北上「私は黒猫だ」

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28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/20(月) 02:15:44.44 ID:mpiwtZpLo
金剛おばあ…
おつ
29 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 03:58:17.51 ID:82eRS9qA0
88匹目:猫と吹雪







北上「おや」

金剛さんの言っていた建物に入り階段を上ると踊り場に神風がいた。

神風「うーん」

何やら神妙な顔つきで踊り場にしゃがみこんでいる。

隣にはダンボールがあるがこれが原因だろうか?

北上「神風〜何してんの?」

神風「北上さん!いえ、ちょっとこう、対処に困る事態が起きまして」

北上「どゆこと」

焦ってる、とは違う感じだ。

ただただ困惑してる。
30 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:00:50.78 ID:82eRS9qA0
神風「吹雪さんがいたんですよ。このダンボールを持って上から降りてくる所でした」

北上「ほうほう」

どうやら本当に吹雪はここに居るらしい。重畳重畳。

神風「運ぶ物があるなら私も手伝おうかなーっと思いまして声をかけようとしたんです。丁度踊り場の下の方から」

北上「流石神風。親切心の塊だね。いい子いい子」

神風「適当に煽てないでください。そしたら上の方から叢雲さんも来たんですよ」

北上「お?」

なんとなく話が悪い方向に向かってる事を察した。

神風「叢雲さんも私と同じ考えだったようで、手伝ってあげるからそれ貸しなさいよって言って吹雪さんに近づいてってですね」

北上「それでそれで」

一体そこからどうなったんだ?
31 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:02:00.06 ID:82eRS9qA0
神風「吹雪さんは吹雪さんでこのくらい艦娘だしへーきへーきってケロッとしてて、まあ実際そうなんですけどね」

北上「そりゃね」

艤装なしでも私らが重いと思う重量は文字通り人並外れている。

神風「叢雲さんもそれは分かってるわけですしならいいやって感じで吹雪さんの横に並んで、少しは頼りなさいよって軽口を叩いてました」

北上「へえ…」

あぁ、それは。きっと本心だ。冗談めかしていても、心からの本音だろう。

神風「それで、一体何運んでるのよってダンボールに手を伸ばしたんです。上はこの通り閉じられてないので簡単に開けられますから」

北上「どれどれ」

見るとダンボールの上は半開きになっている。

中はなんだろ?私も多分叢雲のように手を伸ばしてみる。

神風「あ、ダメです!吹雪さんに中を見せないように見張れって言われてますから」

北上「見せないように?」

それがここにいる理由か。

ん?なら叢雲が見ようとしたという事は。

神風「ええ。だから叢雲さんが見ようとした時も吹雪さん、ダンボールをバッて叢雲さんの手から遠ざけて。なんか思わず咄嗟にって感じで二人共驚いてる様でした」

北上「…」

前に吹雪と話した事がある。

提督の前任者と、かつてここにいた艦娘達の話を。

吹雪がかつてと提督に頼まれた事を。

それを吹雪はあえて叢雲に聞かせていた。
32 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:02:37.98 ID:82eRS9qA0
神風「吹雪さんはその後やっちゃったーみたいな凄く焦った表情をして、叢雲さんは…顔は見えなかったんです。でも、凄く、怖い感じがしました」

北上「怒った、のかな」

神風「どうでしょう。ただ怒ってるのとは違う気もしましたけど。その後吹雪さんの手首掴んでちょっと来なさいって引っ張ってって。

ダンボールはその時吹雪さんに頼まれました。一回バコンって床に落ちたから大丈夫かと思いましたけど、どうやら中は紙の類みたいですね」

北上「それどれくらい前?」

神風「んーハッキリとは言えませんけどぉ、10分?多分20分は経ってないと思うんですけど」

北上「そっか。うん、ありがと。引き続き見張りよろしく」

神風「え、行く気ですか?私としては暇潰しの相手が欲しいんですけれど。ってそれより今二人に会うのは止めた方がいいと思いますよ!」

北上「できれば今の二人に会いたいんだ」

割と悲痛な声を上げる神風を残して階段を上る。
33 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:03:14.73 ID:82eRS9qA0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

ガチャりと扉を開ける。

外階段へ通じる扉を。

盗み聞きしてもよかったがこうして不意打ちをした方がなんとなく良さそうな気がしたのだ。

吹雪「あ」
叢雲「…」

胸倉を掴まれている吹雪と顔は見えないがもう明らかにこれは怒ってるでしょって感じの叢雲がいた。

北上「あー…」

予想以上に逼迫した状況に私も不意打ちを食らってしまった。

吹雪「で、デジャブ?」

確かに以前と似た状況だ。あの時二人は呑気に休憩していたが。

叢雲「いいわ」パッ

北上「おっと」

吹雪から手を離し無言で私が開けた扉から室内へ入っていく叢雲。

ちょっと迂闊には止められそうにない雰囲気だ。

ただチラと見えたその表情は確かに怒っているのとは違うように見えた。
34 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:03:52.79 ID:82eRS9qA0
北上「探したよ。秘書艦殿」

吹雪「おかえりなさい、ですかね」

北上「そうだね」

吹雪「どうでした?」

北上「色々と納得したよ」

吹雪「それは良かった」

北上「いつからそうしてるの?」

吹雪「そうとは?」

北上「大人ぶってるって事」

吹雪「随分色々と聞いてきたみたいですね」

北上「まあね」

吹雪「子供じゃいられなくなる時ってどんな時だと思います?」

北上「独り立ちする時、とか」

吹雪「それは大人になる時ですよ」

北上「じゃあなんだろ」

吹雪「頼れる人が居なくなった時です」

北上「…」
35 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:04:59.78 ID:82eRS9qA0
北上「叢雲は?」

吹雪「あぁ、こっぴどく叱られちゃいました。私はアンタのペットじゃないのよって」

ペット?どういう意味だ?話が全く見えない。

吹雪「いやぁ流石我が妹と言うか、随分な表現で、それがまた大正解ですから結構刺さるというか。あ、ちょっと今じわじわと、来てますね」

それまでの飄々とした何時もの仮面が段だと引き攣っていく。

どうにか平静を装おうとしている分その悲痛さはより増しているように思えた。

吹雪「すみません、ちょっと疲れたので座りますね」

壁を背にずり落ちるようにその場に座り込む。

小さい。

そりゃあ並んでいても身長差はあるけれど、

なんだか酷く小さく感じた。
36 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:05:26.04 ID:82eRS9qA0
北上「あのダンボール、何?」

吹雪「前の鎮守府の時に護衛していた船の記録とかとかです」

北上「それが見せちゃいけないものなの」

吹雪「いえ、別に見られて困るわけじゃないんですよ普通は。ただあれ、例の作戦立案に使う予定なんです」

北上「あぁ、あー」

そういう事か、ペットとは。

叢雲を関わらせないためか。

過保護なんだ。

吹雪は叢雲とやけに仲がいいと聞いた。

それはきっとその通りなんだろうけど、随分と込み入った間柄のようだ。

なら以前に私達の話を叢雲に聞かせたのは関わらせないためか。

線引きをしたのだろう。
37 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:06:25.67 ID:82eRS9qA0
北上「どうして叢雲なの?」

吹雪はなんだかんだで見事に演じていた。上手くやっていた。

他にも姉妹は沢山いる。皆仲良いし、皆吹雪の事を慕っている。

しかしこうして見ると叢雲だけが弱点のようになっている。

吹雪「…少し長い話ですよ」

北上「そりゃいいや」

私も腰を下ろす。

目線の高さは、それでも私の方が少し高いだろう。

吹雪「意地悪な言い方ですね」

力なく笑う吹雪だがいくらか調子が戻っているようだった。
38 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:07:02.91 ID:82eRS9qA0
吹雪「私が叢雲と出会ったのは、もう三十年、いや四十年?それくらい前ですかね」

北上「!?」

ん!?何言ってんだ?

提督はここに来てまだ三年そこらだろう?

三十年以上と言うなら、かつての鎮守府の頃からいた事になる!

吹雪「私は初期艦でしたけど、叢雲も着任時期はかなり早くて。所謂古参ってやつですね」

言いたい事はあるが私は口を噤んだ。

今は問答をする時ではない。

吹雪は淡々と続ける。

体育座りの姿勢で、私ではなく自分の掌を見つめながら。
39 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:07:51.89 ID:82eRS9qA0
吹雪「だからか、仲良かったんですよ。姉妹艦というのを抜きに相棒って感じで。

お互い背中を預け合って助け合って分ち合ってました」

飛龍、日向、谷風、吹雪、多摩。

以前から鎮守府にいる艦娘。それはきっと本当だ。間違いない。

吹雪「司令官が司令官でしたからね。二人でいっつも振り回されて、たまには二人がかりで司令官ぶっ叩いたりして。楽しかったですよ」

提督のアルバムでは確かに早い時期に叢雲が着任していた。

でもそれは今の提督だ。つまりここ三年の出来事だ。

三十年というならそれかつての提督の話だ。

でも、それなら、

吹雪「司令官がいなくなって、皆いなくなって、だからそれらも私達で分け合って背負い合わなきゃと思ったんです。でも」

皆いなくなったというならそれは

吹雪「叢雲もいなくなったんですよ」

見つめていた手が何かを掴もうとするかのようにギュッと握りしめられる。

当然、空を掴んで。
40 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:08:59.37 ID:82eRS9qA0
吹雪「今の私は、真似事です。あの人の、司令官の。そうやって代わりを努めようと。いえ、自分じゃないと言い聞かせてたんです。でないと私も、消えてしまうと思ったから」

前に話した時、吹雪は処分という言い方をしていた。おそらくあえて冷たくそう言った。

今は、そうは言えないのだろう。

きっと消えてしまうから。

吹雪「上手くやってたんですけどね。運命なのかなんなのか、新たな鎮守府としてスタートしてすぐでしたよ。叢雲が来たのは」

アルバムの写真。吹雪はいつも笑顔だった。

底抜けに明るい彼女に叢雲は呆れたような表情をしていた。

吹雪「我ながらよく耐えたもんですよね。最初にあの娘見た時はもう抱き締めてその場で泣きじゃくりたい気分でしたもの」

残酷な話だ。確かに叢雲だが、間違いなく叢雲とは違うのだから。
41 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:09:33.39 ID:82eRS9qA0
吹雪「叢雲は叢雲でした。頼れるし、頭のキレもいいし、ちょっと察しが良すぎますけど。

でも本当は、本当は宝箱にでも入れて誰にも見つからないところに隠しておきたいんです。絶対に無くさないように」

吹雪の様子が少しおかしくなっていく。歪で不安定な何かを感じた。

身構える。

提督という核を失ったら艦娘がどうなるか。私は今その一端を見ているのではないか?

吹雪「ずっと私の中には葛藤があったんです。いつもそう。二つがせめぎ合ってる。

このまま何も知らない無垢なあの娘のままでいて欲しいと思う反面、全てを話してしまいたいとと思うんです。

だからどっちでもいいんです。どっちでも私にとっては同じ事ですから」
42 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:10:07.86 ID:82eRS9qA0
北上「ならさっき箱の中身を見られても良かったわけだ」

吹雪「結果的にはそうかもですね。でもいきなりだったのでビックリしました。今まではこういう事には関わらないようにしてたのに、いきなり手を出してきたので」

北上「前に叢雲に聞かせたのは逆効果だったかもね」

吹雪「そうなんでしょうね。まあそれならそれでも、いいんです」

北上「わかったよ。いつものその何事に対しても飄々とした態度。どっちでもいいってのはそういう事でしょ?要は無気力だ」

吹雪「物は言いようですね。でもきっと正解ですよ」

北上「私に対しても叢雲と同じ考えだったの?」

吹雪「あなたは少し違いますよ。いえかなり違います」

北上「かなり?」
43 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:10:59.77 ID:82eRS9qA0
吹雪「あなたはもしかしたら司令官を止められるかも、と思ったんです。あなたが司令官が何をしようとしてるかを知り、その事を司令官が知ればこんな事辞めるかもしれないって」

北上「期待してたってのはそれか」

吹雪「ええ。北上さんならきっと提督は止まるだろうって」

北上「でもそれなら止めようはいくらでもあったでしょ。もっと確実な方法が。

元帥のおじいちゃんに全部話せばいい。ネジの中抜きなんてまどろっこしい事するまでもない。私にやらせなくても自分で止めればいいじゃんか。

頼まれたんでしょ?提督に、この鎮守府を」

吹雪「止められるはずないじゃないですか。止めるわけ、ないじゃないですか…」

北上「なんでさ」

吹雪「当たり前ですよ」

吹雪が顔を上げる。

こちらを見つめるその瞳を見て理解した。

今まで見たことも無いその瞳は気圧される。


吹雪「この鎮守府で最も復讐を望んでるのが私だからですよ」

44 : ◆rbbm4ODkU. :2019/05/28(火) 04:11:46.99 ID:82eRS9qA0
吹雪「何十年でしょうね。あの人と一緒にいたのは。あの人の親よりも、奥さんよりも、息子よりも、誰よりも私はあの人のそばにいたんですよ?

好き、だったのかは今はもう分かりませんけどね。どうでしょう。艦と人ですから。でも異性とか人とか関係なくあの人を一番大切に思っていたと自負してますよ」

これまで溜め込んだモノをぶちまけるように吐き出す。

吐き捨てる。

吹雪「奥さんが死んで、あの人が司令官でなくなって、それでもあの人の、大切な人の大切なモノを守る為にここに残りました。それでいいと思ってました。

でも死んじゃったじゃないですか。ふざけた話ですよね。それで分からなくなっちゃったんですよ。だって復讐はあの人の大切なものを傷つける事になるから」

だから装ったのか。偽ったのか。自分を。

自分を殺してここを守るか、大切なもの踏み躙って仇を撃つか。

どっちも果たしたい。けれどどちらかしか選べない。

吹雪「どうすればいいか分からなくなったんですよ。どっちでも良かったんですよ。どっちに転んでも最悪なんですよ。

だから私でない何かでどちらかへ転ぶように色々と仕向けたんです」

何かの弾みでどちらかに傾くように。

吹雪「まあ北上さんが司令官と結託するとは思いもよりませんでしたけど、それだってどっちでもいいんです」

今の吹雪が協力的なのも、既にこちらに傾いたからか。

自分の意思では決められないから、抗いようのない何かに流される事を選んだんだ。
45 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:12:26.57 ID:82eRS9qA0
北上「酷いやつだね」

吹雪「ええ、私も大っ嫌いです。でもそういうものじゃないですか。私ここじゃあ誰よりもお姉ちゃんですからね。いつだって恨まれ役です」

北上「そうやって叢雲にも恨まれて?」

吹雪「うっ…正直あれは堪えました…思ったよりも」

北上「無理しちゃって」

吹雪「無理ばっかですから。今更ですよ」

北上「ところでさ、提督は?提督の事はどう思ってるの?」

吹雪「そうですね。嫌ってほど好きで憎たらしいくらい愛してます。ま、忘れ形見といいいますか、大切な弟ですからね」

北上「弟か。なんだか不思議な表現だよね」

吹雪「そうですか?あーでもあれですよ!司令官と呼んではいますけど、司令官とは認めてませんからね!」バッ

いきなり立ち上がってビシッと宣言された。

しゃがんだままの私を見下ろす吹雪を見て思った。

これがきっと素の吹雪なんだろう。
46 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:12:54.74 ID:82eRS9qA0
吹雪「私にとって司令官はただ一人ですからね。あんなのいつまで経っても弟ですよ」

カラカラと楽しそうに笑う彼女は実に容姿相応で、嘘偽りのない彼女自身だった。

提督と話している時と同じで。

かつての提督。彼女にとっての司令官。その秘書艦であった時もそうなのだろう。

やはり提督というのは艦娘にとって核なのだろうと、改めてそう思った。

吹雪「ありがとうごさいます」

北上「え、なんて?」

吹雪「なんかスッキリしました。こんな事話す相手なんていませんでしたし、話す事になるとも思ってなかったので」

北上「そりゃあ重畳。でも叢雲はどうするの?」

吹雪「そこは一度しっかり向き合わなきゃですね。なるようになりますよきっと。どうにもならないわけじゃないですから」

北上「だね」

私もゆっくりと腰を上げる。
47 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:13:27.74 ID:82eRS9qA0
吹雪「こうなった以上は頼みますよ。仇討ち」

北上「任せてよ。でも吹雪は来ないの?」

吹雪「鎮守府放っておく訳にも行きませんからね」

北上「そりゃそうか。頑張ってね」

吹雪「それは北上さんもですよ。計画はこっちでやってますから、みっちり鍛えといてください」

北上「ヴエー」

吹雪「あ、それともう一つ」

北上「まだ何か?」

吹雪「北上さん、どうして協力する事にしたんですか?」

北上「…」

吹雪「それだけが分からないんです」

北上「ナイショ」

吹雪「えー司令官にもですか?」

北上「コイツはまた墓まで持ってくつもりだからね」

吹雪「また?」

北上「そら、神風に怒られる前に戻ろ」

吹雪「あーそうだった!怒ってますかね…」

北上「どうだろうねぇ。困ってはいたけれど」
48 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:14:00.46 ID:82eRS9qA0
北上「あ、じゃあ私からも一つ」

吹雪「?」

北上「なんで私なの?提督を止めるってんなら別にほかの人でも、あー私が一番の新人だからか」

吹雪「違いますよ」

北上「じゃあなんなのさ?提督を止められるって程の根拠は」

吹雪「ふふ」

北上「お?」

吹雪「ナイショ」

北上「うっわ」

吹雪「へへーん」

北上「何がお姉ちゃんだ子供っぽい事しちゃって」

吹雪「ま、弟の為でもありますよ。お姉ちゃんは優しさも持ち合わせているんです」

北上「はい?提督の為?」

吹雪「さあさあ外は寒いですし戻りましょう。吹雪と言っても寒いのは苦手なんですから」

北上「ちょっと!」

結局吹雪はそれ以上は話してくれなかった。
49 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/05/28(火) 04:17:46.22 ID:82eRS9qA0
吹雪ちゃん可愛い好き(歪んだ愛情

書いてるうちに好きになった吹雪。今年に入ってから訓練を初めて最近ようやく練度99になりました。
改めてこの娘本当にいい娘です。なのにどうしてこうなった。
でも好き
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 09:12:43.14 ID:LGigVpoOO
おつおつ。吹雪いいよね
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 11:01:43.56 ID:wOw0JduLo
おつおつ
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 12:47:44.49 ID:3XeQtiaCO
吹雪ちゃん色気あるからなぁ
ここの吹雪ちゃんなんかクルーゼっぽい
53 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:10:36.69 ID:1U7uDXwJ0
90匹目:猫の爪とぎ


波間に航跡が見えた。

冬の寒さからか空にかけられた薄着の雲に遮られ海面は程よく見やすい。

如何に酸素魚雷と言ってもその航跡が全く無くなる訳では無い。予想出来たのであれば尚更だ。

身体を右に旋回させ向かってくる魚雷を正面で捉える。

ここで始めて魚雷の航跡が私の「視界」に入る。
54 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:11:08.93 ID:1U7uDXwJ0
船には多くの人間が乗っている。

その一人一人の働きがあって初めてその鉄の塊はこの青く広い戦場を駆けることが出来るのだ。

一人では進む事も止まる事も、砲弾の装填も砲塔を動かす事も魚雷を撃つ事も出来ない。

一人では出来ない。

だから沢山の人がいて、彼等がいるから、いたから出来る事がある。

後方。私の真後ろに陸が「見える」。

鎮守府のすぐ近くの海域。私と阿武隈はそこで演習をしている。
55 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:11:44.02 ID:1U7uDXwJ0
船にとって見るとはなんだろうか。

当然船に目はない。強いて言えばレーダー類がそれに近いだろうか。

故に船に乗る沢山の人が目の代わりとなる。

沢山の目が。

前を、後ろを、右を左を、上を下を。

沢山の目が監視し伝えてくる。

実際に目で見るようにはいかないが断片的なそれらの情報は戦闘においてとても大切なものになる。

船は1つの大きな生き物だと、私は最近になってようやく理解した。

皆は極々当たり前に、当然のようにやってのけているが、私にとっては大きな衝撃だった。

船の動きは実に生き物めいていて、また生き物がどれだけ複雑な構造をしているかを思い知らされる。
56 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:12:19.33 ID:1U7uDXwJ0
生き物は見て、触れて、嗅いで、感じて、それは信号となりシナプスとかなんとかが脳に伝え、脳が判断し、またそれが筋肉などに伝わり初めて動く。

船もそうだ。

多くの情報が艦長などに伝えられ、そこから判断し、命令し、それに沿って人が、船が動く。

彼らは言わば細胞だ。

勿論生き物のように電気信号という訳にはいかない。

情報は時差がある。誤差もある。ミスは起こるし命令通りにいかない事もある。

一人一人が考え動く。

それでもなんだろうか、私達が人の形をとっているのはそういう所に由縁があるのかもしれない。

船というイメージ。理想。彼らの思い浮かべる自分達の姿こそが今の私なのかもしれない。
57 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:13:40.49 ID:1U7uDXwJ0
足首に備えられた魚雷の狙いを定める。

魚雷の利点は点ではなく線で撃てる所にある。

弾を弾にぶつけるわけじゃないんだ。私ならできる。

やれる。

北上「いっちゃいますかー!」

魚雷を三本撃つ。魚雷一本の追撃にこれ以上はかけられない。

左足が少し軽くなる、この開放感は嫌いじゃない。

私のどこかで行われていた計算通りなら、ぶつかるまで後2秒だ。

移動しながら魚雷の行く末を見守る。

そして、
58 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:14:14.19 ID:1U7uDXwJ0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

【鎮守府:食堂】

阿武隈「つ゛か゛れ゛た゛ぁぁあ゛あ゛」バタンッ

北上「お疲れさん」

阿武隈が机に突っ伏す。

木曾「例の演習か。調子は?」

北上「中々いい結果だね」

阿武隈「中々どころじゃないですよぉ。こっちも考えて撃ってるのに北上さんに殆ど潰されちゃうもん」プクー

木曾「そりゃ凄いな。どうだ?俺ともやるか上姉」

北上「木曾相手はまだキツイかなあ」

阿武隈「エッ」

木曾「なんでだ?阿武隈の方が練度は高いだろ」
59 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:15:31.73 ID:1U7uDXwJ0
北上「関係ない、とまでは言わないけどさ。半ば心理戦みたいなものなんだよね。何時何処にどう撃つか。予想して誘導してって。木曾は読めないや」

阿武隈「私が分かりやすいって言ってませんかそれ」

北上「阿武隈は分かりやすい」

阿武隈「ハッキリ言った!!」ムキー

木曾「はは、なるほどな」

阿武隈「納得された!?」ガビーン

阿武隈の喜怒哀楽の目まぐるしさは見ていて飽きないものだ。神風に近いものがある。
60 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:16:13.43 ID:1U7uDXwJ0
木曾「…でもこの手の技術って深海棲艦に使えるのか?思考を読んでなんて俺ら艦娘用の戦い方になるぞ」

うーん流石木曾。鋭い。

北上「ちょっと今負けたくない相手がいてね」

木曾「相手…」

誤魔化せ、てないなこれ。どうしよう。

阿武隈「あ、もしかしてこの前行ったっていう元帥さんのところの誰かですか?」

北上「まあね」

木曾「あーそういや上姉あっちの鎮守府の北上に会ったって言ってたな。それか」

北上「どうだかね」

木曾「随分はぐらかすな」

北上「乙女は秘密を持ってるとより魅力的になるんだってさ」

木曾「魅力か」

阿武隈「もしかして想い人がいるんですか!?」

北上「そうじゃなくてね。あ、いや、そうなのかな」

阿武隈「え、え!?そうなの!?どうなの!!??」ガタタツ

北上「おーおー落ち着け落ち着け」
木曾「どーどぉどぉ」
61 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:16:40.13 ID:1U7uDXwJ0
木曾「でも、そうだな。そういう戦闘技術を磨きたいってんならいい相手がいるぜ」

阿武隈「恋のテクニック?」

木曾「一旦そこから離れろ」

北上「相手って?」

木曾の言う通りこれは深海棲艦相手の技術とは少し毛色が違うものだ。そんなものを持っているいい相手なんているのか?

木曾「俺も実際にやり合ったのは一回だけなんだがな。艦種も含めて適任がいるぜ」

阿武隈「勿体ぶるわね」

木曾「どうする。やるか?」

北上「そりゃあ出来ればお願いしたいけれど」

木曾「その代わり、俺といつか勝負してくれ」

北上「なんでそうなるの」
62 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:17:19.38 ID:1U7uDXwJ0
木曾「最近色々頑張ってるようだから気になってな」

阿武隈「いつかとか言ってるとこの人百年後とか言い出しますよ」

木曾「構わないさ。百年生きるつもりなら俺も生きてやるよ」

北上「はぁ。わかったわかった。約束するよ」

木曾「おっし。なら話通しとくぜ」

北上「訓練するって事?」

木曾「おう。多分二つ返事で引き受けてくれるよ」

阿武隈「誰の事言ってるのよ」

木曾「それはお楽しみって事で。あーでもあれだ」

北上「あれ?」

木曾「訓練するとしたら、夜だな」

北上「…あー」

阿武隈「うぇ…あの人?」

木曾「やっぱ…分かるか?」

北上「そりゃあ、ねえ?」

阿武隈「他にいないですし」
63 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:17:53.92 ID:1U7uDXwJ0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

月明かりのない暗い海。

そんな海を二人で進んで行く。

鎮守府に近いとはいえこの視界の悪さでは何が起きるか分からない、のだが随分と呑気に進んで行く。

それはそれでどうなんだろうかと思うが彼女が大丈夫と言うならそうなのだろう。

益体のない会話をしながら私を先導している「いい相手」の事を考える。

あの姉妹ならば分かるがまさか彼女がそうとは。
64 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:18:24.97 ID:1U7uDXwJ0
北上「そういやこの前神通と何かあったの?」

以前神通が川内にブチ切れてたのを思い出した。

川内「あーあれ?…あれ、ね…うん…色々とね…」

北上「あ、そう」

夜なのに川内の目からハイライトが消えた。

川内「那珂のアイドル活動手伝っててさ。秋刀魚漁に乗っかってなんかやるかーってなって、結局二人で調子に乗っちゃって」

北上「えぇ、那珂ちゃんもやってたの?」

川内「私の後におしおきされてたけどね」タハハ

意外だな。神通ほどじゃないにせよ那珂ちゃんも優等生タイプだと思ってた。

川内「あれ、知らなかった?那珂はああ見えて結構悪戯っ子だよ。目立つ事が好きってのは確かにアイドルらしいのかもしれないけどね」
65 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:18:57.27 ID:1U7uDXwJ0
北上「知らなかったよ。でもなんか腑に落ちるところはあるかな」

川内「まー北上は私らと組んだ事ないししゃーないか」

そう言うと真っ暗な海の中私を先導するように一歩前に出る。

川内「私は夜が好き。それで自分を抑えられてないって自覚はある」

北上「タチ悪いね」

川内「ふふ。でもね、夜が好きだから暴れる事はあっても大好きな夜に決して暴れたいわけじゃないんだ」

北上「…なんか川内が難しい事言ってる」

川内「うわー傷つくなーこれ」

北上「嘘つけ」

川内「私は夜に溶け込んで静かに沈めるのが好きなんだ」
66 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:19:38.10 ID:1U7uDXwJ0
お互いの持つ僅かな灯りが川内の顔を照らす。

私を見つめるその瞳は、まるでこの海のように冷たくて、でもいつもより輝いて見えた。

ニヤと笑いながらその瞳を私から暗い海に向ける。

川内「その点神通なんか凄いんだよ。夜戦入ると直ぐカァーッてなってさ。敵に突っ込んでいきやんの。止めるの大変なんだからあれ」

北上「神通が?」

川内「意外でしょ。だから私のやんちゃを叱ってくれるのとで差し引きイーブンって事だね」

北上「いやそれは違うと思う」

川内「那珂はもっとヤバいけどね」

私の指摘はキレイに無視された。

北上「もっと止めるの大変なの?」

川内「いや」

川内が止まった。どうやらここが目的地らしい。

川内「止められないんだ」
67 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:20:24.00 ID:1U7uDXwJ0
川内「那珂はアイドルだからね。曲が終わるまで決して踊りは止めないよ」

北上「…」

後ろを振り返る。

演習の立ち会い人として私たちと距離を置いて着いてきているはずの二人。那珂ちゃんと多摩姉。

川内「私が北上の夜戦訓練担当になったのもそれが理由。二人はちょっと北上の目指してる戦い方とは違うからね」

北上「そんな鬼神みたいなのが立ち会い人なのか」

川内「自分でやると熱が入るタイプだからね。那珂は人の動きを見て採点したり教えるのはすごく上手いから。やっぱ普段ダンスとか教えてて培ってるのかねえ」

北上「多摩姉は?」

川内「単純に練度かな。灯り無しの夜戦訓練。こうして鎮守府から少し離れてると何が起こるかわからないから見張りが欲しいんだ」

そう言って灯りを消す川内にならって私も唯一の光源を消す。
68 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:21:08.95 ID:1U7uDXwJ0
川内「それじゃ私がある程度離れたら合図するからそれで訓練開始ね。とりあえず全力で私を倒しに来ていいよ。どちらかが大破するか降参するまでで」

カーテンを閉めたように空には分厚い雲がかかっていて月の明かりは僅かにすら漏れてはいなかった。

何も見えない世界から声だけが聞こえる。

北上「そんな適当でいいの?」

川内「まずは北上のセンスを見たいからね。指示はその都度こっちからするから」

北上「なんか本格的になってきたぁ」

川内「大丈夫大丈夫。神通や那珂みたいなハードなやつじゃないから」

北上「そんなに凄いの」

川内「神通は褒められる水準までぶん殴ってでも伸ばすタイプだし那珂は一見優しいけど出来るまで延々とやらせるタイプ」

北上「うわぁ…」
69 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:21:37.55 ID:1U7uDXwJ0
川内「一度駆逐艦の皆に聞いてみるといいよ。色々面白い話が聞けると思うよ」

北上「察するにあまりある感じが…それで皆よく着いてってるよね」

川内「知ってて神通や那珂についてってる子もいるしね」

誰だそいつは。心当たりはあるけど。

北上「それだと川内が一番人気だったり?」

川内「なんで?」

北上「一番まともと言うか、他よりマシじゃん?」

川内「あーそうだねえ。それは




どうだろう」


70 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:22:08.38 ID:1U7uDXwJ0
そう言い終わると、川内が消えた。


いや、勿論元から見えていたわけじゃない。

だが声や気配で感覚的にここにいるなというイメージというか、ぼんやりと輪郭として認識できていた。

それが、消えた。

海に、闇に溶けて消えたかのようになくなった。

灯りもなく声も気配もない。

暗い海で私は間違いなく一人だとここで自覚した。
71 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:22:42.37 ID:1U7uDXwJ0
それはとてつもない速度で私を襲ってきた。

深く、強く、包み込むように襲ってきたそれがなんなのかを私はよく知っていたが、しかし私はそれに対抗する術をまるで知らなかった。

怖い。

酷く冷静に私は恐怖を自覚した。

瞳孔が開く。

呼吸が荒くなる。

足が縮こまる。

腕に力が入る。

夜戦というのが何も初めてという訳では無い。

今日の様に灯りのない夜も経験はしていた。

だが独りというのはそれらの経験や慣れをいとも簡単に飲み込んでしまった。
72 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:23:27.69 ID:1U7uDXwJ0
夜の海を知っているだろうか。

月明かりのない時のその夜は、本当に暗い。

何せ光がないのだ。深海とどう違う。


それでいて決して静かではないのだ。


波が、風が、私を食い殺そうと様々な音を立てながら襲いかかってくる。

例えば想像してみて欲しい。

古びた鎮守府の廊下を真夜中に歩いている。

灯りはない。

私なら壁に手を付き、耳をすましながらゆっくりゆっくりと歩くだろう。

一歩一歩歩く度に軋む廊下を慎重に。

でも海は違う。

いくら手を翳しても空を掴むことしか出来ない。

足を踏み出しても波の音に全て飲まれる。

最早自分が進んでいるのかどうか、いや、自分が本当にここにいるのかすら確かではなくなる。

暗い海はそれほどに私を飲み込んできた。
73 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:24:04.23 ID:1U7uDXwJ0
北上「!?」

右斜め前。二時の方向で光が見えた。

なんの光かなんて考えるまでもない。

砲撃だ。

直感的に回避行動をとる。

直後遅れて聞こえてきた音とともに私が今までいた所に砲弾が飛んできた。

これが合図か?

まさか深海棲艦が襲ってきた?

何もわからない。ただどちらにせよ私は攻撃に出るべきだ。

砲を構え今しがた光が見えた方に向ける。

いや、ここで撃つべきなのか?

視界不良の夜戦において1番大切なのは敵の位置を知ることだ。

逆に不味いのは敵に位置を知られることになる。

先程の砲撃で位置はだいたい分かったがあくまで大体。ここで私が砲撃しても当たるとは思えない。

むしろ私の居場所を知らせる事になる。

川内の方が練度が高いのだ。ここで私の位置を知られるのは多分悪手だ。
74 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:24:42.14 ID:1U7uDXwJ0
どうする?川内なら何をする?この訓練において大切なのはそこだ。だから川内に頼んだんだ。

また海上に花火が咲く。続け様に今度は二発。何故だ?

弾は至近弾とはとても言えないがそれでもひょっとしたら当たっていたかもという位の距離に着弾した。

私のだいたいの位置に向けて適当に撃っている?

適当ではあるが適当であるゆえにいつ当たるか分からない。どうする。どうすれば川内を出し抜ける?

ただの夜戦ではない。通常の艦隊戦ではない。川内に一泡吹かせてやれればそれでいい。

私は速度を上げて真っ直ぐ砲撃のあった場所へ向かった。

川内は少しづつ移動はしながらも一定の感覚で砲撃を続けている。

あれは誘いだ。私に勝ち目があるとしたらそれは魚雷を当てることだろう。

砲撃での殴り合いなら向こうに分がある。ここで安易に撃ってはいけない。

恐らくそれをわかっていてあんなに撃っている。私がどう出るか試している。

でもだとしたら次はどう出

北上「ッ!?」

臆病な私の動物的直感がけたたましい音を上げて唸った。
75 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:25:18.00 ID:1U7uDXwJ0
北上「うわっ!?」

鈍い爆発音とともに水柱が上がる。

川内『あ、当たった?』

通信から川内の軽い声が聞こえる。

それは魚雷の爆発によるものだった。

真っ直ぐ進んだ私と正面衝突する形で放たれた魚雷の。

川内『いやーまさかホントに真っ直ぐ突っ込んでくるとはね。一応置いといたんだけどビックリビックリ、って聞こえてる?おーい』

川内が灯りをつけ暗い海に翳す。

川内『っかしーな。演習用だし大した威力じゃないのに』

不規則に揺れる灯りが近づいてくる。

灯に誘われる蛾、とは逆になってしまったけど!

再び鈍い爆発音とともに水柱が上がる。灯りを呑み込んで。
76 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:25:59.37 ID:1U7uDXwJ0
北上「っしゃ!」

半分程沈みかけていた身体を起こす。

咄嗟に私に向かってきていた魚雷を撃ったとはいえあの至近距離。今の私は中破と言ったところか。

北上『勝負はどちらかが大破するまで、でしょ?』

やられた振り。単純だがそれ故に有効だ。川内の持つ灯り目掛けて放った魚雷は間違いなく命中した。

川内『…はは、やってくれるじゃん。こんなの訓練っていう前提だから出来る事だってのに、まあそういう経験のために私を選んだってんなら』

川内「だいせーかい」スッ

北上「…は?」

後頭部に硬い何かが当たるのを感じる。

川内「勝負はどちらかが大破するか、降参するまで、でしょ?」

後ろだった。私の魚雷によって灯りが消えた方向と逆。私の後ろに川内がいた。

しっかりと砲を構えて。

北上「こーさん」

後頭部に当たるまだ暖かい鉄の塊に私は負けを認めるしかなかった。
77 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:26:25.08 ID:1U7uDXwJ0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

那珂「ずっるーい!」
多摩「狡いにゃ」

鎮守府への帰り道。私は多摩姉に肩を担がれる形になっている。

川内「そんなに言わなくてもいーじゃんか」

那珂「だって灯を囮にするためにわざわざドラム缶まで持ってきてたんでしょ?」

川内「北上がどんなやつかはちびっこ達にリサーチ済だったからね。想定内ではあったけど予想外だったよ。センスはあるね」

多摩「事前の準備、情報、そういうの含めて狡いって言ってんだにゃ」

川内「えー戦いの基本でしょ」

那珂「もー、北上ちゃんもなんか行ってあげなよ」

北上「あーうん。いい勉強になったよ」

那珂「そうじゃなくってえ!」
78 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:27:08.32 ID:1U7uDXwJ0
多摩「北上がそう言うならしょうがないにゃ」

川内「だってさ那珂」

那珂「分かったよもう」プクー

川内「それにほら、今のはレッスン1だからさ。ね?北上」

北上「そうだね」

肩を竦めて川内を睨みつける。

北上「次は一泡吹かせてやる」

川内「大口叩く余裕があるなら次は期待できそうだね」

北上「首洗って待ってなよ」

多摩「燃えてるにゃぁ」

那珂「ふーん…」

川内「…那珂はダメだからね」

那珂「えぇ!?なんで!!」

川内「修行の趣旨が違うから」

那珂「いーじゃん!私もやりたい〜」

川内「だーめ。ここはアイドルの踊る所じゃないよ」

那珂「え〜」
79 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:27:41.22 ID:1U7uDXwJ0
三人の愉快なやり取りを他所に、私は既に次の事を考えていた。

どんな手段を用いても。つまりはそういう事だ。

だから

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

川内「おーおーおー。そう来たかー。いいね面白い。昨日の今日で思い切ったねぇ。メリットはあるけどデメリットもある、ってのは分かってる?」

北上「勿論」

川内「OK。あ、今回はドラム缶持ってきてないから安心してね」

北上「それは信用出来ない」

川内「おっと狼少年だなこれは。まあ警戒しとくのは大切だしね。それじゃ、よろしく」

北上「うん」
大井「ええ」
80 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:28:41.22 ID:1U7uDXwJ0
また川内が闇に紛れる。

昨日と違って今夜は完全に真っ暗という訳では無いのに上手いこと隠れるもんだ。

でももう怖くない。

北上「よろしくね、大井っちー」

大井「任せましたよ、北上さん」

二人で手を軽く合わせる。

今の私は黒猫じゃあない。

私は重雷装巡洋艦、北上。

私の相棒は白猫じゃあない。

同じく重雷装巡洋艦、大井っちだ。
81 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/04(火) 04:33:01.71 ID:1U7uDXwJ0
実は夜戦バカより神通の方がヤバいと見せかけて那珂ちゃんの方がぶっ飛んでると思わせてやっぱり川内もみたいなそういうアレが、好き

戦争がテーマで戦闘がメインのゲームなのに実際どうやって戦ってるのかさっぱりです。
お船の知識は空母と戦艦の違いは分かる程度の物なので戦闘シーンは頭を空っぽにして読んでいただければ楽しめるかなぁと。
レ級戦どうしよう…
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/04(火) 09:05:24.50 ID:kvyptEzmO
ぶっちゃけ魚雷炸裂すれば戦艦だろうが空母だろうが沈む
からそこまで悩まんでもいいのいいの
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/04(火) 14:09:05.20 ID:rkDaTs7S0
レ級がどれだけめんどくさいか体験するなら実弾装備の日進に模擬弾で挑めば半分くらい体験できるかも
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/04(火) 23:15:22.52 ID:fMz9z916o
乙した


あーうん、神通=サン演習で本当に蕨ブン殴って轟沈させたったもんなぁ
85 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 02:58:36.41 ID:EliH773c0
92匹目:In a cat's eye, all things belong to cats.






猫の目に映るものは全て猫のもの。

これらは全て私の目で見てきたものだ。

私の世界に、私の目に映らないものは存在しないのと同じだ。

これらは世界の側面のひとつに過ぎない。

だから猫の目に何が映っていたのか、私には結局知る由もないのだろう。
86 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 02:59:22.01 ID:EliH773c0
北上「ムカつくくらい勝てないんだこれが」

執務室。

夜戦訓練の結果を報告していつものソファに寝っ転がる。

川内との戦闘は文字通り身体の全てを使うもんだから慣れない運動で節々が悲鳴をあげている。

提督「すげぇだろあいつ。目立った戦果はないけど演習やらせるとひでぇ事になるんだぜ」

北上「特殊すぎるよあの姉妹…」

提督「それで、お前の方はどうなんだ?いや、お前らか」

北上「勝てない。全然勝てない。でも、まだ勝ててないだけ」

提督「期待は出来そうだな」

北上「大井っちもいるしね」

提督「なら疑う余地はねえな」
87 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:01:18.75 ID:EliH773c0
飛龍さんの基礎訓練(ベリーハード)とは別にこの訓練をしているのには理由がある。

吹雪から全てを聞いたあの日から数日後の話だ。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

提督「レ級ってのはかなり特殊な種だ。ネームドとは違うがその辺の深海棲艦と同じとも思えない。未だに艦種をどうするか議論が絶えないって話だ」

吹雪「そもそも個体数が少ないんですよ。しかもどういう訳か群れることをしないんで奴らの中での立ち位置ってのも全く不明なんです」

提督「だからレ級に船が沈められたってなってもまあアイツなら、みたいになるんだよ」

北上「予測不可能だから仕方ないって?自然災害扱いじゃん」

吹雪「概ねそんな感じです。実際こっちも手が足りないんでもあんなのにかまけてらんないのは確かなんですけどね」

提督「だからこそコイツの違いに誰も気づけていないんだ」

北上「コイツって、私達が追ってるレ級か」

吹雪「ええ」
提督「おう」

心做しか二人の距離が近づいたように思える。いよいよ兄妹じみてきた。あ、姉弟か?
88 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:02:00.39 ID:EliH773c0
提督「コイツだけが、特殊と言われるレ級の中でもさらに異質なんだ」

吹雪「ハイというわけで問題です」

北上「え」
提督「え」
北上「提督も驚くの?」

吹雪「私達の追うレ級の最も異常な所とはどこの事でしょーか。シンキングタイムは一分!」

提督「別にクイズにしなくてもいいだろうがよ」

吹雪「まあまあまあまあいいからいいから」

北上「異常性…」

深海棲艦が船を襲う事はよくある事だ。

強さ?いやそれを指して異常性といは言わないか。

待て思考を変えよう。

吹雪はわざわざクイズにしてきた。つまり私の知っている情報で十分に分かるという事だ。

私が知っているレ級の情報。

多摩姉と見たものか?
飛龍さんが話していた事か?

残虐性?何か違うな。

人を盾にしたというその知能?

最もと言えるほどの何か。何かとは何だ?
89 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:02:40.05 ID:EliH773c0
吹雪「ハイ時間切れー」

北上「くっ…」

提督「そんな悔しがる事か?」

吹雪「やれやれこれだから司令官は」

提督「…北上、飛龍から話は聞いたんだろ?」

北上「うん」
吹雪「私スルー?スルー?」

提督「それ、最後どうなったって言ってた?」

北上「最後?えっと、レ級に逃げられて、こっちも被害が大きかったから生存者の捜索にしつつそこで待機して」

提督「そこだよ」

北上「へ?」

提督「それ何時頃だ」

北上「そこまで詳しくは聞いてないけど、まあ昼過ぎみたいなニュアンスだったかな」

提督「その通り。だとすりゃおかしい事言ってるぜ北上」

北上「おかしい事?」

レ級に関して?

ただ逃げられただけじゃ。

北上「逃げた…?」
90 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:03:27.27 ID:EliH773c0
吹雪「そう。逃がしたわけじゃないんですよ。飛龍さん達はその場で仕留めるつもりで全力で追撃しました。

時刻も昼。夜戦後に闇に紛れたわけでもない。

なのに逃げたんですよ。アイツは自分の意思で」

おかしい。それは確かにおかしい。

何よりもそれがおかしい事なのがおかしい。

提督「深海棲艦ってのが人を相手にするのと大きく違うのはやつらが撤退を選ばない事が大きい」

吹雪「基本的にヤツらは人や艦娘を見つけたら全滅させるか全滅されるまで戦いを止めません。

夜戦の後だってこちらの判断でその場から撤退しているだけで両者がその場に残れば日が登ってからも戦闘が続く、という例が数は少ないですけどあるんです」

提督「奴らに戦略なんて殆ど無い。ただ人を殺す。その意思が膨大な数集まって無理やり戦争になってるだけだ」

吹雪「レ級だって例外じゃない。アイツ以外は」
91 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:04:20.64 ID:EliH773c0
北上「そのレ級だけ、目的が違うって事?」

提督「多分な」

提督がポンと机に置かれた書類の山に手を置く。

提督「そして親父もそう思っていた」

吹雪「レ級の関わったと思える事件や戦闘に関するものは全て揃ってました。そういった中からアイツと思しきものだけ見ていった結論としては」

北上「しては」

提督「子供だよ」

北上「子供?」

提督「勝ちも負けもない。圧倒的な力で弱者を嬲って泣きっ面を笑うだけが生きがいだ。

これがタチ悪いんだよ。こっちが少しでも被害を負えば例え戦闘の末に逃げたとしても自分の勝ちなんだ。この広い海に置いてヤツらに勝ち逃げをされたらどうしようもない」

北上「でもそれじゃあ手のだし用がないじゃんか」

吹雪「そう。大人の理屈は子供には通用しないんですよ」

提督「だからこっちも同じ事をしてやるんだ」

吹雪「これまで勝ち逃げだけして勝利を知らない糞ガキに」

提督「同じ事を自分がやられたらどうなるか教えてやるってわけだ」

そう言って二人はまるで悪ガキのようにニヤリと笑う。
92 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:04:59.23 ID:EliH773c0
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

深海餓鬼。なんてふざけた名前がつけられた。

その餓鬼に勝つ方法。

つまりは逃げたら負けにすればいい。

今までは守りが目的のこちらをつついて遊んでいた所に、今度はこちらから攻める。

予想外想定外。煽ってイラつかせりゃ勝ち、だと。

必要なのは深海棲艦との戦闘技術じゃない。

悪ガキの懲らしめ方だ。
93 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:05:35.12 ID:EliH773c0
提督「ふぁ…ぁ〜」

北上「眠いね〜」

提督「眠いな〜。六時間しか寝てねえや」

北上「それそんなに眠くなるほどの時間じゃなくない?」

提督「いつも九時間は寝てたんだぞ」

北上「仕事してないからでは」

提督「最近は頑張ってるから許して」

北上「まあおかげで私達もそれほど忙しくなかったしいいんだけどね」

提督「感謝しろよ」

北上「上司の不真面目さ?」

提督「真面目ってのがなんでもかんでもいいわけじゃないのさ」

それは誰の事を指しているのだろうか。

北上「最近そんなに忙しいの?」

提督「吹雪のヤツが仕事押し付けてくるからな」

北上「それは元々提督の仕事なんじゃ…」

でも確かに最近吹雪は肩の荷がおりたというか、いい感じに気が抜けているように思える。
94 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:06:19.25 ID:EliH773c0
北上「でさ、実際のところ今まで手を抜いてたのはやっぱりこういう時のためなわけ?」

提督「…俺が提督として未熟なのは確かだぞ。息子ってだけで才能がある訳でもないし必要な知識も足りてない」

北上「それはまあそうだね」

提督「小さい鎮守府であるうちは自由に動きやすいから、機会を伺ってたってのはあるけど」

北上「やっぱりじゃん」

提督「あんまり"ホントは出来るやつー"みたいに思われたくないんだよ。手は抜いてたけど、あくまで本気でやってようやく一人前くらいのレベルだからな?」

北上「謙遜はいいけど卑下はしないでね。私達は提督に命預けてるんだから」

提督「最終的にはお前ら次第だけどな。しかし生活リズムの方はもう少しちゃんとするべきだなこりゃ」

北上「寝たら?」

提督「んー…」

北上「下手の考え休むに似たりだよ。どうせなら思いっきり寝てスッキリした方がマシだって」

提督「それもそうか」
95 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:06:50.68 ID:EliH773c0
提督「よし交代だ北上」

北上「交代?」

提督「俺がソファでお前が椅子」

北上「ベットじゃなくていいの?」

提督「それだと本当に寝ちまうからな」

北上「あ、じゃあ帽子貸してよ。提督のやつ。あれ一度被ってみたかったんだあ」

提督「帽子…帽子…あー、と…あ、あそこにかかってるぞ」

北上「思い出すのにそんなにかかるレベルで使われてないのか」

提督「安心しろ。洗ってないが洗う必要が無いほど綺麗だぜ」

北上「ワーイヤッターウレシー」
96 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:07:18.13 ID:EliH773c0
北上「おおー」

提督「どうだ?」

北上「思ったより硬いねこの椅子」

提督「ホンマそれ」

北上「変えたら?」

提督「一応来客とかも考えると座り心地より見た目になってな」

北上「面倒だね」

提督「まったくな」

北上「あと帽子臭い」

提督「嘘だろ!?」

北上「ウソウソ」

提督「匂いの話はマジで心にくるからヤメテ…」

北上「そういうものなの?」

提督「そういうものなの…」
97 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:08:11.39 ID:EliH773c0
北上「私達はいっつも潮と硝煙の臭いばっかだからなあ」

提督「気になるか?」

北上「当たり前だから特に気にしたことはないかな。でも香水とか付けれないって悩みは聞いことある」

提督「それに関しては本当に申し訳ないというか」

北上「別に提督のせいじゃないでしょ」

提督「まあそうだけどさ」

北上「あ、でもだからかシャンプーとかリンスとかにこだわる人は多いね」

提督「異様に注文が多いのはそのせいだったのか」

北上「これくらいのワガママは聞いてあげてね」

提督「そうするよ」

北上「提督も大変だねえ」

提督「ただその椅子に座ってるわけじゃねえってことだよ」
98 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:08:43.50 ID:EliH773c0
そっか、提督はいつもここに座ってるんだなあ。

いやそうでもないか。

今の私には帽子や椅子からの提督の匂いなんて分かりゃしないけれど、それでもなんだか妙に落ち着くものがあった。

目を瞑るとなんだか抱きかかえられているような気分になる。

北上「あ」

また体が熱くなるのを感じた。

心臓がドキドキ言ってる。

不思議なもんだ。少し不気味でもあるけれど。

ソファの方を見る。

私みたいに仰向けに寝る提督が見える。
99 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:09:37.71 ID:EliH773c0
椅子から降りてソファの方向かう。

起こさないように一歩一歩、そうっと。

それでも近づく度に、私の意思を無視して胸の鼓動が早くなる。

煩くて、煩わしくて、喧しい。

頭を揺さぶられているようでぼおってしてくる。

ソファの端に乗せられた提督の顔を逆さから覗き見る。

親子だというのにかつての飼い主とは似ても似つかない。この金髪だって染めてるものだ。
100 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:10:13.48 ID:EliH773c0
顔をさらに近づける。

この向きだとキスは無理か?

あぁもう体が五月蝿い!

おさげが垂れて邪魔だ。大井っちにポニテにしてもらえばよかった。

大井っちに…

北上「ねえ」

提督「んあ?…ん?北上?ちょ、え?あれ?」

あまりの近さに驚いて狼狽える提督の頭を両手でガッチリと固定する。

逆さまだがお互いの目はしっかりと向き合った。

北上「提督はさ、大切な物があったらそれをどうしたい?」

提督「心理テストか?」

北上「そんなところかな」
101 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:10:48.97 ID:EliH773c0
提督「大切な物ねえ。物にもよるんだろうけど、そうだなあ。それが一番相応しい所に置いておくかな」

北上「ん?それってどういうこと」

提督「宝石とかなら、あの棚とかに飾っておきたい。花とかならそこの窓辺にかな。なんであれそれが一番綺麗に見えるとこに置いておく」

北上「大切な物なら、何処かに仕舞っておきたくはないの?」

提督「保管が目的ならそうするけどな」

北上「それが人なら?」

提督「…人かあ」

提督が目を瞑る。

思い浮かべているのだろう。

そうだ。提督にとってこの作戦は、大井っちを危険な目に合わせる事になる。

復讐だとしても、それは何よりも優先すべき事なのだろうか。大切な物よりも。
102 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:11:17.71 ID:EliH773c0
提督「そいつが行きたい所に行けばいい。ただ出来るだけそばにいる努力はするけどな」

北上「何処へも行かないように閉じ込めておきたいとか思わないの?」

提督「ヤンデレかよ。まあそういう気持ちに理解がないわけじゃないけどさ」

北上「そうなの?」

提督「自分の思い通りになる世界ってのは、誰しも考えた事あるだろ」

北上「そりゃあ確かに理想かもね」

提督「これで満足か?」

北上「それなりに」

提督「そりゃよかった」
103 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:11:53.03 ID:EliH773c0
提督の頭から手を離し、離れようとした。

したけど、

提督「北上」ガシッ
北上「うわ」

今度は提督に捕まえられた。

北上「な、なに?」

提督「お前はどうなんだ?今の質問」

北上「私?」

提督「一方的に質問ってのはナシだぜ」

北上「私、私は…」

提督「き、北上?」

少しづつ顔を提督に近づける。

そしてそのまま




北上「私なら誰にも渡したくないって思う」




提督の耳元でそっと呟いて、ソファを離れた。
104 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:12:59.69 ID:EliH773c0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「はぁ」

結局あの後すぐ部屋を出てしまった。

本当ならこの疲れた体をすぐにでも休ませた方がいいのだろうけれど、どうにも自分で処理できないモヤモヤした感情がそれを許してくれない。

以前からあったこの自分ではない自分のようなモヤモヤはここ最近ドンドン増えているように感じる。

先程のドキドキはきっと私じゃなくて北上のものだ。

でも提督に言った、言ってしまったあの一言はきっと、私のものだ。

どうすればいいだろう。私はどっちを取るべきだろう。

北上「恋心とはまた違う感じだよねえ。ストレスかな。そういや猫もストレスで禿げるんだっけ」

誰もいない建物の外のベンチで自分に軽口を叩く。冬の寒さがいい感じに体を冷やしてくれる。

時刻は9時を過ぎた辺りかな。チラホラと部屋の明かりが消え始めていた。

今は、なんとなく誰にも顔を見せたくない。

大井「ストレスには甘いものですよ北上さん」

北上「まあたそうやって甘いものを食べる言い訳を」

大井「食べ過ぎ!食べ過ぎがダメなだけです!適量摂取はむしろ必要です!」

北上「そりゃそうだけどさ。そうじゃなくてもっと根本的なぁ…あー…大井っち?」

大井「はい?大井っちですけれど」

北上「いつから、そこに?」

大井「今しがたここに」

北上「なんで」

大井「私の北上さんセンサーがここに」

北上「さいで…」
105 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:13:32.51 ID:EliH773c0
大井「何処へ行ってたんですか?訓練の疲れが取れませんよそんなんじゃ」

北上「それはそうなんだけどね」

大井「最近よくフラフラと色々な所へ行ってるじゃないですか。一体何をしてるんですか?」

北上「話をね、聞いてたんだ」

大井「話?」

北上「どうして皆復讐をするのか、みたいな話」

大井「あぁ、なるほど」

北上「…大井っちは、大井っちはどうして?」

大井「そりゃあ勿論北上さんが」

北上「…」ジー

大井「ぁー、すみませんウソじゃないです。でも全部でもないです」

北上「知ってた」

大井「でも、私にとっても復讐なんですよ」

北上「リベンジ、じゃなくて?」
106 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:14:00.30 ID:EliH773c0
大井「北上さんこそ、どうしてこんな危険な事に関わるんですか?」

北上「それは…」

大井「やっぱり言えませんか?」

北上「うん…」

大井「でも引く気は無いと」

北上「うん」

大井「命の危険があるとしても?」

北上「うん」

大井「アイツを討つと」

北上「うん」

大井「復讐する、と?」

北上「…うん」
107 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:14:27.08 ID:EliH773c0
大井「ねえ北上さん、私」

そこで言葉切った。

いや詰まったと言うべきだ。

迷ってる。躊躇している。惑っている。

その酷く辛そうな表情を、大井っちのそんな表情を私は初めて見た。

そして意を決したのか私の方に向き直り改めて口を開いた。

大井「私、人を殺した事があるんです」


北上「はい?」



108 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:14:56.57 ID:EliH773c0
大井「誰にも言ったことはありません。あの日、レ級を追って煙の中に突っ込んだ時です」

北上「飛龍さんから聞いたよ」

大井「あの時皆闇雲に突撃しました。私も。絶対に逃がすまいと無我夢中で」

北上「それだけの事してたからね」

大井「結果、こちらは損害を受け船は沈み生存者はいなかった」

北上「こうして改めて聞くととんでもない話だね」

大井「でも違うんですよ。私、出会ってるんです。あの煙の中で、アイツに」

北上「アイツって、まさか?」

大井「まさかですよ。ええ。あのレ級に」
109 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:15:33.84 ID:EliH773c0
大井「本当に偶然でした。沈みつつある船のすぐ近くで、驚く程近距離で遭遇してしまったんです」

北上「どれくらいの近さで?」

大井「10メートルくらいでしょうか。お互いに驚きで一瞬固まったのを覚えてます。その後すぐお互いに砲を構えました」

北上「手負いとはいえレ級とタイマンか」

大井「本来私の練度じゃどうしようもない相手です。窮鼠猫を噛むと言いますけど、この場合どちらも追い詰められていたわけです」

北上「どちらも必死になるわけだ」

大井「だからまあより私に勝ち目なんてなかったわけなんですけれど、そしたら、そしたら人が降ってきたんです」

北上「ん、え?人?」
110 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:16:01.96 ID:EliH773c0
大井「傾き燃え盛る船の甲板から一人の男が降ってきたんです。レ級目掛けて」

北上「そりゃまた、どうして?」

大井「男はレ級に飛びつきました。極限まで追い詰められていたレ級にとってその奇襲はあまりにも効果的だったようで、何がなんだかわからないというふうにのたうち回っていました」

北上「助けに来たってわけか。しかし深海棲艦相手に生身の人間とは随分勇敢な」

大井「勇敢なんてものじゃないですよ。レ級の視界を塞ぎながら私にこう言ったんですから。私ごと殺れ、と」

北上「!?」

まさか、人を殺したってのはつまり。
111 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:16:40.19 ID:EliH773c0
大井「魚雷を打ち込みました。でも私ではトドメを刺すには至らず、結果的にあの人を殺してレ級には逃げられました」

北上「そっか。そんな事があったんだ」

一時期落ち込んでいたと聞いていたがなるほど。むしろ落ち込む程度で済んでよかったというレベルだ。

大井っちにとっての復讐はその一人の男の命をかけたものなんだろう。

結局皆誰かの命を
大井「その人がかつてのここの提督だったと知ったのは極最近です」

命を、

え?

北上「今なんて?」

大井「当時は誰にも話せませんでした。私自身忘れようとさえしてました。でも少し前に気づいたんです。あの人は、ここ前任の提督だったと」

北上「」

その人は提督を辞め海外に行っていた。

たまたま帰ってくるその船がレ級に襲われ、沈んだ。

死んだ。

でも、そうじゃなかった。それだけじゃなかった。
112 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:19:04.63 ID:EliH773c0
北上「その、話は、提督達にはしない、の?」

上手く言葉が出ない。喉がヒリついている。

大井「少なくともこの件が終わるまではそのつもりです」

北上「なんで、なんで私には話したの」

意識しなければ今にも震えだしてしまいそうだ。

大井「そうする必要があると思ったからです」

北上「どうして」

今すぐ叫び出したいほど何かが体の中で暴れている。

大井「北上さん。まだ迷っているでしょ?だから皆の話を聞いて回った」

北上「それは…」

大井「私もその助けになればと思ったんです」

北上「…」

大井「さあ、もう戻りましょう。冷えてしまいますよ?」


そう言って席を立つその後ろ姿を見て、私の中にあったモヤモヤが黒くて熱い何かに変わっていくのをハッキリと自覚した。
113 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/06/19(水) 03:24:35.20 ID:EliH773c0
わーい修羅場だ修羅場だ

最近当然のようにイベントに顔を出すようになったレ級。あの特別感が良かったんですけどねぇ。ええけして厄介だからとかではなくて…
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/21(金) 01:06:22.36 ID:0yrnYQ5Qo
おっつ
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/21(金) 01:23:05.60 ID:Fw2yPx420
おおいっちは先代の北上をこんな感じで沈めてるんじゃないかと予想してたんだがまさかの先代提督でもっと重い展開だった
北上化け猫モードなりそうw
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/25(火) 21:04:11.16 ID:cigcUDuIO
猫が主人の仇討ちってなんかコンビニたそがれ堂にあったような気がする……
北上さんもあんな感じになんのかなー
117 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:25:32.45 ID:YX4H6MyE0
93匹目:球磨型



大井「なんですか、これは」

球磨「おせークマ。先に始めてるクマ」

多摩「飲み物はそこに置いてあるから好きなのとってにゃ」

木曾「あ、ついでに取り皿いくつか頼む」

北上「…宴会?」

部屋に戻るとコタツを囲んで何やら宴が始まっていた。
118 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:26:07.35 ID:YX4H6MyE0
球磨「最近色々と頑張ってるから労ってやろうという粋な計らいクマ」

北上「自分で粋とか言ってる時点で粋じゃない…」

多摩「これおツマミ足りるかにゃ?」

木曾「多摩姉が食べ過ぎなんだよ」

球磨「まあまあいいから座るクマ」

大井「…」
北上「…」

お互いに顔を見合わせ、ため息をつく。

やれやれ随分と呑気なものだ。気が抜ける。というか毒気が抜かれた。

でもそんな所にいつも救われている。
119 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:26:40.12 ID:YX4H6MyE0
球磨「それじゃあ改めてカンパーイクマ」グイッ

多摩「にゃ」グビッ

北上「うわ多摩姉もうそんなに食べてるの」

多摩「柿の種ってなんでこんなに美味いのかにゃ」ボリボリ

大井「あ〜暖まるぅ」

木曾「外にいたのか?」

大井「ちょっとね」

球磨「ほら飲めクマ。飲めば温まるクマ」

北上「えー私ビールはいいや」

多摩「チューハイならあるにゃ」

大井「随分ありますね」

木曾「そこにあるのは全部多摩姉が飲み終わったやつだぞ」

大北「「え」」
120 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:27:13.48 ID:YX4H6MyE0
球磨「あーこれ柿ピーだクマ!」バンッ

北上「柿ピーだけど、なんで?」

球磨「球磨は柿の種が食べたいんだクマァ」

木曾「同じじゃないか」

球磨「違ぇクマ!柿ピーにはこの薄汚え豆野郎が入ってんだクマァ!」

北上「酷い言い方」

多摩「あぁ?今ピーナッツを馬鹿にしたにゃ?したにゃ?」

球磨「馬鹿にはしてないクマ。不純物だと言っただけクマ」

多摩「上等だにゃ」

球磨「やんのかクマ?」

北上「えぇ何これ…」

木曾「ほっとけいつものだ」

北上「いつもなの?」

大井「いつもなんですよ…」
121 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:27:52.33 ID:YX4H6MyE0
球磨「オラァ!」ポイッ

多摩「にゃ」パクッ

球磨「クマァ!」ポイッ

多摩「にゃ」パクッ

北上「宴会芸か何かで」

大井「いつもの事です」

木曾「球磨姉が残したピーナッツを多摩姉が食べる、というだけなんだがな」

北上「鼻血出るよ」

木曾「艦娘だから」

北上「便利だね」

大井「太りませんしね」

木曾「艦娘だからな」

北上「便利だねぇ」

球磨「胸も大きくならないクマ」

木曾「それ外で絶対言わないでくれよ…」
122 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:28:21.61 ID:YX4H6MyE0
木曾「誰かそこのツマミ取ってくれないか?」


球磨「お眠クマァ?」

多摩「にゃぁ…」コクリ

球磨「コタツは汚ねえからあっちで寝るクマ」

多摩「ぅにゃぁ…」

北上「これホントにアルコールなの?」

大井「1%もないんじゃないですか?」

北上「ジュースだこれ」


木曾「…しゃあねぇなぁ」ヨッコラセ

球磨「缶追加頼むクマ」
北上「お菓子持ってきて」
大井「取り皿お願い」
多摩「芋焼酎」

木曾「人が立つの待ってんじゃねえよ!というか多摩姉起きてるじゃないか!」
123 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:29:24.98 ID:YX4H6MyE0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

木曾「」

北上「木曾が潰れた」

球磨「ペース考えないからクマ」グビッ

北上「艦娘も酔うんだよねぇ」

球磨「船酔いみたいなもんなのかもクマ」

大井「ね〜、程々にしとけばいいのにぃ。カーワイッ」ツンツン

北上「大井っち水飲む?」

大井「チューハイ!チューハイ飲む!ます!」

北上「あ、うん」

多摩「にゅぅ…」スピー

球磨「とりあえず木曾運ぶにゃ」

北上「コタツあるから布団二つしかひけないけど」

球磨「二つに押し込めてきゃいいクマ」

北上「多摩姉ちゃんは?」

球磨「コイツはほっとけば起きてまた飲み出すクマ」

北上「あーね」

大井「私も寝るー」

北上「あ、うん」

大井「やっぱり北上さんと一緒でぇ」ユサユサ

北上「うーん酔っ払い」ユラユラ
124 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:30:13.23 ID:YX4H6MyE0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

多摩「大井はホント胸がでかいにゃ」ソロリソロリ

球磨「おー乗った乗った。これも胸に挟む?」

多摩「もちろんにゃ」

北上「なんで大井っちの胸ひん剥いてんの」

球磨「酔って暑そうだっから」

多摩「厚いのは胸の脂肪にゃ」

球磨「だはは」

北上「じゃなんでそこにみかん乗せてるの」

球磨「ミカンー」

多摩「おー乗ったにゃぁ」

北上「聞いちゃいない…」

球磨「大井っちミカンと名付けて提督に売りさばいてやる」

多摩「闇取引にゃ。間宮を要求するにゃ」

北上「売れそうだから困るよね」
125 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:30:57.32 ID:YX4H6MyE0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「…死屍累々」

二つの布団には木曾が大胆に寝転がり、四角いコタツの東側には球磨姉が丸まって寝ており南にはどうにか服を着せた大井っちが寝ている。

多摩「球磨は相変わらず酔いが顔出ないにゃ」

北上「うわっ、起きてたの?」

多摩「今起きたにゃ」

北上「三度目のおはようだね」

いつだか吹雪が言ってたな。多摩姉はどんだけ飲んでも寝て覚めてを繰り返すだけだって。

球磨姉は顔に出ない。大井っちは普通で木曾はキャパ以上に飲みすぎると。

その通りだ。

多摩「北上は退屈じゃなかったかにゃ?」

北上「いや、見てて面白いよ」

多摩「そりゃ良かったにゃ。酒が飲めないってのは混ざりにくそうに思えてにゃ」

北上「ありがと。でも例え飲めてもこうはなりたくないしなあ」

多摩「飲んでも飲まれるにゃってことにゃ」

北上「言い得て妙だね」
126 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:31:47.19 ID:YX4H6MyE0
多摩「ツマミはもうないのかにゃ?」

北上「結構あったのにね。もう多摩姉の胃袋にしかないよ」

多摩「こういうのは無限に食えるから怖いにゃ」

北上「傍から見たら怖いのはツマミじゃなくて多摩姉なんだけど…なんかありがとね、今日は」

多摩「別にただ飲みたかったってのもあるからにゃ。球磨も同じにゃ」

北上「にしたって急だね」

多摩「最近また追い詰められたような表情してたからにゃ」

北上「私?」

多摩「にゃ。でも前と違って少し前向きな感じだにゃ。必死に進もうとしてる感じにゃ」

北上「猫の勘?」

多摩「猫じゃ、ないにゃ」
127 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/07/08(月) 04:32:29.53 ID:YX4H6MyE0
猫か。

結局多摩姉は白猫なのかどうか分からなかったな。

でもそれでいいのかもしれない。

白猫だとしてもそうでないとしても、この件に関わるべきじゃない。

仇とかそんなの関係なく生きていて欲しい。私はそう思う。

こんなのは私だけで十分だ。

こんな事は。

北上「仇って、どうなんだろうね」

多摩「かたき?また本の話かにゃ」

北上「ん…よくわかったね」

多摩「例え姉じゃなくてもわかるにゃ。そんな突拍子もないこと、本で読んだに決まってるにゃ」

北上「だよね」

まさに突拍子もない話だもの。

事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
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