歌「でも、時間ないんですよね……? それなら、尚更ポケモンを使った訓練を早くした方がいいんじゃないですか?」

海未「……軟弱な発想、と言いたいところですが……時間がないのは私の都合ですからね。確かに一理あります。……わかりました。ちょっと段階としては早いのですが、次のステップのため、裏山に行きましょう」


海未さんはそう言って、身を翻した。





    *    *    *


605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:58:40.77 ID:IYa5VeT80


──さて、裏山。

昨日ゴローニャたちを止めた場所。

 「ゴローニャ」


千歌「……というか、ゴローニャいるし……」


そこらへんをゴローンやゴローニャが闊歩している。


海未「さて、千歌。ここに岩がありますね」


そう言う海未さんの横には直径1メートルくらいの岩がある。

……運んできたのかな?


海未「この岩、斬れると思いますか?」

千歌「……たぶん無理です」

海未「じゃあ、実際にやってみましょう。カモネギ」
 「クワッ」

海未「……“いあいぎり”!!」


一閃。

一息置いて、岩が縦に真っ二つに割れる。


海未「実のところ、岩は斬れます」

千歌「そんなの、海未師匠だけです!!」

海未「まあ、聞きなさい」

千歌「……はい」

海未「今回はわかりやすいように、最初から縦向きに割れるように置いたのですが……岩にも砕けやすい向きがあります」

千歌「向き?」

海未「攻撃が一番通りやすい方向……とでも言うのでしょうか。それは岩に限らず、樹木、草木にも……それどころか、不動じゃないモノ──ポケモンにも存在します」


……つまり、いわゆる──


千歌「急所に当たる……ってやつですか?」

海未「そうですね、概ねその理解で間違っていません。つまり私は岩の急所を突いた。だから、岩が簡単に割れた。と言うことです」


簡単に言うけど……。そんなこと出来るのかな。
606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:01:21.39 ID:UvOtrYsw0

海未「もちろん、モノの強弱の性質を見抜くのは一朝一夕で出来る話ではありません。ましてや、実際のバトルでは相手は動いていますから、その見極めはさらに難しくなるでしょう」

千歌「……それじゃ、やっぱり私には出来ないんじゃ……」

海未「すぐには無理でしょうね。だから、最初はその要因を分解して考えることにしましょう」

千歌「分解?」

海未「まず、対象の弱い方向をなんとなくでもいいので見極めます。この岩で言えば縦向きの衝撃に弱く、横向きの衝撃に強い……というのはさっきなんとなく言いましたね」

千歌「はい」

海未「次に威力です。この岩を破壊できるだけの威力を見極めます。これは壊すだけなら、大きければ大きいほど良いです」

千歌「壊すだけなら……?」

海未「今回は動かない岩ですが……基本的には戦うのは意思を持って動くポケモンです。威力の大きな技はその分、隙も大きい。倒しきれなければ、その隙はリスクに変わってしまいます」

千歌「……なるほど」

海未「そして、三つ目は技そのものの速さです。これがあると攻撃が届くまでの時間も勿論早くなりますし、加えて副次的に威力も上がります。攻撃を外すリスクも攻撃の速度が速いほど下がります。ただ、これはポケモンごとによって根本的な得手不得手があるので、必ずしも技の速度を上げることが出来るわけではないのが、注意点でしょうか」


海未さんが私に向き直る。


海未「弱点の見極め、威力の向上、攻撃の速度。これが今の岩割りの大まかな三つの要素になります」

千歌「えっと……めちゃくちゃすごい威力の技を、すごいスピードで、相手の急所に狙って当てるってことですか……?」

海未「すごく大雑把に言うとそういうことですね。ただ、同時にこれら全ての能力を上げるのは難しいので最初は別々に訓練をします。千歌、もうちょっと岩に近寄ってもらっていいですか?」

千歌「あ、はい」


言われて岩に近付く。


海未「岩の断面を直接、手で触ってみてください」

千歌「? はい」


とりあえず、言われるがままにやってみる。

綺麗に真っ二つに割れた岩肌。すべすべしている。


海未「どうですか?」

千歌「……つるつるです。最初からこんな形だったみたい」

海未「いいでしょう。じゃあ、少し離れてください。カモネギ」
 「クワッ」

海未「“いあいぎり”!!」


今度は斜めに、岩が斬れて、ずり落ちる。


海未「この表面はどうですか?」

千歌「えっと……」


つるつるなんじゃないのかな……?

そう思って触ってみて、


千歌「……あれ?」

海未「気付きましたか」

千歌「触ってみると……少しだけ、凸凹してる……?」


見た目ではほとんどさっきと変わらない断面だけど……確かに手で、指で、撫でてみると、わずかに引っかかりを感じる。


海未「さて……どうしてこんな違いが生まれるのかわかりますか?」
607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:03:11.41 ID:UvOtrYsw0

海未さんがそう問い掛けてくる。


千歌「……目で見ただけじゃ、わからない違いがあるから……かな?」

海未「そういうことです。それじゃ、縦と斜め、どっちが斬れやすそうか、想像できますか?」

千歌「縦!」


即答する。


海未「正解です。岩は目で見ただけではわかりませんが、実は縦向きの力に弱かったということですね。これが岩の急所の方向です」

千歌「岩の、急所……」

海未「こうやって、とにかく触ったり、性質を知ることそのものが、トレーナーに求められる経験や知識です。それじゃ、実際にやってみましょうか。ポケモンを出してください」

千歌「あ、はい! マグマラシ!」


マグマラシをボールから出す。

 「マグ!!」


千歌「マグマラシ! “いわくだき”!」
 「マグッ!!!」


岩が上から下に向かって……!!

──ピシピシと、音を立ててから、割れて崩れる。


千歌「…………」


砕けた岩を持ってみる。


海未「これが、綺麗に割れるようになると、それだけ力のロスがない。よりダメージが通ったという証明になります」


砕けた欠片はツルツルの面と、凸凹の面がある。


海未「ただ、それこそ私がやったように、岩の性質を完全に見抜き、的確な角度に攻撃を加えるのは、トレーナーにもポケモンにもかなりの経験と知識が必要です。なので、それを補うために、威力を──」

千歌「マグマラシ、さっきの“いわくだき”……炎を纏ったまま出来る?」

海未「……千歌?」


……出来るだけ、縦に真っ直ぐ。炎を纏って、振り下ろすイメージで……。


千歌「マグマラシ! “いわくだき”!」
 「マグッ!!!」


──音を立てて、岩が砕ける。

でも……さっきよりも砕けた破片が少ない。


海未「…………」

千歌「さっきよりうまく出来てるね! ……よし、じゃあ次はもっと下まで薙ぐ感じで……」
 「マグッ」

千歌「あ、えっと海未師匠」

海未「え、は、はい」


海未さんはハッとしたように私の声に応える。
608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:05:31.71 ID:UvOtrYsw0

千歌「? ……これどれくらい続ければいいですか?」

海未「……そうですね、とにかく今日は時間の許す限りたくさんやってください。マグマラシだけでなく、手持ちの他のポケモンとも」

千歌「了解です!」

海未「ただ、トリミアン──しいたけというニックネームでしたか。あの子だけは恐らく、こういう戦い方は向いてないので、とりあえずは他の訓練メニューを用意しましょう」

千歌「あ、はーい」


私はボールから皆を出す。


海未「それでは、しいたけ。着いて来てもらっていいですか?」

 「ワフ」


海未さんはそう言って、しいたけと一緒に走り出す。

体力作りなのかもしれない。


千歌「よし! じゃあ、皆! こっちはこっちでやってみよう!」

 「マグ!!」「ピピィ!!」「ワゥ!!」「グゥォ」


訓練──スタート……!





    *    *    *





──ローズシティ。


梨子「ベイリーフ!! “マジカルリーフ”!!」
 「ベイベイ!!」


通信室から、ジムのバトルスペースを覗くと、梨子がジムポケモン相手に戦っている姿が見える。


真姫「ふふ、随分生き生きしてるじゃない」


思わず、笑ってしまう。

後で、時間が出来たらアドバイスの一つでもしてあげようかと思う。

──さて、それはそれとして。私には仕事がある。

医者としての研究もそうなのだが……それ以外にもポケモンの生態研究や研究機材の取り寄せなどがある。

私には他の人にはないコネクションがいくつかあって、それを利用して同業者たちに機材などの斡旋をしているのだ。

最近はホシゾラシティに、ポケモンの持つタイプのエネルギーを感知できる装置を送りつけたところ。


真姫「凛がまともに使ってるのかは知らないけど……」


書類や研究資料、論文、送られて来ているメールに目を通しながら、有用そうなものがないかを調べる。


真姫「あら……? これ、鞠莉からのメールね」


鞠莉はお得意様だ。

しかも、一方的にこっちから機材を斡旋しているだけじゃなく、最近はクロサワの入江から取れる鉱物取引の仲介もしてもらっている。

装飾品としての加工はもちろんだが、鉱石や宝石はそもそも研究用途や工学的用途が多い。

故に鉱石の取れるクロサワの家と、工業都市であるローズシティとは切っても切れない関係にある。
609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:08:43.56 ID:UvOtrYsw0

真姫「……出せる鉱石の量が減るって話みたいね……」


メールに書かれていたのは、最近クロサワの入江が賊に襲撃されたこと、そしてそれに伴って採掘量がしばらく減ると言う報告だった。


真姫「まあ、仕方ないわね」


襲撃を受けたと言うのは、もうニュースになっていたし知っていたことだ。

こればかりはしょうがないだろう。

メール文章をスクロールしながら、目を通し。


真姫「……は?」


その末尾に、用途のよくわからない注文が、ついでのようにくっついているのを見つける。


真姫「…………」


少し悩んだが、私はとりあえずそのままパソコンから鞠莉へ直接電話を掛けた。

──数コールの後、


鞠莉『ハァーイ☆ 真姫さん、どうかしたの?』


相変わらず、気の抜ける底抜けに明るい声が聞こえてくる。

映像通話の画面には明るい金髪に特徴的な髪型の女性──オハラ・鞠莉博士。


真姫「どうかしたの? じゃないわよ、マリー。何、あの注文……」

鞠莉『Oh メールを見たと言うことデスネ。取り寄せ、無理かしら?』

真姫「……無理ではないけど。アレって、基本的には警察が押収するような代物ものなのよ?」

鞠莉『もちろんわかってマース! ただ、モンスターボールの機構の研究に使いたくてデスネ……』

真姫「モンスターボールの機構?」

鞠莉『正確にはモンスターボールの原型についての研究デスネ』

真姫「……確か、ちょっと前に60年前のモンスターボールとか送ったわよね」

鞠莉『Yes! その説は助かりました。まさか、あんなものまで手に入るなんて、真姫様サマサマだよネ!』


60年程前のモンスターボール……開閉スイッチがまだ、ネジ式で今では全く流通していないものだ。研究者やマニアの間では“レトロボール”と言う通称で呼ばれている。

確か取り寄せたソレは1960年が製造年だったかしら……。

今のモンスターボールに比べると、即効性に欠けるし、使い勝手はかなり悪い……が、

モンスターボールの基本理論の発見から、たった30年程であれだけポケモンの携帯性の高いものが流通していたと言うのは、素直に興味深い話だった。


真姫「ま、それはいいんだけど……くれぐれも変な事に使わないでよね? 機材提供元ってことで、私まで嫌疑を掛けられたりしたら堪ったもんじゃないし……」

鞠莉『それはもちろんデース! 真姫さんに迷惑を掛けないのは大前提だヨ』

真姫「わかってるならいいけど……手配しておく」

鞠莉『助かりマース!』


まあ……マリーが仲介に入ってからは、クロサワ家から入ってくる鉱石の種類も前より増えたし。

悪いことに使うのでなければ、構わない。それこそ、コネクションがないと手に入らないような代物だし。

……ふと、鞠莉と連絡を取っていて、今すぐそこのバトルフィールドでトレーニングの真っ最中の梨子のことを思い出す。
610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:10:09.89 ID:UvOtrYsw0

真姫「そういえば……貴方のところから旅に出た図鑑所有者が来たわよ」

鞠莉『Oh? ホントデスか?』

真姫「梨子って子よ」

鞠莉『梨子デスか? ...Hmm. それで梨子はどんな様子なのかしら?』


鞠莉の反応からしても、図鑑とポケモンを貰うときも随分とふてぶてしかったのかもしれないわね。


真姫「今は真面目にトレーニング中よ」

鞠莉『...What? 真姫さんが面倒見てるの?』

真姫「ま、成り行き上ね」

鞠莉『どんな調子……?』

真姫「“旅の仲間”と仲良くやってるわよ。チコリータも無事、ベイリーフに進化して、今はうまくいってるみたい」

鞠莉『……そうデスか』


画面の向こうで鞠莉が安堵するのがわかった。


真姫「もともと真面目で、よく勉強もしてるし……あとは経験さえ積めば、強いトレーナーになるわよ」

鞠莉『ジムリーダー様のタイコバンがあるのは、頼もしい限りデース』

真姫「ま、そういうことだから」


とりあえず、博士としてはこれだけ聞ければ安心だろう。

この後、二三言葉を交わしてから、通話は終了した。


真姫「……さて」


一通り、メールチェックも終えて、私は立ち上がる。


真姫「マリーにもああ言っちゃったし……少し真面目に面倒見てあげようかしらね」


そう言って、私はバトルフィールドの梨子の元へ、向かうのだった。





    *    *    *





──アキハラタウン。

夕方頃に、ポケギアが鳴る。

相手は──


海未「もしもし、ことりですか?」

ことり『あ、海未ちゃん……そっちは大丈夫?』

海未「ええ、問題ありませんよ」


問題がないどころか……。


海未「千歌は強くなりますよ」


私はそう言い切っていた。
611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:11:33.25 ID:UvOtrYsw0

ことり『……! そっか』

海未「好奇心が強いからでしょうか……実地に入ったら、凄い勢いでコツを掴んでいます。まるで──」


まるで──私は思わず幼馴染の名前を言い掛けて、なんとなく言葉を飲み込んだ。


ことり『……ふふっ そっか』

海未「……え、ええ」

ことり『とにかく、順調そうなら安心したかな』

海未「安心したのなら、何よりです」

ことり『うん♪ それじゃ、用事はそれだけだから……』

海未「はい。再戦の目処が立ったら此方から改めて連絡するので」

ことり『了解♪』


通話が切れる。


海未「……さて、そろそろ千歌を迎えに行きましょうか。しいたけ行きますよ」
 「ワフ」

そう呟いて、千歌を置いてきた、裏山の麓にしいたけと一緒に足を向ける。





    *    *    *





千歌「ふー……あ、師匠〜!」


海未さんの姿を認めて、私は思わず手を振る。

海未さんは一度辺りを見回してから、


海未「……岩、最初より増えていませんか?」


怪訝な顔をした。


千歌「あ、えっとですね……」


私が説明しようと後ろを振り向くと、

 「ゴローニャ」

丁度ゴローニャが岩を運んできたところだった。
612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:13:35.24 ID:UvOtrYsw0

海未「ゴローニャ? 捕まえたのですか?」

千歌「あ、いや……なんかトレーニングしてるうちになんか仲良くなりました! そしたら岩を運ぶのを手伝ってくれて!」

海未「そ、そうですか……それで何個くらい割りましたか?」

千歌「とりあえず、10個くらい」

海未「……随分捗ったみたいですね」

千歌「割れ方とか見てみると全部、岩ごとに微妙違って、なんか割るのが楽しくなっちゃって……」

海未「ふふ、楽しみながら出来るのなら、それはいい傾向だと思いますよ」

千歌「でも、なんか修行って、もっと辛い感じの想像してたから、これでちゃんと強くなれるのかなぁって」

海未「……その辛い感じの素振りを投げ出してここに来ているんですが?」

千歌「ぅぐ……まあ、それはーそのーそれはそれでー」

海未「……冗談です。大丈夫です、確実に貴方の力になっていますよ、その証拠に」

千歌「?」

海未「マグマラシの様子を見てください」


言われて、マグマラシの方を見ると、


 「マグ…!!」

マグマラシがぷるぷると小刻みに震えていた。


千歌「! これって……!」


ムクバードのときと同じ……!

マグマラシはそのまま光り輝いて──。

 「マグゥ──」


新しい姿へと、


 「──バグフー…!!」


千歌「進化した……!!」


ヒノアラシから2度目の進化……!!

 『バクフーン かざんポケモン 高さ:1.7m 重さ:79.5kg
  燃え盛る 体毛を 持っている。 燃え上がる 爆風は
  全てを 一瞬で 焼き尽くすほどに 熱い。 灼熱の 炎で
  周りに 陽炎を 作り出して 姿を 隠す ことが 出来る。』


千歌「やったー!! バクフーン!!」
 「バクフーン!!!」


海未さんの言う通り、力になってるみたいだ……!

新しい力を手に入れた、バクフーンに思わず抱きつく。


海未「進化、おめでとうございます。努力の証拠ですね」

千歌「はいっ! よっし、やる気が湧いてきた、明日も頑張るぞー!!」

海未「やる気ついでに、これ返しますね」

千歌「? あ、私の髪留め……」


朝、海未さんに渡した髪留めを返される。
613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:15:32.12 ID:UvOtrYsw0

千歌「ん……?」


よく見ると、髪留めの中心辺りに不思議な色で輝く石が付けられていた。


海未「それはキーストーンと言います」

千歌「キーストーン?」

海未「メガシンカするときに使うものです」

千歌「! メガシンカ……!!」


ことりさんの使っていた、ポケモンを著しく強化する術のことだ。


海未「もっとも、ポケモンごとに対応するメガストーンがないとメガシンカは出来ませんが……そのうち使うことになると思ったので、今日そのヘアピンを加工しました」

千歌「も、貰っちゃっていいんですか!?」

海未「ええ、勿論」

千歌「えへへ、やったー! ありがとうございます!」


マグマラシがバクフーンに進化して、さらにキーストーンも貰って……!!

私の修行は順調に滑り出しました──!





    *    *    *





──その夜。

私は千歌が眠ったあとに、再び裏山の麓に足を運んでいました。


海未「10個……ですか」


最初に用意した岩石は5個。これが全部割り砕ければ、初日としては十分だと思っていた。

千歌が砕いたであろう破片を拾い上げる。


海未「……やはり、ただ殴りつけただけではなく。うまいこと炎熱も使っていますね」


岩自体を急激に熱して、割れやすくしている。

私が教えたわけではない。

千歌は直感で、すぐにこの答えに辿り着いた。

勘が良い。


海未「パワーの不足をトレーナーの考えた工夫で補う」


今日は進んでも、弱点の見極めまでのつもりでしたが……パワー補強もトレーナー側から出来るアプローチはほぼクリア。

予定よりも断然早く進んでいる。


海未「……これは、もしかするかもしれませんね」


誰に言うでもなく、私は夜空に向かって呟いていた。


614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:16:47.95 ID:UvOtrYsw0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アキハラタウン】【ローズシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_●o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.36  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.33 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.33 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.34 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.29 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:112匹 捕まえた数:12匹

 主人公 梨子
 手持ち ベイリーフ♀ Lv.26 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.30 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョン♀ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ケイコウオ♀ Lv.24 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:10匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:10:13.29 ID:UvOtrYsw0

■Chapter046 『開催! ダリアかしこさコンテスト!』 【SIDE You】





──ダリアシティについた私は、ささっとノーマルランクの手続きを済ませてから、

セキレイシティで話した、ことりさんとの会話を思い出す。


────────
──────
────
──



ことり「それじゃ、たくましさの後、かしこさコンテストのことも先に言っておくね」


直前にアドバイスをする時間がないから、とのことで、


ことり「まず、ダダリンは水棲のポケモンだから、申請を出せば水槽を用意してもらえるから、そこは安心してね」

曜「それは助かるかな……地上にいると、錨があんまり動かせなくなっちゃうし」

ことり「基本的に足がない水棲のポケモンにはそういう措置があるから、覚えておいてね♪」

曜「ヨーソロー!」

ことり「さて……かしこさ部門なんだけど……5部門の中で一番、第一印象で責め辛い部門なんだよね。わたしもこの部門は一番苦手かもしれないなぁ……」

曜「確かに……かしこさってパッと見だけじゃわかりづらいかも……」

ことり「かしこそうな衣装って言っても、限界があるからね」


かしこそうな見た目……。安直だけどメガネとか、白衣とか、スーツとか……?


ことり「だから、この部門は必要以上に一次審査に拘り過ぎないようにしよっか。どうしてもフーディンとかメタグロスみたいな、もともと頭がいいことで有名なポケモンが出てくると、第一印象をひっくり返すのは難しいから……」

曜「ダダリンも頭いいんだけどな……」


野生でもダダリンは待ち伏せをするため、船乗りやホエルオー使いにとっては警戒の対象だ。

待ち伏せをするというのはそもそもある程度、頭のいいポケモンでないとなかなかすることはないだろう。

実際、私のダダリンも、ブルンゲルに隠れて船を仕留めようとしてたし。


ことり「それを皆に理解してもらうためのポケモンコンテストだからね♪ むしろ、曜ちゃんの腕の見せ所だよ?」

曜「……確かにそれもそっか」

ことり「かしこさ部門は対応型のコーディネーターさんがとにかく多いのが部門の特徴かな。普通のアピール、自分の調子上げ、防御、妨害、全部やってくるって思ってた方がいいかも」

曜「でも、かしこさの技って、防御技があんまりなかったよね」


記憶を辿る限り、ことりさんの家で見たコンテストライブの二次審査評定基準一覧ではそうなっていた気がする。
616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:12:03.18 ID:UvOtrYsw0

ことり「“かぎわける”、“くさぶえ”、“そらをとぶ”、“リフレクター”くらいかな」

曜「あと“アロマセラピー”」

ことり「うん、そうだね♪」

曜「でも、この中でダダリンが覚える防御技は一つもない……」

ことり「だから、防御をするなら他部門の技を使うことになるかな」

曜「他の部門の技って、使うと評価下がっちゃうんだよね……」

ことり「そうなんだけど……かしこさ部門で曜ちゃんが覚える必要があるテクニックはそこにあるんだよ」

曜「?」

ことり「コンテストにはエキサイトって言うのがあるでしょ?」

曜「エキサイト……うん」

ことり「これは簡単に言っちゃうとお客さんの盛り上がり、かな。評定自体は審査員がしてるんだけど……一次審査と同じで会場の盛り上がりも減点加点の対象なのは、もう知ってるよね」

曜「うん」

ことり「例外もあるし、お客さんのレスポンスは完全にコントロールできるわけじゃないから……あくまで目安なんだけど、いわゆる部門にあったアピールが5回くらい連続で続くと会場が一番盛り上がるタイミングになるって言われてて、それと連動してエキサイトゲージが最大値になる」

曜「つまり……出来るだけそのタイミングを狙ってアピールしたいってこと?」

ことり「そうだね。でも、これは逆にも使えるんだよ」

曜「逆?」

ことり「流れに乗ったアピールが高評価をされるってことは……逆に周りを流れに乗せないためにわざと勢いを切るって戦法もあるんだよ」


……つまり、部門にあってない技で無理矢理流れを切る戦術ってことかな。


曜「……なるほど」

ことり「もちろん、さっき曜ちゃんが言ったとおり減点の対象になることも少なくないから、いつでも出来るテクニックじゃないけどね。それじゃ、詳しく説明するね──」



──
────
──────
────────



曜「さて……」


ノーマルランクが終わり、今はメイクルームでウルトラランクの開始待ち時間中。

今回のことりさんからのミッションは『二次審査のテクニックを身につけること』だ。

確かに私は一次審査を重視したいコーディネーターだけど……二次審査を適当にやっていいわけじゃない。

絡め手を『使わない』はいいとしても、『使えない』は良くない。

実地で覚えて来いというのは多少スパルタだけど……たくましさ部門に比べれば、かしこさ部門は開催頻度が多いので多少はプレッシャーも減る。


 『──ウルトラランクの出場者様は会場裏までお越しください』


楽屋に、そんな放送が流れる。


曜「よし……行こうか、ダダリン」
 「────」


水槽の中で相変わらず無表情のまま揺れている、ダダリンと共に、いざ会場へ──。


617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:14:03.01 ID:UvOtrYsw0


    *    *    *





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、ここ学都ダリアシティにて、最もかしこいポケモンを決めるコンテスト……ダリアかしこさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』


毎度お馴染み、眼鏡がトレードマークの司会のお姉さんの声で始まる。


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……フーディン&アキト! エントリーNo.2……ギギギアル&テツ! エントリーNo.3……ビークイン&ヒトミ!』


対戦相手はフーディン使いのサイキッカー。ギギギアル使いの鉄道員。ビークイン使いの研究員。


司会『エントリーNo.4……ダダリン&ヨウ!』


さて……今回の衣装イメージは博士。

ダダリンは体の構造の問題や水中からの参加なため、あまり多くの衣装を作ってあげられなかったのは惜しむらくだけど……。

目……に見える、コンパス部分にモノクル。舵輪には黒いガウンと上部にはモルタルボード──いわゆる、アカデミックドレスだ。


司会『さあ、衣装を着せることで一部のコンテストマニアからは話題になっている、コーディネーターのヨウさん。今回も控えめながら、アカデミックなコーデを決めていますね!』


……どうやら、マニアの間で話題になっているらしい。


司会『さて、一次審査スタートです! フーディンは赤、ギギギアルは緑、ビークインは黄色、ダダリンは青でお願いします!』


会場に色が灯り始める。色は……赤が多い。

フーディン──知能指数5000とも言われる天才ポケモンの代名詞。

ビークインやギギギアルも集団での行動を得意とする、かしこいポケモンだけど……完全にフーディンが目立っている。

……とはいえ、これもことりさんから言われていた通りで、予想の範疇だ。

と言うか……思ったより、


曜「青、多いかも……!」


良い方向に予想が外れた。

司会の人が入れてくれた煽りが、良い意味で目立つ要因になったのかもしれない。これは追い風だ。


司会『さて、そろそろ締め切りますよー? 色変えは大丈夫ですかー!?』


間もなく、一次審査の終了と共に、二次審査だ。


曜「ダダリン、行くよ」
 「──」


小さくダダリンに合図を送って……今大会の主戦場、スタートだ。





    *    *    *



618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:22:10.64 ID:UvOtrYsw0


アキト「フーディン、“かなしばり”」
 「フーディンッ」

 《 “かなしばり” かしこさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡
   フーディン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


曜「!」


初手妨害技。“かなしばり”は後続を緊張させる技だ。


司会『おっと!! いきなりの妨害です! どうやら、ビークインには効いているみたいです……!』


ヒトミ「ビ、ビークイン!」
 「ブーブブブブ…」


ビークインは“かなしばり”にあって身動きが取れなくなってしまったようだ。

 《 ビークイン 緊張して しまった
   Total [ ] 》


曜「ダダリンは……!?」
 「──」


一方でダダリンは、何事もなかったかのように、水中で錨を揺らしている。

ギギギアルも同様にマイペースにグルグルとギアを回していた。

無表情なポケモンには精神作用の妨害は通りづらいのかもしれない。

今回二次審査は1ターン目はフーディン、ダダリン、ビークイン、ギギギアルの行動順。

1番手の上からの叩きも定石だろう。


曜「ダダリン、“シャドーボール”!」
 「──」

 《 “シャドーボール” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ダダリン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


ダダリンが影の弾を撃ち出すと、それは水槽をすり抜けて、会場の中心で弾けて、黒い影を四方八方に散らす。


司会「さあ、一方ダダリン、水槽内からでも出来る手堅くかしこい技ですね」


テツ「ギギギアル、“ギアチェンジ”です」
 「ギギギギ──」

 《 “ギアチェンジ” かしこさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   ギギギアル +♡ ExB+♡ +✪
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ギギギアルは調子上げを優先するようだ。

音を立てながら、ギアを組み替えている。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   フーディン   ♡♡♡    [ ♡♡♡  ]
   ダダリン    ♡♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡ ]
   ビークイン   ×     [       ]
   ギギギアル✪ ♡♡     [ ♡♡    ]                 》
619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:23:11.88 ID:UvOtrYsw0

──2ターン目。手堅くアピール出来たダダリンが一番最初のアピール。次いで、フーディン、ギギギアル、ビークインの順番だ。


曜「ダダリン!」
 「──」


私の指示と共に錨を高く投げ上げ水槽から、錨を外に飛ばす。


司会『おおっと!? 急にド派手な技がきたぞ!?』


──ガンッ

音を立てて、重量級の錨が地面に突き刺さる。


曜「“すいとる”!」
 「──」

 《 “すいとる” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ダダリン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


が、技としては地味だ。

こうして地面の養分を“すいとる”技だ。


司会『見た目は地味ですが……体の伸ばして水槽を傷つけずにアピールしている姿はダダリンにしか出来ない狩りの姿を彷彿とさせますね!』


流石に会場内で100mも体を伸ばすわけにはいかないからね。

ダダリンらしさをアピールするにしても、これが限界。


アキト「フーディン、“スプーンまげ”」
 「フー」

 《 “スプーンまげ” かしこさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡
   フーディン +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


今度はフーディン。どこから取り出したのか、大量のスプーンを自らの念力によって浮かせて、そのまま次々と折る。


司会『出ました! フーディンのサイコパワーの代名詞、“スプーンまげ”です!』


司会のお姉さんの声と共に、会場が湧きあがる。


アキト「フーディン、“MINUET”」
 「フーーーディンッ!!!!!」

 《 “MINUET” かしこさ 〔 かしこさ部門 エスパータイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   フーディン +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


フーディンのライブアピール。

フーディンが連続でテレポートした直後、光の弾が現われ会場内を舞い踊る。


司会『フーディン! ライブアピールを成功させ、更なる加点を得ます!! さあ、この空気の中、次のギギギアルはどう動くか!!』
620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:24:38.47 ID:UvOtrYsw0

テツ「ギギギアル、“ギアソーサー”お願いします」
 「ギギギギギ」

 《 “ギアソーサー” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ギギギアル✪ +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ✪B+♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


ギギギアルは音を立てて、さらにギアの回転を加速する。


司会『これは、ギアチェンジからのコンボですね! ギギギアル固有の技でアピールを決めます!』


ヒトミ「ビークイン」
 「ブブブブ」


コーディネーターの合図でビークインの目が光る。

──と共に、大量のミツハニーが飛んできて、会場の中空を舞い踊る。


司会『これは“こうげきしれい”! ビークインがミツハニーたちの指揮を取り、攻撃の陣形を取らせる技です! ポケモンごと固有技の応酬です!』


 《 “こうげきしれい” かしこさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡
   ビークイン +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


……私も“アンカーショット”の方がよかったかな。

いやでも、あの技は妨害技だし、一番手で打つ理由はない。


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ダダリン     ♡♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡    ]
   フーディン    ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ]
   ギギギアル✪ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ]
   ビークイン    ♡♡♡♡       [ ♡♡♡♡          ]   》


司会『さあ、手堅い自己アピールが続きました、3ターン目はフーディン、ギギギアル、ダダリン、ビークインの順です!』


3ターン目──ダダリンは3番目。現在のエキサイトは【☆☆★★★】

このまま順調にアピールをすれば、このターンのエキサイト最高にあわせられるが……──仕掛けよう。


アキト「“スプーンまげ”」
 「フー」

 《 “スプーンまげ” かしこさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡
   フーディン +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


空中に浮いたままのスプーンにさらに追加でスプーンを増やして曲げる。

技そのものが珍しい場合は数回出した程度では飽きられにくい。連発できる主力アピールとして機能する。


司会『さあ、スプーン倍増です!』


次にスポットライトが照らすのはギギギアル。
621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:25:58.99 ID:UvOtrYsw0

テツ「“ギアチェンジ”でお願いします」
 「ギギギギギ──」

 《 “ギアチェンジ” かしこさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
   ギギギアル✪ +♡ ✪B+♡ ExB+♡ +✪
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


ギギギアルは再び“ギアチェンジ”。固有のかしこさの技が続く。

今のエキサイト……前のターンのフーディンの“スプーンまげ”で最高潮……。

そこから、“ギアソーサー”、“こうげきしれい”、“スプーンまげ”、“ギアチェンジ”……つまりこれが丁度5回目。

絶好のアピールタイミングだけど……


曜「 ダダリン、“パワーウィップ”!」
 「────」

 《 “パワーウィップ” たくましさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡
   ダダリン +♡♡♡♡♡♡ ExP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ダダリンが再びアンカーを激しく振るう。

だが、今回のはさっきと違った地味なアピールじゃない。激しい、たくましさ技だ。


司会『おっと、これは……』


ステージを割り砕くその火力。

周りの期待を裏切ったと言う意味での評価は貰えるが──


司会『インパクトのあるアピールです! ……ですが、これは“たくましさ”の技ですね』


会場も“かしこさ”を求めて見に来ている以上、“たくましさ”の技への反応は薄い。

つまり、盛り上がりが落ちる。

すなわち、エキサイトが下がる。


ヒトミ「ビークイン」
 「ブブブブ」


コーディネーターの合図と共に、ビークインの羽音が微妙に変わり、それに合わせてミツハニーたちが近寄ってくる。

大群で押し寄せてくる、ミツハニーたちは浮いてるスプーンにぶつかっている。

妨害技だ。


ヒトミ「“かいふくしれい”」

 《 “かいふくしれい” かしこさ 〔 同じ タイプの アピールを した ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜♥♥♥♥
   ビークイン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


司会『これもまた珍しい、ビークイン固有の技ですね! “かいふくしれい”とは名ばかり、コンテストでは飛び交うミツハニーが他のポケモンの邪魔をします』


 《 フーディン -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 ギギギアル -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 「フーディ…ッ」
 「ギギ、ギギギ」
622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:27:13.37 ID:UvOtrYsw0

ギギギアルにもミツハニーたちがぶつかってきて、回転の邪魔をしている。

一方、ダダリンは激しいたくましさ技をしていたためか、ミツハニーはあまり寄って来れない。

 《 ダダリン -♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   フーディン     ♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡    ]
   ギギギアル✪✪ ♡♡♡ ♥♥♥♥  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ]
   ダダリン       ♡♡♡♡♡♡ ♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ]
   ビークイン     ♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡         ] 》


司会『さあ、4ターン目に参りましょう! 激しいミツハニーたちの妨害の中、結果として目立ったのは水槽の中からアピールをしているダダリンです!』


タイミングぴったり……!!


曜「ダダリン! “こうごうせい”!」
 「────」

 《 “こうごうせい” かしこさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   ダダリン +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ダダリンのモズクが空から日差しを浴びて光り輝く。


司会『おっとぉ! 先ほどとは打って変わって、これは素晴らしいアピールです! 太陽の光から、エネルギーを得る植物の知恵の体現“こうごうせい”!! まさにかしこさ技です!!』


司会のお姉さんの実況と共に、再び会場が沸き立つ。

──会場のエキサイトを技コントロールして、任意のタイミングで大技を決める。


曜「ダダリン! “災いの術式”! 行くよ!」
 「──────」

 《 “災いの術式” かしこさ 〔 かしこさ部門 ゴーストタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ダダリン +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


砕け散った会場の欠片や備品と言ったものが、青紫の炎のようなものに包まれ、浮かび上がり、

ポルターガイストのように飛び回る。


司会『ゴーストタイプのエネルギーでモノを操り人を驚かせる……彼らゴーストポケモン特有のかしこさが光ります!』


さっきも出来たはずのライブアピールを次のターンにうまく先送りできた。

これによって、ライブアピールの機会を少しだけ後ろに回し、他の参加者が同じようにライブアピールをする機会を減らすことが出来たのではないだろうか。


ヒトミ「ビークイン、“はねやすめ”」
 「ブブ、ブ……」

 《 “はねやすめ” かしこさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡
   ビークイン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》
623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:29:16.39 ID:UvOtrYsw0

アキト「フーディン、“じこさいせい”」
 「フー……」

 《 “じこさいせい” かしこさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡〜♡♡♡♡♡♡
   フーディン +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


司会『さあ、回復技が続きます! 自己回復技はポケモンの持つかしこさの象徴ですからね! 手堅い!』

テツ「ギギギアル、“ギアソーサー”お願いします」
 「ギギギギギ」

 《 “ギアソーサー” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ギギギアル✪✪ +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ✪B+♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


司会『一方ギギギアルはブレません! 自分に出来るギアとしての役割を真っ当する姿もこれはこれでかしこい選択です!』


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ダダリン       ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ]
   ビークイン      ♡♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡                   ]
   フーディン      ♡♡♡♡♡⁵♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡            ]
   ギギギアル✪✪ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡           ] 》


──5ターン目。


司会『さあ、ラストターン! ダダリン、ギギギアル、フーディン、ビークインの順です!!』


エキサイトは【☆☆☆★★】……。

“はねやすめ”、“じこさいせい”、“ギアソーサー”。

あと2回のかしこさ技で、また会場のボルテージはマックスになる。残りアピールの回数は全部で4回。なら……。


曜「“ゴーストダイブ”」
 「──」

 《 “ゴーストダイブ” かっこよさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   ダダリン◆ +♡ ExP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


ユラリと、音もなくダダリンが消え去る。


司会『おっと、今度は“かっこよさ”の技ですね!』


自分の大技は決めた、あとは大技を決めさせない。1番目のアピールなら、最終ターンの攻撃も凌ぐことを兼ねられる防御技でエキサイトを下げる。


テツ「ギギギアル、“ギガインパクト”お願いします」
 「ギギギギギギギギ」

 《 “ギガインパクト” たくましさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ギギギアル✪✪ +♡♡♡♡ ✪B+♡♡ ExP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


やはり来た、妨害を兼ねた最後の大技。


司会『今度は“たくましさ”の技です!!』


ギギギアルが会場中を加速したギアで爆走する。

その勢いは直接ぶつからなくても、衝撃だけで、
624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:30:50.24 ID:UvOtrYsw0

曜「!」


水槽にヒビを入れる。

回避していてよかった……。


アキト「フーディン、“サイコキネシス”」
 「フーディンッ!!!!」

 《 “サイコキネシス” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   フーディン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


そのひび割れた水槽に向かって、フーディンはサイコパワーを使って中の水をいくつもの小さいボール状にして取り出す。


ヒトミ「“こうげきしれい”」
 「ブブブブ」

 《 “こうげきしれい” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ビークイン +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


そして、その水玉をミツハニーたちが頭の上に載せて、外に運び出す。

水槽は空になり──その後、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


司会『これは……! 水が零れずに済みました! ……開催側としては助かりますね!』


そんなお茶目なコメントに会場がクスクスと笑う。


司会『さあ、これにて二次審査終了です!』

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ダダリン      ♡ ♥       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ]
   ギギギアル✪✪ ♡♡♡♡♡⁵♡ ♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡    ]
   フーディン     ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡       ]
   ビークイン     ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡              ] 》



司会『最終結果の発表に移りましょう!! スクリーンを御覧下さい!!』


司会のお姉さんの声と共に、会場中の視線が大きなスクリーンに集まる。

画面に表示された4本の数直線上を同時に4つのメーターが伸びていく。


司会『一次審査はフーディン、次いでダダリン──』


一次審査の得票を表す赤のゲージはフーディンに負けている。

そのまま、二次審査の得票を表す、青のゲージが伸び始める。

ビークインが最初に止まり、次にフーディン……そして──。


司会『……決定しました。今大会、優勝者は──』


 「──」

ユラリと時間差でダダリンが戻ってくる。

水槽がなくなったため、錨を上に上げて、舵輪の底で体を真っ直ぐ保つ。


曜「ダダリン、お帰り」
 「──」
625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:32:10.09 ID:UvOtrYsw0

戻ってきた、ダダリンにスポットライトが浴びせられる。


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【.フーディン 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡  〕
   【ギギギアル】 〔 ♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡           〕
   【ビークイン 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                〕
  ✿【 .ダダリン 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


司会『……ダダリン&ヨウさんの優勝です!!! 皆様、大きな拍手をお願いします──』





    *    *    *





コンテスト終了後、会場のロビーに行くと……。


ことり「曜ちゃん、お疲れ様♪」

曜「ことりさん!」


ことりさんが待っていた。


ことり「見てたよ〜♪ “パワーウィップ”でタイミングを遅らせて、“こうごうせい”を使ってからライブアピールに繋ぐ作戦。うまくはまってたね♪」

曜「えへへ……運がよかったかな」


“こうごうせい”はときによってアピールの成功度合いが変わる技だ。今回はそれがかなりうまく行ったのが、勝利への大きな要因だろう。


ことり「そうだね……“こうごうせい”がうまく行ってなかったら、総合得点でフーディンに負けてたかも」

曜「ぅ……」

ことり「うそうそ♪ 運も実力のうちだよ」


ことりさんの冗談は基本不意打ちだから、正直心臓に悪い……。


ことり「ともかく! ちゃんと、わたしの出した課題、こなせたね♪ さすが、わたしの見込んだ曜ちゃんです!」

曜「よ、ヨーソロー! 頑張ったであります!」

ことり「そんな偉い曜ちゃんにはお師匠様からプレゼントがあります♪」


ことりさんはそう言いながら、私の手を取って何かを握らせる。

手に握ったソレはどうやら、


曜「アクセサリー……?」


錨の形をしたアクセサリーのようだ・


曜「これ……」


その錨状のアクセサリーのアンカー・リング──アンカーの付け根に当たる部分──の穴には不思議な色の石がはめられていて……。


曜「ことりさんのネックレスと同じ石……?」


ことりさんが身につけている、ネックレスの石と同じような色をしている。
626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:33:36.91 ID:UvOtrYsw0

ことり「うん♪ それは、キーストーン。メガシンカに必要な石なんだよ」

曜「! メガシンカ……!」


ことりさんのチルタリスが千歌ちゃんとの対戦でしていた、ポケモンの更なる力を解放するための手段、メガシンカ。


曜「も、もらっちゃっていいの!? 貴重なんじゃ……」

ことり「もちろん♪ 連日の2大会を頑張ったお弟子さんへの労いです♪ セキレイで作ってもらった特注品のメガイカリ。曜ちゃんにピッタリな感じにしてみたよ♪」

曜「ことりさん……! ありがとう!!」


思わずことりさんに抱きつく。


ことり「ふふっ♪ ちょっとはお師匠様らしいこと、ことりもしないとだからね♪」

曜「今まででも、十分お師匠様らしいよ!」

ことり「えへへ、ありがと♪ じゃあ、そんなお師匠様から次のミッションも伝えるね?」

曜「! う、うん!」

ことり「メガシンカの条件をそろえるために、トレーニングをします!」

曜「条件……?」

ことり「曜ちゃんの手持ちだと、メガシンカが見つかってるのはカメールの進化系のカメックス。明日、セキレイシティに戻ってカメックスナイトを探すのと……カメールを鍛えてカメックスに進化するまで育成! それが次の目標!」


つまり……。


曜「メガシンカをコンテストに向けて?」

ことり「うん! 来週のサニータウンのかっこよさ大会に向けて、急ピッチで調整するよ! ここからは本格的に競技人口も増えてくるし、激戦を勝ち抜くための力が必要だからね♪ この2日でパワープレイとテクニカルプレイの両方を実地で経験出来ただろうし、あとは基礎能力の向上だよ!」

曜「……ヨーソロー!! 了解であります!」

ことり「いい返事だね♪ でも、今日はもうお休みにして……おいしいものでも食べにいこっか?」

曜「! うんっ! おなかぺこぺこ……」

ことり「ふふっ ステージは緊張してお腹すくからね〜 ダリアには、おいしいチーズケーキのある洋食店があるんだよ〜」

曜「洋食店……ハンバーグとかあるかな」

ことり「あるよ♪ とびきり、おいしいのが!」

曜「やった!」

ことり「じゃ、いこっか♪」

曜「うん!」


ことりさんに連れられて、夕闇に紛れ始めた、ダリアシティを歩き出す。

コンテストの連日はこうして、ひとまずの一区切りを見せることになりました。


627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:34:19.36 ID:UvOtrYsw0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち カメール♀ Lv.28  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.29 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.25 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.30 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.32 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.16 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:120匹 捕まえた数:18匹 コンテストポイント:24pt


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:42:31.45 ID:UvOtrYsw0

■Chapter047 『霊彷徨う墓庭』 【SIDE Yoshiko】




                                  と
──堕天使ヨハネは今日もアブソルを追い求めて、飛翔び続ける。


 「カァ…カァ…」
善子「ヤミカラスあともう少しだから……お願い!」
 「カァー」


だが、その漆黒の羽は堕ちる寸前だった。


善子「いや、むしろ元から堕ちてたわね……くっくっく……何故なら私は † 堕天使 † ──」
 「カァ…」


──ふわっと身体が浮遊感に包まれる。


善子「!? きゃああああああ!? ヤミカラス飛んで!! お願いだからぁ!!?」
 「カァーカァー」


力一杯叫ぶとヤミカラスは再び力を振り絞って羽ばたき始めた。


善子「し、死ぬかと思った……」


──私が現在いるのは、カーテンクリフを飛び越えた先の12番道路。

カーテンクリフは噂通りの絶壁。

地方北部にまたがるカーテンとはよく言ったものだった。


善子「お陰様で、超えるだけで3日も掛かったわ……」
 「カァカァ」


そのせいでヤミカラスはバテバテ。

件のアブソルは、図鑑によると──


善子「……今度は7番道路の方に行ってる」


7番道路とカーテンクリフ、その北の12番道路と──この絶壁を何度も往復していた。

軽く図鑑のバグを疑ってしまうが、どうせ追いかける手掛かりはこれしかない。

……ただ、さすがにこのまま休息も補給もないまま、アブソルを追いかけて、カーテンクリフを行ったり来たりしていたら、遭難待ったなしだ。

なので、一旦追跡は止め、ここからすぐ北にあるヒナギクシティを目指しているところだ。


善子「見えてきたわね」


ぼちぼち道路まで高度が下がってきたので、ヤミカラスから手を放して地面に降り立つ。


善子「──着地!」

 「カァカァ」


その上からゆっくりとヤミカラスが旋回しながら降りてくる。


善子「ヤミカラス、ありがと。あとはゆっくり休んで」
 「カァ」


ヤミカラスをボールに戻し、私はヒナギクシティに向かって歩き出す。
629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:46:39.60 ID:UvOtrYsw0

善子「……それにしても、まさかこんな形で、“あの”ヒナギクシティに訪れることになるとはね……」





    *    *    *





──ヒナギクシティ。

オトノキ地方の北西部に位置する最果ての町。

南をカーテンクリフ、西にも大小さまざまな山が並び、北にはあのカーテンクリフよりも頂点が高いと言われる大巨山が聳える。三方を山に囲まれた、試される大地なのだ。

気候も地方の中では圧倒的に寒く、一年の半分は寒気と雪に包まれている。

話だけ聞いていると、とても人やポケモンが暮らすような場所には思えないが……。


善子「噂通りね……」


セキレイシティほどではないが、町にはそれなりに人が居て、賑わっている。


オカルトガール「そこの黒いの……占い、やってる」


占い商のオカルトガールや、サイキッカーの姿。

町中には、ユニランやムンナが浮遊し、ゴチミルやラルトスが歩き回っている。

……この土地には誰が呼んだのか、オカルトマニアやエスパーの修行をする人たちで溢れかえっているのだ。


善子「……まあ、強いて言うなら、呼んだのはアレか……」


私が思わず仰望した。その先にあるのは──この町のすぐ北に見える、オトノキ地方最大の霊峰──グレイブマウンテン。

噂通りの悪天候で、今も粉雪がパラついているこの町では、その山頂は全く見えないのだが……。

それでも、町の先の方には山の裾野が広がっているし、北の空はほとんど雲の切れ間から見切れる山のせいで見えないくらいだ。

この巨大な霊山を旗本に、オカルトマニアやサイキッカーの集う町となっている。


 「──それもこれも、ローズシティから開拓してきたお陰なんやけどね」

善子「そうそう……確か昔は町の東の11番道路もただの荒れ道で元はこんな賑わってなかったって……。……え?」


急に町往く人に補足される。もしかして、声に出てた……?


 「あ、ううん。声には出てないけど……キミはただのパワースポットの噂に集まってきただけやないんやなって関心してもうて」

善子「えっと……」

希「あ、ごめんね? ウチは希言うんよ」

善子「え、あ、どうも……。……私の名は †堕天使──」

希「善子ちゃんって、言うんやね」

善子「善子言うな!! って、え!?」


まだ、名乗ってないのに真名がバレた……!?


希「あ、ヨハネちゃん……って言う設定なんか……ごめんっ、ウチそこまで気が回ってなかったわ……」

善子「設定言うな!! ……と、言うか……」


この人、エスパー……?
630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:49:03.17 ID:UvOtrYsw0

 「あ、ううん。声には出てないけど……キミはただのパワースポットの噂に集まってきただけやないんやなって関心してもうて」

善子「えっと……」

希「あ、ごめんね? ウチは希言うんよ」

善子「え、あ、どうも……。……私の名は † 堕天使──」

希「善子ちゃんって、言うんやね」

善子「善子言うな!! って、え!?」


まだ、名乗ってないのに真名がバレた……!?


希「あ、ヨハネちゃん……って言う設定なんか……ごめんっ、ウチそこまで気が回ってなかったわ……」

善子「設定言うな!! ……と、言うか……」


この人、エスパー……?


希「ふふ……確かにウチは世間一般に言うところのエスパーかな?」

善子「や、やっぱり、脳内の声を直接……!!」


そういえば、聞いたことがある。

こんなアングラの聖地みたいな場所で、絶対的な支持を集め、纏め上げている人物がいると、


希「ちょっと、絶対的支持を集めてるサイキックマスターなんて言われたら、照れるやん……」

善子「誰もそこまで言ってないし、思ってもないわよ!?」


……思って、ないわよね?


希「あはは、ごめんごめん。けど、今ヨハネちゃんが考えてる人間は、間違いなくウチのことだと思うよ」

善子「じゃあ、貴方……」

希「せや──」


希さんはニコニコと柔和な笑顔を浮かべながら、


希「ウチがヒナギクシティのジムリーダー・希やんな」


改めて、今度は役職付きで名乗ったのだった。





    *    *    *





──ジムリーダー希。

キワモノばかり集まる尖った住民性のこの町の中心人物と言われるエスパー少女。


希「ふふっ♪ エスパーポケモンと一緒に過ごしてると、ある日エスパーに覚醒する人って案外おるんよ?」


確かに、エスパータイプのエキスパートとされる人間は、本人もエスパーだと言うのは噂には聞いたことがある。

……あくまで都市伝説みたいなものだと思っていたのだけど。


希「そうやねぇ……。確かに怖がられるところもあるし、自分から進んで表舞台に出て行く人は確かに少ないかもしれんね」
631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:51:16.78 ID:UvOtrYsw0

……じゃあ、そんな希さんは何故今こうして堕天使ヨハネと肩を並べて歩いているのだろう?


希「ちょっと、いろいろ外で確認したいことがあってな。……と言うか、すぐそこにいるんだから、喋ってくれへんかな?」

善子「どうせ、言っても言わなくてもわかるんでしょ……? と言うか、ホントにわかるのね……」

希「言うても、全部が全部やないんよ?」

善子「ここまでの会話、成立してたじゃない」

希「日常会話くらいならね。ただ、本人がその場で考えてないことまで、見抜くことは出来ないし……そうじゃなくても、隠そうとしてることを見抜くには、こっちも本気出さないと読めないんよ」


……本気出せば見抜けるのね。


希「それに、強い感情や激しく思考してる状態みたいなのはノイズが掛かってて、うまく読み取れないし」

善子「……強い感情?」

希「激しい喜怒哀楽とか、それこそバトル中とか。全部が全部キレイに頭の中を透視できるわけやないってことかな。……それが出来たらウチはとっくにこの地方のチャンピオンやろうし」

善子「……確かに」

希「だから、気になっとるんよ」


……? 何がだろう?


希「ヨハネちゃん、その格好見ると、ただ観光に来たって感じじゃないよね?」


格好──普段の動きやすい格好の上から防寒用の上着を羽織っている。

カーテンクリフを超えるために調達したものだ。


希「え? わざわざ、クリフを超えて来たん? ローズから来たんやなくて?」


希さんが私の心を読んで、目を丸くした。


希「ますます、気になるなぁ……なんでこの町まで?」


希さんがこっちに顔を向けて、私の瞳を覗き込むようにしながら、訊ねてくる。

この最果ての町まで来た理由──。

……少し悩んだけど、別に隠すようなことじゃないか。


善子「アブソルを追って……ここまで」

希「……アブソル?」


希さんは首を軽く捻ったあと、


希「アブソルって……あのわざわいポケモンのアブソル?」


質問を続ける。
632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:53:35.51 ID:UvOtrYsw0

善子「アブソルのこと、知ってるんですか?」

希「知ってるには知ってるけど……この地方では本当に珍しいポケモンやからね。見たことある人なんて数えるほどしかいないと思うけど……追ってってことは何処かで会ったってこと?」

善子「はい」

希「そのアブソルは今ここに来てるってこと?」

善子「いや……昨日とかには、グレイブマウンテンの方に行ってたみたいなんだけど……。気付いたらクリフに戻ってて……」

希「……じゃあ、またクリフに戻るために、一旦ヒナギクに補給に来たってことなんやね」

善子「まあ、そんな感じよ」

希「ふーん……」


希さんはそれだけ聞くと、顎に手をあてて何やら考えごとを始めた。

……まあ、それはいいとして。

今はとりあえず休みを取りたい。


希「……あ、せやった。クリフ超えて来た言うとったもんね。ポケモンセンター案内するよ」


そう言う希さんに、先導してもらう形で、ひとまずポケモンセンターへと向かうことになった。





    *    *    *





ポケモンセンターでポケモンを預けた後、フードコートで淹れて貰った、ブレンドコーヒーを啜る。


善子「ほわぁ……生き返る……」


携帯食料と水だけで過ごした数日間だっただけに、温かい液体が身体に染み渡っていく感覚が心地いい。


希「マスター、ウチもブレンドコーヒー。あと、ケーキ……ヨハネちゃんは何か好きなものある?」

善子「えっと……チーゴの実かしら……」

希「じゃあ、この子にチーゴのショートケーキを」

善子「え? い、いや、いいわよ」


突然、私の分のケーキも注文されて面食らう。


希「ウチの奢りだから、気にせんでええんよ」

善子「む、むしろ、気にするわよ! なんでさっき知り合ったばっかの私に、ジムリーダー様がケーキ奢ってくれるのよ!」

希「んー旅人は歓迎せんと。この町が急速に発展したのもここ10年くらい……外の町から人がたくさん来て、町が賑わったからやし。旅人さんを無碍に扱ったら、霊峰から罰が下ってまうよ」


……確かに、ヒナギクシティはローズシティからの街道が通じたことによって、人が流れてきたと言うのは聞いたことがある。


希「そゆこと。だから、気にせんでええんよ。軽い歓迎の印くらいに思って受け取ってくれれば」

善子「まあ……そういうことなら……」


コーヒーに再び口を付けながら、相槌を打っていると、すぐに目の前にケーキが用意される。


善子「……いただきます」

希「ふふ♪ どうぞ」
633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:55:22.58 ID:UvOtrYsw0

出されたショートケーキを、備え付けられた小さなフォークを縦に入れ、食べやすいサイズにして、口に運ぶ。


善子「……おいし」


疲れた身体にホイップクリームの甘味と、チーゴの実の絶妙な苦味のアクセントが溜まらない。


希「それはよかった」


希さんはそんな私を横目で見ながら、コーヒーを飲んでいた。

……ついでだし、手持ちのポケモンたちも労ってあげたい。


希「言えば、預けた手持ちもこっちのスペースに通してくれると思うよ」

善子「ん……」


……また、心を覗かれたようだ。

私は一旦席を立って、ジョーイさんから、ポケモンを引き取る。


ジョーイ「ごゆっくりどうぞ♪」

 「ムマ〜」「ゲロゲロ」「カァ」


3匹の手持ちを引き連れたまま、再びフードコートに戻る。

すると、そこには何種類かのポフレが、

 「ムマ〜」「カカァ!!」

気付いた、ムウマとヤミカラスはすぐにポフレに飛びついた。


希「ふふっ♪ 慌てなくても、たくさんあるから落ち着いて食べるんよ」

善子「なんか……悪いわね、いろいろしてもらっちゃって」

希「うぅん。むしろ、ポケモンたちを労ってあげてる姿に関心してるんよ? クリフ越えしたトレーナーは余裕がない状態の人が多いから、こうしてすぐにポケモンにまで気が回るのは偉いと思うよ」

善子「ん……ま、まあ、堕天使である私がリトルデーモンたちを労うのは当然の責務だし……!」


真っ直ぐ褒められて少し照れくさい。

机の上のポフィンを手に取って、後ろで待っている、ゲコガシラに手渡す。


善子「ゲコガシラも、食べなさい」
 「ゲコ」


ゲコガシラにポフィンを手渡していると、

 「ムマァ〜」

ムウマが寄って来る。


善子「あんたはさっき食べてたでしょ!?」
 「ムマァ〜」


……手渡しずるい。みたいな感じで怒ってる。


善子「ムウマ……あんたはもっと、慎ましさを身につけなさい。そうじゃないと、リトルデーモンの品格が──」
 「ムマッ」

善子「わっ!? ポ、ポケットに顔突っ込むな……!! そこにはなんもないわよ!!」
 「ムマー」

希「ふふ、仲良しさんやね」
634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:57:56.61 ID:UvOtrYsw0

ポケットに顔を突っ込んでいた、ムウマを無理矢理引き剥がすと、

──チャリチャリと、金属の細い鎖が音を立てる。

……ポケットに入れたままだった、御守りのロザリオを口に咥えていた。


善子「あ、こら!」
 「ムマ〜」


そのままロザリオを咥えて、ふよふよと飛んでいく。


善子「はぁ……失くさないでよ」
 「ムマ〜」


相手してたら、キリがない。

私は席に戻って、再びケーキの続きを食べることにした。

 「ヤミッヤミッ」

一方ヤミカラスは、ポフィンを次から次へと貪っている。

こっちはこっちで品がないが……まあ、ムウマに比べたら可愛いものだ。


希「随分と懐かれてるんやね」


希さんが私たちの様子を見て、クスクスと笑う。


善子「……まあ、ムウマとは子供の頃から一緒だし。ちっちゃい頃から、いたずら好きで……」

 「ムマー」


名前を呼ぶと、机の上に降りてくる。

このまま逃げても相手してもらえないと気付いたな……。


善子「ほら、ムウマ。ポフィンあげるから、ロザリオ返して」


ポフィンを手に取って、ムウマの口元に差し出すと、

 「ムマ♪」

口に咥えていたロザリオをその場に落として、ポフィンに齧り付く。


善子「全く……」


机の上に放られたロザリオを拾い上げる。


希「それ、御守り?」

善子「マ──……母親が、旅に出るなら持っていけって」

希「へー……いいお母さんなんね」

善子「……普通よ」


普通に過保護なくらいだ。

世話焼きで辟易してしまうくらい。


希「親の心、子知らずやねぇ」

善子「……そんなに子知らずではないと思うけど」


感謝はしてるし……。
635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:00:37.12 ID:UvOtrYsw0

希「でも、そのロザリオ貴重なものみたいやん」

善子「? そうなの?」


セキレイのデパートあたりで買ってきたやつだと思ってたけど……。


希「そのロザリオの真ん中にある宝石。キーストーンって言って、メガシンカに必要な道具なんよ?」

善子「キーストーン……?」


確かに、ロザリオの真ん中に不思議な色の珠がはまっているな、とは思ってたけど……。


希「その石は貴重なんよ? 大事にせんと罰が当たるで」

善子「……そうなんだ」


私は改めてロザリオを眺めたあと……再び、それをポケットにしまった。


善子「……大切にする」

希「うん、それがええよ」


……なんか、ホントに大事な御守り持たされてたんだとか気付かされると、柄にも無く、ちょっとホームシックみたいな気分になっちゃうじゃない……。


希「……ふふっ」


希さんはそれ以上は何も言ってこなかったけど、これも読まれてるんだろうか。

……なんだか、意味もなく恥ずかしいので、


善子「そういえば……」

希「ん?」


他の話を振ることにした。


善子「希さん、なんのために町まで出て来てたの? 確認したいことがあるって言ってたけど」

希「ああうん。そのことについて、ちょっとヨハネちゃんにも話が聞きたくてな」

善子「?」

希「……最近、野生のゴーストポケモンって見た?」


希さんは真剣な面持ちでそう尋ねてきた。


善子「ゴーストポケモン……」


15番水道でブルンゲルと戦ったけど……。


希「ブルンゲル……それ以外は?」

善子「えっと……そういえば、セキレイの周辺は夜になると、いつもよりヨマワルとかゴースが多く居たような……。あとは、カーテンクリフを昇ってる途中、フワンテとかフワライドが居たかもしれないわね」

希「そっか……」

善子「……ゴーストポケモンがどうかしたの?」

希「ん……最近地方のあちこちでゴーストタイプのポケモンが増えたって噂を聞いてな」

善子「……」


言われてみれば、多かったかも……?

まあ、13番水道から15番水道に渡って、ブルンゲルから船が襲撃されてたくらいだし、増えていると言われればそうかもしれない。
636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:02:05.31 ID:UvOtrYsw0

希「この町ってそういう噂が集まりやすいから、ちょっと調査してたんよ」

善子「……なるほど」


確かにオカルトガールが好きそうな話だ。この町にはそういうオカルトマニアが多いし、その手の話題は聞き込みが捗ることだろう。

怪奇・地方に蔓延るゴーストポケモンたちの姿。


希「もちろん、ゴーストタイプのポケモンが出たから悪い……とは言わないけど、明らかに大量発生してたら、異常事態を疑う必要もあるかなって思ってん」


確かに、ゴーストタイプのポケモンは神隠しや魂を吸い取ると言った逸話が多い。

比較的、忌避される傾向があるのは知っている。


善子「とはいっても……私のムウマは普通、だし……?」


気付くと、さっきまでテーブルの上でポフィンを食べていた、ムウマの姿が消えていることに気付く。


善子「ムウマ? どこいったの?」


キョロキョロと周囲を見回すと、

 「ムマー」

ムウマが一人でポケモンセンターの外に、出て行こうとしていた。


善子「え、ちょ、ムウマ!?」

 「ムマー」


そのまま、ムウマは体を透過させて、ポケモンセンターの外に出て行ってしまう。


善子「前言撤回……!! ヤミカラス! ゲコガシラ! 付いて来なさい!」
 「カァ」「ゲコ」

希「……あ、ヨハネちゃん!?」


私は手持ちたちを連れ、ムウマを追って、ポケモンセンターを飛び出した。





    *    *    *





 「ムマー」

善子「ちょっと、ムウマ!! 待ちなさい!!」


ポケモンセンターから出て、辺りを見回すとムウマは北のグレイブマウンテンのある方角に向かって進んでいる。


希「……よ、ヨハネちゃん!」


少し遅れて、会計を済ませた希さんが出てくる。


希「あっちは……“庭”の方やんな」

善子「庭……?」

希「ああ、えっと……“庭”って言い方は、外の人には馴染みがないよね」

善子「……いや」
637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:04:31.60 ID:UvOtrYsw0

そういえば、ヒナギクの北、グレイブマウンテンとの間に庭を冠する名前の土地があったことを薄ぼんやりと思い出す。

……それと同時に何故、ムウマが勝手に飛び出したのかも、なんとなくだけど推測できる。


希「……たぶん、北の霊園に──グレイブガーデンに引き寄せられてる」


私たちはムウマを追って……“庭”に向かって歩き出した。





    *    *    *





──グレイブガーデン。

グレイブ──墓石と言う名前通り、多くのポケモンや人が眠っている、霊園だ。

私たちはムウマを追って、霊園に向かって進んでいた。


 「ムマー」


幸いムウマはそんなに早く飛んでいるわけではないので、後ろから見失わないように付いて行くのはそこまで大変じゃなかった。


希「グレイブガーデンはね……他の地方からお墓を作りにくる人もいるんやけど……大半はあそこの人だったんよ」

善子「……あそこ?」


そう言う希さんの視線を追うと、グレイブマウンテンに視線を注いでいた。


善子「グレイブマウンテン……」

希「正確に言うなら、この一体の高山地帯に点在してた集落の人やポケモン……なんかな」

善子「……山に集落があるの?」

希「この辺りは昔から気候が厳しくて、食料も十分やなかったから、不要な争いを避けるために山のあちこちに集落があったって言われてるんよ」


──あった。過去形だ。


希「……それでも、こんな雪山の山岳地帯。どこに居ても厳しい生活だったのには変わらない。勾配も激しいから、雪崩も少なくない」

善子「……」

希「町の開発は、雪が溶けてきた時期にやってたそうなんやけど……ローズから道を切り開いて、この辺りまで来たら、山の麓にたくさんあったらしいんよ」


……いやな予感はするけど。


善子「……何があったの?」


訊ねる。


希「……大量の骨」

善子「……」

希「人やポケモンの骨。……雪崩に巻き込まれた人たちや、飢餓で亡くなった人たちなんやと思う」


彼らに弔意を表すために……ここに大規模な霊園が作られた。

結果……なのかはわからないけど、そこに霊的な何かを見いだして、多くの人が集まってきて……。
638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:05:52.35 ID:UvOtrYsw0

善子「……それで、町が発展して……」

希「……人は業深い生き物やね」

善子「……そうね」


 「ムマー」

もうとっくに日が暮れてしまった、ヒナギクシティ。

先程よりもいっそう寒気を増してきた、夜道を歩きながら、私たちは件の霊園に到着しようとしていた。





    *    *    *





希さんが霊園というだけあって、立派な墓石が規則正しく並んでいる。


善子「……?」


そんな霊園に入って、思ったのは──少し暖かいなと感じたこと。

……いや、というか


善子「あ、暑い……!」


寒い、どころじゃない。気付けば、ぱらついていた粉雪が雨に変わっている。


希「なんやの、この暑さ……!?」


ふと、墓石に目をやると、

──ポッ。ポポポッ、と。青い炎が燈る。


善子「ポケモン……!」


咄嗟に上着を脱ぎ捨て、図鑑を開く。

 『ヒトモシ ろうそくポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.1kg
  ヒトモシの 灯す 明かりは 人や ポケモンの 生命力を
  吸って 燃えているのだ。 道案内を するように 人や
  ポケモンを 誘導しながら 生命力を 吸い取っている。』


希「ヒトモシ……」

善子「……ここ、ヒトモシの生息地なの?」

希「……生息地ではあるけど、数が多すぎる」


多すぎる。

図鑑から霊園に視線を戻すと、そこは

青い炎の海だった。


善子「……嘘でしょ」

希「ヨハネちゃん……! 一旦避難しよう、これは異常や……!」


希さんが、腕を引っ張ってくる。

一旦逃げるように促しながら、

私は──
639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:07:31.74 ID:UvOtrYsw0

善子「ムウマッ!!」

 「ムマー」


霊園の空を飛んでいた、ムウマに呼びかけ、


善子「“シャドーボール”!!」
 「ムマー」


空から、攻撃を撃ち落した。

 「ヒト!?」「トトモシ!!」

突然の攻撃にヒトモシが何匹か吹っ飛ばされる。


希「ヨ、ヨハネちゃん!?」


希さんが驚いた顔でこっちを見てくる。


善子「たぶんムウマは、突然現れたゴーストポケモンたちの気配に気付いて、この墓地に吸い寄せられたんだと思う」


理由はわからないが、ヒトモシたちは今のタイミングでこの霊園に現れた。

ムウマが突然ここに向かいだしたのはそういうことじゃないだろうか。

──見渡す限り、青い炎が揺れている。

恐らく相当な数のヒトモシが居る。

このヒトモシたちは、次にどこに向かうか──


希「それは……」


人の居る町だ。

生命エネルギーを求めて、町に進んでくる。


希「せやけど、ヨハネちゃんが戦う理由は……!!」

善子「こんなのほっとけるわけないじゃない!」

希「……!」

善子「希さんも戦うんでしょ!? なら、私も手伝うわよ! ゲコガシラ! ヤミカラス! ムウマ! 行くわよ!!」
 「ゲコ」「カァー」「ムマ」


私はそう言いながら、霊園に向かって走り出し、低空でヤミカラスの脚を掴んで飛び出す。


希「ヨ、ヨハネちゃん!! ダメや!! 危険なんよ!?」


背後から希さんが声をあげるが、


善子「危険なのは町に居たって時間の問題よ!! 希さんはヒトモシたちが“庭”から溢れないように対処して!」

希「善子ちゃん!!」

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ!! ヤミカラス! 前進!!」


私は希さんの制止を無視して、ヤミカラスとともに墓地の空を飛び出した。





    *    *    *


640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:09:10.70 ID:UvOtrYsw0


善子「ゲコガシラ! “みずあそび”!」

 「ゲコー」


墓石の上を飛び周りながら、ゲコガシラが水を撒く。

 「ヒト…」「トモシ…」

ヒトモシたちはかなり数は多いが、一匹一匹はそんなに強くないようだ。

さっきのムウマの攻撃でも数匹が戦闘不能になっていたし、それなら火力そのものを邪魔すればいい。

ゲコガシラなら適任だ。

……ゲコガシラで対応出来る事を確認したなら、次だ。


善子「ムウマ! ゲコガシラ! 一旦任せる!」
 「ムマッ」「ゲコッ」

善子「ヤミカラス! 上昇!」
 「カァ!!」


ヤミカラスに指示を出し、一気に霊園の上空まで上昇する。

──いくら、ゴーストポケモンが神出鬼没だからと言っても、限度がある。

そうなると……呼び出したやつが居るんじゃないか?

考察して、上空から霊園を観察する、と。

青い炎の密度が明らかに濃い場所がある。


善子「あそこか……!」


図鑑を開いてサーチすると、

 『ランプラー ランプポケモン 高さ:0.6m 重さ:13.0kg
  不吉な ポケモンと 怖がられる。 死者の 魂を
  求めて 街中を フラフラと 彷徨う。 臨終の 際に
  魂が 肉体を 離れると すかさず 吸い取ってしまうのだ。』


善子「ランプラー……! ヒトモシの進化系、たぶん群れのボス……!!」


恐らく、あのランプラーがヒトモシたちを先導している。


善子「行くわよ!! ヤミカラス!!」
 「カァー!!!」


上空から、炎の濃い地帯に向かって、舞い降りる。

その際、地上から墓石の上を飛びながら、跳びながら、追いかけてくる影。

 「ゲコ!!」「ムマー!!」

ゲコガシラとムウマ。


善子「ゲコガシラ! ムウマ! あそこに突っ込むわよ!!」
 「ゲコ!!」「ムマァ!!」

善子「ゲコガシラ! “たきのぼり”! ムウマ! “サイケこうせん”!!」


ゲコガシラは水流を纏った体当たりを、ムウマは“サイケこうせん”でヒトモシたちを迎撃しながら、炎の中心に向かって突き進む。


善子「……居た!!」
641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:12:12.99 ID:UvOtrYsw0

ヒトモシたちの群れの中に、一際大きな青い光を放つポケモンの姿。

 「プラー…」

ランプラーと目が合う。

──瞬間。

ランプラーから火球が飛び出した。


 「カァ!!?」
善子「!? ヤミカラス!!」


判断が遅れ、ヤミカラスに“はじけるほのお”が直撃。

──ガクンと高度が下がる。


善子「っ……!!」


高さは、それほどでもない……!!


善子「ヤミカラス、戻って!!」


ヤミカラスをボールに戻し、墓石の上に着地する。

 「ヒト!!!」「トモシ!!!」「ヒトモー!!!」

それと同時に私の居る場所に殺到してくる、ヒトモシたち


善子「ゲコガシラ!」
 「ゲコッ!!!」


名前を呼ぶと同時に、私の立っている墓石の近くにゲコガシラが跳ねながら近付いて来る。


善子「“みずのはどう”!!」
 「ゲコッ!!!!」


ゲコガシラを中心に、水気を持った波動が同心円状に広がり、ヒトモシたちを薙いでいく。

 「ランプルゥゥー……」

そんな私たちにランプラーが恨めしそうに鳴き声をあげた。


善子「心配しなくても、相手してあげるわよ!!」
 「ゲコッ──」


そろそろ、いい感じのレベルだったゲコガシラは、

眩い光に包まれ、最終進化系へと姿を変え──


善子「行くわよ! ゲッコウガ!!」
 「ゲコッ!!!」


──ゲッコウガへと進化して迎え撃つ……!!!


善子「ゲッコウガ!! “みずしゅりけん”!!」
 「ゲッコガッ!!!」


忍者のように墓石の上を飛び跳ねながら、ゲッコウガは水分を圧縮して、手の平の上に水手裏剣を作り出す。

連続で手裏剣を投げつけ、

 「ヒト!!」「トモ!!?」

取り巻きのヒトモシたちを連続で撃ち落す。

そのまま、着地したところに、
642 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:14:18.17 ID:UvOtrYsw0

 「ランプル…」

ランプラーが狙いを定めて、“ねっぷう”を噴出した。


善子「“たたみがえし”!!」
 「グワァッ!!!!」


ゲッコウガは地面に脚を叩き付けて、器用に地面をめくり上げる。


善子「ムウマ! 来なさい!」
 「ムマァ!!」


ムウマともども、その影に潜り込み、“ねっぷう”を凌ぐ。

 「ルァァンプゥゥ……」

ランプラーがさらに恨めしそうに声をあげるが、

めくれあがって垂直に立っていた、地面を蹴り倒すと同時に

ゲッコウガの姿が影に揺れる。

──次の瞬間、


善子「“かげうち”!!」
 「ゲッコガッ!!!!」


突然、ランプラーの背後に現れた、ゲッコウガがランプラーに回し蹴りを食らわせた。

 「ランプゥウウ……」

背後から、蹴り飛ばされたランプラーは、こっちに向かって墓石の間を転がってくる。


善子「……これでチェックよ」


私は地面を転がる、ランプラーにダークボールを投げつけた──。





    *    *    *





善子「ヒトモシたち、自分たちの住んでる場所に帰りなさい」

 「ヒト…」「トモシ…」

善子「あんたたちのボスはこの † 堕天使ヨハネ † のリトルデーモンになった」
 「ランプル…」

善子「その配下のヒトモシたち、貴方達も同様にリトルデーモン。無益な戦いはしないわ。引きなさい」

 「ヒト…」「ヒトモ…」


私がランプラーを横に統べたままそう告げると、ヒトモシたちは闇の中に溶ける様に消えていった。

一通り辺りを確認して、青い炎がなくなったのを確認してから、


善子「……ランプラー戻りなさい」


ランプラーを再びボールに戻した。

青白い炎が照らしていた墓庭が、夜の闇を取り戻して、暗くなる。

──ふと、その闇の先に、
643 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:15:32.98 ID:UvOtrYsw0

善子「……え」


月光に照らされた、白い美しい、影。


 「…」
善子「アブ、ソル……」


目を見開いた。


善子「うそ……」


私が呟いた瞬間、

 「ソル…」

アブソルが風のように私の横を駆け抜けていく。

呆気にとられてしまった。


善子「え、あ……!」


気付いて、振り返ったときにはもう姿はなく。


善子「……」


確認のために図鑑を開くと、確かにアブソルの現在地はグレイブガーデンにあった。

……あ、ヒナギクシティに移動した。


善子「……アブソル、貴方は……」


何故、アブソルは私の前に現れるのか……?

アブソル、貴方の目的は……?


善子「……追いかけるしか、ないわよね」
 「ムマ」

希「──その前に……ウチに言うことがあるんやない?」

善子「……!!?」


気付くと、目の前に希さんが立っていた。

背後にフーディンを連れている。

そういえば、流星山のときと同じように、またジムリーダーの制止も聞かず飛び出してしまった。


善子「あ、えーっと……希さん」

希「……善子ちゃん」

善子「……その、善子じゃなくて……ヨハネで……」

希「……はぁ。元気そうやね……怪我しとらん?」

善子「だ、大丈夫でーす……」

希「……危ないことしたら、ダメやん?」

善子「う……その……」

希「まあ、お陰でヒトモシたちは追い払えたし……怪我人も出さずに解決出来たけど」

善子「な、なら……」

希「でも、年長者の言うこと無視して飛び出したのは、よくないんやないかな?」

善子「ぅ……」
644 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:16:51.24 ID:UvOtrYsw0

勢いで飛び出してしまった手前、こう言われると縮こまるしかない。


希「……まあ、なんにせよ町のために戦ってくれたことには感謝しないとあかんよね。ありがとうな」

善子「……くっくっく…… † 堕天使ヨハネ † にとってはこの程度のこと造作もない──」

希「調子乗らない」

善子「あたっ!?」


チョップされた。


希「子供が元気なのはいいんやけどね……」

善子「えっと、希さん」

希「あんまりに言うこと聞かない子には……ちょっとお灸を据える必要があるんやないかなー?」

善子「わ、私すぐにクリフへ用事がー……」

希「ヤミカラス戦闘不能なのに?」

善子「ぐっ……」

希「ポケモンセンター行こうか」


希さんが踵を返して、町の方へと歩き出す。


希「ジムリーダーとして……いろいろ、お話してあげたいこともあるしなー」

善子「……あ、あははー」


ああもう……私ってば、不幸だわ──。





    *    *    *


645 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:17:55.07 ID:UvOtrYsw0


──7番道路。カーテンクリフ南側。


花丸「フワンテ! “かぜおこし”」

ルビィ「アブリー! “ようせいのかぜ”!」


……花丸ちゃんとバトルをしていると、

 「プワワ…!」

フワンテが震えだす。


花丸「やっとずらぁ……」

 「プワ──」


フワンテが進化の光に包まれる。


 「──フワーー」


花丸「フワライドに進化したずらー! これでクリフを登れるね!」

ルビィ「うんっ」


 『フワライド ききゅうポケモン 高さ:1.2m 重さ:15.0kg
  人や ポケモンを 乗せて 運ぶ。 基本は 風に
  流されている だけなので どこへ 飛んでいくのか
  わからない。 体内の ガスの 原料は 魂 らしい。』

私たちはカーテンクリフを登るための飛行手段として、フワンテを進化させるためにバトルでレベルあげをしていたところだった。

無事に進化して、先に進めるようです。

そんなことを考えていたら、

 「アブブ──」

アブリーも震えて、光を放ち始める。


ルビィ「え!? も、もしかして、アブリーも!?」


 「──アブリリ」


花丸「アブリーもアブリボンに進化したずら!」

ルビィ「うん!」


 『アブリボン ツリアブポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.5kg
  花粉を 丸め 団子を つくる。 アブリボンの 花粉団子は
  栄養満点の 食用の ものから 戦闘用の ものまで たくさんの
  種類が ある。 サプリメントとして 売られることも ある。』


花丸「それじゃいこっか! ルビィちゃん!」

ルビィ「うんっ! ……カーテンクリフ、登ろう!」


目指すは、カーテンクリフにあるらしい……グレイブ団アジトです……!!


646 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:19:55.58 ID:UvOtrYsw0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブガーデン】【7番道路】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.37 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.36 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.35 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.41 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:94匹 捕まえた数:44匹

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.28 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.26 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.25 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.28 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:7匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.30 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.27 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      モココ♂ Lv.29 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.26 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.28 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:30匹


 善子と ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2019/05/06(月) 05:29:43.84 ID:ywl5D0AHO
閲覧7万8千人が視聴した伝説のポケモン配信

加藤純一(うんこちゃん)ポケモン配信
ポケモンエメラルド・バトルファクトリー金ダツラを倒す男~令和~#12 完結編(2009.5.5(日)Youtubeライブ)

ttps://www.youtube.com/watch?v=fUi6uKRd1XA

Youtubech (jun channel)

ttps://www.youtube.com/channel/UCx1nAvtVDIsaGmCMSe8ofsQ
648 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 11:56:53.72 ID:UvOtrYsw0

■Chapter048 『それぞれの旅』 【SIDE Chika】





──流星山、北側の傾斜にて。


海未「千歌、準備はいいですかー!?」

千歌「はい! 師匠!」


私の声を確認した海未さんが、頷いてから……。

程なくして──上から岩が転がってくる。


千歌「ふー……」
 「バクフ」

千歌「バクフーン」


転がってくる、岩の一点を捉えるように。


千歌「“ほのおのパンチ”!!」
 「バクフーッ!!!」


斜面を転がる、岩に火拳が突き刺さり、


千歌「振りぬけ!」
 「バグ!!!!」


そのまま、岩は3つほどの塊に砕け、私たちの後ろに転がっていった。


千歌「……ふー」

海未「だいぶ安定してきましたね」


山の上から海未さんが声を掛けてくる。


千歌「でも、まだ真っ二つには出来ないです……」


海未さん曰く、これが綺麗に二つに割れたら、威力的に最大効率らしい。

でも、修行を始めて数日経つが、まだ一度もそれには成功していない。


海未「3つに割るのでも十分ですよ」

千歌「うー、でも……」

海未「いきなり欲張って結果を求めてはいけませんよ、千歌」

千歌「はーい……」

海未「それに、結果はちゃんと出ているではないですか」


海未さんが上空に視線を向ける。

私も釣られて視線を追うと、

 「ピィィイイイイイイイ!!!!!!!!!」

先ほどバクフーンと砕いたのと同じくらいの岩を大きな鳥ポケモンが持ち上げている。


千歌「ムクホークー!! 調子どうー!?」

 「ピィイイイイイイイ!!!!!!!!」
649 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 11:58:39.41 ID:UvOtrYsw0

上空で、ムクバード──ではなく、ムクホークが鳴く。

この修行でバクフーンに続いて、ムクバードも最終進化系へと進化したのだ。


海未「手持ち5匹とも個々にレベルをあげていますし……3つ割りも成功率が9割を超えました。あとは……」


海未さんの視線は近くで“めいそう”をしている、ルカリオに注がれる。


海未「……メガシンカですね」

千歌「メガシンカ……」


私がことりさんに負けた理由。


海未「メガシンカを会得してしまえば、ことりと条件は同じです」

千歌「……でも、メガシンカってメガストーン……? が必要なんですよね?」


確かルカリオのは、ルカリオナイトって言うんだっけ。


千歌「メガストーンってどこで手に入れるんですか……?」

海未「そうですね……貴重なものなので、多くは対応したタイプのエキスパートが持っていることが多いですね」

千歌「タイプのエキスパート?」

海未「花陽で言うところのじめんタイプ、ことりだとひこうタイプですね。ですので……」

千歌「?」

海未「今日は山を登りましょうか」

千歌「……はい?」





    *    *    *





さて、流星山の北側から、山登りを始めて半日ほど、


千歌「よいしょ……っと」


手持ち5匹と一緒に山を登って行く。


海未「もうそろそろ山頂ですね」


前方をひょいひょいと登って行く海未さん。

ただ……私も意外と付いていけてる自分に、内心驚いている。

私だけじゃない、バクフーン、ムクホーク、ルガルガン、ルカリオ……しいたけも、しっかり付いてこれている。


千歌「体力が付いた……?」

海未「そういうことですね」


私の呟きが聞こえたのか、海未さんが上から手を伸ばしながら答えてくれる。

私はその手を掴むようにして、一個上の岩に持ち上げてもらう。
650 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 11:59:54.64 ID:UvOtrYsw0

海未「なんだかんだ言いながら素振りも毎朝やっていましたし……今日は何回出来ましたか?」

千歌「えっと……150回くらいです」

海未「まだまだではありますが、前に比べて余計な力が抜けてきた感じはしますね。体力の配分や筋肉の使い方がわかってくると、疲労もしづらくなります。その成果でしょう」


ポケモンたちも基礎トレーニングを積んでるし……いい感じに成長してるのかも。

……その後5分ほど登ると、

見覚えのある景色が見えてくる。


千歌「流星山、登頂ー!」


以前は南側からロープウェイで登った流星山を、北側から地力で登ることになるとは思わなかったけど……。


海未「ええっと……ここで待ち合わせしていたのはずなんですが……」


海未さんはそう言いながら、辺りを見回す。


 「──海未ちゃーん!」


……直後、声と共に人影が飛び出して、


海未「きゃぁ!?」


海未さんに背後から抱きついた。


千歌「!」


見覚えのある容姿。


千歌「凛さん!」

凛「やっほー千歌ちゃん! 久しぶりにゃ」


頂上で待っていたのは、凛さんだった。


海未「凛……離れてください……」

凛「海未ちゃん、簡単に凛に捕まるなんて、腕がなまったんじゃないかにゃ〜?」

海未「崖に向かって投げますよ?」


海未さんが首を捻って、凛さんに視線を向ける。


凛「……じ、冗談だにゃ〜」


凛さんが海未さんからそそくさと離れていく。


千歌「ところで、なんで凛さんがいるんですか?」

海未「それなんですが……凛、用意してくれましたか?」

凛「あ、うん。えっと確かここに……」


凛さんはポケットに手を突っ込んで探し始める。


海未「……あの貴重品なんですから、もうちょっと重用に扱えないんですか?」

凛「凛は物々しいのは好きじゃないの! ……あ、あった!」
651 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:03:29.14 ID:UvOtrYsw0

凛さんがポケットから取り出した手に摘ままれている、一つの石。


凛「はい、千歌ちゃん」

千歌「え? はい」


それを手渡される。


千歌「これは……?」


色は橙。モンスターボール大くらいの宝石みたいな感じだ。

太陽に透かして見ると、中に何か捻れた紋様みたいなものが見える。


海未「それが、ルカリオナイトです」

千歌「……え!?」

海未「ルカリオがかくとうタイプでよかったですね。山を越えてすぐ向こう側に凛がいたので、用意してもらったんです」

凛「まさか、この間、挑戦しにきた子が海未ちゃんと一緒に山の逆側から登ってくるとは思わなかったけどねー」

千歌「……あ、そっか! 凛さんってかくとうタイプのジムリーダーだから……!」

海未「ええ、凛はかくとうタイプのエキスパートです」


つまり、海未さんが事前に入手手段は考えてくれてたということだ、


千歌「し、師匠……!!」


キーストーンもそうだし、『責任』とか少しよそよそしい言い方をしていた割に、根回しまでしっかりしてくれている。私はそんな海未さんになんだか感激してしまう。


凛「へー海未ちゃん、千歌ちゃんに自分のことそう呼ばせてるんだー」

海未「え!? ち、違います……! これは千歌が勝手にそう呼んでるだけで……!」

千歌「師匠!! ありがとうございます!! 凛さんも!!」

凛「うんうん、これからも存分に師匠に甘えるといいにゃ」

千歌「はい!!」

海未「二人とも、話聞いてますか!?」





    *    *    *





あの後、凛さんは研究所に戻っていった。

どうやら、仕事が立て込んでいるらしい。


海未「さて、千歌」

千歌「はい」

海未「……今回の稽古は次で最終段階になると思います」

千歌「え……もう?」

海未「もう少し、時間があればゆっくりやりたかったのですが……私もそろそろ本部に戻らないといけません。なので──」


海未さんは私を真っ直ぐ見据えて、
652 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:14:34.19 ID:UvOtrYsw0

海未「メガシンカを完成させましょう」

千歌「! ……はい!」


最後の修行が始まるのだった。





    *    *    *





──ローズシティ。

夜、真姫さんに呼び出されて、真姫さんの部屋に来たんだけど……。


梨子「し、失礼しまーす……」


なんだかんだで、ローズジムで鍛えている間は、真姫さんの家にお世話になっている。


真姫「何、今更緊張してるのよ……さっさと入って、ドア閉めなさい」

梨子「は、はいっ!」


さっと入って、さっと閉じる。


真姫「……はいこれ」

梨子「……?」


真姫さんはぶっきらぼうに何かを差し出す。

手の平に乗っけられたソレは……。


梨子「ブレスレット……?」


細いチェーンのようなもので、輪を作っている腕輪だった。

そのチェーンの中央には宝石が飾られている。


真姫「……ん」

梨子「えっと……」


真姫さんは私の手の上にそれを置くように渡してくる。


真姫「あげる」

梨子「あ、ありがとうございます……でも、いいんですか? 高いんじゃ……」

真姫「高い……と言うか、特注品よ」

梨子「え、特注品……?」

真姫「真ん中にあるのはキーストーンよ」

梨子「キーストーン……」


確か、それって……。
653 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:16:19.62 ID:UvOtrYsw0

真姫「メガシンカに使う道具よ」

梨子「!」

真姫「いつか使うかと思ってね。……まあ、メガストーンは自分で調達しなさい」

梨子「は、はい……!!」


最初は面倒見るなんて、柄じゃないとか言っていたのに……なんだかんだでやっぱりすごく優しい人だ。

思わず感激して、真姫さんの顔をじっと見つめてしまう。


真姫「……これ以上は何もないわよ」

梨子「……い、いや、そういう意味じゃ……とにかく、ありがとうございます……!!」

真姫「……ま、うまく役立てなさい」


真姫さんは髪の先を指でくるくるしながら、椅子に腰掛け、脚を組む。


真姫「……用事、これだけだから」

梨子「は、はい! じゃあ、私部屋に戻ります!」


私が部屋を出て行こうとすると、


真姫「梨子」


呼び止められた。用事終わりじゃないんだ……。


梨子「なんですか?」

真姫「……いつごろ、旅に出る?」

梨子「……あと2日もしたら出ようかなって、思ってます」

真姫「……そ」

梨子「……はい」

真姫「…………」

梨子「…………」


なんとなく、お互いの間に沈黙が走る。


真姫「……明日」

梨子「?」

真姫「……明日、夜……クリスタルケイブに行きましょ」

梨子「え……はい」





    *    *    *





──翌日。

昨日言われた通り、日が傾き始めたころに、ローズシティを発って、クリスタルレイクを目指す。


真姫「メタング、出して」
 「メタ」
654 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:18:01.66 ID:UvOtrYsw0

私も真姫さんのメタングに相乗りさせてもらう形で、クリスタルケイブに向かう。

……クリスタルレイクへの丘を登ったころには、日は完全に沈み、夜の時間帯が始まっていた。


真姫「メタング、ここ垂直に降りて」
 「メタ」

梨子「……ここ、私が落とされた穴……」


ついこの間、私が自由落下した縦穴を、メタングが垂直に降りていく。


真姫「ここ通るのが一番近いのよ」

梨子「……知ってます」


身をもって体験したので……。

思った以上に長い縦穴を抜けると、ネマシュのキノコ地帯。


真姫「メタング戻りなさい」


狭い通路をメタングに乗ったまま進むのは難しいためか、メタングをボールに戻して、


真姫「ちょっと歩くわよ」

梨子「あ、はい」


真姫さんに促されて、あの時同様、キノコの上を歩き始める。


梨子「……あ」


そして、前回同様、岩の陰からネマシュが数匹こっちを見ている。


真姫「トゲデマル」
 「デマルッ」


いつまに出したのか、キノコの上をトゲデマルが駆けていき、


真姫「“びりびりちくちく”」
 「デマルッ」


トゲデマルが背中の針を伸ばしながら、放電してネマシュたちを威嚇し、怯ませる。

 「シュー…」「ネマシュ…」


真姫「進むわよ。あんまり光見過ぎないようにね」


二人して、奥に進む。

キノコ地帯を抜けると、

──虹があった。


真姫「相変わらず……絶景ね」

梨子「……はい」


思わず言葉を失ってしまう。夜の虹。

二人で隣り合って腰を降ろし、眺める。

そんな中で、
655 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:20:39.85 ID:UvOtrYsw0

真姫「……私、子供の頃ね、旅に出るのを反対されてたの」


真姫さんはそう話を切り出した。


梨子「……え?」

真姫「親の方針でね。私は子供の頃からバトルの訓練も受けていた、座学も家庭教師がマンツーマンで、10歳になる頃にはまずバトルに負けることはなかったわ」

梨子「……」

真姫「手持ちも全部親が揃えて、私はレールに乗せられるようにジムリーダーになるはずだった。でもね……そんな私を凛が無理矢理連れ出したの」

梨子「凛さんが……?」

真姫「凛と花陽とは、あの街で一緒に最初のポケモンと図鑑を貰ったのよ。凛がニャビー、花陽がフシギダネ……そして、最後の一匹ポッチャマを私が連れて行ってね」

梨子「でも、旅に出るの反対されてたんじゃ……」

真姫「だから、もともと旅に出るのは凛と花陽だけだったんだけど……さっきも言ったけど連れ出されたのよ。親にナイショで」


真姫さんは懐かしむように、話を続ける。


真姫「でもすぐに親にバレて街中探し回られてね。でも、凛は私と花陽の手を引いたまま、クリスタルレイクまで逃げてきたの。丘の上の湖について、このままじゃ見つかる、ってなったときに凛、どうしたと思う?」

梨子「……どう、したんですか?」

真姫「縦穴から飛び降りたのよ。しかも、私と花陽の腕を掴んだまま。……あのときはホント死んだと思ったわよ」

梨子「あはは……」


私も同じことを思ったし、たぶんあの時と同じ感じだったんだろう。


真姫「キノコの上を転がって、生きてるってわかったときは……大声で泣きながら、凛の胸倉を掴んで揺すってやったわ。殺す気かって。そしたら、凛がね、こう言ったのよ」


真姫「──『真姫ちゃんもそういう表情するんだ』って」

梨子「……」

真姫「……そのときは張っ倒したけど」


張っ倒したんだ……。


真姫「後になって考えてみたらね……生きてるってこういうことなのかなって思ったのよ」

梨子「生きてる……」

真姫「自分で見て感じて、理解することなんじゃないかって。どんなに本を読んで知ってても、人から聞いても、実際に自分がやってみたら、うまく出来ないことがたくさんあった。正直自分が死に掛けて、あんなに泣いて怒鳴って、人に張り手するなんて、想像も出来なくて。……実際、穴に落ちたら想像の出来なかった自分が出てきて」


──嗚呼、やっとわかった……。

どうして、この人が私にここまでしてくれたのか、


真姫「ジムに来た貴方を見て、話を聞いて……境遇は違うけど、この子はあのときの私と同じなのかなって……思ったのよ」

梨子「真姫さん……」


そして、導いてくれたんだ。


真姫「……またいつか、ことりの場所にもう一度行きなさい」


真姫さんはそう言いながら、隣に腰を降ろしていた私の手を握る。
656 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:22:13.33 ID:UvOtrYsw0

真姫「こんなに色んなものを見て、旅をして、最高の仲間と出会ったって、自慢して、見返してやりなさい」

梨子「……はい……!」

真姫「あと……勝って来なさい。もう何も出来ずに負けるなんてことないから、貴方は強くなった」

梨子「……強く、なったかな」

真姫「強くなったわよ。だって──」

梨子「だって……?」

真姫「──私が育てた自慢の生徒が、弱いはずないでしょ?」

梨子「……!」

真姫「上手くできなかったら、また挑戦すればいい。相手にされなかったら、強くなって見返してやりなさい。どうしても、うまくいかなくて苦しくなったら……」

梨子「……真姫さん……っ……」

真姫「……またローズジムに来なさい。私が鍛え直してあげるから」

梨子「……はい……っ……」


……ホントにこの人は優しいんだから……。

私の先生は……本当に、優しいんだから……。





    *    *    *





──翌朝。


真姫「ローズジムのジムリーダーが認めたトレーナーとして、恥じない旅を謳歌してきなさいよね」

梨子「はい!」

真姫「それじゃ、いってらっしゃい」

梨子「行ってきます!」


そう残して、旅路に戻る彼女の背中を追いながら、私は思った。

何よ、梨子ったら……。


真姫「いい顔するようになったじゃない」


私の初めての生徒といえる彼女は、思わず、そんな言葉を零してしまうほど、精悍で逞しい顔付きだった。


真姫「旅……楽しんできてね」


私は見送る背中に向かって、ひとりごちるのだった。









    *    *    *


657 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:23:12.09 ID:UvOtrYsw0





──数日後。

セキレイシティ。


海未「千歌、行きますよ」

千歌「はい、師匠」


海未さんに促されて、ジムの扉を開ける。


ことり「……千歌ちゃん、久しぶりだね」


ジムの奥のジムリーダー側のバトルスペースにはことりさん、そしてその奥には曜ちゃんが座っている。


千歌「……再戦、よろしくお願いします!」


私は頭を下げて、チャレンジャーのバトルスペースに入る。


海未「……審判は私が行います。二人ともいいですね?」

ことり「もちろん」

千歌「大丈夫です」

海未「それでは……。……これより、チャレンジャー千歌とジムリーダーことりの再戦を取り計らいます。特別ルールとして、使用ポケモンは1体。ジムリーダーはメガチルタリスを使用してください。戦闘ポケモンが戦闘不能になった時点で決着とします」

ことり「はい、お願いチルタリス!」
 「チルゥ」

千歌「行こう、ルカリオ!!」


私はボールを放った、再戦──スタート。


658 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:24:33.36 ID:UvOtrYsw0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
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【セキレイシティ】【ローズシティ】
 口================= 口
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 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.40  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.38 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.38 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.39 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.39 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.37 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.38 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.32 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.39 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:95匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.39  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.39 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.37 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.41 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.38 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.35 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:121匹 捕まえた数:19匹 コンテストポイント:24pt


 千歌と 梨子と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



659 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 14:56:40.21 ID:UvOtrYsw0

■Chapter049 『再戦! VSことり!!』 【SIDE Chika】





ことり「チルタリス!! メガシンカ!!」
 「チルゥ──」


ことりさんが首から提げる“メガネックレス”が光ると同時に、チルタリスが七色の光に包まれる。


千歌「ルカリオ!! いくよ!!」
 「ガゥッ!!」


私の合図と共にルカリオが飛び出す。

前方では七色の光が晴れると同時に、綿状の尻尾が広がりを見せ、


ことり「“ハイパーボイス”!!」

 「チィーーーーーールッ!!!!!!!!」


その光景と共に、爆音が飛んでくる。

一方、飛び出したルカリオは地面を健脚で蹴り、加速する──


 「グォゥ!!!」

千歌「いけっ! ルカリオ!!」


──音ごと置いていく!!

ルカリオの姿が、ブレる。


ことり「!」


──刹那。

気付けばメガチルタリスの背後まで走り抜けている、ルカリオの姿。


千歌「“しんそく”!!」

 「グォゥッ!!!」


そのまま、ルカリオはメガチルタリスのすぐ後ろで踏み込み、“しんそく”の勢いを載せたまま、回し蹴りに派生する。


ことり「“コットンガード”!!」
 「チル!!!」


メガチルタリスは咄嗟に防御の姿勢。もこもこと体毛が膨れ上がる。

その綿毛に、ルカリオの蹴りの衝撃は吸収されてしまうが、


千歌「正面で打ち合わなくていい!」


ルカリオには蹴りだした脚をコットンの上を滑らせるようにして、インパクトよりも次の攻撃への勢いを選ばせる。


千歌「“アイアンテール”!!」
 「グォ!!!」


そのまま、身を捩るようにして、尻尾を振るう──メガチルタリスの頭部目掛けて、
660 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 14:57:41.69 ID:UvOtrYsw0

ことり「“ついばむ”!」

千歌「!?」


だが、ことりさんは冷静だった。

メガチルタリスは長い首をしならせながら、ルカリオの尻尾を嘴で啄ばみ受け止める。


千歌「嘘!?」


そのまま、勢いを利用して、ルカリオを空中にぶん投げる。


 「グォァ!!!?」


中空に放られて、無防備になったルカリオに、


ことり「“りゅうのいぶき”!!」


すかさず、追撃。


千歌「ルカリオ! 瞑目!」
 「フ──」


瞑目──予め、決めていた咄嗟に目を瞑る合図だ。

少しでも早く状況判断が伝えられるように、

目を瞑ったルカリオは、視覚情報を落とし、近くのポケモンの波導がより鮮明に読み取れるようになる。


千歌「“はどうだん”!!」
 「グワォァ!!!!」


目を瞑ったまま放たれた、エネルギーの弾は一直線にメガチルタリスの方へ。

そのまま、“りゅうのいぶき”と正面衝突し、

──バチバチと、フィールド上をエネルギーが弾け飛ぶ。

いきなり息を付かせぬ攻防、


千歌「……はっ」


今後の呼吸を乱さないために、この隙に息を整える。

その間に地面に降り立った、ルカリオは再び地を蹴って、弾丸のように飛び出す。


千歌「“バレットパンチ”!!」

ことり「っ!! “つばめがえし”!!」


両者の攻撃が再び相殺する。


ことり「“みだれづき”!!」

千歌「“ボーンラッシュ”!!」


メガチルタリスの素早い連続突きを、波導を骨状に固めた武器を作り出していなす。


ことり「っ!! “そらをとぶ”!!」
 「チリュゥ!!」
661 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 14:58:57.03 ID:UvOtrYsw0

近接戦は分が悪いと判断したのか、空中に逃げるメガチルタリス。

──逃がさない!


千歌「“なげつける”!!」
 「グァォ!!!」


“ボーンラッシュ”で使った骨をそのまま、投げ飛ばす。

──が、


千歌「!」


狙いが定まってなかったのか、綿毛に弾かれてしまった。


ことり「……はぁ……はぁ……すごい猛攻だね……」


ことりさんが息を切らせて話しかけてくる。

その間、メガチルタリスは──空中で舞い踊っている。“りゅうのまい”だ。

攻撃力と素早さを上昇させる補助技。

そして、続け様に


ことり「……“ドラゴンダイブ”!!」


上空から襲い掛かってくる。


千歌「受けて!」
 「グォ!!!」


上空から、全身の勢いを乗せて、落ちてくるメガチルタリス。

その身体の下に自身の身を滑り込ませように、仰向けになる。


千歌「“ともえなげ”!!」

ことり「!!」


そのまま、メガチルタリスをことりさんのいる方向に投げ飛ばす。

 「チル…!!」

空にふわふわと逃げるメガチルタリス、ダメージは少ないが、

組み合うことは許さない。


 「グゥォ…!!!」

ルカリオはすぐさま身を起こし、両手を後ろに引いて、波導のエネルギーを収束させ始める。

一方メガチルタリスも口を開いて、ルカリオに狙いを定める。


千歌・ことり「「“りゅうのはどう”!!!」」


同技対決──だが、


千歌「押されてる……!!」


エネルギー同士が弾けて、フィールド上を散り散りに駆け回っているが、

真正面からぶつかった波動の本線は、僅かにメガチルタリスが優勢だった。
662 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:00:11.58 ID:UvOtrYsw0

ことり「いけっ!!」
 「チリュゥゥゥ!!!!!」


そのまま、撃ち下ろされた、“りゅうのはどう”は、

 「グォ!!!」

ルカリオに直撃して、彼の身体を後方の中空に向かって浮かした。


千歌「ルカリオ!」
 「グゥッ!!!」


ルカリオは後ろに吹き飛ばされながらも、受身を取って、体勢を立て直す。


千歌「……!」


その間に、メガチルタリスが激しい光に包まれる。

──前と同じ、最大の技。


千歌「“ゴッドバード”……!!」


一瞬、自分の指が髪留めに──“メガバレッタ”に触れたけど。

いや……。


千歌「この力は……今じゃない」


海未「…………」


千歌「ルカリオのままで勝たないと、再戦した意味ないよね!」
 「グォゥ!!!!」


ルカリオが片足を立て太極拳のように、右手を前に構える。


ことり「……!! 受け止める気……!?」


──バチバチと音を立てながら、エネルギーを充填したメガチルタリスが、ルカリオに狙いを定める。

私たちは上空のソレを見据えて、


千歌「──来いっ!!!」
 「グォァ!!!!!!!」


声を張り上げた。


ことり「チルタリス!!! “ゴッドバード”!!!!」
 「チリュゥウウウウウ!!!!!!!」


空から、落ちてくる。

──高速の神鳥が、

私は目を見開いた。

一点、

メガチルタリスの一点を見極めろ、

修行のときのように、


右手を構えた、

ルカリオと同じように、
663 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:03:09.40 ID:UvOtrYsw0

ルカリオと波導を同調させて、

見極めろ──


千歌「──“はっけい”!」


──フィールドが静まり返る。

高速で堕ちて来た、メガチルタリスはルカリオの右手が刺さったまま、動きを止めていた。


ことり「……うそ」


──ユラリ。

メガチルタリスが揺れた。

 「チ、ル……」

そして、崩れ落ちる。


海未「──勝負あり!!」


千歌「……は……、……はぁ……はぁ……っ……」


ほとんど息もせずに集中していたことに気付いて、動悸が襲ってくる。

激しく集中したせいか、脳がオーバーヒートを起こしそうだし、息も切れて、勝手に肩が上下している。


千歌「でも……見えた」


一点、打ち抜いた。


海未「メガチルタリス戦闘不能!! チャレンジャー千歌とルカリオの勝利です!!」


千歌「ルカリオ……ナイスファイト!」
 「グォゥ」


私はルカリオに向かって親指を立てて見せた。


ことり「…………そっか、負けか」


バトルを終えた、ことりさんがぼんやりと、そう呟いたのが聞こえてきた。


ことり「……今度はメガシンカでも負けちゃった……ことりの完全敗北だね」


メガチルタリスをボールに戻しながら、フィールド上をことりさんが歩いてくる。

バッジを手に持って。


ことり「ここまでされたら、もう誰も文句言えないね。千歌ちゃん」

千歌「は、はい!」


正直、脚は笑っていたけど、どうにか力を入れて立ち上がる。


ことり「あなたをセキレイジムを突破したこと認定して──」


私の目の前にバッジが差し出される。
664 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:05:09.31 ID:UvOtrYsw0

ことり「この“ハミングバッジ”を進呈します。……受け取って貰えますか?」

千歌「……はい!!」


自分でも納得の行く勝利だった。

私はこうして、4つ目のバッジ──ハミングバッジを受け取ったのでした。





    *    *    *





曜「千歌ちゃん……!!」


バトルが終わって、曜ちゃんが私のところに駆けて来る、


千歌「えへへ、曜ちゃん。見ててくれた?」

曜「うん……!! というか、すごかった……!!」


曜ちゃんが目をキラキラさせている、一方で、


海未「さて……これで私は御役御免ですね」


海未さんがそう言って、ジャッジの立ち位置を離れる。


千歌「! 師匠!」


審判の位置から歩いてきて、そのままジムを出て行こうとする海未さんに声を掛ける。


海未「千歌、最後の一撃……見事でした」

千歌「! 師匠が訓えてくれたお陰です!!」


私は、思わず頭を下げた。


千歌「ありがとうございました……!!」


そんな私の頭を──フワリと、海未さんの手が撫でる。


千歌「……!」

海未「弟子を持つのも……存外、悪くないかもしれませんね」

千歌「……し、師匠……」

海未「千歌」

千歌「は、はい!!」


頭を上げて、海未さんの──いや、師匠の目を見る。


海未「……全てのジムを突破してきてください」

千歌「え」

海未「……私も本気で貴方と戦ってみたく、なりました」


師匠は踵を返す。
665 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:06:20.90 ID:UvOtrYsw0

海未「──ポケモンリーグで待っています」


師匠は最後にそう言い残して、ジムを去って行きました。





    *    *    *





──ジム戦後、ことりさんの家にて。


ことり「二人ともーご飯だよー」

千歌「わーい♪」

曜「ハンバーグだ!」


ことりさんの用意してくれたハンバーグを曜ちゃんと並んで頬張りながら、


千歌「師匠も一緒に食べていけばよかったのに……」


なんて思わず言ってしまう。


ことり「ふふ……いつまでも一緒に居たら離れづらくなっちゃうからね」


ことりさんはそういうけど……。


千歌「師匠はもっとドライな人だったような……」


修行の日々を反芻していると、そう思ってしまう。


ことり「そんなことないよ? 海未ちゃんあれで寂しがり屋なんだから♪」

千歌「ホントですか……?」

ことり「ホントだよ〜♪」


怪訝な顔をする私に反して、

ことりさんはなんだか、嬉しそうだった。


曜「ことりさんのハンバーグおいしい……私ことりさんの家の子になるっ」

ことり「もう曜ちゃんはウチの子みたいなもんだよ♪ おかわりもあるからね」

曜「やった!」


曜ちゃんも随分ことりさんに懐いてる。

……というか、餌付けされてる?


ことり「千歌ちゃんは、次はローズシティかな?」

千歌「あ、はい! ここから一番近いジムはローズシティにあるんですよね」

ことり「うん♪ 真姫ちゃんって子がジムリーダーだから、会ったらよろしく伝えておいてね♪」

千歌「はーい!」





    *    *    *
666 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:08:45.40 ID:UvOtrYsw0




ご飯も食べ終わって、曜ちゃんと二人で寝室。

ことりさんは他の部屋で寝るとのことだった。またしばらくお別れだから……気を使ってくれたのかな?


曜「……ねえ、千歌ちゃん」

千歌「ん?」

曜「梨子ちゃん……どうしてると思う……?」

千歌「……ん、どうしてるかな」


あの後、追いかける暇もなく修行に突入してしまったから、心配ではある。


曜「あのね……実は……ことりさん、平気なように振舞ってるけど、梨子ちゃんとのバトルのこと……結構、気にしてて」

千歌「……海未師匠から、なんとなく聞いたよ」

曜「そっか……」

千歌「皆、上手く出来てるように見えても……不器用なんだね」

曜「……そうだね」


梨子ちゃんも、ことりさんも……海未師匠も、


千歌「師匠が言ってた」

曜「?」

千歌「皆、必死なんだって」

曜「……」

千歌「言葉が足りないってわかってても、力が足りないって感じてても……どうにか伝えないといけないときがあるって」

曜「そっか……」

千歌「そういうとき人もポケモンもすれ違っちゃうけど……いつか、伝わるときがくるから、信じて前に進むんだって……言ってた」

曜「いつか伝わる……。……ちゃんと伝わるといいな」


……梨子ちゃんへ、ことりさんの想いが、かな。

私も最初は師匠を疑っていたけど、最終的には信用して、訓えを受けたように、

曜ちゃんも、ことりさんと過ごして、近くに居て、ことりさんのもっと深い一面を感じて出た言葉なのかもしれない。


千歌「……寝よっか」

曜「……うん」


私たちは目を瞑る。


千歌「……」

曜「……」

千歌「……あ……曜ちゃん……そういえば、コンテスト」

曜「! ……うん! 実は二つの大会で優勝して──」


寝ると言ったはずなのに、何故か話し始めてしまう。

こういうところは旅立つ前とちっとも変わってない。

夜はどうやら、まだまだ長くなりそうだ──


667 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:11:07.26 ID:UvOtrYsw0


    *    *    *





ことり「千歌ちゃんと曜ちゃん……盛り上がってるなぁ」


曜ちゃん……明日はコンテストがあるんだけど、大丈夫かな……?

あんまり遅くまで話し込んでるようだったら、寝るように言ったほうがいいかな……。

──ピコン。


ことり「ん……?」


デザイン案をまとめるために開いていたパソコンから、メールの受信音がした。


ことり「……真姫ちゃんから?」


メールを開くと、


『不器用な、ことりへ
 私の自慢の生徒がそのうち貴方を見返しに、
 ジムにまた行くと思うから。
 安心して。
                       真姫より』


そんな短い内容のメールだった。


ことり「……私の自慢の生徒……これって」


……そっか。

わたしが上手く導いてあげられなかったあの子は、真姫ちゃんの許で何かを見つけたのかもしれない。


ことり「良かった……」


少しだけ、重かった肩から力が抜ける気がした。……それにしても、真姫ちゃんに『不器用』と言われるとは思わなかったけど……。


ことり「……早くデザインまとめて、曜ちゃんに寝て備えるように言わなくちゃだね」


盛り上がる隣の部屋の雑談をBGMに、わたしはデザインに集中する。

わたしも真姫ちゃんや海未ちゃんみたいに……自分の弟子くらいは、ちゃんと導かないとね。

明日のサニータウンのコンテストを見据えて、ね──


668 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:12:12.48 ID:UvOtrYsw0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.40  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.38 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.38 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.40 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.39  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.39 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.37 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.41 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.38 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.35 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:121匹 捕まえた数:19匹 コンテストポイント:24pt


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



669 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:47:43.92 ID:mfU4DjJz0

■Chapter050 『開催! サニーかっこよさコンテスト!』 【SIDE You】





──セキレイシティにて。

私の目の前で、今まさに曜ちゃんとことりさんを乗せたチルタリスが羽ばたこうとしているところだった。


千歌「よーちゃーん! またねー!」

曜「千歌ちゃんも!」

千歌「うんっ!」

ことり「じゃあね、千歌ちゃん」

千歌「ことりさん、お世話になりました!」

ことり「いえいえ、こちらこそ♪ それじゃ、チルタリス。サニータウンまでお願い」
 「チルゥ〜」


ことりさんが促すと、チルタリスが羽ばたき、二人を乗せて東の空へと飛んで行く。


千歌「……さて、私たちもいこっか」
 「バクッ」

傍らにいるバクフーンと共に、私はセキレイシティの北の街、ローズシティを目指して、10番道路を進みます──





    *    *    *





──9番道路上空。


ことり「さて、曜ちゃん。今日はついにかっこよさ大会当日です」

曜「ヨーソロー!」

ことり「たくましさ、かしこさのレベルが低いなんてことはないけど。ここから挑む3部門……かっこよさ、かわいさ、うつくしさはいよいよ競技人口も増えてきて、激戦区になってくるから心してね」

曜「了解であります!」

ことり「それじゃ、移動中におさらいだけしちゃおっか。今回の目標」

曜「メガシンカを実戦投入、使いこなす!」

ことり「ん、よろしい♪ かっこよさ部門はたくましさ部門に次いで、実用的な妨害技も多いから、焦らないようにね」


全体を妨害する“ハイパーボイス”や、大きな妨害能力を持った“つのドリル”など、かっこよさ部門の技には多彩な妨害技がある。


ことり「特に、かっこよさ部門での最終ターンの定石技」

曜「“はかいこうせん”!」

ことり「うん♪ これは、自分のアピールも相手の妨害も大きく出来る技だから、ちゃんと対策を打つこと」

曜「了解!」


かくいう私も予定では、最終ターンに“はかいこうせん”を採用するつもりだし。


ことり「そろそろ、サニータウンが見えてきたかな……ノーマルランクでつまずくなんてこと、万一にもないようにっ!」


そんなことりさんの言葉と共に、チルタリスが徐々に高度を落としていく。

さあ……次の戦いの始まりだ。

670 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:48:50.62 ID:mfU4DjJz0



    *    *    *





曜「──……さて」
 「ガメ」


ことりさんに言われたとおり、しっかりとノーマルランクを勝ち終えて、カメックスと一緒に会場内の受付に戻る道すがら、


 「あ、ち、ちょっと押さないで、って言うか通してくださーい!!」

曜「ん?」


なんだか、人だかりが出来ている。


 「お願いします、サインください!」
 「雪穂さんと、ウインディのファンなんです!」
 「もしよかったら、私の持ってるアクセもらってくれませんか……?」

雪穂「お願い〜!! 通して〜!?」

曜「うわ……なんかすごいことになってる。大丈夫かな?」


フソウ会場で見た絵里さんみたいなことになってる。


雪穂「こ、このままじゃウルトラランクのエントリーに遅れちゃうから〜!!?」

曜「……助けた方がいいよね」
 「ガメ」

曜「カメックス、サポートよろしく」
 「ガメー」


私はカメックスにそう伝えてから、身を屈めて、人混みの間に潜り込む。


曜「ちょっと、失礼しますよ……っと」


私が人を押しのけながら、やや強引に前に押し進む背後で、

 「ガメー!!」

カメックスが“あわ”を吐く。


 「え、何? “あわ”?」


群がっていたファンのうち数人がふわふわと漂ってくる、“あわ”に気付いて、何かと顔をあげたタイミングで、

──パチンッ

“あわ”が弾ける。

音を立てて弾けた“あわ”はわずかに光を反射させ、キラキラと光りながら、立て続けに破裂する。

そこにいた人たちの視線が、音と光に集中した一瞬。


曜「……こっちです!」

雪穂「……!」


人の波の中で身動きが取れなくなっていた、女の子の手を引っ張って身を屈める。


 「あ、あれ? 雪穂さんは?」
 「今の今までここにいたのに……」
671 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:50:02.33 ID:mfU4DjJz0

そのまま、手を離さないように、人の波を掻き分けて──

抜けた瞬間。


曜「カメックス、ナイスアシスト! 走るよ!」
 「ガーメ!!」

曜「あなたも……! 走れる!?」

雪穂「あ、うん!」


私たちは、そのまま受付に向かって走り出した。





    *    *    *





雪穂「……はぁ、なんとか間に合った……」

曜「はぁ……はぁ……楽屋入りがギリギリになっちゃいましたね……」


今は受付を抜けて、楽屋に入ったところ。

あのあとも行く先々、姿を見るや否やファンが押し寄せてきて、辿り着くのに苦労してしまった。


雪穂「ありがとね、お陰で助かった。……そういえば、自己紹介もまだ出来てなかったっけ。私は雪穂」

曜「あ、私は曜って言います! 雪穂さん、すごい人気ですね」

雪穂「あはは……応援してもらえるのは、ありがたいっちゃありがたいんだけどね……大会直前も足止め食らうから大変」

曜「大会直前ってことは……このあとのウルトラランクですよね?」

雪穂「うん。と言うか、ここに通してもらえてるってことは、貴方も同じ回の参加者ってことだよね」

曜「はい! よろしくお願いします!」

雪穂「こちらこそ、よろしくね」


挨拶と共に、二人で握手を交わしていると、


ことり「曜ちゃん、準備出来た〜?」


楽屋にことりさんがひょっこりと顔を出す。


曜「ことりさん!」
雪穂「え、ことりちゃん?」

曜・雪穂「「……え?」」


声が被って、思わず雪穂さんと顔を見合わせた。


ことり「あれ? 雪穂ちゃん?」

雪穂「ことりちゃん、久しぶり! かっこよさコンテストに顔出すなんて珍しいね」

曜「え、えっと……ことりさんの知り合い?」

ことり「あ、うん! 穂乃果ちゃんのことは何度か話したよね」

曜「はい」


何度か……と言うか。

何度も聞いた。耳にタコが出来るかと思ったくらい聞かされてる。
672 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:51:38.42 ID:mfU4DjJz0

ことり「その穂乃果ちゃんの妹さんがこの子、雪穂ちゃんなんだよ」

曜「……あの穂乃果さんの妹さん……」

ことり「雪穂ちゃん、この子は曜ちゃん。私のお弟子さんです!」

雪穂「弟子? ことりちゃん、弟子なんて居たんだ……」

ことり「最近出来ました!」


ことりさんがドヤ顔で言う。


ことり「そういえば……雪穂ちゃんには、穂乃果ちゃんから連絡とかあった?」

雪穂「いや、相変わらず全然連絡してこなくて……お姉ちゃんらしいけど」

ことり「海未ちゃんも、穂乃果ちゃんとは全然連絡が付かないって言ってたから……元気ならいいんだけど」

雪穂「ま、たぶん大丈夫だと思う。お姉ちゃんだし」


穂乃果さんは噂を聞く限り、なかなか自分から連絡をしてこないし、連絡してもなかなか捕まらない人らしい。


雪穂「それはともかく……このあとのウルトラランク、ことりちゃんの弟子とぶつかることになるんだね」

ことり「ふっふっふ〜。わたしの弟子は強いよ〜?」

曜「こ、ことりさん……勝手にハードル上げないで……」

ことり「どっちにしろ、優勝しなくちゃなんだから」

曜「まあ、それはそうだけど……」

雪穂「……いきなり、優勝とは大きく出てくるね」

ことり「うん、次のグランドフェスティバル最終枠は曜ちゃんが入る予定だから」

雪穂「……へぇ……」


ことりさんの勝手な挑発を聞いて、雪穂さんが改めて私をじっくりと観察してくる。


ことり「雪穂ちゃんって、今はかっこよさランク主体のコーディネーターさんなの?」

雪穂「うん、今日勝てばウルトラ5連覇だよ」

曜「5連覇……」


強敵じゃん……。そんな人相手に間接的にでも、勝利宣言をしてしまうなんて、正直居心地が悪い。


雪穂「ま、いいコンテストライブにしようね。曜ちゃん」

曜「は、はい!」


雪穂さんはそう言ってから、


雪穂「それじゃ、ことりちゃん。私もそろそろ準備に取り掛かるから……」

ことり「あ、うん。またね〜」


雪穂さんは自分たちの出場の準備をしに、フィッティングルームの方へ歩いていった。


曜「……ことりさーん……何もあんな挑発しなくても」


居心地の悪さから開放されて、思わず師匠へと文句を零す。


ことり「別に挑発したつもりはないよ? だって実際、曜ちゃんは強いもん」

曜「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」
673 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:52:13.26 ID:mfU4DjJz0

……とは言っても、新参者には変わりない。


ことり「まあ、どっちにしろ全部ステージの上ではっきりすることだから」


ことりさんはそう言って私の肩を叩く。


曜「……うん」


師匠に向かって零した不満、それはそれとして……もちろん、負けるつもりはないのも事実だ。


曜「勝ってくるね」

ことり「よろしい♪」


……さて、立ち話もそこそこに、私も準備を始めないとね。





    *    *    *

674 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:56:23.20 ID:mfU4DjJz0



司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、漁港サニータウンにて、最もかっこいいポケモンを決めるコンテスト……サニーかっこよさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』


眼鏡がトレードマークのいつもの司会のお姉さんの声。三大会目ともなると、流石に聞きなれてきた気がする。


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ウォーグル&ハルキ! エントリーNo.2……ガチゴラス&リュウイチ!』


対戦相手はウォーグルと出場している鳥使い。ガチゴラスと出場しているドラゴン使い。


司会『エントリーNo.3……ウインディ&ユキホ!』

「キャー!!」「ユキホチャーン!!」


ウインディを従えた雪穂さん。すごい人気だ。


司会『エントリーNo.4……カメックス&ヨウ!』


曜「行こう、カメックス」
 「ガメ」


カメックスと一緒にステージに躍り出てスポットライトを浴びる。


「キャー!!!」「ヨウチャーン!!!」


さて……今回の衣装イメージはハードロック。

ファー付きの真紅のメタルジャケットをカメックスのサイズに仕立てて来た。

ことりさんと一緒に背中の二つのキャノン砲を自由に出し入れ出来るようにし、実用に耐えうる形にするのに四苦八苦しながら作った自信作だ。


司会『かっこよさ部門連覇中、百戦錬磨のウインディ使いユキホさんと、各地の部門をお手製の衣装と共に駆け抜ける新進気鋭のコーディネーターヨウさんに注目が集まっています!』


一次審査……他の参加者には悪いけど、自慢の衣装でぶっちぎらせて貰おう。


司会『それでは、一次審査開始です! 会場の皆さん、ウォーグルは白、ガチゴラスは赤、ウインディはオレンジ、カメックスは青でお願いします!』


会場のペンライトが観客の想い想いの色に変化していく。

会場内の色は──


曜「……!」


オレンジと青に二分されていた。


雪穂「……」


これは……どっちだ……?

ぶっちぎるつもりだったのに、ウインディとは僅差。

いやもしかしたら、僅かに負けているかもしれない。

衣装の出来で得票は集められたかもしれないが、この会場自体に雪穂さんのファンが多いからかもしれない。


司会『それでは、そろそろ締め切りますよー! 大丈夫ですかー?』


一次審査の終わりを告げるアナウンス。


司会『では、ここで締め切りです! 次の審査、アピールタイムへと移ります!』
675 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:58:15.35 ID:mfU4DjJz0

二次審査のアピールの順番でどっちが一次審査で上回っていたかがわかる……。


司会『カメックス、ウインディ、ウォーグル、ガチゴラスの順番にアピールをお願いします!』

曜「……しっ!」

雪穂「く……っ」


僅差で一次審査は勝ち抜けた。雪穂さんの方に軽く目をやると、悔しそうな顔をしているのが見て取れた。

だが、ここからだ。切り替えろ。


「ガーメ」

カメックスが、全身に水タイプのエネルギーを纏う。

それを全力でぶつける、かっこよさアピールからだ。


曜「カメックス!! “アクアブレイク”!!」
 「ガメーッ!!!」

 《 “アクアブレイク” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   カメックス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


カメックスが水気をまとって、地面を打ち鳴らすと、水のオーラが激しく弾ける。


司会『おお!! これは迫力満点の“アクアブレイク”! 水のオーラだけなのに、まるで小さな海を割ったかのような光景です!』


雪穂「ウインディ!」
 「ワォン!!」


波打つ水のオーラに、次の手番のウインディが走り出した。


雪穂「“ほのおのキバ”!!」
 「ワォンッ!!!」

 《 “ほのおのキバ” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ウインディ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


ウインディがオーラの波に向かって燃え盛る牙が立てる。

水のエネルギーが熱気で蒸発して、蒸気と音を生じながら、会場を舞う。


司会『ウインディ! 負けていません! 水と炎の真っ向からの勝負です!!』


続け様、水と炎がぶつかり合うステージの上で、そこに切り裂くように、


ハルキ「ウォーグル! “みだれづき”!!」
 「ウォーー!!!!」

 《 “みだれづき” かっこよさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   ウォーグル +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ウォーグルが炎水二つのエネルギーを消し飛ばす勢いで鋭い連続突きを放ってくる。


司会『ウォーグル負けじと突っ込んできた!! さあ!! 開始早々から見応えのある、存在感の主張のし合いです!!』
676 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 01:59:22.38 ID:mfU4DjJz0

リュウイチ「ガチゴラス! “ドラゴンクロー”だ!!」
 「ガァァアァアア!!!!」

 《 “ドラゴンクロー” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ガチゴラス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


ガチゴラスは手堅く、鋭い竜の爪で会場に文字通り爪を立てる。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   カメックス  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡   ]
   .ウインディ  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡   ]
   ウォーグル ♡♡♡♡♡⁵♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ]
   ガチゴラス  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡   ]              》


司会『全員が手堅く自分のアピールに集中しています! さあ、このまま2ターン目! 順番はウォーグル、カメックス、ウインディ、ガチゴラスの順です!』


ハルキ「ウォーグル! “ブレイブバード”!!」
 「ウォー!!!!」

 《 “ブレイブバード” かっこよさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡
   ウォーグル +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ウォーグルが猛禽の羽根を力強く奮いながら、会場の空を斬る。

エキサイトゲージはMAXに達し、ライブアピールへと派生する。


ハルキ「“スマートインザスカイ”!!」
 「ウォォーーーー!!!!!!」

 《 “スマートインザスカイ” かっこよさ 〔 かっこよさ部門 ひこうタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ウォーグル +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


ウォーグルは力強く羽ばたき、高速で会場を飛び回る。

空を切り、風を切りながら、縦横無尽に飛び回る猛禽のその姿は、それだけで様になる。

手堅い流れでかっこよさアピールが続く。私も負けてられない……!!


曜「カメックス! “あくのはどう”!!」
 「ガメッ!!!」

 《 “あくのはどう” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   カメックス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


──ジャキンと言う、金属のような音と共に、突き出した背中のキャノン砲から、悪タイプのエネルギーを溜め込んだ波動を打ち出す。

波紋の用に黒い波が会場に広がっていく。

真っ向からのアピール合戦なら、負けられない。

……と、思った矢先、

アピールを終えた、ウォーグル、カメックスの前にウインディが躍り出た。
677 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:00:29.49 ID:mfU4DjJz0

雪穂「ウインディ!! “にどげり”!!」
 「ワォンッ!!!!」

 《 “にどげり” かっこよさ 〔 同じ タイプの アピールを した ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜♥♥♥♥
   ウインディ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


曜「うわ!!?」
 「ガメッ!!?」

 《 カメックス -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》


ハルキ「くっ!?」
 「ウォー!?」

 《 ウォーグル -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵ ] 》


司会『おっと、ウインディ! ここで前に動いたポケモンたちに攻撃を仕掛けます!!!』

曜「く……!」


“にどげり”は同じタイプ──つまり、同じかっこよさタイプの技の妨害能力が高い技。

前に動く私のカメックスと、鳥使いさんのウォーグルが、手堅くアピールを決めてくると読んで、妨害の手を打ってきた。


曜「対応型……!」


雪穂さんは対応型のコーディネーターのようだ。


リュウイチ「ガチゴラス!! “つのドリル”!!!」
 「ガチゴォォォォ!!!!!!」

 《 “つのドリル” かっこよさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜
   ガチゴラス +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


そんなことを考える余裕すら貰えぬまま、ガチゴラスが角を高速回転させながら、大きな首を振るって会場を薙ぐ。

 《 ウォーグル -♥♥♥♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 カメックス -♥
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 ウインディ -♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 「ガメッ!!!」「ゥォーグッ!!!」「ワゥッ!!!」

ドリルの激しい掘削する爆音と、振動が他のポケモンたちを激しく妨害してきた。

特に驚きやすくなっていたウォーグルは激しく飛び退き、大きく減点されてしまう。


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ウォーグル ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡  ]
   カメックス  ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥♥                  [ ♡♡♡♡♡    ]
   .ウインディ  ♡♡♡ ♥                        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡  ]
   ガチゴラス  ♡♡                          [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


司会『さぁ、1ターン目と打って変わって、激しい攻防になっています!!』


曜「くっ……!!」
678 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:01:08.19 ID:mfU4DjJz0

どうにも、自分の動きが出来ていない。

私も作戦を変えるべきか……!?


曜「…………」


スポットライトがガチゴラスに当たる。3ターン目は妨害に成功した、ガチゴラスからのようだ。


曜「……いや、私の勝ち方は一つだ」


こんなことで揺らいじゃだめだ。


リュウイチ「ガチゴラス!! “げきりん”!!」
 「ガァァァァァ!!!!!!!!」

 《 “げきりん” かっこよさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡
   ガチゴラス +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


雪穂「ウインディ! “フレアドライブ”!!」
 「ワォンッ!!!!!!」

 《 “フレアドライブ” かっこよさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡
   ウインディ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


前の二匹が手堅くアピールを決める、

更にエキサイトゲージはMAXに──


雪穂「ウインディ! ライブアピール行くよ! “スマートヒートアクシス”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!!」

 《 “スマートヒートアクシス” かっこよさ 〔 かっこよさ部門 ほのおタイプ ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ウインディ +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


ウインディの足元にメラメラと灼熱が広がっていく。

そこを基点に、真っ赤な爆炎が柱となって立ち昇る。


司会『さあ、ウインディ! ライブアピールもかっこよく決め、大量得点です!! 次はカメックスのアピール!』


曜「カメックス!! “アイアンテール”!!」
 「ガーメッ!!!」

 《 “アイアンテール” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   カメックス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


硬質化させて、尻尾で思いっ切り薙ぐ。

私はあくまで私の戦いを貫くんだ。
679 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:03:13.87 ID:mfU4DjJz0

ハルキ「ウォーグル!! “みだれづき”!!」
 「ウォーーー!!!!」

 《 “みだれづき” かっこよさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   ウォーグル +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ガチゴラス ♡♡♡♡♡⁵♡♡        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡      ]
   ウインディ  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ]
   .カメックス  ♡♡♡♡♡          [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡            ]
   ウォーグル ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡    ] 》


──さあ、4ターン目だ……!!





    *    *    *





並のコーディネーターだと、突然妨害をされると、アピールの指針が崩れて守りや焦ったアピールに走ることがある。


雪穂「──さすが、ことりちゃんの弟子……ってところかな」


私は小さな声で呟いた。

曜ちゃんは守りの技も使っていないし、妨害択も取っていない。

自分の決めたアピール方針を守っている。

……さて、4ターン目となると、ここからはそれぞれが最後の大技に向けての準備だ。私も私のプランを実行しなくては。


雪穂「ウインディ! “ほえる”!!」
 「ワォンッ!! ワンッ!!! ワォゥッ!!!」

 《 “ほえる” かっこよさ 〔 この次の アピールを 終わりの方に だすことが できる 〕 ♡♡♡ C
   ウインディC +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


激しく吠え立てる。アピール順を制御する技だ。


ハルキ「ウォーグル! “つばさでうつ”!!」
 「ウォォォーーーグッ!!!!!!」

 《 “つばさでうつ” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ウォーグル +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


ウォーグルが猛禽の翼を立てながら、アピールをする。


リュウイチ「ガチゴラス!! “ドラゴンクロー”だ!!」
 「グゥァァアァァァ!!!!」

 《 “ドラゴンクロー” かっこよさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ガチゴラス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


そして、ガチゴラスが雄叫びを上げながら、再び竜爪を会場に打ち立てる。
680 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:03:56.09 ID:mfU4DjJz0

リュウイチ「ライブアピール!! “終末の化身”!!」
 「ガァァァチゴッ!!!!!!!」

 《 “終末の化身” かっこよさ 〔 かっこよさ部門 ドラゴンタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ガチゴラス +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


周囲にガチゴラスの闘気のエネルギーが満ち溢れる。


 「グゥゥゥゥゥ、ゴァァァァァァァァァッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


そして、その中で会場を轟かす戦竜の咆哮が響き渡る。


司会『さあ、本日3度目のライブアピールが決まり、会場の盛り上がりはかつてないほどとなっております!!! このままアピールはカメックスに移ります!!』


雪穂「──さぁ……どうする?」


カメックスのアピール順はこの時点で最後。

いくら、本人が手堅くアピールすると決めていても、うまくアピールが決めきれていないことは順番が物語っている。


曜「……カメックス!!」





    *    *    *





ことり「曜ちゃん……」


関係者席で曜ちゃんを見守る。

ここが正念場だよ。


曜『“ほえる”!!』

司会『おっと!! ここで“ほえる”の応酬だ!!!』


 『ガメーッッ!!!!』

 《 “ほえる” かっこよさ 〔 この次の アピールを 終わりの方に だすことが できる 〕 ♡♡♡ C
   カメックスC +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


曜ちゃんのカメックスが、上体を反りながら、雄叫びを上げる。


ことり「うん……!」


目先のアピールに手を捉われない、この一手。

最後尾に順番をつけたカメックスはなんでも出来る状態だった。

妨害、アピール、もっとトリッキーなことも最後の手番なら出しやすい。

でも、曜ちゃんがすることは、一つ。

全てを吹き飛ばす、最大級の切り札を最大限に生かせるよう、カメックスを信じるだけ。


ことり「行け……!! 曜ちゃん……!!」
681 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:05:54.21 ID:mfU4DjJz0

 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ウインディC  ♡♡♡♡        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡   ]
   ウォーグル   ♡♡♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡     ]
   .ガチゴラス   ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡ ]
   カメックスC   ♡♡♡♡        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡              ] 》





    *    *    *





司会『さあ!! 泣いても笑っても次で最後のターンです!!』

リュウイチ「ガチゴラス!! “つばめがえし”!!!」
 「ガァァァァァ!!!!!!!」

 《 “つばめがえし” かっこよさ 〔 1番 はじめに アピールすると アピールが すごく うまくいく 〕 ♡♡〜♡♡♡♡♡♡
   ガチゴラス +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


最終ターン、一番手は妨害が出来ないので、手堅いアピールを決める。


ハルキ「ウォーグル!! “はかいこうせん”!!!」
 「グァァアァァァーーーー!!!!!!」

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ウォーグル +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


司会『さあ!! かっこよさ部門の最後はやはりこの技!!! “はかいこうせん”だぁー!!!』


ウォーグルの嘴の先にエネルギーが集束され──放たれる。

破壊と殲滅のエネルギーがフィールド上を踊り狂い、


 「ガゥォォォァァッ!!!!!!!」

 《 ガチゴラス -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》


ガチゴラスを襲う。

そして、スポットライトが──ウインディに、


雪穂「──ウインディ、“はかいこうせん”!!!」
 「ウワォッ!!!!!」

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   ウインディ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


 《 ガチゴラス -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 ウォーグル -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》


司会『やはり、こうなりました!! 会場を踊り狂う破壊の閃光!! 観客席も最高潮の盛り上がりを見せております!!!』


──そして私たちはただ、この一瞬に全てのエネルギーを込めて、放つ。
682 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:06:50.31 ID:mfU4DjJz0

曜「カメックス!!!!」
 「ガメー!!!!」

曜「行くよ!!!」
 「ガメッ!!!!!」

曜「“はかいこうせん”!!!!」

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
   カメックス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


三本の破壊の閃光がステージ上を、交差しながら飛び回る。

 《 ガチゴラス -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 ウォーグル -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 ウインディ -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡ ] 》


お互い“はかいこうせん”の打ち合いで、死力を尽くす。

そして、最後の最後──ライブアピール!!


曜「カメックス!!」
 「ガメーーッ!!!!!!」


私は胸に揺れる、メガイカリのキーストーンを光らせ、


曜「メガシンカ!!!!」
 「ガーメッ!!!!!!」


決着のために、最後のカードを切る。

眩い光に包まれたカメックスはその光の中で、


 「ガーメッ!!!!」


──両腕に携えた二本のキャノン砲、そして背中から伸びる大きなキャノン砲の3つにエネルギーを一気に充填させて、


曜「いっけー!! フルパワー!!! “スマートブレッシングレイン”!!!」
 「ガァァァァメェェエェーーー!!!!!!!」

 《 “スマートブレッシングレイン” かっこよさ 〔 かっこよさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   カメックス +♡♡♡♡♡ (*)MEB+♡♡ (*MEB=メガシンカボーナス)
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


キャノン砲に収束させた、最大のライブアピールを、誰にも負けない“かっこよさ”で!!


天空に向けて、撃ち放った──





    *    *    *


683 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:10:22.87 ID:mfU4DjJz0


雪穂「──……4ターン目の時点で、曜ちゃんは“最後のターンに最後尾に回る”布石を打ち終えてた」

ことり「最後のターンは大体は“はかいこうせん”合戦になるからね。ラストターンだけは最後尾になるように言ってたから」

雪穂「3ターン目にもし、曜ちゃんが焦って直前の手番のウインディを狙い撃ちしてたら?」

ことり「4ターン目にウインディがカメックスより後に回ってたから、“ほえる”合戦で後ろを取り損ねたかもしれないね。“ほえる”は後出しの方が優先度が高いから」

雪穂「……ぅー……3ターン目に差をつけるために大技をしたのが裏目になった……」


最終獲得ポイント。

一次審査──採点上の差はもはやなく、カメックスとウインディが同率1位。アピール順決定のために本当の本当に微々たる差でカメックスが上を取っていたようだ。

二次審査──

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   .ガチゴラス ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡       ]
   ウォーグル ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡        ]
   ウインディ  ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡  ]
   カメックス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡ ] 》

……ガチゴラス♡20、ウォーグル♡18、ウインディ♡24、カメックス♡25


そして、それを踏まえた最終結果は──


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【ウォーグル】 〔 ♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                   〕
   【.ガチゴラス】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡              .〕
   【.ウインディ 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡  〕
  ✿【カメックス 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


曜ちゃんとカメックスの逆転勝ち。


雪穂「……というか、メガシンカまで仕込んでくるなんて」

ことり「でも、完璧なタイミングだったでしょ?」


最後の最後でメガシンカして決めた大技のお陰で、メガシンカそのものの印象が薄れることもなく、魅力が最大限に伝わる瞬間でのカードの切り方だった。


ことり「わたしは予め、曜ちゃんにこう言ってたの」


──『カメックスの魅力が最大限に引き出される瞬間を見極めて、メガシンカを使いこなして』

どうやらわたしの自慢の弟子は、その言いつけをしっかり守ってくれたようです。


雪穂「……もしあのタイミング以外でメガシンカを使ってたら」

ことり「たぶん、雪穂ちゃんが勝ってたと思うよ」

雪穂「まさに、完璧なタイミングだったのかぁ……」

ことり「ふふ、わたしの弟子は強かったでしょ?」

雪穂「……やっぱり、ことりちゃんには敵わないなぁ」

ことり「今回頑張ったのはあくまで曜ちゃんだよ? わたしは何もしてないから」

雪穂「……私も修行のやり直しだなぁ」

ことり「雪穂ちゃんもメガシンカ使ってみる?」

雪穂「……いや、私はいいかな」


雪穂ちゃんは、そう言いながら、会場の外へと足を向けて歩き出した。


雪穂「私はウインディと一緒に“かっこよさ”を極めなきゃ、意味ないから」

ことり「ふふ、そっか♪」
684 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:11:31.13 ID:mfU4DjJz0

そう残して、会場の外の茜色の中に消えていく雪穂ちゃんは、

昔アキハラタウンで見た、幼馴染の可愛い可愛い妹の背中ではなく。

気付けば立派に育った、一人のコーディネーターとしての背中でした。





    *    *    *





雪穂ちゃんと別れたあと、私は曜ちゃんのいる楽屋を目指していた。


ことり「曜ちゃーん? まだ、帰らないのー? 会場閉まっちゃうよー?」


再び、ひょっこりと楽屋に顔を出す。

あのウルトラランクが今日最後の大会だったため、楽屋使用の時間が押したりはしないんだけど……。


ことり「……って、あれ?」
 「ガーメ」


カメックスがすぐ傍に立っている、椅子に座ったまま、


曜「……くー……くー……」


曜ちゃんは眠っていた。


ことり「ありゃりゃ……疲れて眠っちゃったんだね」
 「ガメ」

曜「……ん…………すぅ……」

ことり「ふふ、気持ち良さそうに寝てる」
 「ガメ」

ことり「起こしちゃ可哀想だね。このまま宿に運んであげよっか」
 「ガメ」


わたしはあまり揺らさないように気をつけながら、曜ちゃんをおんぶする。


ことり「よいしょ……っと」

曜「…………すぅ……すぅ……」

ことり「お疲れ様、曜ちゃん。カメックスも」
 「ガーメ」


首元に真っ赤なリボンを携えたカメックスと共に、

わたしは自慢の弟子が戦い抜いた会場を後にしたのでした。


685 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 02:13:35.90 ID:mfU4DjJz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【サニータウン】
 口================= 口
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  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
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  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.40 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.39 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.37 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.41 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.38 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.35 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:124匹 捕まえた数:19匹 コンテストポイント:36pt


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



686 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:22:28.95 ID:mfU4DjJz0

■Chapter051 『ローズシティ』 【SIDE Chika】





セキレイシティを出て、10番道路を歩き続けて数時間。


千歌「──やっと着いた……!」
 「バク」


私はやっとこさ、ローズシティに辿り着きました。

──ローズシティ。オトノキ地方の大きな街として有名らしい。

私はあんまり知らなかったんだけど……曜ちゃんから聞いた感じでは、娯楽施設がたくさんあるセキレイシティとは違って、立ち並んでるビルの中はほとんどが会社のオフィスになっているらしい。


千歌「とにもかくにも……ジムだよね!」
 「バクッ」


気合いを入れて、ジムを探そうとした矢先に、

──prrrrrr...


千歌「ん?」


上着のポケットの中に入れた、ポケギアが騒ぎ出した。


千歌「電話? 誰から──鞠莉さん?」


ポケギアの画面には鞠莉博士からの連絡が入ったことを通知する画面が表示されている。

──pi.


千歌「もしもし?」

鞠莉『チャオ〜千歌っち。元気に旅してるかしら?』

千歌「あ、はい、お陰様で! ジムバッジも4つ手に入れました!」

鞠莉『順調そうね。……バッジ4つってことは、もしかして今ローズシティの近くに居たりする?』

千歌「えっと……今ローズシティに着いたところです」

鞠莉『Oh ! Nice timingだネ!』

千歌「?」


なんだろう……?
687 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:26:08.81 ID:mfU4DjJz0

鞠莉『ちょっと、千歌っちにお願いがあるんだけど……』

千歌「なんですか?」

鞠莉『他の地方から取り寄せを頼んでた道具が、今さっきローズシティに到着したって報せを受けたんだけど……ちょっと珍しいものを頼んでたから、どうやらその荷物の受け取りに、研究所の関係者が直接取りに行く必要があるらしくってネ』

千歌「ちょっと珍しいもの……?」

鞠莉『……あーまあ、モンスターボールの研究に使う機材なんだけどね。もし、時間があるなら千歌っちが代わりに受け取って貰えないかと思って』

千歌「……え? でも、研究所の関係者じゃないといけないんですよね……?」

鞠莉『そうよ。あなたは研究所の博士からポケモンを貰って旅に出たんだから、関係者じゃない』

千歌「ん……そう、なるの……?」

鞠莉『なるの。……それで、お願いできる?』

千歌「あ、はい! 受け取って、すぐに研究所に……って話じゃなければ」

鞠莉「もちろん、時間のあるときにオハラ研究所に寄ってくれれば問題ないわ」

千歌「わかりました、そういうことなら任せてください!」

鞠莉『Thank you ! 助かるわ。……それで、場所なんだけど、ローズシティに居るなら、一際大きなビルが見えないかしら?』

千歌「一際でっかいビル……」


言われて、ローズシティの方に改めて目を向けると、

確かに、一際でっかいビルが鎮座していた。


千歌「ビル……ここから、見えます」

鞠莉『OK. 場所はそこ──ニシキノカンパニー本社ビルってやつ。そこの受付でわたしの遣いだってこと伝えて、ポケモン図鑑を見せれば大丈夫だと思うから』

千歌「わかりました」

鞠莉『それじゃ、お願いね〜』


そう残して、鞠莉さんからの通話が切れる。


千歌「ジムの前にちょっと寄り道が出来たから、まずあのビルに向かおっか」
 「バク」


私はバクフーンを連れて、一先ずニシキノカンパニーを目指して、出発しました。





    *    *    *





千歌「……でっか」


目的のニシキノカンパニーについて、私は呆然とビルを見上げる。

遠くから見ても大きいと思ったビルは間近で見ると、思った以上に巨大で迫力があった。


 「バク」
千歌「……とりあえず、バクフーンを連れたままじゃまずいよね。戻れ」


バクフーンをボールに戻して、いざ出陣。


千歌「し、失礼しまーす……こんにちはー……」


さっきまでの電話口での威勢はどこへ行ったのか、未知の巨大ビルにおっかなびっくり侵入する。
688 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:27:25.16 ID:mfU4DjJz0

ガードマン「お嬢ちゃん」

千歌「ひっ!」

ガードマン「何してるんだい? 子供が来るような場所じゃないよ、ここは」


こそこそとしていたら、すぐさまガードマンのお兄さんに声を掛けられてしまう。


千歌「い、いや……その……頼まれごとがあって……」

ガードマン「頼まれごと?」

千歌「お、オハラ研究所の遣いの者です!」


鞠莉さん曰く、こう言えば大丈夫って言ってた。


ガードマン「オハラ研究所? オハラ・鞠莉博士のかい?」

千歌「は、はいっ!」

ガードマン「ふぅむ……」


鞠莉さん、こう言えば大丈夫って言ってたもん……。


ガードマン「……本当かい?」

千歌「ほ、ホントです!」

ガードマン「何か証明するものとか持ってないかい?」

千歌「!」


そう、私には身分を証明する、ポケモン図鑑が──

私はポケットから図鑑を取り出して、


千歌「こ、これが目に入らぬかー!!」


ガードマンに見せ付けた。


ガードマン「……」

千歌「……あ、あれ……?」

ガードマン「全く……なんだいそれは?」

千歌「……え? ……え……??」

ガードマン「そんなおもちゃで身分証明って言われても困るよ。社員証とか、研究所の遣いなら所員証とかあるでしょ」


鞠莉さん、大丈夫って言ってたのに……っ!!


千歌「い、いや……その……」

ガードマン「いたずらは勘弁してくれよ? おじさんたちも仕事してるんだから……」

千歌「あ、あの……これ、おもちゃじゃなくて……ポケモン図鑑……」


だんだんと語尾が弱くなっていく。


千歌「う、受付にっ!! 受付の人なら、たぶんわかるから!!」

ガードマン「あのね、君みたいに挙動不審で身分を証明出来ないような人を入口で止めるのがおじさんの仕事なの」

千歌「ぅ……」
689 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:28:54.83 ID:mfU4DjJz0

完全に言葉に詰まる。

こんな大都会の巨大なビルで挙動不審になるなと言われても無理だ。

田舎者の私には敷居が高すぎる。


 「──何やってるの?」


そのとき、私の後ろの方から通る声。

振り返ると、パーマの掛かった赤い髪の綺麗なお姉さんが立っていた。


ガードマン「……真姫お嬢様!」

真姫「はぁ……だから、それやめてって。パパが出資してるだけで別に私は会社の人間じゃないんだから……」


どうやら、関係者っぽい……?


真姫「それで、どうしたの?」

ガードマン「いや、それがですね……この子がオハラ研究所の関係者を騙って、社内に侵入しようとしていて……」

千歌「う、嘘じゃないもん……っ!!」


都会の洗礼を受けて軽く涙声で抗議する。


ガードマン「いや、そんな声で言われてもなぁ……」

真姫「……それポケモン図鑑?」

千歌「……!!」


お姉さん──たしか、真姫さんって呼ばれてた人が図鑑に気付いてくれた。

私は全力で首を縦に振る。


真姫「なるほどね……なんとなく、状況はわかったわ。通してあげて、この子は間違いなくオハラ研究所から来た子よ」

ガードマン「い、いいんですか?」

真姫「……大丈夫よ。私が保証するわ」

ガードマン「真姫お嬢様がそう言われるなら……」

千歌「ぇ、っと……」

真姫「はぁ……マリーったらホントいい加減なんだから……。目的の荷物がある場所まで案内してあげるわ。ついてきて」

千歌「え、あ、は、はいっ!!」


私は真姫さんの後を慌てて付いていくのだった。





    *    *    *





真姫「全く……ガードマンがポケモン図鑑のことなんて知ってるわけないでしょ。ましてや、身分証明になんて使えるわけないじゃない」


案内される道すがら、真姫さんから厳しい言葉が飛んでくる。


千歌「ぅ……ご、ごめんなさい……」

真姫「あ、いや……貴方に言ったわけじゃなくて……。はぁ……マリーったら、出来はいいのに、肝心なところで横着するんだから困ったものよね……」

千歌「……あ、あの……真姫、さん? 鞠莉さんの知り合い、なんですか……?」
690 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:32:02.13 ID:mfU4DjJz0

さっきから、愛称で呼んでるところを見ると知り合いっぽい感じがする。


真姫「……ああ、自己紹介してなかったっけ。私は真姫。今取りに行こうとしてる荷物なんだけど。そもそも、それをマリーに頼まれて手配したのは私なのよ」

千歌「! そ、そうなんだ……」

真姫「ついでに言うなら……貴方、梨子と一緒に最初のポケモンを貰った子でしょ?」

千歌「! 梨子ちゃんのこと知ってるんですか!?」

真姫「知ってるわよ。ついこの間までジムに居たし」

千歌「……ジム?」

真姫「……あー。……私、ローズジムのジムリーダーなんだけど……」

千歌「……え?」

真姫「……まあ、反応薄いし、たぶん知らないんだろうとは思ってたけど」


えーと……真姫さんがローズジムのジムリーダーで……。

梨子ちゃんのこと知ってて、

……そうだ、梨子ちゃん


千歌「ジムに居た……ってことは、梨子ちゃん、ローズジムに挑戦しにきたってことですか?」

真姫「ええ、そうよ」

千歌「……その、梨子ちゃん……大丈夫でしたか?」


セキレイジムでの一件以来、梨子ちゃんとは一度もコンタクトが取れていない。


真姫「大丈夫よ。最初は凹んでたけど、この街から発つときには元気な足取りでヒナギクシティに向かって行ったから」

千歌「! そ、そっか……ならよかった……」


真姫さんの言うことが正しいなら、どうやら梨子ちゃんは元気らしい。


真姫「えーっと、貴方は……オレンジのアホ毛の子。千歌だったかしら」

千歌「あ、はい! ……オレンジのアホ毛の子?」

真姫「貴方のことも何度か梨子から聞いてるわ」

千歌「り、梨子ちゃんが……? なんて言ってたんですか……?」

真姫「強引で、やかましくて、猪突猛進」

千歌「……ぅっ! ひ、酷い……」

真姫「……でも、優しくて、仲間想いの大切な友達。そして、一緒のときにポケモンを貰ったライバルって言ってたわ」

千歌「……! そ、そっか……えへへ」


大切な友達。ライバル。

えへへ……梨子ちゃん、私のことそんな風に想ってくれてたんだ……。

嬉しいな。思わず顔がにやける。
691 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:33:22.27 ID:mfU4DjJz0

真姫「梨子のライバルってことは、やるんでしょ?」

千歌「え?」

真姫「ジムバトル」

千歌「! はい!」

真姫「この用事が終わったら、ジムで相手してあげるわ」

千歌「よろしくお願いします!」

真姫「こちらこそ。……さて、着いたわよ」


目的のモノが置いてある場所に到着して、真姫さんが足を止めた。

応接室、みたいな場所のようだ。


真姫「ほら、ついてきて」

千歌「あ、はい」


室内に入ると、大きめのソファーに座り心地の良さそうな椅子。


真姫「持ってくるから、そこらへん座ってて」

千歌「あ、はい……」


部屋の奥の方へと消えていく真姫さんを眺めながら、とりあえず、ソファーに腰を降ろす。


千歌「うわ……すごいふかふか」


ダイヤさんとルビィちゃんのお家も大概豪邸で、家具も一級品が揃っていたけど、基本的に和室ばかりだったから、こんな高級そうなソファーを見たのは初めてかも。


千歌「……そういえば、さっき真姫さん……自分は会社の人間じゃないって言ってたよね……? なんで、真姫さんは自由に出入り出来るんだろう」

真姫「……この会社、パパが出資してるのよ」


部屋の奥から戻ってきた真姫さんが、私の独り言に答える。


千歌「出資?」

真姫「まあ、わかりやすく言うと株主ね」

千歌「……カブヌシ?」

真姫「……この会社の偉い人なのよ」

千歌「……なるほど? 真姫さんのお父さんが会社の偉い人だから、自由に出入り出来るってこと?」

真姫「……あーまあ、研究器具の仲介とか、いろいろあるんだけど……まあ、それでいいわ。大体あってるし」


なんか難しい単語がいっぱいあったけど、大体そういうことらしい。


真姫「それで、重要な荷物とか取り寄せるときにこの部屋に置かせてもらってるの。はい、これがマリーへのお届けものよ」


そう言って、真姫さんは40cmくらいある、やや縦長の箱を私の前に置く。
692 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:34:37.77 ID:mfU4DjJz0

千歌「あ、ありがとうございます! ……これ、何が入ってるんですか?」

真姫「……研究用の道具よ」

千歌「そういえば、モンスターボールの研究に使うって言ってたっけ……。ボールが入ってるにしては、ちょっとおっきいような……」

真姫「……千歌」

千歌「?」

真姫「あんまり、詮索しないほうがいいわよ」

千歌「え?」

真姫「そもそも、なんでマリーに直接送らず、貴方が代わりに取りに来てるのかって話」

千歌「……?」

真姫「普通に送るにはちょっと曰くがあって、いろいろめんどくさかったから、直接取りに来てもらったのよ」

千歌「曰く?」

真姫「……ま、簡単に言うとちょっとヤバイものってこと」

千歌「……え、それ、チカが持ち運んで大丈夫なの?」

真姫「さぁ……。まぁ、持ってたからって、すぐさま捕まったりはしないと思うけど……あんまりあちこち持ち歩かない方がいいかもしれないわね」

千歌「へ、へー……」


……もしかして、私ヤバイことの片棒担がされてるのかな……。


真姫「まあ、マリーも別に悪人ってわけじゃないし……本当に研究用途だと思うけどね。そうじゃなかったら、取り寄せにも応じなかったし」


一体何が入ってるんだろう……。


真姫「気になるなら、さっさとマリーに届けて本人から教えてもらうといいわ。教えてくれるかは知らないけど」

千歌「は、はーい」

真姫「それじゃ、次の目的地、行きましょうか」

千歌「……次?」


まだ鞠莉さんの用事あったっけ……?


真姫「……やるんでしょ、ジム戦?」

千歌「……あ、そうだった!」

真姫「全く……しっかりしてよね」


私は受け取った箱を抱えながら、次の目的地──ローズジムへと、足を向けます。


693 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:35:22.04 ID:mfU4DjJz0


    *    *    *





真姫「さてと……準備はいいかしら?」

千歌「はい!」


ローズジムへと訪れると、真姫さんは早速バトルスペースについて、私に声を掛けてくる。


真姫「使用ポケモンは4体。先に相手のポケモンを3体、戦闘不能にした方が勝者よ」

千歌「はい!」


ボール構える真姫さん。私もボールを構える。


真姫「準備も良さそうだし、始めましょうか。……一応肩書き名乗る決まりだから、言うけど……ローズジム・ジムリーダー『鋼鉄の紅き薔薇』 真姫。捌いてあげるから、かかってきなさい」


二つのボールが宙を舞う──ジム戦、開始……!!


694 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 12:36:12.29 ID:mfU4DjJz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
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 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.42  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.39 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.40 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.41 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:119匹 捕まえた数:13匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



695 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:14:43.59 ID:mfU4DjJz0

■Chapter052 『決戦! ローズジム!』 【SIDE Chika】





両者のボールから、1匹目のポケモンが繰り出される。


真姫「さて……」
 「ハッサム!!」

千歌「行くよっ! バクフーン!」
 「バクフッ!!!!」


真姫さんのポケモンは真っ赤な鋼鉄のポケモン。

私は図鑑を開く。


 『ハッサム はさみポケモン 高さ:1.8m 重さ:118.0kg
  鋼の 体を 持つ。 目玉模様の ついた ハサミを
  振り上げ 相手を 威嚇する。 ひとたび 敵と 認識すると 
  鋼鉄の 硬度を 持つ ハサミで 容赦なく 叩き潰す。』


千歌「はがねタイプ……!! バクフーンの炎で一気に──」

真姫「ハッサム、戻りなさい」

千歌「──って、あれれ!?」


思わず振り上げた手が空回りする、


千歌「い、いきなり交代なの!?」

真姫「ほのおタイプと対峙して、そのままハッサム使うわけないじゃない。ポケモンは相性で戦うものよ?」

千歌「う……っ」


なんかダイヤさんみたいなこと言ってる……。

調子狂うなぁ……。


真姫「行きなさい、エンペルト」
 「エンペェー!!!」

千歌「で、でも交代には隙があるしっ!! バクフーン! “かえんほうしゃ”!!」
 「バクッ!!!」


背中の爆炎を噴出すのと同時に、バクフーンは口から灼熱の炎を噴き出す。


真姫「確かに、交換は隙を晒すけど……」

千歌「ど、どーだっ!」


直撃した炎が晴れる、


真姫「そういう隙をケア出来る相性を考えるのがトレーナーよ」
 「エンペ」


相手はみずタイプ、期待したほどの効果が得られていない。


千歌「なら、もう一発!! “かえんほうしゃ”!!!」
 「バクフーンッ!!!!!!」

真姫「“バブルこうせん”!」
 「エンペッ!!!!」
696 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:15:51.20 ID:mfU4DjJz0

両者の攻撃が直線上でぶつかり合う。

フィールド上を焼き尽くしながら、突き進む火炎だが、大量の泡にぶつかって、激しい音を立てながら、掻き消されていく。

やっぱり、水と炎だと相性が悪い。

“バブルこうせん”は音を立てながら、どんどんこっちに向かってくる。

直撃はまずい。


千歌「バクフーン! “かえんぐるま”!!」
 「バクッ!!!!」


私の指示で、バクフーンは噴き出していた炎もろとも、その場で巻き込んで高速回転し始める。

攻撃をやめた以上、“バブルこうせん”は先ほどよりも早くこちらに到達するが……

火炎の車輪による炎熱で飛んでくる泡攻撃を蒸発させる。


千歌「ま、間に合った……!」


防御はどうにか、

でも真姫さんは隙を見逃さない、


真姫「“ステルスロック”」
 「エンペ!!」


エンペルトが硬そうな両羽根を地面に叩き付けると、岩の破片がジム中に広がっていく。

たしか、設置して攻撃するタイプの技だ。


千歌「自由にさせると、まずいっ! バクフーン、そのまま突撃!!」
 「バクッ!!!!!!」


防御に使っていた、回転をそのまま攻撃に載せる、

真っ直ぐ転がってくる、バクフーンに対して、


真姫「エンペルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「エンペッ!!!!」


エンペルトが口から吹き出した、激しい水流が襲い掛かる。

だけど──


千歌「バクフーン! 前から来るよ!」
 「バクフッ!!!!」


回転前進しながら、僅かに軌道をずらす。

水流は当たらず、さっきまでバクフーンが通るはずだった軌道上を薙いでいく。

そのまま、加速して回り込み、


千歌「いっけぇーー!!!」


エンペルトに燃える突撃を食らわせる。

 「エンペッ!!」


真姫「エンペルト! ひるまないで! 次が来るわよっ!」

 「バクッ!!!」


突撃と共に反動で少し跳ね返って浮いたバクフーンは、そのまま拳を引く。
697 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:17:09.20 ID:mfU4DjJz0

千歌「バクフーン! “かみなりパンチ”!!」

 「バクッ!!!」


雷撃を纏った、拳で追撃、


真姫「“こらえる”!!」
 「エンペ」


だが、真姫さんの指示も早い。

両の翼をクロスに構えて、バクフーンの拳を受け止める。

インパクトと共に、バクフーンの拳とエンペルトの翼の間で激しく電撃が爆ぜる、


千歌「振りぬけっ!!」

 「バクッ!!!!」


バクフーンは私の指示と共に、さらに足を踏み込んで、拳を振りぬいた。

 「エンペッ!!!」

エンペルトの体が、僅かに中を浮いて、後ろに飛ぶ、が

鋼のような翼に防がれ、これも思った以上の効果が得られなかった。


千歌「っく……! まだまだぁっ!!」


なら、次の技だ……!


真姫「熱いのね、そういうの嫌いじゃないけど。エンペルト、“ほえる”」
 「エンペェェェー!!!!!」

千歌「!?」


エンペルトが急に金きり声をあげる。

それと同時に──


千歌「わったたっ!?」


無理矢理手持ちに戻されたバクフーンのボールに向かって飛んでくる。

“ほえる”は相手を強制的に交換させる技だ。

その代わりに腰のボールから二番手が飛び出す。


 「ピィィイイイイイイイッ!!!!!」

千歌「っ突っ込め!! “すてみタックル”!!」


声を聴くと同時にほぼ反射で指示を出す。

ムクホークが弾丸のように力強く飛び出した。


真姫「っ!!」


急な強制交換で私が動揺すると思ってたのか迅速な指示に、真姫さんがやや驚いた顔をした。

──ギィィイイイン、と硬いもの同士がぶつかる音が響き、

接敵をトレーナーに知らせてくれる。
698 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:18:10.87 ID:mfU4DjJz0

千歌「“インファイト”!!!」

 「ピイィィ!!!」


鳥ポケモン特有の甲高い声をあげながら、ムクホークが嘴で、猛禽の脚で、力強い剛翼で、全身を使ってエンペルトに殴りかかる。


 「エ、エンペッ!!!」
真姫「エンペルト!! 戻れ!!」


その様子に真姫さんは少し焦り気味に、エンペルトをボールに戻した。


 「ピィィッ!!!」

攻撃対象を失ったムクホークをフワリを地面を飛び立って、僅かに後ろに飛び退る。


真姫「“ステルスロック”も食らってるはずなのに、大した突進力ね……」

千歌「……そういえば」


言われて、思い出す。

ムクホークをよーく見てみると、確かに羽根や身体に小さな岩の棘が突き刺さっていた。


千歌「なら、今のうちに! “きりばらい”!」
 「ピピィィー!!!」


身体を回転させながら、フィールド上にあるものを吹き飛ばす。


真姫「……! いい技持ってるじゃない……!!」


“きりばらい”によって、“ステルスロック”を除去する。

これで後続はこれ以上、設置技でダメージを受けなくなった。


真姫「ただの猪突猛進タイプかと思ったけど、意外と絡め手への対応も出来るのね!」


そういいながら、真姫さんが繰り出す3匹目。

 「デマルッ!!!」

トゲトゲの小さなまるっこいネズミのようなポケモン。

臨戦態勢のムクホークは、相手の姿を見るや否や飛び掛る、


千歌「先手必勝!!」

 「ピィィィイイ!!!!」


猛禽の脚で、相手のポケモンを文字通り鷲掴みにする。

そのまま、地面に叩き付けようとするが、


真姫「掴むのは悪手よ」

千歌「え!?」

真姫「トゲデマル、“ニードルガード”」
 「マルッ!!!!」


真姫さんの指示と共に、丸っこいネズミが、全身から針を伸ばして、トゲトゲになる。

 「ピィィッ!!!?」

脚を刺されて、驚いたムクホークが放してしまう。

その隙を真姫さんは見逃さず、
699 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:19:16.71 ID:mfU4DjJz0

真姫「トゲデマル! “びりびりちくちく”!」
 「デマルーーーッ!!!!」


トゲトゲのボールのまま、相手が急に電撃をまとって突撃してくる。


 「ピィイィイイ!!!?」

千歌「で、でんきタイプ!? ムクホーク!!! 離脱!!!」


自分の想定外の弱点タイプへの攻撃、

私は思わずムクホークに向かって叫ぶ。

ムクホークは電撃にダメージを受けながらも、どうにか体を振るって、相手を追い払おうとするが、


真姫「トゲデマル、“ほうでん”!!」
 「デマルッ!!!」


相手はその場で、激しく“ほうでん”する。


千歌「ム、ムクホークッ!!!」

 「ピイィィィ!!!!!?」


音を立てながら、激しく光る電撃が直撃した、ムクホークは、


 「ピ、ピィィイイイ……」


飛ぶ力を失って、フィールド上に落ちてしまった。

戦闘不能だ。


千歌「……戻って、ムクホーク」


ムクホークをボールに戻す。

完全に優勢だと思ってたのに、一瞬の判断ミスで形勢が逆転してしまった。


真姫「トゲデマルがでんきタイプだって知らなかったことが今のミスの原因ね」

千歌「トゲデマル……」


私は目まぐるしい戦況のせいで、開けずにいた図鑑を開いた。

 『トゲデマル まるまりポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.3kg
  背中の ハリの 毛は 普段は 寝ている。 興奮すると
  逆立ち 敵を 突き刺す。 導雷針の 役割を 持っていて
  落雷を 引き寄せ 雷を 浴びると 電気袋に 溜め込む。』


千歌「どーらいしん……避雷針みたいなものだよね」

真姫「そうね。避雷針は人が雷を避けるために使うものだけど、引き寄せる場合はそういう言い方するって感じかしら」

千歌「……なるほど」

真姫「勉強になった?」

千歌「……はい」
700 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:20:25.76 ID:mfU4DjJz0

私は図鑑を閉じて考える。

真姫さんの手持ちはハッサム、エンペルト、トゲデマル。

全部はがねタイプのポケモンだった。

つまり、はがねタイプのエキスパートということだろう。

はがねタイプなら、かくとうタイプやほのおタイプで戦うのが相性的にはいい、けど。

私は次のポケモンのボールを構える。


千歌「──お願いね」


ボソボソとボールに向かって、一言指示を出してから、ボールを放った。





    *    *    *





 「ワフッ!!!!」
千歌「しいたけ!! “かたきうち”!!!」


ボールから飛び出すや否や、トゲデマルに飛び掛かる。


真姫「……!? なんのポケモン!?」


前足で思いっきり、トゲデマルを殴りつける。


 「デマルッ!!」


出会い頭の激しい攻撃に反応しきれなかった、トゲデマルが跳ねる。


真姫「っ!! “ミサイルばり”!!」
 「トッゲッ!!!!」


宙を舞うトゲデマルが、今度は背中の針を射出して来た。


千歌「それ、撃ちだすのも出来るの!? “コットンガード”!!」
 「ワフッ」


──もこもこと、“ファーコート”を増量して、防御の姿勢。

“ミサイルばり”が突き刺さるが、厚い毛皮に遮られほとんどダメージにはなっていない。


真姫「トゲデマル、“じゅうでん”」
 「デマルーー」


体勢を立て直したトゲデマルは地面に着地しながら、バチバチと電撃を溜め込みはじめる。


真姫「……その毛皮、防御力──その“ファーコート”。犬型のポケモン、“コットンガード”に“かたきうち”……その子、トリミアンね」


正解を言い当てられる。

……いや、別に隠してたつもりとかないんだけど……。


真姫「あまりに見たことない感じだったから、ちょっと面食らったわ」

千歌「……そんなに変かな、しいたけ」
 「ワォ?」
701 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:21:32.74 ID:mfU4DjJz0

まあ、でも、見てわからないポケモンでも、ちょっと攻撃を見ただけでなんのポケモンか特定するのはさすがと言ったところかもしれない。


真姫「ただ、トリミアンはあまり積極的に攻撃を仕掛けられるポケモンじゃない」

 「ワォ?」
千歌「…………」


周囲に電気のエネルギーが溜まっているのか空気がチリチリとしている。

お陰でしいたけの体毛も逆立ってしまっていた。


真姫「トゲデマルがどんなポケモンか見極めたかったのかもしれないけど、そこまで私も悠長じゃないわよ?」
 「デマルーーーー!!!!」


“じゅうでん”によって、気合いの入ったトゲデマルの毛先は火花がショートしている。


真姫「トゲデマル!! “かみなり”!!!」
 「デッマルッ!!!!!!!」

千歌「!!」


トゲデマルの周囲の火花が散ったかと、思った次の瞬間──

激しい轟音を立てながら、しいたけに向かって激しい雷光が落ちてきた。


千歌「……!!!」

真姫「防御が自慢だから、受け止めるつもりだったんでしょうけど……“じゅうでん”した“かみなり”、さすがに耐えられないでしょ?」


激しい稲妻によって、フィールドから焼けた土の臭いと煙が立っている。

そして、晴れた煙の中からしいたけが──


真姫「……!?」


──いなくなっていた。


真姫「え、消えた……!?」
 「デマル…??」

千歌「……えっへへ」


──もこ。

トゲデマルの足元が僅かに盛り上がる。


真姫「!! しまっ──」

千歌「しいたけ!! 突き上げろーー!!」
 「ワオーーン!!!!」

 「デマルーーーッ!!!!?」


トゲデマルの足の下から、しいたけが“あなをほる”で突き上げる。

吹っ飛ばされて、空中で制御を失ったトゲデマルに、向かって改心の一撃……!!


千歌「“ギガインパクト”!!」

 「ワォンッ!!!!」


思いっきりトゲデマルに全身でぶちかます。


 「デマルゥゥーーーー!!!!!!?!?!!?」
702 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:22:23.89 ID:mfU4DjJz0

全力の攻撃を食らったトゲデマルは、ジム中をピンボールのようにガンガン跳ね回ったあと、


 「マ、マルゥーーー……」


地面に突き刺さって気絶した。


千歌「よしっ!! ナイス、しいたけ!!」
 「ワォ」

真姫「……トゲデマル、戻りなさい」


真姫さんはトゲデマルを戻しながら。


真姫「……あの“かみなり”、“あなをほる”で避けられた……? ……いや、違う。“ひらいしん”で受けたのね?」


私に視線を向けてくる。


真姫「……穴に潜る直前。“なりきり”でトゲデマルの特性をコピーした」

千歌「……わ、バレた」


まさか、こんな一瞬でバレるとは思ってなかったけど、真姫さんの言う通り。

“なりきり”は相手の特性をコピーする技だ。


千歌「トゲデマルの“ひらいしん”コピーさせて貰いましたっ!」
 「ワン」


“ひらいしん”はでんきタイプの技を無効化する効果がある。


千歌「図鑑読んで、そういう特性だって気付いたんで!」

真姫「……成程ね。トリミアンが“なりきり”を覚えることを忘れてたのは私の落ち度ね」

千歌「えへへ、勉強になりましたか?」


さっきの仕返しでおどけて言ってみる。


真姫「ええ、お陰様で」


真姫さんがボールを放ると、


 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが繰り出される。


真姫「やっぱり、机に齧り付いて考えてるのと、実際にやってみると違うものよね」

千歌「……?」

真姫「こっちの話。それより、バトル続行するわよ」

千歌「あ、はい! しいたけ!」
 「ワフッ」


しいたけがハッサムに向かって走り出す、が。

“ギガインパクト”の反動のせいか、少し動きが鈍い。


真姫「ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
 「──ッサム!!!」
703 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:23:15.06 ID:mfU4DjJz0

動きの鈍ったしいたけに一瞬で近寄ったハッサムが、拳でしいたけを打つ。

 「ワフッ!!!」


真姫「追撃しなさい! “ダブルアタック”!!!」
 「ハッサムッ!!!」


両手のハサミを続け様に叩き付けてくる。


千歌「しいたけっ!」
 「ワンッ!!!」

千歌「“ほえる”」
 「ワンワンワンッ!!!!!」

真姫「!?」

千歌「これもさっきのお返しです!!」


ハッサムが無理矢理、真姫さんの手持ちに戻され、引きずり出されたのは、

 「エンペ……」

バクフーン、ムクホークとの戦いで手負いのエンペルト、


千歌「しいたけ、“とっしん”!!」
 「ワンッ!!!」


弱って踏ん張りが利かなくなったエンペルトを、体でぶっとばす。

 「エンペッ!!!」

エンペルトは声を上げながら、吹っ飛ばされた。


真姫「エンペルト……!」
 「エンペ…」

真姫「……またしても、やられたわね」


そう零しながら、エンペルトをボールに戻す。


千歌「よし! 二匹抜きだね!」
 「ワンッ!!!」

千歌「この調子で三匹目も──」
 「クゥン…」

千歌「って、もうさすがにお疲れだよね。戻って休んで、しいたけ」
 「ワフ」


私もしいたけを戻す。


千歌「……真姫さんのポケモンは2匹が戦闘不能」


あと一匹倒せば私の勝ちだ……!!


千歌「行くよ! ルカリオ!」
 「グゥォッ!!!」

真姫「ハッサム!!」
 「ハッサムッ!!」


再びフィールドに2つのボールが舞った。


704 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:24:12.54 ID:mfU4DjJz0


    *    *    *





千歌・真姫「「“バレットパンチ”!!!」」


両者のポケモンが飛び出すと同時に、同じ技の打ち合い。


 「グゥワ!!!!」
 「サムッ!!!!」


神速の拳が、かち合い、

──ギィン!! と硬い音がフィールドに響く、

スピード勝負!!


真姫「“つじぎり”!!」


両者の拳が弾けると同時に真姫さんが指示を出す。

 「ハッサムッ!!!!」

ハッサムを身を捩りながら、鋭利なハサミで切り裂き攻撃、


千歌「ルカリオ!!」
 「グゥァ!!!!」


波導を収束して、硬質化、武器にする……!


千歌「“ボーンラッシュ”!!」
 「グゥォ!!!!」


すんでのところで、ハサミを骨状の波導エネルギーの塊で弾き返す。


真姫「“メタルクロー”!!」


立て続けの攻撃、突き出されるハッサムの両のハサミ、


千歌「受けて!!」
 「グゥォ!!!!」


再び弾こうと、ルカリオは長い骨を振るうが、

鋼鉄のハサミが──開いた、


千歌「開いた!?」

真姫「ハサミだからね!」


そのままハッサムのハサミは、ルカリオの骨をガッチリホールドする。

──この瞬間、骨を放すように指示すべきだった。


真姫「“アイアンヘッド”!!」


両手で骨を押さえつけたハッサムが、そのまま鋼鉄の頭突きをかましてくる。


 「グォァ!!?」


脳天に一撃を食らって、怯んだところを、
705 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:25:28.77 ID:mfU4DjJz0

真姫「ハッサム!! “ぶんまわす”!!」
 「サムッ!!!!」


ハッサムは骨を掴んだまま、自分を脚を軸にして回転しながら、ルカリオを振り回す。


千歌「!? ル、ルカリオ!!!」
 「グォッ!!!?」


脳を揺さぶられた直後に、加えられた激しい遠心力に耐えられず、手を放したルカリオが宙に放られる。


真姫「“こうそくいどう”!!」
 「ハッサムッ!!!!」


そんなルカリオに追撃を掛けるために、ハッサムが猛スピードで発進する。

空中に放られて為す術のないルカリオに向かって、

両手のハサミを使った、袈裟懸け!


真姫「“シザークロス”!!」
 「ハッサムッ!!!!」

 「グゥァ!!!!!」

千歌「ルカリオッ!!!」


強烈な攻撃を受けて、ルカリオフィールド上を二転三転する。

 「グ…ゥ…」

千歌「……っ!」


圧倒されてしまった。ルカリオ、戦闘不能だ。


千歌「戻って、ルカリオ……」


ルカリオをボールに戻す。


真姫「これで、お互い戦闘不能が許されるのは残り1匹ね」

千歌「……行くよ、バクフーン!!」


私は最後の手持ちを繰り出した。





    *    *    *





千歌「バクフーン! “やきつくす”!」
 「バクッ!!!!」


バクフーンが炎が噴き出す。

……が、恐らく真姫さんの行動は、


真姫「ハッサム、“バトンタッチ”」
 「サムッ」


やはり、交代だ。
706 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:26:26.74 ID:mfU4DjJz0

真姫「キリキザン、お願い」
 「キザン…」


真姫さん最後のポケモンはキリキザン。

 『キリキザン とうじんポケモン 高さ:1.6m 重さ:70.0kg
  大勢の コマタナを 戦わせ 傷つき 動けなくなった 獲物を 
  真っ二つにする。 どんなに 強い キリキザンでも 頭の
  刃が 刃こぼれすると ボスの 座を 引退すると いう。』

あく・はがねタイプのポケモン。


千歌「バクフーン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「バクッ!!!!!!」

真姫「“きりさく”!!」
 「キザン…!!」

キリキザンが腕の刃を薙ぐと、


千歌「! ほ、炎が……」


炎が斬撃で真っ二つに切れて、キリキザンの両脇をすり抜けていく。

遠距離技が通用しない。


真姫「“サイコカッター”!!」
 「キザン!!!」


逆に向こうからは念動力で作った刃が飛んでくる。


千歌「……く! “スピードスター”!」
 「バクッ!!」


星型をしたエネルギーで迎撃、二つの攻撃のエネルギーがぶつかりあって、爆発する。


千歌「……わっ!?」

真姫「キリキザン、“つるぎのまい”!」
 「キザンッ!!!」


相手もどうやら、遠距離攻撃が得意なわけではなさそうだけど、放っておくとどんどん自己強化をして手が付けられなくなる。


千歌「距離を詰めなきゃ……! バクフーン、“ニトロチャージ”!!」
 「バクッ!!!!」


とにかく、止まっていない方がいい。

“ニトロチャージ”は自分の熱エネルギーを高めながら加速する突進技。

距離を詰めて、バクフーンの炎を直撃させれば勝機はあるんだ……!!

さっき、“サイコカッター”と“スピードスター”が爆ぜ散った場所を時計回りに迂回しながら、加速する。


真姫「加速して、一撃を狙う。悪くないわ、けどね」
 「キザンッ!!!」

真姫「軌道がわかりやすすぎるわ」

千歌「……!!」


バクフーンの直進方向にあわせて、キリキザンが踏み出してくる。
707 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:31:19.44 ID:mfU4DjJz0

真姫「“ローキック”!!」
 「キザンッ!!!!」

 「バクッ!!?」

前足を綺麗に払われて、バクフーンがキリキザンの後ろを転がる。


千歌「バクフーン!? 大丈夫!?」

 「バクフーン…!!」


声を掛けるとすぐに起き上がる。


千歌「ほ……」


ダメージはそこまで大きくない、が。

……どうする。

遠近どちらも対策を打たれている。


 「バクフッ!!!!!」


バクフーンの闘志は十二分なんだけど……。

むしろ、戦意が抑え切れず、バクフーンの周りでチリチリと火花が散っている。

……ん?


千歌「……あ」


──閃いた。


千歌「──バクフーン! “ころがる”!!」
 「バクッ!!!!」


バクフーンは大きく時計回りに迂回しながら加速し、再びキリキザンに向かって、突撃する。


真姫「“けたぐり”!!」
 「キザンッ」


ぶつかる直前に蹴り飛ばされて、再び宙を浮いて、キリキザンの背後を転がる。


千歌「まだまだぁ!!」


また大きく時計回りに迂回しながら、バクフーンは再びキリキザンの方へ、


真姫「ヤケになったのかしら? キリキザン、もう一度“けたぐり”!」
 「キザンッ」


三たび、いなされ床を転がる。

──全身を床に擦りつけながら、


千歌「バクフーン! 今度は逆側から!!」
 「バクッ!!!!!」

真姫「それで翻弄してるつもりなのかしら!!」


今度は逆時計回りに迂回して、回転しながら突撃する。

四度目、脚払いを食らう瞬間──
708 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:32:22.67 ID:mfU4DjJz0

千歌「バクフーン!! ジャンプ!!」
 「バクッ!!!!」


バクフーンが回転の勢いを使ったまま、跳ねた。


真姫「!? 意表を突いた回避なんかしても、攻撃出来なきゃ──」

千歌「“かえんほうしゃ”!!」
 「バクッ!!!!」

真姫「その技は通じない!! キリキザン、“きりさく”!!」


 「バクッ!!!!」
中空を舞ったまま、バクフーンがキリキザンに標的をあわせて、炎を噴き出す。

それをキリキザンが鋭利な刃で切り伏せる。

炎が切り裂かれ、フィールドに──引火した。


真姫「なっ!?」


先ほどバクフーンが転がった軌跡の上を──まるで『大』の字を描くように。


千歌「燃え尽きるまで、焼き尽くせ!!!」
 「バクフーンッッッ!!!!!!!!」


空中で炎を吐きながら、バクフーンの背中に、より一層、強い闘志の炎が燃え上がる。

“ころがる”ことにより、フィールド上に擦りつけられ、巻き上げられた、

──バクフーンの可燃性の体毛──が、

バクフーンの炎を、『大』の字の炎柱へと、昇華させた。


千歌「“だいもんじ”!!!!」
 「バクフーーンッッッッ!!!!!!!!!!」


──私たちの気合いの雄叫びが、爆音と共に鳴り響いた。





    *    *    *





千歌「……はぁ……はぁ……」
 「バクフー…!!!」


大きな火柱が、その火の手を弱めると、


千歌「……!!」


その中に、キリキザンのシルエット。


千歌「まだ、立ってる……!! バクフーン!!」
 「バクッ!!!!」

真姫「待って……立ってるだけよ」

千歌「……え?」
709 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:33:31.08 ID:mfU4DjJz0

真姫さんが私たちの追撃を口で制するのと同時に、

──ユラリ、と。

キリキザンの影が崩れ落ちた。


真姫「……キリキザン戦闘不能。千歌、貴方の勝ちよ」

千歌「……やった」


グッと拳を握る。


千歌「やった、やったよバクフーン!! 勝ったよー!!」
 「バクフー!!!」


喜びの声を掛けると、バクフーンが私の元に駆け寄ってくる。


千歌「──って、熱!? まだ毛燃えてる!?」
 「バクッ?」


まだ戦闘の余熱で、バクフーンはめちゃくちゃ熱かった。物理的に。


真姫「全く勝負に勝っても、騒がしいのね……」


真姫さんはキリキザンをボールに戻しながら、呆れたような口調で話しかけてくる。


千歌「ぅ……ご、ごめんなさい……」

真姫「それにしても……してやられたわね。バクフーンの体毛を使ってくるなんて……」

千歌「えへへ……」

真姫「……ポケモンを信じて、その力を引き出す技量、胆力。認めざるを得ないわね」


真姫さんはそう言って、懐から、ソレを取り出した。


真姫「貴方をローズジム認定トレーナーの証として、この“クラウンバッジ”を進呈するわ」

千歌「はいっ!!」


こうして、私は5つ目のジムに勝利し、無事バッジを手に入れたのでした!


710 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:34:09.69 ID:mfU4DjJz0


    *    *    *





真姫「この後はどうするの?」


ジム戦を終えた後、ジムの前で真姫さんにそう訊ねられる。


真姫「北西に行くと、ヒナギクシティ……そっちにいくと、梨子と会うことになると思うけど」

千歌「……そっか、梨子ちゃんはヒナギクジムに向かったって言ってましたもんね」


梨子ちゃん……久しぶりに会いたいとは思うけど……。


千歌「私はバッジが5つ揃ったら、行く場所があるんでっ!」

真姫「そ。マリーへの預かりもの、失くさないようにね」

千歌「はーい! それじゃ、ムクホーク! 行こう!」
 「ピィィー!!」

千歌「──ウチウラジムへ!!」


私たちは恩師の元へと、成長した姿を見せるため、飛び立ったのでした。


711 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/07(火) 15:35:22.06 ID:mfU4DjJz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.47  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.43 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.43 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:123匹 捕まえた数:13匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



712 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:12:21.40 ID:7Hgct/sd0

■Chapter053 『カーテンクリフ』 【SIDE Ruby】





──カーテンクリフ上空。


ルビィ「うーん……」

花丸「ルビィちゃん、何か見えたずら?」

ルビィ「うぅん……なんにも……」

花丸「ちょっと、高度下げてみよっか……フワライド、ちょっと下がれるずら?」
 「フワァーー」


花丸ちゃんのフワライドでカーテンクリフに突入してから、数日。

ルビィたちはここにあると睨んでいた、グレイブ団アジトを発見できないまま、クリフ上空を彷徨っていました。


ルビィ「ダリアに居た研究員さんは、確かにクリフのアジトって、言ってたんだけどなぁ……」

花丸「大体の場所がわかってても、アジトはアジトって、ことなのかもね……地道に探すしかないずら」

ルビィ「うん……そうだね」


カーテンクリフは標高の高い山だからか、雲に包まれていて基本的に見通しが悪い。

しかも、今は雪が降っているせいで更に視界を確保するのが困難だった。


花丸「これはホントに持久戦になりそうだね……」

ルビィ「うん……」


……とは言え、すでに食料や水の備蓄が怪しくなり始めている。

これは一旦探索を中断して街に戻ったほうがいいかも……。

フワライドの力を借りれば、登り降りはそこまで困難ではないけど、一瞬ってわけじゃないし、降りる余力がない状態で備蓄が尽きたら、それこそ危険……。


花丸「ん……なんか、いるずら」

ルビィ「え?」


花丸ちゃんの声で思考から引き戻される。

隣を見ると、花丸ちゃんが望遠鏡を覗き込みながら、何かを発見したようだった。


ルビィ「なにかって?」

花丸「ん……雪と霧で見づらいけど、動いてるずら。たぶん、ポケモンだと思う」

ルビィ「マルちゃん、ルビィにも望遠鏡貸して?」

花丸「うん、はい」


花丸ちゃんから望遠鏡を受け取って、先程花丸ちゃんが見ていた方向を覗いてみる。

すると、確かに小さなポケモンが動いている影が見えた。

……だけど、


ルビィ「なんか、あの子……変じゃない……?」

花丸「ずら?」
713 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:13:40.25 ID:7Hgct/sd0

改めて覗き込みながら、望遠鏡の絞りを回してズームする。

──そこには小さなゾウさんみたいなポケモンの姿。

その子が鼻を使って、崖にぶら下がっているところだった。


ルビィ「!! あの子、崖から落ちかけてる……!!」

花丸「え!?」

ルビィ「フワライドさん! 高度落として、あそこの崖に近付ける!?」

 「フワァ」
花丸「る、ルビィちゃん! あんまり高度下げると岩肌にぶつかっちゃうずら!」

ルビィ「でも、ほっとくわけにいかないし……!!」

花丸「それは……。……わ、わかった。フワライド、高度落として」
 「フワワァーー」


フワライドさんが少しずつ高度を落としていく。

すると、山の岩肌のシルエットが肉眼でも確認出来るようになってきた。


ルビィ「いた! あそこ!」


それなりに高度を落としたところで、先程見つけたゾウさんみたいなポケモンの姿をしっかりと確認する。

望遠鏡では詳細な状況がわからなかったけど、肉眼で見るとそのポケモンは風雪に煽られて今にも落ちそうになっているのがわかった。


花丸「あれは、ゴマゾウずら!」

ルビィ「ゴマゾウさん! 今助けるからね……!! コラン! アブリボン!」
 「ピピピィーーー」「アブリリー」


空を飛べる手持ちを繰り出す。


ルビィ「コラン、アブリボン、ゴマゾウさんを助けて!」
 「ピピ」「アブリ」


二匹はざっくりしたルビィの指示を聞いて、飛び出した。

風雪の中で飛ばされないように岩肌沿いに下降していく。

二匹を目で追いながら、ルビィは、


ルビィ「アチャモ!」
 「チャモ!!」


アチャモをボールから出す。

すぐさま、バッグからロープを取り出して、アチャモを自分の胸の辺りに前を向かせたまま括り付ける。


花丸「る、ルビィちゃん!? 何してるずら!?」

ルビィ「コランとアブリボンほっといて、ルビィが待ってるわけにいかないよ! アチャモと協力しながらならルビィも降りられると思うし……!」


アチャモの爪をピッケルのように突き刺しながら、降りる算段。


花丸「そ、そんな、無茶だよ!?」


視界を再びゴマゾウさんの方に向けると、コランとアブリボンがゴマゾウさんの元に到着したところだった。

コランが下から押し上げ、アブリボンが上から引っ張る形だ。

……だけど、なかなかゴマゾウさんの体は持ち上がらない。
714 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:14:49.88 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「やっぱり、このままほっとけないよ!! アチャモ、せーので跳ぶからね!!」
 「チャモ!!」

花丸「ルビィちゃんっ!!」

ルビィ「……せーのっ!!」


風雪と切り立った山肌がヒューヒューと特有の風の音を響かせる中、

せーの、でルビィは──跳べなかった。


 「チャモ?」
ルビィ「あ、あれ……?」


自分では脚に力を入れて、フワライドさんから踏み切ったはずだった。

なのに……。


ルビィ「──あ、脚が……」


脚が震えて、うまく踏み出せていない。


花丸「この高さで飛び降りるなんて無理だよぉ……!」

ルビィ「……っ」


自分の脚が震えてる事実を認識して、急に怖くなってくる。

少しは旅の中で度胸もついたと思ったのに……。


 「パォォーー」


そのとき、声が聞こえた。


ルビィ「……!」


恐らくゴマゾウさんの声だ。

フワライドさんの距離が十分に近づいてきて、声が聞こえる距離になってきたのだろう。

ゴマゾウさんを見ると、大きな鼻で掴んでいた崖から今にも手が──いや、鼻が滑り落ちそうになっていた。


ルビィ「あ、危ない!!」

花丸「ルビィちゃん!?」


ルビィは勢いにまかせて、今度こそフワライドさんから飛び出していた。

急に全身を浮遊感に包まれる。


ルビィ「!?」


岩肌が思った以上のスピードで接近してくる。


ルビィ「あ、アチャモ!! “ブレイククロー”!?」
 「チャッモッ!!!」


咄嗟の指示。急な岩の斜面にアチャモが引っ掛けるように、爪を立てる。

──ガリガリと岩肌を削る耳障りな音ともに、嫌な振動が全身に伝わってくる。

……が、どうにか減速には成功したようだった。


ルビィ「はぁ、はぁ……!」
715 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:15:43.77 ID:7Hgct/sd0

岩肌にうまく引っかからなかったら、と思うとぞっとして、急に心拍数があがっていく。

──怖い。


 「パオォォーー」

ルビィ「!」


再び響いてくる鳴き声を聞いて、頭を振った。


ルビィ「今、いくからね……!!」


ルビィもうまく出っ張りに足をかけながら、慎重に、でも出来る限り速く、崖を下っていく。

 「チャモッ」

アチャモと協力しながら、どうにか崖を降りると、


 「パォォ……」


ゴマゾウさんの元へは思いの外、早くたどり着いた。

……改めて、降り立ってみると、多少歩けるスペースはあるものの、ここもただの岩肌のでっぱりに近い。


ルビィ「アチャモ……爪しっかり立てててね……!」
 「チャモ」


岩肌に張り付きながら、ゆっくり腰をかがめて、後ろ手にゴマゾウさんの鼻に手を伸ばす。

 「ピピピ……」「アブリリ……」


ルビィ「あと……ちょっと……!」


手を伸ばして──ゴマゾウさんの鼻を、掴んだ。


ルビィ「やった! このまま、引き上げて……!!」


力を込めて、引っ張ろうとして、


ルビィ「あ、あれ……?」


そして気付く。

ゴマゾウさんは思った以上にずっしりとしていて、引っ張っても全然持ち上がらない。


花丸「──ゴマゾウは33kgもあるずらー!! 簡単に持ち上がらないよー!!」


空から花丸ちゃんの声が振ってくる。

どうりで、コランとアブリボンの二匹がかりでも持ち上がらなかったわけだ。


ルビィ「んっと……! 何か方法は……!」


考えを巡らせた──瞬間。

再び体が浮遊感に包まれた。


ルビィ「……え?」

花丸「──ルビィちゃん!!!!」
716 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:19:10.84 ID:7Hgct/sd0

花丸ちゃんの絶叫が聞こえる。

視界の先ではゴマゾウさんも中空にいた。

──ルビィのいる崖ごと崩れたんだと気付いたときには、完全に落下が始まっていた。


ルビィ「ゴマゾウさん!!」
 「パ、パォ」


ルビィは咄嗟にゴマゾウさんを抱きしめた。


 「アブリリ!!!」「ピピピ!!!!」

アブリボンがルビィの背中を掴み引っ張り、コランが下に潜り込む。

落下速度が僅かに緩和されるが、

落下はまるで止まるには至らない。


ルビィ「……!!」


このままじゃ、地面に激突してみんな助からない。


 「──ボールに入れなさい!!!」

ルビィ「!?」


そのとき、突然、上から声が響いてきた。


ルビィ「ボール!!!」


咄嗟に、腰から空のフレンドボールを引っ手繰って、ゴマゾウさんに押し当てた。

 「パォ──」

ゴマゾウさんがボールに吸い込まれたのと同時に、

──体が上方に引っ張られた。


ルビィ「ぴぎ!?」


思わず悲鳴が漏れる、が。


ルビィ「あ、あれ……?」


気付くと、急に落下速度がゆっくりになっていた。


 「全く……なんで、会う度に死にかけてるのよ、あんたたちは──」

ルビィ「!」


上から声が振ってきて、その方向を見上げてみると……。

ヤミカラスの脚を掴んだまま飛んでいる黒髪の女の子の姿。


ルビィ「あ、あなたは……!」


ブルンゲルとの戦いのときにも助けてくれた女の子、確か名前は──


ルビィ「善子ちゃん!!」

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ!!!」

ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさい……」
717 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:20:36.01 ID:7Hgct/sd0

大きな声で怒鳴られて、思わず謝ってしまう。


善子「はぁ……とりあえず、アチャモもボールに戻してくれる? ちょっとでも軽い方がいいわ」

ルビィ「あ……うん」


ヤミカラスさん、アブリボン、コランの力でゆっくり降下する中

──pipipipipipi!!!!!

ルビィと善子ちゃん? の図鑑が鳴っていたことに気付く。


善子「また鳴ってる……なんなのこれ?」

ルビィ「あ、えっと……図鑑が3つ揃うと鳴るんだって」

善子「へぇ……」


善子ちゃんは相槌を打ちながら、ポケットから図鑑を取り出して、音を止める。


善子「ん、じゃあ……」

花丸「──ルビィちゃん! 善子ちゃん!」


どうやら、花丸ちゃんとフワライドさんが追いついて来たようだった。


善子「だから、ヨハネだってば!!」

花丸「ルビィちゃん……無事でよかったずら……」

善子「無視するんじゃないわよ!?」


降下する私たちにフワライドさんは手を伸ばし、それを人が一人立って乗れるくらいの長さで折りまげる。

善子ちゃん──ヨハネちゃん? はその上に足を下ろす。


善子「……もう、ここまでくれば、大丈夫でしょ。……えっと、ルビィだっけ?」

ルビィ「あ、うん! ありがとう、ヨハネちゃん……?」

善子「だから、ヨハネじゃなくて──ん? あってる……?」


善子ちゃんは少し難しい顔をしたあと、


善子「コホン……まあ、苦しゅうない」


少し嬉しそうに咳払いをした。


花丸「……相変わらず、その設定はなんなんずら?」

善子「設定言うな!! それよりも、なんでこんなところにいるのよ!」

花丸「それを言うなら善子ちゃんもずら」

善子「私はアブソルを追ってきただけよ!」

花丸「アブソル……?」

ルビィ「あ、えっとね……ルビィたちは……」


どうにかこうにか事情を説明しようと考えていると、


ルビィ「!? は、花丸ちゃん!! 見て!!」

花丸「ずら?」


下降中の谷の底に、
718 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:24:25.44 ID:7Hgct/sd0

善子「……なんでこんなところに建物が……?」


大きな建造物の影が見えてきた。


花丸「崖と崖の間にあったんだね……道理で、上空を飛んでても見つからないわけずら」

善子「……? あんたたち、あそこに用があったの?」

ルビィ「あ、えっと……実はね」


ルビィたちはヨハネちゃんに事情を説明しながら、降りていく。

──グレイブ団アジトに。





    *    *    *





善子「つまり、その理亞って子を捕まえて、洗いざらい吐かせればいいってことね」

ルビィ「う、うん……」

花丸「言葉選びが乱暴ずら……」


谷底の地面に降り立った後、三人で岩の影に隠れながら、見つけたアジトの様子を伺う。


善子「見た感じ、見張りとかも特にいなさそうね……」

ルビィ「あ、あの……」

善子「なによ?」

ルビィ「ヨハネちゃんも来るの……?」

善子「……何、付いてこられると困ることでもあんの?」

ルビィ「そ、そうじゃなくて……!」

花丸「善子ちゃん、一応聞いておくけど」

善子「ヨハネだからね」

花丸「これから行くところ、結構危ない場所だと思うよ? いいの?」

善子「……さっきも言ったでしょ、私はアブソルを追ってきただけ」


そう言いながら、善子ちゃんは図鑑を開いて見せつけてくる。


善子「アブソル、ここ数日ずっとこのカーテンクリフから動いてないのよ」


図鑑の画面を見ると、この地方の地図が表示されていて、確かにカーテンクリフの場所に善子ちゃんの言っているポケモンが生息していることを示していた。


善子「もしかしたら、この建物の中にいるかもしれないでしょ? そのついで」

ルビィ「……? さすがにそんなことはないと思うけど……」

善子「……えっと、あー」

花丸「……素直に言えばいいのに」

ルビィ「?」

善子「と、とにかく! 私もここに用があるの! わかった!?」

ルビィ「え?? う、うん……」


善子ちゃんは仄かに顔を赤くしながら、
719 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:27:27.80 ID:7Hgct/sd0

善子「見張りも居ない。入り口は一つ、ならさっさと入ってさっさと用事を済ませるわよ! お互い!」


そう言って走り出してしまう。


ルビィ「え、あ、ま、待ってよぉ……!」

花丸「やれやれずら……ルビィちゃん、マルたちも行くずら」

ルビィ「う、うん……?」


ルビィたちはアジトに潜入します。






    *    *    *





アジトの入り口らしき場所に立つと、すんなりとドアが開く。


善子「……ここホントにそのグレイブ団ってやつのアジトなの?」

花丸「確かにずいぶん不用心だね……」

ルビィ「もしかしたら入った途端、警報が鳴るトラップとかかも……」

善子・花丸「「……」」


前を歩いていた、善子ちゃんと花丸ちゃんの足が止まる。


善子「ゲッコウガ、“こころのめ”」
 「ゲコガ」

花丸「ゴンベ、“かぎわける”ずら」
 「ゴンゴン」


同時に出した2匹でトラップの有無を調べてるみたい。


善子「ゲッコウガ、トラップとかなさそうかしら?」
 「ゲコガ」


善子ちゃんの言葉に、ゲッコウガさんが頭を縦に降って安全の意を伝えている。


花丸「ゴンベも異常は嗅ぎ取れないずら」

ルビィ「じゃあ、平気なのかな……?」


本当に何もないみたい。

二人が言うように、アジトと言う割にすごく不用心な気がする。


善子「場所が場所だから、侵入者とか想定してないのかもしれないわね」

ルビィ「それならいいんだけど……」

花丸「まあ、とりあえず進むしかないずら」


三人で屋内に入ったところで、

突然、ルビィたちのいる通路から、真っ直ぐ奥側にあるドアが開いた──
720 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:29:22.48 ID:7Hgct/sd0

善子・ルビィ・花丸「「「!?」」」


ドアの向こうから人影。

ダリアシティでちらほらと、見たことがあるグレイブ団の装束の女性。


ルビィ「ぴ、ぴぎぃ!?」

善子「やっぱり罠じゃないっ!?」

花丸「ち、ちょっと待って二人とも……!」


動揺する私たちに花丸ちゃんが声を掛けてくる。


善子「いや、言ってる場合!? 隠れないと……!!」

ルビィ「も、もう遅いよぉ……」


バッチリ目が合ってた気がする。

というか、目の前にいるし。


花丸「……あの人、様子がおかしいずら」

ルビィ「え……?」


言われて、再びグレイブ団の団員らしき女性に目を向けると、

彼女はこちらに向かって、ゆっくりと歩を進めてきているところだった。


善子「……何……?」

グレイブ団団員「…………」


真っ直ぐ歩いてきているが、

……いや、真っ直ぐ歩いてきているだけすぎる。


ルビィ「……ルビィたちのこと、見えてない……?」

善子「まさか……そんなはず……」

花丸「とりあえず、二人ともこっちに来るずら」


このままこの団員の進行方向上に居たらぶつかってしまうので、通路の隅の方に3人で避ける。


団員「…………」


団員の人は、そのままルビィたちに見向きもせず通り過ぎて、


団員「…………」


空いてしまった、入り口の横にあるボタンを押して、ドアを閉める。


善子「ああ、まあ、確かに開けたままじゃ寒いし」

花丸「そういう問題じゃないずら……」


そして、そのままUターンして、


団員「…………」


また通路の奥の部屋に戻っていった。
721 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:30:53.21 ID:7Hgct/sd0

善子「……どゆこと?」

花丸「……詳しいことはわかんないけど、オラたちが侵入してきたことは認識出来てなかったずら」

ルビィ「それどころか、見えてなかったみたい……」

善子「まさか、ついに本当の堕天の力に目覚めてしまったということなの……?」

ルビィ「……?」

花丸「堕天の力かどうかはともかく……ただ、扉を閉めに来ただけみたいだったね」

善子「……そうね」


善子ちゃんは腕を組んで、考える素振りをしてから、


善子「まるで……そういう風にプログラムされてるロボットみたいだったわね」


そう感想を漏らす。


ルビィ「ロボット……」

花丸「さっきのロボットだったの? それは、未来ずら〜!」

善子「……とりあえず、ここが普通の施設じゃないってことはわかった」

花丸「どうするずら?」


どうする……。


ルビィ「とりあえず、進んでみた方がいいと思う……。ここで待ってても、しょうがないし」

善子「まあ、そうね……。見つからないんだったら、こっちとしては都合のいい話なんだし」

花丸「了解ずら」


ルビィたちはとりあえず、奥へと進むことにしました。





    *    *    *





アジト内を進んでいく最中、

団員らしき人たちが、なにやら作業をしているが、

誰一人として、ルビィたちが居ることに気付かない。


善子「……異様な光景ね」

ルビィ「うん……」


数人……ううん、十数人とはすれ違ったと思うけど、誰一人としてルビィたちのことを認識していない。

その目は虚ろで……まるで意思が感じられなかった。
722 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:33:22.95 ID:7Hgct/sd0

花丸「…………善子ちゃん、さっきロボットみたいって言ってたよね」

善子「え、言ったけど……冗談よ?」

花丸「それはわかってるずら。そっちじゃなくて」

善子「どっちよ」

花丸「そうプログラムされてるってやつ」

善子「……言ったわね」

花丸「そうなのかもしれないずら」

善子「……?」

ルビィ「どういうこと?」

花丸「さっきから、観察してたんだけど……一人一人があんまり複雑な動作をしてない気がするずら」

ルビィ「……?」

善子「……もしかして、自分の意思がないから、単純なことしかやってないってこと?」

ルビィ「え……それって……」


──あの人たち、操られてる……?


善子「催眠術とか、洗脳の類……?」

花丸「断言は出来ないけど、可能性は高いずら」

ルビィ「……じゃあ、最初に会った人は戸締まりをする人だったってこと……?」

花丸「そこまで限定的かはわかんないけど……入り口が開きっ放しになってたら、閉めるように指示されてるのかも」

善子「……ねえ、ホントにこんな場所に理亞ってやつはいるの?」


善子ちゃんは顔を顰めてそう言う、


善子「ここ、相当おかしいわよ……? まともな人間が居る空間とは思えない」

ルビィ「……ぅゅ」


確かにここがおかしいと言うのは事実だ。


善子「気付いたら、私たちも洗脳されてて……なんてこともあるんじゃ……」

花丸「こ、怖いこと言わないでよ、善子ちゃん!」

善子「いや、だからヨハネだってば!」

ルビィ「ぅゅ……」


確かに、闇雲に探し回りながら、長居するのは良くないかもしれない。

さっきから、善子ちゃんのゲッコウガさんと、花丸ちゃんのゴンベがしきりに索敵はしてるけど……。

ロボットみたいに動く、団員の人たちが引っかかるばかりだし……。

──そのとき、


ルビィ「?」


腰のプレミアボールがカタカタと揺れていることに気付く。


ルビィ「……コラン?」


コランの入ったボールだった。

外に出たがっているみたいだから、ボールから出してあげると、
723 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:34:20.52 ID:7Hgct/sd0

 「ピピピ」


コランはボールから出るやいなや、ふよふよと奥の方へと飛んでいってしまう。


ルビィ「あ、コラン……待って──」


コランを制止しようとして、ふと思い出す。

ダリアの研究室でも、コランが勝手に飛び出して、奥の隠し部屋を見つけた。

もしかしたら……。


ルビィ「コラン……また何か感じ取ってるのかな」

花丸「……付いていってみる?」

善子「……ま、話を聞く限り、メレシーの話がよく出てくるし……。その子の勘を信じてみるんで、いいんじゃない?」

ルビィ「うん……」


不安は消えないけど……ルビィたちはコランの後についていくことに決めました。





    *    *    *





そのあと、いくつかの部屋を通り抜けて──その間にぼんやりと作業を繰り返す団員の人が何人も居ました……。

コランが、ここまでの道程同様、自動扉を潜ろうとすると、


 「ピピ!?」


ドアが開かずに衝突する。


ルビィ「わ!? コラン、大丈夫!?」
 「ピピピ……」

善子「……ここだけロックが掛かってるの? 怪しいわね」

花丸「しかも、この先に行きたがってたってことは……」

ルビィ「……うん」


この前同様、この先に何かがある可能性が高い。

目の前の扉は、頑丈そうな鉄扉だった。



善子「……どうする? 壊す?」

ルビィ「あんまり大騒ぎにはしたくないけど……」

花丸「他に手段がないならそれも視野ずら……」

ルビィ「うん……。……?」


ふと、扉の向こうから、
724 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:35:13.78 ID:7Hgct/sd0

善子「どしたの?」

ルビィ「……なんか、聞こえる」

花丸「ずら?」

ルビィ「何……?」


思わず、耳をドアに当ててみると、


 「お前、何処から──!! マニューラ──!!」
  「マニュッ──」

ルビィ「!」


人の声が聞こえてきた。

しかもこの声には聞き覚えがある……!


ルビィ「この先に理亞さんが居る!!」

花丸「ずら!?」

善子「なんですって?」

ルビィ「しかも、誰かと戦ってる……!!」

善子「誰かって、誰よ!?」

ルビィ「わ、わかんないけど……!」
725 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:36:28.51 ID:7Hgct/sd0

どうにかもっと多くの情報を手に入れるために、再びドアに耳をつけた瞬間──

──ガン! と大きな音がルビィの耳を叩く。


ルビィ「ぴぎぃっ!!?」


大きな音に驚いて、思わず後ろに転げる。


花丸「ルビィちゃん!?」

ルビィ「な、なにかがぶつかってきた……」


急に大きな音を耳元で受けて、頭がぐわんぐわんする……。


善子「なにやってんのよ……。けど、今の音は私にも聞こえたわ……! とにかく、この先にいるのね!」

ルビィ「……う、うん!」

善子「なら、ぶった切るわよ!! ゲッコウガ!! “つじぎり”!!」
 「ゲコガァ!!!!」


ゲッコウガさんが水で作ったクナイで、鉄扉を切り裂き、無理矢理抉じ開けると。


善子「……な……!?」


その先に広がっていた光景は──。


理亞「……今日は随分たくさん、鼠が忍び込んでるみたいね」
 「マニュ…」


部屋の奥でマニューラを従え臨戦態勢の理亞さんと、


 「──ソルル…!!!」

ドアの前で足元を凍らされながらも、理亞さんたちを威嚇している、白い体毛のポケモン──


善子「アブ、ソル……?」


善子ちゃんの目当てのアブソルさんの姿でした。


726 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 01:37:32.78 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブ団アジト】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃ ●   | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.29 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.29 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.30 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.37 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:81匹 捕まえた数:8匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.30 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.28 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      モココ♂ Lv.29 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.27 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:81匹 捕まえた数:30匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.41 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.38 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.42 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:101匹 捕まえた数:46匹


 ルビィと 花丸と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



727 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:34:38.08 ID:7Hgct/sd0

■Chapter054 『グレイブ団幹部・理亞』





善子「アブソル……!? なんで、こんなところに……!!」

 「ソルル…?」

理亞「それは、こっちの台詞なんだけど」


理亞さんが鋭く視線を飛ばしてくる。


善子「ゲッコウガ! “みずしゅりけん”!!」
 「ゲコガァ!!!」

理亞「! マニューラ!」
 「マニュ!!!」


飛んできた水の手裏剣を、マニューラが凍気で凍らせながら爪で弾く。


理亞「侵入者の癖に、威勢の良いご挨拶ね」

善子「アブソルの敵は私の敵も同然よ!!」

 「ソルル…」


善子ちゃんが人差し指を突き付けながら宣言している横から、


ルビィ「理亞さんっ!!」


ルビィが声をあげる。


理亞「……! あんたは……!」


ルビィの姿を認めると、理亞さんは一度驚いたような顔をしたあと、


理亞「……最近グレイブ団の周りを嗅ぎ回っているやつがいるって噂、あんただったんだ。クロサワ・ルビィ」


そう言いながら、冷たい視線を送ってくる。


善子「無視するんじゃないわよ!!」
 「ゲコガァ!!!」

ルビィ「善子ちゃん!?」


善子ちゃんの声と共に飛び出すゲッコウガ。


理亞「あんたは邪魔! マニューラ、“かわらわり”!」
 「マニュ!!!」

 「ゲコ!!!?」


だけど、マニューラが長い爪を振るって殴り付けると、ゲッコウガは一発で善子ちゃんの元まで吹き飛ばされる。


善子「ゲッコウガ!?」
 「ゲコ……」

善子「なんつー威力よ……! 大技ならまだしも……!」

理亞「威勢だけの雑魚じゃない」

善子「なんですって!?」
728 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:35:39.75 ID:7Hgct/sd0

二人のポケモントレーナーが火花を散らす中、


ルビィ「や、やめて、二人とも……! ルビィたちは戦いに来たわけじゃない!!」


ルビィは二人の間に割って入る。


理亞「………は?」

善子「あんたたちがそうじゃなくても、私に戦う理由が出来たのよ!」


善子ちゃんは声を荒げながら、次のボールを構えるが、


花丸「よ、善子ちゃん! やめるずら……!」


花丸ちゃんが善子ちゃんを後ろから羽交い締める。


善子「な!? 放しなさい、ずら丸……!」

花丸「善子ちゃん……ルビィちゃんはこのために、ここまで来たずら」

善子「…………」

花丸「善子ちゃん」

善子「……あーもう……わかったわよ」

ルビィ「ありがと、マルちゃん、善子ちゃん……! 理亞さん」

理亞「…………」


理亞さんに視線を向ける。

依然、戦闘体勢のままルビィのことを睨んでいる。


ルビィ「ルビィたちは理亞さんとお話しに来たんです」

理亞「……話?」

ルビィ「はい……! クロサワの入江でのこと──」

理亞「……」

ルビィ「どうしてあんなことしたのか、聞きたくて……」

理亞「…………」

ルビィ「…………」

理亞「……は? それだけ……?」

ルビィ「え……?」

理亞「そんなこと聞くためだけに、ここまで追ってきたの……?」


理亞さんは心底、不思議なモノを見るような顔で、ルビィのことを見つめてくる。


ルビィ「え、えっと……はい」


あ、あれ……? ルビィなにか変なこと言ったかな……?


理亞「…………ふーん」

ルビィ「え、えーっと……」

理亞「あんたが飛び切りのバカだってことはわかった」

ルビィ「え……ひ、酷い……」

理亞「どうしてあんなことをしたか? あのとき言ったはずだけど。祠について聞き出すためよ」
729 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:38:01.48 ID:7Hgct/sd0

理亞さんは毅然と答えるけど。


ルビィ「ただ祠の存在を聞き出すだけだったら……無理に祠に行く必要はない。お姉ちゃんが追ってくるのも時間の問題だったのに、どうしてあの状況で虱潰ししてまで、祠に辿り着こうとしてたの?」

理亞「! …………」

ルビィ「うぅん、むしろ理亞さんはルビィの外見は最初から知ってた。聞き出すだけなら、それこそ本当に他の場所で襲えばよかったのに、わざわざあの場で、警戒される入江にルビィを連れてったのは、やっぱり不自然だよ」

理亞「………………」

ルビィ「本当は──あのとき、ルビィに何か……ルビィにしか出来ない何かをさせようとしてたんじゃないの……?」

理亞「……………………」

ルビィ「理亞さん、答えてください……!」


理亞さんはそこまで頑なに口をつぐんでいたけど、


理亞「──……仮にそうだったとして、あんたがそこまでして追ってくる理由は何?」


ゆっくりと、そう言葉を返してきた。

やっとお話、してくれた。


理亞「私があんたを捕まえて、連れ去ろうとした事実に何も変わりない。それなのに、敵地まで乗り込んできて、なんの得があるの?」


──敵地。

敵。……ううん。


ルビィ「理亞さんは敵じゃない」

理亞「は……? だから、私はあんたをさらって──」

ルビィ「でも、メレシーを守ってくれたもん……っ!」

理亞「……そんなことで──」

ルビィ「そんなことじゃない……!」


あの洞窟のメレシーは、いつも悪い人に狙われる。

お伽噺でしかなかった時代から、今の今まで……


ルビィ「最初はルビィも、またメレシーたちを狙う悪い人なのかなって思ったけど……」


兄弟姉妹同然に育ってきたメレシーたちを、守るように訓わって、護るように教わってきたルビィにとって、


ルビィ「あの場所で、メレシーたちを大切にしてくれる人が……ただの悪い人だと思えないの……」

理亞「…………」

ルビィ「メレシーを守ってくれた事実も、護ろうとしてくれた想いも……ルビィには嘘だったなんて思えない」


ルビィは、気付いたら、理亞さんの瞳を、真っ直ぐ見つめて、話しかけていた。


理亞「…………」


理亞さんの瞳が揺れる。

 「ピピピ」

ふいに、ルビィの傍に居たメレシーが理亞さんのところへふよふよと飛んでいく、


理亞「……メレシー」

 「ピピピ」
730 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:39:14.48 ID:7Hgct/sd0

そして、理亞さんの周りをゆっくりと回り出す。


ルビィ「ほら……ルビィのメレシー──コランも、理亞さんがホントは優しい人だって言ってる」

理亞「…………そんな、私は」


理亞さんは、何に迷ってるんだろう……。

それは今はまだわからない。わからないけど。

なら、わかるまで、わかりあえばいいんだ。


ルビィ「ルビィに出来ることだったら協力するから……だから、あんな強引なやり方しないで?」

理亞「…………っ」

ルビィ「ちゃんとお話して、気持ちを伝え合えば、きっと……ルビィと理亞さん──うぅん、理亞ちゃんは、きっとお友達になれるから」

理亞「…………友達」


理亞ちゃんが手を伸ばす。

ルビィも、その手を取ろうと、前に進んだ──ときだった。

──prrrrrr.


理亞「…………」


理亞ちゃんの上着のポケットから着信音。

ポケギアの音だった。


理亞「…………」


理亞ちゃんはポケギアを取り出し、その画面を見て。


理亞「……ねえさま……」


呟いた。

そして、そのまま、固まってしまった。


理亞「…………」


ポケギアが鳴り続ける。


ルビィ「……ポケギア、出ないの……?」

理亞「…………」

ルビィ「ねえさま……お姉ちゃんがいるの?」

理亞「…………」

ルビィ「えへへ……ルビィと同じだね……!」

理亞「……!」

ルビィ「ルビィにもお姉ちゃんがいるんだよ! ダイヤお姉ちゃんって言って──」

理亞「…………同じじゃない」

ルビィ「……え?」

理亞「…………お前の姉と、ねえさまが同じわけがない」
731 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:40:48.10 ID:7Hgct/sd0

理亞ちゃんの雰囲気が、変わった。

 「ピピ!?」

コランも驚いてルビィの元に戻ってくる。


理亞「……産まれたときから、住む場所にも、食べる物にも困らず、当たり前に家族に囲まれて、ただ当たり前に恵まれて育ってきた、お前の姉と……私のねえさまが同じわけ、ない……!」

ルビィ「……!?」


明らかな怒気。明確な攻撃の意思を持った目。

それと同時に、肌の露出した部分に刺すような痛み。

──それが猛烈な寒さのせいだと気付いたときには、部屋には霜が降り、天上からは大きな氷柱がみるみると成長している真っ最中だった。


理亞「マニューラ!!!」
 「マニュ!!!!!」

理亞「“つららおとし”!!!」


理亞ちゃんの指示と共に、部屋中のつららにヒビが入る。


ルビィ「わ、わわわ……!!!」


焦るルビィの背後から、


花丸「ルビィちゃん!?」

善子「ルビィ!! こっちの部屋に戻ってきなさい!! 早く!!」


花丸ちゃんと善子ちゃんの声。

一人奥の部屋の中へと進んでいたルビィを呼び戻す声。

──だけど、判断が遅かった。

バキリと言う、嫌な音と共に次々と大きなつららが降り注いでくる。


ルビィ「ぴぎぃっ!!」


つららがルビィの顔のすぐ横を掠める。


花丸「ルビィちゃん!!」
善子「ルビィ!!」


二人が再び大きな声でルビィのことを呼んだけど、

ルビィの行く先、通路の出口にも大きなつららが大量に降り注ぎ、その道を塞いでいく。


花丸「ルビィちゃん!!」


花丸ちゃんの呼び掛けすらも、つららの落ちてくる音が掻き消していく。


花丸「ルビィちゃ──」


──そして、ついに花丸ちゃんの姿は、大きなつららに覆い隠されて完全に見えなくなってしまった。


ルビィ「……っ」


絶体絶命。そのとき、
732 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:42:14.09 ID:7Hgct/sd0

 「ピピピ!!!!」

ルビィ「! コラン!!」


コランがルビィの頭上に飛び出す。

ルビィを守る盾になるために、

だが、


 「ピピィ!?!!!?」


つららにぶつかったコランが玉突きのように、

ルビィの真横に落ちてくる。

大きなつららは、コランの硬い身体すらも無視する勢いだ。

幸い弾き飛ばされるだけで大きなダメージにもなってなさそうだが、

降り注ぐつららの勢いはまるで納まらない。

咄嗟に顔を両腕で庇う。

降り注ぐ氷の礫たちが、手を、腕を、

落ちて砕けて、跳ね返る鋭利な氷の欠片が、足を、脹脛を、太腿まで、容赦なく切り裂いていく。


ルビィ「──っ!!」


強い痛みに、声にならない声が出る。

──痛い。

痛みを自覚した瞬間、脚から力が抜けて、カクンと膝が落ちた。

──割れた氷だらけの床の上に。


ルビィ「──ぁ゛っ!!!」


膝に刺すような痛み──いや、割れた氷の破片が刺さったんだ。

感じたことのない痛みに、上半身も倒れこみそうになって、

堪える。


ルビィ「──っ──!!」


痛い、痛い、痛い──

脳がそんな言葉を全身に走らせる、

倒れ込みたい、

ダメだ、

床も氷の棘だらけだ、


理亞「──それが、痛みだ……」


パニックを起こした思考に、理亞ちゃんの声が降って来る。


理亞「お前たちみたいな、恵まれた姉妹が、経験したことのない──冷たさと、痛みだ……!!」

ルビィ「……っ!!」

理亞「私とねえさまはずっとこの痛みに耐えてきた、この痛みの中で生きてきた──お前たちみたいなただの親の七光りと同じわけない……!!」

ルビィ「……っ!!! ……違うもんっ!!!」
733 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:43:22.86 ID:7Hgct/sd0

脚に力を籠めて、無理矢理立ち上がる、


ルビィ「お姉ちゃんは、ただの七光りなんかじゃない……!!」

 「チャモッ!!!」


腰のボールからアチャモが飛び出し、


 「チャモォオオオオオオ!!!!!」


辺りに炎を撒き散らす、“かえんほうしゃ”だ。

アチャモの火炎で、足元の氷の欠片が溶け、足場が確保される。


ルビィ「ふぅー……ふー……っ!!!」


どうにか立ち上がるが、脚のところどころが切れ、流血している。

出血は言うほど酷くないが、痛みを主張している部分が多すぎて、自分の脚が自分の脚だと思えない。

立ったはいいが、脚がガクガクと震える。

これが痛みのせいなのか、はたまた恐怖からなのかすら判断する余裕がない。

でも──


ルビィ「お姉ちゃんはすっごい努力して……ジムリーダーになったんだもん……!!」


ルビィはともかく、お姉ちゃんを侮辱されて黙ってるわけにはいかなかった。


理亞「……あんたも怒るのね。ただ、取り消すつもりなんかない。あんたたち姉妹はただの七光りよ……!」

ルビィ「……っ!!」


その言葉に珍しく、頭がカッと熱くなるのを感じた。


ルビィ「アチャモ!! “かえんほうしゃ”!!」
 「チャモー!!!!」

理亞「マニューラ!! “ブレイククロー”!!!」
 「マニュ!!!!」


理亞ちゃんの指示でマニューラが飛び出す。

一直線に飛んでくるマニューラに火炎を浴びせる……が、

 「マニュ!!!!」

炎を意にも介さず、マニューラが突っ込んでくる。

──アチャモではなく、ルビィに向かって、


ルビィ「……!!」


マニューラの鋭い爪が眼前に迫る、

刹那。

白い影がルビィの前に躍り出た。

──キィン!

鋭いモノ同士がぶつかった音が響く。


 「ソルル…!!!」

ルビィ「! アブソルさん!!」
734 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:44:49.41 ID:7Hgct/sd0

アブソルさんの頭の刃と、マニューラの爪が鍔迫り合いになる。

 「ソルッ!!!!」

アブソルさんが思いっ切り頭を振るうと、

 「マニュッ!!!」

その勢いに負けた、マニューラが後ろに飛び退く、


理亞「っち……せっかく凍らせたのに、アチャモの炎で氷が溶けたか……!」


理亞ちゃんはそう言いながら、睨みつけてくる。



理亞「ま、七光りの雑魚相手にはいいハンデかもね」

ルビィ「また……っ!!」

理亞「お互い譲れないなら……戦って決めればいい、いつだって私とねえさまはそうしてきた……!! クロバット!!」

ルビィ「!」


理亞さんがボールを放ると同時に紫の影が高速で飛び出した。

その影は、そのままルビィの肩辺りを掴み、

持ち上げ、宙に浮く、


ルビィ「クロバット……!! 研究所のときにもいたポケモン……!!」


空に持ち上げてくるなら……!!


ルビィ「コラン!!」
 「ピピッ!!!」


地面に転がるコランに呼びかけ、


ルビィ「“じゅうりょく”!!」
 「ピピィ!!!」


指示を出した。


 「クロバ!!!!?」


クロバットを“じゅうりょく”の力で無理矢理地面に引きずり落とす。

そのまま、床に降りる前に次のボールを放る。


ルビィ「ヌイコグマさん!! “とっしん”!!」
 「クーーマーー」


墜落した、クロバットをヌイコグマさんが突き飛ばす。

 「クロバッ!!!」

クロバットは床を転がり、理亞ちゃんの方へ──


理亞「クロバット……!」

ルビィ「……さっきお姉ちゃんに対して言ったこと、取り消してくれないかな?」

理亞「……雑魚の言うことなんて、聞くつもり、さらさらない」

ルビィ「じゃあ、ルビィがそうじゃないってわかれば、取り消してくれるかな……?」

理亞「……上等──!!」

735 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:47:05.55 ID:7Hgct/sd0



    *    *    *





 『緊急プログラムが作動しました。緊急プログラムが作動しました。』


謎のアナウンスが部屋中に響いている。


花丸「ルビィちゃん……!! ルビィちゃん!!」


ずら丸は通路を塞ぐ、でかい氷柱を叩いているけど……。


善子「一旦落ち着きなさい!! ずら丸!!」

花丸「落ち着けないよ!! だって、ルビィちゃんが、ルビィちゃんが……!!」

善子「……いいから、落ち着けって、言ってんの!!!」

花丸「ずら……!!」


怒鳴りつけると、ずら丸はビクッとしてから、大人しくなる。


善子「……冷静になりなさい。そんなことしても状況は変わんない。氷柱を除去する方法を考えないと」

花丸「で、でも……」

善子「ルビィが心配なのはわかるけど……あの子もここまで旅してきたんでしょ? ちょっとやそっとのことでやられないわよ」


私は言いながら、ずら丸に向かって図鑑のサーチ画面を開く。

そこには、付近に居るのポケモン一覧が表示される。

『ゲッコウガ
 ゴンベ
 アチャモ
 メレシー
 ヌイコグマ
 アブソル
 クロバット
 マニューラ』


善子「この中にルビィの手持ちはいる?」

花丸「! う、うん、アチャモ、メレシー、ヌイコグマはルビィちゃんの手持ちずら! クロバットは、あの理亞さんって人が持ってたと思う……」

善子「さっきまで辺りには、私たちの手持ちとアブソルを除いたら、マニューラとメレシーしか出てなかった……たぶんだけど、この向こうで戦闘になってるんだと思う」

花丸「……って、ことは」

善子「ルビィは生きて、戦ってるってことよ」

花丸「そ、そっか……」


ただ、生存確認をしたからと言って、このまま放っておくわけにはいかない。

この氷柱の壁はどうにかしないと……だが、それ以外にも、


 『緊急プログラムが作動しました。緊急プログラムが作動しました。最上級指令を発令します。侵入者を排除してください。この指令は最上位優先行動です。』


善子「このアナウンス……たぶん、ヤバイわよ」

花丸「……? こ、これ何……?」

善子「気付いてなかったの?」

花丸「ご、ごめん……」
736 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:48:02.47 ID:7Hgct/sd0

 『最上級指令を発令します。侵入者を排除してください。この指令は最上位優先行動です。緊急プログラムが作動しました。──』


花丸「こ、これって、まさか……」

善子「たぶん、あんたが今考えてる通りだと思うわ……」


二人して背後を振り返ると、


団員「──」
 「ブブー」「ヘァ」「プルリィ」「ヒドド」

先ほどスルーしてきたはずの団員たちがポケモンを引き連れて、続々と集まってきていた。


善子「ゲッコウガ! まだ動ける!?」
 「ゲコ……!!」

団員「“サイケこうせん”」 団員「“バブルこうせん”」 団員「“シャドーボール”」 団員「“ミサイルばり”」


飛んでくる大量の攻撃、


善子「“たたみがえし”!!」
 「ゲコッ!!!!」


ゲッコウガが床を一枚引っぺがし、盾にして防ぐ。

色とりどりの遠距離攻撃が、薄壁一枚の向こう側で爆ぜる。


花丸「ず、ずらぁ……逃げ場がないずら……!」

善子「後ろは絶氷……前は悪の手先……絶体絶命ね」

花丸「どうするずら!?」

善子「……ランプラー! 出てきなさい!」


私はランプラーをボールから出す。


 「プラァー」

善子「ランプラー! 後ろの氷を溶かして! 出来るだけ早く!」
 「プラァー」

善子「ずら丸も! ほのおタイプ持ってない!?」

花丸「! ……え、えっと、マルほのおタイプは持ってないけど、氷を溶かすだけなら……!」


ずら丸も私に倣う様にボールを放る。


花丸「──キマワリ! “ソーラービーム”ずら!」
 「キッマァーー」


ここは屋内。太陽がない分、威力はそこまで期待できないが、いないより何倍もマシだ。


花丸「それと、モココも!!」
 「メェーー」


続けて、モココが飛び出す。


花丸「“チャージビーム”ずら!」
 「メェーー」


電気を収束したエネルギーを背後の氷柱に向かって照射する。
737 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:50:15.41 ID:7Hgct/sd0

善子「とにかく、前からの攻撃を防ぎながら──」

「ヘァ!!!」


──言ってる合間に、ヒトデマンがゲッコウガが出した“たたみがえし”を右側から迂回して飛んでくる。


花丸「ゴンベ!! “ずつき”!!」
 「ゴン!!!」

 「ヘァ…!!!」

善子「逆からも……!!」


今度は左側にプルリル、


善子「出てきて、ムウマ!! “シャドーボール”!!」
 「ムマァ!!!」

 「プルリ…!!?」


どうにか迎撃、


善子「と、とにかく! 防ぎながら、後ろの氷を溶かす!! それしかない!!」

花丸「う、うん……!!」


幸い攻撃は単調なものが多い。

“たたみがえし”の影に隠れながら、飛び出した相手を迎撃するなら、どうにか指示が間に合──


 「ブブー!!!」

花丸「ハヤシガメ!! “はっぱカッター”!!」
 「ガメッ!!!!」


いや、いかんせん相手の数が多い、


 「ヒド!!!」

善子「ヤミカラス! “ドリルくちばし”!!」
 「カァッ!!!」


バネブー、ヒドイデ、ヒトデマン、プルリルと言ったポケモンたちが絶え間なく、次々に飛び掛かってくる。


善子「ムウマ! “サイケこうせん”!! ヤミカラス! “つばさでうつ”!!」

花丸「ゴンベ! “ふきとばし”! フワンテ! “かぜおこし”!」


二人分の手持ち総出の総力戦だ……!!


善子「ランプラー!! まだっ!?」
 「プラァー」


ランプラーが必死に“れんごく”を使っているが、氷が分厚すぎる。


善子「もっと、出力がないと……!」

花丸「善子ちゃん! 上!!」

善子「あーもう!! ヤミカラス、“だましうち”!!」
 「カァッ!!!!」


このままじゃ、手が追いつかない。

そのとき──
738 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:50:48.15 ID:7Hgct/sd0

 「メェー……!!」
花丸「ずら!? モココ!?」


モココがプルプルと震えだす、これは──


善子「進化の兆候!?」

 「メェー──」


モココが、カッと眩く光る、


 「──リュー!!!」
花丸「デンリュウに進化したずら!! これなら……!!」
 「リューー!!!!!」


進化して、急激にパワーを増した、“チャージビーム”が氷を焼く。


善子「ランプラーも、あとちょっと……!! お願い、頑張って!!」
 「プラァーーー」


後ろの氷が溶けるまで……あとちょっとだから──!


739 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 09:51:27.21 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブ団アジト】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃ ●   | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.30 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.30 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.31 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.37 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:82匹 捕まえた数:8匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.30 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.28 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.30 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.27 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:31匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.41 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.38 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.42 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:109匹 捕まえた数:46匹


 ルビィと 花丸と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:05:48.82 ID:7Hgct/sd0

■Chapter055 『戦闘! グレイブ団幹部、理亞!』 【SIDE Ruby】





──これは数年前のお話です。


ダイヤ「ルビィ、いいですか? クロサワの女たるもの、毅然としていなくてはダメですよ」

ルビィ「きぜんって……?」

ダイヤ「自分の信念を貫く、しっかりとした態度や様子のことですわ」

ルビィ「自分の……信念……ルビィに出来るかな……」

ダイヤ「大丈夫ですわ。貴方も立派なクロサワの子なのですから、きっと出来ますわ──」


──
────


──夜。スクールの隣のジムスペースから、声が響いてくる。


ダイヤ「はぁ……!! はぁ……っ……!!」

琥珀「……今日はここまでにしましょう、ダイヤ」

ダイヤ「ま、まだです、お母様……!!」

琥珀「ダイヤ……」

ダイヤ「このような不甲斐無いままでは──わたくしはジムリーダーになど、いつまで経っても成る事が出来ません……!!」

琥珀「……。……そのように焦ることは、ないのですよ?」

ダイヤ「いえ……! ダメなのです、わたくしは……いつだって、毅然と前を歩いていないと──」


こっそり聞いていた、あの日のお姉ちゃんの言葉。

今でも、覚えている。


ダイヤ「わたくしはルビィの姉なのです……! ルビィに示しが付く様に前を進み続けないとダメなのです……!!」


──ルビィにとって……そんな、お姉ちゃんが自慢なんです。自慢のお姉ちゃんなんです。





    *    *    *





ルビィ「アチャモ!! “ほのおのうず”!!」
 「チャモー!!!!!」

理亞「マニューラ! “でんこうせっか”!!」
 「マニュ!!!」


アチャモが作り出す、炎の渦の壁を、マニューラが身を屈めて、突っ込んでくる、


ルビィ「迎撃! “きりさく”!!」
 「チャモッ!!!」

理亞「遅いッ!!」
741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:06:45.53 ID:7Hgct/sd0

アチャモが爪を薙ぐが、

 「マニュ!!!」
 「チャモッ!?」

一瞬で軌道を見切ったのか、前方に居たはずのマニューラが横からアチャモを斬りつける、


理亞「畳み掛けろッ!! “みだれひっかき”!!」
 「マーニュッ!!!!」


襲い来る連撃、だが──


 「ソルッ!!!」

ルビィ「! アブソルさん……っ!」


再びアブソルさんが割って入って助けてくれる、


 「マニュ!!! マニューラッ!!!!」

 「ソルッ!!!!」


高速で薙がれる、両の爪を、アブソルさんが刃でいなす、


理亞「ち……!! いけ、オニゴーリ!!」
 「ゴォーリ!!!」

ルビィ「!」


そんなアブソルさんに向かって放たれる新手、オニゴーリ。


理亞「“こおりのキバ”!!」
 「ゴォォオーーーーリ!!!!!」


オニゴーリが口を開けて、冷気を纏った大きなキバで迫る、


ルビィ「ヌイコグマさんっ!!」
 「クーーマーー」


飛び出す、ヌイコグマさん、


ルビィ「“とっしん”!!」
 「クーーーマーーー」


床を蹴って、オニゴーリに向かって突撃、


 「ゴォーリ!!!!」

 「クーーマーー」


理亞「邪魔!! “かみくだく”!!」

ルビィ「させない!! “ばかぢから”!!」


 「クママーーー」
 「ゴォーーリ!!!!」


組み合った二匹、

顎を閉じて、噛み砕こうとするオニゴーリと、

それを抉じ開ける、ヌイコグマさん、

パワーは拮抗してる、が
742 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:08:33.89 ID:7Hgct/sd0

 「ゴォーリッ!!!!」


オニゴーリの冷気で、キバを押さえている前脚がパキパキと凍り付いて行く、


ルビィ「アチャモっ!! “ねっぷう”!!」
 「チャモッ!!!!」

 「ゴォリ!!?!?!」

理亞「なっ、ヌイコグマごと……!!」


アチャモから放たれる“ねっぷう”が氷を溶かしながら、オニゴーリを襲う、

 「クマー」

もちろん組み合ってる、ヌイコグマさんも巻き込まれるけど……。


ルビィ「ヌイコグマさんっ!! “じたばた”!!」

 「クマーーー!!!」

理亞「!」


ヌイコグマさんが激しく暴れて、オニゴーリを吹き飛ばす。

“じたばた”は受けているダメージが大きいほど、威力を増す技です……!


理亞「オニゴーリ!! 一旦引いて!!」


その言葉と共にオニゴーリの元に、繰り出される大きな影──


ルビィ「!!」

理亞「リングマ!!」
 「グマァァ!!!!」


リングマが大きな拳を引きながら、ヌイコグマの目の前に、

ルビィはすかさずボールを投げる、


理亞「“アームハンマー”!!!」
 「グマァッ!!!!!」


雄叫びと共に振り下ろされる、拳、

──が、

その拳は、ヌイコグマさんに振り下ろされることはない、


 「パォォ!!!」

理亞「!?」


長い鼻をリングマに腕に巻きつけ受け止めた──


理亞「──ゴマゾウ……!?」


パワー自慢の新しい仲間──!!


ルビィ「ゴマゾウさん!! “たたきつける”!!」
 「パオォォ!!!!」


リングマをそのまま腕ごと引き摺り落とす形で、地面に叩き付ける、

 「グォァッ!!!!??」
743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:09:52.88 ID:7Hgct/sd0

ゴマゾウさんの攻撃で出来た隙に、


ルビィ「コラン、“パワージェム”!!」
 「ピピピー!!!!!」

 「グマァッ!!!?!?」


今度はコランが宝石を発射する。

石が腹部に命中した、リングマはたまらず、

 「グマ…ァ…!!!」

お腹を押さえながら、後ろに下がっていく、

そして、同時に──


 「マニュッ!!!?」


理亞ちゃんの元に吹き飛ばされる、マニューラの姿、


 「ソルッ…!!!!」


アブソルさんがマニューラとの打ち合いに勝ったようだった、


理亞「マニューラ……!! リングマ……!!」


さらに畳み掛けるように──

 「ソルッ!!!!!」

アブソルさんが頭の刃を振るうと、


理亞「……!」


大きな空気の刃──“かまいたち”だ、

空刃は、理亞ちゃんとその手持ちを一挙に巻き込み、

その後ろの壁までも、一刀両断した、


ルビィ「ぴぎっ!? す、すごい威力!?」

 「ソルッ…!!!!」


斬り崩れた建物の壁が煙を立てながら、崩れ落ちる、


ルビィ「と、いうか、やりすぎ……!?」


崩れた壁の先へと、走る。

すると……アブソルさんの斬撃は、隣の部屋も、さらにその隣の部屋まで貫いていた。

そこに理亞ちゃんの姿は見当たらない、

もっと先まで吹き飛ばしたのかもしれない。


ルビィ「みんな!」
 「チャモ!!」「ピピピッ」「クマー」「パォ」


戦っていた手持ちを呼び寄せて、ルビィたちは壁の向こうに走り出します──。


744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:10:54.08 ID:7Hgct/sd0


    *    *    *





理亞「……つっ」


身を起こすと、岩肌に囲まれた、カーテンクリフが見える。

アブソルの特大の“かまいたち”を受けて、戦っていた部屋どころか、建物の外まで吹き飛ばされたらしい、


 「マニュ…!!」

理亞「大丈夫……リングマが庇ってくれたから」


お陰で、リングマは戦闘不能だけど……すぐにボールに戻す。

あれだけの大技を一匹で受け止めてくれたのだ、止むを得ない。


ルビィ「──理亞ちゃん!!」

理亞「!」


声に顔を上げる、

崩れた壁の先から、クロサワ・ルビィが駆け出して来た、


理亞「っ……!!」


咄嗟に、マニューラを飛び出させるために、人差し指と中指を前に突き出して、攻撃の合図を送るが──


ルビィ「──大丈夫!?」

理亞「……なっ……!」


相手方から飛び出してきたのは、そんな心配の言葉。


理亞「──大、丈夫……?」


突き出した指が、ワナワナと震える、


理亞「どこまで……どこまで侮辱すれば気が済むのよ……ッ!!」


頭にカッと血が昇る、

それと同時にメガブレスレッドが、光を発する、


ルビィ「……!!?」


理亞「オニゴーリッ!!!!」
 「ゴオァアァーーーリ!!!!!!」


メガシンカの力を解放した、オニゴーリが、

一気に辺りを凍りつかせ、


ルビィ「……!? あ、脚が……!!」


ルビィの足元を一気に氷で釘付けにする。

もちろんルビィの手持ちも、
745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:13:09.87 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「……! み、みんな!!」
 「チャ、チャモォ」「パォォ…」「ク…マ…」

 「ソル……!!」

ルビィ「アブソルさんも……!!」


 「ピピピ!?」


これで空中を浮いていた、メレシー以外はこおりづけで動けない。

そして──

そのまま、氷はルビィの脹脛、太腿、臀部、


ルビィ「……ぅぁ……!」


お腹を、

胸部を過ぎて、

肩を、腕を、手を凍て付かせ、


ルビィ「ぅ……っ……」


すぐに首元まで辿り着いた。





    *    *    *





理亞「……はぁ……はぁ……っ……私の勝ち、ね」

ルビィ「……っ……」


全身が凍ってしまって、動かない、動けない。


理亞「……てこずらせんじゃ……ないわよ……弱い癖に……!!」

ルビィ「……っ! まだ……言うの……っ!」

理亞「勝って……言うこと、聞かせるって……言ってたじゃない……でも、あんたの負けよ……!!」

ルビィ「……っ……まだ、だもん……!」

理亞「認めなさい……!!」

ルビィ「まだ……だもん……っ!!」


お姉ちゃんの──ダイヤお姉ちゃんを悪く言ったこと、


ルビィ「まだ……言葉、取り消して貰ってない……もんっ!!!」


ルビィの大好きなお姉ちゃんの誇りは、

何も知らない人が汚していいものじゃない、

今、その誇りを護れるのがルビィだけなら──わたしが戦わなきゃ……!!

そう想った瞬間。


──ドクン。


心臓が大きく脈打った。
746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:14:38.67 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「──あ、ぁ……っ!!?」


そして、突然、全身が燃えるように熱くなる、


 「ピ──」


そして、コランが──

真っ赤な──燃えるような真紅の光を発していた。


理亞「……なっ!?」


──ドクン。

血液が脈打つ度に、全身を焼き尽くすような熱が走る、


ルビィ「──な、ぁ、ぁ……!!」


──ドクン。

──ドクン、ドクン、ドクン。

熱い…… 熱い……! 熱い……!! 熱い……っ!!!!

身体の奥底から、マグマのような熱が溢れ出して来る。


ルビィ「──あ、あ、あ……っ!!!!」


自分がどうなってるのかが、わからない──

ただ、熱い、

全身が狂ったように、熱かった──





    *    *    *





目に見えて異常な現象が起きていた。

ルビィが従えていた、真っ赤な宝石のメレシーが、光り輝いたと思ったら、

地鳴りと共に、辺りに大きな揺れ──


理亞「地震……!?」


いや、それだけじゃない。


理亞「……日……?……太陽……!?」


私の頭上からは、太陽が灼熱の日差しを降らせていた。

ここは雲と雪と岩肌に包まれたカーテンクリフの谷底だと言うのに、だ。

そして、何より──


ルビィ「──ぁ……あ、ぁ……!!」
747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:15:43.19 ID:7Hgct/sd0

クロサワ・ルビィの全身の氷が、

──ジュウジュウと音を立てて、溶けていた。

日差しの熱、どころではない。

それとは比にならない圧倒的な熱量、

辺りの氷はルビィを中心にどんどん溶けて行く。

まるで、ルビィ本人から大量の熱が出ているとしか思えない。


理亞「まさか……!!」


私は心当たりを感じ、上着の内ポケットから、あるものを取り出した。


理亞「……はは」


ポケットから取り出した“ソレ”を見て、


理亞「……あははははっ」


笑いが込み上げてくる。

“ソレ”──小さな、ピンクのダイヤモンドが、脈打つように輝いている。

 「ピ──ピ──ピ──」

目の前のメレシーと共鳴するかのように、


理亞「やっぱりねえさまの言っていたことは、本当だったんだ……!」


こんな形になるとは思っていなかったが、

やっとこの目で確認することが出来た。


ルビィ「──ぁ……ぅ……ぁ…………」

理亞「……クロサワの巫女の覚醒──!!」





    *    *    *





──あれから、どれくらい時間が経ったのか、

5分? 10分? 1時間……?

もしかしたら、もっと長いかもしれないし、もっと短かったかもしれない。

全身を燃えるような熱が駆け巡り続け、

そのせいで時間の感覚すらもおかしくなってしまったのかもしれない。


ルビィ「ぅ……ゅ……」


気付いたときには、辺りには陽炎が揺らめき、蒸発した氷が湯気を立てていた。


ルビィ「コラン……みん、な……」


力なく辺りを見回す。

 「ピ──ピ、ピ」
748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:17:15.00 ID:7Hgct/sd0

コランがすぐ近くに固まったまま地面に落ちている。

身体がうまく動かなかったけど、手でどうにか手繰り寄せて、胸に抱きしめる。


ルビィ「……コラ、ン……」


さらに辺りを見回すと、アチャモが、ヌイコグマさんが、ゴマゾウさんが、倒れて伏せっている。


ルビィ「みんな……ボールに……もどさ、なきゃ……」


ボールを取ろうと、腰の辺りを手で探るが、


ルビィ「ボールが……?」


何故か、ボールが見当たらなかった。

理由を考えようとしたけど──

頭が熱に浮かされたように、ぼんやりしていて、考えがまとまらない。


ルビィ「マル、ちゃん……みん……な……」


だんだん意識が遠のいていく。


ルビィ「……お姉……ちゃん──」


ルビィの意識は、そのまま闇の中へと……落ちていった──。





    *    *    *





善子「──何……? 何が起こったの……?」


先ほどの激戦とは打って変わって、辺りは静まり返っていた。


花丸「ずら……善子ちゃん、大丈夫ずら……?」

善子「あ……うん。ずら丸も平気……?」

花丸「大丈夫ずら」


お互いの安否を確認し合ってから、前方を見ると、

倒れてきた棚の下で、先ほどまで戦っていた団員とそのポケモンたちが気絶していた。


善子「さっきの地震……なんだったの……?」


いや、何って地震だったんだけど……。

──そう。戦闘している最中に建物を大きな揺れが襲い、それによって戦闘が中断されたのだった。

助かったけど、逆にタイミングが良すぎる気もして、気味が悪い。

そんな考え事をしていたら、


花丸「! よ、善子ちゃん!」


突然、ずら丸が私の袖を引っ張ってくる。
749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:18:33.61 ID:7Hgct/sd0

善子「ん、ちょっと今考え事を……。……え?」


ずら丸に返事をしながら振り返って、

絶句した。


善子「氷が……」


先ほどまで、必死に溶かしていたはずの大きな氷柱が、


花丸「溶けちゃったずら……」


跡形もなく溶けて消えていた。

いや、正確には辺りが水浸しなので、溶かされたと言うことなんだろうけど……。


善子「ラ、ランプラーたちがやったの……?」
 「プラァー…」


ランプラーが頭を横に振るって、否定の意を示す。

そりゃそうだ、私たちは全然溶けない氷をせめて、人一人でも通れるくらいの穴を開けようと必死だったのだ、

あの大きな揺れの隙に敵側の攻撃が緩んだとは言え、

跡形もなく溶かしてしまうなんて無理だ。


善子「何……? 一体、何が起こってるの……?」

花丸「……わかんないけど」


ずら丸は、手持ちをボールに戻しながら、氷が溶けて進めるようになった通路に歩いて行く。


善子「ち、ちょっとずら丸!?」

花丸「どっちにしろ、こっちに用があったずら」

善子「そ、それはそうだけど……」


この先に、安易に進んでいいのか……?

完全に想定できない物事が起こってるのに──


花丸「……ルビィちゃんが待ってるずら」


……それもそうだ。


善子「…………わかった」


どうせここが敵地なのには変わりないんだし、前に進むしかない、か。

私も手持ちをボールに戻しながら、ずら丸の後ろを付いていく形で部屋の奥へと進んでいくことにした。





    *    *    *





先ほどまでルビィと理亞が戦っていたと思われる部屋の室内は、ボロボロだった。

と言うか、奥の壁に風穴が空いている。
750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:19:57.34 ID:7Hgct/sd0

善子「どんな激しい戦闘してたのよ……!!」


あのルビィって子、そんなに戦闘が得意そうには見えなかったんだけど……人は見かけによらないのかしら……?


花丸「部屋には誰も居ないし……奥に行ったってことだよね」

善子「……そうね」


もし、戦闘で空いた穴なら、まだこの先で戦っている可能性も高い。


善子「ちょっと、急ぎましょう……!」

花丸「う、うん!」


二人で部屋を駆け抜ける。

……その後、同じように風穴の開いた大きな部屋を何部屋か抜けると──

光が見える。


善子「この穴、外まで続いてるの!?」

花丸「よ、善子ちゃん!! あれ見て!!」

善子「!?」


ずら丸が指差した先に、白い体躯のポケモン。


善子「アブソル!?」

 「ソル…」


屋内に出来た穴から外に出て、すぐのところにアブソルが蹲っている。

──いや、それだけじゃない。


 「チャモ…」「クマー…」「パォォ…」

花丸「ル、ルビィちゃんの手持ちのポケモンずら……!!」


アチャモ、ヌイコグマ、ゴマゾウが瀕死状態で倒れていた。


花丸「今、きずぐすりを使うからね……!!」


ずら丸がバッグから道具を取り出し、ポケモンたちを治療しようとしたとき、


 「……来たんだ」

花丸「!」


空から声が降って来た。

ずら丸と一緒に声のしたほうを仰ぎ見ると、

理亞がこちらを見下ろしていた──小脇にルビィを抱えたまま。


花丸「……ルビィちゃん!!」

善子「ルビィ!」


ルビィ「…………」
751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:21:22.19 ID:7Hgct/sd0

胸にコランを抱きしめたままのルビィからは、まるで返事がない。

どうやら気を失っているらしい。

そのまま、理亞がクロバットで飛び去ろうとしたところに、


善子「あんた、逃げるの!?」

理亞「…………」


私は思わず、言葉をぶつける。


善子「ルビィの想い、聞いたんでしょ!? ルビィと話をして……それでも、あんたはあくまでルビィを攫うの!?」

理亞「……そうだけど……?」

花丸「どうして……ルビィちゃんの言う通り、協力は出来ないの……!?」

理亞「……出来ない」


何故だか、理亞は寂しそうに、そう言っている気がした。


理亞「私たちの目的のためには……こいつも、『使う』ことになるから──」


……そんな言葉を残して、理亞は飛び去ってしまった。


善子「……使う?」

花丸「ルビィちゃん……」

善子「…………」


すぐに追いかける……?

いや、今の手持ちの状況じゃ、あのクロバットに追いつくのは無理だ。

ちゃんと準備を整えてから、行かないと……。


花丸「ルビィちゃん……」


ずら丸は、悔しそうに唇を噛んでいた。


善子「……ずら丸。……順番に出来ることをしましょう」

花丸「……わかってる、ずら」


ずら丸は再び、ルビィの手持ちたちの治療を再開する。

……そして私は、


善子「アブソル……貴方も治療するわ」
 「ソルル…」


私は鞄からすごいきずぐすりを取り出し、アブソルに向かって噴き付ける。

……さて、

アブソルを治療しながら、辺りの状況を見回す。

改めて、考えてみると……。


善子「なんか……ここ異様に蒸し暑いわね……」

花丸「言われてみれば……」
752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:23:15.07 ID:7Hgct/sd0

辺りは入る前と似たような谷底で岩肌と岩壁があるだけなのんだけど……。

違うとしたら、空が晴れていて、岩壁を下から目で追っていくと、ずーっと遠くに空が見えているくらいかしら。


花丸「あれ? なんか落ちてる……」

善子「?」


そんな中、ずら丸が何かを見つけたようで……。


花丸「……これ、ルビィちゃんの手持ちのボールとポケモン図鑑ずら」


連れ去る際に、理亞がやったのだろうか……?

図鑑は追跡されることを考えると、わからなくもないけど、わざわざボールまで外すのは、少々手間じゃないかしら……? 中に入ったままならまだしも、ルビィの手持ちはそもそも外に出たまま倒れているわけだし。


善子「ちょっと、それ貸してみて」

花丸「う、うん……」


ずら丸から、一つ、ボールを受け取る。

普通ボールは腰から簡単に外れないように、留め具でちゃんと固定する。

だから、激しい戦闘でも簡単にボールが外れることはないんだけど……。


善子「……なにこれ」

花丸「……? どうしたの?」


ボールの後ろ側にある、ボールを固定する留め具の壊れてしまった部分が──

液状になったものが、また冷えて固まったような状態になっていた。


花丸「これ、溶けてる……ずら……?」

善子「…………ボールの留め具を溶かされたってこと?」

花丸「そんなピンポイントで……?」


ずら丸が、他のボールも見てみると、


花丸「どれも同じ感じになってるずら……って、あれ? このボール、中にアブリボンが居るままずら!?」


……落ちていたボールはアブリボンが入ったままのものを含めて、5つ。

モンスターボールとプレミアボール、それとフレンドボールが3つ。

つまり、ルビィは今抱きかかえていたメレシー以外連れていない状態と言うことだ。

ついでに言うなら、


善子「図鑑もこうして、ここにあるってことは図鑑追尾も出来ない……」

花丸「…………」


困ったことになった。

やはり、無理は承知ですぐに追いかけるべきだった……?

ずら丸は今にも泣き出しそうな顔になってしまうし……。

そんなとき、


 「ソル…」

善子「! アブソル……」
753 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:24:35.78 ID:7Hgct/sd0

治療を終えたアブソルが立ち上がって、


 「ソル…!!」


理亞が飛び去った方向によたよたと歩き出す。


善子「アブソル……! そんな身体で無茶よ……!!」


私の制止に対して、

 「ソルッ!!!」

アブソルは止めてくれるな、と言わんばかりに声をあげる。


善子「アブソル……」


私は少しだけ、考えて……。


善子「ねえ、アブソル」

 「ソル…」

善子「もしかして、貴方……ずっとあいつらを追ってたの?」


そう訊ねた。

さっきからずっと疑問だった。どうしてアブソルは理亞と戦っていたのか。


 「…」

善子「ここ最近でこの地方にいろんな異変が起きてるけど……私は貴方を追いかけながら、それらにいくつも遭遇してきた」


音ノ木でのメテノ事件。13番水道から15番水道に掛けての不自然なブルンゲルの襲撃。グレイブガーデンでのヒトモシの大量発生。そして、ここカーテンクリフ。


善子「それって全部あいつらグレイブ団が関わってて、貴方はそれを追いかけていた。……そしてまた追いかけようとしてる……違う?」

 「…ソル」


アブソルは短く鳴く。それは否定なのか、肯定なのか。


善子「もしそうなら私も協力する。オンバーンとの戦いで助けてもらった恩もあるし、一緒に行かない……?」

 「…ソル」


私の言葉に対して、アブソルはそっぽを向いて、クリフの壁を登り始める。


善子「……そっか」


どうやら、フラレてしまったらしい。


花丸「……善子ちゃん」

善子「……慰めとかいらないわよ?」

花丸「うぅん、そうじゃなくてね」

善子「……?」


ずら丸が指を指す。

崖を登るアブソルが、こちらを振り返っていた。
754 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:25:10.03 ID:7Hgct/sd0

 「…ソル」

善子「……! ついてこいってこと……?」

 「ソル…」


アブソルはピョンピョンと、崖を少し登ってはこちらを振り返る。


花丸「……もし、アブソルが理亞さんを追いかけてるなら、マルはアブソルについていく以外の選択肢はないと思うずら」


ずら丸は、治療の終わったルビィの手持ちたちをボールに戻しながらそう言う。


善子「うん……ついていくわ、アブソル……!」

 「ソル」


こうして私たちは、理亞と、連れ去られたルビィを追いかけるために、アブソルの後を追って、次の目的地へと進むことにしたのだった。


755 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:26:02.66 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブ団アジト】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃ ●   | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口


 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:46匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:35匹


 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



756 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:20:37.61 ID:7Hgct/sd0

■Chapter056 『帰郷』 【SIDE Chika】





──ローズシティから飛び立って数時間ほど、

セキレイシティを超え、音ノ木を横目に通りすぎ、流星山を飛び越えて、


千歌「やっと見えてきた……!!」


その先にある、小さな町。


千歌「戻ってきたよ……! ウチウラシティ!」


私は故郷に戻ってきました。


千歌「なんだか、こうして空から見ると……旅に出たときよりも小さく見えるね」
 「ピィィ」


旅をして、自分が少しだけ大きくなったってことなのかな?

それって嬉しいことだけど、なんだかちょっぴり寂しい気持ちもあって、不思議な感じだ。


千歌「……っと、感傷的になってる場合じゃないや」


ウチウラシティに戻ってきた以上、もちろんウチウラシティに用事があるんだけど……。


千歌「先におつかいを済ませなきゃだよね。ムクホーク、アワシマまでお願い」
 「ピィィ!!!」


ウチウラシティのちょっと先へ、私たちは空を進みます。





    *    *    *





千歌「よっし……着いた! ありがと、ムクホーク」
 「ピィ」


ムクホークをボールに戻しながら、私はアワシマに降り立つ。

ここで曜ちゃんと一緒に最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出たんだよね……ちょっと前のことなのになんか懐かしい気分かも。

そんなことを考えながら、私は研究所の入り口のドアを押し開ける。


千歌「こんにちはー!」


エントランスで声をあげると、奥からパタパタと人が走ってくる音がする。

そして奥からメイドさんの格好をした人が出てくる。


メイド「千歌様、お待ちしておりました。お嬢様──いえ、博士が奥でお待ちです」


メイドさんは私の前で挨拶をしながら、恭しく頭を下げる。


千歌「お、おぉ……本物のメイドさんみたい……」
757 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:22:28.70 ID:7Hgct/sd0

そういえば鞠莉さんって、お嬢様なんだっけ……?

ぼんやり、そんなことを考えていたら、


鞠莉「みたいというか、本物よ。千歌っち」


後ろから、その鞠莉さん本人が現れた。


鞠莉「下がっていいわ。わたしが直接応対するから」

メイド「はい。畏まりました」


メイドさんは鞠莉さんの言葉を聞くと、また恭しく頭を下げてから、持ち場に戻っていった。


鞠莉「ごめんね、千歌っち。なんか物々しくて……」

千歌「あ、いえ……」


メイドさんに面食らっていた私に鞠莉さんから謝罪の言葉。


鞠莉「最近物騒だから、メイドたちもなにかと、わたしが前に出るのに反対気味でねー……」

千歌「物騒……? 何かあったんですか?」

鞠莉「まあ、ちょっといろいろね。この研究所内じゃ一番強いのは間違いなく、わたしなのに……困ったものよね」

千歌「鞠莉さんって、強いんですか……?」


そういえば、その辺り余り聞いたことがなかった気がする。


鞠莉「む……ゴアイサツだねー千歌っち。わたしも昔この地方を旅して周った先輩トレーナーなんだヨ?」


と言って、顔をしかめたあと、


鞠莉「……って、わたしこそ挨拶がまだだったわね」


そう言って舌を出す。


鞠莉「千歌っち、ようこそオハラ研究所へ。……いや、おかえりかしらね」

千歌「えへへ……はい! ただいまです!」


改めて、旅の出発点に戻ってきたんだなという気になる。


千歌「あ、そうだ……頼まれてた、真姫さんからの荷物なんですけど……」


とりだそうと、バッグを漁っていると、


鞠莉「あ、ちょっと待ってね。奥の研究室で受け取るから。ついてきて」

千歌「あ、はい」


私は鞠莉さんの後についていく形で、研究所の奥へと通される。


千歌「あのー……鞠莉さん」

鞠莉「なに?」

千歌「この荷物……やっぱり、なんかヤバい感じのモノなんですか……?」
758 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:23:50.82 ID:7Hgct/sd0

真姫さんには詮索しない方がいいなんて言われたけど……気になるものは気になる。

わざわざ、奥の部屋で受け取るなんてますますアヤシイし。


鞠莉「あー、うーん……あんまり、公にするようなモノではないかもしれないわね」

千歌「やっぱり、ヤバいモノ……」


私は少し青ざめてしまうが……


鞠莉「……千歌っち」

千歌「な、なんですか……!?」

鞠莉「どんな“どうぐ”も使う人次第だヨ?」

千歌「え……?」


鞠莉さんの真剣な声色に思わず、まじまじと顔を見つめてしまう。


鞠莉「確かに世の中には、おいそれと人に見せられないものがあるのも事実だけど……それは大体の場合が結果的にそうなってるだけ」

千歌「結果的に……ですか?」

鞠莉「誰かが使い方を間違ったり、悪用したりすると、そういうイメージが付いちゃうことがあるだけで、どんなモノでも本来は誰かの助けになるために生み出される……それが“どうぐ”ってモノなの」

千歌「……うん」

鞠莉「そして、それを生み出して使ってるのは、他の誰でもないわたしたち人間。そんなわたしたちが一言で良いものだとか、悪いものだとか決め付けたら、“どうぐ”が可哀想だヨ」

千歌「ご、ごめんなさい……」


鞠莉さんの言葉に思わず、肩を窄めて謝る。


鞠莉「……あーいや、わたしこそごめんなさい……ちょっと熱くなっちゃったわ」

千歌「あ、うぅん……私も鞠莉さんの言うとおりだと思うから……聴いててちょっとハッとなった」

鞠莉「……そう言って貰えるとありがたいわ」


鞠莉さんは肩を竦める。


千歌「鞠莉さん……って」

鞠莉「?」

千歌「モノを大切にしてるんだね」

鞠莉「……ええ。わたしは“どうぐ”の研究をしてる人間だから尚更ね。その“どうぐ”が存在してる意味を、意義を、正しく理解して、人やポケモンと共存していけるように日々研究しているんだもの」

千歌「……ほぁ……」

鞠莉「んっん……ちょっと柄にもなく語っちゃったわね」

千歌「……か、かっこいい…………」

鞠莉「や、やだもう……照れるからやめてよ……」

千歌「鞠莉さんって、いっつも変なことばっか言うから、誤解してました……!」

鞠莉「……なんかちょっと気になる発言があったけど……褒めてくれてるみたいだから、今回は大目に見ましょう」


そんな話をしながら歩いていたら、目的の部屋に辿り着いたようだった。


千歌「それじゃ、これ!」


バッグから取り出した件の荷物を手渡す。
759 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:25:36.11 ID:7Hgct/sd0

鞠莉「ええ、確かに受け取ったわ。ありがとう、千歌っち」

千歌「……あのー……」

鞠莉「?」

千歌「それで結局これって……?」

鞠莉「ああ……これは──そうね、ポケモンの捕獲に使う道具……かしらね」

千歌「そうなんだ……?」

鞠莉「あんなこと言った手前で申し訳ないけど、あんまり詳しいことは教えられないの……ごめんなさい」

千歌「あ、いや、大丈夫です……!」


申し訳なさそうにする鞠莉さんに、私は慌てて手を振った、


千歌「それをいつか皆に説明出来るようにするため……なんですよね?」

鞠莉「! ええ、その通りよ」

千歌「なら、そのときを楽しみに待ってるから……!」

鞠莉「千歌……ありがとう。そうなるように、わたしも頑張らなくちゃね」


そうお礼を言う鞠莉さんは、なんだか少し嬉しそうだった。





    *    *    *




鞠莉「それはそうと千歌っち」

千歌「なんですか?」

鞠莉「旅の方はどう? 順調かしら?」

千歌「あ、はい! バッジも5つ手に入れましたし……出てきて、バクフーン!」


私はバクフーンをボールから出してあげる。


 「バク」
千歌「最初に貰ったヒノアラシも、バクフーンに進化しました!」

鞠莉「ふふ、順調そうで何よりね。それじゃ、図鑑の方も見せてもらってもいいかしら」

千歌「……え?」

鞠莉「いや、え? じゃなくて……データ収集、頼んでた図鑑を見せてもらおうかと思って」

千歌「……えーと、はい」


私は鞠莉さんに図鑑を差し出した。


鞠莉「……『見つけた数:123匹 捕まえた数:13匹』。Oh...捕獲はあまり捗ってないようね……」

千歌「す、すみませーん……」


思わず私は目を泳がせた。


鞠莉「……ま、旅の目的はそれぞれだからネ。そういうトレーナーのサンプルデータとして、参考にさせて貰うわ」


そう言って図鑑を返される。
760 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:26:36.87 ID:7Hgct/sd0

鞠莉「それはそうと、バッジ5つ集めたってことは……行くのね」

千歌「あ、はい!」


──そう、わざわざ故郷に戻ってきたのは、ただおつかいの為だけじゃない。

言葉を続けようとしたそのとき、部屋のドアがノックされた。


鞠莉「何かしら?」

メイド「博士、ダイヤ様がお越しです」

鞠莉「あら……噂をすれば、ね」


鞠莉さんはそう言いながら、私に向かってウインクする。


鞠莉「部屋に通してあげて」

メイド「はい。お待たせ致しました、ダイヤ様」


メイドさんはそう言いながら、ドアを開いて、


ダイヤ「ありがとうございます」


その先から、ダイヤさんの姿が。


千歌「ダイヤさん……!」

ダイヤ「! 千歌さん、帰って来ていたのですわね?」

千歌「はい! ただいまです!」

ダイヤ「ふふ、おかえりなさい」


ダイヤさんが優しく微笑みながら、言葉を返してくれる。


鞠莉「千歌っち、集まったみたいよ」

ダイヤ「集まった……そうですか」


鞠莉さんの言葉を聞いて、ダイヤさんが私に向き直る。


ダイヤ「見せていただけますか?」

千歌「……はい!」


私は、バッグからバッジケースを取り出した。


ダイヤ「──コメットバッジ、ファームバッジ、スマイルバッジ、ハミングバッジ、クラウンバッジ……確かに5つ、確認致しました」

千歌「ダイヤさん」

ダイヤ「はい」

千歌「ジム戦、よろしくお願いします……!!」

ダイヤ「ええ、もちろんですわ」


満を持しての恩師とのジム戦。
761 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:27:59.73 ID:7Hgct/sd0

ダイヤ「次の定期船で戻って、ジム戦に致しましょうか。先に船着場で待っていてもらえますか?」

千歌「はい!」

鞠莉「あ、そうだ。ジム戦前に回復したいでしょ? 研究所にある回復装置は自由に使っていいから、今のうちに準備を整えておくといいわ」

千歌「ありがとうございます! バクフーン、行こう!」
 「バクッ」


私はバクフーンと一緒に研究室を駆け出した。





    *    *    *





ダイヤ「……全く早いものですわね」

鞠莉「この前、旅に出たばっかりなのにね」

ダイヤ「本当に……」

鞠莉「でも、感慨に浸ってる暇ないよ〜? これからバトルなんだから」

ダイヤ「……ええ、わかっていますわ」


そうは言うものの、やっぱりダイヤは嬉しそうだった。

自分の生徒が旅に出て、戻ってきて、自分と矛を交えるほど強くなったと言うのは、これ以上ない程嬉しいことなのだろう。


鞠莉「……そういえば、ダイヤ。わたしに用事があったんじゃないの?」

ダイヤ「……そうでした。ここ数日の入江内で遭遇した、野生ポケモンの調査データです」

鞠莉「? 入江の野生ポケモン……?」


わたしはダイヤから、書類を受け取り、目を通す。


鞠莉「……ずいぶんSableye──ヤミラミが多いわね」
             (*Sableye=ヤミラミの英名)

ダイヤ「幸い、ここ数日は調査でお母様が入江にいることが多かったので、早い段階で退治は出来ているのですが……」

鞠莉「……ヤミラミの大量発生とかだと、ちょっと困るわね」

ダイヤ「ここだけでなく、地方全体でゴーストタイプのポケモンが増えているなんて噂もありますし……何かの凶兆でなければいいのですが」

鞠莉「……わかった。こっちでも警戒と調査をしてみるヨ」

ダイヤ「お願いします。……それでは、わたくしはジムに戻りますわ」

鞠莉「ん、なんかあったらまたお願いね」

ダイヤ「はい、承知しました」


用件を終え、ダイヤは踵を返して、部屋から出て行った。


鞠莉「……Hmm...」


それにしても……。ここしばらくは本当にイレギュラーなことがあちこちで多発している話をよく耳にする。


鞠莉「一体、この地方で何が起こってるのかしらね……」


わたしは、自分の育ったこの地方を憂えてか、思わずそんなことを呟くのだった。


762 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:29:08.83 ID:7Hgct/sd0


    *    *    *





ダイヤ「千歌さん、お待たせしました」


言われたとおり、船着場の待合ベンチで待っていると、ダイヤさんが追いついてくる。


千歌「もう、鞠莉さんへの用事は終わったの?」

ダイヤ「ええ、大した用ではなかったので」


ダイヤさんは、私の隣に腰を降ろし、私のことをじーっと見つめてくる。


千歌「な、なんですか……?」

ダイヤ「……千歌さん、少し大きくなりましたね」

千歌「大きく……背伸びたかな……?」

ダイヤ「ふふ、物理的ではなくて……精神的に、ですわ」

千歌「精神的に……? そういうのって見てわかるものなの?」

ダイヤ「ええ……ずっと、見ていましたから。貴方達を」


そう、懐かしむように。


ダイヤ「……きっとこの旅の中でいろいろなものを見てきたのですわね。昔は本当にただ落ち着きのない子だったのに──」

千歌「ぅ……ダ、ダイヤさん。そういう話はいいから……」

ダイヤ「ふふ、ごめんなさい」


居心地の悪そうな顔をする私を見て、ダイヤさんはクスクスと笑う。


千歌「それよりも、いっぱいおみやげ話あるんだよ!」

ダイヤ「ええ。船が来るまで、もう少し時間がありますから。たくさん聞かせてください」


私は船が来るまでの間、ひたすらここまでの旅のことを話し続ける。

ダイヤさんはその話を終始、嬉しそうに、でもただ黙々と聞いていてくれました。





    *    *    *





ダイヤ「──え? あの海未さんからですか……?」


そんな旅の話の中で、ダイヤさんが最も驚いた顔をしたのは、海未師匠の話だった。


千歌「うん、短い間だったけど……稽古を付けて貰って」

ダイヤ「……成程」


ダイヤさんは少し複雑そうな顔をして、考え込む。
763 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:32:19.47 ID:7Hgct/sd0

千歌「……? ダイヤさん?」

ダイヤ「……あ、いえ……。……その、いつの間にかすごい方に師事しているなと想いまして」

千歌「……海未師匠って、やっぱすごい人なんですか……?」


そんな私の言葉を聞いて、ダイヤさんが眉を顰めた。


ダイヤ「貴方……まさか、海未さんがどういう方が存じ上げずに教えを請うていたのですか?」

千歌「え……えーっと……」

ダイヤ「はぁ……座学の成績の酷さは知っていましたが、まさかここまでとは……」

千歌「……う……ご、ごめんなさい……」

ダイヤ「…………。まあしかし、座学に関しては花丸さん以外、あまり熱心ではなかったですし……それをわかった上でしっかり教えていなかった、わたくしの責任でもありますわね。復習の意味も込めて、少しその話をしましょうか」


ダイヤさんはそう前置いて、講義を始める。


ダイヤ「海未さんについて話すなら、ポケモンリーグ協会のおさらいからしないといけませんわね。地方の健全なポケモントレーナーの育成を目的とした組織ですわ。わたくしたちジムリーダーも、このリーグ協会に所属している人間ということになりますわね」

千歌「ポケモンリーグ……。そういえば、そんなこと花丸ちゃんが言ってたかも……」

ダイヤ「いろいろ審査基準はあるのですが……その地方のうち12人が、選抜され──今はダリアシティのジムリーダーが二人組なので13人でしたわね──そのうちの8つのバッジを託されたトレーナーがそれぞれの街にある、ポケモンジムを活動の拠点としています」

千歌「……? ジムリーダーが一番強い人たち、じゃないの?」


てっきりそうだと思っていた。


ダイヤ「一番ではありませんわ。その中で上位の4人は四天王と呼ばれています」

千歌「四天王……」

ダイヤ「地方の北端に位置する、ウテナシティ・ポケモンリーグ本部を拠点にしている、名実共に、この地方で最強クラスのトレーナーですわ。そして、全ての四天王を倒した先で、晴れてチャンピオンと呼ばれる人間になるのです」

千歌「え、じゃあ四天王を倒せば、私も……!」

ダイヤ「話は最後まで聞きなさい。そうは言っても、誰にでも挑戦権があるわけではないのです」

千歌「……? すぐには戦えないってこと?」

ダイヤ「ええ。基本的には4年に一度開催される、ポケモンリーグ大会で優勝をする必要があります」

千歌「大会……!! その大会、いつやるの!?」

ダイヤ「直近の大会は2年後でしょうか……」

千歌「2年……ちょっと遠い」

ダイヤ「ですが、もう一つ挑戦権を得る方法がありますのよ」

千歌「もう一つ?」

ダイヤ「それが、地方の全てのポケモンジムを突破し、8つのバッジを集める、というものです」

千歌「あ、じゃあ、全部のバッジを集めたら私もその四天王に……あれ?」


そういえば海未師匠も『全てのジムを突破して来い』って言ってた気がする……。

その上で『ポケモンリーグで待っています』って言ってたってことは……?


千歌「も、もしかして、海未師匠って……」

ダイヤ「やっと気付きましたか……。……そうですわ、海未さんはその四天王の一人です」

千歌「え、めちゃくちゃすごい人じゃん……」

ダイヤ「だから、さっきからそう言っているでしょう……」


ダイヤさんは呆れてしまうが、


ダイヤ「ですが……そんな海未さんに『待っている』とまで言わせたのですから。足踏みをしていられませんわよね」
764 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:38:41.20 ID:7Hgct/sd0


そう言いながら立ち上がる。ダイヤさんの視線を追うと、船が島の港に到着するところだった。


ダイヤ「それでは、参りましょうか。ウチウラシティへ──」

千歌「……はい!」





    *    *    *





船が風を斬りながら、海原を進んでいく。

この揺れ、久しぶりかも。

アワシマには果南ちゃんのおうちもあるせいか、船には何度も乗ってたし。

そんな感慨に浸りながら──ふと、旅の途中で、私の故郷の話が出たことがあったのを思い出す。


千歌「そういえば……旅の途中で『メレシーの女王様』のことを話しました」

ダイヤ「あら……本当ですか?」


流れる水面を見つめていたダイヤさんは、私の言葉を聞いて少し驚いた顔をした。


ダイヤ「いまどき興味がある人がいるなんて……ご老人の方ですか?」

千歌「うぅん。若い女の人。歳はダイヤさんとか鞠莉さんと同じくらいだったかな。研究者の人だって言ってた」

ダイヤ「鞠莉さんと同年代の研究者……? ……もしかして、聖良さんでしょうか?」

千歌「! うん! ダイヤさん、知り合いだったんだね!」

ダイヤ「ええ、わたくしも知り合ったのは本当に最近なのですが……」

千歌「なんかね、昔、女王様に会ったことがあるらしくって……また会うために頑張ってるんだって」

ダイヤ「え……?」


ダイヤさんは心底驚いた様な声をあげる。
765 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:39:08.97 ID:7Hgct/sd0

ダイヤ「会った……? 何処でですか……?」

千歌「え……雪山って言ってたけど……。……ダイヤさん……?」

ダイヤ「あ、いえ……そうですか……」

千歌「……?」

ダイヤ「それで……どんな話をしたのですか?」

千歌「あ、えっと……子供の頃に聞いてたおとぎ話のことを聞かれて……」

ダイヤ「成程……。伝承から得られるものは少なくないですからね」

千歌「チカが聞いたのは小さい頃だったから、詳しくは覚えてなかったけど……あの話、よくわかんないんだよね」

ダイヤ「……そうですか?」

千歌「あんまり実感がないというか……結局、宝石の輝きが失われたってなんのことなのか……」

ダイヤ「…………」

千歌「ダイヤさん?」

ダイヤ「町までもう少し掛かりそうですね……せっかくですし、メレシーの御伽噺。久しぶりに聞かせてあげましょうか」

千歌「ダイヤさん、もしかして覚えてるの?」

ダイヤ「ええ、勿論。クロサワの入江での物語ですから」


ダイヤさんは強い意志の篭もった目で、


ダイヤ「忘れてはいけない、物語ですから──」


話し始めた。





    *    *    *


766 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:41:36.10 ID:7Hgct/sd0


むかしむかし ウラノホシには メレシーという ポケモンが すんでいました。

メレシーは からだに ほうせきを もっている それはそれは うつくしい ポケモンで

ひとびとは そんなメレシーたちを たいせつに おもいながら なかよく くらしていました。

そんな メレシーの なかでも ひときわ うつくしいメレシーが いました。

ピンクいろの ダイヤモンドを もった メレシーで そのうつくしさに だれもが めを うばわれました。

名を ディアンシー。 どんなメレシーよりも うつくしく きよい メレシーでした。

もっともうつくしいメレシーのなかま ディアンシーは メレシーたちからも にんげんからも そんけいされるそんざいでした。

いつしか ディアンシーは メレシーの 女王様と よばれるように なりました。

そんな女王様は すこしだけ とくべつな ちからを もっていました。

女王様の ひかりは けがを なおし こころを いやしてくれる。

そんな女王様を ひとびとは たいそうだいじに あつかっていました。


ひとびとは 女王様に おそなえをして そのおれいに 女王様は ひとびとに おおくの いやしと かがやきを あたえました。

みなみの はしに いろとりどりのほうせきの どうくつを

ひがしの うみに きらめくさんごの らくえんを

にしの そうげんに たいようとつきの かがやきを

きたの やまに ダイヤモンドの はかなさを

まんなかに すいしょうの みずうみを

そして そびえるたいじゅに ひかりの かじつを

せかいは 女王様と ともに おおきくはってんし よりおおきな かがやきを 得ていきました。


女王様の かがやきのちからで おおきく せいちょうした いごこちのよい たいじゅは いつしか 龍が すみつき

その龍が おおきな なきごえと おとで ひとびととポケモンを みまもっていたため この いったいは オトノキ とよばれるように なりました。



へいわな へいわな ちほうでした。

はってんし よりひろく おおくのばしょに にんげんは すむばしょを うつし おおきく ひろがっていきました。

それは ほんとうに ひろく

……女王様の いやしのひかりが とどかないばしょまでも ひろく ひろがっていきました。


ですが あるとき ひかりのとどかないばしょで ひとびとは きづいてしまいました。

あのひかりの うつくしさに。 あのひかりの あたたかさに。 あのひかりの とうとさに。

しだいに ひかりのとどかないばしょの ひとびとは ひかりを うばいあうように なりました。

たえず あらそいが おきました。

そして ついに ひかりの みなもとである メレシーたちと その女王様を ひとりじめ しようとする にんげんが あらわれたのです。


女王様は そのにんげんの けがれたこころに ひどくかなしみを おぼえ

せかいの うらがわへと そのすがたを かくしてしまいました。

女王様が みをかくすと かがやきは どんどんと ちいさくなっていき

こうして いつしか せかいから うつくしい ほうせきの かがやきが うしなわれたのでした……。





    *    *    *


767 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:51:18.34 ID:7Hgct/sd0


千歌「……」

ダイヤ「……これがメレシーの御伽噺。『ディアンシー伝説』と言われるお話ですわ」

千歌「……なんか、改めて聞くと……悲しいお話だね」

ダイヤ「そう、ですわね……。人と共存して、善意で世界を作った女王様は、その先で人の悪意を見て、それに絶望してしまったという話ですから……」

千歌「……結局、女王様はどこに行っちゃったの?」

ダイヤ「それはわかりません。……わかりませんが」

千歌「?」

ダイヤ「実はこの話には少しだけ続きがあります」

千歌「続き……? 昔おばあちゃんから聞いた話は、ここで終わりだったと思うけど……」

ダイヤ「ええ、あくまでクロサワの家で伝わっていることですので、馴染みはないかもしれませんね」


 『すがたを かくした 女王様は いまでも こっそりと ちほうを みまもっています。

  女王様は ちょくせつ すがたを あらわすことは めったに なくなりましたが

  しんらいできる メレシーと えらばれた 巫女の まえだけは

  じぶんの きもちを つたえに あらわれることが あるそうです。』


千歌「信頼出来るメレシーと、選ばれた巫女……」

ダイヤ「……それが、わたくしたちの先祖に当たる人だと言われています。そしてクロサワの家がお役目として代々引き継いできたものですわ」

千歌「そうだったんだ……」

ダイヤ「クロサワの家の子が産まれると、何故か同時期にクロサワの入江内でメレシーのタマゴが見つかり、それを授かってクロサワの子供はそのメレシーと共に生涯を過ごすのですわ。この不思議なタマゴの存在がクロサワの巫女の役目が今でも引き継がれ続けている証拠だとわたくしは思っています」

千歌「それがダイヤさんのボルツやルビィちゃんのコランなんだね」

ダイヤ「ええ。まあ、そうは言っても……わたくしもディアンシー様にお会いしたことはないのですが……」


ふと、船の外を見ると、水面の流れが少しずつゆっくりとなっていた。


ダイヤ「……少し長話をしすぎてしまいましたわね」

千歌「んーん。久しぶりに聞けてよかったなって思うよ」


メレシーのお話。昔とは感じることも違ったし……。


ダイヤ「そう……それなら、よかった」


ダイヤさんはそう言って安堵していたけど、

船を降りるとき、小さくあることを呟いていた。


 ダイヤ「──聖良さん……何故、前にきたときは話さなかったのかしら……?」


768 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:52:07.94 ID:7Hgct/sd0


    *    *    *





──ウチウラシティ。ポケモンジム。


ダイヤ「さて……道中少し話し込んでしまいましたが、バトルとなれば話は別です」


バトルスペースの奥からダイヤさんが話しかけてくる。


千歌「はい……!」

ダイヤ「元教え子とは言え、手加減はしませんからね?」

千歌「もちろん! 全力でお願いします!」


両者ボールを構える。


ダイヤ「それでは、始めましょうか。使用ポケモンは4体。4体全て戦闘不能になった時点で決着です」

千歌「はい!! よろしくお願いします!!」

ダイヤ「良いお返事ですわ。……ウチウラジム・ジムリーダー『花園の気高き宝石』 ダイヤ。千歌さん、貴方が旅で得た全てをわたくしに見せてくださいませ……!」


二つのボールが放たれる。

バトル──スタート……!!


769 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:52:59.71 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         ● .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.47  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.44 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.43 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:123匹 捕まえた数:13匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



770 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:06:56.80 ID:glPDjztN0

■Chapter057 『決戦! ウチウラジム!』 【SIDE Chika】





── 一匹目。


千歌「行くよ! バクフーン!!」
 「バクフーン!!!!」

ダイヤ「キレイハナ、お願いしますわ」
 「パナ」


ダイヤさんはくさタイプのジムリーダー。

最初に出してきたのはキレイハナだ。


 『キレイハナ フラワーポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.8kg
  太陽の 光を いっぱい 浴びると 身体の 葉っぱが
  くるくる 回り 始める。 ときおり キレイハナが 集まって 
  踊るような 仕草を 見せる。 太陽を 呼ぶ 儀式と 言われる。』


千歌「くさタイプには、ほのおタイプ! バクフーン!! “やきつくす”!!」
 「バクフーン!!!!!」


バクフーンの火炎がキレイハナを襲う。


ダイヤ「定石ですわね。なら、キレイハナ」
 「パナー」


キレイハナはダイヤさんの掛け声で、踊りだす。

気付けば──


千歌「!」


視界を覆うほどの花びらがジムを舞い踊っている。


千歌「い、いつの間に……!!」

ダイヤ「“はなふぶき”!!」


大量の花びらが壁となって炎を遮る。


千歌「さ、さすがに対策してる……! ならもっと高火力で──“だいもんじ”!!」


指示と共にバクフーンの背中に炎が滾る。が、

──ボン!! と大きな音を立てて、背中の炎が突然爆発した。


千歌「うぇ!? な、何!?」
 「バク…」


どうやら、バクフーンは背中の爆発でダメージを受けている。自爆した……!?


千歌「な、なんで……!?」

ダイヤ「ふふ、千歌さん。バトルは焦ってはいけませんわよ。頭に血が昇っていては、考えもまとまりませんから。そういうときは──」


花びらの舞うフィールドの先で、ダイヤさんが笑う。


ダイヤ「──踊りましょう?」
 「パナー♪」
771 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:09:09.74 ID:glPDjztN0

キレイハナが不思議なステップを踏む、

それに釣られて、バクフーンも右に左に……──しまった!?


千歌「ふ、“フラフラダンス”!?」


相手を混乱させる技だ。

花びらに紛れて、キレイハナの動きがよく見えてなかったけど、完全に仕掛けられていた。


千歌「バ、バクフーン!! しっかりして!!」
 「バク…」


私が呼びかけると、バクフーンは頭を振って、我に返る。


千歌「前が見えないなら、範囲攻撃で一気に燃やすよ! “ふんえん”!!」
 「バクフー!!!!」


バクフーンが全身から、高温の“ふんえん”を噴き出す。


ダイヤ「成程、悪くないですわね」
 「パナー♪」


“ふんえん”はところどころ、“はなふぶき”に遮られながら、それでもフィールドを侵略するように前に進む。

逃げ場は、ない。


ダイヤ「なら、スピードをあげましょうか、キレイハナ」
 「パナパナ」

千歌「!?」


急にスピードをあげた、キレイハナは“はなふぶき”に遮られた場所を選びながら、こちらに前進してくる。


ダイヤ「さあ、咲き誇りなさい!! “はなびらのまい”!!」


しかも、吹き荒んでいた“はなふぶき”が急に意志を持ったかのように、整列して、着実にキレイハナの進路の“ふんえん”を掻き消してくる。


千歌「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「バ、バク!!!!」


焦って、前方への火炎攻撃の指示。

だが、

炎は花びらに押し返される。


千歌「な……!? あの花びら、パワーあがってない!?」

ダイヤ「千歌さん」

千歌「!!」


急に声を掛けられて、ビクッとする。


ダイヤ「焦ると、周りが見えなくなる癖。治っていませんのね」

千歌「!!?」

ダイヤ「もう、全ての花びらが攻撃の準備に入っているのですが──」

千歌「え!?」
772 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:11:00.15 ID:glPDjztN0

──全ての花びらが?? 花びらはザァっと勢いよく天井に向かって集まっていく。

釣られるようにバッと上を向くと、バクフーンの上方に、5枚くらいの花弁で作った筒のようなものが何組か配置されていた。

そして、その花びらの後ろからは──燦々と光る、太陽。


千歌「ま、まぶし──」


一瞬、眩しくて、反射的に手で顔を覆う。


千歌「あ、しまっ──!!」


誘導されたと、気付いたときには遅い。


ダイヤ「“ソーラービーム”!!」


四方八方から収束した太陽光線が降り注いでくる。


千歌「バ、バクフーン……!!!」


強烈な太陽光線がエネルギーを撃ち終えたときには、


 「バ、バクフー…………」


バクフーンは地面に伏せっていた。


千歌「……うそ」

ダイヤ「バクフーン、戦闘不能ですわね」

千歌「……戻れ」


バクフーンをボールに戻す。

相性有利だと思ったのに……完全に圧倒された。


ダイヤ「何が起こったのか、よくわかってないという顔ですわね」

千歌「……!」

ダイヤ「やはり、千歌さんは千歌さんですわね」

千歌「……」


……ダメだ、こんなんじゃ。


千歌「……すぅーー」


私は思いっきり、息を吸い込む。なんだか、あまったるい華の香りがした。


千歌「──はぁーー」


息を吐く。

落ち着け。

こういうときは深呼吸だ。


ダイヤ「……あら」
773 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:13:43.20 ID:glPDjztN0

ちゃんと成長した私をダイヤさんに見せるんだ、

何が起こったのか、考えろ。

トレーナーが出来るのはしっかりとした状況把握。


千歌「……そもそも最初の踊りから、全部技が繋がってた……?」

ダイヤ「……ふふ、いい観察と洞察ですわ。最初の“はなふぶき”に隠れて出した“フラフラダンス”。同時にキレイハナのダンスは太陽を呼び寄せる力がある。これは転じて“にほんばれ”。ひざしが強くなったので“ようりょくそ”で素早さを上昇させ、“ちょうのまい”を織り交ぜながら回避させる」

千歌「舞であがった能力を載せた“はなびらのまい”で炎を掻き消しながら、フィールド上に攻撃用の砲台を作って……強い日差しの方にチカの視線を誘導して、一瞬眩しさに怯んだところに攻撃……」

ダイヤ「ええ、その通りですわ。ついでに“あまいかおり”でバクフーンの動きをさらに鈍くしていましたわ」


完全に術中だった。


ダイヤ「きっと貴方なら、最初はくさタイプには、ほのおタイプと安直に来るだろうと思っていましたので」

千歌「う……」

ダイヤ「どうですか、目は覚めましたか?」

千歌「……!」


言われて、ハッとする。

少し、故郷の先生っていうことで気が抜けていたのかもしれない。

でも、同時にこの人は……私のことをよく知っている人だってことなんだ。

──私はピシャッと頬を両手で叩く。

気合い入れろ……!!


千歌「……負けるもんか……!!」


私は次のポケモンの入ったボールを構えた。

とにかく、花びらをこのままにしておくのは不味い。


千歌「ルガルガン!! 行くよ!!」
 「ワォン!!!」

ダイヤ「! 成程、その子が例のルガルガンですか……!」


そう、あのときダイヤさんからアドバイスを貰ったイワンコが進化した姿、黄昏色のルガルガン。


ダイヤ「特殊個体なようですが、“はなびらのまい”はまだ続いていますわ……!!」


再び花びらが踊りながら迫ってくる。

でも、このリズムは、知ってる。

──私だって、ダイヤ先生のこと、よく知ってるもん!

スッと手を上げる。

この花びらの動きを、呼吸を、見切れ──!!


千歌「“ストーンエッジ”!!!」
 「ワォン!!!!!」


ルガルガンが脚を踏み鳴らすと、砕けた石が飛び出した。

そして、花びらたちを綺麗に串刺しにし、ジムの壁や天井に縫い付ける。


ダイヤ「!」


晴れた視界、その先にキレイハナを捉える、
774 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:14:45.20 ID:glPDjztN0

千歌「ルガルガン──」


だが、ダイヤさんの判断も早かった。


ダイヤ「“リーフブレード”!!」
 「パナッ」


花びらが晴れると同時にキレイハナが飛び掛ってくる。

全身の葉っぱを硬質化した斬撃……!!

でも──。


 「パ…ナ…」


飛び掛ってきた、キレイハナの攻撃は当たることはなく、

ルガルガンのタテガミから生えた鋭い岩が、むしろふかぶかとキレイハナに刺さってしまっていた。


ダイヤ「……! キレイハナ!」

千歌「ルガルガン! ナイス、“カウンター”!」
 「ワォン」

ダイヤ「……ルガルガンの鬣の岩は、ナイフのような斬れ味と聞きます。少し功を焦りましたわ」


ダイヤさんがキレイハナをボールに戻す。


ダイヤ「いえ、こうでなくては、張り合いがありませんわ……! 行きますわよ、ドレディア!!」


次のポケモンが繰り出される。


 「レディアー」


ダイヤさんの二匹目はドレディア。


 『ドレディア はなかざりポケモン 高さ:1.1m 重さ:16.3kg
  頭の 花飾りの 香りには リラックスさせる 効果が あり
  重宝される。 だが 手入れを 怠ると 枯れてしまい 美しい
  花を 咲かせるのは ベテラントレーナーでも 難しい。』


ダイヤ「“エナジーボール”!」
 「レディアー」


ドレディアから自然のエネルギーの収束弾が飛んでくる。

ただ、スピードはそんなに速くない。

落ち着け、見切れる。


千歌「ボール状のエネルギー……一直線で中核を撃ち抜けば──」


貫通力のある技で一直線に抜けられる……!


千歌「ルガルガン! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!!」


ルガルガンが身を捩りながら、飛び出す。


千歌「撃ち抜け!!」
 「ワォン!!!!」
775 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:18:24.56 ID:glPDjztN0

ルガルガンの攻撃は、狙い通りエナジーボールの核へ、

そのままボールを霧散させる。

だが、その先では、

すでにドレディアが次の攻撃を構えていた。


ダイヤ「“リーフストーム”!!」
 「レディアッ!!!!」


尖った葉っぱの嵐がルガルガンに向かって吹き荒ぶ。

このタイミング、回避は無理。なら──


千歌「ルガルガン! そのまま突っ込んで!!」


ルガルガンは回転しながら、前進する。


ダイヤ「今度は真っ向勝負ですか!! ですが、負けませんわよ!!」


草の嵐の中に、戦浪のドリルが突っ込む。

鋭いタテガミの岩と、硬い斬撃質の葉っぱが、削れ合う音がジム内に響き渡る。


 「レディァー!!!」


嵐の回転エネルギーと、ドリルの回転が真っ向から、ぶつかり合うが──

ただ、ぶつかり合ってるわけじゃない。

──ギャリギャリギャリ!! と、耳障りな音がフィールド上に響き渡る。


ダイヤ「すごい音ですわね……!! 削れる、音……?」


そう、削ってる音だ、


ダイヤ「!? し、しまった──!!」

千歌「……ニシシ♪」


今度はこっちが一本とってやったり。

ルガルガンが嵐の中を、ぐんぐんと加速しながら突き進む。

──そう、避けられないなら。

利用すればいい。

鋭利な攻撃なら、身を削らせてスピードに転換出来る技に成り得る。


千歌「“ロックカット”!!!」


“ロックカット”は全身を磨いて、空気の抵抗を減らして、素早さをぐーんとあげる技だ。

今ぶつかり合う二つの回転は、まるでヤスリのように、ルガルガンを磨いて、どんどん加速させている。

加速を重ねた、高速の一撃、


千歌「いっけぇ!! “アクセルロック”!!!」
 「ワォーーン!!!!!」


そのまま、“リーフストーム”を中央から貫いて、


 「レディァ!!!!!」
776 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:19:21.50 ID:glPDjztN0

ドレディアに正面から殴り勝つ……!!

攻撃が直撃した、ドレディアはそのまま後ろに吹っ飛ばされ、


ダイヤ「ドレディア……!!」

 「レディ…ァ…」


そのまま、戦闘不能。


ダイヤ「……お疲れ様、ドレディア。休んでください」


ダイヤさんはドレディアをボールに戻す。


ダイヤ「強いですわね、そのルガルガン……」

千歌「えへへ……」
 「ワォン」


手持ちを褒められて、ちょっと嬉しい。


ダイヤ「特性“かたいツメ”によって、近接攻撃が更に威力を増していますのね。他のルガルガンにはない特徴ですわ」


ダイヤさんは次のボールを構える。


ダイヤ「なら、わたくしも近接戦の得意なポケモンで戦いましょう──行きますわよ、アマージョ!!」


次のポケモンが繰り出された。





    *    *    *





 『アマージョ フルーツポケモン 高さ:1.2m 重さ:21.4kg
  美しい 蹴り技の 使い手。 キックボクシングの チャンピオンも
  一撃で ノックアウトするぞ。 倒した 相手を 足蹴に して
  高笑いで 勝利を アピール。 攻撃的な 気質の ポケモンだ。』


ダイヤ「“ローキック”!!」
 「マージョ!!!」

千歌「“アイアンヘッド”!!」
 「ワゥッ!!!!」


蹴撃と頭突きがぶつかり合う。

アマージョはそのまま、軸足を使って回転し、


ダイヤ「“おうふくビンタ”!!」
 「マジョッ!!!!」


攻撃を畳み掛けてくる、


千歌「ルガルガン! 受け止めて!!」
 「ワゥッ!!!」


平手を一発一発、牙でタテガミの岩で弾いていく、が、
777 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:20:35.79 ID:glPDjztN0
>>776

ドレディアに正面から殴り勝つ……!!

攻撃が直撃した、ドレディアはそのまま後ろに吹っ飛ばされ、


ダイヤ「ドレディア……!!」

 「レディ…ァ…」


そのまま、戦闘不能。


ダイヤ「……お疲れ様、ドレディア。休んでください」


ダイヤさんはドレディアをボールに戻す。


ダイヤ「強いですわね、そのルガルガン……」

千歌「えへへ……」
 「ワォン」


手持ちを褒められて、ちょっと嬉しい。


ダイヤ「特性“かたいツメ”によって、近接攻撃が更に威力を増していますのね。他のルガルガンにはない特徴ですわ」


ダイヤさんは次のボールを構える。


ダイヤ「なら、わたくしも近接戦の得意なポケモンで戦いましょう──行きますわよ、アマージョ!!」


次のポケモンが繰り出された。





    *    *    *





 『アマージョ フルーツポケモン 高さ:1.2m 重さ:21.4kg
  美しい 蹴り技の 使い手。 キックボクシングの チャンピオンも
  一撃で ノックアウトするぞ。 倒した 相手を 足蹴に して
  高笑いで 勝利を アピール。 攻撃的な 気質の ポケモンだ。』


ダイヤ「“ローキック”!!」
 「マージョ!!!」

千歌「“アイアンヘッド”!!」
 「ワゥッ!!!!」


低い位置で蹴撃と頭突きがぶつかり合う。

アマージョはそのまま、軸足を使って回転し、


ダイヤ「“おうふくビンタ”!!」
 「マジョッ!!!!」


攻撃を畳み掛けてくる、


千歌「ルガルガン! 受け止めて!!」
 「ワゥッ!!!」


平手を一発一発、牙とタテガミの岩で弾いていく、が、
778 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:21:38.65 ID:glPDjztN0
なんかわかり辛くなってしまった。
>>777 は >>776 の修正です。
779 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:22:48.74 ID:glPDjztN0

ダイヤ「“トロピカルキック”!!」
 「マジョッ!!」

 「ワゥッ!!?」


ビンタに隙に挟まれるキック攻撃、そして間髪入れず、


ダイヤ「“はっぱカッター”!!」


ダメージを受けて後ずさったところに追撃、


千歌「く……! 速い……!」


攻撃から攻撃の絶え間がない。

なら──

速い攻撃を差し込む……!!


千歌「“アクセルロック”!!」


ルガルガンの神速の一撃が決まった──と思ったが、


 「ワゥッ…!?」


ルガルガンの動きがビタッと止まる。


千歌「え!?」

ダイヤ「そこ!! “とびひざげり”!!」
 「マージョッ!!!!」


怯んで出来た隙に、アマージョの高火力の蹴りが炸裂する。


 「ワォンッ!!!!」

千歌「ルガルガン!?」


強烈な蹴撃を食らって、ルガルガンは吹っ飛ばされて、フィールドを転がり、


 「ワゥ…」


気絶してしまった。


千歌「…………っ」

ダイヤ「アマージョの特性は“じょおうのいげん”。相手の先制技を牽制する特性ですわ」

千歌「特性……」


これは完全に私の知識不足が招いたミスだ……。


千歌「ごめん、ルガルガン……戻って」


ルガルガンをボールに戻し、


千歌「行けっ! ルカリオ!!」
 「ガゥッ!!!!」


3番手、ルカリオ、

飛び出した、ルカリオはそのままアマージョに組み付く。
780 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:23:40.93 ID:glPDjztN0

ダイヤ「!」


組み付かれるとキックは出しづらいはず……!!


千歌「投げ飛ばせ!! “ともえなげ”!!」
 「グォ!!!」


脚を踏み込んで、投げの体制に入る。


ダイヤ「させません!! “けたぐり”!!」

千歌「!」


その軸足を組み合いの内側方向に向かって払われ、


 「グァ!!?」


ルカリオが仰向けに体勢を崩す。


ダイヤ「そのまま、“ふみつけ”!!」
 「マージョッ!!!」


長い脚がルカリオに降って来る。


千歌「こっちも“けたぐり”!!」
 「グォァ!!!!」


体勢を崩しながらも、身を捩って脚を引っ掛ける。

 「マジョッ!!?」


アマージョが体勢を崩したところで、


ダイヤ「アマージョ! 一旦引きなさい!!」


アマージョはバク転しながら、体勢を整える。

ルカリオも同様に起き上がり、


ダイヤ「“タネばくだん”!」
 「マジョッ!!」

千歌「“はどうだん”!!」
 「グォァ!!!!」


二匹の飛び道具がぶつかり、爆発が起こる。

爆炎の中から、


ダイヤ「“トロピカルキック”!!」
 「マージョッ!!!!」


飛び出すアマージョ、


千歌「迎え撃て!! “ブレイズキック”!!」
 「グォァ!!!!」


二匹の蹴撃がぶつかり合う。

蹴りは相殺し、そのままの勢いで、
781 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:24:28.96 ID:glPDjztN0

ダイヤ「“パワーウィップ”!!」


鞭のようにしなる脚を叩き付けてくる。


千歌「“メタルクロー”!!」


再び、近接での打ち合い。

“インファイト”状態だ、

両者の全身を使った攻撃が、何度も鍔競り合う。

ただ、こうなったら、かくとうタイプのルカリオの本領発揮だ、


ダイヤ「……くっ!! アマージョ、深追いしないでください!」
 「マジョッ」


分が悪いと気付いたのか、ダイヤさんはアマージョを引かせようとするが、


千歌「ルカリオ! 踏み込め!」
 「グゥァ!!!!」


ここが好機、ルカリオが更に一歩踏み込む、


千歌「“はっけい”!!」


波導のパワーを溜め込んだ、掌底をアマージョの胴体に打ち込んだ。


 「マジョッ!!!?」

ダイヤ「アマージョ!」


クリーンヒット、効いてる。

だが、


 「マージョ…!!!!」


アマージョは脚を踏み鳴らして、耐え切る。


千歌「た、耐えた!?」


必殺の一撃なのに……!


千歌「なら、もう一発……!!」

ダイヤ「待ってください……!」

千歌「!?」


ダイヤさんの制止の声。


ダイヤ「アマージョ……よく頑張りました、もう大丈夫ですわ」


ダイヤさんが声を掛けると、

 「マ、ジョ…」

アマージョは膝から崩れ落ちた。


千歌「!」

ダイヤ「この子、いじっぱりなので、任せておくと頑張りすぎてしまうので……戻ってください」
782 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:27:08.52 ID:glPDjztN0

ダイヤさんはそう言ってアマージョをボールに戻す。

ポケモンの限界をちゃんと把握してあげるのも、トレーナーの努め、と言うことなんだと思う。

一方でルカリオも、


 「フー…フー…」


肩で息している。

激しい肉弾戦だったから、消耗が激しいのも頷ける。


千歌「ルカリオ、戻れ」


私もルカリオをボールに戻した。

消耗しきったルカリオだと、次の全快のポケモンに、隙を付かれてしまうかもしれない。

──なら、4匹目はお互い最後の手持ちで、


千歌「いくよ! ムクホーク!!」

ダイヤ「ラランテス、お願いしますわ!」


4匹目が繰り出された。





    *    *    *





 『ラランテス はなかまポケモン 高さ:0.9m 重さ:18.5kg
  舞を 舞うように 敵を 切り裂く。 鎌状の 花びらから
  ビームを 放つ。 その 威力は 分厚い 鉄板も 真っ二つに
  切断するほど。 最も 艶やかな くさポケモンと 呼ばれる。』


千歌「ムクホーク!! “すてみタックル”!!」
 「ピィィイイ!!!!!」


飛び出す十八番の突撃技。


ダイヤ「! あのとき捕獲したムックルが進化したのですわね!」


あのときから変わらない猛烈な突進攻撃、


ダイヤ「いなしなさい! “リーフブレード”!」
 「ランテス」


ラランテスは舞うような足取りと、腕部の鎌で、ムクホークの突撃をいなす、

後方に飛び去ったムクホークはすぐに旋回し、


千歌「もう一発!!」
 「ピィィイイイ!!!!」


再び突撃、


ダイヤ「ラランテス、焦らずに」
 「ランテス」


再び同じようにいなされる、
783 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:30:19.11 ID:glPDjztN0

千歌「ムクホーク! “みだれづき”!」
 「ピィィ!!!!」


再び旋回し、今度は連撃、


ダイヤ「“リーフブレード”!!」


だが、ラランテスは受けの体勢、

鎌で一発一発丁寧に、“みだれづき”をいなしていく。

なかなか攻撃が通らない、


千歌「ムクホーク! 一旦離脱!」
 「ピィ!!!!」


ムクホークが、後方に飛び退ったところに、


ダイヤ「そこですわ!」

千歌「!?」


ダイヤさんの掛け声と同時に、ラランテスの鎌が眩く光る。

その光は、どんどん、

どんどんと伸びて、

振り下ろされた。


ダイヤ「“ソーラーブレード”!!!」
 「ランテスッ!!!!!」

 「ピィッ!?」
千歌「ムクホーク!!?」


急な縦の無限射程に反応しきれず、ムクホークは叩き落される。

墜落して、砂煙が上がるところに、


ダイヤ「ラランテス! “きゅうけつ”!!」


ラランテスが容赦なく飛び掛ってくる。


千歌「ムクホーク!!」


砂煙が晴れると、

 「ランテス…」

ラランテスが噛み付いて、“きゅうけつ”している。


千歌「くっ……!!」


かなり分が悪い、ここは一旦戻して──

ボールを構えた瞬間、


 「ピィィィィイイイイイイイイ!!!!!!!!」


ムクホークは甲高い声を上げながら、


ダイヤ「……な!?」
784 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:32:03.82 ID:glPDjztN0

ラランテスに噛み付かれたままだが、猛禽の脚でフィールドを踏みしめる。


千歌「……!」


ダメージを負いながらも、立ち上がる。

踏みしめた、フィールドの床は、猛禽の爪が食い込み、ヒビが入っている。

まるで、戦える、戦わせてくれ、という戦意を私に見せるように。

──確かに、ポケモンの限界を見極めて引かせるのも、トレーナーの役割だ……けど!!


千歌「ポケモンを信じるのも、トレーナーの役目だよね……!! そのまま、“そらをとぶ”!!」
 「ピィィィィイイイイ!!!!!!」


ムクホークは大きな翼を羽ばたかせて、ラランテスごと浮上する。


 「ララン!!!?」


急な浮遊感に動揺するラランテス。


ダイヤ「ラランテス!? “きゅうけつ”はもういいです! 逃げてください!!」
 「ラララッ!!!!」


噛み付いた顎を放して、飛び降りようとするが、

──空中はムクホークのテリトリーだ!


 「ピィィィ!!!!」


空中にいる、ラランテスは地面に辿り着くことなく、

猛禽の脚でキャッチ、そのままガッチリとホールドし、


 「ラランッ!!!?!?」


ムクホークはそのまま、ぐんぐんと浮上する。


ダイヤ「ラランテス!! “ソーラーブレード”!!!」
 「ラランッ!!!!」


ラランテスが捕まれたまま、光の刃をムクホークに向けるが、


 「ピィィィイイイ!!!!」


至近距離で太陽光線に焼かれても、ムクホークは怯まない。

ジムの頂点まで、飛び立ったところで、

ムクホークと目が合った。


 「ピピピ」
千歌「……うん!!」


私は頷いた、


 「ピィィィィイイイイ!!!!!」

785 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:33:35.81 ID:glPDjztN0

最高地点から、ムクホークが最高速で一気に地面に向かって発射される、

私のムクホークらしい、全てを掛けた、“すてみ”の一撃!!!


千歌「“いのちがけ”!!!!」
 「ピィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


──ズンッ!!!!!

大きな音と衝撃がジムを揺らす。


ダイヤ「……!」


その威力はジムの床を抉り、クレーター状に凹ませるほどの威力で──

 「ララン…」
 「ピピィ…」

二匹はその中央で気絶していた。


千歌「ムクホーク……!」


私はジムの中央へと駆け出す。

倒れたムクホークに、


千歌「ありがと、ムクホーク……」
 「ピィィ…」


いつも私を支えてくれる、特攻隊長を労って、抱きしめる。


ダイヤ「……これが、貴方が旅の中で見つけた、答えなのですわね」


ダイヤさんもフィールドに出てきて、ラランテスをボールに戻す。


ダイヤ「あくまで最後まで仲間を信じる……貴方らしい、真っ直ぐな成長ですわね」

千歌「……うん、私が一番信じてあげなきゃいけないから」

ダイヤ「ふふ、わたくしも見習わなくてはいけないかもしれませんわね」


ダイヤさんは笑いながら、


ダイヤ「教え子に教えられると言うのも……存外悪くない気分ですわね」


そう言って、遠い目をした。


ダイヤ「……チャレンジャー・千歌さん」

千歌「! はい!」

ダイヤ「お見事でした。この勝負、貴方の勝利ですわ」

千歌「はい……!!」

ダイヤ「……その証として、この──」


ダイヤさんは懐から、宝石の形をしたバッジを取り出す。


ダイヤ「──“ジュエリーバッジ”を進呈致しますわ」

千歌「……はい!!」


こうして私は、恩師との激闘に勝利し、6つ目のバッジを手に入れたのでした……!

786 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:34:12.02 ID:glPDjztN0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         ● .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.48  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.48 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.45 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.46 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:127匹 捕まえた数:13匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



787 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:30:50.05 ID:glPDjztN0

■Chapter058 『開催! セキレイかわいさコンテスト!』 【SIDE You】





サニータウンでの、かっこよさコンテストから数日。

本日は、ついにセキレイシティ会場でのコンテスト当日だ。


司会『かわいさコンテストノーマルランク優勝者は──エントリーNo.4 タマンタ&ヨウさんです!! おめでとうございます!!』





    *    *    *





例の如く、ノーマルランクをスパッと優勝し、次はウルトラランク……。


ことり「曜ちゃん、お疲れ様」

曜「あ、ことりさん」

ことり「ウルトラの準備、出来てる?」

曜「うん。受付もさっき済ませた。衣装も鞄に入ってるし……問題ないかな」

ことり「タマンタの調整も大丈夫そう?」

曜「うん、ノーマルランクでも問題なくアピール出来てたし、大丈夫だと思う」

ことり「うんうん、ならよし♪ 少し時間空いちゃうけど、どうする?」


確かにちょっと開催時間まであるけど……。


曜「とりあえず、早めに楽屋入りしておこうかなって……」


何せ、今大会はグランドフェスティバルの開催地でもあるフソウ会場に次いで、大きなセキレイ会場。

本島では最も大きい会場なのだ。

気を引き締めないと……。


ことり「よしよし♪ いい感じに気合いも入ってるね」

曜「ことりさん、今日すっごい機嫌いいね」

ことり「んー? まあ、かわいさコンテストの会場だからね〜。かわいい子がいっぱい居て、みてるだけで幸せなの〜♪」


そういえば、ことりさんは得意部門はかわいさって言ってたっけ……。

私を教えてくれている間も、たびたびこの会場には足を運んでたし。

楽屋に向かうため、二人で受付にある入場口まで歩いて行くと……。


 「え、えっと……だから、かわいさ部門にエントリーなんです〜!」

曜「ん?」


なにやら受け付けの前で揉めている。


受付嬢「えーとですね……今の受付時間はかわいさ部門のウルトラランクでして……」

 「だから、亜里沙がウルトラランクに出場するんです〜!!」
788 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:31:36.39 ID:glPDjztN0

どうやら、エントリーについて口論になっているようだ。

受付に居るのは、薄いベージュのキューティクルをした、やや小柄な女の子。


ことり「あれ? 亜里沙ちゃん?」


ことりさんが名前を呼ぶと、


亜里沙「ことりさん!? 助けてください〜……全然受付が突破出来なくて……」

曜「受付が突破出来ないって……」

ことり「……? 何かあったんですか?」


ことりさんが不思議そうに受付の人に視線を送る。


受付嬢「ええっと……」


受付の人もだいぶ困惑気味だった。


ことり「んっと……とりあえず、亜里沙ちゃん。出場ポケモン出してみて」

亜里沙「あ、はい!」


亜里沙と呼ばれた女の子は、ことりさんの言う通りボールからポケモンを出す。


曜「……え?」


受付の人が顔を顰める原因が、そこに現われた。

ドロドロとした質感に、七色の体色、口からは牙が生えている。


曜「えっと……このポケモン、もしかしてベトベトン……?」


でも、ベトベトンってこんなにカラフルだったっけ……?

私は図鑑を開いた。


 『ベトベトン(アローラのすがた) ヘドロポケモン 高さ:1.0m 重さ:52.0kg
  やたら 鮮やかな 身体の 色は 喰らった ゴミが
  体内で 常に 化学変化を 起こしているから。
  牙や 爪に 見えるのは 毒素が 結晶化 したもの。』


曜「アローラのすがた……」


なるほど、ちょっと特殊な個体らしい。

それはそうと、受付の人が困惑する理由もわかる気がする。

ここの会場ってかわいさ部門だけだよね……?
789 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:33:08.34 ID:glPDjztN0

ことり「……ん、なるほど」

受付嬢「ですので、かわいさ部門以外は他の会場で……」

ことり「いや、この子はかわいさ部門のウルトラランクへ参加出来るよ?」

曜・受付嬢「「え?」」

ことり「ノーマルランクどころか、グレートランクのリボンも持ってるし……昇級点が足りないってことはたぶんないと思うけど」

受付嬢「……し、失礼しました……!! お調べします……!」

亜里沙「ほ……ことりさん、ありがとうございます。いつも出場の度に止められちゃって……ベトベトン、可愛いと思うんだけどな」

ことり「うぅん、大丈夫だよ♪ コンテスト、頑張ってね」

亜里沙「はい!」

ことり「それじゃ、曜ちゃん。わたしたちもいこっか」

曜「あ……うん」


ベトベトン……まあ、見ようによっては愛嬌がある……のかな?





    *    *    *





曜「そういえば、さっきの子……」

ことり「亜里沙ちゃん?」

曜「あ、うん。ことりさんの知り合いだったみたいだけど……」

ことり「フソウタウンのうつくしさコンテストで白いキュウコンを使ってたコーディネーターさんが居たでしょ?」

曜「あ、うん。絵里さんだよね」


私がコンテストをやりたいと思うきっかけになった大会だ、忘れるわけがない。


ことり「亜里沙ちゃんは、その絵里ちゃんの妹なんだよ」

曜「え!?」

ことり「亜里沙ちゃんもコンテストが好きだって言うのは聞いてたから、どこかで会うことはあるかもって思ってたけど……」

曜「絵里さんの妹さん……」


そういえば、志満姉も絵里さんはアローラから来た姉妹だって言う話をしていたような気がする。

まさかこんなところで戦うことになるなんて……。


ことり「曜ちゃん」

曜「あ……何?」

ことり「落ち着いて、いつも通りでいいからね」

曜「う、うん……!」

ことり「それじゃ、関係者席で応援してるからね!」

曜「うん、いってきます……!」





    *    *    *


790 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:33:53.37 ID:glPDjztN0


わたしは関係者席に腰を降ろす。

亜里沙ちゃんが出るってことは……絵里ちゃんも居たりするのかな……?

少し辺りを見回してみるけど、それっぽい人はいなさそう。

絵里ちゃん、目立つから、軽く見回してそれっぽい人が居ないってことは、居ないんだろう。

……さて、それはともかく曜ちゃんだ。

今回のコンテストは今までと違って明確な課題を出さずに送り出した。

基礎はここまでの大会で教えたからなんだけど……。

でも今回、亜里沙ちゃんとぶつかるのはいい機会だと思った。

亜里沙ちゃんはかなり珍しいタイプのコーディネーターさんだ。

そういう相手を前にして、いかに自分を貫けるか、


ことり「曜ちゃん、見てるからね」


間もなく、会場が暗くなっていく。

ショータイムが始まるようです──。





    *    *    *


791 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:34:55.21 ID:glPDjztN0


司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、オノトキ地方最大の街にて繰り広げられる、最もかわいいポケモンを決めるコンテスト……セキレイかわいさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』


お馴染み眼鏡がトレードマークの司会のお姉さんの口上と共に、大会がスタートする。


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……チラチーノ&リカ! エントリーNo.2……プクリン&レイコ!』


さあ、今回の対戦相手はチラチーノ使いのミニスカート。プクリンと出場しているのはおとなのおねえさんだ。

そして、


司会『エントリーNo.3……んん? ……おっと、失礼。……ベトベトン&アリサ!』


ステージ上に現われる、ベトベトンと亜里沙さん。それと同時に少し会場がざわつく。


亜里沙「行くよ、ベトベトン!」
 「ベトォ」


司会『エントリーNo.4……タマンタ&ヨウ!』


曜「タマンタ、行こう」
 「タマ〜」


さて……今回の衣装イメージは、妖精だ。

ふわふわとした綿毛をあしらった、真っ白な帽子と上着──にしたかったけど、タマンタは通す腕がないので、これはマントかな……?

ただ、工夫は凝らしている。水槽での参戦になるタマンタの綿毛が濡れてしぼまないように、水を弾く特注品だ。

お陰で水の中でも綺麗にふわふわしているように見える。


司会『さあ、今回目を引くのはやはりベトベトンかぁ……!? かわいさコンテストではあまり見ないタイプのポケモンがウルトラランクに殴りこみです! そして、もはやお馴染みとなりつつあるヨウさんは今回はふわふわとした非常にメルヘンな衣装での参戦です!』


一次審査が始まる直前から、ぽつぽつ会場に色が灯り始める。


司会『さあ、一次審査開始です! チラチーノは白、プクリンはピンク、ベトベトンは黄色、タマンタは青でお願いします!』


結果は──

白とピンクがぽつぽつある中、会場はほぼ青で染まっている。


曜「よし……!」


今回は衣装のイメージが確実に良い方向に働いている。


司会『それでは、そろそろ集計を締め切りますよ〜?』


一次審査を締め切る為のアナウンス。


司会『では、ここで一次審査終了です! このまま二次審査に進みます! アピールはタマンタ、チラチーノ、プクリン、ベトベトンの順でお願いします!』


予想通り、一次審査をトップで抜ける。

ただ、気になることがある……。


亜里沙「…………」


亜里沙さんのベトベトンはやっぱり、一次審査は最下位。だけど、ウルトラまではちゃんとあがってきているんだ、一体何をしてくるんだろう……。

……いや、今は自分のアピールに集中だ。
792 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:40:34.38 ID:glPDjztN0

曜「タマンタ! “あわ”!」
 「タマ〜」

 《 “あわ” かわいさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   タマンタ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


タマンタは水槽から顔を出して、会場中に“あわ”を吐き出す。

ふわふわとシャボン玉が会場中に舞う。


司会『まずは手堅い“あわ”ですねー! シャボン玉が飛んでいるだけで、メルヘンな雰囲気が加速しますね!』


リカ「チラチーノ! “スイープビンタ”よ!」
 「チラチー!!」

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   チラチーノ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


チラチーノは床を払うように尻尾を何度も振る。


司会『おっと、いきなりの固有技ですね! チラチーノ得意技“スイープビンタ”! まるで掃除でもしているようですね? 綺麗好きなチラチーノらしいアピールです!』


レイコ「プクリン、“おうふくビンタ”!」

 《 “おうふくビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   プクリン +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》



プクリンは“おうふくビンタ”。ビンタ技は手堅いアピールが見込める。やはりウルトラランク、二人とも定石を知っているようだ。


亜里沙「ベトベトン!」
 「ベトォ」

亜里沙「“ダストシュート”!」

 《 “ダストシュート” たくましさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜
   ベトベトン +♡♡ ExP-♥
   Total [ ♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


曜・リカ・レイコ「「「え!?」」」


ベトベトンが口から大量のゴミを吐き出した。

 「タママ!?!?!」「チラチ!!?」「プクッ!!」

 《 タマンタ -♥♥♥
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 チラチーノ -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 プクリン -♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》


その光景に他のポケモンたちが激しく飛び退く。


司会『おっとぉ!? これはいきなりぶっこんで来ました、ベトベトン!! 他のポケモンは驚いて完全にアピールを中断してしまいました!!』


曜「な、なんで……?」
793 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:41:23.46 ID:glPDjztN0

“ダストシュート”ってたくましさ部門の技だよね……?

いや、それよりも……。


曜「タマンタ、大丈夫!?」
 「タマー…」


タマンタは驚いて、アピールを中断してしまった。これは減点だ。

いや、私たち以外も大きく減点されている。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   タマンタ   ♡♡♡♡♡ ♥♥♥        [ ♡♡   ]
   チラチーノ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥    [ ♡♡♡  ]
   プクリン   ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ♥♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡ ]
   ベトベトン  ♡♡ ♥             [ ♡    ]         》


司会『さあ、波乱の展開ですが、2ターン目──プクリン、チラチーノ、タマンタ、ベトベトンの順です!』





    *    *    *





ことり「やっぱり、亜里沙ちゃんは妨害特化……!」


……いや、でもあの子だいぶ天然さんだからなぁ……もしかしたら、本当にかわいいと思ってやってる可能性もあるかも……。

どっちにしろ、ここまではあがってきている以上実力があることには違いない。

それも、もともとかわいさ部門にすごく適正のあるポケモンとは言い難いポケモンで、だ。


ことり「曜ちゃん……」


妨害技は実のところ、扱い方が難しい。

周りを減点させても、自分に加点があまりないからだ。

ただ、妨害の本当の怖いところは、そうじゃない……。





    *    *    *





レイコ「プ、プクリン、“まるくなる”」
 「プク」

 《 “まるくなる” かわいさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても 一回 くらいは がまんできる 〕 ♡♡ ◆
   プクリン◆ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


プクリンは防御の姿勢。

最初の押せ押せな技とは打って変わってな感じだ。

ベトベトンの妨害技を見て、警戒しているのかもしれない。
794 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:42:18.98 ID:glPDjztN0

リカ「チラチーノ! “アンコール”!」
 「チラチー!!」

 《 “アンコール” かわいさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡
   チラチーノ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


曜「!?」


“アンコール”──バトルでは相手に同じ技を繰り返させる技だが、コンテストの場合は後続を緊張させる技だ。


 「タマ…!!!」
曜「タマンタ……!!」

 《 タマンタ 緊張して しまった
   Total [ ♡♡ ] 》


司会『おっと、これはタマンタ、緊張してしまいましたね……』


たぶん、チラチーノはベトベトンを緊張させることを狙ったんだと思う……でも──


亜里沙「ベトベトン! “ちいさくなる”!」

 《 “ちいさくなる” かわいさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   ベトベトン◆ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ベトベトンはちゃんと動けている。まずった、完全にとばっちりを受けた。

しかも、だ。


司会『おっと、やっと会場にかわいい雰囲気が戻ってきた感じがしますね? ベトベトンはさっきのアピールとは打って変わって、真っ当なかわいさアピールです!』


さっきとのギャップに会場が盛り上がりを見せ始める。

不味い……エキサイトがベトベトンに噛み合ってる。


亜里沙「ベトベトン! ライブアピール! “バブルサラウンドL”!!」
 「ベトォ」

 《 “バブルサラウンドL” かわいさ 〔 かわいさ部門 どくタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ベトベトン◆ +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


球体状の毒のバブルが会場中をふわふわと漂い、弾けながら光る。

どくタイプの普段の雰囲気からは想像出来ない煌びやかなアピールに会場は更に沸き立つ。


司会『素晴らしいライブアピールです! 第一印象を払拭するアピールでベトベトンがトップに躍り出ました!!』


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   プクリン   ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡  ]
   チラチーノ ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡   ]
   タマンタ   ♡♡♡♡♡⁵♡♡ [ ♡♡       ]
   ベトベトン  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ]               》


3ターン目──ベトベトン、プクリン、チラチーノ、タマンタの順。ベトベトンのアピールが目立っている証拠だ。


795 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:43:11.82 ID:glPDjztN0


    *    *    *





そう、妨害で怖いのはこれだ。

全体的に消極的になること、そして妨害をするポケモンを優先的に押さえようとする流れが出来上がる。

そして、運が悪いとその煽りを受けることがあると言うことだ。

曜ちゃんは完全に今回は運に見放されてる。

だけど……。


ことり「ここからだよ……曜ちゃん……!」


ここからの判断が大事だ。

焦って攻守の切り替えのタイミングを間違えずに居られるか……それが勝負だ。





    *    *    *





亜里沙「ベトベトン! “まとわりつく”!」
 「ベドォー」

 《 “まとわりつく” かわいさ 〔 このアピールの後 会場が しばらく 盛り上がらなくなる 〕 ♡♡♡
   ベトベトン +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


ベトベトンが身体を大きく広げながら、会場に纏わりついて行く。

“まとわりつく”はお客さんの印象を引っ張って、他のアピールを目立たなくさせる。

つまり、会場自体がそのターン中、他のアピールで盛り上がり辛くなる技だ。


レイコ「プクリン、“なかよくする”!」
 「プクー」

 《 “なかよくする” かわいさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡
   プクリン +♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


リカ「チラチーノ! “スイープビンタ”!!」
 「チラチ!!!」

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   チラチーノ +♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


手番の回ってきた二匹も順にアピールするが──。


司会『さあ、完全にベトベトンペースです! プクリンもチラチーノも、あまりアピールがうまく行ってないようだぞ〜!?』


そして、私とタマンタの番。
796 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:43:57.21 ID:glPDjztN0

曜「タマンタ」
 「! タマ!」

曜「落ち着いて、私たちらしくアピールしよう」
 「タマッ!!!」

曜「“はねる”!」

 《 “はねる” かわいさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡
   タマンタ +♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


タマンタが、水槽から“はねる”。

そのまま、ステージ上に躍り出て、ぴょこぴょこと跳ね回る。


司会『これは愛くるしい……!』


私たちは、私たちらしくアピールすればいい。


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ベトベトン  ♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ]
   プクリン   ♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡     ]
   チラチーノ ♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡      ]
   タマンタ   ♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡        ]          》


司会『さあ、4ターン目はベトベトンから! タマンタ、プクリン、チラチーノの順でお願いします!』

亜里沙「一番手……! じゃあ、“いちゃもん”!」
 「ベトベトォ」

 《 “いちゃもん” たくましさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡
   ベトベトン +♡♡ ExP-♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


“いちゃもん”は“アンコール”と同じように後続を緊張させる技だ。技だが……。


 「タマッタマッ」「プクプク」「チラチー」

亜里沙「あ、あれ……?」


いい加減ベトベトンの奇抜な技選びにも慣れてきたのか、3匹とも動じない。

そして、前ターンから会場を跳ね回っている、タマンタも身体が温まってきたところだろう、


曜「タマンタ! “とびはねる”!!」
 「ターーマッ!!!!」

 《 “とびはねる” かわいさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   タマンタ◆ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


司会『おっとぉ!! タマンタ、空高く飛び跳ねました!!』


さあ、ここまで存分にヘイトを買ったベトベトン。

今回は先手を打ったから、巻き込まれることはない。
797 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:44:43.57 ID:glPDjztN0

レイコ「プクリン、“あまえる”」
 「プク〜」

 《 “あまえる” かわいさ 〔 観客に 期待されている ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜♥♥♥♥♥
   プクリン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


 「ベ、ベドォ…」

 《 ベトベトン -♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 タマンタ◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》


甘えてくるプクリンに困惑して、萎縮するベトベトン。

続け様に、


リカ「チラチーノ! “さわぐ”よ!」
 「チーラチラチー!!!!!!!」

 《 “さわぐ” かわいさ 〔 観客に 期待されている ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥〜♥♥♥♥♥
   チラチーノ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


チラチーノが大きな鳴き声をあげながら、全体を妨害する。


 「ベドドォ…!!!!」

 《 ベトベトン -♥♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 タマンタ◆
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 プクリン -♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》


司会『“いちゃもん”を言ったはずのベトベトンが逆に萎縮してしまう結果になりました!? これは手痛い反撃です!!』


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ベトベトン  ♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥ [ ♡♡♡          ]
   タマンタ   ♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡    ]
   プクリン   ♡♡♡ ♥            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ]
   チラチーノ ♡♡♡             [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》


さあ、ラストターンだ……!


司会『チラチーノ、タマンタ、プクリン、ベトベトンの順でお願いします!』

リカ「チラチーノ! “スイープビンタ”!」
 「チラチー!!!!」

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   チラチーノ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


みたび、チラチーノが尻尾を振るう。

ベトベトンの妨害の流れを制して、自分たちのペースを取り戻したようだった。

なら、私たちも……とっておきだ。


曜「タマンタ──!」
798 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:45:56.84 ID:glPDjztN0

先ほど飛び跳ねたタマンタ。会場の上部から──

カラフルなシャボン玉が、会場中に噴き出される。


曜「とっておきの“あわ”、存分に!!」
 「タマ〜〜」

 《 “あわ” かわいさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   タマンタ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


会場中が色とりどりのシャボン玉に沸き立つ。

そして、それにともない会場のエキサイトも最高潮に達する。


曜「ライブアピール行くよ!! “ラブリーブレッシングレイン”!!」
 「タマ〜〜〜〜」

 《 “ラブリーブレッシングレイン” かわいさ 〔 かわいさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   タマンタ +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


タマンタの出した“あわ”が一箇所に集まって大きくなり、そのまま宙へと浮かんでいく。

その大きなバブルは上空で弾けて、会場に雨を降らせる。


司会『さあ、タマンタ! “あわ”からしっかり繋げたライブアピールで大量の得点を稼ぎます!!』


曜「よしっ!!」


アピールは大成功だ。


レイコ「プクリン、“おうふくビンタ”!」
 「プクッ」

 《 “おうふくビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡〜♡♡♡♡♡♡♡♡
   プクリン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


プクリンもそんな中で自分のアピールをする。


亜里沙「……っ」


一方亜里沙さんは、完全にペースを乱されて、出す手を失っている感じだった。


亜里沙「ベトベトン……!! “だいばくはつ”──!!」

 《 “だいばくはつ” うつくしさ 〔 すごいアピールに なるが このあと 最後まで なにも できなくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡♡♡
   ベトベトン +♡♡♡♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


部門には沿ってないが──最後の技は大きくアピールの出来る手頃な締めの技だった。


亜里沙「……っ」


ただ、ステージ上で見た亜里沙さんは、もうすでに結果を理解しているようで、

……悔しそうな顔をしていた。


799 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:46:58.68 ID:glPDjztN0


    *    *    *





曜「……亜里沙さん、大丈夫かな」


大会が終わったあと、亜里沙さんは楽屋で固まっていた。

大立ち回りだったけど……──


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【チラチーノ】 〔 ♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                 〕
   【 .プクリン 】 〔 ♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                〕
   【.ベトベトン】 〔 ♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                       〕
  ✿【 タマンタ 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


結果ベトベトンは最下位。

相当悔しかったのかもしれない。


ことり「ライバルの心配? 余裕だね〜?」

曜「い、いや……」

ことり「ふふ、冗談。でもね、曜ちゃん。皆自分の信念を掲げて戦ってるんだから、勝つ人がいれば、負ける人もいる」

曜「……うん」

ことり「……だから、そのリボンに恥じないように、胸を張ってなくちゃ」

曜「……ヨーソロー!」
 「タマ」


タマンタに付けられたピンク色のリボン。

私は、勝ってこれを貰ったんだ。

一緒にステージで戦った人たちに失礼のないように、胸を張らないと……。

──そのとき、


亜里沙「曜さん!」


背後から、亜里沙さんの声。


曜「! 亜里沙さん!」

亜里沙「今日は、ありがとうございました……!!」


振り向くと同時に亜里沙さんが頭を下げてお礼を言う姿が飛び込んでくる。


曜「! こちらこそ……!」


私も恭しく頭を下げる。


亜里沙「今日は負けちゃったけど……でも、次戦うときは亜里沙が勝つから……!」

曜「!」

亜里沙「ベトベトンがかわいいってこと皆に知ってもらわなくちゃいけないから……! それじゃ、失礼します!」


それだけ言うと、亜里沙さんは足早に去って行ってしまった。
800 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:47:49.98 ID:glPDjztN0

ことり「亜里沙ちゃんにも信念があるってことだね」

曜「……うん」

ことり「そして……今日、曜ちゃんが勝てたのは、信念を曲げなかったからだよ」

曜「……うん!」

ことり「まあ、でも……ちょっと今回は運がよかったところが大きかったかな?」

曜「……うっ」

ことり「ふふ、冗談です♪ 運も実力のうちだもんね」

曜「ことりさーん……」


ことりさんの冗談は本当に笑えないんだからなぁ……。

でも、運がよかったって言うのは事実だ……もっと、頑張らないとな。

そう思って顔を上げると──


曜「……?」


会場の外がなんだか騒がしい、


ことり「……何?」


ことりさんと二人で急いで会場の外に顔を出すと──


ことり「え……」

曜「な、なにこれ……!?」


 「ヨマ〜」「ケケケケ」「ゴォーーース」


セキレイの街中にヨマワル、カゲボウズ、ゴースの姿。

街中が、ゴーストポケモンだらけになっていた──


801 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:48:35.40 ID:glPDjztN0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.43 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.41 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.39 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.42 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.39 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.36 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:20匹 コンテストポイント:48pt


 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



802 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:38:57.46 ID:glPDjztN0

■Chapter059 『グレイブマウンテン』 【SIDE Ruby】





ダイヤ『──ビィ!! ルビィ!! しっかりして……っ!!』


お姉ちゃん……?

薄ぼんやりとした意識の中、お姉ちゃんの声が響く。


ルビィ『ぅゅ……』

ダイヤ『……! おかあさま! ルビィのいしきが……!! ルビィ!? だいじょうぶですか!!?』

ルビィ『のど……かわいた……』


……ぼんやりする意識の中、辺りを見渡すと、

お姉ちゃんとお母さん。それに二人の連れたメレシー──ボルツとアンバーの姿。

ここは──クロサワの入江……?

見慣れたキラキラとした岩肌。だけど──何故か、洞窟の中なのにポタポタと大量の水滴が降ってきている。……雨?

……それにしても暑い。というか……熱い?

体が燃えるように熱かった。


ルビィ『…………ぅゅ』


ルビィ、何してたんだっけ……。

……あ、そうだ、思い出した……。

いつもみたいに入江でコランと遊んでたら……急にヤミラミが現われて、メレシーたちを襲いだしたんだ。

何度「やめて」ってお願いしても、ヤミラミは聞いてくれなくて、

ルビィが止めなきゃって、思ったら──

……その続きは記憶がなかった。


ルビィ『……ぁっぃょぉ……』


……ただ、ただ暑くて、熱かった──。





────────
──────
────
──





ルビィ「ん……ぅ……」


風を斬る音が耳元で激しく鳴っている。

──と言うか、


ルビィ「さむい……」


思わず自分の肩を抱こうと思ったら。

腕にコランを抱きしめていることに気付く。
803 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:44:12.27 ID:glPDjztN0

ルビィ「コラン……?」
 「──」


コランは動かない、寝てるのかな。

……と、言うか。

景色がものすごい勢いで流れている。

……飛んでる?


理亞「──起きたんだ」

ルビィ「……! 理亞、ちゃん……」


理亞ちゃんの小脇に抱えられたまま、ルビィは空を飛んでいた。

少しずつ思い出してきた……確か、理亞ちゃんと戦って、そして──


ルビィ「……ルビィ、負けたんだ……」

理亞「…………」


不思議と落ち着いていた。

この状況でも、理亞ちゃんはルビィに対して、必要以上の直接的な危害を加えずに、あくまで運んでいるだけだからだろうか。


ルビィ「理亞ちゃん……今どこに向かってるの……?」

理亞「……目的地」


いや、それはそうだろうけど……。


ルビィ「そうだ……みんなは」


手持ちのみんなは無事だろうか……?

両手で抱えていたコランを片腕で抱えて、腰のボールに手を伸ばす。


ルビィ「──いたっ……!」


指先に痛みが走り、咄嗟に指を引く。

指が切れて血が出ていた。


ルビィ「ボールが……ない……?」


身を捻る。


理亞「あんまり動かないで。うっかり落とす」

ルビィ「……ぅゅ」


うっかりで落とされるのは困る……。ゆっくりと腰に目を配らせると、腰のボールホルダーが根元からねじ切れていた。


ルビィ「な、なにこれ……理亞ちゃんがやったの……?」

理亞「……ホントに何も覚えてないのね」

ルビィ「……??」

理亞「……巫女の力」

ルビィ「……!」


理亞ちゃんの言葉にビクリとする。
804 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:48:27.61 ID:glPDjztN0

理亞「……その反応。力そのものがあることは知ってるんだ」

ルビィ「あ、いや……」

理亞「別に誤魔化そうと、そうじゃなかろうと、目の前で見たから」

ルビィ「…………」


その言葉でやっと理解する。

巫女の力が、“また”暴走してしまったらしい。


ルビィ「……コラン」
 「────」


コランは呼びかけても眠っている。

空を飛びながら、眼下には山肌が通り過ぎていくだけ。

ルビィはなんとなく顔を上げる。


ルビィ「……山」


そこには、一際大きな山──地方最大の霊峰、グレイブマウンテンが迫っていた。





    *    *    *





──さて、堕天使ヨハネは、ついにコンタクトを取ることに成功したアブソルを追いかけて、進んでいる。

クリフを抜けたあと、アブソルはそのまま北上していた。

その後ろ姿を、ヤミカラスに掴まって追いかけている。


善子「この先って……」

花丸「……グレイブマウンテンずら」


横から、フワライドの腕に腰掛けている、ずら丸の声。


善子「ルビィは今、あの山に向かってる……ってことよね」

花丸「たぶん……」


……まあ、どっちにしろ、アブソルの勘以外に頼るものがないし、信じて追うしかない。

視線の先の霊峰は、今日も分厚い雲に覆われている。


善子「……天気、荒れそうね」


吹雪かなければいいけど……。





    *    *    *


805 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:51:33.97 ID:glPDjztN0


……ルビィは連れ去られながら、一応出来る限りの状況を確認しました。

図鑑とコラン以外の手持ちが居ない状態です。

コランのボールも持ってないので、戻すことは出来ない。

そして、今は──


理亞「クロバットッ!! 無理に向かい風に逆らわなくていい!!」
 「クロバッ!!!」

ルビィ「ぅゅゅ……」


吹雪の真っ只中……。

完全に視界は吹雪で遮られて、ほとんど前が見えない。


理亞「あんた、こんな状況だから自分で飛んでくれない!?」

ルビィ「手持ち持ってないし……もともと飛べる手持ちいないし……」

理亞「あーもう……!!」


理亞ちゃんはイラつきながら、吹雪の中を進む。


ルビィ「あ、あのさ……」

理亞「何」

ルビィ「理亞ちゃん、こおりポケモンたくさん持ってるし……吹雪が得意ってことは」

理亞「あるわけないでしょ」

ルビィ「……だよね」

理亞「……人間も、ポケモンも、自然の力には勝てないのよ」

ルビィ「……」


その後もしばらく、飛び続けていたけど……。


理亞「……これ以上は無理か……。クロバット、高度落として」
 「クロバッ」


どうやら、降りるみたいです。


理亞「……逃げるんじゃないわよ?」

ルビィ「……たぶん、今逃げたらホントにルビィ死んじゃうかも」


逃げようにも、この吹雪の雪山じゃ遭難必至……。

手持ちも居ない状態だし……。


理亞「……ならいい」


理亞ちゃんに抱えられたまま、雪に覆われた山肌に向かって降りていきます。





    *    *    *





グレイブマウンテンの山に降り立ったところで、
806 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:53:28.54 ID:glPDjztN0

理亞「……自分で歩け」


雪の上に投げ捨てられる。


ルビィ「ぴぎぃ!?」

理亞「さて……ここから、どうするか」


理亞ちゃんはやたら落ち着いているけど、辺りは吹雪でほとんど見えない。


理亞「ビバークか……」

ルビィ「びばーく……?」

理亞「山での緊急の野営のこと。雪山でアテもなく歩き回っても危ないし」

ルビィ「そ、そっか……」


こんな中で野宿なんて出来るのかな……。

理亞ちゃんは理亞ちゃんでさっきから、ポチポチと端末を弄っている。

どうやら、ポケギアを確認してるようだ。


理亞「……ま、そりゃ圏外か。マップは……ん……」

ルビィ「何かあった……?」


正直、野宿はしたくない……。こうなると理亞ちゃん頼みかも。


理亞「山のこの辺りなら……近くに、家……というか、小屋……みたいなのがある」


そう言って理亞ちゃんは歩き出す。


ルビィ「あ、ち、ちょっと待って……!!」

理亞「……早く来なさいよ」





    *    *    *





理亞「確かここに……」

ルビィ「……?」


理亞ちゃんは前を歩きながら、下を確認していた。


理亞「……あった」

ルビィ「あったって……何が──ぴぎぃ!?」


ルビィは驚いて、声をあげる。

理亞ちゃんが見つけたものは──


ルビィ「ほ、骨……!?」


完全に骸骨の形をした、ソレはどう見ても……人間の骨だ。

よく見ると、それと一緒に犬ポケモンの骨のようなものもある。
807 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:54:59.92 ID:glPDjztN0

理亞「この遺体が目印になってる。ここから、真っ直ぐ行けば……家というか、小屋……がある」

ルビィ「…………」

理亞「……これが、私たちの生きてきた世界なのよ」

ルビィ「……え……?」

理亞「……なんでもない。行くわよ」

ルビィ「…………。う、うん……」





    *    *    *





──こちら堕天使。


善子「ヤミカラス!! 頑張って!!」
 「カァカァ!!!」

花丸「よ、善子ちゃん……!! やっぱり吹雪の中飛ぶのは無理ずら!!」
 「フワァ…」


やっとグレイブマウンテンに辿り着いたものの……絶賛、吹雪に遭遇中。


善子「……ぐぅ……!!」


確かにずら丸の言う通り、これ以上飛んでると本当に危ない。

眼下に目を配ると、アブソルがこちらを気にして立ち止まっていた。


善子「……ヤミカラス、一旦降りましょう」
 「カァカァ…!!!」


私は山肌に下降していく。


花丸「フワライドも降りるずら」
 「フワァ」


ずら丸もその後ろについて降りてくる。


善子「……っと」


ヤミカラスをボールに戻して、

アブソルの付近に降り立ったはいいものの……。


善子「これ……歩くのもかなりキツイわね……」

花丸「さすがに、ビバークしないとだね……」

善子「近くに、ほら穴とかあればいいんだけど……」

 「ソル」


2人と1匹で辺りを見回していると、


善子「ん……なんかいる」


雪ミノのようなものを纏った、小さい生き物の集団が居るのを見つける。
808 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:56:58.92 ID:glPDjztN0

花丸「あれは……ユキワラシずら」

善子「ユキワラシ……オニゴーリの進化前よね」


 『ユキワラシ ゆきかさポケモン 高さ:0.7m 重さ:16.8kg
  5匹 ぐらいの グループで 行動し 雪の 多い 土地で
  雪や 氷だけを 食べて 暮らしている。 春や 夏の 雪の
  降らない 季節には 鍾乳洞の 奥で 静かに 暮らす。』

ユキワラシの集団はワラワラと寄り添いながら、移動していた。


花丸「吹雪が強くなってきたから、ユキワラシたちも巣に帰ろうとしてるのかも……」

善子「図鑑の通りなら、洞窟に棲んでるのよね?」

花丸「うん。基本はほら穴とかに棲んでるポケモンかな」

善子「じゃあ、雪を避けて休める場所知ってるかもしれないわね……」

花丸「ついていってみるずら」

善子「OK」


私たちはユキワラシを追いかけて、雪道を歩き出す。


善子「ほら、アブソルも。行きましょ」

 「ソル」


私はアブソルを促す。

……この荒れ模様じゃ、アブソルも満足に進めないだろうし。

2人と1匹はユキワラシたちを追いかけて、歩いて行く。





    *    *    *





案の定、ユキワラシたちを追いかけてみたら、すぐ近くにほら穴を見つけることが出来た。


善子「こんなすぐ近くに……気付かないもんね」

花丸「雪山の視界の悪さはホントに素人には怖いずら……」

 「ソル」


雪を払いながら、奥に進んでいくと。


 「ユキワラー」「ワラシー」「ユキユキー」


ユキワラシたちが、奥で身を寄せ合っている。


善子「ごめんね、巣に押しかけちゃって……」

 「ワラシー」


吹雪がやむまで、少しお世話になろう。

──ぐぅぅぅぅ……。

気の抜ける音が背後から聞こえる。


花丸「お腹空いたずら……」
809 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:58:12.18 ID:glPDjztN0

そういえば、クリフに居たときから何も食べていない。


善子「食事にしましょうか……」


私はバッグから、携帯食料を取り出す。


花丸「ずら……」


それをモノ欲しそうに見つめる、ずら丸。


善子「……あんた、食料は?」

花丸「食料はほとんどルビィちゃんが管理してたずら……マルが持ってると全部食べちゃうからって」

善子「……なるほど」


私は携帯食料を半分に折って、ずら丸に差し出す。


善子「はい、半分あげる」

花丸「い、いいの?」

善子「一人で食べてるわけにもいかないでしょ……」

花丸「あ、ありがとう……!! 善子ちゃん……!!」

善子「はいはい……あとヨハネね」


食料を齧る。


花丸「うぅ、物足りないずら……」

善子「……食べるのはや……。もっと味わって食べなさいよ……」


味わうほど味気ないけど……。

ルビィが食料管理してたのも頷けるわね……。

とは言っても、私が食べても数口で終わってしまう。

携帯食料を嚥下したあとバッグから、ポケモン用のご飯を少しだけ取り出す。


善子「アブソル」

 「ソル…?」

善子「貴方も、食べておかないとでしょ? どうぞ」


そう言って、差し出すが、


 「ソル…」


アブソルは戸惑っているようだった。

ま、いきなり手渡されても困るか。

私はそれを地面に置いた。

アブソルはしばらく躊躇はしていたものの、


 「ソル…」


どちらにしろ食べないと動けなくなると思ったのか、近付いてきて食し始めた。
810 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:59:03.51 ID:glPDjztN0

花丸「おいしそう……」

善子「ポケモン用だからね……?」


ほっておくと、ホントに食べに行ってしまうんじゃないかと一抹の不安は覚えたが……。

まあ、大丈夫だろう……たぶん。


善子「ユキワラシたちも……どうぞ」


多くは出せないけど、世話になってる以上は、ね。


 「ワラ」「ワラシ」「ユキ」


ユキワラシたちも、もそもそと食べ始める。


善子「よしよし」


あとは火かしら……。

風と雪は凌げても、このまま眠るのはちょっと怖い。

ほら穴の中央に、そこらへんに落ちてる石を集めて丸く並べる。


善子「ずら丸、燃料ある?」

花丸「ずら? えっと……ハヤシガメ」
 「ガメッ」


ハヤシガメを出して、


花丸「葉っぱ、少し貰うずら」
 「ガメ」


ハヤシガメから葉っぱをむしる。


花丸「これでいいずら?」

善子「ん、ありがと。ランプラー」
 「プラァ」


ランプラーをボールから出して、


善子「“ひのこ”」
 「プラァ」


火を着ける。


善子「よし」


これで、一先ず安心かしら。


花丸「あとは食料ずら……」

善子「いや、さっき食べたでしょ……」


そんな話をしていると、

ほら穴の外から、


善子「あら……?」
811 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:00:47.39 ID:glPDjztN0

新しいポケモンがもそもそと入ってくる。

小さな豚のようなポケモン。


花丸「! ウリムーずら!」


ずら丸が嬉しそうに声をあげる。

 『ウリムー いのぶたポケモン 高さ:0.4m 重さ:6.5kg
  エサを 探すため 鼻を こすりあわせ 地面を 掘っている。
  においに 敏感で 氷の下に 埋もれた キノコや きのみを
  掘り出すほかに たまに 温泉さえも 掘り当ててしまう。』

……道理で嬉しそうなわけね。


花丸「ウリムー、ご飯あるずらか……?」

 「ウリ」


ウリムーはずら丸のすぐ横辺りをフゴフゴと嗅いだ後、

 「ウリウリ」

掘り始めた。


花丸「そこに食料があるずらね!? オラも手伝うずら!!」


……どうぞご勝手に。

ほら穴の外に目を配ると、依然強く吹雪いている。

ルビィのことは心配だけど……まあ、攫った理亞も目的があると言っていた以上、どうにか凌いでいることだろう。


 「ソル」

善子「? アブソル?」


気付くとアブソルが近くに寄ってきていた。

食事が終わったらしい。


 「ソル」


アブソルは一声あげると、私の隣に腰を降ろした。

……多少は警戒を解いてくれたということかもしれない。


花丸「こ、これはマゴの実、モモンの実ずら!? ご馳走ずら!!」
 「ウリウリム」


なんかあっちはあっちで楽しそうね……。


善子「ふぁ……」


ちょっと眠くなってきたかも……。

私も、少し休もうかな……。

そう思った途端、意識はすぐに闇の中に溶けて行った……。





    *    *    *


812 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:03:16.90 ID:glPDjztN0


──吹雪の中、理亞ちゃんと進むこと数十分。


理亞「……ここ」


理亞ちゃんの言う通り、建物があった。あったけど……。

家どころか、小屋という表現も怪しい、廃屋って感じの場所だった。


理亞「……文句でもあんの?」

ルビィ「い、いや、ないけど……」

理亞「風と雪が凌げれば十分でしょ」


理亞ちゃんはそう言って小屋の中に入っていく。

ルビィもその後ろについて、中へと足を進める。

小屋の中も案の定、荒れ放題だった。

普段人間が住んでいない証拠だろう。

ただ、小屋の中は思った以上に暖かい気がした。

吹雪いている外が、寒すぎるからかな……。


理亞「確かここに、前使った薪の残りが…………あった」


理亞ちゃんはごそごそと今夜を乗り切るための準備をしている。

手馴れた姿から、たぶんこの小屋は何度か使ったことあるんだと思う。


理亞「……ルビィ」

ルビィ「!? な、なに……?」

理亞「あんたも手伝って。そこらへんに落ちてる燃料になりそうなもの集めて。火つけるだけなら、今あるので足りるけど、追加分がないと途中で火が消える」

ルビィ「……わ、わかった」


ルビィは抱えていたコランを床に下ろす。


ルビィ「コラン……ちょっとここで待っててね」
 「────」


コランは未だに反応がないけど……。

……とりあえず、ルビィも小屋の中をがさごそと探す。

荒れ放題な部屋の中は、木の外壁が経年劣化で崩れ落ちた破片がある。

こういうのを集めればいいのかな……。

一個一個手に取って集めていると、


ルビィ「ん……?」


木の破片に紛れて、紙のようなものが落ちてることに気付く。


ルビィ「これ……写真……?」


だいぶボロボロだったけど……拾い上げてみると、写真だとわかる。

色あせてしまっているが、まだ写ってるものはわかる。

人間が4人。ポケモンが3匹。

優しそうな大人の男性と女性。そしてその間に小さな女の子が2人。その子たちはそれぞれ白と茶色のクマのような小さなポケモンを抱きしめていた。そして、その前にはニューラ。
813 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:04:50.11 ID:glPDjztN0

ルビィ「…………」


なんでこんなところに写真が……? という疑問もあったけど、ルビィの目を引いたのは写真の女性だった。

目元や髪の色がある人にそっくりで──


理亞「何してんの?」

ルビィ「ぴぎっ!? あ、いや……」

理亞「……! ……写真まだあったんだ」


──まだ。

その言葉でなんとなく頭に浮かんでいた予想が、確信に近付く。

……そう、この写真の女性は理亞ちゃんによく似ていた。

いや、今の理亞ちゃんよりも背丈も高いし、顔付きも大人っぽいけど……面影があった。


ルビィ「……理亞ちゃん」

理亞「……何?」

ルビィ「ここ……もしかして理亞ちゃんのおうちなの?」

理亞「……小さい頃に住んでたってだけ」

ルビィ「そ、そっか……」

理亞「…………」


会話が途切れてしまう。

勝手に写真を見てしまったことに対しての罪悪感から逃げたかったのか、なんとなくルビィはこのまま会話が終わるのが気持ち悪くて、


ルビィ「お父さんとお母さん……優しそうな人だね」


話を続ける。


理亞「……優しかったと思う」

ルビィ「今はどうしてるの?」

理亞「死んだわ」

ルビィ「……え?」


予想外の言葉にルビィは目を見開いた。


理亞「今日なんかよりもずっと吹雪が酷い夜。私とねえさまが凍えないように朝まで抱きしめてくれてた。私たちが起きたときには、冷たくなってたけど」

ルビィ「……!! ご、ごめんなさい……!!」


聞いてはいけない話題に触れてしまった。

いや、今は使われていないボロボロの小屋が昔の家だったという時点で、多少予測は出来たはずなのに……。


理亞「……私は小さかったから、お父さんとお母さんのことはほとんど覚えてない……だから、別にいい」

ルビィ「ごめん……」

理亞「だから、いいって。それより燃やすもの。集まったなら持って来て」

ルビィ「あ、うん……」


促されて、ルビィは部屋の中央に木屑を運ぶ。
814 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:06:17.03 ID:glPDjztN0

理亞「この家は……家主を失って、子供の私たちにはまともな管理も出来なくなって、次第に備蓄の食料もなくなって、捨てた」

ルビィ「……そっか」

理亞「だから、今は吹雪にあったときとかに、こうして避難所として使うくらい」

ルビィ「…………」


 『……産まれたときから、住む場所にも、食べ物にも困らず、当たり前に家族に囲まれて、ただ当たり前に恵まれて育ってきた、お前の姉と……私のねえさまが同じわけ、ない……!』


あの戦いの中で理亞ちゃんが言っていたことの意味が少しだけわかった気がした。


理亞「木屑……そこ置いといて。適当なタイミングで追加して」

ルビィ「う、うん」


理亞ちゃんと焚き火を挟んで向かい合い、腰を降ろす。

……焚き火あったかいな。

ホッと一息ついたところで、

──くぅぅぅぅー。と言う音が向かいからしてきた。


理亞「……///」

ルビィ「理亞ちゃん、お腹空いたの?」

理亞「た、たまたま鳴っただけ……そんなんじゃない」


お腹ってたまたま鳴るのかな……。

ルビィはリュックを漁る。


ルビィ「あったあった」


リュックの中から、パンを取り出す。

それを半分にして、


ルビィ「半分どうぞ」


理亞ちゃんの元に持って行く。


理亞「……いらない。別にお腹減ってない」


理亞ちゃんはプイっと顔を背けるが、

──くぅぅぅぅー……。という可愛らしい音がまた聞こえてくる。


理亞「……///」

ルビィ「ルビィがはんぶんこしたいだけだから、ね?」

理亞「……貰ってやらなくもない」

ルビィ「うん」


ルビィはそのまま理亞ちゃんの隣に腰を降ろした。

二人してパンを齧る。
815 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:08:56.85 ID:glPDjztN0

ルビィ「あむ……」

理亞「……あむ」

ルビィ「……あむ」

理亞「…………あむ」

ルビィ「……ねぇ、理亞ちゃん」

理亞「……今度は何」

ルビィ「クロサワの巫女のこと……どこまで知ってるの?」

理亞「…………」


理亞ちゃんは少し悩む素振りを見せたけど、


理亞「ま、吹雪が明けるまで暇だし……」


そう前置く。どうやら喋ってくれるみたい。


理亞「クロサワの家は代々ディアンシーを祀る家系で、女王ディアンシーの子孫と言われる特別なメレシーたちを受け継ぐ巫女の子孫だって聞く」

ルビィ「……うん」

理亞「そして、そのクロサワの血筋の中でも、強く巫女の気質を受け継いだ子には何かしらの特徴が現われる。その真っ赤な髪みたいに」

ルビィ「…………」

理亞「クロサワの巫女は、ディアンシーと対話が出来る他に……ディアンシーが人々から奪った、宝石の輝きを再び取り戻す力があるって言われてる」

ルビィ「……どうやって調べたの?」

理亞「10年以上掛けて、ねえさまとコツコツ調べた」

ルビィ「10年……」


確かに10年も掛ければ、大なり小なり調べられるのかもしれない……。ルビィたちのおうちのことは、オトノキの史書とかに出てくることもあるし……。


理亞「それと……これが、導いてくれた」


そう言いながら、理亞ちゃんは懐から、ピンク色の宝石を取り出した。


ルビィ「……!! それ……!!」


ルビィは驚いて立ち上がってしまう。


理亞「……さすが巫女、見ただけでわかるんだ」

ルビィ「女王様の宝石……ど、どうやって……?」


それは、メレシーの女王様──ディアンシー様の持つ宝石の欠片だった。


理亞「……ディアンシーに貰った」

ルビィ「貰った……そうなんだ……」

理亞「……あんたは偽物だとか疑わないんだ」

ルビィ「そんな純度の高いピンクダイヤモンド、自然界に存在しないし……人工でも作れない。女王様から貰った以外ありえないよ……」


道理でアジトでコランが反応してたわけだ。

女王様が理亞ちゃんの前に現われたというのは信じがたいけど……。


理亞「そっか……」
816 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:11:48.82 ID:glPDjztN0

ただ、理亞ちゃんはルビィの言葉を聞いて、少し嬉しそうだった。


理亞「……両親が死んだあと、食料と住む場所を求めて、私とねえさまはこの山を彷徨っていた。……だけど、そのとき私は3才。ねえさまも5才。すぐに行き倒れた」

ルビィ「…………」

理亞「ああ、このまま死ぬんだなって、幼心に思った。でも、ねえさまだけは……大好きなねえさまにだけは、無事で居て欲しいって、そう思った途端。あたりが暖かい光に包まれて──顔をあげたら、そこに居た」


──ディアンシーが。


理亞「お腹も空いて、寒くて、どうしようもなかったのに、その光に包まれた途端、生きた心地がした。身体中に元気が漲ってくるような、そんな感じ」

ルビィ「……ディアンシー様はいつも地方中を見守っている。それに旅の仲間を事故や病気から守ってくれるって、言い伝えがあるんだよ。きっと、癒やしの力をわけてくれたんだと思う」

理亞「……うん。次気が付いたときには、ディアンシーはもういなかったけど……。吹雪は晴れて快晴だった。そして、私とねえさまが倒れてる場所の近くにコレが二欠片落ちてた。それで、きっとあれは夢じゃなかったんだって」


そう言って、理亞ちゃんは宝石を胸の前で握る。


理亞「生きる気力すら、なかった私たちにそのとき目的が出来た」

ルビィ「…………」

理亞「……いつか、またディアンシーに会うんだって」

ルビィ「……そっか」


理亞ちゃんがルビィを狙う理由。

巫女の力をディアンシー様との架け橋にするためだ。


理亞「さて……ここまで話したら、巫女様は協力してくれる?」


理亞ちゃんの問い。


ルビィ「…………ごめんなさい」


答えはNOだった。

巫女は女王様と人間の仲介役であると同時に、両者を隔てるために存在している。

ルビィが巫女の力を使って手引きするのは、それこそ本末転倒だ。


理亞「ま、わかってたけど。……これがあんたと私が協力できない理由」

ルビィ「…………」


恐らく、伝承を調べる際に理亞ちゃんは、既に巫女の使命についてのことにも、辿り着いていたんだと思う。


理亞「話して損した」

ルビィ「……ごめん」

理亞「……別に、どうせ暇つぶしだったし」


理亞ちゃんは火に薪をくべる。


理亞「だから、お前の力は利用する」

ルビィ「…………そっか」


このときルビィの頭の中では、いろんな想いがぐるぐるしていたけど……。

うまく言葉にならなかった。

だから、ただ焚き火の音を聞きながら、時間が過ぎていくのだった。


817 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:12:50.31 ID:glPDjztN0


    *    *    *





善子「──ん……」


肩に何かが掛けられるような感触で、意識が覚醒する。


花丸「あ……ごめん、起こしちゃった?」


どうやら、ずら丸が毛布を掛けてくれていたようだった。


善子「……いや、元々そんなに深く寝入ってたわけじゃないから……ありがと」

花丸「うぅん」


改めて、周りを見回すと、

 「ソル…」

アブソルが身を寄せてくれているから、暖かかった他に、

 「ワラシ…」

何故かユキワラシが一匹だけ、私に寄り添って寝ていた。


花丸「ユキワラシは恩を大切にするって言い伝えもあるからね。ご飯をくれた善子ちゃんに懐いたのかもね」

善子「恩なんて大袈裟な……」


肩を竦める。

 「ウリム……zzz」

一方ずら丸の膝の上ではウリムーが寝息を立てていた。

意気投合しすぎでしょ。

呆れながらも、ずら丸の顔を覗き込むと、


善子「ずら丸……? あんた、その顔どうしたの?」

花丸「え? あ、えっと……」


ずら丸の目は赤く腫れていた。


善子「……泣いてたの?」

花丸「……ちょっとだけ」

善子「……どうしたの?」

花丸「…………」


ずら丸は少しだけ迷っていたけど、


花丸「……マルは無力だなって思って」


ぽつりぽつりと話し始めた。
818 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:14:53.60 ID:glPDjztN0

花丸「マルが旅に出たのもね、ルビィちゃんの手助けが出来ればって思って旅に出たんだけど……結局ルビィちゃんは攫われちゃうし、オラは結局ルビィちゃんが攫われる手助けをしちゃってただけなんじゃないかなって」

善子「ずら丸……」

花丸「ルビィちゃんは旅の中でどんどん成長して……今までみたことないような勇気や強さを身につけたりしてたのに、マルは結局なんのためにいたんだろうなって」

善子「……考えすぎよ」

花丸「そうかな……」

善子「そうよ。あんたはずっと……ルビィにとって大切なものを優先して見守ってた、ただそれだけでしょ」

花丸「でも、結果としてルビィちゃんは……」

善子「それこそ結果論じゃない」

花丸「それは……」

善子「あんたはそれでいいのよ。ただ、背中を押してくれる友人がいるだけで、ルビィはきっと心強いはずよ」

花丸「……えへへ。……うん、ありがと。善子ちゃんはやっぱり優しいね」

善子「ぅ……/// べ、別にそんなんじゃないわよ……」


面向かって優しいなんて言われて恥ずかしくなり、思わず顔を背ける。


善子「それに善子じゃなくて、ヨハネだし……」

花丸「ヨハネ……そういえば、それってなんなの?」

善子「……くっくっく、これは堕天使ヨハネに授けられた真名──」

花丸「昔は、そんなこと言ってなったのに」

善子「ぜ、前世の話はいいのよ!」


私は再び顔を背ける。


花丸「……マルと過ごした時間、覚えてない?」


ずら丸は少し寂しそうに言う。

私が引っ越す前、幼少期にウチウラシティで一緒に過ごした時間のことだろう。


善子「忘れてないわよ……」

花丸「……それとも、善子ちゃんにとって……あの時代は忘れたいものなの?」

善子「べ、別にそういうことじゃ……」


なんか誤解されてる。

私は頭を掻いて──


善子「……カッコ悪かったからよ」


そう言った。


花丸「格好悪かった……?」

善子「私……無知だったから、ポケモンマスターになるとか豪語してたのに……セキレイシティに引っ越して、とんでもなく強いトレーナーに出会って、思い知った」


あの規格外に強い鳥ポケモン使いのお姉さんに出会って、ね。


善子「あんたはいっつも、私の語る夢を楽しそうに聞いててくれたから……なんか、それが子供の妄想だってわかったとき無性に恥ずかしくなって」

花丸「それで、15番水道で再会したとき、嘘の名前を……?」

善子「……今更ポケモンマスターを目指してた時代を知ってるずら丸に会うのが……なんか、恥ずかしかったというか……」
819 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:16:02.49 ID:glPDjztN0

……まあ、別にヨハネは嘘の名前ではないけどね?


花丸「ふ、ふふ……」

善子「って、何で笑うのよ!?」

花丸「善子ちゃん、変なところで見栄っ張りなのも昔から変わってないね」

善子「な、なによ……」

花丸「善子ちゃんは、善子ちゃんだよ。マルにとってそれは変わらない」

善子「…………」

花丸「ホントは優しくて、いろんなポケモンと仲良しな善子ちゃんは今も変わってないよ。ね?」


ずら丸の視線の先で、

 「ワラシ…」「ソル」

いつの間に目を覚ましたのか、ユキワラシとアブソルが擦り寄ってくる。


花丸「ユキワラシもアブソルも、善子ちゃんの優しさに気付いたから、こうして傍に居てくれるずら。それは今も昔もマルが知ってる善子ちゃんの優しさと変わってなかったよ」

善子「……全くあんたには敵わないわね」


再び肩を竦めざるを得なかった。結局取り越し苦労だったということだ。

……ま、今更堕天使をやめるつもりはないけど。

私は横になる。


花丸「善子ちゃん、寝るの?」

善子「……天気がよくなったら、忙しくなるからね。今のうちに休んでおかないと。ずら丸、あんたも」

花丸「……うん、そうだね」


ずら丸もそう言って横になる。

そして、背中に温度を感じる。


善子「……なんで抱きついてくるのよ」

花丸「こっちの方が暖かいずら」

善子「……勝手にしなさい」

花丸「うん、おやすみ。善子ちゃん」


明日に備えて、私たちは眠りに就くのだった。





    *    *    *





──夜が明けた。


理亞「ん……」


体を起こして、辺りを確認すると、ボロ小屋の隙間から太陽の光が差し込んでいた。

どうやら、吹雪は晴れたようだ。

辺りを見回して──ルビィの姿がないことに気付く。
820 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:16:55.49 ID:glPDjztN0

理亞「……しまった!?」


この晴天、ルビィは先に起きて逃げ出したのだと気付き、小屋を飛び出る、と


ルビィ「あ、理亞ちゃん」


ルビィは小屋の外で、待っていた。


理亞「……逃げたのかと思った」

ルビィ「ルビィが逃げたら、理亞ちゃん困るでしょ?」

理亞「……は?」

ルビィ「ルビィね、一晩中考えてたんだけど……」

理亞「何を?」

ルビィ「女王様が理亞ちゃんを助けた理由……。やっぱり、理亞ちゃんは悪い人じゃないんじゃないかなって」

理亞「……は??」

ルビィ「……ルビィはディアンシー様が選んだ人たちを見極める必要があると思うから」

理亞「……なんかよくわかんないけど、逃げないならそれでいい」


私がそのまま歩き出そうとしたとき、


 「そうですね、それは助かります」


声がした。
821 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:18:10.00 ID:glPDjztN0

ルビィ「え……?」


──ドス。鈍い音がした。

直後、ルビィが膝から崩れ落ちる。


理亞「!? ルビィ!?」

 「大丈夫、抵抗されないように、大人しくさせるだけですよ」


崩れ落ちるルビィの体を後ろから支えるのは──


理亞「……聖良、ねえさま」


他の誰でもない、聖良ねえさま。


ルビィ「……聖、良…………?」

聖良「直接会うのは初めましてですね。ルビィさん」

ルビィ「……お姉ちゃん、が言ってた……研究所に……来てた、研究者……さん……なん、で……」

理亞「ねえさま……」

ルビィ「……ねぇ、さま……? ……聖良さんが……理亞ちゃんの……お姉、ちゃん……?」

聖良「理亞、吹雪で連絡が途絶えたときは心配しましたよ」

理亞「ねえさま……ごめんなさい」

聖良「いえ、でもこうしてクロサワの巫女を捕えてきてくれた。お手柄です。ツンベアー」
 「ベア」

聖良「この子を運んでもらってもいいですか?」
 「ベア」

ルビィ「ぅゅ……」


完全に奇襲からの一撃を食らって、ルビィは意識が混濁している様子だった。全く抵抗しない。


理亞「ね、ねえさま……」

聖良「何してるんですか、理亞。行きますよ」

理亞「……はい」

聖良「やっと……私たちの計画の最後のピースが揃ったんですから……」


ねえさまはそう言いながら──笑うのだった。


822 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:19:10.74 ID:glPDjztN0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブマウンテン】
 口================= 口
  ||.  |●●                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.35 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:47匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:88匹 捕まえた数:36匹


 ルビィと 花丸と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/09(木) 23:23:46.94 ID:5oaK45Lt0
乙。めっちゃ面白いから期待してます。
みんな主人公の群像劇は見ててわくわくしますね。
824 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:32:33.46 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter060 『決戦! ヒナギクジム!』 【SIDE Riko】





メブキジカの背に揺られながら、


梨子「やっと着いたね……」
 「ブルル」


やっと辿り着いた。


梨子「ヒナギクシティ……!」


11番道路が開通したお陰でローズシティからも行けるというのは聞いていたけど……。

それでも、思った以上に勾配の激しく、長い道路だったため、時間が掛かってしまった。

先に見える町は、西南北が高い山に囲まれている。

その中でも北の山は、


梨子「道路からもずっと見えてたけど、近付くとすごい迫力だね……」
 「ブルル」


地方最大の山──グレイブマウンテンがその存在感を示していた。

ここも絶景の宝庫だ。

だから、見てみたいところはたくさんあるんだけど……。


梨子「とりあえず、ポケモンセンターかな……」


手持ちを回復させたい。

それに、主目的は他にあるし、


梨子「回復したら、ヒナギクジムに挑戦しに行こう」
 「ブルル」


私はメブキジカを促して、歩き出した。





    *    *    *





──ヒナギクジム。


梨子「……すみませーん!」


ジムの扉を押し開いて入る。

ジムの奥では、一人の女性が立っていた。

恐らくヒナギクジムのジムリーダー、希さんだ。


希「──待ってたよ」


希さんはゆっくりとこちらに視線を向けてくる。
825 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:35:34.17 ID:Q+x1d3Jo0

希さんはゆっくりとこちらに視線を向けてくる。


梨子「ジムに挑戦しに来ました! タマムシシティの梨子です!」

希「来ると思ってたから、ウチの準備は万端やんな。使用ポケモンは4体、相手のポケモンを先に3体、戦闘不能にさせた方が勝ちやからね」

梨子「! は、はい!」


妙にトントン拍子で話が進むな……とは思うけど、話が早いのはそれはそれで助かるから、まあいいか。

私はボールを構えた。


希「ヒナギクジム・ジムリーダー『スピリチュアルラッキーガール』 希。それじゃ、はじめよか」


お互いのボールが宙を舞う、バトル開始だ──。





    *    *    *





梨子「行け! ピジョット!」
 「ピジョットォ!!!!」


私の一番手は、ピジョンが進化した姿、ピジョットだ。


希「ニャオニクス、行くよ」
 「ニャオ」


一方、希さんの初手は白色の猫ポケモン、ニャオニクス。

 『ニャオニクス よくせいポケモン 高さ:0.6m 重さ:28.0kg
  危険が 迫ると 耳を 持ち上げ 10トン トラックを 捻り潰す
  サイコパワーを 解放する。 耳の 内側の 目玉模様から
  サイコパワーを 出すが あまりにも 強力なので 塞いでいる。』


希「ニャオニクス、“サイケこうせん”!」
 「ニャー」


ニャオニクスからエスパーのエネルギーを収束したビームが放たれる。


梨子「ピジョット! 避けながら、“つばさでうつ”!」
 「ピジョッ」


ピジョットは器用にビームを撹乱しながら、ニャオニクスに近付いていく。

ビームを掻い潜るように、旋回しながら、

 「ピジョッ!!!」

攻撃が確定で通る圏内に入った瞬間加速する。

──と思った矢先、


希「“じんつうりき”!」
 「ニャオッ」

 「ピジョッ!?」

見えない力に阻まれて、後ろに撥ね退けられる。
826 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:37:16.34 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「ピジョット!?」

希「そのまま、“サイコショック”!」
 「ニャォー」

梨子「!」


ピジョットの周りに突如、実体化した念波で出来たブロックが襲い掛かってくる。


梨子「“かぜおこし”!」
 「ピジョッ!!!」


体勢を崩しながらも、懸命に風を起こすが、


希「それくらいでサイコパワーの勢いは止まらないよ」


健闘虚しく、攻撃が直撃する。


梨子「ピジョット!!」
 「ピ、ピジョォ!!!」


ダメージを貰って多少フラついたが、幸い致命傷にはなっていない。

この射程差、厄介だな……。

エスパータイプは性質上、目が届く場所なら、かなりの広範囲を自由に攻撃出来る。


希「厄介思うとるね、この射程差」

梨子「……!」


思考が読まれてる。

真姫さんの言っていた通りってことか……。



──────
────
──


真姫「希はね、エスパーなの」

梨子「エスパー……? えっと……スプーンを曲げたりするやつですか?」

真姫「そ。そのエスパーよ。信じがたいけど、本物。特にバトルしてるときのテレパシーは厄介ね」

梨子「思考を読まれるってことですか……? それされたら誰も勝てないような……」

真姫「まあ間違いなく、きつい戦いになるとは思うけど……ただ、そのテレパシーも完璧じゃない。なんでもかんでも事細かに読み取れてたら、希の頭がパンクしちゃうからね」

梨子「……なるほど」


──
────
──────



噂通り、テレパスで簡単な思考くらいなら読めるらしい。なら、長考すればするほど、相手の思う壺だ。

読み取る暇がないくらいのスピードで戦わなきゃ……!


梨子「ピジョット! “こうそくいどう”!!」
 「ピジョッ!!!」


ピジョットが力強く羽ばたき加速する。
827 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:38:02.44 ID:Q+x1d3Jo0

希「なるほど、スピードで畳み掛ける作戦なんやね」
 「ニャオ」


ニャオニクスの目が光る。

何か仕掛けてくるのかもしれない、が。


梨子「“エアスラッシュ”!!」
 「ピジョッ!!!」


考えてる暇はない。

風の刃を繰り出す、

──が、


梨子「!?」


標的にしていた、ニャオニクスが消えた。

いや、

咄嗟にジム内を見回すと、


 「ニャニャ」


ニャオニクスは高速で走り回っている、


梨子「……まさか! “じこあんじ”!?」

希「正解!」


“じこあんじ”は相手の能力変化をコピーする技。“こうそくいどう”が裏目になった。

先ほどの遠距離攻撃とは打って変わって、距離を詰めようとしてくる、

なら防御──!


梨子「ピジョット、“ぼうふ──”」

希「“さきどり”!」
 「ニャォ」

梨子「!?」


ニャオニクスから、巨大な竜巻が発生して、

 「ピジョッ!?」

ピジョットを飲み込む、


梨子「ピ、ピジョット!?」


“さきどり”は相手の技を奪って、より大きな威力で押し付ける技だ。“ぼうふう”を奪われた。

そのままピジョットは、竜巻によって空高く、打ち上げられる。


希「さて、そろそろやな」


空にいるピジョットの近く景色が急に揺らぐ。


梨子「……な!? 今度は何……!!?」

希「仕掛けさせて、もろたよ」


その揺らぎは、そのまま収縮して、ピジョットを押し潰し──
828 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:41:46.17 ID:Q+x1d3Jo0

 「ピ…ジョォッ!!!」

梨子「ピジョット!!」


そして、そのまま弾け飛んだ。高威力の念波攻撃だ。

 「ピジョ…」

気絶したピジョットが、力なく落ちてくる。


梨子「もどれ! ピジョット!」


墜落する前に、ボールに戻す。


梨子「……今のは“みらいよち”……?」

希「ふふ、キミは勘がいいね」


先ほど光った目。あれは“じこあんじ”のモーションで攻撃は終わったものだと勝手に思ってたが、それは私の勘違いを誘うためのフェイク。本当は“みらいよち”で未来に攻撃をしている予兆だったようだ……。

悉く、こっちの行動を逆手に取った技で翻弄してくる。

完全に手のうちを読まれている気分。真姫さんの言った通りだ……この人、強い……。


希「ふふふ」


得意気な顔をする希さん。

でも、それならこっちにも考えがある。


梨子「チェリム! お願い!」
 「チェリ-」


私の二番手はチェリム、


梨子「チェリム! “タネばくだん”!」
 「チェリリ-」


チェリムが自らの体を回転させながら、その勢いでタネを投げつける。


希「ニャオニクス、“サイコキネシス”」
 「ニャゥ」


だが、攻撃はニャオニクスの念動力によって空中で静止してしまう。


希「そんな直接的な攻撃じゃ、届かへんよ?」

梨子「……ですね。……それが、“タネばくだん”ならですけど──」

希「……!?」


直後、タネが弾けて、タネの中から蔓が飛び出す。


希「な!?」


伸びた蔓は、そのままニャオニクスに絡みつく。


希「“やどりぎのタネ”……!?」

梨子「チェリム! “にほんばれ”!」
 「チェリ──チェリリー!!!!」
829 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:43:40.27 ID:Q+x1d3Jo0

相手が怯んだ隙に、天気を晴れに。

チェリムの花が咲き誇り、ポジフォルムに姿を変える。


梨子「“はなびらのまい”!!」
 「チェリー!!!」


そして、フィールド上に咲き誇る花びらたちがニャオニクスを襲う……!


希「“ひかりのかべ”!!」
 「ニャ、ニャォ!!!」


“やどりぎのタネ”にエネルギーを吸われながらも、ニャオニクスは特殊攻撃を遮る壁を作り出す。

対応が早い。


梨子「……これは物理攻撃だけど」


だが、花びらは“ひかりのかべ”を無視して、突き抜けていく。

これは特殊技の“はなびらのまい”じゃない、物理技の“はなふぶき”だ……!


 「ニャニャーー!?!?」
希「っ!! 今度は“はなふぶき”!? ポケモンが、わざとトレーナーの指示と違う技を……!?」


──真姫さん曰く、所謂超直感と言われるものは、五感の延長線上にあるものらしい。

簡単に言うなら、相手が喋っている音を聞くときに、ちゃんとした声になる前の音を聞き取れる、そんなところだ。

飛びぬけた観察力は超常的な力に見える。逆に超能力と言うのも、根本にあるのは飛びぬけた観察力だ。


梨子「チェリム!」

希「──!!」


希さんがバッと耳を塞ぐ。

希さんが仮に、本当に超常的で人智を超えた別のアプローチによるテレパスを使って、思考を読んでいるんだとしても、私の声による指示から受け取っている情報も普通の人より多いんだ。

つまり、私の指示と実際に出してる技が違えば、耳からの情報を出来るだけシャットして、他の方法で心を読む必要が出てくる。


梨子「“ウェザーボール”!!」
 「チェリリー!!!!」


チェリムが、頭上に向かって、丸い球体を打ち出す。


希「“ウェザーボール”……!! いや、これは……あ、あれ? “ウェザーボール”やん!?」


太陽の光に照らされた、“ウェザーボール”は太陽のような火球へと姿を変え、

ニャオニクスに降り注ぐ、


 「ニャ、ニャォー」


身体をやどりぎのツタに絡め取られ自由に動けない、ニャオニクスを火球が直撃する。


希「ニャオニクス……!?」

梨子「“ソーラービーム”!!」
 「チェリリー!!!!」


そして、追い討ちを掛けるように、快晴の空から太陽光線が降り注いだ。
830 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:45:16.90 ID:Q+x1d3Jo0

 「ニャニャーー!?!?!」

希「……っ!!」
 「ニャゥ…」


ニャオニクスは立て続けの攻撃を受けて、後ろにコテンと倒れた。


梨子「……よし!」


ニャオニクス戦闘不能だ。


希「……戻れ、ニャオニクス」


希さんは戦闘不能になったポケモンをボールに戻しながら、


希「……真姫ちゃんの入れ知恵みたいやね」


眉を顰めながら、そう言葉を投げかけてくる。


梨子「ふふ……どうでしょうかね」


私はいじわるめに言葉をぼかした。

まあ、真姫さんとの関係性については喋った覚えがないので、間違いなく思考を読まれたんだと思う。

ただ奇襲作戦には成功だ。

そもそも心を読んでくる相手だとわかっている以上、絡め手を用意せずに挑むわけがない。

チェリムには最初からいくつかの技の指示をしたときに、他の技を出すように打ち合わせをしていたのだ。

もし、希さんがちゃんと思考を読んで来ればその作戦もバレちゃうけど……でも、奇襲くらいにはなる。

言ってることとやってることが違うんだからね。


希「……キミも悪い子やね」


まあ、しかしこんな奇策が使えるのも、付き合いが長いチェリムだからこそだ。

何度も同じ手は通用しない。


希「ウチの対して化かし合いで挑むんはいい度胸やないか。なら、次はこの子や」


希さんがボールを放る。さあ、希さんの2匹目──。





    *    *    *




希「いくで、ヤレユータン」
 「ユータン…」


白い体毛の猿のようなポケモンが飛び出す。


 『ヤレユータン けんじゃポケモン 高さ:1.5m 重さ:76.0kg
  ジャングル奥地の 木の上に 棲む。 非常に 賢いことで
  知られ 未熟な トレーナーは 見下す ベテラン向けの
  ポケモン。 普段は 木の上で 瞑想して 過ごす。』
831 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:47:18.31 ID:Q+x1d3Jo0

ヤレユータン……名前くらいしか聞いたことがない。珍しいポケモンだ。

ただ、この戦闘に関しては手をこまねいていてもしょうがない。


梨子「チェリム! “マジカルリーフ”!」
 「チェリリー!!」


チェリムから飛び出す大量の葉っぱたち、


希「“じんつうりき”!」
 「ユータン…」


ヤレユータンが手に持っている扇子のような葉っぱを振ると、またしても念動力によって攻撃が中空で止められてしまう。


希「これは“はっぱカッター”……ブラフはそこまで思い切ってないんやね」
 「ユータン…」


ヤレユータンが再び手に持っている葉っぱを振るうと、“はっぱカッター”がそのまま返って来る。


梨子「戻ってきた……! “フラワーガード”!」
 「チェリ!」


“はなふぶき”でフィールドを舞っていた、花びらを自分の元に集めて壁を作る。


希「“わるだくみ”」
 「ユユータン…」


その間にヤレユータンは能力を上昇させている。

やっぱり、速度の遅い攻撃じゃ相手の起点にされてしまう。

なら──


梨子「“ソーラービーム”」
 「チェリ…」

梨子「え!?」


“ソーラービーム”のチャージを始める──……ネガフォルムに戻ったチェリムが。

咄嗟に上を向くと、屋根の外では雲がかかり、雨が降り始めていた。


梨子「あ、“あまごい”されてる!?」


普通室内に雨雲を発生させるはずなのに、外に技を出されたせいで気付かなかった。

……不味い。


希「チェリムはチャージで動けなくなってしもたね」

梨子「……くっ」


これは完全に詰みの状態だった。


希「“サイコキネシス”!」
 「ユータン…」


強力な念波がチェリムに襲い掛かる。

 「チェリー…」

為す術もなく、チェリムに攻撃が直撃し、


梨子「戻って、チェリム」
832 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:50:51.35 ID:Q+x1d3Jo0

あえなく、戦闘不能。

──3体目。


梨子「お願い……! メガニウム!!」
 「ガニュー!!!」


飛び出したのは、ベイリーフが進化した姿、メガニウム。

ボールから出ると同時にメガニウムは走り出す。


梨子「メガニウム! “はなふぶき”!!」
 「ガニュゥ〜!!!」


チェリムの残した花びらを継いで、フィールド内を花びらが舞い踊る。


希「“サイコショック”!」
 「ユータン」


ヤレユータンからは物質化した、念波が再び飛んでくる。

ただ、止まっちゃダメだ。“はなふぶき”で相殺しながら、メガニウムは突き進む。

 「ガニュゥー!!」

メガニウムはヤレユータンの数歩手前で踏み切って、跳んだ。


梨子「“のしかかり”!」


シンプルだが、大きな体躯を生かしたプレス技。


希「“テレキネシス”!」

梨子「!」


だが、空中で動きを止められる。


希「さっきとは打って変わって、ストレートな戦い方……緩急で揺さぶるのはいい作戦やね」

 「ガニュゥ…!!!」

希「ただ、もう少し距離を詰めないと、攻め切れなかったね」

梨子「……」


プレス技である以上、空中で止められてしまっては技は不発してしまう。


 「ガニュゥー……!!!!!!」

希「メガニウムも悔しそうやんな」

梨子「……メガニウム!」

 「ガニュゥッ!!!!!」


浮かされたメガニウムは──無理矢理体を前に伸ばす。


希「さすがに空中じゃ……」


徐々に体は空中で前に進む。


希「……!?」


不発でいい。その悔しさをバネにして使う、反撃技の伏線だから。
833 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:51:54.13 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「いけ! メガニウム!!」
 「ガッニュゥ!!!!」


気合いで“テレキネシス”を振り切り、空中からそのまま飛び掛る……!!


梨子「“じだんだ”!!」

 「ガニュッ!!!!!」

 「ユータン…!!!」
希「……!!」


体重を乗せて、思いっきり足で踏みつける。“じだんだ”は直前に技が失敗していると威力を増す技。

ヤレユータンはその威力に、仰け反る。


希「“しっぺがえし”!!」
 「ユータ…!!!」


腕を振るって、メガニウムを引き剥がす、が、


梨子「“つるのムチ”!!」
 「ガニュッ!!!!」


この機会を逃がさない。

“つるのムチ”はヤレユータンの腕と脚に巻きつき、動きをホールドする。


梨子「さっきから、攻撃の際に振ってましたよね、その葉っぱの扇子!」

希「……く」


恐らく、あれがヤレユータンのサイコパワーを高める道具。

あれを振ることによって技の威力を向上させている。

なら、こうして抑え付ければその効果は激減する。

組み合ってしまえば、こっちのものだ、


梨子「メガニウム! “ギガドレイン”!!」
 「ガニュッ!!!!」


つるの触れた部分から、エネルギーを吸い取る。


希「ヤレユータン! “じしん”!!」
 「ユータ…!!!」


ヤレユータンはグラグラと地面を揺すって攻撃してくる。


希「力比べするなら、それはそれや! ヤレユータン、思いっ切り引っ張ってやりや!」
 「ユータン…!!!」


ヤレユータンが引っ張るが、


 「ガニュッ」


メガニウムは地に足を着いたまま、ビクともしない。

まるで根っこでも生えたかのように──いや、


希「“ねをはる”……!」
834 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:52:57.04 ID:Q+x1d3Jo0

文字通り、足の裏からフィールドに根を生やしている。

ちょっとやそっとのことで動くことはない。


梨子「そのまま、吸い取れ!!」
 「ガニュゥ!!!」


組み合ったまま、エネルギーを吸い取りまくり、

 「ユータ…ン…」

最後には全てのエネルギーを吸い尽くされて、

ヤレユータンは大人しくなった。


希「……ヤレユータン戦闘不能やね。戻って」

梨子「……よし!」


一進一退だが、メガニウムは“ねをはる”と“ギガドレイン”で体力を回復しきっている。

3匹目を前に万全の状態だ。


希「さ、行くで……うちの3匹目、フーディ──」


希さんがボール構えた瞬間。

──ジムの外から轟音が響く。


梨子「!?」

希「なんや!?」


そして、ぐらぐらと地が揺れる。

さっきのポケモンの技とは違うタイプの揺れ。


希「ただの地震……やないよね。ちょっとバトル中断してええかな……?」

梨子「! は、はい……!」


何か異常事態が起こっている。

ジム戦をやっているどころじゃないようだ……。





    *    *    *





希さんと二人でジムから飛び出して、視界に飛び込んできたのは、


希「な、なんやこれ……!!」


街中を浮遊する、異常な数のゴーストポケモンたち、そして──


梨子「……な、なに……? あれ……?」


北の山から──巨大な物体が飛び立とうとしている姿だった。


835 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:53:49.84 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *





善子「──な、何!? この音……!!」


大きな音がして飛び起きる。


花丸「ず、ずらぁ……?」

善子「ずら丸、早く起きなさい!!」


隣で寝ていた、ずら丸を叩き起こす。


 「ソルッ!!!」


そんなこんなしてる間にアブソルがほら穴を飛び出す。


善子「あ、ちょっと待ってアブソル……!!」


ずら丸の手を引きながら、追うようにほら穴の外に飛び出す。

外は昨日の吹雪が嘘のように快晴だったが、

その空には──


善子「な、何あれ……!!?」


山の陰から、巨大な飛空挺が今まさに飛び立とうとしているところだった。

 「ソルル…!!!!」

アブソルが威嚇している。


善子「! まさか、あの中にいるの……!?」

 「ソル…!!!」


アブソルは一声あげてから一足先に走り出した。


善子「……ヤミカラス、行くわよ!!」
 「カァー!!!」


私もヤミカラスをボールから出し、その脚に掴まる。


花丸「ま、待って善子ちゃん!! マルも──」


ずら丸もフワライドを出そうとするが、

私はそんな、ずら丸にポケギアを投げつける。


花丸「ずら!?」

善子「ずら丸、あんたは助けを呼んでから、追って来て!」

花丸「善子ちゃんは!?」

善子「私だけでも乗り込めば、図鑑の位置情報で追いかけられるでしょ!? じゃあ、お願いね!」


私はそれだけ残して、飛び出した。


836 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:54:32.04 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *





まあ、そんなのは方便だ。

相手のやっていることの規模が思った以上に大きい。ずら丸を巻き込むのは危険だと判断して、ポケギアを押し付けて飛び出したのだ。

飛空挺を見失わないようにしながら、山肌を目で追うと、


善子「いた……!」


猛スピードで走るアブソルの姿。


善子「ヤミカラス! アブソルにつけて!」
 「カァーー!!!」


ヤミカラスに指示を出し、アブソルに併走する。


善子「アブソル!!」
 「ソルッ!!」

善子「あの飛空挺に行くのよね!?」
 「ソルッ!!!!」


アブソルは力強く頷いた。


善子「空を飛ぶ必要がある! 連れてくから、一緒に行きましょう!!」
 「! ソル!!」


私がダークボールを構えると、アブソルはそこに向かって飛び込んできた。


善子「さぁ、行くわよ……!!」
 「カァー!!!」


飛空挺に乗り込むために、私たちは空を駆り出した。


837 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:55:40.90 ID:Q+x1d3Jo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ヒナギクシティ】【グレイブマウンテン】
 口================= 口
  ||.  |●●                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  ●____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.46 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.44 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.45 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.44 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:13匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:48匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:88匹 捕まえた数:34匹


 梨子と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



838 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:38:37.68 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter061 『潜入! グレイブ団飛空挺!』





──飛び立った善子ちゃんを見送る。

勢いで押し切られてちゃったけど……。


花丸「とにかく、助けを……」


ポケギアをポチポチと弄る。


花丸「……これ、どうやって操作すればいいんだろう……」


どうにかこうにか、何度もボタンを押してみて、

連絡先一覧を開く、


花丸「出来たずら! ……えっと、この中から助けを……」


そこに並んでいる、名前。

 『ママ
  パパ』


花丸「……」


誰に助けを求めろと……?


花丸「……いや、さすがに他にいるはず……」


ポチポチと下にスクロールしていくと──

見知った名前が目に入ってくる。


花丸「ずら!? なんで、善子ちゃんのポケギアに……」


……まあ、それはいい。

とにかく掛けてみよう。


花丸「えい!」


──ツーツーツーツー。


花丸「ずら……?」


繋がらない。


花丸「なんで?? 壊れたずら……??」


画面をじーっと凝視してみて、原因に気付く。


花丸「……ここ、圏外ずら」


これじゃ、そもそも繋がらない。


花丸「う、うーん……一旦下山する……?」
839 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:40:13.01 ID:Q+x1d3Jo0

電波さえあれば……。


花丸「……電波? ……もしかしたら」


マルはあることを思いつく。


花丸「デンリュウ!」
 「リュー」

花丸「電波を飛ばしたり出来るずら?」
 「リュー?」


デンリュウはでんきポケモン。もしかしたら音声を載せた電波を飛ばすだけなら、出来るかもしれない。

 「リュー」

デンリュウは尻尾をポケギアに乗せて、頭のライトをピカピカと光らせる。


花丸「お願い……掛かって……!」


マルは祈りながら、ポケギアのボタンを押し込んだ。





    *    *    *





──ウチウラシティ。


千歌「それでね、必殺の一撃を海未師匠から教わって──」

ダイヤ「ふふ、そうだったのですわね」


私はジム戦を終えて、ダイヤさんにお土産話をしている真っ最中だった。


千歌「その必殺技でセキレイジムは……」

 『──カチャン!!! ──千歌ちゃん!!!』

千歌「……ん?」


なんか聞こえたような……。


ダイヤ「ポケギアが鳴ってるのではないですか?」


ダイヤさんの指摘通り、確かにポケギアを入れたポケットから音がしている。


千歌「……なんだろ?」


ポケギアを取り出すと、


千歌「──善子ちゃん?」


画面表示には善子ちゃんと通話が繋がっている表示。

いつ繋げたんだろう……?

とりあえず耳に当ててみる。
840 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:41:33.13 ID:Q+x1d3Jo0

 『千歌ちゃん! こちら花丸ずら!!』

千歌「……?? 花丸ちゃん??」

ダイヤ「花丸さんから? あの子ポケギア持っていたかしら……?」

花丸『うぅ、これ聞こえてるのかな……』

千歌「花丸ちゃん? もしもし、聞こえてるよ?」

花丸『と、とにかく聞こえてるって仮定で話すずら!』

千歌「……?」


話がかみ合わない。もしかして、こっちの声は聞こえてない?


花丸『グレイブマウンテンの東側から、大きな飛空挺が出てきて!! そこにルビィちゃんが攫われてて、善子ちゃんが助けに──』…ザザザ

千歌「!? え、何!? どういうこと!?」

ダイヤ「……千歌さん?」

千歌「もしもし!! 花丸ちゃん!? もしもし!!」


花丸ちゃんはそれだけ言うと後は──ザザザと言う音がするだけで何も聞き取れなくなってしまった。


千歌「た、大変だ……!!」


私は椅子から立ち上がった。


ダイヤ「何か、あったのですわね?」

千歌「! うん!」


私は口早にダイヤさんへの説明を始めた──。





    *    *    *





花丸「──大きな飛空挺が出てきて!! そこにルビィちゃんが攫われてて、善子ちゃんが助けに行ってて……!!」


電話口に向かって叫ぶ中、

急に背筋がゾッとする。

第六感が急に緊急事態を自分に報せて来るような、そんな感覚。


花丸「な、何……?」


静かな山には──パラパラと言う音だけが……。

パラパラ……? これは何の音?

視線を山の上の方に向けると、小さな雪粒が転がってきている。

そして、その遥か後方からは──


花丸「……嘘」


その光景に思わず、ポケギアを手から滑り落とす。


花丸「……あれ……雪崩、ずら?」
841 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:43:25.33 ID:Q+x1d3Jo0

迫り来る雪の塊。

その光景にマルは唖然として立ち尽くしていた。





    *    *    *





──こちら堕天使。

真っ白な飛空挺はそこまですごいスピードというわけではなく、南東に向かって旋回している真っ最中だ。

しかし、それにしても……。


善子「なんてでかさよ……!!」


豪華客船クラスの大きさの船が空を飛んでいると思ってもらえればわかりやすいだろう。

大きなウイングとボディに大量に取り付けられたプロペラたちが絶えず大きな音を響かせている。


善子「何で山奥になんか逃げてるのかって思ってたけど……こんなの隠すには、山奥しかないわよね」


とにもかくにも……空中で手をこまねいている場合じゃない。


善子「ヤミカラス、とりあえず甲板へ!」
 「カァーー!!!」


私たちは飛空挺目指して、羽ばたく。





    *    *    *





花丸「も、戻ってデンリュウ!! ハヤシガメ!!」
 「ガメッ!!!」


その光景の現実感のなさに、足が止まってしまった。

飛空挺が飛び立つときの振動と轟音で、雪崩が発生したんだ。

我に返ったときにはもう雪崩はすぐ傍で、岩陰を探す暇もなく。


花丸「ハヤシガメ!! “せいちょう”!!」
 「ガメッ!!!!」


マルは“せいちょう”して、僅かに重くなったハヤシガメの体に掴まる。

直後、真っ白な雪崩はマルたちを一気に飲み込む。


花丸「ず、ずらぁ……!!」
 「ガ、ガメェ!!!!」

花丸「ハ、ハヤシガメ、頑張って……!!」
842 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:45:04.98 ID:Q+x1d3Jo0

どうにか踏ん張ってもらうしかない、

マルは必死にハヤシガメの体にしがみつく。

──でも、

 「ガメッ!!?」

雪崩の勢いに押し負けて、ハヤシガメの体が、浮く、


花丸「……っ!!」


南無三……!!

諦めかけた瞬間、ハヤシガメが光った。


花丸「!! 進化!!」

 「──ドダイッ!!!!」


ハヤシガメ、もといドダイトスが超重量級まで増した体重で地面を踏みしめる。

マルはドダイトスの背中の木に必死で掴まる。


花丸「ドダイトス……!! 頑張って!!」
 「ドダイッ!!!!」


ハヤシガメから3倍以上もの体重になった、ドダイトスはビクともしない、これなら……!!

だけど、運命は無情なもので──

──バキリという音と共に、


花丸「ずら!?」
 「ドダイッ!?」


ドダイトスの踏みしめる崖が過重に耐え切れず、崩れ始める。

──浮遊感、そして大量の雪塊が襲ってくる。

ここからは反射だった。せめて、ポケモンは安全なボールの中に……!!

ドダイトスをボールに戻し──。


花丸「ごめん……ルビィちゃん……善子ちゃん……」


マルは為す術なく、雪崩に押し流され──。


 「──ラグラージ!!! ふっとばせ!!! “アームハンマー”!!!!」
  「ラァグ!!!!!」

花丸「──ずら!?」


と思った瞬間、視界を多い尽くす、雪が── 一瞬にして吹き飛び、空が見える。

その空から人影が飛び出してきて、


花丸「な、なんずら!?」


マルを抱きかかえて、走り出す。

素早く、近くの岩陰に潜り込み、

そのまま、抱き寄せられる。
843 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:46:45.19 ID:Q+x1d3Jo0

 「ちょっとの辛抱だから、じっとしててね!」

花丸「……!」


その後、数十秒程そのまま耐えていると……大きな音が鳴り止んだ。


 「大丈夫、マル?」

花丸「ず、ずらぁ……」


その懐かしい声と、この抱擁の感覚。この人は──


花丸「果南ちゃぁん……っ!!」

果南「ふふ、無事みたいだね。よかった」


どうにか、マルは九死に一生を得たようです……。





    *    *    *





──こちら堕天使。甲板に降り立ったところで……。


善子「思ったより、警備は手薄ね……」


……まあ、飛空挺の甲板は風が吹きさらし状態で、気を抜くと吹っ飛ばされる。

だから、人がうろうろしてたらそれはそれで変だけど。


善子「ゲッコウガ」
 「ゲコ」


ゲッコウガを出して、先行させる、


善子「とりあえず、中に入らないとね……」


甲板上で中に続くドアを見つけ、そこまで走る。


善子「……さすがにロックされてるわよね」


……当たり前だが、ドアは開かない。


善子「出来るだけ隠密がいいけど……しゃーなし! ぶった切れ!」
 「ゲコッ!!!」


ゲッコウガは水のクナイで扉を切り裂く、

そのまま、私はドアを蹴破って、中に転がる、


善子「ゲッコウガ!!」
 「ゲコッ!!!」


敵陣に侵入したんだ、のんびり観察してる暇はない。

案の定奥からは──


グレイブ団員「侵入者、侵入者」
844 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:48:15.55 ID:Q+x1d3Jo0

3人ほどの団員がわらわらと寄って来る。

ゲッコウガと共に跳ねて、天井に張り付き、


グレイブ団員「侵入者」


やってきた、団員のうちの一番後ろに居る一人の上に飛び降りる、


グレイブ団員「侵入──」


残り二人の団員が振り返った瞬間、


善子「“かげうち”!!」


入口に残してきた、ゲッコウガの影が、団員達を殴りつけた。


グレイブ団員「…………」


どうにか手早く三人を伸して……。


善子「……やっぱりここのも操られてるのね」


私はそれを確認しながら、


善子「ただ、これではっきりした……この飛空挺は間違いなくグレイブ団の所有物ってことよね」


私は身を隠しながら、飛空挺を進んでいく。





    *    *    *





相変わらず、自我のない団員たちのザル警備のお陰ですいすい進めてはいるのだが……。


善子「さすがに前よりは、警備にウェイトが置かれてるわね……」


姿を見られたら流石に攻撃を仕掛けてくるし、物音だけでも確認にやってくる。

ここまで数人は倒してきたけど……。


善子「この飛空挺、どんだけ広いのよ……!!」


何層にも分かれた内部構造の中で、私はどうやら最上部をうろついているようだ。

どうにか下層に行きたいんだけど……。

敵の目を掻い潜りながら、探索するのはかなり時間が掛かる。

突入してから、どれくらい時間経ったっけ……。

体内時計が狂ってないなら、1時間以上は経過してるはずだ……。


善子「こっちは、さっさとルビィ見つけて、脱出したいのに……!!」

 「──ならさっさと出てってくんない?」

善子「!?」
845 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:49:56.47 ID:Q+x1d3Jo0

──背後から声、

振り下ろされる鎌、


善子「ゲッコウガ!!」
 「ゲコガッ!!!」


私が咄嗟にしゃがむのと同時に、鎌を水のクナイで受け止める、

私はそのまま、滑る様にゲッコウガの背後に身を逃す。


善子「! カブトプス……!!」

 「カブ…!!!」


ゲッコウガと今まさに鍔迫り合いしているのはカブトプスだった。

そして、その背後には、


善子「理亞……!!」

理亞「…………」


ルビィを攫った張本人。


理亞「“きんぞくおん”!!」
 「カブトッ!!!!」


擦れあった、お互いの武器から、耳障りの音が響きだす。


善子「……っ!!」
 「ゲコガッ」


怯んだところに、


理亞「“マッドショット”!!」
 「カブッ!!!」


泥弾を打ち込まれる。


善子「くっ……!!」


不味い、押される。

逃げようと体を動かすが、

──上手く動かない。


善子「何!?」


視線をやると、足に“マッドショット”がこべりついて固まっている。


理亞「……手間掛けさせないで、“アクアジェット”!!」
 「カブッ!!!」

善子「く…………!!」


水流を纏ったカブトプスが飛び出して──来なかった。


理亞「カブトプス……?」
 「トプス…ッ!!!」
846 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:51:40.61 ID:Q+x1d3Jo0

カブトプスは何かに威圧されて、動けないような、そんな様子。

次の瞬間、

声が降って来た。


 「“じょおうのいげん”に平伏しなさい!!」

理亞「!?」

 「アマージョ!! “ふみつけ”!!」
  「マージョッ!!!!」

  「カブッ!!!?」


背後から、降って来る攻撃に対応できずカブトプスは踏みつけられる。

増援……!! 助かった!!


理亞「!! クロサワ・ダイヤ……!!」

ダイヤ「クロサワの入江以来ですわね!! アマージョ、“トロピカルキック”!!」
 「マージョ!!!」


そのままカブトプスを足蹴にして、理亞の方に蹴り飛ばす。


理亞「ち……!! オニゴーリ!! 凍らせろ……!!」
 「ゴォーリ!!!!」


すかさず繰り出されたオニゴーリが一気に辺りを凍てつかせようとするが、


 「させない!! バクフーン!!」
  「バクフー!!!!!」

理亞「何!?」
 「ゴォーリ!!!?」


熱波が冷気を一気に吹き飛ばす。

聞き覚えのある声。この声は──


千歌「善子ちゃん、お待たせ!!」

善子「遅いわよ、千歌……!!」


バクフーンの熱気で、辺りの水分も蒸発し、私の足に纏わりついていた泥も、パラパラと崩れ落ちる。


善子「助かった……」

ダイヤ「これで、形勢逆転ですわね」

理亞「く……」


今度は理亞が半歩、身を引く。

そのとき、理亞が耳にしていたインカムに手を当てる。


理亞「撤退!? ねえさま、でも!」


どうやら引くように言われているようだ。


理亞「……了解」


しぶしぶだったが、理亞はそのまま、身を翻して撤退していった。
847 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:52:42.68 ID:Q+x1d3Jo0

千歌「善子ちゃん、大丈夫!?」

善子「お陰様で……ってか、ヨハネだからね!?」


どうやら、ずら丸が呼んでくれた増援が間に合ったようで……助かった。


ダイヤ「……貴方が善子さんですか」

善子「……な、なに?」


ダイヤと呼ばれた人が私を睨みつけてくる。

……確か、ウチウラジムのジムリーダーよね。


ダイヤ「……貴方には言いたいことは山ほどあるのですが……今はこの状況を打開するのが先ですわね」


そう言いながら、ダイヤは先に進んでいく。


千歌「ここにルビィちゃんが居るって言うのは本当……?」

善子「ええ……。たぶんここの奥で捕まってる」

ダイヤ「なるほど……」

善子「ただ、艦内が広すぎて……どこにいるんだか」


言いながら、腰でカタカタ震えるボールに気付く。

アブソルのボールだ、外に出してあげると、


 「ソルッ」


アブソルは私に一礼したあと、艦艇の奥へと走り出した。


千歌「善子ちゃん、あの子行っちゃうよ?」

善子「……ここまで連れてくるのが目的だったから、いいの」

千歌「? そっか」


とにもかくにも、ルビィの居場所を考えないと。


ダイヤ「……ルビィの図鑑を辿るというのは……」

善子「今ルビィは図鑑を持ってないわ……持ってるのはメレシーだけ」

ダイヤ「メレシー……コランのことですわね。それなら、ボルツ」
 「メレシ…」


ダイヤはボルツと呼ばれるメレシーを繰り出した。


ダイヤ「ボルツ、コランが居る場所、わかりますか?」
 「メレ…」


それだけ聞くと、ボルツとやらはふよふよと艦内を奥へと進み始めた。


ダイヤ「コランと一緒にいるのなら、この子を追いかければルビィの元へと辿り着けるはずですわ」


そう言ってダイヤは歩き出す。


千歌「善子ちゃん、私たちも行こう」

善子「ええ。……あとヨハネだからね?」
848 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:56:05.66 ID:Q+x1d3Jo0

私たちは敵地を更に奥へと進んで行くのだった。





    *    *    *





ダイヤさんと乗り込み、善子ちゃんを助けてから、歩くこと数十分。


ダイヤ「ボルツ、“パワージェム”」
 「メレ」


通路に居る団員さんたちは、ダイヤさんがすれ違い様にすぐ倒してしまう。


善子「……あのダイヤっての、おっかないわね」

千歌「あはは……普段は優しいんだけど」


今回はダイヤさん、相当怒ってるからなぁ……。


善子「まあ……心強いけど」


だいぶ進んできたと思う。

途中階段で下に降りて、一個下の層に着いたあと、再び前進を続け、

そろそろ船首かな、という所で、

ポケモンの影が見える。


ダイヤ「あれは……」

 「ソルッ…!!!」

善子「アブソル……!」

千歌「あの子、アブソルって言うんだ……?」


アブソルは透明な壁のようなものを何度も攻撃している。


善子「アブソル……! この先に行きたいの……?」


壁の向こうは、明りが消えていて真っ暗で先が見えない。


 「メレ…」

ダイヤ「……ボルツもこの先にコランがいると言っていますわ」

千歌「じゃあ、どうにか進まないとね……ごめんくださーい!!」


とりあえず、壁を叩きながら、聞いてみる。


善子「ご近所かっ!?」

ダイヤ「千歌さん……ここは敵地の真っ只中で」


二人が呆れてそう言う中、

急に──部屋の奥側にバッと明りがつく。


千歌「わっ!?」

善子「マジ……?」
849 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:59:15.84 ID:Q+x1d3Jo0

そして、照らされた室内の奥の方から人影が──


 「お待ちしていましたよ」

千歌「……え?」

ダイヤ「……な……」


歩いてきた人物の姿と、声を聞いて、

私とダイヤさんは絶句した。


千歌「嘘……え? え?」

ダイヤ「……貴方が黒幕だったのですね──」


ダイヤさんが鋭く睨みつける。


聖良「お久しぶりです。千歌さん、ダイヤさん」


それは、ダリアシティで出会った研究者のお姉さん──聖良さんだった。





    *    *    *





……待って、え? 聖良さんがルビィちゃんを攫ったってこと……?

予想外のことに頭が追いつかない。

そもそもここはグレイブ団の飛空挺で……。


千歌「ま、待って……! 聖良さん、私がグレイブ団に襲われてるところ、助けてくれたじゃないですか……!?」

聖良「……ああ、確かに追い込まれて出てきたところを助けた風な舞台を用意したことがありましたね」

千歌「……ぶ、舞台……? ……用意……?」

聖良「千歌さんがグレイブ団と敵対しているというのは、コメコの森の一件以来、私の耳にも届いていたんですよ? いろいろ話が聞けそうだったので、手荒なことをしては警戒されると思って、少々演出させてもらいましたけど」

千歌「そんな……」


じゃあ、あれは全部演技……?


ダイヤ「聖良さん……貴方は良い研究者だと関心していましたのに」

聖良「それは光栄ですね」

ダイヤ「ずっと疑問だったのですわ。研究所での異常に手際のよかった襲撃……やっと理解出来ました。貴方は最初から、わたくしたちをルビィから引き離す役割を担っていた……!!」

聖良「鞠莉さんに意見が聞きたかったのは本当ですけどね」

ダイヤ「鞠莉さんとのアポの手違いもルビィたちが研究所に来るタイミングを見計らって仕組んだもの。そして、研究所内での戦闘中、研究所の外にリングマを放ったのも……全て貴方だったのですわね……!! それもこれも、最初から……ルビィを攫うために……!!」

聖良「正確には『クロサワの巫女』を、ですが」

ダイヤ「……! 貴方は一体何をしようとしているのですか……!!」

聖良「まあ、落ち着いてください。どちらにしろ、この壁は壊せませんよ」


……確かに、さっきからアブソルが何度も攻撃しているのに、傷一つ付いていない。
850 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:02:56.73 ID:Q+x1d3Jo0

聖良「“ひかりのかべ”や“リフレクター”を何層にも組み合わせて調整した強化壁です。それくらいで破ることは出来ませんよ」

ダイヤ「……御託はいいですわ。速やかにルビィを解放しなさい」

聖良「まあ、そう焦らないでくださいよ。研究者として褒めていただいたついでに私の研究の成果を披露したいので」

ダイヤ「……は?」

聖良「この世には数多の珠という“どうぐ”が存在します。私は長きに渡って、その珠を製法を研究してきました」

ダイヤ「……製法、ですって?」

聖良「あれだけ大きなエネルギーを蓄えた宝石を拵えるにはどうしたらいいのか……考えた私はあることに注目しました」

千歌「あること……?」

聖良「……ポケモンは種類によっては、蓄えたエネルギーを結晶化させるものがいるということです。メレシーやヤミラミ。馴染みがあるんじゃないですか?」


ヤミラミはメレシーを食べてしまうポケモンだ。確か、食べた宝石が体に浮かび上がるんだっけ……?


聖良「私はまずこの二匹に注目しました。まずヤミラミに同じメレシーを食べ続けるように教育するんです」

ダイヤ「……!! まさか、入江に現われていたヤミラミの変個体は……!!」

聖良「ええ、私が育てて、団員が入江の外に逃がした個体が侵入したものです」

ダイヤ「なんてことを……」

聖良「そして、特定のエネルギーを収集し結晶化させたヤミラミから、宝石を抽出するんです」

善子「は?」
千歌「え?」
ダイヤ「……なんですって?」


三人で揃って、声をあげる。


善子「抽出って……引き剥がすってこと……?」

聖良「ええ、特にメガシンカさせた個体から、抽出するとより上質なエネルギー体を採取することが出来るんですよ」

千歌「う、そ……」


そんなことしたら、ヤミラミは……?


聖良「ですが……この実験は結局うまく行きませんでした。何故だか、宝石の輝きが足りなくてパワーが最大限まで取り出せなかったんです。ただ、成果はありました。確かにこうして作った宝珠には、通常では考えられないようなエネルギーが蓄積されていました」

ダイヤ「…………狂ってますわ」

聖良「次に注目したのは、バネブーとパールル。この二匹のポケモンは共生関係にあります。パールルは生涯に一つ、大きな真珠を作り出します。そして、その真珠はバネブーが拾い、サイコパワーの源となるそうです。そしてそのバネブーが進化すると、黒い真珠となり、更にサイコパワーを収束した結晶となります」

善子「……まさか」

聖良「そのブーピッグから黒真珠を抽出し、それを新しいパールルの真珠の種にしたら……どうなると思いますか?」

千歌「ま、待って……!!」


思わず叫ぶ。


聖良「……なんですか?」

千歌「そんなことしたら……ブーピッグはどうなるの!?」


真珠を無理矢理引き剥がされたブーピッグは……!!


聖良「……そうですね、個体によっては衰弱してしまうものも少なくありませんでした」

千歌「す、少なくありませんでしたって……!!」

聖良「……ですが、世代を重ねるごとに予想通り、とてつもない純度のパワーをひめた真珠になっていきましたよ……!」


興奮気味に語る聖良さんに対して、
851 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:05:21.92 ID:Q+x1d3Jo0

ダイヤ「──いい加減にしなさいっ!!!!」


ダイヤさんが叫んだ──


ダイヤ「貴方は……ポケモンを、ポケモンの命を、なんだと思っているのですか……!!!?」


ダイヤさんは毛を逆立てて激昂していた、見たことないくらいに。


聖良「…………」

ダイヤ「そのくだらない、妄想のために……!! 一体どれほどの命を……!!」

聖良「ふふ……あははははは」

ダイヤ「何が可笑しいのですかっ!!?!?」

聖良「くだらない妄想、ですか……確かに一件滑稽な話に聞こえるかもしれませんが……そうじゃなかったんですよ」

ダイヤ「……何がですか……!?」

聖良「これはくだらないことでも、妄想でもなかった……」

ダイヤ「……だから、何を言って……!」

聖良「──これが、出来上がった“しらたま”です」


聖良さんはポケットから、真っ白い丸い宝石を取り出した。

それは不気味に輝き、脈を打つように光っている。


聖良「そして……来たんですよ」

善子「……来た……?」

聖良「この珠の持ち主が」

ダイヤ「──は?」


次の瞬間、部屋の奥の方で大きな何かが動いた。


千歌「……な、に……あれ……?」

善子「……ポケ……モン……?」


それは、目を開きこちらを見つめている。


聖良「さあ、姿を見せてあげてください」


聖良さんの呼び声に従うように、ズシズシと大きな白い体躯を動かしながら歩いてくる。

肩の関節部に、大きな宝石が不気味に輝いている。


ダイヤ「パル……キア……?」


ダイヤさんが、名を呼んだ。
852 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:07:55.49 ID:Q+x1d3Jo0

聖良「その通りです……!! 純度を上げ続ける実験の最中、ある日空間を引き裂いて、その割れ目から現われたんですよ!! パルキアが!!」

ダイヤ「う、そ……」

聖良「嘘ではないですよ。これが現実です。私の実験は、理論は、間違ってなどいなかった……!!」

ダイヤ「まさ……か……!! まさか、こんな実験にルビィを使おうと考えているのですか……!?」

善子「!!」
千歌「え!?」

聖良「さすが、勘がいいですね。次の宝珠のために、ルビィさんには協力してもらおうと思っています」

ダイヤ「貴方は何を考えているのですか!? そんなことして何になると言うのですか!? やめてください!! 妹を巻き込まないで……!!」


ダイヤさんは今度は顔を真っ青にして、目の前の透明な壁を叩く。


聖良「……それは乗れない相談ですね」

ダイヤ「……っ!!!」

聖良「……ネタばらしはここまでにしましょうか、少し話しすぎてしまいましたね」

ダイヤ「……ルビィを!! ルビィを解放してください!!」

聖良「……私が得たパルキアの力……御覧に入れて差しあげますよ」


聖良さんがそう言うと、パルキアは腕を振り上げる。


善子「……!! なんかやってくる!?」

ダイヤ「ルビィ!! ルビィ!!? 聞こえますか!? 今すぐわたくしたちと逃げましょう!! ルビィ!!!」

善子「ダイヤ!! ここヤバイわよ!!」

ダイヤ「ですが、ルビィが……!!」

聖良「──“あくうせつだん”!!」

 「バァァーーーーール!!!!!!!」


パルキアが腕を振り下ろした。


善子「!! あーもう!!」

ダイヤ「!!」


善子ちゃんが咄嗟にダイヤさんに抱きついて押し倒す。

さっきまでダイヤさんが居た場所は──

アブソルの攻撃ではびくともしなかった強化壁を真っ二つに切り裂き、それどころか何層も下まで床ごと切り裂いて、切れ目の先に数階下の断面が見える状態になっていた。


善子「で、でたらめな威力……冗談じゃないわよ……!!」

ダイヤ「る、ルビィ!!」

善子「あんなのいくらジムリーダーでも無策で勝てるわけないでしょ!? 逃げるわよ!? アブソルも!!」
 「ソルッ」

ダイヤ「ですが……!!」

聖良「“あくうせつだん”!!」

 「バァァァルッ!!!!!!!」

善子「あぶなっ!!」

ダイヤ「!!」
853 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:10:20.44 ID:Q+x1d3Jo0

今度は横薙ぎに切り裂かれ、再び善子ちゃんが押し倒す形で二人共伏せて、ギリギリかわす。

船体に穴が空き、切り裂かれた壁面の先に、空が見える。


善子「しめた……!! アブソル、一旦ボールに!!」
 「ソル」

善子「逃げるわよ、千歌!!」

千歌「!! う、うん!!」

ダイヤ「ま、待って……!!」

善子「いいから、大人しくしなさい……!! 千歌、先行くわよ!!」

ダイヤ「ルビィ!! ルビィィィィィ!!!!」


善子ちゃんは、ダイヤさんごと無理矢理押し出すように、外へと飛び出す。

私もそれを追って外に続く穴に向かって走り出す。

このまま戦っても勝ち目がないのは私にもわかる。

でも……。

外への切れ目に手を掛けたところで、


千歌「……聖良さん」


私は確認したいことがあって、聖良さんに言葉をぶつけた。


聖良「……なんですか?」

千歌「……これが、本当に聖良さんが望んだものなんですか?」

聖良「…………」


私の言葉に聖良さんは逡巡したが、


聖良「……ええ、そうですよ」


聖良さんはそう答えた。


千歌「……そう、ですか……」


私はそれだけ確認してから、逃げるために、二人を追って空へと飛び出したのだった──。


854 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:12:39.21 ID:Q+x1d3Jo0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブマウンテン】【飛空挺セイントスノウ】
 口================= 口
  ||.  |●⊃  ●              _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.49  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.48 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.45 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.46 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:134匹 捕まえた数:13匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.46 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.44 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.43 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:116匹 捕まえた数:48匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.32 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:89匹 捕まえた数:36匹


 千歌と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



855 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:38:27.08 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter062 『作戦会議』





──セキレイシティ。


ことり「モクロー!!」
 「ホー」「ホホー」「ホホホー」「ホーホホー」「ホホホホー」

ことり「“リーフブレード”!!」
 「「「「「ホホホー!!!!」」」」」


弾丸のように飛び出す5匹のモクローたちが、辺りのゴーストポケモンを次々蹴散らして行く。


曜「さすがことりさん……!」

ことり「あ、ごめん! 曜ちゃん、そっちに流れちゃった!!」

曜「ガッテン……!! カメックス! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメー!!!!」


ことりさんの打ち漏らしは私が、仕留める。

この布陣で街中のゴーストポケモンを倒して回っている真っ最中だった。

……とはいえ、結構な時間これを繰り返している。


ことり「はぁ……はー……次から次へと出てくるとは言え……ちょっとは数も減ってきたかな……?」

曜「ことりさん、大丈夫……?」


ことりさんは一度に5匹も同時に指示している。

それに街の人の避難誘導もしてるし……負担が大きいようだ。


ことり「あはは、ごめんね。大丈夫だから……」


苦笑いする、ことりさん。そのとき──


曜「ことりさん!? 後ろ!!」

ことり「え!?」

 「ゴースト!!!!」

曜「“ハイドロポンプ”!!」
 「ガメー!!!!」


突然現われた、ゴーストをカメックスが水砲で打ち抜く。


ことり「あ、ありがと、曜ちゃん……」


お礼もほどほどに、


 「ゴースト…」「サマヨー」「ケケケケ…」

曜「ゴースト、サマヨール、ジュペッタ……!!」


新手が出てきた……。


ことり「……くっ」
856 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:41:22.55 ID:Q+x1d3Jo0

いくらことりさんが強いと言っても、街の人を守りながらのこの連戦はさすがに堪えるようだ。

 「ゴスト!!!」「サマヨ」「ジュペッ」

ゴーストポケモンたちが飛び掛ってくる──


 「キングドラ!! “うずしお”!!」
  「グドラッ!!!!」

  「ゴスス!?!?」「サマヨー」「ジュペェッ」


曜「!?」
ことり「な、なに……?」


私たちの周りに急に水流が現われ、辺りのゴーストポケモンを一気に押し流して行く。

──いや、この声はもしかして……!!


果南「曜! 無事!?」

曜「果南ちゃん!!」


上空を見ると、果南ちゃんがフワライドにぶら下がって、こちらに降りてきているところだった。


花丸「曜ちゃーん!」

曜「花丸ちゃんも!」

ことり「果南ちゃん……ありがとー」

果南「ことりさん、大丈夫……? ふらふらだけど……」

ことり「あはは、ちょっと疲れただけだから……少し休めば大丈夫」

果南「じゃ、ちょっと休んでて。この辺りのは、まとめて伸してくるから」


そう言って果南ちゃんは、辺りのゴーストポケモンを抑えに走り出す。


花丸「さ、さすがの体力ずら……」


果南ちゃんに任せておけば一先ずは大丈夫、かな……?


曜「ことりさん、一旦ポケモンセンターに……」

ことり「う、うん……」





    *    *    *





ポケモンセンターで回復をして。

補給の為の軽い食事を取る。


ことり「ふぅ……」

曜「やっと落ち着いたね……」


果南ちゃんがこの辺りのゴーストポケモンは一通り倒しきって、ひとまず街は落ち着きつつあった。

絶えず僅かに新手が沸いているようだけど……。今はどうにか街の人たちでも対応しきれるレベルのようだ。
857 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:43:43.29 ID:Q+x1d3Jo0

果南「にしても……オトノキ地方中、大騒ぎだね……」

花丸「やっぱりこれもグレイブ団が……」

曜「グレイブ団……?」

花丸「あ、えっとね……今、北の方の空に……」


花丸ちゃんが窓から北の方の空を指差すと、


花丸「ずら……? あれって……?」

果南「ん?」

曜「え?」


──何かが、こっちに向かって飛んできている。

ヤミカラスにぶら下がった女の子と……あれはムクホーク?


花丸「善子ちゃーん!!」


花丸ちゃんがポケモンセンターを飛び出す。


曜「あ、待って! 花丸ちゃん!」


外に出て、改めて見て、気付く。


曜「あれ、千歌ちゃんのムクホーク! 千歌ちゃーん!!」


私は大きく手を振った。





    *    *    *





ダイヤ「ルビィ……」

千歌「ダイヤさん……」

善子「……」


飛空挺からの逃走後、ダイヤさんは最初は自分のオドリドリに掴まっていたんだけど……あまりに危なっかしかったので、今は私のムクホークに相乗りしてもらっている。


 花丸「善子ちゃーん!!!」

 曜「千歌ちゃーん!!!」


どうにか辿り着いた、セキレイシティには花丸ちゃんと曜ちゃんが待っていた。


千歌「花丸ちゃん、ここにいたね。善子ちゃんの言う通りだ」

善子「合流するなら、東西南北に道があるこの街が一番だからね……ずら丸ならそうするかなって」

千歌「うん。ムクホーク降りて」
 「ピィィ」

善子「ヤミカラス、私たちも」
 「カァー」


858 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:44:55.14 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *





花丸「善子ちゃーん!!!」


地面に降り立つや否や、花丸ちゃんが善子ちゃんに飛びつく。


善子「だー!! 抱きついて来るな、鬱陶しい!!」

花丸「無事でよかったずら……」

曜「千歌ちゃんに……ダイヤさん?」

千歌「……」

ダイヤ「曜……さん……」

曜「!? ダイヤさん、大丈夫!? 顔真っ青だよ!?」

ダイヤ「……わたくし」


ダイヤさんは今にも消えてしまいそうな声を出す。


 「はぁ……何辛気臭い声出してんのさ」

千歌「……? この声……果南ちゃん?」

果南「や、千歌。久しぶり」

千歌「う、うん」


まさか、果南ちゃんまでいるとは思わなかった。


果南「それより、ダイヤ……しっかりしなよ」

ダイヤ「……ルビィが」

果南「……なんとなくの事情はマルから聞いた。こうして戻ってきて、ルビィが居ないってことは助けられなかったんだね」

ダイヤ「…………」

果南「ダイヤ、顔をあげなよ」

千歌「か、果南ちゃん……! 今はそっとしておいてあげた方が……」

果南「いいから」


果南ちゃんは私の制止を、制止した。


ダイヤ「…………」

果南「ダイヤ、そんな顔してても事態は好転しないよ」

ダイヤ「果南さん……」

果南「ルビィが心配なのはわかる。よく知ってる。だけど、ダイヤは何をしてる人?」

ダイヤ「……ジムリーダーで……教師ですわ」

果南「だよね。これから、解決に向けて多くの人間が動かなくちゃいけない事態が起こってる、そんな中でジムリーダーは、先生は、中心になって動くことになるでしょ?」

ダイヤ「……はい」

果南「ダイヤがそんな顔してたら、全体の士気が下がる。そしたら、どんどんルビィを助けるチャンスは減っていく……。辛いと思うけど、今下を向いちゃダメだよ」

ダイヤ「…………」


ダイヤさんは少し沈黙したあと、
859 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:47:03.05 ID:Q+x1d3Jo0

ダイヤ「……果南さんの言う通りですわ。すみません、少し自分を見失っていました」


声にいつもの調子が戻ってきた。


千歌「果南ちゃん、すごい……」

果南「ま、ダイヤとは付き合い長いからね」

曜「それより、ルビィちゃんのことって……?」

千歌「あ、うん、説明する」


私は曜ちゃんに事態の説明を始めた。





    *    *    *





善子「……さて、出てきてアブソル」

花丸「ずら?」


私はアブソルを外へ出す。


 「ソル」

善子「ごめんね、アブソル。結局、飛空挺からは逃げることになっちゃったけど……」
 「ソル」

善子「ここからはまた、自由に貴方の目的を追いかけていいから」

花丸「ずら!? 善子ちゃん、アブソル逃がしちゃうの?」

善子「そりゃまあ……今回は目的が一致したから、一時的に捕獲してただけだしね」


アブソルを縛っておく権利は私にはない。

だけど──

 「ソル」

アブソルは私の前で、体を伏せる。


善子「アブソル……?」


そして、毛づくろいをするように、首を曲げて自分の体毛の中の何かを探すような素振りを見せた後、

──そこから何かを咥えて、差し出してくる。


善子「何……?」


私はそれを手の平で受け取る。

小さな、宝石のような珠……。
860 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:50:40.63 ID:Q+x1d3Jo0

善子「これって……」

花丸「メガストーンずら……」

善子「メガ、ストーン……」

花丸「アブソルはもしかして……ずっと一緒に戦ってくれる仲間を探してたんじゃないかな」

善子「アブソル……そうなの?」
 「…ソル」

花丸「そのメガストーン──アブソルナイトはアブソルのパワーを最大限まで引き出すアイテムずら。きっと、善子ちゃんのことを認めてくれたんだよ」

善子「……アブソル、一緒に来る?」
 「ソル」


アブソルは私の問いに頷いた。


善子「わかった……一緒に戦いましょう……!」


こうして私は長い間追ってきたアブソルと、ついに理解し合い、仲間になったのだった。





    *    *    *





さて……あれからしばらくして、ダイヤさんとことりさんのポケギアに連絡が入りました。

相手は海未師匠。


ダイヤ「……緊急招集ですわ。手の空いているジムリーダーはセキレイに集合するようにとのことですが……」

ことり「たぶん、どの町も今はゴーストポケモンが発生してて大変なことになってると思う……」

果南「ホシゾラは山越えないとだし、コメコもちょっと遠いよね。ダリアは人口の割にトレーナーの数が少ないから、それどころじゃなさそうだし……」

ダイヤ「クロユリとヒナギクは論外ですわね……すぐに来るには遠すぎますわ」

ことり「そうなると、あとはローズから真姫ちゃんが来るくらいかな」

果南「お、噂をすれば……」


果南ちゃんの言葉に一行が北の空を見ると、

メタグロスに乗ったまま飛んで来る真姫さんの姿。


ことり「あ……海未ちゃんも来たみたい」


そして、北東の方角から、カモネギに掴まって飛んでいる海未師匠の姿が見える。

──程なくして、二人が降り立つ、


真姫「緊急招集なんていつ以来かしら……」

海未「お待たせしました。……とは言っても、やはり集まりきりませんね」


二人が周りを見て、感想を漏らす。


千歌「師匠……!」

海未「千歌、久しぶりですね」

千歌「今、この地方に何が起こってるんですか……?」

海未「それを整理するために集まったんですよ。千歌、貴方からも話を聞かせてもらえますか?」

千歌「はい! もちろん!」
861 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:52:21.75 ID:Q+x1d3Jo0

私は力強く頷く。


ダイヤ「……本当に海未さんと師弟関係に」

果南「あははダイヤ、生徒取られたからって、妬かない妬かない」

ダイヤ「そ、そんなんじゃありませんわ!!」


海未「あともう一人呼んでいるのですが……」

真姫「もう一人?」


海未師匠は南の空を見ている。


曜「あ! あれじゃないかな?」


南の空から、ハチのようなポケモンのシルエットが見える。


曜「あれ、ビークインかな?」


その姿が目視出来た途端、


──pipipipipipipi!!!!!
果南「ん?」

──pipipipipipipi!!!!!
ダイヤ「あら?」


果南ちゃんとダイヤさんの方から音がする。


千歌「これって……」

曜「もしかして」

善子「図鑑の共鳴音?」

花丸「ずら?」


ダイヤ「ということは……」

果南「海未が呼んだのは」


 「よっ!!」


上空のビークインから、金髪の女性が飛び降りてくる。


鞠莉「Hello, everybody ! お待たせ!」

果南「鞠莉!」
ダイヤ「鞠莉さん!」

鞠莉「図鑑が鳴ってるから、いるってわかってたけど……久しぶりだネ、果南」

果南「鞠莉……うん、久しぶり」

海未「さて……人は揃いましたね」


海未師匠が皆を見回す。

海未師匠、ことりさん、真姫さん、ダイヤさん、鞠莉さん、果南ちゃん、曜ちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃん、そして私。


海未「緊急招集したのは他でもありません。今オトノキ地方に起きている異変についてです」


師匠はそう前置いて話し始める。
862 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:55:26.68 ID:Q+x1d3Jo0

海未「現在、地方全体でゴーストポケモンが大量発生しています。街にも侵入してきていて……各地でジムリーダーを中心に対応しているところです」

ダイヤ「ウチウラシティでは臨時で母──琥珀が指揮を取っているそうですわ」

海未「その他、フソウタウンは被害こそ少ないみたいですが、コンテストクイーンのあんじゅさんを中心に対応をしているそうです」

ことり「ジムリーダーのいない町は?」

海未「四天王の方でどうにか割り振っています。いくつかの町を掛け持ち状態なので、長く続くと少し困りますが……。そして、これと同時に今現在ローズの北辺りに、巨大な飛空挺が出現しています。これについて……」

千歌「はい! はい! さっき、チカが乗り込んできたところ!」

海未「……コホン。……ダイヤ、貴方がこの事態を一番詳しく説明出来ると思うのですが、お願いできますか?」

ダイヤ「ええ、わかりました」


ダイヤさんは海未さんに促されて、話を始める。


ダイヤ「……あの飛空挺はグレイブ団と言う組織が動かしています。その首領、カヅノ・聖良によって」

鞠莉「……なんですって?」


ダイヤさんの言葉に鞠莉さんが目を見開いて驚く。


真姫「聖良……ダリアの研究者だったかしら」

ダイヤ「聖良さんは……周到に準備をしていたようです。そして、彼女はある伝説のポケモンを呼び出すのに、成功してしまったようなのですわ」

果南「伝説のポケモン……?」

善子「パルキアよ」

海未「パルキア……それは本当ですか?」


海未師匠がやっとこっちに目配せしてくる。


千歌「うん、ホントだよ! この目で見てきた」


私は近くで見た証拠として、図鑑の登録データを開く。

 『パルキア くうかんポケモン 高さ:4.2m 重さ:336.0kg
  並行して 並ぶ 空間の 狭間に 住むと 言われている
  伝説の ポケモン。 空間の 繋がりを 自在に 操ることで
  遠くの 場所や 異空間を 自由に 行き来することが 出来る。』


ダイヤ「今でも嘘だと思いたいのですが……元気なポケモンからエネルギー体を無理矢理取り出して材料にし、人為的に“しらたま”を精製し、成功したようなのです」

鞠莉「そ、そんな……あの聖良が……?」

ダイヤ「それだけでは飽き足らず……次の宝珠も作ろうとしています。恐らく、“こんごうだま”かと思われます」

真姫「“こんごうだま”ってことは……ディアルガ?」

千歌「ディアルガ……?」


新しく出てきた名前に私は首を捻る。


花丸「ディアルガは時を司る伝説のポケモンずら。パルキアとは対になるポケモンだね」


それを物知りな花丸ちゃんが補足してくれる。
863 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:59:48.63 ID:Q+x1d3Jo0

ことり「どうして、“こんごうだま”だってわかるの?」

ダイヤ「以前失敗したと言っていた、製法の一つに使われていたポケモン。それに心当たりがありまして……恐らくダイヤモンドタイプのメレシーを大量に捕食させたヤミラミですわ」

真姫「失敗したんだったら、大丈夫なんじゃないの?」

ダイヤ「いえ……その失敗作の足りなかったピースを……彼女は手に入れてしまった」

善子「……ルビィね」

ダイヤ「そうです。わたくしの妹ルビィです」

海未「どういうことですか?」


海未師匠がダイヤさんと善子ちゃんの言葉に怪訝な顔をする。


ダイヤ「代々、わたくしたちクロサワの家の女性は、クロサワの巫女と呼ばれる役職を与えられるのですが……その中でも、巫女の血をより濃く引き継いだ子は、ある力に目覚めることがあるのです」

ことり「ある力?」

ダイヤ「……宝石の本来の輝きを取り戻す力」

曜「……? 本来の輝きを取り戻す……?」

ダイヤ「詳しくは説明が難しいのですが……。宝石の持っている本来の力を引き出す、そういう能力だと思っていただいて差し支えないと思いますわ」

海未「……ふむ」


海未師匠は一度相槌を打ってから、話を纏める。


海未「つまり、ダイヤの妹御であるルビィの巫女の力を使うことによって、失敗作だった宝珠を改めて“こんごうだま”として覚醒させる……そういうことですね?」

ダイヤ「はい、そういうことですわ」

鞠莉「……しっかし、ディアルガにパルキア……まるでシンオウの異変の焼き直しでもしようって言うのかしら……」

海未「……確かに鞠莉の言う通り解せませんね。仮にパルキアをその手に収め、ディアルガも呼び出そうとしているにしても、目的はなんなのでしょうか? それこそ、シンオウのギンガ団のようなことを……?」

善子「くっくっく……圧倒的な力による世界征服──」

花丸「……やめるずら」

真姫「……どっちにしろ、それだけだと説明出来てないことがまだあるわ」

ことり「説明出来てないこと?」


真姫さんの言葉に、ことりさんを始め一同が疑問を浮かべる。


真姫「そもそも、この異変ディアルガとパルキアだけじゃないでしょ? あちこちでもっと多くの異常の報告があったはずよ」

果南「スタービーチでのヒドイデ大量発生とかね」

千歌「あ! オトノキのオンバーンもだ!」

花丸「13番水道に不自然に出現したブルンゲル……」

真姫「そして、地方全体に出現しているゴーストポケモン……これら全部に合理的な説明が出来てないと、目的を決め付けるには早計だと思うわ」

海未「確かに……」


真姫さんの話を聞いて、再び思案を始める海未師匠。


花丸「そういえば、グレイブ団は宝石を集めてるって聞いたずら。“しらたま”や“こんごうだま”みたいに他の宝珠も作れないか、実験してたんじゃないかな」


そんな中、花丸ちゃんがそう意見する。


鞠莉「……わたしも花丸の意見に同意ね。宝石はそもそも不思議なエネルギーを持っているって信じられてたり、信仰の対象だったりするから、いろんな伝説のポケモンに密接だし……最終的に“しらたま”、“こんごうだま”に至ったってだけで、他の宝石や鉱物の採取もずっとしてたんじゃないかしら」

曜「じゃあ、あのドヒドイデはサニーゴの頭の珊瑚を集めて……珊瑚も宝石だから、たくさん珊瑚を食べたドヒドイデからも何かを抽出するつもりだったとか……」

千歌「そういえば、コメコの森で戦ったグレイブ団員もメテノじゃなくて、“ほしのかけら”に用があるって言ってたかも……」

花丸「ブルンゲルに関してはルビィちゃんを狙ってたってことで間違いなさそうだよね……」
864 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:01:56.91 ID:Q+x1d3Jo0

確かにこうして纏めてみると、グレイブ団のやってることにはある程度の一貫性がある気はする。


真姫「……じゃあ、それらはいいとしても、ゴーストタイプが大量発生してるのはなんで?」


ただ、真姫さんが言う通り、ゴーストタイプを大量発生させてるのもグレイブ団の仕業だとしたら、その目的がよくわからない気がする。


ことり「グレイブ団が、人為的に繁殖させた個体を逃がしてるか……なんらかの方法で呼び出して、町を襲うように指示してるんだとは思うけど……」

海未「確かに、ここまでの話と関連付けるには、少し一貫性がないですね……」

善子「くっくっく……この世界を恐怖の闇に落とし込むために──」

花丸「やめるずら」

ダイヤ「確かにそこの目的はまだわかりませんが……ただ、彼女たちが最終的に向かおうとしている場所はなんとなくわかりますわ」


──向かおうとしている場所。

ダイヤさんの言葉を受けて、鞠莉さんが、


鞠莉「……クロサワの入江ね」


そう結論を出す。


ダイヤ「はい」

海未「襲撃を受けた入江ですね……確かに宝石との関連性も高い」

ダイヤ「現在の飛空挺の進路の延長線上でもありますし、間違いないと思いますわ」

海未「……なるほど」


海未さんは一通り話を聞き終えて、少し考えたあと、


海未「これから私たちがやるべきことは3つです」


指を3本立てる。


海未「1つ目は地方全体の戦えない人たちをゴーストポケモンから守ること。特に子供は攫われる危険もあります。これは各地のジムリーダーが担当した方がいいでしょう」

真姫「そうね」

海未「2つ目は伝説のポケモンを止めることです。目的はわかりませんが、グレイブ団の首領・聖良が呼び出した以上、彼女は確実にそのポケモンを使うでしょう。それを止める人員が必要です」

果南「それは私が行くよ」

海未「はい、私も果南にはお願いするつもりでした。それと……ダイヤ、貴方にもお願いしたいのですが」

ダイヤ「……!」

海未「クロサワの入江で何かをしようとしているなら、地形や土地に詳しい人間が居た方いい。その分手薄になる町の防衛は四天王の方でも協力しますので」

ダイヤ「わかりました……! 必ず、討ち取ってみせますわ」

鞠莉「二人が行くなら……わたしも行くわ」

ダイヤ「! 鞠莉さん……!」

鞠莉「ただ、戦って倒すだけじゃ、もし復活したときに困る……捕獲を視野に入れて3人で戦う」

果南「捕獲……って言っても、もう聖良のポケモン扱いなんじゃない? 捕獲出来るの?」


捕獲されているポケモンは、ボールに紐付けされてしまうため、捕獲したときのボールにしか入らなくなってしまう。

果南ちゃんの当たり前のような懸念に対して、鞠莉さんは、


鞠莉「出来るわ」


即答した。
865 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:04:20.79 ID:Q+x1d3Jo0

真姫「……あれ使うのね」

鞠莉「Yes. ……本当はこんな形で使いたかったわけじゃなかったんだけどね」


鞠莉さんはそう言って、背負っていたリュックから、箱を取り出した。


千歌「……あ、それ! 私が届けた道具だ……!」

鞠莉「ええ」


鞠莉さんはその箱を開封する。中にあったのは──


善子「なにこれ……ガード?」


中にあったのは腕当てのような機械だった。


真姫「それは、スナッチマシーンよ」

千歌「スナッチマシーン……?」

鞠莉「本来他人のポケモンは捕まえることが出来ない……だけど、この装置があればそれを可能に出来る」

曜「人のポケモンを盗るのは泥棒なんじゃ……」

鞠莉「ええ、元はそういう集団が悪事に使っていたものよ」

千歌「…………」


ここに来て、どうして鞠莉さんや真姫さんがこれがなんなのかを教えてくれなかったのかがわかる。


真姫「……今回はそれで世界を救う、皮肉な話ね」

千歌「そうじゃないと思います」

真姫「?」

千歌「誰かのために道具を正しく使う、そういうチャンスなんだと思います」

鞠莉「千歌っち……ええ、そうよ。これで、パルキアを捕獲する」

真姫「……なるほどね、まあそうなるだろうと思って、持ってきたわよ」


真姫さんはそう言って、鞠莉さんにボールを一個手渡す。

紫色のそのボールは──


花丸「ま、マスターボールずら!?」


マスターボール……花丸ちゃんに前に教えてもらったことがある。

全てのポケモンを捕獲することが出来る、最高の性能のボールだ。


真姫「急だったから一個しか手に入らなかったけど……無駄にしないでね」

鞠莉「真姫さん……ええ、確実に捕獲に使わせて貰うわ」

海未「話はまとまったみたいですね。……それでは、3つ目ですが。ダイヤの妹、ルビィの救出です。今現在、もっとも未知数なのはクロサワの巫女の力……ルビィの救出は、これはこれで急務になると思います」

真姫「……もし、巫女の力でいくらでも宝珠を量産できるなんてことになったら、手に負えないしね」

海未「はい。そして、その人員ですが──」

千歌「──私が行きます!」


私は、海未師匠を真っ直ぐ見つめて、手をあげた。
866 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:05:44.83 ID:Q+x1d3Jo0

海未「……危険ですよ?」

千歌「わかってます……でも、私じっとしてられない。何か手伝わせてください!」

海未「……理由はそれだけですか?」

千歌「それだけじゃない……ルビィちゃんも心配だし、それに……」

海未「それに?」

千歌「……私は……私が聖良さんを止めないといけない気がするんです」

海未「どうしてそう想うのですか?」


聖良さんと、ダリアシティで出会って、話したときのことを思い出す。


千歌「私、あの人の夢の話を聞いたんです。真っ直ぐな夢を、想いを、気持ちを……もしかしたら全部嘘だったのかもしれないけど……でも、私は今でもそれが全部嘘だったとは思えない。聖良さんは、大きな力を手に入れて、それを見失ってるんじゃないかって……」

海未「……千歌なりに想うことがあるんですね」

千歌「はい……だから、解決のために何か手伝わせてください……!」

海未「わかりました、ルビィの奪還作戦は千歌にお願いしましょう。ただし、必要以上に聖良に執着しないように、あくまで貴方の任務はルビィの奪還です。いいですか?」

千歌「はい!」


力強く返事をする私に、


善子「はぁ……全く骨が折れそうね」


善子ちゃんが肩を竦めながら近付いてくる。


千歌「善子ちゃん?」

善子「今更、ついてくるなとか言わないでしょ? 乗りかかった船だし、私は行くわよ」

千歌「! うん!」


頼もしい仲間の申し出、更に──


曜「千歌ちゃん、私も協力するよ!」

千歌「曜ちゃん……!!」


曜ちゃんと、


花丸「ルビィちゃんを助けるなら……マルも行くずら」

千歌「花丸ちゃん! うん!」


花丸ちゃんも。

これで仲間は4人、ルビィちゃんを助けに──


 「その話、ちょっと待ってくれへん?」


そのとき、急に辺りに声が響く。

それと同時に、


──pipipipipipipi!!!!!!
千歌「わ!?」

──pipipipipipipi!!!!!!
曜「む……」
867 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:07:53.51 ID:Q+x1d3Jo0

今度は私と曜ちゃんの図鑑が鳴り出す。

次の瞬間──

空の何もない空間から、


 「とう」


人が飛び出してきた。

紫の髪を左右でお下げにしている女性。


海未「希……!!」


海未師匠は彼女を見て名を呼ぶ。希さんというらしい。

そして、その人に手を引かれて、


梨子「きゃああああ!?」


梨子ちゃんが飛び出してきた、


千歌「梨子ちゃん!?」

梨子「び、びっくりした……千歌ちゃん、久しぶり」


梨子ちゃんがよろよろと立ち上がりながら、私に向かって手を振る。


海未「……それで希、待てとはどういうことですか?」

希「どうもこうもないんやない? 海未ちゃんは一般トレーナーを敵地の中心部に送り込むつもりなん?」


希さんはそういいながら渋い顔を海未師匠に向ける。


海未「……千歌は私が認めた優秀なトレーナーです。問題ないと判断しました」

ことり「うん! 曜ちゃんもことりが鍛えたから、戦えるよ!」

希「そういう話をしてるんやない。一歩間違ったら命に関わる規模のことなんよ? ウチは任せるべきではないと思う」


庇ってくれる二人の師匠の意見を切り捨てるように、希さんが私たちの作戦参加への反論をする。


千歌「そ、そんなぁ!!」

梨子「待ってください、希さん……!」


そんな希さんに異論を唱えたのは、梨子ちゃんだった。


希「?」

梨子「危険なのは皆、重々承知だと思います……でも自分の生まれ育った地方の危機に、じっとしてなんか居られないと思います」

希「……自分も連れてって欲しい言うから、何事かと思ったら……キミも戦うつもりなんやね」

梨子「はい……!」

千歌「梨子ちゃん……!」


そしてその意見を後押しするように、


真姫「……梨子の言う通り、気持ちの問題もあるし、ここまで話をして、黙ってみてろって言うのも、それはそれで酷なんじゃないの?」


真姫さんがフォローを入れてくれる。
868 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:08:58.25 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「真姫さん……」

真姫「それに、この子は強い、保証するわ」

希「だから、そういう話じゃ……うーん、わかった。じゃあ、こうしよ。これからウチ自身がキミたちの強さを測るためにバトルをする。勝負に勝てたら、作戦への参加を認める。これでどうかな?」

海未「まさかここでジム戦を……? さすがにこれから5人と順番にバトルをしている暇は……」

希「もちろん、スパっと終わらせるよ。行けタマタマ!」
 「タマタマ」


希さんはタマタマをボールから出す。


希「タマタマは6匹で1匹。この子たちはテレパシーで繋がってるから、どんなに離れても意思疎通が出来る。ウチのところにタマタマを一匹残して……」

 「タマ」
千歌「わ」

 「タマ」
梨子「きゃ」

 「タマ」
曜「うわっ!?」

 「タマ」
善子「な、なに?」

 「タマ」
花丸「ずら?」

希「タマタマ、“テレポート”」

千歌・梨子・曜・善子・花丸「「「「「!?」」」」」

海未「希!?」

希「──5人は今それぞれにとって印象のあるバトルフィールドにテレポートさせた」


869 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:09:58.34 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *



千歌「あたた……ここは、流星山……?」

 「タマタマ」

気付くとタマタマは私から離れたところで跳ねている。

よく見ると、ジムバッジとモンスターボールを持っているようだ。


希『聞こえるかな?』

千歌「わ!?」

希『今キミたちにテレパシーで直接話しかけとるんやけど……今、ウチの手持ちの入ったボールとバッジを持たせたタマタマと一緒にテレポートしてもろたよ』



    *    *    *



梨子「……クリスタルケイヴ」

希『キミたちにはウチの本気の手持ちを一体ずつぶつける、それと戦ってもらう』

梨子「本気の手持ち……!」

 「タマ!!」


タマタマから、ボールが放られる。


 「フィー…」


梨子「……エーフィ」



    *    *    *



──ザッパァーン。

突然水に落ちる。


曜「しょ、しょっぱ!? 海……? ……ここ、スタービーチ……?」

希『もちろん、ジム戦の手持ちと違って、レベルはかなり高い。でも実戦ではもちろんレベルをあわせてくれたりしないからね、お誂え向きやと思うんよ』

 「オベーム…」

870 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:10:39.40 ID:Q+x1d3Jo0

    *    *    *



善子「……私は音ノ木か」

希『私の手持ちを突破して、タマタマからバッジを奪うことが出来たら、キミたちの勝利。それが出来なかったら敗北、わかりやすいやろ?』

 「ランクル…」

善子「ランクルス……良いわよ、上等じゃない」



    *    *    *



花丸「ここ……太陽の花畑ずら……」

希『直接指示するわけやないから、勝てないような実力じゃ、ちょっとした怪我くらいは覚悟してもらわなあかんけど……危険な戦いへ切符を賭けた勝負や。それくらいは覚悟してな』

 「ムシャァーー」

花丸「ムシャーナずら……!」



    *    *    *



千歌「……とにかく倒せばいいんだよね!!」

 「フーディン!!!」

希『それじゃ、バトル開始や!!』

千歌「行くよ!! ルカリオ!!」


私はボール放った──


871 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:13:37.26 ID:Q+x1d3Jo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】【クリスタルケイヴ】【13番水道】【大樹 音ノ木】【太陽の花畑】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ●        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__●_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回●|     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|●⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥●‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口
872 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:14:20.42 ID:Q+x1d3Jo0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.49  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.48 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.45 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.46 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.46 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.44 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.45 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.44 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.44 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.42 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.39 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.43 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.40 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.37 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:137匹 捕まえた数:20匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.46 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.44 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.43 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:119匹 捕まえた数:48匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.32 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:91匹 捕まえた数:36匹


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



873 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:14:08.48 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter063 『希の試し』





──セキレイシティ。


海未「さて……私たちは一足先に、持ち場につくことにしましょうか」

ことり「うん!」

真姫「そうね……」

希「ん……三人とも結果を見届けなくて大丈夫なん? 教え子やないの?」

海未「問題ありません」

真姫「そうね」

ことり「うん、だって……」

海未「千歌は勝ちます」
真姫「梨子が負けるはずないし」
ことり「曜ちゃんは絶対勝ってくれるから!」

希「……ずいぶん信頼しとるんやね」


さて……お手並み拝見と行こうか。





    *    *    *





──流星山。


千歌「ルカリオ!! “りゅうのはどう”!!」
 「グゥァ!!!!」

 「フーディン!!!!」

フーディンがスプーンを曲げると、それにならうように波導が曲がって逸らされる。


千歌「また、逸らされた……!!」


遠距離攻撃じゃやっぱり分が悪い、

なら距離を詰める!!


千歌「“しんそく”!!」
 「グワァ!!!」


ルカリオが飛び出す。

素早く回り込み、

後ろから──!!

だが、


 「グ、ゥ……!!!」


フーディンに触れる直前で、動きが止まる。
874 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:15:38.74 ID:Q+x1d3Jo0

千歌「く……! “かなしばり”にされた……!」

 「フーディン!!!!」

 「グォァ!!!!」


そのまま、“サイコキネシス”で吹っ飛ばされる。


千歌「く、くそぉ……」


近距離もダメ……。

そもそもレベル差がありすぎる。

正攻法じゃダメだ。

考えろ……。


千歌「……そもそも、一対一で戦う縛りとかないじゃん!」


地上からでダメなら、空から!


千歌「行け、ムクホーク!!」


空へとボールを放る。


 「ピィィイイイ!!!!」

千歌「ムクホーク、“エアスラッシュ”!! ルカリオ、“ボーンラッシュ”!!」
 「ピィィ!!!」「グァ!!!!」


後方と、上空から同時に攻撃、


千歌「どうだ!!」

 「フーディン!!!!」


だが、“エアスラッシュ”は軌道を曲げられ、

“ボーンラッシュ”はスプーンで受け止められる。

いや、受け止めたと言うことは触れること自体は全然不可能じゃないということだ。


千歌「それがわかれば十分!! ムクホーク、“すてみタックル”!!」
 「ピィィイイイ!!!!」


飛び出すムクホーク、それと同時に、

 「グゥォ……!!!!」

 「フーディン!!!!」

ルカリオが再び吹っ飛ばされる、

ムクホークは、

 「フーディン!!!!!」

フーディンが片手を前に差し出して、サイコパワーで止められる。


千歌「ルカリオ!! “バレットパンチ”!!」
875 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:16:30.80 ID:Q+x1d3Jo0

畳み掛けるしかない……!!

 「フーディン!!!!」

が、フーディンを中心に辺りがなんだか『不思議な感じになる』

すると、“バレットパンチ”はフーディンに届くことなく止まってしまう。


千歌「な、なにこれぇー!!!?」


図鑑の表示を確認すると、“サイコフィールド”と表示されている。

どうやら、先制攻撃を防ぐフィールドを作る技らしい。

フーディン、トレーナーの指示なしで頭良すぎじゃない!?

完璧に予測されてる。

予測……予測……。


千歌「予測できない攻撃……? それだ!! ムクホーク!!」
 「ピィイ!!!」


ムクホークに指示を飛ばし、全力で戦場から離脱させる。

──その際、一瞬自分の元に寄らせて、一個手持ちのボールを持たせる。


千歌「お願いね!」
 「ピィィ!!!」


ムクホークはソレを持って、流星山を滑空しながら、降りていく。


千歌「さあ、しばらく持久戦だよ!! ルカリオ、“はっけい”!!」
 「グゥァ!!!!」


ルカリオが攻撃を差し込む。

 「フーディン!!!!」

だがやはり打撃が届く直前で止められる。


千歌「そっから、波導を流し込め!! “はどうだん”!!」
 「グァ!!!!」

 「フーディン!!?」
至近距離で遠距離攻撃を打ってくるのはさすがに予想外だったようで、フーディンにやっと攻撃が直撃する。

 「フーディン……!!!」

だけど、さすがに一発じゃ沈まない。


千歌「ルカリオ!! “ブレイズキック”!!」
 「グァ!!!」


身を捻って畳み掛ける、炎の蹴撃。

 「フーディ!!!!」

だが、今度は受け止めずにすぐさま念動力で吹っ飛ばされる。

吹っ飛ばされながらも、ルカリオは受け身をとって、また飛び出す。


千歌「まだまだぁ!!」


こうなったら、根比べだ──!!



876 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:19:06.69 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *




──クリスタルケイヴ。


 「フィーー!!!!」

梨子「メガニウム! “しぜんのちから”!!」
 「ガニュー!!!」


岩が地面からせり出し、エーフィの“サイケこうせん”を防ぐ。


梨子「“はっぱカッター”!!」


隙をついて、攻撃をするが、

 「フィー!!!」

念力によって、軌道を捻じ曲げられて、攻撃は届かない。


梨子「やっぱり、直線的な攻撃じゃダメだ……!!」


狙い撃ちにされないように、ケイヴ内をメガニウムと走りながら考える。

攻撃の手を増やす?

いや、直線的な攻撃のままだったら、たぶん結果は変わらない。

希さんとのジム戦のようにブラフを混ぜる?

いや、これもたぶん大した効果はないだろう。

希さんのように、私の思考を直接読んでるわけじゃない。

見てから対応できるくらいレベルも高いし、戦闘勘がいいんだ。

速度で攻める?

しかし、すでに“サイコフィールド”を展開されて、先制技は防がれる。

攻め手がことごとく封じられている。


梨子「せめて、夜なら……!!」


“あさのひざし”で回復するエーフィ相手なら、夜の方がやりやすいが……。

夜まで待ってる余裕はもちろんない。

洞窟内なら、暗い……と思いきや、クリスタルケイヴは透明な湖底がすぐ上にあるせいで、日が差し込んでくる。

せっかくの洞窟なのに、エーフィに対して地の利が取れていない。


梨子「地の利……?」


ふと、頭の中にアイディアが過ぎる。

それ、ありなのかな……? ……いや、これは普通の試合とは違う。あくまで勝ちを取りに行くことが重要なんだ。

試してみる価値はある。


梨子「お願い! ピジョット!」


私はピジョットを繰り出し、作戦を遂行する準備を始める──


877 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:20:05.59 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *





──スタービーチ。


 「オーベム」

曜「ラプラス!! 回避ぃ!!」
 「キュウー!!!」


13番水道でのオーベムとの海上戦は、まるで艦隊戦のような様相になっていた。

オーベムの腕から打ち出される、“サイケこうせん”、“シグナルビーム”をラプラスに乗ったまま避けながら、

出来た隙に、


曜「カメックス! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメー!!!!」


傍らで泳ぐカメックスが水砲を撃ち込む。

攻撃はオーベムを掠りこそするものの、

 「オーベム」

海上を常に浮遊しながら、移動するオーベムは思った以上に素早い。

直撃しそうな攻撃は、サイコパワーで捻じ曲げて、ダメージを最小限に抑えられてしまう。

 「オーベム」


曜「また撃ってきた!! 回避、回避ぃ!!」
 「キュウー!!!!」


ただ、繰り返していて気付いたことがある。

オーベムは私が乗ってるラプラスしか狙ってこない。

旗艦を沈めれば勝ちだと言うことを知ってるわけだ。

ただ、逆に言うなら見晴らしのいい海の上、お互い旋回しながら、打ち合うだけなら、相手側の標的が絞られているのは避けやすいということでもある。


曜「どうにか、タマタマだけでも撃ち抜けないかな……」


タマタマはオーベムの肩に乗っている。

さすがに海をぷかぷか浮いてるわけじゃない。

逆に言うなら、相手側の旗艦はタマタマなわけで……。


曜「ダメだ、戦闘が膠着してる……!!」


のんびりしてる暇はないんだ……!!


曜「ダダリン!!」


私は海中にダダリンを繰り出す。

とにかく、打開策をひねり出さなきゃ……!


曜「“アンカーショット”!!!」


878 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:21:17.62 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    *



──音ノ木。


 「ランクルッ」


ランクルスが拳を握り込むと、

──バツン、と音を立てて近くの空間が握りつぶされる。


善子「ヤミカラス!! もっと速くっ!!」
 「カァカァ!!!!」


あんな力技に直撃したら、羽根をもがれて、ジ・エンド。

こんな高所で飛行手段失ったら即死よ、即死!?

私はヤミカラスに掴まりながら、音ノ木の周りをぐるぐると周りながら上昇していく。

そんなことを考えている間にも、

──バツン!


善子「きゃぁっ!?」


すぐ近くで握りつぶされた空間が破裂音をあげる。


善子「くっ……ムウマ!!」
 「ムマァ!!」


私は逃げながらもムウマをボールから出す。


善子「“シャドーボール”!!」
 「ムマァー!!!」


ムウマから放たれる影の弾で攻撃するも、


 「ランクル」

ランクルスが拳を握りこむような動作をすると、“シャドーボール”ごと空間を押し潰して消滅させてしまった。

レベルが違いすぎる。


善子「あの腕、どうにかなんないの!?」


私はヒントを求めて図鑑を開く。

 『ランクルス ぞうふくポケモン 高さ:1.0m 重さ:20.1kg
  発揮した サイコパワーを 使い 特殊な 液体で
  作られた 腕を 操り 敵を 砕く。 その力は 凄まじく
  握力だけで 岩をも 握りつぶす。 高い 知能を 持つ。』


善子「直接食らったら、それこそヤバイじゃない……!」


逃げるだけで精一杯なのに、近接戦もリスクが大きい。

──バツン!!


 「カァ!?」
善子「っ!?」


今度の攻撃はさっきよりも更にヤミカラスの付近を掠める。
879 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:22:44.15 ID:Q+x1d3Jo0

善子「攻撃の精度があがってきてる……!?」


このままじゃ、追いつかれるのも時間の問題だ。

……もう覚悟を決めるしかない。


善子「ゲッコウガ!!」
 「ゲッコッ!!!!」


ゲッコウガを繰り出し、


善子「“みずあそび”!!!」
 「ゲコッ!!!」


私は秘策の遂行を開始した。





    *    *    *





──太陽の花畑。


 「ムシャァーーーー」


ムシャーナが声をあげると、花畑を掻き分けながら、空気の刃が飛んでくる。


花丸「ず、ずらぁー!?」
 「キマッ」


キマワリと伏せって、“ソニックブーム”をギリギリ避ける。


花丸「キマワリ!! “ソーラービーム”!!」
 「キマァーー」


撃ち出した“ソーラービーム”は動きの鈍いムシャーナに直撃はするものの……。


 「ムシャァ」

ムシャーナは余裕の表情。まるでダメージが通らない。


花丸「あ、相手が硬過ぎるずら……!」


レベル差が如実に出ている。

──ただ、実はこの戦いにおいて重要なのはそこじゃない。

ヒントはちゃんと出してくれていた。


花丸「そろそろのはずずら……」


花たちに囲まれて視界の悪い戦場の中、


 「ゴンーーーー!!!!」

花丸「!!」


あるお願いごとをして、別行動をしていたゴンベの鳴き声が響く、
880 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:23:41.83 ID:Q+x1d3Jo0

花丸「あっちずら!! フワライド!!」
 「プワァー!!!」


声を聞いて、マルはフワライドに飛び乗った──。





    *    *    *





──クリスタルケイヴ。


梨子「ピジョット!! “ぼうふう”!!」
 「ピジョットォォ!!!!!」


ピジョットが自慢の翼を大きく羽ばたかせて、洞窟内に“ぼうふう”を吹き荒らさせる。


 「フィーー…!!」


この強風にさすがのエーフィも動きを止める。


梨子「チェリム! メガニウム! “はなふぶき”!!」
 「チェリリ!!!」「ガニュゥー!!!」


そして、その風に乗せて、舞い狂う“はなふぶき”。


 「フィーーーー!!!!」


エーフィはサイコエネルギーを自分の周囲に展開し、風と花びらを押しのける。

思った以上のダメージの通りはない。

でも、これで十分だ、


梨子「メブキジカ!!」
 「ブルル!!!!」


繰り出したメブキジカが飛び出す。


 「フィ!!!」


エーフィは花びらに隠れて接近するメブキジカに辛うじて気付きこそしたようだが、

もうこの距離じゃ、防御は間に合わない──!!


梨子「その花びらは攻撃じゃなくて目晦ましよ! メブキジカ!! “すてみタックル”!!」
 「ブルルル!!!!!!」


地を蹴って、猛烈なスピードで突っ込むメブキジカは、

 「ブルル!!!!」

そのまま、エーフィのサイコパワーで作ったバリアを角を立てて突き破り、

 「フィーーー!!!!」

エーフィに攻撃を炸裂させた。


梨子「よしっ!!」


だが、エーフィは──
881 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:25:03.20 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「!」


サイコパワーで自分に浮力を与え、身軽になったところを受身を取って、ダメージを最小限に抑えてしまった。

 「フィー…」

やっぱり、場数が違う……。

──ただ。


梨子「この勝負、私の勝ちよ」

 「フィ?」


吹き荒ぶ花びらの向こうで啖呵を切る私に、エーフィが首を傾げた。

徐々に、花びらの切れ間から、洞窟の岩肌が──


 「フィ!?」


──見えなかった。

辺りは気づくと、光る小さなキノコが天井に、壁に、地面に、そこかしこに生えていた。

そして、そのキノコたちは、ぽふぽふと絶え間なく、光る胞子を吐き出している。

 「フィ…!!!」

エーフィが急に膝を折った。


梨子「……眠いでしょ?」
 「チェリリ」


チェリムが私の頭の上で跳びはねている。

こうでもしないと私も寝ちゃうし。


 「フィー……!!!」

梨子「ここ、クリスタルケイブはあちこちにネマシュとマシェードが生息してて、ちょっと通路に入ると、この“キノコのほうし”でいっぱいなのよ」


確かにさっきの“はなふぶき”は目晦ましだ。

だけど、メブキジカの攻撃を当てるための、じゃない。


梨子「さっきの“ぼうふう”と“はなふぶき”は、風で洞窟中にこの胞子をばら撒くためよ!」
 「チェリリ!!!」

梨子「そして、私のポケモンは予め仕込んでおいた“なやみのタネ”で眠らない……!!」

 「フィーーー……」


エーフィはしばらく粘ってはいたものの、


 「フィー……zzz」


最終的には──コテンと倒れて、すやすやと寝息を立て始めた。


梨子「……か、勝った……。ふぁ……」


思わず口から欠伸が漏れる。

いけないいけない、私は頭を振る。


梨子「……まだ、やることがある……」
 「チェリ」「ガニュゥ〜」「ピジョッ」「ブルル」
882 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:26:32.34 ID:Q+x1d3Jo0

皆が寄り添ってくる。


梨子「あはは……私も皆みたいに、“なやみのタネ”で“ふみん”になれればよかったんだけど……」


さすがにポケモンに使う技を人間の私に向けても同じ効果は得られない。

皆の力を借りながら、エーフィの寝ている方へと、ちょっとずつ前進し。


梨子「……」


足元にいるエーフィに視線を落とした。


梨子「……タマタマ」

 「タ、タマタマ」


そこには、寝息を立てるエーフィの影で、タマタマが困った顔をしていた。

……そう、この戦いはバッジを手に入れて、初めて勝敗が決定するんだ。

私はタマタマに手を伸ばして、


梨子「……バッジ、貰うね」


タマタマが自身の殻の割れ目に、刺していたバッジを取った。


梨子「ふぁ……ねむ……」


眠い目を擦りながら、

全身を先ほど感じた“テレポート”の浮遊感に包まれるのを感じた──。


梨子「……勝ちました、真姫さん──」


私は柄にもなく拳を握り締めて。

再びセキレイシティへとワープするのだった。





    *    *    *





──音ノ木。


 「ゲコガァ!!!」


ゲッコウガが水を撒きながら、樹をほぼ垂直に登っていく。

私は水気を纏った空気の中を、ヤミカラスと共に螺旋状に音ノ木を上昇していく。


善子「ヤミカラス!! 全速力で飛びなさい!!」
 「カァーーー!!!!」


指示と共に加速すると、視界の端にあった音ノ木の大きな葉が高速で流れていく。

 「ランクルッ!!」

そして、私たちの加速に合わせるようにランクルスも移動速度を増して追ってくる。
883 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:28:16.29 ID:Q+x1d3Jo0

善子「ヤミカラス!! もっと速く!!」
 「カァカァーー!!!!」


私は──白い息を吐きながら、ヤミカラスに指示を出す。

そう、白い息だ。

この真冬に吐くような白い吐息は、すぐに透明になって空気の中に掻き消えて行く。

──いい感じに温度が下がってきた。


善子「……っ もっと、加速しなさい……!!」
 「カァーー!!!!」


何故私の吐く息が白いのか……体感温度と言うモノを知っているだろうか?

同じ気温でも風が強い日は寒く感じる、アレのことだ。ただアレは寒く感じる、というだけではなく、実際に温度が低くなる。

風速が1m増すごとに体感温度はだいたい1℃下がると言われている。

高所なため、そもそも風はそこそこ強いのだが、それに加えて受ける風の速さはこちらが素早く動けば動くほど、相対的に速くなって行く。

ヤミカラスのような小〜中型の鳥ポケモンの飛行速度はおおよそ時速59km程度、風速に換算したら16.4m──つまり、今私たちは通常よりも16℃低い温度の中で飛行しているということだ。

そもそも、高い場所での戦闘。10℃にも満たないこのバトルフィールドだ。確実に氷点下である。

そして、ゲッコウガが“みずあそび”でフィールドに撒き続ける、水分は──


善子「……っ……」


速く飛べば飛ぶほど、私たちの体表に霜を降ろし、そして凍りつき始めていた。

……でも、それは同じスピードで追ってきているランクルスも同じだ。

 「ランクル…!!」

ランクルスの目を引く黄緑の体表も、パキパキと凍りつき始めている。


善子「速度を下げれば、逃げられる。速度を上げたら、凍りつく……! これが堕天使式、絶氷地獄よ!!」
 「カァーー!!!」

 「ランクルッ…!!!」


ランクルスはあくまで速度をあげながら、私たちを追いかけてくる。

ジムリーダーから詳細な指示が出来ないバトルである以上、最初からそういう風に指示を受けているんだろう。

なら、それはそれでいい。


 「ランクル…!!」


ランクルスが再び私たちを攻撃しようと、拳を握り締めようとする、が。

大きな腕部は次第に凍り始め、うまく握りこめないのがわかる。


善子「やっぱり……!!」


エスパータイプのポケモンはその場に突っ立ったまま、念動力で敵を理不尽に倒していくイメージがあるが、そんなことはない。

それぞれに固有のコンセントレーションを高める、“めいそう”の方法があり、そのルーティーンをこなさないと能力を十分に発揮出来ないのだ。

ユンゲラーがスプーンをかざすように、サーナイトが主人を想って祈るように、エーフィはその特徴的な二股の尻尾を立て耳を動かす。

そして、現在進行形で戦っているランクルスのサイコパワーを発揮するためのルーティーンは──


善子「その大きな拳を握りこむことでしょ!!」

 「ランクル……ッ!!!!」
884 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:29:54.34 ID:Q+x1d3Jo0

あの威圧的な大きな拳は、ランクルスのサイコパワーの象徴。

その動作に付随して、任意の空間を握りつぶしていたが、その発動条件はあくまであの腕が動けばこそだ。


 「カァカァ…!!!!」
善子「ヤミカラス……!! もうちょっと、頑張って……っ!!」


手持ちに向かって激励の言葉を叫ぶと、吐き出された白い呼気の代わりに、氷点下の空気が肺に飛び込んで来て胸が痛くなる。


善子「……っ……」


根競べ。相手が凍りつくのが先か、こっちが力尽きるのが先が──

──だが、

 「ラン──」

この根競べ以前に、

──バキバキバキ、という音と共に、


善子「……!? う、うそ……!?」


根本的にパワーが違いすぎることを思い知らされる。


 「──ランクル……!!!!」


腕に纏わりついていた、氷ごとランクルスは圧倒的な握力で押し潰していた。


善子「ヤミカラ──」


──バツン!

空間の弾ける音が、ヤミカラスの羽先の方から聞こえてきた、と思った瞬間。


善子「……!!?」


自分の進行方向が前斜め上から、下の方へベクトルが変わって、落下の感覚に包まれる。


善子「きゃあああああああああああ!!?!?」


勢いがついたまま、私は音ノ木の大きな葉っぱの上に投げ出される。


善子「っ……!!!」


葉の上を転がりながら、全身を押し付けて、どうにか止まる。

……どうにか、中空に投げ出されるのだけは避けられたようだ。


善子「……はっ……はっ……!!」


心臓が落下の恐怖に爆音を立てているが、今はまだ止まってる場合じゃない。

動揺する脳を理性で黙らせて、周囲を見回す。


 「カ、カァ……」


ヤミカラスは少し離れた葉っぱの上で気絶していた。落ちてなくてよかった……。

でも、これで飛行手段は絶たれた。

そして、背後を振り返ると──
885 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:30:50.92 ID:Q+x1d3Jo0

 「──ランクル」


ランクルスが、文字通り眼前に迫っていた。


善子「ひ!?」


大きな腕が伸びてきて、

私の胸部辺りを鷲掴みにして持ち上げる。


 「ランクル……!!!」

善子「ぐ……!!」


ランクルスが腕に力を込めると、胸部が圧迫される。


善子「は、はなし……なさい……!!」

 「ランクル……!!!!」


徐々に徐々に強くなる、握力。


善子「ぐ……ぅ……!!」


このままじゃ、握りつぶされる。

……いや。


善子「あんた……っ……!! 握りつぶす気……ない、でしょ……!!」

 「ランクル……ッ」


考えてみれば、当たり前だ。

命を奪うことが目的ではない。

これは試しなのだ。

私たちに勝利条件が提示されてるのと同様に、彼にも希さんから予め指示されているであろう勝利条件がある。

それは、恐らく。


善子「私に……『参った』って、言わせる、ことでしょ……!」

 「ランクル」


相手の戦意を喪失させ、今後の戦いに参加する資格がないことを自覚させることだ。

つまり──


善子「ま……ヨハネは、絶対降参なんて、しない……けどね……!!」

 「ランクル!!!!」


私の言葉を聞いて、ランクルスの握力が更に込められる。


善子「が、ぁぁ!!?!?」


ミシミシと、肋骨が軋む。

痛みで降参を促している。

一瞬ふっと力が緩み、


 「ランクル……」
886 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:32:32.29 ID:Q+x1d3Jo0

緑の液体の中から、本体が私に視線を送ってくる。

『これで懲りたか?』とでも言わんばかりに、


善子「……降参なんて、しないわ……!!」

 「ランクル……」

善子「──がぁ、ぁぁ!!!」


今度はさっきよりも強い力で握りこまれる。

──激痛。


善子「……っ゛……」


意識が一瞬飛びかけた。


 「ランクル!!!」

善子「……ぁ、あぁ゛あ!!!!」


──痛い。

痛い、痛い、


善子「が、ぁ……は……はっ……」


再度弱められる握力。

恐らく、こうして強弱をつけることでじわじわと恐怖を与えてるのだろう。

拷問を熟知してるなんて、知能が高いとはよく言ったものだ。


善子「は、はは……」


思わず笑いが零れた。


善子「あんたも……バカね」

 「ランクル…?」

善子「腕の一本でもへし折って……さっさと行動不能にしたら、こんな戦闘一瞬で終わるのに……それはあんたの独断じゃ出来ない、のよね……」


ある程度独断で動いているこのポケモンは、恐らく希さんから怪我をさせるな。降参させろ。というざっくりとした指示を受けているのだ。


善子「そんな甘っちょろい、指示に、従って……この、戦いは、覚悟を試す、戦いなのよ……?」

 「ランクル」

善子「怪我の一つや、二つ……覚悟せずに、この場に居るわけ、ないのに……」


私は腕を伸ばして、ランクルスの腕部に爪を立てる。

ムニリと不思議な感触がした。


善子「そして……バカは私も……」

 「…ランク?」

善子「……ついこの間出会った子、助けに行くために……こんな痛い想い、して……」


ルビィのことは正直、会ってから数時間話した程度のことしかわからない。

思い入れがあるのかと言われると、他の場所で戦っている子たちに比べると薄いとは思う。
887 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:34:20.81 ID:Q+x1d3Jo0

善子「……まぁ……しょうが、ないわよね……」


それでも、私は──

ルビィの言葉を思い出す。


ルビィ『──ありがとう、ヨハネちゃん──』


あの子は私を“ヨハネ”と呼んだ。


善子「リトルデーモンを助けるのは……堕天使である私の使命なんだから……!」


理由は、それだけで十分だ。


善子「そして……」

 「ランクル…」

善子「一番のバカはあんたよ、ランクルス」

 「ランクル…??」

善子「こんな、見え透いた時間稼ぎに付き合ってくれて……ありがとね!!」


──直後、

ランクルスの足元から、火柱が上がる。

 「ランクッ!?!!?!?」

炎は私ごと巻き込んで、どんどん勢いを増す。


善子「──最初から、私がただ逃げ回ってたんだと思ってたの?」

 「ランクル!?!?」


ランクルスは炎に驚いたのか──それとも、私の言葉に驚いたのか、

一瞬腕の力が弱まる。

その瞬間、全身に力を込めて、私は拘束から脱出し、大きな葉っぱの上を転がる。


善子「音ノ木を登ってる最中、葉っぱの裏にボールを投げてたのよ。気づかなかったかもしれないけどね」


音を立てて燃え上がる火柱は、分厚い葉っぱを下から貫くように飛び出している。

そして、その裏には──


 「ランプルゥゥ!!!!」
善子「ランプラー!!! そのまま、燃やし尽くしなさい!! “ほのおのうず”!!!!」

 「ランクルゥ!?!?!?」

善子「最初っから、動きも速い、パワーもある相手と面向かって勝てるなんて思ってなかったからね」

 「ランクルゥゥ!!!!!」


燃え盛る青い炎熱の中から、ランクルスが大きな拳を握り締める。

──だが、先ほどのように空間が握りつぶされることはなかった。


 「ランクル!?!??!?」

善子「……その技も見飽きたわ。同じ技をずっと見てて、対策してないわけないじゃない」


やっと効いて来た。飛びながら逃げる最中にずっと仕込んでいた技。
888 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:37:22.75 ID:Q+x1d3Jo0

善子「ヤミカラスとムウマの“うらみ”のお陰でとっくにパワーポイントが残ってないわよ。というか、そもそも疑問に思わなかったの?」


私は鼻を鳴らして、得意気に語る。


善子「──なんで、私たちもろとも、凍るような技選択をしてたのかってこと」

 「ランクル!?!?!?」


別にただ凍らせたいだけなら、ゲッコウガで直接ランクルスに向かってみずタイプの技を撃てばよかった話だ。


善子「最初から、掴まったフリして、死角から炎で炙るつもりだったのよ。だから、一緒に炎に巻き込まれても、身体が凍ってればあんたの腕から逃げるくらいの時間は稼げる」


差し詰め、火の中に飛び込むときにバケツの水を被るみたいな感じかしらね。……それでも多少の火傷はしたけど……。

まあでも、


善子「“ほのおのうず”で拘束、自慢の遠距離技はヤミカラスとムウマが身を賭して封じた。これで、チェックよ」

 「ランクルゥ!!!!!」


ランクルスが腕を伸ばして、どうにか拘束を逃れようとするが、

その背後から、

大樹を走る影、


善子「そして、これでチェックメイト!!」
 「ゲコガァ!!!!!」


ランクルスの背後から、炎熱ごと切り裂く、不意の一撃。


善子「“つじぎり”!!!」

 「ゲッコガァッ!!!!!!!」

 「ランクッッ!!!!」


ゲッコウガに背後から袈裟薙ぎに切り裂かれ、

 「ランク、ル……」

ランクルスは崩れ落ちたのだった。


善子「……はぁ……ど、どうにか、勝った……」


気が抜けて、思わずへたり込む。


 「ゲコガ…」
善子「あはは、ありがとゲッコウガ……大丈夫よ」


私は心配するゲッコウガを制しながら、倒れたランクルスに目を配る。

気絶しサイコパワーを失ったランクルスは、念動力で維持していた、緑色の体液を保てず、中の本体が転がっている状態だった。

そして、その近くに……。


 「タ、タマタマ…」


ずっと体液の中に入って一緒に移動していた、タマタマの姿。


善子「ん、しょっと……」


私は立ち上がる。
889 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:38:22.66 ID:Q+x1d3Jo0

 「ムマァー」
 「カァ…」


ムウマが口に咥えて戦闘不能のヤミカラスを運んでくる。


善子「ありがと、ムウマ」


私はムウマ、ヤミカラス、ランプラー、ゲッコウガをボールに戻した後、


善子「バッジ、貰うわよ」


タマタマが持っていた、バッジを受け取った。

それと同時に、先ほどと同様の“テレポート”の感覚に包まれたのだった。





    *    *    *





──流星山。


 「グゥァ!?」
千歌「ルカリオ!?」


流星山の頂上では、依然ルカリオとフーディンの殴り合いが続いていた……んだけど、


 「グ、ゥ……!!」


攻撃をしては、吹き飛ばされの繰り返し。幾度も続けているうちにルカリオの限界はもう近かった。

もう少し……もう少しだけ、時間を稼げば……。

そのとき──ドン……ドン……ドン……


千歌「! きた!」


……と、断続的に爆発音のようなものが遠くから響いてくる。


千歌「ルカリオ!」
 「グゥォ!!!」


私の合図で、ルカリオはその場で片足を立てて構える。

待ちの構えだ。

その間も断続的な音は続いている。


 「フーディン……」


攻め手をやめたところを見て、フーディンがこっちに構えてくるが、


千歌「フーディン、こっちよりも上を注意した方がいいよ!」
890 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:39:50.94 ID:Q+x1d3Jo0

私は忠告する。

直後、フーディンの頭上に影が差す。

 「フーディ…!!?」

そこにあったのは──燃え盛る岩塊だった。

 「フーディン!!!」

フーディンは咄嗟に念動力を使って、その岩を中空で静止させる。

その一方で、


千歌「ルカリオ! 来るよ!」
 「グゥォ!!!」


燃え盛る、岩塊を“ブレイズキック”で蹴り砕く。

 「フーディ…?」

フーディンは訝しげな顔をしている。

何故自分で仕掛けたであろう攻撃を防いでいるのかとでも言いたげだ。

その間も次々に岩が降り注いでくる。


千歌「……あはは、この攻撃ね。チカたちにもどこに来るのかわからないんだ」

 「フーディ……!?」


フーディンと共に再び空を仰ぐと、

──空が落ちてくる火炎岩塊で埋め尽くされていた。


千歌「さすがにこの数はルカリオだけじゃ捌ききれない……ルガルガン! しいたけ!」
 「ワォン!!」「ワフッ!」


しいたけはすかさず地面掘り始め、ルガルガンとルカリオは頭上の岩を迎撃する。

 「フーディン!!!」

フーディンも次々と落下してくる岩を止めている。


千歌「ここ、流星山はね。私たちが修行した場所。師匠に教えられながら、山の麓でたくさんの岩を割り砕いた。お陰で山の麓には詰みあがるほど岩の塊があってね」


フーディンとまともに戦っていても、攻撃を読まれてしまう。

でも、私すらどこに飛んでくかわからない攻撃だったら、読むことはできない。


千歌「北の麓に飛んでった、ムクホークにはバクフーンのボールを持たせてた! そのバクフーンの“ふんか”で打ち出した岩が無差別に降って来てる!」

 「…フディ!!!」

千歌「さあ、どっちが岩を捌ききれるかの勝負だよ!!」


私は両手を使って、


千歌「撃ち抜け!!」


ルカリオとルガルガンに指示を出す。

岩が最も割れやすい一点を目掛けて、

そんななかで、

 「…フー」

フーディンは口の端を釣り上げた。笑っている。
891 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:40:48.89 ID:Q+x1d3Jo0

千歌「……これくらい余裕ってことかな?」

 「フーディン」


フーディンは済ました顔で、降って来る岩次々と止める。

もう10個以上の岩塊がフーディンの頭上を浮遊している。

そして、余裕をかますように、

 「フー」

片手をフリーにして3本の指を立ててみせる。


千歌「……30はいけるってこと?」

 「フー……」


私の問いにフーディンは首を振る。


千歌「片手で30個?」

 「フー」


フーディンは再び口の端を釣り上げる。


千歌「そっか」


私は再び、二匹への指示をしながら岩を割り砕く。

フーディンは次々と襲い掛かる、岩を止め──止め……。

その数、20……。

30……。


もうフーディンの頭上は岩に多い尽くされて空が見えない。

空中で静止した岩がドームのようにフーディンの頭上を覆い隠している。


千歌「……私たちが修行中に壊した岩の数ね」


40……。


千歌「正確な数は覚えてないんだけど……」


50……。


 「フーディ……ッ!?」


千歌「たぶん、50個以上はあったんだよね」

 「フ、フーディ……!!」


フーディンが凌ぎきるまで、あと少しという顔をした。


千歌「それを──綺麗に3つに砕いてたんだ」


つまり──150個だ。


 「フーディ……!?」
892 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:42:30.01 ID:Q+x1d3Jo0

もう空が見えないので、岩の数は全くわからないけど、

恐らく、宣言していた60個を超えたであろう辺りで、

フーディンの頭上の浮遊する岩のドームの上から、

重いものが激しくぶつかる音が聞こえてくる。

 「フー……!!!!!」

瞬間、岩のドームが僅かに沈む。

その音は、断続的に聞こえ続ける。

 「フーディ……!!!!」

音がする度に、ドームはどんどん沈みフーディンの頭上に覆いかぶさるように高度を下げる。

それと呼応するかのように、フーディンが顔を真っ赤にして、スプーンを握り締める。


千歌「ニシシ……♪ 私たちの努力の勝利だね♪」
 「ワォッ」


私が言うと同時にしいたけがシャツの裾を引っ張る。“あなをほる”で避難用の穴が完成したことを告げていた。

私が手持ちを連れて穴に入っていく中、


 「フーディィィィイイイイン!!!!!!!!」


フーディンの雄叫びが山中に響き渡った──。





    *    *    *





千歌「……さて、と」


ひょっこりと穴から顔を出して。

岩だらけになった流星山の頂上を見る。


千歌「……やりすぎたかな……?」


後で師匠に叱られるかも……。……ま、まあ、細かいことは後で考えよう。


 「ピィイイイイイ!!!!!」


頭上ではムクホークが旋回している。

 「バクフッ!!!」

そして、一足先に戻ってきたバクフーンが山盛りになった岩のドームを割り砕いているところだった。


千歌「ルガルガン、“ドリルライナー”!」
 「ワォン!!!」


バクフーンを手伝うように、ルガルガンが身を捻り、全身をドリルのようにして、岩を削岩して潜っていく。

程なくして、

刳り貫いた穴から、一匹のポケモンを引きずりだした。

 「……フー……」

さっきまで私たちが戦っていたポケモン──フーディンが目を回して気絶していた。
893 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:43:09.45 ID:Q+x1d3Jo0

千歌「えっへへ……皆、勝ったね!」
 「バクフ」「ピィィ」「グゥァ」「ワォン」「ワフッ」


そして、フーディンを引き摺りだした穴の中から、更にもう一匹のポケモンが飛び出してくる。

 「タ、タマタマ……」


千歌「あ! タマタマ見つけた! こっちおいで〜」


タマタマはフーディンが戦闘不能になったのを確認して、こっちに跳ねてくる。


千歌「うん! じゃあ、帰ろっか! セキレイシティまで、お願いね!」

 「タマタマ」


こうしてフーディンとの激闘に制した私は、手持ちの皆と共にセキレイシティへと舞い戻るのでした。





    *    *    *


894 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:44:31.08 ID:Q+x1d3Jo0


──セキレイシティ。


希「……む、戻ってくるね」


浮遊感が消えると同時に──

視界にセキレイシティが現われる。


千歌「──と、わわっ!」
善子「──ヨハネ、帰還!」
梨子「──よ、っと」

千歌「! 梨子ちゃん、善子ちゃん!」


私が降り立つと同時に、横には二人の姿。


梨子「千歌ちゃん……! 勝ったんだね!」

善子「一番乗りかと思ったけど……同時か。ま、いいけど。……ってか、ヨハネだからね?」


嬉しそうに駆け寄ってくる梨子ちゃんと、肩を竦める善子ちゃん。


ダイヤ「……いえ、貴方達は一番ではありませんわ」


そんな私たちにダイヤさんが声を掛けてくる。


善子「え?」

鞠莉「あなたたちが戻ってくるずっと前に、勝負を終わらせた人がいマース」


そういう鞠莉さんの隣には、


花丸「皆、お疲れ様ずら」
 「ゴン」


花丸ちゃんがゴンベと一緒にパンを頬張りながら、待っているところだった。


善子「え、うそ!? マジで……?」

千歌「花丸ちゃんすごーい!? あの強敵を一番乗りで……!?」

希「……これで4人クリア。あと一人やね」


希さんはそんな風に言う。


梨子「……と、言うことは最後の一人は……」

千歌「曜ちゃんだ……!」


──私たち4人が希さんの試しに合格する中、曜ちゃんだけが未だにここセキレイシティに戻ってきて居ませんでした。


895 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:46:33.35 ID:Q+x1d3Jo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】【13番水道】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥●‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口
896 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 15:47:12.95 ID:Q+x1d3Jo0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.51  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.46 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.50 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.49 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.51 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.48 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.46 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.46 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.45 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.45 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.43 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルコ♀ Lv.39 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.43 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      ゴーリキー♂ Lv.40 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.37 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:137匹 捕まえた数:20匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.47 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.48 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.44 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.49 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:119匹 捕まえた数:48匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.33 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.32 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.32 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.31 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:91匹 捕まえた数:36匹


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



897 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:18:09.90 ID:XqTkDbxP0

■Chapter064 『覚悟と勇気』 【SIDE You】





──これはかっこよさ部門に挑戦する前、ことりさんとカメールの育成をしているときのことだった。


ことり「モクロー! “リーフブレード”!」
 「ホホー」


ことりさんが指示を出すと、モクローが弾丸のように飛んでくる。

それは余りに速くて、


 「カ、カメー!!?」
曜「!? カ、カメール!?」


気付くとカメールが吹っ飛ばされている。


曜「大丈夫!? カメール!?」
 「カメ!!」

ことり「…………」

曜「よし……! 反撃を──」

ことり「……一旦ストップ、休憩しよっか」

曜「え?」


ことりさんはバトルを中断して、私の元へと歩いてくる。


曜「私……なんかダメだった?」

ことり「うーんと……前から気にはなってたんだけど……」

曜「?」

ことり「……ちょっと、ごめんね」

曜「え?」

ことり「モクロー」


ことりさんがモクローを呼ぶと、

 「ホホッ」

フィールドの定位置で待っていたモクローがこっちに飛んでくる、

──私の方に向かって一直線に。


曜「わわ!?」


思わず、びっくりして身を引く。


曜「び、びっくりした……」

ことり「……やっぱり、曜ちゃん」

曜「?」

ことり「ポケモンやポケモンの攻撃が目の前に近付いてくると……目をつぶる癖があるね」

曜「え!?」

ことり「すごく離れてれば大丈夫だけど……バトルフィールドの中心線ぐらいの距離から、自分側に向かってくるポケモンや攻撃に対して咄嗟に目をつぶる癖があるみたい」
898 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:22:17.23 ID:XqTkDbxP0

全然、気付いていなかった。

ことりさんは少し迷っていたけど、言い辛そうにしながら、私に聞いてきた。


ことり「……もしかして、バトル……怖い?」

曜「……!」


言われて少しだけギクリとした。


曜「えっと……」

ことり「……ごめんね、曜ちゃん。曜ちゃんがバトル苦手だって知らなかったから……カメールの育成ももうちょっと別の方法で──」

曜「ま、待って!!」


勝手に話を進めてしまう、ことりさんを思わず止める。


曜「だ、大丈夫! バトル出来るから……!!」

ことり「……でも」

曜「……大丈夫。それに……」

ことり「……それに?」

曜「いつまで経っても、戦えないままじゃ居られないし……」


そこまで意識して避けてたわけではなかった、けど……。

私はドヒドイデとの戦闘以来、まともなバトルをした覚えがなかった。

15番水道では、ダダリンは私を標的にしてなかったし、ゴーリキーとのバトルもポケモンバトルと言うよりはほぼ綱引きみたいなものだった。


ことり「曜ちゃん……コンテストの道に進むなら、無理にバトルをする必要はないんだよ?」

曜「それは……」

ことり「むしろ、バトルがどうしても苦手って言う理由でコーディネーターになる人もいっぱいいる。曜ちゃんがバトルが怖いなら、それはそれであって、悪いことじゃないんだよ……?」

曜「…………」

ことり「……それでも、曜ちゃんは“バトル”の訓練を続ける?」


……この訓練はあくまで、カメールのレベル上げだ。

レベルを上げるだけならバトルに拘らなくてもいろいろと方法がある。

走りこみとか、そういうトレーニングでも、時間は掛かるけど確実に経験値は積める。そういう代替方法もあると、ことりさんは言いたいんだと思う。


曜「……私は……私もちゃんとバトル出来るようになりたい」

ことり「……どうして?」

曜「あんまり強くはなれないかもしれないけど……私は──」





──
────
──────
────────





──13番水道。
899 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:24:34.64 ID:XqTkDbxP0

曜「ラプラス!!! 回避して!!!」
 「キュゥーー!!!!!」


大きく旋回しながら、オーベムの“チャージビーム”を回避する。


曜「ダダリン! “アンカーショット”!!」


指示をしてから数テンポ遅れて、海中からダダリンの錨が飛び出してくる。

だが……。


 「オーベベム」

曜「く……また避けられた……!」


大振りなアンカーは海上をホバリングしながら、移動するオーベムには全く当たる気配がない。


曜「カメックス! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメーー!!!!」


傍らを泳ぐカメックスが、背中を海上から出して、水砲を発射するが、

 「オベベベーム」

これも外れ。

むしろ最初は掠っていた攻撃を逸らす形での防御だったのに、もはや完全に回避されている。時間を経るほどに命中精度はどんどん悪くなっている。

相手がこっちの攻撃に慣れてしまったんだ。


曜「く……そ、それなら……」
 「キュゥー」


ラプラスを前進させる、距離が遠すぎて、見てから回避が出来てしまうのが原因なんだ。

それなら、近付けば。

──なのに。

 「オベベベーム」

オーベムが腕を上げて、攻撃姿勢を取った瞬間、


曜「……っ!!」


身体が固まってしまう。

 「ガメーー!!!!」

私に向かって飛んできた、“チャージビーム”と“シグナルビーム”をカメックスが咄嗟に水砲で撃ち落す。


曜「あ……ご、ごめん、カメックス……!」
 「キュゥ…」


そんな私の様子を見て、ラプラスは再びオーベムから距離を取る。

こんなことの繰り返しだ。


曜「……っ」


ことりさんと訓練したのに、

ゴーストポケモンたちの退治のときは少しはマシだったのに。

明らかに自分より強い相手がこっちに攻撃を向けてきていると思うと、身体が固まってしまう。


曜「私……っ」
900 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:26:00.84 ID:XqTkDbxP0

あのときの光景が、振り払えない。

不気味に笑う、ドヒドイデの顔が、

次の瞬間には手持ちが皆やられていて、

私も為す術がなくて、


曜「私は……」


そのとき、頭に直接声が響く。


希『他の4人は突破したよ。キミは随分戦闘が膠着しとるようやけど』

曜「……!」

希『……元より、時間が無限にある戦いやないのは、わかっとるよね?』


……戦わなきゃ。


曜「私は…………!!」

 『曜ちゃん!!』

曜「……!!」


聞き覚えのある声がした。大好きな幼馴染の声だ。


曜「千歌ちゃん……!」

千歌『頑張って曜ちゃん……!! 待ってるから……!!』


先に勝利した千歌ちゃんが、希さんを通して激励のメッセージをくれてるんだ。

……負けるか、負けるもんか。


曜「……私だって、千歌ちゃんと……千歌ちゃんと一緒に戦うんだ……!! 戦えるんだ……!!」


私だって、千歌ちゃんと一緒にポケモン図鑑と最初のポケモンを貰った、ポケモントレーナーなんだ……!!


曜「ラプラス!! 全速前進ッ!!」
 「キュウーーー!!!!!」

 「オベベム」


オーベムが攻撃体勢を取る。

身が反射的に竦む。

でも、歯を食いしばる。拳を握りこんで。

気合いで目を見開く。


曜「いっけぇーーー!!!!!」


私は前進するんだ、前に、前に進むんだ……!!

そして、そんな私たちに向かって、オーベムから“チャージビーム”が発射された──





    *    *    *


901 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:28:23.89 ID:XqTkDbxP0


──音がしなかった。

でも、この空間は、知ってる。

また、海の中だった。


 「キュゥ……」


“チャージビーム”の直撃を受けて、ラプラスが水中を力なく漂っている。

結局……結局、ダメだった。

私は、また……この海で、負けるんだ。

……私には、戦う力が──足りなかった。

──悔しい……。

あのとき──ドヒドイデと戦ったときから、何も変わらない。

悔しくて、涙が止まらなかったのに、

結局、何も変わらない。

私は……。

…………。


 『じゃあ、やめる?』


心の中で、声がした。

千歌ちゃん?

……いや、この声は……。


 『今回は運が悪かったけど、その勇気は大切なものだから。誇って良いと、私は思うよ』

 『……明らかに格上だってわかってても、ずっとポケモンたちに指示を出し続けていたのを私は見てたから』


あのときの言葉が、想起された。

果南ちゃんの言葉が──


 果南『曜、やめる?』


……嫌だ。


 果南『ここで……やめる?』


……嫌だ。

私だけ、私だけ戦えないなんて──嫌だ。

私が諦めちゃ──ダメだ!!

ここで諦めたら、あのとき以下だ──


私は、海中で姿勢を整え、ボールを放った──。





    *    *    *





 「ガメーー!!!!!」
902 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:29:59.76 ID:XqTkDbxP0

海上ではカメックスが独断で戦闘を続けていた。


曜「ごめんっ!!! カメックス!!!」
 「ボォーーーー」


ホエルコに掴まって、顔を出す。


曜「ホエルコ!! 行くよ!!」
 「ボォーーー」


ホエルコの“なみのり”でオーベムに向かって前進する。

 「オベベーム」

オーベムがこちらの腕を向ける。


曜「……っ!!」


怖い。自分の本能がそう言うけど、


曜「カメックスッ!! 撃ち落せ!!」
 「ガメーーー!!!!」


発射された、“チャージビーム”が私たちに当たる前に撃ち落す。

 「オベベベベーム」

次の攻撃──


曜「ホエルコ!! 取り舵!!」
 「ボォーーー」


ホエルコと共に攻撃を避けながら前進する。

相手の攻撃をちゃんと見るんだ、

右の避けるのか、左に避けるのか、撃ち落すのか、

私が判断するんだ、

だって、私は……私がこのポケモンたちの──


曜「──トレーナーだから!!」
 「ボォォーーーー!!!!!」


攻撃を掻い潜ったホエルコが──跳ねる。


曜「“とびはねる”!!!」
 「ボォオーーーー」


全身のパワーを使って、海上から……空へと、一気に急上昇し、

放物線の最高点に到達して、

今度はオーベムの方へ向かって落下を始める。

私が信じて、皆と一緒に戦うって決めたから……!!


曜「行こうーーー!! ホエルコ──うぅん!!!」
 「ボォォ────」


ホエルコの身体が光に包まれて、一気に大きく膨らんでいく。


曜「ホエルオー!!!!!」
 「──ボオォォオォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
903 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:34:20.52 ID:XqTkDbxP0

ホエルオーが雄叫びをあげる。

その“プレッシャー”が、圧力が、

 「オベベベベム」

オーベムの攻撃を一瞬躊躇させた、

全ポケモンの中で最も大きな体躯で、


曜「“ヘビーボンバー”ァアアアアァァーーーーーー!!!!!!」


オーベムを海に向かって──押し潰した。





    *    *    *





希「……決着がついたみたいやね」

千歌「!」


希さんがそういうとほぼ同時に、


曜「──わわっ!?」


私の身体は、セキレイシティに投げ出されていた。


千歌「曜ちゃんっ!!」

曜「わわわっ!?」


間髪居れず、千歌ちゃんが抱きついてくる。急だったので支えきれずに尻餅をつく。


曜「ち、千歌ちゃん……私、海で戦ってたから濡れてる……」

千歌「ドヒドイデのこと、果南ちゃんから聞いた……」

曜「……!」

千歌「……怖い想い、したんだね」

曜「……ううん、もう大丈夫」


私は──手に入れたバッジを掲げて見せた。


千歌「……!」

曜「私も……戦えるよ、千歌ちゃん」

千歌「……うん!」

果南「吹っ切れたみたいだね」

曜「果南ちゃん……!」


千歌ちゃんに抱きつかれて尻餅をついてる状態の私の元に果南ちゃんが近付いてくる。


曜「……ありがとう、果南ちゃん」

果南「お礼されるようなことは特にしてないけど……曜が前に進めたなら何よりだよ」


果南ちゃんはそう言って頭を撫でてくる。
904 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:37:06.39 ID:XqTkDbxP0

果南「ついでに千歌も」

千歌「わわ!?」


二人してぐりぐりと頭を撫でられる。


千歌「か、果南ちゃんくすぐったい……!」

果南「お、ここか〜? うりうり〜」

曜「あはは、なんか懐かしいなこの感じ」

希「……コホン。そろそろ、いいかな?」


希さんが、じゃれる私たちを見て咳払いをした。


果南「あーはいはい了解」


果南ちゃんは、そう言って立ち上がる。


希「善子ちゃん、梨子ちゃん、千歌ちゃん、花丸ちゃん……そして、曜ちゃん」


希さんは私たちの顔を順に見る。


希「全員、合格やね」


希「キミたちが手に入れた、その“フォーチュンバッジ”は持ってるだけで、ポケモンの特攻を上昇させる能力がある。お守り代わりに持って行くとええよ」

千歌「はい!」

希「まさか全員突破してくるとは思ってなかったけど……勇気も、知恵も、覚悟も、力も、確かに戦いの場に赴くだけの資格があると、認めざるを得ないね」

善子「ちょっと待って、参考までに聞いておきたいんだけど」

希「?」

善子「ずら丸はどうやって、突破したの……? どう考えても、この中で一番強いとは思えないんだけど……」

花丸「ずら!? 善子ちゃん、それは失礼ずら!!」

善子「善子じゃなくて、ヨ・ハ・ネ!!!」

希「ああ、花丸ちゃんはクリアの条件を一番理解してただけだと思うよ」

梨子「クリアの条件って、確か……」

千歌「条件? 相手を倒せばいいんじゃないの?」

花丸「そうじゃないずら。この戦闘の勝利条件は『タマタマの持ってるバッジを手に入れる』ことずら」

梨子「! ……やっぱり、そうだったんだ」

千歌「……? どゆこと」

希「花丸ちゃんは、ウチの手持ちはほぼ無視していなしてただけ、花畑の中に隠れてるタマタマをゴンベの“かぎわける”で見つけたあと……」

花丸「フワライドの“トリック”でバッジを手に入れたずら」

曜「……あ、そっか」

善子「え!? それありなの!?」

希「必ずしも、目の前の敵を倒すことが正解とは限らない。ましてや、これは奪還任務の前哨戦やからね。そこに気付けるかの知恵も試してたんよ」

千歌「……?? どゆこと??」

梨子「あ、えっとね……必ずしも敵を倒さなくても、バッジさえ手に入れられれば実は勝利条件が達成されててね……」


ここまで話しても意味が理解出来ていない千歌ちゃんに、梨子ちゃんが説明を始める。
905 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:39:35.30 ID:XqTkDbxP0

善子「……アレ、その知恵試しに失敗してるわよ?」

曜「あはは……」

希「……ま、まあ、単純に勝負に勝つのも一つの解決法ではあるからね」


希さんは苦笑して、肩を竦めた。


希「ただ、くれぐれも無茶はしちゃダメやからね? あとは健闘を祈るよ。それじゃウチはヒナギクに戻るよ。ほなね」


それだけ言うと、“テレポート”してヒナギクシティに戻っていってしまった。


善子「……なんか、最後は意外とあっさりだったわね」

曜「認めてくれた……ってことでいいんだよね?」

善子「たぶんね……」


──かくして、私たち5人は希さんの試しを突破し、戦いの場に臨みます。





    *    *    *





鞠莉「皆、図鑑を貸してもらえる?」

千歌「図鑑ですか?」

善子「まさか、決戦に向けて、図鑑のパワーアップを……!!」

鞠莉「Yes.」

善子「え、マジで?」

鞠莉「とはいっても……音声通話機能をつけるだけだけど」

曜「ポケギアじゃダメなんですか?」

鞠莉「そうしたいのはヤマヤマなんだけどネ……相手の本拠地なだけあって、妨害電波で通信妨害してるみたいなのよね。まあ、当たり前っちゃ当たり前なんだけど……」

梨子「……でも、それだと図鑑に音声通話機能があってもダメなんじゃ……」

鞠莉「だから、図鑑間だけで使えるトランシーバー機能を搭載する。んでもって、中継局を連れて行ってもらうわ」

花丸「中継局ずら??」


そう言うと、鞠莉さんの背後から板状の何かが飛び出してくる。


 「ロトトトトー、ボクが行くロトー」

千歌「あ、ロトム!」

善子「え、なんかこいつ喋ってるけど……?」

鞠莉「このロトム図鑑なら、ある程度臨機応変に周波数も弄って妨害用の周波数を回避出来るはずよ。この子を中心にあなたたちの図鑑を繋ぐわ。すぐやっちゃうから、その間に皆出発の準備をしておきなさい」

梨子「は、はい!」

千歌「わかりました!」


鞠莉さんに言われて、各々準備に取り掛かる。





    *    *    *


906 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:41:07.07 ID:XqTkDbxP0


ダイヤ「善子さん」

善子「? 何?」

ダイヤ「……その、お詫びがまだだったと思いまして」

善子「……詫び? なんのこと?」

ダイヤ「飛空挺では……取り乱して、申し訳ありませんでした」

善子「……ああ、そのこと。……状況が状況だったし、仕方ないわよ。別に気にしてないわ」

ダイヤ「……迷惑を掛けっぱなしで恐縮ですが……妹を──ルビィを、どうかよろしくお願いします」

善子「任された。ルビィはちゃんと連れて帰ってくるから」

ダイヤ「ありがとうございます。……それと、貴方の手持ちならこれが使えると思うので、お渡ししておきますわ」


ダイヤはそう言って、4つの石を手渡してくる。


善子「これは……」

ダイヤ「“やみのいし”と“めざめいし”ですわ。使ってくださいませ」

善子「……ん、ありがたく使わせて貰うわ」

ダイヤ「……それと」

善子「まだあるの?」

ダイヤ「ケロマツの件、貴方には話さなくてはいけないことがありますので、絶対に戻ってくるように」


……そういえば、ケロマツを一人抜け駆けで貰っていってしまったことを忘れていた。

飛空挺で見たあのおっかない性格。もしかしたら、妹のルビィが旅立つとき、最初のポケモンの選択権が少なかったことを相当憤慨していたのかもしれない。


善子「ぜ、善処するわ……」

ダイヤ「ええ、くれぐれもお願い致しますわ」





    *    *    *





花丸「曜ちゃん」

曜「ん、何?」

花丸「曜ちゃんがゴーリキー持ってるって聞いて」

曜「あ、うん。持ってるけど……」

花丸「それなら、突入前に進化させちゃった方がいいかなって思って」

曜「あー……えーっと、交換で進化するんだっけ?」

花丸「うん。マルとの間で、二度交換すればカイリキーになるずら」

曜「あ、なるほど……じゃ、お願いしようかな」

花丸「了解ずら♪」


──二人で交換を終えたところで……。


果南「曜」

曜「ん?」


果南ちゃんが声を掛けてくる。
907 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:42:32.38 ID:XqTkDbxP0

果南「これ、持って行って」


そう言って果南ちゃんは少し変わった形をしたものを差し出してくる。

本当に口で形状を説明するのは難しいんだけど……。裏側に口でくわえる部分を見つけてなんとなくピンと来る。


曜「これ……もしかして、シュノーケル?」

果南「うん、水中用の呼吸器。昔鞠莉に作ってもらったやつで、数回までならポケモンの“あわ”から酸素を取り込んで連続潜水が出来る特注品だよ」

曜「え、いいの?」

果南「いいよ。私はなくても結構な時間潜ってられるしね」

曜「ありがとう……! 果南ちゃん!」

果南「5人の中じゃ曜が一番水中戦に強いからね。水中戦になるようだったら、皆のことお願いね」

曜「うん!」


私は果南ちゃんの言葉に力強く頷いた。





    *    *    *





千歌「梨子ちゃん」

梨子「ん?」


準備をしていると、千歌ちゃんに声を掛けられる。


千歌「梨子ちゃんも一緒に戦ってくれるなんて、心強いよ」

梨子「ふふ、期待に沿えるように頑張ります♪」

千歌「……梨子ちゃん、明るくなったね」

梨子「そうかな……うぅん、そうかも」

千歌「……聞いてもいい?」

梨子「ん?」

千歌「どうして、一緒に戦ってくれるの? 梨子ちゃんはそれこそ、危ない場所まで行って戦う理由なんて──むぐっ」


そう言う千歌ちゃんの口を、人差し指で塞ぐ。


梨子「……この地方を旅して、私いろんなキラキラを見つけたの」

千歌「キラキラ……?」

梨子「私ね、この地方を旅して、もっといろんな景色が見たい」

千歌「……梨子ちゃん」

梨子「私は確かにこの地方の人間じゃないけど……この地方のこと、大好きだから。一緒に守りたい。これじゃ理由にならないかな……?」

千歌「うぅん!! そんなことない。ありがとう、梨子ちゃん!」


千歌ちゃんが嬉しそうに抱きついてくる。


梨子「わわ!? も、もう、千歌ちゃんったら……」

千歌「えへへ〜♪」
908 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:43:28.86 ID:XqTkDbxP0

嬉しそうに笑う千歌ちゃんと抱き合いながら、

ふと、視線をあげると、


梨子「……あ」

ことり「……!」


ことりさんと目が合う。

曜ちゃんの様子を見に来たところだったのかもしれない。


千歌「梨子ちゃん……? ……あ、ことりさん」

ことり「……梨子ちゃん」


やや罰の悪そうに視線を泳がせることりさん。

私は千歌ちゃんとの抱擁を中断し、ことりさんの前に歩いて行く。


千歌「……あ、梨子ちゃん……」

梨子「……ことりさん」

ことり「…………」


──私は、


梨子「ありがとうございました」


頭を下げた。


ことり「……え……?」


私が顔をあげると、ことりさんは心底驚いた顔をしていた。


梨子「……あのとき、ことりさんにコテンパンにやられたお陰で……自分が何を見失ってたのか、気付く機会に出会えました」

ことり「梨子ちゃん……」


──そう、真姫さんの元で、ね。


梨子「……私、あれからいろいろ考えて、旅をしてきました」

ことり「……」

梨子「私……少しは変われましたか……?」

ことり「……うん、変わったよ」

梨子「そっか、よかった……。ことりさん」


私は一息吸ってから、ことりさんの目を真っ直ぐ見つめて。


梨子「この戦いが終わったら……また私と、ジム戦をしてもらえますか?」

ことり「……! うんっ、もちろん……!!」

梨子「よかった……」

ことり「もちろん……っ……ぐす……っ」

梨子「!? ……なんでことりさんが泣くんですか……!?」

ことり「ご、ごめん……梨子ちゃんのこと、傷つけちゃったって、ずっと思ってたから……もっといいやり方があったんじゃないかって、ずっと思ってたから……」

梨子「ことりさん……」
909 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:45:28.20 ID:XqTkDbxP0

ことりさんはごしごしと手で涙を拭ってから、


ことり「ふぅ……ごめんね。……セキレイジムで待ってるから、ちゃんと戻って来るんだよ?」

梨子「……はい!」

ことり「……そのための戦う道具、梨子ちゃんに渡しておくね」


ことりさんはそう言って、私の手に宝石のようなものを握らせる。


梨子「……これって……」


キラキラと輝く丸い宝石。もしかして……。


千歌「それ……メガストーン!?」

梨子「……!」

ことり「ピジョットナイト。きっと、今の梨子ちゃんなら使いこなせると思うから」

梨子「……ありがとうございますっ!! 絶対に戻ってきます!!」

ことり「うんっ! 約束だよっ!」


私はこうして、やっとことりさんと和解することと相成ったのだった。






    *    *    *





鞠莉「図鑑の調整は完了したわ。ロトム、後頼むからね」
 「任せるロトー」

鞠莉「皆、準備は出来た?」

千歌「大丈夫!」

曜「準備完了であります!」

梨子「問題ないです!」

善子「補給任務、完遂。いつでも出撃可能よ」

花丸「皆、大丈夫ずら!」

果南「飛空挺突入部隊は大丈夫そうだね」


果南ちゃんの言葉に5人で顔を見合わせて頷きあう。


ダイヤ「……今、海未さんから連絡がありました。ホシゾラ天文台の観測装置から、セキレイ東部に巨大なポケモンのエネルギー反応を検知したそうです」

千歌「それって……!」

鞠莉「恐らく……現在ちょうどセキレイの東側を飛行中の飛空挺から、パルキアを連れて、聖良が先行してるってところかしらね」


言われて東の空を見ると、作戦会議中はローズ辺りに居た飛空挺がセキレイの東の空に見える。
910 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:47:20.98 ID:XqTkDbxP0

ダイヤ「あと千歌さんへ伝言ですわ」

千歌「ほぇ?」

ダイヤ「くれぐれも、目的を見失わないように。とのことですわ」

千歌「……うん、とりあえず今の目的はルビィちゃんを助けること、だよね」

ダイヤ「ええ、よろしくお願いしますわ」

果南「さて……じゃあ、私たちも向かおうか」

鞠莉「Yes. 悪い研究者にはきつーいオキューをスエテあげないとネ!」

千歌「……あ、あのー」

鞠莉「? What? どうかしたの?」

千歌「……ダイヤさんや果南ちゃんが強いってのはなんとなくわかるんですけど、鞠莉さんって……伝説のポケモンと戦えるほど強いんですか──」

花丸「──千歌ちゃんっ!!!」

千歌「わ!?」


私の質問に、花丸ちゃんが喰い気味に吼えた。


花丸「失礼ずら!! 鞠莉さんに謝るずら!!」


肩をガクガクと揺すられる。


千歌「え、あ、ちょ、ま、待って……!?」

梨子「博士って、有名なトレーナーなの……?」


梨子ちゃんが曜ちゃんと善子ちゃんに振るが、


曜「え……私も詳しくなくて……」

善子「……なんか、金髪の強いトレーナーがいるって噂は聞いたことあるけど」

花丸「皆っ、失礼ずら!!」

千歌「え、花丸ちゃんはなんでそんなボルテージ高い感じで怒ってるの……!?」


私たちのやり取り見て、肩を竦めたダイヤさんが、


ダイヤ「心配ありませんわ。鞠莉さんは確実に、今の貴方たちが束になっても勝てないくらいには強いですから」

果南「ま、だろうね」

鞠莉「ちょ、二人とも……大袈裟よ」

善子「束になってもって……」

花丸「当たり前ずら!! 鞠莉さんは、ポケモンリーグ大会優勝経験者ずらよ!?」


……はい?


千歌「え……? え?」

梨子「リーグ大会……? ポケモンリーグ大会って4年に一回ある、あの……?」

曜「え、ホントなの……?」


三者三様、初めて知る情報に動揺を隠せない。
911 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:49:15.61 ID:XqTkDbxP0

鞠莉「は、花丸も言い方がオーバーなのよ! あくまでわたしが優勝したのは、ルール別のリーグよ!」

善子「……思い出した。6年前のリーグで6部門のうち半分を制覇した、金髪のトレーナーの特集記事を昔雑誌で見たことがあったわ」

ダイヤ「鞠莉さんは前々回のリーグ大会において、トリプル、ローテーション、シューターの3部門で優勝していますわ」

鞠莉「ダ、ダイヤ! 余計なこと言わなくていいの! 別にわたしの専門はバトルじゃないんだから……」

果南「えー別にいいんじゃないの? 実際、私たちでもそのルールじゃ、歯が立たないんだし」

鞠莉「果南まで!」


なんか、思った以上にとんでもない人っぽい、けど……。


千歌「そのルール……知らない」

梨子「一応あるのは知ってるけど……カントーではあんまりないルールかな……」

鞠莉「マイナールールだってわかってるから、あんまり言わないようにしてるのに……」

花丸「……しかもシューターバトルに関しては、前回大会も出場して脅威のリーグ2連覇、加えて公式戦無敗ずら」

鞠莉「は、花丸っ!」

千歌「それって、どんなルール……?」

鞠莉「あーもう……細かく言うといろいろあるんだけど……ざっくり言うと道具使用可能なルールかしらね」

曜「リーグ2連覇ってめちゃくちゃすごいんじゃ……」

鞠莉「マイナールールだからそもそも競技人口が少ないだけよ。と言うか、わたしの話はもういいでしょ!?」

果南「照れることないのに」

ダイヤ「そうですわ。誇るべき実績ですわよ」

鞠莉「も、もう! わたしたちも行くわよ! のんびりしてる場合じゃないんだから!」


鞠莉さんはプイっと顔を逸らして、歩き出してしまう。


果南「あ、待ってよ鞠莉」

ダイヤ「全く世界の命運を握るかもしれない戦いの前に、騒々しいですわね。……話の続きはまた戻ってきてから、ゆっくりお話しして差し上げますわ」


ダイヤさんはそう言ってから、私たちの顔を順に確認して、


ダイヤ「……全員、ちゃんと無事に戻ってきてくださいませね」

千歌「もちろん! 行ってきます!」
曜「ヨーソロー! 了解であります!」
梨子「頑張ります! ダイヤさんたちも気をつけてください」
善子「愚問ね……。ちゃんと、ルビィは連れ帰ってくるから」
花丸「任せてずら! ……今度こそ、ルビィちゃんはオラが助けるずら」


それぞれに決意を口にして、

ボールを構え、


千歌「ムクホーク! 行くよ!」
 「ピイィィィィィ!!!!」

梨子「ピジョット! お願いね!」
 「ピジョットォ!!!!」

善子「ヤミカラス、出撃するわよ!」
 「カァカァ!!!」

花丸「フワライド! 行くずら!」
 「プワァ〜〜〜」


ルビィちゃん奪還作戦が開始した──。


912 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:50:42.90 ID:XqTkDbxP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口
913 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 00:51:22.88 ID:XqTkDbxP0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.51  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.46 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.50 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.49 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.51 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:137匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.48 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.46 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.46 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.45 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:110匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.46 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.44 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルオー♀ Lv.41 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.44 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      カイリキー♂ Lv.40 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.37 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:142匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.47 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.48 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.44 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.49 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:121匹 捕まえた数:48匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.33 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.32 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.32 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.31 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:95匹 捕まえた数:38匹


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



914 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 02:49:42.03 ID:XqTkDbxP0

■Chapter065 『飛空挺セイントスノウ』 【SIDE Ruby】





──ゴウンゴウン。

大きな音がする。


ルビィ「ん……ぅ……」


ぼんやりと意識が覚醒してくる中で、


理亞「ねえさま……本当にやるの?」


理亞ちゃんの声が聴こえてくる。


聖良「……本当に、とは?」


そして、それに応える聖良さんの声。


理亞「いや、その……クロサワ・ルビィは話せば協力してくれる可能性がある。ここまでしなくても……」

聖良「……理亞、それではダメなんです」

理亞「……?」

聖良「輝石の覚醒には、クロサワの巫女自身が制御出来ないほどの感情の起伏が必要なんです」

理亞「…………」

聖良「……わかってください、理亞。私たちが目指す場所へ行くためには、必要なことなんです」

理亞「……わかった」

聖良「……ありがとう、理亞。幸い数日前のアジトでの戦闘の際、ディアンシーの宝石は離れている場所に居た私のモノも強く輝いていました。恐らく、ディアンシーが地方全体を見守っている限り、多少離れていても地方内であれば巫女の力が届くんだと思います」


ぼやける視界の先で、聖良さんが真っ白い珠と、透明で鈍く輝く宝石を持っていた。


聖良「なので、私は一足先にクロサワの祠に向かいます。条件を達成するためには、あの地で時空の神と空間の神を揃える必要がある」

ルビィ「あの、地……って……? クロサワの祠で……なに、するの……?」

理亞「! ルビィ……!」

聖良「お目覚めですか……もう少し眠ってくれていた方がよかったんですが」

ルビィ「……聖良、さん……こんなこと、やめてください……」

聖良「……それでは理亞。この場は任せますよ。後で合流しましょう」

理亞「……わかった」


聖良さんは背を向けて歩き出そうとする。


ルビィ「女王様が……悲しむ、から……やめて……」

聖良「……カラマネロ、“さいみんじゅつ”」
 「……カラマ」

必死に説得するルビィに対して、聖良さんがポケモンに指示を出す。

指示を受けた大きな触手を携えたポケモンがルビィの目の前で怪しく光る。


ルビィ「……ぁ……ぅ……」


すると、だんだん意識にモヤが掛かってきて、再び思考がぼんやりしてくる。
915 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 02:52:18.41 ID:XqTkDbxP0

ルビィ「……ダ、メ……」

聖良「……次、会うときは全てが終わった後です」

ルビィ「────」


ルビィの意識は、そこでプツリと落ちてしまった。





    *    *    *





──セキレイシティ上空。


善子「全員、突入準備はいい!?」


善子ちゃんの問いかけに、全員で頷く。


千歌「行こう!」
 「ピィィイ!!!!!」

梨子「うん!」
 「ピジョットォ!!!!」


私の合図でムクホークとピジョットが力強く羽ばたく。


曜「花丸ちゃん、ごめんね。一緒に乗せて貰っちゃって……私飛ぶ手段がないから」

花丸「問題ないずら。フワライドは人を運ぶのが好きだし」
 「プワァ〜」

善子「千歌とリリーに続くわよ!」
 「カァーー!!!」


私たちは、以前パルキアから逃げるために使った飛空挺の穴を目指して、前進する。





    *    *    *





──飛空挺。


千歌「善子ちゃん!」


先に穴から、飛び込んだ私は外の善子ちゃんに手を伸ばす。


善子「あ、ありがと……」

千歌「これで、全員乗り込んだね」

花丸「これは……未来ずら」


振り返ると、花丸ちゃんが飛空挺内の広い室内を見上げて驚いている。

──ここは、前回突入したときに聖良さんと会話した部屋だ。


善子「……前回あれだけ派手にぶっ壊したのに、この透明な壁はちゃんと修復してるのね」

千歌「うん……そうだね」
916 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 02:56:31.11 ID:XqTkDbxP0

あわよくば、壊れた部分から侵入出来るかもと思ってたけど……そう簡単にはいかない。


花丸「これは……たぶん、ガラスみたいなただの透明な壁じゃなくて、ポケモンの技ずら」

曜「ポケモンの技?」

善子「そういえば、“リフレクター”やら“ひかりのかべ”を使った技術とか言ってたっけ……」

梨子「確かに……普通のガラスとかとは質感が違う気はする……」

花丸「ロトム、いるずら?」

 「いるロトー」


ロトムが善子ちゃんの背中辺りから飛び出す。


善子「わ!? な、なんで、あんたそんなとこいんのよ!?」

 「飛行中は風除けがないと危険ロト」

善子「誰が風除けよ!?」

花丸「ロトム、これが何かわかる?」

 「ムムー。……恐らく、複数のポケモンのエネルギーで作られたエネルギー壁ロト」

善子「じゃあ、これガラスとかアクリル板みたいなものじゃなくてエネルギー体ってこと?」

 「そうロト」

梨子「こんな芸当が出来そうなポケモンって言ったら……」


梨子ちゃんが壁の向こうに目を凝らしていると、


 「バリバリー」


透明な壁を隔てた向こう側を一匹のポケモンが横切る。


曜「! 今のバリヤード?」

千歌「バリヤード……」


私は図鑑を開いた。


 『バリヤード バリアーポケモン 高さ:1.3m 重さ:54.5kg
  人を信じ込ませるのが うまく 生まれつき パントマイムの
  達人。 指から 放たれる 不思議な 波動が 空気を
  固めて 本当の 壁を 作り出し どんな 攻撃も 跳ね返す。』


梨子「バリヤードが何匹かのポケモンのエネルギーを使って壁を維持してるってこと?」

 「たぶんそうロト」

善子「何匹かってわかるの?」

 「…詳しい数はわからないロト。ただ、1匹や2匹ではないロト」

善子「……ふむ」


善子ちゃんは顎に手を当てて考え込む。


千歌「とりあえず、壊せるか試してみる? 5人のフルパワーなら、もしかしたら……」

善子「……いや、たぶん無理だと思う。前にアブソルが散々“かわらわり”してたけど、傷一つ付かなかった。無駄に攻撃しても、いたずらに侵入を報せることになるだけだわ」

梨子「“かわらわり”は防御壁を砕くための技だもんね……。それで、傷一つ付かないってなると、壊すってのは現実的じゃないかも」

善子「……それこそ、パルキアに匹敵するパワーが出せるなら別だけど……」

千歌「う……それは無理かも」
917 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 02:58:07.33 ID:XqTkDbxP0

あの空間ごと引き裂くとんでもパワーは私たち5人で力を合わせても無理な気がする……。


曜「なら、どうする……?」

花丸「うーん……どっちにしろ、これだけ厳重に壁を作ってる以上、この先にルビィちゃんが居るのは確かずら」

梨子「私もそう思うかな……この配置、完全にこの先には絶対侵入させないって意思を感じるし」

善子「……ロトム」

 「ロト?」

善子「これ、複数のポケモンのエネルギーで出来てるって言ってたわよね」

 「そうロトね」

善子「そのエネルギーの源って、この近くにあるかわかる?」

 「いやこの近くにはいないロト」

梨子「? この壁を作ってるエネルギー源のポケモンは、ここには居ないってこと?」

 「図鑑サーチをしてみても、この近くにバリヤード以外のポケモンはいないロト」

善子「……ただ、バリヤードが走り回って壁を補強し続けてる以上、今もエネルギーは何処かから供給されてるはず……」

花丸「この飛空挺内の他の場所に、エネルギー源になってるポケモンが居るってことずら?」

善子「可能性は高いわ。それもリスクを分散させるために、複数の場所からエネルギーを供給してるんじゃないかしら」

曜「! それなら、そのエネルギー源になってるポケモンを倒せば……!」

善子「ええ、この壁を弱体化出来る」

千歌「えっと……飛空挺のあっちこっちにいる、エネルギーを送ってるポケモンを倒せばいいってことだよね?」

善子「そうなるわね。ただ、この広い飛空挺……端から順に皆で巡ってる時間はない」

曜「手分けして……ってことだね」

善子「相手の数がわからない以上、密に連絡を取り合いながらの方がいいわよね……。全員、敵のポケモンを見つけたら図鑑で報告しあいましょう」

梨子「うん、わかった」

花丸「ルビィちゃん……!! すぐ行くから、待っててね!」

千歌「よし! 皆、いくよー!!」

曜・梨子・善子・花丸「「「「了解!」」」」


私たちは5人それぞれわかれて、飛空挺内を走り出した。





    *    *    *





善子「ロトム? あんたは私についてくるのね?」

 「一番強そうな人についてくのが安心ロト」

善子「……くっくっく、あんたわかってるじゃない」


私はロトムに向かって、全員に指示を出す。
918 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 02:59:23.82 ID:XqTkDbxP0

善子「この飛空挺は何層かにわかれてる。わざわざポケモンを分散させてるんだとしたら、いろんな層にいるって考えるのが自然だから、探索してる層があまり被らないようにしましょう」

千歌『じゃあ、私は上にいく! なんか上の方にいそうだし!』

曜『なら、私は最下層を目指してみるよ』

花丸『中層はオラが行ってみるずら』

梨子『えっと……ここからだと下の方が多いのかな……?』

善子「たぶんそうね。私たちが最初に居た場所は中間よりはやや上側だったと思うわ」

梨子『なら、私もある程度下層を目指すね』

善子「任せるわ、リリー」


通信を終えて、


善子「なら、私は中層と上層の間くらいを探索した方がよさそうね。行くわよ、ロトム!」

 「了解ロト」


私たちは飛空挺内を駆ける。





    *    *    *





──飛空挺上層部に向かう千歌。

上層部は天井が高い部屋が多くて、見通しがいい。

その分──


団員「バネブー、“サイケこうせん”」

千歌「ルカリオ! 波導で捻じ曲げろ!」
 「グゥワ!!!!」


あっちこっちから攻撃が飛んでくる。


千歌「バクフーン!! あそこ! “ひのこ”!!」
 「バクフッ!!!!」

 「ブーー!?」


バクフーンが火球を飛ばして、撃退する。

あんまり団員に手間取っている場合ではない。

走りながら、移動の妨げになるようなら、狙って撃退する。


千歌「とにかく、早くエネルギー源になってるポケモンを見つけなきゃ!!」





    *    *    *





── 一方、下層へ向かう曜。


曜「階段、どこー!?」
919 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:00:50.67 ID:XqTkDbxP0

さっきから走り回っているけど、下層に向かう階段があまり見つからない。

こんなことなら最初の部屋に出来てる大きな割れ目から無理矢理したに飛び降りてしまった方がよかったかもしれない。

そんなこんなで下への道を探し回っている中でも、


団員「ヒトデマン、“スピードスター”!!」


問答無用に攻撃が飛んでくる。


曜「タマンタ! “バブルこうせん”!」
 「タマー!!」


攻撃を撃ち落しながら、走り回ってはいるけど……。


曜「……これじゃ、時間が掛かりすぎる! カイリキー!!」
 「リキーッ!!!!」


カイリキーを出して、


曜「真下に向かって、“からてチョップ”!!」
 「リキッ!!!!!」


4本の腕を通路に叩き付ける。

カイリキーの“かいりき”によって、足元の鉄板がひしゃげる。


曜「よし、いけそう! パンチで思いっきりぶっ壊せ!」
 「リキ!!!!!!」


カイリキーが高速で拳を床に叩き付ける。

カイリキーは4本の腕を使って2秒間で1000発のパンチを繰り出すと言われている。

打撃を連打された床板はひしゃげた後、下に向かって貫通する。


曜「おっけー!! ここから下層に行こう、タマンタ!」
 「タマ!!」


私はカイリキーをボールに戻し、タマンタを頭上に掲げてグライダーの要領で下層へと降りていく──。





    *    *    *





──中層、花丸。


花丸「“はっぱカッター”!!」
 「ドダイ!!!」


ドダイトスに乗って、敵をなぎ倒しながらマルたちは前進する。

扉を見つけたら、


花丸「“ウッドハンマー”!!!」
 「ドダイ!!!!!!」


ドダイトスの背中の樹で思いっ切り扉を吹っ飛ばす。

部屋の中を軽く確認して……。
920 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:01:44.14 ID:XqTkDbxP0

花丸「ここでもない……! 次行くずら!」
 「ドダイ!!!!」


再び走り出す。

何度か続けているうちに──


花丸「! この部屋……」


明らかに今まで様相が違う部屋に辿り着く。

そこにあったのは──砂浜だった。


花丸「こんなところに砂浜……怪しいずら」


ドダイトスに乗ったまま、部屋の内部へと踏み込み、図鑑に向かって話しかける。


花丸「変な部屋を発見したずら」


そして、返事を待つ。

待つ……。


花丸「……ずら?」


返事がない。


花丸「あ、あれ……? 通話繋がってない……?」


図鑑を叩いてみる、と。


善子『そういえばずら丸!』

花丸「ずら!?」


図鑑から善子ちゃんの声。


善子『あんた図鑑の操作ちゃんとわかってる?』

花丸「わ、なんか善子ちゃんと繋がったずら!」

善子『……あんたは通話繋ぎっ放しにしておきなさい。一度切れたら次またいつ繋げられるかわかんないから』

花丸「それよりも善子ちゃん! 変な部屋を見つけたずら!」

善子『変な部屋? どんなの?』

花丸「砂浜ずら」

善子『砂浜……? 飛空挺の中に?』

花丸「うん、砂浜に海ずら」


もちろん、室内だから、砂浜から続く海はすぐに壁があって途切れてるけど……。


善子『飛空挺の中でわざわざ自然環境の再現……ポケモンの飼育用の部屋って考えるのが普通よね』

花丸「たぶん、そうだと思う」


ドダイトスと砂浜を踏みしめていると──

急に、ガクッと身体が揺れた。
921 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:03:11.25 ID:XqTkDbxP0

花丸「ずら!?」
 「ドダイ!!!!!」





    *    *    *





花丸『──ひ、引っ張られてるずら!?』

善子「ずら丸!? 大丈夫!?」

花丸『ドダイトス!! “ばかぢから”!! ──大丈夫! 敵から攻撃を受けてるみたいだけど……! 今攻撃してきてるのが倒すべきエネルギー源のポケモンなのかな!?』

善子「可能性は高いわ! 倒せる!?」

花丸『そのために来たずら!! 任せて!!』

善子「わかった! 無茶するんじゃないわよ!! ロトム!! 全員に通話繋げて!!」
 「ロト!!」

善子「こちらヨハネ!! ずら丸が会敵!! 他の人も遭遇したら、連絡入れて!!」


一方的に図鑑に向かって、声を張り上げる。


梨子『ごめん、善子ちゃん。ちょっと通話切る……!』

善子「は!? リリー!? なんかあったの!?」


突然リリーから通信遮断の話を振られ、そのまま通話が切られてしまう。


善子「ちょ、リリー! リリーったら!?」

千歌『梨子ちゃん、どうかしたの!?』

曜『もしかしたら……梨子ちゃんも敵と戦ってるんじゃ……』

善子「……あんまり音を立てない方がいい状況だったとか……?」
 「可能性はあるロト」





    *    *    *





──下層、梨子。

半ば無理矢理通信を切って、物影に隠れる。


梨子「メブキジカ……“ほごしょく”」
 「…ブルル」


出来る限り、艦内の背景に馴染むようにメブキジカが体色を変え、その影に身を潜める。

私がどうして、こそこそ隠れてるかと言えば……。


梨子「……」


今物影から覗いている光景が原因だ。


団員1「…………」
団員2「…………」
団員3「…………」
922 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:04:40.61 ID:XqTkDbxP0

長蛇の列を作っている、薄紫の衣装を身に纏ったグレイブ団の団員たち、そしてその先には──


 「スリーパ……」


スリーパーが団員たちに順に“さいみんじゅつ”を掛けているところだった。

……団員たちはああやって定期的にこの部屋で“さいみんじゅつ”を掛けて、催眠暗示を更新しているのかもしれない。

それはそれとして……。気になるのはスリーパーの足元。

何やら円盤のような装置の上に立っている。


梨子「もしかして……あれがエネルギーの転送装置なのかも」


“さいみんじゅつ”を掛ける以上、スリーパーはここから動けない。

その際についでに“ゆめくい”で団員からエネルギーを補給、そのまま抽出して送り出してるなら効率がいい。

……さて、それがわかったところでどうするか。


梨子「……無闇に飛び出したら、あの団員達に掴まるよね」


さすがに数が多すぎる。どうにか方法を考えないと……。

私が思案していると、

 「ブルル…」

メブキジカに袖を引っ張られる。


梨子「? メブキジカ?」
 「ブルル」


メブキジカは出口の方を、眼で差している。


梨子「……もしかして、自分が囮になるって、言いたいの?」
 「ブルル」


メブキジカが頷く。


梨子「……でも、それは」
 「ブルル」


メブキジカが顔を寄せてきて、私の頬を舐めた。

──次の瞬間には、メブキジカは立ち上がり、通路側に向かって走り出した。


梨子「!? メブキジカ!?」

 「ブルル!!!!!」


メブキジカは蹄で床を、ツノで壁を打ち鳴らしながら、部屋の出入り口に駆けて行く。


団員1「侵入者、侵入者」

団員2「追跡、排除」


団員たちが単語だけで喋りながらわらわらとメブキジカを追いかけ始める。


梨子「も、もう……!!」
923 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:06:47.02 ID:XqTkDbxP0

メブキジカは本当に私のためにいつも無茶をしてくれる。

こんなときでも……。

もはや、こうなったらやるしかない。出来るだけ早くスリーパーを倒して、メブキジカを助けに戻る。


梨子「すぐ助けに行くからね……!!」


私は物影を飛び出す。

 「スリーパ!?」

突然現われた私に驚いたスリーパーの方へ、ボールを放る。


梨子「メガニウム!! “マジカルリーフ”!!」
 「ガニュー!!!!!」


私はメガニウムと共に戦いへと駆り出した。





    *    *    *





──上層部、千歌。

ひとしきり捜索を続けたところで、


千歌「ここは……」


部屋の奥側90度から、空が見える部屋に辿り着く。

どうやら、飛空挺内の最上層部の端の部屋らしい。


千歌「それにしても……随分広い部屋」


この部屋は静かだ。さっきまでひっきりなしに襲いかかってきていた道中の団員たちが嘘のようだ。

私は道中、迎撃で戦っていたバクフーンとルカリオをボールに戻す。


 「──キィ」

千歌「……え? 今なんか……」


上方から甲高い声がして、視線を上にあげた瞬間、


千歌「!?」

 「キィィィィイイイイ!!!!!!!」


どこかで見覚えのある影が、天頂から降って来ているところだった。





    *    *    *





──上層部、善子。


善子「ここよ!!」
924 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:07:53.37 ID:XqTkDbxP0

扉を思いっきり開け放つが──


 「ハズレロト」

善子「…………」
 「これで20部屋ロト。さすがに運が悪すぎないかロト?」

善子「うっさいわね! 私くじ運がないのよ……」


こんなところで堕天使の本懐を発揮しなくてもいいのに……。

私は中層部から上に向かう通路を虱潰しにしているはずなのに、一向にターゲットが居る場所を引き当てられずにいた。


善子「とにかく……次よ、次!!」


最上階でやや天井の高い通路に再び身を躍らせると──


 「────ぁぁぁぁぁ……!!」

善子「……ん?」


何かが聞こえてくる。


善子「……声……?」
 「ロ、ロト!? よ、善子ちゃん!」

善子「ヨハネよ!!」


ロトムが前方を促す、釣られて視線を移すと、通路の向こう側の上方に影、


善子「──って、あれって!?」

 「キィィィイイイイィィィィィィィィ!!!!!!!!!」

千歌「わああぁあぁぁぁぁぁ!!?!? や、やめてぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!」

善子「千歌!?」


宙吊りで逆さまの状態の千歌がこっちに向かって飛んできている。

そしてその千歌の脚を掴んで、高速で飛翔しているのは──


善子「……!! あいつ!! オンバーン!!」


いつか、音ノ木で会敵したオンバーンの姿だった。

──これも運命ってことかしらね。

私はボールを放る。


善子「行くわよ、アブソル!!」
 「ソルッ!!!」

善子「“かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!!」


アブソルが頭を振るうと、空気の刃がオンバーンに向かって飛んでいく。


 「キィイィィィィィィ!!!!!!」


だが、空刃はオンバーンが音波を発することによって相殺される、

そして、その拍子に──


千歌「──いっ!?」
925 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:09:42.37 ID:XqTkDbxP0

攻撃に気を逸らされたオンバーンが千歌を放してしまう。


善子「しまっ……!? 千歌っ!!」

千歌「……っ!! しいたけ!!」


千歌は咄嗟に地面に向かってボールを放る。


 「ワフッ!!!」

千歌「“コットンガード”ぉ!!!」


床の上でしいたけがもこもこと膨れ上がり、

千歌はその上にぼふっと墜落する。


千歌「……た、助かった」

善子「よ、よかった……」
 「ヨハネちゃん!!!」

 「キィィイィィィィィィィ!!!!!」

善子「!?」


ロトムの声で我に帰る、視線を戻すとオンバーンが今度は私の方に急襲を仕掛けてきていた。


 「ソルッ!!!!」


アブソルが、頭の刃でオンバーンの脚を受け止める。


 「────キィ」


オンバーンが私とアブソルに顔を向けた。


善子「……!!」


この技は見たことがある、


善子「アブソルッ!!!!!」
 「ロトッ!?」


咄嗟にアブソルをボールに戻しながら、ロトムを引っつかみ、オンバーンの下を潜るように、スライディングで背後に、

そのまま耳を塞いで、床に伏せる。


 「ギィィイィイァァアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 「ギャーーーーロトーーーーー」

善子「……っ!!!!」


後方の通路もろとも消し飛ばす、“ばくおんぱ”が炸裂した。


善子「…………ぐっ……」


咄嗟に背後に回り、耳を塞いだため、ダメージこそあまりなかったものの、

反響した音だけでも頭がガンガンする。


 「キィィィ!!!!!!」


すぐさま振り向いてくるオンバーン。
926 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:11:46.62 ID:XqTkDbxP0

善子「……っ!!!」


ボールに手を掛けた瞬間──


千歌「“すてみタックル”!!!」

 「──ピィィィイイィィィィィ!!!!!!」

 「ギキィ!!?」


千歌のムクホークが猛突進でオンバーンを吹っ飛ばす。


善子「! 千歌っ!!」

千歌「善子ちゃん! 大丈夫!?」


千歌が向こう側から駆け寄ってくる。


善子「え、ええ……咄嗟に耳塞いだから、なんとか」

千歌「そっか……よかった……」


千歌が安堵する中、


 「キィィイイ!!!!」


吹っ飛ばされたオンバーンが怒り狂って、ムクホークに組み付いてくる、が


千歌「ムクホーク!! “インファイト”!!!」

 「ピィィイイィィィ!!!!!」


その組み付きを許さないとでも言わんばかりに、猛禽の脚や翼、嘴を使ってムクホークがオンバーンを攻撃し、反撃する。


善子「ヤミカラス! ムウマ!」
 「カァカァ」「ムマ!!」

善子「いいじゃない、期せずしてだけど、音ノ木のときのリターンマッチよ!」
 「カァカァ!!!」「ムマァ!!!!」


私は“やみのいし”を二つ取り出す。


善子「前ほど弱くはないわよ!! 千歌も、私も!! そして、手持ちたちも!!」


二匹に石を近付けると、

進化の光と共に、二匹が大きく立派な姿に──


 「──カァーーー!!!!!」「──ムマァージ!!!!!!」


善子「行くわよ!! ドンカラス!! ムウマージ!!」
 「カァーーーー!!!!!」「ムマァーーージ!!!!!」





    *    *    *


927 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:13:32.71 ID:XqTkDbxP0


──下層部、梨子。


 「ガニューー!!?」

梨子「……くっ!!」


“サイコキネシス”で吹き飛ばされるメガニウム。

私はスリーパーとの戦闘に思った以上に苦戦を強いられていた。


 「スリー、パー……」


スリーパーは片足で立ち“ヨガのポーズ”をしながら、コンセントレーションを高めている。

やはり、エスパータイプは攻防共に隙がない。

クリスタルケイヴでのエーフィとの戦いのように、意表を突くしか……。

幸いなのは……。


 「チェリ」


スリーパーの得意技の“さいみんじゅつ”は、こっちもお得意の“なやみのタネ”戦法で先手を打っている。


梨子「チェリム! “はなふぶき”!!」
 「チェリー」


チェリムが“はなふぶき”を飛ばし、


 「スリー、パー」


スリーパーがそれをサイコパワーで止めたところに、


梨子「メガニウム! “つるのムチ”!」
 「ガニュゥー!!!」


蔓を伸ばして、動きを止め──


 「スリー、パ」


ようとしたところ、スリーパーは飛んできた蔓を素手で掴み、


梨子「嘘……!?」


そのまま、自分側に思いっ切り引っ張ると、


 「ガニュッ!?」


メガニウムの体が浮く。

そして、そのまま乱暴に後ろに放り投げる。


 「ガニュゥーーーッ!!!!」

梨子「メガニウム!?」


そのまま、辺りの机や棚を吹き飛ばしながら、メガニウムが室内の奥の壁にたたきつけられる。


 「ガ、ガニュゥ……!!!」
928 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:14:53.20 ID:XqTkDbxP0

メガニウムはそれでも気合いで立ち上がるが……。

不味い、“ヨガのポーズ”の効果で攻撃力もかなり上昇している。

どうにか意表を──


梨子「……?」


そのとき、なんだか違和感がした。

いや、違和感というか……。

──音がした。

──知ってる、音が。

──懐かしい、音が。


梨子「…………」


私は、


梨子「……チェリム!! “グラスフィールド”!!」
 「チェリ」


この戦いを勝ち抜く、一手を指す、


梨子「メガニウム!! “すてみタックル”!!!」

 「ガニュゥ!!!!!」


メガニウムが、手前側に向かって走り出し、


 「スリー…」


スリーパーの横を通り過ぎた。


 「…パー!?」


次の瞬間、スリーパーの背後でメガニウムが仕掛けた“タネばくだん”が炸裂する。


 「スリーパ!?!?」


スリーパーが音に気を逸らされ、一瞬私たちから視界を外す。

──メガニウムが私の方に迫ってくる。

そして、背後からは──

──小気味の良い、蹄の音が近づいて来る。


梨子「──聞こえてたよっ!!」

 「ブルルルルッ!!!!!」

 「ガニュウ!!!!」


私を間に挟んで、前からメガニウムが右側を、

──後ろからメブキジカが左側をすれ違う、


 「スリ!!?」


やっと視線を戻したスリーパーは、先ほどまで居なかったメブキジカの出現に、驚きの目を見開いたのち、手を前に──
929 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:16:11.11 ID:XqTkDbxP0

梨子「もう遅いよ……!!!」

 「ブルルルルッ!!!!!!!」


メブキジカは頭を下げ、自慢の角を突き出す。


梨子「“ウッドホーン”!!!」

 「ブルルルッ!!!!!!」

 「スリー、パァ!!!!?」


“グラスフィールド”により、威力が底上げされた“ウッドホーン”に突き飛ばされて、


 「スリー、パー……」


その勢いで背後の壁に叩き付けられ、スリーパーは静かになった。

そして、背後では、


 「ガニュー!!!!」


メガニウムが戻ってきた団員たちを相手に暴れている。


 「チェリッ」


それに加勢をしようと、チェリムが飛び出す。


 「ブルル」


そして、前方から、スリーパーを仕留めたメブキジカが歩いてくる。


 「ブルル」
梨子「……うん。聞こえてくる足音だけで、わかったよ」


メブキジカが伝えてきた、この不意の一手が、

ずっと一緒に育ってきた、この子の大好きな足音だから、


梨子「……さあ、メガニウムたちの加勢に行こう!!」
 「ブルルッ!!!」


私は踵を返して、メブキジカと団員たちの撃退に加勢しに行くのだった。


930 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:17:49.04 ID:XqTkDbxP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【飛空挺セイントスノウ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _●   /     :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口
931 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 03:18:48.01 ID:XqTkDbxP0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.52  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.46 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.51 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.49 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.52 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:141匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.49 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.46 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.46 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.48 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:116匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.46 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.44 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルオー♀ Lv.41 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.44 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      カイリキー♂ Lv.41 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.38 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.47 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ドンカラス♀ Lv.48 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.44 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.49 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:124匹 捕まえた数:50匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.36 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.32 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.32 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.31 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:95匹 捕まえた数:38匹


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



932 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:13:42.64 ID:XqTkDbxP0

■Chapter066 『飛空挺、リベンジマッチ』





──中層、敵と遭遇した花丸。


花丸「ドダイトス! “せいちょう”!」
 「ドーダイ!!!!!」


ドダイトスの大きな身体が更に大きくなり、マルたちを引き摺り込もうとするパワーに対抗する重量を確保する。

そこで、やっとドダイトスの足に絡み付いているものを確認した。


花丸「触手……!」


水色の触手、これは前にも見たことがある……!


花丸「ブルンゲルの触手ずら! やっぱり、あのときのブルンゲルもグレイブ団のポケモンだったんだ……!」


そうだろうとは思っていたけど、再び相対して確信に変わる。


花丸「でも、前のときとは違うずら! 今は綱引きでも負けないパワーがあるずら!」
 「ドダイッ!!!!!」


ドダイトスがマルの言葉に呼応するように、地面を踏み鳴らす。

しかも、それだけじゃない。


花丸「行くずら、デンリュウ!」
 「リュゥ!!!」

花丸「“10まんボルト”!!」
 「リュゥゥーーー!!!!」


デンリュウは触手に向かって放電攻撃をする。


花丸「ドダイトスはじめんタイプだから、掴まれてる間でも巻き込まれて感電しないずら!」


デンリュウの強力な電撃を食らって、触手が引っ込められる。

──直後、


 「ブルン…」


──ザバァッと音を立てて、ブルンゲルが水中から飛び出してきた。


花丸「出てきてくれるなら、こっちのものずら!!」
 「ドダイッ!!!!」


ドダイトスが前に踏み出す、

──ダンッと地面を踏み切って、自分の背中に生えた巨大な樹木を振り下ろす、必殺技……!!


花丸「“ウッドハンマー”!!!」
 「ダイトスッ!!!!!」

 「ゲルッ!?!?」


上から思いっ切り、ぶっ叩かれたブルンゲルは水中に逆戻りし、

数秒経った後、
933 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:15:05.35 ID:XqTkDbxP0

 「ゲ、ル……」


……プカァと、水中に浮いてきて伸びていた。


花丸「やったずら! ドダイトス!」
 「ドダイッ!!!」

花丸「さて……あとは転送装置の確認ずらね」


ブルンゲルがエネルギー源になっていたなら、恐らく装置は水中にあるはず……。

ドダイトスから降りて、砂浜を歩いて水に近付く。


花丸「……さて、どうやって確認しようかな……。マルの手持ちじゃ泳げないし……」
 「ドダイ…」「リュー…」

花丸「……ブルンゲルは倒せたし、一旦曜ちゃんと合流した方がいいのかな」


マルは砂浜に背を向け、図鑑を開く。

曜ちゃんに場所を伝えて、来てもらえば確認が出来る。

マルは曜ちゃんと持ち場を入れ替えて──


花丸「えーっと……あれ? また通話切れてるずら……えっと、曜ちゃんと通信……」


マルは呑気にポチポチと図鑑を弄る。

──こんなことをしてる場合じゃなかったと気付いたのは、この数秒後のこと、

──ガクン。

急に後ろ向きに体を引っ張られる力を感じた。


花丸「──ずら!?」


そのまま、為す術なくマルは“ピンク”の触手に絡み取られて、水の中に引き摺り込まれる。

マルはそこでやっと思い出す、

確かにあのブルンゲルは──……つがいだった。





    *    *    *





──上層、千歌、善子。


善子「ムウマージ! “マジカルフレイム”!」
 「ムマァージ!!!」


ムウマージの周囲をぽっ、ぽっと炎が浮かび上がり、それを発射する。


 「キィィィイイィィィィィ!!!!!」


その炎を掻き消すように、オンバーンが“かぜおこし”で吹き飛ばす。

だが、出来た隙に背後に回ったムクホークが、


千歌「ムクホーク! “つばめがえし”!!」
 「ピィィイィィィィ!!!!!」
934 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:20:00.24 ID:XqTkDbxP0

翼を振り下ろす、


 「キィィイイィイィィ!!!!!!」


その翼に打ち合うように、オンバーンが翼で薙いだあと、

──キィィィ、と言う音が微かに聞こえてくる。


善子「……!! ドンカラス、“バークアウト”!!」
 「カァーーーーー!!!!!!!」


ドンカラスが咄嗟に威嚇するように声をあげる、

その音にオンバーンが怯んだ隙に、


千歌「ムクホーク! “みだれづき”!!」
 「ピィピィィイィィ!!!!!」


オンバーンの耳を狙う、


 「ギキィ!!!!!!」


オンバーンはその攻撃を嫌がって、後方の空中に飛び退る。

そのまま、すぐに下を向いて、攻撃態勢に入ってくる。


千歌「! ムクホーク、上昇!!」

 「ピィィ!!!!」


私はそれを見て、すぐさま前に駆け出して、ムクホークの脚を掴んで勢いよく上昇する。


善子「っち……! ドンカラス、飛ぶわよ!!」
 「カァカァーーー!!!!」


私たちが咄嗟に飛び出し、高度を一気に上昇させたところで、オンバーンから下方に向かって、


 「ギィィァアアァァァァァァ!!!!!!!!!」


もはや爆発音に近い、鳴き声が発される。


千歌「ぐぅぅぅ……!!」


片方の耳を塞ぎながら、どうにか耐える。


善子「……っ!!」


善子ちゃんも同様に。

……一方で、音の振動をまともに受けた、直下の通路は、そのあまりの爆音に通路の鉄板にところどころヒビが入っている。


千歌「う、うるさいぃ……」

善子「音技があると、こっちの動きが制限される……っ! やっぱどうにか“じごくづき”を叩き込まないと……!」

千歌「でも、近付いてもオンバーン空に逃げちゃうし……!」

善子「アブソルの攻撃は前に見てるからね……警戒してるんだと思うわ」


善子ちゃんはさっきから、どうにかアブソルを使って狙ってはいるものの、すぐに上空に逃げられたのち、一方的に上から攻撃を浴びせられるため、今アブソルはボールに戻している。

そんな話をしている間にも、
935 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:22:07.30 ID:XqTkDbxP0

 「キィィィィィィィィ!!!!!!」


オンバーンは溜めなしで金きり声を出す。


千歌「あ、頭に響くー……!!」

善子「ち、“ちょうおんぱ”……!! ……っく、ここは一旦引くっ!」


善子ちゃんはそう言ってから、通路の私が連れてこられた方へと飛行する。

私もそれにならって、追いかける。


千歌「よ、善子ちゃんっ、私たち逃げてる場合じゃ……!!」

善子「大丈夫よ、オンバーンは追ってくる」

千歌「……?」


言われて、背後を見ると、


 「ギキィギキィ!!!!」


確かにオンバーンは私たちを追ってきていた。


善子「オンバーンはもともとこの先にいたんでしょ?」

千歌「う、うん」

善子「あいつもエネルギー源だって言うなら、そこにエネルギーの転送装置があるはずでしょ! 千歌と戦闘せずに連れ去ったのは、そこの装置を壊さないため遠ざけたんだって考えたら辻褄があうわ!」

千歌「な、なるほど!」


逆に言うなら、ここで追ってくる時点であのオンバーンはほぼ確実に私たちが倒すべき敵──エネルギー源のポケモンというわけで……あれ?


千歌「よ、善子ちゃん!」

善子「……千歌も気付いた!?」

千歌「うん!」


……それこそ、私たちの目的はオンバーンを倒すことじゃない。エネルギーの転送を止めればいいんだ、なら──。


千歌「転送装置を壊せば、私たちの目的は達成される!」

善子「そういうこと!!」


──キィィィィ。

再び背後から、“ばくおんぱ”のチャージ音が聴こえてくる。


善子「ムウマージ!!」


だけど、善子ちゃんが指示を出した瞬間、

 「ムマァージ!!!」

ムウマージがどこからともなく現われて、オンバーンの横っ面に突進をかます。

 「ギキィッ!!!!」

ムウマージの突進で無理矢理横を向かされたオンバーンの音波攻撃は通路の横側を吹き飛ばすだけに至る。


千歌「ムウマージ! いつの間に……!」
 「今のは“ゴーストダイブ”ロト」


ロトムが横を浮遊しながら補足をしてくれる。
936 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:23:55.35 ID:XqTkDbxP0

善子「って、あんた何処行ってたのよ!?」
 「最初の“ばくおんぱ”で気絶してたロト。さっき起きたロト」

善子「……言われてみれば、ロトムの断末魔みたいなの聴いたような」
 「まだ、死んでないロト……。それより、梨子ちゃんから通信ロト」

千歌「梨子ちゃんから!?」


私たちは図鑑を取り出して、耳に当てる。


梨子『こちら梨子! スリーパー撃破! エネルギー転送装置みたいなものも発見したよ!』

善子「! ナイスよ、リリー!」

梨子『私はこのまま、中下層部に他に装置がないか探すね!』

善子「お願い! これで転送装置の存在も確証に変わった……! ずら丸と曜から連絡がないのは気になるけど……」

千歌「心配だね……でも二人を信じよう、私たちはエネルギーの転送装置を……!」
 「待って欲しいロトー」

千歌「え、どうしたの? ロトム?」
 「装置に直接アクセスして、電気信号を覚えれば、同じような装置の気配がわかるようになるはずロトー」

千歌「そんなこと出来るの!?」

善子「そういえば、ロトムは家電に住み着くゴーストポケモンだったわね……!」


そういえば、最初に出会ったときに鞠莉さんがそんなことを言ってたかもしれない。

家電……ではないけど、装置も電気を使って動く機械だろうし、ロトムが出来ると言ってるからには出来るんだろう。


善子「ざっくりとでも数と場所がわかれば、その情報は大きいわ!」

千歌「うん、そうだね! ロトム、お願いできる!?」
 「任せてロトー」


会話の最中、先ほどオンバーンに襲われた広い空間のある部屋に突入する。


善子「……って扉とかなかったけど」

千歌「あ、うん、オンバーンが“エアスラッシュ”で吹き飛ばしちゃって……」

善子「……そこまでしてでも、千歌を部屋から排除したかったのね」


善子ちゃんとのやり取りに割り込むように、


 「キィィィィィィァァァァァァァ!!!!!!」


通路側から鳴き声が響く。


善子「……もう来たか……っ! ロトム!」
 「ロト!?」

善子「千歌と一緒に装置を探しなさい!」

千歌「善子ちゃんは!?」

善子「時間を稼ぐ! 空中戦なら、私の方が得意だし! 装置は見つけて信号をロトムに覚えさせたら、即破壊して!」

千歌「わかった!! ロトム、行こう!!」
 「了解ロト!!!」


私は、ロトムと一緒に室内へ飛び出す。

そして、背後の善子ちゃんは、


善子「ランプラー、ユキワラシ!!」
 「プラァ」「ユキッ」
937 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:27:35.40 ID:XqTkDbxP0

更に追加でランプラーとユキワラシのボールを放り、飛び出した二匹にすかさず手に持った石を近付ける。

二匹は進化の光に包まれたのち──


 「──シャンディ……!!」「──ヒュゥゥ……ッ」


新しい姿になって、善子ちゃんの傍らを浮遊している。


善子「行くわよ、シャンデラ、ユキメノコ!! さぁ、来なさいオンバーン! 遊んであげるわ!!」

 「キィィイィィィィィィ!!!!!!!!」


私は装置を探し、善子ちゃんはオンバーンを迎え撃つ──。





    *    *    *





──最下層部、曜。

床を貫通させながら、下へ向かってきた私たちは、

その最中で奇妙な構造の部屋を見つけた。


曜「これ……水槽かな……?」
 「タマ?」


目の前にはガラスが一面に張ってあり、その中には水が詰まっている。

そして、何より不思議なのは、

この水槽には下側にも口があるということだ、

アルファベットのJの形を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。

Jの文字の右側が目の前にある縦長の水槽部分、

左のちょこっと出ている低い出っ張りの位置に私たちは立っている。


曜「……一つに繋がった水槽を二層に分けて管理するためにこんな形なのかな……」


まあ、確かにこれだけ長いと、上からしか入口がなかったら大変ではあるけど……。

とは言え、めちゃくちゃ怪しいのは事実。

とりあえず潜ってみようかとゴーグルと果南ちゃんから貰った呼吸器を装着していたとき、


曜「……?」


ガラス張りの壁の先で、何かがゆっくりと降りてくる。

ピンクの塊が……人のようなものを引っ張っている……?

いや、あれは──


曜「花丸ちゃん!? 助けなきゃ!!」


私は反射に近いスピードで水槽へと飛び込んだ。


938 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:29:34.76 ID:XqTkDbxP0


    *    *    *





花丸「が、がぼぼっ……」


花丸ちゃんを引き摺りこんで居るのは、♀のブルンゲル。

以前15番水道でことりさんが撃退したやつだ。

私はブルンゲルを一直線に指差す、その指で斜めに薙ぐようなジェスチャーをする。


 「タマッ」


──タマンタ、“エアスラッシュ”!!


タマンタから放たれた斬撃が水中内を伝播しながら、花丸ちゃんに絡み付いている触手に直撃する。


 「ブルン…」


突然の下からの攻撃に驚いたのか、ブルンゲルの触手が花丸ちゃんから離れる。


花丸「ぶくぶくぶく……」


私はそのまま、泳いで近付いて、花丸ちゃんの腰辺りを腕を回して、そのまま私とタマンタが今さっき飛び込んだきた水槽の口へと、運んでいく──。





    *    *    *





花丸「……げほっ! ……げほっ!」

曜「はぁ……はぁ……花丸ちゃん! 大丈夫!?」


水槽の入水口から十分に距離を取ってから、花丸ちゃんを介抱する。


花丸「だ、大丈夫……ずら……。……ありがと、曜ちゃん……助かった、ずら……」


意識はハッキリしている。

どうやら引き摺り込まれた直後だったようだ。


花丸「もう、一匹……いるのを、忘れてた……ずら……」

曜「もう一匹ってことは……」

花丸「♂の方は上の階層で倒したずら……エネルギーの転送装置を、確認しようとしたところで……引き摺り込まれて……」


肩で息をしながら、花丸ちゃんが状況を説明する。


曜「なるほど……」

花丸「……まだ、装置は確認出来てない、ずら……! なら、倒さなきゃ……!」


花丸ちゃんは立ち上がって水槽の方に向かおうとするが、
939 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:31:06.54 ID:XqTkDbxP0

曜「ま、待って! 花丸ちゃん!」

花丸「……?」

曜「冷静になって? 花丸ちゃん、水中で戦えるポケモン持ってないよね? ここで突っ込んでもまた同じ結果になるだけだよ?」

花丸「ずら……」

曜「引き摺り込まれたとき、手持ちは外に出してたの?」

花丸「……う、うん。上の階層にドダイトスとデンリュウを置いてきちゃってるずら……」

曜「それなら、一旦合流した方がいいよ。このままの状態は花丸ちゃんにとっても、花丸ちゃんの手持ちにとっても良くないし」


ここは敵地である以上、自分の手持ちは自分の目の届くところに置いておかないと、何が起こるかわからない。


曜「ブルンゲルは、私が倒すから」

花丸「曜ちゃん……」

曜「水中戦なら、誰よりも戦えるのは私だから、任せて!」

花丸「……わ、わかったずら」


花丸ちゃんは私の言葉を聞いて、冷静さを取り戻したようだ。


花丸「ゴンベ! ウリムー!」
 「ゴンッ」「ウリッ」

花丸「“かぎわける”でドダイトスとデンリュウのニオイを探して!」
 「ゴンッ!」「ブー」


ゴンベとウリムーはくんくんと鼻を鳴らして、歩き出す。


曜「よし……じゃあ、行って来るね」


私は再びゴーグルと呼吸器を装着し、

 「ガメ」「キュウ」

水槽の着水口に、カメックスとラプラスを繰り出す。


花丸「曜ちゃん……気をつけてね……!」

曜「ん、花丸ちゃんも!」


私は花丸ちゃんに敬礼したあと、水中へと飛び込んだ──。





    *    *    *





──さて、水の中で上下左右を見回す、

すると、水槽の下の方からピンク色の物体が浮かんでくる。

さっきのブルンゲルだ、


 「キュウ」「ガメ」「タマ」


私の周りにはラプラス、カメックス、タマンタの3匹。

さすがにこの狭い空間でホエルオーは出せない。

私はブルンゲルに向かって、腕を横向きに薙ぐジェスチャーをする。
940 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:32:11.18 ID:XqTkDbxP0

 「キュウッ」


ラプラス、“フリーズドライ”!

ラプラスが前方に向かって、冷気の波動を発する。

動きの鈍いブルンゲルは、


 「ブル、ン」


そのまま、冷気に掴まって、凍りはじめる。

そこにすかさず、ジャブで打ち抜くようなジェスチャー。


 「ガメー!!!」


カメックス、“ハイドロポンプ”!

カメックスから渾身の水砲が発射され、


 「ブルンッ」


ブルンゲルを吹っ飛ばした。

……水中に引きずり込んでくることが厄介なだけで、ブルンゲル自体はそこまで強くなかったようだ。

安心して、水上に戻ろうとした、そのとき、


 「タマッ!!!!」

曜「!?」


タマンタが叫ぶ、

タマンタは水中の微妙な動きをキャッチすることが出来る。

そのタマンタが何か異常を報せていた。

私は咄嗟にタマンタの体に掴まり、


 「タマッ!!!」


それを確認すると、タマンタは私を引っ張りながら、“こうそくいどう”で泳ぎ始める。

直後──


曜「……!!」


私の居た場所を何か針のようなものが掠めた──

いや、あれも見たことがある。

──“ミサイルばり”。

皆は……!?

周囲を見回すと、


 「キュウッ」「ガメッ」
941 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:33:26.26 ID:XqTkDbxP0

ラプラスもカメックスも警戒態勢で、泳ぎまわっている。

狙いを付けられないように、

……どうやら、二匹とも戦う準備は十分のようだ。

私は水底に目を向ける。

かつて、スタービーチで私たちを苦しめたのと同じポケモンの姿が、そこにはあった。


 「…ドイヒ」


ドヒドイデ……!

あのときは果南ちゃんが捕まえたから、あれは恐らく別の個体だろうけど……。

私にとっては因縁のあるポケモン。

カメックスに目を配る。


 「ガメッ」


カメックスが頷く。

ラプラスに目を配る。


 「キュウッ」


ラプラスが頷く。

私も、頷いた。

今度こそ、勝とう、皆で……!


 「ガメーッ!!!」「キュウッ!!!!」


──前回同様辺りには気付けば既に“どくびし”が撒かれつつあった、

私は腕を回内させながら、拳を前に突き出す。


 「ガメーッ!!!!」


それを見たカメックスが体を甲羅に収め、回転しながら飛び出した。

──“こうそくスピン”!

“どくびし”を蹴散らし、進む。


 「ドイヒ…」


そこに向かって、ドヒドイデは“とげキャノン”を撃ち出して来る。

私は、拳を握ったまま突き出して、パッと手を開くジェスチャー。


 「キュウッ!!!」


ラプラスが周囲に小さな氷の塊を作り出して、発射する。

──“こおりのつぶて”!

氷は“トゲキャノン”を相殺し、カメックスを守る。


 「……ドイヒ」
942 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:34:56.92 ID:XqTkDbxP0

それを見たドヒドイデは、全身の触手を閉じて、ドーム状になってしまう。

あれは……確か“トーチカ”だ。

毒針を立てたまま、防御姿勢を取る技。

私は、タマンタを促して、水底へと泳いでいく。


 「ガメッ」「キュウッ」


私たちが水底に降り立っても。


 「……」


ドヒドイデは“トーチカ”を開かない。

防御してれば、それでこっちが折れるという算段なんだろう。

……前までだったら、これだけで私たちには戦う術はなかっただろう。

私は──メガイカリを右手で握り込む。

眩い光と共に──


 「ガーメッ……!!!」


カメックスはメガカメックスへと姿を変える。

これだけじゃない。

私は──旅立ちのあの日にダイヤさんから貰った、“みずのジュエル”を取り出した。

そして、メガカメックスの口に加えさせる。

メガカメックスは水底に四肢を着き、

三つの砲門全てをドヒドイデに向ける。

水のエネルギーを充填を始める。

──あのとき、私が始めて旅立った海で……私の大好きな海で、我が物顔で好き放題やっていたドヒドイデ。

そんなドヒドイデに手も足も出ずに負け帰って、それ以降バトルが怖くなった。

でも……今、この一撃でその過去とも、さよならだ。

私は──私たちは、強くなった……!!


 「ガーメッ!!!!」


メガカメックスの口元にあった“みずのジュエル”が砕けて、みずタイプのエネルギーがカメックスに収束していく。

特性“メガランチャー”により、最大まで威力を増した、最強の“みずのはどう”を──


 「ガメーーーー!!!!!!!!」


──発射した。





    *    *    *





──中層、花丸。

ゴンベ、ウリムーの力を借りて、さっきの部屋まで戻ってきたマルは、
943 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:37:10.36 ID:XqTkDbxP0

花丸「ドダイトス! デンリュウ!」
 「ドダイッ!?」「リュゥーーーー!!」

花丸「ごめんね……!! 心配したよね……!!」


二匹の手持ちとやっと合流することが出来た。

よし、この後は──

次の行動を考えようとした、その瞬間、

──全身が大きく揺れた。

いや、床が傾いた……?


花丸「な、なんずら……?」





    *    *    *





理亞「……ドヒドイデの水槽の底が吹き飛んで、水が飛空挺の外側部に流れ込んでる……?」


コントロールルームのアラートを聞きながら、私は顔を顰める。


理亞「外側部、これ以上水が流れていない部分に入り込まないように非常シャッターを下ろして。艦艇、ドヒドイデの水槽と逆側に注水して艦の傾斜復元。総重量が変わるわけじゃない、バランスさえ保てばすぐに飛行は安定する」


手早く管理AIに指示を出す。


理亞「……やってくれるじゃない」





    *    *    *





──下層部、梨子。


梨子「──え、破壊?」

千歌『うん、梨子ちゃん、倒したあとの装置は破壊とかしてないかなって』

梨子「……完全に忘れてた」


言われてみれば、壊してしまえば再利用される心配もないし、今回の目的に一番沿ってるのは間違いなく、装置そのものの完全破壊だ。


梨子「ごめん……戻って壊してきた方がいいかな……?」


今現在は襲ってきた団員たちをどうにか撃退し、下層部から中層部へと向かう道すがらだった。


千歌『あ、ううん! 今現在装置が残ってるのかだけ確認したかっただけだから』

梨子「どういうこと?」

千歌『ロトムが今同じ装置の電気信号……? みたいなのを覚えてる真っ最中なんだけど、それで他の装置の場所とか数もサーチ出来るようになるって言ってたから』

梨子「……なるほど」


壊れている装置は確かにサーチ出来ない。
944 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:47:04.04 ID:XqTkDbxP0

 『検索完了ロト!!』

千歌『あ、サーチ終わったの?』
 『終わったロトー』


どうやら、今話していたそのサーチも、たった今終わったようだった。


 『機能が停止してる装置が今ここ上層部にある1個、下層部に1個、中層部に1個。現在稼働中のものが中層部の艦尾側に1個あるロトー』

千歌『え!? じゃあ生きてるのは残りは1個ってこと!?』
 『加えて……今さっきまで似たようなエネルギー供給ルートが生きてた痕跡が最下層部に1個あったロト』

梨子「全部で4個……私が倒したスリーパーの居た下層部。中層部は花丸ちゃんが向かった方向」

千歌『上層部のは今私たちが抑えてるやつだよ!』

梨子「最下層のは、たぶん曜ちゃんが破壊したってことよね……!!」


さっき艦が揺れたのは、曜ちゃんが破壊した衝撃だったのかもしれない。


千歌『皆すごい! ちゃんと各個撃破してる!!』

梨子「なら、私はこのまま中層部の最後の一個を探すね!」

千歌『わかった! 私もこれ破壊したら、そのままそっちに向かうから!』


そこで千歌ちゃんとの通話が終了する。

そのタイミングで丁度中層部に戻ってきた私は、


花丸「──ずら!?」

梨子「花丸ちゃん!?」
945 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:48:04.26 ID:XqTkDbxP0

ちょうど、通路で花丸ちゃんと邂逅する。


花丸「梨子ちゃん、助かったずら……!! 図鑑の通話がうまく使えなくて……」

梨子「ええ!? え、えっと、とりあえず残りの装置はあと中層部にある一個だけみたい。花丸ちゃんは一個止めたんだよね?」

花丸「あ、うん! さっき戦った部屋で、もう稼動してない装置を水中で見つけたずら!」


水中……? 飛空挺で……? ……まあ、それはいいや。


梨子「となると、本当に最後の一個が中層の艦尾側にあるだけってことね!!」

花丸「あと一個ずら!? それなら、このまま……!!」

梨子「……いや、花丸ちゃんはこのまま、艦首側に向かって!」

花丸「ずら? 艦首側ってマルたちが最初に入ってきた方じゃ……」

梨子「4個の装置を停止させた時点で、バリアの強度もだいぶ下がってきてると思うの」

花丸「……確かに」

梨子「私はこのまま最後の装置を探すけど、私たちの目的はそのあとの解除したバリアの先にある……だから、花丸ちゃんは先にそっちに向かって!」

花丸「……! で、でも、マルでいいの?」

梨子「……私は詳しい事情まではわからないけど……友達なんでしょ? ルビィちゃんって子」

花丸「!」

梨子「……友達、助けに行ってあげて?」

花丸「……うん!」

梨子「それじゃ、また後で!」

花丸「うん! 梨子ちゃんも気を付けて!」


花丸ちゃんと二手に分かれて、私は最後の装置を目指し、艦尾に向かって走り出した──。


946 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:49:39.39 ID:XqTkDbxP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【飛空挺セイントスノウ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄ ●  |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口
947 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 11:50:23.48 ID:XqTkDbxP0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.52  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.47 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.52 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.49 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.52 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.49 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.46 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.46 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.48 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:116匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.49 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.46 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルオー♀ Lv.41 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.44 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      カイリキー♂ Lv.41 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.40 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.47 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ドンカラス♀ Lv.51 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.46 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      シャンデラ♀ Lv.49 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキメノコ♀ Lv.40 特性:ゆきがくれ 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:52匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.38 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.33 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.34 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.31 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:96匹 捕まえた数:38匹


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



948 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:20:33.49 ID:XqTkDbxP0

■Chapter067 『バリアの先へ……!』





──上層部、善子。


 「ギキィァァァァアァァァァ!!!!!!」


前方からオンバーンが迫る、

──キィィィィ……。

オンバーンの耳から、また攻撃の予兆。


善子「ドンカラス、シャンデラ! “ねっぷう”! ムウマージ、ユキメノコ! “こごえるかぜ”!」
 「カァーーー!!!!!」「シャンディーーー」 「マァージッ!!!!!」「ヒュゥゥゥ……!!!」


高温の風と、低温の風が絡みうねりながら、オンバーンに襲い掛かる。


 「ギキィ!!!! ギキィィィィ!!!!!!」


オンバーンは憎そうに金きり声をあげるが、耳の音は止まった。


善子「なんとなく仕組みがわかってきたわ……!」


“ばくおんぱ”を撃つ際に何故チャージタイムがあるのかずっと疑問だった。

いや、正確にはあれだけの出力を出す以上、準備は必要だとは思うけど……。

疑問だったのは、何故相手に悟られるような、攻撃の予兆があるのか、だ。


善子「あれは、周囲の空気の状態をソナーで探ってる音だったのね……!」


あれだけの高出力の音波攻撃だ、無闇矢鱈に撃っていたら反響音で自分自身へも大なり小なりダメージを受けてしまう。

そこで役に立つのはあのソナーだ。音は気温によって微妙に伝わり方が変わる。

だから、攻撃の直前に周囲の音の伝わり方を確認してから、いかに効果的に相手を攻撃し、同時に自分へのダメージが少ない方向や距離を探っているということだ。

ましてや、この閉鎖空間。オンバーンにとっては、反響音による自傷のリスクは屋外よりも大きい。

より慎重になってるはずだ。

それなら、高温低温の風攻撃はかなり有効だ。


善子「ユキメノコ、“れいとうビーム”! シャンデラ、“かえんほうしゃ”!」
 「ヒュォォォォ……!!!!」 「シャンディーラッ!!!!!」

 「ギキィッ!!!!!!」


オンバーンは身を捻りながら、“れいとうビーム”を回避、

翼を振るって、“ぼうふう”を起こし、“かえんほうしゃ”を風で掻き消す。


善子「ムウマージ、“シャドーボール”!!」
 「ムマァーージ!!!!!」


その隙に次の攻撃を続け様に叩き込む。

 「ギキィァ!!!!!」

さすがにこの連撃は捌ききれず、直撃。


善子「よし……!! いけるわ!!」
949 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:21:23.27 ID:XqTkDbxP0

高温低温を織り交ぜながら、“ばくおんぱ”を妨害し、その隙に連撃を差し込む。

この戦法なら押し切れる──!!





    *    *    *





千歌「ロトム、データは取れた?」
 「完璧ロト」


梨子ちゃんとの通話を終えて、私はロトムに確認を取った後、


千歌「よし! ルカリオ!」
 「グゥォ!!!!」


ルカリオが両手から直接波導を流し込んで、装置を破壊する。


 「……完全に機能停止したロト!!」

千歌「よし……!! ムクホーク!!」
 「ピィィィ!!!!!」


ルカリオをボールに戻しながら、傍らで待っていたムクホークの脚に掴まり、飛び立つ。

同時に図鑑を開いて。


千歌「善子ちゃん! 装置破壊完了だよ!」


善子ちゃんに通信をする。


善子『OK!!』

千歌「後は逃げるだけだね!」





    *    *    *





千歌『──後は逃げるだけだね!』


千歌からの通話を聞きながら、


善子「ドンカラス!! 撤退するわよ!」


 「ギキィ…」


こちらを睨んでくる、オンバーンから視線を外さないように後退する。

完全に攻撃の対策を打たれて、苛立っているのか、オンバーンはその場に留まってホバリングしているだけだった。

──いや……。


善子「……おかしくない……?」
950 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:22:49.71 ID:XqTkDbxP0

あれだけ、猛攻を続けていたオンバーンが何故急に大人しくなる……?

急な温度差によって陽炎の揺らめく先にいるオンバーンに目を凝らす。

すると──オンバーンの翼に、何かキラキラとした輝きのようなものが収束し始めていた。


善子「……!? や、やばっ!? あれって、もしかして!!?」

 「ギキィィィィィィィ!!!!!!!!」


オンバーンが雄叫びと共に、高速でその場を飛び出した。


善子「──“ゴッドバード”!!?」


ひこうエネルギーを限界までチャージして、突進と共に放つひこうタイプ最強クラスの大技だ。


善子「全員退避──」


だが、指示も虚しく、


善子「……っ!!」


膨れ上がったエネルギーが通路側から溢れて、爆発を起こす。

 「ムマァーージ!?!?」「シャンディ…!!!」「ヒュォォ…!?」

手持ちたちが室内に向かって吹き飛ばされる。


 「カァカァーーー!!!!!」
善子「ドンカラス!! 気合いで持ちこたえなさいっ!!」


私の掴まっているドンカラスも例外ではない。

急なエネルギーの爆発の余波を受け、バランスを崩したドンカラスごと空中でぐるぐると回転している。


善子「ドンカラスッ!!!!」
 「カァーーー!!!!!」


私が必死に叫ぶと、ドンカラスは羽を思いっ切り羽ばたかせ、どうにか姿勢を保とうとする。

お陰で、徐々にブレる視界が元に戻って──


 「ギキィ……!!!!!!」

善子「……!!」


──その視界に飛び込んできたのは、オンバーン。

ヤバイ、この距離での追撃は、無理だ。捌ききれない。

──キィィィィ……

“ばくおんぱ”の予兆音。


千歌「──“ブレイブバード”ッ!!!」
 「ピィィイィィィィィィ!!!!!!!」

 「ギキィ!?」

善子「!!」


そんな窮地を救ってくれたのはまたしても千歌とムクホークだった。

上から急降下で突撃して、オンバーンを下方に突き飛ばす。
951 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:24:01.01 ID:XqTkDbxP0

善子「ありがと、千歌!! 助かった……!!」

千歌「うん! 丁度真下にいるのが見えたから!」


言われて、千歌が急降下してきた方向を見ると、天井に見える円柱状の鳥かごのような物体が煙を上げているのが見えた。


善子「天井に作ってたのね……!」

 「お陰で見つけるのに苦労したロト」


ロトムが千歌の後ろの方から、うんざりしたような声音でそう言いながら飛んでくる。

部屋に入ってしまえば、どこからでも装置は見渡せるが、先入観のせいでなかなか視界に入らない。良い設置場所かもと敵ながら褒めてしまいそうになる。


 「ギキィィ……」


声がして、下に目線を落とすと、オンバーンが体勢を立て直そうとしている。


善子「タフすぎでしょ……!!」


一体あのオンバーンは何度攻撃が直撃すれば倒れるんだろうか。


善子「とにかく、装置を壊したならもう用はないわ! 逃げるわよ!」

千歌「うん!」


空中に浮かぶ、ムウマージ、シャンデラ、ユキメノコを回収しながら、千歌と二人で部屋から出ようとした、そのとき。


 「キィ」


眼下のオンバーンの様子がおかしいことに気付く。

その視線は──天井の壊れた装置に注がれていた。


 「キィ…」


そして、そのまま流れるように私たちに視線を移してくる。

そのオンバーンの視線に、


千歌「──ひっ!?」


千歌が声をあげた。

私も背筋が凍った。

そこにあったのは──禍々しい、殺意。

脳が警鐘を鳴らしはじめた瞬間には、もう遅かった──


────キィィィィィィン、

善子「──ッ!!!!」
952 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:25:04.84 ID:XqTkDbxP0

大きな衝撃が襲ってきたと思ったら、身体が跳ね上がる。

中空を跳ね飛ばされながら、見えた天井が、壁が、ガラスが、

次々と罅割れて行く。

──“ばくおんぱ”だ。

チャージはなかった。

“げきりん”に触れたんだ。

守るべき装置が壊されたことを認識して、

もはや自分の身すら顧みず、全てを破壊する殺戮の音波で攻撃してきた。


善子「────」


直撃で耳がイカレた。

音がしない。

上部からは、天窓が割れて、ガラス片が降ってくる。

──ふと、視界に千歌が映る。


千歌「──!!」


目が合った。

千歌は片耳を押さえながら、苦しげな顔をして何かを叫んでいる。

千歌も同じような状態なんだろう、

なんか、思い出すわね。

ドンカラスがバランスを崩している。

私は落ちている。

ムクホークに掴まった千歌が手を伸ばす。

私の手を取ろうと、

私は手を伸ばして──

その手を払った。


千歌「!?」


千歌が驚いた顔をする。

私は落下する。

千歌の方を見て、口を開いた。


善子「─、─、─、─、―」


自分の声は聞こえない。きっと千歌にも聞こえていない。

だけど、伝わる気がした。

簡潔な5文字の言葉を発する口の形。

『さ・き・に・い・け』

私たちがここで二人とも倒れるわけにはいかない。あんたにはまだやることがある。


千歌「……!!」
953 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:26:42.13 ID:XqTkDbxP0

千歌は逡巡したが、

すぐに意図を汲んでくれたのか、ムクホークに掴まったまま、飛び出す。

その際、


千歌「────!!!!」


何かを言っていた。

たぶん……『絶対助けに戻るから』とかでしょ。

千歌ならたぶん、そう言うわ。

──落下する私の肩を掴む、黒い影、

遅いわよ、ドンカラス。

やっと体勢を整えたのか、ドンカラスが私を掴んで、そのまま急降下する。


 「────!!!」


怒り狂っている眼下のオンバーンに向かって。

お陰で直撃は貰ったが──

決めるなら、今しかない。

私はボールを放った。


善子「──アブ──ルッ!!!」


やっと戻り始めた聴覚で、途切れ途切れ聞こえる自分の声を聴きながら、

天上からの一撃……!


 「──ソルッ!!!!」

 「────キィッ!!!!!」


善子「──“じごくづき”ッ!!!」


アブソルの頭の刃が、オンバーンに──炸裂した。





    *    *    *





千歌「──あー……あーー!!」


通路をしばらく飛行して、段々耳の調子が戻ってくる。


千歌「あー、あー……。よし……ちゃんと、聞こえる……!」

 「全く死ぬかと思ったロト…」


背中の方からロトムの声がした。

手で板状の体を掴んで、自分の手前に持ってくる。


千歌「ロトムも無事……?」
 「集音マイクをオフにしたからどうにかなったロト」

千歌「便利だね……」
954 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:27:31.30 ID:XqTkDbxP0

それはともかく、ロトムが起きててくれてるのは幸いだ。


千歌「最後の装置の場所、案内して!」
 「了解ロト!!」


大急ぎで倒して、善子ちゃんの元に戻らないと……!!





    *    *    *





──中層、梨子。

船尾の部屋に辿り着いて。

私は部屋の奥にあるエネルギー転送装置に鎮座したポケモンに目をやる。


梨子「……随分と堂々としてるね」

 「ヨノワ」


そこにいたのは、ヨノワール。

 『ヨノワール てづかみポケモン 高さ:2.2m 重さ:106.6kg
  頭の アンテナで 霊界からの 電波を 受信。
  弾力の ある 体の 中に 行き場のない 魂を
  取り込んで あの世に 連れて行くと 言われている。』

そしてヨノワールの周りには、

 「ヨマワー」「ワルー」

数匹のヨマワルが漂っている。


梨子「……もしかして、あなたが今地方各地で大量発生してる、ゴーストポケモンの親玉?」

 「ヨノワ…」


その相槌は否定なのか、肯定なのか。

ただ、一つハッキリしたのは、やはりゴーストポケモンたちもグレイブ団の手引きだったということだろうか。


梨子「どちらにしろ……あなたは倒さないといけない……!」


ボールを構える。

すると、


 「ヨノワー…」

梨子「!」


ヨノワールは自らエネルギー転送装置から離れ、私の方に進んでくる。


梨子「……かかってこいってこと?」

 「ヨノワー…」
955 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:28:29.83 ID:XqTkDbxP0

私を倒して、また持ち場に戻るということだろう。

大した自信……といいたいところだけど。

あれだけ大規模な大量発生のボスなのだ。

自分の強さに自信があってもおかしくない。

でも、負けるわけにはいかない。


梨子「行くよ! メガニウム!」
 「ガニュウッ!!!!」

メガニウムをボールから出す。


梨子「メガニウム! “つるのムチ”!」
 「ガニュウッ!!!!」


蔓を伸ばして、叩き付けようとすると、


 「ヨノワー」


ヨノワールはそれを手で掴み、

そのまま手が燃える。


 「ガニュッ!?」


握り締めた蔓はそのまま、焼き切れてしまう。


梨子「“ほのおのパンチ”……! なら、“はなびらのまい”!!」
 「ガッニュゥツ!!!!」


花びらが舞い踊り、ヨノワールに襲い掛かるが、


 「ヨノワー…!!!」


ヨノワールの目が光ったと思ったら、花びらたちは急に軌道を変えて地面に叩き落される。

──今度は“じゅうりょく”だ。


梨子「……くっ」


なら、次は──

刹那、


梨子「──がっ……!?」


お腹に衝撃を受ける。

恐る恐る、視線を下に下げると──

眼下にある自分の影から伸びた拳が、私のお腹にめり込んでいた。


梨子「が、げほっ、げほっ……!!」

 「ガニュッ!!?」


痛みに思わず蹲る。


梨子「今の……っ……“シャドーパンチ”……っ」
956 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:29:41.13 ID:XqTkDbxP0

正々堂々かと思いきや、当然のようにトレーナーを狙ってきた。

いや、考えてみれば当たり前だ。向こうからしたらトレーナーを潰せばそれでいいのだ。


 「ヨノワー……」


ヨノワールの拳が再び身体を離れて、影に潜っていく。

──不味い、次が来る……!


梨子「メ、メガニウムッ! “フラッシュ”!!」
 「ガニュゥッ!!!!」


メガニウムがその場で閃光し、私の影を掻き消す。

とにかく足元に影があったら攻撃し放題だ。

対策を──


 「ガニュッ!!?」
梨子「!?」


だが、拳はメガニウムを殴っていた。


梨子「メガニウム……ッ!?」


私が立ち上がろうとした瞬間。


梨子「っ!?」


脚を背後から何かに掴まれ、うつ伏せに転倒する。

いや、何かなんてわかりきっている。

ヨノワールの手で。

右手でメガニウムを殴り倒し、“フラッシュ”を解除させ、再び出来た影から左手を出して私の脚を掴んでいる。


梨子「……っ!!!」


振り払おうと、逆の脚で蹴り飛ばすが──

強い力で掴まれた手は、まるで離れない、

──バチバチリ、

爆ぜる火花の音、

その音に血の気が引いた。

拳の周りに稲妻が走る。


梨子「──っ!!!」


次の瞬間、全身に衝撃が走り、脳天まで突き抜ける。


梨子「──あ……が……っ……!!?」


──“かみなりパンチ”。

全身を電気が駆け抜け、痺れて動けない。


梨子「──あ……っ……あ……っ……!!」
957 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:31:20.64 ID:XqTkDbxP0

どうにか他の手持ちを出すためにボールに手を伸ばそうとするが、

全く身体が言うことを聞かない。


 「ヨノワー…」


蹲ったままの私の目の前に、いつの間にか浮遊してきたヨノワールが近付いてきて、


 「ヨノワー…」


お腹の口を開く。


梨子「……っ……」


もう、ダメだ。

そう思った瞬間──


千歌「“かえんぐるま”ァっ!!!!」
 「バクフーンッ!!!!!!!」

梨子「!!」


炎を纏いながら回転する、バクフーンが天井をぶち抜いて、ヨノワールを吹っ飛ばした。

そして、遅れて部屋の上部から、


千歌「梨子ちゃん!! 大丈夫!?」


千歌ちゃんが室内に降りてくる。


梨子「ち、か……ちゃ……」


 「ヨノワッ!!!」


ヨノワールはすぐさま体勢を立て直して、千歌ちゃんの方に手を伸ばす、が。


 「ガニュッ!!!!」


注意の逸れたヨノワールの横っ面に、メガニウムが“アイアンテール”を叩き込んで吹っ飛ばす。


 「ヨノワッ…!!!」

千歌「バクフーン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「バクフーーーッ!!!!」


そして、追撃の“かえんほうしゃ”。

今のうちに……!


梨子「メ、メガニウ、ム……! “アロマセラピー”……!」
 「ガニュッ」


メガニウムが近付いてきて、癒やしのフレグランスを私に振りまく。

それでやっと、体の痺れが取れる。


梨子「は……はっ……」


本当にもうダメかと思った。
958 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:34:45.22 ID:XqTkDbxP0

千歌「梨子ちゃんっ!」

梨子「大丈夫……っ! ありがとう、千歌ちゃん……!! 助かった……!」


二人並んで立つ、その先では、


 「ヨノワー……」


ヨノワールが恨めしそうにこっちに視線を向けている。


千歌「梨子ちゃん! 倒すよ!!」

梨子「うん!!」


千歌ちゃんとの共同戦線。ヨノワールとの第二ラウンドが始まった──。





    *    *    *





──中層艦首、花丸。

マルたちが最初に突入したバリアの部屋では、


 「バリ、バリ!!!」


バリヤードが盛大に焦っていた。


花丸「ゴンベ!」
 「ゴンッ!!!」


マルはゴンベを繰り出して、


花丸「“かわらわり”!!」
 「ゴンッ!!!!!」


ゴンベが拳に力を込めて、バリアを殴りつけると、

──パキパキ、

バリアにはいとも簡単にヒビが入り。


 「バリリ!?!? バリリ!!?」


焦るバリヤードを尻目に──ガラガラ、と音を立てて砕け散った。


 「バ、バリーー!!!!」


焦ったバリヤードが無鉄砲に飛び込んでくる。


花丸「ゴンベ! “なしくずし”ずら!」
 「ゴンッ!!!!」


隙だらけのバリヤードのお腹に向かって、正中を捉えた拳を叩き込む。


 「バ、バリィ……ッ」


攻撃を食らって、よろけるバリヤードに、
959 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:35:34.15 ID:XqTkDbxP0

花丸「“のしかかり”!!」
 「ゴンッ」


ゴンベが飛び掛るように追撃の“のしかかり”。


 「バリ、ィッ」


100kgを超えるゴンベに推し潰されて。


 「バリィ……」


バリヤードは気絶した。


花丸「……待っててね、ルビィちゃん……!!」


マルはゴンベと一緒に部屋の奥へと走り出した。





    *    *    *





ルビィ『ん……ぅ……』


──目が覚めると、真っ暗な空間に居た。


ルビィ『ここ……どこ……?』


キョロキョロと辺りを見回す。

すると、闇の中に赤い光が燈る。

よく知っている、いつも一緒に居る宝石の光。

──コランの光。


ルビィ『……コラン!』


コランは依然動かない。

そんなコランに──


 『……ヤミ』

ルビィ『!』


どこからともなく現われたヤミラミが手を掛ける。


ルビィ『や、やめて!!』


ルビィはヤミラミを止めようと、走り出そうとして──


ルビィ『あ、あれ……!?』


脚を動かせないことに気付く。

自分の姿を見下ろしてみると、

ルビィの身体は、闇の中に沈んでいた。
960 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:36:35.13 ID:XqTkDbxP0

ルビィ『な、なに、これ……!!』


腰の辺りまで、闇が纏わりついている。

動けない。


 『ヤミッ』


ヤミラミが口を開く。


ルビィ『や、やめてっ!!』


──バキリ。

コランの頭が噛み砕かれた。


ルビィ『や、やめてぇ……っ!!!!』


ルビィの叫びは……闇に呑まれて、消えて行く──。





    *    *    *





ルビィ「……やめ……て……」

理亞「…………」


眠っているルビィは泣きながら、『やめて、やめて』と繰り返している。

カラマネロの“さいみんじゅつ”によって、感情を揺さぶられるものを見せられているんだろう。

──これでいいの?

私の中に生まれたのは、そんな疑問。


理亞「……迷うな」


私は頭を振る。

私はねえさまの目的の為に、手段は選ばないって、決めたんだ。

私をずっと守ってくれていた、ねえさまのために……ねえさまの力になるために。


ルビィ「……コラ……ン……ッ」

理亞「…………」


ルビィが自らの手持ちのメレシーの名を呼ぶ。

クリフでの戦闘以来、まるで動かなくなってしまったルビィのメレシー。

そのメレシーは椅子に座らされたまま、“さいみんじゅつ”を受けているルビィの傍らで、今も沈黙している。


理亞「……ご主人様、泣いてるわよ」

 「────」


意味もなく、声を掛けてしまう。
961 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:37:13.22 ID:XqTkDbxP0

理亞「……あんたはそれでいいの?」

 「────」

理亞「……何やってんだろ、バカみたい……」


私は肩を竦めた。

それと同時に、部屋の出入り口の方から、大きな音がする。


理亞「……来たか」

花丸「──ルビィちゃん……!!」
 「ゴンッ!!」


私はボールを放りながら、前に歩み出る。

 「マニュー……ッ」


理亞「扉……壊さないでくれない?」

花丸「理亞さん……!!」


確か花丸とか言う名前だったか。

彼女は私の背後にいるルビィの姿を認めると、


花丸「!! ルビィちゃん……!!」


ルビィの名を呼んだ。


理亞「……巫女は今、夢を見てる最中。邪魔するな」

花丸「……ルビィちゃん、今助けるから……!」

理亞「マニューラ!!」
 「マニュ!!!!」

花丸「ゴンベッ!!!」
 「ゴンッ!!!!」


お互いのポケモンが飛び出した。


962 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 12:38:45.37 ID:XqTkDbxP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【飛空挺セイントスノウ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|●__|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.53  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.47 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.54 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.49 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.52 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.49 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.46 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.46 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.48 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:118匹 捕まえた数:13匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.47 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ドンカラス♀ Lv.53 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.48 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      シャンデラ♀ Lv.50 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキメノコ♀ Lv.42 特性:ゆきがくれ 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:52匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.38 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.33 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.34 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.31 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:97匹 捕まえた数:38匹


 千歌と 梨子と 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



963 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:05:02.77 ID:XqTkDbxP0

■Chapter068 『決戦! パルキア!』 【SIDE Dia】





──時は少し遡って……千歌さんたちがセキレイシティから飛び立った直後のこと。

わたくしたち3人も、準備を終え、クロサワの入江へと飛行している真っ最中でした。


果南「そういえば鞠莉」

鞠莉「ん?」


ビークインの下腹部を掴んでぶらさがっている果南さんが、同じくビークインの右腕に腰掛けている鞠莉さんに下から問い掛ける。


果南「ロトム図鑑を千歌たちに預けたってことは、今鞠莉は図鑑持ってないってこと?」

ダイヤ「そういえばそうですわね」


わたくしはオドリドリに掴まったまま、二人の会話に加わる。


ダイヤ「……ですが、ロトム図鑑と鞠莉さんの図鑑……形が全然違ったような……?」

鞠莉「……あー、ロトムのボディはアローラモデルだから、別の機種だヨ。わたしは昔から使ってるカントーモデルの持ってるから」


そう言って紫色のポケモン図鑑を取り出す。


果南「あ、それそれ。なんか懐かしいな」


果南さんは楽しそうに笑いながら、緑色の図鑑を取り出す。


ダイヤ「全く……遊びに行くわけじゃないんですわよ?」

果南「そう言いながら、ダイヤも図鑑出してるじゃん」

ダイヤ「……こ、これは……まあ」


わたくしも二人に釣られて、真っ赤な自分のポケモン図鑑を取り出していた。


ダイヤ「またこうして……この3つの図鑑が集まって一緒に戦うことになるなんて……」

果南「確かにすごい久しぶりかもしれないなぁ……」


果南さんがしみじみと言う。


鞠莉「……これだけ時間が経って、皆それぞれ成長したのに、なんで果南は未だにわたしのビークインに相乗りしてるのかしらねー……」

果南「いやーなんか、ここが落ち着くというか」

鞠莉「わたしが『飛行用に』って、あげたスワンナはどうしたのよ?」

果南「……普段は連れてるけど、今回は決戦だから置いてきた。やっぱりバトル用のフルメンバーじゃないからね」

鞠莉「ふーん……まあ、いいけど」

果南「そういう鞠莉は大丈夫なの? ロトムが居ないけど」

鞠莉「大丈夫よ、ロトムが抜けた穴には切り札を用意してきたから」

果南「へぇ、そりゃ楽しみだ」

ダイヤ「二人とも、いつまでも無駄話していないで。そろそろ入江に突入しますわよ」

果南「了解」

鞠莉「OK.」
964 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:07:39.99 ID:XqTkDbxP0

全く……いつまで経っても緊張感がないのですから……。

……いえ、緊張感がないのは雰囲気だけで、実際3人とも緊張はしているのですが。

準備は入念にしてきたし、果南さんも普段旅をしている間は連れていない、戦闘用のフルメンバーをしっかり揃えてきているのは何よりの証拠。

鞠莉さんに至っては彼女自身もフル装備です。左腕にはスナッチマシーン、右腕にはミラクルシューターを装備している。右耳に付けている貝殻をあしらったピアスは……鞠莉さん用に拵えたキーストーンですわね。

鞠莉さんは今も移動しながら、簡易的な工具を使って、スナッチマシーンに調整を施している。

ここにいる誰も使ったことがないアイテムである以上、ぶっつけ本番での使用に耐えうるのかは不安要素ではありますが……。

そして、緊張しているのは、わたくしも──

震える右手を握り込む。

これはきっと武者震いですわ……。


ダイヤ「果南さん! 鞠莉さん!」

果南「ん?」
鞠莉「なに? ダイヤ」

ダイヤ「……絶対に勝ちますわよ……!」

果南「もちろん」
鞠莉「Yes!! そのつもりだヨ!」


わたくしたちは入江内部に突入し、そのままわたくしが先導する形で突き進む。

入江内の天井や壁には、いつもの輝きはほとんどない状態だった。


鞠莉「Carbinkたち……ほとんどいないわね……」
 (*Carbink=メレシーの英名)

ダイヤ「恐らく強大なポケモンのエネルギーに驚いて隠れてしまったのでしょう……」


逆に言うなら、報告通り、ここにパルキアが来ているということだ。


ダイヤ「急ぎましょう……!」





    *    *    *





入江の陸に降り立って、洞窟内を3人で駆ける。


鞠莉「ダイヤ、今どこに向かってるの!?」

ダイヤ「祠ですわ」

果南「祠?」

ダイヤ「この洞窟の奥には、ディアンシー様を祀る祠があるのですわ」

鞠莉「ナニソレ初耳なんだけど」

ダイヤ「基本的にはクロサワの一族しか知りませんからね」

果南「でも、聖良はそこに辿り着けてるのかな?」

ダイヤ「これだけ大規模な計画を練っていた人物です。まさか入江内の調査を全くしていないとは考えにくいですわ」

果南「ま、それは確かに……」


3人で駆けていると、ある場所にメレシーたちが集まっているのを発見する。
965 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:09:42.90 ID:XqTkDbxP0

果南「! あれって、もしかして……!」

ダイヤ「あの辺りが祠への入口になっていますわ! メレシーたちが集まってきている……恐らく聖良さんは既に中に居ますわ!」


恐らく“ゆうかん”な性格や“まじめ”な性格の個体のメレシーたちが集まって、周囲に侵入者の存在を報せているのでしょう。

アーチ状に集まるメレシーたちの下を潜って、通路を抜けると──そこは開けた空間になっている。


鞠莉「……この入江にこんな空間が」


驚いたような口振りで、辺りを見渡す鞠莉さん。

その天井の高い空間の奥には、七色の宝石で輝く祠が鎮座していた。


果南「うわ、すご……さすがメレシーの女王様の祠……」


そして、その祠の前には──


聖良「……来ると思っていましたよ。皆さん」


聖良さんの姿。


ダイヤ「聖良さん。ここまで来てしまいましたわね」


わたくしは一歩前に出る。


ダイヤ「ここは聖域……貴方のような邪悪な考えを持った人間が、おいそれと踏み入っていい場所ではありませんわ。一応、忠告して差し上げます。即刻、立ち去りなさい」

聖良「そう邪険にしてないでください。ここに辿り着くまで苦労したんですから」


聖良さんはそう言って笑う。


聖良「しかし、本当に入り組んだ洞窟ですね、ここは。理亞がクロバットのエコーロケーションで作ってくれた地図がなかったら、本当に辿り着けなかったかもしれません」

ダイヤ「こちらとしては、辿り着かないでくれた方がよかったのですが……」

聖良「すみません。こちらにも事情があるので」

ダイヤ「……どのような事情かは、貴方を捕まえた後でたっぷり詰問して差し上げますわ」


啖呵を切って、ボールを構える。


聖良「……怖いですね。じゃあ、やってみてください。──出来るものならですが」


聖良さんがボールを放る。

そして、再び──伝説のポケモンが放たれた。


 「バァル……」


鞠莉「……パルキア……!」

果南「いやぁ……嘘であって欲しかったんだけどな」


パルキアは、なんとも言えない、禍々しい雰囲気でわたくしたちを見下ろしている。


聖良「嘘ではありませんよ……! パルキア!!」
 「バァル……!!!」


パルキアが腕を振り上げる、あれは飛空挺でも見せられた技──!!


果南「──ま、トレーナーの方の腕はそこまでじゃないみたいだけどね」
966 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:10:47.33 ID:XqTkDbxP0

果南さんの言葉と共に、


 「バァルッ……!!!!!」


パルキアが姿勢を崩した。

気付けばパルキアの足元には──


果南「ニョロボン!! “ともえなげ”!!」

 「ボンッ!!!!」


パルキアの巨大な体躯の下に身体を滑り込ませたニョロボンの姿。

全身を使ったフルパワーの投げ技が──


 「ボンッ…!!!!」

果南「……って言っても、相手がでかすぎる……! 体勢崩すのが限界か……!」

ダイヤ「いえ、十分ですわ!!」


──“あくうせつだん”を不発させただけで、お手柄だ。

この隙は逃さない。

地鳴りと共に──パルキアの足元が揺れる、


 「バァル!!!!」

 「ンネェーーーール!!!!!」


飛び出すのは鋼鉄の蛇、


ダイヤ「ハガネール!! “しめつける”!!」
 「ンネェーーーール!!!!!」


ハガネールがパルキアの身体に巻きつき、動きを封じる。


ダイヤ「鞠莉さん!!」

鞠莉「OK. 行くヨ、サーナイト! メガシンカ!!」
 「サーナ」


鞠莉さんの右耳のメガピアスと共鳴するように、サーナイトが光り輝く。


 「──サーナ……!!!」

鞠莉「“はかいこうせん”!!!!」


メガシンカと共にメガサーナイトから、“はかいこうせん”が放たれる。

強力な光線が直撃した、パルキアは、


 「バァ、ルッ!!!!!!」


後ろ向きに転倒し、祠に身体をぶつける。

そのタイミングを見計らって、ハガネールが離れる。
967 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:12:02.67 ID:XqTkDbxP0

聖良「……はははっ! 素晴らしいコンビネーションですね!」

ダイヤ「貴方に勝ち目はありませんわ!! 潔く降参なさい!!」

聖良「──流石に……“しらたま”無しというわけには行かないようですね……!!」

ダイヤ「!?」


聖良さんが真っ白に輝く宝石を取り出す。

すると、宝石が光り輝き、


 「バァァーーール!!!!!!」


パルキアの周囲に青いリングのようなものが出現する。


 「ボンッ!!!!」

 「ネェール!!!!!」


そのリングは衝撃を発生させ、近くにいたニョロボンとハガネールを吹き飛ばす。


鞠莉「まさかアレ……“アクアリング”!?」

果南「“アクアリング”はそういう技じゃないでしょ!?」

ダイヤ「さすがに一筋縄ではいきませんか……!!」


普通、回復技のはずの“アクアリング”もあまりの出力の高さに、衝撃波を発生させている。

まさに規格外のポケモンのようだ。


聖良「“ハイドロポンプ”……!!」

 「バァーール!!!!!!」


指示と共に“アクアリング”から、水塊が飛び出してくる。


果南「ダイヤッ!!!」

ダイヤ「わかってますわ!!!」


果南さんと息を合わせて、次の手持ちを出す。


ダイヤ「ミロカロス!!」
果南「ギャラドス!!」
 「ミロ…ッ!!!」「ギャシャァァーーー!!!!!」

ダイヤ・果南「「“ハイドロポンプ”!!!」」


二匹から同時に“ハイドロポンプ”が発射され、パルキアのモノと相殺する。

攻撃が爆ぜ散り、霧散する水の影から、流れるようにギャラドスとミロカロスが飛び出し、パルキアに接近する

“アクアリング”の周囲を泳ぐように滑りながら、二匹の龍がパルキアの周りを取り囲み、

そのまま、尾を振るう──


ダイヤ・果南「「“アクアテール”!!!」」

 「ミロ!!!」「シャァァー!!!!!」
968 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:13:26.90 ID:XqTkDbxP0

二匹が両サイドから、水のエネルギーを纏った尻尾を振るう──が、

 「バァル……!!!」

パルキアはそれを片手でそれぞれの尻尾を掴んで止める。

そのまま、二匹を叩き付けようとするが、


果南「“りゅうのいかり”!!」
ダイヤ「“りゅうのいぶき”!!」

 「ギャシャァァーッ!!!!!」「ミロッ!!!」


二匹すぐさま、頭の方向をパルキアに向け、ドラゴンエネルギーを纏った炎を口から吹き出す。

 「バァァッ!!!!!」

一瞬、パルキアが怯んで手を放したところに──


ダイヤ・果南「「“ドラゴンテール”!!!」」


再び強力な尻尾での攻撃を叩き込む。


 「バァル!!!!」


だが、パルキアもそれでは倒れない。

パルキアの周囲に、エネルギーで作った宝石が出現する──“パワージェム”だ。

その瞬間咄嗟に、ギャラドスは身を引き、そこに滑り込むように前に出るミロカロス、


ダイヤ「“ミラーコート”!!」

 「ミロカァ……!!!!」


発射された“パワージェムは”すぐさま反射され、


 「バルゥッ!!!!」


パルキアに襲い掛かる。

そして、踊るように、ミロカロスが身を捻ってスペースを作ると、


 「ギャシャァァーーーー!!!!!!」


そこにギャラドスが飛び出してくる、


果南「“ギガインパクト”!!!」


そのまま、最大火力の攻撃を炸裂させる。


 「バァァァーーール!!!!!!」


再び、大きく仰け反る、パルキア、


鞠莉「さぁ!! 次の大砲の準備、出来てるわよ!!! ポリゴンZ!!!!」

 「──ピピ、ウィー──」


ポリゴンZから、間髪いれずに発射されるのはまたしても必殺の攻撃、


鞠莉「“はかいこうせん”!!!」
969 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:15:18.44 ID:XqTkDbxP0

前方で突っ込んだギャラドスを巻き込みそうになるが、

 「ミロ…!!!」

ミロカロスがギャラドスに当たらないように、身をくねらせながら、“ミラーコート”で“はかいこうせん”を反射させる。

軌道の読めない、“はかいこうせん”は──


 「バァァァッ!!!!!!」


パルキアの横っ腹辺りを直撃し、怯ませる。


鞠莉「さっすが、果南のギャラドスとダイヤのミロカロスは息ピッタリだネ!」

果南「元々お互いのポケモンだからね」

ダイヤ「コイキング、ヒンバスだった頃が懐かしいですわね……!」


わたくしのミロカロスは元は果南さんが釣り上げたヒンバス。果南さんのギャラドスは元はわたくしの家の庭池にいたコイキング。

旅の途中で交換し、今ではお互いの水上戦のエースとなっている、わたくしと果南さんにとって、お互いがお互いの旧知の手持ち故に連携がとても取りやすい。

──さて、攻撃に関しては圧倒出来ているようにも見えますが……。


 「バァァァーール……!!!!」


パルキアはまだ余裕がある。


鞠莉「“アクアリング”の回復が早すぎる……!!」

果南「というか……聖良の様子おかしくない……?」


果南さんに言われて、聖良さんの方に顔を向けると、


聖良「…………」


聖良さんは目を瞑って静止していた。


ダイヤ「指示を出していない……!?」

鞠莉「……いや、あの“しらたま”を通して、“テレパシー”で指示してるんだと思う」

果南「そんなことできんの!?」

鞠莉「アレはある意味でパルキアの身体の一部のようなもの……逆にアレを使うには集中力が必要なんだと思うわ」


わたくしたちの会話に、


聖良「──さすがですね、鞠莉さん。素晴らしい考察と洞察だと思います」


聖良さんが声をあげる。


聖良「……やっと、コレの使い方がわかってきました……!」


と、同時に聖良さんが口角を吊り上げた。


鞠莉「……!? 二人とも伏せて!!」

果南・ダイヤ「「!?」」


鞠莉さんの声で、咄嗟に伏せる。


 「バァァァーーー!!!!!!!」
970 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:16:29.66 ID:XqTkDbxP0

と、同時にパルキアが雄叫びをあげ、

──衝撃波を発生させた。


 「ミロッ……!!!!」「ギャシャァァ!!?!?」


ミロカロスとギャラドスはその衝撃で吹き飛ばされてしまう。


聖良「ふふ……なるほど、こうすると指向性のある“ハイパーボイス”になるんですね」

ダイヤ「……こう……?」

鞠莉「た、たぶん、“テレパシー”で意思疎通してるから、通常じゃ出来ないような細かい技の出力の調整も出来るってことだと思う……!!」

聖良「さぁ、行きますよパルキア!!」
 「バァァァァァアァァッァァ!!!!!!!」


今度は地面が激しく揺れ、あちこちの地面からエネルギーが噴出をはじめる。


ダイヤ「こ、これは、“だいちのちから”ですか!?」

果南「くっそ……!! ダイヤ、鞠莉、サポート頼むよ!! ラグラージ!!」
 「ラァグ!!!!!」


そう言って、果南さんがラグラージに乗って飛び出す。


鞠莉「果南!?」

果南「ラグラージ!! メガシンカ!!!」
 「ラァーーグ!!!!!!」


ラグラージが出るや否や、果南さんが左耳につけているメガピアスが光り輝く。それと同時にラグラージが光に包まれてメガシンカする。

一方パルキアは飛び出してきた、ラグラージに向かって、

 「バァーール!!!!!!!!!」

身を捻って、尻尾を振るう。

尻尾が通った場所から水のエネルギーが漏れ出し噴出しているあの技は──


果南「“アクアテール”でしょ!! ぶん殴って止める!!!」
 「ラァァァーーーグッ!!!!!!!!!!」


宣言どおり、ラグラージが真正面から尻尾を殴りつける。


ダイヤ「果南さん!!」
鞠莉「果南!!!」


パルキアの“アクアテール”はあまりの威力のせいか、尻尾が通ったあとの地面がめくれ上がるほどだ……が、


果南「一発でダメなら──二発殴ればいいっ!!」


ラグラージのすぐ傍で果南さんは指示を出す。


果南「踏み込んで、殴れ!!!」
 「ラアァァァァァグ!!!!!!!!」

果南「足りないなら、もっと殴ればいいっ!!!!!」


ラグラージが何度も踏み込みながら、何度も拳でぶん殴ると──

次第にパルキアの尻尾の前進が止まる。
971 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:17:58.26 ID:XqTkDbxP0

鞠莉「う、嘘……拮抗してる……!?」

ダイヤ「メガシンカで強化された拳とは言え……なんて力任せな解決法なんでしょう……」


すぐ近くで果南さんが、攻撃のうまく通る場所を、絶えず細かく指示し続けているというのはわかるが、あまりのパワープレイっぷりに、友人でありながらも呆気に取られてしまう。


果南「鞠莉!!! ダイヤ!!! サポートしてって!!!!」

ダイヤ・鞠莉「「……はっ」」


前衛で叫ぶ果南さんの声に意識を戻される。


ダイヤ「ジャローダ!!!」
 「ジャロォーー!!!!」


すぐさま、ジャローダを繰り出し、


ダイヤ「“リーフストーム”!!!」
 「ジャロォォォ!!!!!!」


“リーフストーム”をパルキアの顔目掛けて発射する。

一方、鞠莉さんは、


鞠莉「マフォクシー! “おまじない”!」
 「マフォォーーー」


マフォクシーによる、敵からの攻撃が急所に当たらなくなる、サポート技を使う。

怒涛の迫力で尻尾を薙ぐ、パルキア。

それを拳の連打で拮抗させる、ラグラージ。

少しでもパルキアの注意を逸らせるために撃っている、“リーフストーム”はパワー不足なのか効果が薄い……が、


ダイヤ「“リーフストーム”!!」
 「ジャロォォーー!!!!!」


──二回。


ダイヤ「“リーフストーム”!!」
 「ジャロォォォォーーー!!!!!!」


──三回と撃つたびに、威力を増す。


果南「ナイスサポート……!! ダイヤ!!」
 「ラァァァァグ!!!!!」

 「バァァァァ!!!!!!!」


何度も撃つうちに“リーフストーム”によるダメージが通り始める。

──わたくしのジャローダの特性は“あまのじゃく”。

本来連打すると威力の下がる“リーフストーム”は、逆にどんどん威力が跳ね上がっていく、特別仕様。


ダイヤ「“リーフストーム”!!!」
 「ジャァァァロォォォォォォーーー!!!!!!!」

 「バァルッ!!!!!!!!」


今度こそ、怯みを取った、


果南「ぶっ飛ばせ!!! ラグラージ!!!!」
 「ラァァァァグ!!!!!!!!」
972 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:20:19.57 ID:XqTkDbxP0

ラグラージがその期を逃さず、全身全霊の拳を突き立てる。

すると、パルキアは押し返され、体勢を崩す。

その倒れたパルキアの上方には、気付けば大量の炎の弾が舞っていた。


鞠莉「It's show time!!」
 「マフォォー!!!」


その炎はマフォクシーが手に持った木の棒を振るうと、一気にパルキアに向かって降り注ぎ、爆炎を立てる。


鞠莉「“マジカルフレイム”のお味はいかが〜?♪」


その様子を見て、


聖良「──く……」


聖良さんが声をあげた。


聖良「パルキア……次は……」


そう言葉を発したところで、


聖良「……な!? “テレパシー”が切れている……!?」


驚きの声をあげた。


鞠莉「いやぁーわたしも完全に見落としてたんだけどー」


鞠莉さんがおどけたような口調で話し始める。


鞠莉「よく考えてみれば、その“しらたま”もポケモンの“どうぐ”よね? 実はマフォクシーは“どうぐ”を使えなくする、魔法が使えるのよね〜」

聖良「……!! “マジックルーム”……!!」

鞠莉「正解〜♪ “マジックルーム”は空間内の全ての“どうぐ”の効果を無効化するわ!」


ジャローダの遠距離攻撃、怯んだところをラグラージが近接攻撃で圧倒し、その隙にマフォクシーが相手のパワーの源を封じる。


鞠莉「さ……これで、Checkmateだネ!!」

聖良「……くっ」

果南「パルキアはラグラージが押さえ込んだ。これで動けないよ」

 「バァァァァァァ!!!!!!! バァァァァァァァル!!!!!!!!」


パルキアは怒りの雄叫びをあげるが、体勢が崩れた状態をメガラグラージのパワーで押さえつけられたら、簡単には起き上がれない様子。

わたくしと鞠莉さんは聖良さんの方へと歩いて行く。


聖良「……警察にでも突き出しますか?」

ダイヤ「……それは当たり前ですが、その前にやることがありますわ」

鞠莉「パルキアを止めなさい。即刻、今すぐ」

聖良「鞠莉さん、貴方がパルキアへの指示の方法を絶ったんですよ?」

鞠莉「……あなた……状況わかってる? シメンソカですヨ?」

聖良「……まだです、まだ私の計画は終わっていない」

鞠莉「……同じ研究者のよしみよ。檻の中に入ったら、聞くだけ聞いてあげるわ」
973 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:21:55.52 ID:XqTkDbxP0

鞠莉さんはそう言って、聖良さんが手に持っている“しらたま”を無理矢理取り上げて──

──バチン!!!


鞠莉「Auchi!?」


その“しらたま”は、鞠莉さんが手に取った瞬間、音を立てて弾け跳び地面を転がる。


ダイヤ「鞠莉さん!? 大丈夫ですか!?」

鞠莉「つつ……大丈夫」

聖良「ふふ……あくまでパルキアの“おや”は私です……。パルキアと“しらたま”は繋がっている。“おや”認識している人間の指令しか届かない故、今の貴方にはそれを使う権限はありませんよ」

鞠莉「…………。……マフォクシー、“マジックルーム”を解いて」
 「マフォ」

ダイヤ「鞠莉さん!?」

鞠莉「どっちにしろ、このままじゃ。技の効果が切れるまでオシモンドウ続けるハメになるだけだし。もし反撃してくるようなら、また改めて無効化すればいい」

聖良「……賢明な判断ですね」


そう言いながら、聖良さんは“しらたま”を拾い上げる。


鞠莉「……その代わり、指示はわたしの言う通りにやりなさい。もし貴方やパルキアが変な行動をするようだったら……燃やすわよ」
 「マフォク」


マフォクシーは炎の木の棒を聖良さんの方へ向けている。


聖良「それは脅しですか?」

鞠莉「ええ、脅しよ」

聖良「……わかりました、いいでしょう」


やっと観念したようですわね……。


鞠莉「まず、パルキアの所有権限を解除しなさい」

聖良「……野生に逃がせということですね」

鞠莉「そういうことよ」

聖良「……わかりました」

 「バァァル……」

聖良「ですが……」

鞠莉「……?」

聖良「別れの挨拶くらい、させてもらえませんか?」

鞠莉「……なに? 泣き落とし?」

聖良「怪しい文言があったら好きに炙ってください。私は別に死にたがりではないので、その点は問題ないと思いますが……」

鞠莉「……マフォクシー」
 「マフォ」


マフォクシーが聖良さんに炎の棒を更に近くに突きつける。


鞠莉「……どうぞ、別れの挨拶、すれば?」

聖良「……ありがとうございます」


聖良さんは鞠莉さんの温情に謝礼を述べてから、話し始めた。
974 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:22:57.61 ID:XqTkDbxP0

聖良「……パルキア、貴方が私の目の前に現われたとき、私は達成感で満たされました……。伝説のポケモンをこの手で呼び覚ますなんて、夢のようでした、ありがとうございます」
 「バァ、ル……」

鞠莉「……」

聖良「これからは貴方は自由ですよ。自由に──」


聖良「──自由に暴れて、壊してください」


鞠莉「っ!!!! マフォクシー!!!!」
 「マフォ!!!!!」


鞠莉さんの指示でマフォクシーが炎を放つ、

灼熱の炎は──地面を焼いた。


鞠莉「……は?」

ダイヤ「え?」


──聖良さんが、消えた……?


果南「え!? あれ!? パルキアは!?」
 「ラグッ!!?」


果南さんもすぐ傍に居た。

いや、というか──


ダイヤ「どうして、わたくしたち、聖域の入口に戻されて……!?」


わたくしたちは、何故か場所を移動していた。

焦って祠の方に目をやると、


聖良「ははは……!!!」
975 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:23:43.69 ID:XqTkDbxP0

聖良さんは祠の前に立っていた。

まるで──これではまるで、


ダイヤ「──位置関係が巻き戻っている……!?」

聖良「……ルビィさんの救出……間に合わなかったみたいですね……!!」


そう言う聖良さんの手の平の上には、


ダイヤ「……!!」


大きなダイヤモンドで出来た珠──“こんごうだま”が眩く光輝いている。

そして、気付いたときには、そこに存在していた。


 「ディァガァァァ……!!!!」


果南「マジで……?」

鞠莉「Oh, my god...」

ダイヤ「そん、な……」


大きな体躯の四足のポケモンが、

胸部にダイヤモンドを煌かせた、伝説のポケモン──


ダイヤ「……ディア、ルガ……」

聖良「……さぁ、第二ラウンドと行きましょうか……!!」


聖良さんはそう言って、嬉しそうに再び口角を吊り上げた──。


976 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:25:52.80 ID:XqTkDbxP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./             .●回/         ||
 口=================口

 主人公 ダイヤ
 手持ち ジャローダ♀ Lv.69  特性:あまのじゃく 性格:いじっぱり 個性:まけんきがつよい
      メレシー Lv.66 特性:クリアボディ 性格:まじめ 個性:とてもきちょうめん
      ミロカロス♂ Lv.70 特性:かちき 性格:れいせい 個性:まけんきがつよい
      ハガネール♀ Lv.72 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      オドリドリ♀ Lv.63 特性:おどりこ 性格:おっとり 個性:とてもきちょうめん
      アマージョ♀ Lv.67 特性:じょおうのいげん 性格:さみしがり 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:266匹 捕まえた数:113匹

 主人公 果南
 手持ち ラグラージ♂ Lv.75 特性:しめりけ 性格:やんちゃ 個性:ちからがじまん
      ニョロボン♂ Lv.71 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ギャラドス♀ Lv.74 特性:じしんかじょう 性格:いじっぱり 個性:まけんきがつよい
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      キングドラ♂ Lv.71 特性:スナイパー 性格:ひかえめ 個性:ぬけめがない
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:280匹 捕まえた数:137匹

 主人公 鞠莉
 手持ち マフォクシー♀ Lv.68 特性:マジシャン 性格:がんばりや 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ギャロップ♀ Lv.66 特性:ほのおのからだ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      サーナイト♀ Lv.70 特性:トレース 性格:まじめ 個性:かんがえごとがおおい
      ビークイン♀ Lv.64 特性:きんちょうかん 性格:すなお 個性:うたれづよい
      ポリゴンZ Lv.64 特性:てきおうりょく 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:467匹 捕まえた数:311匹


 ダイヤと 果南と 鞠莉は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



977 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:29:21.67 ID:XqTkDbxP0

■Chapter069 『──ルビィちゃん』





──最上層部、善子。


 「──ギィッ!!?」


上空から、“じごくづき”の直撃を受け、オンバーンが声を詰まらせる。


善子「アブソル!! “ダメおし”!!」
 「ソルッ!!!」

 「ギギャァ!!!?」


間髪居れず、アブソルが追撃の“ずつき”をかます。


 「ギキキキャッ!!!!!」


これはたまらんと言わんばかりに、飛び立とうとするオンバーン。


善子「逃がすか……!! “おいうち”!!」
 「ソルッ!!!!」


頭の刃を振るって、さらに追撃の衝撃波を飛ばす、


 「ギギャァッ!!!」


攻撃が直撃したオンバーンが地面を転がる、


善子「はぁ……はぁ……!!」


猛攻を掻い潜ってきて、完全に息があがっている。

だけど、まだ休む暇はない。


 「ギキィッ……!!!!」


オンバーンが憎らしそうに鳴き声をあげながら、こちらを睨んでいる。


善子「はぁ……は……っ……音技、当分使えないでしょ……」

 「ギ、キャァッ!!!!!」

善子「!!」


オンバーンは掠れる声をあげながら、大口を開けて突っ込んでくる。


 「ソルッ!!!!」


飛んでもいない、床を走って近付いてくる。そんなオンバーンに攻撃をいれるのは、わけない。

再び、アブソルの“じごくづき”がオンバーンの胸部を打つ。


 「ギ、ギャァッ!!!!!」


だが、オンバーンは止まらずに、アブソルに胴体に前歯を突きたてた。

──“いかりのまえば”だ。
978 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:30:27.81 ID:XqTkDbxP0

 「ソルッ!!!」


だが、アブソルは頭の刃を振るって、“きりさく”。


 「ギ、ギャァッ!!!」


声をあげて、再び床を転がるオンバーン。

だが、すぐに立ち上がり、その瞳にはユラリと紫に色の炎が揺れる──次の攻撃の予兆。


善子「……大したものね」

 「ギギャァッ!!!!!」

善子「ここまで、追い詰められてもまるで諦めない。持ち場を守り、敵を倒す。その意志、その忠誠心、尊敬するわ」

 「キィィ、ギ、キィィィ!!!!!」

善子「確実に……今まで戦ったどんな敵よりも、あんたは強い。敵ながらアッパレよ」


空を見上げる。

オンバーンの最後の攻撃が、そこにはあった。

大きな隕石が、こちらに向かって降ってきている。

ドラゴンタイプ最強の大技──“りゅうせいぐん”だ。


善子「まだ、こんな大技隠してたなんてね……ホントにアッパレよ」
 「ソル」

善子「そんなあんたに……敬意を評して、最強の技で倒す」


私は上着のポケットに手をいれ、ママから貰ったロザリオを首に掛け、握り締めた。

──メガロザリオの中心のキーストーンが光り輝く。


善子「アブソル……!! ──メガシンカ!!!」
 「ソルッ!!!!」


アブソルのメガストーンとキーストーンが反応する。

七色の光に包まれ──


 「──ソォル……!!!!」


アブソルの頭の刃は一回り大きくなり、全身の伸びた体毛はまるで羽のように、風にはためく。


 「ギ、キィィィィ!!!!!!!!」


上空から、“りゅうせいぐん”が迫る。


善子「……これで、決着よ……!!」
 「ソォルッ!!!!!」


アブソルが刃を振るうと──今まで見たことのないような巨大な空気の刃が、

私たちに向かって墜落してきた、“りゅうせいぐん”を真っ二つにして、


 「ギ、キィィィ──」


その後ろのいる、オンバーンごと、

全てを斬り飛ばした──。


979 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:31:20.24 ID:XqTkDbxP0


    *    *    *





──中層、千歌、梨子。


千歌「バクフーン!! “かえんほうしゃ”!!」
梨子「メガニウム!! “リーフストーム”!!」
 「バクフーーーッ!!!!!」「ガニューーーーーッ!!!!!!」


二匹の攻撃がヨノワールに向かって、撃ち放たれる。

メガニウムの草の嵐は、バクフーンの炎を風と葉っぱで何倍もの勢いに膨れ上がらせ、


 「ヨノワッ!!!!!」


ヨノワールを飲み込む。


千歌「やった……!?」

梨子「いや……まだ……!!」

 「ヨノワ…!!!!」


ヨノワールは攻撃を受けながらも、お腹の大口を開けて──


千歌「攻撃を……食べてる……!?」


巨大な炎の嵐を飲み込んでいた。


 「ヨノワールはあのお腹から魂を取り込んで霊界に送ると云われてるロトー」


どうやら、そうやって攻撃を無効化しているらしい……けど、


 「ヨノ、ワー」


ちょっと苦しそう。


梨子「たぶん、大きなエネルギーはすぐには無効化できないんだと思う!」

千歌「なるほど! なら、攻めるのみ!!」


私たちが会話をしている隙に、


 「ヨノワッ!!!!」


ヨノワールが鳴き声をあげると共に、目が光る。

その瞬間、


千歌「──!?」


全身を上から押さえつけられるような圧迫感が襲ってくる。


梨子「か、体が……!! 重い……!!」

千歌「……っ……た、立てない……っ!!」
 「こ、これは“じゅうりょく”ロトー」


とんでもないパワーの“じゅうりょく”で私と梨子ちゃんは膝を折る。
980 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:32:15.76 ID:XqTkDbxP0

 「ヨノワー……」


ヨノワールが不気味に目をギラつかせる。


 「た、助けてロトー、動けないロトー」
梨子「それは、こっちも……同じだって……っ!!」

千歌「……くっそぉ……!!」


膝を折ってるだけでは耐えられなくなり、二人して床に腕をついて四つん這い状態に、


梨子「っ……!!」

千歌「どんどん、“じゅうりょく”……強く、なってる……!!」

 「バクフー……ッ」「ガニュッ……!!!」


バクフーンとメガニウムも身動きが取れない。

不味い、なんとかしなきゃ。

でも、身体が言うことを利かない。

そのとき、


 「ロトー!!!! ひらめいたロトー!!!!」


突然ロトムが叫ぶ。


 「図鑑機能を強制呼び出しするロト!!!!」


ロトムの台詞と共に、


千歌「……?」──pipipipipipipipi!!!!!!

梨子「な、なに……?」──pipipipipipipipi!!!!!!


私と梨子ちゃんの図鑑が共鳴音を発し始める。


 「ヨノワー……!!!!」


そんな間にもヨノワールの“じゅうりょく”はどんどん強くなり、ついに腕も膝も立てていられず、這い蹲る姿勢になってしまう。


梨子「図鑑、鳴らしてる、場合じゃ……!!」──pipipipipipipipi!!!!!!

 「これは共鳴音ロト」

千歌「……??」──pipipipipipipipi!!!!!!

 「図鑑は三つ揃うと共鳴音を鳴らすロト」

梨子「それは、知ってる……!!」──pipipipipipipipi!!!!!!

 「ただ、近くに居る間何度も鳴ったら困るから、一度鳴ったら24時間、鳴らないようにロックがかかるロト」

千歌「そのロックを、外した、って、こと……?」──pipipipipipipipi!!!!!!

梨子「それに、なんの、意味が……っ……?」──pipipipipipipipi!!!!!!

千歌「今は、それどころ、じゃ……あ、れ……?」──pipipipipipipipi!!!!!!


そうだ、図鑑は“三つ揃う”と、鳴るんだ──ってことは!!


梨子「……!! そっか!!」
981 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:34:06.95 ID:XqTkDbxP0

梨子ちゃんも気付いた!!

私は這い蹲ったまま、思いっ切り息を吸い込んで、


千歌「──曜ちゃーーーーーーーん!!!!!!!! ここだよぉーーーーーーー!!!!!!!!!」


力の限り叫んだ、

次の瞬間、


 「──“ハイドロポンプ”ッッッ!!!!!!」

  「ヨノワッ!!!?」


ヨノワールの足元から、床ごと貫く分厚い水の柱が撃ちあがり、ヨノワールを吹っ飛ばす。

同時に、身体が──ふっと軽くなる。


梨子「!! “じゅうりょく”が!!」

千歌「元に戻った!!」


そして、その数秒後に、


曜「──千歌ちゃん!!!! 梨子ちゃん!!!!」──pipipipipipipipi!!!!!!
 「ガメッ!!!!」


曜ちゃんが水砲によって貫いた穴から、カメックスと一緒によじ登って来る。

そして、その手にはけたたましい音を鳴らし続ける水色のポケモン図鑑。

──ロトムは曜ちゃんの図鑑が近くにあることに気付き、曜ちゃんにも私たちがすぐ近くに居ることを気付いてもらうために、共鳴音の機能ロックを解除したんだ。


千歌「曜ちゃん、助かったよぉ……!!」

曜「うん!! 間に合ってよかった!!」

 「ヨノワー!!!!!」


感動の再会も束の間、ヨノワールが起き上がる。


曜「あいつ、倒すんだよね!?」

梨子「うん!」

千歌「三人で!! あわせるよ!!」

 「バクッ!!!」「ガニュッ!!!!」「ガメッ!!!!!」


三人と三匹で同時に、ヨノワールに向かって、


梨子「メガニウム!! “くさのちかい”!!」
曜「カメックス!! “みずのちかい”!!」
千歌「バクフーン!! “ほのおのちかい”!!」
 「ガニュゥッ!!!!!」 「ガメェーーーッ!!!!!」 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!」


三匹のエネルギーが床を伝いながら、ヨノワールの足元まで飛んでいき、


 「ヨノワッ……!!!?」


ヨノワールの真下に辿り着くと同時に、床から天井に向かって、竜巻のように巻き上がった。


 「ガニュゥ!!!!」

“くさのちかい”が草のエネルギーと共に大量の草木を巻き上げ、
982 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:34:55.70 ID:XqTkDbxP0

 「ガメーーーッ!!!!!」

“みずのちかい”が草に弾かれながら、交じり合うように巻き上がる、


 「バクフーーーーーッ!!!!!!」

“ほのおのちかい”が二つの誓いと絡み合うように、草を爆炎に、水を高熱の蒸気に変えながら巻き上がる。

三位一体のコンビネーション技──!!!


千歌・梨子・曜「「「いっけぇーーーーーー!!!!!」」」


三つのエネルギーが完全に調和し、融合し、膨れ上がって──


 「ヨノワーーーー!!!!!!!!」


音を立てて、爆散した。

そして、その爆発が晴れた先で──


 「ヨノ、ワ……」


ヨノワールが気絶していた。


梨子「……は、はは……」


梨子ちゃんがへたり込む、


千歌「梨子ちゃん!?」

梨子「ご、ごめん……ちょっと気が抜けて……」

曜「大丈夫?」


曜ちゃんが梨子ちゃんに手を差し伸べる。


梨子「……うん」


梨子ちゃんがその手を取って、立ち上がる。

私は──


千歌「曜ちゃん! 梨子ちゃん!」

曜「わ!?」
梨子「きゃ!?」


そんな二人に抱きつく。


千歌「勝ったよ!! 私たち!!」

梨子「……ええ!!」

曜「ヨーソロー!!」


私たちは三人で勝利の喜びを分かち合うのだった。





    *    *    *


983 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:37:00.20 ID:XqTkDbxP0


──コントロールルーム、花丸。


花丸「ゴンベ!! “すてみタックル”!!」
 「ゴンッ!!!!」


ゴンベが床を蹴って飛び出す。


理亞「“れいとうパンチ”!!」
 「マニュ!!!!」


マニューラはそのゴンベを、氷の拳で迎え撃つ、

──ガスン!!

鈍い音を立ててかち合う二匹、

お互い足を踏みしめて、競り合いになるが──


理亞「凍れ……!」


マニューラの冷気によって、ゴンベが──パキパキと、凍りつき始める。


花丸「さすがに“こおり”対策はしてきたずら……!! ゴンベ!!」
 「ゴンッ!!!」


ゴンベは踏ん張りながらも、咄嗟に体毛からきのみを取り出して、すぐさま飲み込む。

すると、ゴンベの身体の凍りがみるみる溶けていく。


理亞「ナナシの実……!!」


ゴンベの食べているナナシの実は、“こおり”の状態異常を回復するきのみ。

戦闘の前に予め持たせたものだ。

更に──


花丸「“ゲップ”!!」
 「ゴン、ゲェーーップ!!!!!」

 「マニュ!!?」


ゲップはきのみを食べた直後にだけ使える、どくタイプの技。

急に目の前で浴びせかけられたマニューラが怯む。


花丸「“ずつき”!!」
 「ゴンッ!!!」


そこに追い討ちの“ずつき”をかます。


 「マニュッ!!?」


マニューラは咄嗟に爪で防ぐが、勢いに負けて後ずさる、


理亞「マニューラ!! 怯むな!! “れいとうビーム”!!」
 「マニュ!!!」


僅かに離れた距離から、冷凍光線を発射する。


 「ゴンッ!!」
984 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:37:53.29 ID:XqTkDbxP0

攻撃を正面から食らい、ゴンベは再び凍り始めるが──


花丸「ゴンベ!! “からげんき”!!!」
 「ゴンッ!!!!!」


ゴンベは気合いで踏みしめて、そのまま“たいあたり”をぶちかます。


 「マニュッ!?!?」
理亞「……っち!」


マニューラを突き飛ばし、距離を取ったところで──


花丸「“リサイクル”ずら!」
 「ゴンッ」


ゴンベは再び、体毛の中からナナシの実を取り出し、飲み込む。

先ほど同様、すぐに身体の凍りが解け始める。


理亞「どんな構造になってんのよ……!」

花丸「もう“こおり”は完全に対策済みずら!!」

理亞「……なら、パワーでぶっ潰す……!! リングマッ!!」
 「グマァ!!!!!!」


理亞さんの手から放たれる次のボールからはリングマが飛び出し、


理亞「“アームハンマー”!!!」
 「グマァッッ!!!!!」


振り下ろされる。


花丸「ゴンベ、伏せるずら!!」
 「ゴンッ!!!」


ゴンベが伏せたところに、マルも次の手持ちのボールを投げ込む。

──ガンッ。

鈍い音と共に、リングマの拳を硬い殻で弾き返す。


 「ドダイ……!!!」

理亞「ドダイトス……!!」


ドダイトスは“からにこもる”でリングマの攻撃を受け止めたあと、

殻から頭を出す反動を利用して、攻撃──


花丸「ドダイトス!! “アイアンヘッド”!!」
 「ドダイッ!!!!」

 「グゥマッ!!?」


リングマの腹部に、鋼鉄の頭突きを炸裂させる。

リングマを撃退し──たと思った矢先、


 「グマァッ!!!!!」

花丸「ずら!?」
985 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:38:49.58 ID:XqTkDbxP0

リングマは震脚しながら、その場に留まり、

腕を伸ばして──


 「ドダイ!!?」


ドダイトスの背中の樹を掴む。


理亞「“かいりき”!!」
 「グマァッ!!!!!」


気合いの掛け声と共にリングマの腕の筋肉が隆起し、


 「ド、ドダイッ!!?」
花丸「ドダイトス!?」


ドダイトスの300kgを超える巨体が持ち上げられてしまう、


理亞「“なしくずし”!!」
 「グマァッ!!!!」


そのまま、下にいるゴンベ向かって──


 「ゴ、ゴンッ!?!?!」


ゴンベごと押し潰すように床に叩き付けられる。


 「ゴンッ!!!!」
 「ドダイッ!!!!」
花丸「ゴンベ!!? ドダイトスッ!!!」


超重量級の体重はゴンベのみならず、自重によってドダイトス自身にも大きなダメージを与え──

ドダイトスの丈夫な殻にヒビが入ってしまう。


 「ド、ドダイ……ッ」

花丸「……ず、ずら」


やっぱり……強い……!

マルの実力じゃ……。


 「──やめ……て……」

花丸「!」


理亞さんの後ろから聴こえてくる声。

ルビィ「……やめ、て……やめて……よぉ……!!」

花丸「ルビィちゃん……!」


傍らに立つカラマネロが今も絶えずルビィちゃんに催眠暗示を送っている。


花丸「ドダイトスッ!!」
 「ドダイ……ッ」

花丸「“あばれる”!!」
 「ドーダイッ!!!!!」


ドダイトスがその場で全身を振るって、暴れ始める。
986 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:39:50.95 ID:XqTkDbxP0

 「グマッ!!?」
理亞「……っ!! 悪あがきを……!」


マルが諦めちゃだめだ……!! マルは、今度こそ……!!


花丸「──ルビィちゃんを助けるんだ……!! キマワリ!!」
 「キマァッ!!!!」


キマワリをボールから放つ。


花丸「“タネマシンガン”!!」
 「キママママママママママッ!!!!!!!」

理亞「……ちっ、マニューラ!」

 「マニュッ……!!!」


ゴンベに吹っ飛ばされていた、マニューラが体勢を整えて前線に戻ってくる。


理亞「“みだれひっかき”!!」
 「マニュマニュマニュ!!!!!」


爪を高速で薙ぎながら、“タネマシンガン”を弾き落とす。

マニューラの指示で、理亞さんの視線が防御に移った瞬間を見計らって──


花丸「ドダイトス!! “ウッドハンマー”!!」
 「ドダイッ!!!!!!!!」


ドダイトスが“あばれる”状態のまま、横薙ぎに背中の樹を乱暴に振るう。


理亞「っ!! リングマ!! 受け止めろ!!」
 「グマァッ!!!!!」


だが、対応してくる。

リングマが、太い腕で再び樹を掴み受け止める。


花丸「キマワリ!! “リーフストーム”!!」
 「キマァッ!!!!」


そこに再び、キマワリの後方からの攻撃。


理亞「……っ! 鬱陶しい!! オニゴーリ!!」
 「ゴォォーーーリ!!!!!」

理亞「“ふぶき”!!」
 「ゴォォォーーーリ!!!!!」


理亞さんが放ったボールから飛び出したオニゴーリは、強力な“ふぶき”で、草の嵐ごと吹き飛ばし──


 「キ、キマァッ……──!?」


離れたところにいるキマワリごと、凍らせる。


花丸「ず、ずらぁ……!!」


冷気が一気に室内を覆い、マルの居る場所もフィールドごとどんどん凍り始め、足が取られる。

でも……止まるわけにいかない……!!

マルは次の手持ちを繰り出す。
987 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:40:45.08 ID:XqTkDbxP0

花丸「ウリムー!!! “とっしん”!!」
 「ウリッ!!!」


ウリムーなら、凍ったフィールドでも足を取られない。

そのまま、オニゴーリに突撃する。


理亞「しつこいッ!! “かみつく”!!」
 「ゴォォーーリ!!!!!」


迎え撃つように、オニゴーリが顎を開き、


 「ウリッ!!!!」


牙でウリムーに噛み付く形で“とっしん”を受け止める。


花丸「ウリムー!! “こらえる”ずら!!」
 「ウリィィ…!!!」

理亞「いつまで、続けるのよ……!!」

花丸「ルビィちゃんを助けるまで……!!」

理亞「お前じゃ私には勝てない!!」

花丸「それでもずら!!!」

理亞「……!! わかった、なら完膚なきまでに叩きのめすまで……!! “かみくだく”!!」
 「ゴォォーーーリ!!!!!!」


オニゴーリが思いっ切り顎を閉じようとする、


花丸「ウリムーッ!!!!」
 「ウリッ──」


ウリムーの体が光る。


理亞「!?」


レベルを見て、最初からこの瞬間を見計らっていた。

進化のタイミングを──!!


花丸「イノムー!! “みだれづき”!!」
 「──イノォッ!!!!!」


今生えてきたばかりの立派な角をオニゴーリの上顎に内側から突き刺す。


 「ゴォォーーーリッ」


上顎を思いっ切り突き上げて、開いた口に、


花丸「“どろばくだん”!!」
 「イノォッ!!!!」


追撃を叩き込む、


 「ゴォーーリ!!?!!?」

理亞「くそ……!! 次から次へと……!!」
988 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:42:12.16 ID:XqTkDbxP0

マルが押してる……!!

このまま、ルビィちゃんを──!!

そう思った瞬間だった、


ルビィ「ぁ、ぁ、ぁあぁぁぁ、ぁあああ!!!!」


ルビィちゃんの方から苦しげな悲鳴のような声が上がる。


花丸「ずらっ!!?」

理亞「!!」


次気付いたときには、

──ジュウ、と音を立てて周囲の氷が一気に蒸発する。


花丸「こ、これは……!? ルビィちゃん!!!」

理亞「……!! 巫女の覚醒は間に合った……!!」

花丸「巫女の覚醒……!!?」


その言葉に一瞬驚いて、こちらの指示が遅れる。


理亞「“メガトンキック”!!」
 「グマァッ!!!!」

 「ドダイッ」


くさタイプのドダイトスが急な炎熱に驚き、出来た隙にリングマが蹴りを叩き込む。

激烈な蹴りに再び巨体が浮き上がり、


 「イノッ!?!?」


イノムーを巻き込んだまま、


花丸「ドダイトス!! イノムー!!」


二匹は壁に激突する。

やられた手持ちを目で追って、視線を外した瞬間、


 「グマァッ!!!!」


すぐ近くでリングマの鳴き声がして、すぐに視線を戻すが、

間に合わない、


花丸「──がっ……!!」


リングマの手が伸びてきて、マルの首根っこを掴んで持ち上げる。


花丸「……っ……!!」

理亞「てこずらされた……でも、これでお前の負け」

花丸「……ぐ……!!」


リングマの腕を掴んでもがく、

表情を歪めながら、マルは視線を前に──ルビィちゃんの居るほうに、
989 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:43:16.10 ID:XqTkDbxP0

ルビィ「……ぁ、ぁぁぁあぁぁぁ!!!」


ルビィちゃんは苦悶の表情を浮かべて、涙を流しながら、大量の熱を放射し続ける、

その傍らではコランが真っ赤な光を発しながら、転がっている。


花丸「ルビ、ィ……ちゃ、ん……!! マルが……い、ま助ける……ず、ら……!!」


マルはリングマの腕を掴む。

力を入れて退けようとするが──ビクともしない。


理亞「ポケモンの筋力に人間が勝てるはずない」

花丸「……ず、ら……」

理亞「もう、決着はついた」

花丸「まだ……っ……ずら……!!」

理亞「なんで、そこまでする……?」

花丸「マルは、ルビィちゃんの……友達、だから……!!」

理亞「……お前も、ルビィも、雑魚なのにどうしてそこまで戦う?」


理亞さんは私にそう問い掛けてくる。


花丸「違う……ずら……!!」

理亞「……違う……?」

花丸「マルは、そうかも……しれないけど……っ……。……ルビィちゃん、は……強い、子……ずら」

理亞「…………」

花丸「ルビィちゃん、は……確かに、臆病、だけど……自分の、やりたいこと、は……自分で、決めて、守りたいものの、ためには……真っ直ぐ、で……!!」


マルはリングマの腕に爪を立てる。


花丸「……ねえさま、ねえさまって……! 全部、お姉さんの、せいにして、る……お前、なんか、より……何倍も、何百倍、も……!! ルビィちゃんは、強い……ずら……っ!!」

理亞「……もういい、リングマ。締め落とせ」
 「グマァッ!!!!」

花丸「……がぁぁぁっ!!!」


マルの首を掴む、リングマの手に力が籠められる。


花丸「──ルビィ……ちゃ……」


意識が薄らいでいく──

飛びかけの意識の中、遠くで微かに声がする。


ルビィ「──ぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!」


ルビィちゃんが、苦しんでる。


ルビィ「──ぁっぃ、ょぉ……!!!」


ルビィちゃんが、泣いている。


ルビィ「──たす、けて……」


ルビィちゃんが、助けを呼んでいる。
990 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:44:36.87 ID:XqTkDbxP0

ルビィ「──おねぇ、ちゃん……たすけ、て……。……たすけ、て……──」


……その言葉を最後に

……意識が落ち──


ルビィ「──はなまる、ちゃん……」

花丸「──……!!!!!」


──てる場合じゃない……!!

ルビィちゃんが──呼んでる。マルのことを……!!


花丸「ゴンベェッッッ!!!!!!!」

 「ゴーーーーーーンッ!!!!!!!!」


マルの叫びに呼応するように、ゴンベが雄叫びをあげて、立ち上がる。


理亞「な!? ゴンベは戦闘不能だったはず!?」
 「グマァッ!?」


動揺する理亞さんに釣られたのか、リングマの腕の力が一瞬緩む、

マルは確保された気道から、めいっぱい空気を吸い込んで、


花丸「──ルビィちゃんをッ!!!!!!! 助けるずらあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」


叫んだ──


 「ゴォォーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


ゴンベがルビィちゃんの方へ飛び出す。


理亞「くっ!? カラマネロ!! “ばかぢから”!!!」

 「カラマッ!!?!!??」


理亞さんが咄嗟にルビィちゃんのすぐ傍にいるカラマネロに迎撃の指示を出すが、急だったため迎撃が間に合わず、ゴンベはそのまま体重を乗せて突っ込む、


 「カラマッ!!!!!」


だが、カラマネロはすぐに体勢を整え、ゴンベに飛び掛ってくる。


 「カラマッ!!!!!」
 「ゴンッ!!!!!!」


二匹のポケモンが“ばかぢから”で組み合う。


理亞「マニューラ、加勢を──!?」


飛び出そうとする、理亞さんとマニューラの前に、


 「ドダイ……ッ!!!!」


ドダイトスが躍り出て、壁を作る。


理亞「“とおせんぼう”……!?」
991 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:45:32.62 ID:XqTkDbxP0

だが一方で、組み合うゴンベとカラマネロは、次第にカラマネロが優勢になっていく。


理亞「無駄……!! カラマネロは“あまのじゃく”でどんどん“ばかぢから”の威力が上昇していく!! ゴンベのパワーじゃ勝ち目なんかない!!」

花丸「ゴンベ……!!! 行くずらあぁぁぁ……!!!!」

 「ゴンッ!!!!!」


ゴンベが、マルの言葉に頷いた。

と、同時に──

どんどん押し返していく。


 「カラマッ!!?!?」

理亞「な!? パ、パワーが……!?」


ゴンベの身体が内側から溢れでる輝きと共にどんどん大きく膨れていき──


 「──カビ……ッ!!!!!」


新しい姿で、全力のパワーを叩き付ける……!!


花丸「“10まんばりき”!!!!!」

 「カビッ!!!!!」

 「カラマネッ!!!?!?」


カラマネロをぶっ飛ばす。


理亞「くそ!? リングマッ!! 早くそいつを──!!!?」


突然大きく、床が傾き、


 「グマッ!!?」


バランスを崩したリングマがマルの首を離す。


花丸「──げほっ、げほっ……!!」


改めて気道が確保されて、膝をついたまま咳き込む。


理亞「ま、まさかお前……!!」


理亞さんが振り返ると、


 「ドダイッ!!!!!!!」


ドダイトスが背中の樹を揺すりながら、全身で地面を揺らしている。

──これは“じしん”……!!


理亞「飛空挺の中で“じしん”なんか使ったら墜落する……!!?」

花丸「カビゴンッ!!!!!」

理亞「!!?」

花丸「“ギガインパクト”!!!!」
 「カビッ!!!!!」
992 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:46:10.14 ID:XqTkDbxP0

カビゴンが全体重を乗せた“ギガインパクト”を壁にぶち当てる。


 『緊急事態発生、緊急事態発生、出力減少、高度低下』


理亞「あんた──!!!」


再び、振り返ろうとする理亞さんの横を──


花丸「──ルビィちゃん!!」

理亞「……!!」


マルは走ってすり抜け、


ルビィ「……たす……け、て……マル、ちゃ……」

花丸「ルビィちゃん!!! オラはここにいるよ!!!」


ルビィちゃんを抱きしめる。


花丸「っ゛……!!!」


ルビィちゃんの体は触っただけで火傷しそうなくらい熱かった。

けど、マルはそんなことお構いなしに抱きしめる。


花丸「もう、大丈夫だから……!!」

ルビィ「ぁ……ぁ……」


抱きしめて、声を掛けて、


ルビィ「……ぁ……」


──ぎゅっと……。


花丸「ルビィちゃん……っ」

ルビィ「……ぅゅ……」


──そしたら……


ルビィ「──……はなまる……ちゃん……?」


ルビィちゃんがゆっくりと目を開く。


花丸「……うん……助けに来たよ……ルビィちゃん」


すると、次第にルビィちゃんの体の熱が引いていくのがわかった。


理亞「く……!!! 巫女を逃がすな……!!! マニューラ!!!」


理亞さんがこっちにマニューラをけしかけようとした瞬間、


 「マニュッ!!!?」


マニューラは眩い太陽光線を浴びて、吹っ飛ばされる。
993 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:47:04.77 ID:XqTkDbxP0

 「キマァッ!!!!!」

理亞「キマワリッ!!?」

 「イノッ!!!!!」

 「グマァッッ!!!?!?」


そして、イノムーがリングマを牙で横薙ぎに突き飛ばす。


理亞「くっ……!?」


 「ドダイッ」「キマッ」「イノムゥ」

ドダイトスが、キマワリが、イノムーが、マルたちの元に駆け寄ってくる。

マルは理亞さんを見据えて、


花丸「ルビィちゃんは……返してもらうずら」


言い放った。


理亞「ふ……ざけるなぁ……!!!」


理亞さんは叫ぶが、

その間に──


 「カビ……!!!!」


カビゴンが割って入る。


 「カビッ!!!」

花丸「カビゴン……!」

 「カビ」


カビゴンはマルに何かを伝えるように鳴き声をあげる。


花丸「……! お願い……!」
 「カビッ」


マルはカビゴンと頷きあう。

カビゴンが前に向き直った直後、お腹が膨れ上がる。


理亞「!? ま、まさか!! やめろ……ッ!!!?」

花丸「カビゴンッ!!!!! ──“じばく”ずら!!!」


──コントロールルーム内はカビゴンの最後の一撃によって、吹き飛ばされた。





    *    *    *


994 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:47:31.39 ID:XqTkDbxP0


 「プワァーーー」


マルたちは爆発の勢いに乗じて飛空挺を飛び出し、フワライドに掴まって飛行する。


ルビィ「花丸ちゃん……!!」


ルビィちゃんが抱きついてくる。


花丸「わわ、ルビィちゃん!! 危ないずら!!」

ルビィ「花丸ちゃん……っ」

花丸「……もう、大丈夫だよ。ルビィちゃん」


マルはルビィちゃんを抱き返す。


花丸「ほら……コランもいるよ」

 「────」


咄嗟に抱きかかえて、連れ出したコランをルビィちゃんに手渡す。


ルビィ「……うん」

花丸「それと……ルビィちゃんのボールと図鑑」


預かっていた、ルビィちゃんの手持ちと図鑑を手渡して、


花丸「ルビィちゃん……」


再び抱きしめた。


花丸「おかえりずら……」

ルビィ「──ただいま……!」


ルビィちゃん奪還作戦は──成功した、ずら……!


995 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:48:28.52 ID:XqTkDbxP0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【飛空挺セイントスノウ】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  ||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  ||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  ||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o●| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口
996 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:49:15.30 ID:XqTkDbxP0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.53  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.47 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.54 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.49 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.52 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:146匹 捕まえた数:13匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.50 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.46 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.46 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.48 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:119匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.50 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.46 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルオー♀ Lv.41 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.44 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      カイリキー♂ Lv.41 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.40 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:147匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.48 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ドンカラス♀ Lv.54 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.48 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      シャンデラ♀ Lv.50 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキメノコ♀ Lv.42 特性:ゆきがくれ 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.55 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:52匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.43 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       カビゴン♂ Lv.40 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.34 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.33 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      イノムー♂ Lv.40 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:40匹

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.35 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:82匹 捕まえた数:8匹


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



997 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/11(土) 13:54:14.32 ID:XqTkDbxP0
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千歌「ポケットモンスターAqours!」 Part2
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998 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/11(土) 16:48:25.49 ID:vyKgrKizo
>>997
乙です
999 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 20:19:56.66 ID:tpjdoJff0
1000 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 20:20:06.94 ID:Db6Qg8Y40
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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                                ノr'" _<00       / ,' 3  `ヽーっ
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